2
エンパイアウォー③~我ら猫又、今から軍を襲うのニャー!

#サムライエンパイア #戦争 #エンパイアウォー

タグの編集

 現在は作者のみ編集可能です。
 🔒公式タグは編集できません。

🔒
#サムライエンパイア
🔒
#戦争
🔒
#エンパイアウォー


0




●開幕
「ついにこの時がやってきました!」
 ロザリア・ムーンドロップ(薔薇十字と月夜の雫・f00270)がグリモアベースに現れる。今日は一段と元気よく、気合も十分。
 何故なら、今、この時から、『サムライエンパイア』で世界の未来を決める大きな戦いが幕を開けるからだ。
「『寛永三方ヶ原の戦い』に赴かれた方も多いかと思います。そこで皆さんの活躍により入手した『第六天魔軍将図』から判明した『第六天魔軍将』達が、サムライエンパイアを征服しようと動き出したんです!」
 織田信長を筆頭に、動き出した魔軍将は、倒された武田信玄を除いた七人。
「江戸幕府は、織田信長の陰謀を止めるために、『魔空安土城』の防護を破壊できる『首塚の一族』を引き連れての進軍を始めました。しかし、魔軍将達もそれを黙って見ているわけではありません。道中、様々な形で進軍を妨害してくることが予想されます。そこで、私達が魔軍将達の軍勢を撃破して、幕府軍が無事進軍できるようお手伝いする、というのが今回の任務になります!」
 幕府軍の護衛、という重要な役回りだ。
「私がこれから皆さんを送り出すのは『信州上田城』の周辺になります。こちらは中山道方面軍が通ることになっていますね。すでに魔軍将の一人『上杉謙信』が従えるオブリビオンの部隊があちこちにいますから、皆さんにはその部隊の撃破をお願いしたいんです」
 敵の数が非常に多いため、他のグリモア猟兵も同じ地に猟兵達を導いていることだろう。ロザリアもその一人として、今回、猟兵達の導き手となる。
「転送した先にいる部隊を構成するのは『猫又』というオブリビオンです。猫っぽくて可愛い見た目ですが油断ならない相手ですので、気を付けて下さい。あと、この辺りは山岳地帯となっています。起伏が大きい場所になりますので、そこにうまく対応できる準備などあるとよいですね。あと、付近は森になっていて身を隠しやすくもありますので、そういうのを利用すれば、奇襲攻撃なんかも可能かもしれません!」
 敵もその辺を考えて潜伏しているはずだが、それをこちらも利用してやろう、という魂胆だ。
「皆さんの頑張りがこの戦いの今後に大きく影響しますので、宜しくお願い致します!」
 ロザリアは今日一番の声を出して、猟兵達に助力を求めたのだった。


沙雪海都
●このシナリオについて
 このシナリオは、「戦争シナリオ」です。
 1フラグメントで完結し、「エンパイアウォー」の戦況に影響を及ぼす、特殊なシナリオとなります。

 戦争です。沙雪海都(さゆきかいと)です。
 8月は夏休みもありますので少し多めに頑張れそうな気がしてます。
 でも10日までに一次ラインがあるってどういうことよ?
 そんなわけで皆様のお力をお貸し下さいませ。

●概要
 『猫又』との集団戦です。
 数は10~20体程度です。というのをぼんやり考えて頂ければ後は何とかします。
 現場は斜面に木々が並んでいる感じの森です。ちょい暗め。岩もごろごろしてるので平坦な斜面でもないです。
 普通の人なら足の筋肉が引きつってやばそうですが皆様は猟兵なので大丈夫。でもまあ何かしらうまーく乗り越えたりできれば楽かも。

 それでは、皆様のプレイングをお待ちしております。
112




第1章 集団戦 『猫又』

POW   :    バリバリ引っ掻くニャ
【両手の鋭い爪による引っ掻き攻撃】が命中した対象を切断する。
SPD   :    猫の本領発揮なのニャ
【両手を地に付ける】事で【四足の型・高速戦闘モード】に変身し、スピードと反応速度が爆発的に増大する。ただし、解除するまで毎秒寿命を削る。
WIZ   :    これが猫又の妖術なのニャ
レベル×1個の【鬼火】の炎を放つ。全て個別に操作でき、複数合体で強化でき、延焼分も含めて任意に消せる。

イラスト:風鈴

👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

種別『集団戦』のルール
 記載された敵が「沢山」出現します(厳密に何体いるかは、書く場合も書かない場合もあります)。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。

片桐・公明
分「あたしは片桐公明。死にたい奴からかかってきな。」
分身は基本的にヒット&アウェイ
妖刀で急所を的確に斬り裂きその場を離れる
木の上、岩の上などを縦横無尽に飛び回り、死角から攻撃していく

本体は基本的に物陰に隠れながら二挺拳銃で銃撃
一所に留まらず、姿を見られないように立ち回る。
本「猫が一匹…猫が二匹…も、モフりたい…」
少し様子がおかしい気もするが、それでも攻撃の手は緩めない。

最後の一匹になったところで漸く姿を見せる
分「お前が最後だな。じゃあ…いいぞ。」
ちょっと辟易したように言うと
本体が猫又の後ろから思いっきり抱き着く
本「ようやくこの時が来たわ。さぁ。私に可愛がられなさい!!」
気が済むまでモフモフする


支倉・新兵
狙撃銃の射程範囲内で出来るだけ距離を取り、山岳地帯を俯瞰可能な位置に陣取り狙撃体勢へ以降
索敵は偵察用ドローンや各種デバイスに頼り狙撃地点から可能な限り動かず、迷彩マントを起動し地形に溶け込み身を隠しつつ【跳弾狙撃】

ドローンやスコープ越しに捕捉した敵の動きや周囲の地形…木だけじゃなく岩も多いのは助かるね…それら情報を踏まえ弾道計算
地面や岩、立ち並ぶ木々…場合によっては自前のドローン等戦場のありとあらゆる物を利用し遮蔽物を物ともしない…寧ろ狙撃点を悟らせない跳弾による死角からの遠距離狙撃で仕留めていく

(スナイパー、目立たない、迷彩、地形の利用、戦闘知識、視力、暗視、追跡、暗殺、先制攻撃、情報収集)


雨宮・いつき
此度の戦、いつも以上に気合を入れていかねばなりません
何しろ僕の故郷がある世界ですもの
御師匠様達の顔に泥を塗らないためにも、御勤めを果たさせて頂きます!

視界は悪く遮蔽も多め
ならば陽動からの包囲殲滅が最適でしょう
罠として雷撃符をいくつも仕掛けておき、その近くの草の陰や木の上に召喚した管狐達を忍ばせます
残りの子達には小隊を作らせ、猫又達を誘き寄せて貰いましょう

罠の場所まで連れてきてくれたら雷撃符を起動
【マヒ攻撃】で猫又達をまとめて痺れさせて、管狐達の一斉攻撃で一気に仕留めますよ!


アスカ・ユークレース
他でもない上様の頼みだもの。頑張らないわけにはいかないわね?

狙撃手の本領発揮、かしら?
電子迷彩回路起動、【虚宿】展開。地形を利用した物陰に隠れての待ち伏せ、狙撃による奇襲攻撃といきましょう
まずは部隊の隊長格を積極的に狙っていきます

混乱してくれたら儲けもの、
その隙に残りもまとめて片付けましょう

見つけた、と思った?……その認識は本当に正しい物かしらね?本物はこっち。……気づいたときには、遅いけど。

(UCによる反動描写お任せ)

アドリブ、連携可


ルパート・ブラックスミス
この鎧の身で獣を欺ける程の隠密行動など出来るわけもなし。
囮役も兼ねて正面突破だ。猪武者ならぬ猪騎士が罷り通るぞ。

UC【理異ならす凍炎】起動。
氷を纏った鉛を走らせ【属性攻撃】。
周囲諸共、敵を氷結しつつ鉛の氷柱で【串刺し】にする。
猫は寒さを得意としていない筈だ、動きを鈍らせるかもしれん。

敵の攻撃は機動を【見切り】、大剣に纏わせた氷を斬撃に乗せ、即席の壁を形成し【武器受け】とする。
味方が近くにいるならこの氷壁で【かばう】ことも意識しよう。

態々悪路に足をとられながら動き回ることもない。
接近戦はこちらから積極的に動かず、敵が襲いかかってきたのを【カウンター】することに注力する。

【アドリブ・連携歓迎】



●猫又大乱闘
「よーし、揃ったニャ? では、これから徳川の軍勢をやっつけに行くのニャー!」
 一体の猫又の掛け声に共鳴するように、集まった猫又達がニャーニャーニャーニャー。いよいよ攻め込むぞ、と肉球ぷにぷにの手が、空を覆う木々の葉へ突き上げられる。
 だが、その周囲ではすでに猟兵達が『網』を張り巡らせていた。

 ほんの僅か、時を遡る。グリモア猟兵に導かれた雨宮・いつき(歌って踊れる御狐様・f04568)は、罠となる雷撃符を辺りに散りばめていた。
(御師匠様達の顔に泥を塗らないためにも、御勤めを果たさせて頂きます!)
 自身の故郷があるこの世界を守るべく、一層の気合を入れて戦いに臨む。
 雷撃符を仕掛けた場所には召喚した管狐も併せて忍ばせておく。草陰や木の上など、隠せる場所は豊富にあった。残った管狐達には小隊を作らせておいた。
 いつきの頭上には偵察用ドローンが飛んでいた。支倉・新兵(狙撃猟兵・f14461)が敵の動きを掴み、また周囲の地形を把握するために放っているものだが、当の本人は現場から離れた斜面の上部に陣取り、スコープ越しに一帯を俯瞰していた。
 『概念迷彩マント』を起動し深緑に紛れ、存在そのものを消してしまったかのように息を潜める。多少光が乏しかろうが、暗闇を見通す力を備えた新兵の前に、障害となるものは何もない。あたかもステージライトで照らされた劇場のように、隅々まで戦場が見通せる。
「木だけじゃなく……岩も多いのは助かるね」
 銃弾は通常、一直線に飛ぶ。その状態での狙撃は先手を取れるものの、射角や方向から相手にも狙撃手の位置が割れてしまう危険がある。
 それを防ぐための跳弾狙撃を、新兵は心得ている。戦場に障害物が多いというのは、新兵にとって都合がよかった。
 スコープ越しに、別の猟兵の姿が確認できた。アスカ・ユークレース(電子の射手・f03928)が岩陰から、じっと猫又達を覗き見ている。新兵と同じく狙撃手として行動するアスカは、集まる猫又達の中から部隊を纏め上げる者がいないか探していた。
 姿形は一体を複製したかのように差のない猫又達だが、よく見ていくと、てきぱきと周りに声をかけているような個体が確認できた。
 アスカが狙うは隊長格の個体。その候補として、アスカは見定めた猫又に注目する。
(他でもない上様の頼みだもの。頑張らないわけにはいかないわね?)
 同じく猟兵として活動もしている江戸幕府の将軍が、織田の軍勢と戦うために助力を求めた。この世界を守るため――心は一つ。立ち上がらないわけがない。
 そしてアスカの傍の木陰には、片桐・公明(Mathemの名を継ぐ者・f03969)が同じく姿を隠す。『Mathem842』と『臥龍炎』という二丁の拳銃を手にしながら、さらに、自身の中に潜む闇に染まった自分自身を生み出した。外見は同じであるが、公明本人よりは色合いがやや暗く映る。
「分身……ですか?」
 アメーバよろしく生まれてきたそれを見て、アスカが小声で話しかけた。
「そうよ。先陣を切らせて、私はここから。戦いが始まれば適度に動くつもりだから、目くらましにも丁度いいのよ」
 そこへ、二方向から音が響く。
「陽動、というわけですね? なら、僕が仕掛けた罠も役に立つでしょう」
 準備を終えたいつきが合流していた。そしてもう一人。
「要は囮のようなものだな。この鎧の身で獣を欺ける程の隠密行動など出来るわけもなし。自分も正面突破といかせてもらおう」
 黒騎士の鎧のヤドリガミ、ルパート・ブラックスミス(独り歩きする黒騎士の鎧・f10937)が、猟兵の戦陣後方から上がってきた。重厚感のある鎧は力を象徴するような迫力があるが、ルパート自身が言うように、隠密という点では他の面々に比べれば分が悪い。
 ガシャン、ガシャンと歩調に合わせて鎧の接合部が鳴る。動けば見つかるのは時間の問題。ならば最初から姿を晒したとて不利はない。
「なら、後は頃合いを見て、行くだけね」
 公明は斜面の上方へ向けて左手を挙げた。それを新兵が確認すると、ターゲッティングデバイスの視点を猫又達のもとへ向けた。
「これから徳川の軍勢をやっつけに行くのニャー!」
 可愛らしくも勇ましい掛け声が一帯に轟き、猟兵達の耳にも入った。
 猫又達が攻勢に出ようとしている。叩くなら今しかない。
 公明の分身とルパートが猫又達へ接近する。分身は軽やかに木を登り、枝から枝へ飛び移った。その下をルパートが、落ち葉や枯れ枝が積もる地面を踏みしめ、岩を越えていく。
 自分達しかいないと思っていた場所がにわかに騒がしくなり、猫又達はびくりと体を震わせた。
「なっ……何者ニャ!?」
「あたしは片桐公明。死にたい奴からかかってきな」
 妖刀『血吸』を頭上に掲げ、猫又が分身を見上げたところへ枝の上から落下して垂直に一閃。薄紫の前髪が散り、眉間から鼻筋に刀傷が通った。
「ニャアアアア!? いだいニャア!!!」
 傷を負った猫又は両手で顔を押さえながら地面に倒れ、痛みを紛らわせるようにごろりと転がる。
「やったニャア!? 覚悟するニャ!」
 別の猫又が援護に入る。両手を地面につけて猫としての四足の型となった状態から足で地面を蹴り出し分身へ飛び掛かる。薄紫の体毛から伸びた鋭い爪を振りかざすが、分身は一瞬早くその場を退き別の木の上へ。猫又の爪は空を裂く。
「猪武者ならぬ猪騎士が、罷り通るぞ」
「鎧ニャ! この爪を受けてみるのニャ!」
 弓なりに伸びた爪を十本纏めてルパートに叩きつけようとしたが、俊敏さを見せた猫又の動きを見切ってルパートは半身をずらす。眼前をふかふかした手と、胴体部から切り離された長い振袖が通過した。
『我が血はもはや栄光なく……されど、未だ歩みは冷厳に』
 ルパートの声が重く響き、鎧に詰まった燃える鉛が瞬時に凍てつく。自身の火炎に関わる能力を犠牲にした氷結の強化形態。攻撃をかわされた猫又は、周囲の空気が急激に冷えていくのを感じ、毛を逆立てる。
「なんニャ! 怖いニャア!!」
 今度は下から振り上げられた爪に、ルパートは鉛滴る大剣を合わせた。今は大剣も氷を纏う。染み出す冷気が斬撃に合わせてルパートと猫又の間に氷の壁を作り上げ、爪の追撃を防いでいた。
 冷気が次第に満ちていく。猫の性質をいくらか引き継ぎ、そして元々肌の露出が多かった猫又達は震え、動きが鈍っていた。それでも数ならば自分たちのほうが優位にある、と、
「たった二人ニャ! 何とかやっつけるのニャ!!」
 号令がかかり、猫又達が砂糖の山に群がる蟻のように押し寄せてきた。手の届かないところへ逃げてしまう分身には目もくれず、まずはこの寒さの元凶であるルパートの元へ。
 二本の尻尾をピンと立て、剥き出しの爪を鎧へ突き立てようとする――が、
『弾道、入射角……オールグリーン』
 目標を捕捉し、新兵が引き金を引いた。斜面の先より放たれた弾丸が木の幹を掠めながら角度を微調整し、岩の角に反射して方向を変え、ルパートに襲い掛かる猫又の体を貫通した。
「ニャアッ!?」
 全く予期せぬ銃撃。食らった猫又はそのまま倒れてしまっていた。
 銃弾が飛んできた方向へ警戒を強める猫又達だが、その方向に新兵はいない。猫又達が自分の居場所に気づいていないことを悟ると、続けざまに二発、三発と戦場へ銃弾を送り込んだ。
「ニャッ!?」
「ニャニャッ!!」
 背後から、真横からと方向を変えて飛んでくる銃弾に仲間が倒れ、猫又達は狼狽するばかり。敵はまだまだ潜んでいるのか――そんな疑念を抱かせ、動きを縛る。
 いよいよ足を止めてしまった猫又にルパートがゆっくりと歩み寄る。氷は大剣の上で成長し続け、鉛の氷柱となっていた。鋭く尖った先端を引き、そして力の限り突き出す。ずむっ、と生肉の手ごたえを一瞬感じた。体に大穴を開けられた猫又は声も上げられぬまま、口をぱくぱく開閉させ、やがて息絶える。
「伏兵が多いニャ! とにかく数を減らすニャ――!?」
 叫ぶ猫又へ、ひゅんと風を切って矢が放たれた。木々の隙間を抜けた矢は猫又の腕に真っ直ぐ突き刺さる。
「また敵が増えたニャ……!」
 矢が飛来した方向を確認したが、何の姿も見せず。しかし、無の空間から二の矢、三の矢が継がれ、両腕と胴を射抜かれた。
 何かいるはずなのに、何も見えない。何故なのか――その疑問は解決することなく、とどめの矢が眉間へと突き立てられ、猫又は地面へ磔となるように倒れた。
「リーダーがやられたニャ! どうするニャ!?」
「慌ててはいけないニャ! 皆で頑張るニャ!」
「頑張るってどうするニャ!?」
 ここまで猫又達を纏めていたリーダーの猫又が矢に倒れ、猫又達の統率が失われている。
 その矢を放っていたのは、アスカだ。【虚宿(サダルスウド)】により迷彩回路の出力を最大に引き上げ、さらに存在感を極限まで薄め、対象の認識を書き換える能力を用いることで、猫又達の意識からアスカという存在を完全に消し去っていた。
 強力なユーベルコードだが、代償もある。リーダーの猫又を討ち取ったアスカは一旦岩陰へと戻っていた。見えない有刺鉄線が体を縛り上げているような痛みを伴う呪縛がアスカを苦しめる。呼吸は荒く、冷や汗が滝となって流れ落ちる。
 アスカが体を休める中、公明は右往左往している猫又達へ両の拳銃を向けた。
「猫が一匹……猫が二匹……」
 一つ数えては一発銃弾を撃ち出し、猫又を仕留めていく。自分の戦果を一つ一つ確かめて、引き金を……。
「……も、モフりたい……」
 ……戦果などという立派なものではないのかもしれない。戦場にありながら公明の表情はだらりと緩み、呼吸も――アスカとは別の意味で荒くなっているようだった。
 しかし、たとえ何かしらの邪な感情があろうとも、公明は物陰を移動しながら狙撃を決め、確実に猫又を倒していた。乱戦に紛れており、公明に気づく猫又もいない。
「…………」
 ただ一人、戦場を見渡す新兵には公明の様子が見えていたが、そっとスコープの枠から外していた。
「さあ、皆さん、お願いします!」
 猫又達の混乱の最中、いつきが管狐の小隊を放っていった。小刀を咥え、小さな炎を纏って飛び出す様は可愛らしく、そして猫又達には厄介極まりないものだった。
 敵の数を未だにはっきり把握できない中で、大量の小さい管狐が湧いてきたのだ。
「なんニャー!? 邪魔ニャー!!」
 ビシビシと小さな刃が手やら足やら顔やらに当たってくる。小さくとも、地味に痛い。猫又は手足や尻尾をバタバタさせて追い払い、狐火のお返しにと鬼火を指先から放ったが、これを管狐はスイスイと飛んで回避する。
「むむむ……待つニャ!」
 一斉にやってきたかと思えば、身を翻し離れていく管狐達に敵意を燃やし、猫又はムキになって管狐達を追いかけていく。炎を出したことで冷気の影響が少し緩和されたのか、動きにも俊敏さが戻ってきていた。
 だが、動きすぎてしまったことが、猫又達にとって命取りとなる。管狐達を追いかけて、いつきが仕掛けた雷撃符の射程へ入ってきていた。
「かかりましたね!」
 管狐がしっかり退避したのを確認し、いつきは一気に雷撃符を起動させた。隠した符が眩い光と雷を放ち、猫又達の体を激しく打つ。
「さぁ、今です!」
 電撃に痺れ動けなくなったところへ、今度は雷撃符の傍に忍ばせた管狐達をけしかける。今は猫又達も動けず、管狐達の炎と刀を一身に受け続けるしかなかった。全身を焼かれ切り刻まれて、一体、また一体と倒れていく。
 数を減らしていく猫又達。リーダーがいないなどということを気にしている場合ではなかった。このままでは全滅してしまう。
「ニャアアアァァァ!!」
 威嚇の如く大声を上げ、麻痺を気合で払いのける。ピリピリと細かい痺れはあるが、四の五の言っている暇はない。とにかく、目の前にいる敵を――。
「……身軽なものだ」
 小岩を飛び越え、いつきへ飛び掛かる猫又の身のこなしにそんな言葉を呟きながら、ルパートは大剣を一度、大地を切り裂くように真下から振り上げた。冷気が走り、せり上がる氷壁が猫又の進撃を遮る。勢いの止まらない猫又はべちんと顔からぶつかっていた。
「何するニャ!!」
 これ見よがしに爪でガリガリと氷壁をひっかきながら、今度はルパートへ攻撃の矛先を変える。苛立っているのか、動きに荒さが見て取れる。
 それを、決して無駄な力を入れず、猫又の動きに沿って胴体へ大剣を滑り込ませた。
 爪が肩口を掠めた後、下半身と切り離されて背後に落ちていく。
「矢は……そこからニャ!!」
 別の猫又が走り出した先。物陰から姿を現したアスカがクロスボウを構え、矢尻を猫又へ向けていた。四足の状態になり、加速してアスカへと突進する。木の間をすり抜け、いよいよ猫又の手が、爪が届こうか、というところで。
 一瞬にして、猫又の前からアスカの姿は消えていた。
「見つけた、と思った? ……その認識は本当に正しい物かしらね?」
 対象の認識を書き換える――それは、「そこにいない」と思わせることもあれば、「そこにいる」と思わせることもある。
 猫又の死角から放たれた矢ががら空きの背中に突き刺さる。猫又は体を伸ばし、降参のポーズで倒れていく。
「本物はこっち。……気づいたときには、遅いけど」
 クロスボウを下ろし、代償の束縛からいくらか立ち直ったアスカが顔を出す。アスカの存在は矢が刺さったことでしか気づくことができず、それは猫又にとっては遅すぎた。
 跳弾が猫又達を襲う。右から、左から、時には上からとあらゆる角度から狙われ、為す術なく倒れていった猫又も多い。
「こんなものだね。残りは……彼女の好きにしてもらえばいいかな」
 新兵は武器を収める。スコープには最後の一体の末路が見える。
「お前が最後だな」
 分身が残酷な事実を告げる。一部隊として揃った猫又達は一掃され、もはや救援もない。
「だからなんニャ!」
 反抗的な態度で喚く猫又。今にも襲い掛かってきそうなところだったが、分身は深いため息をついて、本体の公明がいる方向を見やる。
「じゃあ……いいぞ」
 その声を聞き、公明がトランポリンで跳ねたかのように飛び出してきた。
「ようやくこの時が来たわ。さぁ。私に可愛がられなさい!!」
 公明は一瞬にして背後を取り、猫又に抱き着いた。
「なんニャ!? は、離すニャ~~!!」
 あまりにも突拍子のない襲撃に暴れる猫又をものともせず、公明はひたすら後ろ髪に顔を押し付け、片手で抱きすくめて空いた片手で頭の上にぴょこんと出た獣耳を触りつくした。五本の指を怪しげに動かして耳の裏をくすぐるようになぞり、指先でつまんで弾いて、弾力も思う存分堪能した。
「や、め……る……ニャアァァ……ッ!」
 後ろから覆いかぶさられる格好になりながらも、両手を地面まで何とか伸ばして四足の型を作る。向上したスピードと反応速度で前へ前へと飛び出して。
「……んべっ」
 猫又に腕から抜け出され、公明は地面へ潰れていった。巨大な重りを脱ぎ捨てた猫又は身軽に跳び、反転して公明へと怒りの爪を振り上げた。
 時間にして数分であろうと、積もり積もった不快感は火山の噴火の如き激しさを見せた。
「ニャアアアア!!」
 首を一撃で落とす――もはや一点しか見えていなかった猫又の視界に、横から滑り込んでくる刃。
 控えていた分身が最後の一体を葬るべく、妖刀を薙ぎ払う。
 見開かれた猫又の瞳に映るものは最早無く。地面にべしゃりとつんのめった体の横に、髪を振り乱した首が転がっていた。

 これで猫又の一部隊は消滅した。全ての決着まではまだ長そうだが、ここでの猟兵達の奮闘は必ず繋がっていくことだろう。
 幕府軍の勝利という、栄光の未来へと。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​



最終結果:成功

完成日:2019年08月04日


挿絵イラスト