#UDCアース
タグの編集
現在は作者のみ編集可能です。
🔒公式タグは編集できません。
|
茫洋とした光が海に浮いている。
岩礁から望めるその揺らめきを、偶然発見した漁師は信じられぬ思いで見ていた。
──何だあれは。
こんな場所に通る予定のものなんて、自分は聞いたことがない。
何より灯りもないのにそのシルエットが茫漠な光を帯びているのが、不自然だ。
それは、深い夜に海上を移動してゆく船。
まるで客船のような大きさだったが……何よりそれがおかしいと思えたのは、遠目にも、木造りの全時代的な船のように見えたこと。
……幽霊船。
そんな言葉が頭をよぎって、漁師は首を振る。
「いいや、そんなわけないな……」
だが、ふと息をついてから視線を戻すと──その船がいつの間にか見えなくなっていた。
見間違いだろう。そう思って漁師は帰路につく。
そうして背を向けた海の、ずっと先。そこには巨大な影が海を進んでいた。
「幽霊船、という言葉をお聞きになったことは御座いますか?」
千堂・レオン(ダンピールの竜騎士・f10428)は言葉と共に猟兵達を見回していた。
なんでも、それが今回の仕事に関係のある話だという。
「UDCアースの世界において、奇妙な船の存在が察知されたのです。そこに通る予定の無いもので……雰囲気も尋常のものではなさそうです」
それがどうやら、オブリビオンと関わりのあるものらしいのだという。
「情報は少ないのですが……可能性としては、そこにオブリビオンが潜んで何かを企んでいる、というところでしょう」
組織によると、邪神に関する事件の可能性もあるらしい。
「そこで皆様に調査をして頂きたいのです」
「まず、皆様にはその船に潜入して頂きます」
一般人から得られる情報は無く、判っているのは今夜その船が出ると予知されたことだけ。
こちらに出来るのは、その船に逃げられる前に直接乗り込み調べることだろう。
船はガレオン船にも似た見た目をしている。
「泳いでから船べりに登るか、海中や空中から突入するか……目立たぬよう、内部に入り込んでください」
船に入った後は調査だ。
「その船が一体なんなのか。航路や、誰かが乗っているのか……オブリビオンの仕業ならばそこに悪意が潜んでいることでしょう。それを突き止めて頂ければと思います」
見た目の情報から推測されることは、船内の空間は広く、操舵室や遊戯室、倉庫などに始まる数多くの船室や通路を備えているであろうこと。
「もし集団の敵がいれば囲まれたり挟まれたりする可能性もあります。調査が済んだ後も警戒を続けてください」
船について何らかの事実が判明すれば、それに従って動くことになるだろう。
心して臨んでください、といった。
レオンはグリモアを光らせる。
「では、月夜に現れた幽霊船の謎を解きに──参りましょう」
崎田航輝
ご覧頂きありがとうございます。
UDCアースの世界での調査と戦闘シナリオとなります。
●現場状況
海上の船。
船はそれなりに大きく、海をゆっくり進んでいる最中です。
内部には複数の通路、船室があり全体的には広い造りとなっています。
●リプレイ
一章は冒険で、船への侵入と調査です。
特に指定がない限り海上、海中から始まることになるかと思います。
二章は集団戦、敵は『風魔衆・下忍』です。
三章はボス戦、敵は『『七血人』欠落のノーフェイス』となります。戦闘の状況などは不明です。
第1章 冒険
『幽霊船』
|
POW : 障害を無理やり壊して探索します
SPD : 船中を探し回って手掛かりを集めます
WIZ : 断片的な情報から、推理を行います
👑11
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵
|
種別『冒険』のルール
「POW・SPD・WIZ」の能力値別に書かれた「この章でできる行動の例」を参考にしつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。
| 大成功 | 🔵🔵🔵 |
| 成功 | 🔵🔵🔴 |
| 苦戦 | 🔵🔴🔴 |
| 失敗 | 🔴🔴🔴 |
| 大失敗 | [評価なし] |
👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。
碧海・紗
アンテロさん(f03396)と共に
UDC組織に協力して頂き船で目立たないよう追跡
乗り込む前に周囲に異常がないか
飛行しつつ視力で確認
大丈夫そうなら彼を呼びましょう
大丈夫ですか?登れます?
少し距離を置き眺めながら
彼が落ちることはなさそうですし
(落ちても海ですし…ね)
第六感を巡らせて警戒を怠らず…
さて。
操舵室…手っ取り早く手掛かりが掴めそうだと思いません?
だってこの船、動いてるんですから…操縦している何かが居ても、可笑しくないでしょう。
市松発動
標準サイズの文鳥を二羽先に飛ばし情報収集
危険な時は白が
何か手がかりを見つけた時は黒が
引き返してくるように…
アンテロさん、
怪しい所は見つかりました?
アドリブ歓迎
アンテロ・ヴィルスカ
碧海君(f04532)と【SPD】、アドリブ歓迎
彼女の合図を待って行動、念動力を使った銀鎖を船体に絡め飛び移る
君ほど優雅に潜入出来ないが問題ないよ、と手を振って…
船内に入れば必要に応じて眼帯を外し、暗視を使用
幽霊も律儀に舵を切るものかな?
俺が気になるのは航路、UDCアースの敵は邪神を降ろすやり方だからねぇ…
生贄でも求めて彷徨っていたら厄介だ
頼もしい小鳥達を見送れば、俺は失せ物探しをするように
銀鎖のダウジングで怪しい箇所を探ろう
全てを飲み込んでしまいそうな昏い夜だった。
海は藍色に漆黒を溶かしたような色合いで、揺れる波も暗色。水平線と暗雲の境界も見えず、遠くで暗がりに溶けている。
その中で月明かりだけが時折雲間に美しく光って、水面に艷やかな反射を作っていた。
こんな宵に海上を堂々と進行する不審船があるものか──その疑問は、しかし沖に出て数刻立たぬ内に氷解した。
「アンテロさん、見てください」
宵空に劣らぬ深い黒の瞳を、碧海・紗(闇雲・f04532)は真っ直ぐに向ける。
組織が用意した小型船。静かな飛沫を海上に棚引かせながら、緩やかな曲線の道のりを描いて進んでいく、その甲板の上で。
ざあざあという水音に耳朶を撫ぜさせながら、紗が身を乗り出して指差した先──そこに、海を進む巨影はあった。
「幽霊船か。言い得て妙、というやつかな」
声に応えて同じ方向を見るのはアンテロ・ヴィルスカ(白に鎮める・f03396)。
飄然とした声音で、瞳を細めている。
二人が見据える海の先。
そこを緩い速度で進むのは──巨大なガレオン船だ。
高く帆を掲げ、海上を進行する木造の船体。距離のある場所からでもその姿を見紛うことがないのは、全体が淡い光に包まれているからか。
「不思議な船ですね」
「中がもっと不思議でなければいいけどねぇ」
と、船べりにアンテロは移動していた。
ここから先は猟兵の仕事。あの船の中がただの空っぽということもあるまい。
それをこの目で見るとしよう、と。
頷く紗は、翼でふわりと浮き上がり、まずは周囲に異常がないかを見て回る。
そうして敵の気配や警備が無いと確認すると──そのまま小船に合図。
アンテロはそれに応え、ロザリオに連なる銀鎖を手に取る。それを念動力で操り夜闇に奔らせ、船体の一部に絡めて跳んだ。
巨大な振り子運動をするように、慣性に見舞われながらも船の側面に辿り着く。それからは鎖を辿るように一歩一歩登った。
少し距離を置いたところから、紗が見下ろす。
「大丈夫ですか? 登れます?」
「ああ。君ほど優雅に潜入出来ないが、問題ないよ」
アンテロが手を振ってみせれば、紗も頷きを返して上へ。程なく、アンテロも幽霊船の甲板に辿り着いた。
「さて」
と、紗は周囲を軽く見回している。
甲板上は帆柱や下層への入口があるが、見える範囲で敵影と言えるものはない。
外からは船は明るく見えたが、こうして降り立ってみると中は照明もなく、静まり返っていた。
あの淡い光は灯りに寄るものではなく──船全体を包む何かしらの魔力のようなものかも知れない。
とは言え、下層へ入ると中はやはり暗い。アンテロは眼帯を外した目で見て、ひとまずは不審な影が無いことを確認した。
「船室はそれなりの数があるようだけど。どこから見ていこうか」
「そうですね、やっぱり──操舵室でしょうか」
紗は見回しつつ呟く。
「手っ取り早く手掛かりが掴めそうだと思いません? だってこの船、動いてるんですから……操縦している何かが居ても、可笑しくないでしょう」
ほんのり笑んで。
そう言う淑やかなその表情は、そこに何かがあると直感しているようでもあった。
「ふむ──幽霊も律儀に舵を切るものかな?」
それも行ってみれば判るだろうと。二人はそこへ向かうと決める。
紗はそっと手のひらを翳して、薄いゆらめきの中から二つの影を喚び出していた。
市松(イチマツ)──二羽の文鳥だ。
「では、白、黒。お願いますね」
応えるようにぱたぱたと飛び去った二羽は、細い道の向こう、暗がりへと消えていく。
程なく引き返してきたのは、白。
「見つかったようですが……何かがいる、と」
二人は導かれるようにそこへ移動、船の最前に当たる位置の船室へやってきていた。
白は危険の合図。扉一枚隔てた先に何が居るかは、大体予想できる。
ただ、その先にある気配の数は多くはない。だから二人は、一度見合うと──迷わず扉を破り侵入した。
そこに見えたのは、一つの影。忍者の格好をした人型の、オブリビオンだ。
「いきなりお出ましとはね」
呟くアンテロを見て、忍者はとっさに飛びかかってきたが……それも予想済み。二人は散開するように避けると即座に反撃にかかる。
すると、単体では戦闘力の高い個体では無かったらしく──その敵を拘束するのに苦労はしなかった。
捕らえたオブリビオンを見つつ、アンテロは周囲を窺う。
「操舵をしていた個体のようだね」
その部屋には操縦桿があり、今は誰も触るものがいない状態だった。
風力か魔力か、今も船は動いてはいる。けれど操舵するものがいなければ、目的の航路を辿る事はできまい。
その点は収穫。
ただ、拘束した忍者は手がかりを何も喋りはしなかった。
「……まあ、そうだろうけどねぇ」
敵が懇切丁寧に情報を説明してくれることは無いだろうから、予想していたことではある。
紗は見回した。
「どうします?」
「他の猟兵には伝えるとして──ここの探索はしておこうか」
オブリビオンが単なるクルーズをしていたわけではあるまい。ならば何らかの手がかりは見つけたかった。
紗は肯くと、再び二羽を飛ばして手がかりを探らせる。
アンテロは頼もしい小鳥達を見送ると──自身は失せ物探しをするように銀鎖でダウジングしていった。
「アンテロさん、怪しい所は見つかりました?」
「怪しいかはまだわからないけれど。気になっていたものは見つけたよ」
と、アンテロが銀鎖にいざなわれて目を留めたのは……操舵室の用具が一式入っている、大きな木箱だ。
「磁石に、海図……これを使って航海をしていたんでしょうか」
「みたいだね。随分、古風なやり方らしいが──」
眼鏡に軽く手を添えて紗が覗き込んでいると、アンテロは一つの物を手にとっている。
それは地図上に線と印が描かれたものだ。
「航路を示したものだね」
予定の航路を表す綺麗な線と、現在まで進んだ位置を表すメモ書きのような線と印。現在位置と、最新のメモの場所が一致していることを見るに、間違いあるまい。
元よりアンテロは、敵が邪神を降ろす目的ではないかと踏んでいた。
だから生贄でも求めて彷徨っていたら厄介だ、と警戒していたのだ。
「メモ書きによると、今までに二箇所上陸していますね……。何かが行われたのでしょうか」
「可能性はありそうだね。そうでなければいいけど」
アンテロは呟きつつ、じっと地図を見つめる。
現状それを探るすべはなかったが……それとは別に、その航路自体に強い違和感を覚えていた。
「それにしても不思議だと思わないかい」
「航路の形、ですか」
アンテロはああ、と応える。
予定の航路はおそらく、この地図に記載されたもので全てだろう。
それは単純に島を結んだもの、というよりももっと複雑で怪奇な形をしていた。
「まるで魔法陣。航路で紋様を描いてるみたいだ」
「何か意味があるものなのでしょうか」
紗の言葉には、アンテロは何とも言えない。
ただ、敵が邪神に関する目的を持っているのだとすれば、敢えて無駄なことはしないだろう。
「探索を続けよう」
まだ何か隠れていることはあるだろう。二人は船室を後にし、船内へと歩みゆく。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵
黒鵺・瑞樹
海中を泳いで接近、側面から甲板に上がる。
一隻でよかったな。でなきゃ側面にしがみつく姿丸見えだった。
船内へと侵入するが終始【存在感】を消し【目立たない】ように気を付ける。
調査は上から順に。
【暗視】で視界を確保、ある程度潜めるところがあれば身を隠し、UC水月で影を先行させて調べる。
移動に限界が生じるようであれば、同様に身を隠せる場所の検討を付けて移動。
多少時間と手間がかかるが、確実安全に調べよう。
警戒・巡回してるようであればそのパターンも調査。
鍵のかかった部屋は【聞き耳】在室かどうか判断してから、【鍵開け】で侵入。
得た情報は他猟兵と共有する。
海の中は全ての音がくぐもって聞こえる。
だけでなく、今宵のそこは夜空よりもずっと暗かった。
ともすれば上下の感覚すら無くなってしまう世界。
なのに、灯りが無くとも方向を見失わないのは──視線の先に淡く光る船底が見えるからだった。
(あれが、例の船か)
腕で水を掻き、泳いで進むのは黒鵺・瑞樹(辰星月影写す・f17491)。沖の方向へやってきて暫く、幽霊船の姿を見つけている。
それは確かに奇怪な船だった。
木造なのに古さを感じさせない。綺麗すぎるほどで、何か呪術的な力がかかっている──そんな印象を抱かせた。
瑞樹は最大限の注意を払いながら、その大きなシルエットに並ぶ。そして敵が出てくる出入り口が無いことを確認して……側面に接触。
海面に上がると、岩山を登るように甲板を目指し始めた。
「……」
見たところ、海中だけでなく海上にも敵影は無い。
「一隻でよかったな。でなきゃ側面にしがみつく姿が丸見えだった」
視線を巡らせながら呟く。
実際、甲板に上がるまでにはある程度無防備になってしまうので、仲間の船団のようなものがいないのは幸いといえた。
軽く銀髪の雫を振るって落とし。瑞樹は船べりに手をかけて──よっ、とその牙城へ侵入を果たした。
(あとは、ここに何がいるかだな)
まずは素早くしゃがみ込む。
そのまま目線を奔らせて、異常が無いことを確認すると──存在感を消したまま、マストの陰から陰へ移動した。
結果、甲板には何も無し。
本来ならば船長格が居るであろう最上層の船室にも、人影は皆無。この時点で、普通の存在による普通の航海である可能性は既に消えていた。
「じゃ、始めるか」
その船長室の陰を身を隠す場所に定めると、瑞樹は一度目を閉じる。
すると夜風が形を取ったように、瑞樹の姿を写したかのようなシルエットが出現した。
水月(スイゲツ)。
それは瑞樹自身と感覚を共有する、従順なる影。隠密と探索にはうってつけの力。それを、瑞樹は下層へと奔らせた。
「──行け」
同時、瑞樹の視界に影が見る景色が映り込んでくる。
このまま可能な限りの場所を調べていくつもりだった。
(通路は静かなものだな)
下層の船室をつなぐ細道には、怪しい影は見えない。ただ、奥に行けば行くほど何かの気配が濃くなっていく感覚はあった。
と、道中に一つ気になる船室を見つける。
大抵の部屋はもぬけの殻なのだが、そこは鍵が閉められていたのだ。
(行くか)
瑞樹はその周囲に敵がいないことをリアルタイムで見取りながら、自身も移動。素早くその部屋の手前にやってきた。
そしてすぐには突入せず、刃を手に握りながら聞き耳を立てる。
すると、室内から声が聞こえた。
助けて、誰か、と。
それは無辜の命が救いを求める声音。
それ以外の声と気配はない。瑞樹は素早く解錠すると、中へと滑り込んだ。
そこにいたのは縄で縛られた若い女性。
オブリビオンではなく、人間だ。
「大丈夫か?」
瑞樹はすぐに縄を解いて、怪我がないことを確認する。彼女は涙ながらに礼を言った。
「ここに、捕まっていたのか?」
「……はい。不気味な人たちに……」
瑞樹は注意を払ったまま、彼女の話を聞いた。
曰く、彼女は忍者のような奇怪な集団によってこの船に攫われた。
他にも攫われたものはいるが、自分は船内で抵抗して強く暴れたので、他の人達と離された場所に閉じ込められたという。
「ということは、船内にはまだ一般人が多くいるのか」
頷く彼女によると、殺されたものや怪我をしたものなどはまだ見ていないという。
それが本当ならば、集団は人々を攫ってただ船の中に置いているということになる。
「それで終わるならいいけどな」
急ぎ、仲間と情報共有だ。瑞樹は影を使って猟兵を見つけ、そこに向かった。
大成功
🔵🔵🔵
黒木・摩那
【WIZ】
幽霊船へは泳いで渡ります。
船に辿り着いたら、侵入する前にUC【影の追跡者の召喚】で船内を探索します。
船内では、おそらく最下層にある倉庫を探ります【情報収集】。
水や食料が積んであれば、人間や生物がいるでしょうし、
その量から人数や、どのくらい航海するつもりかが推測できます。
邪神絡みならば、怪しげなものが用意しているのも最下層。
ならば、最初に探しにくいところを探せれば後が楽ですし、
仮にユーベルコードを打ち消すものがあれば、
その危険な場所がわかるというものです。
あらかた偵察して安全を確保したうえで船内に侵入します。
海は静かだった。
泳いで渡れば、時折勢いに攫われそうになるくらいの波は立っている。
けれど黒色の景色に塗り潰されたかのように、今夜は潮の響きも小さく──だからこそ、その船の奇怪さも際立っていた。
「古い船らしいですが……静かなものですね」
ちゃぷりと水面から顔を出して、幽霊船を仰ぐのは黒木・摩那(冥界の迷い子・f06233)。水を吸った黒髪をさらりと背中側に流して、船体を短い時間観察していた。
魔的な力のせいか、薄っすらと光っているその船は──漂うという言葉がしっくりくるように、遅い速度で波間を進んでいる。
故に、船に登るのにも苦労はしなかったけれど……摩那は警戒心を解いたりはしない。
周囲を見渡して敵がいないと確認すると、すぐに内部には入らず影の追跡者を召喚。淡い輪郭のぼんやりとした影に探索させることにした。
甲板には猟兵以外の姿は無い。だから向かわせるのは下層だ。
特に怪しいと踏んでいるのは──。
(やはり、倉庫ですかね)
手がかりがあるとすればそこだろう、と。影を進ませる。
摩那本人の視界にオーバーラップするように、影の見る視界が映る。それは細道を進み、さらなる下層へのはしごを下り、より広さの窄まった空間に出た。
そこが最下層だとはすぐに判った。
空気がより重く、より暗い。ほんの少し海の匂いが強いのは、ここが常時海面より低い位置にあるからだろう。
バラスト、即ち重りも多く並んでいて上層とは雰囲気が違った。
(何か見つかるでしょうかね)
摩那が求めるのは、乗船者の手がかりになるようなものだ。ここに誰かがいるというのなら、必ず何らかの物資や道具があるはずなのだから。
(と、水と食料はあるようですね)
見えたのは樽入りの水や、いくらかの食料。
明らかに人間が食すものだが、量は少ないと言ってよく、大勢の航海が出来るとは思えないものだ。
(この大きさの船で少人数、というのも考えにくいですが)
或いは人間は少数だが、人間ではない存在が多数いるのかも知れない。
その証拠に近いものとして、用具の中に怪しげなものも見つけた。
それは大きな壺や、洗礼に使うような金属製の桶。
そして儀礼装飾のされた鋭い剣。
全てに奇怪な紋様が入っており、他の物とは区別されたようにひとまとめにして置かれている。
(儀式用具ですか)
──となると、やはり邪神絡み。
なるほどと一つ頷いて、摩那は影から視覚を戻す。
「……進路に敵影はなさそうですし、後は自分で行きますか」
邪神に関連した目的を持つ場所なのだとしたら、生贄とされる人間もいる可能性が高い。
ならば後は迅速に行動するのみ。
摩那は他の猟兵と合流して人間の捜索をするため、素早く内部へと走り出す。
大成功
🔵🔵🔵
雛月・朔
うーらーめーしーやー♪幽霊船ならお化けはつきものですね、そんな軽い気持ちで調査に参加しました。
海をさまよう幽霊船、ちょうど旅団でお化け屋敷を企画している最中なので参考になりそうです。
幽霊船への侵入は【念動力】で【空中浮遊】を行い、空から近づきます。
んー、私は自由に空を飛べるのでせっかくですし内部は他の方にまかせて、私は船首や船体の外側を調査します。
たまに船体を外側から叩き反応を伺ったり、見張り台に上って進路を確かめたり進行方向になにか別の船や陸地が無いか確認したりします。
なにか異常があれば他の猟兵さんに知らせることも忘れません。
あとは日誌や手がかりになりそうな物があればUCで直せますが…。
緩い風の吹く上空。
柱に張られた帆がばたつく音も響かない、不思議な幽霊船を見下ろして──ふより、ふより。
揺蕩うように宙を漂ってくる影がひとつあった。
「うーらーめーしーやー♪」
風でも重力でも無く、不思議な力で黒髪と赤い髪紐をふわふわ揺らして。白の着物姿で降りてくる雛月・朔(たんすのおばけ・f01179)。
「やっぱり幽霊船ならお化けはつきものですよね」
そんなことを呟きながら。
まるで灯篭かぼんぼりのような淡い光を纏っている船を興味深げに眺めていた。
「しかし、何とも雰囲気がありますねー」
ちょこんと帆柱の上に着きつつ、ぐるりと見回してみる。音も気配も無く、茫洋と海を彷徨うその姿はまさに文字通りの幽霊船。
「この怪しげな空気……お化け屋敷の参考にもなりそうです」
こくりとひとつ頷きながら、勿論仕事は忘れずに。宙を滑るようにすいすいと移動すると、船首側に移動してみることにした。
今頃は猟兵の仲間達が船内を調べているはず。ならば自分は能力を活かして外郭側から調査をしようと思ってのことだ。
「中々の大きさですね」
雄大とも言える船体を見つめつつ、前側に移動すると──船の例にもれず、先端は流線を描くように細くなっている。
船首楼など小さな空間もあるが、特にそこに敵が潜んでいるということもなく、至って静かなものだった。
「んー、外には誰もいなさそうですね」
側面に移って、船体をがつんと叩いてみたりする。木材の壁は思いの外いい音がして、甲高い反響を夜に響かせた。
何か内部から反応がないかと思ってのことで、さほどの期待はしていなかったが──耳を澄ますと内部で何かが動く音がする。
物音のようでもあり、人の声のようでもあり、判然としなかったが──思わぬ手がかりには違いない。
位置は上層よりは下で、最下層よりは上といったところか。朔は素早くそれを仲間と情報共有しつつ、一度ふわりと浮き上がって見張り台も調べてみることにした。
そこは小さく平坦なスペースがある、柱の上部。後部のマストよりは低いが、前方の海域をよく眺められる環境だ。
そこからぐるりと見回す。
船は真っ直ぐ進んでいるだけで、周りに上陸しそうな陸地や他の船などはない。
その点では情報は少なかったが──見張り台そのものには気になる部分があった。
一応、本来の役目として使われてはいたらしく、幾つかのものがそこに落ちていたのだ。
「これは……日誌でしょうか」
その中で、数枚の走り書きのようなものを見つけて朔は拾い上げる。
読んでみると、書かれているのは「針路に異常なし」や「航海は順調」と言ったことや、簡素なメモ書きばかり。
だが古くなったか雨風の影響か、紙自体が劣化して読めなくなっている部分があった。
そこで、朔は桐箪笥の数え唄・三段目を諳んじる。
「みっつ、『見事な装飾だ』と賛美され──」
すると青い光が仄かに輝き、照らした浴びた部分を修復していった。
「少しは読めそうですね」
見ると先刻は読めなかった文字も判別できるようになっている。日付で言うと古い方のもので、そこには長い文章も書かれていた。
『無念の果てに現世に顕現した我らの悲願、此度は必ずや完遂してみせよう』
『最初の作戦は成功だ。贄を数名確保できた。傷つけず扱うよう留意』
『儀式は至って滞り無い。このまま完成を見ることを願う』
「物々しいですねー」
朔はそれをまじまじと眺めて零す。
断片的な情報でしかないが、善行を記録しているものでないことだけは判る。
「それにしても現世に顕現、ですか」
これを書いたのがオブリビオンなのだとしたら、意味は通る。骸の海から蘇った者達が、何か一つの目的の為にこの船を動かしているのだろう。
だとしたら先刻の物音はそのオブリビオンか──或いは贄と言われた者達か。
「私も向かったほうが良さそうですね」
ふわりと見張り台から降りると、朔も船内へ。仲間と合流しつつ手がかりの元へ向かった。
大成功
🔵🔵🔵
月舘・夜彦
マリス殿(f03202)と参加
飛ぶ能力はございませんのでマリス殿には先へ向かってもらい
私は刀を銜え、海から泳いで幽霊船に侵入します
船内での移動は目立たぬように忍び足にて行う
内装を視力を使って怪しい物が無いか確認
置いてあるものに新しいものがあるか、または人が使った後が無いか等情報収集
聞き耳・第六感にて何かの気配を感じ取れないか警戒をしながら探索
マリス殿とも情報を共有して進めていきます
マリス殿に手を引かれれば、そのまま船内での探索も行いましょう
船室に何者かが使用した後があるならば、ただの幽霊船では無さそうですね
マリス殿?あぁ、いえ、手はお気になさらず
それでは、早速調べてみましょう
マリス・ステラ
夜彦(f01521)と参加
【WIZ】夜陰に紛れて潜入
【神に愛されし者】を使用
空から幽霊船に乗り込みます
船内に入れば、
「主よ、憐れみたまえ」
『祈り』を捧げると星辰の片目に光が灯る
光が地縛鎖・星枢に宿れば星の導きにペンデュラムが揺れ始める
「夜彦は周囲の警戒を」
簪の美丈夫に囁くと意識を集中
星枢の情報収集能力とダウジングによる星の導き
『第六感』を働かせて探索
「夜彦、こちらに何かあります」
気配を察知した私は夜彦の手を引いて船室のひとつへ
気がつけば彼の手を握ったままに思い当たり、
「ご、ごめんなさい。考えが足りませんでした……」
慌てて手を離す
それでも彼の掌の大きさと感触がまだ残っている事を私は自覚していた
宵の海は暖かな季節でもよく冷える。
薄い月明かりだけが照らす海は、色彩と共に温度まで失ったかのようで。来るものを拒む厳しい冷たさでゆらゆらと波を揺らしていた。
けれどその只中で、温度にも波にも表情を崩さず、月舘・夜彦(宵待ノ簪・f01521)は静かに水面を泳ぎゆく。
後ろに纏めた髪を波に揺らがせて、刀は銜えつつ。水を掻くその精悍な腕には、静かな海など障害物たり得ない。
海に入ってさほどの時間も経っていないけれど、夜彦はもう幽霊船を間近にしていた。
(マリス殿は──)
と、船の側面に触れながら視線を空に上げる。
そこに、星が輝いていた。
今宵の空は暗雲で、天にある光の群は見えない。それでも美しい流星が現れたと空目するのは、輝きを抱く人影が宙を翔んでいるからだ。
マリス・ステラ(星を宿す者・f03202)。
紅白の衣を仄かに棚引かせながら、神に愛されし者(アマデウス)の力を発揮して。身に内在する耀を溢れさせたような、澄み切った煌めきで夜を照らしていた。
そのままマリスはゆっくりと船の一端へと立つ。
まるで導きの光。
海面からでもはっきりと位置を確認出来た夜彦は、素早く登攀することで短時間のうちにマリスとの合流を果たしていた。
「マリス殿、道中問題などはありませんでしたか」
「ええ。此方は、何も」
マリスは夜彦の姿を確認して静やかに、そして仄かに柔らかい声音で応える。
「夜彦はどうでしたか」
「私も同じです」
夜彦の方もそう応えて。体の水気を軽く払うと、刀を佩き直して肯き返していた。
そうして互いを確認し合えば、次の行動へ。
甲板には異常はないから、何か在るなら下層だろうと視線で意思疎通し動き始めていた。
短い階段から内部へ降りると、そこは細道と複数の船室で構成された空間だ。
幾つもの扉から、手がかりを探るのは簡単ではないだろう。
故にマリスは静かに祈りを上げていた。
「主よ、憐れみたまえ」
鈴の代わりに星を鳴らしたような声音が、捧げられた想いが、星辰の片目に光を灯す。
すると一番星に共鳴して他の星が顕れるかのように。
煌めきが地縛鎖・星枢に宿り、きらきらと淡く明滅し始め──さらに結ばれたペンデュラムが小さく揺れ始めた。
「夜彦は周囲の警戒を」
簪の美丈夫に囁くと、星の聖女は意識を集中させる。
夜の昏さや空気、風、あらゆるものから情報を得る鎖と、星の導きを感じ取る振り子。そして自身の澄明な勘を働かせ、手がかりの方向を探り出していた。
「もう少し奥に、何かあります」
「ではひとまず、下層の方向へ」
頷く夜彦は、明るくなった細道に踏み出して。マリスの少し前を行くようにしながら、忍び足で進行した。
そうして一段下の層へ移動すると、闇の密度が上がった感覚がする。夜彦はその間もつぶさに周囲を観察していた。
一見、そこは物音も気配も無い浮世離れした空間に見える、けれど。
「梯子は擦れていますし、木板には場所によって真新しく修復した跡があります」
今尚何者かが航海をしている形跡があるのなら──それはただの幽霊船とは言えまい。
誰かが潜んでいるなら遭遇することもそう遠くはないだろう。夜彦は端正なおもての中に、確かに警戒心を滲ませながら歩んだ。
と、そこでマリスはペンデュラムの大きな揺れを見る。
自身の勘も、他とは違う空気を感じ取っていた。
「夜彦、こちらに何かあります」
マリスは夜彦の手を引いて、一つの部屋の前へ移動する。
その扉は閉まっていたが、夜彦が耳を澄まして中に敵が潜んでいないことを確認。肩で押し破るように中へ侵入した。
「これは──」
夜彦は翠の瞳をほんの微かにだけ見開く。
それは、他の船室と大きさは変わらぬ空間であったが──決定的に違う点が一つあった。
床いっぱいに円陣模様が描かれていたのだ。
マリスはそっと視線を降ろす。それは溝を彫るようにして深く刻まれた紋様だ。
「魔法陣の類、でしょうか」
「組織によれば、今回の件は邪神が関わっている可能性があるということでしたね。これは、その召喚の儀式のためのものかも知れません」
夜彦は呟きながら、一度イヌワシの春暁を召喚。部屋の前の警戒を任せ、自身は詳しい調査を継続する。
マリスも調べ始めようとして──手に触れた温度にはっと気づいた。
夜彦の手を握ったままだったのだ。
「マリス殿?」
「ご、ごめんなさい」
夜彦が目を向けると、マリスは慌てて手を離す。
「考えが足りませんでした……」
「あぁ、いえ、手はお気になさらず」
と、夜彦は今気づいたように視線を下ろして、変わらぬ声音だった。
それを聞いて、ええ、とマリスも落ち着きを取り戻す。
それから視線を巡らせた。
「しかし、このような狭い空間に邪神を……?」
「ここが召喚のための場だとしたら……確かに不自然と言えますね」
夜彦は言いつつ、しかしここが何らかの儀式のための空間だとは疑わなかった。
余計なものが一切置かれておらず、厳粛な空気を作り出そうとしていることが窺えたからでもあるが──それ以上の証拠をすぐに発見したからだ。
横側の壁の一面に、刻まれた文字があった。
『祈れ。祈れ。清廉なる剣を以て、此処で生きた贄を切り裂け。そして呪言と共に血で陣を満たすが良い』
この文言も儀式の一部ということだろう。
判ることは、この魔法陣は血で汚れてはいないということだ。
「儀式を行うとしても、まだ実行されていない、ことですね」
「ええ」
マリスも一度瞳を閉じる。
儀式が文言の通りなら、ここで生贄を殺すことが必要なのだろう。
逆を言えば、ここが綺麗だということは生贄は殺されていないということ。この部屋を押さえている間も、儀式は行えない。
敵の目的にこの部屋が必須だとすれば、その勘所を押さえ込んだことになるだろう。
「ひとまず、仲間へも知らせたいところですね」
夜彦は言うと、春暁に見張らせつつ、まずはこの階層にいる近場の仲間を探し始めた。
マリスも肯き、彼の背に続く。
その表情は変わらず嫋やかなものだったけれど……一度だけ、そっと自分の手をもう片方の手で押さえた。
「……」
先程の、彼の掌の大きさと感触。それがまだ残っている事を、自覚していた。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵
鏡島・嵐
判定:【WIZ】
へぇ、随分古い恰好の船なんだな。確かに幽霊船っぽい。
オブリビオン絡みじゃなけりゃゆっくり探検してーけど……そうはいかねーんだよなぁ(嘆息)
ボートを用意して、〈目立たない〉ように件の船に接近、横付けして乗船。
もし他に同様の方法で乗り込む仲間がいるなら、一緒に行く。
船内でも同じように目立たねえよう〈忍び足〉とかで内部を進み、仲間以外の誰かの気配を〈第六感〉で察知しながら行動。
身を隠せる場所があるなら最大限利用。もし無えなら《いと麗しき災禍の指環》で透明化してやり過ごす。
自分以外にももう1人までなら同じように透明化出来っから、状況に応じ協力。最悪〈逃げ足〉を活かして退避も考える。
上野・修介
※アドリブ、絡み歓迎
「幽霊船か」
正直、ちょっとわくわくする響きだが、オブリビオン絡みとなればそうも言ってられない。
気を引き締めていく。
・準備
ウェットスーツとゴーグルを着用
侵入後脱いだ一式を入れておく鞄と着替えも用意しておく。
・探索【視力+第六感+情報収集】
基本静かに行動。
常に奇襲、強襲を警戒。
UCは防御強化。
目立たないよう泳いで船に接近。
外から人影や見張りなどがないか確認し、問題なければ船べりを登り【クライミング】内部に潜入。
居住区画を探索。
人影を発見してもやむを得ない場合を除き接触、戦闘は避ける。
得られた情報は他の猟兵に共有。
海を進む幽霊船は、遠くから見るとまるで妖しい光そのものだ。
これなら不審といって過言はないだろうな、と──その船体に近付きながら鏡島・嵐(星読みの渡り鳥・f03812)は思った。
「近づいて見れば尚更、か」
海上を滑るように進むのは、小さなボート。嵐はそれで後方からつけるように幽霊船へと接近してきていた。
船体が視界に収まらぬ程の距離に寄ると、へぇ、と仰ぐ。
「しかし、随分古い恰好の船なんだな。確かに幽霊船っぽい」
まるで中世の海に浮かんでいるかのような見た目の船。
けれど材質は特段古いという印象を与えず、まるでつい最近造船されたかのような小綺麗さで──それがアンバランスな印象を齎していた。
「オブリビオン絡みじゃなけりゃゆっくり探検してーけど……そうはいかねーんだよなぁ」
嘆息が零れる。
冒険心を擽るものではあるけれど、少なからずここには危険もあるのだろう。ならば気を引き締めて、そして迅速に動こうと決めた。
嵐はそのまま船体に横付けする形で進み、側面から甲板へと登る。
その場を見渡す限りでは怪しい影はないから、何かあれば内部だろうと即座に見て取って。後は音を立てぬまま素早く下層へと降りた。
既に猟兵の仲間が調査に入っていることも判っている。
だから嵐が探すものは至って単純だった。
即ち、仲間以外の誰かの気配。
それが敵なのかどうかはわからないが、この普通でない船に乗っているものならば必ず何かを知っていて、そして調査の進展に役立つだろう、と。
(じゃ、いくか)
ポンチョを軽く被り直して、船内を進み始める。
同時に第六感を働かせ、察知能力を先鋭化。目的のものだけを見つけるための思考と感覚を研ぎ澄ませていく。
それに従うよう進んでいくと──何かあると直感したのはさらなる下層だった。
最下層よりは上の層で、通路は細いもののおそらく広大と言える空間。その奥のどこかに、猟兵とは違う気配を多く感じた。
(一人二人じゃなさそうだな)
嵐は琥珀色の瞳を少しだけ細めて、注意深く歩を進める。
同じ頃、黒色の海を泳いで進む猟兵の姿がある。
上野・修介(吾が拳に名は要らず・f13887)。ウェットスーツを装着し、身を縛る冷たさも揺れる波も意に介さない。元より鍛えられた体にとっては、この程度の距離を進むことに苦労はなかった。
するすると、魚影も置き去りにするようにスムーズに幽霊船へ近づくと──ゴーグルに覆われた目だけを海面から出して見回す。
幽霊船はかなりの大きさを誇るが、人影や見張りの類の姿は無い。
それだけ確認すると、後は船体の凹凸に手をかけるようにクライミング。誰に見咎められることもなく、甲板へと降り立っていた。
(ここまでは問題なしだな)
視線を奔らせて警戒し、異常なしと見ればウェットスーツを脱ぐ。そして鞄の服と着替え、拳を軽くぐっと握って開き──行動を開始した。
「しかし、幽霊船か」
言葉の響きにも、面妖とも言える眺めにも、修介は正直ちょっとわくわくしてしまう。
無論、オブリビオン絡みとなればそうも言ってられないと判っているから、気を引き締めて。階段から下層へ滑り込んでいた。
歩みながらも呼吸を整え、自身の防御力を頑強に整えている。これで最悪奇襲を受けたとしても、すぐにやられることはあるまい。
その上で、修介はあくまで油断なく。常に全方向を警戒しながら進んだ。
探すのは居住区画。
この航海を行っている者がいるのなら、その者達が過ごす空間があるはずだろう。目立つところに人影がない分、そういった区画に多人数が集中している可能性もあった。
(何か見つかればいいが)
船内はおおよそ、細道の脇に船室への扉が並んでいる造りになっている。
開け放たれて内部に何もない部屋が並んでいるところは、明らかに目的とは違うと除外できた。共通の空間である通路に気配が漂っていないところも、無視してくぐり抜ける。
そうして素早く一段、二段と下層へ降りていく。
最下層が居住スペースでないことは予想できるので、目的地があるとすればそろそろだという感覚もあった。
(ん? あれは──)
と、そこで見つけたのは猟兵の一人──嵐の姿。
「人影を探してきたのか」
「ええ」
嵐が小声で問うと修介も小さく応えて、細道の奥を見ていた。
中層と呼べる一角。同じ目的の修介と合流したことに、嵐は尤もだという気分だった。
何故なら、そこを進むほどに気配が濃くなっているからだ。
確実に何かがいる。
思うからこそ、二人は同道しながら慎重に、しかし素早く奥へ進んでいた。
「一応、姿を消しておくぜ」
と、嵐は修介に触れて意識を集中した。
すると存在が希薄になり、その体が透明になってゆく。
いと麗しき災禍の指環(プレシアス・ワン)。
多少の疲労は生むが、自身だけでなく修介までもを完全な透明にしていた。
隠密には最適と言っていい能力で──程なくその真価を発揮する時が来る。
それは分厚い扉を通って、幾分広い通路に出たとき。奥から忍者装束を身に着けた人影が歩んでくるのを見つけたのだ。
数は三人。何かを会話しているわけではなかったが、それが尋常の存在でないことくらいは、二人にはすぐに分かった。
同様の気配が、奥に多数感じられる。
二人はその傍に空いている部屋を見つけ、誰にも見られず入室。壁際に隠れるようにして一度透明を解いた。
修介は扉の隙間から外を窺う。
「居住区スペースかどうかは不明ですが、オブリビオンが集まっているのは事実らしいですね」
「となると、船を動かしてるのもオブリビオン、か」
嵐も通路に視線を遣りつつ呟いた。
敵の住処を見つけ出したのはこの上ない成果だ。ここからまた踏み込んで調べたいところでもあるが──。
(それは難しそうだな)
この通路の先にも複数の扉がある。
位置としてはおそらく最奥と言っていいだろうが、そのどれもが広い空間と推測され──開けた瞬間に集団と遭遇、ということも無いとは言えないから、透明になれると言えどあまり無謀な行動も出来なかった。
と、そこで修介が部屋の中に何かを見つける。
「……これは、何かの覚書か」
おそらく敵の持ち物だろうか、判別しにくい文字で文章が書かれていた。
『全ての者が心得ておくよう念を押す。その呪法と意義を。誰もそれに外れぬように──』
仲間内で意志を統一するための警句、とでも言えるだろうか。
情報はかなり隔たっていて、読んでも理解のしにくい内容でもあったが……それでも修介は気になる部分も見つけた。
「『贄の血を乗せ』『船で巨陣を描き』『儀式と成す』、か……どうやら邪神召喚の儀式をしようとしているようですね」
「じゃあ、生贄になる人も乗ってる可能性があるってことか」
嵐は今一度通路を見つめる。
多数の気配があったのは船内でもここだけだから、生贄がいる場合でも、場所はこの先だろう。
これだけ判れば、仲間の協力も求めた方が良さそうに思えた。
「一度、戻るか」
「そうですね。今はこの情報を仲間に伝えましょう」
そしてここに戻り、迅速な行動を。
二人はそう決めると、再び透明となってその場を脱出した。
●戦いへ
奇怪な船は、大きな揺れもなくただ静かに直進を続けている。
猟兵達もその静謐の中で、暗がりに紛れるように合流。全員で集まって情報を共有していた。
修介と嵐が見たものについて聞いて、なるほどねぇ、と頷いたのはアンテロだ。
「これにも意味があったわけだ」
言って取り出したのは航路の図。
「贄の血を乗せて巨陣を描く……つまり、巨陣ていうのは航路そのもののことだろう」
「魔法陣、っていうのは本当だったんですね」
紗も改めてそれを覗き込む。
まるで血で魔法陣を描くように──贄の血を乗せた船で航路を描くことで儀式とする。
情報から推察できるのは、即ちこの航海自体が儀式の一部だったということだ。
マリスは星瞳でそっと航路図に目をやって、頷く。
「儀式部屋の魔法陣と、全く同じ図柄ですね」
「贄の血を流すその場所が、この儀式部屋であるということなのでしょうね」
夜彦が視線をやるのはすぐ横の扉。
先刻マリスと共に見つけた、魔法陣の刻まれた部屋だ。ここを確保できている以上、今すぐに生贄が餌食となることはないだろう。
修介は下層方向へ目線を動かす。
「ただ、生贄となっている人々はまだ敵の手中でしょう」
「ああ。敵の数も多そうだったし、あの中でどの辺りにその人達がいるかが判れば──」
嵐が言うと、そこに歩んできたのは瑞樹。先刻助けた女性を連れてきていた。
「それなら、彼女が少しは知ってる。壁際の部屋で、一般人はそこに全員が閉じ込められてるって話だ」
「……壁際か。広そうな部屋は奥のどっちにもあったな。東西どっちか判るか?」
嵐の言葉に女性は首を振ったが……そこでひらひら袖を動かすのが朔だ。
「ちょっと心当たりありますよー。東側の船体を叩いた時に反応があったんですが、あれは今思うとオブリビオンではなかったです」
ここまでオブリビオンが一切の騒音を立ててないこと、忍らしいということを皆から聞いて……あの程度のことで騒ぎを立てるのは一般人に間違いないと思い至っていた。
嵐は頷いた。
「結論は出たな。一般人は東端の部屋。突入したらそこを守るように戦えばいい」
「儀式部屋が確保されないか、という部分はありますが──」
夜彦が言うと、そこで摩那が口を開いていた。
「おそらくは大丈夫かと」
と、視線を下方に下ろす。
「儀式用具は最下層にありました。敵が儀式を強行するにも、一度最下層に行く必要があるので……そこへ通さなければ問題ないでしょう」
「そうだねぇ。それに航路はもう予定から外れてるから。それを直さなければ儀式も意味ないだろうしね」
アンテロも言えば、皆は頷いた。
即ち、やるべきことは敵を中層で確実に討つこと。
ならば後は迷わずに。皆はそこへと移動し、通路を突破して──敵集団の只中へと突入した。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵
第2章 集団戦
『風魔衆・下忍』
|
POW : クナイスコール
【ホーミングクナイ】が命中した対象に対し、高威力高命中の【クナイ手裏剣の連射】を放つ。初撃を外すと次も当たらない。
SPD : サイバーアイ演算術
【バイザーで読み取った行動予測演算によって】対象の攻撃を予想し、回避する。
WIZ : 居合抜き
【忍者刀】が命中した対象を切断する。
イラスト:安子
👑11
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵
|
種別『集団戦』のルール
記載された敵が「沢山」出現します(厳密に何体いるかは、書く場合も書かない場合もあります)。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
| 大成功 | 🔵🔵🔵 |
| 成功 | 🔵🔵🔴 |
| 苦戦 | 🔵🔴🔴 |
| 失敗 | 🔴🔴🔴 |
| 大失敗 | [評価なし] |
👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。
●狂信の忍
突如現れた猟兵達を眼前にして、そのオブリビオン達は何を思ったろうか。
船体の中層部。
茫洋と海を漂うその幽霊船の内部に闊歩していたのは忍だった。
こちらを見て、浮かべたのは憎悪にも似た狂信の相貌。
「唖々、また現れたか、我らの悲願を邪魔するものが。混沌の世界に差す光明を閉ざそうとするものが」
言葉と共に集団で姿を現してくる。
それは邪神の復活叶わず、嘗て過去へ散った狂信者の群れだった。
骸の海より蘇ると、此度こそは確実な降臨をと、広大な海上を儀式場に選んだ信奉者達。
幽霊船を動かしていのは幽霊ではなかった。
けれど──彼らこそ狂信にとりつかれた亡霊そのもの。
「何人たりとも、儀式を邪魔をするなら、斬るのみだ」
猟兵の強襲に対し、忍達は深い殺意を武器に襲いかかってくる。
マリス・ステラ
夜彦(f01521)と参加
【WIZ】他の猟兵とも協力します
「主よ、憐れみたまえ」
『祈り』を捧げると星辰の片目に光が灯る
全身から放つ光は『オーラ防御』の星の輝きと星が煌めく『カウンター』
「夜彦、あなたに加護を」
指先が瞬けば夜彦に星の加護『オーラ防御』を与える
六禁を持ち夜彦と互いをカバーしながら戦う
夜彦や味方を『かばう』
負傷者には【不思議な星】
緊急時は複数同時に使用
「あまり時間がありません、夜彦。それに彼らを倒しても……」
彼ら自身を生贄にして儀式を完成させると『第六感』が警告する
これまでに犠牲になった人達もいるでしょう
召喚は時間の問題でしかない
闇を祓うように、星の『属性攻撃』は流星が迸る
「光あれ」
月舘・夜彦
マリス殿(f03202)と参加
信奉者達であれ、何であれ、邪神を蘇らせるのならば戦う事に変わりありません
行きましょう、マリス殿
ダッシュにて敵に接近、先制攻撃・早業にて抜刀術『陣風』
動きを予測される可能性がある為、2回攻撃併せ手数を増やして攻撃を与える
クナイ投げは武器受けにて攻撃を防ぎます
居合抜きは残像・見切りより躱してカウンター
居合ならば、私も覚えがあります
――いざ、勝負
彼等は儀式と言っていましたね
この船自体が儀式の為の器なのだとしたら、これで終わりではないでしょう
同じく、此処におおもとも存在する
急ぎましょう
ただ暗いというよりも、空気の中に狂気の澱が溜まって昏く染まった──そんな感覚を催させる空間だった。
単なる木船。
だがその全てが狂気の夢を実現するための道具。夜に隠れて悍ましき願いを成就させようとする異端の方舟だ。
「全ては儀式のため、ですか」
夜彦は彼らの狂気の一端に触れて、端正なおもてで瞑目する。
彼らは嘗て人だったものだろう。
人にあらぬ身には、その心の内奥の全てを共感し得ることはきっと出来ない。
それでも人と同等以上の慈しみを持つからこそ判ることもある。護るべき者があって、眼前の者は戦うべき相手だということだ。
「信奉者達であれ、何であれ、邪神を蘇らせるのならば戦う事に変わりありません」
静かに、けれど凛とした声音で刀の柄に手を添えて。
「行きましょう、マリス殿」
「──ええ」
星宿す淑女もまた同じ。
手を優しく組んで、大気の淀んだ中でも清澄な空気をその身に纏って。
「主よ、憐れみたまえ」
空に耀くような、光色の声音を転がして。廉潔な祈りを上げれば星辰の片目に光が灯って暗がりを照らしていた。
それが静かな戦いの合図。
刹那、夜彦は草履を踏みしめ疾駆。秒を数える暇もない内に先頭の忍へ肉迫している。
忍がはっとして反応するも、遅い。夜彦は曇りなき刃を抜刀、逆袈裟に剣閃を奔らせてその一体を両断していた。
その忍が斃れていく中、夜彦は返す刀で二の太刀、三の太刀。流れる動作で、周囲の二体もまた切り捨てていく。
抜刀術『陣風』。
疾き風が吹き抜けたかのようなその剣術は、流麗にして苛烈。三体が命を失って始めて、後続の個体はこちらに先手を取られたと気づいたことだろう。
それでも忍は、多数。前線に加わってくる個体が、まるで弾幕を張るように苦無を投擲してきていた。
雨のように襲う殺意の毒牙。
けれど時を同じく、マリスが侍の背に白磁の如き細指を伸ばしている。
「夜彦、あなたに加護を」
その指先が星色に瞬くと、水面に広がる波紋のような明滅が夜彦の体を纏い、護りの加護を与えゆく。
「──有難うございます」
その眩しさと心強さに、言葉と剣戟を以て返すように。
夜彦は刀身を真下に向けて、円を描かせるように腕を捻り一閃。斬線を盾にして刃の雨をしのぎ切る。マリスに齎された加護によって光を得た刀身には、傷一つつかなかった。
「では私も参りましょう」
「背中はお任せを」
二人は視線を交わすと、苦無が途切れた一瞬に敵へ接近。互いの背中を護る形で位置取り近距離戦に持ち込む。
忍も接近戦は臨むところなのだろう、忍者刀を振り抜きマリスを切り伏せようとした。
けれど闇では眩しい光を切り裂けない。
刃先がこちらに触れようとした瞬間、煌めいたのは星の耀き。マリスの全身から溢れる光が痛みも衝撃も寄せ付けぬよう、刃を押し留めていた。
だけでなく、接触点から星屑が弾けるように散る。それが邪な魂を濯ってしまうように忍の全身を貫き絶命させていった。
「闇はあらゆるものを覆う──けれど光だけは隠せないものです」
「……おのれ」
忍は殺意に満ち満ちた声音を零し、夜彦へ狙いを変えようとする。けれどマリスはつぶさに夜彦と共に立ち位置を動かし、集中攻撃を受け止めてみせた。
不利な状況は作らせない。神前の舞を踊るかのように、ふわりと無駄のない動きで、闇の刃を全て星の光で護った。
それでもこの数では、夜彦も相応の数を相手にせざるを得ないが──元より夜彦こそ刀での仕合には覚えがある。
まずは横薙ぎに二体を散らすと、上方を取ろうと跳躍してきた一体を斬り上げて撃破。そのま刀身を振り下ろして更に一体を散らす。
真正面に踏み込んだ一体が、息を整え居合の構えを取るならば。
「居合ならば、私も覚えがあります」
自身もまた一つ息をして、膝を落とし相対してみせた。
──いざ、勝負。
鞘が擦れる音と共に、忍が抜刀してくると──その剣閃は確かに鋭かったことだろう。
けれど僅かに疾く、夜彦は躱す。
自身を斬ってくると判っているなら、それ以上の速度で動けばいいことだ。直後には夜彦の居合が忍を直撃し、両断した体ごと吹き飛ばした。
敵が数で押そうとしてきても、夜彦の剣筋が惑うことはない。護るべき存在、頼れる存在をその背に感じながら──攻撃は加護と刃で全てを受けきり、反撃に陣風を見舞えば一瞬のうちに複数体が塵となる。
それはマリスも同じ。三体程が一気に迫ると見れば、そっと開くのは星の扇、六禁。骨で攻撃を受け止め、扇面で仰げば無数の星が散って敵が穿たれていった。
戦況に憂いはない。
けれど、マリスには気にかかっていることもあった。
「夜彦──」
「ええ、奥にきっと何かがあるのでしょう」
背中で応える夜彦も頷く。
ここが邪教の徒の住処となっていたことは判った。その狙いの一端も。
だが、それだけなのか、と。
「彼等は儀式と言っていましたね。この船自体が儀式の為の器なのだとしたら、これで終わりではないでしょう」
それは感覚的にも、論理的にも導き出される結論。敵の群に隠れて見えないが、この最奥にあるのがただの船の終端とは思えなかった。
「そうですね。それに彼らを倒しても……」
マリスは頷いて敵の群れへ視線を奔らせる。そっと胸に手を当てて、それは第六感が警告していることでもあった。
彼ら自身を生贄にして、何らかの方法で儀式を完成させる可能性もある、と。
別の形でこれでまでに犠牲になったものも、いるとするならば。
「召喚は時間の問題でしかないはずです。何より、彼らは手段を選ばぬ者達ですから」
「ならば、急ぎましょう」
夜彦は眼前の一体を撫で斬るように討ちながら、奔りゆく。
それでもこちらを斬ろうとするものがあるのならば、マリスは闇を祓うように扇を振るった。
瞬間、流星が迸るように耀き、美しくも鮮烈な煌めきが忍を貫き、灼いて、光の中に消滅させていく。
「光あれ」
邪教の方舟を、聖女と侍は駆ける。その先に深い澱みがある気がした。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵
雛月・朔
ふむ…幽霊船は目的地があるわけではなく、航路通りに航海することが目的だったと…では次の目的は決まりましたね。生贄に攫われた人たちを救出して、狂信者達を滅ぼしましょう。
しかしオブリビオン達は本当に人の迷惑を考えないですねぇ…。
狭い船内での戦闘なので大技も大振りな武器も使えないですね、自前の『ヤドリガミの念動力』だけで迎撃するとしましょう。
近づかれる前に、視界に入った端から忍者のオブリビオンを【念動力】で首を絞めて倒します。
飛び道具の類を投げられても知覚できる範囲内なら【念動力】で防げるでしょう。
『さっさと骸の海に帰りなさい、この世界の海にあなた達は不釣り合いです』
薄暗がりの空間の中で、忍は殺意を見せてこちらへ迫りくる。
ふわりと間合いを計りつつ、朔はその狂信者の集団を見つめていた。
「ふむ……彼らが船を動かしていんですねぇ」
どこへとも征くわけではなく、目的を定めているわけでもなく。ただ航路通りに航海することが目的だった。
それは船の外周を飛び回っていた朔にはどこか得心のいく話でもある。
航路さえ順調に進んでいればそれでいいというのなら──生贄の管理と操舵さえしていれば後は完遂するべき仕事は少ないだろう。後はこうして集団で内部にこもっていても問題ないというわけだ。
儀式の規模は小さくないだけに、おそらく相応のものが喚び出せるのだろう。それでいて、海の上ならば手を出されにくい。
敵にとっては少なくない利点のある航海ということだ。
けれどこうして、その姿も目論見も明るみに出た。
ならばこちらの目的は決まっている。
「生贄に攫われた人たちを救出して、狂信者達を滅ぼしましょう」
朔は前方に微かに意識を集中させた。
視線の先は、最前にいる忍の一体。未だ多少の距離があるが、それを詰めて来ようとしている。
そこに、ゆらりと淡い陽炎が揺らめいた。
否、そこには物理的な動きは何もない。ただ朔の伝わせた念動力が、淀んだ空気を飛び越えて忍の首に絡んでいたのだ。
「……っ!」
忍はそこで始めて自身が何かの脅威に襲われていると気づく。
だが自分の首に手を触れようとも、そこにあるのは形を持った首輪や縄などではない。
朔が僅かにだけその力を強めれば、忍は苦悶を浮かべた後、痙攣して絶命。体から力を失って斃れていった。
狭い船内では大技も大振りな武器も使いにくいと、そう踏んでの策。それは同時に敵に抗いがたい驚愕を与えてもいた。
二、三の敵を縊っていく頃には、後続の忍もようやくそれが朔の仕業だと勘付く。けれど、それと対策が出来ることは同義ではない。
「近づけさせはしませんよ」
朔は緩く視線を左から右に滑らせて、複数の敵へ念動力を働かせる。するとそれを受けた忍達は前進を止め、ただ苦悶に喘ぐしか無い。
数瞬の内に彼らが絶えて行くと、後ろの個体は恐怖交じりの殺意で刃を握りしめた。
「我らが同胞を討った罪は重いぞ、咎人共──」
「悪いことをしているのはそちらなんですが……オブリビオン達は本当に、人の迷惑を考えないですねぇ……」
朔は微かにだけ眦を下げながらも、敵の好きにはさせない。
闇の間を裂いて刃が飛来してくるが──それが空中で静止。一瞬後には勢いを殺されたようにからりと音を立てて床に落ちていた。
他の忍が連続で刃を投擲してきても変わらない。それが知覚できる範囲であれば、朔の念動力が働いて全てを無力にしていく。
愕然とした忍達が次に見たのは、朔の内奥に感じられる、何か恐ろしいものであろうか。
「さっさと骸の海に帰りなさい、この世界の海にあなた達は不釣り合いです」
その言葉に一瞬だけ、ぞっとするような様相を浮かべて。忍達は次の瞬間には首を抗えぬ力で締め上げられ、力尽きていった。
大成功
🔵🔵🔵
上野・修介
※アドリブ、連携歓迎
「幽霊船に忍者か」
なんであろうとやることは変わらない。
【覚悟】を決め、腹を据えて【勇気+激痛耐性】推して参る。
呼吸を整え、無駄な力を抜き、戦場を観【視力+第六感+情報収集】据える。
敵味方の戦力を把握、総数と配置、伏兵の有無、周囲の遮蔽物を確認。
得物は素手格闘【グラップル】
【フェイント】を掛けながら狙いを付けらないよう常に動き回る【ダッシュ】か、近くの敵か周囲の遮蔽物を盾【地形の利用】にして出来る限り被弾を減らしつつ、相手の懐に肉薄し一体ずつ確実に倒す。
囲まれそうになれば迷わず退き【逃げ足】仕切り直す。
手裏剣に対しては軌道を【見切り】廻し受け【戦闘知識+グラップル】で弾く。
海の匂いも届かない奥部は、船内の他のどの空間よりも圧迫感に似たものを覚えさせる。
それが物理的なものなのか、或いは彼らの狂気が感じさせるものかはわからない。ただ、その信奉者達が深すぎる殺意を湛えていることだけは確かだった。
「幽霊船に忍者か」
修介は呟きながら、現れた敵群へ視線を奔らせる。
世に隠れて悪事を働こうとしていると考えれば、不思議でもない取り合わせなのかも知れなかった。事実彼らは猟兵に見つかりさえしなければ、秘密裏に儀式を成功させていただろうから。
だが、敵がどうであれ、そこが如何な場所であれ。
「──やることは変わらないな」
拳を小さく打ち鳴らし、一度だけ深く息を吐く。
それが元々皆無に等しかった気の緩みを最後の一片まで完全に取り払い、修介に戦いの覚悟を決めさせる。
此方側は敵の意表を突く形で潜入してきている、とはいえここは紛れもなく敵陣の渦中。ともすれば成すすべも無く撃退されて終わってしまうだろう。
それでも修介は瞳は真っ直ぐに、体勢は片足に力を集中できるよう、僅かに斜に構える形をとって。
もはや逃げられないし、逃げるつもりもないと、強く拳を握ることで腹を据えて。
呼吸を整え無駄な力を抜き、一瞬だけ“静”の形をとっていた。
それは時間にして一秒にも満たない。けれど僅かの間に修介は周囲を見渡し、目に映るあらゆる情報を確認している。
(見えるだけで敵は五十以上。おそらく後続する敵も含めれば総数は百を超える)
部屋は縦に長いが、船内としては広めで、敵も複数列となって配置されている。
一度に数人単位で此方を囲む動きも出来るだろう、と。
(ただ、伏兵が潜むのは難しいだろうな)
壁は単純な木造で、床も長い一枚板を組み合わされて造られている。壁も例外ではなく総じて硬質だ。
抜け穴のような物は垣間見られず、油断しなければ突如の奇襲は受けまい。
(その分、遮蔽物は無いと言っていい)
全体を見回せば、おおよそ通路を広くしたような空間で、凹凸はない。だからこそ、こちらの戦闘力が問われる環境でもあった。
目を閉じて、開ける。
分析も反芻も終わった。後はただ、立ち向かうだけだ。
故に脚に力を込めて、ぐっと踏み込んで。
──推して参る。
瞬間、修介は全力の疾走を敢行し、敵に距離を詰め始めた。
こちらの獲物は素手。だけに敵に遠距離を保たれれば不利となるのは目に見えている。
まずはそのディスアドバンテージを殺すよう、修介は面前の一体へ迫ってその懐へ。気を集中させた打突を放ち、腹を貫いて命を絶った。
当然、その近くの忍達は苦無を手にとり迎撃しようとする。
だが修介はそこで動きを止めず横へ。
一度敵の意識を左方の壁に向けさせながら──直後に壁を蹴って逆に移動することで敵の意識よりも疾く角度を変える。
そのまま敵陣が狙いを定め直すより先に元の立ち位置に戻ると、至近にいた一体へ勢いのままの回し蹴り。頭から地面に叩きつけることで即時に命を奪った。
その頃には敵が苦無を構え直し、その連射を仕掛けてくるが──修介は二人分の忍の死体を前方に放ることで盾とする。
「……!」
視界も塞がれる形となり、忍達は一瞬惑って動きを止めた。
その隙に死体の影から走り込んだ修介は、敵の顎を砕き、肋を粉砕し、臓を破裂させる。そうして一体一体へ鋭い格闘攻撃を加えて撃破していった。
前面に配置されていた敵がいなくなると、後続の敵は距離のある位置から苦無を投げて仕留めようとしてくる、が。
「──無駄だ」
修介には一分の油断もない。
苦無が自身の心臓へ飛んでくることを素早く見て取ると──高速で反時計回りに廻転。苦無との左側の相対速度を減らしながら、素早く右拳を左に出してその刃を弾き飛ばしてみせた。
敵が驚きに呼気を零す、その頃にはもう修介が疾走して迫り、顔面を打ち砕いている。
倒れた敵には目をやらず、修介の瞳はすぐに周囲へ。戦いが終わるまで、動きが休まることはなかった。
大成功
🔵🔵🔵
アンテロ・ヴィルスカ
(黒い子は何処まで遊びに行ったかな…)
それは彼方の台詞ではないかな、碧海(f04532)君?
眉を八の字に歪めて笑えば、外套の迷彩で姿を晦ます。
敵の不意をつき、首を鎖で絡め取って背後よりひと突き
何気なく戦う素振りで一箇所に敵を集めよう。
UCで複数の氷柱を飛ばし、彼らの意識を頭上へと向けて
敵の体力を削る威力は無用、欲しいのは足元を縫い付ける時間だけ…
地に落ちた氷柱から足元を凍らせ、少しの間動きを止める。
何故こんな回りくどい攻撃を、って?骸の海に向かう途中に悟るだろう。
外套で甘い毒香を防ぐような、芝居掛かった仕草を見せ
…怖いねぇ、俺の方がまだ幾分か優しいよ。
アドリブ歓迎
碧海・紗
(そういえば、黒は何処へ行ったのかしら…)
不穏な気配…ここを通すわけにはいきません。
ね?アンテロさん(f03396)
東端の部屋の守備を意識しつつ
操り人形の可惜夜を操作して銃を構えさせ
アンテロさんの誘き寄せる策にお手伝い
一体でも多く集める為、退路を断つべく援護射撃
さて、次は私の番…
ただ集めるだけで終わると思って?
暗香発動
羽を広げて羽ばたかせれば
甘い香りを一層拡散させようと…
オーラ防御で香りが密集するよう囲ってみようかしら。
香りの行く末は、どこまで予測出来て、どこまで回避できるのか…
敢えて不規則に、避けにくく。
あなたみたいにちょっと意地悪な感じを出してみました…
どう?アンテロさん。
アドリブ歓迎
くすんだ空気の中に、研がれた敵意ばかりが漂っていた。
戦いの前の一瞬の静謐に、敵から感じられるのは振り切れた狂気ばかり。
淀んでいるけれど張り詰めている。
一瞬後には入り乱れる戦闘状態になるであろう船室の中で、アンテロはゆるりとした口ぶりを崩さず、ふむと一言零していた。
そうして、眉を八の字に歪めて笑って。
「それは彼方の台詞ではないかな、碧海君?」
ちらと視線を流すのは隣の黒天使。
紗はええ、と頷きながらごく短時間だけ敵陣を見つめる。
不穏な気配だと思った。これだけ数が集まれば決して単体相手のときのようにも行かないだろう、けれど。
「何であれ──ここを通すわけにはいきませんから」
ね? アンテロさん、と。視線を合わすそれが宣戦の代わり。
刹那、ブルーの外套を深く羽織り直したアンテロは──その迷彩効果を最大限に発揮することで、無数の忍達の視界から忽然と姿を晦ました。
忍は一瞬惑うようにその場から動けずに居る。その僅かの間にアンテロは素早く駆け抜け、銀鎖を投げながら一体の背後に回っていた。
その首を絡め取り動きを御すると、背から一突き。黒の刃で容赦なく貫いてまずはその一体を沈めてみせた。
忍達は斃れた仲間の姿に驚愕を浮かべるも、すぐにアンテロの位置を把握して反撃しようとしてくる。
けれど紗はやらせるがままにはさせず──。
「では行きましょうか」
面前に置いた一つの影に銃を握らせ敵へ構えさせていた。
それは操り人形の可惜夜。紗の意図通りに動くその絡繰は、的確に狙撃を敢行し、アンテロへの攻撃を阻害、相殺していく。
足元を穿たれ、苦無を弾き落とされ、敵にとってはそれは厄介でしか無いだろう。
しかし撃退するなら、間合いのある可惜夜より至近にいるアンテロを優先させねばならない。可惜夜の射撃が追い立てるように、退路を断つようにも行われてもいるから──敵は自然、アンテロの周囲に集まっていく形になった。
可惜夜が手助けする間に一瞬の自由を得たアンテロは、再度敵の視線から外れて迷彩の力を借り、敵陣の奥へ。
無防備な一体を選ぶと先と同様に鎖で動きを封じ、素早く撃破。自身の立ち位置を確保した上で、また新たな敵群を相手に立ち回る。
その間も戦う素振りは何気ない。敵の動きを無理に制動しようとも、判りやすい挑発で敵を操ろうともしていなかった。
ただ飄々と。まるで風まかせにするように、あちらに行っては敵を討ち、また方向を切り返しては別の敵群を相手取る。
故に敵は意識せず、自律的に、そして何より疾く──アンテロの周りに集まってゆく。
(此方は今の所問題なさそうかな)
アンテロは戦いながら一度紗に目をやる。
紗もまたつぶさに可惜夜に援護射撃をさせながら、東端の部屋へ敵が行かないようにと守備も意識していた。
東端の部屋は少しばかり奥まった場所から続く部屋で、警戒をしていればそこに敵がなだれ込む心配はない。
(部屋の中には敵の気配もなさそうですしね)
その扉の方を見やると、それを実感できた。ここさえ防衛できれば戦火に人々が巻き込まれることはないだろう。
他に紗が気になっていることと言えば、一つ。
(そういえば、黒は何処へ行ったのかしら……)
と、そこで丁度その姿を見つける。東端の部屋の閉ざされた扉の影。そこに静かに羽ばたく文鳥の姿があった。
紗の姿を見つけると、ひらひらと戻ってくる。
「こんなところまで来ていたんですね」
紗やアンテロが調査を始めてから、それほど長時間が経過しているわけではない。手がかりを追っていくうちにここにまで辿り着いていたのかも知れなかった。
ただ、黒は東端の部屋の他にもしきりに気にしているところがあるようだった。
それが敵陣が集まる正面方向の、その奥。
(隙間から見えるのは壁、ですが……それだけではないということでしょうね)
或いは黒がその奥にまで行けなかったのは、何かの危険を感じたからなのかも知れない。
なら、自分達はそこに行く必要がある。
その様子を前線で見ていたアンテロも、視線を奥にやっていた。
(敵を倒した後に何か有り、か)
それならばあまり時間をかけている場合でもないだろう。
どちらにしろ、“準備”は整いつつある。
アンテロは自身の周りに数十もの忍が集まっているのを確認しながら、小さく手元を上方向に振るう。
すると宙にきらりと光るものがあった。
それは暗がりの中に現れた大小の氷柱──jaapuikko。床に落ちると共に触れた部分を凍結させて、周囲の敵全ての足元を縫い付けてみせる。
大半の氷柱は敵を掠めもせず、ただ動きを止めただけ。当たったものも、凍結に重きを置かれて生成したものであるが故に殺傷能力は低かった。
敵は多少の足止めをされただけの状況に、困惑すら浮かべているようだ。
「何故こんな回りくどい攻撃を、って?」
アンテロはその心を読み取ったかのように口を開いてみせる。
ただ、それを懇切丁寧に教えるようなことはせず。
「それは、骸の海に向かう途中に悟るだろう」
ただそうとだけ言って、終わりの時を待つ。
そこでかつりと一歩前に出たのは紗だった。
「さて、次は私の番……」
敵はそちらにも目をやるも、僅かの時間の間に見た目に何の変化も訪れないことに違和感の様相を見せる。
けれど無論、忍が死から逃れうることは、ない。
──ただ集めるだけで終わると思って?
紗がそっと呟くと、そこにふと何かの香りが漂ってきていた。
とても甘い、花か蜜の如き芳香。
忍達がそれに気づいたときには、紗は翼を広げて羽ばたかせ、それを敵の只中へ拡散させている。
すると薫りに触れた忍は、体内から強烈なまでの激痛に見舞われ膝をついた。胸を押さえ、手をのばすも無為なこと。ものの数瞬のうちに全身を蝕まれ絶命する。
暗香(アンコウ)。
それは甘くも鋭い毒の香。紗がオーラを広げて敵陣を囲うことで、それは密度を増して忍達を包み込む。
香りの行く末はどこからどこへ流れるのか。形作る気流も敢えて不規則に、避けにくく。次々に忍を斃れさせていった。
「あなたみたいにちょっと意地悪な感じを出してみました……どう? アンテロさん」
「……怖いねぇ、全く」
俺の方がまだ幾分か優しいよ、と。
外套で甘い毒香を防ぐような、芝居掛かった仕草を見せてアンテロは肩を竦めてみせる。
気付けばアンテロを取り囲んでいた敵は全滅。短い静寂すら訪れていた。
アンテロはそれを確認すると──奥の方向へ視線をやっている。
「後は、向こうに何があるかだねぇ」
「危険な気配もありますから。気をつけて行きましょう」
紗も前進し始める。するとここよりももっと空気が濁る感覚を覚えるようだった。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵
黒鵺・瑞樹
毎回思うんだが、なんで邪神復活させようとするんだろうな。
いやわからんから狂信者なんだろうけども。
右手に胡、左手逆手に黒鵺(本体のナイフ)の二刀流が基本だが、狭いようなら本体のみで戦う。
【存在感】を消し【目立たない】ように移動、UC剣刃一閃で【暗殺】の攻撃。
当たったら【傷口をえぐる】ことでダメージ増を狙う。
相手の攻撃は【第六感】【見切り】で回避。回避しきれないなら黒鵺で【盾受け】もしくは【武器受け】からの【カウンター】を叩き込む。
傷は【激痛耐性】【覚悟】で耐える。
誰かを囮にするような戦い方だが、でも誰かが大きな傷を負う前に倒す方が優先と考える。
戦闘が始まれば、静寂も剣戟の音に塗り替えられる。
闇に籠もって気配すら容易に察知できなかった忍達。彼らは今では殺意を剥き出しにして猟兵を斬って捨てんとしていた。
一枚皮を捲れば、そこは狂気の牙城。
「敵意に満ちてるな」
戦線の最前から一歩引き、瑞樹は少々の間合いを取ってその忍達を見やっている。
彼らから零れる怨嗟にも似た声音に、瑞樹は小さく息をついた。
「毎回思うんだが、なんで邪神復活させようとするんだろうな」
いや、と首を振る。
「わからんから狂信者なんだろうけども、な」
元より、まともに話が通じそうな相手ではない。
少なくとも此方を斬ろうとしていることだけが事実なのだから──自分もそれに対処するだけだ。
「じゃ、やるか」
呟けば、瑞樹はもう二振りの刃を手にしていた。
右には月山派の打刀、胡を。そして左には瑞樹の本体たる、美しくも鋭い黒刃の短刀──黒鵺を逆手にして。
一度視線を巡らせてみると、そこは船室内ではあれど広さはあるようだ。あまり大ぶりの武器は振るいにくいだろうが、刃の二刀流くらいなら問題はないと判断できた。
故に後は戦うだけ。
とは言え瑞樹は、敵と猟兵達の動きをつぶさに観察しつつ──真正面から攻めはしない。
既に仲間達が正面方向の敵を抑えているというのもあるし、半ば入り乱れての戦いとなっている現状では、他に有用な戦法もあった。
瑞樹が駆け出したのは敵の側面方向。
壁に張り付く位置取りで上手く敵の目から逃れ、気配を消しながら前進。気づかれぬまま一体の横合いに迫っていく。
速度を上げてその零距離に入ると、剣刃一閃。刃を袈裟懸けに振り下ろし、その一体の命を奪った。
即ち、暗がりに紛れた暗殺だ。
(このまま何体か、いけるか)
瑞樹は動きを止めない。
最初の敵を斬った勢いのまま、体を回転させて黒鵺で斜め後方の一体の心臓を突き通すと──更に回転。奥にいた別の忍へ胡で刺突を繰り出した。
そのまま手をひねるようにして傷口を抉り、滂沱の出血で三体目を藻屑としていく。
ここまで一呼吸。
これ以上は深入りになると判断した瑞樹は素早く飛び退いて間合いを取り──その場から退避した。
離れ際に苦無を投擲されるが、予め察知していた瑞樹は動きを見切り、体勢を低めることで回避。速度を落とさず反対側の壁の方へ向かうことに成功していた。
(こっちでもまずは、同じようにやれそうだな)
先刻の壁とほぼ同様の状況だと見て取った瑞樹は、まずは手早く三体を倒してみせる。
そして再度間合いを取り──戦場全体の戦況が少しずつ変化するにしたがって、また新たな暗殺を敢行していく。
仲間が戦う、その合間を突いて敵の隙を狙う。
(誰かを囮にするような戦い方だが──)
それでも、誰かが大きな傷を負う前に倒す方が優先だ。
広く戦場を観察することになるこの戦法は、仲間の戦いを利用する方法でありながら、仲間を支援する戦い方でもあった。
無論、完全に隠れ続けることは難しく、奥へ進めば自身が前後を挟まれることもある。
だがその程度のことも、心構えはしてある。
二方向から苦無を投げられた瑞樹は──まず体を傾け前方の刃を回避。そのまま黒鵺を振り抜くことで後方の刃を弾き落としていた。
直後には、前方の敵へ高速で肉迫。敵が次の行動を取る前にカウンターの一刀を放ち、首元を裂いて命を断ち切ってみせる。
あとは再び間合いを取り、集団に紛れて急襲の態勢を整えるだけだ。そうして一体、また一体と斬りながら、瑞樹も前進していった。
大成功
🔵🔵🔵
黒木・摩那
邪神の下働きまでするなんて、忍者も大変です。
ですが、関わってしまったからには許しません。
相手もこちらの行動を読んでくるとのことで、強敵ではあります。
ここは、相手の攻撃を受け流すことで、
相手の焦りを誘ってみましょう。
肉を切らせて骨を切る、かもですが。
飛び道具全般はスマートグラスのセンサーとAIや【第六感】で探知。
【念動力】や【衝撃波】で軌道を反らします。
刀はルーンソードで対応します。
【なぎ払い】【衝撃波】や【先制攻撃】を駆使して相手に近寄らせないようにして、
後方からの援護に期待します。
それでも数を押したりして、無理やり攻めて来た場合は
UC【風舞雷花】でまとめて退治します。
月夜に揺蕩う幽霊船を動かす者達──それは無数の忍。
既に過去に息絶え、骸の海に消え去って尚、現世に蘇った者。全てはただ儀式を全うしようとする為。
「忍者も大変です」
摩那は彼らを見つめて、僅かばかりの同情を浮かべた。
生きていた頃、それも道を踏み外す前はきっと、それぞれの人生がある人間だったことだろう。だが今では狂気が先鋭化して、目的意識以外の全てが削がれてしまったようだ。
それを哀れと思う気持ちも皆無ではない。
「ですが、関わってしまったからには許しません」
こちらとてここで倒れるわけにはいかない。
まだまだ見ていない世界が、識り足りない世界があるのだから。
「始めましょうか」
口ぶりはあくまで、夜の水面のように沈着に。摩那は軽く奔って戦線へと加わっていった。
すると数体の敵がバイザーを小さく明滅させているのが判る。こちらの動線の先を行くように位置して、苦無を投げようと構えをとっていた。
(あれでこちらの行動を読んでくるんですね)
先読みされた上で先手を取られるなら、それは紛うことなき強敵であろう。
ただ摩那は冷静な表情を変えない。摩那自身がしているのもまたスマートグラス──敵に劣らぬ科学の粋と言えようか。
瞬間、備え付けられていたセンサーが反応し、レンズの内側にコーションが表示。敵が苦無を投げてきた場合の軌道の計算結果が描かれていた。
緻密な予測はAIによるのものだ。百発百中で信を置けるものでは無いかも知れないが、敵の行動を予測する分には不足はない。
もとより、摩那自身の第六感が危険を告げているから──摩那は予想軌道に向けて手のひらを翳し、衝撃波を放った。
空気が爆発したような力の流れが生まれ、投げられた複数の苦無が床に叩きつけられる。
来る方向がわかっていれば、退けるのは造作もないことだ。
さらに後続の個体からも刃の雨が浴びせられるが、その全てを同じ力で逸らして落としてみせていた。
「……!」
忍達が僅かに息を呑む音が聞こえる。
それが摩那の狙いでもあった。敵に攻撃を撃たれるまでは仕様がないというのなら、それを全て受け流して焦りの一つでも誘ってみせよう、と。
一瞬の隙が生まれた敵には、直接衝撃波を放って、周囲の仲間が止めを刺しやすいように体勢を崩させた。
無論、敵は遠距離攻撃ばかりではなく、走り込んで斬撃を狙うものも居る。
が、それだって感知できているから摩那は魔法剣をすらりと抜いていた。
「近場には近場の戦い方がありますよ」
そのまま腕を振り抜き薙ぎ払い、眼前に迫る二体の剣撃を跳ね返してみせる。
後方の敵に対しては、勢いを止めずに回転して衝撃波。剣風を撒くことで近寄らせなかった。
敵との間合いが開けば、後方からの援護にも期待できるはずだと。数体の手数を消費させたところで上手く後方へ跳躍すれば──そこへ滑り込む瑞樹や修介、更に他の仲間の射撃も加わり素早く撃破をしてくれる。
摩那は礼を言いつつ仲間と協力し、敵を少しずつ確実になぎ倒していく。
敵が数に物を言わせようとして、十以上の人数で一気に迫ってくれば──。
「まとめて退治するだけですよ」
摩那は言って金と銀、二つの腕輪から眩い光を生み出していた。
それはばちりと弾ける程の高電圧を帯びた七色の花びら。瞬間、それが花嵐のように凄絶に舞い散ると、敵の集団に降り掛かっていく。
風舞雷花(フルール・デ・フルール)。
鮮烈な輝きと、目もくらむ閃光が明滅し、プリズムの色彩を瞬かせる。雷撃の花弁は忍の体を焼け焦がし、貫き、砕き──弾け飛ばすように撃破していった。
目の前の敵が纏めていなくなると、摩那は疾駆。徐々に見え始めてきた空間の終端を目指していった。
大成功
🔵🔵🔵
鏡島・嵐
判定:【WIZ】
亡霊、か。そんな姿になってまで邪神なんてモンに縋るんか。
……そんな狂信を捨てきれねぇから、化けて出てくるんかもな。
どっちにせよそんなんと戦うとか、怖くて堪んねえんだけど。ここで退くわけにもいかねーもんな。
《二十五番目の錫の兵隊》召喚。……こっちも霊っちゃ霊だけど、頼りになる所が大違いだよな、うん。
というわけで《錫の兵隊》を前に出して戦わせつつ、おれ自身は〈援護射撃〉や〈鼓舞〉で《兵隊》や他の仲間を支援したり、〈目潰し〉〈武器落とし〉〈フェイント〉で相手の足並みを乱して妨害したり。
それでも飛んでくる攻撃は〈見切り〉や〈オーラ防御〉で躱すか被害を抑えるようにする。
人と似て非なるもの。
いつかは人であったもの。
骸の海より蘇ったその存在は四肢を持ち、顔を持ち、言葉を持っている。
けれどそれは命を持ったものとは違う。今この時流れる現在時間を生きているものとは決定的に違う、歪なる存在でしかなかった。
「亡霊、か」
端的に敵を表すその言葉が酷くしっくり来る気がして、嵐はその忍達を見やる。狂気と殺意に塗れた姿で現世に蘇った、異端の集団を。
「そんな風になってまで邪神なんてモンに縋るんか」
いや、と嵐は緩く首を振る。
「……そんな狂信を捨てきれねぇから、化けて出てくるんかもな」
どちらが先かなんて、今ではもう判ることじゃない。
ただそこに、怨念にも似た心だけを持って佇んでいる姿がある、それだけが真実。
(そんなんと戦うとか、怖くて堪んねえんだけど)
それは紛れもない本心だ。
自分の命を落とすかも知れない戦いが怖くないわけがない。この世の理で測れない敵の存在に、恐怖がないわけがない。
臆病な心はそれをずっと感じている。
でも、と。嵐は下がらず前に向く。
「ここで退くわけにもいかねーもんな」
ここで負ければ、逃げれば、きっと傷つくのは自分だけではないのだから。
小さく呼吸を整える嵐は、よし、と決めると。次にはまた明朗な表情を以て。真っ直ぐに手を突き出して眼前の空間を光らせていた。
するとその場の空気の密度が変わったように空中が揺らぎ、人型の形をとっていく。
片足に義足を持ち、銃剣を携えたそれは──二十五番目の錫の兵隊(フェモテューヴェ)。瞬間、突き出した剣先から電撃を放ち、弾ける光で数体を吹き飛ばした。
「……こっちも霊っちゃ霊だけど、頼りになる所が大違いだよな、うん」
呟きながら、嵐は兵を前に出して戦わせる。
銃剣で敵を貫き、稲妻の如き光で爆砕させる兵の戦闘力は眼を見張るものがあった。それでも敵から狙われれば消滅する危険もあったから──嵐は後方から援護射撃。
スリングショットを引き絞り、違わぬ狙いで撃ち放って。弾丸に引けを取らぬ威力の一弾一弾で、兵へ反撃しようとする忍の手元を穿っていく。
だけに留まらず、攻撃動作をしようとする他の忍を見つければ、刀を弾き、苦無を叩き落とし、バイザーを破砕し──的確に無力化していった。
「……っと」
嵐が小さく目を見開くのは、その攻撃も錫の兵隊の猛攻もかいくぐり接近してくる敵があるからだ。
忍も大群。一筋縄でいかぬことの証左だが──嵐は既に何度も見ていた攻撃をとっくに見切っている。素早く横に転げるように刃の雨を躱すとすぐに反撃。兵隊と自身の力で纏めて撃退した。
「ありがとな」
言うと、兵隊はその力を出し切って一時姿を消していく。
よし、と嵐が見回す頃には敵数も少なくなっていた。
ただ、それでも油断は垣間見せない。何か不穏な気配を感じたし──仲間もそうなのだろう、奥の方向へと急いでいるようだった。
「行くか──」
ならば自分も迷う理由はないと。嵐も足を急がせた。
大成功
🔵🔵🔵
第3章 ボス戦
『『七血人』欠落のノーフェイス』
|
POW : レゥ・ア・ランカ
【高速で追尾する闇の鎖】が命中した対象に対し、高威力高命中の【闇の怪光線】を放つ。初撃を外すと次も当たらない。
SPD : ゼル・オ・ファータ
自身の【魂の欠片】を代償に、【体長(相手の合計レベル)mの闇の虚竜】を戦わせる。それは代償に比例した戦闘力を持ち、【爪・牙・尾等や闇魔法、闇焔のブレス等】で戦う。
WIZ : リア・ラ・レキサ
対象の攻撃を軽減する【闇の結界を展開しながら決戦体】に変身しつつ、【強化された暗黒魔法】で攻撃する。ただし、解除するまで毎秒寿命を削る。
イラスト:月日人
👑11
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵
|
種別『ボス戦』のルール
記載された敵が「1体」出現します。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。
| 大成功 | 🔵🔵🔵 |
| 成功 | 🔵🔵🔴 |
| 苦戦 | 🔵🔴🔴 |
| 失敗 | 🔴🔴🔴 |
| 大失敗 | [評価なし] |
👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。
※このボスの宿敵主は
「死之宮・謡」です。ボスは殺してもシナリオ終了後に蘇る可能性がありますが、宿敵主がボス戦に参加したかつシナリオが成功すると、とどめを刺す事ができます。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。
●邪神
猟兵達は船内中層、その最深部と言える場所へ到達していた。
奔り、忍を退けて辿り着いたそこは──ただの小さな部屋。
壁をくり抜いて作ったかのような、簡素な空間だ。
猟兵達の調査に寄って重要な設備や道具はほぼ炙り出されている。だから、この場所に未知の何かが眠っている可能性は元より少なかった。
あるとすれば、敵が最後の抵抗をするためだけの小さなスペース。
そこにあるのは猟兵も予想した通りのもの。
倒れた忍の姿と、彼自身の血で描かれた魔法陣。
その忍は僅かに息を残しており──猟兵達に言った。
「我らが喚ぶのは本来、世界を滅ぼせる規模の神であった……。だが、貴様らを殺す程度のことなら……たった一人の贄による不完全な状態でも十分だ……」
これはそれほど危険な神なのだ、と言って。
その忍は息絶えた。
瞬間、魔法陣が明滅してそこに邪神が降臨した。
それは元来、人間だった。
けれどシリアルキラーとして殺戮の業を重ねることのみで穢れた神格を得て──そのうちに邪神となった存在だった。
「随分と辺鄙なところへ喚び出されたものですね」
言って魔法陣の中に降り立ったその邪神は、静かな空気を湛えて見回していた。
感情が薄いのは、殺意の代償となったため。邪神の瞳に映るのは、ただ何かを殺すというその思いだけだった。
「しかし復活出来たのに、力は不完全のようです」
と、邪神は自身の体と周囲を観察する。
「この魔法陣は急ごしらえなのでしょうね。本来はもっと巨大なものを描いた後で、船自体を海に沈めて儀式を完了するつもりだったはずです」
ならその一部でも再現するとしましょう、と。
邪神は天井に怪光線を放ち、甲板までの層を破壊した。
轟音と共に船の半分が崩れ、船体が傾き始める。邪神は地層のようになった船の断面を飛翔して登り、残った甲板に着地した。
「多少は力が戻るのを自覚します。時間を追うごとに私の力は強まるでしょう」
尤も、どちらにしろ貴方がたでは私には勝てないでしょうが、と。
邪神──『七血人』欠落のノーフェイスは、復活して最初の殺意を猟兵達に向けた。
月舘・夜彦
マリス殿(f03202)と参加
儀式を完全に阻止する事は出来ませんでしたが
力が不十分のままで召喚されたようですね
叩くならば……今と
ダッシュにて接近し、先制攻撃
早業より繰り出す抜刀術『風斬』は命中重視併せ2回攻撃
前衛に立ち、マリス殿へ攻撃が行かないよう戦います
鎖は残像・見切りより回避、躱せないものは武器落としで払う
虚竜はマリス殿に任せ、攻撃を継続
虚竜の召喚時はそちらへ攻撃をするフェイントより本体を攻撃
承知致しました、そちらは任せます
私よりも彼女の力ならば闇を祓えましょう
決戦体の姿を変えた際には抜刀術『風斬』は攻撃力重視へ変更
暗黒魔法をなぎ払い、そのままカウンターにて斬り返す
マリス・ステラ
夜彦(f01521)と参加
【WIZ】他の猟兵とも連携
「主よ、憐れみたまえ」
『祈り』を捧げると星辰の片目に光が灯る
チラリと息絶えた忍に視線を送り、すぐに邪神に向き直る
全身から放つ光は『オーラ防御』の星の輝きと星が煌めく『カウンター』
「あなたの力を引き出します、夜彦」
指先が瞬けば彼に星の加護を与える
潜在能力を引き出すように『封印を解く』
弓で『援護射撃』放つ矢は流星の如く
負傷者を『かばう』と同時に【不思議な星】
緊急時はは複数同時に使用
「虚竜の相手は引き受けます。夜彦は邪神を頼みます」
アルカイックな笑みを向けて、新たな局面に駆ける
星枢と聚楽第で力を集めて星の『属性攻撃を』を放つ
「灰は灰に、塵は塵に」
静謐の帳が音の暴力に破られて、傾いた重力に方舟の崩壊が始まる。
巨大な水音に木材の欠片が散って消えていくと、船体を包んでいた儀式魔術も霧散したか、茫洋と夜を照らしていた光も無くなった。
見えたのは昏い宵の空。
天井が、壁が、全てが軋みを上げて壊れ、密閉空間でなくなると──たった今まで立っていた場所にも夜の風が吹き付ける。
魔法が解けた船はただ闇が降りるだけの冷たい世界。
けれど──星はその中でも麗しく瞬いていた。
「主よ、憐れみたまえ」
それは静かに祈りを捧げるマリス。星を住ませた片目に煌きを灯し、周囲を仄明るく照らしている。
様相の一変した船体中層で、マリスはチラリと息絶えた忍に視線を送っていた。
自身の命を贄にして、邪神を喚び出した狂信者。今では横倒れとなったまま波にさらわれるのを待っている亡骸。
それに対し憐れむでもなく。怒りを表すでもなく。
マリスはすぐに視線を外し、上方を見る。
甲板にいる人影は──邪神ノーフェイス。
静かな表情に殺しの欲望だけを表して、まずは誰から標的にしようかと値踏みでもしているようだった。
夜彦もその姿を仰ぎながら、一度聖女へ視線を戻す。
「マリス殿、お怪我は」
「問題ありません」
波音にも濁らぬ澄んだ声でマリスが応えると、夜彦も再び上を見つめる。
刻一刻と、船は壊れつつあった。状況を鑑みれば危急と言っていい。けれど夜彦が惑わぬのは、それが千載一遇の機会でもあると判っているからだ。
「儀式を完全に阻止する事は出来ませんでしたが、力が不十分のままで召喚されたようですね」
無論、強力な戦闘力を有してはいるだろう。邪神と表現するに違わぬ存在であることに疑いはない。
それでも、こちらが渡り合える状態であるのも事実。
「──叩くならば……今と」
彫刻のような美貌が、その敵を見据えて一層引き締まる。
マリスも嫋やかに頷いていた。
今は戦いの時。故に星の軌跡を描くかのように、美しい指先に光を瞬かせる。
「あなたの力を引き出します、夜彦」
それをそっと夜彦に触れさせることで、まるで満天の星空を頭上にしたかのようにその体に淡い光を帯びさせた。
それは星辰の祝福。
魂の奥に眠っている潜在能力を優しく照らし出し、一時的にその封印を解く力。
平素よりも体に意気漲る感覚を得た夜彦は、一つ礼を云うと。床を跳ねるように跳躍し、船の断面を蹴り上がって敵へ迫っていく。
その間、わずか一瞬。
「……!」
微かに目を見開いた邪神の眼前に踏み込むと、甲板の床を踏みしめて抜刀。疾風の如き居合を横一閃に叩き込んでいた。
抜刀術『風斬』。
敵の纏っていた闇が裂かれると同時、夜彦は刃を真逆に返して二連続での斬撃を喰らわせていく。
──我が刃、風の如く。
刃の速度に遅れて慣性が追いつき、ノーフェイスは後方のマストに激突していた。
その柱もまた傾いて倒れてくる。だがノーフェイスは相貌の色を変えること無く、魔力を発散させるだけでその邪魔な柱を粉砕してみせた。
視線は真っ直ぐ夜彦に注がれている。
「侍、ですか。実力はかなりのものですね」
殺すには丁度いい、と。
純粋な殺意を声音に滲ませると闇の鎖を放ってきた。
呼吸する間もないほどの速度。だがそれが正面方向の攻撃であれば、夜彦に予測できないはずはない。
瞬間、残像だけを鎖に貫かせて、夜彦は素早く跳躍。前方へ廻転するように距離を詰め、縦方向の斬撃を加えていた。
たたらを踏むノーフェイス。だが痛みも苦しみも見せず、ただ分析するように呟く。
「私から距離を取らないのは、彼女を護るためですか」
言って視線を向けるのは夜彦の背中側の下方にいる、マリスの姿だった。
ならばそこから討つのもいいでしょう、と。
邪神は自身の魂の一端を削り、巨大なまでの闇色の塊を召喚してみせた。
それは鋭い牙と爪、そして雄大な翼を持った虚竜。仰ぎ見るほどの体長を持った闇の魔力の顕現体だった。
「──」
夜彦はマリスへと飛ぶ竜を見据えると、一瞬、刀の切っ先をそちらへ変えようとする。
けれどそれは、単なるフェイント。
瞬間、邪神がそれを確認して次の動作を取ろうとした隙を突き──剣先を戻して一撃。苛烈な斬り下ろしで胸部を捌いてみせた。
マリスを護っているのは事実だ。
けれどそれはマリスが頼りないことと同義ではない。
自身がこうして刀を向けずとも──後方から竜を穿つ鋭き光があった。
マリスの撃ち出した攻撃だ。
夜彦は一度後方へ視線を遣る。そこでマリスは弓矢を携え、アルカイックな笑みを向けていた。清廉だけれど見惚れてしまいそうな柔い笑顔。
「虚竜の相手は引き受けます。夜彦は邪神を頼みます」
その言葉を信頼するから、夜彦もまた頷きを返す。
「承知致しました、そちらは任せます」
そしてすぐに視線を戻し、邪の神と再び対峙していた。
マリスにとっても、夜彦を自由にできるのならばこの状況は望むところ。竜を引き付けるように動き、広い場所へ昇っていく。
同時に夜風から星枢に魔力を集め、聚楽第──背に揺れる美しき白翼にも、海風と月光から燦めく力を享受させていた。
その全てを星の力にして、マリスは弓弦を引き絞る。
神事を彷彿させる武器と仕草は、攻撃の動作すらをも端麗に見せて、それでいて生み出す威力は甚大。
放たれた矢は流星だった。
光の粒を零し、眩い線を描きながら飛翔して竜を貫いて。夜を裂くように闇を払っていく。
「灰は灰に、塵は塵に」
眩さに闇の魔力を消し飛ばされ、星の重力に体の制動を失って。竜は墜落を始める。
それでも爪を振るってマリスに斬りかかるが──矢ばかりでなく、マリスこそ星の輝きに包まれているのだ。
全身を覆う星の加護は、竜の膂力すら寄せ付けず。逆に飛び散った無限の星々で竜の体を貫通していった。
それが一層重力を強める結果となり──竜は藻掻くように海に没して消滅していった。
甲板上では、竜の気配が消えたことに気づくノーフェイスが、僅かにその動きを止める。
或いは早すぎる決着に驚きを覚えたか。
夜彦はその隙を逃さなかった。それもまたマリスによって齎された戦果の一つであるが故に、それを最大限に活かすように。
「マリス殿も──そして私も。ここで朽ちることは無いでしょう」
誰あろう、自分達が目の前の邪神を討つのだから。
刹那、踏み込んで至近へ入ると一刀。渾身の居合を打ち、邪神の体を斬り裂いていく。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵
黒木・摩那
わざわざこんな辺鄙なところまで来てもらって悪いんだけど、
もう邪神は必要なくなったのね。
おとなしく元の世界に帰りなさい。
帰り方がわからないならば、お手伝いしましょう。
相当に強力な邪神のようですが、
蟻の一穴って言葉は知ってますか?
UC【墨花破蕾】を使います。
船体の壁、床、天井を蟻に変換して、邪神を襲わせます。
相手が混乱してる隙を突いて、ルーンソードで邪神を攻撃します
【破魔】【先制攻撃】【衝撃波】
防御は【第六感】と、【念動力】で受け流します。
一秒一秒が過ぎるごとに足場が不安定になっていく。
傾き始めた船は、その傾斜を徐々に増していた。
勢いは緩いが、確実に体感できる崩壊速度。船体の大半が夜の海に沈んでしまうのも時間の問題だろう。
摩那は中層の床、上層の断面、倒れたマスト──船のパーツを飛び石のように伝いながら甲板の高さまで登っていた。
時に念動力で自身の体を制動し、軽く浮遊することで不注意の落下も防ぎつつ。最後は分離した甲板の間にかかった帆の上に器用に降り立っている。
「生贄となる予定だった人々はまだ無事のようですし、急ぐとしましょうか」
ちらと下方に目をやって、中層がまだ沈んでないことを確認して。
それからすぐに邪神──ノーフェイスへと目をやっていた。
ノーフェイスも摩那の姿に気づき、暫し観察してきている。
「人間……にしては並外れた能力の持ち主のようですね。どれだけ私の力が戻ったのか、量るには良さそうです」
「力試し、ですか。そんなことしなくても結構ですよ」
摩那は敵にも劣らぬほど落ち着いた声音で、そう返した。
何故なら、と壊れた船を見回す。
「わざわざこんな辺鄙なところまで来てもらって悪いんだけど、もう邪神は必要なくなったのね」
それを欲する者は、それを呼ぼうとした者達は、もう既に全滅した。
ここは幽霊船ではなく単なる墓標となりつつある──だから。
「おとなしく元の世界に帰りなさい」
「……、殺戮の邪神が、何者も殺さず消え去るとでも?」
ノーフェイスは感情の通わぬ声に殺意だけを満たして、闇の結界で己を包み込んだ。暗色の光が体を纏い、膨大なまでの魔力が顕現される。
そして手を伸ばし、放ったのは明滅する強大な光線だった。
摩那の体躯を軽く超える直径に、閃いた瞬間には眼前に飛んできている速度。おそらく直撃すれば一撃で意識が飛ばされてもおかしくはない攻撃。
だが摩那は勘を働かせ、直前に真横に跳んでいる。同時に強力な念動力を発揮することで、光線の軌道を逸らしていた。
そうして回避に成功した摩那は、全くの無傷だ。
それから小さく息をついてみせる。
「帰り方がわからないならば、お手伝いしましょう。相当に強力な邪神のようですが──」
──蟻の一穴って言葉は知ってますか?
その言葉を聞いて、ノーフェイスは違和感を覚えたように足元を見下ろしていた。
するとただの木板だった床が蠢き出し、無数の蟻の群れと成っている。
墨花破蕾(フルール・ノワール)。
摩那が遠隔から意思を働かせて発現するそれは、無機物をその群団へと変質させてしまう能力だった。
鋭利な牙が肉を抉り、強烈な蟻酸が臓物を蝕んでいく。
「……!」
ノーフェイスは驚愕したようによろめく。
すぐに闇の魔力を巡らせてそれを振り払った。が、それはあくまで意識を逸らすための揺動に過ぎない。
ノーフェイスがはっと気づいた頃には──摩那がマストのジャングルを超え、至近に迫っていた。
「彼らは皆去りました。彼らに嘱望されていたあなたも、去るときでしょう」
抜き放つのは美しき魔法剣『緋月絢爛』。夜闇に眩い光を描くよう、流線の剣撃を繰り出して──邪神を大きく斬り伏せていく。
大成功
🔵🔵🔵
雛月・朔
【POW】
武器:ヤドリガミの念動力、人形
略式の魔法陣と一人の生贄でこの強さですか…しかしここで逃がしてしまっては意味がないですね。この出来損ないの邪神とやらもここで滅ぼします。
まずは動きを止めなくてはいけませんね、劣勢ともなれば何処へと飛び去ってしまう可能性がありますし。
【念動力】で空を飛び邪神と対峙し、そのまま邪神の身体をねじ切るイメージの【念動力】をぶつけます。これで終わってくれると楽でいいのですが…。
もしUCを使ってきたら初手の鎖を【念動力】ではたき落とします。あのUCの弱点は正面に対峙してさえいれば鎖が来る方向が予測でき、対処が容易であることです。そのままこちらのUCを唱え封じます。
倒れた帆柱が中層にまで食い込んで、ひび割れた壁の欠片を飛ばす。
ふわりと浮遊してそれを避けた朔は、そのまま風に乗るように中層から移動し始めていた。
「破損は……船全体に広がっているようですね」
上層へと高度を上げていくと、その被害状況がひと目で判る。船は大きく前後に分断され、その両方が海に向かって傾き始めていた。
邪神がたった一発、まるで小手調べに天井に放っただけの光線が、今や船体そのものを崩壊に導いている。
「略式の魔法陣と一人の生贄でこの強さですか……」
儀式が完成していれば世界を滅ぼすほどだった──絶えた忍が言っていた言葉も、あながち間違いとも言い切れないのかも知れなかった。
「とはいえ」
と、朔は深い色の瞳を上方へ向ける。
そこに映るのは闇の魔力を湛える邪神、ノーフェイス。
「ここで逃がしてしまっては意味がないですね。出来損ないの邪神とやらを──ここで滅ぼします」
儀式を完遂させなかったことも、死者無く終われる可能性が未だ残っているのも、ここまで積み上げたものがあってこそ。
それを無為にしない為にも、と。朔は着物を棚引かせて速度を上げた。
ノーフェイスは猟兵達の攻撃を受けたことで、一度間合いを取ろうとしてかさらなる高所へ移動している。
これだけでも空を飛べぬ者にとっては厄介な位置取りであろう。
(劣勢ともなれば、更に何処かへ飛び去ってしまう可能性もありますね──)
故にまず自分がすべきはその動きを止めることだ。
絡み合ったマストの残骸を通り抜け、朔がそのまま高速で接近していくと──ノーフェイスは警戒をしてだろうか、直上へ高度を上げる。
ならばと朔もそこへ追い縋り、高空で対峙した。
淡い月明かりだけが照らす夜の空。
ノーフェイスはその瞳を細めて朔を見据える。
「不思議な存在。霊魂の類ですか」
「さて、どうでしょう」
朔は言ってみせながら、それ以上の移動を許さぬように意識を集中。念動力を収束させる形で、相手の体をねじ切るイメージを具現させる。
それはあまりに強力な力。一瞬、ノーフェイスの纏う闇までもがひしゃげ、変形し、異音を発していた。
深い傷を負わせたことは確実。だがノーフェイスは魔力の塊を囮にしながら、展開した鎖の硬度も利用して僅かにダメージを抑えている。
(一撃で終わってくれると楽でよかったのですが──)
尤もここまでは朔も予期していなかったわけではない。
ノーフェイスは即時に反撃の鎖を飛ばしてくるが──朔はすかさず念を直下に働かせ、はたき落とす形で逸らしていた。
鎖は高速で、威力も相応のものだろう。だが正面に対峙してさえいれば方向が予測できる分、対処は容易なのだ。
鎖の慣性に引き摺られるように、邪神は僅かに体勢を崩して隙を生んでいる。
朔はそこへ桐箪笥の数え唄・四段目を唱えていた。
──よっつ、『嫁入りに古物など』と染みを見て。
朗々と響く声が喚び出すのは、紫色のとんがり帽子と黒いマントが特徴の小さな──ジャック・オー・ランタン人形。
一見可愛らしいばかりにも見えるそれは、しかし濃密な呪詛を伝える道具にも成り得るもの。人形が浮遊すると、霧散するように鎖が消失。その力を封じ込めてしまう。
「これは──」
微かに邪神が目を見開く瞬間、朔は再び念動力を発揮していた。
「今度は簡単には防ぎきれないでしょう」
骨が砕け、膚が破れる鈍い音が響く。熾烈なる苦痛と衝撃を以て、朔は空間ごと括るように、邪神を船の甲板へと落としていく。
大成功
🔵🔵🔵
黒鵺・瑞樹
アドリブ連携可
ちょっと思ってた邪神より人間ぽかった。
海で呼び出そうとしてたぐらいだから、そもそも人の形してるとは思ってなくってな。タコとかイカみたいなのくるかと。
右手に胡、左手に黒鵺の二刀流。
【存在感】を消し【目立たない】ように移動、【奇襲】【暗殺】のUC剣刃一閃で攻撃。
さらに動きの制限を狙って【マヒ攻撃】、かつ【傷口をえぐる】でよりダメージ増を狙う。
相手の物理攻撃は【第六感】【見切り】で回避。
回避しきれなものは黒鵺で【武器受け】からの【カウンター】を叩き込む。
喰らったら【呪詛耐性】【激痛耐性】でこらえる。
光線は全力で回避。
崩れ行く船上、瑞樹は素早く移動を開始していた。
中層から、倒れた帆を伝って海を越える形で分断された船体へ。そこから崖を登るよう、船の断面を甲板へと上がってゆく。
少しの後には、多少の距離を置いて敵の姿を望める位置に来ていた。
「しかし、あれが邪神か」
見つからぬよう、遮蔽物から顔を覗かして窺う。
『七血人』欠落のノーフェイス。感情を失ってしまったような表情に、殺意だけを残して猟兵と戦いを始めようとしているその姿。
「思ってたより人間っぽいんだな……」
まず素直に感じたのは、そんな事。
(海で呼び出そうとしてたぐらいだから、タコとかイカみたいなのでもくるかと思ってたけど──)
観察するほどに、それは人と変わらぬ見目をしていた。
「まあ、邪神と言えど姿形は千差万別か」
魔物の形をしていようと、人の姿をしていようと。
あの敵を倒さねば、船と共に沈む。無論、瑞樹はそんな終わり方をするつもりはなかった。
胡と黒鵺をしかと手に握り。
慣れたこの二刀を以て、確実に討つとしよう。
それきり瑞樹は倒れたマストの森へ疾駆。気配を出来る限り消しながら、敵から視認されない状況を保って接近を開始する。
(遮蔽が多いことだけは、いい環境かもな)
冷静に周囲を観察しつつ、斜めになった柱を駆け上がり、甲板を見下ろす高度へ。その際も傍に広がっている帆に隠れるように意識しながら──敵の真上に位置取った。
ここまでくれば単純。
即ち、奇襲するだけ。
瞬間、柱を蹴った瑞樹は宙を翻り、ノーフェイスの背後へと降下していた。
そのまま着地と同時に刃を振り下ろし、重力を乗せた衝撃で深々と肩を裂く。闇色の血潮が舞って初めて、ノーフェイスは自身が襲われたのだと気づいていた。
「……っ、上に潜んでいましたか」
一度ふらつきながら、それでも振り返って反撃を狙おうとしてくる。
が、瑞樹は敵に刃を抉り込ませたまま、敢えて抜いていなかった。
それを利用して、相手が体の角度を変えると共に、自身も刃を握ったまま立ち位置を変えて背後を保持する。
それに敵が一瞬惑うと──瑞樹はそこで初めて刃を敵から抜いて連撃。足の腱を切り裂き、傷口を抉ることで機動力を鈍らせていた。
ノーフェイスが背後側に鎖を放とうとしてくれば、瑞樹はそれも素早く察知。大きく後方へ飛び退いて、再び壊れた船体に身を潜め攻撃の機会を窺う形をとる。
「……暗殺剣ですか? そういう戦い方も悪くはないですね」
ノーフェイスは瑞樹を探しながら、声を響かせていた。
殺すことに何らかの矜持を持っているのか、その口ぶりは瑞樹の手際を称賛するようでもあったろうか。
けれど次の声音は、自分も負けていないというような自尊の色をしていた。
「私も暗殺は経験してきました。元々遠方の人間を魔法を用いて大量に殺戮することが専門でしたから」
だからこの戦いも負けないと言ってみせるように。
瑞樹の居場所にあたりを付けたか、強烈な鎖でその一帯を貫いてくる。
「そうして殺して殺して、邪神の神格を得たのです」
「──元人間か。だからそんな姿をしていたんだな」
と、瑞樹が返したのはノーフェイスの真正面からだった。
攻撃を完全には回避しきれぬと判断した瑞樹は、敢えて対面する位置から疾駆。鎖を黒鵺で弾きながら肉迫してきていたのだ。
奇襲とは決して、死角からの攻撃に限らないのだから。
「……!」
「人だったお前のことはわからないけど。でも、邪神になることなんてなかったのにな」
真っ直ぐに敵の瞳を見ながら、そんな言葉だけをかけて。
それでも瑞樹は攻撃を躊躇わず、零距離に迫って刺突。綺麗なカウンターを決めるようにノーフェイスの腹を貫いていた。
大成功
🔵🔵🔵
上野・修介
※連携、アドリブ歓迎
「不完全とはいえ邪神か」
もとより油断するつもりはないが、気を引き締め直す。
――恐れず、迷わず、侮らず
――熱はすべて四肢に込め、心を水鏡に
短期決戦。
この後を考える必要はないので最初から全力で。
調息、脱力、再度戦場を観【視力+第六感+情報収集】据える。
まずは敵の戦力を把握。体格・得物・構え・視線・殺気等から拍子と間合いを量【学習力+戦闘知識+見切り】る。
得物は素手喧嘩【グラップル】
UCは攻撃力強化。
防御回避は最小限。ダメージを恐れず【勇気+激痛耐性】、【覚悟】を決めて最短距離を駆け【ダッシュ】懐に飛び込む。
擒拿術と柔術を主眼にした超至近戦闘【グラップル+戦闘知識】で攻める。
始まった戦いは、激しさの一途を増しているようだった。
甲板で繰り広げられている猟兵と邪神の衝突。修介もそこへ加わるよう、中層から甲板へと登攀していた。
船体の断面も平坦ではないから登りにくいが、それでも鍛え抜かれた腕力と脚力で跳ぶように移動、一瞬後には甲板の一角に降り立っている。
そのまま不意を突かれぬように瓦礫の影に位置取ると、敵の姿を観察していた。
禍々しい程の魔力を湛えた人型。
狂信者の血と命によって喚び出された殺戮の神。
見ているだけでも、闇の力の余波で肌が灼けそうな感覚を覚える。
「不完全とはいえ邪神か」
空気を通して伝わる気配だけで、その力を察して余りある。
故にこそ修介は心を鎮めた。
元より油断するつもりはないが、気を更に引き締め直して。
──恐れず、迷わず、侮らず。
──熱はすべて四肢に込め、心を水鏡に。
瓦解する船によって、静かだった海は荒波を生みつつある。その中にあっても心だけは波立てぬよう静謐に。
呼吸を整え、脱力。
そして再度敵の姿を観据えて、戦いに必要な情報を目に映し呑み込んでいく。
(体格に彼我の差は無し、か)
そのことから判るのは、少なくとも格闘による戦術を仕掛けやすいということ。
(構えは浅い。獲物は魔力と鎖)
この点は近距離戦を得意とする修介にとっては利点とは言えない。ただ、敵の手の内がある程度分かっていれば対処のしようはあった。
(殺気は強い。おそらくこちらの気配にも敏感だろう)
敵の殺意は全てを飲み込む程に巨大だ。故にこそ、こちらの気配にもすぐ気づくだろう。だが、近距離の戦いになればそれは意味を成さないことだ。
故に必要なのは、最短で近付き、自分の間合いに持ち込むこと。
それだけ判れば迷いはない。
瞬間、修介は瓦礫から飛び出すと真っ直ぐに疾駆。覚悟を決めて一切の減速をせずに敵へ接近し始めた。
「……愚直ですね」
こちらに気づいた邪神ノーフェイスは、無策だと謗ってみせるよう、修介へ一直線に鎖を飛ばしてくる。
「──だからこそ出来ることもある」
しかし修介は退かなかった。敵が攻撃をしてくることくらいは予想済み。その攻撃が命中することさえ、予想の内だ。
始めから回避は最小限にする覚悟で臨んでいる。鎖が肌を突き破り激痛を生むが、そのくらいは意志の力で耐え抜いて──速度を落とさず駆け、敵が光線を放ってくる前に懐に飛び込むことに成功していた。
「……!」
邪神がはっとする、その頃には修介が首元と腕を掴んでいる。
これでもう、こちらの間合い。
刹那、足元を蹴り払うことで遠心力とてこの力を生み出して、邪神の体を一回転させ床に叩きつけていた。
そのまま修介は敵の体を離さずに。背後側から腕を締め上げて、腕が曲がるのと逆方向に体を押さえつけることで関節を挫く。
それでも相手が暴れれば、経絡を的確に打ち据えてその動きを鈍らせた。
この一瞬で、邪神の体力を劇的に減らしたのは確かだ。しかし敵も防戦一方ではなく。
「……人の戦い方ですね。ですが私は人を超えた」
瞬間、全身に魔力を巡らせると鎖をのたうつように振り回し、修介の体を引き剥がす。そのまま至近から怪光線を放ち、修介に命中させていた。
光が弾ける衝撃に、修介は大きく後退させられる。
だが腕を十字に交差することで、直撃を免れていた。
敵の言うように、人智を超えた力とは想像を絶するものだ。だがそれがそのまま負ける理由にはならないのだ。
「人を超えたものに人が敵わないとは限らない」
そんな戦いを幾度も経てきたのだから。
「俺は俺の戦い方で勝つ」
瞬間、踏み込んだ修介は強烈な打突で邪神の体勢を崩し、足を掴んで床に引き倒す。そのまま関節を砕き、二度と元の形に戻らぬようにした。
大成功
🔵🔵🔵
碧海・紗
こんなものに命を懸けて
何になるのでしょう…
今度は、そうですね…
アンテロさん(f03396)の援護に回ります
多少足場が悪くとも飛べるのだから
アンテロさんを追いましょう
本当、器用な人…。
一先ず敵の死角をついて
可惜夜を駆使して援護射撃
仕留めるのなら、拘束するのも手
敵の高速の攻撃には
空中戦を用いて第六感を頼りに
飛行が遅いのなら翼を仕舞い重力に逆らわず落下
衝突寸前で翼を広げて躱す試み
オーラ防御も駆使して
目立たないよう可惜夜を動かし
緒発動、零距離射撃
爆破し敵を捕らえることが出来たなら
アンテロさんのご自由に…
アドリブ歓迎
アンテロ・ヴィルスカ
どうやら黒は大物を引き当てたようだね、碧海君(f04532)?
さて、供物にされる前に片をつけてしまおう
鎧のまま海水につけられるのはごめんだ。
銀鎖を甲板側へ飛ばし敵の後を追う
彼女の援護に甘え、敵の技を見極めよう。
UCはkangastus
【念動力】で光の剣の動きをより研ぎ澄ませ、虚竜の急所を狙おうか。
危険を顧みない飛行に口笛を一つ
お好きなようにと言われれば遠慮なく
敵と彼女らとを繋ぐ糸に鎖を絡め、一気に距離を詰める。
爆発が晴れたと同時、回り込むのは背後。黒剣の切っ先が狙うは心の臓…
こんな殺し方もお手の物だったんじゃないのかい?
アドリブ歓迎
漆黒の波が巨大なゆりかごのように船を揺らす。
大きい波音が近づいては引いていく、そのたびに船体がひしゃげ、湿った音を上げて割れていくのが聞こえた。
既に中層の壁の大半は無く、少し視線を外せば夜空と海の遠景。
人々の居るであろう部屋は未だ崩壊を免れているが──このまま船が没むのを待っていればその限りではないだろう。
その原因を作り出した邪神は、中層からは遥か後方に移動している。アンテロはそちらを窺いつつ、紗の傍らで小さく羽ばたく文鳥に眼をやっていた。
「どうやら黒は大物を引き当てたようだね、碧海君?」
「……ええ、そのようですね。しかし……」
そっと頷く紗は、吹き付ける海風に髪の花を揺らしながら──上方を仰ぐ。
視線の先は、降臨した邪神。
贄の死で顕れた、殺戮の権化。
「こんなものに命を懸けて、何になるのでしょう……」
呟く紗の表情は静かなものだった。声音には僅かばかりの憂いもあったろうか。
けれど眼鏡の奥で一度瞳を閉じ開ける。
何にせよ、目の前にオブリビオンがいるならば。
「──さて、供物にされる前に片をつけてしまおう。鎧のまま海水につけられるのはごめんだからね」
涼やかな声で言うアンテロの、言葉通りだった。
紗は頷いて周囲を見渡す。
「ではまずは、狙われないようにあの敵へ」
「ふむ。的になるのも良くないからね。遮蔽を利用していくとしよう」
アンテロは上を向くと銀鎖を飛ばし、上層から中層へ倒れていたマストに引っ掛ける形で自身の体を持ち上げ、登攀。
そこから複雑に倒れ合っている別の柱群にも鎖を飛ばし、ひらり、ひらり──まるで重力の軛から外れたように、軽々と甲板へ昇っていった。
「本当、器用な人……」
紗は心に思っていることを零すと、自身も柔らかな翼で風を捉え浮遊。飛んでくる木材の破片や、崩れてくる瓦礫を右に左に避けながらアンテロを追っていく。
甲板上、アンテロの姿をみとめた邪神ノーフェイスは──猟兵が弱者ではないと既に気づいているだろう。即座に行動に入り、闇の魔力を最大限に広げて巨大なシルエットを召喚していた。
「おや──」
と、アンテロも仰ぎ見る程のそれは闇を揺蕩わす虚竜。牙を咬み鳴らし、獰猛な殺意を湛えている。
「成る程、厄介そうだ」
アンテロの零す言葉は本心でもある──けれど。
竜がその爪を振り上げ眼下のアンテロへ狙いを定めようとしたその一瞬。鱗が穿たれ巨腕が衝撃に逸らされていた。
それは紗が可惜夜を敵の死角側に滑り込ませて射撃をさせていたからだ。
「やあ、助かるよ碧海君」
「ひとまずは援護をさせて頂きますから、ご心配なく」
後方に飛ぶ紗がそう言葉を贈ってくれるから、アンテロには元より憂いはなかった。
「では甘えさせてもらおうか」
可惜夜が的確に弾丸を撒いてさらに竜の翼を狙撃すると、僅かに竜の動きが遅れる。
その隙にアンテロは鎖を横方向に飛ばし、斜めに倒れているマストへ引っ掛け移動。そこから別の柱を伝っていくように敵の周囲を巡り始めた。
竜に狙いを定めさせないためであると同時に、しかとその挙動を見極めるため。邪神の動きにも警戒を払いながら、同時に竜を最短で斃すため。
(こんなものかな)
短い時間で竜の動きを粗方見て取ると、そこから狙うべき点も浮かび上がる。可惜夜に狙撃される間、竜が守り続けている胸部の一端──そこが急所であろう。
判れば、そこを撃つだけ。
「では手短に行こう」
あくまでドライに言ってみせると、アンテロはロザリオにまばゆい光を湛え、それを短剣上に変遷させていた。
それを数十に複製させると、切っ先を敵へ向ける。
念動力を働かせた刃は、一層その動きに澱みなく。アンテロが意識したそのままの軌道を取るように、一斉に敵へ飛来した。
kangastus(カンガストゥス)。
突き抜ける光の剣は、まるで光線の如き速度。胸部の一点を貫いて鋭利にすぎる衝撃を与えて──その一瞬で虚竜を撃破。跡形もなく霧散させていく。
紗は暫しその手際の良さを見ていた、が──ノーフェイスの方にふと気配を感じた。
見れば邪神は闇を固めて魔力に寄る何かを形成し始めている。
紗はそれに、肌が粟立つ危険なものを感じた。
第六感が告げる危機。
瞬間、紗が翼で風を払って真横に体をずらす。ほぼ同時、邪神の放った闇の鎖が空間を突っ切っていった。
間一髪の回避。だが邪神はすぐに狙いを定め直し、再度紗へ鎖を飛ばしてくる。
紗も速度を緩めず避けた、が、一瞬前よりその距離は狭まっていた。
「速いですね……」
当たるまでやるつもりだとすれば、それは確かに脅威だった。
ノーフェイスは単純に速い。こちらが全力で後退しても、少しずつ距離を詰めてくる。
鎖の速度が一定して高速である以上、このままでは必ず避けられなくなる時が来るのは必定だった。
が──実際にそこまで迫られても紗は惑わなかった。
瞬間、真下に加速した紗は翼を仕舞う。自身に重力加速度を加えることで高速度で落下し、敵の鎖を避けきっていたのだ。
そのまま甲板へ衝突する寸前で翼を広げて速度を水平方向に変え、無事に着地する。
二体目の竜を素早く撃破していたアンテロは、その危険を顧みない飛行に口笛を一つ。
「鮮やかなものだ」
そして紗の策はこれに終わらない。ノーフェイスが追って降下してくると、そこが丁度可惜夜を潜ませていた場所だった。
刹那、飛び出させた可惜夜に零距離で射撃をさせる。
緒(イトグチ)。爆ぜた弾丸が炸裂する衝撃を生み出して、敵を横転。その勢いを利用する形で糸を結びつけて拘束していた。
その頃には紗もふわりと飛び退いている。
「後はアンテロさんのご自由に……」
「ふむ。では──遠慮なく」
その糸へ鎖を絡めたアンテロは、引き付けるように一気に接近。未だ爆風の残る中で至近距離に入っていた。
「……!」
「こんな殺し方もお手の物だったんじゃないのかい?」
ノーフェイスがはっとした一瞬、既にアンテロはその背後。爆炎が完全に晴れた頃には、アンテロの黒剣が邪神の心臓に突き立っていた。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵
鏡島・嵐
判定:【WIZ】
やれやれ、召喚を企んだ奴も企んだ奴なら、喚ばれた奴も喚ばれた奴だ。
……そんな風に言える余裕、本当なら無えところだけどな。
怖ぇのはイヤだけど、こんなところで船諸共沈むんもイヤだから、とっとと退散してもらうぞ、邪神サマ。
他の味方を〈援護射撃〉で支援したり〈鼓舞〉で盛り立てたりしつつ、隙を見て自分も攻撃に参加してダメージを与えることを狙う。
相手のユーベルコードは《逆転結界・魔鏡幻像》で相殺し、これ以上パワーアップさせねーようにする。
それ以外の攻撃は〈目潰し〉〈フェイント〉で妨害したり、〈見切り〉や〈オーラ防御〉を組み合わせることで、ダメージを最小限に抑えるようにするぞ。
船体が更に大きく崩れ、漆黒の海に沈んでいく。
大波にさらわれた木材はそのまま闇に飲まれるように、藻屑となって消えていった。
気付けば中層の足元も、水平を保つことすら少しずつ困難になりつつある。おっと、と欠損した壁に掴まりながら嵐は息をついていた。
「やれやれ、参ったな──」
轟々と波の音が響き、その合間に劈くのは船全体が軋む音。そこはもう幽霊船ではなく、巨大な瓦礫へと変貌していっている。
その全ては今尚戦いを続ける邪神が原因だ。猟兵との戦いによって船の破壊活動自体は止められているが、曰くこれも儀式の一部であるという。
ならば遅かれ早かれこの船を沈めるつもりなのだろう。
「召喚を企んだ奴も企んだ奴なら、喚ばれた奴も喚ばれた奴だ」
呆れたように嵐は零してみせる。
ただ、本当はそんなふうに憎まれ口を叩く余裕すら無いのだと自分では判っていた。一秒ごとに迫る死も、強大な力を持つ敵も、それは変わらず恐怖の対象だ。
(怖ぇのはイヤだけど)
それでも嵐は手に力を込めて、戦場を見上げる。
「こんなところで船諸共沈むんもイヤだからな」
ならば、自分も戦いに邁進するより他にないのだ。
決めれば迷う時間は無い。嵐は壁の途切れ目に足をかけ、跳躍。下方にまで垂れてきていた帆を掴み、素早く登っていく。
そこからマストを経由する形で甲板を望める位置に移動した。
正面から敵と対峙はせず、まず様子を窺い攻撃の機会を見極める。既に敵とは猟兵が交戦を続けている。悪戯に突っ込むより、冷静に隙を探すほうがいいと思った。
甲板で邪神ノーフェイスと剣戟を繰り広げるのは夜彦。素早き斬撃を繰り返し確実に敵を追い立てていっている。
敵は後方のマリスも狙っているようだったが、召喚された竜をマリスは難なく撃破してみせていた。
それによって生まれた間隙に、夜彦は更に敵に剣撃を畳み掛けていく。
邪神も並大抵の敵で無いと悟ったか、大きく飛翔して後退し始めていた。体勢を直してから反撃に移るつもりだろう。
(今が好機、か)
嵐は倒れたマストから次のマストへ、跳躍を繰り返し安定した足場へ。ある程度敵に距離が近づいた段階で、スリングショットを引き絞る。
瞬間、放った一撃は風を裂いて飛翔し、ノーフェイスの足元を貫く。ただの礫をも弾丸の威力に昇華するそれは威力十分。邪神の体勢を崩させ大きく退避させることを許さなかった。
ノーフェイスはそれでこちらに目を向ける。
だがその頃には嵐も再び間合いを取るように後退。敵の近くにも摩那が移動したためそこで交戦が始まった。
摩那の強力な念動力と剣撃にも、ノーフェイスは容易に対抗しかねている。そこを援護するように、嵐は連射。敵の関節部を穿ち動きを鈍らせ、戦線を有利に運ばせていった。
猟兵達の猛攻に、邪神は高所へと退避していく。それでも朔が空中へ昇って追いつき、念と呪力によって敵の力を封じつつ再び甲板に落としていた。
瑞樹がその間隙を狙い奇襲にかかっていくと、嵐もその合間を縫うように射撃を重ねていく。
勝てる、という感覚が嵐によぎった。
自分ひとりでは判らなかったかも知れないけれど、仲間達と共に戦えば。
修介が敵の機動力を封じれば、嵐は尚そこに衝撃を撃ち込んでいった。敵もこちらに気づき、闇の結界を多重に纏って攻め込もうと目論むが──。
「させないさ」
嵐は手を翳し、澄んだ鏡を喚び出していた。
逆転結界・魔鏡幻像(アナザー・イン・ザ・ミラー)。淡い光を湛えたそれは、敵の闇と同じだけの煌きを映し出し、相殺するように敵の魔力を吸い取ってしまう。
そこへ紗とアンテロが戦線に加わり、見事な程の連携で心臓を穿けば──邪神は血を吐いて膝をついた。
「こんな、ことが……」
信じられぬという様相のノーフェイス。
そこへ嵐は猶予を与えずに至近から石を弾丸と成す。
「こっちにも助けなきゃいけない人がいるからな。とっとと退散してもらうぞ、邪神サマ」
体を貫かれたノーフェイスは苦悶を浮かべながら、それでも抵抗を試みようとするが──猟兵達はそこへ一斉攻撃を敢行していた。
マリスの星、夜彦の刃、摩那の剣、朔の念。
瑞樹の斬撃、修介の格闘、紗が齎す銃撃とアンテロの一刀。
そして、最後に嵐の放つスリングショットの一撃。それが違わずその命を砕き、邪神ノーフェイスをこの世から消滅させた。
●静かなる海へ
船が、黒色の海原へ沈みゆく。
完全に瓦解した幽霊船は、ひとつ、またひとつと巨大な部位を波にさらわれていった。マストも帆も、甲板や通路だった場所や、船室までも。
猟兵達は敵が消えたことを確認すると、素早く中層へ向かっている。
「ええ、助け出しますよ」
紗は先んじて移動していく二羽の文鳥に応えるように、自身も翼を羽ばたかせて降下。傾いでいた扉にまで辿り着く。
「アンテロさん」
「ああ、この際遠慮することはないね」
頷くアンテロは、扉を壁ごと破壊。生贄とされる運命から逃れた人々を、その中に見つけていた。
船室内も大きく傾いていたが、海水の侵入はない。マリスは祈りを捧げて軽傷を負った者を癒やすと、視線を隣へ移す。
「では夜彦。共に退避するとしましょう」
「ええ」
応えた夜彦は素早く刀を奔らせ、瓦礫で簡易の通路を作り出し、平坦な場所まで人々を連れ出していった。
そこまで行けば、嵐がつけていたボートがある。
「皆で乗り込もう」
嵐に頷いてそこへ移動すれば、一先ず海に飲まれる心配はなかった。
それだけでは少々定員オーバーでもあるが、近くにはアンテロと紗と同道してきていた組織の船もある。
高空に上った朔がそれを見つけ出し、こちらに誘導した。
「すぐに来てくれそうです」
そのうちに小型船がやってくると、修介が人々を船へと運んでいく。
「分かれて乗船してもらえば、二隻でも足りるだろう」
「手伝うよ」
瑞樹も必要な者は背負って小型船の方へ移していった。
摩那も助力しながら……ふと気づいて振り返る。
「幽霊船、全て沈みそうですね」
見れば、邪教の牙城であったそのガレオン船は──最後に残った船体も波間に消えるように、沈没していっていた。
後に組織の調査は入るだろうが、あれが船として復活することはもうあるまい。
月夜の海に揺蕩う船と、そこにいた邪教の徒と邪神は全て、滅んだ。
そうすると荒れていた波がいつしか静まって、元の穏やかな海面に戻りつつある。
それが本来の海の姿。
猟兵達は野望を果たせず散った者達の残骸を暫し見つめながら──そのうちに船を走らせその海を後にした。
大成功
🔵🔵🔵