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イグナイト・トライアングル

#アルダワ魔法学園

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#アルダワ魔法学園


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●誰かの物語に関わる物語
 あのね、と。とてもにこやかな笑顔で連・希夜(いつかみたゆめ・f10190)は猟兵たちへ切り出した。
 とあるアルダワ魔法学園の、とあるクラスに。この度、三人の新入生が迎えられたのだという。
 同じ土地で生まれ育った三人は、いわゆる『幼馴染』――なのだが。関係がどうにもぎくしゃくしているらしい。
「立派な竜騎士を目指してるイル君、十四歳。新米マジックナイトなセイアッド君、十六歳。最後がガジェッティアになりたてのティエラちゃん、十五歳。男の子二人、女の子一人の典型的なトライアングル?」
 こういう年頃って難しいらしいよね、と他人事のように希夜は嘯き、「でね」と話を続ける。
「アルダワ恒例の『迷宮新歓コンパ』が催される事になったんだけど。付き添いを、みんなにお願いしたいんだ」
 入学を祝してのパーティと、小手調べ的な迷宮探索がワンセットとなった迷宮新歓コンパ。通常であれば命に危険が及ぶようなことはないのだが、今回は迷宮の奥にオブリビオンが存在すると希夜は予知したのだ。
「オブリビオンと言ってもね、たいした相手じゃないよ。みんななら、ぱぱっとささっと片付けてしまえるレベル。だから、どっちかっていうと。幼馴染ちゃん達三人に、先輩から花を持たせてあげて欲しいって感じ? ついでに、三人のぎくしゃくも解消してあげられたらなお好し、的な?」
 災魔と戦う為に創設された学園だ。生きているうちに引退できれば、故郷で『英雄』として余生を送れる――そんな場所に来たのだから。絆は大事にして欲しいし、張った意地がいつかの後悔に繋がるような事にはなってほしくない。
 ――と、そんな細やかな心配りまで希夜がしたか否かは定かではないが。さっそく転送準備に入っているグリモア猟兵は、片手に小さな星を輝かせて、「あ」と短い声をあげた。
「肝心の、コンパ詳細を言ってなかったね!」
 ごめんごめんと言いながら、全く悪びれた様子がないのは、今回の依頼が猟兵たちの命を脅かすものではいからか。然して続けられた要約はというと。
 互いに自己紹介をしたり、為人を垣間見ることができるパーティーが行われるのは、迷宮内の一画。特別な魔法がかかったそこでは、魚が空中を泳げるらしい。
「特にね魔法の鯨が有名なんだって。しかも今回は特別に夜仕様で、蛍も一緒に漂ってるんだとか! 幻想的な空間だと、ついぽろっと本音が出ちゃうこととかあるし。ぎくしゃくしてる三人に近付くには、いいと思うんだよね」
 暫しゆるりとした時間を過ごして緊張が解れたら、いざ迷宮探索の始まり。
「攻略が難しいダンジョンじゃないよ。ただ、ちょーっと浸水しちゃってるだけ。修復しつつ奥へ進むことになるんだけど。個々の特性を活かして頑張ることが出来たら、それは自信に繋がるよね。で、その奥にオブリビオンがいるってわけ」
 今度こそ話し終えただろうかと、語った内容を指折り数えて確認した希夜は、うん、と頷き猟兵たちを転送する力を発動させる。
「幼馴染ちゃん達のこと、よろしくね。全員に関わろうとするより、この子って一人に絞った方が良いコミュニケーションが取れると思うよ」

●フレッシュ・トライアングル
 身長の割にひょろりとした印象なのは、きっと彼が成長期だからだろう。
 タンポポの綿毛のようにふわふわの金髪を少年らしく短く整えたイルは、希望に満ちた青い瞳で学園内を見渡す。
「俺が一番、強くなるんだ!」

 癖のない長い黒髪を腰のあたりで結わえた佇まいは、青年といっていいほど大人びて見える。
「無理を重ねたっていい事なんかない。でも最善は尽くすよ」
 冴えた銀の眼差しで、セイアッドは身の丈にあった未来を見据えていた。

「イルはこーんなに小さかったのに。あっという間にわたしを追い抜いて、今じゃセイに追いつきそうなの!」
 明るい赤い髪は肩口で好きに跳ねてはいるが、野放図に見えないのは相応の手間はかけているからだろう。
「昔は病弱だったのに、今じゃイルはすっかり体力バカだし。しっかり者に見えてセイは寂しがり屋だし。だからわたしがしっかりしなくちゃなの」
 言いつつ、何もないところろで躓いたティエラは緑の双眸を屈託なく細める。
「みんなで幸せ。みんなで楽しくいられる。それが一番だもの」


七凪臣
 お世話になります、七凪です。
 今回はアルダワ魔法学園の生徒さんと交流しつつ、の冒険譚をお届けに参上しました。

●シナリオ傾向
 わくわく楽しく。
 同時に、誰かの物語に関わる物語、という位置づけです。

●シナリオの流れ
 【第1章】日常。
 魔法の空間で魚たちと一緒に泳ぎまわったりしながら、新入生さんたちとコミュニケーションを。
 【第2章】冒険。章開始時に導入部を公開致します。
 【第3章】集団戦。章開始時に導入部を後悔致します。

●交流
 各章、必ず【イル】【セイアッド】【ティエラ】の誰に関わるかの指定をお願いします。
 指定できるのは一人のみ。
 皆様との交流の結果により、三人の関係性が変化する予定です。

●その他
 当シナリオは3日~5日で完結を目指します。
 参加人数次第ではありますが、プレイングの全採用はお約束できません。
 各章最大で6~10名程度の見込みです。

●プレイング受付期間
 第1章は6/17(月)の朝7時よりプレイング受付を開始致します。
 以後は章が進み、導入部を追加次第プレイング受付開始の予定です。
 (章が進むのに合わせて導入部も公開できるよう努めます)
 作業状況はマスターページに公開しますので、参加を検討するか否かの参考にして頂ければと思います。

 皆様のご参加を、心よりお待ちしております。
 宜しくお願い申し上げます。
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第1章 日常 『夢見る鯨は空を飛ぶ』

POW   :    鯨達と共に泳ぎ思いきり体を動かす

SPD   :    鯨達に餌やりをして戯れる

WIZ   :    空を飛ぶ鯨達を眺めながら飲食を楽しむ

👑5
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

種別『日常』のルール
「POW・SPD・WIZ」の能力値別に書かれた「この章でできる行動の例」を参考にしつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


●はじまり、はじまり
 水底を思わす空を、光の波を掻き分け色とりどりの魚たちが泳いでいる。
 水で満たされているわけでもないのに、魚たちは確かに生きていた。同時に、波を象る光――蛍たちが漂い飛んでいることでも、ここが水底でないことを示している。
「綺麗だよね。イルもそう思わない?」
 ウサギを模したガジェットを肩に乗せたティエラが、重力を感じさせぬ動きでイルの傍らに降り立つ。けれど「あっちで貰って来たよ」と差し出された球体のグラスにイルの手が伸びることはなかった。
「イル?」
「ティも俺に構ってないで、あっちに行けば?」
 本来、人懐っこいはずの青い眼差しが険を含んで馳せられたのは、クラスメイトに囲まれたセイアッドへだ。
 容姿端麗、何事もそつなくこなし物腰も穏やかで人当たりの良い彼は、早くもクラスの人気者。もちろんイルにも新たな友人は出来たが、セイアッドの周囲とはそもそもの『空気』が違う。
 生まれつき体の弱かったイルにとって、二つ年上のセイアッドは兄のようなもので。一つ違いのティエラは姉のようなもの。
 いつも気遣われ、大事にされて、けれど同じ高さに立ってくれる二人のことがイルは大好きだった。
 だから丈夫になって、二人と一緒に走り回れるようになったのは心の底から嬉しかったし。守られて来た分、これからは自分が二人を守るんだと思った。最近は、身長もぐんぐん伸びてセイアッドにもう少しで追いつきそうなのも誇らしかった。
 だのに。
『俺、魔法学園に入学することにした!』
 可能性を認められ、村を出る事を決めた日。『じゃあ、私も行く!』とティエラは笑ってくれたのに、セイアッドは困ったように眉根を寄せて、視線を逸らした。
 ――認められていないんだ。
 瞬間的に、そう思ってしまったイルの内に芽生えた感情の名前を、イルはまだ知らない。けれど。
「もう、イルったらまだそんな子供っぽいこと言ってるの? そんなんじゃ、立派な竜騎士になれないよ? ほらほら、これ飲んで? ここからストロー挿して飲むんだよ。色もイルの瞳の色みたいでキレイだから」
「あぁもう、ティはしつこい……あ、」
 焼かれるお節介から何とか逃げ出そうと身を捩り、そこでイルの眼は白い光に奪われた。
 広間の中央に、魔法の鯨が出現したのだ。
 真っ白な巨体がゆらゆらと空を游ぎ、その動きに蛍たちが細波を起こして瞬く。
「ごめん、ティ。俺、鯨に乗って来る!」
 言うが早いか、イルは空へ泳ぎ出す。力任せな動きは無駄が多いがひたむきさに溢れ、気付いた鯨の方からイルへ寄って来る。
「あー、もう。やっぱり子供じゃない」
 ぽつんと取り残された赤髪の少女は、肩を竦めて笑い。手元に残された特製ジュースを見つめた。まぁるいグラスはまるで気泡。小さくあいた穴にストローを差し込み、澄んだ青い液体を吸い上げると、口の中一杯に甘酸っぱさが広がる。
「本当に、イルもセイも。素直じゃないっていうか……面倒くさいんだから」
 はぁ、と。ティエラは憂鬱な溜め息を溢す。
「セイはイルのこと、ただ心配してるだけだと思うんだけどなぁ」
都槻・綾
【セイアッド】

無理に気持ちを聞き出すことも
胸裡に強引に踏み込む事もしない
其れでも、――ほら
鯨が少し波を起こす時だけは
あなたの睛も揺らぐ気がして
隣へさらりと並び立つ

やぁ、見事

見上げる空には悠々游ぐ巨影
背で煌いたのは金の髪だろうか

――眩いですねぇ

陽彩の髪に
蒼穹を頂く睛も
何より
希望に満ちた朗らかさも

隣の少年へと淡く笑んで
手にした球体の青を揺らして見せる

広い空を閉じ込めておくことは出来ない
綿毛も何れ必ず飛び立つものと
きっと誰もが分かっている
だのに
何故でしょう
見送るのは少し寂しい、と思ってしまうのは

同意を得るでもなく
ただ球体の青を通して幻の海を見る
セイアッドさんの言葉を
ゆるり揺蕩うように待ってみようかと


アルバ・アルフライラ
ほうほう
この甘酸っぱさ、見ている此方までもどかしくなるな
…然し決して嫌いではないとも

接触を試みるのは『セイアッド』
先ずは彼の視線を追う
イルやティエラに向いていたならば
声を掛ける機会になろう
警戒されぬようコミュ力を用いて会話を試みる
――やあ、美しい光景ですね
魔法の鯨と戯れるなどそう体験出来ますまい
魔術師としても、あの鯨には興味が尽きません

それにしても…皆さん楽しそうで心温まります
ほらあそことか――と、イルを指してみよう
果してどの様な反応が返ってくるか
失礼、貴方の視線が彼に向いているよう感じたもので
…彼とは親しい間柄で?

彼は幼馴染をどう思っておるか
彼自身の口から聞いてみたいものだ

*従者以外には敬語


パルピ・ペルポル
【セイアッド】と話してみるかしら。
昔つるんでた奴と雰囲気似てるからどうも気になって、ね。

はじめましてね、わたしはパルピ。
先輩呼びはどうも馴染まないから名前のほうが嬉しいけれど、好きに呼んでくれたらいいわ。
わたしはセイって呼ばせてもらうわね。

せっかくだしこの不思議な場の雰囲気を楽しみつつ、それとなく幼馴染2人について聞いてみましょうか。
その際の話し方と2人に向ける視線については観察しておくわ。

まぁ薄々わかっているのでしょうけど。
一方的に守るだけの存在ではもうないということは。
そこに一抹の寂しさを感じてるんでしょうね。
この機会に見極めてみるのもいいのではないかしら。


エンティ・シェア
【セイアッド】

期待に胸を膨らませた子供達は可愛いものだね
少し年上ぶって構ってみたくなってしまう
鯨や蛍と程々に戯れながら、件の青年に声を掛けてみようか
やぁ未来の英雄殿。楽しんでいるかい

こうして賑やかな中に居ると、柄にもなく感傷に浸ってしまう
かつて別れた友のことなどね
告げていればよかったと悔いる言葉が幾つもある
共に肩を並べていたつもりで、心は通っていなかったのかもね
あぁ、顧みなかった私が悪いんだ。よく分かっている
突き放されるのを恐れて、離れていたのは己の方というわけだ
もっと、言葉を尽くすべきだったのだろうね
つまらない話をしたね。どうぞ楽しんで

(―まぁ、そもそもそんな愉快な記憶は私にはないのだけど)



●セイアッド‐1
「はじめましてね、よろしくねー♪」
 ふわりと目の前に舞い来たフェアリーパルピ・ペルポル(見た目詐欺が否定できない・f06499)に、セイアッドは透ける銀の瞳を驚いたように瞬かせた。
「わたしはパルピ。君は?」
「セイアッド、です」
 アルダワ魔法学園に通う生徒は、人種も年齢も様々だ。けれどセイアッドが生まれ育った場所には所謂『人間』が多かったのだろう。虚を突かれたらしいセイアッドが居住まいを正してしまうより早く、パルピは小さな手で青年へ脱皮しかけのセイアッドの指を掴まえ、くいっと引く。
「セイアッドね。なら、わたしはセイって呼ばせてもらうわね。ちなみにわたしのフルネームはパルピ・ルプル・ペルポル。長いから適当に略してくれちゃっていいわ。でも、先輩呼びはどうにも馴染まないから遠慮して貰えたら嬉しいかしら」
 好きに呼んでね、と言いつつ。クラスメイトの囲いからあっという間に自分を連れ出す翅に、セイアッドは取り戻した我にほんの少し砕けた微笑みを浮かべた。
「では、パルピさんと」
「さん付けなの? 呼び捨てでいいのに」
「フェアリーの年齢はよく分かりませんが、年上の方だと思いましたので。流石に、呼び捨ては」
「セイってば真面目さんなのね。まぁ、いいわ。あっちにね熱帯魚がたくさんいたのよ。せっかくだもの、見に行きましょ」

 クラスメイトに囲まれている間は、絵に描いたような笑顔だったのに。一人のフェアリーの女に連れ出されてからは、表情の作り方が自然に近付いた気がする。
 ――あれは、『作る』ことにもう慣れておるな。
 警戒が緩んだのは、パルピがフェアリーだったからだろうと推し量ったアルバ・アルフライラ(双星の魔術師・f00123)は、頃合いを見て二人へ歩み寄る。
 ちょうど、パルピとセイアッドの頭上に色とりどりの魚たちが群れをなして泳いでいた。そこに蛍が添う様は、夜空に虹の橋が架かるよう。
「――やあ、美しい光景ですね」
 紡ぐ声は柔らかさを意識して。青い瞳に煌めく星の輝きも、なるべく穏やかになるように。配慮の限りを尽くしたアルバに対し、振り返ったセイアッドはというと。
「そ、うですね」
 最初の一音が躓いたのは、困惑のせいだ。だって耳に入ったのは落ち着きある男性の声音だったのに、そこにいたのは年齢も性別も読めぬ青く美しい人がいたのだから。
 けれど。
「魔法の鯨と戯れるなどそう体験出来ますまい。魔術師としても、あの鯨には興味が尽きません」
 ほら、あちら――と。フロアーの中央を游ぐ白い鯨へアルバが水を向けると、素早く『青年』の仮面を被りかけていたセイアッドの顔に『少年』が浮かぶ。
「魔術師でいらっしゃるのですか?」
 ぴんと伸ばされた背筋に、アルバはセイアッドの『尊敬の念』を拾い上げる。
 他者に対し、そつなく振る舞おうとはしているが。熟れるには早いのだろう。端々に滲む素は、観察の眼を向ければすぐに見て取れた。
「えぇ、研鑽の日々を送っております」
「そうなのですね。オレ――僕も使いこなせるよう練習はしているのですが」
「『オレ』で構いませんよ」
 しかも興味の示し方からして、セイアッドの日々に努力があるのをアルバは看破する。
(「根っからの器用者ではあらぬ、か」)
 おおよその為人は把握できた。ならば、とアルバは心の柔らかい部分へ土足で踏み込まぬよう留意しながら、何気なくを装い深みへ切り込む。
「それにしても……皆さん楽しそうで心温まります。こら、あそことか――」
 ほら、と。指差した先では、金の髪が白鯨に無邪気に戯れていた。途端、セイアッドの双眸に形容しがたい光が揺れる。
「……イル」
「失礼、貴方の視線が彼に向いているよう感じたもので」
「あ、わたしもちょっと気になってた!」
 パルピもセイアッドの頭上でくるりと輪を描いて飛翔し、ぴっと右手を挙げた。
 確かに魔法の鯨は美しく、人目を惹く。されど魚が架ける虹も負けてはいない。一瞬の造形美で言えば、虹の方が勝っていただろう。だのに、アルバが声をかける間際、セイアッドが見ていたのは白鯨――イルの方。
「……そんなに見ていましたか?」
「彼とは、親しい間柄で?」
 否定されず、問いを続けられた事で、セイアッドは何かに観念したように蛍舞う中空を仰ぎ、肩を落として笑む。
「幼馴染なんです。才能は抜群なんですけど、無理しがちで。つい、気にかけ過ぎてしまうんです」
 イルを語るセイアッドは、とても誇らしげだった。

 指先に蛍を一匹、とめて。その指先で夜空へ星の軌跡を描き。つられた魚たちを誘ったエンティ・シェア(f00526)は、壁際で一頻りの休憩に落ち着くセイアッドへ気紛れな足取りで歩み寄る。
「やぁ、未来の英雄殿。楽しんでいるかい」
 気さくを装う、小洒落た挨拶のつもりだった。何せ、期待に胸を膨らませた子供たちというものは、実に可愛らしい。少し年上ぶって構ってみたくもなる。
「、っ」
(「――おや?」)
 けれど予想に反した険を含んだ顕著な反応に、エンティはセイアッドに気取られぬよう発した言葉を顧みる。
 『やぁ』が問題になる事はあるまい。『楽しんでいるかい』もごくごく普通の挨拶だ。ならば、引っ掛かりを覚えるのは『未来の英雄』部分だけだ。
(「『英雄』に、良い印象がない?」)
 ――或いは『英雄』になるつもりがない、か。
 己が内側を幾重にも隔て切り分ける男は、『仮定』から『可能性』を導き出す。が、その僅かの間にもセイアッドは自らの非礼を察し、「失礼しました」と短い詫びを口にした。
「少し、ぼんやりしていたので。驚いてしまって」
「それは失礼。こっちもいきなりだったね」
「いえ」
「其方のお二人は、お見合い中でいらっしゃいますか?」
 奇妙な謝罪の応酬に、くすりと笑った都槻・綾(f01786)が清流を流し込む。
「宜しければ、こちらをどうぞ」
 そして何事もなかったように、エンティとセイアッドへ綾は風変わりなグラスに収められた飲み物を差し出した。
「あちらで配っていたのですよ。お喋りには、つきものでしょう?」
 器用に持っていた余剰が、空の手にそれぞれ渡ったことに綾は目を細め、気泡のような球体の中に収められた青い液体をゆらりと揺らし。その向こうに、白い鯨を透かし見た。
「――眩しいですねぇ」
 そう評したのは、魔法の鯨そのものではない。白い背に煌めいた、金色。
 か細い蛍の光にも鮮やかな陽彩の髪に、夜空にも真昼を眺めていそうな蒼穹を頂く睛。
 何より、素直な歓声を上げる朗らかさ。弾む音色は、鯨に跨る少年の内に溢れんばかりの希望があるのを表している。
 綾が何を言わんとしているのか、大人びた少年は察したのだろう。受け取ったグラスを真似て掲げ揺らし、眉を八の字に下げた。
「うるさいだけではありませんか?」
「元気があって大変良いと思いますよ。まるで、大空のようです」
 鯨の尾鰭が、蛍灯を波打たす。ゆらゆら、ゆらゆら。その淡い光を受けた銀の眼も、微かに波打つ。
「広い空を閉じ込めておくことは出来ない」
 ゆらり。蛍灯の波に合わせて、綾がグラスを揺らす。
 ――綿毛も何れ必ず飛び立つものと、きっと誰もが分かっている。
「だのに、何故でしょう。見送るのは少し寂しい、と思ってしまうのは」
 ひたりと綾とセイアッド、そしてエンティの間にだけ感傷が漂う。周囲が賑やかであればあるほど際立つそれに、エンティはふっと憂いを帯びた吐息を零す。
「こうしていると、かつて別れた友を思い出すよ」
 綾とセイアッドを倣い、エンティも青い液体を不安定に揺らめかせる。
「告げていればよかったと悔いる言葉が幾つもある。共に肩を並べていたつもりで、心は通っていなかったのかもね」
 顧みなかった『私』が悪いのだと。そこはよくわかっているのだとエンティは自らを責めながら、戻らぬ時を慈しむ。
「突き放されるのを恐れて、離れていたのは己の方というわけだ。もっと、言葉を尽くすべきだったのだろうね」
 指にとまらせたままだった蛍を仮初めの夜空へ放ち、反対の手に持ったグラスの中身を、ストローを使わずエンティは一気に煽る。まるで苦い何かを、飲み干すように。
「つまらない話をしたね。どうぞ楽しんで」
 そうして気紛れは済んだとばかりに、エンティはその場から身を翻した。
 不意に現れ、また不意に去る。
 その行動の読めなさに、綾は変わらず傍らに居るのに、セイアッドは一人取り残された幼子のように立ち尽くす。
「――英雄になんて、ならなくていいのに」
 ぽつり。
 セイアッドの、色を無くした唇が漏らした呟きに。綾は彼の裡の憂いを視る。

「まぁ、薄々。わかっているのでしょうけど」
 人の輪を遠ざけるようで、輪に入ればそつなく振る舞うセイアッドを眺めながらパルピは「分かりやすいわよねぇ」と空に漂いながら頬杖をつく。
「一方的に守るだけの存在ではもうないということは。そこに一抹の寂しさを感じているんでしょうね」
「そこに自身の矜持もあるのかもしれません」
 少年と接して分かった青さに、アルバも口元を和らげた。
 人として過渡期にあるが故の様々は、実に甘酸っぱく、見ている側にまでもどかしさを連れてくる。
 が、それは決して厭うべきものではない。
 むしろ時がくれば、解決するものだろう。
 されどその『時』が必ずあるとは限らないのを、『子供』たちは未だ知らない――。

 余談。
(「――まぁ、そもそもそんな愉快な記憶は私にはないのだけど」)
 エンティが誰に悟られることなく、アルカイックスマイルを頬に刻んだのは――また別の話。
 嘘も方便。
 気取られねば、使い方は如何様にも。
 されど嘘とは時に心を偽る為の仮面ともなる。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

狭筵・桜人
【ティエラ】

やぁどうも。お友達と一緒じゃないんです?
暇ならお兄さんとお話ししません?

とかなんとかナンパ男を装い少女について歩くところを
同郷の少年たちに見せつけて心配を煽る作戦です。
つまりこれはナンパではない。決して。

二人のことが心配ですか?
仲直りして欲しい、とか。
一緒に居たって伝わらないのに
離れ離れで居たらもっと伝わりませんよね。

はいどうぞ。鯨の餌です。
鯨も人も、寄ってこないならこういう風に
餌を使ったりして関心を引くわけですねえ。

まあまあ、ちょっとズル賢いくらいでいいんですよ。
肝心なのはその先どうするか、ですからね。


ちなみに好きな異性のタイプはーなあんて……
アッハイ



●ティエラ
 コットンキャンディのようにふわふわの、しかも優しい桜色の髪をした狭筵・桜人(不実の標・f15055)の接近に、ティエラは驚くほどに無防備だった。
「やぁ、どうも。お友達と一緒じゃないんです?」
 魔法の鯨へと駆けていってしまったイルを追う視線の先に、にこやかな笑顔でひょいと割り込み。
「暇ならお兄さんとお話しません?」
 ナンパの常套句で誘いをかけて。隣にお邪魔出来たら、『パーソナルスペース』を攻める距離をキープする――なんて策を弄せずとも。ころころとよく笑う少女は、物怖じせずに初めましての青年へあれこれ逆に話しかけてくる。
「オトさんは、学園に入って長いんですか?」
「ゆーでぃーしーえーじぇんと? どんな技が使えるんです??」
 ――この子は、ちょっと天然なのかもしれません?
 ティエラに近付く事でイルとセイアッドの心配を煽る気でいた桜人は、思わぬ展開に面食らう。
 けれど、狙った効果はそれなりに出ているようだ。
 他愛ない会話を繰り広げる最中、時折、誰かの視線が桜人を突き刺す。それが魔法の白鯨に跨る少年の眼差しであるのはすぐに分かった。
 ティエラが持つ飲み物に興味を持ったフリ――あくまでフリだ――で、受け取り場所へ案内を頼もうと手を取れば、青い眼がぐわりと剥かれる。
 だのに桜人が振り返ると、大きな笑い声を上げて『楽しんでいる』アピールをする始末。
(「なるほど、彼はとても分かりやすいですね」)
 ただの『心配』であったなら。駆け付けるだけでいいものを。取り繕っている辺りに、桜人はイルのティエラへの『恋慕』を確信する。しかしセイアッドは。ひっきりなしに誰かに構われているせいもあるのだろうが、ティエラを案じる素振りがほとんど見受けられない。むしろ、ティエラの動向を気にかけているイルの様子に心を砕いている感がある。
「そんなに、気になりますか?」
 そして桜人が二人の少年たちを窺っているのに気付いたのだろう。不意に、ティエラが困ったように笑った。
「二人とも、私の幼馴染なんです。ぎくしゃく、してますよね」
 幼くとも流石は女性。機微への敏さはあるらしい。が、自身に向けられている感情の色には気付いていない風なのに、桜人は密かに肩を竦めた。
「二人のことが心配ですか?」
 問わずとも、表情にありありと現れている『不安』に、桜人は小さな小瓶をティエラへ手渡す。
「これは?」
「鯨の餌だそうです」
 促して、封を切らせると。ふわりと海色の気泡が小瓶の口よりこぽぽと溢れ出す。やがて青い光粒となったそれに、イルや他のクラスメイトを背に乗せた白鯨が近付いてくる。
「鯨も人も、寄ってこないならこんな風に。餌を使ったりして関心を引くわけですねえ」
 仲直りして欲しい、とか。
 一緒に居たって伝わらないことはある。況してや、距離をおいてしまえばなおのこと。
「まあまあ、ちょっとズル賢いくらいでいいんですよ。肝心なのは、その先をどうするか――ですからね」
「――オトさん、戦略家ですね」
 手元から零れ続ける気泡と、近寄ってくる鯨と、桜人の顔を見比べティエラが感心したように目を丸める。
「わたし、オトさんに弟子入りしようかな」
「歓迎ですよ。ちなみに好きな威勢のタイプは――」
 アッハイ。冗談ですよ、嘯く桜人は少女を茶化しながら、彼女の視線を追い。
「おい、ティ。お前、何やってるんだよ」
 鯨から駆け下りて来た少年がティエラの手から、餌の小瓶を掠めとる間際。ティエラの瞳が本人さえ意識しない一瞬だけ、セイアッドに向けられたのを見た。

大成功 🔵​🔵​🔵​

ヴァーリャ・スネシュコヴァ
【セイアッド】

君がセイアッドか?
腕のいいマジックナイトと聞いたのだ!
俺か?俺はヴァーリャ!
一応同じマジックナイトで、君たちとは3年先輩だな!
これからよろしくだぞ!

堅苦しくならないよう、かつ楽しくお話

そうか、君は幼なじみと一緒に入学してきたんだな
俺は幼なじみとかいないまま1人入学したから、そういうの羨ましいのだ!

…学校生活、不安になったりしないか?
そういうときはな、頼るんだ
君には2人も親友がいる
完璧な人間なんていない、得意な分野だって違う
苦手なことや困難も、分け合えば解決できる
つまりは、1人で抱え込んじゃダメだぞ!ってことだな!

説教臭くなってごめんな?
今日はじゃんじゃん食ってな!これも美味いぞ!



●セイアッド‐2
「君がセイアッドか?」
 仮初の夜に、氷の道が一筋、走る。
 そこをしゃっと軽やかに滑り来たヴァーリャ・スネシュコヴァ(一片氷心・f01757)に、セイアッドは短く息を飲んだ。
「俺は、ヴァーリャ。一応、同じマジックナイトで、君たちとは三年先輩だな――」
「凄い。修練を積めば、範囲をこれだけ絞って魔法を使うことが出来るようになるんだね」
 ヴァーリャの自己紹介を遮らんばかりの勢いで前のめりになってしまった少年は、ぱっと口を押えたかと思うと、「ごめん」ときまり悪そうに微笑んだ。
「子供の頃から魔法が好きでね。得意、という程ではないんだけれど」
「そうなのか? 腕のいいマジックナイトと聞いたぞ」
「それほどでもないよ」
「なるほど、謙遜というヤツだな。別に隠す必要はあるまい」
 遠慮がないようで、嫌味もないヴァーリャの様子にセイアッドは圧されたように目を瞬き、それから今度は朗らかに笑った。
「オレはセイアッド。セイアッド・レーマン。セイと呼んでもらえると嬉しいよ、ヴァーリャ先輩」
「先輩はやめるのだ!」

 同じマジックナイトであり、習熟度も高い――しかも年齢も近い――ヴァーリャに対し、セイアッドは気を許したようだった。
 尋ねられるままに故郷の事、幼馴染たちの事を語り。最近習得したばかりだという風の魔法で、蛍だけを手元に招き寄せるという手腕も見せてくれた。
「俺は幼なじみとかいないまま一人で入学したから、そういうの羨ましいのだ!」
「オレは二人が心配でついて来ただけだよ」
「けど、随分と勉強熱心なようだな?」
「そうしないと、二人に置いていかれるからね。きっとイルなんて、あっという間に成長するよ――」
 と、そこで。弾んでいた二人の会話がふつりと途切れた。
 游ぐ魚たちを眺めながらのひと時。落ちた沈黙に隣を窺うと、涼し気なセイアッドの横顔には複雑な苦悩が滲んでいる。
「……学校生活、不安になったりしないか?」
 彼が何を考えているのか、ヴァーリャには分からなかった。けれど少女は、慕わしい人々と共にいる自分を思い描きながら、新入生を諭す。
「そういうときはな、頼るんだ。君には二人も親友がいる」
 ――完璧な人間なんていない、得意な分野だって違う。
 ――苦手なことや困難も、分け合えば解決できる。
「つまりは、一人で抱え込んじゃダメだぞ! ってことだな!」
 どうだとばかりに胸を張ったヴァーリャに、セイアッドが元の柔らかな微笑を取り戻す。
「さすが、先輩?」
「だから先輩はやめるのだ!」
 説教臭くなってごめんな、と詫びたヴァーリャは傍らに置いておいた大きなバケツをおもむろに抱え上げる。
「迷宮名物、蜜ぷにの蜜を使った夢のバケツ花蜜ゼリーだ! これも美味いぞ」
 じゃんじゃん食ってな、と押し付けられたセイアッドは目を白黒させながら、受けた厚意に素直な謝意を表す。
「そうするよ、ありがとう」
 ――けれど。ぽつり、と。『親友か』と迷うように零された一言を、ヴァーリャはしっかりと耳に拾っていた。

大成功 🔵​🔵​🔵​

黒門・玄冬
【SPD】
鯨の餌なら魚だろうか…
バケツに入れて何往復か運んで
たっぷり餌をあげよう
自ら彼等の領域を犯す事は避け
彼等が近づいてくれば
利口だと褒めて控えめに撫でる

セイアッド君を見かければ声をかけよう
やぁ、君は新入生だね
僕は玄冬
気分を害した風でなければ
餌やりを手伝ってくれないかと頼んでみる
鯨は好きだろうか
誰と来たんだい
他愛の無い会話を重ね

視線が泳ぐ鯨達の方で留まれば切り出す
顔色が少し冴えないようだけれど
大丈夫かい?
悩みがあるなら聞くよ

君自身がというよりは…心配なのかな
大切な存在が遠くへいってしまうような気がして
言い知れぬ不安にかられているのではないだろうか
解決するには
勇気を出して直接打ち明けるしかない



●セイアッド‐3
 鯨の餌を、と尋ねたら。小さな瓶を手渡された。
 片手ですっぽりと包んでしまえそうなサイズのそれが、あの巨体を満足させる事が出来るのだろうか?
 沸き立つ知的好奇心の儘に、黒門・玄冬(冬鴉・f03332)はきゅっと小瓶の封を切った。
 すると星型の口から海色の気泡が溢れ出す。こぽこぽ、こぽぽ。次から次に零れるそれは、やがて青い光の粒となって中空を漂う。
「なるほど、魔法の鯨だけに餌も魔法というわけだね」
 必要とあれば大きなバケツで、鯨が満足するだけの量の餌を運ぶことも辞さぬ覚悟だった玄冬は、アルダワの魔法に暫し見入る。
 こぽり、と玄冬の手元で生まれた気泡が、青く輝く光にかわるまで十秒たらず。優美に漂う蛍とぶつからないようゆらゆら揺れたそれは、さながら深海に咲いた命の光。
 指先で突くと、与えられた力にすいと空を泳ぎ。時折、ぱぁと明るく輝いて鯨を誘う。
 そして年若い生徒たちを背中に乗せて腹をすかせたのだろう魔法の鯨も、餌の魅力に抗わず。音もなく尾鰭で空を掻き、玄冬の元へ游ぎ来る。
 魔法とは思えぬ知性を讃えた瞳と、玄冬の視線がかちあう。
(「さぁ、召し上がれ」)
 案内は敢えて声にはせずに。しかし許された鯨は、大きな口を開けてぱくんぱくんと青い光を平らげてゆき。その度にしなる体に、乗った子らが歓声を上げる。
 何とも心温まる光景だ。
 胸に訪れた凪に玄冬は知らず頬を弛め、見つけたセイアッドを手招く。
「やぁ、君は新入生だね。よければ餌やりを手伝ってくれないかい?」
 僕は玄冬というよ、と先に名乗ると、同性から見ても整った顔立ちをしている少年は「セイアッドです」と応えて――一瞬の逡巡をみせた。
 気分を害したわけではなさそうだ。
 魔法の鯨にも、興味を抱いているように見える。
 ならば、何故――。
「――あ」
 セイアッドが小さく発した声に、玄冬は彼の視線を追いかけ鯨を見遣った。正しくは、餌に戯れる鯨の背から駆け下りていった金髪の少年の後姿を。
 ――友達ではない。幼馴染の一人、イルだ。分かっていながら、玄冬は知らぬフリを続けてセイアッドを気遣う。
「友達かい? 邪魔をしてしまったかな」
「いいえ、そうじゃなくて。僕が嫌われているだけ、です」
 応えを返す少年の顔に、苦さが過る。けれどセイアッドは追いかけようとはしなかった。
「顔色が少し冴えないようだけど……大丈夫かい?」
 窺う玄冬へ、セイアッドはゆっくりと笑ってみせる。
「平気です、ありがとうございます」
 穏やかな物腰の、そして一目で年長者だと分かる玄冬へのセイアッドの態度は、とても落ち着いた、柔らかなものだった。けれどその分だけ、玄冬の目にはセイアッドの笑顔が痛々しく映る。
 何をやっても上手くいかない年頃というものはある。
 年頃を超えて、何も上手くやれない人間もいるけれど。
 セイアッドにはそうなって欲しくなくて、夜空に溶ける黒い男は、大人の顔で少年を導く。
「悩みがあるなら聞くよ」
「悩み、という程では。大丈夫です」
 ――どうせ、僕は。
 にこりとそつなく微笑んだ少年が、唇だけで残した自嘲を玄冬は掬い上げる。
 他者への配慮を欠かぬ、優れた少年だ。才能も、きっとあるのだろう。
 にも関わらず、『どうせ、僕は』と彼は己を卑下した。
(「大切な存在が遠くへいってしまうような気がして、言い知れぬ不安にかられているのかもしれない」)
 そう大きく的は外していまい。複雑な環境に身をおく故に、察せられた片鱗に玄冬はお節介を承知でもう一言、付け足す。
「何かを解決したい時は。勇気を出して直接打ち明けるしかないよ」

大成功 🔵​🔵​🔵​




第2章 冒険 『ダンジョン内の浸水エリアを修復せよ』

POW   :    冒険者の安全確保や力技で浸水をくい止める

SPD   :    優れた技術や華麗な早業で壁を修復する

WIZ   :    魔法で水の流れを変えてみる

👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

種別『冒険』のルール
「POW・SPD・WIZ」の能力値別に書かれた「この章でできる行動の例」を参考にしつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


●それから、それから
 祝いの宴を終え、小手調べの迷宮へ足を踏み入れた時。
 イルの様子は誰の目にも荒んでいた。
「水漏れなんて、さっさと片付けようぜ!」
 言うが早いかイルは先頭を切って、おおよそ三メートル四方の石造りの回廊へ飛び出す。
 途端、勢いづいた少年は、ぬかるむ足元にバランスを崩す。
「イル!」
 けれどイルが転倒するより早く、風の魔力を帯びて加速したセイアッドがイルの身を支えた。
「無理は駄目だ。あと――」
「わかってるよ!」
 続きかけたセイアッドの台詞を、己を守る腕ごとイルは振り払う。
「もう子供じゃないんだから、俺に構うなって!!」

 逃げるようにセイアッドの元から走り去ったイルは、胸の裡に激しい後悔を抱えていた。
 ――傷付いた顔をしていた。
 ――自分の態度が、傷付けた。
 酷い振り払い方をした自覚はあった。
 けれど、パーティーの間に見た光景がイルの気持ちをささくれ立たせる。
(「みんな、セイばかり気にする」)
(「みんな、セイの方が好きなんだ」)
 違う、そうじゃない。最近のセイアッドは少し元気がなかったから、きっとそのせいだ。
 理性ではそう分かろうとしているのに、大人ぶれない子供の顔が抑えきれない。
 ――しっかりもののセイ。
 ――魔法も上手に扱えるセイ。
 ――だからみんな、セイばかりを頼る。
「俺だってちゃんとやれるんだって、見せてやる!」
 低く唸った少年は、床のみならず壁や天井から吹き出す水をどうにかするべく、得意の力技を発揮する手段を模索し始める。
 水漏れを起こしている綻びは、大小さまざまだ。
 小さい方は、転がる瓦礫などでは対処しきれまい。けれど大きい方ならば、魔法が得手ではない自分でも何とかなる気がする。
「それじゃ、始めるか」
 水漏れ箇所は数多。試すうちに、効率の良い修繕方法もみつかるかもしれない。
「そういえばセイ……何を言いかけたんだろ?」
アルバ・アルフライラ
『イル』
もし、其処な少年
先陣を切る貴方の姿を見かけまして
宜しければご一緒しても?
御安心を――足手纏いにはなりませぬ故

飽く迄私は支援を行うのみ
小さい箇所ならば氷の魔術で凍らせよう
【賢者の提言】にて
瓦礫を動かし易くなるようイルの強化に徹する
良い所は褒め、自信を持たせ
垣間見える危うい点は怒るでなく助言を行う

直向に修繕に努める姿を見守り
貴方を見ていると幼き日の弟子を思い出します
立派な大人になった後でも
つい癖が抜けずに保護者ぶってしまう
…ふふ、鬱陶しがられても仕方ありません

互いを敬い、大事に思うからこそ
イルが幼馴染の真意に気付くと良いが
決して、お前を認めていない訳ではない
ただ――大切な友人が心配なのだと


ヴァーリャ・スネシュコヴァ
【イル】

イル!と名前を呼んで
噴き出した水に氷の【属性攻撃】をかけ
氷で出来た階段のような足場を作り

こういう時こそ力を合わせるのだ
天井や高い壁の亀裂、任せたぞ!

そう言ってイルを送り出し、床の小さい亀裂は厚い氷で埋め

無事に攻略出来たら、喜んで彼に駆け寄り
君、すごいな!初めてと思えなくてびっくりした
君のことはセイアッドから聞いたぞ
きっとあっという間に成長するって
俺も君の動きを見てたら、きっとすごい竜騎士になると思った

お世辞じゃないぞ
セイアッドは真剣に君のことを評価して、そして悩んでた
君のことを誰よりも理解して、だからこそ認めてるんだ

君たちは本当に『親友』なんだな
だって、そんなに強く想い合えてるんだから


黒門・玄冬
【POW】
イル君の後を追って加勢しよう
逸る気持ちが災いに及ばないか心配だ

彼は自分の心の内をよく解っているのだと思う
そして人のことも観察している
それは彼のこれまでが育んだものだ
彼だけの、かけがえのない

手を貸そう
瓦礫で大きな穴を塞ぐのは時間稼ぎだということも
きっと理解しているだろう
止めきれぬ水流を留め乍ら口を挟む
大丈夫
後に続く仲間達が
他の穴を塞ぎながら駈けつけてくれる
君が彼等を思う気持ちも、きっと

君は勇敢だよ
励まし共に耐える事で
君がそうであるように
君を見ている者が居る事を
君は独りではないと少しでも実感して欲しい

そして
苦境を耐え抜いた時
君にはやるべき事がある筈だ
誰かに伝えるべき事がある筈だよと告げる



●イル‐1
「イル!」
 呼ばれた声に反射で足を止めた少年は、振り返る。直後、傍らを駆け抜けた冷気にイルは目を瞠った。
 冷たい、と感じはしたが、イル自身に纏った氷はない。だというのに、彼の周囲の水という水が瞬く間に凍り固まった。しかもそれだけではなく、階段を思わす氷の足場まで完成していたのだ。
「……すごい」
 目の当たりにした『魔法』の威力に、イルは魂を抜かれたような感嘆を零す。
「ははは、鳩が豆鉄砲を喰らったような顔だな! でも、これくらいはこの学園で学べば、ちゃんと習得できるぞ」
 こつん、こつん、と。滑りやすい筈の氷の上を、足元の冷気だけをコントロールして事も無げに歩いて来たヴァーリャの言葉に「そうなのか!?」とイルの胸に高揚の灯が点る。
「今のを見ただろう? ちなみに俺は、イルの三年先輩だ」
「三年!」
 身長はヴァーリャよりイルの方が高い。けれど瞳の輝きは、イルの方が幼い事を知らしめる。
「ともあれ、こういう時こそ力を合わせるのだ。天井や高い壁の亀裂、任せたぞ!」
「わかった!」
 ――頼れる先輩に、頼られた。
 込み上げた歓喜に任せ、イルは氷の階段を駆け上がろうとして。
「もし、其処な少年」
 またも放られた呼びかけに、今度は「ふぇっ」と気の抜けた声を発して足を止めた。
「先陣を切る貴方の姿を見かけまして」
 危うげなく歩み寄って来るのは、いかにも『術士』な人物――アルバだ。
「宜しければご一緒しても?」
 興奮にさりげなく水を差された事により、氷の階段での転倒を免れたことにイルは気付かず。珍妙なものを見たとでも言わんばかりに、ぱちぱちと瞬きを繰り返す。
「御安心を――足手纏いにはなりませぬ故」
「……えっと、おとこ? おんな?」
 見極めようと眇められた青い眼に、アルバは笑い出しそうになるのをぐっと堪える。
「さぁ、何方でしょう?」
 『アルバ』に対する、初対面で抱いた感想はイルもセイアッドも同じだろう。だがその後の対応はまるで逆だ。処世術的には、セイアッドが正しい。されど思ったままを言葉に出来るイルの素直さも、悪しきものではない。否、むしろ――。
「素直さは美徳と申します。その感性を、お忘れにならないよう」
 思わぬ賛辞に、イルの顔が茹で上がる。
「え、あ。あ、ありが、とう。ございます? じゃ、俺。仕事……っ!」
「その前に――良いですか、しっかりお聞き下さい」
 あわあわと先ほどとは別の意味で足元が覚束なくなったイルを、アルバは今一度引き留め、本来であれば『素』が覗くまじない詞を、今日だけの特別版とやんわり唱えた。
「え、え、え?」
 途端、内側から漲った力にイルは驚き、自身の身体をぺたぺたと撫でまわす。
「一時的な能力強化を施しました」
「すごいな!! ありがとう!!」
 付与された加護を確かめようとイルは転がっていた大きな瓦礫に飛びつき、軽々と持ち上げられたことに感動する。しかし塞ぐべき綻びには、この瓦礫は大きすぎる。
「こういう時は――……あ」
 大きいなら、小さくすればよい。そう考えたイルは拳を押し当て瓦礫を砕こうとし、力加減を誤り木っ端微塵にしてしまう。だがしょぼくれる前に、玄冬が救いの手を差し伸べた。
「手を貸すよ。幸い、瓦礫は幾らでも転がっているからね。イル君はまずコントロールを憶えよう」
 資材を集めてくるのは任せて、と。落ち着いた大人の男の申し出に、イルはにぱっと太陽のように笑った。
「ありがとう! じゃ、なくて。ありがとうございます!」
 受けた恩には、礼を返せる。人見知りでもないのだろう、誰へでも怯まず対応出来ている。人のことも、よく観察している。
 何より。
(「彼は自分の心の内をよく解っているのだと思う」)
 逸る気持ちから災いを呼びこまないか――実際、既に転倒の危機があった――イルの様子を注視していた玄冬は、少年の好ましさに口元を和らげた。
 ――これはイルの『これまで』が育んできたもの。
 ――イルだけが持つ、かけがえのないもの。
 誰と比べる必要もない、誰と比べるものでもない、イルだけの宝だ。
「じゃあ、まずはこれを砕いてみるかい?」
「はい!」
 自分では持ち得なかった絶対の唯一に、玄冬は仄かな眩しさを覚えつつ、玄冬はイルの元へ瓦礫を運び。イルはその瓦礫を注意深く砕き始める。
 飲み込みは早いのだろう。イルは二度目で自身の力を使いこなし、天井に開いた拳大の穴へ細かい砂礫から順に詰め込んだ。
 だが、詰め物だけでは隙間は埋めきれない。
「ドラゴンロアを使ってみるのは如何でしょう?」
 早くも行き詰った作業に、アルバが助け舟を出す。
「竜言語? でも俺、まだ使えな――」
「大丈夫、今ならきっと使えます」
 竜騎士が操るという竜と心通わす言葉。『凄腕』の術士に促され、イルは半信半疑ながらぶつぶつと何かを唱える。
「――!」
 と、突然。緑を帯びた幻の竜が迷宮内に顕現すると、白い息を吐いて熱と苔で中途半端だった綻びを焼き固めた。
「君、すごいな!!」
 アルバの助力あってこそだが、イルの手腕の見事さに、床の小さい亀裂を永遠に溶けぬ氷で埋めていたヴァーリャが跳ねる。
「初めてとは思えなくて、びっくりした」
 そのまま氷の階段を登りイルと肩を並べたヴァーリャは、笑顔弾けさせたままトリガーをひく。
「君のことはセイアッドに聞いたぞ。きっとあっという間に成長するって。俺も、そうだなって確信した。君はきっとすごい竜騎士になる」
 快活に八重歯をのぞかせ喝采し、言葉に嘘はないのだと菫色の瞳を青い瞳に近付ける。
「そんな、お世辞――」
「お世辞じゃないぞ。だってセイアッドは真剣に君のことを評価して、そして悩んでた。君のことを誰よりも理解して、だからこそ認めてるんだ」
 嘘を、探すように。イルがヴァーリャをじぃと見た。応えて、ヴァーリャも同じ視線を返す。
「……セイが?」
「そうだ。君たちは本当に『親友』なんだな」
「……ちがう。親友じゃなくて、ただの幼馴染」
「違わない。だって、そんなに強く想い合えているんだから」

 小さな氷の棘に心臓を刺されたみたいに、それからしばらくイルは押し黙り。只管に作業に没頭した。
 されど、仮初めの効果は長続きしない。力そのものの強化は幾度でも可能だったが、さすがに竜の召喚は出来なくなったのだ。
 それでもイルは投げ出さず、自分の最善を尽くし続ける。
 運よく、ぴたりと砂礫がはまり綻びを修復できる箇所もあった。だがそれ以上に、完全とは言い難い綻びも増えていく。
「大丈夫。後に続く仲間たちが補ってくれる」
 本人ももどかしく感じてはいるだろう『事実』を玄冬はやんわりと慰め、同時にイルが決して『独り』でないことをそれとなく含み説く。
「困難にも立ち向かえる君は、勇敢だよ」
 ヴァーリャが作り直してくれた足場の上。手頃な岩を玄冬はイルへ手渡す。
「それに、君がそうであるように。君を見てくれている人は必ずいる」
 大人の手から、礎を継いだ少年は、柔らかさの残る手で『穴』を埋める。
「君にはやるべき事がある筈だ」
 今度は細かな隙間を埋める砂礫を受け渡し、
「誰かに伝えるべき事がある筈だよ」
 玄冬の心も素直に受け取ったイルは一切の反論をせず、神妙な面持ちで小さく頷く。
「……セイは。俺のこと、嫌いになったんじゃないのかな」

「貴方を見ていると、幼き日の弟子を思い出します」
 少し休憩をしましょう、と。アルバの勧めに、イルは氷の階段に腰を下ろした。座った箇所から身体が冷えないように、座面に魔術を施したのはアルバだ。
「弟子?」
「はい。今ではすっかり大きく、立派な大人になりましたが。しかし、つい。癖が抜けずに、保護者ぶってしまうのです」
 ――これでは、鬱陶しがられても仕方ありません。
 ふふ、と。紡ぐ台詞は『負』に起因するのに、愉し気に、誇らしげに微笑むアルバを、イルは食い入るように見つめる。
「……癖?」
「はい」
「本当は子供だって、思ってない?」
「――一応は?」
「!?」
「冗談で御座いますよ」
 太陽のような子供だ。アルバの知る、星宿す黒とは全く異なるけれど。
 ――この子供は、気付くであろうか?
 互いを敬い、大事に思うからこそだと。認めていないわけではないのだと。ただ、大切な友人が心配なだけなのだと。
 アルバは、イルと、対のような月の子の、気付きと成長を密かに祈った。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

狭筵・桜人
【ティエラ】

なるほどなるほど?
ンッフフフ、青春ですねえ!

ティエラさんはガジェッティアでしたね。
では道具を使って作業者の安全確保なんていかがです?
光源の確保や水の排出など。
ま、ちょっと地味ですけど。
あなたが一番周りを気遣うのが得意そうなので。

とはいえ綻びを閉じてしまわないと
水の排出も間に合いませんね。
働きますとも。
この瓦礫でここの高い位置にある綻びを塞いでー……、
……(届かない)

……こんな風にひとりで出来ないことは
無理せず助けを求めましょうという
先輩からのアドバイスです。
届かなかったとかじゃなくて。

助けるだけじゃなくて頼ることも大切ですよ。
心配だからって助けてばかりじゃ対等ではないですからねえ。



●ティエラ‐2
 目覚ましいイルの仕事ぶりに、ティエラは最初は歓び、その後、少し貌を曇らせた。
「……わたしだけ。置いてかれるのかな」
 ぽつり。少女の瑞々しい唇から溢れた不安に、桜人はティエラに気取られぬようときめきを覚える。
 ――なるほどなるほど?
 ――ンッフフフ、青春ですねえ!
 虚ろな裡さえ、能天気な春色に染まってしまいそうだ。
 けれどヘイトコントロールを得手と宣う男は、仕事をきちんとこなすことも忘れない。
「そういえば。ティエラさんはガジェッティアでしたね」
 肩にちょこんと乗ったウサギを指差すと、察しのよい少女はぱぁと顔を輝かせた。
「そうです。せっかくだから、そちらを使って作業者の安全確保なんていかがです?」
 光源の確保や、水の排出などがありますねぇ、と嘯く桜人の提案に、ティエラは持ち歩いていた鞄を漁ると、分厚い教本を引っ張り出す。
「オトさん天才! ありがとう!!」
「いえいえ、出来るティエラさんが凄いんですよ。ま、ちょっと地味ですけど。あなたが一番周りに気を遣うのが得意そ――って、もう聞いてないですねえ」
 すっかりガジェットの方に夢中になってしまったティエラの様子に、桜人は喉をくつりと鳴らし。彼女の作業を見守りがてら、適当な瓦礫を手元で弄び始める。
 イルのように、コツをすぐに掴めるわけではないのだろう。
 憶えたてのガジェッティアとしての能力を、教本片手に確認しながら、ティエラはまずは光源を創造した――が。
「あ、移動式にするの失敗しちゃった」
 どうやら狙い通りにはいなかったらしい。されどティエラはめげず、光源に排水機構を付け足すべく、またもうんうん唸り始める。
 初々しいものだ。まさにこれぞ青春。
 またしても含み笑いかけた桜人は、手慰みの相棒のように扱っていた瓦礫に視線を落とし、はぁ、長い息を吐いた。
 綻びを閉じるのも、また仕事。
 ちゃかちゃか直してしまわないと、水の排出だって間に合わない。
 となれば、人の応援に徹している場合ではなく。桜人も、猟兵として働かなくてはならない。
「えぇ、わかっていますとも。働きますとも、えぇえぇ、ちゃあんと働きます――」
 …………。
 手にした瓦礫を、壁の高い位置にある穴に埋め込もうとして。桜人は固まった。いや、そんなはずは。否定して、うーんと背伸びして、また固まる。
「オトさん、面白い。ちょっと待ってね」
 届かぬ穴へ悪戦苦闘する桜人を見止めたティエラは、すかさず簡易の足場を創造した。
「これはこれは、助かりました。ありがとうございます」
 よいしょと。ほぼ箱なだけの足場へ登り、桜人はようやく目的を果たし。にこりと笑ってティエラの力の産物に腰掛けた。
「こんな風に、ひとりで出来ない事は。無理せず助けを求めましょうという先輩のアドバイスは届きましたか?」
「――え? そうだったの!?」
「そうですよ。届かなかったとかじゃないんです」
「本当?」
 訝しむ緑の眼差しに、桜人はけらりと桜色を華やげる。どこまでが本気で、どこからがそうでなかったのか。必然か、偶然の産物か。或いはその何れでもないのかは、きっとティエラには分からない。
 でも。
「助けるだけじゃなくて頼ることも大切ですよ。心配だからって、助けてばかりじゃ対等ではないですからねえ」
 疎外感を覚え始めてしまった少女に、寂しいと声をかけてもいいのだと。桜人が理解を促したことだけは、真実――多分。

大成功 🔵​🔵​🔵​

パルピ・ペルポル
【イル】と話をしてみましょうか。

床や壁の浸水箇所に合わせて風糸でカットした瓦礫を差し込むのをイルにやってもらうわ。
わたしでは持ち上げるのも大変だから上手く差し込めないし(手段はあるにはあるけど)
そうそう、いい感じに出来てるじゃない。

あまり説教じみたことは言いたくないけれどね。
さっきのあれ、正直わたしも肝が冷えたわよ。
あそこに落とし穴があったらとか思うとね。

イルが何を焦っているのかはわからないけれど。
英雄になりたいのなら、臆病でありなさい。
まずは自分が生き残るため。そして他の人を生き残らせるため。
自分に何が出来るか、出来ないのか、よく考えて落ち着いて行動するといいと思うわ。


エンティ・シェア
【イル】

こちらの英雄殿は元気だね
一先ず作業を手伝わせてもらおうか
やぁ、未来の英雄殿、とこちらにも同じ声を掛けて
彼の方は、どんな顔をするやら
幼馴染と話しているのを知られているなら、良い顔はされないかな
まぁ、なんでも構わないんだけど
とりあえず、手は入り用だろう。ぬいぐるみのそれで良ければ貸そう

君の見立てではどう直したら良い?などと意見を伺いつつ進めるよ
ついでにお喋りだ
ところで、幼馴染殿を手伝わなくて良いのかい?
一人で大丈夫だとでも、言われたのかい?
だとしたら、背伸びをするのが上手だね、君の幼馴染は
君も苦労するだろう。何でも出来るような顔をされては、手を貸すこともし辛いものね

少しは、向き合いたまえよ



●イル‐2
 くるりくるりとパルピが中空を舞う。気紛れに遊んでいるだけのようだが、決してそうではない。
 パルピの羽搏きに合わせ、転がっていた瓦礫が綻びを埋めるパーツへ変わっていく。凹凸があった表面は、なめらかに。そしてぴたりと噛み合う形へと。
「……手品みたいだな」
 しゃがみこみ、その様子に見入っていたイルは「へぇ」と目を丸くする。だってイルからは、パルピが何をしているのかよく分からないのだ。事前に、これから何をするかをパルピから聞いていたにも関わらず。
 だってパルピが操っているのは、蜘蛛の糸より細い透明な糸。日頃、武具として用いる――一番の得手は捕獲網としてだが――それの切れ味は抜群。ざりざり削り断つ音さえ奏でないものだから、イルの目には瓦礫が勝手に形を変えているようにしか見えない。
「ほらほら、見てないでイルもちゃんとお仕事して」
 わたしじゃ持ち上げるのも大変なのよ、とパルピに急かされて。イルは一時の幻想から現実へと立ち戻り、フェアリーが切り出したパーツを壁の綻びへ順番通りにはめ込んでいく。
「そうそう、いい感じに出来てるじゃない」
 ――本当は。パルピ自身で整えたパーツを穴へ運び、設置する手段はある。
 しかし一部を敢えてイルへ任せ、パルピは少年の仕事ぶりを認めて、褒める。
「いや、ここまでやって貰ったら。後は簡単だし。それに俺、力には自信があるからさ」
 屈託ないイルの笑顔は太陽のようだ。
(「いや、ころころの仔犬かな? こちらの英雄殿は元気そうで何より」)
 少し離れた場所からイルの様子を観察していたエンティは、狙いすましたタイミングで歩み寄る。
「やぁ、未来の英雄殿」
 セイアッドへ投げたものと同じセリフを、イルへとかけて。「え、何? それ俺のこと!?」と照れるイルへ微笑みかけながら、エンティはちらりとセイアッドを窺い見た。
(「……ふぅん?」)
 エンティがイルへ接触すること自体を気に掛ける素振りはなかったが。やはり『英雄』という単語には拒絶が滲む。
 セイアッドの視線がイルへと向かう瞬間を選び抜いた成果は、エンティへ幾つかの情報を齎した。
(「つまりは、英雄になんてなりたくない、か。英雄になんてなって欲しくない、ってとこかな?」)
 けれども導き出した解に、エンティは頓着するでなく。まぁ、なんでも構わないかな、と現状の主目的へ話を続ける。
「謙遜、謙遜。可能性が滲み出てる。でも、手は入り用だろう。ぬいぐるみのそれで良ければ貸そう」
 言ってエンティが取り出した茶猫、白兎、黒熊――三つのぬいぐるみにイルは、また声を出して笑う。
「凄い! 修練を積めば、ぬいぐるみも味方になるんだ」

 褒められて伸びるタイプなのか、それともおだてに弱いのか。
 実際、イルは怠けることなくよく働いた。少し落ち着きが足りないのは、玉に瑕だが。うっかり手から滑り落とした小さなパーツが、パルピを直撃しかけたのだって悪気はない。
「ごめん」
「まぁ、茶猫ちゃんがちゃんとキャッチしてくれたから良かったけど。あとね、さっきのあれ。正直、わたしも肝が冷えたわよ」
 あまり説教じみたことはいいたくないけどね、と前置いて。パルピが切り出した注意に、イルはしゅんと肩を落とす。
「……さっきの、あれ?」
「一番最初。飛び出していった時。あそこに落とし穴があったらどうするの?」
 ここは迷宮。不測の事態が起きる事もあるのだというパルピの指摘に、イルは神妙な面持ちで頷く。
「……そう、だね」
「本当、幼馴染くんにちゃんと感謝しなきゃ」
 『幼馴染』という単語に、イルの少年らしい細い肩が跳ねた。青い瞳が、不安定に揺れる。
 顕わになる、イルの惑い。だが、エンティは容赦しない。
「ところで、その幼馴染殿を手伝わなくて良いのかい?」
 抜かれた言葉の刃に、イルが子供の顔でエンティを仰いだ。
「ああ、それとも。さっき一人で大丈夫だとでも、言われたのかい? だとしたら、背伸びするのが上手だね、君の幼馴染は」
 聞き慣れない単語に、イルが瞬く。背伸び? 誰か? セイが? でも、セイは。二つ年上で、なんでも出来て、いつもいつもいつも――。
「君も苦労するだろう。何でも出来るような顔をされては、手を貸すこともし辛いものね」
「ちがう! セイは、セイは、そんなっ」
 エンティが言わんとすることを、イルが理解していたとは思えない。けれど、幼馴染を悪し様に言われた気配だけは察して。考えるより先に、言葉が口から転げ出た。
「……セイは、そんなんじゃ……」
 自身が何を言おうとしているのか、イルの思考は反射に追いついておらず。それでも必死に何かを『否定』しようとする少年の姿に、エンティは密かに口の端を吊り上げる。
 これ以上、イルに言うべきことはない。
 いや、最後に一言。
「少しは、向き合いたまえよ」
 責めるのではなく、おどけた響きで。しかし突かれた真芯に、イルはぐっと唇を噛み締めた。
 くるりと軽やかに踵を返すエンティの後姿を追わず、イルの視線は足元に落ちる。
 そんな少年の頭を、パルピは小さな手で撫でた。
「ねぇ、イル。何を焦っているかはわからないけど。英雄になりたいのなら、臆病でありなさい」
 ふわふわの金の髪の手触りは抜群だが、弱々しくもある。まるで、今のイルの寄る辺なさそのもののように。
「まずは自分が生き残るため。そして他の人を生き残らせるため。自分に何が出来るか、出来ないのか。よく考えて落ち着いて行動するといいと思うわ」
 ゆっくりと、理解しやすく。丁寧なパルピの語りに、イルは眉を下げて顔を上げる。
「……パルピって、大人なんだな」
 泣き出しそうなのを堪え、内側に刺さった棘と向かい合おうとイルはしていた。
 だから、パルピは笑う。
「あら、そうよ。こう見えてわたし、イルやセイよりずーっとお姉さんなんだから」

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

都槻・綾
【セイアッド】

紡ぎ掛けの言葉を飲み込むあなた
けれど
仕舞い込むには未だ、早い

――参りましょう

背を押すように手を添え
笑んで促す
セイさんを見つめるティエラさんとも目が合えば
更に笑みを咲かせて

振り払われたら痛い
拒否されたら悲しい
其れでも彼を放っておけないのでしょう?

為すべき時
見守るべき時
見極める眼差しを育んで居る最中なのだと思うから
多くは語らず

高所から落下しそうになったイルさんを
風魔法で衝撃から守るなど
援護の声掛け

素直になれない少年達の背は未だ稚く
其の青さが、愛おしい

傍から見れば
もどかしく微笑ましい遣り取りでも
当人達は困惑し、傷つく時がある

其れは
子供だから
大人だから――ではなく
『大切な相手』だからこそ



●セイアッド‐4
 取り残されて佇んだセイアッドの背に手を添えたのは、綾だった。
『――参りましょう』
 長じた男の、全てを察したかのような微笑みに、セイアッドは苦く笑って頷いた。
『すみません。見苦しいところを』
『いえいえ』
 全てを飲み込み、折り合いをつけてしまうにはセイアッドはまだ若い――いや、幼い。
 幼馴染三人の中に在っては一番の年長だろうと、彼もまだ『子供』の域を出ないのだ。
 故に綾は急かさず、煽らず、セイアッド自身の『言葉』を待つ。

 セイアッドと共に修復作業を行えば、必然的に気付くものがある。
 それはティエラの視線だ。
 赤髪の少女がセイアッドへ抱く好意を知らしめる視線。同時に、セイアッドの傍らにいると必然的に彼女とも目が合う。
 だから、一つ。綾は笑みの花を咲かせ、彼女へ贈った――の、だが。
(「……おや?」)
 他意のない、大人の微笑。しかし少女の反応は顕著。気取られたことを恥じ入り、俯いてしまった。
 思わぬ反応に、綾は内心で首を傾げ。しかし多方へ気持ちを割くことは出来ないと、視線をセイアッドへ戻す。
「振り払われたら痛い。拒否されたら悲しい――其れでも彼を放っておけないのでしょう?」
 黙々と風を編み、綻びを穿つ強固な杭を作っていたセイアッドは、綾の問い掛けにまた苦く笑う。
「正直、いつ切り出されるかと思っていました」
 綾が自分の気持ちを悟ったのだと気付いた瞬間から、こういう展開になることは覚悟していたのだろう。年の割に大人びた少年は、不完全に水を滴らせる天井をゆっくりと仰いだ。
「……分かってはいるんです。イルがもうか弱いだけの子供じゃないってのは」
 迷宮を先頭でゆくイルの周囲には今、多くの『先輩』がいる。
 セイアッドが手を貸さねばならないイルは、そこには居ない。
 自分でなくとも、彼を補える者はたくさんいる。
「いっそ村に帰ろうかなとも思います。でもそうしたら、イルはずっと気にする」
 耳に届いたイルの快活な笑い声に、雫で頬を濡らしたセイアッドは綾へと視線を戻した。
「子離れって、こんな気持ちなんでしょうか」
 自嘲の笑みに、綾はただ微笑む。
 為すべき時。見守るべき時。セイアッドは、見極める眼差しを学んでいる最中だから。無為に言葉を差し込んではならないと、綾は思ったのだ。
「ああ、でも。嫉妬も、あるのかな」
 ぐちゃぐちゃです、と尚もセイアッドは笑う。かそけき月のように。
 セイアッドの葛藤は、彼の若さ故だ。
 素直になれない少年たちの、人間らしい青さは。綾にとって、眩しくもあり、愛おしくもあるもの。
 大人の視線で傍から眺めれば、もどかしくも微笑ましいばかり。
 されどその中で、当人たちは困惑し、傷付き、足掻き苦しむ。おそらくこれも成長痛。幸か不幸か、綾が知ることはなかったものだけれど。
「ひとつだけ。ご助言申し上げましょう」
 休憩は終わり、と。話に区切りをつけて再び風を編み始めた少年の横顔へ、綾は小声で囁く。
「其れは、子供だから、とか大人だから――ではなく。『大切な相手』だからこそのものですよ」

大成功 🔵​🔵​🔵​

ジャック・スペード
【イル】

修繕作業は不慣れだが尽力しよう
ガジェット、氷のハンマーを召喚
流れ出る水を其れで叩き凍らせて
天井や高い場所中心に水漏れ止めて行く

さて、大きな水流への対処が問題だな
其処の元気の良い少年、良ければ手と知恵を貸してくれ
此の水流を凍らせるのは少し骨が折れる

……というのは建前で本当はな、俺は水が苦手なんだ
こう言う水流を見ると溺れそうで落ち着かない
だから勇ましいアンタの事を頼りたかった
災魔と戦う転校生なのに、格好悪いだろう?
皆には内緒にしておいてくれ

作業をしながら学園生活の話も聞けたら良い
先程入口で話していたのはアンタの友人か
俺の友人はこのマント、チェネル位なので
喧嘩が出来る友人がいるのは羨ましいな



●イル‐3
 鋼の身体の男が、氷のハンマーを振り上げる。
 幼子程もあろうかというサイズの得物だ。力の足らぬものでは、扱う事さえ困難だろう。
 しかし男――ジャック・スペード(f16475)はいとも簡単に抱え上げ、薙ぎ下ろす。
 打たれた衝撃に、回廊が戦慄くように震える。新たな破壊を招きかねない一撃だが、しかして結果は真逆に至る。
「はー……武器ってそういう使い方もあるんだぁ」
 ただのハンマーではなく、召喚したガジェットであり、かつ、氷のハンマーだ。放った冷気で漏れ溢れる水を瞬く間に凍て凍らせるジャックの仕事ぶりを、イルはぽかんと口を開けて眺めていた。
 例え魔法の才能が劣ったとしても、扱う武具によっては可能になる。
 示された可能性に、少年の瞳には無数の星が煌めくようだ。そして無邪気な尊敬を一身に浴びるジャックも、ほんの少しむず痒い。
 何せ本職はダークヒーロー。正義の使者として歓迎されることは多々あるが、ポジション的に子供からの羨望はそう多くはない。
 それに、だ。現在行っている作業そのものがジャックにとって慣れとは程遠いのだ。
 破壊者からの防衛、撃破ではなく、修繕作業。けれど男は黙々とハンマーを振るい、綻びを消していく。
 そうして一頻り、修復の目途がついたところで黒き鋼の男は、人間味の塊のような少年へ金の眼を向ける。
「すまない、其処の元気の良い少年。良ければ手と知恵を貸してくれ」
「え、俺?」
「そうだ。この既に貯まってしまった水はどう対処すればいいだろうか? 全て凍らせるのは少し骨が折れる」
 投げられた直球の救援要請に、イルは小鹿のようにジャックの元へ走り寄った。
 少し窪地になった一帯には、イルの膝丈程度の水が溜まってしまっている。小柄な学生だと、十分な行動の妨げになってしまうだろう。
 ――しかし。
 そんな理詰めの原理ではなく、次なるジャックの囁きがイルの心を擽った。
「……というのは、建前で。本当はな、俺は水が苦手なんだ」
「!?」
 イルにだけ聞こえるよう、極限まで落とされたボリュームだ。察した少年は、反射で顔を上げてしまった後、慌てて周囲の様子を窺い。今度こそは、と何気なくを装いジャックを仰ぐ。
「……本当?」
「ああ、本当だ。こういう水流を見ると溺れそうで落ち着かない。だから勇ましいアンタの事を頼りにしたかった」
 ――災魔と戦う転校生なのに、格好悪いだろう?
 内緒話だと語るジャックに、イルは勢いよく頷きかけ――また、周囲を窺い、「わかった」と小声で告げ返す。
 大人の男に見せてもらった『弱点』が、少年の心に勇気を灯した。何もかも、完璧である必要はない――まるで、そう教えて貰ったようで。
「あっちに俺の幼馴染のティが作った排水なんちゃらがあるから、そこまで水を運べばいいんだよな。ならさ、あなたの氷で傾きのある水路を作って流せばいいんじゃないかな。細かい調整が難しいなら、凄い術士の人とか、氷の魔法が得意な人もいるし!」
 与えられた問題に、イルは即座に答を導き。他者を頼りにすることも躊躇わない。
「ほう、アンタはそんなに友達が多いのか?」
「ううん。術士と魔法が得意な人はあなたと同じ先輩。友達は……」
「先程、入口で話してたのは友達ではないのか?」
「……あれは友達っていうか……その、うーん」
 この子供は、このまま育ては良き戦士となるだろう。確信を胸に、ジャックは躊躇うイルの背を押す。
「俺の友人はこのマント、チェネル位なので。喧嘩が出来る友人がいるのは羨ましいな」
「だから友人じゃ……んんん……友人、なのかな……。って、そのマントは友達なの?」
 ほんのり水や埃を浴びてなお、日頃の手入れが行き届いているのだろう灰色に、またイルは果てない空によく似た瞳を煌めかせる。

 一見、地味でしかない修復作業を経て。十四の少年に数値化できない変化が起きたことを、ジャックは接触センサーではなく、ジャックの『心』で感じ取っていた。

大成功 🔵​🔵​🔵​




第3章 集団戦 『精霊をアイした術士の亡霊』

POW   :    『鈴生る月光の姿』で踊れや踊れ
【精霊の光球 】を放ち、自身からレベルm半径内の全員を高威力で無差別攻撃する。
SPD   :    『躍るエンブ』を我の前に示せ
【吹き荒れる精霊の焔嵐 】を放ち、自身からレベルm半径内の指定した全ての対象を攻撃する。
WIZ   :    『アナタのシセン』は我と共にある
【『精霊』が視線を 】を向けた対象に、【風鼬乱舞の塊(ウィンド・エッジ)】でダメージを与える。命中率が高い。

イラスト:シキセヒロ

👑11
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種別『集団戦』のルール
 記載された敵が「沢山」出現します(厳密に何体いるかは、書く場合も書かない場合もあります)。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


●つづく、つづく
 回廊の修復を終えた一行は、この日の最終目的地へ至る。
 そこはただ広いばかりの洞に見えた。
 ただ『敵』が待ち受けていることだけは、確かだ。
 いよいよの戦闘を前に、『新入生』たちの心は自然と昂る。何せこれが、彼ら彼女らにとって『初陣』になるのだ。
 と、その時。
 用意していた弓矢へ風を纏わせていたセイアッドへ、イルが駆け寄った。
「セイ……!」
 ほんの数メートルの距離だ。駆けたといっても、息があがるはずもない。だのにイルは頬を紅潮させて、セイアッドと向かい合う。

 ――たくさんの先輩が教えてくれた。
 ――ほとんどが、セイと喋ってた人だったから。セイに頼まれたのかと思ったけど。
 ――きっと、そうじゃない。
「あのな、俺っ」
 ――まさか、イルから来るなんてね。
 ――君はもう……。
「……イル」

 青と銀の視線が、交錯する。
 互いに何かを言い出そうとして、けれど上手く言葉が引き出せずにいる。
 二人が新たな関係を構築するきっかけになると、互いに理解しているのだろう。だから、最後の一歩が踏み出せない。
 これまで当たり前に出来ていたことに、戸惑う。
 そして世は流転するもの。一時たりとて、人の都合など待ってくれない。
「セイ、イル!」
 遠巻きに幼馴染たちを眺めていたティエラが声を張る。その表情は、邪魔はしたくなかったとありありと告げている。だのに、割って入らなければならなかったのは――。

 一体、二体、三体、四体――計五体。
 かつて精霊を愛し哀した術士の亡霊が、猟兵と新入生へと襲い掛かる。
 傍らに、かつて添うた精霊を連れて。
エンティ・シェア
【ティエラ】

やぁ、未来の英雄殿。ちょっと匿っておくれ
あちらの少年達にはどうやら嫌われてしまったようでね、と
空室の住人を維持する為に少女の背に隠れる事も厭わないとも
―さて、嫌われついでだ。彼女も揺さぶっていこう
勿論仕事もするさ
ぬいぐるみ達は愛らしいが立派な戦力だ

ねぇ、しっかりものの英雄殿
ああやって死してなお寄り添い合うというのは美しいものだと思わないかい?
君は、あの精霊のように寄り添うならどちらがいい?

はは、冗談だよ
しかしどちらも大事で選べないのなら、見守るのはやめた方が良い
その距離は、いざという時どこにも手が届かない
踏み込んでおやりよ。色々と飲み込んできた君の内側にもね

上手に吐き出せるといいね


ジャック・スペード
【イル】

ヒトに愛された異形か――羨ましいことだ
いや、今はやるべき事をしよう

イルは行動力も有り機転も利くタイプのようだ
ならば俺はサポートにまわろうか
アンタのその強み、存分に発揮してくれ

召喚するのは銀製ナイフの束、光纏った其れを広範囲に投げたり
マヒの弾丸で援護射撃を行い術士達を牽制
但しセイアッドがイルのサポートに回る時は邪魔しない

焔の嵐は広範囲に及びそうで厄介だが
此の身を盾として必ずイルを庇ってみせよう
どんな損傷も火炎耐性と激痛耐性で凌ぐ

此の行為がアンタにとって負担なら済まない
然し、攻撃手は守られるのも仕事のうちだ
それに、幼馴染に話したい事が有るのだろう
――向き合う為にも、皆で無事に帰らないとな


アルバ・アルフライラ
『セイアッド』
さて、若者達の初陣に見事な花を添えてやろう

戦士を守る手立は熟知しておる
高速詠唱、召喚するは【女王の臣僕】
魔法には斯様な使い道もあるのですよ
精霊の向く先に常に気を配り
蝶の群れで視線が三人へ向く事を阻む

――セイアッド
魔術とは素晴らしい物です
敵を屠る一撃となれば
大切な者を護る一手にもなり得る
…では問いましょう
貴方は、貴方の力で何をしたい?

守るべき者が大人になる寂寥感
何れ我が元から離れるのではないかという恐れ
…私はそれを良く知っている
なれど己が想いを押し殺す理由にはならぬ
守りたいと願うならば我を押し通せ
若いお前達にはそれが許される

邪魔入ればこの身砕けても守護
黙れよ下郎
貴様の出る幕では無い


黒門・玄冬
イル君とセイアッド君はもう一押しのようだ
人生は長い
友情、愛情、憎悪
成長する過程で変化はあるだろう
それは恐らく
誰が欠けても永遠に失われる
ティエラさんをかばう為に走る

ガジェッティアの彼女の死角を潰す様に立ち
応戦中三人が亡霊に囲まれぬよう誘導
引き剥がせぬ時は灰燼拳で前へ出る
時に行動は言葉を凌駕する
窮地が力になる事もあるだろう

人生は長い
知っているだろう?
口に広がった苦味を亡霊に告げた

彼女に声をかける
報せたのはいい判断だったね
君は何をすべきか解っている
歯痒く感じる事もあるだろうが
自信を持つといい
そして人に優しくする様に
自分にも優しくなっていい

彼等も、もう解ったようだ
君達なら可能だ
君達は『幼馴染』だろう?


ヴァーリャ・スネシュコヴァ
【イル】

2人に向かう攻撃をスノードームで受け
イルをセイの方へ押しやり

言ったろう?
力を合わせろって
こういう時こそ、コンビネーションを見せる時だろう!

イルの武術とセイの魔法、きっと組み合わせれば最強だ!
イル、連携はさっきの迷宮でなんとなーくわかってきただろう?
大丈夫!後は野となれ山となれ!だ!

2人は多分、連携をすれば息ぴったりだと思うのだ

基本的にはフォローに徹し、【パフォーマンス】で敵の気を引き
主にイルたちや仲間の攻撃が通りやすいようにする

もし2人が敵に圧されてしまったとしても
『風神の溜息』で敵を凍結により食い止める
トドメは2人に任せるぞ!

流石、期待の新星だな!
最後は満面の笑みで勝利のハイタッチを


狭筵・桜人
【ティエラ】さんをサポートします。

まずは落ち着いて。目標を見失ってはいけません。
勝つことではなく全員で無事に帰ることです。

彼女に危険が及ばないように【呪詛】で敵の意識を捕らえ続けましょう。
陰湿な技能ばかり身に着けてると知られたら恥ずかしいのでこっそりと。

こういうガジェットはいかがです?と自動拳銃をガンスピン。
UDCの備品ですがアイデアの一助となれば。

武器が完成したらこう叫ぶんです。
ガジェット――(溜め)ショータイム!
ポーズを決めると尚良しです。ここテストに出ます。

危機回避とトドメのタイミングでUC発動。これもこっそり。
いざとなれば【かばう】ので
……ああ、この役は間に合うなら彼らに譲りますよ。


パルピ・ペルポル
【セイアッド】
思っていることをそのまま伝える、というのもなかなか難しいことよね。
とりあえずはこの戦いを終わらせてからかしら。

はさておいて。
敵が複数の場合は1体ずつ倒していって攻撃を受ける回数を減らすのが定石かしら。
皆で力を合わせて確実に倒していきましょうか。

というわけで。
イルとティエラにどう動くか指示を出してあげて。
2人が何が出来るかはわたしよりもセイのほうがよく知っているでしょうし。
セイならばきちんと2人を「生かす」ような指示が出せると思うわよ。

わたしも雨紡ぎの風糸で敵の行動を阻害したり咎力封じで相手の攻撃を封じたりするわ。

すべて終わらせるまで気は抜けないけど彼らならできると信じているわ。


都槻・綾
【セイアッド】

――大丈夫
道は拓けますよ

骸へ視線を向けたまま指で空に描く五芒星
穏やか乍らも澱みない響きで加護を贈る

第六感による見切りと
全体をよく観察した声掛けで援護
戦況を見極める眼差しもきっと
少年達は直ぐに学び取ってくれる

いってらっしゃい、とセイさんの背を押そう
守るべき幼子達ではなく
共に並び立つ友として
皆を
何よりあなた自身を、信じて欲しい

セイさんの風矢の軌跡は月影の清冽さ
真っ直ぐ、眩く、鮮やかで
どんな困難も切り拓く力を持っているという手応えと
自信に繋がると良い

全てが終わったら
皆へ労いの言葉をかけ
少年達の「今」と「未来」を微笑んで見守りたい

――あぁ
青い春とは、此れ、まさに
何と初々しく、眩いひととき



●猟兵(イェーガー)
 ゆらりと揺らめく不穏な影に、エンティは悪戯な風の足取りでティエラの背中へ駆け込んだ。
「やぁ、未来の英雄殿。ちょっと匿っておくれ」
「え?」
 よく似た髪色の男の唐突な申し出に、ティエラは緑の眼を白黒させる。が、是をもぎ取るのを待つつもりもないエンティは、そのままティエラの背後に陣取ると悪びれもせずに笑う。
「いやあ、あちらの少年達にはどうやら嫌われてしまったようでね」
「え、え、え? イルとセイに?? え、なんで?」
 打ち明けられた内緒話は、少女のよく知る幼馴染たちの印象とは異なるものだったのだろう。『敵』を視認した直後で、まだ心も凪には遠い最中。ティエラは困惑を極める。
「ほら、ティエラさん。ちゃんと前を見ないと」
「あ、はい!」
 けれど桜人の一言に、少女は意識を現実へと引き戻す。
 いよいよの開戦だ。けれど戦いに不慣れなだけが理由ではない緊張感を肌に、パルピは薄い翅で高く舞い上がる。
(「思っていることをそのまま伝える、というのもなかなか難しいことよね」)
 イルもセイアッドも、ティエラも。きっとたくさんの話しをしたいだろう。
 その為には、この亡霊たちとの戦いを終わらせなくては――。
 覚悟を胸にパルピは目を走らせ、気付いた脅威に声を上げる。
「そこよ!」
「っ、させない!」
 薄絹のような白を閃かせ、五体の精霊が一気に光球へと変わる。いち早く反応し、飛び出したのはヴァーリャだった。最初の一蹴りで、履いたレガリアスシューズに氷のブレードが生まれ、ただの地面を氷上であるかの如く滑り走ったヴァーリャは、“I“のルーンが刻まれた青い剣を体の前へ押し出した。
 放たれた光球が襲い来る。それらをヴァーリャは一手に受け止める。ぶつかりあう力の衝撃に、剣の中で吹雪が巻き起こった。手もびりりと痺れている。
「言ったろう?」
 だがヴァーリャは怯まず更に踏み込み、イルを振り返った。
「力を合わせろって。こういう時こそ、コンビネーションを見せる時だろう!」
 ヴァーリャの叱咤に、セイアッドと向い合ったままだったイルの瞳に、光が兆す。
 ――大丈夫。
(「道は、拓けますよ」)
 子らを見渡し、綾は微笑んだ。
 絡まった絆の糸は、もう解けかけている。そして、新たに縒り紡がれるのを待っている。
 その瞬間を、後押しする為にも。
 ――不粋な真似など、私達が赦すはずなかろう?
 現れたオブリビオンたちを見据え、アルバは瞳の星を煌々と燃やす。
「さて、若者達の初陣に見事な花を添えてやろう」

●イル‐4
「イルの武術とセイの魔法、きっと組み合わせれば最強だ!」
 軌道を定まらせず、ふらふらと中空を彷徨う精霊たちの意識を引き付けるよう、ヴァーリャは戦場を縦横無尽に滑る。
「連携はさっきの迷宮でなんとなーくわかってきただろう?」
 時に直前まで迫り、そのまま体ごと宙を翻り。冷気を宿した剣を一閃。咲かせた六花で、己が脅威になりうることを敵に知らしめ、ヴァーリャは間合いを取り直す。
「大丈夫! 後は野となれ山となれ! だ!!」
 ――行け!!
 込められた想いに、イルの魂が震える。
「先に行く!」
 ヴァーリャが作った氷の足場、求められた知恵。迷宮の修復を経て、誰かと共に成すことの意義を学んだイルは、佇む亡霊たちの方へ飛び込む。
 身体の裡に戦意を漲らせたイルの気迫に、精霊たちが自らを愛してくれた術士の元へ戻ろうとする。
(「ヒトに愛された異形か――羨ましいことだ」)
 骸の海へ渡って尚、さらには蘇ってまで。『愛』を貫こうとする敵の姿に、ジャックの心がざわつく。
 しかし。
(「いや――今はやるべき事を」)
 凝る我が澱よりも、若人たちの未来を。優先すべきものをヒーローとして選んだ鋼の男は、掲げた手の先に無数の銀刃を虚空より喚びよせた。
「アンタの強み、存分に発揮してくれ」
 一時を共にして、ジャックが理解したイルという少年は。行動力もあり、機転も利くということ。自由に走らせたなら、きっとどこまでも征けるだろう。
 秘めた可能性を現実へ引き出すべく、ジャックは邪を断つ銀製のナイフを、精霊たちを操る術士へ羽搏かせた。
 風を切った刃が、現実から目を背けるように視界を閉ざした亡霊の足元を襲い、彼らの足を止める。
「――」
 ――控えよ、女王の御前であるぞ。
 アルバが唱えた筈の調べは、耳に残らぬ速さで。青き蝶の群れの顕現で以て、彼が何を成したのかを周囲に示し。アルバは美しく煌めく蝶の群舞で、術士たちの五感を狂わす。
「魔法には斯様な使い道もあるのですよ」
 守る対象が『戦士』であるならば。あらゆる手立てを熟知したアルバは、敵陣中にある戦士たちを敵の眼から隠しながら、未だ立ち尽くすセイアッドの傍らに立った。

●セイアッド‐5
「――セイアッド」
 アルバに呼ばれ、自失していたセイアッドの瞳が焦点を結ぶ。
「魔術とは素晴らしい物です。時に敵を屠る一撃となり、時に大切な者を守る一手ともなり得る」
 銀の視線が、青い光を追う。
 美しさに見入ったのは刹那。今は攪乱に使っているそれを、刃として敵へと向けたらどうなるだろう――そう思案するようセイアッドの瞳が眇められたのに、アルバは彼の根本へ覚醒を促す杭を穿つ。
「問いましょう――貴方は、貴方の力で何をしたい?」
「――!」
 ただ一つの真理を訊ねられ、セイアッドは短く息を飲み。弾かれたようにアルバを見る。
「僕が?」
「そうです」
「したいこと?」
「今、この場で。お考えなさい。気付きなさい」
 諭し導きながら、アルバはセイアッドの中にはもう答えがある事をしっていた。いや、アルバだけではない。
(「えぇ、彼らならば。必ず」)
 感覚を研ぎ澄まし、敵が動くよりも早くその動向の先を読み。渦中に在る者らへ的確なアドバイスを齎す綾もまた、セイアッドの――セイアッドとイルの成長を信じている。
 僅かの間にも、目を瞠る変化を遂げられる年代だ。
 未熟な彼らは青さ故の強さで、『先輩』たちの声に、動きに、多くを学び取ってくれるに違いない。そして、自身の『為すべき事』も悟るのだ。
「まずは定石通り、敵を一体ずつ倒していきましょ。そうすれば、イル達が攻撃を受ける回数も減るもの」
「――理解った」
 飛べる利を活かし、高い位置から戦況を見渡すパルピの提案に、セイアッドはすぐさま頷き、中途だった矢の強化に意識を注ぐ。
 涼やかな風が、セイアッドの全身を包む。やがて指先により集まったそれは、彼が握った矢に幾つもの影を宿す。
「皆で力を合わせて、確実にいきましょう」
「そのつもりです」
 ぎりりと弦を引き絞り、セイアッドは矢を放つ。狙いはオブリビオンではなく、五体の術士を結ぶ線が交わる一点。そこへ至った矢は、荒ぶる風を戦場に解き。弱った『個』をあぶり出す。
 イルに後れを取ったのは、数分にも満たぬ前。驚きの速さで戦場に馴染んだ傍らの少年の姿に、アルバはふと瞼を落とした。
 ――守るべき者が大人になる寂寥感。
 ――何れ我が元から離れていくのではないかという恐れ。
(「……私は、それをよく知っている」)
 アルバの瞼の裏で、虹色の星が一粒、流れた。
 その行方を心の目で追い、アルバは再び世界を視界に捉える。
 ――なれどそれは、己が想いを押し殺す理由にはならぬ。

 守りたいと願うなら、我を押し通せ。
 若いお前達にはそれが許される。

 言葉には、しない。
 されど発せられた覇気に何をか感じたのか。セイアッドは一度、アルバへ瞳を戻し。何かを心得たように、力強く頷く。

●ティエラ‐3
(「イル君とセイアッド君はもう一押しのようだ」)
 其々の役目を戦場に見出し、自分の判断で動き始めた少年達を安堵の心地で見つめ、玄冬は激戦に背を向けた。
 ――人生は、長い。
 友情、愛情、憎悪。成長する過程で、彼らの間にはこれからも様々な変化があるだろう。
 だがそれらは全て、幼馴染達が揃っていればこそ。つまり、誰か一人でも欠けてしまえば、永遠に失われてしまう儚いもの。
「ティエラさん!」
 包囲網を抜けた精霊が、未だ何も成せぬティエラを目指していた。
 だから玄冬は迷わず我が身を盾に差し出す。とは言え、地を走る生き者と空を翔ける者。障害物が少ないだけ、後者が早さには分がある。
「、っ」
 ほんの半歩、及ばない――かと思いかけた時。不意に、精霊の動きが鈍った。何が起きたのか? イレギュラーを探る玄冬の視線に、桜人の意味深な笑顔が映る。
 目を細めた桜人の貌は、きっと直前の何かを隠す為でもあるのだろう。ともあれ事態を解した玄冬は、固めた拳を精霊の白い頬へ叩き込む。
 強大な破壊力を秘めた一撃に、精霊の半身が醜くへしゃげ、輪郭もぼやける。おそらく消失する間際なのだろう。とどめを呉れるのは難しくない。だが彼女を愛する男が、怒りを陽炎のように立ち昇らせて肉薄する。
 愛を貫こうとする様に、玄冬の中に何かが蟠った。
 やがて胃から喉へとせり上がったそれは、苦い呟きとなって玄冬の口から零れ落ちる。
「人生は長い……知っているだろう?」
『それが、どうしたああ!!!』
 びりびりと肌を刺す殺気に、ティエラの身体が竦む。肩に乗せた可愛らしいガジェットに何をか命じようとする指先も震えている。
「ねぇ、しっかりものの英雄殿」
 初めて経験する『窮地』にティエラの魂は剥き出しにされていた。そこへエンティが背後から、囁く。
「ああやって死してなお、寄り添い合うというのは美しいものだと思わないかい?」
 空室の住人を維持する為ならば、年下の少女の背に隠れることも厭わぬのがエンティという男だ。
 故にエンティは、愛らしい三体のぬいぐるみでそれとはなしにティエラを庇いつつ、彼女の内側を混沌へと突き落とす。
「君は、あの精霊のように寄り添うならどっちがいい?」
「っ!!」
 精霊が換わった炎の嵐を、茶猫と白兎と黒熊が受け止める。されど轟々と逆巻く音だけは、ティエラの耳にも届く。
 ティエラ自身でも自覚しきっていなかった恋心は、綾によって暴かれた。
 『見ていた』ことに気付かされたのだ。途端、少女は。少年達との距離の取り方が分からなくなり、彼らを遠巻きに眺めていた。
 いや。己に疎い――或いは天然――ティエラも、流石に恋心の在処は悟っていたかもしれない。しかし無意識に、それが三人のバランスを崩すものだと分かっていたのかもしれない。
 少年たちのなかにあって、唯一の『少女』であったが為に。
「わた、し。は」
 顔を青褪めさせ、唇をわななかせ。ティエラは恐ろしいものを見るように、エンティを振り返る。
「はは、冗談だよ」
 白兎だけ手元に引き戻し、エンティは腹話術を模して微笑み。
「しかしどちらも大事で選べないのなら、見守るのはやめた方が良い」
 からっぽな残酷さと真摯さで、ティエラを打つ。
「その距離は、いざという時どこにも手が届かない。踏み込んでおやりよ。色々と飲み込んできた君の内側にもね?」
「……ぁ」
「ティエラさん!」
 顔を両手で覆ってしまった少女へ、桜人が走り寄る。
 酸いも甘いも、美も醜も。身に着けた陰湿な技能を敵に対して振るうことに躊躇いを覚えぬ桜人には、エンティの目論見が理解は出来た。
 極限状態だからこそ、向き合える己というものはある。
 自分でも捉えられない『己』を掴むには、良い機会だ――けれど。
「まずは落ち着いて」
「オ、トさん」
「目標を見失ってはいけません。勝つことではなく、全員で無事に帰ることを考えましょう」
 今のティエラにそれだけの余裕はないと判じて、桜人は少女の心を『戦場』に定め置く。
「そうだよ。君はもっと自分に自信を持っていい」
 術を忘れ、牙を剥かんとする術士を羽交い絞めにし、玄冬も声だけ和らげる。
「最初に報せたのはいい判断だったね。大丈夫、君はちゃんと自分が何をするべきか解っている。今はまだ、歯痒く感じる事もあるだろうけれど」
 僅かな力加減で亡霊の首をへし折りそうになるのを、寸でで堪え――惨い殺り様は、少女にはまだ早いだろうから――玄冬は、目を細めた。
「そして人に優しくする様に、自分にも優しくなっていい」
 それは、誰より自分に優しくなれない男の教え。されど矛盾はない。なぜならティエラは、玄冬が持てなかったものを持っている。玄冬が負ったものを、負わずに済んでいるのだから。
「……」
「一先ず、ちゃちゃっとガジェットを召喚してしまいましょう。こういうのは如何です?」
 ティエラが自分を落ち着かせようと深呼吸したのを見止め、桜人は自動拳銃を指先でくるりと回してみせる。
「とっておきですよ……嘘です、ただのUDCの備品です」
「ゆーでぃーしーって、凄いんですね」
 アイディアの一助になればと披露された異世界の産物に、ティエラはぎこちなく――けれど瞳では捉えて、頷き笑った。

●幼馴染
 哀し気に哭いた精霊が、燃え上がる。
 指向性を得た炎は、狙った獲物を焼き尽くさんと紅蓮の腕を大きく広げた。
(「この程度」)
 苛烈な戦場を越えて来たジャックにとって、その焔が持つ熱は決して耐え難いものではない。
 されど少しでも後方へ逸らしてしまえば、イルは小さくないダメージを負うことになるだろう。
「ちょっ!」
「此の行為がアンタにとって負担なら済まない」
 後ろに聞こえた少年の声に、不安と懸念を拾い、それでもジャックは振り返らずに言い放つ。
「然し、攻撃手とは守られるのも仕事のうち」
「――!!」
 アタッカーが居なくては、敵を屠れなくなる。だからこそ、そこを目指すならば。ディフェンダーの背に守られる事を否定してはいけない。
 体現された戦いの理に、イルはぐっと息を飲んだ。
「それに、幼馴染に話したい事があるのだろう。ならば――向き合う為にも、皆で無事に帰らないとな」
「っ、その時は! あんたも一緒だし!!」
 高らかに吼え、イルは丹田に意識を集中し、気を練り始める。
 オブリビオンの数は、最後の一になっていた。おそらく猟兵たちが全力でことに当たっていたら、既に全滅させていただろう。そうなっていないのは、初陣の子らに明日へと踏み出す勇気を与える為。
「セイ! イルとティエラにどう動くか指示を出してあげて!」
 小さな手枷を終いの精霊へ投じつつ、パルピがセイアッドに求める。
「二人が何が出来るか、わたしよりもセイの方がよくしってるでしょう! 大丈夫、セイならきちんと二人を『生』かせると思うわ」
 セイアッドを焚き付けて、パルピは結果を信じた。
 全てを終わらせるまでは気を抜けないけれど。セイアッドなら、イルなら――三人なら、『出来る』とパルピはどうしてか思えてしまったのだ。
 幼い頃から育まれた絆に嘘はない。
 そして絆は力になる。
「……アルバさん。ティエラを礎に、イルに力を集約したい。策は、ありますか?」
 お転婆で、好奇心旺盛で、けれど配慮も出来るティエラ。
 すっかり鉄砲玉になってしまったけれど、機微を読むことが出来るイル。
 二人の特性は理解していても、まだ生かし活かす術は会得していないセイアッドは、アルバに助言を求めた。無論、それに否やを唱えるアルバではない。
「彼女を壁に、貴方が風を集め。イルに託すというのは如何でしょう?」
「ありがとうございます! ティ、弾丸で空気の籠を作って! イルはそのまま力をためてて」
「言われなくても! っつーか、今はまだ動けない!!」
「イルの安全は俺達に任せておけ!」
 空を游ぐ精霊をイルから遠ざけようと、ヴァーリャが走る。ブレードが描いた軌跡に立ち昇った霜柱が、術士の視界を阻害して。移動で難を逃れようとする術士をジャックが力で抑え込む。
「ええええ、オトさん。どうしよう、どうしよう」
「慌てる必要はありません。もうティエラさんにも視得ているでしょう? だから、最後に。こう叫ぶんです――ガジェットーーーショータイム!! って」
「そこの溜めは要るの!?」
「そこがポイントです。あとポーズを決めると尚良しです。ここテストに出ますからね」
「絶対に嘘だーー!」
 桜人の賑やかしに溌剌さを取り戻したティエラに、玄冬も幼馴染たちの勝利をした。
「彼等も、もう解ったようだ」
 イルにも、セイアッドにも。余計な蟠りは、感じられない。
「君達なら可能だ」
 ティエラが不安要素を抱えている事は、否めないけれど。それで途絶える三人ではあるまい。
「君達は『幼馴染』だろう?」
「――はい!」
 胸を張り頷いたティエラの背を、桜人が軽く叩く。
「さぁ、今です。唱えましょう!」
「ええええ、本当にー!?」
 笑った顔は年相応に幼くもあり。彼女に気取られぬよう、呪いの力で度々オブリビオンの動きを戒めていた桜人は、やはり見せなくて良かったですね――と、独り言ちながら「せぇの!」と最後の合図を送る。
「ん、もう! ガジェットショーーーーータイム!!!!」

 大振りな積み木にも見える銃の形をしたガジェットが、半径3メートルほどの堤となって術士を取り囲む。
「今よ!」
 絶好の合図は、パルピから。
「お待ちですよ?」
 受けた綾は、いってらっしゃいと送り出す代わりに、矢を番えるセイアッドの深呼吸に合わせ、刻を告げた。
「――はい」
 セイアッドの応えには、多くの『是』が含まれていただろう。
 ――もう、守るべき幼子としてイルを見ない。
 ――並び立つ友として。
 ――イルを、ティエラを。そして自分自身を信じる。
「イル!」
 幼馴染から、親友へと変わった少年の名を呼び、セイアッドは風の矢を放つ。
 尾を引く月影の清冽さを、綾は口元に月弧を描いて見守った。
(「嗚呼、美しい」)
 真っ直ぐで、眩く、鮮やかで。どんな困難も切り拓くという意思が、そこには溢れていた。この矢は未来永劫、セイアッドの自信に繋がるだろう。
 而してその一矢が堤の内へ至った直後、ガジェットが一斉に火を噴く。
 昇る熱と風が、術士の周囲を一帯から遮断する。そこで破裂した風の矢が嵐を起こし、仮初めの壁で跳ねて、イルという一点に集約する。
「イル、征くのだ!」
 風を避け、ヴァーリャが最後の道を作った。そこへ吸い込まれるよう、ジャックも身を退く。上空では手を握り締め、パルピが祈っていた
「みんな、ありがとう」
 燃え上がらせたオーラで風を受け、純然たる力の塊となったイルがオブリビオン目掛けて疾駆する。
「黙れよ下郎、貴様の出る幕では無い」
 足掻き、術士の元へ戻ろうとする精霊は。アルバが一括で塵へと還した。

 ――そして迷宮に、竜の咆哮と共に破邪の風が吹いた。


●イグナイト・トライアングル
 全てが終わった静寂が、長く続くことはない。
「凄いぞ!」
 まずは、イルと。
「流石、期待の新星だな!」
 次はセイアッドと。
「お疲れさまだ」
 最後にティエラと、ヴァーリャは満面笑顔のハイタッチで勝利の歓喜を分かち合う。
 初めはぼんやりしていた三人も、そんなヴァーリャに緊張が緩んだのだろう。鋭かった面差しが、徐々にいつもの顔に戻り、自然と笑顔になる。
「初陣、無事に終わって何よりです。見事な活躍でした」
 綾の労いに、三人は揃って首を振る。イルもセイアッドもティエラも。これが自分たちの手柄だとは思っていないのだ。此処にいる――いてくれた、全ての『先輩』の導きのお陰であることを、理解している。
 ――そして。
「……あの、さ」
 イルがセイアッドへ歩み寄る。まるで記録映像のような光景だ。だが、結末が違うことを猟兵たちは知っていた。
「イル」
 近付いて来る、ほぼ同じ高さの目線に。セイアッドは名を呼び応える。
「……ん」
 呼ばれたイルは小さく頷き――また言葉を探す。
 沈黙が、二人の間に落ちる。だが、視線は逸らさず。今の互いを青と銀の双眸に正しく映した二人は、同じタイミングで笑い出す。
「なんだよ、その顔。らしくない」
「いや、セイこそ」
(「――あぁ」)
 言葉を交わさずとも、通じ合った二人を綾は微笑ましく眺める。
 青い春とは、此れ、まさに。
 何と初々しく、眩いひとときであろうか!

「あのっ!」
 少年たちが遂に腹を抱え始めた頃、ティエラは安寧の輪から一人外れたエンティの元へ駆けていた。
「さっきは、言いにくいことを。ありがとうございました」
「何のこと?」
 空とぼけてみせるエンティへ、ティエラはほんのり眉を下げ、意を決したように緑の瞳を緑の瞳でまっすぐに視る。
「少し、考えました。でも、まだ。きっと壊しちゃいけないんだと思ったんです。だから、もし。二人のどちらかを択ばなきゃいけない時が来たら。その時は、わたしが壊れます」
 それは、必ず二人ともを守るという宣誓。
 いずれ母と成りえる少女の、強欲な献身。
「それでいいんだ?」
「今は、です」
 私と、俺と、僕。茶猫に白兎、黒熊を抱え直すエンティの、ほのかに興味を引かれたような目線に、ティエラは躊躇わず笑顔の花を咲かす。
 そのいつかの大輪を予感させる表情にエンティは最後の一言を贈る。
「そう? なら。いつか。上手に吐き出せるといいね」

 幼馴染たちの物語は、続いていく。
 三人のうちの誰かが欠ける日まで。ずっと、ずっと――。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​



最終結果:成功

完成日:2019年06月20日


挿絵イラスト