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其は救済の業火也

#サムライエンパイア

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#サムライエンパイア


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 チェリカ・ロンド(恩寵という異端・f05395)は、集ってくれた猟兵たちに手を振った。
「あけましておめでとう、みんな! お正月、どうだった? あ、猟兵に休みはなかったわね!」
 明るく無慈悲に笑って、チェリカは自身の予知を思い出すように目を閉じる。
「サムライエンパイアのある大きな町で、とんでもない火事が起こる予知を見たわ。木造の家が多いからかしら、すごい勢いで燃えているの」
 チェリカの顔色が曇る。目を開けて、猟兵たちをゆっくりと見回した。
「ごめんなさい。今回はみんなにとって――少し、辛い仕事になるかもしれないわ」
 曰く、チェリカが猟兵たちをサムライエンパイアへと送り込むことができるのは、どれだけ早くても町が大火に見舞われた直後だという。直前の消火は、不可能だ。
「時間は深夜だから、眠っていた人が多いでしょうね。家の中に、取り残されたままの人とか、瓦礫の下に埋もれてしまった人とか……たくさん、いると思う」
 予知で見た景色を思い出したのだろう。チェリカは目を伏せ、胸に手を当てて、一度深呼吸をした。
 顔を上げて、毅然と説明を再開する。
「みんなにしてほしいのは、人命救助と消火活動よ。体力や腕力に自信のある人は、民家や火の中に取り残された人の救助をお願い」
 力こぶを作る真似をしながら、チェリカが何人かの猟兵に目をやる。
「行動力が自慢なら、ぜひ避難誘導をしてあげて。とにかく町から離れれば、助かるはずだわ」
 町に外壁の類はない。火を避けて町から出て、離れた丘や街道まで誘導できれば、人々を救えるだろう。
「それと、どんな手段であれ、火を消すユーベルコードが使えるなら、消火に力を入れてくれると嬉しいわ」
 町はすでに炎の中だ。中に人がいないのであれば、いっそ建物を壊してしまってもいい。サムライエンパイアでは定番の消火方法なので、人々の感情を気にする必要はない。
 町の規模は都に匹敵するほど大きく、現地の人々だけでは、消火に何日もかかってしまうだろう。そこに猟兵が加われば、時間は大きく短縮できる。
「火事が収束したら、みんなにしてほしいことがあるの」
 そう言って、チェリカは再び目を閉じた。胸の前で手を組み、祈るような姿勢を取る。
「予知の中で、誰かが町の一角に火を放つのが見えたの。それが誰かまでは分からないのだけれど、そいつから、オブリビオンの気配を感じる」
 猟兵たちの顔に緊張が走った。やはり、ただの火事ではないらしい。
「杖? 斧? そんなものを持っているわ。すごい大きな体の奴よ」
 放火犯の情報は、多くない。チェリカの予知では、それが限界らしい。
 そうであれば、やることは決まっている。猟兵たちで、犯人を捜索するのだ。
 皆と目を合わせたチェリカが、頷いた。
「絶対に見つけ出して、やっつけて。火事を起こした理由が町の人々の命を奪うことだとしたら、次は力づくでくるはずよ」
 強大なオブリビオンは、町人が抵抗できる相手ではない。達人の武士であっても、厳しいだろう。
 一刻も早く探し出して討伐せねば、被害は拡大する。
「お正月が終わって、これから新しい年をがんばっていこうって時に……。こんなこと、絶対許せないわ。みんな、お願い。一人でも多く、助けてあげて」
 猟兵たちの力強い返事を受けて、チェリカは十字架を模したグリモアを輝かせた。


七篠文
 あけましておめでとうございます。七篠文です。
 今年もぼちぼちやっていきますので、よろしくお願いします。

 さて、今回はサムライエンパイアです。
 チェリカが言った通り、皆さんが現地に着く時には、すでに大火が発生しています。
 町の人々は避難を開始していますが、火の手があちこちに回り、大混乱状態です。少なからず犠牲者も出ることになるでしょう。

 一章と二章は、🔵に応じて消火時間や捜索時間が早まり、🔴に応じて犠牲者が増えます。
 判定はすべてダイスで行いますが、今回はプレイングボーナスを多めに取りますので、より自身のキャラクターに合ったプレイングであれば、成功度は格段に上がるでしょう。
 逆に、その状況において誰から見ても妙な行動を取ると、成功度が下がります。

 味方との連携を希望する方や、逆に一人で行動したい方、アドリブOKや不可の方は、その旨を記入してもらえると助かります。
 特に明記していなかった場合は、私の判断でバシバシ連携させたりアドリブを盛り込んでいきます。

 私の時間が許す限り、プレイングはなるべく採用するつもりです。
 流れてしまった場合は、もう一度送ってもらえれば、採用できるかもしれません。

 それでは、皆さんの熱いプレイングをお待ちしています!
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第1章 冒険 『夜中の大火』

POW   :    炎に取り残された人を救助する

SPD   :    人々の混乱を治め、避難誘導する

WIZ   :    ユーベルコード等を駆使し、消火活動

👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​

種別『冒険』のルール
「POW・SPD・WIZ」の能力値別に書かれた「この章でできる行動の例」を参考にしつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。

エーカ・ライスフェルト
「スペースシップワールドにあてはめると生命維持系への破壊工作ね。帝国ですら滅多にしない悪行、か」
「救援物資を持って行く余裕はなさそうね」

ケミカルライトか懐中電灯を合計90個調達してからテレポートしたいわ
時間がかかりそうなら10個程度集まった時点でテレポート
何をしたいかというと【エレクトロレギオン】で呼び出した機械兵器にサイリウムを持たせてオタ芸……じゃなくて避難誘導
同じ色の灯りが整然と2列で並んでいたら、そこが安全な道と認識されると思うのよ

ドレスにバイクという場違いな姿だけど【存在感】は多分ばっちりよ
威圧感は暴れそうな者にのみ向けて、それ以外には穏やかに接するわ
「大丈夫。こっちに行けば安全よ」


ベル・オーキィ
酷い匂い、惨い眺めです!まるで真っ赤な悪魔のべろが這いずっているようですね!!

私の行動は≪ユーベルコード【『泥土に浮かぶもの』の怒り】の暴風雨で消火活動を行い、避難経路を作り出す≫こと!
そして、≪作り出した避難経路を住民に伝え、避難するよう呼びかける≫ことです!

ユーベルコードによって火勢を弱め、丘や街道に繋がる安全な道を作り出したうえで、住民にこちらへ逃げるよう指示を送ります!声の大きさには自信があるので、きっと多くの人に届けてみせますよ!!

「雨で火勢が弱まっています!こちらから逃げれば安全です!周りの人にも伝えてくださぁい!!」

※ 連携・アドリブに関してはご自由にご裁量ください




 サムライエンパイアに降り立った傭兵を、熱波が襲う。
 深夜の町は、炎の赤で夜空を染めていた。見る限り、火の手が移っていない家はない。
 逃げ惑う悲鳴、燃える家に取り残された家族を呼ぶ叫び、家屋が崩れる音。
 地獄絵図だった。
「酷い匂い、惨い眺めです! まるで真っ赤な悪魔のべろが這いずっているようですね!!」
 ベル・オーキィ(騒乱魔道士の弟子・f08838)の巨大な声が、大火の中に響き渡る。
 彼女の例えは言い得て妙だった。闇夜の中、炎の色はより赤く、その先端の蠢きも相まって、まさしく舌のようだ。
 「スペースシップワールドに当てはめると、生命維持系への破壊工作ね。帝国ですら滅多にしない悪行、か」
 熱い風を振り払うように腕を動かし、エーカ・ライスフェルト(電脳ウィザード・f06511)は苦虫を噛み潰したように顔をしかめた。
 グリモア猟兵曰く、この惨劇は放火によるものだという。人々が寝静まった深夜を狙って、これほど大規模な大火になるように仕組まれている。
 町の外へと逃げ惑う人々は、炎に逃げ道を遮られ、行き場を失っている。恐怖のあまり腰を抜かし、火の手に巻き込まれて死ぬ者も見えた。
 反吐が出る思いだった。
 すでに猟兵たちは、広い町でくまなく消火、救出活動を行うために散っている。この場は、エーカとベルに任されていた。
 火花から顔を庇いながら、ベルが驚くほど通る声で叫んだ。
「エーカさん! 私が火の勢いを弱めます! 誘導お願いできますか!」
「もとよりそのつもりよ。任せて」
「お願いします!!」
 大きな返事を受けて、エーカは即座に戦闘用機械兵器を召喚した。
 突如として現れた小型のからくりに、町の人々がさらに混乱しかける。しかしそれを、バイクの上に立ったエーカの声が制した。
「落ち着いて! 私たちが必ず助けるわ。ここは私たちに従って!」
 困惑を隠せない人々は、それでも他に希望はないと、エーカのもとに集まってきた。
 大通りの中央、少しでも火の手が来ないところに人々を集め、その周囲を機械人形で固める。
 人形たちのアームには、一体残らずケミカルライトが握られていた。赤と黒の地獄にありながら、色彩豊かな光る棒に救いを求め、人々が念仏を唱え始める。
 不憫に思いながらも、エーカは手を上げた。合図に頷いて、ベルが大きく息を吸う。
 彼女の大音声はここからが本番であった。両手を天に向け、炎の赤に照らされる星空を、睨みつける。
「驟り漂え!  毒蛇を運ぶ、黒き車軸よ!」
 エーカは確かに、ベルの声で空気が動き、熱波すらも跳ね除けたのを見た。
 空間を引き裂くような声の余韻が消えると、空がたちまち曇り、雷鳴が轟き始める。
 にわかに降り出した雨は、暴風を伴って炎を覆う。突風に煽られた炎が暴れまわるが、広い道の真ん中にいる人々には届かない。
 雨はベルを中心に局所的な範囲に降り注ぐ。炎に包まれる家屋は、次第にその勢いを弱めていく。
 道は開けた。町のはずれ、民家が途切れる場所が、はっきりと見えたのだ。
 目を見開いて、ベルが人々へと、さらには未だ逃げ遅れているであろう人たちへと、声の限りに叫ぶ。
「雨で火勢が弱まっています! こちらから逃げれば安全です! もしいれば、周りの人にも伝えてくださぁい!!」
 家屋が崩壊する音よりも大きな声が届いたかどうかを、確認している暇はない。
「みんな、私に続いて! 大丈夫、こっちに行けば安全よ!」
 エーカが宇宙バイクを走らせる。目指すは、町の外だ。彼女のバイクにもケミカルライトが幾本もつけられ、非常に目立つ。
 疾駆するエーカに続いて、機械兵器たちも動き出した。火災が近い大通りの端を歩かないよう、人が二人通れる程度の間隔を置いて整列し、町を出るまでの道を示す。
「光を頼りに! 外へ!!」
 ベルの叫びに反比例して、雨は勢いを弱めていく。嵐を呼んだユーベルコードは、一時的なものに過ぎない。
 迅速な移動が要となる。幸い道は示されているので、多少火勢が戻ろうとも、エーカに誘導される人々は大丈夫だろう。
 だが、当然のことながら、町の住人はあれですべてではない。
 機械兵器が示す道へ人々を誘導していたベルは、声を聞いた。か細く、風に消え入りそうな声だった。
「っ! 誰!?」
 声の方を見ても、燃え盛る炎が見えるばかりで、人の姿はないように思えた。
 それでも、目をこらす。炎が爆ぜる音に交じって、小さな声が――。
「助け、て――」
 今度は間違いなかった。ベルは燃える瓦礫をなんとか押しのけ、その声の主を発見した。
 少女だった。恐らく、ベルと大して変わらない年頃の。
 確信がもてなかったのは、彼女の顔が酷い火傷を負っていたからだ。髪の毛は焼け落ち、瓦礫に埋まる体も、恐らく重症だろう。
「……」
 手を差し伸べようとして、できない自分に気づく。少女は何度も何度も助けを求めている。
 しかし、ダメなのだ。彼女はもう、助からない。
「こんな、こんなことが……!」
 ベルは激怒した。この少女が何をしたのか。町の人々は業火に焼かれて死ぬに値する正当な理由があるのか。
 このような理不尽が許されてもよいのか。
「……あぁぁぁぁぁぁッ!」
 渾身の叫びが、空気を震わせる。その眼前で、少女は事切れた。
「こんなことが、あっていいもんかぁぁぁぁッ!」
 こんなにもか弱い少女が、どうして。ベルは怒りのままに、天に向かって叫び続けた。
 止みかけていた雨が、再び勢いを取り戻す。彼女の怒りは、大自然をも突き動かした。
「あああぁぁぁぁッ!!」
 雨脚はいよいよ強まり、炎を抑え込んでいく。死んだ少女の焼けた頬を、冷たく潤す。
 雷鳴を割って響くベルの声を聞きつけて、エーカが宇宙バイクを走らせて戻ってきた。
 暴風にドレスを靡かせながら、ベルの脇に降り立つ。
 地面を打ちながら吼えるベルの肩に、エーカはそっと手を置いた。
「ベルさん。私たちは助けられるだけ、助けたわ。十分な結果よ」
「それでも……死んでしまったんです! この子は、どうして!?」
「私たちが見えている範囲で、出来ることはしたわ。でも、目の届かないところではもっと多くの人が死んでいる」
 ベルを見据えて、エーカは断言した。鋭く重い眼光に、ベルが口を閉ざす。
 残酷な現実だった。あらゆる世界の戦いで、彼女はその現実を目の当たりにしてきたのだ。
 罪もない、未来に夢を抱く人々が死んでいくさまを、その目で見てしまった。
 それでも、絶望したわけではない。努めて穏やかに、エーカは諭すように言った。
「私たちが来なければ、あの人たちは全滅していた。あなたが降らせた雨で、みんなは助かったのよ、ベル」
「……」
「あなたは、よくやったわ。役割を果たしたの」
 雨が上がる。ベルの心が穏やかになっていく証拠だろう。
 このあたりの倒壊建築は、嵐の雨に打たれて、鎮火した。火が再び回ることは、恐らくないだろう。
 機械兵器は今もケミカルライトを持ったまま待機させてある。安全な道の目印になってくれるはずだ。
 ベルは死んだ少女の目を閉ざしてやってから、立ち上がった。
 涙を拭うその姿を、エーカはじっと見守る。自分で立ち直らなければ、意味がない。
 全てを救うなどという甘えは、許されない。猟兵は常に、残酷な戦いの中にいるのだ。
 今も、ここで留まるわけにはいかない。
「もう、いいわね」
 小さくもはっきりとした声で確認されて、ベルは頷いた。
 満足げに瞳を光らせて、エーカが宇宙バイクにまたがる。その後ろを指で示し、
「乗って。もう少し奥に行って、ここまで誘導しましょう」
「はい! 一人でも多く、助けましょう!!」
「……後ろに乗ったら、静かにしててちょうだいね」
 二人を乗せて、宇宙バイクは走り出す。今なお燃え盛る、町の奥へ向かって。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​

エウロペ・マリウス
ボクは人と接すのは苦手だからね
逃げ惑う人々に声をかけたりして、萎縮してしまっていては足手纏いだろうから
ボクにできることを、最大限やっていこうか

行動 WIZ 【礼儀作法】【誘導弾】【属性攻撃】【高速詠唱】使用

ユーベルコードの【創造せし凍結の世界】を使用するよ
炎の場所に使用しては地形を凍てつかせ消火させては、そこに立ち、自身の力も強化しつつ、更に他の箇所を……といった行動を繰り返そう
取り残された人や、逃げ惑う人に当たらないように【誘導弾】を
素早く作業を行えるように【高速詠唱】を
そして、混乱している人が、突然の出来事に戸惑ってしまわないように、落ち着いた【礼儀作法】で、安心感を与えられたらいいね




 燃え盛る町を見下ろし、エウロペ・マリウス(揺り籠の氷姫・f11096)は独り言ちる。
「ボクは人と接するのが苦手だからね」
 エウロペの視線の先では、猟兵たちが町の人々を救出し、安全な町の外へと誘導していた。
 もし自分から声をかけるようなことをすれば、委縮してしまい、足手まといになりかねない。
 それを、エウロペは情けないとは思わなかった。やるべきことは、いくらでもある。
「ボクにできることを、最大限やっていこうか」
 呟いた彼女の周りを、冷気が覆う。エウロペは今、氷の上に立っていた。
 凄まじい冷気を発するエウロペのユーベルコードは、炎に包まれる建築物を、その熱ごと氷の内に封じ込める。
 人々を焼く業火をもってしても、氷は解けない。その上に立つ主へと力を注ぎ、エウロペの氷はいよいよ堅く、冷たく凍る。
 手を向けたところへと飛来する氷の魔弾が、火災を凍てつかせる。炎と氷に包まれた世界は、異様ながら、不思議な美しさすらあった。
 氷から氷へと飛び乗って、足元の氷から力を得ては、燃える建築物を凍らせていく。
 単純作業のようだが、家屋の中に人がいないかを、エウロペは猟兵や避難する人々の動きから推察し、凍らせる箇所を決めていた。
 なかなかに、気を遣う作業だ。無論、楽な仕事だとは思っていなかったが。
 高速の詠唱により、エウロペの氷はその規模を素早く拡大していった。しかし、町全体というわけにはいきそうもない。
「思ったより広いね、この町」
 氷上に降り立ち、無表情に町を見回す。どのようにして火をつけたのかは不明だが、町中くまなく火の手が上がっているところを見ると、よほど周到に練られた放火と見えた。
 炎を氷に閉じ込めて、また飛び乗る。ふと、炎に煽られて逃げる人影を見つけた。
 幼い、子供だ。服装や髪型から、男の子だと分かった。
 辺りに猟兵はいない。この場は任されたということなのだろう。氷から降り立ち、男の子へと向かう。
「キミ、怪我はないかい」
 なるべく穏やかな口調を意識して声をかける。礼儀作法には自信があった。
 男の子はエウロペをぼんやりと見上げて、やがて泣きじゃくり始めた。
 こうなると、どうしたらよいか分からない。ともかく火の手が危険なので、近くの燃える家屋を凍らせようと、掌を向けた。
「待って!」
 男の子がしがみつき、エウロペは驚いて手を止める。
 凍らせようとした家を見つめたまま、男の子は首を横に振っている。
「……まさか」
 エウロペはしゃがんで、男の子の顔を覗き込んだ。
「中に、誰かいるんだね?」
「うん……お、おっかぁが」
 家屋は炎に包まれ、もはや中は見えない。内部の温度はいかほどか。黒い煙も出ているし、この火の中で生きていられるとも思えなかった。
 もう、手遅れだ。しかし、この男の子をどう説得すればよいのだろうか。
 数十秒考えて、エウロペは時間がないという結論に達した。
「キミ、覚悟して聞いてほしい。お母さんは……もう助からない」
「なんで! いやだ、おっかぁ!」
「小さいキミでも分かるだろう。あの火の中に突っ込んでいって、生きて帰ってくる自信があるかい?」
「それは、でも……おっかぁ……」
 心苦しさは嫌というほどあるが、だからといってこの男の子を見殺しになどできない。
 このままでは、男の子はおろかエウロペすらも焼け死ぬことになる。無慈悲に思われてもよいと、エウロペはその手を炎へと向けた。
「やめて! お姉ちゃん、やめてくれよぉ!」
「……ごめん」
 氷が放たれ、男の子の家は凍てつく結晶に包まれた。即座に鎮火し、エウロペは崩れた家屋の中に、焼け焦げた人の死体を認めた。
 男の子には、それが見えただろうか。確認する気にもなれず、手を引く。
 大通りの向こうに、色とりどりのライトが示す道が見えた。猟兵の手によるものだ。
「見えるかい、あの光」
「……」
 放心している男の子の背を、エウロペはそっと押した。
「あっちは安全だ。町の外に出られる。見たところ火事も収まっているみたいだし、助かるよ」
「おっかぁは」
「少なくとも、もう熱い思いはしていないよ」
 慰めになるとも思えないが、精一杯の言葉だった。エウロペの心は、届いただろうか。
 男の子は、一歩ずつ、ゆっくりと歩き出した。時折凍り付いた町を振り返り、戻らない日常に後ろ髪を引かれながら、一歩、また一歩。
 エウロペは、両手を握りしめていた。湧き上がる感情を、飲み下す。
「怒って火事が収まるなら、怒るけどね」
 氷の上に立ち、今もなお勢いを増す大火を見据える。
 燃え盛る家屋に氷の魔弾を撃ち込むエウロペは、冷静な心の奥底に冷たい怒りが居座っていることを、確かに感じていた。

成功 🔵​🔵​🔴​

フィリス・クロード
何処のクソ野郎がこんな真似を……!! だがまあ犯人探しは後だ。今は1人でも多く助け出すぜ。
所持品は壁や扉を殴り壊す為のメイスと、錠や蝶番を効率的に破壊する為のショットガンだ。
常に大声を上げ生存者の位置把握に努め、助けを求める声が聞こえたら一目散に走り、建物をぶっ壊してでもそいつを助け出す。
「諦めんな! 今やるべき事は神に助けを請う事でも安らかな死を願うことでもねぇ! お前自身が、血反吐を吐いてでも生きるために足掻く事だ!!」
大事なのは1人でも多くの命を助ける事。『全員助ける』なんてのはこの状況においては唯の理想論だ。
明らかに救助不可能な範囲まで火が回った建物は諦める。確かにキツイ仕事だぜ……。




 そこかしこから上がる悲鳴は、助けを呼ぶ声か、それとも断末魔の叫びか。
 人が焼ける臭いに、フィリス・クロード(傭兵シスター・f00940)は袖で鼻を覆いながら、その惨状に眉を寄せる。
「何処のクソ野郎が、こんな真似を……!!」
 今すぐにでも放火犯を殴り飛ばしたかった。しかし、それはフィリスの感情に過ぎない。
 自分の役割に徹することが、最優先だった。それにより救われる命があるのなら、なおさら。
 どこを見ても炎が渦巻く町の中を、フィリスは叫びながら駆ける。
「おぉい! 生きてる奴はいねぇのか! いたら返事をしろ! 死ぬ前に、死ぬ気で声を出してくれ!」
 必死の声は、熱気の中に掻き消えていく。しかし、フィリスは諦めない。
「誰かいないか! 返事を……あれは」
 倒壊した家屋の中に、人がいる。服を焦がす炎を介せずメイスで殴り壊して中に飛び入り、駆け付けた。
 降りかかる瓦礫をショットガンで破壊して、倒れている人の脈を取る。
「……クソッ!」
 吐き捨て、弔うことすらできないことを胸中で詫びて、脱出する。背後で瓦礫が崩れ、助けられなかった命が燃えていった。
 分かっているのだ。全員助けるなどという理想論を掲げても、逆に死者が増えるだけであることは、重々分かっている。
「声を出せ! アタシが助ける! 頼む、返事を――」
 叫びを呑み込み、フィリスは耳を澄ます。弾ける炎の音に交じって、それは聞こえた。
「ここ――誰か――」
 声の方へ向かって、駆け出す。声が途切れる前に、辿り着かねばならない。
「こっちです、誰か……!」
 倒壊した家の奥から、それは聞こえた。か細い、女性の声だ。
「今助ける! すぐ行くからな!」
 家屋をメイスで破壊して、少しずつ声に近づいていく。これ以上潰れてしまえば危険だが、事態は一刻を争う。
 燃える木々を手で退かして、ようやく見つけた。結った髪の、中年の女性だ。その腕には、少女を抱えている。
 二人とも生きている。その事実だけで、フィリスは頬が緩むのを感じた。
「よし、今出してやるからな。待ってろよ」
 二人を押し潰す瓦礫を押し上げようとして、フィリスは中年の女性、母親の言葉に耳を疑った。
「私は、私はいいから。どうか、娘だけは助けてください」
「……はぁ?」
 瓦礫を撤去する手はそのままに、フィリスは眉を寄せた。
 母親の下でもがく少女が、駄々をこねるように首を横に振る。
「お母さん、何を言ってるの! 嫌よ私、そんなの嫌!」
「あんた、もう十四だろう。もうすぐお嫁に行く頃じゃないか。私は足をやられて、もうダメなんだよ」
「嫌! お母さんが死ぬなら私も死ぬ! お嫁になんて、行かない!」
 熱波に当てられて滲む少女の汗が、涙で流れていく。母親は娘を抱きしめながら、どこか達観していた顔をしていた。
「安心しな。私は仏さんと神さんに、ちゃんとよくしてもらえるよ」
「そんなの……いや……」
 死を覚悟した母親に、娘が泣きつく。
 その光景が、酷く、気に食わなかった。
「お前ら、ふざけんじゃねぇぞ!」
 瓦礫を蹴り上げ、落ちてくる天井をショットガンとメイスで破壊しながら、フィリスは吼えた。
「もうダメだ? ここで死ぬだ!? 冗談じゃねぇ、クソくらえだ!」
 母子を覆う瓦礫を怒りのままに押しのけて、二人を引きずり出す。
 フィリスは心底、怒っていた。
「死にたがってるわけでもねぇんだろ!? 諦めんな! お前らが今やるべき事は、神や仏に救いを求める事でもなけりゃ、安らかな死を願うことでもねぇ!」
 母親を無理矢理背負って、少女の手を取る。炎に包まれた瓦礫を踏み越え、フィリスは少女に振り返る。
「お前ら自身が、血反吐を吐いてでも生きるために足掻く事だ!!」
 燃える家屋を脱出しても、あたりは火の海だ。母と娘の絶望は、まだ消えない。
 しかし、フィリスは是が非でも二人を生かす決心をしていた。せっかく掴んだ命だ。
「……こんな形で消してたまるか」
 熱波の中を、歩き出す。手を引く少女が泣きじゃくり、母親はしきりに感謝の念を呟いていた。
「すみません、本当に、ありがとうございます」
「礼はいいさ。それよりお前、怪我の具合はどうなんだ」
「痛みます。でも、もう死ねません」
 娘とともに生きる選択肢を取ってくれたことに、フィリスは笑って「そうか」と頷いた。
 歩いている間にも、炎は容赦なく三人を襲う。避けて通ってはいるが、熱がきつい。
 少女が泣く体力すら奪われ、母親が励ます声までも少なくなってきたころ、フィリスはようやく宣言することができた。
「ついたぞ。これで、助かった」
 町の外れだ。開けた街道には、宵闇が静かにたたずんでいる。
 避難した町の人々も見えた。こちらに向かって手を振っている。
「助かった……」
 信じられないとでも言うように、少女が呟く。母親は泣いていた。
 街道に出ると、町の男が駆け寄ってきた。母親と少女を任せ、大きく息をつく。
 何度も頭を下げる母子に片手を上げて、フィリスは呟いた。
「確かに、キツイ仕事だぜ……」
 地獄の業火に焼かれながら行う、命の取捨選択。それは着実に、猟兵たちの心を削っていくことだろう。
「それでも、やってやるけどな」
 冷たい風が、フィリスを包む。今は冬だったなと、初めて気づいた。

成功 🔵​🔵​🔴​

東雲・ゆい
わたしのこと本気で怒らせちゃったね
まずうちさぁ、消火するユーベルコードないんだけど【SPD】で振ってかない?

てわけで避難誘導だよー!
★バトルキャラクターズで女の子キャラを出して逃げ遅れの確認、避難誘導、事故防止を手伝わせる!
仲間と連絡取り合って避難場所と火の手の場所を確認するの
風向きに対して真横に避難させて火に飲まれないようにするよ~!
【POW】の仲間に避難経路の確保をお願いして
【WIZ】の仲間には周囲の消火もお願いする~!
あと避難する人に余裕がある大人の人とか、火消しの人がいたらみんなをまとめてもらえないかお願いしてみるよ!
泣いてる子がいたらぎゅーしてあげる!

わたしお願いしてばっかりだなぁ…


寺内・美月
【POW】※連携・アドリブ可
『戦闘団召喚』を使用して歩兵・工兵・支援大隊を展開。
歩兵大隊は市街地を探索して逃げ遅れた市民の救助と誘導を行う。(人員がさらに必要なら、さらに召喚して差し出す)
工兵大隊は更なる延焼を考慮して一定の場所から火元の方へ建物を壊し、瓦礫を破壊するなどの延焼防止に努める。(破壊しない建物には屋根や壁に水を掛けたり泥を塗りたくるなど舞い上がった火の粉による延焼を予防する)
支援大隊は安全地域に避難所を開設し、負傷者の治療と消火用水・道具の集積と前線への輸送を行う。



「まずうちさぁ、消火するユーベルコード……ないんだけど……」
 東雲・ゆい(それ以外の何か with グリモア・f06429)の突然のカミングアウトに、寺内・美月(地獄雨の火力調整所・f02790)は困惑した。
「そ、そうですか。私が召喚する戦闘団なら、本格的な消火とはいきませんが、延焼防止は可能です。足しにはなるでしょう」
「おっ! いいもん持ってんねー!」
 腕を振り回すゆいに、緊張感はない。火の手は眼前に迫っているのだが、意にも介さない。
 なんとも調子が狂いそうだが、美月は気を取り直して、戦闘団を召喚する。
 現れた戦闘部隊の霊が、美月を前に整列する。火災をものともしない。
「すっごーい! この子たちは火が怖くないフレンズなんだね!」
 頭の上で手を耳のように動かしながら、ゆいがぴょんぴょん飛び跳ねる。意味は分からなかったが、褒められているのだと美月は解釈した。
 ひとしきり飛び跳ねてから、ゆいは両手を空に広げた。
「じゃ、次はわたしの番ね! 出てこいやぁー!」
 ゆいの周りに光の粒子が集結し、人型をなしていく。やがてそれらは、幾人もの派手なコスチュームを纏った美少女キャラクターとなった。
 ミニスカメイドから鉢巻を巻いた格闘少女まで、個性豊かなキャラクターたちは、美月の軍隊とは対照的に好き勝手動き回っている。
「せいれーつ!」
 背中の後ろで手を組んで、ゆいが叫ぶ。すると、キャラクターたちはもたもたと並び始めた。
「はいよくできました! じゃ、命令出すよー! 美月くんからどうぞ!」
「えっ、あぁはい。では……」
 雰囲気に飲まれかけていた美月だが、この場は緊急事態の只中だ。迅速に、的確に、指示を出さねばならない。
 召喚した戦闘団たちへと手を伸ばし、高らかに宣言する。
「まず歩兵、工兵、支援の三つの大隊に分ける!」
 誰がどこに、という必要はなかった。美月の言葉を受けて、兵士の霊たちは見事に三等分に分かれる。
 頷いて、まず歩兵大隊へ、美月は早口で言った。
「歩兵大隊は市街地を捜索、逃げ遅れた市民の救助と誘導を行なえ! 最優先事項は人命救助だ! 行けッ!」
 歩兵大隊が敬礼し、作戦を開始する。先頭にいた霊を司令塔として、さっそうと燃え盛る町へ飛び込んでいった。
 ゆいが感心して拍手するのを見ないようにしつつ、美月は工兵大体へと向き直る。
「工兵大体は、さらなる延焼を防ぐべく、要救助者のいない家屋を破壊しろ! 以上!」
 美しい敬礼を見せてから、工兵大体は近隣の燃え盛る家屋を破壊しにかかった。
 最後に、支援大隊に視線を向けた。
「支援大隊は安全地域に避難所を開設し、負傷者の治療と消火用水・道具の集積と前線への輸送を行え! 我が戦闘団だけでなく、消火に当たる者に支援しろ!」
 寸分違わぬ敬礼の後、支援大隊は工兵大体が切り開く道を通って、町の外へ向かっていった。
「もう、全部あいつらだけでいいんじゃないかな」
 統率の取れた戦闘団を見て、ゆいががっくりと項垂れる。美少女キャラクター達も、同じ動きをした。
 しかし、人命救助に割く人数は、多くて困ることはないはずだ。ゆいは召喚したキャラクターたちに、意気揚々と宣言した。
「じゃ、みんなは歩兵大隊のおばけたちと一緒に、逃げ遅れた人の確認と避難誘導ね! 事故を起こさないように注意だよ!」
 ゆいが戦闘団を真似て敬礼すると、キャラクターたちも思い思いの敬礼を返し、歩兵大隊の後を小走りで老追いかけていく。
 美月とゆいは、歩兵大隊とキャラクターに続いた。生存者がいたとするならば、生身の二人が最も信頼されるはずだ。
 火災の中に取り残された焼け焦げた死体には、戦闘団の霊たちは見向きもしない。死者を弔うことは、彼らの仕事ではないのだろう。
 それが悪いこととは思わない。しかし、ゆいは炭化した遺体に何もしてやれないことに、強い憤りを覚えていた。
「……ひどい。最悪だよ、こんなの」
「えぇ。外道の極みです」
 呟きに応えた美月の声も、怒りに震えていた。
 工兵大隊が家屋を破壊する音が響く中、黙々と捜索が続けられる。ゆいと美月は、その後ろから生存者の気配を探っていた。
 と、赤ずきんのキャラクターが、瓦礫の上でジャンプしているのが見えた。しきりに指で下を示している。
 察した美月が、歩兵の霊に指示を飛ばす。
「あの赤ずきんの足元だ! 慎重に探れ!」
 燃える廃屋を乗り越えて、歩兵がそこに集まっていく。瓦礫を除いた先にいたのは、幼児だった。
 おかっぱの女の子だ。霊の兵を見て、怖がっている。歩兵たちが動揺しているように見えたのは、ゆいの気のせいだろうか。
 赤ずきんのキャラクターが女の子を抱え上げ、美月とゆいのもとにやってきた。あらゆる感情が入り混じって、方針している。
 ためらわず、ゆいは女の子を抱きしめた。
「怖かったねー。よしよし、もう大丈夫、大丈夫だよ」
 衣服が煤で汚れようと、構わない。この女の子が感じた恐怖を少しでも和らげたい一心だった。
 優しく声をかけて女の子を抱きしめるゆいを、美月は横目で見ていた。内心には安堵もあるが、女の子の親が気がかりだ。
 この辺りはまだ被害が少なかったようだ。歩兵大隊とキャラクターたちが、数名の住人を救出した。
 火の手の少ないところで合流するも、女の子の親はいないようだ。美月は怪我が少なそうな男性に尋ねた。
「すみません。この子の親御さんについてなのですが」
「あぁ、みっちゃんの……。二人とも、家にいたはずだが」
 夜中の大火だ。それが普通だろう。女の子が見つかった近くで生きていればいいのだが、歩兵やキャラクターからの報告は、まだない。
 静かな捜索が続く中、幾人かの救出には成功したものの、死体も多く見つかった。
 火の手が強まり、背後に工兵大隊の足音が聞こえる。潮時だ。
「ゆい様、そろそろ行きましょう」
「うん、でも」
 ゆいが女の子見つめる。動かないのだ。自分が救われた地点をじっと見つめていた。
 どれだけ声をかけても、女の子は言葉を返さなかった。両親のことも尋ねたが、結果は同じだ。
「ショックによる一時的な失語症ですね。でも、もう大丈夫ですよ。さぁ、行きましょう」
「……」
「ご両親なら大丈夫。きっと助かりますよ」
 笑顔で告げる美月の言葉に、信憑性はない。しかし、子供を慰めるのであれば十分だ。
 女の子はしぶしぶ頷いた。その頭を抱き寄せてかき撫で、ゆいはあたかも自分は遥か年上であるかのように振る舞う。
「よーしよし、みっちゃんいい子だねぇー! きっとみんな無事だよぉー!」
 小さな胸の中で、女の子がまた一つ頷いた。
 女の子の手を引いて、ゆいは生存者の先頭に立って歩き出す。
 複雑な気持ちだった。人々を安全なところへ速やかに避難させるという目的はあるものの、女の子の両親が――その遺体が見つかる前に移動しようという思いが、多少なりともあったのだ。
 これでは、この子に嘘をついていることになる。後ろめたい気持ちでいると、戦闘団に再指示を出し終えた美月が追い付いた。
「ゆい様、顔色がよろしくないようですが」
「この状況で顔色いい奴いないんだよね。それ一番言われているから」
「お気持ちは、分かりますが」
 冷静さの中に影がある美月の言葉に、ゆいは唇を尖らせた。
 一緒になってこの子と泣いてあげられたら、どんなにいいだろうか。しかし、今はそんなことをしている暇はない。
 工兵大隊のおかげで、町の外へ向かうにつれて、徐々に火の勢いは弱まっていった。それに反比例するかのように、町の人々に希望が戻っていく。
「よかった、助かった……」
「九死に一生たぁ、このことだな!」
「仏様……」
 各々が助かったことを喜んでいる。しかし、女の子は笑わない。無理もないが、美月とゆいは、いたたまれない気持ちになる。
 町を出ると、暗がりの中に松明で囲われた場所が見えた。支援大隊が作った簡易避難所だ。すでに、他所から逃げてきた人々が集まっている。
 猟兵二人に礼を述べて、生存者たちは怪我人を支えながら避難所に向かった。
 女の子は、ゆいの手を離さないままだ。じっとゆいを見上げている。
「……えっと、美月くん、どうしよ」
「ううむ……」
 二人で困った顔を浮かべていると、女の子がおもむろに手を離し、避難所の方へと駆けて行ってしまった。
 何か思うところがあったのか、あるいは本当のことを悟ったのか。彼女の心中を知ることはできない。
 両親がもし死体で見つかったら、あの子は泣くだろうか。本当は底抜けに明るい性格で皆を元気づけたいのだが。
 対照的に、美月は冷静だった。この場は戦いだ。時には冷酷にならなければ、被害は甚大なものとなることを、彼は知っていた。
「行きましょう。生存者の後続が出ているかもしれない。それに――遺体の収容も」
「はーもうテンション上がんないなぁー! シリアスやだぁー!」
「これも我々の役割です。徹しましょう」
「真面目か! ……真面目な方が、今はいいんだろうけどさぁ」
 瓦礫の下には、もがき苦しんで死んだ人々が大勢いるのだろう。その死に触れることも、この場にいる猟兵の仕事なのだ。
 この町に住む人々と猟兵の心が折れてしまう前に、大火を収束させなければならない。
 美月とゆいは、再び炎渦巻く町へ飛び込んでいった。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​

早見・葵
【第六感】をもとに人が居そうな場所へと向かいます。
避難できていない人は、怪我人かトラブルのどちらか
勘であっても少しでも頼れるものは使っていきます。

炎の中、声をあげます。【勇気】【鼓舞】
「誰かいませんか!? 頑張って声か音を出してください!」
微かな声も音も聞き逃さないように耳を澄ませる。

発見時は見つけたことを周囲に伝え現状を確認します。
「もう大丈夫! 私が助けます! 」
と笑みを浮かべ安心させて、救助者と連携しやすくします。

下敷きになっている場合は、上にあるものをどかしていく。
どかす際はチェインを使い、崩さないように慎重に、しかし最速で。

怪我人を運ぶスペースができているならそこまで運びます。


露木・鬼燈
体を使った行動には自信があるのですが…
要救助者を探すことや二次災害を起こさないように障害物を取り除く。
なんてゆーのは得意ではないかなぁって。
一人でもできないことはないですよ?
でもお互いの苦手分野を補えるような人と組む。
このほうが効率いいっぽい。
降魔化身法だと長丁場での救助活動には向かないよね。
要所要所だけで使う分にはいいんだけどね。
ここは機動力重視で秘伝忍法・凶をメインにするですよ。
ムカデは壁や天井も移動できるし隙間にだって入っていける!
崩れた町での活動には適しているはずなのです。
力だって十分強いから救助活動もできるのです。
そして高度演算デバイスとデータリンクさせてセンサー類も活用するっぽい!




 獄炎の如き大火は、収束に向かっている。東の空が明るくなりかけていた。
 しかし、瓦礫の下にはまだ残された人が大勢いる。経過した時間を考えれば、もはや生存は絶望的とも思えた。
 それでも、早見・葵(竜の姫騎士・f00471)は諦めきれなかった。
「誰かいませんか!? 頑張って声か音を出してください!」
 弱まっているとはいえ、炎の熱は今も猟兵の体力を奪い続ける。葵の顔も服も、煤に塗れていた。
 すでに彼女は、十名以上の生存者を救出している。救い出した彼らは、口々に家族の名前を呼んでは涙を流していたのだ。
 死者の数は、葵が救った人数に比べて遥かに多い。こんな残酷なことがあるだろうか。
 唇を噛んで立ち尽くす葵の耳に、何かが聞こえた。少し遠いが、声だ。
 炎に巻かれた町では方角が定まりにくい。葵は直感という第六感に従って走った。
 勘は見事に的中した。鎮火しているものの倒壊してしまった家屋の前で、着物を煤塗れにした男が必死に太い柱を持ち上げている。
「誰か、誰か手ぇ貸してくれ! 倅が下にいやがるんだ!」
「もう大丈夫! 私が助けます!」
 駆け付けると、男は礼を言う余裕もなく、葵を手招きした。
「こっちだ、この柱さえ退かしちまえば、あとは小物だからよ……」
 その柱は、家の大黒柱だったのだろう。持ち上げようとしてみると、かなりの重みを葵の手に伝えてきた。
「せーので、いきましょう!」
「おう! いくぞ、せぇの!」
 同時に力を入れて、柱を押し上げる。途端、重なっていた瓦礫が崩れ、その下から悲鳴が上がった。
「親父! 待ってくれ、そいつどかしたらやべぇ!」
 下敷きになっているのは、青年らしかった。声を聞く限り、まだ余裕がありそうだ。
 しかし、いつ再び火の手が迫るとも限らない。急がなければならないが、息子の言う通り、これ以上柱を動かすのは危険にも思えた。
 とはいえ、瓦礫の量は相当なもので、息子に辿り着くのも至難だ。
「くそッ……!」
 歯噛みする父親に、葵は声をかけられない。瓦礫を一つ一つ取り除くしかないかと思った、その時だった。
 背後からの物音に振り向き、葵は目を丸くした。瓦礫の下から、巨大なムカデが這い出してくるではないか。
「オブリビオン!? くッ……!」
 男を守る形で、戦闘態勢を取る葵。しかし、ムカデは動かない。
 さらにその背後から、瓦礫の山を飛び越えた人影が、頭を起こしたムカデの頭に立った。
 呆ける葵と男を見て、露木・鬼燈(竜喰・f01316)はバツが悪そうに頬を掻いた。
「驚かせちゃったっぽい、ごめんです」
「鬼燈さんでしたか……。このムカデは?」
「僕の。狭いところも入れるし、力もあるから、今回はちょうどいいと思って連れてきたです」
 男と葵が、目を合わせる。なんと素晴らしいタイミングなのか。
 土下座するのではないかという勢いで、男が鬼燈に頭を下げた。
「頼む、兄ちゃん……倅を助けてやってくれ!」
「ん、生存者がいるっぽい?」
 瓦礫の方を見るが、人影はない。完全に埋まっているが、その中からくぐもった声がはっきりと聞こえた。
「ここだー! 誰でもいいから、助けてくれ!」
「お、まだ元気だね。じゃ、やるっぽい! 葵さんも手伝ってくれる?」
「もちろんです!」
 葵の返事を受けて、鬼燈は自身のムカデを瓦礫に向かわせた。
 頭をもたげて、ムカデはやたらと精巧な触手を動かす。
「熱源センサーは、ここでも役に立たないか。生体反応探査が一番いいっぽい?」
「あの、鬼燈さん。そのムカデって……」
「うん。サイボーグです。高度演算デバイスともリンクしてるから、処理は爆速っぽい」
 瓦礫の隙間をスルスルと潜り始めるムカデは、いくらサイボーグとはいえ、その挙動はまさしくムカデである。
 男が顔をしかめるのが見えたが、鬼燈は気にしないことにした。あれは確かに見目は悪いが、出来はいいのだ。
 ムカデが瓦礫に潜ってから数分経ち、けたたましい発信音と青年の悲鳴が上がった。
「うおぁぁぁ! ムカデだ! でけぇ! 食われる!」
「大丈夫、カラクリです。今助けますから、じっとしていてほしいっぽい」
 青年が沈黙した。父親の男が心配そうに見ているが、作業は続行される。
 内側から、サイボーグムカデが歯やらを使って瓦礫を処理する。搭載された高度演算デバイスにより、崩壊の危険性が極力少ない位置から、確実に出口を模索しているらしい。
 順調にいけば、十分もすれば救出できるだろう。葵が安堵の息をついた、その瞬間だった。
 三人の視線の先で、火の手が上がったかと思うと、それは一気に膨らみ、爆発した。
 爆風と熱波が襲う。男を庇いながら、鬼燈が叫んだ。
「なにが起きたです!?」
「ダン吉の……花火工場かっ……!」
 呻くように言う男の顔は、恐怖に引きつっていた。
 それも当然のことだ。眼前に上がった火柱は、その猛威を急速に拡大させていく。鎮火しかけていたこの辺りにも、すぐに燃え広がってくるだろう。
 時間がない。葵が鬼燈の袖を引いた。
「私もドラゴニアン・チェインで手伝います! 表面の瓦礫だけを吹き飛ばせば、時間は早まりますから」
「瓦礫を崩さないように、いけるです?」
「任せてください! 慎重に、最速で!」
 力強く頷いて、葵はその身に宿す竜の力を強めていく。全身にオーラが浮かび、短い金髪が不可視の力で揺れる。
「いきますよ……!」
 揺らめくオーラは右手に集中し、葵が右手を突き出す。
「はぁぁぁッ!」
 放たれたドラゴンオーラは、瓦礫の山に衝突し、爆散する。破片には放たれたオーラが纏わりついている。
 振動で崩れるかと心配する男を横目に、葵はその腕を引いた。
 空中に舞い上がった破片は、オーラの鎖でつながり合い、葵の腕に従って引っ張られ、街道に散らばった。
 オーラの残滓が消えた瓦礫を見て、鬼燈が目を見張った。
「すごいっぽい……!」
「これなら、降ってくる瓦礫で崩れる心配もありません」
 手を払いつつ、凛とした声で葵が断言した。
 内側からサイボーグムカデが発するチェーンソーのような音が聞こえ、鬼燈と男が瓦礫を素手で撤去し始めた。
 火の手が迫る。熱波が徐々に強まっていき、焦りは募るばかりだった。
「あと少し、あと少しで!」
 大きな瓦礫を放り投げながら、鬼燈が叫ぶ。
 葵がドラゴニアン・チェインで周辺を爆砕し、延焼物を退けている。しかし、死を運ぶ炎は着実に迫っていた。
「親父! もういい、逃げてくれ!」
 悲痛な叫びが、瓦礫の下から聞こえた。息子の言葉に、父親の男は瓦礫に飛び乗った。木材を一つ一つ手で取り除きながら、子供を叱責するように言った。
「ふざけんな! 死なせねぇぞ!」
「そうです! あなたも、あなたのお父さんも! 私たちが絶対に死なせはしません!」
 瓦礫を外側から爆砕し、確実に撤去しながら、葵も叫ぶ。
 今この瞬間も、人は大勢死んでいる。先ほどの爆発で散った命もあるだろう。
 全ては救えない。だが、目の前にある命だけは――。
「救ってみせるです!」
 鬼燈が巨大な木材を抱え上げ、放り投げる。そして、とうとう辿り着いた。
 瓦礫の下に、サイボーグムカデの頭が見えたのだ。
「よし、こい!」
 鬼燈の叫びに呼応するかのように、ムカデが飛び出す。その背中には、青い顔をしたボロボロの青年がしがみついていた。
 怪我はないようだが、酷く顔色が悪い。サイボーグムカデから降り立った青年は、すぐさま父親に支えられた。しかし、再会の喜びを味わっている暇はない。
「急ぎましょう!」
 葵が前に、鬼燈が後ろについて、急ぎ町の外を目指す。
 振り返れば、先ほどまで青年が埋もれていた瓦礫が燃えていた。間一髪助かったことに、青年と父親が息を呑む。
「あっぶねぇ……」
「まだ油断できないっぽい。足を止めたらダメですよ」
 鬼燈に促され、親子は葵に先導されて町の外へ向かう。
 燃え広がる炎に追いかけられ、四人は次第に駆け足になっていった。息も絶え絶えに、黒い静寂の街道へと飛び込む。
 町から離れて、親子が並んで草むらに転がる。呼吸を整えながら、父親が何とか上半身を起こした。
「いや、すまねぇな。姉ちゃん、兄ちゃん。助かった、あんたらは恩人だ」
「それが僕たちの仕事だから、気にしなくていいっぽい」
「そうです。お二人こそ、よく生き抜いてくれました。ありがとうございます」
 鬼燈と葵の笑顔を受けて、親子は気が抜けたように脱力した。
 寝転がったまま起き上がれず、青年は小さく呟いた。
「親父。俺……働くよ。町をしっかり建て直して、今度こそ、大工職人目指すよ」
「そうか。そうだな。俺も引退は、まだ先になりそうだ」
 この親子の間にどのような問題があったかを、葵も鬼燈も知らない。
 ただ、繋ぎとめた命が、父と息子の絆を強めたことは間違いなかった。
 猟兵の二人には、それで十分だ。
 寝転がったまま固く握手を交わす親子の笑顔があれば、それが最高の報酬だった。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

トリテレイア・ゼロナイン
このような地獄でこそ私のような鋼の身が役に立つというもの
騎士として至らぬ身ではありますが、作業用重機として無辜の人々を救いましょう

宇宙空間での船外作業もこなせるウォーマシンとして燃え盛る火の海を横断してショートカット、「怪力」を活かして瓦礫を撤去し、人々の避難経路を確保します
格納スラスターで「スライディング」しながら地面を「踏みつけ」て後続の方が通りやすいようにします

自分の大盾は長い鎖をつけて腰に結び負傷者を運ぶ即席担架にしましょう

「世界知識」で破壊消火の知識はありますがにわか仕込みでどれだけ通じるか…

救命は最優先ですが手遅れな方は見捨てます
この判断ができるから紛い物なのでしょうね…

アドリブ可




 トリテレイア・ゼロナイン(紛い物の機械騎士・f04141)は、崩れ落ちた家屋を踏みつぶしながら、町の外へと直進していた。
 燃える瓦礫を踏みならし、少しでも歩きやすい道を作る。彼の背後には、数名の住人がいた。
 あらかじめ学習しておいた破壊消火の方法も、そこそこ役に立っている。だがそれ以上に、機械の体であることが大きい。
 尖った瓦礫や燻る火も、鋼鉄の足の前には無力だった。
「大きなお侍さん、本当にすまないね」
 しわがれた声は、トリテレイアが腰に巻き付けたチェーンの先、担架代わりにしている愛用の大盾から聞こえた。
 男性の老人だった。崩れた民家の下敷きにされてしまい、救出はしたものの、片足が折れている。
 痛みに脂汗を流す老人に、トリテレイアは振り返らずに言った。
「いえ、お気になさらず。騎士として、当然の務めです」
「はて、騎士……?」
 意地のように言ってしまったが、この老婆は騎士を知らないようだった。サムライエンパイアは武士の世界だ、仕方がない。
 この町は広い。それだけに、生存者が思った以上に少ないことが、トリテレイアの心に影を落とす。
 空は相当明るくなっており、大火は収まりつつある。
 火の手が強い間も、トリテレイアはかなりの人数を救出していた。だが、それと同じかそれ以上に、多くの命を見捨てもした。
 手遅れな人間を無理に救ったところで、苦しみを先延ばしにするだけだ。真の騎士ならばどうするかという答えを、トリテレイアは知らない。
「……」
 足を止めた。周囲は火が燻っているが、もはや深夜の業火というほどでもない。後続の民間人にも、多少余裕がある。
 周囲を見回す。見れば、背後の人々も同じように辺りを見回していた。
 焼野原となった町の中に、泣き声がする。赤子のものだ。
 声の方に進むと、何かを抱えるようにうずくまった女性がいた。その下から、赤ん坊の声が聞こえている。
 女性の着物は焼け、背中や腕、頭は焼けていた。トリテレイアは彼女が死んでいるものと思った。
 その肩に手をかけ、赤ん坊に手を伸ばそうとすると、女性がうめき声を上げる。
「ぅ……ぁ……」
「生きて、おられましたか」
 女性を仰向けにしてやると、その下に火傷が見られる赤ん坊がいた。一歳になるくらいだろうか。
 トリテレイアに抱えられた女性は、動けなかった。もう長くはないだろう。
「ぁたしの、坊……」
「安心してください、助けました。あなたの子は、もう大丈夫です」
「そ……ぅ……」
 荒げていた息が、徐々に弱まっていく。生命力を絞り出して、子供を守っていたのだろう。
 人は強い。トリテレイアは心を打たれた。
 やがて、金属の腕に抱かれて、女性は息を引き取った。遺体を連れていくわけにはいかない。その場に横にして、赤ん坊をそっと抱き上げる。
 激しく泣く赤ん坊を見つめていると、市民の中から中年の女性が駆け寄ってきた。
「おぉ、よしよし。お侍さん、この子、私に預からせておくれ」
「よいのですか。あなたも、家財を失くしてしまったと記憶していますが」
「そうさ。でもね、女として、子供を命張って守った母親の気持ちを無駄にするわけには、いかないんだよ」
 力強い語気だった。トリテレイアは、女性に赤ん坊を渡した。
 見れば、救い出した市民たちは、盾の上の老人までも、生命力に溢れた目をしている。
 火の勢いが消えかけていることも、大きな要因だろう。だからこそ、トリテレイアの心は打ち震えていた。
 焼野原となった町の上で、この人々はすでに未来に向かって進み始めているのだ。
 その力強い生き様に、答えたいと思った。
「進みましょう。もう少しです」
 市民が少しでも通りやすいように瓦礫を踏みならし、ようやく見えた町の外、丘の方へと歩を進める。
 崩壊した日常を取り戻す道筋を、その一片だけでも示したい。トリテレイアの想いは、瓦礫を強く踏み下ろす力を、より強めていった。

成功 🔵​🔵​🔴​

胡堂・充
【WIZ…厳密には違うかも】
多くの人が火事で家を焼かれ、傷ついているのを、医者として見過ごすわけにはいかない!

助け出された人達に【医術】で治療を行う。もし重傷だとしても、僕の【他者治癒能力】なら救えるはずです! 使うとひどい頭痛に襲われるけど…僕みたいに、家族を理不尽に失うなんてことは誰にも経験させたくないからっ!
「僕は医者です! 怪我をされた方、気分が悪い方はおられますか!?」

そして、多くの人の命を奪おうとしたオブリビオン…アイツ等は絶対に許さない!

※避難誘導をされる方が居ればその人に合わせて避難先で実施、やむを得ない場合は現場で行います。また、細部のアドリブについてはお任せ致します。


ニィ・ハンブルビー
命を奪うために、深夜に放火して回るオブリビオンかー
…むかつく!見かけたらぶん殴ってやる!

何はともあれ『暗視ゴーグル』をつけて、
背中の『ウェポンエンジン』で加速しつつ【ダッシュ】!
家1件1件に大声で呼びかけて、
周囲の人に炎に取り残された人がいないか逐一確認!
ケガ人は【しゅわしゅわの魔法】で回復しつつ、
取り残された人がいたら小柄な体を活かして隙間から飛び込んで、
邪魔な瓦礫や家屋をどかすか破壊して逃げ道を作るよ!
炎や瓦礫が襲ってきたら、『ビームシールド』で身を守りつつ村人を【かばう】!

全部思うようにできるかはわからないけど、やれるだけやるよ!
がんばるぞー!




 上空から見る町は、昨日まで賑わっていたとは信じられないほどの焼野原だった。
 人々の生活が、一夜にして奪われた。これが人為的なものであるということが、なおのこと許せない。
 空を高速で飛びながら、ニィ・ハンブルビー(近距離パワー型フェアリー・f04621)は姿も見えないオブリビオンへと毒づく。
「むかつく! 見かけたら、絶対ぶん殴ってやる!」
 背中にウェポンエンジンを積み、普段の飛行より遥かに加速している。暗視ゴーグルも、夜間は役に立ってくれた。
 ニィは、大火の中で家を一軒一軒丁寧に声をかけ、多くの命を救っている。
 だが、彼らはすべてを奪われた。家も、財産も、人によっては、家族すらもだ。
 炎は収まったが、あちこちで黒い煙が上がっており、猟兵たちがいたるところで崩れた家から生存者を探し出そうとしている。
 そして、多くの遺体も収容され始めていた。ニィは今もあきらめず、気配を感じた場所をしらみつぶしに飛び回っている。
 ふと、焼け残っている家を見つけた。近づいてみると、それはいよいよ大きい。
「お屋敷だ! でも……」
 崩れてはいないとはいえ、炎に焼かれたせいで、今にも倒壊しそうに見えた。
「まだ誰かいるかも!」
 ためらうことなく、焼け落ちた窓から飛び込む。中はやはり燃え跡が多く、焦げた煙で息も苦しい。
 まだ人がいたとして、生きていられるかどうか。それでもニィは懸命に探した。
「誰かいるー!? いたら返事してー!」
 茶の間や床の間に、人影はない。厠にも隠れていなかった。
 土間を覗き込んだ時、焼け焦げた床に、ニィは目を輝かせた。
「あ、あれって!」
 落とし戸だ。地下に蔵か何かを設けていたのだ。用途は不明だが、ここになら、人は十分隠れられる。
 重い落とし戸に手をかけ、ニィは思い切り羽ばたいた。
「ふんっ! んなぁぁぁぁっ!」
 ギシギシと音を立てて、落とし戸が開く。
 光が差し込んだ蔵の中には、酒や食料が入っていると思われる瓶が置かれていた。空気穴は塞がれている。
 中に、少年が倒れていた。武士の装いをしている。ここは武家屋敷だったのだろうか。
「ちょっと、キミ! 大丈夫!?」
 肩を揺り動かすも、返事がない。息はあるようだが、このままでは危険だ。
 ニィは少年を担ぎ上げた。
「ちょっと荒っぽいけど、我慢してね!」
 身の丈からは想像できない怪力をもって、少年を片手で持ち上げたまま飛び上がる。
 地下蔵から飛び出して、そのまま土間を経由して外へ出る。直後、背後で武家屋敷が崩れた。
 片手に少年を担いだまま、ニィは振り返って冷や汗をかく。
「ぎっ、ギリギリセーフ……!」
 近場の街道に降り立って、少年を横たえる。這う這うの体で蔵に逃げたのだろう、少年はその顔に酷い火傷を負っていた。
 ニィは、少年へと手をかざす。
「ちょっと染みるけど、我慢してね」
 少年の焼けただれた頬に、泡状のジェルが注がれる。浄化と回復の力を持つジェルは、少年の火傷を癒し、その傷跡すらも治癒していった。
 見える範囲で体を検め、他に火傷がないことを確認し、ニィは戸惑った。
「……起きない」
 少年は今も目を閉ざしたまま、苦し気に呼吸をしている。状況が芳しくないのは、よく分かった。
 ふと、背後で声が聞こえた。
「僕は医者です! 怪我をされた方、気分が悪い方はおられますか!?」
 避難所が落ち着いて、現場に戻ってきたのだろう。街道の向こうに、胡堂・充(電脳ドクター・f10681)の姿が見えた。
 まっすぐに飛んで行って、ニィは充の手を取りぶんぶんと振った。
「充くん! いいところに!」
「やぁ、ニィさんじゃないですか。……患者ですね?」
 察してくれた充に、ニィが何度も頷く。
「こっち、ついてきて!」
 すごい勢いで飛んでいくニィを、充は走って追いかける。
 街道の中心に寝かされている少年に辿り着き、ニィが心配そうにのぞき込むのを制しながら、少年の頬に手を当てる。
 息はあるが、脈が弱い。充はニィに向き直った。
「この少年、どこにいたのですか?」
「崩れる前の、大きなお屋敷だよ。地下に蔵があって、そこに隠れてたんだ」
「……酸欠、それと精神的なショック、でしょうか」
 なんにしても、やることは一つだった。充は躊躇いなく少年の胸に手を当て、他者を癒す力を解放する。
 掌から注ぎ込まれる力は、少年の息を徐々に安らかに整えていく。その様子に、ニィは見入っていた。
 突然、充が空いた手で頭を押さえた。見れば、苦痛に顔を歪めている。
「充くん、どうしたの?」
「いえ。この力を使うと、頭痛がするもので……」
 この世界に来てから、彼はずっと力を使っていたのだろう。よく見れば、顔色が酷く悪い。
 それでも充は手を休めない。痛みを殺して力を注ぎ込む。
「くっ……」
「無理しちゃだめだよ! キミまで死んじゃうよ!?」
「死にはしません。それに」
 両手を少年に当てて、さらに力を籠める。吐き気すら催す頭痛が、充を襲う。
 苦し気に、しかしはっきりと充は言った。
「多くの人が火事で家を焼かれ、傷ついているのを、医者として見過ごすわけにはいかないんです」
「……そっか。なら、ボクも手伝うよ!」
 ニィが充の頭の上に飛び上がる。その手から、泡状のジェルが生まれた。それを充の頭へと、注いでいく。
 頭に伝わる冷たい泡の感触に、充が驚いてニィを見上げる。
「これは、一体?」
「えへへ、しゅわしゅわの魔法! 怪我も治るから、痛みも少しは良くなるかなーなんて」
 実際、充の頭痛は緩和されていた。それは魔法の効果なのか、それともニィの優しさのおかげか。 
 ただ、充にとって非常に大きな力となったことに、変わりはない。
 さらに少年へと力を注ぎ込むと、その顔色はみるみるよくなっていった。手首に触れて、充が安堵の息を吐く。
「脈が戻ってきた。もう大丈夫」
 まだ少年は目覚めないが、医者の充が言うのだから、そうなのだろう。ニィはほっと胸を撫でおろした。
 少年を抱え上げて、充が立ち上がる。火の手はもうないとはいえ、この辺りは煙も来る。離れるに越したことはない。
 充とともに町の外を目指していると、充が抱える少年が呻いた。
「うっ――父上、は、母上――」
 彼の両親は、無事に避難できたのだろうか。避難所に集まった人々を治療している間、充は武士階級らしき人を見なかった。
 燃える屋敷に少年が一人でいたことを考えると、両親だけが外に出たのか。武人として、人々を助けて回っていたのかもしれない。
 どちらにせよ、生存の可能性は低いと見るべきか。死者はあまりにも多く、彼の両親だけを探すことは、叶わない。 
 現に今も、焼け跡から家族の遺体を見つけた人々のすすり泣く声が、そこかしこから聞こえている。
 家族を失った痛みが、充の胸に蘇る。邪教団によって両親と姉の笑顔が消えた、あの日。
「オブリビオンめ……!」
 苦々しく呟く。横を飛んでいたニィが、顔色を曇らせた。
「なんで、こんなことをするんだろうね。オブリビオンの奴らが考えてること、ちっともわかんないよ」
 ニィの小さな手は、固く握りしめられている。彼女もまた、燃え盛る町の中で、多くの死を直視してきたのだ。
 頷く充の瞳には、憤怒の光が輝いていた。
「同感です。例え連中に何かしら理由があったのだとしても、僕はあいつらを、絶対に許さない!」
「そうだね! 必ず見つけて、みんなでとっちめてやろう!」
 空中をくるくる飛び回りながら、ニィが拳を振り上げる。その姿に、充は力強く頷いた。
 


 夜を焦がした大火は、人々の幸福と命を奪って、朝の陽光の中に終わりを告げた。
 しかし、猟兵たちにとっては、これで終わりではない。惨劇を生み出したオブリビオンを見つけ出し、倒さねばならないのだ。
 次なる悲劇が起きる前に、なんとしても。
 猟兵たちのオブリビオン捜索が、始まる。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​




第2章 冒険 『徘徊する処刑人』

POW   :    歩き回って処刑人を探す

SPD   :    聞き込みや現場検証で情報を得る

WIZ   :    次の被害者や犯行現場を予測する

👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​

種別『冒険』のルール
「POW・SPD・WIZ」の能力値別に書かれた「この章でできる行動の例」を参考にしつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。



 大火から一夜明けて、猟兵たちは放火犯の捜索を始めた。
 その矢先、町からほどなく歩いた河原で、殺人事件が起こる。
 殺されたのは、呉服屋の主人。生き延びた人たちを集めて町の再建を先導していた、人望ある人物だ。
 被害者は強い力で殴られており、頭部から肩口に至るまで見る影もなく潰された、凄惨な姿で見つかった。
 呉服屋の遺体の下に、一枚の紙があった。「天誅下せり」と被害者の血で書かれたそれを見て、町の老人たちは口々に囁く。
「処刑人が、地獄から帰ってきた――」
 今から数十年前、この手口による連続殺人事件があったそうだ。犯人は流浪の武士との相打ちにより斃れた。
 しかし、その姿を見た町人は、一人もいない。
 想像を絶する腕力による殺人と、一夜にして町を焦土と化した大火。オブリビオンの仕業と見て間違いない。
 点と点を繋ぐことができれば、処刑人に辿り着けるはずだ。

 町の近辺には、事件の起こった河原と避難所になっている古い寺、街道の外れの茶屋がある。いずれも街道沿いだ。足で探すとしたら、この範囲になるだろう。

 大火が処刑の一環だとすれば、焼けた町に処刑人が現れる可能性もある。
 放火犯の目撃情報を、生存者に尋ねて回ってもいいだろう。

 呉服屋の人となりを考えれば、次なる犠牲者の目星がつくかもしれない。
 あるいは、予想外の人物や場所が狙われることも、考えられる。

 これ以上、悲しい犠牲を増やしてはならない。猟兵たちは、各々の能力を活かして、処刑人を探し始める。
エウロペ・マリウス
行動 WIZ

予測するにも、まだ情報が不足しているかな
少し気になる点もあるから、現場検証だね

気になるのは、
・放火された箇所
一夜にして町を焦土と化すほどの大火を起こす以上、ある程度土地勘がないと無理な気がするからね
・呉服屋の主人が何処で殺害されたか
それほど凄惨な殺害方法ならば、現場には血痕が残っているだろうからね
遺体の下に紙を置けるなんておかしく感じるよ
河原で殺害されたなら良し
他の場所で殺害されたとすれば、その場所の特定だね
・犯人は流浪の武士との相打ちにより斃れた、という話の発生源
姿を見た町人がいないのに、なぜその話だけが生まれたのか
何者かが、意図してその話を流した、ということかな




 大火の火元となったであろう場所を見つめて、エウロペ・マリウス(揺り籠の氷姫・f11096)は腕を組んだ。
 原因と思われる場所は、彼女の推測通り、土地勘がなければ解らないような立地だった。
 住居の密集具合や、風の吹き込む位置。消火されにくいよう、人目につかないことも徹底されている。火災を効率的に広げるための工夫が、要所に見られた。
 他の火元も回ったが、今いる場所と似たようなもので、いかに町を燃やすかという執念が感じられた。
 なにより、火元から感じる犯人の明確な殺意だ。全ての箇所において、町の人々が逃げられないよう、逃げ道を封じている。
「……」
 いかにして同時に火を放ったのか、それは分からなかった。敵はオブリビオンだ。常識の通じる相手ではない。
 しかし、広範囲に均等は殺意を持たれていては、ここから次の犠牲者が分かるものではない。
 避難民が集める寺が危険だろうが、そちらには猟兵がついている。
「殺害現場にも、行ってみようかな」
 呉服屋が殺された現場は、街道沿いの河原だ。町からは多少離れている。
 現場に向かいながら、エウロペは注意深く周囲を観察した。しかし、不自然な足跡や血痕は見当たらない。
 今も与力と同心が調査を続ける犯行現場には、おびただしい血痕と超重量の物質を叩きつけたような破壊跡があった。
「殺人が行なわれたのは、ここで間違いないようだね」
 現場は特定したものの、遺体はもう運ばれた後だった。
 エウロペは忙しそうに歩き回る同心に声をかけた。
「キミ、聞きたいことがあるんだけど」
「あん? なんだ、今手が離せねぇ――」
 振り返った同心は、エウロペの顔を見て目を輝かせた。
「おぉ、あんたは昨日、火事を妖術で凍らせてたやつじゃねぇか! いやー、命拾いしたのはあんたのおかげだ。ありがとうな!」
「そうかい」
 こんな時、どのような顔をしたらよかったのだろう。
 曖昧に頷くことしかできなかったが、エウロペはすぐに本題を切り出した。
「殺人事件についてなんだけど、聞いていいかな」
「おう、答えられることならな」
「それでいいよ」
 頷いて、エウロペは現場の血痕を見た。一方向に飛び散り、頭が倒れたであろう場所は特に赤黒い。
「殺された呉服屋の主人の下に、紙があったと聞いたよ」
「あぁ、天誅なんたらってやつだな。殺したあとに血で書いた紙を、わざわざ死体を持ち上げてその下に挟むなんざ、正気じゃねぇや」
「……紙に血は飛んでなかったのかい?」
「いや、ほとんどねぇな。どうも下手人野郎は、殺してからしばらくここに留まってやがったらしい。仏さんから血が出なくなって、乾くくらいまではな」
「それからあれを書いたと。妙なことをするもんだね」
 犯人の狙いが見えない。頭を潰せば、息の根を止めたことを確認するまでもないだろう。
 死体のそばを離れられない理由が、犯人にあったのだろうか。
「ねぇ、キミは死んだ人間に対して行なう、礼儀みたいなのってあるかい」
「仏さんにかい。まぁ念仏代わりに手を合わせるくらいはするが、その程度だなぁ」
「念仏……。あぁ、それともう一つ。処刑人とやらについてなんだけど」
 その名前を出した瞬間、同心の顔色が変わった。恐れているような表情だ。
 同心は動揺を振り払うように頭を叩いて、言った。
「ガキの頃から話は聞いてたけどよ、実在するなんて思いたくねぇな」
「流浪の武士と相打ちになったって聞いたけど、そうなのかい」
「俺の生まれる前のことだから、詳しくは知らねぇ。ただ、一人で下手人を調べ上げて、一騎打ちを挑んだって話だぜ。ちょうど、今のあんたみたいにな」
「犯人は死んだ、って確証はあったのかい? 誰もその姿を見たことがないそうだけど」
 尋ねると、同心は初めてそのことに思い至ったようで、「言われてみりゃ、そうだな」と腕を組んで考え込んだ。
「死体の一部だけあったのか、それとも町の奴らがそう思い込みたかったのか。侍が死んでから、事件は起きなかったらしいからな」
「なるほど」
 確かに、町人の願いが込められているのなら合点がいく。口伝ならば、なおのことだ。
 同心は仲間に呼ばれ、仕事に戻っていった。彼らが先に犯人に辿り着く可能性も、あり得るだろう。
 しばらく考えにふけっていたエウロペだが、彼女は一人で犯人にたどり着けるとは、元より思っていなかった。
「情報の共有、だね」
 より早く犯人をあぶり出すために、連携は必須だ。
 エウロペは得た情報を伝えるために、猟兵たちのもとへ向かうことにした。

成功 🔵​🔵​🔴​


「焼けて失う家もねぇ。燃えて困る金もねぇ、っとくらぁ」
 鼻歌など歌いながら、その男は河原で立ち小便をしていた。
 昼下がりの河原に、人気はない。例の事件を恐れてのことだろう。
 しかし、歌のとおり、彼は失うものがなかった。浮浪者なのだ。
 あの大火にあって、持つもののない彼は、すぐさま町の外へ出た。最初の生還者である。
「せっかく拾ったこの命、燃えて消えるとちょいと困る、なんてな。はぁー、ん?」
 突然、視界が暗くなった。背後に大きな誰かが立っている。
「なんだい、連れションかい? わりぃな、俺はお先に――」
 それが、浮浪者の発した最後の言葉だった。
胡堂・充
【WIZ】
今回の被害者、そして昨日の火災…間違いない、オブリビオンは無軌道ではなく、ある目的を持って動いている。その目的が何か突き止めなければいけない、これ以上犠牲者を増やさないためにも…!

【情報収集】で事件の情報を集めて分析。特に火災の火元となった場所、被害者の男性の身辺状況、過去にあったという類似した事件との関連性についての調査・分析に注力する…所謂プロファイリングってやつですね、もし、足りない情報があったら【コミュ力】を使って足りない情報を聞き出せるといいのですが…。

天誅…か。オブリビオン、むしろお前達に人の命を奪った罪を償って貰うぞ。
(細部のアドリブについてはお任せします)


ベル・オーキィ
死んだあの子と!あの子のように死んだ人々のために!
必ず処刑人を真っ黒い燃えさしにして、この川にばら撒きまいてやらねばなりません!!

そのために、私の行動は≪河原を徹底的に調べて、処刑人の痕跡を探し出す≫こと!
そして≪調査で得られた情報を、より捜索に長けた猟兵に伝えること≫です!

情けないですが、私には情報を集約して答えを導くような能力はありません!なら足を使って泥臭く、他の仲間のために役立つ情報を集め、伝えることに徹するべきです!

犯人の足跡、遺留品、犯行の痕跡……とにかく全ての情報を掻き集めることに集中しましょう!

必要とあらば河原の石をひとつひとつ裏返すことだって厭いませんよ!!

※連携希望です




 夕刻。同心たちが奉行所に戻っても、河原に這いつくばって痕跡を探す者がいた。
「必ず処刑人を真っ黒い燃えさしにして、この川にばら撒いてやらねばなりません!!」
 空を揺るがすような大声を発して、ベル・オーキィ(騒乱魔道士の弟子・f08838)は冬場に汗をかきながら捜索を続けていた。
「死んだあの子と! あの子のように死んだ人々のために!」
 怒りの籠もったベルの声を聞くものは、いない。殺人事件があった場所で、しかも黄昏時だ。当然といえば当然のことである。
 ベルはしかし、泥臭い捜査をやめるつもりはなかった。もとより、自分に推理などが不向きなことは分かっている。
 だからこそ、どんなに地道で気が遠くなるような作業でも、何かしらの手ががりを見つけたかった。
 頭脳明晰な仲間が、きっと犯人を割り出してくれる。そのための情報を、なんとしても手に入れたい。
 すでに同心たちが捜査を終えた後だ。新しい何かが発見される可能性は少ない。
 少ないが、ゼロではなかった。
「はっ!?」
 血まみれの石をひっくり返した時だった。ふと川の中に、違和感を覚えた。
 地を這う姿勢だから気づけた、浅い川底の凹み。ずいぶんと大きく、また深いが、それは人の足跡に見えた。
 足跡はまっすぐ、対岸の林に続いている。犯人は河原や街道を通らず、林の奥へと消えたのだ。
「見つけた! 見つけましたよ!!」
 ようやく発見した手掛かりに、ベルは歓喜の叫びを上げた。
 足跡を消さないよう、慎重に川へと入る。深さはなく、流れも速くはない。小柄なベルであっても、容易に渡れそうだ。
「巨漢であればなおさら、簡単に向こう岸へ行けますね!!」
 さらなる足取りを得るために林へ行ってみようと、水音を従えて川を横切っていた、その時だった。
 突然鼻孔を突いた鉄錆のような匂いに、立ち止まる。
 血の臭いだ。一体どこから――。
「あっ!!」
 川の上流から、おびただしい血が流れてくる。清らかな水を濁らせ、石を汚し、川下へと。
 そして、血が混じった川に浮いているものを見て、ベルは頭を抱えた。
「そ……そんな! そんなあああああああッ!!」
 人が、流れてくる。
 頭を強い力で胴体に埋め込まれ、破れた肉から血を吹き出しながら。



 ベルの叫びは、茶屋で聞き込み調査をしていた胡堂・充(電脳ドクター・f10681)の耳にも届いた。
 慌てて河原に駆けつけると、うずくまったベルと幾人かの同心、そしてグロテスクな死体があった。
「……これは」
「またです! 私たちはまた!! 助けられなかった!!」
 悔しさのあまり地面を叩きつけるベルの肩に手を置き、充は引き上げられた死体を観察する。
 身なりから推察するに、浮浪者だろうか。この男が即死だったろうことが、せめてもの救いか。
「新たな犠牲者か……」
「川上から、すごい血が流れてきて! その中に、この人が!!」
 第一発見者になったベルは、怒りに震えていた。充もその気持ちはよく分かる。
 見れば、同心たちは川底の足跡らしき凹みを辿り、林の中も捜索している。ベルが見つけた情報だろう。
 だが、第二の事件は別の場所で起きた。痕跡は見つかるだろうが、あの林に犯人がいる可能性は低い。
 充はベルを立ち上がらせた。同心は大火の被害で人手が足らない。犯行現場を探さねばならなかった。
「ベルさん、川上へ行きましょう」
「……ええ! 必ず足取りを掴んでみせます! 必要とあらば、河原の石をひとつひとつ裏返すことだって厭いませんよ!!」
 二人は同心に断ってから、上流を目指す。
 道すがら、充は自分の調査結果をベルに話した。
「殺された呉服屋の主人について、調べてきました。極めて温厚で後ろめたいことはなく、人々からの信頼も厚い。しいて言えば、超がつくほど裕福だったということでしょうか」
「そうなのですね! お金を持っているというだけでは、殺される理由が分かりません!」
 ベルの声は驚くほど大きい。充は少しだけ距離をとってから、続けた。
「僕も同意見です。初めは良家の人間が狙われている線も考えたのですが……」
「第二の犠牲者は、あまり裕福には見えませんでした!」
「えぇ。そもそも特定の良家を殺すのが目的なら、町を焼き尽くすような手は打ちませんね」
 この線は、ボツだ。処刑人と呼ばれるオブリビオンは、身分で相手を選んでいない。
 しかし、無計画な殺人とも思えなかった。ただの快楽殺人とも違う。
 大火の周到な火元、その後も続く殺人事件、そして、犯行声明とも取れる「天誅下せり」の紙。
「……間違いない。オブリビオンは無軌道ではなく、ある目的を持って動いている」
「その目的とは!? 奴はなんのために、人の命を奪うのですか!?」
 食い下がるように聞くベルに、充は首を横に振った。
「それを突き止めなければ、犯人は絞れないでしょうね」
 第一の現場からほどなく歩いて、二人は揃って足を止めた。
 眼前に、血だまりが広がっていた。どこもかしこも血まみれだが、川のそばにある大きな石が、もっとも血の色が濃い。
 その上に、握りこぶし大の石を重しにして置かれた、紙。ベルが駆け寄って、それを手に取った。
「……天誅下せり、と書かれています! やはり!!」
「報告にあった通り、血糊が乾いてから乗せたようだね。……この場に留まって、奴は何をしていたんだ?」
 充が考え込む。彼が何かを思いつくまでに、ベルは新たな手掛かりを探そうと、しゃがみ込んだ。
 証拠を踏みつぶさないよう気を付けながら、血まみれの石を一個一個、注意深く観察していく。
 今も血の臭いが濃く残る河原にいると、鼻を覆いたくなる。しかしベルは、嗅覚を殺すようなことはしなかった。重要な手掛かりを見落とすくらいなら、不快な思いをした方がはるかにいい。
 そして、全力の調査は実を結ぶ。血の臭いに混じったほのかな香りに、ベルは気づいた。
「んんッ!?」
 実にわずかな香りだったが、間違いない。血の中を這いつくばって、その場所を探す。
 紙が置かれていた大きな石から離れた、血糊が途切れる位置に、見つけた。
「これは、線香!?」
 たった一本分の燃えかすは、近づけばよりその匂いを強く伝えてくる。この世界において、墓や仏壇に供えるものとして使われる香だ。
 駆け付けた充がしゃがみ込み、目を見張る。
「……まさか、本当に死者を弔っていたのか」
「充さん! 私は犯人の考えが、もっと分からなくなりました!! あんな殺し方をしておいて、供養の真似事をするなんて!!」
「僕は、だんだん分かってきました。恐らくこれは、真似事ではありません」
 立ち上がってそう言った充の顔は、険しい。
 怪訝な表情で見つめてくるベルを見ずに、充は川を睨み付ける。
「天誅とは、天上の存在に変わって罰を下すことです。神や仏の代理者と言ってもいい。そして、血糊が乾くまでこの場に居座る必要のある供養は、この世界において、念仏を繰り返し唱えるくらいでしょう。それも、線香を焚くほど入念に、本格的に」
「と、ということは!!」
 同じ答えにたどり着いたらしいベルが、顔色を青くする。
 それはそうだろう。現に、充も背中に嫌な汗を感じていた。
「容疑者に、死者に対して丁寧な弔いができる、仏教の専従者が浮上します」
 この近辺にある寺は、一つだけしかない。そこには今、多くの生存者が集っている。
 猟兵が見張りについているが、もしもその内部に犯人がいたとするならば――。
「危険です! 早く知らせなければ!!」 
 慌てるベルに、充は頷いた。
「えぇ、もちろんです。でも、慎重に動かなければなりませんね。足の速い人物に駆けつけてもらって、住職から話を聞くのが最善でしょう」
 冷静な言葉とは裏腹に、その瞳は猛る獅子の如く、鋭い。
「天誅……か。オブリビオン、人の命を奪った罪を償うのは、お前だ」
 沈みかける夕日を睨み付けて、充は呟いた。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​


「もーいーかい!」
 茶屋の裏手にある竹林の中に、子供の声が響く。夜が近くなり、今日の遊びはこれが最後の約束だった。
 姉妹は大人に止められていた林の中に潜み、ギリギリまで隠れるつもりでいた。
 鬱蒼とした竹が、風に揺れて葉を鳴らす。
「もーいーよ!」
 妹が言った。探しに来るだろう男の子は、果たして見つけられるだろうか。
 姉と二人、笑顔で息を潜める。
 真っ暗になる直前に顔を出して、驚かしてやろう。いつも悪戯をする、仕返しだ。
 葉の音に紛れて、足音が聞こえた。思ったよりも早い。
「もう来ちゃった」
 姉がつまらなそうにぼやく。しかし、聞こえたのは男の子の声ではなかった。
「南無大師遍照金剛……」
「お寺さんだ」
 聞こえた念仏に呟いた妹は、不安そうな顔をした。寺の住職は優しいが、悪い子はうんと叱るのだ。
 入ってはならないと言われた林に入り込んだ姉妹は、どんな罰を受けるのか。二人は震えた。
 しかし、直後に訪れたのは、彼女らが想像したどんな罰よりも惨い仕打ちだった。
 突然、妹が爆ぜた。飛び散った血や妹の欠片に、姉は理解が追いつかない。
 巨大な錫杖が、妹の体から引きずり出される。光を無くした妹の瞳と、目が合った。
 悲鳴を上げて振り返ろうとした姉は、何も理解することなく、死んだ。妹と同じ末路を辿ったことにも、気づけなかった。
 立ち込める血煙に交じる、二本の白く細い煙は、姉妹の命の如く、風に儚く消えていく。
エーカ・ライスフェルト
天誅下せりを翻訳すると、私はこの者を悪と断定し殺害した、になるわね
被害者は、偽善や売名の要素があったとしても被災者支援という善も行っていた呉服商
「つまり殺人犯の善悪の基準は一般的な基準と大きく違うということね」

これ以上はさっぱりよ。私謎解き苦手なの
仕方ないから見込み捜査をしてしまいましょう
犯人は数十年前の事件の被害者。おそらく冤罪で死んだ人間
つまり今回狙われるのは、前回の事件で名声や財を得た者やその子孫よ。多分

古くからあるらしい寺に出向いて、宇宙バイクで物資輸送等を手伝った後に住職に当時のことを礼儀正しく尋ねるわ

慌てて防御を整える者や街の外へ逃げようとする者がいたら【影の追跡者の召喚】を使うわ




 宇宙バイクに物資を積み、寺に辿り着いたエーカ・ライスフェルト(電脳ウィザード・f06511)を待っていたのは、女の慟哭だった。
 筵に包まれた二人の子供の前で泣いている。母親だろう。
「まさか、子供まで……」
 呟いたエーカは、母親の手に握られている紙に気づいた。
 強く握りしめられて、その中身は見えない。が、母親の言葉ですぐに分かった。
「天誅って、なによぉ! うちの子が……何したって言うの!?」
 やはり、オブリビオンの仕業だ。集まっていた町人に事情を聞くと、遺体は茶屋の裏に位置する林で見つかったらしい。
 隠れんぼの果てに、入ってはならないと言われていた林に踏み込んだ末路、だそうだ。
「……」
 エーカは考えをまとめる。
 大火の後に発生した連続殺人。第一の犠牲者は、売名の要素があったとはいえ、被災者支援という善行を働いていた呉服商。町人たちの信頼も厚かった。
 第二の犠牲者は、町の厄介者だった浮浪者だ。盗みを働くことも多かったらしく、評判は最悪。まさしく天誅だと言う者までいた。
 そして、今回。十にも届かない幼い姉妹が惨殺された。
 彼らに共通点は見られない。可能性があるとしたら、数十年前に起きたという類似の事件か。
 見張りを仲間の猟兵に任せて、エーカは住職の元に向かった。
 住職は、猟兵の推理により容疑者の一人に名を連ねている。礼儀正しく、慎重に話を進める必要があった。
 子供の遺体に触れたのだろう、住職は井戸で手を洗っていた。
「こんにちは。物資を運んできたわ」
「おぉ、ありがたい。若い者に運んでもらおう」
 そう言った住職は、エーカの前で足を止めた。じっとこちらを見て、微笑む。
「聞きたいことが、お有りじゃな」
「鋭いわね」
「長く生きとりゃ、誰でもそうなる」
 姿勢を伸ばして歩く住職だが、その手に刻まれたシワを見るに、かなりの年齢らしい。
 ならば、少なくとも以前の事件を知っているだろう。エーカは尋ねた。
「数十年前にも、今回のような事件が起きたと聞いたわ」
「あぁ、あった」
「今回殺された人々は、当時の事件で名声や財を得た人物か、それに準ずるような利を得た者や、その子孫ではないかしら」
「何故、そう考える?」
 凄惨な殺人死体を目にしながら、住職は落ち着いていた。試すかのように、エーカの言葉を待っている。
「天誅とは、天に代わった断罪のこと。つまり、犯人は被害者を悪人と決めつけているわ。でも被害者は、みんな生まれも行動規範もまちまちだった」
「そこから導き出されるものは?」
「犯人の善悪基準は、一般的なそれとは大きく違うということ。その基準に過去の事件が絡んでいて、私の推測が当たっているとしたら、犯人の目星もつくわ」
 すなわち、犯人はかつての被害者。冤罪で殺された人物の復讐。
 エーカの考えはここまでだった。推理を聞いた住職は、しばらく沈黙した後、重い口を開いた。
「死者が蘇り、人々に害をなす噂は、国中に蔓延しておると聞く」
「そうよ。私たちは、その専門家なの」
「じゃろうな。お前さんの言葉には迷いがない」
 星空を見上げて、住職はため息をついた。
「わしは坊主じゃ。仏さんの教えを何よりも大切にしておる。死者は生まれ変わり、新たな命の中で解脱を目指すとな。故に信じとうなかったが……」
 過去から滲み出すオブリビオン共に、輪廻転生の概念などない。奴らに理は、通じない。
「死者が目覚めるという噂が真であれば、お前さんの推理は、当たらずとも遠からず、ということになるのう」
「……詳しく聞いても、いいかしら?」
「よかろ。少々長くなるぞ」
 住職は、昔話を語るように、ゆっくりと言葉を紡ぐ。
 曰く、町があった場所は、かつては鬱蒼とした林だった。国の覇権を取り合う戦国の時代、この地に流れ着いた者たちがいた。
 彼らは皆、焼けた城から逃げおおせた罪人だった。新たなアジトを作るため、罪人は結託して林を切り開き始めた。
 しかし、開拓は簡単ではない。何年もかけ、苦労しながらも少しずつ住める土地を増やしていき、やがて小規模の村が出来上がった。
 開拓者たちは、抱き合って喜んだ。労働が報われる喜びを知った彼らは、もはや罪人ではなかった。
 世代を重ねながら、林はさらに開拓されていった。やがては街道に繋がり、村は町となり、栄えていった。
 この地に辿り着いたかつての罪人は、時の流れに死んでいった。
 全ては遠い過去のことになっていった。もう、咎められる者はいない。町人の誰もがそう思った。
「しかし、流浪の僧侶がそれを許さなかったのじゃ。三十云年前になるかの」
 修行僧だったその僧侶は、この町が罪人により作られたものであることに激怒した。
 贖罪は完了されていない。その子孫が償うべし。町の人らに、そう説教して回った。
 修行僧の味方につくものはいなかった。町中から煙たがられた彼は、苦心の末に姿を消した。
 そして、事件が起こった。犠牲者は、町を開拓した罪人の子孫だった。「天誅下せり」と書かれた紙に、誰もが恐怖した。
「そういうことね。でも、誰も修行僧を犯人とは思わなかったのよね」
「左様。疑わしいとは思ったじゃろうがな。バカとはいえ、仏に仕える者じゃ。姿が見えないとなれば、もう近くにはいないと考えたのじゃろ。一人を除いてな」
「例の、流浪の武士ね?」
 住職は頷いて、話を続けた。
 流れ着いた侍は、処刑人の噂を聞いた。正義感の強い侍はいてもたってもいられず、一人で捜索に乗り出す。
 同時に、修行僧の話も聞いた。宗教に疎い流浪人だった侍は、真っ先に修行僧を疑った。
 林の中を歩き回り、朽ちた寺から聞こえた念仏の主に、斬りかかった。それから、事件は起きなくなった。
「こんなところかの」
「……待って。住職さん、あなたなんで、そんなことまで知って――」
 言いかけて、止まる。彼の話が真実であるならば、流浪人が死んでいない。
 相打ちではなかったのか。言葉にならない疑問に、住職が頷く。
「武士は、死んでおらん。死んだことにせにゃ、ならんかったがの」
 後に生きる人々のために、事件を過去にするために。
 身分を捨て、寺を再建し、死せる人々の御霊を鎮めるために。
「あなたは――あなたが」
 微笑んで、住職は遠い夜空を見上げた。
「奴がもし、生き返ったならば……。救いを拒み暗殺者すら仕向けた極悪人として、全ての町人を断罪するじゃろうな」
 オブリビオンは、全ての町人に濡れ衣を着せられたと思い込んでいるのだ。
 自身の怨みを、仏の道を曲解することで正当化している。その結果が、大火から連なる一連の事件だ。
「それで、天誅……? ふざけてるわね」
 あまりにも自分本位な動機に、エーカは怒りを覚えた。それでも冷静でいられたのは、住職の落ち着いた顔色のおかげだろう。
「わしらは無力じゃ。人ならざる力を持つお前さんたちに、頼らざるをえん」
 放っておけば、町人の誰かが殺されていく。町人が、いなくなるまで。
 そんなことはさせない。エーカは力強く言い切った。
「私たちが、斃すわ。今度こそ、全て終わらせる」
 住職は、変わらない笑顔で微笑んだ。

大成功 🔵​🔵​🔵​

トリテレイア・ゼロナイン
これは私の素人推理ですが…

被害者は頭から肩口まで潰された→私のような大柄な人物に頭から潰された?

天誅の紙と過去の殺人事件→世直しの為に有力者を狙った凶行を行った犯人がオブリビオン化し当時の思考そのまま行動している?

と考えています。大柄であれば足跡も特徴的ですし、ターゲットが有力者であれば護衛も楽ですが、いかんせん私はそれを検証したり調べることは不得手ですね…

これらの調査を得手とする猟兵の皆様に可能性の一つとして提示し、私自身は「暗視」を用いて避難所となっている寺の警護を行います
避難民の警護がいればれば調査に赴く猟兵の心労もいくらか減らせるはず

なにか異常があれば格納銃での発砲音で知らせましょう


露木・鬼燈
放火犯の捜索ですか。
今、我々が持っている情報を基に考察を進めれば…
なるほどなー。
まったくわかんないっぽい!
んー、天誅とか普通に考えたら被害者は悪人なんだけど…
犯人はオブリビオンっぽいから被害者が実は悪人ってパターンはないかな。
となると、なんで狙われたか?
人望、処刑、殺人、大火…
恐怖や絶望みたいな負の感情が重要?
とすると、生き残った人たちの希望となる人物が危ないっぽい?
…僕たち大分頑張って活躍したよね?
これって意外だけど猟兵が狙われたり…
事件が起きると大打撃なのはお寺?
ムカデに騎乗して普通ならあり得ないルートで移送しながら警戒するです。
一人だと厳しいからデータリンクで連携できそうな人いないかな?




 夜も更け、寺に身を寄せる人々が眠る中、露木・鬼燈(竜喰・f01316)は、木の上にいた。
 鬱蒼と茂る林の中を、サイボーグムカデに跨って、音もなく移動していく。
「天誅とか、普通に考えたら被害者は悪人なんだけど……和尚さんの話だと、ただの逆恨みっぽい。所詮オブリビオンだね」
 仲間が住職から得た情報が、ついに犯人にたどり着いた。心を入れ替えた人々の罪を掘り返し裁こうとし、拒まれた挙句に殺人を犯した修行僧だそうだ。
 寺の住職がかつての侍であったことには驚いたが、それ以上に、町の人すべてが狙われているという事実が危険だった。
『殺害方法や残された足跡から察するに、相手は私のような大柄な人物です。これまで見つからず、散発的に事件が起きていることが不可解ですね』
 ムカデの頭部にあるスピーカーから聞こえたのは、トリテレイア・ゼロナイン(紛い物の機械騎士・f04141)の声だ。彼は今、サイボーグムカデとデータリンクをし、互いの情報を共有しながら、寺の警備に当たっている。
 同じ疑問は、鬼燈にもあった。
「うーん、僕にはイマイチよくわかんないっぽい。でも、敵は殺した相手に線香を供えて念仏を唱えてたんだよね? そのあたりが関係してるのかな」
『なるほど。僧侶としての務めを果たしつつ、その合間に殺人を行っているということですか。まったく、不可解な』
「ホント、いかれてるです」
 苦笑混じりに呟きながらも、木々の上から林の中を警戒する。
 敵は神出鬼没だ。大火に加え、すでに四人もの犠牲者が出ている。これ以上は、なんとしても食い止めたいところだった。
 夜風が頬を撫でる。その冷たさに目を細めつつ、天蓋に光る月を見上げた。
『……鬼燈様、警戒を』
 スピーカーから、トリテレイアが言った。
『振動を検知しました。歩行です』
「了解っぽい。こっちでも、うちのが異音を拾ってるです」
 サイボーグムカデが、風と木々のざわめきの中から聞こえた音に警戒を示している。
 警戒は徐々に強くなっていき、そして、鬼燈の耳にも届いた。
「我昔所造諸悪業……」
「聞こえた。念仏っぽい」
『視認はできますか?』
 聞かれるより早く、鬼燈は眼下に目を凝らしていた。
 木々に月明かりを遮られ、漆黒に塗り固められた林に、念仏が静かに木霊している。
 見回して数秒、草木を踏みつぶす音に目を向けた。
 暗闇の中に、巨大な影が動いている。
「見つけた。まっすぐ寺に向かってるっぽい。足止めをするです」
『了解しました。直ちに向かいます』
「頼むっぽい!」
 叫ぶが早いか、サイボーグムカデのヘッドライトを点灯し、木々の隙間を縫うように降りていく。
 そして、ついに相まみえた。正面に立つ男を、鬼燈が睨みつける。
「お前が、死んだ修行僧ですか」
 まさしく、トリテレイアの如き巨漢だ。見上げてもなお巨大な体躯に袈裟を着て、鬼の仮面を着けている。錫杖の先に生えた血糊の付いた棘が、この男の殺意を伝えてくるようだった。
 武僧という言葉がふさわしいだろうか。戦国時代には一揆をけしかけ戦う僧侶がいたようだが、彼もそうした一人なのかもしれない。
 武僧は念仏を止めて、鬼燈に錫杖を向けた。
「貴様は、己が罪を知っているか」
「僕の罪だって? 記憶にないっぽい。少なくとも、お前に裁かれるような罪は、ない」
 瞬間、鬼燈はサイボーグムカデの背から飛んだ。振り下ろされた錫杖が、ムカデに激突する。
 甲高い金属音が響く中、サイボーグムカデは錫杖の衝撃がなかったかのように、武僧へと突進した。
 巨大なムカデの体当たりを、武僧が正面から受け止める。両手が塞がった敵へと、鬼燈がすかさず棒手裏剣を投擲した。
 ムカデから即座に体を離し、武僧は錫杖で棒手裏剣を叩き落す。
「そう簡単にはいかないですね」
 敵は強大なオブリビオンだ。一人で倒せる相手ではないだろうことは、鬼燈にも分かっていた。
 だが、この場は何としても撃退しなくてはならない。奥には、戦えない人々がいるのだ。
 黒い大剣を構えた。ムカデと自分を合わせれば、二対一だ。
「いや、三対一ですね」
 聞こえたスラスター音に、鬼燈は笑みを浮かべた。
 暗視を用いて対象を捕捉し、林の間を滑るように高速移動してきたトリテレイアが、姿を現すと同時に、両腕に格納された速射砲を放つ。
 尋常ならざる反応で速射砲弾を錫杖で弾き、武僧が唸った。
「我が断罪を邪魔立てするとは。悔い改めよ」
「ご冗談を。罪なき命を奪うあなたこそが、裁かれるべきです」
「拙僧は御仏に代わって天誅を下す者。貴様ら如きに止められはせぬ」
「聞く耳持たないっぽい。トリテレイアさん、やるですよ!」
 大剣を振りかぶり、鬼燈が地面を蹴った。
 武僧が錫杖を突きだす。棘に刺されば重症は避けられない。しかし、潜り込んだサイボーグムカデが頭を持ち上げ、錫杖の軌道を逸らした。
 ムカデの頭を踏み台にして、鬼燈が上段から振り下ろす。武僧は素早く身を引いて、剣を回避した。
 隙を見て背後を取ったトリテレイアが、武僧を羽交い絞めにする。抵抗する力が、凄まじい。
「くっ、ぬうぅぅッ!」
 フルパワーで、締め上げる。武僧は確かに怪力だが、単純な力の出力という点では、機械の身であるトリテレイアに分があった。
「……従身語意之所生……」
 徐々に腕を引かれる武僧が、おもむろに念仏を唱え始める。途端、その腕力が膨れ上がるのをトリテレイアは感じた。
 このままでは、押し負ける。
「鬼燈様!」
「任せるです!」
 闇に紛れる大剣を、横薙ぎに一閃。武僧の体から、鮮血が飛んだ。
 同時に、トリテレイアが離れる。このまま抵抗され続ければ、有利を取られかねなかった。
 切り裂かれた袈裟から血を滴らせながら、武僧が恨めしそうに唸った。
「おのれ……」
「まだやる? 僕はここで決着をつけてやってもいいですよ。音を聞きつけて、直に仲間も集まるっぽい」
「私としては、神聖な寺院のそばで戦いたくはないのですが。あなたが人々に害をなすというのであれば、手加減はしません」
 構える二人と、その背後を這いまわるサイボーグムカデ。武僧は己の不利を悟ったのか、傷口を抑えて後退した。
「必ずや、天誅は成す。必ずや……」
 怨嗟の籠った言葉を呟きながら、武僧は闇に紛れて消えた。
 巨漢の足音が遠ざかり、鬼燈とトリテレイアは構えを解いた。手傷を負わせたので、今日の夜は寺を襲うことはないだろう。
「でも、また来るだろうね」
 鬼燈が白い息を吐きつつ言った。トリテレイアは、頷いて同意を示す。
「えぇ。願わくば今宵は、これ以上何事もなければよいのですが」
 その言葉に、鬼燈は何も返せなかった。
 武僧は今、怒り狂っているだろう。寺の人々に成し得なかった天誅という名の復讐を、誰かにぶつける可能性は十分にある。
「生き残った人たちを守ってる、僕たち猟兵が狙われることって、あるっぽい?」
「どうでしょうか。我らの実力を見た以上、不用意に仕掛けることはないと思いますが……ゼロとは言い切れませんね」
 答えながら、トリテレイアが寺へと戻りだす。その横を歩きながら、鬼燈は言った。
「今夜は寺を集中的に警備して、明日、猟兵のみんなに今日のことを伝えるっぽい」
「そうしましょう。幾人かは発砲音に気づいたでしょうから、情報を共有しておくべきです。……願わくば、敵の潜伏場所を突き止め、こちらから仕掛けられればよいのですが」
 そうすれば、猟兵以外からの被害は出ない。戦う力を持たない人々を、巻き込まなくて済む。
 鬼燈は、トリテレイアの願いに無言の肯定を返した。
 いつの時代も、どの世界においても、奪われるのは常に力のない人々だ。
 住む場所も財産も、家族や友人すらも失くして、その上命まで取られるなど、あってはならない。
 浸み出した過去に今を侵され、未来をも奪われるなどということが、許されるはずがないのだ。
「必ずや、あのオブリビオンに罪を償わせましょう」
「もちろんです。あいつはもう、僧侶でも戦士でもない。ただの罪人っぽい」
 口々に言って、二人は林を抜けた。静まり返った寺を見上げる。
 鬼燈とトリテレイアは、そこに眠る人々に、必ずや勝利をもたらすことを胸中で誓った。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​



 彼は優れた武士ではなかった。故に、流浪の身だった。
 たまたま流れ着いた町の居心地がよく、すっかり居着いてしまったが、また流れるつもりでいた。
 侍としての本懐を達するため、今一度、武士として生きる道を模索したかった。
 その矢先、大火に見舞われた。悲鳴と火消しの叫びに飛び起きて宿を出てみれば、そこは阿鼻叫喚の地獄絵図となっていた。
 いくらかの生存者と町を逃げ出し、再建を手伝うつもりでいたのだ。
 町が建て直った日を、旅立ちの時と決めていた。
「そう容易くは、いかぬか」
 朝焼けの町の片隅で、侍は刀を抜いた。
 眼前に立つ、鬼の仮面を着けた巨漢の坊主は、異様な殺気を放っている。
 錆びついた武士の勘が、この武僧が人ならざるものであることを叫んでいた。
 こいつが、火を放ったのだ。町の人々を、殺して回っているのだ。
「一切我今皆懺悔……」
 不気味に念仏を唱え、武僧が一歩踏み出した。
 もはや、戦いは避けられない。勝てる見込みはないが、彼は侍だった。
 刺し違える覚悟でなければ、一太刀も浴びせられまい。
 幸い、周囲に人影はない。なればこそ、やるべきことは一つ。
「鬼退治が、俺の死に場か。……それもよかろう!」
 双方同時に、踏み込んだ。
 刀と錫杖が交錯し、赤い日の出に剣戟の音が鳴り響く。
早見・葵
焼けた街に黙祷。
殺された人の無念が少しでも残らないように努めようと誓います。

「生き残った人を殺すなんて……オブリビオンは!!」
近くにあった残骸を殴り壊し、怒りを発散させます。
希望を積まれるわけにはいきません。

警戒も兼ねて街道を歩いていきます。
古い寺や茶屋に顔を出し、【鼓舞】避難した人を励ましていく。
さらにリーダーシップを発揮しそうな人を見極める。
【第六感】周辺で危険がないか確認を行う。

それらしき相手を見つけたら、周辺に伝えるため白龍を上空へと放ち
戦闘とあわせて周囲の猟兵に知らせましょう。
【武器受け】一般人がいるなら防衛優先し、深追いはしない。
隙を見つけたらDrache Jagdで攻撃する。


ニィ・ハンブルビー
処刑人かぁ…ムカつくな〜…

…さて!
気を取り直して、見回りがてら放火の目撃情報を聞いて回ろっかな!
まずは火元に近い家…
…いや!手当たり次第全員に聞こう!
情報は多いにこしたことなし!
怪しい人影とか目の前で急に火がついたとか、
普段見かけないデカイ人とか透明人間とか、
思い当たる事は何でもいいからとにかく聞く!
一応全部の情報と聞いた人の名前・年齢・性別・住んでた場所をメモしといて、
後で傾向とか分析できるようにしよう!

まずは避難所で聞いて回って、その後は再建現場で聞き込みだね!
つでに裏路地とか人気のない場所も見回って、現場に遭遇したら【ダッシュ】で【かばう】!

よし!やるぞー!



「なんてこと……!」
 焼け落ちた町で起きた新たな事件に、早見・葵(竜の姫騎士・f00471)は悲しみと怒りが入り混じった複雑な声を上げた。
 人気のない場所で、その侍は見つかった。片腕を失い、腹を貫かれ、頭を砕かれるという、壮絶な死に様だった。
 その背に傷がないところを見ると、死ぬ間際まで戦い抜いたことが知れる。
 侍の傍らには、彼のものだろう刀で瓦礫に差し止められた、「天誅下せり」の紙があった。
「生き残った人々を殺すなんて……オブリビオンはッ!!」
 侍の刀を抜いて、紙を瓦礫ごと叩き潰す。轟音に、集まっていた人々が小さな悲鳴を上げる。
 葵は人々に振り返った。
「彼らの仇は必ず取ります。必ず、私たちが」
 町人から、心配の色は消えない。次は我が身と思っているのだ。無理もない。
 もはや、結果で示すしかなかった。武僧を倒し、平和を取り戻すしかない。
 葵が瓦礫を破壊した音を聞きつけて、小さな妖精が飛んできた。ニィ・ハンブルビー(近距離パワー型フェアリー・f04621)だ。
 慌てて駆け付けたらしいニィは、息を弾ませながらも、侍の遺体を見て呟いた。
「まさか、また?」
「えぇ。やられました」
 葵の肯定を受けて、ニィは悔し気に歯を噛みしめた。寺で起きた猟兵と武僧の遭遇戦を知り、火急の事態に改めて徹底的な聞き込みをしている、その最中だったのだ。
「処刑人……ムカつくなぁ〜……!」
 怒りを絞り出すように言って、ニィは拳を握り固める。それでも冷静になろうと、懸命に頭を振ってから、葵の顔の前へと飛んだ。
「葵ちゃん、集めてきた情報、聞く?」
「えぇ、ぜひ。街道を見回りながら、聞かせてください」
「オッケー。じゃ、火事のことからね!」
 やってきた同心たちに遺体を任せて、 鞘に戻した刀を侍の傍らに置く。
 葵とニィは街道へと歩き出した。道すがら、ニィは彼女の手のひらサイズのメモ帳を取り出して、説明を始める。
「えっとね、火事の夜、火元の近くの家で念仏が聞こえて、お線香の匂いがしたんだって」
「やはり、犯人は奴ですね」
「うん。それは予想通りだったよ。でも気になる話があったんだ」
 メモをめくりながら、ニィは難しい顔をした。
「三十年くらい前の事件を知っているお婆ちゃんに、修行僧について聞いたんだけど……昨日の夜見つかった時みたいな、大きい人じゃなかったって」
 彼女のメモには、聞いた人の名前や年齢、性別、住んでいた場所まで記されている。徹底的な調査ぶりに、葵は感心した。
 オブリビオンとなることで、体格の変化が起こり得るのかもしれない。しかし、ニィは空中で横にくるくる回りながら、首を傾げつつ、さらなる疑問を口にした。
「あとね、戦うお坊さんって、三十年前にはもういなかったんだって。戦乱の時代にはいたらしいけど、最近は戦らしい戦なんてないから、お坊さんはみんなお寺にいるもんだって」
 葵は顎に手を当てて、歩きながら考える。
 オブリビオンは、現在に染み出した、失われた過去の化身だ。必ず世界を滅ぼすように動き、かつてその世界に存在した者の姿を取る。
 ニィの話の一部を切り取るならば、三十年前に現れた修行僧もオブリビオンだった、ということで納得がいく。
 しかし、深夜の戦いで猟兵二人を相手に互角に戦ったオブリビオンが、たった一人の侍に滅ぼされることなど、あるだろうか。
「三十年前の修行僧と、あのオブリビオンが別人という可能性も、ありますね」
「うーん、そうすると、なんで町の人を狙うのかが分からないよ。天誅なんて言ってさ」
「そうですね……。和尚さんが勘違いをされるほど、話が符合しているだけ、とか」
「ややこしいねー!」
 頭を抱えて髪をくしゃくしゃとやるニィに、葵は苦笑した。
 街道には、寺や茶屋と町とを行き来する人がちらほらある。殺人事件は恐ろしいが、町には今も埋もれている遺体が多くあるし、立て直すための目途も必要なのだ。
 行き交う人々とすれ違いながら、葵はニィに言った。
「和尚さんが修行僧と戦った侍さんだったのなら、彼に聞けば、当時の修行僧についてわかるのでは?」
「うーん、ボクもそう思って聞いたんだけど、答えてくれなかったんだよね。なんだかすごく悲しそうな顔をして、すまないって」
 唇に人差し指を当てて、困ったように答えるニィに、葵がハッと目を見開く。
 それは、思考ではない。第六感とも言うべき直感だ。
「ニィ、和尚さんのところへ行きましょう」
「えっ。でも、聞いても……」
「嫌な予感がするの。お願いします」
 必死な顔色に、ニィは頷いた。葵の勘が当たっていると、ニィも感じたのだ。
 二人は急いで寺に向かった。見張りの猟兵や身を寄せている町人に住職の居場所を尋ねると、蔵で荷物の整理をしているという。
 葵の直感は、いよいよ嫌な予感を伝えてくる。住職がいるはずなのに扉が閉じている蔵を開け放ち、中に飛び込む。
 そして二人は、絶句した。
「和尚……さん」
「そんな、なんで!」
 悲鳴じみた声を上げるニィの、涙が浮かぶ瞳が見つめる先で、住職は死んでいた。
 天井から垂れた縄で首をくくり、木と縄のきしむ音だけが、蔵に残されている。
 葵は唇を噛んで感情を押し殺し、周囲を見回した。奴が来たならば、あの紙があるはずだ。
 そして、死んだ住職の袈裟に、紙が挟まれていることに気がついた。
「……ニィ、和尚さんの胸元にある、あの紙……」
「うん」
 元気なく答えて、ニィは死した和尚からそっと紙を抜き取り、戻ってきた。
 彼女に読む気力はないと見て、葵がその紙を広げる。そこに書かれていたのは、天誅の文字ではなかった。
 それは、遺書だった。
「こ、れは……」
 唇が震える。住職に対する感情に、怒りが混ざっていくことを、葵は感じた。
 昨晩、住職が猟兵に対して話したことに、嘘はない。だが、彼はそれでも隠していた。
 住職は、確かに修行僧に斬りかかった。しかし、修行僧を殺したのは、侍だった頃の住職ではなかった。
 寺に乗り込んだときには、修行僧はすでに事切れていた。闇の奥に立っていた武僧が、一撃のもとに葬り去ったのだ。
 天誅を下す者と、武僧は名乗った。罪人の子孫を殺し、犯行声明の紙を残していたのは、修行僧ではなかった。
 処刑人と恐れられる武僧と、住職は果敢に戦い、そして、敗れた。
 住職は、敗北の果てに、命が惜しくてたまらなくなった。
 そして、町の人々を売った。奴らは罪人の子孫だ。断罪されるべき者たちはまだまだいる。あの町にいる者すべてだ、と。
 さらに住職は、今は警戒されているので、下手に動けば散り散りに逃げられる。三十年かけて、信頼させて町に根付かせるという約束までした。
 約束の年にまた現れると言い残して、武僧は闇に消えた。
 命拾いした住職は、己の弱さと愚かさを償うために、侍の命とも言える刀を捨てた。
 念仏を唱えて心身を清める日々。子供にも大人にも親しみを持って接し、町の催しにも参加して――。
 次第に、住職は町人に信頼されていった。そのたびに、自分が武僧との約束を果たしていることに気づき、何度も「あれは悪夢だったのだ」と自分に言い聞かせた。
 しかし、三十年が経ったある日の夜。武僧は闇から再び現れた。今宵、町を焼き払い、断罪を決行すると宣言した。
 すまなかった。あれは誤解だ。頼む、やめてくれ。そう懇願する住職の言葉を聞き入れず、武僧は言った。
――案ずるな。死すれば輪廻の道に乗る。罪人どもは、御仏によって救われるだろう。故に――
「其は、救済の業火也……」
 葵の声には、明らかな動揺が含まれていた。横から覗き込んでいたニィも、信じられないというように、遺書と死んだ住職を交互に見ている。
 遺書には、これまでの真実に加え、罪の意識に耐えられず死を選んだことが書かれていた。
 最後に、町の人や猟兵に対して、何度も何度も謝罪の言葉を書き連ねている。
「だからって、死んだら、ごめんなさいも、できないよ……」
 ニィの途切れ途切れの呟きに、葵は頷くことしかできなかった。
 そうだ。死ぬ必要はなかった。身分を隠すのならばそれでもいい。
 すべてを猟兵が解決した後に、町の再建を手伝って、良い和尚として生きればいいではないか。
 大罪を犯した者であっても、心を入れ替えやり直せばよいと、町の人々が証明してくれていたではないか。
「あなたが町の人々を守ろうとしたのは、罪は生きて償えると信じていたからでしょう」
 葵の悲し気な声に、住職は答えず、静かに揺れる。
 下ろしてやろうと住職の遺体に一歩近づいた、その時だった。
「ッ!」
 葵は咄嗟に剣を抜き正面で構えた。直後、住職の遺体が砕け散り、強烈な衝撃を受けて、蔵の外まで吹き飛ばされる。
「葵ちゃん!」
 慌てて飛んできたニィは、葵の怪我を確かめた。うまく剣で受け止めたらしい。外傷はない。
 二人は立ち上がり、蔵の中を睨みつける。飛び散る血肉の中で、その声は聞こえた。
「笑止。罪はすべて六道によって浄化されり。この愚かな男は餓鬼道に落ちるであろう」
「出たな……!」
 警戒と怒りに目を尖らせて、ニィが構える。その横で、葵はすかさず上空へ向かって白龍を飛ばす。猟兵への、オブリビオン発見の合図だ。
「戦乱の世より続く罪の連鎖を断ち切るがため、拙僧は地獄より舞い戻った。罪人よ、御仏の救いを受け入れよ」
 白日の下に現れた巨体。それはニィは無論、葵から見てもあまりにも大きい。棘のついた錫杖の一撃をまともに食らえば、怪我では済まないかもしれない。
 しかし、二人の少女は、臆さない。
 このオブリビオンがもたらした惨劇を終わらせられるのは、猟兵たる彼女たちだけなのだから。
「……ここで仕留めますよ、ニィ!」
「任せて葵ちゃん! 絶対絶対、ぜーったい! みんなでぶっ飛ばしてやろう!!」

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​




第3章 ボス戦 『仮面の武僧』

POW   :    末世読経
予め【読経を行う】事で、その時間に応じて戦闘力を増強する。ただし動きが見破られやすくなる為当てにくい。
SPD   :    狛犬噛み
自身の身体部位ひとつを【狛犬】の頭部に変形し、噛みつき攻撃で対象の生命力を奪い、自身を治療する。
WIZ   :    金剛力士の招来
戦闘用の、自身と同じ強さの【金剛力士(阿形)】と【金剛力士(吽形)】を召喚する。ただし自身は戦えず、自身が傷を受けると解除。
👑17
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​

種別『ボス戦』のルール
 記載された敵が「1体」出現します。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※このボスの宿敵主は💠山田・二十五郎です。ボスは殺してもシナリオ終了後に蘇る可能性がありますが、宿敵主がボス戦に参加したかつシナリオが成功すると、とどめを刺す事ができます。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


 町人が悲鳴とともに避難する中、猟兵たちは素早く集い、ついにオブリビオンを包囲した。
 こちらの力量を知ってか、武僧は簡単に仕掛けてはこなかった。
 やがて、寺には猟兵と武僧だけが残された。
 双方から発せられる凄まじく濃い戦意と殺気が、神聖な寺院の空気を締め出していく。
「猟兵。貴様らが、猟兵か」
 武僧が棘のついた錫杖を構える。鬼の仮面の下に見える修羅の如き眼光が、猟兵一人一人を捉えていく。
「何故、拙僧の邪魔立てをする。裁かれるべきを、なぜ庇う」
 このオブリビオンとの問答が無意味であることを、すでに猟兵たちは熟知していた。油断なく、得物を構えて機を伺う。
「答えぬか。それもよかろう」
 殺気が膨らむ。武僧は静かに、宣告した。
「貴様らもまた、罪深き者だ。断罪をもって、拙僧は汝らを救済す」
 武僧の一歩が、地面を揺らす。どのような能力なのか、寺のあちらこちらから火の手が上がる。
 あっという間に火の海となった寺で、猟兵と武僧は睨み合う。
 数秒の沈黙を、大気を揺るがす武僧の野太い声が、破壊した。
「いざ、参るッッ!」
 それが、戦闘開始の合図となった。
エウロペ・マリウス
裁かれるべきはどちらか……。
聞く耳を持たぬ者に、問答を不要だね

行動 WIZ 【属性攻撃9】【高速詠唱9】【誘導弾4】【全力魔法4】
使用ユーベルコード 【射殺す白銀の魔弾(ホワイト・フライクーゲル)】

距離を保って、戦闘技能を使用しつつ、射殺す白銀の魔弾で戦闘だね
阿吽の金剛力士は、当人にダメージが通ると消えるようだから
【誘導弾】で命中率を
【高速詠唱】で回転数を
【全力魔法】と【属性攻撃】で火力を
各々強化して、手数と火力で押しきっていこうか

キミのそれ(断罪)は、救済でもなんでもない
己の主張だけが正しいと思い込んでいる、独り善がりな、ただの八つ当たりというものだよ


エーカ・ライスフェルト
wiz
オブリビオンの発言を聞き終わった瞬間、堪えきれずに笑い出します
「生前も死後も体を張って笑いをとりにくるなんて」
挑発ではなく本心よ

真っ当に生きている人ですら罪は積み重なるもの
罪が子孫に引き継がれるなら生者はみんな重犯罪者よ
「自らの係累皆殺しにした上の言動なら最低限の敬意は払ったわよ?」
今回の敵は、怒る価値すらないわ

戦闘では油断無く頑張る
【ウィザード・ミサイル】で呼び出した矢を阿形と吽形と本体に向けばらまきながら、【属性攻撃】による単発炎属性矢で本体を狙うわ
大技を何度も使わせて、消耗させた上で他の猟兵に戦いを引き継いで貰うのが目的よ
できれば95本を何度かに分けて使いたいけど、緒戦だと無理かも




 燃える寺院の炎に照らされながら、エーカ・ライスフェルト(電脳ウィザード・f06511)は、くつくつと笑って前髪を掻き上げた。
「生きても死んでも、体を張って笑いをとりにくるなんて」
 生きている限り、人は大なり小なり罪を重ねるものだ。それが次代に引き継がれるとなれば、この世には大罪人しかいなくなる。
 よしんば罪を代々背負ったとしても、この武僧に人を裁く権利など、ありはしない。
「自らの係累皆殺しにした上の言動なら、最低限の敬意は払ったわよ?」
「もはや捨てた身。拙僧の縁者が罪人ならば、御仏に代わって断罪す」
「エーカ。そいつはもう聞く耳を持たないみたいだよ。問答は無用じゃないかな」
 右手に氷の魔力を宿しながら、エウロペ・マリウス(揺り籠の氷姫・f11096)が言った。
 彼女は冷静に、対峙する巨体を見上げる。エウロペの背丈からすれば、もはや壁にすら見える。
 しかし、その表情に恐れが滲むことはなかった。真っ直ぐに、標的として武僧を見据える。
「裁かれるのはどちらか、その身に教えてやったほうが早いよ」
「なるほど、妙案ね」
 二人は揃って右手を上げた。エーカは炎の矢を、エウロペは氷の魔弾を、それぞれ呼び出す。
 そして、同時に射出した。炎と氷が交錯し、武僧に迫る。
 武僧が印を組んだ。何かを呟いたと同時に、空気が凝縮し、二つの人影が浮かび上がる。
 それは、武僧にも及ぶほどの巨体だった。その姿を、エーカは見たことがあった。
「仁王……」
 時に金剛力士と呼ばれる仁王、阿形と吽形が、武僧を守るように立ち塞がる。
 仁王が気合いの叫びを発し、炎の矢と氷の魔弾が掻き消えた。
「へぇ、やるね」
「ただの召喚獣の類じゃないわね。阿形も吽形も、並の力じゃないわよ」
 その実力は、仁王の一人ひとりが武僧に並ぶ。油断はできない。
 同時に、エウロペとエーカは見抜いていた。仁王を召喚し操る武僧は、その力を制御するために、動けない。
 ならば、狙うは一つ。簡単な答えだった。
「エウロペ、あなたはどうする?」
「もちろん、本丸狙いさ。エーカは?」
「私も」
 それぞれ反対方向へと動き出す。放たれる炎と氷の魔法は、それぞれ阿形と吽形が、射線を遮るように動き、魔法の全てをその身に受けて、武僧を守る。
 エウロペの氷は誘導性に優れ、連射が効く。無数の氷弾は吽形の視界を奪い、紛れる誘導弾が本体に向かうのを阻止できない。
 エーカが散弾のようにばらまいた無数の矢に、火力と弾速を強化された炎の矢が混じる。阿形の防御では、そのすべてを覆いきることは不可能だった。
 炎と氷、対極に位置する二属性の術が、武僧に突き刺さる。短い呻きと同時に、仁王が掻き消えた。
「ぬぅ、小癪な」
「その程度の技で、私たちを断罪するつもり? ずいぶんと舐められたものね」
 汗ひとつかかずに冷笑するエーカ。その横で、こちらは幾分暑そうに手で顔をあおぎながら、エウロペが肩をすくめた。
「己の主張だけが正しいと思い込んでいる、独り善がりな八つ当たりの限度だね。ボクらに及ぶわけがないよ」
 仮面の奥にある武僧の表情は分からない。しかし、挑発は効果があったと見るべきだろう。
 武僧が印を組み、その正面に再び仁王が現れる。これこそが、二人の狙いだった。
 系統は違えど魔導に携わるエウロペとエーカだからこそ、分かるのだ。自身と同等の戦闘能力を持つ召喚を二体も同時に行えば、消耗しないわけがない。
「自信がある術だったんだろうね」
 迫る吽形と的確な距離を取りつつ、エウロペが氷の魔弾を射出しながら言った。
「火を放ったときも、この術を使ったのかな」
「恐らく、そうね」
 阿形の拳が振り下ろされるも、エーカはそれを見切っていた。優雅に避けて、炎の矢を至近距離で阿形にぶち込む。
「確かに精巧な術ではあるけれど、それで自分が的になるんじゃ、お粗末が過ぎるわ」
 ひるんだ阿形を蹴り飛ばして間合いを離し、エーカが腕を横に振るう。その軌跡から、炎の矢が飛んだ。
 武僧と炎の矢を遮るものは、何もない。被弾と同時に、仁王が掻き消える。その隙を逃さない手はない。
「いただくよ」
 片手で氷の魔弾を制御していたエウロペが、吽形が消えた先に見えた武僧へと、両手を伸ばす。
 その手が強烈な冷気に包まれ、これまでの比ではない火力の氷弾が、凄まじい連射で武僧へと飛来する。
 腕を顔の前で交差させ、武僧が防御の姿勢を取った。その全身へ、エウロペの氷が突き刺さる。
「手数と火力で押し切る。正攻法だね」
 全力で術を展開しながらも、エウロペの真顔は崩れない。
 凄まじいラッシュに、武僧がよろめく。しかし、致命的な傷にはなっていない。
 魔弾がやむ。力尽きたか諦めたか、ともかく僥倖と武僧が防御を解いた、その眼前だった。
 赤く紅く燃え滾る、炎の矢。それを構えたエーカが、目の前にいる。
「お前には、怒りを浮かべる価値もないわ」
 ゼロ距離から顔面に、破壊力を強化された炎の矢が叩き込まれる。
「ぬぅぅッ……!」
 仮面が焼かれ、武僧が苦しげな声を上げて後退した。
「ほら、どうしたの? 戦乱の世を天誅で正すなんて大義を掲げていた男が、この程度?」
「自分より弱い人間だけ裁こうってことかな。大した天誅だよ、ホント」
「貴様らに、御仏の崇高な教えは理解できまい」
 再び仁王が召喚される。エーカの瞳は、その能力がわずかにだが衰えていることを看破した。
 もう少し、消耗させたい。炎の矢と氷の魔弾が交錯する中で、エーカは挑発を続けた。
「ねぇあなた、知ってる? 仏教ではない宗教だけれど、その教祖がこう嘆いてたの。『私たちの教えは、いつか人の手によって歪められるだろう』って。あなたを見てると、それも納得だわ」
「笑止。拙僧こそが、御仏の教えを真に受け継ぐ者也。断罪こそが御仏の救い」
「それは、救済でもなんでもないね。ただの自己満足だよ。キミの安っぽい信仰心を埋めるためのね」
 的確に武僧の心理を抉る言葉に、仁王の勢いが増す。氷弾や炎の矢を掻き消しながら、エーカとエウロペに迫った。
 思わぬ攻勢に一瞬ひるんだエウロペの目の前に、吽形の拳が迫る。身をよじらせて回避し、吽形の足を凍らせて距離を取る。
「油断したつもりはなかったけど」
「敵も必死ね。一筋縄にはいかないか」
 猛攻を繰り出す阿形をいなしながら、エーカが言葉を継いだ。
 武僧からすれば、己と同等の分身を二体も召喚しておきながら、術師二人に翻弄されている現状に歯噛みする思いのはずだ。
 現に、今の攻勢は出し惜しみしていた全力を出さざるを得ない状況と取れる。武僧はエーカとエウロペの術中にいると言っていい。
 暴風すらも伴う阿形の蹴りをすんでのところで躱し、無防備となっている武僧へ向けて、エーカが炎の矢を一斉に放つ。
 複数の矢に貫かれ、武僧がよろめき、片膝をついた。
 仁王が消え、悠々と武僧を見下ろすエーカとエウロペ。息は上がっているが、負傷はない。
 この程度でオブリビオンを倒せるなどとは、二人とも思ってはいない。消耗していることは間違いないが、武僧が他にも打つ手を持っていることは間違いないのだ。
「小癪な……!」
「それ、さっきも聞いたよ」
 武僧の呻きを冷たく一蹴するエウロペ。額の汗を拭いつつ、敵へと背を向ける。
 エーカも続いた。長い髪をなびかせて振り返り、片手を上げる。
「私たちは猟兵だから、最後まで相手してあげるわ。あなたが斃れるまでね」
 武僧を見もしない二人の横を、人影が駆け抜ける。戦いを見守っていた猟兵だ。
「選手、交代よ」
 背後で聞こえた猟兵と武僧の叫びと剣戟の音を耳に、エーカとエウロペは、目を見合わせて微笑んだ。
 緒戦の優勢は、猟兵たちが掴み取った。
 寺を焼き尽くす炎の勢いを受けながら、戦いはさらに、苛烈さを増していく。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

露木・鬼燈
敵と味方だけの空間…うん、いいね。
ここに至っては、相手の背景や思いなんて関係ない。
ただ倒すことだけを考えればいい。
さて、どう戦う?
軽くやりあった程度だけど、それでもわかることはあるっぽい!
身体能力は高いし、技量だって低くはない。
まずは夜と今の戦いを分析して動きを見切る!
真の姿を開放すれば致命傷を避けるだけなら…うん、イケルイケル!
他の猟兵と連携すればより確実っぽい。
準備が整ったら全力で仕掛けるです。
剣もムカデも囮で本命は気を通して刃と化した素手の一撃。
一度やりあって武器を知られているからこその不意の一撃。
この一撃だけは護りも捨てるっぽい!
結果はどうあれこれ以上は戦えない。
あとは任せるのです。


胡堂・充
救済? 断罪? お前の勝手な理屈だけで大勢の命を奪うなんて…許せない!

俺は一切の武器を持っていない…だけど、俺にだって出来ることはある。
「見せてやる、猟兵・胡堂充の戦い方をな!」

オフロードバイク『マックス』を呼び出し、【大型身体強化鎧】を発動、合体する。これで防御力を向上させ、後衛の味方を【かばう】。相手のユーベルコードを防御出来たら【超常能力再構成】で、反撃だ!

「罪を購うのはお前だ、オブリビオンッ!」

(細部のアドリブ、連携についてはお任せします)




 露木・鬼燈(竜喰・f01316)はくすぶっていた。大火の救助活動や殺人事件の犯人捜索は、どれも彼の得意とする分野ではない。
 だからこそ、今の状況に、頬が緩むのを止められなかった。
「敵と味方だけの空間、相手の背景や想いも関係ない。……うん、いいね」
 舌なめずりをしつつ、サイボーグムカデの頭頂で黒塗りの大剣を肩に担ぐ。
 横を並走するのは、オフロードバイクを駆る胡堂・充(電脳ドクター・f10681)。普段の穏やかな目は今、戦意を滾らせ武僧を睨みつけている。
 ふと、鬼燈は気が付いた。敵と肉薄寸前ながら、確認する。
「充さん、得物がないっぽい?」
「あぁ、俺はいわゆる武器を一切持っていない。だけど、出来ることはある」
 構える武僧へと、充が跳躍した。途端、彼が走らせていたバイク「マックス」が変形し、鎧の如く充の体を包み込む。
 バイクと合体した充は、その身の丈も重量も倍となり、今や武僧を超える体躯で、燃える大地に降り立った。
「見せてやるさ。猟兵、胡堂充の戦い方をな!」
 巨体からは信じがたい速度で、充が武僧へと迫る。しかし、武僧は慌てることなく印を組んだ。
「からくりの小細工で、この拙僧を葬れると思わぬことだ」
 出現する仁王が、充の前に立ちはだかる。自身より遥かに巨大な充に対し、臆することなく拳と蹴りを見舞う。
 即座に防ぎ、充は確信した。防御に徹するだけならば、武僧と同等の力を持つ仁王が相手でも、耐え凌げる。
 武僧への攻撃は、期を伺っていた者に任せればいいのだ。
「鬼燈さん!」
「任されたです!」
 武僧の右側面から、鬼燈がサイボーグムカデの頭を蹴った。
 ムカデの頭部に生えた牙が、伸びる。攻撃に特化した状態だ。
 充に仁王を抑えられた今、武僧を守るものはない。鋭く長い鋼鉄の牙が、武僧の肩口を抉った。
「ぬぅッ」
 短く呻いて、武僧はムカデの頭を掴み、引きはがして地面に叩きつけた。エラーを知らせる機械音とともに、ムカデの動きが止まる。
 しかし、印は解けた。仁王が掻き消え、充と鬼燈が武僧へ接近する。
「充さん、こいつは強いっぽい! 気を付けるですよ!」
「あぁ、分かってる!」
 鬼燈が黒い大剣を、充が機械で包まれた巨大な拳を、それぞれ武僧に振り下ろす。
 あろうことか、武僧は二人の強烈な一撃を、錫杖で受け止めた。三人による唾競り合いの中、仮面の奥に覗く武僧の瞳を、鬼燈は見た。
「……すごい殺気っぽい。殺しがそんなに楽しい?」
「否。殺生は大罪也」
 錫杖に込められた力に、鬼燈と充が弾かれる。
 距離を置いて構えなおし、互いの出方を探る。寺が燃える炎に照らされる中、充が合体した体の中から声を発した。
「なら、お前も罪人ってことになるな。裁きを終えたら腹でも切るつもりか?」
「それも否。この世には罪人が溢れておる。故に拙僧は、我が生涯を以てして断罪を遂行せり。我が命尽きる、その時まで」
 充は言葉を失くした。見れば鬼燈も似たようなもので、切っ先を地面に落として頭を掻いている。呆れているのだ。
「あのさ。『ぼくはわるいひとをころすけど、わるいことをしたぼくはころすためにしねません』なんて道理が、ホントに通ると思ってるです?」
「まったくだ。子供の言い訳の方が万倍……いや、比較にもならない」
 握りしめた拳を見せつけるように、充は右腕を突き出した。そして、高らかに宣言する。
「罪を贖うのはお前だ! オブリビオンッ!」
「そんじゃ、第二ラウンド……いくですよ!」
 先に仕掛けたのは、鬼燈だった。ダウンしていたと見せかけていたムカデを起こし、自身は大剣の切っ先で地面を削りながら、斬りかかる。
 武僧が印を組んだ。出現した金剛力士が立ちはだかる。すかさず振るった大剣が、阿形の喉を切り裂く。
 一体一体が武僧と同じ戦闘能力であることは、確かに脅威だ。しかし、本体とは明らかに戦いの質が違う。
 所詮は召喚というのが、鬼燈の感想だった。深夜に斬り結んだ武僧のような気迫や技術は、仁王にはない。
 一刀のもとに切り捨てられた阿形が掻き消え、吽形が鬼燈を止めにかかる。しかし、その巨体はさらに大きな拳によって殴り飛ばされた。
「武僧をやってくれ!」
 充だ。吹っ飛んだ吽形に馬乗りになり、殴り続けている。
 サイボーグムカデに指示を出し、武僧に攻撃を仕掛ける。その牙が武僧に届く寸前で、印が解除された。吽形が消滅する。
 棘がついた錫杖がサイボーグムカデに叩きこまれる。スパークが飛び散り、ついにサイボーグムカデが動きを停止した。
 鬼燈の大剣は、武僧の首元に狙いをつけている。その勢いが、急激に増した。
 一瞬のうちに漆黒の鎧に包まれ、鬼燈が真の姿を解放したのだ。
 爆発的に増大した戦闘能力から繰り出される怒涛の剣技に、武僧はそれでも的確についていく。
 凄まじい剣戟の音が響く中、鬼燈は冷静に状況を把握していた。
 このままでは、恐らく見切られるだろう。武僧の戦士としての技量は、達人の域にある。
 さらに言えば、この敵は、オブリビオンなのだ。
「其の命、頂戴する」
 武僧の左手が、突如変形する。巨大な狛犬の頭部となったそれが、鬼燈の右肩に噛みついた。
 咄嗟に身を捻っていたものの、激しい痛みと得体のしれない虚脱感に、鬼燈は漆黒の兜の奥で目を剥く。
「ぐッ……こいつっ」
 鬼燈の力が抜ければ抜けるほど、武僧の傷が治癒していくのが見えた。生命力を吸われているのだ。
 突然、鬼燈はその身を後方に引かれ、投げ飛ばされた。
「一度下がるんだ!」
「面目ないです!」
 素直に後退した鬼燈を守るように、充が武僧に立ちはだかる。
 いよいよ化け物じみてきた武僧は、仮面から炎にも似た熱い呼気を漏らしながら、狛犬と化した左手ごと半身を引き、錫杖を構えている。
 接近戦に応じる、ということだろう。充にそれを拒む理由はなかった。
「……いくぞッ!」
 バイクと合体した巨体から繰り出される拳や蹴りが、武僧を襲う。
 反撃の隙を与えるつもりはない。吹き荒れる嵐の如きラッシュは、錫杖を弾き、確実に武僧の体を打つ。
 蹴りで錫杖を弾かれ隙だらけの腹部に、充の拳が突き刺さった。衝撃音に、寺を包み込む炎が揺れる。
 充とバイクが一体となった今、その拳の重さは、高速で衝突する鉄塊に相当する。
「むッ……ぐぉ」
 鬼の仮面の奥から、血が溢れ出る。武僧が膝をつき、錫杖を杖に体を支える。
 遥か頭上から見下ろして、充は冷たく、しかし烈火の如き怒りをもって呟いた。
「救済? 断罪? ……お前の勝手な理屈だけで人々の命を奪うなんてことが、許されると思うな」
「ぬぅ……猟兵。なんと罪深き者か」
 苦し気に立ち上がり、ふらつく足で錫杖を構える武僧。その姿に、充は一瞬、本来の優しさを表に出してしまった。憐れんだのだ。
 その隙を、武僧がつく。突如吼えた左手の狛犬が充の顔面に迫る。
「ちぃッ!」
 舌打ちをしつつ身を屈めて回避、憐れみを怒りで押しつぶして、充は攻勢に出た。
 錫杖と狛犬が、充の拳と交錯する。激しい攻撃の応酬の中で、充は何度か狛犬を防ぐたび、その攻撃を分析していた。
 そして、期が訪れる。迫る狛犬を蹴り上げ、振り下ろされた錫杖を左手で掴み取ったその瞬間、充の右腕が光り輝く。
 光が収束して現れたのは、狛犬だった。武僧と全く同じものだ。
「お前の技、リプログラミングさせてもらう」
「小癪な真似を」
「小癪かどうか、その身で確かめてみることだ!」
 突き出された狛犬の牙が、武僧の脇腹に食らいつく。血が滴り落ち、充は自身の体内にエネルギーが注ぎ込まれるのを感じた。
 武僧が身もだえし、苦痛の叫びをあげる。
「ぐぬぁぁッ! おのれ、猟兵ぃぃッ!」
「なるほど、確かに便利な技だ。だが致命的に趣味が悪い」
 充の拳から狛犬が消え、たまらず武僧が後退する。充は悠々と立って、肩をすくめた。
「医者の見解から言わせてもらうが、お前の左手の狛犬は、悪性腫瘍みたいなもんだ。切除した方がいい」
「多少荒々しくても、ねッ!」
 バイクと合体した巨体の充からすれば、いかにも小さな漆黒の影が、弾丸の如く武僧に追い打ちをかける。
 真の姿を再解放して回復を果たした、鬼燈だ。ショートしたムカデを無理矢理放り投げつつ、接近戦に挑む。
 飛んできたサイボーグムカデを叩き落とし、武僧と鬼燈は再び衝突した。
 巨大な剣から繰り出される高速の剣技を、武僧は的確にいなしていく。消耗していながらも、その技術は衰えない。
「ははっ、やるですね!」
「貴様の剣はすでに見切った。拙僧にその切っ先は届かぬ」
「……かもねッ!」
 真の姿を解放しながらも、剣の技術で敵わないことは、素直に悔しい。
 しかし、鬼燈は戦の非情を知っていた。いかに達人といえど、時には幼子にすら殺されることがあることを、知っていた。
 どれほどの武人であっても、慢心を抱いたその瞬間、敗北の足音が背後に迫ることを、生粋の武人である鬼燈は誰よりも知っていたのだ。
「ぬぅんッ!」
 錫杖が渾身の力でもって振り上げられ、鬼燈の大剣が弾き飛ばされる。宙を舞った漆黒の剣は、鬼燈の遥か後方に突き刺さった。
 武僧の左腕が動いた。狛犬の牙が、再び鬼燈の右腕に食らいつく。先ほどよりも深く、噛みちぎられるのではないかというほどに。
 何かが砕ける、嫌な音がした。右腕の骨が折れたのだ気づくと同時に、焼けるような痛みが鬼燈を襲う。
「あッ――!」
 それでも悲鳴を噛み殺したのは、武人としての意地だった。黒い兜の奥で、武僧を睨む。
「これで終わりにしてやろう。その命、拙僧に差し出せ」
「お前、その言葉は完全に悪鬼羅刹のものですよ」
 今この時ほど、武僧が勝利を確信している瞬間はないだろう。鬼燈の命を吸い出して回復し、猟兵との戦いに備えるつもりでいるのだ。
 そんなことを、させるわけがない。鬼燈の左腕が、霞んだ。
「手術、開始っぽい!」
 気を纏って刃と化した手刀が、武僧の左腕に食い込む。一瞬、武僧は何が起きているのかを把握できなかった。
 無理な体勢から振るわれた捨て身の一撃が、武僧の左腕を、肩口から切り落とす。太い腕が地面に落ち、狛犬が悲鳴を上げて掻き消える。
 一瞬後、血飛沫を上げる左肩を抑えながら、武僧がのけ反った。
「グヌアァァァッ!」
 苦痛にのたうつ武僧を前に、鬼燈は追撃することができなかった。
 ふらつきながら真の姿が解け、倒れる寸前で充に支えられる。
「大丈夫ですか? その右腕……無茶をしましたね」
「でも、手術は成功っぽい」
「えぇ、完璧です」
 敵にダメージを与えた以上に、その腕を一本奪えたことが、大きい。いかに達人の戦士といえど、腕を奪われれば戦闘能力は激減する。
 鬼燈と充は目を合わせ、後退することをお互いに確認した。少なくとも鬼燈は、これ以上は戦えない。
「あとは、みんなに任せるです」
「あぁ、そうだね」
 戦力として、というだけではない。武僧に一発くれてやりたいと願う猟兵は、まだまだいるのだ。
 これから武僧が味わうであろう猟兵たちの苛烈な攻撃は、あるいは彼らの怒りを晴らすための、自己満足に過ぎないのかもしれない。
 それでも、死んでいった者たちの仇を取ることが遺族の救いになると信じて、猟兵は戦いに身を投じるのだ。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​

トリテレイア・ゼロナイン
あの地獄の大火の中でも消えずに瞬いている人々の命の灯、この武僧の妄念にこれ以上飲み込ませはしません。騎士として邪炎を防ぐ盾となりましょう。

「かばう」「武器受け」「盾受け」で武僧や手下の攻撃を引き受け、押しとどめる盾役として戦い、仲間の攻撃の隙をカバーします。怒りに任せて防御は疎かにはしません

武僧に接近したら「怪力」を活かして動きを封じたいところですが、読経されれば最大出力はあちらが上となると…

武僧が読経を始めたら頭部機銃を展開、注意を惹きつけその隙にスラスターでの「スライディング」を活かした「だまし討ち」足払いで転倒させます
倒れたら狛犬を出す前に「踏みつけ」て全格納銃で射撃
冷静に冷徹に戦います


ベル・オーキィ
誰が善人で誰が悪人だったのか、そんなことは生き残った人々で決めればいい!
それでも、お前はここで斃れるべきです!私たちで斃さねばなりません!!

私の行動は≪【『泥土に浮かぶもの』の怒り】で『仮面の武僧』の行動を妨害する≫こと!
そして≪『仮面の武僧』を注視して【末世読経】の予備動作を聞き取り、仲間たちに警告する≫ことです!

私自身は仲間たちの後ろに控え、妨害に徹します!

【『泥土に浮かぶもの』の怒り】の対象は、通常時は『仮面の武僧』本人、【金剛力士の招来】使用時はどちらかの金剛力士!
『仮面の武僧』が読経を始めたら、前線の仲間たちに大声で警告!距離を取って攻撃を回避するように促しますよ!

※連携希望です




 武僧はすでに左腕を失っている。それでも今なお錫杖を構え、息を整えていた。
「しかし、今更加減もいらないでしょう」
 トリテレイア・ゼロナイン(紛い物の機械騎士・f04141)はこれまでの武僧の非道を許すつもりはなかった。
「地獄の大火の中を生き延び、今も消えずに瞬いている人々の命の灯、あなたの妄念にこれ以上飲み込ませはしません」
「その通りです! 奴はここで斃れるべきです! 私たちで斃さねばなりません!」
 業火に焼かれる寺に、ベル・オーキィ(騒乱魔道士の弟子・f08838)の巨大な声が響く。左腕を失くしてなお威容を保つ武僧が、ベルを睨みつけた。
「斃されるべきは拙僧ではない。罪深き、貴様ら也」
「誰が善人で誰が悪人だったのか、そんなことは生き残った人々で決めればいい! 過去から這い出したお前が出る幕じゃない!!」
 ベルの怒りは増していく。その声もまたより大きく、空気を、炎を、天をも揺るがす。
 両の拳を振り上げて、ベルは声の限りに叫んだ。
「驟り漂え! 毒蛇を運ぶ、黒き車軸よッ!!」
 叫びに応えるかのように、突如として上空に雷雲が立ち込める。それは極端な程小規模で、武僧の周囲のみを覆った。
 吹き荒れる風が、矢の如き雨が、武僧の体を縛る。
「ぬぅッ……小娘が、怪しげな妖術を使いおる」
「お前にだけは言われたくなぁぁぁぁい!!」
 ベルの叫びに、武僧を抑えつける雨脚が一層強まる。
 武僧の右手が、印を組む。
「出でませいッ!」
 気合一括、武僧の眼前に仁王が召喚される。
 仁王は武僧の守護者のように立ちふさがり、トリテレイアとベルを睨みつけた。
 嵐を制御しながらも、ベルが悔し気に眉を寄せた。
「くぅッ! とんだ肉壁がいたものです!!」
「ならば、まずはその排除から。いきますよ」
 トリテレイアが、前に出る。炎に照らされた鋼鉄の体は、まるで怒りに燃えているかのようだった。
 脚部のスラスターが開き、機械音が木霊する。目標は二人の金剛力士。相手にとって不足はない。
「騎士として、邪炎を防ぐ盾となりましょう。ベル様は、武僧への牽制を続けていただきたい」
 返事を待たずに、トリテレイアは発進した。巨体を押し出す強力なスラスター出力が、その全身を滑らせる。
 迫りくる巨大な鉄塊に、仁王が腕を広げて立ちふさがる。トリテレイアは剣と盾を構えた。
 衝突する。仁王の大きな手が、トリテレイアの推力を押し殺した。そのまま、腕力での押し合いになる。
「くッ……やはり、やりますね」
 武僧と同じ腕力の仁王が相手では、力に自信があるトリテレイアといえど、突破は難しい。
 繰り出される拳を盾や剣で受け流しながらも、徐々に押されていく。
 しかし、仁王の狙いがこちらに向いている限りは、彼の思惑通りだった。
「黒き車軸よォォォッ!」
 ベルの叫びがはっきりと聞こえる。右手のみで印を組んだまま動けない武僧を、嵐が襲う。
 巨体がぶつかり合うたびに、岩石を打ち合ったような轟音が飛び散る。剣を阿形に、大盾を吽形に止められながら、トリテレイアは仁王の間に見える武僧を見据えていた。
 頭部の格納機銃が展開される。仁王が反応するよりも早く、発砲した。
「ぬッ!」
 雨と風に足を取られながらも、武僧は錫杖で連射される弾丸を弾く。うち何発かは被弾したが、さしたるダメージにはなっていない。
 だが、仁王が消えた。トリテレイアは間合いを詰めながら、武僧へと名乗りを上げる。
「我が名はトリテレイア・ゼロナイン! いざ、勝負ッ!」
「参られいッ!」
 振るわれた錫杖を盾で受け止め、トリテレイアが怪力をもって押し込む。よろめく武僧へと、鞘から抜いた剣を振るった。
 切り上げは、武僧の胴を捉えたかに見えた。しかし、今一歩踏み込みが足りない。武僧の反応が素早かった。
 さらに踏み込んだ横薙ぎの一閃は、錫杖によっていなされる。追撃をとどまり、トリテレイアは身を引いた。
「やりますね……」
「油断できません! 確実に隙をつきましょう!!」
 息が切れたのか、ベルは膝に手をついて術を中断しながらも、懸命にトリテレイアを応援していた。
 その声に応えるべく、錫杖を剣で受け止め、盾で武僧の体を押し込むトリテレイア。その手応えに、違和感を覚えた。
 敵の抵抗が、激しくなっている。ふと、武僧がつける仮面の奥から、何かを唱えている声が聞こえた。
 声の術について、ベルは非常に敏感だった。呟きが届く距離ではないが、その気配から、はっきりと分かった。
「トリテレイアさん! 武僧が読経しています!! それは詠唱です、何かが来ます! 下がって!!」
 剣戟の音を掻き消す忠告の声に、トリテレイアは素直に従った。スラスターの逆噴射で後退する。
「超日月光照塵刹――切群生蒙光照――」
 武僧の読経は次第に大きくなり、その念仏に応じて、筋肉が膨れ上がるのが見て取れる。
「肉体強化……厄介な」
「動きは止めます! 驟り漂えぇぇぇッ!!」
 再び展開された超局所的な嵐が、武僧の身動きの自由を奪う。しかし、読経は消えない。敵の肉体はさらに大きくなっていく。
 先の戦いで、トリテレイアは不覚を取った。武僧の腕力を見誤っていたからだ。このオブリビオンは、強い。
 そして今、敵はさらに自分を強化している。もはや正攻法――トリテレイアが思う、騎士としての戦い方では勝ち得ない。
 ならば、やるべきは一つだ。
「これは――猟兵の務め。私の、役割」
 自分に言い聞かせるように小さく頷いて、トリテレイアはスラスターを噴かした。同時に頭部機銃を展開、射撃を開始する。
 撃ち出された弾丸を、武僧はその錫杖ですべて弾き落として見せた。人間技を遥かに超越した動きだ。
「そのような術で、拙僧は斃せぬぞ」
「百も承知ッ!」
 牽制の弾丸を撃ち尽くしながら接近し、肉薄した瞬間、トリテレイアは大盾を投げた。あっけなく錫杖で殴り飛ばされたが、それでも敵の視界は一瞬奪えた。
 それだけで十分だった。刹那の隙をついてスラスターバーニアを全開にし、トリテレイアは敵の斜め後方、死角に回り込んだのだ。
「! ……毒蛇を運ぶ、黒き車軸よォォォォッ!」
 トリテレイアの動きを見て、ベルがさらなる力を嵐に込める。その声は、震えていた。彼女の限界は近い。
 武僧の背後から、両手で持った剣を全力で振るう。上段からの渾身の振り下ろしは、すばやく転身して振るわれた錫杖により、弾かれる。
 トリテレイアの手から、剣が飛んだ。はるか後方に突き刺さる。
「やはり、身体強化をした今……最大出力はそちらが上ですか」
「諦めよ、鎧の。御仏の裁きを受けるべしッ!」
 振るわれた錫杖が、左肩に直撃する。トリテレイアは自身のボディが大きく歪むのを感じた。左腕全体からエラーメッセージが飛んでいる。
 しかし、もはやそちらに盾はない。それに、内蔵兵器は生きている。問題は、ない。
 僅かに距離を取り、頭部の機銃を再度展開、射撃する。雨粒に交じるような弾丸は、やはり錫杖で防がれる。
 これまでの攻撃が、全て視界の上からされていたことに、武僧は気づいていなかった。鈍重な鋼鉄騎士の攻撃を防ぎ切ったと思い込んでいた。
「諦める? ご冗談を」
 トリテレイアが、突然仰向けに倒れた。否、脚部のスラスターを再び全開にし、あえて足だけを先行させたのだ。
 武僧は見落としていた。もはや決着は力のみのぶつかり合いしかなく、そしてそれは、自分が有利だと、思い込んでいた。
 こんな金属塊じみた剣士から単純な足払いが繰り出されるなど、考えることすらしなかった。
 だから、その足元が払われたとき、武僧はくぐもった声でこう言ったのだ。
「不覚ッ……!」
「もう遅い」
 冷徹に宣告して、トリテレイアはまさしく機械の動きで上半身を跳ね起こし、その超重量を片足に乗せ、武僧の胸を踏みつけた。
 武僧が見上げた先には、頭上から降り注ぐ嵐に打たれる、鋼鉄の騎士がいた。金属の頭部を伝う雨粒のせいで、あたかも泣いているかのようにも見える。
「お、のれ」
 苦し気な呼気を漏らす武僧へと、トリテレイアは全身の格納機銃を向ける。
「騎士道を鑑みれば言語道断なのですが……あなたに対しては、道に則る必要を感じない」
 そして、一斉射撃が開始された。容赦ない弾丸が武僧の体へと無数に撃ち込まれ、連続した激しい発砲音が、炎の寺院に反射する。
 痙攣するように跳ねる武僧の巨体は、ベルの豪雨とトリテレイアの足に踏みつけられて動けない。
 やがて全弾を射出し終え、トリテレイアが足をどけた。
 まだ、敵は斃れない。念仏を唱えながら立ち上がり、全身から血を噴出させながらも、筋肉を盛り上げ強化していく。
 確かに強化されているが、ベルの嵐とトリテレイアの猛攻により、その動きはいかにも弱っている。
「斃れよぉぉぉッ!」
 ベルが最後の力を振り絞った。豪雨と暴風に、雷鳴が混じる。そして、次の瞬間。
 激しい風が津波の如き勢いをもって、筋骨隆々の武僧に直撃する。ベルと天の怒りを表したかのようだった。
 武僧が、膝をついた。立ち上がれず、憎しみのこもった声を仮面から漏らす。
「おのれ、おのれ……!」
「終わりです。もう分かったでしょう。裁かれるべきは、あなた――」
 言いかけた刹那、トリテレイアは背後で誰かが倒れる音を聞いた。ベルだ。どうやら力を使い切り、立つ力もないらしい。
 嵐の術が途切れた。再び武僧が立ち上がる。
「一切我今皆懺悔……」
 念仏が再開される。焼けただれたて血の流れる武僧の体が、膨張していく。
 ここで止めを刺したかったが、無防備なベルをそのままにしておくことはできない。
 即座に反転し、ベルに駆け寄る。スラスターによる移動の慣性のままベルを抱き上げ、戦線を離脱した。
 腕の中で、ベルが彼女にしてはいかにも小さな声で言った。
「すみません。あと少し、だったのに……」
「いえ、私たちは務めを果たしました。あとは、仲間に任せましょう」
 ベルは頷き、そのまま気を失った。出せる力を振り絞った証拠だろう。得物を落とし残弾がなく、スラスターの燃料も残りわずかなトリテレイアも、似たようなものだった。
 だが、二人とも恥じるつもりはなかった。
 信じて、託す。人が信頼と呼ぶその力こそ、彼らの強さの秘訣なのだから。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​

ニィ・ハンブルビー
先祖の罪とか、そんな昔のことどーでもいいよ
たくさんの人を殺して、苦しめて、悲しませて
そしてボクの友達が…
陽気で気のいい炎の精霊たちが、一番嫌がる炎の使い方をした
だから、滅ぼす

さあ!出し惜しみは一切なしだ!
炎の精霊と一体化して、真の姿で戦うよ!
【炎の精霊の祝福】で仲間たちに活力を与えて!
敵は燃やす!
ついでに建物や町人たちに害が及ばなくなるよう、
炎の精霊にお願いしとこう!

そんでもって!
殴って!燃やして!殴って!燃やして!
問答無用で殴り続ける!!
炎に満ちたこの空間で!!!
ボクたちを止められると思うなよ!!!!


早見・葵
立ち上がって剣を構え直し、周囲の猟兵を【鼓舞】し後退をフォローする
「先程のお返し……冥土行きです! 」

間合いを取りつつ数発の剣戟を繰り出しては離れます。
仲間の猟兵がいるなら連携して、攻め立てます。
先程の一撃……注意しましょう。
【第六感】とあわせて攻撃を【見切り】回避し、動きの隙をついてDrache Jagdを放つ。
避けきれないものは【武器受け】で受け流し、ダメージを受けないように努める。


「こんな……誰も救われない因果を、断つ! 」
白龍を槍にして【投擲】し、相手が弾いた隙をついてDrache Jagdを発動させる。
狙うは首。

死んだ命は軽くはない。助けれなかった命と合わせて背負っていきます。




 武僧の法衣が、膨れ上がった筋肉に耐えきれず破れた。
 全身を縦断に撃ち抜かれ、激しい戦いで蓄積したダメージも激しい。もはや、武僧を支えるものは、念のみ。
 その念が、あまりにも激しい。過去から染み出したオブリビオンの、力の根源とでも言うのだろうか。
「御仏の……慈悲を、受けよ」
 血を吐く音に混じって漏れる声は、濁りながらも確固たる信念を伝えてくる。
 その信念を斬るかのように、早見・葵(竜の姫騎士・f00471)は破竜剣グラムセイバーを振り抜き、剣風を巻き起こす。
「あなたにとって、その信仰心は真実なのでしょう。しかし、誰かの未来や希望を奪い取る理由にはならない」
「奪う? 否……その血に流るる罪を、洗い清めるのだ。六道の先にこそ、真の未来がある故」
「先祖の罪とか、そんな昔のことは、どーでもいいよ。たくさんの人を殺して、苦しめて、悲しませて。言い訳できると思ってんの?」
 葵が構えるグラムセイバーの切っ先に立ち、ニィ・ハンブルビー(怪力フェアリー・f04621)は拳を握りしめる。
 ふわりと飛び上がったニィの周りに、熱気が漂い始める。彼女の体温が、恐ろしく上昇しているのだ。
「お前はボクの友達が――陽気で気のいい炎の精霊たちが、一番嫌がる炎の使い方をした。あの町でも、このお寺でも、精霊たちは、泣いていたんだ」
 ニィはそれを知っていた。炎の精霊たちは、自然の流れには逆らえないのだ。例え望まぬ形でも、それが成り行きであれば、人を焼き殺さねばならない。
 本当に人々を救う炎であったなら、精霊たちがあんなに悲しむわけがない。
「なにが、救済の業火だよ……!」
「そう。これは救いなんかじゃない。ただの過去に過ぎないあなたが無理に結びつけた、朽ちた因果です」
 揺らめく蜃気楼となったニィの熱気を受けながら、葵は言い切った。
 血を流しながらも、武僧は二本の足でしっかりと立ち、低く重い声で言った。
「ならば、どうする」
「知れたこと」
 葵は笑った。今更くだらないことを聞くものだと思った。
 グラムセイバーの切っ先を武僧に向け、明確な戦意を表す。
「その因果、ここで断ち切ります」
「そう。終わらせるんだ」
 ニィの体温が灼熱と化す。小さな体が突如として燃え上がり、焼ける衣服の代わりに、その炎が衣となる。
 寺の炎が盛んに燃え上がる。この場にいる全ての火の精は今、ニィを祝福していた。炎の権化となったその姿こそ、彼女の真の姿だ。
「ボクたちが――お前を滅ぼす」
 炎の化身となったニィは、火炎の拳を武僧に向けた。
 わずかな沈黙。静まり返った空気を破ったのは、武僧だった。
「……参れ」
 その声が、決戦の合図となった。葵とニィ、そして武僧が、攻撃態勢に入る。
 すべての一撃を全身全霊で打ち込む。そう決意して振りぬいた葵の剣は、錫杖に受け止められた。
 武僧は、微動だにしない。身体強化を重ねに重ねた結果が、この筋力か。
 剣を押し返され、武僧が錫杖を振り下ろす。直観的に身をひねって躱し、地面に衝突した錫杖はその場にクレーターを作った。
「っ……!」
 もし直撃していたら、良くて重症、当たり所が悪ければ、死ぬかもしれない。
 しかし、遅い。押し返された衝撃がなければ、余裕をもって避けられたはずだ。
 ましてそれが、身の丈が小さな妖精であれば、なおさら。
「でりゃぁぁぁぁッ!」
 気合いの入った叫びとともに、炎を纏うニィが武僧の錫杖を悠々と避けて、その懐に飛び込む。
 小さな拳が、そのみぞおちに叩き込まれた。限界まで筋力を強化した武僧の肉体は、まるで鋼のような手ごたえを伝える。
 しかし、炎の力を味方に付けたニィの一撃は、その筋肉をも貫いた。重い衝撃音の後、武僧がよろめく。
「葵ちゃん!」
「取ったッ!」
 みぞおちを抑える武僧めがけて、葵の一閃が煌めく。剣の軌跡を追うように、武僧の胸元から鮮血が飛び散った。
 斬った葵の表情は、険しい。
「浅い……!」
 武僧の胸部に横一文字に走った傷は、夥しい血を流してはいるが、致命傷にはなりえない。
 まして、筋骨隆々、まさしく仁王の如き体躯となった敵だ。葵の一閃は、鎧の表面を撫でたに等しい。
 だが、悲観はしていなかった。武僧の筋力は確かに恐るべきものがあるが、体力の消耗は、否めない。
 何よりその精神が限界まで摩耗していることを、葵は見抜いていた。
「難中之難……無過斯……」
 途切れ途切れの念仏は、武僧の体をさらに強化し、異形のように筋肉を膨張させていく。
 もはや、仁王を呼び出す余裕はないのだろう。己の肉体のみで、猟兵を倒さねばならないのだ。
「必死だね。なんでそこまでするのさ」
 ニィに問われて、武僧は念仏を中断した。葵とニィは、武僧が少し笑ったように思えた。
「拙僧には、仏の道しかあり得ぬ。例えこの身を滅びようとも、道を外れることは許されぬ!」
 武僧が踏み込み、大地が抉れる。強烈な錫杖の振り下ろしを、二人は難なく回避した。
 しかし、そのあとの振り上げが、早い。狙いはニィだ。葵が剣を伸ばして受けようとするも、間に合わない。
「ぐッ! わぁっ!」
 なんとか手で受け止めたものの、凄まじい威力に、ニィは吹き飛ばされた。
 真の姿を解放していなかったら、やられていたかもしれない。空中で受け身を取りつつ、気を引き締める。
 宙で反転するニィに合わせて、葵も動いた。同時に二つの的を、片手の武僧は対応しきれないはずだ。
 例えどちらかがやられても、残った一人が一撃を打ち込む。二人の心は一致していた。
「てやぁぁぁぁッ!」
「はぁぁぁぁぁッ!」
 ニィの飛び蹴りと葵の袈裟切りが、二方向から同時に武僧を襲う。
 だが、武僧の反応は素早い。蹴りに頭突きを合わせて相殺し、袈裟切りは錫杖で受け止めてみせた。
 つば競り合いとなった葵は、数秒と持たずに押し切られるだろう。しかし、ここからだ。
「ニィさん!」
「燃えろぉッ!」
 叫ぶニィの足元から、炎が吹き上がる。火炎を纏った鋭い蹴りが、つば競り合いの武僧の顔面を捉えた。
 その威力もさることながら、武僧の顔面に燃え移った炎は生き物のようにまとわりつき、いくら振り払っても消えようとしない。
「火の精霊を悲しませたバツだ! ざまーみろバーカ!!」
「罰……だと? 拙僧を、貴様如き小娘が、裁くというか! 愚か者めがッ!」
 激昂の一括とともに、武僧の顔面から炎が消える。仮面の奥にある瞳は激しい殺意をもって、ニィを睨み付けていた。
 憎しみのあまり、目の前に立つ葵にも、気付かずに。
「それが、あなたの弱さです」
 いかにも軽く鋭い切り上げが、武僧のわき腹から肩にかけて、傷を作り上げる。
 鮮血が舞い、武僧が呻いてふらついた。葵は刺突の構えを取る。
「あなたはいささか、傲慢がすぎる」
 神速の突きが、武僧の心臓を貫いた。口から溢れた血液が、仮面の隙間から激しく漏れ出す。
 時間が止まったかのような静まりの中、葵が剣を引き抜いて、下がる。武僧は膝をつき、そして倒れた。
「……」
 ニィは構えを解かず、葵も残心を解こうともしない。
 心臓を破られた武僧は、死の淵にいることは間違いない。しかしまだ、濃厚な殺気が消えていないのだ。
 武僧が、立ち上がる。右手で土ごと錫杖を握り締め、血を吐き散らしながらも、震える足で、大地に立った。
「……終わらぬ。まだ終わらぬぞ、猟兵」
 敵は人間ではない。何がしかの人智を超えた力が働いているのかもしれない。そうでなければ、心臓を貫かれてなお戦えることに、説明がつかない。
 しかし、ニィと葵はそれ以上に、武僧の信ずる力の大きさを思い知った。この男は、どれほどの孤独にいようとも、いかなる死地に立とうとも、仏に仕える信念を燃やし続けているのだ。
 だが、それはそれだ。武僧はオブリビオンであり、敵に過ぎない。そして、この武僧が奪った命は、もう戻らない。
 そこにどれほど崇高な理想や信仰心があろうと、猟兵である葵とニィが武僧を許す理由にはなり得ない。
「終わらせは……せぬッ!」
 無様にすら見える横薙ぎの錫杖は、凄まじい威力を持っていた。まさしく、死力の籠った一撃だ。
 それを、ニィは、掴み取った。そのまま、金属でできた錫杖を引きちぎる。超怪力で分断された錫杖が、熱量に耐え切れず融解する。
「断罪は終わっておらん……! 救済を終わらせては、ならぬのだ……!」
 棒だけになった錫杖を、武僧がやみくもに振るう。あまりにも惨めだった。
 その胸倉を、ニィが掴み上げる。
「お前がどんだけ意地を貫き通しても、ボクたちは絶対に負けない。炎に満ちたこの空間で――ボクたちを止められると思うな!!」
 ニィの体が燃え上がり、烈火は武僧の全身をも包み込んだ。炎の精霊の祝福を一身に受けたニィは、この世界のいかなる火炎よりも激しく、熱い。
 仮面の奥で苦悶の表情を浮かべ、それでもなお、武僧は倒れず、棒切れとなった錫杖を放さない。
「それが、お前がみんなに味わわせた苦しみだぞ! それでもまだ、自分がしたことが救いだって言える!?」
 灼熱の中に、ニィの声が響く。この男にひとかけらの良心が残っているとは思えないが、それでも訴えずにはいられなかった。
 錫杖を落とし、武僧が何かを言おうとした。ニィは炎の精霊を沈めて、その火を消す。
 体は焼け焦げ髪も焼け落ち、それでも仮面には傷一つない武僧は、焼けただれた喉からしわがれた声を出した。
「生きて――償うこと、など――できぬ――。人が――人たらんとする限り――罪は、増す――」
「確かに、私たちは多くの過ちを犯します。時には取り返しのつかないことも、してしまう」
 瀕死の武僧へと、葵が歩み寄る。その右手には破竜剣が、左手には、美しい白銀の槍が握られていた。
「数えていたらきりがないほどの過ちを、一つ一つ償うためには、死ぬしかないと。そうすることこそが救いだと、仏さま言うのですか」
 武僧が吼えた。最後の一撃、右の拳を葵に振りかざす。
 その右腕は、鋭い一閃によって、大地に落ちた。
 両の手をなくした武僧の腹部を、白銀の槍が貫く。仮面の奥で表情が動いたことを、葵は見えずとも感じられた。
「そんな神仏は、こちらから願い下げです。冥土に帰って、そのことをあなたの仏さまに伝えなさい」
「……」
 槍を手放すと、武僧はよろめきながらも倒れず、葵とニィをじっと見ていた。
 もはや殺意はない。ニィは葵の剣に触れて炎を宿しながら、力強く言った。
「終わらせよう、葵ちゃん」
「えぇ。これで、ようやく――」
 踏み込み、炎を纏ったグラムセイバーで、渾身の突きを放つ。
 武僧の首に、切っ先がめり込む。戦いが終わる感触が空気に伝播する中、猟兵たちは、武僧の声を確かに聞いた。
「見事――」
 突き抜けた刃を振り払い、武僧の首が、大地に落ちる。遅れて、両腕を失った体も倒れた。
 独り戦い続けた武僧の亡骸は、剣から伝わったニィの炎に包まれ、炭化し、灰となって風の中に消える。
 残された仮面の眼窩だけが、虚しく空を見上げていた。
 



 数日後、寺には住職の墓が建てられた。
 木製で簡素ながら、町人たちの思いやりが籠った墓だ。供えの花も、多くある。
 猟兵たちは、住職の遺書に記されたことを町人に伝えなかった。例え大火の真因が住職にあろうとも、彼が多くの人々を支えてきた事実は、揺るがない。
 町人の心に生き続ける住職の姿こそが、彼らにとっての真実だ。それで、十分だった。
 小高い丘から見下ろす町は、未だ焼野原だ。しかし、人々は再建に向けた希望に燃えて、働いている。
 迎えに来たグリモア猟兵に呼ばれ、猟兵たちは最後に一度だけ、町を見る。
 救えなかった命は、あまりにも多い。猟兵はこれからも、その重さを背負っていかねばならない。
 しかし、戦いは終わったのだ。これからは、この町に住まう彼らが歴史を作り上げていくだろう。
 グリモアの輝きに包まれる猟兵たちは、誰一人として、振り返らなかった。

 天に上るグリモアの光を見て、町の人々が次々に指さし、拝み始める。
 やがてこの町が、仏の光が降り立った地として伝わり、「諏久井町」と呼ばれるようになることを、猟兵たちはまだ、知らない。

 fin

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​



最終結果:成功

完成日:2019年01月17日


挿絵イラスト