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勇者のたまご

#アックス&ウィザーズ #群竜大陸 #勇者 #勇者の伝説探索


 昼時の酒場は活気に満ちている。
 激闘帰りの冒険者、畑仕事を終えた老夫婦、看板娘目当ての青年。
 老若男女、ともすれば種族さえも違う彼らの目的は唯一つ。
 そうだ。
 美味しい食事を摂ることだ。
 だって、お昼だもの。
 肉、魚、果実、野菜、パン。ちょっと早めの麦酒に葡萄酒。
 ありとあらゆるものがテーブルに乗っては消えていく。
 空腹は最上のソース。そんなこと、誰に言われるでもなく皆が知っている。
 ああ、勿論食材だってそれなりだし、料理長の腕前も中々のもの。
 特に後者は、褒めておくとおまけに一品付けてくれたりする。
 そんな気前のよさから、実は昼だけでなく夜も賑わいが絶えない。
 その酒場の名前は――。

●足跡?
「――勇者のたまご、というらしいです」
 テュティエティス・イルニスティアは、幾つかの資料を提示しつつ語る。
「アックス&ウィザーズの内陸部に位置する小さな町の、冒険者ギルドを兼ねるこの酒場。どうやら、かつて群竜大陸に渡った勇者に関わりがあるらしいのですが……」
 その逸話――つまり勇者の伝説が、どういったものかまではまだ分かっていない。
 其処で猟兵達に実地調査をしてもらい、ついでに勇者の伝説そのものの真偽も確かめてもらおう、というのが、今回の依頼であるようだ。

「とはいえ、いきなり勇者の話をしてくれなどと乗り込むのは無粋です。郷に入っては郷に従え。まずは皆さんも、この“勇者のたまご"なる酒場で腹ごしらえをして下さい」
 そうして食事のついでに、現地民とコミュニケーションを取るのだ。美味しい食事は時に人から言葉を奪うが、しかし一方で雄弁にしたりもする。大冒険の前に景気づけをするくらいの勢いで、飲めや歌えや――ああいや、歌うより食らうべきだが、ともかくアックス&ウィザーズらしい食事を楽しんでみると、耳寄りな話も聞けるだろう。
「首尾よく勇者の伝説に関する情報が入手できましたら、さらなる調査を行いましょう。……もっとも、今の段階でどのような冒険・探索になるかは分かりませんが」
 何にしても、調査の過程でオブリビオンと戦う可能性もある。
「万が一の時に動けなくなるほど食べすぎないように。気をつけてくださいね」
 テュティエティスは笑いながら説明を終えて、転移の準備へと移った。


天枷由良
 第1章では、とにかく美味しいものを食べます。
 こんなものが食べたい! と言えば大抵のものは出てくる、とか。
 でも20歳未満の飲酒はダメです。町の規則です。
 気をつけるのはそれくらい。とにかく楽しく美味しく食事をしましょう。
 そうして美味しいものを食べていれば、勇者の伝説の情報収集もできるはず。

 日常フラグメントや、冒険フラグメント中の行動は、ステータスや行動例に拘りすぎず、目的に繋がるだろうという範囲でやりたいことを行ってください。
 もちろん、ステータスやスキルを根拠とするプレイングも大歓迎です。
 また、マスターページも一読頂ければ幸いです。

 第2章は冒険編、第3章は集団戦(!)です。

 ご参加、お待ちしております。
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第1章 日常 『冒険者の店で大宴会!』

POW   :    肥沃な大地で育った肉料理で乾杯!

SPD   :    澄んだ清らかなる川や海で捕れた魚料理で乾杯!

WIZ   :    大自然の恵み!お野菜や果物で乾杯!

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🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

 香ばしい匂いが鼻腔をくすぐる。
 いや、くすぐるなどという表現では物足りない。それは屈強なドワーフに鳩尾を殴りつけられたような感覚。岩の如き拳と似た重く暴力的な香りで、ずどんと揺らされた身体には、もはや食欲という二文字以外残らない。
 腹がドラゴンの咆哮にも負けじと鳴る。ぐうるるるるると鳴く。
 まるで催促しているようだ、と隣席の男が思ったのも束の間。震源地たる冒険者の前に置かれた大皿は、竜への供物にさえ出来そうな程の大きな大きな肉を載せていた。
 町外れで育てた『イネリコ』なる豚らしい。オイシイネという穀物だけを食べさせ続けて丸二年。その肉はジューシーかつヘルシーですこぶる美味しいらしいが、飼育にかかる手間からこの酒場にだけ卸している、らしい。
 らしいらしいばかりでは話も箸も進まない。冒険者は箸、でなくフォークを取って肉に齧りつく。竜のように喰らいつく。
 行儀が悪い? そんなことは誰も気にしない。口に運べば“ほろほろ"と崩れて、雪解け水のように肉汁が溢れ出す。そんな肉の前で理性を保つなど無理だと、町の人々は皆知っているからだ。

 他方。老いた夫婦が向き合っているのは生魚を切って盛り合わせたもの。
 昔はこんなに新鮮なお魚なんて食べられなかったのよねぇとお婆さんが言えば、魔法冷凍技術が何とかと聞いたがのぅ、なんてお爺さんが返す。どうやらこの内陸部の町に魚を卸している商人は、鮮度の良い食材を運ぶべく色々工夫しているらしい。
 そして商人は、魚以外にも様々なものを届けているようだ。例えば――お爺さんが手に取った瓶。『セ・ウーユ』と刻印されたそれを傾けると、小皿に黒い液体が滴る。
 お婆さんが手を伸ばした小箱には『ワ・サービ』なる緑のペースト。ほんの少しだけ切り身に乗せて食べると、ぴりっとした辛さが魚の甘みを引き出す、とかなんとか。
 セ・ウーユは付けすぎると身体に毒と聞きましたよ。いやいやワ・サービも気をつけねば眉間を刺されたようになってしまうわぃ。などと言いながら、老夫婦は生魚をばくばくと食べる。
 柔らかな赤身は舌の上で蕩けるし、歯ごたえある白身は噛めば噛むほど甘みが増す。
 美味しいですねぇお爺さん。美味しいのぅお婆さん。そんな緩やかな会話とは対照的に、魚はもりもり減っていく。
 それを見守る看板娘姉妹の姉が、あんな風に歳とりたいわねぇ、なんて羨ましがっている。

 じゃあ俺なんてどうだい、と宣った青年が金属のトレイで頬を引っ叩かれた。
 どうやら頻繁に誘いをかけているのだろう。酒場中に笑いが起きる中、青年も大して気にしていない様子で頬をさすり。それから食事に戻る。
 彼が食べているのは――白いお皿にでーん、と鎮座する黄色くてぷるぷるした円錐台。
 同じものを描いたであろう、壁掛けの絵には『看板娘姉妹のお手製プリン』と記されている。
 プリンと聞いて想像するものと、殆ど同じものであるようだ。何やら色々な巡り合わせで、何処かから製法が伝わったのだろうか。
 匙を当てれば仄かな弾力。その可愛らしい抵抗に負けじと手を動かせば、呆気なく降参した塊は「これで勘弁してくれ」とばかりにぷるぷるの欠片を分けて寄越す。
 口に運べばとろんと溶けて。その甘さたるや、頬まで溶け落ちるのではと心配になるほど。
 おかげで、ただでさえ締まりのない青年の顔はゆるゆるになって、また看板娘(姉)に引っ叩かれる始末。けれど何度叩かれようとも味わうだけの価値が、その甘味にはあるようだ。

 ――さて。
 看板娘(妹)が席への案内をしてくれる。
 厨房からは料理長の大きな声も聞こえている。
 ぐるりと酒場を見回してみれば、とてもお腹が空いているような気がしてきた。
 何か食べよう。……何を食べよう?

==補足==
・上記メニューは一例です。食べたいものをご自由にどうぞ。
・甘いもの!とか辛いもの!という曖昧な注文の場合は料理長が適当に出します。
・カウンター席もテーブル席もございます。どちらも禁煙です。
鈴木・志乃
暴飲暴食の大義名分!!
こりゃー乗らなきゃソンでしょう!
(※下戸)

UC発動
ちょっと冒険に馴れてきた英雄志望の若者を装う【変装】
実際私この世界ではまだまだ新米だしね
(魚という魚とパンをあっという間に平らげていくが
途中でギブアップ
適当に大食いの人に声かけたりして)
わああ、凄いですねえそんなに食べられて!
だからそんなに筋肉がつくんですか?
色々教えて下さい、先輩!【礼儀作法コミュ力】
年上、先輩の冒険譚を訊いて目をキラキラさせる

私、群竜大陸に渡った勇者のお話に憧れてるんです
いつか私もそうなりたい
ここにもお話があるって伺いました
良ければ教えて頂けませんか?
(フルーツの盛り合わせ注文済)
【言いくるめ、優しさ】



 猟兵の使命の名のもとに。
 好きなだけ、飲み食いせよ、との事。

「こりゃー乗らなきゃソンでしょう!」

 ひゃっほう! と飛び跳ねるくらいの勢いで酒場に入る。
 彼女の名前は、鈴木・志乃(ライトニング・f12101)。
 普段は面白楽しく、しかし熱意をもって何かしら表現していたりする。
 けれど、今一時は英雄志望の若き冒険者。
 自らにそうした役柄を与えて、何やら屈強な戦士の横に座ってみる。
 注文は――ええと。

「魚! ……と、あとパン!!」

 だいぶざっくりとしていた。
 しかし、そこは“勇者のたまご”の懐の深さ(?)の見せ所。
 まずはパンだ。町の農家が作った小麦粉で、町のパン屋が焼き上げたという地産地消の塊は、外側堅めの中ふんわりで香り良し。
 それを親指の半分くらいの厚みに切って、鉄板に乗せる。
 焼き目がついたら、お皿に。
 香ばしくもほんのりと甘みを感じる匂いが、早くも志乃の食欲をそそる。
 メインディッシュはまだ来ていないが、しかし。

「……いただきます!」

 待て、は酷である。
 温かいうちに一切れ。パリッとした感触を噛み切るには少しだけ力が必要だったが、その硬さゆえに噛めば噛むほど小麦本来の甘みが滲む。
 美味し。これだけでも暫く行けそうだ。
 なんて思っていたら、魚も出てきた。
 塩胡椒と小麦粉をまぶした後、牛乳から分離させた脂肪分などの塊を使って焼く。
 それを炒めた野草と一緒にお皿に盛って。
 仕上げに刻んだ野菜と酢と卵を混ぜたソースをかけたもの、だそうだ。
 料理名は――何と言ったか。聞きそびれてしまった。
 いや、それよりも食べよう。
 ナイフとフォークを取って、一口。

「――――!」

 美味しい!
 パンとは違うカリカリ食感な表面。
 魚の身はふっくらとしていて、塩加減も絶妙。
 それに、ソースがまた合う。
 細かな野菜のシャキシャキとした歯ごたえが楽しい。
 濃厚だけれどさっぱりとした味わいなのは、卵と酢の共同作業によるものだろう。

「いやぁ、美味しいですね!」

 初対面の戦士と言葉も交わしてみる。
 志乃から醸し出される、どことなく優しげな雰囲気や礼儀を弁えてるっぽい姿勢が――それらはユーベルコードによるものだが、ともかく良い感じに作用して戦士は雑談に応じてくれた。
 話に花が咲けば、箸もといフォークも進む。
 志乃はあっという間にパンも魚も平らげて、堪らずおかわりを注文した。

 ◇

「……」

 止めておけばよかった。
 もう食べられない。でもまだ魚が残っている。パンも二切れくらいある。
 でも食べられない。けれど、自分から追加しておいて残すのは――ああ、配膳してくれた娘がちょっと訝しんでる。

「……あの」

 堪らず助けを求めた先は、すっかり打ち解けた戦士。
 色々喋っている間に鉄板で焼いた肉を飲むように食べていた彼なら、何となくまだ食べられそうな気がする。というかまだメニュー見てるし絶対行ける。

「もしよかったら……」

 などと言うが早いか、戦士はあっという間に食べ尽くした。

「わああ、凄いですねえそんなに食べられて!」
「何、戦士たるもの身体が資本だからな」
「ああ! だからそんなに筋肉も!」
「これか? そうだな、たらふく食べて斧を振れば、これくらいにはな」
「凄いです! あの、もっと他にも色々教えて下さい先輩!」

 私も、群竜大陸に渡った憧れの勇者のようになりたいんです!
 そう言って目を輝かせる志乃は、抜け目なく果実の盛り合わせなど頼んでみせる。
 勿論、自分で食べるのでなく。戦士を饒舌にさせる為だ。

「……仕方ないな。まず身体を鍛えるには――」

 やたら勿体振って話し始めた戦士を制す。
 聞きたいのは、それでなくて。

「ここにも、勇者のお話があるって伺いました」

 是非ともそれを……と、ひたすら上目遣いで懇願する志乃。
 戦士は苦笑いを浮かべながら、皿の果実を一切れ摘んで仕切り直す。

「勇者。勇者な。実は、この店が“勇者のたまご”と呼ばれている所以だが」

 それは、町から少し離れたところに聳える山と関わりがある。
 そうして語り始めた戦士の言葉を、志乃は一言一句逃さないように聞き留めた。

大成功 🔵​🔵​🔵​

紫谷・康行
打ち解けるには食事をするというのは悪くないだろうね
相手の出したものを食べると言うことは相手を受け入れると言うことだしね
それがおいしいものなら悪くは無い

あるかどうかわからないけど、ソードフィッシュかそれらしい魚のソテーを食べながらサイダー(りんご酒)が飲めればいいかな

俺の住んでいた船では魚は貴重品だったからね
こう言う機会に食べられたら嬉しい
ソテーには柑橘を搾ってかけられたら言うことは無いね

りんごは馴染みがあるから、飲めたら嬉しいね
爽やかな香り酸味のものがあればいいのだけれど

このあたりの名物を聞いたりしながらゆっくりできればそれが一番だね
食べ終えたら一言
「ごちそうさま。おいしかったですよ」



 見知らぬ誰かや土地と打ち解けるに、食事をするというのは悪くない試みだ。
 同じものを食べる、出されたものを頂く。
 それは歓待を受け入れ、共同体の一部に溶け込もうとする意志の表れでもある。
 ついでに、その食事が美味しければ尚良し。

「……さて」

 これは果たして美味しいのだろうか。
 紫谷・康行(ハローユアワールド・f04625)はテーブル席の片隅に腰を落ち着けて、今しがた届けられたばかりの料理と向き合っていた。
 ソードフィッシュのソテー。
 そう、確かに自分はそれを注文した。
 だってメニューに書いてあったのだから。まさかアックス&ウィザーズでもそのまま“ソードフィッシュ”と呼ばれているなんて思いもよらなかったけれど、しかし注文を取りに来た娘に確認してみれば「白身のお魚ですよ!」なんてはっきり答えるから、自分の想像と同じものが出てくるのだと信じて疑いもしなかった。
 そして今、目の前にあるのは――。

「剣、だね」

 ぼんやりと見たままを呟く。
 皿の上に在るそれは、剣の形をしていた。
 とても香ばしくて良い匂いで、新鮮な輪切りの柑橘類が添えられていて。
 けれども、幅広の剣の形をしている。
 ソードフィッシュ。なるほど。メカジキではなく、あくまでもソードフィッシュ。
 切り身なのに。……何故?

「お兄さん、食わねぇのかい?」
「……ああいや、魚なんてあまり食べないから、じっくり眺めていただけだよ」

 横からひょいと覗き込んできた大柄な男に答える。
 宇宙世界の生まれである康行にとって、魚と言えば貴重品。
 だからこそ、この機会に食べられたらと思ったのだが……。
 まあ、形が突拍子もないだけなのだろう。
 大男の反応からしても、これはこの町で一般的なメニューに違いない。
 それに、此処での食事の意味も先程考えたばかりだ。

「そろそろ食べないと冷めてしまうね」
「おうよ。うまいもんはあったけぇうちに食うのが一番だぜ」

 酒場の光景の一部として違和感のないように、男と言葉を交わしながら添え物の果実を絞る。
 爽やかな香りがふわっと鼻に届く。良い。
 最初は見た目に驚かされたが、そろそろ単純に楽しみになってきた。
 お味は如何なものか。一口大に切り分けて、ゆっくりと舌の上にまで運ぶ。

「……うん」

 これは紛うことなき、ソードフィッシュのソテーだ。
 間違っても口の中を突き刺したり、斬り裂いたりするような味ではない。
 焼く事で閉じ込められた旨味や脂の甘みが、ほんのり振りかけられた塩や、柑橘の果汁と一緒に口の中を泳ぎ回っている。それだけだとまるで秩序のないように聞こえるけれども、それぞれの風味はぶつかり合うのでなく、互いを引き立てている。
 その感覚を暫し楽しんだら、今度は小さな樽のような入れ物――エールジョッキに注がれた液体をぐいっと一口。
 途端にしゅわっと爽快な、それでいてぴりぴりとした刺激が訪れる。
 発泡性のりんご酒だ。これは想像した通りのもので、想像した通りの味。
 りんご由来の自然な甘さと、それをほんの少し上回る酸味がソテーの油分をさっぱりと洗い流してくれる。
 おかげで、ソードフィッシュも進む進む。

「気に入ったみてぇだな」
「……ああ、うん。とても美味しいよ」
「そりゃあ良かった。なんたって此処の料理長の腕はピカイチだからな!」

 まあ、他の店なんて知らねぇんだけどよ!
 そう言って、ガハハと男は笑う。
 どうやら彼は町の住人であるらしい。……それは、丁度いい。

「君は、この町の人かい?」
「おうよ。生まれも育ちも此処だぜ!」
「だったら、この辺りの名物なんて教えて貰えると有り難いのだけれど」
「名物? うーん、食い物ならちょっとはあるが……食ってる最中だしなぁ」

 ううん、ううんと男は唸る。
 それをのんびりと、魚を突きながら待つ。

「――ああ、そうだな。お兄さんみたいなのにはあんまり面白くねぇかもしれねぇが」

 屈強さとは無縁の康行を一瞥して、男は語った。
 町から少し離れたところに、竜の涙と呼ばれる場所があると。

「あぶねぇから、あんまり名所なんて言えねぇんだが」
「いや、よければもう少し聞かせてよ」

 皿を下げに来た娘に「ごちそうさま。おいしかったですよ」と告げて。
 ついでにりんご酒をもう一杯と頼みつつ、康行は男の話に耳を傾ける。

大成功 🔵​🔵​🔵​

ティエル・ティエリエル
WIZで判定

「料理長さん、料理長さん!!甘くて美味しいものよろしくお願いしまーす!!」

という感じに、フルーツ盛り盛りのパンケーキに大好物のハチミツをたっぷり掛けたものを注文しちゃうぞ☆
テーブルの上にぺたんと座ってパンケーキをもぐもぐもぐもぐ♪幸せそうに食べてるよ♪
飲み物は冷たいミルクを頼んじゃうね!牛乳飲んでおっきくなるぞー♪

その他、おすそ分けがあればどんなもので食べてみちゃうよ☆ばっちこーい!

※アドリブや他の方との連携も大歓迎です



 それは酒場に飛び込むなり、ぴゅーんと一直線で厨房へ。

「料理長さん、料理長さん!! 甘くて美味しいものよろしくお願いしまーす!!」
「……」
「……わっ」

 ゴブリンみたいな顔してる。
 そう思った途端、ティエル・ティエリエル(おてんば妖精姫・f01244)はちょいと摘まれて厨房から追い出された。

「――むむむ」
「ごめんなさいね。怖い顔だけど、悪い人じゃないのよ」

 配膳途中のお姉さんが苦笑いしながら言う。
 曰く、昼時の厨房は戦場、だそうだ。
 みだりに立ち入ると食材にされてしまうかもしれない、とかなんとか。

「むむむむ……」

 それにしたって、もう少し優しく扱ってくれても良かったのに。
 ティエルはテーブルにぺたんと座って腕を組み、頬膨らませて唸る。
 そうしていても一切怖くないどころか、珍しい客が来ていると人々は視線を注ぐ。

「むむむむむ……!」

 ボクは見世物じゃないんだけど! お姫様なんだけど!
 なんて言ったりはしないが、ティエルはひたすらに唸っていた。

 その声が止んだのは、小さな小さなお皿が目の前に置かれた瞬間。
 ふわりと甘い匂いがする。まだほんのりと温かいそれは、綺麗な丸をしている。
 厚みはティエルの小指くらい。見るからにふっくらふかふかで、二つ重なった上にはフェアリーが一口で食べられる程に小さく、そして均等にカットされた色鮮やかな果物が、まるで宝石のように散りばめられている。
 隣にはクリームの白い山。見事な円錐形の中腹からは、チョコレートソースが穏やかな川のようにとろーんと流れていた。

「……わ、わわわ……わあー☆」

 パンケーキの国だ。王国だ。しかもきっちりフェアリーサイズ。もう芸術だ。
 ティエルは両手を合わせて瞳を輝かせる。
 その興奮が最高潮に達したのは、おまけに置かれた小瓶を覗いた時。
 きらきらと美しく光る黄金色のそれは――ティエルの大好物。

「ハチミツだー☆」

 さっと手にとって、皿の真上から傾ける。
 たらりと垂れた蜜は、パンケーキの大地に染み渡っていく。
 もう我慢ならない。

「いっただきまーす♪」

 いつの間にやら置かれていたフェアリー用のナイフとフォークを手に、いざ実食。
 もぐもぐもぐもぐもぐもぐもぐもぐ。
 もぐもぐもぐもぐもぐもぐもぐもぐ。

「……えへへ☆」

 甘い。美味しい。幸せ。口に入れた瞬間はふんわりパンケーキなのに、噛んだ途端に染み込んだ蜜が溢れてしっとりパンケーキになる。
 盛り盛りの果実も瑞々しくて、甘みの合間に混ざる酸味が堪らない。それを食べてからまたパンケーキを食べると――甘い!
 あまりに甘くて両頬を押さえる。
 蜜の甘さにつられて落っこちてしまわないように押さえる。
 でも押さえてばかりはいられないから、そっと片手を離してからフォーク――ではなく『フェアリーさんお食事中』と書かれた旗の脇にある木のカップを取る。
 なみなみと注がれているのは、冷たいミルク。今朝の搾りたてだって。

「たくさん飲んでおっきくなるぞー♪」

 すっかり上機嫌のティエルはそんなことを言って、ミルクを飲み干す。
 観衆が物凄く生暖かい視線と微笑みを向けていたが気にしない。
 だって、今はパンケーキを食べるのに忙しい!
 あ、でもそのパンケーキの材料は、ちょっぴり気になるから聞いてみる。
 小麦粉とか卵とか、お砂糖、蜂蜜は行商人から仕入れたもの。
 果物も半分くらいは同じで、残りは町から少し離れた山で採るらしい。
 つまり、物凄く特別な材料を使っているわけではなくて。
 それでもこれだけ美味しいのは――。

「料理長さん、料理長さん!! すっごく甘くて、美味しい!!」
「……」
「……わっ」

 やっぱりゴブリンみたいな顔してる。
 だけどお料理、とっても上手なんだなぁ。あとすっごい器用なんだろうなぁ。
 なんて思っている内に、ティエルはまた厨房からテーブル席へと戻された。

 勿論、パンケーキは残さず綺麗に食べました。
 おまけに、試作品の“あいしくるん”とかいうのも貰いました。
 白くて冷たくて甘くて、暑い日にいいかもしれないと思いました。まる。

 ……何か忘れてる? 気のせいだよ☆

大成功 🔵​🔵​🔵​

九重・咲幸
ジャンクじゃない美味しいご飯が食べられる!?
手料理って感じのご飯は本ッ当にご無沙汰なのでうれしいです!

ポトフとかシチュー的な、なんかあったかいものが食べたいな
お肉とかお野菜をじっくりコトコト旨味がぎゅっ!て感じで…
くたくたになったキャベツとかブロッコリーとかおいしいですよね
大皿にどーん!みたいなミートボールとかもあるでしょうか
あっプリンあるんですか、えっ食べたい
マンゴープリン的なのあるかな……

なんかひもじい子みたいになってますけど
お財布の許す範囲で色々、食べたいな……
はー、お肉になっちゃう~

あっちゃんと情報収集的なこともします
話のタネに勇者の伝承についてですね
昔話聞くのもきっと楽しいですよね!



 美味しいご飯が食べられると聞いて!
 ――と、そんな感じで乗り込んできたのは、九重・咲幸(幽世の眼・f03873)。
 あちこちで色々な人が食べている料理の数々に胸が躍る。
 美味しそう。いや、あれは絶対に美味しいご飯だ。
 しかも美味しいだけじゃなくて、人が作った手料理って感じの温かみがあるはず。

「……そうだ。あったかいもの食べたいな」

 椅子に座って呟くと、まるでひもじい子供のようだ。
 お水を置いてくれたお姉さんが、凄く暖かい目を向けてくる。
 いえ、あの、ひもじくはないのです。多分。
 食べる前から心があったかくなるようなご飯が、久しぶりなだけで。

「あったかいもの……あったかいもの……あ」

 じっくりことこと煮込んだお肉とお野菜のスープ、なる一文があった。
 ……ポトフ? ポトフですね?
 もしポトフじゃなくても、たぶん限りなくシチュー的な何かとかですね?
 じゃあ、まずこれを。あとは――。

「イネリコ……アル、ボン……ディ……?」

 すごい名前だ。なんぞや。
 お姉さんが教えてくれた。イネリコなる豚の肉を丸めて煮込んだやつだそうだ。
 要するにミートボールですね! はいこれも――。

「あっ、えっ、プリン? プリンあるんですか!?」

 あるって。またお姉さんが教えてくれた。
 ダメ元でマンゴープリン的なのありますか、とも聞いてみる。

「マンゴー……?」
「あ、あの、黄色くて甘くてとろんとした果物を使って作る“プリンみたいなやつ”なんですけど……」

 途端に、お姉さんの気配が変わった。
 凄く鋭い目つきで此方を睨んでくる。……えっ、何かしましたか。

「……何処で聞いたのかしら?」
「えっ、あっ、あの……」
「まだ試作途中だから出していないのに。……ああ、さてはそこのろくでなしね」

 お姉さんが突っ伏している男を見やる。
 よく分からないけど頷いておく。
 はあ、と溜め息を吐いたお姉さんは、味の感想を述べる事を条件に“プリンみたいなやつ”を出してくれると言って厨房に消えていった。
 ――よし、万事解決。

 それからすぐに出てきたスープは、身体の奥底にまで染み渡る味だった。
 ちょっと煮込み過ぎじゃない? と思うくらいにたっぷりと火の通った葉物やら根菜やら、豚肉の腸詰め――つまりはソーセージやらの旨味が、スープの中にこれでもかと溢れ出してぎゅっと詰まっている。
 それを啜ってから、ほくほくのお芋とか、蕩けてしまいそうな野菜たちを掬って。
 外はパリッと、中はジューシなソーセージを摘んで。
 たっぷり堪能したら、今度は大皿の肉に手を伸ばす。
 アル……アルボン……まあいいや、ミートボールで。
 このミートボールも、トマトソースと相性抜群。
 噛めば溢れる肉汁は塩と胡椒をほんの少しだけ引き連れて舌を刺激する。
 ポトフが色々親切に教えてくれたお姉さんのように優しいとすれば、このミートボールは二つほど隣の席で物凄い量の肉を喰らっているドワーフみたいに、何というか、野蛮と言ってしまいたくなるほど暴力的。
 がつーん! と来るのだ。お肉が、お肉!! って感じで、直にぶつかってくる。
 ああ、ありがとう豚さん。美味しく育ってくれて。

「はー、私もお肉になっちゃう~……」
「あら、じゃあこれは要らないかしら?」

 優しいと思っていたお姉さんは意地悪だった。
 ぷるんぷるんの黄色い何かを乗せたお皿を持って遠ざかろうとしている。
 慌てて呼び止める。そのプリンは、私のだ!
 ……と、宣言してから少し青ざめる。
 たくさん食べてるけど――お代、足りるだろうか。
 なんて、そんな不安を見透かしたかのように、お姉さんは「サービスだから、感想よろしくね」と言って、マンゴープリン(?)を置いてくれた。
 すごい、ぷるぷるだ。
 一口食べれば、ポトフとミートボールで打ちのめされた味覚が癒やされる。
 甘くて冷たくて、あと口の中でも跳ねるようなぷるぷる加減が堪らない。
 綺麗な黄色に、ちっちゃな香草の緑色も映える。
 これは良いと。美味しいと。凄く美味しいと訴えておくべきだ。
 そうすれば、多分メニューに追加される。
 追加されたら、また何かの拍子に食べられたりする、かもしれない。

「――あっ」

 食べるだけ食べて、すっかり落ち着いてしまったところで思い出す。
 ご飯を食べるついでくらいでいいからと、頼まれた仕事。
 そう、情報収集だ。勇者の伝承についての。

「あ、あの――」
「よく食べるわねぇ。勇者様も大食らいだったって言うけど」
「えっ」

 意地悪かと思ったお姉さんはやっぱり優しかった。
 聞く前から聞きたいことに触れてくれるなんて。

「その勇者様って……?」
「ああ、この町に伝わる昔話なんだけれどね」

 そう切り出したお姉さん曰く。
 昔々、この“勇者のたまご”なる店が、まだ名前もない小さな料理店だった頃。
 山に食材を獲りに行く代わりに、ご飯を食べさせてもらっていた少年が居たそうな。
 その少年は後に勇者として群竜大陸に向かうのだが、それは置いておく。
 咲幸が聞き留めるべきは、他のところ。

「――その勇者様が一人前となる前から通っていたのと、山から卵をいっぱい取ってきてたから“勇者のたまご”っていうお店になったらしいわよ」
「その、お山って?」
「それは――」

 あっち、と窓の外を指差すお姉さん。
 示された方向を見やる咲幸の目には、うっすらとだが険しい山の姿が映った。

大成功 🔵​🔵​🔵​

火神・五劫
酒場の賑わいは好きだ
その土地の空気を楽しめるからな
どれ、俺も混ぜてもらおうか

※POW

鳥の丸焼きとサラダにバゲット
それに麦酒を注文しよう

どの料理も美味いが、特に鳥が気に入った
身が程よく引き締まり、香辛料が効いている
麦酒との相性も抜群だ

鳥と麦酒のお代わりを頼む
加えて、料理長お勧めの一品はあるかな?
そいつも追加でいただこうか
…ん、食い過ぎに見えるか?
『大食い』の俺にとっては、これくらいで丁度いいんだ

此処には現地の者が大勢いるようだな
もし良かったら、この地についての話を聴かせて貰えるだろうか
…かつて群雄大陸に赴いた勇者も
このように、食事を楽しんでいたのだろうか

※絡み、アドリブOK



 酒場とは。
 ともすれば、その土地の空気を一番楽しめる場所かもしれない。
 それは気風、と言い換えてもいいだろうか。
 美味いものを食って酒を呷り、肩の力を抜いて、他愛ない話をする。
 彼らの表情や態度、或いはふらりと立ち寄った旅人への視線などからは、様々なものを読み取ることも出来よう。

(「……どれ、俺も混ぜてもらおうか」)

 スイングドアを武骨な手で押しのける。
 魔物退治を生業にしているであろう、頑強屈強な者達が向けてきた視線を軽くやり過ごして、火神・五劫(送り火・f14941)はどっかと席に座り込む。
 注文するのは鳥の丸焼きとサラダにバゲット。

「後は……この麦酒を貰おうか」
「大きさは? ワイバーン級とか、一番大きいのだとドラゴン級とかありますけど」
「……ドラゴン級、だな」
「はーい。ドラゴンラガーいただきましたー!」

 快活な声を響かせて、給仕の娘(恐らく妹の方)が厨房に消えていく。
 ドラゴンラガー。なるほど。
 まさか竜すらも殺す、或いは大蛇を酔わせるくらいの樽で出てくる――なんてことはさすがになかったが、それでも充分な大きさ。小柄なフェアリーくらいなら収まってしまいそうだ。
 きびきびと働く娘は他の料理も手際よく並べていく。
 当然、一番目を引くのはメインディッシュたる鳥。まだ熱々のそれに手を伸ばした五劫は、ナイフとフォークを使って可食部を切り分けていく。
 どことなくサバイバルな雰囲気漂うのは、羅刹らしい鍛えられた肉体と厳しい顔のせいか。
 ともあれ、解体作業は滞りなく終わって。
 いよいよ実食。軽く頭を垂れてから、肉を頬張る。

(「……ふむ」)

 鳥、というのは世界を跨いでもそれほど変わらない生き物か。
 だからこそ味の批評もしやすい。パリッとこんがり焼けた皮の下、程よく締まった身にはしっかりと下味がついていて、香辛料にぴりりと刺激された舌先が麦酒を寄越せと催促してくる。
 その欲求に身を委ねて大きなジョッキを呷り、冷たくさっぱりとした喉越しで洗い流された味覚はまた肉を欲す。――まずい。これは罠だ。永劫に抜け出せない環だ。
 肉を喰らい、酒を飲み、肉を喰らい、酒を飲み――無限ループをどうにか中断すべく矛先をサラダに向ける。
 赤茄子に近いものであろう、一口大の実が目にも鮮やかで良い。少し固めの皮を噛み破った瞬間、ぷちっと割れて中から溢れ出す甘味と酸味は野菜というより果実に近い気がする。
 そんなものを味わっていると、また香ばしくも柔らかな肉が恋しくなる。ちょっと変化をつけてバゲットなんかに乗せてみたりすれば――おのれ料理長め、バゲットの一部に細かく刻んだ香味野菜でも振りかけていたか。より濃い味が雪崩込んできて堪らず麦酒を――。

「……む」

 いつの間にやら。空ではないか。
 逆さにしても一滴さえ落ちてこない。
 これは――。

「お代わりですか?」
「ん? ああ、頼む」
「はーい。ドラゴン二匹目でーす!」

 気が利くと言うべきか。それとも抜け目ないと言うべきか。
 他にも客は山ほどいて、給仕の娘は二人きり。
 にも関わらず、些細な仕草を見逃さずに注文を取る。

(「……出来るな」)

 空のジョッキと入れ替わりで現れた新たなドラゴンに目を落としつつ、五劫はさらに鳥の丸焼きまでも追加した。

 ◇

 二羽と麦酒と野菜とパン。それだけ突っ込めばさすがに腹も膨れる。
 けれども。さらにさらに料理長のお勧め、泡立てた卵白の中に黄身を落として焼く“ブレイブエッグ”なる町の伝統食までも平らげて、その食いっぷりの良さからおまけされた“あいしくるん”なる冷たい甘味も完食すれば、給仕の娘もトレイを抱えたまま目を丸くする。

「……食い過ぎに見えるか?」
「えっ!? あ、いや、よく入るなぁとは思いましたけど」

 たはは、と娘は笑う。
 それに“大食い”だからと身も蓋もない事を言えば――どうしたことか、店を入る時に感じた視線が近づいてきた。
 やがて両隣に腰を下ろしたのは人間とドワーフの男。どちらも戦士然とした風貌で、無言のまま鋭い眼光を浴びせてくる。
 対して、五劫はどちらを向くでもなく。しかしそれなりの量の酒も入っているからか、じわりと殺気を滲ませて――。

「兄さん、只者じゃねぇな!」
「どっから来たよオイ! オレにも一杯奢らせてくれや!」

 だーはっは! と笑い始めた彼らに、それは無用の長物であった。
 聞けば、この街の出身で冒険者を営む二人。強者の雰囲気を感じ取って暫く遠巻きに眺めていたところ、一人黙々と肉に向き合う健啖家っぷりが面白くなってしまい、堪らず声掛けてきたとか。
 もう一杯くらいいけるだろうよ! と勧められては断るのも気が引ける。
 厚意に甘えて乾杯。そして、これ幸いとこの地について訪ねてみれば、二人は五劫に是非とも寄ってもらいたいところがあると言う。

「町を出て、ちょっと行ったところにある山! あそこの天辺近くにある落石地帯は勇者様が修行した場所だって言い伝えでなぁ!」
「俺らぁ越えられなかったんだが、兄さんなら行けるんじゃねえかと思うわけよ!」
「……ほう」

 山だの修行だのと聞けば、多少なりとも疼くのは羅刹故か。
 ともすれば、この地に伝わる勇者も食事を楽しむ最中、こうして煽られて山に登ったのだろうか……などと思いつつ、五劫は二人からより詳しく話を聞くのであった。

大成功 🔵​🔵​🔵​




第2章 冒険 『急勾配の坂の上から』

POW   :    力技・肉体で解決を図る

SPD   :    速さ・技量で解決を図る

WIZ   :    魔法・賢さで解決を図る

👑11
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 猟兵達が“勇者のたまご”にて聞き集めた話をまとめると。

 “勇者のたまご”なる店名の由来は、昔々、後に勇者となる少年が通っていたから。
 少年は食材採集を生業にしていて、特に山の頂上から沢山の卵を運んできたという。
 その山は、町から少し離れたところに聳え立つ。
 天辺近くには落石地帯――通称『竜の涙』と呼ばれる場所がある。
 名の所以は、巨竜が泣いているのかというほど、大きな岩石が降り注ぐからで。
 それ故に、町の人々は山の麓で果物を採るくらいで、頂上まで登ることなどない。
 しかし、後の勇者は修行場としても利用していた、らしい。

 ――勇者に関わりのある場所ならば調べる他ない。
 猟兵達は一息ついてから、町を出て山へと向かった。

 道中は何事もなく。
 そろそろ頂上かという頃、どすんどすんと感じた揺れに「ああ、これが……」などと思いながら進んで見れば、傾斜のきつい坂の上から巨大な岩石が転がり落ちていた。
 それは本当に、ただの岩である。
 人間十人くらいなら纏めて潰せそうな岩である。
 幾らか間隔をおいて転がっているが――。
 さて、勇者の伝説をくまなく探るには、どうにかしてこれを越えなければなるまい。
紫谷・康行
山登り、それに修行
なら一人で登るかな
呼び出す術は使わずに自分の意志と言葉で
まずは落ち着くこと
しっかりと見極めること

周辺の地形を眺め、傾斜の具合や障害物などを見て
できるだけ岩が転がる動線にならない場所を選んで歩いて行く
加えていざとなったら岩をやり過ごせる場所があれば憶えておき
岩が転がってきたときに利用する

それでも避けられないようなときは【無言語り】を使い岩を無かったことにする
なにも丸ごと無かったことにする必要はない
角の一つを、表面の一部を無くせばいい
当たることを無かったことにするなら
岩の軌道を少し逸らすだけでいい
それは転がる途中の石一つでも
地面を少し削ることでもいい

「まだ涙はいらないからね」



 其処を楽に越えようとすれば。
 其処を早く越えようとすれば。
 他に幾つかの、いや幾つもの手段があるだろう。
 けれども、この登山が修行を兼ねていたと言うのなら。
 況してや、伝説の足跡を辿るという目的があるのなら。
 やはり、此処は一人で越えるべきだ。
 己の力のみで挑むべきだ。

 かくして、康行は転がり落ちる岩を見据える。
 言わずもがな、それは自身よりも遥かに大きい。
 真正面から喰らえばひとたまりもない。間違いない。
 その威力をより高めているのは山道の厳しい傾斜。
 壁、とまでは言わないが、しかし坂、では物足りない気もする。
 それくらいの急勾配だ。幸いなのは巨岩以外の障害がないこと。
 そして――。

「…………」

 どすんどすん、と身体の芯に響くような揺れが鼻先を通り過ぎていく。
 間一髪――ではなかった。
 一息ついた康行の居所は、山道の片側。切り立った崖の合間の窪み。
 巨岩をやり過ごすに適した、謂わば安全地帯。
 それは難所を前にしても焦らず、周囲を慎重に観察した成果だ。
 同じ様な窪みは他にも幾つか見受けられる。かの勇者が少年であった頃からのものか、時を経て新たに生じたものかは定かでないが、今は一先ず、この局面を越えるに利用できればよい。
 康行は次の巨岩が来るまでの間に、その安全地帯を渡っていく。
 そうして少しずつ、頂上へと迫っていく。
 その足取りは極めて順調と思われた――が、しかし。

「…………」

 あと僅か、というところで歩みが止まる。
 困ったことに、最後の最後で避難所が見つからないのだ。全速力で駆け上がれば或いは、とも考えはしたが、岩の落ちる間隔からしてギリギリ間に合わない。
 さて、どうしたものか。
 康行は暫し思索に耽る。
 頭を捻って――そして、窪みを出ると何をするでもなく坂を上がっていく。
 その佇まいは、裏を勘ぐりたくなる程に平然と、堂々としている。
 けれど、康行を襲うのは人でなく岩。無機物に思考する力はない。
 これまでと同じように落ち、転がってくる。
 ごろごろと。ごろごろと。
 迫る。
 それを、じっと見据えたままで康行は進む。

 ◇

 其処に誰か、第三者がいたとして。
 何が起きたか、と問われても答えられる事は少ない。
 ただ、事実をありのままに告げるならば。
 岩が急に軌道を変えた、と。
 そう言うしかない。

 そして岩に言葉を紡ぐ口などないのだから、真実を語れるのはただ一人。
 けれども、そのただ一人は真でなく虚を囁く。
 囁く度に、それは巨岩の角を、急坂の一部をほんの少しだけ消し去って。
 その些細な変化は“彼を圧し潰す岩”という存在自体を無かったものにしてしまう。

「まだ涙はいらないからね」

 真横を流れた岩には一瞥もくれず、康行は前だけを見やって呟く。
 彼の歩みを止めるものは、もう何も無い。

大成功 🔵​🔵​🔵​

ティエル・ティエリエル
SPDで判定

勇者様の情報を集めにきたんだったね、てへぺろだよ♪
それじゃあ、改めてお山の上にれっつごーだよ!
ついでに卵手に入れたら今度はオムライス作ってもらうんだ♪

「なにかごろごろ転がってきたー!」
転がってくる大岩を背中の翅で飛び上がって右に左にと「見切り」で避けていくね!
避けるのが間に合いそうになければ【スカイステッパー】で空中を蹴って加速だよ☆

岩の届かないもっと上空を飛んだら?そんなの修行にならないよね♪

※アドリブや他の方との連携も大歓迎です



 ティエルのように可憐な娘は、大概の物事を解決する魔法の呪文が使える。
 即ち。

「てへぺろ♪」

 よし、禊は済んだ。何のって? 皆まで言うな。
 それよりも、だ。
 いざ行かん、勇者を育んだと謳われし山。
 そして卵をゲットした暁には。
 あのおっかない料理長にオムライスを作ってもらうのだ!

 ◇

「――なにかごろごろ転がってきたー!」

 ティエルは慌てて引き返すと、脇道に飛び込む。
 そこからじっと様子を窺っていれば、巨岩が弾むように過ぎていった。
 危ない危ない。あんなものと衝突したら一巻の終わりだ。
 窮地を脱す(?)魔法の言葉「てへぺろだよ♪」も、無機物相手じゃ通じない。
 かといって、細剣片手に挑んでも勝負は見えている。

「むむむ……!」

 どうしたものか。
 難所を前にして暫く唸る。糖分をたっぷり補給した頭で考える。
 答えは三秒くらいで出た。
 そのついでに蜂蜜たっぷりパンケーキの味を振り返る時間は、四十秒くらいあった。

 ◇

 彼の町に語り継がれる勇者が、如何にしてこの難所を越えたかはさておき。
 質量、というものを武器に迫り来る脅威と相対して。
 此方も必ず力で立ち向かわねばならない、なんて道理はない。

「――ぴゅーん☆」

 勢いよく飛び出したティエルは、転がる大岩を華麗に避けた。
 翅というのは至極便利なものだ。
 大地から離れることの出来ない者より、舞台を広く扱える。
 右に左に、時には宙空を駆け上がるように蹴りつけて、流れる星の如く先へと進む。
 竜の涙、恐るるに足らず。
 素晴らしい翅を持って生まれたティエルには、この程度、大したものではない。

 ならば、いっそ大岩など届かない高みに。
 いや、最初から山の天辺に向かって飛んでしまえばいいのでは――と、誰しもが思いそうなことはティエルも当然考えた。
 そして実行しなかった。
 何故って、これは伝説の勇者にとっての修行であったはずだから。
 身軽さで躱すだけならともかく。
 裏道を抜けるような手段は、やはり相応しくない。

「そんなの修行にならないよね♪」

 きらん☆
 まだまだ余裕なティエルは大自然にも愛嬌を振りまく。
 場と空気と状況に対する理解のある、とても素直で良い娘だ。
 そういう娘には、きっと良いことが待っているに違いない。
 例えば――そう、美味しいオムライスとかだ。

大成功 🔵​🔵​🔵​

九重・咲幸
今考えても仕方がないですけど
どこから来て、どうして落ちてくるんでしょうね
巨人でもいるのかな…

どうやって切り抜けましょうか
物は試し、式鬼の五光にお願いして坂に迷宮を使って壁を作ってみます
レーンの様にカーブを付けて、岩の軌道にある程度方向性はつけられるでしょうか
全部受け止めるんじゃなく少しずつ溢れて落ちていくようにして
どのくらい止められるかはわかりませんけど
道を多重にして壁を増やせば少し時間は稼げる、かな?
とにかく迷路の壁を使って岩の軌道を読みやすくできたらいいんですけど…

あとはもう、ダッシュで登るくらいしかないですね
逃げ足で!岩を避けて!私飛べないので!
勇者さんも、そんな感じ登ったんでしょうか…



 考えても仕方のないことだと分かっている。
 けれど、咲幸は考えずにいられない。

「……巨人でもいるのかな」

 ごすん、どすん、と音立てて落ちる岩。
 まるで尽きる気配のないそれは、自然と呼ぶに不自然過ぎる。
 それこそ“何かが上から落としている”とでも言われた方が、まだ合点がいく。
 しかし、大岩の真実にしろ勇者の伝説にしろ。
 それを確かめる為には越えねばならない、この難所。
 どうやって切り抜けたものか。
 咲幸もまた、考える。思案する。

 そうして程なく。
 彼女は式鬼――五光を喚び出した。
 山道に似合わない、気品ある佇まいのそれは、坂に細工を施す。
 岩を受け入れ、その針路を僅かに曲げて、咲幸には辿り着かせず、彼方に流す。
 呪力を源とする迷宮。大岩の衝撃にも耐える強靭な仕掛け。
 目論見通り、それは脅威を除けていく。

「……でも、いつまで止められるか……」

 暫く見守って、早々に崩れる気配はなさそうだと感じたが、しかし。
 何もかもが解決されたと思うほど、咲幸は楽天的でなかった。
 大岩は人を十人ほど纏めて圧し潰してしまいそうなもの。
 対する壁は強固であっても無敵ではない。
 いつか、いつか必ず破られる。
 そうなる前に。

「走るしかないですね!」

 咲幸は慎重だが、臆病ではなかった。
 仕掛けによって操作された大岩の進路を避けて、走る。
 障害の解決にこそ知恵と術を用いたが、後はとにかく走る。
 走る。ひたすらに走る。
 何故ならば。
 咲幸には翅などない。有るのは二本の足だけ。
 足は空を飛べない。足は大地を駆けるしかない。
 だから走る。心臓破りの急坂を懸命に走る。

 そうして己の体力の限界に挑むような最中、咲幸は思った。
 伝説の勇者も、こんな感じで山道を登ったのだろうかと。
 だとすれば――だとすれば、だ。
 勇者になれるかどうかはともかくとして。
 間違いなく、身体は鍛えられる。

「――此処で、鍛え、たいとは、思いません、けど」

 咲幸は頂上に至って、ぜぇぜぇと肩で息しながら言った。

大成功 🔵​🔵​🔵​

火神・五劫
なるほど、竜の涙とは言いえて妙だな
ここを行き来して卵を運ぶとは…
勇者の素養があったゆえにできたのか
それとも、それだけの修練を積んだからこそ
勇者へと成ったのだろうか

調査に来ていることは忘れてはいない
空を飛んで行く方が早いのだろうが…

※POW

この光景を前にして力を試さずにいられるか!

真正面から岩を受け止め
【鉄腕】で『怪力』任せに持ち上げよう

上から新たに岩が転がってくるタイミングは
『見切り』『第六感』で把握

岩を持ち上げたまま、別の岩を避けたり
いくつ持ち上げられるか試したり
人のいない方向にぶん投げてみたり
存分に修行しながら、先に進んで行くとしようか

※連携、アドリブOK



 なるほど、と五劫は唸った。
 竜の涙。急坂を転がり落ちる巨岩は、正しくその名に相応しい。
 彼の町に伝わる勇者とやらは、此処を行き来して卵を運んでいたという。
 しかも、まだ少年の頃からである。
 ……俄には信じがたいが、しかし事実だとすれば。
 それは、後に勇者となるほどの素養を秘めていたが為か。
 それとも、この難所の往来こそが、少年を勇者へと鍛え上げたのか。

「…………」

 仮説に与える材料を探しつつ、やがて五劫は天を仰ぐ。
 青い。そして視界の端には山の天辺と思しきものも映る。
 彼処に向かうだけならば、炎翼翻して一飛びが最も効率的だろう。
 そうしてはならない、とも伝えられていない。
 ――だが、しかし。

「……試さずにいられるか!」

 これは大自然そのものから課せられた、謂わば力の試練。
 ならば、真正面から挑む他になし。
 五劫は雄叫び上げて巨岩を迎え撃つ。
 武器とするのは己の身体、両腕のみ。
 その逞しい腕で岩を――受け止める。
 そして、持ち上げる。投げる。
 力の方向を反転させられた塊は、後に続く大岩と打ち当たって砕け、崖下に散る。

「まだまだ――!」

 坂を駆け上がって、再び迫る岩に片腕を打ち込む。
 まるで鉄杭の如く強靭なそれは、質量で遥かに勝る塊を物ともせずに引っ張る。
 そうして大荷物を抱えたまま、五劫はさらに先へと進んで。
 もう一本の腕までも岩へと叩き込むと、二つの塊を高々と持ち上げてまた走る。
 己に流れる血をまざまざと見せつけるかのように、口元をにぃっと歪めて。

「――――!!」

 歩みは止めないまま、両腕を振る。
 塊の一つは、今しがた落ちてきたばかりの巨岩へ。
 もう一つは、これから落ちてくるであろう巨岩へ。
 殆ど同時にぶつかって、全部纏めて明後日の方向に。
 道が開ける。
 もはや予知の域に近い神業を可能としたのは、昂りに釣られて冴える第六感か。
 ともかく、修練の鬼と化した羅刹は、岩如きで阻めるものではなく。
 脅威を力で捻じ伏せた五劫は、頂上でそれなりの充足感を得ながら、額を拭った。

大成功 🔵​🔵​🔵​




第3章 集団戦 『ランダム・エッグ』

POW   :    いないヨ!ここにはいないヨ!
自身と自身の装備、【殻から出ている体の一部が触れている】対象1体が透明になる。ただし解除するまで毎秒疲労する。物音や体温は消せない。
SPD   :    これでもくらエ!
【高速で飛ばされた卵の殻】が命中した対象を切断する。
WIZ   :    助けテ!
自身が戦闘で瀕死になると【自身が擬態していた生物の成体】が召喚される。それは高い戦闘力を持ち、自身と同じ攻撃手段で戦う。
👑11
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 猟兵達は各々の強みを存分に発揮して、頂上へと辿り着いた。
 其処は円形で、中心に向かってほんの少しだけ凹んでいる。
 すり鉢状、と呼ぶのは躊躇うくらいの、なだらかで広い空間だ。

 勇者の伝説に連なるようなものは――特に、ない。
 例えば鍛錬の痕跡だとか、風化した剣だとか。
 不思議な力を授けてくれる精霊だとか。
 そういったものは見当たらない。
 在るのは――卵だ。とても大きな卵。
 人間の半分くらいだろうか。猛禽の類ではなさそうだ。
 ……もしや、竜?
 俄に焦燥を感じて見回すが、親竜の気配もない。
 どうやら竜の卵でもなさそうだ……。

「――いないヨ!」

 ……?
 猟兵達は互いを見やる。
 誰かが喋ったのかと思ったが、どうにも違う様子。

「いないヨ!」

 音を辿って、全員の視線は一箇所に集まる。
 卵だ。それは、とても大きな卵――。

「食べられないヨ! ちがうヨ! ちが――だめダ! バレてるナ!」
「おめーが喋るからだロ! どーすんだヨ!」
「かくなるうえはとっちめるしかないヨ!」
「とっちめル? なまぬりーゼ! 殺セ! 殺セ!」

 ――卵じゃない! オブリビオンだ!
 そう認識した途端、山頂のあちこちから卵型の魔物が飛び出してくる。
 どの卵も顔や瞳は見せようとしないが、ひび割れから覗く手足は竜のものと似て。
 その先に備わる鋭い爪よりも強烈な殺気が、殻の内側から滲んでいる。
 これでは調査どころでない。
 この珍妙かつ大量のオブリビオンを、どうにかしなければ――!
紫谷・康行
卵か、いつからいるのだろうか
その中にあるのは未知、と言うことになるのかな
中身を見れば答えに近づく、と言うわけじゃなさそうだけど
倒さないことには始まらないか

【射貫く声の黒雲ズカード】を呼び出し卵達と戦わせる
自分は攻撃しない分、状況を見極めることに注力する

相手は数が多いのだし、固まっているあたりに雷を起こし
貫通すれば複数に当たるタイミングを見計らって水の槍を撃つ
卵に詰め寄られたら雷で牽制
倒しに行くときは卵の重心を狙って水を撃つ
円を描くように移動したりして卵達が一カ所に固まるように動き
ある程度固まったところを見計らって攻撃する

相手の行動パターンや隙が無いか見ていて何か気付いたことがあれば仲間に伝える


ティエル・ティエリエル
SPDで判定

「あれが勇者様の採ってた卵?うーん、なんだか違う気がするね!」
だって、あの卵じゃ美味しいオムライス作れそうにないしね♪

高速で飛ばされた卵の殻をひらりひらりと「空中戦」と「見切り」を使って避けて、卵に近づいていくね!
卵に近づけたら殻は固そうだから、殻を鎧に見立ててひび割れから覗く手足を狙って「鎧無視攻撃」だよ♪
チクチク攻撃して手足を引っ込めたらちょっと怖いけどひび割れを狙って【妖精の一刺し】でどかーんと突撃だー☆
妖精の一刺しは卵の殻をも割るんだよ!

※アドリブや他の方との連携も大歓迎です



 いつから此処を根城にしているのか。
 その中に詰まっている未知諸共、殻を割ってみれば詳らかになるだろうか。
 分からない。けれども倒さねばならないことは確かだ。
 そして、倒せば分かることも……あるのかもしれない。

「ヤーザの海に漂い――」
「……うーん?」

 唱え始めた途端、傍らから飛んだ疑問符に康行は言葉を止める。
 視線を移せば、妖精が首を傾げていた。

「何か気になることでもあるのかい?」
「……あれが、勇者様の採ってた卵?」
「……違うんじゃないかな」
「そうだよね! やっぱり違うよね!」

 よかったぁ、とティエルは胸を撫で下ろす。
 その頭に浮かんでいるのが、ふわふわ卵のオムライスであることは――さすがに康行でも見通せまい。
 だが、別段支障もない。疑念を払った妖精が細剣を構えたのを見やって、自らも杖を握り直すと、再び唱える。

「――射貫く声を持つ黒き雲ズカードよ――」

 敵を、討て。
 明確な意思で結べば、途端に青空を厚い雲が覆い、強い風が吹き付けてくる。
 ズカード。嵐より生まれ、怒りと悲しみを司る雲の精。やがて康行の側で形を成したそれは、挨拶代わりに一発、卵の魔物の特に寄り集まった辺りへと、雷を落とす。

「うギャー!?」
「逃げロ! 逃げロ!」

 辛うじて直撃を逃れた幾つかが叫び、円形の戦場の方々へと散っていく。
 哀れな姿だが、しかしそれらはまだ動けているだけ幸せというもの。
 落雷をまともに浴びた卵などは真っ二つに割れて――その中身が何であるかを猟兵に悟らせる前に、泥のように溶けていく。
 ……結局、この魔物は何なのか。
 骸の海より現れたオブリビオンの一種、と言ってしまえばそれまでだが。

(「…………」)

 精霊を喚び出した後は口を噤み、状況の把握と間合いの維持に務めていた康行は、忽然と肌を撫でた気配に振り返る。
 其処には――。

 ◇

「――ドラゴン!?」

 さすがに、ティエルも叫んでしまった。
 それが居ないことは確かめたはず。
 卵より遥かに大きな身体からして、見落としたなんて事も有り得ない。
 一体、何処から……?

「……助けテ……助けテ!」

 ふと、割れた卵の鳴き声が耳に入る。
 途端に“二匹目が湧いた”のを見やると、ティエルもそれとなく理由を察した。
 少し惚けた感じの杖持つ青年――康行がしたことと、多分似たようなものだ。
 声、音、言葉。それらを通じて、此処に無いものを喚び寄せる術、或いは魔法。
 だからなのか、ドラゴンはドラゴンのようでいて、しかしよくよく見てみれば微妙に違和感を覚える形をしていた。
 ワイバーン、とも違う。一番適当なのは“ドラゴンもどき”だろうか。

「……後ろ、来るよ」
「ふぇっ!?」

 俄に真剣味を帯びた忠告で、咄嗟に翅を動かせば卵の殻が通り過ぎる。
 それは戦場の端にある岩場を削り、彼方へと消えていく。

「あ……ありがとー!」

 直撃していれば、などと考えるのも恐ろしい。
 驚愕混じりで礼を伝えれば、惨劇の芽を摘んだ康行は無言のまま杖を上げた。
 そして青年は、そのまま竜もどきへと向き合う。
 当然、加勢するべきかとは頭に過るが――しかし。

「それなら、ボクは!」

 ティエルは敢えて竜もどきから離れ、卵の処理に取り掛かる。
 そちらを倒し尽くしてしまえば、竜もどきだって喚ばれまい。
 まずは手始めに、殻を飛ばしてきた卵からだ。
 翅を全力で動かしてぎゅーんと、けれど風に舞う木の葉のようにひらりひらりと。
 空を行く間には殻が幾らか飛んで来るが――来ると分かっているなら、そんなものは脅威でない。
 細剣を振るうまでもないことだ。翅の僅かな動きで前後左右と高低の全てを使って、あの巨岩と同様に悉く躱してみせる。
 そうして間合いさえ詰めてしまえば、続けざまに狙うは一つ。

「えいっ! えいっ!」

 卵からはみ出た手足に、ぷすりぷすりと細剣を突き立てる。
 たとえ殻が強固な鎧の代わりだったとしても、其処は全くの無防備。
 守りを無視できる箇所が目の前にあって、それを突かない理由はない。
 ひたすらに刺す。刺す、刺す刺す刺す。
 いテッ! なんて情けない悲鳴が漏れ聞こえて、伸びていたものが引っ込む。
 殻に籠もられては――しまった。手出しが出来ない。
 ――なーんて、そんな事はない。
 向こうはピンチを脱したつもりかもしれないが、これはチャンスだ。

「いっくぞー!!」

 くるりと宙返りで勢いつけて、ティエルは細剣を構えたまま卵のひび割れへと突っ込む。
 くしゃり、と軽い音に僅かな手応えが返る。そのままどかーん! と突き抜ければ、卵は粉々になって――またどろりと溶けるように消える。

「どうだー!」

 千丈の堤も蟻の一穴から。堅固な殻も妖精の一刺しから。
 ティエルはこれ見よがしに薄い胸を張って勝ち誇る。
 そして――飛んできた新たな殻から逃れるべく、高度を上げる。

「ちくしょウ! また外れダ!」
「ばかやろウ! 当たるまでやるんだヨ!」
「くらエくらエ! これでもくらエー!」
「むむむ……!」

 一つ割ったのに二つ増えてる気がする。
 これだから群れというのは面倒だ。しかし、根気よく割っていくしかない。
 ティエルは細剣を構え直して、次の狙いを定め――。

「うギャー!?」

 突撃を掛けようかとした寸前、視界に入れていた群れはまるっと何かに貫かれて爆ぜた。
 唖然としつつも、残骸から力の源を辿っていけば――其処には雲の精。
 どうやら、竜もどきも存外早く片付いてしまったらしい。卵狩りに戻ってきた康行は口を噤んだままで遠目の間合いを保ち、敵を一網打尽にする機会を窺っている。

 ◇

 ――それならば、と。
 ティエルは身軽さを活かして康行の対角を飛び回り、まるで牧羊犬のように卵を追い立てた。
 突撃を警戒した卵達が、殻を飛ばしながら少しずつ寄り集まっていく。
 そうして固まればどうなるかは、先程知ったばかりのはずだが。
 学習出来ないのは、それらがまだ卵だからか。

「……ズカード」

 短い呼び掛けで雲の精霊は動き、群れを水の槍で穿つ。
 今度は竜もどきを喚ぶ暇もない。一撃で仕留められた卵が崩れるのを見やって、向こうの妖精からも声が上がる。
 この調子だ。数は多くてうんざりするが、無限に湧き続けるものでもあるまい。
 康行は尚も敵の動きを注視しつつ、妖精の動きで纏められた敵に落雷と水槍を浴びせていく。
 その度に聞こえる奇っ怪な悲鳴の数は、着実に少なくなっていった。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

火神・五劫
随分と生きのいい卵だな
しかし、卵料理に使うには些か不向きだろうか
一先ず、こいつらを大人しくさせんことには
じっくり探索できそうにないな

基本、敵の動きを『見切り』
『武器受け』からの『カウンター』で返していく
可能なら仲間も『かばう』ように動くぞ

鉄塊剣に『怪力』も乗せた『鎧砕き』の一撃を入れていこう
これに耐えきれるだけの強度が、卵の殻にあるだろうか
もしあるならばきっと、良い素材に成り得る
持ち帰りも検討しよう

だが、姿を消されてしまっては面倒だな
かくなる上は【ブレイズフレイム】だ
剣に炎を這わせて『なぎ払い』
周囲を纏めて焼いて『料理』してしまおう
まあ、食えるかどうかは分からんが

※連携、アドリブOK



 何処に潜んでいたのやら。
 あちらこちらから湧いて出てきた卵の群れは、此方を取り囲むようにしながら頻りに「殺セ! 殺セ!」などと鳴いている。
 何とも活きが良い。
 それは結構だが、しかし料理の材料として使うには、些か不向きだろうか。

「……新鮮であれば良いと言うものでもないだろうしな」
「なーにぶつぶつ言ってんだヨ!」
「ぶっ殺すゾ! このやロー!」

 いやはや。活きは良いが口は悪い。
 何者に育てられたのか。何に産み落とされたのか。
 ともかく黙らせないことには、どうしようもなさそうだ。
 さて――。

「殺す殺すと血気にはやるのは結構だが」
「ああン!?」
「貴様らの殻で――耐えきれるか?」

 ぐしゃり。

「……ぎ、ぎエー!?」

 素っ頓狂な叫びが響くと、群れは潮が引くようにして五劫から距離を取った。
 ただ一つ、逃げ切れなかった卵が足下で蠢いていたが、それも僅かな間。
 岩をも砕く剛腕。その手で振るわれる大剣。
 どちらとも、どちらをも凌ぐに足りなかった卵は、欠片も残さず叩き潰される。

「……期待外れだな」

 強度次第では何かの素材にでもなるかと思ったが。
 これでは何の役にも立たない。
 腕試しの相手にもならない。木人でも叩いていたほうがマシだ。
 そうと分かったならば――後は、一刻も早く片付けるのみ。

「容赦はせん!」
「……あ、お、び、ビビってんじゃねーゾ!」
「オラー! 喉笛掻っ切ってやラー!」
「死ネー!!」

 幾つかの卵が一斉に飛び跳ねる。
 殻からはみ出た、竜もどきの手足で器用なものだと感心しないこともないが――しかし。

「――――ッ!」

 半身に構えて伸びる凶爪を躱し、僅かに遅れて来た卵を剣の側面で受けて。
 両足を杭の如く大地へと叩きつけたら――全ての力を腕に込めて、振る。
 ごうっと、それこそ竜の羽ばたくような音がしたかと思えば、横薙ぎの一閃に巻き込まれた卵達は皆々砕けて散り、骸の海へと還っていく。
 全く、口ほどにもない。
 しかし実力は如何にしても、オブリビオンであるならば一欠片とて見逃せない。
 五劫は次を求めて辺りを見回す。
 その視界に――卵の姿は一つも映らない。
 あれほど威勢よく吼えて、もとい鳴いていたと言うのに。
 すっかり怖気づいてしまったらしい。
 それなら――それならば、だ。

「一匹残らず、炙り出してやろうか――!」

 怪力にて振るう大剣ばかりが五劫の武器ではない。
 ともすれば、その刃よりも真なる刃。
 五劫を五劫たらしめる闘志の本質は此方に――屈強な肉体より噴き上がる、紅蓮の炎に在る。
 それを一時、剣に託して薙ぎ払う。
 どれだけ巧妙に隠れていようとも、無ではないのだ。
 その熱波に耐えられるはずは、ない。

「――ぐエー!?」
「いなイ! いないヨ! いないってバ!」
「ばっきゃろーおまエ! もうバレてんだヨ!!」

 また口々に喚きながら、透明化していた卵達が姿を晒す。
 生焼けで如何ともし難い臭いだ。
 しかし完全に火を通したところで、今度は泥のように溶けるばかりだろう。

「……そもそも、其処までして食いたいとも思わん!」

 どうせ食うなら美味いものが良いに決まっている。
 登山と戦闘で乾いた喉に、今こそドラゴンラガーが欲しいなどと考える余裕も窺わせつつ、五劫は炎と大剣で卵を潰していく。

大成功 🔵​🔵​🔵​

九重・咲幸
視界に坂道のない拓けた景色って、山登りの後だと壮観ですねー
びみょーにすり鉢状になってるのはなんででしょう
火山とかそういうのでも多分ないですよね
うーん、転がってきた岩は結局どこから…?

いや、そうじゃないですね、今は
お住まいに上がり込んじゃったのは申し訳ないんですけど
ごめんなさいと帰るわけにも行かなくてですね
あっ、交渉の余地なしな感じですね?
うーんそっかーー

でも戦ったりは少し苦手なので
身を守りながら、他の皆さんの回復等をがんばります
一陣、今日もお願いね
頼りにしてるよ

そういえば卵ってことは成体もいたり…?
うわ! なんかでてきた!

終わったら一応
どこかに手がかりが埋もれてないかとか
そういうのも探しますね



 大きいばかりで風情も面白みもない岩。
 何者をも歓迎する気はないと言わんばかりの急坂。
 それらを越えて辿り着いた天辺からの景色は、中々に壮観。
 咲幸はぐっと身体を伸ばしつつ、深く呼吸する。
 ――うん。悪くない。
 勿論、何もかもすっきりとした訳ではなく。
 例えば山頂の微妙なすり鉢加減だとか、竜の涙の真相だとか。
 解決していない、或いは新しく湧いた疑問もあるが、しかし。

(「……ぼんやりと考えてる場合じゃなさそうですね」)

 遠く、彼方に向けていた視線を現実へと戻す。
 其処には卵があった。とても大きな卵だ。
 あの岩に比べれば随分と小さいが、けれども卵としては間違いなく大きい。
 その卵が――とても、強い敵意を放っている。

「なにジロジロみてんだヨ! このやロー!」
「ぶっ殺すゾ! オラー!」
「……ええと、あの」

 卵なのにやたらとおっかない。
 実は強面のお兄さんでも入っているんじゃなかろうか。
 ――と、横道に逸れていても仕方ない。

「あの、ですね。お住まいに上がり込んじゃったのは大変申し訳ないんですけど、あの、此方もごめんなさいと帰るわけにも行かなくてですね」
「ああン!? ナメてんのかコラー!!」
「構わねエ! ぶっ殺セー!」
「あっ、交渉の余地なしな感じですね?」

 取り付く島もない、とはこういう事か。
 卵だけど。しかも割れてて、中身はみ出てるけど。
 それでも、これは魔物。オブリビオンだ。
 やらねばやられる、そういう相手だ。

(「うーん……そっかー……」)

 困った。千切っては投げ、千切っては投げの大立ち回りなど得意でない。
 得意ではないというか、うん。苦手。少し苦手。
 一匹二匹ならまだしも、群れを正面から相手取るのは……厳しい。
 しかし自ら口にした通り、謝罪と命乞いでもしながら逃げ帰るわけにはいかない。
 どうするべきか――と、俄に思案を始めた瞬間、過る不安。

「……そういえば、卵ってことは成体もいたり……?」
「ぎゃおーん!!」
「うわ! なんかでてきた!」

 喚びました? くらいの感覚で湧いたそれは、恐らく咲幸の想像通りのもの。
 少し離れたところには「助けテ!」なんて頻りに喚いている卵がいた。
 大方あれのせいだろうが――しかし、状況は大変よろしくない。
 何か、どうにか。考えた末に、咲幸はひとまず式鬼を喚び出す。

「一陣、今日もお願いね」

 そう声掛けた相手は、咲幸よりも遥かに小さい。
 膝下くらいしかないのではなかろうか。
 それは長い髪と和装を柔らかな所作で動かしつつ、香炉をふぅと吹いて戦場に煙を漂わせた。
 咲幸に代わって卵を退ける為――ではなく。
 その煙は、方々で卵相手に奮闘する猟兵を癒やすもの。
 そうして猛者達を陰ながら支えつつ、咲幸は――自分の身を守る。
 一陣を働かせているせいか、耐え凌ぐだけでも尋常ならざる疲労に襲われたが、どうにか他の猟兵の厄介にならず済んだのは、きっと半端に攻めかかろうとしなかったからだろう。

 ◇

 そうして暫くすれば、卵の群れも無事に駆逐された。
 喚き立てるものが消えて、随分と静かになった山頂を改めて調査してみるが――。

「……うーん」

 咲幸は唸り、溜め息を吐く。
 見つけられたのは、酒場への土産になりそうな本物の卵が数個。
 これが勇者の持ち帰っていたものなのか。
 はたまた、単なる自然の成り行きで置き去られたものなのか。
 どちらとも言い切るだけの材料はない。
 結局、伝説は伝説のままだ。

 しかし、真実が詳らかになることが、正しく幸いであるとは限らない。
 かつて~であった、と。
 町の人々が、伝聞を酒の肴にしている現状が一番丁度いいのかもしれない。
 そんな事を考えつつ、猟兵達は卵を持って山を降り始め――。

「……あれ?」

 急坂を幾らか進んだところで、咲幸はまた首を傾げる。
 大岩が――落ちてこない。
 どういうことだろうか。謎が謎を呼ぶが、しかし。
 登山と戦闘をこなした後だ。此処から新たな冒険へと臨む時間も余力もない。
 猟兵達は謎と卵を抱えたまま、一先ず町へと帰るのであった。

大成功 🔵​🔵​🔵​



最終結果:成功

完成日:2019年07月06日


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