●Libido
――――『欲望』。
人として生きる上で、無くてはならない本能。
食欲、性欲、睡眠欲――それらが人間の三大欲求とされている。
しかし、長い人生を生きる以上、そんな安直な欲求以外にも欲望とは岩間から清水が吐き出る程に湧いて出てくるもの。
嗚呼、けれど。
現代の人の欲とは、言葉には形容しがたいほど醜いものばかりであろう。
されど彼等は、抑えきれない欲望に従い、この客船へと足を踏み入れる。
それは、何故か?
この客船内で行われる『非合法な裏カジノ』で欲望を満たす為だ。
そして静かに。大型客船内のロビーにて、幼い少女のアナウンスが響く。
「――この場にお集まりの、紳士淑女の皆さん。
極秘に招待された皆さんは、少なからずの『欲望』があると見受けられます。
喩えば、金。
喩えば、愛。
喩えば、肉欲。
喩えば、怨讐――。
……ご安心下さい。
あなたの心に潜むその『欲望』を、我々『欲望教』は叶えて差し上げることができます。
その代わり……本当にあなた方が『欲望』を抱いているかどうか、ひとつご確認させて下さい。
大丈夫、ほんの一瞬の催眠音声を流すだけです。その後は、あなた方の欲望を叶えるカジノへとご案内致しましょう――」
――――ただしお代は、あなたが露わにした『欲望』と『命』そのものですけれど、ね。
●Briefing
「……なんて、趣味の悪い賭博ですこと」
視えた予知を全てを語り終えた小夜凪・ナギサ(人間のUDCエージェント・f00842)は、溜息と共にそう吐き捨てる。
グリモアベースへ集った猟兵達へ、怜悧な視線を向けて事件の概要を語り始めた。
「夜、UDCアースの都内にある埠頭から、大型客船のクルーズが極秘で始まるわ。著名人からホームレスまで、様々な一般人が乗り込むのだけれど……彼等は『己の欲望を叶えることができる』という売り文句に釣られて乗船しているの」
虫が良すぎる話だと思わない? と、話の最中にナギサは猟兵たちに目を細めて問いかける。
「甜言蜜語、とでも形容すべきかしら。このクルーズの主催は『欲望教』という邪教に属する少女達よ。このままでは船に乗り込んだ人々は、UDC怪物の彼女等に利用され、『人でなくなってしまう』わ」
こんな嘘か真かも分からぬ裏カジノへ赴くほど、欲望を蓄えた一般人が襲われるかもしれないのだ。
欲望を解放されたなら、一体どんな化物が生まれるかなど――想像に難くない。
「あなた達には、先程説明した客船に乗り込んでUDC怪物を討伐して欲しいの。けれど、ただ倒すだけではいけないわ。……まずはあなた達も、一般人になりすまして己の欲望と向き合う必要があるもの」
それは、大型客船内に忍び込んだ際に鳴り渡るという、『欲望教』による特殊な催眠音声だ。
その音声を耳にしたならば、普段ならば抑えている筈の感情や欲求を発露し、幻覚を視てしまうこともあるだろう。
それらを乗り越えて理性を保てたならば、裏カジノへと案内されるはずだ。
「ただ、裏カジノでのチップは現金でもなく、『己の欲望』よ。その為に、催眠音声で欲望を呼び覚ましているのだから。あなた達はその欲望をチップとして、船内に仕込まれた教団員と賭博して頂戴」
その間の一般人の保護などは、自分を含めたUDC組織が全力を以てサポートするとナギサは告げる。
故に、猟兵達は『己の欲望と向き合い』ながら『その欲望を死守しながらUDC怪物と戦う』ということだ。
「我慢しなくていいのですよ。欲望は止めなくていいのです――だなんて、誰かも言っていたかしらね。その欲望をチップにする覚悟のある猟兵は、どうか私の元に集まって。……あなた達のことを、信じているわ」
それが、如何に過酷な話であるかなど承知の上で。
ナギサはグリモアを輝かせ、猟兵達をUDCアースへと転移させた。
夢前アンナ
夢前アンナです。欲望を手放すな!
今回は、皆様のキャラクター個人に焦点を宛てたシナリオを運営したいと思います。
●フラグメントについて
今回はシナリオの性質上、『第一章』につきましては、基本的に【おひとり様ずつ】リプレイをお返し致します。
万が一、情報を共有したい方がいらっしゃれば、双方のプレイングにてIDをお書き添え下さい。
今回のテーマは“欲望”です。
皆様のキャラクターが隠し持つ欲望を曝け出し、次章などでそれを賭けることで物語が有利に運びます。
嘘偽りない本性を魅せることが、当シナリオの成功の鍵です。
当シナリオに必要であるのが、『己の欲望と命をチップに賭ける覚悟』です。
『第一章』
欲望教の催眠音声によって、あなたは己の過去と向き合うこととなります。
その際、かつて湧き出ていた想いや無自覚であった『欲望』を知ることとなるでしょう。
苦しかったり、恥ずかしい思いをするかもしれません。涙を流すか、全てを受け容れれば第二章へ進むこととなります。
『第二章』
船内にある裏カジノへご招待。
チップは先ほど手に入れた『己の欲望』。
あなたはカジノへ潜入しながら、この狂気を貪る存在を暴くべく暗躍します。
さあ、己を犠牲にUDCを炙り出すのです――!!
第三章は、お楽しみです!
●プレイングについて
『合同描写・グループ描写の場合』
相手の名前・ID、カギカッコ付で全員共通の『グループ名』をプレイング先頭に。
『アドリブ歓迎の場合』
プレイング先頭、または末尾に「◎」
『アドリブ不可の場合』
プレイング先頭、または末尾に「×」
上記の記号希望は『マスターより』でも明記しますが、
特に書かれて居ない場合は『アドリブ歓迎』として処理して書かせて頂くか、判断に迷う場合は流してしまいます。両極端です。
ご了承のほど、お願い申し上げます。
グリモア猟兵の小夜凪・ナギサ(人間のUDCエージェント・f00842)は当リプレイでは全章通して登場しませんので、ご了承のほどお願いいたします。
では、皆様の賭けるチップを心よりお待ちしております。
――――どうか、佳い夢を。
第1章 日常
『涙を流す日』
|
POW : 響く音に感動して涙を流す、過去を悼んで涙を流す
SPD : 流れる映像に揺さぶられて涙を流す、過去を懐かしんで涙を流す
WIZ : 語られる話に共感して涙を流す、過去を思い出して涙を流す
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種別『日常』のルール
「POW・SPD・WIZ」の能力値別に書かれた「この章でできる行動の例」を参考にしつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。
| 大成功 | 🔵🔵🔵 |
| 成功 | 🔵🔵🔴 |
| 苦戦 | 🔵🔴🔴 |
| 失敗 | 🔴🔴🔴 |
| 大失敗 | [評価なし] |
👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。
【プレイングは「7月2日 朝8時31分から」受付予定です。もうしばらくお待ちくださいませ!】
●壱
――――『欲望』。
それは『夢』や『希望』、『願望』とも言い換えることができるだろう。
字面だけならば、聞こえは良いかも知れない。
しかし、どれほどお綺麗に飾ろうとも、結局は人間の『エゴ』であることに変わりはない。
乗客が全て乗り込んだと同時、汽笛の音が重く響き渡る――。
それが出港の合図。
この闇のギャンブル船に乗り込んだが、最後。
欲望教の誘惑に打ち勝つことができない限り、再び外界に戻ることなど到底不可能だ。
――そんな彼等、猟兵にまず迫りくる最初の関門が『催眠音声』。
欲望教による特殊な音声を聴いたならば、内に秘める潜在的な欲望、願望、渇望を発露することとなるだろう。
過去にトラウマ、欲望を抱くきっかけとなった出来事、欲望そのものの具現化など――強烈な幻覚に苛まれる可能性もある。
勿論、それは『己の欲望』で完結しているからこそ、自分が他者に伝えない限り、周囲に晒されることはない。
――ただし、向き合うべきは『己自身』だ。
その欲望を受け容れ、認めたならば、その貴重な『チップ』は次の裏カジノでの危険なギャンブルでの大きな拠り所となるだろう。
――――その欲望は、本能は、生きる糧だ。
どうか、握りしめて居て欲しい。
―――――――麻薬(ドラッグ)にも似た音声が耳朶を犯す中、果たしてあなたは何を視た?
.
※追記
現在多くのプレイングを頂いております。
可能な限り、全員を採用できる方向で頑張ります。
途中、何度か流してしまうかとは思いますが、お気持ちお変わりないようであれば再送のご協力をお願いします。
マスター個人ページ、Twitterでも随時情報を更新いたします。
お手数をお掛けしてしまい恐縮ですが、ご検討のほどお願い申し上げます。
美国・翠華
◎
UDCではなく…私の欲望でなければいけないのね…
私の欲望…それは
私の過去…トラウマとして思い出す
それはあの日…人ではなくなった日のこと
いつもの帰り道だったはずなのに
突然欲望に溢れた地元の不良達に
尊厳も何もかもを踏みにじられるように嬲られた上で捨てられた
…あの時私が抱いていたのは?
救い…こんなものではないという思い
これは「愛されたい」という思い…?
UDC「ナンダ?嫌悪ジャナカッタンダナ」
UDCとは違う救いを求める思い…
それは「本当の愛」がほしいという思いのよう…ね
【美国・翠華(生かされる屍・f15133)の場合】
客船内は既に、欲望に身を焦がす大人たちで犇めき合っていた。
時折り響く下卑た笑い声は、その欲望が満たされたことを想像してのことだろうか。
それらを耳にし、美国・翠華(生かされる屍・f15133)は不快そうに目を眇める。
あんな品のない声々は、『あの日』のことを嫌でも想起させる。
そう、“私”が一度“私”でなくなった、あの日のことを――――。
(「UDCではなく……私の欲望でなければいけないのね……」)
耳朶から伝わり、脳を揺さぶり支配してゆく催眠音声。
湯水の如く流れ込んだ幻覚は、嗚呼、まさしく『あの日』の出来事だ。
~~
いつもの下校時、何の変哲もない帰路。
欲望に穢れた不良達が私の身体を乱暴に引き寄せて、人気のない場所へと連れ込んだ。
やめて、お願い。誰か助けて。
何度も、何度も懇願した。
けれどその不良達は、そんな私の声すらも愉しんでいるようだった。
破るように制服を脱がされ、否応なしに嬲られていく。
身体中に駆け巡るじんじんとした卑しい感覚も、初めての痛みも、沢山の手が迫り来る恐怖も、忘れることなんてできない。
散々玩ばれた挙句、私は棄てられた。
ふと気づけば涙と、洟と……形容することすらも気色が悪い体液たちが私の身体を穢していた。
女どころか、人間としての尊厳すらも、全て踏みにじられて。
――暗い。昏い。絶望。
絵の具の黒より、夜よりも深い闇が、私の視界や思考を覆い尽くす――。
~~
「……っ」
今にも吐き気を催しそうだった。ぐっと堪えて、翠華は口を抑える。
凄惨な過去と向き合い、翠華は思考する。
――あの時、私が抱いていたのは?
『ナンダ? 嫌悪ジャナカッタンダナ』
「――!!」
直後、内より響いたのは翠華の身体に取り憑いたUDCだ。
名状しがたきそのUDCは、挑発的に囁いては、気まぐれに引っ込んでゆく。
――私は、『本当の愛』が欲しかった?
あの日に救ってくれたUDCとは違う救済を求めていた……それが、私の欲望?
受け容れたと同時、催眠音声で茫とした意識が弾けて消えてゆく。
小さく、溜息をひとつ。
(「――愛が、私の欲望のチップだと言うのなら」)
確かに、しっかりと、握りしめていなければ。
そして翠華は新たな戦場へ――『欲望教』の主催するカジノへと、静かな足取りで赴く。
翠華の瞳は、決意を固めたように静かに扉を睥睨し、続けていた。
大成功
🔵🔵🔵
メノゥ・クロック
◎
何が待っているか今一つ解らないけれど往こうか
其れが力を持つ者の責務だろうから
さて、自分と向き合う時間だ
欲望の姿は王としての僕の姿
思わず笑ってしまうよ
僕はまだ夢を棄てきれなかったのだと
…そうだね
僕は国を治める王になるものだと育てられてきたから諦められるものじゃなかった
幾ら格好をつけようと大人ぶろうと
王子だった僕はそう簡単には死んでくれない
求められた王として、国を治め、民を支配する姿
いっそ哀れな欲望だけれど否定はしない
けれどね
其の欲望が叶えられることはない
革命の当事者として、父を手に掛けた罪人として
僕は全て背負って旅に出たんだ
こんな諦めにも似た欲望がチップになるかは解らないけど
これが、今の僕自身
【メノゥ・クロック(時計屋の猫・f01288)の場合】
(「何が待っているか、今一つ解らないけれど――往こうか」)
欲望渦巻く人混みの中、金と青の異彩の瞳が静かに光を宿す。
メノゥ・クロックの胸に秘めるは、力在る者の責務――ノブレス・オブリージュ。
眠りへ誘う魔の声がロビー内に流れて……メノゥの立派に立った猫の耳がふと拾った音は――、
――カチリ、カチリ。カチリカチリカチリカチリ。
決して戻ることのない時計の針が、不自然に逆巻いてゆく歪な音――。
~~
ふと目を開けば、視界に広がるは嘗ての故郷――時計塔の王国。
そして己の身なりは第一王子としての正装。
確かめた途端、すぐに笑ってしまったよ。勿論、自嘲を含めてね。
……そうか。僕はまだ、夢を棄てきれなかったのだと。
――カチリ、カチリ。
時計塔から響く針の音は、不思議と嘗てよりひどく耳にこびりつく。
人々が過ごす時間は平等だ。然れど、生活においては完全な環境差があった。
不自由なく過ごしていたのは、裕福な王族ばかり。
圧政に拠って民を支配し、偽りの平穏を創り上げる。
民は苦しみ、苦しんで死に逝けば、また新たに若人を雇う。
まるで、使い物にならず錆びた歯車を取り替えるように。
ただ……幾ら格好をつけようと大人ぶろうと、王子であった僕はそう簡単には死んでくれない。
喩え、この手が革命に拠って手に掛けた、実父たる王の血に穢れていても。
――僕は、国を治めたかった。求められた王として、国民を支配し、より良い国を築きたかったんだ。
「――ッ」
いっそ哀れなほどの欲望に気づいた瞬間、僕の手にべっとりとこびりつく赤い鮮血に気づく。
ぽたり、ぽたり。
静かに落つる、雫。まるで僕の代わりに泣いているようだ。
――けれど、違う。甘んじてなど居られない。そして、この欲望が叶えられることも、ない。
僕は革命の当事者。僕は、罪人。
己の背にのし掛かる国民の憎悪は、未だに消えやしない――それでも、僕は理想を、夢を、今もなお抱いていた。
~~
「夢に果ての中に残っていた残骸――これがチップになるかは解らないけど」
それでも、これが今の僕自身。
逆巻く針の音は、メロゥが目覚めた直後に元の方へと進んでゆく。
決別と革命の時間は終わり――全ては、“現在の己”へと収束する。
かつては若い、己自身と剣を交えた。故にメロゥはチップを胸に、新たな場へと目を見据える。
――時計は決して、逆巻くことなどない。
ましてや、真剣勝負の賭け事の場であるならば尚のこと。
大成功
🔵🔵🔵
セシル・エアハート
◎『欲望なんてない』なんて嘘は通用しないね。
…自分自身に、向き合わないと。
永遠に消える事のない、悲しい過去。
悪辣な闇の人間達によって大切な家族と幸せな日々を奪われた。
そして囚われて実験体にされた。
冷たくて暗い部屋の中、耐え難い苦痛を強いられた。
逃げればそれ以上に酷くされた。
自分が自分でなくなっていった…。
その光景(幻覚)につい顔を背けてしまう。
…でも。
俺は本当は、何を想っていた…?
深い暗闇の絶望の中で、無力で弱い自分は何を想っていた?
……『もっと強くなりたい』。
…そう。
それが、俺の欲望なんだ…。
弱い自分と決別して誰にも負けないくらいの強さが欲しい。
それが俺の想っていた事だったんだね。
【セシル・エアハート(深海に輝く青の鉱石・f03236)の場合】
(「『欲望なんてない』――なんて嘘は通用しないね。」)
ふ、と苦笑を浮かべて、セシル・エアハートは肩を竦める。
此処は欲望にまみれ、現実から隔離された船の中。
故に理性も、法も、何もかもが行き届かない――客の心を揺さぶる非合法なカジノ。
常に柔和な笑みを絶やさぬセシル自身の欲望もまた、名状しがたい音声によって炙り出されてゆく――。
~~
それは、永遠に消えることのない過去だ。
あれは――俺が10歳の頃。
闇の人間達が俺達を襲ってきた。父も、母も、兄弟も――。
「セシル、セシルッ――! どうか、生きて。あなたは逃げてっ……」
「あ゛あ゛ッ……セシル……! お前は、生きて……ぐっ……」
家族の最後の断末魔のような声々は、今も忘れることなどできない。
けれど俺は、そのまま組織に囚われ、実験台として苦痛を受けてきた――。
暗くて、冷たい、無機質な部屋の中。
最低限の食事などを得られるだけの、奴隷以下の生活を過ごしていた。
そう、奴隷以下だ。
身体を痛めつけられ、脱走を試みれば更に厳罰を強いられる。
痛みや人並み以下の生活に慣れた俺は次第と、己を見失っていた――。
~~
「――――ッ」
部屋の中でぐったり、死んだように横たわる“自分”を目の当たりにした。
されど、セシルはそのまま何も言わずに目を逸らしてしまう。
彼の見事なブルーサファイアの髪も、囚われて居るからか輝きが非常に衰えてしまっている。
原石も磨かなければ只の石ころに過ぎない――故に、この少年もまた路端に転がる“石ころ”に過ぎないのだ。
嗚呼、それでも。
“俺”は――『もっと強くなりたい』。
暗い絶望の中、無力で弱い自分が何を望んでいたのか。今ようやく知ることができた。
「……そう。それが、俺の欲望なんだ……」
瞬間、ハッキリと意識が現実へと引き戻される。
セシルは過去と向き合い、譲れない『チップ』を手に入れたのだ。
弱い自分と決別して、誰にも負けないくらいの強さが欲しい――それが、俺の想いだ。
それこそが、欲望であり、願いなのだと。
セシルは向き合い、掌を握りしめて新たな会場へと向かっていった――。
大成功
🔵🔵🔵
祇条・結月
……欲望、か
普通の家庭を教えてくれて。
僕に、技術をくれて。それはぜんぶ、じいちゃんが僕にくれたもの
……僕はその大事な人になにもできなかった
だから、うん
今度は、って。そう思って
脳裏を過ったのは今までの友達とか、猟兵になってからできた関係とか、それから……
一番、一緒に居て楽しい、「友達」
力になりたい、って思ってるし
笑っていてほしいし
……わかってるんだ
頼りになるって思われたい、ってまったく考えてないなんて言ったら嘘で
こんな気持ちは困らせるだけで、
……なんの役にもたたないってことも。
だからせめて、今できることを
この気持ちが、チップに必要なら
抱えていても。なんにもできないんだから。せめて……って
【祇条・結月(キーメイカー・f02067)の場合】
「……欲望、か」
ざわめく客船ロビーの中。
ぽつり、落とされた祇条・結月の一滴めいた声は、醜い欲望の声々に掻き消えてゆく。
眠り誘う魔の音声の中、身を委ね――ふと思い浮かぶは、
「――――じいちゃん」
ありふれた幸せな日常を、この鍵開けの技術を教えてくれた、掛け替えのない祖父の姿だった。
~~
思い出した場所は懐かしい匂い。
都会から離れた或る地方の、小さな町。
その町でひっそり構えるその店に帰れば、じいちゃんは顔の皺を柔らかく寄せて僕に微笑みかけてくれた。
でも、そんな日々も長くは続かない。僕は、そんな大事な人に――じいちゃんに、何もできなかったから。
「――――ッ」
苦しみの中、脳裏を過ぎるは嘗ての友達。
そして、猟兵になってからできた知り合いや、友達。
思えば、猟兵になって沢山の出逢いを築くことができた。
喩えば、剣と魔法の西洋ファンタジーである世界に聳える、ひっそりとしたかもめの酒場での面々たち。
ふと帰れば「おかえり!」と、声を掛けてくれた。大学合格祝いや誕生日などの際に、同じく住まう男子たちが心からお祝いしてくれた。
あの時の笑顔も、楽しげな話し声も、決して忘れやしない。嗚呼、寧ろ――、
「……あぁ、そうか、」
葛藤の中、改めて気づいた。僕は、一緒に居て楽しい、『友達』を大切にしたかったんだって。
力になりたいって思ってるし、笑っていてほしいし。
…………わかってるんだ。
頼りになるって思われたい、ってまったく考えてないなんて言ったら嘘で。
こんな気持ちは――きっと、困らせてしまうだけだ。
「――僕は、」
~~
己の欲望を、願望を見据えた少年は、チップを握りしめたと同時に、幻影から解き放たれた。
結月が手にした欲望、もとい願望――それは、ある種の『依存』に近しい。
それは結月の優しさが招いた欲であろう。
されど、少年は勇気を以て手を伸ばした――。
「この気持ちが、チップに必要なら……。
抱えていても、なんにもできないんだから。せめて――、」
握り締めたそのチップは、己の心を開ける唯一の鍵であるに違いない――。
大成功
🔵🔵🔵
狗衣宮・藍狐
◎
あたしにはパパがいない代わり、二人のママがいる
ママたちに聞いたわけじゃないけど、きっと養子なんだと思う
ママたちは二人で夏梅荘という寮を管理していた
歌が上手で、あたしによく歌を歌って聞かせてくれたキティエリスママ
とってもオシャレさんで、色んな服を着せてくれた鈴狐ママ
エリスママほど歌が上手じゃないし
鈴狐ママほど上手に神事ができるわけじゃないけれど
あたしはいつもママたちの背中を追いかけていた
あたしにとって二人のママはかけがえのない存在だった
何不自由なく暮らしていた
なのに、ある日突然――渦のような何かに飲み込まれて
いつの間にか、あたしは眠らない街へと放り出されていた
ママ、また会いたいよ……
【狗衣宮・藍狐(キューティースタイリスト・f00011)の場合】
狐の娘はふ、と。その藍色の瞳を緩やかに開いた。
それは先程までの可愛くない、醜いと揶揄してしまいたい程のロビーとは違う――そう、此処は、
~~
「……夏梅荘?」
仄かに香る潮騒の香りは、このシェアハウスが海に面して建てられて居るからだろう。
懐かしさの中、居ても立っても居られず、藍狐は夏梅荘の中へと駆け出してゆく。
その最中、「にゃああああん」「なーん」と沢山の猫達が彼女を迎えるかのように鳴きだしていた。
――りぃん。
静かに、鈴の音が響く。
夏梅荘の廊下を歩く中、あたしはそっと胸元のチョーカーに飾った鈴に触れた。
思えばこの胸元と、尻尾に飾った鈴も、全て貰い物。あたしとママたちが家族で居る証。
ぽかぽか窓から差し込む陽射しに微睡んで、思い出す――。
キティエリスママ。歌が上手で、あたしによく歌を歌って聞かせてくれてた。
鈴狐ママ。とってもオシャレさんで、色んな服を着せてくれた。
あたしはいつも、ママたちの背中を追いかけていた。
血が繋がって居なくても、2人のママはかけがえのない存在だった。
喩え、ママのように歌が上手くなくても、ママのように神事が上手じゃなくても――。
「っ――! ママ、ママ、助けて!!」
――!!
幼い声が、耳に届いた。
声のする方へと、あたしはすぐさま駆け出した。
目の当たりにしたのは、渦へ飲み込まれる幼い“あたし”。
「! 待ってて、今助けるから! ……ママに、逢いたいんでしょ!」
藍狐は諦めず、渦の中の女の子へと必死に手を伸ばした。
「ママ、怖いよ! ママ……ッ!! ……あああッ」
「――!!」
されど渦は深く、凄まじく――指先すら交わすこともできぬまま、過去の“あたし”は呑み込まれていった。
~~
夢に醒めたのち、藍狐は力なくへたり込む。
「……そうよね、過去なんて変えられない。助けられるわけ、ないものね」
渦に飲まれたその先では、“あたし”は眠らぬ街へと放り出された。
そうして花街で可愛がって貰えたことで――今の“あたし”が居る。
――けれど、
(「ママ、また会いたいよ……」)
――りぃん。
嗚呼、夏梅荘の中で響いた鈴の音だけは、現実に戻っても変わることはなかった。
大成功
🔵🔵🔵
リリアネット・クロエ
◎
―――ココは…どこだろう……。
『欲望』ってなんだろう―――。
そんな疑問が頭をよぎる
催眠音声を聴いてるとふと昔のぼくがそこにいた
ぼくは過去の記憶がない
最後に覚えているのは薄暗く廃れた所で
手入れされてないぼさぼさの髪、ボロボロの服を着て過ごしていた記憶だ
行きかう人々の綺麗に着飾った姿やあしらった服
手入れされたつやつやの髪に見惚れていた。
あの時は生きるのが必至で自身の身なりなんて気にしていなかったただ羨ましかった。
………ぼくもいつかあんな風に…。
(―――過去を思い出すフラッシュバックが流れすぅーと涙を流した)
そう、ぼくの『欲望』は美だ……。
【リリアネット・クロエ(Chloe・f00527)の場合】
――――ココは……どこだろう……。
『欲望』って、なんだろう――――。
会場内に響き渡る催眠音声に、リリアネットは色違いの瞳を不安げに細める。
疑問が胸に燻る微睡みの中、ゆるりと再び目を開いたなら其処に居たのは――、
(「あ……ぼくだ」)
幼い頃の、リリアネット自身だ。
~~
ぼくは過去の記憶がない。
ふと気づけば、とうに廃れた薄暗い裏路地で、息を潜めて生きてきた。
手入れの行き届かないぼさぼさの髪、辛うじて肌を隠せる薄汚い布を身にまとって。
眠らぬ不夜の街は、いつだって活気づいている。
あらゆる人、あらゆる物が行き交う――それは富に満ちていようと、貧困に苛まれていようとも。
ひと目につかない場所で生きていようとも、食料などを得るには陽のあたる場所に赴かなければいけない。
――でも、行き交う人々の着飾った姿や、綺麗な身なりが。
手入れされたつやつやの髪が、どれもこれもまばゆくて見惚れていた。
……きれいだなあ。すてきだなあ。
けれどあの時のぼくは、生きるのに必死だった。
飲み水や食料を見つける日はとても幸運で贅沢だった。
こうして生き続けたぼくの姿を醜いと、穢いと、そう思っていた人も――今を思えば、きっと居たのかな。
ああ、けれど。
美しい人とすれ違うたびに、ぼくは思っていたんだ。
――――ぼくもいつかあんな風に……。
憧れは、泡沫のままに消えてしまう。そう想っていた。
けれど、こんなぼくへ伸ばしてくれた人がいた。
その人は、大きくて角ばっていて――それでいて何より、優しくて温かな掌をしていたんだ。
~~
「あっ――――……」
頬を伝う涙に気づいた瞬間、リリアネットは現実へと引き戻された。
思わず両手を握って開いて、身なりを気にする。
お気に入りの衣装、お気に入りのピアスとイヤーカフ。
シャンプーやトリートメントだって、いつもの愛用の香り。
(「そう、ぼくの『欲望』は美だ……。憧れが、あったんだ」)
幼い頃に抱いた憧憬も、手を差し伸べてくれて可愛がってくれた保護者たる彼への恩義も、どれもこれも大切なもの。
だからこそ、今のぼくが――リリアネット・クロエが在るのだと。
「……アイゼン、ありがとう」
この『欲望』は、決して渡さない。想いを胸に、涙を拭ったリリアネットの瞳は常よりも澄み渡っていた。
大成功
🔵🔵🔵
ミーユイ・ロッソカステル
『だーからやめらンねぇのさ、ギャンブルってのは。ま、アンタのその様子じゃ、ダメな方にのめり込むタイプっぽいからススメはしねェけどな。』
いつかの日に、聞いた言葉のフラッシュバック
今そんな事を思い出すのは……行こうとしている場所が、裏カジノだから、かしら
それとも……この、妙な気分になる音声のせい?
そんな事を考えていると……自分の声が唐突に脳内に響き渡る
『恋をしてみたい』
『身を焦がすほどの、情熱的な恋を』
『そして――』
思考を、幻聴を振り払うように頭を振った
……今のが、私の根底に隠された欲望だとでも?
随分と、お花畑だったのね、私
ロッソカステルの吸血鬼が恋焦がれるその意味を、知っているはずだというのに
【ミーユイ・ロッソカステル(眠れる紅月の死徒・f00401)の場合】
――『だーからやめらンねぇのさ、ギャンブルってのは』
……そう愉しげに語った男が居た。
――『ま、アンタのその様子じゃ、ダメな方にのめり込むタイプっぽいからススメはしねェけどな』
……なんて、悪戯めいた微笑みで此方を見つめた男が、居た。
そんな男に、賭博の類など触れたことのない彼女は――ミーユイ・ロッソカステルは、押し黙るしかなかった。
――嗚呼、どうしてこんな時に思い出すのかしら。
赴く先が裏カジノであるからか……それとも、この、妙な気分になる音声のせい?
音楽とも、歌とも、何であるとも形容できぬその音声に蝕まれ――。
そうして視界は、闇の中に堕ちる。
(「……これは、いったい?」)
思わず、息を呑む。
その後に響いたのはそう、夜闇にも映える明瞭な――“己”の声。
――『恋をしてみたい』
「……!?」
ふわり、ミーユイの豊かな桃色の髪を撫ぜるは、既に過ぎ去った筈の5月を感じさせる爽やかな風。
風が過ぎ去った方へ振り返る。けれど誰もいない。
寧ろこの場はいつしか、ミーユイただ独りが立ち尽くしていた。
『身を焦がすほどの、情熱的な恋を』
『可愛いと思える私になれるよう。そして――、』
素直に、滔々と紡がれる声に頭を横に振る。
……これが、私の根底に隠された欲望だとでも?
そんな、そんなこと――、振り払おうと、ぎゅっと目を伏せた、けれど。
――『…………抱ける、って言ったはずだぜ、アンタのこと』
「……っ!!」
――『ま、もう忘れちまってるかもしんねェけどな?』
どうして、また思い出してしまうの。
その声が、己の心に触れた瞬間。確かな『熱』を感じた。そう、あの日と同じ。
……悔しい、悔しい悔しい悔しい。
報復はまだ終わって居ないらしい。小さく歯噛みするも――、諦めたように溜息を、ひとつ。
――瞬間、意識は現実へと還る。
周囲を見渡せば潜入時と同様に人が犇めいており、誰も彼もが欲望に溺れて夢うつつ。
そんな醜い光景に眉根を寄せながら、ミーユイは嘆息をひとつ。
(「随分と、お花畑だったのね、私」)
握りしめたチップは、胸の奥深くに忍ばせて。
想い馳せるは、この身に流れるロッソカステルの血統。
吸血鬼が恋い焦がれるその意味を、知っているはずだというのに。
――嗚呼、これは紅の残影は、それとも紅の“憧憬”か。
大成功
🔵🔵🔵
アルトリウス・セレスタイト
◎
欲望か
ならば概ね何が出るかは知れているな
群龍大陸に絡む件で邪霊が見せたものと同じ光景を見る
即ち、友人達へ向ける自身の情欲を喚起する幻影
解り切った光景は新鮮さもないが、どうせなら有意義に時間を使うか
よって思案
自身がよしとするものとこの欲望を比較し、何故それが現れるに至るかを分析する
人が繋がりを持つこと。それは良いもの
互い認め尊重してあること。素晴らしいもの
例えば親が子へ。兄弟姉妹へ。或いは恋人へ
理屈抜きに向ける親愛と庇護と信頼。尊ぶべきもの
……それの端的な具現と見えるものを求めている、ということだろうか
紡がれる絆を見るばかりでなく、持ちたいのか
ならば俺は。己が孤であることを厭っているか
【アルトリウス・セレスタイト(忘却者・f01410)の場合】
欲を満たすべく目をぎらつかせる人の群れの中――、静なる藍の眸が、潜む。
(「欲望か。ならば概ね、何が出るかは知れているな」)
その男、アルトリウス・セレスタイトは達観した面差しの中で催眠音声に耳を傾ける。
――――『群龍大陸』にまつわる事件にて。
悪感情を喰らって精神を揺さぶる邪霊と対峙した際、アルトリウスが目の当たりにしたのは友人に対する情欲の念が具現化された存在。
その友人に値する存在達は、己の欲を駆り立てるように扇情的な肢体を曝け出し、此方へと誘うような眼差しを向けている。
嗚呼、やはり。とアルトリウスは諦念にも似た小さな息を、一つ。
ただ人の形を成しただけの、伽藍堂の残骸であった己の裡に在ったという無自覚な情欲。
されど、嘗て目の当たりにしたことで真新しさなどなく――アルトリウスが先ず行ったのは『思案』だった。
己が由とするもの、そして眼前のこの欲望との比較。
――何故、それが現れるのか。
夢の中であれど、アルトリウスは分析するに至った。
様々な猟兵達との交流を機に、伽藍堂の男は『人の繋がり』を自覚する程度には人らしさを宿していた。
互いを認め、尊重し合うこと。それは人と人とだからこそが通じ合える、尊きもの。
喩えば、親が子へ。兄弟姉妹へ。或いは恋人へ。
理屈抜きに向ける親愛と庇護と信頼。
――尊ぶべきもの。“人として”生きるのならば、無くてはならないもの。
欲望を具現化した友人の姿をした幻影が、己の頬へ触れようとした瞬間――即座に手首を掴んで制した。
ぐっと力を込めながらも、アルトリウスは思案を続ける。
(「……それの端的な具現と見えるものを求めている、ということだろうか」)
紡がれる、絆。
それは街へ行く先々で、会話でも垣間見ることができた。そんな彼等は日常の一片として傍観していた節はあろう。
されど、己の欲望が形として現れるならば――、
「――紡がれる絆を見るばかりでなく、持ちたいのか」
ぽつり、紡がれた言葉と共に、幻影は全て消え去る。
残骸たる男の中に人知れず、少しずつ注がれゆく想いは何であろうか。
嗚呼、されど未だ、忘却者たる男の空虚を埋めるには足りない、足りない――――。
大成功
🔵🔵🔵
非在・究子
よ、欲望。欲望、か。
あ、アタシは、一つでも、多くの、ゲームを、誰もが、驚嘆する、様な、速さ、や、華麗さで、クリアしたい。そ、そして……この『現実』って、クソゲーを、クリア、してやるんだ。
ど、どうして、そうしたいかって?
あ、アタシは、もともと、ゴシュジンに、生み出された、げ、ゲームの、プレイ動画用キャラクター、だ。だ、だから、それは、当然の事だろ?
……ご、ゴシュジンは、いつのまにか、居なかった。げ、『現実』って、ゲームを、クリア出来なかったんだ。だ、だから、アタシが、代わりに、『現実』を、クリアして、やる。
も、もしも、それが、出来たなら……ゴシュジンは、アタシを、もう一度、褒めてくれるか?
【非在・究子(非実在少女Q・f14901)の場合】
究子――またの名を、Q子とも呼ばれる非実在的世界で産まれた少女は、或る特異な願望を抱いていた。
ヘッドホン越しから聴こえる催眠音声。嗚呼、一般人ならばすぐさま侵されてしまうだろう。
(「よ、欲望。欲望、か。――こ、この音声はいわゆるヌルゲー、だな。でも……」)
けれど構造そのものは単純だ――ゲームセンターのクレーンゲームの構造すらも、究子は見透かせる。されど、この場では敢えて催眠に身を委ねた。
~~
▼Name:Qko_Hiari
▼SabName:Reality_Hacker
……Now_Loading?
――――
――
こ、ここは――お、おぼえてる。知ってる。
あ、アタシがずっとプレイしてきた、げ、ゲームの、画面だ。
よ、横スクロールアクション、バグ技もなんでも、なんでもどんと来いの王道懐ゲー。
ご、ゴシュジンは、このゲームをプレイするために、あ、アタシを、生み出したんだ。
ど、動画に残して、あ、アタシが活躍する様子を残してくれて、こ、コメントにはゲームセンスだけじゃなく、アタシの褒め言葉も残してくれるリスナーも、い、居てくれた。
――で、でも、ゴシュジンは、いつのまにか、居なかった。
げ、『現実』って、ゲームを、クリア出来なかったんだ。……げ、GAME OVERだ。
こ、CONTINUEができないことは、あ、アタシも知ってる。だ、だから……、
「アタシが、代わりに、『現実』を、クリアして、やる」
さ、さっき見えた、Continueの画面。も、もう一度、表示してほしい。
――――
……Now_Loading?
「……ご、ゴシュジン。たとえ動画に残せなくても、み、観てて」
▷Yes!!
――――あ、アタシが『現実』って、クソゲーをクリアできたら、ゴシュジンは、アタシを、もう一度、褒めてくれるか?
ご、ゴシュジンが居なくても……バーチャルキャラクターになった、あ、アタシは、残機は∞だ。
だから、ゴシュジン――また、また、いつか、
▷Game_Clear!
▷Score:∞
~~
「…………ゴシュジン」
ぺたり、究子はその場にへたり込みながらも、欲望教による催眠音声から逃れた。
これじゃ、これだけじゃ、足りない。
究子の願いは、この場では足りないほどの大きなものだ。
一つでも多くのゲームを、誰もが驚愕するほどの神プレイを以てクリアしたい――そう、嘗ての『ゴシュジン』が目を奪われる程に。
「……や、やっぱり。人生は、クソゲー、だな」
長い前髪で瞳が隠れる中、究子――またの名をQ子は、皮肉めいた笑みを添えて呟いた。
――嗚呼、神プレイが反映されて、裏コマンドとしてゴシュジンが解禁されたら良いなんて。
―――――只々、都合の良い裏ワザだ。
大成功
🔵🔵🔵
宗田・きいちご
◎
チップが欲望なんてぇ面白いですねえ
欲望を手放すな〜♪
まぁでも、宗田の欲望なんて大した事無いですよねぇ。ちゃんとチップになるかなぁ〜?
あう……これが催眠音声……?
これは…幼い頃の宗田…怪我をして戻ってきたお友達の手当てをしてますねぇ……
下手くそだけど一生懸命包帯を巻いて……
ああ、でも、そう、この時
血の滴る傷口に爪を立てたかった
無事な喉元にさらに噛み付きたかった
もっと痛む顔が見たかった
……ふふ、宗田の欲望、こぉんな小さい頃からあったんだぁ
ならもう、この欲望とずぅっと生きていくしかないですねぇ
欲望を手放すなんて、ナンセンスですから♪
【宗田・きいちご(甘めのヤブナース・f18735)の場合】
――欲望を手放すな~♪
なんて、きいちごは甘い声で陽気にフレーズを口ずさむ。
チップが欲望になるなんて、愉快で面白いものだと、きいちごはゆるりと果実めいた鮮やかな瞳を細めた。
「まぁでも、宗田の欲望なんて大した事無いですよねぇ。ちゃんとチップになるかなぁ~?」
くすり、唇にのせるは何処か悪戯めいた笑み。
そんな甘色のナースにも、催眠音声は耳朶を伝って神経を揺さぶる――。
(「あう……これが催眠音声……?」)
とろり蕩ける意識の中、揺らぐ視界が次第に鮮明となってゆく。
――これは、幼少期の頃。きいちごにとっても、忘れがたい記憶。
~~
これは……幼い頃の宗田……。
今よりほんの少しだけあどけないですね。これは――あの日の、怪我をして戻ってきたお友達の手当てをしていた時のことでしょうかぁ。
慣れない手付きで傷を消毒して、救急箱から包帯を取り出して……下手くそだけど、一生懸命包帯を巻いて……。
ああ、でも、そう、この時。
――――血の滴る傷口に爪を立てたかった。
無事な喉元にさらに噛み付きたかった。
もっと痛む顔が、見たかった。
消毒液を垂らしても尚、てらてらと艶っぽい色を放つ血はとても唆られましたねぇ。
宗田が治療したとはいえ、あの傷口の血を独占する啜るガーゼが羨ましかったくらい。
理性が残っていなければ、きっと宗田は……なんて。
~~
「……ふふ、宗田の欲望、こぉんな小さい頃からあったんだぁ」
ゆるり、甘い瞳を細めてきいちごは過去を思い返す。
懐かしくて、愛おしくて――今まで寝かせ続けてきた秘蜜を晒した快感に、只々歓びと快感を憶えていた。
「ならもう、この欲望とずぅっと生きていくしかないですねぇ……。
赤い、紅い、蜂蜜よりも濃密な血の味への恍惚を、忘れることなんて出来ませんものねぇ」
くすり、小さく微笑んだきいちごの瞳は――果実と形容する以上に、赤く紅く、熟していた。
甘い甘い、ヤブナースは新たな賭場へと足を踏み入れる。
そう――欲望を、手放すな♪
なんて、フレーズをふたたび口ずさみながら。
「欲望を手放すなんて、ナンセンスですから♪」
大成功
🔵🔵🔵
火奈本・火花
◎
「我々のように掲げた理想も欲望の内、だとは思いますが――彼らの欲しい欲望はきっと怠惰で、堕落した、秘すべき欲望を求めているのでしょうね」
■行動(SPD)
あまり身分があっても怪しまれるでしょう
ホームレスに『変装』し会場に入り込むつもりです
私の欲望は、
エージェントとして望むべきではない、世間からの喝采、英雄願望でしょうか
認めて貰いたい、賞賛を受けたいという気持ちはどうしてもありますからね
■欲望
より深く探られた時
幼い頃、邪教に魅入って破滅した両親を、取り戻したいのではなく、自分を見捨てた事への憎しみが発露
その時の邪教も両親も、出来る事なら皆殺しにしてしまいたい、という暗い欲望
苦しさと自己否定で涙を
【火奈本・火花(エージェント・f00795)の場合】
「我々のように掲げた理想も欲望の内、だとは思いますが――」
静かに、火奈本・火花はそう紡ぐ。
この妖しげなクルージングに沿うよう、ホームレスらしい見すぼらしい見目で変装し、ロビーへと忍び込んだ。
その効果もあってか、欲望教のスタッフらしき相手にも不審に思われることなく、ロビー内以外に潜伏し、情報を得ることに成功した。
――どうやら、この欲望教のクルージング内には邪神などのボス的存在は居ないということ。
しかしながら、クルージングの要として人々を陥れようとする配下は存在していること。
この配下を殲滅し、船の舵を取ることに成功したならば、一般人も含めて救出することができるということ。
「彼らはきっと怠惰で、堕落した、秘すべき欲望を求めているのでしょうね」
それは、火花が目を開き、周囲を見渡す――価値もない程に、己の欲望や堕落した渇望に手を伸ばす大人達が下卑た笑いを浮かべているばかりだった。
その醜さに火花は目を伏せ、不快なほどに深い、溜息を一つ。
されど催眠音声は耳朶を伝って脳髄を侵し、火花が抑えていた筈の欲望を拡げてゆく――。
~~
「嗚呼、さすがエージェントの火花さんだ! 此度もUDC事件を解決してくれた!」
「やっぱりあの子は頼りになるなぁ! あの子が居るからこそ俺達は平和に過ごせるんだ……!!」
街を歩くたび、そんな賞賛の声が耳に入る。
世間からの喝采、英雄願望。
――そう、きっと。欲望として形にするならばそれが合っているのでしょう。
ふと振り返れば、街の人々は私を英雄視して、目を輝かせ、時には手を振ったりする。図々しい相手ならば写真を撮ろうと声をかけたりもする。
認めて貰いたい、賞賛を受けたい――――承認欲求はあれど、肥大化したそれが、私自身の『欲望』。
――――本当に?
「……!?」
そんな己の内に語り掛ける声が聴こえた途端、承認欲求が満たされる平和な日常が次々と消え去っていった。
私の、本当の、本当の欲望は――、
~~~~
「嗚呼、神様! どうかどうか、哀れな我等を見棄てずお救い下さるよう――」
家事も何もかもを投げ出し、視えもしない神を崇める母。
そんな母へ違和感を憶えた私は、必死にしがみついた。
「やめて、お願いやめて、お母さ――ッ」
けれどそんな声も止む無く、母は私を無理やり引き剥がして、顔を引っ叩いて、見下ろした上でさらに告げた。
「あの方の声が聴こえないの!? 気でも狂っているわ。
神様の声が聴こえないなんて……あなたは人の子じゃない。私の胎から介した化物よ!!」
悲痛な絶叫が耳に残る。それが、母が告げた私への忌み言。
いったい誰が親を狂わせた? 親はどうして狂ってしまった?
殺したい、殺したい殺したい殺したい殺したい。
――せめて、親がさらなる罪を犯してしまう前に。
そうして、邪教の存在も、全て。
「……そう、私は化物。ですか」
頬を伝う雫は只々、むず痒い程に温かかった。
大成功
🔵🔵🔵
真守・有栖
◎
よくぼう
おにくをおなかいっぱいたべる
おさかなもいっぱいたべたい
もふもふをひたっすらもふりたい
それから。それから。
…………
思ってたより、いっぱいあったわ!?
しかたのないことよ?
だって、いつでもぺこぺこだもの
――つきばみ
つきをくらうおおかみですもの
おつきさまをがぶり、としたいわ。したいの!
りゆう?わからないわ
だって、りくつじゃないもの
ほんのうなの。おおかみなの!
つきをくらわなきゃ、って。それがわたしなんだって
だけど。それはいまだかなわず
だから、はらぺこなのよ
どれだけいっぱいでまんぷくでもだめなの。たりないわ
たりぬ
みたされぬ
わたしのよくぼう
それは――“飢餓”
嗚呼
此処は私を満たしてくれるのかしら?
【真守・有栖(月喰の巫女・f15177)の場合】
――よくぼう。
おにくをおなかいっぱいたべる。
おさかなもいっぱいたべたい。
もふもふをひたっすらもふりたい。
だいすきなものいっぱい、このてでかかえたい。
ほかにもまだまだ。それから。それから――、
「………………思ってたより、いっぱいあったわ!?」
欲望について思い巡らす中、有栖は頭を抱えた。浮かび上がる欲望、ないし願い事は挙げればキリがない。
美狼にして麗狼たる有栖に、遠慮の二文字は存在しない。
そう、しかたのないことよ?
だって、いつでもぺこぺこだもの。
ああ――けれど。
ひとつ、えらぶとするならば。
~~
脳裏に茫、と映し出されるは、まあるいまあるいお月様。
――つきばみ。
わたしは、つきばみ。つきをくらう、おおかみですもの。
おつきさまをがぶり、としたいわ。したいの!
てをのばしても、おつきさまにはとどかない。でも、それでもほしくてしかたない。
――りゆう? わからないわ。
だって、りくつじゃないもの。
ほんのうなの。わたしはおおかみなの!
つきをくらわなきゃ、って。それがわたしなんだって。
どんよくでも、いいの。これがわたしなの。
だけど――それは、いまだかなわず。
だから、はらぺこなのよ。
どれだけいっぱいでまんぷくでもだめなの。たりないわ。
たりない、たりない、たりないたりないたりない!
たりぬ。
みたされぬ。
――わたしの、よくぼう。
それは――――“飢餓”。
~~
「――嗚呼、」
その欲を認識した瞬間、月喰の巫女は目醒める。
月が満ちる夜、彼女は内に宿る“本性”をあらわすのだ。しかし、此度はそのときではない。
故に、飢えていた。どうしようもなく。
――此処は私を満たしてくれるのかしら?
喩え、月は未だ視えずとも。獣の本能秘める瞳は、輝きを宿して――。
大成功
🔵🔵🔵
カノン・トライスタ
◎いつものごとく大歓迎だぜ
「欲望、願いか……。そんな綺麗なもんじゃねぇけどな。」
UCで創造した恋人縁の弾丸で過去を、欲望を振り返るぜ。
「俺の願いは蒼火ともう一度……いや、違う蒼火は死んだ。もういないんだ。俺が望むのはもう二度と大切な人を失わないための力。」
『いや、復讐だ。蒼火を殺したアイツをこの手で殺す。理屈なんかどうでもいい。蒼火もきっと望んでない。それでも俺は奴を殺す。』
「願いなんてものは自分で叶えてこそだ。人に叶えて貰うなんてまっぴらゴメンだぜ。」
【カノン・トライスタ(深紅の暗殺者・f01119)の場合】
「欲望、願いか……。そんな綺麗なもんじゃねぇけどな」
ロビー内に流れ出すアナウンスに、カノンは訝しそうに目を眇めた。
胸に下げたペンダントに指をあてがう。願いは既にある。たったひとつの、想いが。
そして、強烈な催眠音声が人々の耳朶を侵す最中――、カノンは洗脳に抗い、ガンナイフを取り出した。
――――夜空に輝く星の下。忘れもしない君の声。
解き放たれる炎刃の弾丸は、カノンの想像から創造されてゆく。
それは欲望教の邪悪な魔の手が己の心に触れる前に、カノンなりに考えた対抗手段。
過去を振り返り、欲望に支配されずに『願い』と向き合う――。
――今でもこんなに鮮明なのに、伸ばした手はもう、もう……、
~~
それは、忘れもしない。夕暮れの赤が、目を刺すほどに鮮烈だった。
どんな青空よりも澄んで、海よりも輝いていたあの綺麗な彼女の蒼い髪が、鮮血の中に沈んでいた。
抱きかかえた彼女は、その端整な顔が常よりも生気を失っていて。
――それでもぞっとするほど美しく、優しく俺へ微笑んでくれた。
俺は彼女を護りきることができず、只々、無力で、悔しくて――。
「……俺の、願いは、」
――愛する彼女と……蒼火と、もう一度?
違う。
「違う、蒼火は死んだ。もういないんだ。俺が望むのは――もう二度と、大切な人を失わないための力」
形見のペンダントを、今度は確りと握りしめた。
大切な人を決して離さぬよう、失わぬよう。
(「いや、復讐だ。蒼火を殺したアイツをこの手で殺す」)
そう、この願いは綺麗なものではない。血にまみれ、心は怨讐に囚われたまま。
何も知らない誰かが「彼女がそんなことを望まない」などと綺麗事をのたまったとしても――そんなことは、関係ない。
(「理屈なんかどうでもいい。蒼火もきっと望んでない。それでも俺は、奴を殺す。
蒼火の死を受け容れて、恨みを忘れて生きるなんて“俺自身”が許せないんだ」)
「……これが俺の願い。俺が望んだ『復讐』だ」
その言葉に呼応するように、星見の刃が光を帯びる。
この幻覚を燃やし尽くすべく、俺は剣を振るった。
――放たれた蒼い炎は、彼女の髪のように澄んでいて、赤い光景を全て覆い尽くしていった。
~~
「……蒼火」
ぽつり、カノンはふたたび想い人の名を呼んだ。
ふと気づけば此処は現実。欲望にまみれた人々が溢れかえるロビーの中だ。
「願いなんてものは自分で叶えてこそだ。人に叶えて貰うなんてまっぴらゴメンだぜ」
――これは、俺自身が決着をつけるべき『復讐』なんだ。
大成功
🔵🔵🔵
ネグル・ギュネス
◎
人の欲望とは絶えぬもの
成る程、確かに理に適ってるよ、邪教ども
其れを良しとするかは別だが。
【欲望】
人の温もりに包まれていたい欲望
記憶を喪う前にあった、確かな温もり
それを奪われ、自らを喪うて彷徨う日々
冷たい孤独に苛まれながら歩き続けた
奇異の眼差し、陰口に晒された
酷く寒く、冷たく、全身が真の機械になったような錯覚
諦めかけ、倒れた後に得た、新たな暖かさ
支えられて助けられて、だから頑張れて
あの冷たく仄暗い世界には戻りたくない
もう、二度と
嗚呼、理解した
私は途方も無く、寂しがり屋なのだ
独りが怖くて、辛くて、でも怖くて明かせない
認めるよ、私の浅ましい欲望を
さあ、次に案内してくれ
私の渇望、オールベッドしてやる
【ネグル・ギュネス(ロスト・オブ・パストデイズ・f00099)の場合】
(「人の欲望とは絶えぬもの。――成る程」)
確かに理に適ってるよ、邪教ども。
そう唇を歪ませ、ネグルは皮肉めいた溜息を漏らす。
そしてそんな絶えることのない欲望をかき集め、人々を利用するという下卑た計画。
嗚呼、理に適っては居ても、人道に反していると云えよう。
――そう、其れを良しとするかは別だ。
す、と静かに男は切れ長の瞳を開く。
在りし日の記憶を大方喪った自分に魅せられる、幻覚とは?
いや、それよりも――向き合わねばならない。自分も、また。それはまた奇遇にも、好機であるのだろうか。
~~
――――――まるで、それは夢うつつ。
彼岸と此岸の境に在る、あの旅館の空気にも似た……否、人を包むあの夢心地とは違う。これは脳を蝕む悪夢だ。
(「……これは、」)
何処か、懐かしい。
これは私が記憶を喪う前にあった、確かな温もり。
燃え落ちた孤児院――嗚呼、これはあの美術館で見た、絵画と同じ。
ふたたびあの悲痛な声々がフラッシュバックするも、ぐっと目を伏せて振り払う。
――逃げて、生きて。
彼女の最期に聞いた声を胸に、嘗ての私は生き延び、それでも自らを喪って彷徨い続けた。
冷たい孤独。奇異の眼差し。ときには暴漢に絡まれることもあった。
酷く寒く、冷たく、全身が真の機械になったような錯覚。
――それでも。
新たな暖かさに触れて、支えられ、助けられて、だから戦い続けることができて。
掛け替えのない戦友たちや、護りたい存在が、余りにも増えすぎた。
嗚呼、だからこそ今の私が此処に居る。
あの冷たく仄暗い世界には戻りたくない
もう、二度と。
予測された、近未来。
超高速演算により導き出された金色の光は、仲間の未来を守る為――されど、此度は己の活路を開く為に。
「――――認めるよ、私の浅ましい欲望を」
この冷たい孤独の光景を照らすには、彼女が贈った“花篝”が相応しい。
小さな桜籠を千年桜の炎槍へと変化させ、横薙ぎの一閃。
桜の彩を舞い散らし、蝕む夢にサヨナラを告げる。
~~
ネグル・ギュネスという男は、冷徹でいてその本質は途方も無いほどに寂しがり屋だった。
男は友を救い、友の幸いを心より望む。
けれどその実、独りが恐れるが故に、胸の内を安易に明かせない。
――今、その本質と、向き合うことができた。
「……さあ、次に案内してくれ」
――――私の渇望、オールベッドしてやる。
覚悟は常に、この胸に。
大成功
🔵🔵🔵
誘名・櫻宵
🌸エリシャ/f02565
◎
美しい桜の根元には秘密がある
醜悪な
明かせない欲望
エリシャ
あなたも同じでしょ?
ただ褒めて欲しかった
父上母上に
たくさん殺して功績をあげれば認めて貰えると
愛して貰えると
そんなの夢幻で
怖がられ孤立する
気がついた
四肢を裂いて腹を抉り首を刎ねる
その一瞬
焦がれ縋るようにあたしを映すその瞳
快感で嬉しくて
ああ満ちる
誰も彼もその一瞬あたしに戀してくれるの!
もっと愛して
あたしを見て
愛の残穢を貪る
心地いい
独りではないと感じる
楽しくてたまらない
その一瞬が忘れられなくて亡骸を骨を使って作品を造る
あたしは彫刻家
愛の証を遺すの
つまらない我楽多よね
足らない
殺させて
愛して愛して愛して
もっと
満たして頂戴
千桜・エリシャ
◎
🌸櫻宵さん/f02768
桜で繋がる縁
そう、あなたも…
物心ついた頃から人が美味しそうに見えた
城の人間を喰らって
母に酷く叱られた
次の欲は首
私を拐った男…夫を困らせたくて
私以外の妻達の首を望んだ
本当に持ってくると思ってなくて
けれど感じる私への愛
嬉しかったの
夫に言えば何でも叶えてくれた
囚われた鳥籠を満たす
財宝
沢山の首
お食事…人の血肉
これが幸せ
それでも
裡の修羅が疼く
自ら首を狩ってみたくなってしまい
初めて斬り落としたのは夫の首
満たされた想いだった
一瞬で終わってしまったけれど
この高揚が忘れられず
今は敵の首を求める
でも本当は
愛する人の首じゃないと駄目
食事だって人の味が恋しいの
私の欲は人の世では満たされない
【誘名・櫻宵(屠櫻・f02768)、或いは千桜・エリシャ(春宵・f02565)の場合】
――さくら、さくら、夜闇に散って。
――――あなただけの桜を、咲かせてあげる。
古来より桜の薄紅は、土の下に眠る死人の血を吸って鮮やかに色づいていると云われている。
所謂、曰く付きの都市伝説。然れど真実は美しき彩が隠してくれる。
そう、秘せざるは花ならざる也。
「美しい桜の根元には秘密がある――醜悪な、明かせない欲望。ねぇ、エリシャ」
あなたも同じでしょ?
――櫻宵の花霞滲む眸は柔くも艷やかに、傍らの桜の娘に黙したまま問う。
対する桜の娘――エリシャもまたゆるりと鮮やかな桜の瞳を伏せがちに、それでも確りと“彼”と視線を重ねて。
「――桜の樹の下には何とやら。桜で繋がる縁。そう、あなたも……」
嗚呼、これ以上の語らいは野暮と云うもの。
室内に響き渡る催眠の音色は、わらべ唄より拙く、罵声より醜悪で――。
~~
――――淡墨桜が、可憐に花咲かす。
けれど、あたしの花は、鮮血に穢れた徒桜。
ただ、褒めて欲しかった。父上、母上に。
たくさん殺して功績をあげれば、認めて貰えると。愛して貰えると。
「父上、母上……」
血に塗れたこの身体で帰っても、家族はあたしを褒めることなど――寧ろ怖がられ、孤立していった。
嗚呼、愛し合う家族の日常など夢幻。
最初は、哀しかった。認められないことが、愛されないことが。
けれど或る日、気づいたの。
まずは右脚を。痛みで叫ぶ中、ゆっくり左脚を。
両手で地を這って逃げ出そうとする中、新たに両手を裂いて達磨にするの。
段々と声がか細くなっていく中、腸を抉って地に晒し、終いに首をすっぱり刎ねる。
――その瞬間。
光を喪いながらも涙で濡れた瞳が、焦がれ縋るようにあたしを映すの。
快感で、嬉しくて。
嗚呼、嗚呼、心が、凡てが、満ちる。
誰も彼も、その一瞬はあたしに戀してくれるの!
あたしだけを視て、息絶えてくれるの!
「ねえ、もっと愛して。あたしを、あたしだけを見て――」
愛の残穢を貪り、骨の髄までしゃぶり尽くす。
その恍惚は今もなお、忘れがたい。
そう、これがあたしの欲望。
生暖かい血の感触が、死の間際にあたしを見つめるあの眼差しが心地良い。
――あたしは、独りじゃないの。
その一瞬が忘れられなくて、亡骸を骨を使って作品を造るの。
あたしは彫刻家。たったひとつの、愛の証を遺すのよ。
――狂っている? そんな、あたしは求めているだけ。愛し続けている、それだけよ。
つまらない我楽多であれど、これがあたしの愛情表現。
嗚呼、愛おしい……出来上がった作品を眺めて、そっと指先で触れて満足するの。
でも、どれだけ殺めても足りないわ。
足らない。殺させて。
愛して愛して愛して――あたしは、欲しがりだから。
~~
――更なる、狂い咲く桜の嵐が吹き荒ぶ。
~~
――いつの頃だったかしら。そう、物心ついた頃から。
私に仕える城の者や、出かける際にすれ違う人々が、とても“美味しそう”に見えた。
或る日、城の者を喰らったことがあった。
生温くて濃密な血の香り、口の中でじゅわり蕩ける肉の感触。
美味しい、とても、美味しかった。
けれど、そのあと母に知られて、酷く叱られた。
いけなかったのかしら。あんなに美味だったのに。とても、とても口惜しかったのを今でも憶えているの。
――次の欲は、首。
あれから私は、或る男に拐われて夫婦となった。
けれど夫は、私以外にも妻を娶っているというのだから――困らせたくて、私以外の妻達の首を望んだ。
どうしてかしら。本当に持ってくると思ってなくて。
……けれど、私と視線を交わすたび、夫の目の色が変わっていたの。
鳥籠の座敷牢の中に囚われているが故に、触れることすらままならなかった。それでも夫は、私の望むものを凡て与えてくれた。
財宝、沢山の首、お食事……人の血肉。
嗚呼、嗚呼、贅沢。至福。これこそが、幸せ。
心より満たされた日々を過ごしていても、私は貪欲で、裡の修羅もまた欲に渇いていた。
そう――私はまだ“自ら首を狩っていなかった”。
初めて斬り落としたのは夫の首。
すっぱり、綺麗な斬り口で、鮮やかに、鮮やかに。刎ねた首は飛んでいった。
ころりと転がる首の音。おびただしく溢れ出る鮮血は、今まで観たどんな調度品よりも美しくて。
――満たされた想いだった。
一瞬で終わってしまったけれど、この高揚は今も忘れられない。
――――だからこそ求めるの。私を昂ぶらせる、御首を。
~~
――桜吹雪は静かに止み、欲望を受け容れた二人は現実へと還る。
「エリシャ……あなたも、“視た”のね。無事に帰って来てくれて安心したわ」
「そうおっしゃる櫻宵さんこそ。――嗚呼、お互いの欲望はまだもう少し『秘すれば花』、ですわね?」
くすり、エリシャが鬼の爪宿す人差し指を立てれば、櫻宵も真似て、その細い指先を己の唇にあてがう。
桜まとう二人は、そのまま芳しき馨をふわりとロビーに残し、立ち去ってゆく。
――あとに花びらと、熱狂する醜い人々の欲望が渦巻くばかり。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵
古高・花鳥
◎
欲望を曝け出させる音声……
怪しい限りではありますが、躊躇う理由はありません
皆さんを守る為です、進みましょう
……それに、欲望を受け入れるなんて、わたしにとっては朝飯前ですし
わたしの欲望……わたしは欲張りなので、たくさんあるんです
“大好きな家族が、ずっと幸せでいて欲しい”
“一人でも多くの人を助けられるような、強い人になりたい”
そして何よりも
“誰かの幸せの為に戦える、本当に優しい人になりたい”
全部、ずっと求めてきたことです
何時だって心の中にあったことです
だから、受け入れる準備はもう出来ています
立ち止まってる暇はありません
さぁ、はやく進まないと
【古高・花鳥(月下の夢見草・f01330)の場合】
(「欲望を曝け出させる音声……」)
その聞くからに怪しいウリ文句や催眠音声の存在に、花鳥は眉根を寄せる。
(「怪しい限りではありますが、躊躇う理由はありません。皆さんを守る為です、進みましょう」)
――それに、欲望を受け入れるなんて、わたしにとっては朝飯前ですし。
そう胸中で独りごちる花鳥のかんばせは、仄かな憂いを帯びていて。
催眠音声が脳を支配してゆく中でも、花鳥は何処か身を委ねるように、静かに、静かにその瞼を伏せた――。
~~
わたしの欲望……わたしは欲張りなので、たくさんあるんです。
“大好きな家族が、ずっと幸せでいて欲しい”
父を亡くして、母は病床に伏せて、弟や妹たちを養う為にわたしは生計を立てるべく、猟兵として戦い続けていました。
何にも替えられない、大好きで、大切な家族。幸せを、わたしは心より願っている。
“一人でも多くの人を助けられるような、強い人になりたい”
或る日、夢を見たんです。
わたしが出逢ったのは、見知らぬ方――時代錯誤な袴を身にまとい、刀を携えた剣客でした。
夢の中で、わたしはその人に剣術を託されたんです。名も知らぬ、抜刀術を。
それ以来、わたしは打刀を手に、未熟ながらも剣術を極めました。今でも未だ、剣の腕はあの人には劣ることでしょう。
それでも、わたしの刀で、一人でも誰かを救うことができるのなら――強さを身につけたい。これからも。
――けれど、ただ強いだけではいけません。
わたしが何よりも望むのは、
“誰かの幸せの為に戦える、本当に優しい人になりたい”
ええ、欲張りです。望むからには、前に進むからには、貪欲でなくては。
だって全部、ずっと求めてきたことですから。
何時だって、心の中にあったことです。
だから――、受け入れる準備はもう出来ています。
「わたしには、立ち止まっている暇はないんです」
無銘の打刀。その鞘に手をかけ、瞬時に抜刀。
幻覚に酔って生み出された空間は斬り裂かれ、その隙間から溢れ出る光に、わたしは目を細めた。
「――さぁ、はやく進まないと」
人々の欲望が利用されてしまう前に。
そして、わたしの欲望を奪い取られてしまう前に――。
~~
大成功
🔵🔵🔵
霑国・永一
◎
いいじゃないか、裏カジノ。金の匂いに狂気の気配、大好物さぁ。
ほほぅ、叶えてくれるのかな?であれば俺の欲望は至ってシンプルだよ。
そう、金さ。金目のものもいいけど現金がベストだねぇ。手に入れて即使って欲を満たすことできるからねぇ。
ああ、でも楽に手に入れるとかは駄目かな。俺は他者から盗んで己のものとしたいからねぇ。いやぁ、普通の事過ぎるとは思ったけど、念は入れるもの。
受け入れるも何も、拒んだことなど無いさ。昔からねぇ。(子供の頃から万引き、空き巣、盗みは常にあった俺の営み。あぁ、うっかり見つかった時に命も盗んだこともあったなぁ。金は命より重いとは言ったものだねぇ)
さぁさ、カジノへ案内して貰うよ?
【霑国・永一(盗みの名SAN値・f01542)の場合】
霑国・永一は多重人格者だ。
男はパッと見ればUDCアースに溶け込むような見目をしていれど、ひとたび話せば違和感を持つ者も――察しの良い猟兵ならば居るかも知れない。
されど男は『普通』を自称する。自称するからこそ、人並みの『欲望』を抱いている――。
「いいじゃないか、裏カジノ。金の匂いに狂気の気配……そうそう、あのギラついた目つき。大好物さぁ」
ただ、いったい何人が破滅するかな――などという発想にまず至るのが悪い癖。
ニヤリ、と唇の端を吊り上げながら、永一は欲望の催眠に身を委ねる。
男にとって、寧ろ欲望を魅せるその音声は歓迎とでもいうほどの姿勢であった。
それもそのはず、霑国・永一という男は謎めいた容貌とは相反し、欲に忠実な男であった――。
~~
「ああ、もう催眠入ってるんだねぇ?
好きなものっていえば1に現金、2に狂気、3に女将さん弄り――なんて言えば一部で暴動が起こりそうかなぁ?」
――そう、飄々とした声は崩さずとも、本来の欲望は変わりない。
男の欲望は非常に分かりやすい。そう、金だ。
へらり、へらり。男は欲望のままに手にした札束を数えてゆく。恍惚な表情で、だ。
霑国・永一という男は、UDCアースの邪神の被害者に対しても、ある種の金銭的な面に対して多少のお世話になっている(非常にマイルドな表現)。
騙された被害者が悪い? それでも霑国・永一は全て食い物にしてしまうのだ。そういう男なのだ。
「……ひぃ、ふぅ、みぃ。まぁ、受け入れるも何も、拒んだことなど無いさ。昔からねぇ」
新たな札束を手にしながら数えてる最中、ぼんやりと呟く。
幼い頃から万引き、空き巣、盗み――全てが日常的。
あぁ、うっかり見つかった時に面倒だったから命を盗んだこともあったなぁ。もう顔も覚えてないけど。
――金は命より重いとは、言ったものだねぇ。
ぱらり、ぱらり。ぱらりぱらりぱらり。
ようやく札束を数え終えて、ご満悦。ゆるりと眼鏡の奥の瞳を細めたなら――、“こちら”へ向けて囁いた。
~~
「さぁさ、カジノへ案内して貰うよ?」
まるで、今まで退屈していたかのように。
いやはや、恐らく霑国・永一という存在としては非常に飽き飽きしていた時間であっただろう。
大変長らくお待たせ致しました――などと案内は恐らく不必要。
外道たる男にこそ、このカジノの遊戯を味わって頂きたい。
そうして、夢が醒めると同時、カジノへの扉は開くことだろう。
どうか、どうか。その忠実過ぎるほどの欲望を盗まれてしまわぬよう。あなたなりの知識と話術で巧みに躱して下さることを心より願っております――。
「……どうにも胡散臭い宣伝文句だねぇ。まぁ、今回ばかりは俺も退屈だからさ。“覗いて”みるよ」
大成功
🔵🔵🔵
ペル・エンフィールド
◎
潜入任務なのですね
潜むのは大得意なのですよ
欲望?ペルの欲望なんてただひとつなのです
狩りをし喰らう、つまりは食欲!
本当の欲は承認欲
異形の身である自分を認めてほしい
未だに未熟である自分を認めてほしい
小生意気な自分を認めてほしい
森から逃げても狩人を名乗ることを認めてほしい
仲間であることを認めてほしい
捨てられたくない、雑用役でも何でも良い、今の居場所に居続けることを認めてほしい
醜い鏡を見せられてる気分です
でもでも、これは捨てちゃいけないのですね
大丈夫、ペルは頭悪いですけど、ちゃんと分かってるですよ
【ペル・エンフィールド(長針のⅨ・f16250)の場合】
――ペル・エンフィールド。
鷲と木菟、そして人の混血であるハーピィ。
森に生き、森で育った彼女は、伸び伸びと自由に育っていった。そう、自由に――。
ぱたり、ぶわり。
翼をはためかせ、ペルはロビーの暗闇に紛れて船内へと潜入していった。
潜むのは大得意なのですよ! とはいえ、何処で潜んでしまっていても洗脳音声は耳に届いてしまう――。
されどペルの潜入は、この船内を制圧する為の大きなきっかけとなるであろう。
現にペルの空中戦において、ストラスの大爪に脅かされたSP達が床に臥せっている。
されど、そんな猛進も続くことはなく――洗脳音声はペルにも届いてゆく。
「――!!」
~~
「欲望? ペルの欲望なんて、ただひとつなのです。
狩りをし喰らう、つまりは食欲!」
ふんす、ふんす!!
胸を張って、ペルは宣言しますよ!
結社でも沢山狩りをして、楽しく暮らしていますから!
――――でも。
胸を張っていた手を解いて、そっと目を向けます。
大きく広がる羽。人とは違う、立派な翼。そして、竜に喰われた足を補う炎――。
そう、紛れもない異形。
異形の身である自分を認めてほしい。
未だに未熟である自分を、認めてほしい。
小生意気な自分を認めてほしい。
森から逃げても狩人を名乗ることを認めてほしい。
仲間であることを認めてほしい。
認めて、認めて、認めて、認めて――――!!
~~
「……なんて、アダムルスにワガママしてしまう訳にはいきませんからね。
他は、どうでしょう。炎火には力いっぱい引っ叩かれちゃって、ラグには悪態つかれちゃって、戈子やビリウットや、セレナリーゼからは窘められて……あっ、ハゼルはまた背中を蹴飛ばさなくっちゃ。新しく入ったザザにいい顔したいですからね。レンやマリアにも顔向けができないし……セレーネが帰ってきた時に、『おかえり』ってお出迎えしたいですし」
くすり。力なく微笑んでは、羽ばたいて。
棄てられたくない、雑用役でも何でも良い、今の居場所に――結社の席に、居続けることを認めてほしい。
――――いつの間にやら、結社という居場所がこんなにも居心地の良い場になって居ただなんて。
大丈夫、ペルは頭悪いですけど、ちゃんと分かってるですよ。
捨てちゃいけない、捨てるわけにはいけない。そんな分別くらい。しっかり持っているからこそ――今を、大事に抱えて生きたい。
大成功
🔵🔵🔵
アーク・キャロル
◎
はてさて、赴いては見たものの
欲望と来たか。
いや、それはまた随分と不躾だ。
くは……反吐がでるな。
私の欲望は知っている
アリスを見つけ導く事
ある意味強迫観念かもしれない
だけれど、私……僕はそれを成さねばならない
此方にある童話ではアリスはそんなもの必要ないらしいけれど
それは僕が赦さない
あぁアリス。可哀い可愛いアリス
貴女はこれから多々ある試練を越えねばならない
でも安心して
ーーー僕がその障害全てを取り除くから
あぁ……クク。
アリス
君には意志など必要ないんだ
アリスはただ
僕に守られていれば
それでいい
出してしまえばなんてことはない
チェシャ猫が言っていた通りじゃないか
なんて……傲慢で、独占的なんだろうか
【アーク・キャロル(時計ウサギのアリスナイト・f19576)の場合】
――はてさて、赴いては見たものの。
ふわり、ウサギの穴からふわりと現れた時計ウサギは、欲望まみれた客船内を見渡して――嗚呼、とさらに赤い瞳を細める。
(「欲望、と来たか。いや、それはまた随分と不躾だ」)
人の欲を炙り出し、それを糧とするなど何とナンセンスであろう。
悪趣味だ。故にアークは唇の端を常より釣り上げて、
「くは……反吐がでるな」
皮肉めいた笑みを、ひとつ。
されど迫り来る催眠の音色は、その立派に立ったウサギの耳を脅かし、そして不思議よりも滑稽で歪な世界へと誘う。
~~
――むかし、むかし。
或る1羽のウサギは、少女の存在を待っていたとさ。
不思議の国に訪れるはずの、無知であり無垢な性質の少女。
それは――――――まさしくそう、『アリス』と呼ぶに相応しい存在。
私はアリスを、求めていた。
……そう、これが私の欲望。既に知っていたこと。
アリスを見つけ導く――そう、不思議の国のこの中で。
ある意味、強迫観念かもしれない。
だけれど、私……“僕”はそれを成さねばならない。
此方にあるアリスの物語を、僕も読んだことがある。
時計ウサギに導かれ、不思議の国に落ちたアリスは、様々な体験を経て国から脱して、夢うつつのままに現実へと帰っていった――。
それが本当にハッピィ・エンドだと云うのかい?
「――それは僕が赦さない」
嗚呼いっそ、時計の針すらも止めてしまうことができるのならば。
カチリ。
静かにその時を、止めて。
――あぁアリス。可哀い可愛いアリス。
貴女はこれから多々ある試練を越えねばならない。
でも安心して。
――――僕がその障害全てを取り除くから。
あぁ……クク。
笑みが溢れて仕方がない。僕の傍に求めたアリスが居るのだから。
嗚呼、嗚呼、アリス。君には意志など必要ないんだ。
アリスはただ、僕に守られていればそれでいい。
――ずっと、ずっと、どうか彷徨っておくれ。そのたびに僕が見つけてあげる。
~~
――瞬間、アリスの幻影は消え去り、後に残るは静寂のみ。
「…………」
後に残らぬ余韻のまま、アークは両手を見つめてぽつりと呟く。
「出してしまえばなんてことはない。
……チェシャ猫が言っていた通りじゃないか」
ぐ、と苛立たしげに手を握る。チェシャ猫のあの声は未だ脳裏にこびりつく。
それでも尚、言う通りとなって再び脳裏に蘇ったことそのものが――腹立たしく、空虚な想いが支配して。
「――なんて……傲慢で、独占的なんだろうか」
大成功
🔵🔵🔵
直枝・月冴
お前ほど欲望に縁遠い人間はいないと同僚に言われた
だからこそ選ばれたのだろうが
しかし僕には確かな欲望がある
『生きたい』と
あまりにも漠然としていて、しかもその思いに意味は無い
無意味を厭う自分が抱える数少ない矛盾、実に醜い
――それ以外に、果たして何が
『捨てられたくない』
……ああ、それもまた切実な願いだね
組織に捨てられたら、僕は何をすればいいのかわからなくなる
皆、僕を犬と嘲るし、それを気にも留めないでいたが
上司のみが、僕を理解している
奴隷は何も考えなくていいから楽なのだと
つまるところ責任からの逃避願望は
確かに身勝手で醜いな
それにしても
この催眠音声はよく出来ているね
そちらの方に驚いた
【直枝・月冴(弦月・f10120)の場合】
直枝・月冴という少年は、傍から見れば害の無い、大人しい容貌の少年に見えよう。
されど、その内に秘める感情は――感情と、形容して良いものだろうか。
ひたすらに『無』であり、機械的であり、必要最低限以外に動くことのない、ひたすら無機質な存在で在る。
――まるで、そう。“人でなし”が、“人で在ろうと形どっている”と呼ぶに相応しい。
――――嘗て、告げられた言葉を思い出す。
『お前ほど欲望に縁遠い人間はいない』
同僚の声だ。
されど、僕には確かな欲望がある。
『生きたい』と。
余りにも漠然としたその願いが、果たして有用となるのか。
不明瞭ではあれど、この場に赴かずには居られなかった。
(「無意味を厭う自分が抱える数少ない矛盾、実に醜い。
――それ以外に、果たして何が」)
そのまま、欲望誘う催眠音声に少年は身を委ねた。
耳にこびりつく音色。それは一体どんな構造をしているのかと頭の隅で計算しながらも、己の声を聴き取ったなら――。
――『捨てられたくない』。
これは、嗚呼。幼い頃の、僕だろうか。
それはまた……ああ、それもまた切実な願いだね。
組織に捨てられたら、僕は何をすればいいのか、わからなくなる。
皆、僕を犬と嘲るし、組織の中でも面倒な待遇を受けていた。気に留めるだけでも面倒だからね。
上司のみが、僕を理解している。奴隷は、何も考えなくていいから楽なのだと。
つまるところ、責任からの逃避願望は身勝手で醜いな。
くす、くすくすくすくす。
笑いが止まらない。思わず笑ってしまう。
「――それにしても、この催眠音声はよく出来ているね。そちらの方に驚いた」
へらり、と笑ってそう感想を告げる。
先程までの罵声はどうしたかって、そんなの知らない。興味がない。
だからこそ欲望や興味のままに、今話しているだけさ。
――そう、これが僕の『欲望』。
寧ろ、この生への渇望すらもふわふわして曖昧かもしれない。漠然とした想いの中に、意義を見出したからこそ告げたまでだ。
そう、ただ、それだけ。
大成功
🔵🔵🔵
カイム・クローバー
◎
欲望をチップに…ね。俺の欲望は…『力』だろうな。
猟兵としての個の力と言い換えても良い。連携とかじゃなく、俺個人で、単体でオブリビオン共をぶちのめせる猟兵としての至上の力、それこそが俺の欲望だ。勿論、それは願っちゃいけねぇ危険なモンだ。
有り余る力は自身の手に負えない可能性がある。俺だけじゃなく、友人や愛する人も飲み込んでいく。殺しちまう事だってあるだろう。
だから今までは自制を掛けてきた。力に焦がれる自身を見て見ぬフリをしてきた。ここじゃ、そいつがチップってか?こんな欲望、手放せられるならくれてやっても良いんだが。今日だけは認めるぜ。俺は力に焦がれてる。望んでる。欲してる。……渇いてるんだ。
【カイム・クローバー(UDCの便利屋・f08018)の場合】
「欲望をチップに……ね。俺の欲望は……『力』だろうな」
へらり、飄々とした笑みを乗せた上で、カイムはそう呟いてみせた。
カイムにとっての『力』とは? ――それは猟兵としての個の力と言い換えても良い。
連携でもなく、俺個人で、単体でオブリビオンを撃退できる猟兵としての至上の力。
「……それこそが、俺の欲望だ。勿論、それは願っちゃいけねぇ危険なモンだ。本来ならば、猟兵は協力してオブリビオンを倒すからな」
あくまでの“定石”を認識した上で、カイムは欲望を吐露し続ける。
「有り余る力は、自身の手に負えない可能性がある。
俺だけじゃなく、友人や愛する人も飲み込んでいく……殺しちまう事だってあるだろう。俺にも、大切な存在がいるからな」
ぐ、と手を握りしめ、更に言葉を紡いでゆく。
「だから今までは自制を掛けてきた。力に焦がれる自身を見て見ぬフリをしてきた。ここじゃ、そいつがチップってか?」
ふ、と小さく笑って、催眠音声を聴き終えた上で――静かに、見据える。己の欲望をも、抑えた上で。
「こんな欲望、手放せられるならくれてやっても良いんだが。今日だけは認めるぜ。俺は力に焦がれてる。望んでる。欲してる」
――ふぅ、と小さく溜息を一つ。
欲望に溺れる一般人をかき分けて、カイムは新たな戦場へと向かうべく、歩き出した。
「……渇いてるんだ。次の勝負は何処だ?」
静かに、静かに声を紡いで、カイムは新たな戦場へと赴いていった。
――便利屋『Black Jack』。
報酬は割高であれど、どんな要望もなんでもござれ。
腕は確かであることは、口コミなどでもお墨付き。
ただし、お調子者の店主は一度キレたなら手がつかない程。さらに腕が良いというのだから良くも悪くも困り者!
さあ、そんな『Black Jack』――分の悪い賭けをお望みであれば是非ご贔屓に!
大成功
🔵🔵🔵
クロト・ラトキエ
◎
僕…否、俺の。
自分の人生は自分で決める。
愉しい様に変えてくし、欲しいモノは手に入れる。
何も奪わせず、誰にも邪魔させず、
ただ俺の為、思う儘、望む通りに。
欲望を…抑える?
何を莫迦な。
密やかに侵蝕し、力尽くで蹂躙し、何もかもを征服する…それを好むから、
一応薄紗を纏って潜めているだけ。
金に名誉に肉に力。
愛したい好かれたい、守りたい、生きたい――
欲する心は全て願い、即ち欲。
欲に良し悪し付けたがるから、人間ってややこしいんですよ。
僕はあらゆる欲を肯定する。
後は欲同士、喰らい合うのみ。
何と僕向きの話な事か♪
さぁ、手札は明かしました。
僕の欲が喰らい尽くすか、其方が欲を吞み干すか…
では、ベットと参りましょう?
【クロト・ラトキエ(TTX・f00472)の場合】
(「僕……否、俺の」)
ひとつ、ふたつ。歩み寄った上で、クロトは己と向き合う覚悟を決める。
(「――自分の人生は、自分で決める」)
その覚悟とは、決めるべきものとは、何か?
愉しい様に変えてくし、欲しいモノは手に入れる。
何も奪わせず、誰にも邪魔させず、
ただ俺の為、思う儘、望む通りに――。
――――それは、欲望?
欲望を、抑えているのではないのか?
何を、莫迦な。
思わず吐き捨てた。
されど、その間にも耳朶を破って侵してゆく音声はクロトの意識を次第に支配してゆく――。
密やかに侵蝕し、力尽くで蹂躙し、何もかもを征服する……それを好むのならば、
一応、薄紗を纏って潜めているだけ。
~~
~~
此れより、舞台の休憩時間と相成ります。
薄紗を下げて、再開の折には再び幕を開きませう――。
その間、どうか、どうか、あなたの中の答えが出ますようにと。
舞台仕掛けの神にすらなれなくとも、願うはたった一つ。
――そんな声に耳を済ませ、僕は己の欲望と向き合う時間を得ることができた。
金に名誉に肉に力。
愛したい好かれたい、守りたい、生きたい――。
それらは、典型的なほどの、人間的なほどによくある『欲』。
欲に良し悪し付けたがるから、人間ってややこしいんですよ。
「いやはや、だからこそ僕は『肯定』したいのです、あらゆる『欲』を」
あっけらかんと笑って話す僕を、何処かで見据える邪神はどう思ったことでしょう。
それでも、これは僕自身の本心です。食欲? 睡眠欲? はたまた性欲? 良いではありませんか。
僕はあらゆる欲を肯定する。
後は欲同士、喰らい合うのみ。
――何と僕向きの話な事か♪
~~
そのあっけらかんとしたクロトの答えに呆れたのか、ぐうの音も出なかったのか、すぐさま幻覚は溶けてゆく。
「さぁ、手札は明かしました。
僕の欲が喰らい尽くすか、其方が欲を吞み干すか……」
そのままクロトは、新しい戦場へと向かいながら、振り返り、爽やかな笑顔で言葉を続けた。
「では、ベットと参りましょう?」
大成功
🔵🔵🔵
鳴宮・匡
◎
――欲望、か
閉じた瞼に浮かぶのは、
記憶の底に封じたはずの、懐かしい日
俺を拾い、育ててくれたひとに手を引かれて
戦場を渡り歩いた、遠い日々
欲望といえるほど強いものかはわからない
でも、願うことならあるんだ
――あの人と過ごしていた時みたいに、
(当たり前に、泣いて、笑って、)
(世界の彩りに、人との触れ合いに、心を動かせるような)
(「人間」に、なりたいと思う)
……言葉に出すことはしない、
してはいけない
……でも、
もう、それが自分の望みだとわかってる
それが二度と、叶わないことも知っている
だけど、
叶わないからって、諦めて
沈めなければいけない道理だって、ない
そう、だから
ちゃんと認めてる
「それ」が俺の欲望なんだ
【鳴宮・匡(凪の海・f01612)の場合】
鳴宮・匡という男は、称号の通りの『凪』に相応しい男だ。
傍から見れば当たり障りのない男であれど、彼と少しでも親密に接した者ならば、彼という存在の違和感に気づくことだろう。
そう、『どこまでも』。『どこまでも』普通過ぎであるということを。
凡庸も、逸脱してしまえば非凡となる。その静かな凪は揺らぐことはない。今も、未だ――。
――そうして、閉じた瞼。
思い浮かぶは、記憶の底に封じたはずの懐かしいあの日。
~~
俺を拾い、育ててくれたひとに手を引かれて、戦場を渡り歩いた、遠い日々。
色んな街へ、赴いた。銃の扱いも教わった。
――これは、欲望といえるほど強いものかはわからない。
でも、願うことならあるんだ。
――今でも、思い出す。
――あの人と過ごしていた時みたいに、
(当たり前に、泣いて、笑って、)
(世界の彩りに、人との触れ合いに、心を動かせるような)
(「人間」に――、)
……いや、全て思い浮かぶことすらも野暮だ。
……言葉に出すことはしない。
しては、いけない。
「……けれど、わかってる。それが二度と、叶わないことも」
最期に残った、壊れた古い銃を両手で拾い上げる。
俺を拾った師は、俺を庇って、死んだ。
嘗て、引き金を引いたことがあった。
目の前にある光景など、目を伏せるほど哀しくて、それ故に否定し、拒絶したかった。
それでも、今は、今は――。
銃を、降ろす。
「――叶わないからって、諦めて、沈めなければいけない道理だって、ない」
そう、此処で終わらせてはいけないからこそ。
「そう、だから。ちゃんと認めてる――『それ』が、俺の――、
“欲望なんだ”」
ぱちん、と銃弾よりも拙いシャボン玉めいた音が弾けた。
その瞬間、夢は、終わった。欲望を受け容れた、俺は、そのまま――、
大成功
🔵🔵🔵
雲鉢・芽在
催眠音声で欲望を聞き出すだなんて露悪なことをさせますのね
口には出しませんが醜すぎて口元が緩んでしまいますわ
欲望、催眠されずともお教えになって構いませんが従うとしましょうか
私の欲望は
『全ての生物が出来る限り長く苦しみながら死ぬ毒を開発すること』
ですわ
私、大手会社の重役の父に対する復讐で誘拐されたことがありますの
その時に「死ぬまでに長く苦しむ毒」を飲まされましたの
犯人の方は既に捕まり解毒もしていただきましたが、その時に毒の素晴らしさに感動してしまいまして
それを他の方にもお伝えしようと研究しているのが、私の『欲望』ですの
ふふ、最近は自分で調合した毒の試飲もしていますのよ
あら、少し話しすぎましたわね
【雲鉢・芽在(毒女・f18550)の場合】
(「催眠音声で欲望を聞き出すだなんて……露悪なことをさせますのね」)
眉根を寄せ、内心ながらも芽在は軽蔑の目を周囲に向ける。
ロビー内に蔓延るは、どれもこれも欲にまみれた下卑た大人達。嗚呼、なんて醜い。
口には出さずとも、醜すぎて――嗚呼、口元が緩んでしまう。
欲望を促す音声など、耳障りな羽虫の音にも似ていますわね。
――欲望、催眠されずともお教えになって構いませんが従うとしましょうか。
諦念にも似た声のまま、芽在は催眠音声に嫌々ながらも身を委ねた。
……内心、『私ならば音声に毒を孕むことなど――』と非常に洒落にならないことを呟きながら。
~~
――思えば、そう。
大手会社の重役に務める父に対する復讐で、私が誘拐されたことがきっかけでしたの。
最初は怖かった。何をされるかたまったものじゃありませんでしたもの。
けれどその時に、飲まされたのが『死ぬまでに長く苦しむ毒』。
いったいどうして、そんな毒を飲ませたのかしら――私が長く苦しむ様を見たかったから? だとしたら、とんだ変態ですわね。
けれど、犯人の方は既に逮捕されましたわ。因果応報ですわね。
解毒もしていただきましたが――けれど、私は既に、毒の素晴らしさに感動してしまいましたの。
嗚呼、あれから調べても毒とはとても惹かれるものですわ。
神経毒、出血毒、筋肉毒、梅毒――!!
蛇も、蠍も、蛙も、蛾も、蜘蛛も――嗚呼もちろん、人間もどれもこれも興味津々。
ぐるりぐるりと身体を駆け巡るあの苦しみ、苦痛。他の毒ではどんな効果があるのか。俄然興味が湧きましたの。
それを他の方にもお伝えしようと研究しているのが、私の『欲望』ですの。
ふふ、最近は自分で調合した毒の試飲もしていますのよ。私は毒に耐性がある体質ですもの。三途の川へ渡りかけるあの危うい一歩が堪りませんの。
――嗚呼、嗚呼、今もとても愉しくて仕方がなくて……。
「――あら、少し話しすぎましたわね。けれど、まだいくらお話しても飽き足りませんの。
これが私の欲望。満たされる場があるというのなら、どうぞご案内なさって?」
毒も喰らわば皿まで、とはよく言ったもの。
そう、私もその覚悟であるからこそ。
大成功
🔵🔵🔵
柳・芳
◎
過去
UDCアース中国貧民街に生まれ
雑技団に半ば売られるように引き渡され厳しい修行を通し、舞台に立つのを目前に突如サムライエンパイアに転移
そこの役者に拾われ、その役者の弟子(芳にとって兄弟子)とコンビを組み花形女形役者と持て囃される
ある時、自分達の名を広める大きな舞台で演じる機会を得るが、その舞台上でオブリビオンに襲われ兄弟子が芳を庇って死ぬ
そのオブリビオンは退治されるが、名演技ではなく悲劇の役者として芳は名を知られる
…ははっ、馬鹿にするなってんだ
確かに俺は名声を得たいとも
だがそれは俺が自分で力を得た上で得る名声だ
あんた達にぽんと夢を叶えられて、嬉しいなぁなんて言えるものじゃないんだよ…!
【柳・芳(柳大哥・f19008)の場合】
~~
俺は嘗て、現代の世界――と云えば違和感が在るか。UDCアースの街で生を受けたことは憶えていた。
しかも日本でない、中国の、貧民街だ。九龍城砦が聳える中、引ったくりの被害や子供の泣き声は耐えない。
そんな俺は物心つく前に、雑技団に拾われた。幼い頃から芸を教わり続けていて、休む暇もなかった。
――けれど、舞台に立つのを目前に、俺はサムライエンパイアに転移された。
何故かは、今もわからない。だが、俺は或る役者に拾われ、今まで養ってきた芸事を見込まれ、俺は花形女形役者と持て囃された。
その拾ってくれた役者は、俺にとっての兄弟子だ。二人で組んで、舞台を盛り上げ、固定の客さえ多数迎えたほどだ。
「なぁ、芳! 次の公演、聞いたか? 今まで以上の大舞台だ!
俺達や皆の名が広まる好機だぜ!」
「おや、すごいな……確かにこれは俄然気合が入るというものだ」
「だろう? 絶対に成功させような!」
兄弟子はそう、常のように励ましてくれた。
けれど、舞台当日――。
演舞は滞りなく続いていた。歓声も期待通り、湧き上がっていた。
このまま出番を終えられるかと思っていた――次の瞬間、
「――! 危ない、芳!!」
「――――!?」
――それは、信じられない光景だった。
俺をかばった“はず”の兄弟子が、瞬く間に襲われ、気づいた時には舞台上で変わり果てた姿で横たわっていた。
舞台上という誰もが目にする場でありながら、誰もがその加害者の存在を目にすることができなかった。
そう、あまりに不自然過ぎる、死。
されど、直後に“猟兵”が俺達の舞台に現れ、そのオブリビオンを駆逐していった。
勿論、UDC組織の権限で、一般人に全容を秘匿された上でだ。
――されど、兄弟子が死んだ事実は変わらない。
俺は、兄弟子に庇われた悲劇の役者として、新聞やネットニュースの一面を飾ったんだ。
その時の俺の写真は、ひたすら美化されて忌々しい。ただただ、忌々しい――。
俺は、俺は――、
~~
「……ははっ」
皮肉めいた笑みを浮かべ、くしゃりと前髪を手で崩す。
……馬鹿にするなってんだ。俺の欲? 畜生。
確かに俺は『名声』を得たいとも。
だがそれは、俺が自分で力を得た上で得る名声だ。
ましてや、屍を越えて得るものですらもねぇ。
「あんた達にぽんと夢を叶えられて、嬉しいなぁなんて言えるものじゃないんだよ……!」
苛立たしく吐き捨て、芳はロビーを後にする。
この欲望は、『俺自身』のもの。夢を安易に叶えて、捧げる訳にはいかない。
誰にも、誰にも明け渡しはしない――!!
大成功
🔵🔵🔵
白寂・魅蓮
◎
自分の欲望が賭け金代わりだなんてね…質の悪い邪教もいたものだな
欲望を解放、なんて気の乗らない話だけど…このまま放っておいても後味が悪いのは同じだね
しばらくして不思議な音声が耳に響く。これは…僕自身の声だろうか
「君は誰よりも他人の愛に飢えている」
両親に見捨てられて、その先で見知らぬ大人達にいいように使われてきた
僕が強さや一人に固執する理由は他人を信じられないから
でも本当は心の底でずっと誰かに愛されたいと願っていた…
たった独りの旅の中でずっと感じてた。気軽に相談できる隣人が、抱きしめてくれる母のような人がいてほしいって
どんなに強がっても…やっぱり僕はまだ泣き虫のままだ
それはきっと、受け入れなきゃ
【白寂・魅蓮(黒銀の華・f00605)の場合】
(「自分の欲望が賭け金代わりだなんてね……質の悪い邪教もいたものだな」)
やれやれと諦めたように肩を竦めながらも、魅蓮の片目の紫の瞳に宿る光は非常に大人びていて。
「欲望を解放、なんて気の乗らない話だけど……このまま放っておいても後味が悪いのは同じだね」
ぱちり、と愛用の扇を閉じては、耳朶を侵す催眠音声に備える。
いつでも欲望教の襲撃に備えられるよう、得物は肌身離さずに。
「――!!」
そうして、形容しがたい音声が彼の狼耳に届いたならば、現実と違う幻覚へと誘われて――、
~~
『――君は、』
「……これは、僕の声?」
何処からともなく響く、己の声に周囲を見渡す。
されど何処を見渡しても、ロビーとは違う靄にかかった空間ばかりが広がってゆく。
『――――君は誰よりも他人の愛に飢えている』
「……!!」
――嗚呼、そうだ。
思い返せば、僕は両親に見捨てられて、その先で見知らぬ大人達にいいように使われてきた。
僕が強さや一人に固執する理由は、他人を信じられないから。
大人びている、と言われることもある。でも、僕自身は、そんなに立派な存在じゃない。
だって僕は、本当は、本当は――、
「……ずっと、ずっと、誰かに愛されたいと願っていたから」
思わずうずくまる。息が、荒くなる。
そう、これが僕だ。これが、本当の僕自身なんだ。
たった独りの旅の中で、ずっと感じてた。
気軽に相談できる隣人が、抱きしめてくれる母のような人がいて欲しいって。
――でも。
猟兵として居場所が幾つも増えた今では、羽を休める場も見つけられた。そう、思うんだ。
けれど、弱い自分も受け容れたい。独りだけで生きられるだけの僕じゃないということを。
「どんなに強がっても…やっぱり僕はまだ泣き虫のままだ。これが、僕の弱さだ」
――受け容れなきゃ。自分を知らなきゃ、前には、進めない。
それに気づいた瞬間。
周囲に立ち込めていた靄や幻聴は、瞬く間に消え去っていった。
~~
この『弱さ』と『願い』というチップを手にした君が、どう戦うかは。自分次第だ――。
大成功
🔵🔵🔵
ロク・ザイオン
◎
(歳の頃12、3。
絹糸の如く滑らかな御髪が、透けるように白いたおやかな身体を縁取り。
稚きかんばせに大人びて憂いを湛えた笑みを浮かべ。
あねごが、逢いたくて逢いたくて堪らなかったあねごが、そこに)
(条件反射。
低く伏せるように跪く)
(声を聴かせてください
おれに少しでも微笑みかけてください
触れたいなんて、■■■■たいなんて言いませんから、どうか、せめて)
……ッ
(……幻だ)
(これが、きっと。『欲望』の幻)
(それでも声は圧し殺す。
あねごはおれの声を嫌われた。おれの大きな体に怯えられた。
縋るように、ただ美しさの権化のような少女に手を差し伸べる)
(ともに、ゆきましょう。
あねご。
誰にも、貴女を奪わせない)
【ロク・ザイオン(明滅する・f01377)の場合】
~~
――――これは歳の頃、12、3。
絹糸の如く滑らかな御髪が、透けるように白いたおやかな身体を縁取り。
稚きかんばせに大人びて、憂いを湛えた笑みを浮かべ。
嗚呼、おれに向かって、手を振っている。駆け寄ってくれている。
あねごが、逢いたくて逢いたくて堪らなかったあねごが、そこに。
――――嗚呼、嗚呼。
もう、これは条件反射。おれは思わず俯いた。
こんな仕草も、何処か猫のようだと云われてしまうだろうか。
ぺたり、と耳を伏せようと――伏せない。伏せられない。
どうか、どうか。
(「声を聴かせてください。おれに、少しでも微笑みかけてください。
触れたいなんて、■■■■たいなんて言いませんから、どうか、せめて――、」)
あねごは、笑う。あの日の面影と、同じ。優しく、おれに。
それでも――ッ
違う。幻だ。
(「これが、きっと。『欲望』の幻」)
声は、圧し殺した。おれの元へ駆け寄ろうとしても、手を伸ばしたくても、必死に堪えた。
そういえば、7月7日――七夕に『あねごに会えますように』と綴っていた。
こんな形で、出逢いたくなかった――。
おれの大きな体を見て、怯えられた。
それでも、それでも――、縋るように、ただ美しさの権化のような少女に手を差し伸べる。
(「ともに、ゆきましょう。あねご。」)
伸ばした手を、貴女は取ってくれるだろうか。
嗚呼、答えが何であっても。誰にも、貴女を奪わせない。
――嘗ての傷も、何もかも全て。おれが預かるから。
~~
欲望の幻を受け入れた少女は、目を伏せたままチップを胸に歩む。
幻であれど、再会できた彼女が手をとってくれたか、否かは、ロクのみぞ、知る。
大成功
🔵🔵🔵
蒼焔・赫煌
◎
欲望、欲望!
つまりしたいこと!
可愛いボクなら美味しいものがたくさん食べたいとかだね、きっと!
思い出すのお城に居た頃
今でも夢に見る
あの男の、私と同じ紅い瞳
母さんのために、弟のために、皆のために
私は捧げてきた
私だけを弄ぶように
興味を持つように
そうすればその間は皆無事なはずだから
これは正しいこと
皆を助けるために身を削って
それをする人を正義の味方って言うんだって
後から教わった
だから正しかった行い
ああでも本当は逃げたかった笑いたくなかった触れられたくなかった触れたくなかったあんな風に過ごしたくなんてなかった全部投げ捨ててしまいたかった
皆のことなんて助けたくなかった
だから
だから
誰でもいいから
私を
たすけて
【蒼焔・赫煌(ブレイズオブヒロイック・f00749)の場合】
「欲望! 欲望! つまり、したいこと!」
分かりやすい程に溌剌とした様子で笑顔を満開に咲かせる赫煌。
「たとえば可愛いボクなら……美味しいものがたくさん食べたいとかだね、きっと!」
ふふん、と立派に育った胸を張る。豊かだ、非常に豊かだ。
されどそんな自称正義の味方たる赫煌もまた、欲望を炙り出す音声に心を掌握される――。
(「ボクの――ボクの、欲望……?」)
それは、それは。
先程までの輝いていた紅い瞳が、ゆらり、ゆらりと微睡んでゆく――。
~~
思い出すのは、お城に居た頃。
今でも、夢に見る。忘れやしない。
父は――違う、あの男は……“私”と同じ、紅い瞳をしていた。ヴァンパイアだ。
母さんの為に、弟の為に、皆の為に。私は、捧げてきた。
私だけを、弄ぶように、興味を持つように。
そうすれば、その間は皆、無事なはずだから。
これは、正しいこと。
皆を助ける為に身を削って。それをする人を、正義の味方って言うんだって。
後から、教わった。だから、正しかった行い。
身を捧げること。己を厭わぬこと。これが、正義の行いなのだと。
――――違う。
怖い。本当は、怖い。怖い怖い怖い怖い怖い!!
怖かった。本当は逃げたかった笑いたくなかった触れられたくなかった触れたくなかった。
あんな風に過ごしたくなんてなかった全部投げ捨ててしまいたかった。逃げたかった。
あの時の“私”じゃない、今は、“ボク”として、正義の味方として生きているんだ。
けれど、記憶は、恐怖は、痛みは、拭い去ることはできない。
だから――だから、誰でもいいから。
私を、
「――――たすけて」
~~
「――!!」
ようやく、ようやく幻覚の中で口に出すことが出来た。
懇願を、救いを求める声を。
けれど、今は――ボクは、“ボク”だ。
青い髪を彩る、赤いヘアピンに触れる。ヒロイックサイン。正義の証。
「弱きも助け、強きも助ける――それが、それがボク。けれど、なら“私”は――?」
今まで“ボク”は、様々な人々を救わんと戦ってきた。
けれど、まだ向き合うべき存在が居るはずだ。それは、どんな相手よりも難しい。
――――なんて言っても、それは“私(自分自身)”なのだから。
大成功
🔵🔵🔵
庚・鞠緒
◎
POW
欲望、欲望ね
ぶっちゃけ人並みのモンしかねェと思ってンだけど
そりゃァあるよな、形になってなかっただけだ
・欲望
あの頃に戻りたい
両親のいた、この世に怪物がいるなんて知らなかった頃
…でもあの頃みたいな病弱な体はもう嫌だ
一人じゃまともに生きていけない体には
この強い体で過去に戻って怪物から両親を守りたい
でもこの体をどうやって手に入れた?両親を食った邪神を喰ったんじゃないか
結局過去は取り消せない
願いは、欲望はかなわない
だからって泣いてる場合じゃねェンだ
究極の願いが叶わないなら、欲望は一つだ
ウチの人生をめちゃくちゃにした邪神どもをみんなブチ殺してやる
【庚・鞠緒(喰らい尽くす供物・f12172)の場合】
「欲望、欲望ね……」
下卑た欲望に目を濁らせる人混みの中、いっそう瞳を鋭く輝かせる女がひとり。
その少女、庚・鞠緒はひどく病弱そうな真っ白の肌でも、瞳に宿る紫は鮮やかに、そのまま周囲を俯瞰しながらも己の欲と向き合っていた。
(「ぶっちゃけ人並みのモンしかねェと思ってンだけど……そりゃァあるよな。形になってなかっただけだ」)
そう、それが“形になる”ということそのものが非現実的であり、不気味であれど。
そのまま流れ行く耳障りな音声は、本来“喰らい尽くす”側の娘が喰らわれかけるという、非常に矛盾じみた構図のまま展開される――。
~~
――あの頃に、戻りたい。
両親のいた、この世に怪物がいるなんて知らなかった頃。
今も、憶えてる。両親は、邪神に縋ってしまったこと。
そうして、教団に拠って両親ともども邪神に供物として捧げられかけたことを――。
あの頃、ウチは病弱で、ただただ非力だった。独りじゃ決して生きていられない程に。
もし願いが叶うなら――この強い体で、過去に戻って怪物から両親を守りたい。
「――でも、」
この体をどうやって手に入れた?
両親を食った邪神を、喰ったんじゃないか。
ただ残っているのは、身体に在る刻印のみ。
元は髪も瞳も黒かった筈が、実験のおかげで今じゃすっかり変わっちまった。
もう、あの頃の自分には戻れない。過去には、戻れない。
結局、命や嘗てのあの日は取り消せない。
願いは、欲望は――叶わない。
~~
「…………ッ。けど、これがウチの願いだ。叶わなくても、変わらねェよ」
――泣いてる場合じゃねェンだ。
究極の願いが叶わないなら、欲望は一つ。
ウチの人生をめちゃくちゃにした邪神どもをみんなブチ殺してやる。
すべて、すべてすべてすべて! 喰らい尽くしてやるんだ。
この手で――――必ず。
大成功
🔵🔵🔵
櫛橋・綴
◎
目の前で流れる情景ーー記憶は、
スクリーンに投影される映像のよう
七色の花畑、雪原で浴びる朝の光
俺を撫でる暖かな手のひらと懐中時計の音
俺がまだ"モノ"だった頃の…
嘗て愛してくれた人との旅路は遥か昔の遠い記憶
ヤドリガミとして形を持ってしまうくらいの
時間が経ってしまったよ
なんで置いていったの
…ああ、違う。そうじゃない
俺を使ってくれた「あの人」は逝ってしまう時
どうして俺も連れて行ってくれなかったのだろう
モノとして終わりにして欲しかった
「…俺も一緒に死んでしまいたかったんだ」
…この感覚久しぶり。ちょっとだけ忘れてたよ
嫌だなあと苦々しい表情で目元を摩る
この面倒くさい願望と暫くは共に戦わないといけないみたい
【櫛橋・綴(真鍮撥条・f00747)の場合】
~~
――カチリ、カチリ、カチリ。
時計は逆巻く。嘗てを呼び起こすかの如く。
目の前で流れる情景――記憶は、スクリーンに投影される映像のよう。
「……此処は、」
懐かしい。七色の花畑、雪原で浴びる優しい朝の光。
俺を撫でる暖かな掌と、懐中時計の音。
――――カチリ、カチリ、カチリ。
そう、俺がまだ"モノ"だった頃の。
嘗て愛してくれた人との旅路は、遥か昔の遠い記憶。
俺は、或る冒険家の懐中時計だったヤドリガミだ。様々な場所へ、共に旅をしてきた。
七彩の絨毯、雪原の暁光。どれもこれもがまばゆくて、今もなお色褪せない記憶。
けれど俺は、ヤドリガミとして形を持ってしまうくらいの時間が経ってしまったよ。
――ねえ、なんで置いていったの。
「――――嗚呼、違う」
違う。違う。そうじゃない。
鮮やかだった光景が、段々と過ぎ去っていく。年月が、経ってゆく。
俺を使ってくれた『あの人』は逝ってしまう時、どうして俺も連れて行ってくれなかったのだろう。
沢山の世界に連れて行ってくれた。沢山の光景を見せてくれた。
流れる情景が、嗚呼、嗚呼、色褪せてゆく――。
――カチリ、カチリ、カチ……。
今にも、心臓の音が止まってしまいそうだ。
「……俺も一緒に、死んでしまいたかったんだ」
口にした瞬間、背景に流れるあの日の記憶が、色づいていった。
そうか、これが俺の『願い』――俺の『欲望』。認めたからこそ、俺は憶えて居られるんだ。
「……この感覚久しぶり。ちょっとだけ忘れてたよ」
嫌だなあ。思わず、目元を擦った。けれど、『あの人』が逝ってしまった以上、俺がこの宝物を抱えていかなくちゃ。
この面倒くさい願望と、暫くは共に戦わないといけないみたいだ。
~~
――――――カチリ、カチリ、カチリ。
軸受を飾る真っ赤なルビーが、鮮やかに輝く。
時計は、“綴”る。新たな世界を、新たな、情景を。
大成功
🔵🔵🔵
黒川・闇慈
◎
「私、欲望には忠実な方ですからねえ……身を持ち崩さないように注意いたしませんと。クックック」
【行動】
wizで行動です。
まあ、私の欲望といえば言うまでもなく魔術への研究欲でしょう。
催眠音声で視える過去の光景も察しがつきます。私が魔術というものに出会った、祖父の書庫でしょう。
懐かしいですねえ。子供ながら、世の中にはこれほど不可思議で面白いものがあるのかと心踊らせたものです。
あれから15年近く、随分と欲望に忠実であったなあと思う次第です。もはや私という存在は魔術への欲望抜きには語れない存在になったと言えるでしょう。
「別段この欲望をどうこうしようとは思いませんがねえ。ただ忠実に、ですよ。クックック」
【黒川・闇慈(魔術の探求者・f00672)の場合】
暗がりのロビーに潜むように佇む、黒尽くめの男。
黒川・闇慈は常の如く笑みを釣り上げたまま、周囲を観察するように壁に凭れて観察していた。
「私、欲望には忠実な方ですからねえ……身を持ち崩さないように注意いたしませんと」
クックック――喉を鳴らすような独特な笑い声もまた健在。
催眠促す音声もまた、探究心のままに抗うことなく身を委ねていく――。
~~
――欲望、ですか。
まあ、私の欲望といえば言うまでもなく魔術への研究欲でしょう。
「喩えば……そう、催眠音声で視える過去の光景も察しがつきます。……ほら、」
と、幻覚の空間にて顕現されたのは案の定、祖父の書庫。私が魔術というものに出会ったきっかけですね。
ああ、懐かしいですねぇ。書庫にある手近な本を手にして、埃を払って開くとしましょう。
……これはもうとうの昔に読みましたね。ああ、これも、これもこれも、全て。幼少の頃に読み終えたものばかり。
子供ながら、世の中にはこれほど不可思議で面白いものがあるのかと心踊らせたものです。
ふぅ、と溜息をひとつ。懐かしみながら、書庫の奥へ、奥へ。
「あれから15年近く。随分と、欲望に忠実であったなあと思う次第です。
その欲望は変わらず、今では世界を越えて――――クックッ」
もはや私という存在は、魔術への欲望抜きには語れない存在になったと言えるでしょう。
寧ろこの探究心を、欲望を喪ってしまえば、私に何が残ると云うのでしょうね?
嗚呼、不思議、不可思議。
今まで生きてきた世界だけでは足りない。異なる世界の魔術も知りたい、識りたい。
そう、飽くなきまでの探究心こそ、私の欲望――!!
ぱらり、ぱらり、ぱらりぱらり。
何処からともなく吹く不思議な風の中、拡げた本が次々に頁を捲る。
そう、まだこの欲が満ち足りないからこそ私は世界を巡る――。
~~
ぱたん。
書物が閉じる音と共に、闇慈は現実へと引き戻された。
(「そう、これが私の欲望(チップ)――せいぜい世界が滅びない程度に、これからも探求し続けましょう」)
「まあ、別段この欲望をどうこうしようとは思いませんがねえ。ただ忠実に、ですよ。クックック」
常の不気味な笑い声を残し、黒の男は立ち去ってゆく。
――そう。識ることこそ、私の欲望。
大成功
🔵🔵🔵
十河・アラジ
◎
ボクが体内で浄化している鎧
ヴァンパイの思念が宿るこれは夜な夜なボクの体を乗っ取ろうとする
そうさせないためにボクは夜眠ることができない
……正直、つらい
いつまで続くのかと思うと、逃げ出したくなる
だけど逃げたらまた誰かを傷つけてしまうから
かつて好きだった人をそうして傷つけたように
◆
アラジの欲望とはつまるところ「安心したい」ということである
眠れる、と安心したい
耐えなくていい、と安心したい
また誰かを好きになってもいいと、安心したい
◆
これはいけないことだと思っていた
それだけの咎があるからって
でもそうじゃなかった
たまには自分に素直になっても良いって気付けたから
これからも頑張るためにも
この想いは手放さないよ
【十河・アラジ(マーチ・オブ・ライト・f04255)の場合】
~~
――――夜。
“それ”は毎晩、この身体を乗っ取ろうとする。
体内に封印された呪鎧『マグノリア』。その中に宿るヴァンパイアの思念は、常にボクを狙っている。
それに抗う為に、ボクは夜眠ることができない。
眠れず己の身を守る夜にも慣れた、慣れているつもりだった。
……けれど、正直、つらい。
いつまで続くのかと思うと、逃げ出したくなる。
部屋の片隅で怯えて身を抱えても、“それ”は体内に在るからこそ、自分を守ることなどできない。
だけど――逃げたら、また誰かを傷つけてしまうから。
かつて好きだった人を、そうして傷つけたように。
――今でも、あの人の笑顔を思い出す。それは皆にあの日、初恋の話をかい摘んで語ったからか。
「確かに次の恋は難しいかも? なんて――」
苦笑しながら話してみせたけれど、今も恐いのは本当だ。
ボクは、ボクが求めているのは――――。
――――『安心』?
~~
己の身に背負う、あらゆる恐怖。
それは、十河・アラジに架せられた咎だ。
十河・アラジ――咎は、非じ。
嗚呼、なんと皮肉な名であろう。
されど、アラジは望んでいた。
今にも身を引き裂かれそうな咎を架せられていようと、安心を、求めていた。
眠れる、と安心したい。
耐えなくていい、と安心したい。
――また誰かを好きになってもいいと、安心したい。
「……たとえ、当分先のことであってもいいんだ。たまには自分に素直になっても良いって気付けたから」
ずっと見て見ぬふりをしてきた、自分の『欲望』と向き合えた。
きっと、様々な友人との交流も要因のひとつであろう。
これからも頑張るためにも――この想いは、手放さないよ。
大成功
🔵🔵🔵
ヌル・リリファ
◎
◆簡単な言葉は平仮名、難しめの言葉は漢字でお願いします
みえたのはそうだろうなあと予想はできた光景で。
「人形として。ほかの姉妹機とおなじようにしたい。███につかえていきていきたい」と。
わたしにどうしたいかきいたマスターに、そうつげているむかしのわたし。
これは、わたしがそれををえらんだひ。
そううまれたのだから、わたしはそうするべきだとおもったし、そうしたいともおもった。
そのおもいはいまでもかわらずここにもっている。
「マスターに人形としてつかえる」
それは、わたしがほかのなにをきりすててでもかなえたい、なによりも大事なのぞみだから。
きっと。チップになるとおもう。
だれにもわたすきはないけどね?
【ヌル・リリファ(出来損ないの魔造人形・f05378)の場合】
ヌル・リリファは、未熟ながらも本物のこころをその身に宿した機巧少女だ。
少女のそれとそう変わらぬ、非常に精巧な見目。されど情感は乏しく、それでいて良くも悪くも“無垢”な娘だ。
壊れたメモリは容易に修復されることなく、欠けた記憶の中でも憶えているのは――製作者たるマスターの存在。
故に、催眠音声にも表情ひとつ変えずその身を委ねる。
(「――――ああ、やっぱり」)
澄み渡る空の色を閉じ込めた瞳が、ゆるりと閉じられる。
瞼の裏に広がるのは、自分でも想定していた光景――。
~~
それは、壊れかけたわたしのメモリにのこされた記憶。
むかいあう、わたしとマスター。それを、いまの“わたし”はながめている。
わたしにどうしたいか、あのひのマスターはきいた。
わたしは、マスターにつげる。
「人形として。ほかの姉妹機とおなじようにしたい。███につかえていきていきたい」――と。
ずっと、むかしのはなし。
これは、わたしがそれををえらんだひ。
そううまれたのだから、わたしはそうするべきだとおもったし、そうしたいともおもった。
わたしは、姉妹機のように自然にわらえない。
むしろ姉妹機は、本物のこころをもたない。ただ、こころを“ひとらしく”なぞっているだけ。
でも、わたしはのぞんでいた。わたしは、えらんだ。
そううまれたのだから、わたしはそうするべきだとおもったし、そうしたいともおもった。
――そのおもいは、いまでもかわらずここにもっている。
――『マスターに人形としてつかえる』。
それは、わたしがほかのなにをきりすててでもかなえたい、なによりも大事なのぞみだから。
~~
ふわり、静かに目を開く。其処は現実の世界。
ぱちり、と一度だけ目を瞬かせて、ヌルは夢の中で宣した願いを思い返す。
――そう、わたしはあゆみをとめない。
マスターの人形としてうまれて、マスターの人形としていきる。
こののぞみが、わたしのチップ。だれにもわたすきはないけどね?
大成功
🔵🔵🔵
グリツィーニエ・オプファー
ええ、ええ
欲望は何方の心の中にも御座いましょう
そして、それは私にも例外なく
聞こえる音に、私は何を見るか
…きっと、それは他ならぬ『母』の姿
私にとっての全てなのですから、道理で御座います
儀式の折、母たる神の召喚に狂喜に噎ぶ人々
生贄たる私を見、微笑を湛える母
一振の短剣と、優しい音色で紡がれた母からの「おつかい」
ああ――この方は彼の者達ではなく私を見てくれる
私を愛してくれる――!
あの高揚は今でも忘れられませぬ
私に自由を与えて下さった御方
――故に、私は彼の御方を殺さねばなりませぬ
彼女に愛された他の誰でもなく
彼女を愛した、この私が
これを執着と呼ばずに何と呼びましょう?
涙は流さず、然し全ての感情を受け入れて
【グリツィーニエ・オプファー(ヴァルプルギス・f13858)の場合】
――ええ、ええ。
欲望は、何方の心の中にも御座いましょう。
茫としたシャンデリアの灯りに拠って照らし出されるロビーに、ゆらり浮き出るように現れるは濡羽の夜色を美しく身にまとう山羊角の男。
藤の花めく眸を細めては、興味深そうに周囲を見渡す。欲望教の甘言に誘われた、様々な人種達を――。
されどグリツィーニエは飄々とした笑みをゆるり湛える。
(「そして、それは私にも例外なく――さあ、聞こえる音に、私は何を見るか」)
まるで、クラシックの音色に耳を傾けるかのごとく、グリツィーニエは目を伏せた。
~~
――目を開いた瞬間、嗚呼、と漏らした溜息は深く、深く。
それは、他ならぬ『母』の姿。
私にとっての全てなのですから、道理で御座います。
あの日。儀式にて母たる神が喚ばれた直後、我々を囲む人々は総じて狂喜に噎んでいる。
そうして、生贄たる私を見、微笑を湛える母。
母は、私のこの姿を美しいと、そう笑って褒めて下さった。
新たに差し出された一振の短剣と、優しい音色で紡がれた母からの「おつかい」。
嗚呼、嗚呼、なんと至福であろうか。
この方は彼の者達ではなく私を見てくれる。
贄である私を、こんなにも愛してくれる――!
あの高揚は、今でも忘れられませぬ。
私に自由を与えて下さった御方。あの御方を求めているからこそ、私は“私”で在れる。
――故に、私は彼の御方を殺さねばなりませぬ。
彼女に愛された他の誰でもなく、彼女を愛した、この私が。
~~
それは、まさに『欲望』に等しき『執着』。
ゆるり、物足りぬように開かれたグリツィーニエの瞳は艶めく黒藤の彩に沈んで。
――これを執着と呼ばずに何と呼びましょう?
涙流さず黙したまま、全ての感情を受け容れる。
胸中に浮かぶ『チップ』を忘れじと、グリツィーニエは新たな場へと赴く。
ひらり、ふわり。鳥籠に囚われた蒼き蝶は、暗がりのロビーを仄かに照らす。
愛おしきあの御方の残滓が、私の往く道を灯して下さる――――。
大成功
🔵🔵🔵
隠・イド
◎
催眠音声と聞くと、そこはかとなくエッチな響きを感じますね
我が身は道具なればこそ、欲望など知れたもの
良き使い手に巡り会い、使役される
それ以外に何を望みましょう
しかし
目を開けばそこは酒池肉林の楽園
(※具体的な描写はお任せします。巨乳の比率を高めでお願いします)
なるほど、これは…
なるほど…
薄々、自覚はしていた
もちろん、優れた使い手であればその対象が男であろうと構わないし歓迎するところ
だが、それはそれとして
私は男性よりも女性を好む
それが客観的な事実
武器としては非効率
だが、どうせなら可愛らしい女の子や美しい女性に使役されたい
ヤドリガミとして魂を得た以上、自ずと異性を求めるのはむしろ健全だと言えましょう
【隠・イド(Hermit・f14583)の場合】
――Hermit.
1.宗教的隠遁者;(一般に)隠者,世捨て人。
~~
――我が身は道具なればこそ、欲望など知れたもの。
良き使い手に巡り会い、使役される。
それ以外に何を望みましょう?
クランケヴァッフェ『降魔兵装《オロチ》』、コードネーム:隠《ハーミット》。
それが、私を識別する名の――一部。
――しかし。
ゆるりと目を開いたならば、其処に広がるは酒池肉林の楽園――。
女特有の甘く、酸うような芳香。
先ほどロビーで目を合わせた中でも、特に見目麗しい女性らが、私へ微笑みかけて身を委ねる。
薄布のドレスを身にまとっているからか、女性らのその素肌の滑らかさ、乳房の豊かさを肌で感じた。
「嗚呼、イド様……イド様、もっと」
「もっと、私達と遊びましょう? ねえ、イド様――」
「――これが、イド様の望んでいらっしゃることなのでしょう?」
耳朶より蕩ける甘い声音で彼女等は囁き続ける。
なるほど、これは……なるほど……。
そう、納得した上で。私は特に気になった女性の手を、そっと握った。
「まあ、イド様。私を選んで下さったの?」
身をよがらせて女性は嬉しげに笑う。
薄々、自覚はしていた。
もちろん、優れた使い手であればその対象が男であろうと構わないし、歓迎するところ。
されど、それはそれとして――私は、男性よりも女性を好む。その客観的たる事実は、この幻覚が示していた。
無論、武器として非効率であるとは云えよう。
だが、どうせなら可愛らしい女の子や美しい女性に使役されたい。
――それに、我が特性は『捕食』であるが故に。
「――! ま、待って、」
満更でも無さそうな彼女の身体を、押し倒し、『捕食』する。
ヤドリガミとして魂を得た以上、自ずと異性を求めるのはむしろ健全だと言えましょう――。
~~
時は、男が催眠音声に身を委ねる直前にまで遡ろう。
隠・イドと名乗る男は、人のフリをして生を謳歌する自称“道具”。
――否、自称と云うには語弊があるだろう。
男の正体は『捕食』の特性を擁すクランケヴァッフェの器物。その人造ヤドリガミとしての、稀有なる成功例。
すらりとした長身、褐色の肌。艶めく切れ長の紅い瞳。
ロビーに集う周囲の女たちは幾人かが彼の姿に振り返ったことだろう。
イドはそんな女たちの視線に流し目でゆるり、黙したまま応えたのち――静かに目を伏せて狂気の夢へと沈む。
~~
――――。
――。
大成功
🔵🔵🔵
ヴィクティム・ウィンターミュート
◎
欲望、ね…
これはむしろ願望に近いもんだが…
昔、英雄になりたかった
全ての人々を救えるような、そんな存在になりたかった
けれども俺は失敗して…
いや、失敗しても尚
俺はこの欲望を諦めきれてない
どうしようもないと分かってても
塵のような可能性から目を背けられない
嗚呼、畜生め
認めてやるよ
分不相応?知ってるとも
学んでない?そうかもな
それでも
逃げ出すのはナンセンスだ
俺の背中をぶっ叩いてくれた、ネグルと匡に申し訳が立たねえ
英雄譚にすらならないような、華々しさとは無縁な俺でも
何かを救えるって信じたい
──さぁ、チップを寄越しな
生憎、真っ当な英雄になる気はなくてね
ド肝抜くような華麗なイカサマってやつを、見せてやるぜ
【ヴィクティム・ウィンターミュート(impulse of Arsene・f01172)の場合】
青年は、再び向き合うこととなる。
欲望? 否、それは『願望』に近しい感情であろう――。
~~
――それは嘗て抱いた、夢にも近しい憧憬。
英雄に、なりたかった。
全ての人々を救えるような、そんな存在になりたかった。
だが俺は失敗して……、
違う。
失敗しても尚、俺はこの欲望を諦めきれてない。
圧政に苦しむ人々、どうしようもない格差。
どれだけ同志が離れようとも、俺は、戦い続けてきた。
誰も彼もが死を恐れたんだ。だからこそこんなクソッタレの欺瞞を暴くべく、俺は――!
そう。夢を、見続けていたんだ。
願い続けて、いたんだ。
思い出される嘗ての同志の顔とストリートネーム。
俺の元を離れる最後の顔も。全て、すべて。
――ガンッ。
拳を、強く叩きつける。
「……嗚呼、畜生め。認めてやるよ。
分不相応? 知ってるとも。
学んでない? そうかもな。
それでも――――逃げ出すのは、ナンセンスだ」
他でもない、俺の背中をぶっ叩いてくれた、ネグルと匡に申し訳が立たねえ。
そして俺達3人で世界を巡って、命を賭して戦い続けてきた。『チームアサルト』なんて名も次第に引き寄せられた。
「アサルト――強襲、突撃。……ウィズ!」
ニ、と思わず笑う。まったく、最高の仲間が出来たモンだ。
英雄譚にすらならないような、華々しさとは無縁な端役(俺)でも、何かを救えるって信じたい。
だからこそ、戦い続ける――!!
「――――さぁ、チップを寄越しな」
~~
瞬間、はじけ飛ぶように幻覚は掻き消される。
後に残るは静寂、そして熱気醒めやらぬ人々の欲の念ばかり。
端役を称す青年は皮肉げに笑う。嗚呼、英雄主義(ヒロイズム)など性に合わないと。
「生憎、真っ当な英雄になる気はなくてね。
ド肝抜くような華麗なイカサマってやつを、見せてやるぜ」
――――フェリーマンは、すぐ傍に忍び寄る。秘めたチップはたったひとつ。
分が悪い賭け? 上等。此処から先は、ジューヴはおねんねの時間ってな。
大成功
🔵🔵🔵
第2章 冒険
『神は休暇でベガスに行ってる』
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POW : バックヤードに潜入する
SPD : 店員として潜入する
WIZ : 客として潜入する
👑11
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔴🔴🔴
|
種別『冒険』のルール
「POW・SPD・WIZ」の能力値別に書かれた「この章でできる行動の例」を参考にしつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。
| 大成功 | 🔵🔵🔵 |
| 成功 | 🔵🔵🔴 |
| 苦戦 | 🔵🔴🔴 |
| 失敗 | 🔴🔴🔴 |
| 大失敗 | [評価なし] |
👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。
【第二章につきまして】
今週中に導入を更新し、プレイング募集を始めたいと思います。
具体的な日程に関しましては、改めまして当シナリオ内、マスターページ、Twitterにて告知させて頂きます。
今しばらくお待ち頂けますよう、お願い申し上げます。
●弐
「お、終わった……俺は、俺はぁぁ……妻も、子供も、家も全て……ぁ、あああああああああ!!!!」
我を喪い、発狂寸前にまで追い込まれた挑戦者の絶叫がこだまする。
美酒に酔う勝者の笑い声。苦汁を舐める、敗者の呻き声。
そして敗者はそのままぐったりとその場に崩れ、虚ろな目のまま物言わぬ廃人となる。
そう、此処が猟兵達が新たに足を踏み入れた、豪華客船内の『裏カジノ』。
己の財産はおろか、命までもチップに委ね、遊戯に全てを託すのだ。
そんな混沌としたカジノ会場の中、或る乗客者が、すれ違いざまにあなたへ耳打ちすることだろう。
「――――我々UDC職員も、この会場に潜入している。一般人の保護は任せて欲しい。
その代わり、君達には欲望教の配下であろうバニーガールの気を惹いてくれないか」
今にも無謀な賭けを挑もうとする乗客者や、連れ去られてしまう前の敗北者たる廃人へ。
一般客を装うUDC職員は、さりげなく声を掛けて共に退席させてゆく。
そう、猟兵達だけでなく、UDC職員達は一般人の救出の為に行動し続けているのだ。
ならば、我々が出来ることは――……、
「あら、そちらの貴方。欲望のチップを抱いているようですね」
にこり、そう微笑みながら、幼い娘が『あなた』へ声を掛ける。
メルヘンチックなエプロンドレス姿に、虚ろな瞳。
そして何より目を惹くのは――頭部から生えている、うさぎの耳を模したような歪な色をした人間の腕。
そんな娘たちがバニーガールとして、この裏カジノのディーラーとして働いていたのだ。
違和感を憶えるのは、猟兵である『あなた』達だけ。
しかし、此処で戦闘を仕掛けてしまえば、既に囚われてしまった一般人達の命が危険に晒されるであろう。
それだけでなく、『あなた自身の欲望』さえも――……。
「もしお困りのようでしたら、私がお相手致しましょう。
チップの引き換えは必要ございません。先ほど貴方が催眠音声で見出した『欲望』――それこそが、遊戯を楽しむ為のチップなのですから」
そう、人差し指を唇にあて、幼いバニーガールは年不相応なほどに蠱惑的に笑う。
「勝負内容はどうぞ、お気に召すままに。
トランプ、ルーレット、ダーツ、スロット……何でもお相手いたしましょう。
ただし、我々バニーガールと勝負するならば『お喋り』は必要不可欠。殺伐としたギャンブルなんて退屈ですからね?」
くす、くすくすくすくす――……。
欲望教のバニーガールは、挑発するようにすすり笑う。
そう、この戦いはギャンブルのテクニックが全てではない。
相手の思惑を裏切らせ、動揺させた者が勝者となる。
そのため、バニーガール達は、あなたの中に見いだされた『欲望』を手に入れる、或いは壊すべく話術を仕掛けてくることだろう。
「さあ、ゲームを始める前にお聞かせ下さいな。
あなたがどうして、その『欲望のチップ』を手放さないのか――その理由を」
――故に、猟兵達よ。
――――“欲望を、手放すな”。
=================
【第二章の補足】
※当シナリオでは総じて『乗船客』としての参加のため、
POW・SPD・WIZの選択肢は無視してください※
当フラグメントは、『NPCであるバニーガールとのギャンブル中の会話劇』がテーマです。
バニーガールは、お客様の『欲望』を手に入れるべく、言葉巧みに揺さぶり、あなた自身の根幹に触れる挑発をかけてくることでしょう。
その為、お客様の台詞にアドリブを入れたり、別シナリオ等での経験などをこっそり反映する可能性があります。
●プレイングのコツ
「あなたがどうしてその『欲望のチップ』を手放さないのか」
というバニーガールの問いかけに対し、「確りとした返答、揺るぎない意思」が見受けられれば、成功の判定となります。
(大成功等はプレイングでのギャンブルの工夫、技能を加味して判定します。イカサマもOKです)
苦手な方は、文頭などに『×』などの記号を入れて下さればプレイングに忠実に書かせて頂きます。
参加なさるお客様はどういうゲームで遊ぶかの指定(お好みでOK。記述がなければ夢前がチョイスします)
『トランプ(ポーカー・ブラックジャック等)orルーレットorダーツorスロット、その他』
と、
『この欲望を手放せない、譲れない、大切にしたい理由や想い』
をたっぷり記述して下さい。
第二章より参加のお客様も、催眠音声を突破した上でカジノに挑むという形で反映させて頂きます。
そのため、『欲望についての詳細』を細かに書いて頂けると助かります。
※NPCであるバニーガールは、揚げ足取りをしてお客様を敗北させることは絶対にありません※
※バニーガールはお客様のプレイングでの話に沿って、揺さぶりをかけてきます※
ただし、敗北希望で、欲望を奪われたいお客様は、その旨を簡潔に書いて頂ければ反映致します。
ゲームの上手さ、想いを打ち明けない手堅さ等は、ステータスの技能を記述、或いはステシを参照して反映させて頂きます。
プレイング募集【07/29(月)/08:31~】
※頂いたプレイングの数によって、再送をお願いする場合が御座います。
その際は当シナリオ、マスターページ、Twitterにてご報告させて頂きます。
【お二人様・グループ様でのご参加について】
お連れ様の呼び名&ID、グループ名を統一して文頭にお願いいたします。
第二章、第三章に関しましては、ご一緒での描写も可能です。
プレイング締切【08/02(金)/00:00】
日付が変更された直後に、形式上の〆とさせて頂きます。
その際にプレイングが送信できる状態の際は、ロスタイムという形で受け付けておりますが、深夜のうちに予告なく締め切る形となりそうです。
ご参加、誠にありがとうございます。リプレイ返却まで、今暫くお待ち下さいませ。
7月31日現在も、プレイングを心よりお待ちしております。
【再送のお願い】
プレイング、誠にありがとうございます。
作業時間確保が急遽困難な状況になってしまった為、再送をお願いする形となりそうです。
お手間をお掛けしてしまいたい大変恐縮ですが、ご協力頂けますと幸いです。
狗衣宮・藍狐
◎
子どもが親に会いたい……それって当然のことでしょ
これは当然抱く欲求で、だからこそあたしは失わない
手にしたトランプカード越しに、相手を見遣る
ポーカーなんて、白夜で付き合わされる程度にしかやったことはないけれど
でも、あたしは負けられない
相手の顔を探ってもニヤニヤ笑いを返されるだけ
うまくやれば、2ペアかフルハウスぐらいは狙えそう
でもきっと、そんな中途半端な役じゃダメ
――リレイズよ。あなたが上乗せするなら、あたしだって上乗せするわ
だってあなたのそのポーカーフェイス、全然可愛くないんだもの
同じ柄の並んだ数字だけを残してカードをチェンジ
あたしはこのグリモアの力で、ママたちを探すんだ
【対 狗衣宮・藍狐】
「――――ベット」
静かな宣言と共に、新たな掛け金を積む。
己のグリモアたる桜の手毬の紋様が刻まれた、藍色のチップ。
どうやらこの裏カジノは、挑戦者(プレイヤー)の欲望を示すべくモチーフに沿った小道具が用意されるらしい。
(「……欲望を見透かすなんて、悪酔いしたお客よりも悪趣味」)
唇を尖らせたくなるも、トランプカードを扇のように広げて口元を隠す。
花街育ちの藍狐にとって、愛想よく魅せる――誘惑の微笑など、お手の物。
ゆるりと細めた瞳は媚びる猫か、化かす狐か。
藍狐が挑むはポーカー――奇遇にも、白夜に住まう友たる百合の花の彼もまた、隣のテーブルでトランプ勝負を挑んでいた。
(「まさかリリアも来てたなんて……大丈夫かしら?
ううん、今は自分の手番に専念すべきね」)
ポーカーなど、白夜で付き合わされる程度にしかやったことはない。
花街での遊戯など、もっぱら御座敷遊びの投扇興などが主だ。
そんな折――くすくす、とバニーガールが笑みを漏らす。
相応の無邪気さではない、虚ろな瞳はそのままに、“あえて挑発して煽るような”ニヤニヤとした下卑た笑い声を漏らしているのだ。
「新しく、積みましたか。それ程までにあなたの欲望は、譲れないと?」
「子どもが親に会いたい……それって当然のことでしょ。
これは当然抱く欲求で、だからこそあたしは失わない」
緊迫した空気の中、腹を探り合うようにターンは続いてゆく。
(「スリーカード……これでも順調な方? フルハウスを狙うのも――いいえ、そんな中途半端な役じゃダメ」)
そう藍狐が逡巡する中――うさぎ模様のチップの束が、新たに積まれる。
「レイズ、です。あなたってばお澄まし顔がお上手ですから。
暴いたその瞬間が楽しみで仕方がありません――さあ、」
――いかがなさいますか?
カジノテーブルに身を乗り出し、虚ろな目のままニマリと唇の端を釣り上げてバニーガールは待ち続ける。
その挑発に、藍狐は呆れたように肩を竦め――先程まで口元を隠していたカードを下ろしながら、宣する。
「――――リレイズよ。あなたが上乗せするなら、あたしだって上乗せするわ。
だって……」
――あなたのそのポーカーフェイス、全然可愛くないんだもの。
新たに積まれた桜模様の藍色チップ。同じ柄の並んだ数字のみを残し、カードをチェンジする。
そう、かなりリスキーではあると承知であれど、藍狐は賭けに出たのだ。
揃ったカードを並び替え、艶めく唇を綻ばせる。
「――ショーダウン! ハートのストレートフラッシュよ」
「……!!」
綺麗に並ぶ5枚のカード。バニーガールは絶句し、フルハウスの手札をバラリと散らした。
藍色のチップを一枚つまんで、シャンデリアの光に当てる。刻まれる桜の手毬の模様――未来を示す、あたしのグリモア。
――あたしはこのグリモアの力で、ママたちを探すんだ。
成功
🔵🔵🔴
リリアネット・クロエ
◎
ゲーム「ブラックジャック」
ぼくが今こうしてるのは…
―――あの時の欲望だったんだね。
(自身の恰好に目をやり気持ちを新たに持ちながらトランプテーブルへ)
ぼくは…ぼく自身の美を手放したくない…!(ベット!)
最初は憧れだった、でもこうして着飾ってるとぼくがぼくで居られる。
お気に入りの衣装やアクセサリー、いつも愛用してる香り
可愛くオシャレしたり化粧だって…好きだ。
これらを身に纏っている時はとても幸せだ。(ヒット!)
ぼくの恰好を好きでいてくれる人、褒めてくれる人だっている
「――そしていつか…認めてもらうんだ……。」(ブラックジャック)
もっと色んな洋服を着たりいつか自分で作ってみたりしたいな…。
【対 リリアネット・クロエ】
(「ぼくが今こうしてるのは……―――あの時の欲望だったんだね」)
勝負に挑む前、リリアネットは改めて自分の格好に目を遣る。
お気に入りの服に、アクセサリー、ネイル。
確かめたのち、色違いの瞳を緩やかに細める。そう、これが“ぼく”。
その後の彼が案内されたのは、色鮮やかな緑の羅紗張りが施された、ごく一般的なカジノテーブルだ。
手際よくカードをシャッフルするバニーガール。向かい合うリリアネットは、席に腰掛ける。
「さあ、それではお聞かせ願いましょう。あなたが欲望を手放さない――その理由を」
テーブルに置かれた、ウサギ模様のチップの束。
それを見つめ、リリアネットは静かに目を閉じる。
“ぼくは”――まずは声を出さずに、その柔らかく潤った唇だけを動かした。
すぅ、と静かに息を吸い、告げる。
「ぼくは……ぼく自身の美を手放したくない……!」
――ベット!
テーブルに積むは瞳と同じ、青と紫のチップ。百合の花が刻まれたそれは、リリアネット自身を示しているかのよう。
その彼が賭けた欲望というチップに、バニーガールは興味深そうに笑みを深めた。
それぞれに、2枚のカードを配り終える。
「“美”――それが、あなたの欲望なのですね。
それは、何故? 今よりも更なる美を求めたいから? それとも――」
バニーガールはカードの1枚を裏返した。オープンカードはダイヤの3。
「――その“美”で、自分自身を保っているのでしょうか?
それを喪えば、あなたは今の“あなた”で無くなってしまう。だからこそ……」
「……!!」
ズキリ、と心が痛む。固唾を呑みながらも、リリアネットは視線を逸らさない。
手元にあるのは、ハートの6。
「最初は憧れだった。でも、こうして着飾ってるとぼくがぼくで居られる――……」
お気に入りの衣装、アクセサリー。いつも愛用している香り。
可愛くオシャレしたり化粧だって……好き。
白夜の街に住んで、色んな“美”に触れることが多くなった。
――ああ、そうだ。これらを身に纏っている時は、とても幸せだ。
ヒット。加えた手札はスペードのJ。合計は16。
その手札に、余裕綽々とばかりにバニーガールは笑みを絶やさぬまま。
「そうですか、それがあなたがあなたで居られる理由。けれど――、それは自己満足に過ぎませんか?
あなたの求める“美”は、破綻してしまえばただの虚像となることでしょう」
ヒット。バニーガールは容赦なく新たなカードを加えた。
その問いかけに、リリアネットは確かな意思を以て首を横に振った。
オシャレな妖狐の彼女が、きらびやかで惚れ惚れする程の『可愛い』を教えてくれたから。
自由気ままな道化の彼が、性に囚われない自由な『カワイイ』を勧めてくれたから。
あの日からも、これからも。自分を好きでいてくれる人、褒めてくれる人だって居るはず。
「――そしていつか……認めてもらうんだ……!」
新たに、配られたカードはハートの5。合計21――ブラックジャックだ。
確定した、勝利。それにバニーガールは手を模した耳をビクッと不気味に立てながら、勝利を祝すべく一礼する。
(「これが、ぼくの願い――もっと色んな洋服を着たりいつか自分で作ってみたりしたいな……」)
奪われること無く手元に残った、青と紫のチップをぎゅっと握りしめて、リリアネットは微笑んだ。
成功
🔵🔵🔴
ペル・エンフィールド
◎
ギャンブル
アダムルスにはしないようにと言われてるですけどお仕事だからしょうがないですね
ペルは賭け事について詳しくは分からないので、簡単なコイントスで勝負なのですよ
ふぇ?
ペルが欲望を手放さない理由です?
確かに狩りには不要な想いなのかもです
身の丈にあった獲物だけを狩る日々は平穏かもしれないです
でもでも
ペルの心が皆と居る時間が楽しいと感じてる
皆が大好きだと本能が認めてる
ならこれは渡せない
だって、まだ認められて誉めてもらってない
うんん、まだ誉められ足りない
認めてもらう欲望が無ければ誉められても嬉しくないのですよ。
鷲の目の視力で回転するコインを見切り、正解を当てる
ちょっとペルの有利すぎだったですね
【対 ペル・エンフィールド】
危険と隣合わせの賭博に興じる人々をぐるり、と見渡すは、好奇心に満ちたペルのまあるい瞳。
(「ギャンブル。アダムルスには『しないように』と言われてるですけど……お仕事だからしょうがないですね」)
しょうがない、しょうがない。
眉間をおさえる結社の長を想像して、ペルはちょっぴり悪戯に笑う。
そんな彼女と向かい合うは、不気味な耳が生えた幼いバニーガール。
生気に溢れたペルの瞳とは相反し、バニーガールのそれはひたすらに、際限なく、虚ろ。
「さあ、それでは早速ゲームを始めましょうか。ご要望はございますか?」
抑揚のない声で訊ねられたなら、ペルはぱさり、と腕の翼で口元を隠し、うーんと考えて。
止められていたこともあり、ペル自身は賭け事に詳しくない。複雑なルールのあるものよりもっと簡単な――。
あ。と、ひとつ思いついた様子で、目を大きく瞬かせて。
「では、簡単なコイントスで勝負なのですよ」
「かしこまりました。それでは“あなたのチップ”を賭けて、コイントスの勝負と参りましょう」
深々と一礼したのち、バニーガールは手のひらを広げる。
そこにあったのは、炎をまとう鳥が刻まれた一枚の銀貨だった。
さらに裏返してみせる。刻印されていたのは――――『Ⅸ』。
結社に属する、ペルを示す数字。
「種も仕掛けもない、『あなたをあらわすチップ』です。
鳥が表、数字が裏。投げた後に、どちらかをお選び下さい。ただし、その前におひとつ――」
何故、欲望を手放さないのか。
「ふぇ?」
その問いかけに、ペルは思わず間の抜けた声を漏らす。
彼女の欲望――それは承認欲。
両脚を食いちぎられた、あの痛み。一族の皆に餌を分けてもらうだけの、苦しいあの日々。
忘れもしない、忘れられない。炎の脚を手に入れても、身の丈に合った獲物を狩り続ければ平穏に暮らせることだろう。
――でも、でも。
(「ペルは――ペルの心が、皆と居る時間が楽しいと感じてる。
皆が大好きだと“本能”が認めてる……なら、これは渡せない」)
まだ認められて誉めてもらってない。
ううん、まだ誉められたりない。
「認めてもらう欲望がなければ、誉められても嬉しくないのですよ」
ペルの真っ直ぐな答えに顔色一つ変えず、バニーガールはコインを投げた。
瞬間、黄金色の瞳が猛禽類のそれへと変貌する。遥か遠くまで見える、鷹の目。
くるりくるりと、空中で回転するコインが落ちる前のその瞬間を――捉えた。
ぱしり、と手のひらに落ちたコインを受け止め、もう片方の手のひらで隠す。
バニーガールは黙したまま、視線をペルへ投げかけた。
「賭けるのは、裏。『Ⅸ』が従うは、ペルの本能です」
「では、ショーダウンと参りま……、……――!?」
コインを露わにした瞬間、バニーガールはようやくそのポーカーフェイスを崩した。
余裕の笑みをのせ、ペルはご満悦。
「ちょっとペルの有利すぎだったですね。――ギャンブル、楽しいですね」
アダムルスにナイショでまた遊ぶのもアリかも……なんて、冗談か本音か。
どちらにしても原初の“Ⅰ”の胃が休まる日は、とうぶん無さそうだ。
大成功
🔵🔵🔵
直枝・月冴
選択するゲームはブラックジャック
最も勝率が高いから
…運勝負は嫌いでね、より確実性が高い方が好ましいのだよ
何故手放さないのか?
自分がまだ組織に必要とされているから
利用価値がある内は、その責務を全うするのみだよ
組織が僕を裏切らない限りは、僕も組織を裏切らない
僕を最も生かしてくれるのだから
ゲームは至って冷静に
イカサマも一切しない、が正義心がそうさせるわけでもない
自分の記憶力で充分にカウンティングが可能だからだ
残りカード枚数を把握し確率論で勝利する
そう、目的はあくまで勝利すること
ディーラーの手には乗らないよ
――自分は空っぽの機械だ
しかし、だからこそ、この仕事――暗殺が出来る
人を殺すのに、感情は要らない
【対 直枝・月冴】
「ブラックジャック。こちらを選択されたのは、何か理由でも?」
「……運勝負は嫌いでね、より確実性が高い方が好ましいのだよ」
挑発じみたバニーガールの問いかけにも、月冴は顔色変えずに淡々と述べる。
トランプがシャッフルされる軽快な音が無機質に続く中、バニーガールは向かい合う彼を見遣る。
此度、通されたのは一般客も居るカジノテーブル。下卑た笑いを見せる中年の男や、きつい香水を醜く身にまとう年増の女、果ては浮浪者まで――挑戦者は様々。
UDC組織の職員に目をつけられ、保護の為にと急遽テーブルに加わったのだ。
その職員もまた、組織の都合の良い犬だと思っているのだろう――もう、慣れた。
「あなたにも、手放せない欲望があるのですね」
その最中、バニーガールが新たについて出た言葉に、月冴の微笑みがさらに柔和に深まったのは気のせいか。
「不思議だね。まるで、僕を確かめているように聞こえるよ」
「あら、そうでしたか? 挑戦者(プレイヤー)をお相手にしながらとんだ御無礼を。
では、再確認致しましょう――あなたが何故、“それ”を手放さないのか」
カードを配り終え、ディーラーの手札が一枚オープンされる。スペードの4。
開かれたカードを一瞥し、己と他プレイヤーのカードを確かめ終えた月冴は、ゆるりとバニーガールへと向き直る。
「何故? 自分がまだ組織に必要とされているから。利用価値がある内は、その責務を全うするのみだよ」
「利用価値、ですか。達観していらっしゃるのですね」
「達観、とはまた違うね。組織が僕を裏切らない限りは、僕も組織を裏切らない――そう、ビジネスだよ。
僕を最も生かしてくれるのだから――」
ヒット。
追加されたカードはハートの5。自分、そして他プレイヤーの手持ちと照らし合わせ、残る札を把握する……イカサマ無しの記憶力勝負。
月冴が挑むは、カウンティングと呼ばれる戦術だ。配られた手札から残りのカードを計算し、予測するという。
しかし、よほどの記憶力がなければ敢えなく失敗に終わることだろう。
――リスクがあっても尚、選んだ?
否、直枝・月冴にとってリスクですらない、造作もないことであるからだ。
さらなるヒット。3、8、5、5。
「ショーダウン……此方のバースト。21に到達した月冴様の勝利となります」
大量のチップが此方の手元に注がれたと同時、敗北した一般人達はUDC職員の案内によってそのまま救出されてゆく。
次々と消えてゆく挑戦者に、バニーガールも訝しげに目を細めた。
「皆様、お体の調子でも悪いでしょうか」
「さあて、ね。船酔いか何かじゃないかな?」
ふ、と笑って、月冴は肩を竦める。
そんな彼の様子を見て、バニーガールは「ああ」と小さく声を漏らした。
「やっとわかりました。どうにも引っ掛かっていたのは、そう――――あなたは、わたくしどもと似た瞳をなさっています」
どれだけ繕おうとも、どれだけ振る舞おうとも、本質は、ひたすらうつろ。
告げられたその言葉に、月冴はほんの僅かに瞼を緩めただけだった。
――――自分は空っぽの機械だ。だからこそ、暗殺を続けている。
――人を殺すのに、感情は要らない。
もう『分かっている』とでも言うような、皮肉でも諦念でもない、虚しい肯定だった。
成功
🔵🔵🔴
【第二章リプレイ執筆・一時休止のお知らせ】
お世話になっております。プレイング再送、重ね重ねありがとうございます。
先日より私生活でのトラブルに見舞われ、執筆活動に宛てる時間が極端に減ることとなりました。
その為、プレイングを送信できる現在の状態から、暫くのあいだ『一時的に執筆を休止』させて頂きます。
トラブル解決を最優先し、MS活動含むトミーウォーカーでのPL活動もお休みさせて頂ければと思います。
どうしてもの緊急のご連絡等はDMもしくはお手紙で対応させて頂きます。
(シナリオに関するご連絡は、極力ゲーム内からお願いします)
長いあいだ貴重な★を拘束してしまったこと、そしてシナリオ執筆の遅延、大変申し訳ございません。
必ず戻って参ります。その際は当シナリオページ、MSページ、Twitterにてお知らせします。
心変わり等なければ、またご参加頂けると幸いです。
※シナリオ再送に関しまして
一時休止を表明いたしましたが、送って頂く分には大歓迎です。
むしろ嬉しいです。本当にありがとうございます。
ただし、本格的なリプレイ納品は正式な日時の告知後となります。
ご了承のほど、お願い申し上げます。
【第二章リプレイ執筆再開のお知らせ】
大変長らくお待たせ致しました。
第二章プレ再募集期間は
『9月20日8:31~9月22日23:59まで(深夜中のロスタイム有)』
とさせて頂きます。
前回募集の際にプレイング下さった方や再送を下さった方を優先しての描写となりますが、
飛び入りの参加も問題ありません。万が一のキャパオーバーの際は、内容に関わらず不採用となる可能性もありますが、ご了承のほどお願い申し上げます。
雲鉢・芽在
◎
あら、バニー様がお相手なのですわね
では種目はダーツで
本職の方相手ですと緊張しますわ
お手柔らかにお願いしますのよ
チップは"未知の毒"を求める欲求
固執する理由……ふむ
貴方は手足の感覚が無くなり身体が動かないという体験をしたことがおありで?
気管が麻痺し呼吸すらマトモに出来ず、死人のように横たわる経験は?
それを下品な笑いをした他人に見つめられる経験は?
……とてもとても屈辱的で、そんな素敵な姿
人も人ならざるモノにもその感覚味わっていただけるよう、様々の毒を研究していますのよ
ふふ、ダーツ"は"初めでですわ
しかし、注射針を遠くからでも血管を狙い投げられるよう、練習はしていますのよ
どんなモノがお相手でも、ね
【対 雲鉢・芽在】
「あら、バニー様がお相手なのですわね」
「はい。僭越ながら、お相手を務めさせて頂きます」
恭しく一礼するバニーを尻目に、芽在がふと手に取ったのは――一本のダーツだ。
まるで“自分が手に取ることを知っていたかのように”傍に置かれていたそれは、これまた奇遇にもフライト部分が蝶の翅を模していた。
――まるで、己の考えを見透かしていたようだ。
「では、種目はダーツで」
そう淡々と答えながら、芽在はダーツの先端をつ、と指先でなぞる。
何度も触ってみても、このダーツ自体に仕掛け等は無いようだ。それほどまでに、相手をするバニーが手馴れであるのだろう。
芽在の答えに「かしこまりました」とバニーが応えると同時、ダーツ台の電灯が明滅し、影響画面が『GAME START』の文字を浮かび上がらせる。
「本職の方相手ですと緊張しますわ。――お手柔らかにお願いしますのよ」
「こちらこそ、愉しいゲームとなりますよう。
――今回は3ラウンド制です。合計点の多い方が勝利となります」
そう説明を終えたのち、バニーは隅へと向かってゆく。
先攻は芽在。ダーツを構えながら、目を細め――僅かに逡巡する。
(「チップは"未知の毒"を求める欲求。固執する理由……ふむ」)
投げようとしたそのダーツを……芽在は握り締め、そして降ろした。
その行動にバニーは目を瞬かせる。問う前に、声を上げたのは他でもない芽在自身だ。
「貴方は、手足の感覚が無くなり身体が動かないという体験をしたことがおありで?」
「……? どういう、ことでしょうか」
突然の問いに、バニーは不審そうに訊ね返すばかり。
されど芽在は知らん顔のまま、手にしたダーツの翅を撫でながら話を続ける。
「説明不足だったでしょうか。
喩えば――気管が麻痺し呼吸すらマトモに出来ず、死人のように横たわる経験は?
それを下品な笑いをした他人に見つめられる経験は?」
「……いったい、何の話を?」
うろたえるようなバニーの顔に、芽在は愉悦のままに目を細めた。
そう、この娘は賭け事に勝つことより、己の欲に悦を憶えている――。
「度し難いでしょうか。ええ、それが正常でしょう。
……とてもとても屈辱的で、そんな素敵な姿。
人も人ならざるモノにもその感覚を味わっていただけるよう、私は様々の毒を研究していますのよ」
ぺろり、小さく伸びた舌は鮮やかなサーモンピンク。
艶やかな色をした舌は唇を舐め、娘はそのままダーツの的へと視線を寄せた。
艶然とした笑みを唇にのせ、ダーツを構える――しかも、それはルールに則らない、“彼女が注射器で戦う際と同じ”、指の間にダーツを挟んでいたのだ。
「ふふ、ダーツ"は"初めでですわ。
しかし、注射針を遠くからでも血管を狙い投げられるよう、練習はしていますのよ」
――――どんなモノがお相手でも、ね。
1、2、3。
ターンを待たずして、連続してダーツが投げられた。
それはまるで、貪欲な蝶が花の花芯に向かって飛ぶように一直線に。
ブルへと3連続刺さった的は完全に芽在の圧勝。
呆気に取られたバニーは、勝負を挑む前に負けを認めたのだ。
大成功
🔵🔵🔵
美国・翠華
アドリブOK
ギャンブル…私はやったこと無いけど
トランプのポーカーで仕掛ける…
私が欲望を手放さない理由…
私は十分に愛されないまま死ぬところだった…
この世界に気持ち悪いという感情を抱いたまま…
それでも私は…猟兵の人達と出会って…
この世界にも愛する思いがあると信じて戦う
だから私はこの思いを手放したりしないわ
ポーカーフェイスが重要なら
UDCにも協力して表情をコロコロ変えさせてもらう…
これでこっちの札は読めないはず…
…相手はこちらの「愛してほしい」という思いを奪おうと
似たような少女が甘い言葉で愛を囁いたり
或いは口づけを仕掛けようとしてくるかしら…
それでも絶対屈しない…絶対に
【対 美国・翠華】
「ベット。さあ、如何なさいますか?」
ポーカーテーブルの一角にて、バニーは挑発的にそう訊ねてみせる。
向かい合うのは美国・翠華。大人しそうな、学生服姿の若き娘が配られたカードをじぃと見つめ続けていた。
自分には不相応な大人の空気に潰されそうになる――けれど、自分には打ち勝たねばならない理由が在る。
それは――――、
(「私は十分に愛されないまま死ぬところだった……。
この世界に、気持ち悪いという感情を抱いたまま……」)
思い浮かぶのは、ひどく辱められたあの日の出来事。
愛など与えられる筈も無い、触れられることすら気持ち悪い。
そんな感情がずっと、ずっと渦巻いていた。
カードを取る手が、震える。それでも、深呼吸をして、ゆっくりとその震えを静めさせて。
静かに、目を閉じて。
(「それでも私は……猟兵の人達と出会って……この世界にも、愛する思いがあると信じて戦う」)
目を開き、バニーガールの娘と向かい合い、新たなカードを引き寄せる。
ヒット。バニーもまたカードを引き、両者ともに役を揃えるべく休戦状態のようだ。
その様子を伺い、翠華の中に潜むUDCは静かに語りかける――。
『ドウシタ、攻メナイノカ?』
どきりと心臓が跳ね上がりそうになりながらも、翠華は小声でUDCへと促した。
「……お願い。私の顔を変えて。話に合わせて、相手に悟られないように」
『ソレガ望ミカ。次第ニオマエ自身ガ自分ヲ忘レテモ良イノカ?』
その問いに、翠華は縦に頷くしかなかった。今の己のメンタルでは、相手に心情を悟られてしまうことなど容易であるからこそ――。
「スリーカード。こちらはこれで挑むとしましょう。
……あなたは、恐れているのですか? 己の弱さに」
「――……!!」
カードを持つ、翠華の手が震えた。がちがちと音を鳴らす奥歯の音。
恐怖が、攻め寄る、詰め寄る。もはや、手出しなど容易にできない。
それだけでない、バニーガールは、身を起こして翠華の顔へと身を寄せようとしていたのだ。
ふわりと香る甘い匂いに惑わされそうになる、それでも――。
「――――だめ!!」
パン!!
大きく響き渡る音。
引っ叩いた当人である翠華は怯えそうになった。
されど、UDCが表情筋まで操作し、愉悦を帯びた余裕の笑みを浮かび上がらせたのだ。
「私は……私は、絶対に屈したりしない。
私の想いは、誰にも譲れないたった一つのもの。
この愛を手放してしまえば、それこそ私は私で無くなってしまう――」
じん、と響く右の手を広げ、手持ちのカードを晒した。
――フラッシュ。
非常に上出来な役だ。その瞬間、私の勝利は決まった。
『案外、楽ナゲームダナ……モット遊バナイノカ?』
「……もう、こんなのこりごり」
大成功
🔵🔵🔵
庚・鞠緒
◎
運が絡むゲームはやりたくねェな、ディーラーが信用できねェ
つーことでプレイすンのはダーツ
ルールはさっき習った、狙ったトコに投げりゃいいンだろ
こちとら動く敵の内蔵狙ったりしてンだよ【部位破壊】とかでな
・欲望
1章で綴った「あの頃に戻りたい(家族にまた会いたい)」
もう叶わないし、そもそも両親を喰った邪神はウチが喰っちまった
だからもう会えないし、どこにもいない
それと「邪神どもを皆殺しにしたい」
この欲望が大切かつったら、まあそうさ
夢みたいな望みと、八つ当たりみてェな復讐心
それがウチの原動力
手放したら立って歩くこともできねェ
けど手放さねェ理由はもっと単純
お前らにやるものなんか一つもねェ
奪ってやる、何もかも
【対 庚・鞠緒】
(「運が絡むゲームはやりたくねェな、ディーラーが信用できねェ」)
様々な遊戯が繰り広げられる会場内を、鞠緒は睥睨する。
「どのゲームをプレイするか――お決まりになりましたか?」
彼女の身に纏う張り詰めた空気など何処吹く風と言わん顔で、幼いバニーはそう訊ねる。
“信用できぬディーラー”を一瞥したのち。鞠緒は黙したまま、クイッと顎でダーツ台を示した。
「ご希望のゲームはダーツですね、かしこまりました。それではゲームの説明に――」
「さっき習った。狙ったトコに投げりゃいいンだろ」
遮るようにそう言い捨てて、鞠緒はダーツを手にする。
赤い、紅い、鮮血の矢。
自分が求めるその真っ赤なダーツは、色素が抜け落ちた鞠緒の青白い肌にひどく美しく映えていた。
「それではゲームを始めましょう。勝負は3ラウンド制、得点を多く稼いだ方が勝者です。先攻は、お譲りいたします」
バニーの宣言と共に、ダーツ台の電灯が明滅する。
手にしたダーツは初めて手にしたにも関わらず、ヤケに馴染んでいた。
これならば普段得意とする、特定のポイントを狙う戦法も可能だろう。
鋭く、鋭く、感覚を研ぎ澄ませ、瞳を細める。
思い返すのは、あの洗脳で呼び起こされた“欲望”、そして“願い”――。
(「……両親に会いたい――そんな願いはもう叶わないし、そもそも両親を喰った邪神はウチが喰っちまった」)
もはやそれは、受け容れた事実。されどもう一つの欲望は、残っている。
――――邪神どもを、皆殺しにしたい。
願いのままに、ダーツを投げた。迷いを振り切るようなワン・スローは真っ直ぐ飛ぶも、真ん中からズレた微妙な位置に刺さる。
チッ、と荒い舌打ちのあと、鞠緒は手番をバニーに譲った。
「これからも戦い続けるのですか? 我々は“どんな願いも”叶えられるのに――」
すれ違いざま、バニーは耳元でそう囁いた。
そのままダーツを投擲し続け、2ラウンドを終える頃には若干のバニーの優勢となる。
最終ラウンド。此処を外してしまえば、鞠緒の敗北は確実。
決してミスは許されない――ダーツ台の中心を、静かに見据える。
「“どんな願いも”……弱いウチなら、確かに縋ってた筈だ。そんな甘い言葉に乗せられてな。
でも、今は違う」
夢みたいな望みと、八つ当たりみてェな復讐心。
それらが原動力である以上、それを手放したなら、またあの日の弱い自分に逆戻りだ。
立って歩くことすらもままならないだろう。
「そうですか――では、改めて訊ねましょう。“あなたは何故、手放さないのか”を」
「ハッ、理由はもっと単純だ。お前らにやるものなんか――一つもねェ!!」
それは、喰らい尽くす獣の爪の如く。赤い、紅い矢は真っ直ぐな軌跡を描いて獰猛に飛ぶ。
深々と、刺さった中心の的。
液晶画面は『GAME SET』の文字を浮かび上がらせ、バニーの手番を待つまでもなく鞠緒の勝利を確定させた。
迷いはない、立ち止まる理由もない。
奪われたのならば――――この手で奪ってやる、何もかも。
成功
🔵🔵🔴
誘名・櫻宵
🌸エリシャ/f02565
◎
あなたに初めて会ったのは
あなたが初めて人を食った時
覚えてはないでしょう
可愛い従姉妹の行く末は苦難に満ちていると感じたわ
あなた自身であることを貫くならば
私と同じ
人と相いれぬ外道を往く事になるわね
一緒なら寂しくない
どんな時も乗り切れる
丁半博打で勝負よ
エリシャと協力するわ
第六感で察して出目を当てる
勝てる手番全て欲望をかけて
負けないしあげない
彼の愛は特別
私に愛をくれる
十分に満ちた神聖な愛の泉
何故って?
当たり前よ
生きる事は殺す事
殺す事は愛する事
楽しいの
食い潰せる雑多な愛は幾らあってもいい
この牙から彼を守る為に
欲望を手放すなら
渡す人は決めてるの
私は悪龍
殺戮を糧に咲く屠桜
これが私
千桜・エリシャ
◎
🌸櫻宵さん/f02768
いとこ…?どういうことですの?
知らぬ事実に動揺が隠せず
けれど
一人ではない
外道と誹りを受けようと
二人ならば
ふふ、どこまでも似た者同士ですのね
二人で挑むは丁半博打
私は見切りで賽の目を読み櫻宵さんと協力
確実に勝てると踏んだ手番に欲望全て賭けましょう
この勝負
負けるつもりはありませんの
ええ、確かに
こんな欲望
手放した方がいいに決まっている
己の欲望、悪癖は妖の血を色濃く受け継いだ故の先祖返り
きっと人として生きられる
けれど
私は私でいられなくなる
私は私として
この世界を生きていきたい
開き直り?それで結構
私は悪鬼羅刹、万物の捕食者よ
櫻宵さんこそ
愛を欲するなら
もう手にしているのではなくて?
【対 千桜・エリシャならびに誘名・櫻宵】
――からり、ころり。
電飾きらめく会場内に響く下駄の音は、ふたつ。
ふわりと舞い込む桜の彩りもまた、ふたつ。
一方は夜闇に咲く艶やかな花、もう一方は花灯りに酔う柔らな花――。
二人が場内へ歩を進めるたび、その誘惑の美に思わず振り返る客たちが何人も。
その隙にとUDC職員たちが客の救出にあたっているのを視止めたのち、ぽつりと思い出すように唇を開いたのは櫻宵だ。
「あなたに初めて会ったのは、あなたが初めて人を食った時――憶えてはないでしょう。
可愛い従姉妹の行く末は、苦難に満ちていると感じたわ」
「いとこ……? どういうことですの?」
エリシャは桜色の瞳を驚きで瞬かせるも、櫻宵は肩を竦めて笑みを向けた。
その眼差しは、愛しい妹を憂うようで。彼の心中を仄かに感じ取って、エリシャは追及を止めた。
「エリシャ。“あなた自身”であることを貫くならば――私と同じ、人と相いれぬ外道を往く事になるわね」
「櫻宵さんと、同じ――」
知らぬ事実を聞いた今、動揺は隠せない。されど――嗚呼、自分は一人ではない。
外道と誹りを受けようとも、人と相容れずとも、二人ならば。
思わず、くすりと小さく笑みが漏れる。
「ふふ、どこまでも似た者同士ですのね。では、参りましょう」
桜の芳香と滲む狂気をつれて、両者がバニーの前へと訪れたなら、幼い少女は恭しく一礼する。
「ようこそ、お待ちしておりました。お二人がお望みの遊戯は、特設ステージを以ってご用意しております」
と、案内したのは――畳を敷き、襖や屏風で仕切られたスペースだ。
其処には二人のバニーが既に正座しており、不気味にも鏡写しのように揃った笑顔で二人を出迎えた。
エリシャと櫻宵が挑むは、丁半博打。
ツボ皿に入れて振られ、隠された賽2つの出目が丁(偶数)か半(奇数)かを予想して賭ける、日本古来の賭博だ。
この賭博を選んだのは、二人の出身において身近な遊戯であったことも大きい――しかし、それだけではなかった。
「ようござんすか? ようござんすね? ……なぁんて。下手にかしこまらず、入ります」
ツボ皿とサイコロをじっくり見せたのち、ツボ振りのバニーはそのまま皿を振って伏せる。
その手際は素早く、一般人ならばまず見極めることこそ不可能だ。
「――――」
「――……」
されど――“猟兵”ならば話は別だ。色味の違う桜の瞳たちは艶然と瞬き、長いまつ毛をゆるりと伏せる。
(「あら、この様子だと――エリシャはもう見抜いたかしら?」)
ゆるりと彼女へ向けられる花霞の瞳。
櫻宵の中では既に、第六感が働いていた。見切りの技能を研ぎ澄ませたエリシャもまた、サイコロの出目を的中させているのだろう。
油断なら無い勝負といえど、此度はある意味、エリシャとの当てっこ勝負のようなもの。
(「大丈夫。一緒なら、寂しくない。どんな時も乗り切れる」)
――嗚呼、想えば。
愛の証を遺して造って、嘗ての私はそうして求め続けていた。
けれど、けれど、“彼”は――私に、愛をくれる。
それは謂わば十分に満ちた、神聖な愛の泉。
その泉に触れて、満たされ、私の桜は綻ぶ。彼を想って、彼の為に。
「求め続けた狂愛の果て――見つけたのが、今の愛ですか。それこそが、欲望を手放さない理由ですか?」
同じ顔をしたバニーたちが、一斉に櫻宵を見据える。
刀に手をかけようとしたエリシャをす、と腕を伸ばして制しながら、櫻宵は花唇を綻ばせて――ぞっとするほど美しく、笑ってみせた。
「ふふ……当たり前よ。生きる事は殺す事、殺す事は愛する事」
顔を上げ、横髪を耳にかける。
耳朶に揺れるは、桜の水引飾りを連ねた片耳のピアス。
ゆれる、ゆれるは、彼が贈った、私の櫻。
「楽しいの。食い潰せる雑多な愛は幾らあってもいい。
この牙から彼を守る為に――欲望を手放すなら」
――渡す人は、決めてるの。
す、と細める双眸は、悪龍そのもの。
もはや彼からの欲望を得ることは困難だと察したバニーたちの矛先は、エリシャへと向かう。
「成程……では、そちらの貴女は如何です? 貴女はその狂った欲望を、これからも抱いてゆくのですか?」
「狂った? ――ふふ、うふふふふ」
鋭い鬼の爪で彩られた手を口元に添え、エリシャは笑う。笑う。笑い続ける。
嗚呼、確かに。こんな欲望、手放した方がいいに決まっている。
御首を求めるこの悪癖など、妖の血を色濃く受け継いだ故の先祖返りだ。
今こそ手放せば、普通の少女としての生も得られることだろう。
「けれど――この欲望を手放せば、私は私でいられなくなる。私は私として、この世界を生きていきたい」
「そう、“今のまま”で在りたいと。ですがそれは――」
「開き直り、と? それで結構。私は悪鬼羅刹、万物の捕食者よ。
……ねえ、ご存知? 貴女方が相手取っているのはそれこそ、」
――――貪欲で、悪食な、タチの悪い“異形たち”で在ることを。
桜のチップを総賭けし、確信を以って二人が告げるは『ピンゾロの丁』。
諦めたようにバニーが曝した賽の目は、1が2つ。
「櫻宵さん、愛を欲するなら――だなんて。答えを聞いた後に訊ねるのは野暮かしら」
くす、と悪戯ぽく笑うエリシャに対し、櫻宵は満足げに瞼を伏せ――常の柔らな笑みを向けてみせた。
「ええ、これが“私”。守り続けるの、彼が生きて笑う今を」
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵
黒川・闇慈
◎
「ギャンブルですか、せいぜい破産しないように気を付けるといたしましょう。クックック」
【行動】
wizで行動です。
プレイするゲームはシンプルにポーカーでいいでしょう。
大勝ちする必要はありません。高速詠唱で影の追跡者を召喚し、相手の手札を盗み見て、勝てそうな時だけ勝負です。
バニーガールとの会話にはコミュ力と覚悟の技能を活用します。
欲望を手放さない理由は簡単です。魔術を研究するのはとても楽しい。楽しいことを止める理由がありません。砂場で好きに遊ぶようなものです。何を描いても、何を造ってもいい。無限に遊ぶことができる。こんな趣味はそうそうありませんよ。
泳ぐのを止める魚はいないのですから。
【対 黒川・闇慈】
「ギャンブルですか、せいぜい破産しないように気を付けるといたしましょう」
クックック。
きらびやかな会場内に、影の如く茫と佇むは黒川・闇慈。
ポーカー台に配られたカードを手で広げながら口元を隠し、底の知れぬ黒の瞳はただ愉快げに細められるばかり。
欲望をチップに――最悪、命すらも危ういゲームでありながら、闇慈は勝負に出るよりも安定を重んじていた。
敗北を確信するならば迷い無く降り、勝機があると見込めば賭けに出る。
――――彼の足元から這い寄る『影の追跡者』がバニーの手札を盗み見ているからこそ、可能な技法(イカサマ)だ。
程々にドロップを選んでいれば、まずイカサマを疑われることもないだろう。
だが、他にも対策すべき問題は在る――。
「随分と、慣れていらっしゃるのですね。それもまた“探究心”ですか?」
「如何でしょうね。あくまで私の欲望は“魔術への研究欲”ですから。こうした賭け事の知識も付加要素に過ぎません」
「そうですか――では訊ねましょう。あなたが欲望を手放さない、その理由を」
レイズ。バニーは手持ちのチップを全て賭けた上で、訊ねる。
バニーの手札は、ドロー次第ではかなり化ける組み合わせだ――されど此処は、降りるより勝負に出るべきだろう。
その前に答えを告げるべく、闇慈の瞳はじ、とバニーの虚ろな瞳を見据える。
「理由ですか? 簡単です。魔術を研究するのはとても楽しい。楽しいことを止める理由がありません」
漆黒のチップを新たに重ねながら、喩えば、と闇慈は前置く。
「砂場で好きに遊ぶようなものです。何を描いても、何を造ってもいい。無限に遊ぶことができる。こんな趣味はそうそうありませんよ」
「……まるで、純粋に語るのですね。聡明であるように見えるのに、まるで子供のよう」
「子供こそ探究心、好奇心の塊のようなものでしょう。誰にも、何にも縛られることが無い――故に私は楽しむことができる」
――――泳ぐのを止める魚は、いないのですから。
ショーダウン。
バニーの手札はスリーカード。対する闇慈の手札は、スペードを揃えたフラッシュ。
最終ゲームでありながら、堅実な勝利を得られたのもまた闇慈らしいと言えよう。
「此度のゲームもまた、有意義なものでした。お相手に感謝を」
するり、カジノ会場の床を滑る影の追跡者に、バニーは気づくことなどないまま――。
大成功
🔵🔵🔵
第3章 集団戦
『欲望教のバニーガール』
|
POW : 貴方の欲望、開放しませんか?
質問と共に【対象の抑え込んだ欲望を引きずり出す腕】を放ち、命中した対象が真実を言えば解除、それ以外はダメージ。簡単な質問ほど威力上昇。
SPD : その欲望を満たすモノはこちらにごさいますよ?
いま戦っている対象に有効な【対象の欲望を満たすモノ(生物非生物不問)】(形状は毎回変わる)が召喚される。使い方を理解できれば強い。
WIZ : あなたの素敵な欲望を少しいただきますね?
【相手の抑え込んでいる欲望】の感情を爆発させる事により、感情の強さに比例して、自身の身体サイズと戦闘能力が増大する。
イラスト:まつもとけーた
👑11
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔴🔴🔴
|
種別『集団戦』のルール
記載された敵が「沢山」出現します(厳密に何体いるかは、書く場合も書かない場合もあります)。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
| 大成功 | 🔵🔵🔵 |
| 成功 | 🔵🔵🔴 |
| 苦戦 | 🔵🔴🔴 |
| 失敗 | 🔴🔴🔴 |
| 大失敗 | [評価なし] |
👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。
【第三章につきまして】
今週中に導入を更新し、プレイング募集を始めたいと思います。
具体的な日程に関しましては、改めまして当シナリオ内、マスターページ、Twitterにて告知させて頂きます。
今しばらくお待ち頂けますよう、お願い申し上げます。
●参
豪華絢爛なカジノ内の阿鼻叫喚も、次々に掻き消えてゆく
猟兵達の暗躍によって、UDC職員によって記憶消去銃を放たれた一般人達が夢うつつのまま救命ボートに運ばれてゆくのだ。
段々と客足が遠のく店内に、流石のバニーも幼げな眉をひどく潜めてみせた。
「……そう。あなた方の目的を解しました。
このパーティーを終わらせたいと、勝ち取りたいと。
猟へと赴く兵で在りながら、なんと身勝手な人々でしょう――」
――ねえ?
そう、小さくバニーが訊ねたなら、同じ顔をしたバニーたちがあらたに出現し始めた。
彼女らは張り付いた笑顔のまま、ふわりとエプロンドレスを翻す。
しかし極めつけは、まるで屋台のお面のように造ったような不気味にかたどられた笑顔の数々だ。
「――もう、後がありませんね。ラストゲームと参りましょう。
あなたの欲望を手に入れたなら勝ち。ゲームに打ち勝てたならば、あなたの勝ち――」
されど、と。
腕のうさぎ耳を生やした娘は、テーブル台に身を乗せて――じぃ、と見つめた。
「この身が求めている感情は、たった一つ。茶菓子や肉より旨味を孕んだ『欲望』たったひとつ。
チップはそれで十分。さあ、あなたは何を差し出しますか?」
くるり、エプロンドレスの裾を翻すようにターンしてみせる。
ダーツ、チェス、トランプ、花札など――全てがゲームセレクト画面のように、少女の周囲に浮かんだ。
もう、まるで後がない。
『欲望教のバニーガール』の撃退法は、此度の賭博で勝利することだ。
それは正攻法でも、UDCを用いたイカサマでもかまわない。
――――「さあ、貴方の欲望、開放しませんか?」
腕の耳を生やした不気味な娘は、今にも死にそうな笑みのままそう訊ねた。
【補足】
※重要※
当第三章は、第二章で採用できず流してしまったお客様を最優先で描写致します。
導入内容も「とにかくカジノで戦え!」で変わりないので、
プレイングは贈って下さった第二章の際のものでOK(お心変わり等があれば改変も歓迎)!
プレイング募集日時は後述し、万が一再送をお願いする場合はご連絡いたします。
今回の集団戦 『欲望教のバニーガール』
では、欲望客船のバニーガールと対決し、撃退して頂きます。
『POW・SPD・WIZ』
と、三種の攻撃法がありますが、
バニーガールが求めているのは『カジノのラストーゲーム』。
技能を駆使しての戦法もボーナスが入りますが、「客船内のバニーガールとのラストゲーム」を楽しんで頂けましたら幸いです。
(募集日時はもう暫しお待ち下さいませ!)
『リプレ募集日時
【10/08 08;31~】』
(第二章で採用できず流してしまったお客様を最優先で描写)
(kenんsa)
※補足※
【注意】
想定以上の参加を頂いた際は、再送のお願いをさせて頂きます。
10月中にはリプレイ完成の予定です。
勿論、前回参加して下さったお客様方の再度の挑戦も大歓迎です!
その際は、前回に挑んだゲームor新しいゲームをご指定して下さってもかまいません。
また、お土産として、
「自分のモチーフに合うカジノグッズ(チップやダーツ、トランプ等)」
が欲しい際は、一言添えて頂けますとアドリブで考えます。
あなたが守り抜いた、欲望をかたどった象徴です。
(当シナリオでアイテムの発行はありませんので、ご注意のほどお願い申し上げます)
ウェンディ・ロックビル
◎
僕の「欲望」……。「おねーちゃんみたいにカッコよくなりたい」とかが出てくると思ったんだけど。「なりたい自分を見つけたい」……かぁ。
……こないだの失恋、けっこーキいたみたい。
んふふ。じゃー早速勝負しよーぜ、勝負!
僕、あれがいーな!スロット!頭使う奴はやめとけってパパが言ってた!!
なりたいものも決まってないのに、なんで負けたくないか、ってー?――決まってんじゃん!
僕がウェンディ・ロックビルだから!僕のホントの欲望(ユメ)なんて、まだまだわかんないことだらけだけど……。
譲ったりしないぜ!パパとママと、何よりおねーちゃんにかけてね!
それじゃー行くぜ!パパ直伝、スロット必勝法!
……「勝つまで回す」!!
【対 ウェンディ・ロックビル】
「僕の『欲望』……かあ」
興味深そうに、左の金瞳を細めて呟くはウェンディ・ロックビル(能ある馴鹿は脚を隠す・f02706)。
欲望は願いにも通ずる。
ゆえに、真っ先に思い浮かんだのが片割れたる姉の存在だ。
のんびり気ままに生きる自分にとって、溌剌とした自信に満ちる彼女は輝いて見えた。敵わないとさえ、思った。
おねーちゃんみたいに、カッコよくなりたい――そんな欲望が出てくるのだと。
けれど、不思議だ。
本来眠る願いは、“それ”とは違ったんだ。
(「なりたい自分を見つけたい――そう、僕はおねーちゃんに胸張って並べる素敵な人になりたかったんだ、って」)
――それがどんな自分かは分からない。可能性は未知数。
だからこそ、未知を挑む賭け事にはもってこい!
それを見つけたからこそ、ふふりと唇に笑みをのせる。
……こないだの失恋、けっこーキいたみたい。
ねえ、と手近なバニーにひらりと手を振り、ウェンディは声をかけてみせる。
「早速勝負しよーぜ、勝負!」
「勝負ですか、ええ、喜んで。遊戯は――」
「んー、僕、あれがいーな! スロット! 頭使う奴はやめとけってパパが言ってた!!」
「パパ」
「うん、パパ!」
まだ年若い彼女へ賭け事の何たるかを助言したという父とは一体どんな男なのだろう。
ある程度悪い方へと想像してか、引き釣るような笑みで渋々と承諾する。
じゃらり、ウェンディの元へ渡されたのは、金色のメダルを集めたドル箱1つ。
「あなたの欲望のチップを換金致しました。メダルの量は私と同じ。
尽きればその時点で、敗北。制限時間内にメダルを多く集めた方の勝利となります」
スロット台は隣り合い。どちらも同じ機種のものだ。
両者がチェアに腰掛け、メダルを流し込んだと同時にスロット台は派手に明滅する。
けたたましい音楽が鳴り響いている筈だというのに、バニーの声はウェンディの耳へと明瞭に届いた。
「『見つけたい』――欲望というには、曖昧ですこと。それでも、こうしてなぜ勝負を挑むのです?」
分からないものを求めること。
見つけたとして、それが自分の望むものではないかもしれないということ。
不安を煽るような言葉を続けて、続けて、じゃらじゃらとメダルが溜まってゆく。バニーは既に2箱目。着実な当たりを引き続けていたの。
対するウェンディは、んーとあいた片手の人差し指を唇にのせ――、
「――決まってんじゃん! 僕がウェンディ・ロックビルだから!」
ちら、とバニーへと金瞳を輝かせてみせた。
それは偶然にも、今もなお音を響かせるメダルのきらめきとよく似ていた。
「僕のホントの欲望(ユメ)なんて、まだまだわかんないことだらけだけど……。
譲ったりしないぜ! パパとママと、何よりおねーちゃんにかけてね!」
「成程、欲望を夢とのたまう――故にあなたはそうして貪欲でいられる。ですが、此処からの勝算は?」
刻々と迫るタイムリミット。それでも、試すようにバニーは問う。
「賞賛? 本番はココからだよー! それじゃー行くぜ! パパ直伝、スロット必勝法!」
「……必勝法?」
ウェンディの宣言に身構えるバニー。しかしウェンディは隣の対戦相手でなく正面のめぐり廻るスロットをじぃ、と見つめる――!
「……『勝つまで回す』!!」
はぁ!? と、拍子抜けしたようにバニーは声を漏らす。しかし、一気にまわし続けた途端、ミス続きだったウェンディのスロット台は――。
7。
7。
7。
「やーりぃ! スリーセブン! わっ、こんなに出ちゃうんだ! パパもこーゆー快感にハマったのかなあ」
じゃらじゃらじゃらーっと新たなドル箱を用意しながら嬉々としてスロットを廻し続ける。
2箱目、3箱目――制限時間を告げられたなら、「え、もう終わりー?」と拍子抜けした顔で椅子からぴょんっと降りる。
対戦相手たるバニーは既に消えていた。最後にスロット台から吐き出された金のメダルをキャッチして、ウェンディは手のひらにおさめる。
まるで、お月様みたい。
欲望(ユメ)が満ちたような、金色のお月様。ボクの願う理想。
馴鹿の刻印が施されたその一枚を、ウェンディは満足げに見つめた。
成功
🔵🔵🔴
セシル・エアハート
◎チェス
身勝手なのはどちらの方だか…。
いいよ、受けて立つ。
その張り付いた笑顔の仮面がどんな風に崩れていくか楽しみだよ。
あの時の俺は本当に無力だった…。
大切な家族も…何もかも奪われた。
何度も傷つけられて、穢された。
生きる事を諦めそうになる事もあった。
今こうして生きていられるのも、この欲望…願いがあるからこそ…だよね。
いつか闇に堕ちるって?
そこまで執着する程自分を見失っていないよ。
強さの引き際くらい、心得ているから。
…だから君達に死んでも渡さない、絶対に。
はい、チェックメイト。
君のその酷い顔、骸の海で出直しが必要だね。
【対 セシル・エアハート(深海に輝く青の鉱石・f03236)】
「身勝手なのはどちらの方だか……。いいよ、受けて立つ」
バニーからのその挑戦に、セシル・エアハート(深海に輝く青の鉱石・f03236)は応じた上で前へと出でた。
「――その張り付いた笑顔の仮面が、どんな風に崩れていくか楽しみだよ」
「優しげなお顔ながら、恐ろしいことを囁くのですね、あなたってば」
皮肉を込めた返しとともに、用意したのはセシルが希望する盤上遊戯『チェス』。
先手たる白でなく、後手の黒を選んだのはどうしてか。
かつて閉じ込められた暗闇の黒に、手を伸ばしたくなったからか――。
盤上に並べられる、白と黒の小さな戦争。
黒のポーンを前進させながら、セシルはサファイアの瞳に黒の綾を滲ませる。
(「あの時の俺は本当に無力だった……。大切な家族も……何もかも奪われた」)
闇の組織の襲撃。囚われたあの日々の苦痛と屈辱。
催眠が解かれた今も、忘れることなどできない――。
何度も傷つけられて、穢され、生きる事を諦めそうになる事もあった。
けれど。
「――今こうして生きていられるのも、この欲望……願いがあるからこそ……だよね」
次第に戦況が変わってゆくなか、セシルが動かすことを選んだのは黒のルーク。
既にバニーにポーンをいくつも奪われ、現在では追い詰められる状況と化している。
その余裕か、バニーは駒を新たに動かし、足を組み直して余裕の笑みで次の手を促してみせる。
「願いがあるからこそ、今のあなたが在る――あなたは『強くなりたい』。けれど、それを求めれば最後に堕ちるは、そう」
バニーは指差す。セシルの手元にある黒の駒を。
暗闇。取り返しのつかない、理性を超えた無。
そんな揺さぶりにも、セシルは「おや」と不思議そうに海色の瞳を細めてみせた。
「俺がそんなにどす黒く見えていたのかい? そこまで執着する程、自分を見失っていないよ。
強さの引き際くらい、心得ているから。だから――そろそろ、勝負を決め込もうか」
――君達に死んでも渡さない、絶対に。
欲望を死守すべく、新たに運ばれた黒のポーンやナイトは盤上の白きポーンを、ビショップを、次々と切り払ってゆく。
挑発と共に盤上もまた交錯し、追い詰められてゆくは――嗚呼、確かな戦う意志を揺らがずに居る黒の陣営だ。
「己が小さな箱庭に囚われていたからこそ、こうした遊戯もお得意で?」
「泣き言かい? 強がりよりも素直な方が、男は甘くなるものだよ。
――――はい、チェックメイト」
柔らな声と共に、セシルは白の王を追い詰めた。
盤上から消えていった白の陣営たち。ビショップとナイト2騎が攻め入り、王の白の王の首を刎ねたのだ。
「せっかく可愛らしいのに――君のその酷い顔、骸の海で出直しが必要だね」
「あなたこそ……海みたいな髪でも、心は澄んでいないのですね」
「――そう。俺のこの髪が綺麗だって? それはどうもありがとう」
敗北と共に消えてゆくバニーへ礼をひとつ。
皮肉も受け取っておくよ、とセシルは余裕の笑みを見せた。
成功
🔵🔵🔴
ヌル・リリファ
◎
連携も歓迎
スロット(動体視力が高い)
たしかにわたしが人形でいるためには、綺麗なものや素敵なものをきりすてないといけないよ。
それらに興味がなかったわけじゃない。
でも、それ以上にわたしはマスターのやくにたつ人形でいたいんだ。
……そのためにわたしはもうそういうものをすてたから。
それをえらんだのはわたしだし後悔はしてない。それは人形でなくなることだから、とりもどせるとしてもとりもどさない。
でも、このチップをわたすのは。
すてたものを無駄にしちゃうことだとおもう。
なにより、人形であることはほかならぬわたしがえらんだ、わたしに価値をあたえてくれるたったひとつのものなの。
だから、絶対わたさないよ。
【対 ヌル・リリファ(出来損ないの魔造人形・f05378)】
じゃらじゃら、と響き渡るメダルたちの音に、ヌル・リリファ(出来損ないの魔造人形・f05378)は硝子玉めいた瞳をぱちりと瞬かせた。
それは、スロット台と面と向かうキマイラの少女だ。
立派なトナカイの角を生やした少女が、チーターの尻尾をゆらりゆらりと上機嫌に揺らしていた。
――覚えがある、彼女は。
と、声をかける前に、キマイラの少女の方がぶんぶんっと元気よく声をかけてきた。
「あっ、ヌルちゃーん! この船に来てたんだね! スロットチャレンジするの?」
「……?」
どうやら大勝利をしたらしい少女――ウェンディ・ロックビルに声をかけられ、もう一度まばたき。スロットの特徴、出率計算――現代で云う『機械割』をひと目で試みる。
彼女の瞳は動体視力に優れ、ある程度の法則を割り出すことに成功した。
「ヌルちゃんならきっと勝てるよ、がんばって!」
「うん――」
ぱたぱた、駆けてゆく彼女の背中を見つめる。
見えなくなったところで、くるりとオルゴール人形のようにくるりと廻ってヌルは告げた。
「この、スロットをわたしも挑戦するよ」
「かしこまりました。あなたの得たチップを、スロットのメダルに換算し、箱ひとつとしました。
すべてが尽きれば敗北。より多くのメダルを獲得できた方の勝利です」
わかった、とヌルは純朴そうな顔色をひとつ変えず、スロット台の椅子へと腰掛ける。
けたたましく、派手に響き渡るスロットのBGM。
じゃらじゃらとメダルが吸い込まれ、ときには失敗、ときにはヒットを重ねていくなか――
隣の台でのバニーは、ヌルへと挑発的に問う。
「あなたというマスター、とは?」
「マスターは、マスターだよ。わたしをつくった――……わたし“たち”をつくったの」
姉妹機の存在を想いながら、ヌルはふたたびスロットにメダルを投入する。
「お人形、ですね」
ぽつり、バニーは告げて新たにメダルを入れた。
「あなたは『マスター』という存在に囚われているように見受けられます。あなたは猟兵。謂わば自由となった今、相応の少女として生きることも可能なのに」
「そうだね。綺麗なものや素敵なものを、きりすてないといけないよ。
それらに興味がなかったわけじゃない」
喩えば、ウェストエリアのお洒落で綺麗なお洋服。
イーストエリアの城下町の露店で売っていたアクセサリーたち。
それらは、感情を持つ機功人形という二律背反が生む欲望――否、ヌルにとってそれは誘惑に近しいのだろう。
故に、切り払うのだ。
「でも、それ以上にわたしはマスターのやくにたつ人形でいたいんだ。
……そのためにわたしはもうそういうものをすてたから」
投入したメダルから、からからとスロットが廻ってゆく。
7。
7。
Cherry!
そう、当たるだなんて甘くはない。
本来のギャンブル狂ならば叫ぶところを、ヌルは現実を受け止めるように再びメダルを投入していく。
その動作は機械的。されど、スロット台を見つめるその瞳は――譲れぬものが在るという確かな意志を宿して。
「もうそこまで、“女の子”で在るのに。それでも人形であることを選ぶのですね」
「そう生きることをえらんだのはわたしだし、後悔はしてない。それは人形でなくなることだから、とりもどせるとしてもとりもどさない。
ねえ、そもそも――――、」
“おんなのこ”の定義って、なに?
無垢であり続ける機功人形は、形に嵌められることを拒絶した。
故に、メダルを投入し続け、欲望を譲らぬのだ。
後悔もない、人形でない自分を、取り戻すことなどできないから。
捨てたものを無駄にする――嗚呼、娘は無垢なようでいて、合理的思考のままに生きていた。
「お人形で、いいのですか。そう、あなたは――」
「どうしてふしぎでいるの?」
投げ入れる、更なるメダル。これが、ラストチャンス。
「わたしにとって、なにより、人形であることはほかならぬわたしがえらんだ、わたしに価値をあたえてくれるたったひとつのものなの」
――だから、絶対わたさないよ。
7。
7。
――7!!!
揃った7の数字に、じゃらじゃらとけたたましく吐き出されてゆくメダルたち。
さらにスロットを廻しても運気が廻り、もはやドル箱にも収まらないほど、壊れたようにスロット台はメダルをこぼしてゆく。
「……こわれちゃったの?」
「さあ、人形として。こわれてるのはあなたの方では?」
恨み言を遺して、バニーは消えた。
その一言に、ヌルは不思議そうに首を傾げてみせる。
――どうして? わたしは、マスターのぞむ人形になりたくて……。
成功
🔵🔵🔴
十河・アラジ
◎
※カジノグッズ希望
ボクは駆け引きが苦手だからスロットで勝負させてもらおうかな
動体視力や反射神経を強化できれば目押しくらいはできるはずだ
あとは成功するように祈ること、かな
ボクの欲望……それは、今の苦しみから解放されて安心したい、ということ
それは弱さで甘えだと思っていたけど、これはボクの「願い」でもあったんだ
仕方ないことだと、咎があるからと
そんな諦めこそが弱さだったんだ
諦めてしまえば、ボクの呪鎧はそんな弱い心をすぐに乗っ取ってしまう
「欲望」に負けず、叶えたい「願い」に変える
それがボクがこの使命を遂げるために
そして、これからも大切な人達といっしょにいるために必要なことだから
この欲望は、手放せない!
【対 十河・アラジ(マーチ・オブ・ライト・f04255)】
ジャララララ――……。
何処かで大当たりが巡ったらしい。
十河・アラジ(マーチ・オブ・ライト・f04255)は驚いた様子で振り返ったなら、何処か見覚えのある銀髪の少女がジャラジャラ吐き出されるメダルたちをぼんやり見つめていた。
席を立ち、すれ違った娘は「がんばって」とでも伝えるように――仄かに、仄かに微笑んだ気がした。
そのまま、新たに現れたバニーはアラジの存在に気づき視線を向ける。
バニーたちがことごとく敗北され、その目はやや殺意をはらんでいるようにも見える。
「遊戯をご所望で? それでは此方のスロットでも――如何でしょう」
もとより、アラジはスロットを遊戯として選ぶつもりだった。
しかしながら、こうして圧を掛けられてしまえばゴクリと小さく生唾を呑み込んでしまう。
「ああ、ボクもスロットで勝負させてもらおうかな」
ひらり、翻る聖衣。
少年は静かな意志を秘めながら、椅子に腰掛ける。
けたたましく鳴り響くBGM。
ジャラララ……廻る画面を止めてみせる。1、2、3。
非常に滑稽な姿だっただろう。しかもスロットで止めた絵面もひどい有様だ。
「ふふふ、初めは仕方ありませんよ。それが続けば洒落にはなりませんけれど」
――さあ、ゲームを続けます?
挑発的に訊ねるバニーへも、アラジは意志を揺るがずにスロット台へと歩み寄る。
「ボクにも、譲れない欲望があるからね。このまま奪われるわけにはいかない」
「欲望――ですか」
起動されるスロット台。ぎらぎらきらめく光と劈くように賑やかなBGM。
――今の苦しみから解放されて、安心したい。
優しい眠りを、苦しみから解放された上での、安堵を。
「……それは、猟兵として戦うあなたにとって甘えでは――」
「違う――!!」
メダルが、新たに投入される。
決意と共に、欲望への想いと共に。
じゃらじゃらと音を立てて響くスロット台は、ボーナスタイムへと突入して、ぐるぐる廻って絵面を示しだす。
7。
7。
――――チェリー。
「ふふっ、ほら。あなたはこうしてチェリーのように甘えん坊――」
と、バニーが嘲った瞬間、チェリーの枠はくるりと廻って――、
7の数字を刻み、スリーセブンを示したのだ。
「なっ――!?」
「ほら、そうして。仕方ないことだと、咎があるからと。
そんな諦めこそが、今までのボクにとっての弱さだったんだ」
ずきり、弱さの話をすれば己の呪鎧『マグノリア』が蝕むように身体を軋ませてゆく。それでも、ぐ、と痛みを耐えて。
「仕方ないことだと、咎があるからと―……ッ……!!」
そのとき――じゃら、と弾き飛ばされたメダルを一枚、アラジはひとつ、掴み取った。
今もなお狂ったようにメダルを吐き出すスロット台を傍らに、アラジは静かに語り続けた。
「……そんな諦めこそが、弱さだったんだ。
諦めてしまえば、ボクの呪鎧はそんな弱い心をすぐに乗っ取ってしまう」
それを語り終えたと同時、アラジは荒い息を吐き出す。
金の瞳はキ、とバニーを睨み付けたまま、アラジは己の胸を握り締めるように護ったまま告げる。
「甘え、と云ったね? ボクの願いを――それは間違いだ。いや。間違いに変えてみせる。
『欲望』に負けず、叶えたい『願い』に変える為に」
白き十字架が背後に顕現されたまま、逆手で強く握り締める。
全てを赦す、白き十字架。
少年は、すべての想いままに――振りかざす!!
「これがボクの……役目だ!」
振り下ろされた赦しの剣は、『駆け引きが苦手である』アラジに力を与え、バニーを両断した――。
「弱い、あなたは、弱い……私には分かる! それでもあなたは……!!」
戦うと、云うの?
――断末魔のようなバニーの声。
霧散した娘の声に、アラジは十字架に潤う血を振るうように拭い、つぶやいた。
「――この欲望は、手放せない」
これからも大切な人達といっしょにいる為に、必要なことだから。
――7、7、7。
新たに大当たりとなったスロットから吐き出された、メダルのひとつ。
十字架が刻まれたそのメダルは、光に当たれば金にも、黒にも移ろって見えた。
今にも弱さに飲まれそうな、そんな黒を孕みながらも十字架を振るう少年。
その小さなメダルひとつは、何を意味するのか――。
大成功
🔵🔵🔵
リリアネット・クロエ
◎
チェス(不思議の国のアリスモチーフの駒)
さぁ、次でラストゲームだ…。
青と紫のチップを左手に握りしめ、目の前に現れたバニーガールにチェス勝負を挑んだ。
アリス(キング)これが自身"欲望"を表した駒
白うさぎ、チェシャ猫、ハートの女王、マッドハッター、トランプ兵などなどの形をした駒が並べられ。
ぼくの欲望はこんな所で潰える訳にはいかない
まだこれからだって色んな洋服を着飾ったり作ったり……。
――――これでチェックメイトだ…!
アリス駒が具現化しアリスナイトりりあに早変わり
これが今のぼくの"美"だ…!
【対 リリアネット・クロエ】
「――さぁ、次でラストゲームだ」
握り締めるは、青と紫。己の瞳そのものの彩のチップたち。
ひらり、エプロンドレスを翻すバニーは虚ろな目でリリアネット・クロエ(Chloe・f00527)を見つめた。
「ご希望のゲームは?」
「ぼくが選ぶのは……」
かつり、一歩を進みながら――リリアネットが選んだのは、アリスをかたどったキングの白き駒。
「チェスだよ。真っ白なアリスのキングを刈り取ればが勝利。不思議の国のアリスに基づいた遊戯――それがぼくのオーダー」
どうかな?
と、バニーへ訊ねて見せては、少女は興味深そうに笑みを深めて一礼。
「かしこまりました。
ハートの女王をクイーン、チェシャ猫をルーク、白うさぎをビショップ、マッドハッターをナイト、トランプ兵はポーン。
リリアネット・クロエ様の思い描く物語になぞらえ、チェスをこの場にて描かせていた抱きます」
ゆらり、ゆらりと、チェス盤の前で指先を躍らせる。
次第に駒はリリアネットが願ったアリスめいた駒たちに変わってゆく。
真っ白なキング――即ち、アリスはぼくそのもの。
定位置に置いたのち、リリアネットは向かいのバニーへと静かに視線を向けた。
(「ぼくの欲望はこんな所で潰える訳にはいかない――!」)
トランプ兵を進めて守りを固めても、バニーは着実に兵を蹴散らす。
新たに迎え撃つナイト代わりのマッドハッターへも。嘯くように駒を近づかせてゆく。
「あなたの欲望は、可愛く着飾る――美しくなる。でしたら、こんなのなんて如何です?」
パチン。
軽やかに鳴り響く指のスナップ。
感情に比例し、バニーの身体はリリアネットと同様の身長へと成長してゆく。
アリス衣装にも似たバニーは、リリアネットと年相応の少女として相対することとなった。
「ねえ、どう! ”可愛い”でしょう?
不思議の国のアリスのIFの終焉をご存知ですか?
アリスは現実へ還れず、ハートの女王の手で首を刎ねられる!」
私は女の子、あなたは『男の子』。
――ねえ、その違いは埋められないの。
あなたは“ヒロイン(女の子)”にはなれないもの。
「男の子……? 女の子だとか、男の子だとか」
す、と、新たに駒を摘む。
リリアネットの指先は、少女にも似るほど美しく、磨かれた細長い薄紅色の爪に、彩られていた。
「決め付けないで――ぼくは、ぼく。リリアネット・クロエなんだ!!」
瞬間、リリアネットの手に持つ白のナイトが焔をまとう。
具現化された白のナイトの駒には、紅く燃える百合の花が咲いていた。
「――!? その、駒は……」
「ぼくの想いに、駒が応えてくれたんだ。
ぼくにはまだ、願いがあるんだ。これからだって、色んな洋服を着飾ったり、作ったり……!」
美への追求が、欲望が、尽きない。
その圧に圧され、黒の陣営たるバニーはキングを奪われ、目を大きく瞬かせた。
「美だとか、お洋服だとか……そんなことで、あなたは戦えるのですか」
消えかける間際、バニーはそう訊ねてみせれば――、
「そんなこと? ぼくにとっては、とても、とっても幸せなことなんだよ」
リリアネットは、意思を以って告げる。
「――友達と、一緒に『オキニのお店に行こう!』って約束してるんだ。
これがぼくが一緒に見つけたい美……ぼく自身が、探す“美”なんだ」
だから、と。
リリアネットは、盤上の白いアリスを摘んで哀しげに微笑んでみせた。
――譲れないんだ、ぼくは可愛くいたいんだ。
今は、自分の為でもある。
でも、いつかは――誰かに可愛いって認めてもらえて嬉しい日も、見つかるのかな。
大成功
🔵🔵🔵
ロク・ザイオン
◎
(己が与し易いのは、きっと
【野生の勘】で挑める類の賭け)
あねごはおれの全てだ。
考える力を
ことばを
世界を
いとしいと。うれしいと。思う気持ちを
全てお与えくださった
…森の外には
りんごの話があるんだろ。
知恵のりんご。
(あねごはととさまのもので
今や己は、貴女に触れる資格すら失ったかも知れない
…けれど、この貴女は
己だけのものに、できる)
……ひとは
今更、それを捨てることは出来ない。
(失えばきっと獣に戻る
何も考えられない
満たされない衝動を吠えて、暴れて
それが寂しさなのだとも解らずに
ただ一匹、啼き喚くだけ)
この欲望はおれのいのちだ。
あねごは
(貴女への思いがおれをひとたらしめている)
…おれの、全てだ。
※報酬希望
【対 ロク・ザイオン】
あねごの幻――否、あねごはまぼろしなんかじゃない。
あねごはおれの全てだ。
考える力を、ことばを、世界を。
いとしいと。うれしいと。思う気持ちを――。
全て、お与えくださった。
「そんなに覇気迫ったお顔でどうされました?
まるで今にも敗れてしまいそうで」
皮肉を込めたバニーの声も、ただ雑音のように耳を通り過ぎていくばかり。
あの幻の中で、自分は『あねご』の手を取ってしまった。
「――ルーレットを、選ぼう」
「ルーレット、かしこまりました。ノワールかルージュ、或いは数字を指定して倍での賭けも可能となります。回転が終わる前に、どうぞご一考の程を」
そう、端然としていながらも急かすような声でバニーはルーレットを廻した。
これも全て森番たる【野生の勘】。
からから、まわる、廻る、ルーレット。
あの幻想の中で出逢えた『あねご』を思い浮かべる。
綺麗だった。おれにまた、微笑みかけてくれた。
喩え、おれの夢みたまぼろしであれど。
…………ひとは。
今更、それを捨てることは出来ないだろ。
(「この欲望は、おれのいのちだ。あねごは――……」)
想いが、記憶が、チラつき、逃げ去る。
「お前は、番人」
膝をつく、あねご。
口を、喉を、胃を満たす、肉の感覚。
「きっと、きっと、守ってね」
反響する、愛しいあねごの声。
嗚呼、嗚呼、それでも――おれは、立ち止まらずには居られないんだ。
(「知恵のりんご――おれは、赤を選ぶ。知恵のりんごの、赤を」)
チップを置く。ロクは想像した。理性を失った、全てを喪失した己を。
失えば、きっと獣に戻る。何も考えられない。
満たされない衝動を吠えて、暴れて。
それが寂しさ、苦しさ、慟哭なのだとも解らずに。
ただ一匹、啼き喚くだけ。
おれはただ、あねごに逢いたくて、逢いたくて――。
からん。
静かに、ルーレットが止まる音。
それで正気に戻ってみたなら、ルーレット盤には赤に球が嵌っていた。
「納得が、いきません。イカサマか何かでしょう……!!」
ヤケになったバニーは、声を荒げてルーレットを砕く。
「さあ、このまま戦いを始めましょう。賭け事で敗北を認めるなどはしたない……だからこそ!」
やかましい、とロクは眉を顰めた。
声じゃない、相手の想いを慮らずに物事を進めようとする相手に嫌気が差したのだ。
勝利を確信したと同時に、ロクは赤い刃を振るう。
「燃え、落ちろ」
――烙印刀が振るうは、灰と残火。
声が劈いても尚、バニーは苦しむ暇も無く燃え尽き、その身が燃えていった。
からん、とルーレットから弾かれのは、一粒の弾だ。
それはロクが拾い上げ、見つめなければ判別できなかっただろう――猫の顔を模した、オレンジ色の弾だ。それは記念だけでなく、万が一の急所を狙うような一撃としても利用することができるだろう。
されど、ロク・ザイオンがロク・ザイオンたらしめる理由は、たったひとつ。
それは、誰よりも何よりも愛おしい姉の存在――ただ、それであった。
大成功
🔵🔵🔵
カノン・トライスタ
◎大歓迎だぜ
「お嬢ちゃんが相手をしてくれるのか。ホテル・ペンドラゴンにて、カジノを預かってるカノン・トライスタだぜ。よろしくな」
そうだな、ゲームは「ロシアンルーレット」なんてどうだ?
この欲望は俺が生きてる理由だ。
これを失ったら俺は死んだのと変わらない。
裏を返せば、これがある限り俺は死なねぇし、復讐が終わってしまえば今の俺は死ぬ。
その後どうなるかなんて分からねぇ。
蒼火は寮やホテルで過ごす俺を望んでるんだろうな。
でもまぁ、死人に口なしだ。
俺のわがまま通させて貰う。
そして、蒼火が止められない以上、俺の復讐は誰にも止められない。
向こうに行ったら雷が落ちるんだろうな。
まぁ、仕方ないさ
お土産希望
【対 カノン・トライスタ】
「お嬢ちゃんが相手をしてくれるのか」
静かな殺気に満ちた幼いバニーガールへと、気さくにそう声をかけたのはカノン・トライスタ(深紅の暗殺者・f01119)だ。
シャンデリアがきらびやかに輝こうとも、彼の身に纏うロングコートの黒は光を吸うように翻るばかり。
虚ろな目をしたバニーガールとは裏腹に、カノンは目を細めてみせた。
「ホテル・ペンドラゴンにて、カジノを預かってるカノン・トライスタだぜ。よろしくな」
「ペンドラゴン――嗚呼、まさか。あの大型リゾートホテルの」
カノンはふ、と口端を緩ませてみせた。
彼が告げた『ホテル・ペンドラゴン』は、UDCアースに聳える施設だ。
その巨大な規模から、カジノに働くバニーもまた小耳に挟んでいたのだろう。
「成程――では、多少の遊戯も心得ていらっしゃると認識いたしましょう。
さあ、何になさいますか?」
「そうだな、ゲームは『ロシアンルーレット』なんてどうだ?」
カノンの申し出に、バニーは顔色ひとつ変えず「承知いたしました」と深々と頭を下げ、ゲーム開始の準備を進める。
ルールは凡そ、通常のカジノに則る。
赤か、黒か。確実性を求めるならば数字をも指定して、“賭ける”。
ディーラーを勤めるバニーが、ルーレットを廻した。
円盤に小さな球が投げ入れられ、からからと音が踊る。
静かに鳴り響くそれをBGMに、対戦相手たるバニーは口を開いた。
「あらためて、お聞かせ願いましょう。あなたが譲れぬという、その欲望の理由を」
バニーは意思の篭らぬ目で、カノンを見つめる。
対するカノンはバニーを睨み返しながらも、胸元に下げた蒼いペンダントを握り締めた。
「この欲望は、俺が生きてる理由だ。
これを失ったら俺は死んだのと変わらない」
カノンの答えに、バニーは色のない瞳を細めてみせた。
そのままバニーは黒のエリアへとチップを積む。
それは死という価値観への皮肉。
死に在るのは天国でも、地獄でもない。黒に等しい、“無”だ。
「死んだのと変わらない――ならば、あなたは細い細い生命線を頼りに生きているのですね。か細い人生ですこと」
「何とでも言えよ。
……裏を返せば、これがある限り俺は死なねぇし、復讐が終わってしまえば今の俺は死ぬ。
その後どうなるかなんて、分からねぇ」
握り締めた蒼いペンダントが、輝いた気がした。
握った指の隙間から漏れ出る光は、愛しい恋人たる蒼火の想いのようで。
それでも。
それでも、だ。
「俺のわがまま――通させて貰う」
夕陽の、赤。
赤のエリアに積んだチップは、彼女の髪に似た蒼色へと染まっていった。
彼女の死に際に見た紅と、その紅で穢れた蒼の色。
その対比は、嗚呼、今にも吐き気を催しそうなほど――なんとも、皮肉だけれど。
球は赤のエリアにぴたりと止まる。まるで死の紅に、魅せられるように。
「そう――お見事、です」
敗北を帰したバニーは、静かに消滅してゆく。
テーブルに落ちたチップの蒼に、思い出すのは愛しい彼女の面影。
(「寮やホテルで過ごす俺を、望んでるんだろうな」)
友人と笑って過ごしたり、馬鹿騒ぎするような――日常としての俺を。
(「でもまぁ、死人に口なしだ。俺の復讐は誰にも止められない。
……ま、向こうに行ったら雷が落ちるんだろうな」)
――唯一、俺を止められるのは“蒼火”。
お前だけだ。
握り締めた蒼のチップは、何処か涙が滲んでいるような淡い色に彩られていた。
成功
🔵🔵🔴
雲鉢・芽在
欲望を解放、いいではありませんか
私、自分の欲には正直でいようと思っていますもの
付き合っていただきますわ、私の実験台として役立っていただきますわ
……私、欲望は抑え込んでいませんので開放されることは恐れずとも良さそうですわね
後は……満たすもの、でしょうか
私を満たすもの、なるほど
未知の毒蟲、未知の毒茸、未知の毒草
探しても見つかるようなことはあまりない毒
私すら蝕む毒、それをお出しいただけるのなら私は満たされるのでしょうね
……まあ、私だけを傷つけるわけではないのでしょうが
ふふ、貴方も毒の虜になるのでは?
では後押ししてあげましょう
私特製の小瓶に入った身を焼く酸液たち、是非とも貴方に差し上げますのよ
【対 雲鉢・芽在】
「欲望を解放、いいではありませんか。
私、自分の欲には正直でいようと思っていますもの」
「あら、貪欲なのですね」
「ええ、興味は尽きませんもの。なので、付き合っていただきますわ――私の“実験台”として」
雲鉢・芽在(毒女・f18550)はそう、すっと目を細めてみせる。
実験台へと微笑む様は蟲惑的なようでいて、マッドサイエンエンテイストめいた一面を覗かせた。
挑むは新たなダーツのラストゲーム。ダーツ台の電灯が再度明滅し、派手なBGMと共に『GAME START』の文字がきらめいた。
ふたたび芽在が手にしたのは、見事命中を決めた蝶の翅を模したダーツ。
雲鉢・芽在という娘は、上品なように見えて非常に貪欲且つ――質の悪い程に毒への探究心が強い。
つまり喩えるならば、欲望を抽入する注射器の形を既に成していると云えよう。
後に必要なのは、その注射器に容れるモノ――即ち、欲望だ。
(「私を満たすもの、なるほど」)
蝶のダーツを見つめながら、芽在は思う。
未知の毒蟲、未知の毒茸、未知の毒草。
探しても見つかるようなことはあまりない毒、寧ろ私が初めて見つける毒――。
そう、私すら蝕む毒。
それらが差し出されるのであれば、芽在自身は満たされるのである、と。
「自分の身を試してまで、毒を欲したいと?」
「ええ、仰るとおり。それがあなたがた『欲望教』が望む、強い『欲望』というものでしょう?」
「……我々の元に集う人々は、誰もが結局は命のチップを譲ろうとしませんでしたよ。
生きたい為に、一攫千金の為に、この船へ乗るのですからね」
「まあ、でしたら“私という存在そのもの”が一滴の毒であると?」
バニーの声に、芽在は何処か声の調子を上げて嬉しげに笑ってみせた。
そのまま蝶のダーツから己の得物へと、得物をすり替える。
「ねえ、貴方――既に虜になっていらっしゃるでしょう?
私という、毒に」
「――? いったい、何を」
「簡単なことですわ。貴方は既に私に敗北した。そして私は、欲望を抑えない。
もはや遊戯は成り立ちませんわ。故に申し上げましたの、貴方は"実験台”と」
――最期のプレゼントを差し上げましょう。とけなさい。
ギフト、Gift.
独語では皮肉にも、ギフトは『毒』とも云う。
先程のダーツのように小瓶たちを放てば、特製の酸液たちがバニーめがけて放たれた。
「――!!!」
じゅわり、じわり。
服を、身体を、内臓を、肉を。
瞬時に溶かしてゆく侵蝕溶解は、バニーに悲鳴をあげさせる暇すらも与えなかった。
大成功
🔵🔵🔵
クロト・ラトキエ
◎
猟を生業とする兵だからこそ、勝ち取り奪いたいと思うは必定でしょう?
定番のポーカー席にて嘯き笑う。
誰もが欲を『秘めている』
…なんて、未だ勘違いしてません?
コロコロと多彩な笑みで手の内を読ませず。
思いも望みも限りなく、そこに善悪も優劣も無い。
命ある限り湧き出ずる全ては欲望。
故に、傲慢に強欲に、高らかに謳おう。
抑える必要など無い。
思う儘こそ俺の生。
俺を形作るは欲そのもの…
即ち、チップは己全て。
全てを平らげよう。
表面上の変化だけなどまだ温い。
瞳孔、呼吸、嚥下、心音…
あらゆるを“見切り”、場を掌握し、支配し勝利しよう。
奪い味わえるならやって御覧?
誰かが呼んだ、この二つ名の意は
――呑む者の呼吸を止める毒
【対 クロト・ラトキエ(TTX・f00472)】
定番のポーカー席に就き、柔和な笑みをかたどる男がひとり。
黒の男――クロト・ラトキエ(TTX・f00472)は、5枚の手札を手元に広げながら対戦相手ならぬ討伐対象たるバニーへ訊ね続ける。
「猟を生業とする兵だからこそ、勝ち取り奪いたいと思うは必定でしょう?」
「ええ、それでこそ『猟兵』ですものね。非常に、貪欲ですこと」
皮肉めいた返しのまま、ディーラーたるバニーは慣れた手つきでカードを繰る。
「――貪欲、ですか」
クロトは嘯き、笑う。
「誰もが欲を『秘めている』
……なんて、未だ勘違いしてません?」
配られた5枚の札をちら、と眼鏡越しから見遣り、チェンジを2枚。
うっすら細める瞳にバニーは身を乗り出して、「如何です?」なんて訊ねても、
「それはショーダウンのお楽しみ――賭け事とはそういうものだと、あなただからこそご存知でしょう?」
のらりくらり、凪のようにかわし続ける。
バニーはつまらなさそうに嘆息し、己もまたチェンジを数枚。
(「思いも望みも限りなく、そこに善悪も優劣も無い。
命ある限り湧き出ずる全ては欲望。
故に、傲慢に強欲に、高らかに謳おう。
抑える必要など無い。思う儘こそ俺の生――……)」
男は謳う。
己の生を。
紗幕を纏って繕い続けてきたその欲望を、男は改めて肯定するのだ。
そう、変わらない。かつても、これからも。
(「俺を形作るは欲そのもの…
即ち、チップは己全て」)
嗚呼、この男は貪欲であり、全てを差し出しながらも、愉快に笑う。
「あなた……不気味です」
「おや、何故です? 様々な挑戦者を今まで陥れてきたのでしょう?」
「楽しみ方が違うからですよ。喩え僕があなたの欲を飲み干しても、平然と受け入れそうな顔をしている」
猟兵は誰もがこんな人ばかりなの? とばかりにバニーは眉を潜める。
そんな幼い娘へ、ショーダウンの瞬間にクロトは耳元――厳密には、人の腕をかたどった耳元へと囁いた。
「奪い味わえるならやって御覧? 今からでも、間に合いますよ。
ただし、あなたがこの身を喰らえるのならば――ね」
TTX――誰かが呼んだ、この二つ名の意はいったい何であろう?
カードを広げ、敗北を喫して苦しんで消え去ったバニーを見て、クロトは思い返した。
(「テトロドトキシン――呑む者の呼吸を止める、毒。
同じ空間で息を呑むほどの賭け事を挑んだ時点で、既に勝敗は決まっていた――?」)
大成功
🔵🔵🔵
白寂・魅蓮
◎
このチップで次は賭け事でしたっけ
あんまり得意ってわけじゃないけど…では花札、こいこいで勝負と行きましょう
見切りを駆使して相手の動きを確認し、役が出来たらこいこいを宣言
必ず勝てる勝負だとわかればその時は欲望を一気に賭けよう
…確かに僕は弱い自分を変えたくて、今の自分を演じてるのかもしれない
でもこの生き方で、大事な出会いがあったことも間違いなかった
昔の弱い僕がいて、今の僕があるのは真実だから
出来損ないと言われようが可哀そうと言われようが構わない
僕は僕自身を信じ続ける
悪い大人に惑わされているくらいなら、逆に僕が惑わせてみせるさ
大事なものはもう何も奪わせない、むしろ奪ってやるくらいにね
【対 白寂・魅蓮】
「こいこい――花札ですか。先程もその勝負を挑んだお客様方がいらっしゃいましたね」
「そうですか? きっと、その方々は手堅いお相手だったことでしょう」
――なにせこういった賭け事にと通されたこのお座敷に、桜の馨りが今も残るのだから。
それは白寂・魅蓮(蓮華・f00605)にとって、馴染み深い馨りであった。
「では花札、こいこいで勝負と行きましょう」
「その御歳で花札で挑むなど、珍しいですね。それでは参りましょうか――」
銀の髪から覗く魅蓮の紫の瞳は、年不相応に挑戦的な眼差しでバニーを見据える。
配られる花札。
バニーが山から新たな札を手にし始める様は、まるで役に困っているようだ。
「こいこい――僕のすべてを、此処で賭けよう」
そう宣して魅蓮が差し出したのは、手に入れた『弱さ』と『願い』のチップ。
それらは黒い蓮花を刻んでいた。魅蓮の背負う、根幹たる弱さのそれを。
「困っているように見えませんけれど」
「――?」
「その、振る舞いです。心の弱さなど、見えたりしない」
それは、どうして?
挑発するように訊ねるバニーは、新たな札を加えた。
良い手札だったらしく、ほのかに安堵の笑みを見せる。
対する魅蓮は、皮肉めいた笑みを――、
ばさり。
舞扇を開き、隠した。
舞いそよぐ風は、仄甘い馨り。
ひとたび扇げば花笑みを変える、季節はずれの紫陽花の彩り。
「僕が、弱いと見えますか? 確かにそうかもしれない。
でもこの生き方で、大事な出会いがあったことも間違いなかった。
昔の弱い僕がいて、今の僕があるのは真実だから」
ぱち、と舞扇を閉じる。
そこにあるのは笑みでなく、決意をこめて引き結んだ少年としての頑なな唇。
「出来損ないと言われようが、可哀そうと言われようが構わない。
――僕は、僕自身を信じ続ける。
悪い大人に惑わされているくらいなら、逆に僕が惑わせてみせるさ」
齢10たる少年と云うには不相応であるほどの毅然とした言葉のまま、魅蓮は告げて見せた。
無論、感情などが枯渇し、対象の心を掌握するUDCたるバニーガールは人の心を解せない。
故に、返す言葉もなかった。
そうして、出来役が揃ったところで札を広げる。
「牡丹に蝶、タネ、タン、カス2点。まずまずというところでしょうか」
如何です? 試すような笑みのまま、バニーは魅蓮の手札に目を見張る。
「五光。四光、三光。そうして月見で一杯――絵に描くほどの役を手に入れられるとは、僕も正直驚いていますよ」
――これもまた運のツキだなんて、洒落は野暮でしょうか。
す、と細めた紫の瞳はあどけない少年でない――獲物を喰らい尽くした骨を見下ろす満足げな狼のそれ。
喰らい尽くされた兎は膝を崩し、霧散してゆく。
「ひとときの夢をありがとう――けれど、大事なものはもう何も奪わせない。むしろ奪ってやるくらいにね」
面をす、と静かに整えながら、魅蓮は呟く。
僕は、僕のやり方で生きていく――嗚呼、喩え。杯の水面に映る月を、貪るように喰らおうとも。
そろえた役たる札の一枚に描かれるは、月と吼える一匹の狼――。
大成功
🔵🔵🔵
カイム・クローバー
アドリブ◎
ゲームはポーカーで行こうぜ。シンプルが好きなんだ
理由ね。…なぁ、理不尽って世の中に多いと思わないか?金、地位、名声。けどよ、そんなモンじゃ、いざって時の『理不尽』相手に誰かを守れやしない。
クソみてぇな理不尽…化け物を見たことあるか?聞いた話じゃ、そいつらは未来を殺すことを望んでるらしい。笑っちまうだろ?自分の身と誰かを守る為に必要なのは『力』って訳だ。
喋りながら俺の『トランプ』を使う。予めコートの袖に仕込んでる。【早業】と【フェイント】。役を揃えるぜ。UCも使う。
ロイヤルストレートフラッシュ。悪いな。勝利の女神もイケメンには弱いって事さ。
報酬の一部、戦利品はモチーフのトランプを貰うぜ
【対 カイム・クローバー】
「ゲームはポーカーで行こうぜ」
シンプルが好きなんだ。
そう告げるカイム・クローバー(UDCの便利屋・f08018)の唇に浮かぶは、命のチップを賭ける場というには非常に似つかわしくないほどの軽い笑みだった。
「調子が宜しい方ですね。――それでは、ポーカー台へ。チップをベットし合ったのち、カードを5枚配ります」
と、バニーがルールの宣言ののち、兎印のチップを積んでみせる。
カイムもまた手に入れたチップを同額積み上げて、配られたカードへ手を伸ばした。
1対1で向かい合い、バニーは欲望をさらに引きずり出すべくカイムへ問う。
「戦いたい理由があるのですね。『力』――至極単純かもしれませんが、理由をお訊ねしても?」
「……なぁ、理不尽って世の中に多いと思わないか?」
「勿論、存在することでしょう」
「あぁ、金、地位、名声。けどよ、そんなモンじゃ、いざって時の『理不尽』相手に誰かを守れやしない。この船には、『理不尽』に敗けちまった奴等が一縷の望みに縋って乗り込んでんだろ?」
カードを広げ、カイムはチェンジを宣する。
その間、ポーカー台に肘をついて言葉を続けた。
「なあ、クソみてぇな理不尽……化け物を見たことあるか?」
「……化け物、ですか?」
「ああ、聞いた話じゃ、そいつらは未来を殺すことを望んでるらしい。笑っちまうだろ?自分の身と誰かを守る為に必要なのは『力』って訳だ」
「まあ、それは哀しいですこと。力が無くては阻むことの無い理不尽だなんて、あってはならないことでしょうね」
「――――」
その存在そのものが云うことか? なんて、格好悪い台詞は呑み込んで。
カイムはトリックを試みた。
次にチェンジした後は役も崩れてカスだらけ。故にコールは止めよう。
予めコートの袖に仕込んでおいたトランプに目を遣る。裏面の柄が違えど、ショーダウンの際の一瞬で騙してみせる。
なにぶん、便利屋『Black Jack』は軽業すらもお得意なのだ。
目を騙す――そんなトリックもまた、生きる為の、大切な人達を、愛する人を護る為の『力』。
「では、ショーダウンと参りましょう。私はフラッシュ。非常に良い役を得られることができましたが――」
「悪いな」
ひらり、5枚の札をポーカー台に晒し、カイムは笑う。
「ロイヤルストレートフラッシュ。勝利の女神もイケメンには弱いって事さ」
に、と得意げに笑う対戦相手の勝利が信じられず、バニーは顔を青ざめさせてそのまま霧散していった。
最後に残った、ロイヤルストレートフラッシュの役――その端にある、クローバーのJを手にした。
「狼……あァ、いつだったか。シャルを赤ずきんに見立てて写真を撮ってもらったことがあったな。俺はたしか狼で――」
だからこの狼の横顔のジャックか、と合点がいった。
銀の毛並み、紫の鋭い瞳もまた、俺にそっくりだ。
笑みを深め、カイムはその一枚を懐へと仕舞う。
クローバーのJを司るその狼の耳には、タンザナイトをあしらった白金のピアスが飾られていた――。
大成功
🔵🔵🔵
アルトリウス・セレスタイト
◎
語らねば理解できんか
渡さぬ理由など幾らでも出てくるが、究極すれば俺のものだからだ
欲望はつまり願望で、羨望で、理想だ
ついこの間まで「無い」と答えていたものが己にも生まれたということ
追い求めたくもなるし、邪魔されれば気に障る
まして持ち去ろうと言うなら排除するのは当然
そちらこそ。何故それを欲しがる
理由があるなら今ここで俺の前に顕せ
問答の最中に界離で因果の原理の端末召喚
魔力を溜めた体内に召喚し自身の端末機能を強化
常と同じ涼しい顔で表には出さず
勝負が何であれ、因果に干渉し自身の勝利を結果として残す
力に訴えてくるなら界離の機能を切り替え、死の原理で存在根源を砕き掃討する
【対 アルトリウス・セレスタイト】
「語らねば理解できんか」
「ええ、どうぞあなたのお口で語って下さいな」
わたくしどもはそれを願っております、とバニーはアルトリウス・セレスタイト(忘却者・f01410)へ礼をひとつ。
凍えるような瞳で一瞥したままに、アルトリウスはポーカー台へと腰掛ける。
そうして、淡々と語り始めた。
もとより、男は顔色を変えづらい性質だが、話そのものは好んでいたのだ。
「――渡さぬ理由など幾らでも出てくるが、究極すれば俺のものだからだ。
欲望はつまり願望で、羨望で、理想だ」
「ええ、ご存知の通りで。故に我々『欲望教』はそれを欲するのです。
阻むのには、何が理由でも?」
「……ついこの間まで「無い」と答えていたものが己にも生まれたということ。
追い求めたくもなるし、邪魔されれば気に障る。まして持ち去ろうと言うなら排除するのは当然」
アルトリウスの蒼い瞳が、静かに敵意へにじんでゆく。
「そちらこそ。何故それを欲しがる。
理由があるなら、今ここで俺の前に顕せ」
その問いに、バニーはくすりと嗤ってみせた。
「くす」
「くす」
「くす」
「「「「「「「くすくすくすくすくす」」」」」」」
問答しているバニーだけでない、この会場に居るバニーたちが、興味深そうにアルトリウスを見つめ、嗤うのだ。
「我々は『欲望教』、人間の欲望を惹き出し、糧とする。邪神への贄も探し続ける!
けれどあなたの欲は異質ですね――我々が欲すような俗物ではない。
人であるのに、それは何故?」
「さあ、それは此の結果の後に考えるものだ」
「は? あ、ア、ァ――!?」
この世界に干渉可能であると認められた端末は、至極簡単だ、短剣ひとつだ。
口から血を零すバニーはアルトリウスへ目を遣るが、当の男は涼しい無表情のまま短剣を深く刺す。
「イカサマ……これこそ、死のイカサマ、ですよ。あなたはルールに則らない……」
「俺は遺しただけだ。勝負が何であれ、因果に干渉し自身の勝利をな」
「そんなッ……あ、あぁっ……!!」
悲痛な声を漏らしたまま消えてゆくバニーを、アルトリウスは静かな目で見つめた。
大成功
🔵🔵🔵
ミーユイ・ロッソカステル
【希望・ポーカー、勝利後、ダブルアップでのハイ&ロー】
欲望のベット、ね
所詮は、無自覚な欲望の発露、いくら持っていかれても痛くも痒くもないけれど
そう、強気に言葉を返すも。……いえ、本心では理解している
根底に根差したモノであれば……失えばきっと、私は私でいられない
それでも否定の言葉を紡いだのは
……身を焦がすほどに、自分を保てないほどに焦がれるという事への憧れが、自分の中に確かにあるのだと、認めたくなかったから
ゲームはつつがなく進み、ポーカーでの負けを認めた相手は告げる
ダブルアップ、なさいますか?
言いながら、捲られたカードは、♥の6
私を見透かすような笑み
――high
6より高い数字が出るわ
【対 ミーユイ・ロッソカステル】
――欲望のベット、ね。
柔らな髪をふわりと払い、ポーカー席へと就くは気怠げな雰囲気をまとう娘、ミーユイ・ロッソカステル(眠れる紅月の死徒・f00401)。
派手なシャンデリアの灯りを厭そうに目を細めては、蜜色の視線をテーブルへと向ける。
「所詮は、無自覚な欲望の発露。いくら持っていかれても痛くも痒くもないけれど」
「それでも、貴女が貴女で在るべき欲をその胸に宿している……勝負を挑むということは――つまりはそういうことですよね」
「……こうした勝負事も、余興として愉しむべきでしょう?」
余裕めいた笑みを花唇にのせるも、花芯の奥に秘めた本心を彼女自身は解していた。
――さあ、始めましょうか。
宣言と共に配られるカード。
互いのチップをベットした上で、カードを開く。
――かろうじての、ワンペア。
それでも眠たげな瞳のままポーカーフェイスを崩さず、チェンジを2枚。
根底に根差したモノであれば……失えばきっと、私は私でいられない
それでも、さきほど否定の言葉を紡いだのは。
――認めたくなかったからだ。
この身を焦がすほど、保てぬほど。知りもしないほどに惹かれる“憧憬”という、存在そのものを。
「ショーダウン。此方はストレート、如何です?」
「あら、ごめんあそばせ――私はフラッシュ」
綺麗なハートが揃った5枚の役を見て、バニーは訝しそうに目を細めてみせた。
「ハートのスート……あなたのお心をあらわしているみたいですね」
「敗北を喫しても尚、お喋りは続くのね。なら――、」
――――ダブルアップ、なさいますか?
ミーユイが提案したのは、ポーカーの勝利後のハイ&ローだ。
全てのカードを崩して繰り、次に出たカードがハイかローかを言い当てる。
欲望教のバニーとして様々な人々から金銭や地位、名誉を奪った相手に対して最大のハンデ――謂わば、侮辱に等しい。
「……いいでしょう。この賭けに勝ち、はしたなく晒してみせましょう。あなたのハートを」
「――――そう」
そんなの、奪わせない。私の心は、私のものよ。
さらして魅せるのも、きっと、たった一度きり。
繰られたカードの山。
新たにめくられたカードはハートの6。
「丁度よく絶妙な数字ですこと……」
「――high」
バニーが悩む間に、ミーユイは淡々と宣した。
「消去法で、私はlowとなりますね。そんなにお早いコールで宜しいのです?」
「早いからこそ、いいの。ハートは、奪わせないわ……誰にも」
ふ、と笑って、ポーカーで得た兎のチップをくるりと指先ではじく。
その仕草を挑発と受け取り、バニーは山から一枚新たにカードを引いた。
結果はハートのクイーン。
女帝は、紅月の姫君へと微笑む。
哀れバニーは敗北し、「そんな……!」と悲痛な声を残したまま霧散していった。
「不思議ね……似てるわ」
ミーユイは最後に残ったクイーンのカードをポーカー台から拾い上げ、ぽつり呟く。
カードに描かれたクイーンは紅の長髪に蜜色の瞳を細めた、赤いドレスをまとう女性の横顔が描かれていた。
似ているのが“誰”かなど、それこそ野暮だ。そのカードの絵を見つめ続けていたものの、微睡みのプリエステスは「ふぁ……」とあくびをひとつ。
――嗚呼、もう。夜明けが、クルーズの終わりが近い。
大成功
🔵🔵🔵
シトー・フニョミョール
SPD ◎
面白そうですね。ではブラックジャックでもしましょう。シトーはこれが得意ですから。
少しお話でもしましょう。なに、あなたの大好物な欲望の話です。
ある少女は尽きない欲望に苛まれていました。得体のしれない怪物相手に恋をしていたからです。
しかし少女…シトーはそれを受け入れてこの猟兵としての身体と力、そして怪物…マスターからの寵愛を得たのです。
欲望こそシトーの存在意義、本能のようなもの。
欲望のままに蒐集し、欲望のままに蒐集されるのです。
少女の宝石、少年の氷像、蝋の獣人、えぇ、気に入ればなんでもです。
ぬっぬっぬ、バーストなのでこれでシトーの負けですね。
さぁあなたは負けたシトーに何をしてくれますか?
【対 シトー・フニョミョール】
「面白そうですね。ではブラックジャックでもしましょう」
黒瑪瑙――オニキスの輝きを抱くクリスタリアン、シトー・フニョミョール(不思議でおかしなクリスタリアンの従者・f04664)はそうバニーへ誘いをかけた。
シャンデリアの灯りを孕み、彼女の髪、肌が艶やかに輝く。
その姿をひと目見て、バニーは察した。彼女は“人”ではないのだと。
「そんなに警戒なさらないで、少しお話でもしましょう。なに、あなたの大好物な欲望の話です」
バニーを諭すように、シトーは静かに語り始めた。
お伽噺のようになっても宜しいですか? なんて、訊ねて。
シトーは新たに口を開いた。まるで幼子へ物語を読み聞かせるように。
ある少女は、尽きない欲望に苛まれていました。
得体のしれない怪物相手に、恋をしていたからです。
しかし少女……シトーはそれを受け入れてこの猟兵としての身体と力、そして怪物……マスターからの寵愛を得たのです。
「シトーは、元は人間だったのですよ。あなた方が贄としてきた人間と同じ」
にっこり、満面の笑みでシトーは答えた。
ブラックジャックとして、新たにカードをヒットする。
丁度良い手札となったのか、笑みを満たす。
「あなたは、何を得れば満たされるのです?」
「少女の宝石、少年の氷像、蝋の獣人、えぇ、気に入ればなんでもです。
欲望のままに蒐集し、欲望のままに蒐集されるのですから」
くすくす、くすくす。嬉しげにシトーは笑う。
そうして、手元のカードを相手へ広げるようにしてみせた。
「ショーダウン、と参りましょうか」
「それほどまでに、ご満足な札を?」
「さあ、如何なさいましょうか」
「――あなた、まさかわざと敗けるつもりでは」
「やめて。だめ。駄目……!!!」
そう叫び、UDCを駆使して止めたのは、『欲望教』に所以の在る一人の少女だった。
成功
🔵🔵🔴
美国・翠華
【アドリブOK】
ルーレットで勝負するわ
欲望…私は誰かに愛されたいという思いがあったみたいだね
自分でも以外だったけど、でもよく分かる
あのまま何も知らないままこの世から消えたら…
もしかしたらUDCなのは私の方だったかもしれないし…
だから私はこの願いを手放さずに進む…
たとえ生かされてるのだとしても
ルーレット勝負なら運の勝負…
ニガテでもなんとかなるわ。
「デモ、イカサマカモナ?」
(もしそうだったらそのディーラーに催眠術をかけて
逆にこちらに有利になるようにイカサマをかけてやるわ)
動揺を読まれないようにもう一回UDCに力を貸してもらうかな…
【対 美国・翠華】
美国・翠華(生かされる屍・f15133)はその手からUDCを放ち、欲望教の遊戯を止めた。
その荒業に、UDC本人は愉快げに笑ってその身体を蠢かせる。
『オマエモ、貪欲ニナッタモノダナ?』
「ッ……! 違う。私は、被害をもう拡げたくなくて――」
『ダガ、アルンダロウ? オマエニモ、望ミガ』
「……今は、戦うの。このルーレットで」
翠華は理性を働かせ、カラカラと笑うように踊るルーレットに目を向ける。
(「ルーレット勝負なら運の勝負……ニガテでも、なんとかなるわ」)
『デモ、イカサマカモナ?』
「……!」
UDCの囁きで目を瞬かせるも、ルーレットやバニーの素振りにイカサマの手法は見受けられない。
彼らはイカサマをせずに、敢えて我々を試しているのかもしれない。
(「正攻法なら、此方もその気で戦うまで――!」)
「……赤へのベッド。数字は、そう――」
自分が、かつて襲われ、犯されたあの時と同じ日へとチップを委ねた。
カラカラカラ――音を立て、止まったのは。
忘れもしない、嗚呼、あの日と同じ数字。
『ヤッタナ。オマエノ勝利ダ』
「……ううん、そうでもないみたい」
先程撃退したはずなのに、バニー達は何人も甦り、此方へ詰め寄ってゆく。
「……アイツラノ瞳、オボエガナイカ?」
――!
何度も、何度もあのバニー達は告げた。あの虚ろな瞳にも覚えがあった。
純潔を奪い、身体を犯した男達も――同じ瞳を、していた。
「欲望教……欲望教。やっぱり、見に覚えのある、あの――!」
『恨メシイカ……ナラ、手伝ッテヤル』
「うぐっ……な、何を……あ、嗚呼嗚呼ああああああああああああああああああ!!!!!!!!!!!!!!!!」
UDCの暴走、少女の咆哮。
それに伴い、硝子やシャンデリアが派手に砕け散る。UDC職員や一般人、猟兵たちもそれに伴い避難してゆく。
欲望教のバニーの群れを、美国・翠華――否、UDCに侵された美国・翠華という身体は一体ずつ屠っていった。
『真っ赤ダナ。オマエノ賭ケ(レイズ)トオナジ、血ノ色ダ。
ココマデ暴レタンダ。アノUDCハ、モウ復活スルコトハナイ』
「それを伝えて、何になるの……私はただ――」
――愛されたい、だなんて。
本来はたった一人の相手に伝えるべき想いを、最も身体と寄せ合う相手に伝えても意味も無いなど、嗚呼、なんて皮肉なことだろう。
何より、自分はUDCの触手や猛毒液など、女の子として見せるわけにはいけない醜い姿を隠している。
「ああ、嗚呼、ああぁぁぁ――……!!」
「欲望教――コノ女ドモハ、ソンナ集団デ生キテルラシイゾ。
オマエヲ犯シタ男達モ、ソレニマツワル集団ダロウナ」
――ドウスル?
UDCは訊ねた。
身体も手も、震える自分へ。
今もゆっくりと船が着岸しようとも、得物たる刃を離さない自分へ。
「…………私は、」
宣言した『愛』を手放さぬよう、ぎゅっと胸元を握り締める。
――そうして船が着岸する前に、このバニーと因縁の在る娘は答えを見出した。
――――欲望客thenリレイズ。
さあ、物足りませんか?
物足りなければ、己の欲望と命を賭けて、この場にてリレイズを。
嗚呼、もうチップは届きませんか?
では、骸の海にて逢いましょう。
名誉も尊厳も棄てた丸裸のあなたと、出逢えてチップを積める日を!
我々『欲望教』は心よりお待ちしております!
ふふ、うふふふ、あっはははははは――――!!
大成功
🔵🔵🔵