マターリング・リトリート
#アリスラビリンス
タグの編集
現在は作者のみ編集可能です。
🔒公式タグは編集できません。
|
●leisurely
ここは僕らの国だった。
それなのに、どうして。
どうして。
もう、僕らの国じゃなくなった。
そして僕らも、僕らではなくなってしまった。
最初はひとりがおかしくなった。そいつはひとりの仲間を食べた。
そうしてそいつは、鬼になった。
梢に下がって夜を照らしたランタンたちも。柄の少し曲がった歩く箒も。賑やかにケーキを食べた小さなフォークも、スプーンも。
みんな端から食べられた。
そうして鬼は大きくなった。みんなどんどんおかしくなった。
笑い声はけたたましく悍しく。
口は大きく歪んで開いては昨日の仲間が呑み込まれて。
助けたかったけど助けられない。逃げたくても逃げられない。
どうか、時計ウサギ。ここへは走ってこないでくれ。
鬼はアリスを待っている。
美味なる肉を、待っている。
そんな僕の願いを余所に、アリスはウサギと迷い込む。
花に集まる蜂のように。
ランタンの消えた暗い森には、樹の虚で燃える鬼火がひとつ、ふたつ。
ゆらり揺られた鬼の影が、にぃと大きな口を歪めた。
『The rest next time──』
『『It is next time!』』
その狂わんばかりの声色の、なんとたのしげなことか。
●ply
「いいなァ、おなかいっぱいってさァ」
朱城・七結は口の端を上げて言った。
そんな景色を見たのだと。
「不思議の国が一つ壊れた。別に珍しくもないケド」
はてさて虚ろに見た場所はアリスラビリンス、その中にあった国。
今はもう無い。愉快な仲間がアリスの為に作った国は、オウガたちが我が物顔で練り歩く夜の森へと変貌してしまった。
其処は今、まるで食虫植物の甘蜜香のようにアリスを引き込んでは喰らう死の坩堝。重く葉が擦れる音と、気味の悪い笑い声と、肉を裂いて咀嚼する音と、慟哭と悲鳴と。そんなものしか存在し得ない。
隙間には嗤い声。ささめく声。鬼たちは次に何を喰うかと囁き合う。
陽の照る世界の陰に隠れた、Muttering Retreat──。
「鬼と死骸ばかりの森だぜ。見てみたい?」
それなら連れて行ってあげる、と、嘗てアリスだった半鬼は笑った。
「ひとォつ言っといてあげるケド。そこでは誰も助けられない。誰も彼もが骸になる。助けようとするなら、その隙にアンタ達も死骸の仲間入りしちまうぜ? まあ、一人くらいは助けられるかもしれないけどさ」
囁き声は誰彼構わず語り掛ける。元は無垢なるものだった其れが、『助けて』と。
声に応えて彼らの仲間になりたいなら止めはしないが、お勧めもしない。そんな風に笑うばかりの女がふと、思い出したように目を瞬く。
「あたし嫌いなんだよなァ、アイツ。会うと嫌なことばっか思い出すんだから、やってらんない」
その『アイツ』が夜森の最奥にいるのだと言う。
「──そうだ。その国の連中飢えてるからさァ。『本当にアリスかどうか』なんて関係ないみたいだぜ? おいしーいお肉なら何でも良いんだって」
影が嗤う。
森がさざめく。
ただ喰らうばかりの鬼が、手ぐすね引いて待っている。
七宝
七宝です。
この度はアリスラビリンスへとご案内致します。
よろしくお願いします。
プレイング受付期間などをMSページでご案内する事があります。ご確認いただけますと幸いです。
絶望の後に架る虹は美しく見えるでしょうか。
(訳:みんなぼろぼろになってください)
●補足
1.vsアンメリー・フレンズ(集団戦)
2.vsはらぺこねこばるーん(集団戦)
3.vsトラウマン(ボス戦)
場所:森の中
時刻:夜
星も月もありませんが、化け物じみた樹の虚で鬼火が燃えているため視界は問題ないとご判断ください。
●ご注意
残酷描写が比較的多くなります。
出血量もだいぶ多くなります。
ご承知おき願います。
今回ご案内する不思議の国のオウガたちは、侵入者である猟兵たちを全て『アリス』と認識します。
その為アリスでなくともオウガの精神汚染を受けることになります。
PC様の過去や心模様などを教えて頂ければ参考にさせて頂きますが、捏造も多くなるかと思います。よろしければ差し支えのない範囲でお書き添えください。
転送された段階では、愉快な仲間たちと迷い込んだアリスたちの中に生存者も少数含まれています。
猟兵の介入がなければ予知の通り全員が死亡しますが、僅かなら助ける事も不可能ではありません。ただし、戦闘以外の行動を取った場合は負傷度合が深刻になる可能性が高くなります。(判定にマイナス補正を掛けます)
その結果シナリオ自体が失敗になる場合も考えられますので、ご了承の上参加をご検討ください。
アリスラビリンス出身の方を多めに描写したいなとは思いつつ。
全員描写はお約束できません。出来る範囲で無理なく書かせていただきます。
囁き声のひとつになってしまわぬよう、どうぞお気をつけて。
第1章 集団戦
『アンメリー・フレンズ』
|
POW : アフィッシュ・ストラクチャー
対象の攻撃を軽減する【醜くいびつに膨れ上がった異様に巨大な姿】に変身しつつ、【異形化した手足や所持している道具等】で攻撃する。ただし、解除するまで毎秒寿命を削る。
SPD : ポートマント・ビーイング
【周囲の仲間と合体する、又は合体させられる】事で【禍々しく歪んだ恐ろしい姿】に変身し、スピードと反応速度が爆発的に増大する。ただし、解除するまで毎秒寿命を削る。
WIZ : スライシー・フルード
自身に【影響を及ぼしたオウガに由来する悪しき力】をまとい、高速移動と【状態異常を引きこす毒液や汚染された血等】の放射を可能とする。ただし、戦闘終了まで毎秒寿命を削る。
イラスト:まつもとけーた
👑11
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔴🔴🔴🔴🔴🔴🔴🔴
|
種別『集団戦』のルール
記載された敵が「沢山」出現します(厳密に何体いるかは、書く場合も書かない場合もあります)。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
| 大成功 | 🔵🔵🔵 |
| 成功 | 🔵🔵🔴 |
| 苦戦 | 🔵🔴🔴 |
| 失敗 | 🔴🔴🔴 |
| 大失敗 | [評価なし] |
👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。
●
飛び散った臓腑の破片を蹴散らしながら。
噛み千切られて飛んだ片腕がぶら下がる樹の枝を見上げながら。
それは足をぷらぷらと遊ばせて、樹の幹に出来た瘤に腰掛けていた。
鬼火がその影を十重二十重に揺らしながら燃えている。
アンメリー・フレンズ。
元はこの地で生まれた愉快な仲間だったもの。
今は焦点の合わぬ眼をぎらつかせながら只管に命を狩るもの。
『All in the golden afternoon』
(Help,)
『『Full leisurely we glide』』
((Help,))
それは元の命に戻りたがる声。
けれどもう叶わぬ希。
助けて、とか細く聞こえるその音は、踏み躙られるためだけに存在する。
変貌し尽くしてしまった命は戻れない。
「いやだ、ぁ、ああ゛あぁ゛あ゛、ぁああ゛ぁ゛!!!!」
がしゃん、からん、ころん。
喰われたティーカップの取っ手が、食べ残された鶏の骨めいて転がった。
(Help,)
囁き声がまたひとつ、増えた。
▽caution !▽
アンメリー・フレンズたちの周囲には、まだ彼らに取り込まれていない愉快な仲間が数名のみ存命しています。
何もしなければ、戦闘終了までに全員がアンメリー・フレンズに変化するか彼らに喰われるかのいずれかののち命を落とします。
ジャン・ストレイン
●
「最高に最低……俺におあつらえ向きな場所じゃん」
俺に出来るのはただ殺すことだけ。
歪んだ命も、これから歪められそうな命も等しく死というエンディングを。
生まれた時からろくな目にあってなかったんだろう。
お陰で俺の記憶は酷い継ぎ接ぎだらけ。
でも
呪われた黒。
厄災を呼ぶ黒猫。
そんな風に蔑まれ虐げられる屑だったことは覚えているぜ。
だから俺に救える命なんて、ない。
黒いナイフと白いナイフを構え、疾走る疾走る疾走る。
俺より醜く歪んだ刈り取る者より早く、上手く、綺麗に。
手にした二振りのナイフで等しく命を奪う。
……そう、食われそうになっている愉快な仲間ごと、アンメリーフレンズを切り刻む。
「メリーバットエンド上等だ」
●for DEAR stray bullet
救うことなどできない。
此の手に掬えるものなど何一つない。
「最高に最低……俺におあつらえ向きな場所じゃん」
ジャン・ストレイン(クロネコ・f20038)が鼻で笑う。
今命が握り潰された。今悲鳴が鉄錆色に濁った。
それを全てこの眸が見ていた。
それはジャンの所為ではない、ぼたりぼたりと地に落ちた赤黒い彼らのせいでもない。
ただ斯く在るべしと定められたような終着点だった。
まるで、ただ黒髪に生まれたとそれだけで忌み子とされた己のようだった。
白を片手に、黒をもう片手に携えて、けれどそれに重ねられる掌のような声は酷いもので。
呪われた黒。
厄災を呼ぶ黒猫。
道端に棄てられた野良猫に吐き捨てられるようなその言葉は、継ぎ接ぎだらけで綺麗な記憶なんて残っていない頭の中でもはっきりと響く。
屑だって知ってる。
だから、ああ、──。
「たす、け、」
罅割れた木目が逆剥ける音が少しの声を紡ぐ。
その根元を刈り取り、返す刃がひとりのアンメリー・フレンズの心臓を突き貫く。
木片を紐で繋いだその人形が息絶える拍動を聞くより少し前に、ジャンの爪先が漂う鬼火を掻き消して跳んだ。
「「──Imperious Prima flashes forth, 」」
愉快げな音色の方へと小柄な体が飛んでいく。
ふうわり放物線を描く弾丸が小さき刃をふたつ閃かせる。
「Her, ああ、……edict, いや、だ、 "to begin it"──」
ふたりのアンメリー・フレンズが歌いながら引っ張り合っているのは、柔らかな体毛の猫。
ぎしぎしと軋み、がりがりと裂けて、白い毛並みが血の赤で染まりゆくのが先か。それとも悪魔の歌声を共に奏でる喉が従順にそれを許容するのが先か。
──決まってる。
「どっちも無しだぜ」
首がみっつ飛び去った。
茂みに転がる歪なふたつと、目を見開いたままの金眼の猫。
己より醜いふたつを、それに染まろうとしていたひとつを。
等しく何れもを巧く、綺麗に、彼方へと連れ去る黒猫が丸めていた膝を伸ばし周りを見る。
出来るのはただ殺すことだけ。
だから歪んだ命にも、これから歪められそうな命にも等しく死を。
ただ無を。終幕を。
ベルも喝采も無い彼方へと。
「メリーバットエンド上等だ」
止むことない歌声が途切れるまで黒猫は駆けるのだろう。
降り注ぐ血を以って捧ぐ終わりを、この狭間の国に残そうと。
それが或いは願望か。羨望か。
白き夜明けが来ないのならば、一層暗澹に綴じるのみ。
大成功
🔵🔵🔵
ヌル・リリファ
●
簡単な言葉は平仮名、難しいものは漢字です
正直生存者がどうなってもわたしはあまり興味はないけれど。
マスターの最高傑作なのにわたしがよわいからたすけられないってなるのはすきじゃない。
アイギスを生存者のいるところになげてシールドを展開、【盾受け】で【かばう】。
もしたすけたいとおもうひとがいればこの盾はたすけになるとおもう。
いなかったらみすてる。
UC起動。【属性攻撃】で強化した武器で殺していく。
相手の攻撃は【見切り】ともうひとつのアイギスでできるかぎり対処。
もしわたしがこうなったなら、殺してほしいとおもうから。
これがすくいかはしらないし、そうでなくても殺すけど。
せめて、これ以上いのちをうばうまえに。
●glint
自分はマスターの最高傑作だという自負がある。
ヌル・リリファ(出来損ないの魔造人形・f05378)の仰ぐ先、揺れる爪。
それしきを防げないようでは、まるで自分が弱いせいで助けられないようで。
(「……それは、すきじゃない」)
生存者がいようが、いまいが。それがどうなっていようが。正直あまり、興味はないのだ。
だけれどもマスターを貶めるのは、それが他ならぬ自分だというのは、我慢がならない。ヌルが動いた理由はその一点のみだった。
暗澹の最中。揺れる鬼火の影、その向こう側。
アンメリー・フレンズの歪な爪が振り下ろされる。風が裂かれて千々の旋風になる。狙いは瞭然。笑い声の梺で震える一冊の本。厚い表紙も奏でられる物語も、今はぎざぎざに逆剥けて途切れる間際。
二つの腕輪がさらと鳴り、わずかに形を変えながらヌルの手首を離れた。
六角の透いた光で盾を構築した片方の輪が、本の金装飾を瞬かせながら爪との間に割り入り弾く。硬質の音が響いて、それにほっとした誰かが息を吐く。
ああ、そう。たすけたいとおもうひとがいるんだ。
ヌルのつめたい色の瞳が一度閉じて開く。なら片方の腕輪はそれを助けたら良い。
「わたしは、」
助くよりは殲滅を。
そうすべきと思ったし、その方がきっと向いている。
アイギスと名の付くブレスレットの片割れを盾に、遠くでぎらりと光を放つ敵意の眼差しを目指した。
ひとつ、ふたつ、今宵に命を刈り取る光は何の形にしよう。
「……わたしがもし、こうなったら。殺してほしいとおもうから」
できるなら疾くに。優しくなくてもいいから。
あのひとの名を汚すくらいならば。
「だからあなたにも、あげる」
ただの終を。
そう願った心を冴えた光は鋭い刃にした。幾つもに分かたれて尚揺らがぬ軌跡に鋒を乗せた。
肩を貫き腕を落として、胴を穿っては双の骸とした。
これが救いかは知らない。そうであっても、そうでなくても殺すけれど。
だけれどせめてこれ以上には、命を奪うことがないように。
正確無比に計算し尽くされた一振りの光がまた、嘗ては無垢だったそれの首を落とした。
大成功
🔵🔵🔵
オズ・ケストナー
アヤカ(f01194)と
うん、止めよう
たすけてって言ってる
だいじょうぶ、まってて
たすけるからね
愉快な仲間を一人でも多く助けるために
武器受けでかばいながら
わたしたちのうしろにいてね
笑いかけたのは一瞬
目の前に集中
アヤカのカウンターを何度も見た
だから、わたしもっ
真似をして武器受けからの攻撃
あまり集まりすぎるようなら
かばった子に体を低くしてと声かけ
武器を大きく振り回し範囲攻撃
攻撃は通さない
受けきれなければかばう
オーラ防御が弾いた衝撃にも怯まず
前へと武器を振るって
ちょっとくらいケガしたってへいきだよ
もし片腕が動かなくなったら
片手で扱える武器を呼んで
しんぱいかけちゃうね
でもなおせるから、だいじょうぶだから
浮世・綾華
オズ(f01136)と
なあ、オズ
こいつらももう
殺したくなんてないはずだよな
――止めるぞ
残る愉快な仲間は助ける
逃げ道はきっとないんだろう
なら、背に庇うだけだ
鍵刀で攻撃を受止めカウンター狙い
彼らに攻撃が通らないようにしつつも
前線へ出る友人への手助けの為視野は広く
UCで複製するのは鳥籠
速さや反応速度を加味し
避けた先で攻撃を与えられるよう1体に付き2~3個で対応
オズの武器受けが間に合わない気配を察したら
できるだけ多くの鉄屑の刃を向かわせ敵の動きを食い止める
ばか。とは心の声
でも、こんな場所にお前以外呼べないと縋ったのは俺の方だから
ばかは多分、俺の方だ
彼を大切に想う人に恨まれないように
ちゃんと帰らないとな
●culvert
不気味に枝を伸ばした化樹木の虚で灯る、薄紫の鬼火がゆらゆらと風に吹かれた。
はためく音がする。それは、空を埋め尽くして泳いでいたはずの虹魚の鰭が毟り取られて、陽の上らぬ夜の深きに投げ捨てられた跡だ。
いつかの日に木漏れ陽を透り抜けて翻った、硝子の様な翼めいた四枚の鰭はもう温もりを帯びる事さえ許されない。
飛べなくなった魚達の頭を踏み潰すなど、木の実を摘むより易いことだ。
吊り上がった口端で笑うアンメリー・フレンズが次の獲物を探し、探すというにはあまりに短い時間でそれを定めた。
ひび割れたティーポットが必死に潜めた息をそっと吐いたのを、敏い非情の耳が聞き取った所為だ。
──ああ、まだいきていたの。
彼が、姿を歪める前の彼の声が、そう言った気がした。
振り上げられた手。歪の爪。
夜風を震わせる金属音が、ぎぃん、と。五爪を受け止めて弾き退けた。
返す手で鍵刀の一筋を喰わせた浮世・綾華(千日紅・f01194)と、その上背に滑り込む様にしたオズ・ケストナー(Ein Kinderspiel・f01136)がティーポットの半分を鬼火から隠す影になる。
「わたしたちのうしろにかくれていてね」
仔猫色の瞳で笑うオズが、瞬きの後その視線を夜に堕とされた国へと巡らせる。
きこえる。きこえる。声が聴こえる。
ささめきは未だ、声の形をしている。
「たすけてって、言ってる」
「なあ、オズ。こいつらももう、殺したくなんてないはずだよな」
──止めるぞ。
綾華の低い声を片耳で聴いて、オズは首肯く。
「うん。……止めよう」
だいじょうぶ、まってて。たすけるからね。
そんな風に呟く声がたとえ、揺れる鬼火の熱に遮られるのだとしても。
二人は途絶えずに済んだ一握の命を、背中に庇うことを止めなかった。
何度でも押し留め、跳ね飛ばして守った。
「こ、の……ッ!」
何人か嘗ての仲間を食らったのだろう、他に比べても巨躯のアンメリー・フレンズの爪を、それよりも二回り細い鍵刀で受け止めた綾華が噛み締めた歯の隙間に息を吐く。
「からだ、低くしてて!」
鈍色に光るガジェットが変化した巨大な槌を唸らせたオズが叫んだ。刹那、己の前に迫る何体かと、綾華と対峙する巨躯とを遠心力で殴り付ける。
再び槌を構えるまでの微かな間。
それを縫う様に振り翳された爪とかぱり開いた牙の覗く大口を、綾華の操る鉄屑の刀が貫いていく。
畳み掛ける別の爪撃は、今度はオズが確と構えた槌で弾く。綾華がそうして戦っていたのを何度となく見ていたから、同じような構えの其れで。
「……だいじょうぶ」
繊細な、硬質な、ひとと異なる肌が裂かれた服の向こうで罅割れている。けれどまだ、動けはする。
心配そうな、けれど非力ないのち達の視線には、オズは笑って応えた。
「ちょっとくらいケガしたってへいきだよ」
「──、……」
ばか、と。吐くのは心の裡だけにした。
けれどこんな場所にお前以外呼べないと縋ったのは俺の方だから。ばかはきっと。
綾華は目を伏せて、肺を一度空にする。
吸い込んだ風は凡そ生の香りがしない、嗄れ錆びた涯の夜匂。
こんな処に置いていきはしない。誰も彼も。
きっともう逃げ道なんて残ってやしない、こんな暗渠になど。
かしゃん。鉄の棘牙を生やした鳥籠が口を開ける。
からん。欠けた肌色の破片が落ちる。
がらん。金古の鍵が弾け飛ぶ。
それでも。
「オズ……!」
「へいき!」
──それでも。
片腕をだらりと下げたオズが、動く腕でガジェットを組み替えてブーメランを投擲する。
額から流れる赫血に片眼を塞がれた綾華が、浅い視界に影を捉えて斬り結ぶ。
明けない夜に取り残されないように。
ささめきに耳を塞ぐように。
「たすけるよ」
どこまでも柔らかな声を綴じ込めるように。
苦戦
🔵🔵🔴🔴🔴🔴
朝日奈・祈里
産まれながらの天才は
天才である事を求められた
故に、ぼくは天才であり続ける
…唯、魔力量が膨大で、濃度が濃かっただけなのに
求められれば与えるのが天才の責務だ
たすけて。
その声だけ聞けば、行くよ
身体強化魔法を流して、ルーンソードを振るう
天才故に、何処を切れば効率的かわかるんだ
…油断した?
来い、シルフ
全てを薙ぎ払え
……報酬の代償は奮発してやる
オーダー:生存者の保護
嗚呼、消えていく
楽しかった思い出達が
他愛のない日常が
研究室を飛び出して初めて触れた愛しい日々が
……あれ?
大事にしてたものって、なんだったっけ?
まあいい。
先を急ごう
戦いは、まだ続くから。
●
“──Help, ”
たすけて、と。
声がしたなら、ぼくは行くよ。
朝日奈・祈里(天才魔法使い・f21545)は息を吸って、吐いた。
夜色の吐息。生けるものの稀薄な温度を掻き混ぜて、その先の幽かな鬼火を揺らすだけの。
振って血を払うルーンソードは幾らか既に赤黒く染まり、濡れて、払い切れなかった。そうしてそれを祈里が見下ろす事もまた、なかった。
助けを求めるささめきは数え切れず、けれどそれは減る一方だった。
悲鳴に混じるそれは敵が叩き潰して。
愉しげな笑い声に混じるそれは、猟兵達の手によって綴じられていったからだ。
身体強化の魔法を継ぎ足しながら、祈里は進んだ。
声の導く侭。
声に応える為に。
「う、ぁ、……ぁ、だれ、か」
──今にも途切れそうだったそれに、手を伸ばす為に。
「助けに来た!」
アンメリー・フレンズの歪な影が、大振りの爪を振り上げるのを見た。
それを避ける事もできない、片足で茶色の犬を見た。
ならばそこに手を差し伸べるのは、天才たる己の努めだ。
だからもう、心配いらない。
異様に太った片腕を爪ごと斬り落とし、祈里は茶犬とアンメリー・フレンズの間に立つ。
横目にちらと見たその犬は、犬種で言うならゴールデンレトリバーといったところか。傷が深く立ち上がることは叶わないが、体格の良さで失血に耐え今までどうにか息を継いでいたようだった。
それも、長くは保たないだろう。察した祈里はけれども、声に出すことはなかった。表情に滲んでしまいそうだったのを、敵と対峙することで隠し果せた。
「……あなた、は」
「なに、通りすがりの天才だよ。少し目を伏せておいて」
呟き落としたその後には跳躍をひとつ。
己の倍はある巨躯へ、物怖じもせず向かっていく。
飛び込んで、ルーンソードを横に薙いでは、太い首を落とし損ねて歯噛みする。
逡巡。
瞬きの間。
それが、骨の砕ける音と咀嚼音で不意に途切れた。
「……あっ──」
別の個体が祈里の背後から迫り、その小さな背を力任せに爪で引き裂いていた。
目の前のそいつと似たような背丈。歪んだ大きな口からは今もがりごりと音がする。奥歯で磨り潰される肉骨の音がする。咀嚼の合間の口元には、血濡れた茶色の毛皮が張り付いている。
理解するのは容易かった。油断の穴埋めに、爪から逃れて距離を取るのも。
けれども剣を再び振るうのだけは、そう易くはなかった。
ならば。
「──来い、シルフ」
白い髪のひと房に緑が混じる。それが風に揺れる度、脳裏に揺蕩う記憶のひとつが泡沫に消えていく。
研究所を飛び出したあの日。愛しい日々。何気ない日常。
何気ない、なんてのは、無くしていないからそう思うのだ。
手を離れると解ればそれは途端に、掛け替えのないものに変わる。
そうして変わった事にすら気付く事なく、忘れたことさえ忘れていって。
……大切にしていたのって、何だっけ。
最後の一欠片は、悪戯な精霊が無邪気に振るった己のものと似る剣の鋒に裂かれて、風になった。
苦戦
🔵🔴🔴
セリオス・アリス
●
【双星】
おいアレス、行く前に言われたこと覚えてっか?
コイツの死体なんざ見たくねぇ
見たくはねぇが…俺は、コイツに
らしさを貫いて欲しいんだ
…はぁ、守りたいんだろアレス
らしくない事考える前にさっさと行けよ
ここは俺が抑えとくから
…二人して助けに入ったらどう止めるんだよ
ああもう!馬鹿アレス!
アレスも残らない様に舌打ちして着いて行く
【青星の盟約】攻撃力を上げて
攻撃は最大の防御だ
攻撃力を減らされるならそれ以上の力で叩く
ギリギリを見切り避け
カウンターで2回
炎の属性を剣に纏わせて斬りつける
アレスが助ける間くらいは引き付けれるか
様は目の届く範囲で守ればいいんだろ
残ってはいないと屁理屈で
敵を誘惑・挑発しながら戦う
アレクシス・ミラ
【双星】
●
ああ、覚えている
(…救いの声に応えれば骸の仲間入り、か…
どうにもならない事もあるというのも…分かっている
…理想だけでは救えない
…それでも、僕は…救えるかもしれない命があるのなら…)
…セリオス?
君、一人で残る気か!?
…っまた君は…自分を軽く見て…!
…尚更、君一人残す訳には行かないだろう
君も来い
心に誓うは【天誓の暁星】
ダッシュで敵と愉快な仲間の間にかばうように割り込み
盾でシールドバッシュ。怪力で押し返す
巻き込ないよう基本は盾で愉快な仲間を背にかばいながら戦う
この国のウサギ穴の場所を知っている愉快な仲間がいればそこまで連れて行こう
彼らが変化してしまう前に
…セリオスがまた無茶をしだす前に
●
たすけて、たすけて、たすけて。
噫。どちらからも聞こえる。
斬り伏せても。守っても。それは聞こえる。
──救いの声に応えれば骸の仲間入り、と女は言った。
一人くらいは助かるかもね、と女が笑った。
それは然程に前の事ではない。
「……なぁ、覚えてっか?」
だからセリオス・アリス(黒歌鳥・f09573)がそう尋ねた時、覚えている、とそう答えた。
「コイツの死体なんざ見たくねぇ。見たくはねぇが……俺は、コイツに『らしさ』を貫いて欲しいんだ」
ならばその為にどうするか。決まっている。
そうしてそれは、アレクシス・ミラ(夜明けの赤星・f14882)が握る剣を微かに鈍らせる。
理想だけでは救えない。
だけど、それでも。
(「……それでも、僕は……救えるかもしれない命があるのなら……」)
はぁ、とセリオスが息を吐いた。
「守りたいんだろ、アレス。らしくない事考える前にさっさと行けよ」
「……セリオス?」
彼ら二人が交戦する場所から少し離れて、小さな動物たちが身を寄せ合っているのが見えるのを顎で指す。
そこへ徐々に迫る一群もまた、同じく視界に入るのだ。
「ここは俺が抑えとくから」
「君、一人で残る気か!?」
「二人して助けに入ったらどうやって止めんだよ」
「……っまた君は……自分を軽く見て……!」
アレクシスが砂を噛むような顔をしたのを、セリオスが
片眉上げて見遣る。
今そういう話はしていない、と、言外にその表情が告げているから、逆に頭が冴えてきて。
「尚更、君一人残す訳には行かないだろう。君も来い」
「はぁ?」
隙を突いた一閃は、アンメリー・フレンズの一体の目を深く抉って鑪を踏ませる。
未だ数体を残すものの、一旦は退くようにして視界の端に見留めた生存者のところまで。
「〜〜ちッ、あぁもう! 馬鹿アレス! 自分で走るから引っ張んな!!」
「君に言われたくはないよ」
引き摺るようにしていたセリオスの片腕をぱっと離して、アレクシスは彼と足並みを揃える。とはいえ慣れた距離と呼吸だ、造作もない。
だから。辿り着くまでの数秒で戦略を組み直す。
策は無くとも術はある。この手に。
誓う心は【天誓の暁星】。必ず、守ると。
背中に聞くセリオスの歌が離れて行かないのを確かめてから、盾を構えてアレクシスが更に駆け出していく。
生存者の間に割って入り、盾で押し返す。
そこへ、
「──いと輝ける星よ、その煌めきを我が元へ」
【青星の盟約】を剣に宿したセリオスが押し入るように駆け抜けて、防ぐなんて頭から抜け落ちた斬撃を一体の胴に食らわせる。
それだってアレクシスにしてみれば、目の前での事だからまだ許せるのだ。
「この国のウサギ穴は何処に?」
アレクシスが口を開いた先は罅の入った卵達。彼らは少し口を噤むような沈黙の後、一斉に項垂れた仕草をする。
「……? どうしたんだ」
「ウサギ穴は、──」
卵に代わり、小さな声。怯えた様子のリスが一匹その小さな腕で指し示すのは、アレクシス達がやってきた方向とは真逆の、これから向かう目的地。この惨状を作り出したモノが居座る場所、そのもの。
「逃げようと、したんだよ。でも」
「みんなあいつが、食べちゃったんだ。みんな、食べられて」
「外から来たアリスもウサギも」
「いなくなっちゃった」
声を潜めて泣き出したリス達に、そういうことか、とアレクシスが浅い息を吐く。
明確な出入口があるなら、それを塞ぐのは最も効率がいい。
逃すこともないし、何も知らぬ訪問者はさぞ美味い食事となったことだろう。
「なんだよ、じゃあ話は早えじゃん」
ひらり。艶めいた黒髪がアレクシスの視界を横切る。
鬼火の幽けき灯を集める銀剣が風ごとひとつ、首を落とした。少し鉄錆の匂いがする吐息でセリオスが笑う。
「全員助けるために、全員倒す。簡単だろ」
「君はまたそうやって……!」
簡単な訳がない。彼が無茶をし出す前に住民達の安全を担保しておきたかったのに、それが出来なくなった。
だけれど彼の言う通り、他にやりようもない。
一面突破から殲滅へ思考を切り替える。剣を構え、切り開いて、安全圏を広げていくしか。
「──全く」
「ほぉら、な」
「嬉しそうにしないでくれ。これしかないだけだよ」
背中に命を負って。
君の声を聞いて。
途切れないように。
そんな風に戦う以外に、道がないだけだ。
成功
🔵🔵🔵🔵🔴🔴
第2章 集団戦
『はらぺこねこばるーん』
|
POW : I’m Hungry
【食欲】の感情を爆発させる事により、感情の強さに比例して、自身の身体サイズと戦闘能力が増大する。
SPD : I’m Angry
【口から刺し貫く棘】を放ち、自身からレベルm半径内の全員を高威力で無差別攻撃する。
WIZ : I’m Lonely
【犠牲になったアリス】の霊を召喚する。これは【武器】や【呪い】で攻撃する能力を持つ。
イラスト:透人
👑11
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵
|
種別『集団戦』のルール
記載された敵が「沢山」出現します(厳密に何体いるかは、書く場合も書かない場合もあります)。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
| 大成功 | 🔵🔵🔵 |
| 成功 | 🔵🔵🔴 |
| 苦戦 | 🔵🔴🔴 |
| 失敗 | 🔴🔴🔴 |
| 大失敗 | [評価なし] |
👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。
●
凡そ姿を消した──斃され果てた歪のオウガ。その向こうに、ゆらり、ふわり、動くものがあった。
足はない。故に動きは変則で、予測は不可能に近い。
遅れて姿を現したのも意味あるものではないかもしれない。
侵入者の疲弊を待っていた、その一点かもしれない。
ふら、ふわ。それらは夜風に時折ふらつくようにしながらやって来る。
黒猫の形の風船に疎らに付けた目口は皆一様に同じ表情で、揺らぎもせず、思考を読むことが難しい。広角を吊り上げた笑い口が哄笑を上げた。
『I’m Hungry』
『I’m Hungry』
『I’m Hungry』
むくり、と風船が膨張を始める。牙の生えた口が割れる。
腹が減ったと彼等は言う、喰わせろと其れが呼ばわる。
何を喰うかと言えば、其れはもう──侵入者以外には、無い。
ヌル・リリファ
●
さっきのみたいになりたくないのなら。アイギス……そのブレスレット、はなさないでね。
……わたしはマスターの人形(もの)だから。マスター以外にひとかけらもあげるわけにはいかない。
だから、貴方達にたべさせるものはない。あげられるのは「死」だけだよ。
さっきの戦いできずをおったひとがいるなら、ほのおをあげる。それはきずをいやしてふたたびたたかうためのちからをもたらすから。
のこったものは自分の強化に。それのもつ【破魔】のちからは、れいによくきく。それらを【属性攻撃】で強化、アリスのれいも本体もまとめてきりすてるよ。
……すでに犠牲にったひとたちにわたしができることはないから。もう一度、しずかにねむって。
●
わたしに出来ること。
壊すこと、終わらせること。
わたしに出来ないこと。
──……。
「そのブレスレット、はなさないでね」
── さっきのみたいになりたくないのなら。
ヌルはそう言って、助けた命を後ろに置いて歩みを進める。
アイギスなら、それを守れる。
もしかしたら最後まで。
息をひとつ、吸い込んだ。冷たい夜を、一雫。
「術式構築」
ぱっと羽根が散る。それは火花を纏う鳥の、不死鳥の羽搏き。
木の虚で揺れる鬼火をも照らしながら舞い上がって降りて、戦さ場に刃を振るう者たちを癒していく。
そうして、残ったひとひら。
揺れて、揺られて、解けて消えるは彼女の持つ魔杖の先へ。
湖の波紋めいて波打った変幻自在の魔力銀が、細身の剣へと姿を変えた。
『『『I’m Lonely』』』
((( さびしい )))
黒猫の口が言った。
「……そう」
銀の人形が目を閉じた。
黒猫が作った影が地に落ちて、浮かび上がって、ぬるりと這い出る少女の泥になる。
蠢くそれは声帯を持たず、空の口を空けて手を伸ばす。
三体の嘗てアリスだった泥が、助けを求めるように。
ああ、そう。
さびしいの。
(でも)
とん、と跳ねる人形の爪先。
千切れたオウガの腕を飛び越え、切り裂かれたなにかの胴体を掠め、もう何も抱きしめられない細い腕をこつんと蹴った。
あれもこれも、どれも。
わたしにできることはない。
「マスターのものであるわたしは、ゆびのかけらのひとつでも、あげるわけにはいかない」
なにも。
こころのひとつも。
だからただ「死」だけをあげる。
「もう一度、しずかにねむって」
ああ、でもそれは、祈りだろうか。願いだろうか。
ぱちり開いた瞼でしかと見る鋒。
人の形の泥が六つに分かれ、黒猫の風船は三つぱんと弾けた。
飛んだ泥の指が、なんにも届くこともなく、暗い空に消えていった。
大成功
🔵🔵🔵
--------------------------------------
※トミーウォーカーからのお知らせ
ここからはトミーウォーカーの「猫目みなも」が代筆します。完成までハイペースで執筆しますので、どうぞご参加をお願いします!
--------------------------------------
セリオス・アリス
【双星】
●
速い敵よりよっぽど厄介だな
けどまあ予測がつかないならつくようにしてやれば…
歌う前に、前に出る前に止められて
言い含められる
…確かに数が多いならそれが一番だ
わかってる
わかっちゃいるが
――ああ、クソ
【暁星の盟約】を歌い上げ
靴に風の魔力を送り加速する
一気に敵の前に躍り出てまず一閃
躱されるようなら続けて二回攻撃
多少の傷を気にせず深く入り込み
さあ、生きのいいご馳走はここだぞと挑発して誘う様に
こちらに引き付け、寄ってきたところを斬る
出るなと言われてるから出はしねえが
今回守るモノを抱えたアレスが少しでも傷つかねえ様に
つーか、ただ腹を空かせてるだけの敵に
アレスの血の一滴だってくれてやりたくねえんだよ!
アレクシス・ミラ
【双星】
●
あいつらの隙を看破するのは難しそうだな
この状況を打破するには殲滅しないといけないが…
僕達の背には愉快な仲間達もいるし
…セリオスにはなるべく無茶をして欲しくない
…セリオス
今から陣を展開する
君はあの歌(暁星の盟約)を歌ってくれ
これなら君の援護も出来るし、少しは傷も抑えられるはずだ
…いいね?
仲間達を背に護るように
【天聖光陣】を展開
皆、僕から離れないで!
セリオスも…ああ、また君は!
っ惹きつけるなら、僕の陣から絶対に出るなよ!!
近寄らせるものかと光柱を障壁の如く立ち昇らせ
敵が陣に入れば狙い撃ってセリオスの援護を
接近を許してしまったら基本は盾で防御し、殴る
いざとなれば…激痛耐性で身を挺して守ろう
黒猫の風船がゆらり、揺れる。そのことに僅かに目をすがめ、アレクシス・ミラ(赤暁の盾・f14882)は呟いた。
「あいつらの隙を看破するのは難しそうだな」
状況を動かすには、彼らを倒し切るほかない。けれど自分たちの背後には、守るべき愉快な仲間たちもいる。それに。
一歩踏み出そうとしたセリオス・アリス(青宵の剣・f09573)を留めるように片腕を開いて、アレクシスは低く囁いた。
「……セリオス」
セリオスは答えない。ただ足を止め、視線だけを返した彼に、アレクシスはやはり抑えたような声音で続ける。
「今から陣を展開する。君はあの歌を歌ってくれ」
いいね、と駄目を押すように言い添えれば、端正な顔が僅かに歪むのが見えた。舌打ちを呑み込むような音と共に、セリオスは絞るように声を吐き出す。
「わかってる。わかっちゃいるが――ああ、クソ」
嘘ではない。彼とてそのことはとうに分かっていた。敵の数がまだ多い今、アレクシスの策こそがおそらくは二人にとってほぼ最上だ。
足元に夜明けにも似た光が奔り、美しい陣が描かれていく。その光の柱に抱かれるようにしながら土を踏みしめ、セリオスは腹の底に力を込めた。そうしてその唇から、高らかに歌声が紡がれる。
「求むるは今! 拓くは明日! 闇夜に最果てが迫る時、青き星はその空に暁を見た――暁を知る星よ! 深奥に眠る光を我が手に!」
光が、歌が、風に変わる。駆け出した背中に、ああまた君はと声がぶつかる。振り切るように閃かせた剣が、ひとつの風船の片目を撫でた。ぎゃあと叫んで威嚇するよう歯を剥く風船猫に、セリオスはただ憎らしい程に美しい笑い顔を向けた。さあ来い。てめえのご馳走はここにいる。
おなかがすいた、と。囁くようでいて、それでいて喚くようにも聞こえる声が、周囲に満ち満ちていく。それと同時にむくむくと膨らんだ風船の体で、猫の群れは一斉にセリオスに飛び掛かろうとした。その黒く膨れた胴を、立ち上った光の柱が真下から鋭く貫き爆ぜさせる。
「っ惹きつけるなら、僕の陣から絶対に出るなよ!!」
「ハ、言われちゃしょーがねえなあ?」
諧謔の皮に包んでそう返しつつ、セリオスはアレクシスの援護に合わせて剣を振るい、或いは引き、押し寄せる敵の猛攻を巧みに捌いていく。無論、アレクシスの光柱がかなりの数を阻んでくれているとは言え、これだけの敵に押し寄せられて無傷でいられる筈もない。絡みつく紐や涎に濡れた牙を都度剣身や、或いは腕で払いながら、彼は浮かべておいた笑みをふと消す。きっと今この瞬間なら、アレクシスには見えないだろうから。
(「お前らなんかに、アレスの血の一滴だってくれてやるかよ」)
言葉の代わりに、刃を見舞う。そこへ狂いなく重ねられた光の一撃が、また一体の黒猫を象る悪意を打ち割った。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵
浮世・綾華
オズ(f01136)と
…ん?いや…ああ、さんきゅ
反射で汚れると返しそうになるも素直に受け取る
…――
頼りにしていると伝わればいい
前を見据え、肩を軽く叩いた
そう、頼りにしてるんだ、だから
オズに守られていることが分かる
俺がすべきことはなんだろうと考える
多分それは、彼を守る事ではないのだろう
――今は、の話、だけれど
属性・範囲攻撃で鬼火を高威力・広範囲に放ち猫を打つ
風船だろ、熱に強いとは思えねえ
オズがアリスの攻撃を受け止めてくれてる内に背後に迫り軽く一撃
こっちだよ
誘惑で引き付ければ、振り返る隙を狙って傷口を抉る
ごめんねというオズに思う
終わらせる
でもそれはアリスの為じゃない
お前をこれ以上、傷つけない為だ
オズ・ケストナー
アヤカ(f01194)と
わたしにはすぐ回復するほうほうはないから
ハンカチ差し出して
アヤカのかみかざり、あとでさがそうね
肩を叩かれたのがなんだかうれしくて
がんばるぞー
助けられた子たちはUCで私のブローチの中へ
わたしがいいよって言うまでここにいてね
アヤカもこの子たちも
だれも食べさせないよ
シュネーの蹴り技で攻撃
アヤカはしんぱいしてくれてる
シュネーといっしょに、だいじょうぶだよってところを見せるんだ
あの女の子は
…もういきていないアリスなんだね
なら、はやくねむらせよう
ごめんね
攻撃は武器受け
斧と体で受ける
アヤカには攻撃も呪いも届かせない
受け切れずともオーラ防御で相殺し
被害は最小限に
あとはアヤカにまかせるよ
差し出された皺ひとつないハンカチに、浮世・綾華(千日紅・f01194)は一度瞬いた。
「わたしには、すぐ回復するほうほうはないから」
屈託なく笑うオズ・ケストナー(Ein Kinderspiel・f01136)に、思わず『汚れてしまう』と返しそうになる。けれどその言葉を次の瞬きひとつで引っ込めて、代わりに綾華は碧い瞳に笑みを返した。
「いや……ああ、さんきゅ」
そのまま正面に向き直り、自分よりいくらか低い位置にある肩を掌で一度だけとんと打つ。それでいい。それだけでいい。頷いたオズの笑顔でわかる。この信頼は、伝わっている。
ただ一度、一秒にも満たない肩への温もりがこんなにも嬉しくて誇らしい。生身のヒトであるなら、胸が高鳴ると言い換えてもいい感情だろうか。自分に向けてか傍らの彼に向けてか、とにかくひとつ勢いよく頷いて、オズはそっと振り向き、膝を折った。
「わたしがいいよって言うまで、ここにいてね」
差し出したブローチに触れたリスたちの姿が、溶けるようにその中へ消えていく。『向こう』にあるのは、オズの好きなものばかりを沢山、沢山詰め込んだ美術館だ。せめてその美しい世界で、戦いが終わるまで安寧に。祈るようにブローチを大切にしまい込み、そうしてオズは自身の『姉』たる雪色の人形と共に立ち上がる。
「さ、行こう」
アヤカもこの子たちも、だれも食べさせない。そう跳ねるように飛び出していく華奢な身体を見送りながら、綾華はつと目を伏せた。
自分はオズに守られているのだと、はっきり分かる。ならば今、自分がすべきことは何かと言えば――彼を守ること、ではないのだろう。少なくとも、今この瞬間においては。
顔を上げる。黒猫の群れが浮かんでいる。吐き気すら呼び起こしそうなにやけ顔を真正面から睨んで、綾華はぱちりと扇を開く。風を送るようにひと煽ぎしたそれは、たちまち緋色に燃える鬼火の花と姿を変えて。
「――ほら、喰らいな」
猫の頭を形作る薄い皮膜が、急激に焼けて溶けては爆ぜる。涙のように垂れ落ちたなにかが土を打ち、そこから少女の影がひとつ、ふらりと立ち上がった。迷子のような足取りであちらへ歩き、こちらへ歩き、そうしてオズの元までやって来た『彼女』は、くいと顎を上げて呟いた。
「そう。さびしいの」
少女と目を合わせるような体勢で呟くオズを守るように、人形がすらりとした足を閃かせる。蹴りの一撃を受け、彼女の『弟』に襲い掛かろうとしていた黒猫が大きく後退した。
少女が頷く、手を伸べる。けれどその姿は、不気味にぬらつく泥でできている。もう生きていないのだと、かつての『アリス』の残滓でしかないのだと、その事実がなんとなく苦しい。今猟兵としてできるのは、オウガを討ち、彼女たちを眠らせてやることだけだ。
「ごめんね」
囁き、武器を振り上げる代わりに、オズは両腕を広げてみせる。泥の『アリス』を抱きしめた胸元で、がちりと不穏な音がした。
(「ごめんね、か」)
その言葉に、終わらせよう、と綾華は思う。死せるアリスのためではなく、他ならぬオズのために。回り込むように駆け出し、追っていた鍵刀を抜き放つ。こっちだよ、と囁けば、隙だらけのオズに狙いを定めていた風船がつられて振り向いた。
ぱちん、と泡の爆ぜるような音。黒き鍵が、そうして最後の黒猫を沈黙させた。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵
第3章 ボス戦
『トラウマン』
|
POW : 集まれ、心の闇
【周囲のアリスの負】の感情を爆発させる事により、感情の強さに比例して、自身の身体サイズと戦闘能力が増大する。
SPD : トラウマツールモード
【体の一部をアリスのトラウマを刺激する道具】に変形し、自身の【狙うアリスの記憶が一部戻ること】を代償に、自身の【攻撃力と相手の心を追い詰める力】を強化する。
WIZ : Hurtful cinema
戦闘力のない【が壊れない、アリスの心を映すスクリーン】を召喚する。自身が活躍や苦戦をする度、【思い出したくない記憶の断片を映す事】によって武器や防具がパワーアップする。
イラスト:純志
👑11
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔴
|
種別『ボス戦』のルール
記載された敵が「1体」出現します。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。
| 大成功 | 🔵🔵🔵 |
| 成功 | 🔵🔵🔴 |
| 苦戦 | 🔵🔴🔴 |
| 失敗 | 🔴🔴🔴 |
| 大失敗 | [評価なし] |
👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。
※このボスの宿敵主は
「💠リカルド・マスケラス」です。ボスは殺してもシナリオ終了後に蘇る可能性がありますが、宿敵主がボス戦に参加したかつシナリオが成功すると、とどめを刺す事ができます。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。
どう、どう、と森が揺れる。
暗闇の森の最奥に、その巨人は待ち構えていた。
粘土をこねて作ったような巨体に、感情を感じさせない目がふたつ。ぎざつく歯はおとぎ話の悪魔のようで、鋭い角と爪もそう。
森の奥まで辿り着いた猟兵たちを、オウガの胸に浮かんだ眼がじっと見る。
そして、オウガは大きく口を開いた。まるで、新たな馳走の到着を心から喜ぶように。
朝日奈・祈里
おまえがラスボスってやつ?
すべての元凶?
随分と胸糞の悪いことしてくれたな
たっぷり遊んでやろう
助けたかった、さっきのアリス
自己満足でも、それが天才の責務だから
お前を倒す事でそれが叶うのなら
ぼくはお前を倒すんだ
長杖を一閃
色とりどりの魔法陣をあの愚鈍そうなオウガの周りに敷き詰める
光の矢に音波
焔の渦、それからそれから
おまえが与えた痛みを、全て与えてやるよ
……救えるはずの命が、目の前で消えて行くなんて
トラウマもんだよ……
この先、大切な人達を救う為
ぼくさまはこれを乗り越える
さあ、悪夢から醒めよう
物語は、おしまい
悪は倒された
めでたし、めでたし
「おまえがラスボスってやつ? すべての元凶? 随分と胸糞の悪いことしてくれたな」
オウガの巨躯を見上げて、朝日奈・祈里(天才魔法使い・f21545)は一歩も引かずに言ってのける。のそりと身じろぎしたオウガが、こちらを見た。感情の見えない目を力いっぱい睨み付けながら、祈里は心のうちで思う。
(「助けたかった」)
けれど助けられなかった。たとえその願いが自己満足だとしても、それは天才の責務なのだと、そう『天才』を自認する少女は思う。
閃かせた長杖が、魔法を呼んでくる。色とりどりの魔法陣が、そうして闇の大地に咲き乱れる。そしてくるりと杖先を回せば、それらの陣は一斉に込められた魔法を吐き出した。
間断なく降り注いでオウガの皮膚を貫こうとする光の矢があれば、オウガの目の奥をぐるぐる揺さぶる音波を放つ陣もあり、また虹のように色を絶えず変えつつ輝く炎の渦を吐き出すものもある。それら全てに責め苛まれながら、ふとオウガはその身を揺さぶった。そして祈里の方へ無造作に差し出された手が、めきめきを音を立てて変形していく。
「……ほんとやめろよ、そういうの。トラウマもんだよ……」
その手が変じたのは肉体を抉るための武器ではなく、心を抉るための武器。あの一瞬をまざまざと思い起こさせる影絵を掌の上で繰り広げるオウガを前に、祈里は震える声を零した。歯を食い縛り、杖を握り締め、浮かんできそうな涙を無理矢理飲み下して、そうして小さな魔法使いは言い放つ。
「おまえが与えた痛みを、全て与えてやるよ」
この先、大切な人たちを必ずこの手で救う為にも。
今この戦いを越え、悪夢から覚めに行こう。
成功
🔵🔵🔴
浮世・綾華
オズ(f01136)と
オズといると、いつも思う
お前は本当にすごいな、と
同時に言いたくなる
さっきの傷は――?
なあ、もう頑張らなくていいよ、って
我儘でしかない彼の賢明さを蔑ろにする言葉は飲み込み
傷負う彼の言葉にただ頷いた
…余計なことを考える余裕はあるのか
今は自分に出来ることをするしかない
放つ咎力封じ
すれば身体の一部が変化する、壊れた鍵――
壊された片割れの器物に一瞬動きを止めて
けれど歯を食い縛り
っうぜぇ
冷えた視線で、敵を見据えた
それで、だから?
壊せないって?
……ざけんな
鍵刀構え切り裂いて
もうなくしたくないから
俺はそれを、壊していくよ
オズ
安堵込め名だけ紡ぎ
嗚呼、眩しい
笑み、その隙を狙ってまた立ち向かう
オズ・ケストナー
アヤカ(f01194)と
これで最後
もうすこしまっていて
とブローチ撫で
そしたらアヤカのケガも手当して
やりたいことがたくさんある
だから告げるのは一言だけ
アヤカ、いこう
斧を構えて駆ける
斧を振り下ろせば相手の一部が扉の形に
開けば「おとうさん」の倒れている扉
その形も重みも、わすれない
だけど
しってる
この扉のむこうにおとうさんはいないこと
この扉をこわさないと、斧があてられないこと
斧で扉を砕いて
さらに押し込む
アヤカっ
アヤカのきおくには、いたいもさむいもあるってしってる
もしアヤカにそれを見せてるなら
はやくたおさなくちゃ
ガジェットショータイム
暗闇に灯りが浮かぶ
アヤカのまわりにはあたたかな光
こっちは、目つぶしだよっ
最後の敵を前に、オズ・ケストナー(Ein Kinderspiel・f01136)は繊細な指先でブローチをやさしく撫でる。もうすこしまっていて、と。
オウガを倒して、ブローチの向こう側で待つ彼らを助けて、そうしたらアヤカのケガも手当して、それから――やりたいことは、いくらでもある。
だからこそ多くの言葉は胸にしまって、オズは傍らの浮世・綾華(千日紅・f01194)をちらとだけ見る。
「アヤカ」
いこう、と。ただそれだけを告げた彼に、綾華は僅かに押し黙った。
(「お前は本当にすごいな」)
彼といると、いつもそう思う。そして今は、そこにもうひとつ問いたい言葉が重なる。
ミレナリィドールであるオズの身体は、先の戦いであちこちひび割れ、砕け、内なる機巧を森の空気に晒している。そこに痛みとも呼ぶべき不具合が、ないはずもないのに。
(「なあ、もう――」)
舌の上で形を与えかけた言葉を、首を振って飲み下す。これは彼への我儘で、そして侮辱ですらある。仔猫を思わせる澄んだ瞳にしっかとひとつ頷き返して、綾華は細く息を吸う。ほかごとを考える余裕は、多分ない。その頷きに安堵したように淡く笑って、オズは身の丈ほどもある斧を構え、駆け出した。
突進の勢いのまま、オウガの腹を切り裂くように縦一文字に振り下ろす。瞬間、その腹の肉がみしりと軋み、瞬く間に影でできた扉と化した。オズにとっては、確かに覚えのある扉だ。――開けば、そこに『おとうさん』が倒れているであろう扉。
けれどオズは知っている。そこに本物の『おとうさん』はいない。そしてこの扉を破らなければ、オウガを倒すことなどできない。掌の力を敢えてほんの少しだけ緩め、、斧が止まることのないよう重力に委ねるべきを委ねる。そうして吸い込まれた刃が、真正面から影の扉を叩き割った。
「うぜぇな……」
細い背中にやはりどこか痛ましげな目をやった後、綾華は片手を閃かせた。ユーベルコードによって編まれた手枷が、猿轡が、縄が、オウガの肉体と力を戒めんと舞い踊る。それらがオウガの肌に触れる直前、一瞬にして綾華の目に壊れた鍵を象る腕が映った。
「ッ」
「アヤカ……っ!」
僅かに狂った制御が、猿轡を地に落とす。縄にその身を縛られ、手枷で腕の自由を奪われ、けれどそれすら敵の心を突き刺す得物に変えるかのように、オウガは形を変えた腕を見せつけるように振っている。その動きに、綾華の視線がすうと冷えた。
「それで、だから? 壊せないって? ……ざけんな」
踏み込み、オズの隣まで一気に走る。彼と同じように、一文字の軌跡で鍵刀を振り下ろす。まるで水面に巨石を投げ落としたような音と共に、折れた鍵のふりをしていたものが斬り落とされ、影の糸を引きながら冷たい土にくちづける。
視線を交わし、ふたりは互いの名だけを呼び交わす。周囲に浮かび上がるのは、オズが呼び出したガジェットの灯。味方には心溶かす火を、敵には目を眩ます光を。幾つものランプ型のガジェットが宙に浮く中、そうしてオズと綾華は再び得物をしかと構えた。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵
字無・さや
遅れてすまねえが斬りに来たぜ。バケモノをよ。
死んじまったやつはまあなんだ……。
晴れる憂さもねえだろうが、とりあえず奴さんは刻んどいてやるからよ。
化けて出るンじゃねえぞ。そんときゃおめえもぶった斬ってやっからな。
……さてバケモンよ。闘ろうぜ。
尤も、そっち何やろうと俺様はそれより速くてめえが動かなくなるまで斬り刻み続けるだけだがな!
いいか! この俺様に! 斬れねえモンなんざ、ねえんだよ!!
殺気をぶつけ、敵のひるみを見越して串刺し、部位破壊とありったけの殺傷手段を叩き込みつつ、その傷口をえぐる。敵の攻撃を見切り、最小限の回避と激痛耐性で強引に堪えながら八十禍津の怒濤の勢いで攻め立て続ける。
閃いた銀が、闇を裂いた。刃の主は、まだ年端もいかぬ少女――字無・さや(只の“鞘”・f26730)。けれど幼い容貌や身体突きには不釣り合いな、鋼のような視線をオウガへと向けて、少女は低い声を零す。
「遅れてすまねえが斬りに来たぜ。バケモノをよ」
既に死んでしまった者を、今更救うことなどできない。晴れる憂さなどある筈もない。それでも、今目の前の化け物を斬ることはできる。
構えた刃の向こうで、オウガの胸の眼がねっとりとこちらを見た。ふん、と鼻を鳴らして、妖剣士の少女は土を蹴る。
「闘ろうぜ」
影の刃が迫り来るのも意に介さずに、踏み込み、駆け出し、斬りかかる。風に溶けるように疾った刃が、常人ならざる殺気に圧されて思わず足を引いたオウガのその膝を、まずはぐさりと貫き抉る。捻り上げるように抜いた刃は、今度は右から、或いは左から、相手の手足の繋ぎ目や、また肉の柔らかい部分を狙って切り刻む。
オウガも少女の柔肉を引き裂き、千切り、その絶叫ごと喰らってやろうと血色の爪を振り立てるけれど、深々と刺された傷の痛みすら強引に踏み越え、さやは手の中の妖刀を更に速く、速く振るい続ける。
「いいか! この俺様に! 斬れねえモンなんざ、ねえんだよ!!」
咆哮と共に逆袈裟に振り上げた刀が、オウガの胸にある目玉を、そしてさらにその上にあるものを、ずらりとなぞって駆け上がる。ギ、と鋸のような歯の間から声が漏れるのが聞こえた。刃の勢いを最後まで殺すことなく斬り上げきって、最後に分厚い腹を裸足で蹴って、少女は血濡れた刃を肉の中から引き抜いた。
さながら血のように、粘り気をもった影が頭上から降り注ぐ。注いだ分だけ、オウガの身体がぐずぐずと崩れ、消えていく。やがてそれが止んだとき、少女は抜身の刃を握ったままで、ふと振り返って呟いた。
「……そら、刻んどいてやったぞ。おめえら、せいぜい化けて出るンじゃねえぞ」
答えるように、梢がさやりと揺れて――それきり、森は静寂に包まれた。
大成功
🔵🔵🔵