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『芽吹き』の海

#アリスラビリンス

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#アリスラビリンス


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●幕開けの海
 ホワイトパールの太陽と、ブラックオパールの月が天を渡るその国は、一言で現すならば『海底』だ。
 空間には呼吸を妨げず、けれど浮力も殆どない液体が満ち、風の代わりに波がそよぐ。
 近頃それぞれ毛色の違う街が二つ出来て、その中間地点には細長い巻貝のような天文台が建った。それらを地表近くを漂う月光ベールの『水路』が結び、三日月のゴンドラが定期的に運航している。
 然してこの日は、ちょっぴり気忙しいブラックオパールの月がホワイトパールの太陽に追いつく日。白い輝きを追いかけるようにして顔を出した虹色を瞬かせる黒が、中天ほどでぴったり重なるのだ。
 滅多にお目にかかれぬ光景に、愉快な仲間たちも朝からそわそわ。
 けれど、そんな日に限って異変は起きる。
「発見、発見! 四時ノ方角ニオウガガ出タワ!」
「ならば警告灯は黄色だね」
 天文台の遠見鏡で見張りの任に就いていたキューブを人型に連結させただけのようなロボットが騒ぎ出すと、モルタルボードを被りモノクルをかけた二足歩行の犬が黄色い灯を点す。
「ぼく達の出番だね」
「シャシャシャシャ。刀の錆にシテヤルですぞ」
 報せを受けて出動するのは、黒白逆転したシャチ達と、太刀に鰭が生えたような太刀魚たち。
 しかしシャチと太刀魚は、対峙したオウガに戸惑った。
『『『I’m Hungry』』』
『『『I’m Angry』』』
『『『I’m Lonely』』』
「……なんか、たくさんいるよ」
「うむ。アリンコの群れの如くイルでござるな」
 ……そうなのだ。黒い風船に顔を描いただけのようなオウガ、はらぺこねこばるーんはとてもたくさん。しかも奥には、もっと嫌な気配もある。
「どうしよう、ぼく達だけじゃ無理かも」
「ウム、儂らは脳筋でゴザルからして」
「ふふん、作戦は任せたまえ」
「犬くん」
「犬殿!」
 びたんびたんと強烈な尾鰭の一撃を繰り出すシャチに、素早く動き斬撃を得意とする太刀魚。そして鋭い嗅覚を活かして頭脳派行動をとれる犬。三種の愉快な仲間たちは、勇猛果敢にオウガへ挑む。
 だが彼らは未だ戦いに慣れず。その上、オウガの数の多さは圧倒的だ。
 このままでは、奮戦の甲斐なく愉快な仲間たちはオウガに蹂躙されてしまう――。

●芽吹き
「あのね、あのね。たいへんなの!」
 アリスラビリンスに連なる不思議の国の一つ。不思議な海の国を襲う危機を予知したウトラ・ブルーメトレネ(花迷竜・f14228)は、慌ただしく語り始める。
 ホワイトパールの太陽とブラックオパールの月を戴くこの国に襲来したのは、ふてぶてしいことこの上ないオウガと、そのオウガに率いられた猫の頭部を模した風船のようなオウガ達。
 その数と力は圧倒的で、放っておけばこの国はオウガ達に屈してしまうだろう。そうなってしまえば、整えられた美しい街並みも見るも無残な姿にされてしまいかねない。
「まずはね、いっぱいいるオウガをたおさなきゃ」
 街は水の防壁で守られているので、すぐさま侵入される心配はない。だから猟兵たちは目の前のオウガの掃討に集中できる。しかし殲滅しきるには相応の時間がかかってしまう。となれば、その隙にふてぶてしいオウガは街を目指してしまうに違いない。
「だからね。ゆかいななかまさん達といっしょにたたかえばいいと思うの」
 最初はまごつく愉快な仲間たちも、群れるオウガの数を減らしたり、上手く立ち回れるよう学ばせれば、配下のオウガ相手であれば後れを取らないくらいには戦えるようになる。
「そしたらみんなは、ふてぶてしいオウガをおいかけて、やっつけることができるね!」
 喋り始めは落ち着きを失っていたウトラも、きっとそうなるに違いない、な未来に瞳に輝きを取り戻し。あのねあのね、と予知で知った素敵を紐解き始めた。
 それは白い太陽と黒に虹を煌めかせる月が重なる時に起きる、芽吹き。
 二つの街にそれぞれある、珊瑚の庭園とサンゴ礁が、産卵を始めるのだ。
「うまれた卵は、たかくたかくのぼって、おほしさまになるの。とってもキレイ」
 だから絶対、みんなにも見て欲しいのだとウトラは頬を紅潮させて告げ、「だからね」と力強く頷く。
「オウガなんて、ぶっとばしちゃおう!」


七凪臣
 お世話になります、七凪です。
 今回は不思議な海の国でのお仕事をお届けに参上しました。

●シナリオ傾向
 戦闘はポップでライト。
 お楽しみはほのぼのわくわくしっとり。

●シナリオの流れ
 【第1章】集団戦。
 『はらぺこねこばるーん』の数を減らしたり、愉快な仲間たちが上手に戦えるようになるよう導いて下さい。
 【第2章】ボス戦。
 詳細は章開始前に導入部を追記致します。
 【第3章】日常。
 詳細は章開始前に導入部を追記致します。

●プレイング受付期間
 第1章はOP公開と同時にプレイングを受付開始致します。
 受付締め切り及び以降の章はマスターページにて状況をお知らせしますので、そちらの確認をお願い致します。

●同行者ありの場合
 全ての章において、お連れ様がいる場合はプレイング内に【お相手の名前(+ID)】或いは【グループ名】を明記下さい。
 記載がない場合は迷子になる可能性があります。

●その他
 日常章である【第3章】のみの参加も歓迎です。
 また、第3章に限り、お声がけ頂きましたらウトラがご一緒させて頂きます。

 皆様のご参加、心よりお待ちしております。
 宜しくお願い申し上げます。
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第1章 集団戦 『はらぺこねこばるーん』

POW   :    I’m Hungry
【食欲】の感情を爆発させる事により、感情の強さに比例して、自身の身体サイズと戦闘能力が増大する。
SPD   :    I’m Angry
【口から刺し貫く棘】を放ち、自身からレベルm半径内の全員を高威力で無差別攻撃する。
WIZ   :    I’m Lonely
【犠牲になったアリス】の霊を召喚する。これは【武器】や【呪い】で攻撃する能力を持つ。

イラスト:透人

👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

種別『集団戦』のルール
 記載された敵が「沢山」出現します(厳密に何体いるかは、書く場合も書かない場合もあります)。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。

ストーム・アルカー
…ふむ。かなり数が多いみたいだねぇ。
具合を見るにも丁度よさそうだ、一つ相手をしてもらおうかな。

【WIZ】

「掃除屋」、仕事だよ。…え、風船じゃ食欲がわかない?
あの魚の方が美味しそう?…ダメだよ、後でご飯奢るから我慢してね。

魚の皆は…近接戦の方が得意なのかな。
なら「掃除屋」の大半はその援護に回ってもらおうね。

五感を共有しているから、街を目指すオウガ達にも反応できる。
数名だけ残した掃除屋をそっちに向かわせて、僕も前に出ようかな。
極力みんなが孤立しないように、そして死なないように。しっかり援護しよう。


ビディリー・フィズン
■口癖
「…」を多用

■行動
不思議な人たちが世界にはいるんだなぁ、と愉快な仲間たちを見て感心
常軌を逸した美しさを放ち「存在感」全開で降臨
よく分からない敵だし美しさを理解できなさそうなので、愉快な仲間たちを扇動しようと考える
「……ちょっといいですか?」

UC【美声】を発動
愉快な仲間たちを美しさにときめかせる
二人一組を組んでもらいビディリーに追従するよう提案
「……攻撃は来ません。だってボクがとても美しいから」

敵の攻撃は美しさが「オーラ防御」となり防ぐ
防いだ隙に愉快な仲間たちに攻撃をさせ、当てたらすぐに列に戻らせるヒットアンドアウェイ
自身も魔力で宝石を操り攻撃し【美声】
「……鬱陶しいですよ。消えて下さい」




「……ちょっといいですか?」
 いきなり切り出さず、相手が呼吸を整えるだけの間を置いて。
 海色の長い髪を不可思議な液体にゆらりと優雅に揺蕩わせ、地表に薄く積もった砂さえも従えるようなビディリー・フィズン(虚栄の王冠・f20090)の尋ねに、振り返った黒白反転のシャチたちは、戦いそっちのけで「「「わぁ」」」と歓声を上げた。
「此れまた美シイ、王子様でござるの」
「いや、王子様たるものやはりこうであらねば。ウム」
 何かを観察している時には、此方もまた観察されるもの。
 首を傾げ、口元へ手を遣り。ひとつひとつが絵になる仕草でビディリーが『不思議な人たちが世界にはいるんだなぁ』と感心する頃、太刀魚の侍たちもビディリーの美しさに暫し切った張ったを忘れて、アイロンをかけたように銀色の鰭をぴしゃりと伸ばす。
 同じく、一瞬『oh……』となったはらぺこねこばるーんたち。けれどオウガ達は花より団子なのか、腹ペコなのを思い出してしまう。
 左右アンバランスな眼が、不規則に揺れる。
 人間の心の不安を煽る動きに、最初はぼんやりとした影のようだったものが、しっかりとした輪郭を成す。
 それは犠牲になったアリスの亡霊だ。
「「わぁ、変なの来たぁ」」
「「どうしよう!」」
「旧友の一人、壊れた世界の掃除屋さ」
 澄んだ国に似つかわしくない、濁った気配が放たれる。だがそれらは愉快たちの仲間の目前で、鎖鎌に切り裂かれて消失した。
 何が起きたか分からなかったらしいシャチと太刀魚が、そろって首を傾げる――太刀魚の方は、刀が曲がる絵面がちょっぴりシュール。それもそのはず、ビディリーの登場に気をとられていた彼らは、自分たちの慄きに陽気な詠唱が混ざり込んでいたのに気付かなかったのだ。
「……え、風船じゃ食欲がわかない? あの魚の方が美味しそう?」
 オウガ達を蹴散らした『掃除屋』と、それらをこの地に招いたストーム・アルカー(次元の旅人・f18301)の会話に、愉快な仲間たちが「え」と顔を見合わせる。
「……ダメだよ、後でご飯奢るから我慢してね――というわけで、魚の皆」
 だが常に笑顔な魔導士は、何をか訴えているらしい掃除屋をさらりと宥め、シャチと太刀魚を緊張から解き放つ。
「皆は近接戦の方が得意みたい、なのかな。なら、援護は僕たちで請け負うよ」
 言葉通り、ストームは掃除屋たちを再び展開し、雲霞の如きはらぺこねこばるーんの群れを切り崩して孤立する個体を作り出してゆく。
「……ボク、王子様なんで……言ってる意味、分かりますよね……?」
 そこへビディリーの美し過ぎる声が響いた。美し過ぎる故に力を持ったそれは、聞く者の耳にありがたく響き、何故だか言うことに従わなくてはいけない気分にさせるもの。
「……ほら、今ですよ。……大丈夫です、攻撃は来ません」
 にこり。人間の娘が目にしたならば惚けてしまいそうな微笑で、ビディリーは愉快な仲間たちを、目に見えて動きの鈍ったはらぺこねこばるーん達へけしかける。
「……いいですか。……無理は、いけません。ヒットアンドアウェイです」
「「わかった」」
「「ありがとう!!」」
「「「お膳立て、忝いでゴザる」」」
 ビディリーの指示に、愉快な仲間たちは器用に立ち回り始めた。
 この分だと、雑魚相手は早めに任せられるようになるかもしれない。だがまだまだ残る不安と、自身のコンディションを確かめるには程よい戦場に、ストームは油断のない視線を馳せた。
 掃除屋たちと共有した五感も、ストームにも戦況を伝えている。
 それらを判断材料に、ストームはシャチや太刀魚たちが孤立しないよう、そして何より命を落としてしまわぬよう。注意深く掃除屋たちへ指示を送り続けた。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

五条・巴
太陽と月が交わる日と聞いて。
この国の子達とは久しぶり。
僕、この日をずっと楽しみにしてたんだ。
それに、今日は卵がかえる時でもあるんだね。素敵な星空、楽しみだ。
美しい夜に似合わない彼らは早く倒して、皆で一緒に見よう。

なかまたちも頑張ってるんだね、よし、お手伝いさせて。
なかまと、共に来た猟兵の仲間達の邪魔にならないよう後方から支援するよ。
数が多いならこちらも数撃とう。
'明けの明星'
ほら、月も登っている、君らは眠る時間だよ。

海の中だから感電してしまうのかな、感電して痺れるのはどうか敵だけに。
約200本の矢があれば、少しは数減らせるかな?


泉宮・瑠碧
あの太陽と月…追い付くのか
前も月が追い掛けていて気になっていたんだ
良かった
その為にも乗り切らないとな
…猫風船が、凄く空腹そうで申し訳ないが…

愉快な仲間たちも今回は共に頑張ろう

僕は主に精霊祈眼と弓を手に援護射撃
後衛なので学者犬の近くで護衛も兼ねる

攻守で第六感を用い
仲間の死角や隙を突いた相手を中心に狙う
遠方の集団には氷の精霊に願い範囲攻撃

シャチの討ち漏らしを太刀魚が撃破が良いのか
ただ数には追い付かないが

嗅覚が優れているなら
相手の位置や多い方向が大まかに分かるなら教えてやって欲しい
…生兵法から脱してからだが
銃に類するものなら君も扱えると思う

一番は
互いが互いを補う事と各々が大きな怪我をしない事だろうな




「わああ!」
「また来てくれたんだ」
 太陽と月が交わる日と聞き、心弾ませ海の国を訪れた五条・巴(見果てぬ夜の夢・f02927)の来訪を迎えたのは、以前に戦い方を見せた事のあるシャチ達だった。
「やぁ、久しぶり」
 戦いそっちのけで懐いてくる彼らへ巴は朗らかに笑いかける。
 ホワイトパールとブラックオパールの追いかけっこの決着の日。しかも珊瑚たちの産卵もあるという。それはさぞかし、素敵な星空だろう。
 待ち侘びた美しさを堪能する為にも、オウガ達は早々に一掃しなくてはならない。
「みんな頑張ってるんだね。僕にもお手伝いさせて」
「「「もちろんだよ、ありがとう!」」」

 巴がシャチに囲まれる頃、すぐ近くでは泉宮・瑠碧(月白・f04280)が犬たちと作戦会議を繰り広げる。
「相手の位置や多い方角が大まかに分かるなら、教えてやって欲しい」
「成程、了解だ」
「メインの戦力は身体も大きいシャチがいいと思う。太刀魚たちには、その打ち漏らしを撃破を担当してもらうというのはどうかな」
「ふむふむ」
 不思議の国に街が出来た日。月が太陽を追いかけていたのを瑠碧も気にかけていた。
 ――願わくば、手が届きますように。
 その想いが通じる一時。無事に邂逅の時を迎える為に、この国をオウガの蹂躙から守らなくてはならない。
 たらたら涎を垂らしたはらぺこねこばるーんの空腹っぷりを思うと、若干の申し訳なさを感じもするが。瑠碧は猟兵としての優先順位を見誤りはしない。
「ではさっそく実践だ」
「お任せあれ。まずは二時の方向!」
「わかった」
 鼻をくんくんと鳴らし、敵の密度の濃い場所を犬が伝える。そこを瑠碧は澄んだ水の如き視線で一瞥した。
『meow meow meow』
『mew!』
 精霊の加護を受けた眼差しを受け、はらぺこねこばるーん達がしゅううと萎む。
「シャチ君、今だ!」
「「「りょーかい!!」」」
「太刀魚君はあぶれたやつを」
「「応」」
 そこへ犬の合図を皮切りに、シャチ達と太刀魚たちが泳ぎ出る。
 すぐさま始まった乱戦は、数の差でオウガが若干有利だ。けれどその状況を巴は見逃さず、支援の一手を繰り出す。
「煌めく夢を見せてあげよう」
 数が多いなら、数を減らせばよいだけ。
 刹那、稲光が海底に煌めいた。生まれたのは、200本に迫ろうかという彗星の如き矢たち。
「ほら、月も登っている。君らは眠る時間だよ」
 その名も、明けの明星。明け方の薄闇にも燦然と輝く星のように、巴が発動させたユーベルコードが、奮戦する愉快な仲間たちの包囲を目論むオウガ達を尽く撃ち落としてゆく。
「さぁ、次はどこに仕掛けたらいい?」
 瑠碧の求めに、犬がまたくんと鼻を鳴らし。今度は七時と方角を告げる。
「分かった、ありがとう」
 ならばと瑠碧は氷の矢を射掛けて敵の密集状態を解き、そこへまた犬からの指示を促す。
「シャチ君!」
「「おーらい!」」
「太刀魚くん」
「「了解で御座る」」
 しっかりとした連携が取れ始めた愉快な仲間たちの様子に、瑠碧は胸の裡で安堵する。
 この調子ならば、犬に銃などの取り扱いを教えるのもいいかもしれない。もちろん、生兵法を脱してからだが。
「互いが互いを補う事と、各々が大きなけがをしない事。これが一番大事だ」
「肝に銘じる」
 新たな展望も視野に入れた瑠碧の、肝とも言える教示に、犬はモルタルボードを落とさぬように頷いた。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

篝・倫太郎
建国されたばっかの国ってな
まぁ……まだ色々慣れてねぇモンだよな
この特別な日にこの国の初勝ち星つーのもいんじゃね?

太刀魚どもは明らかにばるーんのえ……
いや、なんでもねぇ

いっちょ助太刀と行きますか

拘束術使用
視界に入る攻撃範囲内の敵全てを拘束術で攻撃

拘束の為の鎖にゃ、こういう使い方もあるってな?
攻撃でダメージ負った奴の中で深手を負ってるのは
愉快な仲間に任せる
力を合わせて確実に倒してけよ?

俺自身は華焔刀で範囲攻撃のなぎ払い
刃先を返して2回攻撃

乱戦になってるようなら
愉快な仲間を傷付けないように注意して立ち回り

ほい、お疲れさんなー?
お前らつえぇじゃん

そいや、こいつらとは姿形の違う見慣れない奴居なかったか?


ミュー・オルビス
まるでおとぎの海ですね
招かれざるお客様方はどうか
速やかにお引取り下さいますよう

ガジェットショータイムを使い
星の形の棘鉄球を連射する
カタパルト(投石機)を召喚
速度と効率を意識して
より多くの風船の破壊を心がけ
愉快な仲間たちを狙った無差別攻撃は
トランクを盾にして庇います

自身もまだまだ経験の浅い猟兵
適確な指揮が執れるかは分かりませんが
ええと…素早い太刀魚には攪乱を頼み
犬は風船の紐を咥えて敵を逃さぬ様
とどめの一撃は鯱にお願いします
焦らず一体ずつ確実に倒して
感覚を掴んでいきましょうね
それから―『命は大事に』です

願わくばあなた達と共に
芽吹きの時を迎えたいから
誰ひとり欠くことなく全員で
海の国を守り抜きましょう




 ホワイトパールの太陽に、ブラックオパールの月。
 足はしっかり地面を踏むことが出来るが、呼吸をすると口許からぷかりと気泡が生まれる。
 ――まるでおとぎの海。
 硝子玉の眼球を澄んだ水色に染め、ミュー・オルビス(貝の火・f03315)は鐵道員制服の袖を甘やかに飾るフリルをふわりと翻す。
「招かれざるお客様方は、どうか速やかにお引き取り下さいますよう」
 この国の太陽と同じ輝きの髪を持つビスクドールの恭しくも事務的な案内台詞に、傍らへカタパルトが顕現し、間髪入れずに星の形の棘鉄球を連射し始める。
 パン、パン、パン!
 流星の直撃を受けた黒い風船たちが、小気味良い音をたてて破裂してゆく。
 その最中を、篝・倫太郎(災禍狩り・f07291)は器用に駆けた。
「建国さえたばっかの国ってな。そりゃまぁ、まだ色々慣れてねぇモンだよな」
 太刀魚たちあたりははらぺこねこばるーん達にとって、色んな意味で良い餌になりそうだが。思いはすれど口に出してはならない冗句を倫太郎はククと笑うに留め、より多くの敵を視認できる位置に陣取る。
「いっちょ助太刀と行きますか――縛めをくれてやる」
 途端、倫太郎の視界に収まる多くのオウガがぴしりと動きを止めた。倫太郎が放った災いを縛る見えない鎖に動きを封じられたのだ。
 拘束の為の鎖には、こういう使い方もある。
 倫太郎が身を以て示した戦いの在り様に、愉快な仲間たちが色めき立つ。
「「犬くん、行っていい?」」
「「我が先陣をきり申す!!」」
「おいおい、慌てんなよ。力を合わせて確実に倒してけよ?」
 拘束の力を維持したままの倫太郎の促しに、愉快な仲間たちは「!」と互いの顔を見合わせる。
「そうです。まずは落ち着きましょう」
 つい血気盛ってしまった彼らを、ミューの静かな声が落ち着かせた。
「一番大事なのは『命を大事に』です」
 願わくば、あなた達と共に芽吹きの時を迎えたい。
 優しい物語の中の登場人物のような愉快な仲間たちへミューは心を砕き、誰ひとり欠くことないよう全員でこの国を守り抜きましょう、と最も大事な未来を見据える。
「えぇと……太刀魚の皆さんは攪乱をお願いできますか」
 倫太郎に動きを封じられているからこそ安全に試せる案を、ミューは愉快な仲間たちへ説く。
「犬さんは、もし逃げそうな敵を発見したら、あの紐を捕らえて下さい」
 ミュー自身、猟兵としての経験はまだまだ浅いと己を評価している。だが蒸氣汽罐車アンドロメダ号の車掌を務める少女は、周囲を見遣る目に長け、的確な判断を下す能力を持つ。
「そしてトドメは鯱さんにお願いするのが良いでしょう。焦らず、確実に、一体ずつ」
「「では、その様に」」
「仕損じても気にするな」
「「僕にお任せだよー!」」
 銀の閃きが宙を迸り、はらぺこねこばるーんに肉薄する。危機を察した猫頭が暴れるが、倫太郎はその自由を許さず。程よく力尽きかけた所へ、シャチが飛び出し尾鰭の強烈な一撃を見舞う。
 パン、っと。派手な音を立ててオウガが四散する。一体、また一体、さらにもう一体。
「お前らつえぇじゃん」
 お疲れ様と言うにはまだ少し早いが、倫太郎に褒められた愉快な仲間たちは益々奮起して。ミューが程よく減らしてくれた敵の海を上手く立ち回り、大事な国を蹂躙しにやってきたオウガ達を、それぞれの役割をきちんと果たしながら蹴散らし始めた。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

リル・ルリ
■櫻宵/f02768

さんご、のたまごが星に?
また海が賑やかになるね、櫻

守ろう
綺麗な星がたくさんうまれるように
お姫様に頼もしいと言われれば嬉しくて
尾鰭を揺らし海泳ぐ

猫が風船に
僕だって、大事なお姫様を食べさせるわけにはいかない
駆ける君を守る歌を歌おう
歌唱が僕の武器だから
「凱旋の歌」に込める精一杯の鼓舞
綺麗な剣舞を見せて
戦う君は生き生きとしていて、嗚呼
本当はね
僕だけを見てて欲しい、なんて戦闘中
僕の櫻、君は僕か守るから
庇う櫻ごとオーラ防御の泡で守り
歌うのは「春の歌」
亡霊達への鎮魂歌
歌でお腹は膨れないだろうけど、骸の海へ送ってあげる
優しい薄紅は弔い

おかげで泳ぎやすくなった
そう守るんだ
君も大好きな国だもの


誘名・櫻宵
🌸リル/f10762

珊瑚の卵がお星様になるんですって!
素敵ね
無事に星がうまれるようにまた一緒に守りましょ
頼りにしてるわ、王子様

猫風船?
気味悪いわ
あたしのリィは食べさせないわ
近寄らないで
こんなに沢山!斬ってもいいのよね!
斬って祓って殴り割るわよ!
リルの歌は相変わらず心地よくて
踊りたくなっちゃうわ!

くるり
見切りで躱して咄嗟の一撃

ひらり
衝撃波に破魔宿して亡霊ごとなぎ払い
呪いを浄化するわ
首がはねられないのが難点ね

ふわり
怪力込めてグラップルで蹴りあげ叩き落として抉り潰す

数が多いなら『散華』でまとめて斬りさくわ!
ほらこれで戦いやすくなったかしら?
リルも泳ぎやすそうね

リルの大好きな国を
傷つけさせはしないわ




 珊瑚が生んだ卵が星になるのだ。
 空に育まれ孵化したそれは、やがて地上を彩る珊瑚となり。或いは星のまま流れたら、甘い甘い金平糖になる。
 それは櫻宵とリルが根付かせた、ヒトデのランプが照らす庭園の珊瑚たちにも巡る運命。
「また海が賑やかになるね、櫻」
「素敵ね。無事に星がうまれるようにまた一緒に守りましょ」
 ――頼りにしてるわ、王子様。
 群がる漆黒の波へ飛び込み征く誘名・櫻宵(屠櫻・f02768)から寄せられた信頼に、リル・ルリ(想愛アクアリウム・f10762)の裡から熱が膨れ上がる。
 愛しい愛しい、リルだけのお姫様――櫻宵。その櫻宵に、頼もしいと言われたのだ。嬉しくて嬉しくて、櫻宵を溺れさせない水をかく尾鰭に力が籠もる。
 すい、と。
 地表から数メートルの所にリルは泳ぎ昇った。
 ゆらり漂う空からは、最前線がよく見える。
「猫風船? 気味悪い! あたしのリィは食べさせないわ、近寄らないで」
『I’m Hungry』
『I’m Hungry』
『I’m Hungry!!!!』
 リルを守ろうとする櫻宵へ、頭部だけの猫たちが襲い掛かった。邪気が漲り、その身体が大きく膨らむ――。
「僕だって、大事なお姫様を食べさせるわけにはいかない」
 ――君の勝利を歌おうか。
 高らかに、軽やかに、リルは櫻宵の為に凱歌を謳い始める。リルには櫻宵のようには戦えない。けれど、歌唱こそがリルの武器。
「希望の鐘を打ち鳴らす絢爛の凱旋を。この歌が聴こえたならば この歌が届いたならば さぁ、いっておいで」
 儚くも美しい旋律が、櫻宵の身体を軽くする。誰よりも強くする。
 心地よい音色に導かれ、櫻宵が舞う。剣を払って敵を祓い、固めた拳で巨大な風船を遠慮なくかち割って。
 斃しても、斃しても、斃しても減らないオウガを前に、櫻宵はリルの歌に守られ、この上ない輝きを放つ。
『I’m Hungry』
 くるり。圧し掛からんとするオウガの動きを読んで躱し。
 ひらり。振り返りざまに、一閃。破魔の力を乗せた衝撃波で、巨大な的を一刀両断。
「首を刎ねられないのは難点ね――あら?」
 ――心に咲く薄紅を風に委ねて散らせよう。麗らかな春風と巡り躍り、幾度でも花咲く夢見草―揺蕩い惑うも花咲く僕を。どうか君よ、忘れないで。
 聞こえていた歌とは違う、柔く優しく温かく、腕で甘くあやすような歌声に、櫻宵は一瞬、足を止めた。直後、櫻宵に飛び掛かろうとしていたオウガが、薄紅の花吹雪に巻かれて弾け散る。
「あらあら、流石はあたしの王子様」
 歌声の主は探さなくても分かった。いや、分からないはずがない。ずっと背中に感じていた熱視線。櫻宵の生き生きたる様に見惚れつつも、自分だけを見て欲しいとせがむような。
「じゃあ、あたしのとこまで泳いでこれる海を作りましょう――さぁ、お退きなさい!」
 紅い刃を、またひらり。
 けれど今度は渾身の一閃。存在そのものを断ち斬る不可視の斬撃は、群れてしか行動できないオウガをまとめて飲む。
 一斉に、櫻宵の視界に収まる風船たちが弾け飛び。リルの視界も一気に広がる。

 ――リルの大好きな国を、傷つけさせないわ。
 ――そう、一緒に守ろう。君も大好きな国を。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

アラン・サリュドュロワ
マリークロード(f19286)と
アレンジ歓迎

言い草はともかく、異論はありません
では僭越ながらダンスホールまで
私がエスコート役を務めましょう、マリー様

主武器は斧槍と大盾
主君と愉快な仲間たちを積極的に守り助け
隙あらば槍を振り反撃を入れる
ああ、皆も危ないときは俺の後ろにいてくれ

愉快な仲間たちには鼓舞し
纏まって多対一になるよう攻撃を指示する
俺たちはあくまで手助けだ
この戦いは君たちの力で勝ってこそだろう
一人では無理でも皆で力を合わせれば大丈夫だ
さあ、犬どの采配を!

とくに強力な攻撃を察したら
仲間を自分の後ろに隠し身をひとつの要塞として盾にする
大きな一撃を放った後は必ず隙ができるものだ
そうでしょう、マリー様


マリークロード・バトルゥール
アラン(f19285)を伴に

此方で敵の気を惹いて少しでも数を減らしましょう
図体大きいアランは皆の盾となって頂戴な?
うふふ、その頑丈さはとっても信頼していますのよ

護身用ダガーを携え敵元へ舞踏と参りましょう
大きな一撃を与える事より、敵攻撃を見切り翻弄する事を優先します
さあ、共に踊りたい方はいらっしゃって?
危険を感じたら直ぐにわたくしの騎士の元へ逃げ込むわ

ふふ、アランの言う通りよ
そして戦いで衣服を裂かれてからがわたくしの本領発揮
何故って?自ら服を脱ぐなんて……はしたないでしょう?
千切れた衣服の一部を破り、靴を脱ぎ捨て機動力高める
あぁ、これで漸く楽に動けるわ!
ねぇ、もっとわたくしと楽しく遊びましょう?




 可憐な少女の足取りで、マリークロード・バトルゥール(夜啼き鶯・f19286)がオウガの直中へ斬りこむ。
「此方で敵の気を惹いておきますわ」
 呆気にとられた愉快な仲間たちへ優美な微笑を一つ残し、マリークロードは護身用のダガー一本で舞い始める。
 が、彼女――を装う少年は決して一人ではない。
「図体の大きいアランは皆の盾となって頂戴な? うふふ、その頑丈さはとっても信頼していますのよ」
「――言い草はともかく、異論はございません。僭越ながら、私がエスコート役を務めましょう」
 青い瞳に銀の髪。まさに騎士然とした男――アラン・サリュドュロワ(王国の鍵・f19285)が、すぐにマリークロードの傍らに並び――いや、やや前方。盾として守る位置に立つ。
 黒いオウガが群がる地だ。だのにどうしてだろう。二人がいるだけで、そこは煌びやかなダンスホールになる。
「さあ、共に踊りたい方はいらっしゃって?」
 美しき姫君がダガーと躍れば、オウガがただの黒い風船のようにパンっと割れた。
 その姫君の死角から襲い掛からんとするオウガへは、騎士の槍が切っ先を突き付け、貫く。
「君たちは、纏まって多対一になるように動くんだ」
 敵の目は華やかなマリークロードの方へ向く。その隙にアランは愉快な仲間たちへ、彼らに相応しい戦い方を授ける。
「多対一って、僕らはいっぱいであの猫さん一匹と戦うってことぉ?」
 尾鰭を撓らせ疑問を呈したシャチへ、アランは「そうだ」と人好きする笑顔で是を頷く。
「俺たちはあくまで手助けだ。この戦いは君たちの力で勝ってこそだろう」
「「そうだね」」
「「拙者、了解したでゴザる」」
 アランの鼓舞に、シャチと太刀魚に負けん気が漲った。
「さあ、犬どの采配を!」
「では騎士殿の言う通りに。シャチくん達は姫君の右の、太刀魚くんたちは左の敵を各個撃破!」
「「わかったー!」」
「「承った」」
「みなさまとても勇ましい」
 愉快な仲間たちに囲まれて、マリークロードは踊るテンポを上げていく。時折、翻す裾がオウガの牙に引っ掛かってはピリリと割ける。或いは、捨て身の一撃に袖や端々が千切れる。
 徐々に顕わになる肌に、愉快な仲間たちが心配そうに顔を曇らせれば、マリークロードは花咲く微笑みを返す。
「大丈夫よ、ここからがわたくしの本領発揮」
 身軽になればなるほどマリークロードは速くなる。自ら脱ぎ捨てないのは――はしたないから。
「皆、よく見ているんだ」
 相対する者たちの連携を真似るように、はらぺこねこばるーんがまとまって巨大な流れを作ろうとする。しかしそれは、我が身を盾と変えたアランが防ぎ切り。
「こういう後には必ず隙ができるものだ――そうでしょう、マリー様」
「えぇえぇ、アランの言う通り。さぁ、もっと楽しく遊びましょう?」
 騎士の盾に守られた姫君は、遂に靴を放って踊り出す。愉快な仲間たちも、マリークロードに合わせて泳ぎ戦う。
 仮初のダンスホールに舞い込んだオウガに、生き延びる道は残されていなかった。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

オズ・ケストナー
リュカ(f02586)と

海にもぐるとこんなかんじなのかなあ
ふしぎだね

リュカが罠を仕掛けるのを手伝ったり
犬さんと作戦を考えたり

たちうおさんは攻撃したらすぐ下がるんだよ
ねこはきっと追いつけない
攻撃して、すぐに逃げてをくりかえしたら
ケガはすくなくてすむはずだから

逃げてるあいだおさえるのはわたしたちのやくめだよ
ねっ、リュカ

バリケードの上から飛び降りながら
その勢いで斧を叩きつけ
攻撃はリュカの分も武器受け

リュカに呼ばれたら手薄な方へ
ガジェットショータイム

出るのはブリキのねずみ
「おなかがすいてるならっ」
バットで打つとくるりと回転しつつ針を出し
ハリネズミに

さあ、ねずみとねこはどっちがつよいかな
どんどんいくよっ


リュカ・エンキアンサス
【オズお兄さん(f01136)】と

不思議な国だな…
海の中にいる感じが面白い
落ち着いたらゆっくりしたいね

愉快な仲間さんたちとお話しするのはお兄さんに任せる
俺はそういうの得意じゃないから
敵が射程範囲外にいる間にレプリカクラフトで簡単に罠を作っとく
…あれにトラバサミ効くかな
若干疑問が残るけれど
ワイヤーとかバリケード系で侵攻を遅らせるようにしとく
数が多くて愉快な仲間さんたち囲まれると困るから

後は射撃できそうな見晴らしのいい場所を幾つか見繕っておく
敵が射程内に来たら攻撃開始
「お兄さん、あっち
押されてるところがあれば
お兄さんにも声をかけてそちらを援護
撤退を支援

ここは任せて欲しい
あわてずじっくり倒していこう




「たちうおさんは、攻撃したらすぐ下がるんだよ。君たちの速さに、ねこはきっと追いつけない」
 愛嬌に溢れるキトンブルーの瞳を輝かせ、オズ・ケストナー(Ein Kinderspiel・f01136)が語る策を愉快な仲間たちは熱心に聞き入る。
「コツは、攻撃してすぐに逃げること。こうすればケガはすくなくてすむはずだし、その分だけ何度もくりかえせるから」
「ほほう。太刀魚くん達の機動力を活かすというわけだな」
「そのとおり!」
 モノクルの位置を肉球で整えながらの犬の言葉に、オズは笑顔を弾けさせた。
「ではシャチ君たちはどうしよう?」
「そうだねぇ――」
(「……さすがオズお兄さん」)
 他の猟兵たちが多くのオウガを引き付けてくれている間の作戦会議を耳に、リュカ・エンキアンサス(蒼炎の・f02586)は胸裡に感嘆を一つ零す。
 言葉数の少ないリュカは、会話によるコミュニケーションを得手だと言えない己を知る。故に自分は自分の役割を、と淡々と思い描く仕掛け罠の設置に勤しむ。
 不思議な国だ。
 海の中にいる感じが面白い――と、リュカも思う。
(「そういえば。オズお兄さんは海に潜ったことはあるのかな?」)
 答はおそらく否だ。だって愉快な仲間たちと語らいながら周囲を眺めるオズの目には、未経験を補う空想の色が煌めいている。
「……、急ごう」
 知らず止まってしまっていた作業の手を、リュカは再び動かし始める。即座に攻撃を喰らわない位置に陣取ったとはいえ、敵の数は膨大。黒い波が押し寄せるのに、そう間はない。

「あ、引っ掛かった」
 パァンと派手に弾けたはらぺこねこばるーんに、罠を仕掛けた張本人であるリュカが目を丸める。
 レプリカクラフトで造り上げた急ごしらえのバリケードは、トラバサミを仕込んだワイヤー製。鋭い歯はオウガの足を捕らえるのではなく、ぷくぷくに膨らんだ顔へ牙を剥く。
 ヒット&アウェイ。
 太刀魚たちがオズに習った戦法で、リュカが拵えた罠の要塞へとオウガ達をおびき寄せ。数が少なくなった所へ、力自慢のシャチが飛び出しトドメを見舞う。
 オズとリュカの頭脳プレイは見事に機能し、愉快な仲間たちに戦果をあげさせていた。
 とは言え、敵の数が数だ。
「お兄さん、あっち」
 同胞の残骸を利用し群がろうとするはらぺこねこばるーん達を目敏く見つけたリュカの呼び声に、オズは器用にバリケードの上を走った。
「ここをおさえるのはわたしたちのやくめだよ」
 吹き出す蒸気で加速を得た斧で敵を蹴散らし、オズは撤退の尾を補足されかけている太刀魚たちとオウガの間に割って入る。
「おなかがすいてるならっ」
 君たちにはこれをあげよう。
 召喚したブリキねずみ型のガジェットを、オズはバットでぱかーんと打ち放つ。
『myau?』
『myaaaaa!!!』
 餌だ、餌だ。果たしてそう食いついたかは分からぬけれど、しかし涎滴らせるオウガの口にぽこんとおさまったネズミは、途端にハリネズミへと転じる。
 パン、パン、パン、パァン!
「さあ、ねずみとねこはどっちがつよいかな」
 どんどんいくよっ、とオズはリュカの分まで敵を撃ち落とし。
「ここは任せて欲しい。あわてずじっくり倒していこう」
 這う這うの体の愉快な仲間たちを、おいでおいでとバリケードの影へリュカが誘い守る。

「成程、こういう連携もあるのか」
 オズに示された戦い方も、一つの戦略。だが戦う者と、補う者という役割を明確に分けたオズとリュカの在り様そのものにも、この国の頭脳を担う犬は何かを学び取ったようであった。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

ジャック・スペード
海底のような場所だが……不思議と忌避感は無いな
此処も誰かが造った国なのだろうか
ならば、確りと護らなければ

アンタらの加勢に来た、俺にも手伝わせてくれ
先ずは数減らしと行こう
炎の弾丸を飛ばし、オウガ達へ範囲攻撃を
手近な敵は怪力とグラップルで捻って行く

愉快な仲間達が十分に戦える程、数を減らせたら
トランプ兵達を召喚してフォローに回らせよう
彼等に愉快な仲間達を応援させたり
立ち回りについて助言を与えて
住人達が戦い易いような雰囲気作りを

俺も援護射撃でサポートしつつ
普通の攻撃もそうだが、アリスの霊による攻撃は特に
住人達には当てたくないな
激痛耐性を活かし、此の身を盾として彼等を庇おう
反撃は光属性の零距離射撃にて


千波・せら
綺麗な場所は綺麗なままがいいって私は思う。
あの変なバルーンは壊しちゃおうね。

深呼吸、深呼吸。
宝石の手に水属性、それから竜巻。
とてもちいさな水の竜巻を作り出して攻撃するね。

制御が難しいから、集中しなきゃ……。
みんな、当たらないようにしてね
小さいけど、あたったら大変だもん。

今日の天気は晴れ。だけど、海の怒りにご注意下さい。
特にバルーンは巻き込まれやすいので、外周の際は十分に注意して下さいね。

もう外に出ちゃってるか。
えへへ、きちんと操れたかな?


逢月・故
あはは、よくあるよくある。
この世界じゃまあ大体見慣れた光景だよね、国ごと蹂躙なんて。
でも、オレたちが呼ばれたからには一発逆転大勝利、って方が面白いよねぇ。

君たちはそのネコ頭を割ったら空洞なのかな?
それとも、でろりと中身が出て来るの?
ちょっと興味あるなあ、それ。
【恐怖を与える】で敵を煽りながら、UCで【部位破壊】を狙ってみようか。
It's Showtime!
高らかに指を鳴らせば、鋭く舞い踊るトランプ。
【投擲】でしっかり狙いを定めて、風船割りと行こうか。
いい音で鳴ってくれるかい?

近付かれたら裁ち鋏を巨大化させて、そのまま横殴りに振り抜くよ。
接近戦が苦手だなんて一言も言ってないでしょう、オレ




 オウガとの邂逅を果たした逢月・故(ひとりぼっちのワンダーランド・f19541)は、開口一番「あはは」と笑い出す。
「よくあるよくある」
 道化師めかして肩をひょいと竦め、惨状一歩手前の状況を故は悪びれた様子もなしにケラケラ笑う。
 だって、この世界では。国ごと蹂躙されるなんて酷く見慣れたものなのだ。
 別に血相変えるようなことではない――けれど。
「でも、オレたちが呼ばれたからには一発逆転大勝利ぃ、って方が面白いよねぇ」
 ――ね?
 一度発した語尾に、形ばかりの疑問符を乗せ。にこにこと故ははらぺこねこばるーん達との距離をじわじわ詰める。
 じり、と。細い紐を引き摺りながらオウガが後退る。
 覇気に呑まれたのではない。
「ねぇねぇ、君たちはそのネコ頭を割ったら空洞なのかな? それとも、でろりと中身が出て来るの?」
 故が発する狂気に怯えたのだ。
「ちょっと興味があるなあ、それ」
 けれど人が悪そうな笑顔は一瞬。いけないいけない、と華麗に外面仮面をニコリと被り。故は高らかに唱え放つ。
「It's Showtime!」
 突き上げた上の天辺で、パチンと故の指が鳴る。途端、無数のトランプが不可思議な液体の空を泳ぎ躍った。
 パァン!
 空っぽの頭が、弾け散る。
 パァン!!
 鋭利な刃物の如きトランプの舞に、また一体、また一体とふざけた顔のオウガが消えて逝く。
 予想通りの音色に故はすっかりご機嫌。ついでとばかりに、仕事道具である裁ち鋏を取り出す。それは魔力に応じて姿を変えるアリスランス。
「かかってきてもいいよ? オレ、接近戦も苦手じゃないし?」
 巨大化させた鋏をちゃきんちゃきんと謳わせて、故はオウガ達との追いかけっこを心行くまで愉しむ。

 日に照らされた海面色の髪にホワイトパールとブラックオパール双方の光を浴びて、千波・せら(f20106)はゆっくりと深呼吸を繰り返す。
 ここはとても綺麗な場所。
 綺麗なものは、綺麗なままが良いとせらは思う。
 だから――。
「あの変なバルーンは壊しちゃおうね」
 透明度の高い青の双眸に黒い群れを捕らえ、せらは宝石部分が顕わになった長い指の先に、小さな水の竜巻を起こす。
「……集中、集中」
 口の中で幾度も唱えるのは、それの制御がとても難しいことをせらがよく知るから。もし暴走でもさせたら、愉快な仲間たちを巻き込みかねない。
 それはなんだか、とても嫌。
 綺麗な世界には、笑顔があるのがいい。
「今日の天気は晴れ。だけど、海の怒りにご注意下さい」
 ぴんぽんぱん、と軽妙なリズムの足取りでせらは小指の先ほどの水流を解き放つ。
「特にバルーンは巻き込まれやすいので、外周の際は十分に注意して下さいね――あ、もう外に出ちゃってるか」
 ――パァン!
 ――パァン!!
 ――パアン!!!
「「「すごぉい、どうやったの」」」
「「儂も何が起きたのか分カラナカッタでゴザル」」
 ぎゅる、と何かに巻き込まれたかのように形を歪めた途端、次々と弾けていくオウガに愉快な仲間たちから歓声があがる。
 囲まれたせらは自分が力を上手くコントロールできたことを知り、ほんのり照れたように微笑んだ。

 国の在り方は、海底に酷似している。
 だのに炎は燃えるし、雷が感電を招くこともない。
 ――不思議な国だ。
『I’m Hun――』
 何より自身が忌避感を覚えない事に少しの驚きを感じながら、ジャック・スペード(f16475)は間近に迫ったはらぺこねこばるーんをぐしゃりと握り潰した。
「「「おおお、もしかして僕よりパワーがある?」」」
「「間違いなくシャチ殿より器用そうでござる」」
「言ったろう? アンタらの加勢に来たと。手伝いが足を引っ張るわけにはいかないからな」
 ともすれば無骨な鋼の塊ともとられかねないジャックの容姿にも、愉快な仲間たちは怯えず。どころか、頼もしい助っ人に嬉しそうに懐いてくる。
 此処もまた、誰かが造った国。
 そして護るべき誰かが暮らす場所。
 すとんと胸に落ちた強い想いにジャックの闘志に火が点く。その灯を炎弾に変え、ジャックはこの国を蹂躙の魔の手から遠ざけようとオウガを灼き払う。
 しかしただ護るだけではいけない。
「出番だぞ、お前たち」
 他の猟兵たちの奮戦ぶりも視野に入れ、ちょうどの頃合いを見逃さず、ジャックは薇仕掛けのトランプ兵を召喚した。
 わらわらと、不思議の国に似合いな四つのスートの兵隊たち動き出す。だが彼等が得手とするのは戦闘ではなく――。
「あそこが手薄」
「まとめてかかるといい」
「大丈夫、みんなならできる」
「すごいすごい、すごい!」
 時に的確な助言を、時に励ましの賛辞を送ることこそ、トランプ兵たちの本分であり十八番。恩恵に与った愉快な仲間たちは、気持ち良さげに空を泳ぎ、期待以上の戦果をあげている。
 和やかな光景と、成長著しい愉快な仲間たちの姿に、ジャックの機械仕掛けの胸に宿った『こころ』が柔らかな熱を帯びた。
 やはり、此処は護りたい。
 そして素直に奮戦する住人達にも、痛い思いはさせたくない。
 それが『優しさ』であることに男は気付かぬまま、我が身を盾として見返りを望まぬ献身を尽くす。
「ふむふむ。きっとこれがヒーローというものだな」
 ――知識豊富な犬が漏らした感銘の呟きも、耳に届かないほど一心に。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

ルーナ・リェナ
綾華(f01194)と

うん、今までの世界とちょっと?
いっぱい?
違うよね
んー、今のところは飛べる、かな

月と太陽が重なるのって日食だったっけ
あれ、ちゃんと見たかったんだけどな
追いかけてくるのをどうにかしないといけないね
シャチさん太刀さんワンちゃん、最初はちょっと見ててね

綾華が惹きつけてくれてる間にそっと敵の背後に回り込む
上手く位置が取れたらソルには火を吹いてもらって
わたしはイエロで攻撃
ね、分担するといいんだよ、って綾華の真似をして言う

シャチさんたちに攻撃が行きそうだったら、片っ端から棘を叩き落とすね


浮世・綾華
ルーナちゃん(f01357)と

おわ。なんか不思議な空間
海の中みたいなのに全然違う
いっぱい。こくりと笑って
ルーナちゃん、フツーに飛べる?

景色を楽しむ間もなく現れる軍勢にふうと息を吐き
うん、日食
月が太陽に重なって
食べちゃってるみたいに見えっからなんかねえ

この子もこんなちっちゃくって可愛いケド
すげー強いんだぜ

扇で舞い誘惑で惹き付ける
攻撃はフェイントで交わしつつ
タイミングがあれば炎の属性攻撃
トドメは勿論――
ルーナちゃん、頼んだっ

みてたみてた?
こんな感じで役割分担するといーよ
愛らしい真似っこにはくすりと目を細め

最初はケガしねえように咎力封じで敵を拘束
次第に任せるようにして
やるじゃん
この国、一緒に守るぞ




 闇夜の黒に金色を重ねた扇を手に、浮世・綾華(千日紅・f01194)がひらりと舞う。
 物言いたげにやや伏せられた赤い視線が、つと右から左へと流された。
 惑わす所作に、ふよと漂うはらぺこねこばるーんが引き寄せられる。一体、また一体と、涎を垂らす化け猫もどきが綾華の元へ集う。
『I’m Hungry』
『I’m Hungry』
 膨れ上がった欲求の儘に、オウガが巨大化してゆく。だが決して迅速とは言えない動きに、綾華はまたひらりと扇と舞って、滴る涎を躱す。
 まるで綾華が黒い渦の中心のようだ。
 ――そして。
 ぽ、と。綾華が扇の先に淡い炎を灯らせた瞬間、黒い渦の中心と外側の両方から、鬨の声が上がる。
「ルーナちゃん、頼んだ!」
「任せて! ソル、お願い。イエロもそいつを喰らいつくして!」
『myau!?』
『maaaa!!!』
 唐突に燃やされたオウガが破裂した。凍竜の牙に嵌れた個体も、同様にパァンと四散する。
「「「おおお」」」
 自分より遥かに小さな翅ある少女――ルーナ・リェナ(アルコイーリス・f01357)が放った炎と、その身の一部を転じた顎が発揮する威力の凄まじさに、力自慢のシャチたちが感嘆のウェーブを巻き起こす。
 赤々と体を燃やすドラゴンが、ルーナの意に従ってオウガ達を焼き払う。運よく難を逃れたはらぺこねこばるーんへはルーナが翔け迫り、肘から先が転じた凍竜の息吹で貫き落す。
 ――この子も、こんなにちっちゃくて可愛いケド。すげー強いんだぜ。
 ――ふふ! シャチさんも太刀さんも、ワンちゃんも。最初はちょっと見ててね。
 確かに綾華はそう言っていたし、ルーナも自信満々で飛び出していったけれど。
「見かけで判断してはいけないとは正に金言だな」
「だろ? で、こんな感じで役割分担するといーよ」
 幾度も頷き得心しきりの犬の元へ、オウガの渦から綾華が舞い戻り。
「そうそう。分担するといいんだよ」
 目についた猫という猫を割り終えたルーナが、綾華の頭の上にちょこんと乗って翅を休めつつ、綾華の言葉を真似て繰り返す。
 なるほど、なるほど。
 顔を見合わせた愉快な仲間たちが円陣を組んだ――かと思うと、まずはシャチが飛び出した。どうやら綾華の真似をしているのだろう。びたんびたんとした踊りは敵の目を惹く為か。そして外周へ泳いでいった太刀魚たちは、ルーナを模して死角から狙うつもりなのだろう。
 教え甲斐のある生徒たちの模倣ぶりに、綾華は目を細め、ルーナも「うんうん」と満足げに首肯する。
 海の中なようで、全然違う場所。ルーナは普通に飛べるけれど、綾華が泳げるかというと、そうでもなくて。
『月と太陽が重なるのって日食だっけ?』
『うん、日食。月が太陽に重なって食べちゃってるみたいに見えっからなんかねえ』
『どうだろ? でも実際に見たらわかるかも』
 転送された直後、落ち着く間もなく見た空にはホワイトパールの太陽と、ブラックオパールの月。
 それらを見上げて交わした会話は、まだ綾華とルーナの耳に残っている。ならば、奇跡の瞬間を目にする為にも。そしてゆっくりとこの国を堪能する為にも。
「お、やるじゃん。この国、一緒に守るぞ」
「そうで御座るか?」
「あ、あ。シャチさんあぶなーい!」
 それとなくオウガの動きを封じた綾華は、見事にとどめをさした太刀魚を褒め。その頭上からは、敵を引き寄せ過ぎたシャチの援護にルーナが飛び立つ。
 手本と補助と。綾華とルーナの教えを、愉快な仲間たちは瞬く間に吸収してゆく。

 ――余談。
 シャチたちの中に、不思議な舞が流行し出すのはもう暫く後のこと。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

アルバ・アルフライラ
ジジ(f00995)と
いやはや、再びこの地に足を踏み入れようとは
我ながら存外に思い入れがあるらしい
何やら暴走を始めた従者を小突き
ほれジジ、往くぞ
この地を観光する前に雑魚払いだ

久方振りです、皆さん
仲間達に微笑を湛え接触、先ずは安心させ
次に範囲攻撃でマヒを齎す魔術を展開
動きさえ封じれば仲間達の危険も減る筈
…とはいえ彼等にも戦に慣れてもらわねば困る故
【賢者の提言】で仲間達を強化
シャチのリーチならば敵の撹乱も出来よう
太刀魚は敵の隙を突き一太刀浴びせる事も可能である筈
…其処な黒き者について往きなさい
彼の者が死角を取られぬよう援護をお願い致します
そして頭脳派たる犬と作戦を見出し
的確に指示を送らんと努めよう


ジャハル・アルムリフ
師父(f00123)と

師父が建国に携わったというのは本当か

ならば…師父は国王の一人なのか
うむ、師の手掛けた国なら乱させる訳には参らぬ
…異論は無いが、なぜ殴る

来い、風船
満腹に足るかは知らぬが
後ろのは文字通り歯も立たぬぞ

おびき寄せたうえで用いるは【怨鎖】
先ずは一体、鎖に捕らえ
浮かぶ猫…――猫?どもへ向けて振り回す
直接の撃破が叶わずとも
糸のような部分同士を絡み合わせてしまえば
鎖は錘、そう自由勝手には動けまい

そうして動きを鈍らせた連中ならば
風変わりな「国民」達も与しやすかろう
師父の術を授けられたのだ、良き働きを見せてくれ

襲い来るものあらば黒剣にて受け止め、庇う
…国を守った記憶は
かれらの自信となろう故




「……なぜ、殴る」
 疑問を訴える従者――ジャハル・アルムリフ(凶星・f00995)の至極真面目な顔に、アルバ・アルフライラ(双星の魔術師・f00123)は蟀谷を押さえてぐっと言葉を飲み込む。
 再び訪れた不思議な海の国。思い入れは存外あったようで、アルバの存在に気付くや否や泳ぎ寄ってきたシャチたちと挨拶を交わす顔は自然と緩んだ。
 ――師父が建国に携わったというのは本当か?
 ――そうだよー!
 従者と愉快な仲間たちの会話に一切の誤りは含まれない。とはいえ、
 ――ならば……師父は国王の一人なのか。うむ、師の手掛けた国なら乱させる訳には参らぬ。
 どうしてそうなる。これを思考の暴走と言わずして何と言う。故にアルバは師としての務めを果たしたのみ。そもそも殴っていない。小突いただけだ。
「ともあれジジ、往くぞ。この地を観光する前に雑魚払いだ」
「異論は無いが――だから何故」
 続きそうな問答をアルバは袖にして、返す刃で斬るように群がり襲い来るオウガ達へ挨拶がてらの魔術を展開する。
『maumau!?』
『mya……a、au?』
 ふわふわと漂っていた体が、急に重くなったように感じたのだろう。はらぺこねこばるーん達が違和感に鳴く。が、事態を察しきるより早く、ジャハルがオウガ達へと肉薄する。
「来い、風船。満腹に足るかは知らぬが、後ろのは文字通り歯も立たぬぞ」
 アルバがクリスタリアンである事と、優れた魔術師であることと。二つをかけた揶揄で――すっかり戦士の貌になった――ジャハルは敵の気を惹く。
『『I’m Hungry』』
『『I’m Angry』』
 麻痺に蝕まれているのに気付かぬオウガ達が、ジャハルに群がる。されど敏捷を欠いた猫など、竜の武人の前ではただ置物にも等しい。
(「いや。これは猫……なのか?」)
「鎖せ」
 この国に来て抱いた二つ目の疑問を、ジャハルは手の甲から血を滴らせる事で意識の奥へと追いやった。
 勢いよく払われた手から、血雫が飛ぶ。描いた軌跡はジャハルとオウガを繋ぐ鎖と成る。そしてジャハルは捉えた一体を勢いよく振り回す。場所は敵の密集地。となれば、あっという間に本体から垂れた糸ではらぺこねこばるーん同士が絡み合い、身動きが取れなくなる。
 仕度は整った。
「宜しいですか、あなた方なら尾鰭の一撃で敵の攪乱もできるでしょう」
 アルバの提言に、シャチが「なるほどぉ!」と前線へと泳ぎ出す。
「太刀魚の皆さんは、隙を突いて一太刀浴びせるというのもありかもしれません」
「「速さでは負けぬでゴザル」」
 言葉は力を持つもの。方向性を示したのみならず、戦闘力の強化を受けた愉快な仲間たちは、素早く力強い。
「万一の時は……其処な黒き者について往きなさい」
「援護は任せておけ。師父の『国民』が命を落とさせるようなことはしない――が、師父の術を授けられたのだ。良き働きを見せてくれ」
(「……、……だから私は国王ではないと。ジジめ、未だ理解しておらぬか。あの戯けがっ」)
 ぐぎぎぎぎ。今度は拳を握り締め、アルバは唐突に襲い来た片頭痛を捻じ伏せる。どうやら星を授けた従者へは、篤と語って聞かせねばならぬらしい。
 しかし、今は。
「アルバ殿アルバ殿、シャチくん達に水流を起こして貰って、敵を一か所に集めるというのもありかい?」
 警戒にピンと耳を立てた犬の言葉に、アルバは是を頷く。
「良い案ですね。そこへ太刀魚の皆さんで一気呵成に襲い掛かれば、一網打尽も叶いましょう」
 アルバは知略を以て、ジャハルは実践で以て、愉快な仲間たちを補い導く。
 この経験が――国を守ったという記憶は、やがて彼らの自信となり、国をより堅固なものとする礎になるだろう。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

カーティス・コールリッジ
ライラックおじさん(f01246)と
おれはマザー――育成プログラムに
せかいの、いのちのことわりを教わったけれど
ただひとりの少女へ贈られた物語、それは、

ねえ、おじさん
しらない、しりたい!
おしえて、『不思議の国』のおはなしを!

戦場へ踊り出たなら
愉快な仲間たちを狙う風船猫をひとつ撃ち抜き
注意がこちらへ向くように

攻撃優先順は残HP低>愉快な仲間たちを狙う個体
早く数を減らせるように頑張る

熱線銃の射線を追うように出ずるそれが
『まほう』なのだと知れば、思わず歓喜の声上げて

いま、いまの、いまのなに!?
ライラックおじさん、まほうが使えるの!?
わあ、どうしよう、どうしよう!
おれ、まほうつかいさんと一緒に戦ってる!


ライラック・エアルオウルズ
【カーティス(f00455)さんと】

童話の頁開いた様な世界、
本当にあるとは思わなかったな
思わず心は躍る物だけど
双眸は確と厄介な眼前を見据えて

ああ。沢山、教えよう
僕の一等好きな物語だからね
最初にひとつ、教える事は
――こんなにも猫は居なかった

注意を引く少年を心強く思い乍ら
愉快な仲間たちの為にも、
敵数を減らす事を優先として
開く魔道書の頁を花弁に変え、
多くを狙う《範囲攻撃》を
撃ち漏らした敵・仲間を狙う敵も、
《見切り》で見定め援護出来る様に

歓喜の声聞けば、
思わず和やかな心地で眦下げて

おや、魔法を見るのは初めてかい?
そんなに燥いで頂くと、
面映ゆくも有るけど嬉しくて
……何だか、張り切ってしまうなあ




 透明度の高い液体に満たされた空には、ホワイトパールの太陽とブラックオパールの月が浮かんでいる。
 遠く透かせば僅かに青に染まる国。目を凝らすと、竜宮城のような陰影と、ヨーロッパのような街並が。そして細い巻貝のような白亜の塔が見えた。
 まるで童話の頁を開いたような世界だ。
(「……本当にあるとは思わなかったな」)
 いつか飛び込むことが出来たならと思い描いていた不思議の国との邂逅に、ライラック・エアルオウルズ(机上の友人・f01246)の鼓動は早鐘を打つ。
 シャチが、太刀魚が、二足歩行の犬が喋っている。
 ここでは『視得ない』はずの友人たちが、当たり前の存在。
 多くの『不思議』が『普通』の顔で溢れている!
 すごい、すごい、すごい。
 感嘆に胸をいっぱいにするのはカーティス・コールリッジ(CC・f00455)も同じ。宇宙(そら)に生まれた子供は、『マザー』に――育成プログラムに世界の、命の理を教わってきたけれど。
 これは。ここは。そのどれとも違う。まるで、まるで、まるで――。
「ねえ、おじさん!」
 ――しらない、しりたい!
「おしえて、『不思議の国』のおはなしを!」
 自分の子供ほども――下手をすれば、孫にもなり得る――年の離れた頼もしき友人の求めにライラックは「ああ。沢山、教えよう」と微笑み。それから押し寄せてくる黒い波へ一瞥を放り、最初の一つを物語る。
「――こんなにも猫は居なかった」
「そうなの? じゃあ、こわしても大丈夫だね!」
 淡紫色の瞳が告げた敵意に、カーティスはすかさずブラスターを構え、星海を裂くひかりで手近な一体を撃ち抜いた。
 パァン!
 刹那、爆ぜる音が細波となって空を走る。同胞の四散に、オウガ達がざわつく。
『I’m Hungry』
『Are you Hungry?』
『Yes Hungry!!!』
「そうだよ、こっちにおいで!」
 自分に敵の注意を引き付けて、カーティスは専用小型戦闘機に乗り込む。
 低く、低く、地を這う低さでカーティスは翔け、より多くのオウガの意識を取り込み。狙いすました一撃を放つ。
 光が、真横に迸る。と、そこへ。
「暖かなる春が来た。咲く花々は貴方を目指し、僕は其れを祈るだろう──どうか届きますように」
 ライラックが開いた魔導書の頁が、一枚一枚、また一枚と花弁に変わり、カーティスの攻撃に彩を添える。
 光に貫かれた猫風船が、破裂する間もなく華やかな花吹雪に巻かれて消えて逝く。
 それはまるで、魔法のようではないか!
「いま、いまの、いまのなに!?」
「おや? 魔法を見るのは初めてかい」
「ライラックおじさん、まほうが使えるの!?」
 否、『よう』ではない。まさに『魔法』なのだ。
「わあ、どうしよう、どうしよう。おれ、まほうつかいさんと一緒に戦ってる!」
 物理法則の中で生きて来た子供の素直な感動に、ライラックの眦がたまらず下がる。
 当然のように使っていた魔法を喜んでくれる誰かがいる。そしてそれで守れる、不思議な現実がある。
「……何だか、張り切ってしまうなあ」
 面映ゆさと嬉しさと。胸を温める二つを抱え、ライラックはこの国を脅かすオウガ殲滅に注力する。
 そしてその視線の先では、カーティスの機影が気持ちよさそうに泳ぎ飛んでいた。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

蛍火・りょう
え、また襲われているのか、この国は
お祓いとかした方がいいんじゃないか?

あれ……太刀魚がいる
うん、うん
見た感じ、中々に名刀ぞろいじゃないか
これなら戦い方さえ身に付けば、後は何も心配なさそうだな

人に教えられる程、知識がある訳じゃないが
こういう群れでくる手合いには
囲まれないように気を付けるんだ

逆に言えば、1体をみんなで囲んでしまえばこっちの勝ちだ
え、卑怯?
相手だって集団で来てるんだ
仲間を孤立させた相手が悪い、気にするな

キミ達も、ちゃんとお互いに気にかけて
孤立しないようにするんだぞ?

彼らが上手く連携できるようになるまでは
怪我しても大丈夫なように、UCで支援しておこう
本気で危なそうなら、割って入るけど




 額から突き出た大きい方の角の先。びりと感じた嫌な波に、蛍火・りょう(ゆらぎきえゆく・f18049)は「え」と猫のような瞳孔を縦に眇める。
 どうやらこの国は、また襲われているらしい。しかも相手は猫だ。
「お祓いとかした方がいいんじゃないか?」
 大きな角の下でひっそりと存在を自己主張する小角の先を、りょうは何とは無しに指先でなぞり――うん、と自己完結する。
 祓えるものならば、祓った方がいいのだろうけど。
 こういう時、自分ならどうするか。答は一つ。
「よし、殴ろう」
 呼吸を妨げず、そうたいして足元の砂も巻き上げない液体の中を、りょうは真っ直ぐ疾駆し始める。
 すぐに太刀魚たちがりょうに寄り添った。自分の命の源の発想をこの国に授けた主であるのを、きっと本能で感じ取っているのだろう。
「「「助太刀致す」」」
 ――いや、助太刀なのはキミ達じゃなくて、ぼくだから。
 とは敢えて言わず、りょうは寄り添う白刃の煌めきに納得を頷く。中々の名刀揃いのようだ。これなら戦い方さえ身に着ければ、後は何も心配は要るまい。
「こういう群れでくる手合いには、囲まれないよう気を付けるんだ。逆に言えば、1体をみんなで囲んでしまえばこっちの勝ちだ」
 突出しかけていたオウガを一殴りして、退くにみせかけ引き寄せ、孤立を誘ったりょうは、太刀魚たちを招き寄せる。
「「それは武士道に悖――」」
「卑怯だって? 相手だって集団で来てるんだ、仲間を孤立させた相手が悪い。気にするな」
 愉快な仲間たちへは皆まで言わせず、りょうは持論で押し通す。人に教えられる程、知識がある訳ではない。しかし戦いは勝ってなんぼだ。負けては――命を獲られてしまっては意味がない。
「キミ達も、ちゃんとお互いに気にかけて。孤立しないようにするんだぞ?」
「「「わかったぁ~!」」」
「了解だ」
 犬を背に乗せたシャチが戦陣に加わる。
「太刀魚くん、突っ込み給え!」
「「――承った」」
「シャチくん包囲だ」
「おーけー♪」

 最初は少しずれていたタイミングも徐々に合っていく。
 愉快な仲間たちの戦いぶりを見守り、りょうは静かに唱えた。
「痛むのならば記憶さえ、苦しいのならば縁すら。全て奪ってあげようか?」
 剥奪の呪詛だ。けれど奪うのは苦痛のみ。然して己の疲弊と引き換えに、りょうは愉快な仲間たちの急成長を目の当たりにする。

大成功 🔵​🔵​🔵​

黒門・玄冬
【教会】
たかくのぼって、おほしさまになる
不思議な光景だ
茘繼さんの冗談にはやや反応に困まるけれど
彼なりの意欲の表明かと黙して受止める
無邪気さを溢して瞳を輝かせたクラリスには
そうだねと頷いた
僕も、みてみたいな

犬君の元へ走る
極力驚かせないよう
礼儀作法とコミュ力と優しさで礼を尽くすよ
情報収集と戦闘知識と地形の利用を活用して
司令官として
シャチ君、太刀魚君が連携して
オウガを追い込み易い場所に誘導するよう
ある程度纏まったら速やかに後退するよう
指揮して欲しいと協力を頼む

シャチ君、太刀魚君が後退したら
見切りとフェイントとダッシュで中心迄を突っ切り
愉快な仲間たちや同行者を巻き込まないと確認した上で
檸檬を使う


嘉三津・茘繼
【教会】
太陽と月のランデブー
たくさんの命が散って
たくさんの命が生れる
いやぁ、凄い光景になりそうだね!
僕はどっちかというとオウガたん達のが近い感じだけど
ほら、見た目的に?と冗談めかして肩を竦める
玄冬君が難しい顔になってて正直だなーと笑いつつ
飛び跳ねて否定するクラリスちゃんに有難うと返した

愉快な仲間との接触は任せて
僕は拠点防衛と進路を切り開くことに専念しよう
怪力でのなぎ払いと吹き飛ばし
ばるーんのスピードが思ったより早ければ
ブラックタールの身体を活かした
無数の腕による串刺しの範囲攻撃
仲間に危害を加える奴は
喰いで捕まえてびったん!
痛いの嫌だから盾受けと武器受け抜かりなくね

はらぺこなら僕も負けてないよ?


クラリス・ポー
【教会】
海底の国で白い太陽と黒き月が出逢う夜
虹の煌きに誘われるように
珊瑚から生まれた卵たちが
おほしさまになる

…凄いですね!
是非見てみたいですニャ
空想のキャンバスに広がる
ロマンティックな光景に心も声も弾みます
その為には
あのぷかぷかオウガをやっつけないとですね
茘繼さんは…びょいーんっですし、全然違いますよ!?

シャチさん、太刀魚さん、犬さんには
コミュ力と動物と話すを発揮して
助っ人に来ましたとご挨拶
勇気と獣奏器の楽器演奏で
一緒にやっつけましょう!と鼓舞します

ルートは野生の勘と第六感を頼りに
ライオンライドで召喚したライオンさんに乗って
ねこばるーんを蹴散らしつつ先導します
玄冬兄さん
尻尾に掴まってください!




 降り立った大地の感触は柔らかだ。
 薄く積もった砂が衝撃を吸収するのだろう。だがその砂の動きからして『いつも』と違う。
「?」
 首元を飾る鈴をりりんと鳴らし、クラリス・ポー(ケットシーのクレリック・f10090)が跳ねても砂は僅かに揺らぐだけ。いくらクラリスがケットシーだからと言っても、地上ならば相応の砂ぼこりがたつはず。
「へぇー、面白そうだねぇ!」
 下半身と言える部分の大半が流動体に近しい嘉三津・茘繼(悪食・f14236)も、ブラックタールの裾野をずるりと広げてみた。押し寄せる波を思わす茘繼の所作に砂は微かに舞い上がりはしたものの、ほんの一時の滞留を経て地面へ戻る。
「何とも不思議な世界だね」
 発した言葉が気泡を伴う音になる様に知的好奇心を刺激されて黒門・玄冬(冬鴉・f03332)が口許で微笑む。
 浮力を殆ど持たず、そして人の生命活動を一切妨げない液体で満たされた不思議な海の国。
 しかも今日は頭上で優しく微笑むホワイトパールの太陽と、虹色の煌めきを愛想よく地上へ降り注がせるブラックオパールの月が邂逅を果たす日。しかも珊瑚が産み落とした沢山の卵たちが、高く高く昇って星になるというのだ。
 ――太陽と月のランデブー。
「たくさんの命が散って、たくさんの命が生まれる。いやぁ、凄い光景になりそうだね!」
 はしゃぐように黒い飛沫をぱっと散らした茘繼が、しかしふっと声のトーンを落とす。
「ああ、でも。僕はどっちかというとオウガたん達のが近い感じだけど? ほら、見た目的に?」
 あるやなしやの肩を竦めてのそれは、小粋な冗句に過ぎない――が、玄冬は反応に窮して口を噤む。きっと茘繼なりの意欲表明なのだろう。だがこんな時に上手い返しが玄冬には出来ない。となれば、ここは紅一点のクラリスの出番。
「茘繼さんは……びょいーんっですし、全然違いますよ!?」
 びょいーん――つまり『伸縮自在』ということらしい。ぴょんぴょんその場で跳ねて、違いますよ、違いますから! と繰り返す少女に、茘繼は「ありがとう」と返す。
 賑やかで、和やかな一時だ。
 けれど前線では既に多くの猟兵たちと愉快な仲間たちがオウガとの戦いを繰り広げている。
「あれぇ、後れをとっちゃう?」
 急ぐぅ? との茘繼の尋ねに、クラリスが一際高く跳ねたかと思うと、
「では、私たちも参りましょう! そしておほしさまたちを、絶対見るのですニャ」
 逸る気持ちで空想のキャンバスにロマンティックな光景を描きながら駆け出してゆく。
「そうだね。僕も、みてみたいな」
 その無邪気で素直で頼もしい背中を追いかけ、玄冬も黒い波間を目指し走る。

 自在に変形できる四肢を出来るだけ大きく広げ、茘繼は力任せにオウガ達を薙ぎ払う。
 よくよく撓りの効いた一撃に、多くの風船猫たちがぼよーんと飛ばされては、ずるずる糸を引き摺り舞い戻る――を繰り返す。
『『『I’m Hungry』』』
「えええ、痛いのは嫌だなぁ。それにはらぺこなら僕も負けてないよ?」
 剥かれた牙に、茘繼はウニのように無数の腕を生やして攻勢に転じる。

 そんな茘繼の奮戦に守られた後方では、玄冬とクラリスが簡易講義に勤しんでいた。
「いいかい? 君が司令官になるんだよ」
 膝を折って視線の高さを合わせてくれた茘繼の教えを、モノクルをかけた犬は静かに聞き入る。
「まずはオウガを追い込み易い場所へ誘導して、ある程度まとまったら後退させて欲しいんだ。鍵になるのは、シャチ君と太刀魚君を連携だよ」
「了解した――して、その後は?」
 理知の光を多分に湛える賢い眼差しが、戦いの果てを見通そうと玄冬の紫の瞳の奥を覗き込む。
「救援に来てくれた皆さんだけを危険に晒すわけにはいかない」
 立派な“司令官”の顔つきだ。成程、彼らはこの国の防人。来訪者にばかり負担を強いたくもないのだろう。
 だから「もちろん!」とクラリスが金色の瞳に協調を煌めかせた。
「一緒にやっつけましょう!」
 小さな体から溢れる覇気が、愉快な仲間たちまでへも伝播する。

「いいねー。愉快で楽しい私的で詩的なお時間です。みたいな?」
 引きずる糸をまとめて捉え、茘繼がびったんびったんとオウガ達をまとめて振り回して道を作った。
「「「いっくよー」」」
「「我が速さに着いて来られるならば、着いて来い!」」
 そこへシャチと太刀魚が雪崩込み、多くのはらぺこねこばるーん達を引き付ける。まるで一か所、黒い渦が立ち昇っているようだ。
 シャチと太刀魚たちが犬の指示通り、一旦退き始めたのを確認し、クラリスが黄金のライオンに跨る。
「玄冬兄さん、尻尾に掴まってください!」
「ありがとう」
 加速を分かたれて、玄冬も仮初めの海を疾駆する。途中のオウガ達は、クラリスが文字通り蹴散らす。
 そして至った渦の中心に、玄冬が立つ。
「僕も使いたくないが……」
 握り締めていたのは、『もう一人の自分』が造ったもの。多くの敵をまとめて殲滅せしめるもの。
「悪く思わないでくれ」
 檸檬――と。名づけられた爆弾が、玄冬の手から放られ炸裂する。パァンパァンパァンと爆発に呑まれたオウガ達が次々と四散した。
 一気に減った敵の数に、今度はシャチや太刀魚たちが反撃に出る。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

斜城・エフィ
ただの風船なのにな
とは言えオウガだ、侮りはしない
鬼はアリスを襲う
「ここ」では「そういうもの」だ
けれどそれに甘んじるかどうかは、おれたち次第

孤立している者から助け、集めよう
襲い来る風船を幾らか割って見せれば信用を得られようか
おれはただのアリスだ
だけどあいつらなどに負けはしない
お前たちにだってできるさ
やってみせろ

国を興したなら守るのは住民の責務
おれたちがいなくてもこの先戦えるように
犬のお前たち。連携して風船を一箇所に追い込め
シャチが一匹ずつ潰し、
太刀魚は逃走する奴らから狙って倒せ
一度に全てを相手にするな
自分が有利になるように、敵をコントロールしろ

…犠牲になったアリスの霊
これ以上は増やさせない


清川・シャル
ねこさんのバルーン可愛いです。
お腹空いてるんですね?
これでおなかいっぱいになるといいな。(ぐーちゃんスタンバイ

ぐーちゃん零(2回攻撃、毒使い、マヒ攻撃、範囲攻撃)でUC使用
派手にピンクを散らしましょ〜
ピンクのにゃんこになりますね。
かわいいね。

弾薬が終わったら、修羅櫻(なぎ払い、串刺し)を抜刀しましょう

見切りやカウンターを愉快な仲間さんたちに披露してみせて、
「こうやったらいい感じに戦えます、ほら、今!」
「わあ、良いです〜!」
って褒めて伸ばす感じで、誘導出来たらいいな。
危なくなったらちゃんと庇うし前に出るから安心してくださいね


如月・イズナ
この町……壊しちゃ、ダメ…きちゃダメなの

交戦する場所を観察、要塞のイメージを練り【符術・幻想城】を構築して【拠点防御】の構えを取る
城壁の様な防衛線を築き、城壁の上から絡繰り人形(灯火)の火縄銃の【一斉射撃・援護射撃】し、敵を城壁に近づかせない様にする
城壁後方には絡繰り人形(大鵬)の砲兵陣地を構築、城壁に配置した絡繰り人形(少佐)からの着弾観測指示で砲撃を行う
城壁が破られた場合に備えて、絡繰り人形(要兵)を主力とする第二抵抗線を絡繰り人形(工職)達に陣地構成しておく

イズナが居る本陣には少数の要兵のみ
イズナは浮亀に乗り、ぼー、と戦線を見ている
なお、イズナの戦闘力はほぼ皆無、突破されたらヤバイです




 くるりとした瞳に、如月・イズナ(獣の国の幼き姫・f16772)は不思議な海の国を一望する。
 押し寄せる黒い波は前方。後方には、独特なフォルムの城が聳える街を。
 合間の地形は、おおよそなだらかだ。谷もなければ、山もない。しかし一切の凹凸がないわけでもない。
「……ここ、と」
 中空をふわふわと漂うようなオウガたち。きっと重心を定めにくいのだろう。僅かの隆起も動きの妨げになるらしく。なるだけ平らな位置を択んで進軍している。
 ――だから。
「……ここ、を。結んで――構築するの……」
 小作りな口が、とつりと唱えた。
 途端、オウガ達の進路を塞ぐように大地がせり上がる。さながら城壁だ。否、さながら、ではなく、それは正しくイズナが符術で以て築き上げた城壁。
 突然の足止めに、オウガが密集する――つまりは、一網打尽にする好機。
「……この街、壊しちゃ……ダメ」
 イヅナの想いに応え、幾体もの絡繰り人形が城壁の上で火縄銃を構えた。
 バァン!
 パァン!
 弾丸が放たれる音に続き、風船が破裂する音が未知の液体に波を起こす。
「……きちゃダメなの」
 亀の形状を模倣した絡繰り人形に乗り、戦場を俯瞰するイヅナが操る人形たちは多数にして多彩。
 あるものは砲台となり、またあるものはそれらを指揮し。城壁が破られた際に備える人形たちも居る。
 幼い姫君が築いた堅牢な城壁の突破は困難。
 そう判断したオウガ達が次々と身を翻す。けれども逃げ果せる数より、撃ち落とされる数の方が断然多い。

「ねこさんのバルーン、可愛いです」
 浮力のない水底を清川・シャル(ピュアアイビー・f01440)は軽やかに疾駆する。
『I’m Hungry』
『I’m Hungry!!』
「お腹、空いているんですかね? じゃあ、これでおなかいっぱになるといいですね」
 にこりとお日様のように笑った少女は、しかして羅刹の娘。イケてるピンクで彩る物騒な得物――12連装式グレラン&30弾アサルトウェポンを軽やかに構えた。
「戦場に響きし我が声を聴け!」
 高らかに、躊躇はなく。むしろ嬉々とした謳声に、無数の銃弾が戦場へと解き放たれる。
 ダダダダダ。
 パンパンパンパァン、パァン!!
「ふふ、みんなピンクのかわいいにゃんこになりましょう!」
 弾薬にまで仕込まれた鮮やかな色に、海がピンクに染まってゆく。まるでピンクの薄雲がゆらりと流れてゆくようで。ますます嬉しくなったシャルは、今度は二振りの刃を抜いて進撃を開始する。
「みなさ~ん、こうやったらいい感じに戦えます!」
 一振りは、父の形見。もう一振りは、母の形見。
 桜色の柄糸を巻いたそれらでシャルは、愉快な仲間たちに戦い方を示す。
「ほら、今!」
「「!」」
 閃かせた本差しを、躱そうとしたオウガの動きが不安定になる。そこを示すシャルの合図に、太刀魚が二体攻めかかった。
 彼らの切っ先が、過たず敵を貫き屠る。
「わあ、良いです~!」
 好きに振る舞うようでありながら、シャルは愉快な仲間たちの動きを注視し、彼らをより良き戦い方へ導いてゆく。

 血走るような赤い眼で、斜城・エフィ(Bitte・f19819)は猟兵たちとオウガの攻防をじぃと見る。
 相手はただの風船だ――いや『ただの』ではない。
 中身が空っぽで、ふわふわ漂うだけのようであって、アレはまごうかたなきオウガ。アリスを襲って喰らう鬼。
 アリスラビリンスとは、そういう世界。
 オウガによって放たれたアリスが逃げ回り、やがて喰らわれる理不尽の園。
 ――けれど。
(「それに甘んじるかどうかは、おれたち次第」)
 小さな体をぎゅっと丸め、オウガの視線を掻い潜っていたエフィは、選び抜いた瞬間にぱっと駆け出す。
 パァン!
「あっちだ」
 エフィが繰り出した身の丈ほどの銀のフォークが、はらぺこねこばるーんを貫く。しかし結末を見届ける間もなく、エフィは仲間からはぐれかけていたシャチに跨った。
「え?」
「大丈夫だ。おれはただのアリスだ。だけどあいつらなどに負けはしない」
 突然のことに黒白反転のシャチが身を強張らす。が、エフィの言葉にシャチは悟るべきことを察し、エフィを乗せて示された方へ泳ぎ始める。
「向こうの一団と合流する。その前に、あの太刀魚たちだ」
「わかった!」
 シャチが知る限り、エフィは最も幼い子供だ。けれど的確な指示に、シャチは迷わず信を預け、不可思議な海を疾く征き。他の愉快な仲間たちとオウガへ立ち向かう態勢を整える。
「お前達にだってできるさ。やってみせろ」
 嗅覚の鋭い犬へは、連携してオウガ達を一か所へ追い込むように。
 パワーに優れたシャチへは、敵を一体ずつ潰すように言い。
 そして逃走を図るものへは太刀魚へ任せ。
「一度に全てを相手にするな。自分が有利になるように、敵をコントロールしろ」
「はは、そう言われると気合も入る」
「「だいじょうぶ、まけないよ!」」
「「「見事、遣り遂ゲテ見せようゾ」」」
 銘々が、銘々の得意を活かして鬼と互角以上にわたり合う。
 そうだ、ここは国。ならば守るのは住人の責務。
 きっと彼らはこの先も、自分たちの為に――アリスの為に、この国を守ってゆくだろう。

 ――……犠牲になったアリスの霊。
 ――これ以上は増やさせない。

 オウガが繰る怨嗟を、エフィは苦々しく見る。
 誓いは、胸に。
 そしてその想いを、愉快な仲間たちも引き継ぐ。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​




第2章 ボス戦 『ふてぶてしい黒兎』

POW   :    ほら代金だ。しばらくそこで止まっていたまえ。
【札束】が命中した対象に対し、高威力高命中の【金額に比例した秒数の時間停止魔法】を放つ。初撃を外すと次も当たらない。
SPD   :    私の時間を奪うなら、その分の代金を払いたまえよ。
戦場全体に、【あらゆる行動に対価を要求する不思議時空】で出来た迷路を作り出す。迷路はかなりの硬度を持ち、出口はひとつしかない。
WIZ   :    諸君の実力なら、これくらい払えば十分であろう。
全身を【時空間圧縮魔法】で覆い、自身の【支払った財産】に比例した戦闘力増強と、最大でレベル×100km/hに達する飛翔能力を得る。

イラスト:ゆりちかお

👑11
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種別『ボス戦』のルール
 記載された敵が「1体」出現します。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※このボスの宿敵主はニィ・ハンブルビーです。ボスは殺してもシナリオ終了後に蘇る可能性がありますが、宿敵主がボス戦に参加したかつシナリオが成功すると、とどめを刺す事ができます。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


●逆らう海、名を得る街
「まったく。時間稼ぎの一つも満足にできないのか」
 急激に黒い密集が薄らいでいくのに、それは「ふん」と高慢ちきに鼻を鳴らした。
「時は金なり。私に使われる以上、私の時間を浪費させないくらいの役にはたつと思ったが」
 ぴょん、ぴょん、ぴょん。
 残ったはらぺこねこばるーんを足場に、それ――外見だけならバニーガールを洒落込んだ黒兎は、己の興味を惹いた風変わりな城を目指す。
 どこかの世界では『竜宮城』と呼ぶらしい城は、黒兎にとって初めましてのもの。きっとそこになら、今までに出逢ったことのない価値あるものに出逢える筈。
 けれど城を中心として形成された貝殻の城下町は、侵入者を阻む水の壁に守られている。
「なんたる不遜! 私の時間を浪費させるなどと!」
 跳ねて、跳ねて、跳ねて。
 そうする間に聞こえるざわめきから、街が『さむらいの海』と仮の名で呼ばれているらしいことを知った黒兎は、また「ふんっ」と鼻を鳴らす。
「こうなったら私が名前を与えてやる」
 名は、力をもつもの。
 邪なものにもし与えられてしまったら、街の存在そのものが歪められてしまう。
「――あと。邪魔な連中には、こうだ!」
 追いかけて来る何者らが、配下のオウガ達の堤を抜けたことを察した黒兎が、後ろ脚に波を蹴り上げた。
 途端、激しい水流が巻き起こる。
「ふっふっふ、これで容易く近付けまい」
 ――さすが私、賢い。
 ふふん、ふふん。
 ふてぶてしいことこの上ない黒兎は、ご満悦そうに耳を撫で、札束で毛並を整える。
 その余裕が、根拠などない慢心であることに気付きもせずに。

 黒兎に迫ろうとする猟兵たちを、正面からの波が襲う。
 力技で抜けるのもいい、技量、知略で以て制するのもいい。
 とにかく一時も早く黒兎へ追いつき、名づけが為される前に、斃さなくては。
 そしてもし。
 竜宮城を礎とし、貝殻の家で街を成し。珊瑚の庭園が広がる街に相応しい『響き』を思い付いたなら。
 そっと口にしてみるのもいいかもしれない。
ジャック・スペード
波を嗾けて来たか、厄介だな
溺れそうで余り向き合いたく無いのだが……
此の街の為、仲間の為に道を切り拓こう

さあ、ヒーローショーの始まりだ
召喚するのは鋼の大剣、怪力でコレを思い切り振り回し
風属性の衝撃波で襲いくる波を割って進みたい
広範囲の波を無効化出来たら、仲間も追いかけ易いだろうか

黒兎に追い付き次第、マヒを齎す弾丸で足止めを
氷属性の援護射撃で仲間のサポートも行おう
迷路で対価を求められたら、機械仕掛けの此の声を呉れてやろうか
どうせ大した事は言えない口だ、問題は無いさ

俺の未発達な情緒では、何かに響きを与えるなんて出来ないが
貝殻と珊瑚に彩られた此の街に相応しい
美しくて優しい名が与えられたら良いと希う


斜城・エフィ
波に流されたらおれなどはひとたまりもないな
ならば跳んでいくとするか
瞼伏せて、黒く塗られた爪に口づけひとつ

フォークを銀の大蜘蛛へと変え、どこか高所に糸を張る
蜘蛛の背に乗って振り子の要領で跳び上がり波を避けたら
高所を渡るか同様に糸で飛び移って進む
敵の行く先に回り込むように
札束と迷宮には注意を払い
移動の半分を蜘蛛に任せる分回避に集中したいところ

けれど血が失せては長く保たない
手早く確実に
鬼ごっこも終いとしよう
最短距離で追いついてみせる
蜘蛛の吐く銀糸で動きを鈍らせ、銃弾を撃ち込む
命の対価は、命だ

名前は、大事なものだな
ブルーブルーエ
矢車菊の青にこの海は似ている
誰かの祈りを受けたなら、きっとより良い国になる


蛍火・りょう
え、何だこの水…
誰だか知らないが、ぼくたちに喧嘩を売ってるって事でいいんだな?

だったら、高値買取してやるさ

こんな水流、拳(怪力・衝撃波)でぶっとばしてやる
シャチくんも手が空いてたら、少し手伝ってくれ
一瞬緩めばそれでいい、あとは駆け抜けるだけだ

飛翔能力?
向かってくるなら正面から受けて立つ

(UC発動)
怪我とか知るか、喧嘩を売ってきた以上
最低でも1発は殴るぞ

それに、ぼくに近づいて
呪われずに済むと思うなよ

その感覚を奪い取る

お前の目は、金を映さない
手は、金の手触りを感じない
鼻は、金の匂いをかげない

この国に、『綿津見の庭』に、お前のものなどあるものか

金が無い事にうろたえて
せいぜい皆の攻撃の的になるがいい


クラリス・ポー
【教会】
茘繼さんと二手に分かれ
玄冬兄さんと同行です

か、感じの悪い黒兎ですニャッ…!
余りの不遜さに尻尾の毛も逆立ちます
ダッシュで追跡します
迷路は野生の勘と第六感を働かせ
玄冬兄さんの背に登って逸れない様に
距離が詰ったら飛び掛って
猫の毛づくろいでスッテンして貰いましょう
札束が飛んできた時は
ダンスステップで躱します
ケットシーは誇り高くあれと
わたしは父に教えられました
買収なんてされませんよ!?
ぷんすかです

竜宮城に貝殻のお家
珊瑚の庭園が広がる街
水の壁に守られ
住人の仲間達も守り合い戦う勇気の国
相応しい響きがわたしにあるなら
それは『力強さ』という宝石言葉を持つ黒真珠
『ブラックパールタウン』ニャンてどうですか?


嘉三津・茘繼
【教会】
試したい事を閃いちゃったから
クラリスちゃんと玄冬君とは一旦お別れ

先ず、怪力で地中にトンネル掘りします
情報収集で得た跳ねる黒兎の足音を頼りに
地中で追跡してけば、迷路は回避出来るかも?
回り込みが成功したら

|ω・`)ノ ヤァ

出口に罠使いで落とし穴を掘るか、
タイミング合わせて驚かすかは、時間差で判断
不意を突き、『喰い』で戦って
皆が駈けつけるまで時間を稼ぐよ

お金も時間も大切だけどさ、
僕はもっとお腹が膨れるものが嬉しいかなー?
なんてね

『ブラックパールタウン』って、強そうな響きだね
住人が愉快な海賊団になっちゃうかもしれないけれど…
ロボットの女の子も居るようだし、
さむらいの心を忘れなければ大丈夫かな?


サン・ダイヤモンド
だめ!行っちゃだめ!
僕はこの街と、皆の笑顔を護りたい
敵の攻撃は野生の勘と逃げ足で避けて【祈りの歌】を叩き込む
(護りたい一心で札束を札束と認識すらしていない)

『この地を満たす聖霊よ』
敵の起こした水流・この世界の水に、真の敵を討つ力と意思を与え、水の進路変更敵を攻撃
君達の世界を、皆の街を、護って――!


僕には名前が無かった
あったのかもしれないけど、知らない、わからない
僕の名前は大好きなあの人(ブラッド)がくれたもの

いつでも蘇る、愛と慈しみの籠ったあの人の呼び声
大切な、僕の名前

きっと、愛する為に名前を付けるの
支配する為なんかじゃない

ああでも、想いは溢れて纏まらない
ただ「夢みたいだ……」と見惚れてしまう


リル・ルリ
■櫻宵/f02768

ひゃあ、波だ!
櫻、しっかり掴まって流されないで
……え、波って斬れたんだ……?
まぁいいか
櫻らしい
そのまま進もう
波がすごければ『花籠の歌』で君への波を防ぐから

君と築いた大切な国
壊されるのも穢されるのもいやだ
名前は、この国を表すもの
変なのつけられたらやだよ
名前…花真珠の国とか…

君のくれるお金なんて必要ない
必要なのは、未来への希望と平和と大好きな人と過ごす時間だ
歌唱に櫻への鼓舞を込めて
そして黒兎への誘惑をこめて歌うのは『星縛の歌』
櫻が君を見るの、なんか嫌だから
全部打ち消してあげる
僕の櫻はダンスは下手だけど剣舞は得意だよ
上手く舞えるよう整えるから
さぁ、みせて

一緒にこの国を守るんだから


誘名・櫻宵
🌸リル/f10762

やだー!波!
泳げないのに流されちゃうわ!……リィが流されるその前に
「絶華」で波ごとなぎ払い斬り裂きましょ
海が割れるのも素敵でしょ?
さ!行くわよ

お行儀のなってない兎には帰ってもらわなきゃね
あなたの大好きな国を歪められるものですか
名前だって…そうね
竜宮城に貝殻の街で思い浮かぶのはニライカナイだけれど
幸せで明るい…どんな未来も叶うように
ミライカナイ、とかね
とにかく未来ある素敵な名前がいいわね

リルを庇い波を裂いて駆ける
見切り躱して鍔迫り合いにはグラップルを添えて
リルの歌が全ての邪を清めてくれる、安心感
駆けて衝撃波に呪詛のせて斬りさくわ
跳ねて飛んで
さぁ首を頂戴なと絶華を咲かせましょ


ルーナ・リェナ
綾華(f01194)と

うん、ありがと
お言葉に甘えて肩に乗らせてもらうね
いつもとちょっと違う様子が心配で
綾華の服をきゅっとつかんだり、肩をぽんぽんってしたり
大きい波はマレーアで小さくできるかな
少しでも綾華が怖くないようにしたい

迷路はぐるぐる、通ってきた道はよくわからないけど
綾華を信じてついてくよ
もらった飴は綺麗で食べるのがもったいないなぁ
でも、食べたら美味しくてもっと嬉しくなる

黒兎を見つけたら一直線にとぶ
変な名前なんてつけさせないんだから!
ソルからリアマを呼び出して攻撃

オリエントってふるい言葉で陽の昇る方向、っていうんだっけ
それ、いいなぁ
珊瑚の色ってあったかい
わたしは……淡朱の海、かな


浮世・綾華
ルーナちゃん(f01357)と

うっわ、波?
絡繰ル指で複製した鳥籠を繋ぎ浮船を形成してよっと飛び乗る
ルーナちゃん、ヘーキ?
肩、乗ってもいーからな

迷路出来ちゃった、悪い
水、ちょっと苦手意識あって慌てた
まずは抜け出さないとな…?
優しい行動には大丈夫だよありがとうと目を細め

浮船に乗ったまま進む
記憶力はいい方だ
進んだ道は頭の中で地図を描けば迷うことはない
対価?飴玉とかじゃダメ?
宝石のような飴玉はこの場所では珍しいかもしれない
ルーナちゃんにもあげる

抜け出したら鳥籠に紅を落とし
鉄屑の刃を放って攻撃

そういえば名前
図鑑で知った真珠特有の虹色
――オリエントの海
なんていうのはどーかな
彼女の紡ぐ名の意味に想いを馳せて


篝・倫太郎
夜彦(f01521)と合流

正面からの波は夜彦の斬撃とタイミングと攻撃箇所を合わせて
舞の衝撃波で切り裂くことで道を作る
道が出来たらダッシュで駆け抜ける

てめぇなんぞに名付けさせっか!
この国は、ここに住む奴らのもんで、てめぇのもんじゃねぇ!

敵が得た飛翔能力がどの程度のもんか判らねぇけど
飛ぶつーんなら叩き落とすまでだ

空中戦でなぎ払いから、刃先を返しての2回攻撃
フェイントを交ぜつつ衝撃波で攻撃して地面に叩き落としてやる

攻撃に対してはオーラ防御で受けて防ぐ
回避して国に入られちゃ本末転倒だからよ

叩き落としたら後は夜彦に任せる
あいつの一撃のが俺のそれよか、確実に強くて重い

飛ぶってなら何度だって叩き落としてやる


アラン・サリュドュロワ
マリークロード(f19286)と

あの気の抜けた姿のやつが黒幕か?
…それは個人の嗜好に寄ります
ええ、侮らず参りましょう

斧槍と大盾を手に、主をかばい前に出ると敵へと進む
波に加えて時を奪う術とは厄介な…マリー様、まだ走れますか?
その格好については後で話がありますが
…自覚がおありで何よりです

手にする斧槍に、ジゼル、と呼び掛ければ
微かな共振とともに周囲の水が“砕ける”
この国は凍らすものに事欠かないな、ジゼルも楽しそうだ
構え直した槍振るい、放つ氷刃で紙切れを相殺し
さらに押し寄せる波までまとめて凍らせにかかる

全てを止めきれずとも波上に氷の道を築いてみせよう
仮初の主でもその道は止めさせない
構うな、行けマリー!


マリークロード・バトルゥール
アラン(f19285)を伴に
まあ、アラン。殿方はウサギが好みなのではなくて?
愛らしくとも油断をしてはなりませんよ

迫る波をアランの影に隠れて凌ぐ
問題ありませんわ。そして怒らないで頂戴、わたくしの騎士
これからする事に関しても……ね

大儀でした、アラン
初速から加速する為に衣服を整え身軽になれば、氷道を駆け迷宮へ
求める声に含み笑いを返しては躊躇いなく己の腕に刃を当てた
対価に払うはわたくしの血
王女の血液、決して安くは無くてよ

耳の良さ生かして迷宮の反響を澄まし聴き、流れを辿って外へ
漸く目視出来た敵へと跳躍して刃閃かせる
狙うは装甲薄い四肢の関節部
今度はあなたが身を持って払う番ですわ
わたくしに釣り合って見せて?


月舘・夜彦
倫太郎殿(f07291)と参加

波は倫太郎殿の攻撃に合せ、早業による抜刀を併せた火華咲鬼剣舞
我々が通れる程の道を作り、道が塞がらないよう広がる炎で抑える
道はダッシュで駆け抜けましょう

言霊による力は古くより伝えられております
此の地の名も意味を以て生まれたもの
貴女の名の価値を尋ねるつもりはありませんが、此の地の想いは貴女よりきっと強い
それに『さむらいの海』とは、縁を感じるものです

金銭による攻撃は特殊なものの、魔術の類いであるのは確か
飛び道具に関しては残像・見切りにて躱してカウンター
飛翔した状態には倫太郎殿に任せ、落下に合せて2回攻撃による追い討ち
期待されたのなら、応えなければなりませんね
……御覚悟を


五条・巴
困ったな、名は体を表わす。大事なものなんだ。
この国を良しとするセンスはいいと思うけれど、名付けるセンスは…この国とは合わなんじゃない?
おとなしく国の観光だけしてお帰りよ。

サーフィンでもやっておけばよかったかな。
この波は乗り心地悪そうだけど。
迫る波をシャルムで呼んだライオンに乗り飛んで避ける、またはあしがけにして黒兎の方へ飛び降りる。

札束撃つのは勿体ない気もするけれど、こんな機会でもないと撃たないか。
それが君の武器になるのならしっかり壊さないとね。
自分にも仲間にも札束が当たらないように撃つ。
大丈夫、君がぴょんぴょん飛んでも、ちゃんと狙ってあげるね?
止まるのは君の方だ。


ジャハル・アルムリフ
師父(f00123)と

あの物言い
あの仕草
まるで何処かで…否、ずっと見ていたような

が、背後から撃たれぬ為には
気の所為という事にせねばならぬ
そう、足癖はアレ程悪くはない

迫る波は厚い壁
札束とて所詮は紙と思えば良い
【竜墜】にて水の壁を撃ち抜き、衝撃波で穴を
跳ね上げた波で札の命中を避けながら相手を
高らかに響く台詞が似通っているのも気の所為だ

師父よ、財産など受け取りを拒否しておけ
…、…現物も駄目だ
だが我が一撃は
喜べ、無料で呉れてやる
国王の御前でな


童話にあった、波下に栄えし王国のような
光の波紋揺らめく街
淡い記憶のなか読み聞かせる声は
如何してか、不遜とは程遠く

語られた海は、確か――全ての「はじまり」の、


アルバ・アルフライラ
ジジ(f00995)と
何だ、あの生き物は
斯様に踏ん反り返っては滑稽以外の何物でもなかろう
…おいジジ、何故師を一瞥した?

ふん、この程度の水流で
我々の行く手を阻もうなぞ笑止千万
【暴虐たる贋槍】で彼奴の行動を邪魔してくれる
我が槍で牽制すれば飛翔による加速も難しかろう
撒かれた紙幣はジジに命中せぬよう風で払い落す
ふふん、道化は道化らしく踊るが良い

莫迦者、端金を受取ると思うてか
これならば宝石の方が何倍も価値があるわ
大体、ぽっと出の阿呆に名を決められるなぞ万死に値すると知れ

海底の都は数々の童話、神話に記述があれど
この国を語るにはどれも物足りない
唯、敢えて言葉にするならば
新たに生まれる海の星
――ステラ・マリス


千波・せら
黒い兎を足止めしようね。
でも足止めされているのはこっちかな。
突破口を見つけて進むって凄くわくわくしない?
冒険をしている感じがして好きだなー。

どこを通るか分かれば罠の一つも仕掛ける事ができるんだけどな…。
念には念を。
レプリカクラフトで罠をあちこちにしかけてみるね。
だれか、おびき寄せてくれたら落とし穴でもなんでも引っ掛かってくれないかなって思うんだけどどうかな?

逃げ足は速いんだー。
危険を感じたら逃げ足でささっと逃げちゃおうね。
この場所の名前……ネーミングセンスはないけど
誰かの呟いた名前に同意はしたいな


カーティス・コールリッジ
ライラック:f01246

警報を鳴らす機体
水の奔流が迫りつつあることに気付き
急いでStingrayのハッチを開けて手を伸ばす

おじさん、乗って!

彼を掬い上げるとほぼ同時、高度を急上昇させた

ね、まほうで道を作ることはできる?
すこしの隙でいい、おれが貫いてみせる!

ゴッドスピードライドで速度を強化
空中戦、騎乗、操縦を駆使して黒兎を追う

"Let's get in range!"
――交戦にはいります!

水が衝撃を受け止め、周囲を傷つけぬことを確信したら
おじさんとリズムを合わせてSparklesで一気に畳み掛ける

夜明けのいろ
星海の下のせかいにひろがる、それは
『あかつきのくに』
口からついて出たのは、そんな音だった


泉宮・瑠碧
愉快な仲間たちは残ったねこばるーんを頼む
油断はせず、怪我には気を付けて
僕達は黒兎を追う

波は距離が延びる前に
風の精霊と水の精霊に願い
風で波を返し、止め切れなかった水流を穏やかに
愉快な仲間たちへは届かない様に

僕は精霊羽翼で
弓を手に援護射撃とスナイパー
攻守で第六感を

命中の有無に拘らず
皆が接敵するまで名付けや行動の妨害を含めて
相手が飛ぼうとも僕は射るし
札束も射落とす

迷宮は回避不可なら左手法と第六感で
対価は琥珀や砂金の粒
金銭以外可なら喋る事

被弾へは見切りかオーラ防御

目に見えない心の温かさや
絆等に価値を見出せていたら良かったのにな…

街は…アクアマリンとか
石の名前のままなので少し変えた方が良いかも知れないが


ライラック・エアルオウルズ
【カーティス(f00455)】

此は、厄介な向かい波が来るな
思わず険しい表情浮かぶも、
伸ばされた手を咄嗟に取り
少年の戦闘機へと搭乗を

――此が、戦闘機の中?
凄いな、何て感嘆は束の間に

道か……良し、やってみよう
未だ未だ張り切る心算だしね
突き進む《覚悟》を決めたなら、
《全力魔法》をオーラに込めて
《オーラ防御》を展開し防壁を創る

無事に波を抜けられたのなら
《見切り/視力》で前を見据え、
敵と攻撃の隙は見逃さない様に
少年とリズムを合わせ、
タイミングを見計らい
合図でハッチを開けて貰えば、
魔道書の花弁を一気に黒兎に注ぎ
攻撃及び視界阻害、
少年の攻撃を確実に通してみせる

少年が口にした名には
小さく、良い名だね、と呟いて


黒門・玄冬
【教会】
クラリスと黒兎を追跡
茘繼さんは、お気をつけて

必要ならダッシュ、運搬で
今度はクラリスを僕が背負うよ
迷路には学習力と世界知識の左手法を使い
情報収集に気を配り地形の利用が叶うなら
ショートカットと突破に務める
追い縋れば
力を溜めジャンプかスライディングで一気に間を詰め
フェイントの先制攻撃から手を返して2回攻撃
掴めばグラップルで離さず時間を稼ぎ
多少の負傷は覚悟の上
仲間が辿り着くまで、クラリスを庇いながら戦う

侍とはさぶらうを語源としているんだ
さぶらうとは、尊きものに従い、守護すること
この国の尊きものとは
きっとこの国を愛している全ての仲間なんだろう
かんとりーの国が故郷なら
ここは『守護の砦』だ
…硬いかな


ミュー・オルビス
彼女が太太しいオウガ…
想像とは懸け離れた姿形に戸惑いつつも
愉快な仲間の皆さんは引き続き
風船の対処をお願いします
彼女の方は我々猟兵にお任せ下さい

己とてヒトの世に生きる身
金銭の価値を否定する心算はありませんが
…あまり気分の良いものではないです、ね
万事に対価を求めるあなたにはきっと
この街の真なる価値は分からないでしょう

氷の属性攻撃で波を凍らせ砕いたら
札束は早業とダッシュで躱し
のらりくらり煙に巻かれ
思考する隙を与えたくないから
プログラムド・ジェノサイドで
短期決戦を狙います

名はいのちを吹き込むもの
唯の人形だったこの身に生命が宿ったと同様に
海の国とそこに住まう人々を心から愛しめる人こそが
名づけ親に相応しい


清川・シャル
ふてぶてしい態度は好かれませんよ?
余計なお世話でしょうか。
さて、波が厄介なようで。
高威力の風魔法で対処しましょうか。
全力魔法、範囲攻撃を使用です
モーゼのように道を開けてくださぁい
上手くいくかな?

水を凍らせてそーちゃんでUCで叩き割るのもありですね
その時は氷魔法を全力魔法です

いい感じに弾道を確保出来たら、
黒兎さんを追い詰めるのには、ぐーちゃん零で攻撃しますよ
近づかない方が良さそうですからね

近距離接近の場合は、見切り、カウンター、第六感で対応です


オズ・ケストナー
リュカ(f02586)と

わあっ
波をとっさに武器受け
オーラ防御も使い
蒸気最大出力
ぐっと足に力を入れて斧を振り抜く
えーーいっ
リュカ、だいじょうぶっ?

迷路に瞬き
なんだろ?
迷路と聞いたら目を輝かせて
たのしそうっ

たいか?
ってなんでもいいのかな
それじゃあ、これもたいかになる?
斧で一撃をお見舞いして

さっきガジェットショータイムで出したねずみを走らせ
先にねずみという対価を払いながら
走って追いかける作戦

リュカのいちげきは高いよっ
狙う先を指さし得意げ

迷路を抜けたら黒兎を攻撃
みんなが作った街に、かってに名前をつけたらだめだよ
名前はだいじなんだからねっ

きょとり
うみっぽい
ふふ、リュカの名前、いつもわかりやすくてすきだよ


リュカ・エンキアンサス
オズお兄さん(f02586)と

お兄さんの後ろに隠れつつ、ひとまずは黒兎を狙撃する
まずは足を狙って動きを遅らせる。勿論倒せそうなら倒すけど
…大丈夫。お兄さんのおかげ
ありがと

…で、本当だ、迷路か
面倒くさいな、とおもってたらお兄さんが楽しそうなのでちょっと笑う
確かに、対価って何だろうね
この際だから、こっちで決めさせてもらおうか
お兄さんと、お兄さんの用意したねずみを使って迷路を抜けて
黒兎を視界に入れたら、その場から撃つ
この銃弾が対価で
遠慮しなくていい

…そうだね。名前は、愛されるものでないと
この町にも、綺麗で愛される名前がつくといいね
例えば?
海っぽい町…とか

そんな顔しないで(センス無いのは自覚してる



●閑話休題、からのはじまりはじまり
 困ったな、と。巴は眉を下げた。
「名は体を表す。大事なものなんだ」
 それをあの黒兎はこの国へ与えようとしている。しかも自分勝手な思惑で。
 この国を良しとするオウガのセンスそのものは、メンズ雑誌の表紙をも飾るモデルの巴の感覚からしても、評価してしかるべきものだとは――思う。
「でも名づけるセンスは……この国と合わないんじゃない?」
 ことりと首を傾げ、端麗な顔立ちを更なる困惑の色に巴は染める。
 だってバニーガールだ。
 愉快な仲間たちにも、犬やロボットなどの一見、海に不似合いな者たちもいるにはいる。けれど彼ら彼女らは須らくこの国を愛している。守りたいと思っている。それがあのオウガには無い。
「おとなしく国の観光だけしてお帰りよ」
 ――その為にも、巴は金色のライオンを水底の国へ招く。

「……」
 耳にした黒兎の宣いぶりと態度に、ジャハルは己の耳と目を疑い沈黙した。
 ――あの物言い。
「何だ、あの生き物は」
 ――あの仕草。
「斯様に踏ん反り返っては滑稽以外の何物でもなかろう」
(「まるで何処かで……否、ずっと見ていたような――」)
「……おいジジ、何故師を一瞥した?」
 ジャハルの瞬間的な動きをオノマトペで表現するなら『しゅばっ』だろう。
 七彩宿す双眸は、確かにオウガを見ていたはずだった。そして少し後方から師匠であるアルバの声が聞こえていた気もした。しかし、断じて。黒兎とアルバを重ねたつもりはないし。ついうっかり、ぶつぶつ零す師匠の事をチラ見してしまったはずもない――はずも、ない……筈。
(「そうだ。気の所為だ」)
「おい、ジジ」
(「気の所為だ、気の所為ということにせねばならぬ」)
「これ、ジジ。師である私の声が聞えんとでも? んん、私の時間を浪費させる気か?」
 ピリとアルバの気配が不穏に張り詰めたのに、ジャハルの背筋がピンと伸びる。
(「ああ、そうだ。気の所為だ。間違いない」)
「師父よ、先に征く」
 そしてジャハルは押し寄せる波濤目掛けて一目散に駆け出す。
 そうだ、大丈夫だ。
 足癖は荒れ程悪くはない。
 だからアレと師匠は別物。似ているなどと思いはしない。故に、背後から撃たれる心配もない――筈。

「彼女がふてぶてしいオウガ……」
 不思議の国に無体を働き、アリスを喰らうもの。
 オウガをそう認識していたミューは、愛敬のある敵の姿に硝子の瞳を曇らせ戸惑う。
 されど理不尽な弁は、間違いなくオウガ。
 そしてちらつかされる金銭が、ミューの琴線に触れる。
 人の手により造られたミューも、今はヒトの世を生きる身。金銭の勝ちを否定する心算はない――けれど。
 それで全てを解決しようとする様に、心がちりりとざわめく。
「万事に対価を求めるあなたにはきっと、この街の真なる価値は分からないでしょう」
 溜め息のようにオウガへの糾弾を零し、ミューはきつと顔を上げた。
 為すべきことは、ただひとつ。
「彼女の方は我々猟兵にお任せ下さい」
「「「うん、おねがいねー」」」
「「「任せたでござる」」」
 まばらに残るはらぺこねこばるーん達の対処を愉快な仲間たちへ任せ、ミューは半外套をふわりと翻し。
「油断はせずに、くれぐれも怪我には気をつけて」
「ありがとう、武運を祈っている!」
 決して無理はしないようにと言い置いて、瑠碧も学者然とした犬に見送られてミューの後を追って波へと立ち向かう。

●飛翔
 繰る高速戦闘機のコックピット内に響いたレッドアラートに、カーティスは勢いよくハッチを跳ね上げた。
「おじさん、乗って!」
 地表すれすれを飛びながら、カーティスはライラックへ手を伸ばす。
 ――此れは、厄介な向かい波だな。
 眉間に縦皺を刻んでいたライラックは、幼い少年の手をすかさず握り返す。
 横合いにライラックを掬い上げ、カーティスはハッチを下ろすと機首を上向ける。
 ほぼ垂直に機体が傾き、波を超える高さを目指して飛ぶ。曲芸飛行だ。しかしライラックに目を回す暇はない。
「――此が、戦闘機の中?」
 凄いなという感嘆に、操舵に全精力を注ぐ少年から、短く「そうだよ」と返る。
 ライラックが描き書く空想のいずれとも違うそこは、新たな発想力を作家へ授けるもの。でも今は緊急事態。
 悠長に状況を楽しんでいる場合ではない。
 ――が。
 余裕を残したライラックの目が、上昇を続ける変形宇宙バイクの外に思わぬ影を見つける。
「悪いが、同乗させてもらった」
 ライラックに唇の動きでそう伝えたのは、大蜘蛛に背に跨ったエフィだ。
 幼く、小柄なエフィなぞ波に呑まれてしまえばひとたまりも無い――どころか、それこそ海の藻屑と消えてしまう事だろう。
 故に、エフィは迷わず黒く塗られた爪に迷わず口付けを一つ落とした。
 ぎりと噛み千切られた薄い皮膚の舌から、紅い血が滴り。ぽたりとそれを受け取った巨大なフォークは、封印を解かれて銀の大蜘蛛と化した。
 高さを十分に保てる支柱のようなものは、生憎と存在しなかった。だが代わりにエフィの目に翔けゆくカーティスの戦闘機が飛び込んできたのだ。
 渡りに船だ。躊躇している暇はない。
「――つかめ」
 エフィの端的な命に、蜘蛛は生成した糸の先をカーティスの高速戦闘機へと伸ばし、捉え――。
「お連れさんがいるみたいだよ?」
 どうしようか、カーティスさん。
 年少者へも敬意を払うのを怠らぬライラックの短い説明に、カーティスはにぱりと笑った。
「これくらい大丈夫。いっしょにつれて行こう!」
 然して空飛ぶ船はぶら下がるエフィも連れて、カーティスの力の限りに未知なる海を高く高く泳ぐ。

●阻む海
 嗾けられた波が、真正面から襲い来る。
 見る間に横へ横へと広がったそれは、生半な回避では間違いなく飲まれてしまう。
 厄介だな、とジャックは思った。同時に、鋼の身体を持つ身としては、溺れる事を懸念する。
 しかし。
(「此の街の為、仲間の為に道を切り拓こう」)
 ダークサイドであれど、ジャックはヒーロー。小さな子供に愛される外見ではないが、胸に点した灯は熱い。
 双眼を小刻みに動かし一帯の構造を把握し、ジャックは波の動きを読み、その先を計算する。
「さあ、ヒーローショーの始まりだ」
 掲げた腕に、ジャックは鋼の大剣を招く。
 足はしっかり大地を踏み締めた。
(「何か対価が必要ならば、俺はこの機械仕掛けの声を差し出そう」)
 波の向こうに霞む敵を視認し、ジャックは有事に備えて早々と選択する。だがその対価は、いかな口下手であろうと、そう容易く手放すことを選べぬもの。
 それを『問題無い』と思えるジャックは、生まれは何であれ、育ちはどうであれ、間違いなくヒーローだ。
 そしてそのヒーローが、波を割る風を渾身の剣閃で生む。
「……え、波って斬れたんだ……?」
 咄嗟に櫻宵が溺れ流されてしまわぬよう、己が桜の手を掴もうとしたリルは、眼前で起きる力と力のぶつかり合いに目を瞠った。
「こういうのは気合よ、気合! リィは下がっていて頂戴!」
 どうやら櫻宵もジャックと同じことを考えていたのだろう。泳げないならば斬ってしまえば宜しいと言わんばかりに、紅い紅い血桜の太刀をすらりと抜き放つ。
「さぁ、征くわよ!」
 薙がれた刃は、誰の目にも追うことは叶わない。
 ただ不可視の斬撃のみが櫻宵が力を振るったことを示し、そしてその斬撃がジャックが進行を阻む波を斬り裂く。
「海が割れるのも素敵でしょ?」
「うん。櫻らしいね」
 剣圧がじわじわと波を押し留め始める。
「誰だか知らないが、ぼくたちに喧嘩を売ってるって事でいいだな?」
 ククク、と。絵に描いた鬼のように――決してオウガではない――りょうが笑った。
「だったら、高値買収してやるさ!」
 いうが早いか、少年じみた少女は上へと伸びる波壁へ立ち向かう。
「こんな水流、拳でぶっとばしてやる!」
 特別な力など必要ない。筋肉という筋肉を総動員し、力という力を搔き集め。りょうは自身が壁を突き抜ける弾丸にでもなったように、今なお勢いは弱まらない波に立ち向かった。
 一瞬でいいのだ。
 ほんの一瞬、僅かでも緩めば突破口は生まれる。
「これで、どうだああ!!!!」
 りょうの全力を乗せた拳に、波が戦慄く。
「僕もお手伝いします」
 もう少しで押しきれる。見計らったタイミングでミューが波を凍てつかせる冷気を放つ。
 ぴしり、ぴしり。
 波の戦慄きが大きくなってゆく。
(「これ以上、広がらせはしない」)
 衝撃に備え、瑠碧は風の網を広く広く広く編む。ただしそれは猟兵たちを守るものではない――猟兵ならば、波が砕ける衝撃なら耐えられるだろうから。今も風船猫と戦い続けている愉快な仲間たちに累が及ぶのを防ぐためのもの。
(「どうか皆、無事で」)
 瑠碧の祈りが静謐な青に耀き、一帯を柔らかく包み込む。
「夜彦」
 気遣い無用の状況に、倫太郎は近付いてくる存在を感じたままに呼ぶ。
「心得ました、倫太郎殿」
 応えた月舘・夜彦(宵待ノ簪・f01521)は息を落ち着ける間もなく、佩いた刃に手をかける。
 示し合わせる必要はない。ただ互いを信じるだけだ。
「舞いて咲くは、炎の華」
 一足先に夜彦が剣に舞う。抜刀からの、瑠璃色の炎を宿した斬撃が、震える波壁を激しく打ち据える。
 透ける極めて薄い青に、瑠璃色が花開くように爆ぜた――そこへ、神霊体と化した倫太郎が薙刀を振り抜く。
 黒塗りの柄に描かれた焔が、閃きに合わせて現実の炎のように燃え迸る。
 じり、と波が身じろいだ。
「そもそも。ふてぶてしい態度では誰にも好かれないと思います!」
 声までも届けようとシャルが全力の魔法で風を吹かせる。
 ぶつける力の反動に、美しい桜が映える袖が千切れんばかりに煽られた。切りそろえられた髪も、乱れる。
 年頃を迎える女子にとっては由々しき事態。にも関わらず、シャルは力を弛めない。
「道を、開けてくださぁい!」
 上手くいけと念じる想いに、いよいよ波がざわめき出す。
 破れる間際の均衡に、アルバが高らかに笑った。
「ふん、この程度の水流で我々の行く手を阻もうなど笑止千万――ジジ」
「請け負った」
 呼ばれた名に、ジャハルが浮力を持たない水を蹴る。加速する男の背に、白亜の羽が広がった。
 そのままジャハルは波の瀬戸際を高く飛び、一転、身を翻すと猟兵たちの力が集約された一点を目指し翔け下る。
「堕ちろ」
 鱗走らせた拳に呪詛を纏わせ、ジャハルは定めた個所を一撃、撃ち抜く。
 最初に砕けたのは氷だった。それを黒い衝撃波が追い、波を割る。

 ――猟兵たちの前に、オウガへ続く道が開けた。

●盾の騎士
「まあ、アラン」
 ころころと歌うように笑うマリークロードの前にアランは斧槍と大盾を手にすっくと立つ。
「殿方はウサギが好みなのではなくて?」
「……それは個人の嗜好によります」
 姫君の囀りに、騎士は淡々と返す。
 正直、気の抜けた姿の黒幕だ。
 ともしれば戦意を削がれかねない。
 ――けれど。
「愛らしくとも油断をしてはなりませんよ」
 揶揄るような口ぶりであろうと、マリークロードの言葉は真実。ええ、とアランは一つ頷くと、ふぅと息を吐き出した。
 波は、もう間近。
 逃れる事は能わない。だからアランは二人を飲み込もうとする波を、大盾で受け止めた。
 ずん、と。重い衝撃が盾を通じてアランの手に過剰な負荷をかける。みしみしと手首の骨が嫌な悲鳴を上げていた。
 それでもアランは歯を食いしばり、波に抗う。
 今にも押し流されてしまいそうだった。だが、アランの影にはマリークロードが居る。折れるわけにはいかなかった。
 何処かで力と力がぶつかりあう音が聞こえる。きっと他の猟兵たちだ。彼ら彼女らは波を力で砕こうとしているのだろう。それでもアランは只管に耐える。
 ごおおおと波が轟く。凄まじい圧に、体を支える背骨が軋んだ。
「マリー様……、まだ走れますか?」
 流石に余波までは殺しきれない。傍らでじっと身を小さくしているマリークロードへ、アランは一応の確認を苦しい息の中で問う。
 一応なのは、答が分かり切っているからだ。
 果たして、その通り。
「ええ、大丈夫でしてよ。わたくしの騎士」
 怒らないで頂戴ね、と付け足された詫びに、アランは低く喉を鳴らす。マリークロードがここより先で何をしようとしているかも、分かり切っている。
 千切れた波に、身を飾る服を尚も裂かせ。ますます身軽になってゆくマリークロード。
「では、道を造りましょう――ジゼル」
 耐え忍び、波を見つめ続け。そうして見つけた波の継ぎ目。そこに意識を集中し、アランは斧槍へ呼びかけた。
 途端、微かな共振と共に周囲の波が――砕けた。
 絶対零度の冷気が、斧槍から溢れ出し。じわりじわりと周囲を凍てつかせてゆく。
「この国は凍らすものに事欠かないな」
 アランが言葉に、斧槍も楽しそうに冷気をちらちらと煌めかせる。
 そして――。
「走れ、マリー! 俺に構うな」
 ただ一筋、オウガへと伸びる氷橋を築き上げたアランは、マリークロードを走らせる。
「大儀でした、アラン」
 軽やかに、少女を真似る少年が駆け出す。
 仮初の主だ。真に仕えるべき相手ではない。それでも、今はマリークロードの進む道をアランは止めさせまいと全力を傾ける。

●其々の海底迷宮
 浮力も殆ど持たないくせに、『波』として襲い来た波動に対する綾華の反応は顕著だった。
 ――うっわ、波?
 余裕のない声を、ルーナは耳にした。
 半ば反射で鳥籠の複製を編み上げ、一時の浮船を生成したのは猟兵としての本能か、それとも生存への執着か。
 続いた「ルーナちゃん、へーき? 肩、乗ってもいーからな」という気遣いはいつも通りであったけれど、腐心したフェアリーの少女は綾華の肩を撫でたり、服をきゅっと掴んだりして、男の心にたった波を宥める。

 ――私の時間を奪うなら、その分の代金を払いたまえよ。

「迷宮出来ちゃった、悪い」
 綾華の対処に対し、黒兎が発動させた迷宮に綾華とルーナは瞬く間に取り込まれた。そこを二人は、綾華が繰り続ける浮船で漂う。
「気にしないわ、むしろ面白そう?」
 綾華の詫びに対するルーナの応えの声が、普段よりワントーン高いのは、綾華を気遣ってのことだろう。少女の優しさを察した男は「ありがとう」と目を細めて意識を切り替える。
「水、ちょっと苦手意識があって慌てたけど。記憶力はいい方だ」
 つまり迷宮攻略は任せろとのこと。蘇った頼もしさに、ルーナは鍵で飾られた黒髪の上で輪を描き踊る。
 迷宮の構造は単純にして、しかし複雑だ。景色もずっと同じ。けれど綾華は宣言通りに攻略マップを脳内に描き上げていく。
「さすがふてぶてしい」
 不意に綾華が喉を鳴らす。
「何かわかったの?」
 ホワイトパールとブラックオパール、二つの光に煌めく翅で羽搏き、視線の高さを合わせてきたルーナへ綾華は口の端を吊り上げる。
「この迷路。脱出ルートはあの黒兎の形になってるっぽいぜ」
 それはこれまで辿った道のりを繋いだラインから読めた図だ。
「ほんと、ふてぶてしいわね! ついでに趣味も悪いわ」
「確かに」
 謎が解ければ、後は加速するだけ。波の記憶も、時間の彼方へ攫われてゆく。
 分岐点で要求された対価へは、宝石のような飴玉でお支払い。
「ルーナちゃんにもあげる」
「いいの?」
 貰ったそれは、食べるにはちょっぴり勿体ない綺麗さだったけれど。口の中に放り込むと甘い幸せと、冒険を楽しむ余裕をもたらす逸品だった。

 襲い来た波に、オズはとっさにガジェットを構えた。
「リュカ、こっち!」
 最大出力で蒸気を吹き出せながらオズは展開したオーラの障壁内にリュカを招く。
 そこからは、暫し一進一退の攻防。じりじりと押され、また押し返し。
 ――そして。
「えーーいっ」
 球体関節を軋ませながらの全力でのガジェットの斧の一振りは、波を引き裂いた。が、同時にオズとリュカの視界を一転させた。
「リュカ、だいじょうぶっ?」
「……大丈夫。お兄さんのおかげ」
 ありがと、とオズの瞳を見てリュカは護られた礼を返すも、周囲に聳えた迷宮の壁を見遣って青い瞳を曇らせる。
 なんだかとても面倒くさそうだ。
 踏破には相応の時間を要するだろうし、きっと疲れもするだろう。
 考えれば、うんざりする――が。
「わぁ、迷路だ! たのしそうっ」
 状況に気付いたオズは、仔猫のように目を円め、しかもキラキラ輝かせ。「ね? そうおもわない?」と見るからに胸を高鳴らせて顔を覗き込まれれば、どうしてだかリュカの気持ちも急浮上。
「うん、楽しそう(?)だね」
 疑問符は完全に消し去ることは出来ないけれど、リュカの顔にもオズに釣られた笑みが浮かぶ。
 とは、言え。
 ――道を択ぶなら対価を。
 ――エラブナラ、対価ヲ。
 分岐の度に訴えられては、やはり面倒くさい。
「でも。対価ってだけで。何、とは言われてない」
「うん。なんでもいいのかな?」
 最初の分岐で頭を突き合わせたリュカとオズの表情に、悪戯心がにまりと滲む。
「まずはー、どかーん!」
「おおお、お兄さん力技だ」
 通せんぼという『労力』へ、攻撃という『報酬』を。
「ネズミさーん、もう一回出番だよー!」
「ネズミは猫を追いかけるっていうし。もしかしたら兎も追いかけるかも」
 行く手を阻む迷宮へは、水先案内を。
 再びのガジェットショータイムで創り出したブリキのネズミは、ちょこまかと迷宮を走り始める。
 果たして彼らが向かう先が出口に通じるかは分からない。
 だが弾む心が『正解』を近づける。
「お兄さん任せも、悪いから。僕は黒兎へしっかり対価を支払うよ」
「それはすごいことになりそうだ!」

「か、感じの悪い黒兎ですニャッ……!」
 オウガの余りの不遜さに尻尾の毛をぶわわわと逆立てたクラリスは、玄冬の背に上って怖気が走る肌を宥めつつ、
「あ、多分。次は右です」
 ぴんと働く第六感に任せて、進むべき方向を示す。
 そして今度は自分が少女を運ぶ番と、玄冬はクラリスを肩に迷宮の中を直走っていた。
 一度通った道は、尽く記憶する。細かな変化も見逃さない。周囲の声にも耳を欹てる――左手は、ずっと壁に添わせたまま。
 手堅さと、運。そして時間を対価に支払う迷宮突破の策は、間違いなく功を奏す。

●波濤激突
 大波を上から超えたカーティスの戦闘機が、今度は急降下を始める。
 だが唯一無二の的であるだけ、黒兎の対処も早い。
『ほら代金だ。しばらくそこで止まっていたまえ』
 面倒くさそうな仕草で、黒兎が無造作に大金を空へとばら撒く。それはさながら巨大な投網。黒兎を狙う以上、回避は不可能――に、思えた。
「乗せて貰った駄賃は、きっちり払うさ」
 覚悟を決めたのは、戦闘機に蜘蛛の糸で垂れ下がっていたエフィだ。元より己が血を対価に、得物の封印を解き続けているのだ。そう長くは状況を維持できない。
 カーティスの翼のおかげで、最速でのオウガの補足が叶った。
 ならば後は逃さぬようにすればいい。
「鬼ごっこも終いとしよう」
 尊大に言い放ち、エフィは銀の大蜘蛛の糸の矛先をオウガへと切り替える。と同時に、燻し銀に覆われた小型の銃の引金を引いた。
 札束の海を銀糸と弾丸がすり抜ける。
 着弾の音色は、エフィの頭上を飾る王冠のように高らかに響いた。
 ――命の対価は、命。
 ならば攻撃の対価もまた攻撃。
 役目は果たした。そう判断したエフィは蜘蛛の糸を今度は全方位へと展開し、札束という札束を受け止め、自らの動きを対価にカーティスらを奔らせる。
『ちょっ、何と言う邪魔を!!』
「今だよ」
「うん!」
 “Let's get in range!”――交戦にはいります!
 全てを見ていたライラックの言葉に、カーティスは開戦を高らかに告げるとハッチを開く。
 下降は続いている。けれどライラックはコクピットに立ち上がる。
「暖かなる春が来た。咲く花々は貴方を目指し、僕は其れを祈るだろう──どうか届きますように」
 撃たれ、銀糸にまとわりつかれ、もがく黒兎めがけてライラックは歌う。その旋律はライラックの武装という武装を紫色の花びらへと変え、オウガへと降り注ぐ。
 刹那、黒兎の視界が完全に閉ざされた。
「Ka-boom!」
 そこを狙いすまし、カーティスが加粒子波動砲を放つ。
 破壊に全精力を傾けた単純明快な一撃に、黒兎の足元の大地が割れた。無論、黒兎とてただでは済まない。
『よくも、やってくれましたね!』
 だが相手はこの世界の理不尽なる支配者。ざんばらになった髪を振り乱しながらも、不安定な足元にすっくと立ちあがる。
 そこへ己が血を対価に迷宮を抜けたマリークロードが滑り込む。
「王女の血液、決して安くは無くてよ」
 王女然とした振る舞いのまま、けれど纏う衣装は飾り気を捨て。この上なく身軽になった少年は、疾く疾く疾く疾く、疾く黒兎へ斬りかかった。
「今度はあなたが身を以て払う番ですわ。わたくしに釣り合ってみせて?」
 誘惑を囁き、狙いを間接に定め。マリークロードは風のように踊って、ダガーを閃かせる。
 ――手応えはあった。
 見れば脚を覆う網タイツを無残に切り刻まれた黒兎が、膝から血を流している。
 相応のダメージは与えていた。それでも完全に膝を再起不能にできなかったのは、やはりそれだけオウガが実力で勝るからだ。
『ははは、無駄無駄! 貴様ら如き、私の敵ではない!』
 勝ち誇ったように、黒兎がどこからともなく湧いて出る紙幣を、力を鼓舞するように中空へとばら撒く。
 一発の銃声が響いたのはその時だった。
「――本当にそうかな?」
 金色のライオンの背に跨った巴が、花咲く銃を構えていた。
 此処に至るまでの道中、意地悪な迷宮にも行く手を阻まれもした。
(「サーフィンでもやっておけばよかったかな」)
 されど月をこよなく愛する青年は道を見失わず、いつも通りに微笑む。
 札束を撃つ機会なんて、早々ありはしない。勿体ないかな、なんて思いも頭を過る。
 だがあれは、オウガの得物だ。この国を、仲間を、傷付ける武器となり得るものだ。
「止まるのは君の方だ」
 ぴょんぴょんと跳ねる黒兎の動きを追い、撒き散らされる札束に巴は狙いを定めてトリガーを引く。
 一発、また一発。
 フレンドリーファイアーを避けた銃弾が、紙幣を千々に弾けさせた。ただの紙くずになったそれがちらちら降り落ちる様は、雪にも似ていて。
 そこへ更に、白い花弁が舞う。
「ルーナちゃん!」
「任せて!」
 白い花弁は、浮船に用いた鳥籠へ紅を堕として綾華が散らしたもの。
『ちょっ、人の視界を塞ぐとは何事だ!』
「何事も何も、変な名前なんかつけさせないんだから!」
 はらはらと中空を漂う無数の片を掻い潜り、ルーナは黒兎へ一直線に翔ぶ。構えた槍は、ドラゴンが転じたもの。その緋色の穂先から放たれた焔弾が、黒兎の耳に灼熱の火を灯す。
『あっつ、あっつ!!』
「そうだよ、みんなが作った街に、かってに名前をつけたらだめだよ! 名前は、だいじなんだからねっ」
 慌てふためく黒兎を、びしりとオズが指差す。
「かくごするといい、リュカのいちげきは高いよっ」
『はあ? 何のことだね』
 とても得意げな響きが気に障ったのか、黒兎がオズをねめつける。そここそ、狙い目。
「――遠慮は、しなくていい。あと、お釣りもいらない」
 朗らかで高らかなオズの声に黒兎が気を取られた一瞬、煌めくオズの影でリュカが構えた。
「……星よ、力を、祈りを砕け」
 金色の歯車が回る。回って魔力を宿し、蒸気で更なる加速を得て。リュカの手によく馴染んだアサルトライフルは、あらゆる装甲、そして幻想をも打ち砕く星の弾丸を撃ち放つ。
 着弾の音は、硬い。見れば黒兎の足元を覆っていた靴のヒールが、完膚なきまでに折られていた。
『この程度、何だという』
 役目を果たさなくなったものを、黒兎は足を蹴り上げ無造作に脱ぎ捨てる。
 所作に要した時間は刹那。けれどその隙を逃さず、ミューが斬りこむ。
 剣、ナイフ、斧、槍――様々な形状を持つ武器を振るうミューの動きは、思考の域を超えた速さ。施されているプログラムを実行しているからこそのもの。
 一度、走り始めれば終了処理に至るまでは止まらないそれは、回避されてしまえば意味のなくなる技。
 けれどミューは、黒兎を捕らえた。
 バックステップで逃げようとする黒兎へミューは追いすがり、四肢へ無数の傷を刻み付ける。
 ――思考する隙を与えてはいけない。
 ――街に、名前をつけさせてはいけない。
「あなたは名付け親に相応しくありません」
『っ、なんたる不遜、なんたる不遜!! 私を誰だと!!』
「君は、……」
 ミューを罵る黒兎を見る瑠碧の眼差しに、寂しさが滲んだのは刹那。他の誰にも気取られぬよう、悲哀の色を消した月白の娘は――。
「我は願う、力を翼と成し、我が意と共に在ることを……力を貸して」
 ――オウガ目掛けて、翔んだ。
 精霊の加護を得て幻の翼で瑠碧は未知なる液体に満たされた空を奔り、敵の動きを封じる為の矢を射かける。
 長い髪が、尾鰭のように泳ぎ棚引く。さながら薄青の流星だ。
 しかし瑠碧は、猟兵たちの援護は出来ても、黒兎の願いを叶えてやることは出来ない。
(「目に見えない心の温かさや、絆等に価値を見出せていたら良かったのにな……」)
 オウガもまたオブリビオン。価値観は『ひと』とは相容れない。だから瑠碧は黒兎を慮りはしても、容赦はしない。
 此処には此処で生きるべき仲間たちがいるから。
 その枠に、オウガは入れない。
『全く、全く! 諸君の実力なら、これくらい払えば十分であろう』
 いきり立った黒兎が、両手で幾枚もの紙幣をばら撒く。しかし瑠碧はその裸足の脚が地を蹴る前に矢を番え放った。

『こうなれば、先に名付けを済ませてしまうか』
 追い込まれ始めていることを自覚しているのだろう。黒兎が赤い視線が『街』へと注がれる。
「だめ! 行っちゃだめ!」
 その今にも翻りそうな背に、サン・ダイヤモンド(甘い夢・f01974)はがむしゃらに飛びついた。
 街を、愉快な仲間たちを、その笑顔を、護りたい一心がサンを突き動かす。
『なっ! 私に、貴様如きが触れるな!』
 取り付いてきた白い獣のような少年を、黒兎は自由になる足で蹴りつけた。けれどサンは離さず、謳う。
「この地を満たす聖霊よ――」
 腹に喰らった一撃に、声が震えた。それでも、それでも、サンは必死に声を吐き出す。
 ――名前は、大事。
『くうっ、離せと言うに!!』
 全身のバネを活かした蹴りが、遂に黒兎を自由にする。だが時を同じくして、サンの祈りも結実した。
「届いて、どうか――」
 ――君達の世界を、皆の街を、護って――!
 祈りに応えた聖霊の、透明な手がオウガへ伸びる。地面に沁みた水のように大きく広がったその手は、黒兎を上から圧し潰す。
「そうだ! てめぇなんぞに名付けさせっか!」
 倫太郎が全身から迸らせる怒気を、夜彦は静かなる肯定で受け止める。
 古来より『言霊』として伝わるように、言葉には意味がある。名前とならば、尚の事。
 地名は、意味を以て生まれるもの。
 人の意により捻じ曲げてよいものではない。
「この国は、ここに住む奴らのもんで、てめぇのもんじゃねぇ!」
 立ち上がって距離を取り、態勢を立て直そうとする黒兎を倫太郎が追う。一太刀浴びせようと、追って、追って、追い縋っている。
 だが速度はオウガの方がまだ速い。
 それでも倫太郎は諦めず、走った。
 得物のリーチはある。一撃でいいのだ。動きを僅かでも止められればいい。
「――止まり、やがれ!」
 野生児であった頃の産物めいた瞬発力で、倫太郎が力強く薄く積もった砂の大地を蹴る。上がる土煙は、僅か。ゆらりとゆらめくそれを置き去りにして、倫太郎は奇跡的に黒兎を間合いに捉えた。
「任せた!」
 一閃、薙刀を払うのと同時に倫太郎は吼える。
 最大出力は、自分より夜彦の方が上。分かっているから、後は託す。
「――期待されたのなら、応えなければなりませんね」
 腰を落とし、柄に手をかける。流れるように夜彦は姿勢を整えた。かち、と鍔が鳴れば、あとは一瞬。
 オウガに名の価値を尋ねるつもりは、夜彦にはない。聞かずとも、此の地に既に宿された『想い』が強いことなど知れているからだ。
(「それに『さむらいの海』とは、」)
 感じた縁に唇だけで笑みを浮かべ、夜彦は抜刀する。
「……お覚悟を」
 瑠璃色が、水底の国を一直線に翔けた。熱を孕み、他者をも焔に巻くそれが、黒兎を甞める。
 液体で満たされた空間に、火柱が立ち昇った。
 そこへシャルが畳みかける。
(「今、近づくのは得策じゃない……ですよね」)
 愛らしい少女の瞳で、辛辣に状況を読み。シャルは乙女チックに色を塗った兵装を、油断なく構えた。
 銃口が火を噴くのに僅かの間もなかった。『ぐーちゃん零』とポップな愛称をつけられていても、アサルトウェポンはアサルトウェポン。
 黒兎を蜂の巣にしようと、弾丸が一斉に撃ち放たれる。
 手振れを力で抑え込んで定めた狙いは、ぶれない。
 視界が凪ぎを取り戻す頃、黒兎は見た目にも疲弊していた。
『諸君の――っ、実力なら、これくらい払えばっ、十分であろう』
 余裕を失わんとする黒兎が、裸足で跳ねた。
 ばらけた髪を靡かせて、虚空を満たす未知の液体を蹴って、加速する。
「それが、どうした」
 幾ら弱りかけていようと、馬鹿正直に受け止めればただでは済まないオウガの突進を前に、りょうは砂の大地を力強く踏み、両手を広げた。
 怪我なぞ、知った事ではない。
 売られた喧嘩は買うだけだ。最低でも、一発は殴り返す。
「それに、ぼくに近づいて呪われずに済むと思うなよ」
『何をぶつぶつと! 貴様くらいっ、落ちるがいい!』
 鋭く尖らせた足先での蹴りが来る。抉られた腹に、ごふぅと胃から何かがせり上がってきた。けれどりょうは全てをぐっと堪え、赤い瞳を緑の眼差しで捉えた。
「この世界に、お前のものなどありはせぬ」
 りょうであった筈のものが、悪鬼へと移ろう。
『なっ!?』
「遅い」
 善くないものを察した黒兎が飛び退ろうとするが、既にりょうの思惑は成っている。
 ――お前の目は、金を映さない。
 ――お前の手は、金の手触りを感じない。
 ――お前の鼻は、金の匂いを嗅げない。
「金が無い事にせいぜいうろたえろ」
『あ、あ、あ、あ、あ、あ?』
 己が身に巣食う『剥奪』の呪詛を、りょうは黒兎の身に注ぐ。
 慣れた感覚を奪われた黒兎が、一時的な恐慌状態へと陥る。
 格上の相手だ。完璧に封じ続けられる時間は長くはあるまい。でも、りょうには勝算があった。
 だってふらつく黒兎のすぐ近くに、明るい海色が見えていたのだ。
「今だ、任せた!」
「わかったよ!」
 りょうの声に海色――せらは応えると、地面に片手をつく。
 襲い来た波も、永遠に脱することが出来ないような迷路も。せらにとっては、心湧き立たせるものにしか過ぎなかった。
 突破口を見つけて前へ前へと進む高揚感は、冒険をしていることの証。
 チャレンジャーな娘にとっては、ただのご褒美。
 斯くして探索者の少女は、ふわふわと難関を超え、たんたんと自分にできることを熟していた。
 ――逃げ足の速い黒い兎を掴まえるには、罠が一番。
 ――でも、どこを通るかは運任せ。
 だからせらは目につくあちらこちらに、単純な罠を仕掛けたのだ。
 戦う猟兵の邪魔にはならないよう、発動するためには自分の一手が必要になる罠を。
「これで、どうかなー?」
 クリスタリアンの澄んだ硬質な瞳が、きらりと輝く。そして同じ色の爪が触れた地面が、突然ぽかりと口を開けた。
『はああ!?』
 レプリカクラフトでせらが拵えた落とし穴に、黒兎が落ちた。それは見事に、綺麗に、すぽんと落ちた。
「ここだよ」
 そしてトドメとばかりに、せらは誘導弾を地の底目掛けて打つ。
『何をして――』
「やぁ」
『はあ?』
「「茘繼さん!?」」
「ハロー、ハロー、僕だよ」
 せらが放ったものが自分へ届かなかったことを嘲笑いかけた黒兎が、身を強張らせ。のんきな挨拶と共に生えた『黒い』何かに瞠目し。そしてその『黒い』何かが誰であるかに気付いたクラリスと玄冬の声が綺麗にはもった。
「茘繼さん、何をしていたかと思えば……」
「茘繼さん、凄いですニャ!」
「ふふふー。クラリスちゃん玄冬君、作戦成功だよー」
 展開された迷宮を前に、クラリスと玄冬と行動を別にした茘繼が何をしていたかと言うと。ブラックタールの身体を活かし地中へ沁み込み、せっせとせっせ地道に掘り進んでいたのだ。
 外の状況は、伝わってくる振動でおおよそを推しはかった。
 得られた情報は、極わずか。けれども茘繼は自分と同じように罠を仕掛けてまわる誰かの存在に気付き、その誰かであったせらも、地中の味方の存在に気付けた。
 だからこそ茘繼は虎視眈々とせらからの合図を待ち、極めつけのピンポイントで地表へ顔を出したのだ。
『お前――』
「んーんーんー。お金も時間も大切だけどさ、僕はもっとお腹が膨れるものが嬉しいかなー?」
 なんてね、と付け加えつつ。茘繼は穴から飛び出そうとする黒兎の胴をむんずと掴んだ。
「いいねー。愉快で楽しい私的で詩的なお時間です。みたいな?」
 伸縮自在な腕が、黒兎を振り回す。
 振り回しては、穴の壁面へと叩きつけ。また振り回す。
『貴様、離せ!!』
 捉える黒い腕を引き千切ろうと、黒兎が暴れ始める。
「玄冬兄さん!」
「任せて」
 たたたっと自身の背を駆けのぼり肩に立ったクラリスの狙いに気付き、玄冬はケットシーの少女をやんわりと握り込む。そしてそのまま、茘繼の元へとクラリスを投じた。
「ケットシーは誇り高くあれとわたしは父に教えられました」
 右に左に上に左にと翻弄される黒兎から、幾枚もの紙幣が散る。一枚でも手にしたら、沢山のお菓子が買えるだろう。親のない子供に、服を贈ることもできるに違いない。
 しかしクラリスは紙幣の一切に目もくれず、黒兎に飛びついた。
「買収なんてされませんよ! むしろ、ぷんすかです」
 ぺろり、クラリスは黒兎の頬を舐め。ぺろり、腕も舐める。
『え、あ、ええええ??』
 整えられた毛並に、黒兎の手がつるりと滑った。つるり、つるり。極限まで減らされた摩擦抵抗に、黒兎は茘繼の腕から脱出する術を失う。
 ――そこへ、玄冬が飛んだ。
 茘繼へは当てない。
 勿論、クラリスへもだ。
 叩きつける拳は、籠手も纏わぬただの素手。
 けれども純然たる拳は、時に何ものをも上回る破壊力を生み出す。
「二人とも、離れて」
 鍛え上げた肉体が発揮し得る全てで、玄冬は黒兎の頬を殴りつけた。

『なっ、なんて悪辣!!』
 ようやくの体で茘繼らから逃れた黒兎は、顔を半分へしゃげさせて穴から這いずり出た。
 けれどそこを猟兵が待ち受けない筈などない。
「――悪辣はどちらだ」
 皮肉を口にし、ジャックは照準を定めた。
 機械仕掛けの男が用いる機械仕掛けの神――銀の歯車が噛み合うリボルバーから放たれた弾撃は、過たず黒兎を捕らえた。
『ちょっ、何を!』
 びり、と。生じた違和にオウガの動きが鈍る。
「――運の悪い奴め」
 懸命に跳ねて逃亡を試みる黒兎を、アルバが編んだ無数の風の槍が襲う。
 致命傷を避け、黒兎が不規則に跳ねる。その度に、はらはらと紙幣が舞う。視線を奪わんとするかのように、ちらつき踊る。
『これくらい払えば、十分であろう!』
 ついには胸元から今までにない分厚さの札束を黒兎が取り出す。相応の贅沢ができるだけの額だ。それを見止めたジャハルは、決して自分には当たらぬ風槍と並走しながら、声だけをアルバへ放る。
「師父よ、財産など受け取りを拒否しておけ」
「莫迦者、端金を受取ると思うてか。これならば宝石の方が何倍も価値があるわ」
『宝石か? 宝石が良いのか?』
「……、師父よ……現物も駄目だ」
「そんなの百も承知だ」
『何だと!? ならば貴様らはいったい何が――えぇい、こうなったら私が主となった街を――』
「だからそれが最悪なのだ。大体、ぽっと出の阿呆に名を決められるなぞ万死に値すると知れ! ついでに、道化は道化らしく踊るが良い」
 こんな戦いなぞ何でもない風に口を動かし、けれど着実に風槍で黒兎の行動範囲を狭め。アルバはオウガを罵る。
 その高らかに響く台詞がまた、対峙する相手と酷く似通っているようにジャハルは思えたが、気の所為だと――本日何度目かの――己に言い聞かせ、敵の懐に飛び込む間際に拳を固く握り込んだ。
「貴様からは何も受け取らぬ。だが、我が一撃は無料で呉れてやる。国王の御前でな」
 ――喜べ。
「ジジ、だからそれは――」
 ジャハルが発した気概に、アルバが何をか言いかけた気がしたが。今度もやはり気の所為だと決め込み、竜人の男は渾身の一撃をオウガの丹田へ叩き込む。
 ぐっふ、と声にならない苦痛を呻き、黒兎が吹っ飛び背中で鞠のように弾む。
「お行儀のなってない兎には帰ってもらわなきゃね」
 ――リルの大好きな国を歪めさせたりなんかしない。
 全ての発露の源をリルに置き、櫻宵はリルの為にと終焉が近い戦場を駆けた。
『ふ、んっ! 諸君の実力なら、これくらい――』
「櫻の邪魔はさせない」
 瀕死ながらもしつこく札束をばら撒こうとする黒兎へ向け、リルが喉を震わせる。
 ――綺羅星の瞬き 泡沫の如く揺蕩いて。
 オウガから受け取るものなんて、リルには何もない。
 ――耀弔う星歌に溺れ 熒惑を蕩かし躯へ還す。
 必要なのは、未来への希望と平和と、大好きな人と過ごす時間。
『……払え、ば十分で――』
「――黙って僕の歌を聴いてろよ」
 優雅な歌唱に打つピリオドは冷ややかに。だって本当は、櫻宵には自分だけを見ていて欲しいのだ。倒さねばならない敵とはいえ、一時でも櫻宵の視線を独り占めするなんてリルには許せない。
 想い込められた歌は、誘惑という名の毒を孕み。黒兎の攻撃の発動を阻み、櫻宵を自由に走らせる。
「僕の櫻はダンスは下手だけど、剣舞は得意だよ」
「やだ、リィったら。下手なのはばらさなくていいじゃない」
 ――さぁ、思う存分に踊ってみせて。
 恋の情熱で整えられた舞台へ、櫻宵は喜々と上がった。
 そしてリルの『この国を一緒に守る』という思いを連れて、黒兎へ肉薄する。
『な、な、な、な――』
「はい、捕まえた♪」
 ままならぬ体を叱咤して逃げようとする黒兎の頭を櫻宵は鷲掴み、にこりと微笑む。
「さぁ、首を頂戴な」
 躱すべくもない距離。しかも物理的に動きまで封じて。櫻宵は空いた手で抜刀すると、その速度の儘に刃を横に一閃、そして上からもう一閃。
 ざぁ、と散った桜吹雪は幻視にあらず。
 それは骸の海より蘇った命が、再び散り逝く光景。
 乗せた呪詛が欠片も残さずオウガの命を滅し尽くすのを見届け、櫻宵は愛しい人を振り返り、その満面の笑みで瞳をいっぱいにした。

●芽吹き
 オウガの脅威は、猟兵たちと愉快な仲間たちの奮闘によって退けられた。
 とは言え、またいつ新たなオウガが来るとも限らない。
「オウガに名をつけられたら厄介だからな。何か良い案はないだろうか?」
 戦いで割れたモノクルを肉球の手で握り締める犬の求めに、猟兵たちは想いを馳せる。

 そういえば、と綾華はいつか捲った図鑑を思い出す。
「オリエントの海――なんてのはどーかな」
「ふるい言葉で、陽の昇る方向――っていうんだっけ?」
 真珠が持つ特有の耀きに纏わる言葉は、ルーナの知るところでもあり。とてもこの国に似合いに思えるもの。
「それ、いいなぁ」
 わたしは、淡朱の海かな、と。珊瑚の色を脳裏にルーナが呟いた時。

 ――オリエント。
 ――珊瑚と珊瑚を繋ぐ、流れ。

 不可思議な声がどこからともなく響き、二つの街を繋ぐ月光ベールの水路の耀きが増す。
 それは一つの街の珊瑚礁と、一つの街の珊瑚の庭園を繋ぐ水路が名前を得た瞬間だった。

「侍とは、さぶらうを語源としているんだ」
 さぶらうとは、尊きものに従い、守護すること。
 この国の尊きものとは、きっとこの国を愛している全ての仲間たち。
 ならばこの和のテイストを感じる街は、――。
「『守護の砦』とか、」
 沈黙を忘れたように思いの丈を語った玄冬は、自分を注視する二組の眼に気付いて視線を僅かに落とした。
「……硬いかな?」
 照れを含んだような問い掛けに、茘繼とクラリスは「そんなことないー」「ないニャ―」と首を振り。それでチリリンと鳴った首元の鈴に、クラリスの元へ天啓が降りる。
「じゃあじゃあ、『ブラックパールタウン』ニャンてどうですか?」
 黒真珠の宝石言葉は、力強さ。
「なんだか強そうな響きだねー」
 溶ける指先で黒真珠を象り、茘繼はくふふと楽し気に喉を鳴らす。
 様々に想いを馳せる彼らは未だ知らない。
 着々と建造が進んでいる鯨型の箱舟にやがて『守護の砦ブラックパール号』という名がつけられることになることを。
 緊急時に皆を安全に避難させる為の、箱舟。
 それはこの国で最も堅牢な仕上がりとなるもの。

 凪いだ国を見渡し、りょうは安堵を音にする。
「ああ、ここは綿津見の庭だ」
 綿津見――海の神。或いは、海そのもの。
 人が人のまま水底を堪能できる、神の気紛れが実った地。
 その気紛れに誘われたように、リルも月光ヴェールの尾鰭を躍らせた。
「名前……花真珠の国とか、どうかな?」
 リルらしい美しい響きに櫻宵はふふりと笑い、そうねぇ、と自分のイメージを膨らませる。
 竜宮城に貝殻の街で思い浮かび響きは、海の底にあるとされる異界――ニライカナイ。
 けれど櫻宵はそこに更なる夢と希望を羽搏かす。
 幸せで明るい街になればいい。
 どんな未来も叶う、そんな街に。
「……未来が叶う……そうね、ミライカナイとかどうかしら!」
「素敵な名前だと思うよ、櫻――え?」
 幸せを約束された響きにリルが感銘を受けた、その瞬間。

 ――綿津見の庭。
 ――ミライカナイ。
 ――綿津海のミライカナイ。

 りょうの発した音色と、櫻宵の発した音色が何処かで重なり、波紋のように広がり溶けたかと思うと、竜宮城の天守閣が眩く輝いた。
 まるでその名を、竜宮城を戴く街が受け入れたとでも言うように。

「おや、名前が決まったようですね」
 共に国の成り立ちに携わったアルバの是の頷きに、瑠碧も「そうだな」と唱える。
「良い名だ。僕はアクアマリンというのを考えたりしていたんだが」
「ああ、アクアマリン。まさしくここは海の宝石と呼ぶに相応しい地ですしね」
 他所行きの顔で瑠碧へと微笑むアルバへ、ジャハルは「ならば」と尋ねた。
「師父は何か思い浮かんだのか?」
 童話にあった、波下に栄える王国に似て、また非なる国。
 光の波紋が揺らめく街は美しく、まさに宝石の如く。それを見つめるアルバの目も優しい。
「そうだな……海底の都は数々、童話、神話に記述があれど。この国を語るにはどれも物足りない」
 とつとつと、語るアルバの声に、ジャハルの記憶が重なる。
 読み聞かせて貰った音色。其は如何してか、不遜とは程遠いもので。
「唯、敢えて言葉にするならば新たに生まれる海の星――ステラ・マリス」
 嗚呼、確かそれは。全ての『はじまり』の――。

 ――ステラ・マリス。

 カァン、と。
 運命の鐘が、ホワイトパールの太陽とブラックオパールの月の狭間で鳴り響いた。
 おそらく理さえ予想外であったろう福音。然してその名が、国の名になったのだと誰もが一瞬で把握する。
「師父よ」
 感嘆の息をジャハルが飲む。確かに感動的な瞬間だ。
「まさしくこれぞ国王の仕事ぶり」
 しかし続いた言葉に、アルバは肩を落とす。
 どうやらこの従者には一から説明する必要がありそうだ。けれど、今は。
 『ステラ・マリス』に祝福を。 

 名前を得た街が、国が、命の耀きに満ちる。
 美しく、優しく、何よりこの世界にとても相応しい。
(「……ああ、良い名だ」)
 未発達な情緒をも震わす世界の変革を目の当たりにし、ジャックの裡にも感嘆が込み上げた。
 それほどに、名前とは大事なものだ。
 矢車菊の青を思わす国の、国としての芽吹きの瞬間にエフィはひっそりと赤い双眸を細める。
 多くの祈りが籠もった名を得たこの国は、アリスを守る国となるだろう。
 不思議と温かくなる胸に、ライラックとカーティスも笑み交わす。
「素敵な名前、つけてもらったね」
 どうしてだか自分まで嬉しくなった心地で、せらの口元も柔く解けた。
「……愛される、名前だ」
 空間に広がって、世界に固着する響きにリュカも納得を頷く。
 綺麗で愛される名前がいいと思っていた。
「でも、わたしはリュカの案もすきだよ。とてもわかりやすくって」
 ――海っぽい町。
 ふと呟いた名をオズに繰り返されて、リュカは視線を彷徨わせる。オズの瞳に一切の揶揄がないからこそ感じてしまう微妙な居た堪れなさは、自身のセンスがいまいちなのを自覚しているからだ。
 けれどある意味、リュカの名づけも実ったと言えなくもない。
 だって全てが海に纏わる名なのだ。
「……良い名付け親に恵まれたのでしょう」
 国の鼓動を幻視し、ミューも目を伏せ淡く微笑む。
 人形であったミューが、生命を宿らせたのと同様に。この国も、名前によって新たな『いのち』を吹き込まれたのだ。
「……夢、みたいだ」
 彩を増したようなホワイトパールの太陽とブラックオパールの月を見上げ、サンはうっとりと呟く。
 名前がなかったサン。
 いや、あったかもしれないけれど。知らないサン。
 大好きな人が、『サン』と名付けてくれて、サンはサンになった。
「……うん」
 愛と慈みの籠る呼び声を耳の奥で響かせて、サンは大切な自分の名前を噛み締める。
 名前は、支配するためのものではなく。
 愛する為のもの。
 この国は、街の一つは、水路は、箱舟は。その愛を尊重する者らによって名付けられた。
 それは永遠の輝きを約束されたのと同じこと。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​




第3章 日常 『不思議の国の長閑な時間』

POW   :    好奇心の赴くままに散策する

SPD   :    お勧めスポットを満喫する

WIZ   :    お茶やお菓子と共にゆったり過ごす

👑5
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

種別『日常』のルール
「POW・SPD・WIZ」の能力値別に書かれた「この章でできる行動の例」を参考にしつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


●海の産声
 海底を思わす不思議の国『ステラ・マリス』には二つの街がある。
 竜宮城を中心に貝殻の屋敷で城下町を形成し、所々に宝石珊瑚も配された珊瑚の庭園がある『綿津海のミライカナイ』。
 そしてサンゴ礁とカラフルなハーフ・ティンバー様式の瀟洒な家々が共存し街並を成す、仮に『カントリーな海』と称される街。
 二つの街は、地表に近い中空をゆらゆらと漂う月光ベールの水路『オリエント』で結ばれ、そのオリエントを三日月のゴンドラが行き来する。
 二つの街とのちょうど間にあるのが、細長い巻貝を思わす白亜の塔。これは天文台であり、同時にオウガの襲来を見張る役目も負っている。
 これらは全て、猟兵たちの想像より創造されたもの。原初の海にあったのは、望んだものを生み出す卵を光源に抱いた街灯と、ホワイトパールの太陽とブラックオパールの月。
 少々気忙しいらしいブラックオパールの月は、ホワイトパールの太陽より足早に浮力も殆ど持たず呼吸も妨げない液体に満ちた天を渡り、この日いよいよ二つはぴたりと重なる。
 ほぼ並んで地平から顔を出した二つは、ゆっくりゆっくりと重なり。中天に達する頃、遂にホワイトパールはブラックオパールを彩る円環となった。
 ステラ・マリスを、いつもより艶やかさを増した控えめな虹色の光が照らし出す。
 その時、珊瑚たちが目覚める――いや、産卵を始める。
 ぽっぽっと、まるで短く吐いた息で気泡を象るように。無数の小さな粒が空へと放たれる。
 ステラ・マリスにおいて、珊瑚の卵は星となるもの。無数の卵は天を彩る星となり、いつしか地上へ戻って珊瑚となるか、気ままに金平糖として降ることもある。
 全ては空想の産物であり、物語めいた夢のような出来事。
 けれど今、珊瑚の産卵が起きているのは事実。

 ゆらゆらと小さな卵が、淡い光を帯びて高く高く昇ってゆく。
 多くの珊瑚がいる場へ赴けば、宇宙を漂っているような心地になれるだろう。
 ミライカナイの庭園に併設された甘味処で、金平糖やバラのショコラを味わいながら眺めるのも良い。
 愉快な仲間たちに頼めば、竜宮城の天守閣から珊瑚の産卵を望むこともできる。
 人の数だけ、とっておきの場所はきっとある。
 そこで立ち合うのだ、海が産声を上げる瞬間に。
リル・ルリ
■櫻宵/f02768

名前がつくと世界がより一層輝くね
僕の尾鰭みたいな河がオリエントになったのも嬉しいな

櫻と一緒に天守閣でお茶会をするんだ
珊瑚の卵が星になる、高いところで見たくて
天守閣、は浪漫なんだって
見てよすごい!
邪魔しないよう注意しながら、生まれる星と泳ぎたい
大丈夫、櫻のそばにいる
世界とひとつになったような不思議な感覚
海の、星のうまれる歌が聴こえる気がした
僕も祝福を歌う

嗚呼
もちろん!だってこんなにも愛されて
ひとの想いが宿ってる

おや
甘い星が
もう金平糖になったの?
2つ祝福を分けてもらおう
陸と水、別の世界で暮らす僕らが
唯一…何の支障もなく共に居られる海の国

星に願うなら
どうか幸せな国になってほしいと


誘名・櫻宵
🌸リル/f10762

ステラ・マリス……綿津海のミライカナイ…
うふふ、素敵な名前がついたわね

1度は登ってみたかった天守閣
浪漫よ
空に近いこの場所でショコラに紅茶を用意して
リィと2人で珊瑚の産卵を観るわ
不思議…星が降るのではなく
星が空へ登っていくわ

世界を見守る瞬く星か
甘くて美味しい金平糖か

どちらが生まれるのか楽しみね
リィったら
星のたまごと一緒に游ぎたいなんて
卵と一緒に星になってはダメよ?
ああなんて幻想的……絵画のよう

満面の笑顔で泳ぐ人魚に手を振って
新たに生まれる命を微笑んで見守る
これからもっと笑顔が咲く素敵な国になるわ

あら金平糖?もう?
海から生まれた星の祝福
有難く頂きましょ!
きっと、甘い幸せの味よ




「ステラ・マリス……綿津海のミライカナイ……」
 国と街が得た名前を反芻し、うふふと微笑む櫻宵に、リルも丸い気泡を象る薄青の玻璃窓の向こうへ目を向けた。
 生まれたばかりのこの国を二人は知っている。
 静かに凪いで、誰の事も溺れさせない優しい国。
 そこに賑わいと華やぎが加わり、確たる芯を得た今、世界はいっそう眩いものとしてリルの瞳にも映る。
「僕の尾鰭みたいな河が、オリエントになったのも嬉しいな」
「ぜんぶ、素敵な名前がついたわね」
 肩にかけた被帛をゆらゆら揺らし、手にした翳で口元を隠すロボット娘のしずしずとした案内を受け、櫻宵とリルは竜宮城の天守閣を目指す。
 櫻宵にとって『天守閣』は浪漫の塊。
 ミライカナイを一望できる、空に近い場所。薔薇のショコラと紅茶をお供に過ごす一時は、星々の煌めきに満ちるはず――比喩ではなく、文字通りに。
「見てよすごい!」
 辿り着いた天守閣。夢見る卵の透かし模様が入った障子を開けるや否や飛び込んできた光景に、リルは少年らしい歓声を上げた。
 珊瑚の庭園で生まれた無数の小さな卵が、重なった太陽と月を目指して天へと昇ってゆく。
 不思議な光景だった。
 天にある筈の光が、降るのではなく――。
「星が空へ登っていくは……」
 リルに寄り添い並ぶ櫻宵の桜めく唇が零すのは感嘆。同じ感動に包まれていたリルは、しかし新たな夢との邂逅を果たす。
「櫻、見ていて」
 すい、と。櫻宵の傍らからリルは中空へと游ぎ出る。月光ヴェールの尾鰭が、淡い軌跡を描いて宙を掻く。ゆらりと生まれた細波に、星々がさざめき歌い始める。
「リィ、卵と一緒に星になってはダメよ?」
「もちろんだよ。君を置いてなんかいかない」
 天守閣の窓際に立つ櫻宵から決して離れぬ位置で、月下美人の人魚は生まれたばかりの星たちと戯れた。
 まるで世界とひとつになったような感覚に、リルは星たちと祝福を謳い始める。
 永遠に移ろわぬ硝子の音色が、マリス・ステラに高く響いて沁みていく。産声を上げた星々を、リルの歌が彩り。聞き入る櫻宵の貌には深い笑みが浮かぶ。
 絵画を思わす幻想的な光景に、想いが溢れる。
 世界を見守る天で瞬く星か。それとも甘くて美味しい金平糖か。
 芽吹いた卵たちが何れになるかは分からないけれど、どちらであれどこの国に幸福をもたらすことだけは間違いない。
「これからもっと笑顔が咲く素敵な国になるわ」
 ひらひらと手を振る櫻宵が口にした確信に、リルは一際大きく尾鰭を撓らせた。
「嗚呼、もちろん! だってこんなにも愛されて、ひとの想いが宿ってる」
 リルが作った流れに乗った星の卵たちが、天を目指して勢いよく翔け昇る。さながら小さな天の川だ。
 その時、二粒がころりと流れた。
「おや、甘い星が。もう金平糖になったの?」
 リルの手に収まる為のように転がり来た二粒を、リルは両手で包み込むと櫻宵の傍らへと戻り、一粒を櫻宵へと差し出す。
「きっと海から生まれた星の祝福のお裾分けね」
 受け取った星を重なる太陽と月に翳し、二人は同時に口へと放り込む。
 ――どうか幸せな国になりますように。
 願われた星は、櫻宵とリルの内側を満たす甘い甘い幸せになった。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

清川・シャル
名前がつくって素敵ですよね。
何もなかったとか、注目されること無かった場所に、色んなひとが来るようになるんだもの
そして名前を呼べる、って、特別な事だと思うの!
すっごい事だと思うの!

探索しましょ!
どの場所にも空があるのがほんとに素敵、好き。
思いつくままに何かメロディを口ずさみながら、お気に入りの場所でも探そうかな。
空を眺めて珊瑚を眺めて。
…ここにしかないりんご飴とかあるでしょうか?普通のでも、他のでも大丈夫。
1等高い場所に登って、のんびり街を見下ろしたいな。
この世界がゆったりと続きますように。




「ステラ・マリス」
 星の海になったような珊瑚の庭園を、シャルはそぞろ歩き。
「綿津海のミライカナイ」
 少しピンクがかった卵を見つけて、手を伸ばし。
「オリエント」
 金の髪をなびかせくるりとターンしたかと思うと、見事な枝ぶりの宝石珊瑚に惹かれて弾む足取りで駆け。
「あとは……あぁ、そうです! 守護の砦ブラックパール号!」
 定まった名前を一つ一つ呼んでは、蒼い瞳をきらきらと輝かせる。
(「名前がつくって、素敵ですよね」)
 何もなかったところが、誰に見返られることも無かった場所が、色々な人々を招き寄せる『素敵』に変わる。
 それに何より、『名前』を呼べるということは、特別なこと。とてもとても大事なこと。
 立ち合った『素敵』の瞬間に、シャルの心でも無数の星が煌めき出す。
 ここは素敵の国だ。空だって、どこからでも見える。それだけで、とても好きだとシャルは感じてしまう。
 せっかくだから、お気に入りの場所を探したい。
 高い場所がいいけれど、竜宮賞の天守閣でも、星見の塔でもなく。りんご飴を売っていれば、なお良しだけれど。
 思い浮かんだメロディーをるるると口遊みながら、シャルはホワイトパールの円環に彩られた静かなる虹色が照らすミライカナイの街へと繰り出す。
 愉快な仲間たちが暮らす街は、まだまだ人の文化には馴染みがなくて。なかなかお目当てのりんご飴はなかなか見つからない。それでも、探すことは楽しいし。ないならないで、願えばきっとこの国に新たな実りをもたらす。
 それまで、どうか。
 ――この世界が、ゆったりと続きますように。
 貝殻の家から顔を覗かせているシャチへ笑顔で手を振り、シャルは自分だけのとっておきを街に探す。

大成功 🔵​🔵​🔵​

ライラック・エアルオウルズ
【カーティス(f00455)】

宵空に煌めく星々が、
珊瑚の卵なのだと語れど
誰も信じてくれなくとも
見上げる煌めきは本物で
星海歩く程に、密か笑み

ふと、伸ばされた手を柔く握れば
戦闘機から伸ばされた手を思い出す
あの時は頼もしく思えたけれど、
感じる暖かさは幼子の物で
心底微笑ましく思いもしながら

星の傍にと産まれた貴方も、
星の産まれる姿を見るのは初めてかい?

示された方向を見遣れば、
本当だと穏やかに返し
次いで紡がれた言葉には、
眸瞬いた後 表情綻ばせて

――そうさ。
此処は、素敵で不思議な魔法で溢れている
それにね、カーティスさん
素敵と幸せ満たす様な夢見る貴方も、
此処では『魔法使い』なんだ

――ああ。僕達、御揃いだね?


カーティス・コールリッジ
ライラック:f01246

水の中をあるいているような
そらの中を泳いでいるような
星が生まれゆく中を揺蕩いながら

はぐれないようにと伸ばしたてのひら
おとなのひとと手をつなぐこと
いつかの憧憬
育成プログラムの『教育』にはないあたたかさに目を細めて

星が生まれる瞬間をみるのは、おれもはじめて
みて、なないろのひかりにすいこまれていくみたい!

おじさ……ううん、ライラ
ライラがこの物語がだいすきな理由、わかっちゃった!
このせかいではみんながゆめを見て……
ゆめをみたぶんだけ、『すてき』と『しあわせ』で満たされるんだ
ね、それってまほうでしょう?

おれも?……まほうつかいに、なれる?
ふふふ!そうしたら
おれたち、おそろいだね!




 手を伸ばしたら、指先に星の卵が触れる。
 優しく突けば、ぽよんと弾み。そして勢いよく天へ天へと昇っていく。
 ――宵空に煌めく星々が。珊瑚の卵だとどれだけ語っても、信じてくれない人々が『現実』には溢れていることだろう。
 けれど目にした幻想でありながら真実でもある光景に、ライラックは密やかに笑む。
 誰も信じてくれなくても構わない。
 だって、見上げる煌めきは本物。ライラックは今、星が生まれる海を歩いている。
 世界を満たす不可思議な液体に浮力はほとんどない。だのにふわふわとした心地になるのは、珊瑚の卵が上へ上へとゆくからか。
(「そらの中を、泳いでいるみたい」)
 覚えるトキメキに気持ちは浮き立つのに、どうしてだかカーティスの内では、根無し草のような心許なさが顔を出す。
 こういうときは。
(「はぐれないように」)
 大人の人と手を繋げば大丈夫、と。カーティスは少し先を歩くライラックを小走りに追い、そっと手を繋ぐ。
 それはいつかの憧憬。指先から伝わる温かさは、育成プログラムの『教育』にはなかったもので、自然とカーティスの目は猫のように細くなる。
 そして予想していなかった接触に、カーティスの記憶の頁が数ページ分だけ捲り戻された。
 戦いの最中、戦闘機から伸べられたものと同じ手だ。あの時は、とても頼もしく思えたそれは、大人がなくしてしまった柔らかさをもつ実に子供らしいもの。
「星の生まれる姿を見るのは初めてかい?」
 心の底から溢れてくる微笑ましさの儘にカーティスの手を握り返し、ライラックは星の傍らに生まれた少年へ尋ねる。
「うん、おれもはじめて」
 答えは、是。
 宙に生まれ、宙に育ったカーティスでも、こんな光景は見たことない!
 『嬉しい』がいっぱいの世界が、繋がれた手が齎す温かな感情が。カーティスの情感をやさしく揺さぶる。
「みて、なないろのひかりにすいこまれていくみたい! ねぇ、おじさ……ううん、ライラ」
 そして閃きは突然。
「ライラがこの物語がだいすきな理由、わかっちゃった!」
 星屑を散りばめたような光を纏った夜の虹色を目指す星々を指差し見上げていたカーティスに舞い降りたのは、まさに天啓。
「このせかいではみんながゆめを見て……ゆめをみたぶんだけ、『すてき』と『しあわせ』で満たされるんだ」
 慕わしい年長者を『おじさん』ではなく愛称で呼び、子供は胸一杯に夢と希望を膨らませる。
「ね、それってまほうでしょう?」
「――!」
 子供の弾ける笑顔に、ライラックは一度瞬き、破顔した。
「そうさ」
 此処は、素敵で不思議な魔法で溢れている。
「それにね、カーティスさん。素敵と幸せで満たす様な夢見る貴方も、此処では『魔法使い』なんだ」
 ライラックが言葉を紡げば紡ぐほど、カーティスの瞳は多くの星の卵を映し、銀河系の中心よりも明るく輝き出す。
「おれも? おれも、まほうつかい?」
「ああ、そうだよ」
「すごい! そしたらおれたち、おそろいだね!」
 そうして至る結論は、ライラックにとっても夢のよう。
「――ああ。僕達、御揃いだね?」

 星が生まれる海に、大人の魔法使いと、こどものまほうつかいが、二人。
 迷子にならないように手を繋ぎ、幻想的な風景に穏やかに溶け込む。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

アルバ・アルフライラ
ジジ(f00995)と
弟子と共に赴く場所なぞ決まっておる
連れられ、辿り着いた先は天文台
見張り台を兼ねる其処ならば
国だけではなく星も全て見渡せよう
ふふん、強請ってみるものよな

…ん?
如何した、ジジ
奴の視線を追えば、遊色の日蝕を見る
ああ、ブラックオパールだな
お前の瞳と同じだ
あの輝きに近付きたいが故、この塔を乞うた
――この光景をお前に見せたかった
故に私は充分に満足したとも

っは、お前は目聡い故
如何様な異変であれ直ぐ気付くであろう?
等と戯れには戯れで返して
…然し、私はこの国が気に入っているらしい
名まで付けたとなれば尚更
――ならば芽吹く星を愛でるも悪くない

…やれ
礼なぞ要らんわ、莫迦者め
…照れ隠しではないぞ?


ジャハル・アルムリフ
師父(f00123)と

星を見るならと
巻貝の天文台、その窓辺へと翼で辿り着けば
師らの創った国が、風景が一望できる

見上げれば白き光背に抱かれた虹色
ずっと気になっていた問いを口に
…師父よ、あの月についてだが

…そうか

昔、師父が
この瞳にかけてくれた魔法で
鏡を見ることも、見られることも
恐れずに済むようになった
何も持っていなかった俺に居場所を
それから何もかもを与えてくれた

よもや、ひとつの国を見守る大任まで仰せ付かるとは
…師父は、また子を育てているわけか
冗談めかしながら笑みを刷く

月へと昇る星の子らに、芽吹きゆく海
王であり父へ――好き光景を、ありがとう
そして、おめでとう

相変わらず素直ではないな、まったく




 白亜の壁は、螺旋を描く。
 その渦に目を奪われぬようジャハルは真っ直ぐ、真っ直ぐ、天文台の天辺を目指して背の翼で空を翔る。
 辿り着いた見張り台も兼ねる窓辺へは、腕に運んだアルバを先に下ろす。
 途端、愉快な仲間たちがアルバの元へ駆けよるのを不思議な気持ちで眺めつつ、ジャハルも翼を背に秘し、存外固い床を踏む。
 ――行き先なぞ決まっておる。ほれ、早く運ばぬか。
 稀有なる珊瑚の産卵。立ち合い場所をジャハルが尋ねれば、師父はしたり顔でふんぞり返った。
 そうして導かれたのが――実際、労力となったのはジャハルだが――、天文台。
「ふふん、強請ってみるものよな」
 余所行きの貌で愉快な仲間たちとの挨拶を交わし終えたかと思うと、素を覗かせたアルバの弁にジャハルもゆるりと振り返る。
 ステラ・マリスで最も高く聳えた塔からは、国の全容が一望できた。
「これが、師らが創った国……」
 遠く透ける薄青に、趣を異にする街がふたつ。その両方から、白く煙るように珊瑚の卵たちが明日の星になる為に空へ空へと昇っている。
 その動きにつられて見上げれば、白き光背に抱かれた虹色がジャハルの瞳にも映った。
「……師父よ」
 尋ねは、この国に至った時よりジャハルの胸にあったもの。
「……ん? 如何したジジ」
 赦しを受けて、促され。ジャハルはようやくそれを口に上らせる。
「あの月についてだが」
 じぃと目線は天を仰いだままの弟子の様子に、アルバも稀代の月蝕を見た。ホワイトパールの太陽にぴたりと重なった、その遊色は――。
「ああ、ブラックオパールだな」
 お前の瞳と同じだ、とアルバは事も無げに言う。
「あの輝きに近づきたいが故、この塔を乞うた」
 ――この光景をお前に見せたかった。
 ――故に私は十分に満足したとも。
 気負いも、含みも一切なく。ありのままをありのままとするアルバの声が、ジャハルの内に幾重もの波紋を広げる。
 昔、アルバがジャハルの瞳に魔法をかけてくれた。
 その瞬間から、黒はただの黒ではなく。眸に七彩を煌めかせるようになった。
 呪われた同胞喰らいと謗られた竜人は、双つ星の魔術師の従者であり弟子となった。
 鏡を見ることも、誰かに見られることも、恐れずに済むようになった。
(「何も持っていなかった俺に居場所を――それから、何もかもを与えてくれた」)
 生まれたばかりの星たちを迎えるブラックオパールが、ジャハルの七彩にも光を差す。ふわりと包み込むような優しい灯に、ジャハルは数々の言葉を飲み込み、「……そうか」とだけアルバへ返した。
 いや、そう返すのが精一杯だった。
 けれどジャハルは瞳写しの月蝕からアルバへ視線を移し、感傷を振り切る。
「よもや、ひとつの国を見守る大任まで仰せ付かるとは。……師父は、また子を育てているわけか」
 冗談めかした台詞は、顔には笑みを刷いて。
「っは、お前は目敏い故。如何様な異変であれど直ぐに気付くであろう?」
 寄越された戯れに、お前こそこの塔の守り人に相応しいのではないかとアルバも戯れで返す。
 尽きぬ会話は、全て海に紐づく。
 無意識であったが、だからこそ今度はアルバに気付きを与えた。
「……然し、私はこの国が気に入っているらしい」
 名前まで付けることになったのだ。それはある意味、偶然が縒り紡いだ必然。しかしアルバにとっては少なからず驚くべきこと。
 芽吹く星を、白亜の塔から二人は愛でる。
 月へと昇る星の子らは、明日への希望。
「――好き光景を、ありがとう」
 王であり父である男へ、ジャハルは告げて。「おめでとう」も言い添える。
「……やれ、礼なぞ要らんわ、莫迦者め」
 照れ隠しではないぞと言い含めるアルバの貌に、既に驚嘆の色は薄く。だがいつもより早い語調にジャハルは「相変わらず素直ではないな、まったく」と肩を竦めて――星が芽吹く海へ、また笑った。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

蛍火・りょう
あれが、卵…?
産卵が始まったってことは、もう敵は居ないって事か
だったらぼくたちの仕事は終わりだな

まぁ、帰りは別に急いでないし
ちょっと散歩していこうかな
どんな建物ができてるのか、ぼくも全部は知らないし

せっかくなら国の仲間くんたち、案内とかしてくれないかな
あ、いや…太刀魚くんたちは、そういうの向いてないんじゃ…
鍛錬場とかじゃなくて、卵の星が見える場所だぞ?
…大丈夫かな

まぁいっか、別ににぎやかなのは嫌いじゃないし
あぁでも、最後に行くのは甘味処だ。それは譲れないからな

だってあの花が食べられるらしいじゃないか
帰る前に寄らないと
うん、やっぱり。甘味処は絶対あった方がいいって
ぼくの勘に間違いはなかったな




 夜に程近く、けれど夜ほど暗く沈まず。
 謎めいた虹色の光に照らされた世界に、淡く白い柱が立ち昇る。
「あれが、卵……?」
 綿津海のミライカナイと『カントリーな海』から――つまりは多くの珊瑚がある場所――天へと伸びるそれをりょうは見遣って、自分の役目が終わったことを知った。
 戦いは終わったのだ。
 ならば殴るが得手の己の出番は、もうお終い。あとは帰還を果たすだけ――だが。
「りょう殿、りょう殿。折角だから一休みしてユカレマセぬかな?」
「りょう殿、りょう殿! お疲れとあらば、我ラがお運ビイタシますゾ?」
 わらわらと泳ぎ寄ってきた太刀魚たちに――しかもいつの間にか、りょうの名前をきっちり憶えている――、りょうは仕方ないと肩を竦めた。
 帰り道を急ぐ必要は今のところはナイ。星が生まれる街を散歩して帰っても、怒られるようなことにはならないだろう。何より、どんな建物が出来ているのか興味はある。
「じゃあ、少しゆっくりすることにして。案内を頼めるかな?」
 そう申し出れば、太刀魚たちは綺麗に整列し、お任せあれとあるやなしやの胸をどんと張った。
「「ではシャシャっと参ろうぞ」」
「「シュシュっと征きましょう」」
 ――征く?
 聞こえた不穏な響きに、りょうは細長い瞳孔を胡乱気にますます細める。
「あ、いや……太刀魚くんたち。鍛錬場とかじゃなくて、星の卵が見える場所だぞ?」
 頼む相手を間違えた気がしないでない。
「「成程、然り!」」
「「このような特別な一日、愉しまぬ訳には参りマセヌナ。しからば、何処へ――」」
「「「シャチ殿の背に乗せて貰えば良いノデハ?」」」
(「……まぁ、いっか」)
 けれども賑やかなのも、斜め上に行ってしまいそうな愉快な仲間たちのことも嫌いではないから、りょうは鋭い銀色の閃きの後をついて歩き始め――はた、と。大事なことをりょうは思い出す。
「最後に行くのは甘味処だ。それは譲れないからな」
 いつかのゴンドラの上で食べたショコラの花。それが供される甘味処に寄らずして、如何する。というか、甘味処が必要だとこの国に提案した自分は天才じゃないだろうか。
「「「合点承知!!!」」」
 然してりょうは、太刀魚たちとゆらり星が生まれる海をそぞろ歩く。
 最後に訪問する甘味処で、太刀魚たちから山のような薔薇のショコラをプレゼントされるのは、幾つかのドタバタ劇を経た先の物語。

大成功 🔵​🔵​🔵​

アラン・サリュドュロワ
マリークロード(f19286)と天守閣へ
アレンジ歓迎

全くその格好はなんだ
仕方無かったなどと言い訳は無用
靴まで置いてくるなどわざとだろうが

くどくどと説きながら己のマントで小柄な身体を包むと、両の腕に抱き上げた
今は一応姫なのだから、素足で歩かせるわけにはいかない
天守閣への道を教えてくれた愉快な仲間には、もし靴を見つけたら持ってきて欲しいと言い添え
嫌がる顔にとても爽やかに笑いかけた
駄目です、仕置きですから

虹の空に星が集っていく…不思議な光景だな
自分の手で守った景色はどうだ?マリー
いつになく素直な言葉に、そうだな、と短く返し空を仰ぐ
その幻想的な国の姿を目に焼き付けるように


マリークロード・バトルゥール
アラン(f19285)を伴に

戦い終わって己を見れば衣服は無残な有様だった
降り注ぐ小言に強く言い返せない
靴が無い方が動き易かったのよ

俯き右から左へ聞き流していると布で包まれふわりと身体が浮いた
あ、アラン!?と声を上ずらせ慌てれど、
傷む腕では巨漢に適う筈もなくあっという間に腕の中
両膝を抱え上げられ不本意な「お姫さま抱っこ」状態のまま目的地を目指す
わたくしは大丈夫。ねぇ、下して頂戴。恥ずかしいの。人に見られたくないわ
いたたまれなくなりにこやかな騎士から顔を逸らす
……意地悪だわ、アラン

円環と星らの生み出す幻想的な光景
見上げれば肩肘張っていた力が抜ける
……綺麗。これを護れたのならば悪い気はしません




「全く、その格好はなんだ」
 仕えるはずの姫君へ、アランはくどくどと小言を並べる。
 ――戦ったのだ。
 ――どれだけ優美に振る舞おうと、怪我の一つや二つは負ってしまうし。華やかな衣装はなおのこと。
「仕方なかったなどと言い訳は無用」
 少年にしては艶めかしい唇が試みる反論を、アランは音になる前に立て板に水で封じてしまう。
「靴まで置いてくるとはわざとだろうが」
「――だって、靴が無い方が動き易かったのよ」
「ん?」
「……いえ?」
 ようよう声にした主張も、短い一言と一瞥に負けてしまう。強く言い返せないのは、アランの言い分に筋が通っているからだ。
 だから姫君は――マリークロードはついと視線を裸足の足元へ落とし、反省しているフリでお説教を右から左へ聞き流すことにした。
 ――の、だが。
「あ、アラン?!」
 マリークロードの身体が、不意にふわりと浮いた。
 幾ら海の国とは言え、世界を満たす液体に浮力は殆どない。つまり勝手に浮きはしない。ならばどうして。
 答えは簡単。羽織っていたマントをアランが肩から外したかと思うと、マリークロードを包み込み、両腕で抱え上げたのだ。
「今は一応姫なのだから、素足で歩かせるわけにはいかない」
 騎士の顔で、長身の男がいけしゃあしゃあと言う。戦の名残に腕を傷めるマリークロードでは抗いようがなく。しかして姫君の影たる少年は、あっという間にアランの腕に収まり、俗にいう「お姫様抱っこ」を憂き目に遭う。
「わ、わたくしは大丈夫」
 ねぇ、下ろして?
 下ろして頂戴?
 下ろして頂戴な?
 可愛らしく囀ってみても、アランは素知らぬ顔を貫き通す――だけでなく。
「恥ずかしいの。人には見られたくないわ」
「駄目です、仕置きですから」
 頬を赤らめアランの胸を叩いて嫌がるマリークロードへ、初夏の風のように爽やかな微笑みを返す始末。
「……意地悪だわ、アラン」
 むくれてみても、いじけてみても。いかにも竜宮城住まいの格好をした小さなロボット娘の案内で天守閣を目指す男の足取りは緩まず、マリークロードを戒める腕の力も弱まらない。どころか、堂々と愉快な仲間たちの多い場所を進んで歩く。
 けれど居た堪れなさの果てで、マリークロードは感嘆を零す。
「自分の手で守った景色はどうだ? マリー」
 不思議な太陽と月が織り成す美しい円環と、そこを目指し珊瑚の卵たちが星にかわって昇ってゆく。
「……綺麗」
 天守閣で眺める光景は、ただただ美しく、幻想的で。するりとマリークロードから素直な言葉を引き出した。
「これを護れたのなら、悪い気はしません」
 紫色の瞳が、星を追って天を仰ぐ。その横顔に、アランも短く「そうだな」と返し、未知なる海の国を一望する。
 瞼に焼き付く光景は、二人同じ。
 だが静寂はほんの一時。マリークロードの靴を見つけたシャチが、どっすんどすんと天守閣へ上がってくるまであと僅か。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

サン・ダイヤモンド
【森】甘味処で休憩後、金平糖を包んでもらって庭園散策

(蹴られた腹は)うん、もう大丈夫
甘いもの食べたら元気になっちゃった!

あ!ブラッド見て見て!
わああと息を呑む光景に暫し見惚れて

「この金平糖も、珊瑚の卵?」
今産まれたばかりの卵達。生まれる事が出来ずに流れてしまう卵達
「……食べちゃうのは、なんだかちょっと、可哀想だね」


遠く物思うブラッドに触れる
あなたがしてくれたように、愛を籠めてその名を呼ぶ

「あーんして?」
ブラッドに金平糖を食べさせて
「これで、僕とブラッド、同じものでできてるの」
お揃いだね
それからぎゅっと抱きしめて「不安な時は、こうすると安心」
大丈夫だよって伝わるように
これもあなたがしてくれたこと


ブラッド・ブラック
【森】庭園で珊瑚の産卵を眺める
怪我は大丈夫か
あまり、無理はしてくれるな

嗚呼。……美しいな
珊瑚の卵が星になり、孵化する前に流れたものが金平糖になるのだったか
不思議なものだ

(卵も)普段、お前が食べているものと同じだ
食べたものはお前の体の一部となり、お前の中で生き続ける
無駄にはならんよ

(そう、喰らった命でできている
――俺は、他者の血肉迄喰らい、おめおめと此処迄生き延びてしまった
脳裏にこびり付いた(喰らった他者の)悲鳴と其の光景
そうしなければ生きられなかった
俺は醜い醜い化物だ
餓えに、理性を失くして、)

サンの行動には静かに驚き、されるがまま

嗚呼――、こんなに美しい世界に在ってもお前は眩い
俺の、唯一つの光




 甘味処で買い求めた金平糖は、持ち歩きにも良いように、夢見る卵が描かれた折り紙で作られた匣に収められていて。その匣は今、サンの手元に収まっている。
 オウガとの戦いでサンが負ったダメージの余韻は僅か。「無理はしてくれるな」というブラッド・ブラック(VULTURE・f01805)の眼差しの花色を翳らせた案じにも、サンは「もう、大丈夫」とにこやかに笑う。
 それに、永く森にいた少年の瞳は、見た事も無い景色にもう夢中。
「ブラッド、見て見て!」
 最初は、わああと息を呑み。慌ててブラッドの腕を引いたサンの金の双眸は、生まれたばかりの星の卵で埋め尽くされている。
 庭園に根付く無数の珊瑚が産み落とした卵たちが、ゆらりゆらりと中空を漂いながら天を目指して昇ってゆく。
 ひとつひとつは小さいけれど、艶を帯びた静かな虹色に照らされた煌めきがまとまった帯は、さながら地上から伸びる天の川。
「嗚呼。……美しいな」
 絵に描いたような神秘との出会いにブラッドも感嘆を呟くが、そもそも異形である男の思考には、感銘よりも興味の色が濃い。
 珊瑚の卵が星となり。孵化する前に流れたものが金平糖となる、この国の摂理は理解している。だが不思議なものは不思議。そしてブラッドが口に上らせた不思議に、今度はサンが眉根を寄せる。
 サンの手元には変わらず金平糖入りの匣が。その中身と周囲を見比べれば、辿り着く疑問はひとつ。
「この金平糖も、珊瑚の卵?」
 この瞬間にも生まれ続けている卵たち。生まれたばかりの卵たち。金平糖になるのは、孵化が叶わず天より零れ落ちてしまったもの。
「……食べちゃうのは、なんだかちょっと、可哀想だね」
 人が成長する過程において識る、食の残酷性。そこに行きあたってしまったサンの声は、常より沈む。だがブラッドは甘い夢を与えるのではなく、現実を説く。
「普段、お前が食べているものと同じだ。食べたものはお前の身体の一部となり、お前の中で生き続ける。無駄にはならんよ」
 そうだ。
 人の命は、何かの命を喰らうことで保たれる。
(「――俺は、他者の血肉迄喰らい、おめおめと此処迄生き延びてしまった」)
 摂理を説いていた筈のブラッドの思考が、暗がりに澱む。脳裏にこびりついて離れない闇から、誰かの悲鳴と絶命の瞬間が浮き上がる。
 ――そうしなければ、生きられなかった。
(「俺は醜い醜い化け物だ」)
 ――飢えに、理性を失くして。
「ブラッド」
「、っ」
「あーんして?」
 突然のブラッドの沈黙に、サンは戸惑ったはずだ。だが未だ多くを知らぬ少年の無意識の気付きは鋭く、また為すべき事の選択にも間違いはない。
 呼び声には、愛が籠っていた。
 反射で開けた口に放り込まれた金平糖は、舌に乗った瞬間から既に甘く。
「これで、僕とブラッド、同じものでできてるの」
 お揃いだねとサンは微笑み、そのままブラッドをぎゅっと抱き締めた。不安な時は、こうすればいい。大丈夫だと伝える、一番わかりやすい方法。ブラッドが教えてくれたから、サンが知ること。
 施される全てがブラッドを驚愕で呑む。思考は半ば停止していた。それでも、闇色の男をたったひとつの真実が照らす。

 嗚呼――、こんなに美しい世界に在ってもお前は眩い。
 ――俺の、唯一つの光。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

ルーナ・リェナ
綾華(f01194)と甘味処へ

ひと仕事終わった後に食べるのっていつもよりも美味しいよね
もちろん、綾華と一緒だからっていうのもある

メニューをひととおり眺めたら店員さんに
お酒が入ってるの以外全部ください!
ありがと綾華
もらった花びらをじっくり味わったら自分が頼んでたものを食べる
あ、もし気になるのがあったら遠慮なくね
ひとつを食べきるのもいいけど、分けるのも大好きなんだ

わあ……ほんとだ、星空っぽい
綾華も食いしんぼさんみたいなこと言ってるよ
うん、そうだね
食べられるかどうか、食べてみたらわかるもんね
行ってみようよって笑顔で返す


浮世・綾華
ルーナちゃん(f01357)と甘味処へ

ぜんぶ?ルーナちゃんのやる気すげー
食べる様子にはそんなちっさい身体のどこに入るんだ?とちょっと吃驚

精巧に造られた薔薇のショコラを興味深く観察
食べるの勿体ないやつだ

でも食べねー方が勿体ないもんな
ルーナちゃんも一枚ドーゾ?と皿を差し出して
いーの?どれがいいかなぁ
あ、その真珠みたいなのってなに?

金平糖ももぐもぐしながら
あ、産卵、はじまってる?
ほんと、星空みたいだ

…手元の金平糖と見比べて
あれって食えるのかな?
食いしん坊?
ふふ、これは単純な興味だよ

何かを思いついたように
ねえねえルーナちゃん
食べ終わったらあの星、掴まえに行く?
あの時みたくさ、と付け足し目を細め




 雫型をした飴に、虹色のキャンディー。ハートの花びらをした桜は、きっと砂糖菓子だ。白いもふもふは、縁日などでよく見かける綿菓子。
 スコーンには特徴らしい特徴はないけれど、白黒二色の卵サンドは少々奇抜に見える。
『お酒が入っているの以外、全部ください!』
 ひと仕事終えた後の食事は、やはり格別。
 渡されたメニューをしげしげ眺めていたかと思うと豪快な結論を下したルーナを、対面に座した綾華は『ぜんぶ? ルーナちゃんのやる気すげー』と笑い、
『もちろん、綾華と一緒だからってのもあるのよ!』
 ――と付け足された乙女心に、また破顔して。
 レトロなフリルエプロンを身に着けたロボット娘の給仕が運んできて、ずらりと並べていった菓子たちと、席に収まるというよりテーブルにお行儀よく膝をついているルーナを見比べれば、やはり驚嘆は禁じ得ない。
(「あんなちっさい身体のとこに入るんだ?」)
 そんな綾華の疑問を吹き飛ばすように、ルーナはまずは自分より大きな綿菓子にかぶりつく――というより、全身で抱き着き優しい甘さを堪能し。あっという間にぺろりと平らげ、次はサンドイッチを抱え上げる。
 豪快な食べっぷりは、見ているだけで何故か人を幸せにする。
 見ているだけと言えば、綾華が唯一オーダーした薔薇のショコラ。絡まる茨を模した皿に乗せられた赤、黄、白の三輪は、精巧な作りで食べるのを躊躇ってしまう。
 だが菓子として生まれたものは、食べねば失礼にあたるというもの。あと、食べないという選択肢はどうしたって勿体ない。
「ルーナちゃんはどれがいい? 赤?」
「赤は綾華の方が似合いっぽいから、わたしは黄色を貰っていい?」
「あいさー、悦んで」
「あ、こっちのにも気になるのがあったら遠慮なくね」
「いーの? じゃあ、その真珠みたいなのが気になる。なに?」
「これ? えーっと……ホワイトチョコで何かをコーティングしてるみたいよ。中身は……初めましてかも?」
 どうせなら、一人で食べるよりも二人で食べる方が良い。シェアするのだって、誰かと一緒の醍醐味。
 然して綾華とルーナはあれやこれやと取り分け、ステラ・マリスの甘味に存分に舌鼓を打ち。どれも美味だが、やはり薔薇のショコラが見た目も味も絶品なのを知る。
 珊瑚の庭園に面した甘味処。まあるい飾り窓の向こうには、ピークを迎えた珊瑚の産卵。
 風景は海底から、星空へと移り変わり。菓子を楽しむ二人の目さえ引き付けた。
 ――しかし。
 魅入られる感嘆から一転、ちょうど手にした金平糖に綾華の思考は掬われる。
 摘まみ上げた一粒を窓に翳してみても、やはり同じに見えてしまう。
「あれって食えるのかな?」
 言い出したのは綾華が先。
「綾華も食いしんぼうさんみたいなこと言ってる」
「食いしん坊? ふふ、これは単純な興味だよ――そうだ、ルーナちゃん。食べ終わったらあの星、掴まえに行く?」
 誘ったのも、綾華から。
 そして付け足された『あの時みたくさ』という邂逅の再来と、細められた綾華の眼差しは、美味しい甘味たちより魅力的。
「うん、行ってみようよ!」
 ルーナも笑顔を弾けさせて是を頷く。
 とは言え、新たな冒険の始まりは並べに並べた菓子たちを完食してから。
 めいっぱい幸せのエネルギーを補充して、二人は星空の海へ意気揚々とくり出すのだ。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

浮舟・航
やあ、シャチくん達。お久しぶりです
猟兵のみなさんと頑張っていたと聞きました
ええ、とってもえらくて、立派ですよ

珊瑚の目覚めを見に、またこの国を訪れました
名前は――ステラ・マリス?
ええ、素敵です。まさしく、この世界にぴったりの名前だ

最後に見た時と変わらず、壊されることなく広がるサンゴ礁に安心しつつ
僕は、なるべく多くの珊瑚がいる場所を選んで
空を見上げていよう

それは星の誕生であり、命が昇っていくようでもあった
僕の世界では、魂が天に召されるっていう言葉があるから
命の旅を見ているような気持ちですね(……ちょっと、縁起悪いかな)

あの星々のように、命もいずれ地上に還るんでしょうか

……あ、スマホで撮るの忘れてた




 ――お久しぶりです、と。
 泳ぎ寄って来たシャチたちと挨拶を交わした途端、浮舟・航(未だ神域に至らず・f04260)は黒白逆転の背に攫われた。
 再会を喜ぶ彼らなりの歓迎なのだろう。
 いつかあらゆる角度で写真に収めた背に航は運ばれ、『カントリーな海』のサンゴ礁に至る。
 ――猟兵のみなさんと頑張っていたと聞きました。
 ――ええ、とってもえらくて、立派ですよ。
 短い道中でかけた労いの言葉に、これまた喜んだシャチが盛大に吹き上げた潮に、少々驚かされたのも稀有な体験。
 この国は、様々な顔を航に見せてくれる。
 インターネットを介してでは、識ることしか出来ない事を、リアルの質感を以て航に教えてくれる。
 他人の体温を感じさせるようなそれも、どうしてか不快ではなく。代わりに、尽きぬ興味が掻き立てられる。
 ステラ・マリスの名を戴いた国は、以前より生命力に満ちている気がした。おぼろげだった輪郭の線が、すっきりと整えられたような感覚にも近い。それはきっと、国を現すに最も似合いな名を得たからだろう。
「ほら、ついたよー」
 然して少年めいた少女は、俯いていた顔を上げて息を飲んだ。
 オウガの襲来にも壊されることのなかったサンゴ礁に安堵を覚えていた心臓が、どくりと高鳴る。
「ねぇねぇ、すごいでしょー」
 並ぶ家々から少し離れた珊瑚の密集地は、それだけ生み出される卵も多い。
 視界一杯に、日蝕の光に縁どられた小さい煌めきがあった。それら全てが、ゆらゆらと揺らめきながら、星になる為に昇ってゆく。
「……そう、ですね」
 案内してくれたシャチの背を気もそぞろに撫でながら、航は星の誕生に魅入られ、見入る。
「僕の世界では、魂が天に召されるっていう言葉があるから」
 口にするのは含みのない感動。
「命の旅を見ているような気持ちですね――」
 ともすれば縁起が悪い例えになってしまいそうだが、でも他に形容する言葉が見つからない。
 だってこの全ての光が、新たな命。天に昇って、地上を照らし、時に甘やかな愉しみとなるもの。
「あの星々のように、命もいずれ地上に還るんでしょうか」
 ――わたるはむずかしいことを考えているんだねぇ。
 そんなシャチの感銘も、奇跡の光景をスマートフォンのカメラに収めるのも忘れ、航は暫し命の星が芽吹く海に耽溺する。

大成功 🔵​🔵​🔵​

嘉三津・茘繼
【教会】
おめでとう、ステラ・マリス
いい感じの名前じゃない

玄冬君とクラリスちゃんの合作で名付けられた
鯨型の箱舟っていうのもロマンだねー♪
僕も男の子だからさ、完成が楽しみだな

佳さ気なスポットが沢山あるしで迷っちゃうね
うん、天守閣でいいよー
その前に…甘味処に寄り道していい?
働くとお腹が空くんだよね

愉快な仲間の皆も、ウトラもお疲れ様
この不思議な国を一番に守れるのは
勿論、一番に愛している君達さ
でも、花より団子派の僕も
割とこの国は好きだな、楽しくて
また遊びに来てもいいかな?
ところでさ…金平糖、僕にもくれない?

オーパールの光に照らされて
産まれた星の卵が
海底の天で踊る
産声が聞こえないけれど、聴こえる気がするね


黒門・玄冬
【教会】
星の海か
相応しい名付がされて良かった
僕とクラリスの名付が箱舟になるとは…
気恥ずかしさはあるが
仲間達を守る為の舟なら
強そうな名前で良かった

そうだね
僕もお礼が云いたいな
甘味処に寄って
天守閣で産卵を見守ろうか

ロボットさんは正確な情報を
犬君は的確な指示を
太刀魚さんとシャチさんは士気の高い実動を
僕等と彼等のどれが欠けても
危機を切り抜けられなかった
自信と絆と深め
是からも星の海と共にあって欲しい
…クラリス、僕は一粒でいいから
茘繼さんには多めに

摘まんだ一粒を虹光に翳す
こうすると本当に星の卵みたいだね
金平糖が落ちてくる話も、信じてみたくなるよ
ウトラさんも危機を報せてくれてありがとう
感謝に小さな星を添えて


クラリス・ポー
【教会】
ステラ・マリス…!(尻尾ピーン
素敵な名前がつきましたね
おめでとうですニャ

星見スキとしては…白巻貝の天文台に惹かれますが
仲間たちにもお礼が言いたいのです
頼んで天守閣に入れて貰いましょう
ロボットさんも見張りの任、お疲れ様でした
シャチさんも太刀魚さんも犬さんも
皆さん勇敢で格好良かったです!
少しお行儀が悪いかもしれませんが…
金平糖を買ってきたので、皆で食べませんか?
危機を報せてくれたウトラさんも良ければ是非!
はい、玄冬兄さん
茘繼さんには多めに分けてあげます

月と太陽が重なる時
ふわふわ漂う無数の星たちが
虹色の光に包まれ
まるでお母さんの腕に抱かれる
甘い夢みたい
星たちの
星の海に集う皆の未来に、祝福あれ




「内緒であるのだが、これは月の蜜酒と言ってだね――」
「アアモウ、犬サンノ長イ前置キガ始マッテシマイマシタヨ」
「えとねーえとねー、お酒だけどお酒じゃないよー」
「然り。月の雫を集めた甘露ゾ。非常に美味」
 クラリス、玄冬、茘繼の三人を囲う輪は、ひと際にぎにぎしい。珊瑚の産卵を見ようと訪れた天守閣は、既にステラ・マリス総出の宴会場にも等しい状況だった。
 ――ロボットさんは正確な情報をありがとう。
 ――見張りの任も、お疲れ様でした。
 玄冬とクラリスに労われたロボット娘は、まずは驚きに眼をぴかぴかちかちかさせて、頬を桃色に発光させた。
 ――犬君の指示は的確だったよ。
 ――太刀魚さんとシャチさんの士気の高い実働ぶりは、実に見事。
 ――僕等と君等の誰が欠けても、危機は切り抜けられなかった。自信と絆を深め、是からも星の海と共にあって欲しい。
 更にひとりひとり、目線の高さを合わせて玄冬は愉快な仲間たちを讃え。
 ――はい。シャチさんも太刀魚さんも、犬さんも勇敢で格好良かったです。
 シスターらしい楚々とした振る舞いで玄冬に続いたクラリスも、彼らの為に祝福を祈念し。
 ――あのね、あのね。この不思議な国を一番に守れるのは。勿論、この国を一番愛している君達さ!
 両手を伸びるだけ伸ばして大きく広げて、茘繼は愉快な仲間たち全てを激励した。
 玄冬だってクラリスだって茘繼だって。戦い終えたばかりで疲れは相応に残っているし。珊瑚の産卵にだって興味はある――特に、星見スキーのクラリスの金色の瞳はそわそわきらきらし始めていた。
 にも関わらず、彼ら彼女らが仕事を終えて最初にしたことといえば――愉快な仲間たちへ感謝を告げること。
 これには愉快な仲間たち一同、感極まった。
 だって本当ならお礼を言わなきゃいけないのは、国を護ってもらった自分たちの方。だのに【教会】の名に集った三人は、お楽しみを後回しにしてまで愉快な仲間たちのことを気にかけてくれたのだ!
 そこから先は、上を下への大騒ぎ。
 よいせよいせとシャチが三人を背に乗せ天守閣へ運ぶ隙に、他の面々が場を整え、犬に至ってはいそいそと自分のとっておきを引っ張り出してのおもてなし。
 しかしてまずは、ステラ・マリスへの乾杯を。
「素敵な名前がつきましたね。おめでとうですニャ」
 尻尾をピーンと立てたクラリスが、月の蜜酒を注がれた杯を掲げれば、おめでとうおめでとうの大合唱。
「実際、とてもいい感じの名前だとおもうよー」
「そうだね。僕とクラリスの名づけが箱舟になったのも、気恥ずかしくはあるけれど、嬉しいかな」
 うんうん頷く茘繼も、強そうな名前を思い付いてよかったと表情を緩ませる玄冬も、其々の手に持った杯をかちんかちんと打ち合わせ、月の蜜酒とやらをクイと煽る。
 途端、体の内に淡い光が点るような心地を味わう。同時に、僅かに尾を引いていた倦怠感までもが吹き飛ぶ。成程、これは確かに秘蔵品。
 とは言え、腹を満たすには少々物足りないのも事実。とくれば、ここはやはり気の利く少女――クラリスの出番。
「甘味処で金平糖を買って来たので、皆で食べませんか?」
 少しお行儀が悪いかもしれませんが……と見せた躊躇いには、太刀魚がどこからともなく綺麗な硝子鉢を、ロボット娘が貝殻の取り皿を持ってきて、あっという間に楽しい食卓を整える。
「うんうん。花より団子派の僕も割とこの国は好きだな、楽しくて。また遊びに来てもいいかな――ところでさ、金平糖、僕にもくれない?」
 このままでは数が足りなくなりそうと、腹ペコ茘繼がそわそわし始めても大丈夫。
「……クラリス、僕は一粒でいいから。茘繼さんには多めで」
「はい、玄冬兄さん。茘繼さんへは特別、多めに分けてあげます」
「じゃあ、わたしの分もりつちゃんにいっぱいあげるのー!」
 玄冬が気遣い、案内や転送お疲れ様でしたと招かれたウトラがそれに倣ったものだから、愉快な仲間たちも次々茘繼のお皿へ金平糖を乗せてゆく。すると、どうだ。皆の分とクラリスが多めに買い求めた金平糖の半分ほどが茘繼の元へ。
 山と積まれた金平糖は、まるでお月見団子のよう。
「え? こんなに貰っていーの?」
 流石の茘繼が戸惑えば、そこはウトラが笑顔で押し切る。
「みんなの気持ちは、えんりょしちゃだめなんだよ!」
 斯くして月の蜜酒を片手に、金平糖の宴はますます賑やかさを増す。

 味わうのが勿体ないような一粒を、玄冬は指先に摘まんで虹光に翳す。
「こうすると本当に星の卵みたいだね」
 天守閣の窓際。男が語る浪漫に、ウトラも夢見るように耳を傾ける。
 ああ、そうだ。何もかもが夢物語のような国。だから今、天へと昇りゆく卵たちが、金平糖となって降って来るという話も信じてみたくなる。
「改めて情報をありがとう」
 小さな星が添えられた感謝に、ウトラは同じだけの星を返す。
「ううん。お話をきいてくれてありがとうなの」

 自在に溶ける身体を窓枠に凭れ掛からせ、茘繼は金平糖を大事に大事に食べながら、珊瑚の卵たちを眺める。
 ホワイトパールに縁どられたブラックオパールが齎す光は、不思議な虹色。それに照らされた卵たちは、海底の天で踊っているみたい。
「なんだか産声が聴こえる気がするね」

 月と太陽が重なり、無数の星の卵がステラ・マリスを照らす為に天を泳ぎ昇る。
 その全てを、虹色の光が包んでいた。
「まるでお母さんの腕に抱かれる甘い夢みたい」
 うっとりと目を細め、クラリスは両手を結ぶ。
 ――星たちの。
 ――星の海に集う皆の未来に、祝福あれ。

 ステラ・マリスのことを。愉快な仲間たちのことを、一番に考えた三人の楽しい一時は。
 ウトラやたくさんの仲間たちを加え、もう暫く続く。
 そしてこの日の事は、誰の胸にも深く刻まれる思い出となって海の国にいつまでも輝き続ける。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

オズ・ケストナー
リュカ(f02586)と

たくさん珊瑚があるところを聞いて
よーし、リュカいこうっ

あ、ねえねえ重なるよ
見上げた視界にひとつふたつ粒が
慌てて珊瑚を見ると

わあ…っ
空に浮かんでいく珊瑚の星
やさしい色の宇宙だ

たくさん、たくさんだねっ
手を伸ばせば届いてしまいそう
でも
空までのぼって、星になるんだもの
掬うように掲げた手のひらの中
落ちてくるなら
こんぺいとうになってからだよと呟いて

星になったあとこんぺいとうになるなんてすごい
ふしぎ
珈琲受け取り
ありがとうっ
…たべたくなってきちゃった?
じゃーん
リュカ、手を出して
買っておいた金平糖をリュカの手のひらへ

リュカのすきな星空とこんぺいとう
揃っているのがうれしくて
ふふ、きれいだね


リュカ・エンキアンサス
オズお兄さん(f02586)と

珊瑚がたくさんある場所を聞いてお兄さんと一緒に向かう
珈琲が飲みたいので、テイクアウトできそうな店を探して…
あ。重なる
うん、急ごう

すごいな、あれが珊瑚の星か
登っていく。綺麗だな…
不思議な色をしてる
あれが星になったり、金平糖になったりするんだから
面白いな…って
きらきらした目をしてるお兄さんに笑って、はい、って珈琲を渡す
そうだね。金平糖が食べたくなってきた…って

お兄さんすごい
なんでわかったの。すごいね

金平糖をいただきながら、のんびりおしゃべりしながら空を見よう
こんな不思議な星空と金平糖と
そしてお兄さんがいてくれるのが俺も嬉しい
…こんな世界があるなんて、世の中は不思議だ




「ありがとう」
「イッテラッシャイ」
 大正浪漫を彷彿させるフリルエプロンをつけたロボット娘の給仕から、巻貝風のタンブラーを二つ受け取ったリュカは、小走りでオズの元へと急いだ。
「お待たせ、お兄さん」
「用事はおわった? それじゃあ、リュカいこうっ」
 貝殻の家々が織り成す『海っぽい』街並みを、オズとリュカは走る。見上げた天には今にもぴったり重なりそうなホワイトパールの太陽とブラックオパールの月。
 白い光は徐々に弱まり、遠く澄んだ世界が薄い暗がり沈み始める。
 ――そして。
「ねぇねぇ重なるよ――」
 美しい円環が浮かんだ天をオズは指差し、振り仰ぐ視界の端に小さな粒を見止めて、息を飲んだ。
 最初は、ひとつぶ。
 続いて、もう一粒。
「わあ……っ」
 ひとつぶ、また一粒。生まれたばかりの卵たちが、上へ上へと泳ぎ始める。その源を探して視線を下ろした先にあるのは珊瑚の庭園。
 然してオズとリュカの視界は、あっという間に芽吹いたばかりの命で一杯になる。
「すごいな、これが珊瑚の星か」
 ゆっくりと庭園へ踏み入り、リュカは静かに上昇していく卵を瞳で追う。膝の高さほどで生み出されたそれは、ゆらゆらと目の高さへ至り、やがて手を伸ばしても届かない処まで昇り、更なる天を目指して翔く。
 白い艶やかさを帯びた遊色の光に照らされた卵たちは、やがて淡く輝き出す。
「綺麗だな……不思議な色をしてる」
「やさしい色の宇宙だね」
 二人揃って首が痛いくらいに天を見上げ、ステラ・マリスの星の誕生の瞬間に酔い痴れる。
「たくさん、たくさんだねっ」
「あれが星になったり、金平糖になったりするんだから、面白いな……」
 と、そこで。リュカの言葉に、オズは大きく広げていた両腕を、何かを思い出したようにひっこめ、代わりに両手でお椀を象った。
「そうだね。空までのぼって、星になるのだもの」
 ――落ちてくるなら、こんぺいとうになってからだよ。
 指先が卵に触れて傷付けてしまわないよう。そして出遅れ気味の子が、天に辿り着くまえに落っこちてしまわないよう。
 オズはくるくると表情を変え、所作も様々。
「星になったあと、こんぺいとうになるなんてすごい。ふしぎ」
 一時たりとて同じ顔をせず、でも目のきらきらだけは同じのオズの様子にリュカは小さく笑って、「はい」とタンブラーの一つを差し出した。
「え、これ?」
「珈琲だよ」
「……もしかして、こんぺいとうがたべたくなってきちゃった?」
「お兄さん、すごい。大正解。なんでわかったの」
 なんででしょう? とオズは演技めかして肩を竦め、「ありがとう」とタンブラーを受け取り、空いたリュカの手に折り紙で折られた小匣を乗せる。
「お兄さん?」
「ふふ、あけてみて」
 つい今しがた交わしたばかりの会話を、逆転させて。リュカが蓋を開けるのに合わせてオズは「じゃーん」と笑う。
「……わぁ」
「じつは、買っておいたんだ!」
 そこに収められていたのは金平糖。リュカが驚きに目を丸くしたのに、オズは「ふふふ」と悪戯を成功させた子供のようにまた笑う。
 リュカの好きな星空と、金平糖。揃ったことが、オズはとても嬉しい。
 そしてリュカは「ありがとう」ときちんとお礼をしてから金平糖を一粒、口へと放り、珈琲を飲んでは、また一粒、また一粒とオズへもお裾分けしながら金平糖を味わい愉しむ。
 のんびりとおしゃべりしながらの一時。
 天には不思議な星空と金平糖と――隣にはオズ。ああ、なんて贅沢なんだろうとリュカも歓びを噛み締める。

 珊瑚の卵が、星になって、金平糖にもなる世界。
 水中っぽいのに、息もできるし、溺れないし。魚は泳いでいるけど、ロボットや犬もいて。
「……こんな世界があるなんて、世の中は不思議だ」
「んー? リュカ、なにかいった?」
「――いや、お兄さんと一緒は楽しいなって思っただけ」

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

五条・巴
敵がいなくなったのならば、ずっと楽しみにしていたお月見だ。
小走りで1番綺麗に見えるところへ、愉快な仲間たちはどこがおすすめ?
どこからでも、美しいこの景色は変わらないか。
おすすめがあったらそっちへ行こう。
みんなで迷ったら、そうだな、天文台も良さそうだけれど…またゴンドラに乗ってもいいかな。
寝そべって、
重なり合う時間を今か今かと待ち侘びる。

美しく輝くパールの円環
嗚呼、綺麗だなあ
太陽と月があるからこその美しい事象
どちらも無くてはならないもの。…遠いな。

海の産声が聞こえる、
綺麗な星が生まれてゆく。
おめでとう。
この子達は新たな星座を作ってくれるのかな。楽しみだね。

居られる限り、この空間を楽しんでいたい。




 戦いの余韻が全て波に溶け消える間も惜しむように、巴は身を翻した。
 ずっと楽しみにしていたお月見。しかも珊瑚の産卵と重なる日蝕だ。
 この国で一番高い、天文台がいいだろうか?
 それともゆったり進むゴンドラに寝そべって?
 考えるだけで、足は速くなり。ついには小走りになった巴は、「どうしたのー?」と泳ぎ寄ってきたシャチに尋ねる。
「お月見するにはどこがおススメ? よかったら教えてくれないかな」

 ゆっくりと游ぐシャチの背中の上にごろりと寝そべり、巴はぴたりと重なりあった太陽と月を見上げる。
 問うたおススメポイントへ返された応えは、「それはもちろん、ぼくの背中の上さ!」というもの。
 果たして自信満々ぶりに相応しく、そこからの眺望は実に見事なものだった。
 遮るもののない場所を選び、シャチは悠々と泳ぐ。時に生まれたばかりの星々のただ中を、時に天守閣に近いくらいの高さを、時にそれら全てを視界に収められる街外れを。
「嗚呼、綺麗だなあ」
 気ままに、そして誰より優雅に。ステラ・マリスの天を漂いながら、巴は美しく輝くパールの円環へ手を伸ばす。
 届かないのは分かっている。でも、なんとなく。触れてみたくなったのだ。
 太陽と月があるからこその、夢見るような自然現象。
 どちらが欠けても起こりえない、尊い光景。
「……遠いな」
 指先を日蝕に重ねて、巴はひとりごちる。
 しかし身体を起こせば、生まれたばかりの星の煌めきはすぐ近くに。
 きらきらと、海が産声をあげていた。
「おめでとう」
 シャチが泳ぐペースよりややゆっくりと天へと昇ってゆく星たちに祝福を送り、巴は再びホワイトパールとブラックオパールが織り成す奇跡の円環を振り仰ぐ。
 今日、生まれた星たちは。あの天の高みで、どんな星座を作ってくれるのだろう?
 いつかの楽しみを思い描きながら、巴は魅力に尽きぬ時間を心行くまで過ごす。

大成功 🔵​🔵​🔵​

泉宮・瑠碧
僕はまず
愉快な仲間たちへお疲れ様と
怪我があればその手当を

暫し
手を繋ぐ様に並び昇る月と太陽を、良かったと眺めて…
珊瑚がいる場へ直に行ってみよう

ウトラが居たら
珊瑚の傍へ行こうと誘おう
珊瑚の庭園が近いだろうか

降る虹色の光で思っていたが…ウトラの髪と同じ色彩なのか
光で僕も同じ虹の髪になっていそうだ
今日は皆がお揃いになるのだな

月は太陽へ追い付けない日も星々が一緒で
太陽も、今日は月と星も一緒に回れる…
どれもが寂しくない日だ

ウトラと共に
周りで昇っていく卵達に
誕生おめでとうと、いってらっしゃいを伝えていこう

ステラ・マリスの新しい命と幸せな日へ
末長くの祈りを籠めて

心の内で
…皆が幸せな日を重ねていけますように、と




 瑠碧がまず案じたのは、愉快な仲間たちの安否だった。
 けれども存外逞しく、猟兵たちの教えを受けた彼らに大きな怪我もなく。しかも初めての戦いの興奮に、疲れも感じなかったよう。
「心配してくれてありがとうねー」
「忝いでゴザる」
「瑠碧殿も存分に楽しむといい」
 そして送り出された瑠碧は今、ウトラと並び珊瑚の庭園で日蝕を見上げる。

「すごいねぇ」
 昇る時はまるで手を繋いでいるようだったホワイトパールとブラックオパールが、ぴったりと重なり作った円環に、ウトラは呆気にとられた感嘆を零す。
 ようやく太陽に追いついた月は、その太陽に包まれて艶めく虹色の光をステラ・マリスに降り注がせる。
 それはウトラの髪色とお揃いであり、同時に今の世界全てを染める色。
「おそろいだね!」
 ウトラの髪から、自身の髪へと。移っていった瑠碧の視線を追いかけ、瑠碧が思い至ったのと同じことをウトラが口に上らせ、ぱぁと笑みの花を海底の世界に咲かす。
「ああ、今日は皆がお揃いになるのだな」
「そっか、みんな! すごいね、ステキ」
 すごい、すごいと年下の少女がはしゃぐ。まるで瑠碧の分まで発揮されているような無邪気ぶりに、瑠碧は「そうだな」と青水晶の瞳を細めた。
 いつもは太陽に追いつけない月。そんな月にも、星たちは寄り添い。
 追いかけられる太陽はいつもはひとりぼっちだけれど、今日だけは月と星と一緒に天を回っている。
 誰もが、どれもが、何もかもが、寂しくない日。
「星たちに手を振ろうか、ウトラ」
「うん! いってらっしゃいだね」
 泡が立ち昇るように、芽吹き、天を目指す未来の星へ、髪を虹色で彩った少女たちは手を振る。
 ――いってらっしゃい。
 ――いってらっしゃい。
 ステラ・マリスに新しい命が生まれる。
 それは奇跡のような一日で、とてもとても幸せな日。
(「……皆が幸せな日を重ねていけますように」)
 その幸福が末永く続くことを瑠碧は心の内で祈り、ウトラと共にいつまでも手を振り続けた。

大成功 🔵​🔵​🔵​

月舘・夜彦
倫太郎殿(f07291)と参加
天守閣から珊瑚の産卵を見に行きましょう

綿津海は海の神の名でしたね
此処の海を見る限り、その名に相応しい景色だと思います
しかし竜宮城とは……本当に御伽噺の世界ですね
物語に在る城でこうして景色を眺めるとは思いませんでした

仮の名では「さむらいの海」と呼ばれていたそうで
妙に親近感に似たようなものを覚えまして
だからこそ、一層戦いに気合が入ったものです

倫太郎殿と少し話していると産卵が始まったようですね
小さな卵が星へと変わるとは、幻想的です
空想だからこそ為し得る景色は夢ながら
隣に居る彼からこそ現実で在る事が分かる

礼を言うならば此方もです
……此の世界も、とても美しい


篝・倫太郎
夜彦(f01521)と天守閣から眺める

綿津海のミライカナイ、だっけ?
名付けには参加しなかったけど、いい名前だよな
城下町を眺めて素直に感想を口にする
夜彦はなんか……思う処があったみたいだけど
どうなんだろうと盗み見て
返ってきた言葉に小さく笑う
気負ってなかったけど気合いは充分、だったもんな
なるほど……(ふむふむ納得)

あ!ほら……始まったぜ!
珊瑚たちの産卵……
卵たちが空に昇って星になるってのは
なんだか不思議で新鮮だな
で、綺麗だ……

虹の光の中で卵たちが星になって空を彩ってく
うん、やっぱりすげー綺麗だ

こーゆーんをあんたと見えたのはすげぇ嬉しい
ありがとな、夜彦

そだな、今度はどんな『美しい』をあんたと見ようか




 天守閣の窓辺にゆるりと寄りかかる夜彦は、それだけで一幅の絵画のようだ。
「『さむらいの海』と呼ばれていたそうですから、親近感に似たようなものを覚えまして」
 唐風の文化も取り入れながら、和の趣が濃い造りの室内だ。床には畳が敷かれているし、間仕切りは襖と障子。
 なるほど、竜胆の簪のヤドリガミたる夜彦に似合いの筈。
 戦いの最中に感じた『思う処』への応えに、倫太郎は頷きながら様々に得心する。
「気負ってなかったけど、気合は充分――だったもんな」
 小さく笑ってしまったのは、揶揄のせいではなく、『らしい』と思ったからだ。そして『らしい』と言えば、もうひとつ。
「綿津海のミライカナイ、だっけ?」
「ええ。綿津海は海の神の名です」
 珊瑚の庭園に、貝殻の家々が並ぶ城下町。天守閣から一望できる景色は、確かにその名に相応しく。故にこそ、不可思議な感慨が二人の裡に押し寄せる。
「しかし竜宮城とは……本当に御伽噺の世界ですね」
 長い黒髪を穏やかな波に遊ばせて、夜彦は窓の外を眺めた。
 眼下に見晴るかす大海原を思わす一帯の、とりわけ華やかな一画――珊瑚の庭園は産卵の真っ只中。
 無数の小さな卵が宙をゆらりゆらりと漂い、天を目指してゆるゆると昇ってゆく。
 物語に在る城で、こうして美しい景色を眺めることになるとは思ってもいなかったと語る男の、戦いの苛烈さはどこかへ置いてきたようなのんびりとした横顔に、倫太郎も口元を弛めて視線を倣う。
「卵たちが空に昇って星になるってのは、なんだか不思議で新鮮だな」
 ――で、綺麗だ……。
 遅れて付け足された感嘆は、素の顕れ。
 その表情が常より幼げに見えたのは、気のせいだろうか。
「幻想的ですね」
 現実ではあり得ない光景が、二人を夢の国へと運んでゆく。しかし隣に夜彦が――倫太郎がいるから、夢ではないのだと解る。
 そこからは暫し、二人揃って言葉を失い。ただただ非日常の奇跡に見入る。
 ホワイトパールに縁どられたブラックオパールの月が注ぐ控えめな虹色に導かれ、卵たちが竜宮城の遥か高みで星へと変わる。
 一粒一粒がちらちらと細かに煌めき始め、仮初めの宵に天の川の詩を謳う。
「うん、やっぱりすげー綺麗だ」
 目に耳に美しい光景に、倫太郎の口が堪え切れなくなった溜め息のように、感動を零す。
「こーゆーんをあんたと見れたのはすげぇ嬉しい。ありがとな、夜彦」
 溢れた感謝は心の儘に。だが最大級の賛辞ともいえる言葉に、夜彦はゆっくりと瞬き、ふと目を細めた。
「礼を言うのならば此方もです」
 嗚呼、この国は、とても美しい。
 でも世界には、もっともっとたくさんの美しさがあるはず。
 次はどんな『美しい』を見にゆこう。
 もちろんその時は、二人で共に。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

ミュー・オルビス
現着後早々に戦闘が始まり
緩り観光する時間もなかったので
街を一通り散策して改めて実感する
この国は―
ステラ・マリスは美しい国ですね
産卵を望む場所に拘りはありませんが
叶うなら愉快な仲間達と共に鑑賞出来ればと

燦々と光る星の卵が
円環目指して空を昇る様に息を呑み
我知らず瞳から零れ落ちるこれは何だろう
生命が誕生する瞬間とはこれ程までに
美しく、心揺さぶるものなのですね

これは僕の夢語りでしかないのですが
いつかこの国に蒸氣汽罐車が
運行する為の駅と軌条が出来たら…
そんな事を願っているのです
絵空事の様な夢だけれど
ふしぎに満ちたこの世界なら
奇跡だって孵化するかも知れない

その時は是非皆さんを
鐵道の旅にご招待させて下さいね




 すごいねすごいね、と黒白反転させたシャチが興奮気に尾鰭を撓らせる。
 そのあおりを受けて転がった学者然とした犬を、ロボット娘がアームを伸ばして掴まえ、太刀魚たちがつんつん突いて元の場所――シャチの背中の上まで押し上げた。
「まったく、まったく。これだからシャチ君は」
「あははー。ごめんねぇ」
「迂闊ナ場所ニ居タ犬サンニモ問題アリデス」
「其れはともかく、御客人ハ愉しンデおられるカナ?」
 傍らで繰り広げられる愉快な仲間たちのやりとりは、まるで喜劇を眺めているようで。太刀魚に顔を覗き込まれたミューは、そっと瞼を伏せて「えぇ、とても」と淡く微笑む。
 到着早々、幕を開けた戦闘に。景色へ目を向ける余裕さえ殆どなかった。だからこそ、愉快な仲間たちと街を廻り、稀代の日蝕と珊瑚の産卵をゆっくりと楽しめる今が、ミューの心に虹色の光を灯す。
 虹色なのは空から降る光もだ。
 ホワイトパールの円環で彩られたブラックオパールの月が零す光は、ため息が出るほど美しく煌めき、芽吹いたばかりの卵たちをも星のように煌かせる。
 いや、星のように――ではなく。事実、卵たちは星になる。
「この国は――ステラ・マリスは美しい国ですね」
 愉快な仲間たちに任せた行き先は、『カントリーな海』と仮に呼ばれる街のサンゴ礁。
 カラフルな三角屋根の瀟洒な街並と相まった風景は、穏やかであり華やかであり。口にした国の名前がとてもしっくり来て、ミューの目と心の両方を魅了する。
 そして、何より。
 円環を目指し空へと昇る新たな星々が織り成す光景だ。地上から伸びる天の川を思わす光の帯は、言葉を失うほど美しく、静謐で。
「……、これは?」
 知らず硝子の瞳から零れ落ちた雫にミューは首を傾げ、しかしその名を探るより生命が誕生する瞬間に耽溺し、心揺さぶられる。
「これは、僕の夢語りですかないのですが……」
 気付けば薄い唇が、語り出していた。
 いつかこの国に、蒸氣汽罐車が運行する為の駅と軌条が出来たら――と。
 絵空事の様な夢だと知っている。けれど、この国ならば。不思議に満ちた世界なら、奇跡だって孵化できる。
「わかった。ではこの街に駅を蒸氣汽罐車とやらの駅を造ろう」
「いいね、いいね! 
「とこロデ御客人、軌条とハ何でゴザろう?」
「レールノ事デスヨ、太刀魚サン」
 ――ほら、こんな風に。
 夢だと思っていた。ただの絵空事だと思っていた。
 しかしミューの願いは、ステラ・マリスに根付き。新たな創造の種となる。
 思わぬ展開にミューは白い頬を僅かに紅潮させて、新たな感動に包まれる。
「その時は是非皆さんを、鐵道の旅にご招待させて下さいね」

大成功 🔵​🔵​🔵​

ジャック・スペード
何処で過ごすべきか迷ってしまうが
……月光が織り成す水路が気になる、ので
俺は三日月のゴンドラに揺られながら
珊瑚の産卵を眺めようか

天へと昇り、空で星となる珊瑚の卵
其の輝きはまるで、いのちの煌めきのようで
思わず見惚れてしまうな

そういえば、ヒトは夜空に星図を描くのだったか
俺も煌めく星々を指先で追ってみるが
想像力に欠ける此の身では何も見出せないな

ウトラの都合が良ければ、少し話したい
あんたが此の空に星図を描くとしたら
何を見出し、どんな星座を想像するのだろうか

残念ながら俺は上手く想像出来なかったので
誰かの感想を聴いてみたい
あんたはキラキラしているから、きっと
綺麗な星座を見出せるだろうと、そう思ったんだ




 水路の幅は三メートルほど、深さはその半分くらい。
 不可思議な国に似合いの不思議な水路は、僅かに宙へと浮き。月光ベールの耀きを揺蕩わす。
 果たしてどこで珊瑚の産卵を眺めるか迷ったジャックは、漆黒の身形をブラックオパールのゴンドラに預け、天へと昇りゆく星の卵たちが織り成す二つの光の帯に見入る。
 珊瑚が群生するのは、綿津海のミライカナイと『カントリーな海』の二か所。間を行き来するゴンドラからならば、遠目ながらその両方を眺めることが出来るのだ。
 キラキラとチラチラと。
 天から注ぐ艶を帯びた柔らかな虹の光に、珊瑚の卵たちが煌めいている。
 いのちの耀きそのもののような光景は、知らず見惚れてしまう美しさ。
「そういえば、ヒトは夜空に星図を描くのだったか」
 人ならざる身の男の言葉に、対面に座した少女――ウトラは、うん、と元気よく頷く。
「せいざ、っていうんだって。いろんなものがたりがあるの、わたしも読んだことある!」
 身振り手振りを交え、齢の割には幼げな口調で語る少女の弁に、無骨な男は「そうか」とまた頷いた。
 星の海で生まれたジャックなれど、ただの機械であった男は浪漫を知らず。奇跡的に得た機械仕掛けの心は、まだ想像力に乏しい。
「あんたなら、此の空にどんな星図を描くんだ?」
 だからジャックは星々を追っていた指先を下ろし、少女に尋ねた。
 キラキラと煌めく少女ならば、或いは――と。
「うーん、と。ちょっと、まってね」
 待ってねと言いつつ、ウトラが頭を悩ませていた時間はほんの僅か。ゴンドラと星々の煌めきと、そしてジャックを見比べた少女は、ぱぁと顔を輝かせ、無邪気に指を天へと走らせた。
「あのね、あれがわんちゃん。これが、シャチさん。あとね、あっちがろぼっとちゃんで。しゅっとしたのが、おさかなさん! そしてね、ジャックちゃんもいるの――あ」
 いつもの癖で「ちゃん」で呼んでしまった事に気付き、ウトラは慌ててジャックの様子を窺う。
 果たしてこういう時、笑えばいいのか、咎めるべきなのか。判断のつきにくい事象を前にジャックは言葉に詰まり、だが許すように双眼に宿す金色を仄かに和らげる。
 成程、想像力とは身近なところに端を発すれば良いらしい。
 そして再び振り仰いだ天には、確かに愉快な仲間たちと自分の姿が見えた気がした。

大成功 🔵​🔵​🔵​

千波・せら
やっぱり、綺麗な場所はきれいなままがいいよね。
探索者としての好奇心が疼くな。
でも、この景色を目に焼き付けておきたい
この半端な身体で感じとりたい
ふわりふわりクリオネみたいに歩きながら
この場所を沢山楽しむの。

おすすめの場所は聞かない。
だって、自分で見つけたいから。
甘いものにも惹かれない。
だって、それよりもうんと甘くて融けるような景色を知っているから。

こっちかな。
夢のような景色が辺り一面に広がって
ここは夢の中なんじゃないかって錯覚してしまうけど
半端な身体はちゃんと感じ取っていて
とても清々しい気分。

うん。
もっともっと、探し物を探しに行こう。
見たこともない甘美な景色は、まだ沢山あるよね。




 『ひと』としての形は整っているけれど、せらのそれは全きものではない。
 左の肩には結晶柱が伸び、左の足も脛から先はほぼ結晶だし、長い右手の指先は硬質な輝きが顕わになっている。
 『ひと』として、中途半端なせら。
 だからこそせらは全身で、命が芽吹き星となる光景を感じようとステラ・マリスをクリオネのようにふわふわとそぞろ歩く。
「うん、やっぱり」
 赤い宝石珊瑚の枝をつんと突つけば、こつんと固い音がした。
「綺麗な場所はきれいなままがいいよね」
 庭園を離れ貝殻の街並みをゆけば、窓枠に嵌った大粒の真珠が目に入る。
 探索者としての好奇心が疼く。どこまでも行ってみたいと思いし、街の隅々まで回ってみたいとも思う。
 いったいどこから眺める珊瑚の産卵が一番美しいだろう?
 愉快な仲間たちに尋ねれば、きっとお勧めの場所を教えてくれただろう。けれどせらは敢えて訊かず、心の赴くままにふらふらゆらゆら。
 とっておきは自分で見つけるのが一番!
 誰も知らない、とっておき。
 自分だけの、とっておき。
 それはどんな甘いものより魅力的。
(「だって、それよりもうんと甘くて融けるような景色を知っているもの!」)
 そうしてせらは右に左に、時に壁を乗り越え、綿津海のミライカナイを探索し。とんとんとんと跳ねて渡った家々の屋根の先で、ついに息を呑んだ。
 竜宮城を奥に、手前に珊瑚の庭園を眺めるそこからは、星の川にオリエンタルな造りの城が佇んでいるように見える。
 まるで夢の中のような光景。
 本当に夢なんじゃないかと頬をつねってみれば、ちくりと痛くて、これが現実であるのをせらに知らしめる。
 ――うん、錯覚なんかじゃない。
 半端な身体がちゃんと感じ取ってくれる美しさに、不思議と気分はとても清々しい。
 でも、せらはこれっきりで満足なんかしない。
 きっと世界には、もっともっと、見たこともない甘美な景色が、まだまだたくさんあるはずだから!
「探し物は、自分で探しに行かないとね」

 探索者である少女の探索の日々は、始まったばかり。

大成功 🔵​🔵​🔵​

斜城・エフィ
星が生まれる前に少し、散歩をしていたが
…貧血
無様だ

庭園の方に甘味処があると言っていたな
椅子を借りがてら邪魔をしようか
甘いもの、…む。色々ある
薔薇のショコラと、それから何かお勧めを

太刀魚やシャチ、犬達は大丈夫だったろうか
心配をよそに
珊瑚が星を生んで上っていく
ああ、これは
瞬きも勿体ないな
夜に煌く時には何色になるだろう
金平糖になる時は、誰の掌に降るだろう
この世界に数ある国のひとつでこれなのだから
忙しなく、けれども
そうだな
いとおしい

ああそうだ
土産に金平糖を一包み
食べながら、星の生まれる国の話をするとしよう
次にブラックオパールがホワイトパールに追い付く時には
共に見られたら良いが。




 固い木枠の背もたれに身体を預け、エフィは重めの息を吐く。
 四角四面で造られた椅子の座面は決して柔らかいとは言えない――それが『畳』と呼ばれるものであるのをエフィが知るかは分からない――が、海には不釣り合いな青い匂いはどことなく清々しくて。足が床に届かない心許なさよりも、不思議な充足感をエフィに与えてくれる。
 それに何より、薔薇のショコラと虹のキャンディーだ。
 目を喜ばせるだけでなく、花びらごとに、或いは色ごとに甘さが変わる味わいが、疲れ切ったエフィの体を優しく労わり、活力迄与えてくれる。
 戦い終えた海原から、街を目指す長くはない距離。起こしてしまった貧血をエフィは「無様だ」と言い捨てつつ、椅子を借用しがてら這う這うの体で甘味処を目指し。血相を変えて飛び出してきたロボット娘の給仕へは常通りに尊大に振る舞い、名物のショコラとお勧めをオーダーして――……。

 珊瑚の飾り格子が嵌る丸窓から外を覗き、エフィは赤い目を仮初めの宵に見開いた。
 こぽこぽと気泡が水面めがけて昇っていくように、生まれたばかりの珊瑚の卵たちが泳いでいる。
 天にはホワイトパールに縁どられたブラックオパールの月が楚々と微笑み、その艶めきながらも控えめな虹色に照らされた卵は、一時たりと同じ色を留めず、既に星であるかのように煌めき輝く。
「ああ、これは」
 瞬きの間さえ惜しみ、エフィは日蝕の星々の芽吹きをその目に映す。
 ――夜に煌く時には何色になるだろう。
 ――金平糖になる時は、誰の掌に降るだろう。
 アリスラビリンスには無数の『国』がある。そのひとつでこれなのだから。
 忙しなく、けれども。
(「そうだな……いとおしい」)

 帰り道。買い求めた折り紙の小匣を手に、地表から伸びる天の川の如き風景を振り返る。
 果たして、太刀魚やシャチ、犬たちは無事だったろうか。
 街中の和やかな様子から、きっとどの愉快な仲間たちも大きな怪我などしなかったのだろうけれど。
 もし、次。次にブラックオパールがホワイトパールに追い付く時には。この光景を共に見られたらよい。
 その前に、小匣に詰まった金平糖を土産に、星の生まれる国の話を誰かにすることになりそうだが。

大成功 🔵​🔵​🔵​



最終結果:成功

完成日:2019年07月19日


挿絵イラスト