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エンパイアウォー⑤～両手に埋蔵金あり

作者：篁佐登花

　織田信長の打倒を目指して軍勢を集結させつつある徳川幕府。しかし、ここにいくつもの難題が課されている。
　その一つが軍勢への補給物資だ。平時ならいざ知らず、戦時では『武士は食わねど高楊枝』などと言ってはいられない。武具は揃えられず、兵糧がなければ大勢の兵士は飢え死にするか逃亡することだろう。
　当然のことながら幕府は調達のために、全国各地の商人から買い付けようと奔走していた。しかし価格は天井知らずといった有り様で、まともに手に入らない。
　原因は魔軍将の一人、大悪災『日野富子』の買い占めによるものであった。このままでは軍勢を集結させたところで進軍はおろか、滞留すらできないであろうことを幕府の重臣たちを悩ませていた。
　そこで一人の重臣が口を重々しく開く「神君におすがりするしかないようだ……」と。

●『徳川埋蔵金の地図』
「ってわけだから借りてきたぜ！」
　そう言って光廣がヒラヒラさせたのは、まさしく『徳川埋蔵金の地図』だ。神君家康公が有事のために遺した埋蔵金のありかが指し示されている。それは、とある山中の洞窟であった。
　多くの者はこう思うだろう。
「その場所から運び出すだけで済むのでは？これだけのことに猟兵を費やす必要があるだろうか？」と。
　しかし盗掘を防ぐため、洞窟の奥は岩で塞がっている。岩は大力の士が何人で動かそうとしても全く動かず、何者かの問いかけが聞こえるのだという。

『両手を広げよ。そして左手を拳にせよ。いくつだ？』

「コレって魔術か呪術の類のモンだよな？謎の問いかけに答えれば、簡単に岩は動くはずなんだけどなー。バカの俺には分かんねーから、みんな任せた！」

第1章 冒険 『神君家康公の謎かけ』

POW   :    総当たりなど、力任せの方法で謎の答えを出して、埋蔵金を手に入れます。 SPD   :    素早く謎の答えを導き出し、埋蔵金を手に入れます。 WIZ   :    明晰な頭脳や、知性の閃きで、謎の答えを導き出して、埋蔵金を手に入れます。 👑3 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​

「お宝にゃ！　徳川埋蔵金にゃ！　ナミルがいただくにゃ！」
　とお宝洞窟探検気分でやってきていたのは、ナミル・タグイール。謎解きは苦手ながらも、大好きな金ピカ財宝と聞いては居ても立ってもいられない様子。
　洞窟内の岩まで来ると、例の問いかけが洞窟内に響く。
『両手を広げよ。そして左手を拳にせよ。いくつだ？』
　ナミルは実際に自分の両手を広げてジーっと見る。そして言われた通りに左手を拳にして、指の数を数える。一……二……三……四……五……。
「……指が０と５にゃ！　だから答えは５にゃ！！　さあ動けにゃ！　お宝寄越せにゃー！！」
　ナミルの声が洞窟内でこだまするが、岩はピクリとも動かない。再び何者かの声が問いかける。
『両手を広げよ。そして左手を拳にせよ。いくつだ？』
　これに激怒したナミルは実力行使に出る。
「なんで動かないにゃ！　こうなったら力づくで奪ってやりマスにゃー！」
　ナミルは黄金に輝く巨大な斧を取り出すと怪力任せに大きく振りかぶり、岩に向かってグラウンドクラッシャーを放つ。山ごと壊す勢いの衝撃で、埃舞う中、鬱憤が晴れた様子のナミル。
　しかし山全体に特殊な結界が施されているようで、洞窟はおろか岩は何ともなかったように鎮座したまま。
　これに困ったナミルは考え込んでしまった……。

苦戦 🔵​🔴​🔴​

　何者かの声が問いかけ以外を発する。
『それほどまでに切迫しておるのか？では手掛かりを示してやろう。右手の親指は一、左手の小指が三十二で左手の親指は五百十二だ。右手と左手の小指は隣同士。改めて問おう、両手を広げよ。そして左手を拳にせよ。いくつだ？』




　洞窟の入り口で何者かからの手掛かりをを聞き取ることができた二人の女性猟兵、妖狐の水元・芙実とドラゴニアンの雷田・龍子。どちらも眼鏡をかけているあたりに知的さを感じさせる。
「手掛かりのおかげで分かりましたよ」
　と先に声を発したのは龍子。
「ええ、ちょっとした数学の素養があれば解けるわよね。……前の方のヒントが無ければ分からなかったけれど」
　と、これは芙実。
　二人はそれぞれの解き方を話しながら、奥にある岩へと進んでゆく。
「これは右手の親指が一、人差し指が二、中指が四、薬指が八、小指が十六だから……」
　と龍子は右手を開き、左手で右手の指を差しながら数えていく。その仕草は、しっかりとした見た目とは裏腹にどこか可愛さを感じさせる。
　一方の芙実はというと
「これデジタルの事ね、サムライエンパイアに二進法が無いわけじゃ無さそうなんだけど……。とにかく指を二進数の桁に見立てて合計すればいいだけ、というより六桁目から一を引けば……」
　と年に似合わぬ、立派な狂科学者見習いらしい説明をしていく。

　二人ともお互いの答えが間違いないものであると確信しつつ、埋蔵金の眠る行く手を塞ぐ岩の前へ辿り着いた。そこでは先に到着していたキマイラの女性猟兵が、考え込んでいる様子で立ち尽くしていた。
　改めて何者かの問いが発せられる。
『両手を広げよ。そして左手を拳にせよ。いくつだ？』
　問いに対して芙実と龍子は目配せをし、せーのと息を合わせ
「三十一ね！」「三十一です！」
　と叫ぶように問いへ答えた。すると
『見事なり！さあ僅かばかりではあるが持って行くがいい。そしてこの世界を救うために如何様にもせよ！』
　と何者かの声とともに、行く手を塞ぐ岩が触れもしないうちに動き出す。
　行く手を塞いでいた岩が完全に道を空けると、そこには埋め尽くさんばかりの金銀が積まれていた。これでも埋蔵金の一部だというのだから驚きである。
　「口火を切った貴女の行動のおかげですね」
　と先に到着していた猟兵の手を取って感謝する龍子。
　片や芙実は少し考えていた。
(答えは合っていたけれど、二進法なんてこの世界で見つかったのかしら？それとも持ち込まれたもの？そういえば褒美をもらうのに、米粒を百日の間一日ごとに倍ずつ増やして貰おうとした人物がいたんだっけ。途中でお殿様も気付いたみたいだけど)
　そんな様子を気にした龍子が声を掛ける。
「どうかしましたか？無事に埋蔵金は手に入りましたし、後は運び出すだけですけど」
「なんでもないわ、これでこの謎解きはおしまい。遠慮なくお宝は頂いて行きましょう」
　ノットトレジャーハンターだからね？と付け加えて返答する芙実。
「それにしても経済戦争を仕掛けてくるオブリビオンとかぞっとしないわね……」
　という言葉に頷かざるを得ない二人だった。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

最終結果：成功 完成日:2019年08月02日