エンパイアウォー③~中山道進撃:信州上田城の戦い
●――山岳への布陣
徳川幕府軍は東海道へ八万、中山道へ二万を差し向けた。
目指すは畿内への玄関口である関ヶ原。
その中山道の要衝である『信州上田城』周辺は、魔軍将の一人である軍神『上杉謙信』の軍勢が既に制圧している。
上杉軍は鼠一匹漏らさぬ構えで中山道を封鎖中だ。
中山道方面軍の壊滅を阻止する為には、猟兵の力で『信州上田城』の上杉軍の力を削ぐ必要がある。
早い話、徳川軍が到着する前に我等猟兵が先触れとして奴等を蹴散らしてしまえば良い。
●――軍神の手が届かねば、斯の軍勢とて烏合
「と言う訳でですね、今回は皆さんには強襲を仕掛けて頂きたいと思います」
いつものぽんやり感はそのままに、多少キリっとした顔付きで望月・鼎は語る。
相手は軍神の異名を持つ『上杉謙信』の配下の部隊。
さぞ苦戦を強いられるのだろうと構えるが、実はそうでは無いらしい。
「この信州上田城なんですが、山城、それも戦時拠点の面が強い為に然程広くは無いのです。皆さんが観光で良く見るのは平城と言って、平地に建てられた城なんですね。こちらは城主としての力を示したり凶事の際の物資補給庫としての役割も果たすので大きく広く、居住性も高めに設計されています。山城は山に建てた城、つまり戦争の時の拠点として使うお城なんですね。山の上にあるので重い甲冑を着ていては攻めにくく、かと言って軽装では弓の雨に耐え切れない。無視して進めば背後を突かれ、やりあっては損害も増えると言う面倒臭い拠点です」
ホワイトボードにきゅっきゅ、と絵を描いて説明する鼎。
時代劇ファンと言う事もあってややオタク臭漂う濃い説明に傾きそうだ。
「おおっと、詳しい事は後程希望者とじっくり語り合いましょう。今回重要なのは一つです」
鼎は赤いペンで『狭い』と言う文字をぐるっと囲む。
「この狭いと言うのがポイントです。上杉軍は数も多い強敵ですが……なんと! 数が多すぎて信州上田城には入り切らなかった様です!」
マヌケですねー、とけらけら笑う鼎。
何人かの猟兵は敵戦力数が笑い事じゃないくらいに多いのでは、と危惧しているようだったが。
「皆さんに狙って頂くのはこのあぶれた部隊です! 山岳地帯に各々布陣しているみたいですので、存分に削り取らせてもらいましょう! ゲリラ戦は仕掛ける側が先手を取れますからね」
如何やら部隊同士はそれなりに距離を離して布陣しているらしく、戦闘中に増援が来る事は無さそうだ。
存分に暴れて敵部隊を撃破しよう。
「それでは、よろしくお願いしますね!」
一ノ瀬崇
暑いですね、室温が三十から下回りません。
こんばんは、一ノ瀬崇です。
戦争始まりましたね、色々とビッグネームが並んでます。
今回は上杉謙信の軍勢の一部との戦いですね。
山岳地帯、と言う特殊な戦場で如何戦うのか、皆様の叡智に富んだプレイングを心よりお待ちしております。
このシナリオは、「戦争シナリオ」です。
1フラグメントで完結し、「エンパイアウォー」の戦況に影響を及ぼす、特殊なシナリオとなります。
第1章 集団戦
『魔神兵鬼『シュラ』』
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POW : 剣刃一閃・奪命
【近接斬撃武器】が命中した対象を切断する。
SPD : 剣刃一矢・報復
敵を【近接斬撃武器による突き】で攻撃する。その強さは、自分や仲間が取得した🔴の総数に比例する。
WIZ : 剣刃一弾・止水
対象のユーベルコードに対し【近接斬撃武器による弾き】を放ち、相殺する。事前にそれを見ていれば成功率が上がる。
イラスト:森乃ゴリラ
👑11
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵
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種別『集団戦』のルール
記載された敵が「沢山」出現します(厳密に何体いるかは、書く場合も書かない場合もあります)。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
| 大成功 | 🔵🔵🔵 |
| 成功 | 🔵🔵🔴 |
| 苦戦 | 🔵🔴🔴 |
| 失敗 | 🔴🔴🔴 |
| 大失敗 | [評価なし] |
👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。
遠呂智・景明
アドリブ・連携歓迎
さて、山での戦い方なら。
この見通しの悪さを使った奇襲だな。
●迷彩を使って隠れつつ敵に接近。
敵に可能な限り近づけまら精霊達を召喚。7体の精霊を木々の隙間に隠れさせておく。
んで、俺は堂々と敵陣の前に現れるとするか。
さあ、遊びに来たぞ上杉軍共。
●殺気を放ちできるだけ敵の注意を引く。
刀も抜いて臨戦態勢よ。
ま、本命は精霊共な訳だが。
UCを発動し、精霊達に雷撃を放たせる。
当たりゃ切断、外れても躱した隙を付いて●早業でぶった斬る。
精霊が殺しそびれても、俺が直接斬った方が速いし強い。
久しぶりのこの世界での戦だ、雷鳴鳴らして張り切っていかねぇとなぁ!
ニレッド・アロウン
ははーん?つまり地の利を得たと思って悦に浸っているんですね?んじゃ、ぶち壊してあげましょうか!
【全力魔法】で【オーラ防御】全開にし、突撃です!そもそもこんな風に飛んでしまえば、地の利も何も関係ないですからね
相手もすぐ突撃してくると思っていないでしょうし、その隙に水晶鋏と魔力障壁で勢いよく敵を吹き飛ばしていきます!
相手も対応してきそうだと思ったら、今度は空に向かって勢いよく上昇、そして思いっきり降下!音速での突撃による地面からの振動で相手を転ばせていきましょう!
へいへいサムライ魂ビビってるー!と適当に【挑発】して相手を怒らせたら、そのまま逃走!相手に地の利を捨てるようにしながら追いかけさせます。
落浜・語
間抜けと取るべきか、数が多すぎると取るべきか。
まぁ、間抜けと思って適度に気抜きつつ、数が多過ぎると油断せずにやればいいかね。
さ、なるべく早いところ片づけようか。
【第六感】で周囲に気を配りつつ【存在感】を消して物陰などに隠れつつ、部隊の側面、もしくは後方へ近寄る。
そのうえで『人形行列』を使用。数が多いなら、それに合わせて数使って吹っ飛ばしてしまえばいい。
壊したら泣くからな。下手に壊すなよ。まぁ、壊してもらえなくても、こっちで石投げて壊すんだが。
255体分の爆発、さてどの程度巻き込めるかな。
ステラ・テルキーネス
【心境】
「上杉謙信らしくないミスですね。」
オブビリオンと化して劣化してるのでしょうか?
どちらにせよ、ボク達には都合がいいです。
【行動】
山岳地帯で地形が凹凸が激しいですねー。
なるべく高い場所に移動して、ユーベルコード:天瞳魔人重石を発動。
兵隊を多く巻き込むように、ボクの視線で動きを封じます。
今のうちにみなさん攻撃してください。え?卑怯。普通です。
重圧で動きを封じつつ、相殺されたら『ステラ・テルキーネスの長い髪の毛』で『なぎ払い』『吹き飛ばし』の『2回攻撃』で仕留めておきます。
他猟兵との絡みとアドリブ:OK
月代・十六夜
ヒャッハー山狩りだー!
山中でのゲリラ戦術なら任せてくれってな。
【韋駄天足】の【ジャンプ】で木々を足場に高速移動。
【視力】【聞き耳】で敵集団を見つけたら知り合い何人かの声を込めた【音の結晶】を草陰に投擲。
そちらに注意が行った隙を逃さず飛び込んで【虚張盗勢】で相手の刀を盗んで離脱。
全部盗まなくてもある程度盗めば相手の戦力は奪えるからな。
こっちは相手の動きを見切れてこっちは初見殺しを繰り返せばいい。
一集団にこだわるつもりはない、さぁ次の獲物を探しに行くぜ!
メンカル・プルモーサ
……先制攻撃は出来そうで派手にやっても問題ない、か……
まずは【不思議な追跡者】ではぐれ部隊を見つけるよ……そしてこっそり上を取る……
そして、【愚者の黄金】により200体ほどイノシシの黄金像を生成、【浮かびて消える生命の残滓】により筋力ブーストで命を与えて……下方の敵集団に突っ込ませる。
…猟兵が襲ってくることには警戒してるだろうけど…動物の集団に対してはどうかな…?位置エネルギーの恐ろしさを思い知れ…
……敵が黄金の猪に対処している所に【空より降りたる静謐の魔剣】を木々の間を縫うように発射……発射地点を特定させないように曲射して混乱を助長させるよ……
リズ・ルシーズ
アドリブ・連携歓迎だよ!
【SPD】
【アラクノフォビア】を召喚して、鉄の蜘蛛の形態で戦うよ。
どんな悪路でも多脚なら!
光学【迷彩】を行い鉄の脚で【地形を利用】し、山岳地帯を駆け抜けるよ。障害物は反重力装置を用いた【空中戦】とワイヤーによる【ロープワーク】で超えて一気に敵に肉薄だね。
アラクネ、恐怖を撒き散らせ!
一気に近づいてアラクネの砲撃による【零距離射撃】での【先生攻撃】だね。倒したら、再び【迷彩】を施して次の敵を探すよ
敵の攻撃を受けそうな味方が居たら、【時間稼ぎ】のための【援護射撃】をしつつ戦場を駆けていくよ
アマータ・プリムス
また戦争が始まりましたか
考えていても仕方ありませんね
すべきことをしましょう
UCを発動してネロを召喚
「今は人手が必要です、手伝いなさい」
そのまま当機とネロは別行動
当機はアルジェントムから放つミサイルで敵の殲滅を狙います
敵の攻撃はフィールムで近場の敵を撒きとり盾にして防ぎしょう
「数ばかり多くても意味はありませんよ。いい的です」
ネロは自由に動いてもらいますがきっとその手に持った大鎌で自由気ままに大暴れしてくれるでしょう
(『ケケケ、当たらねーなァ! こう振るうんだヨォ!』)
最後は当機もスコパェを抜きネロの振るう鎌に合わせ風を操り一掃しましょう
「合わせなさいよ」
(『そっちこそナ!』)
時雨・零士
この世界では色々美味いモノを食わせて貰ってるしな。
暮らす人達の為にも負けるわけにはいかねぇ!
周辺の地図と祟から事前に得た敵の布陣情報や「デオルム・アイ」で収集した情報を総合し、敵を順次襲撃。
カオス・アクセラレイターで空中から奇襲を仕掛け、更に【フロストリヴァイアサン・オーバーロード】の液状化で敵の斬撃を無効化しつつ、広範囲を凍結させて敵を一掃。または動きを鈍らせてそのままアームドによる格闘【グラップル、怪力、早業】で敵を叩きのめして行き、【力溜め、捨て身、怪力、ジャンプ、属性攻撃、ダッシュ】必殺のフロストブレイク(凍気を纏ったライダーキック)で一気に仕留めるぜ!
鈴城・有斗
不安定な足場、か。
練習はしてたけど、そろそろ実践で試してみるか。
UCダークハンドをいつもの様に両手足に
今回は追加で腰の後ろ辺りから長いトカゲ状の尻尾も形成
・・・段々獣じみてきてる気がするけど、今は考えまい
手足の「影」の形は肉食の獣人のイメージ
それじゃあ、いこうか
「足」は弾力を利用して突撃する勢いや着地の際の衝撃を吸収
「手」は爪先をより鋭くして切り裂いたり、刺したり
場合によっては手足の「影」を鞭のように伸ばして打ち据えたり、木々があれば掴まって機動戦闘を行う事も出来る
「尻尾」はバランサー及び同じく鞭のように振って打ち据えたり
敵の攻撃はバリアを展開して防ぐか逸らす事を狙う
アドリブ・連携歓迎
緋神・美麗
山岳地帯でのゲリラ戦かぁ。まぁ、派手に暴れさせていただきますか。
【雷天使降臨】で高速飛翔し空中から敵の布陣を索敵しそのまま【出力可変式極光砲】で空爆していく
地上からの反撃を受けないよう絶えず高速飛翔し続けながら【出力可変式極光砲】を攻撃回数重視で使用、範囲攻撃・誘導弾・衝撃波も組み合わた大軍仕様で一気に敵戦力を削って回る
「……先制攻撃は出来そうで派手にやっても問題ない、か……」
不自然な程に静まり返った山中で、小さく呟く。
背の高い木の枝に腰掛けた灰色の魔女、メンカル・プルモーサは自身の羽織る真っ白なローブ『スノウ・クラッシュ』の裾を弄りながら、眼下に広がる広大な自然を見詰めていた。
普段なら鳥の囀りや虫の声が響き、風が木々を揺らし葉を擦れ合わせて雄大な音楽を奏でているこの場所も、今は怖ろしい程の静寂が包んでいる。
理由は一つ。
招かれざる客がこの山中に潜んでいるからだ。
「上杉謙信らしくないミスですね。オブリビオンと化して劣化しているのでしょうか?」
そう訝しむのはステラ・テルキーネスだ。
半人半獣の姿の彼女は大木に凭れる様にして機を待っている。
幾つかの文献で主題に据えて研究がされる程に名高い上杉謙信の布陣としてはかなりお粗末に見受けられる陣容に、ステラは疑念を抱きつつあった。
果たして、軍神と語られる程の知将がこんな稚拙な布陣をするだろうか。
実際にこうしてしている、その理由とは何か。
なまじ相手が知略にも武勇にも優れたと伝えられている上杉謙信だけに、楽観視がまるで出来ない。
思考の沼に嵌って行く彼女を掬い上げたのは、隣から聴こえてきた気楽さを孕んだ声。
「間抜けと取るべきか、数が多すぎると取るべきか。まぁ、間抜けと思って適度に気抜きつつ、数が多過ぎると油断せずにやればいいかね」
意識を戻したステラが視線を向けた先では、落浜・語が両手の『手袋』の調子を確かめている。
人形遣いである彼は、指先に金具の付いた黒い革のこの手袋を愛用している。
自身も人に使われていた過去を持つヤドリガミである為、こうした道具の調整には人一倍機を払っている心算だ。
気も漫ろに手入れをすると『絡繰人形』から物凄い視線が飛んでくる気がする、と言うのもある。
「さて、時間的にはそろそろ良い具合だとも思うんだが。果たして」
言葉を向けると、メンカルとステラも釣られて目を眼下の山中へと向ける。
今三人が居るのは右手奥に霞む信州上田城が、左手に街道が、前方奥には千曲川が見えている場所だ。
土地全体が千曲川に向かって緩やかに傾斜している為、逆落としの様な奇襲を仕掛けるには打って付けの場所である。
信州上田城もそれなりの高さは有るが、隣を流れる千曲川との兼ね合いも有ってか言う程見上げはしない。
まぁ、元が山中の土地であると言う点を加味しなければ、だが。
そんな場所の一角が、突如弾け飛ぶ。
比喩でもなんでもなく、文字通りに木々とオブリビオンが宙を舞っていた。
「作戦開始だな。さ、なるべく早いところ片づけようか」
「ヒャッハー山狩りだー!」
「ヒャッハァー!」
威勢良くオブリビオン達の前に飛び出して行ったのは二人。
その身に『群青色のローブ』をはためかせながら空を往くオラトリオ、ニレッド・アロウンと、黒の薄いシャツとジーンズに、申し訳程度の防弾防刃機能を持たせた『愛用のコート』を羽織った月代・十六夜だ。
先手を取ったのはニレッド。
魔力を全力で編み込みオーラを展開して自身の周囲に纏い、そのまま質量兵器と化して突撃を敢行する。
対するオブリビオンの姿は然程異形とは成っていない。
着流しや武道袴に身を包む、顔が量産型機械兵の様につるんとしたフォルムになっているだけのヒューマンタイプだ。
手には一般的な日本刀が握られており、他に武装の類は見当たらない。
「ハッハァー! 止められるもんなら止めてみるが良いです!」
テンション高く突撃してくるニレッドを止めようと三体程のオブリビオンが刀を構えて立ち塞がる。
が、それらは蒲公英の綿毛かと思える勢いで吹き飛ばされていった。
行き掛けの駄賃と言わんばかりに、彼女は腰に吊り下げていた水晶鋏を持ってぐるぐると回転を始める。
攻撃範囲の外に居た筈のオブリビオンは哀れにも巻き込まれ、空高く打ち上げられて行く。
その後を追い掛ける様に木々の合間を飛び向かうのは十六夜だ。
派手なニレッドの後ろで、彼は只管仕込みをしていく。
懐から取り出したのは『音の結晶』と呼ばれるもの。
爆発音の代わりに、事前に吹き込んでおいた声や音が鳴るかんしゃく玉の様なものだ。
「細工は流々、ってなぁ!」
歴戦のサポート役、嫌がらせ特化、あの職ナーフしろよ、等々実に多彩な言葉で表される彼の戦闘スタイルだが共通する認識は一つ。
敵に回したなら動かれる前に潰せ、である。
自由に動く時間が多ければ多いだけ、その戦場は猟兵の有利に傾く。
出来る事なら真っ先に対処しておきたい所だが、勿論オブリビオンはそんな事を知らない。
故に、十六夜は自由に動き回る。
「頃合だな」
最初に吹き飛ばされたオブリビオンが刀を持って戻ってくる。
張り出した木の根を踏み越えた瞬間を狙って、彼はその木の幹に仕込まれた音の結晶へ礫をぶつけた。
『隙有りぃ!』
割れた音の結晶が事前に吹き込んだ音を流す。
突如木の幹から聴こえてきたニレッドの声に思わず立ち止まり、何時でも切り返す構えのまま振り向くオブリビオン。
無論、そこには誰の姿も無い。
「ーーー盗ったっ!!」
声に気付いた時にはもう遅い。
ユーベルコード【虚張盗勢】で得物が十六夜に奪われていく。
慌てて手を伸ばしても、離脱する彼の早さには到底追い付けない。
「隙有りぃぃぃーっ!!」
先程よりも多少気合の入った声が、オブリビオンの頭上から響く。
見上げれば、オーラを纏ったニレッドが勢い良く此方へ向かって墜ちて来る所だった。
中途半端に追い掛けようと前に出た為姿勢は崩れ、更に得物は十六夜に盗られてしまっている。
為す術も無いまま、オブリビオンはオーラの着撃と共に吹き散らされ、粒子と消えた。
突然にも程が有る強襲に浮き足立つオブリビオン達の前に、新たに姿を現す者が居る。
「さあ、遊びに来たぞ上杉軍共」
ゆらりと木陰から身を躍らせたのは遠呂智・景明だ。
何処かハイカラな雰囲気漂う袴姿に汚れ一つ無い『白雪の羽織』を纏い、黒く染まった刀身が目を引く刀『黒鉄』を提げている。
漸く理解の及ぶ敵が現れたかと、オブリビオンには安心した様な空気さえ流れている。
「そりゃあ気を抜き過ぎじゃねえかい?」
左の人差し指を滑らせ印を結ぶ。
ユーベルコード【風林火陰山雷 雷霆の如く】が発動し、近くの木陰に潜ませていた総勢七体の精霊が一斉に雷撃を放つ。
紫銀の稲光が空気を切り裂き、オブリビオンの体を食い破っていく。
瞬時に二体の仲間を葬られたオブリビオンは直ぐ様刀を構えるが、構えた所で対処が出来なければ意味は無い。
「遅いぜ?」
気付けば眼前に迫る景明の姿。
刀を引こうと腕に力を篭めるが、煌く剣閃は更に速い。
抵抗らしい抵抗も出来ぬまま、オブリビオンは両手首と頭を切り離されていた。
粒子に還って行く崩れた肉体の先から、景明の双眸が覗く。
「久しぶりのこの世界での戦だ、雷鳴鳴らして張り切っていかねぇとなぁ!」
気炎を上げる剣客の姿に物怖じする中、一体のオブリビオンが前に出る。
正眼に構え、相打ち覚悟で切り結ぶ心算らしい。
捨石の心算で掛かってくるとなると対処はやや面倒なものになる。
鬱陶しそうに眉を顰める景明だったが、直ぐにニヤリと口の端を吊り上げて後方へと飛び退く。
何を狙っているのかと意識を眼前へと向けるオブリビオンだったが、脅威は背後から迫ってきていた。
「油断大敵だよ」
声に反応する暇も無く、オブリビオンは後方上部から放たれた光線に貫かれた。
ぽっかりと空虚を主張する胸部を認め粒子へと還る仲間を目の端に捉えつつ周囲のオブリビオンが振り返ると、太い木の枝を擦る様に動き回るシルエットが見えた。
しかしそれは一般的な人影では無い。
幾つもの足と膨らんだ腹、そして伸びる人の上半身。
「ユーベルコード【Arachnophobia】……少し刺激的な格好だったかな?」
大蜘蛛型の多脚機動砲台に腰を下ろした、銀髪の女性。
リズ・ルシーズはウインクを一つ残して木の裏へ着地し駆けて行く。
オブリビオン達が慌てて追い掛けるも、既にその場にリズは居ない。
「どんな悪路でも多脚なら!」
張り出した木の根や背の高い草葉を物ともせず軽快に動き回る。
逆に背後を取ったリズは腹部の砲門から粘着性の糸を吐き出した。
絡め取られ幹に磔にされるオブリビオン。
「頃合だね!」
「おし、下がるぞ!」
リズと景明の声を受け、十六夜は掻き集めた刀を持って距離を取る。
この僅かな間に幾つ抜き取ったのか、零さんばかりに抱え込んでいる。
「へいへいサムライ魂ビビってるー!」
適当に煽りつつ退却するニレッドの後ろを数人が追い掛けて来るが、突如足元を襲う揺れにその歩みを止められる。
「な……なんだ!?」
思わず戸惑いの声を上げるオブリビオン。
四人の猟兵は既に退却したらしく周囲に気配は無いが、それとは別の異質な空気が俄に充満し始める。
何が起きるのかと構えていると、不意に鳴動が左手、坂の上から響いてきた。
「派手に壊さないでくれよ?派手に壊されたら、泣く。痛い思いしたくなければ、壊さないことだな」
語のユーベルコード【人形行列】で呼び出された小型の人形が列を成して坂を下る。
人形が波となって押し寄せてくる様は旧き良きホラーとも言える。
そんな情緒を感じ取ったか、オブリビオン達はうっと後退りをした。
「ええい、怯むな1 たかが人形如き!」
威勢の良いオブリビオンが人形に立ち向かい、その内の一体を切り捨てる。
その途端、人形は小規模な爆発を起こした。
爆炎と熱波が押し寄せ、最も近くに居たオブリビオンはその身を焼かれ果てる。
「爆弾代わりか……!」
人形の用途を見破るが、有効な対抗手段は咄嗟に出て来ない。
逃げるにせよ迎え撃つにしろ此処では少々部が悪い。
千曲川に程近い場所なら幾つか拓けた所がある。
一度そこへ向かって態勢を立て直すべきだ。
そう考えたオブリビオン達は背後へ踏み出そうとするが、不意に襲い来る謎の重みに遮られその一歩が踏み出せない。
何事かと狼狽える彼等を襲っているものの正体は、重力。
「そう、教えてあげる。ボクの瞳から逃れられない!」
ステラのユーベルコード【天瞳魔人重石】が、オブリビオン達の動きを縛る。
赤く輝く両の瞳から放たれた超重力波が纏わり付き、水の中よりも重く硬い抵抗を返す。
もたもたしている間に人形達はオブリビオンに追い付き。
「…………なに?」
そのまま彼等の横を通り抜ける。
てっきり襲い掛かってくるかと思った人形はオブリビオン達のやや下手に陣取ると、壁を作るかの様に並び始めた。
川辺の方角には一人も逃さない、と言う気概を感じる。
しかし、ただ一方向だけを塞いで何をすると言うのか。
疑問を浮かべる彼等の耳朶を、今度は山鳴りの様な音が振るわせる。
「造られし者よ、起きよ、目覚めよ。汝は蜻蛉、汝は仮初。魔女が望むは刹那を彩る泡沫の夢」
まるで謳う様な詠唱と共に発動されたのはメンカルのユーベルコード【浮かびて消える生命の残滓】だ。
筋力に並々ならぬ強化を施された雄々しき猪の黄金像が、仮初の魂を得て今眼下に押し寄せる。
粒が小さければ稲穂の海とでも称せたであろうが、これは最早災害。
荒れ狂う金色の濁流が一気にオブリビオン達へと迫る。
咄嗟に逃れ様にも体は重力で縛られ身動きが取れない。
如何にかしようと身を捩る最中、一体のオブリビオンが気付いた。
「背後の人形の壁……! これを狙ったか!」
足を止められ、前からは黄金の猪が迫り、背後には爆発する人形が待ち構える。
逃れる術が有る筈も無く、オブリビオン達は爆炎に飲み込まれた。
衝撃が収まり、吹き抜ける風が黒煙を運び去った頃。
千曲川の傍の地形は一変していた。
猪の群れが木々を薙ぎ倒し、爆炎がそれらを吹き飛ばし、また燃やし尽くした結果。
坂は削られ見通しは良くなり、行楽にも耐え得るだけの平坦な道が出来上がっていた。
「おのれ猟兵共、此処まで派手な事をするとは……」
その拓けた地の上では、幸運にも攻撃を逃れたオブリビオンが八体、刀を構えて周囲の様子を窺っていた。
敵部隊の半分以上は先の攻撃で消滅した様だが全滅とまでは行かなかったらしい。
勿論、それらを見逃す猟兵では無い。
「来なさい、登壇のお時間です。舞台の幕は上がりました。演者が揃う時間です」
アマータ・プリムスは【Date et dabitur vobis】で南瓜頭の案山子『ネロ・フラーテル』を呼び出す。
大鎌を構えてけけけ、と不敵に笑う姿はハロウィンのお化けの様だ。
自身も武器改造でミサイルランチャーへと姿を変えたガジェット『アルジェントム・エクス・アールカ』を構える。
「蒼き水竜よ! 真の力を俺に!! 超変身!!」
時雨・零士は【フロストリヴァイアサンオーバーロード・フォーム】へとフォームチェンジを行う。
ベルトの『デオルム・ドライバー』からシステムボイスが鳴り響き、果て無き深海と曇り無き氷柱の間を自在に泳ぎ回る竜の力をその身に宿す。
彼の周囲は早くも気温が下がり、冷気の渦が静かに足元で渦巻いていた。
「影よ」
短い詠唱で【ダークハンド(改)】を操るのは鈴城・有斗だ。
体躯を覆う影は両手両足に収束して行き、肉を割き骨を砕く力強いフォルムを形成していく。
今回は更に、腰の後ろ辺りから蜥蜴状の長い尻尾も生やしてある。
「さーて、一番槍は逃しちゃったけどしっかり仕事はさせてもらおうかしら」
臨戦態勢の三人の後ろから、電球を体に這わせた少女が歩いてくる。
緋神・美麗は青白い雷光に顔を照らされながらゆっくりと進み、びしっと人差し指を突き付けた。
「怨みは無いけど此処で倒させてもらうわ! これが私の全力だーっ!」
体に這わせていた電球を一つの大きな電球に纏め、指先から打ち出した。
ユーベルコード【出力可変式極光砲】による電球の一撃がオブリビオン達へと迫るが、オブリビオン達は辛くも逃れる。
着弾した電球は破裂し、十字に電球の欠片を撒き散らしていく。
それは丁度二体ずつにオブリビオンを分断した。
「各個撃破でも狙う心算か……!」
「あったりぃー」
頭上から聴こえて来た声にオブリビオンは咄嗟に飛び退く。
一瞬遅れて電球が地面を抉り、ぱちぱちと弾けながら空気に溶けて行く。
見上げれば美麗が雷の翼と追加装束を纏い、上空に舞い上がっていた。
「空を飛ぶか、面妖な」
「オブリビオンに言われたくなーい!」
相手の頭上と言う圧倒的に有利な位置に陣取り、美麗は次々に電球を打ち出していく。
如何にかそれらを避けて行くが、先程までの鬱蒼とした木陰は姿を消し身を隠せる様なものは何一つ無い。
足元の小石を蹴り飛ばしながら走るオブリビオンだったが、遂に捉えられ電球に打ち抜かれる。
一瞬の発光を経て、その体躯は力を失い土へと倒れ伏した。
片割れの絶命に、もう一体のオブリビオンは自棄を起こして刀を投擲した。
狙いは美麗の心臓。
切っ先が風を切り裂きながら飛来するが、その刃が肉を裂く事は無かった。
「盗ってくれって言ってる様なもんだぜ」
「やるぅ!」
戻って来た十六夜が鍔にワイヤーを絡め、刀を奪い取って行く。
他の猟兵の存在は意識の外に有ったのか、オブリビオンは我が目を疑うかの様に大袈裟な反応を見せる。
当然ながら、そんな余裕を見せていながら避け切れる程美麗の攻撃は温く無い。
「これでとどめっ! 消し飛びなさーい!」
丸腰になったオブリビオンは為す術も無く、電球に飲み込まれていった。
千曲川の川原では、有斗が獅子奮迅の戦いを見せていた。
普段は剣や刀を主体とした戦いをする彼だが、今回は影で作り出した手足を使って立ち回っていた。
袈裟切りで挑んできたなら後方への飛び退りからの背踏みで二の太刀を止めると共に相手の動きを封じ、手に這わせた影の爪で相手の胸元を抉る様に突く。
胴を薙いできたなら手を打ち鳴らす様に合わせ白刃取りにし、一瞬動きが止まった所へ勢い良く地面を踏み抜き両足を揃えて相手の顎を下から蹴り上げる。
二対一、と言う数の差を全く感じさせない見事な戦いだ。
刀を振るう度に二体のオブリビオンはその身に傷を重ねていくが、一方の有斗はただの一度も刀傷を負っていない。
掠り傷さえ負わせられない状況に、オブリビオンは自身も知らぬ間に焦りを募らせていた。
自覚しない焦りは少しずつ思考を縛り、攻撃を単調なものへと変えていく。
動きは徐々に大振りに、止めの動作は徐々に滑り行く。
そして決壊。
「ぬかった……!」
切っ先が泳ぐ切上を放ってしまったオブリビオン。
舌打ちと共に刀を戻そうと腕に力を篭めるが、有斗がその隙を見逃す筈も無い。
「もらった」
体躯を後ろに倒す様にして刃を避け、その倒れ込む勢いを利用して腰を回す。
本来なら何の脅威も生まぬ動作だが今の彼には切り札が有る。
影で作り上げた尻尾。
弾力性・伸縮性に富んだ漆黒の尾が地をなぞる様に滑り、真下からオブリビオンの顎を打ち上げた。
力の全てを逃す事無く伝える会心の一撃。
体を浮かせる事も侭なら無かったオブリビオンの首がごきりと音を立てて、背中側へと折れ曲がる。
一呼吸の暇も無く、その体は粒子と化して消えて行った。
「隙有り!」
「無い」
攻撃後の硬直を狙ってもう一体のオブリビオンが突きを放つ。
気合を込めた言葉を素気無く一蹴し、有斗は半身だけ、身を捻る。
服の表面を擦る事も無く刀は摺り抜けて行き、無防備な体勢を晒すオブリビオン。
その顔へ、捻りを戻す勢いを乗せた裏拳を放つ。
着撃と共に破裂音に似た音色が響く。
ぐるりと首を横に一回転させて力を失った身体は粒子となり地に溶けて行った。
(……段々獣染みてきてる気がする)
呼吸を整えながら、有斗は自身の戦い方の行く末がほんのちょっぴり気になった。
そこから程近い、玉砂利の表面を川の水が洗い行く場所では二体のオブリビオンが見事なまでに翻弄されていた。
「遅いぜ、何処見てやがる!」
宇宙空間も疾走出来る大型バイク『カオス・アクセラレイター』の壮絶なスピードに付いて行けず、右往左往する間に打撃を喰らうオブリビオン。
速くても飛脚程度の速度しか目にした事の無い彼等に、バイクの制動は捉え切れない。
「とは言えバイクに乗ったままじゃ埒が明かねぇか」
空中に停めたまま、零士は地面へと降り立つ。
あのまま攻撃していても良いのだが、最大火力が出せない為討伐に時間が掛かってしまう。
大した相手でも無いのに戦闘を長引かせる必要も無いか、との判断だ。
「舐めおって……!」
「だが切り合いならば負ける道理等無いわ!」
下に見られたと憤り、血気盛んに吼えるオブリビオン達。
連携を取りながら同時に斬り掛かってくるのを、零士は拳を打ち鳴らして迎え撃つ。
振り下ろしには柄尻を叩いて跳ね上げ、切上には刀の腹を叩いて逸らし。
突きは大きく下がって距離を離し対応する。
「避けてばかりか!」
攻めに転じないのを見て、オブリビオンは益々勢い付いた。
上段に構えたまま駆け寄ってくるのを眺めながら、零士は左腕を持ち上げる。
広げた掌の中心に力を集めるイメージを込め右から左へと払う様に動かす。
すると足元を流れる水が球体となって浮かび上がり、振るわれる刀を包み込んでいった。
「なっ、なんだこれは!?」
オブリビオンは如何にか刀を水球から引き抜こうとするが、押しても引いても水球は刀を捕らえたまま離さない。
潜ったまま刀を振るっているかのような鈍い動きしか出来ず、とても使い物にはならなさそうだ。
ならばともう一体が斬り掛かるが、今度は足首に纏わり付いた水輪が急に凍り付き、両足の自由を奪われてしまう。
それを眺めながら零士はマスクの下でふっと笑う。
「その程度の枷すら割れない様じゃ、ヒーローの相手は務まらないぜ?」
「奇術を弄しておいてほざくか!」
「猟兵が聞いて呆れる!」
「何とでも言えよ。俺は野心しか抱いてねぇお前らと違って、この世界の……いや、この世界だけじゃない。ヒーローとして皆の笑顔を背負ってるんだ。平和に暮らす人達の為にも、負けるわけにはいかねぇ!」
啖呵を切った零士は両腕を交差させ、徐々に両腕を真っ直ぐ前へと伸ばしていく。
その動作に呼応する様に足元から川の水が持ち上がり形を変え、左腕には水竜が、右腕には氷竜が絡み付く。
両腕が真っ直ぐに伸びた瞬間、二体の竜はオブリビオンへと襲い掛かった。
「暗い尽くせ!」
「その程度の奇術等……渇!」
氷の枷を嵌めたオブリビオンが気合と共に刀を振るうと、水・氷の両竜が弾ける様に切り飛ばされた。
間を置かず自分の足枷と仲間の刀に纏わり付く水球を打ち払う。
その様子に、零士はひゅうと口笛を吹いた。
「やるねぇ。ただの雑魚じゃないってか」
「一度目は見逃すが、奇術は二度も通じぬ!」
「奇術奇術って、手品じゃねぇんだけどなぁ」
苦笑いを浮かべつつ、じゃあと口を開く。
「それなら次は小細工無しだ。一撃で仕留める」
空気が変わったのを感じてか、オブリビオン達が腰溜めに構える。
先手を取っての必勝では無くカウンターを決めての不敗へと。
本来であればその選択は間違いでは無い。
ただ、相手が悪かった。
「いくぜ!」
両足に力を込め、高く飛び上がる。
カオス・アクセラレイターが展開した光の足場を蹴り、オブリビオンへを向きを変える。
回転しながら体勢を整え左脚を曲げて右足を真っ直ぐ伸ばす。
足先を氷の結晶が覆い、周囲を白く染め上げていく。
「魂まで凍り付け! フロストブレイク!!」
「ぬぅ……!」
交差に合わせて刀を振り抜こうとするが、腕を振るうよりも速く零士は跳んだ。
先ず右側の一体を蹴り抜き、その全身を霜柱で包む。
着地と同時に右足を軸として、体躯を大きく反時計回りに。
遠心力も加えて放った左の後ろ回し蹴りが、残るオブリビオンを蹴り抜いた。
背後からの強襲に反応する事も出来ず、オブリビオンは霜柱へと姿を変える。
「お天道様に、罪も溶かしてもらいな」
その言葉を受け、霜柱は溶け水に戻る。
ぱしゃり、と音を響かせて水は川の一部となり、さらさらと何処かへ流れて行った。
或る種幻想的な戦闘が起きていた此処とは違い、山道側の場所ではどっかんどっかんと派手な爆発が起きていた。
「いい的です」
「援護するよ!」
音の発生源は絶え間無く続く砲撃の嵐。
その下手人はアマータとリズである。
と言ってもリズは砲撃から逃げ出そうとするオブリビオンを足止めする為に多脚自立砲台で援護射撃を行っているだけ。
この状況の八割以上はアマータの放つミサイルランチャーが作り上げていた。
「ぬうおおおお!?」
野太い悲鳴を上げながら逃げ惑うオブリビオンは、ミサイルと共に迫り来る大鎌を構えた南瓜頭の案山子の対応に追われていた
爆炎の隙間を縫う様に、時には爆風を利用して舞い上がりながら大鎌をぶんぶんと振ってくる案山子の姿は、彼等にとっては死神同様に写っていたのかもしれない。
追い払おうと刀を振っても、捉えるのは空気ばかり。
ひらりひらりと軽快に避けながら、南瓜頭の案山子、ネロは笑い声を上げる。
『ケケケ、当たらねーなァ! こう振るうんだヨォ!』
大鎌を唐竹に振り下ろし、刃を中程まで苦も無く地面に沈める。
当たれば只では済まないその威力に肝を冷やす暇も無く、次のミサイルが飛来する。
「爆弾を投げ付けるとは卑怯な!」
「卑怯もラッキョウもありませんよ」
冷静にミサイルを撃ち続けていくが、弾速が遅い所為か有効打は与えられていない。
反撃させず回避を強要するには丁度良いが、当たらなければ折角の火力も派手な花火でしかない。
「となるとそろそろ仕掛けますか」
アマータはアンジェントムを一度置きトランクに戻し、一本の箒を取り出した。
勿論普通の箒ではない。
柄に刀が仕込まれた『アウラ・スコパェ』と言う名の武器だ。
普通の箒としても使えるが、他には無い特色として風を操る事が出来る点が挙げられる。
『お、よーやくやる気になったかヨォ』
「合わせなさいよ」
『そっちこそナ!』
家族故の気安い呼び掛けに、けけけと上機嫌に笑うネロ。
アマータは構えたスコパェで、一度、二度と足元を払う仕草を見せる。
一度目で生まれた風はオブリビオンの周囲に立ち込めていた黒煙や土埃を集め、周囲から絡め取っていく。
ミサイルの飛翔音が聴こえなくなった事でネロの斬撃に集中して注意を払っていたオブリビオンは、突如視界が晴れた事に警戒を滲ませている。
そこへ届く二度目で生まれた風。
それは先程纏めた黒煙や土埃を巻き上げながら、オブリビオンの背中を押す様に支えた。
「風が……うおっ!?」
崖際であったなら救いの風となっていたであろうそれは、今この瞬間に於いては死神の旋風と化していた。
『追い駆けっこはもう、終わりだナァ?』
けけけ、と言う笑い声と共に振り下ろされる大鎌。
逃げようにも、身体は風に押されて体勢を崩している所だ。
断末魔の叫びを上げる事も無く、オブリビオンの身体は縦に両断された。
「撃破ですね。……はて、此方に居たオブリビオン、一体足りなくないですか?」
箒を携えたまま首を傾げるアマータの元へ、空からふわりとニレッドが降りてくる。
「もう一体も間も無く倒されますよ。他のオブリビオンも撃破確認です!」
「この戦場での強襲は成功だね!」
ニレッドの言葉にリズが笑顔を浮かべる。
色々と地形が変わる程の戦いでは有ったが、無事に終える事が出来てほっとした様子だ。
そんな風に笑い合う三人の姿を、近くの藪に身を潜めたオブリビオンがじっと見ていた。
この個体は美麗の電球とアマータのミサイルの爆発のどさくさに紛れ身を隠す事に成功したものだ。
此処で唯一の生き残りとなったオブリビオンは、刺し違える覚悟を決めていた。
「せめて一人、骸へと変えてくれるわ……!」
鯉口を切り忌々しげに彼女達を見詰める。
その笑顔を恐怖を苦痛に歪めてやろうと一歩踏み出そうとし、突如目の前に生まれた銀色の光に意識を奪われる。
「は……?」
「いけねぇな、お前さん。刀が泣いてるぜ?」
迷彩技能を駆使して背後に回り込んでいた景明が、オブリビオンの胸元を刺し貫いていた。
自身が斬られていた事に気付き、力無く項垂れて粒子と化す。
その残滓を見送って、景明は刀を納める。
「お、片付きましたか」
仕事を終えた景明に気付き、ニレッドが手を振る。
それに片手を挙げて応えながら、景明は皆の下へと向かった。
信州上田城周辺、千曲川下流域。
布陣していたオブリビオン部隊総勢二十名は、ものの数十分で討ち取られたと言う。
数の上で勝っていようとも、それを指揮する者が居らねば脆い。
それは人もオブリビオンも変わらないらしい。
大成功
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