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絶望のヴェールの花嫁

#ダークセイヴァー

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#ダークセイヴァー


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●逃亡する花嫁
 鬱蒼とした茂みの中を、白いヴェールとドレスをまとう若い女性が駆けていた。
 喉の奥からこぼれる苦しげな呼吸音がすら恐ろしくて口を閉ざそうとするけれど、酸素の足りない体は意識を裏切ってあえぐように開閉するのを止めてくれない。
 一体どのくらい走ったのか。
 若い女性の足ではそう距離を走ることなどできはしない。ましてや婚礼衣装を纏っていては尚更だ。
 だが今は距離や時間はさほど重要ではなかった。
 村からは、どこへ行くにも関所を通らねばならない。
 領主に命じてあの恐ろしい『お館様』が設けさせた関所がある限り、ただ走っただけで逃げられることなどないのだから。
 もちろん、いつか関所を越える必要はあるが、いま彼女にとって重要なのは見つからないことだった。
「どこだ、どこに行った!」
「探せ、そう遠くまでは行っていないはずだ」
 聞こえる声に自然と身が竦む。
 まだ大丈夫。声は遠い。見つかってはいない。
 己に言い聞かせ心を落ち着け、慎重に慎重に、音が漏れないように浅い呼吸を繰り返して整える。
 声がするならば、無闇に走るより息を殺し気配を殺し音を殺して進む必要がある。
 布の多い白いドレスが邪魔だ。顔の前まで垂れる白いヴェールが邪魔だ。
 痕跡となるから捨て置くわけにもいかず、むしりとって握りこむしかない。
 いつか愛する人と共に生きる誓いをたてる時に着るのだと、憧れと夢を抱いていた筈のそれが、今はこんなにも忌々しい。
 身に纏う上等な布地で仕立てられたドレスには不似合いな、簡素で安っぽいネックレスを握り混む。
 たすけて。
 声にならぬ声で、愛しい人へと祈り、願う。
 本来なら、白いドレスをまとうのは彼の隣に立つ時だったのに。
 もっと喜びに溢れて袖を通すはずだったのに。
 いま彼女を覆うのは、絶望という名のヴェール。
 身に纏う衣装をむしりとり脱ぎ捨てても、まといつく絶望は決して彼女を逃しはしない――。

●絶望の底に、せめて光を
「頼みたいことがある」
 グリモアベースに集う猟兵達に、蓮賀・蓮也(人間のガジェッティア・f01921)は声をかけていく。
 いつも不機嫌そうな顔をしている男ではあるのだが、今日は不機嫌というよりも思い詰めたように表情が暗い。
「ダークセイヴァーで胸くそ悪い予知が見えてな。……できるなら、なんとかしてやってほしい」

 行き先はダークセイヴァーにある小さな村。
 そこではここ数年、領主にすら命令できる『お館様』とやらから求めがある度に若い娘を花嫁として差し出してきた。
 半年から一年ほどで次を求められる女性が本当の花嫁でなどあるはずもなく、実際はただの生贄なのだろう。
 そしてまたも『お館様』から求めがあったというわけだ。
 白羽の矢がたったのは、シエナという若い娘。
 両親は既に亡く、親戚の協力を得ながら一人で暮らしていたらしい。
 結婚資金を貯めるために出稼ぎに行っている婚約者が戻れば結婚して、共に暮らす予定だったそうだ。
 生贄にするには丁度よかったのだろう。
 彼女の親戚は自分の娘を守るため、彼女を差し出すことに異論を唱えなかった。
 そうして本人に知らされぬまま生贄は決められ、彼女は罠にかけられることとなる。
 商売が順調にいって金を貯めた婚約者が実は数日前に戻り、村の外れにある儀式場で待っていると告げて、そしてドレスは親戚からの結婚の祝いだと言って彼女に花嫁衣装を着せて連れ出した。
「だが、村人の思惑と嘘を知ったシエナは逃亡。村人は必死に彼女を探しているという状況だ」
 苦々しく舌打ちをした蓮也は、猟兵達に目を向ける。
「恐らく、この『お館様』とやらはオブリビオンだ」
 どこに居るのか、どういう人物なのかは分かっていないが、花嫁を迎えに来る予定があるのなら、花嫁を確保すれば敵への道が見える可能性が高い。
「最終目標はこのオブリビオンの撃破だが、まずはこの哀れな花嫁を助け出してやってほしい」
 そう言って蓮也は猟兵達に頭を下げ、テレポートの準備に入った。


江戸川壱号
 あけましておめでとうございます、江戸川です。
 本年もよろしくお願い致します。

 新年一発目としては辛気くさいですがシリアス気味のシナリオをお届けします。
 状況はOPにある通りですがまとめ。

●最終目標:オブリビオンと思われる『お館様』の撃破
●第一章の目標:花嫁の確保
●現場周辺の状況:
 村はそこそこの規模ですが、隣村や隣街に行くには必ず関所を通らなければいけない、閉じられた土地です。
 村のあたりは草原と田畑が中心だが、周囲は越えるのが困難な高い山に囲まれていて、関所のない場所は道もなく、人があまりよりつきません。
 花嫁が村から逃亡して3時間ほどが経過。鬱蒼とした茂みにいるようですが、詳細な場所は分かっていません。
 そう遠くへは行っていませんが、広い土地でもないので見つかるのは時間の問題でしょう。

 どうか花嫁を助けてあげてください。
 よろしくお願いします。
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第1章 冒険 『消えた花嫁』

POW   :    捜索隊を押し留める。

SPD   :    手当たり次第にいろいろな場所に出向いてみる。

WIZ   :    手がかりを元に居場所を推理する。

👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​

種別『冒険』のルール
「POW・SPD・WIZ」の能力値別に書かれた「この章でできる行動の例」を参考にしつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


●行く手を阻むは
 村人達は、村から関所へと続く道を中心に少しずつ範囲を広げながらシエナを探していた。
 捜索隊のほとんどが男衆と老人達なのは、万が一にでも自分の妻や娘を間違えて連れていかれないためなのだろう。
「まだ見つからんのか!」
「女の足だ、そう遠くには行ってないだろ。なにしてる!」
「つってもなぁ、林の中は探し尽くしたぞ」
「まさかあの岩山を越えようとはせんだろ」
「関所で待ってりゃ、いずれ来るだろ」
「ばか、その前に『お館様』からお迎えが来たらどうすんだ!」
 言い合いながら捜索していた男達は、一人の放ったその言葉に顔色を変え、やる気のなさそうだった男達までが途端に真剣な顔になっていく。
 蟻一匹見逃さぬと言わんばかり、目を皿のようにしてあちこちを見て回る者。時間が惜しいと走り出す者。様々であったが、彼らにとって『お館様』はよほど恐ろしい存在らしい。
アリア・ティアラリード
「ここから先は……――――通行止めです…!」

茂みの中のシエナさんを追い回す探索隊
大木の陰から彼らの前に立ちはだかります!

今日のお姉ちゃんはとても怒っています…
誰何されても、こんな人達に答える名などありません
答えの代わりに、抜く手も見せず【先制攻撃】の『無稽剣』
凄まじい【怪力】で左から右に、右から左に相手を瞬断する【二回攻撃】はまさに閃光!

「乙女の一途な想いを踏みにじるなんて、今日のお姉ちゃんは本気です!本気で怒ってるんです!!」

崩れ落ちる探索隊の向こう、【覚悟】と【気合い】に満ちた憤怒の化身が仁王立ち
ギラギラと眩く、刀身も荒れ狂う業火の如く乱れたフォースセイバーが彼らに襲い掛かります!!


柊・雄鷹
幸せになろうとしてる女の子
そんな子が不幸になるなんて、許せる訳ないわな
女の子は、陽だまりの下で笑っとったらえぇねん
……ワイ、これでも怒っとるから
最初から全力で行くわ、すまんな

残念やけど、かくれんぼの鬼はホンマ苦手やねん
目に入った捜索隊を、端から潰させてもらおか
捜索隊も悪なんか、ただ脅されてるだけなんかワイには分からん
けどな、ワイ頭悪いねん
だから一律、女の子を怖がらせたってことで、ここで倒れて詫びてくれや

メイン武器はホークダガーやけど、敵が面倒やったら
凍刃の鷹の抜刀も止む無し、やなぁ
これ、ワイのお手ても凍るからあんま好きちゃうんやけど
まぁ、我儘は言ってられんか
好きなだけ凍ってて、どうぞ



だが、恐怖から逃れようと必死な彼らの前に、立ちはだかる者がいた。
「ここから先は……通行止めです……!」
 シエナを探して木の陰を覗き込もうとしていた男の前に進み出たのは、アリア・ティアラリード(エトワールシュバリエ・f04271)である。
「!? な……っ、誰だテメェ!?」
 驚愕と共に誰何の声をあげる男の言葉に答えることなく、アリアは抜く手も見せずに愛用のフォースセイバーを抜き打った。
 無手からの目にも止まらぬ抜き打ちに、ただの村人が反応できるはずもない。瞬断と言っていい速さで切り捨てると、何が起きたのかまだ把握できていない周囲に居た捜索隊を左から右、右から左と、次々に切っていく。
 見た目に似合わぬ怪力から繰り出される二連撃が作る剣筋は、まるで閃光のよう。
「乙女の一途な想いを踏みにじるなんて、今日のお姉ちゃんは本気です! 本気で怒ってるんです!!」
 その鬼気迫るまでの剣気は、怒り故だ。
 婚約者を健気に待つ女性の気持ちを踏みにじって生贄の花嫁として差し出すなど、困った人を放っておけないアリアにとって、とても許せるものではない。
 ここから一歩たりとて進ませぬ覚悟で大木の傍らに堂々と立つアリアは、その怒りを気迫に変えて、業火の化身の如くフォースセイバーで捜索隊へと襲い掛かっていった。
「ひぃ……っ。なんだこの女……!?」
「花嫁が逃げたことが、もう知られたのか!?」
「いや、あの物言い……シエナの知り合いか?」
「そんなのどうでもいい、逃げろ! 殺されるぞ!」
 アリアの近くに居た捜索隊は混乱に陥り、とてもシエナを探すどころではない。
 右往左往して逃げ惑うも、あっという間に追いつかれ、視認すら困難な刃で切られていく。
 さすがに命まで奪うつもりはないようだが、混乱のただ中にある彼らにとって恐怖が和らぐわけでもなかった。
「た、頼む。許してくれ……!」
「なんなんだよっ、なんで、こんな……!」
「俺たちが何をしたってんだ!」
「シエナのことなら、仕方ないだろっ? 誰かを差し出さなきゃ全員が殺されるんだ!」
 遂にはへたりこみ、あるいは這いつくばって命乞いを始める村人も出たが、彼らの言葉はアリアの怒りを増やしこそすれ、鎮める効果はなく。
 捜索隊を追っていたもう一人の猟兵の怒りを鎮めることもまた、できなかったのだった。
「……っ!?」
 さらに命乞いの言葉を口にしようとした村人の頬を、ダガーが掠めていく。
 放ったのは、アリアと同じく捜索隊を止めにきた柊・雄鷹(sky jumper・f00985)だ。
「んー。アンタらにも言い分があるんやろうけど、ほんとの悪なんか、脅されてるだけなんか、ワイには分からんしな-」
 緊迫した空気に不似合いなほど、軽い口調。やれやれとでも言いたげな、困ったようにも聞こえる声。 
 和んでもいい筈のそれに、けれど村人達はそれに安堵などできなかった。
 ダガーを投げたのは彼で。
 そして彼の手には既に、別の武器が握られているのだから。
「お、脅されてるんだ! 若い女を花嫁として差し出さないと、皆殺しにされちまうんだ、本当だ!」
 それでもアリアよりは与しやすいと思ったのか、村人の一人が這いずって雄鷹へと近づいていく。
「うんうん。おっちゃんらも大変なんやなぁ」
 雄鷹は言い募る言葉に何度か頷いて同情を示すが、その後で見せた笑顔は目が笑っていない。
「けどな、ワイ頭悪いねん。だから一律、女の子を怖がらせたってことで、ここで倒れて詫びてくれや」
 ぽん、と村人の肩を叩くと、触れたものを凍らせるほどの冷気を纏う刃を、もう片方の手で無防備な脇腹へと突き立てる。
 冷気は敵だけでなく、握り手である雄鷹の手をも凍らせるほどのものだけに、あまり使いたくはない手段だったが、我が儘は言っていられない。
 端からは飄々としていつも通りに見えた雄鷹だが、この話を聞いた時からずっと、静かに怒っていたのだ。
 幸せになろうとしている女の子を、不幸に陥れる。そんなことを許せるはずがなかった。
(「女の子は、陽だまりの下で笑っとったらえぇねん」)
 だから、それを妨げるような奴らなら。
「好きだけ凍ってて、どうぞ」
 全力で、片っ端から潰していかなければ。
 凍りついていく手を省みることなく、次々とシエナを追う村人を凍らせていく雄鷹の髪で、まるでお陽さまのような髪飾りが揺れた。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​

カイム・クローバー
ヴェールを着込んだ花嫁ねぇ。祝福されるはずのモンなんだろうけど、この世界じゃそれすら生贄のカテゴリーに含まれるってんだから俺の故郷ながら、ロクなもんじゃねぇな。けどま、意外と救いの手はあるもんだぜ?
SPD判定で色んな場所に出向いてみるか。とはいえ、完全に当てずっぽうってのも探索に時間食い過ぎるし…【情報収集】と【追跡】、更にユーベルコードでシエナの痕跡を探してみるぜ。身一つで草原と田畑を移動したっつーんなら、草の倒れた向きや足跡、歩幅、そんなモンで探索出来ねーかな?逃げ出して三時間だっけ?体力的にもそろそろキツイはずだし、見つけたら水と簡単な食料…この世界の干し肉ぐらいは差し入れるとするかな。


エミーリア・ソイニンヴァーラ
SPDで行動

…わふぅ…これはひどいです…
『お館様』という存在にも、シエナさんをだました親戚の方々にも、文句が言いたいです。
…けど、それは後回しで。
いまはシエナさんを、そして重婚上等! 花嫁ハーレム構築中なう!…な、『お館様』をなんとかしましょう!

…シエナさん以外の、囚われた他の花嫁さんたちも、救助できるといいな…

わたしには《第六感5》《情報収集2》《目立たない2》という技能があるので、村人さんたちから隠れつつ、痕跡からの情報収集が1割と、直感が9割の推理で、シエナさんを探したいと思います!

わたしの野生の勘が、こっちだとささやくのです…よく外れる勘ですがっ! わふーっ!


リン・イスハガル
【SPD】で行動。
彼女がいきそうな人の目が付かないような場所を最初に検討付けし、足跡や痕跡などが無いか探してみる。
「そう、遠くには、行ってないような、気はするが…茂みの中に、隠れそうな箇所とかない、かな」
それでも見つからないようなら、辺りを走り回ったり、木に登ったり、若干高い所から辺りを見下ろしてみたりして、動く人の姿がないか確認する。
他の猟兵たちと協力して、情報をお互いに渡しあったりして、徐々に花嫁が居るであろう個所に目星をつけていきたい。
「…わたしたち、敵じゃない、どうやって伝えよう…かな」
人見知り故に、そんな事を考えながら探し回ります。


宮落・ライア
SPD】手当たり次第とは言ってもある程度は絞り込もうかな。
捜索隊の先、追っている者達の先、さらに木々の生い茂っている場所を手当たり次第に探す。
身体機能を【侵食加速】で底上げし痛みは【激痛耐性】で押しとどめる。
後は【ダッシュ】で駆け、障害物は【ジャンプ】で突っ切る。
探す者達の声の位置を頼りに、【野生の感】で感覚的に「その場合どのように逃げるか」を思い起こす。

ヒーローが来た!
けれど、大団円はもう無理だよね…。
オブリビオンは倒せても…シエナと村人の確執はもう消えないんだから。
けれど、だからこそ最悪の結果にはしない。
例え何度も行われて来た事だとしても、この一度は防げるんだから!



●花嫁を探せ
 アリアや雄鷹達が捜索隊を無力化している頃、シエナを探す猟兵達もまた、協力しつつもそれぞれに情報を集め、手掛かりを探していた。
 まず、シエナが逃げ出したという儀式場は、村のはずれというだけあって周囲に住居もなく閑散とした場所だった。
 農地に向かないため、村の祭りなどの行事に使われていたのだろう。大きな石を含んだ固い地面が広場を覆い、広場の北――村から見て奥には、高い岩山が連なっていた。
 岩山は見るからに峻険で何の備えもなく登れそうなものではないが、広場との間には細長い林が東西に広がっている。
 東側は田畑が多く街道も近い場所を通る一方で、西側は岩山に沿って段々と細くなっていき、周囲も村の広場と同じような石まじりの固い地面らしく、手入れのされていない草地や荒れ地が続くだけのようだった。
 このような村の周囲の状況を調べてきたのは、目立たず動くことが得意だというエミーリア・ソイニンヴァーラ(おひさま笑顔♪・f06592)である。
 エミーリアは、シエナをだました親戚にも、そうせざるを得ない状況を作った『お館様』とやらにも、文句を言ってやりたかった。
(「わふぅ……。だって、こんなのは、ひどいです……」)
 けれど今はシエナを探す方が重要だと判断して、情報と痕跡を探そうと村の近くを走り回ったのだ。
 あくまで、ちょっと後回しにするだけ。シエナを助けられたら、絶対に重婚上等な『お館様』をなんとかするのだという決意はしっかりと胸に抱いている。
(「シエナさん以外の、囚われた他の花嫁さんたちも、救助できるといいな……」)
 半年から一年ほどの間をおいて『次』を求められる、戻ってこない花嫁。その行く末は、恐らくは絶望的なものなのだろうけれど。
 ともあれ、まずは今まさに危機が迫っている一人を助けなくては。
 気を取り直したエミーリアの横では、彼女が調べてきた情報をもとに、リン・イスハガル(幼き凶星・f02495)がシエナの逃げた先を検討していた。
「そう、遠くには、行ってないような、気はするが……」
 ここから逃げ出したのなら、まずは林へ逃げ込んだはずだ。ドレスで岩山を登れるとは思えないので、そこからは東西のどちらかへ逃げたに違いない。
 東は田畑が多く、さらに街道が近いという。
 人目を避けるならば、西側へ逃れた可能性の方が高いのではないか。
 リンはそう見当を付けると、自分の考えを他の猟兵達にも伝えて、手分けをして西側を重点的に探すことにした。
「茂みの中に、隠れそうな箇所とかない、かな」
 見晴らしの良さそうな木に登り、草地の中や、荒れ地にところどころ存在する茂みや木々の間に、動く人影がないかと注意深く目を凝らす。
 探しながらも、リンはその先にも考えを広げていく。
 シエナは逃げ、隠れているのだ。見つかったとして、すんなりと自分達を助けに来たと信じてくれるだろうか。
「……わたしたち、敵じゃない、どうやって伝えよう……かな」
 自らも人見知りだからこそ、周りが敵だらけの中で不意に伸ばされた他人の助けの手を、信じられるだろうかという懸念に思い至ったのだ。
 見つけだし、助けたい。
 けれど。差し伸べた手を、彼女は握ってくれるだろうか?
 目までを覆い隠す前髪をそっと抑えて、リンは願うようにもう片方の手をぎゅっと握った。
「わふーっ! きっとこっちです。わたしのわたしの野生の勘が、こっちだとささやくのです……っ」
 と、不安を吹き飛ばすようなエミーリアの明るい声が届く。
「よく外れる勘ですがっ!」
 付け足された言葉に少しばかり笑みを誘われてリンは木を滑りおりていくが、その横を疾風が駆け抜けていった。
「あっちですね!」
「わふっ!?」
 長い前髪の下で目を丸くするリンとエミーリアの横を抜け、指し示された方へ走っていったのは宮落・ライア(英雄こそが守り手!(志望)・f05053)である。
 ポニーテールにした銀髪をなびかせ、身を低くして走るライアは、足場の悪さも障害物も、ものともせずに走っていた。
 己に託された違えられるぬ期待、内に響く祈り、己を蝕むほどのあまりに強い決意により身体機能を高めたライアは、内なる痛みを堪えながら、強化された己の体を巧みに操って林と荒れ地を抜けていく。
 草地を飛び越え、枝をくぐり、ひたすらに走るのは助けを待つ者がいるからだ。
 ヒーローを待つ人がいる限り、ライアは走り続けるだろう。
 既に村人とシエナの確執は消えることはなく、ヒーローのもたらす大団円は望めないとしても。だからこそ、最悪の結果にだけはしない。
(「例え何度も行われて来た事だとしても、この一度は防げるんだから!」)
 これを最後とするのだ。
 その想いで、ライアに傷みに耐えて全身を動かしていく。
 ヒーローの助けを待つ人のところへと、一直線に。

●差し込んだ光
「祝福されるはずの花嫁すら生贄のカテゴリーってんだから、俺の故郷ながらロクなもんじゃねぇな」
 カイム・クローバー(人間のシーフ・f08018)は毒づきながら、林の西側を慎重に進んでいた。
 現場の状況から可能性の高い西側をあたることになったが、それでも範囲が広すぎるため、ユーベルコード『陰に潜む自身』で作り出したドッペルゲンガーも駆使しての捜索である。
 仕事の手数と速さは二倍、とはいえ闇雲に探していては埒が明かない。
 培った経験を元にドッペルゲンガーと手分けをして草の倒れた向きや足跡といった残されている情報を探し、ドレスをまとった若い女性ということも考慮して歩幅を計算。方向と距離を割り出していく。
 地道な捜索は骨の折れるものではあったが、残された痕跡の間隔が短くなってきていることから、シエナが近いと知れた。
(「恐らく、この辺りのはずなんだが……」)
 背の高い茂みが一部、不自然に折れている。その先の土には不自然なヒールの跡。
 ところどころ跡が乱れて引きずったように見えるのは、疲れからからか、怪我でもしたのか。
 足跡を辿れば、荒れ地にぽつんと立つ木の陰に、今は土汚れのついた白い布が見えた。
 逃亡から三時間。そろそろ体力的にも限界だろう。
 そのために水と簡単な食料を持ってきてはいるが、果たしてすんなりと受け取ってくれるかどうか。
 シエナは逃亡者だ。相手が村人でなかったとしても逃げようとするだろう。
 気配を消し音を消し、なるべく警戒されないよう、ゆっくり歩を進めていくカイムが、どう声をかけたものかと試案していると――。
 不意に、頭上を影が過ぎった。
 影はカイムを飛び越え、木の裏に隠れていたであろうシエナの前に直接降り立つ。
「……っ」
 シエナが息を飲み、体を堅くしたのが分かった。
「ヒーローが来たよ!」
 花嫁の前に降り立ったのは、息をきらし、汗だくになったライアであった。
 度肝を抜かれつつ、カイムはシエナが呆気にとられている間に、何かあればすぐ確保できるような位置に立つ。
 そしてそこへ丁度よく、リンとエミーリアも辿り着いた。
「あの、怖がらない、で……。わたしたち……助けに、きた」
「わふー! 安心してください! 村の人からも、お館様とやらからも、わたしたちが守りますから!」
 裾を泥だらけにした花嫁衣装をまとうシエナは、驚愕に見開いていた目を何度か瞬き――集う猟兵達をゆっくりと順番に見つめると、少しずつではあるが、強張った体の力を抜いていく。
「ほん……とうに……?」
 ヴェールを握りしめた手が、震えていた。
 信じたいけれど、信じ切れない。そんな心の動きが分かって、ライアが力強く頷く。
「もちろん!」
 なんの躊躇もなく返った答えに、嘘はないと思えたのだろうか。
 シエナの瞳からは堪えきれなかったように涙が一粒、零れ落ちていた。
「……どう、して……」
 緊張の糸がきれたのか、次から次へと涙はこぼれて、花嫁の顔を濡らしていく。
 そんなシエナに、参ったと言いたげに頭をかきながら、カイムが用意していた水を差し出した。
「あー……。ここは、ロクでもねぇ世界だけどな。意外と救いの手ってのは、あるもんだぜ」
 差し出された水とカイムを交互に見てから、シエナはまだ涙をこぼしながらも少ししだけ口の端に笑みを浮かべて、それを受け取る。
「……ふふ。本当ですね。……ありがとう、ございます……」
 まだぎこちないけれど、絶望の中でひとり逃げ惑っていた花嫁は、ようやく久しぶりに笑みを浮かべたのだった。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​🔴​




第2章 冒険 『関所を突破して送り届けろ!』

POW   :    強引に突破する、または気迫を漲らせて近寄らせないことで突破する

SPD   :    素早く物を隠す、迂回路を使う、見つからずに突破する

WIZ   :    袖の下を渡す、言い包める、許可証を偽造する

👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

種別『冒険』のルール
「POW・SPD・WIZ」の能力値別に書かれた「この章でできる行動の例」を参考にしつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


●次に向かうは
 ひとまず猟兵達は、カイムの用意していた水と食料を取ってもらい、体を休ませながらシエナから話を聞くことにした。
 シエナを助けることも勿論だが、『お館様』を倒すことが目的なのだと知るとシエナは驚き、そんな恐ろしいことをと身を竦ませたが、自分が逃げても誰かが犠牲になるだけという状況を打開したい想いはあったのだろう。
 震えながらも、知ることを話してくれた。
 シエナの話によると、村人達の誰も『お館様』の住む場所を知らないという。
 花嫁を出せという指示も、花嫁を迎えに来るのも、人間の召使いにやらせているので、姿を見た者も少ないらしい。
「今までに『お館様』が私たちの前に現れたのは、関所破りが出た時だけです」
 この地方を治める領主に命じて、『お館様』は関所をあちこちに作らせた。
 結果、この辺りに住む者は『お館様』の許しなく他の土地へ出ることが叶わなくなったのだという。
「男の人はまだ商売のためと行って、行商人や商隊に雇われれば許可証がもらえます。でも、女性は滅多なことでは許可証がもらえないのです」
 シエナの婚約者も商隊に雇われて出稼ぎに出た。
 本当は自分もついていくつもりだったが、そうした事情で無理だったのだそうだ。
 この辺りでは、関所破りが最も罪が重いという。
 恐怖で人々を囲い込み支配するためなのだろうか。関所破りが出ると、どういう仕組みか『お館様』には分かるらしく、自らやってきて罪人を処罰する。
「今ではもう、関所破りをしようと思う者はいないでしょう」
 少しの間を置いてからシエナは顔上げ、猟兵達を真っ直ぐに見た。
「私以外は」
 村の決定に逆らい、逃げ出したシエナはもう村には戻れない。
 だが他の土地へ行くには関所を越えなければならない。
 許可なく関所を越えようとすれば『お館様』に殺されるが、どちらにしろ『お館様』の花嫁を拒んだシエナは同じ運命を辿るだろう。
「無理を言っているとは、分かっています。皆さんを危険に晒すことなのも……。けれど、もしも叶うなら……あの『お館様』を倒そうとしてくださっているのなら。お願いです、どうか私を、関所の向こうへと連れてってはくれないでしょうか……」
 シエナの恋人は実際にもう出稼ぎを終えて戻って来ている最中で、関所を越えて隣の村まで行ければ婚約者と合流できるなのだという。
 だからこそシエナも村人の嘘に騙されたのだ。
「どうか、お願いします……!」
 シエナは真剣な瞳でそう願い出ると、手をついて頭を下げた。
カイム・クローバー
お館様なんてご大層な呼び方するもんだぜ。只の重婚フェチ野郎なのによ。ま、恐怖で支配されてる連中からすりゃ、んな事、口が裂けても言えねーか。
SPD判定使って見つからずに関所の突破を目指すぜ。やっぱ見張りが多いのか?無駄な騒ぎは避けたいから【忍び足】【情報収集】で確実な突破を目指すぜ。ユーベルコード使って分身に先行、俺自身はシエナの護衛と警戒、あとは…緊張をほぐす為の他愛ない会話とかどーだ?勿論小声でな。見張りは殺さず見つかった場合は気絶。関所っつーからには閉まってんだろーけど、そこは俺の【鍵開け】の出番って訳よ。
恋人に会えたら最後に聞いとくか。重婚フェチ野郎に言いたい言葉はあるか?伝えとくぜ?


ユエ・イブリス
私の知る物語に、こういうものがある
雨乞いの贄に定められた娘が、恋人ともに自ら命を絶ち湖に身を投げる
君は筋書きにあらがい、村を捨て恋を選んで生き延びる
良い役者には惜しみなき賞賛を

私が持つのは只の小さな壺、だが妖精族の壺は君らには玩具に見える
君が望めば、君はこの中に姿を消せる
通行証も必要ない、玩具の壺に花嫁がいるなんて
奴らは思いもしないだろうさ
それに我等は少しだけ、君より足が速く頑丈だ
我等が関所を抜ければいい

娘の同意が得られたなら【フェアリーランド】で壺に隠す
【物を隠す】で誰かのポケットにでも護ってもらおう
外がどんなに怖くとも、我等が良いと言うまで出てきてはいけないよ

(優雅にアドリブ絡みOKです)


宮落・ライア
頭なんて下げなくって良いのに……。それを手をついてまで…。
とか、礼儀とかシエナにとって無理難題を頼んでいると言うのを分かっていながらもぶーぶー思ってしまうねー。
ま!頼まれたからには全力でいこっか!切り替え切り替え!

という訳で【POW】!
関所のお役人?監視人?まぁどっちにしろ構わないけど静止を無視して近づいて関所を【グラウンドクラッシャー】で【薙ぎ払おっか】。
全部一切合切叩き壊すのだ! 一般人と言うか人は狙わないよ。


アリア・ティアラリード
シエナさんが決断し、愛し合う方と結ばれるために行動すると決めた以上
お姉ちゃんとしてするべき事は単純です。シンプルです
この関所を吹っ飛ばして強引に突破、二人に感動の再会をプレゼントするだけ
『お館様』も来るのなら呼びに行く手間がかからなくて楽ですし
こう言うのを「Win-Win」って言うのでしたっけ?…えっ、違う?

すぅ、と一つ深呼吸してから右手を突き上げ

『第八紫光剣』!!

私の「八本目」のフォースセイバーを「召喚」します
紫の光を放つ巨人は、手にした刀身数mはあろうかと言う
巨大なフォースセイバーを【怪力】で振り上げ関所の門に叩きつけます!

さぁ、シエナさんと婚約者さんを再開させるべく、お姉ちゃん頑張ります



●願いと覚悟
 手をついて頭を下げるシエナに、ユエ・イブリス(氷晶・f02441)は謳うような抑揚のある声で語る。
「私の知る物語に、こういうものがある。雨乞いの贄に定められた娘が、恋人と共に自ら命を絶ち湖に身を投げる、というようなね。けれど君は筋書きにあらがい、村を捨て恋を選んで生き延びる――」
 悲劇に落ちるのを良しとせず、絶望に耐えて抗って筋書きを越えてみせた良い役者には、惜しみなき賞賛を捧げなければ。
 そう言って、ユエは流れるような優美な所作で顔を上げるように促した。
「そうそう。頭なんて下げないでよ、水臭い!」
「ええ。シエナさんが決断し、愛し合う方と結ばれるために行動すると決めた以上、お姉ちゃんが必ず二人に感動の再会をプレゼントをしますから。安心してくださいね」
 ライアにも力強く言われてようやく顔をあげたシエナの手を握るのはアリアで、その温かい微笑みには自然と人を落ち着かせる慈愛が満ちているのか、シエナの顔から思い詰めたような表情が消えていく。

 さて、関所破りは決まったが、どこの関所を狙い、どう越えていくのか。
 シエナからの情報を元に検討した結果、隣村に最も近い関所へ向かうこととなったが、懸念が出たのは関所そのものよりも、シエナの安全だった。
「それならば私に策があるよ」
 ゆるりと微笑んでユエが小さな指で取り出したのは、さらに小さな美しい壷。妖精族の持つ壺は何も知らぬ者がみたら玩具か何かにしか見えないだろう。
「君が望めば、君はこの中に姿を消せる。通行証も必要ない、玩具の壺に花嫁がいるなんて奴らは思いもしないだろうさ」
 そうして壺をそっと忍ばせ、猟兵達が関所を抜ければいいと言うのだ。
 童話を読み聞かせるような耳に心地良い語り口に引き込まれたのか、シエナはまじまじと壺を見る。
 こんな小さな壺に人が入れるとはとても信じられないが、そんな不可思議を可能にするのがユーベルコードであり、それを駆使する猟兵だ。
 皆の様子に嘘ではないとわかったのかシエナも了承してくれたため、関所の近くまではシエナに案内してもらいながら進み、そこからはユエの壺に入ってもらって関所を抜けることになったのだった。

●関所破り
 関所付近まではカイムがドッペルゲンガーを先行させ、情報収集と警戒を行いながら進んだこともあり、無事に辿りくことができた。
「外がどんなに怖くとも、我等が良いと言うまで出てきてはいけないよ」
 ユエが念を押した後で、いざ小さな壺に入る時だけはさすがに緊張の様子を見せたシエナだが、ここに来るまでに少しの間ではあっても会話を交わしたことで信頼も深まっていたのだろう。
「絶対守るよ!」
「お姉ちゃんに任せてね!」
 アリアとライアに笑顔で請け負われれば、シエナにも笑みが浮かぶ。
 特にカイムはシエナの緊張をほぐそうと、道中でギャンブルのことなどを面白おかしく話して聞かせていたからだろうか。
「安心しな、あんたがベットしたのは確実な目ってやつだからよ。……と、そうだ。重婚フェチ野郎に言いたい言葉はあるか? 伝えとくぜ?」
「ふふ。……では、『脅さなければ花嫁が得られぬような人など、絶対にお断りです』とでも」
 ニヤリと笑っての問いに、冗談めかして答えられる程度には打ち解けていたようだ。
 そうしてシエナは、先程とは違い笑顔で皆に頭を下げてから、壺へと吸い込まれていった。
「もー、だから頭なんて下げなくっていいのにー」
 ライアは頬を膨らませたけれど、彼女なりの礼儀や感謝からなのは分かっている。ぐっ、と拳を握ると気持ちを切り替えて、関所を見据えた。
「よしっ、頼まれたからには全力でいこっか!」
「ええ。あとはもうシンプルです。この関所を吹っ飛ばせば、呼びにいかなくても『お館様』が来るんでしょう? 手間が掛からなくて楽ですね。こう言うのを『Win-Win』って言うのでしたっけ?」
 若干違うが、やることは同じなので問題ないだろう。
 シエナの護衛を請け負っていたカイムにユエがしっかりと壺を隠し忍ばせれば、準備は万端だ。
 猟兵達は頷き合うと、関所へ向けて一直線に走り出す。

 関所は、いっそ砦と言った方がいいようなしろものだった。
 高く長い柵の連なりの中に、堅牢な門と一体化した石造りの建物がある。
 シエナの逃亡の知らせが伝わっているのだろうか。
 石造りの建物にある見張り台のような場所には武装した兵士らしき人影がいくつも見え、門の前の広場には小規模ながら部隊といえる人数の兵士が立っていた。
 一直線に向かってくる猟兵達に気付いた兵士が騒ぎ始め、なにごとかを叫んでいる。それは誰何の声か、制止の声か。
 いずれにせよ止まる気など猟兵達にはなく、それを悟ったのか兵士達も武器を構え、待ち受けようとする姿勢。
 だが、互いに武器を直接交えるよりも前に、アリアが動いた。
 すぅ……とひとつ深呼吸をすると、右手を高く突き上げ高らかに叫ぶ。

「来なさいっ! 紫光の大剣持ちし我が分身『チリング・アイリス』!!」

 召喚されるのは、アリアの八本目のフォースセイバー。
 それは紫色の光りを放つ、アリアの二倍はあろうかという分身体だった。
 紫に輝く巨大なアリアは、その身に相応しい大きさのフォースセイバーでもって、関所の堅牢な門を一刀両断にしてみせる。
「さぁ、シエナさんと婚約者を再会させるべく、お姉ちゃん頑張りますよ!」
 兵士達はまさか関所の門を一撃で壊されるなど夢にも思わなかったのだろう。
 門があったはずの場所を見上げてぽかんとしていたり、崩れる瓦礫から逃げようとしたり、あまりの出来事に腰を抜かす者がいたりと様々だが、いずれももはや迎え撃とうなどという意識はふきとんでいるようだった。
「まだまだー!」
 続いてライアは戦意喪失している兵士達の上を身軽く飛び越え、壊された門のところへと至る。
 門は砦のほぼ中央だ。ライアのやろうとしていることにちょうど良かったのだろう。
「一切合切叩き壊すのだー!」
 ぐるりと大剣を振り回し、周囲の何もかもを巻き込みながら最後に地面へと重い重い一撃を叩きつければ、門があった場所を中心に、石造りの建物はその土台である地面からひび割れ、崩れ、破壊されていった。

 幸いにも死人は出ていないようだったが、あまりにも豪快な関所破りに、騒ぎに紛れて関所だった場所を抜けていたカイムとユエは苦笑を浮かべる。
「鍵開けの出番はなかったなぁ」
「彼女には隠れてもらっていて良かったようだね。――それに、これだけ暴れれば『お館様』とやらも出てこざるをえないだろうさ」
 もはや瓦礫の山と化した関所跡を見て、ユエは口の端に少しばかり毒のこもった笑みをのぼらせた。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​




第3章 ボス戦 『ヴァンパイア』

POW   :    クルーエルオーダー
【血で書いた誓約書】が命中した対象にルールを宣告し、破ったらダメージを与える。簡単に守れるルールほど威力が高い。
SPD   :    マサクゥルブレイド
自身が装備する【豪奢な刀剣】をレベル×1個複製し、念力で全てばらばらに操作する。
WIZ   :    サモンシャドウバット
【影の蝙蝠】を召喚する。それは極めて発見され難く、自身と五感を共有し、指定した対象を追跡する。
👑17
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​

種別『ボス戦』のルール
 記載された敵が「1体」出現します。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※このボスの宿敵主は💠山田・二十五郎です。ボスは殺してもシナリオ終了後に蘇る可能性がありますが、宿敵主がボス戦に参加したかつシナリオが成功すると、とどめを刺す事ができます。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


●冷たき鳥籠の主
 ユエの予想した通り、ほどなくしてソレは現れた。
「一体これは何の騒ぎだ? 私の関所を壊した命知らずはどこだ」
 地を這うように低く、温度を感じさせぬ声。
 青白い肌とは対照的に色濃く禍々しい羽のようなものを背に持つそれは、紛れもなくヴァンパイアだった。
 ダークセイヴァーを支配するもの。
「ひ……っ」
「お、『お館様』……!」
 まだ逃げきっていなかった兵士達が、恐怖にひきつった声をあげる。
 それの訪れは即ち『死』だと叩き込まれているかのように血の気を失い、ガタガタと身を震わせて言葉を探す兵士達は、身動きもできない中で必死に視線を彷徨わせ、命を繋ぎ止める何かを探した。
「こ、これは……その」
「……あ、ああ……あいつら! あいつらです! あいつらが!」
 そうして見つけたのは、猟兵達。
 実際に関所を壊した犯人なのは間違いではないのだが、もし違ったとしても彼らはそこに居た何者かに咎を押しつけたかもしれない。
「フン……。なるほど、猟兵か。となれば、我が花嫁を唆し、攫ったのもその方らであろう」
 ヴァンパイアの物言いには、怒りも苛立ちもなかった。
 ただ面倒そうに、部屋の隅に溜まったゴミを見るような倦んだ目で猟兵達を見遣り――手を一振りすると、幾つもの刀剣を呼び出して宙に浮かせる。
「関所はまた作らせればいいが――私の鳥籠を壊した報いは受けてもらわねばならんな。下僕どもへの示しもつかん。花嫁を差し出した上で、疾く消えよ。永遠にな」
 感情のない声で告げると同時に、無数の剣が猟兵達に襲いかかった。
エミーリア・ソイニンヴァーラ
早く消えろ? やーだよーっなのです♪
って言って、あっかんべ~します。
だって、永遠に消えるのは、あなただもんっ!

関所のガレキなどを利用して身を潜めたり、ガレキを盾にしたりして、接近されないよう距離を取って、愛銃〈バップルさん♪〉で射撃していきます。
倒す事よりも、邪魔や妨害をすることに専念し、味方の援護射撃に努めます。
もちろんダメージが与えられそうなら、与えていきますけど!

そういえば、シエナさん以外の花嫁さんたちは、今どうなっているのでしょう?
聞くことができそうなら、聞いてみたいです。
助けられる状況なら、助けたいし…

でも、助けられないのであれば…
カタキは、討つのです! わふ~っ!!


アリア・ティアラリード
「貴方のような人、お姉ちゃんとしても…一人の騎士としても許せません!」

彼がお館様でしょうか、見るからに上から目線です
この人にシエナさんの大事な想いが踏みにじられていたなんて…
私も本気です!本気の本気でお相手します!

【鏡像分離】からの《残像・衝撃波・2回攻撃》パラレル・アタック!
宙に舞うお館様のマサクゥルブレイドを徹底的に《武器受け》叩き落とします
隙あらばこちらからも彼に二重分離【飛櫻剣】を打ち込みますが
今の私はマサクゥルブレイドを止めることに専念してますからどれ位の効果があるかは…
でも!こうして出来た隙があれば他の猟兵さん達の一撃に繋がると信じて
これが私たち猟兵の力!そして怒れる乙女の力です!



 人を人とも思わぬ視線にも、襲い来る剣にも怯む者はいない。
 ある者は不敵に笑い、ある者は怒りを押し込めた挑戦的な笑みを浮かべ、ある者は強い瞳で敵として見据えていた。
 そんな中、大胆にもあっかんべーと舌を出してみせたのはエミーリアだ。
「早く消えろ? やーだよーっなのです♪ だって、永遠に消えるのは、あなただもんっ!」
 怯まぬどころか待ちかねたとでもいう猟兵達の姿勢は、恐怖に怯えて許しを請う人間ばかりを見てきた『お館様』にとって奇異なものに映ったようだ。
 ましてや舌を出されるなど経験にないだろう。無機質な顔の中で、わずかに眉が顰められたのがわかる。
 だが猟兵達には、そんな不快感を抱かせただけで終わらせるつもりなど毛頭無い。
 周囲の塵を払うかのように手の一振りで放たれた幾つもの剣は、確かに脅威ではあったけれど。
 猟兵達はたった一人で立ち向かうわけではないのだから。

「貴方のような人、お姉ちゃんとしても……一人の騎士としても、許せません!」
 ヴァンパイアらしい上から目線と彼が成してきた所業に、普段は自認する『お姉ちゃん』らしさに溢れた包容力のある笑みを浮かべているアリアの表情も厳しい。
 こんな人がシエナの思いを踏みにじっていたのかと思えば、本気の本気で相手をしなければならない。そう決めたアリアは『鏡像分離』で分身を作り出し、自ら剣の群れの中に飛び込んでいった。
 無数の剣に服の一部が切り裂かれるのをものともせず、二人のアリアは飛来する剣を冷静に受け止め、時に衝撃波で弾き、時に剣で叩き落としていく。
 己の背後にはひとつたりとて剣を通さぬとでもいうように、残像さえ見える速度で分身と共に剣の狭間で戦う様は、まるで美しい剣舞のようだ。
 時折牽制は放っても、襲い来る剣を防ぐことにアリアが集中しているのは、共に戦う仲間を信じているから。
 剣を防ぐ壁となり、また壁に穴をあける刃となり続ければ、その隙をついて、あるいは己の作った道を通り、仲間による致命の一撃に繋がると。
(「私たち猟兵の力、そして怒れる乙女の力を、見せてあげてください!」)

 もちろん、襲い来る剣を受け止めるのはアリアだけではない。
 エミーリアもまた、瓦礫に身を潜めて攻撃を防ぎつつ、犬の鳴き声のような射撃音がする愛銃『バップルさん♪』で幾つもの魔弾を放ち、同じ数の剣を撃ち落として援護している。
「重婚上等! な人には、負けません!」
 距離を置いて物陰から行われる狙撃は、ダメージを与えるよりも味方を援護し、敵の動きを阻害するもの。
 そんな中、剣を撃ち落とす手は止めないままに、エミーリアはずっと心の中で燻っていた疑問を『お館様』へと疑問を投げかけた。
「シエナさんより前に連れて行った花嫁さんたちは、今どうなっているのです?」
 エミーリアの声に『お館様』が示した反応は、思わぬことを聞かれたとでもいうように眉を僅かにあげるという、ささやかなもの。
「どう、とは? 我が花嫁は、生きては血で私を潤し、死しては薔薇の養分となる定め。今頃は土の下でその栄誉に浴しているであろう」
 返された答えに、エミーリアは息を飲む。
 こちらを傷つけ、絶望させようと、意地悪く冷淡に言われたならば、嘘かもしれないと思うこともできた。けれど『お館様』の声はあまりに平坦で、何を当たり前のことをと、微かな呆れさえ含んだもの。
「そんな……っ」
 うっすらと予感していことではあった。その存在を目の当たりにしてからは尚更、まともな『花嫁』として扱われてはいないだろうと。それでも、せめて命があるのならと願っていたのに。
 引き金にかけた指が、震えた。
 けれど今、手を止めるわけにはいかない。戻ってこない花嫁を、これ以上増やすわけにはいかないのだから。
 ぎゅ、と唇を一度強く噛みしめたエミーリアは強い瞳で『お館様』を見据えると、指の震えをおさえて『バップルさん♪』の引き金をもう一度ひく。
「カタキは、討つのです! わふ~っ!!」
 まずは魔弾の雨で剣を撃ち落とし、道を切り開くのだ。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​


 幾つもの剣が撃ち落とされても、猟兵達と『お館様』の間に横たわる距離がなかなか縮まらないのは、剣の群れが攻撃だけでなく接近を阻む堀のような役目を果たしているせいもあった。
 援護を担う者が叩き落とし、受け止め、撃ち落としても。数が減ってきた頃には次の群れが放たれるため、剣が完全に消えるということがない。
 緩急がありながらも次々と波のように押し寄せる様は、まるで剣の海だ。
 結果として一歩も動いていないヴァンパイアに対して、なかなか距離を詰められないでいる。
 だがそれは、猟兵達が苦戦しているということとイコールでもなかった。
 数多の剣を無傷で捌ききることはできず、傷が増えても。各々の目に焦りはなく、挑み、食らいつき、攻撃する意志をもって、着実に行動を積み重ねているのだから。
「……なるほど。鳥籠を荒らす鼠らしく、しぶとさだけはあるか……」
 温度のない、乾いた声をこぼしたヴァンパイアの頭上に、影が重なる。
柊・雄鷹
うわっ!
ホンマに関所壊したら出てくるんや
ある意味わかりやすいやっちゃなー
まぁ、話が早くて助かるわ
とっとと死んでてくれん?永遠に、どうぞ
大体、女の子泣かす奴に良ぇやつはおらん
ワイ含めて、やけど
遠慮せず攻撃させてもらうで!

空中に飛んで、空から攻撃や
仲間がよけ居るみたいやし、
ワイみたいに空から仕掛けてもええやろ
愛用のホークダガーで2回攻撃
ヒットしたら空中に飛んで後退
ヒット&アウェイってやっちゃな!

敵が攻撃を躱そうとしたり、
カウンター入れようとしたら
ユーベルコード泪花で武器を花びらに変える
残念やったな!
今でもお前のせいで、泣いてる人がおるんや
ここで、散れ



「……っ!」
 自分のものではない翼の形の影に気付いて顔をあげたヴァンパイアが見たものは、白と黒と灰色が入り交じった翼が宙を叩く姿。
 それは既に飛び上がるものではなく、下へと己の体を飛ばす動きだ。
 すぐに剣を呼びだそうとするが、正面に対して次なる波を叩き込んだ直後のタイミングでは、剣も照準も間に合わない。
 咄嗟に一番近くにあった幾本かの剣を飛ばすも、それはこちらに向かって『落ちて』くる雄鷹の頬と翼の一部を傷つけるだけで、動きを止めるまでには至らなかった。
「女の子泣かす奴に良ぇやつはおらん!」
 ワイも含めて、やけど。
 自嘲の声は胸の内に潜ませ、苦い思いは刃にのせて、雄鷹は愛用のダガーを構えて突っ込んでいく。
「とっとと死んでくれん?」
 狙う動きはヒット&アウェイ。
 避けようとするのを追って肩口を切りつけ、己の体を再び宙へと飛ばす動きに合わせて胸部を斬りつけながら離脱する。
 そこらのガラクタ同然の認識だった相手に傷つけられたからだろうか。先程まで乾き倦んでいた瞳には怒りと屈辱が沸き上がっていた。
 ヴァンパイアの手が動き、次なる剣の波が今度こそ雄鷹を襲う。
 単身、空中で剣に囲まれることとなった雄鷹だが、無理に逃げることはせずに待ち受ける態勢だ。
 手にしたダガーを手の内でくるりと反転させれば、それは冷たい刃ではなく無数のキンセンカの花びらとなって空へ舞っていく。
 たかが花びらで、と思ったのか。嘲笑を浮かべかけたヴァンパイアはしかし、己の剣が舞い落ちる花びらに触れる度、散るように落とされていくのを見て顔色を変えた。
「今でもお前のせいで、泣いてる人がおるんや。――泪に裂かれて、ここで散れ」
 今まで流されてきた泪の分だけ、その悲しみを弔うように。
 温かみのある黄色の花びらが非情な刃を散らしていき、その報いとして花びらは『お館様』にも降り注いで、幾つもの傷をヴァンパイアへと与えていった。

成功 🔵​🔵​🔴​

カイム・クローバー
ハッ!来やがったな、重婚フェチ野郎。怯え顔のギャラリーも多数、お館様とのパーティも飛んできた無数の剣が開始の合図だぜ!
SPD判定で死角に入り二丁銃を撃ちまくるぜ。【二回攻撃】【零距離射撃】【クイックドロウ】【鎧砕き】ユーベルコード使用で遠距離…と言いたいトコだが、重婚フェチ野郎は遠距離が得意そうだから、こっちは近距離の方が良さそうだな。攻撃に足しては【見切り】を使って回避を狙う。必要なら【早業】でリロードも可能だぜ?
そーいや重婚フェチ野郎に花嫁から伝言があるぜ。『脅さなければ花嫁が得られぬ人なんて絶対にお断り』だとよ。支配者にありがちなやつだな。愛ってやつをレクチャーしてやろうか?


宮落・ライア
ああ、出てきた。今はその態度で良いさ。その傲岸不遜を叩き壊してから色々聞くから。それまで語る舌はないよ。

軌道を【見切り】、【野生の感】で死角からの攻撃を察知し武器で【薙ぎ払う】
攻撃の間隙を見つけたら刀を投げつけながら【ダッシュ】で接近し
【グラップル】で逃げられないように掴んで【捨て身の一撃】【覚悟】【激痛耐性】【怪力】【鎧砕き】【グラウンドクラッシャー】でもって地面に叩きつける。

そうだよ。鳥篭は壊れた。そしてこれから鳥篭すべてが壊れる!
鳥は空に発つんだ! その風切り羽は切られてなんかいないんだから!



 正面からと頭上。二方から攻められるのを嫌ったヴァンパイアは、今まで動かなかった場所から遂に自ら後方へと大きく飛んで距離をとる。
 波状攻撃が緩んだ僅かの隙を見逃さずに、密度を減らした剣の海へと飛び込むのはカイムとライアだ。
 ライアは真っ正面から、真っ直ぐに。
 カイムは時折瓦礫の影に身を隠しながら、攻撃筋を悟らせずに少しずつ。
 二人は仲間が切り開いた道を、それぞれに突き進んだ。
「この……鼠共めがっ、調子にのるな!」
 感情のない乾いた表情を捨て、苛立ちを露わにしたヴァンパイアは、新たに呼び出した剣を二人に対し集中して差し向ける。
 だが明確に己を狙ってくるならば、かえって避けようもある。
 カイムが剣の動きを見切り、剣と剣の間を踊るように摺り抜け、時に射撃で撃ち落とせば、ライアもまた正面からの刃を見切り、背後から回り込んだ剣をその身に備わった野生の勘で察知して周囲の剣ごと己の剣で薙ぎ払った。
 次の剣が生み出されるまでの、僅かな間。
 普段の明るく闊達な様子から一転して堅い表情で黙々と『お館様』見据えて戦ってきたライアの瞳が、そこに生まれた好機を捉える。
 そこでライアがとった行動は、驚くべきものであった。
 ライアは密度を減らした剣と剣の間に滑り込ませるようにして、己の剣を『お館様』へと投げつけたのである。
 投げた剣の後を追うように地を蹴って走り出すが、襲い来る剣は減りはしてもなくなったわけではない。
 薙ぎ払う武器を失い身一つで剣の中へ飛び込んだにも関わらず、傷をものともせず突っ込んでくるライアに、ヴァンパイアも顔を驚愕に引きつらせる。
 投げつけられた剣をか受け止め弾いたところに、その剣の後ろから投げた本人が飛び込んでくるのだ。新たな剣を呼ぶ余裕などあるわけもない。
 眼前へと着地したライアは、飛び込んだ勢いのままに『お館様』の腕を掴むと、姿に似合わぬ膂力はヴァンパイアの腕をねじり上げ、その骨に軋む音をあげさせる。
「さぁて、重婚フェチ野郎に花嫁から伝言があるぜ」
 痛みに顔を歪めながらも身を捩り逃れようとするヴァンパイアの背に、ニヤリと笑って紅と黒の二つの銃口を突きつけたのはカイムだ。
「『脅さなければ花嫁が得られぬ人なんて絶対にお断り』だとよ」
 信じがたいという顔をして目を見開いた『お館様』を喉の奥で笑うと、そのまま両手の引き金の指に力を込めていく。
「支配者にありがちなやつだな。愛ってやつをレクチャーしてやろうか?」
 ただしカイムが施すのは、紅と黒の二丁拳銃が奏でる『銃撃の協奏曲』によるものだけれど。
「……ぐ、ぁあ……ッ!」
 ゼロ距離で叩き込まれる銃弾の嵐に、ヴァンパイアの口から苦悶の声があがった。
 だが背中から腹にかけて撃ち抜かれてもまだ余力があるのか、血の誓約書を用いて触れることを禁じ、ライアの手から逃れて態勢を立て直そうとする。
「猟兵めが……ッ、私は高貴なるヴァンパイアだぞ……! 私の鳥籠を壊したばかりか、私の恩寵を否定し、このような無礼な振る舞い……死をもってしても贖えぬと知れ!」
 だが、ライアの手は離れない。
 誓約書の効力でダメージを受けているはずで、実際に頭や掴む腕から血を流して尚、燃えるような強い瞳で敵を見据えていた。
「離せと言っているのが、わからぬか!」
 風穴の空いた腹を押さえて叫ぶ顔に、僅かに怯えが垣間見えるのは気のせいだろうか。
 ヴァンパイアとしての余裕をはぎ取られたその姿に、ようやくライアが口を開く。
「そうだよ。鳥篭は壊れた。そしてこれから鳥篭はすべてが壊れる!」
 掴んだ腕にさらに力がこもり、骨の砕ける音が響いた。
「鳥は空に発つんだ! その風切り羽は、切られてなんかいないんだから!」
 胸の奥底から放たれたような叫びは、ヴァンパイアには届かなくとも周囲で遠巻きにこちらを伺っていた兵士や村人達には、届いたのかもしれない。
 幾人かが息をのみ、みとれるように見守る中――。
 さきほど投げた剣を足で跳ね上げてもう片方の手で握ったライアは、捕らえる腕を離すと同時に、地形をも破壊する重い一撃を力任せにヴァンパイアへと叩き付けた。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​


「……ぐ、う、ぅ……。こんな、バカな……。猟兵、ごときが……ッ」
 関所を壊すほどの攻撃をもってしてもオブリビオンを倒すには至らなかったが、大きなダメージを負わせることはできた。
 よろめきながら崩れた地面から立ち上がったヴァンパイアの鎧は砕け、禍々しい色の翼もまた傷を負い、一部が折れている。
 憎悪と憤怒にまみれた目で猟兵達を睨みつけ、唾を飛ばして怨嗟の声を吐く姿は、とても恐怖の象徴として君臨し、村人達に『お館様』には見えない。
 猟兵達は、確実にヴァンパイアを追い詰めつつあった。
ユエ・イブリス
先ほどまでの威勢のよさは何処へやら
人はもとより自由なもの
たとえ籠に籠めたとしても、心の翼を折れなどしない
当てが外れて残念だったね

「降りておいで、我が麗しのひと」
【雪姫顕現】雪の娘、氷の女王
あれを凍らせてくれないか
私の願いだ、聞いてくれるね
我が僕にして我が愛、麗しき白銀の姫
目映く美しいだろう?
私でないものを抱くのは、癪に障るが仕方ない

氷結の【呪詛】をのせて敵を抱擁しておあげ
心臓が凍るまで、どれだけ耐えられるだろうね

※本人はだいたい人間の視線ほどの高さに浮いています
※優雅にアドリブ絡みOK


フラウロス・ハウレス
くくっ。なんだ、既に追い詰められているではないか、吸血鬼。
良いぞ、その憤怒と苦渋の表情、妾が求める吸血鬼の最後としてとてもふさわしい。
だが、まだ足りぬな。
貴様はまだ「恐怖に怯えていない」

故に、妾が直々に貴様に恐怖を与えてくれよう。
今宵の妾はちと荒っぽいぞ?

ブラッド・ガイストで我が黒爪に血を吸わせ、鋭き刃となす。
「我が血を喰らい吠えろ黒爪!その命、刈り取ってくれよう!」

最後の抵抗は甘んじて受けてやろう。
我が血が流れるほど黒爪は吠え猛るのでな!
傷つく事など恐れず、捨て身の一撃を食らわせてやる!
「不滅と信じた自身が死に行く気持ちは如何かな、吸血鬼!」
我が名はフラウロス。運命に逆らい吸血鬼を殺す者だ!


宮落・ライア
いまだに『ごとき』…なんて。

人を馬鹿にしないで。ボクは知っているんだ。
人の思いも、感情も、祈りも、覚悟も!
とても輝かしい物だって!

強さ、力が猟兵と一般人の違い。
それは大きな違いだろうけれど、この思いは!感情は!何も変わらない!

少し?結構?無理したけれどヒーローは最後まで退けないね。
帰るまでがヒーローだからね
痛みは激痛耐性で無視して…さぁ、きっとこれが最後だね。
敵はもう少し、あと一押し。だからこそ、逃げる隙は与えない。
覚悟を胸に、ダッシュジャンプで敵の上を取り【薙ぎ払い】【衝撃波】【殺気】でもって滅ぼしにかかる
【一瞬閃撃】
振るうは一閃。されど起きるは無数の斬撃。
それは背負った思いの分の一撃



「人はもとより自由なもの。たとえ籠に籠めたとしても、心の翼を折れなどしない。――当てが外れて残念だったね」
 戦いの最中にあってもユエの口から紡がれるのは、美しい調べのような言葉たち。
 涼やかな笑みに神経を逆なでされたのか、ヴァンパイアの表情がさらに憎々しげに歪んだ。
「自由? フンッ、所詮は我らヴァンパイアの家畜である人間ごときが思い上がったことを……!」
「いまだに『ごとき』……なんて」
 叩きつけた態勢から改めて剣を構え直したライアが、怒りの中に呆れを滲ませた言葉をこぼす。
 あれだけの攻撃を受けても立ち上がって反撃に出る力は確かに脅威ではあったけれど、状況として追い詰められていることに間違いはない。
 もはや人間や猟兵を馬鹿にできる状況ではないと思うが、虚勢なのか本気なのか、それともただ認められないだけなのか、馬鹿にする姿勢を崩すことのないヴァンパイアに、ライアは再び斬りかかっていく。
「人を馬鹿にしないで。ボクは知っているんだ。人の思いも、感情も、祈りも、覚悟も! とても輝かしい物だって!」
 時に苦しみを伴うことがあったとしても、それは奇跡を生む力を持っている。だからこそヒーローは誰かの想いを背負い、戦うのだ。
「うるさいうるさいうるさいッ! とっとと滅びぬか、猟兵共ォ!!」
 傷のせいか焦りのせいか、掠れて耳障りな声で吠えたヴァンパイアを、誰かが嗤う。
「くくっ。なんだ、既に追い詰められているではないか、吸血鬼」
 幼い容姿に似合わぬ愉悦を含んだ笑みをみせたのは、フラウロス・ハウレス(リベリオンブラッド・f08151)だ。
 吸血鬼狩りが好きだと豪語する彼女にとって、憤怒と苦渋に満ちた顔というのはヴァンパイアの最後に相応しいもの。
 けれどまだひとつ、足りぬものがある。
 それはこのヴァンパイアが今まで駆使していたもの。村人を支配し、君臨していた礎。
 ――恐怖。
 ならば、ヴァンパイアに対しそれを与えるのは吸血鬼狩りたる己の役目と、フラウロスは黒爪で己の腕を僅かに傷つけ、その血をもって武器の封印を解く。
「我が血を喰らい吠えろ黒爪! その命、刈り取ってくれよう! ……今宵の妾はちと荒っぽいぞ?」
 そうして揺るぎない自信と殺意で、フラウロスは黒爪を振るい満身創痍のヴァンパイアへと襲いかかっていった。

 斬りかかる先には、またも大量の剣が呼び出されてヴァンパイアを取り巻いている。
 あちらも追い詰められている自覚はあるのか、間断なく剣を呼びだし、差し向ける表情には怯えと焦りが見てとれた。
 ヴァンパイアへの阻害と味方への援護という態勢は既に整っているため、対処できないほど剣が増えるということはなく、向かってくる剣を叩き落とすこと自体は難しくない。
 けれども距離を稼がれ近づくための壁となる防御のための剣は厄介で、ゼロ距離まで縮めたヴァンパイアとの距離は再び少しずつ開いてきている。
 黒爪で剣の群れを切り裂き叩き落としていくフラウロスも、なかなかヴァンパイア本体を斬りつけることができず、面倒そうに舌打ちしていた。
 猟兵達が守りを削り、近づき、本体を斬りつけようとすれば、ヴァンパイアもまた剣を呼びだし、操り、近づけまいと身を守りながらも残る剣で迫る猟兵達を切り裂かんとする。
 追い詰めながらも――いや、追い詰められているからこそ、あちらも必死なのだろう。とどめに繋がる一撃を繰り出す隙を狙う猟兵達と、それを防ごうと隙無く防御を固めていくヴァンパイアとの一進一退の攻防の中、動いたのは雪か氷の使いのような冷たき美貌の妖精だった。

「降りておいで、我が麗しのひと」
 何かを招くように虚空へと手を差し伸べてユエが呼びかければ、わずかの間をあけてその手をとる何かが現れる。
「あれを凍らせてくれないか。私の願いだ、聞いてくれるね。我が僕にして我が愛、麗しき白銀の姫……」
 周囲の気温すら一気に下がったように感じられる中、現れた目映く麗しい雪の娘にして氷の女王は、ユエの望み通りにその美しい唇から全てのものを凍らせる吐息でもってヴァンパイアの動きを止めてみせる。
「私でないものを抱くのは、癪に障るが仕方ない」
 優雅な動きで軽く肩を竦めてみせたユエが導くように手をそっと動かせば、雪姫は両腕を広げて冷気を増していった。
 絶対零度の抱擁がもたらすのは氷結の呪詛。
 心臓が凍るまでどれだけ耐えられるだろうかとユエが皮肉げな笑みで見守る先で、じわじわと浸食してくる氷にヴァンパイアの顔が引きつる。
 拮抗した攻防の中、動きを止められてしまえば天秤が傾いていくのは当然だ。
 身動きがままならぬ中でなんとか剣を呼びだしても、今までのように自在に操ることは容易ではない。
 そして、相手の動きが止まるという好機を逃す猟兵達ではなかった。
 フラウロスの黒爪が切り裂く線を幾筋も描き、ライアが大きくジャンプして上から斬りかかる。
「……ッ!」
 そして己の身に降りかかる最期を予期したヴァンパイアがとった行動は、残る剣の全てをハリネズミのように身に纏わせ、向かってくる猟兵への防御にして攻撃とするもの。
 その内側に飛び込むことも許さぬ、全身を覆う剣の鎧。ヴァンパイアを攻撃しようと思えば、どうあっても剣に切り裂かれずにはいられない。
 攻撃というには威力がないそれは、身を守る本能なのか。それともせめても一矢報いようという反撃なのか。
 だが、それすらも最後の一撃と覚悟して飛び込んだ二人を止める手立てとはならなかった。
 既にだいぶ血を流しているライアは、帰るまでがヒーローだからと痛みを耐えて突き進む。ここまで追い込んだのだ。逃げる隙など与えるわけにはいかなかった。
 そして己の血を代償に威力を増す黒爪を振るうフラウロスにとっては、ヴァンパイアの剣など恐れるものではない。
 一切の躊躇なく飛び込み、その白い肌を瞳のような赤に染めながらも吠え猛り、嗤う。
「不滅と信じた自身が死に行く気持ちは如何かな、吸血鬼!」
 鮮血をまとった黒爪が、周囲を守る剣ごとヴァンパイアを深々と切り裂いた。
「ぎぃ……ッ、アァ……」
「我が名はフラウロス。運命に逆らい、吸血鬼を殺す者だ!」
 敵味方の血が混じり合う黒と赤のコントラストの中、フラウロスの叫びが響き渡る。
 そうしてヴァンパイアが体の半分を切り裂かれて血飛沫を噴き上げるのと、跳躍して上から切りかかったライアの剣が振り下ろされるのは、ほぼ同時のことだった。
「これで終われぇ!」
 地を裂くほどの力を、全て斬撃に込める。
 一瞬にして一撃。
 けれどその刹那に生じる無数の斬撃は、ライアが背負ってきた思いの分だけヴァンパイアを切り裂き、斬り刻む。
「……っカ、は……!」
 既に上半身を半分に裂かれたヴァンパイアは断末魔の悲鳴をあげることすらできず、傷を厭わぬ二人の攻撃によって完全に活動を停止され――己の血にまみれながら地に伏したのだった。

●花嫁に贈るは希望のヴェール
「ほんとうに、ありがとうございました」
 再会を果たしたシエナとその婚約者が、互いの無事と再会できたことへの喜び、そして猟兵への感謝で涙を浮かべながら例を言う。
 ひとしきりの感謝の後で、シエナが自嘲気味に語ったのはこれまでのこと。
 シエナとて、悲しみながらも犠牲を受け入れる平凡で愚かな村人の一人に過ぎなかったのだと。
 理不尽な命令も、逆らえないことも、助けなどないのも、あたりまえで。殺されたくないのなら、受け入れるしかないのだと言い聞かせていた。
 恐ろしいから、自分達は弱いのだから。敵わない、叶わないと諦めて。
 けれど。
「でも、そうじゃなかった」
 勇気を出して逃げた先で皆に助けられ、励まされ、勇気づけられて。
「私達だって、強くなれるんだって、皆さんの言葉を聞いて気付きました。もう、弱いからって諦めたりしません。皆さんに助けてもらったこの命で、この先も諦めずに、しぶとく、抗って生きていきます」
 猟兵達を真っ直ぐに見つめる瞳には絶望など欠片もなく、強い光が宿っていた。
「だって、こんなに強い皆さんが、強いって、自由だって、信じてくれているんですから」
 そう言って微笑んだシエナは、深く丁寧に頭を下げる。
 けれどそれは謝罪ではなく、感謝だけでもなく。
 世話になった猟兵達のこれから先の無事を祈り、送り出すためのもの。
 寄り添う二人は、猟兵達の姿が見えなくなるまでずっとずっと、その背中を見送りつづけたのだった。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​



最終結果:成功

完成日:2019年01月15日


挿絵イラスト