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怪しげな者を暴け

作者：暁文空

「皆さん、UDCアースにて事件であります！」
　グリモア猟兵、紅葉・智華（紅眼の射手/サイボーグの戦場傭兵・f07893）はそう呼びかけた。集まった猟兵に、智華は資料を手早く、だが丁寧に渡していく。
「資料は行き届きましたでありますか？　では今回の事件について説明致します」
　こほん、と咳払いを一つ。智華自身、少し取り乱していたのか呼吸を整えてから説明に入った。

「私の予知に、映っていたものはUDCアースにて邪神が召喚される、というもの。ただ、その邪神の種類までは見て取れなかったであります。しかし、大きさを考慮するに、召喚された時点で大事であります。召喚そのものの阻止を依頼致します」
　智華はここまで言うと、「しかし、問題点があります」と悪い点を説明し始める。

「残念ながら、私の予知にはその具体的な場所について、把握できなかったであります。ただ、少なくともUDCアースの日本、ある地方都市の一角……そうですね、某駅周辺、といったところまでは絞れているであります」
　その言葉に合わせて猟兵達が手元の資料に目を落とすと、確かにその駅周辺の簡単な地図が見て取れた。少なくとも、この地図を見れば道に迷うといった事はなさそうである。
「また、現地では近頃連続行方不明事件、なるものも発生している様子。明らかに怪しいでありますな。ついでに、その町には最近有名になった辻斬りならぬ辻占い師というものもいるようであります。これまた怪しいであります。更になんか祭具っぽいものを渡しているらしいでありますよ。……正直、有無を言わさず撃ってもよいのでは？　……ダメか」
　勝手にボケてセルフでツッコミを入れる智華の様子に、呆れる猟兵もいなくもなかったが、直後に智華はその表情を引き締める。

「まあ、真面目に話すのであれば、その占い師が邪神を召喚しようとしている犯人、ないしその関係者の可能性が高いであります。ただ、確定ではないためその証拠を掴んで欲しいであります。否定できない証拠を突き付けてやれば、本拠地へと戻り何かのアクションを起こすでありましょう。そこを叩いて欲しいであります」
　智華は転移の準備を始める。
「本当なら予知を見た私自身が解決したいでありますが、一人で解決できるような戦力ではないのであります。つまり、戦力を考えると皆さんを送り出すのが最善であります。どうかよろしくお願い致します」
　そう言って、我こそはと出撃準備をする猟兵達に智華は一礼した。

第1章 冒険 『邪悪な占い師を追え』

POW   :    占い師に会う、悩み相談をする SPD   :    占い師を追跡して行動を調べる WIZ   :    祭具の出所を調べる、ばら撒かれた祭具の回収 👑11 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​

UDCアース、日本の地方都市。その某駅に猟兵達は転移した。その作戦目標は邪神召喚儀式の阻止。地方都市、という事もあり商店街もシャッターが閉まっている店がそこそこ見受けられる。
　そんな駅近辺をタイタス・レイヴン（復讐の大鴉・f06435）は歩いて件の辻占い師を探していた。現状、明らかに怪しいものは占い師と、占い師が配っているらしい物品という事だけ。辻占い師という形態である以上、決まった場所は存在しない。
　そうなると、虱潰しに探していくしかないが、態々時間のかかる方法で探す理由もない。
「まずは、これで探るのがベストかもしれない。我が影より出でよ！シャドウレイヴン！我が目、我が耳となりあの占い師を追跡せよ！」
　その言葉に呼応するように、影の大鴉が呼び出される。それはあらゆる風景に溶け込み、至高の隠密性と捜索力を持つタイタスのユーベルコード。音も立てずに地方都市を飛んで行く。
　駅近辺をくまなく飛び回る大鴉は、やがて怪しげな光景を目にする。簡易机に小さな水晶玉を載せ、すぐ傍には如何にもなフードを被った者がいた。その光景はそのままタイタスの眼にも入る。だが、奇妙な事にその光景はこの駅周辺だけであと三つ程見受けられた。場所を一つには絞り込めなかったが、同様な光景が合計四つ。間違いなく、これは意味のある情報だと言えた。
「占い師は複数人いるようだ。これより場所を共有する」
　タイタスはこの情報を、他の猟兵達に共有した。

　その頃、某駅近辺の違う場所でも、猟兵達が占い師を捜していた。その一人である桑崎・恭介（浮草・f00793）もまた占い師を捜していたが、その姿はまだ捉えられていなかった。そんな中、町を歩いていると奇妙なアクセサリーをカバンにつけた女子学生を恭介は見つけた。
　女子学生がつけるアクセサリーと言えば、かわいらしいデザインが一般的だが、そのアクセサリーはどことなく不気味であった。そういったものを好んでつける女子学生もいなくはないだろうが、占い師を捜している最中である。そういった少しでも気になるものがあれば確認する他ない。
「ヘイ彼女ー、イカすアクセやーん。どこで買ったん？」
　恭介は女子学生に向かってそう言うと、「駅北口の公園にいた占い師がくれたよー」と軽く答える。「へー、占い師が。それって効果ある系？」と尋ねると、どうやらラッキーアイテムとして配っているようだった。恭介が軽く見た感じでは、このアクセサリー単体では儀式に関係するようには見られない。
　ただ、占い師の場所は明らかになった。あとはその占い師の本拠地をなんとかして暴き出す必要がある。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​

某駅近辺へと転移した猟兵達は、情報を得た仲間たちからの共有を受けて、各々占い師への接触を図る事となった。情報を得た猟兵の一人、タイタスと同じ旅団の面々、佐之上・権左衛門（はモブに見えるが蛮族でした・f00239）、河原崎・修羅雪姫（スノーブラッド・f00298）、クネウス・ウィギンシティ（鋼鉄のエンジニア・f02209）というサイボーグ三人組は、一緒に転移し、それぞれ占い師を捜していたが、場所をタイタスが割り出したため、占い師に接触する事とした。

　修羅雪姫は近隣の女子高生の制服を着用し、駅西口の路地にいる占い師に接触した。占いに興味を持つ年齢層の女子、というだけあり見た目の違和感はそこにはなかった。
「あのぉ、すみませぇん」
　漆黒の髪、乳白色の肌、女性としての魅力をこれでもかと詰め込んだ修羅雪姫の身体に、占い師も動揺を見せる。それでいて女子高生、というのも本来なら違和感を覚えるべき状況だったが、その魅力、誘惑には抗えずそれを普通と受け取った。
「どうしました？」
「ちょっと友人が行方不明になったみたいでぇ……」
　実際、この街では連続行方不明事件が起きている。被害者の数はまだ数えられる範囲だが、十分有名な事件である。
「その友人の居場所を占ってもらえたりしますぅ？」
　だからこそ、この質問はこの街においてはなんのおかしな部分はない。
「なるほど、それは一大事ですね……」
　占い師は深刻そうな顔を浮かべ、水晶玉でなにやら見ようとする素振りを見せてから。「うーん……ちょっとこの水晶玉だと見づらいですね……。そうだ。もうちょっと本格的な道具でなら見えるかもしれませんね」
「どうして本格的な道具を持ってきてないのぉ？」
「ちゃんとしたやつだと大きすぎて、こうやって路地で占いとかできないからね……で、どうかな？」
　それらしい言い訳をする占い師。その問いに修羅雪姫は「よし、かかった」と内心では笑みを笑みを浮かべ、「はい、お願いします……大事な親友なんで……」ともう一押しした。
　そして、その様子をクネウス・ウィギンシティ（鋼鉄のエンジニア・f02209）は近くで見ていた。だが、その事に占い師は気づいていない。クネウスのユーベルコード、INVISIBLE-GHOST（インビジブルゴースト）によるものだ。自身を透明にする、という単純な技だが、こういった用途ではかなり有用であった。
　クネウスは移動するために片付けている占い師の手元を観察する。水晶玉や机は単なる普通の占い用であるのは見て取れた。また、他の猟兵たちからもたらされた情報にあったアクセサリーに酷似したものがあったため、これをセンサーアイが観察する。ごくわずかな時間での確認だったが、クネウスにはそれで十分。だが、アクセサリーには特筆するような機能、効果はないように見受けられた。
　どうやら、人集めのための道具に過ぎなかったようだ。だが、それがわかれば後はただ、占い師を追うのみである。

　時を同じくして権左衛門もまた、占い師への接触を果たした。駅北口の公園。そこに簡易机と水晶玉の占い師がいた。ちょうど前に占ってもらっていた女子学生もいなくなったタイミングで、そのまま占ってもらう事とした。
　権左衛門の風貌は完全にUDCアースの日本に溶け込んでいるが、それだけではなく、如何にもな中年サラリーマンに見えるのだ。そのような見た目の人物が、昼間から公園の占い師に絡む。どうやら複雑な事情なのだろう、と占い師は勝手に深く考えた。
　とりあえずは、見た目に合う悩みとして、失業をチョイスした権左衛門は、あれよあれよと占い師が心配そうな声を出してから、アクセサリーをカバンから取り出す。
「これ、ラッキーアイテムなんですよぅ。これを持てば、きっと再就職もうまくいきますよ！」
「へえ、そいつはありがたい。でも、これお高いんでしょう？」
「それがなんと、あなたには無料で差し上げますよ！　でも代わりに、こういうとこに私共がいるってみんなに宣伝してもらえたら助かりますよ！」
　にこやかに言ってみせる占い師。それに乗るように「そっか、そいつぁありがとうございます。これで就活うまくといいんだがなあ」と権左衛門は言って、アクセサリーを受け取る。そのまま公園から出て、占い師が公園から出て本拠地らしく場所まで向かうのを密かに待つ事とした。

　レナード・レッドホーク（人間の戦場傭兵・f00218）は占い師と接触し、割と嘘ではない内容を相談していた。
「体が資本の仕事をしてるが、もういい歳だし、いつまで続けられるか不安なんだ」
　猟兵となり、戦場での経験も豊富な彼は、例え衰えていようとも十分な実力を持つ猛者である。だが、同じ境遇であれば若い方が有利という事も状況もある。
「健康にも気を遣っているが、若いやつらに追い落とされそうで心配だ」
　自らの仕事については話さないが、その悩みそのものは常に付きまとう。そんなレナードの様子に、占い師はいつものようにラッキーアイテムを渡してくる。占いも終わり、その場から離れたレナードは、そのまま占い師から気づかれないように占い師の尾行を行う事とした。

　南口の路地裏近辺の、少し薄暗い場所に猟兵、氷室・雪（紫電の巫女・f05740）は来ていた。作戦開始直後にある猟兵からもたらされた情報をもとに、雪は占い師に接触を図る事ができた。
「学校に馴染めず毎日が辛い」
　悩みの内容を端的に表せばこの一言に尽きた。当然、この悩みについては演技であり、占い師を誘うためのものだ。思いつめた顔をしてまでの演技に、特に疑いもせず「それは、大変ですねえ」と占い師は相槌を打つ。
「親とも不仲で誰にも相談できず最後の望みでここまで来た」
　だからどうか助けて欲しい、といった言葉に占い師は笑みを浮かべて、「じゃあ、いいものがあるから、一緒に来ませんか。ちょっと良いラッキーアイテムがあるんですよ」
　その様子を、赭嶺・澪（バレットレイヴン・f03071）は自身のユーベルコード、ステルスソルジャーによって自身を透明にして近づき、影に潜んでから能力を透明化を解除していた。前の一般客がラッキーアイテムを受け取ったところや、そのラッキーアイテムはまだ占い師のカバンの中には普通にある事なども、把握していた。
　つまり、これは占い師が客を自らの本拠地に誘い込み、生贄としようとしていると推察できた。囮となっている雪も当然、これが誘い込みである事は理解していた。
　雪はそのまま占い師についてゆき、澪は再び自身を透明にして追いかける。

　そうして、各々が占い師についてゆき、たどり着いたのは某駅のとある雑居ビルだった。しかし、そのテナントは軒並み撤退したのか、半ば廃墟と化していた。そこには四人の占い師が集まり、その周囲には儀式を阻止せんと集まった猟兵達がいた。
　まさか猟兵達が集まっているとは気づいていない占い師たちは、集めた生贄候補を気絶させるべく、不意をついてカバンで後頭部を狙ったが、そのどれもが囮捜査役となった猟兵達自身に防がれる。

「騙して悪いけど、仕事なの」
　その動揺が収まらぬなか、自身を透明にしていた澪はそう言って、透明化を解除。対UDC用のサブマシンガン、Mvf20を構えた。他の猟兵達も各々の武器を構える。
　ここは間違いなく怪しい占い師たちの本拠地。ここで邪神が召喚されようとしている。それを全員が確信した。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​

第2章 集団戦 『嘲笑う翼怪』

POW   :    組みつく怪腕 【羽毛に覆われた手足】で対象を攻撃する。攻撃力、命中率、攻撃回数のどれを重視するか選べる。 SPD   :    邪神の加護 【邪神の呪い】【喰らった子供の怨念】【夜の闇】を宿し超強化する。強力だが、自身は呪縛、流血、毒のいずれかの代償を受ける。 WIZ   :    断末魔模倣 【不気味に笑う口】から【最後に喰らった子供の悲鳴】を放ち、【恐怖と狂気】により対象の動きを一時的に封じる。 👑11 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​

占い師達の本拠地を突き止め、結果的にカチコミをかけた形となった猟兵達。だが、占い師達もそのままでいるわけがない。彼らの第一目標は邪神の召喚。
　四人の占い師のうち一人を残して三人が一気に奥の部屋へと駆けてゆく。猟兵達がそれを追いかけようとすると一人がその壁となる。その壁となった占い師が何かを唱えると、どこからともなく翼を持つ怪物が現れる。
　その顕現の際に唱えていた占い師はそのまま力尽き、倒れ込む。高い天井と大きな窓から他にもこの怪物たちが集まってくる。奥の部屋で召喚儀式が行われるというのなら、この怪物たちを早く片付ける必要がある。猟兵達は急がなければならない、という認識を共有した。


















嘲笑う翼怪――翼を持つ怪物を呼び出した占い師が力尽きたのを見て、桑崎・恭介（浮草・f00793）は近寄ろうとしたが、踏みとどまって戦闘態勢に入る。生粋の現代日本人である恭介にとって、猟兵と言えど見慣れたものではない。
　また、占い師はもともと邪神を召喚しようとしていた敵であり、倒さねばならない存在である。助ける理由などない上、既に手遅れである。
「いや……アレは敵や。それにもう多分手遅れやな……」
　小声で自分に言い聞かせるようにつぶやいてから、周囲に集まってきた怪物たちをにらみつける。そして、彼の身に着けている指輪から、銃器が現れる。彼の持つ指輪は武具を収納し、取り出せる特殊なもの。身軽な彼だが十分な装備は持ってきていたのだ。
「ったく、化けモンと戦うんはだいたい慣れてきたっつーのにな！」
　指輪から出てきた銃器を掴みとって恭介はその銃口を怪物たちへと向けて構えた。

　大きな窓から入ってくる怪物たち。この時点でUDCが周囲の住民に目撃されている現状を考えると、この状況を早く終わらせるというのは正しく最適解だった。勿論、その後処理は現地のUDC職員が行うのため、猟兵達には関係のない話だ。
　とはいえ、とにかく早く解決する事そのものは大事だ。故に、河原崎・修羅雪姫（スノーブラッド・f00298）勝手知ったる仲間と連携して活路を見出す。
「いくわよ、レクイエムちゃん！」
　修羅雪姫がそう言うと、レクイエム・アビス（呪われた人形・f09861）はこくりと頷く事で返す。それを見てとった修羅雪姫は自身のスカートをめくる。するとそこから彼女が愛用している20mm口径リボルバー・フリークスハンターが露わになる。それを修羅雪姫が持ち、特殊弾――最早砲弾にしか見えない――を装填していく。その間に、レクイエムが動く。
　レクイエムのユーベルコード、対オブリビオン決戦兵器試作零型【ムスペル】。それは、レクイエムの身長の二倍はあろうかという巨人を召喚する大技。それを最初から発動し、早期決着を図る。彼女自身の動きをトレースする巨人は、言語にならない雄たけびをあげながら、金の装飾が施された巨大なガトリングガンを怪物たちに向けて連射。銃弾の雨が翼怪たちへと降り注ぎ、更に、巨人の体躯は窓を大きく塞ぐサイズであり、怪物たちのビル内への侵入が大きく阻害される。
　だが、その隙間からも怪物たちは侵入を試みる。だが、それを修羅雪姫が見逃す訳もない。
「アハ、背中を守ってくれる人がいるんだから。まるでモグラ叩きよねぇ」
　行動が制限され、侵入経路が限定されるのであれば、そこを狙うのはあまりにも容易。装填に時間がかかるとしても、十分過ぎた。これで、外からの怪物の侵入はこの二人の動きで凡そ抑えられる事となる。
　そんな仲間たちの動きを見て、同じ団体に属する他のものたちも各々行動を始める。
「そもそも望みとは自ら切り開くものだ。何より科学的じゃない。兎も角、眷属の怪物共を片付けさせて貰おうッ！Let's morphing ！」
　タイタス・レイヴン（復讐の大鴉・f06435）は、この変身コールにより、完全戦闘形態に移行した。人型自律ロボに変形可能な宇宙バイク、レイヴンビークルや、生体融合装着型クランケヴァッフェ、レイヴンウィングなどにより、超高機動戦闘を実現、地を蹴り跳躍し、雑居ビル内を縦横無尽に動き翼怪を翻弄し、粉砕していく。
「この高速機動についてこれるかね？」

「天井の敵を撃ち落とします、他はお任せしました」
　クネウス・ウィギンシティ（鋼鉄のエンジニア・f02209）はそう言うと、アームドフォートを構える。そこに「遅れてしまいましたが……戦闘支援、開始します！」と言ってウィンディ・アストレイ（W-ASTRAY・f09020）も武器を上へと向けて構える。
「アームドフォート、フルチャージ完了。シュート！」
　クネウスのその言葉を合図に、二人は同時にトリガーを引いた。クネウスのユーベルコード、Clａiomh Solais（クレイヴ・ソリッシュ）が起動し、構えていたアームドフォートから放たれた攻撃は高い天井にいる怪物に問題なく届く。そこにめがけて、ウィンディのユーベルコード、フルバースト・マキシマムによって放たれたありとあらゆる弾が、周囲の怪物たちへと襲いかかる。
　そもそも、天井が高いとはいえ屋内だ。翼のある怪物と言えど、自由に回避できるわけではない。弾が雨のように翼怪達へと突き刺さっていく。穴のない攻撃に見えるが、隙間というのはどうしてもできる。攻撃を抜けて、ウィンディへと迫る翼怪は、羽毛に覆われた怪腕で組みつこうとする。その腕は間違いなく常人には耐える事のできない力がある。
　しかし、ウィンディとて常人ではない。サイボーグであり、頑丈な身体を活かし、盾でそれを受けきる。盾に弾かれ隙を見せた翼怪に対し、素早くカウンターでサイキックエナジーによる手刀、シャイニング・ザンバーで切り捨てる。これにより、危機を回避したように思えるが、この間は弾幕が薄くなる事を意味する。
　この隙にウィンディ、クネウスへと迫る翼怪たち。しかしながら、翼怪が二人の下にたどり着く事はない。その撃ち漏らしを確実に、タイタスが潰していく。常日頃から共に行動し、勝手知ったる面々だからこそのフォーメーションで、この雑居ビル内での戦況は猟兵達にとって有利な方に傾いていく。

　一方、外と上から湧いてくる翼怪がサイボーグ猟兵の面々に抑えられている間、氷室・雪（紫電の巫女・f05740）は地上の翼怪の攻撃を引き付けていた。
　手にした薙刀から衝撃波を放ちながら、翼怪たちの攻撃をいなし、逆に反撃でダメージを与えていく。だが、この翼怪の恐ろしいところは、飛ぶ事だとか数が多いだとか、そういう事ではない。
　雪の動きに合わせ、援護射撃を行っていたレナード・レッドホーク（人間の戦場傭兵・f00218）は、翼怪の恐ろしい行動の予兆を持ち前の戦闘知識で感づいた。
「まずい、気をつけろ！　断末魔模倣が来るぞ１」
　そう言って、素早くレナードは翼怪の不気味に笑う口を狙い撃っていく。だが、数が多く全てをカバーできる訳ではない。同時に赭嶺・澪（バレットレイヴン・f03071）もレナードの言葉を受け、常よりも素早く可変型サブマシンガンを攻撃回数重視に切り替え、翼怪の口を確実に潰していくが、それでも撃ち漏らした個体が現れる。
　翼怪の口から、最後に喰らった子供の悲鳴――断末魔が、鳴り響く。その影響は翼怪の一番近くにいた雪が真っ先に受ける。恐怖と狂気によって、雪の行動は大きく阻害される。だが、それは雪にとっても覚悟の上だった。
「私は私のすべきことをするだけだ」
　氷室雪は清浄なる神の御霊をその身に降ろす、神に仕える巫女としての心得も持ち合わせていた。彼女のユーベルコード、巫覡載霊の舞はその力を如何なく発揮した結果である。つまり、翼怪の断末魔模倣による影響は、これにより軽減していたのだ。敵の攻撃を引き付け、断末魔模倣をも引き付ける。それでも止まらない。薙刀で翼怪たちを薙ぎ払い続ける。
　その動きは、舞っているかのように、鮮やかで、綺麗だった。

　倒せど倒せど無限に湧いてくるのでは、と想像させるほどの数の暴力だったのだが、猟兵達も人数からは想像もつかない大火力でそれを完全に押し返していた。少しずつ、翼怪たちが顕現するペースも落ち始め、猟兵達の攻撃も余裕が大分できてくる。
　そこには、序盤での大量に表れた怪物たちを抑えるために、少々ハイペースで攻撃を繰り出していた部分もある。余裕というよりもペースダウンという面があったのも否めないが、そこを恭介が自身のユーベルコード、魔弾の射手（フライシュッツ）で封殺した。
　占い師の死体に動揺を見せ、序盤の戦闘には少し出遅れたものの、だからこそ他の猟兵達の攻撃のペースが落ちた頃合で自身の実力を最大限に発揮していた。
　再び恭介の前に複数体の翼怪が現れると、彼は銃のトリガーを一回引く。だが、そこから放たれた弾丸は一発ではなく、一三発。銃口から放たれた瞬間に、一発の弾丸は一三個にまで複製され、その一つ一つを恭介が念力で操作する。
「避けれるもんなら避けてみぃ！」
　複数の弾丸が突き刺さり、翼怪は息絶える。数えきれないほどを翼怪を倒し、その屍の山を築いた事により、漸く逃げた占い師達を追いかける事のできる状況にまで持って行った。


「もしかしたら……捕まっていても、無事な方が居るかも知れません。急ぎましょう！」
　ウィンディのその言葉に猟兵達はそれぞれ肯定を示し、奥の部屋へと駆ける。
　翼怪の生き残りもいたが、多勢に無勢。奥の部屋まで疾走する猟兵達の集中砲火で成す術もなく倒され、猟兵たちは難なく奥の部屋に辿りついた。

　猟兵達が、奥の部屋へのドアを勢いよく開けると、そこには三人の占い師達が何かを唱えているのを目撃する。周囲には生贄とされる予定なのだろう、手足を縛られ口を塞がれた拘束された少年少女たちがいた。
　邪神召喚の儀式に集中し、周囲には気を配れていない占い師たちを見て、猟兵たちは慌てて拘束された少年少女を部屋の外へと運び出す。その時に、占い師たちは猟兵たちに部屋へと侵入された事に漸く気づく。
「なっ――！」
　だが、もう遅い。生贄はこの部屋には存在しない。そこにいるのは、邪神を召喚しようとしていた占い師たちだけだ。そして、彼らは召喚の儀式を実施してしまった。ならば、この後に起きる事はただ一つ。
　占い師たち自身が、生贄となる事。だが、本来必要となる生贄の数にすら満たしていないとなれば、その召喚は不完全なものとなる。三人いる占い師のうち、二人が生贄とされ、その命が尽き果てる。
　そして、残された一人の占い師の姿形が、変化していくのだった――

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​

第3章 ボス戦 『膨らむ頭の人間』

POW   :    異形なる影の降臨 自身が戦闘で瀕死になると【おぞましい輪郭の影】が召喚される。それは高い戦闘力を持ち、自身と同じ攻撃手段で戦う。 SPD   :    慈悲深き邪神の御使い いま戦っている対象に有効な【邪神の落とし子】(形状は毎回変わる)が召喚される。使い方を理解できれば強い。 WIZ   :    侵食する狂気の炎 対象の攻撃を軽減する【邪なる炎をまとった異形】に変身しつつ、【教典から放つ炎】で攻撃する。ただし、解除するまで毎秒寿命を削る。 👑17 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​

生贄が不足した状態での邪神召喚の儀式を実施した占い師に待っていたのは、召喚しようとしていた邪神が、自らを依り代として不完全ながら召喚される、という現実であった。占い師の頭が膨らみ、異形と化す。
　既に彼には人間としての自我は存在し得ない。そして、その戦闘力も占い師としての彼とは全く違う。猟兵たちの目の前にいるのは間違いなくオブリビオン――そう、猟兵にとっての明確な敵だ――。


















邪神をその身に宿した占い師は既に異形の存在。人間ではない。明確な猟兵達の敵、オブリビオンとなった。生贄となる予定だった少年少女たちは既に一つ前の部屋。更に建物から出るように、と伝えれば我先にと逃げてゆく。猟兵達の位置情報から既に近くまで来ていたUDCアースの職員たちが後はなんとかするだろう。よって、猟兵達はこの目の前にいる異形にのみ集中すればよい。

　だが、だからと言ってこの状況は容易ではない。目の前にいる異形が間違いなくオブリビオンであり、脅威となる存在だ。この異形は手を振るうとこれまた異形の存在――邪神の落とし子を自身の周りに生み出す。そして、それらは個々が戦闘力を持ち、猟兵達へと襲いかかってくる。

　先陣を切ったのは桑崎・恭介（浮草・f00793）だった。生贄を用意し、邪神を召喚しようとしていた占い師たちだったが、今となってはその全員が命を落としている。自業自得、因果応報と言うのはあまりに簡単すぎる。
「けど、こいつらも元々はUDCに人生を狂わされた被害者……ったく、遣る瀬瀬ねぇなぁ！」
　そう口にして、片刃チェーンブレードを召喚し手でしっかりと握る。そのまま恭介は落とし子の下へと駆けてゆく。本体を直接叩きたい場面ではあるが、敵の数はしっかりと減らしておきたい。故に、恭介は駆けたのだ。そして、ついに片刃チェーンブレードで落とし子を捉えられる距離にまで近づく。
「降ろされたばっかで悪いけどな…サヨナラや」
　そして、恭介はそこから脅威的な動きで落とし子たちへの攻撃を始める。その動きは、元々身軽な恭介が更に強化されたように見える。ユーベルコード、【プログラム・ジェノサイド】。予め脳にプログラムしていた動きを、身体が再現する。本来なら状況を見て判断してから攻撃する所を、最初に判断を終えて、そのまま連続した攻撃を継続してしかけていく。それが、この技の仕組み。驚異的な連続攻撃が落とし子達へと炸裂。代わりに、落とし子達の攻撃も恭介に集中。素早い恭介に対応すべく、命中率、及び攻撃範囲に優れた攻撃により、小さな傷を幾つも作る。
　それだけに終わらず、小さな一撃一撃が恭介の回避機動を阻害していき、ついには大きな一撃が襲いかかろうとしていた。しかし、そこに赭嶺・澪（バレットレイヴン・f03071）が素早く落とし子に向けてトリガーを引く。一つ、二つ。その弾着の衝撃が落とし子の攻撃を鈍らせ、恭介が回避するだけの余裕を生み出す。また、攻撃力を重視した一撃で、落とし子の数をも減らす。
　無傷とはいかなかったが、その代わりに落とし子達の数を大きく減らした。全滅とはいかないが、本体を狙うための隙を作り出す事に成功した。
「道は拓いた！頼むッ！」

　その好機を、他の猟兵達が見逃す訳もない。
「切り札を切らせて貰おう。これが我が真の姿ッ！　モード・ジャガーノートッ！　狂信者の成れの果てよ、青き炎で燃え尽きるがいい」
　タイタス・レイヴン（復讐の大鴉・f06435）は青き炎を纏った機械仕掛けの大鴉――真の姿を解放した上に、モード・ジャガーノートに変貌し、上空からの強襲を図る。そして、その姿は猟兵達を載せるだけの余裕があった。
「タイタスさんが、機械仕掛けの大鴉に変形しただって。なら、ここは乗るしかない！」
　彼の変形に反応したクネウス・ウィギンシティ（鋼鉄のエンジニア・f02209）は緊迫した場面ではあったが、気分が高揚したのか、喜々とした声を上げる。それに呼応するように、レクイエム・アビス（呪われた人形・f09861）もまた顔を上げ、この世の物ではない雄たけびをあげながら全身が泥で覆われる。そこから出て来た姿は異形の怪物であった。
　クネウスはブーストジャンプを用いて空中で更なる跳躍を果たし、大鴉と化したタイタスの更なる上空、天井すれすれの高度へと跳び、タイタスの直上に着地する。動揺に、異形の怪物と化したレクイエムもまた、タイタスへの搭乗を果たす。
「振り落とされるなよ、そして仕留めろ！」
「応、今こそ我らの技術を見せる時」
　クネウスはCODE:FORTUNAを起動させ、姿勢制御をしつつ上空でプログラムによる連続射撃の狙いを定める。
　それを見て取ったレナード・レッドホーク（人間の戦場傭兵・f00218）は、アサルトウェポンで軽く本体を撃ってから、残り落とし子と本体とがいる中心地点に誘導ビーコンを射出する。
「あそこが目印だ！　撃て！！」
「仕掛ける！」
　ビーコンを目印に、照準が僅かながら早く定まったクネウスは素早く連続射撃へと移行する。それにタイミングを合わせ、タイタスも空中から広範囲へと火力を降り注いでいく。僅かに残る落とし子の数を更に減らし、本体へも大きなダメージを負わせる事に成功する。
　だが、それだけでは終わらない。
　タイタスが本体の真上に到達した瞬間、タイタスの上から身を投げ出す影が一つ。
　異形の怪物。そう、レクイエムだった。腕を巨大なパイルバンカーにさせ、さらにここに彼女のユーベルコード、対オブリビオン決戦兵器試作零型【ティルフィング】が起動し、それが更に肥大化する。
　正しく一撃必殺の大技。捨て身の一撃と言っていい。だが、これを防御ないし回避されてしまえば、彼女は無事では済まない。本体もまた、更なる落とし子を生み出し、それだけでなく、おぞましい輪郭の影が顕現する。
「させないわ！」
　そこで、河原崎・修羅雪姫（スノーブラッド・f00298）は自らの武器で落とし子を撃ちながら、内蔵ロケットワイヤーアンカーを放ち、敵の動きを封じていく。これにより、レクイエムの攻撃に対し敵は完全に無防備となる。
　威力は十分。
　落下速度も十分。
　威力、そして速度。その両方を兼ね備えた最大の一撃。それが、しっかりと本体を捉え、叩きつける。防御姿勢をとろうとしても、ワイヤーアンカーによって阻害された結果、そのダメージは正しくこの膨らんだ頭の人間に致命傷を与えたと言っても過言ではない。――だが、まだ動く。

　まだ瀕死。このまま放置しておいても、暫くすれば倒れるだろうが、まだ動く。その間に誰かが犠牲になる可能性を考えれば、一刻も早くこのままトドメを刺さなければならないだろう。
　クネウスを載せたタイタスは本体の上を通過し、ぐるりと旋回して再び攻撃射線を確保する。修羅雪姫は捨て身の一撃の後で無防備となったレクイエムの支援へと入り、脳内インプラント戦闘支援AI：コードALICEを用いた回避で彼女を無事回収しながら、20mm口径リボルバー・フリークスハンターで敵の足止めを敢行する。
　氷室・雪（紫電の巫女・f05740）は薙刀からサムライブレイドに持ち替えて、おぞましい輪郭の影へと駆けてゆき、一閃。影を一太刀を以って一時的に無力化に成功する。だが、本体は瀕死なれど健在。故に影もまた再び顕現しようとする。
「こっちは私が引き受ける。そっちは任せた」
　雪は影に相対し、そのまま影との戦闘に入る。レナード、恭介、澪もまた、影へ攻撃を集中させ、上空で二回目の集中砲火の準備を整えるタイタスとクネウスを援護する。その間にも、膨らむ頭の人間は、手に持つ経典から炎を放ち二人の妨害をしようとする。
　だが、そこに駆け込む影が一つあった。
「私がオブリビオンの姿勢を崩します！　追撃、お願いします！」
　それは、ウィンディ・アストレイ（W-ASTRAY・f09020）だ。全身に白く流麗な甲冑が、炎を受けながらも敵に肉迫。オーラと化したインフラックス・バンカーを大きく振りかぶり、一気に叩きつける。
　膨らんだ頭をしっかりと捉え、一気に吹っ飛ばす。瀕死ながら健在。なれど、その姿勢は崩され、大きな隙を見せていた。
　それを見て取ったウィンディは上空にいる彼らの射線に入らぬように、大きく後ろに跳躍する。

「狙い撃つ！」
　無防備な敵を撃つのに、時間はいらなかった。旋回を終え、射線を確保したタイタスとクネウスは間髪入れず集中砲火を敵に浴びせかける。何度も攻撃を浴びせかけられた膨らむ頭の人間だが、ダメージが通っていないのではない。既に瀕死である以上、これ以上のダメージは間違いなく、即死であった。

　集中砲火による煙が晴れ、そこに残るのは正しく廃墟と化した雑居ビルの姿だ。
　かつて占い師であったオブリビオンの死体は、人間をやめたからこそ原型をとどめている、なんとも言えないものになっていた。派手な戦闘があったというのに、割れて外が丸見えになっているビルの外は、UDCアース日本のいつもの光景が広がっていた。猟兵達が戦闘に集中している間、職員達もまた、同時に情報操作に当たっていたのだ。少なくとも、SNSなどの技術が発展した今、彼らも日々多忙なのである。

　だが、その働きを知る者はあまりにも少ない。猟兵達の活躍もまた、UDCアースの彼らによって救られたであろう命の持ち主達には伝わらず、機密事項故に記憶を消去される。誰も、猟兵達の事を英雄、だとは気づかない。知る事もないのである。
　しかし、その方が良い事なのは間違いない。人は誰しも、非日常を夢見ながらも、それが夢であるからこそ、単純に楽しめるのだ。
　非日常に身を投じ、脅威と戦う猟兵達。それを支援するUDC職員達。彼ら、彼女らの戦いはどれだけ地味であろうと派手であろうと、ひっそりと終わる。

　――少なくとも、自身の手で救われた命があったのだ、という事実を心に刻んで。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​

最終結果：成功 完成日:2019年01月06日