エンパイアウォー④~杯を天高く掲げよ
●儀式を止めるべく
「皆も知っての通り、サムライエンパイアのオブリビオン・フォーミュラ『織田信長』を討伐する為に幕府が島原へと軍を動かしている」
大きな羽付き帽子を目深に被り、クーナ・セラフィン(雪華の騎士猫・f10280)が周囲の猟兵達に説明を始める。
「信長が築き上げた魔空安土城に対抗する為には島原へと『首塚の一族』と一万人以上の兵を送らねばならない。けれど、信長配下の魔軍将はそれを阻止する為に幕府軍の戦力を削ろうとしている。その内の一人、侵略渡来人『コルテス』は太陽神ケツァルコアトルの力を使い富士山を噴火させようとしているんだ」
もし富士山が噴火した場合、東海・甲信越・関東地域は壊滅的な混乱状態となり、徳川幕府軍は全軍の二割以上の軍勢を災害救助や復興支援の為に残さなければならなくなるだろう、とクーナは説明する。
「噴火を阻止するには、富士の樹海に隠された儀式場で『太陽神の儀式』を行っているコルテス配下のオブリビオンを撃破する必要がある。皆にはその内の一体を探し出して倒してきて欲しい。……大まかには見えたんだけど具体的な位置までは分からなかった」
すまないね、と謝るケットシーが言うには樹海の探索が必要になるだろうという事だ。
「ちらっと見えたのはピラミッドっぽい石造りの建築物……その頂点を切り取って祭壇にしているみたいだ。祭壇の位置が樹海の木々の頂点よりやや低い位置に見えたからそこまでは大きくないと思う。樹海では見通し悪いから何か上手く捜索する方法があるといいかもしれないね」
あと視界が悪い事を活かして奇襲を仕掛ける事ができればいいかも、とクーナは続ける。
「オブリビオンの能力について見えたのは……宗教家? と言っていいのかな。とにかく大衆の洗脳とか扇動を得意としていて、儀式場にも十数人洗脳されてしまった民衆がいるみたいだ。当然オブリビオンは民衆も利用して戦ってくるだろう。とにかく儀式の成功が相手側の勝利条件だから時間稼ぎとか、ね」
ちなみに儀式は祭壇の上で小さな竜を殺してその血を聖なる杯に注ぎ、祈る事で完遂される。だから接敵してからは時間との勝負になるだろうとクーナは補足する。
「ちょっと厄介なお仕事になるかもしれないけれど、皆なら何とかやってくれると信じている。頼んだよ」
●富士の樹海にて
日は天頂にかかる頃だが、木々の鬱蒼と茂る樹海はどこも薄暗い。
その樹海に、奇妙な祭壇が組まれていた。
サムライエンパイアの様式とは異なる、異国の様式の石造りの祭壇。それを見上げ、縋るように粗末な身形の民衆達が祈りを捧げていた。
その上に立つのは一人の宗教家と思しきオブリビオン。橙の衣を纏い巻物を広げ何かを読み上げる、張り付いた笑顔の奇妙な人外。
そしてその前の石の台には大型の爬虫類の幼生が聖杯に巻き付くようにして静かな寝息を立てている。
オブリビオンが振り返り、民衆を見下ろす。
「もう少し祈りが足りない。最高潮に高まった瞬間、竜の血で祭壇を染め上げる」
そしてその時こそ、民衆を惹き付けた自作品を窮極に彩る芸術が完成し、富士の山を噴火させるという目的が達成される。
あらゆる罪や不幸は溶岩に焼かれ来世は幸福になるという教義を盲目的に信ずる民衆を見下ろし、オブリビオンは邪悪な笑みを浮かべ、幼竜へと向き直り再び巻物を読み上げ始めた。
寅杜柳
オープニングをお読み頂き有難うございます。
サムライエンパイアの存亡をかけた戦いの初戦となります。
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このシナリオは、「戦争シナリオ」です。
1フラグメントで完結し、「エンパイアウォー」の戦況に影響を及ぼす、特殊なシナリオとなります。
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このシナリオは樹海で隠れて儀式を行っているオブリビオンを探し出し、撃破して頂くシナリオとなっております。
それを踏まえたプレイングがあれば有利に戦闘を進められるかもしれません。
それでは、皆様のご参加をお待ちしております。
第1章 ボス戦
『宗教家・ニェポス』
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POW : ニューレリジョンメーカー
技能名「【洗脳式勧誘・調略術】」の技能レベルを「自分のレベル×10」に変更して使用する。
SPD : ゴートリック・パースエイジョン
対象のユーベルコードの弱点を指摘し、実際に実証してみせると、【対象の脳内に教義を語り意識を混濁させる声】が出現してそれを180秒封じる。
WIZ : アフターライフガチャコンダクター 37
【サムライエンパイアの民草の現世への未練】を代償に自身の装備武器の封印を解いて【洗脳を強化し、信者を自決すら厭わぬ殉教者】に変化させ、殺傷力を増す。
イラスト:いぬひろ
👑11
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔴🔴🔴
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種別『ボス戦』のルール
記載された敵が「1体」出現します。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。
| 大成功 | 🔵🔵🔵 |
| 成功 | 🔵🔵🔴 |
| 苦戦 | 🔵🔴🔴 |
| 失敗 | 🔴🔴🔴 |
| 大失敗 | [評価なし] |
👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。
※このボスの宿敵主は
「リダン・ムグルエギ」です。ボスは殺してもシナリオ終了後に蘇る可能性がありますが、宿敵主がボス戦に参加したかつシナリオが成功すると、とどめを刺す事ができます。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。
ネフラ・ノーヴァ
アドリブOK。
儀式場はUCストレリチア・プラチナの飛翔で探してみよう。
低空なら相手からも見えにくいだろう。
奇襲できるかにかかわらず飛翔でボスに迫る。
操られた民衆か、能力はさほどではなくても自決されるのはややこしいな。
一点を貫く刺剣だ、たとえ民衆で身の周りを固めようともボスのみを攻撃してみせよう。
体躯からして吹き出す血も多そうだ。竜ではなく奴自身の地で祭壇を染めさせてやろう。
睦川・優桜
「探し物ならお任せください!」
ユーベルコードを使用して無数の式神を樹海に放ち、ローラー作戦で儀式場を探します!
上手い奇襲方法を思い付かなかったので、奇襲は仲間に任せます!
行く手を阻む信者達を装備【大喝】で【精神攻撃】して怯ませ、
隙をついてニェポスを殴ります!
ニェポスが竜を傷つけようとしたら、竜をかばいますね!
「来世が幸せだとしても!今世で怪我したり死んだりするのは!とっても!とっても!痛くて苦しいんですよ!!」
最大の目的は、戦闘を有利に進め、勝利に導くことです。
その為なら、ある程度のダメージはやむを得ないものとします。
プリンセラ・プリンセス
「誰ぞ来よ。――捜索の時間です」
応えたのは3番目の兄、アベル。
羽扇を持ちメガネをかけ落ち着いた、だがどこか信用ならない不思議な雰囲気へと変わる。
「敵首魁が不明と。よろしい、では今回は支援に徹しましょう」
ユーベルコードを使用。敵を知り己を知れば。偵察兵が召喚される。
「39名。充分ですね」
今回は戦争ということで猟兵もそんな数が参加するわけではない。
アベルは偵察兵を猟兵につけて先んじて樹海を捜索させる。
見つければ担当の猟兵へ連絡。偵察兵同士の連絡を通じて他の猟兵へも連絡する。
アベル自身は偵察兵の指揮と猟兵への連絡を担当するので戦闘には参加しない。
相手が見えるならジャッジメントレイで牽制する程度。
●樹海を探る
富士の樹海に転送された猟兵達を真っ先に歓迎したのは濃密な緑の匂いだった。
空に太陽が見える日中であっても、この森は暗い。目標の建築物はそれなりの大きさがあるとは聞いていたが、それでもこの地から探し出すのは困難であろうと、そう思わせる空気があった。
「探し物ならお任せください!」
そんな空気を吹き飛ばすように小柄な羅刹の少女、睦川・優桜(はるかぜとともに・f00071)が言い放つと、丸眼鏡の奥の黒瞳を閉じ意識を集中。無数の式神を展開する。普段は巫女っぽくはないけれど、式神を操作する時の彼女の姿はそれらしいもの。
無数の発見され難い式神と感覚を同調させ、数を頼りに捜索を進めようとする優桜。そんな彼女と同様に、数で捜索しようとする猟兵がいた。
「誰ぞ来よ。――捜索の時間です」
軍用のウマに騎乗した金の髪の少女、プリンセラ・プリンセス(Fly Baby Fly・f01272)が呟き、羽扇を取り出し眼鏡をかける。すると不思議な事に、穏やかな彼女の雰囲気がどこか冷たさを感じる信用ならない不思議なものへと変化する。
「敵首魁が不明と。よろしい、では今回は支援に徹しましょう」
プリンセラ――ではなく、多重人格者のプリンセラの裡に宿る三番目の兄『アベル』が冷静に状況を分析し、偵察兵を召喚する。
情報とは戦場に置いて武器よりも強い、敵を知り己を知れば即ち必勝。
「39名。充分ですね」
召喚された偵察兵を見遣った『アベル』は、優桜の式神に付き添わせる形で偵察兵を向かわせる。そして式神を軸に偵察兵を先行させる事で、より広範囲を探り、情報を素早く伝達させる事が出来る。
そして、周囲を数で捜索しようとする二人を見ていた白のワンピースのネフラ・ノーヴァ(羊脂玉のクリスタリアン・f04313)も捜索を始めようとユーベルコードを発動させる。
「眩き白金の輝きに抱かれよ」
その言葉と共にクリスタリアンとしての羊脂玉の宝石質と白金の色合いが混じり、その姿を白金の姫騎士へと変じさせた。
変身が完了した事を確認したネフラは空へと舞い上がった。高度は木々にギリギリ体が隠れる程度、低空を飛行する彼女は地を駆けるだけでは探しきれないモノまで見えるだろう。
三者三様の捜索、それにより周囲の樹海の地形が明らかにされていく。視界の悪い樹海を探る上で、多数である事は特に大きな助けとなっていた。
そして程なく、偵察兵の一体が樹海にそぐわぬ建築物を発見。その情報が偵察兵自身、あるいは式神によって他の猟兵達へと情報を伝えられる。そしてそれが伝えられるや否や、猟兵達は目的の建築物へと向かい始めた。
最初に辿り着いたのは優桜と『アベル』の二人。最初に見つけた事と比較的近くにいた事が幸いしていた。
ウマから降り、切り拓かれた森の端から二人が目にしたモノは、虚ろな瞳で一身に祈る民衆と、建築物の頂上で何かを読み上げる胡散臭い異形の姿。どこまで儀式が進んでいるのかは不明だが、この場の狂気はいつ悪化しても不思議ではない、そう二人に思わせるだけの不穏さがあった。
「これは……いつ儀式が完了してもおかしくないですね」
「もしそうなら私達で時間を稼がないと!」
思案する『アベル』の言葉に、優桜が返すや否や式神を召喚してオブリビオンへと向かわせた。
だが、偶然か或いは優桜自身の殺気を察知したか、教祖の視線が優桜、そして式神達へと向く。
「邪魔者が……食い止めなさい、幸福な来世の為に」
ニェポスの言葉と同時に、民衆の瞳が狂信に染まる。そして教祖へと向かう無数の式神達へと飛び掛かった。
民衆に己の身の安全を省みる意志はない。ただ只管に、信じる教義に殉ずる程の苛烈な感情だけがあった。
式神の多くが振り払われ、優桜へと民衆の敵意が向けられようとしたその時、白金の姫騎士が細い枝をへし折りながら流星の如き勢いで飛来する。『アベル』の偵察兵から情報を受けてやって来たネフラだ。 木々の上部すれすれを飛行する彼女が水平に飛ぶのであれば、その正面には丁度いい高さの祭壇。
白金のドレスを纏い、恐るべき速度で飛び込んだネフラの血棘の刺突がニェポスを貫き、鮮血を散らしたオブリビオンの集中が一瞬途切れる。
「っ! その女を抑え込みなさい!」
ニェポスの命令に、狂信の輩となった民衆が即座に祭壇を駆け上がりネフラへと飛び掛り押さえ込もうとするが、勢いのまま突っ切ったネフラを掴む事叶わず。
そしてネフラが空中を旋回し再びその切っ先をニェポスへと向けるが、狂信者と化した民衆は教祖と崇めるニェポスを守ろうと壁のように集まり、立ちはだかる。
だが、その壁を作らんとする狂信者達の足を、式神と偵察兵が引っ張りその成立を阻む。
戦闘を不得手とするプリンセラの代わりに表に出ている『アベル』は静かに状況を読み、羽扇で偵察兵を指揮していた。他の猟兵への偵察と伝令も完了していない為、全てのリソースが此方に揃っているわけではない。けれど、それでも殉教の為に恐ろしい力を発する狂信者達を的確な指揮である程度は抑えていた。
「来世が幸せだとしても!」
羅刹の少女の叫びが、殉教者達の耳を打つ。
「今世で怪我したり死んだりするのは!」
それは春のような、生命力に満ちた叫びで。
「とっても! とっても! 痛くて苦しいんですよ!!」
精神を揺さぶる大喝が、白金の騎士を阻む狂信者達の壁に綻びを齎した。
ほんの少しの綻び、けれどそれがあるならば、一点を貫くには十分。
壁の綻びをこじ開けるようにすり抜けたネフラが突き出した血棘の刺剣に肉を貫く手応え。ぱっと舞い散った鮮血は先程よりも多く、白金のドレスが返り血に赤く染められる。
祭壇を幼竜の血でなく己自身の血で染め上げるかのような勢いで血を流すニェポス、けれどもネフラの緑の瞳が愉悦でなく苦々しさに細められる。
急所を外してしまったか、ニェポスは生きている。そしてその左手にはいつの間にか祭壇で寝息を立てていた幼竜の首が握られている。
「少々早いですが、これで儀式は――」
ニェポスが祭壇に置かれていた短刀を手に取り、左に握る幼竜の胸へと突き立てようとする。
けれど、幼竜が傷つけられないよう警戒していた優桜が反応しダッシュで接近、手にした十手で幼竜を持つ腕を殴りつける。細身の体からは想像もできない怪力の一撃に、思わずニェポスの手の力が緩んでしまい短刀は空を切る。
そしてニェポスの手から離れた幼竜を優桜が抱え、祭壇の下へと一気に駆け下りようとしたが、壁を崩し再び洗脳を強化された狂信者が行く手を阻む。
「おのれ……だがまだ失敗したわけではありません」
一瞬悪鬼のような形相を見せたニェポスだが、すぐに普段の胡散臭い笑みへと表情を戻した。
成功
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ニコ・ベルクシュタイン
ふむ、祭壇という明確な目印はあるものの、木々よりは背が低いのか
ならば上空からの索敵はどうか
【時計の針は逆さに回る】を発動、空飛ぶ箒で天高く舞い上がり
樹海を睥睨し祭壇を探そう、眼鏡でガッツリ矯正した「視力」を舐めるなよ
祭壇と敵を発見したら、頭上からの急襲で「先制攻撃」を試みるが
技の代償で随分目立つ姿になっている故、其れが叶わぬ時は
少々遅れを取っても構わぬと力任せに「Bloom Star」で殴りかかる
地上からの奇襲を目論む仲間が居ればそちらの援護になれれば僥倖
贄の仔竜も勿論のこと、罪無き人々の犠牲もなるべくなら避けたい
早期決着の為にもなるべくニェポスを最優先に狙っていこう
此の柊の杖の一撃は痛いぞ
サリー・オーガスティン
▪️戦闘心象
生贄かぁ……。ボク、ダークセイヴァー世界で、生贄要求する、狂える神に憑依されたオブリビオン倒してるんだよね。
正直気分が悪いから、出来るものなら小竜解放したいんだけどな
▪️戦闘
Drone Action発動
42台もあれば、どれかが見つけてくれるはず
(【追跡、操縦、救助活動、第六感、メカニック、コミュ力、撮影、情報収集】を乗せる)
見つけ次第【コミュ力、撮影】で仲間に知らせ、ドローンを合体させ攻撃。
(ただし、仲間が先に発見した場合、合体させずに全機ニェポスの元に向かわせる)
戦闘
小竜が生存の場合、初撃を祭壇へ向け救出
以下援護中心に、立ち振る舞う
※アドリブ、連携共に歓迎
トリテレイア・ゼロナイン
噴火の阻止は絶対
その上、洗脳された住人を傷つけず、小竜を救いオブリビオンを倒す……困難な目的ですが騎士として諦めるわけにはいきません
民衆が樹海に脚を踏み入れたなら、足跡や枝折れの痕跡があるはず
●暗視や痕跡を判別する●世界知識を用い儀式場を捜索
ピラミッドは通路を使わずワイヤーアンカーの●ロープワークで登り、●だまし討ちを敢行
侵入直後に●防具改造で装備した煙幕発生装置で●目潰し
洗脳には自身を●ハッキング、音声情報や悪性情報をシャットダウンして対抗
センサーでの●情報収集で敵や小竜の位置を●見切り、民衆を傷つけないようUCの力も借りて小竜を●怪力で回収しつつ、行き掛けの駄賃として宗教家に一撃を与えます
時は少し遡る。
樹海に残る足跡などの痕跡を探りながら進むウォーマシンはトリテレイア・ゼロナイン(紛い物の機械騎士・f04141)。洗脳された民衆を連れ込んだならばその足跡や枝折れの痕跡があるはずと彼は推測していた。
実際、暗い樹海の中でも正確に見通す彼の目は何か所かに痕跡を確認したが、所々で消されたりして飛び飛びになっているため、具体的にどこへと向かうかを判別するには時間がかかりそうだ。
そんな彼と共に薄暗い森の中をバイクで往くサリー・オーガスティン(鉄馬の半身・f02199)は幼竜の事を考えていた。
別の世界で生贄を要求する狂える神に表意されたオブリビオンを倒した事がある彼に、コルテス配下の作戦はそれを連想させるものであった。
「正直気分が悪いから、出来るものなら開放したいんだけどな」
「噴火の阻止は絶対です」
サリーの呟きにトリテレイアの清廉な騎士の声が応える。
「……その上で、洗脳された住人を傷つけず、小竜を救いオブリビオンを倒す」
困難な目的ですが、騎士として諦めるわけにはいきません、そうトリテレイアは続ける。ウォーマシンの彼らしく静かな、けれど強い声に、サリーの表情も僅かに緩む。
そんな二人の元に数字が刻印されたドローンが一機戻ってくる。彼のユーベルコードで召喚された小型カメラ付きのドローンは合計42台、カメラに撮影された画像を確認していると、奇妙な何かが映っている。
「これは……」
偵察兵のようなそれは恐らく猟兵側の誰かのユーベルコードなのだろう。そして横の茂みからがさがさと葉を揺らす音が聞こえたかと思うと、その偵察兵が姿を現し、とある方向を指し示した。
「他の写真も見たけれど、あちらに敵がいるみたいだよ」
サリーが偵察兵の意図を察し、トリテレイアへと告げる。
そして二人は指し示された方角へと最大の速度で進み始めた。
「百年の時を経て今此処に甦れ、我が力の根源よ!」
樹海に降り立ったニコ・ベルクシュタイン(虹の未来視・f00324)が唱えると、彼の姿は赤い魔法使いのそれへと変化する。空飛ぶ箒により飛行可能になった彼の意図は上空からの索敵。空高く舞い上がった彼が眼鏡の奥の赤瞳を眇め森林の様子を睥睨すれば、所々に木々の薄い所が見える。その中に明らかに木々とは違う色合いが一つあった。
思った通り、空からならば捜索は容易だ。向こうからも見つけやすいという欠点もあるが、それだけの価値はある。
それを確認したニコはその建造物へと空飛ぶ箒を向け、加速した。
サリーとトリテレイアの視界が急に広くなる。切り拓かれた森の中の建造物、間違いなくここに敵がいる。そして建造物を挟んだ向かいから音が聞こえる。先に到達した猟兵達が戦っているのだろうか。
「行くよ、ジェイク!」
サリーが愛機に呼びかけ、ぐるりと建造物の逆側へと回り込む。
そして目にしたものは、民衆とナイフを持つニェポスと、そして幼竜を抱えた少女。凶刃を阻止する為に42機のドローンを召喚、二者の間へと割り込ませようとする。
そしてそれと同時、頭上から赤い魔法使いが墜落の如き勢いで急襲。けれどその姿がとても目立っていた為か、或いは民衆が教祖のいる建造物上部を見上げていたからか、民衆が一気に駆け上がり跳躍、ニェポスとニコの間に割り込んだ。
このままの軌道ではニェポスへの一撃は甘くなる、瞬時に判断したニコは空飛ぶ箒を急減速させてから跳躍、軌道を変更して殉教者の一撃を回避しつつ建築物頂上の隅へと着地し、星形の花が絡みつく柊の杖でニェポスへと殴り掛かったものの、力任せの一撃は他の殉教者たちの数の暴力に阻まれる。
(「やり辛いな……」)
本気で殺すつもりでいくのならば。多少の犠牲は出てもニェポスへの攻撃は可能だろう。だがここにいるのは罪無き洗脳されただけの民衆だ。なるべくなら犠牲は避けたいと考えるヤドリガミの青年の思いを無視するように、民衆は容赦なくニコへと攻撃してくる。
杖でその攻撃をいなすニコへの援護にサリーのドローンが分かれ、半分が向かおうとするが、
「そのユーベルコードは一機一機の力は弱く、合体前は破壊するのも戦力を削る事も容易な事が欠点でしょうか」
このように、とオブリビオンが早口で経文を読み上げ、ニェポスへと向かった一機のドローンを撃墜する。するとサリーの脳内にニェポスの教義を語る声が響き、意識がかき乱される。
それと同時にサリーの召喚したドローン群が姿をかき消してしまうが、
「そうはさせません」
ニェポスの背後、建造物の頂上にいつの間にか出現していたウォーマシンが一言告げ、その巨躯でニェポスに斬りかかる。サリーが正面へと回り込むタイミングでワイヤーアンカーを頂上に引っ掛け一気に登っていたのだ。
幼竜達から意識を逸らさせる為、直前に声をかけたからか、ニェポスはギリギリで回避、強引な回避で耐性を崩させるに留まった。
その一撃と同時にトリテレイアの甲冑から煙幕が展開、周囲の視界が一気に悪化し、サリー達の位置が一気に分からなくなる。
「何をしているんですか、ここで命を捧げなければ来世の幸福はないのですよ。絡繰り仕掛けの貴方にも幸福な先があるのだから――」
「何を言っているのかわかりません。聞くに値しない、碌でもない言葉でしょうが」
ニェポスの言葉は心を惑わし、自身の教義に勧誘するもの。それを悪性情報と認識したトリテレイアの聴覚は、その声を認識しないようにノイズとして除去している。
煙幕に紛れ階段を下っていく音がセンサーに捉えられた。ならば大丈夫だろう。だまし討ちのタイミングで仲間を庇う為に声をかけ、更に視界を奪った状態で敵の声に敢えて答え注意を惹き付ける。
その不利な行動を鍵に高められた身体能力を以て、煙幕の中のオブリビオンへと痛烈な斬り上げを放つ。今度は手応え十分、怪力を加え空へとニェポスの体を弾き飛ばす。
そして、吹っ飛ばされたオブリビオンの受難は終わらない。
「此の柊の杖の一撃は痛いぞ」
空飛ぶ箒を回収したニコが、吹っ飛ばされたニェポス以上の速度で追いかけ、すれ違い様に柊の杖で殴り飛ばした。
赤い魔法使いの強化されたその一撃に耐えられず、邪悪なるオブリビオンは芸術の完成を見届けることなくその存在を消失させた。
後に残ったのは沈みかけた陽に橙に染まる未完成の芸術と、洗脳の解けた民衆、そして寝息を立てる幼き竜。
一つの儀式を阻止した事を祝いつつ、猟兵達は一旦樹海を後にしたのであった。
大成功
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最終結果:成功
完成日:2019年08月10日
宿敵
『宗教家・ニェポス』
を撃破!
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