#ダークセイヴァー
タグの編集
現在は作者のみ編集可能です。
🔒公式タグは編集できません。
|
●ダークセイヴァー
『青い空は一日に幾度も色を変える。
始まりの鐘にはたいようが輝き、休みの鐘にはつきがのぼり。
眠りの鐘の空には小さなほしが数えきれぬほど浮かび、眠りの時もずっと輝いている。
東の森に立ち入ってはならぬ。
森には――×××があり、村は××により――滅ぶ』
家に伝わる古い古い手記。朽ちかけた紙に書かれた文字は、インクが消えかけて読み取ることが難しい。
私の家は代々この村の長を務めてきた。いちばん上の子が家を継ぐ決まりとなっているから、祖父の次は私の番。父も母も、弟が生まれてすぐの流行病で死んでしまった。
一番重要な役目は、一日に三度、決まった刻限に鐘を鳴らすこと。村長は鐘楼守とも呼ばれている。村はこの鐘の音を区切りにして日々を過ごしていて、とても大切な仕事。もちろん、村長の仕事はそれだけではない。
私は次の村長になるには、まだ知識も経験も不足している。慢性的な食糧不足で働き手が減っているし、薬草園の薬が足りないことも知っている。
人望厚い祖父は病に伏せって――おそらくはもう、長くない。
私はもう、子どもでいることはできないのだ。
祖父のように、父のように、村を守り導き育てていくことが役目。
だけど。
色を変える青い空とは、どんなものだろう。
たいようとは、つきとはどんな風に空で輝くのだろう。
眠りの刻に光るほしの下で、人々はどんな夢を見るのだろう。
禁じられた東の森には何があるのか――見てみたい。
村の外に行ってみたい。違う村の暮らしや、大きな町の生活をしてみたい。村から村へ、町から町へ、商人になって旅をしてみたい。
あれをしてはだめ、これをしてはだめ、だめ、だめ――だめなことばかりで息が詰まりそう。
……ああ、声が聞こえる。私を助けてくれる声。私を、外に出してくれる声。
●グリモアベース
「行ってはいけないと言われた場所ほど、行きたくなるとは思わないか」
薄氷の翅をふるわせて、ユエ・イブリス(氷晶・f02441)は独りごち宙を漂う。
「この村は運がよかった。この世界にしては珍しく、領主の理不尽な搾取もなく、虐殺の恐怖にも晒されていない。村の掟を厳格に守ることで、細々とした平穏が保たれてきた」
曰く、村人は日に三度の鐘の音で規則正しくすごすこと。
曰く、村長は日に三度の鐘を絶やしてはならない。
曰く、東の森に立ち入ってはならない。
曰く、曰く、曰く、これらをしてはならない。してはならない。してはならない。
「『そうしなければ、村が滅ぶ』と伝えられている。だが――いつの時代でも、何処の世界でも、広い土地を夢見て奔るのは若い魂だ」
冴え冴えとした冷気を纏うグリモアを指先で弄び、唇の端を絡げる。
「『掟を破れば村が滅びる』という、心の支配だよ。彼らが気づいているかどうかは、別の話としてね。娘が一人、掟で禁じられた森に入った」
村の東に広がる森の一帯は、村の伝承によれば『空にたいようとつきとほしが輝き、日に幾度も色を変える』とあるらしい。文字で記されたものだけを見たのなら、何の変哲もない森に思えるが――猟兵たちは違和感に眉をひそめる。
「そうだ。そんなことは『ありえない』」
ダークセイヴァーの空は常に闇と絶望に覆われ、昼も夜もないような陰鬱な空だ。どうやって『太陽と月と星』が美しく輝くのだろう。そもそも、太陽や月が存在するのかすら確認されていない。
故に、その森は異端なのだ。
「路を開こう。『村が滅びる』前に」
一瞬の冷気ののちは、暗がりに包まれた小さな村と森の境界だ。
グリモアを持つ猟兵が言うのなら、このままでは『村は滅びる』のだ。この世界のオブリビオンは、そういう類いの存在だ。人間を、生命を嘲笑い弄ぶ。
「ここから先は君たちが紡ぐ。道行きに、幸あらんことを」
猟兵たちは地を蹴って森に入る。
そうして、蒼穹を見た。
高遠しゅん
高遠です。初夏の季節が一番好きです。ですがダークセイヴァーには季節感があまりないような気がしています。
一見すると何も問題が無いように見える村ですが、オブリビオンによる滅びの危機に瀕しています。何が救いとなるか、現時点では分かりませんが、猟兵の力を必要としています。
●構成
一章:美しい森の探索(冒険)
二章:戦闘(集団戦)
三章:戦闘(ボス戦)
以上の三章構成となっております。
たいへん心情寄りの展開となります。また、後味の悪い終わりを迎える可能性も含んでおりますので、ご参加の際はご一考下さい。
●村人
村娘:何かに喚ばれたように森に入っていきました。
居場所は一章時点で全く不明です。痕跡があれば跡をたどることもできるかもしれません。
また、生死は依頼の成功失敗に関係しません。
村長:娘の祖父。長く村長を務めておりましたが、死の床についています。
村:厳格な掟を守り暮らす貧しい村です。
●プレイングについて
方向性の似たプレイングを複数同時採用し、物語を進めていく執筆を考えております。
著しく方向性の違うプレイングは採用を見送ることもあります。
複数名でご参加の際は、同一日の送信・プレイング一行目に【お相手さまのお名前・ID(グループ名)】の記入をお願いいたします。迷子防止にご協力ください。
●募集開始はマスターページ、およびTwitterでご連絡いたします。
章開始時には追加OPで状況を説明いたします。
想定より多めだった場合は再送をお願いすることもあるかもしれません。その際はマスターページ、及びTwitterでご連絡をさせていただきます。
それでは、皆さまの物語をお待ちしております。
第1章 冒険
『異端の森』
|
POW : 異常な特性など関係無いと、力業で突っ切る。
SPD : 異常を避けながら、速やかに森を抜ける。
WIZ : 森の特性を調べあげ、対策をとった上で森を進む。
イラスト:みささぎ かなめ
👑11
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔴🔴🔴🔴
|
種別『冒険』のルール
「POW・SPD・WIZ」の能力値別に書かれた「この章でできる行動の例」を参考にしつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。
| 大成功 | 🔵🔵🔵 |
| 成功 | 🔵🔵🔴 |
| 苦戦 | 🔵🔴🔴 |
| 失敗 | 🔴🔴🔴 |
| 大失敗 | [評価なし] |
👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。
なんて――なんて綺麗。
空が、空がまるで母さんの瞳のよう。高くて、どこまでも透き通っていて。
ああでも、あの白い絵の具で描いたような、浮いているものは何かしら。紡ぐ前の子羊の毛のよう。きっと『くも』ね。あの手記に書いてあったわ。青い空にはくもが浮くの。
それにとても明るい。きっと空にある、あの強い光ね。眩しすぎてしっかりと見えないのが悔しい。あれが照らしてくれているの。ならば『たいよう』、一日の半分、空にあるという光。どうやって浮いているのかしら。
風がとても心地良いわ。この香りは……この花は、書物で読んだ『育ててはいけない花』の一つ――いいえ、この光が届くところ、一面に花が咲いているのね。どれも、掟で禁じられた花ばかり。
どうして禁じているのかしら。こんなに綺麗で、こんなに香りがあって、こんなに色鮮やかに花が咲くなんて信じられない。
木々もまるで違う。この果実はどんな味かしら。いい香り……なんて、甘い。柔らかくて果汁が手にあふれてくる。とろけるほど美味しい果実なんて、初めて。思い出したわ。これは『桃』、掟の果実。食べてはいけないの。
「綺麗……美しい、森」
鳥の鳴き声が聞こえる。まるで歌のよう。
緑の匂い、草の匂い。土の匂い。
いつまでも、いつまでもここにいたい。ここでずっと過ごせたらどんなに素敵かしら。
でも、行かなくちゃ。もう少し空を見てから――
「ああ……!」
たいようが隠れていく。
青い空が、ホオズキの実の色に変わっていく。書物で読んだわ、あれはきっと『ゆうやけ』、たいようとつきの時間の境目の空の色。
私にはこの空の色を表現する言葉が、どうやっても浮かばない。ただ、こんなに美しい空があるなんて、知らなかった。禁じられている涙があふれてしまう。
「小さな光が『ほし』、大きな光……あれが『つき』ね」
ホオズキ色の光はあっという間に消えて、辺りが暗くなった。でも、暗くはないの。弓のような『つき』の光はとても優しい。『たいよう』の時とは違う光で、辺りを照らしてくれる。暗いのに暗くないって不思議。
暗い空に星が、星が川の流れみたい。とても数えきれない光が集まって、空に流れているの。
森の奥には小さな白い花が光っている。『つき』の光が、花の道しるべを照らしてくれている。森の奥へと続いている。
残念だけれど、もう、行かなければ。
つきの灯りが消える前に、行かなければ。
レイラ・アストン
たいよう、つき、ほし
村の伝承通りね
ダークセイヴァーだとは思えないくらいに美しくて
…不自然な森だわ
でも、迷い込んだ子はきっと
未知の世界にどうしようもなく惹かれ、焦がれていて
自分の目で見てみたくて仕方なくて
だからこそ、呼ばれてしまったのかもしれないわね
※wiz
奥に進む前に『情報収集』を試みましょう
村には伝承以外に手掛かりは残されているか
森に『呪詛』や魔術の類の関与はあるか
『第六感』も頼りに探ってみるわ
迷い込んだ子の歩いた痕跡も
見つけられれば尚良しね
いざ進む際には【影の追跡者の召喚】を発動
追跡者を先行させ、前方に危険があるか否か
警戒しつつ慎重に進んでいくわ
※連携、アドリブOK
黒城・魅夜
拘束と束縛から逃れたいという気持ちは誰しもが持つもの。かつて悪夢に囚われていた私のように。
たとえ現実逃避であっても、停滞のままでいるより私は評価します。
……それが自分の意思によるものであるのなら、ですが。
出来得るならば娘さんを探しだしたいところですね。引き止めるかどうかは別としても。
村の方々や村長さんにお話を聞き、可能な限りの情報を収集したうえで、我がUC、鮮血の胡蝶を舞わせて共に追跡、娘さんの足跡を追いましょう。
なんらかの危険や惑わしがあることも当然予想されます。
【第六感】で十分に周囲に注意を払い、幻覚などが現れたならば、【見切り】つつ【呪詛耐性】で切り抜けましょう。
ザッフィーロ・アドラツィオーネ
明f12275と
先ずは街で村人に『情報収集』『聞き耳』を用い森について可能な限り情報を得られればと思う
ある程度の知識が得られたら森へ
大事な宵の義妹故、怪我等あってはいけないからな
俺が先頭に立ち危険がないか確認しつつ進んで行こう
…本当にこの世界にしては美しい光景が広がって居るな…
俺の『世界知識』にはない光景だ
警戒しつつ『地形の利用』と『聞き耳』そして『第六感』を使い途中違和感や物音等がせんか気を付けつつ進む
メイ、疲れて居らんか?
幼い女子には少々疲れるだろう。
疲れたら背負う位は出来る故に…と
い、苛めて等おらんぞ?
というか俺の方が振り回されて居るのだがな…?
…兎に角その、心配な事はない故に、な?
逢坂・明
ザッフィーロ(f06826)と
人間、縛られるほど解放を望むものだわ
それなのに、解放されていると縛られることを望まないの
ホントに不思議ないきもの
村で情報を集めましょう
少女についてのお話も聞けたらいいわ
森へ入る時は迷わないように目印をつけて行くわ
目に見えるものが真実とは限らないもの
ホント、ダークセイヴァーにしては不気味なくらい美しい風景
月も星も太陽も、この世界にはないはずなのに
あの手記を書いた人は渡来の者だったのかしら
考えながら聖職服の男の後ろを歩いていくわ
いやね、幼子扱いしないでよ
こんな森くらい歩き慣れているんだから
あんたこそ、ショウのこと泣かせてないわよね?
いじめてたりしてたら許さないんだから
●黄昏の村と翠の森
未知の世界にどうしようもなく惹かれ、焦がれ、戒めを破り外の世界へ。
気持ちは理解できる。この世界は一人の手ではどうしようもなく暗くて、どうしようもなく厳しい。
レイラ・アストンは村を見て回る。なんのことはない、この世界にはよくある光景だ。
村といっても集落に近い。家の数は数十戸もあるだろうか、狭い敷地に肩を寄せ合うように古びた家が建てられている。
今歩いている岩畳の路が、恐らくはメインストリートと称される道なのだろうが、歩く人影もまばらで子どもが遊ぶ様子もない。人通りと人の気配、体感で、時刻はだいたい夕食前だろうか、煮炊きの煙が煙突から細く、同じ色をした空に立ち上っている。
村の空に夕焼けは見えない。ここはダークセイヴァーだ。
「すみません」
通りすがり、帰路についた農夫らしき男に声を掛ける。
「村長さんの家を、教えていただけますか」
唐突に疑問をぶつけては警戒される。まずレイラは当たり障りのない言葉を選ぶ。
「……あんた、どこから来た」
「旅の者です。山向こうの村から、商売の許可をいただけたらと」
どう出る。『掟』は、旅人を禁じるか。商売を禁じるか。
実のところ、村長の家は村に入った時点で判っている。鐘楼のある家などひとつだけだ。
「向こうの――鐘のある家だ」
「ありがとうございます。向かってみます」
「もう鐘が鳴る。宿を貸す家もない。早く村を出ることだ」
「何故?」
男は視線を逸らした。レイラの視線から逃げるようだ。
「そういう決まりだ」
急ぎ足で去って行く。
「……『掟』」
男の様子から分かったこと。『余所者に宿を貸してはならない』『夕刻の鐘ののち家から出てはならない』。
問いかけに応えたことからは、会話は許されているのかも知れない。旅人を受け入れるかどうかは村長が決める『決まり』。
「確かに、息苦しい村ね」
村に魔術のかかっている形跡はない――ならばやはり、森なのだ。
拘束と束縛から逃れたいという気持ちは、誰しもが心に持つもの。
縛られた現実から逃避するためであっても、自由になりたいと願う心は止められるものではないと身を以て知っている。
黒城・魅夜は村長の家を訪ねた。古びた戸を叩けば、拍子抜けなほどあっさりと突然の来客は受け入れられた。
「娘さんのことで」
一言が効いたのか。まだ10の年を越えないほどの少年が戸を開き、呼ばれ招かれたのは寝室だった。
部屋の空気に漂う、深い死の匂い。魅夜の秀でた眉が僅かに歪む。近しい者なら、この気配はさぞ辛かろう。世話人の老女がいるらしいが、もう『刻』なので帰ったという。
「この村の『掟』とは、どういったものでしょう」
老人は寝台に身を横たえたまま――身を起こす力があるのかすら不明だ――応えた。
「村を守るために」
他の村では残酷なオブリビオンによる搾取や殺戮が成されているが、この村は奇妙なほど静かだ。ならば超常の力で守られていると見た方が妥当だろうか。
「娘さんが消えてから、どれほどの時間が経ったのでしょうか」
「鐘が七回」
「東の森に何があるか、ご存じですか」
「入ることはならぬ」
「……最後に。『掟』は誰が作ったのでしょう」
老人は口を閉ざした。
少年が背を支え、杖を頼りに立ち上がる。枯れ枝のように細い手足が夜着から覗くのが痛々しい。
「刻です。お引き取りを」
すべては村のため。村を守るため。人々を守るため。人望厚い村長は口を閉ざす。
魅夜は謝辞をのべ、家を出ようとした。
「お姉ちゃんを探して」
少年がその背に、恐らくは禁じられているであろう言葉を囁いた。
振り向いた魅夜が見たのは、青い青い少年の瞳。姉が懐かしみ焦がれた空と同じ、青い瞳だった。
かぁん、かぁんと風に乗って鐘の音が聞こえる。
「今日の『夕の刻』の鐘か」
ザッフィーロ・アドラツィオーネは足元の小石を蹴る。
情報収集、だったがもう急ぎ足で家に駆け込む者ばかりで、ろくに話も聞けなくなった。それも収穫なのだが、無視されるのはあまり快いものではない。
「メイ、疲れて居らんか?」
「いやね、幼子扱いしないでよ」
逢坂・明は扉の閉まる音を聞きながら、聞き込んだ情報を整理する。
一日の区切りは三度の鐘。『明けの刻』『夕の刻』『眠りの刻』。音の違うそれらを頼りにこの村は動く。外出は『明けの刻』から『夕の刻』まで。『夕の刻』から『眠りの刻』までは家の中で仕事をし、『眠りの刻』には寝床につく。『そうしなければならない』と互いに互いを見張りあう。
「規則正しい生活は、健康的と言えば言えるがな」
「ねえ。人間、縛られるほど解放を望むものだわ」
なのに解放されている時は束縛を望まない。
千年を生きるとも言われる機械人形の明には、肉の身体をもつ者は不思議なことが多い。人と同じ思考を持っていても、思考を辿ることは難しい。
「決まり事が多すぎるわ。食べる物も着る物も決められて、仕事も生まれたときから決められて変わることもだめ、こんなの」
「そりゃあ、息も詰まる。明は我慢できるか?」
「いやよ。毎日毎日、同じ事ばかり繰り返しなんて」
鐘の鳴り終わる頃には、通りに人通りはなくなる。ならば『余所者』に戸を開ける家もなくなった。
「気がついた?」
「何がだ」
「とても怖がられていたわ、ザッフィーロ。その姿のせいかしら」
猟兵の武器や鎧の類いは、村人たちを恐れさせない。たとえ抜き身の刃を往来で振り回したとて、想定以上の奇異を感じさせないのが猟兵だ。
しかし、村人はザッフィーロを恐れた。『大柄な余所者の男だから』恐れたのではあるまい。
「……服装か」
鈍色の空の下、ザッフィーロが纏うのは神に仕える司祭のそれだ。白を基調とした高潔な装いとして、村人の目に映るはずだ。村人はそれを恐れた。
「恐ろしいのは『白』もしくは『司祭』か」
村人が話しもせず逃げていく、違和感の正体は司祭の衣装。何故?
「考えても始まらないわ。森へ行きましょう」
ぱたぱたと駆けてゆく明を、追いかけるようにザッフィーロも走る。
なんだかザッフィーロは、また振り回されているような気がした。
四人の猟兵が森に踏み入り、薄暗い茂みを抜けた――その時。
降りそそぐのは目映く光る太陽の光と、高く澄み渡る青い空だ。
つい今しがた、走っていた森は空が見えぬほど木々が生い茂り、丈高い草で空は見えなかった。ある程度行った先に、ぽかりと空間があったのだ。くりぬかれたように。
そよ吹く風と光が草と木々の匂いを運んでくる。
あふれる光は地に咲く花を照らしている。
香しい果実がたわわに実っている。
「美しくて……不自然な森だわ」
足元の白い花を摘み、日に透かしたレイラが呟く。太陽の恵みを豊富に受けて育まれた森だ。鈍色の空しか見たことのない娘が存在を知ったなら、一目見たいと夢見て焦がれるだろう。
他の世界では当たり前のことでも、この世界には存在しない青い空。時間が経てば夕焼けも月や星も見られるだろう。
「『掟』の手記を残したのは、渡来の者だったのかしら」
明が呟けば、ザッフィーロも頷く。気配を探っても、勘を働かせても異常らしい異常は感じられない。
「この世界にしては珍しい……いや、ありえない光景だ」
夕食時と思われた村と空の色が違うのは、村が独自の時間を使っていることから、特に不自然ではないだろう。夕の刻ならば今は夕焼けもしくは夜であるはずだが。
「『漆黒の胎に恍惚の翅を』。お行きなさい」
魅夜が解き放つ赤翅の蝶が木々をくぐり抜けてゆく。感覚をともにした蝶たちは、それぞれ美しい森の隅々までを伝えてくる。
他の世界では当たり前のことが、この世界では当たり前ではない。
この世界の黒雲が晴れることは、この先あるのだろうか。
成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔴🔴🔴🔴
エンティ・シェア
この世界ではお目にかかれないような美しい森だと言うなら、散策しないわけにはいかない
異端の片鱗を感じながらのんびりと歩かせてもらおうか
私は知っているよ。太陽も、月も、ある程度の花や果実の存在も
だから知っているものと相違がないか、見てみようか
味見をするのも楽しそうだ
興味の惹かれるままに足を運んでみよう。彼女もきっとそうしただろう
生き物はいるのだろうか
時間の流れは正常だろうか
これは考察しだしたらキリがないと見た
だから、見つけたものは深く考えずに記憶だけしておくよ
綺麗なものを愛でて歩く、楽しい観光だ
つきが作る道しるべが見つかるなら素直に導かれよう
彼女も、行ってしまったのだろうしね
楽しそうで、何よりだ
リーヴァルディ・カーライル
…ん。太陽と月と星…ね。
私も他の世界で初めて青い空を見上げた時は感動して涙したし、
あの日の事は今でも鮮明に覚えているわ。
それらを知りたいと感じ動く心を、咎める事はできない…かな。
“精霊石の宝石飾り”に魔力を溜め、
目立たない精霊の存在感を増幅して見切り、
暗視した彼らの残像に祈りを捧げ手を繋ぎ、
助力を請い情報収集を行う
…森の精霊、木々の精。私の声に応えて。
この森で一体、何が起きているのか。
そしてこの森の奥に導かれている少女の行方を、
どうか私に教えて欲しい…。
その後は“血の翼”を広げ上空に飛翔し【血の疾走】を発動
第六感が殺気を感じたら武器で受け流しカウンターを心掛け、
得た情報を元に少女を追跡するわ。
●翠の森と宵の空
「私は知っているよ。太陽も、月も、花や果実の存在も」
まるで歌でも歌い出しそうに、警戒心などどこかへ置き忘れてきたような。エンティ・シェアは森の散策、採集を楽しむ。せっかくこんなに美しい森があるのだから、思いきり楽しむのが彼の流儀であり、やり方だ。
「随分、気楽ね」
「だって折角の機会、もったいないじゃないか? こんなに綺麗なのに。楽しまなきゃあ、損って思わないかい」
「……そう」
青い青い空を見上げ、リーヴァルディ・カーライルは思い出す。自分が初めて『青い空』を見たときのことを。そんなに遠い昔ではない。
初めて違う世界に立ち、空を見上げた。知っていた空とは全く違った。高く青い空を見たときは、言葉にならない感情がこみ上げた。初めて見た夕焼けも、月と星のきらめきも、もやのかかった朝焼けも、世界にこれほどまで美しいものが存在しているのかと――涙を抑えられなかった。
リーヴァルディは両掌で精霊石を包み込み、祈る。
この地に宿る森の精霊を、樹木の精霊を、喚び、力を借りる。
この地に何が起きているのか。この森に何が起こっているのか。娘は、迷い込んだ娘はどこに――?
「ねえ君、食べない?」
「!」
目の前に突き出された果実と声に、集中を乱される。エンティが笑っていた。
「楽しもうよ」
強引に手に乗せられたのは、真っ赤な林檎、甘くやさしく香る桃、オレンジの鮮烈な橙色。
しゃくりと林檎にかじりつき、エンティは「甘いよ」とリーヴァルディを促す。散々に促され、渋々ナイフで桃を一欠片削って口にした。毒はないようだ……確かに、甘い。
「おかしいと思わないかい」
エンティは翠の瞳で、かじった林檎を太陽に掲げてみる。
「林檎と桃とオレンジが、同時に実るなんてこと、あるかなぁ」
翠の瞳がリーヴァルディを見る。唇は笑んでいるが、視線は笑っていない。
リーヴァルディも手の中の果実を見る。詳しくはないけれど、同じ土地に違う果樹を植えて、収穫時期がこうも重なるものだろうか。
「それにね、花もだよ」
あちこちに花が咲いている。覚えがある桜の花は春の花、金木犀は秋の花。ともに満開に咲いている。
「季節も、気温も関係ないみたいだ。下手な花屋が作った花束みたい。これって自然じゃないよねえ」
まるごと食べ終えた林檎の芯を放り投げ、エンティは笑う。
リーヴァルディははっとして空を見上げた。つい先ほどまで、青かった空が茜色に染まっている。ちらちらと星が輝き始めた。いくらなんでも、早すぎる。速すぎる。
二人が見上げているうちに、見る見る夕暮れは夜となる。ゆっくりと月が昇る。
「この速度じゃ、三時間もあれば丸一日の空が見られそうだね」
エンティは面白そうに、丁寧に桃の皮を剥いている。
リーヴァルディは果実をエンティに押しつけ、ユーベルコードを展開する。上空に狙いを定め、空間転移の軌跡を起こす。背に血の色をした翼を大きく広げ、地を蹴る。
高く。森のどの木々よりも高く、見下ろす高みへ。
「……何、これは」
木々の梢を抜けた上空、森を見下ろす高さ。
森は粛々と広がり、空には――見慣れた鈍色の雲が広がっている。森の一部だけに存在する『異世界の森』。ドーム状の『空』。ああ、これは確かに『異端の森』だ。
エンティは夜闇に光る道標を見つけた。銀竜草に似ているが、月の光で僅かに光を放つ。点々と森の奥へと続いている。昼間には日の光が強すぎて見えなかった印だ。
「見ぃつけた」
食べ終えた桃の種を放り、指先をぺろり舐める。
「彼女は行ってしまったね。楽しそうで、何よりだ」
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵
第2章 集団戦
『もく』
|
POW : じめじめ、うつうつ
【闇】【湿気】【周囲の幸福】で自身を強化する。攻撃力、防御力、状態異常力のどれを重視するか選べる。
SPD : もくー
全身を【ふわふわとした雲】に変える。あらゆる攻撃に対しほぼ無敵になるが、自身は全く動けない。
WIZ : おいしいー
【不安】の感情を与える事に成功した対象に、召喚した【自身の分体】から、高命中力の【幸福を喰らう雲】を飛ばす。
イラスト:lore
👑11
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔴
|
種別『集団戦』のルール
記載された敵が「沢山」出現します(厳密に何体いるかは、書く場合も書かない場合もあります)。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
| 大成功 | 🔵🔵🔵 |
| 成功 | 🔵🔵🔴 |
| 苦戦 | 🔵🔴🔴 |
| 失敗 | 🔴🔴🔴 |
| 大失敗 | [評価なし] |
👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。
ほのかに光る導をたどる。
あれほど青い空も、輝く太陽も、沈む月ももうどこにも見えない。
猟兵の足であれば難ではない距離、しかし力持たぬ娘であれば険しいだろう、獣も通らぬ森の木々がまばらになる。空が、重くのし掛かる。
見えてきたのは廃村だった。
廃屋の集落を、奇妙に捩れた木々が覆っている。床を貫いて、脆く崩れた屋根から枯れ梢が見える。
物言わぬ廃屋の集落、そして朽ち果てた鐘楼の跡。
猟兵は、しばらくして気づくことになる。
この森の中の廃村は、ほとりの村によく似ている。時経た村の骸の如く。
あちこちに鈍色の雲――否、言葉で言い表せぬ色をした霞が、手の届きそうな高さに浮いていた。
猟兵たちには一目で分かる。あれはこの世界にあってはならないモノたちだと。
『たすけてあげる』
『たすけてあげる』
脳裏に響く耳障りな音。音であるのに意志を感じる。
『しあわせをあげる』
『くるしみはいらない』
猟兵の存在に気づいた霞が、地から次々と湧き上がり立ち上る。見た目だけなら無害そうな霞が幾つも混ざり合わさって、実体を持つ。
『しあわせをちょうだい』
『しあわせをあげる』
――希望なんて持たなければ、夢なんて見なければ、未来なんて望まなければ――心が騒ぐこともない。苦しみもがくこともない。
『ほら、しあわせでしょう?』
鐘楼の跡の近くに、霞が集るものがある。
壊れた人形に似た娘が、天を仰いで倒れていた。
エンティ・シェア
あぁ、さぞ、しあわせだろうね
だが、残念だ
私にはその恩恵を得ることができそうにない
―ええ、そうでしょうとも
しあわせなんて、不要です
希望も夢も未来も、苦しみだって「僕」には無いし、必要ない
目障りです。纏めて消えてしまいなさい
鋒で自身を刺し血を確保した上で拷問具を顕現
形は何でもいいですね。磔台にでもしておきましょう
色隠しにて、処刑形態――火刑でいきましょう
じめじめと鬱陶しい暗がりごと、照らして焼き払ってあげますよ
ふわふわしてるのは一旦放っておきます
面倒ですし
何もかもどうでもいいんです
貴方達が消えてさえくれれば、なんでも
これが、「僕」の仕事だ
件の娘の生死は後で確かめます
巻き込まないようにはしますよ
さっきまで、つい先ほどまでの、浮き立つ気分はどこへやら。
眼前に広がる見慣れたあたりまえの絶望に、エンティの心はすうっと冷えていく。
そんなことは、わかりきっていた。この世界は、とうの昔からこんなものだ。夢も希望も、空の光ですら、根こそぎ奪われ、焼き払われた不毛の世界だ。幸せなんて子どもすら騙せないお伽噺だ。
「あぁ」
嘆息する。さぞ、しあわせだろう。しあわせだろうね。
この世界で生きるには、こうなってしまえばいっとう楽なのだ。世界の外から見たこの世界は、どこよりも荒廃してどこよりも救われない。
それにしても――残念だ。心の底から、エンティは思うのだ。
「『私』はその恩恵を得ることが、できそうにない」
――ええ、そうでしょうとも。明日への希望も将来の夢も、輝く未来も、なんなら苦しみだって、
「『僕』には無いし、必要ない。不要です」
何故なら『僕』は、粗暴な殺し屋だから。
手の中の細い刃を返し、切っ先を己に向ける。無造作に肩に突き立て抉り切り裂けば、鮮血が指先まであふれてくる。痛みは勿論ある、それをあっさりと無視する。唇に笑みさえ浮かべて、エンティは血濡れた指先を宙に遊ばせた。
指の指し示す先には、形を成した雲がある。地から霞の如くわき出でて、かたちを持った得体の知れぬ雲がある。意志があるのか無いのかなど、それこそ全く『興味が無い』。
エンティの血が虚空に描きだすのは磔刑台。十字に組まれたそれが完成するやいなや、四方の雲に血錆びた鎖が飛んだ。
「もう少し、楽しませてくれればよかったんですよ」
鎖に巻かれいくつかの雲が、音にならぬ音を立てる。金物を釘で掻いたような耳障りな音だ。心持ち防御を固めたとて、雲が鎖にどうして勝ることができるのか。
ああ、なんてくだらない。つまらない。どうでもいい。
瞑っていた目を開ける。翠の目を瞬かせる。
ごう、と辺りが炎と燃える。雲を巻き込み火刑が成される。天を焦がす勢いで炎は十字を包み込み、辺りはほのかに明るくなる。
気が晴れたかと問われたら、エンティは否と応えるだろう。『僕』が仕事をしただけのことだと。
「何もかも、どうでもいいんです」
成功
🔵🔵🔴
逢坂・明
ザッフィーロ(f06826)と
うるさいわね。うさんくさいわね
しあわせなんてあんたたちが決めることじゃないのよ
しあわせっていうのはね、その人のこころが定義するものなの
知らない方がしあわせだとか、
こうしたほうが不幸にならないだとか……
そういうのはもううんざり!
ザッフィーロ、気に入らないあの雲をこてんぱてんに叩きのめすわよ!
……あんたが!
「歌唱」を使って【サウンド・オブ・パワー】で猟兵たちの支援を行うわ
「存在感」で「挑発」しながら「おびき寄せ」て敵の攻撃を誘って
攻撃が来たなら「オーラ防御」で防ぎつつ「カウンター」できれば
いざという時にはそのまま「シールドバッシュ」で
あたしだって戦うわよ
ザッフィーロ・アドラツィオーネ
明f12275と
希望も夢も持たぬならば心が騒ぐ事もない、か
…造られた時に望まれた通りに在ろうとしていた俺の様だな
今思えば苦しみは少なかった気もせんでもないが…だが
それでは己という物は無いに等しいからな
…故に俺はお前の存在は否定させて貰おう…と
ん?女子供を護るのは当たり前だろう
勿論叩きのめさせて貰おう…俺が、な?
戦闘時は前衛に立ち明におびき寄せられた敵へ
メイスで『2回攻撃』を仕掛けつつ敵へ【罪告げの黒霧】を放って行こう
俺と明共に攻撃が当たりそうな場合は『かば』い『盾受け』にて防御しつつ行動を
戦後は倒れている娘の方へ
もし怪我をして居るならば『医術』にて応急手当を
…何事もなければ良いのだが、な
リーヴァルディ・カーライル
…ん。彼女が予知にあった娘ね。
怪我は無いみたいだけど…。
…あまり、不用意に近寄らない方が良いかな…。
第六感を頼りに敵の動作を見切り、
敵の接近を生命力を吸収する“血の翼”の呪詛のオーラで防御しつつ飛翔
“精霊石の宝石飾り”に魔力を溜めて祈りを捧げ
空中戦を行う敵に【血の教義】を発動する
…闇の娘が光の精霊に請願する。
心を食らう暗雲を祓う嵐を此処に…!
傷口を抉るような光の反動を気合いと激痛耐性で耐え、
暗視した精霊の残像と手を繋いで“光の嵐”を放ち雲をなぎ払うわ。
…広域攻撃呪法、なぎ払え、光の嵐…!
…後は殺気を感じたら、
武器で受け止めるよう心がけておくわ。
少女の容態も気になるけど警戒は怠らないように…。
黒城・魅夜
……私は所詮、殺し、屠り、滅ぼす者。救う者にはなれません。
少女の姿は気になりますが、けれど――
あなたたちを殲滅する方が先です。
私にとって禁断たる言葉を吐いたモノ。
そう、希望を蔑し未来を嘲弄するモノよ、私はあなたたちを赦しません。
鎖を縦横に舞わせ、【なぎ払い】【範囲攻撃】でダメージを与えつつ、相手からの攻撃は【早業】【第六感】【見切り】で回避していきましょう。
射程圏内に入ったならUCを発動、相手の能力を封じてみます。
その上で、もし僅かにでも余裕があるようならば……
【スナイパー】で鎖を飛ばし、【ロープワーク】で娘さんの身体に巻き付けて引き寄せ、安全圏内に退避させることもできるかもしれません。
夢と希望と願いと未来――心を動かすなにもかも。
『しあわせを、あげる』
霞のかたまり、淀んだ雲。ぎちぎち不快な音立てて、囁きかけてくる。
「うるさいわね。うさんくさいわね」
明はまっすぐな怒りと煩わしさを隠さない。
「人のしあわせなんて、あんたたちが決めることじゃないのよ」
瑞々しい感性は、雲の言うことを真っ向から否定する。
心を動かさなければ、傷つくことも、涙や絶望に明け暮れることもないだろう。しかし、心を動かさずに生きるなんて、どこが『ひと』であるのだろう。
知らない方が幸せで、望まぬ方が傷つかず、ただ無為に生きるだけが『ひと』であるはずがない。
「そういうのは、もううんざり。こてんぱてんに叩きのめしてやるんだから! ザッフィーロが!!」
「――俺か」
一言反芻してザッフィーロは前進し、じゃらりと鎖ひくメイスを掲げる。
無論、婦女子を護るに否やはない。それにザッフィーロの記憶する人間の在り方からしても、雲の言い分は看過できない。あまりにそれでは、人が生きる理由が無い。
ヤドリガミであるザッフィーロはその昔、確かに人の手で作られた。慰め、癒し、なだめ赦す高潔なる司祭の指輪――それがザッフィーロの本体だ。
人はそれぞれが異なる悩みを抱えている。百人居れば百とおり、千人居れば千とおりの苦しみがある。
心の痛みや苦しみは、それそのものが生きている証。心を丸ごと無くしてしまえば、それはそれは生きやすいだろうが。
「だからとて」
長躯から繰り出される攻撃は、軽々と雲を文字通り散らしてゆく。
「それでは己という物は、無いに等しいからな」
故に、ザッフィーロは雲を否定する。逆もあるのだ、悩み苦しみ、生きてゆくからこそ人は強くなれる、優しくもなれる。
諳んじた聖句を唱えながら、その吐息は罪なき者には癒しとなり、罪ある者には毒となる。
「――お前たちは、どちらだ」
背を支えるのは、明が高らかに歌う鼓舞の唄。ザッフィーロはまた一歩と歩みを進める。
雲が霞と消えてゆく。霞は目前に倒れる娘からも湧き出している。
「……私は所詮、殺し、屠り、滅ぼす者」
向こうを征く司祭姿の男のような、救い護り癒すような在り方をしていない。
魅夜は己の有り様を心得ている。咎もつ者を破壊する、それが己の在り方だ、誰に恥じることもない。
この世界は確かに嘆きと絶望に沈み、暁を知らずにいる。いつ夜が明けるかもわからない。しかし、この世界の人々が、いつか来る暁すら望まなくなってしまったなら、待っているのは真の闇。必死で生きている人々から、『望む心』すらあの雲は奪おうとしている。
「希望を蔑し、未来を嘲弄するモノよ」
繰り出す鎖は壱百八本。闇を凝らせたような漆黒の出で立ちで一歩、また一歩と廃屋に踏み込む。
絡みついてきた絶望をもたらす霞は、瞬きの間に鎖の勢いに呑まれて消える。
「私は、あなたたちを赦しません」
魅夜にとって禁断たる言葉を吐いたモノ、それらの排除が何より優先する。
喜び希う心を失って、人は生きては居られないのだから。なにが幸せで、なにが希望になるのか、決めるのは自分自身。決して、与えられるものでも奪われていいものでもない。
血色の翼をはためかせ、リーヴァルディは天空にあった。地表から糸となって追いすがる雲を、羽ばたき一つで躱してみせる。
手の中の精霊石に意識をやる。天と地を繋ぐ微かな精霊の気配をとらえ、意志あるものとし仲介する。
「……闇の娘が光の精霊に請願する」
先の森で見た『異端』、生命の喜びに満ちた木々と花。他の世界であたりまえの青い空さえ『異端』とされる、この世界の絶望を、リーヴァルディは肌身に沁みて知っている。
この世界にも青い空を、星空を、茜色の夕焼けを。もし、それが存在するというのなら。春の芽吹きを、夏の繁栄を、秋の実りを。
「雨上がりのように、夜明けのように」
己と相反する属性に、身体が軋み痛もうと知ったことか。
「光よ、あまねく光よ」
リーヴァルディの身体を中心として、風が嵐と化し吹き荒れる。天から光が降りそそぎ、地表を『真昼のように』照らし出す。
「暗雲を祓う嵐を、此処に――!」
轟と唸る光の塊が、廃村を一息に飲み込んだ。天変地異にも勝る奇跡の技は、粘りつく雲を霧散させた。荒れ狂う光の嵐は、雲を千々に飛ばしはするが、世界に生きるものたちを損なわない。
そうしてしんとした静寂が訪れる。
廃村の鐘楼、その近くに倒れたままの娘を、医術の心得もあるザッフィーロが診て言う。
「息はある」
「心はどうなの」
明の問いには応えない。目が覚めてみないことには、なんとも言えない。
魅夜は娘が手の中に干からびた何かを、大切そうに抱いていることに気づいた。リーヴァルディがその手を取る。小さな塊にみえた欠片は、おそらく何かの果実の種だった。
脆く崩れて、風に散ってしまったけれど。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵
第3章 ボス戦
『救済の聖者』
|
POW : 落日の記憶
全身を【輝かせ、周囲の亡霊達を癒しの力】で覆い、自身の【猟兵達との距離の近さ】に比例した戦闘力増強と、最大でレベル×100km/hに達する飛翔能力を得る。
SPD : 神、運命、世界に見捨てられ、それでも
【祈りの言葉】を聞いて共感した対象全てを治療する。
WIZ : 救済を求め、慕い、集まる
【非業の死を遂げた人々】の霊を召喚する。これは【生物や死体へ憑依】や【最後の瞬間に持っていた武器】で攻撃する能力を持つ。
イラスト:chole
👑11
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵
|
種別『ボス戦』のルール
記載された敵が「1体」出現します。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。
| 大成功 | 🔵🔵🔵 |
| 成功 | 🔵🔵🔴 |
| 苦戦 | 🔵🔴🔴 |
| 失敗 | 🔴🔴🔴 |
| 大失敗 | [評価なし] |
👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。
※このボスの宿敵主は
「フィーナ・ステラガーデン」です。ボスは殺してもシナリオ終了後に蘇る可能性がありますが、宿敵主がボス戦に参加したかつシナリオが成功すると、とどめを刺す事ができます。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。
あの日、この世界は闇に包まれました。
あの日、空から光は失われ、生きとし生けるすべてのものに試練が課されました。
『祈りなさい。私心を捨て、すべてを定めに委ねるのです』
『祈りなさい。定めに従い生きるのです。さすれば神がお救いくださいます』
『祈りなさい、心穏やかに、祈りなさい』
――救済を。
――救済を。この世界の民に救済を。神よ、神よ、神よ。
祈りを捧げます、実りを捧げます、我らの心を捧げます、命を、命を捧げます。
闇と絶望に閉ざされたこの世界に、光が降りそそぎますように。
祈りは元は正当なるものだったのだろう。
いつからこの世界が闇であったのか、知るすべはない。
救世の『神』を求め、祈りを捧げた者がいたのだろう。どこの世界にも神を語る物語はある。ならばこの世界にも、神はあったのだ。
しかしその者らが祈っても、祈っても、『神』はいっこうに現れなかった。
ならば捧げたなら応えてくださるか――実りを捧げた。家畜を捧げた。慎ましい生活の中、捧げられるものは少ない。
そんなとき、どこかからか流れ着いた者があった。その者は「空は青く、日に幾度も色を変える」と言った。どこから来た何者なのかは記録にないが、その者が語る世界は記録された。
美しい、美しい世界。子供に語るお伽噺にすらならない、輝ける楽園がそこにあった。
人々は祈った。楽園が訪れるよう。
祈りの果てに目指す『楽園』が来るのなら、祈りを――大いなる祈りを捧げよう。
ある男は食を断って、命尽きるその時まで祈りを捧げた。ある女は喉を自ら切り裂き、命尽きるその時まで祈りを捧げた。実りも家畜もすべて捧げた。救いは訪れなかった。もう捧げられるものは命の他に持っていないから、命をも捧げた。
ひとつの集合体が、狂気に犯されたように救いを求めた。既に何から『救われたい』のかすら、見失っていた。
次々と目の前で消えてゆく命に、流れ者はおそらくは絶望したのだ。自らの言葉が、楽園の希望と救われぬ絶望を、同時に与えてしまった事に責任を感じたのだ。
集合体の生き残りを説得し、流れ者は集落を離れた。
そうして、元の集落との行き来を禁じた。見捨てることもできた筈だが、そうしなかったのは理由があったのかも知れないが、知る機会は失われている。
厳しい戒律を定め、規則正しく生きること。
定めのまま生きたなら、『楽園』など望まないだろうと。
この世界は救われない。ならば救われないまま、人々は生きてゆかなくてはならないのだ。叶わない願いなど、持たぬ方がしあわせだ。
狂奔した祈りの集合体は、骸の海で知り得た『楽園』を作り上げた。骸の海から形を成して、『楽園』を生まれ育った森へ投影した。
時は流れ――祈りも、厳しい掟が存在する理由も失われた。
ただ『掟を破れば=希望を持てば村が滅ぶ』という、口伝のみが人を縛り、形を変えつつ残ったのだろう。
『救いを』
『救いを』
『神が救いをなさぬなら、我らが救いをなしえよう』
かつてこの地で救いを求め、命を散らした死者の群れ。骸の海で異形の力を得、それでも救世を望む魂。
執念と怨念が凝り固まった、過去。
ここで散らさねば、村に未来はない。
しかし散らせば、村のささやかな安寧が崩れるかも知れない。
猟兵たちはいまは、ひとつの選択肢しか選べない。
――滅ぼすことだ。
逢坂・明
ザッフィーロ(f06826)と
確かに、この世界のひとには世界を照らす太陽なんて、人々を静かに見守る月だなんて
けれども、祈り犠牲を払えば神は救ってくださるなんて!
希望を抱かせた流れ者の成したことは人々の安寧を崩したかもしれないけれど
そこからこの集落がたどったのは彼らの選んだことよ
あたしたちのなすべきことはただひとつ
あいつをぶっとばすこと!
ええ、ザッフィーロ。この聖者の成れの果てを地に還してあげましょう!
「鼓舞」「破魔」をのせた「歌唱」による
【シンフォニック・キュア】で負傷した味方の回復を行うわ
そのほか「誘導弾」で味方の援護を
血腥い対価を求める神がいたら、それは邪神だわ
神はきっと――ただの傍観者よ
ザッフィーロ・アドラツィオーネ
明f12275と
希望と救いを求める為に神という物は生まれると言うが…ある意味祈り縋られ望みを投影したその集合体はこの村の者にとって神に近い物、なのやもしれん
何かに縋り救いを求める人間の為に造られた身ゆえ笑う事は出来んが…
だが、更なる災いを呼ぶやもしれん物を放って置ける訳がないからな
…メイ、準備は良いか?
戦闘と同時に地を蹴り『先制攻撃』
メイスを大きく凪ぎつつ『破魔』の力を乗せながら『2回攻撃』と共に敵を『なぎ払い』ながら攻撃をして行こう
体勢を崩した敵には【ジャッジメント・クルセイド】を
…俺を造った物の信じる神の他にも神ならば人が信ずる数だけ居る故に
救済ならば他の元に任せ、安らかに眠るがいい
ニコ・ベルクシュタイン
※アドリブ歓迎
…遅参、申し訳無く
せめて一助となれるよう、尽力しよう
確かにそもそも希望なぞ抱かなければ、其れを失う事も無い
そして殊此の世界に於いては、安易に希望を謳う事も出来ぬ
――が、それでもだ
だからといってお前達の身勝手を許す道理にはならぬのだよ、オブリビオン
「救い」を求めた過程を若干察する程度の「世界知識」と「戦闘知識」で
敵の攻撃能力を予測し「先制攻撃」を試みる
発動させた【葬送八点鐘】の死神の鎌や炎の攻撃に
可能ならば俺の「破魔」の力を乗せて」疾く送ってやろう
とはいえ、そう一筋縄では行くまい
死神で受け切れぬ攻撃が迫ったら「オーラ防御」による
防御障壁の展開で受けて凌ごう
…少女の安否も気になるな。
●男の手記
この世界に来て、どれほど月日が経っただろう。
私の命は尽きようとしている。故郷の医術であれば、おそらくは容易に治療できる病だが、この世界の薬草には治す効果はない。
ならば潔く死を受け入れよう。もっと長く苦しむことができればいいが、もうペンを持つだけで精一杯だ。
若く、この世界の状況を知らなかった私は、親切に受け入れてくれた彼らを混乱に陥れてしまった。この罪は悔やんでも悔やみきれない。
何故この世界に太陽や月や星がないのか。
何故この世界の人々は、化物たちに反乱しなかったのか。
なんの力ももたない私には、村を隠すことしかできなかった。ひっそりと、息をひそめてこの先も生き続けるすべを教えた。生き延びてさえくれたなら、きっと青い空も茜色の夕焼けも、いつか見ることができると。
人の心を縛ることなど、誰にだってできはしない。もし彼らが信じた神がいるのなら、光ささぬこの世界の闇を、きっと晴らしてくれることだろう。彼らは未だ祈り続けている。
いつかは希望を、夢を、未来を望めるようになるだろう。
手記のすべては焼き捨てるように命じてある。この世界で娶った妻は、そうしてくれるだろう。息子は立派に成長した。村を私の言いつけどおり、この先も守り続けてくれると信じている。
心残りがあるとしたら、もうじき生まれる孫を、この腕に抱けないことくらいだ。この期に及んで贅沢な望みだ。
神よ、初めてあなたに祈ります。どうか、どうかこの世界に光を、救いをお恵みください。
私の罪を、どうか――いや、私にその価値はない。
●『救いを』
この世界に太陽は、月は、星はあるのだろうか。
闇が晴れたなら、まぶしい光が見えるのだろうか。
「考えたって、わからないけれど。私にも、誰にだって、わからないけれど」
明が知っているのは、今のダークセイヴァーだけだ。
明だけではない。ザッフィーロも、集った猟兵の誰も、光あふれ若葉萌え実り豊かなダークセイヴァーを知らない。かつての姿を知る者もなく、この先、闇を晴らせるかどうかすら分からぬまま戦っている。
「だからって、犠牲を払えば神は救ってくださるなんて」
真っ直ぐな少女は真っ直ぐに感情をぶつける。
「そんなの、神なんかじゃないわ!」
ザッフィーロは親しい娘の健やかな感情に、無意識に指輪を確かめた。
何かに縋り、救いを求める人間のために造られた身ゆえか『救い』を求めたかつての村人を笑うことはできない、が。
「希望と救いを求める為に、神というものは生まれるという」
どの世界にも祈りと神を求める声がある。人の心が神を形作ることもあるだろう。
「だが、更なる災いを呼ぶやもしれん物を、放って置ける訳がないからな。メイ、準備は良いか?」
「ええ、ザッフィーロ。成れの果てを、地に還してあげましょう!」
長身のザッフィーロが繰り出すメイスの一撃は、救済を嘯く聖者が霞のようにまとう亡霊たちを薙ぎ払う。明の高らかに祈りを捧げる歌声に支えられ天を指せば、ひと筋の光が降り聖者を打ち据える。
聖者の嘆く声が届く。
「そもそも希望なぞ最初から抱かなければ、其れを失う事も無い。確かに、それは違いなかろう」
娘の呼吸を確認して、ニコ・ベルクシュタインがゆらり立ち上がった。
単身で世界を渡るニコの知識にも、幾つもの世界を繋ぎ渡った経験からも、この世界に関しての情報は限られている。
この世界は闇そのものだった。支配された人間たちは、息を殺すように生きていた。たった百年程度の人の歴史すら失われ、この世界の、本来在るべき姿を知る手がかりがない。
猟兵が希望を示すのはいい。しかし、もし、この世界に猟兵が渡れなくなったなら。示された希望は、耐えて生きてきた人々を容易に絶望に落とすかも知れない。
「――が、それでもだ」
怨怨と聖者が、らしからぬ姿で嘆き呻く。纏うは死霊のヴェール。映り込むのは、哀しみ、怒り、嘆きとあらゆる負の感情を浮かべた男女の顔。
「身勝手を許す道理には、ならぬのだよ。逝くべき所へ、逝け」
どこからか葬送の鐘の音が鳴り響く。ニコを中心として黄泉の者たちが廻り回る。
鎌を振りかざす黒いマントの骸骨が空を裂き、純白の死装束の骸骨が煉獄の炎を呼び、音もなく聖者の纏う死者のヴェールを掻き消した。
『しあわせを』
『救世を』
救い主を自称する聖者のなれの果ては、聖なる光と煉獄の炎に貫かれ焼かれ、嘆きの声を高くする。老若男女、幾重にも嘆きは辺りに響き渡る。かつて住んでいた廃墟の村が、嘆きの余波で崩れてゆく。
前に立つザッフィーロが、身を盾にして背後を護る。
見えぬ盾を展開したニコは、背に二人の娘を庇う。
二人を支えるのは、明の謳う祈りの唄。娘を身体で庇い、高く低く、迸る感情のままに生命を、光を、未来を望む心を肯定する。歌声は広く癒しとなり、身じろぎもせず力を失っていた娘にも染み通る。
娘の閉じていた瞼が震える。
灰色がかった青の瞳が、明をぼんやりと見上げた。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵
黒城・魅夜
希望を穢し、未来を自ら投げ捨て、絶望の傘下に降った者たち。
いかなる事情があろうと、私はそのような者に欠片も同情など抱きません。
――しかし、「救い」を求め、「救いたい」と望む。
……それはすなわち「希望」ではないのですか?
あなたたちは決して希望を諦めたわけではなかったのではありませんか?
……ええ、わかっています。オブリビオンに、もう言葉は無意味。
私らしくない感傷でしたね。
敵の回復能力の条件は「言葉を聞く」こと。
108本の鎖を撃ち合わせながら叩きつけることで音響攻撃とし、「言葉」を聞きとりにくくしてしまえば回復もできないでしょう。
後はそのまま引き裂くだけです。
……鎖の音色をせめてもの弔歌として。
エンティ・シェア
何も迷うことはない
これは仕事だ。君達の言う「定め」に従えば滅ぼす以外にない
そもそもが相容れないんだよ。私達は
だからこそ良いのだろう!
はは、愉快な気分になってきたからね、このまま私が務めよう
とは言え殴り合いは空室の住人に頼もうか
そら、お行き。好きに勝手に暴れるといい
救っておあげ。彼らはそこに存在する限り非業の死に縛られている
だから消して、潰えさせてあげないと
私自身は回避に専念しないとね。折角のぬいぐるみ達が消えてしまう
それにしても、祈りの言葉には何一つ共感できそうにない
いやぁ、残念だ。残念だ。実に残念だ!
…しかし、娘さんは癒やされるかな。それならば良いね
彼女を返してあげられれば、それだけで十分だ
リーヴァルディ・カーライル
…人類に今一度の繁栄を。そしてこの世界に救済を。
それが私が大切な人達から受け継いだ誓い。
貴方達の祈りも、私が持っていくわ。
だからどうか、眠りなさい。安らかに…。
…ん。この身にはまだ光の力が残っている。
精霊達、もう一度だけ力を貸して。
彼らの想いを解き放つ為に…。
聖者は他の猟兵に任せ、私は亡霊達の相手をするわ。
殺気を感じたら武器で受け流すように心掛け、
吸血鬼化して魔力を溜めて【血の煉獄】を発動する
第六感が捉えた召喚された霊の存在感を暗視して見切り、
術の反動を気合いで耐えながら、
呪詛を浄化して“光の精霊”に昇華していく
…人は、吸血鬼には負けないわ。
この世界を覆う闇も、いつかきっと、晴らしてみせる。
●『この世界にしあわせを』
そもそも、幸せとは、救いとは何であろう。
その世界によって『救い』の形は様々だ。
とある世界は母なる大地を失い、人々はくろがねの船で漂流しているという。とある世界は種族としてのヒトが滅びたという。
しかし、それらの世界で不幸かと問うたなら、否と答えが返るだろう。変革の時はどの世界にも等しく訪れるのだから、現在をどう生きるかで『救い』の形は変わってくる。
世界を越える猟兵たちは、蹂躙され、抑圧され、生命が強者の玩具となるこの世界を『他と比べて』救いも希望もない世界と思っている。
その世界の住人は、他の世界を知ることはない。
それでも、人は願うのだ。『よりよき明日』を。
からからと楽しげに笑う声がある。
翠の瞳を興味深そうに、嘆きの声を上げる聖者へと向ける。エンティは森で林檎をかじった時と、同じ光を湛えた目をして言った。
「君達の言う『定め』に従えば、滅ぼすほかに道はない」
何を迷うことがあるだろうか。猟兵が渡った先の世界で、オブリビオンと出会っただけのこと。これは『仕事』だ、敵の事情も関係ない。
オブリビオンは猟兵の獲物。狩らなければ更なる災厄が世界を覆う、なんて小難しく考えることは、他に任せている。
「義務とも責務とも倫理ともちがう。猟兵と君ら、そもそもが相容れないんだ。だからこそ良いのだろう!」
猟兵がオブリビオンに出会ってしまった。ならば狩るしかないじゃないか?
愉快だとエンティは笑い続ける。一切の情など持ち合わせていない。歴史も過去も事情も知ったことか。
嗚呼、だけど。
骸の海に漂ううち、他世界の『幸せ』を知ってしまったことこそが、彼らの『不幸』だったのかもしれない。絶望の果てに命を絶って、その先に更なる絶望が待っていたなんて、とてつもなく気の毒なことだ。
「そら、お行き。好きに勝手に暴れるといい」
この場には微笑ましくすら思える、黒熊と白兎のぬいぐるみが現れる。エンティはそれを確認し、朽ちた鐘楼の上に身軽に退いた。
ぬいぐるみたちが執拗に聖者にまとわりつき、綿入りのふわふわの手足で不可視の攻撃を加える様子は、悲劇と喜劇が入り交じっている。
「慈悲深く『私』は、できていないんだよ」
『救済を』
『救済を』
『この世界に救済を』
叫ぶ声が幾重にも響く。男が、女が、老爺が、老婆が、子らですら叫ぶ。
『あたたかな光を』
『ゆたかな実りを』
『誰もが笑って生きられる、世界を』
「希望を穢し、未来を投げ捨て、絶望の傘下に降った者たちよ」
白い指先で鎖を手繰り、魅夜は唱えた。しゃらりしゃらりと鳴る鎖は壱百八本、音色は幾重にも重なりさざなみと響き、嘆きをかき消してゆく。
「いかなる事情があろうとも、私は同情など抱きません」
だけど、だけど。魅夜はこうも思う。
――『救い』を求め、『救いたい』と望む、それらの思いは『希望』と呼ぶのではないのかと。
あの日、初めて見た青空を忘れない。
あの日、初めて見た夕焼けを忘れない。
リーヴァルディもかつては、空は暗いものと信じていた。それ以外の世界があるなんて事を知らなかったから。しかし、猟兵となり幾つもの世界を行き来して知った。
「……空は青く、日に幾度も色を変えるの」
大切な人たちから託され受け継ぐ願いが、リーヴァルディの胸にある。
『人類に今一度の繁栄を。この世界に救済を』
光の精霊を降ろした身体は鈍く痛むけれど、もう一度、力を借りる。絶望ではなく光の中で、恐怖ではなく慰めを、たった一瞬でもいい。望んだ世界の欠片だけでも、見せてやれたら。
「……魂に捧げる鎮魂の歌。最果てに響け」
詠唱が唄となり光と変わる。救済の希望をもち、命捧げた嘆きの聖者が喚ぶ亡者たちが、天空から差す光に包まれ消えてゆく。
絶望するほど、一度でも見られるなら命すら捨てて惜しくはないと願い焦がれた、天空からの光。嘆きがほろりほろりとほどけてゆく。一つ、また一つ、嘆きが溶けてゆく。
『救済を――』
最後に残った聖者は、十重二十重に魅夜の鎖に戒められて、身じろぎもせずその光景を見ていた。衣の端から光に焼かれ、徐々に形を失ってゆく。
言葉など通じぬ骸の海からの流れ者に、らしくない感傷だったかと、魅夜は己の心に問うも。光を、救いをどうしようもなく希う心が彼らにあったことを、確信していた。
「希望であるならば、繋ぎましょう」
聖者を覆う鎖の最後の一本を繰り、祈る。この世界の空に、望んだ色があるようにと。
リーヴァルディもまた、光をいっそう清く浴びせ祈る。
「人は、負けないわ。この世界を覆う闇も、晴らしてみせる」
いつか、きっと。この世界の子どもたちが、青い空に浮かぶ雲を動物に見立て遊び、詩人たちが星をつなげて物語を綴れるように。
光が消え、鎖がほどけたあとには、何も残っていなかった。
「いやぁ、残念だ。実に残念だ!」
聖者とやらの執念、怨念にも似た祈りの言葉には何一つ共感できなかったし、聖者としてもオブリビオンなら、力のままにねじ伏せ塵に還すのが猟兵だけれど。
「綺麗な綺麗なお伽噺だ。娘もおうちに帰せた」
エンティは空を見上げた。
この世界と光の関係など、考えたってわかりはしない。
「実に、残念だ」
このままではいつの日か、ほんとうに光あふれる未来とやらが、この世界にすら訪れてしまうのではないだろうか。それでは「僕」が暴れる場所がなくなってしまう。
それならそれで、本当のめでたしめでたしだ。
風に乗って、鐘の音が聞こえてきた。
あれはたぶん、弔いだろう。
●名も残らぬ娘の手記
夢か幻か、眠っていた私にはわかりません。
ただ、空から強い光がさしたことだけは覚えています。初めて、空が色を変える所を見たのです。
とても美しいと思いました。
私は眠りから覚めてすぐ、村長を継ぐことになりました。私が掟を破ったことは、亡くなった祖父と弟との秘密です。
掟を破っても村は滅びませんでした。
掟を少しずつ変えていけば、村は少しずつ変わっていけるのかもしれません。
鐘は生活の区切りをつける大切な仕事。ほかにも沢山仕事があります。
私は、生まれ育ったこの村を、私の方法で守っていこうと思います。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵