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エンパイアウォー④~樹海獣道彼岸行

#サムライエンパイア #戦争 #エンパイアウォー

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●チル・バーント・トレイル
 おえあああ。
 ああああえ。
 えいいいあ。

 意味をなさぬ鳴き声が樹海に響く。
 心持つ者が聞けば、その【幼さ】に感づくことであろう。
 世界の道理も、他者の温もりも、それはいまだ知らぬままに、鳴いている。
 泣いている。

 対して。
 担い手は一人、その【幼き仔龍】を逆しまに捧げ持つ。
 その【幼さ】を省みることもなく、仇敵の墓石に叩きつける花束よりも手荒に、むしろ何もその手に持っていないかのように無頓着に、山道を歩いていた。
 否。道はない。赤々と燃える炎の花が、霊峰富士の樹海に、獣道を拓いている。

 そう。
 この男『霧冥』、獣と呼ぶに相応しき【外道】である。

 おえあああ。
 ああああえ。
 えいいいあ。

 この外道が、その【幼き仔龍】の鳴き声を止めないのは、たった一つの目的が為。
 死んでしまっては、生き血は絞れない――!

●ビート・ザット・ビースト
「常ではあるが。護るものも、失うものも多くなりそうな戦いだ。
 が、全ての被害を遠ざけんとする努力は、間違いなく尊いとオレは思う。
 この、全体図と比較すれば小さく見える戦いも、ならばひとの輝きを見せるものだ」
 スレイマン・コクマーが展開する光球型のパンドラに、【幼き仔龍】が映し出される。
「見えるか猟兵ども。こいつは、ケツァルコアトルの子供だ。
 端的に目的を言うならば、こいつの命を守ってもらいたい――」

 魔軍将の一人である侵略渡来人『コルテス』は、太陽神ケツァルコアトルの力を使って、富士山を噴火させようとしています。
 富士の樹海に隠された儀式場で、コルテス配下のオブリビオンが富士山を噴火させる為の『太陽神の儀式』を行っています。
 儀式を阻止、富士山の噴火を阻止しましょう。
 富士山が噴火すれば、東海・甲信越・関東地域は壊滅的な混乱状態となり、徳川幕府軍は全軍の2割以上の軍勢を、災害救助や復興支援の為に残さなければならなくなります。

「――くだんの『太陽神の儀式』において、生贄として捧げられる予定なのが、このケツァルコアトルの子供というわけだ。
 そして、コルテス配下のオブリビオンは、その名を『霧冥』という。堕落しきった悪しきサムライだ。【幼き仔龍】を手に掛けるのに、なんらの躊躇も持たないだろう。
 ただ、その殺龍行為は場所を選ぶ。
 樹海の中にある儀式場の、聖杯の上においてのみ。
 どんな儀式であるかは説明を憚らせてもらうが、戦闘しながら執り行うことは不可能だ。そこに付け入る」
 スレイマンの光球パンドラが、オブリビオン・霧冥の姿を映し出す。
「すまないが、儀式場がどこにあるかは不明でな。が、樹海の中を行くヤツを見つけ出し、追いつく手段はきっと有るはずだ。
 健闘を祈るぜ、猟兵ども」


君島世界
 このシナリオは、「戦争シナリオ」です。
 1フラグメントで完結し、「エンパイアウォー」の戦況に影響を及ぼす、特殊なシナリオとなります。

 こんにちは、はじめまして。
 マスターの君島世界です。
 今回は戦争シナリオです。皆さんが頑張れば頑張っただけ、戦争が有利になりますぜ。
 夏の暑さを吹き飛ばすような熱いプレイング等をお待ちしております!
 ――冷房の利いた自室で!
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第1章 ボス戦 『霧冥』

POW   :    抜刀術『獄彼岸』
【赤く燃える炎を纏った斬撃】が命中した対象を燃やす。放たれた【火の粉は赤い炎の花を形成していく。】炎は、延焼分も含め自身が任意に消去可能。
SPD   :    剣舞『盞ノ時』
自身に【鬼神の殺気】をまとい、高速移動と【刀による無数の斬撃】の放射を可能とする。ただし、戦闘終了まで毎秒寿命を削る。
WIZ   :    抜刀術『空々捩々』
対象のユーベルコードに対し【その場の空間さえも断裂する斬撃】を放ち、相殺する。事前にそれを見ていれば成功率が上がる。

イラスト:藤本キシノ

👑11
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種別『ボス戦』のルール
 記載された敵が「1体」出現します。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※このボスの宿敵主は月舘・夜彦です。ボスは殺してもシナリオ終了後に蘇る可能性がありますが、宿敵主がボス戦に参加したかつシナリオが成功すると、とどめを刺す事ができます。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。

塩崎・曲人
ハッ、要はサムライとガチ勝負してお命と手荷物頂戴すりゃいいわけだろ
相手も手荷物が大事だから、ド付き合いに巻き込む心配もねぇと
楽勝だぜ
(むしろ、こっちは儀式妨害が本命だからなぁ。最悪負けそうならサムライ無視して仔龍を殺すのも選択肢か。まぁ、気乗りはしねぇが負けなけりゃいい話だ)

【追跡】はそこそこ得意なんでな、敵を探して後を追うぜ
森の中なら痕跡は隠せねぇだろ
ましてや泣きわめく生贄を連れてりゃな

めっけたら同じ作戦の猟兵に連絡しつつ攻撃を仕掛けよう
敵の斬撃は速いがオレの【喧嘩殺法】もなかなかのモンだぜ?
無論仲間が見つけたならなる早で応援に行くぜ

その後はまぁ、倒した後に考えるか

【アドリブ歓迎】


ゼイル・パックルード
サムライか……いや、楽しそうだ、ぜひ見つけ出して手合わせ願いたいね
そんなチビでどうこうするより、俺と遊ぼうぜ

まずは見つけなきゃな
地形の利用をして、ジャンプしながら樹海を跳び回る
雑に扱ったというなら、ぶつけたあとや、血痕とかがあってもいいはずだからそれを探し、そこから行き先を辿っていく
後は時々目を瞑り聞き耳で、龍…まぁ、人じゃない鳴き声を探す

ご対面できたら、せっかくの侍相手、刀と脇差メインで相手させてもらおうか
距離を取って、武器受けをしながら相手の攻撃を見切りしていく
相手の手数が多いなら、こっちもUCを某業に利用し対処
相手の攻撃をある程度見切ったら、間合いを詰めて自慢の早業を叩き込む


ゼット・ドラグ
「竜は殺すべきだし、同情する余裕も俺にはないが・・・まぁいい、今回は守ってやろう」
話を聞く限りは、ケツァルコアトルはただコルテスに使われている気がする。もし、そうだとすればここで殺してしまってはケツァルコアトルの怒りを買う可能性を考え、子竜を助けるために動く。
さて、敵はサムライか。久々に刀を抜くとするか。名刀も銘もない刀だが外道にはもったいないぐらいだ。
【ドラゴンチェイサー】の後ろ部分から尻尾のように伸びてる部分を掴み、居合切りのような一刀を自身の【怪力】で更に加速させつつ、霧冥の腕めがけて放つ。
防がれたら、【咄嗟の一撃】で左手の甲からドリル形状の鋲を発射し、隙を作りつつ、もう一撃叩き込む。


飛鳥井・藤彦
「富士を特別なモチーフにしとる絵描きは少なくない。せやから噴火なんてされてもうたら困るんですわ」

美しい景観を絵にすることを喜びとしている一絵描きとして、この儀式見過ごすことは出来まへん。

天衣無縫で召喚した龍に乗って上空から樹海の中にいる霧冥を見つけ、太陽を背に上から奇襲を仕掛けて筆でその斬撃を相殺しましょ。

「ほな、派手にいこか」

霧冥の赤に対してこちらは僕お気に入りの青で対抗や。
相手の斬撃見切りつつ、青い墨を吹き飛ばしながらなぎ払い、衝撃波を打ち込ませて頂きます。

(首や肩を鳴らしつつ)いつもやったら荒事は遠慮願いたいんやけど、今回はそうも言ってられへん。
ちょお気張らせて貰いますわ。


ヨナルデ・パズトーリ
カカ、カカカカカカカ!
・・・ふざけるなよ、下郎が・・・っ!

世界は異なるとはいえ、貴様が、妾達の国を滅ぼし奴が狂う元凶、妾の手で
止める原因となった貴様が!
あの大ばか者、妾の好敵手、兄妹、妾の伴侶と同じ名を持つ者を愚弄するかっ!

余程滅びたい様だな下郎がっ!

UC発動
『暗殺』に適した『目立たない』動きで気配を消し『野生の勘』で敵の隙を
『見切り』UCの高速飛行の『先制攻撃』で子竜を持つ腕を『鎧無視攻撃』
『救助活動』でひったくる

其の後は斬撃は『野生の勘』により『見切り』『残像』で対処

『怪力』による『なぎ払い』の『鎧無視攻撃』と『高速詠唱』による『呪詛』の
『属性攻撃』がこもった『全力魔法』を使いわける


ニコ・ベルクシュタイン
贄を捧げて邪悪を為す、斯様な事が許されると思うなよ
貴様となぞ交える剣も拳も無いと精霊銃を手に挑む
敵の後を追うのは容易かろう――痛ましいが、血の跡を辿れば良いのだから

幼き仔龍を失っては話になるまい、ならば其れを持つ手を狙って一発
「先制攻撃」を仕掛けよう
反応したら今度こそ「スナイパー」で狙いを急所へ定めて
「属性攻撃」を思い切り乗せた【疾走する炎の精霊】を放つ
高速移動で避けようとするのは良いが、其の弾丸は「誘導弾」でもある
何処まで逃げおおせられるかな?

間合いに踏み込まれたら精霊銃に「オーラ防御」の力を流して
防御障壁を展開しつつ銃身で受ける努力をしようか
多少抜かれて傷を負うのはやむを得まい、我慢だ


月代・十六夜
【韋駄天足】と【スカイステッパー】の【ジャンプ】を組み合わせて木々を足場に高速跳躍。
真っ当に行くなら獣道を使うか切り開いて行くだろうし、その痕跡を【視力】で追う。ある程度まで近づけば【聞き耳】で仔竜の鳴き声も聞き取れるだろ。
見つけたら後は簡単だ。光の結晶を真上に投げはなって周囲の猟兵に目印を送ると同時に着地。
光に気づいたであろう相手に上に意識を振ってからの【フェイント】超低空ジャンプ、【虚張盗勢】で仔竜をかっさらおうとするぜ。
失敗したらそのまま距離を離して木々を飛び回る。
儀式の要、そう簡単に盗らせてはくれないだろうが、油断したら持ってかれるって思考を植え付ければ後は他の皆がやってくれるだろ。


須藤・莉亜
「とりま、仔龍の血の匂いでも追いかけてみるか。」
龍の血なら吸ったことあるしね。

暴食蝙蝠のUCを発動。体を無数の蝙蝠に変えて散開し、【吸血】衝動の赴くままに血の匂いを追ってみよう。

上手いこと儀式場を見つけられたら、戦う前に人の姿に戻っとこう。

大鎌と悪魔の見えざる手で適当に攻撃しといて、敵さんの攻撃を受けた瞬間に暴食蝙蝠を発動。
霧で敵さんを撹乱してから、本命の全方位からの全力【吸血】を狙う。

敵さんの攻撃は【見切り】や【第六感】で回避。後は【武器受け】で防御。


月舘・夜彦
【華禱】

奴と出会ってから酷く胸騒ぎがする
そして早く倒さなければならないという焦燥感に駆られる
奴は、一体……

仔龍は聞き耳で位置を把握
保護は倫太郎殿に頼み、戦闘

夜叉を発動
先制攻撃とダッシュにて接近、早業・2回攻撃併せで斬り掛かる
炎の攻撃は耐性が無い為、残像・見切りより躱してカウンター
無数の斬撃は武器受けにて防御

刃を交えれば分かってしまう
……いや、認めたく無いのだ
見間違うはずも無い
戦い方も、構えも、刀も……簪も――奴は、私
戦い続け、外道へ落ち、記憶を失い、ただ意味も無く戦うだけの果ての姿

倫太郎殿、彼の言葉に我に返る
そうだ……私は、まだ其方に至ってはいない
可能性で在るのなら、今度は違える訳にはいかない


篝・倫太郎
【華禱】

Loreleiを起動
集音機能や熱源探知の機能をフル活動
仔龍の鳴き声で方角を特定
熱の移動状態で距離も計測し情報共有

捕捉したら急ぎ移動
拘束術の射程に入り次第、霧冥だけを狙った鎖の攻撃で足止め
進行方向に儀式場があると想定し、回り込む事で進路を塞ぐ

拘束術と俺自身の華焔刀での先制攻撃からの2回攻撃で交戦
攻撃で霧冥が仔龍を取り落とす事があるなら
ダッシュで仔龍確保し距離を取る

霧冥が仔龍に拘るなら、俺は充分囮になれる

攻撃は見切りと残像で回避
回避不能時はオーラ防御で防ぎ
カウンターで咄嗟の一撃

悪ぃな
俺の腕はくれてやってもいいけど、こいつは渡せねぇよ

夜彦!あれはあんたじゃねぇ!
あんな風には俺が絶対させねぇ!


ニナ・グラジオラス
なんて酷い事を
早くあの子を、仔龍を助けてやらねば

他猟兵との協力は惜しまない
幼き仔龍を保護し、敵の殺龍行為の妨害を最優先に行動
仔龍の声を頼りにカガリに木々の高さギリギリから周囲の確認と
私も『地形の利用』『世界知識』で索敵と現在地を確認を行う

居場所を見つけたら地形を遮蔽物として距離を詰めてから、
こちらの目的が仔龍とバレては厄介なのでまずは足止めしてから、
『先制攻撃』に『フェイント』を併用して仔龍を奪還する

仔龍とその庇護者を最優先で『かばう』。治療が必要であれば『医術』で治療を
自身の傷は『激痛耐性』『火炎耐性』で我慢
応戦には【ドラゴニック・エンド】
あの子の痛みをその身に刻め、この愚か者めが


神埜・常盤
樹海の中を探すなら其処に住まう獣に話を聴くのも手かね
動物と話す技能で此の樹海の住人たちに
怪しい男を観なかったか尋ねてみよう
粗方行先の目処が着いたら、動物使いと催眠術を活用
足の速い動物の背に乗せて貰い対象を追いかけようか

上手いこと儀式場に辿り着けたら
――さあ、死の舞踏を始めよう
敵は観たところ剣に覚えが有りそうだ
護符をばらばらに投擲しフェイントかけて目晦まし
その隙に天鼠の輪舞曲で捨て身の一撃
蝙蝠の牙に毒を潜ませ噛付き攻撃を行おう

剣による攻撃は第六感で見切って避けたいところ
疵はなるべく激痛体勢で堪えよう
体力が危うければ影縫で敵を串刺しにして生命力吸収を
然し可愛い仔龍を贄にするなんて酷い事をするねェ


紺屋・霞ノ衣
アタシが生きてきた世界だが、特に思い入れは無い
だが……好き勝手されるのは見てらんないねぇ

仔龍の鳴き声のする方へ注意しながら移動
動物と話す力で、何言ってるか分からないかね
どちらにせよ、狙いがそれなら奴が近くに居る可能性はあるだろうよ

霧冥を見つけたらダッシュで近付いて先制攻撃
そんな刀、アタシの怪力でへし折ってやるさ!
敵からの攻撃は武器受け、炎はオーラ防御で防いでカウンターでやり返す
カウンターは獄炎龍を喰らわせる

しかし、あの刀の使い方には見覚えがあるね
……思い出した、前に戦った夜彦ってヤドリガミだ
あいつに似ているが本人でもなさそうだ
あいつは強いが非道さみたいなのは無く
もっと真っ直ぐで綺麗な奴だった


羅賀・乙来
やはり戦が始まってしまったか
今更止められるはずもない
それならやる事は一つ、脅かす者を倒すのみ

侍龍招来にて仔龍の捜索
野生の勘を使って位置を確認、あとは鳴き声が特徴的だったか
声が聞こえたら音のする方へ目立たずに追跡

……君は侍のオブリビオンか
虚ろな赤い瞳が随分に目立つ
だが、それ以上に伝わる殺気は普通ではない
相当腕のある剣士なのだろう

侍龍を前衛に配置
破魔の力を付与した護符と手裏剣を2念動力で飛ばして2回攻撃
接近されたら高速詠唱よりオーラ展開して防御

その簪……あぁ、なるほど
君は――彼なのかい

宵色の髪は短くとも
血の臭いを纏っていても

彼なんだ

……参ったね、本物では無いとしても
友人を傷付ける事になるなんて


アルバ・アルフライラ
ジジ(f00995)と
――外道に語るべき言葉もない
その四肢を裂き、首を晒してくれよう

弟子に連れられ上空へ
太陽神の仔ならば相応の魔力を有する筈
魔力の流れを辿り、それが集まる場所を捜索
敵を発見次第ジジに報告

不意を討てるならば迷いなく
高速詠唱の【暴虐たる贋槍】で彼奴を射抜いてくれる
幾ら相殺されようとも幾百もの槍は全て防げまい
ジジ、お前も彼奴の動きを封じろ
傷付く事すら厭わぬとは…全く無理をする
ならば私も多少の無理はしなければ
ジジに気を取られた敵の死角を取り
近距離からの一撃――これでは避けられまい?
愛らしい仔竜
脳裏を過る幼き従者
奪わんとした蛮行、その身で贖え

何、案ずるなジジ
彼奴は私の逆鱗に触れただけの事


ジャハル・アルムリフ
師父(f00123)と
…抵抗も知らぬものを手に掛ける心算とは

師を抱えて翼で上空より探索
暗視、視力ともに活用し
不自然な光や飛び立つ鳥などを探す
師の助言にも従い、降下

仔竜を離せ、残り滓

霧冥の斬撃が師へと向かぬよう、前へ
防御を高めながらの【竜墜】にて
地形と炎ごと散らし撃ち込む
<部位破壊>で刀持つ腕を狙い、動きを鈍らせる
手傷など覚悟の上
黒剣による斬撃も交えた接近戦で気を惹き
師の魔術による攻撃の隙を作る

槍を放った跡の師が反撃を受けぬ様に
割り込み庇う
冷や水はその程度にしてくれ

微かに感じた、師らしからぬ焦りのような何か
…随分と急いておらぬか、師父

*戦闘中に仔竜が落ちる、放たれるなどすれば急ぎ保護を



●ザット・ロンサム・アウトクライ
 ざん――。
 揺れる木の葉の一枚も落とすことなく、ゼイル・パックルード(火裂・f02162)は次の枝に飛び移る。その足場は菓子の脆さで、しかしゼイルの全身を跳ねてなお、撓むのみ。
 樹海。常人であれば続々と方向感覚を失うであろう天然の迷宮。
 二種の生き物が――いや、どちらも【生物の範疇】にはないが――その裡を行く。
 猟兵とオブリビオン。追う者と向かうモノ。両者の関係は、非対称であった。
 有利を掴んでいるのは、こちらである。
「サムライ、か……」
 ゼイルは風切りながら言葉をこぼす。
「ぜひ見つけ出して、手合わせ願いたいね」
 眼前に迫る巨木の幹に、ゼイルは爪先を下に、足裏から着弾した。足指に力を込め、樹木の凹凸を掴むようにして駆け下りる。
 勢いを取り戻したところで、再び跳んだ。
 斜め上へ向かう軌道に、月代・十六夜(韋駄天足・f10620)が横から来て並ぶ。
「お」
「おう」
 一瞬のアイコンタクト。それでゼイルと十六夜は、二手に分かれることにした。
 空中で、双方が双方の足裏を合わせ、蹴り飛ばす。そこから生まれた異常とも言える速度に、十六夜はゾクゾクするものを感じつつ、これまで以上に目を凝らした。
「(真っ当に行くなら、獣道を使うか切り開いて行くだろうが……)」
 未だそのような痕跡は見られない。ゆえに、もう一つの感覚を全開にする。
 聴覚――。
「――!」
 十六夜は、【それ】を捕らえた。樹海のそこかしこで、例えば弱肉強食のルールのもとの生存競争は行われているものだが、その埒外にあるかのような、異常な音。
「あちら、か……?」
 己の感覚を信じ、十六夜はさらに進路を変えた。横向きの重力を感じながら、木々の間をすり抜けていく。
 星の重力に逆らい、脚力をもって、前に落ちる。

「ハッ、こいつだな……?」
 塩崎・曲人(正義の在り処・f00257)も、【それ】に気づいていた。
 繰り返し繰り返し、わずかな声量だが、断続的に響く鳴き声。
「ニナ、お前さんにも聞こえているだろう?」
「ああ、これは……」
 ニナ・グラジオラス(花篝・f04392)も、深刻な表情で首肯する。
 移動先を目で追い、口元を掌で隠した。
「……酷いことを」
「だな」
 曲人も、ぎ、と音でも鳴りそうな視線でそちらを睨む。
「戦う力のねぇ雛が、親を呼びながら樹海をウロチョロするか? 無理だ。
 ――速攻で他の獣の餌だ、間違いなく」
「声を聞けたのは幸運だったな。急ごう」
 重心を前に傾けるニナに、曲人が肩越しに声をかけた。
「ご自由に。オレは『まず』後続の猟兵に連絡を取る。
 あの野郎をきっちりカタにハメてやるなら、それなりの準備が必要だぜ」
「……ああ、私もそのつもりだ。協力は惜しまない。
 私は、あのオブリビオンの監視を続ける」
「オーライ。適材適所でいこうや」
 言いつつ、曲人は振り返る。前へ。
 足を止めていた自分を追い抜いていくので、ニナは訝しんだ。
「? 連絡をつけるのではなかったのか」
「ンなもんもうやってるよ。で、適材適所っつったろーが、まさかなんの策もなく急がせてるワケじゃねーよな」
「フ、見くびってもらっては困る。――起きろ、カガリ」
 ニナの呼び声に応じて、彼女のドラゴンランス『焔竜・カガリ』が、元の小型ドラゴンの姿を取り戻していった。カガリは数度目をしばたいてから、上空へと飛ぶ。
「そう……高度は木々の高さギリギリを保って。なにかあれば降りてくるのよ?」
 見上げる曲人は、感心したように言う。
「へー。よく躾けられてんじゃねぇの」
「当たり前だ。カガリと私とは、無二の相棒だからな」
 すこし上機嫌に答えるカガリ。と、その間、曲人はその雰囲気にそぐわぬことを考えていた。
 あのケツァルコアトルの子供も、同じような体の構造をしているのだろうか、と。

 紺屋・霞ノ衣(蒼の戦鬼・f01050)は眉をしかめる。聞こえてくる仔龍の悲鳴に、やはり意味を聞き出すことができなかったからだ。
「(……さすがにガキじゃ、何言ってるかわかんねぇな)」
 そもそも、人間の赤ん坊の泣き声でだって、正確に理解するのは難しい。霞ノ衣はその方向を早々に諦め、周囲に注目を向けた。
 樹海。予想より多く、警戒状態の獣どもがいる。野生に生きるかれらは、実害の及ぶその時まで、決して逃げ出そうとはしないらしい。頼もしいやら、図太いやら。
 霞ノ衣は強めに息を吸うと。
 ――ピューイィッ!
 指笛で、周囲の鳥を呼んだ。数呼吸置いて、一羽の猛禽が代表とばかりにこちらへと飛び移ってくる。
 掲げた腕に遠慮がちに捕まるのは、年老いた大梟。告げ口のように、霞ノ衣の耳元で何事かを囁いた。
「ホウ……ホ、ホウ」
「……ふむ」
「ホッ、ホー、ホーホウ」
「ああ、そいつだ。変に近づくなよ、こいつはアタシたちの獲物だ」
「ホーホホウ、ホッ。ホッホ」
「――ほう、それはそれは」
「あん?」
「ホウ?」
 聞き慣れない声がして、霞ノ衣と梟は振り向いた。
 そこに、場違いなほど都会臭い、飴色のインバネスを着た男がいる。
「あゝ失敬。僕も少々動物会話を嗜むものでね、つい好奇心が勝ってしまったよ」
 神埜・常盤(宵色ガイヤルド・f04783)。両手を上げて手のひらを見せる彼に、霞ノ衣は梟を逃してやってから言葉を返す。
「ハン、立ち聞きとはえらく失礼な野郎だな?」
「生憎それが探偵という生き物だからね」
 霞ノ衣は常盤との距離を保ったまま、腕を組んだ。測りかねている。
 常磐は手を下ろした。
「先の梟君か、さすがに関係者は話が早い。あの言いぐさでは、近くの儀式場の位置も掴んでいるようだね」
「……だな。あの婆さん、言い回しがいちいち長ったらしくて嫌になるぜ」
「きっとあのレディは、人との会話を心待ちにしていたのだろうさ」
 ――なるほど、と霞ノ衣は内心うなずいた。なるほどこいつはこういうヤツか。
「さて、となれば善は急げ。先回りし、挟み撃ちと行こうじゃないか」
「行こうじゃないかって――いや、そうか。そうだな」
 考えると、その申し出の理由に合点がいく。鳥たちの誘導を『聞きながら』の移動になるのだから、動物会話ができるものが複数いるほうが、なにかと都合がいい。
「おし、じゃあ走るか! 走れるか?」
「ふふふ余裕だとも。既に脚は用意しているからね」
 常磐が手を叩く。と、傍らの茂みからひょこっと顔を出したのは。
「……あー、おい」
「なにかね?」
「ここは足柄山じゃねえぞ」
「なに、大体同じようなものさ。ただ少し、暗示をかけさせてもらったがね」
 一頭の、それは大きな熊であったとさ。

「見ろジジ。阿呆がいるぞ阿呆が」
「いや師父。何分異国の文化ゆえ、コメントは差し控える」
 と、上空から猟兵たちの様子を伺うのは、アルバ・アルフライラ(双星の魔術師・f00123)とジャハル・アルムリフ(凶星・f00995)のコンビだ。ジャハルがアルバを抱え、自身の翼でそこそこの高度を取っていた。
「それよりも鳥だ。やけに騒がしいところと、異様に静まり返っている所とがある。師父ならばこれをどう見る?」
「見るのはジジの仕事。探るのが私の仕事だ。だが……核心には違いあるまいよ」
 言いつつ、アルバは五指で筒を作る。遠見の術。もう片方の指でさらに術をかけ、そこに魔力探知も付与。
 探る――。
「――静かな方が当たりだ。その近くに仔龍の魔力らしきものも見つけた。
 だがしかし下手っぴだなあアレは。鳥がああまで黙りこくってしまうのは、監視中だと白状しているようなものだ」
「禽獣に技巧など求めるほうが愚かだ。しかし、あれはあれで良い。
 追われる方も、追われることを自覚しているだろうからな」
「ふむ」
 アルバはジャハルの腕をぽんぽんと叩いた。降下の合図。
「ああ、急ぐな急ぐな。一番槍を競う戦いではないからな。むしろ砂嵐のように、一時に畳み掛けるのが上等だ」
 ジャハルは言葉に従い、ゆっくりと高度を下げていく。
 ……と。言葉とは裏腹に、アルバがすこし、重心を前に押し出しているような気配が伝わってきた。ほんの微小なゆらぎ。猫かなにかが、腕の中から飛び出そうとする一瞬前。
 アルバのその動きに、胸騒ぎのようなものを、ジャハルは感じざるを得なかった。

●アマリリス・クラスター
 木々と枝葉の裂け目があって、ふと男はそこから天を仰ぎ見た。
 感情の働きはない。
 見上げる富士の山になんら感慨を持たない。
 ただ、見るべきものを見るために。

「――勘付きよったな、この唐変木め!」
 飛鳥井・藤彦(浮世絵師・藤春・f14531)は、絵に描いた龍から飛び降りる!
 ゴウッッ!
 振り下ろす筆が、染み出す色彩を宙に引く。山吹色の一線/一閃。こちらを仰ぎ見る敵の視線と、それは太陽の輝きに重なり、視認し難くなる……はずだった。
「……斬る」
 片手打ちの刀が、その一閃に重ねられる。正確、無比。藤彦の勢いと男の死に体と、差し引きをしかし零にする、恐るべき迎撃であった。
 ズザアアアァァァッ!
 着地し、足裏でベクトルを殺す藤彦。
 大筆『輝紅篠画』をびゅんと振り回し、見栄を切った。
「浮世絵師、藤春。この度は義憤により馳せ参じました」
「……」
「富士を特別なモチーフにしとる絵描きは少なくない。せやから、噴火なんてされてもうたら困るんですわ」
 言いつつ、ちらりと敵の手の内にある仔龍を見る。
「じゃ、その仔、強引にでも頂きますよって……僕『たち』でなァ!」
 トンッ! と絵筆の石突で樹木の根元を突く。合図。
 するとやにわに樹海が暗くなった。もとより陽の光の差し込まぬ薄暗の土地が、さらに淡く、世界の彩度を下げて行く。
「おーおー、こら派手に地味にしてはる……」
 藤彦はバックステップで離脱。と、その姿は【霧】に隠されて儚くなった。
 入れ替わりに、マーブル状の闇が、男を取り囲む。
 霧と蝙蝠とで成る、須藤・莉亜(メランコリッパー・f00277)の吸血空間!
「シャシャシャシャシャシャァ!」
 集中線を一点につぎ込むように、蝙蝠は男に殺到した。男は身を引きながらの回し打ちでいくつかを落とすが、蝙蝠はその損傷に足りる分を吸血し、間合いの外に集合する。
 こめかみに血を垂らす莉亜が、集合点から現れた。
「――仔龍の血の匂いを追っかけてきたけど、ここで遭っちゃったんならしょうがない」
 蝙蝠の最後の一匹が、莉亜の側頭に止まると、垂れる血を止めるように、そこに融けて一体化する。
「それじゃあ、はじめようかな」
「おいおいおいおい、僕がはじめたんさけ、勝手に仕切り直さんでくれな?」
 じゃっ、と森の葉陰から逆さまに顔を出した藤彦が、言うだけ言ってまた葉陰に身を引っ込めた。莉亜は特に気にも留めず、こくり、と喉を鳴らした。
「――いち、にの」
 さん、で、周囲が急激に光に包まれた。先んじて周到に様子を見ている他の猟兵たちの一人、十六夜が投げた光の結晶によるものだ。

「捉えた!」
 篝・倫太郎(災禍狩り・f07291)の電脳ゴーグル『Lorelei』が、その発光を感知した。探索地域が一気に探索地点へと狭まり、座標と相対距離、地形情報までもを可視化する。
「付いてこい夜彦! 最短最速で仕掛けるぞ!」
「承知……」
 言うが速いか飛び出していく倫太郎を、月舘・夜彦(宵待ノ簪・f01521)が追い並ぶ。
 追い越しそうになるのを、踵で抑えた。
「っと、悪い。直線距離で132メートル、ここからは起伏のないただの森だ」
「いや、こちらも急かすつもりではない。ただ、どうしても――」
「焦るか」
「ああ」
 夜彦には、妙な胸騒ぎがあった。パンドラで断片的な映像を見せられてから始まったそれは、森に踏み込んだ瞬間に大きく、無視の出来ないモノになっていく。
 今も進む度に肥大化するそれを、どうにか脚に流れ出さないよう、心に秘める夜彦。
 ――と。
 高速で流れていく景色の中に、倫太郎はふと季節外れの植物を見つけた。
「(彼岸花……?)」
 気にはなったが、今はそれにかかずらっている余裕はない。瞬間的に意識から外したことで、それが陽炎のようにわずかに揺らいでいることに、倫太郎は気づかなかった。
 夜彦は――。
 ――胸騒ぎに、核ができたことを悟る。
 気のせいと放っておけば、致命的に癌化しかねない、不安の核。
「(確かめねば、なるまい)」
 ……確かめて、どうなるというのか。夜彦は夜彦に呟く。
 彼岸花は消えていた。
 荒ぶる祟り神のような少女が、執拗に踏み潰している。

「カカ、カカカカカ、カカカ……ッ!」
 ヨナルデ・パズトーリ(テスカトリポカにしてケツァルペトラトル・f16451)に、往時の面影はない。ただ極めて理性的に、怒り狂っていた。
 四つ足で駆けているのだって、それが森の中での最速の走法だからだ。それを自分が是としている。
 目前の花だって、踏み潰すべきとして踏み潰しているだけだ。それを自分が許している。
 そう――彼岸花は、おそらく敵の痕跡。炎でできているため触れるたびに熱く、しかし不要のものとして捨て置かれたそれは、たやすく首を折られ頭を潰された。
「まだか! まだか! まだか! まだか!
 まだかまだかまだかまだかまだかまだかァ!」
 追い求める。仇敵を、怨敵を、愚弄者を、征服者を、あの男と同じ名の男を。
 その衝動はどうしようもないもの故に、どうしようものないものとして飼いならす。
 ――給餌の時間だ。
 ヨナルデは、物陰にいる男に飛びかかった。見えてはいない、いると知っている。(その姿は【翼を生やし鱗に覆われた高速飛行形態】であるが、道中で確実に【呪文を唱える】ことができなくなると考えた彼女自身により、事前に発動していたユーベルコード『今は亡き対なす神の残り香』の効果によるものである。副作用として毎秒寿命を減らしているが、そんなことは知ったことか)
 ――怒りに澄んだ、暗殺の一撃。
 白熱する視界と、男の熱のない視線とが、刹那にかち合う。
 気づかれているが、そんなことは知ったことか!
「まずは腕!」
 ヨナルデは再度羽ばたいた。自らをして何も見えなくなるほどの加速。かろうじて牙でなく武器で、男の腕を狙う。

 ――時間を戦闘の天秤に乗せるのなら。
「どうにか差し込めたが、やれやれ、歯車を削る思いだ」
 ニコ・ベルクシュタイン(虹の未来視・f00324)。
 その男、それそのものであるがため、自在無双――。

 瞬弾、2発。
 1発目の弾丸が男の小手を跳ね上げ、2発目で寸分違わず元の位置に跳ね下げた。
 ニコの援護射撃だ。めき、という砕音が、ばき、という割音に重なり。
 ヨナルデは切り抜ける。仔龍を掴んだままの男の腕が、断たれ、空にあった。
「誰でもよい、その仔を!」
 背を向けたままの少女の叫びに、すると応えるものたちがあった。
 そのうちの一人、ゼット・ドラグ(竜殺し・f03370)。彼は『ドラゴンチェイサー』をフルスロットルに吹かし、意図して轢き殺すがごときスピードで仔龍に突っ込む!
「至極業腹だが! 今回だけは救ってやるよ、竜!」
 撥ね飛ばさず、どうにか掻っ攫った。余計に力が入ってしまう分は、男の腕の方を掴むことで事なきを得る。それでも加減が効かず、男の腕は千千に折れ果てた。
「……ぴ」
「煩い。竜殺しの懐に居る以上、喋れば手折るぞ竜」
 かく言うゼットも、手袋を噛んで殺意を堪えている。指のフレームが悲鳴を上げた。
「それもこれも、あの男を倒すまでの辛抱だ……!」
 男を見やる。片腕にされた男は、その傷口を天に掲げていた。

●フラワーズ・フロウ
 肉の瘤が、男の腕の切断面で沸騰している。
 盛り上がる泡が、するといくつも積み重なっていって、凝った。
 新たな腕として、形をなす。
「我が名は……『霧冥』……」
 ……ざんっ……。
 霧冥は、両腕の袈裟斬りで背後の大樹を断ち切った。結果が遅れて現れる。
 ぎ、と揺れた幹が、傾いでゆっくりと倒れ、地面に落ちる前に全て燃えて灰と化した。
 夢のように。音もなく。しかし地獄のように熱く。
 大樹を焼べて咲くは、赤い炎の彼岸花だ。その類焼は、鉄砲水のように下生えを走り、猿のように木々を昇っていった。
「猟兵は焼かぬ……獣も焼かぬ……ただ、視界を遮る草木のみを、焼く」
 言葉のとおりになった。隠れて様子をうかがっていた猟兵も全員姿を表す。
 炎に煽られた上昇気流が、何の因果か、霧冥の三度笠を攫った。
 覗くは鬼角と、簪。

「ああ……なるほど」
 羅賀・乙来(天ノ雲・f01863)は、眉翅を曇らす。
「その赤い瞳、短き宵色の御髪。殺気、血香。
 どれをとっても、彼と似てしかし似つかぬとは……思っていた、が……」
 霧冥は、赤赫の花の中に立っていた。
 仕掛けてくる。乙来はその【初太刀の捌き方】を知っていた。
 キィイン!
 水琴のごとき澄んだ金属音が、乙来と霧冥のはざまに響く。
「……」
「――」
 余韻は長く、胸刺すように残った。

「ボサッとしてんじゃねえ! 来るぞ!」
 霞ノ衣は駆け上がり、斧槍を大回しに薙ぐ。霧冥は即座に足元の灰を斬り、火花の煙幕と為して間合いを狂わせた。
「チ――その花咲の太刀! しかと見覚え有るぞそれはッ!」
「不知……!」
 返す刀で煙を裁ち、霞ノ衣の脇下を狙う霧冥。そこを、惑有の一刀が割り込んだ。
 月舘・夜彦。
「てめぇかヤドリガミ! あのやり口、あの技、あの簪!」
「……下がってくれ。確かめる」
「いまさら不要だろうが、そんなのは!」
 ――言うとおりだ、と夜彦は思っていた。
 一太刀。それだけでどうしようもなく、霧冥の正体を理解できる。
 真実を嘘だと知りたくて、斯様な、甘えたような戯れを言ってしまったのだ。
「夜彦! それ以上惑うな!」
 たまらず、倫太郎が叫ぶ。
「――そんな心を剣に乗せちゃあ、死ぬぞ、夜彦」
 焦りを、先に知っておいてよかったと、倫太郎は胸をなでおろす。
 その心境に気づいていなければ、こうして核心を突く言葉を言えなかっただろうから。
「だが……私は、お前こそは……!」

「なあにをペチャクチャと囀っておるかなあ、この小童共は」

 ヨナルデは、暗い瞳で霧冥を見る。いや、見てはいない。
「カカ、カカカカカカカ!」
 コルテスを名乗る男をこそ必殺の呪念で穢し見ていた。
「世界は異なるとはいえ、貴様が」
 ――憶えている。
「妾達の国を滅ぼし」
 ――思い出し。
「奴が狂う元凶、妾の手で」
 ――悲しく。
「止める原因となった貴様が!」
 ――忘れようとして。
「あの大ばか者」
 ――やはり忘れ得ぬは。
「妾の好敵手」
 ――あの笑顔。
「兄妹」
 ――あの温度。
「妾の伴侶と同じ名を持つ者を」
 ――あの時を、何よりも恋い焦がれるこの心。
「愚弄するかっ!」
 故に許せぬ。許さぬ。百度殺して尚足りぬ。千度殺して尚満ちぬ。
 底なしの壺の如き怒りに、少女神は己を浸していた。
 まずは目の前の傀儡から■す。

●タイド・オブ・バトル
「へっへ……なんか雰囲気が違うとは思ってたが、あいつら因縁持ちか」
 曲人は凶悪に嘲笑う。
「だったらよ、見せ場くらいは先に貰っておかなきゃ、全部持ってかれるなァ!」
 霧冥はただ佇んでいるだけだ。カウンタータイプか、それとも。
 手の中にある、燃え尽きる前に拾っておいた石塊を、曲人は握り潰して馴染む形に作り変えた。
 バキン!
「――む」
 音に反応して構える霧冥に、曲人は思考をそこで止めた。
 きっちりカタにハメる算段がついたからだ。
 もうどうするかは決めている。アドリブも不要。
 真っ白な意識のまま、曲人は踏み込む!
 30メートル……20メートル……10メートル……6尺5寸。
「ハッハー!」
 曲人は先んじて灰を蹴り上げた。急停止。
 当然、この程度で泳がぬ切っ先がこちらの頸を狙う。
 その、当然の一刀こそを待っていた! 潜り……込む!
「バッセンじゃねェんだからよォ!」
 石を握り込んだ全力のグーパンを、霧冥のスカした面に殺す気でブチ込む!
 バキィイイイイイン!
 十分すぎる手応えと痺れを振って散らしながら、曲人は叫んだ。
「オラ、てめぇら! こいつは決闘じゃねぇ……ゴチャマンだ!
 殺ることヤッて勝って帰るのが仕事だろうが、なあ!」
「ああ、せやったせやった。なんや絵になるもんやから、呆っと見てましたわ」
 藤彦が余裕の体で霧冥に近づいていく。
「っと、僕のこのユーベルコード、さっき見せてまいましたなぁ。
 でも、二度見でも飽きさせんようにするのが、絵師の腕の見せ所言いましてな」
 含む色を、山吹色からウルトラマリンブルーに変えた輝紅篠画を、藤彦は無造作に振り回した。絵筆が通る空間に、その色の描画が成されていく。
「ほいっと、描き下ろし」
 それらは藤彦の号令とともに、龍の姿へと実体化した。それに飛び乗り、頭上を取る藤彦を、霧冥が見上げる。
「やあ、剣呑剣呑。でもな、さっき見せたのは、いわば練習作。
 ――画竜点睛、ご存知でっしゃろ?」
 輝紅篠画は、漆黒の点を龍に描き入れた。と同時に、霧冥の斬撃が、画用紙たる空間ごと、龍の首を落とした。
「残念、そこやないんよ逆鱗は。顎の下、覚えとき?」
 青い血を吹き出しながら、描かれた龍は首だけとなって、霧冥をばくんと捕食する。
「その程度でやられるなよ、サムライ!」
 食いつきを追うように、ゼイルは『死月冥夜』を逆手に持ち、兜割りで飛びかかる。仲間の画龍ごと串刺しにするつもりだ。
 その頬が、嬉しさにひきつる。
 画龍の脳天を突き貫いた霧冥の刀が、そのまま横に切り開いていったのだ。
 ゼイルも、脇差『夢影』を抜いて相対する。
 空中で姿勢制御をし、横回転。夢影から死月冥夜への二回攻撃を仕掛ける!
 ギ・ギィン!
「チ――!」
 ……どちらも弾かれた。恐るべき手数の速さ。着地し、その技量に感服するゼイル。
「なら、こちらも遠慮はいらないな!」
 踏み込み、踏み込まれる。霧冥の一刀は、即ち二刀、三刀、無数刀。
 対してこちらの二刀は、せいぜいが十八刀にすぎない。数では勝負にならない。
 ――そこは、自分の戦う領域ではないと、ゼイルは思い。
 無数の刀を見切ることに専念した。
 脳天、眉間、頸、鎖骨、心臓、肝臓、鳩尾、腰骨……。
「(……要は、其処彼処ってことだ!)」
 そういうことに【した】。
 後になって言葉や体験記憶にすることは決して出来ないだろう、刹那の見切り。
 それを以て、ゼイルは霧冥の無数刀を防ぎきった。余る一刀で、どうにか霧冥の胸を突く。するりとした手応えがあって、しかし霧冥は同じようにするりと、ゼイルから間合いを離した。
「さて、目当ての仔龍はもうこっちのもんだしなあ……」
 十六夜がその懐に入り込んだ。不意をつく、盗賊の歩法。
 後は他人に任せてやってもよいが、それではこちらの沽券に関わる。
 なら。
「(その意識をスって、後はトンズラしちまうか)」
 霧冥の刀に手を伸ばす十六夜。柄打ちでその手を弾き上げる霧冥。
 開いた十六夜の手に、予備の光結晶があった。
「貰う気はねぇよ、こっちが本命だ!」
 間を置かず、結晶は光爆する。十六夜は巧みに結晶を細工し、霧冥の目だけに光が投射されるようにしていた。
 オブリビオンに対し、単純な目くらましが効果を発揮するか、果たして疑問だが――。
「ああ、どこに注目しているかが理解できるようになる!」
 逆方向――霧冥の背後から、ニコの精霊弾が迫る。霧冥は振り返らず、数歩を横に飛んで、その予測起動から身をかわした。
 ニコは、冷静に精霊銃を装填する。契約した炎の精霊に、銃身への軽い口づけで履行を願った。
「高速移動で避けようとするのは良いが――」
 ギャキキキィ!
 精霊弾が、強引に軌道を変えていく。
「其の弾丸は『誘導弾』でもある。何処まで逃げおおせられるかな?」
 ヘアピンカーブもかくやという勢いで、今度は避けた霧冥の正中線へと殺到する弾丸。それを見て霧冥は刀を構え、澄んだ一刀で弾丸を斬り落とす、と――!
「足を止めたな! 『疾走する炎の精霊(クイックドロー・サラマンドラ)』!」
 ズガァン!
 わずか十分の一秒で、六発を発射するニコの早業ラピッド・ショット。銃声は重なりあい、一つにしか聞こえない。
 霧冥は手首を返すと、それらのうち4つまでを再度斬り落とした。残る2発、膝と、生え変わったばかりの腕に、すると着弾からの大爆発が発生する。
「――贄を捧げて邪悪を為す、斯様な事が許されると思うなよ」
 ニコは、鋭い目で爆風を見据えた。未だ倒しきれてはいないことは、わかっている。
 再装填は、故に行わなかった。
「……ふむ。やったか?」
「師父」
 アルバの言葉に、ジャハルは緊張を解かず答える。
「冗談だ。あれの四肢を裂き、首を晒すまで、楽観などしない」
「ならば、砂嵐ということだな」
「然り。ジジ、お前も彼奴の動きを封じろ」
 同調を命じる言葉に、ジャハルは疑問を抱かなかった。
 三歩。ジャハルがそれだけ駆けている間に、アルバは240の風槍を形成している。
「――外道に語るべき言葉もない。疾く失せよ」
 ジャハルの一挙手一投足、その間隙を縫って、風槍が疾走した!
「(無茶をさせる……!)
 こちらが動きを濁らせれば、即座に風槍の巻き添えを喰らってしまうだろう。
 それでいい。連携とはそういうものだ!
「おおおおおおおおお!」
 霧冥を取り囲む爆煙は風槍に晴れ、敵の姿が露出している。そこに、ジャハルが呪詛のこもった一撃、『竜墜』を打ち込んだ。
 灰の地殻が砕け、燃え残った木々の根が打ち上がる。霧冥は天地逆になりながらも、ジャハルに斬撃を浴びせかけた。
 まともに食らえば灰とされかねないそれを、冷静に打ち払うジャハル。踏み込む。霧冥の隠し小太刀が突きこまれるのを、反射的に素手で握った。
 じわりと流れる血が、彼岸花と咲いて燃える。その痛みを代償に、ジャハルは小太刀を更に強く締め付け、霧冥を一瞬宙に留めた。
「でかした、ジジ!」
 霧冥の背、肩甲骨の間に、アルバが手を当てる。離すとそこに、呪いの魔法陣が焼き付けられていた。意味は、風槍の集中……!
「――これでは避けられまい?」
 ズババババババン!
 待機させていた残りの風槍が、続々と霧冥に突き刺さった。あまりの威力にラグドールめいて吹き飛ぶ霧冥の小太刀を、その一瞬前にジャハルは手放している。双方の信頼が合ってこそできる、ギリギリながら最良の連携であった。
「ジジ。もちろん私にお前を傷つける意図はないが、それすら厭わぬとは……。
 全く無理をする」
「師父こそ、冷や水はその程度にしてくれ。加えて……一つ聞くが」
「ん?」
「……随分と急いておらぬか、師父」
 アルバは瞑目し、しばし考えた。
「……何、案ずるなジジ。彼奴は私の逆鱗に触れただけの事」
「逆鱗、か」
 ジャハルも少し考えて、しかし詮無いことだと思い直した。
 多分、それ以上には答えないだろう、と。

●ドラゴン・テイキング・ゲーム
「まずいな、こっちに来る」
 ニナはゼットの前に立ち、カガリを下段に構えた。
 先の攻撃で吹き飛ばされた霧冥は、しかし高速落下で着地し、その勢いのまま、ゼットの懐にある仔龍を狙っているようだ。
「竜殺し、とキミは自分をそう言ったが」
「――ああ。それがどうした」
「その仔をキミが護るのなら、私がキミを守る」
「自信はないぜ、正直に言えば」
「そう……」
 僅かな落胆をため息で捨て、ニナはカガリを振るった。飛来する斬撃を打ち落とす。
「……だとしても、すべき事がなくなったわけではないわ」
 余波がニナの周囲に突き刺さり、肌を掠り、赤く傷口を開いた。そこに花咲く炎をある種の化粧として、ニナは征く。
 刺し違えても、という気迫があった。
「せぇえいっ!」
 こちらに駆けてくる霧冥に対して、カガリの穂先を捻じ、すくい上げるように迎え撃つ。だん、と震脚を踏み、霧冥は跳ねる切っ先を鼻先に通す。
 ニナは一歩を下がり、カガリの柄を肩に担いでその円運動を制する。流れるように、上下二段の振り回し。と、その途中で石突を灰に挿し、止めた。
 カガリにとって、十分すぎる『足場』である。
「行って!」
 ニナの意図を汲んだカガリが、自律飛行で跳び、霧冥の肩口を割いた。無手になったニナには、そして必至の突きが見舞われる、が。
「あの仔の痛みをその身に刻め、この愚か者めが……!」
 吐血しながらも、ニナは召喚を終えた。
 ――ドラゴニック・エンド。巨大なドラゴンが、体当たりで霧冥に襲いかかる!
「……ちっ」
 ゼットは、それを見て『ドラゴンチェイサー』のエンジンを吹かす。
 フルスロットル。身は低く、空気抵抗を最小限に。灰の大地のわずかな盛り上がりを、即席のジャンプ台となるよう、巧みなハンドル操作・重心移動を発揮する。
 それもこれも、なにもかも……!
「オレの前に竜なんか見せて、黙っていられるわけもないだろう!」
 高度、高高度。ドラゴンチェイサーが単体で飛べる最高地点。
 ゼットはドラゴンチェイサーの尾の部分から、とある刀を引き抜いた。見下ろすは、ニナの召喚した竜。その下の霧冥もだ。
「おおおおおおああああああああ!」
 叫ぶのは自制のため。ニナの竜は避けて、霧冥だけをどうにか狙う!
 ――――ズァンッ!
 霧冥の腕が撥ね跳んだ。本来、ドラゴンの頭さえ落とせるというゼットの大技である。食らって無事に済むわけもない。
 ニナの召喚したドラゴンが、追って霧冥の腹に突っ込んだ。地面を摺る。ふ、とドラゴンは消えて、その痕に抉り出された大地が残っていた。
「ゼット……そんな動きをして、あの仔は大丈夫なの……!?」
「オレに自信はないと言ったはずだぜ。だから……その、他所に預けた」
「まあ、そういうことサ」
 つかつかと歩み寄る常盤が、ぽんと仔龍をニナに投げよこした。
「しかし、これは何度でも言うが、僕は探偵であってベビーシッターではなくてね。
 だからその仔は任せるよ。それが一番だ」
「あ、おい……」

 常盤は、それきりもう、仔龍を顧みることはなかった。

「然し可愛い仔龍を贄にするなんて酷い事をするねェ。どうでもよいが」
 不吉の風が吹き、わずかに灰をさらった。その向こう、刀と片膝をついた霧冥が、そんなダメージなど無かったかのように立ち上がる。
 常磐は満足げに微笑んだ。護符の束を解き、ばらまく。
「好し――さあ、死の舞踏を始めよう」
 紙のカーテンの内に、常磐は身を翻した。目晦まし。
 霧冥は片腕の再生を止め、蜻蛉に構える。必殺を狙い。
 常磐が……すると、するりと消えた。即座、霧冥は最後に居た位置に打ち込む。
 一匹の蝙蝠が、断たれて落ちた。
「!?」
『――つまり、僕が一枚上手を行くと、そういうことだ』
 動きを止めた霧冥に、断たれた蝙蝠と同じ姿のそれらが止まる。シィ、と息を吐いて、一斉に噛み付いた。
「あー」
『うん?』
 と、どこからともなくのんびりとした声が聞こえてくる。莉亜だ。
「同じ技……ちょっと、僕の取り分も残してよー」
『早い者勝ちは、ふむ、紳士的とは言えないねェ。
 ――ならばここは、共同作業でどうだろうか』
「じゃ、それで」
 待っていましたと言わんばかりに、上空から莉亜の変身した蝙蝠が飛び込んできた。
 常磐の蝙蝠もいったん離れ、幾何学模様を描きながら霧冥を取り囲む。
「……いち」
「にの……」
「「いただきまあす」」
 タイミングを、実は双方合わせずに、莉亜と常磐は霧冥に取り付いた。
 そうなってしまえば、後は暴食の宴――。

●フー・オウズ・ベンジェンス
「カカカ、カカカカカ……無様! 無様よのうコルテス……!
 お前の眷属が、これ以上無く無様に死んでいくぞ!」
 ヨナルデは、それをじっと、ずっと眺めていた。
 そうすることで、己の中の怒りが熟成される。圧が上がる。
 半端に解き放ってしまっては、確実に後悔するだろう。だから、この始末を余人に任せるという半ば屈辱的な展開を、それと知って放置した。
 ……そういえば別に、妾はこの怒りを発散し、無くしてしまいたいわけではないな。
 ヨナルデは狂いかけの頭で考える。
 ……猟兵としての作戦を遂行するという目的も、ほぼ成功している状態だ。あの小童共が、それこそ確実に仕留めてくれるだろう。腕も一度は落としてやった。
 ……なら、いっそ。このまま。放置して。怒りを、更に。
 そこまで考えて、頭の血管、あるいは堪忍袋の緒と呼ばれるものが、切れる音を聞いた。
「――ならぬ! ならぬならぬならぬならぬ!
 それはいかに知恵者とて考えすぎだ、ヨナルデ・パズトーリ!
 妾が報いを……下さねば……ならぬ! ならぬのだ!」
 衝動的に戦斧を取った。霧冥を取り囲む蝙蝠のことは、見ながら見ていない。
「■■■■■■■■■■■■■ーーーーッ!」
 ただならぬ狂声に、蝙蝠たちは道を開ける。それが功を奏した。否、そうでもしなければ、ヨナルデは味方殺しの汚名を被ることとなっただろう。
 ぶじゅ。
 戦斧の下に、潰れた花が咲いている。そう見えている(実際は違う)。
 ヨナルデは思った。
 ……なんだ。発散など、最初からできぬではないか。

●ネームレス・ネーム
 またとない機会だと、そのように夜彦は理解している。
 理解して尚、迷いが合った。
「あれは己の成れの果て。戦い方も、構えも、刀も……簪も、同じ」
「戦い続け、外道へ落ち、記憶を失い、ただ意味も無く戦うだけの果ての姿」
「此れが『霧冥』。私の前に立つ者の正体」
「其れが『夜彦』。私を前に竦む者の名前」
「或れが」
「何方も」
 私であるのではないのか――――!?

 霞ノ衣が、彼の頬をブン殴った。襟を掴み、ゆさぶり、怒声をもって喝を入れる。
 手を離せば崩れ落ちそうになるので、しょうがなく捨てた。
 迷う夜彦には何も聞こえていない。その無音の障壁を、霞ノ衣は態度で叩く。
 荒業、荒事。その荒ぶ姿を見せつける。その荒ぶ姿をいなす彼こそを見せつける。
 ――無音の障壁に、罅が入った。か細い裂け目に、倫太郎が声を刺す。
「夜彦! 夜彦よォ!」
 倫太郎は応戦している。満身創痍、それでも変わらぬ技の冴えを見せる彼に。
 見えない鎖は、その半数を断たれていた。相性はきっちり五割。
 五割では足りず、彼という災いを抑えきれずにいる。ならば。
 ならば、彼に対する彼の助けこそが、今の倫太郎に必要だった。
 だとしても。
「夜彦! あれはあんたじゃねぇ!
 あんな風には、俺が絶対させねぇッ!」
 虚勢を張る。一目でそうと知れる、薄っぺらな意地の砦を、倫太郎はただ守った。
「……その為なら、腕の一本ぐらいくれてやる!」
「あんたねぇ、あんな糞ボンクラの為に、そこまでしてやるつもりだってのか?」
「うるっせ。本当はあんなんじゃねぇって、お前も知ってるだろ!」
 霞ノ衣は押し黙った。ぎり、と口惜しく歯ぎしりする。鎖の間隙を突く霧冥の一刀に、多頭竜に変化した腕を合わせようとして、しかし身が泳いだ。
「な……!」
 見誤った。彼を彼と思いすぎた。彼は彼と違い、断つべきものを断たず、断つべきでないものを断つ、そういう悪辣さがある。大違いだと、自分でもわかっているだろうに。
「――!」
 事情は押し迫った。そのまま霞ノ衣の心臓か、ゆっくりと伸び上がってくる倫太郎の腕のいずれかが、彼に断たれる。二者択一の状況。
 そこまでして、ようやく。ようやくだ。
 見ていた乙来は、重い嘆息を漏らした。
 夜彦が己を取り戻す。

 きぃ……ん……………………。
「……」
「――」
 青の刀と赤の刀、重ねたまま両者、しばし視線を交わす。
「そうだ……私は、まだ其方に至ってはいない」
 と、夜彦。
「そうだ。私は、此方に至った」
 と、霧冥。
「「可能性で在るのなら、今度は違え(させ)る訳にはいかない」」
 その言葉に、はたして如何なる意味があったのか。
 本人でない他人には、知ることは出来ず。
 ただ、思うばかり。

 ずぶり。
 思う結果が友殺しであったか、と、乙来は霧冥の心臓に刺した剣を引き抜いた。

 不意をつく一撃。あっさりと、抵抗なく。できるからそうする。
 乙来は剣を引き抜いて、返り血に裾を汚した。
「ああ……参ったね、本物では無いとしても、本物の見ている前で」
 霧冥は夜彦をおいて、力なく灰に突っ伏す。同じく灰となっていく。
「友人を傷付ける事になるなんて、ね」
 振り返って、穏やかに笑う乙来。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​



最終結果:成功

完成日:2019年08月05日
宿敵 『霧冥』 を撃破!


挿絵イラスト