エンパイアウォー②~奥羽屍人戦線~屍を屍に戻し、死者に
「や、やめろ! 俺達は仲間だろうが!」
奥羽地方某所、そこには恐怖の入り混じった悲痛な叫びが響いていた。
叫びの主は揃えの防具に武器を構える武士達。その視線の先には、同じ防具を纏いつつも、どこか虚ろな目をした者達。両者の大きな違いは肩から突き出た水晶の有無にあろう。共にオブリビオンと戦う志を持って戦場に立った筈の彼らに何が起こったのか。
「気を付けろ! この水晶の生えた奴らに噛まれると水晶が生え、理性を失うぞ!」
武士の指揮官らしき人物が声を大きく張り上げるが、かつての仲間達と向かい合う武士達の士気は次第に下がっていく。
武士たちはジリジリと後退を始め、敗北の二文字が脳裏にちらつき始める。
水晶の生えた奴ら、『水晶屍人』の一体一体の強さはさほどでもないが、巧みな指揮により戦線は悪化していく。
「指揮官を討たねば、ここで終わってしまう……!」
武士の誰かが、そう呟く。
だが敵の指揮官はこの『水晶屍人』の向こうにいるのは間違いがなく、手出しが出来ないのが現状だった。
奴らの仲間入りをするぐらいなら、と最悪の自体を想定しつつも武士達は背後の待ちを守るため、『水晶屍人』へと立ち向かうのだった。
「という訳だ」
奥羽地方における現状を一通り説明したウィルトスはグリモアベースに集まった猟兵達に向き直る。
「この『水晶屍人』は江戸を目指して進軍している」
もし止めることが出来なければ江戸に防衛戦力を大幅に割く必要が出てくるだろう。
「今回の作戦の趣旨はこの『水晶屍人』の指揮官を討ち取ることだ」
それはつまり『水晶屍人』の群れに飛び込み、指揮官探すということで相応の手段を取る必要があるだろう。
また、指揮官も相応の強さを秘めているであろうことからその対策も重要となるだろう。
「強さについては一概に言えないが、決して勝てない相手ではない」
そこまで言うとウィルトスは集まった猟兵達、一人一人の目を見てエールを送るように言葉を添える。
「油断だけはするな、また会えることを願っている」
峯雲
お久しぶりです。
今回は指揮官の撃破が目的であり、『水晶屍人』の全滅は必要ではありません。
『水晶屍人』には理性というか、知性がないので指揮官さえ打ち取れば諸藩の武士でも打ち取れる強さです。
そして『水晶屍人』は字の通り屍、生者ではありません。
皆様のプレイングをお待ちしております。
このシナリオは、「戦争シナリオ」です。
1フラグメントで完結し、「エンパイアウォー」の戦況に影響を及ぼす、特殊なシナリオとなります。
第1章 ボス戦
『細川ガラシャ』
|
POW : 花も花なれ、人も人なれ
【自らの周囲に吹き荒れる白百合の花びら】が命中した対象を捕縛し、ユーベルコードを封じる。ただし、解除するまで毎秒寿命を削る。
SPD : 怒れる慈愛
自身の装備武器に【ガトリング砲】を搭載し、破壊力を増加する。
WIZ : 鬼の女房に相応しい蛇の女
自身が【困難に立ち向かう心の強さ】を感じると、レベル×1体の【自身と共に殉死した侍女の霊】が召喚される。自身と共に殉死した侍女の霊は困難に立ち向かう心の強さを与えた対象を追跡し、攻撃する。
イラスト:梅キチ
👑11
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵
|
種別『ボス戦』のルール
記載された敵が「1体」出現します。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。
| 大成功 | 🔵🔵🔵 |
| 成功 | 🔵🔵🔴 |
| 苦戦 | 🔵🔴🔴 |
| 失敗 | 🔴🔴🔴 |
| 大失敗 | [評価なし] |
👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。
※このボスの宿敵主は
「鍋島・小百合子」です。ボスは殺してもシナリオ終了後に蘇る可能性がありますが、宿敵主がボス戦に参加したかつシナリオが成功すると、とどめを刺す事ができます。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。
その戦場は地獄だった。
呻くような声を漏らしながら、ただただ前進してくる『水晶屍人』に対して半狂乱になりながらひたすらに長物を振り回す武士達。
かつて『水晶屍人』を迎え討たんと意気揚々と鬨の声を上げていた武士団の姿は既になく、
生き残った武士達が寄り集まってなんとか『水晶屍人』の攻勢を凌いでいた。
既に死んでいるが故の常識外の突撃や伏兵、『水晶屍人』に殺された者が『水晶屍人』となって襲いかかってくるという従来とは大きくかけ離れていた戦いは大きな被害をもたらしていたのだった。
そんな状況でも猛攻を幾度となく凌いできたが、その度に武士は数を減らしていく。
後退を続けるこの戦場は敗走も時間の問題だった。
ジニア・ドグダラ
なるほど、彼らもオブリビオンと化しているのでしょう。であれば……
武士たちの窮地を救うため、【高速詠唱】で素早く骸骨霊を召喚、【怨嗟の声】で周囲一帯の水晶屍人を攻撃……でなく、【呪詛】塗れにし、私が操作しやすいようにします。武士でも討ち取れるとはいえ、数での戦闘は面倒ですからね。操作する屍人達を、他の屍人と戦わせ、骸骨霊に乗り指揮官を捜索していきましょう。
指揮官を発見後、骸骨霊に支配した屍人の魂を喰らう術式を付与し【存在感】を強め、敵の視線を【おびき寄せ】ます。骸骨霊はそのまま戦闘させ、私自身はワイヤーフックを駆使して飛び降り、【目立たない】よう敵の姿に隠れながら、死霊拳銃による狙撃を行います。
月代・十六夜
おいおい物騒なもの持ち出して来てんなぁ。
だがその手の大物は癖も強い、さーてやってやるとしますか。
【韋駄天足】の【ジャンプ】と【スカイステッパー】を併用、周囲の水晶屍人を盾に使いながら吐き出される弾の軌道を【視力】で【見切っ】て避けて【時間稼ぎ】を行う。
あるかも分からんが弾切れがあるからそのまま粘れば良し、無くても居合の構えを時々入れて攻撃に行くような【フェイント】を入れておけばそうそう目は切れんだろ。
それでも注意を外すなら電光石火よ。それまでの時間で【学習】した【情報】で【見切っ】て一息に近づいて居合…と見せかけた【指鳴】!そして一目散に退散!
さぁ遊ぼうぜぇ!
トリテレイア・ゼロナイン
『水晶屍人』…戦力を増やし進軍する厄介な性質に加え、将による指揮が加われば徳川軍には荷が勝ちすぎているでしょうね…
そんな厄介な相手の矢面に立つことこそ、猟兵の、騎士としての務めです
機械馬に●騎乗しUCでスラスターを全開にして敵中に突撃
●怪力で振るうランスの●なぎ払いと馬の●踏みつけ、●シールドバッシュで蹴散らしながらガラシャを捜索
屍人は屍、体温は低いはず。マルチセンサーで●情報収集、体温の違う敵がガラシャと●見切り、花びらを頭部、肩部格納銃器での●スナイパー技能で撃ち落としながら突撃を敢行
敵将とお見受けしました。いざ勝負!
ところで、私の派手な突撃に気を取られすぎですよ
猟兵は一人ではないのです
アマータ・プリムス
なるほど、この戦場では迅速かつ早急に事を運ばねばなりませんね
スコパェを使い風を巻き起こし水晶屍人を吹き飛ばしながら敵の元へと参りましょうか
「邪魔ですよ。当機は急いでいるのです」
そのままボスへとたどり着き箒と槍で切り結びます
相手のUCを発動された所で風を巻き起こし花弁を吹き飛ばしてしまいましょう
「花弁を飛ばすのであればこちらへ来ないようにすればいいだけのこと。残念でしたね。やりなさい、ネロ」
吹き飛ばした花弁をネロに吸いこませ敵のUCを無効化
その隙をつきスコパェの仕込み刀を引きぬき一閃
同時にフィールムも腕へと巻きつかせてその身を捩子切らせていただきます
「急いでいますので多少手荒でもご勘弁を」
不破・彩雅
うむ、うむ。まるで某ゾンビ映画だな。
早めに倒さねば兵が危うい、どれ、一つやってみるとしようか。
【WIZ】
とはいえまずは指揮官を探すことになるが……うむ。
面倒だな、これは他の仲間に任せよう。
木の上から探してはみるが、あまり期待はしないで欲しい。
だが相手は女人の武将だ、見つからないことも無いだろう。
そして私は近づかずとも視界に捉えられればそれでいい。
ユーベルコードにて内側から燃やし尽くしてやるとしよう。
燃え尽きるのが先か、貴様の霊が私を見つけ辿り着くのが先か、試してみようではないか。
テレポートで奥羽の戦場にやってきた五人の猟兵。彼らの目の前には疲弊しながらも懸命に『水晶屍人』と戦う武士たちの姿があった。戦況を察するに今は五分といったところだが、疲れを知らぬ『水晶屍人』に押し切られるのは時間の問題だった。
「この戦場の限界は近いと判断いたします。迅速かつ早急に事を運ばねばなりません」
そう言い切ったのはメイド服を纏ったアマータ・プリムス(人形遣いの人形・f03768)だった。彼女の視線は戦場に向けられていたが、彼女の眼差しはどこか別のより大きなものを見据えているようでもあった。
「ならばこうして話している時間は無用。この局面にて矢面に立つことこそ猟兵の、騎士としての務め。急ぎ先行して戦線の維持を図りつつ、指揮官の捜索にあたります」
その言葉を紡ぐや否や、白き騎士、トリテレイア・ゼロナイン(紛い物の機械騎士・f04141)は巨大な機械の白馬、ロシナンテⅡに跨り、風の如く疾走していく。彼の目指す先には『水晶屍人』の群れ。彼はその群れの中に一切の躊躇なく突撃していくのであった。
「ええ、そうですね。急ぎましょう」
そのトリテレイアの後を追ってアマータも駆け出していく。そしてその場には早すぎる展開に少しおいてけぼりを食らった三人の猟兵が残ったのだった。
「即決だなぁ。この波に乗り遅れないように俺たちも早く行こうぜ」
残った三人のうち最初に口を開いたのはシックな衣装に身を包んだ月代・十六夜(韋駄天足・f10620)だった。早く行きたいという考えが彼の口ぶりからは伝わってくる。しかしそれでもここに残っているのは自分ならば追いつけるという余裕の現れでもあった。
「そうですね、私達も行きましょう。分断されるのはよくないですから」
そう言葉を返すのは棺桶を背負った少女、ジニア・ドグダラ(白光の眠りを守る者・f01191)。彼女は分断の危険性を口にしつつも、その視線の先には今もなお『水晶屍人』と交戦を続ける武士団の姿があった。
「助けられる人は助けたいですし」
そういうと彼女は戦場へと足を運び始めるのだった。しかし……。
「おっと、不破は行かないのか?」
十六夜の言葉の先、不破・彩雅(忠義臣・f19165)は一人戦場とはまた別の方向へと足を向けていた。彼はその言葉を受けて少し立ち止まると少し考えるような素振りを見せてから言葉を返す。
「目的の指揮官だが……私は高所から探して見るとしよう。あまり期待はしない欲しいが」
それは面倒だから捜索は任せるという、本音を隠し、それっぽい言葉で彩りつつ保険を忘れないという賢者ムーブ。彩雅はそう言い切ると、登るのに手頃な木を探して歩みを進める。
「それで指揮官の撃破には参加出来るのですか?」
と、ジニアが背中に声をかけるが、返ってきたのはある種の自身に満ち溢れた返答だった。
「私は近づかずとも視界に捉えられればそれでいいんだ」
そう言い切るだけの何かがあるのだろう。二人はそう判断し、戦場へと向かうのだった。
「道は私が切り開きます」
数多の『水晶屍体』で埋め尽くされた戦場では既にトリテレイアが突撃し、大暴れしていた。彼の膂力で振るわれるランスは群れる『水晶屍体』を容易く薙ぎ払い、騎乗するロシナンテⅡは踏み倒す。それらを運良く掻い潜ってトリテレイアに組み付こうとする『水晶屍体』も何体かいたが、強烈なシールドバッシュによってあえなく砕け散る。そうしてトリテレイアが突撃した後は空白の道が出来上がる。それは少し待てば塞がるような束の間の道であったが、そこにアマータが素早く身を滑り込ませる。
「邪魔ですよ。当機は急いでいるのです」
彼女の敵への最低限の礼儀として一声掛けつつ、手にした箒、アウラ・スコパェでもって『水晶屍体』を吹き飛ばす。その名に冠した通り、風を操る力を持つその箒は普段は掃除にしか使われていないがこの場においてはその真価を発揮していた。アマータは『水晶屍体』を吹き飛ばしたことでより大きくなった空白地帯を、スピードを落とすことなく駆け抜けていく。
「行きましょう。この一戦で戦況は大きく変わります」
アマータが広げた道を通るのはジニアと彼女が【蛾者髑髏襲来】で召喚した死した人々とその犠牲者で構成された巨大な骸骨霊。骸骨霊はその肩にジニアを乗せ、周囲の『水晶屍体』に怨嗟の声を撒き、呪詛を浴びせながら広げられた道を悠々と進んでいく。そしてジニアは撒かれた呪詛を媒介に『水晶屍体』を操り、道を再度埋め尽くさんと殺到する『水晶屍体』に対して同士討ちをさせるのだった。
「行け、怯むな! 彼らの退路は我らが守るのだ!」
そしてその更に後ろからは寒い懐から無理をして分けられた武士団が続いており、猟兵の退路を維持するために決死の覚悟で『水晶屍体』の群れの中までついてきているのだった。
先行して道を切り開いているトリテレイアだったが彼に高速で近づく影があった。
「よっと、念のため右の方も、左の方も見てきたがどっちにもいなかったぜ」
それは【韋駄天足】によって自身を発射することで高速移動を可能とした十六夜であり、念のための指揮官捜索を行っていたのだった。なぜそんなことを行っていたのかと言えば、既に指揮官の居ると思わしき場所には既に見当がついていたからである。
「こりゃトリテレイアの見立て道理みたいだな」
「そうか、体温を持たない『水晶屍体』の群れの中で唯一熱を持つあの場所。やはりあそここそが指揮官の所在でしょう」
ならば、とトリテレイアがその指揮官の居場所へと最後のスパートをかける。
「私が先行します! 後は頼みましたよ」
トリテレイアが行うは【機械騎士の突撃】、それは敵からの注目を否応なしに集めてしまうユーベルコード。しかしそれと引き換えにロシナンテⅡの推進機の出力を向上させ、その出力でもって一息に大群を崩すことが可能なユーベルコードでもあった。
「後は頼むってね。まあ上手くやるさ」
十六夜のそのつぶやきは届いたのか、否か。それとほぼ同時にトリテレイアは突撃を敢行するのであった。
一方、戦場の後方、木の上。
そこでは不破が手でそれぞれ丸を作るとその中から戦場を見通していた。
「なるほどなるほど。あそこに指揮官がいるわけだな」
トリテレイアの突撃は後方からでも見てとれる程派手であり、そこから指揮官の居場所を察することは容易であった。容易であったが……。
「しかしなあ、『水晶屍体』とか武士団とか骸骨霊で視線が通らないか」
指揮官の姿を不破の地点からは見ることが出来なかったのである。
「まあここは焦らずに機を待つことにしようか、木から降りたら通るものも通らないからな」
不破はそう呟きながら、木の上で戦場を見通し続ける。いずれ来るであろう機を待ちつつ。
トリテレイアが突撃した先、そこには確かに『水晶屍体』の指揮官『細川ガラシャ』が立っていた。じっとうつむいていた『細川ガラシャ』は『水晶屍体』を吹き飛ばしながら近づいてきたトリテレイアの接近を察知するとトリテレイアを睨みつけ、ただ一言、漏らすように、呻くように呟いた。
「なぜいきているの」
それがどういう意味を持つのか。それを理解出来る人間はいない。だが今の彼女はオブリビオン、それがこの世界を滅ぼす意思の現れだということはこの世界の誰もが理解出来るだろう。そしてそれを防ぐために戦うのがこの場に集まった五人の猟兵の目的なのだ。故にトリテレイアはその言葉を意に介さずに構えをとる。
「敵将とお見受けしました。いざ勝負!」
そして再び、【機械騎士の突撃】でもって『細川ガラシャ』へと突撃する。ロシナンテⅡが踏みしめた大地は大きく抉れ、蹴り上げられた土が宙を舞う。『細川ガラシャ』はトリテレイアを迎撃せんと自身の周囲に舞う花びらを渦巻きのように螺旋を描くように飛ばす。
しかしそれはトリテレイアの頭部及び肩部格納銃器によって阻まれる。彼の正確無比な射撃は一発たりとて外すことなく、全ての花びらを撃ち落としたのだった。
「お返しです」
速度を落とす事なく『細川ガラシャ』に接近したトリテレイア、ならばと『細川ガラシャ』は手に持った槍でもってトリテレイアのチャージをいなそうとするが、ユーベルコードによって強化されたそのチャージは容易く『細川ガラシャ』の身体を宙へと浮かすのだった。
だがこれで終わるほど『細川ガラシャ』は弱くはなかった。彼女は空中で体勢を整えると一切の身じろぎなく着地に成功する。その様子から彼女が武道に精通していることが伺える。彼女は着地をしてもなお、むしろ一層増してトリテレイアを睨みつける。
「しになさい」
彼女が漏らすのは先程と似たような文句。そこには彼女のオブリビオンとしての本質が込められているのだろう。しかしトリテレイアはそれを意に介することなくただ、疑問を返す。
「ところで、私の派手な突撃に気を取られすぎですよ」
――猟兵は一人ではないのです。
そこで彼女は察する自分の視線が誘導されていた事実に。しかしそこまでだった。誘導されていたことに気づいても身体は反応することが出来ない。次に彼女が感じたのは体内から焼けるような熱さだった。
「グッ……アア……!」
何らかの攻撃を受けていると、この熱をもたらした術者を探して周囲を見渡すが彼女の視界に映るのは『水晶屍人』とトリテレイアのみだった。
「やっと視線が通ったか。そら、早くせねば内側から燃え尽きるぞ」
見つからないのも当然、その術者である不破は戦場の遥か後方に陣取っており、『細川ガラシャ』の意識の外側にいたのだから。
「あ……ま、けるのはあなたたち」
しかし動揺もそこまでに『細川ガラシャ』はその身を震わせる。それは痛みや恐怖によるものではないむしろその真逆。困難にあって立ち向かう心、それが武者震いとなって彼女の身体を震わせたのだ。そして彼女の周囲に人影が一つ、二つ、三つと次々と姿を現していく。その人影の顔つきや体つきはそれぞれ違ったが、それらがまとう服は侍女が着るもので統一されていた。そして百は超えただろうか。そこまで数を増やすと侍女は一斉に顔を向ける。それは彼女に困難をもたらした者。そう、遠くから戦場を見渡している不破の方を。
「うむ、うむ。最初は某ゾンビ映画のようだと思ったがこれはまた別のホラー映画だな」
不破は自分の潜伏場所が見つかったことを理解しながらもあくまで余裕の表情を崩さない。
「居場所がすぐに割れたのは想定外。しかし私の同僚の実力は想像以上だ」
そこにあったのは他の猟兵への信頼。
「燃え尽きるのが先か、貴様の霊が私を見つけ辿り着くのが先か、試してみようではないか」
侍女の霊は不破の居る方向へと駆け出そうとする、しかしそれを阻む者があった。
「やっと追いつきました……! そしてここから先へは行かせません」
トリテレイアに遅れること幾許か。ジニアが『細川ガラシャ』の元へとたどり着いたのだった。
「食らいなさい、既に死した報われぬ屍の魂を」
彼女は骸骨霊に率いてきた『水晶屍人』の魂を食らわせる術式を付与すると、その骸骨霊を前線に上げるのだった。
骸骨霊が挙げるのは音なき呪詛の咆哮。それは不破の元へと向かおうとしていた侍女の霊の足を強制的に止めさせる。一瞬の睨み合いの後、骸骨霊と百を超える侍女の霊の間で激しい戦闘が始まるのだった。
「あ、あ、あああああ!」
もはや意味を持たない叫びが『細川ガラシャ』の口から飛び出す。それは発狂と言うべき変わりよう。そしてそれは真だったのか。自らが持つ槍にガトリング砲を搭載すると敵味方問わず乱射し始めるのだった。その予測不可能な攻撃を避けるべく、猟兵は盾に、骸骨霊にあるいは『水晶屍体』の陰に隠れることを余儀なくされる。
「おいおい物騒なもの持ち出してきてんなぁ。っと、危ねえな。ほらこっちだよ」
そう声を掛けながら『細川ガラシャ』の前へあえて姿を晒したのは、十六夜だった。彼は精密な射撃よりも出鱈目な射撃の方が避けにくいことを知っており、あえて分かりやすい囮となることで攻撃に方向性を持たせようとしているのであった。
そして十六夜の狙い通り、『細川ガラシャ』の攻撃は十六夜へと狙いが集中し、精度を上げていく。
「その手の大物は癖が強い、さーてやってやるとしますか」
そう意気込む十六夜に向かってガトリング砲の弾が飛んでいくが、十六夜はその弾を完全に見切り、時に『水晶屍体』を盾に、時に【韋駄天足】で高速で自身を発射しながら余裕を持って回避していく。一秒、二秒、三秒と。この短い間にどれほどの数の弾を回避しただろうか。
「随分と撃ちまくってるが、それ弾切れとかないのかよ」
十六夜がそうボヤくも飛んでくる弾の勢いは変わらない。だが――。
「こっちばっかし注目してて良いもんかね!」
『細川ガラシャ』が十六夜に掛かりきりになったその瞬間を狙って今まで潜んでいたアマータが素早く距離を詰める。『細川ガラシャ』はとっさに白百合の花びらを巻き上げ、アマータに向かって飛ばす。しかしそれはアマータの読み通りの行動だった。アマータの手には風を操るアウラ・スコパェが握られており、最大風力で飛んできた花びらを吹き飛ばすのだった。
「花弁を飛ばすのであればこちらへ来ないようにすればいいだけのこと。残念でしたね。やりなさい、ネロ」
その指示に従ってアマータが持つ人形にして弟、ネロが花びらを吸い込み、ユーベルコードを無効化する。そしてアマータに意識を割かれた一瞬の隙をついて今度は十六夜が接近していく。
十六夜は接近しながら、手にしていた型無で居合斬り……をすると見せかけて【指鳴】。この【指鳴】によって止められた【細川ガラシャ】の隙を見逃すアマータではなかった。
「急いでいますので多少手荒でもご勘弁を」
そのまま一気に距離を詰めると、スコパェに仕込まれた刀を引き抜き、一太刀でもって左手を切り落とし、同時にフィールムを槍を持った右腕に巻きつかせる。
「その身、捻子切らせていただきます」
そして『細川ガラシャ』の胴体を蹴って距離を取りつつ右手を切断したのだった。
これによって『細川ガラシャ』はすでに死に体。しかし最期のあがきとばかりに侍女の霊を召喚しようとする。
「ジニア様、とどめはよろしくお願いいたします」
「了解、です」
が、その『細川ガラシャ』の頭部を一発の弾丸が貫く。それはワイヤーアクションを駆使していつのまにやら骸骨霊から降りて潜伏していたジニアの死霊拳銃による狙撃。
頭部に弾丸を受けた『細川ガラシャ』はもはや声を発することなく崩れ落ちたのだった。
こうして幾重にも伏兵と囮を駆使した猟兵の戦いは勝利という形で幕を下ろすのだった。
この猟兵の活躍によってこの戦線が崩壊することはないだろう。しかし、このサムライエンパイアを巡る戦争はいまだ始まったばかりなのだった。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵