●
狂え、狂え。
殖えろ、殖えろ。
尽きること無く上がる悲鳴が、奇妙な水晶を震わせる。まるで人々の悲鳴に共鳴するかのように甲高い、弦を爪弾くような音の中でそれは愉悦に満ちていた。
大町の墓場を丸ごと暴いたのか。それとも、既に町を食い潰したのか。老若男女、無数とも言える数の屍の軍勢が町を襲っていた。
綺麗だ、綺麗だなあ。と体から奇妙な水晶を生やした屍の群れの中で踊る狐火の一つが快悦に声を漏らす。
屍人から逃げ惑う人々を見つめ、歪んだ傲慢が下卑た笑みを作り出す。
他人を押し退け我先に逃げる人。後ろに逃げる誰かが残っているにも関わらず道を塞ぐ者。
哄笑が町人と水晶の悲鳴に掻き消されていく。
●
水晶屍人。
それが奥州の町を襲おうとしている。
『魔軍将』が一人。陰陽師『安倍晴明』が作り出した屍の軍勢。水晶屍人。
「厄介なのは、これに噛まれると水晶が感染するって事だね」
長雨が、水晶屍人の最大の特徴を告げる。
普通の人間が噛まれると、水晶屍人になる。つまり町一つ襲われたなら、町一つの住民が全て水晶屍人へと変わる。
戦力という意味を除外しても、それは見過ごせるものではないだろう。
「被害を出さないためにも、指揮官を潰すのを最優先にしてほしい」
その一体一体の知能がなく、戦闘能力は高くない。その場にいる武士達でも善戦ができる程だ。
だが、軍勢の中にいる指揮官によって、その知能が補填されている。数の優位もあり、本来の力量さなど簡単に覆される。
「指揮官の目星はついている」
長雨が告げる。
「妖狐のオブリビオンだ。あれが自らの幻影を紛れさせながら指示を出している」
大勢の中の妖狐。しかも、大量に放たれた偽物の幻影の中の本体を見つけ出す必要がある。
「方法は任せるよ。全部薙ぎ倒すのもいいし、持ち前の技能を活かしてもらってもいい」
それにどうやら、本体の近くの水晶屍人は、妖狐の娯楽のためか狙う相手をいたぶる動きをするらしい。
町に侵入する前を叩く為、住民は軍勢の中にはいないが、使いようもあるかもしれない。
「頭を潰せば、水晶屍人の知能は霧散する」
軍勢が町へと辿り着く前に、武士達が先陣の犠牲とならないために。
長雨が、最優先の目標を言う。
「あの傲慢に笑う狐を燻り出してくれ」
おノ木 旧鳥子
おノ木 旧鳥子です。
このシナリオは、「戦争シナリオ」です。
1フラグメントで完結し、「エンパイアウォー」の戦況に影響を及ぼす、特殊なシナリオとなります。
水晶屍人の軍勢に紛れたボスを見つけ出し撃破してください。
索敵について。
猟兵は水晶屍人にはなりませんが、当然軍勢の中へ飛び込めば攻撃されます。また水晶屍人は数が多く、全滅させる時間は無いかと思われます。
技能やUCで攻撃してくる動く障害物(水晶屍人)の中で、本物の妖狐を探しだしてください。
戦闘について。
見つけた妖狐と周囲の水晶屍人との戦闘です。
妖狐は、積極的に戦闘しようとはせず、隙あらば逃げようとします。
それでは、よろしくお願いいたします。
第1章 ボス戦
『魔神兵鬼『ヨウコ』』
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POW : 呪法・契約怨嗟
【口から語られる呪詛の言葉】が命中した対象にルールを宣告し、破ったらダメージを与える。簡単に守れるルールほど威力が高い。
SPD : 呪法・剥奪電霊
対象の攻撃を軽減する【電脳体】に変身しつつ、【技能を奪い、自身を成長させる捕食行動】で攻撃する。ただし、解除するまで毎秒寿命を削る。
WIZ : 呪法・偽狐灯
レベル×5本の【電気】属性の【それぞれ個別に操れる、狐火の幻影】を放つ。
イラスト:荒雲ニンザ
👑11
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔴🔴
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種別『ボス戦』のルール
記載された敵が「1体」出現します。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。
| 大成功 | 🔵🔵🔵 |
| 成功 | 🔵🔵🔴 |
| 苦戦 | 🔵🔴🔴 |
| 失敗 | 🔴🔴🔴 |
| 大失敗 | [評価なし] |
👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。
※このボスの宿敵主は
「💠蒐集院・閉」です。ボスは殺してもシナリオ終了後に蘇る可能性がありますが、宿敵主がボス戦に参加したかつシナリオが成功すると、とどめを刺す事ができます。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。
月隠・望月
わたしの故郷を、この世界をオブリビオンに滅ぼさせは、しない。今を生きる人たちを、過去の存在に殺されるわけには、いかない
わたしが、守る
しかし、敵が多い……この中から指揮官を見つけるのは難しい、だろう。一時的にでも数を減らした方がいい、かな
【雷遁・霹靂の圏】で広範囲の敵を攻撃、する。味方を巻き込まないよう、使用前に味方から十分距離を取ろう
水晶屍人の数が減れば見晴らしが良くなり、味方が妖狐を見つけやすくなる、はず
妖狐を見つけたら、周囲の屍人に近づいて、みる。こちらの急所を外すような不自然な攻撃をしてくるなら、本物の妖狐と判断、する
本物の妖狐を発見し次第、【破魔】の力を込めた刀で斬りかかる(【早業】)
ふと空を見上げる。
見慣れた空だ。世界が違えば、どこか違う空が見える。雲や色、夜の濃さに月の模様。
望月が背にするのは、この故郷の世界の町。そこに住む人々の顔を彼女は知らない。だが。
黒く澄んだ瞳が、空から落ちる。まっすぐに前へと戻した視線の先には、野を埋め尽くさんばかりの屍人の軍勢。
「多い」
一言、その場に言葉を置き去りにし、彼女の体は駆ける。群れとはいえ、しかし、その間を抜ける間隔はある。
屈み、逸れ、躱して、身を捻る。
人々の間を縫うように、その中へと踏み込み駆ける望月は、視界の壁となるその屍たちに眉をしかめ、嘆息する。
それは、億劫な思いだけではなく、安堵を含んでいるようなそれだ。
「……わたしがこっちでよかったか」
別のどこかの戦場に向かった彼女の兄がこの戦場に来ていなくてよかったと、彼女は少しばかり安堵していたのだ。
いかんせん、力業で物事を解決しようとする節がある彼女の兄は、この中から妖狐を見つけ、なおかつ、本物を負わなくてはいけない、という状況は不得手な類だろう。
「……っ」
などと、僅かに思考した望月に、屍人の腕が襲い掛かる。背後から伸ばされた腕を、振り返りながら斬り飛ばすと、望月の存在に釣られたのか。逃げ場を封じるように屍人たちが集まってきている。
逃がさないように、壁を。
「いや、違うな」
浮かんだ懸念を斬り捨てる。もし妖狐が近くで支持を出していたならば、つい今しがた襲い掛かってきた屍人は、無駄でしかない。
前方へと身を滑り込ませ、望月へと進行の向きを変えた屍人をすり抜けようとした彼女は、しかし、足を止める。
急停止の反動で、振るわれた腕を避けると、そのまま一歩下がり地面へと手を付く。
既に、随分と引き寄せてしまっていたらしい。だが、丁度数を減らしていこうかと考えていたところだ。
幸いにも、周りに仲間がいる気配も無い。
「まさか、本来に近い使い方をするとは」
屈み、襟に隠した口で僅かに笑む。
それは、本来逃げるための術だ。
それは、望月の鍛錬によって別の目的を達成するために特化した術だ。
僅かに望月の黒い髪が、風に吹かれたように舞う。手を付けた地面を中心に領域を指定する。
「退いて、くれ」
その声が誰かの耳に届くその前に、膨大な閃光が周囲を飲み込んだ。
空間を振るわせるような、引き裂かれた空気の悲鳴が咆哮し、肉を焼き焦がす無数の槍の刃が満ちる。
たった一瞬、一秒も待たず閃光は消え失せ、そして、その中心にいたはずの望月も姿をかき消していた。
それに驚くものはいない。彼女がそこにいたと知る者は全て葬られている。
ただ、その先、肩を足場と蹴られた黒くすすけた屍人の体が崩れ落ちるのみだった。
大成功
🔵🔵🔵
無累・是空
チガヤ(f04538)と組むぞい!
特等席で観戦とは悪趣味な奴よな。
多数に紛れた本物をあぶり出せばいいんじゃな。
全部一気にブチ抜けば硬い本体が見つかるじゃろ!
チガヤもおるんじゃ、手数には事欠かんわい!派手なパーティーになりそうじゃな!!
【範囲攻撃】【誘導弾】で『虹霓弓』じゃ!広範囲をばんばん撃ち抜いてくぞい!
ヨウコ相手には束ね撃ちじゃ!
全力で行くぞいチガヤ!
防御は【オーラ防御】任せじゃな!
攻撃は最大の防御ともいう。とにかく押していくぞい!!
チガヤ・シフレット
是空(f16461)と組んでいくぞ
ゾンビゾンビゾンビ!
どこを見てもゾンビだな。水晶が生えてて綺麗なのが微妙にニクイが、街を襲うために群れるなんてのはいただけないな
黒幕ごと全滅させてやるとしよう
とにかく数を減らすとするか
露払いやらは任せろ。兵装を起動、銃火器での【一斉発射】で蹴散らし、寄ってくるやつはガントレットのフルパワーで【吹き飛ばし】、【衝撃波】で叩き潰していこう
妖狐の幻影も合わせて消し飛ばしつつ、サイバーアイで【情報収集】。揺らぎや移動の不自然さなどの情報を蓄積分析して、本体を割り出そう
是空への援護をしつつ、本体を見つけたら即座に連絡!
派手めな攻撃で敵を思いっきりぶっ飛ばしてやれ!!
「うぉ、っ?」
唐突に轟く雷鳴に、チガヤは素っ頓狂な声を上げて球状に広がった雷電を見る。
「派手にやるじゃねえの」
「は、こりゃあ、負けとれんよな!」
後ろから飛んだ是空の言葉に、チガヤは言葉よりも先に刃で返す。腕から伸びたブレードで大口を開き飛び掛かった屍人の顎を貫き、もう片方に展開した銃で至近距離から無防備に開いた喉へと弾丸を叩き込んだ。
「ったく、ゾンビゾンビゾンビ!」
首から分かたれた体を蹴り飛ばし、残った首を刀を振るってどこかへと放ると、減っているのかすら分からなくなる屍人の数に、鋭い笑みで悪態をついた。
「どこを見てもゾンビだな」
「派手なパーティになりそうじゃな!」
「ああ、そりゃ違いねえ」
どこの誰かは知らないが、派手に見せつけられればこちらもしてみたくなるというもの。
既に展開していた武器に加え、更に凶器を起動させていく。
「派手なパーティにしてやろうぜ!」
腹から張り出した声。
それを追い抜き、砕かんばかりに銃弾の嵐が周囲へとばら撒かれた。否、銃弾だけでなく斬撃、衝撃波、ひいてはビームまで、展開した全ての武器が一斉にその牙を剥いていた。
全方位へと放たれたそれは、周囲の屍人を食らいつくす。弾丸は骨を砕き、衝撃波が水晶を砕く。さながら風に吹かれた紙吹雪が如く吹き飛んだ屍人の体で、包囲がしばし緩む。
「そら、ブチ抜くぞい!」
だが、その開いた場の空気を落ち着いて吸うことも無く、是空の声が飛ぶ。チガヤはその声に飛びずさり道を開ける。
放たれたのは幾条もの七色の光だ。眩い光彩を放ちながらそれは無数に折れ曲がり、幾何学的な模様を地面に描くように前方へと押し寄せていた水晶屍人たちを滅ぼしていく。
空隙の道へと二人は、合図も無く駆けだしていく。
方針は簡単だ。黒幕ごと全滅させる勢いで軍勢を突貫する。虹の光が焼き払った道に踏み出した屍人をチガヤがガントレットに包んだ拳で吹き飛ばして雪崩を起こせば、追い討つように是空が、再び折り重なるような光を打ち放つ。
「狐……」
と、その開いた道の壁の中。水晶をはやした屍の間に、妖狐の姿が過るのを是空が見止める。
「いや、……チ、違う幻影だ」
「またか、何体目じゃ」
チガヤは、狐の周囲をその目で観測し、断言する。
狐の過ぎた空気の流れが見えているそれの影響とは違いすぎる。電脳体とやらに化ければとも思うが、屍人の間に見えただけで既に電脳体とは考えにくい。
周りの屍人の動きや揺らぎも鑑みたチガヤの判断に、周辺一帯を広く薙ぎ払えばいたはずの狐までも消えている。
今の一撃で、倒せるような相手ではないだろう。そうであったならばどれほど楽か。
「まあ、チガヤもおるんじゃ、手数には事欠かんわい」
先へと進む是空は、どこか鋭い瞳を輝かせている。
そこには、しかし先の見えぬ強行への退屈はなく、果ての見えぬ亡者たちへの恐怖も無く。
「そら、ブチ抜いていくぞい!」
力を競い合う、この場への恭悦がたぎっていた。
成功
🔵🔵🔵🔵🔴🔴
マリベル・ゴルド
たくさんいる中から本物を探し出す、シンプルながら難しい依頼ですね……。
ボクはボクなりに出来ることを探す必要がありそうです。
的確に本物を見つけ出す技術はボクには存在しません。
なので敵陣めがけて「舞踏の歌姫」を飛び込ませ、【範囲攻撃】と【衝撃波】で面での攻撃に注力するとしましょう。
……「舞踏の舞姫」はからくり人形ですが、母さ……いえ、貴婦人を模している姿をしています。
狙う相手をいたぶる性質があるのであれば、女性という弱者のレッテルが貼られやすい見た目で騙されてくれる可能性があるかもしれませんね。
もしも妖狐を見つけられたらフェルマータで動きを止めてみせましょう。
少しでも、皆さんの助けになれれば……!
美しい歌声が水晶に反射して、蒼天のもとに音の光を瞬かせている。
ドレスの裾を舞わせて、彼女は戦場を舞台に己の名を示していた。
即ち『舞踏の歌姫』
その長い足を踏めば、その細い喉を開けば、歌声に乗った衝撃波が周囲に放たれ、水晶の欠片が宝石の如く煌めいて、落ちた死肉へと舞い散っていく。
敵陣、無数の屍兵に囲まれながらも歌い続ける勇猛なる歌い手。そんな人形の傍で、守られるように足を進めている少年の姿があった。
「……すこしでも数を減らして、他の人の手助けにならないと」
出来る事なら自身が敵陣に入る事は避けておきたかったが、なにせ数が多い。奥へと踏み入れるには視界が遮られ、操作が鈍る。
高らかに響く歌声に吸い寄せられるように、周りの屍が集まっていく。
マリベルは、近づこうとしては衝撃波に乱され砕け、倒れていく水晶屍人に糸の切られた人形の姿を重ねながらも、歌姫の人形に寄り添っていた。さながら、母親に寄り添う幼子のように。
無数の狐から、本物を一体だけ見つける。そんな技術はマリベルは持ち合わせていない。
だからこそ、彼は敵陣の面制圧に注力する。
「それに、目を付けられるのであれば」
女性、という弱者のレッテルを貼られやすいこの人形だ。
だが、彼自身気付いていない。戦場において果敢に舞うその姿は雄壮とも言え、そして、その元に侍るマリベルこそが、いたぶりがいのある獲物として上質であるということに。
守られるように人形に慕う視線をすら送る少年と、与えられた命令のままに自らの四肢を繰り歌う女性の姿は、美しくも、儚くもありながら、しかし歪だ。
弧を描く。
狐の口元が仮面の下で、凌辱の笑みを浮かべていた。
大成功
🔵🔵🔵
それは弱いものを虐める事が大好きだ。
でも虐めるのは弱いものじゃなくてもいい。本当は虐めるのが好きなだけだ。
踊る舞踏の歌姫の背後から、水晶屍人がマリベルへと向かって殺到する。
「……っ」
気づいたマリベルが人形を操り、衝撃波で薙ぎ払うも、しかし、その波の勢いをそぎ切る事は出来ず、数の暴力の中へと彼の小さな体は飲み込まれて。
巫代居・門
うっわ、わんさか居やがる。
こいつら全部死体か。死者への冒涜だぜ。
【破魔】で滅ぼしてやる。
熱血なんざ似合わないがな。
つっても出来ることなんざ殆どねえか。
UC『禍羽牙』で狐の本体を探しだす。幻影と本体じゃ力も違うだろ。【呪詛】を差し向けて探すぜ。
俺がするのは探索メインだ。影の魚で見つけた後は分かりやすく影の道でも作ってやる。
あとは他のやつらの仕事だ。俺にできんのはあと、逃げねえようにチマチマ呪い送るくらいか。
……前線とか、合わねえよなあ……
アドリブ歓迎
「うっわ、わんさか居やがる」
水晶屍人の軍勢を見渡し、門は思わず辟易としたため息を吐いた。
見渡す限り、冒涜を受けた死体なのだ。
握る薙刀に宿る破魔で薙ぎ払ってやろうか、などと冗談を浮かべながら、門は地面に手を付いた。
「まあ、出来ねえけど」
門にあの軍勢を薙ぎ払う自信はないし、そんな能力に自覚も無い。
「そら、いけ」
すこし肥満気味な思い体を動かして、自らの影に語り掛けると、まるで陽炎のように揺らめいた門の影から、細かい影の破片が飛び散っていく。
否、それは光の映る面を泳ぐ魚の群れだ。
それら全ては門と感覚をつなげて、無数の情報をもたらしている。彼は、冗談じみて破魔で薙ぎ払うなどとは言いつつも、実質本体の探査に全力を注ぐつもりでいるのだ。
「……」
目をつむり、低くうなるように顔を顰める門は、大量に送られる光景に頭を混乱させながらも処理していく。
いた。狐。
一匹が見つけた狐へと呪詛を放ち、そして、あっけなく朽ちる幻影に偽物と知る。
「……ち、次」
外れに意気を消沈させる暇もない。そもそも自己評価の低い彼に、失敗でなくすような自信は持ち合わせていないのだ。
卑屈。という性格が、恐らく彼の本意に反して彼の身になっていることに彼は気づかない。
見つけては、呪詛に潰し。見つけては、呪詛に潰し。
「……あ?」
幾つかの幻影を潰した後、門は見つけた狐に違和感を覚えた。
そして、まるで意志が無いように動いているはずの水晶屍人が、何かを見ている。試しに放った呪詛にその妖狐は、素早く身をよじり、屍人の中へと姿をくらませていた。
「ようやく見つけたぞ、くそ、ちょこまかと」
門は、しかし、妖狐を追う事を中断する。ここで門が追い詰めたとてとどめを刺せるわけもない。
そう考えた彼は、別方向から忍ばせた影にその狐を追わせながら、他の猟兵へと影を飛ばしていた。
「ついでに見つけといてよかった」
妖狐を探す間に、水晶屍人を薙ぎ払う数人の猟兵達の場所はむしろ意識せずに入ってくる情報ですらあった。
「……あ?」
その一つへと、本体の妖狐が迫っていた。
●
転んだ屍人を踏みつけ、先の屍人を押しのけて、一斉に襲い来たまさしく屍人の大波に飲み込まれんとしたその寸前。
マリベルの視界を、暴虐の権化と化した虹色の光が埋め尽くした。
水晶のきらめきが響く大波が、真横から壁の如く聳え立った光の柱に乱され、焼き尽くされる。
虹の晴れた後、残るのは、水晶の破片を僅かに煌めかせ、どうにか形を残している数体の屍人だけであった。
静かに地面が蹴られる。風が過ぎるかのような軽々しさで、水晶屍人の乱立を抜けた影が、マリベルの背後から飛び出して、その残っていた屍人の一体を踏み台に、後ろに控えていた屍人の中。
身を潜ませていた妖狐へと、破魔の力を秘めた銀刃が閃く。
●
数分前。
それに一早く気付いたのはチガヤだった。
水晶屍人を薙ぎ払った瞬間、影を下すものがなくなったはずの地面に、何か小さな影が過る。
「……」
何かしらが影を操っている。妖狐か、いや、オブリビオンの気配はあるが、しかし、脅威を感じない。
猟兵が操っているものだ。と無視していたのだが、ここにきて唐突にその動きを変えた。
陰に身を潜ませるのでなく、光の当たる部分を選んで何匹かの魚の影がどこかへと向かっていく。
「追ってこいってか」
「なんぞ言ったか?」
是空が、独り言をするように呟いた言葉に首を傾げる。
「ああ、先に見つけた奴がいるみたいだ」
「ほう、先を越されたか、ほんでどうするんじゃ?」
にやりと、是空はチガヤに挑発的な笑みを向けてみる。返る答えを問いかけるのではない。もうすでに決まっている答えを誘導する。そんな笑みだ。
チガヤはそれに、獰猛に歯列を見せるように笑みを返す。
銃器に弾丸を装填したガシャン、という音と共に返事を吐き出した。
「決まってる」
親玉吹き飛ばしてやろうぜ。
物騒な台詞と共に、駆けだす。
道すがら、邪魔な屍をなぎ倒しつつ、影の跡を追ってみれば盛り上がった屍人の波。
「こりゃまた、大きな的じゃぞい!」
「外すなよ?」
「心配無用、あんな的外そうとしても」
無数に飛散させていた七色の光線を全てまとめあげて、眼前に一人の猟兵と人形を飲み込まんとする波へと。
「外せんわい!」
一気に打ち放った。
●
過ぎる風が髪を乱す。飛び出した体は重力に従って落下軌道を辿る。
その先に。
「クソ、邪魔しやがってよ!」
青白く、瞬くような妖狐の姿があった。
「斬る」
着地を待たずに、望月は妖狐目掛け、刃を走らせる。
刃を振るい、着地の衝撃を全身を弛ませ殺し切って、そうして、手応えの無さに空振りを悟った。
「当た――」
るかよ、そんな攻撃。とでも言おうとしたのだろうか。身を捻り、刃を避けた妖狐の口元が開いた時には、望月の刃がその首へと触れていた。
「ぶ――!」
「逸れた」
咄嗟に、顔を背けてかき切られることを防いだのか。切っ先が妖狐の首を引っ掻いた感触に望月は更に、更に、踏み込んでいく。
息をつく暇も与えぬ連撃。妖狐が息をしているのかすら知らないが、その口から言葉一つ満足に零させぬ早業。
切っ先を引き戻し、首、額を狙った刺突を潜り抜けた妖狐の逃げた先へと上段から斬り下ろし。
「は! もう効かねえんだよ!」
刃が狐を裂く瞬間、狐の姿が幾何学にぼやける。同時に、望月の腕に何かが纏ったように、その動きが鈍っていた。
反比例するように、妖狐の動きが機敏に走る。電脳体へと変じた狐の体を鈍くなった刃が薄く切りつけるが、浅い。
「いいなあ! こりゃいい! 逃げやすくなるってもんだっ!」
「……それで?」
煽るように狐が右へ左へと二、三度望月の周りを跳ねて、どこかへと消えようとするその姿に、望月は只一言、呆れたように呟きを返すばかりだ。
狐の笑いが固まる。
「あ?」
望月が苦悶の表情でも浮かべれば良かったのだろうか。だが、正直彼女には妖狐の行動を理解しきれなかったのだ。
逃げたいのならば逃げればいいのに。と。
さほど離れていない場所で、歌姫が歌を歌う。
マリベルは衝撃波を纏う音の波を周囲へと打ち放つ。それは、周囲の水晶屍人を巻き込み、そして、妖狐すらも巻き込んでいた。
「……っぐ、くっそ!」
妖狐は、電脳隊の体ごと揺らすような衝撃波に、悪態をついてその身から無数の分身を生み出していた。
「オレ以外の偽物でも、相手にしてやがれ、クソどもが!」
数百にも及ぶだろう、その分身が一斉に広がり、本体の姿をくらませ、呪詛を含んだ声が響く。
従わなければ、呪詛による報復が行われる。そんな一方的な契約の中で、しかし、緊張感のない声が狐の耳に届いていた。
「おーけい」
と、放たれたそのチガヤの声は、しかし続く銃声に深くかみ砕く事は為されない。
爆発したのか、と間違えんばかりの銃声がもたらしたのは、空白だ。
「……っ」
水晶屍人、幻影。
妖狐本体の周辺、本体以外の全てへと一斉に放たれた弾丸は、照準を過たずそれらを吹き飛ばし、ぽっかりと空いた空間の中心に、目を丸くしたような妖狐が足を竦めていた。
「言う事聴くなんて、私イイコだねえ?」
露払いはしたとばかりに、肩を竦めたチガヤがアイコンタクトを送った先で、是空はもうすでに行動を終えていた。
「特等席で観戦とは悪趣味な奴じゃったが」
先ほど、屍人の波を抑え込んだ光を縒り合わせては、上空に束ねて。
「そら、寄席はもう、終いじゃ!」
もはや白光と化した七色の輝きが、妖狐を逃がす間もなく光の柱となって、焼き貫いた。
●
「はて、終わったかの」
光が消えた後の地面に、何も残っていない事を確認した是空がチガヤへと視線を向ける。
周囲の水晶屍人も、指揮官を失って統率が乱れている。これなら、街の兵士で十分に対処できる。
「……あ?」
と考えたチガヤの視界の端で、影が踊る。それはここへと彼らを導いていた門の放った魚の影だ。
まるで、逃すな、とばかりに四方からどこかへと向かう先。
「ボクに、出来る事」
「しぶとい」
すかさず望月が放った暗器に足をもつれさせた妖狐が、その姿を痛々しく薄れさせた妖狐が、地面へと転がる。
是空の攻撃をどうにか耐えた後、水晶屍人をまるで自分がいなくなったかのように操作したのだろう妖狐は、しかし、追いついたマリベルの操る舞踏の歌姫に打ち滅ぼされた。
「……ボク、助けになれた、よね」
どこか不安げに、マリベルは傍に戻した人形を見上げて、そう呟いていた。
が、休憩を取る時間など無く。
今度こそ完全に統率の取れなくなった水晶屍人が、我先にと猟兵達へと襲い来る。
「お代わり、じゃな」
「そういうことだ!」
親玉を討ち取り、あとは街の武力でも問題ないとは言え、軍勢の只中から抜け出すには、もう少し暴れる必要がありそうだ。
「前線とか、合わねえよなあ……」
その外で、門は一人吹き飛ぶ水晶屍人を眺めて、安堵の息をついていた。
大成功
🔵🔵🔵