エンパイアウォー①~落ちるのは鹿か、墓か
寛永三方ヶ原の戦いから既に予見されていた、本格的な戦の前兆。それは『魔空安土城』という形で現実となった。
現れた八の魔軍将(内一将は脱落)。第六天魔王、織田信長は復活を遂げ、彼は今サムライエンパイアを支配しようと動いている。
実際のところ、彼が何の目的を以てエンパイアに浮上したのかはわからない。だが、フォーミュラとして現れた以上、従来のオブリビオンと同様、世界を破壊する本能に匹敵する陰謀があるに違いない。
──戦の火蓋は切られた。
「つーわけで、最初に顔出した『風魔小太郎』って魔軍将が、街のあちこちに隕石を降らせてる。ソイツを止めてほしい」
かなりアバウトな説明をしつつ、ヘクター・ラファーガ(風切りの剣・f10966)は送られてきた情報を読み上げた。
「今回の戦争の要は『徳川幕府軍』だ。俺たち猟兵もそこに付くことになってる。……ただ、かなり前にあったSSWの戦争の時みたいに、味方がまだそこまで集まってない状態らしい」
水墨画で描かれた地図がモニターに映る。その一部、"武蔵"と名札が付けられた場所が赤く光った。
そこから何枚か写真が映し出される。まるで爆発が起きたかのように円形に抉られた田んぼや家屋、ミミズ痕で分断されたあぜ道、他にも様々な場所で同様の被害を被った景色の写真があった。
「んで、そこを突いてきたヤツがいる。さっきの風魔小太郎だ」
戦争において、相手の補給路を断つのは基本中の基本。
風魔小太郎は徳川側が味方を集めていることを事前に察知し、『隕石落とし』というユーベルコードを用い写真のように主要な街道や橋、宿場町、関所、砦、物資集積所を破壊して回っていた。
「まずは隕石を止めてほしい。手段は問わない、ただダメそうなら住民の避難させたり、軌道をズラしたりで対処してくれ。止めたら止めたで隕石が化けの皮剥がして襲ってくるから、ついでにそれも倒すことだ。
何が隕石の皮被ってるって?──オブリビオンだ」
厄介なことに、隕石の材料は岩や爆弾ではなくオブリビオンを使っていることだ。
オブリビオンは特性上、骸の海から何度でも復活する存在。風魔小太郎はこれを利用し、オブリビオンを隕石に変化させそれを投げているらしい。当然着弾すれば家屋だけでなくオブリビオンもただでは済まない。が、ここで出てくるのが先述の特性。オブリビオンは隕石として爆散しても、風魔小太郎の隣で復活を果たしまた隕石となるのだ。
「えぐいぜ。誰もやろうとしなかったことを平然とやってのけてやがる……流石忍者だ」
忍者汚い。とは誰が最初に言ったのだろうか。
そして彼も、ついでと言わんばかりに隕石の材料にされたオブリビオンの情報を開示した。
「隕石にされてるのは『荒ぶるカマシシ』、雷と藤の花で戦う獣だな。獣の割りには中距離からの放電や蔓の束縛とかからめ手を使ってくるから、そこだけ油断しないようにな」
今は隕石に構ってられるほど悠長ではない。だが無視できる問題でもない。
隕石によって徳川幕府軍は集結を拒まれ、このままでは僅かな軍力で『第六天魔軍』と対決することになる。徳川の背後には幾多の猟兵がいるとはいえ、狼煙を上げるのは徳川でなければ意味がないのだ。
狐火のグリモアが扉を開く。向かう先は武蔵。夜空に浮かぶ星々の中には、既に橙に煌めく彗星が街に降り注ごうとしていた。
「……やっべ、もう時間ねぇわ」
急げ。戦は既に始まっている。
天味
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このシナリオは、「戦争シナリオ」です。
1フラグメントで完結し、「エンパイアウォー」の戦況に影響を及ぼす、特殊なシナリオとなります。
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天味です。
ついに始まりました、サムライエンパイア戦争シナリオ。今回はその①、『風魔忍法隕石落とし』となります。
目標は二つ。まずは降り注ぐ隕石を止めること。そして、隕石にされていたオブリビオンを倒すこと。
形式状このフレームは集団戦ですが、その前に隕石を止めるロールを行ってもらいます。そして、どのような手段で隕石を止めてもオブリビオンと戦闘になります。よって隕石ごと消滅はありません。
それでは、もう落ちそうになっている隕石を止めてくれる方をお探しします。
第1章 集団戦
『荒ぶるカマシシ』
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POW : アオの寒立ち
全身を【覆う和毛を硬質の毛皮】に変える。あらゆる攻撃に対しほぼ無敵になるが、自身は全く動けない。
SPD : 神鳴り
自身に【紫電】をまとい、高速移動と【電撃】の放射を可能とする。ただし、戦闘終了まで毎秒寿命を削る。
WIZ : 影より出づる藤波
【自身の影】から【召喚した藤の花】を放ち、【絡みつく蔓】により対象の動きを一時的に封じる。
イラスト:笠見諒
👑11
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔴🔴🔴
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種別『集団戦』のルール
記載された敵が「沢山」出現します(厳密に何体いるかは、書く場合も書かない場合もあります)。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
| 大成功 | 🔵🔵🔵 |
| 成功 | 🔵🔵🔴 |
| 苦戦 | 🔵🔴🔴 |
| 失敗 | 🔴🔴🔴 |
| 大失敗 | [評価なし] |
👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。
槙島・未幽
絡みOK
目的
『見えない射手』による隕石撃墜
「隕石を撃ち落とすには・・・やっぱり隕石をぶつけてみるか」
「アーチャーの本領発揮といくか」
「百面相だかお面マニアだか知らないけど、忍者さんよ、隕石はやり過ぎでしょーが」
UC『見えない射手』を使い、隕石を呼び寄せ、風魔製の隕石にぶつける。(サイコキャノンで、サイキックエナジーを上げておく)
「この技、流星召喚(スターコール)って呼ぶか。ついでに、風魔小太郎の居場所も隕石落としてやりたいね。潰された宿場町などの仕返しだ」
流観・小夜
隕石ですか……どれほどの大きさ、威力か判定不明。しかし即時行動必要と判断。
転移後、即座に狙撃銃を構えスコープを覗き込みます。義眼とゴーグルにより【視力】能力向上、【スナイパー】で隕石を打ち落としていきましょう。少々威力不足は否めませんが、起動をずらす程度は容易いことです。
オブリビオンは……素早く行動し、雷を操る手合いでしたか。後方に【ダッシュ】、即座に伏せて【目立たない】ようにします。そしてスコープを覗き込み、対象の姿を確認します。高速移動できるとはいえ周りを確認し立ち止まる隙くらいはあるはずでしょう。その際に引き金を引きます。
例え気づかれたとしても、私の弾丸からは逃れられません。
絢峰・飛鳥
アドリブ・連携歓迎だよ。
やっかいな技を持っているね。
でも大丈夫!ボクがついてるから!
フルバースト・マキシマムで隕石を狙撃するね。
ボクだけの攻撃じゃすべては防げないかもしれないけど
仲間がいるならタイミングを合わせて攻撃するよ。
戦闘中、敵に必殺の一撃を浴びせるべく突撃します。
荒ぶるカマシシの「アオの寒立ち(POW)」に対し、ユーベルコード「デュエリスト・ロウ」を使うことで、動くな!とルールを宣言します。
最大の目的は、足止め。
その為なら、ある程度のダメージはやむを得ないものとします。
本来隕石とは、宇宙から降り注ぐデブリのことを指す。
サムライエンパイアは一言で言えば中世、または戦国時代。宇宙進出が進んでいるUDCアースやヒーローズアースと違い、まだ大気圏外は綺麗と言えるだろう。よって、普通に考えれば"鉄くず(デブリ)"というものはサムライエンパイアに存在しない。
しかし、宇宙にはデブリ以外にも漂う物体はある。サムライエンパイアの大地となっている地球、月、太陽──星々がそうだ。大小様々で、太陽のように光り輝く星もあれば、月のように太陽に照らされてようやくその存在を知ることができる小さな星もある。
そして、それよりも小さな星は、よく動く。
宇宙という空間では、一度物体が動くと、何かにぶつかり続けるか、何者かがものを止めるまで物体は動き続ける。地球では空気や摩擦というクッションがあるが、宇宙は空気がなく、無重力なために摩擦や壁がなければ動き続けるのだ。
例えば、約75年周期で地球に接近する短周期彗星、ハレー彗星のように。
宇宙的偶然で地球にふらっと飛来する小惑星のように。
「この技、『流星召喚(スターコール)』って呼ぶか」
槙島・未幽(ゲストハウス野郎と誤字って恥ずかしい・f20363)の頭上で、隕石と隕石が衝突した。
『見えない射手(ビヨンドアーチャー)』。未幽が空に向かって放ったサイキックエナジーはたまたま太陽系を通り過ぎようとしていた小惑星を引っ張り、地球へと寄せた。
その大きさ、風魔小太郎が落としていた隕石よりも巨大。軽く直径一キロメートルほどのクレーターを作るくらいには、威力があった。
それが"対消滅"で済んだのは、彼女の背後にいた存在だろう。
「は、はぁぁぁぁぁ……っ!」
ゴトンと体からパージされた"アームズフォート"。大量の冷や汗と共に崩れ落ちた絢峰・飛鳥(紫炎の殲滅姫・f01951)は、隕石を落とすことよりも小惑星を砕く方へと力を注いでいた。
全力解放、あらゆる武装をもって一斉射撃を行う『フルバースト・マキシマム』がなければ、あの小惑星は降り注ぐ隕石を蹂躙した後、この地も破壊するところだった。それを阻止した彼女は、今まさに英雄(ヒーロー)と呼べる存在になっただろう。
「何もっとすごいの呼び出してるんだよ!死ぬかと思ったぁぁぁ!!」
「隕石を撃ち落とすにはやっぱり隕石だと思ってね。まさかあんな大きいのが釣れるなんて思ってなかったよ」
しかし、地球をスレスレで通り過ぎるはずだった小惑星が起こした爆発は、降り注ぐ隕石を全て灰燼へと変えてしまった。この後破片や塵が街に降り注ぐことになるが、風魔小太郎の隕石落としと比べればこちらは大して問題にはならない。
そして、まだ事態は終わっていない。
「グガギギギォォ……!!」
隕石に変えられたオブリビオンが、二人の前にその姿を現す。
ざっと数えて九体といったところか。『荒ぶるカマシシ』たちは雄々しい角から紫電をまき散らし、異様な鳴き声を上げながら猟兵を睨んだ。
おそらく彼らのリーダーだろう、一番大きなカマシシが前に出る。
「ゴグゲギギゴガゴゲグギギ!!」
「"動くな"っ!」
カマシシが何か行動をする前に、飛鳥は先手を取る。左手に嵌められた手袋をめくり、彼女はおもむろにカマシシの顔面に投げつけた。
「ンギッ!?」
ぺちっと手袋を軽く叩きつけられたカマシシは、咄嗟に全身の和毛を硬化させ無敵状態になろうとする。しかし、現れた効果はその逆。鋼鉄の如く硬化するはずだった和毛は反り返り、先端が針となってカマシシの体表に突き刺さった。
全身に針。すなわち、毛が生えている場所全てに穴が空いたのである。
「ィィイイィィィイイィイイイイイイ!!!?」
「まぁ、恐ろしい」
『デュエリスト・ロウ』は本来対人用、決闘を申し込むユーベルコード。由来は様々だが、古来より伝わる決闘の申請手段、"左の手袋を投げつけ、拾えば決闘を受諾したものとする"作法を用いたものだ。違う点は、手袋を投げつけた側がルールを決めるということ。
普通なら逆だが、これはユーベルコード。そして提示されたルールを破れば、当然ペナルティが与えられる。
人間であれば簡単に守れるが、獣である彼らには極限まで難易度の高いルール、「動くな」。飛鳥は互いに言葉が通じ合わないのを利用し、彼らに"足止め"をした。
──本命はさらに背後。遠く離れた街路の影から覗く閃光。
「ィゴッ……!!」
カマシシの首下。ちょうど胴に当たる部位に、弾丸が貫通した。
「はぁ……はぁ……っ、勝負はこれから、ですね……」
足元に散る無数の薬莢。汗を拭う暇はなく、常に集中していたためか両手が震えていた。
流観・小夜(駆動体α・f15851)は、先ほどまで降り注いでいた小惑星の破片を狙撃していた。
隕石を撃ち落とすはずが、いつの間にか隕石が全て破壊され、今度は小惑星の破片が街に降り注ごうとしていた。グリモアから転移し即座にスコープを覗いた時の光景に、彼女は一瞬困惑した。
ブリーフィングルームで見た隕石はもっと大きくて数も少なかったような?と。
「しかし、一体何が……とはいえ、私の弾丸からは逃れられません」
先ほどまでクレー射撃よりも激しく、失敗は許されない状況下にいたおかげで、既に体力は切れかけていた。しかしもうその心配はない。落ちたら危険そうな破片を全て撃ち落とした彼女は、あと二つしかない弾倉を交換し、リロードを行う。
残るはオブリビオン。破片を破壊するよりも簡単だ。
──そして、スコープに映った獲物は必ず外さない。
「1」
引き金を引いた時には、スコープは次の得物に移っている。
「2」
二度目は、気づかせる暇もなく胴を貫通させる。
「3」
頭部は狙わない。中型の動物に共通していることだが、頭蓋骨は脳をぴったりと覆っており、硬いからだ。狙いやすく、かつ貫通させれば必ず失血死に至る胴を撃つ。
「4」
ようやく狙撃に気づき、逃げ出そうとも、狙撃は止まない。『超長距離精密射撃(アウトレンジスナイプ)』からは、逃れられない。
「5」
「──終わりね」
未幽は、飛鳥が一体一体に『デュエリスト・ロウ』を宣言させ、動けなくなったカマシシらが狙撃されてゆく様を静観していた。
もう一つ隕石を引っ張ろうと考えたが、彼女はそうしなかった。また小惑星を引っ張るのが恐ろしいことと、背後で構えていたであろう狙撃手にこれ以上負担をかけさせまいと考えた。
しかし、
「これだけは、やらせてくれないかい?」
雨のように空から降り落ちる、隕石と小惑星の塵。彼女はそれらをサイキックエナジーで集め、凝縮していき──手のひらでバランスボールほどの大きさに変えて浮かび上がらせる。
投げられたからには、投げ返す。
憤怒の思いのままに、未幽は思い切り隕石が飛んできた方角へと自作隕石を投擲した。サイキックエナジーは風魔小太郎の座標を検知し、精密に、そして必ず彼の元へ飛んで行くだろう。
「猟兵からの贈り物ってことで、ちょっとね」
成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔴🔴🔴
護堂・結城
時間がないにもほどにあるが…防衛、始めるか
今回も外道、殺すべし
【POW】
UC雪見九尾の夢幻竜奏で紫電の竜装をまとい空を翔け隕石と【空中戦】と洒落こもう
「『予告する』お前の好きにはさせねぇ」
氷牙を巨大槌に変化させ最高速度で隕石に突撃
UC九尾天命の【怪力】上昇、夢幻竜奏の戦闘力上昇を生かして巨大鎚を叩きつけ【衝撃波】の【範囲攻撃】
もし迎撃できなければ横殴りに変え軌道をそらす
カマシシと戦闘時は紫電双月に毒の【属性攻撃・生命力吸収】をのせて空中からヒット&アウェイ
対無敵状態には動けない間に鎖鎌にした氷牙を【早業】で巻き付け飛翔
上空でターンして地面に叩きつける
「空中散歩にご招待ってな」
樫倉・巽
この刀はこの世界の生まれだが俺はそうでは無い
異世界で生まれた我流の剣術だ
が、旅の剣士とこの刀が無ければ俺はこうしてはいない
縁により助太刀しよう
【蜥蜴剣術無天流】を使い戦う
隕石を止めるために隕石の前に歩みでて
心を落ち着け切らねば死ぬ覚悟をもって
剣の威力を上げることだけを考え上段の構えから研ぎ澄まされた一撃を放つ
「壊すことだけを考え、斬る!」
カマシシが出てきたら素早い攻撃で向こうが態勢を整える前に先手を打って一気に攻撃
周囲を確認しながら戦場を駆け回り、隙を見せている敵に素早い一撃を叩き込んでいく
動かぬ敵は蹴り倒して構えを崩しておき、走りながら動いている敵だけを狙う
「あれは倒せる者が倒すだろうしな」
残る隕石は二つ。小惑星の爆発の後発射されたものだろう。
神の怒りに触れた二つの隕石は橙色の煌めきを放ち、今まさにこの街に落ちようとしている。
しかし、これ以降隕石が発射される気配はない。恐らくこれが最後。
「──右をやる」
「なら、俺は左か」
グリモアをくぐり抜けた二つの影。
彼らは一度空を見上げ短いやり取りをした後、思い思いの場所へ跳んで行った。
赤のメッシュが入った銀髪の妖狐、護堂・結城(雪見九尾・f00944)は隕石の落下軌道に割り込むように飛び上がり、
緑鱗の竜人、剣豪(サムライ)の樫倉・巽(雪下の志・f04347)はその真下へと駆ける。
「『予言する』」
銀色の髪が赤く、憤怒の色へと染まってゆく。
全身を纏うのは肩に乗っていた小さな竜。それは結城から迸る怒りを受け取り、紫電の竜装となって袴の上から彼の体を纏った。
「お前の好きにはさせねぇ──」
竜と一体となった彼は、空を蹴り上げる。
紫電と共に飛翔し……否、紫電そのものとなって隕石に突っ込んで行く。時速四千キロメートル超えの速さで突き抜け、空気を破壊し、右へと逸れてゆく隕石の真下へたどり着いた。
「氷牙ァッ!!」
結城の体を纏っていた竜が分離し、本来の姿に戻ったところでさらに形を変える。
次に変身したものは、身の丈を超える大きさの金槌。柱を咥えた竜の顎を模した巨大槌を手に、結城はもう一度紫電を纏いその場でチャージを始めた。
既に詠唱は終えている。ビキビキと全身の筋肉が膨張し軟化と圧縮を繰り返すのを感じながら、『九尾天命(コウソクジュツシキゲンテイカイホウ)』を終えた結城は、巨大槌を下段に構える。
狙うのはフルスイング。真下からの一撃。
「隕石ごと逝きっちまえ──ッッ!!!」
空に二度、紫電の直線が描かれた。
巨大槌は時速四千キロメートルを超える速さで隕石を真下から突き上げ──消滅させた。
衝撃波は全て上へ。周囲の雲を吹き飛ばし辺りを晴天に変えるほどの風を放ち、そして地上にも風は伝わった。木々や家屋が揺らぎ、轟音は遅れてやってくる。今度は塵一つない。さっぱりとした空模様だ。
ただ、一点を除いて。
「ガュゴギガゲゲグギギ!?」
「……なんつー術式だ。生きてやがったか」
空中へ放り出されたカマシシ。隕石を消滅させたというのに、その皮を被っていた獣は生きていた。一体どのような術式を使ってこれを隕石にしたのか。風魔小太郎はやはり只者ではない。オブリビオンを利用した隕石を思いつくだけはあるだろう、破壊されてもなお中身を生かすという、術式構築技術のレベルが違い過ぎる。
しかし、それがどうしたというのだ。
結城は巨大槌を空へと放り投げ、今度は腰に下げた双刀を抜く。白と橙の夫婦剣、"雪見九尾の紫電双月"を両手に、彼は刀身に毒の付呪を行う。
カマシシに動きは……ない。空中で慌ただしく足を動かし、哀れにも体勢を整えようと必死だ。
「空中散歩にご招待ってな」
そんな彼に、結城は片道切符を渡す。
刀を水平に構え、回転。繰り出されるのは水車。二本の刀はカマシシの胴を斬りつけると同時に、体内に毒を植え付けながら彼の落下速度を速めた。
オブリビオンに渡すものなど地獄行きしかありえない。空中散歩の権利を一瞬だけ与えた結城は、両腕を広げ一人空の旅を楽しむことにした。
──もうすぐ竜形態に戻った氷牙が助けに来てくれるだろう。それまでのフリーフォールだ。
巽が取る方法はシンプル。
斬る。その一点に限る。生涯剣を振り続け、強くなることを信条に世界を歩んできた。
"隕石を止めるには、隕石を斬る"。これ以外の方法は思いつかない。
結城のように多芸かつ様々な武器を扱えるのも良いだろう。浪漫があり、戦術の多様性という強みがある。
「だが、それがどうした」
巽にはこれしかない。故に、これを極めた。
握られた刀はここサムライエンパイアの生まれだが、巽自身はこの世界の生まれではない。生きた世界も、剣術も、旅も、全て異世界のもの。
それが今通用するかどうかは、あと数秒もすれば落下する隕石に判断させよう。
彼は鞘から自身の得物をおもむろに抜き、腰を低く構えた。
「──ただのトカゲだが相手になろう」
重ねて言うが、隕石を止めるには、隕石を斬るしかない。
一歩前へ、巽は両手で柄を強く握り瞑想する。
イメージするのは最高の一撃。隕石が溜め込んだ落下エネルギーを霧散させるほど真っ二つにする威力。肩から上、上段に剣を構え、刀身の先が背中に付くほど大きく体を逸らせる。右足を前へ、左足を後ろに、アキレス腱を伸ばす。
居合の要領。もしくはデコピンと同じ原理だ。自身の体をバネとし、骨と筋肉が引き裂かれる限界まで引き延ばす。あとは一気に、自身が磨いてきた技術を信じ剣を振り下ろすだけだ。
もし失敗すれば?これまでと同じ──死が待っている。
これまでと同じならば、至極どうでもいいことだ。
「──今」
透き通るような鈴の音が鳴った。
隕石が地面からあと三メートルという距離まで近づいた瞬間、弓反りになっていた巽の背中は一瞬よりも速いスピードで元に戻っていた。
『蜥蜴剣術無天流』。無我の境地、天上天下唯我独尊を目指し鍛えた技は、落下エネルギーを失い空中で数秒停滞した隕石に十二分に通用した。
後は、帰るだけだ。
「あれは倒せる者が倒すだろうしな」
ふぅっと息を吐き、巽は振り返る。投げた鞘を拾い土を払うと、ゆっくりと彼は刀を収めた。
「グゴゴギギギ……!」
ようやく地面に落ち、ゴトンと転がる音と共に現れたカマシシは、背中を向けて悠々と歩く巽を睨む。
あれだけの一撃を出しておいて、俺を無視するのか、と。
怨みが籠った鳴き声は巽に届かない。そもそも何を言っているかわからないのもあるだろう。しかし無視されたことに怒り狂ったカマシシは、雄々しい角に紫電を纏い始めた。この一撃でアレを振り返らせようと、怒りを雷へと変えてゆく。
だが、雷が届く前に、同胞の亡骸が届いた。
「ゴ──!!?」
上空数百メートル地点からのプレゼント。地獄への片道切符を手にしたカマシシが、ピンポイントで怒り狂ったカマシシに直撃した。互いに肉片を散らし、まさに隕石の如く爆発し赤い花を咲かせた。
「言っただろう。倒せる者が倒すと……」
二度目の溜息をついた巽は、隣に降りてきた結城と共に街を歩いてゆく。
──これ以降、隕石が落ちることはなかった。
大成功
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