#アルダワ魔法学園
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蒸気機械と魔法で究極の地下迷宮「アルダワ」が創造され、その世界の「災魔」は全て封印されている。迷宮の上に敷設された「アルダワ魔法学園」。迷宮からの脱出を図る災魔と戦う学生達がそこにいる。
噂がある。迷宮の最下層に「大魔王」が現れたという噂だ。
地下迷宮は刻一刻と姿を変えるようになっていた。
学園には新入生が入学していた。
そして、災魔が学園に現れるようになった。
新しい戦力と、不穏な予感と。
猟兵達はそんな世界を背景に日々を生きる。
「レッサーデーモンの群れをサイクロプスが率いているのでございます」
ルベル・ノウフィル(星守の杖・f05873)が予知を語る。
「アルダワ魔法学園。学園迷宮のフロアボスが配下を率いて上の階層へと攻め上がってきます」
「学園の新入生さんと先輩さんが一緒になって防衛線を敷き、戦っています。まだ、突破はされていませんが、少しずつ上の階に防衛線は押されている様子。突破されるのも時間の問題」
「学園まで侵攻を許してしまうわけにはいきません。敵の侵攻を食い止めてくださいませ」
単純かつ明快。
戦うだけだ。守るだけだ。
ルベルはそう告げ、現地迷宮のマップを見せる。
「星濫迷宮、と申します」
星好きの魔法使いがそう名付けたのだという。
地上より1層降りて、幻想仕掛けで一面に星空が映し出されている『天覧フロア』が。
「戦場は、その下層。皆様の実力であれば、苦戦することもありますまい。ですが、お気をつけて」
現地へ転送すると告げるルベルは、グリモアを光らせながら付け足した。
「帰りに、星を観ていくのもよいかもしれませんね」
remo
おはようございます。remoです。
初めましての方も、そうでない方もどうぞよろしくお願いいたします。
今回はアルダワ魔法学園での冒険です。
プレイングは7/31(水)8時31分から受付をさせていただきます。
1章は集団戦です。
2章はボス戦です。
3章は日常です。ご指名頂ければルベルがお供させて頂きます。
キャラクター様の個性を発揮する機会になれば、幸いでございます。
第1章 集団戦
『レッサーデーモン』
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POW : 変わらぬ悪意
自身の【全て】を代償に、【召喚したレッサーデーモン】を戦わせる。それは代償に比例した戦闘力を持ち、【異形の肉体】で戦う。
SPD : 終わらぬ悪意
戦場で死亡あるいは気絶中の対象を【供物にし、捧げた血肉をレッサーデーモン】に変えて操る。戦闘力は落ちる。24時間後解除される。
WIZ : 潰えぬ悪意
自身が戦闘で瀕死になると【自身を生贄に捧げ、新たなレッサーデーモン】が召喚される。それは高い戦闘力を持ち、自身と同じ攻撃手段で戦う。
イラスト:すずしろめざと
👑11
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔴🔴🔴🔴🔴🔴
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種別『集団戦』のルール
記載された敵が「沢山」出現します(厳密に何体いるかは、書く場合も書かない場合もあります)。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
| 大成功 | 🔵🔵🔵 |
| 成功 | 🔵🔵🔴 |
| 苦戦 | 🔵🔴🔴 |
| 失敗 | 🔴🔴🔴 |
| 大失敗 | [評価なし] |
👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。
深海・揺瑚
星濫迷宮、って面白そうな名前よね
ちょっと興味もあるし、行ってみたいのよ
お邪魔虫は引っ込んでてちょうだい
この一匹いれば大量に沸いてくる感じ
嫌な黒光りする虫と同じじゃない?
思い出したらぞっとして、近付くのも嫌になってきたわ
他の猟兵たちに前は任せて少しばかり後ろから
協力もしましょ、直接対峙は任せるわ
名乗りが必要ならばミミとだけ
討ち逃しと、倒しては増えてきたのをどんどん片付けましょ
もったいないから鉄くずで十分
呼び出した水の中にぽんと放り込み
さて、これで何体片付いたかしら
ヘンリエッタ・モリアーティ
戦うだけ、守るだけ――殺すだけ、でしょう
シンプルでいいわ、とてもね
学び舎が襲われるのは現職教員としても好ましくない
怒りを覚えるわね、常に怒ってはいるけど――。
学生たちには身が重いでしょうし
力を見せつければ少しは勇気だとか安心が湧いてくれるかしら
怯えと言うのは――、うまく使わないと、足枷になるだけだから
【静寂に墜落せ銀華の月】で相手をしましょう
デーモンどもにはワトソンをロープワークで縛るなり、引っ掛けるなりしてやりましょうか
あなたたちに見せてやる星などないのよ、薄暗い地下で散って頂戴。
――過去どもは絶滅よ、絶えて死ね
憤怒の竜(わたし)の前に立った。それだけで理由は充分よ。そうでしょ?
●朱の防衛戦線
「だめだ! 敵が減らない!」
「増えていく一方だ!」
アルダワ魔法学園の学生たちが各々の魔法を振るい、レッサーデーモンと戦っていた。
「でも、守らないと、戦わないと」
入学したばかりの学生が自分の扱える中で最も強力な一撃を撃つ。しかし、瀕死になったレッサーデーモンが自身を生贄に捧げ、新たなレッサーデーモンを召喚する。――悪意は潰えぬ、と。魂の底に知らしめるような災魔の軍勢が、そこにあった。
終わらぬ戦い、疲弊する学生。
(もう、戦えない……)
絶望がひたひたと忍び寄る。
「もう、だめ……」
足が言う事を聞かずへたりこむ学生の鼓膜を玲瓏な声が震わせる。
「星濫迷宮、って面白そうな名前よね。ちょっと興味もあるし、行ってみたいのよ」
「え?」
「あら……もう、着いたのね」
空間が揺らめく中するりと幻想のように現れたのは、深い海色の髪に鮮やかな紅玉色の瞳を持つ美女。艶めく花の口唇が蠱惑的に弧を描き、つつと密やかに寄せられた指は白く細くたおやかに。
深海・揺瑚(深海ルビー・f14910)が戦場に転送されていた。
「お邪魔虫は引っ込んでてちょうだい」
凛然としたそれは、蠢く朱の悪意達に向けた言葉。
そうと分かりつつ、学生はびくりと肩を震わせた。へたりこんでいる自分が情けない気がして学生が弱気な目を向ければ、美女は甘く目元を和ませた。
深海の揺らめくが如く髪が揺れる。
「ハァイ、学生さん」
すべらかな手がゆらりと振られる。労うが如く。少し休んでいるといいわ、キリのない虫退治は疲れるもの――、そんな風に呟く声には、責める響きなど全くなかった。
宝石光るヒールを鳴らして歩む足取りは悠々と、背筋はピンと伸び、ただ容姿が整っているだけではなく中身も伴っているのだと全身が語る。
そして、もう一人。
星纏う夜空より深き黒が、するりと迷宮に降り立った。
「戦うだけ、守るだけ――殺すだけ、でしょう。シンプルでいいわ、とてもね」
赤い蜘蛛の巣型をしたグリモアを両手であやとりのようにもてあそびながら現れたのはヘンリエッタ・モリアーティ(犯罪王・f07026)。
悪徳教授は戦場に『気になる存在』を感じながら瞳を巡らせる。
ようやく着慣れてきたばかりといった制服を血泥に汚して肩で息をする学生。精魂尽き果てたとばかりに壁に靠れてぐったりしている学生。傷の手当てを受けながら前線に復帰する意思を見せる学生。
銀の瞳が冴えやかに煌めく。
地上を見下ろす麗月にも似た彩は、見る者の背筋をぞくりと震わせるほどの静かで密やかな怒りを秘めていた。
――学び舎が襲われるのは現職教員としても好ましくない、と。
黒に彩られた白皙が呟きを零す。美しき悪徳が声放てば戦場の喧騒が一時追いやられたように皆が息を呑む。空気にひたりと染むような声は決して大きくない。
だが、
「怒りを覚えるわね、常に怒ってはいるけど――」
声に学生たちが首を竦める。もちろん、声は敵に向けられているのだが、それを理解しつつも学生たちは教授の講義で課題を忘れたかのようにそわそわとしてしまうのであった。
◆
静謐に漆黒が歩み、並ぶ。
「学生たちには身が重いでしょうし、力を見せつければ少しは勇気だとか安心が湧いてくれるかしら」
教授の声はひどく落ち着いていた――慣れているのだ。
「この一匹いれば大量に沸いてくる感じ、嫌な黒光りする虫と同じじゃない? 思い出したらぞっとして、近付くのも嫌になってきたわ」
優美な笑みを絶やさない揺瑚の唇が応えてくれる。
「前は、任せるわ」
◆
(怯えと言うのは――、うまく使わないと、足枷になるだけだから)
ヘンリエッタに宿るUDC、ワトソンが敵の群れを捕縛していく。動かぬ前列をすり抜けて華麗に朱の群れに身を躍らせた教授に四方八方から悪意が迫る。
「――絶えて死ね」
氷の如き声がひとつ。
学生たちが見守る中、悪徳教授が押し寄せる敵を蹴散らしていく。散華するごとに敵が神秘的な白き花弁に変じて無風の迷宮に惑い舞い踊る。幾重にも広がり織り成す柔らかな白……花の名を知る者はそれを月下美人と呼ぶだろう。
「あなたたちに見せてやる星などないのよ、薄暗い地下で散って頂戴」
そのユーベルコードは十分な完成度を誇る。
「すごい……、すごい!」
学生の心に希望の灯が燈る。
「先生に続け!」
身に纏う空気からか立ち居振る舞いからか、学生たちは教授を先生と呼び後に続いて駆けだした。
黒の周囲にぼろぼろの学生たちが駆けつけ、高揚した様子で各々のとっておきの魔法を撃っていく。
「自分も、」
へたりこむ自分を鼓舞するように立ち上がる学生には、海が揺蕩うがごとき悠然とした声が届く。
「あら、前に出るだけが戦いじゃないわ」
前に出る者、後ろを守る者、共にあってこそ戦線は保たれる――、蜜のように囁く美女、揺瑚がユーベルコードを発動させる。周囲に浮かぶのは涼やかに輝きうねる海水を纏った珠玉の剣。それが165本。ずらりと並び前へ撃ち出せば壮観さに学生があんぐりと口を開ける。
視線の先で泡沫ドレスがふわりひらりと光を放ち、引き立てられる艶やかな体は女性らしいやわらかさ。惜しげもなく晒される肢体に初心な学生は顔を赤らめ目を逸らす。遠く前線で敵が穿たれて絶命しているのがわかる。
「転入生(猟兵)の方ですね、もしよければお名前を」
自身も前線で戦う戦友たちへと支援の魔法を放ちつつ、学生が問えば美女はふわりと微笑んだ。
「ミミよ」
一言、ミステリアスな美女はそう言って泡沫翻し最前線から流れてきた敵を片付けていく。朱色の『虫』を事もなく対処して。
「もったいないわ」
零れる声には傲慢さが滲む。だが、そんな気配が似合いだと納得してしまうオーラがこの美女にはあった。
「何がです?」
学生が生真面目な声で問う中を『ミミ』は呼び出した水の中に――、
鉄くずで十分、と嫣然たる微笑みを湛えて。
――放り込む。
「虫、」
ふ、と吐く吐息のなんと色気のあることか。
「さて、これで何体片付いたかしら」
凄絶な技巧がその美しさに拍車をかけていた。
朱の虫が散らされる中を『ミミ』――揺瑚がふわりと微笑み眺める前線では、頼もしき悪徳教授が学生らを引き連れて奮戦している。
「ギィ……!!」
「ギ、ギギ!」
手練れが戦場に現れた。朱の災魔たちがそれを識る。
脅威により一層の敵意と殺意を高める敵の群れを、悪徳がまたひとつ散らしてみせる。
「――過去どもは絶滅よ、絶えて死ね。憤怒の竜(わたし)の前に立った。それだけで理由は充分よ。そうでしょ?」
――呟く声は、数式を解くに似て。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵
黒江・イサカ
夕立/f14904
僕のこと3歳児かなんかだと思ってんのかなア、彼 どう思う?
…あ、きみ、もしかして新入生?大変だね、こんな目に遭って
ところでさっきの聞いた?あれ、僕の連れなんだけどさあ 可愛いでしょ
まるで僕が新入生みたいだったよね あはは
…ん?僕が夕立の連れか?
ま、新入生くんは最終ラインの死守を宜しくね 行ってくるよ
【目立たない】【先制攻撃】【早業】
1撃で殺せないの、本当に申し訳なく思うよ
でもね、夕立に感謝してあげて
生贄になんてならずに、君は死ねるんだから
――…ねえ、びっくりした?
これこそ【慈愛】だね
…それにしたって、君らのご主人さまって過保護だなあ
君たちもそう思うだろ、式紙くん
さ、次行こっか
矢来・夕立
黒江さん/f04949
実質無限湧きか
正面切ってマジメに殺してるんじゃ、ナイフが幾つあっても足りない。
オレが先行して仕込みをします。黒江さんは暫くいい子で待っててください。
…なんか後ろでベラベラ喋ってるな。シゴトだって分かってるんですかね。
ユーベルコードの封印だけに専念する。
学生さんの戦線に紛れて《忍び足》
最初の標的は黒江さんに向かってくるヤツ。
そいつが、一番最初にあのひとに殺されます。
――三枚当てる。
《暗殺》【紙技・影止針】
骸の海へ一方通行です。蘇ろうなんざ甘いんですよ。
後詰めはキッチリしてくれるので、放っといて次の的に着手します。
…一応、『幸守』と『禍喰』を黒江さんの傍につけておきますけど。
●其れは、変わらぬ、
血のような色だった。
内側から焔に焦がされ血色に染まったような手。
学生は、引退するのが夢だった。世界を守るというご立派な身分から解放され、生きて、つまらない余生を生きる。生きるのだと。
その夢が潰える悪寒に全身を震わせ、後退する。トン、と背が壁に付く――ほら、終いだ。敵が、
「ギギッ」
敵が。
何かに気づいたように虚空を視た。
警戒を色濃く浮かべて距離を取る。
そこに、2人組が出現していた。
「実質無限湧きか。正面切ってマジメに殺してるんじゃ、ナイフが幾つあっても足りない」
ぽつりと声が置かれた。世界に。
眼鏡の奥の視線は、どこか無感情に其れを見る。
黒手袋の五指が小さな紙を携えて。
「オレが先行して仕込みをします。黒江さんは暫くいい子で待っててください」
少年は、矢来・夕立(影・f14904)。
連れの男に言い聞かせるようにして前線へと向かっていく。それを見送り――、
「僕のこと3歳児かなんかだと思ってんのかなア、彼 どう思う?」
「え……、」
黒江さん、と呼ばれた男は学生の傍に寄る。きゃらきゃらと紡がれる声色――、荒い息の下で学生がちらりと視線を向ける。向けて、目を逸らす。
「……あ、きみ、もしかして新入生? 大変だね、こんな目に遭って」
(何故目を逸らしたのだろう)
自問しながら学生がもう一度男を視る。
「はい、……いえ、」
たった今、猟兵が到着したのだ。それは、頼もしい事実だった。
「ところでさっきの聞いた? あれ、僕の連れなんだけどさあ 可愛いでしょ。まるで僕が新入生みたいだったよね あはは」
声には気負う様子が一切ない。
穏やかでつまらない日常に浸してくれるように。
「……ん? 僕が夕立の連れか?」
男は軽く瞬いた。黒色。印象は其れだった。
「ま、新入生くんは最終ラインの死守を宜しくね 行ってくるよ」
男――黒江・イサカ(アウターワールド・f04949)が散歩に出かけるかのようにひらりと手を振り背を向ける。
(新入生じゃ、ない)
学生が呟こうとした声は、しかし喉の奥に仕舞いこまれた。何故だろう。再びの自問。
「先輩、大丈夫ですか」
数か月前に出来たばかりの後輩が駆け寄ってくる。頷き、安心させるようにして――、そういえば名を聞いてないなと思い出した。
「転入生(猟兵)が駆けつけたって聞きましたけど、先輩、見ましたか」
「ああ」
「帽子をかぶった、男だった」
◆
小さな紙片が虚空を舞っている。
(……なんか後ろでベラベラ喋ってるな。シゴトだって分かってるんですかね)
学生の戦線に紛れ、影のように夕立は仕事をしていた。千代紙の忍びは三枚を放っていた。手裏剣の形に美しく折られた暗紙。
式だ。
(――三枚当てる)
忍ぶ足取りに気付く敵はいなかった。
集団戦の間隙を縫うように視覚から舞う式は、三撃成れば敵のユーベルコードを封じる力を秘めている。熟達の技能に裏付けられし静寂の絶技は成功度高く敵を討つ。万に一つも失敗などしないとその瞳が物語る。
「骸の海へ一方通行です。蘇ろうなんざ甘いんですよ」
言いながら少年はほんの刹那意識を後方に向ける。『あのひと』、と。声発せずに口唇が動く。
ほんのひとこと。
空気震わせることなく呟いて、少年は次の的に着手する。
ひらり、紙片が戦場に躍る。
一枚、また一枚。
戦場には、悪意が渦巻いていた。レッサーデーモン。幻想のバケモノだ、怪物だ。血色の身体持つ異形が醜い声をあげ、けれど自身を代償に新たな一体を生み出す姿は――、
銀色が閃いた。
冷たい鋼線が鋭く一本走り抜け、自らを代償にしようとしていた一体が死角からの一撃に動きを止める。
「ギ、ギ……」
小さなナイフだ。
それが、急所を穿っていた。
ぐしゃり、と血色の異形が倒れ伏す。ギ、ギ、と呻きながら。
「1撃で殺せないの、本当に申し訳なく思うよ」
声が降る。
男の声だ。帽子をかぶった男。
ナイフを手に、異形を見下ろして。笑っている。
「でもね、夕立に感謝してあげて生贄になんてならずに、君は死ねるんだから」
異形はその瞬間、己のユーベルコードが封じられていることに気付く。言われなければ気付かないほど密やかに其れは為されていた。
異形が見上げた眸には奇妙な色が浮かんでいる。其れを理解することは、異形には叶わない。
「――……ねえ、びっくりした? これこそ『慈愛』だね」
慈しむように言葉を捧げる男の眼下で生命が途絶えて動かなくなる。熱が徐々に抜け出し、冷たくなって。ただのモノになっていく。
「……それにしたって、君らのご主人さまって過保護だなあ。君たちもそう思うだろ、式紙くん」
男――イサカが呟いた。
空気を震わせ伝播する薄い感情にゆらりゆぅらり応えるは、黒蝙蝠の式神だ。幸守がイサカの声にこたえるように微かに揺れて、禍喰は静かに浮いている。
「さ、次行こっか」
声ひとつ。
染み入るように消えていく。
「……そう、いえば」
戦線に復帰する学生が呟いた。
「あのひと、……隙が無かったな」
成功
🔵🔵🔵🔵🔴🔴
宮入・マイ
連携・アドリブ歓迎
星…マイちゃん星見たいっス!
オブリビオンささっとやっつけて面白い星見つけるっス!
むむむ…なかなか倒すのがめんどっちい感じの奴っスね、倒しても倒してもキリがなさそうっス。
一網打尽にするには…全部まとめて下に落とすっス。
落とし穴作るのは楽しいっス!
マイブームっス!
マイちゃんだけにっス!
多少の攻撃は無視っス、ポコポコくらいながら『アーちゃん』をバラまいて【破壊工作】っス。
腕の2本や3本はプレゼントしてもいいっス、不利になっても【強引舞上】っス。
広範囲にまき散らしたら~【怪力】で地面をぶっ壊すっス!
マイちゃんは『サナダちゃん』をどっかにひっかけて落ちないようにするっスー。
きゃっきゃ。
カマル・アザリー
星と聞きましてやって参りました……が、まずは怪物退治ですね
さぁ集まってきなさい!私はここにいますよ!逃げも隠れもしません!出来る限り敵を一箇所に集めましょう。挑発、牽制、先輩との連携なんでもありです。先輩達がいれば歩調を合わせましょう
集まったらユーベルコードでドカン!です。纏めて吹き飛ばしましょう。発動前には警告も併せて巻き込みを最小限にしつつ火力に遠慮はしません。中途半端に生かしては敵のユーベルコードで増やされてしまいますので一瞬で消し炭を目指しましょう。ベリーウェルダンです!
リヴェンティア・モーヴェマーレ
アドリブ&他の方との絡み
大歓迎!
もり盛りのモリでも大ジョブです
▼本日のメインの子
響(戦闘特化なハムスター)
他の子が居ても全然大ジョブです
▼【WIZ】
大魔王を倒すのは勇者のツトメ…
これはよく見るRPGのお約束的なアレソレですネ
私、知ってまス…最後には囚われたお姫様が出てくるはずでス(また主が変な事言い出したと言わんばかりの動物達)
それにしても最初からボスさんのような出で立ちですガ…ダイジョブなのでしょうカ…
にえ(生贄)になるものが出ないように気を付けながら(体力を同じくらいずつ削って見たりして)攻撃でス
阻止できそうな方法があれば他の皆さんの迷惑にならない程度に試してみマス(燃やし尽くしてしまう等
千波・せら
迷宮って聞くとワクワクするよね。
迷いに行かなきゃ。
探検をしなきゃ。
今日は何が見つかるかな。
でも、迷宮にハプニングはつきもの。
悪者もつきもの。
なら、悪者退治の手伝いをしなきゃね。
レプリカクラフト。
これで罠を作って仕掛けたら誘き寄せ。
こんな時は地形の利用。これを使って仕掛けるのにちょうど良さそうな場所を探したいな。
まとめてどかーんってやりたいから誰か協力してほしいな。
罠はあそこに仕掛けてあるよ。
だからあそこに敵を誘導してね。
私は離れた場所から様子を伺うよ
目立たないを使って目立たないようにしておく。
せーの、どーん。
●強引・炎色・カルテット
学生たちが決死の表情で戦線を維持している。
「奴ら、どんどん増える! どうしたらいいんだ」
「疲労した奴は下がれ!」
「休憩したからまた戦えるよ! 前に出る!」
バタバタと走り回る学生たち。
そんな戦場に猟兵4人が駆けつけた。いずれも女性、それぞれが個性豊かな花に似て。
「星……マイちゃん星見たいっス! オブリビオンささっとやっつけて面白い星見つけるっス!」
戦場にお気楽な声が響いた。長身の女性。
宮入・マイ(奇妙なり宮入マイ・f20801)がピンク色の髪の下で大きな目をぱっちりと瞬いて。
「星と聞きましてやって参りました……が、まずは怪物退治ですね」
カマル・アザリー(永遠の月・f16590)が敵の群れへと視線を向ける。
「大魔王を倒すのは勇者のツトメ……これはよく見るRPGのお約束的なアレソレですネ」
菫花の瞳をぱっちりとさせ、リヴェンティア・モーヴェマーレ(ポン子2 Ver.4・f00299)が声を添える。
「私、知ってまス……最後には囚われたお姫様が出てくるはずでス」
足元には「また主が変な事言い出した」と言わんばかりの動物達が揃っていた。
ふわり、涼気が差し込んだ。
きらきらの蒼水晶のような千波・せら(Clione・f20106)が現れて。
「迷宮って聞くとワクワクするよね」
可憐な声でワクワクの気持ちがそっと零れる。
「迷いに行かなきゃ。探検をしなきゃ。今日は何が見つかるかな」
蒼水晶が瞬いた。けれど、と。
「でも、迷宮にハプニングはつきもの。悪者もつきもの。なら、悪者退治の手伝いをしなきゃね」
4人が視線を合わせ、頷いた。
◆
「方針を決めまショウ」
リヴェンティアがハムスターの響を頭に乗せてニコニコと提案する。
彼女らの視線の先で敵が犇めいている。
ずるり、ずるり、地から這い出るような敵の群れ。仲間の一体は全てを代償にして骸の海へと還り、代わりに現れた数十体ものレッサーデーモンの群れが悪意を背負い代償を糧にして駆ける。
うち一体が召喚技を使えば、その一体を犠牲としてまた新たな数十体が現れる。
「むむむ……なかなか倒すのがめんどっちい感じの奴っスね、倒しても倒してもキリがなさそうっス」
マイはめんどっちい敵の群れに首をかしげる。そして、思いつきに手を打った。
「一網打尽にするには……全部まとめて下に落とすっス」
名案だ! とマイは赤い瞳を楽しそうに細めた。
「落とし穴作るのは楽しいっス! マイブームっス! マイちゃんだけにっス!」
「先輩、気が合いますね」
カマルがゆるいウェーブヘアを揺らして目を瞬かせた。
「集めてドカン! がよいかと思っていました」
「気が合うっス!」
せらが控えめに首を傾ける。
「どーん、ってする?」
罠を作って誘き寄せる? と。
「フム。方針が決まりマシタように思いマス……♪」
リヴェンティアが頷いた。
「では、エイエイオー、デス」
しなやかな手が4人の真ん中に向けて伸ばされる。意を汲んでマイが、カマルが手を伸ばす。最後にせらが。
軽く円陣を組むようになった4人の手が真ん中に集まる。
「「えいえいおー」」
掛け声は、少し緩い空気。
だが、女子たちの眼差しは真剣であった。
カマルが頼もしい味方をじっと見つめる。
遺跡の奥深く眠っていた時にはない熱が周囲に満ちていた。
◆
「それにしても最初からボスさんのような出で立ちですガ……ダイジョブなのでしょうカ……」
言いながらリヴェンティアが発動させるユーベルコードは『Phainomenon・Archean』。ふわゆるゆるとした空気を纏う彼女は一見戦闘と無縁な可愛らしい女の子だが、れっきとした電脳術士なのだ。
リヴェンティアが引き起こした爆発の中、凛とした声が響く。
「さぁ集まってきなさい! 私はここにいますよ! 逃げも隠れもしません!」
カマルが敵群に身を躍らせている。
「いたいっスー!」
ポコポコとレッサーデーモンに絡まれながらもマイは落とし穴を掘っていく。マイがばら撒くのは自らに巣食う液状の虫、アーちゃんだ。アーちゃんには物質を溶かす力があった。
「アーちゃん! 掘りまくるっス!」
さりげなくユーベルコード『強引舞上』が発動されている。面白ければそれでいい、そんな性格のために負った傷(?)がマイの能力を大幅に上げていた。
「先輩! くっ、先輩から離れなさい」
カマルがマイにひっついたレッサーデーモンをぺりぺりと引っぺがしてくれる。健気な後輩だ。
せらは目立たないようにしながらレプリカクラフトで罠を仕掛けていった。
「罠はあそこに仕掛けてあるよ。だからあそこに敵を誘導してね」
優しげな声にリヴェンティアが頷く。
「ひびちゃん、お手伝いデス」
ちょこんぴょこんとハムスターの響が走り出す。見送るリヴェンティアの背後ではチンチラの藍が負傷した学生の救助に走り回っていた。
せらが目立たないながらも学生にひそやかに声をかけていた。
「みんな、巻き込まれないように気をつけてね」
爆発に巻き込まれたら大変、と言って笑う姿は宝石のように神秘的。だが、お礼を言われてえへへ、と笑う声は年頃相応の愛らしさに溢れていた。
◆
「ぶっ壊すっス!」
マイが楽しそうに怪力で地を壊していく。
「せーの、」
準備は整った、と合図がなされ、広域に張られた罠が作動する。
「最大火力でいきます、先輩方は充分に離れてくださいね!」
カマルが橙色の炎色反応を起こし、橙色の炎を放つ。
「――ベリーウェルダンです!」
金糸の髪が炎に照らされ、ひときわ華やかに舞い踊る。
「ドカン! です」
「どーん」
「きゃっきゃ」
「爆発させマス!」
声はやはり緩い。だが、爆音は派手に迷宮に轟いた。
床が砕かれ、派手に土煙をあげて地中に落ちていく敵の群れ。マイ自身はというとロープ状のサナダちゃんを伸ばして穴の淵にいたカマルに絡みつく。
「はっ!? せ、せんぱい!」
「ちょっと踏ん張ってほしいっス!」
「せ、先輩っ!?」
カマルがぐら~りとバランスを崩す。支えきれずに共倒れ――と思われた時、せらがこっそりとレプリカクラフトの罠をひとつ、支えにと置いた。
「ギギ!」
「ギ、ギー!」
レッサーデーモンたちが纏めて仕留められていく。
女子4人組は並んで戦果を確認した。
「よく燃えてイマス」
「ふぁいあー」
「きゃっきゃ」
「先輩、さっきのは少しあぶなかったです」
「す、すごい爆発」
「この一帯全部、一気に倒しちゃった」
学生たちが吃驚しながら見ている。集まる視線を物ともせず、4人はニコニコと笑い、ハイタッチを交わすのであった。
成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔴🔴🔴🔴
ジャハル・アルムリフ
己が世界を己で守らんとする
実に、殊勝な学徒らであると熟々思う
よって助太刀と参る
どうやら遠慮も要らぬ相手故
…面白い報告が出来る様、存分に
【怨鎖】用いて、先ずは一体を爆破
ついでにその身体に鎖を絡め
怪力にて手近な個体へと激突させ、倒せずとも体勢を崩す
群れてくれば翼で頭上へ
姿勢制御の後、上から鎖を放ち、衝撃波で散らしながら
混乱した所を狙い、捨て身で飛び込む
手傷など覚悟の上、構いはしない
耐えながら、空いた手の黒剣で斬り付ける
全てを犠牲と差し出して喰らい付くか
悪くない意気だが
通してやるわけには参らぬ故な
負傷した魔法学院生がいれば庇い、退避させるが
戦えるならば後方からの援護を願う
それも彼等の矜恃であろう
●双つ星が一つ
天井が高かった。
戦場には人の熱が篭っている。
前方、迷宮奥から溢れる朱色の悪魔。学生たちが荒い息を吐き、疲労を押して立ち向かっている。その後ろに世界の未来を背負って。
(けれど、敵が減らない。増えていく。どんどん)
学生が汗を拭い、手に持つ杖を前へ掲げた。
「あ――、」
目を限界まで見開く。朱色の悪魔が眼前に迫っていた。前を支えていた学生が脇を擦り抜かれたのだ。
死。
明確に意識された終焉にぎゅっと目を瞑り身を固めたその時、悪魔の悲鳴が耳朶を打つ。
「ギギ!!」
続く爆音。
「は……、」
学生の視界に長身の男が映る。
表情の乏しい男だった。けれど、不思議と揺れる尾が目を引いた。何故だろう?
「己が世界を己で守らんとする。実に、殊勝な学徒らであると熟々思う」
竜人が迷宮の地を踏む。
「よって助太刀と参る」
手には黒く染まりゆく血で編まれた鎖がある。『怨鎖』。
黒曜の瞳が煌めいた。
表情は変わらぬまま、星守の竜人――ジャハル・アルムリフ(凶星・f00995)が鎖を振るえば繋がっていた一体が今まさに駆け寄らんとしていた新手の悪魔へと激突した。恐るべき膂力に学生が喉を鳴らす。
視線向けることなくその姿が問いかけた気がして学生は杖を握る。魔法の援護は周囲をパッと照らしては消える花火にも似ていた。光撃に照らされ、ジャハルが捨て身の疾走を見せていた。手には黒剣を抜き、斬風、打撃舞い踊る戦場――その最前線へと剣風となって駆ける。
「ギギ!!」
「キィッ!」
敵の群れが押し寄せてくる。
ふわり、ジャハルは背に翼を広げた。駆ける勢いそのままに群れの上へと位置を取り、慣れた様子で姿勢を制御しながら鎖を放てば衝撃の波が敵群を混乱に陥れる。
其れは、生傷絶えぬ戦い方を見た師、双星のアルバが呆れてかけた言葉を基に編まれた鎖だ。異形の敵が声をあげて我が身を犠牲に仲間を宙へと放る。
「むっ」
「――ギイイィ!」
朱の悪魔もまた捨て身であった。宙空で交差する2影は共に傷を負い、朱が物言わぬ骸となって地に落ちる。
「全てを犠牲と差し出して喰らい付くか。悪くない意気だが通してやるわけには参らぬ故な」
軽く血筋を負いながらも竜人の勢いは止まることがない。
怨嗟の籠もる血が迷宮の床に満ちるのを睥睨し、風捲く音を立てながら雷鳴の如く降下して居並ぶ敵一列に横一直線の筋を奔らせる。すぐに裂け目に変わり血を飛沫かせる数体はジャハルが通過したのちによろめき倒れて沈黙する。
敵陣深く斬り込むジャハルを鮮麗に光が照らしている。花火のように、幾つも、幾つも。降り注ぐ光が色黒の肌に触れると、不思議な温かさが一瞬じわりと広がり――傷が癒えた。魔法が竜人を援護しようと放たれている意図が明確に伝わり、ジャハルは微かに目元を和らげた。
また一群、朱色が押し寄せる。
当然だ。此処は最前線なのだから。
ぶん、と尾が揺れる。
尾に連なる白亜の羽がぴんと立つ。
どこかやんちゃな少年めいた空気を纏わせて、長身の竜人が苛烈に踏み込む。
躍動する己が筋肉が全力を引き出して、黒剣が鮮やかに振るわれる。くるりと舞うように剣先巡れば血花が円弧描いて舞い飛沫き――光注ぐ戦場にそこだけ空隙が生まれる。ひとふり、竜が刃を振るうたびに空間が開けて、光がその道を照らし続ける。
己が背後には一切を通さぬ。
周囲の空気をピリリと震撼させるような猛き戦意が意思を伝える。悪魔は気圧されたように後退していった。じり、じりと。
「続け!」
背から必死の声が届く。
体勢を整えた学生たちが後に続こうとしていた。ある者は剣を手に、ある者は銃を手に。またある者は杖を手に。
「おれたちの学園だ。皆で護るんだ!」
――矜恃。
其れを感じて、竜眼が優しい色を浮かべた。
無言で黒剣を天に掲げれば、鼓舞されたようにワッと学生たちが声を上げる。
ふわり、ふわりと光が降り注ぐ中、ジャハルという将を中心とした学生たちの一団は朱の前線を押していくのであった。
大成功
🔵🔵🔵
イゼリア・レジーナ
【イゼリア】
戦いを楽しんだあとに星空を見る。なかなかによい趣向ね。楽しみにさせてもらうわ。
禍々しい姿......見た目は強そうね。そこそこ楽しめそうだわ。
メイド。お前に任せるから、いつも通り私を愉しませてちょうだい。
【メイド】
承知いたしました。
数は多いですが全て投げナイフの【投擲】で処理します。ナイフには神経毒を塗っていますので、1本刺されば全身が麻痺することでしょう。【マヒ攻撃・毒使い】
あとはトドメを刺すだけですが......あまり一方的な展開ではイゼリア様が退屈なさるやもしれません。
その......気難しいお方ですので。
●退屈の女神
学生たちが慌ただしく戦場を走り回る。
「怪我をした子は下がって!」
「こっち、敵がどんどん増えてる!」
そんな戦場に、場違いなほど優雅な声が降り注いだ。
「戦いを楽しんだあとに星空を見る。なかなかによい趣向ね。楽しみにさせてもらうわ」
涼やかな声は、聞く者にその高貴さを感じさせる。声の主は少女の姿をしていた。
一人掛けの魔法のソファに気怠げに座るのは、イゼリア・レジーナ(退屈の女神・f21056)。不躾な視線を送る学生などは全く視界に入らぬとばかりに金の瞳が微笑んだ。
瞳には朱色に輝く悪魔の軍勢が映っている。
「禍々しい姿……見た目は強そうね。そこそこ楽しめそうだわ」
ほっそりとした指が艶やかな唇をなぞる。
「メイド」
呼べば、イゼリアが創造したメイドが恭しく礼をする。
「お前に任せるから、いつも通り私を愉しませてちょうだい」
上から降る声は可憐な中に我が儘さと尊大さを滲ませる。神たる主に首を垂れ、メイドは迷わぬ声を柔らかに返した。
「承知いたしました」
◆
朱の悪意が満ちている。
清潔感溢れる白のエプロンドレスを翻し、メイドが両の五指に挟んだ銀ナイフを鋭く放つ。ひゅん、と一瞬の風切音が涼気と殺気を撒きながら悪魔に刺されば、その後を追うように次々とナイフが飛んでいく。小さなナイフを抜き、反撃の凶手を繰り出す悪魔が十体。
紅茶の薫りがふわりと鼻腔を擽る。
上質の茶葉だ。
視線の先で――、
「ギ、ギギ……!?」
悪魔が軋むような声を漏らして動きを止めていた。メイドのナイフに塗られた神経毒が効果をきたしたのだ。
「たった一本のナイフで」
学生が呆然と呟く声が耳を擽る。悪魔に囲まれているところを救われた学生は、新入生たちと入れ替わるようにして引退を視野に入れていたところなのだという。
トン、とティーカップが置かれた。ソファに柔らかく身を沈ませてイゼリアは――退屈を噛み殺した。
(あとはトドメを刺すだけですが……)
優艶にナイフを構え、メイドが僅かに首をかしげる。
「どうしたんです、か?」
おそるおそる尋ねる学生へとメイドがぱちりと目を瞬かせる。
「あまり一方的な展開ではイゼリア様が退屈なさるやもしれません。その……気難しいお方ですので」
示す先にはソファで紅茶を手にくつろぐ姫姿がある。
しっとりと輝くような艶髪がやわらかなラインの頬に軽くかかり、戦場にぽっかりと宮殿が出現したかのようにそこだけ人も近寄らぬ空間が出来ている。麗しの睫に覆われた瞳は鑑賞するように戦いを観ている。現人神――彼女にとって冒険や戦闘はショーであるのだ。
「あの方は、その……、猟兵さんの中に最近現れるようになったという、神様とかでしょうか」
学生がおそるおそる確認する。並みの存在ではあるまい、と。
メイドはそっと頷きを返した。
「か、か、神様、ですか。異世界の。ほんものの」
学生は何度か大きく深呼吸をして、大声をあげた。
「皆! この戦い、神様が見守っていてくださるぞ!! 神様が味方についてる!」
信心深い学生なのか、感情を大きく乗せた声が響けば「ほう、」とイゼリアが唇に弧を描く。其れは全く神らしさに溢れ、我がままで尊大不遜、威圧的で――、ともすれば人々に恐れられてしまう威風。だが、今は。
「勇ましい戦いぶりを見せるぞ!」
「情けない所は見せられないな」
学生たちの心を大きく奮い立たせていた。
――くす、
少女神が微笑んだ。
「楽しませてくれるというのかしら?」
見守る視線には退屈を色濃く浮かばせたまま。
(退屈の女神たる私が満足するなど一生無いでしょうね)
ピュアな朱色を煌めかせる紅茶をもうひとくち含み、イゼリアは呟いた。
「だってその刻が来たら……全てを破壊してしまうもの」
成功
🔵🔵🔴
ナハト・ダァト
ヴィサラ・ヴァイン(f00702)と参加
大切ナ義娘ノ青春ヲ守る為ダ。多少容赦なク振舞ってモ、構わなイだろウ
六ノ叡智を用いて義娘の病原体効果を増幅
更にトラップツールⅡを発動させ、情報収集、世界知識、医術から病原体の構造を解析し罠使い、地形の利用を活かしてより広範囲へ散布させる
ヴィサラ、頼りニなるヨ。流石、私ノ義娘ダ
奮闘する義娘の頭を優しく撫でて褒める
恥ずかしがル事なド、何モ無いヨ。頑張っタ者ハ褒めル。当然ノ事ダ
ヴィサラ・ヴァイン
レッサーデーモン…いくら倒しても湧いて出て来る悪魔だね
後続の悪魔が居なくなるまで根絶するのは一つの手だけど…それじゃいつまで続くか分からない
学生さん達も体力と精神が持つかどうか…だから後続の悪魔も、継続的に弱体化させるよ
【血生まれの群れ】で強い毒性を持つ細菌を生み出して蔓延させる
…あ、みんな安心して?
レッサーデーモンにしか感染しないよう[毒使い]で調整した特殊な細菌だから
いくら後続を呼んでも、同じ悪魔な限りは影響を受けるよ
お父さん(f01760)にも手伝ってもらうんだけど…
疫病を仕組むだなんて、お医者さんなのにごめんね?
でもありがとう。…頭をなでられるのはちょっと恥ずかしいけど(反抗期)
●『父娘』
レッサーデーモンが一体、また一体と増えていく。
学生たちが絶望的な表情を浮かべて戦線を必死に維持し、けれど徐々に押されていく。
そんな時だった。2人の猟兵が戦場に転送されたのは。
「レッサーデーモン……いくら倒しても湧いて出て来る悪魔だね」
帽子の花飾りが揺れる。トン、と軽い音と共に迷宮の床に降り立ったのは、内気な空気を纏う少女だった。
キマイラの少女、ヴィサラ・ヴァイン(魔女噛みのゴルゴン・f00702)は鮮やかな紅玉の瞳を敵の群れへと向け、首を傾げた。紡ぐ言葉は父へと向けて。
「後続の悪魔が居なくなるまで根絶するのは一つの手だけど……それじゃいつまで続くか分からない」
共に転送された『お父さん』、ナハト・ダァト(聖泥・f01760)が医神のローブに身を包み、上位者の叡智の奥の双眸に穏やかな目の形を浮かべている。義父は、ヴィサラを守るように傍に寄る。
「学生さん達も体力と精神が持つかどうか……」
案ずるような声には優しさが燈る。
(優しい義娘ダ)
ナハトは誇らしく義娘を見た。
「だから後続の悪魔も、継続的に弱体化させるよ」
にこり、とヴィサラが微笑んだ。内気な気配の中、しっかりとした心根の清らかさを感じさせる微笑みは学生たちの胸に安心を広げていく。
「でハ私ハ、強化ト散布ノ補助ヲしよウ。『トラップツールⅡ』、六ノ叡智・美麗ガあれバ。怖い物無しだヨ」
(大切ナ義娘ノ青春ヲ守る為ダ。多少容赦なク振舞ってモ、構わなイだろウ)
ナハトは眩く黄金の輝きを放つ。
『六ノ叡智・美麗』は広範囲にわたり、学生たちと義娘の戦闘力を引き上げていく。常は黒く艶めく不定の身体がピカピカと蜂蜜のように温かな光を放ち、その姿は神々しさを感じさせる。だが。
「お父さん、まぶしい」
愛娘ヴィサラはぽつりと言い、ショックを受ける義父の隣でユーベルコードを発動させた。ユーベルコード『血生まれの群れ』は敵対する相手に有効な猛毒や生態を持つ有毒生物の群れを召喚する能力だ。ヴィサラが生成したのは、強い毒性を持つ細菌だった。
ふわりと緑髪を躍らせて前方のレッサーデーモンたちを指す。
「ギッ!?」
「キ、ィ」
ばたり。最前線の数体が膝を折り、倒れる。藻掻くように床を掻き、己が身体を抱きしめて――絶命していく。細菌が蔓延していく。ばた、ばたと後続が倒れていく。
その効果は、義父ナハトが増幅しているのだ。
ヴィサラには眩しいと言われてしまったものの、ローブの奥底で神々しい輝きを放ちながらナハトはトラップツールを自在に操る。高貴なる金色の器にふわりと恒星がごとき浮かぶ球体が煌めいてナハトの意のままに情報を集める。集められた情報は豊富な世界知識と医術に長けたナハトでなければ解析ができぬ。
解析中の耳にヴィサラの声が聞こえる。
引っ込み思案な娘は、父が傍にいる安心感もあってかやわらかに学生たちに向けられる。瞳は誰とも合わせないようにさりげなく逸らされていた――癖なのだ。
「……あ、みんな安心して? レッサーデーモンにしか感染しないよう調整した特殊な細菌だから」
「解析、完了ダヨ」
ナハトはヴィサラの生成した病原体の構造を解析し、より広範囲へと散布させていく。視界一杯の朱色悪魔が苦しみ、倒れていく。
戦果を静かに確認する様子の父の姿を見て、ヴィサラはほんの少し眉を下げた。
義父は、常は病原体と戦うほうがお仕事なのだ。と、ヴィサラは思う。
お医者さんなのだ。
病気で苦しいひとや、痛いひと、辛いひと、寂しいひと――いろいろなひとを、いつも忙しく癒している。治している。そのために戦っている。
(お父さんの仕事はそういうものだ)
ヴィサラは、それを知っているのだ。
思い出すのは、お出かけした時のことだ。
働きづめだったお父さんは顔を白くして、けれどヴィサラとのお出かけを楽しんでくれた。ヴィサラを楽しませようとしてくれた。
「疫病を仕組むだなんて、お医者さんなのにごめんね? でもありがとう」
だから、ヴィサラは一言そう言った。
ヴィサラのためにしてくれているのが何よりわかっていたからだ。
「ヴィサラ、頼りニなるヨ。流石、私ノ義娘ダ」
触手が優しく伸び、奮戦する義娘の頭を撫でた。
「……頭をなでられるのはちょっと恥ずかしいけど」
ヴィサラがそう言って頬を染める。周囲には人目もある。小さな女の子ではない、と。
反抗期というものなもしれない。ナハトはそう感じながらもあたたかに言葉を掛ける。
「恥ずかしがル事なド、何モ無いヨ。頑張っタ者ハ褒めル。当然ノ事ダ」
大人の声は、ヴィサラよりもずっと色々な事を知っていて、世界を知っていて、沢山の感情を奥に秘めて――、その中から上澄みのように大切な感情をまっすぐに見せてくれる。
――それが、ヴィサラのお父さんなのだ。
成功
🔵🔵🔵🔵🔴🔴
清川・シャル
f08018カイムと第六感で連携
うわぁ、デーモンって可愛くない…
学園の皆さんが頑張っていらっしゃるので、シャルも手を抜く訳には行きませんね。
いつも全力ですけどねっ
悪魔には鬼っ子でどうです?
ぐーちゃん零にフレシェット弾を込めておきます
属性攻撃に毒使い、マヒ攻撃を乗せて、吹き飛ばし、念動力で当てに行きます
発射よーい!
弾の跳ね返り防止に氷の盾を展開しておきますね
同時に敵攻撃防御にもなりますし。
グレネード12弾撃ち終わったら殴りに行きましょうか
少し暴れるので、カイム宜しくです
そーちゃんでUCを
範囲攻撃でなぎ払いしつつ呪詛を組み込み、衝撃波を与える感じで
チェーンソーモードにして振り回しましょ
カイム・クローバー
シャル(f01440)と第六感で連携して行動
此処まで持ちこたえたんだ。後は任せな。
さぁ、悪魔とのダンス・パーティを始めようぜ。
銀の銃弾に紫雷を纏わせる【属性攻撃】、周囲の悪魔と踊る為の【範囲攻撃】を組み合わせて【二回攻撃】
【残像】を残しつつ動き【早業】リロードで銃撃を再び。悪魔共を待たせちゃ悪い。
供物捧げて新しい悪魔?好きにしろ。単体の戦闘能力は落ちる。何度も使ってりゃ、蠅にも劣るようになる。
集団の動きを【見切り】つつ、ダンスの最後はUCで派手に締めるか。【一斉発射】を交えて派手な花火を打ち上げるぜ。
ショボイ花火だが、メインディッシュはこれからだろ?星空の下には相応しくねぇ一ツ目を潰しに行くか
●戦場の協奏曲
必死に魔力を振り絞り、前線の維持に努める学生たち。そこに声が降る。
「うわぁ、デーモンって可愛くない……」
小さな声は、愛らしい少女のものだった。
小さな少女は、晴れた空のような青の瞳でぐるりと戦場を見渡した。声は明るく育ちの良さを感じさせるが、感情の動きはあまりない。
そんな清川・シャル(ピュアアイビー・f01440)が学生たちの死闘に向けて聲をあげる。
「学園の皆さんが頑張っていらっしゃるので、シャルも手を抜く訳には行きませんね。いつも全力ですけどねっ」
そう言って胸を張る少女は――大切に育てられたお姫様、といった風情でとても可愛らしくゆるゆるふわふわとしていた。
微妙にリアクションに困る様子の学生たちに、今度は青年の声が届く。
「此処まで持ちこたえたんだ。後は任せな。さぁ、悪魔とのダンス・パーティを始めようぜ」
自信に溢れた表情の便利屋Black Jack、カイム・クローバー(UDCの便利屋・f08018)が婚約者に目を細める。耳に白金のピアスを煌めかせ。
2人に牙をむき接近する朱の軍勢へと素早く向けるのは、黒を基本に金のラインを持つ双魔銃オルトロス。トレンチコートが揺れて踊りを誘えば視線の先、敵数体があっさりと床へ崩れ落ちる。
「悪魔共を待たせちゃ悪いからな」
悪戯に微笑み、素早く装填して連続で銃声を響かせるカイムを見て学生たちが湧きあがる。手練れが救援に駆けつけた、と。
「供物捧げて新しい悪魔? 好きにしろ」
単体の戦闘力は落ちる。何度も使ってりゃ、蠅にも劣るようになる。カイムがそう告げると、途絶えぬ悪魔に絶望を覚えていた学生たちが希望を見出した様子で前を見る。
「そうか、よし、攻撃を続けよう!」
「勝てるぞ!」
「シャルはどうする?」
接近を一切許さないとばかりに苛烈な銃撃を繰り出すカイムへと、シャルがゆるゆるふわふわと声をかける。
「悪魔には鬼っ子でどうです?」
「ん?」
視線を敵からシャルへと移動させれば、シャルが構えるのはイケてるピンク色のぐーちゃん零だ。
「フレシェット弾を込めてきました」
ゆるふわの頬がにこりと笑顔を浮かべる。そして、周囲には氷の盾がきらきらと清涼に耀き、展開される。
涼やかな護りの中、シャルが元気よく声を上げる。
「発射よーい!」
よーい、と言い終わる前にすでに弾は放たれていた。若干のフライング。だが、全く気にすることはない。跳ね返った弾もあらかじめ展開しておいて氷の盾がきちんと防いでくれているのだ。
「備えあれば憂いなしです」
婚約者の声は誇らしげだった。
グレネード12弾を撃ち終えたシャルはぐーちゃん零を労うようにひと撫でした。そして、「ちょっと散歩にいきます」ぐらいの何気なさでカイムへと告げる。
「少し暴れるので、カイム宜しくです」
「ああ」
カイムが頷き、共に前へ駆ける。後ろにいろ、などとは言わない。共に背を預け、戦う事が出来るのがこの2人だった。
「今度はそーちゃんです!」
桜色の重量級の呪魔力を帯びた鬼の金棒が握られる。色は可愛らしいが、棘がついた巨大な金棒はそれが殺傷力を十分に備える鈍器だと周囲に訴えかけるようだった。
そーちゃん、と愛でるように呼ぶシャルは小さな体でひょいっと棘鈍器を抱えあげた。ひょいっと。
「うっ……!?」
「ええ……」
学生たちがざわりとする。
銀色の銃弾放つ男に守られながらシャルが駆けていた。
弾丸のように駆ける少女は、とにかく小さい――小さいが武器は禍々しく大きい――、背に金色の髪がふわりと揺れた。揺らしながら、敵を撲殺した。ピンク色の凶器で。
ガスッ!
ドスッ!
ボコゴッ!
小さく可憐なシャルが華麗に舞うがごとくピンク色を振り回し、その都度なんともいや~な音が響き渡る。怪力の奏でる音は圧倒的なパワーだ。
ゆるふわ元気少女は華奢な体躯に見合わぬ鬼子怪力で敵を薙ぎ倒す連撃系戦闘バカの破壊魔なのだ……。
「浮気相手もこんな風になります」
「シャル、それは何の話!?」
血路拓く戦場で耳朶に届いた物騒な一言。聞き間違いだろうか、誰もが思うほど少女はふわふわとした笑顔で、けれどぶんぶんゴツゴツぐしゃりと死骸を積んでいくのであった。
鈍い撲殺音と銃撃音をBGMに2人の猟兵が共にダンスを踊るがごとく朱の軍勢の只中を切り拓いていく。
「ダンスの最後は派手に締めるか」
気を取り直したカイムがユーベルコードを発動させる。
「It's Show Time!」
ぱちぱちぱち。小さな音が聞こえる。
『銃撃の協奏曲(ガンズ・コンチェルト)』は今日一番の成功度を誇り、マシンガンのような連射速度でオルトロスを発射する。
「ショボイ花火だが、メインディッシュはこれからだろ?」
次々と散華する敵軍勢に言葉を手向けてカイムが視線をやれば、シャルが拍手をしていた。
「それは?」
「ショーを盛り上げています」
青い瞳がぱっちりとまっすぐにカイムを見つめ、首を傾げる姿はとても愛らしい。
「そうか、ありがとうシャル……」
それじゃあ、とカイムは迷宮の奥に目を向けた。
紫の瞳は其の先から近づいてくる脅威を感じていた。
「星空の下には相応しくねぇ一ツ目を潰しに行くか」
呟く声にはちいさく頷く気配がある。
共に行くのだと空気を介して意志が伝わり、カイムは口元に優しい笑みを浮かべるのであった。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵
鏡島・嵐
判定:【WIZ】
迷宮の中でも、星が見えるところがあんのな。つくづく面白ぇ場所だな、アルダワって。
で、そこに巣食った災魔を退治か。怖ぇけど、頑張らねーとな。
相手の攻撃を〈第六感〉も働かせて〈見切り〉躱しつつ、丁寧に反撃していく。もし躱しきれねーときは〈オーラ防御〉とかで耐える。
あとは〈目潰し〉とか〈武器落とし〉も適度に混ぜて、攻撃を妨害したりもするかな。
相手に新手を呼ばれそうになったら《逆転結界・魔鏡幻像》で打ち消して増援を阻止する。
もし手近な範囲に協力出来そうな仲間が居るんなら、頃合いを測りながらそいつに〈援護射撃〉や〈鼓舞〉を飛ばしたりして、戦いやすくなるように助けたりもする。
仁科・恭介
※アドリブ、連携歓迎
依頼で転送されたあと【携帯食料】を食み最前線へ急ぐ
最前線につき次第UC対象をレッサーデーモンへ
【学習力】でレッサーデーモンの動作を観察
一体倒してもそれを代償に新手がでてくるようだ
自分のUCにイメージを重ねてしまい少し落ち着かない
「火力は一匹に集中。瀕死になる前に削り切れ!」
周りで防衛線を張っている学生達を鼓舞しながら護りきると【覚悟】を決める
相手が異形の肉体でくるなら、こっちはナチュラルに活性化した肉体だ
「どっちが素晴らしいか勝負しようか」
最前線の学生達の盾となりながら【ダッシュ】と【残像】で攻撃を誘いつつ【失せ物探し】で狙いをつけた頭部を狙う
「代償にさせる前に斬り伏せる」
●共闘
「迷宮の中でも、星が見えるところがあんのな。つくづく面白ぇ場所だな、アルダワって」
鏡島・嵐(星読みの渡り鳥・f03812)が学生たちが奮戦する戦線に目を留めた。
「で、そこに巣食った災魔を退治か。怖ぇけど、頑張らねーとな」
軽く拳を握る。転送されるのは慣れていたが、戦場はやはり怖い。だが、嵐は知っているのだ。自分が戦うことによって変えられる未来、救える生命があることを。
見つめる視界では、先に到着したらしき猟兵が指揮を執っている。それに気づいて嵐は前線へ急いだ。
「火力は一匹に集中。瀕死になる前に削り切れ!」
仁科・恭介(観察する人・f14065)が最前線で学生たちと共に戦っている。
「ギギッ」
最前線へと向かう嵐に向け、奇声を発しながら敵が突進してくる。
――星に導かれるような心地がした。
軌道が見える――動きが読める。嵐はふわりとポンチョを揺らし、一歩右へと廻る。続くステップは意識せずに体が動いた。何かに導かれるように、右へ、左へ、後ろへ。一歩動くたびに突進してきた敵が通り過ぎていく。一度でも読み違えれば大きな傷を負うことだろう。その事実をひしひしと感じる背筋がぞっとして冷や汗を流す。だが、道は今見えていた。はっきりと。
(数を減らしていかねぇと)
避けるのみでは疲弊を招き、いつかしくじる。そう感じた嵐は、くるりと廻転して一体を躱したのちにその背目掛けて素早くスリングショットを撃ち込んだ。続く一体を避け、また一撃を。
丁寧な作業じみたそれには味方が感嘆の眼差しを向けている。
恭介は敵に対してユーベルコード『共鳴(ハウリング・レスポンス)』を使用していた。携帯食料を食み、活性化させた全身の細胞が驚くほどの身体能力に繋がっていた。
「援護する!」
恭介の指揮に従う学生たちの戦いを楽にするために、嵐がスリングショットで援護とばかりに目潰しをする。
「ありがとう――、」
言葉を紡ぐ暇さえ惜しい中、けれど礼儀正しく言葉は交わされる。
「一体倒してもそれを代償に新手がでてくるようだ」
敵の挙動を観察し、恭介が情報共有する。自分のユーベルコードにイメージが重なってしまい、若干落ち着かない心を自覚しながら。
「新手は呼ばせねぇ」
嵐がユーベルコードを発動させる。煌く鏡が映し出す――、敵の姿を。
「鏡の彼方の庭園、白と赤の王国、映る容はもう一つの世界。彼方と此方は触れ合うこと能わず」
《逆転結界・魔鏡幻像》は敵のユーベルコードに対し、召喚した鏡に映した正反対のユーベルコードを放つものだ。事前に敵の召喚を見ていたことにより、その成功率は大幅に上昇していた。
――悪意は、潰える。
「ギギッ!?」
「キ……ッ」
増援を召喚しようとしていた敵が次々と驚愕の声をあげ、倒れていく。
「やった! 倒れていく」
「押せ! 勝てるぞ……っ」
学生たちが汗塗れで声を張る。
(護り切ってみせる……!)
恭介は学生たちを鼓舞しながら覚悟を胸に先頭を走る。すぐ後ろからは嵐がひっきりなしに援護射撃をしてくれていた。
(相手が異形の肉体でくるなら、こっちはナチュラルに活性化した肉体だ)
悪意を具現化したような悪魔たちが歪な腕を伸ばし、体当たりするようにして突進する。
「どっちが素晴らしいか勝負しようか」
声は、虚空に残された。
敵影目掛けて飛び込んだ悪魔が手応えなく床に転がる。――残像だ。ぐしゃり、その脳が潰される。
「代償にさせる前に斬り伏せる」
サムライブレイドが峻烈に奮われる。ひゅんと音鳴らし、敵の身体に真っ直ぐな線を鮮やかに引いて――遅れて血飛沫があがる。
それは、親方から貰った刀。
刀を振り切り拓く道を、仲間たちがついてくる。
「は……っ」
ガクリと膝を折る学生がいた。
「どうした」
「大丈夫か」
猟兵2人がすぐに気付き、学生たちも壁となり押し寄せる敵を遠ざける。
「少し、疲労が」
「ずっと戦ってたもんな」
嵐が眉を寄せ、回復のユーベルコードを使おうかと提案した。攻撃支援、防護支援、回復支援と多種類の技を扱えるのがこの少年なのだ。
「いや……、そちらの彼が確か、疲労回復ができたはず」
恭介が押しとどめる。
「この後の戦いもあるからね。学生諸君を頼れる部分は頼りたい」
理知的に考えを話せば、学生は意欲的に頷いた。
「もちろんです、お役に立てて嬉しいです!」
囲む敵がいてももはや怯む学生はいない。
2人の猟兵を中心に、一団は団結して敵の数を確実に減らしていった。
◆
「そろそろ片付いた、かな」
ふと気づけば死骸だらけとなっていた。
見渡す限り朱の死骸。血と肉と判別もつかぬ色の、敵だったものたち。
「だいたい落ち着いたみたいだ」
2人は顔を見合わせる。
他の猟兵たちも同時に戦っていたのだろう。至るところで勝利に湧く学生たちの声があがっていた。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵
セルマ・エンフィールド
なるほど、分かりやすい。
死亡したレッサーデーモンを供物にするレッサーデーモンがいなければ、新たなレッサーデーモンは生まれません。できる限り纏めて倒しておきたいところですが……味方を巻き込むわけにはいきませんね。前線の中でも味方が薄そうなところに出て戦いましょう。
敵の腕や尻尾による攻撃を『見切り』回避、または『武器受け』で凌ぎながら防御重視で味方から離れるように戦闘を。
味方から十分離れたら【絶対氷域】を。氷の『属性攻撃』で凍てつかせれば、例え血肉が新たな敵に変わっても凍り付いたまま。そのまま眠ってもらいます。
お帰り願いましょうか。迷宮深くではなく、骸の海へ。
●射手、ひとり
(なるほど、分かりやすい)
セルマ・エンフィールド(絶対零度の射手・f06556)は味方の手薄な前線を選び駆けていた。
レッサーデーモンが我先にと小柄な少女に殺到する。容易く手折れる花を見て燥ぐように。
対する瞳は低い温度を湛えていた。焦燥の欠片もなく、奮われる腕をするりと掻い潜り子猫のように軽やかに床を蹴り跳ねる。空中で敵を足場にくるりと廻転してみせれば、一瞬前まで胴のあった場所を朱色の尻尾が通り過ぎていく。銀色の短い髪が揺れるたび、朱色が空振り敵が困惑を浮かべる――この小さな猟兵の動きを全く捉えることができないのだ。
見切っている。
青の瞳は静謐な泉にも似て冷静に朱の悪意を見切っていた。空中でまたひとつ、セルマが敵を蹴る。高く跳ぶことには通常、危険が伴う。空中で狙われた際の回避が困難だからだ。だが、空中の進路目掛けての一撃すらもセルマは読んでいた。ゆえに、迷わない。
形見の髪飾りが軽く揺れる。
可愛らしく、付けた者をより可愛らしく見せるもの。
花が揺れる。
空中でスカートから隠し銃が抜かれる。銃身の短いデリンジャーを宙に舞う一瞬で的確に撃てば跳躍し追いすがろうとしていて敵が数体、地に押し戻されて倒れ伏す。
「近くに、」
ぽつりと確認するように空気が震える。
タン、と軽やかに足音ひとつ、着地に続いてその身はスライディングするように地表低くを滑る。頭の上を朱色の尾が通り過ぎていく。敵数体にそのまま低く滑り込み、股下をくぐってバネのように体を起こして右横に転がれば左の床が砕ける音がした。敵が渾身の腕を振り下ろしたのだろう。だが、避けたからにはもう関係ない。
(近くに、ひとは)
もういない。
ここに居るのは、敵だけだ。
確認ひとつ、セルマがユーベルコードを発動させる。
「この領域では全てが凍り、停止する……逃がしません」
静かな声と共に冷気が渦巻く。
「ギ、ギギ!!」
「キィ!」
ピシ、ピシ――、
朱色が氷漬けにされていく。
「お帰り願いましょうか。迷宮深くではなく、骸の海へ」
――眠ってもらいます。
声なき意志が冷気となり敵を閉じ込めていく。
『絶対氷域』は広範囲に絶対零度の氷域を広げ、セルマに悪意を向けていた敵群全てを凍てつかせた。
例え血肉が新たな敵に代わっても凍り付いたまま。
戦果を確認し、セルマは息をつく。
セルマを狙い攻撃を繰り出す敵は、もういない。
成功
🔵🔵🔴
第2章 ボス戦
『サイクロプス』
|
POW : 叩きつける
単純で重い【剛腕から繰り出される拳】の一撃を叩きつける。直撃地点の周辺地形は破壊される。
SPD : 暴れまわる
【目に付くものに拳を振り下ろしながら咆哮】を放ち、自身からレベルm半径内の全員を高威力で無差別攻撃する。
WIZ : 憤怒の咆哮
【嚇怒の表情で口】から【心が委縮する咆哮】を放ち、【衝撃と恐怖】により対象の動きを一時的に封じる。
イラスト:〆さば
👑11
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵
|
種別『ボス戦』のルール
記載された敵が「1体」出現します。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。
| 大成功 | 🔵🔵🔵 |
| 成功 | 🔵🔵🔴 |
| 苦戦 | 🔵🔴🔴 |
| 失敗 | 🔴🔴🔴 |
| 大失敗 | [評価なし] |
👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。
※このボスの宿敵主は
「💠茲乃摘・七曜」です。ボスは殺してもシナリオ終了後に蘇る可能性がありますが、宿敵主がボス戦に参加したかつシナリオが成功すると、とどめを刺す事ができます。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。
●『一つ目の巨人 と アルダワの戦い』
「やった! 災魔の軍勢から学園を守れたぞ!」
学生たちが歓声をあげた。
レッサーデーモンの群れが駆逐され、フロアには朱色の死骸が溢れている。動く敵はもういないのだ、と安堵に疲労を思い出してへたりこむ学生たち。
「先生、先輩たち、有難うございました」
新入生が涙ぐみながら猟兵に礼を言う。
「転入生のみなさんのおかげです」
経験豊富な学生がそう言って頭を下げた。
迷宮が揺れたのは、その時だった。
――ズン、と。
大きく床が、壁が揺れた。
鼓膜を大きな音が震わせた。ズン、ズン。一定のリズムで迷宮を揺らし、音を反響させるそれは――足音だ。
それを察した者が青ざめる。
「あ……」
巨大な足音が近づいてくる。
姿がもう、視える。
迷宮の高き天井すれすれまである背丈。
猟兵たちが全力で手を伸ばして届くのは膝ぐらいまでだろうか。筋骨隆々とした巨人は、多くの伝承で語り継がれる、
「サイクロプスだ!!」
有名なアルダワの御伽噺曰く、宝物を奪われ、女神を代わりにもらい受けようと神々の家まで押し寄せたことのある彼らは、気性が激しく強靭な身体を持ち、女神を守ろうとする神々さえも手を焼いたという。
ぎらりと一つ目が耀き、狂暴に歯が剥かれる。敵意、殺意、戦意。狂おしいばかりの破壊衝動。
恐怖にがたがたと震える学生たちは、戦うどころではない。否、かろうじて理性を留める経験豊富な学生が一部、恐慌状態の学生たちの避難を担当してくれようとしていた。
「他の学生は退避させます。サイクロプスは……」
学生の眼が問いかける。
倒せるか。
倒してくれるか。
この学園の運命を委ねてもよいか。
――こうして、戦いが始まる。
イゼリア・レジーナ
ふふっ、やっぱり人間って面白いわね。勇ましく戦うと言ったかと思えば怯えてみせたり、見ていて飽きないわ。神々が気にかけるだけのことはあるということかしら?
メイド、紅茶のおかわりよ。それに、そこで震えている子にもね。早くしてちょうだい。
戦いは引き続きメイドに一任するわ。次はもう少しマシにやってちょうだいね。
それよりも、私の【存在感】が無視できないのか、あるいはどこぞの女神と勘違いしているのか、あの巨人さっきから気味の悪い目で私のことを見てくるのよね。不愉快極まりないわ。
神を怒らせたらどうなるか少し教えてあげましょうか。瞼を開くことを禁ずるわ。逆らったら【目が潰れる】くらい痛いわよ?
●神の宣告
「ふふっ、やっぱり人間って面白いわね」
女神がふわりと微笑んだ。
優艶な微笑みは上位者の余裕を滲ませる。彼女を取り巻く世界全て、今現在起きている事象全てが他愛のない遊戯のようなものだと語るように瞳が穏やかな色を浮かべた。
視線を緩やかに巡らせれば、学生たちが震えている。
「勇ましく戦うと言ったかと思えば怯えてみせたり、見ていて飽きないわ。神々が気にかけるだけのことはあるということかしら?」
女神、イゼリア・レジーナ(退屈の女神・f21056)はショーを楽しんでいた。イゼリアにとってショーは観るものだ。例え学生やメイドが苦戦していても、基本手助けをすることはない。
主の性質を熟知しているメイドは粛々と控えていた。
「メイド、紅茶のおかわりよ。それに、そこで震えている子にもね。早くしてちょうだい」
「――かしこまりました、イゼリア様」
メイドは恭しく一礼し、紅茶を淹れる。
暴れる巨人により時折揺れる環境にあってもメイドの仕事に支障はない。洗練された仕草で紅茶を注いだメイドは、清潔なワンピースドレスの裾を優美に持ち上げて主に給仕をする。満足げに頷く主に軽く礼をし、ワゴンを押して壁際の学生たちに紅茶を配っていけば学生たちは夢うつつを彷徨うような顔をしてメイドを見返した。
そっと手を伸ばせばなめらかな口当たりと爽やかな渋みが、それが現実なのだと教えてくれる。香り高い紅茶に人心地ついた学生たちはゆっくりと視線を向ける。ほんの気まぐれとばかりに恵みを下した女神イゼリアへと。
「……女神さま」
学生たちの呟きを背にメイドは前線に向かっていた。
「次はもう少しマシにやってちょうだいね」
主が密やかに声を届ける。メイドは生真面目に頷き、神妙な面持ちで巨人の足を攻略し始めた。スカートを翻し、品良く――けれど、熟練の強者を思わせる体捌き。
美しき舞踏の如き勇戦。
学生たちはその戦いぶりに心動かされ、頬を紅潮させて見入っている。
しかし、イゼリアは無感動に呟いた。
「不愉快極まりないわ」
(私の存在感が無視できないのか、あるいはどこぞの女神と勘違いしているのか)
現れし迷宮の巨人、その一つ目が時折心惹かれて堪らないというようにイゼリアを見るのだ。
気味の悪い目、と長い睫を伏せてイゼリアは紅茶のカップを置く。ただそれだけで主の勘気に気付いたかメイドがびくりと背筋を震わせるのがわかった。
「神を怒らせたらどうなるか少し教えてあげましょうか。瞼を開くことを禁ずるわ」
逆らったら痛いわよ、とひたりと威圧するような視線が巨人に向けられ、神の宣告がされる。
巨人が瞬きをし――悲鳴をあげてのたうち回る。二度とその眼が女神を視ることは叶わぬだろう。
「いいじゃない」
悪くない見世物だわ、とイゼリアは呟きの吐息を零してソファに身を沈めるのであった。
大成功
🔵🔵🔵
深海・揺瑚
どうも、あなたたちには荷が重いみたい
さっさと下がってなさい、出てこないでね
足手まといはいらないわ
とはいえ、私もあんなのと正面切ってやり合うのは趣味じゃないのよ
向き不向きってあるでしょ?切り結ぶのはごめんだわ
ついでに終わるまで下がってたい気もするけどね
ま、お手伝いくらいはしてあげる
前は誰か他の猟兵に任せて後ろから
拳が落ちてきそうなら拳に集中的に
汚い声が聞こえそうならその汚い口を狙って
残念、そんなダミ声じゃあ響かないわ
ちょっと勿体ないけど、水晶を投げ込んで
星を見に来たのよ、これとどっちがキレイかしらね
宮入・マイ
連携アドリブ歓迎
さっきの敵は結構面白かったっス!
助けてくれたみんなもいい人達で面白かったっス〜!
むむむ!
これが大ボスっスかね、ずばばっとやっちゃうっスよー!
『サナダちゃん』をいっぱい出して相手の四肢を縛るっス!
まぁ長くはもたないと思うっスけど。
ちょっとでも拘束できてる間に1匹の『サナダちゃん』に相手を囓らせて【細部破綻の物知り】発動っス!
マイちゃんボディが大きく…相手並になるはずっス!
さーこっからはガチのバトルっス!
相手のパワーにマイちゃんの【怪力】パワーを上乗せして…ガンッガン殴りまくるっス!
本体がやられない限りマイちゃん死なないから捨て身の殴り合いっス〜!
きっと面白いっス!
きゃっきゃ。
●水晶と桃色の輪舞
迷宮をサイクロプスが進んでくる。猟兵が突破されれば、地上までその侵攻を妨げるものはない。
足元で麗しいメイドが一人、足止めするように舞っている。集る蝿を払うように頭上で拳を振り上げていた巨人は――ふいに何かに衝撃を受けたように目を抑え、悲鳴をあげた。仲間が何かをしたのかもしれない。手を放した時、その目は血にまみれて潰れていた。
目を潰された怒りを全身から迸らせるようにして巨人が咆哮する。ビリリと迷宮の壁を震わせて。
「さっきの敵は結構面白かったっス!」
(助けてくれたみんなもいい人達で面白かったっス~!)
宮入・マイ(奇妙なり宮入マイ・f20801)がそんな巨人を怖れる様子もなくお気楽に歩を進める。
「な、なんであんなに楽しそうに……っ」
そんな姿を見守る学生たちに、ゆらりと声が掛けられる。
「どうも、あなたたちには荷が重いみたい。さっさと下がってなさい、出てこないでね。足手まといはいらないわ」
見上げた先にいたのは、深海・揺瑚(深海ルビー・f14910)。深海色を靡かせ、鳴動の迷宮をカツカツと歩いていく。
「容赦ないっス!」
マイが楽しそうに声をかける。優美な笑みを浮かべて頷き、桃色の長身へと揺瑚が声をひそめる。
「とはいえ、私もあんなのと正面切ってやり合うのは趣味じゃないのよ」
「戦い苦手っスか?」
不思議そうに目を瞬かせるマイ。揺瑚は頷いてみせた。
「向き不向きってあるでしょ? 切り結ぶのはごめんだわ。ついでに終わるまで下がってたい気もするけどね」
ふむふむ、と意外と神妙な面持ちで応じるマイ。だが、その内はお気楽であった。
「マイちゃんはガツガツいくっス!」
「ま、お手伝いくらいはしてあげる」
◆
巨大な壁のような足がズシンズシンと浮いては落地し浮いては落地し、繰り返し迷宮を揺らして迫ってくる。
「むむむ! これが大ボスっスかね、ずばばっとやっちゃうっスよー!」
マイが元気よく上を見上げる。敵は大きい。
「サナダちゃん、がんばるっス!」
言葉と共にいっぱい出すのは、ロープ状のサナダちゃんだ。マイちゃん一派のサナダちゃんはびよーんと巨人の足に絡みつき、硬い皮膚に齧りつく。それによりマイのユーベルコードが発動した。発動したのは、『細部破綻の物知り(パーティー・ヘブン)』。自身を強化する技である。サナダちゃんの齧った相手――サイクロプスを模倣できる肉体に変異したマイの身体がぐんぐんと大きくなっていく。
「巨人が増えた!!」
「あの人、さっき戦ってた転入生さんだよ」
学生たちがざわざわしている。
「Grrrrrrr!!」
突如として現れた自身と同サイズのマイに巨人が敵意を燃やす。対するマイはお気楽そのものだ。
「さーこっからはガチのバトルっス!」
巨人同士の戦いが始まった。
迷宮中を震撼させる苛烈な踏み込みがズズンと腹に響く音を伝え、サイクロプスの怪力の拳が揮われる。マイが同様に地を震わせて拳をガードし、カウンターとばかりに自分の拳を叩きこむ。怪力の一撃が入ると巨人は衝撃に大きくよろけ、またひとつ地を揺らす。
「ガンッガン殴るっス!」
容赦なくマイが拳を叩きこむ。巨人も一方的に殴られてばかりではない。怒りの拳、蹴りが次々と放たれる。泥沼の殴り合い――だが、マイは防御を考えずに捨て身で拳を繰り出し続けた。本体がやられない限り、どうせ死ぬことはないのだ、とその考えは気楽である。表情は実に楽しそうな笑顔であった。
「きゃっきゃ」
「わ、笑ってるよ」
ズンズンと大きな振動を生み出しながら格闘する巨人2人を唖然と見守り、学生たちが震えあがった。
「前衛を任せるのにこれ以上ない適任者ね」
揉みあい殴り合う巨人たちを見上げ、揺瑚がユーベルコードを発動させている。
「GRaaaaaaaa!!」
巨人の声に柳眉を顰め、ぽつりと呟く。
「残念、そんなダミ声じゃあ響かないわ」
ゆらり、
周囲にはゆらゆらと涼しい輝きを放つ海水が生み出されていた。海統べる女王然とした揺瑚は慈しむように水を見つめると海水に水晶を放り込む。
ちゃぷり、ちゃぷり、
鳴動する迷宮からそこだけ切り離されたような幻想的な水の揺らぎ。透き通る清冽な輝きの中、水晶がきらきらとしている。そして、その姿が変じていく。
ちゃぷり。
海水から透き通る清らかな剣が出現した。
「これとどっちがキレイかしらね」
――星、
見に来たのだ、と瞳が告げて、ふわりと微笑む。
艶やかな笑みが見つめる先、『汚い口』が『汚い声』を吐いている。
「黙ってちょうだい」
――できないなら、黙らせてあげるわ。
空気を軽く震わせて呟く視線の先ではキレイな剣が飛んでいく。きら、きら、きらり。
「なんか飛んできたっス!」
「お手伝いよ」
燥ぐような巨大な味方へとくすりと笑声を立て、揺瑚は剣を操った。
格闘する味方と巨人の後ろから幾つもの剣が風切り迫る。大口開けて叫んでいた巨人の口に滑り込んだ剣は、鋭く敵の喉奥を差し、巨人は喉から血を噴き悶絶した。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵
矢来・夕立
黒江さん/f04949
あのひとにつけたのは『二羽ではない』
――伏式起動。【紙技・禍喰鳥】
黒江さんを《かばう》よう指示してあります。
こちらは《忍び足》で隠密状態を維持。
見つからなければ的にはならないはずです。
耳栓しとくワケにもいかないんで咆哮は聞きますが、多分問題ないですよ。
《勇気》なんて綺麗なものではなく。
殺す、殺される。幽霊亡霊、妖怪変化。
どれにも今更ビビらないってだけです。
咆哮を振り切って《暗殺》。『水練』『牙道』を投擲。
というのはウソです。本命は『黒揺』の《だまし討ち》
と見せかけてコレもウソです。
目の付け所を間違えましたね。
目先のコトに囚われてもいる。
隙は作りました。どうぞ、黒江さん。
黒江・イサカ
夕立/f14904
さて、夕立が見えない隙に僕は僕でやっておこうか
【先制攻撃】【早業】
僕に見える死線はこの世の境目 越えたら死ぬ線さ
だからわかるんだよね
脚を狙うために取るべきルートがさ
とは言え何だか、死線の見え方がおかしい
理由に気付くのはそれに庇われたときだ
…愛されてるなあ、僕ってば
なあに、タイミングはいつか来る
禍喰鳥くんと仲良くやりながら、
お膳立てが出来るまでサイクロプスくんと遊んでよう
…やあ、しかし一ツ目の奴に中々酷いこと言うなあ、夕立
目の付け所が悪いなんてさ
そう、これがホントだよ
もう君に見えるスピードじゃないと思うけど
【炯眼】 さあ、死線を越えておいで
…あれ?言ってない?おっかしいなあ
●this outer world
いつものことではあるが、黒江・イサカ(アウターワールド・f04949)の黒い眸には世界が映っていた。いつもとそう変わらない――否、少しだけ今日は揺れが激しい世界だ。天気が雨だったり晴れだったりするような。
……なんだ、今日もそんな世界だ。
巨人の足元には、猟兵が集っている。戦いは、すでに始まっていた。
「巨人が2人に増えてるじゃないか」
くす、と笑む吐息が零れる。可笑しいね、と。
「さて、夕立が見えない隙に僕は僕でやっておこうか」
咆哮が耳を劈く。にもかかわらず男は飄然として水の如くさらりと笑んだ。
黒猫が散歩するように、足元へ遊びに行こう。にゃぁお。
――ひとが多いと、紛れやすくていい。
帽子を軽く押さえ、熱烈な歓迎とでも言うように襲いかかる拳を掻い潜りながら男は緩く微笑んだ。耳朶を擽るのは人々のざわめきと、戦いの奏でる凄惨な音だ。もうひとつ、鼓膜ごと何処かに掻っ攫っていきそうな風切音。巨人の振るう腕をもひとつ避けて。ざぁんねん。捕まってあげないよ、息が嗤う。
「ふふ、」
空気を嗤わせよう。
そして、瞬きひとつせずに軽やかにまた一つ右へ跳躍する。風が吹き抜けるように自然に。
と、影が動いた。ぐらり、と。
悲鳴があがる。巨人が仲間に圧され、バランスを崩して倒れてくるのだ。右へ跳んでいた男は一度床に付き、また跳ねた。宙へ浮く体に衝撃の波が伝わる。――ズシン、と。余波だけで持っていかれそう。だけど、無事だった。ほんの少し早かった。鬼さんこちら、線のこちらに鬼はない。
軽やかな調子で言葉を添える男に恐怖はない。ただ、淡々と。空気を震わせる。
「僕に見える死線はこの世の境目、越えたら死ぬ線さ」
ひらり、と黒蝙蝠の式神が飛んでいる。
「だからわかるんだよね。脚を狙うために取るべきルートがさ」
人懐こい声を空虚に置くようにしながら男はくるりと廻り、着地した。地の底から響くような唸り声を発しながら巨人が一つ目でしかとイサカの姿を捉え、拳を振る。
(とは言え何だか、死線の見え方がおかしい)
違和感を感じながらステップを踏み――ああ、と得心した。
ふわり、と。不思議と潔癖な気配漂わす紙が敵の拳の前に躍り出て、ちっぽけな面積に見合わぬ強力な呪力を発したのだ。
式神が庇ってくれたのだと理解したイサカは、しみじみと呟いた。
「……愛されてるなあ、僕ってば」
伏式は連れの少年、夕立のもの。
五感を共有する蝙蝠の式紙はひらりとイサカの肩に留まり。
――嗚呼、守られている。
◆
(見つからなければ的にはならないはず)
一方、式神を放った術者の矢来・夕立(影・f14904)は変わらずの隠密ぶりであった。
心揺さぶるはずの咆哮にも瞳が揺らぐことはない。それは、勇気なんて綺麗なものではない、と少年は思う。
(殺す、殺される。幽霊亡霊、妖怪変化。どれも、今更)
『そんなもの、日常だ』。
眼鏡の奥の瞳はひどく冷めていた。熱を持つ理由もわからない、と言いたげにその瞳は世界を視る。血のような朱色が。
足元にするりと潜り込む刹那、イサカの危機を感じた。その時だけはほんの刹那、心臓を氷のような手で撫でられた心地がする。それは、とても嫌な感じなのだ。
式神に守られて距離を取る気配を感じれば、ざわりとした心がスウとまた静かになっていく。
息を一つ吸う。
生暖かい、血と汚泥の薫り混じる空気だった。
ふ、と音もなく息を吐き、夕立は揺れる世界を迷わず蹴った。床の破片飛び散る地表を器用に駆けて潜り込むのは敵の足元。全く気取られることもなく、それは簡単な仕事だった。
「無防備ですね」
事実を確認するが如く呟きを置き、しなやかに身を捻り凄烈に上へと放つのは二種の式。平型手裏剣の式・水練。棒型手裏剣の式・牙道。
グワ、と大口を開けて血を撒き散らしながら巨人が大声をあげる――いつの間にか先駆けの猟兵巨人は元の大きさに戻ったようだった――両手をゴウと鳴らし小さな手裏剣を振り落とす巨人。
「ウソです」
ちいさな声ははっきりと届く。同時に敵の背後を苦無状の式・黒揺が襲えば迷宮中に轟く豪快な悲鳴が一つ、喉奥から血を撒き放たれて。命中と同時に先端を開き、傷口を大きく抉った黒揺は――、
「ウソです」
それも、ウソなのだと少年が謳う。血色の睛が告げている。お前は狩られるのだと。
「目の付け所を間違えましたね。目先のコトに囚われてもいる」
声は、淡々と。
特に抱く感情もない。
ただ一つの特別を除いては。
「隙は作りました。どうぞ、黒江さん」
「はぁい」
イサカが常人には捕捉不能な速度で駆け寄り、痛撃を入れていた。巨人が驚愕の視線を足元に向け――その姿を捉えられない。嗤いが零れる。やさしい声だ。ぬるま湯に浸かる世界の表層を薄く撫でるような声だ。
「そう、これがホントだよ。もう君に見えるスピードじゃないと思うけど」
――さあ、死線を越えておいで。
声無き声が巨人をからかうようにして一撃二撃と加えていく。
味方の猟兵が同時に動いているようだった。巨人がズシンと倒れ、全身に猟兵が群がってトドメが差されていく。
◆
そうして、揺れが収まった世界。
けれども不思議な余韻のように世界がゆらゆらとして感じる。普段から元々揺れているのかもね。男はそう言って笑った。だって、廻っているんでしょう、星、と。
「……やあ、しかし一ツ目の奴に中々酷いこと言うなあ、夕立。目の付け所が悪いなんてさ」
ひらり、傍を舞う紙の式神に向けて軽く肩を竦めておどけてみせる。
式神からはツンとした気配が返ってくる。
「……あれ? 言ってない? おっかしいなあ」
可愛いね、と呟いて。
式神を撫でてやろうとその指は伸びた。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵
ヴィサラ・ヴァイン
お父さん(f01760)と同行
んー、学生さん達、怯えちゃってるねぇ…
まああんなに大きいオブリビオンを見たら仕方ないんだけどろうけど…
【頂点捕食者】の力で恐怖の感情を食べて落ち着かせて、ついでに《魔眼『コラリオ』》を強化するよ
学生さん達が安全な場所に避難出来たらいよいよサイクロプスと対峙
【メドゥーサの魔眼】を放ちサイクロプスを石化するよ
あれだけの巨体だから、全てを石にするのは難しいだろうけど…
だからお父さんの指示に従って、敵の部位を集中的に石化させるよ
肩関節。膝関節……後は背中もかな
余裕があったら手足を石化させて回避・防御行動を阻害、お父さんの攻撃のサポートをするよ
ナハト・ダァト
ヴィサラ・ヴァイン(f00702)と参加
先程ハ、頑張っテ貰っタからネ。今度ハ、私ノ番ダ
一ノ叡智で自己強化 武器改造、力溜めを用いて触手の攻撃力を高める
医術、傷口をえぐる、2回攻撃で巨人の関節や腱、靭帯を破壊
義娘が石化させた部位を確実に狙い、修復不能にしていく
硬イだけでハ、頑丈ト言えなイ。時にハ、柔軟さモ、大切なのだヨ
止めに脊椎の破壊を狙う
人型デある以上、神経ノ通り道ハ似ていル様だネ
脳天から垂直に五ノ叡智を叩き込む
サポート感謝するヨ、ヴィサラ。タイミングモ、最適だっタ
●medicus:arbor mundo
「んー、学生さん達、怯えちゃってるねぇ……、まああんなに大きいオブリビオンを見たら仕方ないんだけどろうけど……」
ヴィサラ・ヴァイン(魔女噛みのゴルゴン・f00702)とナハト・ダァト(聖泥・f01760)が並んで戦場を見渡した。
(安心させて、あげたいな)
ヴィサラはそっと胸に手を当てる。
感情が満ちている。
空気を介してそれが伝わる。空気を介してヴィサラは意識を伸ばす。ぱくり、小さなおくちが食べていく。
ぱく、ぱく、もぐもぐ。
愛らしく啄むように、味わって。
そして、場に充ちる恐怖を『食べた』。感情を食べられた学生たちが少しずつ落ち着いていく。その感情をどこかに置き忘れたかのような不思議な顔をして。
ふわり、と紅茶の香りが鼻腔に届く。味方が淹れたのだろう。
「好い香り……」
恐怖を彩る芳香に目を細めてキマイラ少女は壁際を見た。
何度目かの咆哮が心揺さぶろうと迷宮を震撼させる。それにより生まれる怯えもまたむしゃむしゃと食べていき。
「大丈夫だよ」
呟く声は野に咲く花に似て愛らしい。ヴィサラ・ヴァインは愛らしい少女だった。もぐもぐと感情を食べながら全身から伝わるのは控えめでちょっぴり臆病で繊細なこころ。宝石のような瞳は学生たちを案じる色を浮かべ、けれど視線を合わせることは慎重に避けていた。
「ヴィサラ」
優しい義娘を好ましく見守りながらナハトがユーベルコードを発動させる。
「先程ハ、頑張っテ貰っタからネ。今度ハ、私ノ番ダ」
声はやはり暖かい。
大人の声は、包み込むような温かさに溢れている。
義娘が何かをするならば、それを見守り、手を貸して。
ひとりきりには決してしないよと義父の全身が物語る。
義娘がやり遂げたなら、次は自分だ。
任せきりにはしないよとローブが揺れた。
ふわ、ふわと。
光が満ちる。
人々はそれを見上げるのだ。
人々はそれを見上げたのだ。
『一ノ叡智・王冠』の発動により神々しい光が溢れる。しゅるり、伸びた触腕が光そのもののように輝いて敵破る力に満ちていく。光を見て、きっと其処には栄光があるのだと、人は思うだろうか。ふるり、光が細く揺れる。光の束めいた触手をゆらりと揺らしてナハトは敵に向かっていく。
「石化ヲ任せてモ、良いかネ?」
義娘へと声を掛ければ、ヴィサラはこくりと頷いた。
「ん、了解。動きを鈍らせるね」
応える声は素直で、愛らしい。
だけど、大きすぎて全部を石化するのは大変かも。そうぽつりと呟けば、ナハトが迷わぬ指示を残してくれる。
(それニしてモ、大きナ躰ダ)
巨人が剛腕を振り下ろす。両腕の拳を一度に振り下ろせば迷宮自体が割れてしまいそうなほどの轟音が響き渡り、大きく床が破損した。割られた床の破片をするりと避けて、ローブで身を守りながらナハトがふわりと触腕を伸ばす。
「お父さん!」
凄まじい一撃を避けた義父に思わず声をかけながらヴィサラが援護の力を発揮した。
「今、石化するからね」
ヴィサラは宝石めいた瞳をぱちりと瞬かせる。両の目から放たれるのは、遠慮がちな魔力だ。それは、ヴィサラが生来持つ力。力を使うのはすこし、恥ずかしい。少女はほんのりと頬を染め、恥じらうように眉を下げた。
「あれだけの巨体だから、全てを石にするのは難しいだろうけど……」
メドゥーサの魔眼が敵の巨大な身体を少しずつ石に変えていく。義父の指示に従い、ヴィサラは石化する部位を慎重に選んでいった。
「えっと、肩関節。膝関節……後は背中もかな」
ひとつひとつ確認するようにしながら意識を集中し、石化させていけば義父がひらりふわりと敵の拳を避けながら安心させるように頷く気配がわかる。
「関節、腱、靭帯」
義娘同様にナハトも部位を丁寧に確認しながら触手を振るっていた。すでに他の猟兵により刻まれた傷を逃さず抉り、ヴィサラが石化させた部位を確実に狙い、修復不能なまでに破壊してしまう。患者の体から病巣を取り除くのにも似て、それは正確に素早く成し遂げられた。
(他の猟兵さんも似たことを?)
ふとヴィサラが瞬く。
どうも、周囲で戦う他猟兵が合わせて攻撃を加えている。偶然同じ戦場を共にする味方。大きな巨体の周囲に散った味方は物陰に身を隠す者もいて全容がわからないが、足元や空中、離れた場所から同時に攻撃を仕掛けていた。
「頼もしいね」
ヴィサラはふわりと微笑んだ。
「硬イだけでハ、頑丈ト言えなイ。時にハ、柔軟さモ、大切なのだヨ」
高く跳ぶナハトへと敵が怒りの拳をぶつけようとボロボロになった体を動かし――、
「お父さんの、みんなの、邪魔しちゃ、だめ」
手が止まる。ヴィサラの魔眼により一時的に動きが止められたのだ。
「人型デある以上、神経ノ通り道ハ似ていル様だネ」
脊椎を破壊したナハトは勢いのまま頭上に跳ぶ。そして、おや、と笑った。味方が巨人を床に沈めてくれている。
「トドメは皆でダネ」
巨大な身体を至るところに味方が武器を突き立てている。
ナハトはそれを感じながらひらりとローブを靡かせ、まるで神話に出てくる神の如く脳天から垂直に触腕を叩きこむ。全てを粉砕可能かつ修復不能にする触腕――五ノ叡智・厳正は敵の健在を決して許さぬ。
的確な部位破壊。それは彼の専門知識がフルに活かされた戦いであった。
◆
「サポート感謝するヨ、ヴィサラ。タイミングモ、最適だっタ」
ナハトが無事にヴィサラのもとへと戻ってくる。
「お父さん、格好良かったよ」
ヴィサラはにっこりとして義父を迎えた。そして、周囲をぐるりと見渡した。
「迷宮、壊れなくてよかったね」
壊れてしまったら、星が観れなくなっちゃうし。
そう呟く声は、年頃の少女ならではの愛らしさに溢れていた。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵
清川・シャル
f08018カイムと第六感連携
でっかーい!結構疲弊してますね?
でもぼっこぼこしましょうね。
カイムー、行きますよーっ!
Amanecerを召喚、スピーカーから熱光線を一斉発射して目潰しを狙います
そーちゃんにてなぎ払い、衝撃波を出して範囲攻撃を行います
チェーンソーモードである程度殴ったら、そーちゃんは投げつけます
修羅櫻を抜刀、UCを発動
2回攻撃で恐怖を与える、氷の属性攻撃で動きを封じながら、腱や急所を狙いながらの斬撃です
敵攻撃には見切り、武器受け、カウンターで対応です
おわらせましょう、これでもくらいやがれですよー!
カイム・クローバー
シャル(f01440)と第六感で連携して行動
学園の運命…か。あんな一ツ目を相手にそれは少々、肩を張り過ぎだぜ?
力だけの頭空っぽ野郎に俺達が負けるかよ。生徒の退避は任せたぜ。
この討伐依頼、便利屋Black Jackが受けるぜ。…意味分かんねぇか(苦笑)ま、気にすんな
銃弾を放ちながら【残像】を残す速度で駆ける。目につく者に拳を振り下ろすってんなら注意は引けるはずだ。
拳を【第六感】と【見切り】で避ける。
デケェ図体晒してんだ。思う存分叩き斬っても問題ねぇよな?黒銀の炎を纏った【属性攻撃】と図体全体を焼き尽くす【範囲攻撃】、【二回攻撃】で更に手数を増したUC。
あばよ?女神様に会えたら宜しく伝えといてくれ
●collaboration
「学園の運命……か。あんな一ツ目を相手にそれは少々、肩を張り過ぎだぜ? 力だけの頭空っぽ野郎に俺達が負けるかよ。生徒の退避は任せたぜ」
カイム・クローバー(UDCの便利屋・f08018)が経験豊富な学生に気さくに声をかける。
「すみません、宜しくお願いします」
無力感を噛みしめるようにしながら学生がぺこりと頭を下げた。
「ここを突破されたら、あとは学園に進行されてしまいます」
学園を守りたい。
学生は、そう語る。
拳を握りしめて肩を震わせる学生を見てカイムが紫水晶の瞳を瞬かせた。
「この先には行かせねえよ」
そんな姿を見るとカイムの性格が黙っていない。
「この討伐依頼、便利屋Black Jackが受けるぜ!」
UDCで仕事を請け負う時のノリで快活に言えば、学生はきょとんとした。
「便利屋?」
「……意味分かんねぇか。ま、気にすんな」
苦笑しながらぽんと学生の肩に手を置けば、相手は頼もし気に何度も何度も頷いた。
そんな彼らの耳にお姫様の声が届く。場違いなほど明るく、可愛らしく。
「でっかーい! 結構疲弊してますね?」
その金色の髪は烈しい戦いの後も変わらず艶やかに流れ、美しさが損なわれることはない。ふわふわゆるゆるした空気を保ったまま。
「カイム、見てますか? ボスですよ!」
ドッシンバッタンと激しく巨人が暴れ狂う戦場にほわほわと明るい声が響いてしまった。
清川・シャル(ピュアアイビー・f01440)が早起きのお子様向けヒーローショーを見ているような顔で巨人を見つめて。華奢な手をぐっと握り。
「でもぼっこぼこしましょうね。カイムー、行きますよーっ!」
ぼっこぼこ、と言いながらぶんぶんと拳を振る。
その仕草ひとつで凄惨な空気を纏っていた戦場がひどく緩い空気に変わってしまったような気がするのがシャルの凄いところだ。
「ああ、今行くぜ!」
お姫様に手を振り、カイムが学生に背を向けて走っていく。
「な? 肩を張り過ぎだろ?」
笑む声には楽しそうな響きが滲む。
お姫さまが声をあげて髪揺らし、ただそれだけで世界が変わる。
「な、すげーだろ」
呟く声はひそやかに。
誰かに聞かせる必要もないと自分の中で転がすように楽しんで。傍へ寄る。慣れた立ち位置だ。ここは、自分の立ち位置なのだ。
「じゃーん!」
元気な声を放ち、シャルが召喚するのはスピーカー。学生たちが「一体何をするのか」と凝視する中。
「発射です!」
カッ!
可憐な号令に合わせて一斉にスピーカーから熱光線が発射された。
「薙ぎ払うのです!」
声は清純な少女のもの。だが、学生たちは眼を瞠る。
熱光線が敵の眼を灼く。先に他の猟兵により流血状態であった目がジュウジュウと煙をあげて爛れ、見るも無残の惨状に。
「Guaaaaaaa!!(目が! 目が! 元々痛かったけどまた目が!)」
巨人が痛々しい悲鳴をあげて目を抑えている。
金髪を靡かせて少女が駆ける。
まるで草原を駆けるかのように、躍りのステップを踏むように、途中でぴょこんと跳ね、くるりと廻って――、
「カイム! シャル、巨人のことばがわかりました」
シャルは一瞬オブリビオンと心通わせ――はしなかったが、ほんの少し嬉しそうにしながらそーちゃんを容赦なく敵に叩きつけた。どっすんと横凪ぎに脛に叩きつければ、華奢な少女の一撃が恐ろしい快音を鳴らして衝撃の余波が床を抉る。
「そうか、良かったな。ちなみに俺にもなんとなくわかるわ」
痛がってるよな、うんうん、と同意しながらカイムがシャルに迫る床の破片に銃を放ち、砕き落とした。
乾いたオルトロスの聲と同時に細かく砕かれ爆ぜて落ちる破片の中、きらり、と。
少女の耳でピアスが煌めいているのをちらりと視えて、カイムはリズミカルに銃弾を放つ。オルトロスが高らかに吠えれば巨人の敵視が一身に降ってくるが。
「ちょっと遅すぎるな」
楽しい戦場だ、此処は。
余裕の笑みでひらりと避けてみせながらカイムは声を放つ。
「デケェ図体晒してんだ。思う存分叩き斬っても問題ねぇよな?」
傍らでは鬼子の金糸がふわふわと舞っている。
「木こりの気分です」
どーん、どすーん、がすっがすっ!
ほわほわふわふわお嬢様然としたシャルが眼を爛々とさせて。
「ははは、そりゃいい!」
まるで遊戯だ。カイムは笑った。
う¨ぃ~ん。
よく見るとそーちゃんがチェーンソーモードで棘を高速回転させている。破壊力抜群だ! 頑丈な木(巨人)を打ち倒すべく可憐な少女が恐ろしい武器を手にがっすんがっすん殴りまくっている。
「流石に頑丈だなー」
「しぶといです」
共同作業とばかりにカイムが黒銀の炎を纏わせて災いの剣を突き立てる。炎がめらめらと燃え上がり、巨大な全身を覆っていく。
近くでは、他の猟兵達も動いていた。
「助け合いは大事だよな! 知り合いもいるし」
偶然目があった嵐に手を振り、傍に跳ぶ破片をオルトロスで撃ち落し。呟く。
「頼もしいぜ」
――あとで土産話、交換しようぜ。
口の形だけ動かした言葉は、伝わっただろうか?
燃え上がる巨人を目にしたシャルはというと、
「木こりはもういいです」
唐突にぺいっとチェーンソーちゃんを上に投げつけた。チェーンソーちゃんはどこかに命中した。新たな悲鳴があがる中、学生たちは呆然としていた。
「あの2人は一体……」
「便利屋、らしい」
アルダワ魔法学園全域に便利屋Black Jackの名が知れ渡る日も近い。
炎が燃え尽きる。
ずしん、と巨人は倒れた。誰かが倒したのだ。
「やるじゃねぇか!」
カイムが笑う。
いや、ひとりの成果ではあるまい。きっと何人もの攻撃が重なって、倒れたのだ。
(なにせ、誰がどこで何してるかわかんねぇ!)
「本番はこれからです! 血の桜よ。咲き誇れ!」
本差と脇差の2本、修羅櫻をすらりと優雅に抜刀してシャルは軽やかに床を蹴り、ぴょこんと巨人の身体に飛び乗った。
「カイム! 乗り心地よいです!」
「どれどれ……」
一緒に乗れば、腹の上は他の猟兵が加えた傷がくわわって折れた骨が飛び出ている。近くには他の猟兵も見えた。
「お疲れさん!」
ニカッと笑い、その間もシャルが連撃を繰り出している。
「いきますよー!」
華麗な二連撃を叩きこみ。刃がするりと巨人の皮膚を斬り咲く瞬間、桜の花が優美に舞い散る。それは幻想的で美しい景色であった。ぴし、ぴしと氷が傷口を凍らせていく。
「もう、本当にしぶといです。これでもくらいやがれですよー!
シャルが元気よく修羅櫻を振り。
カイムが反対側から剣を入れていく。
「あばよ? 女神様に会えたら宜しく伝えといてくれ」
ひときわ大きな悲鳴が轟き、やがて止まる。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵
鏡島・嵐
判定:【WIZ】
サイクロプス……一眼の巨人か。
毎度のことだけど、デカいってのはシンプルに怖さに直結するよな。いつもより身体の震えが強ぇや。
……勿論、退くつもりなんて無ぇけどさ。
元の目がデカいから〈目潰し〉は当てやすいだろうけど、効果の程はどうかな?
効きが良いなら多用するし、悪いようなら〈武器落とし〉とかに妨害手段を切り替える。
あとは自分や仲間を《笛吹き男の凱歌》と〈援護射撃〉〈鼓舞〉で強化・支援しつつ攻撃。
相手の咆哮は厄介だな。おれのことだからきっと衝撃受けてビビっちまうだろうけど〈勇気〉と〈覚悟〉でなんとか乗り切ってみる。
それ以外の攻撃は〈見切り〉で躱すなり〈オーラ防御〉で防ぐなりで対処
。
カマル・アザリー
大きいですね……こういう相手は一撃が重くて危険ですが、鈍重で避けやすいのがセオリーですよね
ユーベルコードを使用して拘束を仕掛けましょう。攻撃回数重視で腕、脚、顔の順に捕まえますね。身体能力さえ下げられれば後は先輩たちがなんとかしてくれるはずです。バックアップはお任せください!
もし先輩からのアシストがあるならば思い切って前に出ましょう。その時は攻撃力重視でユーベルコードの攻撃です。サイクロプスの眼を集中して狙いますね
仁科・恭介
※アドリブ、連携歓迎
【目立たない】ように【学習力】でサイクロプスを観察しながら【携帯食料】を食みUC対象をサイクロプスへ
細胞を通して流れてくる憤怒に呼応させるよう細胞を活性化
「セオリー通りに行く」
サイクロプスの視界が制限されたことを確認したため、セオリー通りに脚を狙う
振り回す手足に注意しながら【失せ物探し】で膝裏を攻撃対象にフォーカス
隙ができた所に【ダッシュ】の勢いそのままに【鎧無視攻撃】を叩き込む
倒れたら重畳、倒れなかったら逆の足も狙う
攻撃後の反撃には十分注意し距離を取る
これで動きを上手く潰せたか
潰せたなら遠距離から体力を削れば…いけるだろう
だが、
「手負いの敵が一番怖い。最後まで慎重に!」
セルマ・エンフィールド
残るは敵はあれだけ。ではやりましょうか。
身体が大きいぶん、生命力もあるのでしょうか。しぶといですね……
ですが、近くの目に付くもの全てを攻撃する理性のなさが命取り、隙だらけです。
こちらが障害物に隠れればそれを壊そうとするでしょう……まぁ、多少の時間稼ぎにはなりますか。
暴れ回る敵に近づかれないように柱などの障害物も駆使して立ち回りながら【氷枷】を使います。『スナイパー』の技術でフィンブルヴェトから首枷、足枷、手枷を順に撃ち、まずは敵の動きを封じましょう。
暴れ回ることができなくなればその隙に接近、フィンブルヴェトの銃剣を突き立て、氷の弾丸の『零距離射撃』を。
ジャハル・アルムリフ
うむ、後は承ろう
むしろ此方は荒事の方が性に合う故
あの巨体、軀の海より手狭であろうな
おまけに空も見えんでは荒れたくもなろう
寄越してやる女神のあてなどないが
…受ければ星ぐらいは見られるやもしれぬ
小細工は不得手
真っ直ぐ駆け出し、巨人の足元へ
衝撃波を乗せた怪力で叩き付けた【竜墜】で
倒せずとも地形の破壊により体勢を崩す
傾いだ隙に翼でその身体へと翔け、もう一撃
狙えるなら部位破壊により、たった1つの目を
振り落とされぬ様、黒剣を突き立てて楔とし
拳を確かめ
――はて今のは及第点であろうか
否、これではまだ良き報告には足るまい
…喧しい、学舎の下で暴れるな
此処ならば墓を掘る必要もない
早々に散るがいい
千波・せら
一人ではきっと倒せないから
皆で協力をして倒そう。
一人より二人、二人より三人っていうから
エレメンタルファンタジア。
片手に風属性と今日の天気は雷
その身を貫くような激しい風の雷。
外出の際はなるべく建物の近くを通って下さい。
地形を利用して動き回りたいな。
もし見に危険を感じたら逃げ足だけは一人前だから
ちょっと後ろに逃げちゃおう。
皆も無理は禁物だからね。
無理をして大きな怪我や命を落としたりしないように注意。
戦況はきちんと見極めて、声かけとかもして行きたいな。
皆がいるととても心強いよ。
ありがとう。
ヘンリエッタ・モリアーティ
――まあ、大きい。
運命をゆだねるなんて大げさだわ。ええ、大げさよ。
運命は作るものだし、切り開くもの。そうでしょ?
【黄昏】で迎え撃つことにします。
気性が荒い?上等よ、どっちの気性が荒いか試しましょう。
――私と、おまえのね。
腹が立つのよ。
小さくて弱いものにしか手が出せないのかしら
この怒れる竜とやり合う気があるのだけは褒めてあげていいけれど
――出てくる場所を間違えているわ
おとぎ話に帰りなさい、知能のないけだものどもめ
ああ、怪力なのよ
引き裂いてあげるし、なんなら文字通り数値万力で殴ってあげる。
ごめんあそばせ、あなたみたいに見かけだけじゃないのよ
――さあ、絶滅よ。絶えて死ね。お前に歩んでいい道などないわ
●Raid battle
「うむ、後は承ろう。むしろ此方は荒事の方が性に合う故」
精悍な目元に優しい光を宿し、ジャハル・アルムリフ(凶星・f00995)が前に出る。
視線は真っ直ぐに敵に向けられていた。
「あの巨体、軀の海より手狭であろうな。おまけに空も見えんでは荒れたくもなろう」
地下迷宮に閉じ込められては外を目指したくなる気持ちもわかる――そう呟きを残して駆ける脚には迷いがない。
いち早く前線へ駆けていく味方を見つめ。
――ガチ、ガチ。
「サイクロプス……一眼の巨人か」
ガチガチと音が聞こえる。己の歯が噛み合う音だ。
鏡島・嵐(星読みの渡り鳥・f03812)が荒れ狂う巨人を見上げて呟いた。憤怒が空気を介してビリビリと伝わってくる。体はガクガクと震えていた。
(毎度のことだけど、デカいってのはシンプルに怖さに直結するよな。いつもより身体の震えが強ぇや)
「……勿論、退くつもりなんて無ぇけどさ」
戦いに臨むたび恐れで体を震わせる嵐は、恐怖に竦む脚をぎこちなく動かす。一歩。
「大きいですね……」
カマル・アザリー(永遠の月・f16590)が吃驚した様子で目を見開いた。
「こういう相手は一撃が重くて危険ですが、鈍重で避けやすいのがセオリーですよね」
周囲では既に死闘が繰り広げられている。タンッ、と軽やかな靴音をたて、カマルは月のように弧を描いて跳び、頭上から降ってきた脚を避けた。跳んだ足の下を衝撃波が走り抜け、砕かれた床の破片が鋭利な刃物のように飛んでくる。
「迷宮が壊れたら、星も観れなくなっちゃいます?」
ふと疑念を抱きつつカマルはユーベルコードを発動させた。
ボウッ、と。
辺りが明るく照らされる。
光は、明るい黄色の炎によるものだ。
カマルの内面が滲み出るような明るさが、温かく明るく戦場を照らしていく。
それはまるで、不思議なランプの精が砂漠の迷い人に手向ける明るい未来の暗示のように。
「残るは敵はあれだけ。ではやりましょうか」
セルマ・エンフィールド(絶対零度の射手・f06556)が崩れた迷宮の柱の陰に身を隠しながら敵を視る。
(身体が大きいぶん、生命力もあるのでしょうか。しぶといですね……ですが、近くの目に付くもの全てを攻撃する理性のなさが命取り、隙だらけです)
足元で近接戦闘を仕掛ける猟兵達に潰れた目を向けて子供が地団太踏むように暴れ狂う巨人。派手に立ち回る味方のおかげで巨人がセルマに気付く様子は全くない。
「ふむ」
その耳に、落ち着いた男の声が届く。視線を向ければ、近く。柱の影に、味方がいた。
仁科・恭介(観察する人・f14065)が目立たないように敵を観察しながら携帯食料を食んでいた。細胞を通して流れてくるのは、圧倒的な憤怒。単に敵対する猟兵達へ向けた怒りではない。宝物を奪われ、女神を代わりに貰い受けるべきところを拒絶されたという怒りが渦巻くように巨人を動かしていた。
憤怒に呼応させるように細胞を活性化させ、恭介は呟いた。
「セオリー通りに行く」
柱の影から出て、恭介が駆けていく。巨人の懐――混戦の最中へと。
巨人の足元では、すでにジャハルが舞踏を躍るかのように拳を掻い潜り床を踏みしめる足指めがけて鋭い初撃を放っていた。
ワッと学生たちが声をあげる。
豪快な一撃が床を破壊し、敵のバランスを崩すのが視えた。
脚が踏みとどまり――まだ倒れはしない。
ジャハルを踏みつぶそうと足が蹴りを放ち、けれどくるりと跳ねた色黒の竜人は足の甲に飛び乗って足首へと拳を叩きこんでいる。
巨体に隠れ、ちらちらと他の猟兵も見える。
2人組が数組、連携攻撃を放っている。
見るからにタフな敵。だが、確実にダメージは蓄積されていた。
味方の背を見送り、セルマは狙撃者としての役割を果たすべく銃を構えた。愛用の銃『フィンブルヴェト』を静かに固定する。スコープ越しに視る標的は烈しく動き回っているが、的は大きい。熟達の射撃スキルを持つセルマにとっては外す方が難しい的だ。故に、淡々と――狙い撃つ。
放った銃弾は瞬きする間に巨大な身体に吸い込まれるように命中し、青白い氷気を撒き散らしながら形を変えた。枷の形になった弾は巨人の手、足、首に填まる。3部位が一瞬苛烈に耀けば、巨人が戸惑いに唸り声を漏らす――ユーベルコードが封じられたのだ。
ちょうど、他の味方も動きを制限するように動いていたようだった。相乗効果で巨人が大きく動きを鈍らせていく。
(敵は巨大で力も大きいですが、こちらには数が揃っています)
一人一人が自分の力で一撃一撃を加えていく。それが、敵を削り勝敗の天秤を傾けていくのだ。少しずつ、少しずつ。
戦いに慣れているセルマはそれをよく知っていた。
そして、またひとり。
「――まあ、大きい」
事実をそのまま言葉に直した。声は、そんな声だった。
ヘンリエッタ・モリアーティ(犯罪王・f07026)の銀月の瞳が静謐に敵を視ていた。
「運命をゆだねるなんて大げさだわ。ええ、大げさよ」
教授は講義をするかのようにゆっくりと言葉を紡ぐ。
「運命は作るものだし、切り開くもの。そうでしょ?」
学生の返答を待つことはなかった。
待つ必要もない。
敵が、吠えている。
足元の猟兵達を踏みつぶし、蹂躙しようと息を吐き、地を揺らしている。烈しく床を踏み壊し――聞き分けのない子供のよう。
巨人が激昂している。
憎悪の聲をあげている。
――それがヘンリエッタを刺激する。
激憤。
憎悪。
それは、こちらもよ、と。
「気性が荒い? 上等よ、どっちの気性が荒いか試しましょう。――私と、おまえのね」
ヘンリエッタは吐き捨てるように言い、激情を代償に駆けた。駆けて、跳んだ。
「腹が立つのよ。小さくて弱いものにしか手が出せないのかしら」
ぶくりとたるんだ肉が目の前にある。
部位を確認することもなく、ただ目の前の『敵』に拳は振るわれた。弾力に富んだ厚い肉に拳が埋まり――破砕していく。めりこんでいく。
◆
敵が暴れている。
味方が格闘しているようだ。
戦いは――始まっている。
学生たちは其の戦いを観ていた。震えは、止まっていた。
傍には温かな紅茶があった。
咆哮のたび生まれた恐怖は、不思議と生まれるはしから消えていった。
戦う猟兵の姿を目に焼き付けるように、拳を握り。
怯えと違う感情が学生たちを支配していた。
はらはらと心配して、その圧倒的な力に驚愕し、勇ましい姿に胸が熱くなっていくのだ。そして、すこしだけ悔しいのだ。
――その頂きに届かない、と壁を感じてしまったから。
◆
「一人ではきっと倒せないから皆で協力をして倒そう。一人より二人、二人より三人っていうから」
透明な水が涼やかに揺音鳴らすように空間に声が染み渡る。
ふわふわひらひら、千波・せら(Clione・f20106)が自然を操っている。
片手にひゅるひゅる唸る清涼な風の渦巻き纏い、少女が告げる。
「今日の天気は雷です」
声は、不思議とよく通る。
パチパチと閃く雷光を風と共に放てば落雷が巨人を撃ち抜いて特大の爆音を轟かせ、迷宮中が一瞬シンとする。悲鳴を上げることすらなく衝撃に硬直した巨人がぐらりと傾いで――かろうじて踏みとどまる。
「外出の際はなるべく建物の近くを通って下さい」
せらが柔らかな声でアナウンスすれば、巨人は憤怒に肌を赤くした。烈火の如き怒りと共に目の傷が開き、鮮血が顔を染めて朱に染まった顔から半身は惨憺たるもので、開かぬ目の奥の痛み、全身の苦痛を憎しみに変換して魂を燃え上がらせるような巨人の唸りには凄みがある。
迷宮の床や破片が乱闘で破壊され、破片が飛び散る。せらは逃げ足を活かして泳ぐようにするりするりと避け、柱の陰に身を隠した。
「皆も無理は禁物だからね。無理をして大きな怪我や命を落としたりしないように注意だよ」
優しい声は味方をふわりと包み込むようで、戦場に居る者にあたたかな感情を伝える。
「他の味方も、動いているんだね」
巨体の影に隠れ、視えない範囲で猟兵達が同時に戦いに臨んでいる。刻一刻、頑丈な巨体が束縛され、力を削がれ、傷を負っていく。
「順調だな」
味方の攻撃により、巨人の視界は塞がれている。五体の動きも鈍っていた。ならば、と恭介はセオリー通りに脚を狙うことにした。
機敏に身を沈めれば、轟音を放ち頭の上を拳が通過していく。一瞬遅ければ頭と胴が離れていたことだろう。だが、恭介に動揺はない。戦いには慣れていた。
そして、聞こえる音色に目元をほんの少し和らげた。――味方と戦うのにも、慣れていた。
「毎度のことだが、頼もしいものだ」
「魔笛の導き、鼠の行軍、それは常闇への巡礼なり」
嵐がユーベルコードを発動させている。召喚者の呼び声に応え、迷宮の壁からするりと姿を現したのはおどけた仕草の道化師だ。仮面をつけた顔は不思議と愛嬌に溢れ、同時にどことなく歪であった。そういった印象を与えるようにとデザインされた仮面なのだ。
――♪
道化師が体を左右に揺らしてノリノリで魔笛を奏でると、美しく楽しいメロディが迷宮に響き渡る。ひっきりなしに揺れる迷宮さえもどことなく楽しいアトラクションのように演出してしまう名演奏。聞く者全てがなんとなく楽しい気分になり、戦闘力が増強されていく。
「先輩! サポートします!」
カマルが加勢に炎を放っていた。
黄色の炎が敵巨人の腕や脚を中心に纏わり付き、動きを鈍らせていく。
「バックアップはお任せください!」
◆
「なあ、さっきの聞いた? 見てた?」
学生が呟いた。
「あんな強いひとたちも、味方同士で背中を預け合って、協力して戦うんだな」
「それはそうだよ、当たり前じゃないか」
学生たちが囁くように言葉を交わす。
視線は、猟兵達を見ていた。
「学校でも、習っただろ。ひとりひとりの力が限られていても、協力することで何倍にもつよくなるんだ」
――だから、届かない壁も越えられる。と。
◆
巨人の動きが制限されていく。動きが確実に鈍っていく。
視える範囲に居る者、視えない範囲に居る者、何人いるのかもわからない。そんな戦場。ただ、敵は一体だった。ただ一体に、皆が傷を負わせていく。
「動きを上手く潰せたか。潰せたなら遠距離から体力を削れば……いけるだろう」
恭介が声をあげる。その声が誰に届いているのかも、もはや把握が難しい。
(だが、することはひとつだ)
皆、同じ結果のために集っているのだ。
「すげー乱戦になってんな。誰が何処で何してるかわかんねぇ」
嵐は乱戦の中でそう呟き――、傍に迫っていた破片に身を固くした。
「――ッ!!」
(やられる!)
一瞬の油断により傷を負うかと思われたその時、銃声が響いた。
「あ」
目を開けると、ちらりと敵の肉躰の隙間から知り合いが見えた。
――あとで土産話、交換しようぜ。
カイムが口の形だけ動かし、いつもと同じ笑顔を見せていた。
「ああ」
言葉を返した頃には、その姿はもう見えなくなってしまっている。けれど、近くで戦っているのだろう。
◆
巨人の足元。
鳴動する床地はバキバキと破損し、頼りない。駆ける前方から、横から、破片が襲ってくる。
(――迷宮が悲鳴をあげているようだ)
「寄越してやる女神のあてなどないが……受ければ星ぐらいは見られるやもしれぬ」
巨人の剛腕が常軌を逸した重量を伴い振り下ろされる。足元へと駆けていたジャハルは竜化し呪詛を纏った拳を咄嗟に上に向けて振り上げた。
「!?」
周囲が唖然とする中、振り下ろされる敵の巨大な拳とジャハルの拳が激突した。サイズで比較すれば圧倒的に敵に勝敗が上がりそうな力比べ――さらに上からの一撃でもある――しかし、拳は均衡した。
ぎりぎり、と奥歯を噛みしめジャハルが拳を押していく。巨人は猟兵の異様な怪力に圧倒されたように息をつめ、汗を流した。
「――ハッ!!」
ごろりと滴る汗がべちゃりと床に落ちる時、ジャハルは裂帛の気合と共に脚に力を込めて敵の拳を跳ねのけた。
ぐらり。
敵の巨体が傾いだ隙にジャハルは翼を羽搏かせ、顔へと迫る。狙うはやはり、目だ。突き立てるは、誓いの剣。影なる剣を楔とし、暴れる巨人に振り落とされぬよう力を込めてずぶりずぶりと深く沈めていけば、同時に他の猟兵も攻撃を加えているのが肌でわかる。
同時に味方も動いている。
「しかし、大きすぎて部位が確認しにくいな」
ぼやくようにしながら駆ける恭介は動き回る脚を蹴り上げて上へと昇っていく。ぐらりと巨体が後ろに倒れ、踏みとどまるように脚が後ろに踏ん張って。
「ここだな」
駆けあがる勢いままに膝裏に一撃を叩きこむ。
ぐらり、支えを失って――、
その巨人を後ろへと殴り飛ばすのはヘンリエッタの脅威の拳だ。
「この怒れる竜とやり合う気があるのだけは褒めてあげていいけれど――出てくる場所を間違えているわ」
肉を穿ち、衝撃に圧されたように巨体が後ろへと倒されていく。竜をも素手で引き裂く暴力が敵に打ち込まれる。何度も、何度も。
「おとぎ話に帰りなさい、知能のないけだものどもめ」
殴り、殴り、殴って――身の内から溢れる激情が力に変わっていく。
轟音。
ド――……ン、と。
爆発が起きたような派手な音がその空間にいる全員の鼓膜を震わせた。床がひときわ大きく振動し、床が破損して細かく舞い散る破片――、
「大きいというのはそれだけで厄介だな」
冷静に呟きながら恭介は大きく後退して破片を避けた。
「ごめんあそばせ、あなたみたいに見かけだけじゃないのよ
――さあ、絶滅よ。絶えて死ね。お前に歩んでいい道などないわ」
ヘンリエッタは退くことがない。
相手が倒れてもその拳が止まることはない。完全にその生命が活動を止め、骸の海へ還るまで――、
倒れた巨体の上で拳を確かめ、ジャハルはぽつりと呟いた。
「――はて、今のは及第点であろうか」
(否、これではまだ良き報告には足るまい)
敵はまだ生きていた。
猟兵に群がれ、それぞれの武器を突き立てられ、死へ追いやられていく敵の悲鳴にジャハルは顔を顰める。
「……喧しい、学舎の下で暴れるな。此処ならば墓を掘る必要もない。早々に散るがいい」
「勝てそうですね、よかった」
カマルが先輩たちの奮戦ぶりに息を吐く。
「皆がいるととても心強いよ。ありがとう」
ふわり、耳を擽るやわらかな声。
せらの声と共に迷宮に雷風が渦巻き、巨人がびくりと身を震わせる。
「あともうすこし」
優しい声は支援を惜しまないと告げている。
「ああ、もう少しだ!」
嵐が味方を鼓舞する。
猟兵達が次々と巨体に向かっていく。
近くに姿が見えなかった2人組が慣れた連携を見せながら。
知人が大切なひととともに。
あの猟兵も、この猟兵も、皆が一丸となって一つの巨体を滅ぼしていく。
(ならば、私だって)
「先輩がアシストしてくださるなら」
カマルが思い切って前に出る。
黄色の炎を纏わせてくるりと舞いを披露するかのように巨人の体表を蹴り上げ、くるくると回転しながら徐々に上へと昇っていく。
「痛そうですね、その目」
上り切った先には、他猟兵により潰された眼があった。
「やはり狙うべきは眼ですよね」
回復力も高そうですし、と呟くカマルは黄色の炎で敵の眼をダメ押しとばかりに灼いていく。
「手負いの敵が一番怖い。最後まで慎重に!」
恭介が声を掛け続けている。
遠距離から狙撃をし続けていたセルマが呟く。
「そろそろ」
終わりです、と。
可憐な花を咲かせるがごとくフィンブルヴェトの銃剣が突き立てられ、氷の弾花が咲く。狙撃手の一撃は、決して外れることはない。――いつものように。静かに吸い込まれるように、生命を終焉へと導いていく。幾つも同時に重ねられた猟兵達の攻撃が、御伽噺の巨人を還していく。
――その還る先は、きっと静かな場所だろう。
大成功
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第3章 日常
『迷宮の天穹』
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POW : 星空をひたすら眺めよう
SPD : 流れ星を探そう
WIZ : 夜空の彼方に思いを馳せよう
👑5
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔴🔴
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種別『日常』のルール
「POW・SPD・WIZ」の能力値別に書かれた「この章でできる行動の例」を参考にしつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。
| 大成功 | 🔵🔵🔵 |
| 成功 | 🔵🔵🔴 |
| 苦戦 | 🔵🔴🔴 |
| 失敗 | 🔴🔴🔴 |
| 大失敗 | [評価なし] |
👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。
●『星濫』
空気は、涼やかに澄んでいた。少し、寒いくらいだろうか。
戦いを終えた猟兵達と学生達は、天覧フロアを訪れていた。
フロアは高い天井と壁一面ぐるりと星景色が広がっていた。藍色から深い黒へとグラデーションを見せる天鵞絨の夜空に銀色の砂を散りばめたような星が溢れている。
星好きの魔法使いによる幻想仕掛け。
地上からほんの一層降りたそのフロアに、星が溢れている。
幻想の星空には、御伽噺の元になった巨人や女神の星座もあるかもしれない。
時折流れていく星に願いを唱えれば、叶うこともあるかもしれない。
――其の幻想仕掛けによる星空は、偽物だ。
証拠に、何処までも続くような星景色には壁がある。空高く跳べば天井がある。瞬く星の光を映す壁に触れることができる。
けれど、
幻想の星は、
――決して手中に収めることは、できないのだ。
清川・シャル
これがアルダワの星…
見たことない綺麗さだね?
星は手が届きそうで届かないのがいい。
いつも手を伸ばして掴もうとするけど
今はこの星空を楽しもう
星座って見てわかるかな?情報収集で調べてみよう
あれとあれ…ほら、リンゴぽくない?
ねえ?シャルはね。貴方で良かったと思ってるの
私は強くない。(力じゃなくてね)
けどね、弱くもないよ
ちょっとパワーのある12歳です
えへへ。そんな感じ!
ずっとそうとは出来ない事もあるけど
けど、だからこそ…2人でもっと色んな景色見ましょうね
…綺麗だね。ねね、瞳に星が映ってキラキラ!違う、カイムの目だってば、もう。
ね、次はどんな景色見よう?
悩みとかちっちゃく思える、ひろーい景色が見たいな!
カイム・クローバー
星好きの魔法使い。粋な事するもんだぜ。
色合いも雰囲気も空気も、作り物だとは思えねぇ精巧さ、いや、ヤボは無しか。
今だけはこの星空に浸っているとしようか。
…リンゴっぽい星…あー…確かにそう言われりゃそれっぽいかもな。
俺で良かった、なんて言われるのは酷く照れ臭い。ホントにこういうのは慣れない。
嫌な訳じゃない。だからシャルの頭に手を軽く置いて。
きっと世界にはまだ見ない景色があるだろう。猟兵として生きる中で依頼をこなしつつ、そういう場所を巡るのも面白いかもしれない。
此処より雄大に星を見られる場所があるだろうか?季節が巡る中で世界の景色はどうなっていくだろう?
二人で世界の景色の答え合わせも悪くない…かもな
●リンゴのほし
あでやかな漆黒に数えきれない数の星が咲いている。小さく、幾つも。一つ一つでは埋もれてしまう光が幾つも集まり、空が煌びやかに飾られている。
「これがアルダワの星……見たことない綺麗さだね?」
鈴振る様な声が地表に咲けば傍らの長身が頷いた。
空の下、並んで星を見るのは2人。
(星好きの魔法使い。粋な事するもんだぜ)
見上げる空には星がある。
「色合いも雰囲気も空気も、作り物だとは思えねぇ精巧さ、いや、ヤボは無しか」
「そうですよ、ヤボはダメです」
カイムが言えば、シャルが頷いた。
(今だけはこの星空に浸っているとしようか)
(今はこの星空を楽しもう)
並んで2人、言葉にすることはなかったけれど。
この空を見て想うのは同じだと思うから。
(手を伸ばしたら届きそう)
でも、届かないのだとシャルは知っている。
(星は手が届きそうで届かないのがいい、)
いつものように手を伸ばせば、星の光が指先でキラキラと輝いていた。桜色の爪先で撫でるようにすれば、まるで撫でられて喜ぶように星が瞬く。
「星座って見てわかるかな?」
スマートフォンを取り出してみれば、どれどれとカイムが一緒に覗き込んでくる。
「あれとあれ……ほら、リンゴぽくない?」
「……リンゴっぽい星……あー……確かにそう言われりゃそれっぽいかもな」
画面と夜空を比べるようにして一点を指せば、カイムが見比べて目を瞬かせる。
「言われないとわかんねぇな。最初にリンゴだって言った奴すげー」
「お腹が空いてたのでしょうか」
くすくす、と笑い声は小鳥が囀るのにも似て愛らしい。リンゴを手に持たせればそれだけで童話のお姫様になれるだろう。先ほどまで苛烈な戦いぶりを見せていたのが冗談のような繊細な少女。まだ、たった12歳だ。
「ねえ? シャルはね。貴方で良かったと思ってるの」
首を傾けて見れば、大きな瞳がまっすぐにカイムを見ていた。
「私は強くない。……」
力じゃなくてね、と冗談めかして囁いて。
夜闇に全身が染まるようでいて、星を背負った少女は決して空に埋もれることがない。
「けどね、弱くもないよ」
真っ直ぐに伸びた背筋と同じく、声も真っ直ぐに。
初対面の自己紹介をするかのように、見上げる少女は改まり、はにかみながら。
「ちょっとパワーのある12歳です」
「えへへ。そんな感じ!」
そう言って笑う。
星が瞬いていた。
「俺で良かった、か」
「はい」
声はまっすぐに返ってくる。
「まいったな……」
「どうしました?」
見上げる瞳には濁りがない。なんて、純真。
カイムはぼりぼりと頭を掻いた。
――酷く照れ臭い。ホントにこういうのは慣れない。だが、決して嫌な訳じゃない。
だから、カイムはくしゃりと笑って小さな婚約者の頭に手を置いた。そっと。
「いや、サンキューな」
シャルが安心した様子で眼を細める。慣れた温度に身を任せ。
「ずっとそうとは出来ない事もあるけど。けど、だからこそ……2人でもっと色んな景色、見ましょうね」
穏やかな声は甘さを含んで、星空に蕩けるように澄んでいる。いつも、まっすぐに澄んでいるのだ。その声は。
緩く笑む。
「きっと世界にはまだ見たことがないすっげー景色がめちゃめちゃあるだろうな。全部、見ようぜ。依頼しながらさ。そういう場所を巡るのも面白いだろ?」
此処より雄大に星を見られる場所があるだろうか?
季節が巡る中で世界の景色はどうなっていくだろう?
カイムが思いを巡らせながら微笑みを湛えれば、瞳の中でシャルがまたひとつ、星を見つけたような顔をして。
「……綺麗だね。ねね、瞳に星が映ってキラキラ!」
「ん? どれどれ」
「違う、カイムの目だってば、もう」
くすくすと笑う。
紫色の目に星が咲いて瞬いて、きらきら。きれい、と。
「俺の目がきれいだって!?」
びっくりした様子で目を丸くするカイムにまた笑う。
「ね、次はどんな景色見よう? 悩みとかちっちゃく思える、ひろーい景色が見たいな!」
お姫さまはそう言って両手を広げる。
星を全部、抱えるみたいに。抱きしめるように。
広い世界。
広い世界だ。
そこで笑っている。楽しそうに全身をのびのびさせて、生命の輝きに満ちている。
「ああ、次はどこ行こうか」
カイムはそっと婚約者の頭を撫でた。小さな婚約者は、耳にピアスを煌めかせてニコニコと大人しく撫でられている。そっと確かめるように指を這わせれば、少し擽ったそうに身じろぎをする。伝わるのはトクントクンと鳴る小さな脈動と、あたたかな温度。
「二人で世界の景色の答え合わせも悪くない…かもな」
声には小さな頷きが返ってくる。
星が瞬いていた。
(星好きの魔法使い。粋な事するもんだぜ)
カイムはそう思って、もう一度笑った。
――22歳のカイム・クローバーと、12歳の清川・シャル。
2人はその日、そこにいた。
成功
🔵🔵🔵🔵🔴🔴
宮入・マイ
連携アドリブ歓迎
…きれいっス。きれいっス~!
ここ本当に迷宮の中っス?
旅団のみんなにも見せてあげたいっス…
写真撮って持ってくっス!
マイちゃんカメラ持ってないっスけど!
あ、みんなと言えばマイちゃん一派にも見せてあげないとっスね、いつも通りのままでいいから【友情の混合】っス!
一人よりいっぱいで見たほうが楽しいっス。
そろそろマイちゃん星とマイちゃん座を見つけないとっス…ピンクにピカピカしてるのがマイちゃん星で…それを中心にカタツムリっぽく見えるのがマイちゃん座っス!
他の猟兵とか学生たちとかにもそれっぽいのがないか一派を引き連れたまま聞いて回るっス!
見つけたら今度は見つけた報告っス!
きゃっきゃ。
深海・揺瑚
星。星だわ。
これは……思ってた以上にいいわね
これを見るまでがちょっと面倒かと思ったけど、来てよかった
ニセモノだろうが綺麗ならそれで十分
むしろ、こっちの方が珍しくっていいぐらい
持って帰れないのも、自分のものにできないのも残念
せめて思う存分満喫して帰るべきね
願いごとはしないし、別に詳しい訳でもないから星座を探す訳でもない
こっそり持ち込めていれば、瓶のビールに口をつけて
アテはこの星空と
誰か人がいれば軽くお喋りしてもいいかもしれないわ
話すひとがいるのもいないのも
どっちも好きよ、私は
仁科・恭介
※アドリブ、連携歓迎
戦いが終わり張り詰めた糸が切れたようだ。
少し眠りたい。
が、そんな姿を見せるのも恥ずかしい。
マフラーを懐にしまい、天覧フロアの片隅で【目立たない】ように寝転がる。
立ったまま眠る事もできるが今は横になって眠りたい。
見上げると眩い星空。
ダークセイヴァーともスペースシップワールドとも違う星空。
「またこんな景色を見られたか」と思いつつ影達に埋まりひと眠り。
少しずつ意識が戻ってきたところで学生達が先ほどまで参加していた戦闘の話が聞こえてくる。
話に夢中で気が付かないようだ。
「話に夢中になるのは良いけれど、常に周りを見ておくことだね。私が敵だったらどうするのかな?」
と学生達を驚かす。
イゼリア・レジーナ
まあまあのショーだったわね。猟兵同士の連携もよかったし学生たちも無事だけど、私としてはもう少し苦戦した方が好み……ちょっとメイド、今ため息つかなかったかしら?
……まあハッピーエンドは嫌いじゃないし、こうして皆で星を眺められるのだから良しとしましょう。
地上から見る星空はこんなにも美しいのね。でも、地上に降りた私が偽物とはいえこうして空を眺めるなんてね。
天上は何もなくてただ退屈なだけで、地上を見下ろせば人間たちが楽しそうに笑っていて……。私がそうだったように人間は星空を見て神々に想いを馳せたのかしら。
カマル・アザリー
綺麗ですね……私達は守りたいものがあるから戦える。こうした美しい景色を守るために私達は命を賭けられるのですね
私はまだ生まれたばかりで世界を何も知りません。ですが、今なら何となくわかる気がします。先輩たちが戦う理由……
少しセンチメンタル過ぎましたか?えへへ、でも、そう思えるくらい素敵でしたから
●星空の下で
さわさわと人の気配がフロアを浸していた。
(星。星だわ)
深海・揺瑚は整った顎をあげ、空を観た。
絶景。
妖艶な唇が匂い立つような笑みの花を咲かせる。
「これは……思ってた以上にいいわね」
宝石を散らしたような穹が目を楽しませてくれる。人のささめくのを感じながら観る景色は独特の祭りのような気分に浸してくれて。
(これを見るまでがちょっと面倒かと思ったけど、来てよかった)
長い一日だった。
揺瑚は軽く伸びをする。
「防衛任務は……面倒ね」
「防衛できてよかったです」
近くから返されて視線をやれば、カマル・アザリーが一心に空を見つめていた。
「ええ、そうね」
揺瑚はそっと声を空に向けた。ふふ、と笑う声には周囲を気にせぬ奔放さが溢れている。
「……きれいっス」
宮入・マイが2人に並び、ぽかんと一瞬目を見開いて、パッと笑顔を浮かべる。
「きれいっス、きれいっス~! ここ本当に迷宮の中っス?」
偽物の景色がどう見ても本物のようだとびっくりしていれば、落ち着いた声が笑う。
「ニセモノだろうが綺麗ならそれで十分。むしろ、こっちの方が珍しくっていいぐらい」
揺瑚が瓶ビールを揺らして。
「持って帰れないのも、自分のものにできないのも残念。せめて思う存分満喫して帰るべきね」
くい、と呷る。喉がこくりと鳴り、美女が目を細めれば夜宴の幕あけとばかりに学生たちもご馳走を持ち込みワイワイと騒ぎだす。
そんな空気は平穏に満ち溢れて、生温く穏やかで――、
「景色は、美しいな」
仁科・恭介は密やかに欠伸を噛み殺した。緩やかに全身に忍び寄る睡魔を自覚して軽く苦笑する。戦いが終わり張り詰めた糸が切れたようだ、と自覚して。
(少し眠りたい)
思う。
だが、そんな姿を見せるのも恥ずかしい。
恭介はマフラーを懐にしまい、フロアの片隅で目立たないように気配を消して寝転がる。立ったまま眠る事もできるが、今は横になって眠りたい気分だった。
微睡みの中見上げると眩い星空が広がっている。
ダークセイヴァーともスペースシップワールドとも違う星空。
(またこんな景色を見られたか)
従順なる影達がさわさわと全身を包み込む。影に埋まるようにして恭介は意識を微睡みの波に委ねた。
眠りに落ちる中でふと思う。
――空にないものがあった。
月だ。
「綺麗ですね……私達は守りたいものがあるから戦える。こうした美しい景色を守るために私達は命を賭けられるのですね」
カマルは月のない空に吸い込まれそうな目をしていた。
「私はまだ生まれたばかりで世界を何も知りません。ですが、今なら何となくわかる気がします。先輩たちが戦う理由……」
ふわり、長い髪を揺らして先輩たちを順にみるカマルは、妖精のように微笑んだ。
「少しセンチメンタル過ぎましたか? えへへ、でも、そう思えるくらい素敵でしたから」
星景色にないものはもう一つある。
風だ。
烈しい戦闘の後であることを感じさせぬ純白のホワイトプリムを不思議な迷宮の夜気に晒して、メイドは主の傍に控えていた。
艶やかな白絹の髪が風なき迷宮にさらりと流れる。
女神イゼリア・レジーナがたおやかに髪を掻き分ければ、星明りが控えめに注いで暗闇の中に清廉な輝きを浮き立たせていた。
まるで空から舞い降りた月のように。
少女神の可憐な声が空気を震わせる。
「まあまあのショーだったわね」
女神イゼリアは余韻に眦を和らげた。
「猟兵同士の連携もよかったし学生たちも無事だけど、私としてはもう少し苦戦した方が好み……ちょっとメイド、今ため息つかなかったかしら?」
月の光を集めたような瞳が見咎めれば、メイドが楚々として首を垂れる。
「……まあハッピーエンドは嫌いじゃないし、こうして皆で星を眺められるのだから良しとしましょう」
イゼリアは月のようにフロアを見晴るかす。彼女が睥睨する世界は、『皆』が思い思いに過ごしている。
「先輩、星が流れました!」
カマルが星のように瞳をキラキラさせて空を示す。
「お願いごとね」
揺瑚は特段感銘を受けた様子もなく星を見送っている。
「お願いごとしないのですか?」
「ええ」
必要ないわ、と言って持ち込んだ瓶ビールに口をつけ、豪快に呷る揺瑚の横で、カマルは一生懸命何かを願っていた。
「旅団のみんなにも見せてあげたいっス……」
マイは旅団のみんなを思い浮かべる。一見ちっぽけな宇宙船・イモータル級二号艦艇――通称『芋煮艇』。心のおあしすだ。
「写真撮って持ってくっス! マイちゃんカメラ持ってないっスけど!」
「写真は好いわね」
「星が流れていきます、先輩」
女子たちの華やかな声が星空を賑々しく彩れば世界が明るく照らされるようだった。
「あ、みんなと言えばマイちゃん一派にも見せてあげないとっスね」
マイはふと気づいた様子でマイちゃん一派を呼び出した。サナダちゃんがしゅるりと揺れて、ガーちゃんがおずおずと現れ、アーちゃんはゆらゆらと、ロイちゃんは他の仲間たちに隠れるように小さな体を見せて。
「一人よりいっぱいで見たほうが楽しいっス」
マイがニコニコ笑顔で笑った。そして、イゼリアに手を振る。
「お疲れ様っスー!」
「先輩、あの方はちょっと高貴な方じゃないですか」
カマルが心配そうに見守る中、メイドがそっと主の気配を窺う。
「ええ、お疲れ様」
イゼリアは尊大さを滲ませながら気だるげに、しかし機嫌を害することなく声を返した。
「そろそろマイちゃん星とマイちゃん座を見つけないとっス……」
仲間にニッコリしたマイは元気いっぱいに熱心に星を探していた。途中、離れた場所で目立たないようにしながら眠る恭介を見つけて構いたそうにしたのを揺瑚が唇に指をあてて「眠らせてあげなさい」と笑う。
「それより、星を捜すのね」
「それっぽいのないっス?」
「先輩の星ですか」
学生たちを巻き込んで猟兵達の星探しが始まる。
見つけて、どうしようと言うのかしら。
イゼリアが退屈しのぎに鑑賞するのをメイドが快適に鑑賞できるようにと紅茶を淹れてくれた。ちょこんと添えられたのは星空の下でも可憐な白さを魅せる繊細なショートケーキだ。宝石のような真っ赤な苺が瑞々しく甘い色を見せている。
イゼリアは優雅にティータイムを楽しんだ。
「メイド」
「はい、イゼリア様」
イゼリアのほっそりとした指が満足げにフォークを撫で、他の者にも振舞うようにと伝えればメイドは恭しく一礼し、即座に主の意向を叶えるのであった。
星空の下でティータイムが始まる中、
「見つけたっスー!!」
元気な声が響く。マイが嬉しそうにぴょんぴょんしながら空を指している。
「ピンクにピカピカしてるのがマイちゃん星で……それを中心にカタツムリっぽく見えるのがマイちゃん座っス!」
キラキラとピンク色の瞳が煌めいた。
ほらほら、あれっス! と見せる顔が微笑ましく、カマルが釣られてニコニコする。
ひと休みしていた恭介が少しずつ意識を覚醒させる。耳には学生達と猟兵達の明るい聲が聞こえていた。夢中で話しているようで無防備極まりない姿に恭介はうっそりと起き上がり、背後から声をかける。
「話に夢中になるのは良いけれど、常に周りを見ておくことだね。私が敵だったらどうするのかな?」
びくりと肩を震わせた学生達が眼を丸くしているのが可笑しくて、恭介は肩を竦めて微笑んだ。
「敵でも大丈夫っス! マイちゃんが護るっス」
マイがそう言ってケーキを差しだす。
「これは?」
「神様がくれたっス!」
示される先に少女神がいた。鑑賞するような空気は、恭介と似たもの。
「どうも、ありがとうございます」
礼儀正しく紳士的に一礼すれば、花の唇が綻んだ気がした。
「ビールもあるけど、イケるクチかしら?」
揺瑚が恭介に瓶を掲げてみせる。飲めるならば楽しもう、と。
賑やかな地表をぐるりと静謐な星空が見守っていた。
「地上から見る星空はこんなにも美しいのね。でも、地上に降りた私が偽物とはいえこうして空を眺めるなんてね」
イゼリアがあえかに睫を揺らす。
「天上は何もなくてただ退屈なだけで、地上を見下ろせば人間たちが楽しそうに笑っていて……」
人間たちが笑っている。
見下ろしていた時と違い、その距離は近い。
「私がそうだったように人間は星空を見て神々に想いを馳せたのかしら」
見上げる空は、地上の人間達の彩を反射して色を増したように凄みを魅せ、女神の肥えた目にもなかなかに美しく映るのであった。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵
黒江・イサカ
夕立/f14904
ねえねえゆうちゃん、式紙って餌とかいるの?
可愛いね、これ
……僕でも飼える?
しかし、水族館の次はプラネタリウムか 定番だなあ
夕立は行ったことある?
此処とはまた違う感じだけど、…触れるお星さまなんて滅多にないぜ
とは言え、僕の知ってる星座とは流石に違う感じだな…
おいで、夕立
あの壁の方、見に行こうよ
折角だし触らせてもらおう
それにしても熱心に見てるね
星とか好きだったんだ?
僕も嫌いじゃないよ、星のあるところは薄暗くてデートにはぴったりだし
…だから、手でも繋ごうよ 見失わないようにね
…え?僕の眸に似てる?あれ?
そう、…君にはこう見えてるんだ
ふふ 便利じゃなくても星に勝てるなんて光栄だなあ
矢来・夕立
イサカさん/f04949
餌はいらないし、鳴かないし、飼えますよ。
でもそいつはやめといたほうがいいですね。
性格が可愛くない。つんけんしてる。
プラネタリウムにも行ったことありません。
けど、星は好きです。
時刻も方角もわかって便利でしょ。
星の並びが違うのは、コレが作り物だからでしょうね。
…作り物のなかになら、あるかもしれない。
金色で、偶に瑞雲みたいに違う色がひかる、
そういう、イサカさんの眸に似た星。
自分の眸のひかりが、自分には見えないって言ってたから。
繋いでない方の手で教えてあげます。
あれ、少し似てますよ。色と輝き方が近いだけですけど。そっちのひかりのほうがずっと綺麗っていうか、…
なんでもない 笑うな
●星雫のバラージ
「ねえねえゆうちゃん、式紙って餌とかいるの?」
狭い箱の中、指があやすように紙を擽る。
箱の底から眺める穹は綺羅びやかだった。
冷然と涙雫めいた星を散らばめた黒尽くめの空に黒尽くめの君と。僕。
「 」
紙が乾いた音で啼いた。
「可愛いね、これ……僕でも飼える?」
帽子が揺れる。
つばが上げられたから。
「餌はいらないし、鳴かないし、飼えますよ。でもそいつはやめといたほうがいいですね」
フロアには放埓な夜の淀みが充溢していた。降りそうな貌を魅せながらじっと天に縫い留められた星芒のバラージに溺れそうになる。世界を染め上げる夜の黒尽くめに黒尽くめと黒尽くめで染められて淡く幽かに星明りが薄っすら色合いをくれてオレとあなたが佇んでいる。
「何故?」
「性格が可愛くない。つんけんしてる」
空気が綻び揺れた。
犀利な緋の瞳に微笑み返し、黒江・イサカが口端を上げる。
「しかし、水族館の次はプラネタリウムか。定番だなあ」
「夕立は行ったことある? 此処とはまた違う感じだけど、……触れるお星さまなんて滅多にないぜ」
「プラネタリウムにも行ったことありません」
頷く。
「生きてくのに必要ないから?」
「そうですよ」
吸い込まれそうな静謐。
「けど、星は好きです。時刻も方角もわかって便利でしょ」
「便利、ねえ」
淡い無数の光が人影を浮かび上がらせている。枯淡な声色は今なら世界の隅まで届くだろうか。取り巻く絶麗は箱のイミテーションだから――螺子を巻いたら音を鳴らせるだろうか、壊れかけの音を。小短に鳴らして止まるのも好い。だろ? と視線を向けても怜悧に過ぎる眼が殺伐として、嗚呼、だからモテないって、とイサカはぐるりと視線を巡らせる。そらへ。
視界を巡らせれば独楽のように夜が廻る。
「とは言え、僕の知ってる星座とは流石に違う感じだな……」
「星の並びが違うのは、コレが作り物だからでしょうね」
作り物に囲まれて――なんだ、いつも通り。吐息めいて誘う。おいで、と。
「おいで、夕立。あの壁の方、見に行こうよ」
折角だし触らせてもらおう、と連れ立てば闇に沈むような血色が執心の気配を漂わせ眼鏡の奥で静止している。
(……作り物のなかになら、あるかもしれない)
夕立は淑やかに広がる偽の群れに其れを捜していた。
――金色で、偶に瑞雲みたいに違う色がひかる、
(そういう、イサカさんの眸に似た星)
あの実体のなさが、此処に潜む気がして。
(自分の眸のひかりが、自分には見えないって言ってたから)
何処までも広がる光の中、自分になら見つけられると思うから。
「それにしても熱心に見てるね。星とか好きだったんだ?」
イサカの声が降る。
便利と評した声色を思い出しながら温度と見比べて。単なる便利と異なる色を見出したから。
「僕も嫌いじゃないよ、星のあるところは薄暗くてデートにはぴったりだし」
言えば、眼鏡の奥の瞳が星から戻ってくる。
「……だから、手でも繋ごうよ」
――見失わないように、ね。
指を伸ばせば折り紙を折る指が指に触れる。つつと指の腹を滑らせて撫でて。包む。包まれる?――どちらも。
ぶらり、ぶらり、ゆぅらり。繋いだ手を揺らして2人、星の渦を彷徨えば壁が残酷に無機質に佇んでいる。
「イサカさん」
「なぁに」
繋いでいない方の手がゆらり、上がる。
執心の星を教えてくれるのかと追えば言葉が続く。
「あれ、少し似てますよ」
星があった。
「色と輝き方が近いだけですけど。そっちのひかりのほうがずっと綺麗っていうか、…」
繋いだ手が揺れる。
思わず頸動脈に指を這わせたくなって黒色の奥の金色がまるで甘い蜜のように蕩けて笑う。
「――あはっ、ははは!」
星が揺れて踊ってるじゃないか。
「なんでもない。笑うな」
小さな箱の隅、君と2人で。嚮導する影も薄く――指があやすように、繋いだ君を味わおう。
天に縫い留められた僕を2人で見上げて、涙雫めいたバラージが世界を染め上げる――偽物の中、囲まれて。本物の、君と。僕。
「愛しているよ」
――佇んで。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵
鏡島・嵐
ふぅ、今回もなんとか無事に終わったな。
へー……この世界ならではのプラネタリウムって趣か。
祖母ちゃんが星占い得意だし、おれもその祖母ちゃんの教えを受けて育ったから綺麗な星空は好きだし、見てて飽きねえんだ。
偽物だってわかってても、星の輝きには心を奪われるし、流れ星があれば願い事を懸けたくもなるってのは、人情ってヤツなんだろうな。
……おれは、どこまで星の空を追いかけていけっかな。
これからもいっぱい旅をして、少しずつ違う星空を眺める機会があればいいな。
●星見
「ふぅ、今回もなんとか無事に終わったな」
戦闘の熱を吐くように息をつき、鏡島・嵐は星空を見る。
「へー……この世界ならではのプラネタリウムって趣か」
思い出すのは、いつかの時間、思い出の星景色。
「ボールみたいにまぁるいお空だと思ってごらん。まんなかは、嵐だよ」
星を見上げたちいさな自分。
今と同じように。だけど今とはやはり、何かが違っていた。
「太陽が通る道にある星座、12個をみてみようね」
うん、と頷いて。
ワクワクした。
知らないことを知る。未知に触れる楽しさがあった。
階段をのぼる感覚があった。
「太陽と月の通り道はどこにあるかわかるかい? 天体同士の角度は何度あるか、ひとつひとつ見てごらん。さあ、いっしょに読んでみようね」
星はきれいだった。
「木星は理想をあらわしているね、月はどこかな? 角度は……おや、セミスクエアだね」
声が間近で聞いているように胸の内で蘇る。嵐は眦を和らげた。綺麗な星空は好きだし、見てて飽きない。
(偽物だってわかってても、星の輝きには心を奪われるし、流れ星があれば願い事を懸けたくもなるってのは、人情ってヤツなんだろうな)
遠くで人の気配がする。
同じ星空の下、学生たちや猟兵たちが思い思いに過ごしているのだ。
琥珀の瞳は神妙に空を観る。星の煌きを映す瞳は、戦いの最中こそ仲間や敵を懸命に負っていたが、今は星だけに意識を集中させていた。
「……おれは、どこまで星の空を追いかけていけっかな」
呟く声が夜気に吸収されて消えていく。
静かだ。
(これからもいっぱい旅をして、少しずつ違う星空を眺める機会があればいいな)
想いが胸の真ん中で光を燈すようだった。
見上げる瞳はいつか見たのと似た星を見つける。
精悍な面差しに優しい色を濃く浮かばせ、少年はしばしその星に見惚れた。
大成功
🔵🔵🔵
ヘンリエッタ・モリアーティ
幻想仕掛け――プラネタリウム、みたいなものかしら。
ロマンチックではあるのよね、あまり星に詳しくはないのだけれど。
思念が多そう、「応龍」をかけておきます。共感覚がひどくてね、「あてられて」しまいそうだから。
偽物の星空はきれいで当然よ、「きれいに見られたくて」そうしているのだから。
――でも、悪くはないと思う。
守った先にあったのが、偽物であってもいい
――いいと、今は思えるの。
「応龍」、この映像を記録しておいて。つがいの彼女に見せてあげたいの
ええ、あの電脳探偵に
一緒にプラネタリウムに行きましょうか、って。静かなところは、私が好きだから。
気分がいい。とても、静寂は、孤独である時間は。
――愛されるべきだわ
●女
それは、肉の器に宿るのだと言われている。
脳は思考する。心臓が脈打つたびに全身に血が送られる。
血液が流れても心が流れることはない。
視界の隅で星がひとつ流れるのが視えた。
「幻想仕掛け――」
眼鏡の奥で黒瑪瑙を溶かしたような瞳が星を映していた。
ヘンリエッタ・モリアーティは空を観ていた。
(プラネタリウムみたいなものかしら)
心の内に思いながらヘンリエッタは人の少ない場所へと移動していく。――思念が多い。
共感覚であてられてしまいそうね、と呟いてヘンリエッタは自分を守る。自立型解析支援AI『応龍』が彼女を守ってくれる。それは、鎧坂・灯理に施された眼鏡型の解析特化AIだ。
人々は皆空を観ている。
人間は熱を発していた。
胸を中心に、腹で渦巻き、脳で咲き、嗚呼、熱がある。
精神障壁が展開され、ストレス値を下げてくれるのがわかる。
こつ、こつ、と靴音を聞きながら歩いていく。
自分の立てる音。
すう、と息を吸う。吸う音が聞こえる。
自分の吐く息を感じる。暖かい、生暖かい生命の温度を持っている。
ヘンリエッタの身体には、複数の心が宿っていた。
足が止まる。誰もいない。
周囲には、もう、誰もいない。
ヘンリエッタは星を観る。
喉が幽かに震える。声はそうして発せられるものだ。
声。言葉とは、誰かに向けるためだけに発せられるものだろうか? ヘンリエッタは、そうは思わない。だから、震わせる。世界を。
「偽物の星空はきれいで当然よ、「きれいに見られたくて」そうしているのだから」
――でも、悪くはないと思うわ。
(守った先にあったのが、偽物であってもいい)
――いいと、今は思えるの。
闇に溶け込むような上着を軽く整えるように揺らせば、内ポケットで小さな重みが揺れた。きっと触るとひんやりしている。もしくは、あたたかいだろうか?――体温が移って。
「「応龍」、この映像を記録しておいて。つがいの彼女に見せてあげたいの。……ええ、あの電脳探偵に」
あの眸を思い出す。す、と細まる一瞬の色を思い出す。
「一緒にプラネタリウムに行きましょうか、って」
(誘ってみましょうか)
――静かなところは、私が好きだから。
ヘンリエッタはすう、と息を吸った。
肺に静謐が満ちる。そっと吐く。世界が静かだ。静かで、寂しさの泉に心を浸してくれるような。静かで、謐らかな空間の中、ひたひたと満ちる生弱と星寂。
気分がいい、とても。
(静寂は、孤独である時間は)
(――愛されるべきだわ)
銀色の星が微笑んだ。
『犯罪王』。
その女に。
UDC組織は身柄を保証する代わりに対価を要求した。
異常犯罪のスペシャリスト、と寄せられる信頼。どうせ死刑になる命であるからと押し付けられる異常な仕事量。
――彼女は日々それをこなし続けている。
大成功
🔵🔵🔵
ジャハル・アルムリフ
かの人を招こうとした筈の
魔法仕掛けの星空を、敢えて一人
元々、方角を知る為に幾つか覚えた程度の星は
世界を違えれば知らぬ並びばかりで
名も知らぬそれらをただ眺め、あるいは見送る
片隅、星影の間に、ひときわ眩しい一粒
…何処の空にもあるのだな
傍の砂粒めいた衛星は
輝きを前に控えているようで
気紛れな流星が横切れば
もしも、煌星へと飛び来たのなら
衛星はあの星の盾となるのだろう
痕を刻んで、そのまま潰えたとしても
輝きに魅入られたからには
それが本懐なのだと
――などと、声にも出さぬ下手な即興神話
締め括っても眉間に皺が寄るばかり
とうてい星になど例えられたものではないが
己も同じ様に在ればよいと
墜ちゆく星へと、願わず、誓う
●誓い
星が広がっていた。
ジャハル・アルムリフは魔法仕掛けの星空を、敢えて一人で眺めていた。最初は師父を招こうとしたのだったが。椅子に座した蒼玉を思い出し、ジャハルは黒瑪瑙の瞳の奥に星空にはない煌きを浮かべた。
元々、方角を知る為に幾つか覚えた程度の星は、世界を違えれば知らぬ並びばかりで。
背でゆらりと尾が揺れる。表情よりも余程感情の伝わる尾の動きには、師父から時折図体に見合わぬ稚いこころを見通すような視線が贈られるものだった。
ちらちらと星が瞬いている。
すべて、偽物なのだという。名も知らぬそれらをジャハルはただ眺め、あるいは見送る。そして気付いた。自然にあるべきものが幾つも幾つも欠けている、と。
「ここは、自然ではないのだな」
確かめるような聲は冷ややかな空気に染み、消えていく。
魔法のチカラなのだと聞いたのを思い出す。不思議なチカラには、慣れていた。
だが、片隅、星影の間に、ひときわ眩しい一粒を見出して。嗚呼、と精悍な目元が瞬いた。まるで、空で瞬く其れと動きを共にするように。
「……何処の空にもあるのだな」
ならば傍に在るだろう? と瞳が空を探る。無ければならない、と。
「あった」
声は、子供のようだった。
傍の砂粒めいた衛星は輝きを前に控えているようで。ジャハルは満足気に尾を揺らした。ぱちり、ぱちり、目を瞬かせ。
(気紛れな流星が横切れば。もしも、煌星へと飛び来たのなら
衛星はあの星の盾となるのだろう)
――痕を刻んで、そのまま潰えたとしても。
輝きに魅入られたからにはそれが本懐なのだ、
声にも出さぬ下手な即興神話。締め括っても眉間に皺が寄るばかり。
(とうてい星になど例えられたものではないが己も同じ様に在ればよい)
視界の隅で星が堕ちていく。流れる其れに、しかし願うことはなかった。
「……誓う」
低く唸るような聲ひとつ。
堕ちる奇跡を睨むようにして。
それは、神聖な儀式にも似て、胸に手をあててジャハルは穹に誓う。その身ひとつを砦のように聳やかす姿は凛として、強かに。
見つめる視線の先で星がもう流れて、地に染みるように消えていく。
椅子に座した蒼玉を思い出し、ジャハルは黒瑪瑙の瞳の奥に誓いの意思を色濃く浮かべた。流した光を忘れたかのように、星は変わらず頭上に広がっていた。
ジャハル・アルムリフは魔法仕掛けの星空をいつまでもいつまでも眺めていた。
――それは、神聖な儀式に似て。
眸の奥に熱を浮かべ、背筋をまっすぐに伸ばして見入る姿は、師父が見ればやはり稚さを感じたであろうか。星護る竜はゆら、ゆらと尾を揺らして、しばし其れに浸っていた。――夢中で。
大成功
🔵🔵🔵
四十万・凪
星空…綺麗ね
星の光を掴もうと、手のひらをむすんでひらいて
常夜の世界で生まれたけど、そういえば星を見たことはあったかしら
星見のお供は竜槍のシドウ
膝に乗せたら一緒に眺めましょう
見て、あの星。一等大きくて、真っ赤に光って…
お父様の瞳にそっくりだわ
ねえシドウ、あなたもそう思わない?
返事はなくても、私はそう思うの
流れ星を見つけたら願いごとひとつ
はやく、お父様と渡り合えるような猟兵になれますように
…もう少し眺めてから、帰りましょうね
●朱星、輝いて
星が顕わになっていた。
迷宮の地表に風はない。天井近くまでのぼっても其れは変わらないだろう。だが、映像の空は自然そのもののような貌で銀の星砂が幾つも幾つも、神秘的な輝きを魅せていた。
「星空……綺麗ね」
半魔の女学生がぽつり、呟いた。
四十万・凪(揺蕩う・f20918)は柘榴色のツインテールを揺らして上を見ていた。星を追い視線を巡らせていけば、幻想の世界が誘うようで。少女は腕を伸ばした。
人差し指の先が星の光に触れた気がする。
手のひらをむすんでひらいて、光と戯れるようにして。
(――そういえば星を見たことはあったかしら)
凪はふと思う。
凪の生まれた常夜の世界は、生まれる前に人類はヴァンパイア勢力に敗北していた。村や領地では圧政が敷かれ、荒野や森林は異端の神々や魔獣が跋扈して、空は――、
「シドウ、膝にいらっしゃい」
凪は制服のスカートに変な皺が寄らないように気を付けながらぺたんと床に座り込んだ。シドウがいつものように定位置に座る。優しく頭を撫でるとシドウは嬉しそうに頭を擦りつけ、軽く喉を鳴らせた。ご機嫌だ。
「私もよ」
楽しい気持ちを共有するように呟いて凪は穹を観た。ともすると冷たさを感じさせる端正な顔。だが、胸の内では娘らしい感情がいっぱいに溢れていた。青い瞳はこんこんと湧き出る澄んだ泉のように次々と豊かな感情の色を浮かべ、きらきらとした星の輝きを宿して煌いた。
「見て、あの星。一等大きくて、真っ赤に光って…
お父様の瞳にそっくりだわ」
こてん、と首を傾げるシドウに「あれよ」と星を示して少女は熱心に其の星を視る。
宝石よりも苛烈な真っ赤な輝き、炎より冷然として。
花に例えるには硬質で、血に例えるには澄んでいた。
けれど、やはり血が一番近いかしら、と凪は思う。
――大きくて、光っている。
「お父様の瞳にそっくりだわ」
星が瞬いて、吸い込まれるようだった。
だから、凪はもう一度そう言った。
「ねえシドウ、あなたもそう思わない?」
私は、そう思うの。
呟く声を空気に溶かしながら
視界の隅を星がつるりと流れて落ちていく。
願いごと、ひとつ。
少女は星の軌跡を追いかけて。
「はやく、お父様と渡り合えるような猟兵になれますように」
――戦狂いで死にたがりな父のため、半魔の少女は牙を研いでいる。来たる佳き日、互いによく縊り、縊られるよう。
「……もう少し眺めてから、帰りましょうね」
優しく竜を撫でていれば、シドウは軽く頷くようだった。掌につたわる温度はあたたかだ。きっと、シドウも凪の温度を感じていることだろう。
温もりを分かち合うようにして2人と1匹はずっと空を観ていた。造り物の星空はきっと、父の知らない景色だろう。
かの世界がきっと、ずっと昔に失ったものだから。
(分厚い雲の向こうには、こんな景色が隠されているのかしら?)
凪はほんの少しそう思って、それを見てみたいと思うのであった。
大成功
🔵🔵🔵
千波・せら
わぁ……すごくきれいな景色。
冒険には欠かせない景色だけど
ここは少し違っていて、でも綺麗な事には変わりなくて
どんな表現をしたら良いのかな…。
この気持ちを上手に言葉に出来ないや。
ええっと……ルベル?
ここの事、教えてくれてありがとう。
星空は冒険の醍醐味の一つだよね
いろんな事を経験した後に見上げる星は
いつもより綺麗に見える気がするんだ。
今日の、この星もいつも見上げる星空より綺麗にみえるね
すごく楽しい冒険だったなぁ。
ルベルは好きな星とかあるかな?
私はどれも同じに見えちゃって…。
でもね、どれも綺麗だって思うのもきっと悪くなよね。
●クリオネのそら
きらり、きらり、星粒が踊っている。
世界には幻想が満ちていた。
「わぁ……すごくきれいな景色」
ぐるりと取り巻く世界に千波・せらは吐息めいて感嘆の声を零す。白い頬に仄かに桜色が彩を加えて、燈った熱をほんのすこし冷やそうかというように水色の髪がふわりと揺れて煌いた。きら、きら。きらり。星が頭上で煌けば、それに応えるように地上の少女も煌めいた。ふわふわ、煌めく綿菓子のような少女――せら。
漆黒のベルベットに星の粒が絢爛に散らされて、たなびく雲までがゆったりと上空を彩る。首を巡らせて見晴るかす景色は万華鏡のよう。夢幻の世界は優しくも清しく妖精めいた繊麗な容姿を薄く星光で彩っていた。
(冒険には欠かせない景色だけど、ここは少し違っていて、でも綺麗な事には変わりなくて)
せらは不思議な気持ちで空を観る。
(どんな表現をしたら良いのかな……)
きらきら。ふわふわと。胸に咲く想いをことばにするのは、ほんのちょっぴりむずかしい。
せらは、探索者だ。
ずっとなにかを探している。心はずっと透明で、海水よりも青い――、
「ええっと……ルベル?」
呼び慣れない音を呼んでみれば、影闇に身を縮めるようにして密やかに猟兵達を見守っていた少年が姿を現した。床に正座してせらの瞳を見る少年は無言のまま、目で「何処に転送しましょうか?」と問うている。
せらはふるふると首を振った。
「ここの事、教えてくれてありがとう」
礼を告げると、少年は驚いたようだった。
「僕にそんな事を仰るのは、せら殿が初めてです」
せらはふわりと首をかしげ、そうなの、と呟いた。
そして、空へと視線を向ける。見てごらん、と。
傍らの気配は釣られたように視線を上げた。空へ。
「星空は冒険の醍醐味の一つだよね。いろんな事を経験した後に見上げる星はいつもより綺麗に見える気がするんだ」
「せら殿は、よく星空をご覧になるのですか?」
満天の星がきらきらしている。
見つめる中、雲も流れて――小さな星の粒が全部降ってきそうで、せらはワクワクした。
「うんうん。今日の、この星もいつも見上げる星空より綺麗にみえるね。すごく楽しい冒険だったなぁ」
冒険を振り返るせらの耳に追従する声が届く。
「ここだけのお話、罠を仕掛けられたり、爆発させたりなさっていて、僕も観ていてワクワクいたしました」
台本を読むように言葉を紡ぎ生真面目に頷いて見せるルベルは、大切な事を思い出したように付け足した。
「学生の方からは、せら殿のお言葉に励まされたと感謝の声が寄せられております」
「そっか。……よかった」
戦場での学生達の様子を思い出し、せらは安心したように目を細め。視線を移す。少年は先ほどと変わらぬ位置で彫像のように背筋を伸ばしていた。その瞳が空から移り、せらを映す。映るせらの背には星が溢れていた。きらきら、きらり。零れ落ちそうな溢れる星が、煌めいていた。
「ルベルは好きな星とかあるかな? 私はどれも同じに見えちゃって……。でもね、どれも綺麗だって思うのもきっと悪くなよね」
ルベルはもう一度驚いたようだった。
「僕に、そんな事を仰るのは、せら殿が初めてです」
せらが首を傾げると、少年は少し困った様子で空を観る。
「僕は、本物の星空を観たことがあまりありません。それで……空そのものを観る事にはとても憧れますし、綺麗だと思うのですが、星の知識はあまりないのです」
お力になれず申し訳ありません、と付け足して耳を垂らす人狼の少年に、せらは花のような微笑みを向けた。
「今は、サポートを求めたわけじゃないから」
ふわりと笑えば、少年は不思議そうに目を瞬かせて頭を下げた。
「そろそろ、かえろっか」
迷宮に来てどれだけの時間が過ぎただろう?
せらが思い出を胸に呟けば、少年はしっかりと頷いた。
「お送りいたします。この度は、お力を貸してくださりありがとうございました」
慣れた様子の滑らかな声がグリモアの光を呼び、世界を越えようとして――、
「……勉強しておきます」
越える刹那、遠慮がちな声が混ざった気がした。
「空を見せてくれて、ありがとうございます」
声には、年頃相応の感情を乗せて。
世界を移る感覚に身を浸し、せらはそっと瞳を瞬かせる。
ふわふわ、ゆらゆら。
探索者は世界を泳いで、きっと。ほら、……見えた。
心はずっと透明で、蒼の中に青がふわりきらりと揺らめいて。
せらは冒険の余韻の中でおっとりと微笑み、幻想の思い出を抱えて海を見る。
大成功
🔵🔵🔵