エンパイアウォー②~千軍万馬の猛者となりて
●戦線に立つ影
寛永三方ヶ原の戦いに勝利した猟兵達が手に入れたもの──それはサムライエンパイアを征服せんとする、武士たちの名が記された『第六天魔軍将図』であった。一大攻勢を仕掛ける信長軍に対抗するは徳川幕府軍。
サムライエンパイアを守るため、幕府は総力をあげ立ち向かう。
場所は変わり、ここ奥羽地方に不穏な影が一つ。
奥羽の地に足を踏み入れた者、それこそ『第六天魔軍将図』に書かれた内の一人【安倍晴明】その人であった。その背後に控えるは、数百、数千の軍勢を従える少女。肩から奇妙な水晶を生やした動く屍が、人々を襲い『水晶屍人』へと変えていく。
「必ずや勝利をわたくしの手に入れて見せましょう」
その水晶屍人を従える少女は妖艶に笑って百鬼夜行の如く、道中を闊歩していくのであった。
●羅針盤の指し示す未来
「集まってくれて、有り難う!
早速だけれど、魔軍将たちが動き出した事は知ってるよね?」
宮前・紅(三姉妹の人形と案内人・f04970)は集まった猟兵たちに忙しない様子で話を進める。
「君たちに向かって欲しいのは、奥羽地方だよ。
そこに数百~数千の水晶屍人が出たんだ。このままじゃ各地の重要な砦や町、城が落とされ制圧されてしまう危険性が高い」
そうなってしまえば、自ずと江戸に辿り着いた軍勢を対処せねばならなくなり、江戸の防衛の為に二割以上の軍を残し、他を織田信長との決戦に向かわせなくてはならなくなる。つまり、決戦で十分な軍勢を差し向ける事が不可能となってしまうという事だ。
「南下して来る軍勢を討ち、江戸に向かうのを阻止して欲しいんだ!」
幸い、水晶屍人には知性がなく指揮官となっているオブリビオンを倒せば、戦線は崩壊し奥羽諸藩の武士たちでも駆除は可能だと言う。
「君たちには先ず第一に指揮官の撃破を優先する事を頭に入れておいて!」
大まかに言えば、猟兵たちは数百~数千の軍勢の中に飛び込み、水晶屍人を蹴散らしながら指揮官であるオブリビオンを探し出し、撃破する事を優先せよという事らしい。
「どうかサムライエンパイアの為に、力を貸して!」
宮前のその言葉に猟兵たちは決意を新たに動き出す。
幕府軍に加勢し、勝鬨を上げるために行動せよ。
LichT
はじめましてもしくはお世話になっております、LichTです。
今回はサムライエンパイアが舞台です。
奥羽地方に出現した水晶屍人を率いる指揮官となっている、オブリビオンの討伐となります。
戦闘はボス戦となります。
数百~数千の水晶屍人の軍勢の中に飛び込み、水晶屍人を蹴散らしつつ指揮官であるオブリビオンを探し出し、撃破して下さい。。
猟兵は噛まれても水晶屍人にはなりませんが、攻撃自体は普通に受けます。
また、
共闘可能であるならば◎を。
アドリブ可能であるならば○。
単独が良いという方は▲を。
アドリブ不可であるならば×を。
お手数お掛け致しますが文頭か文末のどちらかにご記載下さい。また、同行者が居る方におきましてはその方のお名前とIDの方をお願いします。
このシナリオは、「戦争シナリオ」です。
1フラグメントで完結し、「エンパイアウォー」の戦況に影響を及ぼす、特殊なシナリオとなります。
それでは皆様の素敵な活躍をお待ちしております。
第1章 ボス戦
『橘・佐江』
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POW : 霧斬舞
【妖艶な花魁】に変身し、武器「【鉄扇】」の威力増強と、【幻惑の霧】によるレベル×5km/hの飛翔能力を得る。
SPD : 蝶の舞
【扇】による素早い一撃を放つ。また、【帯を解く】等で身軽になれば、更に加速する。
WIZ : 華の舞
自身の装備武器を無数の【桜】の花びらに変え、自身からレベルm半径内の指定した全ての対象を攻撃する。
イラスト:茅花
👑11
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵
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種別『ボス戦』のルール
記載された敵が「1体」出現します。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。
| 大成功 | 🔵🔵🔵 |
| 成功 | 🔵🔵🔴 |
| 苦戦 | 🔵🔴🔴 |
| 失敗 | 🔴🔴🔴 |
| 大失敗 | [評価なし] |
👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。
※このボスの宿敵主は
「シルマ・クインス」です。ボスは殺してもシナリオ終了後に蘇る可能性がありますが、宿敵主がボス戦に参加したかつシナリオが成功すると、とどめを刺す事ができます。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。
鈴木・志乃
○
共闘したくない
何故ならば選択したUCが
味方を巻き込むやつだからだ!!
味方から離れて四面楚歌状態でも
やってやるぞ私はー!
しかしてこの局面なら効果覿面、かもね?
UC発動
【祈り、破魔、呪詛耐性】を籠めた【歌唱の衝撃波】で
屍人もろともすべてを【なぎ払う】よ!
あたし嫌いなんだよね
屍人を操るワザもこの状況も!
おかげさまであたしの蒐集がストップしちゃってんだから、サぁ!
敵攻撃は【第六感】で【見切り】
光の鎖で【早業武器受け】からの【カウンター】
必要に応じて敵の死体を【念動力】で操り
壁にしたり嵐にしたりして防御と攻撃に転用するよ
【オーラ防御】常時発動
●孤立無援の戦場
(うん──味方はいない)
周囲に味方が居ない事を確認すると、鈴木・志乃(ブラック・f12101)は水晶屍人のいる方へ視線を向ける。その数、数百~数千の軍勢は、個人にして脅威としては小さいものの、戦争というものは数がモノを言う世界。現時点で十分脅威的な戦力となっていた。
(この局面なら効果覿面、かもね?)
鈴木は今の状況を局面を見つめる。数百~数千の水晶屍人が自分を取り囲む、正に四面楚歌状態であった。しかし、彼女は気後れするどころかふっと笑みを溢す。
「あたし嫌いなんだよね」
呟いた言葉はきっと水晶屍人には理解出来ないだろう。それでも尚、鈴木は喋らずにはいられない。
「屍人を操るワザもこの状況も!
おかげさまであたしの蒐集がストップしちゃってんだから、サぁ!」
蒐集──それが具体的にどんなものなのかは推測出来ないが、鈴木にとってはその何かを集める行為は趣味にも近いが、重要な事らしかった。怒ってしまうのも無理はない。
「……杞憂に思うことなど無いですよ」
そんな鈴木へ声を掛けたのは、この軍勢を率いる指揮官でありオブリビオンの橘・佐江であった。唇を歪めて笑う橘は、己が殺られるなど微塵も思っていない様子で余裕綽々としていた。
「何故なら貴方は此処でお仕舞いでしょうから」
益々、三日月に歪んだ唇は鈴木を嘲笑するように嗤っていた。
(──好都合)
鈴木はそんな言葉を投げ掛けられても、怒りなど少しも沸いてこなかった。それは、このオブリビオン自身を撃破する事にしか興味が無かったから。それに、彼女は今が好機だと分かっていたのだ。
(まさか、あっちから来てくれるなんて、でも──)
『あんたの方こそ終わりだぁあああああああああああああああああああああああああああああああああ!』
空気がびりびりと震撼する。彼女の叫びは橘を含む水晶屍人たちに降りかかる。これはただの叫びではない。
「きゃあああああああああああああああああああ!何よ!これぇっ!耳が、みみが、あ、千切れる、千切れるううううううううううううううぁああああああああああああ!」
ばたばたと地面に倒れ伏す水晶屍人たちの姿と、激痛に呻き叫ぶ女の姿。
此こそ鈴木のユーベルコード【魂の叫び】であった。
「くうっ……おのれ!」
耳からポタリと赤い雫が滴り落ちる。橘は一度後退するつもりの様で後退る。鈴木は深追いする事なくその様子を静観していた。
(逃げ場なんて無いと思うけど)
敢えて逃がしてやるのだ。だってその方向には──。
大成功
🔵🔵🔵
メルノ・ネッケル
◎〇
多いな……これだけ敵がおると流石に壮観やで。
とはいえ怯んじゃおれん。
【勇気】を持て、うち。故郷を守る時……その時が、遂に来たんやから!!
「R&B」に「補助バッテリー」を繋ぎ弾数を確保。
「キツネビサイクル」に【騎乗】し、トリガーを引きながら薙ぎ払うようにして兎に角前へ!
周りの奴らを片付ければ他の猟兵も攻めやすくなる。使うのは範囲殲滅の技や!
射程のギリギリまで近づければいい、後は親玉ごと巻き込むだけ……!
親玉には飛行能力があるけど、周りを屍人に守られとる状態なら虚を付けるはず。【先制攻撃】や!
バイクを飛び降りて……さあ、露払いと行くでぇ!
『狐の嫁入り』!弾林弾雨、抜けれるもんなら抜けてみぃ!
大豪傑・麗刃
◎〇
わたしは日頃人からは変態と呼ばれている。確かに普段は多少ふざけているかもしれぬ。が、曲がりなりにもサムライエンパイアの出。
今回はネタ一切抜きで行くのだ。
さて敵がいっぱいいる中に飛び込んで橘某(以下ボス)を一点狙いで倒すというなら速度勝負なのだ。
ならばあの秘技を使わねばなるまい。
はああああああああああ(それっぽい気合)
(スーパー変態人2発動!!)
んで右手に刀と斧!左手には脇差(と言い張るには大きすぎるバスタード・ヒーローソード)2本!これを持ち、敵を斬りはらいながらボスに一気に接近、そしたらあとは全力で思いっきり斬って捨てるのだ!
どうやってボス探すか?まあ、しらみつぶしで。最悪全員斬る勢いで
レナ・ヴァレンタイン
◎○
槍も鉄砲も持たない歩兵なんぞ、問題外だ
――蹴散らすぞ、一匹も逃すな
ユーベルコード起動、【軍隊個人】発動承認
複製した銃器全てを用いた制圧射撃戦を開始
目標は肩口の水晶、あとは手足だ。吹き飛ばしやすいとこならどこでもいい
ガトリングの弾幕で戦線を崩し、マスケットとリボルバーで急所をぶちぬく
アームドフォートは屍人が集団でまとまってるとこに撃ち込んで一気に砕く
水晶屍人の軍勢をひたすら削り落とすことに集中
指揮官は他の猟兵に任せて、ひたすら道を切り開く
私が目立てば目立つほど敵が集中するだろうが、それはそれでいい
敵指揮官の守りが手薄になるからな
さあ、戦争をしようか!
カタラ・プレケス
◎○
雑兵もここまで揃うと壮観だね~
まあ、いくら集めたところで所詮は屍
全部滅せばいい話だね~
とりあえず殲滅すればあぶりだせるんだよね?
なら全部燃やして消し飛ばそう~
【開花・木花咲耶姫】発動
そこらの枝や蔓を急成長させて敵の行動阻害と拘束
捕えた敵は大量の火柱を咲かせて焼却するよ~
あとはこれを繰り返して指揮官をあぶりだそう
あぶりだせたら草木を成長させての
行動阻害を中心にして味方を支援するよ~
「さあ、殲滅開始だよ~」
アイリ・ガングール
○◎ いやぁ、まさかね。このエンパイアでまた大戦が始まろうとは!……いいねぇ、好きやねぇ。みども、なんのかんの言いながら、戦いは好きじゃてなぁ。
さてと、とりあえず大将首狙いで行こうかの。《金狐霊糸》つかって道々の適当な突起や木々の合間を《ジャンプ》したり、《スライディング》に《地形を利用》して屍人達の間を移動していくで。道々の屍人に火を放って攪乱、数減らしする事も忘れずに。
んでま対象に会ったらズンバらりといこうかね。《破魔》の心得も持っとるし、そこは容赦なくの。
敢えて大振りに刀を振るうよ。その隙に金狐霊糸を体のどこかに巻き付かせておく。飛翔能力対策じゃてな。
数宮・多喜
◎○
奥羽地方、ねぇ……
時代も世界も違うとはいえ、
地元に近い場所が戦場になるってのも嫌なもんだ。
しかもこいつら、周囲の人たちまで巻き込みやがって!
そう言う非道、許せるかってんだよ!
相棒のカブを駆って、戦場のど真ん中へ颯爽と躍り込む。
その後は簡単さ、周囲に電撃の『属性攻撃』を込めた
『衝撃波』の『範囲攻撃』を放ちながら、
『騎乗』『操縦』テクを駆使して暴れ回る!
同乗するって剛毅な奴がいたら、是非にでもお願いしたいね!
……ぶつぶつ何を言ってるかって?念仏みたいなもんさ。
当たるを幸い暴れ回れば、
親玉を『おびき寄せ』られるだろ。
痺れを切らせ扇で襲い掛かってきた親玉に、
準備しておいた【黄泉送る檻】を放つよ!
神元・眞白
◎〇
【WIZ/割と自由に】
なんだかすごい事になっていたみたい。まずはできる事をやっていかないと。
……そう、相手はいっぱいいるみたい。なら将を討たないと。
統制されているなら奥まったところにいそう。統制されてないなら……。
飛威、ジャンプしてみて。高い所から……冗談だけど。
相手も将だし一筋縄ではいかなそうかも。搦め手も必要みたい。
ユーベルコードを使わせることを念頭に、加減しながら演技の戦いを。
適度に飛威に圧をかけさせて、先打ちさせてからリフレクションでの打消し。
余波を纏うぐらいにこちらの動きも悟らせない様カモフラージュ。
勝利は陽炎。上手くいっても気を引き締めないと
エレクメトール・ナザーリフ
◎○
敵集団に侵入し指揮官に銃弾をぶち込んで来いと
潜入ミッションですね、了解しました!
指揮官をいち早く見つけ出す事に専念し《技能追憶》を発動
目立たないよう迷彩で姿を消し指揮官の居場所を情報収集しつつ忍び足で追跡
指揮官を発見次第信号弾を打ち上げ仲間に居場所を知らせる
屍人に知性がないなら群衆の中行動出来そうですし
指揮をしているのなら何かしら痕跡は残っているはずですからね
指揮官には屍人の群衆に紛れ盾にしつつヒットアンドアウェイで応戦
近付き離れを繰り返し零距離射撃をぶち込む
仲間への攻撃を牽制したり扇を狙って武器落としも試みます
屍人諸共攻撃しようとした場合は屍人を担いで投げつけ
その隙に近付き零距離射撃です
モノノフ
●生々流転する世界と武士
「おのれ……おのれ……ただの猟兵如きが」
先行した猟兵の攻撃ダメージによって、橘は後退せざるを得なかった。
(あの場面でわたくしを追わないとは、嘗められたものです)
そうだ、後ろには沢山の水晶屍人の軍勢が居る。自分の身を完全に回復する時間稼ぎぐらいにはなってくれるだろう。だのに、深追いする事なく、静観しているとは馬鹿な猟兵も居たものだ。嘲笑するようにほくそ笑みながら橘は一時的に後退する。
が、しかし。
「な……そんな訳が」
後に下がった橘が見たのは──。
●遡ること数十分前~艮~
「──蹴散らすぞ、一匹も逃すな」
槍も鉄砲も持たない歩兵なんぞ、問題外だと呟いたレナ・ヴァレンタイン(ブラッドワンダラー・f00996)は沢山の水晶屍人が群がる様子を捉えていた。
『さあ、戦争をしようか!』
【軍隊個人(ジャック・レギオン)】
そして口から出たのは開戦の合図。その瞬間展開されたのは鉄の要塞──いいや、これはヴァレンタイン自身が身に付けている銃火器類総てが展開された銃火器の壁──例えるのならば殺戮要塞とでも言おうか。軍隊の如く、綺麗に並んだ銃火器総ての銃口は水晶屍人に向けられていた。
標準は肩口の水晶。炸裂散弾式装甲破砕攻城砲『ギャラルホルン』が一斉に砲火を放つ。直線に放たれた砲撃は水晶屍人を一瞬で玉砕する!
パキン──。
肩口の水晶が粉砕され宙に舞う。光を反射してキラキラと舞う水晶の欠片は一瞬にしてこの場を飲み込む。それでもまだ戦線は崩壊しない。
(それならば)
多銃身機関砲の報復者ヘクターを使って弾幕を作る。撃ち込まれた数百と飛ぶ銃弾は前線を崩していく!そしてその隙に急所めがけ、マスケット銃の黒衣のウィリアムと短銃身リボルバー解放者メイヴは急所を貫く。
「戦線は崩れた──行け!」
ヴァレンタインの合図で、彼女の横に並んだのは二つの影。
「そっちは任せたよ!」
「うちらは先に行くで!」
数宮・多喜(撃走サイキックライダー・f03004)とメルノ・ネッケル(火器狐・f09332)はヴァレンタインに引き付けられた水晶屍人の殲滅を頼む。
先程の彼女が放った強力な一撃によって、強固な前線は揺らぎ隙が出来た。このまま彼女が外側から一人で攻めても、敵は数百~数千と居る、短時間の討伐は不可能だろう。そこで前線崩壊した隙間を縫って水晶屍人の軍勢内部から倒してゆけば、素早く殲滅する事が可能だろう。
「任せてくれ」
そう言うヴァレンタインだったが、やはりこの軍勢から距離を置きつつ射撃するのは難しい。リロードする合間にも水晶屍人は勢いよく迫り来るのだ。一人で防ぐのにも限度がある。これは無傷で無事完遂とはならなそうだと考えていた所で、先程からずっと口を挟まなかった人物が口を開く。
「じゃあ、ぼくは支援に回ろうかな~?」
やや間延びした口調でそう言ったのはカタラ・プレケス(夜騙る終末の鴉・f07768)だ。数宮のバイクに相乗りさせて貰っていたプレケスだったが、ヴァレンタインの様子を見ると地面に降り立つ。
「一人じゃあ、この敵は中々に難しいと思うからね~」
多喜さんここまで乗せてくてれてありがとう~、とそう言ってプレケスはヴァレンタインと向き合う。
「どうかな~?」
「いや……それは有難いが、あなたは構わないのか?」
「構わないよ~それに協力無しではこの作戦はキツいと思う。
ぼくとレナさんで此処周辺の敵の対処をして、多喜さんとメルノさんには敵のおおよその中心部まで一気に行って貰って、誘導隊として動いて貰った方が良さそうだからね~」
「成る程」
二人が話している内容に耳を傾けていた数宮とネッケルは顔を見合わせる。
「うちらが誘導隊として混乱させる、って寸法やね」
「ああ、そうだね──……であたしらは敵の中心部で暴れまわって“誘き寄せ”れば良いんだろう?」
「せやね。その為にもはよ行かなアカンのとちゃう?」
頷き合うと二人は、プレケスとヴァレンタインの二人をこの場に残す。誘導隊として早速動かなくては。この作戦に気付かれたら橘はきっとすぐにでも対処して来るだろう。気付かせない為には注意力を散漫とさせ、混乱を引き起こさなくてはならない。バイクに騎乗した数宮とネッケルは一気にこの場から離れる。
「二人は向かったみたいだね~」
プレケスはのんびりとした様子のまま敵の様子を探る。戦線は崩され動きは少々バラバラになっているが、それでも内部まで隊列が崩されたという訳ではない。だからこそ、戦線の状況が元に戻りつつあったのだ。
「雑兵もここまで揃うと壮観だね~。
まあ、いくら集めたところで所詮は屍。
全部滅せばいい話だね~」
なんとも単純明快な作戦である。要は取り敢えず殲滅して力業で指揮官をあぶり出そうという事だ。
「戦線崩壊した状態のままになって貰うね。
全部燃やして消し飛ばそう~」
柔和な笑みを湛えたままプレケスは言葉を紡ぎ出す。
『私は桜、儚い桜。
栄華を謳う短き桜。
しかしこの身は咲かすもの。
火に飲まれてなお生み出すもの。
全てを咲かし春告鳥を招きましょう』
──【開花・木花咲耶姫(ケンザイ・コノハナサクヤヒメ)】
季節外れの淡い薄桃の花びらがひとひら。桜の舞う中に立つのは美しき花の麗人。桜の衣纏う姫は周囲にある枝や蔦を急成長させていく。急成長した枝や蔦によって敵は行動阻害をされる。蔦は足元を這って絡まり纏わり付いて妨害を為し、拘束した敵を火柱を咲かせ、燃やし尽くす。捕らえたものは逃がさぬように生を絶つ。
この身が朽ち果てるまで、生殺与奪の権利の末端を握るのは自分だ。
「さあ、殲滅開始だよ~」
彼の悪魔のような言葉は、雑音に飲み込まれていった。
──所変わって、数宮とネッケルはバイクに騎乗したまま中心部まで駆け抜ける。
「桜に蔦……?」
「此れは親玉のモンじゃない。どうやら、カタラさんがやったみたいだねぇ。
これで敵の行動を妨害とは……やるじゃないか!」
「せやね、うちらもこうしては居れんわ!」
しかし、中心部まで行けばやはり水晶屍人の軍勢は未だ猛威を奮っていた。そんな場所に敢えて飛び込み自ら包囲されに行っているのだ、自殺行為に他ならない。
(多いな……これだけ敵がおると流石に壮観やで。
とはいえ怯んじゃおれん)
こんな自殺行為、誰だって怖い。けれどやらねばならない時がある。それが今なのだ。
(勇気を持て、うち。
故郷を守る時……その時が、遂に来たんやから!!)
焔のような瞳には静かな闘志が宿る。自分の故郷を如何なる理由でも傷つける事は、それだけは絶対に許せなかった。
ネッケルは自身の武器である熱線銃のR&Bに補助バッテリーを繋ぐ、準備は抜かりない。狐火を動力とした呪法改造宇宙二輪のキツネビサイクルに股がったまま、前へ一気に飛び出す!高速機動で走るバイクに乗りながら、トリガーを引き薙ぎ払ってゆく!
(これは圧巻だねぇ、素早い動きで敵を見事に翻弄してる)
「……よし、あたしも行くよ!」
次々と流れるように水晶屍人を倒していくネッケルの姿を見て、数宮も固くバイクのグリップを握り直す。彼女の脳裏に焼き付けられた光景、抱いた思いと共に思考の内に沈んでいく。そして、険しい表情のまま視線を下に落とした。
(奥羽地方、ねぇ……。
時代も世界も違うとはいえ、地元に近い場所が戦場になるってのも嫌なもんだ)
そう、このサムライエンパイアにおける奥羽地方は時代や世界こそ違うが、数宮の故郷に近かったのだ。故に思い入れが深かった。
(しかもこいつら、周囲の人たちまで巻き込みやがって!
そう言う非道、許せるかってんだよ!)
だからこそ不義を働く奴等に容赦はしない。許せもしない。片足で地面を蹴り、相棒のカブと共に混沌を極めた戦場へと躍り込む。バイクが走るのと同時、地面すれすれの場所をチカっと光が点滅する。それは稲妻となって数秒にして敵を捕捉しえいく。そして、走る電撃は広範囲に渡り水晶屍人を狙い撃つ!
(凄い勢いで敵の数が減っとる!この調子で行けばあと数分も経たんうちに)
ネッケルがそう考えるのとほぼ同時、水晶屍人の塊が消滅した。
「よし、これで親玉が見えるようになった!今のうちに……」
「!……待て!親玉が気付いたみたいだよ!」
●現時点に至る
そう、この時橘が見たのは──
背後にいた筈の軍勢が殲滅された、痕跡であった。
「どうして!
どうしてこんな事に……」
水晶屍人を率いていた橘は驚愕し、動けないでいた。あり得ない、あんな短時間でこんな、水晶屍人の軍勢を殆ど殲滅してしまうだなんて。
「突っ立ったままなんて随分余裕やないの?
ほなら、うちの技受けてみぃ!」
『銃弾熱線雨あられ、引きでもん代わりに取っときや!』
ネッケルがキツネビサイクルから飛び降りた、その瞬間──【狐の嫁入り(フォクシーズ・レインスコール)】が炸裂した。熱線の雨、煌々と光る熱線は貫いていく。一瞬の判断に委ねられた攻勢は橘の虚を突くには十分こと足りるものであった。
「ぃ、ぃああああああああ!戯けっ!このっ……」
『ashes to ashes,dust to dust,past to past...収束せよ、サイキネティック・プリズン!』
橘が行動を加速しようと動き出すその瞬間に、数宮は聖句を唱える。それは檻の如く相手の身動きを完全に封じる術。ネッケルが放った銃弾熱線と雷光の檻、その二つが見事に融合し重なりあって、相乗効果を生み出していた。数宮が放った【黄泉送る檻(サイキネティック・プリズン)】それにより顕現した檻は、強さが倍増したサイキックブラストの檻となって如何なるものをも逃がさない。強固な檻は、ネッケルの銃弾熱線雨を閉じ込め橘を焼き尽くす程の猛威を奮うのだ。
それはまさに灼熱地獄の監獄(ザ・プリズン・オブ・インフェルノ)と呼ぶに相応しい。
(弾林弾雨、そうそう抜けられるとは思えへん。
……抜けれるもんなら抜けてみぃ!)
気は抜かずに、橘の様子を伺う。この灼熱の監獄を抜けられたとしても相当な深手を負う筈。煌々と光る雷と熱線を浴びた橘は睨み付けたまま叫ぶ。
「ゆるさない、ゆるさないゆるさないゆるさないゆるさないゆるさないゆるさないゆるさない!」
憎悪や執念の入り混じった強烈な感情が向けられる。
(怖いもんだね、人が変わったみたいだよ……いいや、人が変わったみたいなもんじゃない、元来ああいう奴なんだろうさ)
熾烈な感情は次第に増していく──そして。
勝利は目前かのように思われたその時、いつの間にか数宮とネッケルの前へふらり、ふらりと近づく影。
((しまっ────!))
少女が舞う。それは舞踊演目【蝶の舞】。数宮とネッケルに襲うのは蝶の如き浮遊感を思わせる舞で巻き起こる、風。
殺られる、そう二人が思ったその刹那、眼前まで迫った疾風が影を横切り相殺され消える。
正確に言えば橘が吹き飛んできただけの話、だがそれによって疾風が相殺された。つまり、自身が発生させた疾風に自ら飛び込むという驚きの行動であったのだが。
「間に合ったようで、先ずは及第点と言った所でしょうか!」
バァン!と二発目の信号弾を空に撃って数宮とネッケルの元へやって来たのはエレクメトール・ナザーリフ(エクストリガー・f04247)だ。。
「ぼくたちじゃあ、間に合わなかったよね~」
「ああ、感謝する」
そこに、合流したのはプレケスとヴァレンタインであった。
「ある程度の戦力を削いだから、合流しようとした時にまさか敵が攻撃をしてくるとはね~」
「そうだな……私たちの速度では追い付けなかったが、援軍が居たとは有難い」
数宮とネッケル、プレケスとヴァレンタインの二人組で別れて行動したが敵も一筋縄ではいかない。あろうことか力業で押し切るなぞ、聞いたことがない。
「油断大敵、とはこのこと!」
まだ動きを見せる橘に標準を合わせたまま、ナザーリフは飛び出していく。いきなりの援軍登場に橘は呆気に取られる事なく、鋭い眼光をナザーリフに向けていたのだった。
「けど、どうして間に合ったんやろ?
気配ならうちらも気付く事が出来たんとちゃう?」
ポツリと呟いた、ネッケルの疑問に応えられる者は、今此処にはナザーリフ自身しか居なかった。
●遡ること数分前~坤~
ネッケルと数宮、プレケスとヴァレンタインの四人が行動を既に始めていた時、その四人とは反対方向──つまり指揮官である橘の居る方向に座する場にも、猟兵が続々と集まっていた。
「いやぁ、まさかね。
このエンパイアでまた大戦が始まろうとは!……いいねぇ、好きやねぇ。みども、なんのかんの言いながら、戦いは好きじゃてなぁ」
嬉々としてそう語るのはアイリ・ガングール(恋以外は概ねなんでもできる女・f05028)その人であった。ガングールは上がった煙──信号弾の目印を頼りにその方向へ向かっていた。
「……戦い、か。わたしは嫌いじゃないのだ」
同じくして行動を共にしていた大豪傑・麗刃(変態武人・f01156)もそう言って戦場を駆け抜けていく。彼の視線もまた信号弾の煙を捉えていた。
「さてと、とりあえず大将首狙いで行こうかと思ったのじゃが、大将の居る方向はあの信号弾の煙の位置なんやろなぁ……?」
ガングールの指す方角には未だくっきりと浮かび上がった、信号弾の煙があった。
「多分、そうだと思う……けど、相手はいっぱい居るみたい」
ほら、と視線を誘導するように指先を下へするりと移動し、水晶屍人が蔓延る位置を指し示したのは神元・眞白(真白のキャンパス・f00949)だ。
「水晶屍人は知性が無いらしい──であるなら橘某を討てば統率は崩壊すると思うのだ」
「確かに、それじゃあ一点狙いでも良さそうじゃのう?」
その二人の会話に神元はでも、と言葉を続ける。
「相手も将だし一筋縄ではいかなそうかも。搦め手も必要みたい」
確かに、敵の動向を見るに一筋縄ではいかなそうだと分かるだろう。それを強く言わしめているのは何よりも水晶屍人の軍勢に他ならなかった。水晶屍人が橘の壁となり、盾となり周囲に居る状況では通る刃も通らないもの。
そんな事を話すうちにいつの間にか、信号弾の上がった位置付近まで近付いていた。
「合図が伝わったようで何よりです!」
三人に声を掛けた人物、それは信号弾を打ち上げた当人──ナザーリフである。
「あの合図を出したのはナザーリフさん……?」
「そうです!」
八重歯を見せて快活笑うナザーリフに三人は驚きを隠せなかった。何故なら、橘の居る位置を示すために信号弾を打ち上げるのであれば、水晶屍人が蔓延る軍勢の中を縫って接近の後、気付かれること無く合図を出さねばならないということに他ならないからである。軍勢の中を掻き分けていくのにも、一人では数が多すぎ捌き切ることが難しい。大抵の場合は押し負けてしまい、無駄死になんてこともあるだろう。だが、その危険を犯してまでナザーリフは一人でそれをやってのけたのである。
「言わば、潜入ミッションですね」
潜入ミッション──それは指揮官である橘を討伐するために必要な情報収集行為を指していた。ナザーリフはこの三人の誰よりも早くこの地に来ていたのである。そして、彼女が先ず行ったのは、指揮官をいち早く見つけ出す事であった。その為に単独で乗り込んだのだ。
「それは、無謀というか自殺行為なのだ」
確かに麗刃の言うことには頷ける。しかし、こんな行動に至ったのはナザーリフにはそれが完遂出来ると明白に分かっていたから。
麗刃、神元、ガングールの三人と合流するおおよそ数分前。ナザーリフは敵勢の群衆に紛れ込んでいた。彼女にそれを可能とさせたのはユーベルコード【技能追憶(スキル・リコレクト)】である。それは自身の情報収集力などの能力レベルを一時的に変更し使用できるというものだ。それによってより高度な情報収集を可能にし、潜伏などの隠密行動を最適な状態まで持ってきたのである。
(目立たないように迷彩を)
能力である迷彩を使用したナザーリフは、背景に溶け込むように姿を消した。
(ふむ……進む方角からしてその先に指揮官がいる事は明白)
水晶屍人の群衆を掻き分けながら、情報収集を開始する。傭兵さながらの身のこなしで、敵に気付かれることなく足を踏み入れていく。暫く進むと一人の猟兵と相対する橘の姿があった。
(ここですね──)
そしてその瞬間、真っ直ぐ空に上がる煙は居場所を知らせる。橘の背後から撃ち上がったそれは目立つことなく、他の猟兵に居場所を知らせる目印となったのだ──それが一発目に撃ち上げられた信号弾であった。
そう、これがナザーリフのした行動全てである。無謀にも思えた彼女の作戦が恙無く通り成功した理由、それは自身の高い技能、技術が生かされた地理であったから。
「成る程、それで敵の居所を掴んだのだな」
彼女のポテンシャルの高さにも驚いていた麗刃は、納得したように頷く。その様子を見ていたナザーリフはそれと、と言葉を付け加えると指先である場所を指し示した。
「遠くを見て欲しいのですが、あの辺に指揮官が居るのであります」
信号弾の煙の微かに残る空の真下には、確かに人影のようなものが見える。
「今は別の猟兵が応戦中のようでありますが、まだ倒すには至らないと見受けられます」
戦況を整理するように言いつつ、橘の方を見る。動きを見る限り傷はまだ浅いようだ。あの調子では倒すまでに時間がかなりかかってしまう。
「……さっさと倒した方が良さそうじゃの」
そう呟いた後、突如ガングールは耳をピクりと動かす。どうやら何かの音に反応した様で、あたりをじぃと見回し始めた。
「ん……?」
閃光が見えた。戦闘の衝撃だろうか、僅かに空気が震えるのを感じる。
「随分と激しい戦闘になっているみたい……」
「これは、のんびりとはしていられないのだ」
神元も麗刃も自然と厳しい顔つきになる。混戦状態にでもなってしまっているかもしれない。
「では、私も直ぐにでも行かねばなりませんね!」
飛び出していくナザーリフに追従するように、神元、ガングール、麗刃の三人は続いていく。
全ては勝鬨を上げる為に。
●時は戻り、決戦
そして、合流が間に合ったお陰もあり、他の猟兵を傷付けること無く橘を吹っ飛ばすことが出来た。その当人ナザーリフは、未だに牽制を続けていた。
(思ったよりも──)
──しぶとい、そう思いながらナザーリフは銃を握る手に力を込める。掌をベタつく汗が濡らすのを不快に感じながら、橘に接近してゆく。
そして。
(見えた!)
その時を待っていた!橘が扇に手を掛け構えるその時を。扇の緘尻部分に標準を定め引き金を引く!
「きゃああああああああああああああっ!」
腕を押さえ、掌を見れば流れる赤い、赤い深紅。
ダラダラと流れる血が鮮明に瞳へ映る。
「!」
橘の目の前にメイド服を着た女が立ち塞がった。その女は二振りの剣を構えると一気に剣劇を浴びせんとする──その女の名を「飛威」と言う。彼女は人形にして近接におけるエキスパート。
(そう……その程度じゃ、まだ)
神元は何かを待っている。それは攻撃だろうか──?だとしても扇は地面に落ち使用することはできない。それに猟兵たちが次から次へと絶えること無く向かって攻撃を仕掛けていくために、扇を取ることさえ許されないのだ。
「くっ……!」
敵も無知ではない。一筋縄では行かないというように、やはり相手も攻撃されっぱなしではないようだ。
「わたくしを目の前にして、その程度の攻撃で倒れると思うのならお門違いですわ」
にたりと笑う橘。その途端空間を飛び交う桜が猟兵たちを包み込もうとする。
桜──桜が舞う。
舞踊演目【華の舞】。橘の扇を桜へと変える術。神元を覆っていくのは美しき桜吹雪。
殺られる、そう二人が思ったその刹那、眼前まで迫った花びらが薄桃の淡い光を放って、消える。
「絶望したでしょう?」
その冷たい声音に、背筋がぞくりとする。見た目は少女然としているのに、なんて恐ろしい。だが、絶望的にも思えたこの状況の中でクスっと笑う少女が居た。
「何故、何故笑う!何が可笑しい!」
「いえ……滑稽だなと思って」
目を細めた彼女を覆うまで迫りきっていた桜。もう既に眼前まで迫った花びらはその刹那、薄桃の淡い光を放って消えた。
「な、何!?」
まだ桜は舞っている。1つ違うのはそれが、橘の身を貫く攻撃に為ってしまったということ、ただそれだけ。
「何故、わたくしが桜に攻撃されなくてはならないのです!?」
この技はわたくしの、叫ぶように言った言葉は続かない。桜吹雪が言葉を拐っていき掻き消される。
「もしかして、見えていないの?」
美しい位綺麗に笑う──そう、この時を待っていたのだ。桜の舞う美しい光景の中、橘と水晶屍人だけが徐々に疲弊していた。神元は微動だにすることなく、淡々と聞いてくる「何時まで自分の攻撃だと思っていましたか?」なんて……。
神元はこれまで“演技の戦い”をしていた。それは橘を油断させ攻撃を誘発させるために。殺られそうになったのも、圧されているように見えたのも、全て彼女の筋書き通りであった。敵に攻撃を先打ちさせ、そして相殺する。それが彼女の狙いであった。
【ミレナリオ・リフレクション】──それが彼女の使用したユーベルコード。敵が出す技と全く同じ技、ここでは橘の出した【華の舞】だ。その技を模写し正確に放ち、相殺させるというもの。桜と桜がぶつかり合って、淡い薄桃の光を放って消える。
(勝利は陽炎……だからこそ、頼みます)
焔が戦場を覆う。赤い赤い炎は身を焦がす程に熱く苦しい。その中で大胆不敵に笑っていた女はさも楽しそうにしているのだ。
「戦場でこそ油断大敵じゃろうて……安心せい、容赦なくズンバらりとしてやるからの」
神元と入れ替わるように空から突然出てきたガングールは橘と水晶屍人の間に割って入る。
──いいや空からではない。正確に言えば木々の間からであろう。ガングールは移動手段として金狐霊糸を巧みに使い、木々や突起を利用し、地形の利を上手く生かし、飛び越えこの場に来たのだ。敵の数が減少しつつあるこの戦場に、休む暇なぞ与えず攻勢を崩さない。
ガングールは如何なる時も隙を見せないのだ。
「寧ろ油断は不敬だ、と抜かす彼奴等も居る」
手を腰に下げた柄に添えながらも続ける。
「だからみどもは決めて居るのじゃ、容赦も油断もしない、と」
その瞬間、空気が変わったようなそんな違和感を覚えるだろう。音がする筈だのに何も聞こえないような、そんな静閑とした無音の世界に変わったのだ。
狐の唇が薄く笑う。
『嘗て汝は我が護国の徴であった。
敵の血を以て輝きを増すその鋭さは我が理想。
例え冥府魔道に犯されようと、変わらぬ誓いを此処に示せ』
寂寞の中、息の震えだけを波紋に映す。世界が遅いのだろうか?それとも彼女が早過ぎるのだろうか?時の流れが可笑しくなる。
ズシャ。
何かの裂ける音がする。
「いやぁああああああああああああああああああ!」
そして少女の叫びが木霊する。
ぱた、ぱた、と滴り落ちる血。
(嘘……嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘!!
武器のリーチからして、わたくしには刃が届く筈も無いというに。どうして──?)
橘は視線だけをガングールへと移す、彼女の手には血の滴る一振りの大太刀。
(──!)
橘は驚きのあまり言葉を失う。
(あの女、何を……わたくしが見たあの時、あの女は大太刀よりも刃渡りが短い刀を使用してた筈)
橘の記憶はあながち間違ってはいない。それは彼女が使用していた刀は元来別のものであったから。ガングールがあの時言った言葉、それは【冥門開錠・屍山血河・黎明一閃(シヲコエ・チニヌレ・アスヲヒラク)】を発動するためのスイッチであった。
(もう一振り来るっっっっ!)
ザク。
どろりとした赤い血が流れる。
橘の肩口から流れたそれは自身の血で間違いなかった。
「今のは避けれた筈……」
「いいや、指揮官を良く見るであります」
ナザーリフの指示通りに神元は橘に目を凝らす。よく見ると、光があたった部分がキラッと反射する場所が幾つか見えるだろう。それこそ彼女がガングールの攻撃を避けれなかった理由の一つであった。
「──糸?」
そう、ガングールは金狐霊糸を橘に巻き付けていた。飛翔能力を封じるために。括り付けられた糸は橘を雁字搦めにして身動きを封じる。回避されるのを防ぎ、見事橘に大打撃を与えた訳だ。
「さ、みどもは此処で身を引かせて貰うのじゃ」
くつくつと何やらおかしげに笑いながらぽんと軽々と退けて見せる。
「わたしは日頃人からは変態と呼ばれている」
な、なんか来たーーー!そう思うものは悲しいことに誰一人として居ないし、ツッコミも不在だ。
「…………!」
あ、いや何やらネッケルだけ何やら言いたそうな顔をしているような……?まあそれもきっと杞憂ですね。きっと、うん。
ともあれ!そんな言葉を口にしたのは麗刃、その人であった。
「確かに普段は多少ふざけているかもしれぬ。
が、曲がりなりにもサムライエンパイアの出。
今回はネタ一切抜きで行くのだ」
麗刃くんのその言葉信じますよ、ええ。確かにいつもは多少いい加減な感じかもしれない。それでも自分の故郷のピンチとあらばそうも言ってはられないだろう。
「はあああああああああああああああ!」
それっぽい気合いで発動したのは──
──【スーパー変態人2(スーパーレイクンツー)】
ん、ちょっとこの技名の時点でネタに走ってる気がするけど何も言うまい。うん、麗刃は至って真面目に攻撃している筈だ!
そして、このユーベルコードによって麗刃が纏ったのは青白いスパークを伴う金色のオーラ。戦闘力や飛翔能力を上げるサポート技能だ。
「さっさと終わらせるのだ」
そう言って右手には何故か刀と斧、左手には脇差し……って脇差しというにはあまりに大きすぎないか?それ???どうしたのだ???──コホン、少々取り乱しました失礼。その脇差しを二刀左手に握り、そして。
ズッッシャァァァァッ!ズッシャッ!グシャ!ドシャ!ドゴォッッ!
完全にフルボッコ状態である。
容赦なく振りかかる斧、突き刺さる刀。そして大きすぎる脇差し(?)が撲殺するかの如く、殴ってくる。
「ひぃ、何なのよおおおおおおお!!!!!!!!」
橘の言葉も虚しく、麗刃は手を止める事なく橘を討つ。攻撃が猛威を奮って、壊滅状態にまで追いやっていく。麗刃はそれでもボコボコボコボコボコボコにしている。橘がもう伸びているとは知らずに。
彼がその事に気付くまであと──?
「ん?いつの間にか伸びてるのだ」
大成功
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