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一筆啓上地獄が視えた

#サムライエンパイア

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#サムライエンパイア


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●地獄の幕開け
 サムライエンパイアにある港町、どこにでもある町のひとつ。
 船乗りたちは荷の積み下ろしにあくせくと働き、次の出航まで手持無沙汰な者達は、酒場で暇をつぶしている。
 商人たちは荷揚げについて、雑談を交えながら交渉していた。
 そんな男達から気を惹こうと、辻角に商売女が色目を使っている。
 洗練はされてはいないが、活気にあふれている。
 その活気を打ち消さんばかりに、町の半鐘が鳴り響いたのだった。

 カン! カン! カンカンカン!
「海賊だ! 海賊の襲撃だーーーーーっ!」

 その声にとまどい驚きながら沖の方をみる人々。
 そこには商戦とは明らかに違う武装船。
 そしてそこから小舟に乗った男達が港へとやってくるのが見えた。
 男たちはそれぞれ武装しており、警告の叫びとは違う野卑な叫びを上げてむかってくるのだった。
「ひゃっはーーーーっ! いくぜ野郎どもーーーっ!」
「男は殺せーーー! 女と物は奪えーーーーっ!」
 げはははははは!
 げはははははは!
 荒れ狂う波が押し寄せるかのように港へと上陸を開始する海賊たち。
 商戦の護衛達も応戦するが、海賊たちのほうが腕は上だ。
 一人、また一人と斬られ、その刃は無抵抗の者たちにも標的をむけていく。
「た、たすけ……」
「うるせえ! 死ね!」
 逃げる商人にむかって背中から斬りつける海賊。
 別の海賊は、焼ける家屋にむかって銃の照準を合わせていた。
 火にまかれ、焼け出される人たち。
 銃から火花が散ると、それは地に倒れ落ちた。
「ひゅう♪ やるじゃねえか兄弟!」
「ああ、これで俺が二匹多いぜ、賭け忘れんなよ!」
「おいおい、まだこれからだぜ!」
 げはははははは!
 げはははははは!
 阿鼻叫喚の港町に海賊共の哄笑が響く。
 男達の略奪は、自分たち以外に動く者が無くなるまで行われた。
 積荷は奪われ、娘達は囚われの身となり、町は焼かれた。
 惨状をあとして海賊たちは武装船へと引き返していく。
 残ったのは先ほどまで人々が暮らしていたとは思えぬ、灰と死体にまみれた地であったのだった。

●地獄に猟兵
「これが、私の見た予知でございます」
 ここはグリモアベース。
 ライラ・カフラマーンは居並ぶ猟兵たちに深々と頭を下げていた。
 その背後に生じている霧には、さきほどの光景が幻となって現れている。
 頭を上げると幻は雲散霧消していき、周りの霧と溶け込んでいった。
「今回、皆さまにお願いするのはヴィジョンに現れていた港町の防衛、および海賊の首領の討伐です」
 ライラの説明によれば、サムライエンパイアの地で略奪行為を働く一団がいるのだという。
 奪った物を糧とし、武装と規模を拡大している。
 そしてその規模を維持するために更なる略奪を働くというわけだ。
 物品を奪うだけでは飽き足らず、娘達をさらっては娼館や人売りの真似事までおこない銭を稼ごうとしているらしい。
 当然、見過ごしてはおけない輩だ。
「幸い、予知にて敵の本拠地がつかめました」
 ですが、とライラは続ける。
「それと同時に港町が襲われる予知も視えました。そのまま敵の本拠を叩こうとすれば、今見た光景が発生する事を防ぐことができなくなります。そこで皆さんには、まず港町の海賊の襲撃を防ぐことをお願いし、それから敵の本拠地へとむかって欲しいのです」
 ライラが杖の先で地面を軽く叩くと、霧が変化し姿を形どる。
 それは入り江の洞窟に巧妙に隠された敵のアジトであった。
 武装船、小舟、そして洞窟の地形を利用した敵の砦が見える。
 竪穴に格子を嵌めた牢屋の中には、うつむき沈んだ娘達の姿も見えた。
 そして奪った品を肴に酒盛りを始めている海賊たち。
 奴らを叩かねば、また別の場所で略奪を繰り返すのだろう。
「敵にオブリビオンの影が見えます、おそらく敵首魁がそうなのでしょう。その邪気にあてられてか本性なのか、海賊たちは奪う事を止めようとしていません。どうか皆さまには海賊たちを殲滅し、惨劇を防ぐことに協力してくださるようお願いします」
 そう言ってライラは、深々とまた頭を下げたのだった。


妄想筆
 こんにちは、妄想筆です。
 今回は海賊たちの襲撃を防ぐことと、敵のアジトにむかい首領を倒すことになります。
 一章は港町へ来る海賊たちを倒す事です。予知の光景が起こるまでには時間があります。
 猟兵たちが迎え撃つ準備をするには充分な時間です。
 予知にもありますが、敵は近距離遠距離に対応できる武装をしています。
 武装船は接近してくる味方ではない船には砲撃してきます。
 敵を蹴散らすと二章へと進みます。
 二章は敵のアジトへの潜入となります。海沿いの洞窟を利用した、隠れ拠点です。
 所々に見張りや酒盛りをしている海賊がいますが、やり過ごすか倒すかして先へ進んでください。
 娘さんたちが囚われとなっていますが、助け出すのは自由です。
 娘さんたちに狼藉を働いている海賊の隙をついて、先に行けるかもしれません。
 三章はオブリビオンの戦闘です。敵は人質を盾にしてくるなど、外道な手段を使ってきます。
 そういうクズを遠慮なく叩きのめしてサムライエンパイアの世に平和を取り戻してください。
 二章・三章では娘さん達に暴行を加える表現があります。
 そういうのが苦手な方はご注意ください。
 参加お待ちしております。
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第1章 冒険 『海賊討伐』

POW   :    肉弾戦で暴れまくって海賊をやっつける!

SPD   :    狙撃で海賊を撃ち抜き、素早く殲滅する!

WIZ   :    魔法や作戦を駆使して、海賊を一網打尽にする!

👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

種別『冒険』のルール
「POW・SPD・WIZ」の能力値別に書かれた「この章でできる行動の例」を参考にしつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


 猟兵たちは港町へと転送された。
 予知の通りであれば、これからここに海賊たちが襲撃してくるはずだ。
 奇襲のために布陣するも良し。こちらから武装船に仕掛けるも良し。
 まだ海に敵影は見えない。
 街並みには笑顔で行きかう人々の姿が見える。
 我々が守らねば、猟兵たちはそう感じた。
 独り言を誰かが口にした。

 のさばる悪を何とする、天の裁きは待ってはおれぬ。
 この世の正義もあてにはならぬ 猟兵の名において仕置する。
 南無阿弥陀仏。
神羅・アマミ
咎無き人々のため防衛戦に打って出る…まさに盾キャラたる妾に相応しい晴れ舞台!
一番槍つかまつる!

まずは武装船に近づく必要があるのー。
適当な小舟を拝借して接近しよう。
白旗もついでに立てるか。
たかが小舟一艘、たかが小娘一匹と彼奴らは侮るじゃろうし、そこにつけ入る隙が出る!

砲撃の有効射程はせいぜい100~200m程度と見て、なればそこへ足を踏み入れた時は既に妾も敵を捉えておる。
コード『箱馬』による連続跳躍が強襲を可能としてくれるじゃろうからな!

チンケな海賊どもに突然の闖入者を歓迎する用意と覚悟ができているかどうか…そいつを一丁試してみようじゃねーか!
最前線に混乱を齎せば、後のコトも運びやすかろうて。


ルパート・ブラックスミス
ブレイズキャリバーの炎は地獄の炎。貴様らには似合いだろう。
甚振る趣味はない、すぐに終わらせよう。ああ、すぐにだ。

UC【炎抱きて白熱せし鋼肢】及び青く燃える鉛の翼を展開し飛翔。(【空中戦】)
上空より敵の船を捕捉次第急降下、【先制攻撃】し爆砕する。人間砲弾というやつだ。

一つ潰したらまた次を狙い上昇、捕捉、降下、爆砕。これを繰り返す。
サムライエンパイアの武装船では対空装備は充実してはいまい。
港町から近い順から潰していこう。

敵の攻撃は大剣と翼で【武器受け】し【カウンター】【なぎ払い】。
迂闊に接近したのがいるなら【グラップル】し、そのまま船への攻撃再開。
ついでだ、貴様も付き合え。

【共闘・アドリブ歓迎】



 港町から海を眺める二人がいた。
 神羅・アマミとルパート・ブラックスミスである。
 眺める先、はるか遠くに船影が数隻確認できる。
 武装船、海賊たちの襲撃だ。
「咎無き人々のため防衛戦に打って出る……晴れ舞台じゃのう」
 戦乱の兆しに神羅は臆することもなく、不敵な笑みを浮かべた。
 ルパートはそれに答えることなく、大剣を握りしめていた。
 神羅が橋桁に停めてある小舟へと歩き出す。
 後ろ姿をルパートは見つめていたが、やがて意を決し口を割った。
「貴殿、大丈夫か」
 本来なら女子ではなく、自分が先駆けるべきと思っていた。
 だが神羅の希望により、ルパートはその後備えを務めることになる。
 振り返り、屈託なく笑う神羅。
 案ずるなとでも言うのだろうか、手をひらひらさせながら横目で沖を見る。
「お主には悪いが、一番槍の誉れは譲れぬな。それにそちらではこういうと聞いたぞ? 『れでぃふあすと』じゃ」
 からからと笑いながら舟に乗りこむ神羅。
 こぎ出した姿を見ていたルパートの身体から噴き出る焔は、勢いを増し燃えさかろうとしていたのだった。

 襲撃を開始しようと準備する海賊たち。
 その武装船のひとつ。甲板で動く海賊の一人が、波間に漂う何かを発見した。
「なんだぁ?」
 遠く波に揺れ、それが何かはわからない。
 確認できるまで近づいた時、それが白旗を掲げた小舟ということを甲板にいた海賊たちは理解した。
 それは櫓を漕いで船へと近づく和装の少女。
 神羅・アマミの姿であった。
 さては降伏の使者であろうか。
 だが自分たちが何者かであるかは知られていないはず。
 一同は訝しがったが、一人の粗野な声に疑問はかき消された。
「なあに、娘さんがこちらにおいでなさるんだ。丁重に歓迎しようぜ! 色々とな!」
「ちげえねえ!」
 げはははははは!
 げはははははは!
 早くも男達の脳内では、月のものがきているかもわからぬ少女を凌辱する図面が出来上がっていた。
 その野卑な囃しはおおきく、神羅の耳までとどいていた。
 そろそろ頃合いか。
 舟と船との距離を測り、神羅は大きく身をかがめた。
 そして、海の方へと跳んだのだ。
 海の上、いやそれからわずかに浮かぶ虚空を、まるで地に足がつくかのように、神羅は武装船へと駆けていく。
 海賊たちは恐れた。あれは生娘なのではない。
 海の、あやかしか何かなのだと。
「てーーーーーーっ!」
 反応が早かった海賊の一人が、急いで大筒を放つ。
 しかしその軌跡は神羅に当たることなく、海原に大きな水柱をあげるだけだった。
「どうした! 妾はここにいるぞ!」
 単騎駆け、戦場の高揚感が彼女の口元を吊り上げる。
 威力ではなく数で止めようと切り替えたのか、近づく神羅にむかって矢の雨が降り注ぐ。
 彼女はそれを見て、赤い和傘を取り出しひろげたのであった。
「海に海賊、雨に傘! そして戦乱の地に! この! 妾よ!」
 彼女愛用の武器傘『目録』は下賤な輩の放った矢などを突き通すことなく、矢盾の役目を果たして主の身体を守った。
 縦横無尽にまるで壁があるが如く跳ね、素早く空を駆ける神羅は高くそして船へと近づいていった。
 武装船のはるか上まで上昇した娘を、海賊たちは下から眺めていた。
 日輪にその姿が重なる。
 そこから美麗な和服姿が急降下してきたのであった。
「神羅・アマミ、一番乗り!」
 不幸にも着地地点にいた海賊が、蹴りを食らって弾き飛ばされる。
 けたたましい音を起こしながら、神羅は武装船に乗り込むことに成功した。
 数名の海賊が、狼狽えながらも武器を振りかざしてやってくる。
 傘で突き、払い、叩く。
 船に降り立ったわずかの刹那に、神羅の足元に死体が幾人も転がった。
 その光景に二の足を踏み、海賊たちは遠巻きに囲むだけだ。
 神羅は笑う。
「どうした、おなごが諸手をあげてやってきたぞ、はよう歓迎せぬか。それとも、お主ら、扱い方もしらぬ童かのぅ?」
 続けてばさりと和傘をひらき、肩に担いで見栄を切る。
「この神羅・アマミのいくさ場に、華を添えようとする丈夫はおらぬのか?」
 海賊たちはそれに応えず、どよめき三歩下がるのみ。
 武装船の一つは、たった独りに釘付けとなった。

 一艘の小舟によって一船が混乱をきたしていた時、他の武装船にむかう者もまたいた。
 ルパートが背に燃えさかる翼を生やし、海上を進んでいたのである。
 だがその姿態は、海賊たちに見とがめられる結果となる。
 近づいてくる飛行物体に砲筒をむける海賊たち。
 照準がこちらに向いてきたことに気づいたルパートは、大きく上昇した。
 そもそも砲撃という物は、高速で動く物に対して有用とはいえない。
 偏差射撃の腕なぞ、有象無象の海賊が持ち合わせているはずもない。
 神羅のときとおなじく、むなしく水しぶきを発生させ、近づくのを許すばかりだ。
 大空を舞い、飛翔するルパートは遥か高くまで上昇すると、大剣を両手で構え突き出す格好を取る。
 そしてそのまま、武装船のひとつにむかって落下していったのだった。
 相手が弓を構えるより早く、衝角で突撃するがごとく、ルパートは隕石のように落下し木製の甲板を易々と突き破った。
 凄まじい破裂音と、吹き飛ばされ海へと投げ出される海賊たち。
 武装船のひとつは、ルパートの突撃により大破し、海へと沈み始める。
 沈まず顔を出している船上も、翼によって火がついたのか火勢が広がり足場を狭めていった。
 たまらず海へと飛び込む海賊たち。
 それらの者には目をくれず、炎翼の騎士は次なる目標に狙いを定める。
 海上に浮かぶ死神を近づかせんと、必死に矢を射る海賊。
 それはいささかの傷を与えることも出来なかったが、幾分速度を緩めさせることには成功した。
 そう、それは妙手であったのだ。
 甲板へと風穴を開けたルパートが船底からふわりと舞い上がってくる少しの間、傾きぐらつく船上で、海へと飛び込み逃げ出す猶予が与えられたのだったからだ。
 だが海賊たちは必死に船にしがみつき、地獄の騎士と対面を果たす。
 己を奮い立たせるためか、それとも捨て鉢になったのか、奇声を上げてルパートへと海賊は襲いかかった。
「なにもんだ、テメェーーーー!」
 呼ばれて応えぬは騎士の名折れ。
 あえて受け止め、攻撃はせずにルパートは名乗りを上げる。
「記憶も栄光も既にない、だがなお遺る炎が在る」
 つづけて来る刃に合をあわせ、涼やかに流す。
「ルパート……黒騎士、ルパート・ブラックスミス。貴殿達の名は」
「うるせえ! 死ね!」
 再び襲いかかる連撃。それを受け止め、かわし、再びルパートは問う。
「問おう、貴殿達の名は」
 歯牙にもかけぬルパートに、やっきになって攻撃する海賊。
 多勢に無勢のはずであるが、騎士にはいささかの痛痒もあたえてはいない。
 それが痛く無法者たちの自尊心を傷つけたのか、海賊たちは取り囲んで攻撃を続けていた。
 そして悪意がようやく身体に届こうとしたとき、海賊たちは大剣の一振りで沈黙したのだった。
「名乗らぬならば、喋る口も必要あるまい」
 両断された不作法者たちを一瞥することもなく、ルパートは構えた。
 今、襲ってきた者たちの後方、震えて立ちすくむ海賊へと。
 一歩歩を進めると、相手は一歩下がった。
 一歩、すると一歩。
 ルパートが歩を進めるたびに、海賊は後ずさりする。
 そして船べりへと背があたったことに絶望したその男は、泣き叫びながらルパートへと突っ込んできたのだった。
 それを片手で受け止め、片腕だけで持ち上げるルパート。
 その四肢は地獄の炎で燃え盛っている。
 海賊の身体にも火が回り、苦悶の声をあげる。
 そのまま、上昇するルパート。
 大空へと飛翔した彼は、眼前の船へと海賊を投げ捨てた。
 それは火柱となり、先ほどまでいた船を薪へと化した。
 そして、それにはさしたる興味もむけず、ルパートは次なる船へと飛翔を開始するのであった。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

春乃・菊生
アドリブ、共闘等々歓迎じゃ。

[WIZ]
此度の戦、後ろにいるは貴様らの治る地でもなければ家族でもない。
されど守らねばならぬ。力を貸せ。
褒美はふたつ。ひとつは誇り。
ふたつめは黄泉の国で暇を持て余して居る貴様らに、我が歌舞を奉じよう。

秘術ノ壱にて、かつて文永、弘安の役(蒙古襲来)で奮戦した武士たちを召喚。
軽易なものとなろうが、櫓や堤を作って海賊どもを待ち受けよう。

戦いにおいては遠間からは弓を射かけさせ(【範囲攻撃】【援護射撃】【串刺し】)、
いよいよ上陸してきたら太刀や薙刀で応戦させよう(【範囲攻撃】【なぎ払い】【鎧砕き】)。

万一、相手が妖気でも纏っておれば味方に【破魔】や【呪詛耐性】の力を与えよう。


花盛・乙女
許せん。許せんな。
女を物のように扱うその気性。
私が最も嫌悪するそれだ。
この花盛乙女が貴様らに死をくれてやる。

敵は船の上か。
届くなら【火喰鳥】で一息の元に「ジャンプ」して乗り込む。
粗野で下品な輩を見れば嫌悪し悪態も出よう。

私は非常に機嫌が悪い。
情けがあると思うな。刀を使うのもおぞましい。
振るうはこの「怪力」にて、乱雑に暴れてやろう。

貴様らは今から略奪をしようとしたのだ。
今までもしてきたのだろう。
ならばこのような終わりを迎えるのも、因果応報というものだ。
さぁ!かかってこいクズ共め!
羅刹女の剣はこの世で最も恐ろしいものだと骨身に刻んでやろう!

しかし、臭う。
こいつらから漂うこの臭い。
…いや、まさかな。


レジーナ・ドミナトリクス
こうも大々的な襲撃は傍目から見ても賢い選択とは思えませんね。
もっと目立たぬよう活動していれば、ながらえる目もあったでしょうに。

水上は不慣れですので、私は港の防衛を固めることにしましょう。
【一心獰隊】で艦員を建物などの遮蔽物の陰に配置して防衛ラインを敷き、まずは海賊が上陸する際の隙を狙って射撃させます。
上陸した海賊は、私がフォース【オーラで防御】を張りつつ前面に出て、フォースセイバーによる近接戦闘に持ち込み抑えます。
艦員にはそのまま可能な限り防衛ラインを維持し【援護射撃】を行ってもらいましょう。
尤も、すべて海上で沈められるのでしたらそれに越したことはありませんが。



 港町へと続く路、それを下りた場所にある砂浜の海岸線。
 猟兵たちは遠目で次々と大破炎上していく武装船団を眺めていた。
 海岸沿いには簡易ではあるが櫓や堤が築かれていた。
 もちろん、海賊たちを撃退するために作られた物である。
「来ましたね」
 レジーナ・ドミナトリクスが指を差し示した。
 その先には武装船から離れた小舟が、海岸へと辿り着こうとしているのが見えた。
「迎撃してくださいと言わんばかりです。しょせん海賊、烏合の衆ですね」
「だが数は多そうじゃな」
 春乃・菊生の言葉にレジーナは頷く。
「もちろんです。私たちは迎撃とまいりましょう。あのようにむかってきては、布陣もたやすいというものです」
 二人の会話には参加せず、花盛・乙女は沖を見つめていた。
 頭の中でグリモアベースで見た予知霧が映し出される。
 あの舟から陸へ来ようとする輩は、そんな奴らだ。
「男というものは……」
 嫌悪感を隠さず、花盛は吐き捨てる。
 何故物のように扱うのか?
 何故弱者を軽んじるのか?
 剣を志すと同時に、仁義についても学んできた。
 そのような道義を奴らが持ち合わせているとは考えられなかった。
 嫌悪感が男性全てと辿り着く前に、花盛は頭を振って疑念を払った。
 そうではない。
 この世には善人と悪人がいる。奴らは後者。
 その報いを教えてやればいいだけだ。
「花盛殿?」
 感情が顔に出ていたのか、春乃が花盛に声をかけた。
「大丈夫か? えらく難しい顔をしてなさるが」
「大丈夫だ、すまない」
 頭を下げる花盛に、春乃は気にするなと笑みを浮かべる。
「花盛殿の刀の冴えはよう知っておる。その力、頼みましたよのう」
 しずしずと、砂浜へと下りていく春乃。
 花盛とレジーナはついていきはせず、立ち止まってなりゆきを見守っていた。

 砂浜に佇む神楽巫女。
 その視線は沖合ではなく、地へと向けられていた。
 両手を水平にひらき、静かに柏手を放つ。
 そして静かに、両脚をひらき、優雅華麗に砂の壇上にて舞い踊るのだった。
 それは鎮魂であり懇願、魂を奮わせる白拍子。
 舞いながら、粛々と祝詞を歌う。
 それは過去の戦歌。もののふたちの、古い古い物語であった。
 潮風が春乃の身体を通り過ぎ、砂浜を撫ですくめた
 すると砂浜のあちこちが盛り上がり、何者かが這い上がってくる。
「来たれ」
 春乃が静かに呟くと、それを合図に砂を巻き上げ飛び出してくる。
 それは鎧武者の一団であった。
 春乃は、かつて護国のために戦って散った英霊たちを召喚したのだった。
 外敵を、海賊を撃ち払う為に、鎧武者たちは春乃の呼びかけに応えて姿をあらわしてくれたのだった。
「此度の戦、後ろにいるは貴様らの治る地でもなければ家族でもない、されど守らねばならぬ」
 春乃の言葉に、武者たちは鎧を打ち鳴らして応える。
 死しても刃無き者を守る心は喪われず。力なき者を護る為、刃を振るって護る也。
 片腕を上げ、咆哮する武者の者。そして、櫓や堤へと動き始めたのだった。
 それを春乃は、頼もしそうに見つめる。
「お見事です」
 軽く軍人の敬礼をとり、武者たちを見送ると今度はレジーナが動いた。

 ブォン

 懐からフォースセイバーを取り出すと、柄をひねる。
 すると光の剣は形状を変え鞭と転じた。
「それでは、現刻より作戦を開始します」
 砂地を鞭で大きく叩くと、辺りの空間が歪む。
 すると今度は砂浜に、軍人たちが召喚される。
 みな一様に銃火器を捧げ持ち、レジーナの命令を待ち直立不動の姿勢で待機する。
 春乃が過去の戦士たちに防衛を訴えたのなら、レジーナは現代の戦士たちの力を結集したのであった。
 なみいる軍人たちにレジーナは微笑をうかべ、清廉な声で発した。
「当作戦は港町の防衛および賊徒の殲滅。隊を半分に分け一方を伏兵、一方を味方援護の射撃部隊とします。総員、配置につきなさい」
 かかとを打ち鳴らし、敬礼すると軍人たちも配置へとつく。
 レジーナが柄をひねると、それは剣の形へと戻った。
「それではみなさん、はじめましょうか」
 武者の一団に加わるレジーナと花盛。
 春乃は櫓へと登り、戦場を見つめるのであった。

 海岸にある櫓は、海上からも確認できた。
「おい……なんで武装した奴らがいるんだ?」
「どういうこった……やつら傭兵でも雇ったか?」
 グリモア猟兵の予知によって、先読みされているとは海賊たちも知る由が無い。
 後ろを振り返れば、二つの悪魔が武装船を襲っている。
 どのみちあそこへとどまっていれば殺されるだけだ。
 ならば生きる可能性がある、陸へと流れ着くべきであろう。
「それによ……、手ぶらで帰りましたじゃお頭が納得しねえぞ」
「……だな、だよな」
 ごくり、と海賊が喉をならした。
 お頭の非情さは知っている。
 分け前が有る時は少なくとも部下には優しい。だが機嫌を損ねれば。
 海賊たちはみな一様に不安の顔を浮かべた。
「やるしかねえ、殺るしかねえんだ」
「おおよ!」
 覚悟を決めた怒号が上がる。
 追い詰められた窮鼠の群れは、船から逃げだすように上陸を開始したのであった。
 接岸しようとする海賊たちは、まるで餓鬼の群れであった。
 だが指揮の無い烏合の衆は、櫓からその動きを察知され、矢の的となる。
「一番隊、放て!」

 ヒュッヒュッヒュッ

 春乃の声によって櫓から矢が放たれる。
 海賊たちは矢盾を立てて防ごうとするが、それは囮に過ぎない。

 ダダダダーーーーーッ

 伏せていた一心獰隊の射撃が、側面から海賊たちを蜂の巣にする。
「なんだ!?」
「銃だ! 火縄銃だ!」
「くっそう! なんでそんな物もってるんだよ!」
 波間を漂う木の葉のように、舟の先駆けは右往左往する。
 それは後続よりつづく仲間の航路を阻むことになり、同時に弓と銃の手ごろな的となった。

 ヒュッヒュッヒュッ
 ダダダダーーーーーッ

「ぎゃあーーーーーー」
「い、いやじゃーーーー」
 悲鳴をあげながら岸辺近くの海へと倒れ沈んでいく海賊たち。
 ところどころ浜が赤く染まり、地獄絵図と化していくのだった。
 海賊たちの執念は凄まじかった。
 それは、矢面に立つ女風情に虚仮にされてはならないというちっぽけなプライドか。
 それとも、別の何かに突き動かされてのことだろうか。
「まるで、地獄の餓鬼のようじゃのう」
 櫓より眼前を見下ろす春乃。
 港町を襲う集団は、悪霊の類とも警戒していたのだったが、相手はただの人間のようだ。
 ならばなぜ、人々を襲うのだろうか?
 死出の旅路を迎えた者達が、欲望に生きる者達を向かえ討つ。
「人の業というものはまこと、醜いものよな」
 太平の世と人はいう。
 しかし今だこのような出来事が世を騒がせている。
 人々の笑顔のなかで舞い踊れるのはいつの日になるであろうか。
 少なくとも、この戦で港町は守れる。
 春乃は感傷を払い、武者たちに再び指揮するのであった。
 やっとのことで接岸に成功した海賊たちは、武者の一団によって行動を阻まれていた。
 海賊たちも修羅場をくぐり抜けてきた。何度か危ない橋を渡った事さえある。
 だが死んだとは言え、武者たちとは練度が違う。
 そして文字通り、彼らは死を恐れはしない。
 その差が武者と海賊の勝敗を分けた。
 刃と刀が交差し、負けた海賊たちが砂地を赤に染めていく。
 レジーナもその中に加わって海賊たちを迎え撃っていた。
「くっそアマーーーーーっ!」
 仲間をやられ退路を断たれ、逆上した海賊が斧を振り上げ斬りかかってくる。
 だがその凶刃は柔らかな肌を斬りつけることなく、光の剣によって中断される。
 袈裟切りに斬られ、崩れ落ちる海賊。
 レジーナの側面と後方には鎧武者たちがつき従っている。
 こう護衛がいれば周りを気にすることも無い、前面の敵に集中できる。
 レジーナの周りに展開するフォースオーラが、青く輝き敵の攻撃から身を守ってくれている。
 サイキックの集中に乱れは無い。まだ存分に動ける。
 武者たちが矢面に立ってくれているおかげで、一心獰隊に一兵の損失も無い。
 それは味方への援護を、完遂出来るということ。
 事実、海賊たちは浜辺から先へとあがることは出来てはいない。
 無論、上がろうとすればレジーナは身体を張って止めるつもりであった。
「投降の時間は過ぎました。その咎を身に持って知るのです」
 優しく説く慈母のように、レジーナは断罪の刃を振り下ろした。

「くそっ、こんなところにいられるか! 俺は逃げるぞ!」
 海岸や武装船で仲間がやられているのを目にした小舟の海賊たちは、進路を変え撤退を試みようとしていた。
 命あっての物種。
 いまだ戦闘区域にいる仲間達を犠牲に、逃げ出そうというのである。
 だが、そんな彼らの目論見は一人の羅刹によって打ち砕かれることになる。

 トンッ

 小舟の衝撃に、海賊は後ろを振り返った。
 そこには八艘跳びもかくやといわんばかりに、花盛が海岸から小舟へと伝って渡ってきたのである。
「どうした逃げるのか」
 低く、押し殺すような声。だがその声には怒りがはっきりと含まれているのが分かる。
 一緒に乗っていた別の海賊が匕首を突き出し、花盛りを刺そうとした。
 だがそれは腕を掴まれ防がれる。
 足先で海賊の足を踏み、逃げられないようにしてから花盛は力任せに腕をふるった。
 鈍い音がし、海賊の腕がありえない方向へと曲がり、悲鳴があがる。
 他の海賊共は怯え、震えるだけだった。
 戦場から逃げ出そうとしていた輩である。
 もう、戦う気力もないのであろう。
 そんな賊徒に、花盛は冷ややかに言い放つ。
「どうした、略奪しようとこの地に来たのであろう」
 片腕をへし折った海賊の、まともな腕を掴みへし折る。
 再び海上に悲鳴があがる。
 痛みにのたうちまわる海賊を尻目に、辺りを見廻し花盛は啖呵をきった。
「無辜の民に今まで、こういうことをしてきたのだろう? 命乞いをする者達に無慈悲に刃をむけていたのであろう? ならば、因果の報いだ。骨身に刻んでやろう」
 その修羅の如き形相に、海賊たちはその場にしゃがみこんで拝みひれ伏す。
 許して欲しい、とのことなのだろうか。
 だが、花盛はこの者たちを許す気にはなれなかった。
 予知で見たのと同じ行状を、こいつらはあちこちで繰り広げてきたに違いない。
 それを思うと、花盛は許す気にはなれなかったのだ。
 ふと見ると、一艘の船が離れていくのが見えた。
 大きく息を吸い、止める。
「ふっ!」
 吹きかけるように息を吐くと、花盛の身体は海面をひとつ大きく跳びはねて、一足飛びで舟にへと辿り着く。
 着地すると同時に、手刀が海賊を貫いた。
 腕を引き抜き、朱に染まった身を振り返る。
 引くも進むもままならなくなった海賊たちが、怯え立ちすくんでいた。
「情けがあると思うな」
 一人の修羅が舟へと飛び移る。
 戦がはじまってしばらくが経過していた。
 だが海賊たちはいまだ猟兵たちを突破出来ないでいた。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

月舘・夜彦
【八藤夜】で参加
八刀丸殿とは共に戦いましたが藤子殿とは初
彼女の刀の扱いには興味がございます
いざ、往きましょう

海賊が一般人であれば不殺
オブリビオンであれば慈悲はございません
初手はダッシュにて海賊が多く居る所へ入り先制攻撃・早業にて抜刀術『陣風』
併せ2回攻撃で手数を増やして一手で武器落とし、二手で峰打ち
近距離の攻撃は残像・見切りより躱してカウンター
遠距離攻撃は視力・見切りにて武器の種類を確認し、武器受けで防ぐ
味方にも同様に攻撃が来る場合はかばい、同様に防ぎます
此方は私にお任せを、その隙にお二人は奴等を

そういえばお二人が蒲鉾と仰っていましたね
八刀丸殿、片付け終えましたら蒲鉾と共に一杯如何でしょうか


百地・八刀丸
【八藤夜】

良い街よ。人の営みが良く見えよる
さて、外道の航路に水門を設けねばな
夜彦殿、藤子殿、いざ参ろうか

やりたい放題にやってきたツケを払う時よ
しかしてこのような輩の血など、何の誉れにもならぬ
背の黒刀二刀を以て、峰打ちで気絶攻撃をくれてやろう

水際にて待ち受けよう
先制攻撃を主とし、何人たりとも街を踏み荒らすことは許さぬ
数多の残像にて惑い、烏合の衆と成り果てよ

合点承知よ、夜彦殿
丁度良い。そこな大男を踏みつけて跳び、遠距離攻撃の主へ向かおう
藤子殿、ならばワシを踏み台に更に跳ぶが良い

打ち倒した者たちは縄で縛ってやろうかの
後はお役目に任せれば良かろう

酒と厚く切った蒲鉾か……良いのう、戦後の楽しみが増えたわ


鵠石・藤子
【八藤夜】

水際にて先制攻撃、挑発で引き付け町人を逃がす

こう言った事はあまり、わたしの役割ではないかとは
上陸する海賊を宇宙バイクで蹴散らして
でも…雑魚をすり潰すのは割と得意ですよ
海の香に乗せて、蒲鉾など如何です
ねぇ藤子さん?

海賊の命ぃ?別にオレはどっちゃでも良いが
オレの意思は半分こいつ(妖刀を振り)のモンだ
手加減出来るかはわかんねーが…蒲鉾は厚切りが好きだ
今日の切れ目はザックリ粗目で許してやらぁ

妖刀を手になぎ払い戦う
遠距離攻撃は視力と第六感で回避

夜彦だけに良い格好させる訳にゃ行かねぇし、
…ジジイ!てめーまたオレの獲物をッ
八刀丸と競って跳び、柄で殴る

蒲鉾…ま、別に良いが
厚めと薄めどっちが良いンだ?



 海岸の戦い。
 海賊たちを防がんと、また別の一団が水際でくいとめていた。
 月舘・夜彦と百地・八刀丸、鵠石・藤子の三人である。
「たとえ賊徒といえども殺しはしません。少々痛い目をみてもらいますが」
 月舘は刀を返し、峰で賊を迎えうった。
 それはハンデなどではない。彼なりの慈悲である。
 もっとも、その威力は人を痛みで気絶しうるに足る、相応しき技前ではあった。
「やりたい放題にやってきたツケを払う時よ」
 肩に背負う二つの黒刀を構え、同じく百地も迎えうった。
 奇しくも同じ峰での二刀撃。
 その技の冴えは賊が振り下ろすより速く、愚かにも刃向った賊は骨を折られ、身動きできずにその場へとうずくまる。。
「さすが八刀丸殿、見事です」
 海賊を打ちのめしながら月舘が賞賛する。
 それ対し謙遜の声をあげ、返す刃で賊を打ち払う百地。
「なんの、夜彦殿も見事なり」
 剣の舞いに、周りの海賊たちは次々と倒されていく。
 そんな二人とは距離を置き、砂浜を滑走する者がいた。
 鵠石である。
 彼女はバイクを操り、あたるを幸いとばかりに海賊たちを轢きつぶしていく。
 人間の足では駆動機械からは逃げられはしない。
 よけようと逃げまどう集団に、背中からのしかかり、押し潰すように轢いていく。
「こう言った事はあまり、わたしの役割ではないかとは思うんですけどね」
 次々と人を轢いていくことにさしたる感情を動かさず、彼女はこともなげに言い放った。
 もっとも、相手が賊だからこそ罪の意識無く轢いているかもしれないが。
「くっそこのアマ! だったら向かってくるんじゃねえよ!」
「そうだそうだ! 腐れメガネ! お前の視力0.01!」
 彼女から足早に逃げながら、悪態をつく海賊たち
 そんな悪態を涼やかに聞き流し、疾走によってずれた眼鏡を片手で直しながら、トーコはつまらなさそうに答えた。
「ええ。ですから、ここは彼女に働いて貰おうかと」
 鵠石の身体がゆらりと揺れ、ぶれはじめた。
 目の錯覚か、それとも砂浜の陽炎か。
 訝しがる海賊たち。鵠石の像が二つに見える。
 見えるのではない。いつのまにか二人、いや双子というべきか。
 双つの鵠石がバイクにまたがっていたのである。
 オルタナティブ・ダブル、もうひとりの自分。
 別人格である藤子が実態を持ち、刀を抜いた。
「よう、雑魚共。オレはトーコと違って手加減できねーぞ?」
 そう言い放ち、白刃をきらめかせ敵陣へと駆けていった。
 砂浜に、また一人剣士が現れたのである。

 敵の集団の中で、華麗に剣を操る月舘。
 彼の腕前くらいなら敵を屠ることなどたやすい。だが月舘はそうしない。
 敵陣の中を駆けると、斬撃が煌めきたちまち賊徒の武器が叩き落とされる。
 狼狽える暇もなく、続けて当身の一撃が海賊たちを戦闘不能にしていった。
「くっそ、死にやがれ!」
 無論、むかってくる者もいる。
 だがその太刀筋は読まれ、側面に廻られ首筋に重き一撃を受けて無様に砂を噛む。
 その気になれば、この砂浜を血河と化すこともできたであろう。
 懐にある竜胆の飾り。それが彼を冷静にへと保つ。
 あの人は感情のまま斬り刻むことを良しとはしないはず。
 優しく飾りを撫でる月舘に笑みが浮かんだ。
 その表情を挑発とみたのか。
 迫りくる殺気を感じ取り、振り向きてその悪意をはたき落とす。
 遠巻きに海賊たちが弓をつがえるのが見えた。
 刃では無理とみえて、飛び道具で月舘を仕留めようとしているのだ。
 あの場へとむかうに、ここでは少し遠い。
 そんな考えを見透かしたかのように、百地が声をかける。
「わしが行こう」
「では此方は私に」
 弓手とは逆方向に、月舘は海賊たちを打ちのめし駆けていく。
 そして、弓が並ぶ地へと百地は走り出した。
 辿り着く前に、一斉射撃が猟兵剣士の身体めがけて発射された。
 それを、二刀の刃で払いおとす百地。
「歳はとりたくないのう」
 不敵に笑う百地の手の甲に、不覚の傷がたらりと血を流す。
 刺さりはしなかったが、多量の矢を払いのける際に、手をかすめていったのだ。
 再び矢をつがえる海賊たち。
 あそこへ向かうに、二の矢三の矢が飛んできそうだ。
「ジジイ!」
 藤子の声がする。
 トーコと一緒にバイクに跨り、こちらへとやってくる。
 乗れということか。
 跳躍し、器用にバイクの背にへと立つ百地。
 矢を避けようと、右へ左へと蛇行するバイクの上でもバランスを崩しはしない。
 老剣士の面目躍如である。
 何度目かの矢が放たれた。
 バイクは直角に曲がるように離れ、回避する。
 その反動を利用し、藤子と百地はバイクの背を蹴って跳びあがった。
 そしてそのまま放物線を描くように弓手の集団へと。
「死にやがれ!」
 挟まれていた藤子の飛距離はやや少なく、その手前で着地する。
 そのまま駆け出し、海賊へと白刃をむける。
 その眼前を、追い抜くように百地が頭上を追い越していき、目の前の海賊を踏み台にして更に距離を足す。
 藤子の刀が届く前に、百地の刃が海賊共を気絶せしめた。
「ジジイ! オレの獲物をとるんじゃねえ!」
「おぬしもワシを踏み台にすればよいではないか」
「ふざけんな! ジジイを足蹴にできるか!」
 口論している二人に、海賊たちを武器を振り上げて襲いかかる。
「やかましい!」
 百地と藤子は話の邪魔と、柄を握って逆に叩きのめした。
 そして数を競う様に、他の海賊へと狙いを変える。
 浜辺の敵影は、徐々に減りつつあった。

「なんだよこいつら……なんなんだよ……」
 海賊たちは、狼狽していた。
 武装船は焼かれ、櫓と堤によって上陸は防がれ、ならば別口とむかった先でも、こうやってなすすべもなくやられていくだけだ。
 剣士二人の足さばきは、砂浜でも衰えることなく立ち回り、その身がぶれて見えるほどだ。
 斬ったと思えばそれは幻、逆にこちらが倒されていくだけ。
 女剣士は二人と比べて容赦がない。戦意を喪失した者にたいしてもその刃を振るっている。
 まるで悪夢のような光景だった。
 数を数えるのがめんどくさくなるほどいた海賊の群れは、猟兵たちの活躍によって港町に着くどころか、こうやって討伐されてしまっている。
 ならばどうすれば良いか。
 五体が無事なうちにと、示し合わせたように両手をあげる海賊がちらほらと出始めた。
「降参! 降参する!」
 武器を落とし、慈悲を乞う。
 彼らは幸運だった。
 月舘はしゃがむ様に彼らに命じると、その後ろ手を百地が縄で縛っていく。
 そしてそれが終わると、気絶させた者たちにも縄をかけ始めていくのだった。
 そのあいだ、念のためと捕縛者を警戒する藤子とトーコ。
 見晴らす海岸に、抵抗の意思を見せる者はいない。
 どうやら襲撃はこれで完全に防げたようだった。
「どうやら終わりのようですね。海の香に蒲鉾など如何です?」
 バイクに身を預け、気だるそうに問うトーコ。
 あとは街の役目にまかせればいい。
 一仕事が終わったので食事、そう言いたいのであろう。
「八刀丸殿、だそうですが如何です?」
 捕縛を手伝う月舘が、くいと口の前であおる仕草を見せた。
 その仕草に百地は街の方を眺め、頬を緩める。
「良い街よ。酒と厚く切った蒲鉾か……それは良いのう」
 海賊たちの襲撃阻止はみごと成功し、あとはアジトへと乗り込むだけだ。
 だが、そのまえに腹ごしらえしていくのも悪くは無い。
 猟兵たちは報告と、軽く腹に何か入れるために、港町へと戻っていったのだった。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​




第2章 冒険 『オブリビオン城への潜入』

POW   :    門を破るなどして無理やり潜入する

SPD   :    潜入口を探す、夜陰に紛れ城壁を越える

WIZ   :    門番など働かされた人々を説得・買収する

👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​

種別『冒険』のルール
「POW・SPD・WIZ」の能力値別に書かれた「この章でできる行動の例」を参考にしつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


 夜。 
 入り江の洞窟。
 波によって岩盤が削られ、年月を経て形成された天然の迷路だ。
 海賊たちはそこに手を加え、砦へと変貌してしまっている。
 灯り取りや吹き抜けの穴から、ちらほらと松明の明かりが見える。
 それは人が住んでいる事の証であり、海賊たちのアジトに他ならない。
 洞窟近くの波止場には、武装船や小舟も見える。
 襲撃してきた海賊とは別に、内部に戦力が残っている可能性がある。
 あちこちにある奥へと続く穴の前や、切りたった崖の上や高台などには、見張りの姿もちらほら見える。
 あの先に、敵の親玉がいるのだ。
 洞窟から離れた林のなか、たき火を車座になって囲む猟兵たちが汲んだ海水でその火を消した。
 一人、また一人と、闇の中へと姿を消していく。
 くすぶった煙が海岸をただよい消えていった。

~洞窟内 牢屋
 牢屋の前に頭巾をかぶった男がいた。
 その後ろに海賊が控え、追従の笑みを浮かべてもみ手をしていた。
 牢屋の中には娘二人。
 姉と妹、身をよせあって震えている。
 男は、好色な声を隠そうともせず、海賊に尋ねる。
「ふむ、良いでしょう。買います」
「ありがとうございます」
 厭らしい笑いを浮かべる海賊。
 男は商人だ。武器などを海賊たちに卸している。
 そして商売敵の襲撃の手筈を。
 その見返りとして一夜の遊びを提供してもらい、金子を渡すというわけだ。
 もちつもたれつ。
 だが、攫われた娘達に、その欲望をむけられるいわれはない。
「ふむ、持ち帰る前に味見をしてよろしいですかな」
「もちろんでさあ、おいお前ら! お礼はどうした!」
 げはははははは!
 げはははははは!

~洞窟内 広場
 海賊たちの笑い声、娘達のさざめなく声。
 夜の宴会の肴にと、海賊たちが娘達を慰み物としていたのだった。
 足枷をつけられ、隅で震える娘達。
 酷な言いかただが凌辱の対象となっている間は、自分たちの番は来ない。
 娘達は自分の番が来るまで飽きるようにと、神ではなく海賊たちに祈りを捧げていた。
 攫われてもう何日になるのだろう。逃げ出そうとして見せしめに殺された者もいた。
 自分たちにできることはただ、ながされて震えて、この身を捧げて命を永らえることである。
 げはははははは!
 げはははははは!
 娘にのしかかかかる海賊の哄笑。
 それから意識をそらすように、他の娘達は隅でちいさく固まって震えていた。

~洞窟内外 見張り
 後ろから声をかけられ、見張りは振り返った。
 仲間が酒を差し出し、交替を告げる。
「ようやくかよ」
 酒をあおり、一息つく海賊。
 こんな変わり映えのしない場所の見張りなど、退屈なだけだ。
 まあ非番の日に女をあてがってもらえるだけまだましだが。
 一眠りしようと寝床へとすすむ海賊が、新たな見張りに尋ねる。
「そういや、権佐のやつらまだ帰ってこないんだな」
「ああ、そうだな」
 権佐とは街を襲撃する役目を仰せつかった奴らだ。
 夜になっても帰ってくる様子がない。
「積荷を乗せるのに手間取っているか、商品に手を出しているんじゃねえのか?」
「かもな。あーあ、俺も行きたかったなぁ。あいつら生娘に手出してるんだろな」
 あくびをし、伸びをする見張り。
 彼らは知らない。その一団が帰れなくなったことを。
 それを知っていれば、警戒の度合いを引き上げていたことであろう。
 親分に報告し、なにか手筈を講じていたことであろう。

 地獄は、まだ終わらない。
 その地獄を終わらすために、海賊たちに因果を報いさせるために。
 猟兵たちは行動を開始したのであった。
神羅・アマミ
天然の要塞ということは、岩陰や鍾乳石が死角となるポイントは少なくなかろう。
人の手が入っているということ、それこそが盲点で、生命の埒外にある猟兵たちの想定外なムーブもまた心理的な死角と成り得る。

そんなわけでまずはコード『操演』により蜘蛛型ドローンのオクタビアスくんを召喚。
スキャンやサーチを駆使した慎重かつ入念な潜入動作はもとより、しがみついたり背中に背負うことで壁や天井を這って進むという大胆な移動も時には求められるじゃろう。

目的はあくまでオブリビオンまでの到達であり、その討伐が猟兵の本分。
必要以上の殺戮は避け、可能な限り見張りは素通りしたい。
大将さえ屠れば、配下の海賊もやがて人の手で裁きは下る。


春乃・菊生
アドリブに共闘等々、歓迎じゃ。

[WIZ]
まずは情報を得るべきか。
秘術ノ肆により、数羽の夜鷹の霊を召喚。
洞窟周囲の人員の配置や見回り経路、会話内容から内実を探ろう。

ある程度の状況を把握できれば、海賊に使役されておる者、叛意を持つ者たちの元へと赴こう。
そして天下自在府を見せて猟兵であることを明かし、此方に引き入れよう。
最も、彼ら彼女らを矢面に立たせようなどとは思っておらぬ。
我らを砦内に手引きし、あとは我らが内で保護した者を逃がすを手伝ってくれれば良い。


周辺での工作が終われば夜鷹を傍に呼び寄せ、我も砦内へと踏み込もう。
その際、一羽は己の肩に止まらせ、残りはそれぞれ僅かに先行させよう。


ルパート・ブラックスミス
UC【現を彷徨う幽騎】起動。

姿を消し洞窟内、牢屋の女性たちの【救助活動】に向かう。
物音は消せないが構わず突き進む。
敵には気付いて動かず身構えてくれた方が都合がいい。
こちらの視界と射線を確保し次第、短剣【投擲】で【先制攻撃】。
UCで不可視化し軌道も自在に動く【誘導弾】、対応できまい。

できれば海賊・商人共に目や四肢を狙い殺さず無力化、
牢屋と広場以外に攫われた娘がいないか【情報収集】したい。
いないならば牢屋の中の娘たちに見えない位置に引き摺ってからトドメを刺す。

これ以上その下衆な物言いや声を彼女たちに聴かせるのも忍びない。
息の根諸共、止めてしまおう。

【共闘・アドリブ歓迎】



「酷い有様じゃな」
 春乃の周りに数匹の鷹が飛んでいる。
 斥候のためと呼び出したそれをつかって、彼女は洞窟内を調べた。
 その結果見知ったことは、ここは外道共の棲家ということだった。
 あちこちで、暴虐の限りが行われているらしかった。
 広場や牢屋などに、囚われた娘が点在する。
 そして、海賊共はそれに輪をかけて多く配置されている。
「正面からの突破は容易ではなかろうな」
 容易ではないだろうが、そこを何とかするのが猟兵の仕事だ。
 仲間に春乃は良い案があるのかを尋ねた。
「自分は女性たちを助けたい」
 そう力強く意見を述べるルパート。
 先へ進むことも大事だが、助けられる対象があるなら助けたい。
 彼はそう思ったのだった。
「では妾は先へ行かせてもらうとしよう」
 神羅の考えは違った。
 討伐が猟兵の本分、敵の首魁を討てばしょせん烏合の衆。
 相手は瓦解し、あとで助け出せるはずだ。
 ならばこそ、今は余計な行動は慎むべきだ。
 どちらも正しく、ここで問答する必要もない。
「では我はルパート殿と行動を伴にしよう」
 春乃が腰かけていた石から立ち上がる。
 二人の意見、彼女はどちらを取るとみればルパート側だ。
 しかし神羅を見捨てるわけでもない。
 一匹の鷹を神羅へと飛ばす。
「先導、見張り囮。好きに使ってくれ。救援を請えばすぐに駆けつける」
「ありがたい。そちらも気をつけてな」
 互いに言葉を交わし、三人は潜入を開始したのであった。

「ふあ~ぁ」
 洞窟内の通路を、見張りがやるきなさそうに闊歩している。
 ずっと先の分かれ道まで、延々と続くだけだ。
 いつもの変わり映えの無い景色のなかを、さしたる注意も払うなく、突き辺りを右にまわって見張りの姿が消えていった。
 人気が無くなった通路の天井から、神羅が降ってきた。
 着地すると辺りを確認し、鷹を先導させる。
 先の見張りが折り返し戻ってくるまで時間がある。
 そろりそろりと、神羅は先を急いだのだった。
 実のところ、単独で行動できたのは都合がよかった。
 彼女が背中に担いでいるドローンはバックパックにもなれるが、あいにく多人数を想定している訳ではない。
 多脚型のこの機械なら洞窟の足を這わせ、天井を行くことも出来るのだ。
 天然の洞窟はあちこちに高低差があり、同時に隠れる死角も存在する。
 一人であるなら、その隠密性を効果的に利用できるのだ。
「さてオクタビアスくん、後ろの状況は?」
 愛着を持って呼びかける神羅に、蜘蛛型ドローンは分析の結果を伝える。
「熱源、オヨビ振動音、感知シマセン、敵ミアタラズ」
 前には鷹が、そして背後をドローンが警戒してくれている。
 神羅は辺りを注意深く見廻し進みながら、地形を利用できそうな場所絵を探すのだった。
「む、この地形グッド」
 神羅が壁面を見上げた。
 その洞窟の壁は、空間が上へ上へと広がっている。
 どこまで続いているか分からぬが、ここから登れそうだった。
 自分の手足と背中の脚を使い、神羅はよじ登りを試みる。
 多少ごつごつとしてはいるが、登るには支障はなさそうだ。
 ゆっくり、しかし確実に少女の姿は上へと。
 見張りが戻ってきた時、彼女の姿はもうそこにはいなかった。
 どれほど登攀を繰り返したのだったろうか。
 今、彼女の姿は洞窟から一旦出て外の壁面へと。
 あちこちを上へ下へ左右へ、時々見張りをやり過ごしながら、彼女は進んでいた。
 一休みしてあたりを見下ろすと、眼下のはるか下に砂浜がみえる。
 たき火が小さく見え、その傍には見張りも見える。
 大分高くまで上がってこれたらしい。
 時折りが潮風が神羅の身体を揺さぶるが、この断崖なら見張りもいなさそうだった。
「それにしても、敵の大将はどこにおるんじゃろうな?」
 おそらくは、馬鹿と煙のように高い処に居座っているのだろう。
 敵を避けるためではなく今度は見つけるためにと、ドr-ンの機能をフル活用する。
 反応する熱源と、振動ボイス音。そして頭上にはまだまだ反応があった。
 見張りとは交戦を避けているため、神羅に負傷は無い。
「辿り着けたらオクタビアスくんを休ませてやるとするかのう」
 神羅と蜘蛛と鷹が、壁面を進む。
 その足取りは確実に、敵の大将へと近づいていくのだった。

 牢屋に続く路にある見張り部屋。
 その役目を今受け持っている海賊が、手持無沙汰に時間を潰している。
 牢屋は娘の力如きではどうにでもなる物ではないし、誰かがくればここを通り抜けるしかない。
 せめてつまみ食いできればいいが、この役にそんなおこぼれは与えられていない。
 次の交代までこうやって酒をあおって暇をつぶすだけだ。

 ガチャリ

 牢屋ではないほうの通路から、音が聞こえた。
 酔いを残しながら海賊がむかうと、人影は見えない。
「交代の時間だと思ったけど……気のせいか」
 持ち場へと戻ろうとする海賊の目が灼熱に包まれた。
 何が起こったのかもわからず、目をおさえようとする手をルパートが掴み押さえつけた。
『現を彷徨う幽騎』
 疲労はするが、姿を消すルパートの神技だ。
 物音は消すことが出来ず、こうやって気取られる危険性はあるが、不意をつくには申し分ない。
 一緒に春乃もそこへと姿を現す。
「騒ぐな。動けばその口もろとも頭を潰す」
 ルパートの籠手が万力のように頭へ力を加える。
 脅し以上の凄みを感じた海賊は、痛みをこらえてうんうんと頷くほかなかった。
 その間、春乃が部屋を捜索し、鍵束を見つける。
「どうやらこれが牢屋の鍵のようじゃな。ルパート殿、ここは少々任せたぞ」
 牢屋へとむかう春乃を見送り、尋問を続けるルパート。
「牢屋……娘が囚われている場所はここだけか?」
 頷く海賊に他に娘が居るのはどこか聞き出そうとする。
 数回腕を捻りあげただけで海賊は口を割った。
「お、お楽しみの客へ数人、仲間が楽しんでるが数人……それから、明日の出航で売り飛ばすのが何人か……」
 どうやら洞窟内だけではなく、停泊している船にも娘達がいるそうだ。
 事が終われば助けだそう、いやそのまま船で脱出すれば良いだろうか。
 そう考えるルパートのに、弱弱しく懇願する海賊。
「なあ、喋ったんだ、助けて……くれるよな?」
「ああ、そうだな」
 そう言い放つと剛腕で首を捻るルパート。
 何故と言葉を放つ前に、海賊はこと切れた。
 女性を物扱いしてきた輩だ。こうやって縊り殺されるのが報いという者であろう。
 春乃が牢屋の女性たちを介抱している。
 ルパートは警戒のため通路の前にたち、再び姿を消していくのだった。

 牢屋には娘達がうなだれながら押し込められていた。
 気力も萎えているのだろう。
 見慣れぬ春乃の姿にも声をあげず、押し黙ったばかりだ。
 その一つの錠を外して声をかける。
「助けにきたぞ」
 その声に訝しがる娘達。
 無理もない、周りはみんな悪党ばかりしかいない。
 こういうとき、こんな物があると便利だ。
 春乃は懐から天下自在府を取り出し、つきつける。
「我は幕府の者よ。安心せい、我以外にも仲間がおる。ささ、解放してやるからしばしまたれよ」
 優しい微笑み。その表情に打たれ、娘達の眼に光が戻る。
 次々と錠をあけ解放していく春乃。
 その行動を待ちきれないのか、牢屋の格子にしがみつくようになっている娘もいる。
 それらを解放したあと、春乃は尋ねた。
「他に、囚われとなった者たちはいるのかのう?」
 おずおずと答える娘達。
「あの……おそらく洞窟のどこかだと。私達、誰かに買われる前はここに閉じ込められています。それ以外は……」
 それ以上続かず、目を伏せる娘達。
 斥候を飛ばして、洞窟内の惨状はおおよそ把握がついている。
 春乃もその先を聞こうとするつもりはなかった。
「さて、この先その娘さんたちも助けようと思っているのじゃが、誰ぞ詳しい経路を知ってる方はおられるかの? できれば力を貸して欲しいのじゃ」
 全ては知らない、だがあそこならと娘達が口々に知っている事柄を話してくれた。
 これなら大体の構造を把握は出来そうだ。あとは自分で広げるとしよう。
 しかし、まずはここから出すのが先決だ。
「では皆の衆、そろそろ陰気くさい処から逃げ出すとしようかのう」
 先導しようとする春乃に、一人の娘が声をかけた。
「あの……他の人達も助けてやってください」
 けなげな声。
 こうやって囚われの身になっても、他者を気遣う事が出来るのは素晴らしいことだ。
 春乃は思わずその女性を抱きしめ、優しく説いた。
「もちろんじゃ、みなしてここから出してやる。国へ帰ろうな」
 耳の後ろから、娘の嗚咽が聞こえる。
 身体を震わせて娘は春乃に懇願したのだった。
「おっ、おっ……おねびゃいじます……」
 そんな震える彼女に、春乃は優しく抱きしめ頭を撫でるのであった。

 春乃の後ろに、ぞろぞろと付き従う娘達。
 牢屋内に囚われていた者達は解放できたようだ。
「一度、娘さん達を逃がしてやる必要があるな」
 まだ敵の大将を討つという任務が残っている。
 このまま引き連れていくのでは足手まといになるだけだ。
「船を利用しよう、停泊中の船にも娘達がいるそうだ」
 なるほど、と頷く春乃。
 助け出し、一刻の匿い場所も確保できる。一石二鳥という訳か。
「自分が先にいこう。あとからついてきてくれ」
 肩に鷹を止まらせると、ルパートの姿が消えていく。
 ガシャンガシャンと鎧音が先へと歩を進めていく。
 同じく姿の消えた鷹と共用する感覚によって、位置取りは掴めている。
 神羅の元へも鷹は飛ばしている。
 達者な彼女の足取りを追って行けば遅れは取り戻せよう。
 ルパートと春乃は武装船内の娘達の解放を手引きをしようと、すこし寄り道するのであった。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

花盛・乙女
【広場へ向かう】

なんだこの惨状は。
なんだこの者共は。
なんだ、この感情は。

嫌悪とも怒りとも違う。
目の前の光景に絶句する。
強い負の感情が腹の底から滲み出る。
無意識に【黒椿】を抜き、刀身を舐めあげる。
化生へと変容した黒椿に語る。
「仕事だ、殺せ。私も、殺す」

刀を使うことも忘れ「怪力」の限り、目に付く海賊を始末していく。
殴り。潰し。折り。裂き。砕き。殺し。殺す。
正義の為の拳ではない。
間に合わなかった私の不甲斐なさゆえに。
救えなかった者達の誇りへの報いの為に。
私は殺す。全て殺す。必ず殺す。
人には、女には、命より尊い誇りがある。

化生の鬼をも恐れる程の羅刹女の暴。
貴様らにも、糸を引く外道にも必ず。
この拳にて。



 花盛は奥へ奥へと、一人通路を進んでいた。
 正直、今の自分の行動は潜入にはふさわしくない。
 だが仲間から報告を聞いた時、己の感情が抑えきれなかった。
 今の自分では仲間たちの行動を阻害することになってしまうだろう。
 それでもあの外道たちに一太刀あびせたかった。
 花盛は、あえて単身で海賊たちにあたることにしたのである。
 そして仲間の調査通り、広場では目をそむけたくなる光景を目にしたのだった。

「なんだこれは……」
 まっとうに生きてきた花盛にとって、およそ理解しがたい現状がそこにあった。
 娘達は裸で給仕させられ、慰み者となっている。
 顔や身体に痣のある者もいる。
 広場のいたるところで、海賊たちが娘たちにのしかかっている。
 隅では数人の娘達が固まり、震えていた。
 悲鳴と外道たちの嬌声。
 その音を聞き、花盛は剣士であることを止めた。
「だれだ、オマエ?」
 海賊の一人が侵入者に気づいたようだった。
 わなわなと震える花盛が刀を抜いた。
 それをみて敵と気づいた海賊共が、娘達をおしやって花盛に向き直った。
 娘達と離れてくれたのは都合がいい。
 花盛りは抜いた刀身に舌を這わせ、舐めあげた。
 すると剣はひとりでに動き出し、煙の化生と変化した。
「仕事だ、殺せ。私も、殺す」
 吐き捨てるように命じると、ヒヒと笑い化生も戦闘態勢を取る。
 深呼吸し、花盛は一つだけ付け加えた。
「娘を護れ。今の私は……制御が効かん」
「ヒヒ、勝手なヤロウだぜ。イイぜ」
 花盛は娘達の姿に憤りを感じていた。
 もう少しなんとかできなかったのではないか?
 自分が不甲斐ないから、こういうことが起きたのではないか?
 もっと早く、ここへ来るべきだったのではないか?
 激情が全身を駆け巡り、その身を焦がす。
 羽織を投げ捨てサラシ姿の自分を披露する。
 普段の自分なら、素肌を異性に見せることを嫌っただろう。
 だがこいつらは外道だ。それに、どうせみんな殺す。
 花盛の感情にあわせて、背中から腕にかけて刺青が浮かび上がる。
 それは羅刹の戦化粧。
 剣士ではなく、ただ独りの羅刹女が殺戮の宴を開始した。
 跳びかかかり、目の前の外道を掴んで地に叩きつける。
 逆くの字に折れ曲がった海賊は絶命した。
 仲間の死に、海賊たちは何か叫んだようだったがそのことは花盛の頭には入らなかった。
 殺す。全て殺す。
 向かってきた海賊の匕首を避けようとせず、腕で防ぐ。
 強靱な膂力によって硬質化した肌は、その刃を易々と皮膚の上で止めた。
 驚く外道の頭を掴み、持ち上げる。
 頭蓋を破砕すると頭を失った身体が支えを失い、地へと落ちた。
 悲鳴があがった。
 逃げる海賊たち。
 だが煙の壁がその行く手を阻むと、海賊たちの四肢に激痛がはしる。
 煙の化生に触れた者は、まるで刀に斬られたように傷が生まれたのだった。
 そして背中を見せる愚か者に、鬼の鉄槌が止めを刺した。
 殺す。まだ殺す。
 花盛の赤い瞳に、命乞いをしひざまずく海賊が見えた。
 ゆっくりと近づき、両肩に手をやる。
 許された。男はそう思った。
 だが外道の身体は次の瞬間、真っ二つに引き裂かれ、花盛の身体を紅く染めることに成功した。
 殺す。必ず殺す。
 広場に殺戮の鬼が一匹、凌辱の限りをつくす。

 花盛が正気に返ったとき、生きているのは自分と娘達のみとなった。
 もう大丈夫。
 そう手を差し伸べようとした花盛であったが、娘達は後ずさった。
「こ、こないで……」
 その言葉に花盛はハッとした。
 外道たちの返り血で染まった自分は、真っ赤に染まっていた。
 その姿に娘達は怯えているのだ。
 うつむき、衣服を羽織る花盛。
 娘達を見ないように、背中越しに語りかける。
「仲間が貴女達を助けにくる。歩けるなら……入口まで行くと良い」
 そう呟き、奥へと進む花盛。
 その目には、哀しげな感情が宿っていたのだった。

成功 🔵​🔵​🔴​

月舘・夜彦
【八藤夜】

目立たず忍び足で移動
……我々の背丈ばかりは変えようがないですからね
見つかってしまったのならば戦うしかありません

視力による目視、聞き耳による戦闘音・声に警戒
加え第六感による気配の察知で敵の位置を把握
八刀丸殿、トーコ殿にも情報を共有

敵へはダッシュにより接近、先制攻撃
敵からの攻撃は残像・見切りより回避しカウンター
捕まっている女性を見つけたら保護を最優先
人質に取られる可能性もある為、敵の動きに警戒
抜刀術『神風』にて早業・2回攻撃
見えない斬撃ならば牽制出来る
この隙を活用、一気に攻め込みます

敵が女性を狙う場合はかばい、攻撃を受け激痛耐性にて耐える

彼女達の、この状況は余りにも度し難い
……御覚悟を


百地・八刀丸
【八藤夜】

中々に入り組んでおる。が……頭を使わねば活かし切れまい
さもなくば侵入者を潜ませる隙を与えるだけとなろう
地形を逆に利用し、暗視や聞き耳にて探りを入れつつ忍び行こうぞ
……確かに身形としては不向きではあるがのう

奴等に見付かりそうな場合は先んじて口を封じようぞ
刀の柄で喉を突き、眠って貰おう

ぬ、この声は……なるほど。このまま潜めば確かにやり過ごせよう
だがなァ、夜彦殿。同じ気持ちであると相存ずる
藤子殿は聞くまでもなかろうよ
一の二の三で広場に突撃、その後に散開
三手に分かれて奇襲をかけ、娘達を一箇所に集めるぞ

命こそ奪わぬが、我が脇の小太刀二刀を以てその悪行に引導を
お主等の腕一本、娘の涙に捧げよ外道!


鵠石・藤子
【八藤夜】

視力と第六感で索敵
追跡、地形の利用にて隠れて潜入を
…お二人、あまり隠れるに向いていませんね?
藤子さん風に言うなれば
図体がでかいヤツが居ると目立ってしゃあねえ、です

まあ、隠れ過ぎる必要も無いでしょう
どの道非道を見過ごす人間も居ないのでしょうから

そちらの娘さんも良い物かとは存じますが
宜しければ、わたしのお相手を頂けませんか

合わせて先制攻撃、誘惑からだまし討ちを狙います

嗚呼、藤子さんにはあまり、汚い物を見て欲しくないのですけれど
――オレの刀の錆になりてーってヤツも居るだろ?

女は守る、手をつなぎ、救助活動を怠らず

ハ、男を上げるじゃねーか夜彦!
介抱が必要なら後で聞いてやるぜ
勿論、ジジイもなッ?



「がっ……」
 喉を潰され、見張りは叫ぶこともできずに気絶した。
 その身を樽へと放り込み、百地は蓋をした。
 傍には月舘と鵠石が辺りを警戒している。
 洞窟内は入り組んでおり、土地勘がない自分たちが自由に行動できるとは言い難かった。
 ならばと、隠密を駆使して先へ進もうとするのだが、いかんせん地形を利用しようとしても、三人分の死角を作り出すことは難しい。
 ところどころ強引に進み、奥へと三人は目指していたのだった。
 通路の松明の灯りから影が出ないようにと、音を立てずにしずしずと歩きながら、トーコは毒づいた。
「…お二人、あまり隠れるに向いていませんね?」
 所々にある樽や木枠など、隠れる場所はある。
 しかし月舘と百地はいかんせん、体格がよろしいのだ。
 剣士としては偉丈夫だが、隠形を駆使するのには不適。
 大は小を兼ねるのは、時と場合によるのである。
「……確かに身形としては不向きではあるがのう」
 戦士としての勘は、海賊なんぞよりずっと研ぎ澄まされてはいる。
 出会いがしらの衝突は、鵠石が動くより速く対応していた。
「……我々の背丈ばかりは変えようがないですからね」
 後ろを警戒し、耳をそばだてながら月舘が呟く。
 正直、こういうのよりは刀を抜いたほうが動きやすい。
 いるかいないか分からない相手を警戒するより、殺陣のほうがまだ疲れないのかもしれない。
「まあ、隠れ過ぎる必要も無いでしょう、どの道非道を見過ごす人間も居ないのでしょうから」
 事実、隠れるほどでもないと判断した時は、堂々と姿を現して見張りを無力化もした。
 奇襲であればこの三人の健脚に勝る者はそうそういないであろう。
 警戒すべきは、仲間を呼ばれ挟み撃ちにされること。
 武はこちらにあるが、地の利はあちらにあるのだ。
 そろりそろりと通路を進んでいくと、また分かれ道に出会った。
 どちらにいくか。
 月舘が一方を指した。
「あちらから声が」
「ふむ、ならば逆か」
「いえ、男と女性の声が」
 口をつぐんで二人を見つめる月舘。
 男、おそらく海賊だろう。
 そしてこんな場所に好き好んでくる物好きな女性など居りはしない。
 おそらくは、攫われた娘である可能性が高い。
 どうするか。
「腹はきまっておるのであろう?」
 百地が白い歯をみせる。
 鵠石も仕方がないですね、といった表情を浮かべる。
 仲間の顔に月舘は頷き、三人は音のする方へとむかった。
 音のする方向へと進むにつれて、だんだんと灯りが見えてくる。
 どうやら先は広場のようだった。
 広場から漏れ出す明かりの影に隠れながら、猟兵たちは様子を伺う。
 それは良識ある者なら、目をひそめる行状であった。
 おそらくは奪った物資であろう。
 酒を浴び肉を食らう海賊たち。
 腹が膨れたのか、色を満たそうと娘に手を出す者もいる。
 娘達は裸にされ、海賊たちの哄笑の的となっていた。
「おら、もっと嬉しそうに踊れよ!」
「売り飛ばさずに飯をくわせてやってんだ、ありがたく思いな!」
 げはははははは!
 げはははははは!
 三人は潜みながら、一同顔をあわせ頷いた。
 どうやら皆おなじ気持のようだ。
 ここを引き返して先を急ぐのは、猟兵の名折れというもの。
 第一、己の気が済まない。
 それでは、と鵠石がトントンと己の口元を指で叩く。
 まずは自分が、ということなのであろう。
 月舘と百地は刀を構え、踏み込む時をはかるのであった。

 海賊が入り口から来る一人の美人に気が付いた。
 上玉だ、しかし見たことは無い。
 新顔か。
 手には何も持たず、微笑みを崩さずこちらへとやってくる。
 ヒュウと口笛を吹き、下卑た笑いを浮かべながら、海賊の一人が誘蛾灯に誘われるがごとくその美人、鵠石へと近づいていく。
「よう、姉ちゃん。見ねえ顔だな」
 酒臭い息を吐き出しながら、馴れ馴れしく腕を肩に回そうとする。
 嫌な顔すら浮かべず、鵠石はしなだれかかって身体を密着させる。
 甘い香りと柔らかさ。
 それが酒気を帯びた海賊の脳に、疑問を抱かせることを忘れさせた。
「娘さんも良い物かとは存じますが、宜しければ、わたしのお相手を頂けませんか」
 人差し指で海賊の胸を撫でながら、首に這わせて顎へと動かす。
 その蠱惑に、海賊はいとも簡単に承知する。
「いいぜいいぜ、アンタとやれるなら大歓迎さ!」
 げはははははは!
 海賊にニコリと笑みを返す鵠石。
 入り口の虚空より剣が投げられ、その鞘を抜いた。
 素早い一撃に海賊は対処出来る間も無く、臓腑をえぐられたのだった。
「じゃあ、やろうぜテメーら……オレとよぉ!」
 しなだれかかると同じ笑み、だが居並ぶ海賊たちはその笑みが別人の者に見えた。
 一人の海賊が倒れた。
 それを合図とばかりに、入り口の暗闇から二人の剣士が雷光のように姿を現し、広場へと躍り出たのであった。
 前に立つ藤子を目印に、月舘と百地が左右に散開する。
 そして当たるを幸いとばかりに、己が武器を奮うのだった。
「娘さん! わしらの来た道より逃げよ!」
「助けに来ました。そして……御覚悟を」
 娘達が凶刃の禍を受けぬようにと、あえて敵陣へと突っ走る二人。
 二刀を奮う百地が、まず目の前の外道の片腕を吹き飛ばした。
「ぎゃああーーーーっ!」
「お主等の腕一本、娘の涙に捧げよ外道!」
 挑発するように、声高々にはりあげる百地。
 仲間をやられた怒りで、周りの海賊たちが群がってくる。
「やろう、ぶっ殺してやる!」
「おう、かかってこい! その悪行に引導を渡してやろう!」
 二つの刃がきらめく度に、海賊たちが朱に染まっていくのだった。
 一方の月舘も海賊たちと対峙していた。
 一足飛びに一人斬り伏せたが、自分を中心にして取り囲まれてしまう。
 しかし慌てず、月舘が刀を抜くと海賊たちの武器を叩き落とす。
 手当たり次第に斬ってしまっては、娘達にも危害を与える可能性がある。
 だから彼は海賊たちの囲みの隙間から、己の位置取りをはかっていたのだった。
 背後から海賊が斬りつけてくる。
「死にやがれ!」
 唸りをあげる斧。月舘が袈裟斬りにされる。
 しかしそれは残像。
 斬ったと思った賊は、逆に斬られて屍を晒す。
 逆撃であれば、娘を誤って斬ることもない。
 猟兵たちと海賊たちの死闘に、絹を裂くような悲鳴が割って入った。
「てめえら! こいつの命を助けたかったら武器を離しやがれ!」
 形成が不利と見た海賊が、娘を人質に取ったのだった。
 匕首が娘の首元へと突きつけられている。
 怯える娘の救助に、いち早く月舘の身体が動いた。
「テメエ!」
 逆上した男が刃を突き刺そうとした。
 だが刺したのは娘の肌ではなく、月舘の二の腕であった。
 咄嗟に跳びかかった月舘の拳が、海賊の顎を叩き飛ばした。
 崩れ落ちる海賊を蹴りで押しのけ、月舘は刺さった匕首を抜き捨て娘を気遣った。
「大丈夫ですか!」
 その腕からは血が流れている。
 娘はその傷を見つめながら、コクコクと頷いたのだった。
「ぐ……」
 刀では危ういと、拳を使ったのは少しまずかったようだ。
 片手で操る月舘の刀の冴えは、最初の面影よりは劣っていた。
「無茶をするのう」
 もちろん、黙って見ている仲間ではない。
 百地が不覚を負った彼に代わろうと、倍の動きで外道たちを斬り伏せようとしていた。
「ハ、男を上げるじゃねーか夜彦!」
 藤子が月舘が助けた娘の腕を引っ張り、入り口近くへと促す。
 せまる海賊たちをけん制しながら、娘達に近づくのをけん制していた。
「介抱が必要なら後で聞いてやるぜ。勿論、ジジイもなッ?」
 生き生きと外道を斬り伏せる藤子の声に、百地は返す。
「なんの、わしはまだまだよ。それより手柄を心配せえ」
 海賊の腕が吹き飛び、藤子の前へと落ちた。
 藤子はそれを蹴飛ばし、刀を百地に向ける。
「ジジイこそ女助けんの忘れんな! オレだけじゃねーの?」
 二人はどこかで見た光景のように、同じく罵りながら海賊たちを斬り伏せていく。
 月舘が藤子のフォローへとまわる。
 海賊たちの姿は少なくなったようだ。
 あとは娘達に危害が届かぬよう頑張ればいい。
 猟兵たちは、広場を制圧しつつあった。

 広場の海賊を一掃したあと、猟兵たちは衣服を探して娘達に着せた。
 あいにく女物は見つからず、海賊の物を適当に利用したのだが背に腹はかえられまい。
 月舘の手当てをする藤子。
 夜鷹を腕に止まらせていた百地が、二人に語りかける。
「お仲間が武装船の一つを制圧したらしい」
 式によって情報を伝えられた百地が話すに、武装船にも囚われの娘達がいたらしい。
 別働の猟兵たちがそれを解放したそうだった。
「ちょうどいい、帰りは娘さんを乗せてそれで帰還しよう」
「それがいいですね。対象が多いと護送も悩むところですし」
「良い案だけど、船の操舵できる奴いんのかよ?」
「なあに、それはおいおい考えればよかろうよ」
 話し合う三人に、近づいてくる娘が一人いた。
 それは先ほど、月舘がかばった人だ。
 娘は月舘の腕の傷を不安そうに眺めると、おずおずと尋ねる。
「もし、お侍さま。傷は大丈夫でしょうか」
 不安そうな表情。それを払拭するため月舘は己にできる精一杯の顔を作って答えた。
「ええ、大丈夫です。こういうのは馴れてますから」
 笑顔に幾分不安も取り除かれたのであろう。
 娘は陽を取り戻し、その両手で月舘の手を握りしめた。
「こんな言葉しか言えませんが、私達を助けてくれてありがとうございます。本当に……ありがとうございます」
 そういって涙をながし頭を下げたのだった。
 見れば、他の娘達にも涙をながす者がいる。深々と頭を下げる者もいる。
 やつれてはいるが、表情は明るい。
 もう海賊にされるがままではないと理解できるからであろう。
 しかし、悪の親玉はまだ残っている。
 猟兵たちは、事を済ませると更に奥へと歩を進めたのであった。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

レジーナ・ドミナトリクス
私は海賊の代わりに見張りをしましょう。
ただし、来る者ではなく去る者の、ですが。
もし今いる見張りの無力化に手が足りなければ、打擲モードのフォースセイバーで【気絶】させます。
そのまま洞窟の入り口で待機し、混乱を掻い潜って逃げ出そうとする海賊がいれば【咎力封じ】で捕縛します。

本来なら娘さん方を救いにいくべきなのでしょうが、これに関しては私も似たようなものですからね。
相手も状況も違うとはいえ、死亡を装うなどして小細工していた分、或いは私の方が性質が悪いかもしれません。
助ける資格がないとは思いませんが、義に厚い方々のほうが娘さんも安心でしょう。
その代わりではありませんが、ここからは鼠一匹逃がしませんよ。



 レジーナは一人、洞窟の入り口に立っていた。
 見張り役として、洞窟の奥から逃走してきた者たちを逃さないためだ。
 すでに片手で余るくらい捕縛に成功しているが、まだまだ終わりそうには無さそうだ。
 波止場の武装船に、灯りが点いている。
 仲間達が助けた娘さん達が、あそこで一時退避している。
 あそこならしばしの間、海賊たちから目を逸らすことが出来るだろう。
 あとは依頼が解決したら、一緒に連れて帰ればいい。
 しかし、その前に発見されてしまっては少し厄介だ。
 捕縛した海賊の数は多い。
 徒党を組まれて再び娘さんたちが人質に取られるようでは、仲間たちにいらぬ徒労をかけてしまうだろう。
「本来なら娘さん方を救いにいくべきなのでしょうね」
 自嘲気味にレジーナは笑う。
 自分に? その資格が?
 まさか。
 自分にふさわしいのは罪人を罰するのみだ。
 仲間、ほかの猟兵がその手を差し伸べるにふさわしいだろう。
 レジーナはフォースセイバーを構えて呟く。
「また、来たようですね」
 洞窟内で反響する足音が、奥からここへと近づいてくる。
 あえて入り口前に立ち、己の姿を晒すレジーナ。
 洞窟から走ってきた一人の海賊が、その姿を見て急停止した。
「な、なんだテメエ! どきやがれ」
 自分にとって脅し文句にすらならない言葉を放つ彼に、レジーナは優しく警告した。
「大人しく投降なさい、命までは取りません」
 わざとフォースセイバーから音を鳴らし、威嚇する。
 しかし、その優しさは彼には届かなかったようだ。
「うるせえ! どきやがれ!」
 入り口を塞ぐようにレジーナが立っている。
 海賊は突き飛ばそうと、走りながらやってくる。
「仕方ありませんね」
 レジーナは嘆息して、彼を迎え撃つことに決めた。
 後ろに引いてから、大振りに横に薙ぐ。
 予備動作が大きいその攻撃は、海賊にかわされてしまう。
 だが、後ろに下がってよけたはずの海賊はバランスを崩して倒れてしまう。
「なんだぁ!?」
 レジーナが武器に視線を集中させて、相手の足元に拘束ロープを放ったのだ。
 そのワイヤートラップに引っかかり、したたかに身体を打ち付ける海賊。
 ダウンした相手に立ちあがらせる隙を与える間もなく、レジーナの攻撃が彼を昏倒させた。
 後ろ手に手枷を嵌め猿轡を咬ませ、拘束ロープで四肢を縛る。
 他の仲間に枕を並べるように海賊を転がす。
「鼠一匹逃がしませんよ」
 鼠というものは一匹見たら何匹いると思え、だったろうか。
 きっと仲間たちはそれ以上のドブネズミを相手しているに違いない。
 一匹の鷹が、レジーナのまわりを旋回した。
「そろそろですかね」
 あらかた脱走者も捕えたところだ。
 目的を果たそうと、レジーナは入口から移動を開始したのである。

成功 🔵​🔵​🔴​




第3章 ボス戦 『右衛門炉蘭』

POW   :    肉の盾だぁ、絶景だよなぁ?
戦闘力のない【攫ってきた女性達を打ち付けた盾】を召喚する。自身が活躍や苦戦をする度、【八つ当たりに痛めつける事】によって武器や防具がパワーアップする。
SPD   :    三十六計逃げるにしかず、命あっての物種だぁねぇ
自身が装備する【煙管より吐き出し足る煙】を変形させ騎乗する事で、自身の移動速度と戦闘力を増強する。
WIZ   :    俺を逃がせよぉ。出ないと死ぬぞぉ、村人がよぉ。
見えない【範囲にある村まで及ぶ毒霧を吐く巨蛇】を放ち、遠距離の対象を攻撃する。遠隔地の物を掴んで動かしたり、精密に操作する事も可能。
👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

種別『ボス戦』のルール
 記載された敵が「1体」出現します。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※このボスの宿敵主は花盛・乙女です。ボスは殺してもシナリオ終了後に蘇る可能性がありますが、宿敵主がボス戦に参加したかつシナリオが成功すると、とどめを刺す事ができます。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


※リプレイは6/28 9:00以降に提出してくださるようお願いします。
※導入文章を26日に挿入予定です。
 奥へと、上層へと進むうちに様相が変わってきた。
 むき出しの洞窟ではなく、木の板や屏風などが敷かれていくようになっていた。
 下層よりは調度を整えている。松明もわざわざ行燈に替えている。
 左右の別れには隠れ屏風で塞がっており、個室のつもりなのだろうか、御座の上に畳が敷かれ、それなりの家具が揃えてある。
 客人を招いた時用の部屋なのだろうか。
 猟兵たちは辺りを伺いながら進む。
 すると奥の方から話し声が聞こえてくる。
 息を潜め、足を忍ばせながら進む猟兵たち。
 声はだんだんと大きくなり、様子を伺いしれることができた。
 どうやら声の主は二人。
 商人風情と、敵の親玉らしかった。

「いやあ、今回も楽しませていただきました」
 商人の厭らしい声、そしてそれに追従する声。
「楽しんでもらえてなによりです。なにせ上客ですので」
 綺麗な声。
 盗み聞きをしている猟兵たちは、声の主にそう感じた。
 おそらく海賊の親玉なのだろうが、声には澄んだ感じがする。
 人を惹きつける、何かを感じた。
 だが何故だろうか。その声には厭らしさがまとわりついている。
「いやはや、しかしいけませんなぁ。味見するつもりがついつい興がのってしまいました」
「いえいえ、こちらは受け取る物を貰えば客には何も言いませんぜ」
 悪意ある笑い声が二つ。
「さすがは炉蘭殿、一団を率いるお方だけはある。こんなことはこういう所でしか味わえませんからなぁ。ささ、これを納め下さいませ」
「すまないねえ。俺はこの甘い山吹色が大好きでねぇ」
 げはははははは!
 げへへへへへヘ!
 もういいだろう。
 どうやら敵の大将はここにいることに間違いなさそうだ。
 猟兵たちは意を決して踏み込んだ。

 部屋には二人の男がいた。
 身なりの良い中年男性。おそらく人買いに来た商人であろう。
 もう一人、女衒風情の優男が奥に座っていた。
 そして猟兵たちは、二つの死体を敷かれていた布団の上で見とがめることとなる。
 手を縛られ拘束されている二人の裸身女性。
 おそらく姉妹なのだろう。
 両方とも下半身から血を流し既にこと切れていた。
 姉の方は首に縄をかけられ、締められた跡がある。
 妹の方は上半身に蝋を垂らされたのだろうか、火傷のあとがあった。
 遺体の涙には血が混じってすでに乾き、眼は虚空を見ながら見開いてた。
 興がのった。
 なるほど、反吐がでる。
「な、何者!」
 狼狽える商人とは裏腹に、炉蘭と呼ばれた男は口の端にへばりついた笑みを崩さずに、朗々と語る。
「これはこれはお客様だねぇ。あいにくご予約が入っておりませんので、またの機会にしてくれませんかねぇ。
 げへ、げへ、げへへへへへ。
 厭らしい笑い。
 すかさず炉蘭はそばにあった行燈を叩き落とした。
 油が飛び、火が畳に燃え広がった。
「た、たすけてぇええ……」
 火は商人の服にも燃え移り、火達磨と化す。
 苦しみもがくうちに、あちこちに燃え移り部屋は炎に包まれた。
 その隙に壁の掛軸をめくりあげる炉蘭。
 そこには抜け道の隠し通路があった。
 一目散に飛び込む炉蘭。通路から奴の声が響く。
「おってこいよぉ、正義の味方さんよぉ! せっかくここまで来たんだろぉ? 顔真っ赤にして追ってこいよぉ!」
 げへ、げへ、げへへへへへ!
 げっへげっへ!

 海賊の親玉、オブリビオン『右衛門炉蘭』は、あろうことか猟兵たちから脱兎のごとく逃げ出したのであった。

※右衛門炉蘭はまともに戦う気はなく、逃走を優先します。
※ユーベルコードを使用し、逃走を成功させようとします。
※詳細については上記を参考にしてください。
※退路を断つと猟兵に攻撃を仕掛け突破しようとします。
神羅・アマミ
上階に調度品を運び込むだけでも手間じゃろうに、何の躊躇もなく燃しおったぞあやつ。
どうやら浮世には余程愛着がないと見える。
なればとっとと躯の海へと突っ返してやるのが筋ってもんじゃろうな!

コード『結髪』を発動し、我先にと隠し通路へと飛び込むぞ。
ここまで来た道同様、抜け道も相当に人の手が入っておることは想像に難くない。
ならば妾がすべきは奴の首級を挙げることそのものではなく、後続の猟兵たちの活路を開くことにあり!
即ち罠があれば可能な限りかかり、それらをブラストにて尽く破壊しちゃる!
なんたって妾、盾キャラじゃしな!

高機動力の特性を活かし、いっそ炉蘭を追い越してなおも先を行くぐらいの意気込みで臨む。


春乃・菊生
アドリブ等々、歓迎する。

[WIZ]
下衆め。

…我は直接追うには向かぬ。
皆の補佐に回ろう。

秘術ノ肆で(可能な限りの)夜鷹の霊を召喚。
数羽に女衒を追わせ、残りを自身や仲間につけて案内させる。


さて。
この手の下衆のことじゃ。
下手に追い立てるより、先回りして一気に叩くが良かろう。
前章で多少は洞窟内の情報を得ておろう。
それを活用せぬ手はないの。

基本的に我自身は案内役として専念し、攻撃は単騎での武に優れる者らに任せる。
しかし追い込みや足止めに必要であれば、我自身も奴の前に姿を曝そう。
その際は油断を誘うために武器を帯びず、無手で出会い、
此方からは仕掛けず、【破魔】の力宿した当身【カウンター】を狙おう。


百地・八刀丸
【八藤夜】

なるほど、逃げ遂せると思うたか
そうは行くかよ。これ以上、外道が世にのさばることは許せぬわ

しかし真っ直ぐに追いかけて追いつくか……?
ええい、兎にも角にも追うしかないか

藤子殿、夜彦殿、ワシは愚直に行かせて貰う
判断はその場で取るとしよう

何と、娘を盾に……!
何たる非道、しかし確かに効果は覿面よ
ならば盾を飛び越えて奴を攻撃する……フリをする
ぎりぎりの高さであろうが、壁を蹴って調節すれば存外いけるモノよ
地形を利用したフェイントに空中戦、間合いを見切れば……!
どうよ、こちらを向けィ!

今じゃ、夜彦殿、盾を!
藤子殿、そのまま奴を頼もうッ!

さて、ワシも追い駆けるとするか、外道の命諸共、憂いを絶たねばな!


月舘・夜彦
【八藤夜】

夜叉を発動
煙を使っての逃走は騎乗が出来る藤子殿に
此方もダッシュにて後を追います

女性達を盾にした時には八刀丸殿と連携
彼が盾を上に上げる、または少しでも位置をずらす
その隙に視力・見切りより盾に付いた女性達の隙間
または取っ手・固定部分を狙い、盾の破壊を狙う

無抵抗な者を盾にすれば戸惑うと、攻撃出来ずに怯むであろうと
此の斬撃も誤れば彼女達は無傷では済まぬ
だが、やってみせよう
……我々は、お前のその予想の先を往く

正義、少なくとも私には無い
私が抱くのはお前達の愚行に対する嫌悪
此処に辿り着くまでに見た、蹂躙され続けた者達の姿から伝わる
……怒りと悲しみと、憎悪


鵠石・藤子
【八藤夜】

地形の利用、騎乗、運転、追跡で敵を追う

煙が不定形なら、足は狙わねぇ
直に本体を叩きゃいい…
つまり追いつきゃいいって事だ!

妖剣解放、衝撃波で足止めや攻撃をし、
高速移動で間合いから前まで回り込む

夜彦、八刀丸と連携
2人が作った隙を見切り
宇宙バイクを駆ける
もし狭けりゃジジイに負けず壁でも走りゃいいからな
兎に角奴より前方へ
ハ、ジジイはオレに指示すんじゃあねえ、行くぜトーコ!

要所はバイクが得意なトーコ
――嗚呼残念です…わたしも一太刀お見舞いしたい所ですが
貴方は藤子さんが殺りたいって

オレも正義を気取る気はねぇが
宴はまだ終わって無いんじゃねぇのか?
食い散らかした分は、きっちり落とし前つけて貰わねえとな


レジーナ・ドミナトリクス
まさか逃げの一手とは予想外でした……!
裏口の有無くらいは調査しておくべきでしたか……。
とまれ今さら言っても仕方ありません、先回りの手段もないですし急いで追いましょう。

まずは彼我の距離を縮めるために【サイコキネシス】で足止めをします。
直接動きを封じるか、前方の障害物を利用するか、状況に合わせましょう。

敵に追いつけたら、フォースセイバーで攻撃します。
人質を盾にされたら斬る動作はそのままに、人質に当たる間だけ光刃を消して振り抜きます。
盾に打ち付けているのでしたら人質自体は見えにくいはず。
斬ったと思い込んで、人質は無駄だと一時でも判断を誤れば、その隙を突いた二の太刀で敵の足を狙います。


ルパート・ブラックスミス
【花盛乙女殿(f00399)と連携】

敵を追撃する前に花盛殿を【鼓舞】。

その憎悪を自分は否定しない。
だがそれに振り回され呑まれてどうする。貴殿が振るうべきは、進んできた道は何か。
業と因縁を断ち切るべきは一時の激情ではなく、今日まで重ねた誇りと研鑽。そうだろう花盛殿?

青く燃える鉛の翼展開。【空中戦】で追撃。
UC【命を虚ろにせし亡撃】の載せた短剣三本を【投擲】。
軌道を動かせる【誘導弾】だ、防御も回避も摺り抜け確実に当てる。
敵の自由を封じだら隙かさず【グラップル】、人質がいるなら【救助活動】、同時に敵を花盛殿の方へ蹴りつけ【吹き飛ばし】。

地獄の幕引き、任せるぞ。
剣士花盛乙女。

【アドリブ歓迎】


花盛・乙女
【ルパート殿(f10937)と連携】

忌々しい。虫唾が走る。
死しても重ねる悪徳。
羅刹の風上にもおけぬ醜態。
疾く殺す。殺す!殺す!!

猛る心にルパート殿の言葉が染み入る。
先ほどもそうだ。
激情に任せ殺戮を撒くはただの鬼。
私は花盛乙女、剣士だ。

ありがとう、ルパート殿。もう大丈夫だ。

冷静さを取り戻せば剣士として、人命優先で追う。
悪辣な盾は女性を傷付けぬよう砕く(「かばう」「鎧砕き」)
彼奴と相対すれば、怜悧な剣士として立つ。

刀に力を篭める。
今日、貴様と初めて会い、言葉を交わす。
分かる。この身の血潮の半分が疼く。
自害する折もこんな気分だろうか。
無節操にばら撒いた種に殺される愚かさ。
骸の海で悔いるがいい。



「貴様ぁっ!」
 激昂した花盛が刀を投げつける。が、それは逸れて掛軸の上に突き刺さった。
「見つけたぞ右衛門炉蘭! 我が仇、とうとう決着をつける時がきた!」
 女羅刹の目は、火がついた部屋にも勝るとも劣らぬほど怒りに燃えていた。
 そのまま火を駆け抜け、刀を引き抜いて穴へと飛び込む。
「おっと、先駆けは妾に任せてほしいのう」
 神羅が続けて抜け道へと。
 和傘から装置が展開され、籠手と鉄靴を形成した。
 それを装着した神羅は地から浮き上がり、弾丸のように追いかけていくのだった。
「裏口の有無くらいは調査しておくべきでしたか……」
 レジーナの顔が曇る。
 彼女もフォースセイバーを構えて遅れぬようにと続いた。
「逃げ遂せると思うたか、そうは行くかよ」
「ええ、もちろんです。決着をつけにいきましょう」
 月舘の身体は鬼と化していた。
 それはここに来るまで見てきた惨状への怒りによるものか。
 それとも、行われてきた悲劇による悲しみによるものか。
 百地はそんな彼と肩を並べて敵を討とうと追いかける。
「やれやれお熱いことで。まあ、嫌いじゃないですけどね」
 トーコは抜け穴を見つめた。二人が並んで入れる道だ。
 これならどうにかなるかもしれない。
 宇宙バイクに跨り、穴へと駆ける。
 これくらいの広さなら、バイクでいけそうだ。
 アクセルをふかし、鵠石も追いかけるのだった。
「貴殿は?」
 自分も続こうとするルパートは後ろを振り返り、春乃に尋ねた。
「…我は直接追うには向かぬ」
 夜鷹の霊を召喚しそれを穴へと、己は踵を返して部屋から出ようとする。
「下手に追うては奴の壺、我は周囲を見張り警戒にあたろう。あの先が何処へ続くにせよ、洞窟付近なのは違いなかろう」
「心得た」
 ルパートが炎の羽根を生やして、仲間の後を追う。
 春乃は一人、洞窟の外で警戒にあたるのだった。
「幸い来た道、要所に見張りをつけるに子細なし」
 洞窟の辻、あるいは吹き抜け穴から外へと春乃は鷹を次々と飛ばす。
 敵を追うのは仲間に任せた。自分は代わりに目となろう。
「この砦から、ネズミ一匹逃がしはせぬ」
 春乃は全神経を集中させ、辺りの様子を観察するのであった。

「殺す! 殺す! 殺す!!」
 花盛は怒りに身を震わせながら宿敵を追いかけていた。
 ようやく出会えた敵、そしてこの砦で見た惨状。
 それらの感情がごちゃまぜとなって、花盛の身をさい悩ませる。
 抜け道は逃走用として造られ、あまり整備はされてなかった。
 所々角張っていたり起伏があったり。
 普段の彼女であれば、なんなく歩を走らせることが出来ていただろう。
 だが、焦燥感にかられた花盛の体術は重く、仲間達からだんだんと遅れをとってしまう。
 先へと逃げる敵、そして追いかける仲間達。
 それに追いすがる今の自分に、ますます焦りが深くなっていく。
 そんな花盛の後ろから、ルパートが羽根を羽ばたかせながらやってくる。
「貴殿、如何した。こういうのも何だが……様子がおかしいぞ」
 追いかける前の花盛の姿が思い出される。
 どうやら何かしらの因縁があるようだった。
「あいつはな……私の仇だ! ようやく見つけたのだ! この手で屠ってやらぬと気が済まぬ!」
 声を荒げながら走る花盛。しかし焦った彼女はつまずき転んでしまう。
 舌打ちして悔しがる花盛、その姿は精彩を欠いていた。
「そうか」
 手を差し伸べ起こそうとするルパート。
 その手を握り立ちあがった花盛に対し、彼は諭した。
「その憎悪を自分は否定しない。だがそれに振り回され呑まれてどうする。貴殿が振るうべきは、進んできた道は何か。」
「貴様に……」
 なにがわかる、と花盛は言いたかった。
 だが、胸中に大部屋での出来事が去来する。
 感情のままに殺し尽くしたあとの、娘達の怯えた表情。
 その目が花盛の心を射ぬき黙らせる。
「業と因縁を断ち切るべきは一時の激情ではなく、今日まで重ねた誇りと研鑽。そうだろう花盛殿? 我らは猟兵、オブリビオンを討たんとする者共。己の欲しいままに動く彼奴等とは違う。そして自分は騎士であり、貴殿は剣士である。刀剣を曇らせるのが我らの生き様か?」
 娘達の姿にルパートの声が響き、花盛の身にへとしみわたった。
 押し黙る花盛。
 だが、その目はもう怒りに濁ってはいなかった。
 剣士としての誇りが光っていた。
「ありがとう、ルパート殿。もう大丈夫だ」
 優しく手を握り、握手を交わす二人。
「では行こうか。娘達が二度とこのようなことに遇わぬように、この地獄に終止符を打とう。
「無論だ」
 復讐ではなく、娘達を気遣う言葉。
 冷静を取り戻したと感じたルパートは花盛を抱え、羽をおおきくはためかせた。

 一方、神羅とレジーナは右衛門炉蘭と対峙していた。
 神羅の神速は敵を追い抜き、その先へと。
「あそこにあったのは中々の値打ちと見たぞ。それを燃やすとはお主、正気か? まあオブリビオンに興を解せる頭があるとは思えんがな」
 籠手と具足が唸りをあげる。闘技者のごとく神羅はかまえ、己を盾とし立ちふさがろうとした。
 炉蘭の後ろから、レジーナが追いすがる。
「逃げの一手とは予想外でしたが……これまでですね」
 同じくフォースセイバーから唸りをあげ、レジーナも身構える。
 彼女もただ追ってきたのではない。
 サイコキネシスによって敵の動きを阻害し、走行をはばんでいたのだった。
 敵の身体を完全に止めることはできなかったが、こうやって追いつくことは可能だ。
 二人を交互にみつめ、炉蘭が叫ぶ。
「たった1人によってたかっていい趣味だねぇ! こいよぉ!」
 炉蘭の声にあわせ、オブリビオンに円陣を組む様に木板があらわれる。
 神羅とレジーナは眉をひそめた。
 その板には女性たちがうちつけられ、手足から血を流していたからだ。
「肉の盾だぁ、絶景だよなぁ?」
 げっへげっへ!
 厭らしい笑い。
 その笑いを打ち消さんとレジーナは武器を振り上げた。
 だだ、それを振り下ろせば木板に防がれる。
 人質もろとも斬りつける気か。

 フォンッ

 そうではなかった。
 振り下ろす刹那、レジーナはエネルギーを斬り、刀身を消したのだった。
 そして盾を通過した頃を見計らって、再び出力させる。
 このフェイントは功をそうした。
 自らが出現させた盾が目くらましとなり、レジーナの攻撃をかわすことが炉蘭には困難となっていたからだ。
 片脚首を切り落とされ、炉蘭が哄笑ではない叫び声をあげる。
「ぎゃああああーーーーっ」
 怒りに燃える炉蘭。抜き身の刀を取り出して激昂する。
「女風情が! 粋がりやがって!」
 八つ当たり気味に盾の女性に斬りつけようとした、その凶刃を神羅が飛び込んで籠手で防ぐ。
「おっと、妾を忘れて貰っては困るぞ。妾、盾キャラじゃしな!」
 徒手に攻撃の手を緩めず、オブリビオンに襲い掛かる神羅。
 それは女性たちが襲われることを防ぐことになる。
 レジーナもサイコキネシスによって盾を敵から引きはがし、攻撃に参加する。
 一体二の劣勢に足を負傷した炉蘭が対処することは難しい。
 見苦しく必死に避けながら、からくも煙管を口に含むことに成功する。
 大きく息を吐くと、その煙はまるで筋斗雲のように炉蘭の足元へと。
 そして煙の端々は触手のように動き、主の身を守ろうとするのだった。
 げへ、げへ、げへへへへへ!
「売女につきあってられっかよぉ!」
 筋斗雲は凄まじい加速でその場から離れ、洞窟の奥へと。
「待たんか!」
 神羅が大きく身をかがめ、バネのように跳ぶ。
 地をかけ壁を蹴って、天井を走りながら敵の後を追いかける。
 レジーナに彼女のような脚は無い。
「とはいえ、追いかけないといけませんね」
 そんな彼女を宇宙バイクが抜き去った。轟音をあげ、敵へと追いすがっていく。
 あの速さならば追いつけるかもしれない。
 ならば。
 レジーナは辺りを見わたす。
 そこに残ったのは召喚された人間盾たち。
「このまま捨て置くにしても不憫ですね」
 自分には彼女たちを助ける資格はない。
 そう思っていたレジーナであったが、目の前にあってはさすがに見過ごせず、救助を試みる。
 そして、そんな彼女の元へ後続の猟兵たちが追いつき、一緒に介抱するのであった。

 オブリビオンが駆る筋斗雲の速度は、まるで洞窟内をジェットコースターのように走り抜けていく。
「待て待て待て待てーーーーーッ!」
 そしてその後方から、それに劣らぬ速さで神羅が駆けてくる。
 振り返り、その姿を確認する炉蘭。
 距離を離して余裕が出たのか、敵の顔に下卑た笑みが甦った。
「はっ、熱情的な女は閨だけにしてほしいねぇ」
 炉蘭が煙管を咥え、大きく息を吐き出すとそれは短剣となって神羅へと襲いかかった。
 それを籠手で防ぎ、神羅はなおも追いすがる。
 腕をかかげて突き出し、熱線を放つ神羅。
 それは炉蘭と雲を目がけて放たれていく。
 雲に穴が穿たれ、そこから焼け焦がれた臭いがのぼる。
「どうよ! 足だけではないのじゃぞ!」
 敵を追いつめようとする神羅。
 そんな彼女に再び短剣の数々が放たれる。
「馬鹿の一つ覚えじゃの!」
 熱線が矢継ぎ早に短剣を打ち落とし蒸発させる。
 勝ち誇る神羅。その身体がくの字に折れ曲がった。
「がっ、なんじゃ!?」
 肺のなかの空気を吐き出しながら、神羅は地に叩きつけられてしまった。
 その身体に、線のような痕が残っていた。
 敵は短剣を放つと同時に、壁の左右にむかって細い煙の糸を放っていた。
 それは、ワイヤートラップのように神羅を引っかけ、叩き落としたのだった。
「お子さまにはちぃと、わかりづらかったかな?」
 げへ、げへ、げへへへへへ!
 げっへげっへ!
 失速した神羅からどんどん離れていくオブリビオンの哄笑。
 再び駆ける神羅であったが、追いつける速度には未だ上がっていない。
 そして轟音を上げて、トップスピードになった宇宙バイクが、一瞬にして神羅を追い抜き、敵を追いかけていったのだった。

 神羅をまいて逃走を続けるオブリビオン。
 その先に終着点が見える。
 筋斗雲が穴を抜けると、そこは砂浜だった。
 抜け道は海岸沿いへと続いていたのだった。
 林のなかで炉蘭はほくそ笑んだ。
 このまま穴から遠ざかれば、奴らはどこへ逃げたか見失うはずだ。
 速度を緩め、木々にあたらぬよう雲を操る炉蘭。
 ぎゃあぎゃあと鳥の鳴く声が木々の中から聞こえている。
「へっ、今夜は鳥が鳴きやがる。オレ様にびびってやがんのかねぇ」
 げへ、げへ、げへへへへへ!
 げっへげっへ!
 厭らしい笑い。
 だが、その哄笑は突撃してきた駆動音によって、中断される。
 振り向けばバイクを駆るトーコの姿。
 林を駆け抜け木々から木々へ、アクロバティックな動きで跳びあがり、体当たりを敢行する。
 逃げ切ったと油断していた敵は、それを食らい雲から振り落とされ、叩きつけられる。
「がはっ!」
 無様に砂浜へと叩きつけられたオブリビオンの姿に、トーコは大きくため息をついた。
「ようやく……たどり着けましたよ」
 抜け穴から出たトーコには、どの方向に逃げ去っていったか判断がつかなかった。
 だが砦、この付近一帯を飛びかう夜鷹の一群は、脱出した炉蘭を捕捉していた。
 それはもちろん、春乃の飛ばしていた鷹たちであった。
 同じく穴から出た味方に、敵の居場所を教えたのである。
 その案内もあり、フルスロットルで加速していたトーコのバイクは、減速していた炉蘭の雲へ追いつくことに成功したのであった。
「嗚呼残念です…わたしも一太刀お見舞いしたい所ですが、貴方は藤子さんが殺りたいって」
 すらりと、刀を抜くトーコ。
 その顔に翳が差し、それが消えると別人の貌となる。
 別人格藤子が現れ、バイクを駆りながら刀を抜き襲いかかるのだった。
「オレも正義を気取る気はねぇが、宴はまだ終わって無いんじゃねぇのか?」
 振り上げる刀を、大きな煙管で受け止める炉蘭。
 脚を負傷してはいるものの、膂力はまだ失われてはいなさそうだった。
「そうかい!」
 悪態をつきながら、藤子に打ちかかる。
 藤子はそれを受け止め逸らす。
「でけえ胸揺らして誘いやがって! ほんとはオレ様に犯されたくて一人やってきたんだろう!? 宴は終わってないってなぁ!」
 げっへげっへ! げっへげっへ!
 厭らしい哄笑。
 その安っぽい挑発に乗ること無く、藤子は殺意だけを増大させていく。
 黒柄からゆらゆらと陽炎のように黒い煙が立ち上っていく。
 それは藤子の周りにまとわりつき、彼女の身体能力を増大させていくのだった。
 トーコより操縦が劣る藤子は、こうなってはバイクの動きは余分となる。
 バイクから飛び出し、その手を柄にかけ、両手で刀を振り上げて敵にうちかかかっていくのだった。
 斬撃は唸りをあげて、躱した炉蘭の後ろにある木々を切り倒す。
 衝撃波の威力にオブリビオンは歪んだ笑みを崩そうとはしなかったが、藤子に積極的に攻撃しようとせず、牽制と回避にまわると決める。
 林のなかでの剣戟は、木々を抜けて砂浜へと。
 海岸が見えその遠くに砦が見える、波止場には武装船。
 そのなかに救出した娘たちが匿われていることは、敵は知り得てはいないだろうが、あそこまで逃げられると厄介だ。
 藤子の剣戟の速度があがる。
 それはオブリビオンの後退を抑え、そして仲間が追いつくに足る猛攻であった。
 百地、月舘、レジーナ、そして神羅。花盛とルパートも追いつき、敵の前に立つ。
「待たせたな藤子!」
「おせえぞジジイ! オレが先に貰っちまうぞ!」
 藤子に加勢しようと、猟兵たちはそれぞれの武器を抜き、炉蘭を取り囲む。
「次から次へと……よってたかって嬲り殺しかよぉ。正義の味方があきれるぜ」
 悪態をつく炉蘭。
 鬼と化した月舘が、その言葉に反論する。
「正義、少なくとも私には無い」
 刀をむけ憎しみの眼をむける。
「私が抱くのはお前達の愚行に対する嫌悪。此処に辿り着くまでに見た、蹂躙され続けた者達の姿から伝わる……怒りと悲しみと、憎悪」
「そうとも。これ以上、外道が世にのさばることは許せぬわ」
 百地も刀を抜き上段に構える。
 籠手を合い鳴らして、神羅が笑う。
「とっとと躯の海へと突っ返してやるのが筋ってもんじゃろうな」
 ええ、と頷きレジーナがフォースセイバーの出力を高める。
「もはや逃げられんぞ」
 鎧から炎を吹き出し、大剣を構えるルパート。
 そんな仲間たちの声に続けて、花盛はスラリと刀を抜いた。
「骸の海で悔いるがいい」
 円を組む様に、猟兵たちはオブリビオンを取り囲んだ。
 右衛門炉蘭の口の端がつりあがる。
 げへ、げへ、げへへへへへ。
 げっへげっへ。
 それは観念したのではなく、最後まで見苦しくあがく、外道の哄笑であった。

 ぶしゅうっ

 辺りに霧があらわれ、炉蘭と猟兵たちを包んだ。
「ごほっ、ごほっ」
「こ、これは?」
 それは毒の霧であった。
 それを吸い込んだ猟兵たちの身体が弛緩し、力が抜けていく。

 ぶしゅうっ ぶしゅうっ

 霧は濃さを増していき、辺りに漂う。
 猟兵たちの身体から更に力が抜けていき、立っていることもままならなくなる。
 げへ、げへ、げへへへへへ。
 げっへげっへ。
 炉蘭の哄笑が、濃霧のなかで響き渡る。
「貴様らもあいにく毒には負けるようだな。安心しなぁ、痺れるだけさ」
 策が通用し、醜く笑う炉蘭。
 この隙に乗じ逃げるつもりかと思われたが、敵は煙管を咥えて一服する。
「オレは動けなくなった奴をいたぶるのが大好きでねぇ。ここで鬱憤を晴らさせてもらうよ。
 ニタニタと笑い、レジーナに蹴りを入れる。
 力が抜けて身動きできないレジーナはまともに食らい、仰向けに倒れる。
「オレ様の足を斬りやがったのは、たしかテメエだったなぁ! お前がやったように、犯しながら切り刻んでやるよ! 感謝しな!」
 げっへげっへ!
 げへへへへへ!
「安心しなぁ、一人じゃ寂しいだろぉ? 他の奴らも犯してやるよぉ、ありがたく思いなぁ。野郎どもはそこで見ておくんだなぁ!」
 
 ババババババババッ
 
 再び人間盾が召喚される。
 それは重しとなって猟兵たちの身体にのしかかった。
 辺りから自分に向けられる怨嗟の眼。
 それを心地よさそうに受け止めながら、炉蘭はレジーナへと、わざとゆっくり歩いて近づいていく。
 げっへげっへ!
 げへへへへへ!
 猟兵たちはいまだ動くことが出来ずにいた。
 気力を奮い立たせようとするが、手足はいうことを聞いてくれそうにない。

 トスッ
 
 砂浜に、小さな音が刺さる。
 それは鷹であった。

 トスッ トストスッ

 小さな音。
 鷹の群れが次々と、砂浜へと舞い降りていくのだ。
 犯すことに目が向いている炉蘭と、身体が満足ではない猟兵たちは気づいてはいない。
 気づけば理解した事であろう、空より見下ろせば、鷹の群れが陣を結んでいたことに。
「破邪!」
 春乃の声が響いた。
 すると砂浜に印が光り、それは魔法陣となって閃光を発し、辺りを光に包んだのだった。
 目もくらむばかりの光景に、春乃の声が冴えわたる。
「皆の衆! あれじゃ、あれが毒煙の正体よ!」
 声の指す方をみれば、毒々しい大蛇が姿を現し、しゅうしゅうとくすぶった息を吐きながらのたうちまわっていた。
 口元からは、さきほどの霧と同じような煙を吐いている。
 さきほどの正体はこやつの仕業か。
 さきほどの光の効果か、痺れもやわらいできたような気がした。
「間に合ったようじゃな」
 春乃は猟兵たちにかけより、木板に手をかけて重しをのけようとする。
 仲間たちとは別行動をとっていた春乃は、そこらじゅうに鷹をとばし、自らをセンサーと化して砦周辺を伺っていた。
 それは大変に骨の折れる作業であったが、ここで逃すわけにはいかないと、春乃は神経を尖らせていた。
 その甲斐あって抜け道を出たオブリビオンを捉え、鵠石を案内することが出来、
 それを辿ってこの地にくることが出来たのだ。
 霧の中心地から離れていた春乃は、奇襲の毒霧をまともに浴びることは避けられた。
 そして仲間の窮地に、破邪の印を持って対応したのである。
「ごほっ」
 仲間を助けようとしていた春乃が咳き込む。
 無理もない。鷹と春乃は五感を共有している。
 一羽二羽ならまだしも仲間、付近一帯をカバーするほどに召喚すればどうなるか。
 精神に負担をかける所業であったが、仲間のためならと春乃は全精力を傾けていた。
 それが仲間の窮地を助けたことによる緩みで、一気にのしかかってきたのだ。
「大丈夫か?」
 百地が声をかける。春乃は弱弱しく笑った。
「こんなことでしか我は働けんのでな……すまんのう」
「なんの、大金星よ」
 百地は春乃を支え寝かしたあと、敵を確認する。
 炉蘭はすでに背中をむけ、逃亡しようとしていた。
「往生際が悪いぞ、おぬし!」
 追いかける百地、そして月舘が後を追う。
 迫ってくる二つの殺気に炉蘭は逃げながら振り向いた。
 その顔に余裕の笑みは無い。
「ちぃっ!」
 口の端を歪めながら舌打ちすると炉蘭の後ろ、二人の前方に次々と木板が行く手を遮るように出現する。
 非道なる障害物。
 しかし避けては距離を詰めることが難しくなる。
「ならば!」
 大きく跳躍し、木板を踏み台にして百地は跳んだ。
「外道!こちらを向けィ!」
 背中越しに斬りつける百地。
 だがその太刀筋を自らの意思で無理やり逸らす。

 ザシュッ
 
 げへ、げへ、げへへへへへ!
 げっへげっへ!

 虚しく砂を食む刀の音に、炉蘭は厭らしく笑う。
「どうした爺さんよぉ、オレ様を斬るんじゃなかったのかい?」
 笑う炉蘭に背負う様にして、木板が出現しおぶさっていた。
 それは人間盾となって、百地の刀を阻んだのだった。
「何と、娘を盾に……!」
 歯ぎしりする百地。あのようになっては刀をむけることは難しい。
 炉蘭の両腕に、二つの木板があらわれ、まるで大盾のようにその身を隠した。
 隠れた先の隙間から、オブリビオンの哄笑が響く。
「さあ、来いよぉ。オレ様をぶった切るんだろぉ? だが出来るかい? アンタらに、オレ様もろともコイツらをぶっ殺すことがよぉ!」
 げへ、げへ、げへへへへへ!
 げっへげっへ!
「なるほど。無抵抗な者を盾にすれば戸惑うと、攻撃出来ずに怯むであろうと。然り。此の斬撃も誤れば彼女達は無傷では済まぬ」
 月舘の声は冷ややかだった。
 怒りに身を包まれても、彼の心は冷静だった。
 砂浜に点々と赤い血が続いている。それはオブリビオンの傷口から流れているものだ。
 奴は逃走に逃走を続けている。そして負傷。
 こうやって盾で身を守るのは奴のあがきではないのか?
 だとすれば時間をかけるのは悪手。
 そう判断した月舘は刀を構える。
 その姿に百地の目が細くなる。
「……夜彦殿」
「八刀丸殿、仕掛けます。合わせてください」
 応、と頷く百地。
 彼の剣の冴えを百地は知っている。それゆえとがめだてする事無く、友の成り行きを見つめる。
 己の衰えを恨めしく思ったこともある。
 全盛期の自分なら、こやつを易々と追い詰められたのではないか?
 それは答えの出ぬ疑問であった。
 だが傍に、頼もしき友人が突破口を開こうと覚悟している。
 めそめそと嘆くのが士か?
 否。
 夜彦殿のように困難を乗り越えてこそサムライ。
 そして、自分もサムライなのだ。
 百地も連携を取ろうと、構えをとるのだった。
 まず百地が動いた。
 刀を振りかざし、盾の隙間を狙って突こうと仕掛ける。
 だが娘を慮ってか、その剣先の威は弱い。
「馬鹿が!」
 人間盾の臓腑を突かせてやろうと、炉蘭が盾をずらし剣先の位置へと合わせる。
 剣先は寸前で止まり、百地が側面へと跳ぶ。
 そして横薙ぎの一閃。これも合わせられる。
 独楽のようにまわって剣先を流し、背中を見せたまま百地は飛んだ。
 それは砂浜に点々と咲く、松の木へと向かう。
「ぬぅんっ!」
 三角跳びの要領で百地がオブリビオンの頭上へと高く上がった。
 兜割りの体勢で振り下ろしてくる軌道に、盾が重なった。
「馬鹿が!」
 このまま下りてくれば刀に人間盾が触れてしまう。
 しかし百地は刀の軌道を変えようとはしなかった。
 頭上の攻撃を防ごうと盾を掲げる炉蘭に、月舘が行く。
 それを予想していた炉蘭は背中を月舘へとむける。
 こうすれば背中の娘が壁となるわけだ。
「……我々は、お前のその予想の先を往く」
 鬼と化した月舘の、剣が閃いた。

 バギイッ

 乾いた音が砂浜に起こった。
 月舘の突きが、盾の木の部分に刺さったのだ。

 メキメキ……メキィッ

 そしてそれは支えとなり、月舘の重さを借りて盾の隙間をこじ開ける。
 その開いた隙間めがけて、百地の刀が深々と炉蘭の肩口に刺さった。
「がぁっ……!」
 激痛に顔を歪ませる外道。
 それは防御を止めさせ、大きく両腕を開くことになり、月舘に二の腕を晒すこととなる。
 
 シュンッ
 
 月舘の連続突きが盾の裏側、炉蘭の腕や背中に装着されている留め金具にむかって、違わずに放たれた。

 バンッ バンッ バンッ

 固定部を失い、木板が砂浜へと落下する。
 そしてそれよりも速く、二人の剣が盾を失った外道の身体を斬り裂く。
 百地の剛剣が、炉蘭の片腕を吹き飛ばした。
「これで、もう盾を構えることもできまいて!」
 三度放たれる、月舘の突き。
 それは備えを失った敵の身体を穿ち、えぐっていく。
 娘達の嘆き、哀しみ。
 それが少しでも届くようにと、竜胆の鬼が次々と刃を振るい、トドメとばかりに袈裟斬りに外道の身体を薙いだ。
 吹き飛ばされるオブリビオン。
 宙に吹っ飛ぶ敵に、合わせるように別の物体が。
 バイクに跨った鵠石である。
 そのままバイクを足場に跳ね、外道に追い打ちの一撃を加えた。
「オレを忘れんじゃねーよ!」
 ビリヤードのように弾き飛ばされた炉蘭は、再び百地と月舘の元へ。
「どりゃぁ!」
「はっ!」
 ×の字の軌道を通り過ぎ、外道の隻腕と片脚が斬られ吹き飛び、本隊とはあらぬ方向へと。
 そして、右衛門炉蘭は受け身も取れず砂浜へと叩きつけられたのだった。

 はぁーっ はぁーっ はぁーっ

「ちくしょう……ちくしょう……このオレ様が……ちくしょう……」
 悪党はしぶとい。
 達磨のようになりながら、サムライエンパイアに悪名を轟かせた外道、右衛門炉蘭はまだ死んではいなかった。
 息も絶え絶えに、芋虫のようにもがきながら、懐にある煙管を咥えようとする。
 なんという生の渇望。
 弱弱しくも管を咥えることが出来た。
 あとは息を吐けば煙が生まれ、それで逃げることができる。
 
 はぁーっ はぁーっ はぁーっ

 外道は、ここから逃げることを諦めようとはしてなかった。
 幸い、弾き飛ばされたおかげ距離はある。
 一息吸い込む時間はあるはずだった。
 だが、ヤニ下がる顔が絶望へと変わった。

 カンッ

 いずこより飛来した短剣が、煙管を弾き飛ばした。
 首を動かして飛んできた方を見ると、視界の端にルパートの姿を捉えることができた。
「呆れたものだな……その見苦しく足掻く姿、憐憫さえ感じる」
 ぎりぎりと歯ぎしりをする炉蘭の身に、先ほどの短剣が軌道を変え突き刺さった。
 刺さった部分から激痛が奔り、オブリビオンの動きを封じた。
「だが、貴殿には情けはかけぬ。その報い、受けてもらおう」
 続けて放たれる短剣を避けることも出来ず、炉蘭は呻いた。
 身体から、己の力の源が抜けていくような、脱力する感覚に支配される。
「そしてその因果を与えるのは自分ではない」
 三度放たれる短剣。
 それが突き刺さり、もはや炉蘭には悪態をつく感情すら湧かなかった。
 ここから、逃走するという思考さえも。
 オブリビオンの体を抱えあげ、ルパートは大きく羽ばたいた。
 海岸に羽の生えた騎士が舞う。一人の人物を探すために。
 そしてその人物を見つけ、ルパートは抱え上げていたオブリビオンを、その者へと放り投げたのであった。
「地獄の幕引き、任せるぞ。剣士花盛乙女」
 彗星のように飛来してくるオブリビオンを前に、花盛の心は澄んでいた。
 怒りがないわけではない。
 だが構える剣の切っ先は震えておらず、激情につつまれていないことを示していた。
 実のところ、仇としてまみえるのはこれが初めてである。
 しかしこの外道の行状は伝聞、そしてこの道程ではっきりと理解出来た。
 復讐ではなく、決着。
 それは過去への執着ではなく決別を意味し、これからの未来をしめす物。
 仇を忘れぬよう、幾度となく名を繰り返してきた。
 その身を切り刻める様、剣を振るってきた。
 それも終わる。
 右衛門炉蘭の姿を一目見ることが出来た。
 立場が違えども、言葉を交わすことが出来た。
 それで十分、十分な手向けであった。 立
 刀に力を篭め、見上げる。
 その双眸の奥に、哀しげな気持ちが沈む。
「無節操にばら撒いた種に殺される愚かさ。骸の海で悔いるがいい」
 問答無用。
 女剣士の一閃が、宿敵の身体を真っ二つに裂いた。
 そして、落下してくる骸にむかって拳を放つ。
 炉蘭の屍は海へと飛ばされ沈み、上がってこなかった。
 
 パチン

 花盛・乙女は剣を納め、その海面を眺めるのであった。
 その姿をルパートも見つめていた。
 種と聞こえた。そう、無節操にばら撒かれた種と。
 それはつまり……。
 よそう。
 ルパートは被りを振った。
 自分にできることは過去を詮索する事ではない。
 オブリビオンを倒し、依頼を果たしたことを仲間を喜ぶことである。
 百地たちの姿が見える。
 手を振る姿に、ルパートは手を振り返した。
 終わったのだ。
 花盛の背に声をかけるルパート。
「終わったな、花盛殿」
「……ああ」
 背中越しからは、彼女の表情を伺い知ることは出来ない。
 だが海面を見つめる彼女の傍に立つ事は、騎士にはできなそうにない。
 その姿をルパートも見守っていた。
「あのー、感傷に浸っているところ悪いんですが、手伝ってくれませんかね」
 トーコが二人にむかって語りかける。
 振り返れば、他の猟兵たちが木板から娘たちを外すのに難儀していた。
「あの野郎、召喚したままで娘さんたちはそのままにしやがりましたので……放置するわけにはいきませんので、手伝ってくれませんかねぇ」
 顔を見合わせる花盛とルパート。
 もしや先ほど百地たちが手を振ったのは、手を貸して欲しいとのことだったのだろうか。
 苦笑し、二人はトーコと一緒に娘達の解放へと向かうのだった。


●それから~

 海賊から街を救ったお礼として、猟兵たちは歓迎を受けていた。
 武装船も、港町から連れてきた漁師たちのおかげでここまで運ぶことが出来た。
 滞在を楽しんでいる間、海賊の噂を耳にはしない。
 親玉を倒し、手下を壊滅させた。
 残っているかもしれない手下どもが復活を遂げるにせよ、それはだいぶ先の話になりそうだ。
 あとは娘達のこれからだが、それは猟兵たちの及ぶところではない。
 引き受けてくれた港町の良心を信じよう。

「お前、藤子は出さんのか?」
「何いってるんですか、一人前が半人前になっちゃうじゃないですか」
「追加で頼むつもりはないのですか?」
「私、ダイエット中でございまして」
 海の幸に舌鼓を打つトーコ。
 焼き蒲鉾に舌を巻く百地。
 静かに杯をあおる月舘・夜彦。
 三人が宴を楽しんでいるなか、それより更に神羅が興を楽しんでいた。
 ルパートより借りた籠手。
 それに火を焚きつけ、貝を投げこみ壺焼きを作ろうとしていた。
「これが本当の籠手調べ! 西洋風味という奴じゃな!」
 それを生温かい目で見守るルパートとレジーナ。
「注意しなくてよろしいんですか?」
「了承したのは自分だしな。それに、皆に振る舞ってくれるそうだ」
「お優しいんですね」
 銚子を傾け、酌をするレジーナ。
 その好意を頂こうと、ルパートは杯を預けた。
 花盛と春乃の姿は無い。
 二人は宴席を抜け出し、海岸へと出向いていた。
 潮風が花盛の髪を梳く。
 仇は討った。
 だが胸中にぽっかりと穴が空く。
 その隙間が埋まらぬ間は、酒を呑む気にはなれなかった。
 そんな花盛の後ろで、春乃は砂浜を見つめていた。
 思えば色々あった。
 海賊の襲撃、砦への潜入、そしてオブリビオン。
 仲間に何があったかは尋ねない。
 過去と未来は相容れぬ物。
 猟兵は、過去をあるべき処へと帰すのが領分である。
 ひとりでに、春乃の身体が砂浜を舞った。
 それは神楽。
 協力してくれた過去の英霊たちの慰霊のために。
 惨劇の犠牲となった娘達を悼むために。
 今を楽しむ人々たちの祝福のために。
 そして仲間達、猟兵のために。
 春乃の足が優しく、時には力強く、砂を踏む。
 潮風に熱を感じるような気がした。
 春から夏へと。
 死者を過去へと残して、季節は移り替わろうとしていた。

 のさばる悪を何とする 天の裁きは待ってはおれぬ
 この世の正義もあてにはならぬ 猟兵の名において仕置する
 南無阿弥陀仏

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​



最終結果:成功

完成日:2019年06月30日
宿敵 『右衛門炉蘭』 を撃破!


挿絵イラスト