こんにゃくが足りない
●こんにゃく藩、再び
そこはエンパイアの内陸地。
「多秘邱用のこんにゃくが、足りない?」
上和泉の一族が納める小藩の城で、歳若い殿様が眉間に皺を寄せていた。
「いや待て、おかしいだろう。うちの藩でこんにゃくが足りない?」
「まだ陳情は少ないですぞ」
ガタッと立ち上がりかけた若殿を、報告を持ってきた老爺が宥めようとする。
「今までのこんにゃくとは形が違うのです。不慣れな面も――」
「爺の言うことも一理あるがな」
老爺の言葉を、若殿は短くも強い口調で遮る。
「だが、俺の勘が何かあると言っている。だから俺は直接城下を見てこようと思う! と言うか城下に行くぞ! こんな暑い時期に、毎日毎日城に籠もっていられるか!」
そう言い放って部屋を飛び出す若殿の背中を、老爺が大きくな溜息をこぼした。
●エンパイアのトレンド?
多秘邱――たぴおか。
「最近、サムライエンパイアのとある藩で流行りつつある、不思議な飲み物だよ」
抹茶のようなものと、何やら黒いつぶつぶが入ったコップを片手に、ルシル・フューラー(ノーザンエルフ・f03676)は集まった猟兵達に話を切り出した。
「流行りつつある。というところが問題なんだ。頭打ちと言うか、普通ならあり得ないケースで流行にストップが掛かってしまっているという状況でね」
エンパイアでの――特に、問題の藩での多秘邱は、こんにゃくで出来ている。
こんにゃく芋の皮を剥かず目一杯黒くしたこんにゃくを小さな団子状にしたものを、キンキンに冷やした甘い抹茶などに淹れ、藁のストローで吸って飲むものである。
「そのこんにゃくが、足りなくなりつつある。生産が追いついていないんだ」
普通に考えれば、急な流行で品薄が起きるのはおかしい事ではない。
だが、件の藩に関しては、考えにくい。
「以前、オブリビオンのせいで物流が滞った事があったのだけどね。藩主の殿様の食事がこんにゃくだらけになるくらい、こんにゃくの生産が多いところなんだ」
普通では考えられない生産の遅れ。
ならば、それを起こしているのも、普通ではないものという事になる。
「もう判っただろう? 今回も、オブリビオンの仕業だよ。その名も、超・貧乏神」
超・貧乏神。
超と付くだけあって、貧しくする力は中々に凄まじい。飢饉の元となるばかりか、人の体型や技術、はては知識や心すらも貧相にしてしまうという。
「しかも群れようとしている。というか、群れつつある。だけどまだ集結しきっていないみたいでね。何処に集まっているのかが判らないんだ」
かと言って、集結するのを待ってからでは、こんにゃく芋が枯れ果てるか、こんにゃくの生産技術が失われてしまうと言った、災害レベルの事態になりかねない。
となれば、打つ手は1つ。
現地調査である。
「百聞は一見にしかず。まずは城下町で多秘邱を味わいつつ、情報を集めて欲しい。それじゃあ、頼んだよ」
泰月
泰月(たいげつ)です。
目を通して頂き、ありがとうございます。
サムライエンパイアで流行りつつあった、多秘邱(たぴおか)が、このままでは「あー、あったねそんなのも」って形で失われてしまうかも知れません。
それを止め、原因たるオブリビオンの群れを倒すお仕事です。
まず1章は多秘邱を味わってください。百聞は一見に如かず。
続いて2章は、多秘邱を作る方になる予定です。
3章は集団戦となります。
なお1章は日常ですが、情報収集のような事をするのも可能です。
しないでもいいです。皆が多秘邱飲んでるだけでも、多分何とかなります。します。
また、今回の舞台となる小藩は、拙作『こんにゃくはもう嫌だ』と同じ上和泉家を藩主とした藩です。
同じ藩、というだけですので、特に読む必要はありませんが、もし話したい現地NPCがいましたら指定して頂ければ、1章で可能な範囲で登場します。
ではでは、よろしければご参加下さい。
第1章 日常
『珍妙な甘味』
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POW : 多秘邱のたくさん入ったものを頼む
SPD : 多秘邱の甘さを足したり、他の甘味との食べ合わせを楽しむ
WIZ : 変わり種の多秘邱を堪能する
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種別『日常』のルール
「POW・SPD・WIZ」の能力値別に書かれた「この章でできる行動の例」を参考にしつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。
| 大成功 | 🔵🔵🔵 |
| 成功 | 🔵🔵🔴 |
| 苦戦 | 🔵🔴🔴 |
| 失敗 | 🔴🔴🔴 |
| 大失敗 | [評価なし] |
👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。
●珍味を味わおう
――多秘邱。
その3文字が書かれた幟が、城下町のそこかしこではためいている。
多秘邱用のこんにゃくが不足しつつあるという事だが、今はまだ生産された分で何とかなっているようだ。
となれば、まずは多秘邱を味わう事にしても、何も問題はないだろう。
グリモア猟兵も言っていたではないか。
百聞は一見に如かず、と。
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多秘邱の味ですが、砂糖で甘くした茶の類が多いようです。
ですが、エンパイアにありそうなものなら、
プレイングで言えば出て来ると思います。
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自動・販売機
--タピオカ
自動販売機のメモリーにあるその発音で呼ばれるものは、決して蒟蒻ではない
それはキャッサバのデンプンから取り出したハイカロリーな食材であり、決して体内に吸収されずに消化器官の掃除に食されるものではない
だがこの設備にとってそんな事は必要ではない
何か足りないものがある、その時こそベンダーであるこの機械は自律的に動き必要なものを供給するために動くのだ
この設備が設置された町の片隅、画面部にはこう流れている
『こんにゃく』(草書の縦書きで)と
いつも通りに自動販売機は営業している
恐らく噂が広がれば必要とする者たちが現れるだろう
自動販売機は何も語らない
ただそこにあり、客を待つだけである
●サムライエンパイアに自動販売機は軽くオーパーツではなかろうか
「お父つぁん、多秘邱の残りは?」
「正直、拙いな。このままじゃ近い内に、品切れだ」
『多秘邱』の三文字を暖簾に掲げた屋台の中で、多秘邱売りの父娘は、今日も順調な売上とは裏腹の苦い顔をしていた。
「こんにゃく屋は、どうなってんだろうねえ?」
「それがわからねえから、困ってるんじゃねえか。新しい仕入先があれば良いんだが、こんにゃくを売ってる奴が早々都合良く――ん???」
そして、多秘邱売りの父はそれに気づいた。
町の片隅に佇んでいた奇妙なものを。
一言で言うならば、巨大なお椀型の綺羅びやかな何か、だろうか。
「なんでえ、こいつは? 見たことねえが、絡繰か?」
「呪術で作られた、とか?」
それに近づいた多秘邱売りの父娘は、興味半分恐れ半分でそれに近づき、正面から、横から、しげしげと見回す。
「絡繰でも、呪術でもありません」
「「しゃべったぁぁっ!?」」
突如、それが発した言葉に、父娘は驚き目を丸くした。
「私は、自動販売機です」
それ――自動・販売機(何の変哲もないただの自動販売機・f14256)は、父娘の驚きを気にした風も無く淡々と名乗り、先を続ける。
「お金を入れて下さい」
「自動? 金? 一体どういう――」
「お父つぁん。これ――ここに書いてあるのって!」
自動販売機の言葉に父が首を傾げる隣で、娘が画面に流れる文字に気づく。
底には、流麗な草書体で書かれた『こんにゃく』の四文字が流れていた。
「こ、こんにゃく? もしかして――」
父がゴクリと唾を飲み、点滅する自動販売機の硬貨入口へ、チャリンチャリンと四角い穴の空いた貨幣を入れていく。
ガシャコンッ。
自動販売機の胴体中央にある口に、黒くツルッとした物が出てきた。
「こ、こんにゃくだ! 黒こんにゃくだよこれ!」
「ああ、これで――多秘邱の在庫に余裕が出来るぞ!」
多秘邱売りの父娘はそれから何枚も硬貨を入れて、こんにゃくを両手に笑顔で屋台の方へと戻っていった。
その背中を、自動販売機はただ黙って見送っていた。
タピオカ。
自動販売機のメモリーにある発音で呼ばれる食材は、決してこんにゃくではない。
キントラノオ目トウダイグサ科イモノキ属のキャッサバという芋の根茎から取り出したデンプン質である。
つまりハイカロリーな食材である。
決して体内に吸収されないからと、消化器官の掃除に食されるものではない。
だが――そんな事は、どうでもいいのだ。
自動販売機は、ベンダーである。供給元である。
必要なものを、足りないものを供給するために、自律的に稼働しているのである。
故に自動販売機は、何も語らない。
語る暇もない。城下町の多秘邱売りの間で自動販売機の噂が広まるのに、時間は掛からないだろうから。
「お? これか? こんにゃくを売ってくれる謎の絡繰ってのは……」
「お金を入れてください」
自動販売機はただいつも通りに営業し、いつも通りに告げるのみである。
大成功
🔵🔵🔵
白波・柾
多秘邱……おそらく、UDCアースで言うタピオカ、だよな
キャッサバのなんとやら、が原料だったはずだが……この世界にも渡来者が持ち込んだのか、流行しているところもあるのか
これはUDCアースのそれとの違いを飲み比べてみるのも楽しそうだな
砂糖で甘く味付けした茶の類が多いと聞いたが、
やはり抹茶味が気になるな……おーそどっくすにまずはこれを頼んでみるか
失礼、この抹茶味の多秘邱をお願いしたい。甘さの調整ができるようなら、甘さ控えめだと有難い
……うん、ありがとう。さっそくいただこう。
……少々甘さが残るが、この感触は紛れもなくタピオカ。
サムライエンパイアの発展にもある程度寄与していることだろう。良いことだな
●朴念仁と多秘邱
「多秘邱……」
風に揺られる幟に書かれた見慣れぬ三文字に、白波・柾(スターブレイカー・f05809)が目を瞬かせていた。
「おそらく、UDCアースで言うタピオカ、だよな?」
柾の知る限り、タピオカは漢字で書くものではなかった筈だ。
「確かキャッサバのなんとやら、が原料だったはずだが……?」
原料と言うか、キャッサバから抽出したデンプンのことである。
柾の疑問は、とある猟兵もメモリーとの違いと認識していて、そしてさらっと流した部分であった。
「……まあ、何でもいいか」
そして、柾も気にはしつつもさらっと流していた。
流行の過程が気になるところではあるが、在るものは在るのだ。
(「UDCアースのタピオカとの違いを飲み比べてみるのも、楽しそうだな」)
未知の味の期待に口の端を小さく釣り上げ、柾は多秘邱の列に並んだ。
「砂糖で甘く味付けした茶の類が多いと聞いたが……結構、種類があるのだな」
抹茶の中にも、濃い薄いとあるようだ。
「やはり抹茶味が気になるな。甘さの調節も出来るようだが、おーそどっくすなのは、どの甘さなのだ?」
柾が視線を彷徨わせるも、他の品書きの類は見つからなかった。
「失礼。店主よ。抹茶味の多秘邱をお願いしたいのだが、甘さが控えめなのはどの抹茶になるのだ?」
「旦那、多秘邱は初めてですかい?」
柾の問いに、店主はそう聞き返してくる。
「ああ……そうだな。『多秘邱』は初めてだ」
「然様ですか。使う抹茶は、どれも同じなんでさぁ。抹茶と砂糖の量で調整するもんでして……初めてでしたら、抹茶も薄めの方が飲みやすいかと思います」
多秘邱の部分に含蓄をもたせた柾の物言いに気づいた風も無く、店主は抹茶と少量の砂糖を入れた茶碗に湯を注ぎ、シャカシャカ混ぜ始めた。
それを目の前に置いた木の杯に入れ、削った氷と水を足して冷たく調整。
最後に、黒真珠のような玉を溢れんばかりに乗せて――完成。
「お待ちどお。薄茶の多秘邱だ」
「……うん、ありがとう」
柾が杯を受け取ると、既にあの黒い玉は沈み出していて見えなくなっていた。
「沈むところも、タピオカと同じか……さっそくいただこう」
ストロー代わりの筒は、藁だろうか。
UDCアースのそれとは違う、自然素材。
とは言え青臭さは全く無く、気になるのは口触りくらいのものである。
「これは……!」
一口吸い込んで、柾の橙の瞳が見開かれる。
まず口に入ってきたのは、冷たい抹茶。薄めでも甘さと仄かな苦味が香る。
その後に続いて、固形物が口の中に飛び込んで来た。舌の上をつるりと滑り、噛もうとすれば跳ね返る様な弾力が歯に伝わった。
「……少々甘さが残るが、この食感は紛れもなくタピオカだ」
柾には、こんにゃくで作られているという多秘邱が、UDCアースのそれと何ら遜色はないように思えた。
「うん。美味かったよ」
空いた杯を置いて、柾は屋台を後にする。
(「俺も楽しめたし、サムライエンパイアの発展にもある程度、寄与出来ただろう――良いことだな」)
胸中で呟く柾は、気づいていなかった。
既に、この屋台に貢献していた事を。
異人と思しき美男が多秘邱の屋台にいる――と(特に近所の女性の間で)噂になり、普段より列が伸びていた事など、朴念仁の柾が気づく筈もなかった。
大成功
🔵🔵🔵
ニコ・ベルクシュタイン
【うさみ(f01902)】と
此のこんにゃくの藩も久しいな、皆お元気にしているだろうか
…しかしまた一騒動とは厄介だ、今回も張り切って解決しよう
先ずは多秘邱を楽しめとのこと
うさみよ、多秘邱を嗜んだ事はあるか?
フフフ、実は俺は趣味の喫茶店巡りの最中に出会ったのだ
頼めばきっとフェアリーサイズも用意してくれるだろうと
うさみを伴っていざ多秘邱屋へ
品薄が拍車をかけて行列が出来ていそうだが我慢しよう
待ち時間の間にお品書きを二人で見ながらあれこれ思案する
うさみよ、お前はどうせ此れだろうと指差すのは抹茶牛乳
俺は黒烏龍に多秘邱が入ったものにしようと思う
…そうだ、氷を抜いてもらおうかな
多秘邱を吸う時、ちと邪魔になる
榎・うさみっち
【ニコ(f00324)と!】
懐かしいな~!若殿様元気にしてっかな!
思えば俺が猟兵として初めての仕事をしたのがここだったな!
…焼き肉食ったり寝落ちしたりしてたけど
多秘邱!最近やたらとUCDアースの
ナウなヤングにバカウケしてるアレだな!
実は俺はまだ嗜んだことが無い!
だってちょっと見た目が蛙の卵っぽ(ゲフゲフ)
でもニコがそんなに言うならきっとうまいんだろう!
いざ!多秘邱チャレンジー!
おう!俺といえばやっぱり抹茶だな!
待ち時間を終えていよいよ俺達の番!
うおおおお口の中にスポッと来た!
変な感覚!でもうめぇ!ニコのも一口よこせー!
…それにしても今回の黒幕、超・貧乏神か…
正直絶対関わりたくない名前だな…
●記憶と多秘邱を噛み締めて
「此のこんにゃくの藩も久しいな」
ニコ・ベルクシュタイン(虹の未来視・f00324)の前にある城下町の景色は、以前訪れた時と大きく変わっていない様に見えた。
一番の違いは、件の多秘邱屋台だろう。
「ほんと、懐かしいな~!」
ニコの頭の上に乗った榎・うさみっち(うさみっちゆたんぽは世界を救う・f01902)の脳裏にも、懐かしい光景に此処を訪れた時の事が思い出される。
「そう。あれがうさみっち様の輝かしい猟兵デビューだった――」
「ほほう?」
しみじみ呟くうさみっちを、ニコが物言いたげに下から見上げる。
焼き肉焼いて、盾役押し付けあって、やきゅみっちがデビュー初戦で寝落ちてこたみっちになったりとか――色々あったような。
「あ! お主達は……!」
そんな膠着状態を破ったのは、二人とも聞き覚えのある声。
「おー! 若殿様じゃん! 元気だったか!」
「こら、うさみ。失礼だろう」
しれっとフランクに接するうさみっちの垂れ耳を持って頭の上から下ろし、ニコはうさみっちごと一礼した。
其処にいたのは、この藩の若殿――名を、長秀と言う。
ニコもうさみっちも、料理を披露したことがある相手だった。
「冬に料理を作って貰って以来だな。元気だぞ。お主達も壮健のようで何よりだ」
二人の素振りを気にした風もなく、若殿は声をかけてくる。
「今日は何用だ? また任務か?」
「ええ、実は――」
「多秘邱だ!」
どう説明したものかと思案しつつ口を開いたニコの言葉を、うさみっちが遮る。
「最近やたらとUCDアースのナウなヤングにバカウケしてるアレ、この藩でも流行ってるって聞いて飲みに来たんだ」
「ナウ? ヤング? 相変わらず難しい言葉を使うな」
うさみっちの言葉のわからない単語に首を傾げつつ、若殿は笑顔を見せる。
「しかし、多秘邱なら……どこもあの様な様相だぞ?」
若殿が指で示した方を見てみると――数人の列が出来ていた。
他も見て回る、と言う長秀と別れ、2人はその列に並んでいた。
伴の一人も連れていないようだが、問題は無いだろう。
件の超貧乏神がこの城下にいるのなら、こんなのんびりした形で始まる仕事にはなっていないだろうから。
「うさみよ、お前はどうせ此れだろう」
「おう! 俺といえばやっぱり抹茶だな! ニコは?」
「俺は黒烏龍にしようかと」
列に並んでいる間に品書きを眺め、二人で注文を決めておく。
「ところで、うさみよ。多秘邱を嗜んだ事はあるか? 俺は趣味の喫茶店巡りの最中に出会っているが」
あと一組――目前まで来たところで、ニコがうさみっちに問いかけた。
「実は俺はまだなんだ」
その言葉に、ニコが意外そうに目を丸くする。
UDCアースにも、抹茶のタピオカはある。抹茶好きのうさみっちが、まだとは。
「だってちょっと見た目が蛙のたま――いや何でも無い。だからそれしまえ!」
ニコの懐から対うさみっちウェポン出現の気配を感じて、うさみっちが言いかけた言葉を慌てて飲み込む。
「全く。多秘邱は黒真珠の様だと言われているのだぞ? それに一度嗜めば、あの食感は意外とクセになるものだ」
「ニコがそんなに言うならきっとうまいんだろう!」
つん、と小突くに留めたニコの多秘邱の評価に、うさみっちも素直に頷く。
そうこうしている内に、二人の番となった。
「抹茶牛乳と黒烏龍の多秘邱を1つずつ。抹茶牛乳の方は小さい多秘邱で。あと二つとも氷を抜いてくれ」
二人分の注文を、ニコがスラスラと淀みなく告げる。
別の世界で呪文と呼ばれる類の注文もこなすニコにとってこの程度、造作もない。
「ニコ、何で氷抜くんだ? 冷たい方が美味いんじゃないか?」
「氷は多秘邱を吸う時、意外と邪魔になる」
頭上のうさみっちの疑問に、ニコがスラスラ答える。
「旦那方。そう言うことなら、ウチの氷は大丈夫でございますよ」
二人のやり取りを聞いていた店主が取り出したのは、顔よりも大きな氷塊と。
鉋だった。本来は、大工道具のあれである。
「うちはこれで削ってますんで、切目の細かい氷を入れておりますので、はい」
ガリガリと鉋で細かく削った氷を入れた杯に、まだ温かい抹茶と黒烏龍が注がれ、氷が半ば溶ける事で丁度良い冷たさとなっていた。
「さーて、いよいよだ!」
淡い薄茶色が注がれた杯を抱え、うさみっちが藁のストローで吸い込む。
抹茶牛乳の甘さの後に、何かが口に飛び込んで来た。
「うおおおお口の中にスポッと来た! 変な感覚! でもうめぇ!」
「うさみ、咽るなよ?」
初めての食感にはしゃぐうさみっちの向かいで、ニコも藁のストローに口をつける。
黒烏龍茶の苦味と共に、スポッと飛び込んで来る多秘邱。
「ふむ……これは、弾力はこちらの多秘邱の方があるかもしれないな」
噛もうとすれば、歯の間から逃げそうな弾力。
しかし、一度歯が入ってしまえば簡単に噛める。
「何か物足りない気もするが……」
眉間にしわを寄せながら、むぐむぐと多秘邱を吟味しだしたニコの額を、うさみっちがぺちぺち叩いて現実に引き戻す。
「おーい。ニコのも一口よこせー!」
言うが早いかストローを奪い取ったうさみっちは、苦笑するニコの目の前で、黒烏龍多秘邱をずずずっと吸い込んでいた。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵
アテナ・アイリス
アヤネ・ラグランジェ(f00432)と一緒に
すごい戦果をあげた猟兵って聞いてたけど、気が合いそうでよかったわ。
アヤネとの最初の依頼が、こんな素敵な観光からなんてラッキーだわ。うふふっ。
城下町を着物を借りて着て、歩きながら多秘邱の入った飲み物を飲む。
初めて飲むので興味津々で、歩き飲みしながら、街の風景を楽しむ。
二人でおしゃべりしながら、土産物屋さんで買い物をしている。
こっちはアヤネに合いそうな髪飾りがあるわね、うふふっ。
「着物って初めて着るんだよね。楽しみよね。」
「これが、多秘邱なのね。不思議な食感だわね。」
「ねえ、あのひとかっこいいんじゃない?」
「これなんかどうかしら?」
アヤネ・ラグランジェ
【アテナf16989と】
腕の立つ猟兵がいると噂には聞いていたけど
こんなのんびりした任務が初めての共同作戦とは意外だネ
とアテナに笑いかけ
着物レンタル?
僕も初めてだ
着せてもらえるのかしら?
翠色の衣装を選ぶ
似合う?
これが多秘邱
UDCアースのものとは似ているけど違うネ
抹茶が甘くて美味しい
飲みながら散策
アテナは僕と身長が同じだネ
かっこいい人?
アテナはああいう人が好みと心のメモに
お土産屋で
水色の飾りのついた髪飾りを見つけて
これなんかアテナに似合いそう
買い物をしつつ情報収集
若殿は長秀様と言ったかな
剣の達人と聞いた
でもこんにゃくは切れないだろうな
データーベースで得た情報のみだけれど
噂をしたらすぐ横にいたりして
●着物と多秘邱
カラン、コロン。
履き慣れない下駄を鳴らし、歩く着物姿の女性が二人。
「すごい戦果をあげた猟兵って聞いてたけど、気が合いそうでよかったわ」
いつもアンダーポニーで纏めている長い金髪を今日は後ろで纏め、アテナ・アイリス(才色兼備な勇者見届け人・f16989)は、濃い目の青地の着物姿。
「腕の立つ猟兵がいると噂には聞いていたけど、こんなのんびりした任務が初めての共同作戦とは意外だネ」
淡い翠の着物姿のアヤネ・ラグランジェ(颱風・f00432)も、いつも下ろしている長い黒髪を一つに纏めている。
話の内容は猟兵のそれであるけれど、顔を見合わせ穏やかに笑い合う様子は、剣を振るい銃を構える素振りなど見えない。
その服装も相まって町娘と言っても通るであろう。
二人がそんな格好している理由は、少し前に遡る。
「ちょい、ちょいと。そこを行くお嬢様方!」
「「?」」
城下町をふらりと散策していたアテナとアヤネがかけられた声の方を向けば、仕立ての良い和服姿の商人が立っていた。
「異国の出で立ちのようですが、着物にご興味はありませんかね?」
揉み手の男の後ろには、『貸し着物』と書かれた暖簾が風に揺れている。
「これは……つまり、着物のレンタル?」
「着せてもらえるのかしら?」
アテナとアヤネが、思わず顔を見合わせる。
別段、猟兵にとって、転移した先の世界の服装に合わせる必要はない。
必要性はないが、それはそれ、である。
二人共猟兵であり、一人の女性である。興味が湧いても無理もない。
「着付けに着物に併せた髪結も致しますとも! 二名様、ご案内!」
見透かした様にグイグイと推して来る商人の言葉に苦笑しつつ、二人は案内されるままに店の中へと入って行った。
この城下町に危険が無いのはグリモアベースでも聞いている。これまでの散策でも、自身の目で確認済みだ。
「こちらでございます」
案内された部屋には、色とりどりの着物がずらりとかけられていた。
「着物って初めて着るんだよね。何色がいいかな」
「僕も初めてだネ」
そうして二人とも、好みの色の着物姿になってカラン、コロンと足音鳴らし、多秘邱の杯を片手に城下町の散策を楽しんでいるという訳である。
「これが、多秘邱なのね。不思議な食感だわね」
初めての多秘邱の食感に、エルフの特徴であるアテナの長い耳がぴこりと動く。
「UDCアースのタピオカとは、似ているけど違うネ」
多秘邱とは似て非なる他の世界のものを知っているアヤネにとっては、自分の知るそれとの食感の違いも楽しみの一つ。
「抹茶が甘くて美味しいネ」
「緑のお茶も、甘くしてもいいものなのね」
黒い真珠の様なそれが泳いでいる飲み物の味は、別の楽しみである。
そんな甘い一時も、杯が空になるまで。
「……アヤネ。あの露天商を見てみましょう」
多秘邱を飲み終えた二人は、アテナが道端に見つけた、大きな傘を立てて小物を並べている露天商の前で足を止めた。
「んー……これなんかアテナに似合いそうネ」
アヤネが見つけ、手に取ったのは、アテナの瞳の色に似た水の様な薄青の石をあしらった髪飾り。
「それなら……こっちはどうかしら? アヤネに合いそうな色の髪飾りよ、うふふっ」
アテナも対抗するように、アヤネの瞳に似た緑の硝子細工をあしらった簪を見つけてみせる。
「アヤネとの最初の任務が、こんな素敵な観光からなんて。ラッキーだわ、うふふっ」
楽しげに笑うアテナであるが、常に周りの状況把握し、指揮を執る事が多い。長年の経験で培われた視野の広さは、こんな時でも活かされていた。
「…………」
「? どうしたのネ?」
急に通りの向こうを見て固まったアテナに、アヤネが首を傾げる。
「あ、ええと。ねえ、あのひとかっこいいんじゃない?」
アテナが指差した先には、簡素ながら貸し着物屋の主以上に仕立てが良さそうな和服を着た若い男性が一人歩いていた。
「かっこいい人? 成程」
(「――アテナはああいう人が好み、と」)
思わず得られた情報を、アヤネは心の中のメモ帳に迷わず書き留める。
その間に、若者の姿は角を曲がって見えなくなっていた。
「そう言えば、ここの若殿――長秀様と言ったかな。剣の達人と聞いたけど、きっとこんにゃくは斬れないと思うネ」
「一体何の話?」
アヤネが切り出した話題の意図が掴めず、アテナが首を傾げる。
「続きがあってね。年の頃はさっきの人くらいらしいとも聞いたネ」
「…………いや、まさか?」
アヤネの言わんとする事を察し、アテナが目を丸くする。
「いやいや。意外とすぐ近くにいるかも知れないネ」
「そんな偶然、そうそうないわよ」
更に続けるアヤネに、アテナが首を振ったその時だった。
――えっくし!
先程の若い男性が曲がっていった方から、小さなくしゃみが聞こえてきたのは。
アヤネとアテナは、思わず顔を見合わせてた。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵
霧島・ニュイ
【コミュ力】
やってきたよサムライエンパイアっ!
(水色の浴衣を着て準備万端。リサも浴衣)
和菓子も好きなんだよねー、いざ!
タピオカあんみつください!!抹茶味であんこついてる奴ね!!
リサちゃんと一緒に席で、まだかなーまだかなーって待つ
来たら二人でキラキラ顔になって、スプーンを掻っ込む
んーー!!さいこー!!
タピオカおいしーねー。おいしーねー。
おすすめ商品他にある?食べていっていーい?
オススメ品を一つ食べていく
VIVAサムライエンパイア、VIVA多秘邱!
食べてる間に耳は澄ます
周りで多秘邱足りないと話していれば、どうして?具体的にどこで足りないの?と尋ね
他の猟兵の話が出れば頷いたり
出てくる話題に自然に入る
●食べる多秘邱と噂
城下町には、飲み物に多秘邱を混ぜたものが多く売られている。
だが――そんな中で、違う多秘邱に目を付けた猟兵もいた。
「多秘邱あんみつ二つください!! 抹茶味であんこついてる奴ね!!」
暖簾を潜った茶屋のお座敷で、霧島・ニュイ(霧雲・f12029)は開いた品書きをざっと見ただけで、迷わずそう告げる。
座布団の上に座るニュイの格好はいつもの水色のパーカーではなく、同じ水色の浴衣姿であった。
その向かいに静かに膝をついた少女羅刹の人形――リサも、その頭に纏った椿の花と良く似た色濃い赤の浴衣姿である。
「まだかなー……まだかなーっ」
うずうず、そわそわ。
ピンピン跳ねた茶色の髪の様に弾む心を押さえきれない様子のニュイの前で、リサは微動だにせず佇んでいる。
ほどなくして、ニュイ達の前に陶器の器が置かれた。
「お待たせしましたー!」
器の中でまず目を引くのは、二つの黒。
中央に丸くもられた粒あんと、白玉の代わりに全体に散りばめられた多秘邱である。
寒天と求肥が入っており、どちらも通常の半透明や白いもの以外に、抹茶を練り込んだ緑のものが入っている。添えられた赤い西瓜は、色合いと夏らしさ。
黒蜜と抹茶蜜、好きな方を掛けてどうぞ。
「僕は抹茶蜜かけるから、リサちゃんの方は黒蜜ね」
ニュイのキラキラした表情に釣られてか、楽しそうに回しかけられる蜜にか、リサも瞳を輝かせている。
「それじゃ、いただこう!」
木匙を手に多秘邱を含むように掬って、パクリ。
「んーー!! さいこー!!」
仄かな苦味と、程よい甘みと、弾力のある歯応えが口の中を伝播する。
「多秘邱おいしーねー。おいしーねー」
ますますキラキラと目を輝かせるニュイに、リサもこくんと頷く。
目を輝かせ、味わいつつも食べる手は止まらず。
掻っ込む様に匙が動く。
「あー、美味しかった。VIVAサムライエンパイア! VIVA多秘邱!」
ニュイ達の前にあった多秘邱あんみつは、あっという間に空になった
「……けど、もっと食べたいな」
和菓子好きなニュイは、一品では満足しきれず、もう一品をと品書きに手を伸ばそうとした時だった。
――すいません、多秘邱が不足がちでして……。
離れたところで聞こえた声を、ニュイは聞き逃さなかった。
「おすすめ商品、他にある?」
「わらび餅のように、黄粉と黒蜜をかけた多秘邱がおすすめ……だったのですが」
ニュイがその言葉を発した店員の女性を呼び止め尋ねれば、呼び止められた方は少し表情を曇らせる。
「だった? 今はないの?」
「多秘邱が足りなくなりそうなんです」
確かに多秘邱をメインに使うとなると、その消費量はあんみつの比ではあるまい。
「どうして? 具体的にどこで足りないの?」
「甘楽村の方から、届かなくなっているそうです」
食い下がるニュイに、女性は甘楽村がこの城下町から南西方向にある、藩の中でもこんにゃく作りが特に盛んな村だと教えてくれた。
大成功
🔵🔵🔵
御剣・誉
京杜(f17071)と
あれ?多秘邱いっぱいあるじゃん
さすがこんにゃく藩!
おぅ、任せろっ
でも、どこの店がいいんだろう?
あ、若殿発見
ちょうどいいから若殿におススメの店を聞いてみようぜ
久しぶりー、若殿
オレたちも多秘邱を飲みに来たんだ
いい店知らない?
へー、これが噂の多秘邱かぁ
早速一口飲んでみるか
おぉっ、ぶにぶにが口の中に広がる…
なんか知ってるのと似てるような全然違うような
まぁ、こーいうのも有りかな
京杜はどうよ?
え?エリンギも欲しい?
しょうがないなー
買ってやるから零さないようにちゃんと両手で持って飲めよ
おい、京杜
大丈夫か!?
暑い時に冷たい飲み物は生き返るなー
で、この後どうするんだっけ?
京杜、知ってる?
姫城・京杜
誉(f11407)と
ここがこんにゃく藩か
誉は来た事あるんだよな、頼りにしてるぞ!
若殿に初めましての挨拶してお勧め店教えて貰う!
俺、タピオカドリンク好きなんだよな!(趣向女子
誉、早速飲み行こうぜ!(わくわく
多秘邱、見た目は飲んだ事あるやつに何か似てるけど…
…ん、こんにゃくなだけあって、しっかりした歯ごたえだな
エリンギ、喉に詰まらないよう気をつけろよ!
って、エリンギ可愛いな…(見つめつつ、ちゅー)…!?ごほっ、喉にこんにゃくがぁっ!
あー死ぬかと思った…多秘邱、侮れねェ…
確かに暑い時の冷たい物はいいな!(今度は慎重に飲みつつ
ん?なんか貧乏神がどうの…(曖昧
って、俺何気に神だけど仲間じゃねェからな!?
●侮れぬもの
「あれ?」
御剣・誉(焼肉王子・f11407)が、見覚えのある城下町の景色の中、そこかしこに散見される『多秘邱』の文字に首を傾げる。
「多秘邱いっぱいありそうじゃん! さすがこんにゃく藩!」
「誉は来た事あるんだよな、このこんにゃく藩」
多秘邱にありつけない心配はなさそうだと目を輝かせる誉に、後ろから声がかかる。
「案内、頼りにしてるぞ!」
長身の誉よりも更に少しだけ背が高い赤髪の青年――姫城・京杜(紅い焔神・f17071)が、人懐こそうな笑みを浮かべて誉の肩を叩く。
「俺、タピオカドリンク好きなんだよ!」
「おぅ、任せろっ。――って言いたいとこだけど、まだ二回目なんだよな。どこの店がいいんだろう?」
一見凛々しい顔つきとは裏腹に、趣向女子な京杜から寄せられる期待に、誉が少し困って視線を巡らせ――。
「あ、若殿発見」
巡らせた視線の先に、自由を満喫中の若殿、長秀がふらふらと歩いていた。
「お? お主は確か……」
長秀の方も誉の顔を見て、眉間に皺を寄せ――。
「キーンと来た冷たい甘いの」
「久しぶりー、若殿。ってそこで覚えてるのか」
パフェを思い出した長秀に、誉が笑って手を振る。
「ふむ。糸こんにゃくの相方は……随分大きく育ったものだな?」
「いや、別人別人」
かと思えば、冗談なのか本気で誤解してるのか、いまいち判断しかねる真顔でのたまう長秀に、誉も思わずツッコむ。
「はじめまして、藩主殿。俺は姫城・京杜と言う」
唐突に行われたやり取りに吹き出しそうになっている口元を意識して引き締めて、京杜は若殿に一礼。
「早速だが、お勧めの多秘邱の店を教えて貰えないだろうか?」
「あ、そうそう。オレたちも多秘邱を飲みに来たんだ。いい店知らない?」
京杜と誉は、往来で立ち尽くしていた理由を問いかける。
「お主達もか? 肉巻きと抹茶の二人も多秘邱を飲みに来ていたが。俺が思っている以上に、他所にも広まっているのだな……」
藩主らしい顔になって考え込んだ長秀だが、すぐに二人の問いを思い出す。
「お勧め、だがな。俺の立場上、全てと言わざるを得ないのだ。
藩主の立場にあるものが、どこかの店だけを褒めるというのはお墨付きを与えるも同じであり、不公平感の元になりかねない。
「ま、実際どこの屋台も茶店も美味いぞ。好きなように飲んでってくれ」
笑顔で二人に告げる長秀の背後に、音もなく忍び寄る影一つ。
「良いご判断です。立派になられて……儂は嬉しいですぞ」
「げ、爺!?」
ぬっと現れた老爺に長秀が気づいた時には、その手は見える皺に似合わぬ力強さで長秀の襟首をがっしりと掴んでいた。
「待った、待って。引きずるのやめろ。ますます俺の威厳が……」
「また若殿が世話になり申した――御免」
老爺は誉と京杜にそう言い残すと、長秀の抗議を受け流しずるずる引きずって城へと戻って行く。
『ぎゃう』
大変そうだな、と見送る誉の足元で何かが鳴いて、ズボンの裾が引っ張られる。
「ん? え? エリンギも欲しい?」
『ぎゃう、ぎゃー』
エリンギとは、誉が別の世界で出遭って以降、連れている赤い石のついた首輪をした仔竜の名である。この世界であれば、キノコと誤解される事も無いだろう。多分。
「エリンギもそう言っていることだし、早速飲みに行こうぜ!」
「そうだな。取り敢えず、多秘邱行くか」
エリンギに背中を押される形で、二人は近くの多秘邱の屋台に向かっていった。
「へー、これが噂の多秘邱かぁ」
「見た目は飲んだ事あるやつに何か似てるけど……」
木の杯を片手に、誉と京杜は中身をしげしげと見下ろす。
プラスチックなどないものだから、外から見えないのが違和感の原因だろうか。
「おぉっ、ぶにぶにが口の中に広がる……」
「……ん、こんにゃくなだけあって、しっかりした歯ごたえだな」
口の中に飛び込む多秘邱の食感に、誉と京杜は揃って目を瞬かせた。
知っている、カタカナのタピオカとはやはり似て非なるもの。
「なんか知ってるのと似てるような、全然違うような……こーいうのも有りかな」
「これはこれで良いんじゃないか?」
違和感はまだあるけれど、誉も京杜も、多秘邱は多秘邱で受け入れていた。
と言うか、エンパイアも今は夏で。
暑いわけで。
多秘邱が沈んでいるのは、薄めの飲みやすい抹茶なわけで。
「暑い時に冷たい飲み物は生き返るなー」
「確かに、暑い時の冷たい物はいいな!」
つまり多秘邱を吸い込むのが、止まらないのである。
『ぎゅ……ぎゅぅ?』
エリンギも、二人の足元で何とか多秘邱を吸い込んでいる。
「そうそう。零さないようにちゃんと両手で持って飲めよ」
誉は時々屈んで、エリンギの手から滑りそうな杯の位置を直して上げている。
「喉に詰まらないようにも、気をつけろよ!」
京杜もエリンギに注意を促すが――この時は、思ってもいなかったのだ。
この一言が、所謂フラグになるなんて。
(「って、エリンギ可愛いな……」)
言われた通りに両手でしっかり杯を抱えるエリンギに、京杜はすっかり目を奪われ――半ば無意識にストローを吸い込んでいた。
しゅぽんっ!
そして京杜の口の中に、活きの良い多秘邱が勢い良く飛び込む。
「……っ!? ごほっ、喉に……多秘邱っ!」
「おい、京杜。大丈夫か!?」
突然咽た京杜に驚きつつ、誉の手がその背中を軽く叩く。
「あー死ぬかと思った……多秘邱、侮れねェ……」
「こんにゃくだもんな」
エンパイアの多秘邱の弾力に、しみじみする京杜と誉であった。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵
第2章 冒険
『町おこしをしよう!』
|
POW : 力が人を動かす!肉体労働のほか、人々を元気づけて勢いを取り戻そう。
SPD : 速さが人を回す!一帯の情報収集のほか、色々な作業を手伝ってみる。
WIZ : 知恵が人を惹きつける!アイデア提案のほか、魔法で人々の注目を集めよう。
👑11
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔴🔴🔴🔴
|
種別『冒険』のルール
「POW・SPD・WIZ」の能力値別に書かれた「この章でできる行動の例」を参考にしつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。
| 大成功 | 🔵🔵🔵 |
| 成功 | 🔵🔵🔴 |
| 苦戦 | 🔵🔴🔴 |
| 失敗 | 🔴🔴🔴 |
| 大失敗 | [評価なし] |
👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。
●甘楽村にて
「あのねー。南西の甘楽村ってところから、多秘邱が来なくなってるんだって」
「数分前のメモリーにもその地名は新しいところに残っています」
何人かの猟兵が、その地名を聞いていた。
こんにゃくの生産が盛んな藩に置いて、特に多秘邱に加工される黒こんにゃくが盛んな村――甘楽村。
そこまで足を伸ばした猟兵達が見たものは、静まり返った村の様子だった。
はっきり行ってしまえば田舎村であるが、それにしても静かである。誰一人として家の外に出ていない、というのはおかしい。活気がなさすぎる。
特に、戦いがあったような跡もない。あれば猟兵なら見れば判るだろう。
ならば――。
手分けして門扉を叩き、村人達から情報を集めてみれば、こんな雰囲気になっている理由はすぐに判明した。
「こんにゃくが――急に作れんようになったのです」
一週間ほどの間に、作れたこんにゃくが、一人また一人と、突然に作れなくなっていたというのだ。
技術の喪失。
技術すら貧相にするという、貧乏神の能力に間違い無いだろう。
「貧乏神、か。正直絶対関わりたくない名前だな……」
「それ以前に、何処にいる?」
そう。貧乏神で間違いない――でも、その姿は何処に?
「今朝になって、最後の一人のこんにゃく職人もとうとう……」
事が起きたのは、今朝。
「今朝、か。ならばまだ、遠くには行っていないだろう」
むしろ、まだ近くにいると考えて良いだろう。一斉に村を襲うでも無く、一人ずつ技術を失わせていたのなら、それがどんな目的であれ『村人全員』の技術を貧しくしたと確信しない限り、貧乏神の群れはこの地を離れまい。
「神繋がりで位置が判ったり、呼び寄せたりできない?」
「ねェよ。ってか、神だけど仲間じゃねェからな!?」
茶化すやり取りは、一つのヒントに。
「なら――またここで多秘邱を増やしてやるのはどうかしら?」
「誘き寄せるわけだネ?」
そう。多秘邱作りが途絶えかけた村で、再び多秘邱が増え、多秘邱を使った甘味や飲み物で賑わえば――貧乏神は釣られて出てくる筈だ。
何処かに潜んでいるオブリビオンを誘き寄せる為に。
多秘邱を使った村おこしである。
=========================================
2章は、村おこしと言う名の多秘邱アピールタイムです。
多秘邱アピールは、特に制限ありません。
素直に多秘邱を増産するもよし。
1章で味わった様な多秘邱スイーツやらドリンクを作るも良し。
新しい多秘邱の形を開発してしまうも良し、です。
追加の道具・材料の持ち込みは危険物以外ほぼOKです。現地調達でも可。
村の活気を取り戻す事で、貧乏神がのこのこ出てくるように仕向けられれば成功です。
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霧島・ニュイ
一気に作れなくなるなんて、貧乏神恐るべし…!!
疫病神なんてのもいるのかなー?なんてのはさておき。
じゃあ、さっき食べたとびっきり美味しい多秘邱あんみつを作ってみよっか!
リサちゃんはお留守番で、僕一人で初めての料理。
まずは貰った黒こんにゃくを千切って…(丸くない)
寒天は、粉寒天と水を入れて混ぜて…こ、こう?なんかざらざらしてるけど…固まったよ!
黒蜜は刻んで鍋に入れて……あれ?(どろっどろの黒い失敗作が出来上がる)
で、冷たい抹茶を投下(どばー!)
*物体Xじゃないけど料理下手。出来上がり図は任せた
……なかなか個性的な味だよー><;
あれ、おかしいなぁ…
へ、ヘルプ村のお姉さんー!!
とびきり美人に泣きついた
●初挑戦
多秘邱を作ると言う猟兵達に、空き家の炊事場が提供された。
「さーて、やるぞー!」
エンパイア式の炊事場で、霧島・ニュイが黒縁眼鏡を直し意気込んでいた。
浴衣の袖を紐でたくし上げ、準備万端と言った様子である。
その傍らに、少女人形のリサはいない。
お留守番中と言うか、ニュイはこれから一人で料理にチャレンジするのだ。
「作れた物が一気に作れなくなるなんて、貧乏神、恐るべし……!! 疫病神なんてのもいるのかなー?」
なんて浮かんだ考えを口に出しながら、ニュイがまず手に取ったのは、こんにゃく屋を訪ねて貰ってきた黒こんにゃく。四角いままである。
「多秘邱は丸いよね……千切ればいいかな?」
ぷちん、ぷちんっ。
ニュイは黒こんにゃくを指で千切っては桶に投げ、千切っては桶に投げていく。
「次は寒天かな。これ使うよ!」
ニュイが取り出したのは、寒天――の粉末。
「粉寒天は水に入れて混ぜれば良いんだよね………こ、こう?」
少し不安そうに、ニュイは鍋に水と粉寒天をぶちこんでぐるぐるかき混ぜる。
水を目分量で入れていたようだが、大丈夫だろうか。
あと、火にもかけてないようだけど、大丈夫だろうか。
「なんかざらざらしてるけど……固まったよ!」
「お次は黒蜜! これは黒糖を刻んで潰して鍋に入れて……」
これは適度なとろみが付くまで煮詰めれば良いのだが――。
「……あれ? なんか焦げ臭い? あれ?」
どうも最初の分量で黒糖が多すぎたのか、アク取りが不十分だったのか。ニュイの前にある鍋の中は、どろっどろの黒いものになっていた。
「……」
なにかが違う気はひしひしと感じながら、ニュイは抹茶をシャカシャカ混ぜる。
削った氷を入れた器に抹茶を入れて、その上から他の材料を盛り付けていく。
千切っただけの黒こんにゃくは、丸くないしお店で食べたものより大きい。その上に、寒天になる筈だったものが最初から砕けた寒天状態で散りばめられ。
最後にドロっとした黒蜜っぽいものをかければ、完成。
「出来たー……よね?」
その出来栄えにニュイ自身、首を傾げずにはいられなかった。
お店で食べたあんみつと全然違うのは自覚しつつ、ニュイは抹茶も掬うように匙を入れて、パクリと一口。
「な……なかなか個性的な味だねー」
ニュイの口の中には、抹茶の苦味とは違う、黒蜜が焦げた変な苦味があった。寒天は何だかボソボソしているし、黒こんにゃくは――こんにゃく感が強い。
食べられないものでは無いけれど。
「おかしいなぁ……あ、あんこがないからかな!」
多分、問題は其処じゃない。
それはニュイ自身、わかっていたのだ。
「調子はどうだい? なにか足りないものがあったら――」
「助けて、お姉さんー!! 全然ダメなの!」
だから、偶々様子を見に入ってきた恐らく年上の村のお姉さんに、ニュイは迷わず泣きついたのだった。
料理は分量も大事だぞ!
成功
🔵🔵🔴
自動・販売機
物資が必要とあらば誰に言われるもなくいつの間にか設置されているのが自動販売機である。
それは先の町でも変わらぬし、生産拠点であるここでも変わることがない。
唯一つ変わるものがあるとするのなら商品だ。元々コンニャクイモの加工には時間と手間が必要なのである。しかして今回はそれにかかり切るわけにも行かない。
そう判断したのか自動販売機は蒟蒻の中間生成物(業務用)を商品に並べたのだ。そして各種果汁の濃縮液も。
時折、モノではなくサービスの方が価値を付けることがある。今自動販売機が用意しているのはモノではあるが、想定している商品はサービスのようだ。
何かを作ると言う行為を提供する事による経済も確かにあるのだ。
●価値あるもの
先の城下町は、特に多秘邱の消費という観点で見れば供給点であろう。
一方、こんにゃく作りが盛んな甘楽村は、生産拠点である。
それが何処であろうが、足りない物が。必要な物資があるのなら。
誰に言われるもなく、いつの間にか設置されているのが自動・販売機である
――カチカチ、ピカピカ。
村人達が遠巻きに見つめる視線を浴びながら、自動販売機が村のど真ん中で瞳や全身のライトを明滅させていた。
何処にでもいき、何処でも販売するのが自動販売機の生き様である。
唯一変わるものがあるとすれば、それは販売する商品だ。
(「私のメモリーには、コンニャクイモの加工には時間と手間が必要だとあります。しかして今回はそれにかかり切るわけにも行かないでしょう」)
ならば、今必要なものは――お手軽にこんにゃくを作れるもの。
「商品の入れ替えが、完了しました」
――喋ったぁ!?
ピカピカ点滅が点灯になって声を発した自動販売機に村人達がざわついたのは、さておくとして。
今、自動販売機が販売しているものは、蒟蒻の中間生成物。
所謂、荒粉と精粉と呼ばれる粉末状のものである。アルカリ剤も適量混入。水酸化カルシウム、つまり石灰も適量同梱されているので、それぞれに適量の水を加えるだけのお手軽蒟蒻製造セットである。
それだけではなく、各種果汁の濃縮液も販売中。
つまり、これらがあれば、様々な果実味のこんにゃくが簡単に作れるのだ!
何故、自動販売機が城下町で売っていたこんにゃくから、販売品を変えたのか。
それは、猟兵達の計画に合わせたのである。
販売品は蒟蒻の材料であるが、何のために売るのか、というターゲット層は、多秘邱を作ろうという者に設定されていた。
つまり自動販売機が想定している販売品は蒟蒻を作るという行為そのもの。サービスである。
時として、モノではなくサービスの方が価値が付くことがある。
何かを作ると言う行為を提供する事が、経済となることもあるのだ。
とは言え、自動販売機はそんな事は語らない。
語る必要がない。
「お金を入れてください。ご希望の商品のボタンを押すか、口頭でお申し付け下さい。また自動的に商品が出る場合がありますがご自由にお使い下さい」
いつも通りに営業し、今回は少し長いフレーズを告げるのみである。
惜しむらくは、商品の入れ替えに少し時間がかかり、その恩恵に預かれない猟兵もいたことだろうか。
成功
🔵🔵🔴
ニコ・ベルクシュタイン
【うさみ(f01902)】と
何と、技術の喪失にまで被害が及ぶとは、貧乏神とは恐ろしいものだな
しかし先程堪能した多秘邱の飲料、あれは実に良いものだった
其れを作る術が失われるのを看過する訳には行かぬな、うさみよ
求めよ、さらば与えられんと人は言う
ならば俺達自らの手で多秘邱の飲料を再現すれば良いのだな
美味しかったあのモチモチ感を思い出しながら多秘邱の飲料を…
む、此れは一人では日が暮れてしまうのではないか?
うさみよ、手伝ってはくれないか、人手は多ければ多い程良い
…ところでうさみよ、本体であるお前は何をしているのだ?
俺の方を見てしきりに何か描いているようだが…
ポスター?宣伝?お、おう、そういう手もあるか…
榎・うさみっち
【ニコ(f00324)と!】
「魚を与えるのでなく、釣り方を教えよ」という言葉がある
技術とはとても尊いものなのだ
俺だって神絵師の腕前を奪われたら困る!
即売会で壁配置されなくなる!
人手がいるのか!それなら
いでよ【こんとんのやきゅみっちファイターズ】!
力仕事なら任せろ!(バットぶんぶん)
俺は別方面からアプローチだ!
どんなに良い物も周知されないと意味がない
広報活動も重要なのだ!
ニコややきゅみっち達が頑張る姿や
多秘邱飲料が出来るまでの過程や完成品を早業でスケッチ
清書して良い感じに配置して宣伝ポスターに!
コピーは「一度吸ったらやめられないとまらない」とか!?
大量に作ってあらゆる場所に貼る!配る!
●技術の価値を知る者達
求めよ、さらば与えられん――と言う言葉がある。
物事を成す為には与えられるのを待つのではなく自ら求めるのが大事だ、と言うような意味合いである。
「……貧乏神とは恐ろしいものだな」
技術の喪失という被害を実感し、ニコ・ベルクシュタインは表情を険しくしていた。
金銭ではどうにも成らない喪失は、本当に取り返しがつかない事もあるものだ。
「しかし、城下町で堪能した多秘邱の飲料。あれは実に良いものだった。あれを作る術が失われるのを看過する訳には行かぬな」
その為に必要だというのならば、再現してみせよう。
ニコの脳裏に、城下町で味わったモチモチとした食感、舌触りが蘇る。それを何度も脳内で反芻しながら、多秘邱飲料を――。
「む? うさみよ。手伝ってはくれないか? 一人では日が暮れてしまいそうだ」
「おう。良いぜ、ニコ!」
一人では手が足りなさそうと踏んだニコの頼みに、榎・うさみっちが頷きふわりと浮かび上がる。
「人手がいるなら、これだ! いでよ! こんとんのやきゅみっちファイターズ!」
うさみっちの全身が一瞬、強い輝きに包まれる。
次の瞬間、野球服うさみっち団が現れていた。
「聞くんだ! やきゅみっちファイターズ!」
釘バットをぶんぶんしてるやきゅみっち達にうさみっち監督が号令をかける。
「この村の多秘邱技術が、ヤバイ!」
うさみっち監督の声のトーンに何かを感じたか、やきゅみっちたちがピシッと背筋と羽を伸ばし、釘バットをそっと降ろす。
「魚を与えるのでなく、釣り方を教えよ――という言葉がある」
空腹の人に魚を与えても、その場凌ぎに過ぎない。だが釣り方を教えれば、その後は自分で魚を釣って食べられる様になる。
うさみっちが口にしたのは、そんな意味合いの言葉だ。
「技術とはとても尊いものなのだ! 俺だって神絵師の腕前を奪われたら困る! 即売会で壁配置されなくなる!」
黙って聞いていたニコも、うさみっち監督の力説に何度も頷く。
生活に関わる事だもの。
「そういうわけだ。やきゅみっちファイターズ! この村の技術を取り戻す為に! そしてあの日、寝落ちに終わった雪辱も晴らす為に――」
うさみっち監督は、やきゅみっちを一人一人見回して。
「ニコを手伝え。以上」
指示は、一言で終わりだった。
こうして、ちょうど販売が始まったお手軽蒟蒻製造セットを使って、ニコとやきゅみっちによる多秘邱ドリンク作りが始まった。
「ファーストは、その粉をこの器に――」
「セカンドとサードは、これいっぱいに水を汲んできてくれ」
「外野陣は潰すようにしながら、混ぜ続け――」
結局ニコが一人でやきゅみっち達に黒こんにゃく作りの指示を出すことになっているのだが、それでも一人で全て作るよりは効率的だ。
「……ところでうさみよ、本体であるお前は何をしているのだ?」
「スケッチ中だ!」
妙に静かなうさみっちに声をかければ、そんな答えが返ってきた。
ニコがそちらを向くと、うさみっちは確かにスケッチブックを広げてせっせと何かを描き込んでいる。
「スケッチ? 俺の方を見てしきりに何か描いているようだが……」
ニコが覗き込むと、多秘邱を作るニコの姿や、出来上がった多秘邱などがスケッチブックに描かれていた。
「どんなに良い物も周知されないと意味がないだろ。広報活動も重要だぜ! 後で清書して、宣伝ポスターにして、良い感じに配置してやるよ!」
描く手を一瞬止めて、うさみっちがドヤッと見上げる。
「ポスター? 宣伝? お、おう、そういう手もあるか……」
うさみっちの考えは、ニコが思いつかなかった事であった。そして何かを描いているのが遊んでいるわけではないと、判明した。
(「この藩に初めて二人で来た時は、焼き肉をたかられ寝落ちし、火種を求められた。別の世界では、玉ねぎみじん切りで俺が泣くと思って顔を見に来ていたな」)
ニコの脳裏に、うさみっちとのそんなやり取りが蘇る。
少なくとも今この時は、もうあのような絡み方はされないだろう。
(「成長したな……うさみよ」)
一抹の寂しさのようなものも混ざった喜びを噛み締めながら、ニコは多秘邱作りに戻っていった。
それからしばらくして。
黒烏龍茶と抹茶の多秘邱飲料と、宣伝ポスターが完成した。
この時代で掲示物を貼る場所と言えば、建物の壁か高札という立て看板であろう。高い家屋が殆どない田舎の村では、高札の方が目立つ。
こうして、村のあちこちに高札が立てられ、その全てにうさみっちの描いたニコと多秘邱の絵が貼り出されたのだ。
一度吸ったらやめられないとまらない――というキャッチコピーとともに。
「どーよ! 目立ってるだろ!」
「これは……違う目立ち方もしていないか?」
高札の横にドヤ顔で浮いているうさみっちを、ニコが半眼で見上げる。
この時代のエンパイアで高札と言えば、多いのは殿様からの触書だろうか。だが他にも、所謂指名手配犯の人相書なんかを貼り出すのにも使われるのだ。
もしも天下自在符がなければ、ニコに向けられる村人達の視線は、冷たいものになっていたかも知れない。
成功
🔵🔵🔵🔵🔴🔴
アテナ・アイリス
アヤネ(f00432)と一緒に。
貧乏神を誘い出すのかあ。なら、アヤネと一緒に新しい多秘邱スイーツをつくって、
皆に飲んでもらって、話題をかっさらいましょうか。
UC「アテナの手料理」を使って、「料理」技能を520レベルにする。
アヤネに用意してもらった茶葉をつかって、最高のミルクティーを作るわ。わたしも紅茶は大好きなのよ。アヤネとはやっぱり気が合うわね。
それをベースにいろんなアレンジするわ。
イチゴミルクティー、白桃ミルクティー、マンゴーミルクティー、
あとは上にアイスものせて見ましょうか。
料理を作るのは大好きだけど、一緒に作る人がいるともっと楽しいわね。
うふふっ。
アヤネ・ラグランジェ
【アテナf16989と】
敵を誘い出す作戦ネ
合理的かつ楽しそうなので
やる気を出すよ
料理の腕前?
いや、ないネ
ネット検索でマニュアルを探してその通りに用意しただけ
僕が台所に立って料理なんて天地がひっくり返ってもきっと無い
アテナは料理上手そうとは予想していたけど
なんだそれ料理の達人?
材料は用意したから
作るのはお願いしちゃおうかしら?
では多秘邱スイーツをいろいろと作ってみよう
黒糖ミルクティー
紅茶にはうるさいので英国のブランド物で紅茶を淹れて
冷やしてから黒糖を加える
続いて黒糖ミルク珈琲
エスプレッソをマシンで抽出して氷を入れずに冷やす
冷たい牛乳と黒糖を加えて
ホイップクリームを乗せよう
ふふんどうだい美味しそう
●多秘邱ティータイム
「何処にいるか判らない敵を誘き出す。合理的な作戦だネ」
それでいて楽しそうだ。
アヤネ・ラグランジェのやる気が、俄然高まる。
「ふふ、アヤネもやる気みたいね」
そのやる気を感じ取ったアテナ・アイリスが、アヤネに笑顔を向けて。
「それじゃ一緒に新しい多秘邱スイーツをつくって、皆に飲んでもらって、話題をかっさらいましょうか。アヤネの料理の腕前も見てみたいし」
「ンン?」
笑顔のまま続けたアテナに反し、アヤネの表情が固まった。
「今――僕の料理の腕前と言った?」
「言ったわよ?」
アヤネの緑の瞳が左右に泳ぐのを、アテナが不思議そうに見つめ返す。
「無いネ」
どう言うべきか少しだけ迷って、結局アヤネは率直に告げる事にした。
「それらしい事は、ネット検索でマニュアルを探してその通りに用意しただけ。僕が台所に立って料理なんて、天地がひっくり返ってもきっと無いネ」
「料理って、そんなに難しいものじゃないわよ」
日頃から誰かに料理を振る舞う事が多いアテナだからこそ言える事ではあるが。
「まあ、今日は私が頑張りましょうか」
愛用のシークレットレシピを手に、アテナは自信ありげに微笑んだ。
本日の材料。
とある猟兵が販売していた『果実味のこんにゃく製造セット』と、アヤネ持参の英国のブランド物の茶葉。
「料理はしないけど、紅茶にはうるさいの」
「わたしも紅茶は大好きなのよ。アヤネとはやっぱり気が合うわね」
アヤネと顔を見合わせ笑いながら、アテナの手は凄まじい勢いで動いていた。
紅茶用のお湯を沸かしながら、別スペースでは使える器をフルに使って、果実味のこんにゃくを、いちご、白桃、マンゴーの三種類を同時進行で作っていく。
黒こんにゃくの多秘邱を見様見真似で作った後で、だ。
更にそれらの合間を縫って、いつの間にかいちごと白桃とマンゴーの果実そのものをトッピング用に切り揃えていた。
「アテナは料理上手そうとは予想していたけど――なんだそれ。料理の達人?」
腕が増えてるのかと錯覚しそうな勢いで料理を進めるアテナの手際に、アヤネも思わず目を瞬かせる。
「ちょっと本気出してるだけよ。うふふっ」
なんてアテナは笑ってるけれど、ユーベルコードでちょいと上げた料理技能は凄まじい事になっていた。具体的には520。うん、なんだそれ。
おまけに、様々な料理の作り方と食材の入手法まで記されているシークレットレシピもある。今のアテナには、作れない料理はそうないのではなかろうか。
「多秘邱を作るのは、アテナにお任せしちゃって良さそうネ」
ならばせめてと、アテナは紅茶を淹れにかかる。
温めて置いたティーポットに、計量した茶葉を入れ、沸騰した瞬間のお湯を注ぐ。
お湯の量は適量よりも気持ち少なめに。後で果実を入れてから丁度良くなる為に。
紅茶にうるさいと自負するだけ合って、アヤネの手際も中々である。
(「何で紅茶でこれだけ出来て、アヤネ料理したこと無いのかしらね?」)
面倒見の良さ故にそこが気になりつつ、アテナは黙って、アヤネがなにか機械を取り出すのを見ていた。
アヤネが取り出したのは――どう見てもエスプレッソマシン。
電源どうするんだって? 表にAI搭載のバイクが停まってるみたいです。
こうして、飲める多秘邱スイーツが五種類、完成した。
イチゴミルクティー、白桃ミルクティー、マンゴーミルクティー、のフルーツフレーバーの三種類がアテナの作。
底に沈んでいる多秘邱の色を変えてあるのは調理過程で紹介した通り。
更にそれぞれの果実を直接ティーポットに入れて味と香りを出した上に、ミルクの分量も果実の味に合わせて絶妙な分量で加減を加え、アイスと果実をトッピング。
「この世界でアイスは、少しやりすぎかしらね?」
アテナが気づいた通り、エンパイアではまだ、氷菓子の類は一般的ではないかもしれない。かも知れないが――そこで時代を先取りしても、別段問題は無いだろう。
特にこのこんにゃく藩では。以前、別の猟兵が殿様に振る舞ってたし。
「それ言ったら、私もだから気にしない、気にしない」
そう笑い飛ばすアヤネが作ったのは、二種類。
一見すると、ミルクティーとミルク珈琲。
多秘邱は黒こんにゃくのもの。甘味には砂糖ではなく黒糖を使い、珈琲の方は濃いめのエスプレッソを牛乳で割ってホイップクリームも乗せている。
「ふふん。どうだい、僕のも美味しそう」
「ねえ、アヤネ」
出来栄えに満足気なアヤネに、アテナが声を書ける。
「私は料理を作るのは大好きだけど、一緒に作る人がいるともっと楽しいわね?」
「……そうネ。楽しかった」
二人は笑みを交わし、村人達に多秘邱スイーツを振る舞いに向かうのだった。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵
白波・柾
多秘邱が作れなくなっただと……
それは一大事だ。俺も微力ながら手を貸そう
多秘邱の増産や宣伝はほかの猟兵が行ってくれているようだから
俺は多秘邱の新商品を模索してみよう
UDCアースで見たチラシのような、しかしこの世界にもなじみのあるものを作りたい
店では木の器で出してくれたが、できれば硝子などの中身が見えるほうが映える
まずは戻して丸くしたこんにゃく多秘邱を底に入れ、その上からかき氷のように削った氷を半ばまで入れる
それから薄めにした抹茶を注ぎ、餡子をこんもりと乗せて、お好みで練乳をかけてと……
これはわらのストローよりも、スプーンと併用して食べるのがいい
……これでいんすたばえ? する多秘邱すいーつの完成だ
●映える多秘邱を
「多秘邱が作れなくなっただと……それは一大事だ」
技術が喪失していた。
その事実を知って白波・柾は、表情を険しくしていた。
「俺も微力ながら、手を貸すとしよう」
そうと決まれば、何をするかである。
(「多秘邱の増産と宣伝は、他の猟兵が行ってくれているいるようだ。ならば……」)
「多秘邱の新商品を模索してみよう」
胸中で思案した柾は、そう結論づけた。
多秘邱を使って何かを作るのは、村人から多秘邱造りの技術を奪った敵を誘き寄せるためでもある。なら、パターンは多いに越したことはない。
「他の猟兵も色々作っているし、なにか目新しいもの……」
村人達の気を引けなければ、敵の気も引けないかも知れない。
(「何か、この世界にはない、多秘邱を作ったもの――」)
そう考えた柾の脳裏に浮かび上がったのは、UDCアースで見たとあるチラシ。
あのチラシに載っていたようなものを、このエンパイアにも馴染みのあるものを使って作るのが良いのではないだろうか。
「まあ、まずは作ってみるか」
方向性を定めた柾は、自分に向けるように一つ頷いて、作業に取り掛かった。
まずは丸くしたこんにゃくの多秘邱を、器の底に並べる。
「後は氷だが……」
こんな田舎の村で、氷がそうそう手に入るだろうか?
「もしかしたら……頼んでみるか」
何か思い付いた柾は炊事場を出ていき――程なく、四角い氷の塊を手に戻ってきた。
「削るのに……大太刀は流石に大きいか」
抜きかけた大太刀を鞘に戻し、代わりに柾が手に取ったのは鋼の糸。
束ねたままの鋼糸で氷をこすって、ザクザク削って粉末状にしていく。雪の様に細かく削れた氷を器の半ばまで入れて、薄めにした抹茶を注ぐ。
「練乳もかけてみるか。この村で練乳を作れるのかは判らないが」
こんもりと餡子を乗せながら、柾は少し思案して、練乳もトロリ。
まだないのなら、作り方を調べて教えればいい。
(「確か、牛乳と砂糖を混ぜて煮詰めるのではなかったか?」)
そう難しいものではない筈だ。
そうして柾が作った多秘邱は、城下町で飲んだものと見た目が全く違っていた。
「うむ。やはり木の器より、中身が見える方が映えるな」
柾が持参したガラスのコップを使った事で、中身が見えているのだ。
底に沈んだ多秘邱の黒がぎっしりと。その上はまだ僅かに氷の白を残しつつ、上に行くにつれて抹茶の緑がグラデーションを描いている。
上に乗った餡子と練乳のコントラストも目を引く。
添えたのは藁のストローと、匙も一緒に。
「……これでいんすたばえ?する多秘邱すいーつの完成だ」
いんすたばえが何なのか、いまいち判っていなさそうな口調になりつつも、柾は作ってみた多秘邱の出来栄えに満足そうに頷いていた。
成功
🔵🔵🔴
御剣・誉
京杜(f17071)と
おぉ、すげーなぁ(見てるだけ
ほら見ろよエリンギ
どんどん多秘邱が出来てるぞ(手は出さない
京杜は神じゃなくて多秘邱職人だったのかー
ん?どうした?暑い?
しょうがないなー
氷あるかな?
へばったエリンギのためにかき氷を制作
京杜、多秘邱くれよ
細かく削った氷に甘い緑茶をかけ多秘邱のせて
ほら、エリンギ
これ食べて元気だせよ!
京杜も食う?オレは食う
お、美味い!だが、頭が…!(キーン
で、貧乏神はどこだ?
ただの神繋がりじゃわからないなら
同じ神になればその気持ちがわかるんじゃね!?
どうよ!!??
あ、なんかこっちにいっぱい寄って来るぞ!?
やっぱ仲間だと思ってるんじゃね?
まぁ、似てるもんなぁ…(しみじみ
姫城・京杜
誉(f11407)と
よし、俺が多秘邱作ってやるぞ!
俺、超料理得意だからな(どや
それに神だ、必要な道具作れるし!神すごくね?
【紅の創造】で道具揃えたら、多秘邱作り!
蒟蒻を丸く…お、綺麗に抜けたな(満足
緑茶はこんな甘さだったよな…よし、完璧!
誉とエリンギもどうぞだ!俺も食う!
てか俺、多秘邱職人なれるんじゃね?
あとは貧乏神くれば…
って、神だから貧乏神に扮し誘き寄せろ!?
俺、貧乏神じゃねェし!
…う、これも猟兵の仕事…(「貧」の三角頭巾装着
…俺が呼んでもこないかもだぞ?
「おーい、こっちにまだ多秘邱職人いるぞー!」
…って、何で集まってくるんだよ!?
俺はイケメンだろ、似てねェし!
断じて仲間じゃねェからな!?
●炊事場は戦場ですので
「この藩に来ると、何か作ることになってるな」
あの時はお城だったから同じではないけれど、何処か懐かしいエンパイアのお宅の炊事場に入りながら御剣・誉がしみじみと呟く。
「あの時は確か――」
(「あれ? 俺何したっけ?」)
言いかけて、誉は続く言葉を見失った。脳裏に浮かぶ記憶を整理してみる。
焼き肉食べて。
コタツでアイス食べて。
(肉抜きになりかけた)牛丼食べて。
パフェ作って。あ、でも果物も切って貰ったっけ。
「……任せた!」
『ぎゃー』
「俺、超料理得意だからいいけどな!?」
いい笑顔で丸投げしてきた誉と何故かそこだけ主に唱和したエリンギに苦笑しつつ、姫城・京杜は竈と流しに向き直る。
「けど、道具足りなくないか?」
「誉。俺を誰だと思っている。神だぞ」
後ろで首を傾げる誉に、京杜はドヤ顔で振り返り。
「来たれ、我が神の手に」
京杜の掌に、その髪の色に良く似た紅き焔が生まれる。焔の輝きの中から紅葉が溢れ出し、焔と紅葉が混ざっていくつかの調理道具となった。
――紅の創造。
戦っている対象に有効な武器を作る能力の筈である。
「まずはこれだな」
京杜がまず手に取ったのは、アイスクリームディッシャーと呼ばれる物に似ている多秘邱サイズのもの。多秘邱ディッシャーとでも呼べば良いだろうか。
「お、綺麗に抜けたな」
「おぉ、すげーなぁ」
京杜が多秘邱ディッシャーで器用に黒こんにゃくを丸く刳り抜いていくのを、感心した様子の誉が横から覗き込む。なお、感心はしても手伝う気はない模様。
「どうだ誉。必要な道具作れるし! 神すごくね?」
「京杜は神じゃなくて多秘邱職人だったのかー」
多秘邱を次々作りながら再びドヤ顔な京杜に、エリンギ抱えた誉はさらっと返す。
「今、神って言ったばっかりだよな!?」
「ほら見ろよエリンギ。どんどん多秘邱が出来てるぞ」
京杜のツッコミを全スルーして、誉は足元に声をかける。
『ぎゃー』
エリンギは、なんかペターンとなっていた。
「どうした? 暑い? しょうがないなー。京杜、ちょっとエリンギ見てて」
「あ、おい誉。どこに――」
誉は小走りに外に出ていくと、ほどなく氷塊を手に戻ってきた。
「あの自販機、氷も売ってた!」
さっき他の猟兵も氷入手してたのを、見ていたのだ。
誉は荊の剣で氷をさくっと削って、細かい氷粒を器に山と盛りつけていく。
「緑茶はこんな甘さだったよな……よし、完璧!」
ちょうどそのタイミングで、京杜は甘くした冷緑茶を完成させていた。
「お。タイミングばっちりじゃん。貰うな」
言うが早いか誉は冷緑茶の容器を取ると、盛り付けた氷の上にたっぷりかける。
「京杜、多秘邱くれよ。オレと京杜の分も氷削っといたからさ」
無駄にキリッとした真顔と美声で、多秘邱を無心する誉。悪気全くない。
「どうぞ、だ。エリンギの為だもんな」
苦笑しつつ京杜が提供した多秘邱を、緑茶色に染まった氷上に盛り付けて――完成。
「ほら、エリンギ。これ食べて元気だせよ!」
『ぎゃー』
ばくんっ。何の警戒もなしに氷の山を大口開けて食いついたエリンギは――数秒後、ぎゃーぎゃーと鳴いてゴロゴロ転がり始めた。
「どーしたんだ、エリンギ?」
「氷が冷たかったんじゃないか?」
そう言いながら誉と京杜も多秘邱緑茶氷を口に運んで――。
「頭が……!」
「っ……!」
二人と一匹揃って、キーンと来ていた。
とは言え、此処まで冷たいものはまだそうないだろう。これでいいのではないかという話になり――しかし、刳り抜いた多秘邱はもう残りが少ない。
「任せた!」
「俺、多秘邱職人なれるんじゃね?」
笑顔の誉に肩をぽんと叩かれ、京杜は多秘邱ディッシャーを再び手に取るのだった。
●戻った賑わい
甘楽村は、ここ最近でなかったほどに賑わっていた。
村の中央で、猟兵たちが作った多秘邱の品々を村人達が囲んでいる。
「これが城下町の味かぁ。抹茶と多秘邱うめえなぁ」
「こっちの黒いのもうめえぞぉ」
城下町の味の再現は好評。
ある猟兵が立てまくったイラスト付きの高札も、村人達の視線を集めていた。
「多秘邱作りの絵だったんだなぁ」
「こんな風に作ってたな、そう言えば」
「人相書じゃなかったのねぇ」
……。集めていた。
「な、何だこれ……果物の味がするお茶なんて、初めてだ!」
「多秘邱の色も、果実の色に変えているのか……!」
「この黄色い果物自体、初めてだぞ」
「この上に乗ってる冷たいの、何?」
「白くて甘いのも、美味しい!」
色とりどりの飲める多秘邱スイーツは、特に村の若い衆や子供たちに人気だ。
「氷と多秘邱を食べるなんて、思いもしなかったぞ」
「多秘邱は乗ってても、底にあるのも、どっちもありだな」
「しかしなんじゃあ、この透明な器」
「これ、瑠璃じゃねえか……!?」
食べる氷と、透明な器も興味を引いている。
「これは……改良の余地があるな」
「どう手を加えるか、逆に唆られるわ」
上手くいかなかったものも、一部の村人の興味を逆に引いているようだ。
だが――。
●まさかそこまですると思わなかった
「オレ達の多秘邱氷も盛況。で、貧乏神はどこだ?」
「まだ見当たらないな……」
誉と京杜は、まだ貧乏神が出てこない事に、少し焦れていた。
「京杜。ただの神繋がりじゃ貧乏神の事がわからないなら、同じ神になればその気持ちがわかるんじゃね?」
何を言っているんだ君は。
「待て、誉。それは俺に貧乏神に扮し誘き寄せろって事か!?」
「おう」
まさかと思った京杜の言葉を、誉はいい顔で首肯する。
「俺、貧乏神じゃねェし!」
「でも、これつければさ」
抗う京杜に誉が見せたのは、一文字『貧』と書かれた三角頭巾。
「……う、これも猟兵の仕事……でも、俺が呼んでも来ないかもしれないぞ?」
不承不承ながら、三角頭巾を巻きつけると、京杜は大きく息を吸い込んで――。
「おーい、こっちにまだ多秘邱職人いるぞー!」
大声を張り上げた。
その頃の超・貧乏神軍団視点。
『おい、やっぱり村が賑わってるぞ。多秘邱って聞こえる!』
『どうなってるんだ!?』
『多秘邱は作れなくしてやった筈なのに!』
『一体、何が起こっている……?』
周囲の林に潜んでいた貧乏神たちも、村の賑わいに気づいて出てきて、もうすぐそこまで来ていたのだ。
「おーい、こっちにまだ多秘邱職人いるぞー!」
『なにぃ!?』
『誰だ、失敗したの』
『良いから奪ってくるぞ!』
そこに聞こえた大声に、貧乏神達は、村に駆け出していった。
「あ、なんかこっちにいっぱい寄って来るぞ!?」
「……って、何で集まってくるんだよ!?」
当然、その姿は貧乏神に扮した京杜と扮させた誉にも見えていた。
「やっぱ仲間だと思ってるんじゃね? 似てるもんなぁ……」
「どこがだ!? 俺はイケメンだろ、似てねェし!」
しみじみと呟く誉に言い返しながら、京杜は貧の三角頭巾を外して投げ捨てる。
それでも、もう貧乏神達は止まらない。
此処までしないでも直に出てきただろうが、最後のひと押しにはなっただろう。
「断じて仲間じゃねェからな!?」
京杜の叫びが、エンパイアの空に響いた。
成功
🔵🔵🔵🔵🔴🔴
第3章 集団戦
『超・貧乏神』
|
POW : ドゥェッヘッヘ! お前達の身体を貧相にしてやろう
【指定した肉体の部位を貧相にする光線】を放ち、自身からレベルm半径内の指定した全ての対象を攻撃する。
SPD : どんな技術も、私の前では素人以下になるのだぁ!
自身に【金属を高速で腐食させるオーラ】をまとい、高速移動と【指定した技能のレベルを0にする光線】の放射を可能とする。ただし、戦闘終了まで毎秒寿命を削る。
WIZ : 貧すれば鈍する! 頭も心も貧しくなるがいい!
【知識を奪う光線】【記憶を奪う光線】【性格を下劣にする光線】を対象に放ち、命中した対象の攻撃力を減らす。全て命中するとユーベルコードを封じる。
イラスト:仁吉
👑11
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵
|
種別『集団戦』のルール
記載された敵が「沢山」出現します(厳密に何体いるかは、書く場合も書かない場合もあります)。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
| 大成功 | 🔵🔵🔵 |
| 成功 | 🔵🔵🔴 |
| 苦戦 | 🔵🔴🔴 |
| 失敗 | 🔴🔴🔴 |
| 大失敗 | [評価なし] |
👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。
●貧しさを司る者共
『た、多秘邱がこんなに……増えているだと!』
『お前達の仕業だな!』
甘楽村に乗り込んできた集団が、猟兵達に敵意に満ちた視線を向けて来る。
不健康そうな灰色の肌。
継ぎ接ぎだらけで薄汚れた着流し一枚
そして何より、額に巻いた『貧』と書かれた布が、正体を如実に物語っていた。
超・貧乏神で間違いあるまい。
『折角、多秘邱を絶やしたと思ったのに、余計な事を』
『あんな財力の塊みたいなもの、根絶やさずにはいられないのだ』
財力?
何言ってるんだろう、この下級神ども。
『黒くて丸くてツヤツヤと、まるで黒い真珠のようではないか』
『金になるに決まっている!』
これは別の世界の事ではあるが。
カタカナでタピオカと呼ばれるものは、正確にはあの黒くて丸い粒粒ではない。キャッサバという芋から生成したデンプン質の事である。
球体状の粒は、タピオカパール、と呼ばれることもある。
そう言う意味では、貧乏神達の感覚もあながち間違ってはいない――のだろうか?
『良くも我らの邪魔をしてくれたな!』
『お前達も貧しくしてやろう!』
『貧乏神は何でも貧しくする!』
『財力! 毛髪! 体型! 体格! 技術! 心!』
『貧しく出来ないものなど無ぁい!』
『『『『ドゥェッヘッヘ!』』』』
やせ細った手で古びた杖を振り上げ、超・貧乏神達は陰湿な笑みを猟兵たちに向けていた――。
=========================================
3章です。ついに姿を現した超・貧乏神の集団との集団戦。
過疎や飢饉の種となる、陰湿な性格の下級神。
いっぱいいるので、一体残らず駆逐しましょう。
村人達は自宅に避難してます。特に守らないでも大丈夫です。
ユーベルコードを確認して頂ければ大体おわかりかと思いますが。
今回の章に限り、戦闘中に色々なものが失われる可能性があります。
(万が一、失敗しない限り)戦いが終われば元に戻ります。
他のシナリオにも影響はしません。
ここだけの話ですので、安心して失われて下さい。
なお何が失われても良いか、プレイングにあればそれにします。
特になければ、色々見てこっちで決めます。
後者の場合、多少のキャラ崩壊は起きるかも知れません。
ネタプレでもシリアスプレでもどんとこい!
=========================================
霧島・ニュイ
出たね、超貧乏神!
如何にもな貧乏ぶり…。せめて格好どうにかならないー?
何も奪われてたまるか(特に僕のスペックあれこれは)
いろいろ怖いのでリサは封印
【だまし討ち】【2回攻撃】【スナイパー】
forget me notで遠くから集団攻撃
死角から、意図せぬタイミングから、騙しぬいて、数を多く
増え続ける勿忘草をばら撒いて攻撃する
結構痛いでしょ?
【スナイパー】で命中率を上げ
銃で確実に倒せそうな敵から攻撃し数を減らす
勿忘草が枯れた、だと…!?
ちょっ、身長奪わないでよ、折角成長期なのに!
視力とか、うわ、目が、目がぁぁああ!!ダメモトで【視力】
ちょっと待って記憶はやめて、もともと記憶喪失だからぁぁぁあ!!
*ネタ
御剣・誉
京杜(f17071)と
貧乏神がいっぱい来たなぁ
でもちょっと数多すぎじゃね?
数だったらオレも負けないぜ!
【頼れる愉快なお友達】でカルビJrとタピオカを召喚
ちょっと頑張ってきてくれよ!
おっと大丈夫か京杜!?
…ん?なんか変わった?
見た目に変わった感じはないけど
なにぃ、それはヤバくね!?
あーぁ
せっかく多秘邱職人になれたのに
せめてこれでも…
(『貧』と書かれた三角頭巾をそっと手渡し
うわっ、なんだこの光は!?
…(貧乏神に扮した京杜見て
不覚っ
こんなすぐ傍にまで貧乏神が!?
成敗っ!(攻撃しかけて
…あ、なーんだ京杜か
何でもないって
記憶なくしたりなんてしてないさっ
…(三角頭巾とらないんだ
…(そんなに気に入ったのかぁ
姫城・京杜
誉(f11407)と
何か貧乏神めっちゃいるな!?
よし、神としての格の違いを見せつけてやるぞ!(気合
って、カルビJrとタピオカめっちゃ可愛いな!(きゅんと余所見
わ、貧乏神が何か放射して!?
え、ちょ、俺の女子力(技能:料理)が貧相にー!?
これじゃ多秘邱職人になれねェじゃねーか!
うう、ありがとな誉、せめてこれつけて…って、貧乏神じゃねェ!(でも何故か装備
貧乏神達も、何で俺のこと仲間呼ばわりしてんだ!?
俺は貧乏神じゃ…って誉ー!?
俺だ、俺!
あー酷い目にあったな…
女子力奪われたなら男子力で成敗だぞ!
焔連ね握る拳で貧乏神ぼこっていく!
俺は神だけど、貧乏神じゃ断じてねェんだからな!!(しかし頭巾取り忘れてる
●貧乏神ホイホイ
「何か貧乏神めっちゃいるな!?」
「貧乏神、いっぱい来たなぁ」
中隊規模くらい出てきた貧乏神達に、姫城・京杜と御剣・誉が驚きつつも身構える。
「よし、神としての格の違いを見せつけてやるぞ!」
ぐっと拳を握る京杜の気合に、内に炎を秘めたかの様な大連珠が反応する。
「俺は――貧乏神じゃない!」
紅炎の加護を宿した拳で、京杜が貧乏神を殴り飛ばすのを後ろで眺めながら、誉は感じていた。
――ちょっと数多すぎじゃね?
「数には数だ。数だったらオレも負けないぜ!」
誉がキリっとした顔で、びしっと貧乏神達を指差し告げる。
「壊れたら責任持って直してやるから――ちょっと手伝ってくれよな!」
『ぎゃー』
誉の声に、エリンギの鳴き声が唱和する。
そして――誉の前にずらっと、眉毛と目鼻立ちがやたら濃いブタの貯金箱と、片耳が光になったからくり仕掛けのウサギが並んだ。
頼れる愉快なお友達で召喚した、エリンギの友達である。
ちなみにブタの貯金箱が『カルビJr.』で、からくりウサギが『タピオカ』である。どっちも自動で動きます。
それを見た貧乏神達は――瞠目していた。
『あれは……まさか』
『ああ……間違いない!』
『『貯金箱だぁぁぁぁぁ!?』』
そう。貧乏神達は、ブタの貯金箱に目の色変えたのである。
●失われたもの――京杜
『叩き割ってやらぁぁぁぁぁ!』
『貧乏神とは貧しくする存在! 他所の貯金箱を割るのは、習性のようなものだ!』
「えー……」
トコトコ走っるカルビJr達を追いかけ、貧乏神達は杖を振り下ろす。
なんかもう『ブタ貯金箱砕き大会』状態な様相に、誉は固まるしかなかった。
「カルビJrとタピオカめっちゃ可愛いな!」
京杜は京杜で、キュンと目を奪われて固まっていた。
とは言え、全ての貧乏神がブタ貯金箱に目の色変えたわけではない。
「危ないよ―!」
そこに霧島・ニュイが上げた声と銃声が響いて、淡い青の小さな花弁が貧乏神達の間を吹き荒れる。
死角からのだまし討ちで数体の貧乏神が倒れる。
だが、杖を掲げた貧乏神が残っていた。
『どんな技術も、私の前では素人以下になるのだぁ!』
「ん? わ、貧乏神が何か放射して!?」
貧乏神の杖から放たれた光が、京杜に浴びせられる。
「え、ちょ、まさか!?」
その瞬間――京杜は悟った。判ってしまった。
「おっと大丈夫か京杜!? なんか変わった?」
『ぎゃ?』
「お……俺の女子力が貧相になっていく!」
流石に心配そうな誉と何が起きたか判ってなさそうなエリンギの前で、京杜はガクリと膝をついて絞り出すように告げた。
なお、ここで言う女子力は、イコール料理の技能なのだが。
「なにぃ? それはヤバくね!?」
誉も真顔になるくらい、二人に取っては緊急自体だった。
●貧乏神が貧乏神であるために必要なこと
何も奪われてたまるか――。
そんな決意を胸に、ニュイは貧乏神達から距離をとって、民家の壁や生け垣、大桶などの死角からマスケット銃『Nuage』で狙撃していた。
それフラグって言わない?
さておき。
狙撃するのであれば、狙う必要がある。どうしても、貧乏神達の姿をじっくりと見る必要がある。
「せめて格好どうにかならないー?」
ついつい、そう口に出してしまったのは、ニュイの中に流れるフランス人の血がそうさせたのだろうか。
『おい……我らの格好に、何か言ったか?』
「う、うん?」
どうやら聞こえてしまったらしい超貧乏神の背後に、ゴゴゴゴッと何か怒りのオーラ的なものが見えた気がして、ニュイは思わず息を呑む。
(「良く判んないけど、リサちゃん引っ込めといて良かったー」)
そんなニュイに向かって、貧乏神達が――次々と叫び出した。
『いいか、貧乏神ってのは貧乏な格好をするのが相場なのだ!』
『我らが悪代官みたいな豪華な着物を着て出てきてみろ!』
『「え、貧乏神?何処が?」――みたいな反応されるに決まってるだろう!』
『我らとて、着られるものなら豪華な服とか着てみたい!』
あ、これ(ネタ的な)地雷だった、とニュイが気づいた時には既に遅し。
「なんか……ごめんね」
中には滂沱の涙を流す個体までいるもんだから、ニュイは目を逸らしつつ、取り敢えず謝ってみた。
『『『『許さん!』』』』
「ですよねー……」
お怒りの貧乏神達に、ニュイが乾いた笑いを浮かべる。さてこれ、どうしよう。
その時である。
『おい……あれを見ろ!』
貧乏神の一人が、ある方向を指差した。
「これじゃ多秘邱職人になれねェじゃねーか……」
「あーぁ。せっかく多秘邱職人になれたのに。せめてこれでも着けとけ」
「うう、ありがとな誉……って、貧乏神じゃねェ!」
落ち込む京杜が、誉からそっと手渡された『貧』と書かれた三角頭巾(2枚目)を頭に巻きつけているのである。
『『『―――!!!』』』
その時、貧乏神達の間に衝撃が走る。
『『『貧乏神の猟兵よ。猟兵でもいい。我らのボスになってくれ!!!』』』
格好の貧しさを指摘されて悔しかった貧乏神ビジョンからすれば、今の京杜は『彗星の様に現れた何か格好いい服の貧乏神』だったのである。
その衝撃が、オブリビオンなら猟兵を敵とみなす筈の貧乏神の思考回路を、何かこう致命的に狂わせていた。
「待て待て、俺は貧乏神じゃねェ! 何で俺のこと仲間呼ばわりしてんだ!?」
流石に慌てる京杜。
「……っ! ……っ!」
その肩を、ある意味この状況の犯人な誉がぽんと叩く。笑いを堪えてるっぽい様子で肩を震わせながら。
『ボスに何をする!』
そんな誉に、貧乏神の杖から光が放たれた。
●失われたもの――誉
「うわっ、なんだこの光は!?」
貧乏神の放った光を浴びた誉の視界が、揺らいで、ぼやけていく。
「あれ? 俺……?」
ぼんやりとした視界の中――何故か『貧』の文字がはっきり見えた。
多分、自分で手渡したものだからじゃないかなー?
「不覚っ! こんなすぐ傍にまで貧乏神が!?」
「って誉ー!?」
ともあれ、その時、誉にはそう思えたのだ。聞こえた声が誰かなんて気にせずに。
「成敗っ!」
「うお、危ねぇ!?」
誉が突き込んだ赤い鉱石が薔薇を描く荊の剣は、咄嗟に避けた京杜を掠めて、その向こうの貧乏神を刺し貫いていた。
「俺だ、俺!」
『ぎゃうぎゃー』
「……あ、なーんだ京杜か」
京杜が肩を揺さぶり、エリンギが足をかみかみして誉を正気に戻す。
「おい……」
「何でもないって。記憶なくしたりなんてしてないさっ」
流石にじっと見てくる京杜から、誉がちょっとバツが悪そうに目を逸らす。
「いいけどな。酷い目にあいっぱなしな気がするし……そろそろ真面目にやろうぜ」
「そーだな。そうするか!」
気を取り直し、貧乏神に向き直る二人。
「女子力奪われたが――俺にはまだ、男子力がある!」
先程以上に燃え盛る焔が、紅蓮の大連珠から京杜の拳に宿る。
「俺は神だけど、貧乏神じゃ断じてねェんだからな!!」
紅に輝く紅葉を散らし、拳で貧乏神をお空に殴り飛ばして行く京杜。
(「三角頭巾とらないんだ……気に入ったのかなぁ」)
「いけ、タピオカ。だいぶやられちゃったカルビJrの仇討ちだ!」
その額にまだ『貧』の文字があるのに気づきながら、誉は何も言わずに茨の剣を指揮棒代わりに、からくりウサギをけしかけていた。
●失われたもの――ニュイ
『身体を貧相にしてやろう』
「ちょっ、身長奪わないでよ! 折角成長期なのに!」
「頭も心も貧しくなるがいい!」
「記憶もやめて! もともと記憶喪失だからぁぁぁあ!!」
貧乏神の放った光を必死に避けながら、ニュイは蒼い花弁を放つ。
花の名は、勿忘草。
英語では『forget me not』――それはそのまま、ニュイが使っているユーベルコードの名前になっている。
「僕の一等好きなこの花はさー、どんどん増えてくんだよ♪」
その言葉通り、ニュイの周りには蒼い花弁がどんどん増えていた。
だが――。
『我らに腐食出来ないものはなぁい!』
貧乏神の放った光に吹き散らされた花弁が幾つか、そのまま動かなくなる。
「勿忘草が枯れた、だと……!?」
花弁は全て、ニュイが装備武器を変えたもの。その中には金属もある。また武器に戻せるという事は、花弁の何処かに金属の性質も残っているのかもしれない。
「くっ!」
『どんな技術も、私の前では素人以下になるのだぁ!』
花弁が減った事で、ついにニュイにも貧乏神が杖から放つ光が浴びせられた。
「うわ、目が、目がぁぁああ!!」
その眩しさに、ニュイが思わず目を瞑る。
「視力はいや…………あれ?」
だが目を開けてみると、目は普通に見えていた。愛用の黒縁眼鏡もある。
貧乏神も、いなくなっている。
カタンッ!
一体何が、と首を傾げるニュイの耳に届く物音。
貧乏神かと振り返れば、近くの家の窓から、ニュイの見覚えのある女性が不安そうに顔を覗かせて様子を伺っていた。
(「あ、あれはさっきの――」)
そう。その女性は、ニュイが多秘邱作りの時に泣きついたお姉さんだ。
そして――ニュイは気付かされた。
何か言って安心させてあげようかと思っても、口の中がカラカラに乾いたような気がして言葉が出てこない。心臓がやけに早鐘を打つ。
(「さっきの貧乏神……探して取り戻さないと」)
ニュイが奪われたのは――コミュ力だった。
大成功
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自動・販売機
嘗てアースの自動販売機の料金ポケットは外部からの物理的干渉により泥棒が多発していたと言う。
それが表面化し問題意識が高まると、各自販機メーカーは対策を講じ様々な防犯装置を取り付けた。
そして現在。
時空を渡るこの自動販売機にも、同じように防犯装置が取り付けられている。
様々な世界において、様々な盗みの仕方があり、その中にはオブリビオンもいる。
いくつかの条件が合致した時、自動販売機はセキュリティシステムを稼働する。
それは犯罪者を許さないという、製造者の強い意思に寄るものか。
自動販売機は完全砲撃モードととなり盗人のオブリビオンに向かい砲撃を開始する。
正当な取引を阻むオブリビオンを自販機は許さないらしい。
●失われたもの――自動販売機
『おい、何だこれは』
『判らん。猟兵のようだが』
超貧乏神達は、全身のライトを明滅させる自動・販売機を前に困惑した様子だった。
「――――」
自動販売機の方も、黙して何も語らない。
オブリビオンか現地の人間かの判別くらい、自動販売機ならつくものである。
だが貧乏神達も、ただ困惑するばかりではなかった。
『よく判らんが……こいつからは金の匂いがする!』
『ああ、間違いなく、こいつは財力がある!』
『我ら超貧乏神――貧しく出来るものを嗅ぎ分ける力には、自信がある!』
なんとも謎の嗅覚と、嫌な自信である。
『お前の身体を貧相にしてやろう』
『どんな金属も、私の前では腐食するのだぁ!』
貧乏神達が掲げた杖から、光が放たれる。
その光を浴びても自動販売機の外見には、何も影響は出なかった。影響は、中に出ていたのだ。硬貨が錆びていた。
●自動販売機、怒る
――自動販売機の歴史は意外と古い。
ある世界では、はるか昔の古代文明とされる時代に『聖水自販機』なる、硬貨を入れると自動で水を出す機械が作られていた記録が残っているという。
長い歴史の中、自動販売機は進化してきた。
その時代の流れの中で――自動販売機は安全でいられたのだろうか。
否である。
UDCアースやヒーローズアースと猟兵達が呼んでいる世界では、嘗て、自動販売機は内部の金銭の盗難被害が多発していたのだ。
自動販売機が『無人で動作する機械』であるが故に、その料金ポケットに対する外部からの物理的干渉の備えがなかったのだ。
被害が表面化し問題意識が高まると、各自販機の製造元は対策を講じるようになり、やがて自動販売機には様々な防犯装置を取り付けられる様になった。
そして現在。
時空を渡る自動販売機にも、当然のように防犯装置が取り付けられている。
その機能が稼働する時が来ていた。
「一致した防衛条件があります。セキュリティシステムを稼働します」
ガシャン、ガシャンと音を立てて、自動販売機が変形していく。ボタンと商品取り出し口くらいしかなかった機体から、ぬっと出てくる砲身。
内蔵の携行砲台の全砲門を露わにした、自動販売機・完全砲撃モード。
『な、なんかヤバそう……ええい、頭も心も貧しく――』
「正当な取引を阻むオブリビオンを、私は許しません」
貧乏神が更に光を放つ前に、その砲門が一斉に火を吹いた。
『ぐわー!?』
『うぎゃー!?』
突然の砲撃が、貧乏神達を容赦なくふっ飛ばしていく。
この防衛機能を設計した製造者は『犯罪者許すまじ!』と言う確固たる強い意思でも持っていたのだろうか。
とは言え、これは決して過剰防衛ではないだろう。
盗難被害の中には、自動販売機が破壊されたケースや、『自動販売機そのもの』を強奪されたケースもあったらしいのだから。
様々な世界があれば、様々な盗みの仕方がある。
どれだけ想定しても想定外はきっとあるのだから――ベンダーとして供給を維持するためには、砲撃火力も必要なのである。多分。
大成功
🔵🔵🔵
ニコ・ベルクシュタイン
【うさみ(f01902)】と
※失う物は本体である懐中時計以外お任せ、キャラ崩壊歓迎
うさみよ、万に一つもお前の神絵師としての技量が奪われては
俺達の生活の危機に直結する、其れだけは何としても死守してくれ
では、互いに致命的にならぬ程度に頑張ろう
魔導書を開き【葬送八点鐘】を発動、神には神をと死神を喚び出し
大鎌を振るい炎を撒いて「範囲攻撃」で可能な限り纏めて屠りたい
積極的にけしかけて此方に敵の気を惹く「おびき寄せ」で
うさみが攻撃する「時間稼ぎ」をしよう
三種の危険な光線はどれもこれも喰らいたくないので
杖に「オーラ防御」の力を通して防御障壁を展開して防ごう
しかし相手の数が多いとなると、多少の被弾は免れないか
榎・うさみっち
【ニコ(f00324)と!】
うわ~今まで会ったどんなオブリビオンよりも恐ろしく見えるぜ…!
探索者のはずなんだけど最近すっかり神絵師を
前面に押し出している俺だからな
これを失ったら収入源だけでなく
アイデンティティまで失うことになる!
ニコが時間稼ぎしてくれている間
スケブに早業で大量の絵を描く
それらを【かみえしうさみっちクリエイション】で実体化
黒ローブ・大鎌装備の名付けてしにがみっち!
ニコの攻撃で弱った奴を集中攻撃して1体ずつ確実にお片付け!
光線は【ニコを盾にする】(※無い)で躱す!
知識も記憶も無くなっちゃ困るし
下劣な性格になるなんてヤダー!
あと焼肉の時に俺を投げたの忘れてねーから!
※何でもどんとこい
●譲れないもの
『お前たちは何を貧しくしてやろうかぁ!』
『知識か? 記憶か?』
「知識も記憶も無くなっちゃ困る!」
迫る超貧乏神達に、榎・うさみっちは戦慄を覚えていた。
『ならば性格を我らの様に下劣にしてやろうかぁ!』
「下劣な性格になるなんてヤダー!」
フェアリーはぴゅあじゃなければならんのだ!と、うさみっちはニコ・ベルクシュタインの背中にぴゃぁぁと逃げ込む。
「今まで会ったどんなオブリビオンよりも恐ろしく見えるぜ……! ニコ、今回は俺を守れ! そしたら焼き肉の後に俺を投げた恨み、忘れてやってもいいから!」
「うさみよ」
せみのように背中に貼り付くうさみっちを剥がして――ニコは前に出た。
「投げた事をまだ覚えていたのは引っかかるが、今回は守ってやる」
貧乏神達を見据えて踏み出すニコの迷い無い足取りは、言われるまでもなくそのつもりであったことを物語っていた。
「もしも、もしもだ。万が一、うさみの神絵師としての技量が奪われては俺達の生活の危機に直結する。うさみよ。其れだけは、死守せねばならんぞ」
――安定した生活。
「おう。収入源だけでなく俺のアイデンティティまで失うことになるからな!」
――存在意義。
ニコとうさみっちにとって、この戦いは絶対に失われるわけにはいかない、譲れないものが掛かっている戦いだった。
ところで『忘れてやってもいい』なんですね。
●目には目を、神には神を
「鳴り響け八点鐘」
カーン――ゴーン――カーン――ゴーン。
ニコの唱えた直後、表紙に青空が描かれた分厚い魔導書『Blauer Himmel』の中から、協会の鐘の様な音が響き出した。
「彼の者を呼びたもう」
カーン――ゴーン――カーン――ゴーン。
鐘の様な音が八度目の音を鳴らし終えると、魔導書がふわりと浮かび上がり、勝手に捲れだした頁が輝きを放つ。
次第に輝きを増していく魔導書の中から――何かが飛び出した。
その周囲に漂うは、青く儚げな地獄の炎。
骨の両手に構えるは死神の鎌。
「神には神――死神でお相手しよう」
葬送八点鐘。死を司るものを召喚するユーベルコード。
『死神だと』
『ならばその死神も貧相にしてやろう!』
ひるまない貧乏神達が杖を掲げ、死神に光を放つ。
元々ボロ布っぽいのを纏っていたニコの死神が、更にぼろっちくなる。
「死神よ――やれ」
『うぎゃー』
『熱ちちちっ』
ニコの指示で死神が振るった大鎌の湾曲した刃が貧乏神を切り裂き、地獄の炎が貧乏神達の間に振りまかれた。
シャッ! シャカシャカシャーッ!
死神を操り貧乏神の気を引くニコの背後で、うさぎマーク入りのスケッチブックを広げたうさみっちが忙しなく手を動かしていた。
「一枚終わり! 次!」
うさぎデザインのペンが凄い勢いで動く、早業のペンさばき。
『おい、あの小さいのなにかしてるぞ』
『あやつもなにか喚び出す気か』
その動きに、目ざとく気づく貧乏神が出てきた。
「気づかれちまったなら仕方ねえ! 取り敢えずこれで――」
貧乏神に気づかれた事に気づいたうさみっちが、ペンを止めてスケッチブックを頭上にどやっと掲げる。
「うさみっち先生のエモい作品、その目に焼き付けろー!!」
その瞬間、スケッチブックが輝きを放ち、描かれていた黒ローブと大鎌を持ったうさみっちが実体化してスケッチブックから飛び出してきた。
これぞ神絵師の業。かみえしうさみっちクリエイションである。
「名付けてしみがみっちだ! いけー!」
うさみっちがしにがみっちと名付けたちっちゃい死神軍団。軽く二桁はいるしにがみっちは、ニコの召喚した死神の周りへブーンと飛んでいく。
死神を合わせたというのもあるが、黒ローブの死神ならば色数が少なく大量に描いても時間はかからない。
限られた時間の中で、状況に合わせたものを描く。
それもまた、神絵師の技量と言えよう。
●失われたもの――ニコとうさみっち
「死神よ!」
「しにがみっちも続け」
ニコの大きな死神が貧乏神を纏めて薙ぎ払い、それで倒しきれなかった貧乏神には、しにがみっちが群がって見た目の割に驚異的な筋力で大鎌をざくっとトドメを刺す。
大小の死神が、貧乏神達を屠っていく。
だが貧乏神達も、やられっぱなしではない。
『術者だ! 術者を貧しくしてしまえ!』
死神達の攻撃を逃れながら、ニコとうさみっちを狙って杖から光を放っていた。
「そうはさせんぞ」
貧乏神の放った光が、ニコが掲げた杖の前に広がるオーラの障壁に遮られる。
「不意さえ突かれなければ、この程度――!」
貧乏神が放つ光を一人で防ぐニコが思わずフラグめいた事を口走った時には、二人の背後に貧乏神が一体立っていた。
『ドゥェッヘッヘ! お前達の身体を貧相にしてやろう』
貧乏神の杖から、光が放たれる。
「ニコ! 俺が! あぶなーい!」
うさみっちは慌ててニコの腹部にしがみつき、ぐるんと回転。
「うぉっ!?」
咄嗟の事でニコもオーラを広げるのが間に合わず、ついに貧乏神の光が二人に浴びせられてしまう。
『ドゥェッヘッヘ! 纏めて貧相にしてやったぞ』
光を浴びせて満足したか、貧乏神は下品な笑いを残して二人の前から離れていった。
「くっそー……ん? でも絵は描けなくなった気はしねーな?」
「俺も光を浴びてはしまったが……身体は何ともない?」
うさみっちもニコも身体に異常を感じられず、首を傾げる。
「ん? んん?」
だが、ニコの腹部にしがみついたままだったうさみっちが、それに気づいた。
「ニコ。ちょっと脱げ」
「あ、こら。何をする、うさみ。そう言うことは家でや――!?」
服をめくろうとするうさみっちを止めようとして、ニコもそれで気づいた。
気づいてしまった。
うさみっちの指が、ニコの腹の肉をぷにっと摘めている事に。
水着コンテストで。或いは何処ぞの珈琲店に行きたいからと。
必要な時もあんまり必要なさそうな時も、惜しげもなく晒してきたニコの引き締まったシックスパックが、ぽよぽよたるんたるんの多秘邱お腹になっていたのだ。
「はっ!? ニコの腹筋がやられたってことは、その後ろに隠れてた俺は、もしや無事なのでは――!」
ぱぁっと顔を輝かせるうさみっちだが、その頭にあったトレードマークとも言えた左右の垂れ耳が、掴めないほど短いものになっていた。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵
アテナ・アイリス
アヤネ(f00432)と一緒に。
なにあれ、あの貧乏神達の姿。一気にやる気が失せるわねぇ。
でも、アヤネ、二人での初の戦闘よ。頑張りましょうね。
アヤネの戦う姿に見とれていたら反応が遅れて、光を浴びてしまったわ。
いや、わたしの自慢の胸がしぼんじゃったわ。もう、許せないわ。全力で倒すわよ。
UC「神槍ケラウノス」をつかって、一撃必殺の雷槍を召喚し、貧乏神を貫いた後、感電により真っ黒こげにする。
ふん、わたし達を怒らせると、こうなるのよ。
「なに、あの頭の「貧」って文字は、、、情けないかっこね、はあ。」
「アヤネ、あんなのすぐ倒して、また街で遊びましょうよ。」
「わたしは、貧乳じゃないわよ。許せないわ!」
アヤネ・ラグランジェ
【アテナf16989と】
アテナとは初の共闘だネ
腕前のほどを見せてもらおう
と言ってもあまり力押しが効きそうな敵では無いかな
見た目はしょぼいけど
あの手合いはfunnyな奴ほど厄介だ
空中に手で弧を描き
弧に沿って袖口からずるりとScythe of Ouroborosを引きずり出す
敵の動きに先んじて攻撃
あっ
アテナは油断した?
そして敵さんはそこ狙っちゃうか
逆鱗に触れるといういう奴だネ
と、こちらも光線を受けた
記憶を失う性格が下劣になる
表向きに作っていた表情が消えて無表情になる
そこからは機械のように敵を攻撃し続ける
触手で拘束しては斬り
斬り捨てては次の獲物を狙い
終わった?
覚えていないけど
お疲れさま
と微笑みかけ
●共同戦線
アテナ・アイリスと言う猟兵は、慣れていた。
周りの状況を把握することに。
特にそうとまで意識せずとも、視えていた。視えてしまっていた。
自分も得意としている料理の技能が貧しくなった他の猟兵とか。
他の猟兵の言葉で、みすぼらしい格好を貧乏神としての存在感を出す為に必要なものだと力説している貧乏神達の姿とか。
「なにあれ」
結果、アテナの口を突いて出た声は――冷めていた。
「あの貧乏神達の姿。特にあの頭の「貧」って文字は………はぁ」
「おや。アヤネはああ言う手合は嫌いかな?」
アテナがはっきりと零したため息が意外だったのか、アヤネ・ラグランジェは少し目を丸くした様に見えた。
「けど、あの手合いはfunnyな奴ほど厄介だよ。言うまでも無いと思うけどネ」
「ええ……アテナの言うことも、頭では判ってはいるつもりよ」
注意を促すアヤネに頷き、アテナは改めて貧乏神に向き直り――。
「でも、一気にやる気が失せるのよねぇ」
誰しも合わない相手というものはいるものである。
「確かに、見た目はしょぼいけどネ」
そんなアテナに笑顔を返しながら、アヤネは伸ばした腕で虚空に弧を描く。
ずるり。
アヤネの袖口から現れたのはウロボロスの大鎌『Scythe of Ouroboros』。
「でも初の共闘だ。腕前のほど、是非見せて貰いたいネ」
「そうね。二人で初めての戦闘、頑張りましょう」
地を蹴って飛び出したアヤネの得物が2mはある長物だったのを見て、アテナは幾つかの武器の中から迷わず白いロングボウを取る。
(「あまり力押しが効きそうな敵ではなさそうだけど……さて」)
胸中で呟きながらアヤネが『Scythe of Ouroboros』を振るえば、貧乏神のやせ細った腕が掲げようとした杖ごと斬り飛ばされた。
「――あれ?」
思いの外に軽い手応えに違和感を感じつつ、アヤネは湾曲した刃を翻してもう一撃。貧乏神の首が、すっぱり斬り落とされた。
「力押し、行けそうだネ」
『ふ、ふふふ……この痩せた身体に力があると思ったか!』
ニヤリと笑みを浮かべたアヤネに、膝をガクガク震わせた貧乏神が告げる。
大鎌の長さを活かし、アヤネは貧乏神の動きに先んじる様に振るって、数体纏めて腕や首を斬り飛ばしていく。
とは言え、武器が大きければ大きいほど、その動きは大振りになりやすい。切り返しのタイミングなど、どうしても隙が出来るのは否めない。
『何という物騒な! だがどんな技術も、私の前では素人以下に――』
ストン。
その隙を埋めるは、月光の矢。
「喋ってる間に撃たないからよ」
『セレーネの白弓』を構えたアテナが、淡々と呟いた。
●失われたもの――アテナ
『ドゥェッヘッヘ! お前達の身体を貧相にしてやろう』
「おっと!」
貧乏神が杖から放った光を、アヤネが地についた大鎌を支えに飛び越える。
「あの大きさの鎌を軽々とまぁ……」
大鎌を軽々と扱うその姿に、アテナは知らず知らずに見惚れていた。
だから、忍び寄っていた別の貧乏神が放った光に、反応が一瞬遅れてしまった。
「え? ――しまっ」
(「あらら。油断しちゃったかな?」)
気づいたアヤネが振り向いた時には、アテナの姿は光に覆われていた。
そして――。
(「あー……そこ狙っちゃうか」)
光が収まってすぐ、アヤネは察した。アテナが何を貧しくされたのかを。
アテナのやや青ざめた表情と、自身の胸元に手を向ける仕草で。
『ふははははは! やったぞ! 貧乳にしてやったぞぉ!』
言わんでも良いことを、大声で告げる貧乏神。
つまりそう言う事だ。
胸当てで隠れている事もあるが、アテナは中々豊かなスタイルの持ち主である。
「もう――」
そしてアテナも自覚していた。実は自慢であったのだ。
それが、しぼんでしまったのである。慎ましい事になってしまったのである。胸元が色々とぶかぶかである。
「もう――許さないわ」
アテナの青い瞳が怒りが灯る。その怒りに呼び込まれる様に、彼女の周囲でバチバチと空気が帯電しはじめる。
『あともう一度、光線を当てれば完全な貧乳に――』
バヂバヂィ――ヅドン!
問答無用で放たれたアテナの雷槍が、貧乏神をあっさりと黒焦げにした。
「天空神の雷霆よ、我が敵を粉砕――滅殺する力をお貸しください」
わざわざ言い直す辺り、アテナの怒りが現れている。
神槍ケラウノス。
その名は神の雷霆を意味する、一撃必殺の雷槍投擲術。
「わたしは、貧乳じゃないわよ!!!」
触れるだけでも痺れる雷槍に、今回はアテナの強い怒りが加わっているのだ。貧乏神が耐えられる筈もなく、次々と消し炭にっていく。
「逆鱗に触れるといういう奴だネ」
アテナの見せた思わぬ激情に、今度はアヤネが目を奪われ――。
『頭も心も貧しくなるがいい!』
「あ」
そして、別の貧乏神に隙をつかれた。
●失われたもの――アヤネ
「―――」
貧乏神の光を浴びたアヤネの口元から、笑みが消える。
緑瞳は冷たく細められ、その表情からは、一切の感情が消えた。
「UDC形式名称【ウロボロス】術式起動。かの者の自由を奪え」
まるで機械の様に抑揚の無い口調で告げたアヤネの影から、鱗の様な模様を持つ異界の黒い触手が、蛇の群れのようにずるりと顔を出した。
幾つも。幾つも。
『ぬぉぅ!? ほ、解けない』
二重螺旋のウロボロス――術式の名を示すかの様に、影より出でし触手は二本一組となって、螺旋状に絡みつく。その一つ一つが、貧乏神の腕よりも太い触手の拘束だ。破れる筈もない。
『だが。どんな技術も、私の前ではしろ――』
言い終わる前に、アヤネが振り下ろした大鎌にバッサリと斬られて、貧乏神が頭から真っ二つになった。
「次――かの者の自由を奪え」
貧乏神が消えゆくのを見届けもせず、アヤネは次の貧乏神に触手を伸ばす。
触手で拘束して、確実に刃が届く状況を作って大鎌で斬る。
斬り捨てては次の貧乏神に、触手を伸ばす。
光を浴びる前の戦い方とはまるで異なる、確実に一体を殺す戦い方。
貧乏神の光で、アヤネの記憶は、奪われていた。
性格も下劣に落とされていた。
されど――知識は残っていたのだろう。戦う為の知識は。
だからアヤネは、まるで戦う為の機械になったかのように、ウロボロスの触手を伸ばしウロボロスの大鎌の一撃で斬り捨てる。
一連の動作に躊躇いの見えない動きは、まるで戦う為の機械のようだった。
●取り戻したもの
ヒュッと湾曲した刃が風を立つ音を鳴らし、貧乏神の頭と胴を切り離す。
ズドンッ!
そこに降り注いだ雷槍が『貧』と書かれた額の布すら、一瞬で消し炭に変えていた。
アヤネとアテナの前にいる貧乏神は――それが最後だった。
「ふん、わたし達を怒らせると、こうなるのよ」
風に流れていく黒い欠片に、アテナがきつい視線を向ける。
お怒りは、ごもっとも。
他の所でも、戦いは終わったらしい。聞こえていた銃声も砲撃音も止んで、立ち昇る紅炎も、死神軍団も見えなくなっていた。
それはつまり――貧乏神が奪ったものが、戻ってくるという事である。
「ん? 終わった?」
アヤネの目に光が戻るなり瞬いたのは、出した覚えのないウロボロスの触手が、いつの間にか自分の周りに出ていたからだろうか。
「お疲れ様、アヤネ」
そう微笑みを浮かべて声をかけたアテナの胸部は、いつも通りのサイズにすっかり戻っていた。色々と収まりも元通り。
「アテナもお疲れさま」
その表情で察して、アヤネは飛んでる記憶を気にせず微笑み返す。その頃には、他の猟兵達の失ったものも戻っていた。
コミュ力も。料理も。記憶も。小銭も。腹筋も。垂れ耳も。
そして――甘楽村の人々の、こんにゃくと多秘邱に纏わる技術も。
「思い……出した……」
「そうだ! こんにゃくを作る時の割合は……」
「これなら、作れる……作れるぞ! 多秘邱も!」
そこかしこから、興奮した村人達の声が上がっていた。
●少しだけ、その後の話
貧乏神を誘き寄せる為に、猟兵達が作った様々な多秘邱。
甘味、飲み物。氷菓子。果汁で色付けた多秘邱。
それらは甘楽村の人々の記憶に強力に残り――そして彼らは、模倣を始めた。
やがて、甘楽村を発祥として新しい多秘邱が幾つか開発され、他藩にも少しずつ広がり出したことで、こんにゃく藩の財政に少なからず潤いを与える事になるのだった。
大成功
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