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断罪の暴風

#ヒーローズアース #愚者の迷宮


●Paradisaeidae
 彼は。
 かつて、暴風を操ってヴィランを断罪したものだった。
「ジョーシキ的に考えてさァ」
 ヒーローズアース、某日。
 彼は、突然現れてはその暴虐の限りですべてを等しく殺したのだった。
 あたりにはまだ余韻のある風の通り道や、恐らくそこにいたのだろうヒトからの血しぶき。
 えぐるような爪痕が建物内の廊下に刻まれては、彼の怒りと、そしてかつての正義を生々しく刻んでいるのだった。
「犯罪者だッつって、こんなトコで生かしてまで反省させたいかね?」
 そう、ペストマスクの向こう側で語る彼がいるのは『愚者の迷宮』。
 魔法使いの時代において造られたこの完全な牢獄は、体力の弱い人間を衰えさせ、ヒーローもヴィランも世界の恩恵を扱うことはできない。
 それを可能にする叡智が、この迷宮にはあった。
 ――まったくもって、反吐が出る。
「ビョーキなんだよ、お前ら。全員だ」
 そう、極彩色の彼が語れば黒のボディスーツが揺れていた。
 嘲笑って――彼の手に握られる、四角の叡智が鈍く輝いている。

●Corvidae
「ヒーローズアースで事件、です。あのっ、お、おあつまり、いただいて、その。ありがとうございます」
 ブリーフィングに集まってくれた仲間たちに、こそこそと蚊の鳴くような声でまず、礼を言うのはヘンリエッタ・モリアーティ(犯罪王・f07026)だ。
 こうして皆を案内する回数は増えたと言えど、グリモアベースの仲間たちと話すのはどうにも緊張するらしい。
 彼女の周りを蜘蛛の巣型のグリモアがゆったり浮遊しては、急に落ちたり、また浮上したりを繰り返す。
「あの、あああの、あの、事件の、お話を、しますね」
 緊張からうまく舌がまわらず、乾燥した指では皆に資料を配るのも難しい。
 何度か胸に抱いたコピー用紙の束を一枚一枚めくろうとして、見かねた猟兵たちに手伝ってもらいながら――資料を配り終えたのだった。
 やはり、小さな声であるから。
 自然と猟兵たちが円陣を組むようにして、彼女を中心に話を聞くことになる。
「『愚者の迷宮』を御存じでしょうか。ひ、ヒーローズアースの……牢獄、なのですけれど」
 猟兵たちに資料として配られたコピー用紙を、ヘンリエッタも見つめてみた。
 ――『愚者の迷宮』
 かつて、ヒーローズアースにおいて今やメジャーとなったヒーローやヴィランがまだ数少ないころの話である。
 人類が発祥し文明を繁栄させながらもひそかに、陰で作られたこの建造物は「牢獄」だった。
 ――臆病な悪徳教授、曰く。
 この地下迷宮においては、ヒーローもヴィランも、ユーベルコードを使用できないのだという。
 また、人間においては衰弱してしまうこともあるほどのものらしく。
「あ、で、でもっ、皆さんは大丈夫、です。私たち猟兵は、これの影響を受けないので」
 少しどよめいた猟兵たちには、どうか安心をと思い小刻みに震えながらも声をかけてから続ける。
「『愚者の迷宮』は世界各地にあるのですが、……今はもう建造方法が不明のようですね。この仕組みは、建造時代の方法によるものなので――」

 つまりは、魔法。
 犯罪者やヒーローたちの牙や爪を封じるための魔術が、ここには張り巡らされているのだという。
 そして、今回猟兵たちが赴くこの『愚者の迷宮』にはキューブ型のオブジェクトがあった。
「それが、奪われてしまいました」
 神妙な面持ちで話を聞く猟兵たちに、確かに聞こえるようにヘンリエッタが告げる。
 囚人となり日々を鬱屈にしながらも刑を全うすべく生きていたヴィラン達に、魔法の効果がなくなってしまい――大規模な、脱獄が始まってしまうのだ。
 猟兵たちにも、その惨状は想像がしやすいだろう。
 抑えつけられた衝動の行く先は、平穏に暮らす一般人たちに降りかかる。
 往く場のない気持ちは、きっと誰かにぶつけられては赤い水風船を割ってしまうがごとく酷いことになる。
「ただ、ヴィラン達はオブリビオンではありません。――凶悪であっても、捕縛を」
 ヘンリエッタが、今度こそはしっかりとした声で猟兵たちに願った。
 くるりと円陣の中心で一度、向きを変える。
「まず、皆さんには脱獄したヴィランの捕縛をお願いします。もちろん、逆に言うならば――殺さないのであれば、どうしても大丈夫です」
 真っ黒な前髪が垂れて、ヘンリエッタの顔に影を色濃く残す。
「次に、『愚者の迷宮』に入っていただきます。最深部では、オブリビオンが魔力を吸収しています」
 過去の叡智を吸い上げるオブリビオンが、この事件において黒幕である。
 それが時間稼ぎのために配下を猟兵たちに仕向けてくるのだ。
「最終目標は、オブリビオンの討伐とキューブ型の魔術稼働装置の奪還です」
 猟兵たちが勝利し、オブリビオンから叡智を取り上げて元の状態に戻す。
 そうすれば、魔力の流れは元に戻り――また、正常に『愚者の迷宮』は機能を果たすことが出来るようになるだろう。
 今回の概要をあらかた聞き終えた猟兵たちが頷きあって、円陣の中心にいる彼女に向き直った。
 頼もしい面々に、ヘンリエッタもまた困り眉をしたまま微笑んで。
「どうか――……法も秩序もない世界になってしまう前に、助けてください」
 無法地帯と化した都市へ向けて、赤黒いグリモアを起動した。
 猟兵たちならば、この世界を救える。人々に平穏と、罪人には鉄槌と更生のチャンスを与えられることを――祈って。

「いってらっしゃい、猟兵(Jaeger)!どうか、ご武運を」


さもえど

 五度目まして、さもえどと申します。アメコミ世界すきなんです。
 今回はヒーローズアースでの事件になります。

●構成
 一章:冒険(フラグメントの行動は一例です)
 『愚者の迷宮』の力が弱まり、脱獄した囚人たちが暴れております。
 これにより市民たちもヒーローに不信感を抱き、混沌とした状態になります。
 二章:戦闘(集団戦)
 『愚者の迷宮』内部に入っていただき、オブリビオンが時間稼ぎに放った配下たちを打倒します。
 三章:戦闘(ボス戦)
 ボス戦になります。迷宮の最深部で魔力を吸収している途中ですので、討伐してください!
 皆様のプレイングで物語がいかようにも展開すればよいと考えておりますので、ぜひご活躍のほど宜しくお願い致します!
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第1章 冒険 『ヒーロー反対運動』

POW   :    一喝。市民を叱り強引にでも止める。

SPD   :    話術。ヒーローの正当性を主張し市民をなだめる。

WIZ   :    説得。悪いのはヴィランだと市民に気付かせる。

👑11
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●CHAOS
 爆炎、破壊、そして殺戮。
 平穏無事にヒーローたちに護られていた市民たちが、予期せぬ脱獄囚たちに畏れ慄き逃げ惑っていた。
「だれか、だれかァッ!!!」
「ンで――ヒーローきてくれないんだよッッ!!」
 都市のヒーローたちは集結できていた。しかし、あまりにも『愚者の迷宮』から脱獄した囚人どもの数が多い!
 ビルが一本倒れればドミノ倒しのように他のビルを傾けてしまい、まるで予定調和の如く惨状を招く。
 あたりを舞う血と煙、そして日常の名残がするものたちが虚しく平穏の終わりを告げる。
 まるで、世界破滅のボタンを押したがごとく、都市が破壊の限りを尽くされていくのだった。 
「かは――はは、はははははッッ!!!」
                       ・・・・・
 嗤う囚人どもは、己どものなすが儘やりたい儘に我慢した分だけ暴れ狂う!
 殺人、放火、強盗、なんでも――なんでもいいのだ。彼らにとって、今できることはなんでもいい。
 手あたり次第に守られていたがために戦う術も、人の殴り方も知らないような命へと暴力を叩きこむ。
 今の彼らにとっては、歩いているものすべてが獲物だった。
 
 あの極彩色の彼が言ったのだ。

「どォせここに居ても死刑か終身刑デショ?待ったなしだッて。じゃア、『みんなで死んだほうが、よくね?』」

 そうだ、そうだとヴィランたちはお互いに頷きあう。
 どうせ罰される命ならば、誰にも理解してもらえないならばそれでいいではないか。

 己 ら が 満 足 す る ま で 多 数 派 を 痛 め つ け れ ば い い 。

 燃え放たれた炎が巻き上げられて、建物たちに炎を広げていく。
 あたりを地獄の様相に変えてもなお、ヴィランたちはまだまだ止まれないのだ。
 この惨状は、ヒーローたちの手が足らぬことによる失態である――と市民たちも震えながら逃げ惑う。
 
 何が、ヒーローだ。
 何が、ヴィランだ!

 そこに在るのは、紛れもなく「いきているもの」の悪意であった。

***

(フラグメントの行動は一例です。)
(ヴィランを捕縛、または市民たちを説得して防衛するなどアイデアをいっぱい使っていただいて問題ありません。)
(このようなヴィラン、このような市民・ヒーローに何かをしたい。等ありましたら文字数の限りで指定下さい。)
(皆様のカッコイイプレイングを楽しみにお待ちしております。)
レイニィ・レッド
我儘放題で気に入らねェ

さて…問答といきましょう
――アンタらは正しいか?

ビルの上からよォく状況を確認した後
『クロックアップ・スピード』
一般人に襲い掛かる悪を優先して
足の腱をブチ切って
身動きできねーようにしてやります

目立たなさを活かし物陰を渡り
崩壊する瓦礫さえも足場に
街を飛び回って
複数の悪どもを無力化して回る
ちィっとばかし肺が軋みますが…まァ今更ですね

――、おい
テメェらはまだ繰り返すのか?
その在り方が、今のテメェをそうさせてるって
いい加減気付けよ
己の頭で考えろよ

頭の悪ィ奴は嫌いなンすよ

繰り返しますが
自分は正義でも何でもねーので
一般人の方々は死にたくねーなら逃げて下さいね
時間くらいは稼いでやりましょ



● Answer Red.

 喘鳴。
 喉元をざらついた痰まじりの呼吸がしつこく付きまとって、不快感が付きまとう。
 涙と鼻水でぐしゃぐしゃになった顔をして、必死に逃げている市民たちの中には絶望と希望がひしめき合っている。
 誰かがなんとかしてくれる、誰かにいつも助けてもらっていたじゃないか。
 彼らはそのために――働き、給金から税金を裂いて、無条件に英雄たちを称えてこの平穏を守ってきたのだ。
 ――ヒーローは、何してるんだよ。

 誰かが泣きはらした顔で血まみれの子供を抱いて、うずくまっている。
 それを視界に入れた誰もが、怒りとあきらめと、絶望を理解した。
 燃え盛る都市はいたるところで警報が鳴り響いていて、どこかでガラスが割れれば血潮が滴るばかり。
 助けてと泣き喚く女性とそれを追いかけるヴィランがいて、まるでここは草食獣の群れを襲う肉食獣どもの――狩場になっているではないか。
「どうして――どうしてっ、たすけてよ。助けてよォッ!!」
 ヴィランに襲われていた女性が、足をもつれさせて転倒した。
 それを眺めるばかりで、どうにも足がすくんで助けに行くことも出来ない市民たちがいる。
 誰も、ヒーローも、そうでないものも助けてくれない――。
 滲む視界に、歪に笑うヴィランがいるのだ。ぎらぎらとした瞳はこれまでの抑圧を語っている。
 彼らのやりたいことは、自己表現だ。それが例え、人道から外れていたとしても――そこが問題なのではない。
 ようやく獲物にありついて、我慢した己を解き放った彼らが止まることなどはないように、また近くでビルが爆発を起こした音がする。
 先ほどまでオフィスであったのだろうそのビルが、炎と共にコピー用紙を火種に変えて窓から放つのを背景に女性が――己の終わりを悟った。
 
 抵抗をやめたその一瞬である。

「問答といきましょう――アンタらは正しいか?」

 そのフレーズは、ヒーローズアースにおいてたった一人のダークヒーローが扱うものだ。
 ぱちりと、女性が絶望に満ちた瞳に希望の灯を点せば彼女を組み敷いて蹂躙しようとしていたヴィランが鮮血を放って横に吹っ飛んでいった。
 女性のオフィス制服がどす黒い赤で塗りたくられていくのを、『赤ずきん』が悠々と見下ろしている。
「我儘放題で気に入らねェ」
 吐き捨てるように――事実、彼にとっては今のこの状況が現実であってはならないものでもあったからだ。
「レイニィ・レッド(Rainy red・f17810)……!」
 存在の極めてあやふやな存在であった、噂話の正体である彼が今此処に現れた!
 女性に挨拶をするわけでもなく、己を知っているのならば説明は余計であると言わんばかりに神経質に切りそろえられた金髪の前髪を一度風に晒してからまた、深々と頭巾をかぶる。
 
 レイニィ・レッドは先ほどのオフィスビルが爆発するまではそこでこの惨状を見定めていたのだ。
 世界が正しいと思うことよりも、彼においては「彼の中で正しいか」どうかが優先される。
 ――この混沌とした惨状が、正しいかどうか。
 今一度猟兵である前に、己で判断を下した結果であった。
 飢えた肉食獣が草食獣を襲うのは仕方があるまいが、あいにく――襲われているのは獣でない。
 『クロックアップ・スピード』を起動して己の速度を上げれば、それを叩きこんでやるのに手間はかからなかった。
 斬りつけた裁ちばさみが確実に獣の脚を動けないように切り裂いた感覚は、掌によくよく残っている。
 確かな感覚と共に、鋼にまとわりついた血を手で拭えば投げ捨てるように地面に赤を散らしたのだった。
「レイニィ・レッド、あれが……!?」
「なんでもいい!俺たちを助けろよ、仕事だろっ!?頼むよ!」
 ――まだ、この場において。
 表情こそには出さなかったが、ヒーローとしてこの場に現れた赤頭巾に求められるのは、民意からの絶対正義だ。
 わあわあと口々に、餌を求める腹をすかせた鯉のように赤頭巾に当然だとばかり救援を求める彼らの声が、この赤には耳障りでしょうがない。

「――、おい。テメェらはまだ繰り返すのか?」

 ぴしゃりと、赤が口から零した言葉は刃物よりもずっと鋭い。
 彼は、確かにヒーローではあるが、ダークヒーローなのだ。
 己の正義のために生きているのであって、民意の為ではない。何なら、今この場において彼の「規則」から逸脱してみれば――一般市民であれど、「対象」になってしまう。
 面倒なことは避けたい。
「その在り方が、今のテメェをそうさせてるっていい加減気付けよ」
 民衆たちを見てみる。
 流血の酷いものもいるが、二本の脚でまだ立てているしおそらく興奮しきった脳が麻薬を出しているのだろう。さほど痛みも気になっているわけではなさそうだった。
 むしろ、この戦場において「まだ」ヒーローを頼ろうという余裕があるのだから、赤頭巾の彼にとっては情けないばかりである。
「助かりたきゃ己の頭で考えろ」
 二本の脚があるなら、まだ走れる。
 まだ助かろうと頭を働かせて、逃げるために戦うことも出来るはずだ。
 死にたくないというのならその手ほどきをしてやるが、「助けてもらいたい」など――宣うにはまだまだ早い。
 
 呆然とする市民たちがお互いに顔をみやって、先ほどのことを思いだしている間に彼はまた指を鳴らして高速の世界へと旅立っていく。

 二、三度壁を蹴ってから上空へ浮遊し――それから急降下で市民たちにわざと「見えるように」ヴィランの脚を再起不能にしていく。
 赤を纏いながら、なおのこと紅い瞳で訴えた。
「繰り返しますが、自分は正義でも何でもねーので。助けてやりはしません。まだ、アンタら動けるでしょう」
 救助の優先度が低い。だから、自立しての避難を促させる。
「ここから2ブロック先の病院、非常口から入れます。死にたくねーなら駆けこんで、逃げてください」
 有名な医大が先ほどから避難所になっているのは、ビルの上から平等に世界を天秤にかけていたかれだからこそ分かった事だった。

 泣きながら子供を抱きかかえて、頷いて真っ先に走ったのは――頭から擦り傷の血を垂れ流しながらも決意を宿した若い両親たちだ。
 自分たちから助からなければ、助かる命も助からないのを彼らが赤の言葉によって証明した。
 それにつられて、数名が。そして、また数十名が泣いて震えてばかりいるのをやめて――駆けだす!
 尻もちをついていた先ほどのオフィス衣装の女性にレッドが再び、向き直る。

「自分は、――時間くらいは稼いでやりましょ」

 肺が軋む。それでも、――彼が彼の規則において「正義」である限りは、命を尽くさねばなるまい。
 気道に赤の味がにじみ、鼻から繰り返す呼吸にはやはり鉄のにおいが混じる。
「レイニィ・レッド」
 折れたヒールをまず脱ぎ捨てて、破れたタイツすら気にしないように女性がゆっくりと立ち上がった。
 この瓦礫だらけの地面を走るのは、恐らく足の裏が血まみれになるだろう。だけれど、――命さえ、あればいい!
「ごめんなさい!教えてくれて、ありがとう!」
 礼を言われるようなことでもないだろうにと赤が一度、深く息を吐いて指の音と共にまた高速へ旅立った!

 ――勝手に、感謝してんじゃねーですよ。

 取り残された言葉が、今は市民の勇気となる! 

大成功 🔵​🔵​🔵​

エレニア・ファンタージェン
…酷い逆恨み
正に迷える仔羊達、かしら

とにかく無秩序なのはダメね
個別に守るのは手間だもの
第六感で安全そうな建物を見極めて、手近な市民をまとめて避難させる
入口はエリィが守るわ

UCで技能を強化
「エリィの声を聞きなさい」
声を張り、存在感を誇示
「恨むのは後回し。生き延びたければエリィに従うのが賢いわ。…そうでしょう?」
後で幾らでも恨めば良いわ
諭す声音に誘惑、言いくるめ、催眠術の全て織り込んで語りかける

人が集まればヴィランも寄ってくるかしら
追う手間が省けて何よりよ
【千年怨嗟】の亡者の手で殺さない程度に生命力吸収して拷問具=ジベットに押し込む

「運が良いわ、貴方達。
教授が言うから殺さずにおいてあげるわね」


プラシオライト・エターナルバド
血の臭いと煙が激しい場所へ
念動力で飛んで降り立つ

暴れるヴィランは
エレノアの閃光弾で動きを封じて
トリックスターで確保

火災が激しい所は
アメグリーンを改良した消火弾を撃つ

最優先行動は、市民の安全の確保と心のケア
怪我人はこちらへ!
【生まれながらの光】を放ち、市民の怪我を癒す
疲労はアメグリーンの回復薬を飲んで対処

皆様、私の光が、声が届きますか
私はヒーローではありません
ですが、同様の力を持つ者…
この事件を解決するために、これから敵地へ向かいます
こちらに、回復薬がございます
どうか、怪我人を見つけたら、飲ませて差し上げて下さい
ヒーローだけでなく…皆様のお力が、必要なのです

協力者へ薬を手渡し
必ず、守りますからと



●STRAY SHEEP

 子羊たちが、悲鳴を上げては泣いてばかり。
 ――時は、赤頭巾の彼が己の規則のために戦うよりも少し前になる。
 多くの市民たちがヒーローに「裏切りだ」と言って逃げ惑い、ヴィランたちがそれに煽られて悪戯に命を刈り取っていくのを白くそして煌めく彼女らが見定めていた。
「酷い逆恨みだこと」
 呆れたように言うのは、エレニア・ファンタージェン(幻想パヴァーヌ・f11289)。
 無秩序に、そしてでたらめに掻きまわされるのは市民の心のみではない。
「落ち着いてください!避難に従って!」
「うるさいッ!お前らがもっと、もっとちゃんとしてれば――」
 彼らを護るべく、平和の象徴すらかき乱されているのだ。

 エレニアがあまり視界に入れたくなかったのか、目を細めてじとりとその様を見る。
 不快感を隠すことがないのは、この場において彼女はひどく冷静だったからだ。
 ――少し考えれば、わかることなのに。    エリィ
 人間であっても、そうでなくても。たとえそれが神であっても認識とういうのは齟齬がないはずだ。
 不満と恐怖をヒーローに訴えて無駄な仕事を増やすくらいなら、黙っていた方が賢明であるのは明らかだったがどうやらそれで人間と言うものは落ち着かないらしい。
 
だから人は幻覚に頼ってしまうのだけど。

 人々の破滅の様を懐かしむように見ながら、どうしようかと考えるエレニアのそばにふわりと降り立ったのがプラシオライト・エターナルバド(かわらないもの・f15252)だ。
「あら、シオさん。いらしてたのね」
「エレニア様――あなたも、お元気そうで」
 嗚呼、やはり今日も美しくそしてきれいであるなと――お互いを認識するふたりは、まさにこの場に相応しくない。
 まるで昼下がりにお互いの服を自慢しあうような落ち着き払った貴婦人のようにも見える。
「あ、あんたらッ、何を悠長に!」
 二の腕には切り傷。そして膝小僧をすりむいたのかジーンズに黒い染みがにじんで歩きづらそうに二人に近寄ってくるのだ。
 血なまぐさいものに慣れているエレニアと同様に、プラシオライトもその様に表情を変えることはなかった。
 むしろ、プラシオライトのほうがずっと――無機質だったかもしれない。
 観察者たる彼女が、目の前の事件とその被害者を十字の聖痕で記録しいるのだ。
 ある種、機械のようでありながら尚且つ、生きている宝石人形であるからかろうじて、「痛み」というものには共感できた。
 ――己のやるべきことは、容易に理解できる。
「そうだわ、『悠長』にしちゃってた。エリィ、穏やかなのが好きよ」
 思いついたように両の手を合わせて、白い彼女がころころと。
 傷を負った彼と、その後ろでがたがたと震えては恨めしそうにこちらを見る市民たちに微笑んでやる。
 ス ト レ イ ・ シ ー プ   エリィ
 守られるばかりの羊たちには、羊飼いが必要になるのだ。

「『……エリィ、何だかワガママを言いたくなってしまったの。』エリィの声を聞きなさい」

 織り交ぜるのは、神からの明確な啓示であり命令である。
 ひりりとその場の空気が張りつめたのは、紛れもなくエレニアの神性によるものだった。
 【阿芙蓉の雫(オピウム・レメディ)】に乗せられたエレニアの言葉は、まるで人々を惑わせる幻惑の煙のようである。
 耳から、鼻から、どこからでも染み渡るように声に魔力を乗せて、白は彼らを導くのだ。
 一々一人一人を説得していては埒もあかない。だから、これは――正当な洗脳なのだと言わんばかりに。
「恨むのは後回し。生き延びたければエリィに従うのが賢いわ。……そうでしょう?」
 赤の瞳がまるで子供に叱りつけているかのように語る様を、隣でプラシオライトも記録する。
 この後はどこに誘導しようかとミントグリーンの体を揺らして、あたりを見回してみた。
 傷ついた人々には――にんげんには――病院と言う施設がもっとも必要であると、その情報が語る。
「エレニア様、あちらに病院が」
「まあ、渡りに船だわ!今日は素敵なことばかりね」
 予期せぬ友人との仕事の相席、それから、本当にたまたま偶然「使えそう」な施設に巡り合えたことにエレニアは上機嫌だ。
「でも――」

 集まった人間の数は多い。
 ぞろぞろりと集まった羊を狙う狼どもがまた、その数を増やしてしまうのも功績の後付けであった。
 しょうがないとはわかっているけれど、とエレニアが一度ため息をついたのを見てプラシオライトが己のやるべきことを把握したように叫んだ。
「先行します、皆様!こちらへ!」
 そういいながら生み出したのはアメグリーンである。
 消火弾がわりにと生み出された鉱石は、プラシオライトが撃ち込んでゆけば――火を上から薙ぐようにしてその場に平和をもたらしていくのだ。
 最優先事項は満たされた。
 エレニアがその行動を赤の瞳で見納めてから――ぞろぞろと己の横を通り過ぎて、翠に導かれていく羊たちに襲い掛かろうとする一匹の黒い狼を見やる。

 目がすっかり充血していて、それから呼吸も荒い狼だった。
 ――かわいそうに。
 エレニアが感じるのは、憐れみとそれから、侮蔑だ。
 ただならぬエレニアとの接触を恐れたのか、狼は少し距離のある場所から羊たちを襲おうと駆け出す!

 だから。
      ジベット
 その腹を、吊り篭がとらえて――狼の短い悲鳴と共に『元居た場所』まで吹き飛ばしてやる。
 砂煙と衝撃のあまりで地面にひび割れを残しながら何度かバウンドしていく一頭の狼を見て、ぞろぞろとあたりに潜んだ狼が何事かと出てくる。

「運が良いわ、――貴方達」

 穏やかに、しかし口許の笑みと瞳だけは真っ赤である。
 まるで、燃え滾るような赤は彼女の怒りを表しているかのようでもあったのだろう、そこらで燃えている炎よりも紅いことを感じた狼たちがおのおのの牙を構えた!

「教授が言うから殺さずにおいてあげるわね」 

 満ちる、怨嗟。ぐにゃりと黒の腕たちが湧いて――炎をも貪るのを、狼たちは目の当たりにすることになる。

 さて、ところ変わって。
「どうやら、大きな病院だったようです」
 見つけたときはビルの上に挟まれた看板のみで全容と言うのはわからなかったがプラシオライトが羊たちを無事、大学付属の病院まで届けたのだった。
 各々抱きしめ合いながらひとまず安全を喜ぶものと、医療の心得があってここなら皆を治療できるかもしれないと準備を始めるもの。
 エレニアの煙がかき消えたところで、人間の順応性というのは早いものである。
 助かったと分かれば、――無理をしかねないものでもあったかどうかも、プラシオライトが考えていた。
 ならば、この後己がすべきことが何かは自ずとわかる。

 部屋の中を、翠の光が覆った。
 穏やかな発光だ。目を細めなくとも染みないような光が真っ白い壁紙や淡くスモークピンクを塗られた床に染み渡る。
 
「皆様、私の光が、声が届きますか」
 ――プラシオライトがヒーローではないことは、誰もが見ていればわかることだった。
 果敢にヴィランに食って掛かるようなこともなければ、「圧倒的なユーベルコードの保持者」である。
 市民たちが知り得るヒーローたちが持つものよりもより強力な回復魔法は、まるで本当に――女神か、天使か、そのたぐいのものに感じられた。
 【生まれながらの光】。
 プラシオライトが色違いとなった今ですら、聖者の恩恵を扱うことはできる。
 翡翠の発光に、若干紫がまじりあっているのを見ながら――続けた。
「この事件を解決するために、これから敵地へ向かいます」
 建物の外で、轟音と共に短いうめき声が聞こえた。
 美しき彼女もこうして戦っているのであれば、プラシオライトも己が役目を果たさねばならない。
 体の奥がだるくなってゆく、光を発光する――すなわち、誰かを癒していく分だけ疲労を伴うが、気にしてはいられない。
 己の髪を数本抜けば、たちまちその鉱石がどろりと溶ける。
 おお。と感嘆する市民を置いて。空中に浮遊する己自身を視る。
 それを、市民たちの目の前で掌にすくって飲んでやった。
「こちらに、回復薬がございます。どうか、怪我人を見つけたら、飲ませて差し上げて下さい」
 たちまちに翡翠を取り戻したプラシオライトの色違いの瞳が、薬の正確さを語る。
「ヒーローだけでなく――皆様のお力が、必要なのです」
 ただし、これを呑むときは肝に銘じよと言いたげに。
 ヒーローだけでは、猟兵だけでは本当に市民を救済するに至らないのをプラシオライトもまた知っていた。
 頷いて、市民たちが協力体制をとる。
 プラシオライトの髪の毛から生成される癒しの薬をビーカーや、余っていた紙コップなどに入れて重篤なものに渡していった。
「必ず、守りますから」
 薬を手渡しながら、協力しようと動く彼らにも傷はあるはずだ。
 だから、プラシオライトが声をかけてやる。その声に強く頷く彼らの瞳には、ちゃんと――希望が宿っているのを記録した。

「シオさん、片付いたわ。新しい救助者たちも連れてきたの」

 からっとした太陽のような声でエレニアがその場に合流できたのは、ほどなくしての事であった。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

アレクシア・アークライト
◎★△
どんな能力があるのかも分からない奴らを捕まえろだなんて、正気なのかしらね。
捕縛なんか狙っていたらそれだけ被害が大きくなるわよ。
この世界じゃ、凶悪な現行犯でも射殺しないのかしら。
私達に権利がないってだけの話なら、警察でも軍隊でも何でもいいから撃てる人に来てほしいわ。

……いいわ。
私達は部外者。この世界の人達が街の人達の命よりもヴィランの命を重視するなら、そうするわ。

・力場を展開し、ヴィランの位置や動きを把握。
・念動力で足に関与して転倒させ、破壊活動を抑制。
・人間のヴィランの頸動脈を念動力で締めて失神させ、逆関節に極めて縛る。

・建物等に対し【温度操作】での消火や【時間操作】での復元を試みる。


壥・灰色
おれは、ヒーローにはなれない
『魔剣』として生まれた以上、正義の味方とはほど遠いものだ

けれども、今のおれには偶発的に発生した自我がある
だからこそ、混沌に喘ぐ市民達を見捨ててはおけない

『今まで我慢してきたから』『この上悪逆を尽くしてもいいと』
おまえらはそう言ったな
どうせ死ぬなら周りを巻き込んで、共々に死ねばいいと

我慢も何もあるものか
塀の内側に入ったのも
死刑を待つ身になったのも
全ては自分の業だろうに

それ以上の勝手は、先ずおれを殺してからにしろ
――出来るものなら

壊鍵、起動
装填、侵徹撃杭

一般市民を襲うヴィラン目掛け、殺意を込めた『衝撃』の弾丸が迫る

おれはヒーローじゃない
手加減なんて、期待してくれるなよ



●Genocider

 血煙ばかりが、あがっている。
 人が助けてくれてとわめいてはその叫んだ声に救済がたどり着くよりもずっと早く屠られた。
 声を上げれば撃たれまいとわかりつつも、声を上げねば抵抗を表せない。
 最後の最後まで、救いと平穏を望んで絶望が放った悪意によって、目の前の命は蹂躙される。

 壥・灰色(ゴーストノート・f00067)の足元に転がる、歩きたてであろう幼い少女の遺体が、彼にただただ現実を突きつけた。
 ――おれは、ヒーローになれない。
 灰色は、自覚をより深めていった。
 彼は『魔剣』として生まれてきたのだ。
 何もかもを屠り、何もかもを砕くための武器として生まれた命である。
 だが、世界に選ばれた彼は――たまたま『自我』というものを手に入れた。
 最初は、その自我に戸惑った。今も同じだ。
 己の体が人造のものであるからなのか、そうでないからなのか。
 胸の内に熱くそして苦い何かがあふれ出すのは、魔術回路が焼き切れたからだろうかなどを考えて己のエラーを計算する灰色には――まぎれもなく。
 彼には、演算(こころ)があったのだ。
 血も死体も見慣れたはずだった。だというのに、この足元にある死体にはやはり演算が狂う。
 まだ柔らかな頭蓋が、あどけなく黒髪を二つに結っている。
 柔らかな黒髪を縛るのは、暴力の後ですすけてひび割れたフンシーな髪留めだ。
 きっと、これが好きだったのだろうと灰色が悟るのは、そのゴムが少し伸びているように見えたからだった。

 どるる、と灰色の中で獣がうなる。
 もとより彼は人間でないから――魔剣も獣も、大差があるまい。
 演算が狂った彼の脳がはじき出すのは、ただただ破壊の命令のみである。
「『今まで我慢してきたから』、『この上悪逆を尽くしてもいいと』おまえらはそう言ったな」
 彼の声帯機能は狂っていないようだった。ぎちりと軋む包帯まみれの腕が、抑制と理性の緩みを語る。
 腕から、青白い発光が始まった。

 灰色の周りで面白そうにそのさまを見るヴィランたちは、恐怖などを抱かない。
 彼らとてヴィランである、灰色のように人造的に作られて「体が発光する」程度のものなら、何人でもいるし――徒党の中にも確かにいたのだ。
「なァッ!あいつ、お前みたいだぜッ!?」
「ふざけんなバーカ。俺の割にゃあ細すぎる」

 げらげらと笑い出すヴィランたちに、もう一度灰色が――警告する。

「どうせ死ぬなら周りを巻き込んで、共々に死ねばいいと」
 灰色は念のために、確認をとったのだ。
 己の正確さをはかりたいがためだった。
「そうだよォ、だったらなンだってんだ、オイ。立ってねぇでかかってこいよォ!」
「ヒーローごっこなんてやめとけよ兄ちゃん、ソンしかしねーぞ」
「同じ『人造人間』どうし仲間に入れてやろォか?あ?オラ、返事しろよ」
 この悪意どもに、彼が拳を「どこまで」ふるっていいかどうかを冷静に計算していく。
「やりたいことをやっただけで叱られちゃあ、俺たちもやってけねェよなぁ?」
「自由っつーのはどこに行っちまったんだよ」
 つまらなさそうに、まだがれきの下でうめく市民を蹴っ飛ばしてヴィランが悲しむそぶりをするのだ。
 灰色は、それをただただ己のプログラムに組み込んでいく。しかしそれでも、ノイズが走る。
 ――自由を望んでいいわけがない。
 ――己らの責任で塀の中に入れられただけだろうに。
 いったい何人を、自由を代償に奪ったというのだ。
 ヴィランたちの敵性度を徐々に灰色の演算が数値としてプラスしていく。

 誰かを殺して自由を得るというのなら。
「それ以上の勝手は、先ずおれを殺してからにしろ――出来るものなら」

 コロ
 破壊されても、文句はあるまい。

 ――否! 出 せ ま い ! 
 
「壊鍵、起動」
 壥・灰色、彼こそ――彼こそまさに生ける最悪であり、『六番器』、コードネーム・ギガースである。
      ギガース
 魔術回路「壊鍵」を用いてありとあらゆるものを屠り全てを衝撃と力づくで壊す魔術による絶対暴力の支配者だ!

「装填、――『貫け』【 侵 徹 撃 杭 (マーシレス・マグナム)】」

 その拳から繰り出される蒼い閃光がひときわ大きく放たれれば彼の前脚が緩く上がって、地面へと踏み込んだ。

 そ れ と 同 時 !

 拳を突き出しただけで――地 面 が 抉 れ た !
 巻き起こる烈風と押し出された空気がさながら大砲の如く、ヴィランたちのうち一人のみぞおちに嵌れば。

「お゛、ぅエッ」

 踏みつぶされたカエルよりもずっと醜い声で哭いて胃の中をひっくり返す衝撃が、 そ の 腰 椎 を 粉 々 に す る ! 
 その体を遠くに吹き飛ばしていく暴虐の衝撃波を放つ灰色の瞳が――眼光を燃やしていた。
 ゆらりと立ち上る灰色の光こそ、「壊鍵」の恐ろしさをヴィランたちに突きつける。
「お、おいッ、お前、猟兵かッ!?」
「俺たちの事、殺せねェはずだろッ!?なあ、そうだろッ!?」
 灰色が一歩ずつ近づいていくたびにずしんずしんとまるで体に揺れが伝わっている気になったヴィランたちが、尻もちをついて逃げ出そうとする。
 もう一度、灰色が腕を突き出せば走る衝撃の弾丸が――完全に背を向けていたヴィランの脚を容易く、あらぬ方向に曲げる。ヴィランが動けぬまま瓦礫の上を転げ落ちた。
「おれはヒーローじゃない」
 よくよく、それは――灰色が一番理解しているのだ。
 どるるどるると己の中で唸り圧倒的な力に震える彼の中の「魔剣」としてのけだものが。
 ・・・・・
 このような悪意に甘噛み程度ですませまい!

 ――もう一度暴力の限りでこの場を支配しようと拳を引いて、前に突き出した。
 
 瞬間、 紅 い 閃 光 が 走 る ! 

「なに、――やってるの!?」

 血相を変えて思わず手を突き出したのが、アレクシア・アークライト(UDCエージェント・f11308)。
 サイキックである彼女が、彼女の象徴たる真っ赤な念動力で灰色の生み出した衝撃を丸め込んでいく。
 それから、まるで空気を抜くように衝撃を細く貫いて空気を逃がしてやったのだった。
 アレクシアも、灰色と同じような思考を抱いていた。
 この世界はあまりにも、悪人と言うものや超常というものに甘すぎる気がするのだ。
 それはきっと、二人がUDCアースにて様々な悪意の被害者であり、また――加害者でもあるからこそ、理解できることである。
 だから、捕縛ではなくてその場での殺害というものに肯定的であった。
 現実主義と言わればそれまでかもしれないが、無秩序に暴れる悪意と言うものには無秩序でしか対抗できないのを、アレクシアは特に理解している。
 エージェントである彼女だからこそ、悪意の惨状を多く見てきた。
 ――経験則である。
 だから此度も、警察でも軍隊でもなんでもいい、ヴィジランテでも構わない。
 撃つべきものを容赦なく撃てる人がいれば心強いなと思って――力場を展開したのがつい先ほどの事。
 強力な魔術回路の行使を確認して、味方のものだと一瞬安堵した。

 だが、あまりにも“協力すぎる”発動に思わず小さく悲鳴が出たほどだ。

 誰かが、確実に、「いのち」を壊そうと――している!
 それが味方であるならば猶更止めねばと思って一目散に駆けだし【念動力(サイコキネシス)】で暴力と衝撃の支配者の一撃を食い止めたのだった。

「駄目よ、――同じところに堕ちるだけッッ!!」

 殺意が、まだ目の前の灰色からは失せていない。
 アレクシアがその目から逸らさないまま、他のヴィランを彼の目の前で念動力でしめあげた。
 窒息しそうなうめき声に、灰色が振り向いたのを見て諭すように教えてやる。
「『これも念動力のちょっとした応用よ』。気持ちはよくわかるけど、私たちは部外者なの」
 アレクシアが言う通り、灰色達猟兵は――このヒーローズアースにおいては部外者である。
 ヴィランの多くがオブリビオンの配下となっているが何らかのきっかけで転身し、ヒーローになる可能性を信じている世界であるならば従わねばならない。
 元から成り立つものを崩すという行為がいかに明らかであることかは、アレクシアのほうが冷静に判断出来ていた。

「おれたちは、部外者か」

 灰色の、演算(こころ)は軋むのに。
 アレクシアに締め上げられて白目をむいた彼らが確かに気絶しているのを視認して、灰色は無機質な目を細めた。
 立ち尽くす灰色のそばに赤であるアレクシアが少しずつ近づいて、腕を振ればまるで魔法のように――灰色の周囲の炎が失せていく。

「これも、念動力。私たちにだって『応用』があるわ。壊すだけじゃなく、殺すだけでもない方法がある」
 沸き立つ無念と激しい怒りを抑えつけるアレクシアの頬も、やはり別の赤さを孕んでいた。
 目は充血して、汗は滲む。彼女の理性がはち切れそうなのを物語っている。
 だから、それを見た灰色が少し目を丸くして――己だけではないこころのいたみを知ったのだ。
「了解した。――作戦を、変更する」

 灰色の腕が輝きを抑えだす。
 先ほどまではまるで稲妻のように激しく蒼く染まっていたそれが穏やかなものに変わるのを見て、アレクシアもまた安堵した。
         パターン
「そうしましょう、作戦ならたくさん考えられるんだから」

 アレクシアの赤の瞳が悲し気に歪んだのはきっと――灰色の足元にあったのだろう誰かの頭蓋が、砕けていたからだった。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​

アネット・シェルティ
凄い大混乱だー!
ダークセイヴァー以外でもこんなに酷い事するヤツがいるんだね!

こんな酷いことしてるのにどうしてあの人たちを生かしておかないといけないんだろー?

◆行動
ギリギリで死なない程度にボコボコにしようかな!ここまで周りに迷惑をかけておいてその原因を作った人がただの捕縛じゃあなんかヤダし!

狙うヴィランは一般市民を襲っているヤツを優先だよ!
背後から近づいたら相手の身体の部位のどこかを掴んでわたしの怪力に任せておもいっきり地面に叩きつける!
気絶したら縄で縛りつけて捕縛完了!

私が納得行くまでキミたちをボコボコにさせてー!


鎧坂・灯理
市民の説得はしない。私には向かん。
ゴミ共を片付けることに専念する。殺さなければいいのだろ?
お優しいことだ。更生など期待せず片付けてしまえば良かろうものを。
『白虎』で街を駆け、ワイヤーロープで引っ掛けて電気警棒で通電させる。
麻酔銃を打ち込み、なお暴れるバカはランチャーで撃つ。
手足の一つもふっとばしてやれば大人しくもなろうさ。傷口を焼けば止血できる。
説得も交渉もしない。悪意には悪意、暴力には暴力を。
なんならダルマにしてやってもいい。殺しはしないさ、そういうルールだからな。
手伝え侍女《ナイチンゲール》。生命維持できる程度に治してやれ。最低限でいい。
殺した分だけ苦しませろ。



●Sanction

「凄い大混乱だー!」
 まるでこの場を愉しむかのように、きゃいきゃいとしてはたはたと尻尾を振らせる花嫁が居た。
 ネット・シェルティ(いのち短し恋せよ人狼・f15871)。ポジティブ思考の持ち主で、悔いなく短き人生を謳歌しようとする彼女は――人狼である。
 結婚に祝福と絶対の幸福を感じている彼女の「勝負服」こそ、この真っ白な美しいドレス。
 土煙や血しぶきでの汚れが良くわかってしまう色だとしても、一分一秒も後悔したくないがためにそのまま戦場に赴いた。
 そんな彼女が視たのは、まさに混沌である。
「ダークセイヴァー以外でもこんなに酷い事するヤツがいるんだね!」
 彼女が見つけたのが、死体でなければ――これからの惨状というのは、避けられたのかもしれない。

 ひしゃげた顔面、斬りつけられて皮をはがれた女性の顎、守ろうとした赤ん坊ごと、貫かれたおそらく父親の姿。
「――酷いものだ」
 ため息交じりの感想を漏らしたのは。
 アネットとたまたまここで合流して、惨状を同じく受け入れるしかあるまいと黒の彼女、鎧坂・灯理(鮫・f14037)である。
 ポジティブな表情で、感傷に至ることもないアネットの白さと比べて、彼女の黒さもまた冷静にこの場を見ていた。
 どこかで市民を説得しようと声高らかに、おそらく観光の見世物であるタワーの最上部から叫んでいる仲間の声もする。
「市民の説得はしない。私には向かん」
 あのようなことは出来そうにないのを判断してからアネットに視線だけを向けてみる。
「こんな酷いことしてるのにどうしてあの人たちを生かしておかないといけないんだろー?」
 アネットにとって、家族とは幸せの形から予想される進化系でもある。
 殴るだけ、蹴るだけならまだ――まだアネットも己の衝動と怒りを抑えることができたのかもしれない。
 そんな彼女の様子に、やるべきことの一致を確信した灯理である。
「お優しいことだ。更生など期待せず片付けてしまえば良かろうものを」
 一度道をたがえたのなら、その生き方しかできるはずもないのを灯理はよくよく知っていた。
 親のレールの上で生きていけば、未来は保証され平穏無事にやってゆけたかもしれない彼女である。
 家をなくし、世間に潜む悪意とその主である鬼どもと戦いながら今日まで生きてきたのである。
 彼女もまた、かつては――この死体たちと同じく、戦う術すら持たせてもらえなかった時期があったのだからより、わかってしまう。
「ゴミ共を片付けることに専念する。殺さなければいいのだろ?」
 悪辣の生き方を知れば、もう善には戻れないということを。
 

 燃え滾る炎、がれきの下に滲む赤の水たまりを、鉄の虎がばしゃりと跳ねさせて乗り越えていく。
 どるると唸るマフラーが熱帯びて空気に走る跡を残しながらも、白虎の名を受けた大型バイクで灯理は走る!
「わはぁ!たーのしーっ!」
「舌を噛むぞ」
 バイクにまたがる灯理にしがみつくようにして、同じく背に乗っているのはアネットだ!
 尻尾が加速に合わせてばたばたと忙しなく揺れ、彼女の花嫁衣装が華やかに広がっている。
 この人為的な惨劇の先には、必ず――阿呆共が居るに違いない。
 そう踏んだ灯理が超高速の白虎を走らせれば、やはりその予感と予想が的中するのだ。
 一般人をまたその毒牙にかけようとしているのは、米粒程度の大きさであってもこの場における振る舞いからわかる。
 殺すだけでは飽き足らず、痛めつけて壊すことを目的とした鉄パイプが振り上げられているのを視認してから灯理の瞳が狭まった。
「居た。頼むぞ!」
「りょーかいっ!『おもいっきり派手に行くよ!』!」
                          ・・・・
 ぎゃるると一度、アクセルを握ってから勢いよく白虎は前のめりになって止まる。
 そのまま、尻に座っていたアネットを空中に勢いよく放り出した!さながら砲台のごとくの役割を果たしたのだ!
 アネットを放り出して、また虎を走らせる。灯理は止まることなく、アネットの活躍の裏で己の仕事を始めたのだった。

「死なない程度で――【乙女の純情は大地を揺らす(アースクエイカーガール)】!!」

 そのユーベルコードは、乙女が語る心の重さを表すものである。
 豪速で投げ出されたアネットが、鉄パイプを振り下ろそうとするヴィランの広い背に広がる囚人服に触れる。
 煤けていて、ほつれ塗れのその衣服のまま暴虐を働いていたあたり、よほど抑圧されていたのだろう。

 だが、今は!

「そーれッ!」
 関係ないとばかりに花嫁が空中を浮いたまま、その巨体で弧を描くようにして――地面に叩きつけてやった!
「なッ!?」
「なんだッこのクソアマッ」
「馬鹿、やめとけ――」
 ヴィランのうち一名が、彼女が何かを分かったようにして強張ったが も う 遅 い ! 
 次にナイフを構えたヴィランが、血まみれで嗚咽を漏らしてばかりの女性から手を離しアネットに斬りかかる!
 が、繰り出されたナイフを悠々とかわしてその腕を握り手首をひねれば、まるでそうあって当然というようにまた、空気に円を描いて地面へと男が叩き伏せられていくではないか!
 大の男が頭を割りながら気絶をするような威力が――その細身の体で、どこにあったのだと悪党どもが驚く一瞬でまた掴んで投げる!
「おおおおあァアッ、馬鹿!猟兵だ!ちくしょう!」
「――畜生?失礼な奴らだ」
アネットが死なない程度に暴れてやろうと息巻いてぶんぶんと仲間を嬲るのを、雄たけびを上げながらナイフで割りこもうとするヴィランに黒が囁くように後ろを取った。
 ぎゃりぎゃりと地面に濃いタイヤの跡を残して、肩には大きな鉄を背負っていた。
 ――バズーカであればまだ悪党たちも救われたかもしれない。

「お口が悪いなァ、ゴミ共」

 だが、そうであったとしても等しく灯理は容赦をしなかっただろう!
 ランチャーが灯理の思惑通り放たれれば、そのミサイル型の弾が何度か鈍い音を立てて目の前のヴィランたちの腕を、横っ腹を壊しては空へと突っ切ってビルに着弾した。
 響き渡る轟音を耳に入れるよりも早く――。
「いいいい゛ィいッでぇええェエエええッッッ!!!!」
 悪党どもの叫び声が轟音に呑まれるのを心地よさそうにして、灯理が耳で味わってやる。
 腕を吹き飛ばされた悪党の無様を舐めるように眺めてから、どこかすっきりした顔もちだった。
 悪意には悪意で、暴力には暴力で報いることを――灯理も、アネットも善しとする。

「あ は は っ! 私 が 納 得 行 く ま で キミたちをボコボコにさせてーッ!」

 殴りつけて、それから投げ飛ばしてまた馬乗りになって花嫁が殴る。
 動かなくなったあたりで浅い呼吸を大きな耳で確認してから、ばっと体を離して手早く縄で結んでいく。
 白無垢が赤い染みをつくろうが、それもまたアクセントになってよいのだとアネットが肯定的であるから。
「殺すんじゃないぞ。気持ちはわかるがな」
 灯理が花嫁の暴虐を眺めてから眉間の皺を増やして、まじないのように唱えてみた。
「『傷も病も、毒も呪詛も、欠損すらも治せるさ。治せないのは死、それだけだ』」
 面倒くさそうに一度前髪をかきあげてから、その手を離して几帳面な黒が元の位置に戻ったところで。
 現れるは――かの天使の名を定められた、鳥の頭をした婦人である。
 二度、そして三度。くりくりと“鳥のように”首をかしげて、夫人がのそりと腕をなくしたヴィランに近寄った。

「ひ、ぎィ、なん、ンだよこれ、なぁ、たすけ――」
「うるさい。殺しはしないさ、そういうルールだからな」
 治癒再生魔術を帯びた婦人、【墓場鳥の侍女(ナイチンゲール)】が恭しく一度治療対象に頭を下げてからゆらりと手を伸ばす。
 灯理にとって――殺されたほうがましだと、目の前の悪意たちが喚くのは想定内だった。
 口の端を意地悪く持ち上げた彼女が、狼の彼女に言うのだ。
 死なないようにしてやるから、もっと暴れて来いと。

「小悪党なんだよ、やることが」
 にたりと二人の女が“悪らしく”微笑んだのが――おそらく、其処に居たヴィランたちにとっての「宣告」には違いなかったのだ。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

アリア・ミッチェル
やれやれ、人というものはどうもこうも自分勝手なんだかねぇ...?

【行動】
ここいらのヒーロー共は市民に頼られてないのかい?はぁ、困ったもんだ。だとしたら

どこか街を一望できそうな高い場所を探すよ。
そこで一つ演説を。

お前さん達、よく聞きなっ!今救いのヒーロー共を困らせてどうするんだ?確かにお前さん達が不安になる気持ちもよーく分かるっ!!だが!だからと言ってその不安や怒りをヒーロー共にぶつけるのは違うんじゃないかい?今一度、胸に手を当てて考えてみなっ!
今、怒りをぶつけるべき相手はヴィランなんじゃないかい....?

武器をチラつかせ大声で怒鳴るよ。市民全員に聞こえるようにね。

(※アドリブ、協力大丈夫です)


ティオレンシア・シーディア
◎△

…まったく。誰が悪いって、そんなもの暴れまわってる連中で、唆した奴に決まってるでしょうに。

暴れたい、壊したい奴のやることは古今東西そう変わらないのよねえ。
つまり…反撃してこない、殴りやすいやつを標的にする。
この状況なら、避難所あたりかしらねぇ。そこの〇拠点防衛に回ろうかしらぁ。
●鏖殺やスタングレネードの〇投擲の〇先制攻撃で無力化するわぁ。
〇グラップル・マヒ攻撃・武器落としに目潰し等々…多勢に無勢だし、使える技能はフル活用ねぇ。魔法の才能は絶無だけど、こっちならそこそこ手広くできるのよぉ?
一応ちゃんと非殺傷〇属性攻撃にはするわねぇ。

もう大丈夫、なんて言えないけど。
手の届く分くらいは、ね。



●Gunslinger

 金色の髪をたなびかせて、美女が一人。
 ――彼女の近くを、鉄の虎が走る少し前の事であった。
「ここいらのヒーロー共は市民に頼られてないのかい?はぁ、困ったもんだ」
 嘆く彼女の視線の先には、傷ついた市民に助けを拒絶されるヒーローである。
 泣きはらした顔で叫ぶ女性が、抑えきれない恐怖と不満を訴えては激しく目の前の屈強な胸板へ拳を叩きつけている。
 殴りなれていないそれが赤くはれるのを見かねて、ヒーローのメンタルも心配であるから――その間に入ることにした。
「ちょっとちょっと、やめな!」
 ぐい、と一度両者を離してやるのはアリア・ミッチェル(Fighting women・f19177)。
 猟兵として世界に従事する身であると言えど、穏やかでないのは好かないのだった。
 仲間同士で。この極限でなおのこと争おうとするのは――どうにも、自分勝手な集まりなのだろうなとアリアはため息交じりに頭で毒を吐く。
 アリアは、人間ではない。サイボーグだ。
 サイボーグながらに人間の女性として穏やかな生活を望む彼女は、美しいかんばせの左目に傷を抱えている。
 戦場の過酷さを体験したのだと誰もがわかる振る舞いと、その傷で――女性市民はヒーローに殴りかかるのを辞めた。
「辛いのはお前さんだけでもないんだ。この数秒の間にも、何人も死んでる!ヒーローに余計な時間かけるのはやめな」
 怒っている理由が何であれ、まずはいさめる。
 怒る理由を責めるのではなく、この行為が無駄であるということを突き付けてみるアリアは相手の表情をよく読んでいた。
 ――何かを喪って、復讐で喚けるのならまだ正常だ。
 息を荒げながら、女性市民が涙を静かに零しだすのを見守ってやる。
「誰が死んだんだい」
「妹よ」
 言葉を投げれば、弾くように音が帰ってきた。
 そうかい、と頷いてやってからアリアが片目を細めて、粛々と女性市民の心を聞いてやっていた。
 きっと、彼女のような心持をした被害者は大勢いるのだ。
 話をしている女性市民の後ろでは、妹と暮らしていた街の崩壊がまた始まっている。
 戦闘の余波によるものだから、気にしないように声をかけて振り向かせないようにした。
 ――振り向かせてしまえば、過去に思いをはせるようになるだろうから。
 人間とは、やはり身勝手で脆い。だからこそ、強き者であるアリアや猟兵たちがその声を聞き届けてやらねばならない。
 己のまずやるべき行動を、アリアは小さな声を聞き届け終わってから――行動に移す。

「…まったく。誰が悪いって、そんなもの暴れまわってる連中で、唆した奴に決まってるでしょうに」
 黒髪をゆるく編み込んだ長髪を靡かせながら、蹴りを眼前の小悪党に喰らわせてやる。
 ――窃盗、だけで済めばティオレンシア・シーディア(イエロー・パロット・f04145)も加減をして、鼻の骨を粉砕させていなかったかもしれない。
 やはりどこの世界でも悪党の考えることなど、そうそう変わるまいと彼女が判断したためにその能力を活かそうとした場所はほかの猟兵たちが避難所として活用している大学病院だ。
 此処に向けて続々と、最後の力を振り絞って逃げていく市民たちがたくさんいることを考えれば――。
                  シェパード
 さながら、ティオレンシアは迷える子羊を守る狗になるのが相応しい。
 懸命に逃げてぜぃぜぃと息を荒げる青年がいた。ティオレンシアも迎えるように走り寄って――彼の背後にいるヴィランを認識する。
 躊躇いなく喜悦に満ちた顔でナイフを振りかざそうとするのを、赦しはしない!
             スタングレネード 
 瞬間、投げ放たれたのは 閃 光 弾 である!
 男性とヴィランどちらもの視界と、聴覚を奪った。ナイフを取りこぼした音すら誰にも聞こえまい。

 手早くティオレンシアが男性をそのまま己の背後に押しやるようにして接敵!驚愕と混乱に満ちたヴィランの眉と瞼の間。その皮を右肘で切り裂いた!
 血流の多いそこを斬れば、とめどなく血が溢れてくる。己の血で目の前が真っ赤になって、目が見えないと喚くヴィランには余計に叫ばせるわけにはいかない。
 手早く首のつけ根めがけて手刀を降ろせば、あっけなく気絶させてしまうのだった。

「魔法の才能は絶無だけど、こっちならそこそこ手広くできるのよぉ?」

 挑発するように独りごちる。実際、ティオレンシアの周囲には拠点である大学病院を狙っていたヴィランたちが潜んでいるのだ。
 姿は見えていないが、隠しきれない殺意と悪意など――元、用心棒であった彼女にとってはわかりやすくてたまらない。
 圧倒的に数が多いからか、位置の特定には少し時間がかかってしまいそうであるが。
 さてさてどうしたものかと、圧倒的な力の前に沈黙した悪党どもを探すように周囲をティオレンシアが見定めていた。

 その時である。

「お前さん達、よく聞きなっ!」
 ティオレンシアの頭上で響いたのは、大きな女性の声だった。
 遠吠えのように空間にびりりと響き渡る音に、ティオレンシアは弾かれたように上を向く。
 味方の声である。声の主はアリアだ!
 ちょうどティオレンシアの真上、彼女が立つのはビルの屋上である。
 武器を振り上げてぶんぶんとしながら、目立つように。誰もが彼女の声を聞き届けるために全身から声を出す。

「今救いのヒーロー共を困らせてどうするんだ?確かにお前さん達が不安になる気持ちもよーく分かるっ!!」
 アリアは喪った立場の話を聞いた。 だからこそ、その気持ちは痛いほどわかる。この場で彼女が演説する言葉に嘘偽りなど存在しないことが。
 ――薄っぺらい言葉でないことなど、誰にでも本当に伝わるような叫びであった。
 ティオレンシアは、演説を続ける彼女を止めようとする悪意に気づいて――行動を始める。
 アリアが意図せずともティオレンシアにとっては良いアシストであった。駆ける彼女が愛用のリボルバーを懐から取り出してその弾数を数える。
 ・・・・・・・・・・・
 ちゃんと六発入っていた。

「だが!だからと言ってその不安や怒りをヒーロー共にぶつけるのは違うんじゃないかい?今一度、胸に手を当てて考えてみなっ!」
 アリアは、市民たちの想いがどれほど強いかを知っている。
 だからこそ平和のために彼らだって動くことが出来ると信じているのだ。そして、それを同等に彼らにも信じてほしい!
 アリアの演説はこの局面を覆す大きなものだった!
 ――彼女の声を聴いた市民たちが、己らへの同情とそれから、意識の改革を始める。

 今 、 怒 り を ぶ つ け る べ き 相 手 は 、 誰 だ ? 

 わなわなと震えだした市民たちは、逃げるばかりではいられないのだ。
 生き残るために頭を使い、ヴィランたちから逃れ猟兵とヒーローたちに捕まえてもらえるよう彼らが行動を起こさねばならなかった。
 
 アリアの場所からなら、視えただろうか。
 市民たちが助けられるのを待つばかりでなく、赤頭巾の彼に助けられた集団が周りに声をかけて連れてきたり。
 泣き叫ぶ誰の子かわからない幼児を、抱き上げて連れてくる青年が。

 皆、アリアの一言で――変わった!

「護るものが増えちゃったねぇ。でも、うん。いいかんじ」
 甘い声でころころと笑いながら、火花を放つのはティオレンシアである。
 その善意を摘んでやろうと行動を起こしたヴィランたちに、相棒から鉛玉を確実に喰らわせてやった。
 今で六人目の脚を撃ちぬいたのである。集団で行動していたヴィランを見るに、彼らはギャングのようだった。
 ――ギャングであるならば、相手に慣れている。
「お前、それデリンジャーか!?ッはは!じゃあもう弾切れだろうが!」
「え――?ああ、ごめんなさいねぇ」
 まるで売り切れを客に指摘されたかのような態度に、ヴィランたちはいらいらとする。
 どうしてこんなに、余裕なのか。
 いくら強い存在と言えど彼らだって――喧嘩慣れはしているのだ。
 喧嘩に加減がないから迷宮に閉じ込められてしまった。なんていうのは、彼らにとっては名誉の勲章だった。
 反省の色も何もないようなヴィランたちに、アリアはまるで手品でも見せるかのようににたりと微笑んでやる。

「『6発撃ったら終わり?そんなこと、誰が決めたのかしらぁ?』」

 【 鏖 殺 (アサルト)】!!
 それは、アリアの超常である。
 神速のリロードと共に放たれるのは―― フ ァ ニ ン グ シ ョ ッ ト ! 
 指で撃鉄を弾くことによって連射を高速で放つその御業に、豆鉄砲に弾かれた鳩共が足と腕を再起不能にされていく。
 
「さぁて、おかわりはいかが?」
 硝煙の香りをかぎながら、まるでコーヒーでも出してやるかのように。
 麗しくも残酷な笑みで――番犬は残りの悪党どももたいらげてしまおうとするのだった。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​

死之宮・謡
アドリブ&絡み歓迎

はぁ…脱獄、か…まぁオブリビオンの犯行ならば仕方が無いか…
扇動される愚民何ぞ見捨てれば良いだろうが…そうも言ってられないか…猟兵業というのも面倒なものだな…

ヒーロー共の人手が足りぬと文句を言うのならば、貴様らが改造人間にでもなってヒーローになれば良いだろうに…其れもせずに唯文句しか言わん塵共は死ね

貴様等なんぞに付き合っていられるか…苦戦しているヒーローでも救援しに行くか…騒ぎ立てるだけの此奴等よりもよほど好感が持てる…



●Black LIGHTNING

 市民たちが意識を変える数刻前の事。

 ヒーローズアースには相応しくないかもしれないが、甲冑を着こんだ彼女がいる。
 がしゃりがしゃりと無骨に金と黒のそれを響かせて凛々しく歩く彼女は、かつて魔王の騎士であった。
 死之宮・謡(統合されし悪意→存在悪・f13193)――うち、今日は黒金の騎士であるセラ・アイノーンがこの惨状をどう見るかと言うならば。
「扇動される愚民何ぞ見捨てれば良いだろうが…そうも言ってられないか」
 助けたいか、と問われれば彼女は今のこの状況を冷静に見て、否と言っただろう。
 救うものが多く、助かりたいと嘆くばかりで歩きもしないような木偶など放っておけば有利に事が進むのは明らかだった。
 セラが悪徳のもとでかつて生きてきた時代のように、略奪し蹂躙するだけの存在と守りながらも戦わねばならない存在の争いと言うのはなかなか――泥沼である。
 どちらかが完全に沈黙するまでお互いを削り合う争いになるにおいて、余分な声というのは取り除いたほうがよかったが。
 生憎、武人であるセラにはどうやら向かないらしい。
 騒ぎ立てるだけの民衆共など、好きにもなれまい。なるつもりもない。
「ヒーロー共の人手が足りぬと文句を言うのならば、貴様らが改造人間にでもなってヒーローになれば良いだろうに」
 セラが紅い唇で舌打ちを混ぜて呟くように、ヒーロー側の落ち度ばかりを嘆く声がこの地獄では起きている。
 燃えた電線が焼け落ちて、地面に居た民衆を焼いたのだって――ヒーローの仕業ではなく、それは「そこでとどまった」民衆のせいであるのに。
 セラがかつて女神の啓示を受けた勇者に討たれたからこそ、英雄の立場にいるものたちの苦悶のほうがやはり愛らしい。
「唯文句しか言わん塵共は死ね」
 侮蔑を籠めて、セラがビルの上から見下ろしてやる。
 馬鹿馬鹿しいことだ。と嘆きながら貴金属の触れ合いを奏でて、マントを翻し――混沌を置いていくのだった。

 なれば、とセラが歩み寄ることにしたのは英雄たちである。
 豪奢な黒がやってくるのを視界に挟む暇もないのか、英雄たちは次々と湧いて出てきたヴィランたちと取っ組み合いを始めていた。
 その信念の必死さたるや、セラが力を貸すに値するかどうかを見定めようとまだ見守るだけに勤める。
 己に挑んでくるけだものは、手にした槍の先で足を貫いておく。
 嗚咽とも何とも言えぬ声をあげて苦しむのを横目で見てから、ばしりと平たくした槍の腹で殴りつけてやれば顔を真っ赤にして転がっていったのだった。

「このッ!!よくもッッ!!」
「なんてことをしてくれたんだ!」

 憤るヒーローたちが、殺意と信念の間で揺らめきながらもヴィランの相手をする。
 その様子を第三者であるセラは悠々と眺めていた。
 ヒーローの足元には物言わぬ骸となった市民がいる。
 血だまりの量からして、恐らくもう生きてはいないだろう。
 赤の水たまりを踏みながらもヒーローが駆けてゆき、超常の力でぶつかる表情は――絶望に打ち勝とうとする希望の戦意だ。

 ぞくり、とセラの背筋に快感が走る。

 ――やはり、心が強いものというのは好い。

 悪逆をいたずらに振り撒こうとするより、こうして己の正義と言うものを一貫しようとする生き物のなんと愛おしいことかとセラが独りごちて。
 その周囲に電気の魔術が走る。
 黒い髪の毛が静電気を帯びて舞い広がるのを、不快そうでない顔で受け入れながら――黒金は前へ踏み出した。

「――なんだ?」

 あるヒーローが思わず上を見上げたのは、雷が起こると思ったからだった。
 だが、あいにく空は血煙と炎ばかりで雨雲と言うものがまだ見えていない。
 気のせいか――。
 そう、ヒーローが判断しようとすれば唐突に走るのは稲妻である!
 ばちりと痛々しく音を立てて空間を突っ切ったのだ!雷を見上げたヒーローのちょうど頬をかすめながら、その光は黒金に集中する!

「『サァ、削リ合オウジャナイカ…』」

 顕 現 す る は 、 【 黒 金 の 雷 (ボルト・ダークメタル)】 ! ! 

 鳥が鳴くように忙しなく発火を続ける稲妻を纏った甲冑が――電磁誘導を用いて高速移動を繰り出した!
 どう、と地面を一度蹴ればさながら電光石火である!
 呆気にとられたヒーローとヴィランに割り込んで、ヴィランのみぞおちに渾身の前蹴りを叩きこんだ。
「ォ―――ッッ!?」
 彼の身に何が起きたか、まるで脳の処理が追い付いていないうちに。
 吹っ飛ばされたヴィランが確かに死んでいないことは「加減」したセラが確信を持てている。
「次だ」
 助けられたヒーローが声をかけるよりも早く、稲妻は走り出す!
「次」
 黒の痕跡と金の発火を各地で起こしながら、マントを気にするそぶりもなくばちりばちりと稲妻が明滅すれば――。

 雷が収まるころには、辛うじて峰打ちされたヴィランたちと騎士の速さに置いて行かれた英雄ばかりが其処に残った。

「さっさと終わらせてしまいたいな。――時間の無駄だ」

 その顔にやんわりと笑みを浮かべながら。
 セラは、早くヒーローたちに安息を与えたいのではなく、この一分一秒に蔓延るいのちとこころの動きを望んでいる。
 どこまでも利己的でどこまでも武人であるからこそより良いものを求めて慈悲なき雷がまた、空間を走ってゆくのだった。

 めらめらと燃え盛る炎すら、かき消してしまう黒金で。

大成功 🔵​🔵​🔵​

矢来・夕立
◎★△
いや悪いコトしたら捕まるって。分かってたでしょ。
上手く逃げおおせなかったヘタクソどもの自暴自棄じゃないですか。

ガラでもなし、救護の心得もなし。
そのあたりは他の猟兵さんにお任せしますよ。

オレはひたすら敵の嫌がるコトをします。
《忍び足》でヴィランの固まってるトコに潜伏。
なんでもイイですよ。隠れ家でも、徒党組んでる集団の中でも。
一人《暗殺》の要領で気絶させます。
混乱に乗じて全員《だまし討ち》。
所詮烏合の衆ですから、2、3人やれば潰し合ってくれそうですけどね。
殺し合いに発展したら怒られるのはオレなんで・

これ幸いとやらかす輩に更生の余地なんかありませんよ。
ホント、悪人に対して随分甘い世界ですよね。



●Hide-and-seek

悪人というのはいつの時代においても罰されるべき存在であるのに。
どうやら矢来・夕立(影・f14904)が訪れる世界は――思ったよりも悪に寛容であるらしい。
「まあ、それで首しめてちゃ笑えないんですが」
くわばら、くわばら。黒を身にまとった彼がこの混沌に潜みながら静かに毒を吐く。
 ヴィランがヒーローに転身する可能性というものに希望と浪漫を見出すとはいえ、悪に対する絶対的なものが数ある正義でしかないというのだから。
 平和ボケならぬ、正義ボケというものだろうか。なんて、そんなことを考えながら、夕立は人が逃げ惑う大通りに沿った飲食店のあるビルに入る。

「火事場泥棒ならぬ、火事場食い逃げって結構ダサいですね」

 ヒーローズアースではそこそこに栄えた飲食店だったのだろうか。
 テナントビルの階段を上る夕立の足元に転がるのは明らかに種類の多い食いこぼしだ。
 鬼が出るか蛇が出るかは進まねばわからないが、とにかく荒らされたあとであるならば余計に気をつけねばならない。

(――まして、食べるのが好きな手合いは特に)

 夕立が懸念するのは、落し物の主が見つかってしまうことである。
 3F、という文字を夕立が視認するまでに無数に食物が転がっていた。
 食べ方が汚いらしいこの主がそうそうこのビルからは抜け出すまい、と夕立もにらむように。
 彼がたまたま入り込んだテナントビルは、飲食店の集まりだ。
 これほど集まってはお互いに客を取り合うばかりでないかと夕立が呆れ交じりに思うが、だからこそ落し物の主が表に出なくて済んだのであれば結果は上々といえよう。

 だいたい、食べるのが好きな犯罪者というのは人を食う。

「偏見だっていうなら、上等ですよっと」
 食べこぼしている食料の数からして、それだけでも証明できる異常だ。ならばきっと味覚だって異常なのだと思って、階段を二段飛ばしでかけ上げる夕立である。
 夕立がこの階段を上らねばならぬ原因となった、非常時に応じて止まったエレベーターにようやっと視界の端で追いついたころに。
 飲み干されて無残に転がる酒瓶とまず挨拶をした夕立が、開きっぱなしの箱に入り込んで外をうかがう。
 がははと下品な声が聞こえれば。ここには夕立の思った通り――ろくでもないものが多いらしい。

「ちょっとションベンいってくらァ」
 酒気帯びた吐息とともに上機嫌で男がやってきた。
 エレベーターの上部に、ヤモリのようにしてくっついて隠れる夕立に気づくことはなく廊下を通過していく。
 間違いなく、この状況において彼らは「加害」したがわであることは想定できた。
 確信をもって、夕立は己の獲物を携える。
 ヴィランだ――。
 音もなく一度地上に足をおろせば、夕立は足を這わせて音も立てない。
 そのまま、のしりのしりと歩く巨体を見る。
 その大きさは規格外で、ごりごりと天井に頭をこすったまま歩いている。きっとバイオモンスターであろう。
 夕立がそれに臆する様子はない。的が大きければ、大きいほど――彼にとっては簡単な仕事になる。

 ごとんと大きな音と揺れを立てて、仲間の転倒を悟ったヴィランたちが顔をあげた。
 何やってんだなんて笑いながら彼のもとに近づく三人は、やはり口元に酒をこぼしたいっぱいの食欲で語る。
 ――血まみれの口周りだ。

 喰いすぎたのか、なんて心配のかけらもない声色で冷やかす彼らがごろりと仲間を足で蹴ってその顔を見た。
 人食いどもがぎょっとする。
 先ほどまで楽し気に人を喰い、げらげらと笑いあっていた――刑務所で知った程度の仲ではある隣人が。
 口の端から血泡を吹いてでろりと白目をむいている。
「お、オイッ、おいッ!!」
「なんだ、なんだよ、どうなってんだ!?」
 どよどよとする二名が騒ぎ立てれば、さらに奥からまだ人をけだもののように貪っていたヴィランたちが動き出す。
 その数を指折りながら潜んだまま確認する夕立のことなど、誰も想定できまい。
 夕立がいるのは、彼らの頭上だ。天井に背中をぴったりとつけて、指の力と脚の力で、柱と天井で己を支えて息を殺している。
 もとより暗い店内であるから、いまさら夕立の影が落ちたところでだれも気にすまい。

 ――どうなっている。

 お互いに顔を見合わせるヴィランたちがぐったりとした仲間を足元に疑念を渦巻いていた。
 もともと彼らに――利害関係以外の絆はない。
 彼らの交錯する視線がそれを物語っているのをちゃんと確認してから、一人の頭を夕立が手ごろな空き瓶で弾いてやる。
 ぱりんと衝撃と破砕音に注目を寄せて、同時で暗い店内に音もなくカウンターの真下に体を折りたたんで逃げ込んでやれば、お前が今叩いたのか!!と叫ぶ声が聞こえた。
 だが、それは夕立にではない。仲間同士での争いを呼び起こすための一撃と、彼らの怒声であった。
 
 所詮、烏合の衆であろうと踏んだ夕立の思った通り悪党どもの取っ組み合いが始まるのだ。
 追いかけるもの、追いかけられるもの。殴るもの、殴られるもの。
 まるで祭りの如く始まった賑やかさに紅い瞳が憂いを抱いたまま――。

「ヘタクソどもの自暴自棄でオレが怒られるのは嫌なんですよね」
 
 そう言って、もみ合うばかりに熱中するヴィランどもにとすんと手刀を下してやれば夕立に気づかぬまま己らの悪意で削り合っていたけだものどもがぐらりと崩れ落ちる。
 死ぬまで殴らせてみるのもまた――本来ならば、下すべきものではあったが。

「悪いコトしたら捕まるって。分かってたでしょ」
     オレ
 まさか、子供でもわかることを大人のアンタらがわからないなんて言いませんよね。
 小ばかにしたわけではないが、事実であるものを手に乗せてまた振り落とす。

 酒臭さにげほげほと夕立が二度噎せれば、あとに訪れるのは沈黙だった。
 殺さず、というのは――面倒なものである。血まみれの床が語るのは、明らかな虐殺のあとだ。
 ここの店主かどうかももうわからない、頭から肉を切断するようののこぎりで刻まれたのであろう死体を見つけた夕立が黙して両手を合わせる。
 切り開かれた皮膚と脂肪と肉の間を削られて焼かれて喰われたとしても――報いに殺してならないという世界が、あまりにも優しくて。

「残酷で、美しい世界ってやつですかね」

 皮肉ばかりが口を吐く。それでも、この世界がそれで廻ろうというのだから部外者でありながら救世主である夕立には見守ることしかできなかった。
 別の場所でまた同じように悪を退治するかと歩き出した彼が、血に塗れた部屋の中でレジ近くに立てかけられた写真台を見つける。
 赤で一瞥して、伏せてやった。

 ――美しい世界を切り取った時間に、今を見せてやる必要など、なかったのだから。

大成功 🔵​🔵​🔵​

アルバート・クィリスハール
【兄弟】で参加するよ。
イルの車の助手席に乗せて貰おうかな。
ダークセイヴァー(scenario_id=10129)で迷惑かけちゃったし、汚名返上しないとね。

そうだろうね。殺しちゃだめだ。逆に考えよう。殺さなければいいのさ。
治療は僕らの仕事じゃない。気楽に行こう、兄弟。
騒ぐ民衆は僕が引き受けるよ。UCで記憶消去銃を作って片っ端から撃っていく。
君たちは何も見てない。元の安全でぬるい、平和な生活に帰ったらいいさ。
あはは、テイクアウトはやめておきなね。猟兵業中のつまみ食いは『例外』扱いしてもらえないよ?


イリーツァ・ウーツェ
【兄弟】と来ている。
告白しよう。とても困っている。
殺してはいけないのか? そうか。
そうすると、私に出来ることは少ない。
せいぜい敵を殺さない程度に轢いて、
警察に送り届ける程度だ。
ひとりくらい持ち帰っても、ばれなさそうなものだが。
む……そうだな。やめておこう。
本当に出来ることが少ないな。
アルバートが居て良かった。



●Mad racer

 竜は、とても困っていた。
 車に乗りながら険しい顔で地獄の街を往く、イリーツァ・ウーツェ(盾の竜・f14324)は竜である。
 限りなく人間のような相貌をしながら、――今は有事であるから、角も尾も翼もわさりと主張をするのだが――彼の思想は竜そのものであった。
 車を走らせる手つきは数々の「猟兵業」と一緒に学んだもので、普段も隠れ蓑の仕事としている。
 何度かアクセルとブレーキを踏みながら、彼の険しい顔に少しだけ混乱の色が宿った。
 殺してはいけない、というのなら――イリーツァに出来る事がとても少ない。
 彼は竜である。よって、ヒトへの説得と言うものは不得手であるし、なによりそれをしようとも思えない。
 従わぬ悪辣には暴力で解決するのが一番だと思うし、強さを証明したほうがこの場合は早い気もする。だけれど、それは好まれないことであると聞いて、より困っていた。
 ――どうしたらいいかを、「知らない」から困っているというのもある。

 だから、彼をナビゲートするためにも。
 そして、ある世界でイリーツァに醜態を晒してしまったというのもあって、汚名返上の名目でその車に乗るのがアルバート・クィリスハール(仮面の鷹・f14129)であった。
 穏やかで愛嬌のある優しい顔が、フロントガラスに割り込む太陽光に照らされる。眩しそうに二度まばたきをすれば、欠けたビルに光が隠された。
 殺してはいけないことに困るイリーツァに、「逆に考えよう、殺さなければいいのさ」と気軽な提案をしたのは間違いなく、彼である。

 ――もとからそこまで、人が好きでないから。

 民衆の動きが変わったあたりの時刻で、二人はこの戦場が猟兵に追い風があったことを知る。
「ああ、よかった。余計なものは守らなくてよさそうだよ、イル」
 助手席に座ったまま、顔だけを横に向けて外の世界を報告するアルバートだ。
「ほら、みんな走ってちゃんと逃げていくね」
「……守らなくて良いというのも、困る」
 人の盾たれ、と使命付けられた竜がやはり今の立ち位置に混乱するのだった。
 アルバートがそんな竜の険しい顔が、動揺と思案とを渦巻かせているのを――アルバートだからこそ、感じ取る。
「考えすぎだよ、イル。いいじゃないか。障害物が自分から避けてくれるってことだよ」
 どこまでも――アルバートは、己も人も嫌いであるから。ものに譬える事には抵抗がなかった。
 それに、この竜にもこれくらい極端なことを言ってやった方が伝わることを彼ならばよくわかっている。
 イリーツァが紅い瞳を少しアルバートに向けて、また前を向かせた。おそらく、了承の意図だったのだろう。
 では、人嫌いと人を知らない彼らが――どうやって、ヴィランを退治するのかと言うと。

 民衆は、二人が走行する車を避けている。と、いうよりヴィランに襲われながらも道路の端で障害物を活かしながら隠れて逃げ続けて居るというのが正しい解釈かもしれない。
 なれば、今から二人が行おうとしていることは簡単である。
 改造された黒いミニバンは二人を乗せる今や戦車だ。イリーツァが車線上に出てくるであろうヴィランに視線を合わせた。
 がち、がちと重い音を立てて彼が数度レバーを動かして「改造」部分に触れる。
「大丈夫だよ、――シートベルトちゃんとしたから」
 それは、アルバートからのGOサインであった。
 今度は頷いてから、イリーツァが深くアクセルを踏めば。

  黒 ミ ニ バ ン が 竜 の 如 く 唸 り 声 を あ げ る !

 どるると哭いたそれが高音を立てながらいわゆる、「爆速」という言葉が相応しい猛スピードで直進した!
 その速さに思わずアルバートも右頬がひくついてしまうものである。理解してはいるが、――ここから起こるであろうことは。

 イリーツァもアルバートも、人を助けるということには詳しくない。
 むしろ戦場で暴れて、それが結果的に人のためになるからと猟兵稼業への適性が認められた存在である。
 だから、この場で彼らがとるのは市民の説得でもなければ、けが人の救助でもなんでもなく。

 直進の先で、市民を襲おうとしたヴィランを―― 爆 速 の ミ ニ バ ン で 轢 い た !
 
 ヴィランが叫びを漏らす暇もなく、跳ね飛ばす!

「殺したかもしれん」
「大丈夫、ヒーローズアースのヴィランだし丈夫だよ」

 いけしゃあしゃあと。アルバートが衝突の勢いで乱れた黒髪を整えながら、前を見る。
 フロントに乗り上げたヴィランの数を数えて、まだいけそうだなとイリーツァが言えばさすがにアルバートが降りた。
 車に乗った、いたるところを骨折させてしまったヴィランを【不完全な創造】で生み出した四本爪の鍬で、まるで落ち葉でもかき集めるかのようにおろしてやるのだ。

「日光にあてておけ。こころに良いのなら、体にもいい」
 厳しい顔つきでありながら、手に入れた知識を彼なりに応用を効かせて理論づけるイリーツァにはアルバートが乾いた笑いで応える。
「わかったよ、ちゃんとロープで縛って干しとくから」
「まるで干し肉だ。――ひとりくらい持ち帰っても、ばれなさそうなものだが」
       テイクアウト
 イリーツァが持ち帰る、ということは――つまり、腹をすかせたときにこの干し肉を喰らうということで。
「テイクアウトはやめておきなね。猟兵業中のつまみ食いは『例外』扱いしてもらえないよ?」
 それをちゃんと窘めてやるのがアルバートなのだ。
「む……そうだな。やめておこう。アルバートが居て良かった」
 アルバートが居なければ、本当に持ち帰っていたかもしれない様相でイリーツァが瞳を閉じて頷いた。
 ならばまた次のヴィラン集団を引いてアルバートに縛ってもらわねばならないと、車をバックさせながら段取りを始めるイリーツァである。
 竜が己の食欲に従い醜態を晒すことにならずにすんで、よかった。とはアルバートも思った。ここで彼を取り上げられては、アルバートの精神にも支障が出る。
 すべての感情の起源であり、今までのきっかけでもある竜がまた、黒ミニバンを唸らせて爆速で突っ込んでいくのを見やりながらアルバートが最悪を避けたところで。
 民衆たちが己らを見ても、「ありがとう!」と腕を二、三度振って走っていくのには「仮面」で応えてやる。
 ――無意味に騒ぎ立てるのであれば、記憶を消し去って何も見ていなかったことにしてやろうと思ってはいたが。
 どうやらアルバートの視界斜め上で叫ぶ猟兵が、無事に市民たちからの支持を得て鼓舞に成功したらしかった。
 
 人の救い方が、今この場に錯綜している。 

 これを学びとするか、それとも無関心でいるかどうかは彼ら次第であったが。
 鋤で降ろして集めたヴィランを、生み出した感情な縄で縛り上げているアルバートであるが――轢いたヴィランのうち一人が、目を彼に向けた。
 意識があるかどうかといわれれば、境目かもしれない。焦点のあっていない瞳と目が合った猛禽の翼が、己の姿に影を落とす。

「見てんじゃねぇよ――クソヤロー」

 ばきりと弱った頬骨を、蹴りで砕いた音が響いていた。 
 

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

レジーナ・ドミナトリクス
まったく、監獄の役割を正しく理解していないからそのような発想に至るのです。
生命刑を先送るのが目的でしたら場所の無駄なだけでしょうに。
時間があれば直々に教育して差し上げたいところですが、今はそうもいきませんね。

さて、人手が足りないのでしたら動員しましょう。
【一心獰隊】で艦員を呼び出し、私を含めスリーマンセルで対応にあたります。
「各班、状況に応じて他の猟兵やヒーロー方と連携し、市民の保護とヴィランの捕縛を行ってください。くれぐれも無理はしないように」
私も打擲モードのフォースセイバーを警棒のように使い、目に入ったヴィランから【気絶】させていきます。
腐っても元は獄吏、逃げられるとは思わないことですね。



●PRISON-POISON

 さて、とグラマラスな体を厳格な衣装に身を包んだ女がそろそろ鎮圧が完了できそうな流れに乗る。
 レジーナ・ドミナトリクス(密獄の女王・f12121)は――囚人移送船の元艦長である。
 職務に忠実で真面目な彼女が、たびたび囚人を死なせてしまう事例が発生してからまもなく猟兵への起用となった。
 いまだに獄吏としての勘も腕も鈍ってはいないと確信のある彼女は、獄というものがなんたるかをよくよく知っている。

 そも、監獄から脱出を目論むという発想に至るのは、彼女からすれば「わかっていない」ということなのだ。
 監獄とは己の罪と向き合う場所であり、日々をその分に使わせるものであり。生命刑や極刑を先送るだけでは――もったいない。
 時間さえあればレジーナはもしかすれば、今この場でなおのこと猟兵たちに立ち向かおうとするヴィランひとりひとりに「教育」を施してやったかもしれなかった。
 理解さえあれば、監獄というのは――。

「『それでは、現刻より作戦を開始します』」
 めらりと己の心が内側を焼くのを、今は「猟兵」であるからと踏み倒すように宣言するのは世界の超常である。
【一心獰隊(サブミッシブ・プラトゥーン)】。レジーナが軍服に身を包むように、彼らもまた鍛え上げられた肉体を控えめな軍服で包んでいる。
 レジーナに呼び出された屈強なものどもが、びしりと整列し敬礼するまでに時間はほとんどかからない。
 迅速かつ徹底されたレジーナへの敬意が空気を張りつめさせた。それに応じて敬礼を返すレジーナの所作には生真面目さもうかがえる。

「各班、状況に応じて他の猟兵やヒーロー方と連携し、市民の保護とヴィランの捕縛を行ってください。くれぐれも無理はしないように!」

「Sir!Yes,sir!」
 張り上げる声が返されれば、レジーナが形のいい唇で弧を描く。
 規則正しく、そしてどのように動けば効率がいいかは現場に出る各自が考える事であって、それはレジーナも同じであった。
 ある班と一緒に同行すれば、がれきの下に埋まった少年と少女を見つける。
 ぐったりとした少女がきっと妹で、彼女を抱いたままこちらを警戒する少年が兄だ。
「大丈夫ですよ、もう大丈夫。いきましょう」
 男たちが己らの肉体とフォースセイバーで瓦礫を切除しながら彼らの狭められた世界を広げてやり、レジーナが声をかける。
 少年が泣くのを堪えながら妹を抱きしめたまま、隙間から這い出てくるのをレジーナも受け止めてやる。
 意識のない少女をすぐに、他の猟兵たちが医療拠点とした大学付属の病院に運ぶように指示をしながら、レジーナの胸でわあわあと泣き叫ぶ少年の頭をなでつけてやる。
 大丈夫、もう大丈夫――。

 ごうごうと立ち上る炎をみかければ、ヒーローたちが消火活動をおこなっているのを知る。
 中にまだ人がいるから、火を消しながら救助の範囲を広げているのだという声にはレジーナが部下たちにバケツリレーの命令を出した。
 レジーナに鍛え上げられた彼らは、はい喜んでと言わんばかりの使命感で返事をしてから躊躇いなく消火活動にあたる。
 
 やはり、罪人たちは――監獄のことをよく知らねばならない。
 惨状をひとつずつ目撃しては潰しながら、レジーナは猶更そう思うのだ。
 フォースセイバーを打撃モードに切り替えながら、次に彼女が残りの部下と共に向かった先には――。
「サー!」
 レジーナが部下の声に己の危機を察知して、向けられる影にその打撃を繰り出してやる!
 ばちりと接触した音がしたが――レジーナの反射で振るった片腕がびりびりと震えた。

「がっはは――よう、おじょうさん。あんた、つよそうだ、な?」
 知能の無さそうな言葉の紡ぎと、蒼黒い体をした巨人がレジーナに拳を受け止められていた。
「あら、骨は折ったつもりだったのですけど」
 むしろ、普通の手合いならば腕ごともっていったかもしれない。
 それほどの防衛であるにもかかわらず、蒼黒い染みを深めただけの巨体がぐるぐると嗤う。紛れもなく、このヴィランはバイオモンスターであった。
「サー、我々が」
「いいえ、あなた達では無理だわ。先に行って多くのヴィランを捕縛なさい」
 ――でも。
 とは誰も発さなかった。こくりと頷いて部下たちが駆けていく背中を青い瞳で見送ってから、レジーナはまた目の前にいるけものを弾く。

 重厚なヒールブーツで音を立てながらこの後に繰り出すべく、左足を一度奥にやってから――しなるフォースセイバーでその顎をとらえた!
「お、ッご」
 鈍い声が聞こえたところで、 二 撃 目 !
 抵抗する間も考えさせる間も与えず、三撃目で――肝臓を打った!
 いくらバイオモンスターといえど、この個体から見るにベースが人だ。人であればレジーナにとっては得意分野である。
 ・・・・・・・・・
 どこを、どう打てば――どういう反応をするかなどは、お見通しであった。


 ぐらりと巨体が揺れて、土煙をあげながら地面を割り地に付すまでを見やってからレジーナはまた前へと進む。
 通り過ぎざまの彼女の顔が、愉悦に歪んでいたのはきっと――。

「腐っても元は獄吏、逃げられるとは思わないことですね」

 生真面目な声が、彼女の空気ごと律したのだった。

大成功 🔵​🔵​🔵​

マレーク・グランシャール
混沌の坩堝と化した街には正義も悪も、ヒーローもヴィランもない
異世界から来たイェーガーである俺達が裁定者となって秩序を取り戻すだけだ

市民の避難誘導は他の猟兵に任せ、俺は市民に暴虐を働き都市を破壊する囚人共を捕らえて回ろう
【碧血竜槍】を槍投げし、【魔槍雷帝】を手に電撃
さらに【真紅血鎖】を発動し追撃で相手を爆破
弱らせたら俺の血で出来た鎖で捕縛する
俺の鎖から逃げられると思うな

接近するときは【黒華軍靴】のダッシュとジャンプで高速移動
敵の攻撃は【金月藤門】のフェイクと残像、【泉照焔】の見切りで回避だ

隷属させた囚人に今回の騒動を引き起こした黒幕を目撃または心当たりがないか尋問
周囲を警戒し不審者にも目を配ろう



●DRAGONIUM-Boltex

 希望の光がようやく見え始めたころになる。
 自立して正義に依存せず自分たちで逃げ出そうと市民が走るのは、猟兵たちの革命による結果であった。
 大きな爆発がどこかで起きても、すぐに身を隠してそれでもなお未来を信じて前へ進む市民の善意である。
 ――これこそ、猟兵のあるべき「裁定者」としての役割だ。

 マレーク・グランシャール(黒曜飢竜・f09171)は黒髪を土煙まじりの風に撫でさせながら満足げな瞳を細めた。
 避難誘導に向いていないと自負する彼は、先ほどから暴虐を働く悪鬼のようなヴィランたちを槍で捕まえてはひとつひとつ縛り上げている。
 
 猟兵とは、異世界から秩序をもたらすものだ。
 いたずらにすべてを助けるのではなく、余計な因子――オブリビオン――を取り除くことが第一優先である。
 この悪どものしでかしたことは確かに個人としては許せないかもしれないことであるが、個人の気持ちに駆られるようなマレークでもない。
 あくまで、天秤が傾きすぎて崩壊するのを多角的に処理することを常に頭に置きながら。
 マレークもまた、ヴィランの捕縛と鎮圧に出たうちのひとりである。
 ただ、彼は――唯一「外的要因」にも目を向けていた。これほどのヴィランを逃がした、オブリビオンの事だ。
 大騒ぎに興味がないのならこの場にいないであろうし、きっと相手は野心的でないと考える。
 陰に潜んで己のやりたいことだけを、己が満足する範囲でやっているとしたら黒幕らしいものだが。
 マレークが眉根を寄せて顔を険しくしながら、その逆の可能性も考えたが――。

「逆の線は薄いか」

 何度目になるかわからぬヴィランたちとの遭遇において、マレークはため息とも吐息ともわからぬ量で息を吐いた。
 多くの派手なヴィランたちはとらえられて、残るは重罪であれど彼らよりアクティブではないものどもばかりだ。
 むしろ、こうなることをどこか黒幕のオブリビオンは予期していたのだろう。
 ――猟兵たちが来ることをまるで見越していたかのような斬り捨てぶりである。

 とはいえ、マレークと鉢合わせて逃げ惑うヴィランたちは非常にすばしっこく、マレークも追いかけて追いかけ続けて――ようやく今、この後ろは壁の袋小路に追い込んでやった。
 何度かユーベルコードの使用ももちろん考えたが、苛立ちひとつでも感じてしまえば殺してしまいそうにもなる。
 それだけは――調停者たる彼は、どうしても避けるべきだろう。
 甲斐甲斐しく狭い小道に閉じ込めることに成功したマレークが握るのは、二本の槍である。
 片方が碧眼の小さな竜が変化したものであり。もう片方が荒ぶる魂を秘めた雷竜である。
 持ち主の達成感とこれからの行動を歓迎するように魔術を纏う彼らが非常に手に馴染んだ。
「くそっ、くそがッ!捕まってたまるか!」
 一人が合図をすれば何人かがまた、彼らの能力を発動しようと空気中に魔術を巡らせる。
 だが――。

「三下らしい台詞だ」

 まるで、マレークからすればそれは――幼子が脅威を前にして粗相をしたようなものでしかない!
 風を斬る音が響けば、我先にと武器を構えたヴィランの肩を碧の竜が貫いた!

「――は?」

 あまりにも一瞬である。
 しかも肩を撃ちぬかれた視線の先、遠くにマレークが居るのをようやく意識して――槍が、投げられたことを悟る。

「槍は突くものではない。投げるものだ」
 よくよく学んでおけと言わんばかりにマレークが薄く唇を開いた。
 ひとりが貫かれて一瞬の空虚が集団に沸く。
 そうすれば、其処に走るのは――空気中の電子と結びついた 魔 術 だ !
 膨れ上がる電圧と、その威力がマレークの髪を静電気で広げさせる。
 小鳥の悲鳴のような音をさせながら発動しようとする魔術にヴィランたちが意識を取り戻して、不意を突かれたような顔をした。
 この時点で、彼らがマレークに勝てる見込みなど一切ない!

「 俺 か ら 逃 げ ら れ る と 思 う な 」  

 獰猛な黒竜の瞳がぎらりと煌めいて、雷の槍が強く光れば――空気を電流が走ってすべてを痺れさせる!

「うぉお、う゛うああ゛ああああァああ゛ああ゛ッッ!!?」

 ばちばちと震える空気の振動と共に響いた彼らの声が、まだ体力に余裕がありそうなことを細かく確認してから魔術を一度解いた。
 がくりと膝を折って座り込む悪党どもはもはや素早くも動けまい。
 ましてや、指一本すら動かせばまだ端々に残った電が息を吹き返しそうであった。
 
 電気というものの痛みは、痛烈だ。
 だからこそ、 人 の 心 を 支 配 す る には――ちょうどいい。
 マレークが心の中で彼の理論を証明してみせる。人間と言うのは、竜と違って脆く、儚くて。
 だからこそ彼は。

「『隷属せよ、汝が身を縛りしは我が血の鎖』」

 宣言ののち、成されたのは【真紅血鎖(ドラゴンブラッド・チェイン)】!ずるりとマレークの血液が服の袖から鎖となって飛び出て、彼らを結んでいく。
 もはや彼らとマレークが、単なる猟兵と悪党ではない関係にあることをその真紅が語る。
「貴様らに、聞きたいことがある」
 ばちりばちりと、今にも火だるまにしてやろうと唸る火花すらどこかこの黒竜に見えて、ひぃと情けない声を上げる悪党どもであった。
「な、なンだよ、何」
「首謀者は誰だ、どのような技を使う」

 最終目的はブリーフィングで耳にした。だからこそ、聞きたいのはその全貌なのだ。
 扱う武器は、能力は、外見は。すべて事前の情報こそ揃えておけばこれ以上心強い武器もあるまいと――マレークが考える。
 猟兵とはいえ、過去に敗北する可能性というものを考慮して常に動かねばならないのを彼が冷静に判断できたのはまさに、他の猟兵にとっても大きな収穫となる。

 ――話すから、殺さないでくれ。

 今更数十人と殺しておいて、人間というものは度し難いと黒竜は思っただろうか。それとも、それだからこそ愛おしいのだろうか。
 ――口にしてみたいと思ったのだろうか。

 歪でどこかがうつろな黒竜は、懺悔ともとれるような捕縛したヴィランたちの話を猟兵たちに持ち帰ることにする。
 豪奢な金の靴を響かせながら歩いていく彼の背を――気味の悪い強風が押したのだった。

大成功 🔵​🔵​🔵​




第2章 集団戦 『ダーティーポリス』

POW   :    動くな、止まれ
【銃弾】が命中した対象を爆破し、更に互いを【手錠】で繋ぐ。
SPD   :    命をかけて全うする
【仲間と共鳴する咆哮により暴走状態】に変化し、超攻撃力と超耐久力を得る。ただし理性を失い、速く動く物を無差別攻撃し続ける。
WIZ   :    我々には覚悟があるのだ
【絶対的な忠誠心】の感情を爆発させる事により、感情の強さに比例して、自身の身体サイズと戦闘能力が増大する。
👑11
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● Jaeger VS Gardman

 猟兵たちは持ち帰られた情報をもとに、黒幕の大まかな全貌を知る。
 やはり、と納得したものも多いがこのヴィランの脱獄は単なる時間稼ぎであったのだ。
 ――目的は、完全と思われた牢獄に潜む小さな箱。
 それが希望をもたらすか絶望をもたらすかは、手にした本人によるのだが。
 おそらく、すでに黒幕が手にして魔力を吸収している途中になる。
 猟兵たちが捕縛した数だけのヴィランやそれ以上に、ヒーローたちの能力も奪う魔力が――すべて吸収されてしまえば、苦戦は必至となってしまうだろう。
 猟兵たちがその事実にしばらく沈黙をしていれば――。

 大 き な 音 を 立 て て 、 竜 巻 が 巻 き 起 こ っ た !

 一斉に振り向いて見上げてから、あの場所はどこだと一人が問えば――その竜巻が起きた場所こそ、『愚者の迷宮』がある場所であるという。
 幸い、やはり施設が施設であるだけに街からは離れた場所にあったがそれでもはっきりと天に上る巨大な竜巻を目にすることが出来た!

 急がねば、急がねば!
 
 駆けだす猟兵たちが恐るべき速さでたどり着き、竜巻を割って迷宮に至れば。
 すでにそこには猛犬共が待ち構えているのだ。
 彼らはかつて、正義のために懸命に戦った小さな英雄たちであった。その彼らがオブリビオンになってまで、何を護りたいか。

「ヒーローの邪魔をするなッッ!!!猟兵どもめッッッ!!!」

 険しい狗面で吠えてから、彼らが各々の武器を取る!
 彼らは、今。ヒーローの邪魔をするなと言ったのだ――間違いなく、この竜巻を起こしている主犯の正体は察するに、元、ヒーローのオブリビオン。

 一体彼が何を求めて、どうしてこのような災禍を巻き起こしたのかは誰もがわかるまい。
 しかし未来のためにはそれを知らねばならない!

 犬と言えど侮るなかれ、彼らもまた君たちと同じく破滅への使命に燃えた戦士である!
 遠吠えと共に犬どもは君たちに躊躇いなく一撃を振るってくるだろう。

 ――さあ、己らが使命と共に戦え!猟兵(Jaeger)!
レイニィ・レッド

どんな大義名分を掲げていようが
元が何であろうが
自分にゃ関係無ェんすよ

重要なのは今
自分にとってアンタらがどう映っているか

ただそれだけです

息を殺し 気配を殺し
目立たなさを活かし物陰等に潜伏
犬どもの注意が他に逸れた瞬間を狙う

接敵する直前に『ダーク・ヴェンジャンス』
犬は群れていると厄介なモノ
負傷は已む無し
ならば利用するまで

群れのリーダーが居れば真っ先に
暗殺の要領でぶった斬りましょう
残りは攻撃を見切り、フェイントを混ぜつつ
群れの統率を乱すよう鋏を振るってやりましょう

アンタらに正義があるっつーなら
この赤ずきんを喰い殺してみて下さいよ
ねェ――狼さん?

まァ…最後は腹を裂かれる運命でしょーがね


リーオ・ヘクスマキナ
いっぬっのー、おまわりさーんってか

うーん……口ぶりからするに元・ヒーロー?
でも今はオブリビオンなんだよねぇ。じゃ、倒すしか無い

……固執し過ぎたのか。それとも見失ったのか
はたまた別の理由なのかは知らないけど
正義をカタりながらこんな騒動起こしてるんだもの。見逃しちゃーいけないよねぇ


赤頭巾さんを前衛に、後方からの援護射撃を基本とした連携戦闘
短機関銃で弾丸をバラ撒きつつ、常に一定の距離を保って戦う事を念頭に

前衛を突破されて近づかれたら、ナイフに持ち替えて近距離戦……と見せかけて、わざと大振りに振ったナイフで油断させつつ拳銃を一気に全弾撃ち込む


……あれ。俺、なんでこんなにあの敵に苛立ってるんだろ?



●DOUBLE RED MONSTERS

 どんな大義名分があろうが、なかろうがそれがこの赤の前で不必要にしかなり得ない。
「自分にゃ関係無ェんすよ」
 凍てついた声で彼らの吼え声を両断する。
 猟兵たちが分散してあらゆるルートから迷宮を突き抜けようとするように、赤頭巾の彼も吹き付ける風の元へと導かれていた。
 風を使うのならば、風の放たれる場所が――正解のルートであろうと踏んで、赤のコートをたなびかせれば番犬たちのお出ましである。
「通さんッッッ!!!」
「通さんぞ、レイニィ・レッド!!」
 たとえ彼らが狂犬の如く牙を剥いているかつての姿をどこかで目にしたことがあったとしても、己の脳に刷り込まれた知識があっても――雨男の天秤は揺らがない!
「どこで自分の名前を知ったンですか。まあ、どうでもいいです」
 レイニィ・レッド(Rainy red・f17810)が鋏を握り、吐き捨てればその場にいた誰よりも早く赤を翻して跳躍する!
 戦いの火ぶたが今――切って落とされたのだった!

 迷宮内もとい、監獄の中は数日まで使われていたままだった。
 置いてあった書類を風圧で巻き上げてまず、放たれる鉛玉から己を隠す赤頭巾である。
 空を舞うのがまるで宿命づけられているかのように、空間を支配しながらレインコートを泳がせて数十頭の群れを軽々と飛び越えるではないか!
「上だ!上だァッ!!」
 畜生の顔で叫ぶ過去の狂信者どもに視線もくれてやらず、そのまま身を隠すように廊下の角を曲がっていく。
 めちゃくちゃな足並みで追いかけてくる猟犬どもをさて、どうしたものかと考えながら――まず手ごろな牢屋に転がり込んだ。
 ――本当にこうなっちまうのは、ごめんですね。
 格子の影を横目で見ながら、誰もいない牢の中に当たり前のように設置された二段ベッド。その上に乗って息をひそめることにする。
 荒々しくもしっかりと踏みしめる犬の足音が近づいてから遠のいていくのを耳と赤の瞳で動く影をとらえてやる。
 そして全てが彼の世界から失せたところで、ひとまずの時間を得た。
 脈絡なく飛び出したわけではない、彼らが「本当に犬かどうか」を確かめたにすぎないのだ。
 結論としては。
「遺伝子レベルで、犬ですね。ありゃァ」
 赤頭巾の彼がよりその習性を面倒に思う。
 犬というものは――。
 個であれば一ひねりで赤頭巾の彼であれば捻じ伏せてしまえるのだが、そうもいかないのが集団になった時だ。
 であれば、集団の頭を討てばよい。
 だが、それにはあまりにも頭数が多い。赤のレインコートが握る鋏にあの数は耐えられるだろうか。
 舌打ちひとつ、くれてやる。
 孤独である彼には面倒な手合いであるが――攻略せねばなるまい。
 この戦闘でダメージを負うことになったとしても、活路を開くのであれば止むをえまいかと彼がある程度を覚悟したときだった。

「いっぬっのー、おまわりさーんってか」

 明るくもまだ熟していない声色でやってくる、別の気配を感じるレイニィ・レッドである。
 仲間であろう――と察するが、これは彼にとって僥倖でもあった。派手な戦い方をする味方であれば「もっといい」。

 狗どもが引き返してきてまた足音が増えてきたのを悟って赤頭巾の彼も己の出方を考えながら魔力を体に巡らせる。
 対し、灰色の彼は未だ大した危機感もなかった。
「口ぶりからするに、元ヒーローの仕業?なのかな。今はオブリビオンなら、このおまわりさんたちごと斃すしかない」
 己の推理を口に出しながら、感じた事実を並べるのはリーオ・ヘクスマキナ(魅入られた約束履行者・f04190)だ。
 そして誰かから見れば、彼は独りごとを話しているにすぎないが――実のところ、そうでもない。
「ねえ、赤頭巾さん」
 彼の後ろから現れるのは――路地裏の悪夢である彼とは違う、真っ赤な頭巾をかぶった狼耳の少女だ。
 ぎらりと輝く金の眼光以外、全てを黒の影で包まれている彼女がふわりと浮けば言葉を交わす必要もないと言わんばかりに鉈を組み合わせた大鋏を携えている。
 【赤■の魔■の加護・「化身のイチ:赤頭巾」(パラサイトアヴァターラ・レッドキャップ)】。
 幼くも己の境遇を「どうしてか」受け入れる喪失のリーオが扱うユーベルコードは、彼に寄生しうる超常を呼び出す禁忌だ。

 ――なんだ、ありゃァ。
                              バケモノ
 雨男の彼が驚くのも無理はない。リーオの超常は、紛れもなく『UDC』なのだから!
 しかし呆気に取られているような雨男でもないのだ。己の体からにじみ出る漆黒の粘液の具合を視界に入れて、真白の体を包んだ!
 【ダーク・ヴェンジャンス】。どろりと赤黒い粘液が雨男を守り、またその体をより影に近づければ――狩りを始める態勢至る。

 赤頭巾の怪物が、数十頭の犬の群れが!!
 ――白色のリーオの前でその武器を交えた!

 ぎぃいいんと一度大きく金属音がして、赤の怪物が持つ鉈鋏の間に警棒がねじ込まれている。このままかみ砕くようにしてやろうと思って赤の化生が力を入れれば、負けじと犬顔が鋏の間に己の体を割り入れた!

「死んでも構うものか、構うものかァッ!!脚 の 一 本 程 度 、 く れ て や る わ ッ ッ ! ! 」
 引き締まった太腿が鋼の間に割り込んだがために、その動きを鈍くさせる代償として刃が肉へと食い込む!

 だが。
「正義をカタるのに、やってることが見逃せないんだよねぇ」

 マズルファイア。
 発火と共に撃鉄から放たれた鉛が―― 獣 の 頭 を 撃 ち ぬ い た ! ! 
 そのまま極めつけに、どどどと勢いよく音を立てて首も胸も、腹も、心の臓にも穴をあけてやる!

 白目をむいて血液で弧を描くように頭を後ろへやった犬の体を、ばづんと切り裂いたのは赤の化生だ!
 これこそ、最適の連携であった。
 リーオの「なぜか」上手く組み立てられる戦術は、犬どもの肝も撃ち抜くものとなる!
「後ろ!後ろだァッ!」
 吼え声をあげながらリーオの存在にこそ警戒を始める野性である。
 彼に、 赤 の 化 生 と 同 等 の 敵 性 反 応 があったのは明らかだった!
 ならばと一頭が吠えれば、次にもう一頭が吠え――リーオの鼓膜に痛烈な音が響く!

「あィ、った――」

 轟く獣の声と共に震えた振動で耳が封じられる。
 一瞬の耐えがたい痛みにまばたきを一つ、リーオが行えば――次の瞬間。
 リーオを吹き抜けるようにして漂っていた風が一度、凪いだとともに、己の近くにあった壁がめり込んだであろう破砕音。

 赤 の 化 生 が 犬 ど も に 壁 へ と 吹 っ 飛 ば さ れ た の だ !

 高速と暴虐の本能をむき出しにした狼のうち一頭が咽頭への肘鉄で恐ろしき超常の赤を抑えつけたのだろう。
 あたりにはその威力を物語るように、犬どもの体を土埃が軌跡を語るようにまとわりついていた!
 
「 赤 頭 巾 さ ん ッ ! ! 」

 まさか、と赤の瞳でその様を視てやれば赤頭巾の彼女もまだ折れてはいない。
 しかし、射撃種であるリーオが無防備になった!

「――、突 撃 ィ イ イ イ ! ! 」

 襲い掛かる狗の群れがリーオを圧倒する!
 この群れに呑まれるようなリーオではない、それは本人もわかっていた――だが。
(――俺、なんでこんなにあの敵に苛立ってるんだろ? )
 ひりりと胸の内を焼いて、脳を鈍らせるその感情が、唯一リーオを弱らせる。
 何故、どうして、――誰がために。
 己の体の中で昂る感情の答えがわからないことで頭が満たされつつあるのを、冷静な視界の中で押し寄せる犬の群れのはざまで感じ取ってしまう。
 今は、それどころじゃないのに!
 己にも苛立ちながら、リーオが鉄の筒を逆の手に持ち、次に構えたのはローブから飛び出たナイフだ。
 これでやり切るしかあるまい、と 目を細めて――「体に染みついた」戦技で超常なる速度を超える彼らを破壊せんと構えれば!

 リーオの視界の端で、壁に叩きつけられた彼女と同じ色を見る。
「アンタらに正義があるっつーなら」
 赤 頭 巾 の 化 物 は 、 こ の 戦 場 に 二 体 い た の だ っ た 。 

「この赤ずきんを喰い殺してみて下さいよ。ねェ――狼さん?」

 どろりとまとった黒の向こうで、「狼」などよりもずっと早く!
 白く切りそろえられた前髪を乱しながらリーオの横を突っ切って――素早く反復で横に跳んでからフェイントをかけて赤は奔ったのだ。
 そして、先ほど号令を出した狼の喉を―― 鋏 で 貫 い て い る !

「ォ゛、あぇ、エ゛ッッ」
「まァ――最後は、」
         ・・・・・・・・・
 そのまま、まるで布を断つかのごとく!
 縦に犬の体を――貫いた鋼の鋏で裁断する!
「腹を裂かれる運命でしょーがね」
 布を裂く音よりもずっと聞くに堪えがたい、命の刻まれる音に他の狼共が耳を強く立てるのも無理はあるまい。
 骨も肉も何もかもを断ち切った鋏が、黒に纏われている。歪んでいないことを何度か動かして確認するのが――もう一つの赤頭巾の化生、レイニィ・レッドだ!
 影に隠れがちな彼がわざわざリーオの真正面に現れたのは、彼なりの戦略である。

「 お 返 し に ッ」 

 そちらに気を取られている狼の背に、応えるように深々とリーオがナイフを突き立てた!
 ぶしゅうと血を放つ一頭が、大きく口を大きく開ければ肉盾の完成となる。

「貴様等ァ゛ぁあああああアアッッ!!!!」
「 猟 兵 、 猟 兵 風 情 が ――傍 観 者 が ッ ッ ッ ! ! ! ! ! ! ! ! 」

 叫びながら銃を放つのであれば、リーオはその肉盾で受け、赤頭巾の雨男は黒の粘液で受け止める。

「言っておきますが――自分は、ヒーローじゃありません」
「あはは、俺もだよ。少なくとも、今はそういう気分じゃないね」

 無表情に限りなく近い顔で雨男が、真正面にある真白の彼に言えば。
 喪失を抱えたリーオが、唇の弧を戦慄かせながらレイニィ・レッドに言うのだ。
 
 二人は、けして同じ存在ではないけれど――赤に魅入られたふたりである。

 ならば、それ以上の言葉は必要あるまい!
 吼える黒、舞う赤黒、放たれる全力の銀が彼らのすべてを物語る!
 けして二人はこの戦闘に狂笑めいて嗤うことなどない。
 彼らの共同戦線は――あくまで、「彼らの」ものとなった。

 鉄の閃光を放ちながら彼らがどんどん前に進んでいく。その足元に赤の水たまりを作っても、けして振り返らない。
 そうあるべくして――そうなったのだと。
 肉を散らし血を撒き命を散らした猛犬共の忠誠など、彼らにとっては耳障りな風圧と変わらなかったのだった。

 

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

エレニア・ファンタージェン
シオさん(f15252)と連携

この毛玉…いえ、生き物は…空港の税関でエリィに吠えるアレね?
嫌よ
ねえシオさん、どうしましょう?

シオさんの作戦に全面的に身を委ねる
鼻のきく相手に不意打ちが出来るなんて、なんて素敵なのかしら!

「夢路の舞曲」使用
右肩に寄せた髪束の先を大蛇の頭部に変え、幻覚と魅了作用のある毒霧を漂わせ、誘惑と呪詛をのせ纏う
「その忠誠心には感服するわ…昔のエリィを見ているみたい」
シオさんをかばう位置で立ち回り、同士討ちを唆したりしながら凶悪な刃持つ拷問具を振るう
間合いを詰めてから、大蛇で噛みつき攻撃を
檻の中の敵にだって容赦はしないわ
受けた傷は生命力吸収して癒しましょう

犬は所詮、犬なのよ


プラシオライト・エターナルバド
エレニア様(f11289)と同行

ゼイカン、とやらは詳しくありませんが
エレニア様に吠えるとは不届き者ですね
私がお守り致します

一本、髪の毛をいただいても宜しいでしょうか
阿芙蓉の香りの髪の毛を
調合済みのアメグリーンの薬に混ぜて
敵集団の上空で散らす
それは香水です、犬の鼻には少々キツイかと

敵の嗅覚を封じたら
許可を得てから、エレニア様をそっと抱きしめて
【クリスタライズ】で姿を眩ます
念動力で共に宙に浮かんで、隠密&強襲

攻撃は主にエレニア様にお任せ
邪魔な敵はトリックスターを檻のように張って「待て」
念動力でエレノアを撃ちサポート

あなた方の正義はそちら側なのですね
真実は、この目で、この聖痕で記録致しましょう



●FULL NIGHTMARE

 赤の使途が血液を散らすとほぼ同時刻――。
 誰かが一つの道を行くのであれば、私たちは別の道を行きましょうとこれから行く場所のことをまるで、ピクニックの場所であるかのようにして楽しむ女性が二人。
 エレニア・ファンタージェン(幻想パヴァーヌ・f11289)とプラシオライト・エターナルバド(かわらないもの・f15252)は悠々とドレスを風に浮かせながら監獄内を歩いていく。
 言葉には出さないが、エレニアはここが監獄でなければよかったのにと少し残念そうにしていた。
 こうして友人と歩く場所が戦場であるというのは少し物悲しい。早いところケリをつけて友人との時間を愉しんだほうがずうっと有意義な気もしていたのだ。
 対し、プラシオライトは真面目である。彼女が鉱物であるかは関係ないかもしれないが、職務に忠実だ。
 きらりと輝く顔に、十字の聖痕。紫のそれが淡い光を反射しながら「真実(いま)」を映し続けて居る。
 聖痕と同じ色をした片目と、彼女の元から持つ翡翠の目はけして空想にふけらない。
 真面目な友人と共に歩けば――エレニアが動きを止めて、プラシオライトの手を握った。
「シオさん、こっちに。」
 それをプラシオライトは疑問に思いつつも、いちいち問わない。
 友人の顔が珍しく引きつっていたという事実があるから、プラシオライトはそちらに気を取られていたのもあってエレニアの手を引くまま歩き出した。
 
 掃除用具の詰まったロッカーが近くにある。エレニアが壁に背をぺたりとつけてそれに隠れれば。プラシオライトもそれに倣う。
「あの毛玉……いえ、生き物は――空港の税関でエリィに吠えるアレね?嫌よ」
 エレニアがロッカーから覗くことなく、光の弱い監獄内で赤の瞳がにじむ視界を保ったまま捉えることができたのは――絶望の狗どもだ。
 すんすんと鼻を鳴らしながら近づく彼らには一先ず身を隠したが、ああいう手合いにエレニアはいつも「におい」で悟られては噛みつかれんばかりの勢いで迫られる。
    エ レ ニ ア
 彼女が阿片の御使いである限り、その宿命からは逃げれそうにないのだが。
 とにかく、「犬」という生き物はエレニアにとっては天敵でしかない。
「ねえ、シオさん。どうしましょう?」
 まるで親から怒られるのを避けたい子供のようでもあって、且つ、しつこい男に悩むような女性の顔で。
 エレニアが友人に救いをもとめてみた。友人であるプラシオライトが少々「静止」して――考えを弾きだす。
「ゼイカン、とやらは詳しくありませんが、エレニア様に吠えるとは不届き者ですね。」
 知らない世界の言葉に片言でありながら、友人が困っているというのなら結論は変わらない。
 まして、友人に――手を挙げるというのなら余計に。
「私がお守り致します。一本、髪の毛をいただいても宜しいでしょうか。」
「ええ、でも何に使うの?」
 ためらいなくぷちりと細く真白の絹糸を差し出すエレニアに、プラシオライトが己の薬を見せてからそれを受け取る。
 小瓶に満たした碧に浸して、小刻みに振ってやれば――穏やかな翠の色をした液体に変容する。
 これは、プラシオライトの作戦であり、友人であるエレニアにとっては大きな活路となる大切な武器であった。

 ――阿片の香りがどんどん濃くなる。
 狗面の彼らこそその匂いには慣れており、尤も警戒すべきものであった。
「麻薬中毒者か売人がいるかもしれん、総員。常に警戒を怠るな、オーバー」
「ラジャー」
 無線越しの音からするに、広範囲でエレニアたちを探り――それから、追い詰めて数で圧倒しようというのだろう。
 エレニアが「ごめんね」とプラシオライトに吐息だけで謝れば、翡翠の彼女は首を横に振る。
 「エレニアが目立たなければ」この作戦は成り立たないのだから。何も気にしなくてよいのですよ――と言いたげな瞳に、白い彼女も微笑んだ。
 赦しの色は、よくわかる。
 ――かつてエレニアも、無条件に人を赦したものだったから。

 ごつ、と足音が近くなったのを皮切りに!

 犬どもの真上に放られたのは、翡翠の小瓶だ。
「なんだッ!?」
「撃て!撃ち落とせ!」
 ――犬どもは鼻がいいが目は悪い。
 彼らがまず現実的かつ戦場における可能性から考えたのは、小瓶が「爆弾」である可能性だ。
 当たらずとも遠からずといったその中身ではあるが。ひとまず、鉛玉によって「中身」をぶちまけた!
 鉱石が頭上で割れて、液体が散布すれば――あたりに充満するのは、香りだ!
 犬どもがげほごほと噎せて、鼻っ面から汁を垂らすことになる。漂う阿片の香りを上回る翡翠の香りが、濃度を保ちながら――「よすぎる」匂いを充満させた!
 風が流れている。風上に居るのが犬どもで、風下であるのが阿片と翡翠の二人であった。
 
 犬 ど も に は 彼 女 ら の に お い が 完 全 に 届 か な い ! 

 それが正確な「事実」であることをプラシオライトが聖痕で記録し確認すれば、きゃいきゃいと喜ぶのはエレニアだ!
「鼻のきく相手に不意打ちが出来るなんて、なんて素敵なのかしら!」
「こちらへ」
 褒められながらもあまりそれに気をやる暇もない。プラシオライトが頷いたエレニアと深く抱きしめ合えば――【クリスタライズ】は発動する!
 あまり継続する時間を割きたくないそれを意識して、念動力が透明となった彼女らをふわりと浮かせた。
 そうすればまるで空中散歩をするかのごとく、野蛮な犬の群れを真上を通ることが出来る!
 まだ匂いにあえいでいる彼らが鼻水を垂らし、瞳を充血させ呻いているのをプラシオライトが「真実」として記録するよりも早く。

「その忠誠心には感服するわ。――昔のエリィを見ているみたい」
 犬の忠誠心は恐ろしい。目と鼻をやられ、耳だけでエレニアたちの居場所をさぐろうとしているのはたとえ詳しく見えなくともよくわかる。
「どこだッ、どこだ猟兵ッッ!姿を現せぇッッッ!!」
 ばうわうと吠える獣に、面倒そうな顔をしてから。
 エレニアが応えるように宣言するのだ。

「『 ど う せ 目 覚 め て も 虚 し い ば か り 』」

 知っている。エレニアは、知っている。
 盲目的な「使われるだけ」の忠誠心がどこへ行くのかも。その道に救いがなく、ただただ虚しいばかりであることをよくわかっている。
 虚実と真実を交えた啓示と共に――エレニアの絹糸のような白が編み込まれて命を宿す!
 その様をプラシオライトが「記録」していた。
 間近で映す友の横顔には、あどけなさを宿す少女のそれでない「歴史」を感じている。
 エレニアの髪が白銀のごとく艶やかさを増して、彼女の武器となる。ああ――なんと、彼女こそ、虚しい生き物だったのだろうか。

 【夢路の舞曲(オピウム・パヴァン)】は発動された!
 蛇となったエレニアの右肩にかかる絹のような髪が、獰猛に牙を見せ付け威嚇すれば。
 甘く夢をそそのかす毒霧が放たれる!
 ――これで完全に居場所がばれてしまうが、だからと言って痛手にはなり得ない!
 なぜならば、今この戦場は二人の女王のものである。頭上から漂う毒霧を躱すことなど、所詮地しか歩めぬ狗どもには攻略のしようがない!
 
 犬どもの頭上から次はその向こう――より、風上へ身を置いた!

 風が吹き続ける限りはこの毒霧が、犬どもをとらえて離しはしない。

「 お 前 、 ――お 前 か ァ ッ ! ! ! 」
「ぎゃァッ!?や、やめろ――どうしたッッ!?」

 幻惑の前では、忠義など無意味である。

「貴様、狂ったかッッ!?」
「狂ってるのはてめェのほうだろォが!!猟兵!!」

 幻惑の前では、正義など何の役にも立たぬ。

 広がるのは蛇が唆した煙によって巻き起こる絶望。エレニアがその光景を、目を細めて弱弱しい視界の中で眺めるのを――プラシオライトが透明化を解いてまた、「記録」していた。
 友人の、知り得なかった一面である。
 それもまた歴史であり等しく世界の一部である。だからプラシオライトは記録するのだが――その横顔を見つめ続けるのが、なぜか「難しい」。
 友人ばかりを映してはいけないと思って、目の前の生み出された地獄にも聖痕を向けた。
「あなた方の正義はそちら側なのですね」
 ――その形が、正義の終わりなのですね。
 プラシオライトが言うよりも早く。エレニアは杖から呼び出した拷問具を持ち出す。
 凶器である鋸で、ひとつ肉を切り裂いてやればまた地獄はごうごうと燃えるではないか!
 虚しくもあり、甘美でもあり、「そういうもの」であるこの惨状に――懐かしさを覚えながらも。

「犬は所詮、犬なのよ」

 だから、エレニアは犬であった昔を突き放す!
 大蛇の頭を持つ髪の毛が――吹きつける風に乗って、犬の首に噛みついてそのままへし折った!
 ごぎんと骨の砕けて折れる音が響いて絶命する黒から血を吸い上げる大蛇である。

「檻の中に逃げても、逃がしはしないわ」

 ――宣告。
 紛れもなく、この場において絶対的な神となるエレニアが杖を高くあげて。
 その背中をプラシオライトが見つめる。
 神でありながら、友人である彼女と戦うこの光景を「記録」する。

 重く、その杖が振り下ろされれば。
 どう!と湧いたのは呪詛の塊共である。たちまち忠誠の化身どもを絡めとっては灰に変えていくばかり。
 黒の灰が己の友人にかからないことだけは――エレニアの作戦であった。

 この場を支配する友人の背と、潰えていく過去への忠誠たちの悲鳴ごと聖痕で翡翠の聖者が見守る。
 もし彼女に何かあってもすぐに守れるよう、とは思っていたが。
 己の武器を握る手に力がこもったのは、何故だったのかは考える余地すらなかった。

 ――きっと、忘れられない一幕となるだろう。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​

アルバート・クィリスハール
【兄弟】SPD
あっはは。ごらんよ兄弟、オブリビオンの犬だ。ワクチンがない分、狂犬病よりタチが悪いや。
おっと。あはは、了解。
どうぞ。うん、いいよ。

シートベルト締めて、アシストグリップを握り、ダッシュボードに足を突っ張らせて衝撃に備える。
敵がわんわん言い出したら、窓からパルクールの要領で降りるよ。ドアより早い。
そのまま空へ上がって空中戦。コードの花弁と羽根弾を雨あられと降らせてあげる。
僕のコードが怪我させるのは敵だけだからね。イルにはただの花びらさ。
空中だし、銃で撃ってくるかな? だったら飛んできた銃弾を羽根弾で弾こう。

えっ。いま、銃を…?
こっわ…やっぱ真っ向からはむりだな。覚えとこう…。


イリーツァ・ウーツェ
【兄弟】【POW】
楽しそうなところを遮ってすまないが。
口を閉じておけ、アルバート。舌を噛むぞ。
一つだけ確認しておく。殺していいのだな?
そうか。ああ、やっと役に立てる。
(敵UC対策)
敵集団に車で突っ込み、轢いて散らす。
軽い爆破なら耐えられる。手錠は無視出来る。
敵が吠え始めたら車を止め、降りる。
普通にドアを開けて。
襲いかかる集団への対策は簡単だ。
思考せず、UCに従って動くことで隙を失くす。
攻撃は受け流し、投げ飛ばし、同士打させる。
暴走する集団に、敵味方の区別が付くとも思えん。
なんとでもなろうよ。
アルバートを狙う輩がいれば、横合いから銃身を噛み砕いてやろう。
刀よりは歯応えがありそうだ。



●RED&GREEN

 さて――どこから攻めようか。そう言ってみたものの、この施設は広い。
 狭い廊下もあるにはあるが、それは用務に使うときくらいなのだろう。
 ヒーローズアースで事件の起こった市内に放たれた、あれだけのヴィランたちを収容し続ける施設である。
 なるほど、迷宮と言うだけはある広さを持っていてもおかしくはないと納得しながら愛車を走らせるのは、イリーツァ・ウーツェ(盾の竜・f14324)だ。
 その隣で目の前にやってくる牙どもをけらけらと嗤うのは、アルバート・クィリスハール(仮面の鷹・f14129)である。
「あっはは。ごらんよ兄弟、オブリビオンの犬だ!」
 良質なコメディでも目にしたかのような勢いで、両手を何度か叩いて歓迎するアルバートの仮面は今にも崩れ落ちてしまいそうだった。
 目の前の手合いは、犬は犬でも狂犬だ。
 馬鹿につける薬が存在しないと言われるように、またこの狗どもにもワクチンなどが存在しない。
 過去に蝕まれ死にゆく彼らの何とたちが悪い事か!これを嗤わずして何を嗤えというのだろうとアルバートが美しい顔と翡翠の目を歪ませる。
「楽しそうなところを遮ってすまないが。口を閉じておけ、アルバート。舌を噛むぞ。」
 嗤うことをいけないとは言わないが――。
 今から起こることを考えれば、あまり勧められない。
「おっと。あはは、了解。」
 イリーツァが瞳を細めて自分に目をやるのがなんだか嬉しくもあり、むずがゆくもありながら。
 確かにまだ――事故死など情けないことは避けておきたいアルバートは笑いをかみ殺すばかりだ。
「一つだけ確認しておく。殺していいのだな?」
 確かめるように、そして厳かな雰囲気を纏ったまま。
 イリーツァがバックミラーの位置を無骨な黒の手袋で整える。
 問うたのは、己の為であり――先ほどの市内で嘆く人の子らのためであった。
 守るだけの戦いと言うのは、竜であるイリーツァにむいていない。護るために、破壊するという矛盾した行いこそ一番ふさわしい。
 人を真似る不器用な彼が、赤の瞳に闘志を宿す。
 アルバートはどこか恍惚とした補色の翠できょうだいを視界におさめたのだった。
「どうぞ。うん、――いいよ。」
 シートベルトを締めて。アシストグリップをしっかり握ってから――ダッシュボードに足をきつく押し付けてアルバートが笑う。
「そうか。ああ、やっと役に立てる。」
 細く開かれた表情の少ない口許に覗く、竜の牙すら。
 鷹の彼には見逃せない輝きを秘めていたのだった。

「う、ぉおおぉおおおおおお゛ッッ!!?」
 思わず、獣どもが吠えるほどの速度で――突っ込むのが、一台の黒いミニバン!
 ス ト レ ー ト ・ ダ ー ク 
 直進で真っ黒な軌跡を残すほどの運動エネルギーと共に吹き付ける風を割って煙を巻き上げるそれを躱そうと犬どもが群れで躍起になるが、やはり何名かは轢かれてタイヤに巻き込まれていった!
「この――暴走車が!【動くな、止まれ】ェ!!」
 引き抜いた拳銃がばうばうと吼えて車の防弾ガラスを貫こうとする。
 バシバシと後方のガラスに鉛玉をぶつけられていても、イリーツァは眉すら微動だにしない。
「あちゃあ、やってくれるなぁ」
 本当は――舌打ちもしてしまいたかったが。
 きょうだいの前で不作法なのはよろしくない。アルバートが漆黒の前髪を撫であげながら嘆くのすらイリーツァは気にしていない。
 むしろ。
「やりがいがある」
 どこか、楽しそうな声色で。
「はは、――ほんと、どうかしてる」
 嫉妬の色をした瞳が絞られるのすら置き去りに、イリーツァが後方のガラスにつながれる無数の手錠にあわせて――速度を落とした。
 一度ゆったりと目を閉じてから。紅の瞳を見開いたのが合図である!イリーツァがドアを開くよりも早く、アルバートが体を丸くして柔らかな身のこなしで窓から外に出た!
 そのままぶわりと羽が広がって彼を天井近くへと運んでいく。視界の端にイリーツァをおさめるほどの距離で、翠の鷹がコードを弾く!

「『お裾分けしてあげる』」

 まるで、呪いでも口から零したかのようなまじないを唱えてから人差し指を齧った。
 たらりと皮膚を裂いて現れる赤を空中に撒くように手を漂わせてやる。そうすれば――赤は赤だけでないものに変わるのだ。
 空から舞うのは、百合の花。
 【鬼哭啾々の花宴(キコクシュウシュウノハナノエン)】は見目美しいユーベルコードである。
     ・・・・・・・・・・・・
 だが――美しいだけでは終われない!

「わ゛ぁあああアアッ!?」
 けたたましく鳴き声に驚愕を混ぜたのは――警官服の獣どもだ!
 己らの腕が、その花弁に触れた鼻が、服が!何もかも百合と共に腐ってとろけて死んでいく。
 その様がどうにも、間抜けで間抜けで。アルバートが仮面の下で歪に笑うのだ。
「よくもッッ!!!よくもやってくれたな猟兵ッ!!」
「正義に歯向かうというのかッッッ!!!」
 仲間たちと己すら溶かされながらもなおの事は向かおうとする獣たちが、どうにも愛らしくて――殺してやりたい。
 アルバートが瞳孔を細めて、大きな猛禽の羽で彼らを射貫こうかと考えていれば。戦場を駆ける竜がその視界に割り込む。

「刀よりは歯応えがありそうだ。」

 飛び込んだのは、イリーツァだ!
 アルバートを狙う銃身にためらいなくその牙を立てる!
「えっ。いま、銃を……?」
 思わず狙われていたアルバートすら呆気にとられるほどの勢いで。

 何度か発砲した余韻で熱くなっているそれを、お構いなくかみ砕くの 人 間 の 顔 を し た 竜に――獣人共が慄いた!

「貴様――」
「『わかった』」
 ――それ以上は、口に出すな。
 そう言いたげに彼が発動したのは!
 己の思考を破棄することで、全てを直感にゆだねる。獣であるイリーツァがその直感に従うということは――限りなく正解へとたどり着くのだ!
 【不推不察・超直観(フスイフサツ・チョウチョッカン)】。ユーベルコードによって高められたもとより優れた戦闘能力が爆発的に飛躍する!

「――っゲ」
 吐息交じりの断末魔を上げた一匹の獣の首を掴んだまま、その体をハンマーのようにして振り回す!
 遠心力とイリーツァの怪力によって仲間同士で強制的な殺しあいをさせたのだ!
 振るわれた方はあらぬ方向に骨を曲げ、ぶつけられた方が目玉を飛び出して頭蓋を破壊される。
 駄目になったほうを手から離して、つぎは「脳なし」になった肉体を手に取れば放たれる鉛玉を受ける盾とした!
 伸びる鎖がしかと繋がっているのを確認すれば、ハンマー投げの要領で何度もイリーツァが振り回す!
 己らの想像を完全に上回る竜の力の前に、犬どもは成すすべがない!
 情けない声を上げながら逃げ惑う彼らに、鎖も仲間ごと――返 し て や っ た !!
 向かってくる躾のなっていない犬には、剛健である彼の右の一撃で腹部に穴をあけてやる。
 向けられた銃口を手刀で叩き折って、背後を取るのならば尻尾でなぎ払い上半身と下半身を離別させてやる。
 
 何もかもを!
 い ま こ こ に あ る 何 も か も を ―― 護 る た め に 破 壊 す る !

 イ  リ  ー  ツ  ァ  ・  ウ  ー ツ ェ 
 完 全 無 欠 の 、 直 感 者 。 
 沈黙した戦場の中で、彼だけを焼かなかった百合の三色が討たれた過去の正義を焼いていく。
 まるでそうあるのが、当然であるように。自然の摂理だとでも言いたげにイリーツァが瞳をとじた。

「こっわ――やっぱ真っ向からはむりだな。覚えとこう。」

 上空に漂いながら、その惨劇を巻き起こした「きょうだい」に向ける言葉ではないからこそ己にささやくようにアルバートは口で弄ぶ。
 いつかこの日のように、彼が誰かに向ける殺意と同じ色を――赤と緑がまじえる想像にふけりながら。

 百合の花が、沈黙に耐え切れず床を少しとかしたのだった。
 

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

鎧坂・灯理
吠える姿だけは一丁前だな。
生憎と私は動物非愛護主義者だ。容赦はしない。
蛇行運転と念動力による不可視の楯で銃弾を避けつつ射殺する。狙いは足→手or胴→頭だ。
巨大化は好都合。【鞄】から手榴弾を取り出して口の中に投げ込んでやろう。
念動力で腕力強化なり軌道修正なりすれば確実だろう。
ガスボンベもいいな。咥えたら撃ち抜いて頭ごと吹っ飛ばせるだろ?

絶対的な忠誠心のもと、覚悟をもって立ち向かうか。ハハ、泣かせるじゃないか。
その程度の覚悟で私の前に立つな。その程度で覚悟と証するな。
己の死を前提とした覚悟なぞ自慰行為に過ぎん。
役者が違うんだよ。
失せろ負け犬。私の邪魔をするな。


矢来・夕立
◎★△
殺す理由が普段よりひとつ多い。
イヌ、嫌いなんですよ。好きでも殺しますけど。
しかし“覚悟”と来ましたか。
オレはどうでもいいですけど、その単語を軽々しく使うのはお勧めしませんよ。
どうなっても知りませんからね。

他の方の行動に重ねて《忍び足》。【紙技・大荒紙】。
如何ほど怪しい風向きとても、嵐の前には何のその、です。
ただコレ、普通に位置とかバレるんで…
そうですね。見つかって動揺したフリとか、しましょう。
式紙なり脇差なり、間合いに入り次第《だまし討ち》で仕留めます。

単独行動が主の忍びにとって、数の暴力はただ脅威です。
だから嫌いなんですよ。公僕《イヌ》。

…ホントに風が気持ち悪いですね。さっきから。



●Detective & X.

 他、迷宮の入り口から踏み入れた猟兵たちが戦火を巻き上げ始めているのは――そこかしこに『監視用』で設置された監視カメラからうかがえた。
 ならば己は別の場所から攻めるべきだろう、と電脳世界の支配者であり情報の束を握る『探偵』は悟るのだ。
 
 鎧坂・灯理(鮫・f14037)は私立探偵である。
 ありとあらゆる虚実と見えぬ真実は、彼女の武器である情報によって証明されつくすように今この場において『制圧』すべき場所など見定めるのはたやすい。
 猟兵といえど生き物であり、生き物であるなら頭があり、心がある。
 では統計に基づいて情報を集めてみれば――灯理が訪れるべき場所は、猟兵たちが真正面から行くのとはほぼ逆の非常口からだ。
 鉄の虎が足を止めれば、あとは重苦しいそれを蹴破るだけである。

「あ。」
「ん?」

 悠々と長くしなやかな足を虎から降ろす灯理と、目があった――あってしまった、のは矢来・夕立(影・f14904)である。
「これは、これは」
 面白いおもちゃを見つけてしまったような声色で声をかけるだけのあいさつをする灯理に対し、夕立は己の顔をよりこわばらせたのだった。
 よりによって――今から挑む手合いに対して、殺意どころではすまなさそうな相手と一緒に仕事しろってんですか。
 夕立もまた、彼の直観によってやってきたにすぎないのだが。
 彼らは「お得意様」と「ファン」である。
 
 お互いの素性も大体知っているがために、やりやすいようで――だからこそ、夕立は気をつけねばならない。
 一歩先を歩く探偵の彼女は、この先で待ち受ける犬よりもずっとずっと恐ろしいのも、「ファンだからこそ」よくよく知っている。

「探偵さんもこちらにいらしていたんですね。犬がお好きでした?」
「たまたま、偶然に。生憎と私は動物非愛護主義者でして」
 
 余計な衝撃を与えてタイヤを今から壊すわけにもいくまいと、よいしょと探偵が白虎を押して乗り上げればまた、ひらりと優雅にまたがるのだ。
 ぐおんぐおんと獣がうなり声をあげるので――乗せてくれません?とわずかな期待を含んで夕立が言うものの、やはり返事はNOである。

「え、ちょっと待ってください。さっき別のかたは乗せてたじゃないですか」
「見てたんですか。それとも聞いたのですか?お持ちでしょう、足」
「いや足はついてますけどね」

 必要でないのであれば、わざわざ重量を増やして虎の速度を落とす必要もあるまい。
 夕立一人を乗せる程度で疲れるような虎でもないが、それであっても「不必要」なものは悉く捨てていく探偵である。
 また――乗せてもらえなかった。と肩をわざとらしく落としてから、夕立もちゃんと「自分の足」で先へ行くこととする。

 しかし、好都合でもあった。
 単独行動が主の忍びにとって、数の暴力はただ脅威である――戦力的に見ても、この「探偵」とともに戦うのならば申し分はない。
 吠える犬どもよりもずっと大きな叫びをあげて、脅威に突っ込む灯理の後ろにいれば夕立はこの場の誰にも気づかれはしない。

「……ホントに風が気持ち悪いですね。さっきから。」

 招くように、なおかつ夕立を「卑怯者だ」と嘲笑うように。
 ――紙を主とする彼を撫でる風を、先行する虎で切り裂く背中がまだ遠い。


 車体を大きく横に倒して、ひざと地面が擦れ合わない範囲での――巧みなライディングテクニックによって鉛球をかわすのは灯理だ!
 ぎゃりぎゃりと悲鳴を上げてゴムが擦り切れていくのはにおいでわかったが、ならば都合がいいと速度を上げる。

「止まれ、止まれェッ!!」
「ひるむな、正義のために――【我々には覚悟があるのだ】ッッ!!」

 あ、きれいに地雷を踏んだな――。
 夕立が陰に潜みながら、非常口から虎の後を追ってたどり着いたのは囚人たちを管理するには広すぎる廊下である。
 そこに待ち構えていた犬の数は夕立と灯理の手を合わせてもまだ数えきれないほどだった。
 ひるむことなく飛び込んでいった虎に追いつけるはずがないが――その戦場の猛功に隠れることはできている!

「 吠 え る 姿 だ け は 一 丁 前 だ な 。 」

 泣かせるではないか、と嗤う。探偵である彼女が、おおよそそれとはそぐわない表情で――召喚された鞄を手にして旋回を始める!
 まるでどちらが犬やらわかったものではない。犬どもを囲うようにして動く彼女に合わせて、夕立も忍びとして彼女に尽力する。

「『……チッ』、早すぎやしませんか!捕まっても知りませんからね」
 思わず声を荒げてしまうほど、それだけ彼女の虎は夕立を待ってくれはしないのだ!
 夕立が真っ黒の体から真白の神々を呼び出す――【紙技・大荒紙(カミワザ・オオアラシ)】が発動されれば!
 まるで紙吹雪の竜巻のごとく、猟犬どもを取り囲んでいく。
「うぉおおォッ!?なん、なんだこれ――」
「撃て!撃ち落とせ!」
「ア゛ぎっっ、これ、切れるぞッ」
 悲鳴と吠えに差などないのだなと夕立が悟ったころには、探偵の彼女が犬の注意から完全に逃れていた。
 ぱかりと彼女が手にしたトランクが開けば――。
「あ、やばっ」
 夕立が悲鳴めいた小さな声を上げて、式神を使い浮上を試みる。
 この場に――風があったからこそ、助かったのやもしれない。
「その程度の覚悟で私の前に立つな。その程度で覚悟と証するな。己の死を前提とした覚悟なぞ自慰行為に過ぎん。」
 まるでその痛みの前に深手を負った経験があるかのような口ぶりで。
 吐き捨てるように灯理が言えば、彼女の――指同士が音を鳴らした。
 それを合図と言わんばかりに、「念動力」で式神を狙う犬たちは手足を撃ち抜かれていくではないか!
 まず逃げぬように足から、そして二度と握れぬように手のひらに風穴を。
 そして頽れる胴体から、二度と思考も出来ぬように頭に風穴を。
 仲間が殺されたのを見て、逃げ出そうとする手合いには夕立の竜巻が邪魔をする。
「くそっ、くそ――ォオオオオオッッッ!!!」
 このままでは終われまい、古の正義たる我らが、古を否定する猟兵に屈するわけにはいかぬ!
 そう決意した一匹がリーダー格であることは、情報を辿らずともわかる。灯理がその一頭に向けて吐き捨てるように告げてやった。

「役者が違うんだよ。」

 お前たちが演ずるには、あまりにも足らなすぎる。
 表情で、そしてその全身で探偵が語る。
 ――言うと思った。という顔で離脱する夕立は、己の耳を抑えいた。
 腹を撃ち抜かれ、完全に動けぬように頭を撃ち抜かれていく犬どもが彼女を「ここまで」いらだたせたのだ。
「だから嫌いなんですよ。公僕《イヌ》。」
 たとえ仕える相手が下郎であろうと、しっぽを振って誇らしげに覚悟だのなんだの体のいい言葉を並べて己らを飾る。
 そんな彼らが――夕立と灯理が好きになるはずもない。

 夕立が耳を塞いだのは、間もなく正解であるのが証明される!
「ウ、う、ゥウウウぅウォオオオオオオオオオオ゛オオォ゛オ゛オオッッッッ!!!!!!!!」
 劈くような慟哭と共に、顕現したのは先ほどの一匹に収束した狗の――巨大化形態である!
 渦巻くようにバイクを走らせていた灯理が、それを察知しては先ほどの非常口へと進路を変えた!
「逃げ、ルのカッ、猟兵ェエエエエエエッッ!!!!」
 志気高く、過去に従い未来を摘むために従属する獣がそれを断じて許そうとはしない!
 走る白銀の虎を追いかけて、すっかり狭くなった迷宮内を四つん這いで重々しく動く。
「探偵さん!貸し一つ忘れずお願いしますね」
 どさくさにまぎれて面倒なことを擦り付けてくるお得意様だ、なんて思いながら。
 夕立が上空に式紙で追い風に乗って逃げながら、探偵が跨る虎にまるで燃える火へ薪をくべるかのように――式紙たちを集める!
 ひたりひたりと鉄に貼りついたそれが、彼女の速度を さ ら に 上 げ た !
 壁に爪をめり込ませながら口をがばりと開けて迎え舌を隠しもせず、醜悪な大型犬が白き虎を追うが一定の距離が開く!
 この時を待っていたと言わんばかりに、視線だけを後ろに灯理がやれば。

「『トランクを開くと武器庫だった。……うん、私に文才は無いな』」

 召喚されるのは――探偵の道具が詰まる、【私用の鞄(マイ・アーセナル)】!
 彼女が「呼び出せ」と脳から指令を出せば、道具箱たるそれは望みのものをごろごろと中から溢れさせていく!
 中身の音に、それから重さににやりとしてようやく口の端が吊り上がった。

「失せろ負け犬。私の邪魔をするな。」
                    アンサー
 それが、――探偵から彼らに突き返された回答だった。
 石ころのように転がった手りゅう弾が、犬の真っ黒な喉に灯理の代わりに吸い込まれて腹を満たしていく。

 刹那、爆発!!

 どうどうと犬の腹の中で何度も花火の音を響かせながら、その体を内側から灯理が焼いてみせた!
「うわ、大丈夫ですかね、これ。火災報知器とか」
 オレの式紙が濡れちゃうんですけど――と愚痴る夕立が、ブレーキを踏んでようやく静止した探偵に視線を送る。
「問題ありません。あらかじめ止めてありますから」
 余計な借りはもう作るまい。むしろ、借りた覚えもないのだが。灯理がいつもの表情に戻って、天井を見た。
 ああ、やはり抜け目ないのだなぁと夕立が彼女の視線の先で沈黙する報知器を知る。
「じゃあ、探偵さん。事件は解決ってことで」
「いいえ、まだ奥に『真犯人』がおりますので」
「ドラマの見すぎじゃないですかね」
 軽口を交わしながら、いつものようにいつものままで。
 己らの背後で燃える過去のことなど、気にも留めはしない。
 今度は同じ速さで一度蒸した迷宮から出てみれば、あちこちでも攻略は進んでいるらしい。
 ならば、次はどこのルートから行けばいいのかなど二人にはとっくの昔にわかっているのだ。
 ――その方針が共有されるかどうかは、きっと、『ケース・バイ・ケース』に違いなかった。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​

死之宮・謡
アドリブ&絡み歓迎

ふむ…死して尚立ち上がり叫ぶか…中々好感が持てるが…無力なれど立ち向かい散る…それが解せぬほど愚かでも有るまいに…
其れでも尚、来るというのなら私も全力で相手を使用…それが命を懸ける者に対する礼儀である故…

・戦闘
【雷】継続状態
「呪詛」を掛け「怪力」で「生命力吸収」の「なぎ払い」を…
【黒金は血に嗤う】…理性を捨てて…
…アディオス…



●SEOUL BATTLE

 死してなお、立ち上がる獣どもは。
 各地点に置いて血しぶきと煙をあげて再びその命を海へと還していく。
 忌むべき相手ではあるが――その心の在り方は素直に褒めれたものだなと思うのは死之宮・謡(統合されし悪意→存在悪・f13193)が内包するセラ・アイノーンである。
 セラは先ほどの戦いでも示したように、志高く賢明な生き物の心を好ましく思う。
 支配者でありながら武人でもある彼女は、己を高めようとするためにより、強かなものを善しとするのだ。
 なれば先ほどの市民たちに向けた別の感情で、この過去の御使いどもには向き合わねばならない。
「中々好感が持てるが、無力なれど立ち向かい散る。それが解せぬほど愚かでも有るまいに」
 このセラを前に、勝てるはずがないのはセラも彼らもわかっていたはずである。
 しかし、セラが堂々と正面切って迷宮に立ち入ったのならば、彼らもまた正面から行かねばならぬ。
「猟兵よ」
「何だ」
 短い問答には、あきらめの色などはないが――。
「俺たちは、正義のために散るのだ」
 それは、意志で黒騎士に挑むという意志表示であった。
 ならば。

「そうか」

 其れでも尚、来るというのなら――全力で黒騎士は迎え撃つばかりである。
 ゆるりと瞳を閉じて、己の中に再び巡る雷の因子を辿った。
 彼女が求めるのは、この奥にいる強者との戦いである。しかし、今目の前に居る彼らにも『全力』を振るう価値があると悟った!
 きいきいと甲高い音で空気を割るのは、金色の雷鳴である!

 圧倒的な魔力を前に、まず獣どもは己らの勝ち目に絶望の色を感じる。
 だが、この獣たちは勝つことを求めているわけではない。
「――その身を賭してまで、時間が惜しいか」
 彼らが信じて疑わぬ、かつての正義が力を手に入れる時間が欲しい。
 獣たちがぎらついた色とりどりの目でセラに視線だけで応える。それぞれが――一斉に吼え始めた!
 
 空間を揺るがす大きな声量で己らの魔力を高める獣どもである。
 それをセラは止めなかった。全力で己らの忠義を全うしたいというのなら、そうすればよい。
 セラが今更己の魔力を止めれないように、彼らもまた己の気持ちを止めれないのだろう。
「ぅうう、ぉお、ァ、ア」
 セラもまた唸る。己の呪詛がにじみ溢れ、彼女の鎧ごしに体に染み渡る。 
 今こそかつての世界で振るった力を顕現するときであった。――そうしてやってもいいと思えたのは、セラが対峙した彼らの「こころ」にうまみを感じたからだった。

「ッ―――あぁ゛!!」

 一際大きく吠えれば、セラの周囲に先ほどよりもずっと大きな雷鳴が轟く!!
 犬たちが思わず耳を寝かせてしまうほどの音と、衝撃が迷宮の床を割った!まるでセラ自信を焼きそうなほどの威力で、雷はセラをより恐ろしい物へと変えていく。

「『征クぞ?私は私ダ…戦イに狂い血ニ酔う…故に如何取り繕おウと、コレこそガ私ノ本質ダ…』」

 【黒金は血に嗤う(デスペラード・バーサーカー)】はここに発動された!武人であり、狂人である彼女が雷を帯電させれば。
「ォオオオオオオオッッッ!!!」
 襲い来る犬どもに槍の穂先を向けてやる!
 犬どももまた、呪われた因果を纏って超高速で駆けては――セラの鎧ごと攻撃せんと紅い棒を振り上げたのだ!
 だが、セラは臆した様子もなく。そのまま、片足を踏み込めば姿 を 消 し た 。
「ッッ!?」
「どこだ!猟兵ッ!」
 犬の鼻が数々行く先を変えて、攻撃対象であるセラを求めてさまよう。
 その鼻に居場所など捕らえられまい。なぜならば!

「――全力デ貴様らヲ潰すッッッッ!!!!!!!!」

 己 が 魔 力 で 正 気 を 削 ら れ な が ら ――セラが、あまりにも 早 す ぎ た の だ !
 己らの気持ちとその声に乗せて、身体能力を底上げした狗どもよりも。
 雷の恩恵を授かりその力を自在に操るセラでは圧倒的な実力差があった!
 それでもなお、逃げはしない。古の正義たちの潔いまでの敗北ぶりに黒金の女が大きく口を開けて笑った!
 穂先が切り裂いた空気を諸共せず、無数に存在した狗から狗へと電気の回路を結んでいく。
 セラが突進をすれば電磁の誘導通り、感電した獣たちを手順通りに。手順一切たがわずその心の臓を、頭を、腹を貫いていったのだった!
 
「アディオス」

 旋風と共に血を撒き上げながら、彼女は前に進んでいく。
 けして立ち止まらない黒騎士が、口元に浮かべた挑戦的な笑みを隠せない。

 やはり、戦場はこうでなくては!とセラが確信する。
 殺したところで、彼らは確かに目的を果たしてセラに一矢を報いてやったのだ。
 これからもセラの前に彼らと同じ種類の過去共が立ちはだかるのだろう。

 ――心の削り合いというのは、これだからやめられない!

 夥しい血の水たまりを作りながら、黒騎士は前へと歩いてくのだ。
 たとえその歩む道で地獄を作っていたとしても、けして振り返ることはなかった。
 彼女を歓迎するように――風は優しく凪いでゆく。

 

大成功 🔵​🔵​🔵​

三千院・操
◎◎★★
へーぇ、面白いね! オブリビオンになってからも職務を全うしようとするなんて、随分と仕事熱心な感じ?
きひひ! ま、全員ぶっ潰しちゃうからあんまり興味ないけどね!
それにおれは黒幕の方に用があるの! きっと超強いんだろうなぁ……きひ、ひひひ! 興奮するよ!

んで、偶像(ヒーロー)の邪魔? だったら場所を変えてあげる!
【UC】を使用! だけど敢えて呪詛を外すことで心象世界を展開! ポリス達を引きずり込むよ!
心象世界の内部では改めて呪詛を発動! 『魘魅箱』から取り出した自殺者の縄を媒介にして、彼らに“首輪”をつけちゃおっかな!

そーら! 犬のおまわりさん!
困ってるんならワンワン鳴きなよ!



●UNKNOWN

 地獄に限りなく近くある、この迷宮において。
 力を貪り力で己を証明することに熱中する男が一人。
「ッらァ!!!」
 空気を割く膝蹴りを一度、跳ねながら筋骨隆々な彼の体に乗せて放つ!
 それを己の腕で防ごうと受け身を取った――狗の腕をひしゃげさせ、壁まで吹っ飛ばして見せた。
 正面も後ろも人がいるのなら、ならば己は西から入ろう。盛大に暴れてやろうと重々しく鍛え上げた体を連れて戦場にやってきたのが――三千院・操(ヨルムンガンド・f12510)である。
 ずん、と大股になって前のめりの姿勢で片足に重心をかけ、ごきごきと首と肩を鳴らしてみせる彼こそ犬よりもずっと恐ろしい化生のそれであった!
「オブリビオンになっても職務全うに尽くすなんて、おまわりさんさすがだね!」
                 
 UDCアースにおいても警官というものには操もそこそこ世話になったことはあるだろうが、ひいてはヒーローズアースにおいてもそれは変わらなさそうだ。
「あまり舐めるなよ小僧、ここで現行犯として射殺する」
「射殺ゥ?きひひひひひッッ!――そういうことをおれに言うやつ、出来たためしがないんだよねっ!」

 どうしてか教えてあげようか?

 まるで、小さい子供が己の持ちうる世界の正解を大人に誇示したがるかのように、操がにたりと口角をあげる。
 有象無象の犬どもに興味はない。操が望むのはこの先にいる強大な敵性だ。
                  
 だからこそ、操が今やるべきことは。
コロシアイ
この大人たちと準備運動で楽しむことである。
 ぐるりと操の中で彼の獣性が呪詛が渦巻きだして、それはゆるりと彼の体を纏うように解放されていった。
 その光景を警戒してか――狗どもは一つにまとまりだす。
「我々のヒーローを子供が邪魔をするなと言っているのだ、聞かん坊めッッッ!」
 一匹が一匹に溶けて、その分だけ体を大きくする。どんどんとそれは早められていけば、あっという間に操の5倍はある大きさに成った犬が操を見下すのだ。
「きひひひ!!」
 なんと――面白い結果か!
 操が狂笑めいて嗤いながら、巨大化した狗が振るう拳を跳び箱のようにして一度かわす!
「邪魔しちゃぁいけないっていうなら、場所をかえてあげるよ!」
 まるで、願いを叶える魔法使いのような口ぶりで軽快に、そして楽し気に!
 彼らをここまで強くする正義の象徴とはどのようなものであるかを考えれば、呪詛の出し惜しみをする気も全く失せた。
 跳んで躱した操が、さらに拳の一撃の上で両足をばねのようにして跳ねて地面へと転がっていく。
 ちょうど、彼の位置は――巨大な犬の懐だ。しまった、と犬が彼を視線だけで見下ろしても絶命は未だ訪れない!

「『──天有は未だ無名なり』」

 囁くように、操が呪詛を地面に向けて放った。
 犬が身構えて後ろに飛びのくが、目立った爆発や地割れ、そのほか攻撃に値する反応は現れない。
 ――なんだ?何をした?
 大きくなった頭であっても、所詮は犬だなと操は思う。
 彼の高度な呪詛から演算されるのは、攻撃ではないのだ。攻撃は彼の体が行うべきことである。
 ならば――彼の頭に乗せられた、犬よりもずっと密度が高く質量のある「脳」は何を導き出すのかといえば。

 無骨な真っ白い迷宮内に、水彩のインクを垂らしたかのようにじわりと赤が広がった。
「ッなんだ、それは」
 獣が本能的に委縮をする。頭のいい犬だなと操がわずかに感心して、ゆっくりと体勢を整えて立ち上がる。

 ゆらり、顔を上げると同時に展開されるのは――操の内包する心象風景。

 真っ赤な世界は、滲むように現実の世界を侵食し始めた。
 真っ黒な太陽と、その周りを燃える炎が視認できるほど赤が鮮やかな世界である。
 操の背後には、無数の腕を持つ仏の巨大な銅像が顕現する。タイル式だった地面にはどんどんい草が侵食して、畳へと変容した。
 壁であったところには木彫りの悪魔たちでできた柱と、無数の人間の意志と怨念が渦巻く線香の香りが満ちる。

 荘厳で――きわめて、狂気的。

 【 (カラ)】と名付けられたそれは、操の魔術工房を具現化するものである。
 今この場で、今此処で。神や仏に等しい存在なのは操なのだ。招かれた犬は所詮彼と彼の世界の餌にしか過ぎない。
 操が持ちうる呪詛の数だけ、この世界では操以外を縛る鎖となる!

 犬どもはこの世界において、心を支配されていく。操の呪詛が――彼らの魂を蝕んでいくのだ。
「そーら、犬のおまわりさん!」
 ・・・・・・
 間違えているのではないかと思わされるほど、少年めいた操の声がその耳に届けば――首には荒れた麻縄が巻きつけられた!

「ォ、ぐゥッ!?」

 そのまま、ぐんと引っ張られ畳の世界に叩きつけられる!
 奪われた心と思考では、一体自分たちがどんな目にあっているのやも判然としない。
 かわりに、巨大な犬が見上げるのは――。

  操 と 同 じ 顔 を し た 、三 千 の 腕 を 持 つ 御 仏 の かんばせであった。

「困ってるんなら、ワンワン鳴きなよ!」
 そんな叫びは、誰にもここでは届かないけれど。
 操が麻縄を己の手に巻き付けて、足を前に踏み出す。力任せの両腕と一緒に、犬たちをその空間に『振り回した』!
 最初一、二度は引きずり回すようにして旋回したが徐々に遠心力で巨体を浮かせていく。
 彼の地獄においては、どのような呪詛であっても全てが彼の力へと変容するのだ。
 首を締め上げられたまま、まるで頸椎を折るか折るまいかの瀬戸際で弄ぶような痛みがちょうどよい具合に、 犬 た ち を 殺 さ な い !

 まさに、必要外の拷問である。
 まさに、――操の快感の為だけに講じられた戦いであった!

「せーのォおッッッ!!!!!」

 操が一つ牙をむき出しにして吼えて、その手を離せば。
 巨大な犬が、より巨大な御仏に吸い込まれるようにして叩きつけられたのだった!

 ごうんと重苦しい鐘のような音が響いて――狗どもがまるで水風船のように赤をぶちまければ御仏の中に赤が染みる。
 ――また、呪詛がこうして増えていく。
 また、強さを手に入れて立証してみせた。

「きひ、ひ、ははははっ」

 誰も彼を誉めてはくれないが、それでもどこかこの空間に懐かしさを含んだ表情をする操は笑う。
 天井のない和室の中で、呪われし修羅が――黒い太陽を見上げたのだった。
 

大成功 🔵​🔵​🔵​

アネット・シェルティ
イヤだよ!
ヒーローだかオブリビオンだか知らないけど邪魔しちゃうもんね!!
わたしは難しいことは分からないから深くは考えないよ!
そういうのは他の人にお任せ。
私の役目は敵を倒すことだよ。
敵を倒せば先が見えるはず。

◆行動
敵のもとまでゆっくり近づくよ。
敵の銃弾による攻撃は【見切り】と【武器受け】で対処だよ。バトルアックスに手錠が繋がれたらむしろ好都合♪
【怪力】で手錠を引っ張って敵を近くへ引きよせるよ。
敵が近くに来たらバトルアックスをおもいっきり叩きつけてあげる!

ありがとー!キミたちを捕らえる手間が省けたよ!
手錠に繋がれたのはキミたちの方だったみたいだねー!


ティオレンシア・シーディア
◎★△

骸の海から還ってきてもなお付き従うなんて、文字通り大した忠犬っぷりねぇ。
…忠義と妄信って、実は紙一重の差もないんだけど。

知覚のどこまでが犬に近いのかは知らないけど。
見た目犬っぽいし、多少は感覚鋭い、と考えておくのが妥当よねぇ。
なら…閃光や音響より、こっちのが効くかしらぁ?
クレインクィンと〇投擲で催涙弾をバラまいて〇援護射撃するわぁ。
こういうのは覚悟云々の精神論でどうにかできるものじゃないもの、中々に効くでしょぉ?
隙を晒した奴は●射殺で仕留めてくわねぇ。

力を手に入れて、いったい何やらかす気なのかしらねぇ。なんとなく想像はつかないでもないけど。
まあ、なんにしろ潰すのは変わらないんだけどねぇ。



●Wedding aisle.

 オブリビオンであれ、なんであれ。
 狼耳を生やした花嫁のバージンロードを邪魔するというのなら――ここで倒してしまわねばなるまい。
 同じくイヌ科の血を奇しくも宿した花嫁が、ゆっくりと歩みを進めながらじりじりと目の前の無数へと戦いの姿勢にうつった。
 アネット・シェルティ(いのち短し恋せよ人狼・f15871)が出来ることは、その寿命と同じく限られている。
 深く考えるほどの時間も頭もないのだ、彼女が出来ることはただただ敵を倒すだけ。
 作戦を組むほどの知能もないと豪語できる素直な彼女だから、誰かがともに行かねばならぬ。
 じゃあ私が、とついていったのはティオレンシア・シーディア(イエロー・パロット・f04145)だった。
 彼女はアネットの隣で、目の前の忠犬どもへ憐憫の紅い瞳を見せる。
「私の役目は敵を倒すことだよっ!敵を倒せば先が見えるはず。」
「あらあらぁ、元気がよくていいわねぇ」
 そんな和やかな会話がつい数刻前のこと――とは思えないほどに。この場には殺気だけがただよっていた。
 アネットの言うことはシンプルだからこそ、的を射ている。
 正義の味方は己らであると叫ぶ地獄の獣がいかに妄信的で忠義を間違えているのかなどは――過去になった時点で、説教も無意味だ。
 力を手に入れたかつての正義が何をしでかそうというのかは、大体想像がついている。

「全部壊しちゃう気、なんでしょう?そっちのほうがだめよぉ」

 まるで悪い子に声をかける近所の人のような軽さで。甘ったるい声が間延びして、犬たちの耳を震わせた。
 沈黙は、都合のいい肯定になる。
「どーいうことなの?」
 この場で、唯一真相を知らない――正しくは、先に進むまで知る気がなかったアネットが己のバトルアックスを構える。
「んー。めいいっぱい力をつけたなら、その分だけ振るいたくなるじゃなぁい?」
 情緒の幼いであろうアネットに言葉をあわせながら、「そういうことよぉ」と補足してやるティオレンシアの回答もこれまたシンプルだ。
 正義をかざして己らに暴力を働く彼らの破綻ぷりは、きっと「そういう主人」が後ろにいるからである。
 ありとあらゆる裏の世界を覗いてはかつてのティオレンシアもその住人だった。手に取るように悪党の考えていることなど、わかってしまう。
「なるほど!じゃあ――」
「排除するッッ!!!!!!」
 主人の心のうち。すなわち、最終目標を悟られた。
 アネットが返す言葉も待てないで、猛犬たちは駆けてくる!
 どうと地面を蹴ってはるかに彼女らをうわまわる牙の大群が押し寄せる!

「わたしも、いーっぱいあばれちゃおう!」

 見開いた目には確実な殺意。開いた笑うだけの口には明確な敵意。 
 ティオレンシアに向けていた顔からぐるんと一転。
 ――純粋すぎてまさに狂気的!
 アネットがすべてを焼き尽くすような太陽の笑みで、その手に握ったバトルアックスを駆けてくる猛犬たちに薙いだ!
 細い腕から想像もつかないような怪力は、衝撃波を生みながらまずその一波を血しぶきへと変える!
 犬どもが波なら、アネットはその間に立ちはだかる岩のようだった。
 一歩も微動だにせず波を打ち消す花嫁の真白が――真っ赤に染められていく。
 それもまた、かわいいのだからよいとするアネットとその様を見ているティオレンシアの頬にインクをひっかけたような赤がついた。
「じゃあ、あたしもご一緒に。あ、鼻。塞いでた方がいいわよぉ」
「はな?」
「そうそう、そうしておいてぇ」
 アネットの一撃で近接は不利だと知った後続の二波がそれぞれ拳銃を構えだす!
「動くな!!動けば殺す!!」
 アネットが鼻を塞いで、これでいい?と聞きたげに愛らしく小首をかしげれば満足げにティオレンシアもうなずいた。
 いいこねぇなんてあやすように舌の上で音を弄んでから、彼女が素早くクレインクィン――投稿武器を構える!
 矢を乗せたその先端に、刃だけではないものがついている。
 嫌な予感がして、ぞわぞわとアネットが身の毛をよだたせた。
 きゅうっと強く瞼を閉じた人狼に、より笑みを深めてからティオレンシアが拳銃と相対する。
 
「――殺してごらん?」
 
 挑発ではない。

  そ の 獣 の 根 性 を 見 せ て み ろ と 言 っ た の だ !

 拳銃よりも早く放たれた矢がその身に乗せたのが、催涙弾である!
 犬っぽい見た目だからと――軽率に乗せてみたのは、アネットに確認してほしかったからだ。
 アネットが快くない反応を見せたところで、この策は通用すると確信に変わる。
「ぉお、おッ、お、おおおおおおおお!!!?」
 放たれた煙み噎せながら、げぇげぇと悶絶しだす犬たちである。
 幸い、風向きを逆手に取った動きもティオレンシアが想定した。風は――先ほどから、この先に向かって吹き続けて居る。
 まるで招くように強く吹いた風が背後から彼女らを吹き付けても、今は催涙ガスから守る現象となる。

 さて、ならば己の仕事は仕上げの段階だと言いたげにそのまま、ティオレンシアが矢を構えた。
「『あたしの前に立ったんだもの。逃げられるわけないでしょぉ?』」
 もはや、銃殺刑である。
 【射殺(クー・デ・グラ)】と名付けられたユーベルコードが彼女の身に宿った!
 どう、どうと放たれる矢が順番に犬どもを撃ち殺していくのを嗤う。笑っている!

「わたしも、わたしもー!」
 己に催涙ガスがかからないとわかるやいなや、バトルアックスで飛び出すアネットに頷いてやる。 
 ティオレンシアはもとより、彼女を援護する予定だったのだ。
 彼女に放たれた銃弾をより少なくするために、矢をまた装填する。
 アネットは――銃弾を強固なバトルアックスで弾いていた。跳弾する弾がどこに言ったかなど気にも留めないで、明るい顔で前に進んでいく。
 細く小さな体が白い純血の薔薇を添えられた凶悪な武器をまるでバトンのように振り回して、その斧に鎖を纏っていった。
「あえ?」
 どんどん質量を増す斧にようやく気付いて、その鎖が己の弾いた鉛の主たちと繋がっているのを悟れば。
 まるで幸運を喜ぶかのように破顔する!

「ありがとー!キミたちを捕らえる手間が省けたよッ!」
 明るく、そしてどこまでも底なしに幸せそうに。
 今この時を謳歌する、彼女は――!
 がしりと鎖を掴んで、そのまま怪力に任せて左肘と肩を後ろに勢いよく引けば。
「おわ、ァアアああああッッ!!!?」
 空を舞いながら、まるでお伽話のように警官たちが芋ずる式に空を舞うのだ。
 それを待ち構えていたのはアネットの鋼である!
 空中で抵抗できないようにティオレンシアがすかさず援護射撃で彼らの腰椎を撃ちぬいていったのを、平らげるように。

「いっくよー!【グラウンドクラッシャー】!!」

 も は や 、 身 体 す ら 残 さ な い !

 地面に叩きつけられる前に、全身を衝撃波で破壊されて血袋となった彼らが破裂した。
 圧倒的な力の前に、圧倒的な質量を前に!


 ――紅いペンキをぶちまけたかのような戦場のあとで、やはり向日葵のように明るく笑うアネットである。
「あはは!手錠に繋がれたのはキミたちの方だったみたいだねー!」
 人狼の彼女が何もかも終わった後で、黒霧へと変容するしかばねたちにどうだまいったか!と言わんばかりに胸を張ってやった。
「ふふ、じゃあ次は――会場(おく)に急がないとねぇ」
「はっ!?そうだった、いかなきゃ!」
 そこにアネットを待つ旦那様などは、いないのだけれど。
 それでも一分一秒の幸せを無駄なことには裂いていられない。
花嫁が白ドレスを真っ赤に染めあげて慌てて走るのを、和やかに見守る黒の用心棒の姿は――いつもどおりのそれだった。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

マレーク・グランシャール
ヒーローズアースという世界は「正義」に取り憑かれている
正義を求める余りヒーローとヴィランに二極化し曖昧を許さない
だが人間は正も邪も合わせ持つもの
この世は秩序も混沌も存在するものだと俺は思う

黒幕は元ヒーローらしいがこの犬警官どもも元は正義の執行者
世間の正義と異なる道を辿ったというだけ
猟兵として元に戻せねばなるまい

敵の銃弾は【汗血千里】の高速移動と風圧防御、そして【黒華軍靴】の敏捷性で回避
射程距離を伸ばして【碧血竜槍】を槍投げ
同時に【魔槍雷帝】の電撃で敵を蹴散らす
人間であるヴィラン相手には手加減したが堕ちた身に容赦はしない

断罪者気取りの黒幕の元まで通して貰うぞ
例えこの命まで駆け抜けるのだとしても



●RISING

 あくまで調停者であるのならば、もう一度この世界を俯瞰的に見てやるべきであろうと。
 槍を二本携えて、マレーク・グランシャール(黒曜飢竜・f09171)は警官共の前に姿を現してやった。
 ヒーローズアースと呼ばれるこの世界は、目の前の警察たちの瞳に燃えるものと同様の――「正義」というものに憑りつかれていると、マレークは考える。
 正義を求めるあまりに、多数派と少数派を二極化する。その曖昧を赦さない、というのはどうにも数多いる生き物には息苦しいものだ。
「人間は。――生きとし生きるものは、正も邪も併せ持つ」
 彼が槍を携えて、まだ構えない。
 なればと警官たちも彼に向き合うのだ。
 ――これほどまでに、律儀だったのは生前も過去となったこの場においても。
 彼らの心と言うのは、流石元正義の執行者と言うべきか。マレークが眉間の皺を少し減らして、改めて彼らを真正面から視界に入れる。
「この世は秩序も混沌も存在するものだと俺は思う」
 未来を冒すことは許されないが、世界から運命を奪うことも許してはいけないが。
 曖昧に入り混じるものも、あってはいけないのか。正義だから悪だからと広義に当てはめただけですべてを裁いてもよいのか。
 マレークの真剣な面持ちで問われた犬どもは、一度頷く。
「確かに。猟兵、貴様の言うことは分かる」
 前に一歩出た、大柄の犬がきっとリーダーなのだろう。無線からは多くの仲間たちの断末魔が響く。
 それでも、憂うようなそぶりがないのは――この宿命を受け入れているからだ。
 少なくとも、目の前でマレークに語る犬は覚悟でもなんでもなく、「そうあるべきだ」という予定調和を受け入れていた。
「『グレー』であるから苦しんでいる者たちもいた。だが、結局この世界においては――『ブラック』か『ホワイト』に転がるのだ」
 少数派よりも、もっと少ない存在は。
 逃げ続けることも許されずに、二択を迫られて必死にどちらかを掴むことになる。
 白であるものが黒になったり、そこにグラデーションはあれど結局は一つの色にたどり着くような世界が、予め出来上がっている。
「お前たちには、わからんか」
 なおの事、己らに向き合う彼の表情が変わらないのを犬も視る。
「ああ。お前がわからんようにな」
 マレークが一度、紫に輝く瞳を伏せた。
 どこまでも――この犬たちだって、まっすぐに生きていたのだろう。
 こうしてマレークが彼らの声を聞く間であっても、馬鹿正直なまでにマレークと言う存在と向き合う。
「しいて言うのなら、我々のボス曰く」
 ――きっと、『この世界は病んでいる』。
 犬が悲し気に、しかしそれを認めるように放った言葉を合図にマレークは目を開く。
「それは、無い」
 断じた。
「正しくは――無くす、のが俺たちの使命だ」
 犬たちの顔を見やれば、心の内を聞いたマレークには敬意をもって戦わねばならぬと瞳に闘志を宿している。
 世間の正義と異なる道を辿ったというだけ。
 その瞳が、マレークに彼らのすべてを教えていた。
 ならば、マレークは――。

「猟兵としてお前たちを――元に戻せねばなるまいッッッ!!!!」

 咆哮を上げる。いいや、宣誓する!
 この世界がいかに極端で、彼ら以外の誰かを傷つけようとしても。
 その因子は、その元凶は――猟兵たちが穿たねばならない!
 空気を走った戦意に獣たちが銃を構え、そしてその半数は咆哮を上げた!
「来い、世界の正義よ!」
 待ち構えるように吐息を口の端から黒く漏らしながら獣が待ち構える。

「『草原を吹き抜ける野性の風よ。我が血、我が命をもって疾風の竜となれ』」
 マレークが宣言のあと、この場を先ほどから漂う風を打ち消すように――握った碧の槍から暴風を吹き出す!
 これぞ、【汗血千里(ドラゴニック・ワイルドウィンド)】!
 砂も誇りも、彼らの帽子も巻き上げるほどの威力を纏うマレークはその風に己の体を斬られていた。
 吹き出る血潮と生命が、彼の魔術をより凶悪にする!

「――断罪者気取りの黒幕の元まで通して貰うぞ」

 ごうごうと喚く風を耳にしながらマレークが槍を二本構えて、腰を低く落として地面を蹴った!
 流れる風に合わせて、ごうと飛んだ黒竜の体が纏う野性のまま――豪 速 で 狗 ど も め が け て 槍 を 投 げ る !
                                               
 貫く碧は獣の目ですら追えないのだ、腹に風穴をあけられてゆくかつての正義に振り向くことはなく。
           アタック
 マレークも槍に続いて突進!
 手に携えた「魔槍雷帝」の雷が彼の体をより焼いても――止まらない!
 いいや、猟 兵 で あ る 彼 を 止 め て は な ら な い ! 
「ウウウウゥウオオオオオオオオオオッッッ!!!!!!!!」
 牙たちが方向を上げて高速で動きだす。マレークを何とかして止めようとその体を前へ前へと進めて、壁となろうと彼の槍に貫かれながら、彼の腕をがしりと二の腕で巻き付いて挟むものもいた。
 マレークの腹をタックルを用いて、肩で打つ獣も。弾をはじかれたが、代わりに発生した鎖でマレークの脚を縛り動けなくしようとする獣も。
 皆が皆、――異なる道を信じている瞳をしていた。

 だからこそ。

「ぉおおお、お――」
 マレークが戦慄く喉の奥から、己の魂を削ったのだ!!

「ッぉお、おおおお゛おおおおおおッッッッ!!!!!!!!!!」
 
 放電。

 あまりにも電圧の高い放電が、あたりにまき散らされた。
 その強さは彼を縛り付けていた獣たちが一瞬で炭となるほどのものである!
 施設の電圧計が破壊されるほどの――雷であった。

「言っただろう、通して、もらうと」
 さすがにマレークの息が上がる。
 繊維が軽く焦げた己の上着を、暗闇に慣れてきた瞳ではたいてやってからマレークは雷光を纏って前へと進む。
 ――幸いにも、この戦場では夜目と暗闇に愛されたものが多い。
 ならば、これもまた仲間の為になったであろう。と己に言い聞かせて先へと歩む。

 正義と言うのは、やはり恐ろしい。
 彼の灼けた手袋がそれを物語るのだった。

成功 🔵​🔵​🔴​

壥・灰色
壊鍵、――過剰装填

魔術炉心全開
肘から余剰魔力が吹き出し
目が蒼白く曳光する

何があってこんな真似をしているのかは知らないし、聞いてやるほどお人好しでもないが
ヒーローっていうのは、人を救う存在のことを言うんじゃないのか
あれを放っておけば、また何人も死ぬ
そればっかりは許せない

――先のヴィラン達は目零したけど、今度のお前らはオブリビオンだ
立ち塞がるなら容赦なく排撃する

口上はそんなものでいいだろう
あとは無駄口も必要ない
足下で衝撃を炸裂、近接、打撃を叩き込み衝撃を注いで粉砕
拳打命中の反作用、反動を魔力へ逆変換、それを再び魔術回路に注いで衝撃を精製――
その結果が縦横無尽の拳のラッシュ
一体とて、生かして帰さない


ヴィクティム・ウィンターミュート
◎★△

ちょいとばかし出遅れちまったが…
超一流の端役、到着したぜ

さーてさてさて…
堕ちた英雄の犬で、警官?
権力の犬とはよく言ったもんだ
対象が変わっただけで、相も変わらず尻尾を振り続けるのは犬の性か…
おっと、怒るな怒るな
事実を言われたくらいでキレるなんて、懐が狭いぜ?

なーんて、挑発をかましてっと
使えよ、ユーベルコードをな
理性かっ飛ばしてこい
そうしたら俺の『反転』が猛威を振るうぜ
リバース発動!
超攻撃力と超耐久力を反転
ざーんねん!決死の覚悟は歪められ、自らの首を絞めるのさ!

悪ィな、同情も慈悲もかけてやらねえよ
お前らのヒロイズムは向かう先を間違えてる
退きなよ犬っころ
この道はな
──英雄が通る道なんだぜ



●Arsene & GRAY

 高い電圧が二か所で起こされたのを代償に、迷宮内のすべてが真っ暗となる。
 これは獣である――かつての正義どもにはなかなか手痛い。
 彼らは狼ではなくて、犬だ。光ある世界で生きてきた瞳では、影に隠れる猟兵とは相性が悪い。
 最も――ヴィクティム・ウィンターミュート(impulse of Arsene・f01172)にとっては彼らがいい餌にすぎなかった。
 彼は、彼曰く。超一流の端役なのだという。
 端役といっても、決して無意味な存在ではない。ヴィクテムのような「端役」が存在せねば、この場の主役にスポットライトが当てられることもないのだ。
 端役であることを無意味だとは思ったこともない。己の存在と言うのは、そうあるべきだと少年は課し続けて居る。
 非合法の工作員――兼、猟兵。彼が振るう武器と言えばランニングハックを中心としたサポート系であった。
 生まれに恵まれないながらに、その動き方や生き方と言うのは今日の彼を強かなものとする。

 さて、電脳魔術の権化であるが。電気が落ちたところで、ヴィクテムには無関係だ。
 彼は――彼こそが、パーソナルコンピューターである。
「さーてさてさて……」
 両の掌をこすり合わせるようにして、ヴィクテムがとんとんと己の頭を人差し指で叩けば。
「主役のご到着はまだかな――ッと」
 彼の大脳の電算機がより動き出し、網膜のサイバーディスプレイは周囲の情報をスキャンし、内耳は彼の居場所を正確にとらえて、音と風の流れから明確に進路方向を作り上げ、神経はたぎり。
 戦闘状態に突入するタイムラグはほぼ0であった。
 今日の彼も、また無意味な存在にはなり得ない。システム稼働率が十分な数値をたたき出して、彼の視界に施設の地図とそこにいる生体反応を映す。
 ――やってるやってる。
 猟兵たちが戦う場所には、サーモグラフィーが反応する。
 真っ赤な反応を示しながら猟兵たちが四方八方から中央に向けて歩いているのが分かった。
 ――黒幕の居場所はセンターってか。
 そこに反応する膨大な魔力に【UNKNOWN】の文字が真っ赤に染まっている。
 どうやらヴィクテムのシステムでも「今は」解明できないそれを、オブリビオンが吸い上げてるとしたら。
「こりゃあ、ちょっと厄介だ」
 ヴィクテム一人で挑むなら。
 しかし、己の居場所ちょうど後ろに、新たな猟兵の反応がある。
 ようやく主役のお出ましかと振り向けば、其処に現れる彼もまた――ヴィクテムとは違うが、人を捨てるものであった。

 ギガース ・ オ-バードライヴ
「壊 鍵、――過剰装填」 
 青色の閃光を隠せない。肘からの余剰魔力が彼を青く蒼く彩る。
 ヴィクテムをその蒼で照らして、味方であると認識したならば。
「先に往く」
 一言、声をかけて前にずんずんと進むのだ。
 
 魔術炉心を全開にして壥・灰色(ゴーストノート・f00067)は前へ、前へと足を止めない。
 そんな彼がヴィクテムとは違って、直ぐに居場所を犬どもに特定された!
「猟兵……!!」
 数多くの仲間を喪ったが、彼らは命を投げ捨てるつもりで灰色とヴィクテムに襲い掛かろうとする。
 なれば、――ならばこそ灰色はその力を存分に振るえるというものだ。
 ぎゅいぎゅいと音を立てて灰色の蒼が閃光を増すのを、ヴィクテムが見やる。
「堕ちた英雄の犬で、警官?権力の犬とはよく言ったもんだ――尻尾振るのはやめられませんってか?」
 挑発だ。
 灰色の纏う閃光と、彼に埋め込まれた魔術の「システム」はヴィクテムもまた、覚えがある。
 ヴィクテムがかつて己で手にした力とは別に、「施された」力を振るう灰色はどう見ても、「兵器」であることは明らかだった。
 ハッカーでもあり、エンジニアでもあるヴィクテムが彼の仕組みを理解していないはずもない!
「何だと――?貴様。……いかにも、悪党らしいことを言うなァッ」
「おっと、怒るな怒るな」
 ち、ち、ち。
 人差し指を振るのと同じタイミングで、ヴィクテムは嗤ってやるのだ。――何が、正義だと。

「事実を言われたくらいでキレるなんて、懐が狭いぜ?」

 それでも正義のつもりかい?と。悪党である彼が油を注ぐ。
「――黙れッ」
「黙れェッ!!!」
 もはや、その犬どもは――灰色の放つ蒼が照らす限りでも、ヴィクテムの網膜が映したとしても、満身創痍だった。
 それでもなお正義を掲げてやってくる手合いだからこそ、馬鹿にしてやったのだ。
 逆上するだろう、そうだ、やってこい。理性かっ飛ばして――俺に組み付いてこい!
 ヴィクテムの狙いは、灰色の「時間稼ぎ」だ。
 吼え声が一丸となって、遭遇した半数以上の獣が跳ね上がる!理性をかなぐり捨てて挑発に乗ったのだ!
「うおォッとぉ!!?」
 ヴィクテムが演技も混じって半分正気で叫ぶ。
 豪速で突っ込んできた犬をかわそうと、一瞬よろめいてすぐさま両腕で十字を作るようにして赤棒を防ぐ!
「――っぐ!!!」
 そのまま、超威力のそれを受け止めて――吹っ飛ばされた!
 他愛もないと二撃目の存在が走ってくる。あっという間にヴィクテムとの距離を詰めて、宙に浮いた彼の腰を折ってやろうと――膝を突き出せば。
 ヴィクテムのシステムたちが、彼の網膜にメッセージを焼く。
「『『負けそうでヤバイって?なら、ひっくり返せばいいだけだ。盤面も、運命も、敗北すらもな。』」
 まるで、己に言い聞かせるようなその言葉は、彼にとってのまじないであり――。

  【 Attack  Program 『Reverse』 (ウ ン メ イ ヲ ヒ ッ ク リ カ エ セ )】
「『―――あぁ、悪い。 お 前 の 敗 北 だ け は 覆 ら ね ぇ よ 』ッッッ!!!!!」

 端役である彼の――しっぺ返しだった!
 突如、空間に沸いたのは『反転』の力!ヴィクテムがわざと一撃目を受けたのは、このためである!
 そのまま超高速と超攻撃の一撃を、『喰らった分だけ、正確に』跳ね返してみせれば!

「ご、ぁあアッ!?」
 腰を膝で砕こうとした狗一匹の脚をめしゃりと破壊した!
 確実にヴィクテムが作り上げたウィルスは、電脳から顕現しこの場において彼を守る!

「悪ィな、同情も慈悲もかけてやらねえよ。お前らのヒロイズムは向かう先を間違えてる!!」

 宙に転がって息を吐く。
 ようやく、じんじんと痛む両腕に現実の感覚が取り戻されてきた。
 冷たい地面に手をついて、二撃目の犬が仲間の元に押しやられたのを見てにたりと笑う。

「退いたほうがいいぜ、犬っころ。」
 ヴィクテムが敷いた運命の道を、運命の演算を、蒼光が歩みだしたのを網膜のレーダーで悟る。
「この道はな」
 ――英 雄 が 通 る 道 な ん だ ぜ  。
 そう嗤う端役の真上を駆ける長躯は――灰色だ!!
 
 ずうんと重々しい音を立てて灰色がすっかり蒼く染まった肘と瞳の眼光を置き去りに――走る!!
 灰色は、無駄口も何も叩くつもりはない。
 灰色は、ただただ目標完全破壊のために今は動いている。
 惑う猟犬どもが一つにまとまったり、その端数が己に超速で突撃したとしても――何もかも、灰色の拳の前では無意味なのだ!!

 足元に衝撃を纏った灰色が、地面を割る勢いで飛べば飛び込んできた猟犬のあぎとを右アッパーで撃ちぬく。
 そのままあぎとをひしゃげて意識をやった肉塊にかかさず連続で左のストレート!
 みぞおちをとらえて穴をあけさせれば、ダメージを与えたエネルギーを再び魔力に変える。
 己を動かす、殺戮兵器を強化する魔術炉心をより煌々とさせた――!!
 そのまま、次の端数へと拳を振るう。拳を警戒されるのなら足で蹴りを入れてから両掌を握り合い鈍器の如く振り下ろす!
 脳漿をぶちまけ海に変える過去どもに、彼は容赦なく排撃する。
「ヒュウ。クールだ」
 思わず、ヴィクテムが冷や汗を垂らしてしまうほど。

「ヒーローっていうのは、人を救う存在のことを言うんじゃないのか」

 その姿は、ヒーローとは程遠い。
 纏う魔術がより強さを増して、灰色の腕をまるで燃やすかのような苛烈さで彼を主張する。
「放っておけば、また何人も死ぬ」
 ――この世界のためには、あの小さな命とて必要な犠牲だったのかもしれない。
 犠牲が無ければ、猟兵たちはこうして世界にやってくることもできない。だけれど、――どうしてか、そればっかりは許せない。
 灰色が一つに集まって巨大化する獣たちに、宣誓する。
 人差し指をゆらりとかざして、――『六番器』たる破壊の化身は今!!

「 『 今 か ら お ま え を 、 死 ぬ ま で 殴 る 』 」

 巨大になってなお方向を放つその滅すべき手合いを――衝撃を纏った拳の力で飛んで、 横 っ 面 を 殴 っ た ! ! 
 殴られた狗面から牙が吹き飛ぶ。それから遅れて血と唾液が霧のように混じって暗闇に消える。

 ヴィクテムの口笛が聞こえた気がした。それから灰色が、また瞳に輝きを増して。

 ――殴る!殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る  殴 る  !!!
 ――砕く!砕く砕く砕く砕く砕く砕く砕く砕く  砕 く  !!!

 皮膚も肉も脂肪も骨も思惑も使命も忠義も何もかもを―――そ の 拳 で 破 壊 す る !!

「イイね。シンプルイズベストだ」
 明確な破壊の意志。明確すぎる殺意。【死の鳴叫(デス・スクリーマー)】。
 単純明快でありながら、灰色とヴィクテムは彼らの数倍も大きさのある、かつての正義と獣を――屠ったのだった。

「往く」
「おわっ、と、待て待て」
 皆で集まってから行動すべきだぜ――。
 そうヴィクテムに説得されて、灰色はしばらくしてから納得して足を止めた。
 今はもう、周りには獣どもの声がひとつも聞こえない。
 それでも、それでも。と灰色が惜し気に唇を開いて。
「一体とて、生かして帰さない」

 この奥にいる黒幕が何であれ。理由がどうであれ。
 猟兵たちがその意思を揺らがせることはなかった。

 魔術が、風に乗って渦巻いている――。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​




第3章 ボス戦 『極楽鳥』

POW   :    いや悪いのはお前らだから
全身を【言葉を拒絶する暴風】で覆い、自身の【行いに対して向けられた批判】に比例した戦闘力増強と、最大でレベル×100km/hに達する飛翔能力を得る。
SPD   :    風が、俺の味方をしてくれている
【長い髪で風の流れを感じることで】対象の攻撃を予想し、回避する。
WIZ   :    俺は許さん……そしてこいつも許すかな!?
【罪の意識】の感情を与える事に成功した対象に、召喚した【雷光を纏った極彩色の鳥】から、高命中力の【七色の雷撃】を飛ばす。
👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

●STORM.

「あれ?アーアー、きちゃったかァ」
 立方体のオブジェクトは、猟兵たちが配られた資料写真に比べて色あせていた。
 ――それは、目の前の彼が魔力を吸収した証拠になる。
「いやー、困っちゃうよネ。おいおい、マジかよ。猟兵だよ」
 お道化た口調で――来るとはわかっていたのに。
 極彩色の仮面をつけたまま、男が紅い瞳を歪ませる。

 愚者の迷宮。最深部にて。
 猟兵たちが目の当たりにしたのは、魔術装置に腰かけてどうどうとしている「極楽鳥」だった。
 かつて、彼もまたヒーローズアースにおいてはヒーローとして活躍していたのだ。
 ニヒルで利己的でありながらも、正義と悪を断罪しては平和を皆のために護り続けてきたのである。
 だが――なぜその彼が、オブリビオンとして顕現したかと言えば。

「この世界ってサ、病んでると思わない?」
 ――どいつもこいつも、ヒーローだからどうだとヴィランだからこうだと。
 一度手綱を離してやれば、自分一人で生き残ることすらできやしない命は傲慢だと彼は言う。
 生き残るためなら生きる力を磨き続けるべきじゃないのか?
 どうして誰かを頼りにすることを前提に、ひとびとは生きていかねばならない?

「誰か言ってたよね。この世界は極端すぎるって」
 ――だから俺は。この世界をゼロに戻してあげたいだけだよ。
 極端ならば、そのさらに上を行く極端で。
 正義と悪に頼るのなら、全てを葬る絶対で――暴虐の風ですべてをさらってしまおうと思ったのだ。

 彼もまた、かつて世界を愛していた。風に乗って誰より早く世界を助けてきた。
 だけれど彼が戦っても、戦っても、世界は変わらない。
 終わらぬ争いはどうして起きる?
 苦悶していたのだ。ずっと、この極楽鳥も苦悶していた。
 猟兵たちが毎日過去と戦うように、利己的であるからこそ孤独にやり続けてきた。
 だけれど、彼が死んでも――死んだところで、世界は変わらない。

「今日も明日も、ヒーローとかヴィランとかってもうやかましくって」

 はははと乾いた笑いをしてから、キューブを握ったまま猟兵たちと対峙する。
 しっかりと床に足をつけた彼が――一度、床を叩けば。

 発 生 し た の は 暴 風 ! 
 
 もしかしたら、吹っ飛ばされた猟兵もいたかもしれない。
 だけれど真っ黒な風の中ではお互いを視認するので精一杯だっただろう。
                           キューブ
 それほどの威力を生み出しているのは――彼が手にする、魔術装置だ!
 何億の罪人たちとその力を吸い上げた、過去の叡智が彼の手にある限り猟兵たちの苦戦は確実だろう。

「安心しなって――等しく、『死刑』にしてやるから」

 極彩色の彼が楽し気に、腰布の内ポケットにキューブを入れてやる。
 はためく黒の長髪が、彼自身をさらに大きく見せた。
 まるで、――威嚇する鳥のように。
 
「馬 鹿 は 死 な な き ゃ 治 ら な い  ――、そうだろ?」

 だが、過去であるこの化生に負けるような猟兵たちでない!
 未来は変えられる、これからも変え続けることが出来る。
 それが何十、何百、何千年とかかったとしても――争いのない世界というのは、こんな方法で生み出されるべきものではない!!
 その世界が存在しないとしても、その可能性が限りなくゼロであっても。
 君たちは未来を諦めてはいけないのだ。
 ――革 命 を 続 け る 世 界 の た め に 戦 え 、猟兵(Jaeger)!!



(※魔術回路(キューブ)は破壊しないほうがいいかもしれません)
(※大きさは、だいたい掌に乗るくらいです。)
イリーツァ・ウーツェ
【兄弟】と
【POW】
アルバートの後ろでUCを発動させておく。
私は黙っている。口を利く理由がない。
向こうが襲いかかってきたなら、UCで受ける。
攻撃はしない。反撃も。ただ防御する。
それで全てが奴に返る。
予期せぬカウンターに驚いたか?
隙を見せたならば、その身を掴む。
出来れば腕をむしる。最低でも折る。
(怪力+手をつなぐ+部位破壊)
そして固定する。アルバートの番だ。


アルバート・クィリスハール
【兄弟】で。SPD
前に出て挑発します。

服のセンスもなければ頭の中も空っぽなんだね。
君、生まれてくる意味あった? 声高にわめけば押し通せるとでも思ってるのかな。
カラスでももうすこし礼儀を弁えるよ。アホウドリに謝ったら?

……これだけ挑発すれば襲ってくるよね。引きつけて、コードでイルの後ろに退避するよ。
その後にイルがバカを固定するだろうから、そしたら脇腹ごとキューブを抉り取ってやる。
攻撃できるようなら槍で攻撃するけど、出来なければキューブだけでも奪うよ。
出来ればイルに当てたくないなあ……今当てるとダメージ返ってきそうで。

(コードの詠唱は無しで大丈夫です)



●Liar MADNESS

竜と鷹が肩を並べる。
随分とおしゃべりな手合いだなと鷹がちらりと竜を見れば、寡黙である彼は元より嵐と対話に出る気もないのだ。
――こういう手合いは、ガチでやった方がやばいんだけど。
だから、隙を伺った方がいいのだ。
それが「義兄弟」であるこの兄にわかるはずもない。
わかっているならば、もう少し人間らしい顔ができていたはずだった。
イリーツァ・ウーツェ(盾の竜・f14324)の瞳がぎらぎらと殺意に満ちている。
それに答えるようにまた、極楽鳥も彼の攻撃を警戒して構える。

「馬鹿正直なお人だァ、もうちょっと利口にやらないと損するぜ?」
もっと言ってやってくれと思う反面、『己の』竜を貶されて煮え繰り返る腑反面。
アルバート・クィリスハール(仮面の鷹・f14129)が鼻で笑ってやった。
いいかい、イル。手筈通りに動くんだよ――だなんて、わざわざ声をかける必要もない。
アルバートと違って、イリーツァの心は恐ろしいほど凪いでいたのだから。
むしろこの場においてはイリーツァがだれよりも冷酷で冷静だろう。
「――君さぁ、服のセンスもなければ頭の中も空っぽなんだね。」
アルバートが率先して前に出た。
挑発だ。それは極楽鳥も場数から見てわかる。
「センスよけりゃァ、ヒーローなんてやってないヨ」
「じゃあさ、君。生まれてくる意味あった?」
そんなみっともない過去になってまで。
片眉を持ち上げて、ゆったりと鷹があごから徐々に仮面を外してやるのだ。
この手合いになら存分に憎悪をぶつけてもいいだろう。いいや、ぶつけるべきだった。
日頃から誰彼にも怒り、誰彼をも否定したいという気持ちを体良くぶつけてしまいたいアルバートの生きる意味はまだ曖昧だ。
だから、この質問は挑発でもあり。彼が敵から学ぶべきことでもある。

「教えてくれよ、ヒーロー。カラスも真っ青な無作法と正義の釣り合いは?ペラペラガタガタ喋るならもう少し上手に喋ったらどうだい」

うんうんと頷いて聴いている極楽鳥には、彼の挑発が届くのか、どうか。
「生きてる意味、ねぇ。そうだなー、あるヨ。この世を平たく均等にしたいのさ。クリーンだろ?」
「聞くな。下がれ、アルバート」
無駄話すら惜しいと言いたげに 、イリーツァが会話を遮る。
魔術装置を手にした極楽鳥の、その魔術が目視できるほど強く膨れ上がり巻き上がる暴風とともに乗せられて立ちのぼっていく。
アルバートは、その解答を聞いてから目を閉じて。

「なあんだ、がっかり。そんなこと、滅ぼさなくてもできるじゃあないか」

まるで情けないものを見るかのように、その悲願を切り捨てる。
「詩的表現をしてるってところもそうだけど、もうちょっと現実めいた事を言ったほうがいいよ。腐っても元・ヒーローでこれからもそうあるつもりなんでしょ?世界を平等にできましたって言ってさあ」

正義も悪も混在する世界をゼロに戻すなんて、極端すぎる。
アルバートはその気持ちを踏んだわけではない。手段を踏みつけてやるのだ。
イリーツァの準備は出来ている。目視できる風と合わせて混ざっているのは彼の殺気だった。
アルバートが吐き捨てるように、仕上げの一言をかけてやった。

「あんたに救われたら世界が可哀想だよ。滅んじまった方がマシだね」

その表情は、侮蔑!
それ以上言葉を発せないように、またその口を塞ぐようにさきほどよりも吹き荒れるのは暴風である。
「ああ、なるほど。からくりがわかった!イル!!」
叫び、アルバートの声が風に乗ってイリーツァの耳へと届く。
【欺瞞の彩技(ライアーズ・フェイク)】の発動とともにアルバートは暴風の第一線から瞬く間に消えた!
「こいつ、僕らが弄ったら喜ぶ ど マ ゾ 野 郎 だ ッ ッ ! ! 」

瞬間、座 標 移 動!!
けたたましく笑い声だけを残してアルバートが極楽鳥の前から一転、イリーツァの背後に姿を表した!
罵倒された数だけ――極楽鳥のユーベルコードが強さを増す。
その関わり合いを直に肌で感じてきたアルバートの体は無数の風圧によって服の繊維を裂かれ赤を滲ませているが、顔は勝利を確信したものだ。
イリーツァとアルバートのきょうだいの作戦は――挑発してからのカウンター狙いだ。
欺瞞と詐称のアルバートに対して、イリーツァが得意とするのは鉄壁である。
お互い強く攻撃の手段を持ちながらも、この凶悪となった相手にお互いの能力を存分に使うならば。
「餌」となるのはアルバートで、「魚」である極楽鳥を呼び寄せる。
挑発が成功して、威力を増した暴風がアルバートを襲うというのなら、それを守るイリーツァを「盾」にするのだ!

盾の竜竜が返事するよりも早くに吹き付ける風に乗って極楽鳥が――イリーツァに刃を突き立てる!!

「――あ?」

筈だった。相方がこの英雄のユメに軽々しく口を挟んだのだから、責任をもって竜が刀に切り払われねばならなかった。
浴びた罵倒の数をパワーに変えて、豪速のスピードでまず目の前の悪意から切り払わんと振るった刀は竜の手の中にある。
己の掌を薄く切った程度の傷に、竜が――ひるむわけもなく!

「 『 受 け 取 れ 』」

【逆鏡返報・還討(ギャッキョウヘンポウ・カエシウチ)】は発動された!
それこそが、竜鷹のきょうだいが組んだ逆転劇である!
握った刀を握 り つ ぶ し 、割れた音と共にコートを空に翻す。
与えられた質量を「そっくりそのままの二倍」反転して繰り出されたタックルは。
「――お゛ぇっ」
極楽鳥の胴を捉え、鳩尾を打った!
胃液を吐き出す極楽鳥の胴体をそのまま掴んで、マーシャルアーツの如く竜が組み伏せる!

「捥ぐ」

宣告だ。
ひやりとしたイリーツァの宣告と同時に、ごぎんと重々しい音を立ててまず極楽鳥の右翼が破壊される!
「――っぎ」
叫びを噛み砕いた極楽鳥の口元は笑んでいる。
「アルバート、キューブを」
「わかってる!そのまま」
押さえつけておいて。そうアルバートが口を繰り出すよりも素早く。
「あんたらさァ、殺すばっかで――かは、はは、人を捕まえたことって、無いデショ」
イリーツァの腕から、鷹は逃れて風と共に空へと舞い上がる!
破壊された腕が代わりにとそこに残っていて、極楽鳥は「次の一手」であるアルバートを予期していた。
暴風が、彼の味方をする!

「――ッチ、飛び回りやがって!!この、チキンがよぉッ」
思わず、最後の方が小声になってしまうがアルバートが口汚く罵れば。
見上げた上空には破壊されて右肩があった場所から黒霧を立ち上らせながら極楽鳥が苦悶のまま笑うのだ。

「チキン結構!ヒーローっつぅのはなァ……。ピンチこそチャンスなもんさッ!」

腕を代償として二人の猛攻から逃げ出すことに成功した極楽鳥が、けたたましく笑う。
「……後続に任せよう、イル。」
禍々しくもキューブの恩恵で蛍光の翡翠のような色をしたオーラを纏う極楽鳥が、威嚇のごとく風を身に纏う。
それでも、確実な勝ちの一手のためにできる事を二人は存分にやってのけたのだ。イリーツァが今後、戦いに挑んだ皆をその翼で暴風から守るようにせねばならない。

黙したまま、イリーツァは腕を掴んで――、アルバートと共に彼らがいる場所に翼を広げた。
遮られる暴風の中、これからそこに戻って勝利を見届ける筈である真紅の瞳が。
正義の代弁者への殺意を、隠そうとするはずもなかったのだ。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

鎧坂・灯理
【調査依頼】依頼人/f14904

同意しますよ、依頼人。
まあ、治した所で無用の長物。時間と手間の無駄です。
さっさと骸の海《ゴミバコ》に捨ててやりましょう。

銃器をネイルガンに変形させる。高圧ガスで飛ばせる仕様だ。安全装置? あるわけないだろう。
お得意様を援護するように釘を撃つ。敵のUCには、此方もUCで生み出した鉄の鳥を避雷針に飛ばして防ぐ。
同時進行で魔術装置(回路を抜かれた側)をハッキングし、オーバーロードによる爆発を引き起こす。
意識を逸らさせれば――私の役目は完了だ。

あとは、お得意様が上手く奪ってくれるさ。
奴の命も、お腰の“きびだんご”も、な。
さ、選手交代だ。


矢来・夕立
【調査依頼】探偵さん/f14037

聞きました?死なないと治らないらしいですよ。
医者じゃなくたって治してやれる、とも言えますね。

ってワケですから、殺します。『雷花』で“正面から”斬りかかる。
―――ええ。このオレが、“正面”から。
だってコレ、《だまし討ち》ですもん。
本命は遅れて放った『幸守』と『禍喰』。狙いは腰の魔術装置(貯めこんでる方)です。
乱戦に巻き込まれてうっかり壊れたんじゃたまりませんから。盗れたら《紙技・橿葉庫》に保管。
UC対策は探偵さんの真似ー。『水練』『牙道』『黒揺』を避雷針にします。

今回は見逃してあげますよ――『命は』。
オレは医者じゃないし。馬鹿を治すのは他のひとがやってくれます。



●Attack By Customers.
 
吹き荒れる嵐を前に、少年と女性は身構えることなく、ただただ冷静で客観的に在った。
 風向きがでたらめな風量で極楽鳥を守る余韻が、矢来・夕立(影・f14904)の伏し目がちな瞳と前髪をふわりと浮かせている。
「聞きました?死なないと治らないらしいですよ。医者じゃなくたって治してやれる、とも言えますね。」
 夕立は、人を壊す側の人間だ。
 人を治す医者でなく、人を壊す忍である。
 ――だから、この件に関しては非常に適していた。相手を殺していいことが前提である。
「同意しますよ、依頼人。まあ、治した所で無用の長物。時間と手間の無駄です。」
 さっさと骸の海《ゴミバコ》に捨ててやりましょう。と続けているのは、鎧坂・灯理(鮫・f14037)である。
 彼女もまた、利己的で独善的であるから――見ようによっては悪人でもある。
 彼女が彼女の意志で行ったことが「多数派」側であれば善であるし、「少数派」であれば悪となるように。
 
 彼らと極楽鳥の差というのは、本質的に言えばさほどないのかもしれなかった。
                     ・・
 ひいては、若しかすればまだ極楽鳥のほうが甘いやもしれない。

「――すげェ殺気。殺し慣れてますって感じだよネ。」
「ええ、プロですから。」
「俺はアマです。学生なんで。」
 嘘である。夕立の発言を最後に――それ以上の会話を必要としなかった。
     ・ ・ ・ ・ ・ ・
 夕立が、夕 立 が 真 正 面 か ら 風に乗って飛んで斬りかかったのだ!

「おっ。」

 さすがに、不意を突かれたようである。
 極楽鳥は、おおかたの立ち回りを想定できていた。
 夕立のしなやかながら細身な成長過程の体は、彼が人間らしい匂いをまとっていたために己を凌駕することはないと踏んでいた。
 だから、きっと彼は真っ黒な服に身を包んで目立たないようにしているのだとも推測していた。

 ――こいつ、アタッカーか!?
 アサシン
 忍者だと踏んでいたのだ。彼の少年らしくも成長した体にパワーがあるとは思えない。
 もし派手な攻撃をするとしたら、隣にいるいかにもなアタッシュケースを手にした灯理だと考えて構えていたのだ。
 振るわれる『雷花』も想定外だ。すぐさま取り出した予備の刀で応ずる!
 
 突きじゃァなくて、振るってのは――。
 
「ああ、気づいちゃいましたか。」
 びりりとお互いの刀身が震えてお互いの動きを空中で止める。
 暴風に上手く乗って飛び出した夕立の一撃を受け止めることばかりに集中したからか、一度――極楽鳥の嵐が凪いだ。
「戦い慣れてそうだから、気づくだろうなとは思っていました」
 だから――!

「 全 部 、 嘘 で す 。」

 今や二人に後れを取ったと思われていた灯理に、気づけなかった。
 夕立が囮になるようにして、極楽鳥に飛び込んだ後灯理は――走って移動しながらネイルガンと化した銃器を構えている。
 もとより、安全装置もすべて外してある超威力の弾丸となった凶器を放った!
「ッンの――!」
 放たれた釘が銀の軌跡を描いて極楽鳥の体一直線にめがけていく!
 それが、彼の右太腿を撃ちぬいた!

「これで、大好きな空でしか戦えないな」
 意地悪く、灯理は嗤う。
 この敵の能力の中で、一番厄介なのは風だ。
 そう、灯理は判断した。それ以外はさほど脅威でない――というよりは、灯理も夕立も対抗策を講ずることができる。
 痛みで考えに集中できぬように、周りからちくちくと刺激を与えてやればいくら膨大な魔術であっても振るうのは難しいはずだと推理したのだ。
 極楽鳥が苦悶を浮かべるのを声から判断して、灯理が夕立の援護にまだネイルガンを放つ!
 凪いだ風が夕立を降ろしてしまうのなら。
「依頼人、足場を出します――『出てこい、チビ共』。」
 灯理が宣言するとともに、彼女の鞄から手品の如く鳥が湧いた!
 機械でできた鳥たちは、すぐさま夕立の足元まで飛んで彼の足場となる。
 どうもと口の動きだけで礼を言う夕立がそれを蹴って、また空中戦に出た!
「なンだァ……!?お前等、何考えてる。」
「自分で考えてはどうかと。ていうか――」
 誰が教えてやるかよ。
 また繰り出された夕立の剣戟を受け止めた極楽鳥が、違和感に気を取られていた。
 さっきから、彼らの動きにはまるで――殺気がない。
 己を殺そうとしていた先ほどの鷹と竜のきょうだいに比べて、彼らの動きは恐ろしいほど静かだった。
 己の命が目的でないのなら、魔術装置だろうか。と極楽鳥が余計なことを考える隙を与えないように飛んでくるのはネイルガンである。

「あ゛ ァ ッ ! ! 鬱 陶 し い な ! ! 」

 苛立ち混じりに極楽鳥が吠えれば、放たれるのは雷撃!
 もとより罪人の意識のある夕立を相手とした極楽鳥が召喚した極彩色の鳥がけたたましく鳴いたのだ!
 放たれる七色の雷撃は――その高い命中力で彼らを焼いた。
 
 はずだった!!

「危ない、危ない。」
 間近で雷撃を受けたはずの夕立が、そして遠方で釘を放っていたはずの灯理にも雷は誘導されたはずである。
 間違いなく、極楽鳥を支援する雷鳥が――討ったはずだ!
「焦げるとこでした。」
 べぇと紅い舌をだした夕立が、極楽鳥の前であの探偵の放った鳥に立っている。
 煤を払うようにしている彼の近くに、焼け焦げた紙が儚く散っていた。
「『身代わりの術』、ってかァ。」
「その通りです。あと――」
 
 空間に、機械音が響く。

「時間稼ぎ、とか。」
 
 夕立が悪びれもなく赤の視線をやった方向を振り向けば――そこにあったのは、『魔術装置』を本来動かしていた機械だ。
 そこに、灯理の鳥はいた。
 先ほど彼女の鳥たちは、夕立の足場として出てきたはずであった。
 だが、【裏探偵七つ道具《手》(ネコノテハイシャク)】は灯理の手品では済まされない――ユーベルコードだ!
 
「あ れ で 終 わ っ た は ず が な い だ ろ う 。」

 灯理の声も健在であった。
 直撃はしなかったものの、いくつか電撃は走って彼女の肩口や手首を少々赤く蚯蚓腫れさせた程度におさまっている。
 彼女の代わりに、部品を散らせたのもまた――機械の鳥であった!
「同じ鳥使いでも、私のほうが今回は――貴様を上回ったらしい」
 たった一つの強大な鳥を扱う極楽鳥に対し、灯理が扱う七つ道具である鳥たちはまるで灯理の手のようだったのだ。
 鳥たちが『魔術装置』の機械の上に何羽か留まっているのを視認した極楽鳥が、圧倒された二人の手数に唖然としているほんの一瞬。

「まだ驚かないでくださいよ。」
 呆れるような夕立の声が響いて、それから明らかに異常を知らせる機械音。
 なんだ、何をしたと極楽鳥がどちらに問う前に。

 爆 発 ! ! 

 全て彼女らの手の内だったのだ!最初から、何もかも――。
 吹き飛ばされる極楽鳥が悟る。灯理の鳥たちは『魔術装置』をハッキングしていた。
 元来、超パワーを扱い続けて居た装置を眠りから覚まして、灯理は夕立に極楽鳥を任せていた。
 それは、何度か依頼の中で彼を知った彼女だからこそできた――信頼である。
 もし、これが彼ではなくて誰かであれば、きっと灯理は独りでやってしまっていた。
 だけれど。
「あとは、お得意様が上手く奪ってくれるさ。奴の命も、お腰の“きびだんご”も、な。」
 爆発から逃れた一匹の機械鳥が彼女の肩にとまる。それに語り掛けてやる。
 そうあることも予想していたのだと話す彼女の視界に映ったのは――蝙蝠たちである!

「ッあ、てめェ、やりやがったなァッッ!! 」
 
 爆発で鼓膜をやられたのか、片耳から血を流す極楽鳥が調子の狂った声で目の前から消えた夕立に叫ぶ。
 彼が焦るのも無理はない。

 腰に隠した“きびだんご”こと魔術装置が――消えている!

「お探し物はこちらで? 」
 それを手にできたのは、足場の鳥たちに地面へ降ろされた夕立である。
 彼に立方体のそれを届けたのは、夕立の蝙蝠たちだ。
「言ったじゃないですか、最初に」
 ――全部嘘だって。
 夕立は、忍びである。だからといって、殺しているばかりではない。
 時には重要なものを盗むことだってある。
 そう、たとえば今回のように――式紙たちをあの猛攻の中に放って、“きびだんご”を盗ませてやるくらいは、どうってことなかったのだ。

 まるで、極楽鳥は頭を殴られたような気がした。
 夕立が、彼に攻撃を仕掛けたのも。灯理の殺気だったネイルガンの猛攻も。鳥も。先ほどの爆発も。
 すべて、すべてすべて――。
 

  デコイ
  嘘 。

「っく、――そ ぉ お お お お お お お ッ ッ ッ ! ! !  」

 再び吹き荒れる嵐に混じるのは先ほどよりも強く、そして余裕のない魔術である。 
「今回は見逃してあげますよ――『命は』。」
 なぜならば、彼を“直してやるのは”夕立の使命ではない。
 何かあって壊れても困ると思って、夕立が灯理の元へと駆けるついでに千代紙の立方体を素早く出した。
「『こちらへ』」
 それは、【紙技・橿葉庫(カミワザ・カシバコ)】。灯理に投げわたして、ようやく肩の荷が下りたような顔をする。
 灯理は受け取って、頷いてから楽し気に語るのだった。
「お手柄でした、依頼人。」
「ええ。――これ、功労賞とかでないんですかね。」
 お手柄とは言うけれど、と嵐を後ろに夕立がそのまま、灯理と共に盾竜の翼へ避難する。
 そも、――後から放った式紙は極楽鳥でも見えていないように、灯理だってあの激しい戦火ではほぼほぼ視認できなかったはずである。
 夕立の忍びとしての技術でありながら、それを補助するように動くとは聞いていたけれど。
 飛び出したネイルガンは的確だった。夕立を貫かず、極楽鳥に向かい、彼を欺いた蝙蝠の式紙たちを貫かなかったのだ。

 ――これが、第六感だとかそういうたぐいだったなら。

 やはり、底知れぬ。今日の戦場を共にした探偵の奥深さとその功績は、きっと夕立だけが知るのだろう。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

アネット・シェルティ
えー?
世界って病んでるのー?
そもそも病むものなのー?
世界って極端なのー?
どういう意味だー!?

うーん……(考え中)

よくわらないけどキミを倒すね!

◆行動
言葉を拒絶する暴風。
極端だったり病んでたりするのって世界じゃなくキミっぽいかな?
キミが言葉を拒絶しても大丈夫。
わたしは肉体言語の方が得意だから。

敵に向けておもいっきりバトルアックスを投げる。
ポケットのキューブが残ってるなら優先して狙う。
すでに回収されてたら本体を攻撃だよ。
バトルアックスに気をとらている間にわたしも敵に近づいて怪力まかせにボコボコにするよ!

わたしと拳を交えて語り合おー!
キミの考えを受け止めてあげるよ!


レイニィ・レッド


アー理解しました
自分、こーゆーの一番嫌いなンすよ

…正義だ悪だ
五月蠅ェのは分からねーでもないですが、ね

目立たなさを活かし
吹き荒ぶ風の中に潜伏

先んじて絡繰り人形を物陰から嗾ける
極楽鳥が回避をした瞬間『クロックアップ・スピード』
この瞬間に全てを賭ける
脚の腱をブッた斬ってやりましょう

以降は攻撃を見切り躱し
フェイントを織り交ぜ傷を抉り
一気に畳みます

アンタの味方が風なら自分の相棒は雨
降らないなら降らせてやります
自分だけの赤い雨をね

にしても
見苦しいですねアンタ

…ヤケクソになってんじゃねェよ
テメェの頭で考えろ
思考を止めた時点で
テメェは正義でも何でも無ェ

邪魔だ失せろ
アンタは――正しくない



●Bridal Red Rain

 キューブの奪還に成功した。
 これ以上の強化は望めないのならば、猟兵たちにとってはいつものオブリビオンが強く抵抗をする程度の脅威となる。

「が ぁ あ あ あ あ あ あ あ ッ ッ ッ !!!!」

 それでも、余裕のなくなった彼が吹き荒れさせる風は――止まれないのだ。
 ごうごうと鳴いて盾竜の翼に隠れる猟兵たちになおのこと攻撃をしようとするのを。
「せぇーのっ!」
 愛らしい掛け声とともに、ぶ ん 殴 っ た 少 女 が い た !
 鈍い音を立てて斧が振るわれ、極楽鳥の横面を殴りつける。超威力のそれが彼の胴をまっぷたつにしなかったのはこの場において彼に味方する風のおかげであろう。
 そのまま衝撃とともに地面に叩き落とされる極楽鳥へ。
「キミの言ってること、ぜーんぜんわかんないよ!」
 そう言ったのはアネット・シェルティ(いのち短し恋せよ人狼・f15871)であった!
 どこか拗ねているようにも視えるふくれっ面で斧で横なぎにした姿勢のまま、アネットは極楽鳥を見下ろす。
 アネットは、言葉通り何もわからない。
 世界が病んでいるのかどうかも、世界は病むものなのかどうかも、それが極端だとか、全て、そういうものを。
 ネガティブなものを思考から遮断している彼女には、極楽鳥が嘯く何もかもに理解が及ばなかった。
 自分が世界を救済する存在であるならば、己が幸せを求めるように誰だって幸せになりたいはずであると信じてアネットは疑わない。
 ――世界だって、幸せになりたいはずじゃないの?

「よくわからないけど――、 キ ミ を 斃 す ね ! 」

 それに賛同するのが、赤頭巾の彼である。
 暴風の影に隠れて、赤黒くなったコートがたなびく。
 ――彼こそは、レイニィ・レッド(Rainy red・f17810)。
 鬱陶し気に空気を走り回る風の流れを睨みつけて、レッドは極楽鳥のいい分を理解した。
 ――自分、こーゆーの一番嫌いなンすよ。
 黙しながらも胸中で毒を吐く。
 レイニィ・レッドの思想と極楽鳥の思想というのはいわゆるニアミス関係だ。
 かたや、己のルールで善悪を判断し己の望んだ世界を勝手に作る赤頭巾と、己のルールを世界のルールに改変しようとするテロリストである。
 どちらもたちが悪いが――。
 だからこそ、その罪の重さと言うのは信念であり、生きる理念である。
 
 ――死んだオブリビオンが使ってんじゃねェよ。
 
 生きるための生き物たちに当てはめた定義の、まるでその上からを雑になぞられたような感覚がして。
 赤頭巾は神経質な瞳をより狭くして、風を支配する段取りをする。
 ――視界の中で、人狼の花嫁が斧を投げた。
 
「え、え ぇ え え え い ッ ッ !! 」

 怒号にも似た、それでも愛嬌がまだ忘れられていなかったがために聞きようによってはコミカルだったかもしれないそれを、アネットは叫ぶ。
 【乙女の笑顔は斧をも操る(カッティング・オブ・ザ・エネミー)】を発動したアネットから放たれる白銀の斧は――彼女の手を離れて自在に極楽鳥へと飛び回っていた!
「だぁあアッッ、あぶねェなぁ嬢ちゃん!」
「それはキミもでしょー!ぁ、痛っ」
 対する極楽鳥は、身に纏う暴風で己から斧を守る!
 そして――あまりにも強すぎる風はどんどん風圧を一瞬一瞬で増して花嫁の肌を裂いた。

 かまいたち現象の発生である!

「いったーいっ!怒ったんだから! 」

 真紅を腕からも腰からも垂らして、花嫁衣装は赤くじわじわ染まって台無しだ。
 真っ白な純潔のそれが赤で染められるのを、極楽鳥は嗤う。
「はははッ――そっちの方が似合ってらァ!! 」
「同感ですね。自分もそれにゃァ、賛成します」
 ――この戦闘には、参加していなかった声がアネットの耳に届いた。 
 いや、むしろ参加していたけれどアネットですら気づけなかったのだ。
 紅いレインコートの彼は姿を見せていないが、その代わりにと風に乗ってやってきたのは糸で操られるからくり人形どもである!
「あ!?人形遣いかッッ」
 面倒な手合いばっかり来やがって――と吐いた極楽鳥が、その人形たちをまずあっけなく雷で壊す。
 激しい発光に獣の目を思わずぎゅうっと閉じたアネットに手を出させる間もなく――断ち鋏を突き出したのは!
「あ、」
 アネットが鉄臭さを感じた。
 赤黒い液体特有の、粘っこい鉄の匂いを。

「見苦しいですねアンタ」

 口の端から血を垂らしながら、その場に割って入ったのはレイニィ・レッドだ!
【クロックアップ・スピード】は彼の寿命を代償にその移動速度を増大させるものである。
 今、この場において彼は誰よりも早い!
 ――だが。

「ッ、ちィ」
 口の端から血が垂れるように、彼の気管――肺につながるまでに紅い血潮がにじむ。

「ハハ、おい、やべェな」
「やべぇ?――そいつがヒーローの仕事ってもンでしょうが」
 最も、彼はヒーローではないのだけれど。
 この極楽鳥だって、ヒーローらしからぬヒーローだったのだから、知っているはずだ。

 戦 い の た め に は 、 寿 命 す ら 厭 わ な い !

「そういうところが、イカレてるって言ってんだよォ!!! 」
「ヤケクソになってんじゃねェよ。テメェの頭で考えろ」
 突き出された断ち鋏と交錯したのち、レイニィ・レッドに雷鳥から電撃を喰らわせようとする極楽鳥である!
 光よりも――空気を走る雷鳴よりも早くなって切り抜けねばならない――!
「思考を止めた時点で、テメェは正義でも何でも無ェ! 」

 躊躇いなく、赤頭巾が己の限界を超えて、ここを切り抜けようと覚悟したときに!

「――ッわたしもいるよ! 」

 斧が帰ってくるよりも早く!
 極楽鳥の仮面ごとその右頬を殴ったのは、アネットだ!!
 呻く余裕もなく、地面に吹っ飛ばされていく極楽鳥にまだ飛び掛かる人狼である!
「拳を交えて語り合おー!キミの考えを受け止めてあげるよっ! 」
 いっそ――狂気的なまでに!
 愛らしい口調でその猛攻を繰り出すのだ。
 急いで立ち上がった極楽鳥が平静を取り戻す前に、右フックでけん制。
 よろけた体に右ストレートを放ち、ガードをした左腕の肘を壊す。
 うずくまるよりも早くに、左足で肝臓を蹴り飛ばしてやって――極楽鳥の体がけいれんした感触をヒール越しに感じて、さらに吹っ飛ばした!
 地面に2・3度バウンドして飛んでいく鳥めがけて、合わせて飛んだのがレイニィ・レッドである!

 相手の味方に風があるのならば、彼の相棒は雨だった。
 雨はこの迷宮内で発生しない、だけれど――!
 ここに、ちょうどいい血袋がある。
 健闘した花嫁の衣装を、もっと真っ赤にしてやろう。いっそ美しい赤のドレスへと変えてやろう。
 ――その選択こそ、紛れもなく正しいのだから!

「邪魔だ失せろ。アンタは――正しくないッッッ! 」

 否定するように光も音も追い抜く速さで!
 赤頭巾が再びその力を振るい、血を吐きながら。
 
 ―― 十 字 の 軌 跡 を 、 極 楽 鳥 に 叩 き こ ん だ ! ! 

 自分の正義を信じられなかった輩に、赤の正義が負けるはずもなく――!
 赤の血しぶきが立ち上り、風に巻き上げられて血潮の雨が降ったのだった。

「ッ――クソが、クソがよォっ、この、病人どもが――!!!」 

 だが、まだ嵐は静まらない!
 魔術装置から吸い上げた魔力で、己の傷を応急処置する極楽鳥が、たまらず風に乗って再び空中へと巻き上げられ猟兵たちと距離をとったのである。
  

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

ヴィクティム・ウィンターミュート
◎★△

──あぁそうさ
世界はそれでも、変わりゃしねぇ
大衆は愚かで、自分の安定と安寧の為なら不正を黙殺できちまう
悪逆を為す者は消えず、いたちごっこが続くばかり

だけどな?
変えられる奴がいるんだよ
英雄の資格を持つ者、主役の運命を背負った者
世界を変えられるのはそいつらだけ
"諦めちまったお前"には、最初からその資格が無かっただけの話だ
癇癪起こしてんじゃねえぞ…三下

お前のその鳥、中々便利じゃねーの
そいつ、欲しいな……奪ってやる
1発目は必要経費。観察に徹する
2発目からが本番だ
お前のそのUC…発動プロセスが多い分、読むのは容易いぜ
俺相手に同じ手札を2度使えると思うなよ?

…まぁ
「資格」が無いのは俺もなんだけどさ


ティオレンシア・シーディア
◎★△

あ―…これは言葉を尽くしてどうの、って段階じゃなさそうねぇ。
完っ全に自己完結しちゃってるみたいだし。
…「正義の味方」ならともかく。我こそ「正義」なり、なんて吐かすやつに、ロクなのがいたためしはないんだけどねぇ。

暴風の鎧、かぁ…
(脳裏に浮かぶはキマフュー世界にて相対した西風のアネモイ)
あなた、あのヒトより風の扱い上手いのかしらぁ?
荒れ狂う風の流れ、吹き荒ぶ気流の乱れ、その悉くを〇見切り、掌握。
●射殺を〇一斉発射で撃ち込むわぁ。
…え?脱獄犯を撃ったことに罪の意識?なんで?
命があるんだし十分優しいでしょぉ?

…一つだけ、反論ねぇ。
バカってのは「死んでも治らない」し…「死んだら治らない」、のよぉ?


リーオ・ヘクスマキナ
◎★△

成程、アナタはそーゆー理屈でこの騒動を起こしたワケだ
けどその暴論、却下する!

基本は先程と同様、赤頭巾さんとの連携戦闘
キューブは基本狙わず

楯代わりにされちゃったら攻撃を止めるしかないね

……ってのを何回かやって印象付けておいて、と
弾切れを装ってゴム弾を装填。次に楯にされたら、掌から叩き落とす勢いでキューブを銃撃!
トドメとかは他の人に任せるよー


……明日を向いて、未来を願って。超常の力なんてなくても、日々を懸命に生きる人達を!
勝手な理屈で殺させるものか!

むしろお前の方が、余程病んでて傲慢じゃないのか!?

(亡くした記憶の奥底。平和を享受しながらも懸命に生きていた……その残滓が、怒りに火を灯す)



●ACCESS-SUCCESS!

 荒れる嵐の中で、猛攻を受けてもなお立ち上がるかつての正義は吼える。
 己が正しいので合って、お前たちが間違っているのだとまだ哭く。
 病んでいるのはお前たちだから――自分がお前たちを殺してやるのだと。
「いつまでもいつまでも夢ばかり見やがって、阿保共がさァ!!!!――悪も正義も全部なくなっちまえって、言ってんだよッッッッ!!!!!!!!!!!!! 」

 雷鳴。
 恐るべき魔力を含めたそれは、彼の腕が片方なくとも、足が動かずとも彼の武器となる。
 ごろごろと鳴いてまた雷の鳥が顕現した。極楽鳥の長い髪を、そして服を煌々と照らすそれが――次なる猟兵たちを見下ろす。

「あ―…これは言葉を尽くしてどうの、って段階じゃなさそうねぇ。完っ全に自己完結しちゃってるみたいだし。」
 吹き荒れるでたらめな風向きに、前髪を煽られながらも薄目で睨むのはティオレンシア・シーディア(イエロー・パロット・f04145)。
 彼女は、あどけない声でありながらもその生涯は争いと悪に満ちてきた。
 だからこそ、この極楽鳥が「正義」によっているのはよくよくわかる。
 ――こういう手合いで。
 まともに正義を果たしたものなど、誰もいなかったのを知っている。
 ため息をつきながらティオレンシアが風の流れを読んでいる隣で、高らかに宣言するのはリーオ・ヘクスマキナ(魅入られた約束履行者・f04190)だ!
「成程、アナタはそーゆー理屈でこの騒動を起こしたワケだ」
 【赤■の魔■の加護・「化身のイチ:赤頭巾」(パラサイトアヴァターラ・レッドキャップ)】で顕現したままの愛しの赤が彼を守るようにして背後に立っている。
 リーオが頷けば、赤頭巾もまた同じく真似をして頷いて見せた。
 それから――お互いに目を合わせてみる。

 作戦はお互いの頭の中だ。リーオが考えれば、それが自ずと赤に伝わるように彼らは運命共同体である。
 哀しくもその因果こそ、この戦闘においては生き延びる手段となるのだ。
 がしゃりと『ACP-45T』を構える。
 蒸気と魔法の技術をふんだんに取り入れたそれが、簡易魔弾を吐き出すためにリーオの魔力を吸った。
 
「――けどその暴論、却下するッッッ!」

 それが、攻撃の合図!
 駆けだした銀髪を後ろに、ティオレンシアが彼の援護に回る!

 嵐に飛び込む二つの影に、主役は彼らかと狙いをつけたのは、名端役ことヴィクティム・ウィンターミュート(impulse of Arsene・f01172)だ!
 ──あぁそうさ。
 本当は、叫んでやりたかった。
 ズタズタになった極楽鳥が叫んでも、死して尚この世の改革を叫んだって。世界はそこまでやっても、変わりはしない。
 なぜならば、大衆と言うのは絶対だからである。
 情報と機械と国を相手してきた――電子の悪意であったヴィクテムならば、よくよくそれは身に染みていた。
 悪逆というのは、消えない。
 悪逆には休みもなければ寝る間もないのだ。
 かつては、その巨悪すぎる闇に彼もまた心を荒ませたものである。彼のすべてに埋め込まれた機械たちが、その結果だ。
 ――だけれど。

「変えられる奴がいるんだよ、こういうとこには」

 それが、きっと己以外の誰かであるのだから。
 彼は空間にモニターを幾つも呼び出す。高度な演算能力は彼の頭を起点として、全てのモニターに無数の文字羅列が浮かんでいくのだ。
   Connection
 ―― 接 続 。
 ――User,Mr.Arsene_
 当たり前のように頭に響く言葉たちは、ただただヴィクテムに結果だけを伝えていく。
 ヴィクテムもまた、計算する頭と己の指を休ませることはない!
 空間に浮かんだ電子のモニターたちに何度か触れて、また指示を送る。
 ――Order.
 ――MAGIC_LINE
 ――Yes. Please wait...
 甲高い耳鳴りのような音がヴィクテムには響く。
 先の二人の背が、嵐に呑まれて消えていったのを眺めて己のプログラムが無事に動くのをゆったりと見守っていた。
 頼もしい背で否定の言葉を直ぐに吐き出した彼らなら、きっと未来を。そして、世界を変えられる。
 未来を諦め過去になってまで世界を滅ぼそうとする意志だけの存在とは、彼らは格が違うのだと確信があった。

 最初から、資格があるか、ないか。この戦闘における勝因と言うのは実にシンプルでわかりやすい。

 ――まぁ、その「資格」は俺にもないんだけどさ。
 
 微笑んだヴィクテムが瞳を閉じれば。機械音声がその目覚めを知らせる――!


 一方。
「――暴風の鎧っていうからさぁ?」
 嵐に巻き込まれながらも――その風をうまく使って宙に浮いたティオレンシアがいた!
 彼女が思い描くは、かつてキマイラフューチャーとよばれるポップなポストアポカリプスで遭遇したあるオブリビオンである。
 経験と言うのは今この時に生きるのだなと彼女が悠長に、そして余裕を確信して極楽鳥に接近した。
 風を読むのは、苦難の技である。
 ――だが。
「あのヒトのほうが、――も っ と 上 手 か っ た わ ね ! 」

 そ の 上 を 、 知 っ て い る ! 

「――はぁぁああッ!?まじ、かよアンタ!」
 風を掌握したティオレンシアが放つのは、【射殺(クー・デ・グラ)】によるリボルバーでの銃撃!
 大きな雷鳴よりも劈く鉛が、風を貫いて極楽鳥の元へと駆ける!
 それを――雷の鳥が弾くのだ!
「わぁ、めんどくさい」
 苦笑いともとれぬ顔で。瞼のむこうに潜む赤がちらりと見える。
 風に関しては攻略が容易いが、この雷撃と言うのは中々に小癪だった。
 的確に百発百中の実力を持つティオレンシアが銃弾を放っても、鳥がその雷光で金属である銃弾を電磁誘導で引き寄せては焦がしてしまう。
 どうしたものかと、空気中を伝って高速で迫る雷を風に乗ったまま仰け反ってかわしながら、また空に浮き続けるティオレンシアである。
 ――この場にいる、灰色の彼がなにか対策できないだろうか。
 ちらりと視線をやった先に居たリーオも、雷に苦戦していた。
 ばりばりと走るそれを赤頭巾の彼女に護られながら、それでも果敢に前に踏み込もうとする。 
「――くそッ」
 銃身も、その体も。
 今にも風に飛ばされてしまいそうだった。
 キューブがなくなったとはいえ、そこに内包されていた魔力と言うのは――尋常なものではなく!
 リーオが赤頭巾の彼女に支えられながらも、何度か銃弾を撃つ。
 震える、手が震えて――大幅に極楽鳥からはずれた。
「――かは、ははははっ!なんだ、それ。お前等そんな程度かよォッ!!?」
 発生した真空から、どんどんとリーオを削る風である!
 柔らかな少年の手のひらが風で斬られ、腕を斬られ、それから――ほほに紅い線を残した。
 たまらず、呻いてその場にリーオが頽れる。それを、嗤う!極楽鳥は嗤ったのだ!
 笑い声が響く前に、あの雷を何とかしようと――ティオレンシアが風に乗っても。

「もう、こっちには寄せねェよ。」

 極楽鳥からティオレンシアの体が遠ざかる!
「あぁもう、面倒くさいッ」
 舌打ちを残して――今度は彼女ごと電磁誘導されて地面へと叩きつけられた!
 今や、電気の通った地面は強力な磁石である。それもティオレンシアを磔にするための――特製だ。
 動けない。
 ティオレンシアがそれを確認するように、辛うじて苦しくも動く首で己の右手を視る。
 この状況においても、――なお、彼女の手は銃を握るのだ。
「明日を向いて、未来を願って。」
 そして、その視線の先に居たリーオがぐらりと歩みだすのを見る。
 ぼたぼたと血は垂れて、今や白い服は赤く染まって。
「超常の力なんて、なくても! 日々を懸命に生きる人達、をッ! 」

 隣に連れた赤頭巾と同じくらいの色になったばかりだった。出血が多いのは、顔色からも見て取れる。
 だけれど、ティオレンシアは彼を止めなかった。――止めれなかった。

 その瞳に、記憶の奥底から煌めく意思があったのを悟ったのだ。

「――勝 手 な 理 屈 で 殺 さ せ る も の か ! ! ! ! 」
「じゃあお前に何ができるってんだよォ!――教えてくれよなァアアアアアッッッ!!」

 雷が再び、次は高出力を伴ってリーオへと放たれる。
 電磁砲。
 その質量と威力を、直感で理解したティオレンシアが叫んだ。
 雷鳴に呑まれて、誰にもそれが聞こえない!
 リーオを今にも灰にしようと――けたたましく鳥が鳴いた。

 ――Completed.
 ――SUCCESS._【『Attack Program『Hijack』】!!

「『――解析終了。対象データのコンパイル完了。ホストユーザー書換終了。No.005ハイジャック、実行。――お前のデータは全部俺の物だ』」
 
 端役の宣言が、空間に染みる。
 彼の静かなる攻防は、ティオレンシアとリーオの争いの中でまだ続いていたのだ。
 魔術の干渉に現実的な『演算機』が立ち入るまでにかかるコストというのは膨大である。
 一撃目のウィルス攻撃では、様子見とした。実際、放たれた雷を止めることはできなかった。
 仲間たちが傷だらけになっても、彼は怒りをかみ殺して冷静に解析を進めていた。
 ――次の二撃目で、必ず仕留める。
 そう、誓っていたのだ。『Arsene』、いいや――ヴィクテム・ウィンターミュートは!!

「 そ い つ 、――奪 っ て や る 」

 雷鳥をその場から消し去った!
 極楽鳥の凶悪な武器であったそれを失くして、片腕の体がバランスを崩すと同時。
「な――ァッに゛!!!?」
 撃ち込まれたのは、リーオの『ゴム弾』だ!!
 貫くのではなく、中までしっかりととらえる一撃を――空いた右手に当ててやった。
 手の甲がひしゃげ、弾の形に窪んだそれではもう予備の刀も振るえまい!

「前の方が、余程病んでて傲慢だよッ」

 吐き捨てるように、血まみれの顔で。
 赤頭巾の彼女に支えられながら挑発的に微笑んだリーオを極楽鳥が憎らし気にねめつける!
 ならば、と風を展開するのなら――!
「――一つだけ、反論ねぇ」
 それに乗ってくるのは、雷から解放された――ティオレンシア!!
 雷の鳥が消されたことによって、彼女を縛る電磁はもう発生しない。
 目の前で仲間を傷つけられ、思うがままにされた。

 ――だから、彼 女 は 今 だ け 止 ま れ な い ! !

「バカってのは「死んでも治らない」し…「死んだら治らない」、のよぉ」

 だから、死ねと。
 電磁の磁力で引き金の引けなくなったリボルバーで、おもいきりその頭を殴ってやったのだ。まるで、瓶を叩きつけるかの如く!!
 持ち手の部分で勢いよく振り下ろせば――極楽鳥は息を吐く暇もなく!


 地面に、衝撃!!
 轟音と共に風が一度凪いだのを、三人が感じ取ればすぐさま先発の猟兵たちと合流する。
 ――雷は封じた。ならば、あとは。

「ッッッくそォオオオオオ――ッッッ!!!!」

 もはや、折るべきはその執念。
 砕けた地面から勢いよく風を巻き上げて、己にふりかかる瓦礫を飛ばす極楽鳥はもはや体を心が凌駕していたのだった。
 ゆらり、立ち上がる。
 ――その体が、鮮やかな七色を喪って、翡翠の色を宿し始めていた。 
 

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

プラシオライト・エターナルバド
エレノア様(f11289)と

極論は、幸福を呼びません
愚かで未熟な私達は、手を取り合います
ひとりで完結していた世界より
ずっと、生きていると感じるから

暴風対策で、トリックスターを命綱代わりに
自分とエレニア様を、周りの丈夫なものと繋いでおく

エレニア様から目を離さないように
ご期待に添えるよう、精一杯努めますよ
大切なお転婆なお嬢様を、アメジールの回復薬が追いかける
傷つけばバシャリ、もしくは即座に回復薬弾で撃つ

攻撃を避けようとするなら
カラーチェンジでその疾さ、封じましょう

罪の意識?
ええ、エレニア様の言う通り。微塵もございませんね
私はただ記憶するだけです
万一でも雷撃が飛ばされたら、カラーチェンジで撃ち消す


エレニア・ファンタージェン
一人でも生きられる者が誰かを頼るのって大切よ
すなわち…エリィ、シオさんが一緒なら不死身だと思うの
回復を宜しくね

「罪の意識なんて犬にでも食わせてしまいましょう」
自身とシオさんに洗脳の呪詛をかけるわ
罪悪感なんて犬の餌よ、犬の
何を言われてもされても、仮にお互いを傷つけても

エリィ今回の武器は鋼鉄の処女にする
シオさんとエリィの風除けにもなるわ
重くて扱い辛いのだけど
…と見せかけてからの、至近距離に至れば鋸でだまし討ちを
これ、さっき使って気に入ったの

攻撃は幾らでも受け、
疲れたらUCで伸ばした髪を蛇に変え、噛みつき生命力吸収を
シオさんの回復もあるし
ほら、エリィ不死身だって言ったでしょ
…友情って、すごいのよ



●GREEN CLEAN Friendship

 その姿は、紛れもなく不幸だった。
「極論は、幸福を呼びません。」
 小さく首を左右に振って、極楽鳥に声をかけるのは女神――ではなく、プラシオライト・エターナルバド(かわらないもの・f15252)だった。
 説得ではない。
 彼女は、世界の在り方と言うのを極楽鳥に説く。
「愚かで未熟な私達は、手を取り合います。」
 極楽鳥が、それを見上げる。
 忌々しそうにしていた。緑色の光を――魔術式のそれから請け負った己とちがう翡翠を放ちながら、今目の前の存在は周りに愛されている。
「ひとりで完結していた世界より――ずっと、生きていると感じるから」
 孤独であることが、悪いことであると言いたいわけではない。
 プラシオライトが話す言葉は、無機質でありながらも事実であった。
 その背中を押して、同意を示すのがエレニア・ファンタージェン(幻想パヴァーヌ・f11289)である。
「一人でも生きられる者が誰かを頼るのって大切よ」
 プラシオライトが教えを説くように語るのであれば、エレニアのそれは世間話とでも言いたげに軽々しく。
 どこか軽薄ではあるが、その事実はやはりプラシオライトとは変わらないのだ。

 プラシオライトとエレニアは友人関係だ。
 プラシオライトは宝石でありながら、己で思考し己の聖痕で世界を観測し、真実というものを記録し続ける生き物である。
 対するエレニアは、人々を惑わせ内側から殺し続けた阿片の使途である。
 正反対な環境にいるように見えるが、この二人に共通するのは――孤独であったことだ。
 観測者で記録係であらねばならないプラシオライトは、孤独でなくてはならないし。エレニアもまた皆を惑わせ夢の世界へ連れていくものの、彼女は幻惑に溺れることが出来ずに孤独だった。
 ――だから、孤独な極楽鳥の独りよがりが、虚しいものだということは。

「罪の意識なんて犬にでも食わせてしまいましょう」
                          ・・
 どうやら、そこまで考えようとしたのはプラシオライトだけだったらしい。
「ええ、エレニア様の言う通り。微塵もございませんね。私はただ記憶するだけです」
 ジワリとにじむような言葉が、二人の間に染み渡った。
「――っはは、は、引導する女神さまの割りにゃあ、凶悪じゃねーか?」
 極楽鳥の笑みが引きつるのも無理はあるまい。
 ――そこに渦巻いたのは、「 目 視 で き る 」呪 詛 な の だ !  
 どす黒く、真白と翡翠の二人の間に――煙管から溢れたような煙が現れては絡みつくように体に纏わりついて、落ちていく。
 極楽鳥が喚いたのを聞いてエレニアが、口元だけで微笑んだ。

「だって、エリィ。女神ではないもの」

 どろりとした黒を体に絡ませながら、真白の赤は弧を描く。
 ぞわりと全身に悪寒が走ったのを皮切りに、極楽鳥がその暴風を振るう!
 ――先行隊に多く浴びせさせた罵倒のぶん。彼にはまだ風を振るう猛威が十分とある。 
 
 吹き付ける暴風に両腕で顔と鼻を護りながら。
 科学干渉によって打ち消された雷と、振るえない哀れな片腕と、立つことで精いっぱいの彼めがけてエレニアは駆ける!!
 じゃらりと鎖の音を立ててエレニアが呼び出したのは、拷問道具である鋼鉄の処女だった。

 し か し 、そ れ は 置 い て い く ! 

「シオさん。エリィ、シオさんが一緒なら不死身だと思うの」
 その言葉を置いて、真白の彼女が飛び出していったものだから。
 鋼鉄の処女の背面でプラシオライトが風を遮った空間。きつく拳を握る。両拳には――うっすらと、光の反射があった。
「ご期待に添えるよう、精一杯努めますよ。」
 頼もしい友人のつぶやきが、風に乗ってエレニアの耳に入る。思わず、微笑んでしまった。

 エレニアは、元来目が其処までよくない。

 アルビノ色をしたヤドリガミの彼女は、視界というものがあいまいである。
 まるで水彩の絵の具を穂先から垂らしたように、ぼやける視界のみで生きてきた。
 ――ので、彼女には恐怖と言うものと縁がない。
 耳や嗅覚から入る情報も多いのだが、この状況においては吹き付ける風でろくに何も聞こえたものではないし、においすらかき消えてしまうのだ。
 せめて彼女を、現実に縛るといえば――腰に巻き付けられた、友の糸である。
 暴風の相手をするというから。友が命綱にと巻き付けた幾つもの糸だった。
 今は――これの感覚しか、エレニアにない。それは、即ち友情のしたたかさというものだけをエレニアに感じさせる!

「――ッお!!?」
 風の流れと共にエレニアが接敵!
 叩きつけられた鋸を物を握れぬ片方の腕でガードする極楽鳥が、目を丸くした。
「おい、おいおいおい、何――何笑ってんだ!?」
 吹き付けるのは暴風なのだ!先ほどからエレニアの細くも長い絹のような白が舞い上がっている。
「ねえ、御存じかしら。鋸ってね――」
 こうして、ひくとよく斬れるのよ。
 恐怖などエレニアの顔にない。そこにあるのは、正義でもなんでもなければ、嗜 虐 そ の も の だ っ た ! 
 宣言通り、鋸を当てた腕に対しエレニアが下に“ひく”。
 鮮血が噴き出して、エレニアの顔を真っ赤に染めた!
「イカレてンなァ、猟兵ッ!?それでも世界を守ってるっつゥのか、そんな顔でさァ!?」
「――エリィは」
 世界を守れないかもしれないけれど。
 極楽鳥が身にまとった暴風が、また彼に味方する。ごうと唸りを上げてエレニアに爪を立てていくのだ。
 呼吸すら苦しい風量に、思わず片手で鼻を隠す。その一瞬で!
 エレニアの横っ腹に“無傷”な脚から繰り出される回し蹴りが刺さった!

 それでも。
 
 撓った細いからだが、地面に踏ん張る。
「友達は、守れるわ」
 目先の、守るべき人を護ることはできる。

 エ レ ニ ア の 瞳 は 揺 ら が な い !

 世界を救うために戦うなどという、そんな大きなものは背負いきれない。そんな寛容には、この少女もなりきれない!
 だが――友 達 は 、 違 う 。
「世界よりも、友達を取るっていうのかァ!?」
 馬鹿馬鹿しい!と一掃してから、極楽鳥が高速の一撃を放とうと鮮血を垂らす右腕を肩から振り上げる。
 痛みなど、この男を止めることにはならない。だから――エレニアとはある種同じ生き物なのだ。
 己の理念に生きている、という点においてはだが。

 明確に異なるとすれば今のエレニアは、彼のように孤独ではない。

「『 配 合 番 号 0 9 。効 能 は ≪ 事 象 の 停 止 ≫ で す 。 』 」

 凛とした宣言が、その場に響けば!
「――ッな」
 極楽鳥の振り上げた一撃がエレニアに訪れることはない!
 髪の毛先一本すら固定された彼と共に、暴風が止まった。
 誰の仕業だ――と、赤の瞳が仮面の向こうで揺らぐ。魔力から感じる視線の先にいたのが、プラシオライトだ!
 【Color Change(カラーチェンジ)】。
 強制的に事象の停止を行う“特効薬”はすなわち、この場に張り巡らされた“不可視の糸”から垂らされたものだった。
「気づかなかった?エリィ、上手だったでしょ?もう、おかしくて、おかしくって」
 エレニアの傷が、みるみる翡翠の力で塞がっていくのを極楽鳥は視界に入れる。
 プラシオライトが放った己の一部である翡翠の液体が、空気中を伝うことが出来たのは。
 エレニアが一目散に意表をついて駆け出し、相手と問答しながら刃をかわす傍らで、ずうっと不可視の糸を張り続けていたプラシオライトがいたのだ。
 鋼鉄の処女背面で完全に影と同化して隠れていた彼女は、風の流れに合わせていたるところに糸を送った。
 天井に、地面に、敵の背面に、エレニアの真横に、縦横無尽に!!

 蜘蛛の巣というには、「美しすぎる」その御業であった。
 その糸に己の一部である「アメグリーン」を浸して伝わせていけば。
 自然と暴風に煽られて翡翠が細かく空間に散る。
 エレニアはもとより、極楽鳥も至近距離での翡翠の飛沫には気づかなかった。

 ――だから!
「ほら、エリィ不死身だって言ったでしょ。」
 思わず、破顔するエレニアである。
「ははは、なるほどなァ、頭いいっつーか」
「シオさんの頭がいいのよ。エリィはシオさんにお任せしただけ」
 ぞるり、とエレニアの髪の毛が一房、大きな蛇に成る。
 【夢路の舞曲(オピウム・パヴァン)】の顕現だ。
 今回の蛇の姿は鞭というよりは縄であった。大きく太く膨れた白蛇が、固定された極楽鳥に舌をちろちろと向ける。
「あなたの相手をして、疲れちゃった」
 げんなりとした調子で、エレニアが宣えば。
 太い縄である蛇を握って――お返しと言わんばかりに極楽鳥の横っ腹に 叩 き つ け て や っ た ! 
 空気と短い断末魔を吐いて、鳥の彼が吹っ飛んでいく!
 そのまま真横の壁に叩きつけられて、落下。
 極彩色の彼は魔術回路を操っていた装置の上へと落ちたのだった!

「友情って、すごいのよ」
 己らの局面での勝利を実感して。
 にまりとエレニアが笑えば、プラシオライトが糸を手繰り寄せていく。
「エレニア様、風がまた。」
「あら、じゃあみんなのところに急がないと。」
 もう風の強い日はお腹いっぱいだわ。なんて笑い合って――彼女らは次の猟兵たちに託す。

 ひくり、と小さく極楽鳥の体が波打った。
 

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

マレーク・グランシャール
★◎△真の姿(角尾翼)解放

敵を打倒するよりキューブの回収を優先するぞ
魔力の供給源を絶つことで戦力を削ぐ意味もある

敵は風の力で防御力や機動力に優れているものの、得物は遠距離ではなく、魔法も鳥の雷撃くらいのようだ
ならば敵が飛翔能力を発揮し他のUC使えないうちが好機とみる

敵が攻撃のために上空から急速接近したところを槍で狙う
これは当たりさえすればいい
敵の攻撃により流れた血を鎖に変えてキューブを握る敵の手首と繋ぐ
手首を強く引くか引き絞るかしてキューブを手放させられるか試みる
血の鎖で繫いでしまえば風のように自由に振る舞えもしないはず

確かにこの世界は歪だ
オブリビオンは倒しても極楽鳥の言葉を俺には否定出来ない


三千院・操
◎◎★★
おまえの気持ちは理解できない……わけじゃあないけど、あんまり興味ないな。
ヒーローだとかヴィランだとかどうでもいいよ。おまえの目的だってどうでもいい。
一つだけ言うんだったら……そうだな。
「みんな」なんてよく分からないもののために戦うから、そうなるんだよ。

【妨げる者】を使って極楽鳥を制圧するよ!
罪悪感? きひひ! 何それウケる。鳥を殺すのに慈悲とか必要?
おれが感じたいのはあいつの『力』! それ以外はどうでもいいの!
原罪の呪詛を高速詠唱しつつ、黙示録の獣で挟み撃ちにしちゃおっと!


キューブの奪取は他の人に任せようかな!
そら! 治療してあげるよ! きひひひ!



●Justice chain.

 呻いたからだが、翠の色をより深めていく。
 マレーク・グランシャール(黒曜飢竜・f09171)はその様を警戒していた。
 再起不能までに叩きこんでやったと勝利を確信していた仲間たちを、「待て」の一言で整える。
「――何かおかしい。油断するな」
 冷たく言い放ち、もう一度猟兵たちの注視を集めた。
 マレークは、動くのであれば魔術回路――キューブの回収を最優先に考えていたのである。
 だが、早々に黒の彼がとりあげることに成功し、それを千代紙の中に隠してしまえたからと安心していた。
 これで己の出番もあるまいと思わされるほど、目の前の仲間たちは存分にその力を叩きこんでいるのだって見守っていた。
 だが、やはり矛盾を感じてばかりの戦局である。
 一定条件を無視したオブリビオンのコードであったり、高威力すぎる電圧であったり、この暴風にしても。
 「ほぼ常時」展開であることは、この“極楽鳥”と名乗るヒーローにはいささか――思い切りすぎた手段のような気がした。

「かは――ははは、はは。あはは、効くなァ」
 正義の一撃を全身に受けた――極楽鳥が、ボロボロの体を今度は軽々しく起こす。
「仕掛けがある」
 マレークが言い放つ。
 どよめいた仲間たちに見せ付けるように、極楽鳥が己の腰布を取った。
  セカンド
「模造品、か」

 悠々と微笑んだ極楽鳥が、その腰にもう一つ立方体を吊り下げていた。
 わざと“どこに隠したか”を見せてからねじ込んだのが、彼が猟兵たちを足止めしている間に造っていた「新しいキューブ」である。
「そ、よくわかったね。どっちが本物かなんて、言ってないのに。」
「まぁな――大体、貴様のようなやつが考えることは分かる。」
 そも、理念も――マレークには否定できないように。
 過去が過去の魔力によって補われていく。喪った腕も、貫かれた足も、何もかもがその魔力によって塞がれていくのだ。
「いや、結構痛手だったよ。フツーに、もう残量少ないと思うし」
 己の体を補いながら、嗤う。極楽鳥は嗤う!
 その手に握った立方体は、確かに分体を作って彼を癒したのだ。
 ――輝きは、鈍い。

「おまえの気持ちは理解できない……わけじゃあないけど、あんまり興味ないなぁ。」
 その緊迫した空気に、声を投げたのは三千院・操(ヨルムンガンド・f12510)だ。
 空気の読めない言葉だったかもしれないが、マレークとはタイミングがうまくかみ合った。
              ノイズ
 その一言は、きっと黒竜の“雑音”をかき消すのだ。
「一つだけ言うんだったら……そうだな。「みんな」なんてよく分からないもののために戦うから、そうなるんだよ。」
 操にとっては、どうでもよいのだ。
 ヒーローだとかヴィランだとか、そのようなことを気にしたいわけではない。
 操にとっては「世界」だとか、「みんな」なんて曖昧な数でしかないのだ。はっきりしたものを掲げないと、人と言うのは動けないのを彼は教わっている。
 それは、数字であるのならば余計にシンプルな方がいい。
「「じぶん」のために、戦えよ。き、ひひひひひっっ!!!」
 10でもなく、100でもなく、「1」のために。
 独善的でだれのためにもならないが、己の為は世界のためになると信じて疑わない操を、マレークが天啓のように見ていた。

「その通りだな」

 だから、彼の中にわだかまりはもう残らない。
「ンじゃあ、やる?やっとく?」
 喪った腕を補う魔術が、指先を編む。
 極楽鳥がにやりと笑って、彼らを視れば ――その瞳はぎらぎらと闘志に燃えていたのだ!!

 巻き起こる暴風!

 この二人には罪悪感というものと縁がないだろうし、先ほど雷の鳥は奪われてしまった。
 ではその代わりに――何が出来るかと言うと彼の代名詞である断罪である!
 ごうごうと巻き起こるそれに乗って、刀の代わりに拳を振るうことにしたのだ!

 その時を、予測していたマレークである!
 極楽鳥というものを、彼はよくよく観察していた。
 このオブリビオンは、冷静な眼で見てみれば防御力や機動力については猟兵たちを凌駕できるほどのものだろう。
 だが、その獲物が遠距離のものではなく、近距離である。
 それに、魔法も先ほどの鳥を封じられてからは使用できない。
 マレークは頭を休めない。己が出来る最善の方法を選択する。――カードを切るように、己の心を解いた。
 ――ならば敵が飛翔能力を発揮し他のコードを使えないうちが好機。
 その高威力の一撃と相対するのであれば!!

「ぉお、お、おおおおおおおおおッッッ!!!!! 」

 雄々しい角が頭から。たくましくも勇ましい尻尾が地面を打って、肩甲骨から竜の証たる鱗まみれの翼が生えた。

 ――こ こ に 、 黒 竜 は 顕 現 す る !

 もはやミサイルと言っていいほどの早さと質量を持った極楽鳥の突進に、構える操の前に出た。
「あ、ちょっと! 」 
 おれのだよ!と叫ぶ声まで置き去りに、マレークが槍で突撃!
「――馬鹿がァ!!!」
 叫んだ風圧がその鱗を割る。砕く、微塵にして――彼を血で染める!
 それでも、痛みに耐えて己の信念とともに槍を握るマレークは止まらないのだ!!
 ――こいつも、イカレてやがる。
 極楽鳥がその速度を落とさない。マレークを警戒はしたが、己の風圧が効く相手であるのならばこのまま押し切ってしまいたいのだ。
 近接と、近接。
 後続でやれやれと肩をすくめる操も、その体からしておそらく近接使いなのだと読んだ。
 だから――勝ち目があると思った。

 そ れ が 間 違 い だ っ た の だ ! ! 

 吹き付ける風圧に鼻をふさがれながらも、マレークは顔を燃えるように熱くして赤を浴びる。
 己の赤のにおいがツンと鼻腔を突いた。己の血が確かに流れているのを信じた両手が――蒼く魔力を宿す!
「『隷属せよ、』」
 槍の穂先が、眼前の嵐と触れ合った。
 ぶぶぶぶと激しく痙攣する槍を握る手袋には激しい摩擦で血がにじんでいる。――黒をより、黒く染めあげる。
 マレークの角が、巻き上げられた破片やら石やらを弾きながらも彼が竜であることを正銘せんと。
 より――硬度を増したところで!

「『――汝 が 身 を 縛 り し は 我 が 血 の 鎖  』ッッッッ!!!」

 現れたのは、血の鎖!!
「――ッハ、ぁっ!?」
 まるでびっくり箱を目の前にした子供のように!     ・・・・
 弾かれるようにしてその場から離脱しようとする極楽鳥は、遅すぎた!
 強く張られた鉄の糸が、マレークと極楽鳥を結んでいる。【真紅血鎖(ドラゴンブラッド・チェイン)】――マレークの呪いめいた技が決まった!
 縛ってしまえば動けないのは、二人とも瞬時に判断したが。マレークが縛り上げたのは、極楽鳥がキューブを握る右腕だ。
 歯噛みする極楽鳥が食いしばれば、キューブはより彼の手の中にしっかりと納まっている。
 捥ぐか、それとも斬るか。
 選択肢は幾通りあっても、傷つけられたマレークの身体では些か力が足りないかもしれない――。

「きひひ! 何それウケる。綱引きでもしてるの?」

 嘲笑めいて、それでもまるで隣の試合を眺めていた少年のような声色で。
 彼らに両手を向けたのは、操だ!!
 赤黒い魔方陣が、彼の手のひらに現れる。彼を起点に、風の向きが――奪われた!!
「ンだ、お前」
 思わず、恐怖する。極楽鳥が、彼と言う存在に恐怖を覚えた。
 風と言うのは極楽鳥の、絶対の味方であった。いついかなるときも、命を潰えたその時であっても、彼と共に悪を断罪し続けたのである。
 だから、――だから、こ ん な こ と は あ っ て な ら な い ! 
「きひ、きひひひひひひひひひひッッッッッ!!!!――『おまえ、邪魔だな』ッッッッ!!!?」
 悪辣な笑顔を浮かべて、操が無邪気なまま。その姿を【妨げる者(サタン)】そのものへと変えていく。
 めらりと立ち上る眼光が、彼の異形をより物語る。彼こそ、今この『地獄』の王で在った!!
 極楽鳥を『障害物』として認識したのなら――!!
 顕現するのは、黙示録の獣どもだ!それらはまるでそうあるべくように、躊躇いなく操の影から掌から走って行く!
「――ちくしょ、うッ!?」

 獣どもが、ずうっと早く極楽鳥に近づいてくる。
 その場から逃れようと再び暴風を身に纏おうと彼が長い髪をたなびかせ、持ち上げたなら――!

「 逃 が さ ん 」
 マレークの紫の瞳が、睨んだ。
 極楽鳥の腕を。肘まででしかと鎖で何重にも巻き付けた彼が今一度その硬度を高めた!!
 獣の息遣いが、近い!!

「離、」

 たまらず首を振って抗議しようとした言葉すら、そのあぎとでかみ砕くように黙示録の獣たちは極楽鳥を壁際まで連れ去る!
 嵐のようにマレークの眼前を突っ切って――その場に、極楽鳥の腕だけを残したのだった。

「キューブの回収、ありがとう!助かったよぉ。」
 おれだけだったら、殺してただけで終わってたかも!
 明るく笑いながら手を振る操に、黒竜が向き直る。
 マレークの鎖の先には、たしかに――『本物』が腕ごとひっついていた。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

壥・灰色
壊鍵
鏖殺式、起動

肘から突き出た余剰魔力が周囲を蒼白く照らしあげる
それは鳳の翼めいて、天を穿つように延びた
同色に光る目で敵を見つめ、ぐん、と身を撓める

跳躍
襲いかかりながら、侵徹撃杭を連射
直線ならば音速以上、避けるならば時速二一〇kmでの曲射弾道追尾
当たるまで飛び続ける不可視の衝撃弾、おれの牙

ゼロに戻したその世界で争いが起こらないとでも思っているのなら、平和な頭だな

人は争うよ
何度でも間違う

だが、間違いを顧みないわけじゃない
だから未だに滅んじゃいないんだ

お前の手前勝手な理論と横暴に付き合ってやるほどおれ達はお人好しじゃない
ここで砕けて、塵に還れ

射出した侵徹撃杭を集中させ、弾幕に続き襲撃
打撃を叩き込む


アレクシア・アークライト
◎★△
戦っても戦っても世界が変わらない。
そんなことで絶望していたんじゃ、警察の人達に申し訳ないわね。
現状維持――それがどれだけの人達を救っていたのか気付けなかったのかしら。
それとも、それだけじゃ満足できないほどに自分の力を過信していたのかしらね。

・力場を展開し、周囲の力の流れを把握。
・仲間が使用した力や敵の暴風の残滓、キューブが発する力をUCで吸収して力場に転換。
・力場を敵に叩きつけると同時に、敵の魔力を再吸収し、キューブに戻そうとする。
・敵に隙が見られた場合は、念動力又は【瞬間移動】でキューブを奪うことを試みる。

世界は変わらない。
だから貴方のことも、よくある事件の一つとして片付けてあげるわ。


死之宮・謡
アドリブ&絡み歓迎
(【雷】は継続中)

此奴が首魁、先程の連中が死守しようとした奴か…
ヒーローとヴィランの有り様、か…やり方は極端だが、此奴もまた世界を愛した英雄と呼ばれる連中の一人だったのだろう…ましてや、此奴はもう死んでいる。それでもなお世界を想うのだから…

…まぁ、死して尚自分以外の為に動こうとする気持ちは微塵も理解出来んがな…

・戦闘
【慟哭】で回避不能のゼロ距離からのインファイト。倒れるまで、消えるまでぶちかます(呪詛・怪力・2回攻撃・鎧砕き・見切り・激痛耐性)

最早死した貴様が考える必要は無い…強き心持つものよ…眠れ…

……アディオス!



●End-Attackers.

 黙示録の獣どもに、磔刑にされた。
 ――だが、その体が未だ過去の海に帰ることを拒絶する!
「うゥおお、ォおォオ、おおおおおおおおッッッ!!!!! 」
 壁にめり込んだ体が、徐々に崩れて黒煙に還っていくのを、認めない極楽鳥だ!
「俺は、――おれは、ァ、ッ、まだ、まだッ!!! 」
 とぎれとぎれの声色にノイズがにじむ。まるで壊れたスピーカーのようになったマスクの内部で、ざりざりと濁って叫ぶ彼を。
 これで最後にしようと猟兵たちが三名並んだ。

「此奴が首魁、先程の連中が死守しようとした奴か。――こいつも、好いな」
 死して尚自分以外の為に動こうとする気持ちは微塵も理解出来ないのだが。
 ため息には好奇心と満足を混ぜて、死之宮・謡(統合されし悪意→存在悪・f13193)のうちが一人、セラ・アイノーンが微笑む。
 所詮、英雄になったとしても。どうせ死出の旅路は独りでしかあるまい。
 ――たとえこの場を切り抜けて、世界を等しくゼロにしようとも。彼と言う存在はその孤独に耐えれるだろうかと黒金が視る隣で。

「戦っても戦っても世界が変わらない。そんなことで絶望していたんじゃ、警察の人達に申し訳ないわね。」
 憐れみと冷静をかんばせで混ぜるのはアレクシア・アークライト(UDCエージェント・f11308)。
 彼女もまた、先のセラと同じく数々の思念体が意識と能力に関与する存在だ。
 それでも、奇しくも今回は似た存在である黒の女と意見が合致する。
 ――正義は孤独に戦うかもしれないが、けしてその戦場は一つではない。
 魔術を身にまといながら、赤めいて燃えるようなオーラを宿す彼女の隣で、蒼の閃光が煌めいている。
 
「人は争うよ、何度でも間違う。」
 彼は。壥・灰色(ゴーストノート・f00067)。
 彼こそ、人の「間違った」思想のもと生まれた暴虐の生体兵器である。
 存在こそ、破滅と衝動を司る「魔剣」の「六番器」でしかないが――彼には、こころがある。
「だが、間違いを顧みないわけじゃない」
 ――だから未だに滅んじゃいないんだ。
 そう語る、彼の肘が魔術組織を放ち余剰魔力が周囲を蒼白く照らしあげていく。
「――壊鍵。鏖 殺 式 、起 動 」
 まるで、鳳凰のごとく。
 天を穿つように彼の苛烈な翼が広がり――勢いよく、蒼の眼光を空気に宿して身を撓めた。

 各自の戦闘態勢が整った。
 衝撃を纏う彼と、力場を操る魔女と、雷を纏う女騎士が、それぞれの「色」を宿して極彩色の彼と対峙する!

「はは、は――はははははははッッ、病んでる、やっぱ、病んでるよ!!!」

 げたげたと笑う彼が、その仮面を取った。ひしゃげた左腕が顔面から払うようにして、血まみれの彼の顔を晒す。
           ヒーロー
「――治してみろよ、猟 兵」

 彼と言う、病原を。
 最後の力と言わんばかりに彼の極彩色に緑が混じる。
 それは、傷も治せないほどのものだった。――勝敗など、明らかだ。
 だが!
 猟兵たちは、「彼を治さねば」ならない。
 現状維持、というものがどれほどのひとを救いそして安心させてきたのかを猟兵たちは知っている。
 猟兵たちは、未来を救う使途であれど個人を救うのは目的ではない。
 結果的に個人を救うだけで、ほぼすべては未来の為へと還元されるように。――それでいい、と知っていた。
 世界が滅ぶことがないように、調停者たる彼らが活躍をするだけで、世界と言うのは上手く回る。滅ばない、動き続ける生命なのだ。
 では、猟兵たちが訪れるこのヒーローズアースを。誰が個人を助け続けるかと言うと。
 この迷宮の外で今もなお、頭を悩ませながらも弱者のために奉仕する、英雄たちである。
 それが、当たり前なのだ。それが、守られるべき世界の形なのだから。

「だから貴方のことも、よくある事件の一つとして片付けてあげるわ。」

 世界は、――美しいまま、変わらない。この仕組みを変えられない!変えさせては、ならない!
 アレクシアが力場を展開、――赤が広がる。それに合わせて、二人も雷と衝撃を纏った!
 どれほど、虚しい想いをしただろうか。助けられない無数の命を前に、心を痛めたのだろうか。
 ――だから、過去に堕ちたのだろうか。
 電子の魔女がそれを憂うよりも早く、暴風が彼女らを襲えば!

 【能力吸収(アブソープション)】は起動される! 
 極彩色の彼が放った命の滓から作り上げる暴風を、魔術としてアレクシアが吸収すれば――そのまま、先の彼らが持ち帰ったキューブに送った。
 赤の光線となったそれを唖然とした顔で観る極楽鳥が。
「マジかよ」
 まるで、奇跡でも見たかのような顔をする。
 ――その腹に、拳が穿たれる!
 吹っ飛んでいくしなやかな鳥が、地面にたどり着くよりも早く!
 黒金のセラと蒼灰の灰色が――極彩色に飛び込んだ!

「ぐぅ、う、ぉおおおおおおああああああァアアッ!!!」
 呻きと同時に叫ばれた魔術が、二人の邪魔をするというのなら。
 【壊鍵『鏖殺式』(ギガース・ザ・カラミティ)】でその風圧を衝撃の破壊王である灰色が『拳』で魔術を相殺する!!
 【黒金は慟哭に軋む(デスペラード・カーニバル)】を発動しているセラが雷を纏った槍で破壊する!!
 
 何度も、何度も。
 殴って、穿って、殴って、穿って、殴って、穿って、殴って、穿って、殴って、穿って、殴って、穿って、殴って、穿って、――!!

 倒れるまで、この目の前の正義が消えるまで!!
 振るう、振るい続けると決めたのだ。
 セラは――喜悦混じりに目を見開いて己の槍を振るい続ける!!
 灰色が否定する。この地面に彼の足跡を深く刻みつけて、彼がここに在ることを示しながら――前へと進みながら否定する!!
 全 段 装 填 、 過 剰 攻 撃 。 
 それでもなお、叩きこまねばならない。完全否定のために――蒼の『侵徹撃杭』は止まらない!!
 破壊された魔術式はすべてアレクシアが吸い上げて、千代紙と鎖に縛られた二つへと還していく。

 圧倒的な殺意だった。圧倒的な破壊だった。
 ――圧倒的な、救世の力だった。

「はは、――すっげ」

 完全にすべての術式を否定され、己の正義の破滅を知った孤独の極楽鳥を。
 凪いだ空気が、――笑わせたのだろうか。

「最早死した貴様が考える必要は無い。――強き心持つものよ、眠れッッッ!!! 」
「ここで砕けて、―― 塵 に 還 れ !! 」

 放たれた、衝撃。そして、雷撃。

 大きな爆裂音と共に――迷宮からは街を照らさんばかりの七色が輝いたのだった。


 ●Every Day.

 ヴィランが暴れつくした都市を復興しようと。
 ヒーローたちが声を上げて活動を始めていれば、その彼らに炊き出しをしたり水を配って歩く市民がいる。
 そろそろ夏も近い。日に日に蒸し暑さは増すばかりで、炎天下の中誰もが――己の罪と向き合いながら前へと進んでいた。
 ヒーローたちに任せきりにしたことも。
 彼らもまた、魔術回路に頼りきりであったことも。
 市内の惨状を伝える情報網が復旧しつつある中で、喪ったものを哀しみながらもこの街は動くことを止めない。

 今一度、正義の形に囚われてはならないのだと市民たちの意識に革命が起きていた。
 残虐なヴィランたちには、しかるべき罰を早く与えようという声も上がったが。
 それにはまず、ヒーローたちが待てを唱えていく。
 
 猟兵たちが与えたのは、この世界に相応しい絶対の正義ではない。
 彼らは、――『未来を思考し続ける』という道をこの世界に示したのだ。
 すべてを救えない。代わりに、救えるように道を説く。
 人は何度でも間違ってしまう。独りよがりになってしまうものだから――だからこそ、優しい追い風で人々の背を押してやる。
 絶対の平和は、程遠い。だけれど、誰もがあり得ない可能性を常に考え続ける必要があるのだと。

 絶望に立ち向かう、未来のために生きる英雄たちがその背で語ったのだから。

 今日もヒーローズアースでは、正義と悪が鎬を削るのだろう。
 ――己たちの未来を護るために、頭を使いこれからもきっと戦うことを止めない世界だった。

 

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​



最終結果:成功

完成日:2019年06月26日


タグの編集

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🔒
#ヒーローズアース
🔒
#愚者の迷宮


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種別『冒険』のルール
「POW・SPD・WIZ」の能力値別に書かれた「この章でできる行動の例」を参考にしつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


種別『集団戦』のルール
 記載された敵が「沢山」出現します(厳密に何体いるかは、書く場合も書かない場合もあります)。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。

 大成功🔵🔵🔵
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 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
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👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


種別『ボス戦』のルール
 記載された敵が「1体」出現します。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※このボスの宿敵主は庚・鞠緒です。ボスは殺してもシナリオ終了後に蘇る可能性がありますが、宿敵主がボス戦に参加したかつシナリオが成功すると、とどめを刺す事ができます。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


挿絵イラスト