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笹の葉さらさら、紅葉はぽとり

#サムライエンパイア

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#サムライエンパイア


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 ――ちりん。

 音がした。
 まだあまり物が見えぬ嬰児には、それが何かは分からない。
 分からないけれど、高く澄んだ音に興味を引かれて嬰児は手を伸ばす。

 その手に触れる女がいた。

 ふくふくと柔らかく。
 女の指先をようやっと掴める程の、小さな小さな嬰児の手。
 紅葉のような、可愛い手。

 女には、見えている。
 このあまりにも小さく脆弱で無垢な存在に、どれ程の人の希望が、祈りが詰まっているのかが。

 健やかであれ。丈夫に育て。
 優しく、強く、気高く、美しく。それから、それから――。

 数え切れぬ程、沢山の願い。
 眩しい程に、強い祈り。

「えぇ、確かに。聞き届けました」

 女は、満足げに月色の目を細めて、嬰児へ赤い手毬を差し出した。

 ――ちりん。

 鈴の音の鳴る、色鮮やかな赤色の手毬。
 警戒心などまだ持たぬ嬰児は、その小さな手を伸ばす。

 ふくふくと柔らかく紅葉のような可愛い手が、手毬に触れて。

 ――ぽとりと、地に落ちた。


「見えたよ、サムライエンパイアだ」

 今日、サムライエンパイアのとある村にオブリビオンが現れるのだと、羅刹のグリモア猟兵――蛍火・りょう(ゆらぎきえゆく・f18049)は、集った猟兵たちへと告げた。

「その現れるオブリビオン『三姫:織姫』ってやつを、ぶっ飛ばしてきて」

 織姫――という名に、聞き覚えのあるものもいるだろう。
 願い事を書いた短冊を笹竹に飾る行事――七夕の、元となった伝説に登場する人物の1人だ。

「現れるオブリビオンが、本物の織姫さまなのかは……ちょっとよく分からないな。どちらかというと、妖の類みたいだ」

 織姫という伝説になぞらえた存在であることは確かだが、このオブリビオンである織姫は人の願いを叶える事などしない。
 むしろ、その逆。

 織姫の現れる村では、今日は祭りが行われている。
 それは、子供たちの健やかな成長を祈願する祭り。

 出店も、かるたや貝殻で作られた独楽、お手玉や竹とんぼなどの玩具の店から、飴細工や団子などの甘味の店。
 輪投げやくじ引きといった、子供が喜びそうな出店が多く並んでおり、近年では七夕の要素も取り入れて、短冊を飾る事ができるよう笹竹も用意されているらしい。

「でも織姫は、この願いを『奪い去る』つもりだよ」

 織姫は、その操る手毬で子供たちを襲うつもりだ。
 それも、命を奪うのではなく、両の手を奪っていく。

 人々が、健やかであれと願うから。
 その前途が、多難であるように。苦痛であるように。
 見守る大人たちが、絶望に染まるようにと、あえて子供の両手だけを奪っていく。

「だから、まずはこの『手毬』を止めなくちゃいけない。けど……」

 祭りが行われている『西の村』とは別に、この地域には『東』にも、もう1つ村がある。

「手毬は、『西』と『東』。両方の村に放たれてる。行き来している時間はないよ。ぼくは、両方の村の中間にみんなを飛ばすから、どちらの村に向かうかは、それぞれで決めて」

 手毬はぽんぽんと弾んで移動しているため、移動速度が遅い。
 猟兵たちの足ならば、走って追いかければ、手毬が村に到着する前に捕捉する事ができるだろう。

 手毬は、子供の手を確実に蒐集するために、邪魔する者がいるならば、徹底して排除しようとする。攻撃を仕掛けて戦闘に持ち込みさえすれば、逃亡する心配はない。

 だが問題は、どちらの村に向かうべきかという事。

 目標は織姫を討伐する事なのだから、全員で『西の村』に向かうというのが、最も確実な作戦だ。
 だがそれは、『東の村』の被害については目をつぶるという事。

 とはいえ、『東の村』へ戦力を割けば、当然戦闘は厳しいものとなる。
 集団で迫りくる手毬たちを相手に、どのように戦うのか。しっかりと立ち回りを考えねば、苦戦は必至だ。

「織姫は、西の村のはずれ……竹林の中にいるよ。手毬が戻って来なければ、不審に思って村に向かうはずだ」

 その前に、西の村に放たれた手毬を全て片付けて、織姫の元に向かってほしい。

「織姫を、村の中に入れちゃいけない。織姫は、人々の願いを溜め込めば溜め込むほど、強くなるんだ。子供の健康や幸せを祈る祭りの中になんて来られたら、手が付けられなくなってしまうよ」

 ゆえに織姫と戦う際は、竹林でしっかり足止めする必要がある。
 また手毬との戦いで『東の村』へ向かった者は、遅れて参戦する事になるだろう。
 猟兵の足を以て走ったとしても、恐らく戦闘開始から20分前後は遅れる事になる。

 何か移動の工夫をすれば、もっと早く到着できるかもしれないが、そういう意味でも、最初にどちらの村に向かうのかという選択は、重要なものとなる。

 『西の村』と『東の村』。
 どちらに向かっても、間違いではない。
 だが、どちらに向かうのが正しいかと問えば、猟兵たちそれぞれの価値観や考えによって、答えは変わるだろう。

「だから、案内役としてぼくからお願いするのは、織姫を倒して……って、それだけ。どっちの村に向かうのかは、それぞれの判断に任せるよ。選ぶ権利を持ってるのは、実際に戦うキミ達だからね」

 まぁ、オブリビオンの思い通りになるのは、ぼくとしては面白くないし、被害を完全に防げたら、そのお祭りを見に行ってみるのも、悪くないとは思うけど――と。猟兵たちに聞こえるか否かの、小さな声で呟いて。
 りょうは転送の準備を始めた。

「どっちに行くかは決まった? それじゃあ、祭りがぶち壊しになる前に、全部終わらせてきて」


音切
 音切と申します。
 途中からでも、一部の章のみでも、気軽にご参加いただけましたら幸いです。

 時間は昼で、集団戦・ボス戦ともに、
 村の外での戦闘となりますので、光源や人払いの心配は必要ありません。

【1章】
 『東』と『西』、どちらの村に向かうのかをご指定ください。
 指定が無いの場合は、『西の村』に向かった事になります。
 また、『向かう人数が少ない方』等の条件指定でも大丈夫です。

【2章】
 1章で『西の村』に向かわれた方は、織姫と連戦になります。
 1章で『東の村』に向かわれた方は、20分前後遅れる見込みです。
 2章から参加された方は、両方の村の中間地点から竹林に向かった事になり、
 10分前後は到着が遅れる見込みです。
 いずれも、普通に走った場合での見込みとなりますので、
 速く移動する工夫があれば、時間を縮められるかもしれません。

【3章】
 西の村に被害を出さずに織姫を撃破できていれば、お祭りに参加できます。
 子供向けの出店が多めではありますが、
 おでんと冷酒等の大人向けの屋台などもあるようです。
 勿論短冊も、年齢関係なくどなたでも飾る事ができます。
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第1章 集団戦 『蒐集者の手毬』

POW   :    あなたと共に在るために
【自身がよく知る死者】の霊を召喚する。これは【生前掛けてくれた優しい言葉】や【死後自分に言うであろう厳しい言葉】で攻撃する能力を持つ。
SPD   :    理想郷にはまだ遠い
【自身と同じ能力を持つ手毬】を召喚する。それは極めて発見され難く、自身と五感を共有し、指定した対象を追跡する。
WIZ   :    いつか来る未来のために
小さな【手毬】に触れた抵抗しない対象を吸い込む。中はユーベルコード製の【全ての望みを再現した理想郷】で、いつでも外に出られる。

イラスト:にこなす

👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​

種別『集団戦』のルール
 記載された敵が「沢山」出現します(厳密に何体いるかは、書く場合も書かない場合もあります)。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


 サムライエンパイアの地に降り立った猟兵たちの反応は、大きく3つに分かれた。

 最も早く動いたのは、一切の迷いなく、己が行くと決めた方向へと走り出したもの。
 後に続いたのは、既に行く方向は決めてあるが、それでも、反対方向に向かう仲間の姿を確認してから走り出したもの。
 そして最後に、先に駆けだした仲間の背を数えて、それから行先を決めたもの。

 猟兵たちそれぞれが、各々の価値観や考え方を持つがゆえに、反応は分かれた。
 けれど、全員が目指すものは唯1つ。

 犠牲を出す事なく、絶望を振り払い、元凶を断つ。

 それは、最も高き理想。
 今、猟兵たちが走るのは、そこに辿り着くために選んだ、最も険しい道だった――。
秋穂・紗織
●東の村へ

沢山の祈りを、願い、想いを込められた命
未来の輝きを握れる筈の、その小さな手
まるで満天の夜の星のように儚くて大切なもの


奪わせたくない、守りたいって、当たり前のことでしょう?
全てをと思う私は、私を信じて駆け抜けます
風のように迅く、詠うように澄んだ儘に
命を救う為に命を削っても

――それが、私の願い、ですよ


ダッシュを使って敵達へと駆けつけながら
敵の動きを見切りで確実に読みながら、天峰白雪による連続斬撃で斬り捨てていきましょう
召喚されるより多くの斬閃繰り出し
一秒でも速く、一体でも多く、東の妖魔の伏滅を

くるり、するりと旋風のように

刀に結い上げた鈴を鳴り散らして
手毬が纏う狂気と鈴を斬り散らしましょう


月山・カムイ
『東の村』の防衛を担当

子を想う親へ絶望を与える等……未来を奪おうとするオブリビオンらしい、と言うべきでしょうか?
まぁ、させませんよ絶対に
その思惑、この絶影で断ち切りましょう

村人に見られる心配が無いなら、宇宙バイクを地上モードで使用するのに支障あるまい
手毬の集団へ容赦なく突っ込んでゆき、ユーベルコードを開放
数千万の斬撃で容赦なく斬り刻んでいく

ほぼ孤児の様なものなので、死者の霊を召喚されても顔色一つ変えず斬り捨て
手毬が増えた場合、対象を認識しないと攻撃できないので厄介ですが、こちらに攻撃を仕掛けた時点でその意志を見切り、カウンターで切り落とす

織姫とやらとの戦いも有りますのでね、手早く終わらせますよ


ナハト・ダァト
『向かう人数が少ない方』ヲ選ぶヨ

より確実ニ、より多くヲ。助けるためにネ

早業、地形の利用、罠使い
トラップツールⅡを活用してより広範囲へ樹木を広げていく
手毬が人を襲わぬように、樹枝に絡みついて身動きが取れなくなった物から
生命力吸収で力を奪い、樹木の生長に用いる

弱き者ヲ狙うなド
言語同断ダ

「啓示」「瞳」を用い、情報収集と世界知識から理想郷の仕組みを素早く看破
この程度ノ幻覚、抜け出すのハ造作モ無イ
それニ、私ノ望ミは既ニ果たされていてネ
今更願う物なド。これ以上無いのだヨ

子供へ攻撃が届きそうになったら、オーラ防御、かばうの技能を使用
UC「溶け込む夜」で体を広げ、広範囲に守れるように武器改造で体を弄っておく


フォルセティ・ソルレスティア
【ペア/f00964】【WIZ】(共闘/アドリブ可)
「うん、わかった。ボクは西の村に向かうよ」
フィオ姉ちゃん(f00964)と別行動だけど頑張るよ。
子供たちを狙うなんて本当にひどいよね!
【行動】()内は技能
ちょっと無理あるけど鬣つけて馬みたいにしたFlying Broom GTSに
(騎乗)して西の村へ。とにかく急ぐよ
手毬を見つけたら(先制攻撃)でラビリント・ネプトゥノを発動するよ
これで手毬の動きをかなり制限できるし、迷宮の壁でダメージを
与えることもできるしね
そして壁を越えたり、出口から出たりする手毬に対して
(高速詠唱)で【クラロ・デ・ルーナ】を放つんだ


フィオリナ・ソルレスティア
【ペア/f05803】【WIZ】(連携・アドリブ可)
「私は東の村へ向かうから、そっちはお願いするわ」
西の村はフォルセティに託すが、戻るまで無理はしないようにと言い聞かせる
■作戦
弟は西の村へ自身は東の村へ駆けつけて手毬と戦う
■行動
村までは馬っぽく偽装したFlying Broom GTRに[騎乗]して駆けつける
「確かにこれだけ数が多いとやっかいね」
でも時間をかけていられないとばかりに、[2回攻撃×範囲攻撃]で
【ウィザード・ミサイル】を手毬の群れに放つ
炎の矢で燃やし尽くす狙い
さらに【エレクトロレギオン】を展開して撃ち漏らした手毬を撃破する
「向こうは大丈夫かしら」
離れて戦う弟の様子が気になって仕方ない



●分かれ道

 ふわりと、春を思わせる柔らかな衣が翻る。
 普段ならばその柔らかな衣の色味と栗色の髪が、少女を――秋穂・紗織(木花吐息・f18825)を、さらにふんわりと穏やかに見せているというのに。
 全力で駆ける、その茶色の瞳に宿しているのは、強い覚悟の色。

 何を迷う事があろうか。

 奪わせたくない、守りたい。
 当たり前のことだ。
 ここに駆け付けた仲間達も、きっと……。
 だから、それを望むことを、欲張りなどとは思わない。

 赤き手毬の影を、決して見落とさぬよう、視線は真っ直ぐに。
 ――選んだのは、『東』への道。

 その紗織へと迫る、騒音。
 舗装のされていないサムライエンパイアの道は、お世辞にも走りやすいとは言えないが、村人に見られる心配がないなら、このバイクを使用するのに支障はあるまい。

 この道に先に待ち受けるものは、子供の両手を奪うという。

(子を想う親へ絶望を与える等……未来を奪おうとするオブリビオンらしい、と言うべきでしょうか?)

 させはしない。絶対に。
 その為にはまず、一刻も早く手毬たちに追い付かなければ。
 1体たりとも、村にたどり着かせる訳にはいかない。

「失礼。先行します!」

 カウルで覆われていない、武骨なエンジンが唸り声をあげて、本来、無重力の空間を走るためのバイクは、月山・カムイ(絶影・f01363)を乗せたまま、紗織を飛び越えひた走る。

「私は『東の村』へ向かうから、そっちはお願いするわ」
「うん、わかった。ボクは『西の村』に向かうよ」

 向かい合い、言葉を交わしているのは、可愛らしい姉妹……ではなく、姉弟。
 子供たちの未来を守る為に、姉弟が選んだのは、一時の別れ。
 あえて、共に行動はせずに。後でまた会おうと。

「子供たちを狙うなんて本当にひどいよね!」

 頬を膨らまし憤慨して見せる弟の方――フォルセティ・ソルレスティア(星海の王子様・f05803)は、やる気に満ち溢れているようだが、姉――フィオリナ・ソルレスティア(サイバープリンセス・f00964)は、無理はしないようにと窘める。
 フォルセティに西の村をお願いすると、そう言ったものの。実際の所、離れがたいと強く思っているのはフィオリナの方なのかもしれない。

 だが今は、そんな感情は胸の奥に隠して。
 2人は背中合わせに、バイクへと跨る。

 2つのエンジン音が遠ざかっていく中で、何やら怪しい影がキラリと目を輝かせる。
 西を見て。東を見て。また西を見る。
 弱き者を狙う悪しき存在は、1体たりとも見逃すわけにはいかない。

 ――より確実ニ、より多くヲ。

 その結末を望むのならば、大切のはバランス。
 西と東、そのどちらにも敗北は許されないのだから。

 怪しい影――ブラックタールの猟兵、ナハト・ダァト(聖泥・f01760)が選んだのは、『西』への道。


●開戦―東―

 ――ちりん。ちりん。

 涼やかに、高く響く鈴の音。
 走る道の先、上下に動く赤い球体たち。

 見つけた。

 バイクは更に速度を上げて――飛ぶ。
 手にした刃は、太刀と呼ぶにはいささか刀身が足りないが。

(その思惑、この絶影で断ち切りましょう)

 着地と同時、カムイが絶影を振り抜けば、そこから放たれるのは、何人にも数える事など不可能な程の斬撃。

 一瞬。
 瞬きすら間に合わぬ間に、手毬たちが千々に切れ、地に落ちる。

 さて、どの程度、数を削れたか。
 バイクの勢いを殺しながら、カムイは周囲を見回すが、はやり。全ての手毬を倒すには到底至らない。

 数が多すぎる。

 カムイが攻撃を仕掛けた周辺の手毬は、恐らくカムイを敵だと認識したのだろう。村へ向かう事を止め、周囲を囲まんと動いている。
 だが、距離が離れすぎていた数体の手毬が、まだ村の方へと移動を続けている。

 そこに迫るのは、もう1つのエンジン音。

 飛んだ姿は、まさに飛行しているのかと見紛う、美しい流線形のバイク。
 乗り手であるフィオリナの目が捕らえるのは、村へ向かわんとする手毬たち。

 その目の電脳ゴーグルを通して見れば、狙うは一瞬。
 だが今は、その時間さえも惜しい。

 解き放つ魔力は、炎の豪雨と化して。
 もはや狙う必要などない程に、見える範囲の全てを焼き払う。

「確かにこれだけ数が多いとやっかいね」

 燃え転がる手毬たちを蹴散らしながらバイクを止めたフィオリナもまた、周囲を見回すが、数多の斬撃と炎を以てしてもまだ、この数。
 いくら何でも多すぎると、文句の1つも付けたくなるというものだ。

 だが、これで。
 ようやく全ての手毬が、移動を止めた。
 少なくとも猟兵たちがここに立っている限り、手毬が村に向かう事はない。

 ――ちりん。

 鈴が鳴る。

 ――ちりん。 ちりん。 ちりん。

 2人の周囲をぐるりと囲んで、あっちから。こっちから。
 幾重にも幾重にも、鈴の音が重なり響く。
 その数が――段々と、増えている。

 ここから先、小回りが利かぬバイクでは不利かと、カムイとフィオリナは地に足をつけ、各々武器を構える。
 だが、360度。その全てが、敵。

 響く鈴の音の中に、何か……聞き覚えのある声が、混じる。

 カムイの目から、感情と呼べる色が消えた。
 よく知る死者の霊を呼ぶという、手毬の技に、果たして誰が現れるのか。
 心当たりがあり過ぎて、逆に、誰も現れないような気さえする。
 だが、誰が現れようとも。

 ――今はただ斬るのみ。

 ゆらりと見えた『誰か』の影をカムイが斬り捨てんとした、その時。
 手毬たちのそれよりも、高く澄んで響く鈴の音が、赤い包囲網を切り開く。

「ご無事でしょうか!」

 現れたのは、紗織。
 流水がごとく。その足さばきに、紗織の体は手毬たちの間をするりと抜けて。
 しかし振るう刃は、旋風のように。
 美しき刀の通り抜けた後には、パカリと割れた手毬たちが落ちる。

 いや。紗織だけではない。
 「足止め、ありがとねー」と、少し気の抜けるゆるい声は誰のものか。
 『東』を選んだ仲間たちが、続々と合流してくる。

 一先ず、先行したものたちが無事であった事に、胸をなでおろして。
 紗織は周囲を確認する。

 合流した仲間達の攻撃が始まっている。
 包囲網状態こそ解除できたものの。まだ、その数は多い。
 いや、むしろ……こちらの人数が増えたことで、手毬もまた、仲間を増やす事を優先している印象さえ受ける。

 それならば。
 新たな手毬が召喚されるよりも速く。ただ、速く。
 この白き斬閃にて、東の妖魔の伏滅を。

 煌めきは、一閃。
 だがその衝撃は、9つの刃となって手毬たちに襲い掛かる。

 舞うがごとく。返す刃で、また一閃。
 白刃が煌めくたびに、紗織の命は削れゆく。

 だが、それが何だというのだ。

 沢山の祈りを、願い、想いを込められた命。
 未来の輝きを握れる筈の、その小さな手。
 まるで満天の夜の星のように儚くて大切なもの。

 それを、奪わせないためならば。
 己の命を削る業など、いくらでも背負えよう。

 それが、私の願いなのだから。

 白刃は、まだ輝きを失わない。
 いや、全ての手毬を切り伏せるまでは――。

「えっ!?」

 刀を振った手に違和感を覚えて。紗織は思わず飛び退いた。
 明らかに、手毬とは違う、何かを斬った。そんな手応え。

「大丈夫です。機械兵器ですから」

 戸惑う紗織に微笑みかけたのは、フィオリナ。
 多くの仲間が集った戦場で、どこか鬼気迫るような表情に見えた紗織が気になってしまったのは、弟と年のころが近いせいだろうか。

 千差万別な猟兵たちのユーベルコードにも、ある程度の傾向というものがある。
 だから、ほんの少し気にかけて見ていただけで、想像が付いてしまったのだ。
 彼女が振るう技の、代償に。

 弟は、そこまでの無茶はしていないと思うけれど。明るい笑顔の向こう側に、負けず嫌いな一面を覗かせる事もあるから。
 同じ年ごろの子が命を削る様を見過ごせなくて、召喚した機械兵器を、飛び込ませてしまっていた。
 親切心の押し売りをする気はないけれど、受け入れてくれるのならば、それがいいと。「巻き込んでも大丈夫ですから」と、告げて。

「向こうは大丈夫かしら」

 ――見上げるのは、『西』の空。


●開戦―西―

 フォルセティはバイクのギアを上げていく。
 一応、誰かに見られてもいいようにと、馬を模して付けた鬣が腕に触れて、少しくすぐったいけれど。
 手毬たちを村に入れないために。そして、姉が合流してくるまでに、織姫の元にたどり着くために。
 今は一刻も早く、手毬たちを補足しなければ。

「毬を見つけるのは、ボクに任せて!」

 先に駆け出していた仲間を追い抜いて、嘶きの代わりに上げるのは、エンジン音。

 ――ちりん。

 聞こえた鈴の音に、目を凝らしてみれば。
 ――見つけた。

 誰が触れているわけでもないのに、ぽんぽんと弾んで移動する、赤い手毬の群れ。
 すぐにでも攻撃を仕掛けたい所だが、ここはぐっと堪える。
 なぜならフォルセティの技は、戦場全体に効果を及ぼすもの。
 戦いが起こらねば、この場は戦場たりえない。

 走り追い付いてくる仲間達に手毬を見つけたと伝えれば、まずは村への進行を阻止せんと回り込んでいくものたちが2人。
 そして、続く仲間たちの攻撃が始まる。

 戦いが、始まった。
 今、この場は戦場となった。

 ここまで、ぐっと堪えてきたその分の魔力も乗せて。フォルセティが術式を展開する。
 呼びかけるのは、凍結を抱きし冷雪の英霊。
 瞬く間に霧が立ち込め、凍てつく氷壁が手毬たちを閉じ込めた。

 今、この時より。この戦場は、封縛の柩となった。

「見事な迷宮だネ」
「え?」

 手毬を閉じ込めたという事は、それらと戦っていた仲間たちも諸共に迷宮の中……の、はずなのだが。
 フォルセティが驚き振り返れば、そこに居たのはナハトであった。

「いヤ。ちょっと準備をしていたらネ」

 取り残されてしまったのだと。
 トラップツールⅡを手に、しげしげと迷宮の氷壁を見つめるナハト。

 ふム、ふム。
 先に、このような迷宮を展開されてしまった事は、予想外ではあったが。
 どうやら問題なく、発動できそうだ。

 より広範囲へ広がるように。戦場全てを覆えるように。
 トラップツールⅡの設置は、既にほとんど終えている。
 後は、最後の1つを、ここに。

 ナハトが置いた小さな台座のようなそれから、光が溢れて。
 それは瞬く間に、樹木へと変化する。

 か細い枝がうねり、絡み合い。
 枝葉はいくつもに分かれ、太さを増して。
 氷壁の冷たさをものともせずに、迷宮内に生い茂っていく。

 この樹は、敵の生命力を吸収し、味方へと分け与える生命の樹。それが、触れればダメージを与える氷の迷宮と合わされば。
 仲間には癒しを与え、敵は生かして帰さぬ、魔の迷宮と化す。

 場に展開するユーベルコード同士の思わぬ相乗効果に、うわぁ、すごいね!と、フォルセティが目を輝かせたその時。
 いずこから転がり出たか、1つの手毬がフォルセティへと迫る。

「うわぁ!?」
「ァ」

 攻撃を受けたのは、咄嗟に庇いに乗り出したナハト。
 アー……と声をあげ、まるで液体のように……いや、ブラックタールなのでまさに液状生命なのだが、流動的に手毬の中へと吸い込まれてしまった。

 ――ちりん。

「え、どうしたらいいのかな」

 あっという間の出来事に、フォルセティは首を傾げる。
 この手毬1体なら、倒すことは難しくないのだが。
 このまま倒した場合、吸い込まれた仲間は、ちゃんと戻って来てくれるのだろうか?

 疑問の答えを求めて、思わず姉の姿を目で探してしまうけれど。
 ふるりと、かぶりを振る。
 その姉に、西の村をお願いすると言われたのだ。

 まだ、ナハトの放った生命の樹は健在。それはナハトが無事である事の証と言えるだろう。

(少し様子を見てみよう)

 もしかしたら、自力で脱出してくるかもしれない。
 だから、倒してしまわぬように注意して。今は時を稼ぐ。

 吸い込まれた、手毬の中は――暗闇。
 これはいかな理を持つのかと、ナハトが思案を巡らせていると、景色が揺らぎ始める。

 次は、光に溢れた世界。
 ナハトの身に宿す光が、奇異ではない世界。

 また、揺らぐ。
 次。

 己の体が、ヒトのそれである世界。

 揺らぐ。揺らぐ。

 定まらぬ世界に。
 あァ、そういう事カと、理解する。

 定まらぬ筈だ、このような世界。
 己の望みは、既に果たされているのだから。

「今更願う物なド。これ以上無いのだヨ」

 紅い花を閉じ込めた首飾りに、そっと触れて。
 光を放つ。
 この定まらぬ世界を切り裂く、一条の光を。

 次にナハトの目に映ったのは、サムライエンパイアの風景。
 少女と見紛う少年が、戻ってきたね!と喜びの声を上げている。

 偽りの理想の影は、もう何処にもない――。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​

絆・ゆい
東へ

なんと、まあ
おぞましいおひめさんだこと
囃子のこえ。童たちの、喜びのこえ
あざやかな色が、悲鳴とはてる
その未来がまこと、ならば
それは、それは。むごいこと

そうら。みいつけた
見目は愛らし、けど
悪さする、もののけだものね

嗚呼、まどわしがみえる
あれが、わらわの桃源郷
うららかな気候、〝きみ〟がいる日々
あたたかい春が、とこしえに続く世
まこと、うつくしい世だこと
けれども、ぼくは。わらわは
夏のはげしさを、秋のわびしさを、
冬のつれなさを、知ってしまったのだから
ここには、ずうといられないの
だから、ね、さよなら。ぼくの春

うつくしい手毬たち
『華合』にて、むくろへと還す、ね
――さ、お手を拝借
あなたたちに、手はないけれど


逢坂・理彦
『東』
西の村の方が効率はいいんだろうけど…東の村も捨て置けないからね…俺は東の村へ行くよ。
到着は遅れるかも知れないけど西の村に集まってくれた人達が頑張ってくれるだろうし。俺も何らかの手は打ちたいね。

綺麗な手毬だねぇ。子供達が好みそうだ。
命を奪われないにしても手を失った子のこれからのことを考えると楽観はできないよね。
子供達の目に触れないうちにきちんと手毬は片付けておこう。

まずはUC【狐火・椿】で出来るだけ燃やしてしまおう。その後は薙刀で【なぎ払い】斬り込み。敵の攻撃は【第六感】で【見切り】、【カウンター】も出来れば僥倖だね。

アドリブ連携歓迎。



●東の攻防

 途絶えることなく、唄い継がれし四十七音。
 それも今は、ヒトの姿なれば。
 ただ、東へと走る。

 人々の間で、語り継がれてきたという意味で。
 織姫という存在は、ぼくと、わらわと――絆・ゆい(ひらく歳華・f17917)と、近しい存在と言えるかもしれぬ。
 だが、名に『姫』の字を与えられながら。
 その在り様の、なんとおぞましいことか。

 本来、童たちへ喜びを、笑みを与うるものであった筈の手毬は、童たちの手を奪という。
 橙色、黄色の色鮮やかな笑い声を、血の色に似た赤い赤い悲鳴へと変える。
 如何な色にでもなれる筈であった。如何な形にも咲ける筈であった花を、蕾のまま摘み取るがごとき、その所業。

(それは、それは。むごいこと)

 ゆえに、選んだのは『東』への道。

 ――そうら。みいつけた。

 視線の先。
 弾む手毬は、見目も鈴の音も愛らしく。
 けれど、ゆいは知っている。
 その実体は、もののけなのだと。

(綺麗な手毬だねぇ。子供達が好みそうだ)

 遠目に見ても、細やかな装飾が施されていると見て取れる手毬。
 もっと近づけば、より美しいと、そう思ってしまうのだろう。

 だが、ここで片を付けねばならない。

 子供たちが、この鈴の音に気付いてしまう前に。
 この美しさに、興味を引かれる前に。
 その手を、刈り取られてしまう前に。

 両の手だけを奪ってゆくのだと、そう聞いた。命は奪わないのだと。
 だが、このサムライエンパイアと言う世界で、手を失う事がどれほどの困難と苦悩をもたらすかは、想像に難くない。

 それが、どうにも回避出来ぬ未来であるならば、命があるだけマシかもしれんと、そんな言葉を紡ぐ事もできただろう。

 だが、可能性はここにある。
 猟兵たちの選択の中に、それは残されている。

 元凶を断つためには、西の村の戦いこそ重要なのだと。
 それは分かっている。
 だからこそ、逢坂・理彦(守護者たる狐・f01492)は、西へと走る仲間の背中をしかと見届けて。
 彼らに背を向け、ここまで駆けた。

 徐々に、手毬たちとの距離が縮まっていく。
 手毬たちを1つ1つ視認できる程に、近づいた。
 鉄の馬に跨り先行していった者たちは、果たして無事だろうか?

 己が周囲に炎を灯して、理彦は目を細める。
 あぁ、やはり――囲まれている。

 あれ程の数の手毬を相手に、たった2人で先駆けしたのだから無理もない。
 手毬を早く補足したかったのだろうが、まったく若い子は無茶をする。

「足止め、ありがとねー」

 呼び出した炎を放ちながら、声色はあえて緩く、声を掛けた。
 子供たちの未来が掛かった戦いに気負うのも無理はないが、少しだけ肩の力を抜いてくれたらいいと思う。

 だって、若い子たちがあまりに頑張っていると。
 おじさんも、いい所を見せねばと思ってしまうではないか。

 放った炎は、手毬の集団に襲い掛かって。
 赤々と花弁を広げる椿がごとく、燃え上がる。
 その炎熱から逃れんと、手毬が跳ねるごとに、更に別の手毬へと、椿が咲く。

 その炎が消えぬ間に、踏み込む。
 その手の薙刀で一文字を描けば、手毬たちが吹き飛ぶが、まだ攻撃の手は緩めない。

 刃先に更なる狐火を灯して、返す刃を袈裟懸けに振り抜けば。
 炎の剣圧が、手毬たちの包囲網を切り裂く。

 咲いて、咲いて。燃え尽きて。
 あとは、ぽとりと落ちるのみ。

 椿の落ちた後に、戦場に広がるのは春を思わせる、薄紅の花。
 ゆいの放つそれは、匂い立つような鮮やかさと瑞々しさで、手毬の赤色を覆い隠して。
 不思議と、手毬の動きが緩慢に、単調になっていく。

 このままむくろへ還さんと、花々を手繰るけれど、これほどの数。
 全てを捕らえる事は出来ず、いつの間にか背後へと回り込んでいた手毬が、逆にゆいを捕らえる。

 暗転は、一瞬。
 ここは……。

 陽光は春のそれに似て、穏やかで。
 時折風が気まぐれに、ゆいの薄紅の髪を揺らす。
 いや、髪だけではない。
 はらはらと舞う薄紅の花弁と、ほんのり漂う甘い香り。

 それに、あの人影は――。

 嗚呼。
 これが手毬の操るまどわしの技かと、理解した。

 その腕に抱かれている、ぼくと。
 きっと微笑んでいるのだろう、きみ。
 あれが、わらわの桃源郷。

 けれども、ぼくは。わらわは。
 別れを告げねばならないの。
 ずっと、ここにはいられない。

 夏のはげしさを、黄の花を。
 秋のわびしさを、紫の花を。
 冬のつれなさを、白の花を。
 知ってしまったのだから。

 きみが、教えてくれたのだから。
 だから、ね。

 放った季節の花々は、とこしえの春を塗り替えて。
 季節は巡る。

 ――さよなら。ぼくの春。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​

篝・倫太郎
夜彦(f01521)と
向かう人数の少ない方へ

赤ん坊狙うってーのが気に入らねぇ……
ぅン、そうだ
だからマジで気に入らねぇ
さっさと手毬倒して諸悪の根源排除しねぇと

手毬に追いついたら回り込み
村を背にする格好で戦闘
こっから先にはぜってぇ行かせねぇ

拘束術使用
攻撃が届く範囲の視界内総ての敵を鎖で攻撃
俺自身は華焔刀で先制攻撃からのなぎ払い
刃を返しての2回攻撃で範囲攻撃を仕掛ける

良く知る死者とか、そんなん居ねぇしな……
意識してねぇだけで居るかも知んねぇけど
敵の攻撃は攻撃だし、戦うだけだろ

見てるものは多分俺と違う
でも大丈夫だろ、夜彦なら

攻撃は見切りと残像で回避
回避が間に合わねぇ場合は咄嗟の一撃で相殺狙いの受け流し


月舘・夜彦
倫太郎殿(f07291)と参加
猟兵が少ない方の村へ

赤子だからこそ、ですよ
子を愛する親は様々な願いを込める
性格や性質もまだ分からないからこそ子の将来を思い描く
その願いは無限、尽きる事はありません
……ただ、無抵抗だからか

村人を守りながら戦闘へ
室内に入る等、此の場から離れるように指示

抜刀術『風斬』、攻撃回数を重視併せ2回攻撃
手毬へは基本見切り・残像にて回避、カウンターによる斬り返し
村人に手毬が向かった時はかばい、武器受けにて防御

長く生きている故、記憶している死者が多い
私を飾ってくださった主か私が殺めた師か、将又
どんな言葉でも偽りと思うのですよ
私が想う彼等は、私が一番良く知っておりますから



●西の攻防

 選んだのは、西への道。

 バイクに跨り先行した少女……と見紛う少年が、手毬の発見を告げている。
 走る先、猟兵たちの視界に移るのは、夥しいまでの赤色。

 ぽんぽんと弾み移動していく姿は、愛らしい子供の玩具そのもの。
 しかし、猟兵たちは知っているのだ。
 あの手毬たちが、この先の村で一体何を成すのかを。

 振り返るのは、一瞬。
 共に駆ける猟兵の緑色の目を見れば、意図は伝わったはずだと。篝・倫太郎(災禍狩り・f07291)は、手毬たち進行を阻止するため、村の方へと駆ける。

 グリモア猟兵に、事件の話を聞いた時から。
 ずっと、胸の奥が濁るような、落ち着かないような。そんな思いがあった。

 それが何かと問われても、上手く言葉にはできない。
 もやもや……とは、違う。
 イライラが近いような気もするが、やはり違う。

 倫太郎が片手を突き出せば、先頭を行く手毬が動きを止める。

 けれど、今、はっきりした。
 あの手毬たちを見て、はっきりと分かった。
 この感情は――。

 ――『気に入らねぇ』

 振るった薙刀は、炎が尾を引く様に煌めいて、手毬を両断した。

 力を誇示したいだけの輩でも、誇示する相手は選ぶだろう。
 だが、今回の敵はどうだ。
 大人の庇護がなくば、数日と生きられぬ。あまりにもか弱く、そして無垢な赤子に狙いを絞り未来を奪うという、そのやり口が。

「マジで気に入らねぇ!」

 感情のままに返す刃が、手毬たちを纏めて切り裂く。

 周囲に人影が無いことを確認していた月舘・夜彦(宵待ノ簪・f01521)は、倫太郎の声に振り返った。
 彼は、気付いていないようだが……振るう薙刀に妙に力が籠っているように見える辺り、やはり先に聞こえた声は、気のせいではなかったようだ。

 当然だ。怒りも覚えよう。

 長い時を掛けて、ようやく生まれくる赤子だからこそ。
 まっさらな御霊に、輝く未来を沢山の幸をと、誰もが思い願う。

 此度の事件の元凶は、その願いを奪っていく。
 脆く、か弱く。警戒心もなく、善悪すらまだ分からぬ赤子を、微笑みかけながら絶望と言う名の暗闇へと投げ捨てる。

 そのような存在を、のさばらせておく訳にはいかない。

 村まではまだ、それなりに距離があるようだ。
 人払いの心配も必要ない。
 後はこの手毬たちを、ここで確実に仕留めるのみ。

 抜いた刃は、夜空に映える銀の光を湛えて。一太刀に手毬を切り伏せる。
 だが、いかんせん数が多い。
 さらに1歩踏み込んで、返す刃でもう1体。

 まだ、終わらない。

 くるりと体を回転させて、更に一太刀。
 少しでも早く、少しでも多くの手毬を仕留めるために。
 人を守る為の刃ならば、いつまでも振るい続けよう。
 この身は、その為に存在するのだから。

 迫りくる手毬に、再び刀を振るわんとしたその時、戦場の空気が変わる――。

「うおっ!?」

 突如としてせり上がってきた氷壁に、全く同時に飛び退く倫太郎と夜彦。
 更にはその氷壁を樹木が覆い、霧が立ち込めていく。
 これは……。

「手毬の攻撃ではありませんね」

 恐らく、仲間の誰かのユーベルコードだと。
 慎重に、氷壁と樹木を見分していた夜彦がそう判断して。
 夜彦が言うならそうなのだろうと、倫太郎はきょろきょろと周囲を見回す。

 たぶんこの迷宮は、手毬の包囲と分断のために形成されたもの。
 それは分かるのだが、そういう事をするなら、出来れば先に声を掛けてほしかったと思わなくもない。
 突然出現した氷壁をスマートに交わして見せた夜彦に対して、自分だけ声を上げてしまった事が何となく悔しい気がしたとか、そんなことは……。

 ――ちりん。

 迷宮の奥から、鈴の音が迫る。

 村への進行阻止は、この迷宮が担ってくれると見ていいだろう。
 ならば、ここから先は遭遇戦。

 再び視線を合わせて、2人は迷宮を駆ける。

 ――ちりん。 ちりん。 ちりん。

 あちこちから聞こえてくる、鈴の音。
 その中に、誰かの声が聞こえた気がする。

 よく知る死者の霊を召喚するという、手毬の技。
 だがそれが、誰の声なのか。倫太郎にはとんと覚えがなく。

 ゆらりと、目の前に現れた影が『誰か』の姿へと変じていくけれど、構わずに走り続ける。
 共に走っていたはずの夜彦の足音が聞こえなくなったが、それでも進む。
 自分に心配される程度の器ではないだろうと、そう確信がある。

 敵の見せる幻になど興味はない。

 一閃。
 薙刀は、炎の揺らぐ軌跡を描いて。
 『誰か』の影諸共に、手毬を切り伏せた――。

 ――ちりん。

 後方から、声が聞こえた気がして。夜彦は思わず足を止めていた。

 長い時を生きて。見送ったものは多くいる。
 果たして、誰が現れるのかと、振り返れば。

 記憶と寸分違わぬ、『その人』の姿に、目を細める。
 けれど、紡ぐ言葉は――。

 それは、確かに。生前に掛けてくれた言葉。
 けれど、違うのだ。

 その時と、今では。何もかもが違っているのだから。
 本当に『貴方』ならば。
 紡ぐ言葉は、きっと違うものになる。

 重心を落して、手は夜禱の柄へ。
 曇りなき刃は鞘を走る。
 これ以上、『貴方』を貶めないために。

 振り抜いた。
 その剣閃はまさに――偽りを吹き飛ばす、一陣の風。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​

落浜・語
【ヤド箱】【東】

せっかくの七夕だってのに、まったく……。こういうのは本当ヤだな。
西側は任せて東側に行くとしますか。

手鞠を見つけた時点で『人形行列』を使用。
周りをあまり破壊したくはないので、召喚する数は必要最低限にとどめ、シングリッドさんが拘束している手鞠や、なるべく手鞠が固まった位置を狙い、仲間を巻き込まないようにしつつ爆破。
手鞠にはなるべく近づかないが、来るようなら奏剣で迎撃。
悪趣味手鞠はとっととお引き取りを。お呼びじゃねぇんだ。

西への移動はフィンさんのUCを頼りに。

アドリブ、連携歓迎


アルマニア・シングリッド
【ヤド箱・東】
やれやれ
七夕が近いこの時期に織姫が人々を襲うなど、不快この上ないです
洒落にもなりません


空想召喚
手毬がいる範囲を我ハ古キ書ノ一遍ナリ100枚を用いて(武器改造
情報収集
その全域に魔法陣を展開(地形の利用・罠使い

空想するは
発見困難な手毬すら拘束し
触れた場所から砂のように崩壊させていく魔法の茨

津雲さん、語さん、ペインさん
今です

あぁ、この茨の効果があるのは手毬だけですので
ご安心を(スナイパー

私には親しかった死者はいません
お前たちの言葉は
ただの戯言

それで仲間を傷付けないでくれますか?(仲間全員を虹色の紙でオーラ&拠点防御・防具改造

こちらは掃除終了


ペインさん
お世話になります

アドリブ歓迎


ペイン・フィン
【ヤド箱】【東】

さてと
指潰しの自分に、言えたことでは、無いかもしれないけど
人の手は、いろんなモノを作れる、素敵な可能性があるんだ
……奪わせないよ

手毬を見つけ次第、技能使用

傷口をえぐる、鎧無視攻撃、部位破壊、なぎ払い、範囲攻撃
戦闘系技能で、UC無しで、猫鞭を振るって、手鞠をなぎ払っていく

見切り、第六感、聞き耳、追跡、情報収集、視力、暗視
情報収集系技能で、新たな手鞠を探し、見つける

慌てずに確実に、一体も残さないように……、ね

戦闘が終了したら、【ヤド箱】の皆と、その他希望する猟兵に呼びかけ
そして、コードを使用
行き先は、もちろん、西側の【ヤド箱】のメンバーの元に
……さあ、行こう、皆の元へ


勘解由小路・津雲
【ヤド箱】【東】 アドリブ、他の猟兵との連携歓迎
 おや、見知った顔が……。それならおれは東の村に向うとしよう。……こういう時に頼れる仲間がいるというのは、助かるな(ぼそり)。

【戦闘】 
 さてこの手毬は、……あまり近づかない方がよさそうだ。【符術・鳥葬】を使用し、遠距離から攻撃するとしよう。

 鳥たちよ、手毬を追いかけ、引き裂いてやれ。今は、立ち止まっている暇はない。この鳥たちはおれの作った式神、望みなどない。手毬、あんたの術にはかからないぜ。……作られた道具のおれがいうのも、おかしな話だがな。

 さあ、さっさと殲滅させて、西に向かった仲間たちと合流するぞ。移動の際は、ペイン、頼んだぜ。



●物語り―東―

 走る。
 ただ、走る。
 長き時を経て得た、人の器で。

 彼らが目指したものはただ1つ、最良の結果のみ。
 その為に必要なものは『西』と『東』、双方の完全なる勝利だが、体は1つ。
 選ぶことが出来るのは、どちらか一方。

 それでも、『東』の道を行く彼らに、迷いはなかった。

「……こういう時に頼れる仲間がいるというのは、助かるな」

 勘解由小路・津雲(明鏡止水の陰陽師・f07917)が、小さく呟く。
 共に走る仲間には、聞こえていないだろう。
 ただの、独り言だ。

 例えばここに、見知ったものが誰も居なかったとしよう。
 それでも、自分は、こうして走っていたはずだ。
 誰かが西へ向かっているはずだという、漠然とした希望を信じて、可能性に賭けて。
 とにかく、自分に出来ることを成そうと走っていたはず。

 だが、今この胸に感じているものは、そのようなか細い希望ではない。
 その、為人を知っている。実力を知っている者が、西に向かっているという確かな事実。

 その安心感が。頼もしさが。
 津雲の足を迷いなく、気負いもなく、動かしている。

 それは、共に東へ向かう仲間達も、同じなのだろう。

「七夕が近いこの時期に織姫が人々を襲うなど、不快この上ないです」

 洒落にもなりません、と。アルマニア・シングリッド(世界≪全て≫の私≪アルマニア≫を継承せし空想召喚師・f03794)が、唇を尖らせれば。

「こういうのは本当ヤだな」

 落浜・語(ヤドリガミのアマチュア噺家・f03558)も頷いて、溜息をこぼす。

 笹竹に願いを飾って、誰もが星を見上げる七夕だというのに。
 オブリビオンたる姫が織り成すは、洒落では済まぬ怪談噺。
 どうせ七夕寄席としゃれこむならば、笑顔で終れる噺がいい。

 その為には、この戦いに負けは許されない。
 だが、そんな状況でも仲間と言葉を交わす余裕があるのは、はやり、西に仲間が向かっていると知る、その安心感が大きいのだろう。

 ――ちりん。

 猟兵たちの視界に、徐々に、赤色が増えていく。
 鈴の音を鳴らして、ぽんぽん弾む手毬の群れ。

「誰か、囲まれて……、る?」

 手毬の群れの中に、人影が見えた気がして。ペイン・フィン(“指潰し”のヤドリガミ・f04450)が、目を細める。

 あれは確か、バイクに騎乗して先行していった仲間――。

「急ぎましょう!」

 高まる緊張と共に、走る速度を上げて。
 ヤドリガミたちは駆ける――。


「派手に壊さないでくれよ?」

 その語りは、手毬へと向けたものか、それとも仲間へか。
 語の呼び出した人形たちが、手毬の群れへと向かい走る。

 不可思議な力で操られ、カタカタと音を鳴らして迫りくる人形たちは、子供が見たら大号泣しそうな光景だが、相手は手毬。
 人形たちを、排除すべきものと認めたか。躊躇なく人形へと襲い掛かる。

 ――あぁ。壊さないでくれと、言ったのに。

 手毬が人形へとぶつかって、語の人形たちが手毬の中へと吸い込まれていく。

 そんな風に、手荒に扱われたら。壊されたら。
 泣いてしまうだろう。
 だって、人形が壊されてしまったら――。

 爆音が、上がる。

 手毬の群れの、あちこちから。火花を散らして、手毬たちがはじけ飛ぶ。
 爆ぜた手毬同士がぶつかって、先行した猟兵たちを囲んでいた、その包囲網が崩れていく。

 ほら。
 泣く事に、なっただろう?

 その爆炎の消えぬ間に、ペインが駆ける。
 手毬たちが吹き飛び、開いた空間へと身を滑らせて。振るうのは、鉤爪の付いた鞭。

 囲まれた仲間が集中攻撃を受けないように。
 まずは、この手毬たちを散らさなければ。

 ペインが鞭を振るえば、それまるで子猫のように。
 飛びついたかと思えば、すぐ離す。カリカリと引っ掻いてみたりして。
 けれど飽きたら、それでおしまい。
 無邪気であるからこそ、残酷に。手毬の傷を割いて、落としていく。

 だが手毬たちとて、やられっ放しではない。

 跳ねる。跳ねる。
 ぽんぽんと、跳ねて弾んで。
 互いにぶつかって。
 1体が、凄まじい速さでペインへと迫る。

「――っ」

 辛うじて、避ける事ができた。
 手毬たちの動きの傾向を、よく観察していたことが幸いした。
 恐らく、今のは……。

(吸い込んでくる攻撃、だね)

 吸い込もうとしてきた時に、しっかりと抵抗すれば回避できる筈だが。
 それにしても、手毬たちは互いにぶつかり合い、巧みに軌道を変えて迫ってくる。
 これでは、動きが読みづらい。

 気を付けろと、ペインが注意を促せば。
 語がしかと頷き、奏剣を構える。

 手毬が跳ねて。跳ねて。右から来るかと思えば、下から跳ね上がり。
 辛うじて交わせば、今度は跳ね返り左から。
 動きが、目で追いきれない。
 捕まればお仕舞の、悪趣味な追いかけっこ。本当に悪い手毬だ。

「とっととお引き取りを」

 右手より迫る手毬に、奏剣を突き立てた。
 だが、その刃を抜くより早く、今度は真逆の方向から別の手毬が語へ迫る。

「お呼びじゃねぇんだ!」

 手毬たちのしつこさに、少しばかり語気を荒げて。
 振り向きざまに奏剣を振り抜けば、すっぽ抜けた手毬が、迫る手毬を吹き飛ばした。

 ――ちりん。

 鳴り響く鈴の音に、津雲は眉根を寄せた。

 手毬の1体1体は、大した強さではない。
 駆け付けた仲間たちの攻撃は、既にかなりの数の手毬を屠っている筈なのに。

 鈴の音が、止まない。
 数が減ったと感じられないのは。

(実際、増えているのでしょうね)

 手毬は、手毬を呼ぶ。
 それは、意識して見ていなければ、気づくこともできない厄介な技。
 何か、手を打たなければ、この戦いはいつまで経っても終わらない。

 中空に描くのは五芒星。
 力強く呪言を発すれば、紙片は鳥の姿を模して、空へと羽ばたく。

 数には、数を。
 戦場が陰るほどの鳥の群れが、空から手毬たちへと襲い掛かる。

 それに、この手毬たちには、まどわしの技がある。
 あまり近づかない方が良さそうだと。
 鳥を操る事に集中して、津雲自身は手毬たちから距離を取る。

 手毬もある種の道具ならば、自分も道具。
 そして、共に不可思議な術を操る者同士。
 何ともおかしな巡り合わせだが。子供達への被害を防ぐため、ここで立ち止まってはいられない。

「手毬、あんたの術にはかからないぜ」

 この鳥たちに、お前たちのまかやしは通じない。

 だが、津雲とは反対に、前へと進み出る者がいた。
 鈴の音がうるさい程に鳴り響く中へと、アルマニアは足を進める。

 案じる津雲の視線に気づくが、大丈夫だと首を横に振る。

 自分は、大丈夫。
 手毬のまどわしに、意味はない。

 ――ちりん。

 鈴の音は、鳴るけれど。
 その音の中に、誰かの声が重なるけれど。
 アルマニアの表情は、冷静そのもので。

 いや、むしろ。
 目の前に現れた『誰か』の影に、アルマニアの視線は冷たさを増す。

 よく知る死者の霊を召喚する、手毬のまどわし。
 だが、自分には『親しい』死者などいないのだ。
 誰が現れようとも、心を乱すには至らない。

 影の紡ぐ言葉は、ただの戯言。
 ほんの少し、耳障りで。
 かような技で仲間を傷付けようとする、その1点において、極めて不快なだけ。

「それで仲間を傷付けないでくれますか?」

 手にした手帳から、虹色の紙が舞う。
 紙鳥たちの間を縫って、戦場へと散らばるそれは、手毬にぶつかった所で、特にダメージを与えている訳ではないが。
 誰もがその虹色に目を奪われている隙に、地面に不可視の文様が描かれていく。

 この文様は。魔法陣は。
 長き時を掛けて連綿と積み上げられてきたものの、結晶。
 その全てを、自分自身に刻み受け止めたアルマニアだからこそ、使う事を許される神秘。

 空想は、術式を介して現実となる。
 意識を凝らさねば見つけられぬ手毬たち――ならば『それ』は、発見困難な手毬さえも追尾するもの。
 跳ね弾み、軽やかに逃げる手毬たち――ならば『それ』は、手毬を拘束する力を持つもの。
 1体たりとも、残してはならない。逃してはならない――ならば『それ』は、捕らえた手毬を砂のように崩壊させるもの。

 呼び出された『それ』は、茨の姿をして。
 瞬く間に、戦場に伸び広がる。

 捕らえられた手毬がもがき震えるけれど、この茨が手毬を逃す事などない。
 そういう風に、空想したのだから。

 手毬の体が、徐々に砂と化して崩れていくけれど、その崩壊を待つつもりはない。

「みなさん、今です!」

 津雲の、語の、ペインの攻撃が、手毬へと迫る。

 未だ茨を逃れ逃げる手毬が、反撃に転ずるけれど。
 手毬に体に触れられても不思議と、吸い込まれる事はない。
 いつの間に展開していたのやら。彼らが身に纏う衣には、オーラの守りが施されていたから。

 あちこちに上がる爆煙の間を、紙鳥たちがすり抜けて、飛ぶ。
 地に落ちて、それでもまだ動こうと転がる手毬にペインが猫鞭を振り下ろせば。深々と爪痕を刻む。

 本来、手毬というものは、子供を喜ばせるためのもの。
 誰も傷つける事がない、その丸い形は。自分とはかけ離れたもの。

 指潰しのヤドリガミであるペインは、よく知っている。
 手という機能を失った人間の痛みと苦しみと。そして、絶望を。

 その自分が、子供の手を守るために戦うとは、何とも皮肉な気もするけれど。
 人の手は、色々なモノを作る事ができる。それがどれほど眩しく、尊い可能性か。
 それは、ここに集いし仲間が。心の宿りしモノである者たちの存在が、証明してくれいる。

「……奪わせないよ」

 その手の鞭は、鈴の音が止むまで止まる事はなかった――。


 1体でも残っていれば、手毬はまた増えてしまう。

 一刻も早く『西』に向かいたいと逸る気持ちを抑えて。『東』を選んだ者たちは、慎重に、見逃している手毬が居ないか周囲を確認していた。

 だが、もう鈴の音はしない。
 どれほど目を凝らしても、手毬の姿はどこにもない。

 各々、西へと向かう準備を始める中で、ヤドリガミ達もまた視線を交わし頷きあう。
 元より、『西』へと向かう策が、彼らにはあった。

「ペイン、頼んだぜ」
「お世話になります」

 他にも、共に来るものはいるかと『東』の者達に声を掛けて。

「これで、全員だな?」

 共に来るものを語が確認し終えれば。
 ペインが思い浮かべるのは、『西』へ向かった仲間の姿。

「……さあ、行こう、皆の元へ」

 ――そして、あなたの元へ。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​🔴​

クラウン・アンダーウッド
【ヤド箱】【西】
アドリブ・連携 歓迎

「悲劇なんて起こさせないさ!ボクが喜劇に変えてみせよう♪」

UCで[懐中時計]を量産、展開して広範囲の【情報収集】【第六感】で敵の位置や弱点を掌握しつつ、味方と情報共有。「安心してよ。キミ(敵)が何処にいてもボク達(猟兵)が決して見逃さないからさ♪」

ボクがよく知ってる死者(元 器物の持ち主)は何も語らないさ。何故なら、相手はボクのことを知らないんだからね。

複数の[からくり人形]を操り、炎を纏った[投げナイフ]【鎧無視攻撃】を持たせて攻撃。近くの味方に攻撃を仕掛けたら、攻撃を【かばう】からの【カウンター】で反撃。「よそ見はいけないなぁ。ボクと一緒に楽しもうよ♪」


吉備・狐珀
【ヤド箱】【西】で参加です。

本来、七夕の短冊は織姫が願いを叶えるものでなく、織姫に誓いをたてるものだそうですが。
ならば、子供達が健やかに暮らせるように努める親の誓い、ぜひとも貫いていただきたいものです。
邪魔する者は織姫でも容赦しません。

UC【青蓮蛍雪】使用。クラウン殿が位置を教えて下さるのなら攻撃を当てやすいように凍らせます。
炎が当たる直前に消しますのでご心配なく。

※アドリブ歓迎です



●物語り―西ノ壱―

 選んだのは『西』の地。
 先行した少年の報告を受けて、猟兵たちは一気に手毬たちへと攻撃を仕掛けた。

 絡繰り人形たちが、携えた刃が。
 手毬たちを蹴散らす。

 一切の犠牲を出さず、織姫を倒すため。
 『東』へ向かった仲間たちに報いるために。
 心を宿したモノ達の戦いが始まった。

 だが、何の前触れもなく、突如として戦場の空気が変わる――。

「これは……」
「なんだか空気が賑やかだね、なんだろう♪」

 地面より競り上がってきた氷壁が、戦場に迷宮を作り上げる。
 更に霧が立ち込めて、氷壁に沿って不可解な樹木が伸び広がっていく。

 恐らくは、手毬を閉じ込め分断するため、誰かが放ったユーベルコード。
 だが、それによって。

「私たちも、分断されてしまったようですね」

 この場に残されたのは、クラウン・アンダーウッド(探求する道化師・f19033)と吉備・狐珀(ヤドリガミの人形遣い・f17210)の2人。
 奇しくも、人形を繰る者同士が残された形となった。


 本来、七夕というものは織姫が願いを叶えてくれるという行事ではない。
 竹笹に飾る願いは、技芸に関するものがよいとされている。
 その本意は、織姫への誓い。
 飾った願いを叶えるため、努力する事の表明。

 ならば今、西の村で行われているという祭りも、そうなのだろう。
 子供たちが健やかに成長できるように、暮らせるように。
 それを願う親たちこそ、その為の努力を誓っていると言える。

 その誓いを、貫いて欲しいと狐珀は思う。

 その為に、自分たちもまた。
 仲間と分断されたこの状況でも、やるべき事を貫こう。

 親たちの願いを、誓いを阻害するもの。
 この事件の元凶を断つために。いつまでも足を止めている訳にはいかない。

「手毬を倒しながら進めば、あちらとも合流できるかもしれません」

 だから、進みましょうとクラウンへと声を掛ければ。
 そうだね♪という言葉と共に返ってくるのは、果たして状況を分かっているのかと疑ってしまう楽し気な笑み。

 いや。恐らくクラウンの笑みは、状況を分かっていないとか、そんなものではないのだ。
 ただ、悲観をしていないだけ。
 その前向き過ぎる笑みが、場にそぐわなくて。決して口数が多い方とは言えない狐珀としては、どう反応していいか少し困るけれど。

「悲劇なんて起こさせないさ!ボクが喜劇に変えてみせよう♪」

 気にした風もなく、クラウンは足を進める。

 今日は、その『西の村』とやらで、お祭りをしていると聞いた。
 それならば、今日は1日。誰も泣くことなく、楽しく笑顔で過ごせる日でなければいけない。
 お祭りとはそういうものだ。

 ――ちりん。

 通路の奥から、鈴の音が響く。
 近くに、手毬がいるのだろうか?

 目を凝らしてみるけれど、通路は突き当り、T字の曲がり角になっている。
 右か、左か。
 それとも、もしや『見えにくい』状態なのか?

 手毬は、手毬を呼ぶ。
 しかもそれは、極めて発見しにくいという厄介な特性を備えているという。
 それを考えれば、手毬が既に近くに来ているという可能性もある。

 隣へと視線を向ければ、恐らく、同じ事を考えていたのだろう。周囲を警戒していた狐珀と目が合った。
 クラウンは「任せて」の意味を込めて、にこりと笑みを返す。

 手毬が手毬を呼ぶのなら、ボクもボクを呼べばいい♪

 クラウンの周囲に現れるのは、少し色褪せた懐中時計。
 それは、極めて静かにふわふわと、2人の周囲を飛び回る。

 手毬がどれほど見つけにくかろうとも、本体が消失している訳ではない。そこには必ず実体がある。
 手毬が近くに来ているならば、周囲に展開したこの懐中時計たちに触れない筈がない。

 ――ほら、まずそこに。

「安心してよ。キミが何処にいてもボク達が決して見逃さないからさ♪」

 糸を括りしクラウンの十指が、まるで見えぬ楽器を奏でているかのように動けば。糸に吊られた人形が、炎を灯したナイフを手毬へと投げる。

 だが、手毬は意外と素早く。
 すんなりとナイフを交わしたかと思えば、地面も壁も利用して、ぽんぽんと跳ね回る。

「任せてください」

 進み出た狐珀がその手から放つのは、青い狐火。
 無数の炎で手毬を追い立てれば、どうにも行き場を失くした手毬が自ら炎へとぶつかってくる。

 ――無意味だ。

 ただの炎ならば確かに、素早く通り抜ける事でダメージを抑える事ができるだろう。
 だがこの炎は。吉備稲荷神社の狐像の呼び出す炎は、冷気を含む。

 通り抜けるその一瞬の間に、冷気が手毬を蝕んで。
 そのまま壁へとぶつかれば、手毬はピタリと、迷宮の壁に張り付いてしまった。
 壁に触れたその部分が、凍結しているのだ。

 元より、凍てつかせて動きを阻害するつもりではあったが。
 狐珀の放つ狐火と、氷の壁で作られた迷宮との相性の良さが更にそれを容易にしている。

「これなら、目をつぶっていても当たるね♪」

 クラウンの操る人形が、ナイフを構える。
 だが、ちりん……と。
 最後の抵抗か、手毬から鈴の音が響く。

 ゆらりとクラウンの前に現れる影は、クラウンがよく知っている、かつての主そのもの。
 だが、そこに言葉はない。
 当然だ。かつて主が知っているクラウンの姿は、煤けて動かない懐中時計なのだから。
 かつての主にとって、今、目の前に立つクラウンは『知らない誰か』でしかない。

 だから、そのまどわしは通じない。

 炎を纏ったナイフが、手毬を貫いて。
 全ては、炎の中に消えていく。
 言葉なき、主の面影を道連れに。

 クラウンと狐珀は、迷宮を進む。
 クラウンが手毬を見つけて、狐珀がその動きを阻害する連携が功を奏して、今のところ大きな傷をもらう事もなく、迷宮を進む事が出来ている。

 だが流石に、手毬が集団で現れた場合は、少し話が変わる。

 はっきりと視認できる手毬たちの中に、意識しにくい手毬が入り混じり、周囲を跳ねまわる。
 どうしても見える手毬の方に、意識が持っていかれる。
 ――手毬を、捕らえきれない。

 狐珀を狙って跳ねて来た手毬に、よそ見はいけないなぁ、と。
 辛うじて、クラウンの人形が割って入り、攻撃を引き受けた。
 狐珀の目の前で、クラウンの人形が手毬の中へと吸い込まれていく。

 戦闘の時でさえ、凪いだ湖のように静かな狐珀の瞳に、はっきりと怒りの色が浮かぶ。

 今、あの手毬は、何を狙った?
 飛び込んできた、軌道の先にあったもの――それは狐珀自身ではなく、狐珀のからくり人形。
 もしも、クラウンの人形が飛び込んでこなければ。
 あの手毬は、この人形を吸い込んでいたのではないか。

 私から、『兄』を。
 引き離していたのではないか――。

 炎が燃え上がる。
 感情の現れにくい表情の代わりに、狐珀の怒りを表しているかのように。
 炎は膨れ、燃え上がり。壮絶な冷気が、戦場を凍てつかせていく。

 周囲の手毬を燃やし尽くすまで、この青き炎は消える事は無かった。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​

黒鵺・瑞樹
【ヤド箱】【西】
【POW】アレンジ可

子供に被害が行くのは嫌いなんだ。
…だからこそ今は抑えろ。激情に駆られてもいい事なんてない。

右手で「胡」を抜き、あえて【殺気】を放って手毬を【おびき寄せ】る。
【第六感】【見切り】で攻撃を回避しつつ、回避しきれないものは左手の「黒鵺」で【盾受け】する。
「胡」でも攻撃というよりは相手の攻撃をいなす・さばく動きになる。
倒すというより囮として動く。きっと皆うまくやってくれるだろうしな。

なによりこの手の輩が嫌いなのもあって、こうでもしないと自分を抑えられない。
織姫に突撃するのも危険なのはわかってる。


ファン・ティンタン
【WIZ】呪いには呪いを
【ヤド箱】【西】で参加

誰かの望みの逆をゆく者、か…
織姫は、年に一度の逢瀬しか許されない悲劇のヒロインだったかな
そんな制約があったら恨み辛みも有るだろうけど…
誰かに当たるのは、お門違いだよね

【千呪鏡『イミナ』】に魔【力溜め】して【哀怨鬼焔】を発動
幾つもの紫焔で手毬を焼いていく
イミナが不機嫌だよ
呪い方に品が無いって、手当たり次第に呪詛を撒き散らすなんて認めないってさ
イミナは一途だからね、持ち主が死ぬまで祟って、やっと次の主へ渡ってきた
私の死を見るまでは、イミナは私を生かしてくれる
イミナ自身の邪魔をさせないって意思が、紫焔(私怨)の源なんだよ

ん…イミナ、味方には妬かないでね?



●物語り―西ノ弐―

 選んだのは『西』の地。
 先行した少年の報告を受けて、猟兵たちは一気に手毬たちへと攻撃を仕掛けた。

 携えた刃が、絡繰り人形たちが。
 手毬たちを蹴散らす。

 一切の犠牲を出さず、織姫を倒すため。
 『東』へ向かった仲間たちに報いるために。
 心を宿したモノ達の戦いが始まった。

 だが、何の前触れもなく、突如として戦場の空気が変わる――。

「なんだ?」
「地面が、揺れてるね」

 地面より競り上がってきた氷壁が、戦場に迷宮を作り上げる。
 更に霧が立ち込めて、氷壁に沿って不可解な樹木が伸び広がっていく。

 恐らくは、手毬を閉じ込め分断するため、誰かが放ったユーベルコード。
 だが、それによって。

「あっちとは分断されたか」

 この場に残されたのは、ファン・ティンタン(天津華・f07547)と黒鵺・瑞樹(辰星月影写す・f17491)の2人。
 奇しくも、刃を振るう者同士が残された形となった。


 先ほどまで、仲間たちが居た方向……今は、立ちはだかる氷の壁を見つめて、どうしたものかとファンは思案する。

 いや、例え引き離されてしまっても。ここに集った目的は同じ。
 恐らくあちらの仲間も、本来の目的を優先して動くだろう。

 その過程で、必ずまた合流できるはず。
 『東』へと向かった仲間とも。彼ともまた、必ず遠くないうちに再会できるはずだ。

 だが、この事件の元凶は。
 織姫と言う存在は、伝説では年に一度の逢瀬しか許されない悲劇のヒロインであったか。
 そのような制約を科せられては、恨み辛みも有ろうが。

 お門違いだ、と。ファンはそう思う。

 何故に、罪のない子供がその犠牲にならねばならぬのか。
 瑞樹の心は、今にも炎を噴き上げそうな怒りの坩堝と化していた。

 本来の姿は、大振りのナイフ。
 だからこそ、人は生きるために何かを傷付けたり、命を奪う事もあるのは分かっている。
 だが、今回の敵はどうだ。
 ただ、絶望を与える為に。願いを奪う為に、戦う力も身を守る力もない、か弱い子供を狙うという。

 そんな敵の姿を思い浮かべるだけで、反吐が出そうだ。
 胡を握る手にも、力が籠る。
 だが、とりあえず迷宮を進もうと、ファンに声を掛けられて。ゆっくりと、息を吐いた。

 今の自分には、共に戦う仲間が居る。
 その仲間を置いて、感情のままに駆けだしたとして、何になるというのだ。
 ……恐らく、碌な事にはならないだろう。

 そうだなと、ファンに返答をして。
 今は、自分を抑える。

 抑える、つもり……だが。
 手毬をおびき寄せるためと称して放った殺気には、あまりにも明確に怒りと殺意が滲み出ていた。

 ――ちりん。

 鈴の音が、迫る。
 曲がり角から現れた手毬に向かって、瑞樹が迷わず駆けだす。
 ファンは驚くけれど、振り返った瑞樹の目を見て、こくりと頷き返した。

 前での戦いは、瑞樹が引き受けてくれるらしい。
 それならばと、取り出すのは1枚の鏡。

 『イミナ』という名を持つその鏡は。一途なまでに持ち主だけを祟り続けるという。その呪いの連鎖は、果たしてあと何人の主が死ねば終わるのか。百人か、千人か。……分からないけれど。
 今の持ち主たるファンが、魔力を籠めれば。イミナは目を覚ます。

「イミナが不機嫌だよ」

 鏡より吹き上がるのは、紫の炎――。

 複数の手毬をたった1人で相手取りながら、瑞樹は手にした黒い刃……その腹で、手毬を『殴り飛ばした』。
 尋常でない強度を誇る黒鵺でなければ、折れてしまうかもしれない無茶な戦い方。
 だが、そうして孤立させた手毬を、ファンが的確に焼き払ってくれている。

 だから、これでいい。
 あえて、刃は立てない。ユーベルコードも使わない。
 囮に徹するのだと、己に言い聞かせる。

 先ほどの、殺気だってそうだ。
 攻撃するという意思には、どうしたって感情が乗る。
 この、今もふつふつと湧き上がる嫌悪と怒りは、一度決壊してしまえば抑える事など出来ないと。自分で、分かっているから。

 けれど仮に、このまま手毬たちを倒す事ができたとして。
 元凶たる織姫を前にした時は、果たして、この感情を抑える事など出来るのだろうか。

 頭の片隅で、無理だと。
 そう呟く自分がいる。

 その不穏な未来視を振り払うように、瑞樹はかぶりを振った。
 考えるのは、後だ。
 まずは、この手毬たちを全て、屠ってしまわなければ。

 手毬の、その動きだけに集中しろと、己を叱咤する。
 その姿を、動きを、目に焼き付けて。
 ファンが全てを焼き払うまで。鈴の音が止むまで。
 この身は囮と。
 瑞樹はそう、自分に言い聞かせ続けた――。 

 瑞樹が弾き飛ばして、孤立した手毬を紫焔が焼き払っていく。
 前触れもなく、ただ、その鏡面に映し取っただけで、唐突に。
 手毬たちが次々と、炎に包まれ落ちていく。

 取り分け、ファンに向かってくる手毬が、炭さえ残らぬほどに燃やされているのは。
 この子は――ファンは私が祟るのだという、イミナの意思だろうか。

 ファンはそっと、イミナの縁を撫でる。

 手毬たちの、そして手毬を操る織姫の呪詛は、何とも品がないと。きっと、そう思っているのだろう。
 イミナはとても一途だから。
 だから、イミナはファン守ってくれる。
 いずれその祟りが、ファンを蝕むその時まで。

 他者から見れば、ファンとイミナの関係は、奇異なものに見えるのだろうけれど。
 ファンにしてみれば、ただ頼もしいと思う。

 そういえば、『東』の戦いはどうなっただろうか。
 そろそろ、こちらに合流してくるだろうか。
 彼は――。

 ファンが思案に沈みかけたその時、なんだかその手のイミナが、熱を帯びて来たような気がして。

「ん……イミナ、味方には妬かないでね?」

 宥めるように、そっと撫でた。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​




第2章 ボス戦 『『三姫』織姫』

POW   :    【状態異常付与型UC】地上のミルキーウェイ
【絶望(回避成功率低下)の効果を与える光弾】が命中した対象に対し、高威力高命中の【流星の様な無数の光弾】を放つ。初撃を外すと次も当たらない。
SPD   :    【状態異常付与型UC】ウルトゥル・カデンス
自身の【中身に溜め込んでいた、膨大な人々の願望】を代償に、【召喚した、空を覆い尽くす様な巨大な鷲】を戦わせる。それは代償に比例した戦闘力を持ち、【絶望の効果を与える暴風と、その巨大な体躯】で戦う。
WIZ   :    【状態異常付与型UC】破れた短冊
【絶望の効果を与える無数の短冊を放つ事】で対象を攻撃する。攻撃力、命中率、攻撃回数のどれを重視するか選べる。

イラスト:もりのえるこ

👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​

種別『ボス戦』のルール
 記載された敵が「1体」出現します。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※このボスの宿敵主はアララギ・イチイです。ボスは殺してもシナリオ終了後に蘇る可能性がありますが、宿敵主がボス戦に参加したかつシナリオが成功すると、とどめを刺す事ができます。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


●東 ―空を駆ける星のように太陽の沈む方角へ―

 鈴の音は、もうしない。
 手毬の姿は、ない。

 これで、東の村の子供たちが被害にあう事は無くなった。
 けれど、事件はまだ終っていない。
 その元凶を討たなければ、必ずまた同じ事件が起きるだろう。

 猟兵たちが討つべき相手は、遠く西の竹林に居るという。
 ここまで必死に駆けた道を、引き返さなくてはならない。

 仮面で目元を隠した赤髪の猟兵が、共に西に行くものは居るかと声を掛けている。
 何やら策があるようだが。
 その策に乗るか、それとも他の移動手段を選ぶのか。

 彼らの戦いは、戦場へと向かう所から始まる――。

●西 ―七夕異聞『三姫』織姫―

 氷壁の迷宮が消失して、この場が戦場ではなくなった事を。
 全ての手毬を倒す事が出来た事を、猟兵たちは知る。

 だが、戦いの傷を癒している時間はない。

 『織姫を、村の中に入れちゃいけない』とは、グリモア猟兵の言葉。
 子供の健康や幸せを祈る祭りの、その願いを溜め込まれたら、織姫には手を出せなくなってしまうから。
 織姫が竹林に居るうちに、誰かが足止めをしなければならない。
 それは、西を選んだ者たちにしか出来ない事。

 だから、戦いの傷もそのままに、猟兵たちは走る。

 竹林の中で、織姫の姿を探すのは難しい事ではなかった。

 天女のごとき、その姿。
 表情は穏やかで、その目は月の光りを湛えている。
 こいつが――『三姫』織姫。

「あら、あなた方は……」

 その金色の目に、猟兵達を見つけて。織姫は困ったように眉根を寄せた。

「えぇ。言わずとも、分かります。私の邪魔をしにいらしたのですね」

 悲しい事ですが……と、目を伏す姿さえ、美しい女。

 けれど、猟兵たちが織姫に感じているのは、上手く言葉にできない不気味さ。
 だまし絵を見せられて。何処かおかしいと感じているのに、何がおかしいのか分からないような、気持ちの悪さ。

「けれど、私は織姫。あなた方の妨害になど屈しはしません。人々の願いは、この織姫が聞き届けましょう」

 まるで、自分の方こそ正しいのだと言うような。
 猟兵たちの方が、悪であるというような、物言い。

 なんなのだ、この織姫と名乗る存在は。

 織姫という存在がオブリビオンになったがゆえに、こうなったのか。
 それとも、元よりこのような妖なのか。
 知る術はない。

 だが、決して相容れぬ存在だと、猟兵たちは知る。
 この歪んだ織姫の呪詛が親たちの希望を、子供達の未来を奪うその前に。
 必ず、討ち取らねばならない。

 西の戦いが、今、始まる――。
ナハト・ダァト
願いとハ――自身ノ行いニよっテ遂げる物ダ

君の行いハ、只ノ自己満足
身勝手ト、言うのだヨ


願いガ君ノ力
であれバ、その願いヲ流出させよウ

誰モ君ニ願いヲ捧げるつもりデ七夕なド行わないサ
思い上がりモ甚だしいネ

罠使い技能によるトラップツールⅡを用いた
目潰しで鷲と織姫の視界を眩ませ

早業で残像を作りながらのダッシュで接近

三ノ叡智で攻撃の軌道を予知しながら、当たりそうな場合は時間を切り飛ばして回避

一ノ叡智で神秘を強化
武器改造でより鋭く、形状を自在に変化させ命中しやすい触手へ

当たる距離まで接近で来たところで、カウンター&咄嗟の一撃による
九ノ叡智を叩き込む

アドリブ歓迎


篝・倫太郎
夜彦(f01521)と

てめぇの行いを善行のように言うけどよ
そりゃちっとばかし違うんじゃねーの?

善悪なんざ立場が変われば基準そのものが変わる
それこそ、山の天気みてぇに

てめぇの行いが善だと思うのはてめぇの勝手だ
そんでも、どうやったって俺は気に入らねぇし受け入れらんねぇ

譲れねぇ以上はぶつかるしかねぇだろ

織姫を発見したら戦闘開始
エレクトロレギオン使用
展開した機械兵器は
2人の死角フォローと敵の攻撃への身代わり
夜彦への攻撃の身代わりは最優先

俺自身は華焔刀で先制攻撃からのなぎ払い
刃先返して2回攻撃
フェイントを混ぜて攻撃し時間稼ぎ
夜彦の一撃、確実に届かせる!

敵の攻撃には見切りと残像で回避
回避不能時はオーラ防御


月舘・夜彦
倫太郎殿(f07291)と参加

願いを聞き届けると言うのならば、何故人の命も願いも奪うのです
健やかであれという親の想いを、子の命を奪う事で叶えたとは言わせません
私は善悪で争うつもりは毛頭ございません
貴女の行為を肯定出来ず、止めたいと思う

敵を目視にて確認、ダッシュ・先制攻撃・早業にて仕掛ける
基本は2回攻撃、距離を詰めたまま接近戦を維持
光弾は残像・見切りより躱してカウンター、短冊は武器落とし
鷲の召喚には倫太郎殿と連携して優先で狙い、火華咲鬼剣舞にて攻撃

人の願いは、叶わず終わる時もある
叶えてあげようと手を伸ばすのは容易ですが
当人でなければ成らないものもあり
想いも容易には消せない事もどうか分かって欲しい



●双刃は炎と踊り、光は呪詛を穿つ

 人々の願いを、聞き届けるのだと。
 目の前の女は、織姫は、そう言った。

 だが、その身に纏う気配は。膨れ上がる力は、あまりにも邪悪で歪。
 紛れもない強い呪詛の気配に、夜彦は一足飛びに織姫へと迫る。

 一閃。
 振り抜いた刃が斬ったのは、しかし織姫ではなく、短冊。

 くすりと、織姫が無垢な少女のように笑う。
 無数の短冊が、色鮮やかに織姫を囲み舞っていた。

 ひらりひらりと、風に遊ばれて舞う短冊は、織姫が夜彦を指し示すその動作で、鋭利な刃へと変わる。

 これ以上、織姫と距離が開いては、一方的に攻撃を受ける事になる。
 だから、引き下がる訳にはいかない。
 重心を落して、刃は水平に。短冊の軌道へと集中する。

 どれほど鋭利な刃であろうとも、元は紙。この鍛えられた鋼の刃が負ける道理はない。
 迫る短冊の一枚を、突き貫いて。そのまま、一気に横凪に。 
 複数枚の短冊を文字通り、紙のごとく斬り捨てた。

「願いを聞き届けると言うのならば、何故人の命も願いも奪うのです」

 親が健やかにと願えば、子らの手を奪う。
 それを『聞き届けた』と、織姫は表すのだ。

 あまつさえ、人々の願いが綴られるはずの短冊を、攻撃の道具にさえする。
 この織姫と言う存在は、あまりにも矛盾している。

「おかしな事を聞くのですね」

 夜彦の問いの意味を、理解していないのか。
 織姫は少し困ったように、首を傾げる。
 答えはただ一言、「私が、織姫だからですよ……」と。

「てめぇの行いを善行のように言うけどよ、そりゃちっとばかし違うんじゃねーの?」

 答えになっていない織姫の返事に、倫太郎が異を唱えた。

 手毬と戦っていた時とは違い、手にした薙刀で短冊を切り払うその腕に、気負いはない。

 子供の狙うやり口を、気に入らないと。
 そう、ささくれ立っていたはずの心は、不思議と静かだった。

 事の善悪など、立場が変われば基準そのものが変わる。
 生まれ育った山の天候のように。

 先の織姫の言葉に、何となく理解した。
 この織姫は、自身の行いに疑問を持っていない。
 それが、この織姫にとって嘘偽りない『正しい行い』なのだろうと、倫太郎はそう結論付けた。

 人々の苦しみを愉悦としているとか、悪意を持っているとか、そういう事ではなく。
 ただ、正しいと信じる事を、自分が成すべきだと思っている事をしているだけ。
 そう思えば、心は静かだった。けれど……。

「てめぇの行いが善だと思うのはてめぇの勝手だ。そんでも、どうやったって俺は気に入らねぇし受け入れらんねぇ」

 織姫の行いを容認するかどうかは、また別の話。

 互いに譲れぬ以上、後はぶつかるしかないだろうと、夜彦と視線を交わせば。
 しかりと、夜彦も頷いて。
 織姫の月色の瞳を射抜いて、告げる。

「私は善悪で争うつもりは毛頭ございません。貴女の行為を肯定出来ず、止めたいと思う」

 夜彦の真っ直ぐな言葉に、しかし織姫は首を横に振る。

「私を止めるとは、異なことを。人々が願うから、私はここに居るのですよ」

 織姫の体から、光の玉が生ずる。
 いくつものまばゆい光が、空へと昇って、寄り集まって。
 それは、巨大な鷲へと姿を変えた。

 戦場全体が陰る程に、あまりにも巨大な鷲の姿に、倫太郎が咄嗟に機械兵器たちを呼び出し、警戒しろと命を下す。
 夜彦もまた、刀を握り直すが……鷲が行くのは高き空。
 接近戦を得意とする2人には、鷲まで攻撃を通す術がない。

 鷲の巻き起こす絶望の風が、猟兵たちの体を打つ。

 その巨大な影を見上げて、なるほどとナハトは頷いた。

 あの鷲を形作っているのは、人々の願い。
 今日、西の村で祭りをしているというのなら、その数日前から、村の人たちは準備に追われていた事だろう。
 子供達の健やかな成長の為に、祭りが恙なく開催されるようにと『願って』いたはず。

「その願いガ君ノ力」

 織姫の方に視線を向ければ、穏やかな笑みが返ってくる。

 祭りの準備によるささやかな願いで、あれ程の鷲となるならば。
 祭りの只中でこの技を使われたら、一体どうなる事か。

(であれバ、その願いヲ流出させよウ)

 閃光と共に、ナハトが駆ける。
 液状の、柔軟な体を利用して、幾重にも残像を作りながら、織姫へと迫れば。
 織姫の手の動きに合わせ、短冊がナハトへと放たれた。

 だが、どれ程の短冊を放とうとも。
 短冊が切り刻むのは、ナハトの残像ばかり。

 まぁ……と、織姫は目を丸くするけれど、またすぐ穏やかな笑みへと戻る。
 残像といっても、本体は必ずどこかに居る。

「それなら、全て一度に吹き飛ばして差し上げますね」

 舞う短冊が、急激に数を増す。
 織姫の姿さえ、短冊の向こうに隠れてしまう程の数。
 それが全て一斉に、ナハトへと飛び出していく。

 戦場に居た全ての猟兵が、織姫が、奇異な感覚を覚えたのは、その時。

 体の感覚が、急に置き去りにされたような。
 音楽が、急に一節先に行ってしまったような。

 その感覚に首を傾げる暇もなく。
 突然、目の前が陰った事に、織姫が目を見開いた。

 迫る短冊の攻撃を、いつの間に交わしたというのか。
 織姫の目の前で、触手を振りかぶるのは、間違いなくナハトの本体。

 まるで短冊など存在しなかったとでも言うように――いや、存在しなかったのは、『ナハトが攻撃を受けた』という時間の方。
 ゆえにナハト体は、傷一つ負うこともなく、織姫の前にある。

 束ねた触手は、叡智の色を湛えて。織姫の体を穿つ。
 後方へと吹き飛ぶ軽い体に、更にもう1撃。
 だが、3撃目は……織姫の手にした竹によって薙ぎ払われた。

 完全に虚を突かれ、触手の直撃を受けた織姫が、けほけほと咳き込む。

「願いが……」

 織姫の体から、流れ出していく。
 願いと共に記憶されていた経験と、願いを溜め込む技能。
 その2つを封じられた事で、織姫の力が、輝きが、失われていく。

「何て酷い事を。貴方にも、願いはあるでしょうに」

 口元を袖で隠して、ナハトへと向けた顔に浮かんでいるのは、怒りの色。

「思い上がりモ甚だしいネ。誰モ君ニ願いヲ捧げるつもりデ七夕なド行わないサ」

 願いとは、自身の行いよって遂げるもの。
 織姫の行いは、唯の自己満足であり身勝手なのだと、ナハトは一蹴する。
 それに、言ったはずだ。

 ――『私ノ望みハ、既ニ果たされているのダ』と。

 首を振り嘆息した織姫が、次に視線を向けたのは、夜彦。

「それなら、貴方は? 叶って欲しかった願いがあるのでしょう?」

 それとも、貴方自身の願いは『自分が叶えたかった』……ですか? と。
 その月色の目に、何かが見えていると言うのか。織姫が笑う。

 その願いを、聞き届けましょうと。
 甘言と共に放たれた光弾が、夜彦へと迫る。

 それを防いだのは、物言わぬ機械兵器たち。

 問答の時間は、当に終わっているのだ。
 猟兵と、オブリビオン。
 そもそも立つ位置が違うのだと悟った、その時に。
 そんな事は、夜彦とて承知のはず。

 だから、薙刀を手に倫太郎は前に出る。
 織姫の放つ光弾に、追従する機械兵器たちが次々と吹き飛ばされていくが、構わずに進む。

 その倫太郎の背中が、何だか自分を叱咤しているようにも思えて。
 夜彦は小さく息を吐いた。

 刀身に瑠璃色の炎を灯して、心を静める。

 確かに、人の願いは、叶わず終わる時もある。
 叶って欲しいと。叶えて上げたいと、手を伸ばしたく事もあろう。

 だが、願いには様々な形がある。
 当人でなければ、意味をなさぬものも。
 それを分かっていて、けれど容易には消せない想いも。

 この織姫には、それが分からない。
 だからもう、ぶつかるしかないのだ。

 繰り出される光弾に、1体、また1体と機械兵器は減っていく。
 既にその数は僅か。
 けれど構わずに、倫太郎は足を前へと進めて。光弾を交わした動きから流れるように、織姫の背後へと回りこめば。

 どす、と。

 薙刀を振りかぶる倫太郎の腹を、織姫の竹が――竹槍が、貫く。
 甘いですよと笑った織姫に、しかし倫太郎が笑い返した。
 唇が「甘いのはそっちだ」と紡いで、倫太郎の姿が、歪む。

 残像。
 本人はとうに、織姫の間合いの外。
 絶望の風が吹く中で、「かましてやれ!」と勇ましい言葉が夜彦の背中を押す。

 織姫へ迫るのは、瑠璃色の斬撃。
 織姫が振り返る暇もない。

 炎刃の一閃は、織姫の呪詛さえも飲み込んで。
 青々とした竹林の中に、大輪の花と咲く。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​

黒鵺・瑞樹
【ヤド箱】
連携・アレンジ歓迎

なんでかな。本人目にしたらさっきまでの怒りが嘘のようだ。

信仰なんて人の想いで幾らでも変わってしまう。それが顕著に出てしまった存在か?
初めは機織に関しての願いが、いつの間にかどんな事も願う様になってしまった。
アレは正しくそして歪んだ姿なんだと思う。
少し可哀想だな。だからと言って放置するいわれはないが。

少しだけ真の姿(瞳の色が金に)を開放する。
UC剣刃一閃に【暗殺】を乗せ切る。
俺に力を貸してくれるひとも、少し変わってしまってる神様だからな。
そうしなきゃいけない気がした。

相手の攻撃は【第六感】【野生の勘】【見切り】で全力回避。
喰らった時は【オーラ防御】でしのぎ切れるか?


クラウン・アンダーウッド
【ヤド箱】
《真の姿》顔の左半分が崩れ落ち、激しく燃える地獄の炎が顔を出し、両手のガントレットが炎に包まれる。唯唯、相手をぐちゃぐちゃにしたい欲求に支配される。

応援特化型人形楽団による音楽で周囲の味方を鼓舞し、絶望の効果を緩和させる。

キミが絶望を振り撒くなら、ボクは笑顔を振り撒こうじゃないか!

相手の弱点や動きを情報収集し第六感で掌握。複数のからくり人形を展開して味方をサポート、相手を翻弄するように空中戦闘を行う。

弱点を執拗に殴り、相手を抱き締めるように怪力で拘束、UCで盛大に炙る。

耐えたなら、死力を尽くした感じに一際燃やして、ボクが消滅しよう。

拘束する以前に器物を人形に持たせていれば問題ないさ♪


吉備・狐珀
【ヤド箱】で参加です。

織姫が叶えるのは織物や裁縫の上達。
ならば両手を失うことがどういうことかわからぬわけではあるまいに。
それとも色恋に現を抜かしてそんなこともわからなくなりましたか。
織姫を名のる資格も願いを叶える資格も貴女にはありません。

UC【青蓮蛍雪】使用。
黒鵺殿の前に氷で壁をつくり【絶望の効果を与える光弾】を防ぎます。
…人形は絶望を感じることはありませんので「兄」の炎を使って【フェイント】をしかけ、皆さんのフォローにまわります。

※アドリブ歓迎です



●七夕語り―壱―

 『七夕』という行事、その伝説については、皆様ご存知の事とは思いますが。
 今宵語るのは、黒き彦星と白き織姫の少し変わった七夕語り。

 さて、その本筋を語る前に。
 彼らと相対する事になる、偽りの織姫がいかなるものか。
 そこから語るといたしましょう――。



 猟兵たちの攻撃にも、穏やかな笑みを崩す事はなく。
 声色さえも美しく『願いを聞き届ける』のだと、そう言い放つ織姫に、狐珀が感じるのは嫌悪。

 本来の、伝説にある織姫が叶えるのは、織物や裁縫の上達だとされている。
 織姫自身もまた、美しいはたを織る者であったと。
 ならば、猶の事。

「両手を失うことがどういうことか、わからぬわけではあるまいに」

 はたを織る事だけではない。
 このサムライエンパイアの世界には、失った手の代わりになるような絡繰りは存在していない。
 両の手を奪われるという事は、生きる事そのものが困難になるという事。
 だというのに、何故、親たちの願いに泥を塗るのか。
 それを、『聞き届ける』などと表すのか。

「色恋に現を抜かしてそんなこともわからなくなりましたか」

 理解ができない……いや。理解したいとも、思わない。
 吉備稲荷神社の狐像であったこの身は知っている。
 人々が一心に何かを願う、真摯な姿を。
 それが、真に正しき願いばかりではなかったとしても。

「織姫を名のる資格も願いを叶える資格も、貴女にはありません」

 人の想いを受け止める側からしてみれば、この織姫と言う存在は、ただただ不快だと。
 狐珀は再び、青い狐火を呼び出す。

 狐珀の言葉に、そうだねぇ♪とクラウンが頷けば、何やら道化の姿を人形がぴょこぴょこと彼らの周囲を駆け回る。

「キミが絶望を振り撒くなら……」

 ラッパを手にした人形を、地へと放てば。
 小太鼓にシンバル、バイオリンにトロンボーン。
 様々な楽器を手にした小さなピエロたちが、鳴り響かせるのはファンファーレ。

「ボクは笑顔を振り撒こうじゃないか!」

 任せろと言わんばかりに、手にした楽器を得意気に掲げるピエル人形たちと、笑顔を振りまくクラウンに、猟兵たちのみならず、織姫までが目を丸くする。

「まぁまぁ、素晴らしい芸ですね」

 だが、またすぐにあの穏やかな笑み。
 くすくすと、無垢な少女のように笑う織姫を前に、不思議と瑞樹の心は静かだった。

 織姫を前にした時に、果たして、冷静でいられるのかと。
 仲間の事も目に入らずに、斬りかかってしまうのではないかと思っていた、その心配は杞憂に終わった。

 それを、何故なのかと問うても、自分でもよく分からないのだが。

 先の、織姫の言葉。
 自分の成す事に何一つ疑問を抱いていない、その態度に。
 この織姫は恐らく『そういうもの』として、ここに存在しているのだろうと、そう思ったら。
 瑞樹の中で、全てが1つに繋がったような気がしたから。

 人の信仰や想いは、立場や時代によって幾らでも変わってゆくもの。
 ならば、あの織姫も、それが顕著に出たうちの1つであるのかもしれない。
 初めは機織に関しての願いが、いつの間にかどんな事も願う様になってしまったように。
 他にも沢山あった、織姫という願いの形。その可能性の1つだとすれば、得心がいく。

「では、その『人々に笑顔を』という願いも、私が聞き届けましょう」

 クラウンに微笑みかけるこの織姫という存在は、己の行いに疑念を持つことなどないだろう。
 彼女にとって、『願いを奪う』事こそが『願いを聞き届ける』事と同意なのだとしたら。
 それを否定する事は、少し可哀想な気さえする。

(だからと言って放置するいわれはないが)

 織姫の放つ光弾を、狐珀の狐火が迎え撃つ。
 光同士のぶつかり合いは、しかし、クラウンのピエロ人形たちの勇ましい音楽によって、狐珀へと軍配が上がった。

 狐火同士が固く結びあって、織り成すのは氷の壁。絶望の光も通さぬ、硬い壁。
 その壁に身を隠して、瑞樹の目が黄金色に輝く。

 ピエロ人形の拭きならす突撃のラッパに合わせて、クラウンのからくり人形たちが真正面から織姫へと飛び込んでいく中で、狐珀が舞い飛ばす狐火を目くらましに、瑞樹の姿は織姫の視界から消えた。

 次に姿を捕らえたのは、織姫の――頭上。

 身を守らんと、一瞬早く織姫の放った短冊が、スパッと両断される。
 織姫自身は――既に、瑞樹の間合いの外。およそ重力など存在しないかのように、軽やかに後方へと飛んでいた。

 思った以上に、素早い。
 だが、あの動きは……。

「あんまり近づかれたくないみたいだね♪」

 後方から、織姫を観察していたクラウンが笑う。
 近づいてきた瑞樹から、間髪入れずに距離を取った、あの行動。
 それに、織姫の技はいずれも距離や範囲に長けたもの。

 近接での戦闘はあまり得意ではなさそうだと、結論付ける。

 だから今度は、ボクも一緒に近づこう♪と、クラウンと、からくり人形たちが構えれば。
 瑞樹もまた、ナイフを握り直す。

「では、援護します」

 仲間を鼓舞する歌声によって、狐珀の操る炎は、更に力を増す。

 当たれば『絶望』を与えてくるという、織姫の技。
 だが、元より望みを持たない人形の身であれば、絶望を感じる事などない。
 その絶望の光を落すためならば、『兄』の炎を借りてでも。

 偽りの織姫が、二度と祭り上げられる事のないように。
 人々の願いが、誓いが。貶められる事のないように。
 力を貸して欲しいのだと、そう心の中で兄へと呼びかけて。
 全ての炎に、込められるだけの通力を込めて――放つ

 狐珀が炎を解き放つのと同時、瑞樹とクラウンが左右から仕掛ける。
 飛び交う短冊を、いち早く回り込んだ狐火が受け止めて、焼き払う。
 その炎の影に紛れて、身を切り返し瑞樹が織姫へと斬りこんだ。

 その一瞬。織姫と目が合った。
 織姫の月色の瞳は、今の瑞樹の眼と同じ色の輝き。
 少しだけ、真の姿を開放したのは、そうしなきゃいけない気がしたのは、織姫と似た存在を知っていたから。
 自分に力を貸してくれるひとも、少し変わってしまってる神様だから。

 変質してしまったものは、戻しようがない。
 人の願いや想いがそうさせたのならば、猶の事。
 そのような存在に安息があるとするならば、それは無に還すより他にないのだろうと。

 振るった黒い刃は、今度こそ確かに織姫へと届いた――。

 声を上げて、たたらを踏んだ織姫を捕まえたのは、クラウン。
 その瞬間、炎が上がる。
 クラウンの体から、彼自身さえも飲み込む炎が、織姫を包み込む。

 そのあまりの苛烈さに、仲間さえも下手に手は出せず、距離を取る他にない。
 だから、『その』クラウンを見たのは、唯1人。

 その炎熱から、クラウンの手から逃れんと、顔を上げた織姫だけが、それを見た。

 顔の左半分が。
 その皮膚が、肉が、崩れ落ちていた。
 爛れた肉から除くのは、地獄の炎。

 だが、真に恐ろしいのは、その容姿ではなかった。
 織姫にとって最も不幸だったことは、彼女に『ヒトの願い』を見る力があった事。

 いかなる時にも状況を悲観する事なく、笑顔を絶やさぬクラウンが稀に見せる、一欠片の狂気。
 それが真の姿に呼応して、『願い』という形となって、織姫の目に刻まれた。

 耳をつんざくような悲鳴が上がる。
 恐怖という色だけで染まった、甲高い悲鳴が。

 それは、クラウンの炎が燃え尽きるまで、止むことはなかった。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​

フィオリナ・ソルレスティア
【ペア/f05803】【WIZ】(連携・アドリブ可)
■移動
「私は自力で大丈夫だから」
フォルセティを強く想い【エキドナの鏡】で弟の側へ
■作戦
東組が揃うまで他の猟兵の支援に回り、揃ったところで反撃
(WIZ型UCのみで対処)
■行動
「よく頑張ったわね。状況はどう?」
弟を褒めつつすぐに戦況を確認。織姫を強敵と認識し不用意に攻撃しないように警戒
他猟兵の戦いから織姫の短冊攻撃を「見る」ことに集中
タイミングを掴んだら【アイギスの盾】を[高速詠唱×2回攻撃]で前面に展開し
短冊攻撃を相殺で封じ、織姫の攻撃を読み易くする
「この調子でいくわよ」
相殺で調子を掴んだら反転攻勢へ
[全力魔法]による【バベルの光】で織姫を貫く


フォルセティ・ソルレスティア
【ペア/f00964】【WIZ】(共闘/アドリブ可)
「フィオ姉ちゃん、そっちは終わったみたいだね」
突然フィオ姉ちゃんが現れてびっくりだけど、とっても心強いや!
姉弟パワーで織姫を倒すんだ。
【行動】()内は技能
最初のうちはサポートに徹するよ
フィオ姉ちゃんとタイミングあわせてグアルディアン・サトゥルノだよ
織姫の短冊攻撃を封じて他の猟兵さんが動き易くする狙い
「絶望なんかに負けたらダメだよ」
銀月琴を取り出してシンフォニック・キュアでみんなに力を与えるよ
(歌唱)と(鼓舞)で状態異常を跳ね返すんだ
そして流れをこちらに引き込んだら一気に攻勢をかけるよ
(全力魔法)でカラミダド・メテオーロを織姫に叩きつけるんだ



●電子と星の煌めき

「私は自力で大丈夫だから」

 共に西に行く者は居るかとという仲間の呼びかけに、笑みで応えて。
 フィオリナは何故か、木陰に向かって歩いていく。

 いや。本当ならば今すぐにでも、弟の元へと行きたいのだ。
 今、この瞬間にでも。

 共に行くかと言う仲間の誘いを断ったのも、弟の元へと行くため。
 他の誰でもなく、『弟』の所に行きたいからこそ断った。

 では何故、フィオリナがその心を抑えてまで、木陰へ向かって歩いているのかと言えば、それはひとえに彼女の乙女心と理性が、この場で転移を行う事に大反対しているからである。

「写せ、エキドナの鏡よ!」

 木陰に身を隠し、しかと周囲を確認して。
 発動の呪文を紡げば、瞬き一つの間にフィオリナの姿は消えていた。

 後にひらりと残されたのは、小さな布――オブリビオンとの決着が着くまで、この乙女の秘密が誰にも発見されない事を祈るばかりだ。



 竹林では、既に『西』を選んだ猟兵たちの戦いが始まっていた。

 織姫の放つ光弾を、虹色に輝く盾が防ぐ。
 これでもう、何度目だろうとフォルセティは目を伏せた。

 西を選んだ仲間たちと共に、織姫と戦い始めて。
 まだ、それほど時間は経っていない筈。
 だというのに、この数分が、何時間も戦っていたかのように長く感じるのは……。

「やっぱり、あれのせい……かな」

 空を行く、巨大な鷲。
 あれが出現して、巻き起こす暴風が猟兵たちを打ち据えるようになってからだ。
 何もない暗闇に放り込まれたかのように、心細さを感じるようになったのは。

『フィオ姉ちゃんは、来ないかもしれない』

 そんな筈はないのに。何故かそんな事を考えてしまう。

 怪我をしてるかもしれない。
 やられちゃってるかも。
 やっぱり、来られないんじゃ……。

(そんな事……あるわけ、ないよね!)

 俯きかけた顔を、無理やりに上げて。フォルセティ織姫を見据えた。

「フィオ姉ちゃんが来るまで、ここはボクが守るんだ!」

 自身を鼓舞するように声を上げて、ホウキを掲げたその時。
 まばゆい光と共に、ふわりとフォルセティの前に舞い降りたのは、見慣れた赤い髪の猟兵――。

「よく頑張ったわね。状況はどう?」

 驚き見開いたオレンジの目に映るのは、いつもと変わらず見慣れた優しい笑みで。
 絶望の風に、寒さと寂しさを感じていた心を、瞬く間に溶かしていく。

 フィオ姉ちゃんに西の村をお願いされたのは、一人前だと認めて貰えた気がして、嬉しかったけれど。
 やっぱり、隣にフィオ姉ちゃんが居てくれる事は、こんなにも心強い。

 こちらは戦いが始まったばかりだと、フォルセティに告げられて。フィオリナは周囲を見回した。

 東から来たものは、まだフィオリナだけのようだ。
 だが、共に行くかと呼びかけをしていた猟兵の口ぶりからして、恐らくは自分と同じような力で、ここにやってくるつもりだろう。
 東を選んだ猟兵の人数が意外と多かったため、少し準備に手間取っているのかもしれない。

 東の仲間たちは、すぐに来るはず。
 だが、その時に邪魔になるのは。

「この風……」

 この竹林に降り立った時から、感じていた。
 やっと弟の所に来られたという嬉しさが、急激にしぼんでいく感覚。

 あの鷲が起こす風のせいだとフォルセティが告げれば、なるほど確かに。
 鷲が羽ばたき、風が起こるごとに、猟兵たちの動きがぎこちなくなっている気がする。

「なら、この絶望を跳ね返しましょうか」

 フォルセティが杖を手に前へと進み出れば、フォルセティも元気よく答える。

 フォルセティの手にする巨大なホウキは、今日ばかりはマイクの代わり。
 まぁ、スタンドマイクにしても、ちょっと長すぎるのだけれど、それはそれ。

「絶望なんかに負けたらダメだよ」

 フィオリナだけではない。
 『東』を選んだ他の仲間たちも、じきにここへ来る。
 その時に、この風に囚われる事のないように。
 そして、今この場で戦う仲間の刃が鈍らぬように。

 歌い紡ぐのは、星海のごとく煌めく希望の歌。
 そのボーイソプラノの歌声は、流れる星のように戦場へと響き渡って。
 暗い闇に囚われかけた猟兵たちの心へと、光を灯す。

 戦場の空気が変わった事に織姫も気付いたか、その視線がフォルセティへと向かう。
 織姫の周囲にゆらりと浮かんでいた短冊が、鋭利な刃と化して。
 一斉にフォルセティ目掛けて飛来する。

「防げ、アイギスの盾よ!」

 それを止めたのは、光り輝く盾。
 盾と言ってもそれ自体、物理的なものではなく、『受け止めたものを相殺する』という魔法の結晶。
 ゆえに、もしも術の精度が低ければ、相殺しきれぬ時もある。
 だが、この絶望の風の中でも、フィオリナの術と心に乱れはない。

 この背に、弟を守っているのだという覚悟と。
 その弟の歌声が、フィオリナの心に、絶望を寄せ付けない。
 だから、織姫が幾度短冊を放とうとも。

「そんな攻撃、当たらないわよ」

 その軌道、狙う傾向。纏う呪力の形さえ、その赤い目に焼き付けて。
 短冊を防ぐ程に、その盾は精度を増す。

 素早い詠唱からの、二重起動による鉄壁の盾。
 そこから更に連続した詠唱で、近接戦を仕掛ける仲間のフォローに回れば。
 全ての短冊がかき消される、その一瞬を、姉弟は見逃さない――。

「いくわよ!」
「任せて!」

 杖を、ホウキを、掲げるのは全くの同時。
 唱える言葉は異なるというのに、2人の言葉は不思議と、和声となって響き合う。
 これまで耐える戦いをしてきた、その分まで。全ての魔力を乗せて。

 燃え盛る巨石が。焼き尽くす光が。
 織姫と言う一点で交差した――。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

ファン・ティンタン
【WIZ】私の彦星は、強いよ?
【ヤド箱】で

今はまだ劣勢だけど、不安はない
私には、遠くても近い黒の星がいるからね
―――さぁ、ペイン、私はここに居るよ

※支援特化型白無垢姿へ換装
【天声魂歌】にて仲間を【鼓舞】
敵短冊が孕む絶望の【呪詛】を撥ね除けてみせよう
たった独りが放つ絶望程度に私達が負けるとでも?
生憎、そんな繊細なヒトはウチにはいないんだよ
仮に居たとしても、私が尻蹴っ飛ばして気付けするからね

「……さて、絶望を、ひっくり返すよ」

自身は味方の力をUCで底上げしつつ、【天華】に【力溜め】を続ける
機が来れば、刀身を織姫へ全力【投擲】

白星は空を流れて願いを叶える
私の願いはね、ペインを煩わせるあなたの退場だよ


ペイン・フィン
【ヤド箱】

「……さあ、行こう、皆の元へ」

コードを使用。
周囲の、同意を得た猟兵、
その全員をつれて、移動。
行き先は、もちろん、西のメンバー。
その中でも、特に、会いたい人。
自分の恋人、ファン(f07547)の元へ。

「声が、聞こえた。……そんな気が、したんだ」

同じ世界に居るなら、必ず会える。
七夕の、本物の織り姫と彦星のように。
例え、星と星ほど離れていても、同じ世界なら、関係ない。
あっという間に、ファンの元へ。

「……さて、絶望を、ひっくり返そうか」

後は、皆の補助を行おう。
石抱き石“黒曜牛頭鬼”で、鷲に攻撃を重ねようか。

……生憎と、貴女が叶えられる願いなんて、無いんだよ。
お帰り、いただこうか。



●七夕語り―弐―

 美しき容姿とは裏腹に、願いを歪め望まぬ形で叶えようと、暗躍続ける偽りの織姫。
 絶望の風が猟兵たち体を打ち、その呪詛が魂を縛る。

 ですが今宵は、希望を未来を星に願い、星の川に橋掛かる。年に一度の逢瀬の日。
 黒き彦星の導きは、共に未来を掴むと集った仲間と共に。
 白き織姫の元へと向かいます。



「それじゃ、フィンさん。よろしく頼む」

 その言葉と共に6対の目に見つめられて、ペインは頷いた。

 ここまでは、共にやって来た仲間たちと示し合わせていた通り。
 自力での移動を選んだ者たちを除けば、元より共に行くはずであった3人の他に、『東』を選んだもう3人を加えて。
 ペイン自身を含めて、計7名が目指すのは、西の仲間の元。

 『西』を選んだ者たちは、既に織姫との戦闘に入っているだろうか。
 知る術はないけれど、簡単にやられるような者たちでない事は知っている。

「……さあ、行こう、皆の元へ」

 思い浮かべるのは、『西』の地を選んだ仲間の姿。

 けれどやはり、最も鮮明に浮かぶのは。
 ペインの。ペインだけの、白き姫君。

 同じ世界に居るならば。
 ……いや、例え世界を隔てようとも、必ずその世界へと辿り着く。

 そして、同じ世界に居るならば。
 七夕の、本物の織り姫と彦星のように。
 必ず会える。

 彼女の声を導に、向かうべき地を定めて。
 山河を越えて、星の川さえも越えて。

 この身はいつでも、あなたの元へ――。 
 


 竹林の空を陰らせて、巨大な鷲が空をゆく。
 1度羽ばたく事に、地へと吹き下ろす風は、絶望をもたらす呪詛の風。

 共に『西』に来た仲間達も、そして、他に西を選んだ仲間達も、どこか動きがぎこちないのは、この風の影響かと。
 ファンは、風の元凶――鷲の召喚者たる織姫へと視線を向ける。

 仲間の支援の為に、後方に位置したファンでさえ、風の影響は免れない。

 大切な何かが、光が、遠のいていくような。
 常闇の虚の中に、1人落ちていくような感覚に、この身の輝きさえも飲み込まれてしまうのではと、錯覚する。

 その絶望を振り払うように、ファンが目を閉じれば。
 その姿が純白の、白一色の和装へと変わる。
 本来、刀であるファンを包み込むそれは、まさしく鞘であり、この風からファンを守る盾。

 ゆっくりと、左目だけを開いて。織姫を見据える。

「たった独りが放つ絶望程度に私達が負けるとでも?」

 放った言葉は、その実、織姫への問いではなく、自身と仲間を鼓舞する声援。

「生憎、そんな繊細なヒトはウチにはいないんだよ」

 仮に居たとしても、私が尻蹴っ飛ばして気付けするからね、と。
 やや荒っぽくはあるけれど、共に来た仲間たちからすれば、それが実にファンらしいと言えば、らしい。

 ファンの言葉に、その力に織姫も気付いているのだろうか。

「そうでしょうか……」

 織姫の月色の目は、何か探っているようにファンを映して。
 また、穏やかに笑う。

「私には、貴女はとても繊細に見えますよ。『共に笑ってみたい』と。私にはそのように見えます」

 とても繊細で、素敵な願いではありませんか。
 えぇ、えぇ……この織姫が聞き届けましょうと、ファンへと向けて放たれたのは、無数の短冊。

 仮に、それが本当にファンの願いであったとして。
 この織姫は、絶望をばら撒く短冊で、何をしようと言うのだろう。

 決まっている。
 この織姫は、偽りの織姫。
 健やかであれという願いに、命を残して両手を奪うという最悪の結果をもたらす呪詛の塊。

 『共に』と願うのならば、片側を削ぐ。
 二度と共にあれぬようにと、もう一方を残して。

 哀れな女だ。
 私の願いを叶えるのは、私自身。
 けれどもし、私の願いを叶えてくれる、私以外の誰かがこの世に居るのだとしたら。
 それは、ただ1人だけ。

 ――さぁ、ペイン、私はここに居るよ。

 ファンへと向けて飛来した短冊は、しかしファンへと届く前に、鈍い音と共に地に落ちた。
 その全てが、石抱き石に押しつぶされて。わずかに見える切れ端が、ぴらぴらともがいている。

 降り立つのは、どれ程遠くともいつも近くに居てくれる。ファンだけの彦星。

「……生憎と、貴女が叶えられる願いなんて、無いんだよ。お帰り、いただこうか」

 突然の増援に、目を丸くしている織姫に向けて、ペインは言い切った。

 まだ細かな状況までは分からないが、倒すべき敵がどれなのかだけは、ここに着いたその瞬間に理解した。
 ファンへと向けて、短冊を放ったあの女。

 月色の目に、藍の髪を揺らす姿は、確かに織姫と呼ぶにふさわしい容姿なのだろう。
 だが、それが何だというのだ。
 自分の織姫へと手を出した、その罪の重さがどれほどのものか。
 身をもって知ってもらわねばなるまい。

 先に押しつぶした短冊が消失している事を確認して、ペインは石抱き石を呼び戻す。
 ペインが偽りの織姫を指し示せば、無数に分裂していた石抱き石は、1つへと集約して重量を増す。

 偽りの織姫へと狙いを定めたペインに、ファンが背中を合わせるように並び立つ。
 その手に握るのは、これまでずっと力を込め続けた白の一振り。

「私の彦星は、強いよ?」

 それに願いも違っているのだと、告げる。

「私の願いはね、ペインを煩わせるあなたの消滅だよ」

 ――さて、絶望を。

「ひっくり返そうか」
「ひっくり返すよ」

 黒き石と白き刃が、流星のごとく織姫へと流れた。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

落浜・語
【ヤド箱】

それじゃ、フィンさん。よろしく頼む。
フィンさんのコードで西へ移動。

まぁ、うん。どっかで何かが捻じ曲がったのか、元々こうだったのか。
どちらにせよ、今この場においてお呼びでないし、違う形で叶えるならお引き取り願う以外に選択肢はない。

『誰の為の活劇譚』で仲間を強化。
「希望を未来を星に願い、星の川に橋掛かる。年に一度の逢瀬の日。黒き彦星の導きで、向かうは白き織姫の元。
その地で相対するは、願いを歪め望まぬ形で叶えようと、暗躍続ける偽りの織姫。
無粋な輩はお引き取りをと、武器取ります猟兵方。此度語りますは、偽りの姫を海へと還す、そんな物語にございます」

アドリブ、連携歓迎


アルマニア・シングリッド
【ヤド箱】
願いや祈りを受け
希望を与えることもある七夕の伝承が
ぶち壊しですね

誰かの空想に水を差すようなことは
絶対に許しません


呪砲
『絶望の効果を与える攻撃を盗み、力を溜めてカウンター攻撃を行う』弾を精製

スナイパー・援護射撃で織姫に攻撃

高速詠唱・クイックドロウで
更に呪砲を使用
皆さんをサポートします

また我ハ古キ書ノ一遍ナリを大出血サービスで約4万枚展開(武器改造
オーラ&拠点防御・盗む・ハッキングを用いながら
仲間をかばう、巨大な鷲の翼を重力属性で攻撃し動きを鈍らせる(部位破壊)などを行う


絶望があるから希望がある
時間は掛かっても
前を向いて歩き出すこともできる

それはどの物語でも描かれている事です


アドリブ歓迎


勘解由小路・津雲
【ヤド箱】で参加。
 当然、ペインに同意する。そして皆のためにUCを使ったペインが敵の攻撃の直撃にさらされないように、かばう位置に立つ。「……もっとも、おれがこんなことをせずとも、うちの旅団にはずいぶんと頼もしい織姫がいるからなぁ」

【戦闘】 敵が攻撃してきたタイミングか、あるいは村の方に行こうとしたタイミングで【八陣の迷宮】を使用、「霊符」「拠点防御」「オーラ防御」「呪詛耐性」で作られた結界で攻撃や行く手をはばむ。

「我らに開かれたるは三吉門、汝の行く手にあるは死門のみ。……織姫には天の川(障害)が付き物だろう? あんたはどこにも辿りつけない。ここで朽ちる定めと知るがよい」



●七夕語り―参―

 無粋な輩はお引き取りをと、武器取ります猟兵方。
 切った張ったの大立ち回りを、お聞き逃しのないように。

 此度語りますは、偽りの姫を海へと還す、そんな物語にございます――。



 共に『西』へ向かうかと言う呼びかけに応えたのは、元より共に来た仲間の他に3人。
 予想以上の大所帯となり、気持ちは逸るけれど、準備には慎重を要する。

 この移動には、ペインへの同意が必要となる事。
 そして、移動すればすぐにそこが戦場である可能性もある事を、まずは説明する。

 『東の村』の被害を防ぐことが出来たとはいえ、まだ子供達を救えた事にはならないのだ。
 次の戦いも勝たなければ、全ては水の泡となる。

 だからこそ、準備は怠らない。
 手当てが必要な傷を貰ってはいないか、戦闘の準備は万全か。
 そして……。
 
「これで、全員だな?」

 自力での移動を選んだ者以外では、もうこの『東』の地に猟兵は残っていない事を、語はしかと確認する。

 その問いに頷きながらも、津雲はペインの前方へと位置を変えた。
 『西』と『東』の選択を迫られた時、見知った仲間が多くいたというのも、どちらを選ぶのか迷わず済んだ要因の1つ。
 だがそれ以上に大きかったのが、ペインの存在だ。
 彼のユーベルコードならば、同じ世界に居る仲間の元へと、瞬き1つの間に全員で向かう事ができるのだから。
 その彼が、向かった先でいきなり敵の攻撃に巻き込まれるようなことは、あってはならないのだと。

 もっとも、向かう先……西の地で待つ仲間の事を考えれば、この心配は杞憂に終わる予感しかしないのだが。

「それじゃ、フィンさん。よろしく頼む」

 語の言葉を切っ掛けに。
 黒き彦星の導きは、この場の全員を、白き織姫の元へ。


 既に、戦端は開かれていた。
 猟兵たちの降り立った地に吹きすさぶのは、絶望の風。

 空を行く巨大な鷲に、いち早く反応した猟兵が駆けていく中で、ヤドリガミ達は『西』の状況を、仲間の姿を目で探す。

 その目に、ここまで仲間たちを導いた黒き彦星の姿を見つけて、津雲は首を傾げた。
 確かにこの背に守れる位置に居た筈なのにと、そんな風に思うのは。この場合、野暮と言うのだろうか。
 その黒き彦星の隣に立つ白き織姫が、この程度の絶望に膝を折るなと猛き声を上げている。

「うちの旅団の織姫は、ずいぶんと頼もしいな」

 その姿に、戦いの最中だというのに、少しばかり口元が緩んでしまって。
 津雲のつぶやきが聞こえたか、語もまた、ぼーっとしていたら尻を蹴っ飛ばされそうだと笑う。

 さて、戦いには少しばかり出遅れた形だが、このままたくましい織姫にばかり仕事をさせたとあっては、本当に尻を蹴られかねない。

 戦いの場に、噺家としての物を持ち込まないのが信条で、ここには扇子も手拭いもないのだが。
 例え、この身一つでも。
 語ってみせよう。聞かせてみせよう。
 鷲が起こし、短冊の舞う絶望の風を。
 笑いの花風と、咲かせてみせよう。

『希望を未来を星に願い、星の川に橋掛かる。年に一度の逢瀬の日。
 黒き彦星の導きで、向かうは白き織姫の元。
 その地で相対するは、願いを歪め望まぬ形で叶えようと、暗躍続ける偽りの織姫――』

 とうとうと流れる川のごとく、語の口から溢れ出す言の葉は、仲間のための活劇譚。
 刃を手にした仲間の剣筋を、『稲妻がごとく』と表せば。それは真の稲妻のごとく、速く鋭く織姫へと迫る言霊となる。

「次から次へと、このように大挙して。何故この織姫を阻むのですか」

 東を選んだ仲間たちが合流し、勢いを増した猟兵たちに、流石の織姫も余裕を失ったか。
 その表情は、語たちが合流した時の穏やかさを失って。険しいものへと変わっていた。

 願いを、聞き届けねばならないのだと。
 猟兵たちを睨む月色の瞳が、それを阻む猟兵たちこそ悪なのだと語っていた。

 その在り様は、語の目にあまりにも歪に映る。

 元々こうだったのだろうか。
 それとも、本当の織姫が捻じ曲がったものなのだとしたら、何をどうすれば、ここまで真逆のものに変質できるというのだろう。

 聞こえた溜息は、隣に立つアルマニアのもの。

「願いや祈りを受け、希望を与えることもある七夕の伝承がぶち壊しですね」

 アルマニアからしてみれば、この織姫と名乗る存在の歪さについては、正直どうでもいい。
 ただ、決して許す事は出来ないと。
 その心は、静かな怒りの炎で燃えていた。

 アルマニア・シングリッドという存在は、ルーズリーフ手帳のヤドリガミ。
 だが、その本質は『ルーズリーフ』というものでも、『手帳』という事でもない。

 過去の主たちが、そこに書き込んだ沢山の魔術理論や空想。あるいは創作そのものや、そのための資料やメモ書き。
 『こんな素晴らしい事が起きたらいい』『こんな風になれば素敵だろう』
 書き残された文字や絵と共に刻まれた、沢山の『空想』こそが、今のアルマニアを形作る根幹。

 人々の願いとは、こう在りたいと思い描く空想にも似ていて。
 偽りの織姫の言葉で『願いを聞き届ける』とは、アルマニアの言葉では『誰かの空想に水を差す』事となる。
 そのような事、決して許せるはずがない。

『これ以上絶望を撒かれてなるものかと、武器取ります猟兵方』

 何にしても、もうお引き取り願う以外に道はないのだろうと結論付けた語の即興詩に合わせて、アルマニアは今回の武器を空想する。

 ――その弾は、絶望こそ力とする魔の弾。
 ――巨大鷲の起こす絶望の風が常に吹いているのだから、力を溜める性質も加えよう。
 ――絶望を力とするのだから、当然その弾は、絶望を与える効果をそのまま継承したものとなる。

 召喚の声と共に、空想は形を得る。
 だが、まだだ。
 放つのは、まだ先。

「本当に、どうして。私を阻むのです……」

 東の仲間が合流してから、戦いの流れは猟兵たちに向きつつあった。

 それは偽りの織姫も、実感しているのだろう。
 言葉の端に、弱気の色が見えるようになってきた。

 これまで自発的な移動はほとんど行わなかった織姫が、短冊をばら撒き、猟兵たちを牽制しながら村の方へと動く。

 村の人たちの願いを取り込むつもりか。

 させはしないと。
 津雲の発する呪言は戦場に響いて、霊符が舞う。

 津雲の意図を察して、アルマニアも大出血サービスとばかりに、本体の一遍たるルーズリーフを解き放つ。

 絶望の風にも負けぬ、紙片の嵐は瞬く間に、竹林を迷宮へと書き換えて。
 それは、猟兵たち諸共に織姫を封じる檻となる。

「我らに開かれたるは三吉門、汝の行く手にあるは死門のみ。織姫には天の川が……障害が付き物だろう?」

 周囲を囲む結界を見回して、織姫の表情が益々曇る。
 願いがそこにあるのに、私が聞き届けねばならないのにと。短冊を操り、結界を壊さんとするけれど。

『猟兵たちの言葉は、織姫に届くことはなく。今はただ、この結界にてその歩みを阻むのみ』

 語の言霊が、そしてアルマニアのルーズリーフが、結界をより堅固なものとして、それを許さない。

「あんたはどこにも辿りつけない。ここで朽ちる定めと知るがよい」

 たった1つの出口は村から遠く。
 そして、そこまで偽りの織姫が辿り着くのを、悠長に待つつもりはない。

 この織姫がどれほど絶望を与えようとも。
 絶望があるならば、そこに必ず希望もある。
 それは、どの物語りにも描かれている事。

 例え時間が掛かろうとも。
 ヒトは、私たちは、それを乗り越え前を向いて歩きだす。

 だから。 

『今、異邦の御業による魔の弾が、偽りの織姫を打ち砕く――』

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​

秋穂・紗織
◆東の村より

西への移動手段の策を持ち、募っている人の策に乗り



夜空に織り上げた願いは、本来ならば煌めくもの
けれど、今宵に結い上げられたのは呪詛に染め上げられた糸でしょう
それが空から、人の未来と吐息を締め、縛りつけないように
終わらせないよう

断ち切ってみせましょう

戦場に駆けつけたのなら、召喚された鷲を相手取りますね

高速移動の上、林の竹を足場代わりにダッシュと空中浮遊で対空戦の構えを

夜天の絶望、堕とす為

常に竹を蹴り、しなりを利用しながら立体的に動き
加速した上で見切りにより鷲の隙を見つけ、その翼へと衝撃破を放ちます
少しでも速度と高度が落ちれば、上空から迫る脅威と暴風へも対処し易くなる筈で

仲間へと繋げる



●春一番と流星一条 ―壱―

 共に行くものは居るかと、声を掛けた猟兵の策に乗れば。
 移動は、まさに一瞬。

 だが、開けた視界へ飛び込んできたのは、激しい攻防だった。

 西の手毬と戦ったのだろう猟兵たちと、彼らを相手に穏やかな表情を崩さぬ女。
 あれが――織姫。

 だが、あの織姫が人々の願いを紡いで結い上げるのは、おぞましき呪詛。
 断ち切らねばならない。

 その呪詛に、人々の未来が縛り付けられてしまわぬように。
 その営みを、締め上げられてしまわぬように。

 紗織が織姫へと踏み出そうとしたその時、視界が突然に陰る。
 見上げた空には――巨大な鷲の影。

 それは、戦場を覆う程に大きく。巻き起こす風が、猟兵たちの心を乱す。

 あんなものが、このまま村を襲ったら――。

 荒れ狂う風の中、鷲を追って紗織は走る。

 地を蹴って、跳んだ。
 その足が接するのは、地面ではなく、竹。

 軽い体重でも、勢いがあれば竹はしなる。
 その反動を利用して、また次の竹へ――。

 蹴って。また蹴って。
 速さを増して、紗織は空を駆ける。

 その前方に、一際立派な竹を見つけて。
 ――しかと、踏みしめた。

 追い越せなくていい。
 追いつけなくたって構わない。 
 ただ、この刃が届く高さまで――届け!

 竹のしなる反動を利用して、猫のようにしなやかに、紗織が中空へと飛び出す。
 荒れ狂う風を跳ね除けて、ただ真っ直ぐに鷲の元へと。

 届け。届け。届け。

 その、巨大な翼を目掛けて。
 振り抜いた刃の輝きは、涙の色に似ていた――。

 放たれた衝撃波に、鷲の羽が舞い散る。

 確かな手ごたえ。
 だが、重力を思い出し、落下し始めた紗織をよそに、鷲の高度は変わらない。
 暴風の中、紗織の胸に絶望が顔をだす。

 鷲が、遠のいていく。
 体の落下と共に、心が絶望に落ちていく。

 届かないのか。この刃は。
 私の、力では――。

 その耳に、聞き覚えのある騒音が迫る。
 これは……東へと走っていた時にも聞いた音。

 紗織への視界に飛び上がってきた、それは。東で共に戦った、仲間の姿。
 一房だけ色が違う髪の猟兵が、一瞬振り返り、目が合った。
 その目に「あとは任せろ」と言われたような気がして、頷く。

 繋がった。
 紗織の一太刀は、確かに。仲間の一手へと繋がった。

 耳に届く誰かの歌声が紗織の心に光を灯して、天峰白雪をしかと握り直す。

 地に降り立った紗織の顔に、もはや絶望の影は無い――。

大成功 🔵​🔵​🔵​

月山・カムイ
足ならコレが有りますので、私はコイツで行かせていただきますよ

そう告げて、バイクを疾走らせ陽の沈む方向へ急ぐ
大凡の場所なら頭に叩き込んでいる、ライトを点灯して西の村へと急ぐ

巨大な鷲が召喚されていたら、そちらを食いちぎる為に戦いましょう
バイクを自動操縦で脇に停め、空を跳躍して鷲の頭上を取る
絶望という呪詛に耐えきり、その羽の根元に絶影を突き立てて地上へ叩き落とす
一撃で落ちないなら、何度でも切りつけましょう

その程度の絶望で、自分が膝をつく事などありえないよ
自分を絶望させたければ、その百倍はもってこい!

振り落とされそうになりながらも吠えて、最後まで喰らいついてみせる



●春一番と流星一条 ―弐―

「私はコイツで行かせていただきますよ」

 再びバイクへと跨って、カムイは西へと切り返す。

 大凡の場所はこの頭の中にある。
 だから余計な事は考えずに、今はこの悪路を 最速最短で走り切る事だけに集中する。

 そうしてどれ程走っただろうか。

 目的地が見えてきた……いや、正確には、自然の生き物ではありえない大きさの、鷲を見つけた。
 恐らくあれが、織姫が呼び出すという巨大鷲。
 カムイはバイクのスピードを更に上げて、巨大鷲へと迫る。

 近づけば、近づく程に。
 巨大さを増し、高さを増しているように見える巨大鷲。
 その巨躯を目掛けて、迷いなく飛んだ。

 高く高く、一直線に鷲を目指して。

 バイクは既に自動操縦となっている。自分が操縦せずとも、着地は問題ないだろう。
 だから、そのバイクを蹴って、カムイは更に飛ぶ。

 今の自分で、空を蹴る事が出来る回数は47回。
 その47回で、必ずあの鷲の頭上を取るのだと、己を鼓舞して。
 1歩1歩力強く、蹴り上がる。

 その時。
 突如として、鷲の右翼より羽が散り飛んだ。

 何事かと目を凝らせば、鷲の傍に、先ほど共に戦った猟兵の姿。
 
 あの右翼の傷は、恐らく彼女が斬りこんだのだろう。
 その猟兵は鷲の起こす風に揉まれて、力なく落ちていく。

 鷲は変わらず飛んでいるが、あの右翼の傷は決して浅くない。
 恐らくあと一刀で落す事が出来るはず。

 後は請け合うと思いを込めて、すれ違う一瞬に振り返れば。
 目が合った栗色の髪を持つ猟兵は、確かに頷いたように見えた。

 あと3歩。
 ――近づけば近づく程に、絶望の風は激しさを増す。心に暗く灯るそれを、幾度も振り払い進む。

 あと2歩。
 ――羽ばたく翼が、カムイを掠める。だがこれで、同じ高さまで来た。

 あと1歩。
 ――呼吸の1つで、魂さえ染まるのではないかという程に、絶望が濃くなる。

 だが、それがどうしたというのだ。
 小太刀を手に、あらん限りの力でその1歩を踏み出す。

 鷲を越えて、より高き空へ。太陽へと向けて小太刀を掲げた。

 この程度の絶望に、膝をつく事などありえない。
 あの落ちていった猟兵の分も請け合うと、己に決めたのだ。
 自分を、自分たちを絶望させたいというのなら――。

「その百倍はもってこい!」

 咆哮と共に振り抜いた、渾身の一刀は鷲の翼を切り落として。
 空を行く絶望は、遂に地へと落ちた――。

大成功 🔵​🔵​🔵​

絆・ゆい
消えゆく手毬のもののけたち
ひと息つきましょ、とはいかぬよう
さ、おひめさんのところへ向かいましょ
駆けるのは、上手じゃあないけれど
なんと策があるなら、乗りましょか

はら、まあ。なんと見目うるわしい
けれど、ぞくりとする気味わるさは、まことのもの
嗚呼、やはり。あなたも邪なもののけ、ね
かたり継がれしおひめさん
童たちの願いも、いのちも、奪わせぬよ

あなたが、ひとへの呪いをまくのなら
ぼくは祝いのうたへと変えましょう
ひとの子に、嘆きのうたは似合わぬよ
ね、そうでしょ

さあさ、咲かせや咲かせ
たぐり寄せて、唄えや唄え
『春麗』
祝いのうたを、うす紅の花びらにのせて
とびきりきれいに咲いて、みせましょう
ほうら、よおくごらんあれ


逢坂・理彦
POW
こっちはもう大丈夫かな?
さて…西の村に行かなくちゃね。
何か策がある人がいるみたいだから同道させてもらおうか。
UC【狐神楽】もともとはこのUCを使えば少しは早く辿り着けるかと思ってたんだけど。
機動力が上がるに越したことはないしこのままこれを使って戦おうか。ただ狩衣姿が照れ臭いだけだからね。

本当にいかにも織姫様って感じだね。
けれどそのあり方はひどく歪だ。
この織姫が叶える人の願いとはなんなだろう?

とりあえず攻撃はUCの飛翔力を利用した上で【第六感・見切り】
武器は強化中の墨染桜を使用。
【早業・なぎ払い】で斬り込み【だまし討ち】を交えながら攻撃。

アドリブ連携歓迎。



●いつか咲く桜花の為に

「こっちはもう大丈夫かな?」

 きょろきょろと周囲を見回して、理彦は手毬の姿が無いことを、慎重に確認する。

 見えにくい手毬の攻撃には随分と手を焼かされたが。
 どれ程目を凝らしても、手毬たちの姿はなく。耳を澄ませてみても、鈴の音もしない。

 ようやく、こちらの戦いが終わった事を知って。ゆいはゆっくりと息を吐いた。
 だが、このまま一息つきましょ……とは、いかず。

 戦いは、まだ終わっていないのだ。

 確かに『東』の手毬たちは、全て倒すことができた。
 だが、この手毬を放った黒幕――西の竹林に居るという織姫を倒さなければ、この事件は終わらない。

 駆ける事はあまり得意ではないけれど、そう言っていられる状況でもなし。
 おひめさんのところへ向かおうかと、ゆいが歩みだしたその時。
 共に西に行く者は居るかと、声を掛ける猟兵がいた。

 聞けば、『西』に居る仲間の元へ、瞬時に転移できる技があるのだという。
 だが注意すべきは、西の状況が現在どうなっているか全く分からないという点。

「そうなると、着いた瞬間に敵に攻撃される……なんて事もある訳だ」

 戦いの用意は万全にしておく必要があるだろうと、理彦が力を開放すれば。
 纏う衣が白き狩衣へと変わる。

「はら。衣替え、ね」

 驚く仲間たちの視線にさらされれば、元より西へ向かう時に使おうと思っていた技で早く動けるからだと、笑みで誤魔化す。
 いや、誤魔化すも何も。移動時に使おうと思っていたのは、事実なのだけれど。

 この衣は、神へと奉納する舞いのための装い。
 そんな姿を見られるのは、何となく照れくさくて。そして、少しばかり首元が涼しいのが、落ち着かないのだ。



 移動は、一瞬。
 夢から唐突に覚めてしまった時のように、がらりと景色が変わる。

 だが、東よりやってきた猟兵たちを迎えたのは、戦場に吹く絶望の風。

 既に戦端は開かれ、空には絶望をまき散らす巨大な鷲の姿。
 いち早く反応した1人の猟兵が、鷲を追って駆けていく。

 狩衣姿となった事で、今は飛翔する事もできる自分も、鷲の方へと向かうべきか……。
 理彦は思案するが、ぞくりと背筋に走った嫌な予感に、勘を頼りに愛用の薙刀を振るえば。その刃が、流星のごとく飛来した光弾を弾く。

「次から次へと、このように大挙して。何故この織姫を阻むのですか」

 険のある表情で、猟兵たちを見据える女。
 この風の中でも、その藍色の長い髪は乱れる事もなく。瞳は、夜闇に浮かぶ月のように輝く。

「はら、まあ。なんと見目うるわしい」
「本当にいかにも織姫様って感じだね」

 素直な感想が、口から零れた。

 だがこの織姫こそが、今しがた理彦へと光弾を放った張本人。
 ここで阻まねば、織姫の絶望は村の人たちを襲うのだ。
 阻まれて当然の事をしているというのに。

 その月色の目は本気で、自分を阻もうとする猟兵たちの行いこそ悪なのだと、そう叫んでいる。

 意図して、人々を苦しめたいと思っているようには見えない。
 それだけに、その在り様はひどく歪だ。

「織姫様が叶える人の願いとは、なんなんだい?」

 理彦が心に掛かっていた疑問を、そのまま問うてみた。
 本気で人々の願いを叶えようと思うのならば、その本質を問うてみれば、あるいは自身の歪さに気付きはしないかと。

「異なことを。人々が何を願うかは、その人が決める事」

 けれどやはり『唯そのように在るもの』に、ヒトの言の葉は届かない。

 私はただ、織姫として聞き届けるのみですよ、と。
 強い眼で、猟兵たちへと宣言するその姿もまた、まこと美しと、ゆいは紫の目を細めた。 
 けれど、肌をひやりと撫でていく気味わるさもまた、まことのもの。

 あなたは、手毬たちと同じ。邪なもののけ。
 同じく、かたり継がれし者同士でも。
 とうてい相容れぬ存在。

「童たちの願いも、いのちも、奪わせぬよ」

 1歩進み出たゆいが、薙刀を構える。
 最も、それを振るうつもりはないけれど。

 織姫が、ひとへの呪いをまくというのなら。
 そのぜつぼうの風を、祝いのうたへと変えましょう。

 かの西の村に響くのは、笑い声と祭囃子だけでよい。

「ひとの子に、嘆きのうたは似合わぬよ」

 ね、そうでしょ、と理彦に視線を投げれば。
 理彦もしかりと頷いて。その手に薙刀を構えた。


 ――ちりん。

 鳴る鈴の音は、手毬ではなく理彦から。
 猟兵たちと織姫の戦いは、東の者たちが合流してから、完全に猟兵たちのペースであった。

 既に、鷲の姿はなく。新たな鷲を召喚する事もできず。
 村に行かせまいと形成された迷宮は、織姫を閉じ込める檻。

 既に勝機がない事は、当の織姫も感じているのだろう。
 願いを聞き届けねばならないのにと、それだけを紡ぎ続ける姿は、少しだけ哀れに見える。

 ――終わりにしよう。

 ゆいが、手にした薙刀をうす紅の花びらへと変える。

 本来、織姫が持つべきであった祝福をこめて。
 祝いのうたを、その花びらにのせて。

「ほうら、よおくごらんあれ」

 さあさ、咲かせや咲かせ。
 たぐり寄せて、唄えや唄え。

 舞う花びらが、織姫の元へと飛んでいく。
 織姫の金色の瞳に映るそれは、月夜に散り行く薄紅桜。

 空を駆ける理彦が、鈴の音にて拍子を打つ。
 薄紅桜の散る中に、咲き誇るのは墨染桜。
 その一閃は、確かに織姫を捕らえて――。

 地に伏した織姫の体が、徐々に消えてゆくのに、猟兵たちは決着が着いたのだと知る。

 けれど、ゆいの放った薄紅の花びらは舞いを止めない。

 ぜつぼうそのものであった、おひめさん。
 せめて、消えゆくこの一時。あるべき織姫であれるよう。
 とびきりきれいに咲いて、みせましょう。

 ぜつぼうの風は、祝いのうたへ。
 せめて、花と散り行かん。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​




第3章 日常 『季節の行事』

POW   :    体力が尽きるまで全力で楽しむ

SPD   :    イカサマを辞することなく楽しむ

WIZ   :    効率よく無駄なく全てを楽しむ

👑5
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

種別『日常』のルール
「POW・SPD・WIZ」の能力値別に書かれた「この章でできる行動の例」を参考にしつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


●笹の葉さらさら、願いは空に

 ――祭囃子が聞こえる。

 響く太鼓の音は、強くなったり、弱くなったり。
 時折調子を外れたりしているのは、村の男の子たちが叩いているからだ。

 子供たちが太鼓を叩く櫓は、村の中央の広場。
 その広場をぐるり囲むように並んだ沢山の出店は、子供たちが目を輝かせるようなものばかり。

 かるたや花札。貝殻のおはじきに独楽。竹細工のやじろべえや竹とんぼ。
 玩具のお店が集うあたりでは、あれがいい、これが欲しいと親の手を引く子供の姿が目立つ。
 団子に大福。飴細工や最中と言った甘味の店のあたりでは、親子そろってどれを食べようと思案中。
 輪投げやくじ引きといった遊びの店は、男の子が多い印象だろうか。

 広場から村の出入り口方向へと下ると、煮豆や煮魚等を提供している煮売り屋と、おでん屋の屋台が並んでいる一角が目に入る。
 そこは、昼間から顔を赤くした大人たちの談笑の場。
 時折、おこぼれにあずかりに子供がやってくる事もあるが、基本的には成人のための場だ。

 逆に広場から更に村の奥へと進むと、大きな鳥居が見えてくる。

 その鳥居から先は、少しばかり雰囲気が変わる。
 子供たちの健康や、これから生まれてくる子供の安産を祈願してお参りに向かう人が多く、村の子供たちもここで騒ぐと叱られる事をよく分かっているのだ。
 並ぶ店も、熊手や達磨。おきあがりこぼし等の縁起物を扱う店が多くなる。

 更に進んで、2つ目の鳥居をくぐれば、目の前に本殿が見えてくる。

 左右には、短冊を飾るための笹竹が数本立っていて。
 神社の人に言えば短冊を貰えるため、こっそり2枚も3枚も願い事を書く悪戯っ子も居る様子。

 皆が皆、賑やかな祭囃子と華やかな祭りの光景に浮かれていた。
 笹竹に揺れる短冊と共に見上げた空に、絶望の影はない――。
秋穂・紗織
ようやくと届いた、夏祭りの空
祭り囃子は楽しげに、調子外れも子供の漏らす笑みのよう
こういう時の為にと戦い、駆け抜けた
ひとつも零さないようにと、願って、戦って、叶った
その一瞬を、少しでも楽しみましょう

貝殻のおはじきなんて素敵ですね
玩具のといえど、ひとつの思い出にと買ってみましょうか
簡単で単純なものでいい
人が笑う姿が、好き

……本当は、そう
私は、私のことや私の未来を願うだけの強い感情を抱けないから
願い、祈り
そう口にしても、私自身のことは漠然とし過ぎて願えないから

こうして笑い合う中にいる瞬間を、せめてもの幸福と思う
人の笑顔は見ているだけで暖かいから
爪先で貝殻のおはじき弾いた音と共に
叶えた笑顔を記憶の裡に



 太陽はまだ高く。日差しは力強く、人々を照らす。

 その陽光を、熱く感じるのは。
 先の戦いの中で胸に込み上げた絶望が、寒さや冷たさにも似ていた反動だろうか。

 だが、空を覆った絶望は影もなく。
 眩しさに目を閉じてなお、陽光は眩しく。吸い込んだ空気からは、夏の香りがする。

 その空気の中に、響いていくのは太鼓の音。
 子供たちが叩くそれは、やはり大人のようにはいかず。
 時々調子を外しているが、周囲の大人たちは「頑張れ」や「元気な音だ」と笑顔で見守っている。

 しっかりと撥を握って、懸命に太鼓を叩く手。
 自分も叩くのだと、親の袖を掴んで櫓を指さす手。
 友達なのか、太鼓をたたく少年に手を振る手。

 誰の手も、落とさせはしないのだと刃を携え走って。走って。
 必死で駆けた道。

 目の前に広がるこれは、その、駆けた道の先。
 仲間たちと共に切り開き、勝ち取ったもの。

 だから、今この一瞬。
 紗織は、猟兵ではなく1人の人として、笑みを零す。

 子供たちの笑い声に、導かれるように。
 足の向くまま祭りを眺めていると、ふと、とある出店に女児たちが集まっているのが目に留まる。

 楽しそうに。あっちもいい、これが綺麗と女児たちが騒ぐそれは。

「貝殻……?」

 渦巻型の、小さな貝殻。
 
「おはじき貝だよ。これで、おはじきするの!」

 おかっぱの女の子が元気よく紗織に貝殻を差し出せば、他の子供たちも、おはじきはこうするのだと、紗織に見せてくれる。
 どうやら、買ってもらったおはじき貝を広げて遊んでいるようだ。

 このように店先で遊んでは、お店の人に怒られはしないかと、少し心配になるが。
 目が合った店主は、お嬢さんも1つどうだね?と、中々に商売上手で。
 それならば、思い出に1つ……と、ここは店主の思惑に乗っておく。

 手渡された小袋の中のそれは、色も模様も様々で。
 おねえちゃんのもみせて!っと、子供たちが騒ぐ。

 これが綺麗だ。こっちのは模様が珍しいと、笑う顔は眺めているだけで暖かい。

 ふと。
 この暖かな光景に、自分だけが取りこぼされているような。
 自分だけが見えない壁の向こうにいるような気がする事もあるけれど。
 それを、自覚はしているけれど。

 今は、ただ笑おう。
 子供たちの笑顔に応えて、共に笑う。

 これは確かに、私が守りたかったもの。
 弾いたおはじきの音と共に、確かな記憶として、胸に刻もう――。

大成功 🔵​🔵​🔵​

篝・倫太郎
夜彦(f01521)と
まずはしきたりに則って神社を参拝
折角だし短冊貰って願い事書いて笹に吊るそう

短冊は既に多くが括られてるとこに紛れ込ませとく
見られるのはなんか気恥ずかしいから……
ん、そだな
秘密にしとこう

それが終わったら出店巡り

……夜彦?

根付を取り扱ってる出店で足を止めた夜彦に付き合って俺も足を止める
縁起物の動植物の細工が幾つも並ぶ店先

俺が手に取った鯉の根付と夜彦の手にある鬼灯の根付
鬼灯は厄除けとか無病息災、だっけ?
鯉は色々縁起が良いって言われてるよな……
勇気の象徴、とかさ(あ、らしいかも?な顔)

ん。じゃあ、俺はこれを買ってあんたに
誰かの想いが篭れば
元々持つ意味も増しそうだし……悪くねぇだろ?


月舘・夜彦
倫太郎殿(f07291)と参加

神社を参拝した後、短冊を頂いて願い事を書きましょう
描き終えましたら短冊は笹の上の方へ飾ります
……願いは互いに秘密と致しましょうか

後は村の屋台を見て回ります
縁起物を取り扱っている店もあるようですので気になりまして

その中でも目に留まったのは根付の屋台
ヤドリガミ故に、物には惹かれてしまうものです
近付いてみると様々なものを模した精巧な根付
鬼灯を手に取れば、倫太郎殿も気になる物を見つけられたようで
鯉は成功を意味する縁起物でしたね
そちらも泳ぎ出しそうな程の綺麗な鯉です

それでは此方を買って貴方に
厄や魔を祓うならば、これからも戦う貴方に相応しい



 鳥居をくぐったのならば、まずは神へ挨拶をするのがしきたりというもの。
 夜彦と倫太郎の2人は、並んでと手を合わせ、最後にしっかりと一礼して参拝を終えた。

 さて、と。

 倫太郎は両手を組んで、伸びをする。
 片付けるべきオブリビオンはきっちり倒して、神様への挨拶も済ませて。
 ようやく肩の荷が下りた気分だ。

 あとはこの祭りを満喫するのみだが、ここまで道中並んでいた出店は数え切れず。
 入り口付近にあった屋台も気になるし、どこから回ったものだろう。

「ではまず、短冊を書くというのはどうですか」

 顎に手を当て悩む倫太郎に、夜彦が差し出したのは短冊。
 聞けば、倫太郎がうんうん唸っている間に、神社の巫女がくれたのだと言う。

 乗った!と、受け取ったのはいいものの。
 結局、倫太郎はまた、顎に手を当てて悩む事になる。

 改めて『願い事』と聞かれると、意外と出てこない。……いや、細かな願いを上げれば、限が無いのだが。
 七夕の。短冊へ綴る願い事となると、話は別だ。

 しばし悩んで、ようやく書いた言の葉は――何となく、人に見られるのは気恥ずかしくて。
 多くの短冊が揺れている、その中にそっと紛れ込ませて吊るす事にする。

 そういえば夜彦は……と、見回してみれば。
 台座を上って随分と高い所へと、短冊を吊るしていた。
 目を細めてみても、その短冊に書かれた願いは見えそうにない。

「夜彦はなんて――」

 書いたんだ?と、言いかけて。
 やっぱいい。今のなし。と、慌てて取り消す。

 人の願いを聞いたのなら、自分の願いも教えなければフェアじゃなくなる。
 だが、自分の願いを口にするのは、やっぱり気恥ずかしい。

 そんな倫太郎の様子に、気付いているのかいないのか。

「……願いは互いに秘密と致しましょうか」
「ん、そだな。秘密にしとこう」

 夜彦がそう言えば、これ幸いに倫太郎は顔をキリリとさせて答えるのだった。


 では、改めて出店巡りをと、広場の方へと歩み出せば。
 神社近辺は、達磨に熊手に招き猫等、縁起物の店が多く並んでいて。

 その1つ1つに様々な意味が、祈りが込められているのだと思えば、自然と夜彦の目はそちらへと向かう。

 夜彦自身が、そうであったように。
 これらもまた、強い想いや祈りを込められて、人々の手に渡ってゆくのだろう。
 あるいは、遠い未来に同胞となる事もあるかもしれない。

「……夜彦?」

 名を呼ばれて顔を上げれば、倫太郎とは少し距離が開いていて。
 どうやら自分の歩みが、随分とゆっくりなっていたらしい事を知る。

 何か気になるのかと問われて。自然と目が向いたのは、根付の屋台。
 やはり縁起を担いでいるのか、干支の動物や植物を象ったものが並んでいる。

 その1つを手に取ってみれば、植物の繊維質な表面や模様がよく表されていて、作り手の丁寧さが見て取れる。
 その丁寧さを嬉しいと感じるのは、はやりこの身がヤドリガミであるが故だろうか。

 そんな夜彦の隣で、根付か……と。
 顔を近づけて見ていた倫太郎が手に取ったのは、鯉の根付。

「鯉は成功を意味する縁起物でしたね」
「あぁ、色々縁起が良いって言われてるよな……」

 夜彦に言われて、はてその『色々』とは何であったか。
 倫太郎は思考を巡らせる。
 ……煮つけにすると旨いらしい、とか。いや、そういう事じゃない。
 確か、鯉は――。

 ――『勇気の象徴』

 水を行く鯉の姿は強く、逞しく。しかし優美を失う事はない。
 あぁ、それは確かに……。

「うっし、これ買うわ」

 あっさりと買い物を決めてしまった倫太郎に、さて自分はどうしたものかと、夜彦はその手の根付を見つめた。

「そっちの鬼灯は厄除けとか無病息災、だっけ?」

 倫太郎にそういわれて、改めてまじまじとその手の根付を眺めれば。

 ふっくらとした、提灯のような愛嬌のある形。
 表面の植物らしい細やかな繊維感は、作り手が丁寧に模様を彫り込んで作り上げたもの。
 それが、厄や魔を祓う力を持つというのならば。
 相応しいのは、自分よりも――。

「それでは此方を頂きましょう」

 会計を済ませて、受け取った鬼灯の根付。
 夜彦はしまう事もせずに、そのまま倫太郎の前へと差し出す。

 厄や魔を祓う力は、これからも災禍を狩らんと戦い続ける貴方に。

 そう告げれば、琥珀色の瞳が一瞬きょとりと見開かれるが。

「ん。じゃあ……」

 勇気の象徴は、これからも人々の為に奮い立つあんたに。

 お返しに……というより、そのつもりで買ったのだと鯉の根付を渡されてしまった。

 誰かの想いが篭れば、元々持つ意味も増しそうだと倫太郎は言うけれど。
 さて、それは。本来モノである自分の想いでも、同じ効果があるだろうか。

 分からないけれど。
 悪くねぇだろ?と笑っている姿を見れば、根付を贈った意味は確かにあったのだろうと思える。

 日はゆるりと傾き始めて。少しずつ風が涼しさを増していくけれど。
 2人の祭りは、まだまだこれからだ。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

フィオリナ・ソルレスティア
【ペア/f05803】【WIZ】(連携/アドリブ可)
「あれは浴衣っていうのよ」
フォルセティとお祭りの雰囲気を楽しみながら想いを込めた短冊を飾る
■行動
「はいはい、後で買ってあげるわよ」
出店に目を輝かせる弟の手を引きながら神社へ
途中、安産祈願のお守りに目が入り、なんだか急に弟を意識するも
平静を保って短冊を受け取る
『たくさんの人が幸せになれますように』
丁寧な字で想いをこめて飾り付ける
そしてもう一枚は誰にも見られないようこっそりと
『フォルセティとずっと一緒に過ごせますように』
これだけは弟には絶対に見せない
「ほら、お菓子食べるんでしょ」
弟の気をそらしながら広場へ。猟兵達で守った平和を誇らしく思いながら。


フォルセティ・ソルレスティア
【ペア/f00964】【WIZ】(共闘/アドリブ可)
「ボク達も着物を着てくればよかったね」
フィオ姉ちゃんも似合うと思うんだよねー
【行動】
「わー、大福餅にりんご飴あるよー♪」
お祭りの屋台ってどれも美味しく見えちゃうね
でも先に神社に飾りつけ行くんだって。お菓子は後でって本当かな(疑い)
神社に着いたら短冊一杯もらうんだ
もっとすごい魔法が使えますように
お菓子がいっぱい食べられますように
仔猫達が元気に育つように
それからそれから…あれ、短冊が足りないよー
とりあえず全部飾っちゃえ
「フィオ姉ちゃんは何をお願いしたの」
えー、何書いたか教えてくれないや
あ、そうだ。最後にこれを飾らないと
『フィオ姉ちゃん大好き!』



 祭囃子の中に子供たちの笑い声が響く。
 西の村にも、東の村にも被害はなく。事件の元凶ももういない。

 フィオリナとフォルセティの目の前に広がる光景に、悲惨の色は何処にもない。

 これから神社へ祈願に行くのだろう。
 親の腕の中で興味津々に出店を見回す幼子に、買ってもらった真新しいおもちゃを手に機嫌よく親に手を引かれている子供も居て。

 その纏う衣が、サムライエンパイアの普段着――着物にしても、とても色鮮やかで涼し気である事にフォルセティは気付く。

「あれは浴衣っていうのよ」

 フィオリナにそう教えられて、改めてまじまじと観察してみれば。
 水に泳ぐ金魚柄や、藤や椿をあしらったもの。
 色も柄も様々で、祭りの光景をより一層華やかにしてくれている。

 思わず、自身の纏う服をじっと見つめてしまうフォルセティ。
 白と青を基調にした魔法使いぜんとしたこの服は、星の大海を思わせて。浴衣とやらにも、華やかさでは負けていないと思うのだけれど。

「ボク達も着物を着てくればよかったね」

 郷に入ってはなんとやら。
 折角、全く違う文化を持つ世界に来たのだから、その世界の装いを楽しむというのも一興というものだ。

 それに、櫓の傍に居る少し大人びた女の子が来ているような、青と藍の対比が美しい朝顔柄の浴衣などは、姉の赤い髪にも映えそうで。

「フィオ姉ちゃんも似合うと思うんだよねー」

 フォルセティの素直な言葉に、フィオリナの胸は弾むけれど。
 「前を見て歩かないと転ぶわよ」と。

 ありがとうより先に、照れ隠しの言葉が出てしまうフィオリナであった。


「わー、大福餅にりんご飴あるよー♪」

 中心部の広場までくれば、行き交う人の密度は一気に増して。
 一層賑やかな光景の中、どこからか美味しそうな甘い香りが漂ってくる。

 立ち並ぶ出店。
 親が子供に食べさせているのは、小さくちぎった大福餅か。りんご飴を落さぬように両手でしかと持ち、舐めている子も居る。
 あっちの男の子が食べている団子は、みたらしだろうか。

 お祭りという場で、外で頬張る食べ物というのは、どうしてこうも美味しそうに見えるのだろう。
 フォルセティの興味はあっちにいったり、こっちに来たり。大忙しだ。

「はいはい、後で買ってあげるわよ」

 このままでは、いつまで経っても目的の神社へ向かえないと。
 フォルセティの手を捕まえて、フィオリナは広場を通り抜けていく。

 「本当ー?」と、訝し気なフォルセティからの視線を華麗にかわして。
 2つ目の鳥居をくぐれば、すぐ左手の建物では、お腹の大きな妊婦が巫女から何かを受け取っている。

「あ、あそこはお守りが買えるんだね」

 フォルセティの言葉に、フィオリナは思わずどきりとする。
 状況から考えて、あの妊婦さんが受け取ったのは『安産祈願』のお守り。
 まだそういう話は早いとか、変にフォルセティを意識してしまって。

「ほら、あそこに短冊を飾るのよ」

 少し無理やりに話を切り上げて、フォルセティの手を引き向かうのは笹竹の所。

 さて、何から書こうかと。
 フォルセティは一杯貰った短冊を、トランプのように広げる。

 まずは、もっとすごい魔法が使えますように。
 お菓子がいっぱい食べられますように。

 それから、自分以外の事も。
 星の海が広がる世界で保護したあの子たちが、仔猫達が元気に育つように。

 それから、それから……。

 あれもこれもと悩むフォルセティを横目に、フィオリナが書いたのは。
 ――たくさんの人が幸せになれますように。

 丁寧な字で書いたそれと。実は、こっそり書いたもう1枚と。
 どちらもフィオリナにとって、とても大切な願い。
 それをフォルセティが悩んでいる間に、竹笹の中でも人目に付かない所へとそっと飾りつければ。

 もう飾り終わったの!?と慌てたフォルセティが、慌てて短冊を飾り始める。

「フィオ姉ちゃんは何をお願いしたの」

 色とりどりの短冊を結わえながら問えば、秘密よと笑って交わされて。
 それってなんだかズルいやと、フォルセティは唇を尖らせるけれど。

「ほら、お菓子食べるんでしょ」

 フィオリナの足は、ゆっくりと鳥居の方へ。
 これが最後だから、待ってー!と叫ぶフォルセティの声を背に、鳥居の向こう側に広がる光景は、にぎやかな祭りの景色。

 求めていた、この上ない最良の結果。
 こんなにも沢山の人が笑っているこの光景は、仲間たちと、弟と共に確かに守り抜いたもの。

 その誇らしさを胸に、フィオリナはフォルセティと共に、また祭りの喧騒の中へと歩いていく。

 吹き抜ける風に、笹の葉はさらさらと音を立てて。
 2人が最後に飾った短冊も、仲良く揺れていた。

 綴られた願いは――。

『フォルセティとずっと一緒に過ごせますように』
『フィオ姉ちゃん大好き!』

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

逢坂・理彦
無事にどちらの村も守ることができてよかったねぇ。ん、せっかくだから神社にお参りしていこうかな。
俺の家も神社だったらかなこういうところにくるとなんだかシャキッとするよね。
一応跡取りとして育てられたからそれなりに勉強はしたけど…うちの神社は無くなっちゃったから。
まぁ、そのへんのごたごたも片付いて肩の荷がおりたというか。でも引き続き猟兵として依頼は受けていきたいな。大事な人のいる世界は守りたいだろう。

さて…お酒でも飲んでいこうかな♪
仕事終わりのお酒は美味しいよねー。

アドリブ歓迎。



 見上げた櫓では、子供たちが懸命に太鼓を叩く姿。
 調子はずれな音にも、「元気でいい」と大人たちも笑顔で見守っていて。
 誰の顔にも、絶望はない。

 見上げた東の空もまた、抜けるような青さで。
 あちらの村人たちも、今頃は普段と変わらぬ平穏を過ごしているだろう。

 必死で走り、戦って。休み暇もなく、取って返して戦って。
 体は疲労を訴えているけれど、その甲斐はあった。

 だから足取りは軽く。
 華やかな店々に目を引かれるけれど、まず理彦が向かうのは神社。
 2つ目の鳥居をくぐれば、既に狩衣姿も解いたというのに、理彦の背筋は自然と伸びる。

 三つ子の魂、何とやら。
 自分が知る神社とはまた装いが違っていても、神社と言う空間が持つ独特の空気を感じれば。
 その身に沁みついた、立ち居振る舞いがつい出てしまう。

 継ぐはずであったその神社も、今は思い出の中にしかないのだけれど。
 全てはもう終わった事。もう二度と、朱き月が昇る事はない。 

 参拝を済ませても、理彦の心に悲観の色はなく。
 ただ様式様相の全く異なる神社の中に、少しだけ思い出を重ねて。
 懐かしいと、それだけを想う。

 全て片が付いた今は、少し休憩したいような気持が半分。
 けれど、ますます世界を守りたいと。
 雨夜の夢で逢えるように。大切な人の居る場所を守りたいと思う気持ちが半分。

 まぁ、何と言うか。
 やるべき事はきっちりやるけれど、気を抜ける時には思いっきり気を抜く事も大事だと。おじさんは思う訳なんです。
 そうなれば、目指すべき場所はただ1つ。

「さて…お酒でも飲んでいこうかな♪」

 うきうきとした足取りで広場の方へと引き返せば、途中出会ったのは、先に共に戦った猟兵たち。
 丁寧な礼の言葉に重ねて、花のうつくしいこと……とは、愛用の薙刀の事だろうか。
 何にせよ、ありがとうはお互い様だと、笑いあう。

 この祭りの光景を、心から良かったと思えるのは、集った全員の力があってこそ。
 1人では到底たどり着けなかった景色なのだから。

 その勝ち取った景色の中へと、猟兵達はまた思い思いに散っていく。


 理彦が向かうのは、広場を抜けた屋台の方。
 仕事上がりの1杯にして、まごう事なき勝利の盃。
 それも昼間からとは、全く贅沢な事で。

 足取りも軽く。理彦の姿は、人ごみの中へと消えていくのだった。

大成功 🔵​🔵​🔵​

絆・ゆい
最期は、おひめさんらしく逝けたかしら
次の世は、呪いを祝いへと変えられますよう
願いの空で、やすらかに眠っておくれ

囃子のこえが、童の声が、きこえる
そう。しかと、まもり通せたのね
戦ごとは、きらいなのだけど
それはそれは、よい結びだこと
童たちには、喜びの声がよおくにあう

嗚呼、そうそう
ちゃあんとお礼、しないとね
手伝ってくれたあなたも、あなたも
先ほどはどうも、ありがとさん
あなたのお花の、なんとまあ、うつくしいこと

ふうむ、なにをいただこか
お酒。ふうん、ひと口もらいましょ
甘味処も、あるかしら
あまいのは、すきよ

はら。まこと、心地よいひとときだこと
ぼくは、春がすきだけれど
夏の宵も、わるくない



 猪口に触れた指先に、ひんやりと。冷たさが滲む。
 呷れば豊かな酒の香りが鼻へと抜けて、冷たさが体を駆けていく。

 人ごみを避けて、端の席に座したゆいの耳にも、囃子のこえが、童の声が賑やかに響いてくる。
 童たちには、喜びの声がよおくにあう。

 今は遠き東の村も、普段と変わらぬ平穏を過ごしているだろう。

 これが、ゆいが、猟兵たちが守り抜いたもの。
 それは、求めた最良の未来。

 もしも、東の村を見てみぬふりをしていたら。
 この酒を、これほど美味しいと思う事はなかっただろう。
 よい結びだと、嬉しく思う。

 荒事はこのまぬけれど。
 戦ごとも、きらいなのだけれど。

 此度の元凶であった、あのおひめさんは。
 最期は、おひめさんらしく逝けただろうか。

 この1杯は、おひめさんのために。
 願いの空へと掲げ、呷る。
 次の世は、呪いを祝いへと変えられるように。

 ――やすらかに眠っておくれ。

 屋台を後にして、気ままに囃子の中を歩いていけば、見知った猟兵たちの姿を見つけて。
 嗚呼、そういえば、礼がまだであったと。 

「手伝ってくれたあなたも、あなたも。先ほどはどうも、ありがとさん」

 そう話しかければ、ありがとうはお互い様だと笑顔が返ってきて。
 猟兵たちはまた思い思いに、祭りの中へと散っていく。

 ゆいはと言えば……。

(甘味処も、あるかしら)

 あまいのは、すきだ。
 先ほど話をした猟兵が手にしていた団子が、気になるところ。

 少し歩けば、何やら甘い香りが漂ってきて。
 見つけたのは、美しい飴細工。

 どれも、食べるのがもったいない程にうつくしく。
 うさぎのがいい、金魚がいいと童たちが騒ぐなか、ゆいが選んだのは一口大の小さな花柄の飴。

 1つ口に運べば、甘さが広がって。

 人々の笑い声は途絶える事がなく。
 ゆるりと太陽は傾いて、昼の熱気は去り。吹き抜ける風が、少し火照った体を冷やしていく。

 はら。まこと、心地よいひとときだこと。
 ぼくは、春がすきだけれど。

 ――こんな夏の宵も、わるくない。

大成功 🔵​🔵​🔵​

月山・カムイ
なにはともあれ、被害が出なくて良かった、と言わざるを得ませんね
巨大な鷲には少々驚かされましたが……あ、そういえば織姫の姿を見るのを忘れていました
まぁ、オブリビオンですからその内機会もあるでしょう。あったらあったで困りモノですけども

等とぼやきつつ、屋台で団子を買ってのんびりと食べながら歩く
行儀は悪いですけど、これはこれで祭りの楽しみといったところですからねぇ
屋台をのんびり眺めて、食べたものをきっちり片付けて、鳥居をくぐる
ゆったりと本殿へ向かい、短冊をもらって願い事を一つ
「この世に災いの無き事を、人々に幸いの有らん事を」
他人の為の願いを吊るし、満足げに頷いて去っていく



 団子を片手に歩く村の広場は、囃子の声と人々の笑顔で溢れていた。

 西の戦場に着いた時、あの鷲が目に飛び込んできた時は、その巨大さに驚かされたが。
 絶望の風は既に凪ぎ。被害が出なくて良かった、と。心から、そう思う。

 一仕事終えた後の甘味は、疲れた体によく染みて。
 食べ歩きは行儀が悪いと、分かってはいるのだが。
 普段はやらない事を、あえてするという背徳感に加えて。この青空の下、子供たちの笑い声を耳にしながら堪能する甘味は、また格別というもの。
 これはこれで、祭りの楽しみというやつだ。

 カムイが向かうのは神社の方向。
 途中、共に戦った猟兵の姿を見かけて足を止めれば、「先ほどはどうも、ありがとさん」と礼を言われてしまって。
 それはお互い様だと返す。

 西と東。どちらの戦いも落とす事無く勝利を勝ち取れたのは、全員での成果だと笑いあって、猟兵たちはまた思い思いに祭りの中へと散っていく。

 食べ終えた団子をきっちり片付けて、2つ目の鳥居をくぐれば。幾本も立てられた笹竹から、さらさと。涼やかな音が響いてくる。

 折角の、夏の風物詩。
 自分も1枚と、短冊を貰って。さて、何を書こうかと思った時、はたと気付く。

 そういえば、今回の敵はこの七夕の象徴とも言える存在。『織姫』を名乗っていたという。
 自分が西へと着いた時、巨大な鷲の姿に、何は兎も角あれを止めなければならないと、必死で刃を振るったが。
 鷲を落し竹林の中へと踏み込んだ時には、既に決着が着いていて……結果、カムイは当の『織姫』をその目で見ていない。

 伝説として語られる『織姫』の名を名乗ったのだから、相応の……それこそ天女のように華麗な容姿だったのではないだろうか。
 仲間に詳しく聞いておけばよかったかもしれない。

 いや、オブリビオンであるならば、もしかするとまた出現する事もあるだろうか。
 ……あったらあったで困りモノなのだが。

 兎も角、これから笹へ飾る願いは、オブリビオンであった織姫に願うものではない。

 これは、自分への誓いのようなもの。
 これからも刃を振るい続ける、その意味。

 ――『この世に災いの無き事を、人々に幸いの有らん事を』

 満足げに神社を後にするカムイの後方で、笹竹に飾られた短冊が風に吹かれて。
 さらさらと、穏やかに揺れていた。

大成功 🔵​🔵​🔵​

クラウン・アンダーウッド
【ヤド箱】
アドリブ歓迎
お祭りは大好きさ♪応援特化型人形楽団にも祭囃子を演奏させよう。多くの人の笑顔が守れたようでボクは嬉しいよ。

沢山の子供たちがいるんだ。からくり人形の人形劇でもお見せしよう。題目は勿論「織姫と彦星」

折角だから、短冊にお願い事をしようかな♪「願わくは、またキミに会えますように」印象的だったキミの声(悲鳴)がまた聞けたらいいなぁ。


落浜・語
【ヤド箱】
無事に終わって何より、だな。

とりあえずは、神社にお参りして出店でも冷やかしに行こうかな。
短冊は、特に願いとかないし良いか。
ふらふらしつつ、周囲の親子連れを怪しくない程度に観察。親子の噺の仕草や所作の参考になるかと。
初天神とか、季節は違えど、まさに出店見ながらの親子の掛け合いだし。
ついでに飴細工でも買おうかな。

アドリブ、連携歓迎


黒鵺・瑞樹
【一応ヤド箱】アレンジOK

飲みどころは気になるがまずはいいか。
まずはお参りから。よその土地を訪ねたらその土地の神様に祈るのは基本だし。
短冊…は特に願い事も無いしいいか。

広場全体が見えるところでぼんやりと広場を眺めてる。
子供たちが元気なのはいい事だ。
そういや20年世話なった、村の子たち(成人済み含む)は元気かな、と思い出し。
あとは休憩できる適当な場所でごろごろ過ごす。



「無事に終わって何より、だな」

 時間が無いのだとグリモア猟兵に急かされ、この世界へと飛んでからずっと動き通しだった猟兵たちの戦いも、ようやく終わって。
 ようやく肩の荷が下りたと。
 集ったヤドリガミ達も、ここから先は各々思うままに過ごす事にする。

 西にも東にも被害はなく。
 心置きなく祭りを見ていこうというものも居れば、少し休みたいと、村へ行くのを遠慮するものも居る。

 みんなはどうする?と語が問えば。

「お祭りは大好きさ♪」

 遠く聞こえる祭囃子に、早くも心を躍らせて。
 先の戦いの消耗を感じさせる事もなく、クラウンは足取りも軽く村へと向かう。

「俺も、出店でも冷やかしに行こうかな」

 何やら甘味の店もあるようだし……とは、口に出さないが。
 人の溢れる祭りの光景も、色々と噺の参考になりそうだ。
 けれど、クラウンの後に続こうとして、語ははたと気付く。

「とりあえずは、神社にお参りが先か」
「よその土地を訪ねたら、その土地の神様に祈るのは基本だしな」

 瑞樹もまた頷いて、村へと足を進める。
 そういったしきたりを、ヒトに押し付けるつもりはないが、この身がサムライエンパイアのとある神社と縁を持つがゆえに、やはりその辺の筋は通したい所だ。


 ――さらさら、と。

 参拝を済ませた語と瑞樹の耳に届く、涼やかな音に釣られて、視線を巡らせてみれば。
 ずらりと立て並べられた笹竹に、飾られ揺れる短冊たちが目に入る。
 そういえば、誰でも飾る事が出来ると、そういう話だっただろうか。

「「……」」

 2人の間に、微妙な無言の時間が流れる。
 飾ろう!という話にならないのは、共に『願い』と言われても、特に思う事はない2人であったから。

 どちらかと言えば2人共に、人々の営みや賑わいは自ら参加するものではなく『見守る側』という感覚が強いのかもしれない。

「短冊……は、特に願い事も無いしいいかな」

 瑞樹がそう言えば、俺もだと。語は賑やかな広場の方へ。
 そして瑞樹は、神社の横手へ。

 歩いている時はあまり感じなかったが、神社までの道は緩やかに坂になっていたようで。
 ここからは、広場の様子がよく見える。

 玩具を手に走り回る子供。
 菓子が欲しいのだと、駄々をこねている子供。
 まだ、歩き方も覚束なくて親に手を引かれている子供。

 祭りの空気にはしゃいでいるのもあるのだろうが、この村の子供たちは本当に元気がいい。
 
 その未来が不当に閉ざされる事がなくて、本当に良かったと。
 安堵の気持ちと共に、瑞樹の中に蘇ってくるのは、世話になった村の事。

 あんな風に元気いっぱいに、駆けて笑っていた、あの村の子たちは元気でいるだろうか。
 いや。確かもう20年は前の事であったか。
 それならば、あの紅葉のように小さな手で、短い手足で。色々な事に一生懸命であった子供たちも、既に成人しているだろう。

 どんな風に成長しているだろうか。
 想像も付かないが、この村の広場ではしゃいでいる子供たちは、まんまあの頃の村の子たちと重なって。
 いつの時代も子供は変わらないものだと、思わず口元が緩む……と、突然広場の櫓の所から、人々の歓声が上がって。

 何が始まったんだ?と目を凝らして見れば、そこに居たのは――。

「さぁ、人形劇が始まるよ!♪」

 絶望の風は既に止み、多くの人たちの笑顔を守る事が出来たのはとても嬉しい事だけれど。
 折角のお祭り。
 もっともっと、沢山の笑顔を。沢山の喜びをと望むのは、当然だよね♪と。

 クラウンの指の動きに合わせて、ピエロ人形たちが手にした楽器を吹き鳴らせば。
 子供たちの叩く太鼓の音に合わせて、祭囃子はマーチ風の賑やかな曲調へと変わる。

 はて、何が始まったのかと、あっという間に人だかりが出来上がるが、本番はここから。

『さぁさぁ、お集りのみなみなさま。これよりお目にかけるのは、可愛い人形たちによる織姫と彦星の物語り』

 進み出た2体のからくり人形が、観客へ向けてお辞儀をすれば。
 子供たちの目が輝いて。

『さぁ、遠慮なく子供たちは前に座って。お立ちの親御さん方もお見逃しなく』

 ――それでは、はじまり。はじまり。

 急に人の密度が増した広場。
 その中心からは、何やら聞き覚えのある声が聞こえてくる。

 あまり身長が大きい方ではない語では、人垣の向こうを確認する事ができないが……いや、確認するまでもない。これはクラウンの声だろう。

 子供たちの為の祭りというなら、それは。親子の仕草や所作の参考になるのではないかと、会場をふらふらと渡り歩いていた語だったが、これはいい場面に遭遇した。

 あまり露骨に親子連れを凝視していては、周囲から怪しまれもしようが、この状況ならば遠目に人形劇を見ているようにしか見えないだろう。

 クラウンの操るからくり人形が、果たしてどのような仕掛けなのか、必死で後ろに回り込もうとする子供に、人垣で見えず大人の股下を潜り抜けようとする子供……全くやんちゃが過ぎるが、そこには子供だからこそ出来る大胆さがあって。
 必死に親の袖を引いて、自分も見たいとごねる子供と、すっかり人形劇に夢中で子供の話を聞いていない父親などは、『初天神』にも通じそうだ。

 そういえば季節こそ違えどあの噺も、出店を見ながらの親子の掛け合いであったか……。

 突如、大きな拍手が起こって。どうやら人形劇が終わったらしい。
 人混みがはけ始めて、主演のクラウンはと言えば……どうやら神社の方に向かうようす。

 自分はどうしようかと思案する語の前を、可愛らしい花型の飴を手にした子供が通り過ぎていく。

 親子の姿ばかり追っていて気付かなかったが、この辺りの出店には甘味を売っている店も多いらしい。
 オブリビオンたちとの連戦で、程よく頭も体も疲れている事だし。甘いもので疲労回復と言うのも悪くない。

 あの飴細工はどこの出店で売られているのだろうかと、語の散策は今しばらく続くのだった。


 比較的静かであったはずの境内に、何故か急に子供たちの声が響き始める。
 何事かと、瑞樹が鳥居の方を見れば。
 クラウンと、その後ろをぞろぞろとくっ付いて歩く子供たちの姿。
 どうやらクラウンは、先ほどの人形劇で、すっかり子供たちの人気者になってしまったらしい。

 祭りの様子を眺める事ができて、かつ静かに休める良い場所だったのだが。
 この賑やかさは、しばらく収まりそうにない。
 子供が嫌いな訳ではないのだが、連戦の疲れもある。
 流石にあの人数の相手は大変そうだと、瑞樹はそろりと境内を後にして。

 そういえば、来た時に見かけた呑み処も気になるところ。
 子供たちの元気な声を聞きながら呷る1杯も、中々乙かもしれない――。

「それ、どうやって動くのー?」
「もっと違うのみたーい!」

 元気な子供達を、意図せず引き連れる形でクラウンがやってきたのは、境内に立ち並べられた笹竹の所。
 ここまで来れば、子供たちの意識も自然とクラウンから短冊へと移っていく。
 結果、子供たちも一緒になって短冊を書く流れに。

「にんぎょうのおにいちゃんは、なにをかいたのー?」

 見せて見せてと騒ぐ子供たちに、クラウンが差し出した短冊には――。

『願わくは、またキミに会えますように』

 きみってだれー?と首を傾げる子供たちを、「秘密だよ♪」とクスリと笑ってかわして。
 飾った短冊は、さらさらと。笹の葉と共に風に揺れる。

 ――また、キミのステキな悲鳴が聞けますように。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

ペイン・フィン
【ヤド箱】

ん。どうにかなったみたい?
良かった、良かった。

……でも、慣れないコード使ったから、少し、疲れた……。
あんなに大人数運ぶのも初めてだったし、
折角のお祭りだけど、のんびり休ませてもらうよ。

ファンと一緒に、星を、見上げてようかな。
……どの世界でも、星に、願いを込める伝承があるのは、一緒。
なんだか、不思議だね……。
でも、うん。
確かに、曖昧なのは、否定できないかも。
今回の敵とか、特にね……。

―――もちろん。
神にも、星にでも無く、
兄姉から送られた、この名前に誓って。
自分は、ファンのそばに居ることを、
その願いを、叶えるため、尽力することを……。
ううん。
必ず、叶えてみせる。
そう、誓うよ。


ファン・ティンタン
【POW】星に願うくらいなら
【ヤド箱】で参加

脅威も去ったわけだし、あとは守りきれた平穏に身を委ねようか

……とは言え、流石に連戦は身に堪えたかな
今はあんまり騒がしい所に居る気分ではないよ
村の様子が一望出来る場所を探して、静かに過ごす
空を見れば、件の織姫星も見えるかな

望みを何かに託すのも悪くは無いけれど……
私だったら、星なんて曖昧なモノに頼まず、すぐ隣に居るヒトに頼るかな

元の主の受け売りで、私もカミサマを信じていないけれど、一つだけ良いと思えた言葉があるよ

汝の隣人を愛せよ

―――私の願いは、ペインが叶えてくれるんでしょう?

……なんてね

(私は、私を置いていかないヒトが傍に居てくれたら、それで十分だよ)



 守り切ったのは子供たちの未来と、今の平穏。
 全て守るのだと、刃を手にして。
 最も険しいと分かっていた道を駆けた。

 偽りの織姫の姿は既に無く。守りきれたのだと言う安堵と共に、体は思い出したように疲労を訴えてきて。
 折角のお祭りではあったけれど、祭りへと向かう仲間たちの背中を見送って、今はペインとファンの2人きり。

 耳に届く祭囃子は、遠すぎず、近すぎず。
 みなと守り切った平穏が、確かに続いているのだと教えてくれる。

 遠い喧騒の中に、先ほど見送った仲間たちも居るだろうか?
 先ほど、広場の方向から大きな歓声が上がっていたようだが……。
 目を凝らして見るけれど、流石にこの距離では見えそうもない。

 特に、何をするでもなく。
 ただ寄り添って、静かに時を過ごす。

 それだけなのに、不思議と時の流れが早くて。
 空はあっという間に、藍色へと変じていく。

 星灯りが1つ。2つ。
 あぁ、もう数え切れない。

 輝く星の川を共に眺めて。
 件の織姫星も、どこかで輝いているのだろうか。

 どの世界でも、あの夜空の煌めきは特別なもの。
 静かな夜に何かを願うのならば。どの世界でも合言葉のように出てくる言葉は、『星に願いを』。

 それは何だか不思議だと、ペインが言えば。
 ファンは少し首を傾げる。

 望みを何かに託すのも、今は悪くないと思うけれど。
 私だったら、星なんて曖昧なモノには頼まないのだと、告げる。

 確かに星の煌めきは尊く、美しく。
 けれど、どこか儚くて、手を伸ばしてもいつも届かない。
 時と共に移ろいゆく、蜃気楼のように曖昧なもの。

 だから、託すのならば。頼るのならば、もっと私にとって確かな存在に――すぐ隣に居るヒトに。

 ――私の願いは、ペインが叶えてくれるんでしょう?

 黒い双眸を覗き込んで、言ってみる。
 けれど、直ぐに「なんてね」と付け足して。ペインの肩へと頭を乗せた。

 特別な事は望んでいない。
 ただ、モノであるこの身は、人間の一生よりも遥かに長くこの世に残り続ける。

 人は移ろう。
 夜空の星と同じように、想いも、価値観も。
 この世界は、ファンを置き去りに移ろいでいく。
 だから、私は。

(私を置いていかないヒトが傍に居てくれたら、それで十分だよ)

 口にしない思いは、肩に感じる熱として、ペインへと伝わっている。

 ――もちろん。

 誓おう。
 神でもなく。星でもなく。
 此度の敵のように、曖昧なものでもなく。

 大切な人……ファンにとって、唯一確かな存在である自分自身。
 兄姉から送られた、この『ペイン・フィン』の名に誓って。

 白い手に、そっと自身の手を重ねて。

 この身はいつでも、あなたの手を取れる場所に。
 あなたを置いていく事だけはしないと。
 その願いを、叶えるため……。
 いや。必ず、叶えてみせると。そう、誓う。

 ペインの応えに、ファンはふと、過去の事を思い出す。
 かつての主、カミサマでさえ否定的であった彼女が発した、言葉の1つ――『汝の隣人を愛せよ』。

 聞いた当時も、良い言葉だと思えたけれど。
 今ならより、その意味が分かる気がする。

 ペインが、傍に居てくれるのならば。
 私もまた、あなたを守るために在る事を、この身に誓おう。


 夜風が吹きぬけて、笹の葉がさらさらと音を立てる中、密かにかわされた誓いは。
 川となり流れゆく、満天の星たちでさえ叶える事はできない。
 2人だけのもの――。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

アルマニア・シングリッド
【ヤド箱】
無事に脅威を取り除くことができました
でも、流石に紙(我ハ古キ書ノ一遍ナリ)を使い過ぎましたね…
屋台でお茶と煮魚を買って大人しくするか

広場と鳥居の中間あたり
人通りが少ない場所で
迷彩・目立たないで隠れつつ
祭りの様子を眺めている

煮魚を食べ終えたら
本殿にお参りしに行きましょうか

願い事は書きません
書こうにも
何も思い浮かばないんですよね

本殿から最初にいた場所に戻る途中で団子や最中を買いましょう

ふと、本殿へ向かう人々を見遣る
その中には子連れの方もいるのでしょうか

空を見上げれば、天の川
……UDCアースで聴いた『たなばたさま』を唄ってみましょうかね
勿論、小さな声で口ずさむようにして


アドリブ・絡み大歓迎


吉備・狐珀
【ヤド箱】で参加です

祭囃子と祭りを楽しむ人達の姿に良かったと胸を撫で下ろしつつ、鳥居をくぐって先ずは土地の神様に挨拶を。
挨拶が済んだら短冊を1枚。
願い事を書いた短冊はあまり人に見られないように、七夕飾りの中に紛れ込ませてつるします。

細工の見事な飴を買ったら少し離れた所で祭囃子を聴きながら天の川を眺めようかな。

※アドリブ等歓迎です


勘解由小路・津雲
【ヤド箱】
やあ、東西に分かれていたので気付かなかったが、けっこうな人数の猟兵が駆けつけていたのだな。何はともあれ、無事に済んでよかった。

祭りを横目に、短冊を手にしばし思案する。せっかくだから願いを、と思うものの、いい考えが浮かばない。

絶望を振りまく織姫の姿はもうないけれど、あれと向き合った後遺症なのか、素直に希望を思い浮かべるのが難しい気がする。

こんなときは、自分や親しい相手ではなく、あえて敵であった存在について願うとしよう。オブリビオンであれば、しばらくすればまた復活するのだろう。

ならば短冊にはこう書こう。「少しでも長く、静かに眠れ」

……この願いもまた、彼女は「奪おう」とするのだろうか?



 陽は傾いて、陽光は赤みを増していく。
 その光と祭りの灯が合わさって、村の光景はより華やかさを増した気がする。

 どちらかと言えば、静かな場所の方が好きなのだけれど。
 これは確かに、仲間たちと共に守り抜いたものだから。
 狐珀の耳に届く、喧騒――祭囃子に人々の笑い声も、今はどこか心地がいい。

 買ってもらった玩具を掲げて、元気に走り回る子供。
 遊び疲れて親に抱えられ、既に夢の中の子供。
 見守る大人たちの穏やかな顔。

 もしも、猟兵たちが戦わなければ。西と東、どちらかが負けていれば。
 これらは全て、失われるはずであったもの。

 この目で、耳で、それらを感じる程に。
 本当に、守る事が出来て良かったと。安堵と喜びが満ちる。

「無事に脅威を取り除くことができたのは、喜ばしい事ですが……」

 流石に紙……もとい、本体を使い過ぎました、と。
 少しふらつき気味なのは、アルマニア。

 戦闘にて消費したその枚数、約4万とんで100枚。
 重量で考えれば――女性にはデリケートな話題なので詳細な数値は省くが――そこいらの一般人では、まず持ち上げられない重量の紙を消費しているのだ。

 この疲労しきった体が求めているのは、休息と補給。
 視線は自然と、屋台の方へと向く。
 先ほどからふんわりと漂う、香ばしくもほんのり甘い香りがアルマニアを呼んでいた。

 既に脅威は去り、帰りは特に急ぐこともない。
 ここから先は、各々思うままに過ごしても、問題はあるまい。

「私は、先ずは土地の神様に挨拶を」

 自身もまた神社へと置かれていた身。
 オブリビオンへの対処が急を要したため、順番が前後してしまったが。いや、だからこそ、きちんと挨拶をしておかねばと、狐珀は神社の方へと歩き出せば。
 陰陽師たる津雲もまた、狐珀の後に続く。

 出店の並ぶ華やかな通りは、人で溢れていて。
 その中にちらほらと、サムライエンパイアの雰囲気にあまり馴染まぬ出で立ちの者が目に留まる。

 それは、今回の戦いを共にした仲間たち。
 この世界の住人には全く違和感を抱かれないが、同じ猟兵である津雲の視界の中ではとても目立っていて。

 東西へと分かれて戦って。合流し、偽りの織姫を倒した後は、あっさりと解散してしまったけれど。
 共に戦った仲間の姿があちらにも、こちらにも。
 実は、けっこうな人数の猟兵が駆けつけていたのだな、と。改めて知る。

 幾人かの猟兵たちとすれ違いながら、鳥居を2つくぐれば。
 本殿はもう目の前。

 手を合わせて祈るのは、土地の神への挨拶と。そして、この地に迫っていた脅威を無事払えた事の報告。
 この地の神も、無事に開かれたこの祭りを見てくれているだろうか。
 そうであってくれればいい。

 しかと参拝を終えた狐珀と津雲の耳に届くのは、さらさらと涼やかな笹の葉の音。
 本殿に向かって左手には、幾本もの笹竹が立て並べられていて。飾られた短冊が、ゆらゆらと揺れていた。

「せっかくだ。1枚飾っていくか」
「そうですね」

 神社の巫女へと声をかけ、貰った短冊。
 しかし狐珀は、すぐには願いを書くことはせず、しげしげと眺める。

 何かを願う人の姿は多く見て来たけれど。
 こうして自分が願う側に立つというのは、未だに少し新鮮な気がして。

 そう大きな事や、多くの事を願うつもりはないけれど。
 書いた願いは、人に見られぬように手で伏せて。

 見上げた笹竹には、沢山の短冊に七夕飾りが揺れているけれど、その中でもあまり目立たぬ方へ。並んだ菱飾りに紛れ込ませるように、そっと飾る。

 津雲はもう飾り終えているだろうかと、振り返れば。
 どうやらまだ、願いを書いてすらいない様子。

「では、私は少し出店をみてきます」

 来た道を引き返して、また鳥居をくぐれば。

「お参りは済んだんですか?」

 よく知る、アルマニアの声。はて、どこに居るのかと見回せば。
 出店と出店の間。人が1人通れるかといった狭い隙間を抜けた木陰に、腰を下ろしている姿を見つけて。
 声を掛けられなければ、間違いなく素通りしていました、とか。何故そんな所に……とかいう疑問はとりあえず置いておいて、問いに答える。

「はい。本殿の傍で短冊も飾れましたよ」

 狐珀の言葉に、アルマニアの目は本殿の方角へ。
 とりあえず、屋台で食べた煮魚とお茶のおかげで、少し活力も湧いてきたところ。
 完全に後回しにしていたけれど、そろそろきちんとお参りしに行こうかと。
 狐珀へ礼を述べて、アルマニアは本殿の方へと歩き始める。

 鳥居をくぐれば、その左手に立ち並ぶのは沢山の願いが飾られた笹竹たちと、そして津雲の姿。
 どうやら、まだ書く願いに悩んでいるらしい。

 折角の、七夕。
 長き時を経て得た人の姿ならば、こうして短冊を書く事もできるのに。
 津雲の手は、未だに1文字も書けないまま。
 肝心の『願い事』が、中々思い浮かばないのは――。

 偽りの織姫が振りまいた、あの絶望。
 まだ少しだけ、心の奥底に震えるような冷たさが残っている気がして。

 希望。光。願い事。
 そう言った暖かな何かが、未だ遠くに感じられて。
 当たり障りのない願いばかりが浮かんでは、消えていく。

 ふと、広場の方向が騒がしくなったような気がして、顔を上げれば。
 津雲の目に映るのは、賑やかな祭りの光景。人々の、笑顔。

 今回は、守り通す事が出来たけれど。
 あの偽りの織姫は、いつかまた復活する日が来るだろうか。
 この笑顔が、人の営みが脅かされる日が……ならば、短冊にはこう書こう。

『少しでも長く、静かに眠れ』

(……この願いもまた、彼女は「奪おう」とするのだろうか?)

 ふと、そんなことを思うけれど。
 いや、何も心配は要らないか……と。

 今日ここに、多くの猟兵が集ったように。
 かの絶望が再び目を覚ます時が来たとしても、その度に。
 猟兵たちの刃は幾度でも、その絶望を断ち切るだろうから――。

 参拝を終えて。出店の方に戻ろうと歩くアルマニアの目に、短冊を飾る津雲の姿が映る。
 どうやらようやく、願い事が決まったらしい。

 ふわりと風が吹けば、アルマニアの本体のように色とりどりの飾りと短冊が、笹の葉と共に揺れる。
 自分も1枚くらい飾ってみてもいいかもしれないと、思いはするものの。

 『願い事』と言われても、何も思い浮かばない。
 あらゆる願いは、空想は、自身の力で実現するものだと。そう思うから。

 ……まぁ、それでも無理やりに今の願いを上げるとすれば、『甘いものが食べたい』と言ったところか。
 けれどこれもまた、短冊に書くほどの事ではない。

 みたらし団子に、ごま団子。あぁ、最中も捨てがたい。
 思い浮かべるのは、沢山の甘味たち。
 それでは、この空想を実現させに。もう1度広場へ向かうとしよう。


 さらさらと鳴る、笹の音を伴奏に。
 口ずさむのは、とある世界で聴いた歌。

 その小さな歌声は、誰の耳にも届く事なく夜空に消えて。

 短冊を飾る津雲を。細工飴を手にした狐珀を。甘味を探すアルマニアを。
 お星さまたちがきらきらと、空から見ていた。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​



最終結果:成功

完成日:2019年07月25日
宿敵 『『三姫』織姫』 を撃破!


挿絵イラスト