エンパイアウォー②~屍人たちの長蛇
数は、数百、はたまた数千か。
青々とした稲が育つ水田の数々に挟まれた街道を、屍人が遍く埋めている。行列は長々と続いて、その終端を見通せない。
屍人たちは肩から生えた奇妙な水晶を揺らしながら、ノロノロと気ままに、けれど着実に進んでいた。炎天下の茹だるような暑さにも文句一つ言わずに、だ。
その行列の中にただ一人、雰囲気を異にする男がいる。暑気の中で寒々しい怖気すら感じるほどの殺気を発し、俯き気味に静かに歩く。漫然と歩く屍人たちすら、男の傍には決して近づかぬ。
男の名は『霧冥』。鬼道に堕ちた剣士である。
●
「決戦が始まりました。わたしたちは可能な限り多くの幕府軍を、近江まで連れて行かねばなりません」
枦山・涼香(烈華なる黒狐・f01881)は、皆を前に静かに語る。
「多くの障害がありますが、そのうちの一つは、東北より南下する水晶屍人の群れです。皆さんには、この一群の撃破をお願いいたします」
水晶屍人は、人を噛む。噛まれた人は、新たな水晶屍人となる。
『魔軍将』の一人、陰陽師『安倍晴明』が術により造り出した、穢れた存在である。
幸い猟兵は、噛まれても屍人となることはない。もっとも、噛まれれば当然傷になるし、殴られたり、掴みかかられたりもするだろう。
「とはいえ、知性のない相手です。一群を率いている将さえ倒せれば、後始末は奥羽諸藩の大名たちに任せることができるでしょう。皆さんは、数多の水晶屍人の中を駆け抜け、将を斬り捨ててください」
いま水晶屍人の一群は、田園風景広がる街道を進んでいる。その水田に挟まれた長大な列の何処かに、将がいる。
狙うべきは、その将ただ一人。
村落からは遠く、またこのような集団にあえて近づく無謀な人々もいない。
邪魔は入らないが、水晶屍人の一群を止められるかどうかは猟兵たちに掛かっているということでもある。
「確実に将を仕留め、一群を烏合の衆へと変えてください。ご武運を祈っています」
Oh-No
このシナリオは、「戦争シナリオ」です。
1フラグメントで完結し、「エンパイアウォー」の戦況に影響を及ぼす、特殊なシナリオとなります。
こんにちは、Oh-Noです。
目的はシンプルにオブリビオンを仕留めることです。
数多の水晶屍人が邪魔ですが、状況を上手く利用しつつ仕掛けることができれば有利になるかもしれません。
もちろん、真正面から一群に突入するというのも一つの手ですけれども。
それでは、よろしくお願いいたします。
第1章 ボス戦
『霧冥』
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POW : 抜刀術『獄彼岸』
【赤く燃える炎を纏った斬撃】が命中した対象を燃やす。放たれた【火の粉は赤い炎の花を形成していく。】炎は、延焼分も含め自身が任意に消去可能。
SPD : 剣舞『盞ノ時』
自身に【鬼神の殺気】をまとい、高速移動と【刀による無数の斬撃】の放射を可能とする。ただし、戦闘終了まで毎秒寿命を削る。
WIZ : 抜刀術『空々捩々』
対象のユーベルコードに対し【その場の空間さえも断裂する斬撃】を放ち、相殺する。事前にそれを見ていれば成功率が上がる。
イラスト:藤本キシノ
👑11
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵
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種別『ボス戦』のルール
記載された敵が「1体」出現します。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。
| 大成功 | 🔵🔵🔵 |
| 成功 | 🔵🔵🔴 |
| 苦戦 | 🔵🔴🔴 |
| 失敗 | 🔴🔴🔴 |
| 大失敗 | [評価なし] |
👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。
※このボスの宿敵主は
「月舘・夜彦」です。ボスは殺してもシナリオ終了後に蘇る可能性がありますが、宿敵主がボス戦に参加したかつシナリオが成功すると、とどめを刺す事ができます。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。
七瀬・麗治
※闇人格「ロード」として登場。物見遊山でやって来た気まぐれ野郎
クククク……戦の匂いに引き寄せられて来てみれば、
面白いことになっているな。安倍晴明とやら、一度この目で
見てみたいものだ。
「では、水晶屍人とやらの力を見せてもらおうか? 暗黒騎士団、総員突撃せよ」
武装した騎兵のUDC【暗黒騎士団】を召集し、水晶屍人の軍団へと向かわせる。自身もサイボーグホースに<騎乗>し、敵指揮官を強襲だ。
体当たりで屍人を<吹き飛ばし>、蹄で<踏みつけ>ながら霧冥に肉迫。
暗黒騎士団も同様に水晶屍人の群れに突撃し、蹴散らしていくぞ。
馬上から黒剣を振りかぶり、<力を溜めて>霧冥に斬撃を浴びせる。
アドリブ・連携歓迎です。
宇冠・龍
由(f01211)と参加
死人屍人の軍勢……死霊術士として放ってはおけませんね
(あの水晶が媒体と見ますが、さて)
由が敵将までの道を作りってくれます。ならば私はそれに答え、一時でもその動きを封じ、味方への被害を最小限に食い止めるまで
【魚質竜文】で不可視の霊を召喚
私は大きくなった由の肩に乗って指示
斬撃は当たらなければ燃えませんが相手は強敵、その剣気で捉えられてしまうでしょう
しかしそれで構いません
私の狙いは敵の持つ「刀」のみ
足を攻撃し転ばせ、手元を狙い刀を田園まで飛ばします
一時の隙を作り次に繋げられればいいのです
宇冠・由
お母様(f00173)と参加
私は【七草仏ノ座】を使用し、水晶屍人を優先して排除
他の方々が万全の状態で敵将までたどり着けるよう道を切り開きます
街道に連なる敵の列、田園に突然現れた30Mの燃える鬼はさそ存在感を放つはず
一歩ずつ歩んで、敵の視線をこちらに引きつけた上で、二振りの火炎剣で敵隊列を攻撃して大立ち回り
肩に乗ったお母様と共に敵を蹴散らします
私の身体はブレイズキャリバー、地獄の炎は傷を負っても修復され、炎にも耐性があります
「さあ、私達を止めて見せてくださいな!」
大声を張り上げ駄目押しの挑発
とにかく時間を稼げればいいのです
後はお任せしましたわ
「由、道を拓かねばなりません。できますか?」
「ええ、勿論ですわ。お任せくださいませ、お母様」
宇冠・龍(過去に生きる未亡人・f00173)に可否を尋ねられて、宇冠・由(宙に浮く焔盾・f01211)は一瞬の躊躇もなく頷いた。
直後、由の本体である仮面より吹き出した炎が物質化して、明々と光を放つ身体を形作る。それは屈強な男の体格など疾うに越え、見上げるほどの巨人と化していく。もはや、十分に広いはずの街道でさえも窮屈に見えるほどだ。
その間に龍は、異界より魚の霊を呼び出した。
「死海に還りし息吹達、視界を寡黙に泳がれよ」
静かに唱えられた呪に応じ、龍にしか見えぬ十の魚影が何処よりか滲み出すように現れて、龍の傍らを泳ぐ。そこへ由の巨大な手のひらが降りてきて、魚影は周囲に散っていった。
「お母様、参りましょう」
促されるままに手のひらに乗った龍が、由の肩へと移動する。そして魚の霊を従えて、由は屍人の群れへと大きな一歩を踏み出した。
高みから見下ろす敵の軍勢は不揃いだけれど、ただ一つだけ共通点がある。それは、肩から生えた水晶だ。
(「あの水晶が媒体と見ますが、さて」)
とはいえ術の絡繰を解き明かすにしても、まずはこの死人屍人の軍勢を止めなければならぬ。死霊術士としての矜持があるならば、なおさらのこと。
足元では、由がちょうど屍人と接敵したようだ。片足を大きく踏み込んで中腰になった由は、身体を大きく前傾させ、交差させた腕をいっぱいに広げた。両の腕には、身の丈にあった長大な火炎剣が一振りずつ握られている。その二振りの剣閃が街道の幅いっぱいを薙ぎ、屍人たちを吹き飛ばしていく。
それから腰を落としたままの姿で、由は大音声で吠えた。
「さあ、私達を止めて見せてくださいな!」
身の丈30mに達しようという鬼が間近で放った大音声は、急に吹いた突風のように屍人たちがまとう服を震わせる。周囲の屍人たちは、巨大な敵に狙いを定めて動き出した。
七瀬・麗治(悪魔騎士・f12192)がこの戦場に立っているのは、戦の匂いを感じ取った麗治が気まぐれを起こしたからに過ぎない。けれど水晶屍人が群れとなって寄せる光景は、彼の人格の一つ、『ロード』のお気に召したようだった。
「ククク……、随分と面白いことになっているな。こんな術式を考えた安倍晴明とやら、一度この目で見てみたいものだ」
唇を吊り上げた凶悪な笑みを浮かべ、麗治は屍人の群れに踏み込んでいく巨大な鬼をしばらく眺めていたが。
「見ているだけにも飽いた。では、水晶屍人とやらの力、この手で確かめさせてもらおうか」
屍人の群に対して抱いた闘争心を誘い水に、数十体の黒い鎧を着込んだ騎兵が麗治の周囲へと召喚された。麗治自身も重厚な甲冑で身を覆い、サイボーグ化された馬へと騎乗する。
そして腰の鞘から引き抜いた黒剣で敵の一群を指し示し、厳かに命じた。
「――暗黒騎士団、総員突撃せよ」
一塊の黒い風となった一団は鬼の足元を駆け抜け、隊列が乱れた屍人たちへと突き刺さっていく。騎馬が勢いのままに屍人を弾き飛ばし、転げた屍人は後続の蹄に轢き潰される。手にした馬上槍が肉を穿ち、薙いで身体を水田へと叩き落とす。
そうして一層散り散りになった敵の只中を、麗治が駆け抜けていく。その先に、見えると錯覚するほどの殺気を放つ男がいる。とてもただの屍人には見えぬ。将とみて、間違いはないだろう。
「貴様の命、寄越してもらおう」
「――取れるものなら取ってみよ。そう簡単にくれてやれぬがな」
麗治は場上から斬撃を放たんと、黒剣を高く掲げる。
――しかし麗治は痛烈な悪寒を感じ、とっさの判断で手綱を引いて進路を横へと逸した。そのすぐ横を霧冥が抜刀術で放った剣閃が抜けていく。
麗治はそのまま駆け抜けて、馬首を再び霧冥へと巡らせた。次こそは、一撃を与えてみせよう……。
麗治と、背中越しにこちらを見る霧冥の視線がぶつかり合う。
その時、ふいに霧冥が顔を反らした。見れば、纏わりつく何かを振り払うように刀を振っている。
龍が操る、余人には見えぬ魚の霊が、霧冥に攻撃を仕掛けているのだ。
(「見えずとも、捉えられることは想定の内。しかし、構いません。一時の隙を作り出せれば良いのです」)
由の肩から霧冥の姿を見下ろして、龍は十の霊たちを操ることに専念する。足を狙い、あわよくば転ばせようと。さらには刀を弾き飛ばそうと。
その目論見が完全に果たされることはなかったが、しかし麗治が仕掛けるだけの隙は十分だ――。
「喰らえッ」
「チッ……!」
今度こそ馬を寄せた麗治が、剣を振り下ろす! その剣先は身を捻る霧冥に一筋の傷を負わせた。
「さあ、まだまだ私は健在ですよ!」
離れた位置からは、再び由が吠える声が聞こえる。巨体を活かし、数が尽きぬ屍人たちを掻き乱し続けている。
そう、彼女たちの働きによって、突破口を切り開くという役割は、十全に果たされたのだ。
大成功
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ハロルド・セネット
危機に瀕している世界を助けるため参加
あの集団を止めて、村を守らないと
自身がまだ非力とわかっているので、他の猟兵のサポート中心に動く
本体のみで屍人達の間を目標が出してる殺気を辿りつつすいすい進む
敵将を見つけたら戦いやすいよう周囲の死人達を自身の死霊達「リザレクト・オブリビオン」でけちらす
死霊蛇竜の体当たりと尻尾薙ぎ倒しで列を払う
有象無象たくさんいるならある程度倒せばドミノ式に足止めできるのではと考え行動
将には死霊騎士の斬撃を放つ
ちっぽけなハロルドにも、できることはきっとあるはずさ
これはその最初の一歩だ
(アドリブ可)
キトリ・フローエ
あたしはどちらかと言えば真正面から突っ込むほうが好きよ
でも、列を作って街道を進んでいるならやっぱり
左右から回り込むとかして直接ボスの所まで行けるんじゃないかしら?
他の皆と連携して戦うわね
あたしは右でも左でもなく空中から
エレメンタル・ファンタジアで範囲攻撃
破魔の力を込めた氷の竜巻で屍人を吹き飛ばすわ
暑いから少し涼しくなったほうが良いと思うの
数が減ればボスもちょっとは見つけやすいでしょうし
屍人に捕まったら食べられちゃいそうだから
なるべく手の届かない所にいたいわね
ボスが出てきたらスナイパーで狙いを定め
高速詠唱で全力の夢幻の花吹雪で動きを封じるわ
相殺する暇も与えないくらいの早業で視界を覆ってあげる!
シエル・マリアージュ
屍人に気づかれぬように【Garb of Mirage】の光学【迷彩】で【目立たない】ように屍人の群れを横目に見ながら走り、一段と強い【殺気】を放つ霧冥を探す。
霧冥を見つけたら【戦闘知識】により最短のルートで探り、【聖硝剣アーシュラ】から放つ【破魔】の力を帯びた【衝撃波】の【なぎ払い】と【誘導弾】による【2回攻撃】で屍人の群れを切り払いながら切り込み、霧冥を視界に捉えたら【死は闇より来たれり】による不意打ちに【残像】による【フェイント】を交えて【暗殺】の一撃を仕掛ける。
その後は他の猟兵と協力して戦い、オブリビオン以外を傷つけない【蒼焔の殲剣】で猟兵の邪魔になる屍人を排除しながら戦う。
先陣を切った猟兵たちの働きにより、屍人たちの列は乱れている。その只中を、ハロルド・セネット(閑の灯火・f20446)が必死に駆け抜けていく。
(「この世界は危機に瀕している。あの集団を止めて、世界を守らなきゃ」)
胸の内で煌々と燃える義憤の炎が、ハロルドを突き動かしていた。
ハロルドは自分自身がまだまだ非力だと知っている。それを事実だと認めた上で、どうすれば皆の役に立てるだろうか。
個々の水晶屍人を相手にしていても仕方がない。かと言って、将を直接狙っても如何ほどの痛撃をあたえられるのか、わからない。
――至近距離から、凍れるような殺気を感じる。数合ほど打ち合った音も聞こえた。将に近づいたか。
「いけーッ!」
ハロルドは呼び出した死霊騎士と死霊蛇竜を屍人の群れに飛び込ませた。多少なりとも将の周囲にいる屍人たちを排除できれば、将と戦う猟兵たちの助けになる、はずだ。
(「ちっぽけなハロルドにも、できることはきっとあるはずさ。――これは、その最初の一歩だ」)
屍人たちに飛び込んだ蛇竜は、身を捩じらせて暴れ狂う。屍人たちは将たる霧冥の立ち回りに気を取られていたのか、不意を打たれて倒れ込む者もいた。
いつものキトリ・フローエ(星導・f02354)ならば、真正面から仕掛けていくところ。けれど、相手は街道に長蛇の列を作っているのだ。
(「左右から回り込むとかすれば、直接ボスのところまで行けるんじゃないかしら」)
そう考えたキトリがひとしきり思案して選択した道筋は、左右のどちらでもなかった。
此処は大きく開けた空間で、キトリの背中には羽がある。なにも地上付近から接近することに拘る必要はないのだ。
つまり、キトリは今、敵将直上からの急降下を敢行している最中だった。
――顔に受ける風圧のせいで、目を開けているのもつらい。そんな中で、ぐんぐん大きくなる敵影を必死で見定めて、手に握った花蔦絡む杖に魔力を込める。
狙いは敵の将、霧冥の周囲を取り囲む屍人たち。猟兵たちがちょうど攻撃を仕掛けているのか、倒れ込んだ屍人の姿も見えた。その只中に、白い魔力塊を放り込む。
「今日はこんなに暑い日なんだもの、少し涼しくなったほうが良いと思うの!」
地上に叩きつけられた魔力塊は爆発して、荒れ狂う氷雪の竜巻と化した。冷たく吹きすさぶ風が、屍人たちを霧冥の周囲から吹き飛ばしていく。
上空から落下してきたキトリは、竜巻の風圧も利用し急制動を掛けて方向を転換、地表すれすれを滑るように飛んだ。再度杖に魔力を込めて、屍人たちの隙間から霧冥を狙う。
暴れる死霊騎士と死霊蛇竜と、叩き込まれた荒れ狂う氷雪の竜巻が場を乱す。霧冥の周囲は、混乱する屍人たちが取り巻いている。
最適の一撃を仕掛けるなら、これ以上の機会が早々に来るとも思えない。シエル・マリアージュ(天に見初められし乙女・f01707)は、身を隠す光学迷彩のケープを脱ぎ捨て、最短距離を最速で霧冥に迫る。
ここまでは屍人に気づかれぬように、ただひたすら静かに駆け抜けてきた。だが、もう隠れるのは終わりだ。どうせあれほどの鋭い剣気を纏う剣士であれば、どれほど上手に忍び寄ったとしても気付かれてしまうだろう。
目の前の屍人が邪魔だ。透き通った刀身を血で染めて、横薙ぎに切り払いながら、すぐ脇を駆け抜ける。横から迫る屍人の群れに対しては、剣を一閃させて衝撃波を飛ばし、牽制する。前に進む邪魔にさえならなければ、それで十分。
そうして屍人を切り払いながら近寄るうちに、霧冥もシエルの姿に気付く。
「暗殺者よ、我が首を望むか」
振り向いた霧冥と、シエルの視線がぶつかり合った。霧冥の刃は鞘の中で、片足を引いた前傾姿勢だ。――抜刀術が飛んでくるに違いない。
シエルは何も言わずユーベルコードを仕掛け、天高く昇った陽が霧冥の足元に落とした影より、霧冥を背後から斬りつけようと刃が飛び出した。
「小癪……!」
霧冥はわずかに身を反らせて、その剣筋を見切ってみたが、それは一の矢に過ぎない。その間に距離を詰めたシエルが、残像の牽制に本命の斬撃を織り交ぜて放った。
だが霧冥の刀もすでに鞘の中にはない。全身をしならせて引き抜かれた刃が、鋭い剣気を伴って空を奔る。
二振りの刃が空中で交錯し、鋭い音が響く。
――この瞬間、霧冥の意識はシエルに集中していた。その意識の外から、死霊の刃が迫っている……!
「ハロルドも、ここにいるんだっ」
ハロルドが死霊蛇竜を盾に屍人から身を守りながら、死霊騎士を将の元に走らせたのだ。
残された一撃がそれだけならば、霧冥はまだ対応してみせただろう。
「小僧が、舐めるな……!」
「たしかにあたしは小さいかもしれないけど、小僧っていうのは酷いと思うわ」
しかし、さらにもう一手。離れた位置からキトリによって放たれた花弁の吹雪が、霧冥に殺到した。魔力で編まれた光り輝く花弁は、意志を持つかのように霧冥へとまとわりつき、その視界を覆い尽くす。
そして花弁に覆われた霧冥へ、死霊騎士の刃が振り下ろされた。
「……チィィッ」
こうして猟兵たちの急造ではあるけれど、見事なコンビネーションが刃を将へと届かせたのだった。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵
百地・八刀丸
【八藤夜】
何やら夜彦殿の因縁ある相手の様子
ならばわしらは彼の鍔となり鞘となろう
狙うは大将首。取り巻きに夜彦殿の邪魔はさせんよ
側面から急襲する、長蛇の列なればこそな
夜彦殿とは幾度となく共に戦っておる
ゆえにこの敵が彼自身であると言うのであれば、その太刀筋は――
決して容易くはないが、多少は見切ることも出来よう
後の先、武器で受け、反撃を狙う
ヤツはわしがその太刀を知ることを知らぬ、それが狙い目よ
出し惜しみは無礼、この百地八刀丸――凡ての刃でお相手致そう
集団戦にて止まるは愚行、常に吹き荒れようぞ、藤子殿!
夜彦殿、遠慮は無用、存分にぶつけて参れ!
その太刀、興味はあった
友であるがゆえ、叶わぬと思っていたがのう
鵠石・藤子
【八藤夜】
おうおう、大名行列もかくやの壮観な眺めだな
バイクで蹴散らしてもいいが…
相手も剣士なら、刀で相手しようじゃねぇか
…お前らは好きだろ、そう言うの?
狭い街道、敵は孤立してるなら話は早い
視力は良い方だ、対岸から将を探し、水田を突っ切れば良い…違うか?
敵の攻撃は第六感と見切りで躱す
当たっても火炎耐性があればちったぁ持つだろ
俺よりデカイやつがたんと居るじゃねぇか、そっち狙っとけ
挑発と存在感で敵を寄せる
どことなく…こいつ(夜彦)に似てるか
…まあ、オレには関係ねぇ
難しい事は考えたく無いんでな!
妖剣解放、その早さと斬撃で周囲の屍人は蹴散らして
背中は任せとけ!
デカイのを的に、オレは好きにやらせて貰うぜッ
月舘・夜彦
【八藤夜】
奴を一目で見てから、倒さなければならないと思わせる
このような焦燥感に駆られるとは……
八刀丸殿、藤子殿、お気を付けください
炎の斬撃は残像・見切りより躱してカウンター
無数の斬撃は回避せず、武器受けにて凌ぐ
抜刀術『風斬』は攻撃回数併せ2回攻撃、早業にて無数の斬撃を繰り出す
刃を交えれば次第に分かる
奴は、私
道を違えた、私の果ての姿
奴は己が私である事を知らないようだが、奴が私ならば同じく気付くだろう
記憶が無くとも、体に刻まれたものは変わらぬのだから
……お二人は本当に頼もしいですね
彼等の勇ましさに背中を押される事になるとは
ならば私も……迷いさえも、断ち斬らねばなりません
――御命頂戴致す
水田の脇に転がる岩へと片足を乗せ、鵠石・藤子(三千世界の花と鳥・f08440)は街道を征く屍人たちの行列に目を向けていた。
「おうおう、大名行列もかくやとばかりの壮観な眺めだな。バイクで蹴散らしてしまってもいいが……、相手も剣士なら、刀で相手しようじゃねぇか。お前らは好きだろ、そういうの?」
いったいどこまで続くのか、ひと目ではわからないほどの行列に、翳した右手の下で目を細め、唇を吊り上げて笑う藤子だったが、同意を求めて連れ立った仲間たちのほうへ振り返った途端に笑みが曇る。
「……おい夜彦、どうした。随分と思いつめたような目をしやがって」
困ったように笑うかと思っていた、月舘・夜彦(宵待ノ簪・f01521)の表情があまりにも硬い。振り返った藤子にも気付かず、行列に目を向けたままだ。
「夜彦殿、どうされた。何ぞ心配事でもあるのかの?」
百地・八刀丸(またの名を七刃斎・f00181)からも怪訝そうに声を掛けられて、ようやく夜彦は傍らの仲間たちに意識が移ったようだった。
「……あ、これは申し訳ありません。あちらに見える奴に気を取られておりました」
「奴ってのは、あの御大層な行列の大将首か?」
「ええ、奴をひと目見て以来、斬らねばならぬという思いが消えません。このような焦燥感に駆られるとは……」
「ほぉ、そこまでとは何やら因縁でもあるのかもしれんのう。まあ、刀を交えれば思い出すこともあるだろうさ」
「……そうですね、そうかも知れません。しかし、八刀丸殿、藤子殿、くれぐれもお気をつけください」
「心配すんな、任せとけ。あいつのところまで連れて行ってやるからよ」
まだどこかぎこちない夜彦を力付けるように、藤子は豪快に笑った。
3人は屍人たちの群れを観察していた場所を離れ、水田のあぜ道を駆ける。
「横腹を晒してるってなら話は早い。このまま水田を突っ切っちまえば良いんだからな!」
「気勢を上げるのは構わんが、転けて田に落ちるなよ。待っていてはやれんからのう」
「御老公、それはこちらの台詞だぞ」
軽口を叩きながら走れば、すでに敵は目前。
「一番槍を頂くかの」
抜き放った大太刀を肩に担ぎ、八刀丸は一気に跳躍した。街道の端に着地すると同時に大太刀を両手で薙ぎ、一陣の旋風となって屍人の合間に殴り込む。
「わしらの狙いは大将首のみよ。おぬしらの首になぞ、興味もないわ」
そのまま霧冥に至る道を算段しつつも、後ろに続く2人の露払いのために猛然と大太刀を振り回し、屍人たちを寄せ付けない。
(「何やらわからぬが、夜彦殿と因縁がある様子。ならば、わしらは鍔となり鞘となろう」)
有象無象には邪魔をさせぬと、八刀丸は奮戦する。
八刀丸に続いて、藤子と夜彦の2人も死地へと踏み込んだ。藤子は八刀丸が横薙ぎに振るう大太刀の下を滑るように駆け抜けて、敵中へと斬り込んでいく。
白銀の刃を煌めかせて袈裟に斬り、屍人が突いてきた槍は身を反らして受け流す。
「オレより当てやすいデカイ奴らがたんといるだろ、そっち狙っとけ!」
言いざまに返した刃で槍の穂先を斬り落とし、そのまま屍人の喉を突く。崩れ落ちる屍人の後ろに、狙いの大将首の姿が見えた。
(「どことなく、夜彦の野郎に似ているか……? まあ、オレには関係ねぇ話だ。難しいことは考えたくも無いんでな!」)
それ以上に、じっと観察している暇もない。霧冥に向けた視界の隅に、寄せてくる屍人たちの姿が映る。
(「まずは、コイツらの相手をしないとなッ」)
藤子は握った妖刀の柄に念を込め、刀身に秘められた怨念を呼び覚ます。途端に聞こえてくる恨みつらみの声に苛まれるけれど、それに見合うだけの力を躰に纏って刃を振るい、四方八方に剣閃を飛ばして屍人たちを寄せ付けない。
「行け、夜彦。背中は任せとけ! オレは此処で好きにやらせて貰うぜッ」
「まさにまさに。夜彦殿、遠慮は無用、存分にぶつけなされい!」
「藤子殿、八刀丸殿、かたじけない」
仲間に背中を押され、夜彦はついに霧冥と対峙する。
「……何奴」
怪訝そうな顔をする霧冥に、夜彦は刃で返した。後方に飛び退いて躱した霧冥は、迸る炎を纏った抜き打ちで切り返してくる。
刀身を当てて上方へ反らし、空いた胴を狙うが剣先が切ったのは衣のみ。反らした刃が振り落とされる前に、そのまま懐へ踏み込んで腹に肩を当て、弾き飛ばす。
……手応えはなかった。さほどの痛手は与えていないだろう。離れた位置のまま、じりじりと間合いを測り合って機を伺う。
そうやって刃を交えているうちに、だんだんと分かってきた事がある。
奴は、私だ。
道を違えた先にいる、私の果ての姿だ。
奴も己と私が同一の存在だと知らぬようだが、いずれ同じように気づくだろう。
――記憶は無くとも、身体に刻まれたものは変わらぬのだから。
再度、数合切り結び合う。相手は修羅だ。正道を外れた己で、剣の鬼神だ。ともすれば押し切られそうにもなった。だが、決して認めるわけにはいかない相手だ。己の中にある技の限りを繰り出して喰らいつく。それでもなお、あと一歩届かないのは、一縷の迷いが剣先を鈍らせているからか。
「水を差すようで悪いが、わしも加勢させてもらうぞ」
「老爺よ、邪魔をするか」
不意に八刀丸が側面から飛び込んできた。即座に反応した霧冥が、一層の業火を纏った刃を繰り出す。
(「姿形こそ違えど、見知った太刀筋よ。ヤツがわしを知らんうちは、こちらに分があろうというもの」)
もっとも、それも長い間では無いだろう。だから、この刹那の攻防にありったけを注ぐ――!
「出し惜しみは無礼、この百地八刀丸――凡ての刃でお相手致そう」
霧冥の抜き打ちに対し、刀ごと叩き折る勢いで八刀丸は大太刀を振るった。猛る業火を剣風で断ち切って、刃と刃が打ち合う甲高い音が戦場に響き渡った。
その音がまるで引鉄のように、八刀丸は次々と抜く刃で追撃を放つ。
(「この太刀、興味はあった。友であるがゆえ、死合うことは叶わぬと思っていたがのう、人生はわからぬものよな」)
七振りの刀に己の魂を心刀として乗せ、八振りによる斬撃で以て、一気に畳み掛けた。
霧冥と言えど、初見のそれらをすべて捌き切れはしない。血飛沫を散らして数歩退く。
「夜彦殿!」
声をかけられずとも、納刀された刀の柄に手をかけて踏み込んでいた。
……なんと頼もしい二人だろう。彼らの勇ましさにこうも背中を押されることになるとは。
(「ならば私も……迷いさえも、断ち切らなければなりません」)
心は不思議と澄んでいた。刃が霧冥の身体へとまるで吸い込まれるように、一切の無駄なく走っていく。
「――御命頂戴致す」
鋭い鉄風が、幾度となく牙を剥いた。目にも留まらぬ無数の斬撃が、霧冥の身体を切り刻む。
そして夜彦が再び納刀したときにはもう、戦場を支配するかの如き透徹した殺気は消えていた。
あとに残るは、有象無象の屍人ばかりである。
大成功
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最終結果:成功
完成日:2019年08月06日
宿敵
『霧冥』
を撃破!
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