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夏一頁、宇宙クジラとラムネの海

#スペースシップワールド #戦後

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#スペースシップワールド
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#戦後


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●幻想・邂逅
 青い蝶がラムネの海を羽搏く。
 群れを為してひらひらと、ひらひらと。まるで青い橋を宙海(うみ)に架けるように。
 渡った先には、星をも呑む鯨が彷徨う。

●夏の浪漫
 ラムネの海――そう呼ばれる宙域がある。
 薄い皮膜に覆われた球体状を成す何らかの星間物質が多く漂っているのだが、それらはまるで炭酸の泡のように見えるのだ。
 しかもスペースデブリとは異なり、宇宙船の航行を妨げることもない。触れても、ぱちんと弾けるだけ。衝撃も全くといってよいほどない。
 そんな『ラムネの海』へ鯨を模した形のスペースシップ――バレーナ号が向かっている。
「おまつりを、するみたい」
 青く澄んだビー玉をひとつ、人差し指と親指で摘まみ、世界を透かし見ていたウトラ・ブルーメトレネ(花迷竜・f14228)はころころと笑う。
 砂浜に見立てられた噴気孔を模す展望室は、全面が強化ガラス張りでラムネの海を360度の大パノラマで楽しむことができる。
 それだけでも十分「祭」なのだが、バレーナ号ではもう一工夫。
 砂浜には色も材質も様々なビー玉が撒かれており、その中から自分だけのとっておきをみつけて、それを透明なラムネ瓶の蓋にするのだ。
「ろまんのおまつり。なんだって」
 ラムネ瓶に詰めるのは、自分の思い出。実際に記憶を封じられるわけではないが――言うなれば、絵日記のようなもの。絵や文字の代わりにラムネ瓶とビー玉を、記憶を思い起こす依代にするのだ。つまりが、ただの浪漫。
 けれどこの宙域を航行する度にラムネ瓶を一本、また一本を、バレーナ号の人々は増やす。封に使うビー玉も、船の修繕で出た廃棄物などの再利用品だ。
 透明な硝子のもの、赤、青、水色、緑、白、灰に黒。複数の色が混ざり合ったもの。彩がくすんだもの、鈍色、錆を残した鉄、緑を帯びた銅、傷だらけのアルミ、素材が知れぬものなど。とにかく、砂浜には無数の種類のビー玉が転がされている。
「おもいでのおまつり。かわってるけど、きっと楽しいよ」
 空っぽのラムネ瓶を手に、お気に入りのビー玉を探して。ラムネの海に翳して思い出を詰め。封は係の人にお願いすれば、特別な工具であっという間にしてくれる。
 展望室は昼のエリアと夜のエリアに区切られているので、どちらで過ごしても構わない。
 ――みんなには、どんな思い出があるのかな?
 摘まんだビー玉を手の平の上で転がしたウトラは、そこで「あ」と思い出す。
「くじらさんの船、おまつりのあいだに、おそわれるの。だから、たすけてあげて」
 銀河帝国の残党兵が出る。それを予知した故に知った祭に皆を送り出しつつ、ウトラは目を細める。
「みんななら、ぱぱっとやっつけられちゃうよ。でも――それもとてもきれい」


七凪臣
 お世話になります、七凪です。
 今回は銀河帝国残党退治のお仕事をお届けに参上しました。
 ――の、前に。夏休みの絵日記的な浪漫なお祭を。

●シナリオ傾向
 三章通してしっとり系を想定。

●シナリオの流れ
 【第1章】日常。
 OP通りのお祭。思い出語りとお好きなビー玉の指定をどうぞ。
 昼・夜どちらのエリアでも可。
 【第2章】集団戦。
 詳細は章開始時に導入部を追記します。
 【第3章】ボス戦。
 詳細は章開始時に導入部を追記します。

●その他
 POW/SPD/WIZはお気になさらず。
 『思い出』は『あなた』自身のものでお願いします。

●プレイング受付期間
 第1章はOP公開時点より受付開始致します。
 受付締切や、以降の章の開始のアナウンスはマスターページとTwitter(@nanagi_TW)にて随時お知らせしますので、そちらの確認をお願い致します。
 ※さくさくっと進めてぱぱっと終わる、打ち上げ花火的なシナリオを目指しておりますので、採用数は達成度+αくらいになると思います。

 皆様のご参加を、心よりお待ちしております。
 宜しくお願い申し上げます。
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第1章 日常 『猟兵達の夏休み』

POW   :    海で思いっきり遊ぶ

SPD   :    釣りや素潜りに勤しむ

WIZ   :    砂浜でセンスを発揮する

👑5
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

種別『日常』のルール
「POW・SPD・WIZ」の能力値別に書かれた「この章でできる行動の例」を参考にしつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。

オズ・ケストナー
ねえシュネー
おうちを出てからいろいろあったね

たくさん野宿をして
きれいな洋服を汚さないようにと毛布をくれた女の人がいて
おやつをわけてくれた子がいて
はじめてたべものを口にした
その子のおうちがケーキ屋さんで、お手伝いをして
ケーキにくわしくなって
猟兵になって
おしごとをするようになって、それから、それから

…ふふ、入りきらないくらいたくさん

瓶を掲げて
夜空を透かす
ラムネの海を瓶に詰めるみたいに

これからも、きっとたくさんふえるね
たのしいことも、そうじゃないこともあるかもしれないけど
わたしね、きっとずっと、たのしいことがたくさんあるって思うんだ

シュネーが、みんながいっしょなら
ぜったいっ

雪のように白いビー玉を手に




 波音は聞こえない。
 けれど泡立つ音色を仔猫色の瞳に映しながら、オズ・ケストナー(Ein Kinderspiel・f01136)は夜の砂浜に腰を下ろし、膝に乗せた姉であり友達でもある人形の雪の如き白い髪を左手で優しく梳く。
「ねえシュネー、おうちを出てからいろいろあったね」
 たくさん野宿をした。
 綺麗な洋服を汚さないようにと、毛布をくれた女の人がいた。
 おやつを分けてくれた子もいた。
 ――きっとその子は思いつきもしなかったろう。自分が分けてあげた『おやつ』が、オズにとって『初めて』口にした『食べ物』であったことなど。けれど、その出逢いは奇跡の始まり。
「まさかおうちがケーキ屋さんだったなんてね?」
 ふふ、と。好奇心に溢れた目が、楽し気に細められる。オズの気持ちを映したみたいに、シュネーの身体も左右に揺れているように見えたのは気のせいだろうか。
 ともあれ、そこからオズの物語は幕をあけた。
 ケーキ屋さんでお手伝いをすることになって。
 ケーキにも詳しくなって。
 それから、猟兵になって。
 ケーキ屋さんのお手伝いだけではない、色々なお仕事をするようになって。
 それから、それから、それから、それから――。
「……入りきらないくらい、たくさん。すごく、たくさん」
 宙海に浮かぶ無数の泡たちの一つ一つに、オズは『思い出』を投影し、数え切れないそれらに、笑みをいっそう深め。ゆっくりと腰を折り、シュネーと同じ高さにした視線の先に、空っぽのラムネ瓶を掲げた。
 透かし見る、ラムネの海。
 しゅわしゅわ、しゅわしゅわ。
 オズの『たくさん』が、空っぽの瓶に詰まってゆく。
「これからも、きっとたくさんふえるね」
 指先で摘まんだラムネの瓶を一振りして、頬に髪が触れるシュネーへオズは弾む声で語り掛ける。
 楽しい事も。そうじゃない事も。様々な出来事がオズたちを待っているに違いない。
 でも、
「わたしね、きっとずっと、たのしいことがたくさんあるって思うんだ」
 悲しいより、楽しいが。マイナスよりプラスが世界には溢れているとオズは信じている。
 今日という日が、キラキラしているみたいに。明日には、新たらしいキラキラが待っているに違いない!
「シュネーが、みんながいっしょなら。ぜったいっ」
 僅かに首を傾け、シュネーの小さな頭とプラチナブロンドにふんわりと彩られる頭をこつんと並べ、オズは思い出の彼方に未来を視る。
 そんなオズを見守るようなシュネーの胸には、雪のように白いビー玉が抱えられていた。

大成功 🔵​🔵​🔵​

フィリア・セイアッド
「WIZ」夜の海
わぁ、とても不思議で綺麗な海
ラムネの海を見渡し声を弾ませ
おもいでのおまつり…ふふ、とても楽しそう
どんなビー玉を集めよう
ひとつずつを手にとり悩んで
大切な人を思い出す そんな色を
この淡い水色はお母さん
澄んだ翠はお父さん
呟きながらビー玉を拾う

小さい頃 両親と蛍を見に行ったことを思い出す
川辺の蛍がとても綺麗で 夢中で手を伸ばして
川に落ちかけた自分を抱えた母が足を滑らせ
見事に水に落ちたふたりを 父が慌てて助けてくれた
お母さんは笑ってたけど お父さんは頭を抱えてたっけ
子どもがふたりいるみたいって

懐かしさに目を細める
ふたりとも 元気かな
たまには家に帰ってみようか
沢山のお土産話を抱えて




 ――わぁ、と。
 目の前に広がったラムネの海に、フィリア・セイアッド(白花の翼・f05316)は海と砂浜を隔てる硝子窓へ駆け寄った。
「とても不思議」
 再現された夜に、遠い星々の耀きがフィリアの水の色を映す右眸を煌めかせ、
「そして綺麗」
 すぐ近くを漂う幻想的な気泡に、透明度の高い翠の左眸にも好奇心が湧き立つ。
 いつもは春の陽だまりのようなおっとりとした少女の声も思わず弾んでしまうのだ。宙海を往く人々が、この宙域に至る度に祭を催してしまうのだって頷ける。
「おもいでのおまつり……とても楽しそう」
 くるりと身を翻し、暫し仮初めの海に背を向けて。ふふと微笑み、フィリアは祭の輪に加わる。
 小さな子供から、いかにも船乗りな体格の良い男性、腰の曲がった老婆も。砂浜をそぞろ歩いては、とっておきのビー玉を探しているのだろう。夢中になるあまり、時折、衝突事故も起きてしまっているが、そこで沸く気の好い歓声にフィリアの胸の裡のわくわくが大きくなる。
「どんなビー玉を集めよう」
 ラムネ瓶の蓋できるのは一つだけだけど、たった一つなんてフィリアには選べない。だからたくさん。一つ一つの思い出を、ラムネ瓶に丸ごと詰め込むみたいに。
「この淡い水色はお母さん」
 幾つもを拾い、ラムネの海に透かし見て。大切な人を思い起こさせる彩を、フィリアは手元に残す。
「こっちの澄んだ翠はお父さん」
 呟きは、まるでビー玉に命を吹き込むように。
 そうして父と母が手の中に並んだ瞬間、昏い星空にいつかの光景が蘇る。
 あれは、そう。
 フィリアが今よりずっと小さい頃。両親と向かったのは、蛍の川辺。
 星たちが地上に舞い降りて来たかのような光景に、フィリアはすぐに夢中になって、小さな手を懸命に伸ばした。
 けれどそこは川の淵。ぬかるむ地面はあっという間にフィリアの足元を攫い――。
『!』
 川の中へ転がり落ちそうになったフィリアをとっさに抱え上げてくれたのは母だった。
『!!』
 けれどその母が足を滑らせ、二人揃って水面へまっさかさま!
 勿論、父が慌てて二人を助けてくれたけど。思わぬハプニングがフィリアも母も楽しくて、笑い出してしまい。そんな二人を目に父は頭を抱えていた。
「子どもがふたりいるみたい……、だったっけ」
 その時の父の言葉を思い出したフィリアの口元に浮かぶ笑みが一層深くなり、左右で色を異にする瞳も細くなる。
「お母さんも、お父さんも。元気かな」
 口にしてしまえばなお募る、懐かしさ。
 たまには家に帰ってみるのもいいかもしれない。
 その時は、抱えたビー玉たちのように沢山の土産話を携えて。

大成功 🔵​🔵​🔵​

カーティス・コールリッジ
星の海にもこんなあおいろのけしきがあることを、はじめて知った
おれのうまれた宇宙には、なにも、なんにもなくって
おとなたちはみんな難しいかおをして、いつも何かに怯えていた

でも、それも
もう、『むかしのこと』になったんだ

選んだビー玉はみずいろ
あおい、あおい、そらのいろ
はじめて踏みしめた大地から見上げた、雲ひとつない
まぶしくて、澄み渡ったあおぞら
胸いっぱいに酸素を満たした
あのときのきもちに、なんてなまえをつけたらいいんだろう?

宝物のように瓶を掲げて、おれの思い出を詰め込もう

ねえ、おれは『なつ』を知ったよ
手をさしのべてくれるひとが
なまえを呼べば、わらってくれるひとが、いるよ

ねえ、――おれは、いきているよ!




 真昼の砂浜を模した空間に、カーティス・コールリッジ(CC・f00455)はセミの鳴き声を聞いた気がして、子供らしいまろやかな曲線を描く頬に快活な笑みを浮かべた。
 セミの鳴き声なんて、つい最近までは知らなかった。
 それと同じに、星の海にもこんな優しくて楽しくて、何より『あおいろ』の景色があったことをカーティスは初めて知った。
 カーティスが生まれた宇宙には、何も――本当に、何もなかった。
 大人達はいつだって難しい顔をしていたし、ずっとずっと何かに怯えて宇宙を渡っていた。
 でも、でも!
 それも、もう『むかしのこと』になったのだ!
 『銀河帝国』の侵略におどおどびくびくする必要はなくなった。遠い宇宙へだって、ワープであっという間にひとっ飛びだ。
 真っ暗だった未来に、光が射した。皆の背中に、どこまでも往ける翼が生えたみたい。
 そしてそんな翼が一番似合う場所を、今のカーティスは知っている。
 それは、空。あおい、あおい、空。
 初めて踏み締めた大地から見上げた雲一つない空は、カーティスの瞼に鮮やかに焼き付いている。
 とても眩しくて、澄み渡っていて、どこまでもどこまでも広がっていて。
 その『あお』を取り込むみたいに深呼吸をしたら、胸一杯に酸素が満ちた。宇宙ではとても貴重なものなのに。まるで『好きなだけどうぞ』と言わんばかりに、そこには酸素と――『あお』でいっぱいだった。
 あの時の気持ちにつけるべき名前を、幼いカーティスはまだ知らない。
 でも『宝物』だと思うから。
 一際キラキラしている空色のビー玉を拾い上げ、カーティスは空っぽのラムネ瓶と一緒に、大事に大事にしゅわしゅわの宙海へそれらを掲げ、ありったけの思い出を詰め込む。
「ねえ、おれは『なつ』を知ったよ」
 煩いくらいセミが鳴く。
 拭いても拭いても汗が出る。
 太陽はぎらぎらで、けれど雲は眩しいくらいに白くて、何より空は青い!
「それから。手をさしのべてくれるひとが。なまえを呼べば、わらってくれるひとが、いるよ」
 全て、全て、知らなかったこと。
 けれど今は知っていること。
「ねえ、――おれは、いきているよ!」

 こちら『CC』!
 コール、『Stingray』、でまーすっ!

大成功 🔵​🔵​🔵​

境・花世
空っぽの瓶をゆらゆら揺らして
ラムネの海を臨む夜の窓の傍らへ

わたしはどうしてここに来たのかな
想い出はきっと失くしてしまうから
手にしていたって意味がないのに

――だけど、

きまぐれに拾ったビー玉は薄紅
掌で転がせば罅はまるで花びらのようで
過ぎ去ったばかりの季節の面影が浮かぶ

やさしい声、何度もふれた指先、きみの、
一度きりの春なのに、どうしてこんなに
瓶から溢れるほどにあるんだろう

透明なそれに蓋をできないまま
持っていくこともできないままで
けれどもう少し、この掌にとどめていたいんだ

きららかに弾けて消える窓の向こうの海を見つめている
いつまでもそうしている、夏の片隅
終りが告げられるまで――今は、ただ




 すれ違う人々の楽し気な笑い声が、夜を模した砂浜を歩く境・花世(*葬・f11024)の耳には、薄い膜を隔てたように遠く聞こえた。
 ゆらゆら、ゆらゆら。
 指先で摘まんだラムネの瓶が、不安定に揺れている。まるで乙女心みたい――とは、今の花世では思い至れない。
 そんな冗句も、浮かんでこない。浮かぶ前に、泡のように儚く弾けてしまう。
 そうして花世は、悲恋に散った人魚のお姫様の末路のような泡が浮かぶ窓辺に、じっと佇む。
(「わたしはどうして、ここに来たのかな」)
 右の眼窩に咲く大輪の八重牡丹の薄紅の艶やかさは常のまま。けれど天真爛漫さを象徴するような花色の左の目線は、焦点を定めずラムネの海を虚ろに彷徨う。
 想い出は、きっと失くしてしまう。
 だから、手にしていたって。意味がないのに。
 ――だけど。
「……」
 こつんと爪先に何か触れた衝撃に、花世はゆっくりと息を吐き出す。
 それはどこからか転がって来た薄紅のビー玉。拾い上げたのは、気紛れだ。しかしころりころりと転がすうちに、内に抱いた罅が星灯に花びらのように見えてしまって。
 それが、過ぎ去ったばかりの季節の面影を連れて来る。
 ――やさしい声、
 ――幾度もふれた指先、
 ――きみ、の、
 たった一度きりの春だ。
 だのにどうしてだろう。空っぽの瓶から溢れるくらいに、想い出は湧いてきてしまう。
 胸が詰まるようだとか、苦しいみたいだとか、花世は考えない。
 ただ透明なそれに蓋をすることもできずに。持っていくこともできないままに。けれどもう少し、この掌にとどめていたいと思ってしまうのだ――いつか失くしてしまうものなのに。

 きららかに弾けて消える夏の象徴のようなラムネの海を、花世は窓の向こうに見つめ続ける。いつまでも、いつまでも。祭の終わりが告げられる、その瞬間まで。夜であっても眩しいことは変わらぬ季節の、薄ら昏い片隅で。

 ――今は、ただ。

大成功 🔵​🔵​🔵​

千波・せら
思い出は沢山あるからどれを詰め込むのか悩んじゃうな。
でもやっぱり海の思い出は忘れられないもの。
私は水色のビー玉を選ぶよ。
自分の色みたい。

昼エリアで物思いに更けてみようかな。
燦々と眩しい太陽。
煌々と照りつけるあつい日差し。
そんなに暑くても素敵な景色は沢山あるの。
そんな素敵な思い出を瓶のなかにとじこめてみよう。

夏は好き。
冬も好き。
春は少しだけ眠くなるけど好きだ。
秋は食べ物が美味しくなるもんね。

こうして思い返していると探索者としてまだまだ未熟者ではあるものの
色んな思い出に囲まれているんだなって実感するね。

夏の景色を閉じ込めたラムネは
飲み込むのきっと夏のあじがするんだ。




 痛いほどの日差しに手を翳し、千波・せら(Clione・f20106)は眩しさに目を細めた。
 本当に宇宙船の中なのだろうかと思うくらい、昼のエリアは暑さも熱さもリアル。せらが立つ砂浜から、ラムネの海の波打ち際までは少し距離があるからか、しゅわしゅわの波が蜃気楼に揺らいでいる気さえする。
 ともすれば、ため息が零れてしまいそうな『夏』の盛り。
 しかしせらは、そんな暑さと眩しさの中にある素敵な景色を沢山知っている。
 でもでも、瓶の中に詰める思い出は何にしよう?
 あれも、これも、それも、どれも素敵。きらきら、眩しくて、うきうきと、心が弾んで踊る。
 なんて贅沢な選択肢!
 そんな中、せらは指先から零れ落ちたみたいな鮮やかな水色のビー玉に目を留め、砂浜を小走りに駆けた。
 海を閉じ込めたようなその色は、せらの色にも通じるもの。そしてやっぱり忘れられない海の思い出にもぴったりの色。
「夏は好き」
 熱い砂に膝をつき、とびきりの水色を拾い上げる。
 そうして空っぽのラムネ瓶と並べて透かすと、窓の向こうの景色がしんしんと降り来る雪にも見える気がしてきた。
「冬も好き」
 夏も好き、冬も好き。
 けどそれだけじゃない。
 春は少しだけ眠くなるけれど、眠っていた色が目覚めてくるみたいで好き。
 乙女としては食べ物が美味しくなる秋だって、好き。
 好き、好き、好き。
 世界にはいろんな「好き」が溢れている。
 そのひとつひとつを思い返していると――探索者としてまだまだ未熟者ではあるものの――色んな彩の、胸ときめかす思い出に囲まれていることをせらは実感する。
 それはとても素敵なことで、幸せなこと!
 茹だるような暑さにゆったりとしていた思考が、くるくると巡り出す。明日はどこへいこうか、明後日は、明々後日は、そのまた次の日は、次の日は。
 ――その前に。
「ねぇ、ラムネ瓶に封をするには、誰にお願いしたらいいのかな? あと、ラムネも一緒に入れたいんだけど大丈夫?」
 素敵な思い出を閉じ込めた瓶に、水色のビー玉で封をするのを忘れずに。

 季節は巡る。夏から秋、秋から冬、冬から春へ。
 されど夏の景色を閉じ込めたラムネは、いつ飲み込んでも、きっと夏の味がするに違いない。

大成功 🔵​🔵​🔵​

リュカ・エンキアンサス
すごいな
星とは違うけれども、このビー玉も綺麗だ

なんとなくぶらっと砂浜を歩きながら
ピンとくるビー玉を探す
…あ、これ、あのひとに似てる(ひとつ加え)
これは…、このひねくれた感じがあのお兄さんにそっくりだ(ひとつ加え)
それじゃあ、あのお姉さんに似たのも、お兄さんに似たのも…って、
気がつけば、瓶いっぱいになっていた
最後にひとつ、青くて丸くて小さいのをいれて、
それで封をしてもらおう
知らない間に、こんなにいろんな人と出会っていたんだなって
心のうちで感謝をして、旅行鞄にしまっておこう
これからもっと、増えるのかな
…増えたらいいなって、心から思うよ
この中には、もう会えない人もいるんだろうけれど
それもまた、思い出




 ラムネの海の向こうに広がる星の海から注ぐ光が、砂浜に散りばめられたビー玉をきらきらと輝かせている。
「すごい、な」
 好きだと思える星空とはまた趣を異にするものだけれど、色とりどりの煌めきにリュカ・エンキアンサス(蒼炎の・f02586)は目を丸めた。
「うん。星とは違うけれども、このビー玉たちも綺麗だ」
 朴訥な呟きだが、心偽らざる素直な賛辞に、思い出封じに繰り出していたバレーナ号の住人の頬も緩む。
 けれどもリュカはその輪に加わることなく、ひとり気ままな足跡を砂浜に残してゆく。
 戦場を渡り歩く身だ、暗がりなぞリュカはものともしない。だってここは今は戦場ではないし。敵だっていない。
 それに大気圏に隔てられない星灯は、ビー玉探しには充分な光を与えてくれている。
 しかしリュカの探し物に宛てはない。
 ただ、なんとなく。そう、なんとなく。ぴんと来るものを探しているのだ。
 そして直感は、不意に訪れる。
「……あ、これ。あのひとに似てる」
 ひとつが目に留まったが最後――であり始まり。
「それじゃあ、あのお姉さんに似たものを」
「そうだ、お兄さんに似たものだって」
 ふにゃりと溶けてしまいそうな東雲色に、思わず転がしたくなるキトンブルー。ほの昏い赤と蒼銀のマーブルに、力強い紫、涙で潤んだような琥珀色、青磁を思わす緑、澄んだ金色に楽し気な虹色。
 ひとつがふたつになって、ふたつがみっつになって、みっつがよっつと増え続け、気付けばリュカのラムネの瓶はビー玉でいっぱいになってしまっていた。
 いったいいつの間に?
 時に三白眼にもなる青い瞳をぱちぱちと瞬かせ、リュカは自分の辿った旅路を振り返る。
 知らない間に、こんなにいろんな人と出会っていたのだ。
 これからも、もっと増えるのだろうか?
(「……増えたらいいな」)
 心からそう思い乍ら、リュカはラムネ瓶の封にする為に、少し小振りの青いビー玉を『今日』のお終いに拾う。
 出来上がった小瓶は、心のうちで感謝をしつつ、旅行鞄にしまっておくことにしよう。そうしたらいつだって、色んなお兄さんやお姉さんたちのことを思い出せる。
 リュカが旅を続ける限り、出会いは増えてゆくだろう。
 中には、二度と会えない人もいるのだろうけれど。

 ――それもまた、思い出になる。

大成功 🔵​🔵​🔵​

ジャハル・アルムリフ
(昼夜お任せ)

なぜ、広く大きなものを
人は海と呼びたくなるのだろうな

うむ、此の夏は何時になく刺激的であった
…割に記憶が途切れがち故
手土産の一つも残しておかねば

硝子玉はどれもが宝玉が如くに見え
どれよりも相応しい色を探すは至難の業だが
……ふむ
つまみあげた一粒を宙へと翳す
透明な天球のなか、棚引く雲のように渦を描いた淡い白
砂浜と星の海が逆しまに――少し歪んで映り込む
まるで彼の日見た光景のようで

「らむね」の瓶をくるり返せば
ほんの微かに風呑む音色
封じた証はそれだけなれど
零れ落ちぬ様、硝子玉に守を願おう

食卓で、あるいは茶の傍らで
何時でも其処に覗けるだろう
些細な諍いなど馬鹿らしくなる位の
抜ける様な夏の日のことを




 浅黒い肌をなお黒く焦がさんばかりの疑似陽光に、ジャハル・アルムリフ(凶星・f00995)は眼差しを遠くする。
 その七彩宿す眸が捉えるのは、透明な硝子窓の向こうに広がる無限の宙海だ。
 ――なぜ、人は。広くて大きなものを、海と呼びたくなるのだろう?
 凡そ『海』らしからぬしゅわしゅわと泡立つ宙域を眺め、けれどやはり『海』と呼びたくなってジャハルは首を傾げる。
 「らむね」とやらはピンと来ないが。何とも夏らしい雰囲気なのは分かる気がした瞬間、無数の泡に走馬燈が如く此の夏の記憶が駆け映る。
 折り返しも過ぎぬというのに、既に何時になく刺激的な夏になっているのは間違いない。
 だというのに、不思議と、何故か、どうしてだか、割りに、記憶が途切れがちなのが謎だが。だからこそ、手土産の一つも残しておかねばならない衝動にジャハルは駆られた。
 けれど焦燥にも近い想いとは裏腹に、仮初めの砂浜に散りばめられた硝子玉たちはどれも宝石のように美しく。身近な人ならばさぞや喜んだろうとか思いつつ、どれを選んだものかと思考には停滞という凪が訪れる。
 そもそも『此の夏』に相応しい色を探すのが至難の業なのだ。
 しかしすとんと抜けた力が、奇跡にも似た縁を運んでくれる。
「……ふむ」
 哄笑が聴こえそうな暑さの中、不意に目に留まったきらめきを、ジャハルは慎重に摘まみ上げ、夏模様の宙へ翳す。
 透明な天球を彷彿させる一粒には、淡白の濁りが内包されていた。よくよく観察すると、それは棚引く雲のように渦を巻いているように見える。
 さらにじぃと注視すれば、砂浜と星の海が逆さまに――少し湾曲して映り込んでいるのが見て取れた。
 歪んだ視界は、まるで彼の日の再来。
 熱や他の様々まで蘇ってくる感覚に、今こそ記憶を封じる時とジャハルは空っぽのラムネの瓶を片手で器用に返す。
 ひゅ、と。
 小さな口が風を呑んだ音色を奏でた。たったそれだけが、何かをそこに封じた証。でもそれだけで十分だと言わんばかりの満足気であり、ほんのり得意気でもある貌で、ジャハルは目を回させる硝子玉に『記憶』の守り役の任を託す。
 これでもう、零れ落ちることはあるまい。
 勿論、外れないようしっかり嵌め込んで貰う必要はあるが。一声かければ、ジャハルと同じく思い出封じに余念のない人々が、専用の職人の元へ案内してくれるだろう。
 そうして完成したラムネの海の産物は、時に食卓で、或いはティータイムの傍らで――何時如何なる時でも。覗き込むという簡単な所作一つで、ジャハルを『此の夏』に誘ってくれるに違いない。
 些細な諍いなど馬鹿らしくなる位の、抜ける様な楽しくも面白愉快な『此の夏』の一日へ。

大成功 🔵​🔵​🔵​

浮世・綾華
探そう、お前の青空を

また、忘れたいとは思わない
あの頃、忘れてよかったとも思わない

例えば今ここにお前がいたならば
このラムネ瓶がある世界を
お前にも見せたかったと思う
新しいものを知るのが好きなやつだったから
きっと太陽の瞳を煌めかせ笑っただろう

愛しい子の藍白に
信頼するあいつのキトンブルー
見つけたガラス玉を手のひらに転がすケド
これはラムネ瓶に詰めるようなものじゃないと

そしてふと
涼しげな寒色は、いつも
優しい気持ちをくれることに気づき目を細める


――あ
(みつけた、お前の色)

記憶の中の空は
美化されているのかもしれない
それでも、許してくれるよな?

綺麗な色をつまんで、透かして
大好きな思い出として
からんと音を鳴らした




 まるで白昼夢のようだ。
 蜃気楼まで再現された真昼の浜辺を、浮世・綾華(千日紅・f01194)はそぞろ歩く。
 強化硝子の岸辺の向こうは、泡沫が浮かび弾ける不思議な宙海だ。綾華に近しい者の中には、我先にと窓辺へ走る者もいたかもしれない。
 いや、常の綾華ならば。賑やかな輪に溶け込むのも吝かではなかっただろう。
 しかし今日の綾華は、ぽつりと独り。涼し気な容貌を盛夏の熱に晒し、人工の砂浜に憂いた視線を走らせる。
 ――探そう、お前の青空を。
 目的は、ただひとつ。
(「また、忘れたいとは思わない」)
(「あの頃、忘れてよかったとも思わない」)
 疑似陽光に輝く砂の白に、記憶の欠片が汗のように滴り落ちて、綾華にしか捉えられぬ像を結ぶ。
 もしも『お前』がここに居たならば。綾華はこのラムネ瓶の如き風景を――この世界を見せる為に連れ立ち訪れた事だろう。新しいものを知るのが好きな『お前』は、眼前に広がる光景に太陽の瞳を煌めかせて笑ったに違いない。
 表情、声、仕草が、綾華のキャンバスだけで描き上げられ再生される。
 と、その真白の上に見つけた藍白とキトンブルーを、綾華はそっと拾い上げた。
 藍白は、『愛しい子』の色。
 キトンブルーは、『信頼するあいつ』の色。
 ころころと二つを手の平で綾華は転がし――しかしこれはラムネ瓶に詰めるようなものではないと、服の内へと仕舞いこむ。
 いずれも青だ。系統的には似た色だ。
 けれど、違う。
 求める『青空』とは違う。
 そこで、ふと。
 涼し気な寒色こそ、いつも優しい気持ちをくれることに綾華は気付く。
「――あ」
 ――ああ、そうか。
 細められた視線の端。不意の煌めきに、綾華の赤い双眸がゆっくりと焦点を定める。
 そうだ。この色だ。
(「みつけた、お前の色」)
 駆け出すでなく、ゆっくりとした足取りで唯一無二の青空の元へ向かった綾華は、腰を折ってそれを摘まみ上げると、再び背を伸ばしてラムネの海に透かす。
 記憶の中の空は、美化されているかもしれない。
 ――それでも、許してくれるよな?
 星灯をも映した綺麗な色に、綾華の胸裡に湧き立つのは『大好き』という思い出。それらをノスタルジックな気分誘う瓶に詰め込み、とっておきの青空で封をする。

 からん。
 響いた冷たく爽やかな音色は、いつか聞いたものか、それとも今の綾華のみが聞くものか。

大成功 🔵​🔵​🔵​

萬・バンジ
※アドリブその他オール歓迎

片手にラムネ瓶、肩に相棒
向かう先は昼エリア
ボクは夜のが好きやけど、コイツは昼のが好きやから

瓶に詰める思い出は夏の日のこと
相棒――サガラと一緒に、初めてUDCアースに来た日
クッソ暑いし、荷物は重いし、道に迷うし
やっと着いたクソ狭い物件バタバタ掃除して、ようやっと店らしくなって
ボクがやっとる古物屋の最初の日の、なんでもない記憶

封にするビー玉は青と黄色の混じったガラスのやつ
サガラの体の色や
……ロマンある祭りに参加できてよかったわ。なんやハズいけど。




 端的に言うと、萬・バンジ(萬万事・f21037)は夜が好きだ。
 人工的に区切られた昼と夜。時間の巡りを待つことなく、バンジは好む方を選ぶことができる――の、だが。
 額から滴り落ちた汗が目に沁みる。憶えのある茹だるような暑さの中、バンジはずり落ちかけている度の入っていないアンダーフレームの眼鏡を、ラムネ瓶の底で適当に押し上げた。
「はぁ……問答無用であっついなぁ」
 スペースシップの中なのだ。昼を再現するのは良いとしても、気温まで真夏に倣う必要はないのではないだろうか。
 思考までとりとめなく茹で上がらせたバンジが居るのは、盛夏の真昼。それもこれも、涼し気な青い羽根をバンジの肩で休める鳥型精霊――サガラの為。バンジの相棒にして生命線でもあるサガラは、夜より昼を好むのだ。
「サガラは暑くないんか?」
 僅かに首を捻って円らな瞳に問いかけると、小鳥はぱたりと羽搏きバンジへそよ風を送ってくれる。
 どうやらご機嫌らしい。
 ならば尚更、夜への移動は望めなくなって、バンジは人の輪を遠ざけた砂浜の片隅に適当に腰を下ろす。
 まぁ、暑いなら暑いで構わない。
 ラムネ瓶に詰め込みに来た思い出は、暑さに纏わる記憶なのだ。
 それはサガラと共に、初めてUDCアースを訪れた日のこと。
 酷く暑い日だった。バンジ風に言えば、クッソ暑い日だった。とっとと涼みたいのに、荷物は重いし、道には迷うし散々だった。
 やっとの思いで到着した新居は、決して広いとは言えない――バンジ曰く『クソ狭い』――物件で。休む間もなくバタバタと掃除に追われ、ようやく店らしくなったのは何時ごろの事だったろう。
「……なんや、ハズいわ」
 祭の浪漫に押し寄せてきた気恥ずかしさを、バンジはへらり笑うことで誤魔化して、汗と埃の匂いがまとわりつく、バンジが商う古物屋の最初の日の記憶――なんてことない、なんでもない記憶をラムネの瓶に詰め込んで、赤と黄色が混在する硝子玉で封をする。
 自身と同じ色をした記憶の守り人を見止めたサガラが、ほんのり赤くなったバンジの頬を労わるよう、涼やかな風をまた送った。

大成功 🔵​🔵​🔵​

ブラッド・ブラック
【森】夜
久しぶりの故郷(スペワ)に
いや、サンに出逢う迄は良い思い出等無かった
過去の記憶から意識を逸らし
何処か救いを求める様探すのはサンによく似た白い玉

――嗚呼、
見付けたのは優しく揺らめく遊色の、光る様な白い玉

現在の棲み処A&Wの大樹の森は、嘗て暗く呪われた黒い森だった
その森の中で見付けたのが、気を失い倒れていたサン
当時10歳程の姿だった

「俺にはお前が輝いて見えた」
見た目だけでは無く、こんな、醜い俺に笑いかけてくれたお前が
「……天使の様だった」
お前を護ろうと思った、何を犠牲にしてでも
俺にとってお前は何よりも価値のあるもの

愛おしく白い髪を撫でる
「お前は美しい」
誰にも渡したくないのだと、想いを秘めて


サン・ダイヤモンド
【森】夜

鯨、鯨、大きな鯨
ふふふ、仲間がいたんだね
彼の海国の箱船を想う

ブラッドはビー玉、見付かった?

(ブラッドの言葉を黙って聞いた
僕にはブラッドに出逢う以前の記憶が無いけれど

初めて目にしたあなたは震えているようだった
だから大丈夫だよって、笑った

あなたに救われて、いつもあなたを見詰めてた
ご飯を作るブラッド、言葉を教えてくれるブラッド
夜、どこかへ出掛けるブラッド、帰ってきたブラッド

ブラッド、ブラッド、ブラッド
僕の世界はあなたでいっぱい

過去の記憶は無いけれど
でも、僕を温かな愛で包んでくれたのはあなたが初めてだ、って
わかるよ)

彼に寄り添い
思い返す記憶はどれも花開くよう

僕のビー玉は、これ
甘く澄んだピンク色




 綺羅星たちのさざめきをラムネのように泡立つ宙海の向こうに眺めつつ、ブラッド・ブラック(VULTURE・f01805)とサン・ダイヤモンド(甘い夢・f01974)は夜の砂浜を歩幅を揃えて歩く。
「鯨、鯨、大きな鯨」
 不思議な海の国の箱舟を思い出しながら、仲間がいたんだねと囀るように笑うサンの足取りは踊るように軽やかだ。
「ブラッドはビー玉、見つかった?」
 その場でくるりとターンをしてブラッドと相対したサンは、じぃと漆黒の男の唯一の彩である瞳を覗き込む。
 注がれる朗らかさと無邪気さに、久しぶりの故郷であるスペースワールドの空気に意識を溶け込ませていたブラッドは、様々な思いを綯い交ぜにしてゆるりと首を横へ振る。
 探すビー玉は決まっている。
 サンによく似た白い珠だ。それ以外は、なにものも『思い出』を封じるのに相応しくないとブラッドは思う。
 何故ならブラッドには、サンに出逢うまでの間に『残してもよい』と感じられるような良い思い出など存在しない。いっそ意識を過去から逸らしたい程だ。
 だからブラッドが『思い出』と認められるものは、全てサンに紐づく。
 今の棲み処であるアックス&ウィザーズの大樹の森も、嘗ては暗く呪われた黒い森だった。
 そこでブラッドは見つけた――出逢ったのだ。
 今より遥かに幼い、10歳児程の姿をしたサンと。
 気を失い倒れていた子供は、まさに光。
「俺にはお前が輝いて見えた」
 ――とつりと呟いたブラッドの目に、優しい色が飛び込んで来たのは、おそらく運命。
 救いを求める心地に応えたそれは、優しく揺らめく遊色の。内から淡く光を放つような、白い珠。
 唐突に歩みの方向を変えたブラッドを、サンは雛鳥のように追いかける。そんなサンを、今にも壊れてしまいそうでありながら猟兵の力にも十分耐えうる白珠を拾い上げたブラッドが振り返る。
「そうだ。俺にはお前が輝いて見えたんだ」
 大事なことを念押すように繰り返すブラッドの言葉に、サンは静かに耳を傾けた。
 何を言おうとしているかは、よくわからない。けれどブラッドにとって、とても大事なことなのだろうことは、なんとなく理解できた。
「……天使の様だった」
 外見だけではなく、内側まで。酷く醜い己へ笑いかけてくれたサンを、ブラッドは確かにそう思ったのだ。同時に、この稀有なる宝を護ろうと思った。喩え如何なるものを犠牲にしてでも。
(「サン。お前は、俺にとって何よりも価値のあるもの」)
 きゅ、と。掌中の珠をブラッドは柔らかく握り締める。ブラッド以外には、ただのビー玉であろうそれも、彼にとっては真の意味で珠。代え難きもの。尊きもの。
「お前は美しい」
 成長を見守りながら。自由な羽搏きを妨げまいと思いながら。昏き深淵では誰にも渡したくないと望む気持ちを、懸命に秘したブラッドはサンの白い髪を愛おしく梳き撫でる。
 その手に身を任せ、サンはうっとりと目を細めた。
 サンの記憶は、ブラッドに出逢った瞬間から始まっている。
 ――初めて目にしたあなたは、震えているようだった。だから、大丈夫だよって、僕は笑ったんだ。
 サンはブラッドによって救われた。
 だからいつだってサンはブラッドを見つめていた。
 食事を作ってくれるブラッド、言葉を教えてくれるブラッド。夜、どこかへ出掛けてしまうブラッド。ちゃんと帰ってきてくれたブラッド。
(「ブラッド、ブラッド、ブラッド、ブラッド、ブラッド、ブラッド、ブラッド――」)
 何度呼んでも呼び足りない。それくらい、サンの世界はブラッドで埋め尽くされている。
 過去の記憶なんて、ない。
(「でも、僕を温かな愛で包んでくれたのは。あなたが初めてだ、って――わかるよ」)
 サンにはそれで十分。
 ブラッドに出逢い、ブラットと共に過ごした日々は、思い返すだけで花開くような記憶ばかり。
「ね、ブラッド」
 変わらず髪をなで続ける男へ、サンは握っていた拳を掲げてそっと開く。
「僕のビー玉は、これ」
 ころり転がる彩は、甘く澄んだピンク色。ブラッドの瞳の、色。

 ブラッドとサン。
 懐かしく思い起こす為のラムネの瓶に、詰める思い出があるかはわからない。
 だってまだ全てが現在進行形だから。
 ――二人の物語は、始まったばかり。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

リル・ルリ
■櫻宵/f02768
アドリブ歓迎


おまつり、ほらほらはやく!
らむねの海、綺麗
びーだまを拾って、らむね瓶に詰めるの?
砂浜に座って櫻とヨルとびーだまを探す
ねぇ櫻宵
僕にとって初めての夏だったんだ

ヨルに水着を着せて、穏やかな海から波のすごい海も行ったね
スイカ?斬りをして良い汗をかいた
可愛いアイスを食べて、いるかと泳いで
海の中も泳いだよ
他にもたくさん
暑くてキラキラした大輪の笑顔の向日葵が咲く楽しい時間だった
見つけた!淡い桜のびーだま
ヨルは青いの?海みたいだ
ふふ
ヨルは海が気にいったんだね
たくさんの思い出と一緒に封じ込めよう
らむねのアルバムだ

ありがとう、櫻宵
勿論!来年も
来年はもっと泳げるようになってるよね?


誘名・櫻宵
🌸リル/f10762
アドリブ歓迎


ラムネの中を泳いでるみたい
なんてロマンチックなのかしら!
こんなにはしゃいで可愛い子
リル
ビー玉を探して思い出と一緒に瓶につめるのよ
夢中でビー玉を探す人魚とペンギンに微笑むわ
どう?初めての夏は

そうね
海海プール海海水
色んな海をリルとヨルと楽しめたわ
スイカ美味しかったわね!
リルのナビゲートは修羅だったわ
泳げないなりに海中を歩いたり
あたしの知らない、1人じゃ絶対近寄らない夏の世界がそこにあったの
あたしは淡い空の色
キラキラ煌めく人魚の瞳
リルは暑いのが苦手だから心配だったけど…よかった
あたしの何よりの宝物はリルの笑顔よ

う、善処するわ…
来年はリルともっと泳いじゃうんだから!




「おまつり、ほらほらはやく、はやく!」
 今にも転がり出しそうな勢いで游ぐリル・ルリ(想愛アクアリウム・f10762)の手招きに、誘名・櫻宵(屠櫻・f02768)は甘やかに笑み溶ける。
「ちょっと待ってちょうだいな。ラムネの海は逃げないわよ?」
「だめだよ、櫻宵。とっておきの瞬間は、いつもあっという間なんだ。ね、ヨル」
 同意を求められたペンギンは、短い足で懸命にリルを追いかけながら、飛べない翼をばたつかせ、リルに倣って櫻宵を急かす。
 そうして踏み入ったバレーナ号の展望室。真昼が再現された眩しい砂浜の向こうにラムネの海を目にした途端、リルの瞳がくるりと煌めく。
「すごい、すごい。らむねの海、綺麗」
 初めて出会った、自分も知らない『海』にリルは頬を桜色に染め、月光ヴェールの尾鰭をひらひらと躍らせる。
「びーだまを拾って、らむねの瓶に詰めるんだよね?」
「そうよ。ビー玉を探して思い出と一緒に瓶に詰めるのよ」
(「ああ、もう! こんなにはしゃいじゃって、可愛い子!」)
 頭の上で天使がラッパを吹き鳴らしているような内心を櫻宵は表には出さず、「こんな風にね」と真っ白な砂浜に腰を下ろして、手近なビー玉を摘まみ上げてみせた。
 すると、リルの貌がぱぁと輝く。
「ありがとう、櫻宵。ヨルも探そう!」
 そこから先のリルは早かった。ぺたりと砂浜へ座り込んだかと思うと、ヨルを傍らへ引き寄せて、砂の表面をなぞったり、少し深めに掘ったり、場所を変えたり。
 すっかり夢中な人魚とペンギンの様子に、櫻宵の微笑は深まりを増し、角の桜も我先にと咲き綻ぶ。
 そんな櫻宵の視線を察してか、くるりとリルが振り返る。
「ねぇ櫻宵。この夏は僕にとって初めての夏だったんだ」
 知っているわ、と返さずに。暑さが苦手なのも分かっていたから心配だったの、とは思えど音は秘し。櫻宵は悪戯めかして首をことりと傾げた。
「そうね。どう? 初めての夏は」
 それは思い出をかき集める、魔法のスイッチ。押されたリルの中では、初めての夏の体験が、しゅわしゅわと泡立ち始める。
「ヨルに水着を着せて、穏やかな海から波のすごい海も行ったね」
「スイカ(?)斬りをして、良い汗もかいたよ」
「海の中も泳いだね」
 それからそれから、と一つ一つを指折り数えるリルに合わせて、櫻宵も『海海プール海海水』とカテゴリー分けするように唱えて声を上げて笑う。
 色んな海をリルとヨルと共に楽しめた。
 スイカだってとっても美味しかった。リルのナビゲートは修羅場だったけれど。
 泳げないなりに、海中を歩いたりもした!
(「あたしの知らない、1人じゃ絶対近寄らない夏の世界が、この夏にはあったわ」)
 全て、全て。リルが櫻宵にくれたもの。
 リルにとっての初めての夏は、櫻宵にとっても初めて尽くし。
「暑くてキラキラした大輪の笑顔の向日葵が咲く楽しい時間だった」
 だからリルの比喩に櫻宵も全力で頷く。
 素晴らしい夏だった。だからこそ、思い出を永遠に変えるビー玉は、とっておきが良い。そしてそのとっておきの色は、最初から決まっている。
「びーだま、見つけた! 見て、櫻宵」
 そう言って海に飛び込むみたいな勢いでリルが拾い上げたのは、淡い桜色のビー玉だった。
「あれ、ヨルは青いの? 海みたいだ」
 ほぼ同じタイミングでヨルも――もしかすると、リルに遠慮していたのかもしれない。何せヨルはとても優れたペンギンだから――青いビー玉をぱくりと嘴で咥えて拾う。
「ふふ、ヨルはよっぽど海が気にいったんだね」
 星屑まとう歓声を上げ、人魚とペンギンが手と翼をとりあってくるくる回り躍る。
「思い出、たくさん封じ込めよう。らむねのアルバムだ」
(「あああ、やっぱり可愛いわっ」)
 一つ一つの挙措に込み上げる愛おしさを、櫻宵はいつの間にか見つけておいた淡い空の色――キラキラ煌めく人魚の瞳にそっくりなビー玉に託す。
「あたしの何よりの宝物は、リルの笑顔よ」
 掲げた淡い空の色と、視線を合わせてくる二粒の宝玉とを、重ねて透かし見る櫻宵の言葉に、リルの笑顔はラムネの海の泡よりパチパチと、遠くの星々よりも鮮やかに耀く。
「ありがとう、櫻宵。来年はもっと泳げるようになってるよね?」
「!? う、ぜ、善処するわ……ら、来年はリルともっと泳いじゃうんだから!」
「もちろん! 来年もいっしょだ!」

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​




第2章 集団戦 『電幻の蝶』

POW   :    オプティカル・カモフラージュ
自身と自身の装備、【電幻の蝶が群れで覆っている】対象1体が透明になる。ただし解除するまで毎秒疲労する。物音や体温は消せない。
SPD   :    サブリミナル・パーセプション
【翅の光を激しく点滅させること】により、レベルの二乗mまでの視認している対象を、【幻覚を見せる催眠】で攻撃する。
WIZ   :    バタフライ・エフェクト
見えない【クラッキングウイルスの鱗粉】を放ち、遠距離の対象を攻撃する。遠隔地の物を掴んで動かしたり、精密に操作する事も可能。

イラスト:Jonau

👑7
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

種別『集団戦』のルール
 記載された敵が「沢山」出現します(厳密に何体いるかは、書く場合も書かない場合もあります)。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


●青い翅橋
「ねぇ、ママ。あれは、なぁに?」
 しゅわしゅわと泡立ち続けるラムネの海の異変に最初に気付いたのは、浜辺と海を隔てる窓にぺたりと張り付いた子供だった。
「すごいきれい。あおい、はねのはえたおほしさま?」
 宇宙に生まれ宇宙に育ったその子は、目にした青を正しく形容する言葉を持たなかった。
 なぜならそれは、蝶の形をしていたから。
 真空に近い宙だ。真実、蝶であるはずがない。春先の草原に、真夏の野山に羽搏く、華奢な生き物ではない。
 『人』の泳げぬラムネの海を自在に往くのは、機械仕掛けの蝶々。銀河帝国が残した、欠片のようなもの。

 ――でかい山がアイツらの先にいる気がするんだ。
 ラムネの海に訪れる度に祭を催す船乗りらしい浪漫に目を輝かせ、バレーナ号の全権を預かる老翁は呵々と笑い、猟兵たちへ『全ては撃ち堕としてくれるな』と茶目っ気たっぷりのウィンクを放った。
 機械蝶たちの動から推察するに、出くわしたのは偶然。飛蝗が如き大移動と、バレーナ号の航路が運悪く交わってしまったのだ。
 何処かを目指して飛ぶ蝶たちが今すぐにバレーナ号を襲ってくる様子はない。しかしそれが未来永劫続くとは限らない。危険性を重々しる船乗りたちは、万一に備えて蝶の数を減らすことを画策する。
「手伝ってもらえるなら、使ってもらえそうなものは幾つかあるわ」
 警備の長を担う女はまだ若かったが、凛と背筋を伸ばして猟兵たちをメインドックへ案内すると、船外活動時に使用する宇宙服を引っ張り出す。
 先の大戦でも目にした、超薄型の全身スーツだ。ただし脚部は尾鰭状になっている。
「耳の部分に脳波センサーがついてるの。思い描くだけで自由に動けるわ」
 言って指差した全身スーツの頭部にも、一組の鰭のようなものがついていた。どうやらこれが脳波を感知し、脚部の鰭の動きや推進力をコントロールするらしい。
「ドルフィン型の小型戦闘機もある。こっちも脳波センサーによるコントロールだから、好きに動かせるぜ!」
 中年のメカニックの男が、来いよと手招いた先には、イルカに酷似したフォルムの一人乗りの戦闘機がスタンバイを終えている。
「得物は振るえないが、あんたらが使う技みたいなのはちゃんと発動するから安心しろ」
「同じイメージ戦闘システムが船内にもある。船外に出たくないヤツは、コントロールルームへ案内する」
 真新しいラムネ瓶を胸から下げた青年が案内したのは、電子パネルが幾つも並ぶ銀色の部屋。眼前に展開するディスプレイに捕らえた『敵』を攻撃するイメージを思い描けば、電子パネルが思考を読み取り、その攻撃を現実に反映する――仕組みになっているらしい。

「せっかくのラムネの海だ。ガキたちも窓に張り付いてやがる。だからアンタらも楽しむ気持ちでやってくれ」
 それぞれの支度を整える猟兵たちの背へ、老翁は変わらず磊落に笑う。
 ただ殲滅するためだけに戦うのは、勿体ないと。
「これも浪漫だぜ?」

 青い蝶がラムネの海に橋を渡すように泳ぎ羽搏く。
 その先に何が待つかは、まだ知れない。
 碌なものかもしれない。純然たる脅威かもしれない。
 それでも楽しめと、浪漫を胸に抱けと、船乗りたちは言う。
 これもきっといつかの思い出になるものだから。
フィリア・セイアッド
傍らの子の呟きに ふふと小さく笑みを零して
本当ね 羽の生えたお星さまのよう
…なんて綺麗
戦わずにすむのなら できるだけそうしたい
きらきらした子どもたちの顔を曇らせたくないもの

「WIZ」を選択
薄型のスーツを貸してもらう
人魚姫になった気分と星の海をくるり舞って
セイレーンは歌で人を惑わすというけれど
私は宙を渡る鯨の道行を守れるように
船の進む道を開くよう 船前方にいる蝶たちに鈴蘭の嵐
祈りと闇を祓う破魔の力を込めて歌う
鱗粉は羽ばたきやオーラ防御で防ぐ
間違って船の方に粉が飛んではたいへん
方角には気をつけないと、ね
傷ついた仲間がいれば 春女神への賛歌で回復
船が安全に進めればそれでいい
道を開けてくださいな




 漆黒の宙に灯る機械的な青い光は、不思議と幻想的で。
(「本当ね、羽の生えたお星さまみたい」)
 ――いってらっしゃい、がんばってね!
 そう手を振って見送ってくれた子供の喩えを胸の内で反芻し、フィリア・セイアッド(白花の翼・f05316)は展望デッキから眺めた光景を瞼の奥で再生する。
 けれどそれは、記憶に仕舞いこまれるものではなく。
「……なんて綺麗」
 ゆっくりと開いたハッチの向こうに広がる『今』にフィリアは息を呑んだ。
 すぐに弾けてしまうシャボン玉みたいな泡と、鱗粉めいた光の軌跡を残す蝶の共演は、見惚れるほどの美しさ。
 ああ、確かにこれは。
 ただ『戦う』のは勿体ない。むしろ戦わずにすむなら、出来るだけそうしたい。
 子ども達のきらきらとした顔を曇らせない為にもと、柔い光で心を満たし、フィリアは透明な鰭で甲板を蹴って大海原へと泳ぎ出た。
 ひらり、ひらり。
 進みたい方向を思い描くだけで、耳部の鰭が小刻みに揺れ、その動きに呼応して尾鰭が優雅に、けれど力強く宇宙を掻く。
 まるで人魚姫になったようだ。
 少女なら誰しも一度は憧れるだろう夢の実現にフィリアは僅かに頬を染め、展望デッキに張り付く子供たちからもよく見えるようくるりと舞うと、大きな鯨の水先案を務める為に前へ進み往く。
(「セイレーンは歌で人を惑わすというけれど」)
 ぐんぐん近づいてくる青い光の群れを視界に収め、フィリアは呼吸と鼓動を整える。
(「私は宙を渡る鯨の道行を守れるように――」)
 間違っても、蝶たちの意識がバレーナ号へ向かないように。攻撃の欠片さえ届かないように。
 意識を研ぎ澄まし、フィリアは喉を震わせた。
 耳に届かぬ歌声に無数の鈴蘭の花びらが寄り添う。やがて花嵐となったそれは、追いついた機械蝶と暫し戯れ、青い残光へと変える。
「道を開けてくださいな」
 仮初の尾鰭で宇宙を翔け泳ぎながら、フィリアは見守る子らの目がますます輝くだろう美しい光景を作り征く。

大成功 🔵​🔵​🔵​

リュカ・エンキアンサス
オズお兄さん(f01136)と

ロマンね
そういうのが大事だってのは、一応知ってる
ん、尾ひれつけていくか
使ったことのない装備品だからしばらくは慎重に動作確認
お兄さんはいつも楽しそうだね
お兄さんのそういうとこ、好きだよ
……さて、行こうか

っていっても、俺は楽しませる系の技とかは持っていないんだよね
曲芸撃ちのひとつでも出来ればいいんだけれど…
とりあえずどんな体勢からも撃ち込んで、なるべく蝶の胴体とか、狙いづらそうなところを一発で落としてみたりする
後は早撃ちとか…そんな感じで
…まあ、そういうのは、オズお兄さんに、任せるよ
(若干気恥ずかしくなってきた)

うん、ロマンなってる。お兄さんの技は相変わらず夢がある


オズ・ケストナー
リュカ(f02586)と

ろまんっ
どちらも楽しそうだからうんと迷って選んだのは尾ひれ
わたしの友達はこんな風にいつもおよいでるのかな

わあ、リュカもおそろいだね
好きと言われたらうれしくて
わたしもリュカすきっ

ひらひらくるん
宙を泳ぐ
いこう、リュカっ

リュカすごいすごいっ
目を輝かせ拍手

うん?
ふふ、まかせてっ

ガジェットショータイム
出てきたのはわたしより大きなラムネ瓶
詰まっているのは色とりどりの石
ぽんと底を叩くと蝶めがけて飛んで
命中したら石がきらきら花火みたいにはじける

わあ、きれいっ

ラムネ瓶の口をぐいぐい押して
おもかじいっぱーい
また次の蝶に向けて石を
はっしゃーっ

これってろまんになってる?
よーし、どんどんいこうっ




 ろまんっ、ろまん♪
 今にも踊りだしそうなリズムをつけて口遊むオズ・ケストナー(Ein Kinderspiel・f01136)の即興の歌を耳に、リュカ・エンキアンサス(蒼炎の・f02586)は特殊な宇宙スーツをまじまじと見分する。
 イルカ戦闘機に、尾鰭のスーツ。
 どちらも夢いっぱいの浪漫だらけ。はてさてどちらにするべきかと悩ましい選択にオズは暫し頭を悩ませて――その間リュカは「お兄さんの好きな方でいいよ」の姿勢を崩さず――、決め手となったのは脳裏を泳いだ友人の姿。
 ひらりゆらめく尾鰭はいつだって心地よさそうで、地上をも海へと変えるよう。
 思い出してしまえば、居てもたってもいられず。
『こちらで!』
 春爛漫の笑顔に向日葵の耀きをトッピングしてオズはスーツを借り受けて。倣って借り受け、初めての装備だからと動作確認に余念のないリュカを横目に、今度は装着するのに右往左往。
 右手と左手を逆にしたかと思えば、胴を覆う部分の前に尾鰭に足を通してしまったり。身形を整えるのもひと騒動。でも、それさえもオズにとっては物事を楽しむスパイス。ただ当たり前に、物事を熟してしまっては勿体ない!
「リュカ、リュカ。ろまんだねっ。おそろいだね」
 岸に打ち上げられたジュゴンみたいになりつつも声を弾ませるオズへ、器用に仕度を終えたリュカはふっと相好を崩した。
「お兄さんはいつも楽しそうだね」
 皮肉ではなく、心からの賛辞。いつでもどこでも楽しみを見出せるオズは、『楽しむ』ことの天才だ。
「お兄さんのそういうとこ、好きだよ」
「わたしも、リュカすきっ」
 飾らぬ言葉と、猫のように細まった目と。リュカから贈られた好意を余さず受け取ったオズは、今日一番に語尾を跳ね上げ、序にようやく尾鰭で宙を掻く。
 ひらひら、くるん。
 ハッチ開放に合わせ重力の切られた空間を、オズは器用に泳ぐ。
(「わたしの友達はこんな風にいつもおよいでるのかな」)
 すごい、たのしい。ものすごく、たのしい。
 もっと広い世界なら、ずっとずっと――。
「……さて、行こうか」
「うん、いこう。リュカっ」
 ラムネの海に繋がるハッチ扉は、鯨の口。海に漂うプランクトンを丸呑みするみたいに大きく開いたそこから、オズとリュカは転がる鞠のようにまろび出る。

 機械蝶の群れの中を器用に泳ぎながら、リュカは幾度も身を捻り、その度に愛用の改造アサルトライフルに火を吹かせる。
 積極的に狙うのは、翅と胴の継ぎ目。次はセンサーになっていそうな触覚の先端。
 遠目に眺めていれば、青い星の海を黒い流星が過った途端、ぱらぱらと青い光が砕け散ったように見えるだろう。
 生憎とリュカには余人の目を楽しませるような攻撃手段はない。ならばせめて曲芸撃ちの代わりにと、リュカは尾鰭をひらめかせて銃を繰る。
 極めつけは、宙返りからの早撃ち。
 慣性の法則に抗い機械蝶の鼻先で翻り、正対するより早く瞬く間の刹那に触覚を、二枚の翅を、胴を撃ち抜き青い爆発を巻き起こした。
 ――けれど。
「リュカすごいすごいっ」
 オズの無垢な賞賛を浴びて、兆してしまう理性。込み上げてきた若干の気恥ずかしさにリュカは目線を泳がせると、
「……まあ、そういうのは、オズお兄さんに、任せるよ」
 次なる浪漫をオズに託し。任されたリュカはますます張り切り、機械蝶の群れからぴょんっと泳ぎ出た――途端に、腕を高く掲げてガジェットショータイム!
 召喚されたのは、オズより巨大なラムネ瓶。中に詰まった色とりどりのビー玉もどきは、オズがぽこんと瓶底を叩く度に機械蝶をめがけて飛んで行く。
 赤い玉は、赤い花火に。
 黄の玉は、黄の花火に。
 翠は翠、紫は紫、白が白。
「みて、リュカ! きれいだよ! これってろまんになってる?」
 機械蝶を巻き込み爆ぜる光にオズは瞳を煌めかせ、リュカは「うん、ロマンになってる」と大きく頷く。
「お兄さんの技は相変わらず夢がある」
「そうかな? よーし、どんどんいこうっ」
 おもかじいっぱい。向かう先は、浪漫の彼方。
 ラムネ瓶の口をぐいぐい押し、次なる機械蝶へオズは狙いを定める。
「はっしゃーっ」

 きらきら、きらきら。
 ラムネの海に咲く虹色の光に、展望デッキから見守る人々の口からは快哉があがっていた。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

ジャハル・アルムリフ
つまりお引き取り願えば良いわけか
イルカ型のセントウキ…
ふむ、ならば彼らに倣うとしよう

参るぞ、海豚号

【竜追】を発動
今の戦意ならば精々突風程度であろう
故に――全力で
蝶の群れへと向け弧を描きながらの突撃
強烈な風でもって航路の外へと次々に吹き飛ばす

悪いが道を空けてもらうぞ
光の尾ひいて明後日へ飛び行く蝶らが
子供らの目に箒星と見えてくれまいか

本物の海で見たイルカ達の戯れを思い出しながら
次は…跳ね、回り、潜る
上下左右を舞う蝶が相手なら立体移動は欠かせまい

…うむ、中々に爽快だ
イルカとなって泡の海を泳ぎ、蝶を蹴散らすなど
そうそう味わえるものではあるまいよ

さあ仕上げだ
渦巻かせるは泡と風、思い切り跳んでみせよ




 郷に入っては郷に従え、という言葉がある。
 此処は空ではなく宙。ならば相応の戦い方があるというもの。
「つまりお引き取り願えば良いわけか」
 作戦の概要を聞き終えたジャハル・アルムリフ(凶星・f00995)は、示された選択肢の中から、この場において自分に最も相応であると思うものの前に立つ。
 ――イルカは、知っている。
 しかし、セントウキとやらはよくわからない。
 だが、流線型のフォルムが美しい黒い人造物を、ジャハルの七彩宿す眸はいつもより無垢な光を湛えて映す。喩えるならば、格好の良い玩具を与えられた子供の如く。
「参るぞ、海豚号」
 然して片角に星戴く偉丈夫は、ひらりと小型戦闘機のコックピットに収まると、目にも留まらぬ速さで漆黒の大海原へ飛び出して征く。

 己が翼で翔けているようだ。
 前面に展開されたディスプレイは、一切の隔たりを感じさせず360度の大パノラマをジャハルに見せてくれるし。行く先も速度もジャハルの心ひとつ。手足を自然に動かせるのと同じに、宙をジャハルのものにする。
 その自由を謳歌するように、ジャハルは短く唱えた。
「覚悟は良いか」
 途端、有り得ない『風』が海豚号を包み込む。ジャハルの闘志に応じた強さと飛翔能力を齎すそれは、時に天地を揺るがす嵐にさえなるが、今日は控えめに――つまりジャハルが機械蝶を真実『脅威』と認識していない――突風程度。
 故にこそ竜の武人は心置きなく全力で、海豚号と共にラムネの海を――跳ねた。
「悪いが道を空けてもらうぞ」
 跳ねて加速したイルカは錐揉み回転しながら機械蝶の群れに追いつき、そのままバレーナ号の航路の延長線上を突き進む。
 放たれる風に、機械蝶が薙ぎ払われる。また一機、また一機。旋毛風に巻かれた蝶のように、青い光が明後日の方向へ飛んで行く。それは展望室の子らの目からは、箒星が青い光の尾を引き宙を翔けているように見えただろう。
 わぁ、と上がる歓声が聞こえた気がして、ジャハルは満更でもない笑みを口元に描く。
「――だが、まだまだだ。お前はこんなものではないだろう、海豚号!」
 潮香が鼻腔を擽る海で見た本物のイルカたちの所作を、ジャハルは戯れに脳裏に思い起こして、海豚号を飛び石が如く連続で跳ねさせ、次は回転しながらジャンプし、青い光の飛沫をまきちらしながら蝶の群れの奥深くへ潜る。
 必然的に海豚号内に居るジャハルにも相応の負荷がかかるが、此の夏に鍛えられるだけ鍛えられた男の三半規管はびくともしない!
「……うむ、中々に爽快だ」
 イルカになってラムネの海を自在に泳ぎ、さらには迷惑な機械蝶まで蹴散らせるなど、そうそう体験できるものではない。
 また一つ、花丸をつけたくなる夏の思い出を胸に刻み、ジャハルは暫しの相棒に呼びかけた。
「さあ仕上げといくぞ。思い切り跳んでみせよ」
 言うが早いか、水底じみた青の中から海豚号は急速浮上を始める。
 風と泡が渦を巻く。沸き立つ竜巻に、統率を失った機械蝶たちは四方八方へ乱れ飛んでいった。

大成功 🔵​🔵​🔵​

ブラッド・ブラック
【森】
蝶の先へ険しい視線を送る
サンに引かれコントロールルームへ向かうも
「外に出なくて良かったのか?」

宇宙服も戦闘機もサンが好みそうなものだったが
お前がそう言うのなら……思わず綻んでしまう(雰囲気)
気を遣わせてしまったか

「全部撃ち堕としては駄目だぞ」
道案内して貰わねば

イメージか、今一勝手が分らんな
伸ばし、巨大化させた腕を、船に生やすイメージで、『薙ぎ払う』


蝶の点滅、遠くから声が聞こえる
過去の、同胞達の、
助けを求める声
力無き者への怨嗟の声
耳を劈く、絶叫

ふと感じた熱に目を醒ます

嗚呼、そうだ
俺達は今此処に居る

赦してくれとは言わないが
せめてと同胞の安らかな眠りを願う

サンと力を合わせ寄ってきた蝶を叩き潰す


サン・ダイヤモンド
【森】
ブラッドの様子が気になって
連れ立って行くのは船内のコントロールルーム

へへへ、だってブラッドと一緒がいいんだもん
それにここもとっても不思議だよ!
イメージ…イメージ…、あれ?いつもと同じかも
なんだかできそうな気がしてきた!

「光」の「渦」
1体ずつ宙に花咲くような渦に巻き込み消していく

見えない攻撃には驚いて
船ごとオーラ防御の無敵バリア!

ブラッドの様子がおかしい
ねえ、ブラッド、ねえ
こっちを向いて、僕を見て
怖くないよ、僕がいるよって、手を繋ぐ

ブラッド、合体技、しよ!
ブラッドの腕に光の渦を纏わせパワーUP

渦が散る時はキラキラと美しく

宙を泳ぐ尾鰭も戦闘機も素敵だけれど
今も、この先も
僕はあなたといたいんだ




 かつん、かつん、かつ、かつ、かつん。
 銀色の床にサン・ダイヤモンド(甘い夢・f01974)の足の爪が軽やかに鳴る。
 向かう先は、人魚の尾鰭やイルカの戦闘機でラムネの海に繰り出すハッチではなく、空気がピンと張り詰めたコントロールルーム。
 サンならば、一風変わった宇宙服へも、戦闘機にも興味津々だろうに――と、ぴこぴこと翼のような兎耳を上下に揺らす後姿を半歩遅れて追いながら、ブラッド・ブラック(VULTURE・f01805)はそろりと息を吐き出す。
「外に出なくて良かったのか?」
 問い掛けは、重く足元へと沈んでいった。
 けれどくるりと振り返るサンの笑顔は、常と変わらず眩しく輝く。
「へへへ、だってブラッドと一緒がいいんだもん」
 躊躇いも、一切の含みも無く。そして惜しみなく、サンの想いはブラッドへと降り注ぐ。
 とても心地よいもので全身を包まれるような感覚に、思わずの体で厳つい黒がやんわりと解けかける。気を遣わせてしまったことは申し訳ない。だが闇を溶かして詰め込んだような『胸』が、不可思議なくすぐったさを訴えているような気も――する。
「……お前がそういうのなら」
「それにね、ここもとっても不思議だよ!」
 薄青に鮮烈な赤、そして黄に緑。様々な色の電子パネルが規則正しく浮かぶ部屋に、二人は足を踏み入れた。
 イメージ、イメージと繰り返し唱えていたサンが、「あれ? いつもと同じかも」と小首を傾げ、「なんだかできそうな気がしてきた!」と声を弾ませたところまでは、ブラッドも憶えている。
 その次は、「全部撃ち堕としては駄目だぞ」と作戦の肝を言って聞かせた。
 勿論サンは「うん!」と元気の良い応えを寄越してきて。それにまた、戦いを前にしているにも関わらずブラッドの心は穏やかに凪いだ――はずだったのに。

 巨大化した己の手が、儚い蝶を無残に握り潰す。
 難を逃れた蝶が、仲間へ危険を知らせるように激しく明滅を繰り返す。
 その不規則で冷たい青の向こうから、聴こえる声があった。
 助けてくれと呻いている。
 こんな死に方は嫌だと、嘆いている。
 踏みにじられた力無き者たちの怨嗟の声が、ぐるぐると渦を巻く。やがてそれは耳を劈く絶叫となり――……。

「ブラッド、ねえブラッド。ブラッド!」
 ブラッドの異変に気付いたサンは、すぐさま傍らの男の名を呼んだ。けれども膨らませたイメージから過ぎ去りし幻影に囚われたブラッドの意識はすぐには浮上せず。だから心のざわつきのままに、サンはブラッドの手を握り締めた。
 ブラッドの目に何が視得ているのか、サンには分からない。だってサンの目には、ラムネの海へと泳ぎ出していった仲間が美しく散らす青い光が映っているだけ。まだ何も怖いことなんて起きていない。
 ――ブラッド、ねえブラッド。こっちを向いて、僕を見て。
 祈る想いで、サンは握る手に力を込めた。
 ――怖くないよ、僕がいるよ。だから、ねえ。ブラッド!
「……サン?」
 知らず溺れかけていた過去の海から掬い上げられたブラッドの瞳が、内側から仄かな光を発するように柔らかく瞬き、サンに焦点を合わせる。
 覚醒を導いた熱は、繋いだ手から伝わったもの。確かめるようにやんわりと握り返された手にサンは安堵と歓喜に胸を華やげ、そのままブラッドの心を攫う。
「ブラッド、合体技、しよ!」
 もう『何か』にブラッドを連れていかせなんかしない。
「合体技?」
「そう! ブラッドの腕に、僕が光をまとわせるよ」
 ――宙を泳ぐ尾鰭も戦闘機も素敵だけれど。
 ――今も、この先も。
 ――僕はあなたといたいんだ。
 走る鼓動に身を委ねサンはイメージを膨らませる。
 あなたと僕で、ひとつのことを。『今』『此処』で。
(「嗚呼、そうだ」)
 思考までをも電気信号に変換されたのだろうか? どうしてだか感じ取れたサンの想いに、ブラッドは絡みついて来る余韻の尾を、心の腕で引き千切る。
(「俺達は今、此処に居る」)
 赦してくれとは言わない。
 代わりに、『せめて』と同胞の安らかな眠りを願い。
 ブラッドは群れからはぐれて近づいてきた機械蝶へ、イメージの腕を伸ばし。その腕へサンが光の渦を纏わせる。
 ラムネの海を光を棚引かせた漆黒の腕が掻き分けた。
 巨大な拳は、鯨の鼻先に迫っていた青い蝶を宇宙の彼方へと吹き飛ばす。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

リル・ルリ
■櫻宵/f02768

宇宙の蝶々を追いかけるんだ
ふふ、櫻
似合うじゃない、尾鰭
可愛いよ
君は尾鰭が欲しいといっていたけど――ほら、今はお揃い
嬉しいな

尾鰭の動かし方はこうだよ!
ラムネの海を游ぐように櫻を誘う
泡の代わりに桜舞う光景はなんて綺麗
わかってる、櫻こそ蝶に惑わされないでよね
見えない蝶も惑わす蝶も皆、蕩けさせてあげる
歌唱に添える誘惑は夢の入口
浮かす水泡は櫻守るオーラ防御
歌う「抱擁の歌」
ラムネの海に、泡浮かべその中に蝶を吸い込んでいく
僕の櫻には近寄ったらダメ

櫻宵!泳ぐの上手
綺麗な剣舞に瞳細め
逸れぬよう手を繋ぐ

まさか人魚の君と泳げるなんて
夢にも見なかった夢が叶った
奇跡みたいな夏の想い出

壊させないよ
絶対


誘名・櫻宵
🌸リル/f10762

宙のマーメイドとはあたしの事よ!
なんて
リルと同じ尾鰭になれるなんて嬉しいわ
はしゃぐリルも愛しくて可愛くて
ええ
教えて泳ぎ方
人魚が誘うラムネの海へ

敵がいるわ、気をつけて
言いつつ躍る胸の内
月光ベールの尾鰭を追いかけて、成程
宙なら泳げるの!
リルの歌にあわせて舞うように宙游ぐ
リルの水泡があたしを守るから
あたしの桜吹雪……誘惑こめたオーラ防御であなたを守る
蝶をなぎ払い衝撃波で撃ち落とすわね
見切りで躱しながら泳ぎ綺麗に斬って散らしてあげる
「散華」で蝶斬り、海の泡へ

どう?あたしもなかなか上手に泳げるようになったでしょ!
尾鰭、リルの気持ちがわかって幸せ
なんて素敵な夏でしょう!

守ってみせるわ




 ――游ぎたい。
 そう思っただけでひらりとそよいだ尾鰭に、誘名・櫻宵(屠櫻・f02768)は「まぁ!」と花のかんばせを綻ばせた。
 ほぼ無重力となったハッチ内。進みたい方向を意識するだけで、地上を歩く自然さで尾鰭は櫻宵を游がせてくれる。
「宙のマーメイドとはあたしのことよ!」
 調子づいた櫻宵は、中空でくるりと一回転。けれどそんな櫻宵より、リル・ルリ(想愛アクアリウム・f10762)の方が櫻宵の尾鰭に夢中。
「櫻、似合うじゃない」
 ふふふと微笑み、「うん、可愛いよ」と櫻宵の游ぐ様を逐一賞賛し。「君は尾鰭が欲しいといっていたけど――ほら、今はお揃い」と並んで游いでは月光ヴェールの尾鰭をひらひら。
「嬉しいな、櫻」
「ええ、あたしもリルと同じ尾鰭になれて嬉しいわ」
 ――さぁ行こう。
 宙へと繋がった鯨の口へ導いてくれるリルを、櫻宵は愛おしさが溢れ出た視線で見つめ返すと、伸べられた手に己が手を重ねる。
「上手な游ぎ方、教えてちょうだいね。あたしの人魚さん」
「任せて、僕の人魚姫」

 繋いでいた手を暫し解き、二人の人魚がラムネの海を游ぐ。
 一瞬前まで何もなかった場所に、不意に泡が生まれて、膨らんで。そしてパチンと弾ける。リルが落とした遊色の光と、櫻宵が残した桜の花弁と。それらと泡が合わさる光景は、儚く美しい。そこに機械蝶の青の軌跡が加わるのだ。幻想の世界に紛れ込んだと錯覚するのもやむなし――な、はずなのだが。
「敵がいるわ、気をつけて」
「わかってる、櫻こそ蝶に惑わされないでよね」
 同じ画角に収まる当の二人の心は、現実にこそ昂り躍る。
「――蕩けさせてあげる」
 櫻宵を先導して尾鰭をしならせていたリルが、まずは呼吸を整えた。胸に手を押し当てて、心に想いを充填する。
「おやすみ、君よ。君が瞳を閉じるまで、歌って抱いて蕩かして、ゆらりとろり夢の浮舟」
 銀の刺繍糸が白絹の上に繊細な紋様を縫い取っていくように、リルの歌声が漆黒の宙海へ響き渡ってゆく。
「抱く腕は君の海――ほらね、もう怖くない」
 心を癒し、警戒心を解く旋律は、正しく揺籃歌。ラムネの海に生まれては消える泡とは違う大きな泡は、機械蝶を閉じ込めあやす。されど泡の内は命を溶かす酸の海。
「あとは任せて頂戴!」
 標としていた柔らかな月光を追い越し、櫻宵は腰に佩いた太刀に手をかける。
 具に眺めたリルの尾鰭の動きを再現すれば、ぐんっと加速した。泡に囚われた機械蝶は瞬く間に目の前に迫る。
 泳ぎが不得手な櫻宵も、宙ならリルと肩を並べて游ぐことさえ出来そうだ。そしてそんなリルの泡が護ってくれているから、今の櫻宵に恐れるものなど何一つない。
 ――いや、たった一つ。ないわけではない。それは王子様の愛を失った憐れな人魚姫になってしまうこと。
 されどそんな懸念は抱く必要さえない。
「舞い散る桜の如く美しく。さぁ、お退きなさい!」
 刃を鞘より解き放つ。剣閃は一瞬。不可視の斬撃が宙を翔け、囚われた機械蝶を『存在』ごと断ち切る。
 余韻に舞い散る桜吹雪は、櫻宵の心の形。リルを守る盾になろうと、ひらひらと泡の海に薄く広がる。
「どう? あたしもなかなか上手に泳げるようになったでしょ!」
 得意げに振り返った櫻宵の元へ、今度はリルが追いつき、また手を繋ぐ。この寄る辺なき広い空間で迷子になってしまうことがないように。
「まさか人魚の君と游げるなんて、夢にも見なかった夢が叶った」
 甘やかなリルの笑顔へ、櫻宵は満開の笑みを返して、ふふりと首肯する。
 ――仮初とは言え、尾鰭で宙をゆくリルの気持ちが分かる幸せを味わえるなんて。
「なんて素敵な夏でしょう!」
 必ず守りましょ、と次の機械蝶を見定める櫻宵の視線にリルは眼差しを添わせ、新たな歌の為に身体を『想い』で満たす。
 嗚呼、奇跡みたいな夏の想い出。
 壊させなどしない、絶対に。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

カーティス・コールリッジ
Stingrayに乗り込みあぶくの海に飛び出した
ひとたび宙に泳ぎ出れば
そこはもう、おれのよく知るせかいだ

被験体XX、目標を補足しました
さあ、『あおいろ』を奏でよう!

機体を踊らせ空中戦に持ち込む
幾つも奔らせるドローンのあおいランプで誘き寄せ
近付いてきた蝶をクイックドロウで撃ち抜いていこう

熱線の軌跡、弾けた蝶の燐光
刹那のひかりは、あぶくにも似た

蝶の幻惑に視界が白むけれど
不意に、目線がスクリーン越しに船を捉えた
自分と同じくらいの子どもと、目があった気がして

……そう、そうだ!

舵を握る手に力が入る
旋回する蒼銀
どこまでも、どこまでも、早く泳げる

だって、
――おれは、みんなをまもるために生まれてきたんだから!




 カーティス・コールリッジ(CC・f00455)には宇宙スーツもイルカ型の戦闘機も必要ない。
 ハッチが開放されるや否や、宇宙生まれの子供は愛機である蒼銀の高速戦闘機で宙へ飛び出す。
 ラムネの海では、不可思議な泡が生まれては消えていく。けれども泳ぎ始めてしまえば、そこはもうカーティスがよく知った世界。
 上も下も右も左もないけれど、カーティスは誰より早く翔けることができる。
 何処かへ羽搏く機械蝶の群れに追いつくのに、労はない。
『被験体XX、目標を補足しました』
 視認、情報照合。定められた句を諳んじて、カーティスは己が心に宣誓する。
「さあ、『あおいろ』を奏でよう!」
 デブリの合間を縫うように機械蝶の狭間を翔けて、点した青いランプで気を誘う。
 一機、二機、三機。罠にかかったそれらを暫し引き連れ、機体を反転。正面に向い合った直後に、ブラスターを撃ち放つ。
 熱線の延長線上で、青い光が弾けた。あぶくにも似る刹那の燐光は、瞬く間に漆黒の宙に呑まれて消える。
 同胞の爆散に、幾体かの機械蝶が翅の光を激しく点滅させた。
 ちかちか、ちかちか。幻惑を誘う瞬きに、カーティスの視界が白む。しかし展開したスクリーンにバレーナ号が映った途端、青い瞳に力が戻る。
(「いま、目があった?」)
 展望室の窓にはりつく、自分と同じ年頃の子供と目が合った気がした。距離からして、おそらく『本当』ではない。だが心は理屈など簡単に飛び越える。
「……そう、そうだ!」
 舵を握る手に、力が入った。
 強引に引き倒すと、物理法則を超えた速度で蒼銀の機体が宙を泳ぐ。
 ――全部は、倒してはいけない。
 ――みんなを怯えさせない為に。
 ――次なる浪漫を求める老翁の、期待に応える為に。
 それに、なにより。
「――おれは、みんなをまもるために生まれてきたんだから!」

 疾く、疾く、疾く。
 どこまでも疾く宙の子供はラムネの海を泳ぎ翔ける。
 その軌跡を、バレーナ号の子供たちは食い入るようにみつめていた。

大成功 🔵​🔵​🔵​

境・花世
手のひらから零したビー玉の代わりに
青い宙を泳ぐための鰭を掴んで
ひらり、ゆらり、人魚のまねごと

自由に泳げる感覚に目をかがやかせて、
尾鰭の一振りですいすいと蝶の狭間
その羽搏きと同じ速度でゆったりまぎれて

花など咲くはずもない宙の海
けれど蝶が飛ぶなら花もあるべきだ、と
扇をあざやかにひらめかせたなら
鱗粉は生まれる波で吹き飛ばして、
機械翅は流れる花びらで狂わせよう

砕けた欠片が星のように光るから
飽きもせずに蝶と戯れ泳いで
透明な窓の向こうに無邪気な眸があれば
挨拶代わりに尾鰭を揺らして笑い

泡沫になって消えてしまうよりも
海を護って戦うかっこいい人魚のおはなし
――そんな宇宙のお伽噺を、えがこうか




 名残惜しむ暇などないのだとでも言うように、境・花世(*葬・f11024)はぱちぱちと瞬かせた左の瞳に、好奇心の灯を点す。
 摘まみ転がしたビー玉の感触は、既に彼女の手になく。貸し出されたスーツを装着するのに余念がない。
 身支度を整え終わると、何とはなしに尾鰭をひらり、ゆらり。
 透明な尾鰭は花世の脚を透かしはするけれど、いつもとは違う感覚に天真爛漫な女は――笑った。
「さぁ、征こうか!」
 ラムネの海へと繋がる鯨の口が開くと、花世は海より自由に宙海を泳ぎ出す。
 たったの一掻きで、ぐんと青い光に近づく。次は意識して、尾鰭を強く打つ。得た加速に花世は、あっという間に機械蝶の群れの中。
 すぐさま襲い掛かってこないのは、紛れ込んだ虫ならぬ人魚に興味がないからか、はたまた先を急いでいるからか。
 けれども花世は無視を許さず、わざとらしく唇を尖らせ、それから口の端をにかりと釣り上げた。
 蝶とは花に寄るもの。
 しかし宙の海には花など咲くはずもない――などといったい誰が決めた?
「蝶が飛ぶなら、花もあるべき。違うとは、言わせない」
 悪戯めかして尾鰭と語尾を躍らせ、花世は右目に咲く花を映したかの如き扇をひらりと一閃。そして、くるりとそよがせる。
 解かれた質量が、薄紅の花びらへと姿を変えて、泡が生まれて消える海に溢れた。
 ひらめきが作り出した波が、青い光を攫ってゆく。
 行方定まらなくなった羽搏きを、更に花の嵐が狂わせる。
 コントロールを失った機械蝶同士がぶつかり、爆ぜた。砕けた光は、まるで星の欠片のよう。
 ――左様なら。
 ――春は散るから。
 『でかい山』とやらへの水先案内を頼む為にも、間引く数には注意しつつ。花世は飽くことなく蝶と戯れ泳ぎ、一時の春を宙に咲かせて青光を散らす。時に気紛れにバレーナ号へ泳ぎ戻り、窓に張り付く子らへ挨拶代わりに尾鰭を揺らし。
 子供らしい甲高い笑い声が聞こえた気がして、花世も朗らかな笑み花を咲かす。
 人魚姫を模倣したかの如き仮初の尾鰭。
 でも泡沫になって消えてしまうより、海を護って戦うかっこいい人魚になるのも悪くない。むしろ、そんなおはなしこそが花世には似合い?
 くるり、ひらり。
 ひらり、ゆらり。
 游ぎ泳いで、花世は新たお伽噺を、宇宙にえがく。

大成功 🔵​🔵​🔵​




第3章 ボス戦 『『彷徨する災厄』メルビレイ』

POW   :    星覆う巨躯
【満たされる事のない飢餓感】を代償に自身の装備武器の封印を解いて【宇宙船や星をも飲み込む超弩級の巨体】に変化させ、殺傷力を増す。
SPD   :    星砕く巨躯
【満たされる事のない飢餓感の暴走】により、レベルの二乗mまでの視認している対象を、【防御ごと粉砕する超弩級のヒレ】で攻撃する。
WIZ   :    星呑む巨躯
【超弩級の存在への戦慄】の感情を与える事に成功した対象に、召喚した【星をも飲み込む巨大な口】から、高命中力の【宇宙船をも捉える巨大な舌】を飛ばす。

イラスト:イガラ

👑7
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

種別『ボス戦』のルール
 記載された敵が「1体」出現します。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※このボスの宿敵主は黒玻璃・ミコです。ボスは殺してもシナリオ終了後に蘇る可能性がありますが、宿敵主がボス戦に参加したかつシナリオが成功すると、とどめを刺す事ができます。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


●宇宙クジラとラムネの海
 ラムネの海で、二頭の鯨が邂逅を果たしていた。
 一頭は、バレーナ号。
 もう一頭は、暗き宇宙になってなお際立つ闇の塊。バレーナ号をも凌ぐ体躯の鯨――宇宙船乗りに伝わる星呑みの巨獣『メルビレイ』。
 星をも砕くと言われるメルビレイが開けた口に、宙海を渡ってきた機械蝶たちが次々に吸い込まれてゆく。
 やがて漆黒の体躯を青い燐光に包まれたメルビレイは、閉じていた瞼をゆっくりと押し上げる。
 ――ヴン。
 するはずのない音を、メルビレイと対峙した者たちは視た気がした。
 それほどに、虚ろな眼窩に灯った紫は、鮮やかだった。

 ありったけのシールドを展開し、隔壁という隔壁を閉じて第一級の警戒態勢に移行したバレーナ号のメインブリッジは、快哉に湧いていた。
「おいおいおいおい、浪漫を追いかけてきたら案の定!」
 危機的状況にも関わらず、船乗りたちの眼は、ラムネの海に異様を見つめ、幼子のように煌く。
「宙海に繰り出したんなら。一度は逢ってみたいもんだよなぁ!!」
 白い歯を覗かせた老翁が、キャプテンマントを翻して豪快に笑う。
「外のお客人らはそのまんま戦ってくれるとありがたい。コントロールルームの客人もそのまんまでいい。もし得物をとっかえたいってんなら、大急ぎで対応する。人魚なんてまだるっこしいってヤツには、普通の宇宙スーツも貸し出すぜ」
 バレーナ号の内と外へ、すっかり艦長の顔になった老翁の声が高らかに響く。
 援護は任せろ、と。
 猟兵たちは好きなようにやってくれたらそれでいい、と。
「いくぜ、野郎ども! 祭の総仕上げと行こうじゃないか!」

 去りゆく季節に、地上では最後のセミが鳴いている。
 込み上げる惜別の情に、心は憂く。
 だが今、この瞬間。
 このラムネの海を泳いでいるならば。
 胸躍らせて、夏を終わらせに往こう。
 幻想的なラムネの海に特大の花火を打ち上げるのだ。
オズ・ケストナー
リュカ(f02586)と

リュカ
二頭のくじらのご対面に、思わず声をかけ
海のくじらはまだ目にしたことがないけれど
星の海でくじらに会うのは初めてじゃない
それでも、二頭揃ったなら

…すごい

どちらもおおきな
でも片方は守るべき、片方は還すべきくじら

押して持ってきたラムネ瓶の砲台を向けて
艦長さんの期待にこたえるよ
ろまんはまだつづくんだものっ

こちらを見たなら
斧に替えぐんぐん泳いで
頭の方へ
自分の頭にむけて攻撃はしないはずだもの
リュカがいっしょにきてくれたから
近くから狙うのかな?とにこにこ
ちかくにいるとこころ強いもの

リュカが攻撃したあたりを狙って
斧をつきたてる
むこうのくじらはみんな笑顔でかえさなきゃ
だから、ごめんね


リュカ・エンキアンサス
オズお兄さん(f01136)と
本当だ、見事なものだね
おっきいのが二つもいる光景は、なかなかお目にかかれないものだから
ちょっとじっくり眺めてから、
……行こうか
ん、お兄さんの、ラムネ瓶からの砲撃も、頼りにしてる

お兄さんの砲撃に便乗して
自分は容赦なく弾丸を叩き込む
流石に本気で対処する
弱点どこだろな。目とか、鼻とか?
わかったらお兄さんにも教える
動きをよく見て観察して、序に勘にも頼って
弱そうなところに攻撃していくよ

お兄さんが頭のほうに移動するなら、俺も移動する
口には出さないけどぱっくり食べられないか心配だから
二人なら、食べられても何とかなると思うし

…うん。できれば背中に乗ってみたかったけれども、残念だね




「リュカ」
 ――と、年下の友の名を呼んだ時。オズ・ケストナー(Ein Kinderspiel・f01136)のくるくるよく動く仔猫色の瞳は、漆黒の大海原の二点に注がれていた。
 海を住処とするクジラを、オズはまだ目にしたことはない。
 けれど猟兵として様々な世界を渡り歩く中、星の海でならクジラに出逢ったことがある。
 でも、それでも。
 バレーナ号とメルビレイ。二頭揃う様は、まさに圧巻。自分がとても小さな生き物のように感じられて、魂が宙海に溶けていくようだ。
「……すごい」
「本当だ、見事なものだね」
 心を奪われた感嘆を堪らず零すオズに対し、リュカ・エンキアンサス(蒼炎の・f02586)は観察者の目で二頭のクジラの邂逅を観る。
(「これだけおっきいのが二つもいる光景は、なかなかお目にかかれないね」)
 眼前に広がるものは、稀有な光景だ。ならばちょっとくらい、眺めていても許されるだろう。
 そうして心の絵日記にクレヨンでクジラたちの輪郭を描き上げるくらいの間を置き、リュカは尾鰭をひらめかせた。
「……行こうか」
 お兄さんのラムネ瓶からの砲撃も、頼りにしてる。
 信頼の言葉をさらりと置いていったリュカが繰る尾鰭の動きに、オズの魂が再び己が意識を構築する器へと収まる。
 ああ、そうだ。
 感動に浸っているばかりでは、だめ。
 どちらもおおきくて、すごいものだけれど。
(「片方は、守るべきもの。片方は、還すべきくじら――」)
 ならば為すべきことはただ一つ。そして此処はラムネの海。
「ろまんは、」
 虹色の弾丸を放つ砲台をリュカはくるりと上向け、まずは一発。
「まだつづくんだものっ」
 バレーナ号の皆へも示すように、七色の花火を打ち上げて。
「リュカ、いくよー!」
 それから箒星色の一発を、メルビレイ向けてオズは放った。

 虹色の煌めきに紫色の視線が寄せられた直後、流星の尾を援護にリュカは巨体へ一気に肉薄した。
 悠長に構えていられる相手ではない。肌で感じる危機感に、リュカは五感を研ぎ澄まし夜明けに星が揺れるアサルトライフルを構えた。
「……星よ、力を、祈りを砕け」
 物理法則を超越したエネルギーが起動し、星呑みの鯨めがけて星の弾丸が放たれる。くるりくるりと中空を文字通り泳ぎながら、リュカは一発、また一発。
 背中、腹部。着弾に、メルビレイの表皮が弾けた。だが巨体に相応しい体力を有す敵は、依然悠々と泡の海を游ぐ――どころか、羽虫を払うかの如く、リュカめがけて巨大な尾鰭を撓らせた。
 目で追いきれない波が押し寄せるみたいだ。咄嗟に両腕を交差して頭部を護ったリュカは、後方から聞こえた「だいじょうぶ、まかせて」という声に身体から余計な力を抜く。
「――ッ、」
 分厚い鉄板で殴られたような衝撃を、リュカは歯を食いしばって耐えた。加えられた一撃に、リュカは吹き飛ばされる。どんどんメルビレイとの距離が開く。
 このままでは、攻撃が届かなくなる――けれど。
「よろしく、オズお兄さん」
 例えて云うなら、リュカは宙海に放られた剛速球。待ち受けるバッターは、ガジェットの大斧を振り被ったオズ。
「りょうかい。いくよー!」
 リュカを捕らえるオズの刃の腹は、ジャストミート。然して見事打ち返された――しかも特大ホームラン――リュカは超速でメルビレイの元へ舞い戻り、すれ違いざまに再びアサルトライフルを撃つ。
 目への一弾は瞼に阻まれた。だが二つある鼻腔の一つへの攻撃への対処は間に合わず、星さえ砕く巨体が大きく身じろいだ。
「お兄さん、鼻だ」
 遠く流れてきたリュカの声に、今度はオズが宇宙スーツの尾鰭でラムネの海を思い切りよく蹴る。
(「鼻は、頭の方。うん、そこならきっと、尾鰭での攻撃はこないはず」)
 ぐいぐいとメルビレイへ泳ぐオズを見止め、リュカはどこまでも続く天井じみた腹の下へ潜って合流を目指す。
(「リュカも、近くから狙うのかな?」)
 縮まる距離が嬉しくて、オズの表情は自然と笑顔になる。まさかリュカの方は『万一、お兄さんが食べられてしまっても。二人だったら何とかなる』という現実的な事を考えているとは気付きもせずに。
 だが、嬉しさは力強さになり。力強さは、物理的なパワーにもなる。
「オズお兄さん、そこ!」
 目元を掠め浮上してきたリュカの、今度ははっきり聞こえた声に、オズは身の丈ほどある大得物を上へと振り被り、リュカの弾痕残る鼻腔へ振り下ろす。
「むこうのくじらはみんな笑顔でかえさなきゃ――だから、ごめんね」
 オズの詫びに、リュカは僅かに目を細めた。
 この巨大な背に乗ってみたくもあったけれど。それはバレーナ号に叶えてもらうことにするとして。
「今だよ」
「うん、ここ!」
 はくり、と終えた呼吸に鼻腔が窄まる瞬間、オズはそこを封じるように斧を突き立てた。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

境・花世
船乗りたちの快哉に思わず吹き出す
ああ、そうだね、きらめく夏の下では
誰もが純粋に胸を躍らせる

さあ、最後の冒険だ!

援護は頼むねと通信にいらえ、
尾鰭を力強く翻して鯨の方へ
泡沫を越える毎に咲いてゆく百花王
何より自由に泳いでみせるよ

襲い来る鰭を真っ直ぐ見据え
早業でひらり躱して高速移動で近付こう
危ないときはきっと船乗りたちが援護して
少しでも軌道を逸らしてくれる

敵の攻撃後の隙を見逃さずに
皓々とかがやく眸まですいすい進み
切裂く花びらで視界を潰してしまおう
傷がつけば燔祭をひそやかに蒔いて

みんなの力が鯨を穿ち、罅が広がったならば
この海に花を、フィナーレを咲かせよう
忘れ得ぬ夏を見送るため――今、あざやかに




『いくぜ、野郎ども! 祭の総仕上げと行こうじゃないか!』
 船乗りたちが上げた快哉に、境・花世(*葬・f11024)は蝶たちと泳ぐ優雅な一時を置き去りにし、ぷっと吹き出した。
 想い出を閉じ込める寂寥に、青き蝶らと躍る趣深い一時。
 でも、きらめく夏の下では。
(「ああ、そうだね」)
 誰の胸も、純粋に踊り出すもの。
 目を見開け。
 鼓動を弾ませろ。
 ――さあ、最後の冒険だ!
「援護は頼むね」
『アイサー、どんと任せやがれ!』
 通信装置越しに投げた要請に、寄越されたのは安定の大音声。その磊落さに花世はまた、笑い。纏う尾鰭を力強く撓らせた。
「あかいだけ、あまいだけ」
 一蹴り毎に、速くなる。
 膨らむだけ膨らんだ泡が捉えるのは、花世の残像。
 そしてぱちんと弾けた小さな衝撃まで味方につけたように、花世は存在感を大きくしてゆく。
 漆黒の宙に、大輪の百花王が花開いた。
 無視することを許さぬそれに、メルビレイの巨体がゆっくりと――しかし人間では追いきれぬ速さで動く。
『そこだー!』
『おうよー!』
 花世へ迫る大山の如き尾鰭を、バレーナ号から照射された光線がいなした。敵はオブリビオンだ。普通の獣相手ならば相応な一撃と成り得る熱も、十分なダメージとは成りえない。
 しかし花世にとっては、十分。
 喰らったエネルギーの分だけ、メルビレイの尾鰭が減速した。もちろん、微々たる減速だ。だがラムネの海を貫く花世は、その僅かな遅れの間にも更に加速し、大波の如き一撃を辛うじてだが掻い潜る。
 そして大技を繰り出した後だからこそ生まれる空隙に、花世は皓々とかがやく紫眸まで泳ぎ着いた。
「今日は?」
 優に花世の身の丈を超える眼を目の前に、女は艶やかに、けれど勇ましく微笑む。
「――そして、左様なら」
 身を絞るように捻り泳ぎ。花世は鮮やかな花弁を、己を軸に舞い散らし、メルビレイの右の視界を封じにかかる。混ぜて散らした小さき種は、刃が如き花弁が残した傷に根を張り、やがて花世にも劣らぬ大きな花を咲かせるだろう。
 それはきっと、ラムネの海に夏の終わりを告げるフィナーレになる。
 忘れ得ぬ夏を見送る、あざやかな花に。

大成功 🔵​🔵​🔵​

フィリア・セイアッド
なんて大きいのかしら
初めて見る鯨に目も口も丸く
星を呑む 本当に何もかもを飲み込んでしまいそう
聞こえてくる船乗りさんたちの声に瞬きひとつ
ふふりと笑って
冒険に危険はつきものですものね
私も頑張らなくちゃ

「WIZ」
人魚スーツで鯨の元へ
鯨も歌を歌うのだと本で読んだわ
あなたの歌も聴いてみたいけれど…今日は私が歌う番
菫のライアを奏で 子守唄を
メルビレイの動きが少しでも鈍くなるように
春の野原を見せてあげる 花々の夢を見て眠りましょう
鈴蘭の嵐を使用
バレーナ号の道行きを阻ませない
自分への攻撃は第六感も使い回避
仲間やバレーナ号への攻撃はオーラ防御で盾に
傷ついた仲間がいれば 春女神への賛歌で回復を




 まぁ、すごい。なんて大きいのかしら。
 ひらりと泳がせた尾鰭でメルビレイと正対し、フィリア・セイアッド(白花の翼・f05316)は背の白翼を大きく広げた。
 いや、広がったのは翼だけではない。初めて見るクジラに、左右で微妙に色味を異にする双眸も、少女らしい柔らかな唇も、まぁるく開いてしまっている。
 あながち、星を呑むという逸話も大げさな作り話ではないのかもしれない。
 けれどフィリアは巨体に圧倒されることなく、聴こえた船乗りたちの豪快な快哉にぱちりと瞬き、ふふと楽し気に笑う。
「冒険には危険がつきものですものね」
 ラムネの海に繰り出した時から、既に新たな冒険譚は綴られ始めているのだ。
 怯む暇があれば果敢に挑む方が、きっともっと楽しくなるし、夏の終わりは鮮やかに煌めき出すに違いない。
「私も頑張らなくちゃ」
 そうしてフィリアは尾鰭を撓らせ、翼を羽搏かせた。
 まるで空を泳ぐ人魚だ。真っ白な五線譜へリズミカルに音符を記す心地でフィリアはメルビレイに迫る。
 目指すのは、歌声を届かせる距離。
 クジラも歌うのだと、本で読んだ覚えがある。
「あなたの歌も聴いてみたいけれど……今日は私が歌う番」
 己に近づく影に、メルビレイが獰猛な牙が無数に生えた口を大きく開けた。宇宙船をも噛み砕くだろうその口を見せつけるのは、恐怖を抱かせる威嚇だ。
 しかしフィリアの心は夏の終わりに踊ったまま。陽気な船乗りたちの歌でも耳にしたように、ほんのり上気した頬に色褪せる気配はない。
「春の夢に、眠りましょう?」
 抱えた小型の竪琴を、鈴蘭の花嵐を吹かせ乍らフィリアはつま弾く。
 ぽろん、ぽろん。まろび出る音色は、可憐な春の花を思わせ、猛る心を落ち着かせ眠りに導くように響く。
 ――おやすみなさい。
 ――おやすみなさい。
 幼子をあやす詩をフィリアは歌い、去りゆく季節に来年の訪れを予感させる。
 でも、一度きりの此の夏にはお別れを。優しくも楽しい思い出を胸に。

大成功 🔵​🔵​🔵​

千波・せら
ラムネの海に巨大鯨。
冒険の醍醐味。
うん。いいね。

巨大鯨を倒してしまうのは勿体ない気もするけど
今は冒険にはつきものの危機ってやつだからね。
今日の天候はどうかな。

エレメンタル・ファンタジア
外に出て片手に光属性、片手に雨
ラムネの海に光の雨が降ります。
お出掛けの際にはカメラと傘を忘れずに。
光は虹を産み出すから、虹に包まれた鯨も見たいなって思って。

綺麗だね。
二体の鯨が一緒に泳ぐ姿は、こんな状況じゃなかったら
カメラにおさめておきたかったかな。

だから代わりにこの光景を目に焼き付けておくよ。
鯨とバレーナ号。二体ともとってもかっこいい。




 緊急用の非常扉を幾つも潜り駆け込んだハッチで、不安定な浮遊をも愉しみつつ、器用に特殊な船外活動用のスーツに着替え。
 ぽんっと宙へ転げ出た千波・せら(Clione・f20106)は、千年氷にも似た色の瞳をきっちり二回、ぱちぱちと瞬いた。
 ラムネの海に、巨大鯨が浮かんでいる。
 振り返ればそこにも、巨大鯨がもう一頭。
「うん、うん」
 これぞ冒険の醍醐味。それに冒険には、危険だってつきものだ。
「いいね、いいね」
 歌うように笑みの結晶をきゃらりと零し、せらは無重力の宙を走り出す。
 巨大鯨――メルビレイを倒してしまうのは、ちょっと勿体ない気がする。だって船乗りたちの血を湧き立たす伝説なのだ。どこかにひっそり隠せたらいいのに。でも、あんまりにも大きすぎるから無理そうだ。
「残念。冒険は続けなきゃいけないからね」
 上も下も右も左もない世界を、まるでスキップするみたいに弾んで跳んで。せらはあっという間にメルビレイの鼻先――と言っても、まだ百メートルくらいは離れているけど――に辿り着く。
 泡の海を泳ぎ来た、淡い青の光を紫の目が一瞥する。その視線は強烈で、もしせらがカエルだったら、蛇に睨まれたみたいにカチンコチンになっていたに違いない。でもせらはカエルではない。どちらかというと、凍てた海をふよふよ漂うクリオネ。気儘にメルビレイの殺気を受け流し、自分のペースにさらりと持ち込む。
「さて、今日の天候はどうかな」
 気紛れな猫がうーんと伸びをするように、せらは両手を高く掲げる。そして右手に光を、左手に雨を宿すと、両腕をえーいと交差させた。
「ラムネの海に光の雨が降ります」
 途端、光を含んだ雨がメルビレイへと降り注ぎ出す。
「お出掛けの際にはカメラと傘を忘れずに」
 しとしとしと。力持つ雫が巨大鯨の体表で跳ねて力を奪い、弾けた光が虹のヴェールでメルビレイを包み込む。
「綺麗だね」
 白い頬を仄かな朱に染めて、せらは自身が作り出したラムネの海の新たな彩に見入った。
 二体のクジラが泳ぐ姿なんて、こんな状況じゃなかったら、ばっちりしっかりカメラに収めておきたかった。
 けれど探索者は新たな目標をみつけるのだってお手の物。
「鯨とバレーナ号。二体ともとってもかっこいい」
 外部記憶媒体の代わりは、やっぱり自分の記憶。澄んだ眼を大きく見開き、せらは夏の終わりの幻のような光景を心に焼き付けた。

大成功 🔵​🔵​🔵​

リル・ルリ
■櫻宵/f02768

くじら、だ!
大きいな……けれど
怯まない
僕は僕の大事なひとを守るんだから
僕の櫻は食べさせないぞ!

オーラ防御の水泡ひろげ、攻撃受け止めれば弾けてカウンター
歌声には鼓舞をのせて君の背をおすよ
動きにくい?大丈夫?
なれない尾鰭での戦闘、心配しながらだ
動きにくそうなら僕も手伝う

……させないよ
くじらに歌う、「星縛の歌」
甘やかな誘惑蕩けさせ、捉え打ち消し離さない
櫻がくじらを、斬るその隙を
僕がつくる!

君と過ごす夏、これから過ごす日々を
呑み込ませなんてさせないよ
今を守るため未来を愚かだろうか
それでも僕は櫻宵との今を守る

初めての夏はもう終わる
寂しいけど
でもまた来年も
終わりじゃなくてはじまりなんだ


誘名・櫻宵
🌸リル/f10762

大きな鯨ね!
さて、鯨狩りといきましょうか!
人魚のまま戦えるなんて、新鮮だわ!
うまくできるかしら?

悪いけど
黙って食べられる訳にはいかないの
刀に宿すは破魔の力
斬撃には生命力吸収をのせてなぎ払い、衝撃波を放ち
巨体の傷を抉るよう何度も怪力のせて斬り付けるわ
攻撃は第六感で察知したらすぐ見切り、躱して―泳ぎ慣れたリルが手を引いてくれる
あなたの歌う星縛
共に過ごす今の為に一緒に過ごせる未来を散らす歌
これ以上、歌わせられない
強く尾鰭で宙はたき飛込み
「絶華」
綺麗に斬ってあげるわ!

夏の終わりもあなたと笑顔で過ごすの
楽しかったわね、で終えるのよ
そして来年もまた一緒に

だから、破滅はお暇願いましょ!




「くじら、だ!」
「大きな鯨ね!」
 重なるリル・ルリ(想愛アクアリウム・f10762)と誘名・櫻宵(屠櫻・f02768)の声は、音色に僅かな温度差があった。
 圧倒的な巨大さを前にしたリルには、僅かな怯えが。対する櫻宵は、大獲物と狩り合に舌なめずりをしそうな歓喜が。
 陰と陽。引きずられるなら、陽の側。
「さて、鯨狩りといきましょうか! 人魚のまま戦えるなんて、斬新だわ!」
 傍らの新米人魚の高揚にリルも月光ヴェールの尾鰭で宙を一掻きすると、己が裡に巣食う怯みを払拭する。
「ねぇねぇ、あたしうまくできるかしら?」
「勿論だよ、櫻。それに櫻の事は僕がまもる」
 ――そう。
 大事な人は自分の手でしっかりと守ってみせる。その気概が、メルビレイに対する畏怖さえも凌ぐ勇気をリルから引き出す。
「僕の櫻は食べさせないぞ!」

 山が迫る――否、尾鰭だ。巨大過ぎて目で全容が掴み切れない。
「櫻、っ!」
 前面へと展開した水泡を模したオーラの防壁を易々と砕かれた――練度を上げれば、速度を弛めるくらいは出来たかもしれない――リルは、咄嗟の判断で櫻宵の袖を掴んで全力で泳ぐと、その勢いを味方につけて櫻宵『だけ』を射程圏外へ放り投げた。
「――リ、――」
 翔け星のように遠退く櫻宵の声が尾を引く。きっと自分の名を呼ぼうとしたのだろう。柔らかな確信を胸に、リルはメルビレイの強烈な一撃をほぼ無防備な状態で受けた。
 叩かれる、というより、押し潰される、と表現した方が正しいだろう。最前線の苦痛を全身で味わいながら、それでもリルは唇を噛み締め、その痛みで意識を保つ。
 穏やかに漂っているだけだった泡が、栓を開けられた直後のラムネ瓶の中みたいに、ものすごいスピードで流れていた。違う、そうじゃない。自分が弾き飛ばされたのだと認識したリルは、ひらひらと優雅に舞うのに似合いの尾鰭に力を込めて、再浮上に全霊を賭した。
 櫻宵が得手とするのは接近戦。それを成させるためには、自分がメルビレイの動きを止める必要がある。そうしなければ、櫻宵が同じ憂き目に遭う。泳ぎが不得手な彼ならば、致命傷にだってなりかねない。
「……させないよ」
 クジラは下顎の骨で音を拾うという。だからリルはメルビレイの真下に泳ぎ入り、喉を震わせた。
「綺羅星の瞬き 泡沫の如く揺蕩いて」
 一語、一語。一音、一音。取りこぼすことのないよう、迦陵頻伽の如き繊細で美しい声で歌い上げる。
「耀弔う星歌に溺れ 熒惑を蕩かし躯へ還す」
 じくりと心臓が疼いた。それは削られゆく命の悲鳴。しかしリルはいっそう高らかに謳う。
「――黙って僕の歌を聴いてろよ」
 ぞわり。メルビレイがその超弩級クラスの巨体を戦慄かせた。鮮やかな紫の目が、自身に何が起きたのか分からないとでも言うように、激しく明滅する。
「櫻、今だ!」
 メルビレイの動きとユーベルコードの両方を、リルの歌は封じた。だが維持すればするだけ、リルの未来は縮小していく。
 ――君と、過ごす夏。
 ――これから、過ごす日々。
「……呑み込ませなんか、させないよ」
 早鐘を打つ鼓動に無視を決め込み、リルは櫻宵の為の突破口をつくる。
 ――櫻。君を守るために未来を犠牲にする僕は、愚かだろうか?
 ――でも、それでも。僕は君との『今』を守りたいんだ。
「受け取ったわ! ええ、ええ、それはもう、特大の愛を!」
 ほんの一時、静まり返ったラムネの海を櫻宵は猛然と泳いだ。
 共に過ごす今の為に、一緒に過ごせる未来を散らす歌は。これ以上、歌わせられない。
「綺麗に斬ってあげるわ!」
 触れる位置まで接近して、適当な場所を櫻宵は鷲掴む。よじれた皮膚と肉に、メルビレイがあえぐように口を開けた。
「悪いけど、黙って食べられる訳にはいかないの」
 一太刀で全ての牙を折るのは難しいだろう。それでも、これまでいくつもの命を噛み砕いてきただろう凶刃を、己の手で。
 リルの動きをトレースした見事な泳ぎで櫻宵は急降下し、紅い紅い血桜の太刀を抜き放つ。
 ――夏の終わりも、あなたと笑顔で過ごすの。
 ――楽しかったわね、で終えるのよ。
 ――そして来年もまた一緒に。
「だから、破滅はお暇願いましょ! ――絶華」
 空間さえ断つ剣閃が、メルビレイの牙をまとめて薙ぎ払う。巻いた太刀風に、桜吹雪のような朱が、無数に舞った。

 櫻宵が成し遂げたのを見止め、リルはようやく息を継ぐ。
 初めての夏は、もう終わる。寂しいけれど、でもまた来年も。
「終わりじゃなくて、はじまり……だろう、櫻」

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

ブラッド・ブラック
【森】
友達ではないようだがな もっと近くで見たいか?
行くぞ、と共に船外へ

少し試したい事がある
援護と事が終わった後の回収をサンに頼み、鯨の体内を目指す

何故こんな事を?
浪漫だろうか
興味もある、彼奴の餓えが憐れでもある
が、サンまで危険に曝したいわけではない

「尽きぬ餓えは苦しいか ならくれてやる」
仲間に危険があれば庇い、鯨の大口から侵入
鯨の中は機械だろうか、生身だろうか

蝶が居れば薙ぎ払い
コアもしくは心臓を探し攻撃
ヒビが入れば上等、隙間にタールの体を滑り込ませUC発動
内部から爆破(自爆)する


歌が聞こえる

どんなに辛くても死ぬのは怖かった
今は過去の己の意気地の無さに感謝する

俺の今 俺の未来 俺の、愛おしい子


サン・ダイヤモンド
【森】船外スーツ

大きな鯨に目を奪われて、誘いには瞳を輝かせ、うん!
(ブラッド、少し元気になった?)

ブラッドが試したい事
大きな鯨に胸を躍らせるどころじゃなくなった
本当は離れたくなかった
ただただ怖くなった

でも足手纏いになりたくないから
笑顔で、援護は任せて

オーラ防御でブラッドの突入を援護し
歌う、歌う
あなたの無事を祈って全力魔法【魂の歌】

『照らし給え 導き給え
彼の者へ光を与え給え』

何があっても歌は止めない
敵の攻撃はオーラ防御で軽減し
力の限り歌う

『宙海拓く星よ
わたしの君よ
長き旅路を共に歩まん』

泣いて、笑って
今を積み重ねて思い出を作るの
あなたとの今を
たくさん、たくさん

鯨が倒れたら急いでブラッドを抱き留める




 そわりとサン・ダイヤモンド(甘い夢・f01974)の肩が揺れたのを、ブラッド・ブラック(VULTURE・f01805)は見逃さなかった。
「もっと近くで見たいか?」
 傍らへ問えば、身形だけは大きい子供は音がする勢いでブラッドを振り仰ぎ、金色の瞳に太陽の光を兆す。
「うん!」
 無意識になのだろうが、立派な狐の尾がふさりふさりとご機嫌に銀の床を撫でる。それほどに船外の光景はサンの興味を惹いていた。
「友達ではないようだがな」
 無邪気なサンが勘違いしないよう一応の体でブラッドは念を押し、「わかってる!」という元気の良い応えにサンの背を軽く叩いて促す。
「ならば、行くぞ――少し試したい事もある」
 言うが早いか、ブラッドは硬質な靴音をバレーナ号の廊下に響かせ始める。
「まって、ブラッド!」
 威勢よく走り出すサンの顔は、もちろん笑顔だ。
 ――その先にラムネの海で待つ恐怖を、未だ知らずにいたから。

 ただ足手纏いになりたくない一心で、サンは≪笑顔≫を保ち続けた。
 『いってらっしゃい』
 『がんばってね』
 『援護は、任せて』
 見送る背中へかけた言葉に嘘はない。でも語尾は上ずっていなかっただろうかと、サンはブラッドが『消えた』宇宙に震える息を吐いた。
 モニター越しに見たメルビレイへはあんなにも心が躍ったのに。今、その巨体を見つめるサンの心は小さく縮こまって怯えていた。まるでブラッドの帰りを待つ、独りぼっちの夜のように。
 いや、比喩ではない。
 一切の身動きを妨げない宇宙スーツに身を包んだサンは、無重力空間にひとり。後ろにはバレーナ号が、前にはメルビレイと戦っている猟兵たちがいるが、それでもサンは『ひとり』。
 だってブラッドは、サンを置いていってしまった。
 サンを置いて、メルビレイの口の中へと飛び込んでいってしまったのだ。
「……ブラッド」
 たった一人を象る名を呟く唇を、サンは自身の指でなぞる。そうすれば強く、ブラッドの事を感じられそうで。けれどそんなことをしたって、ブラッドは戻ってこない。
 ――なにを、すればいい。
 ――どうすれば、ブラッドの助けになる?
 経験の足りない思考をフル回転させ、サンは考えて考えて考えて――歌い出す。
 『照らし給え』
 『導き給え』
 『彼の者へ光を与え給え』

 メルビレイは超巨体だ。
 口が開いた隙に内部へ潜り込むなど造作もない。
 ――何故、こんな事を?
 砕かれた機械蝶の残骸を掻き分けながら、ブラッドは自問する。
 未知との遭遇、あるいは前人未到の地の開拓。それは確かに浪漫だ。同時に、メルビレイの飢えが憐れでもあった。無論、餌となるつもりで乗り込んだわけではないが。
 何が待ち受けるか知れぬ場所へ、サンを伴うことは出来なかった。あの珠のような子供を、危険に曝したくなかったからだ。
「尽きぬ餓えは苦しいか」
 重力もなく、光もない世界をブラッドは漂い進む。
 問い掛けに返る声はひとつもない。言い知れぬ孤独感が、次から次へと押し寄せるだけの、無の世界。生きる者など、気配さえありはしない。
 その時、つんと酸のような匂いがした。
 骸の海から蘇ったとはいえ、かつて生物であったものなのだ。消化液がいつどこから放出されても不思議ではないだろう。
 あてどなく彷徨う心地は、たった一つの心の拠り所を失ったかの如く。
 底なしの昏闇が、ブラッドの心臓を鷲掴む。お前の命を寄越せ、喰らわせろ、とでも言うように精神を蝕んで来る。
「……、」
 まだ全身が溶けていないことを確かめる為に、ブラッドが何かを呟いた。
 ――その時。

 『宙海拓く星よ』
 『わたしの君よ』
 『長き旅路を共に歩まん』

「――歌、か?」
 己が命を代償に、時空を超えるサンの歌がブラッドの心を震わせた。
 ブラッドの無謀を≪笑顔≫で見送ったサンの、想いが、心が、無の闇へ光の階をつくる。

 『たとえ遠く離れても――あなただけにこの歌を、魂を捧ぐ』

「俺の、今」
 泣いて、いるのだろうか。
「俺の、未来」
 それとも、不安を宥めながら笑っているのだろうか。
 何れであろうが、絶対に歌うことを止めない強い意思を音色からブラッドは拾い上げ、武者震いに全身を戦慄かせた。
 サンに出逢って、ブラッドの人生は始まった。
 だが出逢う以前も、どんなに辛くとも死ぬことは怖かった。
(「今は過去の己の意気地の無さに感謝しよう」)
「俺の、愛おしい子」
 「 」「 」――たった二音。けれどこの世の何より尊い二音をブラッドは唱え、どろりと溶ける己が身の一部に意識を集約し、切り離す。
 変幻自在なブラックタールだ。少しくらい、くれてやるのは惜しくない。全てはサンの元へ還る為。
「逃すものか」
 あるやなしやの感覚で、エネルギー爆弾と化した『其れ』をブラッドは放る。
 刹那、風を切る音がした。
 きっと新たな猟兵がブラッドと同じ目論見で、メルビレイの体内へ侵入を果たしたのだ。
 その人物は上手くやるだろうか? 自分が残す傷痕が、その誰かの突破口になれば良い。そして願わくば、自分をサンの元まで運んでくれれば良い。
 閉鎖空間で湧き立つ爆風と熱に煽られながら、ブラッドは意識を手放す。
 再び意識を取り戻すのは、サンの腕の中。
 そんな二人を見守るように、静けさを取り戻したラムネの海は、夏の終わりを惜しむように無数の泡を弾けさせるのだ。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

ジャハル・アルムリフ
…なんと、見事な
竜にも勝る巨躯

よし――引き続き頼むぞ、黒豚号
在るべき大海へお還り願おう

大食らいの気持ちは分からんでもないが
何処から狙えば良いやら悩ましい
ことばとは裏腹に
何故か沸き立つものを抑えて

空中戦の要領で、素早く鯨の視界を飛び回り
尾の側には行かず
牙を紙一重の所で躱し続け
道塞ぐ鬱陶しいものだと認識させる

堪えかねて大きく口を開けたなら
その口腔へと自ら飛び込み
舌、或いは上下どちらかの顎や喉を
一気に加速し螺旋を描きながら
黒豚号の身体ごとの【竜墜】で穿つ

覚えておくがいい
食い物は選ばねば腹を壊すのだぞ

俺は慣れているが
黒豚号も傷付いてしまったなら謝罪
あとで治療してやらねばな

ああ、しかし
本当に、美しい海だ




 人は圧倒的なものを前にした時、畏怖の念を抱く。
 メルビレイはそうあるに足る存在だった。
 しかしジャハル・アルムリフ(凶星・f00995)の口から転がり出て来たのは、歓喜にも似た感嘆。
「……なんと、見事な」
 星をも呑むという逸話も納得がいく巨躯は、竜にも勝るもの。地上で戦ってきた相手には、比肩するものなどないだろう。
 だというのに。
「よし――」
 今や五感の全ての共有を果たしたといっても過言ではない戦闘機の内壁を、ジャハルは軽やかな手つきで撫でる。
「引き続き頼むぞ、黒豚号」
 つい先ほどまでは『海豚号』と呼んでものを『黒豚号』と、ジャハルはいつの間にか呼び換えていた。そこに込められるのは、親愛の情にも似たものだ。何故なら己は黒き竜人。共に戦った相手ならば、名を分かち合うのもまた道理。
「ん? どうした黒豚号よ」
 機内の計器が不規則に瞬いたのに、ジャハルは首を傾げた。まるで搭載されたAIが不満を訴えているようだ。されど『AI』が何たるかを知らぬ男の真っ直ぐな思考パターンに絆されでもしたように、それらの点滅はすぐに収まる。
 海と、黒では。随分と意味が異なるが。ジャハルの裡にあるのが、ただの一本気であることが、AIにも理解できてしまったのだ。
 故に海豚型戦闘機も――やや不本意ながら――新たな名を、受け入れる。
「征くぞ、黒豚号。あの大鯨を、在るべき海原へお還り願おう」
 疾く、疾く、疾く。
 メルビレイよりも、星の耀きさえ呑む漆黒の宙よりも黒き機体は、ラムネの海を泳ぎ飛翔する。

 ぐん、と。またメルビレイの身体が嵩を増した気がする。
 だが元から超弩級の巨大さなのだ。いちいち驚くこともなく、ジャハルと黒豚号は縦横無尽に翔ける。
 紫色が封じられた右の眼を掠め、呼吸が封じられた鼻腔を横目に、今度は左の眼へと。そこで旋回し、次はすきっ歯になった牙すれすれを飛ぶ。
 慣れた空中戦の再現に、黒豚号はよく応えた。そして目障りな羽虫じみたジャハルらの動きに、メルビレイがぐわりと大きな口を開ける。
「大食らいの気持ちは分らんでもないが」
 一帯の質量ごと丸呑みにしようとする吸引力に、黒豚号の推進力が打ち負かされた。ジャハルを乗せた流線型の機体が、スローモーションのようにメルビレイの体内へ攫われてゆく。
「何処から狙えば良いやら悩ましい」
 しかしジャハルは危機感を覚えた様子は一切なく、むしろ七彩宿す眸を爛々と輝かせた。
 ――何処を、など。
 狙いは最初から決まっていた。
「黒豚号!」
 メルビレイの体内と外界との境界線を越えた瞬間、ジャハルは戦友を鼓舞する。その声に、黒豚号は息を吹き返して急加速した。
 目指すは、奥の奥の奥。この機体で往ける限界。散らばる青の残骸を螺旋の軌跡ですり抜け、ジャハルは戦意を昂らせる。
 その時、暗闇の中で爆発が起きた。
「先客が居たか――よし」
 黒豚号の瞳のライトが照らす先に、黒い人影を捕らえたジャハルは、その誰かが刻んだ傷を視界の中央に据えて翔ぶ。
「覚えておくがいい。食い物は選ばねば、腹を壊すのだぞ――堕ちろ」
 喰らわせるのは、竜化の呪詛を纏った渾身の体当たり。衝撃でメルビレイの肉を破壊し、さらに貫き、やがては内側から風穴を開ける。
 癒せぬ、そして塞ぎ切れぬ致命傷に、巨躯が激しくのたうち身もだえた。そのうねりをジャハルは今一度逆走し、垣間見た人影を黒豚号の舳先にひっかけると、今度は口からの脱出を図る。

「大丈夫か、黒豚号よ」
 力で押し切る戦法は、ジャハルにとっては慣れたもの。
 されどこき使われる羽目になった黒豚号は、たまったものではなかったろう。だが搭乗者の問い掛けに、搭載AIは鼻歌でも奏でるような爽やかな緑を明滅させて、沈み行くメルビレイの姿をモニターに映し出す。
 無数の泡がメルビレイを包み込んでいた。
 やがてその泡全てが弾け切った時、星をも呑むはずの巨躯は忽然と消え失せ――骸の海へと還っていた。
 残されたのは、静かに凪いだラムネの海だけ。
 しゅわしゅわと泡が弾ける軽やかな音色が、すぐ近くで聞こえる。その光景はとても美しく、ひと夏の締め括りとして記憶に刻むに相応しいものだった。

大成功 🔵​🔵​🔵​



最終結果:成功

完成日:2019年09月03日


挿絵イラスト