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ハロー・スキャット!

#アリスラビリンス

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#アリスラビリンス


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●ぼくたちみっつのまっしろタマゴ、しらないあなにおっこちた!
「ころころコロリンすってってー」
「ふるふるパキパキすってってー」
「はろはろルンルンすってってー」
「ここはどこだろ」
「どこかしらー」
「まっしろまっしろ」
「しろってなーに?」
「なんだろなー?」
「なー?」

●あれはウサギの穴と言うんだが――ああ、聞いちゃいない。
 やれやれ、これだから生まれたては困るのだ。いや、あれは卵だから、まだ生まれていないと言うべきか。いやしかし、飛んだり跳ねたり喋ったり、全く騒々しいにも程がある。

 なあ、君もそう思うだろう?

 ――うん? 君とは誰だって、それは私だってまだ知らないのだから答えがない。知るためには、ああ、君。そう、君だよ、君のその手で、私を捲って貰わないとならない。
 何せ私は見た通り本だ。素晴らしいだろう、この厚み。この装丁。丁寧な革張りに押された薔薇の金箔。中には数百頁に及ぶ羊皮紙に刻まれた物語が君を待っている。
 たぶんきっとおそらくめいびー。
 ……なんだね、その懐疑的な眼差しは。仕方ないだろう、前述した通り、私は『私』の中身を知らないのだ。本は開かねば読めないだろう?
 だからこそ私たちは、君を待ちわびている。
 なあ、君――君だ。あの生まれたての愉快な卵たちに、この真っ白な世界に、物語をくれないか。

●よく喋る本ってアレよね、最終的にヒト食べたりするやつよね。……冗談よ?
 真っ赤な男――ベルナルド・ベルベットはにっこり笑って、楽しげな笑みで絵本の序章を読み終えたように、猟兵たちを見渡した。
「さて。新しい世界……アリスラビリンスが見つかったって言うのは、みんな知っているわよね。早速充分あちこち引っ張り回されていると思うけれど、アタシからもその新しい世界での『新しい世界を作る』お仕事をお届けするわ?」
 気軽に行って来てくれないかしら、とベルナルドはおつかいでも頼むように唇を笑ませた。
 世界。セカイ。一口に言えど大きなものだ。それを作るとはどういうことか、と眉を顰めた猟兵たちに、話を持ちかけた当人は気楽に笑う。
「あら、そう難しくないわよ。アリスラビリンスには数多のセカイが存在している。――その中で、生まれたてのセカイを見つけたの。あるのは真っ白な空と地面と、愉快な仲間のタマゴと本。セカイを作って行くのはそのコたち。アナタたちは、色々な話を聞かせて、そのコたちにセカイのヒントをあげて来てちょうだい」
 話、ときょとんとした猟兵たちに、ベルナルドは頷いた。
「本当に何でもいいわ。即興の御伽噺や冒険譚でも、思い入れのある本を思い出してでも、小さい頃の思い出でも、友達との馬鹿話でも、何なら恋人の惚気だっていいわよ。あのコたちにとっては全部ハジメテの物語。全部楽しんで聞いてくれるに違いないもの」
 それだけでいいのか、と首を傾げた一堂に、勿論、と真っ赤な楽しげに男は頷く。そうしてぱちんとウインクをして見せた。
「そうしたら、きっとアナタたちがそのセカイでの『物語』になるわ。――ンフフ、セカイを越えて、語り継がれるアナタやアナタたちを残してらっしゃいな」
 まあ、目立つセカイができると多少邪魔は入るでしょうけど、気をつけなさいね、と彼が更に気軽に懸念材料を口にしたのは、猟兵たちがグリモアによって送られるほんの瞬き分前のことだった。


柳コータ
 お目通しありがとうございます、柳コータと申します。
 アリスラビリンスの新たなる世界で、楽しくセカイを作りませんか。
 今回はいつもと違った楽しみ方もご案内しますので、以下のマスターコメントを確認頂けると幸いです。

●視点指定について
 当シナリオでは視点の指定ができます。
 お一人様、複数名様問わず、指定があった場合、リプレイを『指定されたキャラクターの一人称』でお返しします。
 例はOPの愉快な仲間の本のくだりのようなイメージです。
 ただし指定できるのは個人参加、複数参加問わず一視点のみ。
 希望される方はプレイング冒頭に【◯◯視点】と明記して下さい。視点は本、卵も指定できます。何も知らない他者から見てほしい場合はこちらもどうぞ。なお、グリモア猟兵は指定できません。
 指定がない場合、通常通り三人称でお返しします。
 ※指定があった場合でも、その方のプレイングでどうしても口調を把握し切れない場合、プレイングをお返しすることがあります。出来る限り頑張りますがご了承下さい。

●大まかな流れ
 第一章…日常。好奇心旺盛な『本』か『卵』たちに、各々思うままに『お話』を聞かせてあげて下さい。聞かせる相手の指定もできます。ない場合はほぼ卵になります。
 OPにあるよう、中身はお好きに語らって頂いて構いません。話を聞く愉快な仲間たちは全てを好意的に、話されたそのままをまるごと信じて受け止めるでしょう。セカイ作りの序章、そして基盤となります。

 第二章…日常。一章に続き、セカイを作って行きます。猟兵たちの話を聞き、愉快な仲間たちは『何かしらの建物』を作り出しているでしょう。それを探検しながら更に話を聞かせてあげて下さい。一章に引き続いて参加の方には、最初のお話を受けて卵が姿を変えたり(一章で小さい頃の話を聞かせると、小さい頃のあなたによく似た姿に一瞬なる、など)、本が何かを描き出していたりするかもしれません。話は新しいものでも、続きでも構いません。
 二章からの参加も歓迎致します。いつどんな話を始めても、喜んでくれるでしょう。

 第三章…ボス戦。新しいセカイを脅かすオウガが来襲します。作り上げた世界の不思議なパワーや施設を使ってオウガを撃退しましょう。引き続いての参加の場合、おそらく本や卵はあなたたちにめちゃくちゃ懐いています。

●プレイングについて
 こちらのシナリオの第一章は公開次第プレイング受付とさせて頂きます。期間は定めませんが早めに締め切る場合があります。
 二章以降はマスターページなどでお知らせしますが、基本断章導入以降受付となります。
 それ以前に頂いたものは流させて頂きますのでご了承下さい。
 また、再送が発生する場合がございます。もしも戻って来てしまった場合はご再送頂けると嬉しく思います。

 お連れ様やグループでの参加は【団体名】を明記して頂けると助かります。

●アドリブ・連携について
 今回はシナリオの特性上、アドリブでの連携が特に少なめになる見通しです。
 お一人様はソロ描写の可能性が高いことをご了承下さいませ。

 ほのぼの、ポップに参ります。あまりにシナリオの雰囲気ににそぐわないプレイングはお返しさせて頂きますので、こちらもご了承下さい。
 それでは、どうぞよろしくお願い致します。
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第1章 日常 『君だけのものがたり』

POW   :    手に汗握るバトルものを語ろう

SPD   :    爽やか青春物語をお披露目しよう

WIZ   :    謎が渦巻くミステリーをお届けしよう

👑5
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

種別『日常』のルール
「POW・SPD・WIZ」の能力値別に書かれた「この章でできる行動の例」を参考にしつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


 ころころ、タマゴは落っこちた。
 まっしろ、まっしろ。セカイもぼくらもまっしろけ。
 ――ねえね、お話が聞きたいな。
 おはなし、おはなし。お話ってなんだろな?
 おしゃべりな本が答えた。だれかがはなしてくれるもの?
 そっかそっか、そうなんだ。
 ――ねえね、だれか、やってきた!
榎・うさみっち
よし、うさみっち様が素敵な御伽噺を聞かせてやろう!

とある寒い地域に貧しい村があった
その村に一人の旅の職人が訪れた
村の現状を聞き、職人は村人全員に
愛らしいぬいぐるみ型の「ゆたんぽ」をプレゼント
一度お湯を入れると長時間暖かさを保てる優れもの
村人はそのぬくもりと愛らしさに癒やされた

ある日、村に魔物が襲ってきた
村人が怯える中、ゆたんぽが眩い光を放ち
なんと合体して巨大な戦士に変化!
見事に魔物を倒した
しかし元に戻ったゆたんぽはボロボロに…
村人はゆたんぽを見よう見まねで新たに作り出した
こうしてゆたんぽは村の名産となり
長く愛されることとなった

どや!大事にしてもらったゆたんぽが
恩返しをするという心温まるお話だ!



「よし、うさみっち様が素敵な御伽噺を聞かせてやろう!」
 ぱたぱた、透き通った青空のようなソーダ色の羽を羽ばたかせて、榎・うさみっち(うさみっちゆたんぽは世界を救う・f01902)は自分よりふた回りほど大きな卵たちの前に降り立った。
 真白い三つの卵たちは、ピンク色のうさ耳を持つ小さな妖精の姿にわあっと声を上げる。
「おはなし、してくれるのー?」
「のー?」
「うさみっち、さま?」
「そうだ、うさみっち様だぞ! あー、オホンオホン。では話を始めよう! ――とある寒い地域に、貧しい村があった」
 うさみっちは大仰な咳払いをして見せると、ゆるふわで愛らしい姿にしては意外なほど真面目な声で語り出した。
「その村に、一人の旅の職人が訪れた」
「しょくにん? しょくにんって、なーに?」
「ものを作る人のことだ。この職人はちょっとすごいぞ。村の現状を聞き、職人はなんと」
「なんと?」
「村人全員に愛らしいぬいぐるみ型の『ゆたんぽ』をプレゼントした!」
 ちなみにこのゆたんぽ、ピンク色の頭に空色の羽が生えていたなどと言うことは勿論ある。卵たちは楽しげにコロコロ転げて話を聞いた。
「ゆたんぽー」
「ゆたんぽー!」
「ちょっとすごい! ゆたんぽ、なーに?」
「うむ! ゆたんぽとは一度お湯を入れると長時間暖かさを保てる優れもの。村人はそのぬくもりと愛らしさに癒やされたのだ」
 うさみっちは、めでたしめでたし、と締めるような語り口で声のトーンを一旦落とす。卵たちがわあっと再び声を上げようとした、その一瞬あと。
「だがしかーし! ――ある日、村に魔物が襲ってきた」
「わっ。まもの?」
「まもの……こわいやつ?」
「こわいやつかも」
「そう、怖いやつだ。村人が怯える中、ゆたんぽが眩い光を放ち……なんと合体して巨大な戦士に変化!」
 しゅばっとうさみっちが変身、とでも言うようなポーズを取る。
「そして、見事に魔物を倒した。……しかし元に戻ったゆたんぽはボロボロになってしまったのだ」
「ゆたんぽ……」
「ゆたんぽー……」
「がんばったゆたんぽ……」
 卵たちの三つの声がしょんぼりする。すっかりうさみっちの語るゆたんぽ昔話に夢中になっているらしい。
「まあ、そう落ち込むんじゃねえ。そこで村人は、ゆたんぽを見よう見まねで新たに作り出した」
 ちなみにこのゆたんぽ、ピンク色の頭に空色の羽とその村の特産品を持ちご当地特性を付与されたレアものになったなどと言うことも勿論ある。
「こうしてゆたんぽは村の名産となり、長く愛されることとなったのだった……」
 そう話を今度こそ締め括れば、うさみっちは得意満面に胸を張った。
「どや! 大事にしてもらったゆたんぽが恩返しをするという、心温まるお話だ!」
「ゆたんぽー!」
「ゆたんぽすごいー!」
「うさみっちゆたんぽー!」
 卵たちは揃って歓声を上げて、コロコロと楽しそうに転げ回った。もっともっと、と話をせがんだ卵たちに、うさみっちが危うく轢かれそうになってぴゃああと叫んだのはご愛嬌と言うものだ。
 ゆたんぽ、ゆたんぽ。うたうような卵の楽しげな声がうさみっちを追いかける。
 ――きっと新しいセカイのどこかに、うさぎっぽい妖精のゆたんぽが生まれるのかもしれない。

大成功 🔵​🔵​🔵​

エンティ・シェア
何でも良いというのなら、この世界には付きものの、鬼の話でも
―この鬼が喰らうのは、ヒトの未練

ヒトはいずれ死ぬ。それまでに成せないことがあれば、当然未練は残る
その味が、好きなのさ
だけどある時、死にかけた一人の男に、鬼は気まぐれに尋ねたんだ
未練なく死ぬために手を貸してやろうかと
男はこう言った
自分には何もないのだから、未練の一つくらい遺させてくれ、と

鬼は、それが気に入った
だから、喰うのではなく拾ったんだ
男の魂を、未練ごと、己に取り入れた

彼らがその後どうしたかって?さぁ、知らないな
案外、楽しく暮らしているんじゃないかな
独りと独りが、二人になったんだ
二人分の視界で見る世界は、さぞ、素敵な色をしているだろう




 その男は卵たちを前に、童話のような赤髪を靡かせ、寓話の中の翠を瞳に、微笑んだ口元は御伽噺を語るように楽しげに微笑んだ。
 真っ白な世界にぺたりと座って、エンティ・シェア(欠片・f00526)は語り出す。
「話、か。何でも良いと言うのなら……この世界には付きものの、鬼の話でもするとしようか」
「おに?」
「おにってなーに?」
「なんだろな?」
「君たちにとっては、大きな口のオウガかな。けど――この鬼が喰らうのは、ヒトの未練」
 未練。みれん、と首でも傾げるようにコロコロ転がる卵たちは、まだそれを知らない。生まれたての世界には未だ死んだ何かすらいないのだ。だからこそ、それを教え聞かせるように、エンティは柔らかな語り口で、さらりと続ける。
「未練と言うのは、思いの食べ残しのようなものだよ。ヒトはいずれ死ぬ。それまでに成せないことがあれば、当然未練は残る。……鬼は、その味が好きなのさ」
「みれんはおいし?」
「なにあじ、なにあじ?」
「たべたら、どうなる?」
 興味津々にわあわあと楽しげな声をあげる卵たちに、くすくすと男は笑う。
「食べたら死んでしまうよ。未練も何もなくなってしまえば、そのヒトはもうその世界にはいないんだ。……だけどある時、死にかけた一人の男に、鬼は気まぐれに尋ねた」
「なんてー?」
「『未練なく死ぬために、手を貸してやろうか』とね」
 エンティはごく自然にひとつ声色を変え、ダンスにでも誘うような動作で手を差し伸べて見せる。
「男はこう言った。『自分には何もないのだから、未練の一つくらい遺させてくれ』と」
 またひとつ声色が変わる。エンティの声だ。そうわかるのに、別人の声だ。
「おとこ、なにもなかったの?」
「どうして、なにもなかったのー?」
「みれんは欲しいの、なんでだろ?」
 真白い世界に、無垢な声がわあわあ響く。それを聴きながら、エンティはどうしてだろうね、と笑った。
「鬼は、それが気に入った。だから、喰うのではなく拾ったんだ。――男の魂を、未練ごと、己に取り入れた」
「たべちゃったの?」
「たべてないよー」
「それでそれで?」
「うん? 彼らがその後どうしたかって?」
 興味津々の続きの催促には、楽しげな声でエンティはあっさりと答えた。
「さぁ、知らないな。……けどまぁ、案外、楽しく暮らしているんじゃないかな」
 話をしたり、噺をしたり、譚をしたり。色鮮やかな瞳に先を映して、その話をはなして聴かせたり。まだからっぽの世界に、エンティの話し声が緩く響く。響くことを、世界が覚えてゆくようだ。
「独りと独りが、二人になったんだ」
「ひとつにふたつ?」
「鬼さんとともだち?」
「きゅーくつきゅーくつ?」
「はは、そうでもないさ。……きっと、二人分の視界で見る世界は、さぞ素敵な色をしているだろうから」
 ひとりでいるよりも、きっとね。
 そう締め括れば、卵たちはわあっと歓声を上げる。
「おに、よかったねー」
「おとこ、よかったよかった」
「ねえね、ヒトってなんだろな?」
 無邪気で無垢な問いかけに、話好きなふたつの色の男は笑った。

「さぁ、私にも――俺にも、わからないな」

大成功 🔵​🔵​🔵​

オルハ・オランシュ
【ヨハン視点】
ヨハン(f05367)と

私もよくわからないけど、大丈夫
きっとなんとかなるから
本相手なら、話すのはヨハンが適任だと思うんだよね
よろしく頼んだよ!

小さい頃の話……、
本と隣り合わせに座って私も聞き役に回ろう

お兄さんのことを話す彼の口調はいつも穏やかな気がして
本当にお兄さん想いなんだなって、微笑ましくなる
他人の服の裾を掴んじゃうなんて
小さい頃のヨハンは意外とそそっかしい一面があったんだなぁ

家にいる時でも!?
ちょ、ちょっとヨハン……ずるい、可愛すぎるよ……
私がお兄さんなら絶対溺愛しちゃう!

君(本)もそう思わない?
……っとと、自然に問い掛けちゃったけど、この子の反応はどうだろう
よく見てみよう


ヨハン・グレイン
オルハさん/f00497 と

新しい世界を作る、ですか
よくわかりませんね
何か話してみて実際に作られれば多少は理解できるんでしょうか

一先ず、本相手に語らいますか
……俺が。正直こういうのはオルハさんの方が向いていると思うんですが

はぁ。即興なんて出来る訳もなし
小さい頃の思い出話でもしておきますか

俺には10歳離れた兄がいるんですが
昔一緒に祭りに出掛けた時、人混みがすごくて繋いでいた手を離してしまったんですね
すぐに服の裾を掴んだのですが、別人のもので
その後兄と合流は出来たのですが、小さい俺は「手を離したらはぐれる」と思ったらしく
暫く家にいる時でも兄の手を繋いで離さなかったとか

……こんな話で大丈夫か……?



● ヨハン・グレインはかく語りき
 世界を見渡すのがこんなに簡単だとは思っても見ませんでした。
 何せ、右を見ても左を見ても上下だって真白しかない。……余白持たせ過ぎじゃありませんか、世界。手抜きですか。手抜きでしょうね。
 しかし、これだけ白いとなると。
「新しい世界を作る、ですか。……よくわかりませんね」
 何か話してみて実際に作られれば多少は理解できるんでしょうか。そう呟けば、斜め後ろ後方から弾んだ声がした。
「大丈夫、私もよくわからない!」
 どうしてそう自信満々に胸を張るんですかオルハさん。思わず胡乱げな視線を彼女に送れば、ぴょこりと見慣れた耳が動きます。
「きっと、なんとかなるから。だって、君と一緒なんだもの、ヨハン」
 ……どこから来るんでしょうね、その信頼。なんて問うまでもない。ところではにかんだように笑って名前を呼ぶのはただひたすらに可愛い。可愛くて困る。
「……はぁ」
「あ、また呆れてる。本当のことだもん」
 呆れてますが呆れてません。呆れるくらい可愛いのを消化し切れていないだけです。
「一先ず、本相手に語らいますか」
「じゃあ、話すのはヨハンがいいと思うな。本のこと、よく知ってるでしょう?」
「……俺が。正直こういうのは、オルハさんの方が向いていると思うんですが」
「よろしく頼んだよ!」
 そして早速あなたは本の隣に座るんですね。それ問答無用って言うんですよ。まあ話しますけど。ところで膝を抱えるならスカート抑えておいて貰えますか。
「うん? 話を聞かせてくれるのか。それはそれは、楽しみになる」
 喋る本がなかなかに渋い声でそう言った。今更ですが喋る本って奇妙ですね。
「……はぁ」
 二度目の溜息は困ったゆえ。まさか即興なんて出来る訳もなし。本にはよく触れては来たけれど、読み聞かせる類のそれには縁がない。
「じゃあ、小さい頃の思い出話でもしておきましょう」
 思い出すように、一度目を伏せて。俺が思い浮かべたのは、歳の離れた兄の姿だった。スカートを抑えて座ったオルハさんと、表情はわからないが直立不動でいる本の前に座って、口を開きます。
「俺には十歳離れた兄がいるんですが、昔一緒に祭りに出掛けた時、人混みがすごくて、繋いでいた手を離してしまったんですね」
「お祭り……お兄さんが連れて行ってくれたの?」
「そうだったかもしれません。はぐれて、すぐに服の裾を掴んだのですが、それが別人のもので」
「ええっ。ヨハン、大丈夫?」
 オルハさん、ぎゅっと俺の手を握らないで下さい今の俺の話じゃありません。いえ別に離せとは言いませんけど。
「大丈夫ですよ。その後兄と合流は出来たのですが、小さい俺は『手を離したらはぐれる』と思ったらしく」
「らしく?」
 興味深そうに聞き返したのは本の声。それにややあってから、俺は話を締めくくるために続けます。
「暫く、家にいるときでも兄の手を繋いで離さなかったとか」
 おしまい。
 と、付けでもしないと妙に決まりが悪い気がして視線を逸らしがちにぽつりとくっつければ、妙に気恥ずかしくもなるもので。
 ……こんな話で大丈夫か……?
 思わず自分で自分に眉を顰めて顔を上げれば、きらきらした瞳のオルハさんがそこにいました。手はそのままに、ちょっと頬を赤らめて、丸い瞳に俺を映して。
「ずるい……」
「え」
「ちょっとヨハン、ずるい、可愛すぎるよ……!」
 それはこっちの台詞なんですが。だいたいいつもあなた可愛すぎるんですが。
「私がお兄さんなら絶対溺愛しちゃう!」
 そういえば俺の話でした。
 静かに我に返ったところで、オルハさんは隣の本に相変わらず弾んだ声で問いかけています。
「ね、君もそう思わない?」
「ああ、そうだな。とても微笑ましい。語り口も優しくて、聴きやすいものだった」
「うんうん。ヨハンはね、お兄さんのことを話すときはいつも優しい声になるの」
「なるほど、優しい子だ。しかし、つい他人の裾を掴むとは、そのとき泣きそうな顔をしていたのだろうかね」
「わあ……!」
「たぶんしてませんしオルハさんは想像しないで下さい」
「えー? だって絶対可愛いもん」
 ねー、とか、本とすっかり同調して頷き合わないで貰えますか。いえ話したのは俺ですが。
 それにしても、こんな話で満足して貰えたんでしょうか。そんなことを考えていたら、本がふとひとりでに開いて、ぱらぱらと頁が捲れてゆきます。まだ何も刻まれていない羊皮紙に、真新しいインクが文字を綴って、綴って、そうして。
「……ああ、良い話を聞かせてもらった。微笑ましい君たちふたりごと、きちんと刻ませて貰ったよ」
 ――そこまで刻めとは言ってません。
 けれどまあ、彼女も本も満足そうならそれはそれで、良いか。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

リュカ・エンキアンサス
マリアドールお姉さん(f03102)と

本にお話を聞かせる…なんだか逆な気がするけれども、面白いね
物語…
俺はそう面白い経験はないけれど…
お姉さんはある?

ああ。そうだね。宇宙で星屑を拾ったことがあったね
たまたまお姉さんに出会って。あれは楽しかったし綺麗だった
…そう?お姉さんも充分頼もしかったと思うけれど
お互い、あの時は怪我がなくてよかった

バレンタインの日も、楽しかったね
寒い外で飲む珈琲は格別だったと思う
ゆっくり、いろんな話が出来たしね
楽しかった

星の話だったら、そうだね。他にも幾つかあるかな…
星を見に行くのは、好きだから
明け方に流れ星が山ほど落ちていく姿が綺麗だったとか…
お姉さんは?どんな話がある?


マリアドール・シュシュ
リュカ◆f02586
アドリブ◎

ふふ、マリア達の冒険譚を聞いてくれるのね(本や卵につんと指で触れ
マリアも卵さん達へ話すのは初めてなのよ!
だからとっても楽しみなのだわ(嬉々
リュカとの物語をお裾分け(本達抱え座り

はじまりはバレンタインの星の導き
立ち昇る珈琲の湯気
星空を見て語らった楽しい一時は今でも鮮明に
内緒の噺は胸に秘め

宇宙船での白いミュゲの星屑を思い返し蜜金色の眸細め
願い叶える甘い毒(ゆめ)を掴みに

ええ
綺麗だったわ
その後戦うリュカは本当に格好良かったのよ!(目爛々
リュカは強いもの

明け方の流れ星、素敵ね!
マリアは…星に纏わる昔の朧げな記憶
誰かが満天の空の下で鳩琴を奏でてくれていたわ
星の唄を謳う誰かも




 真白い世界のあちらこちらで、話が花咲く。
 本に卵に話を聞かせにやって来た猟兵たちは、今ばかりは語り部で、紡ぎ手で、導き手だ。だから、ひとつ話が終わるのを待って、ひとつ。
 次はこっちにおいでと、好奇心旺盛な生まれたての子たちを手招いて、おはなしはつづく。
 卵たちが次のお話へ送り出されるのを見て取って、マリアドール・シュシュ(蜜華の晶・f03102)はきらきらした瞳と声で、卵たちに呼び掛けた。
「こっちよ、こっち。卵さんたち、マリアたちのお話を聞いて行かない?」
「おはなし?」
「おはなしー!」
「なんだろな?」
「やれやれ、あまりはしゃぐものではないよ。……さて、次の語り部は君たちかい」
 無邪気な三つ子卵がぴょんぴょん跳ねて、少し渋めの声の本が首を傾げるように並んだ少年少女を見上げた。
 その本を、リュカ・エンキアンサス(蒼炎の・f02586)は興味深そうにじっと見つめる。
「本にお話を聞かせる……なんだか逆な気がするけれども、面白いね」
 どこが耳でどこが口だろう。不思議に思いはしても口にはせずに、リュカは星空の端っこのような青い瞳を瞬かせる。
 動いて喋る以外はごくごく普通の本に見えるそれは、物語を所望しているらしい。
「俺はそう面白い経験はないけれど……お姉さんはある?」
「あら、ふふ。リュカがそれを聞いてしまうの? リュカとの物語なら、とっても楽しいものがあるのに」
 楽しげに微笑んで、マリアドールはそわそわとした様子の卵と本たちにつんと指先で触れた。
「たのし?」
「たのし、たのしー?」
「マリアたちの冒険譚を聞いてくれるのね。ええ、とっても楽しいの。マリアも、卵さんたちへお話するのは初めてなのよ!」
 だからとっても楽しみなのだわ、とマリアドールは無邪気に笑って卵たちのそばに座り込む。おいでおいでと手招けば、嬉しそうにその膝に卵たちが飛び乗った。
 本は、その隣に座ったリュカの足の間にちゃっかり収まる。
「じゃあ、お話を始めましょう。リュカとマリアの物語を、お裾分けしてあげる」
 そうして、まだ真白いばかりの世界に、華水晶の少女の声が響き出す。
「はじまりは――そう、バレンタインの星の導き」
「ばれん?」
「たいん?」
「ほし、なんだろな?」
「バレンタインは、そうね、甘いものがたくさんある日、かしら。その日はとっても寒い日で……立ち昇る珈琲の湯気がきらきらしていたわ」
 今でも鮮明に思い出せる星空を、瞼の裏に思い描く。マリアドールの語り口に、リュカも少し声を緩めた。
「ああ、バレンタインの日も楽しかったね。寒い外で飲む珈琲は格別だったと思う」
「星空も格別だったのよ。とってもとっても楽しかったから、マリアはきっと忘れないわ」
 内緒のお噺は胸の真ん中の秘密にして、マリアドールはふんわり笑う。
 リュカも淡々とした口調ながら、星空の下での語らいを思い返すように頷いた。
「うん。楽しかった。ゆっくり、いろんな話が出来たしね」
「それに、それに。宇宙船でのミュゲの星屑。覚えているかしら」
 マリアドールが問いかければ、ああ、とリュカはまだ何もない真白い地面に指で触れる。
「そうだね、宇宙で星屑を拾ったことがあった。……たまたま、お姉さんに出会って。あれは楽しかったし、綺麗だったな」
「ええ、ほんとうに。真っ白なミュゲの星屑。願いを叶える甘いゆめ」
 きっとそれは、過ぎれば毒にもなるひとつ。
「その後、戦うリュカは本当に格好良かったのよ! リュカは強いもの」
 つい目を爛々とさせて意気込めば、卵たちがわあっと声を上げた。
「かっこいい!」
「かっこいー」
「リュカ、かっこいー」
「……そう? お姉さんも、充分頼もしかったと思うけれど」
 不思議そうにこてりと首を傾げてしまうのは、戦うことが身体に染み込んでいるから。格好良くても悪くても、強かろうが弱かろうが、生き残らなければその戦場の次はない。
「お互い、あのときは怪我がなくてよかった」
「そうね、本当にそう。……ねえリュカ、リュカのお話は何かない?」
 きっと喜んでくれると思うの、とマリアドールは甘い色の瞳を細める。
 それに少し考え込んで、リュカは、星の話だったら、とぽつりとこぼした。
「そうだね、星の話だったら、他にも幾つかあるかな……星を見に行くのは、好きだから」
「君たちが言う『星』とは、どんな空の風景かな」
 ふと、ずっと黙って聞いていた本が問い掛ける。勿論星空の概念は知っているけれど、と。
「空は移りゆくものだと知っているんだ。けれどこうして語るほど記憶に残る星空とはどんなものだろう、とね」
「……そうだね。明け方に、流れ星が山ほど落ちていく姿が綺麗だった」
 これでわかる、とリュカが首を傾げれば、わかるとも、と本が嬉しげに頷く。隣でマリアドールも瞳を輝かせた。
「明け方の流れ星、素敵ね!」
「ありがとう。お姉さんは? ……どんな話がある?」
 問われて、マリアドールはそっと瞼を伏せる。辿るように、思い出すように。
「マリアは……そうね。朧げだけれど、誰かが満天の星空の下で、鳩琴を奏でてくれていたわ」
「鳩琴……オカリナ?」
「そう。それに、星の唄を謳う、誰かも」
 あれは誰かしら。わからないわ。ぼんやりと、けれどどこか懐かしそうに呟いて、マリアドールは丸い瞳を上げる。
「ね、卵さんたち。こんなお話、楽しんで貰えたかしら?」
「たのしー」
「たのし!」
「おほしさまー」
 ぴょんぴょんと膝で飛び跳ねた卵たちに、マリアドールは嬉しそうに満面の笑みを浮かべた。
「ねえリュカ、お話、大成功よ!」
「うん、よかった」

 ――そうして、きっと。二人が語った星空は、世界の空に輝くだろう。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

リチュエル・チュレル
タロ(f04263)と

物語をよこせ、と言われてもなぁ
生まれたてのガキを喜ばせるような話に心当たりはねぇんだが

あ?オレらの昔の話?
昔々あるところに、人嫌いな魔導具師と変わり者の画家がおりました
…なんてな
実用性が全ての魔導具師と
機能よりも美を優先する画家
反りが合わないくせに一緒にいる、変な奴らだったぜ
互いの作品を認めないのに、捨てずに割と大事にしてたり
いつの間にか手を加えてたりな

どっちも生活能力がさっぱりな辺りはそっくりだったけどよ

魔導具師がオレの親で、画家がタロの親ってわけだ
ん?タロの素材は魔導具師が作ったもんだから
ふたりがお前の両親になるのか…?

貰ったタロットがどうなったかは――見ての通りだな


タロ・トリオンフィ
リチュ(f04270)と

《タロ視点》

猟兵になってからも、得難い経験は色々あったけれど
今日は僕が宿る前の話をしようか


其処は不思議なお屋敷
明かりはひとりでに灯り
ホウキは勝手に床を掃いて
キッチンではお鍋が気ままにスープをコトコト
然し館の主人である魔導具師は人嫌い
全ての指揮を執るのは、一体の美しい占い人形

かの屋敷に頻繁に訪れるのは変わり者の画家
腕前に評判を得た彼は然し
領主の肖像も姫の姿絵も断り、名声の道は潰えた
彼は小さな紙に描きたい世界を込める
唯一の友である魔導具師の造った褪せぬ絵具と紙で

そして完成した或る日
画家は真っ先に友を訪れる
お陰で素晴らしいものが出来た
褪せる事無きタロットカード――君にあげよう



●タロ・トリオンフィはかく語りき
 真白い世界には何だか身体が馴染みやすいような気がする。
 ……僕が、元は真っ白な紙に描かれたものだからかな。
 ああ、卵たちがお待ちかねだね。それじゃあ、話をしよう。
 猟兵になってからも、得難い経験は色々あったけれど――今日は僕が宿る前の話をしようか。
「物語をよこせ、と言われてもなあ……」
「おはなしー」
「おはなし?」
「ききたーい」
 元気の良い卵たちが飛び跳ねる。小さいなあ。
「……リチュ、卵たちのこと、頼んだよ?」
 喜ばせられるような話に心あたりはないんだって、少し困った顔をしていたご主人様に僕は笑う。大丈夫、僕にはあるから、聞いていて?
 何もない、馴染みの良い場所に座れば、目を瞑る。そんなことしなくても思い出すのは容易いけれど。
「――其処は、不思議なお屋敷。明かりはひとりでに灯り、ホウキは勝手に床を掃いて。キッチンではお鍋が気ままにスープをコトコト言わせてる」
 目の前に、卵たちを抱き寄せて支えてやったリチュが、こだわりもなく胡座をかいて座っている。そこまで聞いたところで、タロの表情が絶妙に変わった。
「……タロ、お前それ」
「しかし、然し館の主人である魔導具師は人嫌い。――全ての指揮を執るのは、一体の美しい占い人形」
「やっぱりか……」
 聞き覚えがある話だったのだろう。うん、だってそうだ、これは僕たちの話。僕がこうして宿る前の、きっとリチュが覚えている、ずっとずっと昔のお話。
「かの屋敷に頻繁に訪れるのは変わり者の画家。腕前に評判を得た彼は、しかし、領主の肖像も姫の姿絵も断り――名声の道は潰えた」
「なぜー?」
「どうしてー?」
「なんでどうして、おことわり?」
「そりゃ、変わり者だったから、に決まってんだろ。……実用性が全ての魔導具師と、機能よりも美を優先する画家。反りが合わないくせに一緒にいる、変な奴らだったぜ」
 リチュがちゃんと卵たちの疑問に答えてあげている。君は本当に、面倒見がとてもいいよね。だから僕は、ゆっくり笑って話を続ける。
「彼は、小さな紙に描きたい世界を込める。唯一の友である魔導具師の造った褪せぬ絵具と紙で、一枚一枚、大切に、丁寧に」
 きっと、それは魔法だった。
 褪せぬ絵具もだけでも、紙だけでも、作り上げられない。ただ絵具と紙だけでも、生まれることはない。魔道具師が、画家がともに友だったから生まれた、魔法だった。
「……互いの作品を認めないのに、捨てずに割と大事にしてたり、いつの間にか手を加えてたりしてたっけ。ま、どっちも生活能力がさっぱりな辺りはそっくりだったけどよ」
 懐かしそうにリチュが笑う。……そういえば、その頃の君はどんなだったんだろう。僕が生まれる前の君。ずっと一緒にいるけれど、さすがにそこまでは知ることができない。
 ああ、でも、お話はやっと。
「――そうして、完成した或る日」
 僕が、出来上がった日。
「画家は、真っ先に友の元へ訪れる。画家は魔導具師にこう言った。『お陰で素晴らしいものが出来た。褪せる事無きタロットカード――君にあげよう』」
「たろーっと」
「たたろっとー?」
「たろたろって、なんだろな?」
「タロット、だ。……ったく、ほら」
 ふわり、リチュの手元が淡く光る。その魔力を得て浮かび上がったタロットカードは、卵たちにその姿を見せてやるみたいに真白い世界で彩り踊って、くるりと回る。
「きれいー」
「きれい、きれい」
「ありがとう、僕もそう思う」
「自分で言うのかよ……」
 思わず笑み綻んでお礼を言ったら、リチュが呆れたような目で僕を見た。だって、綺麗に描いて貰って、君が綺麗に大事にしてきてくれた『僕』だから。うん、っててらいもなく頷けば、今度はリチュも少しだけ嬉しそうに笑った気がした。
「ま、今のはオレらの昔の話でな。魔導具師がオレの親で、画家がタロの親ってわけだ」
「むかし?」
「むかしばなしー?」
「すごい!」
「おう、なんてったってどっちも百年ものなのは間違いねぇよ。ついでに貰ったタロットがどうなったかは」
 くるくる回るタロットが、ふと、僕の周りを取り囲む。きょとんとして手を差し出せば、運命のタロットがすいと躍り出た。リチュが笑う。ご主人様が笑う。満足そうに、僕も笑う。

「――見ての通りだな」

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

セリオス・アリス
【双星】
アドリブ◎

この話が世界を作るんだろ
なら食べ物が美味しくなる魔法の話をしてやろう
ちょっと自慢げな笑み浮かべ
美味しいものがあったらな隣の誰かと半分こするんだ
誰でもいいわけじゃないぞ
自分の大好きな誰かと、するのが肝心だ
そうすると1人で食べてる時よりもっと旨くなる
昔、商人のおっさんからもらったリンゴもさ
アレスと二人で半分こして…
うまかったなぁあれ
なぁ、アレスもそう思うだろ
うっかり大好きな相手と宣言していることにも気づかずニコニコとアレスを見る

日の光の心地よさとアレスの優しい声にうつらうつら
あの時のアレスの顔を思い出して笑みを浮かべるも
眠気に抗えず
ぅん~ん~
アレスの膝を枕にしてすやっと
ああ幸せだ


アレクシス・ミラ
【双星】
アドリブ◎

僕達の話が世界になるなんて凄いね
半分この話に微笑ましく頷き…
…彼のうっかりに気付いた
無意識だった様子の笑顔に
照れ隠しも兼ねて取り敢えず撫でておく

…では、僕は冒険の話を
これは僕達が幼い頃
僕の父さんも騎士でね
人々を護るその姿は僕にとっても憧れだった
ある日、父さんの剣をこっそり持ち出して真似をしていた
セリオスも剣を見て目を輝かせてたね
そのまま、剣があるから大丈夫って近所の森に探検に行って
騎士になったように遊んでたら本当に古城跡を見つけたんだ
僕らには白亜の城のように見えたよ

それから…、…っと、セリオス?
…これは動けないなあ
ああ、ごめんね
…何だか、幸せだなって
さて、続きを話そうか




「よーしちびども、よーく聞けよ。今から俺がするのは美味しい話だ」
 ぴょんぴょん跳ねて、わくわくと待つ卵たちに、セリオス・アリス(黒歌鳥・f09573)は仁王立ちでそう宣言して見せた。
「おいしいはなしー?」
「おいし、おいし?」
「おなかすくー」
「張り切っているね、セリオス」
 真白い世界に艶やかな黒髪がふわりと靡く。その隣で、くすくすと金色を靡かせた青年、アレクシス・ミラ(夜明けの赤星・f14882)が微笑ましそうに笑った。
 だってさ、とセリオスが弾んだ声で幼馴染を見上げる。
「この話が世界を作るんだ。だったら食べ物は美味しいほうがみんな幸せだろ?」
「確かにそうだね。僕たちの話が世界になるなんて凄いな。……でもセリオス、食べ物を美味しくするお話って何だい?」
 アレクシスがこてりと首を傾げれば、セリオスはふふんと自慢げな笑みを浮かべた。こういう顔をするときの彼は本当に無邪気だ。ああ、何か思いついているんだなとわかれば、つい緩む口元を隠しながら、アレクシスは卵たちと共に座る。
 セリオスはアレクシスと卵たちの前で、きらきらした瞳で胸を張った。
「いいか卵のちびたち、美味しいものがあったらな、隣の誰かと半分こするんだ!」
 端整な顔立ちのどや顔というのは妙に愛らしいものである。ではなく。
「はんぶん」
「こー?」
「……セリオス、半分こって?」
 卵たちと同じように首を傾げたアレクシスだったが、どうやらセリオスの話は終わっていないらしい。ちちち、と指を立てて、セリオスはさらに得意げに言った。
「誰でもいいわけじゃないぞ。『自分の大好きな誰か』とするのが肝心だ」
「だいすき?」
「すきー?」
「そうだ! そうすると、一人で食べてる時よりもっと旨くなる。これはちょっとすごい魔法だぞ。よーく覚えとけよ?」
 そう言うと、セリオスもアレクシスの隣にぺたりと腰を下ろした。お話と言うよりはどちらかと言えば教えだったかもしれないが、きらきらした瞳と声には敵わない。
「昔、商人のおっさんからもらったリンゴもさ、アレスと二人で半分こして食べたんだ。なあアレス、覚えてるか?」
 ひょいと覗き込んで訊ねれば、アレクシスも勿論頷く。微笑ましさで緩んだ瞳でセリオスを見て、そうしながらふと気づいた。
「ああ、覚えてる……けど」
「うまかったなぁ、あれ。今でも覚えてるくらい」
 うん、と頷きながら、アレクシスは気づいてしまう。セリオスは気づいてはいないけれど。――さっきの話の大前提は、『大好きな相手』と食べること。
「なぁ、アレスもそう思うだろ?」
 眩しいくらいの満面の笑みでそう言われて、嬉しくないわけがない。同じくらいに恥ずかしいから、はにかみ笑って撫でるくらいしかやり場がないのだけれど。
(「……本当にずるいな、君は」)
 気づかずに言われてしまったら、同じだって返すこともできないのに。
「な、アレスも何か話してやれよ。こいつらがわくわくするようなやつ」
「ふふ、そうだね。なら、せっかくだから……僕は冒険の話を」
「ぼうけん!」
「ぼうけんのはなしー」
「なんだろな?」
 生まれたての卵たちにわかりやすいよう、アレクシスはできるだけゆっくりと話し出す。
「これは僕たちが幼い頃のお話だ。僕の父さんもを騎士やっていてね。人々を護るその姿は、僕にとっても憧れだった」
 憧れの騎士。追いかけたその姿に、今少しでも近づけただろうか。わからない。
「……ある日、僕は父さんの剣をこっそり持ち出して真似をしていた。セリオスも、剣を見て目を輝かせてたね」
 ――すごいな、アレス! 騎士みたいだ!
 そう、きらきらした瞳で言われて、とても嬉しかったのを覚えている。
「そのまま、剣があるから大丈夫って近所の森に探検に行って……騎士になったように遊んでたら本当に古城跡を見つけたんだ」
「おしろ?」
「しろってなーに?」
「大きくて、立派ないにしえの城。小さな僕らには、白亜の城のように見えたよ」
 それから、と話しかけたときだ。こてん、と肩にもたれ掛かる体温を感じた。
「……セリオス?」
 見れば、話を聞いているうちに眠くなって来たのだろうセリオスが、半分夢の中に旅立っていた。ぐらりと傾いた身体を支えれば、そのままぽすりと猫のように膝に頭が収まる。
「……ぅん、ん」
 少しすれば、すぐに安らかな寝息が聴こえて来た。
「ねちゃった?」
「ねむねむ?」
「すやすやだー」
 ころころと側に寄って覗き込む卵たちに、アレクシスはしい、と示すように唇に人差し指を立てる。それに素直にひそめた声で卵たちが、しー、し。と静まると、優しい笑みを浮かべて頷いた。片手でそっと、指通りの良い髪を撫でる。
「……何だか、幸せだな」
 思わずこぼせば、しあわせ、と卵たちがささやく。アレクシスは頷いた。
「そう。……大好きな相手と一緒にいるだけで、幸せになれるんだよ」

 さて、続きを話そうか。――すぅすぅと、安心しきった安らかな寝息が続く、あたたかな世界で、優しいこえのお話は続いてゆく。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

鵜飼・章
【本視点】話し相手お任せ

本さんの中身が気になるなあ…
後で見ていい?
僕が語るのは一篇の童話



昔々ある所に鴉がいました
けれど彼の羽根は生まれた時から真っ白で
鴉の仲間にはなれなかったのです

鴉の社会にさよならを告げ
白い鴉は自由な旅に出ました
そして一体の錆びたロボットに出会います

ロボは青空を見あげ言いました
「やあ鴉君。私も空を飛びたいな」
白い鴉は言います
「きみの重い体じゃ無理だよ」
ロボは返します
「私を壊して連れて行ってくれ。もう錆びて動けないんだ」

鴉は言われた通りロボを壊しました
すると錆びた体の中から
きらきら輝く宝石のようなロボの心が現れたのです



…このロボもきっと機械になれなかったんだね
続きはまた後で



●本は章と語りき
 さて、今度の話し手は君か。ああ、随分と白い肌だ。瞳の彩りは紫紺。纏う色は黒――いや、いや、漆黒か。
 名前を聞いても良いだろう、きみ?
「名前? うん。僕は鵜飼・章。……ところで、本さんの中身が気になるなあ。後で見ていい?」
 ああ、いいとも、いいとも。是非見てほしい。白紙の頁もどうやらあるが、元から詰め込まれた文字も勿論あるらしい私の中身をまた見ておくれ。よければ、きみの話のあとに。
「そうだね、じゃあ語ろう。――僕が語るのは、一篇の童話」
 そうして彼は語り出す。どうにも不思議な青年だ。すがたかたちは人であるのに、妙にそのありようが不可思議な。
 さて、喋る本に不可思議と言われるのも妙な話だろうか。
 ――ああ、けれど。彼の声は、定まらないこの世界によく馴染む。
「昔々ある所に鴉がいました。けれど彼の羽根は生まれた時から真っ白で、鴉の仲間にはなれなかったのです」
 どうやら鴉の童話のようだ。彼は鴉が好きなのだろうか。――鴉。からす。ああ、そうか。彼の白と黒の彩りは、ひょろりと長いその手足は、鴉のそれによく似ているよ。
 さあ、話の続きを聞こう。
「鴉の社会にさよならを告げ、白い鴉は自由な旅に出ました。……そして一体の錆びたロボットに出会います」
 やあ、章。口を挟んですまないね。ロボット、とはなんだい。色々知識はあるつもりだが、どうにもぴんと来るものがない。
「ロボットは、そうだね。ヒトに作られたもの。鉄や鋼で造られた、人間を模した、自我を持たない人工物――かな」
 ふむ、ふむ、なるほど。それが錆びているということは、随分時間が経っていたのかな。
「うん。そうなんだ。だから――ロボは青空を見あげ言いました。『やあ鴉君。私も空を飛びたいな』。けれど、白い鴉は言います。『きみの重い体じゃ無理だよ』」
 無理なのかい? そうか、そうか。重くとも、飛べると良いのにな。私がそう言うと、章はゆっくり首を横に振った。話は続く。
「ロボは返します。『私を壊して連れて行ってくれ。もう錆びて動けないんだ』」
 ……。
 壊されて、いいのかい? 私はできるならば、壊れたくないと思うものだが。そうか。けれど読めなくなれば――読んでも貰えなくなるくらいなら、壊れて燃えてしまったほうが、ましなのだろうか。
「……どうかな。少なくともこのロボは、鴉と行きたかったんだ。だからね。……鴉は言われた通りロボを壊しました。すると錆びた体の中から、きらきら輝く宝石のようなロボの心が現れたのです」
 こころ。
 心とは、形を持つものなのか。ロボットは、自我を持たないのではなかったのかい?
 私がそう問えば、章はどこか寂しそうな笑みを浮かべた。
「……このロボも、きっと機械になれなかったんだね」
 機械になれなかったことは、不幸なのかね?
 ついそんなことを言ってしまえば、章は少し驚いたような顔をして、ゆっくり微笑むと私の表紙を白い手で撫でた。なんともなしに、その手に頁を捲ってほしいような気が、私はした。
 けれど、章の手は離れる。そうして、静かな声で彼は言うのだ。

「――続きは、また後で」

大成功 🔵​🔵​🔵​

マルコ・トリガー
アドリブ歓迎

フーン、話ねぇ
じゃあ、ボクの友達の話でもしようか

猫は分かるかな
(【雲竜風虎】で野良猫を呼ぶ)
こんな感じの生き物だよ
ボクの友達も猫でね
まっくろの黒猫さ
まあ、友達って言っても向こうはボクの事をどう思ってるかわかんないけど

ボクはヤドリガミなんだけど器物の頃の記憶が殆ど無くてね
骨董屋の蔵に居た事までは覚えてるんだけど、気がついたら独りぼっちだったんだ
これからどうすればいいのかわからない
そんな時にあいつに出会えた
あいつも独りぼっちでさ
何故だか気が合うような気がしたんだ
とりあえず、この黒猫と旅でもしてみようかなって思って今に至るわけさ
あいつに出会わなかったら、今君たちとも出会えていないかもね




 青藤色の頭に、ひょこりと一本の毛が揺れる。
 真白い世界を興味深そうに見渡したところで、和服を纏った少年――マルコ・トリガー(古い短銃のヤドリガミ・f04649)はぴょこぴょこと跳ねて足元に寄って来た卵たちを見つけた。
「おはなし、おはなしー」
「しー!」
「……話、してほしいの?」
「ほしー!」
「しー!」
「フーン。……じゃあ、ボクの友達の話でもしようか。ねえ、猫はわかるかな」
 君たち、手伝ってくれるかい。その呼びかけひとつで、どこからともなく野良猫が現れる。にあ、にあ、と声が響けば、卵たちもわあっと声を上げた。
「……まあ、こんな感じの生き物だよ。ボクの友達も猫でね」
「ねこ、ねこ、しろー?」
「いいや、ボクの友達はまっくろの黒猫さ。……まあ、友達って言っても向こうはボクの事をどう思ってるかわかんないけど」
 けれどあの黒猫は、まるで全部わかっているみたいに、寂しいときには寄り添って、何気なくにゃあと声を掛けてくれる。未だ掴みかねている距離を、あっさり詰めて良いとばかりにぬくもりをくれる。
「ボクはヤドリガミなんだけど器物の頃の記憶が殆ど無くてね。……骨董屋の蔵に居た事までは覚えてるんだけど、気がついたら独りぼっちだったんだ」
「ひとりぼっち」
「さびしい」
「やだー」
「……うん。ボクも、やだった。これからどうすればいいのかわからないって途方にくれて、そんな時にあいつに出会えた」
 マルコは名前も呼ばずにあいつ、と言う。他人行儀のようで、何よりも誰よりも親しげな声で。
「あいつも独りぼっちでさ。何故だか、気が合うような気がしたんだ。おかしいだろ?」
「おかしい?」
「おかしいの?」
「おかしくないー」
 ころころ、卵たちは首を傾げるように転がる。猫たちがすっかり戯れているけれど、それよりマルコの話が聞きたくてたまらないようだった。
「まあ、とりあえず、この黒猫と旅でもしてみようかなって思って今に至るわけさ。……あいつに出会わなかったら、今君たちとも出会えていないかもね」
 きっとそうだ。根拠もなくそう思う。骨董屋の片隅で埃にまみれて、ヤドリガミになって、わけもわからずに人の姿で歩こうなんて、あの黒猫がいなかったなら、思えもしなかった。
 だから、あの黒猫だけは、マルコの友達だ。友達だって、そう言える。
「いいともだちー?」
 ころり、転がった卵をそっと抱き上げて、マルコは柔らかく、少年らしく笑った。
「……うん。最高の友達だよ」

 ――にゃあ、嬉しそうな、声がした気がした。

大成功 🔵​🔵​🔵​

アルバ・アルフライラ
ジャハル視点

ジジ(f00995)と
女三人寄れば姦しいとは云うが
まさか卵でもそうとは思わなんだ

従者の話に口元が緩むのを必死に堪える
否然し、問うも野暮だ
ならば奴と同じく、私も役目を全うする迄

よし――其処な本の方
ふふ、卵ばかり相手されていては退屈でしょう
きっと沢山の魅力的な物語が貴方の中に眠っている筈
…私の話も末席に加えて頂けましたら光栄です

例えば…こんな話は如何でしょう
或る日の事、彼等の世界から光が消えてしまいました
賢者は光を取り戻すべく黒竜と共に旅に出ます
様々な苦難の末、辿り着いた泉に咲いていたのは光る花でした
其処で手に入れた花を空に捧げ、星とする事で
世界は光を取り戻したのです

*従者以外には敬語


ジャハル・アルムリフ
*アルバ視点

師父(f00123)と
…卵も本も、此処のは随分と喧しいな
落ち着け、座れ
聞きたい者がいるなら並べ

話、と聞けば早々に行き詰まる
読み聞かせたそれと師に悟られるのは面白くない
ならば…
迷いながら訥々と、感情などほぼ宿せぬが


昔々、泥の海で暮らす一匹の蜥蜴がいた
…薄汚れた蜥蜴は、人間になりたかった

ある日、腹を空かせて動けない蜥蜴の前に
空から光る流星が落ちてきた

星は、己の半分を蜥蜴に割って与えた
…星を呑んだ蜥蜴は人間になり
優しい星の守護者として生きたそうだ


以上、質問はあるか
あっても分からぬのだが
もう物語はお前達のもの故

耳を欹て横目で師を窺えば
まるで真逆の手慣れた様子
そして――何処かで聞いたような



●ジャハル・アルムリフはかく語りき
 朝も夜も知らない空が、真白いままにそこにある。
 これでは天も地もない――いや、落ちる影だけが地の証明になるだろうか。そこに飛び跳ねる卵と本とは、未完成の絵本じみた、
「くろくろ、きらきらー、おにーさん?」
「おはなし、おはなし」
「なんだろなー?」
 ……卵も本も、此処のは随分と喧しいな。
「落ち着け、座れ。聞きたい者がいるなら並べ」
 俺が簡潔に述べた指示には、すぐ隣から笑う声が聞こえる。
「はは、女三人寄ればかしましいとは云うが、まさか卵でもそうとは思わなんだ」
「師父、笑っている場合ではない」
 現にはしゃいだ卵たちが跳躍力を増している。そのてのひら大ほどの小さな楕円がいったいどうして跳ねたり飛んだり増してや喋ったりしているのか。……まあ、そういう存在なのだろう。深くは考えまい。
 ただ、加減を知らぬ子と同じ。思い切り跳ねたのが師父へ向かうのを手のひらで止めた。どちらにひびが入っても、楽しい話にはなるまい。
「ジジ、遊んで来い」
 待ちかねているぞと師父が言う。卵たちは確かに、おはなし、おはなしと無邪気な声をあげている。
「……。……わかった」
 促されるようにして、俺はその場に座り込む。話と言われれば、話す前から行き詰まることはわかっているのだ。記憶にある本を聞かせるか――だが、師に読み聞かせたそれと悟られるのは面白くない。
 黙ったまま、悩み迷う。お構いなしに卵たちは胡座をかいた俺の膝で遊び始めているが、きちんと座れと言ったろう。……持ち上げたが、どちらが上だ。さらに迷って置いてやる。
「さかさまー」
 逆だったらしい。済まない。
 師父は背中側で、どうやら本を相手に話をしようとしているらしい。ならば。
「……昔々、泥の海で暮らす一匹の蜥蜴がいた」
 あいにく、読み聞かせの能力は身につけていない。面白みのない語り口だろう。……ああ、だが、話が始まると、卵たちは耳を澄ますように静かになった。本当に好きなのだとわかる。
「薄汚れた蜥蜴は、人間になりたかった」
「とかげ、とかげ」
「にんげんー、おおきい?」
「蜥蜴にとっては。……ある日のことだ。腹を空かせて動けない蜥蜴の前に、空から光る流星が落ちてきた」
 それは多分、眩しいものであったろう。泥のような闇底の、一筋の光のようなものでもあったろう。
「星は、己の半分を蜥蜴に割って与えた」
「おほしさま、わっちゃった?」
「いたいー?」
「少なくとも、星はそんなことは気にしていなかった」
 与えられた星の欠片は、喪ったしるべのように。
「……そうして、星を呑んだ蜥蜴は人間になり、優しい星の守護者として生きたそうだ」
 迷い迷いの話は、まるで手慣れぬ。だが、卵たちは嬉しげにころころと転がって、膝で星と蜥蜴の話を反芻するようにわあわあ言う。
 それに僅かに息を吐いて、ふと横目で伺い耳をそばだてれば――師父の声が、聞こえた。

「卵ばかり相手されていては退屈でしょう。きっと沢山の魅力的な物語が貴方の中に眠っているはず。……私の話も末席に加えて頂けましたら光栄です」
 こんな話は如何でしょう――そう、師父が語る。なるほど、語り始めからして手慣れている。俺とは真逆と言ってもいい。
「或る日の事です。彼等の世界から、光が消えてしまいました」
「ふむ、光か。この世界は生まれたてゆえ、闇とはいまだ縁がないな」
 本の声だ。なかなかに渋い。
「闇に沈みきるよりは、よっぽど良いことですよ。――賢者は、光を取り戻すべく黒竜と共に旅に出ます」
「黒竜、かね。白ではなく?」
「ええ、私のよく知る竜は黒です。……様々な苦難の末、辿り着いた泉に咲いていたのは光る花でした」
 聞き慣れた師の声だ。けれどいつもよりもその声音は柔らかく響いている気がする。……それにしても、黒竜。そして、その話はまるで――何処かで、聞いたような。
「そうして、其処で手に入れた花を空に捧げ、星とする事で、世界は光を取り戻したのです」
「おほしさまー!」
 飛び跳ねるような声がして、俺も僅かに驚いた。何故そちらで声がする。……なるほど、卵がひとつ、いない。耳をそばだてる隙をつくとはなかなかどうして素質がある。ではなく。
「……話の邪魔をするな」
 俺は振り向いて、ひょいと卵を持ち上げた。
「構わん、ジジ、ちょうど終わったところだ」
「そうか。……師父よ」
 俺は師父のような抑揚もない声音で呼べば、その表情をじっと見た。
「口元が緩んでいる」
「そうか? ――ふふ、いや、なに、何処からか、懐かしい話が聞こえた気がしてな」

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

落浜・語
【本視点】

噺をするのは俺の得意分野だが、どんな話がいいか…

ある図書館では、本の1ページだけが喰い破られてしまう、なんて事件があった。
食べられてしまうのは星に関する話のページ。
それを何とかしようと、動き出したのはまだまだ駆け出しの魔法使い達。
星に関するページを見つけて、辿っていった先に居たのは、星を食べる化物。
それを見て魔法使い達はすくんでしまった。自分達はまだ駆け出しで、できることなんて少ないから。
けれども、彼女達は見守る者の後押しで立ち上がる。
そうして、力を合わせて使った魔法は、見事にその化物を倒し、本を守った。
こうして、彼女達は一人前の魔法使いへの一歩を踏み出した。

…元気かな、あの子。



●本は語とかく語りき
 おや、君は随分と話に好かれそうだ。
「うん? ……俺のことかい?」
 ああ、君のことだ。萌黄色纏う青年。話を聞かせておくれと言ってもいいかい。
「ああ勿論、噺をするのは俺の得意分野だが、どんな話がいいか……」
 なんでもいいのさ、君が語る話を私は聴きたい。――ああ、名前も教えておくれ。
「俺は落浜・語。噺家の端くれ、かな。……そうだ。なら本に纏わる話をしよう」
 なるほど、本に本の話を聞かせてくれるのか。これは粋な計らいだ。では、楽しみに聞かせて貰うとしよう。
「ある図書館で、本の一頁だけが喰い破られてしまう、なんて事件があった。……それも、喰われる頁は決まっている」
 本が喰われる?
 それはまた、奇妙な話だ。私たち本では、心を満たせても腹は満たせなかろうに。ああ、それとも。
「ああ、そうだ。本を喰らっていたのは怪物。食べられてしまうのは、星に関する話のページ」
 怪物は星が好きだったのかい?
「どうだろうな。けれど、それを何とかしようと動き出したのは、星が好きな――まだまだ駆け出しの魔法使いたちだったよ」
 魔法使いか。私も知識として知ってはいるが、巡り会ったことはいまだない。ああ、それとも君たちがそうだとも言えるのだろうか。彼の話は、実に聴きやすい声で続く。
「星に関するページを見つけて、辿っていった先に居たのは、星を食べる化物。それを見て魔法使いたちはすくんでしまった」
 恐ろしい姿をしていたのだろうか。私がそう尋ねると、彼はまるでそれを見たことがあるように、そうだな、と頷いた。
「魔法使いたちはまだ駆け出しで、できることなんて少なかったんだ。それなのに立ちはだかった怪物は恐ろしい。――けれども、彼女たちは見守る者の後押しで立ち上がる」
 見守るもの。……ああ、なるほど。それが君なのだろうか。
「わかるのか?」
 ああ、とても優しい目をしているからね。
「少し気恥ずかしいけど……そうだな。俺も、あの子たちの冒険を、見守っていたんだ」
 きっと心強かったろう。穏やかで聴きやすい君の声は、心を定めやすくしてくれるだろうから。
「そうだと良いんだが……そうして、力を合わせて使った魔法は、見事にその化物を倒し、本を守った。――こうして、彼女たちは一人前の魔法使いへの一歩を踏み出したんだ」
 そうか、そうか。それは良かった。
 その一歩が、きっといつかの未来につながっている。
 なあ、君、本を開いてくれないか。君がくれた物語を、私に刻んでおこうと思う。
「ああ、いいとも。……これで、いいのか?」
 ゆっくり、丁寧に。真白い頁が開かれる。ありがたい。君はものを大事にできる者だね。私がそう言うと、彼は微笑んだ。
「俺も、大事にしてもらったからな」
 ……君も?
 そうか、もしや世界には、まだまだたくさん私の知らぬことがあるのかもしれない。けれどほら、君のおかげで、真白い頁に文字が綴られる。
 ――星を綴る、魔法の物語。

「……元気かな、あの子」
 ぽつりと、優しい声が囁く。
 ああ、きっと。魔法使いたちは君たちのことを決して忘れず――いつかの未来に。

大成功 🔵​🔵​🔵​

ルーク・テオフィルス
【炎心】
アドリブ◎

あいにく僕はあまり覚えていないんだ
ああ、けど安心しろ!ジークがいるから!
ジークは覚えているから!

ジークムンドを座らせて
その脚の間に腰かける
たまごたちもおいで
たまごを両手で抱き締めて
さあジーク話を聞かせろ

…あ!こらちょっと、これじゃ聞けないじゃないか!
ジークムンドの大きな手に両耳を塞がれて
じたばた暴れようとするけど
そうだったたまごを抱えているんだった
っていうか、普通に…力が強すぎる!
せめてどんな話をしているのか表情だけでもと思うのにそれも見えない
そろっとたまごを下ろして今度こそ!…っと思ったところで
今度は頭をぐわんと動かされた
何なんだ一体!
いい加減に離せと肘で攻撃
まったくもう!


ジークムンド・コンラッド
【炎心】
アドリブ◎
姫さん、アンタも物好きですねぇ
まあ…しょーがねえか
けど内緒の話なんで
掌でルークの耳を塞ぐ

これはある男が救われた話だ
その男は貧民外の生まれでな
禁止されてる人買いをのさばらせるような
悪い領主に仲間共々強いたげられてたんだ

けど男は抗った
なんとか武器を手に入れて
仲間の身を守る為と勇敢にも立ち上がった
蛮勇っつーんだろうよああいうのを
結果は散々
たくさんたくさん殺されて
少なくなった仲間を生かす為に…結局男は逃げるしかできなかった

…どこに救いがあるのかって?
それはこれからだぜ焦りなさんな
男の救いは人の形で転がりこんできた
ちょうどこういう見た目の
…~ッ!
姫さんそこは…ちょっと酷すぎやしませんか




 何もない世界でも、かちこち、時計の針は同じ速度で進む。
 いまだ真白い世界で、赤色の少年が、大きな瞳をきょろきょろとさせて辺りを見渡していた。
「本当に何もないんだな」
「そうですねえ。ってか、来たいって言ったの姫さんでしょ。アンタも物好きですねえ。……ほら、真っ白タマゴが来てますよ。今度は俺らの番らしい」
 ぱちんと年季の入った懐中時計の蓋を閉めて、ジークムンド・コンラッド(壊れた時計・f19706)はわいわい言いながら跳ねて来た三つの白卵たちを見やる。
「おはなしー」
「はなしー?」
「なんだろな?」
「わわ、すまない、もう来ていたのか。あいにく僕はあまり覚えていないんだ」
 ルーク・テオフィルス(亡国のアリス・f19717)が視線を合わせるように座ってやれば、ルークは一点の曇りもない笑顔を卵たちに向けた。
「けど安心しろ! ジークがいるから!」
「……はい? ちょっと?」
 卵と戯れる主人を見守る程度の気分でいたところに持ち出されて、何を言い出すんだとばかりにジークムンドがルークを見れば、相変わらずの笑みがある。
「僕に話せるだけの記憶がなくても、ジークは覚えているだろう?」
「いや、まあ……」
「ほら、座れジーク。ジークムンド!」
「……はああ。しょーがねえか……」
 その口調で名を呼ばれると弱い。否と言う気も失せてしまえば、当然とばかりにルークはジークムンドの脚の間にちょこんと座った。なるほど逃げないようにの保険か、ただの天然か。後者な気がする。
「さあジーク、話を聴かせろ」
 たまごたちもおいで、とルークが呼べば、大喜びで卵たちはその両腕に収まって、今か今かと話を待つ。
 がしがしと黒髪を掻いていたジークムンドも、そうされてしまえば踏ん切りはついたらしい。話せることなど、実を言えばさほどないけれど。――この信頼を裏切りはしまい。
「けどま、ナイショの話なんで」
 両手で赤毛から覗く両耳をべしっと塞げば、
「こらちょっと、これじゃ聞けないじゃないか!」
「暴れないでくださいよ、ほら、タマゴ」
「あっ」
 聞こえてはいないはずだが、もがいたルークも気づいたらしい。慌てて大切そうに卵たちを抱き直した。ていうか普通に力が強すぎる、なんてぼやく声は聞こえないふりだ。
「……これは、ある男が救われた話だ」
「すくいー?」
「ああ。その男は貧民外の生まれでな。禁止されてる人買いをのさばらせるような、悪い領主に仲間共々強いたげられてたんだ」
 語るのは記憶。――積み重ねられた、とある従者の。
「けど男は抗った。なんとか武器を手に入れて、仲間の身を守る為と勇敢にも立ち上がった」
「かっこいー!」
「いー!」
 無邪気な声に苦笑が浮かぶ。
「いいや。蛮勇っつーんだろうよああいうのを。……おかげで、結果は散々。たくさんたくさん殺されて、少なくなった仲間を生かす為に――結局男は逃げるしかできなかった」
「しょんぼり……」
「ころころ」
「すくいー……?」
 たくさんの話を聞いたおかげか、卵たちも話の楽しみ方はわかって来ているのだろう。顔もないのにしょんぼりとしたように見えるから不思議だ。ジークムンドは精悍な顔つきを優しげに笑ませる。なんとか脱出を図っている主人のもがきは素知らぬふりで封殺して。
「そうしょげるなよ。救いってのはこれからだぜ。焦りなさんな、タマゴさん」
 そうして内緒話は一番大切なところまで辿り着く。
「男の救いは人の形で転がりこんできた。そうだな、ちょうど――」
 こっそりそうっと卵たちを置いて、今度こそ動こうとしていたルークの頭をぐわんと揺らして、卵たちに見えやすくしてやる。
「のあっ、何なんだ、いったい!」
「こういう見た目の」
「――いい加減に! は、な、せ!」
 ずどんと一発。情けも容赦もない美少年の肘鉄が、逞しい男の脇腹に見事に決まった。
「……〜〜ッ!」
 ジークムンドは言葉もない。
「いたそー」
「いたい……」
「あれはいたいー」
「いいんだ、まったくもう!」
 酷すぎやしませんか、と呻くジークムンドの抗議に、ルークはつんとそっぽを向いて聴かぬふりだ。けれど、耳まで塞がれた内緒話を、無理に問いただそうとは思わない。
「……それで、たまごたち。話は楽しめたか?」
 ふわりと笑って問いかければ、卵たちからわあっと声が上がった。
「よかった」
「よかったー!」
「すくわれ、たー!」
「……?」
 ルークはつい首を傾げる。何の話だろう。けれど、きっと。

「――そうか。それは、良かった」

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

鶴澤・白雪
ライオット(f16281)と

『白雪視点』童話の幸福の王子を読み聞かせるわ
ナレーションはライオットと交代であたしは燕の台詞担当よ

読み聞かせなんて妹にした以来だわ
懐かしく思えば自然と声色は和らいで

「あなたは誰ですか?どうして泣いているんですか?」
台詞を読むたびにライオットの様子を確認しながら

お話の終盤、王子が本当に涙ぐんでいるのに気づいたら
ライオットの頭を撫でながら読み聞かせを続けて

この子も優しいから幸福の王子の気持ちが分かってしまったのかしら?

終わったらよくできましたってこっちの王子も褒めてあげないとね

この話を聞いて卵ちゃん達は何を思うのかしら
出来れば誰かを想える事の尊さを感じて欲しいものだわ


ライオット・シヴァルレガリア
白雪さん(f09233)と

生まれたてのセカイか
何だか心弾む響きだね

白雪さんと一緒に『幸福の王子』というお話を読み聞かせるよ
僕は王子様の像の台詞を担当しよう
ナレーションは交代で読もうか
登場人物の心境を想像しながら、心を込めて演じるよ

本を読むのが上手だね、白雪さん
それに君自身もとても楽しそうだ
君のそんな姿を見ていると、僕も楽しくなってくる

物語の終盤になると、読みながら自然と涙が溢れてしまった
感情移入しすぎてしまったのかな
人間はなんて感動的な物語を書くんだろう

白雪さんの手に安心感を貰いながら
何とか全て読み終えることができた

どうかな
君たちも何か感じるものがあったかい?



●鶴澤・白雪はかく語りき
 まっしろな世界なんて、本当にあったのね。
 ぼんやりとそんなふうに考えてしまったのは、息が詰まるような星の果ての真っ暗闇を覚えているからかしら。広いくせに、とても狭い――誰も救い方を知らないような。
「生まれたてのセカイか……なんだか心弾む響きだね」
 ふと弾んだ声が聞こえて、あたしは少しだけ遅れて、そうね、と返した。同時に少しだけほっとする。そうね、一人じゃなかったんだわ。
「話を聴かせる……と聞いたけど、あの子たちはどこかな」
「ライオット、こっちよ。ほら」
 呼んで示したのはぴょこぴょこ跳ねて来る小さな子たち。丸くて白い、卵ちゃんたち。……可愛いわね。
「おはなし、おはなしー」
「こんどはー?」
「なんだろな?」
「今度はあたしたちのお話よ。……童話を読んであげる。ねえ、ライオット」
「うん。勿論、持って来ているよ」
 そう言ってライオットが取り出してくれたのは、あたたかい色使いの絵が表紙を飾る、一冊の本。読み聞かせなんて、ありきたりかしら。でも、話を聴かせると聞いて、これが一番に思いついたのだから仕方がない。
 あたしたちは並んで座って、真ん中に卵ちゃんたちを迎えると、ゆっくり本を開いた。
「読み聞かせなんて、妹にした以来だわ。……懐かしいわね」
「妹さんに?」
「ええ。……この本も、読んであげたことがあるわ」
 ぺらり。頁を捲る。――あたしたちが読むのは、『幸福の王子』。有名な童話だけれど、簡単に言えば、とある街の立派な王子の像が自我を持ち、訪れる燕と友達になって、自分の像についた装飾品や金箔を苦しむ人々に分け与える。やさしすぎる王子と燕の、そんなお話。
「――昔々、あるところに」
 ゆっくりと読み始める。ナレーションは、あたしとライオットと交代で、台詞はあたしが燕を、ライオットが王子を読んでくれる。ぴったりでしょう?
「あなたは誰ですか? どうして泣いているんですか?」
「僕は――」
 ライオット、少し緊張しているのかしら。そう思ったけれど、二つ目の台詞を読む頃には、声も表情も、いつもみたいに柔らかくて優しいものになっている。……よかった、楽しんでくれているみたい。
「おうじー?」
「つばめ、なんだろな?」
「燕は、鳥よ。本来渡り鳥なのだけれど、寒いのが苦手なのに、王子と人々のために頑張ってくれたのね」
 読み進めるごとに、卵ちゃんたちも夢中になって聞いてくれるのがわかる。微笑ましくて緩む口元でひとつひとつ疑問に答えてあげながら、やがて物語は終盤へ向かってゆく。
 優しくて、健気な王子。その王子が大好きで、その願いを叶えようとする燕。
「……朝になると、燕は王子の足元で、冷たくなってしまっていました」
「燕さん、僕は――」
 読む声が、隣で詰まって聞こえた。見れば、隣でぽろぽろと、涙を流しているライオットがいる。本当は、少し前から堪えていたのに気づいてはいたけれど。
「……平気?」
「ああ、大丈夫。……少し、感情移入しすぎてしまった、かな」
「あと少しよ。あなたが読んであげて」
 そっと頭を撫でてやる。年上なのはわかっているけれど、それ以上に、この子が優しいのを、あたしはよく知っているから。
 しばらく撫でていたら、ライオットが頬を緩めて笑ったから、きっと安心してくれたのだと思っておくことにする。
「――僕は、しあわせだ」
 最後の一言を、ライオットが大切に読み上げて。そうしてお話は、おしまいになる。
「おうじー」
「つばめ……かなしいー」
「やさしい、やさしい」
 話が終わると、静かに聞いてくれていた卵ちゃんたちが声を上げる。……何を思うのかしら。できれば、誰かを想えることを、その尊さを、感じてくれたら良いけれど。
 そんなことを考えながらいると、隣でライオットが同じように瞳を和ませていた。
「……ふふ、ありがとう、白雪さん。君のおかげで、読み切ることができたよ」
「あら、だったら、嬉しいわ」
「本を読むのが上手だね、白雪さん。それに、君自身もとても楽しそうだった。……おかげで、僕も楽しい気分になることができたよ」
「あたしのおかげって、そうかしら。……でも、この子たちが楽しめたのはライオットのおかげよ。こっちの王子も褒めてあげなきゃね」
 くすくすと笑って言えば、ライオットもつられたように笑って――そうして。

「……白雪さん」
 ふと、声をひそめた。
 え、と首を傾げかけて、あたしはライオットの瞳が動くままに、視線の先を見る。そこには、すうすうと心地好さそうに眠る、三つの卵ちゃんたちがいた。顔も何もないけれど眠っているとわかるのは、すっかり静かになってしまったからだ。あんなに賑やかだったのに。
 その様子に、つい目を細めてしまう。
「……きっと、たくさん話を聞いて疲れてしまったのね」
「たくさんはしゃいでいたみたいだからね。……少し眠らせてあげよう」
 ひそめた声でうなずき合って、笑い合う。それだけのことが、なんだかとてもやさしいことで、嬉しいことのような気がするから、不思議だ。

 ――この子たちが目覚めたら、きっとまた、無邪気な声が世界に響く。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​




第2章 日常 『暗い部屋なんて……』

POW   :    何が出てきても力で解決だ!

SPD   :    部屋に隠された物はないかな?

WIZ   :    部屋の状態から推理してみようか

👑5
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

種別『日常』のルール
「POW・SPD・WIZ」の能力値別に書かれた「この章でできる行動の例」を参考にしつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


●真っ白な世界はどうなったって?
 いやはや、本当に様々な話を聞かせて貰った。私も、卵もとても楽しい物語を貰ったよ。
 卵たちは眠っているようだね――ああ、世界を作っているのか。
 見てご覧。真白い世界が色彩を覚えたようだ。星空、青空……おや、地面にも色が広がった。
 ひょこりと出た芽は、おや、みるみる大きくなって。ご覧、建物だ。
 あれは……城だろうか。それに隠れ家のような小さな家、星空を抱いた森の古屋敷――様々な建物ができたものだ。
 どれもまだ形がはっきりしていないが、何、もっと話を聞けばきっとこの世界は楽しいものになる。
 さあ、君、君だ。話をもっと聴かせておくれ。それと、好きな建物に、連れて行ってはくれないか?
 いや、なに、探検をしたいだなんてはしゃいでいるわけではないが。
 この世界に何が生まれたか、何を作るべきか、教えておくれ。
 君の話を、教えておくれ。
鵜飼・章
【本視点】
ねえ本さん
あの白い霧は何だと思う?
きっと鴉達の旅路の続きだ
さあ、見に行こう

ロボの心を飲みこんだ鴉は旅を続けます

霧が晴れ現れたのは氷の城
ここには鳥籠に閉じこめられた
一羽の可哀想なカナリアがいました

カナリアは歌います
「♪私は海が見てみたいの」
鴉は返します
「見に行けばいいじゃない」
カナリアが悲しげに首をふるので
鴉は帰ろうとしました
するとロボの心が鴉の口を借り喋りだしたのです

『君は自由だ。どこにだって飛んでいける』

鴉は鳥籠を壊しました
カナリアは躊躇いながらも
勇気を出して大空へ羽ばたきます

ほら…あれが彼女の鳥籠
沢山の鳥達がこの世界へ飛び出していくよ

ねえ聴こえる?
彼女の歌が
不器用な鴉の鳴き声が…



●本は章とかく語りき
「やあ、本さん」
 やあ、君。君だ。また会えたようだね。
 ……ああ、大丈夫、名前は覚えているとも。あきら――そう、章、だ。
 さまざまな話に君の話も加わって、世界は大きく広がった。
 ああいや、元から広かったのかもしれない。けれど全てが全て白ければ、その広さの伸び白すら有耶無耶になると言うものだろう。未だこの世界はあやふやなものばかりだが……そう、物がある。建物がある。
 白を白と知れる色彩がある。……君の語った『ロボ』と『鴉』はあの青い空を飛んで、どんな色を見たのだろうね。その一端でも、私の白紙に刻めると良いのだが。
「……なら行こうか。本さん」
 つい言葉を続けた私に静かに笑って、彼はゆっくり頷いた。
「ねえ、あの白い霧は何だと思う?」
 霧……ああ、あれか。まるで色混ざる空を搔き消すような白のもや。君は何だと思う?
「そうだね。きっと、鴉たちの旅路の続きだ。――さあ、見に行こう」
 ああ、勿論ついてゆくとも。
 どうやって移動するのだって? 今更な問いをしてはいけない。私はずっと、君の目の前で浮かんでいるだろう。世界が白すぎて、浮かんでいることすら私も知りはしなかったがね。
「翼もないのに飛べるのは、ここが君たちの世界だからかな。……この世界の本はみんな飛べるようになるとか?」
 それはまた。落ち着きのない図書館になりそうなことだ。
「本当だ。でも個人的には、本が静かに揃って待っている図書館は、嫌いじゃないよ。……霧を行こうか、本さん」
 話しているうちに霧のすぐ側まで来ていたらしい。――章。話の続きを聞いてもいいかい?
「そうだね。続きを始めよう。……ロボの心を飲みこんだ鴉は旅を続けます」
 彼と私の歩みは続く。霧の中へ。視界は白へ。
 けれどすぐに、霧は薄らぎ、視界は澄んだ色を持つ。
「霧が晴れ現れたのは――」
 氷の城。そう彼がゆっくり紡いだその音で、あやふやだった建物の影は途端に自信を持ったように輪郭を持つ。かちりと世界と噛み合うように聳え立つは、白銀の氷の城。
「……ここには、鳥籠に閉じこめられた一羽の可哀想なカナリアがいました」
 カナリア……声の美しい小鳥、だね。
「そう。彼女はとても美しい歌声を持っていた」
 まるで聞いたような口ぶりだ。私がそう言えば、章は笑みを深くしたような気がした。けれど頷くでもなく、語り部の声は城の下で続く。
「カナリアは歌います。――私は海が見てみたいの」
 紅茶に色を加えるレモンのような声で彼が歌う。カナリアの声は聞いたことがないが、章の歌声をそれとして覚えたなら、彼はどう思うのだろう。
「鴉は返します。『見に行けばいいじゃない』。……それでもカナリアが悲しげに首をふるので、鴉は帰ろうとしました」
 帰ってしまうのかい?
 話を聞き留めながらつい私がそう言えば、章は口元に小さな笑みを浮かべて首を横に振った。
「すると、ロボの心が鴉の口を借りて、喋り出したのです」
 続いた声は、語り部の緩やかな声でも、カナリアの儚い歌声とも違う――彼の声だったように思う。
「『君は自由だ。どこにだって飛んでいける』」
 自由。自由か。
「そう。世界はとても広いんだ。……鴉はそれを知っていた。綺麗なものも、きらきらしたものも彼らは好きだから」
 だから、と声は続く。
「鴉は鳥籠を壊しました。カナリアは躊躇いながらも、勇気を出して大空へ羽ばたきます」
 そう章が語り掛けた途端、氷の城にぱきんとひびが入る。ぱきぱきと音を立てて、氷の城は崩れて落ちてゆく。その、奥から。
「ほら……あれが彼女の鳥籠。それが壊れて」
 ご覧、と和らいだ声が奥から羽ばたく色とりどりの小鳥たちを導いてゆく。
「――沢山の鳥達がこの世界へ飛び出していくよ」
 ばさり、小さな羽ばたきの音は重なり、大きくなって世界に広がる。凍りついた鳥籠はすっかり崩れて落ちて、鳥達と羽ばたきは、凍えた空にすら色を与えてゆくようだ。
 聞こえる声は、自由の歓喜。……それから。
「ねえ聴こえる? 彼女の歌が」
 ああ、聞こえるとも。彼女の歌も。

「……不器用な、鴉の鳴き声が」
 ――ああ、聞こえるとも。
 何かになりたいと考えを重ねゆく、不器用な青年の語り声が。
 セカイは世界を作りゆく。彼らの声に、鳥の羽ばたきに導かれて。冬を覚え、歌を覚えて。

 なあ、君。章。君に聞いてみたい。……私は君の語った童話がとても好ましいけれど。だからこそ、思うのだ。
 ヒトとは、なんだろう。
 ひととは、人の形をしたものか?
 それとも人の心を持つものか?
 それとも、それとも。……迷うもの、だろうか。迷い、考えるもの、だろうか。
 私たちはヒトではないが、だからこそ、私からは君がとても人らしく見えるのだ。
「不思議なことを言うね」
 ――そう言ったときに彼が見せた表情を、私は人間として、覚えただろう。

大成功 🔵​🔵​🔵​

マリアドール・シュシュ
リュカ◆f02586
アドリブ◎

一章の続き
星に関する物語を紡ぐ
珈琲の湯気で出来た扉にミュゲの星屑模様
作られる未知の建物を見て目爛々

さぁおいで
頁を埋めましょう

天文台、マリアも入った事がないのよ(緩く首振り
星も外でしか見た事がなくて
あっ確か球体の…(思い出しかけ
ぷらりずむって名前だったかしら!
満点の星空がいつでも見られるなんて凄いのよ
星座も沢山見られると聞いた事があるのだわ
リュカは星座は詳しい?どの星座が好き?
星占いなんてものも出来るみたいなの

明け方に流れ星が落ちる様や夜空に咲く一等星、星座など
春夏秋冬の星空、移り変わる景色をリュカと楽しみ探索
一番のお宝は、

マリアとリュカにぴったりな星はあれかしら


リュカ・エンキアンサス
マリアドールお姉さん(f03102)と

…世界の不思議なことには驚くばかりだ
今度は建物か…
天文台とかは、どうだろう
実は俺は、普通のちゃんとした天文台はまだ見たことがない
世界には、そういう星を見るために施設があるって聞いた
一度、いってみたいとおもっていたんだ
雨の日でも星が見られる…ぷら、なんだったっけ。そんなのがあるとも
お姉さんはいったことがある?
そっか。じゃあお互い想像の天文台だね
どんなものがあるんだろうな…

実は星座はそこまで詳しくないんだ
だからこそこの世界の星座とか作ったり
紹介してくれたら嬉しいかも
そうだね。星占いや、四季の星を見られるのもいい

んー
あれとあれとか?
そういう風に星を探せたらいいね




 星の声はどうやらしない。
 けれどささめくようにミュゲの星屑を散りばめた扉が、二人の前にあった。
 扉はあるのに、建物の形はよく見えない。まるで珈琲の湯気のようにふわりと揺らいで、時折その香りを感じさせる。
「……世界の不思議なことには驚くばかりだ」
 ぽつ、と驚きを声に滲ませて呟いたリュカ・エンキアンサス(蒼炎の・f02586)に、マリアドール・シュシュ(蜜華の晶・f03102)は星屑と同じくらいきらめく瞳で頷いた。
「そうね、本当にそうだわ。ねえリュカ、行ってみたい建物と言ったら、何か思い浮かぶ?」
「建物か。……天文台とかは、どうだろう。世界には、そういう星を見るために施設があるって聞いた」
「天文台……わ」
 リュカが少し考えて、マリアドールがそれを繰り返した。――その瞬間に、かたち揺らぐ建物が、その輪郭をはっきりさせてゆく。
 美しい星空の真ん中に建つ、夜色の塔。ミュゲの花がその足元を彩れば、星屑のドアがかちゃりと開いた。
「……呼んでいるみたいだね。それに」
 塔を見上げるリュカの蒼い瞳が振り向くと、すぐ後ろに本と卵たちがいた。
「お待ちかねみたいだよ、お姉さん」
「あら、まあ。……さぁ、おいで。頁を埋めましょう」
 花が咲くように微笑んで、マリアドールとリュカ、そして本と卵たちは、生まれたばかりの天文台に足を踏み入れた。

 天文台の中は、綺麗なものと、珈琲の香りと、本で溢れていた。くるくる廻る螺旋階段を登りながら、ふとリュカが口を開く。
「ねえ、お姉さんはいったことがある?」
「え?」
「天文台。実は俺は、普通のちゃんとした天文台はまだ見たことがないんだ」
「マリアも、入ったことがないのよ。星も外でしか見たことがないし」
 緩く首を横に振ったマリアが、おんなじね、と笑う。そっか、とリュカも頷いた。
「じゃあ、お互い想像の天文台だね」
 周りを見渡す。きらきらした星のための建物。本に天球儀、それから珈琲。そこかしこに飾られたミュゲの花。
 きっとこの天文台は、ふたりで語らったものでできている。それならば。
「雨の日でも星が見られる……ぷら、なんだっけ、そんなのがあるって。いってみたいとは、おもっているんだけど」
「あっ、確か球体の……ええと、ええと。ぷ。……ぷらりずむって名前だったかしら!」
 どことなく踊り出せそうな気がするのでたぶんちがう。けれどそれは言わずに、リュカはまた一歩階段を登った。その先で。
「……これは、すごいね」
「ええ、すごい、すごいわリュカ」

 星空があった。ふわりと淡く光る螺旋階段と、塔の中の満点の星空。――まるで、プラネタリウムのような。ふたりともそれを実際には知らないからこそ、瞬く星空はまるで本物だ。
 思わず声を上げたのは二人だけでなく、卵と本たちもだった。
 きらきらと目を輝かせて星空を見上げるマリアドールが、リュカを振り向く。
「ねえリュカ、リュカは星座は詳しい? どの星座が好き?」
「星は好きだけど、実は星座はそこまで詳しくないんだ。……世界をつくるって言うなら、この世界の星座を作ったりもできるのかな」
「できたら、素敵ね!」
 星空は二人の目の前で、その様相を変えてゆく。
 明け方に落ちる流れ星。夜空に花咲く一等星。春の、夏の、秋の、冬の星々が、代わる代わるリュカとマリアドールに挨拶に訪れるようだ。
「上手に星座を作れたら、星占いなんてものも出来るかしら」
「そうだね、きっと。……上手になんて作らなくても、こうやって探すだけで」
「リュカ、楽しい?」
「うん。……ほら、お姉さん、星が会いに来たよ」
 しゃらり、音はないけれど、星が流れて、マリアドールとリュカの目の前に落ちて来る。そっと手のひらで受け止めるようにすれば、生まれたての星は空に帰ってゆく。
「マリアとリュカにぴったりな星はあれかしら」
「んー。……あれと、あれとか。どうかな」
「ふふ、ならこっちも綺麗よ!」

 そうして、星空と星座は生まれゆく。楽しげな声と共に、宝探しのように。
「(――いちばんの宝物はきっと、あなたと過ごした時間だわ)」
 それはそうっと、新しい世界の秘密にしておいて。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

セリオス・アリス
【双星】
アドリブ◎
ふぁ~よく寝た…
なんの話をしてたんだ?
たまごと一緒に聞きながら思い出す
アレスの方が昔は泣き虫だったもんなぁ
このきれいな弱い生き物を俺が守ってやらなきゃって思ったっけ
思い返して…それからアレスを見れば
今のアレスは大きくて
つい上目使いになってしまう

君のおかげとか言われるのもくすぐったくて
あ~あの頃の可愛いげは何処に置いてきたんだ?
キラキラ天使みたいに可愛かったのになぁと茶々を入れるようにたまご達にこぼした
そのうち2つが一瞬小さいアレスの姿に
おお!っと感嘆の声をあげご機嫌で抱き上げ
いいから続けろよ
ニコニコと促す
アレスの話を聞きながら
たまごのほっぺに頬っぺたをくっつける
懐かしいなぁ


アレクシス・ミラ
【双星】
アドリブ◎

おはよう、セリオス
早速だけど、あの城に行ってみないかい?
冒険の話の続きをしながら、ね

城を探検した話はしたね
帰ろうとした時…僕達は道に迷ってしまった
…僕は不安で泣きそうになってね
そんな時、セリオスが手を握って励ましてくれたんだ
君も怖かっただろうに…でも、君のおかげで僕は頑張れたんだよ
僕達は再び帰り道を探そうとした
すると何かが来る音がしたんだ
セリオスは僕が守るんだって
必死に自分自身を奮い立たせ、剣を構えた
…正体は探しにきた父さんだったけどね
思わず二人で大泣きしたものだ
父さんには怒られたけど、僕達は無事家に帰れました
小さい頃のセリオスに一瞬変化した卵を抱き上げ
お話はどうだったかな




「ふぁ〜よく寝た……って、うわっ」
 目を覚ますや否や、セリオス・アリス(黒歌鳥・f09573)は真っ白な世界からまるで様子を変えた世界を見ることになった。
 きょとりとして首を傾げ、瞳を丸くして辺りを何度も見渡す。それにくすくすと笑みをこぼすのは、ずっと膝を貸していたアレクシス・ミラ(夜明けの赤星・f14882)だ。
「おはよう、セリオス。よく眠れたかい」
「ああ、何か幸せな夢見た気がするけど……アレスは何の話をしてやったんだ?」
「君も知っている冒険の話だよ。……今からその続きをしてあげようと思っているんだけれど、あの城に行ってみないかい?」
 そう言ってアレクシスが指差したのは、森の奥に聳える白亜の古城だった。――それを見ただけで、幼馴染が何の話をしていたかわかる。思わず懐かしさに頬を緩めれば、卵たちがわあわあと飛び跳ねる。
「おしろ、おしろー」
「おはなし、おはなし」
「ききたいなー?」
「……なんかちびたちも積極的になってねえか?」
「きっと世界ができてきて楽しいんだ。さあ行こう、セリオス」
 立ち上がったアレクシスがセリオスに手を差し出すと、セリオスも迷わずその手を取った。――いつか、子供の頃のように。

「城を探検した話はしたね。……帰ろうとした時、僕たちは道に迷ってしまった。僕は、不安で泣きそうになってね」
「ああ、アレスのほうが昔は泣き虫だったもんなぁ」
「だけどそんな時、セリオスが手を握って励ましてくれたんだ」
 こうやって、とアレクシスが何気なく繋いだままだった手を握り直せば、どこか照れくさそうにセリオスが頬を掻く。
 ぴょんと跳ねた卵たちは、セリオスとアレクシスの肩に乗って移動するのを楽しみ始めたらしい。耳を澄ますように大人しくちょこんとしている。
「あの頃は、このきれいで弱い生き物を俺が守ってやらなきゃって思ってたんだよ」
「知っているよ、ありがとう。……君も怖かっただろうに。でも、君のおかげで僕は頑張れたんだ」
「……は、話の続き! 城までもうちょっとだし」
 心から嬉しそうにアレクシスに笑いかけられてしまえば、俄かに頬が熱を持つ。それをごまかすように、セリオスはぐいぐいと大きな背を押した。
 そうしながら見上げれば、昔とは違うのがよくわかる。肩幅も背も、いつかは見えていたきらきらした金髪の頭のてっぺんだって見えない。
「セリオス?」
「……あ〜! あの頃の可愛げはどこに置いて来たんだ? 天使みたいに可愛かったのに」
 つい上目遣いに見上げるしかなくなった幼馴染は、首を傾げて嬉しそうに笑うのだ。
「さて、僕達は再び帰り道を探そうとした。……すると、何かが来る音がしたんだ」
「なにかー?」
「そう、何か。でも、セリオスは僕が守るんだって必死に自分自身を奮い立たせ、剣を構えた」
 でも、とアレクシスはくすりと笑う。
「……正体は探しにきた父さんだったけどね」
「めちゃくちゃ怒られたな……」
「怒られたね。思わず二人で大泣きしたのも覚えてる。……でも。僕たちは無事、家に帰れました」
 アレクシスが話を締め括れば、卵たちはわあわあと喜んだ声を上げた。そうして、肩で跳ねた卵が、ぽーんと宙に跳ぶ。ぱかりと、その殻がひらけば。
 ふわりと卵が光った次の瞬間。――卵たちが姿を変えた。
 ひとつは、きらきらした金髪を持つ、天使のような小さな男の子に。
 ひとつは、深い濡羽色の髪を揺らす、美しい声を持つ小さな男の子に。
「おお! 小さいアレス!」
「あの頃の、セリオス?」
 ひょいと抱き上げれば、二人の幼い頃の姿をそのまま映したような子供ふたりは無邪気に笑う。
「懐かしいなぁ。……な?」
 ぴと、と小さなアレクシスにほっぺたをセリオスがくっつければ、なお嬉しそうに笑う。――この笑顔を覚えて、救われて。守ろうと、何度思い出したろう。
「……なんだか恥ずかしい気もするけれど、不思議だな。またあの頃の君に会えるなんて」
 こつんと、アレクシスは額と額を合わせて小さなセリオスに笑いかけた。
「お話は、どうだったかな」
 幸せそうな子供たちは笑う。楽しげに、いっぱいの冒険を胸にして。

「――だいすき!」

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

リチュエル・チュレル
【オレ視点】

タロ(f04263)と

なるほど?
タロの話を聞いた結果がこの…建物、か?

ふふ、似ても似つかないが、不思議と懐かしい気もするな
ま、新しい世界だっていうなら古い――もう壊れちまったモノに似る必要もねぇか

眠らされちまったオレには何がどうなったのか知る由もねぇけど
起きてみりゃ館も街も跡形もない荒地が広がって…

…と、悪ぃ、今のは無しな
新しい世界にはもっと希望にあふれた、優しく温かい物語が相応しいだろ

うーん、そうだなぁ
オレはと言えば昔はずっと家事ばっかやってたからな
占い人形として創られたハズなのによ
ホントあいつら自分の好きなこと以外はなんもできないんだぜ?

って、これも希望にあふれた話じゃねぇか…


タロ・トリオンフィ
リチュ(f04270)と

そうだね、あのお屋敷より、なんだか少し明るくて賑やか
きっとひとりでに動く道具達のイメージが楽しそうに聞こえたのかも
あ、でもほら見て
あのホウキは、昔お屋敷に居たあの子に結構似ているよ
ついて行ったら、「彼ら」が居たりして――なんてね

居たとして、それは僕らの創造主達とは違う、
新しい世界の新しい彼らなのだけれど……
そしたら、彼らがまた僕らのような作品を創り出したりするのかなって

うん?
リチュが家事ばかりやってるのは、今も変わらないような
今はホウキやお鍋は居ないし、自分でするしかないもの
……あ、はい。
僕はあんまり出来てなかったりする
人の形で動き回るのは、結構慣れて来た筈なんだけれど



●リチュエル・チュレルはかく語りき
 世界が色づいて行くのを見るのは初めてだ。
 けど、何でだろうな。真白に色がついて行くのも、何かが出来上がって行くさまも。
 今目の前にある、道具たちがひとりでに動き回る不思議な屋敷も。
「ふふ。……似ても似つかないが、不思議と懐かしい気もするな」
 思わず笑っちまうな。これがタロの話を――魔道具師と画家のおはなしを聞いたセカイのカタチ。
「そうだね。あのお屋敷より、なんだか少し明るくて賑やかだ」
 隣でタロが嬉しそうに笑う。その腕にはわいわい言う卵を抱えてやっていたりして。
「まほうつかいのいえー」
「いこいこー」
「いくいくー!」
 うずうず、ぴこぴこ動いていた卵たちが辛抱できなくなったみたいに飛び出した。あ、ってタロが楽しそうに見送っている。……お前わざと手を放してやってたろ。それくらい見えてるぞ。
 そんなふうに呆れた視線を送っても、このタロットカードは柔らかく笑うばっかりだ。
「行ってみようよ、リチュ。このお屋敷にはどんな子たちがいるのか、気になるな」
「……しょうがねぇな」
 新しい世界に、どこか懐かしい屋敷。面影はさほどないが、古い――もう壊れちまったモノに似る必要もねぇ。
 前に立つだけで開く扉に招かれて、オレたちは屋敷の中へ入った。

 屋敷の中は案の定賑やかだった。
 ひとりでに動き回る道具たち。コトコト音を立てる鍋。星と月の紋章の本。
「随分と楽しそうな屋敷だな」
「ふふ。きっとひとりでに動く道具たちのイメージが楽しそうに聞こえたんだよ。……あ、でもほら、見て」
 リチュ、とタロがオレを呼ぶ。そういえばこうやって、タロに名前を呼ばれるのもすっかり慣れた当たり前のことになった。かつては喋ることもなかった、色褪せないタロットカード。
「あのホウキは、昔お屋敷にいたあの子に結構似ているよ。ついて行ったら『彼ら』がいたりして――なんてね」
 タロが指差したのは忙しなくぱたぱた埃を掃除する箒だった。確かに、巻かれた白いリボンなんてそっくりだ。よく汚れては綺麗にしてくれってオレのところに来てたっけ。掃除の道具なんだから汚れるのなんて当たり前で、嫌なら別のリボンにして貰えって言っても、それはそれで嫌らしかった。
「いてほしいか?」
「え?」
「『あいつら』がさ。……あいつらにまた、会いたいと思うか」
 何気なく聞けば、タロはきょとんとしてオレを見返した。それから少しだけ困ったように首を傾げる。
「どうだろう。ここに彼らが居たとして、それは僕らの創造主たちとは違う、新しい世界の彼らだから。……でも、そしたら、彼らがまた僕らのような作品を創り出したりするのかなって」
 だったらそれは嬉しいことだとタロが笑う。何年掛かるんだ、それ。
「眠らされちまったオレには、あのあとあいつらが――何がどうなったか知る由もねぇけど」
 動き回る道具たち。その指揮を取っていたのはオレだった。
 それなのに、あいつらが、道具たちがいついなくなったのか、オレは知らない。
「起きてみりゃ、館も街も、跡形もない荒地が広がって……」
 そう口にしてから、卵たちがはしゃぎながらもこっちの話を聞いているのに気づいた。
「……と、悪ぃ、今のは無しな」
「なしなしー?」
「そう、わかったら行って来い」
 首を傾げるみたいにぴこぴこ揺れる卵を、屋敷の奥に送り出してやる。すぐにはしゃいだ声が聴こえて来るから、思わず笑ってしまう。
「リチュ」
「新しい世界にはもっと希望にあふれた、優しくて温かい物語が相応しいだろ」
「……たとえば?」
 そう来るか。悩むじゃねぇか。
「うーん、そうだなぁ……オレはと言えば、昔はずっと家事ばっかやってたからな」
 掃除、洗濯、食事に片付け。占い人形として創ったのは誰だって話だ。けどそれもしょうがない。
「ホント、あいつら自分の好きなこと以外はなんもできないんだぜ?」
 我知らずオレは笑ってたらしい。釣られたようにタロがくすくす笑って、それから卵と同じように首を傾げた。
「うん? リチュが家事ばかりやってるのは、今も変わらないような……」
「お前がほとんど出来てねえからだろ。いいかタロ、片付けってのは積んで隅に避けるってことじゃねえんだぞ」
「……あ、はい」
 タロがちょっとしおれた。案外こいつは顔に出る。……出るようになった、って言ったほうがいいのかもしれない。
「確かに僕はあんまり出来てない。……人の形で動き回るのは、結構慣れて来た筈なんだけれどな」
 考え込むように呟くタロを数歩後ろに、オレは屋敷の中を勝手知ったるように歩く。そうして扉を開けた。あの屋敷なら、あいつの工房があった場所。

 ――そこには、二人、いた。
 真白いローブを目深に被り、絵筆を動かし続ける画家と。
 星と月の間から吸い上げたような蒼いローブを目深に被り、何かを作り続ける魔道具師。
 どちらも互いを見ないのに、組み上げた魔道具にすんなり色彩が馴染んで、モノが生まれゆく。

 ちっとも似てやしない。
 それなのに、似ているようなそんな気がした。
 きっと、創られているように見えたのが、人形と、タロットカードだったからだ。
 あんなにゆっくり丁寧に創っていたんじゃ、出来上がるには何年かかるか分からない。それでも。
「……大切そうに、創ってる」
「……ああ」
 それだけはよくわかった気がして、静かに扉を閉める。
 嬉しそうに笑うタロのローブの裾を、ぐしゃぐしゃに掴んだ。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

ヨハン・グレイン
オルハさん/f00497 と

ええ、不思議なものですね
新しく知る世界、瞳を輝かせる彼女はどこか眩しい
思えばこうして手を引かれて……惹かれてきたものだ
あなたの思うままに。ついて行こう

ああ、懐かしいな。そんなに昔でもないですけど
雨の日。鍵。どれもがあの時に無ければ今がない訳で
語る彼女の声を聞けるのも、あの時があればこそ

連れまわされているのは今も変わらないと思いますけどね
……まぁ、でも。心は変わりましたよ
同じではいられない。それはいい変化だったと思う

部屋の雰囲気は、俺の中では変わったよ
そう伝えることはないけれど
人が一人増えたから

あなたの落ち着ける場所になったのなら
何よりだよ、オルハ
俺からも、ありがとう


オルハ・オランシュ
ヨハン/f05367と
私視点

世界がこんな風にできていくなんて不思議だね
ふふ、早速探検しちゃおうか?あの建物がいい!
ヨハンの手を引いて、本も手招き

世界には色んな場所が必要だよ
落ち着ける場所もね

私、森の中で鍵を拾ったの
でも持ち主を探す間に天気が崩れちゃって……
持ち主が雨宿りさせてくれたんだ
その鍵がかかっていた場所で、ね

それからは私がいろんな所に連れ回したっけ
あ、でもこれは今も変わらないかな
なんて笑って
……私の心はすぐ君のものになったよ

雨宿りした所はね、
今では私にとっても心が落ち着ける場所になったの
部屋の雰囲気はここと似てる……
ね?ヨハン

彼の言葉で、胸がじんわりあたたかく
その手を握り直して
ありがとう



●オルハ・オランシュはかく語りき
 世界が色をきらめかせてゆく。
 鮮やかな色、深い色、落ち着く色、甘い色。……まるでくつくつ煮込んでるジャムみたい。とろけて形を変えて、色を変えて――収まる瓶を探すみたいに、建物も形を揺らがせて、変わってゆく世界の中に、私は君といる。
「世界がこんな風にできていくなんて不思議だね、ヨハン」
「ええ、不思議なものですね」
 当たり前みたいに隣にいるヨハンが、まじまじと不思議そうに世界を見つめながら答えてくれる。それだけでも、嬉しいなって思うんだ。
「ふふ」
「……どうかしましたか? 顔が緩んでますが」
「もう、またそういうこと言う。でもいいよ、その私に手を引かれるのはヨハンなんだから」
 ね、と彼の手を握る。手のひらに伝わる温度にすっかり慣れてしまった。君も慣れてくれた、だろうか。そうだといいな。
「早速探検しちゃおうか? 私、あの建物がいい!」
 まだ形も定まっていない生まれかけの建物へ、本も手招きして呼べば、ふわり浮かんでついて来てくれる。耳元に浮かんで、お邪魔していいのかい、って優しげな声が訊ねるのが、なんだかくすぐったくて笑ってしまった。
「ヨハン? どうかした?」
 ふと言葉が途切れたヨハンを見ると、彼は眼鏡の奥の瞳を、ほんの少し緩めて首を振った。
「……いいえ。眩しいなと、思って」
 眩しい……そうかな?
 真っ白な世界のほうがもしかすると眩しかった気もするけれど。
「あれ?」
「どうかしましたか?」
「ううん、今確かに建物の前に来たと思ったんだけど……一瞬、お祭りみたいな露店が」
 気のせいかな、と瞬いて、また見えた。ゆらゆら、揺らぐ世界のもやの先。お祭りの人混みの中で、手を引かれて歩いている、あの小さな男の子は――。
「行きますよ」
「えっ。ちょ、ちょっと待ってヨハン、いま」
「いいから、行きますよ」
 私が引いていた手を、今度はヨハンのほうがぐいぐい引き出す。その勢いに思わず視線を離した隙に、もやの景色は消えていた。
「あれ……? 私の、気のせい?」
「――いいや。私の想像だよ」
 ふわり、浮かんで飛ぶ本が、どこか悪戯な声でそう言った。

「……ふふっ」
「オルハさん、いつまで笑ってるんですか」
「だって、見られて嬉しかったなあって思ったんだもの。ほらヨハン、行こう?」
 もう一度私が手を引き直して、私たちはできかけの世界を歩く。
「世界には色んな場所が必要だよ。落ち着ける場所もね。ねえ、君はどんな場所が落ち着く?」
 浮かぶ本に問いかければ、興味深そうな声がする。
「落ち着ける場所かい。君にはあるのかね」
 聞き返されて、すぐに浮かんだひとつの場所。……そういえば、あの出会いだって、私が覚えてる、とても大事な『お話』。
「――私、森の中で鍵を拾ったの」
 その始まりで、すぐヨハンは気づいてくれたみたい。手が繋ぎ直される。
「でも、持ち主を探す間に天気が崩れちゃって……そうしたらね、雨宿りさせてくれたんだ」
 誰がだい、と聞く本の声に、私はちょっとだけヨハンを振り向く。
「持ち主が……その鍵がかかっていた場所で、ね」
「……懐かしいな」
 ぽつ、とヨハンが呟いた。うん、私もなんだか懐かしい。
「そんなに昔でもないですけど。……雨の日も、鍵も」
 どれがなくてもきっと今君とこうして歩いたりしていない。そう思っているのは、きっと私だけじゃない。そうわかるのは、たくさん君とこうして出かけたり、話をしたりしたからかな。
「それからは、私が色んな所に連れ回したっけ。……でもこれは今も変わらないかな?」
「ええ、全く」
 思わず笑ってしまえば、その笑い声がさざめくように、かたちを持たない淡い色のもやに響いてゆく。それは見る間に形を持って――ざあ、と葉が鳴り合う森になる。
「わ……っ」
「大丈夫ですよ。……ほら。見てください、オルハさん」
 驚いた私とは違って、ヨハンは相変わらず落ち着き払った様子で景色の先を指してくれる。
 ――春色の花を満開に咲かす大樹の根元。そこに隠れるようにある、秘密基地のような場所。
 思わず手を引いて小走りに駆け寄れば、何も言わずにヨハンも来てくれる。
 鍵が手にある。扉を開いた先の部屋は、見慣れたその場所とは違ったけれど。でも。
「雨宿りしたところはね、今では私にとっても心が落ち着ける場所になったの。部屋の雰囲気は、ここと似てる……」
 手を引いて――惹かれて。
「……私の心は、すぐ君のものになったよ」
 思わずこぼしてしまえば、ヨハンがほんの少し固まって、それから唇が躊躇って、動く。
「俺の心も、変わりましたよ。同じではいられない」
 良い変化だったと思う、ってヨハンが言ってくれるのが嬉しい。じんわりとあたたかくなる胸が、音を鳴らせる。そのぶん、ぎゅっと手を握り直して。
「ありがとう、ヨハン」
 君に心を伝えられたこと。……伝えて貰えたこと。きっとそれが、私の世界を変えたから。
 いえ、と落ち着いた声が相変わらずの調子で返してくれる。
 挟まった少しの沈黙。――そのあとで。
「俺からも、ありがとう」
 言葉が返って来る。ふわりと春の色の花が降る、雨上がりの森の中で君が言う。

「あなたの落ち着ける場所になったのなら何よりだよ。――オルハ」

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

鶴澤・白雪
ライオット(f16281)と

お城?本当だわ
世界が作れるって聞いてたけど具体的な建物も作れるのね
えぇ、探検に行ってみましょ
本物のお城を見るのって初めてなのよ

心が躍って思わずライオットの手を引いて
反対の手で卵ちゃん達を抱えて城の中を進む
金の像が並んだ廊下って本当にあるのね
お伽話の中に入り込んだみたいだわ

……ッ
え、鎧が降ってきた?罠がある所まで再現されてるのね
変に飛び退いたから着地に失敗したみたい
大丈夫よ、ヒビくらい日常茶飯事だから歩けるわ……って聞いてくれる雰囲気じゃなさそうね

だったら今回は甘えようかしら
王子って本当にあたしを女の子のように大事に扱うわよね
ありがとう、くすぐったいけど素直に嬉しいわ


ライオット・シヴァルレガリア
白雪さん(f09233)と
ライオット視点

白雪さん、あそこに大きな城があるよ
さっきまでは無かった筈なのに…
さすがは不思議の国だね
探検に行ってみようか

彼女に手を引かれて城の中を歩くよ
無邪気な姿が微笑ましい
それから卵は肩に乗せてあげよう
はは、お伽話の中なら白雪さんはお姫様だね

廊下に金の像が隙間なく並んでいて、どこか異様な雰囲気だ
罠が無ければ良いんだけれど

白雪さんが足に怪我をしたら手を差し伸べるよ
大丈夫かい?…ひびが入っているね
これ以上傷が深くなってはいけない、僕の背に乗って

怪我で彼女が不安にならないように、取り留めのない話をしながら歩くよ
もちろん。だって白雪さんは女の子だろう?



●ライオット・シヴァルレガリアはかく語りき
 何もないところから世界が生まれる。
 さすがは不思議の国だね。……ああでも、きっと、手段や方法はずっと違っただろうけれど、僕も何もないところから生まれたんだろうって思うんだ。そう思えば、ひとつひとつがとても大切なことに思える。
 人も、物も、世界も。何もないところから生まれて――誰かと出会うんだ。
「ねえ、白雪さん。あそこに大きな城があるよ」
 僕が指差したのは、真白い世界に描き出されたような城。さっきまではなかったはずで、まだその輪郭ははっきりしないけれど、それこそ、お姫様と王子様がいそうだ。
「お城?」
 他にも色々なものが生まれている世界を興味深そうに見渡していた白雪さんが、ぱっとこちらを振り向いた。その視線を導くように指差せば、彼女の表情が輝く。
「本当だわ。世界が作れるって聞いてたけど、具体的な建物まで作れるのね」
「探検に行ってみようか?」
「えぇ、行ってみましょ」
 ……白雪さん、はしゃいでいるみたいだ。瞳がいつもよりきらきらしてる。
 頷いて歩き出す、軽い足取りもそうだけれど、気づいているかな。
 ――無邪気に僕の手を引っ張る彼女の手が、とても小さくて可愛かった。

 城はとても立派なものだった。柵もなければ砦もない、王城のような物々しさはないけれど、舞踏会で楽しむのなら、これくらい隙だらけのほうが逢瀬も容易いと言うもの。
 肩に乗せてあげた卵が楽しそうにぴこぴこ揺れているのも可愛らしい。あと二つは……ああ、白雪さんの手に抱えられているね。僕の手を引くのとは反対の手に。
「お城って、本物を見るのは初めてなのよ」
 ……そうか、なるほど。騎士の持ち物だった僕にとってはどこか懐かしさのある城ではあるから、失念していた。
「お伽話の中なら、白雪さんはお姫様だね」
「お姫様って柄じゃないわよ。ライオットになら言われても構わないけど」
 それが揶揄いでも何でもないと知っているから、そう君は言ってくれる。
 僕から見れば、臆面もなくそう言える君のほうがよっぽど純粋で素直な女の子だと思うけれど。
 楽しげに僕の手を引く白雪さんを、微笑ましく見守りながら一緒に歩く。いくつかの角を曲がって、大仰な扉を開けた。
 その先で、僕らは赤絨毯が引かれた廊下に出た。
「……ライオット?」
 つい手を引く白雪さんの足を止めるように腕を引き返したのは、その廊下の両側に隙間なく並んだ金の騎士像があったから。
 どこか、異様な雰囲気を感じる。……ここまで何もなかったくせに、ここにだけこれだけのものが並んでいるのが妙に不自然なような。
 ……罠がないと、いいけれど。
「金の像が並んだ廊下って、本当にあるのね。お伽話の中に入り込んだみたいだわ」
 不思議そうに首を傾げた白雪さんが、改めて廊下の像たちを見渡しながら楽しげな声を上げる。その声があんまり無邪気だから、喉まで出かかった気をつけての言葉は飲み込んだ。
 うん。何かあれば、僕が守れば良いだけのお話だ。そう決めて、またゆっくり歩き出す。その三歩先で。
「――白雪さん、跳んで!」
 つい大きな声が喉をついて出た。けれど白雪さんは驚くより先に、僕の声のままにその場所を跳び退いてくれる。僕も跳んだ。その瞬間、一瞬前までいた場所に、金色の鎧が降って来る。
「……え」
 着地して膝をついた白雪さんが、ぽかんとした声をこぼした。
「ライオット、鎧が降って来たわ」
「うん、降って来たね。よくある罠だ」
 よくあるの。更に聞き返した友人に、僕はこくんと頷く。こういう、視線を奪うような廊下には特によくある。警戒しておいてよかった。うん、卵も無事だね。
「……っ」
「白雪さん?」
 立ち上がろうとした白雪さんがふと動きを鈍くした気がして駆け寄ると、白雪さんはどうやら片脚を庇うようにしゃがみこんでいた。それで察して、彼女の細い足首を見る。
「……ひびが入っているね」
「ええ、変に飛び退いたから、着地に失敗したみたい」
 情けないわね、と軽く溜息をつく白雪さんに、強がっているような素振りはない。宝石としての繊細な身体を持つ彼女にとっては、珍しくもないことなのかもしれないけれど。
 多分きっと、体勢を崩したのは腕に抱えていた卵を庇ったせいだろう。……それくらいはわかるんだ。
 心配そうな卵たちを撫でてやる彼女の指先に、僕は手を差し伸べた。
「白雪さん、僕の背に乗って。これ以上傷が深くなってはいけない」
「え。大丈夫よ、ライオット。ひびくらい日常茶飯事だから歩けるわ」
「僕にとっては、日常茶飯事ではないからね。心配なんだ」
 彼女の前に膝をついて、その手を預けてほしいと願う。僕がエスコートをちゃんとしておけば怪我をせずに済んだかもしれない。……でも、はしゃぐ彼女を見て、同じように楽しい気分を貰っていたのは僕も同じ。
「……聞いてくれる雰囲気じゃなさそうね。だったら今回は甘えようかしら」
 根負けしたように白雪さんが苦笑する。それに微笑んで背中を向ければ、遠慮がちに小さな身体がおぶさって来た。その身体を苦もなく支えて立ち上がる。
 ゆっくり歩き出せば、進んだ先のきらびやかな広間にあかりが灯る。耳元で聞こえた小さな歓声に、僕は目を細めて歩く。
「ここでのお話を別の世界でしたら、きっと素敵なお伽話になるね」
「ええ、そうね。王子もいることだし」
「お姫様もいるから、役不足はないよ」
 そんなふうにくすくす笑えば、楽しげな白雪さんの声も笑う。
「王子って本当にあたしを女の子のみたいに、大事に扱うわよね」
「もちろん。だって白雪さんは女の子だろう?」
 当然そう返せば、背中にいる小さなお姫様が、声をこぼして笑ってくれる。
「ありがとう、ライオット。くすぐったいけど素直に嬉しいわ」
 なら良かった。僕も笑う。
 ――何でもない僕らの御伽話は、きっとこの世界で続いてゆく。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

ジャハル・アルムリフ
師父(f00123)と
星空の古屋敷へ

…星々だけでは
夜道をひとり行くには
書を解くには足りぬやも
故――

そうだな…
…昔、たった独りで森に暮らしていた魔法使いは
ある時、星の形をした、輝く花々を咲かせたそうだ
昼は花として、夜は明かりとして
誰かの許への標となるよう
その歩みが迷わぬように

と、まあ…よほど目の離せぬ者がいたのだろうな
ちらりと師を伺えど
そこにあるのは涼しげな横顔
耳に届く語りには聞こえぬ振りを、したものの

…無論、立派な竜へと成長したことだろうよ
つい師の答えを遮って
住人よ、物語の数々は確と書斎に仕舞っておくといい
誰かの様に散らかしてはならぬぞ

光のしるべと、七色の虹
この街に何を齎すのだろうな


アルバ・アルフライラ
*アルバ視点

ジジ(f00995)と古屋敷へ
今宵は口下手なジジも良く喋る
矢張り偶には読み聞かせでもさせてみるべきか

ぎこちなくも玲瓏に紡がれる物語
向けられる遊色に視線を合さず
大笑いしそうな口元を必死に堪え
…はて、余程夜を恐怖し、
泣き喚く童でも居たのではないか?
と飄々と返すに留めよう

童と云えば――私からはこんな話を
或る日、一人の男が小さな仔竜を拾いました
その身は酷くやせこけていました
黒い鱗はすっかり傷だらけでした
その子は酷く己を嫌っておりました
そして何より…闇しか映さぬ瞳を嫌っておりました
そんな童に男は七色の輝きを与えました
闇しか映らぬ眼に、色彩が宿ります様に

――さて、童はこの後如何なったでしょう?



●アルバ・アルフライラはかく語りき
 星空に浮かぶは古屋敷。星守りの蒼き雲路の果てに在るその屋敷へは、魔法陣で編まれた階段が導くらしい。
 不思議の国とはよく言ったもの。――様々生まれたこの世界が、その双眸にいかに映るか。
 私はあえて黙ってその声を待つ。ジジが星空を見上げ、何事かを考えているのはわかっていた。
「……星々、だけでは」
 夜に馴染む玲瓏な声が落ちる。
「夜道をひとり行くには。――書を解くには足りぬやも」
 故に今少し語り聞かせようと、そう考えたのだろう。ジジが整列させた卵は甲斐あって素直にその腕に抱かれている。……話の続きを強請られて飛びかかって来たのを受け止めるしかなかったのも見てはいたが。
「おはなしー?」
「そうだな……。――昔の、話だ」
 話がぎこちなく始まった。今宵は口下手なジジも良く喋る。
 勿論、斯様な視線を私から向けようものなら話が頓挫しかねない。こちらはこちらで浮かぶ本の方に手を伸ばす。相解ったとばかり開く頁に刻まれた、蜥蜴と星の童話にもまた口元は緩みそうになるものだ。
「たった独りで森に暮らしていた魔法使いは、星の形をした、輝く花々を咲かせたそうだ」
 ……成る程、これはまた。
「昼は花として、夜は明かりとして。――誰かの許への標となるよう」
 ちらりと向けられる瞳に視線は合わさぬ。
 語られる話の挿画が目に浮かぶようだ。何せ実際に見た覚えがあるのだから、それも致し方あるまい。大笑いしそうな口元は、どうにか語る声の最後まで持ち堪えた。
「その歩みが、迷わぬように。……まあ、よほど目の離せぬ者がいたのだろうな」
 視線は今や完全にこちらを向いている。だが、それには今気づいた素振りで、飽く迄飄々と答えよう。
「……はて、余程夜を恐怖し、泣き喚く童でも居たのではないか?」
 夜毎、闇底に落ちて行くかのように魘される童に、他愛もない灯りを覚えさせるように。
 一つ咲け、二つ灯し、三つ輝いて。
 それが星だと知れる迄。

「童と云えば――私からはこんな話をしましょうか」
 ぱたりと閉じた本の方から手を離せば、当然のようにその本は浮かぶ。聞かせておくれとその声が云う。喜んでお聞かせしましょう、そう笑って私は語り出す。
「或る日、一人の男が小さな仔竜を拾いました」
 気まぐれと云えばそうで、必然と云えばそうだ。
「その身は、酷くやせこけていました。黒い鱗はすっかり傷だらけでした。――その子は」
 瞳を伏せる。かつて小さき子が虚ろにそうしていたように。
「その子は、酷く己を嫌っておりました」
 理由は問う迄もなく明らかだった。救われることなど、あの童は望んで居なかったろう。
 話は続く。声は星空に。――背を向けあった、いつかの童に。
「そして何より、闇しか映さぬ瞳を嫌っておりました。……そんな童に男は七色の輝きを与えました」
 七色の輝き。明くる夜の戴冠――星空の彼方に、黎明が差す。
「闇しか映らぬ眼に、色彩が宿ります様に」
 星空の古屋敷に、色が灯る。その色彩はいつか夜を越えようか。
「――さて、童はこの後如何なったでしょう?」
「……無論、立派な竜へと成長したことだろうよ」
 無愛想な声音が遮るように答えを示す。――さすがにそれに吹き出したのは許して欲しいものだ。
「はは、聞いていたか、ジジ」
「この距離で聞こえぬような耳はしていない」
「知っているとも」
 くつくつ笑い続けてしまえば、卵たちも楽しげに笑う。そう、一人でないなら、こうして笑い合うことも容易い。
「師父よ、いつまで笑っている」
「いや、矢張り読み聞かせも、偶にはやって置いて良かったものだと思ってな」
 そうして示すは足元に咲く星の花。語り口はぎこちなくとも、世界は言葉と物語を覚えてゆく。
「……住人よ、物語の数々は確と書斎に仕舞っておくといい。誰かの様に散らかしてはならぬぞ」
 付け足された反撃じみた言葉に些かぎくりとするが、まあそれはそれである。

 星空の世界に輝く、光のしるべと、七色の虹。
 ――齎すは、星と夜を灯す瞳の先に。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

榎・うさみっち
よし、あの工房っぽい建物に入ってみよー!
ここを見てるとこんな御伽話を思い出したぞ!

とある世界に強くて邪悪なドラゴンがいた
そしてそいつと戦う勇者が沢山いた
ある勇者の夫婦には幼い子供がいたのだが
いつ死んでもおかしくない戦いに我が子を巻き込みたくなかった
そこで夫婦は悩んだ末に
魔法で我が子の魂を封印し違う世界に飛ばした
平和な世界に辿り着いて幸せになってくれますようにと願いを込めて

とある世界で一人の職人がゆたんぽを作っていた
するとなんと!そのゆたんぽが突然動き、喋り出した!
夫婦の子供の魂が宿ったのである
職人は吃驚したが何やかんやで
そのゆたんぽと生涯仲良く幸せに暮らしたそうな

親の愛は時空をも越えるのだ!




「ゆたんぽー!」
 未完成の不思議の国で、卵たちが声を揃えて跳ねた。
 同時にぽーんと跳ねるのは、うさぎっぽい妖精のゆたんぽである。しっかり話を覚えたらしい卵たちにとってはヒーローに等しい。
「よし、あの工房っぽい建物に入ってみよー!」
 卵たちの様子に満足げにしながら、榎・うさみっち(うさみっちゆたんぽは世界を救う・f01902)はぱたぱたと小さな羽を羽ばたかせた。大きさで言えば卵たちより少し大きいくらいだが、引率として飛べばなんだか心強くも見える気がする。
「まだ話が聞きたいか?」
「おはなしー!」
「おはなし!」
「ゆたんぽー?」
 いつのまにか確保したらしいぬいぐるみのゆたんぽをぽんぽんと器用に小突きながら、卵たちはわくわくとした声を上げる。
「こんなお伽話を思いついたぞ!」
 工房めいた建物に入ったところで、うさみっちの話は始まった。

「とある世界に強くて邪悪なドラゴンがいた。そしてそいつと戦う勇者が沢山いた」
 壮大なファンタジーの幕開けである。
「ゆうしゃー?」
「とは?」
「ゆたんぽー?」
 すっかりゆたんぽの存在が馴染んで来ている卵たちがころころと首を傾げるように揺れる。
「まあ慌てるな。――ある勇者の夫婦には幼い子供がいたのだが、いつ死んでもおかしくない戦いに我が子を巻き込みたくなかった」
 親心というものである。そういえば卵たちの親とは、というかそもそも卵から何が生まれるのか、うさみっちはまじまじと卵たちを見てみるが、まあ当然わからないものだ。
「……そこで夫婦は悩んだ末に」
 難しいことは置いとこう。軽く耳を引っ張って話は続く。
「魔法で我が子の魂を封印し、違う世界に飛ばした。平和な世界に辿り着いて幸せになってくれますようにと願いを込めてな」
「へいわー?」
「せかい、せかい?」
「世界って言うのは、今お前たちが作ってるこの世界だったりするぞ。まあ他にも色々あるんだが」
 卵たちがその世界を認知できるようになるのか否か、それはうさみっちにもわからない。
「それでそれでー?」
「うむ。とある世界で、一人の職人がゆたんぽを作っていた」
「ゆたんぽ!」
「ゆたんぽ、ゆたんぽー」
 すっかり人気のゆたんぽである。
 うさみっちがぽーんと卵が跳ねさせたぬいぐるみゆたんぽの背後に回り込めば、まるで一心同体とはこのことだ。
「するとなんと! そのゆたんぽが突然動き、喋り出した!」
 こんなふうに。ぴこぴこ、ぬいぐるみが動く。
「夫婦の子供の魂が宿ったのである。職人は吃驚したが、何やかんやで、そのゆたんぽと生涯仲良く幸せに暮らしたそうな」
 ひょこ、と相変わらずの様子でゆたんぽの背後から出て来ると、うさみっちは卵たちの前で、至極格好良く言って見せた。
「親の愛は時空をも越えるのだ!」
「ゆたんぽ!」
「ゆたんぽー!」
 卵たちがすっかり気に入った様子でゆたんぽをつつきながらはしゃぐ。
 ――もしかすると、伝説のゆたんぽなんかがそのうち生まれるのかもしれない。

大成功 🔵​🔵​🔵​

マルコ・トリガー
アドリブ歓迎

ボクの話はお気に召してもらえたかな?
ま、君たちがどのように感じたかわかんないけど

それで次は?
フーン、世界を作るねぇ
なら、猫の住みやすい世界を作ってよ
(【雲竜風虎】で野良猫を呼ぶ)
猫の隠れ家はどうかな
日当たりの良い縁側で日向ぼっこしたり、高低差のある家具でジャンプ、ちょっと喧嘩しながらだけど仲良くご飯を食べる場所もあるといいね
隠れ家の周りは遊びと狩りの場だ

猫が猫らしく生きられる世界
そこには猫しかいない……のも寂しいか
猫を大切にする人間は入れても良いかもね

ボク?
さあ、入れる資格はあるかな?
まあ、猫の事は嫌いじゃないし
猫たちに受け入れてもらえるかわからないけど
行ってみたいよね、そんな世界




「ボクの話はお気に召してもらえたかな?」
 未完成の世界を見渡して、マルコ・トリガー(古い短銃のヤドリガミ・f04649)は傍に跳ねて来た卵たちに首を傾げた。
「おはなし、おはなし」
「たのしー」
「……楽しい? ま、実際、君たちがどのように感じたかわかんないけど」
 ヤドリガミとして卵たちの前にいるマルコは、卵とは程遠い生まれと言えばそうだ。無邪気な卵たちとの関わり方だって、まだ少し迷ってはいるけれど。
「世界を作る、ねぇ」
 フーン、と気のない声で辺りを見渡して歩いて、ふとマルコは立ち止まる。
 世界も何もわからないまま世界の片隅にぽつんと立つより、この世界にも巡り会いがあるように。
「……なら、猫の住みやすい世界を作ってよ」
 その声と共にやって来る野良猫たち。気ままな彼らはマルコに呼ばれるのを知っていたかのように、くつろいだ様子でその足元に、周りに寄る。卵にも興味津々だが、悪さはしないだろう。
「そうだな。猫の隠れ家はどうかな」
「かくれんぼー?」
「無理に隠さなくても良いけど、落ち着ける場所。……日当たりの良い縁側で日向ぼっこしたり」
 ちょうどこんなふうに。そう言いかけた先に見つける、形を得たばかりの何気ない縁側と、暖かな日差し。昔ながらの一軒家。
 ひょいとそこに腰かければ、まだ何もない家の中に、マルコはその指先を向ける。それこそ銃みたいな形を作って。
「高低差のある家具、座布団に、ちょっとしたボールもあると楽しいかな」
 ひとつ、ふたつ、みっつ。卵たちと共に指を向けた先で、口にしたモノがぽんぽんとできてゆく。
「うん。……あとは、ちょっと喧嘩しながらだけど仲良くご飯を食べる場所もあるといいね」
 にあ、と嬉しそうな鳴き声で、野良猫たちがひょこひょこと早速その隠れ家でくつろぎ出した。
「隠れ家の周りは、遊びと狩りの場だ」
 猫が猫らしく生きられる世界。マルコが語るのはそんな世界だ。自由に生きる猫たちが、ほっとできるようなそんな場所があればいい。
「そこには猫しかいない……のも寂しいか。猫を大切にする人間は入れても良いかもね」
「たまごはー?」
「はいれる、はいれる?」
「そうだね、君たちなら悪さはしないと思うし。……気に入られているんじゃないかな」
 丸くて転がる卵たちを、野良猫たちがつついて遊んでいる。
「いっしょにはいろー?」
「ボク?」
 マルコは思わず聞き返した。はいろはいろ、と無邪気な声が続く。
 思わず口元を緩めれば、少年は小さく笑う。
「さあ、入れる資格はあるかな? まあ、猫の事は嫌いじゃないし」
 猫たちに受け入れてもらえるかわからないけど。そう呟きながらも、寄って来た野良猫の頭を撫でてやるマルコの瞳も声も穏やかだ。
 猫たちの住みやすい世界。そこは自分も住みやすいだろうか。……あの黒猫は、来たりするだろうか。
「行ってみたいよね、そんな世界」
 猫と、卵と、マルコの声と。穏やかで、誰にとってもどこか懐かしい。
 ――そんな隠れ家が、世界のひとつになったかもしれない。

大成功 🔵​🔵​🔵​

落浜・語
【本視点】

向かう建物は世界に似合わない和風の建物。寄席、か…?
じゃあ、この建物に関係する話をしようか。
ここで行われるのは芸事。落語を中心に講談、漫談、コント、そう言ったもの。
人を笑わせたり泣かせたり、そう言う感情を動かす場所。
言ってしまえば、娯楽のための場所だな。でもここの高座に上がるのはみんなプロだ。
人を楽しませしんみりさせ、それが生きがい、それに命を懸ける人もいる。
噺家を天職と言って、板の上で死ぬなら本望とまで言う人もいる。
名人と言われてもそれで満足せず、最期まで真摯に向き合って、療養よりも噺を選んだ。
『おれ』も…それを望んだ。ずっと側にいたいと。
まぁ、叶わなかったが。仕方ない。



●本は語とかく語りき
 やあ、語。君を探していたんだよ。
 ……何故って?
 首を傾げた青年に、私は自分の表紙を鳥の翼のように動かして浮遊して見せながら軽く笑う。
 それは勿論、君に赴いて見てほしいものができているからだ。
「俺に見てほしいもの?」
 そう。見ればわかる。――ああ、見えて来た。
 木造りの屋敷と言えば良いのか、どうにも不思議な雰囲気で、しかし君には似合う気がした。あれは何と言う場所だい?
「あれは、寄席、か……?」
 まじまじと見ながら呟いた語の後を追えば、近くに行って、やっぱりそうだ、と彼は呟く。
「じゃあ、この建物に関係する話をしようか」
 この建物が何か話になっているのか。
「ああ、そうだよ。ただ、ここで行われるのは芸事だ。――落語を中心に講談、漫談、コント、そう言ったもの」
 ……ふむ。聞き馴染みはないが、つまりは話を楽しむ場所、ということかい。
「まあ、そうだな。人を笑わせたり泣かせたり、そういう感情を動かす場所だ」
 言いながら、語は寄席と呼んだ建物の中に慣れた様子で踏み入ってゆく。足取りに迷いはなく、どことなく楽しげでもある気がするが、彼は気づいているだろうか。
 だが、中央に用意されたその舞台に彼は上がらなかった。
「言ってしまえば、娯楽のための場所だな。……でもここの高座に上がるのはみんなプロだ」
 だから容易に上がれはしないのだとばかり、彼は眩しそうにその場所を見る。
「人を楽しませ、しんみりさせ――それが生きがい、それに命を懸ける人もいる」
 話に命を掛ける、か。私としては喝采を贈りたいところだが、君にとってはどうだろう。安易に問うことはないが、どこか懐かしそうなその視線を私は見る。
「噺家を天職と言って、板の上で死ぬなら本望とまで言う人もいるんだ」
 まるで見たことがあるように。否、見たことがあるのだろう。そういう人を。
 命にも勝る噺の天命。
 それを見つめるかのように、語の視線は高座から外れない。……君は今、誰をそこに見るのだろうね。
「名人と言われてもそれで満足せず、最期まで真摯に向き合って、療養よりも噺を選んだ」
 語もそれを望んだのかい?
「ああ。――『おれ』も。……それを望んだ。ずっと側にいたいと」
 その人が朽ちるなら、自分も共に朽ちても良いと。そう言わんばかりの声音だった。
「……まぁ、叶わなかったが。仕方ない」
 ふと懐かしむような音をかき消して、語は軽く苦笑して見せる。
 そうか。……それは、君にとって大切な噺、なのだね。そう言えば、ゆっくりと頷きが返る。
 ――そうか。ならば。
 叶わなかったと言ったその君が、今ここにいるならば。
 それこそきっと、その噺家の本望なのではないだろうかと、私は思うのだ。
「そうかな」
 そうだとも。何故なら君は、語ることをやめていないのだから。
 噺はこの先も、この世界に、君に残って続いてゆくだろう。

大成功 🔵​🔵​🔵​

エンティ・シェア
今度は探検をお望みかい?それなら卵達もおいで
君の描いた世界を見て回ると良い

とりあえず目についた建物に入ろう
出来かけの舞台のようだね。ここでダンスなんかも出来るだろう
一人でも楽しいものだがね、二人いれば、手と手を取り合って軽やかに踊れる
音楽も響かせて、華やかに、賑やかに
うん、想像すると楽しいものだね
君達も世界ができたら、楽しむと良い

暗闇だって、楽しむものだよ
顔が見えなければ、相手がいつの間にか変わっていても気づかないものだがね
そう、お喋りな「私」が、いつの間にか無口な「僕」や口の荒い「俺」になっていても
恐れてはいけないよ
よくあることさ
何事も楽しんでしまえば、ほら、世界はこんなにも明るいだろう?




 鮮やかな赤髪が色彩を知った世界で揺れる。
 翡翠の双眸を眇めて、エンティ・シェア(欠片・f00526)は思うままに作り出された世界を見渡した。
 ぴこぴこと、楽しげに卵たちが足元で跳ねる。
「今度は探検をお望みかい?」
 わあわあとはしゃいだ声たちが肯定を示した。くすりと笑って、エンティは踏み出す。
「それなら、おいで」
 ――君の描いた世界を見て回ると良い。
 楽しげな声音が、ダンスに誘うようにふわりと響いた。

 エンティは目についた建物へ足を向ける。そう遠くない場所にあったその建物は、周りと同じく形はまだはっきりしてはいないが、組み上がっているものは把握できた。
「出来かけの舞台……のようだね。ここでダンスなんかも出来るだろう」
「だんす?」
「なんだろなー?」
「ダンスと言うのは……そうだな。一人でも楽しいものだがね、二人いれば、手と手を取り合って軽やかに踊れるものだ」
 たん、とステップを踏むようにエンティは舞台に足を踏み入れる。舞台にぱかりとライトが差した。
「音楽も響かせて――華やかに、賑やかに」
 音楽は鳴らない。きっとまだ音楽を聴いたことがないからだろう。それともどこかの世界から、その知識は共有されるのだろうか。
「……うん、想像すると楽しいものだね。君たちも、世界ができたら楽しむと良い」
「たのしむ、たのしい?」
「ああ、勿論」
 エンティはスポットライトから外れる。途端に明暗の差で視界が一旦暗くなった。

「――暗闇だって、楽しむものだよ」
 止めかけた足を進めれば、舞台の裾に足を進める。口元は微笑んだまま暗幕の奥にその表情は溶けてゆく。
「まあ、顔が見えなければ、相手がいつの間にか変わっていても気づかないものだがね」
 こつこつと、足音ばかりが暗闇に響く。ステージで踊るような足音がするのはきっと気のせいではない。
 男は笑う。そうして黙る。軽い舌打ち。
「そう、お喋りな『私』が、いつの間にか無口な『僕』や口の荒い『俺』になっていても
恐れてはいけないよ」
 顔は見えない声音はひとつ。けれど三つ。
 私を称する声は愉快そうに、僕を呟く声は静かに、代わる代わるの自らを俺だと男は言う。

「よくあることさ」

 不思議な世界も、物語も、一人が二人や三人であっても。
「困るかい?」
「……別に」
「うるせぇな」
 エンティは笑う。
「何事も、楽しんでしまえばいい」
 卵は尋ねる。
「たのし?」
「たのしー?」
「ねえね、だあれ?」
 ぴこぴこと首を傾げるような卵に、暗闇から抜けて男は笑う。軽快なステップで、まるで踊るかのように表情を明かす。
「ほら、世界はこんなにも明るいだろう? 」

 ――世界は可能性で、いくらでもその形を変えるものだと。

大成功 🔵​🔵​🔵​




第3章 ボス戦 『チェシャ猫』

POW   :    キャット・マッドネス
【殺戮形態】に変化し、超攻撃力と超耐久力を得る。ただし理性を失い、速く動く物を無差別攻撃し続ける。
SPD   :    チェシャ・スクラッチ
【素早く飛び掛かり、鋭い爪での掻き毟り攻撃】を発動する。超高速連続攻撃が可能だが、回避されても中止できない。
WIZ   :    ストレンジ・スマイル
【ニヤニヤ笑い】を向けた対象に、【精神を蝕む笑い声】でダメージを与える。命中率が高い。
👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

種別『ボス戦』のルール
 記載された敵が「1体」出現します。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※このボスの宿敵主は💠山田・二十五郎です。ボスは殺してもシナリオ終了後に蘇る可能性がありますが、宿敵主がボス戦に参加したかつシナリオが成功すると、とどめを刺す事ができます。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


●タマゴの見たユメ
 セカイはお話を飲み込んで、たくさんの『可能性』を作り出した。
 御伽噺も思い出も、例え話も綴る夢路も。本や卵たちにとってはどれも楽しく忘れ難く、数々生まれた建物は、そのカケラを包み込む。
 けれども数多の可能性は、セカイの危機さえ孕むのだと――卵たちはいまだ知らない。
 この世界にはあらゆるものが在り、あらゆるものが無い、夢と現のお話の隙間。
 ほんとうを知らないからこそ、想像こそが力だ。
 空想に浮かぶ手段全てが、可能性だ。

 星空と青空の二色が広がる空の隙間。
「コロコロころりん、なんだろなー?」
 セカイはこんなに賑やかだ。ご機嫌に空を転がる卵がひとつ。
 卵はうっかり音を聞く。何かが割れる、――空が割れる。
「……バキバキ?」
 かたち定まらぬもやの向こうから、赤くて大きな口が覗いた。
鵜飼・章
ヒトって何、か
僕らはたぶん皆その解を探してる
でもね、誰も正解は知らない
答えに気づいたひとは
神様になっちゃうらしいから

まあこの世界では
僕らが神様と言ってしまってもいいだろう
最終章は神々の戦いと行こう
本さんは卵達を連れて隠れて
【早業/先制攻撃】で敵よりも速く
UC【無神論】を発動し避難の時間を稼ぐ

奏でるのはあのカナリアの歌
輝く津波が敵を押し流し
鳥達は
白い鴉は
カナリアは
ここに生まれた全ての生物は
神々と共に運命という怪物へ抗うんだ
終演なき自由の世界へ羽ばたく為に

白い鴉が僕の方へ降りてくる
あ、地面にぶつかった…

ねえ本さん
この子をよろしくね
少しうっかり屋で
少し変わった子だけど…
彼のお話はここで続いていくんだ



●彼は世界に白鴉を放ち
 空が割れる音がする。
 それを風景の一部として仰ぎ見ながら、烏羽色の青年はゆっくり首を傾げた。長い指が伸ばされて、浮かぶ本を本らしく手に収める。
「君、あれは――」
「……ヒトって何、か」
 何事もなかったかのように鵜飼・章(シュレディンガーの鵺・f03255)はぽつりと呟いた。先に問われた本の問いかけに答えるべく、割れる空の真下へ音もなく走り出しながら、章は言葉を紡ぐ。
「僕らはたぶん、皆その解を探してる」
 真っ赤な目がにたりと笑っている。視線は合わない。星空にも青空にも似合わないそれを伺うように鴉が疾く飛んだ。
「でもね、誰も正解は知らない」
「……それは、何故だい?」
 章は静かに笑って足を止める。――まだ敵は、自分たちに気づいてもいない。
「答えに気づいたひとは、神様になっちゃうらしいから」
 鴉が舞い戻る。同時にばきんと大きな音が世界に鳴り渡り、雲が揺れて風を呼んだ。ごうと過ぎる風は、章の元に集う鴉たちの羽根を舞い上げ、昼と夜の真ん中に立つ青年は、何気なく世界を統べるように片手を伸ばす。本がばさりと頁を開いて飛んだ。
「本さんは、卵たちを連れて隠れて」
 そう言った言葉が届いたかどうか、少なくとも意図は伝わったろう。空いた両手で、章はオカリナを口元へ寄せる。

 音が響く。奏でるのは、あの『カナリアの歌』。
 響く音色は色を持たない。語りかけるでもなく、ただ音は音として我欲だけを満たそうとする化け猫の動きを止めた。
 その隙をついて卵と共に逃げ出した本たちが空の先へ飛んでゆく。それを見送って、章は自らを見下ろす、空から出づる裂けたような口を持つ化け猫じみたチェシャ猫に笑んで見せた。
「こんにちは、大きな口の猫さん。……高いところが好きなのかな。猫らしいね」
 ああ、けれど。ぼんやりと章は思う。そうして空を総べたようにしているチェシャ猫は、神のようにも見えるのかもしれない。
「……まあ、この世界では、僕らが神様みたいなものだから」
 壊させるわけにはいかないのだ。
 僅かな静寂が落ちた一瞬あと、ようやくチェシャ猫が大きな口で叫ぶ。それを掻き消すようにオカリナが鳴った。
 海をうたう戦慄は輝く津波となり、放った鳥たちが羽ばたきの音と共に敵を貫く。白い鴉が、高く鳴いた。
(「鳥たちは」)
 白い鴉は。――カナリアは。
「ここに生まれた全ての生物は、神々と共に運命という怪物へ抗うんだ」
 終焉なき、自由の世界へ羽ばたく為に。
 鴉は、音は羽ばたく。そうして、本も。
「章」
「本さん? 戻って来たの」
 脅威が一旦遠ざかったのを見て取ってか、ひょこりと本が章の前へ現れた。章がぱちぱちと目を瞬かせれば、本は頷くように揺れる。
「中身を見せると言う約束を、果たしてはいなかったものだからな」
「そっか。……あ」
 ぱらりと本を開きながら、章は白い鴉が自らのほうへ降りて来るのに気づいた。あの『お話』で飛び、生まれた鴉は、まだ羽ばたき慣れていないようだ。
「あ」
「どうかしたかい、章?」
「うん、白い鴉が僕の目の前で地面にぶつかった」
 小さく笑いながら、頁を捲る。刻まれた物語は、たくさんだ。やがて本を閉じれば、章はおもむろに口を開いた。
「……ねえ本さん、この子をよろしくね」
「うん?」
「少しうっかり屋で、少し変わった子だけど……彼のお話は、ここで続いて行くんだ」
 だからこの世界のはじまりに、『かみさま』たちは最後の祝福を贈るのだ。
 音の津波に呑まれたチェシャ猫は空の先へ落ちて行ったが、おそらくは大丈夫だろう。語り部は、猟兵は自分一人ではない。遠く聞こえる銃声に、福音を。
 本を閉じて、章はもう一度音を響かせた。

「――世界を始める最終章は、神々の戦いと行こうか」

大成功 🔵​🔵​🔵​

アルバ・アルフライラ
ジジ(f00995)と
何処にでも、か…
然し空から出ずるとは思わなんだ
ふふん、折角残すならば派手な話にせねばなるまい

此処は【愚者の灯火】にて星の瞬きを加えよう
…星にしては些か凶暴ではあるが
私が操るのだ、当然であろう
空より降り注ぐ火の粉は流星の如く
猫を燃やし尽くしてくれようぞ
彼奴のにやけ顔に今更怯む私ではない
狂気耐性で凌ぎつつ炎を操り、追撃
幾つか炎は前線にて戦うジジへ分けてやる
これで寂しくはなかろう?
我が炎は従者の守りとして機能する筈
…然しこれでは我々の方が悪役よな
血腥い様子はあまり見えぬよう
我が魔術でフォローしておくか

猟兵達の活躍により、悪は滅びたのでした
これにてめでたしめでたし――なあんて、な


ジャハル・アルムリフ
師父(f00123)と
此の世の誕生祝い…ではないな
どこにでも現れるものだ

ならば師父
最後に、卵たちへの物語へ
化け猫退治の逸話を加えて参るとしよう

猫ならば、こうして戯れるものだろう
【怨鎖】を用い、叩き付ける
殺戮形態と化せば鎖を
あちら此方へと振り回してやり
時に猫の足を引っ掛けつつ
高速となるだろう先端で地を打ち気を惹く
そら、どうした化け猫
それでは鼠も獲れはせんぞ

気が逸れれば一気に距離を詰め、黒剣で斬り付ける
降る火の星の供とて、譲りはせぬぞ

…卵たちの前で
あまり血を流す所を見せぬ方が良いかと思ったのだが
回りくどいと少々肩が凝るな

うむ、目出度し
あとはお前たちが綴ってゆけばいい
この世界が何処までも続くように



●彼らは世界に星と竜の伝説を残し
「此の世の誕生祝い……ではないな」
 鈍い音を立てて地面に激突した敵を程近くで見下ろして、ジャハル・アルムリフ(凶星・f00995)は驚くでもなく、土煙る星月夜の景色の中で相変わらず淡々とした言の葉を落とした。
「どこにでも現れるものだ」
「然し、空から出ずるとは思わなんだ」
 おぞましいほど大きな口を持つ敵を一瞥して、アルバ・アルフライラ(双星の魔術師・f00123)はいっそ面白がるように口の端を上げて笑う。
「ふふん、折角残すならば派手な話にせねばなるまい」
「……派手な話か。ならば師父、最後に卵たちの物語へ、化け猫退治の逸話を加えて参るとしよう」
 本と卵たちは導くような鴉と共に逃げたのが見えた。ならば遠慮はいらない。
 感覚を確かめるように、大きなその手の骨を鳴らしたジャハルの眼光が一層鋭くなる。
「あまり血腥い絵面にするでないぞ、ジジ」
「――互いにな、師父」
 土煙からチェシャ猫がその巨体を持ち上げる。それと同時に二人も動き出した。

 地を蹴る。星が瞬く。猫が嗤う。
 その猫らしからぬ声を遮るように、ジャハルの黒剣がチェシャ猫を抉った。おぞましい悲鳴と共に振り回された爪を敢えていなすように受ければ、掠めた爪の先からぱっと赤い雫が散り、化け猫じみたその鼻先に掛かる。それで充分だった。
「鎖せ」
 ほんの一言、ジャハルが呟いた。――その瞬間に、爆ぜる。一瞬あとに上がる叫びをほとんど耳に留めぬまま、ジャハルはチェシャ猫と自身を繋いだ鎖を手に引いた。
「猫ならば、こうして戯れるものだろう」
 巨体をものともせず地面に叩きつければ、ずんと低い音が辺り一帯に響き渡った。
 低い唸りが地面に響く。その影を星のように灯った炎が撃ち抜いて照らした。
「――気を付けよ、ジジ」
 変わるぞ、とアルバが短く声にする。ジャハルが頷く。その瞬間だった。
 チェシャ猫の様相が変わる。薄気味悪く骨ばった身体はぼこりと膨れ、真っ青だった舌が真っ赤な舌なめずりをして見せる。殺気はなお膨れ、真っ赤な目は理性を失って双つ星を映した。
「……まさに化け猫、だな」
 感心するでもない淡々としたジャハルの声を変化の仕上げとするように、猫が吼えた。
 その咆哮を、天から降った星が遮る。
「星にしては、些か凶暴ではあるが」
 アルバの薔薇色の指先が天を指す。夜空に瞬く星の如く集った灯火はその数を見る間に増やす。
「私が操るのだ。当然であろう」
 男は言い切って笑う。ごうと唸り空から降り注ぐ火の粉はさながら流星群だ。
 いくつかは連なって化け猫の目の前にいる従者を守るようにふわりと浮かんだ。夜を照らす、星の花の如く。
「これで寂しくはなかろう?」
「……元より、寂しくはない」
 星の欠片を与えられた、そのときから。それをジャハルは言葉にしないが、可笑しげに笑う声が背中からした気がした。
「このまま燃やし尽くしてくれようぞ」
 きゃらきゃらと嗤う声は、炎の流星でさらに焼かれる。狂気じみた化け猫のにやけ顔はアルバを呑むことは叶わない。
「――降る火の供とて、譲りはせぬ」
 終いには、ジャハルが鎖を引くままにあちらこちらへ引きずり倒された。
「そら、どうした化け猫」
 巨体の化け猫は理性もなく暴れ回るが、ジャハルは顔色ひとつ変えずに鎖の先で化け猫の足元を掬い叩きつける。
 おぞましい叫びすら地に沈む。そこで一気に跳躍し距離を詰めると、黒剣で斬りつけた。
「……卵たちの世界で、あまり血を流すところを見せぬ方が良いかと思ったのだが」
 ジャハルは軽く息を吐く。もう少し手早く片をつける方法は選ばなければいくらでもあったのだ。
「回りくどいと、少々肩が凝るな」
 これ以上ここでやれば、星空の古屋敷にはすっかり血濡れた噺が残るだろう。夜風が誘う先へ化け猫を吹き飛ばせば、ようやく辺りに静けさが戻った。

「……しかし、これでは我々の方が悪役よな」
「そうか?」
「そうだ。……血腥い様子は、この場所には似合わぬな」
 アルバは呟くと、杖を翳す。ふわりと光り集まるのは魔術の紡ぎ。星屑を集めたようなきらめきは、やがて足元に、辺り一帯に光が――星が咲いた。
 どこかで聞いたような、見たような星の花。それに何度か瞬いて、ジャハルはそっとひかる花に触れた。
 本と、卵。そしてこの世界。
「ゆくぞ、ジジ」
「ああ」
 踵を返す師の後を追いながら、もう一度だけジャハルは生まれたての空を仰いだ。
(「あとはお前たちが綴ってゆけばいい」)
 ――この世界が、何処までも続くように。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

オルハ・オランシュ
ヨハン(f05367)と

あれがオウガ……
不気味すぎて明らかに不釣り合いだよね
眩しくてあたたかい、このセカイには

ヨハンの言葉に頷いて
何一つ喰らわせたりなんかしない

私はこの子に愛着わいたけどなぁ
わざわざそう言っちゃうあたり、ヨハンも同じなんじゃないの?
……さ、離れてて
大切なこのセカイを守り抜くって約束するよ

いつも通りの立ち位置で、速さを活かしつつ攻撃に専念
ヨハンのサポートのおかげで動きやすいな
ありがとう、頼もしいよ!
爪撃を【見切り】、敵の体勢が整うまでに【早業】の【カウンター】
最も得意とする戦法で深手を負わせたい

ヨハンへの攻撃は一切通さないように
妙な笑いを見せたらダガー【投擲】で口を狙って黙らせる


ヨハン・グレイン
オルハさん/f00497 と

これはまた……随分と不気味なものが現れましたね
これがこの世界のオウガというものなのでしょうか

なにはともあれ、邪魔であることに変わりはない
……作り上げてきたセカイには不要なものだ。消しましょう

愛着が湧いたという訳でもないですけど、
本は後ろに退がらせましょうか
作り上げたセカイが壊されるのも不快なので、
まぁ……疾く終わらせるか

いつも通りに、
『蠢闇黒』から闇を喚ぶ
<呪詛>と<全力魔法>で強化し、彼女のサポートを
攻撃は最大の防御と言いますからね
気兼ねなく力を揮ってください
彼女の身に危険があれば闇を繰り守らせ

守りを固めながら黒刃を展開、【降り注ぐ黒闇】で穿つ



●彼らは世界に森と鍵を残し
「――オルハさん、少し下がって下さい」
「ヨハン?」
 丁度森を抜けたところで、ヨハン・グレイン(闇揺・f05367)はその気配を察した。隣で首を傾げたオルハ・オランシュ(アトリア・f00497)も僅かに遅れて気づいたらしい。――それが来る、音が。
 空を割り落ちたようだったその化け猫は、どこからともなく木々をなぎ倒しながら吹き飛んで来て、がりがりと爪で地を引っ掻きながら留まると、目の前にいたヨハンとオルハをにたりとした嫌な笑みで見た。
「あれがオウガ……?」
「ええ、どうやらそうらしい。……これはまた、随分と不気味なものが現れましたね」
 思わず素直に眉をひそめたオルハに、ヨハンが頷く。そのオウガは確かに、不気味と言う言葉そのもののような姿をしていた。
「……この世界には、似合わないよ」
 オルハは強い眼差しで化け猫のオウガを見やり、手に馴染んだ武器を握る。お話だけなら必要なかったはずの武器だ。――けれど。
「眩しくてあたたかい、このセカイには」
「そうですね。作り上げてきたセカイには不要なものだ。消しましょう」
 ヨハンが翳すのは銀の指輪。そこに光る黒光石が邪魔者は去れと言わんばかりに溢れる闇を揺らしている。
「……さ、離れてて」
 柔らかく笑って、オルハが声を掛けたのは背中にいた本と卵たちだ。空が割れてオウガが現れてからしばらくして、逃げて来たのを守るように共にいたのだ。
「卵たちと下がっていて下さい。ここから後ろへ、攻撃は通しません」
 ヨハンの言葉にオルハも頷く。その二人を交互に見やって、本は頷くように表紙を揺らした。

 本たちが離れたのを確認して、ヨハンとオルハは改めてチェシャ猫と向き合う。
「あの本に愛着がわいたわけではありませんが、作り上げたセカイが壊されるのも不快なので」
「ふふ。わざわざそう言っちゃうあたり、愛着がわいたって言ってるようなものだよ?」
 私はわいたけどな、とオルハがくすくす笑いながら一歩前に出る。ヨハンはその後ろ、死角を守るように立って纏う闇を翼のように膨らませた。
 いつも通りの、ふたりの立ち位置。
「あの子たちにとって、……私にとっても大切な、このセカイを守り抜くって約束するよ」
「ええ、怪我はないように。――疾く、終わらせるか」

 喚ばれた闇はヨハンの魔力を受け膨らんで、オルハをほんの瞬きの間包み込み、肩にマントを掛けるように靡いた。その身に与えられたのは魔力と呪の力。
「攻撃は最大の防御と言いますからね。気兼ねなく力を揮ってください」
「ありがとう、頼もしいよ!」
 実体のなき力に背を押されるように、オルハは笑って駆け出す。元よりある速さはさらに疾く、華奢な身は風のように相手の虚をつき、その爪をかわす。
「こっちだよ」
 声よりも先に、槍の切っ先が化け猫を抉った。耳に痛い叫びをから守るようにヨハンの黒闇が小さな身体を包み込み、爪を弾き、なお速さは増してゆく。
(「動きやすい」)
 いつもと変わらない――すっかり慣れた、彼との連携。どういうふうに動くのか、すっかり読み切られてしまっている。それがどこかくすぐったい。
 翻弄するように、素早い攻撃を幾度も繰り出す。跳躍して爪を避け、そのまま落ちて抉り込む。
「と……っ」
 オルハが危うく離脱が一瞬遅れそうになったところで、夜より深い闇色の刃が化け猫に叩き込まれた。
「触れないで貰えますか」
 冷えた声が、にたにた笑う化け猫に向けられる。――その口元に、オルハが投げたダガーが過たず命中すれば、たまらず化け猫が後退した。彼への攻撃は決して通さない。強い意志が少女の双眸に滲む。互いを支え合うその息は、合わせるまでもなく合うものだ。
「――オルハ」
「うん、行くよ、ヨハン!」
 オルハの槍が、ヨハンの喚ぶ黒闇が森を抜ける風と共に敵に叩き込まれる。
 誰よりも呼び慣れたその名前が、風に乗って森を揺らした。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

エンティ・シェア
ようやく、仕事ですか――変わりなさい
足元にいる者たちは退きなさい
うっかりで踏み潰しても知りませんよ

鋒で自身の適当なところを刺して武器のための血を確保
拷問具を顕現した上で色隠しを使用
大斧にでも、しておきましょうか
貴方には、斬首の刑が似合いです

ころころ転がる卵達に理性をなくした攻撃が向かないように
武器を振り回せるように鎖でも付けておきましょう
ほら、つられておいでなさい。貴方の相手は僕がします

首を落とせたら城の壁にでも飾ります?
冗談ですよ。出来たばかりの世界に血腥さは残しません
流れた血は全部纏めて、僕の武器の維持に使います
物騒な凶器が一頻りの血を吸ってしまえば、掃除完了
後は、元の平穏だけが残るですよ



●彼は世界に色を隠し
 ドォン、と大きな音を立てて、それは舞台に落ちてきた。
 あれこれ無邪気に思うまま作り上げられた世界で語らい、語らった男は落ちてきたそれにおやと笑い、舌打ちし、ゆっくりと表情を消した。
(「ようやく、仕事ですか」)
 エンティ・シェア(欠片・f00526)は化け猫のオウガ――鬼を前に考え、やがて呟く。
「――変わりなさい」
 その声で、既に彼は『代わって』いる。楽しげに笑い語っていた今までの彼とはまるで別人のような、冷酷とさえ言えるその眼差しで鬼を見る。
「足元にいる者たちは退きなさい。うっかりで踏み潰しても知りませんよ」
「ふみふみー……?」
 卵たちはエンティの変化に驚いたようにしていたが、何度かころころとして、言われた通りぴょんぴょんと奥へ退避する。
「けがー」
「しないでー」
 などという心配そうな声を一瞥して、エンティはよく尖った切っ先で自分の腕を躊躇いなく刺した。
 溢れる血を、黒熊が吸い上げる。
 愛らしい黒熊のぬいぐるみを片手で放れば、落ちてくる頃には全く可愛げもなければ殺気ばかりが立派な拷問具へ姿を変えている。――定まらぬ形は。
「……大斧にでも、しておきましょうか」
 ちらと感情を得ぬ瞳で鬼を見やって、エンティは巨大な刃を持つ大斧をその手に握る。痩身に身の丈ほどの刃を揺らす男は、さながら死神のようですらあったろう。
「貴方には、斬首の刑が似合いです」
 じゃらり、大斧についた鎖を傷つけた腕に巻く。深い傷ではないが、血止めになるなら好都合だ。
「首を落とすだけなら、刃だけでも良いのですが」
 なにせ後ろには、転がる卵たちがいる。それにつられると困るのだ。
 心配だから?
 守るために?
 どれも違う。
「――貴方の相手は僕がします」
 確実に処刑するために。ただ、それだけのために。
 踊るように踏み込んで、大斧を振るう。刃が食い込むたびに引き攣る大きな口元を見ながら、なおも振るう。その首を寄越せ。
「……首を落とせたら城の壁にでも飾ります?」
 そう嘯いて、エンティは笑いもしない。
「冗談ですよ。出来たばかりの世界に血腥さは残しません。――流れた血は全部纏めて、僕の武器の維持に使います」
 切り刻まれて流れた血も、自らの血もどれも同じ。武器が吸い上げてゆくから、舞台の上には血痕ひとつ残らない。
 真白な卵も、真白なままに。
「――終わらせましょう」
 振り下ろした大斧が、ダァンと大きな音を響かせる。
 鬼退治が終われば、あとは平穏が残るばかりだと、嘯く『私』なら言うのだろうか。

大成功 🔵​🔵​🔵​

鶴澤・白雪
ライオット(f16281)と

何?あの可愛くないグロテスク猫
この子たちが作った世界を壊しに来るなんて空気読めない奴

卵達は預かるから前に出るのお願いできるかしら?
頼りにしてるわね、でも食べられちゃダメよ?

片手に卵を抱えて反対の手にライフルを握る
悪いけど大人しくしててちょうだい、元気な卵ちゃん達

狙われた時を考えてオーラ防御で身は守っておくわ
これなら卵たちも庇える
零距離射撃と先制攻撃の準備はしておいても良さそうね

とは言え、ライオットを黙って傷つけさせる気もないの
危害を加えたならその品のない目玉ごと撃ち抜くわよ

王子が守ってくれた隙にUCを撃ち込むわ

守ってくれたおかげで無事よ
今回も助けてくれてありがとう


ライオット・シヴァルレガリア
白雪さん(f09233)と

あの口は何であんなに大きいんだろうね
やっぱり何かを食べるためかな
もしそうなら僕が止めよう
卵たちも白雪さんも、君に食べさせる訳にはいかないんだ

守りは僕に任せて
前に出て立ち塞がるよ
僕は盾、ここは絶対に通さない
美味しそうな相手じゃなくて悪いね

『オーラ防御』で守りを固めて『盾受け』で攻撃を受けよう
なるべく敵の動きを押さえて狙撃の隙を作るように
万が一攻撃が白雪さん達に向けば、すかさず『かばう』

攻撃の隙が生まれたなら【光の鉄槌】を下すよ
この世界を壊そうとしたこと、そして彼女に危害を加えようとしたこと…それが君の罪

白雪さんも卵くん達も、どこも割れてはいないかい?



●彼らは世界に城を築き
「……何? あの可愛くないグロテスク猫」
 目の前に現れた敵に、開口一番遠慮なく顔を顰めた鶴澤・白雪(棘晶インフェルノ・f09233)は、片手で抱いた卵たちの目を塞ぐようにぎゅっと抱きしめた。
「この子たちが作った世界を壊しに来るなんて、空気読めない奴」
 背後には、先程まで探索を楽しんでいた城がある。どこか幻想的で御伽噺らしいその城を――世界を、壊させる気は毛頭なかった。もう一方の手には、使い慣れたライフルを握る。
「あの口は、何であんなに大きいんだろうね」
 不思議そうに首を傾げながらも、手元では相棒のレイピアを抜き放つのはライオット・シヴァルレガリア(ファランクス・f16281)だ。自然な動作で一歩前に出れば、白雪と卵たちを守る壁のように立つ。
「やっぱり、何かを食べるためかな。……もしそうなら、僕が止めよう」
 大丈夫、とは口にはせず。柔らかな笑みを白雪に向けるだけにして、ライオットが更に一歩進む。その大きな背に、白雪も僅かに瞳を緩めた。
 すっかりその背に前を任すのが『いつも通り』になりかけている気がする。頼っていいと覚えてからは、守られるのも信頼のひとつなのだと理解できた。
「頼りにしてるわね。……でも、食べられちゃダメよ?」
「勿論。白雪さんと卵くんたちを守る役目があるからね。……任せて」
 もう一歩。ライオットが進めば、化け猫じみたチェシャ猫が嗤い鳴く。耳障りなその声に、柔らかな笑みは一瞬で戦場の騎士のものになった。
「卵たちも白雪さんも、君に食べさせる訳にはいかないんだ」
 僅かに低まったその声と共に、淡い光の護りがライオットを包み込む。敵が振り下ろして来た爪を正面から受け止めた。
 全く手応えを感じなかったのか、チェシャ猫は更に爪を振り下ろす。それもまた、弾くようにいなされた。
「――美味しそうな相手じゃなくて悪いね」
 大振りな敵の動きはライオットが懐に潜り込むほど大きくなる。既に他の猟兵たちに迎え撃たれたのだろう。余裕めいたものは、その口元のにたりとした笑みにしかない。
 いくら吹き飛ばそうとしてもあっさりと受け止めて見せるライオットに、敵の意識が集中する。
(「ここは絶対に通さない」)
 僕は盾。自らの矜持は、持つべきものだ。誇りある騎士に振るわれ、その身を護り、友と戦った。その一歩を今は、自分で踏みしめることができるのだから。

「……ライオット」
 頼もしい友人の背を見ながら、白雪はほんの小さく名前を呼んだ。心配そうに揺れる卵たちを撫でて、大丈夫よと微笑む。
「悪いけど大人しくしててちょうだい、元気な卵ちゃんたち」
 身に纏う護りは、自身よりは卵たちを守るために。片手のライフルは常にいつでも撃てるようにしておく。
 前で戦うその様子から、目を離したりはしない。その爪がライオットを掠めようものならば――こうして。
 鋭い銃声が響く。その銃弾はチェシャ猫の爪を弾いた。
 黙って傷つけさせる気なんて、毛頭ない。
「次はその品のない目玉ごと撃ち抜くわよ」
 瞬間、不意を突かれたチェシャ猫が僅かに仰け反り、今度は白雪たちを屠るべく振り上げられる。
 その隙を、ライオットは見逃さなかった。
 レイピアの切っ先が不気味な化け猫へ向けられる。天に集う光は雲を衝く。
「させないよ」
 白雪たちを庇うと同時に、天から注いだ光がチェシャ猫を貫いた。
「――この世界を壊そうとしたこと、そして彼女に危害を加えようとしたこと。それが、君の罪」
 そして、とライオットは道を空ける。まるでエスコートする王子のように、その服の裾を靡かせて。
「白雪さん」
「ええ、ありがとう王子。――おはよう、『白雪姫』」
 目覚めて、と囁きかけるのは自らの左肩に。刻まれた聖痕は、影を産む。ゆらり、軽やかな足取りで城の前に降り立ち、白雪と並ぶ影の白雪姫。放たれた姫君は、光にのたうつ敵の絶叫を飲み込んで、ノイズを叩き込んだ。――その音が光と混ざり、やがて消える。
 城の周囲から脅威が去ったのを確認して、ライオットは白雪たちの元へ駆け戻る。

「白雪さん、卵くんたちも。どこか割れてはいいないかい?」
「あら、王子が守ってくれたおかげで無事よ。あたしも卵ちゃんたちも」
 ね、と白雪が緩く笑いかければ、卵たちがぴょこぴょこと元気よく動いた。
「ありがとー」
「ありがとと」
 ころりと転がった卵がひとつ、ライオットのほうへ行きたがったのをそっと手伝ってやって、白雪は微笑む。
「……ふふ。ねえライオット、今回も助けてくれてありがとう」

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

マリアドール・シュシュ
リュカ◆f02586
アドリブ◎

卵さん達が見た空想を、可能性を、世界を
悪色になんか染めさせないのだわ
物語は最終章
きっちり倒して、とじましょう(…寂しいけれど

卵や本達を比較的危険が及ばない方へおびき寄せ
覆い隠す様に竪琴構え
リュカと並び立つ

マリアは言ノ葉でなく銃で語るリュカも大好きよ
ええ、任せて頂戴

麻痺の糸絡めた星屑の序奏曲を竪琴で奏でて演奏攻撃(マヒ攻撃・楽器演奏
敵の攻撃はオーラ防御・カウンター
リュカが危険な時は音で相殺
高速詠唱で【透白色の奏】使用
リュカを援護
確実に当てる

星(きぼう)を片手に
戦況を有利に
紡ぐ詩(こえ)
煌めく世界を謳う

さぁ
茉莉花の祝福に抱かれて眠りなさい

卵さん達、また沢山お話聞いてね


リュカ・エンキアンサス
マリアドール(f02586)お姉さんと

下がって。出来ることなら、見ないほうがいい
周囲に、本や卵がいるのならば、素早く声をかけて前に出る
楽しい時間だったけれども、やっぱりお話より銃のほうが手に馴染む自分に苦笑しながらも、撃つ
お姉さん、そっちに回った。よろしく
援護はお姉さんに任せて、
いっせいに銃を打ち込んで、
なるべく手早く、片をつけたい。
致命傷を与えられそうなら、UCを使って
もしひとつまみ。小さなこの場の星をいただけたら、それを弾丸に撃つ

後は生まれた不思議な星をいくつか。
砕いてめくらましにしたり、
不思議な光で怪我をした卵たちや建物を癒せたら

物語は終わっても、世界は続くから
また、会えたらいいね



●彼らは世界に忘れじの星座を作り
 生まれたての世界は揺れる。
 初めての物語、初めての脅威、初めての戦い。
 ゆらりと星空を割り落ちて来たのは、他の猟兵たちに迎え撃たれたらしい傷が目立つ、それでもにたりと浮かんだ笑みを消しはしない、化け猫じみたオウガだった。
「下がって」
 リュカ・エンキアンサス(蒼炎の・f02586)はオウガから逃れるのように転がって来た卵たちに短く声を掛けた。
「出来ることなら、見ないほうがいい」
 躊躇うことなく前に出る。手にするのは形を覚えきった銃。手探りもせず構えれば、酷くそれが身に馴染む。
(「――やっぱり、お話よりも銃のほうが手に馴染む」)
 その感覚に思わず苦笑してしまいながら、リュカは過たず狙いを定めて敵を撃つ。
 楽しい時間だった。それは確かだ。けれどたぶん、戦場の立ち位置のほうが上手に語れる。
「お姉さん、そっちに回った。よろしく」
「ええ、任せてちょうだいね」
 マリアドール・シュシュ(蜜華の晶・f03102)はふわりと笑うと、リュカに並んで竪琴を構えた。奏でる旋律は美しい。けれど確実に敵の動きを鈍らせる。
「なるべく早く片をつけよう。……この世界が壊されないように」
「そうね、マリアも頑張るわ。だからリュカ、よく聞いていて」
 ぽろん、澄んだ音色が響く。響く。
「――動きが、止まるわ」
 魅せられたように、あるいはその音に呑み込まれたように。オウガの動きがほんの一瞬止まる。
 その一瞬を、リュカは見逃さない。帽子のつばの奥、蒼い瞳は瞬きもせず、一呼吸で狙いをつけた。そうして――放つ。
 撃ち込まれる弾丸はオウガの巨体に流星のごとく叩き込まれた。ばらばらと落ちる空薬莢さえ残さずに、リュカは駆ける。
「卵さんたち、こっちよ、こっち。ここにいれば、きっと大丈夫」
 マリアドールは柔らかな笑みを浮かべたまま卵たちを安全な場所へいざなった。
(「卵さんたちが見た空想を、可能性を――世界を、悪色になんか染めさせないのだわ」)
 この世界で見た星空も、語った思い出も。きらきらと輝いているから。
 星空の下に、銃声が響く。その音を、きらいだとは思わない。卵たちを隠すように立てば、駆け戻って来た落ち着いた夜色の瞳がマリアを映す。
「お姉さん、行ける?」
「ええ、任せて。――さあ、マリアに見せてちょうだい? 玲瓏たる、世界を」
 瞳を猫に。
 なんて可愛くない猫さんかしら。そもそもあれは猫かしら。真っ赤な瞳は、小さな子たちに覚えさせたくはないものね。
 そんなことを考えながら、竪琴を爪弾く。美しい旋律は響き、歌が響いて敵を捕らえる。星を誘う。
「……ねえリュカ、マリアは言ノ葉でなく銃で語るリュカも大好きよ」
 囁いた言葉は聞こえただろうか。聞こえているといい。
 星を――きぼうを、片手に。あなたに。
 手のひらに流れ落ちた流星を歌いながらリュカに差し出せば、瞬いて、リュカの手がその星をひとつまみ、取る。
「貰っても、いいかな」
「いいわ、きっと。煌めく世界に、星を打ち上げてあげて」
 だって、物語は最終章。――倒すのはきっとわたしたち。
 ひとつ頷いて、リュカは星を弾丸に込める。
「……星よ」
 呟く声は、歌に紛れる。けれど星の弾丸は銃に込められればふわりと輝き、先を示すように狙いを助けた。

 響く音と、声と、ひかり。――チェシャ猫を撃ち抜いた弾丸は、夜空でひとつ、星を作った。
「リュカ、リュカ。お疲れ様」
「うん、お姉さんも、お疲れ様。……きれいな歌、だった」
「ありがとう」
 嬉しそうにマリアドールは笑って、リュカも少し笑う。そうして二人は、生まれた世界を見渡した。ぴょんぴょんと嬉しそうに跳ねる卵たちをそっと撫でてやる。
「ありがと、ありがとー」
「こちらこそよ、卵さんたち。またたくさん、お話聞いてね」
 そう笑いかけて、マリアドールは星空を見上げる。他のどこにもないこの星空を、覚えていたいとそう思う。
「……これできっとおしまいね。少し、寂しい気がするの」
「うん。……でも、物語は終わっても、世界は続くから」
 リュカは言葉をゆっくり紡いで、ふわりと泳いだ生まれたての星を手のひらに。卵と、それから本に微笑んだ。

「また、会えたらいいね」

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​



最終結果:成功

完成日:2019年08月04日


挿絵イラスト