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密室と殺人事件は探偵につきものである

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●探偵はいつも遅れてやって来る
 死体が一つに容疑者が四人。
 凶器が一つに証拠が三つ。
 集められた猟兵達は緊張に包まれた硬い空気の中で推理論を開示する。
 隠された真実を紐解くのは彼らなくしては有り得ない。
 猟兵、いいや、ここでは探偵と称すのが相応しいだろう。
 そう、犯人は。
 犯人は――。

「事件だ。と言っても予知だが」
 ブラックタールの探索者である今回の事件を予知した人物、違法論・マガル(f03955)が猟兵達に呼び掛けている。
「仕事を頼みたい」

●事件概要
「今回は少し特殊な現場になる。求められるのは脱出、解明、そして戦闘の三つだ」
 マガルが示したのは一つの大学の、とあるミステリー研究会で起きる事件について。
 予知には人ならざるものの関与が疑われ、猟兵達に白羽の矢が立った。
「そのミステリー研究会では勧誘のために定期的に体験型イベントを開いているらしい。イベントの一環として意図的な密室が作られる」
 サークルメンバーを集め、貸し切った山奥にあるペンションのそれぞれ一室に参加者をあてがう。
 そうして探偵の真似事をしながら、施錠された部屋からの脱出を楽しんでもらうのが当初の目的だったようだ。
「ところが、この脱出の最中に殺人が発生する。皆にはそれを解いてもらいたい」
 犯人はこのサークル内に潜伏している、とある邪教集団の幹部。
 予知では犯人の特定までは至らなかったため、殺害方法とその犯人の特定……いわゆる探偵よろしく犯人当てが必要になる。
 現場の概要を説明する、とグリモア猟兵が部屋の見取り図を差し出してきた。
 しげしげと眺める猟兵達の目に映るのは特に何の変哲もない二階建てのペンションだ。
 一階に食堂とフリースペース。
 二階に通路で向かいあわせに五室ずつ、計十室の寝室。
 腕を組んで現場の見取り図を囲む猟兵の一人が、ふと先の言葉を反芻して気にかかる点を述べた。
「さっき挙げていた脱出というのは?」
 猟兵達が先にあげた三つのうち一つ、脱出について促せばマガルはこくりと首を縦に振って頷く。
「潜入の際に体験入部として、このミステリー研究会の催し物への参加を希望した一般人を装ってもらうためだ」
 当然ながら猟兵達もまたそれぞれ密室に閉じ込められることになる。
 部屋に入れる人数は最大二人までで、催し物の趣旨として同行者と共に協力して謎を解いても良いようだ。
 二階にある計十室の寝室を使って行われる脱出ゲーム、それがミステリー研究会の催し物。
 それぞれ部屋の中には家具は少なく、簡素なつくりのベッドと木製のテーブル、イスが二つばかり。
 少ない家具の代わりに小物類が大量に置いてあった。
 ランプ、時計、世界地図、口紅、ハサミ、毛糸のマフラー、毛糸の帽子、毛糸の手袋。
 テーブルの上に高価な羊皮紙でご丁寧に古風なインクペンを使ったであろう達筆なヒントが置いてあった。
 ドアは施錠させて貰った。壊すか探索か、選択肢はあなた次第。
 ちなみに鍵は置かれている小物のどれかに隠した。
 探すのであれば後述の四つの言葉から連想できるものを見つけ出すといい、と続く文にはこう書かれている。

「折って数える、咥えて羨む、切って結ぶ、詰めて詫びる」

「暗号と来たか」
「暗号だろうな」
 室内に置かれたヒントの文言、キーワードに関連のありそうなアイテムを真面目に思い浮かべる猟兵だったが、マガルが話の腰を折るように思考の渦を遮ってしまう。
「別に壊していいぞ」
「?」
 頭の上に疑問符を散らばせた猟兵達に対してマガルは、部屋の鍵はお粗末なものでヒントの記載の通りに破壊してもピッキングを行っても構わないと宣った。
 本当に壊していいのかと半信半疑で問う猟兵達に、いざという時に密室のドアを蹴破れなくては探偵の名折れだと厚かましく言ってのける。
 安楽椅子、はたまた現場派、あるいは物理的な解決。スタイルは探偵それぞれなのだから。

●探偵達に告ぐ
 閑話休題。
 要するに一連の流れを辿ると、まずは閉じ込められた部屋からの脱出。
 それから殺人事件の解明、最後に犯人との戦闘が見込まれるという特殊な流れを組んでいるのだ。
 最初の被害者を守ることは出来ないのかと目を伏せる猟兵達にグリモア猟兵は諦観の滲む声で肯定した。
「被害が出るのを止めることはできない。ただ、放っておけばまた別の被害者が出る。何とか食い止めてくれ」
 探偵なら朝飯前だろう。
 あえて猟兵とは呼ばずに探偵と称し、今回の仕事は謎解きと犯人探しに戦闘とバリエーションに富んでいるのを言外に示して。
 マガルは鹿撃ち帽よろしく被っているキャップのつばを軽く上げて見せた。


山田
●マスター挨拶
 山田と申します。先日はシナリオ参加ありがとうございました。
 今回は謎解きシナリオです。もちろん物理的解決も構いません。
 最終的には純戦となる三章ボス戦へともつれこむので力こそパワーです。バリツを嗜んでいきましょう。

●一章プレイングに関して
 ここでは「扉の開け方」を記入して下さい。
 力づく、あるいはピッキングをする旨、前述の二つをしないで純粋にヒントから鍵を探す場合は「調べたい小物」を下記からお選び下さい。
 ランプ、時計、世界地図、口紅、ハサミ、毛糸のマフラー、毛糸の帽子、毛糸の手袋のいずれかを探すことが可能です。
 対象が誤っていても推理が正解ならばダイスの振り直しで運よく見つけられたかの幸運判定、推理や幸運でも通らなければ物理攻撃力に転じますのでご安心を。

●二章プレイングに関して
 一章のあとに現場解説や容疑者の開示のための描写としてNPCのみが登場する、空のリプレイが入ります。
 ここでは「犯人と疑っている人物」を記入してみてください。
 ロジックの解明方法はフラグメントで提示されているPOW・SPD・WIZの例以外の別の方法でも全く構いません。
 この依頼はフーダニット、推理タイプの事件の醍醐味とも言える犯人当てをしてもらい楽しんで頂くのが目的なので、たとえ犯人が外れていても探偵ロールとしてハウダニット役となり集めた証拠から事件の全貌を解く描写が入ります。
 もちろん怪しい場所たる理由やロジック解明などの推理論を沿えてもOKです。
 その場合は判定ダイスに加算を行います。

●三章プレイングに関して
 純然たる戦闘となります。基本は一律戦闘描写です。
 名探偵は無事におうちに帰るまでが名探偵です。

●同行者に関して
 共に行動される方がいる場合は、お互いの呼び方を各位ご記載下さい。

●グリモア猟兵
 違法論・マガル(f03955)
 探偵を生業とするブラックタールの不愛想な青年です。
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第1章 冒険 『開かない扉』

POW   :    壊せば倒れる!破壊する

SPD   :    鍵はどこだ!捜索する

WIZ   :    鍵は私だ。ピッキングする

👑11
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種別『冒険』のルール
「POW・SPD・WIZ」の能力値別に書かれた「この章でできる行動の例」を参考にしつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。

叶・律
「指折り数える。指を咥える。指切りげんまん。えんこ詰め」
と、来れば連想されるのは、ずばり指。つまりそれを包む『毛糸の手袋』に鍵が隠されている
と、昨日までの俺ならば考えていただろう
『殴られる!明日使える悪質ナゾナゾ』の小冊子を片手で弄びながら不敵に笑う

答えは『毛糸のマフラー』だ
俺は知っている…悔しい時女性がキーッとハンカチを噛んでこう…キーッてやる文化があることを。ならばマフラーを噛んで羨むことも自然
そして詫びの印として箱にマフラーを詰めたならその暖かさに心和むこと間違いなし
他のヒントはノイズとして除去する

間違っていたら出題者が鍵を入れ忘れているので仕方なくドアを破壊して出る
圧倒的自信


ヘルメス・トリスメギストス
「推理と言われましたら、執事である私の出番ですね。
最近の執事は推理も嗜む必要がございますので」

ふむ、謎解きのヒントですか。

これらの言葉から連想されるのは、『指』という単語。

「すなわち、この部屋の鍵は、指と関連する手袋の中に隠されている……
と考えるのは素人ですね」

ええ、執事たるもの、この程度のトリックには騙されません。

「ヒントが『指』を表しているのなら、それは、鍵は指であるということ!
すなわち……この部屋の鍵は指紋認証なのです!」

というわけで、指紋認証を試します。

なお、開かない場合は指紋認証(物理)で、指先一つで鍵穴を粉砕して脱出しましょう。


注:ヘルメスは知性的な肉体派執事です

アドリブ大歓迎



●悲劇の前兆
「ようこそおいでくださいました! ミステリー研究会へようこそ!」
 はきはきと明るい声で告げるのはミステリー研究会の部長である姫川さゆりと名乗る女性だ。
 姫川に出迎えられた猟兵達は簡単なオリエンテーションを挟んだ後にさっそく密室に案内される。
「ふふ、ミステリーといえば密室、密室といえばミステリー。人の立ち入れない状況下にはたくさんの魅力が詰まっているのです。今回はそんな魅力を皆さんに楽しんで頂くため、簡易ではありますが皆さんのためだけの密室を用意させていただきました!」
 ご覧ください、の声と共に提示されるのは通路で向かいあわせに五室ずつ、計十室の寝室。
 ペンションを貸し切って作られたこの小さな部屋達が猟兵達への挑戦状というわけだ。
 だが、猟兵達はここからここで起きてしまう悲劇を知っている。
 探偵を模した遊びではなく、実際に発生してしまう殺人事件を。
 とめることができないのは予知に直接干渉するため、無理に予知内容が起こらないよう手回ししてしまうと想定外の事態が発生してしまう可能性があるからだ。
 最悪犯人が二度と見つからず新たな犠牲者が出続けてしまう可能性がある。
 だからこそ、今ここで歯止めを。そう意気込んだ彼らが挑む密室はドアを開けて猟兵達を出迎えた。
「あれ、人数と部屋数が合致しない。わわわっ、すみません! 今回は想定より参加者の方が多かったみたい。申し訳ありませんが何人か相部屋にさせていただきますね!」
 亜麻色の髪を揺らしてわたわたと姫川が部屋の割り振りを決めている。

 ――……猟兵達が彼女の生きている姿を見たのは、これが最後だった。

●物理は正義!
 叶・律(f05943)が通されたのは通路から見て左、階段に一番近い端の部屋。
 ナンバープレートには一号室と書かれていた。
 向かい側が六号室だったので、これはおそらく通路の左側が一号室から五号室まで、通路の右側が六号室から十号室の並びになっているのだろう。
 さて、と部屋を見回そうとした瞬間、背後からカチリと鍵のかかる音がした。姫川が扉を順に閉めているのだろう。
 ドアノブを捻ってもカチャカチャと金属質な音が鳴るだけだ。しっかりと施錠されている。
 しかし金属音からして耐久度はあまり高くなく、ある程度力のある者であれば簡単に壊せてしまうだろう。破壊可能というのはどうやら嘘ではないらしい。
 だが律は破壊を目的としてではなく、あくまで謎解きで鍵を発見してから脱出する腹積もりだ。
 探偵らしく謎を解いてこの密室から外に出るのだ。
「さて、謎解きと洒落こもう!」
 律は部屋を見回して事前に予知から伝えられていた通りの小物があることを確認した。
 木製のテーブルには聞いていた通りのヒントの紙。
「折って数える、咥えて羨む、切って結ぶ、詰めて詫びる……か。言い換えるならきっとこうだろう」
 指折り数える。指を咥える。指切りげんまん。えんこ詰め。
 と、来れば連想されるのは、ずばり指だ。
「つまりそれを包む『毛糸の手袋』に鍵が隠されている……と、昨日までの俺ならば考えていただろう!」
 いやそれであってる間違ってない! と何処からともなく――なんとなく空からそんな声が聞こえてきたような気がしたが、気のせいだと律は頭を振った。
 残念ながら天の声はここに届かなかったようだ。南無三。
 懐から『殴られる! ~明日使える悪質ナゾナゾ~』の小冊子を取り出して片手で弄びながら律は不敵に笑う。
 律は冊子片手に、もう片方の手を自信満々にある小物へと伸ばした。
 毛糸の手袋――正解をすっと横切って、その隣にあるものを掴む。
「要するに答えは『毛糸のマフラー』だ。俺は知っている……悔しい時女性がキーッとハンカチを噛んでこう……キーッてやる文化があることを。ならばマフラーを噛んで羨むことも自然」
 自然だろうか。いや、否。否。否。彼が言うのであればこれは自然なのだろう。自然に違いない。
「そして詫びの印として箱にマフラーを詰めたならその暖かさに心和むこと間違いなし。他のヒントはノイズとして除去する。さあ鍵よ、俺に出口を!」
 意気揚々と推理論をやや強引にあてはめながら律はマフラーを勢いよく引っ張った。
 ふわっと持ち上げられたマフラーがひらひらと、ひらひらと。
 それだけだ。鍵らしきものは落ちてこない。
「……あれ?」
 当てが外れたが律の自信はあくまでマフラーが正解という前提に成り立つので、さして気にすることもなくこんなことを言ってのけた。
「出題者が鍵を入れ忘れたのか。仕方ない、部屋割りの時急いでたみたいだからな。壊して出よう」
 パキッと乾いた音と共に鍵が壊れる音がして、扉は律の前ですんなりと開いて見せた。
 ――ちなみにこれは全く関係のないことだが、探偵の中にはロジックが誤っていてもおそろしいまでの強運だけで難事件を解決してしまう探偵が、いることにはいる。……一定数ではあるが。
「お、一番乗りか……ん?」
 律が一号室の部屋を開け放つと同時に十号室の鍵が同じようにして開く。
「ほとんど同時だったようですね」
 そう声を掛けてきたのは執事服を身に纏うヘルメス・トリスメギストス(f09488)だった。

●最新鋭の指紋認証による密室
「推理と言われましたら、執事である私の出番ですね。最近の執事は推理も嗜む必要がございますので」
 ヘルメスがぺらりとテーブルの上に置かれたヒントの紙を持ち上げて目を通した。
 ヒントに書かれている文言は一律して変わらない。
 折って数える、咥えて羨む、切って結ぶ、詰めて詫びる、それらはグリモアベースでも見たものだ。
「ふむ、謎解きのヒントですか。先程も拝見しましたね」
 ヘルメスもまた全く同じように推理論を辿っていく。これらの言葉から連想されるのは、『指』という単語だ。
「すなわち、この部屋の鍵は、指と関連する手袋の中に隠されている」
 その通りである。
「……と考えるのは素人ですね」
 何故だ。そうじゃない。そうじゃないんだ。そうじゃなくて――。
 哀れ、ここでも残念ながら天の声は彼の耳に届くことなく潰えてしまった。無念。
 ヘルメスはカツカツとフローリングを歩きながら逡巡する。
 であるならば、このヒントから導きだされた『指』というワードに沿って考えればよい。
「ええ、執事たるもの、この程度のトリックには騙されません。とすると考えられることは一つだけ」
 くるりと踵を返して狭い部屋のなかをまるで思案する探偵のように歩き回る。
「ヒントが『指』を表しているのなら、それは、鍵は指であるということ! すなわち……この部屋の鍵は指紋認証なのです!」
 もし彼が他の猟兵と相部屋になっていたのなら、同室になった猟兵はヘルメスの頭上に電球が光ったような古典的表現方法が見られたことだろう。悲しいかな、この部屋には彼しか居なかったが。
 扉の前に立ちヘルメスは指紋認証の機器を探す。無い。
 明言はしていなかったが補足しておくと、この十ずつ用意された寝室の扉はみな木製である。
 だがヘルメスは知性的な肉体派執事だ。不測の事態もお手の者。指紋認証の機器がない? そうか、ならば作ればよいのだ。
「はぁっ!!!」
 指紋認証を物理的に。指先一つで鍵穴を粉砕してみせたヘルメスに扉の鍵がパキャンと悲鳴を残して扉はすらりと開いた。
 これが執事の力である。
「やはり私の推理は誤っていませんでした。指紋認証による開錠、これが最適解ですね」
 最適解かどうかはさておき。ともかく扉は開いた。
 扉からひょっこりと顔を出せば同じように通路向かい側の端、一号室から人が出てきている。
 律と目が合ったヘルメスは軽く会釈をして彼の元へと歩いて行く。
「我々が最初の脱出者のようですね」
「ああ、みたいだな。でも俺のところは鍵が入れ忘れられていたみたいで……」
「おや、そちらもですか? 実は私の部屋も機器が取り付けられておらず……」
 微妙に、あるいは絶妙に食い違う彼らの会話に気づく者は結局居なかった。

 だが幸運なことに彼らのスピード脱出で、猟兵達のアリバイは確立されることになる。
 二人同時の鍵の破壊による相互の存在確認。そして他全員の脱出が確認されるまで彼らはずっと通路にいたのだから。
 猟兵達のなかに犯人はいない。犯行が終わるまで猟兵達はみな二階にいたのだと証明できたのは、彼らが居たおかげだ。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

ヘンリエッタ・モリアーティ
【WIZ】
……探偵、かぁ。ちょっと前までは探偵に捕まえられた側だったものですけど……。
いえ、あの、私じゃなくて『別の私たち』が……。

うう、私に解けるのかしら、こういうの……。
まずヒントがあるから、確認しましょう。
ええと……これは、日本の言葉ね。

「指」が欠けている、から、おそらくこの小物たちの中で、「指に関わるもの」が……鍵の在り処ではないかしら……。

指を使うのは、編み物、指、指……「毛糸の手袋」に、あったりして……?
うううん、間違えてたら【怪力】で蹴破るしかないでしょう。ね……。

探偵の真似事なんて、シャーロック(おバカさん)になりたがる人だって思っていたけど……。
これもお仕事、だもの、ね。


春霞・遙
クイズとか推理するのとかは好きだけど推理小説の犯人当てだけはなかなか当たらないんですよね。
登場人物になるなら私は検死手伝いしたり、名探偵の推理に驚いたり納得するモブ医師でいいや。

指切りげんまん嘘ついたら…手袋の指のところ、とかかな?
他にも指でつまんで使うものはあるけど…。

本当はじっくり考えたいけど鍵が見つからなければ拳銃で鍵を壊して出る。
それでもだめなら情けないけど手持ちの折り紙にタスケテって書いて扉の外を通る他の猟兵の方に助けを求めるかな。人命がかかってるわけですし。


髪塚・鍬丸
SPDで行動。
捕物帖は好きでよく読んでたぜ。挑戦させて貰おうか。

「面白そうな事やってるじゃないか。参加させて貰えるかい?」と、一般参加者に扮する。

さて、扉を壊したりピッキングで鍵を開けたりも出来そうだが、そいつは野暮ってもんだな。折角のイベントだ、真っ当に挑戦しよう。
ヒントが指し示すのは……「指かね?指を折って数える、指を咥えて羨む、指切りで約束を結ぶ、指を詰めて詫びる……。
毛糸の手袋を調べてみようか。

時間をかけて色々楽しんでみたい気もするが、のんびりしてる暇もないかもな。鍵が無ければピッキングでもして、次の部屋に向かおう。


天之涯・夕凪
●SPD
ふむ、謎解き
猟兵の仕事には様々な形があるのですね
私は探偵ではありませんけれど、ひとつお手伝いしてみましょうか

ヒントの答えは「指」
それは恐らく間違えていないと思います
小物の中で指を用いる物は、口紅(紅指)、はさみ、手袋ぐらいでしょうか
暗号の中で指切りと、指詰めは小指ですが、残りのものはそうとも限らないので、特定の指に纏わる道具ということでは無さそうかと思います
なので、ここは無難に毛糸の手袋から試してみましょう
指のところに鍵が隠されていたりしませんかね?
違ったなら、その後ははさみ、口紅の順に

もし違うならお恥ずかしい
その時は申し訳ありませんが、違法論さんのお言葉に甘えて、壊させていただきます


カル・フラック
アドリブOK

なるほど脱出ゲームっすか。
デバイスではやったことあるんすけど、リアルは経験無いっすねー。
けど理屈は同じはずっす。

暗号がこれっすね、
折って数える、咥えて羨む、切って結ぶ、詰めて詫びる。
これに共通してるとなると…
指折り数え、指を咥える、指切りげんまんに、
指、を詰める…?そんな言葉あるんすかね?
PCの検索ワードに入れてカタカタぽん。
えっこわっ指無くなったらゲームできないんすけど!

と、ともかく指に関係ありそうなアイテムは毛糸の手袋っすね。
中をガサゴソしたり指のとこ持って振ったり。
鍵が出たら外に脱出っすよ!


霧生・真白
🔎WIZ
ほう、面白そうな事件じゃないか
探偵がご入用なら引き受けようか
僕が部屋から出るんだ
悪いようにはしないさ
――被害を未然に防げないことは心苦しいが……
必ず犯人を突き止めて見せよう

まずは最近流行りの脱出ゲームというやつだな
部屋から出るにはこの暗号を解け――と
なに。この程度、朝飯前だ
毛糸の手袋――その指の部分を調べようか
きっとそこに鍵はあるはずさ
理由はこの暗号の答えが『指』だからだ
指折り数える、指を咥える、指切り、指を詰める
――と、いう具合に全て指を連想させることだからね

さあ、こんな部屋とはおさらばして、さっさと次へ進もうか


シャルファ・ルイエ
本で読んだんですけど、山奥のペンションは殺人事件が起きる確率が高いって本当なんですね。
探偵って響きも何だか物語みたいです。

こういう催しものも、被害者が居なければ素直に楽しめたんですけど……。
多分研究会の人達の殆どは楽しんで貰おうとして企画したんだと思いますから、それを利用するなんてちょっと許せません。

脱出は、暗号を解くのにチャレンジです。
ヒントで連想できるのは「指折り数える」「指を咥える」「指切りで約束を結ぶ」……、あっこれ知ってます。この世界の一部の職業の人は謝罪に指が必要になるって聞きました。
キーワードが指なら、関係があるのは手袋でしょうか。
毛糸の手袋を調べてみます。


エメラ・アーヴェスピア
あら、面白い催しもの…と、言っている場合ではないのね
被害を減らすべく、お仕事として頑張りましょうか
…私でも潜入参加できるわよね…?(※外見)

まずは謎解きね、と言っても割とすぐに思い当たったけれど
…指折り、指を咥えて、指切り、指を詰める
つまり共通するのは指だと思うわ。だから探すべきは…毛糸の手袋かしら?
まぁ被害を抑える事が優先だから、最悪ピッキングするわよ
…我ながら、「詰める」で思い当たったのが物騒だと思うわ…

それじゃあ、急ぎましょうか
…なんというか、どこぞの漫画の探偵になった気分ね…

※アドリブ・絡み歓迎


ティオレンシア・シーディア
※アドリブ掛け合い絡み大歓迎

被害者は助けられない…か。
あたしたちだってどうしようもないことはあるものねぇ。仕方ない、とは言いたくないけど。
だからこそ、次の事件は防がなきゃ。
余計な被害者を出しちゃ、それこそ「探偵」の名折れでしょぉ?

ふつーに鍵を探すわぁ。
調べるのは「毛糸の手袋」。
指折り数え、指を咥えて羨み、指切って結んで指詰め詫びる――
この中で指が絡むのは手袋だけよねぇ。
手袋を裏返してみるわぁ。

個人的には安楽椅子探偵とか憧れるけど…
あたしの頭の出来じゃ、現場の突撃班がせいぜいかしらねぇ。


破魔・案山子
暗号!(眼きらきら)俺、解いてみたい!……んだけど(しょぼん
(考える)(考えた)
うーっ
解けねぇ(床に転がって悶え
暗号文のどれも「指」を連想しちゃうんだけど
だからそれが8個のアイテムの何と関係あるんだって話で!
毛糸の手袋が一番「指」に近そう、かなあ……
(手にして、むー……ひっくり返してフリフリ

違ってたら、もーっ力技いっちゃうか!
全員整列!(カミヤドリで器物(カカシ)召喚
俺と一緒に扉に体当たりしようぜっ
……いや、してクダサイ(スライディング土下座で頼み込む

どっこんどっこん!
ふー(爽顔
開いたら、超やり遂げたって顔で
実に手ごわい敵(扉)だった……

相棒の男爵は、そんな俺を(冷たい眼で)見ているだけデシタ



●二号室
 ヘンリエッタ・モリアーティ(f07026)が通されたのは二号室だ。
「……探偵、かぁ。ちょっと前までは探偵に捕まえられた側だったものですけど……。いえ、あの、私じゃなくて『別の私たち』が……」
 しみじみと語る彼女にある捕縛歴は彼女ではなく、彼女の中に居る別の人格達のもの。
 偶然にも、かの有名な探偵の好敵手だった元数学教授の彼と同名のファミリーネームを持つヘンリエッタが今回成るのは探偵の方だ。
 犯罪界のナポレオンと呼ばれた彼も同じくらいに頭の切れる曲者だったが、今回彼女は無事に謎を解くことができるだろうか。
「うう、私に解けるのかしら、こういうの……。まずヒントがあるから、確認しましょう」
 テーブルに置かれたヒントの紙を確認する。
 高価な羊皮紙はかさついた感触がして、インクペンからは僅かに特有の匂いがする。
「ええと……これは、日本の言葉ね」
 達筆だが読めない程ではない。
 UDCアースの現地語、ここでは日本語になっているそれが部屋から出るためのキーワードをヘンリエッタへ伝える。
「なるほど。多分だけれど……『指』が欠けている、から、おそらくこの小物たちの中で、『指に関わるもの』が……鍵の在り処ではないかしら……?」
 ざっと周りを確認すれば溢れる小物の中には指に関連のあるものが一つだけあった。
 三つ並んだ防寒具のうち、手を守るものといえば。
「指を使うのは、編み物、指、指……『毛糸の手袋』に、あったりして……?」
 単純だが推理論としては正解だ。
 関連するキーワードは指以外に考えられず、この中で指に関わるものを挙げるとすればこれがそうなのだろう。
 彼女の思惑通り手袋をひっくり返せばすぐに鍵が出てくる。
 部屋のどちら側からも開けられて、部屋のどちら側からも鍵を掛けられる構造のそこに差し込めばカチンと静かな音と共に扉が開いた。
 解けるのかという杞憂も過ぎ去って、扉は正解者を温かく部屋の外へ通す。
「お、早いな」
「脱出おめでとうございます」
「ふふ、ありがとうございます」
 先に脱出していたらしい猟兵達が彼女を出迎える。ものの数分で鍵を見つけ出した彼女はやわらかく笑った。
「探偵の真似事なんて、シャーロックになりたがる人だって思っていたけど……これもお仕事、だもの、ね」
 有名な探偵にちなんで、探偵めいた言動をする人をシャーロックと呼ぶことがある。
 ドイルの小説から派生して生まれた単語を知っていた彼女は、無事に言葉とは真逆のきちんとした探偵役をこなして見せた。
 だが、本当の探偵が必要なのはこれから。
 まだこの脱出劇は前座に過ぎない。

●三号室
 左側通路から数えて三番目の部屋、春霞・遙(f09880)が入ったのは三号室。
 客人のために整えられたそこはどの部屋も同じ家具、どの部屋も同じ配置、そしてどの部屋にも隠してある鍵がある。
「さて、謎解きと来ましたか。クイズとか推理するのとかは好きだけど推理小説の犯人当てだけはなかなか当たらないんですよね」
 一般参加者を装ってこのペンションに招かれたのなら、当然この一連の騒動の登場人物となる
「まあでも、推理小説の登場人物になるなら私は検死手伝いしたり、名探偵の推理に驚いたり納得するモブ医師でいいや」
 ワトソン役や脇の第三者に徹したいところではあるけれど、この部屋にいるのが遙だけならおのずと探偵役は彼女一人にならざるをえない。
 遙は独り言ちてさっそく推理を開始した。
 テーブルに置いてあるヒントの紙を今一度確認する。
 グリモアベースですでに聞かされていた通りの文言と用意された小物類だったが事前情報なくここに来たら慌ててしまうかな、と遙はぼんやり思った。
 折って数える、咥えて羨む、切って結ぶ、詰めて詫びる。
 切って結ぶ、のところで遙はふと顔を上げて音読した。
「切って結ぶ……指切りげんまん嘘ついたら針千本呑ーます、でしたっけ?」
 聞いたことのある童謡の一フレーズ。
 子供が約束事を交わし結ぶときのちょっぴり不気味な脅し文句と共に歌われるそれは、近世以降の日本において約束の厳守を誓うために行われる、大衆の風習のことだ。
 指切の由来は遊女が客に対する心中立てとして小指第一関節を切って渡すことに由来する。
 約束を結ぶときに小指をからめてつなぐもの。
「手袋の指のところ、とかかな? 他にも指でつまんで使うものはあるけど……」
 本当はじっくり考えたいけれど早急に鍵が見つからなければ致し方ない。
 人命がかかってるのだと己の推理論を信じて手袋を何とはなしに持ち上げてみれば、毛糸に引っ掛かっていた部分からするりと鍵が零れ落ちた。
「あ、あってたみたい」
 落ちた鍵を拾って鍵穴にさしこめば引っ掛かることもなくするりと鍵はまわる。
「良かった出られて……さて、気を引き締めていきましょう」

●四号室
 髪塚・鍬丸(f10718)と天之涯・夕凪(f06065)は揃って同室に通された。
 十しかない客室に参加者をあてはめると二人ほど部屋に入れなくなるものが出るためだ。
「すまんな俺と相部屋で。まあ同年代の同性同士だ、仲良くやろう」
「とんでもありません、誰かと一緒とは心強い。どうぞよろしくお願いします」
 見目麗しい二人の、高身長の男二人が硬い握手を交わす。一人どころか二人もいればドアを簡単に蹴破られてしまいそうだが、彼らは比較的平和な手段――謎解きでこの部屋から出ることにした。
「さて、扉を壊したりピッキングで鍵を開けたりも出来そうだが、そいつは野暮ってもんだな。折角のイベントだ、真っ当に挑戦しよう」
「なるほど、猟兵の仕事には様々な形があるのですね」
「ちょっとこうした毛色の依頼は珍しいかもしれないけどな。今回は謎解きが必要らしい」
「グリモアベースでそう仰られていましたね。……私は探偵ではありませんけれど、ひとつお手伝いしてみましょうか」
 さっそく部屋の中を探し回る二人。
 とにもかくにもまずはヒントだ。
 ヒントの紙を読み返すうち、二人ともほぼ同時に『指』と呟いた。
「やっぱり指かね? 指を折って数える、指を咥えて羨む、指切りで約束を結ぶ、指を詰めて詫びる……全ての文言に共通する言葉は指だと思わないか?」
「私もそう思います。それは恐らく間違えていないはずです」
「だよな」
 ふむ、と鍬丸と夕凪は顎に手を当てた。
 指、指、指に関連するものはなにか。ぐるりと部屋のなかを見回せば雑多に散らばる小物が目に入る。
「この小物の中で指を用いる物は、単純に手袋、指で使うもの……はさみ、あとは紅指でつける口紅ぐらいでしょうか」
「俺も捕物帖は好きでよく読んでた。手袋は思いついたが、そうかハサミと口紅も一応関連が見られるのか。お前さん詳しいな」
 鍬丸が素直に感嘆の言葉を漏らす。
 夕凪は謙遜してそっと己の手を握った。
「ああ、一応本業はしがない文筆家なもので……。ヒントの中で指切りと、指詰めは小指ですが。残りのものはそうとも限らないので特定の指に纏わる道具ということでは無さそうかと思います」
 はさみと口紅は優先度が低くなる、となると必然的に調べるべきは。
「じゃあ無難に毛糸の手袋を見てみるか」
 鍬丸が持ち上げればすぐに毛糸の手袋から鍵が飛び出した。
「比較的簡単で良かったな。すぐに出られそうだ」
「ああ、良かった。少し緊張しました」
「助かったぜ、お前さんと同室で良かった」
「私もです」
 鍬丸が鍵を差し込み夕凪がまわせば、閉じ込められてからたった数分で扉はもう一度開いた。

●五号室
 カル・フラック(f05913)と霧生・真白(f04119)、愛くるしいケットシーと可憐で小さな身長のオラトリオ。
 前述二人とはまた違ったベクトルの似たものコンビは、四号室の鍬丸と夕凪と同じく相部屋を組んで五号室に入った。
「なるほど脱出ゲームっすか。デバイスではやったことあるんすけど、リアルは経験無いっすねー。けど理屈は同じはずっす」
 そちらは脱出ゲーム、プレイしたことがおありで?
 カルがそう聞けば真白はひどく傲岸不遜な言葉遣いで言った。
「なに。この程度、朝飯前だ」
「おおお……」
 真白はネットで依頼募集をし、推理を動画配信することで生計を立てる引きこもりの少女だ。
 引きこもりというだけあってか昨今の脱出ゲームには参加していないがこの手の謎解きはお手の者。
 一方でカルも得意分野としてゲームに精通している。
 プログラマーが作中で登場させるギミックをものの数分で解き明かし、特にパズルゲームの腕前は達人級だ。このタッグを組ませたからには密室などあってないようなものだろう。
「さあ、サクッと解くっすよ! ヒントは事前に聞いたっすけど、一応再度確認っす!」
 暗号がこれっすね、の肉球でつかんだテーブルの上の紙。
 カルが読み上げるのを真白は静かに聞いている。
「折って数える、咥えて羨む、切って結ぶ、詰めて詫びる。ふんふん、これに共通してるとなると……指折り数え、指を咥える、指切りげんまんに、ええと……」
 カルが言いよどむ。ヒントに書かれた最後の文言は『詰めて詫びる』だ。
「指、を詰める…? そんな言葉あるんすかね?」
「ああ。それはおそらく指詰めのことだろう。指詰めというのは、指を刃物で自発的に切断する行為を指す。主に暴力団に見られる慣習だな」
「えええ!?」
 真白の説明にぴゃっとカルが飛び上がった。
 なかなかに物騒なキーワードだ。
「主な行為の意味は意思表示だ。反省や抗議、それになにより謝罪を示すためのものだな。指を詰めて、詫びる」
 ならばヒントに沿うだろう、と真白が言えばカルは慌てて手元の端末を触った。
 パーソナルコンピューターの検索ワードに『指』、そしてスペースキーを押してから『詰める』と入力して虫メガネのマークを押下する。
 先程真白が言ったことと同じ内容の説明文がヒットしてうわぁと思わず声を漏らした。
「えっこわっ指無くなったらゲームできないんすけど!」
「安心しろ、そもそも暴力団のみで見られる上に既に廃れた慣習だ。昨今そんなに見かける事は無い」
「少しはあるんすね……」
 げんなりしたカルにさあ謎解きに戻るぞと真白が声を掛ける。
「さて、ヒントはもう十分だろう。指折り数える、指を咥える、指切り、指を詰める――と、いう具合に全て指を連想させる」
「そうっすね、詰めるって言葉もちゃんとあるなら、」
 二人の目は自然と毛糸の手袋、その指の部分に向いている。
 真白がそっと手袋を持ち上げれば思った通り、そこからは扉の鍵が出てきた。
 ぴょん、とカルが跳ねる。
「わーい! やったっす! さすがっす!」
「君の協力あってのことだ。さあ、こんな部屋とはおさらばして、さっさと次へ進もうか」
「りょーかいっす!」
 カルが鍵を回して、こうして二人は密室からの脱出に難なく成功した。

●六号室
「わあ……失礼しますっ……」
 六号室の扉から部屋に入ってすぐ、律義にもそう挨拶したのはシャルファ・ルイエ(f04245)だ。
 手前にあった一号室からなんだか楽しそうな騒ぎ声が聞こえるのに耳をそばだてながら彼女は密室に挑戦する。
「本で読んだんですけど、山奥のペンションは殺人事件が起きる確率が高いって本当なんですね。探偵って響きも何だか物語みたいです」
 推理小説に出てくるシャーロックはもちろんのこと、エラリー、エルキュール、乱歩、マープル。
 シャルファの頭には数々の探偵が登場する。
 山奥のペンションなど殺人事件にうってつけの立地だろう。
 今回は実際にそこで殺人事件が起きてしまうのが悲しいところだ。
「こういう催しものも、被害者が居なければ素直に楽しめたんですけど……。多分研究会の人達の殆どは楽しんで貰おうとして企画したんだと思いますから、それを利用するなんてちょっと許せません」
 これ以上の被害が出ないようここで食い止めなければ。
 シャルファはさっそく脱出のため暗号の開示に挑んだ。
「ヒントで連想できるのは指折り数える、指を咥える、指切りで約束を結ぶ……、あっこれ知ってます。この世界の一部の職業の人は謝罪に指が必要になるって聞きました」
 そう、指詰めである。
 五号室のなか、今まさにそのワードで一人のケットシーが怯えているが彼女がいるのは現在六号室、そこから対角線に離れた部屋であるため知りようもない。
「キーワードが指なら、関係があるのは手袋でしょうか。毛糸の手袋を調べてみましょう」
 連想ゲームのように指に当てはまるものを探せばすぐに毛糸の手袋に行きついた。
 そっと持ち上げて、中を覗き見る。
 人差し指に突っ込まれるようにして部屋の鍵が収まっていることを確認できた。
 シャルファが鍵を手に取って扉をあければ何人かの猟兵が脱出おめでとう、と挨拶してくる。
 滞りなくみな脱出できているようだ。
「よし、事件はここからですね……頑張らなくっちゃ!」

●七号室
「あら、面白い催しもの……と、言っている場合ではないのね。被害を減らすべく、お仕事として頑張りましょうか」
 この見た目でも参加者と認識してくれてよかった、とひとり溜息をついたのはエメラ・アーヴェスピア(f03904)だ。
 とても小さな少女である彼女も猟兵として世界に違和感を与えることなく無事に一般参加者として通してもらえている。
「さて、まずは謎解きね、と言っても割とすぐに思い当たったけれど」
 ヒントの紙を見るでもなく、彼女はグリモアベースで事前に聞かされていたヒントの内容を諳んじる。
 探偵宜しく部屋の中を一応くるくると歩き回ってみたり、人差し指を口に当ててみたり。
 金髪を指にくるめながら、そうまさにその指について彼女は推理を膨らませた。
「……指折り、指を咥えて、指切り、指を詰める。つまり共通するのは指だと思うわ」
 だから探すべきは……そう、この部屋の中でもっとも指に近いもの、指に関連するものは。
「毛糸の手袋かしら?」
 すべての言葉に当てはまるのは指、指や手先の防寒目的に使うのは手袋、とするならばこの中に鍵が入っているに違いない。
 推理と寸分違わずに彼女は見事に鍵を当てて見せた。
 人形のような小さな細い指が鍵を拾い上げる。摘まみ上げたそれを指先でくるりと回して鍵穴へと差し込んだ。
「なんというか、ここまで順調だと、どこぞの漫画の探偵になった気分ね……」
 さくさくと謎を解く漫画や映画、推理小説の主人公さながらに、エメラの推理は的を射ている。
 ああ、でも。
 エメラは一番最初に指に関連するのではないかと思い至ったヒントの文言を思い出して思わず口もとをへの字に曲げて眉根を下げてしまった。
「ううん……我ながら、『詰める』で思い当たったのが物騒だと思うわ……」
 詰めて詫びる、の言葉をふるふると頭を振ることで追いやって、エメラは開いた扉をくぐった。

●八号室
「被害者は助けられない……か。あたしたちだってどうしようもないことはあるものねぇ」
 仕方ない、とは言いたくないけれど。だからこそ、次の事件は防がなければならない。
 八号室の密室に挑むのはティオレンシア・シーディア(f04145)だ。
 脱出の後に猟兵達を待ち構える殺人事件に思いを馳せて、これから出てしまう死者に目を伏せる。
「余計な被害者を出しちゃ、それこそ『探偵』の名折れでしょぉ?」
 だからこそ自分達はこの事件を最後とするためにここに居るのだから。
 
「そうねぇ、ふつーに鍵を探すわぁ。ヒントがそれなりに簡単だったのが幸いしたわねぇ」
 彼女が部屋に入ってまず調べるのは毛糸の手袋だ。
 指折り数え、指を咥えて羨み、指切って結んで指詰め詫びる――。不自然に切り取られた空白に埋まるべき言葉はみな共通して『指』である。
 すぐにそう気づいた彼女は暗号を解くのと同時に関連する小物類へと目を向けた。
「この中で指が絡むのは手袋だけよねぇ。裏返してみたら……やっぱり」
 手袋をくるりと裏返してみれば鍵が飛び出てくる。
「そうよねぇ、ここに隠してあるしかないものねぇ」
 コン、と乾いた音を立てて床に落ちたそれを拾い上げて、ティオレンシアは鍵穴へと差し込んだ。
「個人的には安楽椅子探偵とか憧れるけど……あたしの頭の出来じゃ、現場の突撃班がせいぜいかしらねぇ」
 バーベットのように巧妙な仕掛けや罠が張り巡らされた出題をしてくるお客を相手取ることもおある。
 曰く、探偵はバーに居るらしいが、果たして。
 己の性格と比べて考えてみても、事件をじっとバーで待っていることはできないだろうなとティオレンシアははにかんだ。
 被害者を助ける為なら、一歩でも一足でも早く。
 現場へ足が向いてしまうだろうから。

●九号室
「暗号!」
 破魔・案山子(f05592)が目を宝石のようにキラキラさせて九号室に飛び込む。
 簡素なつくりのベッドと木製のテーブル、イスが二つばかり。そしてたくさんの小物が置かれた部屋に案山子が飛び込めば、後ろでカチャリと施錠される音がした。
「よーし、俺、頑張って解く! ……解くんだ、けど……」
 五分経過したあたりでベッドに丸まってしまった案山子に、彼の肩に止まっていた鴉――男爵が頭をつつく。
「うー、うー、解けねぇっ!」
 ごろん、と寝転がった表紙にベッドから落ちてころころとフローリングの床に寝そべる。
 八歳の小さな彼にこの謎解きは至難だ。
 あきらめるなと男爵が羽根をはばたかせ、がばりと案山子は頭をあげた。
「うーん、暗号文のどれも『指』を連想しちゃうんだけど、だからそれが八個のアイテムの何と関係あるんだって話で!」
 キーワードから連想できる言葉はもう見つけている。
 ここまでくればあと少し、なのだが連想するアイテムが分からない。
「もーっ力技いっちゃうか! 全員整列!」
 たん、と勢いを付けて立ち上がった彼がヤドリガミを召喚した。
 わからなければ扉を物理的に開錠する以外方法は無いのだ。
「俺と一緒に扉に体当たりしようぜっ! ……って、うわわわっ!」
 案山子の目の前に黒い羽が散る。男爵の羽根だ。
 相棒の鴉がせっかくあと少しで解けるのだからと止めに入った。
 一度手を付けた謎解きは最後まで謎を解けとでも言っているかのようだ。
「わかったよ、一応ちゃんと考えるけど……んー、毛糸の手袋が一番『指』に近そう、かなあ……」
 自信なさげに手袋を見る案山子に、男爵が狭い室内を器用に飛んで手袋を彼の手元に届けた。
 手に落とされた手袋は毛糸で編まれたものだろうに、なぜだか見た目よりも少し重い。
「あ、れ?」
 ぽろっと手のひらに扉の鍵らしきものが出てくる。
 先程の自身の瞳と同じくらいにキラキラのそれを翳してみれば、男爵は満足そうにまた彼の肩に止まってみせた。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​




第2章 冒険 『クローズド・サークル』

POW   :    宅内をしらみつぶしに調べまわる

SPD   :    使用されたトリックを看破する

WIZ   :    容疑者たちと話をする

👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​

種別『冒険』のルール
「POW・SPD・WIZ」の能力値別に書かれた「この章でできる行動の例」を参考にしつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


●密室のあと
 脱出を喜び合う猟兵達が、不意に悲鳴を聞いた。
 それは息をのむ小さな呼吸音と、次いで劈くような絶叫。
 弾かれたように猟兵達がペンションの一階へと降りれば、猟兵達の視界に飛び込んできたのは壁一面に散った赤い血液だった。
「!!」
 喉をざっくりと切り裂かれ倒れているのは、密室に入る直前に話していたミステリー研究会の部長である姫川さゆり。
 彼女の亡骸を見て呆然としている者、口を押えてうずくまる者、泣き叫ぶ者、顔を青くしている者。
 四人の人間がその場にいた。知人の死体に遭遇したことにショックを受けている。
 彼らもまた密室レクリエーションの時に見かけたミステリー研究会のメンバーであることに猟兵達は気が付いた。
 ――グリモア猟兵の予知通りであるならば、犯人はこの中に一人いる邪神教団の幹部ということになる。
 死を惜しむ時間は無い。姫川さゆりを手にかけた殺人鬼はまだこの場に潜んでいるのだから。

●四人の容疑者
 死体の状況は悲惨なものだった。
 首元からだくだくと流れる程にぱっくりと開いた傷。死因は頸動脈を切り裂かれたことによる失血死に見える。
 遺体はまだ仄温かく、死んでからそう時間は経過していないのだろう、彼女の亡骸には体温がわずかに残っていた。
 凶器は傍に落ちていた包丁で、ペンションのキッチンに置かれていたものと一致することが分かる。
 外部犯の可能性は極めて低い、この建物内で起きた事件だった。

「警察には連絡したけれど……ここは山奥だから到着には数時間を要すって電話口で言われたよ」
 幾分落ち着きを取り戻したのか、猟兵達に向かって話すのはミステリー研究会のメンバーだ。
 姫川さゆりがおびただしい量の血を流して倒れていた応接間からひとまず退避する。
 応接間の隣にあるロビーへと移動した一行は、事件同刻に一階に居たであろう人物達を注意深く見回した。
 今しがた外部と連絡をとっていたのは副部長の田口恭弥。
 メンバーのうち被害者の姫川さゆりと仲の良かった藤原洋子。悲鳴を上げて泣き叫んでいたのは彼女だ。
 そんな未だ涙の止まらない洋子の肩をさすっている、物静かそうな女性は工藤久美子と名乗った。工藤久美子も気丈なふりをしてはいるものの顔色はお世辞にも良いとは言えなかった。
 最後の一人、壁に背を預けて暗い面持ちを隠せないままの男性は長谷川幹人。
 長谷川幹人は重い空気の中でなんとか口を開いた。
「大変なことになってすまなかった。巻き込んで申し訳ない」
 猟兵達が彼らを労わりつつ何があったのかと問いかけても、四人はただ首を横に振るばかりだ。
「正直、僕達にも何が起きたのかさっぱりなんだ。姫川さんが君たちの入った部屋を施錠して応接間に戻ってきてから、僕たちは各自の部屋に引っ込んでしまったから。藤原さんの叫び声が聞こえて、部屋の外に出たら……」
 田口恭弥が言葉を切る。
 この四人はレクリエーションが始まってからペンション一階の各位の部屋に一人ずつ待機していたため、アリバイはない。
 四人のうち誰もが犯行を行うことが可能だった事実を暗に知らしめていた。
 影の差す表情で悩んでいた苦悩混じりの声を漏らす。
「この中に、犯人がいると思う」
「やめてよ幹人、洋子の前でそんなこと言わないで」
「事実だろ工藤。ミステリー研究会のメンバーなら分かるはずだ。外部犯なんてありえない。この状況は……姫川部長は、俺達の誰かしか殺せない状況だったんだ」
「待ってよ二人とも、仲間割れしてる場合じゃない。今は大人しく警察の到着を待たないとだめだ」
「大人しく? 大人しくって何よ……イヤッ……イヤよ! なんでこんな、さゆりちゃんを殺したかもしれない奴がいる部屋に一分一秒だって居たくない! 私たちの誰かがさゆりちゃんを殺したなんて考えたくない! 誰なのよ! 名乗り出てよ!」
「洋子、落ち着いて!」
 錯乱しかかった藤原洋子をミステリー研究会のメンバーと猟兵達がなだめる。
 田口恭弥は深いため息と共に意を決して猟兵達に向き直った。
「ごめん……工藤さんはああいってるけど正直僕も許せない。そしてそれ以上に、気になる。誰が姫川さんを殺してしまったのか。アリバイがない以上、疑われるのが僕達だと思うと……手の震えが止まらないんだ」
 犯人探しに協力してくれないか、と田口恭弥が頼み込むのを猟兵達は了承した。

●情報整理
 警察が到着してしまえば邪神教団幹部を取り逃す可能性や、そもそも警察の人間に対して場に潜んでいる邪神教団幹部がUDCを召喚して危害を加えてしまう可能性も鑑みなければならない。
 だが幸いにして警察が到着するまでに時間はたっぷりある。
 猟兵達は今一度、容疑者や事件現場について洗い直すことにした。
 宅内を調べまわれば物的証拠が見つかるだろうか。重要な確認観点は『殺人事件の現場となった応接間とそこに置かれた凶器』『傷と遺体の状況』、この二つを詳しく調べておきたいところだ。
 探しに行こうと思った箇所や疑問に思った宅内の箇所はすべて探しに行けるため、吟味の必要はない。むしろ絞らずに複数個所を見て周るべきだろう。

 容疑者たちと話をして何か気になる点があるか探ってもいい。
 猟兵達のうち何人かは『容疑者達の身に着けているものが犯行前と犯行後で変わっている』点に気づいた。
 オリエンテーションの時に見かけた彼らと今の彼らで違う点。
 田口恭弥は右手に包帯を巻いている。
 藤原洋子は履物がスリッパに変わっている。
 工藤久美子は厚手の上着を羽織っている。
 長谷川幹人は上着を脱いでいる。
 物的証拠と照らし合わせれば見えてくるものがありそうだ。こちらも全員に話を聞きに行く時間は有る。焦らずゆっくりと着実に、話から聞き取れる証拠を集めよう。

 そして何より、姫川さゆりを殺したのは誰なのか。
 使用されたトリックを看破できるのは疑いのない猟兵達だけになる。
 死んだ一人の無念を晴らし、無実の三人を救い出し、潜んでいる邪神教団幹部の一人を見つけ出さなければならない。

 それでは状況を開始しよう。探偵諸君の幸運を祈る。
天之涯・夕凪
まだ、情報が少ないので余り確信はありませんが…今のところ怪しいかと思っているのは、『工藤久美子さん』ですね
壁に飛び散るほどの血、返り血を浴びた可能性があるならば、工藤さんか長谷川さん
長谷川さんだと上着以外の場所に飛んでいたら隠せないので、そういう意味で工藤さんかな、と

それはさておき、情報収集ですね
遺体の切り口の状態から、犯人の利き手を推察したりできないでしょうか
後は床の血しぶきが途切れている場所がないか
それから、あれば動機など
姫川さんの人となりを聞く形で伺うのが話しやすいでしょうか
藤原さんは特に姫川さんと仲が良かったようですね
混乱しているように見えますので、【優し】く話を伺いましょう



●確たる証拠
 夕凪は布の掛けられた姫川さゆりの遺体に目を伏せて、そして一礼してから布を慎重に顔からよけてやった。
 可愛らしかった顔は驚きに固まったまま、もう二度と自発的に動くことは無い。
 既に硬直が始まっている死体の血は空気に触れて赤茶けた色へと変色しつつあった。
 とにもかくにも事件解明にはスピード勝負だ。
 経過とともに痕跡はどんどんと見えなくなるものだってあるのだから、現場確認は早急に。とにもかくにも情報収集。
 そう思い立った夕凪はいち早く応接間へと移動する。
「むごい……」
 遺体の切り口は側面から。鋭利な刃物で切り裂かれたもの。
 夕凪の目測通り、それはこのペンションにあるキッチンから持ち出されて使われた包丁の刃渡りと寸分違わず一致する。
 頸動脈は首にある血管の中でもかなり太く重要なものだ。
 切り裂かれて大量出血したことは想像に難くない。
 壁一面に散ってしまった血液に思わず目を背けそうになったが、夕凪は目を逸らすことなく向き合った。
「真実を探すためには、真実と向き合わないといけませんね」
 赤、赤、赤の群ればかりが視界を飛び交っている。
 近代アートよろしく液体を派手にかけられた白い壁は、どこにも途切れている個所は無かったが――しかし。
「これだけの血痕があるなら犯人は返り血を浴びたはず……」
 そうだ、思った通り。犯人に血痕が付着していなければつじつまが合わない。しかし容疑者のうちだれにも赤の痕は見えなかった。
 噎せ返るような鉄錆臭さはあったかもしれないが、なにぶん応接間がこの状況であるからどこから漂っているかなどわからない。
「壁に飛び散るほどの血、返り血を浴びた可能性があるならば、工藤さんか長谷川さん。長谷川さんだと上着以外の場所に飛んでいたら隠せないので、そういう意味では厚着に変わっていた工藤さん……?」
 返り血を隠せそうな人物は。
 容姿の変わっていた四人の容疑者のうち二人を思い浮かべ――いいや、違う。己の勘が何かに感づいて訴えかけてくる。
 返り血を隠す、というよりも。
 夕凪が慌ててもう一度、彼女の首を見た。
 犯人の利き手が判明すれば僥倖だと見たそれは、軌跡を辿ればまるで姫川さゆりの背後に回ってノコギリのように引いたように見える。
 確かに背面に居る状態で切ってしまえば返り血を浴びなくて済む方法があるのかもしれない。
「ミステリー研究会のメンバー……聡明な彼らなら、一般人よりよほどミステリー関連の事件に詳しい彼らなら」
 返り血のことを気にしないはずがない。言葉に出さずに夕凪は頭の中で事件発生直前の応接間を思い浮かべた。
 姫川さゆりの背後に立ったとしても知人である彼らの内一人なら、特に警戒心を持つことも無かったのだろうと夕凪は予想する。
 後ろに回り、そっと近づいて、首に刃を当ててしまえば造作もない。
 抵抗の跡らしきものがないのはそのせいなのだろう。
 この時点ではまだ分からなかったが、後に彼の予想は『犯行方法はどういったものか』という正解の的を見事に貫いていたことが分かる。
「でもそれならミステリー研究会のメンバーはそう簡単に犯人と裏づけられるものを残したりはしないでしょう。返り血なんて尚更です。ならばどうやって容疑者を……ん?」
 夕凪が立ち上がって応接間を出ようとする直前。
 壁ではないが――床の一点に。盛り上がった血だまりの端に、わずかに何かが引いたような痕があったような気がした。

●誠実な探偵
「大丈夫ですか?」
「う、うぅ……」
 ロビーに戻ってきた夕凪は肩を震わせている藤原洋子にそっと声を掛けた。
 隣で工藤久美子は痛ましそうな目で藤原洋子の背を撫でている。
「心中お察しします。少しでもお力になれれば……」
「ありがとう、ございます……」
 夕凪の誠実な人となりが彼女の警戒心を解いたか、藤原洋子は真っ赤に泣きはらした目を夕凪へと向けて小さな声で礼を言った。
「姫川さん、とても優しそうな印象を受けました。一体彼女がどうして……藤原さんは特に姫川さんと仲が良かったのですね」
「さゆりちゃんは、小さい頃からお家の近い幼馴染で……彼女、推理小説が好きだったんです。ミステリー研究会を設立しようって言ったのもさゆりちゃん。私をここに誘ってくれたのもさゆりちゃん。だから……」
「それは……さぞお辛かったでしょう」
 優しい声色で夕凪が訪ねればぽつぽつと彼女との思い出を藤原洋子は語った。
 ミステリー研究会は彼女が中心で回っていたサークルだったようで、他の三人も姫川さゆりの勧誘で所属したという話が聞けた。
「みんな仲良くしてたんです。だからこそ、余計に信じられなくて……この中に犯人がいるなんて。こんなことレクリエーション参加者の貴方達に頼むのは間違っているかもしれないけど」
 犯人を見つけて、と涙を吸った声色で藤原洋子が言うのに、夕凪は深く深く首を縦に振って彼女を安心させた。

成功 🔵​🔵​🔴​

エメラ・アーヴェスピア
…情報が少ないわね
仕方ない、探索は得意だし私は色々と調べるとしようかしら
探偵役は任せたわよ

とりあえず現場を調べましょうか
改めて凶器に関してや応接間に何か変わったことはないかを情報収集よ
…ちょっと前にUDCの力を使ってという事例もあったから、あくまで普通の事件(?)か確定させておきたいのよね
後は状況からして被害者が何か残せるとは思わないし…何か、犯人につながる痕跡はないかしら?
ま、根気よく探すとしましょう。情報収集と探す事は得意だから、ね…まぁ、普段はデータを…なのだけど
あと、私らしく魔導蒸気機械を使うのもいいかもしれないわね…その場合、ますます創作物じみるけどね…

※アドリブ・絡み歓迎


叶・律
まずは応接間の出入口と殺害箇所の位置関係を確認しておきたい
姫川さゆりは死後、時間がそれほど経っていない
つまり犯人は(第一発見者でないかぎり)、すぐに他の部員に見つからずに戻り、何食わぬ顔で遺体を一緒に発見する必要がある

それから……天之涯の見つけた血溜まりにある痕跡も気になる
何かを引きずったのか、あるいは犯人が血溜まりを踏んだのか?
どちらにせよ、痕の周りに何かあるか、調べる必要があるだろうな

容疑者の中では、藤原洋子が怪しい
第一発見者だからだ
そう単純だとも思えないが、否定する根拠が今の所無いからな
本人に詳しく発見時の状況を聞きたいが…他の誰かに任せたい。苦手なんだ



●情報収集
「……情報が少ないわね」
「だな。謎を解こうにもきっかけになる証拠が少ない」
「仕方ない、探索は得意だし私達は色々と調べるとしようかしら」
 エメラと律が頷いて、出ようとした夕凪から情報共有を受けながら入れ代わり立ち代わりにして応接間へと足を踏み入れる。
「まずは応接間の出入口と殺害箇所の位置関係を確認しておきたいな」
「そうね……応接間は玄関口と大きなL字型の複数人でかけられるソファがひとつ。遺体は玄関口の方に倒れている」
 エメラが律の言葉に姫川さゆりの倒れている方を見遣った。
 玄関口からほど近い場所で倒れていた彼女の方には窓がある。外の景色を見ていたところで、ばっさりと。
 そう考えるのが自然だろうか。
 応接間からは猟兵達が居た二階へとつづく階段、一階に食堂とフリースペースとしてのロビー。
 ロビーには副部長の田口恭弥の言っていたとおり、各自の部屋らしき扉が見えた。
 レクリエーション時には気づかなかったがそれぞれ四つの扉がある。
「天井ぶち抜きのペンションだったら下階で何が起こっているか気づけたんだけどな……音も少なかったし倒れないように遺体は派手な音を立てないよう横たえて、ドアも静かに開閉してたんだろう」
「大胆よね。誰かが扉を開けてしまえばすぐに気づかれてしまうのに。さて、とりあえず現場を調べましょうか」
「了解」
 エメラと律もまた、姫川さゆりの遺体に小さく手を合わせて証拠品探しを開始した。

●命の残滓
「……ちょっと前にUDCの力を使ってという事例もあったから、あくまで普通の事件か確定させておきたいのよね」
「なるほど、異形による超常現象を引き合いに出されるとなあ……包丁がひとりでに動き出しました、なんてことを言われたら推理の前提から崩壊するもんな。ただこの邪神教団幹部は普通の人間と変わらないみたいだ」
 今回はあくまでも何の力も持たない――否、殺意を持っているただの人間が引き起こした犯行のように見える。
 邪神が絡むにしても、それはおそらく教団幹部が邪神を召喚したときに初めて顕現するものなのだろう。
「改めて近場で見ると、随分深く切られたのね。首元」
「頸動脈を即時に、か。これは抵抗どころじゃなかっただろうな」
「そうね、抵抗はきっと出来ないわ。状況からして被害者が何か残せるとは思わないし……何か、犯人につながる痕跡はないかしら?」
「そうだなあ……」
 律が触らないよう気を付けながら首側面に入った傷の深さを確認する。
 死体は発見時はまだ温かかったのに既に冷え切っていたが。
 発見当時はまだ体温が残っていたはずだ。
「姫川さゆりは死後、時間がそれほど経っていないんだよな。つまり犯人は第一発見者でないかぎり、すぐに他の部員に見つからずに部屋へ戻り、何食わぬ顔で遺体を一緒に発見する必要がある」
「演技が得意なのね」
「顔色からだけじゃ判別できなかったけれど皆本気で戸惑っているように感じた」
 教団幹部は思っていたより狡猾かもしれないな、と零して律は壁ではなく、床に残った痕を見た。
 夕凪が気になると言っていたそれは確かに本当によく注視しなければ気づかなかっただろう箇所に、うっすらと血を引きずった跡がある。
 エメラがふと気づいたように、それを見てぽつりと口を開いた。
 聞き取れるか否か、本当に小さな声だった。
「ねえこれ、足で踏んだみたいじゃない?」
「血を? 踏みつけたってことか?」
「そういう風に見えるのだけれど」
「その可能性は――」
 返り血を浴びぬようにとわざわざ背後に回り、首側面から血の吹き出す方向を考える様な犯人がそんなヘマを犯すだろうか?
 二人は顔を見合わせて互いに首を横に振る。
 そんなはずはない。そんなはずは。
 いいや、はずべき論は推理の妨げになる。
 律は頭を軽く振るとこんがらがった脳内をリセットして、なぜ犯人は血を踏みつけてしまったのかを考え始めた。
「踏まないよう注意していたのに、踏んだ……?」
「返り血に気を付けていたから足元から注意が逸れたというの?」
「違う、そうじゃない気がする。首から吹き出す血も、足元に広がる血も。どちらも想定していなかったとは考えにくい」
 では……それでもなお踏んでしまったのなら。
 犯人の考慮の外側、予想外、イレギュラーが起きたということになる。
「犯人としては血だまりが広がるのを分かっていて、でもそれは本来ここまで床に広がる想定じゃなかったんだ」
「それって、」
 同じく感づいたエメラの続きを促す言葉に、律がそっと真実の欠片を拾う。

「まだ息があったんだろうな……」

「そんな……」
 姫川さゆりは頸動脈を切られてなお、瀕死の重傷を負ってなお心臓が動いていたのだ。
 このペンションに傾斜は無い、だというのに想定より血だまりが広がるのは。
 心臓がポンプの役割を果たし、全身に血を送ろうと活動を続けていたから。
 体に開いてしまった深い深い穴から、本来全身へ巡らせるはずだった酸素と栄養を乗せた赤をだくだくと溢れさせ続けたのだろう。
「意識はなくとも息はあった。だから血だまりはその面積を広げてしまって、犯人は血を踏んでしまう致命的なミスを犯したんだ」
「なら、血を踏んでいると考えられるのは、」
 エメラがロビーを振り返る。二人の声は小さい、今夕凪が対応している彼女にも、その傍らに居る彼女にも声は届いていないはずだ。
「容疑者の中では、藤原洋子が怪しい。第一発見者っていうのもあるが……」
 彼女の犯行前と犯行後で変わった位置。それは。
 一気に二人の顔に焦りの色が混じりだした。
「本人に詳しく発見時の状況を聞きたいが……他の誰かに任せたい。今すぐじゃなく、あとで」
 苦手なのもあるけれど、と律がエメラに相談すればエメラもこっくりと頷く。
「そうね。今聞くのは早計だわ。最悪、邪神教団幹部相手に今ロビーに居る彼と合わせてたった三人で相手取ることになる。戦力が心もとないわ」
 やるとするなら、全員を集めて犯人当てをする……ドラマでいうところの最高潮のパートの時に。
 エメラと律はひとまず顔から疑いや焦りをなんとか消すと、何食わぬ顔をしてロビーへと戻ってきた。
 平素を装って部屋から出る。演技する。内側に隠した真理に感づかれぬ為に。
 そう、ちょうど犯人が姫川さゆりの死体発見時に行ったように。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​

ヘンリエッタ・モリアーティ
……綺麗に頸動脈がバッサリ切られていますね。躊躇いがない。その代わりに凶器をおいたまま、というのが……なんとも衝動的ですね。
少し、聞き取りに入ります。
可能性は少ないほうがいいし……
【探偵】側に協力的な人物が一番犯人になりやすい、というのは――プロファイリングでしかないので、断定できません。「田口恭弥」さんにお話を聞きます。
……心中お察しします。田口さん。ご気分を害されないでください。
平等に皆さんを信じたいし、知りたいので「あえて」、お伺いします、ね。
右手、どうされました?
――【医術】で手を診察してもいいですね。仕事での損失かしら、邪神への忠誠のあとかしら。
犯罪者の考えることは、下衆なもので。


カル・フラック
うっわ、予め聞いてたとはいえショッキングっすね、
この事件を解決するためにも情報は必要っす。

てことでミス研4人の聞き込みメインに、事件発生までの時系列を洗ってくっすよ
えっと。俺達猟兵組はニ階で悲鳴、藤原さんの悲鳴を聞いて
一階に来た時点で4人はすでに居たんすけど
まずは4人の応接室到着順とか気になるっすよ。
みんな悲鳴聞いて来たなら、藤原さんが第一発見者なんすかね?

あとは謎解きイベントが始まってから事件まで何してたか、
多分ここに格好の変わる理由があるんすよね。
上着のオンオフやスリッパはともかく、
田口さんの包帯は何か怪我したか、もしくは急に厨二病開眼とか?



●大胆な犯行
「……綺麗に頸動脈がバッサリ切られていたんですね。躊躇いがない。その代わりに凶器をおいたまま、というのが……なんとも衝動的ですね」
「犯行もそうだったけど何から何まで大胆っすよね。殺害方法も殺害状況も」
 返り血を考慮したり遺体に驚いた演技をしたりと狡賢いわりに、犯人の行動はひどく大胆だ。
 犯行途中に猟兵達が先に一階へ降りて来てしまったら。
 犯行途中に一階にいる誰かが部屋から出てきてしまったら。
 この事件は一気に瓦解してしまうというのに。
「案外、肝の座ったお方なのやもしれませんね」
「その度胸はできればなくしてほしかったっす」
 うえぇ、と顔を歪ませたカルにヘンリエッタは苦笑を浮かべて見せた。

 ロビーで決定的な証拠をつかんだ二人とすれ違ったヘンリエッタとカルは、二人から聞いた事実に目を見開いた。
 だがそれはまだ聞くべきではない事柄だ。ヘンリエッタとカルは他の可能性を潰すことでその推理論を確たるものにしようとしている。
 すなわちそれは聞き取りだ。
「証言を聞くことは重要っすから!」
「可能性は少ないほうがいいし……そうですね、他の方もまだ疑いが晴れたわけではありませんから。一つの推理論を盲目的に信じないこと。真実が見えそうになっても、今一度事件を多角的に見ること。詰まったら止まって俯瞰すること。これらを踏まえる事で初めて真実はその姿を我々の前に現すのでしょう」
 なんて、犯罪者が言えた義理ではありませんが。
 カルに聞こえないようにヘンリエッタが嘯いてみせた。
「なんか言ったっすか?」
「いいえ、何も。さあお話を伺いに行きましょう」

●包帯の正体
「側に協力的な人物が一番犯人になりやすい、というのは――プロファイリングでしかないので、断定できません」
「田口さんっすか?」
「メインはミステリー研究会のメンバー全員ですが、彼女は今別の方が対応してくださっています。こちらは男性陣への声掛けから始めましょう」
「りょーかいっす! ビシバシ行くっすよ!」
 たん、と飛び跳ねてみせたカルにひとつ頷いて、ヘンリエッタは田口恭弥の扉の前に立つ。
 コンコンと木製のドアをたたいてみれば田口恭弥の声が扉の奥から聞こえた。
 会話が途切れたところを見るに、中にもう一人別の人物がいるようだ。
 開け放たれた入り口には田口恭弥と、奥の椅子には長谷川幹人が腰かけている。
「すみません、少々事件のお話を伺いに参りました」
「構いませんよ、僕達も考えていたところです」
 部屋へ通されたヘンリエッタとカルはそっと部屋のなか、ついで田口恭弥と長谷川幹人を観察した。
 電気ケトルや飲み物ぐらいしか入らなそうな小さな冷蔵庫が置かれた部屋だ。
 テーブルの上にはなぜか冷蔵庫から取り出したらしい氷……を、ビニール袋で縛った簡易の氷嚢が置いてあった。
 田口恭弥は右手に包帯を巻いている。
 長谷川幹人は上着を脱いでいる。
 田口恭弥が座っていたらしい誰も今は掛けていない椅子に長谷川幹人がレクリエーション時に来ていた上着がかけられていた。
 血痕などはみられない、綺麗なジャケットだ。
 二人の視線がジャケットに行っていることに気づいた長谷川幹人がどうかしたかと尋ねた。
「ああ、ごめんなさいっす。脱いでたみたいだったんで気になっちゃったっすよ」
「室内でこのジャケットは少し暑かったんでな。そうか……そうだな」
 長谷川幹人は思案する。彼もまたミステリー研究会のメンバーだ。ヘンリエッタとカル、二人の言わんとすることに気づいたのだろう。
「事件前と事件後、変化があれば気になるよな」
「申し訳ありません、ご気分を害されましたか?」
「いいや、そんなことはない」
 俺達だって今まさに友人達を疑っていたのだから、と長谷川幹人は自嘲気味に笑って肩を落とした。
 ミステリー研究会の誰かが犯人であること、これはもう疑いようのない事実だ。
「容疑者を疑うのは当然の事。僕達もそれらに倣ったミステリーを楽しむためにこの研究会に籍を置いていたのですから」
 彼らもまた真実を貪欲に追い求める者達だ。たとえそれが友人だったとして、己の性には抗えなかった。
 真実を知りたい。なぜ、どうして、なにが。
 自身の身の潔白を証明するためでもあるが、彼らの本質はそこにある。友人の死に納得がいかないのだ。
 ヘンリエッタがであるならばと口を開いた。カルも彼女の問いかけに乗って同じように疑問点を重ねる。
「ではすみません。単刀直入に聞きます。平等に皆さんを信じたいし、知りたいのであえて、お伺いします、ね。……右手、どうされました?」
「そーっす、上着のオンオフやスリッパはともかく、田口さんの包帯は何か怪我したか、もしくは急に厨二病開眼とか?」
 ひく、と田口恭弥の喉元が引きつった。
 事情を知っているらしい長谷川幹人はだんまりを決め込んでいる。彼の口から直接話させるつもりなのだろう。
 長い長い沈黙のあと、田口恭弥が硬い口を割った。
「……お恥ずかしい話、実はお茶を飲もうとして火傷をしました……僕が一番怪しいですね……」
「片手じゃ上手く巻けてなくてな、俺が巻き直した」
「あら」
 確かにうまく留められていなかったような、いたような。
 発見時はただ死体に気を取られるばかりで彼らの小さな変化に猟兵達は気づくのが精一杯だったが、確かによく見てみれば先程と巻き方が違う。
「疑いを持たせるようなことをしてすみません。これでは事件中に怪我をしたように見せかけてしまいましたね。今お見せします」
 田口恭弥がひらりと包帯を解く。
 赤くなった肌がヘンリエッタとカルの前にさらされた。
「わー、痛そうっす! 冷やさなくて大丈夫っすか?」
「もうあんまり痛まないから平気です」
「嘘ではなさそうですね、確かに火傷です。でも痛まなくても念のためまだ氷は当てておいたほうがいいですよ。お大事になさってください」
 ヘンリエッタの医療知識で見れば田口恭弥が火傷をしたのは本当だと分かるだろう。
 姫川さゆりとの争いでついたわけではない、純粋なただの怪我。
 田口恭弥の部屋においてある電気ケトルがぷしゅんと鳴いた。

●時系列
「では次は俺から。事件発生までの時系列を洗っていきたいっすよ」
 カルが言うのに田口恭弥、長谷川幹人、ヘンリエッタがそれぞれ頷く。事件の最初から今までを追って状況を整理するのはロジック解明に置いて基本中の基本だ。
 部屋に居た二人も今まさにそれを話していたのだろう、カルへ聞きたいことは何でも聞いてほしいと先を促す。
「えっと。そうっすね、俺達猟兵組はニ階で悲鳴、藤原さんの悲鳴を聞いて一階に来た時点で4人はすでに居たんすけど。まずは4人の応接室到着順とか気になるっすよ」
 猟兵達はレクリエーションを全員が追えた直後に悲鳴を聞いて、そのまま一階に急行した。
 つまり必然的に部屋を出て応接間に行ったであろう一階に居る人物達よりも到着は遅くなり、発見時には容疑者全員が現場にいたのだ。
 これでは誰がどの順番で来たのか分からない。
「みんな悲鳴聞いて来たなら、藤原さんが第一発見者なんすかね?」
「そうだな、第一発見者は藤原だ」
「悲鳴を聞いて僕達が部屋から出ました。応接間に行った順番は藤原さん、次点で工藤さん、僕、最後が長谷川くんですね」
 藤原洋子が発見し、工藤久美子、田口恭弥、長谷川幹人、そして猟兵達の順でみな応接間に到着している。
「二階の部屋を姫川さんが施錠してからの動きは?」
「レクリエーションの説明が終わってみんなが二階に行ったあと、姫川部長以外の全員が自分たちの部屋に引っ込んだ。参加パンフレットを配るために俺は部屋で資料纏めして、暑くてジャケットを脱いだな」
「僕は資料類は長谷川くんが作ってくれるのでお茶でも飲みながらミステリー小説を読んで時間を潰そうと思い、ケトルで注ぐときに……はい」
「物音らしきものは?」
「特にしませんでした」
「田口のアツッていう声以外は、特に」
 ヘンリエッタとカルは顔を見合わせて、やはり犯人は物音をたてぬように犯行に及んだことを知る。
「お話ありがとうございました」
「どーもっす!」
 ぺこりと頭を下げた二人に、長谷川幹人がぽつりと言った。
「……俺、疑ってはいるけど信じたいのも本当なんだ。特に姫川部長と藤原の間にある友情は、演技だとは思えない。矛盾しているようだが、俺達の内に犯人がいるなんて思いたくないし、思えないんだよ……」
 長谷川幹人の零した本音に、ヘンリエッタとカルは強くうなずく。
 だからこそこのミステリー研究会の仲間へ牙をむいた邪神教団の幹部は必ず見つけなければならない。
 二人は改めて決意した。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​

春霞・遙
推理は思いつかないけれど、よく第一発見者怪を疑えとは言いますよね。『工藤洋子』さんとお話したいです。
思い出させるのは少し酷ですが、初めに部屋に入ったときに何か気づいたことはなかったかや、彼女の後に現場に来た順など。
あとはサークルの思い出話などに耳を傾けるか、逆に全く関係のない話をするか、ご本人の様子を観察しつつ落ち着いてもらえるよう介抱します。
犯人が邪教集団の幹部なら、動機に関して今回はあまり役に立たないのかな?

あとは、現場やご遺体を写真に残しておくのと医師として頭から爪先までご遺体の全身をザッと調べておきたいかな。


シャルファ・ルイエ
……止められなくて、ごめんなさい。
せめてこれ以上の犠牲は止めてみせます。

とりあえず、もう少し情報を集めてみましょう。
定番なのは姫川さんが亡くなった時にそれぞれ何をしていたか確認することでしょうか。
犯行前と犯行後で変わっている点についても尋ねてみます。
嘘をつかれても、そこから何か矛盾点が見つかることがあるかもしれません。

皆さん不安に思っているでしょうから、聞き込みの時には態度に気を付けて、特別に誰かを疑っている様な様子は出さずに、あくまでも解決の為に聞かせて貰っている様に接します。

あとは、他の皆さんの様子を見て、聞けていないこと、調べていない場所なんかの気になったことを調べてみますね。『第六感』


破魔・案山子
(黙祷)予知聞いてたのに暗号解きに、はしゃいでごめんナサイ

【皆と共有したい物的証拠集め】
血溜まりにボタンとか落ちてないかな
部屋と手荷物検査は可能?
さっきまで部屋で何してたの

第一発見者は洋子さんか……応接間に何の用だった?
出先は服なら着脱可でも、靴の履き替えは難しい
二足用意してお出掛けする人って居ないじゃん
汚れたらスリッパで凌ぐしかない

んー男爵
沢山考えた結果さー
包丁(片刃)で背後から、のこぎりって変じゃないかな
俺なら逆手に柄を握り、相手の首を前から抱き込むように切っ先を当てて捌く
角度から被害者と同等か高身長が適応
その際、利き手に血が付着しそう

【田口恭弥】かなあ
そもそも警察なんか呼んでない、とかさ



●疑いのある人物
「んー男爵、沢山考えた結果さー。片刃の包丁で背後から、のこぎりって変じゃないかな」
 案山子の言葉に肩に乗った鴉が首をかしげる動作をした。
 俺なら、と案山子が言葉を続ける。
「俺なら逆手に柄を握り、相手の首を前から抱き込むようにやる。切っ先を当てて捌くほうが刃が深く刺さらない?」
 その疑問は尤もだ。
 刻まれた首の傷は確かに致命傷だが、もっと首にダメージを与える方法があるのにわざわざなぜ刃先から引くようにして姫川さゆりの首を斬ったのだろう。
「その際、利き手に血が付着しそうなもんだけど……あっ!」
 案山子がそこまで言って顔を上げる。
 そう、血液付着だ。
 犯人は返り血を浴びたくないがため背後に回り、やりづらい犯行方法で姫川さゆりを斬ったはず。
 実際容疑者の誰にも手に血液付着のあとは見られなかった。田口恭弥の手の包帯は他の猟兵の調べにより火傷痕だったことが判明している。
 余程返り血を浴びたくなかったのだろう、一撃で仕留められない可能性があったにもかかわらず犯人は証拠が自分に残るのを恐れて保身を優先した。
 そこまでしてなお、犯人は致命的なミスを犯している。姫川さゆりの首からあふれている血を踏むとんでもないミスを。
「……やっぱり彼女なのかな? 俺としては田口恭弥も怪しいんだけど……なんにせよ一人で聞きに行くのはあぶないんだっけ」
 おーい、と二人ばかり今まさに藤原洋子に話を聞こうとしていた彼女らに案山子はついていくことにした。

「俺と男爵もいい?」
「はい、構いませんよ。……ああ、止められなくて、ごめんなさい。せめてこれ以上の犠牲は止めてみせます」
「そうですね。これ以上、邪神教団の幹部を野放しにしておくわけにはいきません」
 シャルファが誰に呟くでもなく言った言葉を遙は静かに拾って肯定する。
 情報共有によって猟兵達は互いに認識を交し合いながら、容疑者達の情報を引き出していく。
「第一発見者は洋子さん……応接間に何の用だったんだろ?」
「そうですね、彼女には他のメンバーと違って応接間に行く用事があったはずです。そのために部屋から出てロビーへ、ロビーから応接間へ行き、そこで死体を発見した」
 案山子の言葉に遙が頷く。
 今最も話を聞きたい人物――藤原洋子へと。
 彼女が仮に邪神教団の幹部である場合、なるべくなら複数で聞き込みをすべきだと注意を促したのは現場を洗っている二人からだ。
「とりあえず、もう少し情報を集めてみましょう。くだんの彼女から聞き出せることがあるかもしれません」
「推理は思いつかないけれど、よく第一発見者怪を疑えとは言いますよね」
「ミステリーの基本だね!」
 猟兵のなぐさめでようやく涙の止まった藤原洋子と、その隣に居る工藤久美子へ、三人は近づいた。
 
●怪しい言動
「大変でしたね、思い出させるのは少し酷ですが、初めに部屋に入ったときに何か気づいたことはありませんでしたか?」
「ごめんなさい、さゆりちゃんの死体に動揺してしまって、何か変異があったかどうかもわからないの」
 藤原洋子は首を振る。
「スリッパに履き替えられているようですが、元の履物はどちらへ?」
「靴は……山奥のペンションに来る時に元々長く履いていたものだったのでさっき穴があいてしまったの。応急処置としてスリッパに履き替えたわ」
 藤原洋子は首を振る。
「その靴って今どこにあるの、持ってこられる?」
「ごめんなさい、穴の開いた靴はちょっと……」
 藤原洋子は首を振る。
 藤原洋子は、首を横に振るばかりだ。確実性のある証拠はなにも出てこない。
 代わりに工藤久美子は知っている情報を事細かに猟兵達に伝えた。
「初めに部屋に入ったとき……そうね、死体と壁に散った血以外に変わったところは特にみられなかったわ。でも、さゆりはソファに腰かけていたのに発見時は壁の近くに移動していたでしょう。多分壁に掛けられていた絵を見ていたのかもしれないわ」
 壁に油絵があったでしょう、と工藤久美子が言うのに猟兵達はレクリエーション時の応接間を思い出した。
 ペンションの応接間には確かに油絵があったはずだと猟兵達は思い出し、今はその油絵にも大量の血液がかかってしまっている。絵自体に特段おかしいところも見られない。
 姫川さゆりは工藤久美子の言う通り油絵を見ているところを殺害されたのだろう。
「御召し物はどうされたんですか?」
「服は……肌寒くて。幹人は暑がりだけど私寒がりなのよ。もしかして疑ってるの?」
「あ、いえ、そういうわけじゃ……」
「……ごめんなさい。責めているわけじゃないの。いいえ、むしろ当然よね。幹人の言い分だって本当は分かってるつもり。私だって曲がりなりにもミステリー研究会のメンバーだもの。どうしたって考えてしまうわ」
 誰かを疑っている様子は出さずに、あくまでも解決の為に聞いているシャルファの雰囲気を感じ取ったのだろう、工藤久美子が申し訳なさそうに苦々しく笑う。
 ぱさ、と音をたてて工藤久美子が上着を脱いだ。血痕のあとはどこにも見られない。
 ――これで事件前と事件後、変わった箇所が調べられていないのは藤原洋子だけになった。

 猟兵達は遙の提案で彼らの素性について尋ねることにした。
 知り合った時期は、どうしてサークルに入ったのかなど、動機を探るにはこれが一番の手段だろう。
「みんな仲良しさんだったんだね!」
「そうね。特に洋子とさゆりは本当に仲が良かったわ」
「皆さん昔からのお知り合いなのですか?」
「洋子とさゆりはね。家も近所だったし、こうして同じ大学に進学したって経緯を聞いたわ」
「久美子ちゃんと幹人くんと恭弥くんは大学からの知り合いなの。たまたま大学食堂で会って、趣味で意気投合して、さゆりちゃんが……」
 彼女の呼びかけでサークルの確立に至ったわけか、と三人は思案する。
 猟兵達が思い出話に耳を傾ければ傾けるほど、姫川さゆりへの殺害動機が浮かんでこなくなってしまった。
 男女間によくある恋愛関係のもつれというわけでもない、仲違いの話も出てこない。
 ひどく純粋に仲の良い五人組のうち誰かが凶行に及ぶとは思えないのだ。
「謎が深まるばかりですね……」
「状況的には四人の内の誰かなのですが、私にはどうもそうとは思えなくて……みなさんどうですか?」
「俺も同意見。ねえ男爵、どう思いマス?」
 鴉に聞けど男爵も目を伏せたままだ。遙の疑問にも、シャルファの問いかけにも。案山子も肩をすくめた。
 思い出話の途中でまた目の潤み始めてしまった藤原洋子に、三人は慌てて席を立つ。
「つらいこと思い出させちゃったね、ごめん」
「大丈夫です」
「すみません、お話はこれくらいで。また後程」

 現場に入った三人は検証を始めたが他の猟兵達が探した証拠以外のものは出てこなかった。
「血溜まりにボタンとか落ちてないかな」
「なさそうですね。犯人と被害者が揉みあった形跡がないというのは聞いていましたが、確かに証拠らしい証拠は床の一点だけみたいです」
「ご遺体の全身をザッと調べてみたけど首の傷以外は綺麗なもんです。背後に回った人を信頼していたから、後ろから抱き着かれようが何されようが疑問には思えなかったのでしょう……」
 彼女の持つ知識、医師の視点から集められる証拠はこれが限界だ。
 警察が来れば指紋検証などはできますが、と遙が零す。
 だがその警察が来てしまってはタイムアップだ。猟兵達は邪神教団の幹部が何かしらの行動に出る前に蹴りを付けなければならない。
 現場や遺体を写真に残して、遙は他二人に部屋を引きあげるしかなさそうだと提言した。
 シャルファと案山子が頷いてロビーから出る。
「証拠はだいたい集まったでしょうか」
「そうですね、あとは謎解きと行きましょう」
「みんなを集めて来ようぜ!」
 さあ、もう十分だ。ここまでの証拠から犯人を当てることは可能だろうと猟兵達は部屋を見る。

 データは揃った。もはや逃れる術はない。
 ここからは猟兵達の――探偵達の手腕に任せるとしよう。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​

髪塚・鍬丸
部屋の中を細かく調べてみよう。【視力】【第六感】の技能を使う。夕凪さんの気付いた違和感も詳しく調査。
遺体の位置や体勢と、室内の血痕の撒かれ方から逆算すれば、犯行時被害者に対して犯人がどう位置すれば返り血を浴びないか、返り血を防ぐには何が必要か推測出来ないだろうか。

後は、申し訳ないが各々の部屋をこっそり調べてみたい。聞き込みで呼び出されている隙などを狙って【忍び足】【鍵開け】で浸入。所持品や室内を調べる。隠している物や、 アリバイの裏付けになる証拠がないか、等。
気になる物があれば後程それとなく話を向けて聞き出してみよう。
お互いの話の矛盾点等にも注意が必要だな。


霧生・真白
🔎WIZ
第一発見者は藤原洋子、ね
往々にして第一発見者とは疑われるものだ
僕も今のところ一番怪しいと思うね
まだ温かい死体の一番近くにいた人物で
仲が良かったならば、その分怨恨があってもおかしくはないだろう
動機も十分というわけさ

まずは死体発見時のことを全員に詳しく聞こうか
藤原さんには、どうして死体に気付いたのか
その他にはここに駆けつける前は何をしていたのか

血だまりの端に、わずかに何かが引いたような痕――なるほど
誰かが血溜まりを踏んで引きずってしまった痕だろうか
ふむ……ならば藤原さん
君は履物がスリッパに変わっているね?
ちょっと脱いで見せてくれないか
靴下の裏を
何、君だって疑われるのは嫌だろう?


阿久根・ジジ
なんか空いてた。
人が死んでた。
ビックリ。

僕は「藤原洋子」が気になるかな。
足元の誤魔化しは疎かになりがちだからね。
直接聞きに行ったっていいけど、探偵といったらまずは足を使わいと。
そこら中を捜索してみよう。
血のついた何かしらが捨てられているかもしれない……が、そういうのに詳しい人たちだからそう簡単に足が付くやり方はしないだろうしね。

そういえば、ミステリー研究会の誰かがやったって言うんなら、何かしらの元ネタがあるのかもしれない。
模倣犯ってヤツかな。
「田口恭弥」に心当たりがないか聞いてみようか。



●犯人は
 人を集める前に猟兵達だけで集まって、今一度みなで情報共有をした。
 見たものは、聞いた話は、人物の動機は、変わった箇所は、集められる限りで集めた証拠をそれぞれが開示していく。
 一通りの情報共有が終わったところで今度は認識の共有だ。
 猟兵達はみなたった一人の名を挙げた。
 集合の声がかかり猟兵が、容疑者が、みなロビーへ集合する。
 謎解きは主要人物が集まってから。それがセオリーだ。
 ただ一部、意図して居なくなった者も居たが後続で登場するためここでは触れないことにしよう。

 猟兵達は物語の核心へ迫る。
 このペンションで起きた殺人事件の犯人へ、真実の刃を突きつける為に。
 さあ、謎解き開始だ。

●真実を白日の下にさらせ
 ロビーのソファに腰かけるもの、壁に背を預けるもの、みなそれぞれが思い思いの楽な姿勢をして語り部の言葉に耳を傾ける。
 今この場に居る猟兵達全員の言葉を代弁するのは真白だ。
「第一発見者は藤原洋子、ね。みなが調べてくれたよ。往々にして第一発見者とは疑われるものだ。僕も今のところ一番怪しいと思うね」
 びくりと藤原洋子の背が揺れた。
 工藤久美子が剣呑な瞳で真白を見たが、すぐに目を伏せた。
 彼女も先の会話のやり取りでどうやら思うものがあったらしい。
「遺体発見時のことを思い返してみようか。藤原さん、どうして死体に気付いたのか教えてほしい」
「靴が壊れてしまって、さゆりちゃんに接着剤がないか聞きに行こうとしたの」
 特別おかしくはない理由だ。彼女の言動とも一致する。
 ただ藤原洋子は今に至るまで、誰にも壊れた靴自体を見せる事をしていない。
 他の猟兵達が調べ上げてくれた情報を基に真白は思案する。思考する。
 血だまりの端に、わずかに何かが引いたような痕。踏んだように見えたと実際に見た猟兵の誰もが指摘をしていた箇所だ。
「――なるほど」
 静かに真白が頷く。
 誰かが血溜まりを踏んで引きずってしまった痕。決定的な証拠を。
 他の容疑者はみな上着や包帯に関して立証がとれている。ならば。
「実はあの現場に血痕を踏んだような跡があった。犯人が意図せずして踏んだようにも見える」
「なんだって!?」
「それ、本当なの」
「藤原さん……!?」
 長谷川幹人や工藤久美子、田口恭弥が一斉に藤原洋子を見た。
 三人の容疑者の視線が一つに集まる。
「ふむ……藤原さん。君は履物がスリッパに変わっているね?」
「こ、これは、靴が壊れてしまって」
「それは先程みなが聞いた。現物を見せてもらいたい」
 藤原洋子は俯いてしまった。
 いつまでも動こうとしない彼女にしびれを切らした人物がいた。長谷川幹人だ。
「俺がとってくる」
「み、幹人」
「その必要はない」
 立ち上がりかけた長谷川幹人を手で制したのは、今まさに長谷川幹人が入ろうとしていた部屋――藤原洋子の部屋から出てきた鍬丸、そしてその後ろから彼女の靴を持った黒髪の青年が姿を現す。

●探偵は遅れてやって来る
 阿久根・ジジ(f06285)が扉を開けた瞬間むわりと濃い血の匂いが鼻を突いた。
 目の前に飛び込んできた死体に盛大に顔をしかめて血を踏まないように移動する。
 グリモアベースから新たに派遣されてきた彼は誰にも気づかれないままするりと応接間とロビーを抜けて、二階に上がる。
 そこでは一人悩み歩く彼女、真白が居た。
 知らない彼の姿に彼女は顔を上げる
「君、どうやってここへ」
「なんか普通に扉空いてた。人が死んでた」
「ああ、ドアが開いていたのか。まあ玄関から入ったら当然見ただろうな」
「ビックリ。……グリモアベースから探偵に言われてきたのだけれど。何があった?」
 真白に事のあらましを聞いたジジは、であるならば今最も疑いのある人物の部屋を探すべきだと先に各個人の部屋を調べているらしい鍬丸の後を追った。

 鍬丸は他の猟兵達が会話を聞いて注意をそらしているうちに、忍び足で藤原洋子の部屋に入り込んでいた。
 工藤久美子の部屋からそれらしいものを探せなかった彼が次に入った部屋で鍬丸はジジに会う。
「猟兵か?」
「そうだよ。新しくグリモアベースから来た。力になってくれって頼まれたんだ」
「なるほど、戦力が増えるのはありがたい。ちょうど手詰まりだったところだ」
 藤原洋子の部屋から靴が見つかると思っていた目論みは外れ、靴らしきものが出てこないのだ。
「足元の誤魔化しは疎かになりがちだからね。必ず部屋にあると思う。直接聞きに行ったっていいけど、多分口は割らない」
「だろうな。それも見越して勝手に部屋に入らせてもらっているわけだが」
「探偵といったらまずは足を使わないと。そこら中を捜索してみよう」
 血のついた何かしらが捨てられているかもしれない、あるいは靴そのものが出てくるかもしれない。
「でもミステリー研究会の人達なんだろう?」
「ああ、先ほど死体を見たが遺体の位置や体勢と、室内の血痕の撒かれ方から逆算してみたが巧妙に血のかからない位置から切られていた。おそらく背後、それも切った位置から背面の対角線に来る場所に立っていたみたいだな」
 犯人がどう位置すれば返り血を浴びないか、返り血を防ぐには何が必要か。
 推測したことから得られたのは犯人が返り血に特によく気を付けていたということだけ。
「容疑者の誰もがそういうのに詳しい人たちだからそう簡単に足が付くやり方はしないだろうしね」
 そんな犯人がたった一つ残した、計算外でついてしまった血痕。
 今それを探すために二人はここにいる。
 小一時間ほどかかってようやく二人は本棚の裏側に押し込まれるように隠された一足と、ベッドの隙間にねじ込まれていた一足、それぞれが靴を見つける。
 藤原洋子のものだろうか。
 鍬丸とジジが二人そろって探索に時間を掛けなければきっと見つからなかったはずだ。
 猟兵達の連携で部屋を探す時間を得た彼らが、見つけた証拠。
 一つ目の床の血痕と連なる二つ目の証拠だ。
 ジジが持ち上げても何もない。だがさらにジジに倣って持ち上げた瞬間、鍬丸の眉間に皺が寄った。
 実際はバイザー部分に隠されてそれを見ることは出来なかったが、真一文字に引かれた唇に彼が苦い顔をしているのは誰の目にも明らかだったろう。
「……やっぱりか」

「それは……」
「見覚えがあるみたいだな。お前さんの靴だ」
 藤原洋子の顔から色が消える。
 長谷川幹人が立ち止まってよくよく観察し、確かに彼女が履いてきたものとデザインが一緒だと指摘した。
 真白は彼が手に入れた靴を――証拠品を指さす。
「壊れていないようだが、弁解することはあるか?」
「……」
「ジジ」
「ああ、心得たよ」
 ジジが真白に言われるまま、くるりと靴裏をひっくり返してみせる。
 靴裏、滑り止めの模様があるスニーカー裏に。
 確かに赤いそれが一点、引きずられるようにして付着しているのが全員の目に飛び込んできた。
 息をのむ容疑者三人の耳に、押し黙る容疑者一人の耳に、真白が良く通る声で言う。
 誤魔化しはもう結構、いい加減に真実をつまびらかにしようか。
 同時に部屋に居る猟兵がみな一様に天井を指さした。
 人差し指は真上を向いてから、水平に移行する。
 ながれるように滑らかに、たった一人を指さして。
 視線と指が一点に集中した。それは奇しくも、猟兵達がここにきて閉じ込められたときに探し求めていたもの。

 折って数える、咥えて羨む、切って結ぶ、詰めて詫びる。
 指して示す。

「犯人は貴方だ。藤原洋子さん」

 真白の声が真実を告げると共に、部屋はそれきり重たい沈黙に包まれた。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​

ティオレンシア・シーディア
うーん…現状、情報が足りないわねぇ。
顔見知りが背後から、なら力もいらないし、ホントに誰でもできるもの。

なんとなく気になるのは藤原さんかしらねぇ。
別に必要なさそうなのに、なんでわざわざ履き替えたのかしらぁ?

聞き込みは他の人たちに任せて、あたしは応接間を詳しく調べてみようかしらぁ。
「派手に血が飛び散ってる」って状況に目を取られて、何か見逃してることがあるかもしれないもの。〇第六感も合わせて徹底的に〇情報収集するわぁ。
「あった物がなくなっていないか」はもちろんだけど。「なかったはずの物が増えてないか」にも気を配るわぁ。

…音に聞く名探偵なら、もう犯人わかってるのかしらねぇ?


ヘルメス・トリスメギストス
「さて、出遅れてしまいましたね」
(すでに執筆中でしたら却下してください)

こういう場合の行動は昔から決まっております。すなわち。

「私はこんな殺人鬼と同じ場所にはいられません!
警察が来るまで安全な場所に隠れさせていただきます!」

わざとヒステリックに叫び、犯人が合鍵を持っていそうな部屋に一人で入りましょう。

邪神の復活に生け贄が必要ということであれば、
単独行動をしている人間を殺し
邪神の強化を狙うかもしれません。

なにより、このシチュエーションで一人になることは
もっとも強力な死亡フラグ!
ミステリー研メンバーでしたら放置できず、身体が勝手に動いて殺しに来るでしょう。

さて、ほんとに殺されたらどうしますかねえ。


天之涯・夕凪
●POW
違法論さんの話では、凶器は一つに証拠が三つ、という事でしたか…
証拠がまだ二つ見つかっていない状態、でしょうか?

時間も少ないですし、虱潰しで行きましょう
そういえば、姫川さんのお部屋はないのですかね?
【調査内容】
・凶器の再確認
・各自の部屋の確認(藤原さんの場合、靴の所在についても)
・姫川さんが死の直前、見ていた物は何か

まだ何も語っていない工藤さんも気にはなりますが…そちらは他の方にお任せできればと
また、藤原さんには応接間に戻った理由も伺いたいですね

…私はまだ、彼女が犯人だとは、思えないのですけれど

(連続参加のため、他の方と行動被りや負担が大きい場合は不採用で大丈夫です。全てお任せします)



●三つ目の証拠
 猟兵達が指を降ろすと同時に、あたりは静寂に支配された。
 沈黙を破ったのは田口恭弥でも、長谷川幹人でも、工藤久美子でも、藤原洋子でも、ましてや猟兵達でもない。
 ぴりぴりと楽し気なメロディーラインが水を打ったように静まり返ったロビーを切り裂く。
 応接間の方からぴりぴりと電子音が鳴り響いた。誰一人として口を開かないこの状況下で一番最初に動き出したのはティオレンシアだ。
「あら、電話みたいねぇ。誰からかしらぁ」
 間延びした彼女の声が緊迫した部屋のなかに嫌に響く。
 工藤久美子は俯いたまま動かない彼女からずるずると数歩引いた。
「よう、こ?」
「……」
「藤原、お前……」
「藤原さん……」
 長谷川幹人も田口恭弥も信じられないといった口ぶりだ。
 ティオレンシアがそんな彼らの間をするすると通り抜けて応接間へ移動する。
 倒れたままの姫川さゆりの死体が目に入ってくる。
 ――顔見知りが背後から、それなら力もいらないし、ホントに誰でもできるもの。
 当然彼女の予想通り、姫川さゆりは後ろに立たれることを疑問に思ってすらいなかった。それは正しい。
 正しいのに、こんなにも気になるのは、他の猟兵の話を聞く際に感じた言葉が胸の中に引っ掛かっているせいだろうか。
 ひどく純粋に仲の良い五人組のうち誰かが凶行に及ぶとは思えない。
 その一言がティオレンシアの思考の渦に一滴の疑問を垂らすのだ。
 本当に、本当に藤原洋子は犯人なのだろうか。
 何か重要な見落としをしてはいないか。
 派手に血が飛び散ってるって状況に目を取られて、何か見逃してることはないか。
 ぴりぴりとけたたましく鳴いているのは姫川さゆりのポケットの中で光るスマートフォンだった。
 着信を告げるスマートフォンからぽたぽたと滴る血に自分の手が触れないよう慎重に取り出して、ティオレンシアは着信相手に小さく目を見張る。
「……音に聞く名探偵なら、この犯人の正体わかってるのかしらねぇ?」
 さあどうやってこれをロビーで待つ皆に見せようか、ティオレンシアは数秒悩んだ。

●容疑者は四人、証拠は二つ?
「あの、」
 鳴り響く電子音の中、ティオレンシアが席を立ったあと。
 床に残った血痕を見つけるに至った今回の事件功労者である夕凪がぽつりと呟いた。
 グリモアベースから旅立つ前にグリモア猟兵の言葉を思い出したからだ。
 あの時帽子を被った彼が最初に言った言葉はなんだっただろう。
 そう、確か。
「違法論さんの話では、凶器は一つに証拠が三つ、という事でしたか……証拠がまだ一つ見つかっていない状態、でしょうか?」
「あ……」
 そうだ。最初の言葉から辿ればグリモア猟兵の予知には四人の容疑者と三つの証拠が映っていた筈だ。
 まず一つは床で意図せず踏まれた血痕。
 もう一つは藤原洋子が血を踏んだ靴。
 あと一つは、と問われてしまえばその場の誰もが口を閉ざしてしまう。
「……私はまだ、彼女が犯人だとは、思えないのですけれど」
 物的証拠が指し示すのは間違いなく彼女なのだけれど。
 猟兵達はミステリー研究会のメンバーの話を聞いている。
 姫川さゆりは藤原洋子と仲が良かった。思い出話の端々から感じ取れる彼らの仲の良さに夕凪はどうしても疑問が残る。
「こんなことを言っても真実は覆らないかもしれません、でも……」
 あなたは本当に犯人なのですか、と問おうとしたところで彼の声を遮る者がいた。
 ティオレンシアだ。
「お電話よぉ、彼女はもう電話を取ることができないから、代わりに出てくれないかしらぁ」
 ミステリー研究会のメンバーさん、とティオレンシアが血の付いたスマートフォンを工藤久美子に差し出した。
 工藤久美子はおそるおそるそれを受け取って、そうして画面に表示された名前に手がカタカタと震えだす。
「なっ、なんで、」
「誰からだ?」
 猟兵達の問いには答えずに、工藤久美子は震える指で電話に出た。
 ハンズフリー機能でスピーカーのマークをタップする。
 電話口の相手はもしもし、と絞り出すように工藤久美子が答えるのを待っていたかのように申し訳なさそうな、だが弾んだ声色でしゃべりだした。
「ごめん、さゆりちゃん! 今日ミステリー研究会のレクリエーションあったよね!? 寝坊しちゃった!」
 今から行くけど場所どこだっけ、いつものペンションだっけ。
 そんな言葉が音となって絶句する猟兵達の耳に響き渡る。
 洋子ったらまた寝坊したのね、なんて叱る彼女はもうこの世のどこにもいないのに。
 三つの目の証拠はこの電話だ。
 ――犯人はこのサークル内に潜伏している、とある邪教集団の幹部。洋子本人が邪神教団の幹部ではなかったのだ。
「洋子……?」
「あれ、これさゆりちゃんの電話だよね? なんで久美子ちゃんが出るの?」
 藤原洋子が喋っている。
 目の前の彼女と寸分違わぬ声で、喋っている。
 工藤久美子は思わずぷつりと電話を切って、スマートフォンの電源も落としてしまった。
 目の前の藤原洋子は俯いたまま肩を震わせて――……笑っている。
 くつくつと喉を鳴らして笑っていた。
「あーあ、ばれちゃった。つまんねえの……」
「あなたは一体……誰なんですか」
 夕凪が言うや否や、どろりと彼女の顔面が崩れた。
 鈴の跳ねる様な声はしわがれた声に、白く透き通った肌は褐色がかったものに変わっていく。
「このサークルはあのお方の贄を呼び寄せるのにうってつけだって言うのによ、あの女、我々の提案を断りやがって」
 どろどろ剥がれ落ちていく顔面に、悲鳴を上げて後ずさるミステリー研究会のメンバー。
 彼らの前に瞬時に猟兵が飛び出した。
 ここから先は事件も何も絡まない。ただ純粋な暴力だけが場を支配する。
 その時一般人であるミステリー研究会のメンバーを守れるのは猟兵しか居ない。
「お前らはあのお方の……神々の偉大さを知らないから断るような真似が出来るんだ。それなら見せてやろう、知らしめてやろう、暴食の邪神の御身を!」
 外に出ようとした藤原洋子――だった者は、ティオレンシアがロビー側に立っているのに気づいてすぐに踵を返した。
「追ってください!」
 夕凪が叫ぶ。
 猟兵達が二階への階段を阻もうとしたが間一髪、犯人はそれらをすり抜けて行ってしまう。
 先刻まで脱出に挑戦していた十の寝室のある二階へと駆けあがっていってしまった。
「屋根伝いに外へ出るつもりかもしれません!」
 夕凪の言葉に慌てて猟兵達が後を追う。
 だが二階には“彼”が居る。足止めまでの時間は彼に託されたのだ。

●フラグ乱立
 さて、戦闘前に一度事件の時間軸を死体発見直後に戻そう。
 猟兵達はアリバイの有る潔白の証明された人物として、田口恭弥に推理を依頼されたところまで。
 ミステリー研究会のメンバーと共に一度ロビーへ引き返すかといったところでヘルメスは殺人現場の人里離れたシチュエーションお決まりのセリフを吐いた。
「私はこんな殺人鬼と同じ場所にはいられません! 警察が来るまで安全な場所に隠れさせていただきます!」
 ヘルメスがすぐさまロビーから退散する。
 他の猟兵達は特に気に留めるでもなく彼の行動をそのままにした。意図が分かっていたのだろう。
 目論みどおりミステリー研究会のメンバーのメンバーには気づかれることも無くヘルメスは二階……一号室と十号室は鍵が壊れてしまっているため、他八室へと滑り込んだ。
 殺人犯が潜んでいるかもしれない場所でこういった行動を取るのはあまりおすすめできない。
 目的のために人の命を手にかける手段を平気で選び取ってしまう者が狙うのは単独行動者だからだ。
 だがここでのヘルメスの行動には大きく幸運が働いた。
 サイコロの女神が彼に微笑んだのは、猟兵達すべての行動を見越してのことだったのだろうか。
 時間軸を戻そう。彼以外の猟兵とミステリー研究会のメンバーがロビーに集められ、今まさに工藤久美子が電話を切った時点へ。
 二階をどたばたと駆け上がってくる藤原洋子に扮した邪神教団の幹部と、ちょうど部屋から出てきて鉢合わせたのはヘルメスだった。
「どけ!」
「どけと言われて退く奴がありますか!」
 知性的な肉体派執事はすぐさま邪神教団の幹部に足払いをかけて派手に転倒させた。
 次いで雪崩れこんできた猟兵達が彼女を捕縛しようとのしかかる。
 ヘルメスの視界の端にうつる窓に、ペンション入り口へ到着してしまった警察の姿が見えた。
 咄嗟に叫べば警察がヘルメスを見上げる。
「こないでください! ここは危険ですよ!」
 危険とは、と問いかけようとした警察の口があんぐりと開いた。
 それもそのはず、警察の後ろから猟兵支援組織――アンダーグラウンド・ディフェンス・コープに属すると見られるエージェント達が彼らを退却させはじめたからだ。
 ミステリー研究会のメンバーが中に人がまだいると叫んでいるのが聞こえるが、エージェント達は中に居るのが一般人ではなく猟兵と分かっている為、彼らを何とか説き伏せて先に避難させているのも見えた。
 田口恭弥、長谷川幹人、工藤久美子が連れられて視界の向こうから消えたのを確認して、ヘルメスは邪神教団の幹部に向き直った。
「くそっ、贄が逃げる! あのお方の食事が!」
「よくも姫川さゆりさんを手にかけましたね」
「はっ、あんな女! あのお方のお力になれぬのなら贄になるまで!」
「よくもそんなことを……!」
 邪神教団の幹部はヘルメスの言葉を下品な声で笑うと、人間とは思えない怪力で上に乗る猟兵達を跳ねのけた。
 そうして顔を覆ってひどく悲しそうに呟く。
「ああ、ああ……なんてことだ。今日はあの女しか、お食事がご用意できなかった……あの三人も、ここにいる者共も、等しくみな貴方様の胃袋にお納めできるはずだったのに。……せめて我が身を捧げます」
 御神よ、と呟いた瞬間、邪神教団の幹部の身体が力を失ったようにその場に倒れ伏す。
 その横から、ずんぐりむっくりとしたおぞましい姿の口が裂けた邪神が召喚された。
 活きのいい餌を見つけた口元が歪に歪む。笑みだ。あれは笑みだ。腹の減った邪神が餌を見つけて微笑んでいる。
 猟兵達の間に一気に緊張が走った。

 謎解きはここまでだ。探偵の仕事は終わった。
 ここから先は猟兵の領分へと移る。
 事件の解決は、戦いを以て終結するだろう。
 それでは戦闘を開始しよう。猟兵諸君の幸運を祈る。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​




第3章 ボス戦 『牙で喰らうもの』

POW   :    飽き止まぬ無限の暴食
戦闘中に食べた【生物の肉】の量と質に応じて【全身に更なる口が発生し】、戦闘力が増加する。戦闘終了後解除される。
SPD   :    貪欲なる顎の新生
自身の身体部位ひとつを【ほぼ巨大な口だけ】の頭部に変形し、噛みつき攻撃で対象の生命力を奪い、自身を治療する。
WIZ   :    喰らい呑む悪食
対象のユーベルコードを防御すると、それを【咀嚼して】、1度だけ借用できる。戦闘終了後解除される。
👑17
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

種別『ボス戦』のルール
 記載された敵が「1体」出現します。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※このボスの宿敵主は💠山田・二十五郎です。ボスは殺してもシナリオ終了後に蘇る可能性がありますが、宿敵主がボス戦に参加したかつシナリオが成功すると、とどめを刺す事ができます。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。

エメラ・アーヴェスピア
まさか、人物を騙っていたとは…
いえ、そういえばそういう事例もあったわね…忘れていたとは不覚だわ
兎に角、後は撃滅するだけ
幸いにもこのタイプのUDCとは戦った事もあるし、頑張りましょう

…と言いたいのだけど、場所が狭い…!
これだけで私の戦闘用UCの大半は使い辛くなるのよ…
仕方ないわね、『出撃の時だ我が精兵達よ』を一階に展開
Lv25に合体してから二階に上がってきなさい
装備はチェーンソー、トレンチコート、ハットの大柄な前衛型猟兵に偽装する感じで
これなら前に出て齧られても肉や生命力を取られる事は多分ないでしょう
さぁ、力押しで刻み潰してあげなさい
私も装備武器で兵や同僚達さんを援護するわ

※アドリブ・絡み歓迎


髪塚・鍬丸
ようやくお出座しか。月並みだが、ここからが本番って奴だな。

鞘に納めた刀を抜き打ちに構えながら、仲間達の戦闘の邪魔にならない位置へと移動する。屋内にちと人数が多過ぎるか。猟兵同士、阿吽の呼吸で連携は可能な筈だが、無用な手間なら避けよう。
居合いの構えのまま集中。敵と自身の合間に誰も居なくなる刹那を狙って、ユーベルコード【変位抜刀術】発動。抜き打ちの斬撃を波に変えて飛ばし、刀の間合いの外から敵を切り裂く。「変位抜刀……訃渡り」と呟き納刀。

十戒ならギリギリありだが、二十則じゃお前さんみたいな存在は反則だ。お早めにお引き取り願うぜ。



●おなかがすいた、ごはんをたべよう
 咆哮を上げながら邪神が暴れる。ペンションの壁は紙粘土のように脆く崩れ去ってしまった。
 邪神の眼に映るのはご馳走だ。
 舌に乗る血は何と甘美な味がするだろうか。噛み砕く骨はどんな食べ心地がするだろうか。
 肉がいっぱい、こんなにたくさん。
 食事の時間に邪神は舌鼓を打っている。

●ディナーにはまだ早い
「まさか、人物を騙っていたとは……いえ、そういえばそういう事例もあったわね」
 忘れていたとは不覚だわ、とエメラが言う。
 邪神教団幹部が一般人に扮して事件を起こすケースが稀にある。
 今回もその事象の一片だったようだ。
「――ようやくお出座しか。月並みだが、ここからが本番って奴だな」
「そうね。謎解きはもう終わりだわ。兎に角、後は撃滅するだけ」
 エメラの言葉に鍬丸が頷く。
 謎はすべて猟兵達の手で解き明かされた。邪魔者はもう誰もいない。猟兵達の目的はロジック解明から邪神討滅へシフトする。
 腕を振り回して襲い掛かる邪神から距離を取りながら、猟兵達は二階廊下に縦になるように並んだ。
 だがここは狭い、少し攻撃をするには場が足りないか。
「幸いにもこのタイプのUDCとは戦った事もあるし、頑張りましょう……と言いたいのだけど!」
 場所を移しましょうか、とエメラが天井を指さした。
 ペンションの天井は邪神が暴れた影響から、屋根裏へ突き抜けてところどころ青空が覗いている。
「そうだな、屋内にちと人数が多過ぎるか」
「今なら屋根に行ってもいいと思うわ」
「警察はもう下山した頃だろう。目の前に餌がある状態で逃げるとも思えん」
 のぼるか、という鍬丸の提案に猟兵達はみな頷いた。
 鍬丸が先陣を切って開いた穴からペンションの屋根に駆け上がる。
 化身忍者の身のこなしは流石と言ったところか、重力が壁側に向いているのかと錯覚するほど難なく屋根へと登り切った。
 屋根には邪神と己の二人きり、障害物も仲間の影もない。
 敵と自身の合間に誰も居なくなった――刹那。
 ゆらり、と空気がゆらめいた。まるで見えない何かに切り裂かれたようにすっぱりと風が分断される。
 斬撃は集束し波となる。波は放った者の意に沿って間合いを凄まじい速さで進む。
 何が起こったのかも分からないまま、邪神が一太刀浴びせられたことに気づいて醜い叫び声を上げた。
 波を起こした刃は鞘に隠され、鍬丸が攻撃を放ったことはよほど戦闘慣れしている者でしか視界に捉えることは出来なかっただろう。
「変位抜刀……訃渡り」
 静かに鞘に仕舞われた刃が、鳴くこともなく収まった。
 言い終わるや否やぷしゅ、と音を立てて邪神の腕がさらに引き裂かれる。
 目にも追えぬ彼の抜刀術に邪神は翻弄されていた。
「十戒ならギリギリありだが、二十則じゃお前さんみたいな存在は反則だ。お早めにお引き取り願うぜ」
 ノックスとヴァン・ダインを引き合いに出した鍬丸が、不快な体液を散らしながら猛り狂う邪神に鋭い視線を投げた。

「室内……これだけで私の戦闘用ユーベルコードの大半は使い辛くなるのよ。仕方ないわね、二階が使えないのなら一階だわ」
 ロビーに数多の魔導蒸気兵が展開される。
 エメラの得意とする戦術は自作の魔導蒸気兵器を展開させることで行う殲滅戦だ。
 広範囲に適応、威力も申し分ないが室内で使用するには些かスペースが必要となる。
 一階で召喚され、呼んだ主であるエメラに従うために。
 額に刻まれた数値を最大限増やして合体した状態になった彼らは、そのまま階段を上がり屋根へと姿を現した。
 邪神と同等程度の大きさになったその姿を視界に収めたエメラは不敵に笑って命令を下す。
「さぁ出番よ、私の勝利の為に出撃なさい」
「扱い方が上手いな」
「あら、ありがとう」
 あなたの先の一太刀も中々だったわよ、とエメラが告げれば鍬丸も口角を上げることでそれに応えた。
「さぁ、力押しで刻み潰してあげなさい」
 魔導蒸気兵が振り上げたチェーンソーは鍬丸の刻み付けた刃痕をなぞるようにして同じ場所をさらに深く抉る。
 エメラの意図を汲み取り彼女の意のままに動く魔導蒸気兵は、臆することなくおぞましい巨体に挑む。
 さらに一撃、もう一撃。
 暴れ狂う邪神と対等に渡り合う彼らに助太刀する影がひとつあった。魔導蒸気兵に寄り添うように隣に立ったのは鍬丸だ。
「負けてられないな」
 鍬丸も攻撃の合間を縫うように蛮刀で再び切り込めば、連撃を叩きこまれ肉を割かれた邪神の腕がだらりと下がった。
 ぼたぼたと血ともよだれともつかない液を傷口から垂らして猟兵達を瞳の無い顔で見る。
 先陣を切った鍬丸とエメラに倣うようにして、猟兵達が次々と攻撃を開始した。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

破魔・案山子
男爵、退いてて

クッソ腹立つなぁ!
一体何が切っ掛けで、さゆりさんと邪神教団が接点持ったのか気になるけど
脅迫してたんなら、もっと腹が立つ
腹ペコお化けの為に、何で大事な友情を利用されねぇといけねぇワケ?
俺怒った!

【味方補助主体】
真の姿:カカシマスクを被った大柄な男
練成カミヤドリ召喚(カカシ)
半数は敵の進行方向阻害優先→数のプレッシャーで行動幅狭め仲間補助へ
※怒っても思考は冷静に
戦い状況把握し、味方の邪魔にならぬよう操作
残り半数は味方の盾に
全滅→俺が立っている限り再召喚(状況で臨機応変に)

俺さゆりさんに感謝してんだ
暗号解きの楽しい時間を有難うって
マガルさん達みたいにさ
俺も探偵目指そうカシラってくらいに


ヘルメス・トリスメギストス
「ようやく犯人が自首しましたね。
ここからは探偵ではなく執事としてのお仕事です」

姫川さゆりさんを殺害し、ミステリー研究会の御主人様、お嬢様がたへ危害を加えようとしたこと、
この執事ヘルメスが後悔させてあげましょう。

モノクルを胸ポケットにしまい、白手袋を嵌め直して、
邪神に対して格闘戦の構えをとります。

「格闘技も執事にとっての必須項目。
主の敵は力ずくで排除させていただきましょう」

【執事格闘術】で邪神と近接戦闘をおこないます。
これぞ由緒正しき執事の間に伝承されてきた格闘術です。
噂では、かの名探偵もマスターしていたとか。

「あなたの敗因はただ一つ。
執事の前で犯罪を隠し通そうとしたことです」



●時には拳で
「クッソ腹立つなぁ! 腹ペコお化けの為に、何で大事な友情を利用されねぇといけねぇワケ? 俺怒った!」
 だん、と勢いをつけて床から飛んだ案山子がそのまま屋根へ移動する。
 抉られた腕の箇所は新たな口となり、牙が生え、傷ついてなお猟兵を飲み込もうと暴れ狂っていた。
 案山子を見つけて猛然と駆けてくる噛みつきをひらりと跳躍のみで躱し、案山子は振り返って叫んだ。
「そんなに腹減ってんのかよ、だったら俺達の一撃でも食らえばいい! 腹いっぱいにしてやるよ!」
 男爵、退いてて。
 そんな彼の言葉と共に肩に乗る鴉がふわりと風に羽根を膨らませてみせた。
 素早くその場に案山子は自らの本体を複製する。ヤドリガミの十八番、錬成によって生み出されたそれらは念力で統一された動きを保ったまま邪神の腕をからめとった。
 噛みつかれようとも歯で砕かれようとも意に介さずに、雁字搦めに固定した邪神の胸中へ。飛び込むようにして執事服の男が走り寄る。
「今だ!」
「ええ、ここからは探偵ではなく執事としてのお仕事です」
 案山子の言葉と共に男の重い拳が邪神の身体に沈み込む。
 ぐっと腰を入れてめり込ませたそれに全身全霊を乗せて一撃、二撃、いいやこんなもので足りるものか。
 彼女を、彼らを襲った痛みがこれしきで清算されてなるものか。
「姫川さゆりさんを殺害し、ミステリー研究会の御主人様、お嬢様がたへ危害を加えようとしたこと。この執事ヘルメスが後悔させてあげましょう」
 バキ、と強い打撃音がペンションの屋根に響く。
 彼が普段目にかけているモノクルも仕舞われ、白手袋を嵌め直して、風貌は完全に格闘家のそれだ。だが戦闘に移ろうと彼――ヘルメスが執事であることに変わりはない。
 口調はあくまで嫋やかに清淑に。
「格闘技も執事にとっての必須項目。主の敵は力ずくで排除させていただきましょう」
 なおも殴り続ける猟兵に業を煮やしたか邪神が無理やり拘束を解くとヘルメスに噛みつこうとする。
 寸でのところで案山子の操る錬成した複製達がヘルメスに迫る牙を阻んだ。
 食い込む歯を押しとどめて、案山子の操る一体が身を呈してヘルメスを庇っている。
「間に、あった! 傷一つだってつけさせるか!」
「助かります。――……少々お痛が過ぎるようですね」
 執事格闘術を嗜むヘルメスがぐっと腰を落として低く構えた。案山子がそれを見てわざと複製の操作を解除する。
 力を失ってその場から掻き消えた器物を口から振り払い、ヘルメスに再び噛みつこうとした邪神の口ごと。白手袋をはめた拳が喉奥を貫いた。
 歯が折れてぱらぱらと屋根に落ちる。
 ゴボ、と不快な音。邪神の苦しみを伴う声と共にヘルメスの腕が舌をがっしりと掴む。
「お口に合いましたか? よく味わってくださいね。これぞ由緒正しき執事の間に伝承されてきた格闘術です。そうそう味わえるものではありませんから」
 そういえば、かの名探偵もマスターしていたのだとか。
 物語に登場する彼のように鮮やかに、戦場を舞う執事服が舌をもぎ取って打ち捨てる。
「俺のも食らえっ!」
 すぐさま案山子によって別の複製体が再召喚され、よろけた邪神の真正面に滑り込んだ。
 案山子の本体と細部まで精巧に模して錬成されたそれは案山子の怒りに呼応して邪神に猛然と攻撃を加えていく。
 ヘルメスの残してくれた傷に被せるようにして与えられる数多の打撃に邪神はたまらず体液を吐いた。
「一体何が切っ掛けで、さゆりさんと邪神教団が接点持ったのか気になるけど……もしさゆりさんを脅迫してたんなら、もっと腹が立つよ」
 平和だった日常を壊してしまった目の前の化け物に、下唇を噛んで案山子が叫んだ。
 楽しさからミステリーの世界へ触れてもらおうとした、ただ純粋な気持ちでレクリエーションを提供するつもりだった彼らになんてことをした。
 案山子が小さい体をふるふると震わせて、訴えかけるようにして言葉を詰まらせる。
「俺さゆりさんに感謝してんだ。暗号解きの楽しい時間を有難うって、言いたかったのに」
「きっと今からでも遅くはありませんよ」
 その前にまずは目の前の敵を片さねばなりませんが、とヘルメスが案山子に微笑んだ。案山子は頷いて邪神に向き直る。
「食えるもんなら食ってみろ!」
「あなたの敗因はただ一つ。執事の前で犯罪を隠し通そうとしたことです」
 邪神は猟兵の猛攻で確実に体力を削られている。ヘルメスも案山子も、今が好機と邪神に向かって共に一撃を振りかぶった。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

ヘンリエッタ・モリアーティ
【WIZ】
『マダム』、あなたなら、獰猛な邪神を――蹴散らせる、わよね。

(真の姿を解放)

……やれやれ。
確かに謎と思考に満ちたこの空間は絶好の狩場だったかもしれないが――ナンセンスだ。礼儀のないやつめ。
普通、『黒幕』というのはもう少し堂々と知性溢れる構えでいるべきだと思うのだがね。

背後をとり【だまし討ち】、【謎を喰らう触手の群れ】で邪神を喰らおう。
咀嚼して猿真似できるものならしてみるがいい、【疑似餌】を与えてより凶暴化する私の狗たちに少しでも動揺すれば、こちらのものだ。

いのちの使い方が合理性に欠ける。もっと有意義に使うべきだったのだ。
何が邪神だ、知性のない哀れな神め。――狗の餌にでもなってしまえ。


ティオレンシア・シーディア
ふぅん、ミステリーごっこはおしまい?
それじゃ…ここからは実力行使(ハリウッド)の時間ねぇ。
残念だけど、あなたにミランダ・ルールは適用されないの。
観念して、潔くくたばってちょうだいな?

〇クイックドロウからの●封殺を〇先制攻撃の〇鎧無視攻撃で撃ち込むわぁ。
一応二足歩行だし、足目掛けて〇スナイパーの〇一斉発射。
機動力を削ぐように〇援護射撃するわぁ。
近接攻撃を仕掛けてくるなら攻撃の軌道を〇見切って〇カウンター。
〇零距離射撃で●滅殺を叩き込むわよぉ。

最近だとホームズもアクションやってるし、一つの流行りなのかしらねぇ。
…個人的にはドイルよりクリスティのが好みなんだけど。



●食われるのは果たしてどちらか
 打撃で持ちあがった邪神の身体が宙を舞う。屋根からふわりと浮いた途端に重力に従って、下へ下へと落ちていく。
 地面へ落とされたゴムのような体に間髪入れずとびかかり蹴りを入れる者がいた。
 銀の瞳が黒く覆われてより一層に輝く。冬のシリウスよりも鋭い煌きで、寒空で瞬く一等星よりも冷たい瞬きで。化け物を見下ろしている。
 瞳の色が変わる寸前にマダム、と彼女の口が音を伴わずに呼びかけた。
「あなたなら、獰猛な邪神を――蹴散らせる、わよね」
 返答はない。だが彼女の声に、彼女にだけ伝わる返事をしたのはヘンリエッタの中に渦巻く別の人格。
 瞼が降りて再び睫毛をゆるく震わせ広げたとき、彼女の人格は即座にスイッチを切り替えた。
「……やれやれ。確かに謎と思考に満ちたこの空間は絶好の狩場だったかもしれないが――ナンセンスだ。礼儀のないやつめ」
 ヘンリエッタが常とは違う声色と口調でしゃべり掛ける。ヘンリエッタに呼ばれた者が、品のない邪神を呼び出した者の愚行を咎めるのだ。
「普通、黒幕というのはもう少し堂々と知性溢れる構えでいるべきだと思うのだがね」
 此度の黒幕は優雅とは程遠い、焦りや行動に粗の目立つお粗末なものだった。猟兵達の推理によって追い詰められ、正体をばらされてからの動きなど特に酷い。
「実に面白くない。ユーモアに欠ける。何よりいのちの使い方が合理性に欠ける。もっと有意義に使うべきだったのだ」
 己を食事に捧ぐなど馬鹿馬鹿しいにも程がある。
 それに、と吐き捨てた犯人が呼び出した主にも向き直ってヘンリエッタは笑顔も浮かべずに唇を平坦に結んで見せた。
 そちらはそちらで、脳の詰まっていなさそうな直進的な動きも見直したほうが良い。
 邪神に言葉は伝わらずとも煽られたことは分かったのか、ヘンリエッタに向かってぶん、と腕を振るう。
 だが腕はどこにも掠らずに空を切る音がしてヘンリエッタの姿が掻き消える。邪神が起き上がり辺りを見渡しても彼女の姿はどこにも――否。
 突如邪神の身体に強い衝撃が走った。
 四肢の先、口のない場所へ何かが食らいついている。
 ヘンリエッタの放ったそれは真後ろから、命じられるがまま邪神の身体に牙を立てた。
 触手の群れが、醜悪な食事に、世辞にも美味には見えぬ食材に。文句も言わず口を付けている。
「食らい尽くせ」
 たまらず身をよじる邪神が、ぴたりと不意に動きを止めた。ヘンリエッタの使役する触手達がより一層の強さを持って噛みつきを深めたからだ。
 じゅぐじゅぐと水気交じりの音を立てて肉を食いちぎる音がする。
「動揺しているな。……咀嚼して猿真似できるものならしてみるがいい」
 疑似餌はお気に召したか、とヘンリエッタが問えば邪神は聞くに堪えない咆哮を上げて触手から抜け出そうともがき暴れた。
「悲鳴まで不快極まりないとは呆れたものだ。何が邪神だ、知性のない哀れな神め。――狗の餌にでもなってしまえ」
 肉片を落としながら命からがら抜け出した邪神を一瞥してヘンリエッタは深いため息をつく。
 神にしてはあまりにお粗末なその行動に、つまらないと一言零して。

●リローデッド
「ふぅん、ミステリーごっこはおしまい? それじゃ……ここからは実力行使の時間ねぇ」
 先の猟兵達の攻撃のおかげか、目の前の生餌に対して食欲よりも怒り、そして怯えの色が混じりだした邪神に妖艶にほほ笑むのはティオレンシアだ。
 彼女の声に反応しようと振り向いた邪神は、そのまま横っ面に銃弾を食らう。
 パン、という拍手のような音。
 乾いた発砲音。乾いた発砲音。乾いた発砲音。
 立て続けに雨のように銃弾が降り注ぐ。
 ぱらぱらと、ぱらぱらと。天気は晴れているのに戦場は硝煙弾雨に包まれる。黄金色の空薬莢が地面に落ちて湯気をゆらしているのだ。
 彼女が撃ったぶんだけ、面白いくらいに穴が開く邪神の身体は文字通り蜂の巣になった。
 銃弾を飲み込もうと大口を開けても、はじけ飛んだ歯がポップコーンのように宙を舞う。
 散弾銃ではないはずのたった一丁が邪神の身体に無数の穴を開けた。隙間から向こう側の森林が見えそうだ。
 食べる事の叶わぬ食事に邪神が悲鳴を上げた。
「残念だけど、あなたにミランダ・ルールは適用されないの。観念して、潔くくたばってちょうだいな?」
 カチリ、と彼女の愛銃が鳴いてリロードが成された。続けざまに、何度も何度も引き金を引く。
 手元も狂うことなく精巧な射撃を繰り返しながらティオレンシアは悠然と邪神に歩み寄った。止まらない手から生み出される亜音速の弾丸が邪神を貫いて森の向こうへ消えていく。
 邪神の足が鉛玉のぶんだけ肉を露呈させた。これではもうもう歩くことは出来まい。
「最近だとホームズもアクションやってるし、一つの流行りなのかしらねぇ。……個人的にはドイルよりクリスティのが好みなんだけど」
 ミステリーの女王の名を唇に乗せる。
 武闘派探偵でなくとも銃の一つくらい持っておきなさいな。なんて言われるまでもなく。ティオレンシアの手の中でリボルバーは雄弁に語る。
 最近の探偵は推理力だけでなく武力要求もされるらしい。
「さぁ、これで終わったと思わないでくれるかしら?」
 お次の相手が閊えているのよ、とティオレンシアが言った次の瞬間。猟兵達が彼女の後ろから飛び出した。
 再装填、さあ次の一手を。
 託されたヘンリエッタとティオレンシアの追撃に猟兵達が躍り出る。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

天之涯・夕凪
……嗚呼、
うん、
良かったです、本当に(安心したように笑い)

これで、心を傷めずに貴方を倒せます

【POW】
貴方も、喰らうのが得意なのですね
それは困りました…
傷も、痛みも、厭わないのですけれど、今回は噛みつかれると他の方のご迷惑になりますから、なるべくは敵の攻撃は避ける方向で動きましょう
咬撃以外のダメージは【激痛耐性】で受けてもいい覚悟で
近くまで接近し、喰済を発動
戦闘力を高めます
白兵戦か遠距離かは、一緒に戦う方々の戦い方に合わせて変えます
どちらかというと、体を張る方が得意ですし、気楽です
敵の攻撃に曝される方がいたら、身を呈して守ります

貴方が壊した平穏の重さを知りなさい
貴方の餌は、此処には、無い



●めしあがれと死んだ彼女の声がした
 猟兵達の初動は迅速かつ適切だった。
 初撃を叩きこみ、減らせるところまで体力を削り取って。
 満身創痍とはいかずともかなりのダメージを負っている相手の前に降り立ったのは夕凪だ。
「……嗚呼」
 夕凪の口から安堵の声が漏れた。良かったです、と小さな声と共に微かに漏れ出た心情が空気を揺らす。
「うん、良かったです、本当に……」
 姫川さゆりを殺害した犯人が、藤原洋子その人でなくて良かった。ミステリー研究会のメンバーが紡いできた、今までの絆は確かなものだったという事実が。
 夕凪の心の隅にあった迷いを晴らしていく。これでもう、なんの気兼ねもなく。
「これで、心を傷めずに貴方を倒せます」
 夕凪が覚悟を決めた瞳で邪神に向き直る。
 ボロボロの身体を引きずってなお腹が減ったと喚く邪神に夕凪は一呼吸おいてから唇に人差し指を置いた。
 ――似ている。食事を行うことで活力を得ているそれと己が。
 夕凪はそう思ったが、瞬時に頭を振ってその考えを打ち消した。
「貴方も、喰らうのが得意なのですね。……でも」
 彼らの捕食は似て非なるものだ。片や人間を、片や罪業を。邪神が胃袋を満たそうと行うのは人の命を奪い取る行為そのものなのだから。
 人を救うため罪を喰らう夕凪の本質とは異なる邪悪な行為だ。
 そう、彼が食らうのは。
「困りました……傷も、痛みも、厭わないのですけれど。今回ばかりは食べられるわけにいきません」
 がちりと鼻先で歯の鳴る音がする。
 旨そうだ、と言葉も喋れぬ口で言われたような気がして夕凪は首を横に振った。
「悪食ですよ」
 私を食べようなんて。胸の内だけでそう呟いて夕凪は一歩踏み込んだ。瞬時に距離を詰めて動けぬ邪神に接近する。
 善良な人間を一人殺した罪業は腹が膨れてしまいそうなほどに大きい。
「貴方の罪を、いただきます」
 貴方の命を、いただきます。
 一口ばかりで平らげて、夕凪は姫川さゆりの奪われた命の重さを糧にした。密室の扉の奥へ消える直前、鍵を閉める彼女の笑顔を思い出す。
「貴方が壊した平穏の重さを知りなさい。……貴方の餌は、此処には、無い」
 夕凪の放つ一撃が邪神の身体を震わせる。
 死んでしまった彼女の失われた未来に比例して、ひどく重い一撃は。
 たったの一手で邪神の動きを止めるに至った。

大成功 🔵​🔵​🔵​

春霞・遙
親しい方が亡くなったのはつらいでしょうけど、その仲間が犯人ではなかったというところだけは救いですね。ミステリー研究会のメンバーさんたちもUDC組織に保護されたなら、あとは召喚されてしまった邪神を過去に還すだけ、と。

敵を火力で圧倒するのはほかの方にお任せして、「援護射撃」と【生まれながらの光】でみなさんを補助します。
自分が噛まれたときは「激痛耐性」で耐えて口の中に直接「零距離射撃」。
見える範囲に餌になりうるものが私たちしかいないから外へ向かうとは思えないしほかの方が捕縛のユーベルコードを持っているから逃がすこともないだろうけど、自分の体を囮にしてでも建物からは逃がさない「覚悟」で戦います。


シャルファ・ルイエ
召喚されてしまった邪神より早く動いて、『高速詠唱』した【鈴蘭の嵐】で攪乱、その隙に犯人さんの身柄を確保出来ないか試してみます。『救助活動』
まだ生きているのか確認は出来ませんけど、食べられたかったみたいですから食べさせません。
多分支援組織の人達が上手く辻褄を合わせてくれるとは思うんですけど、ちゃんと本物の犯人が居た方が藤原さんが犯人じゃなかったって分かりやすくなりますし。
確保出来る様なら、一旦下がって支援してくれてる人達に身柄を預けますね。

その後は【鈴蘭の嵐】を『全力魔法』で。防御されにくい様になるべく隙を突きたい処です。
周囲の様子を見て回復が必要そうなら、【シンフォニック・キュア】で癒します。


霧生・真白
ははぁん、サークルメンバーの一人に成りすますとはね……
君、中々犯罪者の才能があるんじゃないかい?
――なんて、もう聴こえないか

さて、現れた黒幕――を喰らった邪神を倒せば事件も一件落着というわけだね
正直なことを言うと僕は戦闘は不得手なんだ
メインアタッカーはそういうのが得意な方々に任せて僕は援護に回ろう
まあ、それなりに役に立ってみせるさ

攻撃が飛んでこないであろう後衛からひたすら氷雪の魔弾をスナイプしてやろう
ほう、随分と重そうな頭をしているな
バランスを取るのも一苦労なんじゃないかい?
だから足を部位狙いしてやるよ
これで少しは動きが鈍くなるんじゃないかい?
――さあ、僕が足止めをしている間に皆頼んだぞ!


カル・フラック
おっと、ついにボス戦
ここをキレーにはっ倒せば感動のスタッフロールっす!

さて、どうにもでかい口だし近付いたら食われそうだし、
ここは遠くからブロック落として攻撃してくっすね。
咀嚼されて返されたって、パズル勝負じゃ負ける気しないっすよ!
出てくるのを組み合わせて盾にしたり、
同じブロックを投げつけて相殺しつつ
相手の頭めがけてドコドコ落とすっす!
埋まる前に埋める!これ鉄則!


叶・律
犯人、いや、信者は逝ったか。
罪もない人を殺して呼び出したいのが貴様のような口の臭い化物とはな。
殺人事件の動機としては、最低だ。

りっちゃん棒……木槌を小型化。縛り付けてある紐を振り回し、投擲する。命中し上に跳ね上がった槌を巨大化させ押しつぶす。
ユーベルコード、落墜による奇襲。
ダッシュで近づいた後は柄を持ち、そのまま【鎧を砕く】ように殴りつける。
俺にできることは少ない。身体が動く限り、ただ叩きつけるだけだ。

質の悪い肉は叩いて筋繊維を壊すと、柔らかく美味くなるんだったか。
腹が減っているなら自分でも食ったらどうだ。



●新鮮な血肉
「おっと、ついにボス戦! ここをキレーにはっ倒せば感動のスタッフロールっす!」
 相当数のダメージを与えているにも関わらずいまだ動きを止めない邪神に残りの猟兵達が猛攻を仕掛ける。
 カルが上空から色とりどりの大量のパズルブロックを放ち、邪神の動きを阻害するために動き出した。
 邪神の攻略難易度は低い、仕掛けられた戦いに負けてやる気も毛頭ない。
 カルによって生み出され、降り注ぐブロックが邪神の頭に直撃する。
「密室ほど難しくないっすね、咀嚼されて返されたって、パズル勝負じゃ負ける気しないっすよ!」
 打撃に銃撃、トリッキーな猟兵達の攻撃に明らかに邪神は付いていけていないようだ。
 先に散々撃たれて肉の露呈していた足元がやっと動かせるようになったのか、邪神はそのまま一階の壁を突き破ってなぜか応接間の方へと移動を試みだした。ずるずると、ぺちゃぺちゃと、音をたてながら邪神が這いずる。
「埋まる前に埋める!これ鉄則! って、なんでまた室内に……?」
 あ、と口が固まる。カルが咄嗟にブロックを落としても邪神は攻撃を背に受けたままずるずると移動を止めない。
「わー! だめっす、そっちは確か……!」
「任せて下さい!」
 シャルファが邪神を阻止すべく動き出す。
 鈴蘭の花弁が舞って邪神を包み込み、視界を真っ白に染め上げた。切り裂かれる鋭い花弁にもめげず、邪神はなおも進行を止めない。
 向かうその先には邪神の求むものがあるからだ。
「おそらく肉を食べて回復する気でしょう!」
「そーっす! 二階は犯人がぶっ倒れてるし、一階はそもそも姫川さんの遺体があるっすよ! たぶん狙いはそれっす!」
 カルが叫ぶのにシャルファも頷いた。暴食の邪神、先ほど邪神教団の幹部はそう宣っていた。であるならば邪神の胃に収まってしまうとまずいエネルギー源は新鮮な死体なのだろうと二人は予想する。
 召喚に使っていたのは幹部自らの肉体だ。彼らの予想は的中しており、邪神は今まさに姫川さゆりの滴る血肉を貪り食うために移動を行っている。
「させません……絶対に! 姫川さんはもちろん、上に今居る幹部だって!」
「動きが、止まったっす……!?」
 シャルファの思いが通じたのか花弁の勢いにとうとう押されたか、邪神の動きがわずかにとどめられている。
 シャルファはそのまま二階に上がり、藤原洋子の姿から変貌の途中で死した幹部を背負いあげた。
 同じ女性とは言え十六歳の少女には重たい成人女性を、鈴蘭の花弁が押し上げるようにしてカバーする。
「ぬおお、ケットシーには重労働っすよぉ!」
「カルさん! 連れてきて下さったんですね!」
 邪神の隣を通り抜け、血なまぐさい応接間に駆け込んで。
 小さな体に見合わずカルが何とか姫川さゆりの亡骸をパズルブロックに乗せながら、シャルファの元へ戻ってきた。
 姫川さゆりの首の血は既に乾きだしている。驚愕の表情からそっと降ろされた瞼で、顔はなんだか安らかに見えた。
「助けたかったっすね……」
「はい……でも、それは叶いませんでした。だからこそ、此処で押しとどめなければ」
 一度下がります、という言葉と共にシャルファが前線を離脱する。ミステリー研究会のメンバーと警察を下山させたUDC組織に託すためシャルファは花弁で二人を包み込んだ。
「じゃ、俺は邪神を何とかするっす!」
 カルや他の猟兵達が花弁から解放された邪神と向き直る。食事を取り上げられて回復の手段を奪われた邪神にもし目が合ったのなら、血走った憎悪のそれが猟兵達を貫いただろう。

●行動阻止
「親しい方が亡くなったのはつらいでしょうけど、その仲間が犯人ではなかったというところだけは救いですね」
 遠ざかる姫川さゆりと邪神教団の幹部を視界の端に収めながら遙が呟く。
 見える範囲に餌になりうるものはもうない。
 邪神がUDC組織側に行ってしまう可能性もあるが、そんなことは自分達がさせない。
 遙は拳銃を構え直して不気味な咆哮を上げる邪神と向き直った。
「ミステリー研究会のメンバーさんたちもUDC組織に保護されたなら、あとはあなたを過去に還すだけ、と」
 骸の海より召喚されてしまった邪神を再び海に沈めるまでが今回の仕事内容だ。
「ああ、現れた黒幕――を喰らった邪神を倒せば。事件も一件落着というわけだね」
 遙の言葉に真白が頷く。
 謎を解いただけでは終われない骨の折れる仕事だ。探偵は気を引き締めて邪神を見据える。
 たった数時間にもならない短い時間だったがペンションに来てからの事を二人の頭が巡った。
 閉じ込められた部屋からの脱出。殺人事件の解明。そして邪神との戦闘。短時間のあいだに起きた目まぐるしい変化もいよいよ終わりだ。
 そう、目の前の空腹な化け物を倒しさえすれば。
「さて、正直なことを言うと僕は戦闘は不得手なんだ」
 普段は謎解きに労力を費やしているのが主だからね、と真白が冗談めいた口調で零す。
 どちらかといえば安楽椅子なスタイルの探偵に傾倒しているのだと話せば遙も拳銃を構えて静かに笑った。
「あら、私も援護射撃で皆さんの支援をするつもりでした」
「おっと、じゃあメインアタッカーは得意な猟兵に任せるとしよう。まあ、心配せずともそれなりに役に立ってみせるさ」
「私も頑張ります」
 猟兵の領分はきっちりこなす。そう談笑する二人に邪神が口に変化させた腕を振るって攻撃を仕掛けてきた。
「さあ、始めようか!」
「ええ!」

「ははぁん、にしてもサークルメンバーの一人に成りすますとはね……君を呼び出した者、中々犯罪者の才能があるんじゃないかい?」
 なんて、もう聴こえないか。と真白が皮肉る。連れていかれ、仮にこの場に居たとしてもその音を拾う耳も命もすでに無い犯人を。
 これは事後処理だ。探偵が推理を終えたあと、警察に連行された犯人のあとの現場を片しているだけだ。
 遙が前衛へ、真白が後衛へすぐさま陣形を取る。
「動きを止めて、決定的な攻撃の隙を生み出そう」
「委細承知しました。ではそのように」
 ぱたた、と警戒な音と共に打ち出された遙の放つ弾丸が邪神の身体にめり込んでいく。
 遙の陽動は見事に邪神の興味を釣った。真白の動きを警戒することなく邪神は誘われるまま遙一人に狙いを絞ったようだ。
 ロビーの中で踊るように一人と一体は戦う。
 時おり噛みつこうと猛スピードで迫る口に照準を合わせて引き金を引く。
 そのたびにガチリと歯が噛み合って、銃弾を飲み込もうと動いた。
 だが食らったそれはそのまま邪神の下を打ち抜いて貫通し、絨毯に弾痕を作るばかりだ。
「いいだろう、準備が整った」
「ではお願いします」
 遙がその一言で飛びのけば、邪神の視界には凍てついた氷の一点を構えた真白の姿が映った。
 急に変わった標的と、その標的が既に戦闘準備を終えているのに動揺する隙すら与えないまま。
 真白の放つ魔弾がロビーを一瞬にして霜つく冷凍庫のように変えて見せる。ぴき、と氷の鳴く声がそこらじゅうから聞こえた。
 時が止まってしまったかのような洗浄で遙が白い息を吐く。
「お見事です」
「ああ。上手くいった。にしても随分と重そうな頭をしているな。バランスを取るのも一苦労なんじゃないかい?」
 だから足を部位狙いしてやるよ。
 そんな言葉と共に動きが完全に止まった邪神の足元にカルのパズルブロックが浮き上がった。
「氷だけじゃ固定しにくいかもしれないっす、どうぞ使って下さいっす!」
「助かる。遠慮なく使わせてもらおう」
 邪神の動きを固定するための氷雪の魔力を籠めた魔弾が、パズルブロックを軸に氷柱のように伸びていく。
 形成される氷は足をからめとり、邪神の動きを完全に止めた――が。
「!」
「うわっ!」
 まだ唯一動かすことのできたらしい邪神の腕がぶちりと音を立てて千切れた。
 口だけしか器官のないそれが真白とカルに食らいつこうとすっ飛んでくる。
「邪魔はさせません」
 遙が間一髪、滑り込ませた腕に邪神の口が食らいついた。
「怪我を……!」
「あ、あの邪神ってば自分で腕ちぎって……!? 捨て身の攻撃なんて聞いてないっすよ! 大丈夫っすか!?」
 深く突き刺さった牙に思わず狼狽えた二人に、遙は涼しい顔で首を横に振った。
 真白はそれが彼女の持つ激痛に耐えうる能力だと気づいて顔をしかめる。今度こそ動きの止まった邪神を苦々しげに睨むと、真白はすぐに血を垂らす遙の腕を止血のためにおさえた。
「ううー、痛々しいっす……」
「お気遣いありがとうございます、でも大丈夫ですよ」
「痛みに耐えられても怪我は怪我だ。……助かった。ありがとう」
 引き剥がされた邪神の腕を捨てて、聖なる光で傷を癒そうとした遙の耳に優しい歌声が聞こえる。
「この歌声は……」
「わー! やった、もう戻ってきてくれたっす!」
「遅くなりました!」
 シャルファが歌を止めて三人の前に姿を現した。UDC組織への引き渡しを終えた彼女が戦場に舞い戻れば、他の者の傷も同様に癒されていく。
 遙も聖なる光で相乗すれば邪神の噛み痕は跡形もなく消えた。
 きれいさっぱり消えた傷跡に遙はシャルファに礼を言って、四人は氷漬けになった邪神へ最後の攻撃を仕掛けるための道を開ける。
「もう勝手は許しません。幕引きと行きましょう」
「ええ、事件はとうの昔に解決しています。これ以上長引かせるのは助長というもの」
「――さあ、動きは完全に止めた。足止めとしては良い塩梅だろう。頼んだぞ!」
「思う存分やっちゃえっす!」
 四人の声が重なると共に猟兵が動き出した。

●密室と殺人事件は探偵につきものである
「ここまでお膳立てされちゃ、出ないわけにはいかないな」
 その言葉と共に律が飛び出す。
 くる、と繋がった紐が小槌を引っ張って彼の懐から勢いを殺さずに飛び出した。
 ヒュンヒュン空を切る音をたてながら遠心力を纏って小槌が投げられる。氷に阻まれ、乾いた音をたてて軌道が上へと逸れた槌は、再び落下して衝突の寸前。
 瞬きにも満たないわずかな時間で邪神よりも大きな槌へと変化した。
 邪神はそれをただ茫然と眺めていることしかできない。当然だ。パズルブロックから伸びる氷がほんのわずかな身じろぎすら許してはくれないのだから。
 自らを破壊する凶器が落ちてくるのを、死を座して待つことしかできない。
 それは抵抗する暇すら与えられなかった、知人とばかり思って背後を許してしまった姫川さゆりと死の淵が似ているのは。
 邪神にとってこれ以上ない皮肉だったかもしれない。

「犯人……いや、信者は逝ったか。罪もない人を殺して呼び出したいのが貴様のような口の臭い化物とはな。殺人事件の動機としては、最低だ。」
 次なる殺人を止めるため、死した者の無念を晴らすため。ここに呼び集められた探偵達の思いを乗せて、律が放った凶器はすべての元凶に届いた。
 ばき、と大きな音がペンションに響き渡る。
 氷ごと叩き割られた邪神はすさまじい押し潰される衝撃にただただ圧倒されるばかりだ。
 律は木槌の命中を確認すると凍る床を蹴って邪神へ近づく。空中で掴み取った槌を軽く振るった。
「質の悪い肉は叩いて筋繊維を壊すと、柔らかく美味くなるんだったか」
 肉は叩いて柔らかくしましょう、なんて午後の料理番組で言われていたフレーズが頭をよぎる。
 纏った氷をすべて砕く勢いで一度、二度、三度、四度、五度、大きさからして振るうには難しく見える槌をいとも簡単に叩きこむ。重量は相当数だろう、一撃一撃から発せられる重たい打撃音からもそれが伝わってくる。
 それでも律はまるでプラスチックの軽いおもちゃを振り回す子供のように重さを意に介さず、思うが儘に邪神に振り下ろした。
 ――俺にできることは少ない。身体が動く限り、ただ叩きつけるだけだ。
 律が思う言葉の通り、彼に出来るのは純粋な攻撃行動だ。だが今この場ではその攻撃が、邪神を打破する力と成る。
 叩いて打ち砕いて引き伸ばして、それを繰り返すうちに邪神はたった一度の反撃も彼に行えないまま。
 遂にぺっしゃりとその巨体を平たくして、邪神はロビーの床に沈んだ。
「柔らかくなったぞ。腹が減っているなら自分でも食ったらどうだ」
 食うために来たものが自ら食材じみた扱いになるとは思わなかっただろうけれど。
 もう聞こえないその言葉を邪神に掛けて、こうして幾多の探偵達により殺人事件は無事に幕を下ろした。

 密室も謎解きも戦いも越えて、探偵の活躍はこの先もまだまだ続く。
 だが彼らのお話を綴るのは今回はここまで。
 次の事件簿の紐解きはまた、奇妙な事件に彼らが駆り出された時にするとしよう。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​



最終結果:成功

完成日:2019年02月15日


挿絵イラスト