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蒸気と自転車と温室の女王

#アルダワ魔法学園

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#アルダワ魔法学園


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 その日はよく晴れた昼下がりだった。
 学生の喧騒、選手たちの気合を入れる声、スチームサイクルレース場は熱狂のさなかにあった。
 名前の通り蒸気と魔法による動力で動く自転車によるレース。
 出力に制限こそされるものの、その速度で時には自転車そのものを宙に浮かすことすら出来るというそれは、アルダワ魔法学院世界の一大行事の一つだ。
 今回開催されるのは誰でも参加自由のお祭りレース。誰もが新たなヒーローになろうと、目を輝かせていた。
 このコースには動く壁、点在するブロックを渡り歩く空中回廊など、様々なギミックが存在している。熱い戦いが期待できると、学生の間の前評判も十分だった。
 誰もが待ち望むレースがスタートする。その高揚は留まるところを知らなかった。
 3、2、1、スタートが切られるその瞬間。
 ーーーコースの中央から地表を破り、オブリビオンの群れが現れるまでは。

「皆、よく来てくれた」
 キマイラのグリモア猟兵、ライヴァルト・ナトゥアはそう言って猟兵たちを出迎えた。
「さて、察しはついているだろうけど、今回も猟兵としてのお仕事の話だ」
 狼の耳をゆらりと、猫の尻尾をゆらゆらと揺らして彼は語り出す。
「今回の舞台はアルダワ魔法学園世界。そこで起こる事件の阻止だ」
 魔法学園に憧れがあるのか、その名を呼ぶときだけ少し明るい調子になった声に、幾人かが気付いて双眸を向ける。
「…コホン。それで、その魔法世界には伝統行事とも呼べる一つの競技がある。それが、“スチームサイクルレース”だ。現地の出身者ならば知っているかもしれないが、アルダワ世界では割と権威のあるスポーツらしい」
 少々気恥ずかしそうに言った彼は、そこまでで言葉を区切って地図を広げ始めた。
 現地の資料なのだろう。簡略化された見取り図と、周囲の映像写真のようだ。
「問題の地点はな、ココだ」
 そう言って彼はレース場のちょうど中心を指し示した。そんな場所に何があるというのか。猟兵たちは一様に疑問を顔に浮かべた。
「ココのすぐ下に、ダンジョンがある」
 場が一瞬の驚きに包まれる。
 驚きが去れば、猟兵たちの顔には、難しい顔をしたもの、ないわーと苦笑いするもの、様々な表情が見て取れた。
「俺が予知で見たのは、数日後に始まるレース直前の風景。スタートが切られるその瞬間に、オブリビオンどももスタートを切った瞬間だ」
 このまま放置しておけば、コースのちょうど真ん中から地表を突き破ってオブリビオンが現れるらしい。
 しかし、どうしてそんな場所にレース場を作ろうなどと思ったのだろうか。
「このレース場の基礎を作った時に、かなり深くに存在したことで発見されなかったようだ。主催者側にとっても不慮の事故と言えるだろうな。補強するにしても、時間が足りないのは間違いない」
 さもありなん。事実は小説より奇なりとはいうが、いくらなんでも酷い話だ。
 幸い、この迷宮の入り口はすでに発見済みらしいので、入り口を探すところからスタートしなくていいのが幸いだろう。
「今回予知に成功したのは僥倖だった。こうやって、君たちの助けを借りることができる」
 そう言ってライヴァルトは先ほどの地図とは打って変わって、分厚い資料を捲りながら話し始めた。
「今回ダンジョンから現れる敵は、メイド人形と言われるオブリビオンだ。見た目は普通のメイドなんだが、仕込み刀を振るったり、暗器を投げたり、精神に干渉する声で集中を乱したりと、影の護衛、もしくは暗殺者とも言えるような技能を有している」
 見た目が可愛いからと言って、侮ってかかれるわけではないらしい。
「それと、このメイドなんだが、より上位の魔物に使役されている場合が多いらしい。メイドらしく女王なんかに使役されている場合が多いそうだ。君達は、使役している魔物がいた場合その討伐までを依頼内容として捉えてくれ」
 そこまでを言葉にして、ライヴァルトは分厚い資料を閉じた。
「ただ行って倒してくるというのも詮無いことだろう。今回のレースは参加自由のもので、学園内でも最大級のものだそうだ。転校生として自分の守ったレースで遊ぶのも、また一興かもしれないぞ?どうやら賞金も出るようだしな」
 ふわりと微笑した彼は、最後に顔を引き締めて、
「道中危険もあるだろうが、君達ならば乗り越えられると信じている。俺自身が赴けないのは歯がゆいが、その分、君達の武運を祈っている」
 と、猟兵たちへエールを送るのだった。


夜宵
 皆様こんにちは。夜宵と申します。

 2本目のシナリオです。例によって、皆様の感情、思いの丈をシナリオにぶつけていただきたいと思います!

●フラグメント目的
 書物の魔物の群れの討伐 。

●敵情報
  知識を集積した書物です。ダンジョンの知識を得るため、書物の魔物と戦うのはダンジョンでは良くある光景です。オブリビオンになるのは、魔王時代の忌まわしき歴史を記した魔導書だとも言われています。

●世界の概要
 蒸気と魔法が発達した世界です。蒸気機械と魔法で創造した究極の地下迷宮「アルダワ」に、この世界の「災魔(オブリビオン)」は全て封印されました。その後、人々は迷宮の上に「アルダワ魔法学園」を建設し、迷宮からの脱出を図る災魔と戦う「学生」を育てはじめました。

●猟兵の扱い
 猟兵にしか退治できない災魔が増え、地下迷宮は刻一刻と姿を変えるようになりました。迷宮を踏破し、大魔王を倒さねばなりません。学園の運営側も学生達も、猟兵の存在や現在の状況を把握しており、猟兵全員を「転校生」として迎え入れ、支援します。

●補足
 このシナリオは純戦闘+αのシナリオです。
 例によって、皆様のキャラらしさに重点を置いて書いていきたいと思います。
 素敵なプレイングをお待ちしております!
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第1章 集団戦 『メイド人形』

POW   :    居合い抜き
【仕込み箒から抜き放った刃】が命中した対象を切断する。
SPD   :    暗殺
レベル分の1秒で【衣装内に仕込まれた暗器】を発射できる。
WIZ   :    人形の囁き
対象のユーベルコードに対し【対象の精神に直接響く囁き声】を放ち、相殺する。事前にそれを見ていれば成功率が上がる。
👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​

種別『集団戦』のルール
 記載された敵が「沢山」出現します(厳密に何体いるかは、書く場合も書かない場合もあります)。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


ダンジョンの中へと踏み入った猟兵たちの目に、まず最初に映ったのは、黄土色のレンガで構成された石の回廊を這いまわる、緑色のツタであった。それらが動いているはずがないのだが、今にも動き出しそうな気配を、その新鮮に過ぎる色味から感じることが出来た。
 そんな予感に反して、ツタは動かず、従って当初懸念したような、例えばツタに襲われるというような状況になることはなかった。レース場の真下に当たる地点を通り過ぎ、さらに奥へ奥へと進んでいく。
 回廊の先、魔力を含んでいるのか、ほのかに光る苔が周囲を照らす大広間、そこで、猟兵たちは最初の敵対者の足音を聞いたのだった。
階下から登ってきたのは金のツインテールをドリルのように巻いた、ほうきを持つ美しいメイド少女たちだった。関節部分が球体でなければ、彼女たちが人形であると疑うものはいないだろう。それほどに完成された造形であった。
 しかし、ダンジョンから現れるものがただの動く人形であるはずがない。これが情報にあったメイド人形というオブリビオンなのだろう。
古明地・利博
「へぇ、動くメイド人形なんて面白いね!これはじっくりと研究しないとね!」

多分攻撃してくると思うから【忌々しき束縛】で相手の行動を縛ろうかな。
それでも攻撃してくるようならフック付きワイヤーを人形の体に巻き付けて動けないようにするよ。
まさしく壊れた操り人形ってね♪
人形が何も敵対行動をとれなくなったら近づいて服をまさぐったりじっくりと観察したり目を抉ったり……フフフ、考えただけでゾクゾクするよ……。

じっくりと調べ終わったらもう用済みだからワイヤーを思いっきり引っ張って人形にめり込ませて壊そうかな。
本当は持ち帰ってじっくりと調べたいけどオブリビオンだから仕方ないね♪



メイド人形たちの美麗な顔が猟兵たちをにらみつける。高まってゆく緊張感だったが、それを切り裂いたのはなんとも明るく歓喜に満ちた声だった。
「へぇ、動くメイド人形なんて面白いね!これはじっくりと研究しないとね!」
 酷く不健康な見た目の彼女、古明地・利博(人間の探索者・f06682)はその外見に反して生き生きとした様子で言い放った。道具の収集癖を持つ彼女からすれば、目の前のメイド人形はまさに垂涎の品ということなのだろう。
 明確な敵対者として彼女を認識したのか、メイド人形の1体が腰を落とし、見た目からは想像もつかない速度で駆けだした。
「y’-gotha h’-ah-aforgomon niggur mggh’n urrrh …」
 その瞬間に利博の口から紡がれたそれは、普通の人間には何の言葉なのかも理解できないような言葉。しかし力をもって黒い鎖として現出したそれは、利博からメイド人形までを繋ぐように、一直線に伸びてゆく。
 それに対してメイド人形は口を軽く開くと、囁いた。
「AhhhhhAhh」
 それは酷く弱い声音だった。しかし不思議と響く声音だった。それこそ聞こえるはずもない声量にもかかわらず、それは確かに利博へと届いた。精神に干渉するその声は、まともに受ければユーベルコードを中断させられかねない悪魔の囁きだ。
「フフッ、こんなことで私を止められると思ってるのかな?」
 しかし、利博は揺るがない。いや、その執念が、欲が、精神に関する語りかけを凌駕しているのだろう。
 黒き鎖はメイド人形へと届くと同時に、その先端をばらけさせる、一本一本が、腕を、足を、首を、口を、自由の全てを奪ってゆく。後に残ったのは、無力な人形のみだ。黒い鎖が伸縮し、利博のもとへとメイド人形を送り届ける。まるで供物を捧げるかのように。
「まさしく壊れた操り人形ってね♪今からあなたを研究…フフフ、考えただけでゾクゾクするよ」
 服をまさぐり、じっくりと観察し、目を抉る。それは傍から見ればひどく猟奇的な光景ではあったが、蒐集家の彼女はどこまでも真剣だ。
 当然、他のメイド人形たちもその様子をただ見ていたわけではない。さらに数体が、利博を害そうと迫りくるのが彼女の目にも映った。どうにも、時間をかけてじっくりと調べている余裕はないらしい。
 それでも最低限は調べ終えたと、利博は薄く笑う。
「もう用済みだね」
 黒い鎖がキュッと絞まり、メイド人形の外装がパキパキと音を立ててひび割れる。そしてそのままその体を粉々に砕いてしまった。
「本当は持ち帰ってじっくりと調べたいけどオブリビオンだから仕方ないね♪ 」
 彼女は最後まで一貫して朗らかで、しかし酷薄であった。

成功 🔵​🔵​🔴​

寧宮・澪
あー……せっかくの、スチームサイクルレース、なのに……邪魔は、めっです、よー。

回復、お任せをー……。
シンフォニック・キュア、使用しますねー……。
【歌唱】、【優しさ】、【鼓舞】、込めて。
【オーラ防御】


エウトティア・ナトゥア
SPDを使用します。

他の猟兵と行動、味方の攻撃に合わせて敵中へ突撃。
《巨狼咆哮》で【衣装内に仕込まれた暗器】ごと『メイド人形』を吹き飛ばします。

このような開けた場所では小細工を弄する余地はないのう。
ここは正面から当たるしかないじゃろう。

幸い味方も居るようじゃ。
黒曜石のナイフを抜き放って、「野生の勘」でタイミングを計りマニトゥに「騎乗」して味方の攻撃に合わせて敵の懐に入るとするかの。
狼の爪と牙で攻撃じゃ。

ふむ、わしの「第六感」が囁くのう。
マニトゥ!吼えるのじゃ!
敵の小細工ごと吹き飛ばしてやれぃ!


四季乃・瑠璃
部屋の入口から、敵の配置を確認。
敵の居合を避ける為、なるべく中~遠距離戦闘を実施。

接触式のジェノサイドボム(以下ボム)を無数に生成。【2回攻撃】【範囲攻撃】で大量の爆弾の雨を降らせて、敵をまとめて吹き飛ばすよ♪
敵の暗器は警戒して回避できるものは回避し、できそうになければダガーで弾くか拳銃使って【クイックドロウ】で撃ち落とす。

爆風を突破するとか回り込む相手がいたら、【オルタナティブ・ダブル】でこっそり分身しておいた瑠璃が迎撃。
そこからは緋瑪と瑠璃、二倍の手数でボムをばら蒔いて粉砕するよ♪

緋瑪「本物の人間じゃないけど、倒し甲斐はありそうだね、瑠璃♪」
瑠璃「随分可愛らしい人形だね…一体欲しいなぁ」 


ソフィア・テレンティア
メイドで人形とは……同類を見るようで少々心が痛みますね
ですが、オブリビオンに堕ちたのであればもはや分かり合えることもないでしょう。
残念ですが……せめて最後は安らかに眠らせて差し上げましょう。

【蒸気駆動式機関銃・冥土式】で【援護射撃】し敵の動きをけん制しつつ、
●人形の囁きを自分の歌でかき消すように【歌唱】し、自UC【シンフォニック・キュア】で味方猟兵を癒します。
「私の歌と貴女の声、何方の性能が上なのか……確かめてみる事にいたしましょう。」


サリー・オーガスティン
動力こそ違えど、サイクルなら、ボクも大好きだ!ジェイクは、スペース=モーターサイクル(バイシクル)だけどね。

(ジェイクの燃料タンクあたりを、ポンポンと叩き)
バイク…もといサイクルレースを邪魔立てする奴は、絶対に許さないよ。
ボクは。

【フルバーストマキシマム】で、広くダメージを与えよう!
(使える攻撃系技能は全部載せで)

…しかし、黙っていれば、良く出来たオートマタなんだけどなぁ
あ、ボクもある意味、良く出来たオートマタだった
(サイボーグ化された、右手をぐーぱーさせながら)

女性型、というのが、どうも良い気分しないけど。
さぁ、雰囲気に騙されないように、レース場をクリアにさせるよ!



「待て」
 その一言で、利博へと向かっていたメイド人形たちは動きを止めた。
「ふむ、これが猟兵という輩ですか。私たちのうちの一人をこれほどまでに軽々と倒すとは、気を引き締めてかからねばなりませんね」
 ふと、十数人にもなるメイド人形の中から凛とした声が聞こえる。メイド人形たちによるモノトーンの色彩の中で、その少女は紺色の鮮やかな色合いのメイド服を着ていた。スカートもロングスカート、今風に言うのであれば古き良きメイド服、といったところか。どうやら、外見は同じなれど、他のメイドたちの統率を任されている個体のようだ。
「あるじを煩わせる輩は全員即刻斬首の刑と決まっております。総員、抜剣」
 その一言でメイド人形たちが一斉に箒に偽装した仕込み刀を抜き放った。統率する個体がいる。それはすなわち相手方が連携をとるということに他ならない。
「かかれ!」
 その声を皮切りに、戦いの第二幕が始まった。

「先陣はわたしだね♪」
 部屋の入り口から、敵の配置を確認し、四季乃・瑠璃(瑠璃色の殺人姫・f09675)は戦場へと飛び込んだ。いや、多重人格者の彼女の定義で言えば、今は緋瑪 と呼ぶべきか。その手から現出するのは無数の爆弾、ジェノサイド・ボムと緋瑪が呼称するそれは、魔力が続く限りは無限に増殖する魔法の爆弾だ。
「まとめて吹き飛ばすよ♪」
 手数と範囲には自信があるんだと、明るい声と共に放たれた爆弾の雨が放物線を描いて落ちてゆく。すべての敵に命中とはいかなかったが、爆風でほとんどの敵の足取りが鈍る。仕込み刀を警戒していた瑠璃から見れば、ある程度の戦果があったとは言えるだろう。
「メイドで人形とは……同類を見るようで少々心が痛みますね 」
 瑠璃を補佐せんと、蒸気ガトリングガン【蒸気駆動式機関銃・冥土式】 を構えたソフィア・テレンティア(ミレナリィドールのシンフォニア・f02643)は悲しみを湛えた顔で呟いた。
「ですが、オブリビオンに堕ちたのであればもはや分かり合えることもないでしょう」
 絶対不変の事実であるそれをもって、憐憫を振り切り、ソフィアは銃の引き金を引いた。
 パパパパパパパ!と乾いた音が響き、突撃してくるメイド人形達を押し返してゆく。メイド人形たちの反応も早かった。即座に暗器による攻撃に切り替え、クナイ、鉄針、果ては手裏剣まで、一つ一つが0.1秒にも満たない間に射出されたそれは、ガトリングガンの数が頼みの銃弾では相当数が命中しなければ止められない。
 人数とは恐ろしいもので、少人数の猟兵たちにはそれほどの弾幕を張れるだけの手数は流石にない。だが、弾幕を張れないからと言って攻められないというわけでは、もちろん、ない。
 動いたのは二つの影、巨狼マニトゥに騎乗したエウトティア・ナトゥア(緋色線条の巫女姫・f04161)と、愛車である宇宙バイク、ジェイクに騎乗するサリー・オーガスティン(鉄馬の半身・f02199)だ。
「このような開けた場所では小細工を弄する余地はないのう。ここは正面から当たるしかないじゃろう」
 巨狼の爪牙が暗器を弾く中、エウトティアは考えを巡らせる。後方からの支援も含めれば、敵の懐に到達するのは、それほど難しいことではないと彼女は感じていた。
「さあて、行くよ!ジェイク!」
 その横で愛車の燃料タンクをポンポンと叩き、サリーは奮起する。
「バイク…もといサイクルレースを邪魔立てする奴は、絶対に許さないよ。ボクは」
 独白なのか決意表明なのか、サリーは恐らく、今回集まったメンバーの中でも最もサイクルレースに縁深い猟兵だろう。
 動力こそ違えと、愛車ジェイクはスペース=モーターサイクルだ。ゆえにサイクルレースそのものが、彼は大好きだった。
  表情こそ笑顔だが、内心がどうなっているのかは、察するに容易いだろう。
「サリー、わしから少し離れて追随するのじゃ。この弾幕を抜けるなら、わしの方が適任じゃ!チャンスは作ってやるからのう!」
 エウトティアは頷くサリーを横目に黒曜石のナイフを抜き放ち、弾幕を弾きつつ巨狼とともに突撃する。後方からの支援で弾ききれない暗器は決して少なくはない。だが、巨狼の速度は衰えを見せなかった。暗器は肌にかすり、所々に赤い血をにじませるも、野生の勘を働かせた彼女は一つの暗器すら身にまともに受けることなく敵の懐へともぐりこんだ。
 爪牙を振るい敵の一群の体勢を崩すと、面白げに呟く。
「ふむ、わしの『第六感』が囁くのう。 ここが、勘所じゃとな!」
 主の意思を感じ、巨狼マニトゥが軽く鼻先をあげ、大きく息を吸い込んだ。
「マニトゥ、吼えるのじゃ!敵の小細工ごと吹き飛ばしてやれぃ! 」
 言葉とほぼ同時に放たれた咆哮は、もはや咆哮と呼ぶのも憚られるほどの威力を持っていた。半径20mほどの空間がひび割れ、その衝撃が地面をめくり上げる。暗器はすべてが吹き飛び、メイド人形たちはなすすべもなく上空へと打ち上げられた。
 エウトティアの言葉に従って離れて追随していなければ、サリーもその余波を受けていただろう。だが、そうはならず、ゆえにサリーは万全の状態で攻撃に移る事が出来る。
「女性型というのが、どうもいい気分はしないけど」
 男として女性には手をあげづらいのか、サリーは一瞬だけ躊躇するが、すぐに雰囲気に騙されないようにと首を振った。
「行くよ!フルバースト・マキシマム!!」
 バイクであるジェイクからの銃撃、砲撃に合わせて、自身の手にもつ竜騎兵が持つようなマスケット銃から弾幕の嵐を叩き込んでゆく。重力に惹かれ落下するメイド人形たちは、抵抗することもできず、徐々に形を失っていく。そして、誰一人として地面にたどり着くことはできなかった。
 「くっ、ならば、後衛から叩くまで!」
 すでにメイド人形の数は半分近くまで減っている。数体をエウトティアとサリーの足止めに当たらせ、後衛から叩く戦法に切り替えたようだ。
 だが、猟兵たちもそれを易々と許すほど甘くはない。後衛を狙う別動隊の前に立ちふさがったのは緋瑪 、いや、彼女は今も後衛から爆弾を投げ込んでいる。
 では、ここにいる彼女は?その答えは、本人の口から発せられた。
「本物の人間じゃないけど、倒し甲斐はありそうだね、瑠璃♪」
 ユーベルコード【オルタナティブ・ダブル】で分身した緋瑪の片割れ。その別人格である瑠璃が、緋瑪の言葉に朗らかに答えた。
「随分可愛らしい人形だね…一体欲しいなぁ」
 戦場にあることを感じさせないその言葉は、のんきに響くも、彼女の手はすでに爆弾で別動隊の迎撃に移っていた。
 敵指揮官は進退窮まった、という風情だが、まだ、奥の手はある。
「総員、『歌え』!」
 先ほど利博に放った精神に干渉する囁き。数が減ったとはいえ、それでもこの数の合唱ならと、メイド人形たちは攻撃もそこそこに囁き声を重ねてゆく。
 大きな音のうねりとなったそれは、先ほどとは段違いの威力を持っていた。緋瑪の分身も消え失せ、エウトティアの咆哮も、サリーの弾幕も何もかもを停滞させる。
「あー……せっかくの、スチームサイクルレース、なのに……邪魔は、めっです、よー」
 戦場には似つかわしくない、ふわふわとした、澄んだ声が響いた。その主たる寧宮・澪(澪標・f04690)は、ここが自分の出番であると、最初から分かっていたかのような落ち着きようだ。元々が眠そうでぼんやりとしている風情なので本当にそうだったのかは定かではないのだが。
「回復、お任せをー……。シンフォニック・キュア、使用しますねー……」
 紡がれる歌声は 、常と同じ澄んだ声だが、不思議な温かさのある声だった。その高い技術と、包み込むような優しさが共存した声は、停滞の中にある仲間の心に火を灯してゆく。
「お手伝いいたします」
 そう言って歌唱の準備に入るのはソフィアだ。彼女もまた人を共感させ、癒す歌声の持ち主だった。
「私の歌と貴女方の声、何方の性能が上なのか……確かめてみる事にいたしましょう。」
 挑戦的に投げられた声は、負けはしないという決意に彩られていた。
 二人の声が重なり、徐々にメイド人形たちの声が抑え込まれてゆく。猟兵たちが自由を取り戻すのに、そう長い時間はかからなかった。
「やるのう」
「ああ、凄いね」
 エウトティアとサリーが称賛を投げながら、人形たちを駆逐していく。もともと、最初に相手をしていた人数より少ないのだ。この状況で負けるはずがない。
「これで思う存分やれるね、瑠璃♪」
「ええ、緋瑪」
 二人に増えれば手数は二倍。物量に押されるのは今度はメイド人形たちの方だった。二人の手から降り注ぐ爆弾は、あっけなく別動隊を消し飛ばした。
 一人残されることになった指揮官は、人形であるにもかかわらず、顔を青くしているように見えた。
「こんな、こんなことがあっていいはずが…。ならば、一人だけでもっ!」
 ただ一人の特攻。無謀なことは百も承知なのだろうが、忠義というものがそうさせるのか、それとも、もともとそのように作られているのか。
 ただの一体でどうなるわけもない。次の瞬間には頭にサリーのマスケット銃から放たれた銃弾が、体にはエウトティアの駆る巨狼マニトゥの爪が突き刺さった。
「申し訳…ありま…せん。我が…あるじ…」
 悔悟の言葉を最後に、指揮官は崩れ落ちた。
 戦いは終わり、猟兵たちの間に安堵の空気が広がる。
「しかし、黙っていればよくできたオートマタだったんだけどなぁ」
 少しばかりの感慨が込められたサリーの言葉に、同意したものも少なからずいただろう。言葉を放った本人は、そういえば、僕もある意味良く出来たオートマタだった!と手をグーパーさせていたが。
 一つの戦いを終えた。しかし、グリモア猟兵であるライヴァルトはさらに上位のオブリビオンがいる可能性を示唆していた。猟兵たちの戦いは、まだ、終わりではないのだ。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​




第2章 ボス戦 『迷宮温室の女王』

POW   :    百裂蔓撃
【髪のように見える無数の蔓】で対象を攻撃する。攻撃力、命中率、攻撃回数のどれを重視するか選べる。
SPD   :    捕縛液噴射
【腹部の食人植物】から【刺激臭のする液体】を放ち、【空気に触れると凝固する性質】により対象の動きを一時的に封じる。
WIZ   :    女王の花蜜
レベル×5体の、小型の戦闘用【昆虫型モンスター】を召喚し戦わせる。程々の強さを持つが、一撃で消滅する。
👑17
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種別『ボス戦』のルール
 記載された敵が「1体」出現します。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※このボスの宿敵主は💠神楽火・夢瑪です。ボスは殺してもシナリオ終了後に蘇る可能性がありますが、宿敵主がボス戦に参加したかつシナリオが成功すると、とどめを刺す事ができます。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


迷宮の最深部、その場所は今まで進んできた回廊にも増してツタの生い茂った場所だった。太さも入り口のものに比べれば数倍以上にもなり、今にも動き出しそうに脈打っている。
 最後の部屋であろう大広間に猟兵たちは足を踏み入れた。そして、そこにあった光景に言葉を奪われた。
 その大広間は色とりどりの花が咲き誇る果樹園だった。それも、どう見ても共生できそうもない品種ですら、平然として咲き乱れている。それこそ、観光気分で探索しても数日は楽しめる程の景観だった。
 だが、ここはオブリビオンの領域。果樹園の最奥に座す女王は、猟兵たちに気付いたのか、その白く白濁した目を向けた。
『あの子たちは、失敗したのね?』
 猟兵の一人が、そうだと答えれば、
『ああ、なんて役に立たない子たちなんでしょう。地上の小うるさいハエどもを払うだけの仕事だというのに』
 女王は嘆息すると共にそう答えた。
『もう、いいわ。私が直接灸をすえてやりましょう。まずは、貴方たちからね』
 言葉と同時に周囲のツタがざわめいた。
エウトティア・ナトゥア
WIZを使用します。

温室内を寒冷の環境に置いて、『迷宮温室の女王』と【昆虫型モンスター】の活動低下を試み、味方猟兵の援護を行います。

(挑発して敵を引き付ける)
いやはや、ハエとはご挨拶じゃな。
雑草風情がようほざきおったわ。さしずめ、花言葉は『醜悪』といった所かの?

なかなかの景観じゃが、ここはちと蒸すのう。
温室の花に虫…ふむ、試してみるかの?

敵を引き付け「全力魔法」「属性攻撃」《精霊の唄》使用 【地属性】の【吹雪】
風と水と地の精霊よ、謳え! 【水晶の吹雪】で彼奴らを凍つかせ切り刻むのじゃ!

あの数の虫に集られるのはぞっとせんのでな。お主らはそこでもがいておれ。


寧宮・澪
わー……傲慢、ですねー……。

【Call:ElectroLegion】、使用。
お仕事ですよー……れぎおーん……。
数は力、になるですよー……多分。
押し込んで行きましょー……【戦闘知識】や、蔦とか、【地形の利用】、【時間稼ぎ】したりで、味方の有利な状況に、なるように。
昆虫型モンスターがきたら、レギオンに、相殺してもらいましょー。

せっかくのレース、楽しみなんですよー……だから、早めに、倒されてくださいー……。


サリー・オーガスティン
よし、コースはこれでグリーンフラッグ(コース上の支障なし)だ!
一気にこの女王を倒して、チェッカーフラッグまで駆け抜けよう!

女性の姿、とはいえ、ここまで来ると、あんまり倒すのに遠慮しなくても良さそうだね。
そこまで、ボク達を倒そう、と血眼…いや、女王は白目がちだしなんか違うな…になられると、正直「引く」んだよね。

【ヴァリアブル・ウェポン】の命中率を上げて、それに乗せられる技能全部のせで、攻撃だ!
「当たれ~!」

ボクだけの攻撃で倒せるとは思えない。
力や攻撃回数に長けた仲間がいたら、タンデムで移動しよう
(あ、ノーヘルは危険だから、予備のメットとゴーグルを用意しますよ。)


杜鬼・クロウ
「お前の災難は俺達と出会っちまったことだ。自分の不運を呪えや。
箱庭の女王か。おキレイな花園(かご)の中で永久におねんねしてろ」

親指を下に向けて軽く【挑発】
仲間との連携意識
玄夜叉で構えて【先制攻撃】仕掛ける
女王に攻撃集中
【トリニティ・エンハンス】使用。攻撃力重視

仲間のピンチには自ら【かばう】
百裂蔓撃の蔓に絡まったら【カウンター】
炎を宿した剣で【2回攻撃】で切り裂く

「う…気持ち悪ィんだよクソが!俺以外に俺を止められるヤツなんざいやしねェッ!」

蔓を回し蹴りして一旦距離取る
体勢立て直す
傷や血が出てたら親指で雑に拭う
真正面から敵へ攻撃しようとして【フェイント】
くるんと翻り真横から敵の頭部狙う


アドリブ歓迎


古明地・利博
なーんだ、あのメイド人形の親玉だからもっと良いのを期待したんだけどなぁ……期待はずれだったね。さっさと始末して帰ろっと。
と言っても、流石に親玉だから一人で殺すのは難しそうね。私は援護にまわろうかな……新しい玩具の使い心地も試したいしね♪

とりあえず私はフック付きワイヤーを相手に巻き付けて動きづらくさせるよ。皆が攻撃を当てやすいようにね。
もし相手が手下を生成してきたら新しい玩具【不浄の炎槍】を唱えて手下を出来るだけ串刺しにするよ。いやぁ……想像するだけで気持ちが悪そうだね。

今回は特に調べる気は無いよ。研究に役立たなそうだし何よりこんなに気持ち悪いもの調べる気にならないからね。


ソフィア・テレンティア
迷宮に蔓延る雑草風情がハエ扱いとは不愉快ですね。
綺麗さっぱりお掃除して差し上げましょう。
●女王の花蜜で現れた昆虫型モンスターをUC【魔導式収束光照射機構・紫眼】の収束光線で薙ぎ払います。
どれだけ数がいようと、かつて僚機から受け継いだこの紫眼で撃ち抜いて差し上げましょう。
さらに、召喚された昆虫の相手をしつつ【蒸気駆動式機関銃・冥土式】で【援護射撃】を行い、味方猟兵の方々を援護いたします。



「いやはや、ハエとはご挨拶じゃな。 …雑草風情がようほざきおったわ。さしずめ、花言葉は『醜悪』といった所かの? 」
 ヒョウという音を伴って、部屋中を冷気が通り抜ける。精霊術士たるエウトティアに応えて、氷精が舞う。だが、この果樹園は広い、いかに彼女が優れた精霊術士とは言え、この広大な部屋の全てを冷やすには時間がかかるだろう。
『あら、生意気ね?ならば言い換えてあげましょうか。地下に住む私たちのことも考えず、日夜乱痴気騒ぎを繰り広げるお猿さんたちとでも』
 エウトティアの挑発にも、女王はさしたる感慨を見せなかった。単純に、猟兵に、いや、人間というものに価値を置いていないのだ。
『それに、貴方たちの方がよほど醜悪でしょう?同じ人種ですら、競わずにはいられないのだから』
 それはサイクルレースのことを皮肉っているのか、それとも、過去に見た光景を反芻しているのか。それを知ることはできないが、どうにも人間そのものを毛嫌いしているのは間違いない様だ。
『だから、ここで朽ちてゆきなさい。醜悪なものは私も嫌いなの』
 ぞわりと、周囲に張り巡らされたツタが脈打つ。地表を引きはがし、確かな意思を感じさせながら動き始めたそれは、轟音を響かせながら猟兵たちへと殺到した。
「お仕事ですよー……れぎおーん……」
 間延びした言葉でツタに対応したのは澪だった。その声の柔らかさとは裏腹に、80体あまりにも及ぶ琥珀色の機械兵器が素早く整然と列を作る。
「数は力、になるですよー……多分 」
 確かな存在感を見せる琥珀の軍勢を率いるにしては少々危うくも感じるセリフではあったが、軍勢そのものは的確に動き、ツタを押さえつけてゆく。
 直撃を喰らって消えてゆくものも数体あったが、ほぼ万全の状態で攻撃をしのいだと言えるだろう。それは決して行き当たりばったりな運用ではなく、確かな知識や、利用できる地形を選別できる洞察眼によるものだった。
「押し込んで行きましょー…… 」
 かけられた声に応えたのはソフィアだった。
「ええ、綺麗さっぱりお掃除して差し上げましょう」
 先の戦いでも火を噴いた【蒸気駆動式機関銃・冥土式】 が再び咆哮をあげる。乾いた音が断続的に鳴り、その度に銃弾がツタの接続部分を次々に打撃ち抜き切断していく。
「迷宮に蔓延る雑草風情が私たちをハエ扱いとは、不愉快です」
 表情に嫌悪を表してソフィアは言い放つ。通り一辺倒のツタを排除すると、一息つくかのように、彼女の銃もまた蒸気を噴出した。
『簡単に死んでくれればよいのに、私の方が不愉快だわ』
 ツタの群れは女王の髪として残っているが、そこまでの射程がないのか、もしくは遠距離からでは仕留められないと判断したのか。女王は嘆息すると言葉を紡ぎ始める。
『我が蜜に集いし子らよ。これを奪わんとする敵を、食いつぶしなさい』
 言うが早いか、女王の胸部に当たる位置に存在する食虫植物にも似た花から昆虫の群れが飛び出し始める。それぞれが数十センチ程度の大きさではあるが、その数は優に数百を超えていた。それも、ただの昆虫ではなく、カブトムシの角が鋭利な刃になっていたり、異常にハサミが肥大化したクワガタがいたりというのは可愛い方で、長大な脚や牙の生えた口腔を持つものなど、おぞましいまでに原型を留めていない虫も散見された。
 それは誰しもが生理的嫌悪感を抱かされる光景であった。だが、猟兵たちも過酷な戦線を越えてきた勇士たちだ。怯みはしても、戦意が衰えることはない。
『さぁ、お行きなさい』
 指令を下された虫たちが、猟兵たちへと弾丸のような速度で迫りくる。だが、猟兵たちは迎撃の準備をわずか数瞬で終えていた。
「なーんだ、あのメイド人形の親玉だからもっと良いのを期待したんだけどなぁ……期待はずれだったね。さっさと始末して帰ろっと」
 そんな、興味無しとはっきり分かる声と共に先陣を切ったのは利博だった。 かのメイド人形のように、女王は物品ということもないので、蒐集マニアの利博の琴線には触れなかったらしい。
「y'-gotha f'- ng-n'vivet -orhstm-llll -orCthugha-ugg uaaah」
 力ある言葉が紡がれ、60もの赤黒い炎槍が顕現する。整然と並べられたそれは、ゆらりと周囲の空気を歪めてゆく。
「新しい玩具の使い心地、試させてもらうよ♪」
 炎槍が飛翔する。赤と黒、奇妙なコントラストを中空に描きながら飛翔する槍は、狙い過たず虫を貫いた。すると貫かれた昆虫は、槍を巻き込んで空気に溶けるように消えていく。
「ソフィアの僚機の遺した力、少しだけお見せして差し上げましょう 」
 炎槍を突破した昆虫たちを出迎えたのはソフィアの紫眼だった。かつて共に戦った自らの同型機より譲り受けたそれは、魔力を収縮する機能を備えた魔眼とも呼べるものだ。
 眼へと収縮する魔力が紫紺の光を放った。後は、それを解き放つだけだ。
 一閃。余波がソフィアの髪とスカートをふわりと揺らす。横一文字に薙ぎ払われた閃光が、昆虫の身体をバラバラに砕いた。
 そして、その閃光は思わぬ場所までも到達していた。
『そんな、そんな、私の、私の身体に傷が…!』
 そう、閃光は虫の群れを通過し女王にまで届いていた。胸の花、その花びらが二枚ほど切り落とされている。まさか直接攻撃を受けることなど予想もしていなかったのだろう。女王から余裕の色が急速に薄れていった。
『我が子らよ!そ奴らを許すな!骨の髄まで喰らってしまえ!』
 閃光を受けても、群れはまだ半数を少し割った程度。先の二人の攻撃も、連発がきくようなものではないだろう。今こそ逆襲の時と飛来するそれらを阻むものがないなら、確かにその牙は猟兵たちに突き立てられたのだろう。
「れぎおーん…… 」
 相も変わらず間のびした澪の声と共に琥珀色のレギオンが出動する。機械の軍勢に殴られ、蹴られ、残りの昆虫の半数は、整然と行動するレギオンによって鎮圧されていく。
「温室の花に虫…ふむ、試してみるかの? 」
 残りの半数を相手するのはエウトティアだ。彼女はいい事を思い付いたというように笑うと、詠唱を口にした。
「風と水と地の精霊よ、謳え! 【水晶の吹雪】で彼奴らを凍つかせ切り刻むのじゃ! 」
 放たれたのは【地】の属性を付与された【吹雪】だ。雪の代わりに鋭利な水晶を伴うそれは、次々に昆虫たちを刺し貫くと共に凍りつかせてゆく。後に残ったのは、地面でもがく死屍累々だった。
「あの数の虫に集られるのはぞっとせんのでな。お主らはそこでもがいておれ 」
 あくまで余裕然とした態度を崩さずに、十の少女は哀れな走狗に言葉を投げた。
「よし、コースはこれでグリーンフラッグだ!一気にこの女王を倒して、チェッカーフラッグまで駆け抜けよう! 」
 この時を待っていた、とばかりに気炎を上げたのはサリーだ。ツタに虫の群れ、女王の懐へ到達するための枷は、最早ない。さらには愛車ジェイクの後ろには、頼りになるもう一人の猟兵が座っているのだ。これでダメなら嘘だろうという気持ちですらある。
「お前の災難は俺達と出会っちまったことだ。自分の不運を呪えや」
 そう言って女王をビシッと指さしたのは、杜鬼・クロウ(風雲児・f04599)だ。我が道を行く彼は、傲慢の化身たる女王にも臆しはしない。
「箱庭の女王が。おキレイな花園(かご)の中で永久におねんねしてろ」
 抜き放つは炎剣。煌々と燃えるそれは、彼の意志を反映しているかのようだった。
「頼んだぜ、サリー」
「任されたよ、クロウ」
 クロウが予備のメットとゴーグルを装着したのを見届けて、サリーの宇宙バイク、ジェイクが走り出す。秒間のうちに最高速へと達したそれは、女王への距離を刻々と縮めていく。
『不敬な。不敬な不敬な不敬なッ!私は、私は女王なるぞ!』
 女王の、ツタの髪が波打ち、急激に伸縮してサリーたちへと叩きつけられた。
 地表をめくり、砂礫を飛ばすそれを、サリーは一顧だにせずかわしてゆく。
「女性の姿、とはいえ、ここまで来ると、あんまり倒すのに遠慮しなくても良さそうだね」
 なおも激しい攻勢の中にあるが、サリーの心は落ち着いていた。なぜなら、
「そこまで、ボク達を倒そう、と血眼…いや、女王は白目がちだしなんか違うな…になられると、正直『引く』んだよね 」
 女王にドン引きだったからである。しかし、この感情がサリーに平静をもたらし、余計な緊張感を削ぎ落したのは間違いない。一瞬が勝敗を分ける戦いの中では、冷静さこそがものをいうのだ。
『私の美しさを解せぬ愚物め。潰れてしまえ!』
 振り降ろされたツタの軌道は、確かにサリーたちを捉えていた。しかし、サリーは笑みを崩さない。なぜなら、
「甘ェよ」
 接触の瞬間、ツタが本体より分かたれて宙を舞っていたからだ。クロウの炎剣が、バターでも斬るかのようにツタを切断した。それをかろうじて女王は理解した。
 回避をサリーに任せ、攻撃に重点を置いて強化されたクロウの剣は、巨大なツタを易々と斬り飛ばすほどの威力を有していた。このまま残るツタを斬り飛ばしていけば、いずれ女王は丸裸になるだろう。
『おのれ、ハエどもが囀りおって…!仕方がない、私の本気を見せてあげましょう』
 ツタの先端がドリル状にグルグルとねじれ、圧縮されてゆく。太さにすれば、当初の十分の一程の太さに縮んだそれには、形容しがたい圧力を伴っていた。
 あえて言葉にするのであれば射出という言葉が最も妥当な表現だろう。銃弾のごとき速度で放たれたツタの先端を、クロウは炎剣で受け止めてゆく。先ほど切断したものとは、硬さも、速さも段違いだ。切断などかないそうにもない。それでも、クロウの在り方は変わらない。
「俺以外に俺を止められるヤツなんざいやしねェッ!」
 雄叫びと共に振るわれた剣でツタを弾いていく。サリーの操縦技術とクロウの剣術をもってしても限界というものはある。致命的な一撃こそまだもらっていないものの、このままじり貧になれば、倒れるのは遠い未来のことではないだろう。
 現に、二人の身体には所々血が滲み、息遣いも荒くなってきている。
 その時だった。サリーのわずかなステアリングの乱れとクロウが親指で乱雑に血をぬぐう所作が重なった。それはわずかな隙、だが、致命的な隙でもあった。
『貰ったぞ!ハエども!』
 ドリル状のツタが殺到する。二人に避けることは叶わないが、それでも武器を手に防御の構えを見せていた。
 ガギッ!!
 果たしてそのツタを受け止めたのは、琥珀色の軍勢であった。澪のレギオンが、後方から追いついていたのだ。その大半がその一撃で砕けて消え去ってしまったが、窮状を救う一手であった。
「せっかくのレース、楽しみなんですよー……だから、早めに、倒されてくださいー…… 」
 変わらぬ声だが、少しばかり熱を持った言葉だった。
『貴様…ッ!!』
 もし、女王に歯があったならば、盛大に歯ぎしりしていたであろう。
 間も置かず、澪を皮切りに、追いついてきた後続が攻撃に参加し始める。
『まだ、まだだ、私は、まだ…!』
 強化されたツタで応戦するも、手数が足りていない。ソフィアのガトリングガンが視界を遮り、利博の炎槍が女王の身を焦がしてゆく。
 サリーの宇宙バイクが唸りをあげ、女王の身体を登り始めた。致命の一撃を加えるため、頭部の側面を目指しているのだ。
 女王も黙って見ているわけではない。十数本のツタを集中させ、サリーたちを叩き落しにかかる。それに対して、右手にマスケット銃を構えたサリーは、バイクに内蔵された兵器と同時に、すべての弾丸を発射した。
「当たれー!!」
 裂帛の気合をもって放たれたそれは迫るツタを弾き、軌道を変えることに成功した。後は一直線に駆けるのみだ。
『やはり愚かよな。それが全てだと何故思った!」
 後方に控えていた数本のツタ、それらが轟音と共に射出される、はずだった。
『な、何故…?』
 先程とは違う意味の何故。平時であれば気づいただろう。自らの髪に霜が降り、すっかり凍結していることを。
「詰めが甘いのはそちらのほうじゃ」
 不敵な笑みを浮かべるのはエウトティアだ。この部屋に入った当初から行っていた冷気の充填、それが効果を表した瞬間だった。
 もう障害はない。宇宙バイク、ジェイクが肩口を駆けのぼり、女王の首を通過する。

 すれ違い様、軌跡すら輝く一閃が放たれた。

 巨大な頭部がくるくると宙を飛ぶ。それはどこか現実感のない光景でもあった。
「あばよ」
 クロウのその言葉に遅れること数秒、女王の首は地へと墜ちた。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​




第3章 日常 『スチームサイクルレース』

POW   :    全力で自転車こいでパワーで突っ走る

SPD   :    華麗なサイクリングテクニックでトップを狙う

WIZ   :    計算や推測から最適なコースを見極め躍り出る

👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

種別『日常』のルール
「POW・SPD・WIZ」の能力値別に書かれた「この章でできる行動の例」を参考にしつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


「「本当にありがとうございました!」」
 女王を倒し、地上へと帰還した傭兵たちを出迎えたのは、サイクルレースの主催者、そしてスタッフたちだった。彼らの顔は一様に安堵に満ちており、今まで長い時間をかけて計画してきたレースを無事に開催できることへの喜びに溢れていた。

 帰還した傭兵の中には、レースを観戦しようというものもいれば、レースそのものに参加しようというものもあった。このアルダワ魔法学園世界では、猟兵たちは転校生として扱われ、学生としての身分を保証されている。当然、学生の参加が自由な今回のレースへの参加資格もあるというわけだ。
 スチームサイクル、すなわち蒸気機関と魔法を併用して動くこの乗り物は、この世界では割とポピュラーで、貸出業者も存在している。今回に関していえば、猟兵たちには感謝のしるしとして無料の貸与が約束されている他、各人の要望に合わせてチューンナップも請け負っているようだ。
 開始時間は刻一刻と迫っており、各人は調整に余念がない。
 今、アルダワ魔法学園で最も熱いレースの一つの幕が上がろうとしていた。
サリー・オーガスティン
よーし、ボクも参加するか。
レギュレーションは守らなくちゃいけないから、ジェイクは今回は休み。

さて、それじゃスチームサイクルをお借りしたいけど…なるったけスピードの出るのを!
基本の動かし方の説明はキチンと聴こう
ボクが勝手にコケて痛い目にあうだけなら兎も角、他の選手を巻き込んじゃ大変だからね

(そして、実際のレースでは、【ダッシュ】使って一時は先頭集団について行くも、スピードに頼りすぎて、【操縦】の使用も虚しく、コーナリングでしくじって、散々なタイムで帰る事に)

「やっぱり、宇宙バイクとは勝手がちがうなぁ~。参った!」
(肩で息しながら)


オルハ・オランシュ
スチームサイクルレース?
この世界には面白いイベントがあるんだね
スチームサイクルとやらに乗ったことがないんだけど、
練習する時間をもらってもいい?

わわっ、想像以上に軽い動き
……でもどうにか、コツが掴めてきたかも!

体力に自信があれば正攻法で勝負できたのかもしれないね
私は疲れることは苦手だから、そうもいかないかな

【WIZ】

あの地下に伸びてる道が気になるね
ここから見た感じだと遠回りコースに見えるけど、行ってみよう
逆に近道だったりして?
根拠なんてないけどね
ただの【野生の勘】だもの

優勝した人を心から祝福するよ
おめでとう!見事な走りだったしね、納得の結果だよ
頑張ったら喉が渇いちゃった
何か飲んで帰ろうか


ソフィア・テレンティア
【使用能力値 WIS】
………ふむ、普通に乗ると、スカートが邪魔になりますね。
仕方ないですね……【ガジェット】を自転車と接続、運転自体はガジェットに任せて、
ソフィアは荷台に横座りして行くことにいたします。

レース中は【歌唱】した音をアクティブソナー代わりに使い、
【音響増幅機構搭載型ヘッドドレス・猫耳型】の索敵機能により
コースの状況を【聞き耳】で収集。最適なルートを検討いたします。

もし道中でお疲れの方や無理をして怪我をしている方がいたら、
UC【シンフォニック・キュア】で癒して差し上げましょう。
レースとはいえお祭り、勿論狙うは一位ですが、皆様で楽しめればそれが一番でございます。


エウトティア・ナトゥア
POW適用

競争かえ? 
ふっふっふ、わしは故郷では緋色の箒星と謳われる程の騎手じゃよ。
どれどれ、少し参加してみるかのう。

ペダルに足が届かんかったわい。特別に小型のもの(補助輪つき)を用意して貰ったのじゃ。

(操作に慣れていないのでいきなりアクセル全開で方々にぶつかりながら突き進む)
ぬおー!と、止まらんのじゃー!
ひぃー、補助輪がガリガリ火花を散らしておるのじゃー!
きゃー!ぶつかるー!ちょっとそこの壁!どきなさいよー!
と、大騒ぎしながら最後尾を爆走。

当然、最下位でゴールイン。
涙目で捨て台詞を残して走り去ります。
次は勝つんだから!おぼえてなさいよー!


寧宮・澪
うふふー……レースができて、何よりですよー……。
楽しそう、ですよねー……。

【謳函】で、テンポいい曲をー……参加者、の、皆さん頑張ってくださいー。
【鼓舞】、しましょー。

私は、参加しないで、見てるだけー……。
ファイト、ですよー……。
のんびりお祭りの雰囲気、味わいながら、観戦しましょー……。

やっぱり、楽しいですねー……自由に、走ったり、飛んだりー……。
のんびり、サイクリング、というのもおもしろそうですねー。



「よーし、ボクも参加するか 」
 激戦を終え、地上へと帰還した猟兵、その一人であるサリーは、サイクルレースの受付へとやってきていた。スタッフから握手をねだられ、それに快く応じて574番の札を貰った彼は、愛車である宇宙バイク、ジェイクと共にスチームサイクルの貸し出し場へと訪れた。なお、スタッフと話したところによれば、今回参加する猟兵は4名であるらしい。
「レギュレーションは守らなくちゃいけないから、ジェイクは今回は休みだね」
 ジェイクを一旦駐車して、貸しサイクルの店を見聞していく。それぞれに特徴の書かれた札が張られており、これによってサイクルの性能を把握することが出来そうだ。
 その中でも最も最高速の早いバイクを借り受けた彼は、練習のために、インストラクターと共に店の裏手にある試走場へと繰り出した。キチンと動かし方を聞いて、自分は元より他の選手の安全を確保することが大事であると考えたからである。
 そうして練習を重ねるサリーの横で練習に励むのは、オルハ・オランシュ(アトリア・f00497)だ。彼女はスチームサイクルレースというイベントに興味を持ち、今回参加を決めていた。当然スチームサイクルには乗ったことがないので、この試走場で練習をしているという訳だ。
「わわっ、想像以上に軽い動き」
 スチームサイクルは蒸気と魔力を利用している特性上、通常の自転車よりもはるかに速い速度が出る。オルハはケモ耳をピンと立てて緊張した様子で慎重に動かしていく。ややあって、よたよたとした走りは鳴りを潜め、スムーズにサイクルを動かし始めた。
「……でもどうにか、コツが掴めてきたかも!」
 猟兵としての身体能力、そして本人の器用さもあって、彼女がサイクルを乗りこなすのに、そう長い時間はかからなかった。
「仕方ないですね…… 」
 そんなオルハよりもさらに奥まったところで少々嘆息しつつも練習を重ねている人影が見えた。いや、それは練習というよりも調整といった方がいいのかもしれない。その人影であるところのソフィアは、スチームサイクルを動かすガジェットの調整をしていた。当然、本来サイクルは人力で動くものであるからして、機能は著しく制限されて逆に不利なのではないかと思えるほどに馬力が減衰してはいるが、メイド服のままにサイクルに乗ろうと思えば致し方のない処置であるだろう。
 ソフィア自身は新たに設置された荷台に横座りをしてゆくことになる。一見不利には見えるが、操縦の全てをガジェットに任せることでソフィアは状況判断やコース取りなどにすべての能力を割くことが出来る。必ずしも勝ち目がないわけではない、ソフィアはそう感じていた。

『さぁ!第1回、アルダワ記念杯がまもなく開始されようとしています!選手たちが続々と会場へと入ってきました!』
 若葉色の短髪を揺らして、実況の男が声を張り上げる。レースのスタートが迫り、スタート地点には参加者が続々と集まっていた。その中にはもちろん、4人の猟兵たちの姿もあった。
 参加する猟兵、その最後の4人目であるエウトティアは、自信満々に周囲を見回していた。とはいえ、10歳の彼女はともすれば人垣に埋もれているようにしか見えないかもしれないが。そんな彼女を目にとめたのか、エウトティアの少し上の年齢であろう蒼髪の少年が声をかけてきた。
「同じ年位の子がいるなんて思わなかったな。自信がありそうだけど、優勝を狙ってるの?」
 彼女の年齢は参加者の中では断トツに低い。かなりスピードが出ることもあって、このサイクルレースはそこそこに危険である。自然、年齢層も少し高めになるというものだ。心配の色が混じった少年の質問に、エウトティアは鷹揚に応えた。
「当然じゃ。ふっふっふ、わしは故郷では緋色の箒星と謳われる程の騎手じゃよ」
「すごいね、これは、僕も負けていられないかも」
 エウトティアは知らぬことだが、彼は地元では”蒼の流星”と呼ばれる天才少年ライダーであった。奇しくも、似た者同士がひかれあったとも言えるのかもしれない。しかし、少年には見えていなかった。エウトティアの身長に合わせ、特注で用意された小型のスチームサイクル。その後輪の側方に、輝く補助輪が取り付けられていたことを。

 スタート地点以外に猟兵がいないのかと言えばそういう訳でもなく、中には応援に回るものもいた。
「うふふー……レースができて、何よりですよー…… 」
 そう言って観客席から微笑むのは澪だ。彼女もまた、このレースの中止の原因になりかねなかった災厄に対して、果敢に立ち向かい、勝利した一人だ。今回は参加せず、のんびりとお祭りの雰囲気を感じながら観戦しようと、観客席から応援することにしたようだ。
 眼下では参加者たちが和気藹々と自らの目標を語ったり、お前には負けないぞと火花を散らしている。
「楽しそう、ですよねー…… 」
 その様子に一層笑みを深めて、澪は箱型のガジェットを取り出した。【謳函(ウタハコ) 】と呼ばれるそれは、ふわりと澪の手から浮き上がると、勇壮な、テンポの良い音楽を奏で始める。
「ファイト、ですよー…… 」
喧騒の中でも不思議と響き渡るその音色に、不安そうにしていた参加者も勇気づけられたのか、しばらくの後には皆が自信をもってレースへと臨む顔つきへと変わっていた。中でも、サリーやエウトティア、ソフィアは出所を見て、方や大きく、方や控えめに澪へと手を振っていた。澪もそれを認めるとそれに小さく手を振り返した。
『それでは、スタートです。5、4、3、2、1、、、』
 カウントが進むにつれ、緊張感が高まってゆく。
『スタート!!!!』
 そして、決戦の火札は切られた。数百のスチームサイクルが駆動し、レース場を矢のように進んでゆく。中には既に軽く宙に浮いているものまであった。
「やっぱり、楽しいですねー……自由に、走ったり、飛んだりー…… 」
 常と変わらぬゆったりとした声音ではあるが、少し弾んだ声で澪は言葉をこぼした。もし機会があるのならば…
「のんびり、サイクリング、というのもおもしろそうですねー 」
 そう言って、彼女は応援へと戻るのだった。

 最初にトップに立ったのはサリーだった。彼のサイクルは加速も最高速も最高のものにチューンナップされた仕様だ。必然、最初の直線でトップに出れぬわけもない。しかし、周りの猛者たちも負けてはいない。サリーを中心として、トップグループが形成されつつあった。
 そのトップグループの最も後ろに着けていたのはエウトティアだ。猟兵としての膂力をいかんなく発揮して、戦闘集団に食らいついている。まだ操作に慣れない彼女は方々の選手にぶつかったりはするものの、まだ大きな接触もなく第一の難関へと差しかかった。

「くっ、厳しいね」
 動く壁が道を阻むこのエリアでは、コーナリングや、道の選定をする技術が問われる。高速で移動するタイプには相性の悪いエリアでもあった。サリーは経験不足もあり、コーナリングに手間取って動く壁に必要以上に時間を取られてゆく。
「ぬおー!と、止まらんのじゃー!」
 もっと酷いことになっているのはエウトティアだ。補助輪が邪魔になり、コーナリングそのものに難を生じていた。コーナリングの度に補助輪がガリガリと火花を散らしてゆく。
「きゃー!ぶつかるー!ちょっとそこの壁!どきなさいよー! 」
 そう叫ぶが機械仕掛けの壁がエウトティアの声に応えてくれるわけもない。ガッツンガッツンと壁にぶつかりながら進む様は、中々に見ごたえのある派手な物であったと言っておこう。
 先頭集団が苦戦しているうちに、後続からオルハやソフィアが追いついてくる。彼女たちは序盤で飛ばさぬようにペース配分を考えながら進んでいた。
「オルハ様は先頭まで出ないのですか?」
 不意にソフィアから疑問が漏れた。オルハの身体能力であれば、その位は出来ると踏んだのだろう。
「体力に自信があれば正攻法で勝負できたのかもしれないね。私は疲れることは苦手だから、そうもいかないかな 」
 オルハはそう答えて、あくまで自分のペースを崩さずに進んでゆく。彼女には彼女のやり方がある。得心した風情のソフィアは、自らの強みを生かすためと、歌を歌い始めた。反響する歌声はソフィアのヘッドドレス【音響増幅機構搭載型ヘッドドレス・猫耳型】 の索敵機能によって捕捉され、彼女へとコースの正確な情報を与えてくれる。ガジェットがソフィアの意志をくみ取って動き、サイクルは動く壁をすり抜けるようにして駆け抜けていった。
「皆様それぞれ想うことがあるのですね。私は…レースとはいえお祭り、勿論狙うは一位ですが、皆様で楽しめればそれが一番でございます 」
 響くソフィアの歌声が動く壁でクラッシュした者たちの治療も同時に行っていく。このことでソフィアは”レース場の女神”の二つ名を得ることになるのだが、それはレースとはまた別の話である。
 第一の難関を終えてトップに立ったのは、ソフィアであった。

 第二の難関空中回廊を越え、なおもソフィアはトップを走っていた。独走というほどでもないが、そうやすやすと抜かれもしない距離。多くのギミックもソフィアに味方した。演算能力の全てを十全に利用できることがプラスに働いたのだ。
 ふと、コースが二股に分かれた。大周りだが平坦な道、そして地下を通ってどこかへ続くデコボコな道。そして、その道を渡り切った先に、ゴールゲートが見えた。これが最後の選択だ。ソフィアは不確定要素を嫌い、大周りの道を選択した。現状では、それが最適なルートであると判断したからだ。
 対して、地下の道を選んだのはオルハだった。彼女がそのルートを選んだ理由はただの勘であった。だが、同時にどこかで確信もしていた。この道をゆけば早いと。デコボコの道は確かに走りにくい。だが、降りてみれば距離は間違いなく短かった。
 結果として、ソフィアが地下道の出口を抜けた数秒後にオルハは地下道を抜け出した。当初よりも距離は大分詰まっている。疾走するソフィアの後方には、平坦な道で速度が乗ったサリーの姿も見えた。エウトティアの姿は見えないが、今考えることではないと思い直し、最後の直線を疾走してゆく。
 ゴールは目の前だ。これが最後、持てる力を駆使してじりじりとソフィアとの差を詰めていく。

 そして、二人がゴールテープを切ったのはほぼ同時だった。

「やっぱり、宇宙バイクとは勝手がちがうなぁ~。参った!」
 サリーは肩で息をしながらそう叫んだ。とは言え、全力は出し切ったその顔は清々しいものだ。タイムはさんざんとは言え、順位としても5位。入賞者の一人に数えられている。初めてのレースとしては上々の出来だろう。

「あの、大丈夫?」
 少年がゴールしたエウトティアに声をかけた。”蒼の流星”と呼ばれた少年は最終的に7位であった。対してエウトティアはというと、すでに涙目であった。エウトティアは少年をビシッと指さすと言葉を放つ。
「次は勝つんだから!おぼえてなさいよー!」
 彼女は動く壁でのロスがたたって最下位でのゴールとなった。悔し涙と共に放たれた言葉は、刺々しい。普段は大人びた彼女ではあるが、そう言った反骨心は子供らしいとも言える。
「うん、また挑戦してよ。僕も待ってる」
 そう少年が言うと、エウトティアはふん!と一声、そっぽをむいて走り去った。

「おめでとう!見事な走りだったしね、納得の結果だよ」
「ありがとうございます。オルハ様も、素晴らしい走りでした」
 最後、先にゴールテープを切ったのはソフィアだった。優勝してもその口調も表情も変わりないように見えるが、声には嬉しさが乗っているように思える。飲み物を口にしながら語る姿は、旧来の友人のようだ。
『それでは、表彰式を始めます!受賞者の方は集まってください!』
 アナウンスの声に二人はお互いの健闘をたたえて、表彰台へと登るのであった。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​



最終結果:成功

完成日:2019年01月05日


挿絵イラスト