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その心は空虚に凍える

#サムライエンパイア

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#サムライエンパイア


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●彼らの切望
 おかあさんはどこにいるの。
 おとうさんにあいたいの。
 小さな声が口々に言う。時に滲んで聞こえる声を、大人たちは嗜めることはせずにただ抱擁を与えてゆっくりと聞いていた。
 悲しいのだろう、寂しいのだろう。ここに居る幼子は大火事で焼けてしまった村の生き残り。彼らの親たちが必死で逃した愛子達。
 知らない大人達ばかりの村で、一生懸命に畑を手伝う姿は見ていて微笑ましい。
 若者たちは山に囲まれた村を離れて久しいのだ。村の中で幼子の声がすることの、なんと愛おしいことか。
 だからこそ、この子達には笑って生きていてほしい。大人たちは、誰もがそう願った。
「今年の神楽祭は、久々に賑やかに慣れば良いねぇ」
 華やかに飾られる村に、鈴の音を響き渡らせて、少しでも、彼らの悲しみが癒えればいいと、願っていた。

●我らの願望
「微笑ましいお話だろう。だがね、このままではその願いは叶わないんだ」
 グリモア猟兵であるエンティ・シェア(欠片・f00526)は、困ったことだね、と呟いて己の予知を語る。
 山奥の村で、火事で逃げ延びた子供たちが保護されたそうだ。
 その村は決して豊かではないが、すっかり寂れてしまっていただけに、小さな子供たちが居てくれるのは喜ばしいことだと、空き家の一つをいわゆる孤児院のように誂えて共に生活しているのだそう。
「しかし親を亡くしたばかりの子供たちだ、悲しくないわけがないようでね、夜な夜な親を求めて泣いてしまうそうだよ」
 そんな彼らのせめてもの癒しになればと、昔からこの雪の季節に行われている祭りの準備を進めているのが現状だ。
 奉納するための舞を教えたり、村に飾るための花を用意したり、それがなくとも日常生活でも良好な関係を築いている。
 そんな最中に、風鈴の音が、響き渡ると、言う。
「祭りで鳴らす鈴の音かと大人たちは思っているようだがね、子供たちには、呼び声に聞こえるらしい」
 火事で亡くした父や母が、自分たちを呼んでいる声に。
「子供たちは、村の大人が止めるだろう。普通に考えて、死者の声が聞こえるなど不穏な話を真に受けて向かわせたりはしないからね」
 だがもしかして生き残った誰かがいるかも知れない。それを確かめに行く村人は、幾ばくか居るだろう。
 そして彼らは、運悪く遭遇してしまうだろう。黄泉の国から死者を蘇らせる風鈴の群れに。
 幼子達の父母を求める声に呼ばれたのか、あるいは裏に彼らをけしかけた何かが居るのか、それはまだ、判別できない。
 確かなことは、これを放置すれば村が一つ……いや、ふたつ、消えるということだ。
「風鈴は、兜のような形状をしている。ふわふわと浮いているが、まぁ武器が届かない距離まで浮き上がることはないだろう。気楽に殴ってくれていい」
 とはいえ相手はオブリビオンだ。風鈴の音で自身を強化したり、範囲攻撃をしてきたり、死者を召喚して戦わせたりと、決して油断のならない攻撃をしてくる。
「風鈴に喚ばれる死者は、特定の誰かというわけではない。蘇らせてほしいという願いに呼応して引きずり出された魑魅魍魎だ。だからね、それが例えば誰かに似ているとか思っても、気を許してはならないよ?」
 釘を差すように告げると、エンティは微笑んで一つ手を打った。
 武運を祈るよ。朗らかに告げて、サムライエンパイアへの道を開くのであった。


里音
 サムライエンパイア世界での冒険です。
 戦闘、ボス戦、日常と言った流れになっておりますが、プレイング次第ではちょっぴり心情に寄った描写になるかもしれません。

 第二章、第三章開始時点での状況を冒頭文章で投稿予定です。
 プレイングの参考にどうぞ。

 皆様のプレイングをお待ちしております。
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第1章 集団戦 『彼岸の兜風鈴』

POW   :    風鈴の音が響き渡る
予め【風鈴の音を響かせ続ける 】事で、その時間に応じて戦闘力を増強する。ただし動きが見破られやすくなる為当てにくい。
SPD   :    風鈴の音が共鳴する
【共鳴振動となる甲高い風鈴の音 】を放ち、自身からレベルm半径内の指定した全ての対象を攻撃する。
WIZ   :    風鈴の音が死者を呼ぶ
【黄泉の国 】の霊を召喚する。これは【悲鳴】や【武器】で攻撃する能力を持つ。
👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​

種別『集団戦』のルール
 記載された敵が「沢山」出現します(厳密に何体いるかは、書く場合も書かない場合もあります)。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。

マックス・アーキボルト
「速攻だ。鈴を鳴らす暇も与えてやらない…!」
親を失った子供達の悲しみが痛いほど分かる。…僕も両親を失ったから。

とにかく土属性のエレメンタル・トーピードであの兜の形の鎧を砕く!
岩のように硬くした魚雷ならあの兜も打ち砕ける!

…僕がこんなに急いでいるのも、敵の死者を喚ぶ力のせいだろう。
僕の目の前に出る"誰かに似ている人"は、―多分父さんと母さんしかいない。

攻撃できないなんて甘えたことは言えない!子供たちも村の人たちにも危険が迫ってるんだから―。

…ただ僕が辛くなるだけだ。
顔を見たらきっと、楽しかった思い出ばかりが、頭に思い浮かんでしまうんだろうな…。


クロト・ラトキエ
黄泉がえって欲しい心当たりは無い。
だから何か見えることも無いだろう。
これは、ただの戦場。
無垢な未来を摘ませぬ為の、2つ目などくれてやらぬ為の、
楽しい愉しい、とおせんぼ。

武器を手に、にこりと笑う。
「それじゃあ、叩き割りましょうか」
兜風鈴なんかに負けず劣らず、雅にね。


音色で敵の行動を察し、即応出来るよう心がけ。
フック付きロープでもって敵の動きを絡め取り、阻害するよう動きつつ。
死者召喚された場合はそちらを優先。
二回攻撃も駆使して手数を稼ぐなど、
他の皆さんを援護もできるよう立ち回りたく思います。

油断なく、けれど気楽に殴り壊せ――
ええ、ええ。そのオーダー、承りました。

(アドリブや他の方との絡み歓迎です)




 ちりん。遠く、鈴の音が響く。季節外れの風鈴が。
 それを聞き止め、あるいは頼りにしながら索敵していた猟兵は、村を囲うような森の中へと立ち入り、それぞれの場所で、その存在と相対した。
 かつていたかも知れない武士に似合いの武者兜。それが、何の因果か風鈴の妖となってふわふわと浮いている。
 ――速攻だ。鈴の音を鳴らす暇も、与えない。
 そんなつもりで挑んでいたマックス・アーキボルト(ブラス・ハート・f10252)の足が、不意に止まった。
 一つ、二つ。兜風鈴に付き従うようにふらふらと歩みを進める姿を、認めて。
 似ていると、思ってしまったのだ。
 この村に居る孤児たちと同じように、マックスもまた、両親を失くしている。だから、孤児らの気持ちは痛いほどよく分かるし、もしも目の前に居るこれが自分の両親だとすれば……。
 過る。昔の、楽しかった思い出が。
 だがその回想は、早々に断ち切られる。クロト・ラトキエ(戦場傭兵・f00472)が彼らに対して攻撃を仕掛けるや、死者はその明確な敵意に恐怖するような悲鳴を迸らせた。
「……っ!」
 胸が苦しくなる。攻撃できないなんて甘えたことは言えない。だが、マックスは辛そうに死者から視線を背けるようにして、兜風鈴へとユーベルコードの矛先を向ける。
「属性変換、ターゲット補足――!」
 唱える声は、初めの一言だけ、震えていた。
 土属性の魔力で具現化させた魚雷は、頑丈そうに見える兜を叩き割るために選んだもの。
 一斉に差し向けられるそれらを気配だけで感じながら、クロトはなるほどと思案する。
 彼には、この黄泉返りに思い当たるものが居るのか、と。正しく他人事にそう思った。
 誰かに似ているように見えても。グリモア猟兵が語った冗談のような懸念が、真っ直ぐに突き刺さるのだろう、と。
(僕にはよく分かりませんよ)
 ただの、崩れた肉塊にしか見えないどこに面影を感じたのか。もしかして、思い描く誰かがいればそう見えてしまうのだろうか。
 どちらにしても、クロトには関係がない話だった。
 猟兵であると同時に傭兵であるクロトに、グリモア猟兵は言ったのだ。
 油断なく、けれど気楽に殴り壊せ――。
「ええ、ええ。そのオーダー、承りました」
 緩やかに告げて、叫ぶ死者へと鋼糸をからめ、一つを切り崩す。
 振り返らない。マックスがどんな顔をしているかはおおよその想像がつく。魚雷の第二射を放てるのだから、心配することも何もない。
 この戦場に必要なのは、無垢な未来を摘ませぬ為の、二つ目などくれてやらぬ為の、雅な戦ぶり。
 楽しい愉しい、とおせんぼ。
 淡々と、クロトが死者を屠るのを、マックスは少しだけ安堵したような、けれど心のどこかで痛みを感じるような、なんとも言えない表情で見つめていた。
 魚雷は正確に兜風鈴を打ち据えて、確実にダメージを与えていた。甲高い風鈴の音に、クロトもろとも巻き込まれることはあれど、さしたる苦戦とならなかったのは、相手が一体であったことと、己が一人ではなかったこと、だろう。
 断末魔も残さずにからからと音を立てて崩れた残骸を見下ろして、マックスは別の音へ対処に向かった他の猟兵達へ思案を向ける。
 辛い思いを、している者は居ないだろうか、と――。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​

姫菊・紬
音になら音で対抗です!多数相手なら私は強いですよ?………数が多いならエレキでもかき鳴らしてみる?
まず【楽器演奏】で音を相殺して相手の強化や範囲攻撃を無効化、霊を召喚してきたら【範囲攻撃】で一網打尽に。危険な時はちゃんと【スライディング】と【絶望の福音】で回避します。そんな音楽じゃ私を捉えられませんよ?幻惑でもなんでも打ち破ります!トドメは………うーん、とりあえず弱ったところを【怪力】で殴っておきますか?


ロベリア・エカルラート
●心情
へぇ……死者を呼び出す、ねぇ……。
呼び声も死者のものだって言うし、姉さんの声とか聞こえたりするのかな?

ま、こういう小賢しい手を使う相手って好きじゃないんだよね
子ども狙いも気に食わないし、さっさと叩き割ろうか

●戦闘
【咎力封じ】で敵の動きを封じて、そのまま愛用の黒剣で攻撃するよ

多少の攻撃を受けても、耳障りな音を止めることを優先したいし、攻撃を続行する

「……耳障りだから黙っててくれるかな」
「この手の敵に会うと、色々思い出して面倒なんだよねぇ……」

もし双子の姉さんみたいな死者がホントに召喚されたら、呼びかけてみる

「化けて出られるなら、いっそ出てきて欲しいくらいなんだけど。ねぇ?姉さん」




 グリモア猟兵の話を聞いた時から、随分と面倒な手合だと、思っていた。
(この手の敵に会うと、色々思い出して面倒なんだよねぇ……)
 ロベリア・エカルラート(花言葉は悪意・f00692)の溜息には、過去に亡くした者の記憶が混ざる。
 それゆえか、まるで、呼ばれたと言わんばかりに、風鈴の音が響き、ふわりふわりと火の粉を散らしながら、屍を伴った兜風鈴が現れた。
 連れて歩くとは賢いことだ。ふらふらとした足取りをしていた死者は、ロベリアと、共に居た姫菊・紬(背中合わせの陽・f08930)の姿を捉えるや、おぞましいものを見たかのように、悲鳴をあげる。
「……耳障りだから黙っててくれるかな」
 吐き捨てるような呟きは、落胆混じり。その声は、ロベリアが薄っすらと思案していたようなものではなかった。
(姉さんの声とか聞こえたりするかと思ったけど……)
 子供たちの耳に届いたのは、親を求めるあまりの幻聴か。それとも、ロベリアには身内の声に聞こえる程の渇望が足りないとでも言うのだろうか。
 どちらにしろ、小賢しい手であることには変わりない。それが、気に食わないことも。
「音になら音で対抗です!」
 ロベリアの思考は知らぬまま、紬は己のエレキギターを掻き鳴らす。
 森の中では不釣り合いな音は、同じく音を武器としている兜風鈴にとっては煩わしいのだろう。くるりとその場で旋回するように回ると、ちりりん、先程よりも強く、自身を打ち鳴らした。
「はは、なんだか愉快なことになってるね」
 エレキギターと風鈴のコラボレーションは、随分な不協和音を奏でていたが、少なくとも有効に抑えられているようだ。
 だが、そこに死者の悲鳴が加わると、不快さが急激に増すばかりか、ちりちりと肌を刺すような痛みに晒される。
「負けませんよ!」
 紬のエレキギターの音がますます高まる。愉快なライブ会場を横目に、ロベリアは一先ず死者へと接敵した。
 目の前の屍は、誰に似ているわけでもない。と、思う。
 ぐずぐずに崩れてしまった肌に抜け落ちた髪では、判別しようにもできない。
 ――ならば逆に、この誰にも見えない屍は、自分の双子の姉を元にしている可能性も、ゼロではないのではないか。
 思いつきに、ゆるりと首を傾げるようにして覗き込み、ロベリアは屍に語りかけた。
「化けて出られるなら、いっそ出てきて欲しいくらいなんだけど」
 ねぇ? 姉さん。
 その問いに、応える声はなく。鈍器のようなものが、ロベリアに向かって振り下ろされるだけ。
「残念だね」
 せめて、向こうに還った時に、姉に宜しく頼もうではないか。
 黒剣を振り抜き、死者を黄泉へと還したロベリアは、くるくると回りながらちりんちりんと鳴り続けている兜風鈴へと、ユーベルコードによる拘束を試みた。
 紬へ対抗し続けていたためか、ロベリアが放った幾つもの拘束具は綺麗に兜風鈴を捉え、その涼やかな音色を封じ込める。
「鳴らせなくなったのなら、私の独擅場ですよ!」
 掻き鳴らすだけだったエレキギターの音色に、リズムが込められる。
 風鈴の弱々しい音は、最早紬の音楽を引き立てることしかできずにいた。
「幻惑で油断させようって魂胆だったのなら、生憎でしたね」
 そんなものには負けません、と胸を張る紬に、ロベリアは、そう、と小さく同意に似た声を返す。
「小賢しさが過ぎたね。さっさと、叩き割られなよ」
 冷淡な声は、様々な音が飛び交う中でも、真っ直ぐに兜風鈴へと届いて。
 ギュイィーン……。余韻を残したエレキギターの音が止む頃には、そこには、残骸となった兜の破片が残るだけとなっていた。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​

杼糸・絡新婦
親を思う子の思いは残念ながら自分には想像しかできん、
でもなあ、その思いに水さす事がどういう事かくらいは分かる。
これ以上、悲しい思いさせたらあかんこともなあ。

錬成カミヤドリにて本体である鋼糸を召喚。
敵を切断していく。
チリンチリンとやかましい。
敵の攻撃は近くの敵を糸で絡み取り【敵を盾にする】ことで防ぐ。
フェイントを交え、こちらに攻撃が向くようにし、
他の猟兵達が攻撃しやすいようしむける.


アリア・ヴェルフォード
死んだはずの親しい人が自分を呼んでいる…ですか
死んだと理解しているはずの大人でもそういうのがあると望みをかけて行ってしまう人もいるみたいですからね…子供なら尚更ですね

とにかく人は今を生きねばなりません!黄泉への道は閉ざさせていただきます!

【WIZ】
範囲攻撃には【範囲攻撃】をもって当たりましょうか!
光属性の魔法の槍で魑魅魍魎は浄化してやります!

近づいていると巻き込まれてしまいますからね【ダッシュ】を併用しつつ距離を取りながら戦いましょう!


ドアクローザ・バックチェック
孤児を呼ぶ鈴の音か。妖怪みたいなやつだな。
妖怪は好きだが、人を殺める悪いやつは嫌いだ。
妖怪だろうと悪霊だろうと、悪いやつは成敗する。
容赦なく斬り捨ててやろう……。

難しい戦術は練らない。
やつらが風鈴の音を響かせて力をためると言うのなら、
溜める暇も与えない速攻で斬り捨てるまでだ。
【スライディング】でやつらの懐に入り込み、
私の、なんかSFっぽい技術が詰まってそうなサムライブレイドで、一刀両断する。

子どもや村人に手出しはさせない。猟兵が、必ず守って見せよう……。




 ちりん、ちりんと音が鳴る。ゆらゆら、炎の灯った短冊を揺らしながら現れた風鈴は二体。
 見据え、猟兵達は身構える。
「オブリビオンでなければ妖怪と呼ばれる類か……妖怪は好きだが、人を殺める悪いやつは嫌いだ」
「ああ、そうやなあ、親を思う子の思いは残念ながら自分には想像しかできんけど……その思いに水さす事がどういう事かくらいは分かる」
 ドアクローザ・バックチェック(ケーキナイフ・f11864)の独り言に、同意とも取れる杼糸・絡新婦(ヤドリガミの人形遣い・f01494)の言葉もまた、独り言。
 幼い子供を狙うという不届きに憤る思いは、アリア・ヴェルフォード(謎の剣士X・f10811)
もまた同様で。
「死んだと理解しているはずの大人でもそういうのがあると望みをかけて行ってしまう人もいるみたいですからね……子供なら尚更ですね」 
 村では泣き叫び、父母を求める子らを必死に宥めている大人たちの姿を見た。孤児となってしまった子供たちは、果たしてどの程度、自分の親が死んでしまったことを理解しているのだろう。
 ……あるいは誰も彼もが、信じきれないでいるのかもしれない。だからこそ、呼ばれるのだ。ありえない、黄泉からの声に。
「とにかく人は今を生きねばなりません! 黄泉への道は閉ざさせていただきます!」
 高らかに告げ、アリアは光り輝く槍を虚空より喚び出す。
 眩いほどの煌めきにも、兜風鈴は意に介さず、ふるりと身を震わせるような所作で、ちりりん、囁くような音色を紡ぐ。
 二体の音色が反響し、足元の土からぬるりと這い出るようにして、死者が呼び出された。
「妖怪だろうと悪霊だろうと、悪いやつは成敗する」
 無理やり召喚されてしまったこの屍は、被害者なのかもしれないけれど。
 相対するなら、再び屠るだけ。
「子どもや村人に手出しはさせない。猟兵が、必ず守って見せよう……」
 きらきらと輝くアリアの光の槍が次々と放たれる中、ドアクローザは素早く兜風鈴の懐へ駆け込み、空っぽの内側を見据え、近未来的な刀を振り抜いた。
 きぃん――! 金属がかち合う音は、兜風鈴自身が発する音よりも甲高く響き、その兜の一部を切り捨てた。
 だが、やや浅かった。召喚された死者に、阻害されてしまったか。
 くるりと身を翻し、鈍器のようなものを振りかぶる死者の攻撃を躱し、ドアクローザは一度敵との距離を取る。
 ふわふわと中空を遊びながら、兜風鈴はそれを追うでもなく、再び身を震わせ――。
「チリンチリンとやかましい」
 きゅん、と。空気を裂く音と共に、絡新婦から放たれた鋼糸が兜風鈴の一体を絡め取る。
 地面へと引きずり落とす勢いの鋼糸に、仲間を奪われまいとしてかもう一体が甲高い音を立てて絡新婦を攻撃した。
「ああ、本当にやかましい」
 不快だと言わんばかりに顔をしかめ、もう一体へも鋼糸を放つが、警戒されたか、躱される。
 だが、何も確実に攻撃を当てることばかりが戦いではない。絡新婦の鋼糸に気を取られた一体は、再び踏み込んでいたドアクローザへの対処が遅れた。
「一度で駄目なら、何度でも行くまで」
 今度こそ、その身が両断される。さらに、アリアの光の槍が追い打ちをかけるように次々と突き刺さり、死者諸共粉々に粉砕した。
「魑魅魍魎は浄化してやります!」
「ふふっ、無理やり喚ばれたお人らも、無事に還れそうですなあ」
 残るもう一体は、光の名残に眩しげに瞳を細めた絡新婦の鋼糸からなんとか抜け出し、くるりくるりと中空を舞っては、再び、音の波動で以て猟兵達を攻撃した。
 もっとも、多少ダメージを与えたところで、最早戦局は猟兵の勝利へと決したようなものだったけれど。
「往生際が悪いな」
 ドアクローザのサムライブレイドが再び閃く。炎を纏った短冊が切り落とされては、響く音も、響かない。
 まごついた兜風鈴へ、絡新婦の鋼糸が再び絡む。それは彼女の本体を複製したものであるが故に、ただの糸よりも強靭に、明確に、敵を屠らんとする。
「これ以上、子供らに悲しい思いをさせたらあかんことも、よくわかるんや」
 お呼びでないのだ、悲しみを助長させる、歪な音色など。
「集え聖光! カオス・レイ!」
 幾度も放たれた光の槍が、森の中を輝かせる。
 その煌めきが落ち着いた頃には、そこは、静けさを取り戻していた。
 風鈴の音は、もう、聞こえない。
 その、変わりに。しくしくと悲しげに泣く声が、不意に、響いた。

 ――かなしや、かなしや。

 泣く声は、森の奥から聞こえてくる。それは、兜風鈴と対峙した猟兵達の耳に、等しく、届いたことだろう。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​




第2章 ボス戦 『勘解由小路・桔梗』

POW   :    無念の報復
【陰陽道の術で召喚した武器の群れ 】を放ち、自身からレベルm半径内の指定した全ての対象を攻撃する。
SPD   :    信康招聘
自身が戦闘で瀕死になると【一体の強力な妖狐 】が召喚される。それは高い戦闘力を持ち、自身と同じ攻撃手段で戦う。
WIZ   :    知識の蒐集
質問と共に【指先から蝋燭の火程度の大きさの炎 】を放ち、命中した対象が真実を言えば解除、それ以外はダメージ。簡単な質問ほど威力上昇。
👑17
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種別『ボス戦』のルール
 記載された敵が「1体」出現します。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※このボスの宿敵主は💠デナーリス・ハルメアスです。ボスは殺してもシナリオ終了後に蘇る可能性がありますが、宿敵主がボス戦に参加したかつシナリオが成功すると、とどめを刺す事ができます。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


声を、聞いた。悲しげに嘆く声を。
 その声は森の奥から響いているようで。辿れば、やがて開けた場所へと出るだろう。
 焼け焦げた建物が立ち並ぶ、その場所へ。
 そこは、村の孤児たちがかつて暮らしていた村の後。

 猟兵達は、その場で見つけることだろう。焼けた村には不釣り合いな、書架の散乱した光景を。
 その中心で、静かに佇む少女の姿を。

「会いたいと、想うておりましたのに」

 どうして、どうして、その願いを打ち砕く真似をしたのでしょう。
 どうして、どうして、あの子らを救ってやらぬのでしょう。

「会いたいと、願う心は罪でしょうか」

 教えてください。少女の問いは、詠唱となって炎を喚ぶ。
 しかし、正確な答えのない問いかけは、その力を発揮するものではなく。蝋燭のようなささやかな炎が灯るだけ。
 差し向けられたとて大したダメージになるようには思えぬが、きっと、己が思う真実を唱えれば、その炎は消えることだろう。
 教えてやればいい。あるいは、意に介すまでもないと無視をしてもいい。
 その少女が敵で、兜風鈴を放った張本人で、倒してしまえば良いことだけは、確かめるまでもなく示されているのだから。
マックス・アーキボルト
……罪なんてない……
…会いたいなんて、
思わないわけない…
それでも、
未来と引き換えにはさせられない―。

問いに答えよう。
出来る限り目の前で。
火の耐性は関係ない。
もっと強い火だったとしても
同じ事をする。
目の前に出て、問いに答えて、零距離射撃で攻撃。
…邪魔になるようなら他の人の行動を優先しよう。
危険なのは女の子でなくて妖弧の方だ。気を抜いちゃダメだ。

妖弧が出た瞬間、
真の姿、解放。
情けない表情の顔ごと機械鎧が全身を包む―。
戦うんだ、あの子供達の未来のためにも!

援護射撃、徹底。
武器の群れが出てくれば即座に【加速魔法式:攻性】を発動。武器落としにかかろう。


(アドリブ、協力は大歓迎です)


杼糸・絡新婦
(首をかしげる)
何を言っとるん?願うのは罪やないで。
せやけど、だから傷つけても良かは別の話やろ。

会話をするついでに、力を抜いて歩きながら相手に近づく。
キツネの顔をした狩衣を着たカラクリ人形:サイギョウを使用し、
敵の攻撃を防ぐか回避できるものは回避。

【知識の蒐集】質問への答えによる攻撃がきたり
【信康招聘】での攻撃は力を抜いて受け止め
オペレッタマカブル発動。
ほな、お返しや。

大人が子を思う気持ちは無視かい?
違うやろ?結局は自分のためよ自分と同じ、
自分が良かれとおもってやっとるだけ、
誰かの思いなんて言い訳やと思うで。


ロベリア・エカルラート
会いたいと願う心、ねぇ……
「さて、願うだけなら罪でもなんでもないんじゃない?」

……というか、ホントに死んだ人を呼べるなら是非ともそうして欲しいね

「まあ、どうせ出来もしないんだし。呼び出せるとしたら、それはただのオブリビオンだ。歪んで元とはかけ離れた別物だよ」

古今東西、死者に会う様な話は失敗するって相場が決まってるんだ。そういう詰まらない教訓話を見たいワケじゃないんだよね

「悪いね、ホントに感動の再会になるなら見逃してあげても良かったんだけど。……どうせ詰まらない三文芝居にしかならないんだ。さっさと終わらせるよ」

・正直この敵は気に入らないし、あんまり好きじゃないけど血統覚醒を使って速攻で決めるよ


クロト・ラトキエ
罪では、無いですよ。
想うこと、願う心。それ自体は、罪じゃない。
…けどね?
救うと称して価値観を押し付ける。他者の未来を摘み取る。そんな勝手は
――そりゃあ明確に、罪ですよ。

軽い声音、載せる微笑。
まるで談笑でもする様に相対する姿勢は、先程と変わらない。
そのまま躊躇い無く喉笛を掻き切りにいける性質も…また、常の事。

トリニティ・エンハンスで攻撃力強化。
皆の攻撃と相手の出方を『視』、
『知識』を動員し、『破壊』すべく
2回攻撃や鎧無視攻撃も出し惜しみ無し。
たとえ炎が苛もうと、もう如何なる問いにも答えはしません。
御託は無用。
ワイヤーのフックを盾代わりに、鋼糸に技の悉くを乗せて、
アレの存在も目論見も、断ち切ります




 少女は、無垢に見える瞳で猟兵達を見つめた。
 少女に人らしさはない。オブリビオンであることを差し引いても、人にあるべき感情的な部分が決定的に欠落していた。
 散乱した書架が、時折少女の仕草に合わせて風もなくはらりとめくれる。それが、書架さえも彼女の一部であることを物語るかのようだった。
 教えてください。唱える声は、嘆くでもなく、責めるでもなく、ただただ純粋に、知りたがっているような平坦な声音。
 その問いかけに、マックスは痛ましい顔をした。
 会いたいと想っていたのは、遺された子供たちだけではなく。
 己もまた、同じなのだと。
 だからこそ、突き刺さるような感覚に胸を抑え、マックスは進んで前に出た。蝋燭のような炎が、ちりりと肌を焼く感覚がしたけれど、些細なことだ。
 そんなことよりも、ただ誠実に、答えたかった。
「……罪なんてない……」
 絞り出すような声は、脳裏によぎる思い出を噛みしめるように、表情と同じく痛ましさを伴って響く。
(……会いたいなんて)
 思わないわけない。
 その思いそのものは、何一つ咎められることではない。それは、猟兵達の共通の見解だった。
 ただ、絡新婦とクロトは、何を当たり前のことをと言うようにゆるく小首をかしげていて、ロベリアは侮蔑にも似た溜息を含んでいた。
 同じ問いかけに対して様々な受け止め方をする猟兵達をくるりと見渡して、少女は頷いた。
「それならば黄泉返りの法は望まれたものなのでしょう。望まれたゆえに、存在するのでしょう」
 ――にも関わらず、阻まれた。
 悲しげに聞こえた言葉と共に、少女の所持する本が怪しげな力を宿す。
 成し得なかった無念を晴らすべく、猟兵達を打ち倒すために。
「極端なことやな……思いが罪でも何でもないからて、傷つけて良いかは別の話やろ」
「……というか、ホントに死んだ人を呼べるなら是非ともそうして欲しいね」
 穏やかな調子で歩み寄っていた絡新婦がやれやれと嘆息し、からくり人形を操る。
 は、と短く笑ったロベリアが、小さく呟いて真紅の瞳を煌めかせるのと同時、最も少女の近くにいたマックスは真っ直ぐにその目を見据えて。
「それでも、未来と引き換えにはさせられない――」
 至近距離から、銃弾を撃ち込んだ。
 仰け反るでもなく受け止めた少女へ、ヴァンパイアの血を覚醒させたロベリアの黒剣が追撃する。
 どうせ、本当に願った存在をよみがえらせることなど出来ないのだろうと吐き捨てて、深く斬り込んでいく。
「呼び出せるとしたら、それはただのオブリビオンだ。歪んで元とはかけ離れた別物だよ」
 それでも攻撃は止まらない。口惜しや。どこからか、脳裏に直接響かせようとするかのような声が聞こえた気がして、かつてどこかで討たれた誰かの刀が次々と展開される。
 それは刃の群となってマックスの銃弾を弾き、ロベリアの剣と打ち合い、クロトのワイヤーに絡め取られ、絡新婦のからくり人形が受け止めた。
「大人が子を思う気持ちは無視かい?」
 からくり人形を労るように撫でて、問い返す絡新婦の声には、冷ややかさが滲む。
「違うやろ? 結局は自分のためよ自分と同じ、自分が良かれとおもってやっとるだけ」
 果たしてこの少女が思うのは、良かれ、と信じてのことなのか。それは、定かではないけれど。
「誰かの思いなんて言い訳やと思うで」
 かすかに眉根を寄せての物言いに、その通りだというように頷いて、クロトは穏やかな微笑を湛えたまま、少女を見下ろせる位置まで接近する。
「救うと称して価値観を押し付ける。他者の未来を摘み取る。そんな勝手は――そりゃあ明確に、罪ですよ」
 諭すでもなく、嗜めるでもなく。大人の顔ではなく見知った顔見知りのような気軽さで告げながら、クロトはあまりにも自然に少女の体躯を切り裂いた。
 猟兵達の攻撃に、言葉に、表情を変えないままふらりと体を傾がせた少女は、ぽつり、小さく呟く。
「――ほだされていれば良いものを」
 刹那の後、少女を抱え込むようにして現れた狐の男が、とん、とそのまま距離を取るように跳ねた。
 そうして糸の切れた人形のようにくったりとしている少女の手から本を取り上げて、猟兵達を見渡し、笑う。
「嗚呼、恐ろしや。無垢な者が無垢な願いに応えてやっただけだと言うに、非道いことをしたものよ」
 語る声は少女のもの。ころりと猟兵たちへ向けられた少女の首が携えていた双眸は、もう、無垢には見えなかった。
 明確に塗り替えられた敵意と少女以上の力を有した妖狐の存在をを認めるや、マックスは真の姿を解放する。
 抑えきれない嘆きや憤りが己の表情を情けないものにしていたけれど、それも、全て覆い隠すように機械鎧が全身を包んだ。
(戦うんだ、あの子供達の未来のためにも!)
 おお、怖や、とおどけてみせる声を抱えた妖狐に、ロベリアは間髪入れず黒剣を繰り出す。己の寿命が削れる感覚は確かなものだ。悠長に話している暇はない。
「ほだされるわけもないよね。ホントに感動の再会になるなら見逃してあげても良かったんだけど。……どうせ詰まらない三文芝居にしかならないんだ」
「三文芝居とは失敬な。感動的に再会させてやれるとも。綺麗な綺麗な花畑の向こう側は、その舞台には実に良かろうに」
「は……そんなことだろうと、思ったよ!」
 道理で気に入らないわけだと吐き捨てて、ロベリアは攻勢を強めた。
 子供たちの切望を踏みにじるような妖狐の言葉に、機械鎧の内側で唇を噛み締めたマックスは憤りに声を上げて、魔力によるエネルギー弾を次々と打ち込んでいく。
 倫理や人道の押し問答にでもなるかと思案し、その如何な問いにも答える気のなかったクロトもまた、想定以上に遠慮の要らない相手の様子に笑みを深め、炎、水、風と重ねた魔力で攻撃力を強めた鋼糸を繰り出した。
「ほう、ほう、そうやって、その顔で何人殺めた」
「御託は無用ですよ」
 にべもなく断ち切られた会話に、ほう、と小さく呟いて。
「ならばこれならどうだ?」
 その顔で、何人殺めた――。炎の付与された問いかけを、クロトへと差し向けた。
 けれど、クロトはその熱に苛まれながらも、穏やかな調子を変えることはしない。
「御託は無用と、言ったでしょう」
 下らない問いに答える気はない。身に炎を纏ったまま妖狐の腕を削ぎ落としたクロトに、少女は愉快げに哄笑する。
「覚えておらぬのだろうなぁ!」
 そうして、お前はどうだと同じ問いを絡新婦へ投げかけた。
 無抵抗に静観していた絡新婦へ炎が迫り――しかしそれは、彼女の手の中にいたからくり人形に、吸い込まれる。
「ほな、お返しや」
 ころりと笑んだ絡新婦が糸を繰れば、吸い込んだ炎が妖狐へ――妖狐が抱えた少女へと返された。
 己が身を焼く炎に、書架を含む本棚を本体とする少女は悲鳴を上げる。
「知らぬ、知らぬ、知らぬ! 人の子の死など数えるわけもない!」
 絶叫するような叫びは、炎を取り払ったけれど。
 愉しむつもりでいたところへ、予期していなかった反撃を食らった少女は、憎しみを湛えたような目で猟兵達を睨み据えた。
「良い気になりおって!」
 敵意に、殺意が上乗せされる。片腕となった妖狐を連れ、なお、少女に退く素振りはない――。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

クロト・ラトキエ
全く、失敬なー。
ま、答える気は今も更々無いですけどね。
あなたを悦ばせるだけなら尚の事。

…ってーか「良い気」って…
其方様、自分が『数えて貰えない』側になるとか、考えて無いでしょ。
そっちの『答え』なら…お教えするのも吝かでは無いですね。

戦法は変わらず、トリニティ・エンハンスで攻撃力強化からの、
2回攻撃と鎧無視攻撃を駆使した鋼糸での斬撃。
…但し本命は、範囲攻撃の応用。
早業で張り巡らす糸による、多方向からのフェイントですけど。

…終わったなら。
熱っ、あっつー!
炎の残滓に、はぁーっと溜息零し、おどけて見せて。
やれやれ、折角の一張羅が台無しじゃないですかー。
…なんて悪態は。
あぁ、もう、聞こえてませんか?


杼糸・絡新婦
おお怖い、怖い。
ほだされたいんならもうちょい頑張らんのかいな。
・・・でもやりやすくなったわ。

(真の姿・クモのように目が複眼になり黒の忍び装束を纏っている)

錬成カミヤドリで鋼糸を召喚。
フェイントしつつ、相手の動きを抑えるように巻き付け、
他の猟兵が攻撃しやすいスキを作る。
場合によってはそのまま切断。

知らんか、これも自分と同じかな、
多分自分もあんたの顔もそのうち覚えとらんようになるわな。




 弾き返された炎に纏われ焼かれた少女は、ふぅふぅと息を荒げて妖狐の服にしがみつき、わなわなと震えていた。
「よくも、よくも……!」
「おお怖い、怖い」
 差し向けられた炎を吸い込み、排出することで反撃した絡新婦は、技を吸い込んだからくり人形を口元に掲げて、くすくすと笑う。
「ほだされたいんならもうちょい頑張らんのかいな。……でも、やりやすくなったわ」
 元々遠慮なんてする気もなかったが、心置きなく仕留めに掛かれる。
 薄らと細められた絡新婦の瞳が、ほんの一瞬斑に歪んだ。そしてその歪みは、彼が瞳を伏せて開いた時には、明確な変化として現れていた。
 黒い忍び装束のような纏に身を包み、蜘蛛によく似た複眼を宿した双眸で少女を見据えた絡新婦の手から、幾つもの鋼糸が伸びる。
 それは蜘蛛さながらの様相で。真の姿を開放した絡新婦をちらりとだけ一瞥して、クロトは、露骨なため息を付いてみせた。それこそ、はーやれやれと大仰に肩をすくめる勢いで。
「全く、失敬なー」
 ひとをはくじょうなさつじんきのようにー、なんてのは、棒読みも大概な独り言。
 薄っぺらなごまかしに、目を剥いて激昂する少女が、クロトへぎょろりと睨む視線を向けた。
 それに、クロトはにこりと笑みを返すだけ。
「ま、ま、答える気は今も更々無いですけどね」
 あなたを悦ばせるだけなら尚の事。
 囁くように告げたクロトの手にもまた、鋼糸。念力で以て縦横無尽に襲いかかる絡新婦の鋼と、属性魔力で強化され、色を帯びたクロトの鋼とが、きゅぃ、と共鳴し合うような音を立て、中空を交差する。
 その軌道を睨む眼差しで追い、少女は無念の怨嗟を刀に変えて喚び出した。
 鋼でできた糸は易く断たれることもないが、少女に致命傷を与えるにも至らない。
「その程度か? はは、容易く見切れるわ」
 煽るような言葉に、クロトは、絡新婦もまた、微笑む。
「其方様、自分が『数えて貰えない』側になるとか、考えて無いでしょ」
 『良い気』とは愉快なことを言ったものだと呆れてみせるクロトに、絡新婦は同意するように頷いて。
「多分自分もあんたの顔もそのうち覚えとらんようになるわな」
「覚えておく義理もありませんものね」
 その点では気が合うかもしれないなどとおどける言葉に、煽られたのは少女の方。
 無念に怒りを含んだような禍々しい形状の刃を、これでもかと言うほどに喚び出して。
「形も残らぬほど、刻んでくれる!」
 放とうと、した。
 けれどそれは、力を備えた本が、腕ごと、死角から迫った鋼糸にかすめ取られ、不発に終わる。
 そうして、次の瞬間には多方向から一度に殺到し、少女の姿をしたオブリビオンを、彼女が召喚した妖狐諸共斬り刻んだ。
 同じ武器を手にしたそれぞれが、フェイントを混ぜ、攻撃しやすいようにと尽くしたゆえの、鮮やかな一手だった。
 断末魔もなく、少女は消えた。形も残らぬほどに刻まれたのは己の方。そんな、皮肉だけを残して。
 同時に、焼けた村には不釣り合いだった書架の山も消え去った。それを確かめて、小さく息を吐いたクロトは、不意に声を上げる。
「熱っ、あっつー!」
 残った炎の残滓にその場でぴょんぴょんと跳ねて、やがてそれも消えた頃に、大きく大きくため息を付いて見せて。
「やれやれ、折角の一張羅が台無しじゃないですかー」
 唇を尖らせて、全くもうと文句を垂れたその口が、緩く、緩く、弧を描く。
「――あぁ、もう、聞こえてませんか?」
「……ふふっ」
 あからさまに芝居じみたクロトの態度に、絡新婦は愉快げに、思わずと言ったように笑って。それから、焼けた匂いの残る村を見渡すと、そろそろ帰ろうかと促した。
 くるりと踵を返した瞬間から、記憶は薄れていくもので。
 そうして、いつか忘れるのだろう。今日駆逐したオブリビオンのことなんて。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​




第3章 日常 『雪と花の神楽祭』

POW   :    広場の舞台を組み立てる、必要な資材の運搬を手伝うなど

SPD   :    踊り手となり素敵な舞を披露する、広報活動をする等

WIZ   :    存続の為の提案を行う、芸術的に飾り付ける等

👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

種別『日常』のルール
「POW・SPD・WIZ」の能力値別に書かれた「この章でできる行動の例」を参考にしつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。



 村へ戻れば、子供達は寂しげながらも、もう父母の声は聞こえないのだと言っていた。
 オブリビオンとの戦闘のことは、グリモア猟兵であるエンティが何となく伝えてあるため、村の大人たちは子供達を脅かす妖怪が退治されたのだと安堵に満ちた顔をしていた。

「解決したようだね。何よりだ。とはいえ村にとってはこれからが本番と言ってもいいようだがね」
 そう言って、エンティは色とりどりの花籠を差し出してきた。冬咲きの花は以外にも多く、色とりどりだ。村の子供達は、これで村を飾り、神楽舞を奉納するというイベントをこなすらしい。
 元々は、子供たちお寂しさを紛らわせるよう、村のささやかな祭りを楽しんでもらいたいというのが村人の願いだった。
 それを手伝う意志があるならば、子供を抱えて高いところへの飾り付けを手伝ってみたり、舞手となる子供とおしゃべりを楽しみながら舞を教えてもらってみたり、子供が喜びそうな行事の提案をしてみたり、やりようは色々とあるだろう。
「だがまぁ、楽しめばいい」
 きっとそれが一番だと、エンティは言った。
 この祭りに大きな設備は必要ない。必要なのは、花と舞。それから子供達の笑顔。ただそれだけなのだ。
クロト・ラトキエ
村にとってはこれからが本番、か…
えぇ。その通りなのでしょうね。
命の危機が去ろうと、喪われたものは戻らない。
心の間隙がすぐさま埋まるわけでも無い。
いたみを抱えながら、それでも彼らはこの先を生きていかねばならない。
(知識としてあるだけで、それが如何なるものか真には識らない己が、
考える事でも無いのだろうけど)

…ま、それはさて置き~?
力仕事は男士の役目。
花飾りなんて洒落た真似は不得手ですが、運搬くらいは僕にも出来るでしょう。
手伝います。どうぞ、指示を。

ほらほら、エンティ、君も留守番ばかりじゃ甲斐が無いでしょう?
人手は幾らあっても良いものですよ♪
貴方もどうぞしたい事を。
…なんて、言うまでも無いですかね?


マックス・アーキボルト
終わってみれば、狼狽えてたの僕だけだったな…

【SPD】
よーーーし!
広報活動、子供たちとのコミュニケーション、資材運搬、持てるスピードで、みんなが祭を楽しめるよう全力お手伝いだー!
真の姿は解除で。いかつい機械鎧は怖がられちゃうからね!
優しさ、礼儀作法全開で―

…空元気に見られるかな?でも違う。
辛さは目一杯感じたけど、僕に戦う意思をくれたのも何時だって同じ思い出だったって思い出せた。あの妖弧の悪意を考えれば、すごくいい儲け物だ。


親を急に奪われた彼らに最後まで一緒にいられた僕の言葉なんておこがましいだけだけど、祭が終わるまで寄り添っていよう。

(アドリブ大歓迎です!)


杼糸・絡新婦
(元の人姿に戻っております)
舞手の子供に舞を教えてもらいながら、パフォーマンスを利用し
カラクリ人形のサイギョウに舞わせてみます。
言われたとおりにしたりわざと間違えたりしつつ。
こんな感じかい?
いやはやお上手やねえ、誰かに教えてもらったん?
子供とお話しながら祭りの手伝いをしていきます。

思うことは悪いことやない、忘れ去られるのは寂しいやん、
お祭りと一緒や大事なことは覚えておれるやろ。


ロベリア・エカルラート
●心情
まあ、普通は親と会えなくなったら会いたいと思うもの、かな……
私も父親に会いたいと言えばそうだけど、大分事情が違うな…

「ま、良いや。あんまり落ち込まれても後味悪いし、少し手伝おうか」

これでも子供には優しいつもりだよ?

●行動
舞台役者として踊りには心得があるからね、あとは歌も得意かな
私が踊っても良いんだけど、せっかくだから村の子たちに歌と踊りを教えてあげよう

サムライエンパイアはあまり来ないから、子供たちからこの辺りの歌を教えてもらうのも良いね

私達が帰っても、踊りや歌があればまた来年もお祭は出来るしね

「……ああ。もしかしたら、姉さんはこんな気分だったのかな?」

※アドリブ、他の参加者との協力も歓迎




 そこにあったのは、とても、長閑な光景だった。
 生活に困ることのない程度の雪がふわふわと積もる枝の先に、数種類の花が飾られたり、軒下に短く伸びた氷柱の先端に同じように花が飾られたり。
 そんな風に、思い思いに村を花で飾る子供たちが、ぱたぱたと目線の下を通り過ぎていく。
 右から左。左から右。顔の違う幾らかの子供が連れ立っているのを見届けて、クロトはゆるりと首を傾げた。
(村にとってはこれからが本番、か……)
 グリモア猟兵が語る言葉は、正しくその通りなのだろう。
 子供たちが命を摘み取られる危機は去ったが、彼らが喪ったものは、戻らない。
 唐突に大切なものをなくして出来てしまった心の隙間は、すぐさま埋まるわけでもない。
 思い出して泣くこともあるだろう。寂しさに胸が痛むこともあるだろう。それでも、そんないたみを抱えながら、彼らはこの先を行きていかねばならない。
 ――それが、どういう意味なのかは、クロトの認識の内側にはなかったけれど。
 他人の事情を眺めただけの、曖昧な知識。同じ事情を辿ったわけでもなければ、同じ感情を共有したわけでもない。
 そんな自分が彼らの今後を慮ることに、あまり、意味らしいものを見いだせなかった。
「……ま、それはさて置き~?」
 くるりと思考を切り替えて、浮かべたのは人当たりのよさそうな笑み。眺めてばかりでも仕様がないと村を歩き、祭りに使うようの衣類の箱や踊る場を設けるための片付けに奔走していたマックスの肩とぽんと叩く。
「手伝います。どうぞ、指示を」
 力仕事は男士の役目ですから、と微笑むクロトに、ぱちりと瞳を瞬かせてから同じように微笑んだマックスは、両手いっぱいに抱えていた籠を差し出した。
「あ、えっと……それじゃあ、この籠をあちらのお宅までお願いします」
「はい、承りました」
 マックスからクロトへ、ひょい、と軽々受け渡される籠は、実は結構重たい。
 少年少女らは一つを両手で抱えて運ぶのがやっとの代物をひょいひょいやり取りする様子を、きらっきらの瞳で見上げる少年が一人。
「兄ちゃんたち、すっげー!」
 力持ち、は少年にとってわかりやすい憧れだ。興奮したような声に釣られたように、数人の子供が集まってはわいわいはしゃいでいる。
 落としたら危ないから気をつけてと、まとわりつく勢いの子供を嗜めるようなマックスの声は、半分くらいしか届いていないようだった。
「やぁ、モテモテだね?」
「そちらこそ」
 案内代わりにはしゃぐ子供を連れて歩くクロトに、朗らかな声。
 視線をやれば、縁側に腰掛け、両サイドに少女を置き、手には編んだ花を持ったエンティと目が合う。
「楽しんでいらっしゃるようで」
「はは、したい事をと言ったのは君だからね。ちなみに私にそういう事を言うと、後で目一杯飾られてしまうよ。覚悟しておいで」
 ぽすん、と出来た花編みを隣の少女の頭に乗せて、こんな風に、と笑うのを、肩を竦めて見届けて。
 籠を指定のお宅に届ければ、任務完了だ。
「なぁなぁ兄ちゃん、おじさんたちより力持ちなんだな!」
「どうやったら兄ちゃんみたいになれるんだー?」
 興味津々の子供達の相手は、まだ、もうしばらく続ける必要がありそうだたけれど。

 クロトを見送ってからもマックスは村を走り回ってあれやこれやと雑務をこなしていた。
 悪意だらけの敵との戦闘では、狼狽えていたばかりだったと自省し、全力で手伝いに奔走しているのである。
 勿論、真の姿は解放済みだ。それは絡新婦も同様で。折角安心を得た子供達を無為に怖がらせる必要もないと、努めて優しく、明るく、振る舞っていた。
 資材の運搬や行ける範囲での近隣への広報活動をしている間にも、子供達とのコミュニケーションは欠かさない。
「あの上に飾りたいんだね、よし、ちょっとじっとしててね」
 井戸の屋根を控えめに見上げていた少女に声を掛け、肩に乗せてやれば、初めは驚いたようにマックスにしがみついていた少女も、嬉しそうに井戸の屋根を飾りだす。
「僕じゃ小さかったかな。大丈夫?」
「うん、お兄ちゃん、ありがとう」
 屋根の四辺をぐるりと飾り終え、満足そうな声で頷いた少女は、マックスの肩から降ろしてもらってから、あのね、と彼を見上げた。
「お父ちゃんもね、してくれたの」
 その言葉に目を丸くしたのは、少女の傷に触れてしまったかと狼狽えてのことではなく。少女の顔が、とても、嬉しそうだったから。
 久しぶりに、楽しかった出来事を思い出せたのだろう。えへへ、と笑う少女に、マックスはほんの少し眉を下げながらも、笑みで返した。
「お父さんのほうが、高かったんでしょう?」
「うん! お父ちゃん、とっても背が高かったの!」
 誇らしげな顔で頷く少女の頭を撫でる。
 撫でることが出来たのは、マックスもまた、両親との思い出に胸を満たしていたから。
 思い出すことは辛いことでもあるけれど、幸せなことでもあるのだと、気づかせてくれた。
 相対した敵は、悪意の塊のようだったけれど、それを思えば、随分な儲けものというやつだ。
「お兄ちゃんもお祭り見ていくんでしょう? わたし、踊りを教えてもらってるの。ちゃんと見ていってね」
「勿論!」
 ねだるような言葉への快い返事に、嬉しそうにはにかんで、少女は駆けていった。
 少女の行先には踊り用に誂えた広場があって、村の大人に混ざってロベリアが歌と踊りを教えている最中だ。
 歌や踊りが好きな子供達は早々に彼女の周りに集まって教えを請うている。少し出遅れたあの少女も、すぐにその輪に溶け込むことだろう。
「よし、僕も頑張ろう!」
 親を急に奪われた彼らに、最期まで一緒にいられた自分の言葉なんておこがましいだろうけど。
 そんな風に、少しの悲観を覚えながらも、祭の終わりまで寄り添うことを決めたマックス。
 彼が、己の髪に一輪、お礼代わりの可愛らしい椿の花が飾られていることに気がつくのは、もう少し後の話だ。

「うーん、こんな感じかい?」
 くるり、糸を繰って人形が優雅なターンを決めれば、囲んでいた子供達から歓声が上がる。
 舞手を担う子供達が、練習の傍らで絡新婦の持つからくり人形、サイギョウに舞を教えている現場だった。
「お人形さん、上手ねぇ」
「あ、でもでも、ここはこうやってもっと大きく手を上げるのよ」
 自分たちが今日まで教えてもらった舞を披露するのを見て、うんうんと絡新婦は頷く。
 教えてもらった通りに、時折、わざと間違えたり。そうやって少しずつ上達させていけば、子供達は人形の踊る様と教える楽しみとに夢中になっていった。
「いやはやお上手やねえ、誰かに教えてもらったん?」
「おばさまに教えてもらったのよ!」
「お洋服も縫ってくれるの!」
「それは、きっと綺麗なんやろうねえ」
 見るのが楽しみ、と微笑む絡新婦に、少女らは嬉しそうに笑った。
 元々住んでいた村ではこういった催事はなかったのだろうか。子供らは皆ワクワクとした顔をしているように見える。
 ただ、勿論そればかりではなく、家の縁側でぽつりと座り込んでいる子供も、居たけれど。
 自身を取り囲んでいた少女らが舞の練習に戻っていったのを見届けて、絡新婦は一人で俯いている少年の隣に歩み寄った。
「お隣、ええやろか」
 ちらりと見上げる視線に、頷き一つ。控えめに距離を開けて腰を下ろした絡新婦は、どうしたと聞くことはせず、目の前で準備が進んでいく祭の光景を眺めて、ただ一言、楽しみだねと呟いた。
「……おかあさんにも、見せたかった……」
「うん」
「おかあさん、お花、好きなの」
「そう」
 ぽつりぽつりと零される呟きに、一つ一つ相槌を打ちながら。静かに聞く絡新婦の耳に、馴染みのない歌が聞こえる。
 ロベリアが教えている歌だろうか。舞の練習中に少女らが口ずさんでいたのとは違うそれも、穏やかな村の雰囲気によく馴染んで響いた。
 少年の耳にも聞こえていたのだろう。そろりと顔を上げて、また、ポツリと呟く。
 おかあさんは、歌も好きだったと。
「僕、駄目なんだ、どうしても、どうしてもお母さんのこと思い出して……」
 泣いてしまうのだ、と、涙に滲んだ声で告げる少年に、うん、とまた一つ声を掛けて。
 絡新婦は、俯いた少年の視界に、からくり人形を滑り込ませた。
「思うことは悪いことやない。忘れ去られるのは寂しいやん」
 思い出して泣いてもいい。我慢をしているだけで同じ思いをしている子供も、きっと居ることだろう。
「お母さんにも届くよう、お花で一杯飾って、一緒に歌うてみたら、どうやろか」
 いっそ思い出す日にしてしまえばいい。提案に、涙目を丸くした少年は、絡新婦を見上げて、うん、と頷いた。
「僕、おうた教えてもらってくるね」
 ありがとう、とはにかんだ顔は、強がりのそれだったけれど。
 彼はきっと、大事なものを忘れずに仕舞っておけるようになるだろう。
 駆けていく背へ、声援を送るように、からくり人形が手を振っていた。

 子供達が寝泊まりしている空き家の前で、ロベリアは差し出された花籠の中身を眺めていた。
 差し出してきたのは子供達だ。赤い髪に白い肌、加えて長身のロベリアはとても華やかに目を引き、ちらちらそわそわと様子を窺うような視線があちこちから向けられていた。
(怖がられてるわけじゃ、無いみたいだね)
 死に別れた親に会いたいと思う気持ちは、わからないわけではなく。ほんの少し前まで聞こえていた父母の声すらも聞こえなくなったとなれば、落ち込んでいる者も居るだろう。
(私も父親に会いたいと言えばそうだけど……)
 ここに居る子供達とは、事情が違う。会った後に平和的な状況になるか否かが、まず大きく違う。
「ま、良いや」
 子供には優しいつもりだ。気晴らしを手伝うくらいなら出来るだろう。
 そうと決まれば話は早い。ちらちらと見てくる子供らの一人と視線を合わせて、ちょいちょいと手招きをする。
 きょろきょろと辺りを見渡してから、おずおずと歩み寄ってきたのは少女だった。
「さっきはお花ありがとうね」
 目線を合わせて声を掛ければ、もじもじとしていた少女ははにかんでロベリアを見つめると、背に隠し持っていた花冠を差し出した。
 先程教えてもらったのだと言う。あの辺やあの辺のおにーさんやおねーさんの頭に飾っておいでと促されて機会を伺っていたとか。
 グリモア猟兵がそんなことをしていたのが薄っすらと蘇る。あの近くにクロトが向かっていたのも思い起こして、あぁ、きっと彼もこれを飾られたのだろうと微笑ましげに笑った。
「お礼にって言ったらなんだけど、私も歌とか踊りは得意だからさ、私の知ってるのを教えてあげる」
 祭の舞手は全員ではない。それなら、違う踊りを覚えて、それも一緒に披露する機会があれば、一層盛り上がることだろう。
 提案は、少女の目を丸くさせた。しかしすぐに嬉しそうに頷く。
 それを見ていた他の少女や少年も、そわそわと近寄ってきてはロベリアを取り囲んで。出来上がった輪を見渡して、ロベリアは穏やかな曲調の歌を紡ぎ始めた。
 決して難しくはないリズムに歌詞。一通り聞き終えた子供に、一フレーズずつ教えていけば、すぐに合唱が始まった。
「上手上手。じゃあ踊りもやってみようか」
 少し距離を開けて、ロベリアの長い手足が緩やかに振られる。これもまた、決して難しくはない動きの組み合わせで。すぐに真似を始める者もいれば、ロベリアにもう一回とねだる者も現れ、歌も交えながら何度も繰り返し練習した。
 近くの広場からは、村人から教えてもらっている舞の音色も聞こえてくる。その広場で、絡新婦がからくり人形と共に舞を教わっていたのを、ふと思い出した。
 あちらの様子も少し覗きに行ってもいいかもしれない。そうやって、今度は彼らにサムライエンパイア由来の歌や踊りを教えてもらおうか。
「おねえちゃん、もう一回、一緒にやろ!」
 正真正銘無垢な瞳が、ねだってくる。
 彼らは、猟兵達が立ち去った後も、お互いに歌や踊りを教え合ったり、次の祭りの季節にはすっかり上達して軽やかに踊ったりするのだろうか。
 なんだか、とても微笑ましい光景だ。
 思うと同時。ロベリアによぎったのは、先の戦闘の記憶。
 結局黄泉返ることのなかった姉の、微笑ましげに笑った姿が脳裏に浮かぶ。
「……ああ。もしかしたら、姉さんはこんな気分だったのかな?」
 今はもう、知ることのできない双子の姉の思いに心を馳せて、ロベリアは一度瞳を伏せた。
 歌が響く。舞の音頭が聞こえる。
 花の香に満ちていくこの村に、少しずつ咲き始めた子供らの笑顔は、きっと枯れることはなく。
 凍えるほどの空虚さは、猟兵達の優しさに、溶かされていくのであった。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​



最終結果:成功

完成日:2019年01月21日


挿絵イラスト