12
鉛の卵

#アルダワ魔法学園

タグの編集

 現在は作者のみ編集可能です。
 🔒公式タグは編集できません。

🔒
#アルダワ魔法学園


0




 不意に頬を風が撫でたような気がして、男は地図から顔を上げた。
 迷宮の中で風の通り道にぶつかることはあるが、落ち着いて道順の確認をするために入り込んだ小部屋に風が入り込むのは、彼にとって予想外だった。
 部屋の中の安全は確認したはず。仕掛けらしい仕掛け、たとえばトラップに相当する蒸気機関や魔術的な痕跡や兆候も見られなかったはずだ。
 さんざん調べて、ようやく安全を確認できたと踏んでから、地図を広げて腰掛けたのである。
 少なくとも自分の探索の技術や勘が鈍ったのでなければ、気のせいですむかもしれない。
「落ち着け……」
 自分自身に言い聞かせるかのように、男は呼吸を正す。
 迷宮の中で冷静さを欠いたら、たちまち迷宮に取り込まれてしまう。
 ここは地上ではない。誰かが手を貸してくれるような生ぬるい学園の中とは違う。
 だから自分はここにいる。一種のスリルだ。
 迷宮に潜って、自分ひとりの力で成果を持ち帰る。安全の保障された学園の授業では得られない、生の経験。
 それこそが、一介の生徒を冒険者へと駆り立てる理由であった。
 荷物の中から蝋燭を取り出すと、カンテラの火を移して、自分の息がかからぬよう手をかざしながら周囲を確認する。
 生温かい風が再び男の頬を撫でる。
 いつの間にか、ちょうど男が背を向けていた方向に、見慣れない小道が出現していた。
 蝋燭の火が消える。小道から吹き付ける湿った風が、消えた蝋燭から立ち上る煙を泳がせる。
 その道の先からやってくる何者かの気配が、迷宮の空気を押し出したかのように、ぬるりと何か得体の知れない風となって、頬から首、首から服の下へと流れ込んでくる。
『……』
 それは何かの言葉だったろうか。
 道の奥からやってくる気配が発するそれに、男は今度こそ冷静さを失った。
「ちがうちがう、そんなはずはない……」
 うわごとのように呟く男の奥歯は合わない。この場が氷点下に落ちたかのように、かちかちと擦り合うだけで、体中が強張るのに、足腰にうまいこと力が入らない。
 来る、来る。
 その気配が恐怖である事を、男は直感的に理解していた。
 それが、来る。
 強い恐怖が、やがて臨界を迎えると、男は振り返ることなく逃げ出していた。
 男にはもう、それまでに得た技術や勘など何もなく、逃げる事しか考えられなかった。

「その迷宮は、鉛の卵と呼ばれているようですね」
 居並ぶ猟兵たちを前に、羅刹のグリモア猟兵、刹羅沢サクラは自身がしたためた報告書に視線を落とし、目を細めた。
 アルダワ魔法学園の地下に広がる迷宮は、日に日にその規模を増しているという。
 何も無かった筈の行き止まりに、いつの間にか小道が生まれ、別の階層や奇妙な建物に繋がっているなど、まるで生きて意思を持つかのようなその変遷には、地図を作る学園側も手を焼いているのだとか。
 そんな中、サクラが得た予知のもと捜索されたのは、これもまた迷宮内に突如現れた小道から行ける、鉛の卵と呼ばれる建造物である。
 最近発見されたというその建物について情報を集めてみたものの、学園の者達は一様に苦い顔をした。
「聞くところによりますと、鉛の卵に近付こうとする者は、いずれもその者にとって恐怖を覚えるものに苛まれるようです。
 物理的に触れることはないようですが、心に攻撃してくるというのは、侮れないものがあります」
 報告書を握り締めるサクラの手に力がこもる。
 ちなみに、最初に鉛の卵へ至る小道を発見した男が見たのは、自分を勘当した厳しい父親だったそうだ。
「どうやら、鉛の卵の中にある何かが、この魔法トラップを動かし続けているようで、この幻影は徐々に迷宮での範囲を広げているようです。
 鉛の卵の内部に侵入し、トラップの解除もしくは破壊しない限り、この幻影はいずれ地上に到達するかもしれません。
 皆さんの協力のほど宜しくお願いいたします」
 説明を終えると、サクラは一堂を見回し恭しく頭を下げるのであった。


みろりじ
 こんばんは。流浪の文章書きみろりじと申します。
 毎度お世話になっております。
 読むのも書くのもゆっくりなので、ゆっくり進行なるかとは思いますが、お付きあい下さると嬉しいです。
 今回の流れは大まかに、冒険→集団戦→ボス戦という流れです。
 自身の内面の恐怖に打ち勝ち、その原因となっている何者かを排除するお話になるんじゃないかと思います。
 苦手なものがあれば、おいしく調理する。というほどのシェフではないですが、ある程度何がくるか予想してもらえると、書きやすいです。
 それ以外は、いつもの感じになるのではないでしょうか。
 一緒に楽しいリプレイを作りましょう。
133




第1章 冒険 『恐怖に打ち勝て!』

POW   :    恐怖の対象も気合いがあればなんとかなる!

SPD   :    ダッシュで走り抜ければ見なくてすむよね。

WIZ   :    目を瞑れば怖くない!頭良い!

👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​

種別『冒険』のルール
「POW・SPD・WIZ」の能力値別に書かれた「この章でできる行動の例」を参考にしつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。

高階・茉莉
■口調
※基本的に丁寧語(アドリブセリフなども歓迎)

■心情
迷宮ですか、なんとも探究心が掻き立てられますね。
どんな困難が待ち受けようとも、私は必ずこの事件の真相を目の当たりにしたいですね。

■行動
WIZ判定の行動を行います。

『世界知識』を駆使して、この世界の
最新技術などについて調べておき、
どんなトラップがあるか予測しておく。

「恐怖を与えてくるトラップですか、ですが
どんな恐怖でも目を閉じていれば、怖くないです」
「あっと、足元には注意ですね、摺り足で移動しましょう」

トラップの破壊には、『ウィザード・ミサイル』を使用して
トラップの遠隔起動や破壊など、トラップを無力化します。



「迷宮ですか。実に探究心をくすぐられます」
 さっそく依頼解決に名乗り出た高階・茉莉(秘密の司書さん・f01985)は、魔法学園地下に広がる迷宮へとやってきた。
 謎が形を成して組み上げられたかのような迷宮の探索は、多くの書籍を嗜む彼女にとって、未知と期待に満ちた産物であった。
 当然障害は多かろう。
 しかしそれを乗り越えてこその迷宮探索だし、苦難を乗り越えた先に手に入る未知なるモノの価値はまた一入である。
「どんな困難が待ち受けようとも、この事件の真相にたどり着いて見せましょう」
 比較的浅い階層に出現したという鉛の卵に続く小道に到着すると、茉莉は両掌を握りこんで意気込むと、我こそ一番乗りとばかり小道に足を踏み入れていく。
 周囲に気を配り、何が出てきてもすぐに対処できるよう慎重に足を運んでいると、やがて彼女の視界に、幻影と思しきものがいくつも現れる。
 事前に仕入れておいたアルダワ魔法学園の情報にも該当するそれらは、積極的に頭に入れておいた物理トラップや魔法罠の知識とは異なるものだった。
「たんすの、カド? それに、テーブルの隅っこに置かれた水の入ったコップ……?」
 事前知識以前に誰でも目にしそうなものばかり出てくる事に、茉莉は困惑する。
 そういえば、問題となりつつある魔法トラップは、近付く者の恐怖を呼び起こすものを見せるという話だった。
 自分にとって恐怖とはなんだろう。それと目の前に現れた幻影に、恐怖と関係があるのかどうか。
 あまり考えたくない事ではあったが、そういえば、自分はよく、いや、ごくたまーに、ドジと言われることがある。まさか、まさかである。
「失礼な! なんで恐怖だって言ってるのに、怒らせにきてるんですか!」
 温和な茉莉にしては珍しく語気を荒げつつ、しかし今にもぶつけて大変な事になってしまいそうな家具の数々は、幻影とはいえ近付くのに憚られる。
 ぷんすこ!と体温が上昇するのを感じつつ、しかし茉莉は冷静さを保つ。
「恐怖?を与えてくるトラップですか……。
 ですがどんな恐怖でも目を閉じていれば、怖くないです」
 今のところ恐怖は感じていない。むしろ軽くイラッときてしまった。
 いけないいけない。これではトラップの思う壺だ。
 それに、これまではまだ序の口とも考えられる。
 これからどういった恐怖映像がやってくるか、個人的な興味はあるものの、それで前に進めなくなったりしても困る。
 目に見える恐怖ならば、見なければいい。
 シンプルだが、それ以上に情報を遮断する術もあるまい。
 眼鏡の奥で瞼を閉じると、薄暗い小道に現れた危うげな家具たちは、風景と一緒に暗闇に隠れてしまう。
 これで安心だ。さあ、あとは前に進むだけだが、
「あっと、足元には注意ですね、摺り足で移動しましょう」
 そう、まだ他のトラップが無いとも限らない。
 たちの悪い幻影を見せるトラップを見せるのだから、他にも根性の悪いトラップが無いとも限らない。
 慎重に靴の裏を滑らせるように前に出しつつ、ゆっくりと体重を移動させていく。
 これまでに無いほど慎重に、それはもう目の前が見えていないのだから慎重に歩を進めている。
 だが、目を瞑り慎重に足元に注力していたのがいけなかったのか、はたまた単に運に見放されたのか。
 ふと手をついた迷宮の壁に妙な感触を覚えた茉莉は、思わず瞼を開いてそれを確認してしまう。
 迷宮の岩肌のような壁の中で、手が触れていたそれは、割と目立つ位置に出っ張っているスイッチのようだった。
 ガコンと何かが傾くような音が真上からしたように聞こえて、茉莉は思わず肩をすくめ縮こまる。
 次の瞬間、茉莉の背筋に冷たいものが流れ落ちてきた!
「うひぃっ!?」
 悲鳴と共に転がるように数歩分引き下がると、先ほどまで茉莉が立ち竦んでいたところの真上から、透明な液体が滴り落ちているところだった。
 自分の首筋から服の中に垂れるそれを拭い取ってみると、ニオイも色もない察するところただの冷水のようだ。
「臭くもないし、まして毒でも酸でもないみたいですね。蒸留水をキンキンに冷やしただけみたいな……」
 いまだに滴り落ちる水を分析しつつ、それが侵入者を撃退するためでなく、ただのイヤガラセとして設置されたものであることに思い至ると、今しがた冷水を浴びせかけられた茉莉の冷えた身体にふつふつと沸いて立つ怒り。
「ふんーっ!」
 これまでに無い力んだ掛け声と共に、杖を振りかざして炎の矢を作り出すと、茉莉の憤怒を爆発させるように冷水トラップを粉々に粉砕する。
 迷宮内で冷えた無害な水はむしろ貴重なのではないか?という疑問はひとまず忘れておいた。

苦戦 🔵​🔴​🔴​

ハルピュイア・フォスター
卵は美味しい…鉛要らない…。(モグモグ)

迷彩と目立たないの技能使用
魔法トラップが動かなければ嬉しい
楽をしたいけど簡単には行かない…よね?

わたしには怖いモノない……。(せいれいじゅつしのお姉ちゃん以外)
(お姉ちゃんはいつも優しいけど怒らせたら無言の笑顔&ご飯抜き)
対象を感じたら見ずにダッシュで怖いモノ抜き去る

邪魔するならLost memoryで能力封じを試みる(物理的に触れることはない事)
優しいお姉ちゃんは理由なく怒らない…わたしは今は悪くない……うん。

この先に美味しい卵はあるかな?



前の方で何かが爆発したような音がして、小道の先を覗き込むと、どうやらお仲間らしい猟兵が肩をいからせて歩いていくのが見えた。
 その先には、なかなか距離のある小道が続いており、終着点を示すかのように薄ぼんやりと鉛色の建造物が見える。
「卵は美味しい……鉛要らない……」
 その形状はハルピュイア・フォスター(天獄の凶鳥・f01741)の好物によく似ていた。
 尤も、食べられるものなら夢でも何でも好物に相当するかもしれないが。
 ともかく、今回の目標物であるあの鉛の卵は、食べるのに向いているとは思えない。
 本当に鉛で出来ていたら食べられたものではないだろう。しかしあれがもしも殻で中は本物の卵だったとしたらどうだろう。
 そういえば、鉛の器って使ってはいけなかったような気がする。
 どうしてだったかな……と、ぼんやり考えつつお弁当のゆで卵を食べ終えると、まあいいかと考え事を頭の隅に追いやってハルピュイアもまた、先達の猟兵と同じ鉛の卵への小道を歩み始めた。
「この先に美味しい卵はあるかな」
 のんびりとした口調で呟くと、その身をまとう外套の表面が周囲の景色と同様の色彩を帯び始める。
 思い出を具現化した服装の力を引き出したものであり、外套をカモフラージュしているに過ぎないが、少なくとも周囲から風景と同じように見える程度に身を隠したハルピュイアは、気持ち早足で小道を歩いていく。
 壁には幾つかの出っ張り、足元にも不自然に切れ目のある床板や石畳。
 特に注意しなくても、避けて通りたくなるような道には違いないが、自分は誰にも見えていないという精神的な余裕のあるハルピュイアには、なおの事周囲に広がるトラップらしきものの形跡が見える気がした。
 でも、真に恐るべきはそれではないことを、彼女は事前の情報で知っている。
 そしてそれは、トラップの仕掛けられた小道の半ばで襲ってきた。
 正確には、それを感知したハルピュイアが思わず足を止めたに過ぎないのだが、少なくとも足を止めざるを得ないほどの存在感が、彼女の目の前に立っていたのだ。
「おね、……ちゃん」
 声がかすれてうまく発音できなかった。
 表情に乏しいハルピュイアの額に脂汗が浮かぶ。
 いつも優しい姉が、いつもの調子で笑みを浮かべて立っている。
 いつもの調子? あれがいつもの調子に見える?
 違う、あれは怒っている時の笑顔だ。いつも優しいお姉ちゃんは、怒ると口数が少なくなり、むしろいつもよりわざとらしく笑う。
 そしていつも怒るとご飯が抜かれるのだ。
 ハルピュイアの心の均衡ががらがらと崩れていくのを感じる。
 ちがう、これは罠ななんだ! それはわかっているのに、喉が詰まるような圧迫感を覚える。
 なんて言ったって、目の前に立っているのは紛れも無く自分のよく知っている姿で、それはもう恐ろしいのだから。
 否応もなく想起される恐怖に身を硬くしつつ、それでもハルピュイアはたどたどしく強引に深呼吸をして、硬直する身体に喝を入れる。
 そうして、本物と寸分違わない幻影を一度しっかりと睨みつけると、ユーベルコードを紡ぐ。
『あなたの前に立ちはだかるのは誰?』
 それの正体がユーベルコードであるとは限らないが、恐怖の記憶にぶつけるなら、同じく恐怖の記憶であるべきだろう。
 魔法トラップ相手とはいえ、よく知る相手の弱点ならば指摘できるはずだ。
「お姉ちゃんなら……!」
 果たして、効果の有無はともかくとして、微笑む姉の幻影はノイズが走ったように徐々に千切れて崩れていく。
 その光景を、ハルピュイアは正視できない。
 幻影とはいえ、親しい者が醜く崩れていく様を真向から見るのは辛い。
 それが消えてしまう前に、ハルピュイアはまさしく幻影を振り払うかのように駆け出す。
 横切る間際に見えた幻影の口元は、やはり歪みながらも笑っていた。
 いやだ。あんな笑顔は見たくない。
 本物の姉を怒らせたわけじゃない。なぜなら、お姉ちゃんは理由無く怒ったりはしないからだ。
 今のわたしは悪くない。あんな風に笑う顔を生み出してしまったのも、わたしのせいじゃない。
 走った距離はほんの少しだったように思う。
 だというのに、心臓が早鐘を打っていた。
 鉛の卵は目前だったが……振り返る気分には、とてもじゃないがなれなかった。

苦戦 🔵​🔴​🔴​

ミラ・アルファ
自分の怖いものかぁ…直接攻撃してこないなら気合いでなんとかなるでしょう。
ぶっちゃけ、何が出てくるか興味があります。

「僕の怖いものかぁ…幽霊とかかな?それともまた別の何か…あれ?貴方達は確か施設にいた…」

目の前には過去に施設で自分のことを実験体と呼び様々な行為を行ってきた人物の顔が見える。

「…過ぎた事だし幻だって分かってるからあまり怖くないかな。気分は最悪だけどね!」

精一杯の強がりを吐き幻影を1発殴って先に進む。



小道をさえぎるものは何も無かった。
 人一人通るくらいならたいしたことはなさそうな小道の先に見える鉛の卵へは、何の障害物も無いように見える。
 そう、なにもないのである。
 もう二人ほども猟兵が突入したはずなのに、奥に向かって歩いていった矢先に一本道の小道の中で人を見失うのだ。
 だとするなら、ここから見えている目的地である鉛の建造物すら幻影なのかもしれない。
 あれのテリトリーに入ったら、そのまま幻影のトラップに巻き込まれて、それを乗り越えないと、真の鉛の卵に乗り付けることは出来ないのかもしれない。
 ミラ・アルファ(ミレナリィドールのシンフォニア・f05223)がこれまでの情報と観察していて感じたのは、そんなところだった。
 とはいえ、問題の恐怖を与えてくるトラップのことは、体験してみない事にはわからないようだが……。それでもミラの心意気は明るいままだ。
「自分の怖いものかぁ……直接攻撃してこないなら、気合でなんとかなるでしょう」
 弾むような足取りと共に、傍らの小さなドラゴンを連れてミラもまた小道へと足を踏み入れる。
 拾われたミレナリィドールである自分に恐怖を感じるようなことがあるのだろうか。むしろ何が出てくるのか興味すら湧いていた。
「僕の怖いものかぁ……幽霊とかかな? それともまた別の何か……あれ?」
 しばらく歩いたろうか、快活な様子で歩みを進めていたミラの足が唐突に止まる。
 好奇心に満ち溢れ、今にも鼻歌でも口ずさむような底抜けの快活さは、一瞬にして零下に落ち込む。
「貴方達は確か施設にいた……」
 名前までは口から出なかった。仮にも人を前に言いよどむ事など稀だったように思う。
 いつの間にか目の前に佇んでいた研究員と思しき者の人影に、ミラは表情を無くす。
 何をするでもない。笑うでも憎むでも、そいつの顔に浮かぶことはない。イメージできないというのが正しいだろうか。
 佇んでいるだけで思い出せるのだから、それで十分なのだ。
 色を持たない目線も、猥雑な手つきも、あの施設で実験と称して行われてきたあれやこれも……その姿を見るだけで、ついこの間のことのように思い出せてしまう。
 なるほど、たしかに、直接攻撃を仕掛けてくるわけじゃない。
 しかし、心が軋みを上げるような、物理現象には決してなし得ない名状しかねる痛みが想起されるのは、ミラにとって痛みという他にない。
 もう見たくない。なのに、思い起こせといわんばかりに視界に入ってくる。
 ちがう。もうあの時とは……。
 心が曲る。頭を垂れそうになるミラの服の裾を、小さな相棒が引っ張っている。
 その自分の勇気の半分とも言うべきドラゴンランスのユランの姿を見やると、ミラの視線に気付いたらしい相棒は小さく首を傾げた。
 それだけで、体中に張り詰めていたどんよりとした気分が晴れていくような気がした。
 心に灯が点る。
 そうだ、まだ、わだかまりはこんなにも残っているのに、前を向ける。
 だってそうだろう。ついこの間のように思い出せるということは、ついこの間まで忘れていたということでもある。
 だいたい、こんなものは恐怖でもなんでもないんだ!
「過ぎた事だし幻だって分かってるからあまり怖くないかな」
 面と向かって言い放ったのは、もしかしたら強がりなのかもしれない。
 しかし、言葉にすれば真実になるということもある。少なくとも、真実にしてしまいたい。
 強がりではなく、真に強くなって、この過去を乗り越えられるように……。
 だが、と、ミラは通り過ぎようとした幻影に振り返る。
 傍らでユランが不思議そうに見つめるのを制し、ミラは大きく拳を振りかぶる。
「気分は最悪だけどね!」
 振り抜いた拳は幻影を一瞬だけ歪ませるだけに過ぎなかった。
 しかしそれでも気は晴れたとばかり、ミラは再び小道を歩きなおす。
 そういえば、あちこちにトラップが仕掛けられているが、どれも言ってしまえば稚拙なもののように見える。
 幻影で心を乱したものが、これに引っかかるのだとしたら、よほど回りが見えなくなってしまう状況なのかもしれないな。
 呼吸を整えると、もう目前に迫る鉛の卵へと歩みを進める。

成功 🔵​🔵​🔴​

才堂・紅葉
■SPD指定
精神攻撃は苦手なのよね。
なにせ形が無いから。
普段なら避けて通る依頼だが、今回は我が学園の話だ。
良く代返や宿題の写しを頼む級友の恋人が被害者となれば他人事にも出来ないだろう。

私は精神論者ではないので、最速で何も見ずに踏破することを選ぶ。
昔から怪談の類は苦手なので付け込まれたらたまらない。
やっぱり放置できないなこれ。
まぁぐずぐずしてる子がいたら多少のフォローはするわ。
全体の成功率を上げる必要あるしね。

■技能活用方針
・被害者を見舞いして【情報収集】
・最速踏破【見切り】【ジャンプ】【地形の利用】
・失敗しそうな子をフォロー【優しさ】【手をつなぐ】
・動けない子は強制移動【怪力】【吹き飛ばし】


ムルヘルベル・アーキロギア
怖くない。
ワガハイ全然怖くないのである!
何が鉛の卵か、仰々しい。たかが迷宮ひとつに!
……あの、誰か一緒に探索せぬか?
いやワガハイ怖くないのであるぞ? 怖くない。全然怖くない。
だがワガハイはさておき、オヌシらはな! 怖いかもしれぬであろう?
つまりこれはワガハイの慈悲! うーむさすが実に大人である
えっじゃあ一人で行け? いやいや! いやいやいや!!
ワガハイが一緒に行ってや……
…………
やーだー! ワガハイ誰かと一緒にいくぅー! 一人はやぁあだぁあー!


おほん。
というわけでだな、他の猟兵とともに探索である
【WIZ:目を瞑れば怖くない!頭良い!】
……こ、こここ怖くないのであるからな!?
※アドリブ大歓迎



また一人、鉛の卵に至る小道に猟兵が消えていった。
 やはりあのトラップは、景色ごと幻影に包んでいるようだ。
 あの鉛の卵が視認できる小道の傍らに何気なく休憩しているのを装って経過を観察していた才堂・紅葉(お嬢・f08859)は、あくまでも冷静に周囲を警戒して立ち上がる。
 これまでも、得体の知れない類の迷宮は幾つも見てきたつもりだ。
 学園では病弱なお嬢様で通っている紅葉にとって、タフでならしてきた現場での装いが知れるのは好ましくないが、これを放置するのはいただけない。
 とはいえ、とはいえだ。事前情報によれば、この魔法トラップが見せてくるのは、本人の心に根ざす恐怖。
 魔法学園に所属していながら、紅葉は神秘霊物の類にあまりいい感情を抱いていない。
 というか、苦手意識すらある。
 怪談だの幽霊だの、そういった話は幾つになっても慣れないのである。
 そういった理由もあり、普段はこういう類の依頼を避けていたのだが、このトラップを放置して、仮に幻影が地上に漏れ出すようなことがあれば、親愛なる学友に害が及ばないとも限らない。
 猫をかぶって学生生活を送っていると言えばみもふたもないが、それでも厳しくも平穏と言える学生生活は、紅葉にとって得がたい日常の一つとなってしまっている。
 そのためならば、多少の冒険は生活のスパイスの範囲だろう。
 気軽を装わねば、やっていられない。
 人が心を原動力にしている以上、いくら壁を作っても、相手は心の弱っている部分を見せてくるのだ。
 まともに直視して、自分の心の均衡を保っていられるか、その自信はちょっとない。
 だが、行動しなければ何も始まらない。大丈夫だ。自分自身がどういう風に思われた結果かはあまり興味のあるところではないが、少なくない顔見知りから「お嬢」と呼ばれる程度には、自分は認められている。
 紅葉は彼らの実力を信用している。ならば、彼らの評価も一定の信用には足るはずだ。
 信じよう。自分の培ってきたものを。
 幻影など目に入らぬよう、急いで通り抜ければいいのだ。
 決心を固めた紅葉が愛用のアサルトライフルを構えて身を低くした辺りで、
「怖くない。ワガハイ全然怖くないのである!」
 場違いな大声が後ろから聞こえた。
 それは誰に向けたものではない言葉のようでもあったが、完全に紅葉の突入に合わせたかのようなタイミングの良さに、思わず気がそがれて振り向いてしまう。
 いつの間にかそこに立っていたのはモノクルに仰々しいマフラーが特徴的なクリスタリアンの小柄な少年、ムルヘルベル・アーキロギア(執筆者・f09868)だった。
 果たして紅葉の想像は正しく、振り向いたところに絶妙に目が合い、それを確認したかのようにムルヘルベルは尊大に顎をしゃくる。
「なーにが鉛の卵か、仰々しい。たかが迷宮ひとつに!」
 小さな身体で大きな仕草で、多くの人物に語り掛けるかのごとく空をあおぐが、ここにはムルヘルベルと紅葉の二人しかいない。
「……それで、見たところお仲間のようですが、何か御用?」
 回りくどい話を聞いている余裕は無いので、最低限不機嫌を洩らさない程度の猫かぶりモードで応対する紅葉は、それでもさっさとしろという意図を隠そうともしないためか、丁寧な口調の割にその佇まいは随分と剣呑に見えた。
「……いや、あの、一緒に探索せぬか?」
「えぇ……」
 もじもじと手持ちの書籍をいじりつつ、ちらちらと見上げるムルヘルベルの仕草に、思わず困惑の声を漏らしてしまう。
「いやワガハイ怖くないのであるぞ? 怖くない。全然怖くない。
だがワガハイはさておき、オヌシは怖いかもしれぬであろう?
つまりこれはワガハイの慈悲! うーむさすが実に大人である」
「……それなら、お一人でどうぞ。私もそれなりに急いでますので」
「いやいや、いやいやいや、待て待て!!」
 小さい割にころころと動き回って、大仰な身振り手振りで恩着せがましい言い回しのムルヘルベルだったが、紅葉は不思議とそれに不快感は無かった。
 滑稽に見えたからだろうか。いやちがう。
 きっと、この少年は、本来守られるべきタイプの人間なんだろう。
 敢えて危険に足を運ぶようなことが似合わない。そんなタイプの人間が、無理をして危険地帯に足を踏み入れようとしているのだ。
 それを汲むのが仲間というのかもしれないが、生憎と工作員のようなことをしていると割と汚い世界を知ってしまう。
 こういうのはやれる人間がやればいい。そして、それにとって邪魔なら、背負うべきではない。
 自分は自分の仕事をする。その意思を示した紅葉に、ムルヘルベルは尚も食い下がって、紅葉の前に立ちはだかり両手を広げる。
「あのねえ。解ってると思うけれど、ここから先は危ないの。私は一気に駆け抜けるつもりだけど、あなたにそれができる?」
 思わず心がひりついてしまったのか、少しばかり地が出た口調で諭すような事を言ってしまう。
「いやだから、一人では危なかろうと、ワガハイも一緒に……」
 もう何も聞かぬとばかり、紅葉は食い下がる少年の言葉をスルーして小道に入ろうとする。
 が、直後に地面に落ちた書籍の音でまたも足を止めてしまった。
 一体、今度は何を、と振り向いた紅葉が見たのは、迷宮の床に全身を投げ出したムルヘルベルの姿だった。
 何のつもりと疑問に思う前に、
「やーだー! ワガハイ誰かと一緒にいくぅー! 一人はやぁあだぁあー!」
「えぇ……」
 駄々っ子のように手足をばたつかせて喚くというまさかの行為に、紅葉はまたも困惑の声を上げてしまう。
 そして、しばらくその姿を呆然と眺めていた自分自身に、ふと問いかける。
 彼を連れて行くのは、効率的とは言い難いだろう。自分の探索のスタンスとは大きく違うだろうし、正直言って自分のプロ意識からすれば足手まといになりかねない。
 何より彼は、この先を進むのに向いているようには思えなかった。
 ……向いていない? それは本当に彼だけだろうか?
 それは、自分だって同じじゃないか。
「わかった。わかりました……一緒に行きましょう」
「本当か? し、仕方ない奴だな、まったく」
 苦笑が漏れたのは、自分の言動にだろうか、或は少年のわかり易い態度にだろうか。
 それは解らなかったが、少なくとも前向きに考えられる点として、最初に抱いていた気負いは何一つ残っていなかった。
 何かしらの神託(オラクル)があったわけではない。だが、不思議と気は晴れていた。
「私が先導して、他の罠の有無を調べるので、急いでついて来て下さい」
「……うん」
 小道に入り、それまで意識が向かなかったあちこちに気を配ってみると、目に見えて罠と思しき仕掛けが幾つも視界に入るが、それ以外に違和感は無い。
 幻影がくるとしたら幽霊の類かと思っていたが、それらしいものは感じられない。もしかしたら目に見えるトラップがそれという可能性も考えられなくもないのだが、手近な石のかけらを投げてみると、初歩的なトラップがちゃんと起動した。
 スパイクのついた振り子が頭目掛けて通り抜けるのをしゃがんで避けつつ、紅葉はそのままで視線の合うムルヘルベルに言い聞かせる。
 幾分か素直に頷く少年の震える手元に、少しだけ不安を覚えるが嫌な気分にならない。
 年の離れた弟でもいれば、こんな気分にでもなるのだろうか。
 などと益体もないことを考えつつ、トラップを避けて先導しつつ、後ろを振り向いてみると、
「えぇ……」
 本日三度目となる困惑の声が漏れる。
 紅葉よりも後方からゆっくりと歩を進めるムルヘルベルは両目を力強くつむったまま、壁沿いに手を這わせて来るではないか。
 確かに、目を開けなければ恐怖を与えようとするモノの姿は見えない。だが、この場所には目を開けて見ないといけない物が沢山あるのだ。
「手を繋ぎます」
「む、お、おう!」
 見ていられなくなった紅葉が、その手を引くと、いつものクセで周囲を警戒するために見回してしまう。
 そうして、見つけてしまった。
 それまで目に付かなかった、目に付かなかったとしてもそこに居れば気付いた筈のものの姿に。
 体温が下がるのを感じる。息が詰まるのを感じる。ふつりと胃の腑が沸いた錯覚。
 確かに幽霊は苦手だ。でもそんなものを用意することはないだろう。
 目の前に立つ女の姿には覚えがあった。それも当然のことだろう。
 毎日鏡の前で見ている顔に面影があるし、何よりその顔をもつ人物には無二の心当たりがある。
 これが恐怖というのか? 馬鹿馬鹿しい。
 銃を向けることが無駄とわかっているのに、それが幻影とわかっているのに、いやだからこそ目の前にあってはならないとわかっているから、消そうとしたのか。
 だめだ。混乱している。
「……どうしたのだ?」
「え、あ……」
 手を握る少年の疑問の声に、紅葉は頭が冷えるのを感じた。
 そして、自分自身が今の一瞬でどれだけ心をかき乱されたかも思い至る。
「目を開けないで。走るから、転ばないようしっかりついて来て」
 返事を待たず、紅葉はムルヘルベルの手を引いて走り出す。
 周囲のトラップには当然気を配りつつ、視線は目の前のそれから外すことなく。
 紅葉とよく似たその女は、血の気が引いて紫色にすら見える顔色がとにかく酷く、いつも帯びていたような気品が嘘のようだった。
 偽者だ。一目でわかった。
 だからこそ、おぞましかった。
 握り締める手の感触を感じながら、しっかりと前を向く。
 二人でなければ、ひょっとして半狂乱になって銃やナイフで形のない幻影を滅茶苦茶にしにいったかもしれない。
 なんということだろう。今は、この手を離すことが恐怖に思えてならない。
 紅葉が手を離せるようになったのは、幻影を突き抜けて鉛の卵の目前へと至ってからだった。
 そうなってからようやく、その場から振り向いて銃を構えるも、幻影の姿はどこにも見えなくなっていた。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​

聖護院・カプラ
【WIZ】
鉛の卵による幻影が地上まで届けば、この世の平穏は乱されオブリビオンによる侵略を許してしまうでしょう。
何としても防がねばなりません。危険など承知の上ですよ。

……自身の最も恐怖する幻覚、ですか。
ありますとも。ヒトがヒトとして生きる事叶わぬ世界です。
ですが――それを防ぐ為に私は教えを身に着けた。
幻影が私を苛むなら何度でもこの身で払拭してみせましょう。

目を閉じて攻略、それも結構。
しかし私は目を逸らしません。この『円相光』が遍く者に届くのを見届けねばならないのだから。



「ほう、あれが……」
 大柄な身体を迷宮の小部屋に押し込むようにして滑り込ませると、聖護院・カプラ(旧式のウォーマシン・f00436)は報告にあった小道と、そこから先に小さく見える鉛の卵を遠目に見る。
 既に数人の猟兵が突入し、鉛の卵へ到達している者がもう居るのかもしれないが、内部にあるという件のトラップの破壊には至っていないようだ。
 広い範囲に幻影を見せるだけのトラップだというのなら、自分のようなウォーマシンが出張るよりも、トラップ解除に長けた者を遣わせるほうが効率的かもしれないのだが、遠目に見ても存在感のあるあの鉛の卵……どうにも一筋縄でいきそうもない。
 あの卵型の建造物が見た目通りの耐久性を伴い、出入り口の一つも存在しないとするなら、力尽くでもこじ開ける手立てが必要だろう。
 何よりも、恐怖を与えるためだけの罠など、放置できるものではない。
 カプラは迷うことなく小道に足を踏み入れる。
「ふむ……これはなかなか、厳重ですね。しかし、危険など承知の上ですよ」
 小道に入るとすぐ、これまで感知できなかった物理トラップの存在を検知する。
 察するに、幻影に我を忘れたところを物理トラップで迎え撃つという仕掛けなのだろう。
 カプラは視覚に相当する光学センサーを閉じる。
 幻影が接触を図ってくるのは、あくまでも映像を介してであるという情報がある以上、それに相当するものを最初から閉じておけば、ほぼ八割は幻影からの影響は受けないはずだ。
 光学センサーを廃したとはいえ、ウォーマシンであるカプラには周囲の情報を感知する手段が無いわけではない。
 気温や振動、及び音波の反響を利用した様々なセンサーを活用し、視覚をうしなっても常と変わらない歩みでカプラはしかし、周囲の物理トラップはうまく避けつつ順調に進んでいく。
『うぅ……』
 不意に湧いた何者かのうめき声に、思わず足を止める。
 彼が慈悲深いウォーマシンだからではない。その声の出所に違和感があったからだ。
『何か、食べ物を……もう、三日何も食べていないんだ……』
 何かを引き摺るような頼りない足音と共にやって来る声は、しかし老いたりとはいえカプラの備える動体センサーやサーモグラフ、質量グラフのいずれにも検知されない。それどころか、音波の発生源付近にはアンプらしきものも感知できない。
『お願いだ……もう、食べるモノがないんだ……』
 ずるりずるりと、何かを引き摺る足音。
 これに関わってはいけない。これが件の罠なのだ。
 それはわかる。ウォーマシンである自分にまで幻影を見せてくるとはなかなか気合が入っているが、こんなものに関わっていては、いつまでも先に進めない。
 それはわかるのだが。
 構わずに石畳を歩こうとするたびに、足元から聞こえるみしりみしりと乾いた何かを踏み潰すような音が聞こえてくるのは、流石に悪趣味だ。
「こんなものが私の恐怖とは……」
 見えぬことをいいことに、幻影と思しきものは各種センサーなどお構いなしに、カプラへと怨嗟を投げつけてくる。
 物理センサーには何一つ異常は見られない。ただ音波だけは、ここには無い音を拾い続けている。
『あんたはいいよなぁ。ロボットは、餓える事が無いもんなぁ……』
 掠れた声が僅かに遠ざかるのを感じる。
『俺たちは、食わなきゃいけないんだよ……うぐ、死んじまったらただの肉、ぐえ……だから、あぎ……食わなきゃ……』
 悲鳴交じりの怨嗟と、何かを咀嚼する音が聞こえる。
 今、光学センサーを入れたら、何が見えるのか。
 他のセンサーは相変わらず物理現象に対する回答しか寄越さないが、音だけで織り成される幻影であったとしても、それが何をしているのか、カプラにとって想像に難くないものであった。
「ヒトがヒトの体を成さぬ世界。それを成さしめたのは、私の心。改めねば……」
 なんという愚であろうか。ヒトがヒトとして生きる事叶わぬ世界。それを防ぐために悟りを、教えを得たというのに、絶望の恐怖を想起するは己自身。まして己の中から作り出しておきながら、自ら目を背けるとは……。
 我が身を今一度改めねばならない。と自戒するカプラは自身の機構を展開。
 強烈な後光を発し、迷宮の小道を照らすと共に光学センサーをアクティブにする。
「さぁ、この『円相光』が、遍く者に届くよう見届けよう。改めなさい」
 一帯に広がる荒野と、白く乾いた人骨、痩せこけた何かに齧り付く何者か。それらが輝く後光に飲まれていく。
 幻影は所詮、幻影。強い光に飲まれてしまえば、見えなくなる。
 それは夜明けのようでもあり、白い闇とも言い得た。

成功 🔵​🔵​🔴​

セリオス・アリス
『第六感』を働かせて違和感のある場所を避け
しかし恐怖を覚えるもの…ね
幽霊でも出てくる気か?
出るとわかってる幽霊なんざ怖くないだろうとたかを括って歩みを進める

足元からジャラっと金属の擦れる音がして立ちどまった
視線を落とすと両足首に綺麗な装飾の鎖
息がつまる
見覚えのある鎖に足が動かない
「ハッ…これが恐怖ってか…?」
乾いた喉で笑い飛ばそうと

強く握った手に柄の感触
そうだ…大抵の敵は殴れば殺せる
鎖なら引きちぎればいい
ようやく得た自由を…こんな幻ごときに奪わせてたまるか…!
震える心を奮い立たせるように歌で剣に火を灯す
恐怖を無理やり怒りに変えて
鎖をちぎって前に
鉛の卵だか知らないが叩き割ってやる…!

アドリブ歓迎


歩・備忘録
僕の恐怖は・・・単純だね。人の死だ

僕の主は病に臥せった時、ただの本に過ぎなかった僕は、看病も何もできなかった。
今際の際、僕はやはり無力な本のままで、主を独りぼっちで逝かせてしまった
僕がヤドリガミになったのは主の死後二十年以上経った後。それまで痛ましく朽ちゆく主の亡骸を、僕は弔うこともできなかった

どうしてその過去を僕に見せるのさ!今の僕は無力なはずがないのに、なぜ主を救えない!
認めよう、僕は同じ別れを繰り返すことが怖い!

【行動】
主の幻影に心乱します。生まれながらの光や魔術で主の蘇生を試み、それでも救えず、みっともなく泣きじゃくり。・・・そして怯える自分を受け入れて進みます。

(アドリブ歓迎です)



「チッ、またかよ」
 鉛の卵へ至る小道の道中、もはや何度出くわしたかわからない物理トラップの気配を察知したセリオス・アリス(ダンピールのシンフォニア・f09573)は忌々しげに毒づく。
 大抵のものは殴れば壊れる。というのは彼の持論だが、殴って壊して進もうにも、嫌がらせのトラップが多すぎる。
 最初のうちこそ、冷水を吹きかけてくるものや、騒音が鳴り響くだけのものなどといった可愛げのあるものではあったため、敢えて避けずに発動させた上で破壊して進んでいたのだが……。
 少し進んでからは、槍衾やバズソー、熱した油や石つぶてなど、急に飛び掛ってくるものが物騒になったため、セリオスは自身の先見性……虫の報せのような感覚に従って罠を避けるようになった。
「おいあんた。ここも罠あるから、気をつけろよ」
「ほうほう、どれどれ? なるほど……こんな仕組みで動くんだね。今度は何が出てくる感じなんだい?」
「さあな。いちいちメモるようなことか?」
 自分の辿ったルートをついてくる分には心配ないだろうとは思ったが、セリオスは一緒に行動する事になった猟兵が、罠を発見するたびに座り込んでじっくり観察しつつ詳細にメモを取る悠長さに、若干の不安を覚え始めていた。
「確か、油が飛び出す仕掛けもあるはずだったよね。食用油なら、使いでがあるように思えないかい? そういう話、前に聞いた事があるんだ」
「知るか。もういいだろ、先を急ごうぜ」
 座ったまま長話をし始めようとするのを、セリオスは無理矢理に遮って歩き出す。
 口調にこそ出さないが、わりとうんざりとし始めていた。
 一見すると魔術師か研究者のような風体の男、歩・備忘録(歩く備忘録・f02523)はそんなセリオスの億劫そうな物言いにも気にした風はなく、長年にわたって書き加え続けて辞書のように分厚くなってしまったメモ帳を仕舞いこむと、のんびりとした歩調でセリオスの辿った道順通りについて行く。
「しかし、聞いていた話と随分違うようだね」
「ん? ああ、そうだな。恐怖を与えるトラップってんだから、魔法的なアレコレを考えてたんだけどな。
 これがそれっていうんなら、拍子抜けだ」
 慎重に歩いてこそいるが、注意が向くのは半端に殺意の高い物理トラップばかりだ。
 セリオスも歩も、トラップに関して専門家という訳ではないが、それでも容易に避けて通れるほど、この小道のトラップは仕掛けがあからさまだった。
 にも関わらず、避けて通れるほどのスペースが用意されている。
 更に言えば、即死級の毒やガスなどと言ったものではなく、当たり所が悪ければ命を落とすかもしれないが、どちらかといえば手傷を与えるに留める程度のものしか仕掛けられていない。
 平たく言ってしまえば、ぬるいのである。
 油断を誘うにしても、これではかえって警戒する者も居るのではないだろうか。
 一口にトラップといっても、目的によってその存在意義は様々だ。
 迷宮に於けるトラップのほとんどは、最終的にかかった者を殺すために存在する。
 だが殺さない罠だっていくつもある。
 ただ転ばせるための草輪。警告音を鳴らして動物などを呼び寄せたり逆に追い払ったりするもの。婉曲的に死に繋がるものもあるが、中には侵入者をただ入り口に追い返すようなお優しいものもある。
 人が入らないよう、侵入者を追い払う目的。人を誘い入れて、侵入者を確実に殺す目的。様々な目的に応じて、罠の傾向というものも違いがあって然るべき物だ。
 では、今回のトラップ群には何の意味があるのだろうか。
 数は多いが避けて通れる程度の小規模で、致死的な色合いが濃くはない。
 誘引とも拒絶ともつかない奇妙な配置と言える。
 設置したのはただの素人なのだろうか?
「……ちょっと待て」
「あれ、どうしたんだい? また罠かな?」
「いや……」
 ふと背筋を撫でる様な違和感に足と止めるセリオスは、怪訝そうに問う歩に言葉を濁す。
 気付いたのは、実は本当に大した事ではない。
 歩く先の小道の床材。その毛色とでも言うのだろうか。石の様な素材であるのには違いないのだが、おそらく数歩先から別のものになっている。
 大した違いにも思えるかもしれないが、迷宮の中ではよくある事だったりする。
 何しろ学園地下に広がる迷宮は、日夜その規模を増しているという話だ。
 ある道から先が別の床や壁に変わっているなんてことは珍しくなく、それこそ階層を跨げば色合いや気候すら変わる不可思議なものなのである。
 今更床の材質が切り替わっている事に意識が向くほうが神経過敏なのかもしれないが。
 それでも、異様に嫌な予感がしたのだ。
 セリオスの第六感とでも言うべきだろうか。直感的にそこから先から異質なものを感じ取っていた。
「罠の気配じゃないんだが……嫌な感じだ。歩、あんたも気をつけ」
 セリオスが言い終えるのを待たず、歩が何かを見つけたように走り出していった。
「お、おい!?」
 これまで見せなかった程の慌てぶりで、何も無い小道の先に駆けて行く歩の様子に尋常でないものを感じたせいだろうか。
 思わず追いかけようとしたセリオスの足取りが急に重くなった。
 バランスを崩して倒れそうになるのを何とか踏み止まったが、その原因となったものを目にしたところで、セリオスは今度こそ動きを止めた。
 岩肌を削りだしたような無骨な空気が通う迷宮の通路に、それは不釣合いなほど豪奢な装飾が施された鎖であり……そしてセリオスにとってそれは、苦い記憶と共に思い起こされる程度には憶えのあるものだった。
「くそ、嘘だろ……!」
 ざらりざらりと不快な金属音が、まるでせせら笑うかのように耳障りだった。そんな音など、ましてやこんな大掛かりな鎖など、影も形も無かった筈だが。
 でも同時に納得もしていた。
 これが、自分をかつて縛っていたものが、そんじょそこらから唐突に生えてくる筈は無い。
 そしてこれは、おそらく自分以外に縁が無い。だったら、これがそうなのだろう。
「ハッ、これが、恐怖ってか……?」
 逃げられぬようしっかりと足に繋がれた鎖。忘れるはずも無い。
 乾いた笑いが洩れたのは、そんなものが自分の恐怖になりえないと思ったからだ。
 もうこんなものの世話になるつもりはない。だってそうだろう。
 大抵のものは殴ったら壊れる。
 それが幻影であっても同じ事だろう。
 僅かに震える指先でそれを持ち上げようとするも、その鎖はまるで煙か何かで出来ているのか、触れることが出来ない。
「冗談だろ……」
 足首に巻きついていて、引き摺りもする。音すら鳴るのに、その鎖は自分の身体を通り抜けてしまう。
 通り抜けるのに、足首から外れない!
「ふざけろ……ふざけろよ……!」
 セリオスの美しい鼻梁から血の気が引く。
 大抵のものは殴れば壊せる。だが、それが殴れないときは……?
「うわああ、何故だ!? 何故、どうして!?」
 セリオスの逡巡をかき消すかのように、すぐ近くで悲鳴が上がった。
 思わず声のしたほうをみれば、歩が跪いていて、その周囲には様々な魔術が展開されているようだった。
 マジックナイトでもあるセリオスは、その膨大な数に及ぶ魔術の全てを読み取れたわけではなかったが、いずれもが蘇生や快癒の類のものであろうことはわかった。
「これも……これもダメだ……! これで、正しいはず。合っている筈なのに……! どうして、治ってくれない……!?」
 嗚咽交じりに何故何故と繰り返す歩の痛々しい姿に、セリオスは感じないはずの戒めに絡め取られながらも近寄る。
「おい、あんた」
「バカな。なんで、なんで……せめて、症状を遅らせる術を……ああ、待ってくれ。次のはちゃんと……嘘だ、嘘だ嘘だ……いやだ、やめてくれ……」
 足が重い。重いあまりに膝をつく。煩わしげに顔をしかめつつ、地を掴んで引き寄せるように身体を前へと進める。
「聞こえてるだろ、あんた。なぁ」
「うぅ……どうしてその過去を僕に見せるのさ!今の僕は無力なはずがないのに、なぜ主を救えない……」
 気が付けば這いずるようにして進んでいたセリオスは、ただ歩み寄るよりも随分と時間をかける形で、ようやく歩の背を小突く辺りまで近づけた。
 呆けた様に座り込んだ姿勢の歩は、セリオスに小突かれるとそのままの勢いで前に倒れそうになったが、すぐにそれを許さぬかのように襟首を掴むセリオスの手によって引き戻される。
「一人ではしゃいでるじゃねぇか。いったい、何がそんな面白ぇんだ?」
「……君も見ただろう。僕はまた、主を救えなかった」
 歩の黒い瞳はまるで光を失ったかのようにどこを見ているかわからなかったが、セリオスもまた、どこを見ても彼の言う主人を見つけることが出来なかった。
 何かしらの幻影に心を乱されているのは理解できたが、その解決の糸口を探すのは難しい。
「なああんた。俺がどうしてこんな無様を晒してるか、見てわかるか?」
「僕に君の事がわかる訳がないだろう? 見てわからないのか?」
「そうだな。それで確信した」
 今やセリオスの身体には、足首だけを縛っていたはずの鎖が下半身全てを固めるように絡み付いていた。
 悪趣味なほど輝いて見える装飾付きの鎖が目に入っていないというのなら、それはそういうことなのだろう。
 そして、もう一度確認するように歩の周囲を見回してみるも、ここには二人以上の人間は居ない。
「いいか。お前が救えなかったヤツは、お前の記憶の通り救えない。それはわかってる筈だろ?」
「だけど! 僕は、救いたかった。たとえこれがただの記憶だとしても……」
「よく考えろよ兄弟。このクソの幻影は、恐怖を……痛みの記憶を呼び起こしてるに過ぎないんだぜ。
 お前が望む通りの結果になると、本当に思ってるのかよ。
 こいつは多分だが、恐怖を認めない限り何度も同じもので攻めてくるぞ。
 クソの思い出話にいつまでも付き合って、また惨めに泣き喚くつもりか?」
 身体に覚える重さに抗う内に、セリオスの口調は知らず荒々しいものになっていく。
 それに応じるかのごとく、歩の目に闘志のようなものが宿る。
 セリオスが手を離す。一気にまくし立てため、肩が上下する。
 解放された歩は、力なく足元に落ちたメモ帳を手に取る。次第に、それを握るてに力がこもる。
 大きく深呼吸。
「ああ、認める。認めよう。僕は、同じような別れを繰り返すのが怖い」
 差し伸べた手をセリオスが掴んだのを確認して、引き上げる。
「俺もさ。くだらん因縁は、いつまでもついて回るものだ」
 助け起こされていくらか楽になったのだろう。セリオスは腰の剣を抜く。
 歌うように魔法を紡ぐと、我が身を温めるかのような火が剣の切っ先に点る。
 自分で歌った言葉は、自分自身にも言えることだ。
 自由を謳歌しようと思う自分が、いつまでも過去に縛られる。
 笑えないし、下らない。邪魔されてたまるか。
 こんな幻に自由を阻害されているおくわけにはいかない。
 この鎖は過去の恐怖そのものだ。だが、自分は同時に知っている。
 この鎖から自分は解き放たれたから、今がある。
 恐怖は乗り越えるためにあるのだ。
「うぐ、うおおお……」
 魔法で身体能力を高めた事に、おそらく直接的な効果はない。
 だがこれは、気分の問題だった。
 ぶちぶちと鎖がはじけて飛ぶ音が聞こえる。だがもう見えない。
 前を向く者に、足元はもう見えないのだ。
 やがて靄がかったようなものが晴れるように、二人を縛っていたものが掻き消える。
 すぐ目の前には、二階建ての家屋ほどの鉛の卵が佇んでいた。
 遠めで見るほど巨大な建造物には見えなかった。
「着いたね。これが、元凶か」
「ああ、鉛の卵だかなんだか知らないが、叩き割ってやる!」
 顔を見合わせ、セリオスと歩は決意を胸に歩き出した。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​




第2章 集団戦 『メイド人形』

POW   :    居合い抜き
【仕込み箒から抜き放った刃】が命中した対象を切断する。
SPD   :    暗殺
レベル分の1秒で【衣装内に仕込まれた暗器】を発射できる。
WIZ   :    人形の囁き
対象のユーベルコードに対し【対象の精神に直接響く囁き声】を放ち、相殺する。事前にそれを見ていれば成功率が上がる。
👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​🔴​

種別『集団戦』のルール
 記載された敵が「沢山」出現します(厳密に何体いるかは、書く場合も書かない場合もあります)。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


恐怖を与える数々の幻影を抜け、君たちが到達した鉛の卵は、遠目で見るよりもいくらか小さく、せいぜい二階建ての家屋程度のものだった。
 近くで見れば、それほどの脅威には感じないが、その中にある筈の幻影トラップは、今や暴走してその効果範囲を広げつつある。
 早急に破壊しなくてはならない。
 しかし、鉛の卵の周囲には入り口らしいものは見受けられず、どこから入ったものか考えあぐねる事になった。
 思案する君たち猟兵は、一斉攻撃による破壊を試みようと、各々武器を手に取る。
 と、君たちの戦闘態勢を察知したかのように、卵の十数箇所に楕円の穴が開いた。
 それが入り口かどうか確かめようとする間もなく、幾つも開いた穴から飛び出してきたのは戦闘用と思しき美しいメイド姿の人形だった。
 メイド人形達は規律正しく整列すると、居並ぶ君たち猟兵の前で瀟洒にカーテシーに似た儀礼的挨拶を交え、
「防衛レベル上昇につき、戦闘を開始します。お覚悟くださいませ、お客様」
 涼やかに言い放ち、速やかに抜刀する。
 どうやら、戦いは避けられないようだ。
聖護院・カプラ
【WIZ】
武器を手に取った瞬間に小間使いが現れたという事は、『鉛の卵』は力尽くで破壊するのが正解のようです。
そう簡単にはさせていただけないでしょうが――。

『円相光』によって敵の行動を封じようと思いますが、このユーベルコードは一度見られていますので通用しないかもしれません(『人形の囁き』)。
しかしながら相殺中は敵もユーべルコードを縛られます。
その際はウォーマシンの贅力と体格差で突破するとします。

囁き……どんな形であれ、相手から持ち掛けられた対話を無碍にして
力で対処してしまうこの行い、誠に遺憾です。
あるいはこう思わせる事が敵の攻撃なのやもしれませんが……。



周囲は仄かに明るく、まるで鉛の卵そのものが燐光を放っているかのようであり、昼下がりのような明るさの最中に整然と佇むメイド人形達も、さながら飴細工を丹精に捏ねてこさえたような甘い顔つきに表情の一つも浮かべず、その作り上げられた美しさすら機能に付随したに過ぎぬとばかりに、冷たい殺気を滲ませて行動を開始する。
 腰を引き、全身のバネを使って跳躍するその一挙手一投足に淀みや軋みは無く、球体関節さえ露でないなら、それはさながら武道の達人のように堂に入った身のこなしといえよう。
 しかし、敵が然る者ならば、迎え撃つ猟兵もまた然る者である。
 数体のメイド人形達の踏み込みに反応していち早く前に飛び出した聖護院カプラは、その豪腕を盾にして、華奢なメイドたちの抜き打ちを完全に防いで見せた。
「身のこなしは相応とは言い難いようですが、体重は見た目と相応のようですね。製作者に愛されていたのでしょう」
 実に3メートル近いウォーマシンの巨躯は、少女の色を濃く象られた人形たちからすれば巨人を相手にするようなものである。
 攻める側と守る側とはいえ、どちらが戦闘用かと言われれば、答えに詰まるものがあるかもしれない。
 無感動な人形達の瞳と、それを惜しむかのような眼差しを向けるカプラとでは、その構図こそ剣呑であったが、物悲しくすらあった。
「それだけ精巧に造られておきながら、このような形になるのは遺憾ともし難いですね」
「あなたも……」
 カプラの声が届いたのか否か、頭の中に少女の声が響く。
 指向性のある精神波のようなものが、一種の電波信号となってカプラの無線通信チャンネルの一端に入り込んできた。
 そこにカプラは僅かな希望を見た。
 箒に仕込まれた刀と鋼の巨腕を交わしたまま、人形たちが無機質だがあどけない顔を向けてくる。
 もしかしたら、彼女達もこのような戦いは本意ではなく、無差別な遠隔信号を使って助けを求めているのだろうか。
 もしそうだというのなら、救いを求めているというのならば、カプラは応じないわけにはいかない。
 動力機関の奥の方で、ふつりふつりと希望の火が滾るのを感じる。
「あなたも、お客様を攻撃なさいませ。お客様は排除せねばならない」
「お客様は排除……お客様は排除……」
 しかし次々に流れてくるメイド人形達の無機質な言葉に、カプラの期待していたものはなかった。
「なんと、救い難い……!」
 心中で歯噛みするカプラのアイセンサーがぎらりと光る。
 人間の如く精巧に作られておきながら、そこから滲みこんでくるのは無機質な行動原理プログラム、その先にある悪意に他ならなかった。
 彼女たちは命令を遵守しているに過ぎない。しかし、根底にゲル化して癒着したオイルのように底意地の悪いものが透けて見えるのは、あまりにも少女達の言葉に色合いが薄かったか。
 或は、その背後に見える悪意が色濃かったからだろうか。
 いずれにせよ、カプラにとってそれは容認できるものではなかった。
「その思想、改めなさい」
 メイドたちを押しのけるようにして豪腕を押し広げ、内部機構が展開すると、カプラの身体が光りを放ち始める。
 複数体居るメイド達の中でも、カプラに飛びかかった数体はその光をまともに受けてしまう。
「お客様は排除……お客さ、ま……」
 念仏のように続いていた精神波が後光に飲まれて消えていく。
 そして、その発信源である数体のメイドは、呆けたように刀を取り落として膝をついて動かなくなった。
 完全に動きの止まった個体から動力反応が感じられないのを確認すると、カプラはそれらを放置して、他の動きが鈍くなっただけのメイド達を巨腕で殴りつけ、弾き飛ばし、或は叩き潰す。
 達人級の身体能力が失われてしまえば、いかに精巧なメイド人形といえど、大質量の鈍器と化したカプラの攻撃の前に、技でいなすことも侭ならないまま無残に部品を撒き散らして機能を停止する。
 さしもの『円相光』とはいえ、既に一度見せた技である。
 至近距離で直撃を食らった者ならいざ知らず。動きが鈍った程度の相手には強い効果は望めぬと判断したカプラは、復旧を許す間もなく沈黙させる事を選んだ。
 機械は、命令された事には忠実だ。よく知っている事だからこそ、彼は徹底した。
 豪腕を振り回すカプラのアイセンサーは、その膂力を行使するたびに強く光る。
 さながらそれは、暴力を振るいながら泣いているようですらあった。

大成功 🔵​🔵​🔵​

高階・茉莉
■心情
幻影を見せられるトラップは通過できましたけど
今度はメイド人形ですか。
迷宮も簡単に攻略させてはくれないみたいですね。

■行動
WIZ判定の行動を行います。

私も、規律正しくは得意なので、『礼儀作法』で対応しますね。
「覚悟なさるのは貴女達の方ですよ、メイド人形さん」

戦闘では『ウィザード・ミサイル』で
メイド人形達を狙って、攻撃しますね。
「属性攻撃」で炎を強化して攻撃します。

魔法の矢は、一体ずつ集中攻撃でメイド人形を狙いますね。
それでも他のメイドから襲われる様なら、
魔法の矢は他のメイド人形にも牽制で撃ちます。

メイド人形が接近してきたら、
フォースセイバーの「2回攻撃」を行い、対処しますね。



ごう、と陣風が舞う。
 先陣を切ったメイド隊の抜き付けを一身に受けたウォーマシンがその巨体を振るうたびに、おぞましい破砕音と風が吹く。
 普段が図書館の司書という高階茉莉は、その大立ち回りの衝突音に一度だけ肩をすくめるも、ここは戦場!とすぐに自らを奮い立たせるべく拳を握りこんで口元引き結んだ。
 だが気負い過ぎてはいけない。冷静に普段通りの実力を出すことが、魔術を扱う者には肝要である。
「覚悟なさるのは貴女達の方ですよ、メイド人形さん」
 よく通るよう大声で、しかし気品は損なわず毅然とした態度と強い意志を眼鏡の奥に湛え、言い放つ。
 それまで大立ち回りしていたウォーマシンのカプラに注視していたメイドたちがいっせいにこちらを向いた。
 意外と沢山釣れてしまった。
 心中で毒づくが、それを口に出すことはしない。
 不意打ちというのも考えたが、不意打ちというものは相手がこちらの存在を認識していないことが前提にあって初めて成立する。
 壁役を担ってくれているカプラがメイド達の注意を引いてくれているとはいえ、彼女達の動きは歴戦の戦士のように一体一体が洗練され、統率もとれている。
 巨漢のカプラを脅威とはしていても、他の猟兵たちから注意を外しているとは考えにくい。
 そんなところに多少の攻撃を加えたところで、最初の一撃くらいは命中するかもしれないが、それ以降はあの機敏な動きで直ぐに対応されるかもしれない。
 ならば、最初にこちらに注意を向ければいい。こちらを向いて、攻撃に転じるその瞬間を……。
 茉莉は冷静に敵の動きを分析し、術式を組み上げていた。
 メイド達のあの突進力。あのスピード。それは確かに凄まじいものがある。
 しかし、その動きが速ければ速いほど、急な方向転換はできない。特に動き出したその瞬間は!
「今です!」
 張り詰めた弓の弦を解くかの如く、茉莉は展開した術式から魔法の矢を解き放った。
 瑠璃色に煌く幾多の魔法の矢が紅蓮の炎を帯びて加速する。
 それは、今まさに仕込み箒を居合い刀の如く構えて踏み込もうとしたメイド達にとって、回避不能のタイミングと言えた。
 最も距離の近いメイドには集中的に、その周囲のメイドが迂闊に近付かぬよう牽制にと、放たれた魔法の矢はその狙い通りに一体のメイドを完膚なきまでに破壊し、その周囲のメイドにも少なくない被害を与えていた。
 攻撃態勢の出鼻をくじかれた影響で、回避も侭ならぬまま機能不全を起こす者、体勢を無理矢理変えて被害を抑える者。
 その中の一体、損傷が最も軽微だったメイドが不完全な体勢のまま、茉莉の方へと突っ込んできた。
 不完全とはいえ高い身体能力を駆使し瞬く間に距離をつめて仕込み箒から白刃を一閃させるメイド。
 だが、茉莉はそれを辛うじて手に持っていたウィザードロッドで受け、空いた手に握られた短い棒を構える。
 それを新たな武器と認識したメイドが鞘になっている箒部分を振り上げる事で、茉莉はそれを……フォースセイバーを手放してしまう。
 くるくると茉莉とメイドの隙間を通り抜けて真上に飛ぶフォースセイバーの柄。
「くっ!?」
「お休みの時間です、お客様」
 無表情のまま刀を振り上げるメイドだったが、その次の瞬間、振り上げた腕の上肢が火花を上げて千切れ跳んだ。
 視線を向けるメイドは無表情のままだったが、さながらそれは驚愕しているようにも見えた。
 メイドの片腕を焼き切ったそれは、宙に打ち上げたはずのフォースセイバーの柄。それが、いつの間にかくるくると回転したまま光刃を生やし、中空でメイドの振り上げた腕に命中したのだった!
「お客様……排除」
 呆気に取られていたのも束の間、メイドは片腕ちぎれた事など意に介した事も無いように茉莉に向き直って、顎が外れたかのように口を開く。
 何かが来る、と思った瞬間にはもう、茉莉は中空のフォースセイバーに手を伸ばして掴み取っていた。
 メイドの口腔に槍穂の様な切っ先が生えるのと、メイドと茉莉の目が合うのはほぼ同時だった。
 光刃一閃。
 フォースセイバーを掴み取った手を振り下ろすほうが一瞬速かったらしい。
 肩口から腰、ついでに左腕を一瞬にして焼き切られたメイドが崩れ落ちるのを見届けず、茉莉はフォースセイバーを構えたまま周囲を警戒する。
 意外にも、他のメイド達は距離を保ったまま襲い掛かってこない。
 今しがたの曲芸じみたフォースセイバーでの戦い方を見て警戒しているのだ。
 ただ、当の本人は、
(あ、危なかったァ……)
 と心の中でホッと胸を撫で下ろしているのだった。

成功 🔵​🔵​🔴​

ミラ・アルファ
はー…。古傷を抉られて僕は機嫌が悪いんだ。さっさとそこを退きなよ。同じ人形だからって容赦はしない。

周りのようす前線に突っ込んでドラゴンランスで攻撃します。ユーベルコード使用で何体確実に仕留めたい。



鉛の卵周囲の気温は確実に上昇していた。
 戦闘が過熱するという意味合いもあるだろうが、火を放つ魔術の行使により、物理的に戦場を加熱していた。
 そんな最中、確実に数を減らしつつも、なお焦りも同様も見せず無表情を崩さないメイド達の様子に、ミラ・アルファはうんざりしたように嘆息する。
「はー……。古傷を抉られて僕は機嫌が悪いんだ」
 傍らに侍るドラゴンの相棒ユランを手繰ると、その姿が瞬く間に一本の槍へと変ずる。
 その槍の具合を試すように回し、払う。風を切る音色が心地よく、腰を落として構えれば、それはもうミラの手足と同等、一心同体と言って差し障りの無いものであった。
「さっさとそこを退きなよ。同じ人形だからって、容赦はしない」
 メイド達を見回し静かにいい放つ姿は、女性のような面差しからは想像もできぬほど剣呑な気配を滲ませていた。
 人形同士。そんなことに最早頓着はしない。
 むしろ、ミレナリィドールだからこそ、人形にどういうことができるかも、どう壊せばいいかもある程度は知っているつもりだった。
『──……』
 頭の中にノイズのようなものが降りかかる。
 何かしらの命令コードのようなものを飛ばしてきたらしいが、ミラにはなんの事かよくわからなかったし、身体の調子が特別落ちたようにも感じなかった。
 その代わりに、メイド人形が二体、時間差をつけて突撃してきた。
 正対して迎え撃つミラは、槍を短く構えると、鋭い切っ先が目立つよう敢えて穂先を持ち上げつつ一歩下がるようにして半身に身体を開き、穂先を後方に隠すように下ろす。
 手前側のメイドからは、見えていた穂先が持ち上がってミラを影にして消えたように見え、且つ、短く持っていたため反対側、つまり石突が長く伸びて跳ね上がってくるように見え、気が付けば抜きつけようと構えた腕が石突により打ち上げられ、そのまま顎まで打たれていた。
 のけぞるようにして足を止めたメイドに間髪入れず、跳ね上げた石突の勢いを殺さぬまま踏み込みながら短く持った穂先を棒立ちのメイドに叩き込むように突き入れる。
 傍目にはただ槍を縦に回してから突き出したようにしか見えないような一瞬の攻防だったが、事前に攻撃を潰して、その防御動作すら攻撃に転用する機転は、実に合理的だった。
 ミラは更に動きを止めず、突き出した槍を、今度は払うように引き抜いて、出足を軸に身体を回転させながら槍を振り払う。
 丁度その背後を取るようにして、もう一体のメイド人形が迫っていたのだ。
 ミラの出足分だけ間合をずらされたメイドの抜き打ちと、ミラの槍のスウィング。
 刀と槍の間合は、比べるべくもなく……メイドの刀はミラに届かないまま、ほぼ後出しのミラの槍による振り払いを首に受けたメイドは、その頚椎を不自然な方向に曲げたまま崩れ落ちた。
「……ふぅ」
 倒れたメイドの頭部に槍を打ち込んで確実に破壊すると、ミラはようやく周囲を見回す。
 まだまだメイド人形は残っている。
 こんな調子で戦っていては埒が明かない。
「まだ、憂さは晴れてないんだ。覚悟してもらう」
 先に行動していた茉莉ではないが、覚悟してもらうのは相手のほうだ。
 あれだけ根性の悪い罠を仕掛けた奴の配下だというのなら、こいつらにも責任がある。
 今はまだ、複数体相手でも問題は無いが、このまま長引かせると、数の面で厳しい事になるだろう。
 槍穂を下げて、打ち下ろすように構えると、ミラはメイドの一団に突撃を仕掛ける。
 多少の負傷はどうでもいい。今は数を減らす事を考えるべきだ。
 メイドの何体かがスカートの裾から楔状のナイフを取り出して擲ってくる。
 斜めに構えた槍は、正面から見れば全身が武器で遮られているように見えるため、致命傷を受けづらい。
 とはいえ、まったくの無傷と言うわけにはいかない。手に足に暗器ナイフの攻撃を受けつつも、ミラは突撃をやめず、かわし切れなかったメイドの一体を串刺しにすると、周りのメイドも巻き込むようにそのまま槍を振り払った。
「うおおおっ!!」
 雄叫びと共に突き刺さった槍の切っ先から巨大な竜の顎が呼び出され、振り払うと共にその竜が複数体のメイドに食らいついて噛み千切る。
 竜の息吹はその一瞬のみだったが、やがてメイド達の残骸の中に佇むミラの姿は、多少の手傷はあれども、竜の戦士と言って憚らぬほどの姿だった。

成功 🔵​🔵​🔴​

才堂・紅葉
「分かり易くて助かるわ……援護はお願いね」
結局一緒にいるムルベルベルを下がらせる。
道中に気を紛らせる意味も含めた情報収集で連携に必要な情報共有は行っている。
彼の邪魔にならない位置取りで戦闘開始。
銃弾で牽制し榴弾で吹き飛ばす。敵の素材強度を見ると必殺は難しい。
牽制を続け敵の攻撃把握に徹する。
格闘戦が狙い目。敵を見切っての投げと、打ち上げからの空中ロックを狙う。
金喰い銃の封印を解きUC発動。己を起点に30㎝だけの超短時間での高重力場展開。外れ能力だが今は有用。高重力による落下技で人形達の粉砕をはかろう。

※POW指定。アドリブ歓迎。
 居合と暗器は十分に警戒しているが、精神攻撃の囁き声には無防備です。


ムルヘルベル・アーキロギア
わかっておったが面倒な。こんな怖……おほん、厄介な物体は破壊するに限る!
ワガハイと同行してくれた才堂・紅葉(お嬢・f08859)がもしその場に居るならば感謝を述べておこう
可能なら他言無用を願いたいがまあその暇はあるまい!

「さて、あの鉛の卵から現れた奴らだ。この傀儡どもも幻影を見せる手合であろう」
ゆえに先手必勝、【ウィザード・ミサイル】を〈高速詠唱〉かつ〈全力魔法〉で発動
彼奴らが妙なことをする前に面の攻撃で吹き飛ばしてくれるわ!
「そこをどけ端女ども、ワガハイにはよほど質のいいしもべがおるのでな!」
今回はひたすら攻撃に徹する
彼奴らが対応してくるなら〈属性攻撃〉で雷や氷に属性を切り替えてみせよう



既に勝敗は決しつつある。
 才堂紅葉は、傍らにいるムルヘルベル・アーキロギアに攻撃が及ばぬよう立ち回りつつ、なんとなく戦況を確認しながら確信を得ようとしていた。
 さすがに腕利きの猟兵達が揃えば、苦労はしないか。
 とはいえ、あまり長引かせるのも困る。こちらにも余力と言うものはあるのだ。
 アサルトライフルの弾倉を交換しつつ、冷静に残弾と体力を計算する。
 余裕が無いではない。しかし、これから攻略するであろう鉛の卵の前哨戦とも言える尖兵相手に無駄弾は使うべきじゃない。
「なんじゃ、あまり余裕が無いのか?」
「そういうわけじゃないけど……何か策がある?」
「ふむ、あるにはある。が、一人で纏めてポンというワケにはいかん。それに、あれじゃろ……あいつらも、また、幻影なぞ見せるとも限らんし……」
 すっかり本性を隠さなくなった紅葉を前に、ムルヘルベルはこの期に及んでまだ目にしていない幻影を恐れるような口ぶりで手元の書物をもじもじと弄っている。
 その様子に紅葉は呆れこそしなくなったが、ここに至るまでやれる事は幾つかすり合わせてあるため、やる気にさえさせてしまえば、さっさとこの状況に終止符を打ってくれそうな気配はしていた。
「じゃあ、近付けさせないようにする。一人じゃ無理なら、頼りなさい」
「う、うむ……具体的には、先ほど眼鏡の娘がやったような魔法で、面攻撃を行う。ただ、集中砲火で纏めて潰そうというのじゃから……」
「一箇所にまとめる必要があるわけね。なるほど、わかり易くて助かるわ」
 にやりと笑って銃を担ぐ紅葉をムルヘルベルがもう一度引き止める。
「あ、あと、あれじゃ。……他言無用じゃからな?」
 一瞬、何がと訊きそうになったが、直ぐに思い至る。
 この期に及んで、彼はまだ怖がりが周囲にばれていないと思っているらしい。
 しかし、その事を追求するものはこの場には居ないし、それができる者はここまで来れはしない。
 だから紅葉も敢えてそれを口には出さない。
「……援護、お願いね」
 代わりに、信頼を乗せた言葉と笑みで応じる。
 そうして紅葉は暴力的な笑みを湛えて、残り数える程度の人形達へと踊りかかる。
 ひょん、と目の前を白刃が通り抜ける。
 抜き打ちは何度も見た。どれも寸分違わぬほど正確な間合、構え、そして速度だった。
 量産品なのか、精度の高い格闘センスをプログラムされているようだが、焼き増しの宿命なのか、規格通りの攻撃なので何度も見ていれば間合いくらいは容易に見切れるようになっていた。
 命令に従うしか能力を与えられていない者は、学習しない。
 そして、達人級の動きを再現するべく人間準拠で造られているなら、対人の技も効果がある。
 紅葉は居合い抜きで伸びきったメイドの腕を取ると、巻き込むように間合に入り込み背負い投げを見舞うと共に、地面に叩き付けたメイドの肩の付け根にナイフを突き入れて関節を破壊する。
 ただの人間よりも頑丈に作られているとはいえ、関節の脆い部分は当然あるし、体重も人間準拠ならば、人間よりも頑丈な素材を使う弊害として、軽量化は免れまい。
 顔面をアサルトライフルで撃って破壊すると、それを踏みつけにして、紅葉は余裕たっぷりに両手を広げて周囲にアピールする。
「お客様は退屈してるわ。遊んで頂戴」
 言うが早いか、メイド達がそれを聞いて殺到するよりも前に、アサルトライフル追加武装のグレネードを発射する。
 あまり大盤振る舞いをするわけにはいかないが、多数を相手にする時にはなりふり構っていられない。
 細かな牽制を加えつつ、一体ずつ破壊するには色々と準備が必要なのだ。
 グレネードの爆発で移動方向を制限されたメイド達だが、紅葉の反対方向に回りこもうとした一団の目の前に火柱が上がった。
 最小限の援護として、ムルヘルベルが放った魔法の矢が燃え上がったのだ。
 攻め手を変えようとしたメイドも居たが、そこへすかさず紅葉がアサルトライフルによる掃射を行って、注意をひきつける。
 やはりというか、距離を空けた状態でのアサルトライフルは必殺とは言い難い。
 だが、幾つかの個体は銃弾によって一部機能を損傷する者もいるようで、無視は出来ない。
 そうして細かな牽制を交えた紅葉の巧みな誘導が功を奏し、気が付けば最初に背負い投げを食らわせたメイドの残骸を中心とする場所にメイド達は押し固められる形となっていた。
「よし、撃てぇ!」
「よぉし、そこをどけ端女ども! ワガハイにはよほど質のいいしもべがおるでな!」
 紅葉の鋭い声が響くと、直後にメイド達目掛けて魔法の矢が降り注ぐ。
 茉莉の用いた物が、単体と牽制を交えたものであったのに対し、ムルヘルベルのウィザード・ミサイルは同じ炎でありながら、威力を上げるためいつもより過分に魔力を注いだ上でそれぞれを束ねて効果範囲を限定させて投射する形にすることで更に威力を上げている。
 束ねられた魔法の矢が降り注ぐ場所に逃げ場は無い。
 メイド達は度重なる牽制攻撃により逃げ場を奪われ、入念に足元に浴びせられた銃弾により、機動力も奪われていた。
「まったく、誰がしもべだって……」
 火柱のような魔法の矢に押し潰されるメイド達を眺めながらぼやく紅葉の視界の端で、まだ動く影がムルヘルベルに迫ろうとしているのが目に留まり、無意識のうちに銃を向けていたが、撃てない。
 射線上にはムルヘルベルも含まれている。撃てばただでは済むまい。
 撃つわけにはいかないと判断した紅葉は、即座に切り替えてアサルトライフルを手放すとナイフを手にすると同時に投げ放った。
 近づけないと約束した……!
 一念は焦りよりも使命感。足腰が思うよりも早く反応するかのごとく駆け出していた。
「その子に手を出すな……!」
 メイドの肩にナイフが刺さるが、止まらない。
 その音でムルヘルベルも、メイドが自分に近づいている事に気付いた。
「う、うわぁっ!?」
 驚いたムルヘルベルが、咄嗟に魔法の矢を近距離で放つ。近い距離で火は危ないと考えて、雷の属性攻撃にした。
 慌てていたため肩を掠めたに過ぎなかった魔法の矢は、しかし肩に刺さった紅葉のナイフを介して、その雷がメイドの身体を一瞬だけ麻痺せしめた。
「ナイス!」
 アサルトライフルを手放し、ナイフも投擲してしまった。残るのは……。
 懐から取り出したのは、古びたリボルバー。正直、これを使うのは避けたかったのだが、先ほども言った通り、なりふり構っている余裕は無い。
「コード:ハイペリア承認」
 銃の封印を解くパスワードを紡ぎつつ、銃を逆に握ってメイドに肉薄する。
 走る勢いのまま、リボルバーを振り上げてハンマーのようにグリップで殴りつけながら、銃を握り替えつつ後ろ回し蹴りを繰り出すと、メイド人形の華奢な身体がふわりと浮く。
 そのまま倒れるのを待たず、紅葉は追いかけるように自身も飛び、今まさに倒れ落ちようとしているメイドの真上に飛び掛ると、至近距離でリボルバーを突きつける。
「高重力場限定展開ランク1実行」
 封印を解かれた拳銃の引き金を引くと、超ハイコストの銃弾に刻まれた術式が展開される。
 射程距離わずか30センチ。更に効果時間も超短時間。されど威力は強力無比。
 しかし放たれた術式の対象は銃口の僅か数センチ。そして発動すれば効果は短くてもいい。
 なぜなら、超重力を真上から一身に受けたメイド人形は、凄まじい勢いで地面に衝突し、その衝撃はメイド人形はおろか、迷宮の床にすら亀裂を生じさせたのだ。
 銃の反動でわずかにおくれて着地した紅葉は、メイドの機能停止を確認するまでもない様子でリボルバー銃を仕舞いこむと、盛大に溜息を吐いて飛び散った残骸からナイフを回収する。
 確実に仕留める為使用したが、このリボルバーの銃弾は大変高価なのである。
「あ、怪我は無い?」
 お金のことで頭がいっぱいになっていて、思い出したように向き直った紅葉に対し、ムルヘルベルは若干おかんむりだった。
「近づけないと言うたではないかぁー! んもぉー!」
「まぁ、こういうこともあるわ……そうね。今度なにか、奢るわ。……たぶん」
「たぶんてなんじゃあ!」
 抗議するムルヘルベルにどう接したものかわからず、紅葉はお金のやりくり以上に厄介な事を言ってしまったと心中で再び嘆息する。
 お金にがめつい紅葉が何かを奢るというのは、実は相当な譲歩なのかもしれないが、お互いにまだよく知らない仲なので、そういった理解にはまだまだ遠かった。
 しかしこれで、周囲に敵は居なくなった。
 美しいメイド人形たちは、今や無残な残骸か……或は、魂を抜かれたかのように倒れ伏し、猟兵たちの他にはここには巨大な卵しかなかった。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​




第3章 ボス戦 『トレジャリーガード』

POW   :    ロケットパンチ
【剛腕】を向けた対象に、【飛翔する剛拳】でダメージを与える。命中率が高い。
SPD   :    コアブラスター
【胸部からの放つ熱線】が命中した対象を切断する。
WIZ   :    マジックバーレッジ
【自動追尾する多量の魔力の弾丸】により、レベルの二乗mまでの視認している対象を、【絶え間ない弾幕】で攻撃する。
👑17
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​

種別『ボス戦』のルール
 記載された敵が「1体」出現します。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※このボスの宿敵主は💠茲乃摘・七曜です。ボスは殺してもシナリオ終了後に蘇る可能性がありますが、宿敵主がボス戦に参加したかつシナリオが成功すると、とどめを刺す事ができます。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


辺りは静寂に包まれた。
 破壊だけが解決に至る。それを示すかのごとく、客人を出迎える役割を持つはずだったメイド達は、どうしてか武器を手に客人に襲い掛かる。
 その結果、客人たちはメイドを打ち倒す他になかったのである。
 では小間使い達に戦わせてまで、ここの主人は何をさせるつもりだったのだろうか。
 猟兵たちは顔を見合わせるも、答えは出ない。
 しかしそれも、鉛の卵の中を調べればわかるはずだ。
 誰かが提案し、反対する者もいなかった。
 幸いにして出入り口は幾つもあった。いや、そういう風に見えていた。
 よくよくメイドの出てきた穴を調べてみれば、それはただの窪みに過ぎなかった。
 では本物の出入り口は? いやいや、そもそもこの鉛の卵は本当に建造物なのか?
 訝しい視線を向ける猟兵たちの前で、鉛の卵にヒビが奔る。
 卵が孵る!?
 形状がそう連想させたのか。果たして、卵には規則正しい切れ目が浮かび、幾つものパーツに分かれて散り散りに弾ける。
 目を覆うもの、備えるように飛び退く者、反応は様々だったが、中から現れた者を見つめる意見は、決して多様ではなかった。
 宝物を抱いたような鎧。或は人形だろうか。
 卵の中心に立っていた鎧は、今起きたかのように爛爛と内燃するコアを輝かせ、周囲を囲む猟兵たちを睥睨する。
「最終防衛レベルを確認。貴君等の健闘を称え……最終試験を開始する」
 くぐもった声をあげ、もたらされた言葉は、学園にはよく聞く文言だった。
 かの者こそ、かつて過激すぎて廃止された卵状学園考査兵器こと通称「シルバーエッグ」の最終試験として配置されたトレジャリーガードである。
 恐怖を与えること。死に至らぬトラップ。そして徐々に過激さを増す戦闘兵器。
 それらはまさに、捨て去られるに値するイヤガラセのような教育の賜物であった。
 トレジャリーガードのコアには、今回の目的のトラップのコアが併設されている。
 目的を遂げるためには、かの者を完膚なきまでに破壊する他ないだろう。
才堂・紅葉
「うん。無理ね♪」
隣の相棒には悪いが、笑顔で踵を返しかけた。
これは酷い。
追加料金を貰わないと割に合わない。
だが放置するとあの幻影が学園にまで広がるだろう……。

「まぁ。何とかするしかないか。追加料金覚えてなさいよ……」

・SPD指定
正面からの撃ち合いは有り得ない。
動きを止めたら死ぬので、円を描くように周囲を回る。
センサー狙いの銃撃で牽制しつつ、腕や胸部が向かないよう、必死に走ったりジャンプする。
隙があれば、拍子を合わせて膝や足元に榴弾を打ち込んでバランス崩しを狙う。
勝負所でコアブラスターの発射の瞬間を狙い、封印を解いてUC。
赤字確定の詠唱弾頭を六つ縦に連ねて装甲を抜き、熱線の内部暴発を狙う。


ムルヘルベル・アーキロギア
「いや違う、ワガハイには従者というかなんというか、とにかくそういう者がおってな?」
才堂・紅葉(お嬢・f08859)がおるなら先の「しもべ」について釈明……って卵が敵になったではないかー!?
「ええい、いい加減ワガハイもクールにキメねばな!」
気を取り直し、彼奴に向き直る ここは彼奴の出方をよく観察しよう
そして攻撃方法を〈学習力〉で分析し終えたら【553ページの悪魔】を使用するのだ!
「驚きはしたがオヌシの構造はようく知っておるぞ。もらった!」
幅広い〈世界知識〉を持つワガハイは彼奴の手管を思い出したというわけだ
「さあ、とっととスクラップにしてしまえ!」
猟兵にそう呼びかけ、とどめを任せるとしよう


聖護院・カプラ
【POW】
成程、これは試験であり試練であったと。
これ以上なく自身への復習の必要な試験でしたとも。

打ち破られる事を目的とする学園考査兵器、それも廃棄された物で
あのコアを潰えねば学園に被害が及ぶという事なら
両の手を振り上げる事も構いませんが……。

”不発弾”である鉛の卵が起動した理由は確かめておいた方がいいかもしれませんね。
オブビリオンの――災魔の関与があったかもしれません。

おっと、手が速い。『ロケットパンチ』で仕掛けてくるようです。
『無敵城塞』で腕を受け止めてみせましょう。



「いや、だから、しもべというのは、ワガハイの従者というか、とにかくそういう者がおってな? って、卵が敵になったではないかー!?」
 メイド人形達を一掃したムルヘルベル・アーキロギアは、うっかり口を滑らした言葉のあやというか、なんというか、色々と誤解を解こうと言葉を濁していたところ、鉛の卵が真の姿、トレジャリーガードとして立ち上がったのを見て、素っ頓狂な声を上げる。
 それまで彼の話を、そんなに気にしていないし、どちらかといえば今回の戦いの出費の方で頭がいっぱいだった才堂紅葉も、最後に残されたらしいその偉容に顔をしかめる。
 他の猟兵たちの反応も様々だったが、それぞれが一様に迎え撃つべく武器を手にするところ、紅葉はうんざりしたように肩を落とす。
「うん。無理ね♪」
 そうして肩をすくめて背を向けるその声は、いっそのこと軽快ですらあった。
「な、なんじゃ、帰るのか!?」
「あんなのまともに相手したんじゃ、割に合わないもの。追加料金でも出るんならまだしも」
 敵を前に戸惑いを隠せないムルヘルベルをスルーするように、紅葉ははるか遠くを見てたそがれる。
 まったく、この案件を持ってきたグリモア猟兵が恨めしい。地元だからって安請け合いするんじゃなかった。
 とはいえ……。と、思い至った紅葉は忌々しげに乱暴に髪を搔き揚げてアサルトライフルを握りなおす。
 地元なんだよなあ。あれを倒さなきゃ、割ととんでもない事になるんだよなあ。
「ちょっとでよければ、ワガハイがお小遣いを出してやっても……ほんのちょっとじゃぞ」
「ふん、子供に恵んでもらうほど、このお嬢は落ちぶれちゃいないのよ」
「ぬぬっ! ワガハイの歳を知らんじゃろうにぃ!」
 言い捨てるように勝気に笑い、姿勢を低くして走り出す紅葉。
 それが気に食わなかったのか、ムルヘルベルが大声で抗議するも、彼女は足を止めない。
 その代わりではないが、ムルヘルベルの声に応えるかのようにその目の前で巨体が動いた。
 直後に鳴り響く轟音。梵鐘とも交通事故とも言える金属同士の激しくぶつかり合う音に、ムルヘルベルは思わず肩を竦めた。
「おっと、なんとも手の早い……しかし、残念でしたな」
 降ってくる声は、しかしムルヘルベルに対するものではなかった。
 目を向ければ、そこにはいつの間にか飛来したトレジャリーガードの片腕と、それを全身で受け止める聖護院カプラの姿があった。
「お怪我は?」
「……すまぬ、大事無い」
 どのような力が働いているのか、主のもとに帰っていくトレジャリーガードの片腕を見送りつつ、最低限の会話を交わしたところで、いよいよ最後の戦いが始まってしまっていることを改めて痛感する。
「ええい、いい加減ワガハイもクールにキメねばな!」
 自らを叱咤するように頬を打つと、ムルヘルベルは自身の宝物である魔導書「閉架書庫目録」を開く。
 ラベンダーの瞳が怪しくきらめくと、手にした魔導書がひとりでにページをめくり始める。
「何か策がおありで?」
「奴を丸裸にする。……情報取得……わかったぞ!」
 尋ねるカプラを制し、自らの世界情報にアクセス。取得というよりかは、膨大な記憶を掘り起こして思い出しているのだが、今はそれを説明している余裕は無い。
 学園考査兵器「シルバーエッグ」そして、最後に残された自立魔術人形トレジャリーガード……そのコアに併設された幻影トラップの中枢……それらの情報を身近の猟兵たちと共有する。
「奴は、その腕と動体に強力な武器を有しているが、その巨体を支えるための足回りは鈍重じゃ。よって足を潰せば、必ず死角もできようというモンじゃ!」
「しかし……。そもそも近づけますかね」
 ムルヘルベルがトレジャリーガードのスペック解説をする間にも、攻撃の手は苛烈を極め、前線には魔法の弾丸が飛び交い、ムルヘルベルの前に盾となって立ちはだかるカプラも、もう幾度となく二回りほど体格の違うトレジャリーガードのロケットパンチを受け止め続けている。
 カプラの無敵城塞と呼ばれる防御モードはかなり堅牢ではあるが、攻撃の影響でカプラの身体は徐々に床板を破壊し、後方に押し込まれつつあった。
「もう少しだけ出方を見せてほしい。良きタイミングでワガハイが隙を作る。出来るかの?」
「これでも、御神体をやっておりますので、そうそう容易には抜かれませんよ」
 表情無く仁王立ちし続けるカプラの巨体に頼もしいものを覚えつつ、ムルヘルベルは、その影からトレジャリーガードの行動を観察し続ける。
 まだ、秘策を打つには時期尚早だ。なんとか、一手目が必要なのだ。
 一方、前線に躍り出た紅葉は、巨大質量を誇るトレジャリーガードの正面は避けて、円を描くようにして的を絞らせないようにしつつ、徐々に距離をつめて銃撃を加えていた。
 とはいえ、散発的な攻撃。まして動きながらでの射撃ではいまいち効果を上げられないでいた。
 足を止めて狙いをつけられるなら、そのほうがいい。だが、それを阻止するように、敵の機体上部から追尾魔法弾が幾つも飛んでくるのだ。
 さすがにロケットパンチのような大質量の攻撃はどうしようもないが、動きの拍子を合わせて緩急をつけてやれば、追尾弾の回避はそう難しいものではない。
 そう難しくならないよう、動きながら牽制を加えて簡単に狙われないようにしているというのもあるのだが……。
 しかしこれでは埒が明かない。体力というアドバンテージでは、鈍重とはいえ向こうに分があるだろう。
 本当に、割に合わないったらない。
「まぁ。何とかするしかないか。追加料金覚えてなさいよ……」
 一つ呼吸を整えるようにして立ち止まると、紅葉は唐突に動きを変化させる。
 円を描く動きから、一直線に身を低くしての突撃。
 紅葉の頭上を追尾弾がかすめていく。唐突な横から縦に変わった動きに、見事に誘導されたというわけである。
 そして横ぶれがなくなったということは、こちらからも狙いがつけやすいということでもある。
 近付きながらアサルトライフルを撃ち続け、榴弾を発射する。狙いは片足。対して効果が無くても、足一本に狙いを絞ればどうだろう。
 着弾を確認しないまま、紅葉はすぐさま横移動に軌道を変えて飛び退る。
 胃の腑が震えるような爆発音。
 転がりながらも相手の位置を確認して、すぐさま立ち上がると、もうもうと煙を上げる中から現れたトレジャリーガードが片膝をついているのが見て取れた。
「ようし、今じゃ! 驚きはしたがオヌシの構造はようく知っておるぞ。もらった!」
 千載一遇の好機を逃さず、ムルヘルベルがユーベルコードを発動させる。
 まるで生きているかのような魔導書が開くページは553!
『禁書「応報論概説」に曰く、"ヒトは自ら復讐するに能わず。ただ魔の威に任せよ"とある。さあ、いざや来たりて報え、復讐するは汝なり!』
 全身を奮い立たせるかのように動こうとするトレジャリーガードの肩から、両腕がぼとりと千切れ落ちた。
 よく見れば、うっすらと立ち上る煙を弾く何者かの影。ムルヘルベルが呼び出した魔神が、両腕を、その背部をまるで締め上げるかのように押さえつけていた。
「さあ、とっととスクラップにしてしまえ、才堂ォ!」
「……うるっさいわね、わかってる」
 最大火力を期待して声を張り上げる少年?の声に、紅葉は物凄く嫌そうに小さく呟きつつも、再びアサルトライフルを手放して駆け出す。
 一日に二度も使う羽目になるとは……毒づく紅葉の口元は苦々しげである。
 別に頼られるのは嫌ではない。長く金をもらって仕事をする稼業にいれば、頼られることはこの上ない信用とも受け取れるからだ。
 信用は金だ。そう、才堂紅葉は金が大好きなのである。
 だからこそ、再び取り出した『高い詠唱弾しか撃てないリボルバー』を頻繁に使うのは、心底から不本意なのである。
 とはいっても。今はこれを使うのが最良といってもいい瞬間だ。
 動きを抑えられたトレジャリーガードに駆け上がりつつ、リボルバーを握り込めば、ひどく心が静かになるのを感じる。
 金を溜めるのも、浪費するのもまた快感だ。それもあるだろう。
 しかし、いざこうして集中を高めてグリップを握り、狙いをつけ、撫で付けるようにハンマーに指を添えると、不気味なほど厳かな気分になる。
 こいつは今、あいつをやっちまえと言っている。
 なんと機能美に溢れた暴力装置だろう。ああ、だから、
『ったく……こんな古臭い武器は好みじゃないんだけどね』
 心中で信頼の言葉を発すると、退行する時間の彼方で六発の弾丸が一つに連なって一斉にコーラスを紡いで列を成す。
 六発のバースト。それが赤熱するトレジャリーガードのコアに狙いを定めて突き進んでいく。
 銃弾に込められたのはいずれも強力な術式反射。いかなる魔術障壁をも突き破り、お互いの銃弾が干渉しあってより強力に貫通力を増していく。
 熱線を照射できるコアが詠唱弾と干渉を引き起こし、派手に炸裂する。
 猛烈な爆炎が吹き上がる頃には、紅葉は付近の地面に着地していた。
 熱と硝煙を発するリボルバーを手に、トレジャリーガードを省みると、爆炎の中心が不意に歪んだ。
 まさか!と思った瞬間には、炎を突き破って飛んできたロケットパンチを、再びカプラが回りこんで受け止めていた。
「嘘でしょ……」
「まったく、楽をさせてくれませんな」
 呆けたように目を見開く紅葉には、励ますようなカプラの声はあまり届いていないようだった。
 大きなダメージを与えたには変わりないだろうが、トレジャリーガードはまだ動く事を諦めていないようだ。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​

高階・茉莉
🔴🔴🔴で真の姿になり戦闘。
真の姿の外見は瞳が紅くなる。

■心情
最終試練ですか、こんなものが秘められていたとは驚きです。
ですが、私たちも協力すれば、
決して負けないと見せ付けてあげましょう。

■行動
WIZ判定の行動を取ります。

『ウィザード・ミサイル』で遠距離からの攻撃をメインに行いますね。
『属性攻撃』で強化しつつ、『2回攻撃』で確実に攻撃を当てますね。

ロケットパンチは無理に避けずに、手にした武器などで撃ち落とす様にし、
コアブラスターが来たら、一旦距離を取ります。
マジックバーレッジが発動したら、視認出来ない死角などに隠れて
やり過ごす事にしますね。

「最終試験、私は合格……でしょうか?」


ミラ・アルファ
試験用とは…少々ハード過ぎやしません?まぁ、いいや、愚痴を言っても仕方ない。ここに来るまで散々な目にあったし、もう動かなくなるくらいズタズタにしてやる。

基本的には2章と同じ戦法を使います。ですが、不安なのでできれば他の人と連携する形で動きたいです。


ハルピュイア・フォスター
【SPD】
メイド戦は前半の幻影を見た影響での気持ちを落ち着かれる為に参加しなかった事を心の中でみんなに謝罪。わたしは…大丈夫。

生まれたばかりだけど…さようなら、今回は怒ってる。
前半でのお姉ちゃんを使っての歪な幻想を見せられた事への恨みの殺気

胸部からの攻撃に当たらない為に対象の正面に立たないように注意しダッシュで動き回りながら攻撃
攻撃時には鎧無視攻撃を使用し、一瞬隙があればLast memoryで攻撃し壊す、次はあなたが恐怖を感じる番。

試験の結果と試験後のご褒美は何?
戦闘後動きがなければこの施設に卵状学園関連の資料と同じ様な施設がないか調査して次に備える


歩・備忘録
主の幻を見たのは、初心に戻る良い機会だったのかも知れない。主のために何もできなかった僕だけど、ここにいる皆は死なせるわけにはいかない。
守りに特化した戦いをお見せしよう。

ゴーストを召還して、[オーラ防御]の呪符を持てるだけ持たせる。
その後僕は思いっきり走り囮役。注意を引きつつ、[かばう]とオーラ防御で作った障壁で前衛を守る盾になる
召還したゴーストは後衛の味方周辺を巡回。後衛狙いの攻撃と流れ弾を、同じくオーラ防御で防ぐ。



決着は近付きつつある。
 紅葉の一撃により、トレジャリーガードの胸部装甲は花が咲いたように内部から爆ぜて、その主要機関であるコアが剥き出しになっている。
 しかしその状況を一気呵成に、とはいかない。
 最終試験とのたまったとはいえ、トレジャリーガード本体も、この迷宮の主の思想によって配置された駒に過ぎない。
 命令通りに戦う人形は、自身の危機的状況にも関わらず、ただただ常と変わらず苛烈に攻撃を繰り返すのみである。
 その身を削るかのごとく。
「こっちはもう決定打を使えない。悪いけど、牽制に回るわ」
 鎧の外装を取り払うに終始した紅葉が苦々しげに溢すと、素早く身を翻してアサルトライフルを拾いなおす。
「うむ、加勢も着た。援護に回るぞ」
 ムルヘルベルが、未だ壁となり続けているカプラの後ろから紅葉の提案に乗る形で空をあおぐ。
 攻撃の抑制は続けているものの、完全ではない。
 追い詰められているトレジャリーガードは最早、余力などかなぐり捨てている状況らしい。
「後もう少しです。私達も協力すれば決して負けない、というところを見せ付けてあげましょう!」
 高階茉莉が声をあげ、魔術を練り上げる。
 先制攻撃を仕掛けた猟兵たちの体勢を整えるべく遠距離からの砲撃支援だが、生半可なものでは目眩ましにも足りない。
 茉莉の眼鏡の奥の瞳が燃え上がるように紅く染まる。
 渾身の魔力を込めた二本の魔法の矢が組み上げられると、それを検知されたのか、トレジャリーガードの胴体から光が煌く。
 追尾の魔法弾が来る!
 しかし魔術の構成に足を止めている茉莉に、咄嗟に対応する手立ては無い。
 せめてもの抵抗にとレジストの方陣を固めようと口を引き結んだところ、不意に彼女の周囲に見覚えの無い呪符が浮かんだ。
 そして足元にはそれらの呪符を展開させたと思しき、なんだかコミカルな幽霊っぽい何かが茉莉に向かってぐっと親指を立てていた。
 思考はそれまで。視界を覆うような大量の光の弾幕が茉莉の目の前で爆ぜては消える。
 呪符の発するオーラが、降りかかる光弾を相殺しているのだ。
『偵察、支援砲撃、呪符の運搬、日々の疲れを癒すマスコットまで・・・この一体にお任せだよ』
 涼やかに告げつつ幽霊っぽい何かを手繰って労をねぎらっている学者風の男、歩備忘録は茉莉の傍に現れた。
「やや遅刻しちゃったけど、これからが見せ場だ。守りに特化した戦いをお見せしよう」
 精神的余裕を見せる歩はしかし、その心に大きな傷の余韻を残していた。
 主の幻を見たのは、初心に戻る良い機会だったのかも知れない。主のために何もできなかった僕だけど、ここにいる皆は死なせるわけにはいかない。
 痛みの記憶は、奇しくもこの最終考査兵器の思惑通り、歩の心を屈強に鍛えていた。
「前線の皆が戦ってくれていたお陰で、僕たちは安心して戦える。今度は僕たちが彼らを助ける番だ」
 術を練り上げ続ける茉莉以外で、歩の言葉に応えたのは二人。
「うん、わかってる。わたしは……大丈夫」
「あれで試験用って、ちょっとハード過ぎません? まあ、動かなくなるまでズタズタにしてやりますけどね」
 前回までの戦いで多少のダメージを負って休憩していたハルピュイア・フォスターと、ミラ・アルファ。
 いずれも万全を期すため様子を見ていたが、もはや全力を投じなければならない状況となったため、ここに居る皆で同時攻撃を仕掛ける事を決めたのである。
「さあ、この中で後方からの攻撃ができて、且つ余力があるのは茉莉くん、君だ。守りの事は気にしなくていいから、タイミングを見て仕掛けてくれ」
「それにあわせて、わたしが死角から攻撃」
「僕は正面から攻撃する。挟み撃ちだね」
「あの、それで歩さんは?」
 簡単な作戦を組み上げたところで、茉莉がふと尋ねると、歩は自慢げににやりと微笑み、
「言ったろう。守りの戦いを見せてやるって。さあ、行動開始だ!」
「ええ!?」
 高らかに宣言、とくに質問には答えぬまま、歩とハルピュイアとミラは同時に駆け出した。
 あんな学者風というか魔術師風というか、そんな格好で前線に駆け出していくのはちょっと違和感ではあったが、あの魔法障壁の呪符があるならば、心配はないのか。
 彼が残していった謎の幽霊っぽいマスコットは、件の呪符を両手いっぱいに持ってかなりやる気を見せている。
 なんだかちょっと可愛らしいが、同時に頼もしくもある。
 そうだ、自分のやれる事に集中しよう。
 最終試験。こんなものが秘められているとは驚きだったけれど、これが試験だというなら、自分なりの成果をぶつけるまでである。
「最終試験、わたしは……合格でしょうか?」
 力強い笑みを称えて、二倍以上に膨れ上がった魔法の矢を解き放った。
 空気を切り裂く紅蓮の炎が不自然な紡錘形でトレジャリーガードに突き刺さる。
 地鳴りのような衝突音が続けざまに鳴り響き、トレジャリーガードが大きくのけぞる。
 コアを狙撃することは叶わなかったが、ロケットパンチの片腕と、もう片方の腕を接続する肩を剥ぎ取る事に成功した。
「チャンス……」
 その絶大な隙を、他の猟兵が見逃すはずも無く、いち早く反応したハルピュイアが、それまで迎撃用の光弾を避ける動きから死角に回りこむ動きに切り替えた。
 移動の速度と自身に纏う防具が、ハルピュイアの姿を背景と同化させて見えなくする。
 無防備な背後、そこはまだ装甲に覆われている。しかし、刃を突き入れる隙間が皆無ではない。
 透過した最中で、自身の目が据わっていくのを感じる。
 そうだ、わたしは不機嫌なのだ。自慢の姉をあんな風に見せるなんて、許せない。
『あなたの夢をいただきます。』
 柔らかな土壌に種を撒く穴を開けるが如く、ハルピュイアの得物は易々とトレジャリーガードの装甲を貫いた。
「ユラン、全力で行く。手を貸してくれ」
 続けて、ミラが助走をつけた状態から大きく槍を振りかぶっていた。
 のけぞって露になったコアに向かい、ほぼ一直線に助走をつけることが出来たのは、攻撃を防ぐ盾、攻撃の抑制、弾雨を逸らす囮と、そして歩の呪符による皮膜。これらの存在がこの一撃に必要な助走を可能にしていた。
 彼らの協力に感謝、そして忌々しく立ちはだかる最終試験とやらへの一撃へと、ミラの意志は前へ前へと突き進んでいた。
 そうして、彼の相棒とも言うべきドラゴンランスが顎を開くかのごとく蠢き、ミラの最助走からの渾身の一撃に合わせて食らいつくと、閃光と化した一突きが頭の後ろまで貫いた。
 それが致命的な一撃である事を示すかのように、トレジャリーガードはようやくその膝から弛緩し、巨体の腰をゆっくりと地につけるのであった。
「……や、ったのか?」
 槍を引いて数歩下がるミラがその警戒を解いたその時、トレジャリーガードの亡骸からくぐもった声が漏れてきた。
『おめでとう! 貴君等は見事、試験を突破した。改めて健闘を称えよう。おめでとう!』
 意外にもそれは、勝算の言葉だった。
 おそらくは、試験を突破した者に残したメッセージに過ぎず、トレジャリーガードはあくまでも設置された装置としての仕事をしたに過ぎないのだろうが、その場違いとも言うべきメッセージを聞いた一堂は、思わず脱力してしまう。
「なんだよもう、ふざけるなよ……」
「何がくるのかと思いました」
 緊張の糸が途切れたかのようにその場に座り込むミラと、ほっと胸を撫で下ろす茉莉。
「うーむ、張り切っていっぱい用意したけど、あんまり使わなかったなぁ」
「結果はいいとして……ご褒美、ないの?」
 召喚した偵察霊から呪符を回収しつつ何やら思案顔の歩と、残されたのがメッセージだけなのに不満げなハルピュイア。
 一堂に疲労の色はあるものの、大きな怪我をした者は幸いにもいなかった。
 学園考査兵器なるものが、どうして存在したのか。なぜオブリビオンとして迷宮に発露したのか。それはこれから調査すべき事なのかもしれないが、それは一先ず置いておくとして。
「結局、卵の中身、これだけ……? 卵、食べたかった……」
「そうですね。わたしもお腹がすきました」
 トレジャリーガードの残骸をためつすがめつ色々な方向から観察しては肩を落とすハルピュイアに、茉莉が困ったような笑みを浮かべると、他の猟兵たちもそれが伝播する。
「そういえば、なにか奢るとか言うておらなんだか?」
「んん? そうだったかなァ?」
 あちらこちらで、
「やれやれ、また結局、破壊するしかできませんでした」
「仕方ないですよ。戦わなきゃ、僕らが壊され……殺されるところだった」
「うーむ、しかしながら資料的価値はありそうだよ?」
 この功績に労い、労われつつ、恐怖と脅威を乗り越えた猟兵たちは暫し心地よい疲れの中で肩を寄せ合うのだった。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​



最終結果:成功

完成日:2019年01月09日


挿絵イラスト