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わたしたちは、かえりたい

#アリスラビリンス

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#アリスラビリンス


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 気付けば、誰もいない街の中を必死で走っていた。
 いつ迷い込んだのか、どこから入ってしまったのか。自分の名前も思い出せない。森の中で出会った少年とは、街の入口ではぐれてしまった。両手をおぞましい形に変形させた化け物が、カチカチと指の先から伸びる刃物を鳴らして私達を追いかけてきたから。
(あの子、大丈夫かな……)
 バラバラに逃げようと手を振りほどいて走っていった彼の――他人の心配をしている場合ではないことは分かっていた。けれど、不安そうな色を浮かべた目を細めて、彼は「大丈夫だよ」と笑ってくれた。心細いのは同じはずなのに他人を気遣う彼が眩しくて、私もあんな風になりたいと思ったから。
(一緒に、助かるんだ)
 拳を握りしめ、嫌な予感をふりきるように首を振って、扉を開いて小屋の中に滑り込む。無人で薄暗い室内で、うっすらと埃をかぶったぬいぐるみ達がじっとこちらを見下ろしていた。
(耳を澄ませるんだ。ひとの気配を探して、あの子を助けなきゃ)
 上がる息を整えるように深呼吸をしてから、静かに窓から外を伺う。大きな青い蝶が何かを歌いながらふわりふわりと通り過ぎるのが見えた。
「……うそ」
 その蝶を目で追った先に、化け物から逃げる少年の姿が見える。刃物で切られたのだろう肩を押さえながら、よろけるようにして走る彼は今にも倒れそうだ。
「今度は私が助けるんだ!」
 彼の元へ今すぐ跳ぶように、強く念じる。名前は覚えていなくても、そうすれば出来ると体が覚えていた。きらきらと輝く白馬が、私を望むところへ連れて行ってくれると。この子に跨ればどんな理不尽にだって負けない、そんな希望を持ち続けられるのだと。
「アリス……刻む……!」
 彼と化け物の間に割り込んで、立ち塞がる。
「私達の名前は、アリスじゃない!」
 たとえその刃が私の胸を貫いて体をバラバラに切り刻んだとしても、彼を逃がすことが出来たなら、私の勝ちなのだ。だから、この胸の痛みは、名誉の負傷ってやつで……。

 どさり。赤く染まった少女の骸が石畳の上に倒れた。


「早速だけれど、急ぎの仕事なのだ。説明に入るのだよ」
 マカ・ブランシェ(真白き地を往け・f02899)は持ち込んだ絵本に付箋を貼りながら、猟兵達に声をかけた。
「場所はちょうどこの絵本に似た感じの……無人の街なのだよ。カラフルな建物に綺麗な花壇とレトロな石畳の街にいるのは、オウガとアリス2名。皆には、アリス達を守りながらオウガを倒して欲しいのだ」
 問題はアリスが隠れていることなのだ、とマカは続ける。
「まずは何とかどちらかのアリスと合流して、身の安全を確保してくれたまえ。少年の方は、オウガをまくまでは派手に暴れながら逃げていたようだけれど、今はどこかに隠れているみたいなのだ。少女の方は彼とは反対の方へと逃げた以上の痕跡は残していない……慎重な性格のようだね」
 アリスと書いた黄色と緑色の付箋をページの端にぺたぺたと貼って、マカは絵本に描かれた蝶を指さした。
「街には他に人はいないけれど、大きな蝶の姿をした疑似生物達が住んでいるから、上手く彼らに接触できれば何か教えてくれるかもしれない。アリスと同じくオウガに支配されているからね、実はこっそりと私達の味方なのだよ」
 まったく狂った箱庭だよ、とマカはため息をつく。
「オウガさえ倒せたら、後はアリス自らの力で扉を見つけ出して元の世界に帰れるのだ。……彼らを無事に帰すために、どうかよろしく頼む」
 転送の準備を始めながら、マカはぺこりと猟兵達に頭を下げた。


Mai
 少年と少女、ふたりのアリスを助けてあげてください。



●第一章
 どちらかのアリスと合流して、彼らを守ってください。二人とも猟兵の言うことには素直に従います。
 万が一アリスが猟兵と合流できなかった場合、続く集団・ボス戦に影響が出る可能性があります。

●第二章
 集団戦です。アリス達には強い力はありませんが、それぞれユーベルコードを使用して猟兵をサポートすることができます。
 少年は【ガラスのラビリンス】を、少女は【白馬の王子様】を使用できます。
 必要ならば指示をしてあげてください。特になければ自分の身を守っていると思います。

●第三章
 戦闘(ボス戦)となります。アリス達は足手まといになるため、戦闘には参加しません(特に指示がなくても隠れていますので、気にせずにボスに挑んでください)

 章が変わるごとに短い状況説明のリプレイを挟みますので、それが出てからのプレイングをお勧めいたします。
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第1章 冒険 『蹂躙された街』

POW   :    隅々まで歩き回り、虱潰しに探索する

SPD   :    それらしい物陰などに目星を付けて素早く探す

WIZ   :    襲撃の痕跡から、オウガや「アリス」の動きを推理する

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🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​

種別『冒険』のルール
「POW・SPD・WIZ」の能力値別に書かれた「この章でできる行動の例」を参考にしつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


 蝶の姿をした住民達は皆、花の蜜に目がない。森に出るとオウガに切り刻まれてしまうため、彼らは街の中にあるいくつかの花畑でひそかに蜜を吸うことを、日常の数少ない娯楽としていた。
 そんな彼らが一切近づかない、赤い卵のようなものが転がっている花畑が街の中心にある。
 その奇妙な花畑のある広場から伸びる4本のメインストリートを軸に、少し枝分かれしている街並みは、多少入り組んだ箇所もあるものの迷路ほど複雑ではない。ぐるりと街全体を囲む黄金色の高い壁といい、追う者に有利なように設計された舞台といえるだろう。
「どこだい、アリス。どこだい、アリス」
 指先の刃をすり合わせながら、アリス達を探して街を徘徊しているオウガを、住民達は身を潜めてやり過ごしていた。金属同士の擦れる嫌な音を立てているときは機嫌が悪いのだ。
 やがてオウガの姿が見えなくなると、住民達はひらりひらりと物陰から現れ、口々に歌い始める。
 ――アリスよ逃げろ アリスよ走れ 助けが来る その時まで
 ――扉を開けて帰るんだ 赤い卵が孵るまでに
 ――うんざりなんだ ぼくら もう 死体を 片付けたくはないのだ
ビザール・ラーフ
やぁれやれ、こんなことしてっからオレみてーなチョー優しぃ~住民も変な目で見られるんだっつーの。
アリスとか見つける必要あんのか?さっさとボスだけぶっ殺して帰ろーぜー。

だがなー、見つけなかった見つけなかったで笑いもんにされそうだしな、仕方ねぇ。

「行動」
♪蝶々、蝶々~オレの前に止まれ~。なーんつって。まぁ蝶を探すぜ。
おーい知ってること全部ゲロれよ。対価はこの1件が解決したらチョー甘い蜜をたんまりやるよ。約束は守るぜ~。

蝶に情報を聞き出せたらどっちでもいいがアリアを探す。
見つけたらこう聞こうかねぇ...。
「さぁ、おめーの道はどっちだ?天国かー?はたまた地獄か...?ギャハハハーッ!」

【アドリブOK!】


リアナ・トラヴェリア
どちらかを見つければ良いんだよね
男の子と女の子…探す人数が少ない方を探そうかな
どちらにしても町の中にいるのは確かみたいだしね

私が逃げるなら、うん、きっと建物の中に隠れながら外を目指すはずだね
だから窓を覗き込みながら歩き回ってみるよ
呼びかけてみた方がいいかな
「アリスって呼ばれてる、アリスじゃない誰か、助けに来たよ」って

あ、そうだ
蝶の人に聞いてみよう、二人のアリスを最後にどこで見たかと、他にここに来たアリス以外の私達みたいな人たちの行方
もし手薄な方があったらそっちの方も探してみるね、それじゃありがとう!

この世界私達が来るまでどれだけ大変だったんだろう…、頑張らなきゃ。



●白馬は足跡ひとつなく
 ざわざわと木々を揺らして街を抜けるそよ風は、まるで来訪者の存在を周囲に触れ回っているようだった。
 体の一部を撫でられるような感触にぶるると体を震わせて、ビザール・ラーフ(bizarre laugh in woods・f19339)は周囲の気配を探る。息を潜めてこちらを伺っている何者かの気配を感じ、彼は芝居がかった仕草でため息をこぼした。
「アリスとか見つける必要あんのか? さっさとボスだけぶっ殺して帰ろーぜー」
 手分けしてアリスを探している猟兵達が消えた路地の方へ言葉を投げるが、返ってくるのは静寂だけで。もう少し揺さぶりをかけないとだめか、とビザールは思案しながら体を揺らす。
「街の中にいるのは確かみたいだし、頑張ろう!」
 彼と共にアリスを捜索しているリアナ・トラヴェリア(ドラゴニアンの黒騎士・f04463)は気合十分といった様子で拳を握ると、窓をひとつひとつ覗き込みながらアリスの姿や手がかりを探していた。もしも自分がアリス達と同じように逃げるなら、きっと建物の中に隠れながら外を目指すはずだ、と考えたのだ。
 リアナの背中を見ながら、さっきの声に釣られてボスのオウガが出てくれば手っ取り早いのに、とふと思うビザールだったが、予知で語られていた少女の性格を思い出し、助けるべき相手に庇われちゃかなわねーしなぁ、と考えを打ち消してのそりのそりと歩きはじめる。見つけなかったら見つけなかったで笑いもんにされそうだし、とリアナを真似て手を握り込み気合を入れ直すと、彼は先ほどからこちらの様子を伺っている気配――この街に住む擬似生物達を誘い出そうと両手を広げ、歌い始めた。
 ――蝶々、蝶々~オレの前に止まれ~
 声にあわせて体を震わせて木の葉をすり合わせ、盛り上がりを演出して気持ちよくリズムを刻めば、建物の影からひょこりと青い蝶が顔を覗かせる。
「わっ、こんにちは、蝶の人!」
「チョロいなおめー! なあ、アリス見なかったか?」
 そろりそろりとこちらの方へと飛びながら怯えたように周囲を見回す青い蝶に、ビザールは腹立たしさを覚えた。無論、目の前の擬似生物へではなく、ここを支配するオウガに対してだ。
(やぁれやれ、こんなことしてっからオレみてーなチョー優しぃ~住民も変な目で見られるんだっつーの)
 大丈夫だからこっちこいよ、と手のひらを丸く合わせて蝶を匿うように受け入れるビザールの姿を見て、リアナはこの世界に今まで渦巻いていた困難を思い、そっと目を伏せた。
「知ってること全部ゲロれよ。解決したらチョー甘い蜜をたんまりやるからよ」
「ほんと? ぼくが言ったって誰にも言わないでね?」
「約束は守るぜ~」
 蝶はビザールの手の中でくるりと宙がえりをすると、小さな声で歌う。
 ――じっとしてアリス ピンクのお店 ロバとひつじのあいだ 人形のように
「ピンクの店かぁ……」
 ビザールは口を大きく歪めてにぃっと笑った。これでアリスを見つけることが出来る。
「ねえ、あなたが見たアリスはひとりだけなのかな? それと、私達みたいな人達は見てないかな?」
「もうひとりのアリスは知らないけれど、お姉さんみたいな人達は、花時計の向こうに行くところを見たよ」
 リアナの問いに、蝶は街の中央にある広場を指して答えた。
「とっても助かるよ。それじゃ、ありがとう!」
「おめーも気ぃつけろよー」
 ふたりは蝶に別れを告げて、歌を手掛かりにピンクの店を探す。

 ほどなくして辿りついた、一軒の玩具店。窓を覗くと、動物を模ったぬいぐるみが店内狭しと飾られているのが見えた。
「アリスって呼ばれてる、アリスじゃない誰か、助けに来たよ」
 突然中に入って驚かさないようにと、リアナは窓の外から呼びかける。
「……誰?」
 か細く返される少女の声に、リアナとビザールは顔を見合わせ思わず破顔した。ピンクの扉を開いてアリスの元へと走るリアナ。
 店の正面を守るように立つビザールは、両手を広げてテンション高く笑っていた。
「さぁ、アリス。おめーの道はどっちだ? 天国かー? はたまた地獄か……?」
 これで彼女が“笑いの森”で惑う姿を笑うことができる。ビザールは彼女の無事を喜び木の葉を揺らした。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​

四王天・焔
燦お姉ちゃん(f04448)と一緒に参加
SPD判定の行動

■心情
アリスラビリンス、初めて来るけど早速大変な事態になっているね。
二人とも、必ず助けて見せるよ。

■行動
白狐召還符を使用して、白狐に騎乗して探索。
「さぁ、行くよ白狐様。頼りにしているからね」

後は、高い所からの遠視でアリスを探すね。
焔は白狐の上で燦お姉ちゃんに肩車して貰って、木に登って見渡してみるね。

後は野生の勘と第六感で、アリス達の居場所の目星を付けるね。
足跡とか、血痕とかあれば、それを目安にして、探してみるよ。
逃げ足でオウガから逃げ回りつつ、情報収集や聞き耳、視力でアリスを察知。
優しさで安心させて、手をつなぐで一緒に逃げていくね。


四王天・燦
焔(f04438)とアリス捜索隊。
WIZ行動

探索の鉄板その一。
高い所から一望…木や屋根によじ登る。
天辺で焔の白狐様に乗り、焔を肩車…猟兵ならバランス感覚も大丈夫!(多分)
「白狐様、定員オーバーみたいな顔しないでくれない?」

目ぼしい場所が見えたら移動。
鉄板その二と三。
痕跡の経過時間を予測&聞き耳で物音・気配察知。
都度、肩車して周囲を見渡すぜ。
足跡や血痕などの痕跡を追う

オウガを見つけても隠れてやり過ごすぜ。
(食欲の秋にはまだ早いぜ)

アリス発見次第保護。
「一人欠けたら残された方が苦しみを背負うんだ。二人共、鬼の首を手土産に生還させる」
神鳴を抜いて敵の気配に身構えるぜ…本当に首を取ってきそうな雰囲気で


サンディ・ノックス
※アドリブ、連携歓迎

咄嗟に少女を助けに行きたいと思ったけど優先して探すのは少年
少年を救うことが少女を救う近道でもある気がする
ただ同業者が少年と合流し少女と合流していない時は少女を探す

探す対象が逃げた方面を虱潰しに探す
俺は面倒くさがりだけどこれを面倒だとは思わない
隠れるのは妥当な判断だし痕跡がないのは見事だから
対象を見つけるのが最高
疑似生物(以下:蝶)と出会えるのもいい

蝶は被支配者だから明確に協力できない可能性を念頭に置く
蝶と接触してもすぐには言葉をかけずあちらが何か伝えようとしていないか観察
下手に行動して蝶がやりにくくなるのは不本意だ
蝶が何も行動を起こさなかったらアリスの居場所を知らないか聞く


ラファン・クロウフォード
これはなかなか美しい世界だな
ゆっくりと見物する時間がないのが残念だ

アリス以外の存在をオウガが知れば新手を呼ぶだろう
時間を稼ぐ為に、オウガとの遭遇を回避しつつアリスの捜索を最優先に行動する
建物の中は見つかれば逃げ場がなさそうだ
逃げ続けるなら、やはり外
周囲の様子が見えて移動もしやすい茂みの中だろうか
中央以外の花畑をしらみつぶしに探す
薔薇や蜜柑のトゲ、柊のチクチクした葉は逃げる時間を少しは稼げそうだな
入るには痛そうだし呼びかけて確かめる
少年に猟兵である事を告げ、少女の無事も伝える
オウガ、もしくは、それ以外の敵に見つかった状況では
炎神の踊り手で呼び出した子熊たちで足止めをして仲間たちと合流を目指す



●ガラスの迷路は入り組んで
「二人とも、必ず助けて見せるよ」
 初めて訪れた世界――アリスラビリンスの実情を知って胸を痛めた四王天・焔(妖の薔薇・f04438)は、祈るように胸に手を当てて決意を口にする。
「探索の鉄板その一。高い所から一望……つまり、木や屋根によじ登る」
 その横で、彼女の姉である四王天・燦(月夜の翼・f04448)はアリス達を探すのに適した高所を探していた。うんうん、と燦の言葉に頷いた焔は、あそこなんてどうかな、と広場のそばにそびえ立つ大樹を示す。
「いいんじゃねーかな。白狐様とアタシが焔を肩車すれば、かなり遠くまで見渡せそうだしな」
 バランス感覚なら猟兵稼業で鍛えたし大丈夫大丈夫、と燦は肩を回して体を解しながら付け加えた。
「さぁ、行くよ白狐様。頼りにしているからね」
 焔は召喚符を使用して、自らの背丈の二倍ほどある白狐を召喚すると、その背を撫でる。艶やかな毛並みをした白い狐はひと鳴きすると、燦と焔を乗せて街を駆け、大樹の天辺まで瞬く間に翔け上った。彼女達が背から落ちないようにしっかりと枝に足を付けて立つ白狐の上で、焔は燦の肩に乗る。
「……白狐様、定員オーバーみたいな顔しないでくれない?」
 口の端から蒼い炎をこぼしてくうぅ……と声を漏らす白狐に、燦は半眼で唇を尖らせた。
「? 今、あの辺の草むらが揺れたような……?」
 燦の肩車で支えられながらじっと街を観察してアリスを探していた焔が、とある建物の庭にある植え込みを指す。
「よし、近くにアリスの痕跡があるかもしれないし、行ってみるか」
「待って。……どうしよう、燦お姉ちゃん。近くにオウガもいるよ」
「ますますマズいだろ、それ……!」
 肩から降りた焔は燦と頷きあうと、白狐に植え込みの方へ向かうようにと頼んだ。

「これはなかなか美しい世界だな……ゆっくりと見物する時間がないのが残念だ」
 ラファン・クロウフォード(悪夢の揺り籠・f18585)は、オウガと遭遇しないようにと警戒しながら茂みや植え込みの中を調べて回っていた。建物の中でオウガに見つかれば逃げ場がない――故に逃げ続けるなら屋外を選択するだろう、とアリスの行動を推理した彼は、同様に、薔薇や柊、蜜柑の仲間などの棘を持つ植物でアリスが身を守りながら移動を続けているのではないかとも考え、人が避けて通りそうな植物にも手を伸ばす。
(広場中央の花畑は……除外してもいいだろう)
 蝶の姿をした住民達も近付こうとしないような、不穏な花畑を潜伏先に選ぶことは到底考えられない。この支配者に有利に設計された美しくも残酷な世界で、徘徊するオウガただひとりを捕食者として警戒することは生存本能が許さないだろう。
「周囲全てが恐ろしく見える状態は、さぞや辛いことだろう。……早く見つけてやらなければ」
 アリスの精神状態を慮り、ラファンは眉間にしわを寄せ目を伏せた。オウガの耳に入らないようにと声を落として呼びかけながら、茂みを静かにかき分け手がかりを探す。
 ふと、木の葉の揺れる音が耳に入った。
(……あの建物の向こうか)
 ラファンは、薔薇の花が植えられている庭の方へと歩みを進める。

 一方その頃、仲間達と別れて単独で捜索をしていたサンディ・ノックス(闇剣のサフィルス・f03274)は、路地を慎重に観察しながら街を歩いていた。壁を蹴って樽を倒し、芝生を踏んで派手に逃げていたアリスの痕跡は、やや幅広の通路を挟んでぷっつりと途絶えていた。オウガの目をごまかすための陽動か、時間稼ぎだろうか。普段は地味な作業にはあまり関心が持てず遠巻きにして避けがちなサンディだったが、今回ばかりは面倒だと手段を選んではいられなかった。
(これだけ見事に痕跡を残さずに逃げて隠れているんだ、どんな手だって使ってやる)
 いわばこれはアリスとの真剣勝負だ。あちらは命を懸けているのだから、全力で手を伸ばさなければ届かないだろう……だからこそ虱潰しの捜索が最良であるとサンディは考える。ましてや、猟兵が守ろうとしているアリスは2人。
 少年を守ろうとして命を落とすという少女の未来を耳にした時、サンディは咄嗟に彼女を一番に救いたいと思った。だが、全く手がかりのない少女を探している間にオウガが少年を見つけてしまえば、予知は現実のものとなってしまう可能性が高い。
 ならば。
(俺が今探している少年を救うことが、少女を救う近道だ)
 サンディは石畳に膝をついて、少年の痕跡が消えた路地を覗き込む。視点を変えれば何か見つかるかもしれないと思ってのことだったが、そこでふと青いものが目に入った。
(擬似生物……!)
 目が合った青い蝶に声をかけようとして、相手が羽で口元を隠していることに気付き言葉を飲み込む。そのままくるりと背を向けて角を曲がった蝶を見送って、サンディは直感的に近くの塀に身を隠した。
(あいつ、もしかしてオウガに隠れて俺を助けようとした?)
 だとしたら、オウガは近くにいるということになる。ここは蝶の意図を汲んで静かにしているのが良いだろうと判断したサンディは、呼吸を整えて聞き耳を立てた。
 ――うらぐち 小さなアリスは 小窓を抜けて 広場へ走る
 かすかに聞こえる蝶の歌の合間に、金属が擦れる音が聞こえる。今の歌がもし本当なら、アリスはここを離れて広場の方へ逃げたことになる。蝶に会って確かめなければ、とサンディが塀の陰から飛び出すのと同時に、先ほどの蝶が角を曲がってこちらの方へ飛んできた。
「よかった、きみがあいつに見つからなくて!」
「……さっきの歌は本当なのか?」
「本当じゃないよ、ぼくは作り話を歌っただけだよ。だからうそはついてないんだ」
 蝶は怯えを滲ませながら、ぱたぱたと羽ばたく。服が汚れるのも構わず捜索をしていた真剣な姿に心を打たれて協力したいと思ったんだと語る蝶は、サンディの肩にとまるとそっと囁いた。
「アリスが隠れたところ、ぼく見たんだ。これはぜったい、本当のことだよ」

 屋根伝いに大樹から薔薇の植え込みのある庭まで跳んできた焔と燦は、白狐の背から飛び降りると地面を検める。
「燦お姉ちゃん、ここに血がついてるよ。探してるアリスのかな?」
「鉄板その二。痕跡の経過時間を推測。……乾いてるか?」
 燦は焔に返事をしながら、電撃を帯びた刀を抜いて周囲に聞き耳を立てていた。アリスの気配は当然として、何を思ったのか広場の方へと遠ざかっていったオウガが戻ってきた時、すぐに対応できるようにと気を配る。
(とは言っても、焔とふたりじゃ厳しーな。もしオウガが戻って来たらアリスと一緒に茂みの中に隠れるか)
 食欲の秋にはまだ早いってか、と胸中でつけたす燦。
「まだ少し濡れてるみたい」
 焔は血痕をなぞり、指に付いた赤色をそっと拭った。
「やはりか」
「蝶からも証言を得たよ。アリスがここへ飛びこんだって」
 庭に入る前に合流したラファンとサンディが、四天王姉妹に声をかける。程度は分からないがアリスが怪我をしているようだと焔から聞き、彼らは優しく薔薇の植え込みに呼びかけた。
「出ておいで、僕達はあなたの味方だ。一緒に逃げた少女なら、僕達の仲間が守っている」
「ひとりでよく頑張ったね。さあ、もう大丈夫だ」
 ガササ、と静かに葉が揺れ、少年がそっと顔を覗かせる。
「はじめまして。焔達はふたりを助けにきたんだよ。一緒に行こう、ね?」
「あの子、本当に無事なの……?」
 差し出された焔の手を取ろうかと逡巡しながら、少年はおずおずと猟兵達に尋ねた。
「ああ。一人欠けたら残された方が苦しみを背負うんだ。二人共、鬼の首を手土産に生還させる。アタシ達はそのために来たんだ」
 今すぐにでもオウガの首を落としそうな燦の纏う空気に、少年の手が震える。焔は大丈夫だよ、と彼の手を包み込み安心させた。
「ここにずっといるわけにもいかない。もうひとりのアリスと仲間達と合流しなければ」
 少年の肩に走る切り傷に布を巻いてやると、ラファンは勇気づけるように微笑みかける。
「……わかった。頑張ってついていくよ」
 猟兵達に励まされ力を取り戻した少年は、彼らと共に駆け出した。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​🔴​




第2章 集団戦 『グリードキャタピラー』

POW   :    キャタピラーファング
【無数の歯の生えた大口で噛みつくこと】による超高速かつ大威力の一撃を放つ。ただし、自身から30cm以内の対象にしか使えない。
SPD   :    脱皮突進
【無数の足を蠢かせての突進】による素早い一撃を放つ。また、【脱皮する】等で身軽になれば、更に加速する。
WIZ   :    汚らわしき蹂躙
全身を【表皮から溢れる粘液】で覆い、自身が敵から受けた【敵意や嫌悪の感情】に比例した戦闘力増強と、生命力吸収能力を得る。

イラスト:猫背

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種別『集団戦』のルール
 記載された敵が「沢山」出現します(厳密に何体いるかは、書く場合も書かない場合もあります)。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


 少女と少年、それぞれのアリスを連れた猟兵達はオウガの目をかいくぐり、街の中心から少し離れたところで合流した。
「私達、何故か分からないけれど……開かなきゃいけない扉があるの」
 この世界には、アリスが自分の世界へ戻るための扉がひとりにつきひとつずつ用意されているという。既にその扉の場所を掴んでいるというのは朗報だ、と猟兵達はほっと胸を撫で下ろした。オウガが1体とは限らないこの街中を、アリスを連れて彷徨うのは考えただけでも気が滅入る。
「けれど、その扉がある教会に入るための鍵は、さっきの化け物が持ってるんだ」
 少年がその教会の方角を示した時、広場の方から耳障りな笑い声が木霊した。アリス達を背に庇いながら猟兵達が駆けつけると、赤い卵の転がる花畑の中央に立ったオウガが、両手の刃物を擦り合わせながら笑っている。表情と呼べるものを伺うことが出来ないため、その笑い声の意味は分からなかったが。
「……! 鍵だ!」
 オウガの指先に引っかかっている小さな煌めきに、少年の顔色が変わる。咄嗟にオウガに飛びかかろうとする彼を、腕を抱きこむことで少女は押さえ込んだ。
 戦闘の構えを取った猟兵が、ふと赤い卵の異変に気付く。カタカタとひとつが震えだしたかと思うと、瞬く間に卵すべてに伝播していき――震える卵達はそれぞれに歌い始める。
 ――かえりたい かえりたいの やがてはちょうに なるために
 次々と音を立てて殻を破り、卵と同じ赤い色の頭をもつ芋虫のオウガ、グリードキャタピラーが現れた。無数の歯が生えた口をもごもごと動かしながら、濁ったガラス玉のような双眸でグリードキャタピラー達は猟兵とアリスの姿をじっと見ている。
「アリス、かえさない」
 指先に鍵をぶら下げていたオウガは、近くにいたグリードキャタピラーの口をこじ開けると、その鍵を放りこんだ。まずい、まずい、と騒ぐグリードキャタピラーに、仲間達は慰めるように体を擦りつける。うごうごと蠢き絡みあう芋虫の姿は見ていてあまり楽しいものではなかった。
「アリスは最後に」
 オウガはそう言い残すと、花畑から飛び退いて街の中へと姿を消した。

「鍵を手に入れなければ、アリス達を帰してやれないのに」
「どいつが飲み込んだか分からない以上、全部倒すしかないね」
 猟兵達は各々に武器を構えて芋虫オウガを見据える。
「割れてない卵はなさそうだけど……6体か、ったく面倒だな」
 怯えて俯きながら、アリス達は広場の隅で身を寄せ合い、猟兵達の無事を祈って天を仰いだ。
四王天・焔
燦お姉ちゃん(f04448)と一緒に参加
アドリブや他猟兵との絡み歓迎
SPD判定の行動

■心情
グリードキャタピラー、見た目はグロテスクだねー。
そんな相手に、やられるわけには行かないよ。

■行動
白狐召還符を使って戦うね。
白狐様に騎乗して戦闘を行うよ。
属性攻撃で狐火の属性を強化して戦い
範囲攻撃で纏めて狐火で焼き払う。

焔自身は、フェイントを織り交ぜつつ確実に攻撃を当てる様にし
2回攻撃、マヒ攻撃、気絶攻撃でグリードキャタピラーを攻撃。
アリスが攻撃されそうになったら、かばうで守ってあげつつ
武器受けや盾受け、オーラ防御で耐える。

燦お姉ちゃんと、互いの死角となる範囲をカバーし合い
声を掛け合いつつ連携攻撃を行う。


四王天・燦
焔(f04438)とアリス守護り隊

呑ますなよ…鍵を探すために解体かよ。倒したら消滅してくれると良いなー。
と、嫌悪感は已む無し

「ハッピバースデイ、でも死ね。見た目が悪い=損だと割り切ってくれ」
フォックスファイアを空に投げ、半数は炎の雨にして降り注がせる。
粘液を乾かして見た目のエグさを和らげる狙いもあり。
残る半数は焔の白狐の炎に織り込んで火力アップさせちゃうぜ

炎の雨は蝶の食料以外なら延焼させて炎の目眩まし。
陽炎の中に残像を残し囮に使う。
見切り・逃げ足も活かし、時間を稼いで力溜め

ダッシュジャンプで接近し抜刀一閃。
「奥義・電刃居合い斬り!」
属性攻撃・雷と部位破壊、狙うは首。生命力吸収する前に一撃必殺さ


ラファン・クロウフォード
ジャスミンの名を呼んでランス化しランスチャージで戦闘態勢をとる

街に向かったオウガが住人たちに危害をくわえるかもしれない
すぐにでも追いたいところだが、眼の前のオウガを退治してからだ

訪れた時と変わらず街も花畑も美しいのに
住人達の歌や無駄に恐怖を煽る芋虫オウガの姿を見たせいか
今はどこもかしこも無残に真っ赤な血の色に染まって見える
力の糧には十分な程に

アリスたちの夢や願いを食い散らかしてきたんだ
まさか、己の願いがかなうなどと思ってないよな?

鳥が芋虫を喰うように
天の火の飛翔能力と怪力で芋虫を空中に持ち上げ
凍り付いたぷにぷにボディをランスで貫き砕く
鍵探しも忘れない
2回攻撃、槍投げで地上の仲間の戦闘を援護する


カレン・ナルカミ
うわ、ブサイク。マジでキモイ。生理的にムリ(どん引き)
二人のアリス、略して、アリズちゃんを食べさせるわけにはいかないし戦うしかないわね
アリズちゃんをギュッとひとハグして勇気づけるわ
あら、芋虫たち、さっきの言葉で傷ついちゃった?
言い過ぎたわ。ごめんなさい
からの、先手必勝!先制攻撃!
纏まってる今なら好都合よ
マヒ攻撃を上乗せした黒飛雷の範囲攻撃で足止めするわ
フォックスファイアの炎で、じっくりといやらしくキツネ色に焼きあげて芋虫ステーキにしてあげる
芋虫の攻撃は逆に利用して芋虫を盾にして回避
コケる姿は意外と可愛いかも
仕上げは曼殊沙華の鎧無視攻撃で一口サイズに焼き芋虫を切り分けるわね
さて、鍵はあるかしら?


リアナ・トラヴェリア
間合いのとり方が重要な敵だね、踏み込みすぎると威力が高い攻撃を受けたり、回避しづらい攻撃を受けそう
…ここは一撃離脱かな

黒い風を纏って、一気に踏み込んで切り裂くよ。一回切り抜いたら一旦離れてブラスターで攻撃。ある程度近づいてきたら、相手が攻撃の準備をする前にもう一度踏み込んで…みたいに相手になるべく攻撃をさせないように戦うね。

相手が粘液を帯び始めたら武器をエレメンタルエッジに持ち替えて炎を帯びさせるよ。これで粘液ごと焼き切っちゃう。黒風で吹き飛ばせるかも。

倒したらこの中から鍵を探すんだよね?
ちょっと大変そうかな。…その前に飲ませたオウガも出てくるかも知れないから警戒しておくね。


サンディ・ノックス
面倒だなぁ
潰せばいいだけだし途中で増える対応を考えるよりはマシと思おう

真の姿発現(特徴は真の姿イラスト参照願います)
主武器は大剣へ変形

簡単に足止めになる部位がない
頭潰して終わる保障もないけど可能性は一番高いから頭を狙う
やっぱり面倒…

虫のUCは噛みつくために頭をもたげたるなどの前兆を【見切り】距離をとる
間に合わなければ急所だけは避けて【オーラ防御】

確実に当たる状況で小刀を【投擲】
食べられたらいらっとするけど
当たったことには変わらないねとUC発動
獣の姿は虫相手だから鳥を模す(鳥を獣と呼ぶのが厳しいなら猫)
今度はお前が喰われろ
喰われる恐怖を感じるだけの頭はあるかな?

万が一アリスが狙われたら【かばう】



 きちきちきち。口内に無数に生える歯で音を立てながら、グリードキャタピラーの群が猟兵達の方へと蠢きだす。
「うわ、ブサイク。マジでキモイ。生理的にムリ」
 アリス達、略してアリズを助けようと駆けつけたカレン・ナルカミ(焔桜の糸遊狐・f02947)は浮かべていた微笑みをスッと引っ込め、眉間にしわを寄せて唸った。
「ハッピバースデイ、でも死ね」
 口角を引きつらせて、燦も忌々しげに呻く。
「っていうか呑ますなよ! 鍵を探すために解体かよ……」
 鍵を持っていたオウガが消えた方をぎりりと睨んで、燦は後頭部をがしがしとかきあげた。芋虫のぬらぬらと光る粘液に、ぶにぶにの緑の体。倒したら消滅してくれると良いなーと、出来るならば触りたくないと願う彼女の言葉に、仲間の猟兵達も頷いた。
「見た目はグロテスクだねー。そんな相手に、やられるわけには行かないよ」
 焔は白いエプロンをぱんっと払って気合を入れると、召還符へ魔力を注ぎ始める。
「符よ妖の郷への扉を開け。おいでませ白の御狐様……」
 虚空に差し出された召還符から、まるで煙が立ち上るようにすらりと現れた焔の倍ほどの大きさの白い狐は、前足を畳んで彼女のそばに屈み込んだ。焔はその背に飛び乗る。
「街に向かったオウガが住人たちに危害をくわえるかもしれない」
 ジャスミン、とラファンは連れていた白い竜に呼びかけた。紅い瞳を瞬かせて愛らしい声で返事をしたその小さな翼竜は、天を仰いで翼を畳むと一振りの槍に姿を変え、戦友の手の中に収まる。すぐにでも逃げたオウガを追いたいところだが、眼の前のグリードキャタピラーを退治するのが先だ、とラファンは彼女を目の前の敵に向けて真っ直ぐに構えた。
「そうね。アリズちゃんを食べさせるわけにはいかないし戦うしかないわね」
 巨大な芋虫にドン引きしていたカレンもまた、気を取り直して微笑みを取り戻すと、アリズをギュッと抱きしめて、すぐに終わらせるから安心してちょうだいね、と囁いた。
「面倒だなぁ……」
 サンディはため息交じりに前髪をかきあげる。風に煽られた黒い外套が膨張したかに見えた次の瞬間、彼の出で立ちは控えめな印象の青年から、赤黒い鎧に身を包んだ騎士へと大きく変化していた。竜の翼や角、尾を持つ真の姿の解放に呼応するように、細身だった黒い剣は大剣へとその姿を変える。変身前の穏やかそうだった微笑みはいまや冷たさを帯びていて、獰猛な金の瞳は夜空に浮かぶ三日月を思わせた。
「まあ、潰せばいいだけだし途中で増える対応を考えるよりはマシかな」
 サンディはちらりとアリス達の方を見る。狙われている以上、戦闘中も彼らからは目が離せず、守りながら戦う時間が長引くほどにオウガに食われるリスクも増す。ならばさっさと敵を潰してしまおう、とサンディは大剣を構えてグリードキャタピラーの群を見据えた。
「間合いのとり方が重要な敵だね」
 目を背けたくなる醜さでも、敵から視線は外さず。リアナもまた、黒い風を身に纏わせながらオウガの群を凝視して戦況を分析していた。踏み込みすぎると大きく開いた凶悪な口に噛みつかれ大きなダメージを負うだろうし、無数の蠢く足による急加速を回避することも難しくなりそうだ。ならば。
「……ここは一撃離脱かな」
 リアナの導きだした結論に同意する代わりに、獲物を構え猟兵達はそれぞれ一斉に攻撃に出る。

「あら、芋虫たち、さっきの言葉で傷ついちゃった? 言い過ぎたわ。ごめんなさい」
 しなやかな指を口元に添えて、カレンは小首を傾げてすまなさそうな表情を浮かべると、地を這い襲い掛かってくるグリードキャタピラーの群の前に立ち塞がった。腰を折って頭を下げるふりをして、服の下に隠し持っていた漆黒のクナイを、宙を撫でるように滑らかな手さばきで投げつける。麻痺の魔力を込めたクナイがオウガらの動きを止めると、カレンは悪戯っぽくペロリと舌を出した。
「纏まってる今なら好都合よ♪」
「了解! 見た目が悪い=損だと割り切ってくれ!」
 燦は狐火を大量に作り出すと頭上高く放り上げ、そのうちの半分ほどを雨のようにグリードキャタピラーへ降り注がせる。醜悪な見た目への嫌悪感を少しでも和らげようと表皮を覆う粘液を焼いたのだ。
「いくよ、白狐様」
 焔は騎乗した白狐様の背に手のひらを当てて魔力を注ぎ込む。みなぎる力の奔流を攻撃開始の合図と受け取った白狐様は、石畳を蹴ってオウガの群の上空へと跳躍すると、ぱかりと大きく開いた口から吐きだす蒼い狐火で、グリードキャタピラーを3体まとめて焼いた。
「まだまだいくぜ!」
 燦は白狐様の狐火に空中に残していた自らの狐火を織り交ぜて、さらに熱く燃え上がらせる。
「私も手伝っちゃう♪」
 ナイスアイデア! と目を輝かせて、カレンも芋虫達へ狐火を降り注いだ。
「じっくりといやらしくキツネ色に焼きあげて、芋虫ステーキにしてあげる☆」
「……どう頑張っても食べる気にはなれねーけどな」
 炎の雨を弾幕のように操って、焔が芋虫へとどめを刺すのを援護しながら、燦は乾いた笑いを漏らす。

(訪れた時と変わらず街も花畑も美しいのに、今はどこもかしこも無残に真っ赤な血の色に染まって見える)
 ラファンは真っ黒に焦がされた3体のグリードキャタピラーを一瞥すると、未だ活発に蠢く個体へと視線を移した。ここに至るまでに住人達の歌を聞き、無人の街並みを歩き、醜悪な見た目のオウガらに遭遇したせいだろうか、穏やかそうに見える景色の裏側に積み上げられたアリス達の死の気配を感じずにはいられない。
「アリス達の夢や願いを食い散らかしてきたんだ。まさか、己の願いがかなうなどと思ってないよな?」
 静かに芋虫オウガの一体に向き合いながら、ラファンはこの場に残された彼らの悔恨の記憶へと手を伸ばした。すくいあげる無辜の人々の苦しみと願いの強さに比例して、彼が纏うオーラは蒼く燃え、徐々にその温度を下げていく。
 ラファンの殺気など気に留める様子もなく、グリードキャタピラーは大きな口を開いた。
「……罪をその身に刻んでやろう」
 全身を覆う凍てつく不死鳥のオーラが、芋虫のぷにぷにのボディを凍り付かせる。そのまま強化した腕力で芋虫の体を空中へと放り投げると、迎え撃つようにラファンは地を蹴り飛んだ。落下する芋虫自身の重さを利用して、真っ直ぐに構えた白いランスで凍った胴体を一息に貫く。それは、まるで鳥が芋虫を狩る時のように素早く無駄のない動きだった。
 腹部に大きな穴の開いたグリードキャタピラーは、花畑の中に落下したきり動かなくなる。

 黒い風を身に纏ったリアナは、一気に敵の懐に潜りこむと、黒剣で緑の胴体を続けて2つ切り裂いた。そのまま足を止めることなく敵の背後まで回り込むと、拳銃型の熱線銃で頭部を狙い撃つ。
「! 気を付けて、噛みつきがくるよ!」
「大丈夫、見えてるよ」
 グリードキャタピラーの頭部の動きに注意を払っていたサンディは、大口による噛みつき攻撃を後ろへ跳ぶことで避けた。潰して足止めができそうな部位がないため頭部に狙いを定めていた彼は、この噛みつき攻撃が空振りする時を虎視眈々と狙っていたのだ。生じた“隙”に差し込むように、小刀を赤い頭部目掛けて投擲する。ばくり、とその黒い小剣を咥え飲み込むことでダメージを防いだ芋虫に、サンディは僅かに苛立ちを覚えた。
「……ま、当たったことには変わらないね」
 グリードキャタピラーの頭部……その奥に飲み込まれていったであろう小刀へ向けて、サンディは手を翳す。
「今度はお前が喰われろ」
 冷たく言い放った瞬間、サンディの背後から舞い上がった鳥の幻影が、芋虫目掛けて飛びかかった。大きく翼を広げた影の鳥は、グリードキャタピラーの頭にとりつくと鋭いくちばしで肉を啄み、引きちぎる。
「喰われる恐怖を感じるだけの頭は……もうないか」
 幻影の鳥から小刀を受け取って、サンディは頭部を失い動きを止めた芋虫の胴体を見下ろし、淡泊に吐き捨てた。
「……しまった!」
 残る1体のグリードキャタピラーの攻撃を阻止しつつ、一定の距離を保ちながら着実にダメージを重ねていたリアナは、不意に反転したオウガの動きに取り残されてしまう。迷いなく突き進む芋虫の狙いがアリス達であると気付いたリアナは、地を蹴り懸命にその後を追う。
「うわ、アイツ炎の雨の中を突っ切ってきやがった!」
 目眩ましにとアリスを守るように炎の雨を操っていた燦が、うげ、と声を上げた。姉と連携して死角をなくすように動いていた焔は、白狐様と共にグリードキャタピラーの前へ滑り込むと、余力すべてを防御に集中させて突進を受け止め阻止する。前に進むエネルギーを殺しきれず、ころりと地面に転がった芋虫に、コケる姿は意外と可愛いかも……と、アリス達を庇う仲間達の隣でカレンは密かに思った。
「ありがとう、助かったよ!」
 黒剣をショートソードに持ち替えたリアナが、態勢を崩したままのグリードキャタピラーへ跳びかかる。炎を剣に帯びさせて、表皮に滲む粘液ごと芋虫の体を焼き切ろうと刃を振るえば、彼女の全身を覆っていた漆黒の風がつむじ風となって敵に襲い掛かり、粘液を吹き飛ばした。剣先を滑らせるものがなくなり防御力が著しく落ちた最後の一体であるグリードキャタピラーは、リアナの炎の剣に成す術なく倒れたのだった。

「さて、鍵はあるかしら?」
 鋼糸でこんがり焼けたグリードキャタピラーを一口サイズに切り分けて、カレンは隠された鍵を探す。鍵を隠したオウガが奇襲をしかけてこないようにと周囲への警戒を怠らないリアナは、6体分の芋虫のパーツを前にして、ちょっと大変そうかな……と冷や汗を浮かべた。
「……これか?」
 黙々と鍵を探していたラファンが、サイコロ焼き芋虫の山から光る金属を拾い上げた。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​




第3章 ボス戦 『切り裂き魔』

POW   :    マッドリッパー
無敵の【殺人道具】を想像から創造し、戦闘に利用できる。強力だが、能力に疑念を感じると大幅に弱体化する。
SPD   :    インビジブルアサシン
自身が装備する【血塗られた刃】をレベル×1個複製し、念力で全てばらばらに操作する。
WIZ   :    殺人衝動
自身が【殺人衝動】を感じると、レベル×1体の【無数の血塗られた刃】が召喚される。無数の血塗られた刃は殺人衝動を与えた対象を追跡し、攻撃する。

イラスト:芋園缶

👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

種別『ボス戦』のルール
 記載された敵が「1体」出現します。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※このボスの宿敵主は💠山田・二十五郎です。ボスは殺してもシナリオ終了後に蘇る可能性がありますが、宿敵主がボス戦に参加したかつシナリオが成功すると、とどめを刺す事ができます。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


 鍵を手に入れた猟兵達は、オウガの気配を警戒しながらアリスの示す扉の方へと歩く。風が木の葉を揺らす音や蝶達の噂話が、ピンと張った緊張の糸を撫でては消えていった。
「手出ししてこない……なんて訳ないか」
「希望を持たせて手折る趣向のつもりかしらね? 悪趣味ったらないわ」
 アリスの扉があるという教会の前、広場の中央にある小さな噴水の近くにオウガの姿を認め、猟兵のひとりがアリス達へ近くの建物の中へ隠れるように言う。広場を横切り戦場から遠ざかる彼らの姿をオウガの視線から隠すように立ち塞がった別の猟兵が武器を構えると、応じるようにオウガ――切り裂き魔も赤黒いノコギリを生み出し、自らの側に念力で浮かべた。
「アリスも猟兵も……バラバラに……私の殺人道具に……切断できないものは、ない……!」
 日の光を受けても輝きを返さない程に錆びついたノコギリは、一体今までどれだけの血を吸ってきたのだろうか。
 これ以上好きにさせはしない。猟兵達は各々戦闘体勢に入った。
四王天・燦
焔(f04438)とアリス帰し隊

妖魔解放。サドな女吸血鬼の魂を霊着…性格混合状態に。
「人間を護れ?女の子しか気にかけてないくせに」

揺れる足取りでフェイント、神鳴で居合い斬り。
深追いせず刃を多少は見切るよう意識。
流血したら「醜悪な下級生物が」と禍々しい衝撃波を放つわ。
刃を散らし、土煙での目潰しが目的

「這い蹲りなさい」
目潰しの上、焔の攻撃に紛れ高速移動で回りこむ。
残虐な笑みを浮かべ、背後からデストラップを首に巻き蹴り倒し、後頭部を首が落ちるまで踏む踏む!

戦闘後、焔と女アリスを見て犬歯を光らせ…妖魔解放終了。
(駄目に決まってんだろ)

「アリス達は何処に帰るんだろ…別々の道を歩むのかな」
アタシらも帰るか


サンディ・ノックス
何でも斬れるって大層な自信だけど興味ない
自信を削ぐための手は打たないが正確かな
劣勢になれば自信は消える
その時がお前の最後さ

敵を倒し扉を開く前に少年と少女はお互いへの想いをどう伝え合うのだろう
俺の関心はそこだけ
…彼らは俺の二人の親友にそれぞれ似ている気がする
それだけでも戦う意義は充分、親友は俺の全てだから

真の姿で青風装甲発動
飛翔速度のエネルギーをぶつけるように突撃、そのまま近距離で戦闘行動
主目的は妨害、俺を対処させて行動を制限したい

敵の攻撃は大剣の面積と【怪力】で受け止め【オーラ防御】で被害を減らす
攻撃を【見切】って致命傷だけは避ける
同業者の動き等で隙ができたら脚か尾で【カウンター】を仕掛けたい


四王天・焔
燦お姉ちゃん(f04448)と一緒に参加
SPD判定の行動
アドリブや他猟兵との絡み歓迎

■心情
何て禍々しいオウガなのだろうか。
ちょっと怖いけど、
アリスさんを危険な目に遭わせるわけには行かないよ。

■行動
白狐召還符を使用して戦うね。
御狐様の背に騎乗して、狐の素早い動きで敵を翻弄する様に動くね。
攻撃は、白狐の炎属性を属性攻撃で強化しつつ戦う。
焔自身は、ドラゴンランスでマヒ攻撃、気絶攻撃等で戦う。

焔と白狐が敵の注意を惹きつけている間に
燦お姉ちゃんには敵の背後に回ってもらおうかな。
その後は、焔と燦お姉ちゃんとで敵を挟み撃ちだよ。
敵の血塗られた刃には
白狐の炎を範囲攻撃で放って、刃を焼き尽くして撃ち落とすよ。



「何でも斬れるって大層な自信だけど」
 興味ないな、と錆びついたノコギリを一瞥したサンディはさらりと言い放つ。彼の興味は、アリス達の動向に注がれていた。友情、感謝、再会の約束。彼らは扉の前でお互いに何を伝えるのか。
(……彼らは、俺の二人の親友にそれぞれ似ている気がする)
 親友は俺の全てだから。サンディにとって戦う意義はそれだけで充分だった。たとえ誰に届く想いでなくても、自らと世界のために貫き通す熱量。強く抱いたその感情は祈りに似ているかもしれなかった。
 瑠璃色の旋風を赤き竜の身に纏う。サンディの姿勢に攻撃の意図を読み取ったのか、切り裂き魔は創造していたノコギリを掴むと彼目掛けて飛びかかった。
「私の殺人道具に……切断できない……ものはない……!」
「さっきも聞いたよ、それ」
 真の姿と瑠璃色の風の相乗効果で爆発的に向上した飛翔速度のエネルギーを叩きこむように、サンディは切り裂き魔の懐に容赦なく飛びこむ。振り下ろされるノコギリを赤黒い大剣で受け止め、魔力で増強した腕力で跳ね返せば、体当たりと武器のキックバックによりオウガはバランスを崩した。
(自信を削ぐための手は、敢えて打たなくても良さそうだ)
 自らに暗示をかけるように殺人道具の切れ味を誇る切り裂き魔の言葉に金色の目を細めて、サンディは竜の尾を揺らす。
「劣勢になれば自信は消える。その時がお前の最後さ」
 背後に感じる同業者達の戦意に確信を得たサンディは、体勢を立て直したオウガの前に立ちはだかった。

「何て禍々しいオウガなんだろうね……」
 サンディと武器を交える切り裂き魔の姿に、焔は召還符をぎゅっと握りしめて、それでもアリス達を守るために戦おうと恐怖を飲み込む。
「大丈夫、いつも通りやれば倒せる」
 そんな妹の肩にそっと手をやって、燦は静かに頷きながら励ました。この事件が解決した後、アリス達が帰る世界はどこなのだろうか、ふたりが今後会うことは無いのだろうか。懸命に生きようとするふたつの魂の未来を守るために、目の前のオウガは絶対に倒さなければならない。焔が自らの背丈の2倍程もある白い狐を召還し、背に跨ったのを確認した燦は、魂の奥に眠る魔の者を呼び起こす。かつて倒して精気を吸収したオブリビオンの娘達に寿命という未来を差し出す代わりに、彼女達の戦闘力の恩恵に授かる力。性格や思考が混ざりあうため、妹の側で発動するのは避けたかったのだ。
「人間を護れ? ……女の子しか気にかけてないくせに」
 かつて少女達に加虐の限りを尽くし快楽を貪っていた女吸血鬼の魂を顕現させた燦は、色の変わった左目を手で押さえながら、湧き上がる加虐嗜好の波に耐えるように踏ん張る。

「サンディさん、焔も一緒に戦うよ!」
 御狐様に跨った焔は、切り裂き魔と火花を散らしていたサンディの元へ駆けつけた。彼と同じくオウガの足止めをしようと、焔も狐の素早い動きで血に濡れた刃先を惑わす。サンディが切り裂き魔のノコギリを大剣で受け止めている隙に、焔は青い子竜の変化したランスでその腹部を刺した。注ぎ込まれた魔力はオウガの体を痺れさせ、同時にノコギリの存在が透けるように曖昧になる。猟兵達を切り刻めないことにフラストレーションを抱え、ノコギリの能力を疑いはじめた切り裂き魔は、代わりに自らの指先から伸びる血に濡れた刃のコピーを大量に作り出し、焔に向けて放った。
「そんなの、全部燃やしちゃうんだよー」
 焔の言葉を合図に、白狐様が蒼い狐火を広範囲に向かって吐く。騎乗した焔の両手から注ぎ込まれる魔力は、その火力を普段の何倍にも高めていた。
「今だよ、燦お姉ちゃん!」
 狐火にのまれて力を失い地に落ちる刃に、切り裂き魔が一瞬動きを止めた時だった。混乱に乗じてオウガの背後に回っていた燦は一気に間合いを詰めると、愛用の刀に手をかける。鞘から抜き放ち流れるようにオウガの背を斬りつけ、彼女は再び刀を鞘に戻した。電気を帯びた刀に背を焼かれ、咄嗟に飛び退こうとした切り裂き魔だったが、三方向を猟兵達に挟まれそれは叶わなかった。ならば、と比較的突破しやすいと読んだ燦の方へ向き直り、オウガは無数の血塗られた刃を複製して彼女の方へと一斉に発射する。鞘に収めたままの刀――神鳴で、いくつかの刃の動線を見切って弾く燦の頬を、不意の刃が掠めた。
「……醜悪な下級生物が」
 細められた左目の紫は憎しみに染まり、激しい怒りを湛えている。指先で傷口の血を軽く拭った燦は、抑えていた加虐嗜好を怒りと共に解き放ち、衝撃波で切り裂き魔の刃を吹き飛ばした。散らばる金属音と巻き上がる土煙の中を、宿したオブリビオンのオーラによって得た機動力で再び切り裂き魔の背後に回り込むと、その首に鋼の糸を巻きつけ蹴り倒す。
「這い蹲りなさい」
 残虐な笑みを浮かべた燦は、オウガの後頭部を首を落とさん勢いで踏む。彼女を背中から降ろそうと血塗られた刃を複製した切り裂き魔だったが、燦に向かって射出する前にサンディの竜の尾によって払い落された。
「……あら、可愛い子がいるわね」
 幾度も振り下ろされる踵の音が不意に止む。燦の左目と目が合った焔は、姉の犬歯がぎらぎらと光っていることに気づくと、白狐様にぎゅっと抱き着いて躊躇いがちに小首を傾げた。
「って、駄目に決まってんだろ!」
 体に憑依させていた女吸血鬼の魂をやや強引に眠りにつかせ、燦は切り裂き魔の背から降りる。首に巻かれた鋼糸を指先の刃で切ると、オウガは再びゆらりと立ち上がった。かなりのダメージを負っているにも関わらず、まだ立ち上がってくるオウガの執念に、サンディは小さく舌打ちをする。
「万全を期して、一旦態勢を立て直そう」
 後続の同業者達の方をちらりと見遣ってから、サンディはふたりに提案する。こくりと頷いた四天王姉妹は彼と共に広場の外へ出るように駆けだした。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

紹・羅沙
あれが標的の切り裂き魔アルネ
見れば見る程に全身凶器アル
近接戦が苦手なワタシは、見つかればすぐに頭が胴体とお別れアルネ
狙撃ポイントに幾つか目星をつけて
物陰を移動してユーベルコードが届く範囲まで標的に近づき潜伏アル

戦況を見定めて、標的に姿を晒さぬよう心掛け
聞き耳と視力で好機を探り、蛇神の超牙痕で技能を強化して正確に弓で標的の部位を破壊
攻撃後はすぐにその場を離れて別の狙撃ポイントに移動
敵の注意を惹かぬように、2回攻撃、傷口をえぐるなどして猟兵達の援護射撃に徹する


ラファン・クロウフォード
目玉はどこだ、帽子に付いてるのが目玉か?
そいつを潰して視界を奪ってみよう

防御と回避に重点をおいて、切り裂き魔との距離をダッシュで一気に詰め近接戦を挑む
少々の傷なら気に止めないが、致命傷はオーラ防御と武器受けで防ぐ

バラバラに切断するとほざいていたから
私を殺してくれると楽しみにしていた。が、違ったようだ。残念だ

炎神の踊り手で攻撃力を重視しして召喚した子熊たちに話しかけ指示を出す
切り裂き魔にしがみついて、おまえたちの高熱で温めてやれ
一頭では大したことない熱でも、纏まれば蒸し焼きどころか鉄すら溶ける

動きの鈍ったオウガの頭部めがけて
氷属性と部位破壊を付与して力を溜めていたハウリングフィストの拳を打ち込む


リアナ・トラヴェリア
本当にあなたのその武器で私達が切れるか試してみる?
でもやらせないけどね。アリスも私達もやらせはしないよ!

でも小さい刃物は少しずつ壊していくしか無いかな、まずはそっちの迎撃をしよう。飛んでくる武器は一個一個壊していくしかないかな。
もっとまとめて壊せる手段があればいいんだけど…。
とにかく黒剣で受けていくよ、多分そのうち痺れを切らして大技を使って来るだろうからそれを狙おう。

敵が見たこともない武器を取り出してきたら魔術師の手で掴んで振り回しちゃおう。余裕があったらそれをオウガ自体に突き刺すよ。
切り刻むのが得意なら、自分自身で試すべきだったね。

突き刺したらそのまま上に一緒に放り投げて止めをしちゃおう。


カレン・ナルカミ
(頭のてっぺんから爪先までオウガを品定め)
見れば見る程にタイプではないのだけれど
一つ一つのパーツは嫌いじゃないのよね
胸のハートの宝石なんて汚れを落とせば、もっとキラキラしそうだわ
欲しいモノには手を伸ばすのが、カレン流
攻撃のドサクサに盗んじゃいましょう♪

盗み目当てと思わせないように、勿論、退治の目的も込みで派手な攻撃するわ
光をもたらす打ち師魂の衝撃波を、オウガに接近するルート上に浮かぶ刃に当てて最短距離で駆けてすれ違いざまに掴み取るの
頭の赤い花飾り。もう必要ないでしょ?
オウガが倒れたら消えちゃうのかしら?
そうなったら、崩れ落ちる程がっかりしちゃうけど、近くで見れたしレプリカを作るのは簡単よね♪



 広場の端、花壇の陰に身を潜めながら紹・羅沙(白漠の帽蛇・f12083)は標的である切り裂き魔の動きを観察していた。
「見れば見る程に全身凶器アル」
 その指先から伸びる刃物のみならず、よくよく見れば帽子の縁と襟にはびっしりと歯が生えていて、帽子の下からは大きな舌と思しきものがぬるりと顔を出している。見つかればすぐに頭が胴体とお別れ……もしかしたらもっと酷いことになるネ、とぶるりと身震いをひとつした。
(ここからだと射程はギリギリ……戦況次第では移動することも考えておくアルネ)
 近接戦が苦手な羅沙は遠距離からの攻撃と援護を得意としており、そのため常に敵との距離に神経を尖らせている。幸い広場には花壇の他にもベンチや看板など身を隠すものがいくつかあった。他の猟兵達が戦っている最中ならば敵に姿を晒さずとも移動できるだろう。
「目玉はどこだ、帽子に付いてるのが目玉か?」
 広場に踏み込みながら、ラファンは首を傾げた。一気に距離を詰めて目玉を潰して視界を奪ってしまおうと考えていた彼だったが、切り裂き魔の姿をじっくり見れば見るほどその構造の理解に苦しむ。
「ん~……多分そうだよね? 他に目玉っぽいところも見当たらないし……」
 真剣に悩むラファンの隣で、リアナも同じく首を傾げた。
「とにかく、怪しい部位は一個一個潰していけばいいんじゃないかな」
「うむ、そうだな」
 リアナの提案に、ラファンは拳を固く握って頷く。
 打倒切り裂き魔の決意を固める仲間ふたりの後ろで、カレンは指で作った円から切り裂き魔を覗いて頭のてっぺんから爪先まで品定めをしていた。
「見れば見る程にタイプではないのだけれど、一つ一つのパーツは嫌いじゃないのよね」
「確かに、あの目玉は狙いやすそうだ」
「小さい刃物は確実に壊していけそうだよね」
「胸のハートの宝石なんて汚れを落とせば、もっとキラキラしそうだわ♪」
 なんて、盗み目当てじゃないわ、しっかり退治するんだから。魔力で編み出した七色の光るペンライトを両手でしっかりと構えて、カレンはそう付け足す。
 リアナとラファンは互いに呼吸を合わせると、ふたり同時に勢いよく地を蹴った。

(始まったアル……!)
 羅沙は花壇の陰で愛用の弓を引き絞った。しなるそれは悪魔の愛した薔薇で作られており、番えた矢にエネルギーを集中させて闇そのものへと変質させていく。悪事を犯した者を何人たりとも逃がさないその魔力の塊を、羅沙はオウガの頭部へ向けた。
 あとはタイミングを合わせるのみ。瞬きひとつせず、羅沙は戦場を見つめる。
(……今ネ!)
 ラファンが切り裂き魔の懐に潜りこんだ瞬間に、羅沙は矢を放った。オウガの帽子で蠢く目玉のひとつに着弾した矢は、纏った闇の魔力を放出して目玉を真っ黒に染め上げる。
「キミを不幸にすることが出来ればそれでいい」
 ひとつ目玉を破壊したことを確認した羅沙は静かにそう呟くと、狙撃ポイントを移すべく花壇の陰から素早く立ち去った。

「ギ、ギイイイイイ……ッ!!!」
 多少のダメージは覚悟の上と、ラファンが切り裂き魔との間合いをダッシュで一気に詰めた瞬間。猟兵の矢に帽子を射抜かれたオウガは、金属同士が擦れるような甲高い耳障りな声を上げて両手を振り回した。防御と回避に重点を置いていたラファンはその攻撃を冷静にかわすと、再び地を蹴りオウガの懐へ氷を纏った拳を捻じ込む。ラファンの意志の強さに共鳴するように、バトルガントレットに刻まれた雷神の祝福を示す紋章がきらりと輝いた。
「バラバラに切断するとほざいていたから、私を殺してくれると楽しみにしていたのだが」
 違ったようで残念だ。そう言い捨てるとラファンは拳を引く。彼の言葉に怒りを抱いたのか、切り裂き魔は無敵の殺人道具――血塗られたノコギリを創り出す。
「本当にあなたのその武器で私達が切れるか試してみる?」
 ラファンと入れ替わるように、愛用の黒剣を携えたリアナが前に躍り出た。
「私に……切断できない……ものは、ない……!!」
 振り下ろされるノコギリを自在に形状を変化させる黒剣で弾きながら、リアナは切り裂き魔が疲弊し自らの能力に疑問を抱くタイミングを待つ。様々に角度を変え、力加減を乱し、下から突き上げ横からなぎ払おうとも。全ての攻撃を悉く防がれたオウガの自信には徐々に綻びがが生じ、ノコギリの存在が曖昧なものになる。
「……でもやらせないけどね。アリスも私達もやらせはしないよ!」
 殺人道具が消えた瞬間、リアナの黒剣がオウガの胴を深く切りつけた。反撃を受けないようにと後ろに飛び退いたリアナは、なおも倒れない切り裂き魔に打つべき次の手を考える。
 と、その時だった。
「んにゃあああああああああああああああああああ!!」
 身を庇うように上体を屈めた切り裂き魔は、急速に近づいてくる猟兵の声に反射的に無数のナイフを作り出して身構える。次の攻撃の準備に移行しつつあるラファンの脇を抜け、剣を構えるリアナを追い越して、カレンの気合の入った声が戦場を駆け抜けた。両手に光る七色のペンライトを踊るように振りかざし、生じた衝撃波で自らに向けられた無数のナイフを吹き飛ばす。そうして開けたオウガまでの最短距離を駆けるカレンの胸には、『能天気系猫耳アイドル親衛隊長』のキュートな文字が踊るタスキがかかっていた。
(欲しいモノには手を伸ばすのが、カレン流。攻撃のドサクサに盗んじゃいましょう♪)
 そーれっ♪ 軽やかに跳躍したカレンは切り裂き魔の肩を足場にして、飛び越しざまに帽子に飾られていた赤い花飾りを掴み取る。
「この花飾り、もう必要ないでしょ? ああでも、あなたが倒れたら消えちゃうのかしら?」
 着地して自らの帽子に花飾りを添えてみせるカレンを狙って、切り裂き魔は再び無数のナイフを発射した。カレンを庇って飛び出したリアナは、黒剣で飛んでくる武器をひとつひとつ叩き壊していく。大した威力もなく容易に払い落とせる刃物とはいえ、数が数だけに骨が折れる……リアナは剣を振るいながら呟いた。
「もっとまとめて壊せる手段があればいいんだけど……」
「根っこを叩けばいいのだな」
 カレンが切り裂き魔を翻弄している隙に、戦力になればと赤毛の子熊を複数体召喚していたラファンが呟きを引き受けるように頷く。しゃがみ、子熊達を呼び集めるとラファンは切り裂き魔の方を指して彼らに「温めてやれ」と指示をした。燃える炎の毛並みを持つ子熊達は指示通りに、一斉にオウガの体に飛びつきじわじわとその熱で敵の体を温める。子熊の温度は一頭では大したことはなくても、纏まって温められては鉄ですらひとたまりもない。
「ガアアァァ……溶ける……ぅぅ……許さん……許さんっ……ぞ……」
 身動きの取れなくなったオウガは、自らの両手から伸びる刃物がアイスのように溶ける様に苦悶の声を漏らし両手を広げた。失った両手の殺人道具を補うように、イメージから武器を創り出す。出現した大きなハサミもはやり血に濡れて錆びつき、口を開く度に不吉な音を立てた。
「そんな攻撃効かないよ!」
 リアナは魔力で作り出した巨大な魔術師の手で、むんずとそのハサミを掴み取る。これまで幾度も切り裂き魔の刃物を払い落し破壊してきたリアナは、自信を得ていたのだ――切り裂き魔のユーベルコードならば、絶対に破れると。
「な……なにを……」
「切り刻むのが得意なら、自分自身で試すべきだったね」
 魔術師の手はくるりとハサミを手の中で回すと、オウガの胸部へ突き刺した。そのままぽいっと敵の体を頭上へ放り投げれば、じっと機会を伺っていた羅沙の矢が正確にオウガの帽子の目を射抜く。
「これで終わりだよ!」
 地面に落下し、何も見えないとすすり泣くように呻く切り裂き魔の体を、リアナの黒剣が真っ二つに切り裂いた。

 鍵を差し込み、扉を開けば。教会の中には冷たい空気が満ちていて、それでも拒絶するような感覚はなく。猟兵達に導かれて教会へと踏み込んだアリス達は、そろりそろりと自らの扉を探す。ステンドグラスを見上げて懐旧の情に目を細めるラファンは、傍で予想通りとはいえ花飾りが消えてしまいがっくりと落ち込んでいるカレンの肩にそっと手をやり慰めた。この目に焼き付けたもの、レプリカを作るのなんて簡単よね、と素早く立ち直ったカレンは立ち上がると、壁にかけられた絵画や彫刻を見て回る。
「良かった、ふたりとも扉が見つかって」
 アリス達に付き添って一緒に扉を探していたリアナは、仲間達に呼びかける。もうすぐ、彼らとの別れの時間だと。
「名前は思い出せたアル?」
 羅沙はアリス達に問いかける。こくりと頷いたふたりは、ロジエとウイエ、と答えた。
「ここであったこと、とても怖かったけど……今は、別れるのが辛いんだ」
「いつか、また会えたら友達になろうねって、さっき約束したでしょう?」
 目に涙を浮かべる少年の手を引いて、少女は彼の扉へと導く。やがて光に満ちた扉の向こう側へと少年が帰ると、扉はぱたんと彼の世界とこの世界の繋がりを閉じた。
「ありがとう、猟兵の皆さん。私も、大きくなったら誰かを助ける人になりたいな」
 猟兵達の前で、少女はボロボロになったスカートの裾をつまむと、左足を後ろに下げて優雅に一礼する。なんちゃって、と照れくさそうに笑ってから、遊ぶうさぎのように軽やかな足取りで、少女もまた彼女の扉をくぐって自らの世界へと帰っていったのだった。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​



最終結果:成功

完成日:2019年07月11日


挿絵イラスト