#UDCアース
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「――は食べない方がいいぞ、GI値が高い。確実なのは筋トレだ、筋肉は裏切らない」
廊下にいる誰かと話しながらアレクサンドラ・ルイス(サイボーグの戦場傭兵・f05041)がミーティングルームに入ってきた。身体を部屋の中に入れても、まだその相手と会話を続けている。
「わかったよ、自分のペースでいい。無理のない方法を長く続けるのが一番だ」
諦めたように肩を竦めて、アレクサンドラはドアを閉めた。クリップボードに挟んだ資料をペラっとめくって内容を確認する。188cmの鍛えられた体躯と鋭い眼光が部屋の人口密度を一気に押し上げた。
「待たせて悪かったな」
待機していた猟兵たちに一言詫びると、クリップボードをデスクに放り投げてアレクサンドラは問うた。
「タピオカミルクティーって、飲んだことあるか?」
――は?
何の話だ?と目配せし合う猟兵たちとは対照的に、アレクサンドラはどことなくソワソワした様子で両手をパチンと合わせる。どうしたオッサン。今日は様子が違うじゃないか。
「昨夜のテレビでやってたんだ。最近流行ってるらしいって」
いや、いつ情報だよ。もう去年から流行ってたじゃん。――と、流行に敏感な猟兵は呆れ顔になっただろう。彼らの目の前でいかつい身体に似合わず浮ついた様子を見せている中年男は、どれだけ街の流行に鈍感なのだろうか。きっと平素からテレビをつけてもニュースを流し見するくらいしかしないのだろう。いや、もしかしたら園芸番組とか伝統芸能番組とかをひっそり楽しんでいるのかもしれない。ただの想像でしかないが。
「あるけど、それが何か関係あるのか?」
皆の心の声を代表するように、誰かが言った。アレクサンドラは、よくぞ訊いてくれた!と言わんばかりにその問いに飛びつく。
「イエス、そう! あるんだよ」
本当にどうしたんだよ、オッサン。
呆気にとられた猟兵たちに、オッサンは早口気味に説明し始めた。曰く、自分も飲んでみたいのだと。だがしかし、ネットでリサーチをしてみたところ「オッサン客が列に並んでいて気分が萎えた」といううら若き乙女の投稿を見かけてしまい、以来ずっと頭を悩ませているのだと。自分がタピオカミルクティに相応しくないオッサンだと後ろ指を指されるのは構わないが、タピオカミルクティーを楽しみにおしゃれをして街に繰り出した少女の夢を壊してしまうのはしのびないのだと――、そういうことらしかった。
「……つまり、俺らに買ってきてほしいと。タピオカミルクティーを」
心底呆れた声を絞り出す猟兵に、アレクサンドラはまたしても「イエス!」と両手の人差し指をビッと向けた。
(めちゃくちゃ職権濫用じゃねーか……)
じっとりした目線に、アレクサンドラは咳払いして、
「いや、いや。ちゃんとした仕事もある。今から説明する」
薄い、うすーい資料を再びペラっとめくったのだった。
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UDCアース、原宿の近くに邪神教団の拠点を発見した、とアレクサンドラは説明した。誓って原宿近辺に的を絞って捜索したわけではない、という言い訳を添えて。
幸いにして今のところは大した影響を及ぼしているわけではない、ごく小さな勢力がターゲットだ。邪神教団の連中はマンションの一室に集まり、アンパンをキメて悦に入っている。今のうちに叩けば民間への被害はほとんどゼロの状態で抑えられるだろう。
「ちなみにつぶあんだ」
「そっちのアンパンかよ!」
「必殺技は超高速かつ大威力のパンチだ。その名も“つぶあんパンチ”」
「危ない! それは(いろんな意味で)あぶない!」
「それからアンパンを摂取することで自身を強化することができる」
「自分で食べるのかよ!」
「手から高圧電流を放ち、こちらの動きを封じることもできる」
「そこだけアンパン関係ねーな!!」
どうしよう、ツッコミが追い付かない。
叫びすぎて酸素不足に喘ぐ猟兵たちに、アレクサンドラは情報を補足する。
「このアンパン男――、いや、つぶあん邪神と戦う前に、配下を倒さなくてはならない」
――まさか、その配下とは……。
ごくり、と生唾を飲み込む猟兵たちは、ツッコミのタイミングを見計らって息を止めた。
「とうもろこしだ」
「とうもろこし!?」
アンパン関係なかった――。
「こいつらは自身をやたらと美味そうに仕立て上げて、敵を誘惑してくる」
「そ、そうか……もしや、つぶつぶ繋がり――」
「食うんじゃないぞ」
「食わねーよ!」
と、全力の裏手を浅黒い筋肉に叩き込んだ猟兵たちだったが、焼きとうもろこしの香ばしい匂いに果たして何人が抗えるのか――いや、そういう問題ではないはずなのだが。
「とうもろこしは糖分も高いからな。あれは植物だが野菜ではない。穀物だ」
「そういう話なのかよ!?」
ぜえ、ぜえ、と肩で息をする猟兵たちはそろそろ体力の限界だった。デスクから崩れ落ちて床を這う者までいる。頬を伝う玉の汗をぬぐい、一人が問うた。
「……だが、アレックス。いいのか?」
「何がだ」
「あんたがご執心のタピオカミルクティー、あいつは一杯700キロカロリーもあるんだぜ」
「――……」
衝撃の事実に、さすがのアレックスも黙――、
「運動すれば問題ない」
――らなかった。
本多志信
こんにちは、漉餡派の本多志信(ほんだ しのぶ)です。
タピオカミルクティー、おいしいですね。
粒揃いのつぶつぶでお送りいたします。
■第1章:集団戦『とうもろこし』
■第2章:ボス戦『つぶあん邪神』
■第3章:日常『タピオカミルクティー』
サクッと邪神教団の拠点を潰して原宿に繰り出しましょう。
「アレックスのお使い」のようなOPですが、プレイングで触れる必要はありません。
第3章では、皆さまは存分にタピオカミルクティーを楽しむことに文字数を使ってください。PSWの選択肢もあまり考えなくていいです。タピオカドリンクがメインです。
アレックスも放っておけばそのうち自分で買いに行くでしょう。
(もしもお声かけいただくことがありましたら、お邪魔させていただきます)
それでは、皆様のご参加をお待ちしております。
第1章 集団戦
『六四二『デビルズナンバーとうもろこし』』
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POW : 悪魔の焼入(デビルグリル)
【焼きとうもろこし】に変形し、自身の【寿命】を代償に、自身の【身体能力と美味しさ】を強化する。
SPD : 悪魔の玉蜀黍(デビルコーン)
【とうもろこし】で対象を攻撃する。攻撃力、命中率、攻撃回数のどれを重視するか選べる。
WIZ : 悪魔の薫香(デビルスメル)
【とうもろこし】から【とても美味しそうないい匂い】を放ち、【空腹】により対象の動きを一時的に封じる。
イラスト:安子
👑11
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵
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種別『集団戦』のルール
記載された敵が「沢山」出現します(厳密に何体いるかは、書く場合も書かない場合もあります)。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
| 大成功 | 🔵🔵🔵 |
| 成功 | 🔵🔵🔴 |
| 苦戦 | 🔵🔴🔴 |
| 失敗 | 🔴🔴🔴 |
| 大失敗 | [評価なし] |
👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。
逢坂・宵
ザッフィーロ君(f06826)と
タピオカミルクティーは実はそのような鬼カロリーな飲み物ではないんですよ
そもそもが一般的なプラコップ1杯に使われるタピオカの量は
(以下タピオカについての薀蓄)
……と、戦闘でしたね
トウモロコシも代表的な穀物ですが……
これは精霊たちに頑張ってもらいましょうか
「2回攻撃」「属性攻撃」「全力魔法」を乗せた【サモン・スタースピリット】で
星の精霊を呼び、トウモロコシたちに喰らいついてもらいましょう
しかし、トウモロコシたちからいい匂いがしますが……はたして美味しいのでしょうか
お腹が空いたならあとでタピオカをたらふく飲んで運動しましょうね
僕もタピオカタイムにはお付き合いしますから
ザッフィーロ・アドラツィオーネ
宵f02925と
タピオカミルクティか…最近色々な者が手に持って居るあれだろう?
700kcalもある栄養価の高き美味き飲み物…と聞けば興味が…と
??栄養は無いのか?だが、まあ、甘いあれの為ならば食前の運動位苦でもない故に
宵、本当に楽しみだな…!
戦闘と同時に【蝗達の晩餐】を敵へと放ち『先制攻撃』を試みよう
身は人間だが…顔が穀物故、やはり食物を無駄にするには心が痛むからな
うち漏らした際はメイスで『2回』攻撃をして行くが…本当に良き香りがするな…
宵、腹が減ってはこんか?タピオカでなくもう玉蜀黍でも…
…否、初志貫徹、というからな…
ああ、さくりと倒しあの魅惑の飲み物を堪能するとするか…!
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「700kcalもあるのか。栄養価の高き飲み物だな。しかも美味いと聞く」
なぜかカロリーの高さに目をキラキラさせているのはザッフィーロ・アドラツィオーネ(赦しの指輪・f06826)。何百年も昔から人の営みを眺めてきた彼である。現代ではカロリーの過剰摂取による肥満が社会問題となってはいるが、貧しい時代や貧しい人々を嫌という程見てきたザッフィーロにとっては、高カロリーであることは「食品における美点」として刷り込まれているのだった。
「最近色々な者が手に持って居るあれだろう? 俺も興味がある」
「タピオカミルクティーは、実はそのような鬼カロリーな飲み物ではないんですよ」
ザッフィーロがニコニコと能天気な笑みを浮かべる横、逢坂・宵(天廻アストロラーベ・f02925)は能面の顔で流れるように喋り出しだ。
「……どうした、宵?」
「タピオカ100gあたり346kcalと言われていますが、そもそもが一般的なプラコップ1杯に使われるタピオカの量は40g程度、カロリーに換算して約138kcal、一般的なレシピのミルクティーのカロリーが360mlあたり240kcal程度ですから、合計しても378kcalです。700kcalの約半分ですね。700kcalもあるタピオカミルクティーというのは海外の特大カップと殺人的な砂糖の量とサービス精神旺盛すぎるタピオカの盛り具合が華麗にコラボした結果生まれた特殊なケースであると、僕は考えます」(※カロリーは当社調べ)
「……そ、そうなのか。栄養はないのか」
宵が放つ圧に、ザッフィーロはただただ頷くしかなかった。
「とはいえ」
と、宵は能面のような顔を普段の穏やかな笑顔に変えて、
「それだけでも白米お茶碗三杯分ほどはありますから、やはり飲みすぎには気を付けた方がいいでしょうね」
ねえ、君たち。タピオカの前に倒さなければいけない穀物……じゃなかった、敵がいるんだけど、ちゃんとわかっているよね?
日常会話を楽しんでいるのと何一つ変わらないラフなノリで、ザッフィーロと宵はグリモア猟兵に指定されたマンションの階段を昇る。途中ですれ違った住人らしき男性も、二人をただの入居者だとしか思わなかっただろう。
「だが、若き乙女たちが一心に着飾って長蛇の列を作ってまで欲しがるほどの美味さとあっては、やはり一度は口にしてみたいものだな」
そのためならば食前の運動くらい苦でもない、と無邪気に笑うザッフィーロの表情を、宵は眩しそうに眺めた。
邪神教団が屯しているという一室のドアを蹴破って、二人のヤドリガミは先制を仕掛けた。
(本当にとうもろこしだ……)
と、一瞬虚無の表情になったのは常識人たる宵の方で、ザッフィーロは罪悪感に塗れた顔でとうもろこしと対峙している。
「どうしたのですか」
ひそ、と宵が耳打ちすると、ザッフィーロはばつが悪そうに告白した。
「食物を無駄にするのは、心が痛むのだ……。しかもあれは遥か南米の地で人々の命を支えた聖なる食物ではないか。日本人で言えば米、イタリア人で言えばパスタなのだぞ」
「邪神教団についた時点で聖なるもクソもありません、焼きますよ!」
躊躇うザッフィーロの尻を叩きながら、宵はとうもろこし軍団に星精霊の猫と鳥をけしかけた。精霊たちは喜び勇んでとうもろこしたちに齧りつく。躊躇ってばかりではいけない、と、ザッフィーロも悲痛な覚悟と共に蝗の大群を呼び出した。
「ああ……穀物が、蝗に……!」
飛蝗の群れに容赦なく食い尽くされていくとうもろこしを直視できず、ザッフィーロは己の顔を手で覆う。蝗はときに大量発生し、畑で大切に育てた作物に限らず、紙や綿といった植物由来のなにもかもを短時間で食べつくしてしまうのだ。蝗の群れが去った後に残されるのは、そう、絶望――。
トラウマにのたうち回るザッフィーロへ、顔を半分食われたとうもろこしが反撃を試みた。
――悪魔の薫香(デビルズスメル)
瞬く間に部屋中に充満していたシンナーの臭いを焼きとうもろこしの香ばしい匂いが一掃した。ちなみに試される大地ではとうもろこしのことを「とうきび」と呼び、テレビ塔のある広い公園には焼きとうきびを売るワゴンで溢れかえっていると聞く。
「すまぬ、すまぬ……!」
宵の猫と鳥がむっしゃむっしゃととうもろこしに食いつく横で、ザッフィーロは懺悔を繰り返しながらこんがりと焼けたとうきびをメイスで殴打した。
ひたすら食物への冒涜に耽ったあとで、ザッフィーロはぽつりと呟く。
「……宵、腹が減ってはこんか? いっそタピオカでなく、とうも――」
「あとでタピオカをたらふく飲めますからね」
「うむ……初志貫徹と言うからな」
ぴしゃりと告げる宵に、ザッフィーロはただただ頷くだけだった。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵
月待・楪
とうもろこし…?
え、とうもろこしってあのとうもろこしだよな…?
……UDCアースもキマイラフューチャーじみて来てねェか…?
とりあえず、とうもろこしだろうがパンだろうが、食えねーし食わねーけど
タピオカミルクティーは正直気になる
【フェイント】入れながら【ダッシュ】して近寄ったら【ジャンプ】からの【念動力】で勢い付けた【踏みつけ】でまずは地面に倒す
雷花で主に頭を狙って【破壊工作、傷口をえぐる、2回攻撃】でもすれば無力化出来るだろ
仕上げに【魔弾・疼木】でトドメだ
攻撃して来んなら【見切り】からの【カウンター、クイックドロウ、零距離射撃】で対応
ってかとうもろこしの頭部って…出現する世界マジで間違ってねェ…?
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月待・楪(crazy trigger happy・f16731)が駆けつけたときには、既に現場は悲惨な状況になっていた。ドアは蹴破られているし、やけに香ばしい匂いはするし、飛び散ったとうもろこしのつぶつぶが散乱していて汚い。とても汚い。
「あーあー、ちゃんと掃除しないとアイツが出てきちゃうよォ、Gのつくアイツが……」
ばら撒かれて潰れたとうもろこしの粒をつま先歩きで避けながら、楪はリビングを横切る。ここに集まっていた敵は他の仲間がほとんど一掃したらしいのでリビングから続いている別の部屋を探すことにした。
「しっかし、原宿近辺で1LDKって家賃どんだけよ?」
蛇足ではあるが、ネットで軽く検索してみたところ下は十六万円くらいから始まって上は天井知らずであった。体感としてはLDKと洋室1つの合計が二十帖前後で一か月二十万円前後、というのがだいたいの平均であるらしい。「原宿駅から徒歩に十分」という記載に「そんなにアクセスが悪くても二十万円なの!?」と目ん玉が飛び出る思いにもなったが、よくよく考えれば都心も都心である。山手線が遠くても地下鉄の駅がそこら中にあるのだった。
そんな物件を拠点にするとは、邪神教団の羽振りも良いようだ。羨ましい限りである。
楪が洒落たドアを静かに開けると、そこはベッドルームとして使われているようだった。無機質なパイプベッドに安そうな布団。部屋の中は「片付いている」とは言い難い様相だ。
「……せっかくこんなマンションに住んでるんだから、もうちょっと暮らしを楽しもうよ」
期待外れの内装に落胆したように溜息を吐いた楪へ、黄色い弾丸が襲い掛かった。
「おぉっと!」
躊躇せずパイプベッドに身体を投げ出して難なく躱す。マットレスの弾力でついた弾みで起き上がると、クローゼットからとうもろこしが顔を覗かせていた。
(本当にとうもろこしだ……)
接近戦用の短刀を構えつつも、楪も一瞬虚無の表情になってしまった。
「お前さあ……。出てくる世界、間違えたんじゃねえの……?」
敵がとうもろこしであることは出発前から聞いてはいたが、ここまでとうもろこしだとはさすがに信じがたかったのである。しかしそれを目の前にしてみれば、それは確かに、どう見てもとうもろこしだった。しかも部分部分がちょっと抉れている。
「あっ、お前。自分の粒を弾にしてやがるな!?」
自分が立っていたドア付近を見ると、またしても黄色いとうもろこしのつぶつぶで床が汚れている。とうもろこしの頭部がところどころ抉れているのは、楪への攻撃のために消費されたからだった。
「ちょっとー! ちゃんと片付けなさいよー!!」
口煩い女の子のような口調で茶化しながら、マットレスの上から跳ぶ。白いベッドはたちまち黄色のつぶつぶで汚されて行った。
床に着地すると、楪はすかさずとうもろこしと距離を詰めた。
「接近戦だとさァ――」
ゾッとするような冷たい笑いを浮かべて。
「銃よりナイフの方が強いって、知ってる?」
黒いスーツに包まれた人間の身体の方でなくとうもろこしの頭部を狙って、グリップに赤い稲妻の描かれたダガーを繰り出す。更に怯んだ隙を突いて足を払い床に蹴り倒した。
「ははっ」
暴れる身体に馬乗りになって、執拗にとうもろこしを刺し続ける。扱い慣れた手捌きで何度も抉られ、とうもろこしは既に芯だけの状態になっていた。
「ふー……」
トドメの弾丸を撃ち込んで、楪は立ち上がる。
「タピオカミルクティー、早く飲みてぇ」
大成功
🔵🔵🔵
高鷲・諒一朗
たぴおかみるくてぃー!!!
よし、まずはこのとうもろこしをぶっ倒せばいいんだな?
めっちゃいい匂いするぅー……(くんくん)
このとうもろこし食べられるのか?
あっでもオブリビオンだからあんまり美味しくなさそうだな……?
どうなんだろう……(ぐぅぅぅと鳴るお腹)
まずは『金狼召喚』して
召喚したオオカミにもぐもぐとうもろこしを食ってもらおう
どんな味だ?うまいか?まずいか?
そーかそーか!(ぱぁぁ)
俺自身は「ダンス」に相手を巻き込みつつ
カポエイラを生かした動きで相手に攻撃していくぜぇ
そしてお楽しみのとうもろこしターイム!!
手を合わせてーぇ、いっただきまーす!!
……
…………
ヴェッッ!!!!(吐き出す)
●
「イッツ、ショーウターイム!!」
高らかな宣言と共に、渋谷区某所にあるマンションの一室が華やかなバトルステージへと変貌した。ステージ上には輝く毛並みの巨大な狼が召喚され、ラテンの香り漂う音楽にギャラリーの手拍子がワン・ツー・スリーと軽快に刻まれる。ファイターたちは音楽に合わせてゆらりゆらりと左右にステップを踏みながら相手の隙を伺った。
カポエイラ。ブラジルに起源を持つと言われる格闘技だ。その動きはどこかダンスを踊っているようにも見える。ちなみにギャラリーはほとんどがとうもろこしである。
「まだこんなにいるの!?」
高鷲・諒一朗(ミルザム・f17861)は自分ともう一本のとうもろこしを囲むギャラリーとうもろこしの数に慄いて、ちょっとだけ情けない声を上げてしまった。
いったい、これだけの数のとうもろこし怪人が、この1LDKのどこに潜んでいたのだろう。質量保存の法則はどこへ行ってしまったのだろう。――とは、諒一朗は考えていなかった。
(めっちゃいい匂いするぅー……)
漂うとうもろこしの甘い匂いに無意識に鼻をひくつかせて、あまつさえ「このとうもろこし食べられるのか?」なんてことを考えている。でも待ってほしい。オブリビオンである。食べるの?
――ぐうぅぅぅう。
ついには腹の虫までラテンのリズムで騒ぎ始めてしまった。
「わふ!」
諒一朗の傍にお行儀よくステイしている金狼が「なにやってんの」と言いたげに鳴いた。早く指示を出してちょうだいよ、と、じっと見つめる瞳が訴えかけてくる。
「おっと、ごめん! じゃあ、行こうか」
ニッと笑って、諒一朗は再び構えた。
「――食べ尽くせ!」
「ワォ―――ン」
高らかに吠え、金狼はとうもろこしたちに襲い掛かった。黄色の粒をまき散らしながら、とうもろこしは次々と倒れていく。
「よーし、いいぞ!」
回転する勢いを乗せて、高く上げた脚を振り抜く。とうもろこしは右側頭部を抉られてよろめいた。やはりろうもろこし単体ではさほどの脅威ではない。諒一朗がもう一度蹴り技を決めればそれで終わりだろう。
だが、とうもろこしは仰け反った身体を起こしながらその頭部の粒をマシンガンの弾のように撃ち込んできた。
「うわわわわ!」
咄嗟に避けるも、とうもろこしマシンガンは執拗にそれを追う。諒一朗は側転、片手のバク転とカポエイラの技を駆使してステージの上を駆けまわった。相手は飛び道具で一気に距離を取った気でいるようだが、所詮はとうもろこしである。粒を撃つ毎に顔面の黄色い面積は目に見えて減っていく。
あっという間に弾切れを起こして慌てふためくとうもろこしへ、諒一朗は右、左と回転キックを連続で叩き込み、トドメに下から蹴り上げる後ろ回し蹴り“メイアルーア・ジ・コンパッソ”をお見舞いした。
ぼっきりと芯を折られてとうもろこしが崩れ落ちる頃、金狼は倒したギャラリーとうもろこしの頭にガジガジと齧りついている。
「どんな味だ? うまいか? まずいか?」
自分の身長の倍ほどもある巨大な狼の首元をわっしゃわっしゃと撫でて訊ねると、狼は満足そうに「わふ」と鳴いた。
「そーかそーか!」
狼の反応を見た諒一朗も満面の笑顔になって、「じゃあ俺もっ」と柏手でも打つのかという強さで手を合わせる。
「いっただっきまーす!」
――十数秒後。
「ヴェッッ!!」
ついに耐え切れず、諒一朗は口の中に溜め込んだ黄色い物体を吐き出した。
だから言ったでしょ、食べちゃダメって!
金狼は「やれやれ……」という顔で諒一朗の頬を舐めた。
大成功
🔵🔵🔵
第2章 ボス戦
『あんぱんはつぶ餡だろぉと叫ぶ邪神』
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POW : ぶっ潰れろ!
【リミッターが外れた身体 】による超高速かつ大威力の一撃を放つ。ただし、自身から30cm以内の対象にしか使えない。
SPD : 疲れた時には甘いもの!
戦闘中に食べた【あんぱん 】の量と質に応じて【全身の細胞が活性化し】、戦闘力が増加する。戦闘終了後解除される。
WIZ : 雷光の牢獄
【掌 】から【高圧電流を纏った極細の糸】を放ち、【感電と圧迫】により対象の動きを一時的に封じる。
イラスト:湯戸川
👑11
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種別『ボス戦』のルール
記載された敵が「1体」出現します。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。
| 大成功 | 🔵🔵🔵 |
| 成功 | 🔵🔵🔴 |
| 苦戦 | 🔵🔴🔴 |
| 失敗 | 🔴🔴🔴 |
| 大失敗 | [評価なし] |
👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。
※このボスの宿敵主は
「佐之上・権左衛門」です。ボスは殺してもシナリオ終了後に蘇る可能性がありますが、宿敵主がボス戦に参加したかつシナリオが成功すると、とどめを刺す事ができます。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。
●
猟兵たちが全てのとうもろこしを完膚なきまでに叩きのめした後、リビングに残されたのは一人の男だけだった。
男はソファに腰かけ、センターテーブルに向ってアンパンを貪り食っている。大量のアンパンと食べ終わった後の紙袋やビニール袋で埋め尽くされたそのテーブルは、天板が何色をしているのかさえ見えない。これだけのアンパンを食べ続けていたらいくらなんでもカロリーオーバーだろうと誰もが思ったが、男はむしろげっそりと痩せ衰えて病人のような顔色をしていた。
「あん……だろォ! かぼ……道なんだよ……」
目を血走らせながらアンパンに齧りつく男は何事かをブツブツ呟いている。口いっぱいにパンを頬張ったままなのでかなり不明瞭ではあったが、注意深く耳を澄ましてみると概ねこんなようなことを繰り返し言っているらしかった。
「アンパンはつぶあんに決まってんだろォ! こしあんは滅びろ。南瓜だの栗だのうぐいすだのはもってのほか、邪道中の邪道なんだよクソが!」
よく見ればテーブルの下には袋に入ったままぺちゃんこに潰されたアンパンがいくつも転がっている。圧し潰されて破れたパン生地からは、こしあんと思われる餡、黄色や緑色の餡が無情にもぶにゅっとはみ出ていた。
――もったいない。
アンパンたちの無惨な姿を目に、猟兵たちは拳を握った。
アナンシ・メイスフィールド
高鷲君f17861と
餡とは大豆を甘くしたあれで良かったかね?
粒があると喉に引っ掛るからねえ…私は濾して有る方が良いのだけれども…
ん?そういう問題ではなかったかね?
後高鷲君、アレは多分その、食べられないのではないね…?
戦闘が始まったならば手にした仕込み杖から刃を引き抜き敵へと向かおうと思うよ
高鷲君は本当に身が軽いねえ…と笑いながら『早業』にて素早く刃を振るいながら『2回攻撃』を仕掛けて行こう
高鷲君の金狼が向かって行く様を捉えたならば
【捕食行動】を放ち己と繋ぎながら動きを止めようと試みてみるよ
確かに肉を溶かして体液を啜る位ならばできそうだけれども…と、う、嘘ゆえ、その様な目で見ないでくれ給えよ
高鷲・諒一朗
アナンシ(f17900)と
とうもろこしの次はあんぱん……いやそれはいいんだけど
自分の好き嫌いだけで食い物を無駄にするとは……ゆるせん……(ぷるぷる)
こしあんもうぐいすあんもかぼちゃあんも、この世に生まれてきたことに
何の罪もないじゃねぇかーっ!
よしおれ怒った! アナンシ、奴をめっためたのもっちゃもちゃに喰い散らかすぞ!!!(食えねぇけど)
とうもろこしはカポエイラで撃破したから、今度はブレイクダンスでいってみっか
本体(?)と思しきやつをできるだけ狙っていきてぇ
『金狼召喚』で、行っけぇー! あのうまそうなあんぱんをもきゅもきゅしちまえ!
……アナンシは、食べたらだめだぞ。あれは喰いもんじゃない(真顔)
●
ペッペッとしきりに口の中からとうもろこし(――に見える別の何か)を追い出そうとしている高鷲・諒一朗(ミルザム・f17861)の隣に、優雅な靴音が響いた。室内はフローリング仕立てである。ちなみに無垢のウォルナットだ。仕事をするにあたって猟兵たちが靴を脱いで上がり込んだかどうかを考えてはいけない。
「大丈夫かね、高鷲君」
先端がつやつやと磨かれた黒いホールカットの、更にその上から降り注ぐ声の主はアナンシ・メイスフィールド(記憶喪失のーーー・f17900)。きっちりとプレスされたスラックスにカマーバンドを巻き、仕立ての良いシャツの首元に結ばれた華やかなアスコットタイは遊び心の現れとも言えるだろう。インバネスの隙間からこれまた優雅に差し出されたのは、さりげない刺繍で飾られた白のハンカチだった。
「これを使うといい」
「ありがとう、アナンシ」
諒一朗は素直にハンカチを受け取って口許を拭うと、ソファに腰掛けている不気味な男をキッと睨んだ。
「見ろよ。あんなにアンパンが潰されてる」
わなわなと唇を震わせて諒一朗が言うのを聞いて、アナンシは改めて今回の首魁と思しき男を観察した。いかにも心身共に不健康そうで、都心のちょっとばかりお高いマンションには不釣り合いな男である。だがしかし、それだけだ。その男がつぶつぶと、――じゃなかった、ぶつぶつと独り言をつぶやきながらアンパンを貪っているだけなのである。
「……これは本当に猟兵の仕事なのかね?」
事前に聞かされてた断片的な情報との食い違いに、アナンシは僅かばかりの困惑を滲ませる。だって、あの“ちょっとヤバい兄ちゃん”のどこから「超高速かつ大威力のパンチ」が繰り出されるのか、全く想像ができないんだもの。
しかし傍らにしゃがみ込んだままの諒一朗はそんな疑問を抱くことなく、暴虐非道の限りを尽くされたアンパンたちに気持ちを傾けている。床についた拳を指が白くなるほど強く握り込んで、よく見れば金色の瞳には涙が滲んでいた。
「こしあんもうぐいすあんもかぼちゃあんも、この世に生まれてきたことに何の罪もないじゃねぇか……!」
「餡とは、豆を柔らかく煮て甘くしたあれで良かったかね?」
さようでございます、卿。さつまいもや栗、かぼちゃなどでも作ることができます。中華点心の中身全般を指したり、片栗粉でとろみをつけただし汁を指したりすることもございますが、それは今回は横に置きましょう。
「粒があると喉に引っ掛るのだよねえ……」
ダンッと床を殴りつける諒一朗をやれやれという表情で眺めつつ、アナンシが言う。一度はつぶあんなるものを口にしたことがあるらしい。蜘蛛の神であるという彼は、その出自ゆえか食においては歯応えや食感よりも喉越しを重視するようだ。
「私は濾してある方が良いのだけれども」
そうアナンシが呟いた途端、アンパンを貪り続けていた男の動きがぴたりと止まった。
「なん……だと……?」
猟兵たちがこの部屋に突入してからこのかた一心につぶあんパンを食し愛で崇めていたこの男がたった今、初めてアンパン以外のものに意識を向けた瞬間だった。
「貴様……今、なんと言った?」
ゆらりと立ち上がる男の足取りは、やはりどこか危うい。だが、諒一朗とアナンシの目はその向こうに姿を現した異形に釘付けになった。アンパンだ。どう見てもアンパンm……邪神、そう、“つぶあん邪神”がそこにいる。しかもやけにマッシブだ。これが今回倒すべき敵に違いないと猟兵たちはすぐに悟った。ふらふらと諒一朗たちに近づいてくる男の胴体ほどもあろうかという太さの二の腕から放たれるパンチは、きっとアンパンに集る菌すらも一発で吹き飛ばせる威力に違いない。
「こしあんだと? 小豆の食感と栄養価を排除して上品ぶってる軟弱野郎め」
「……何?」
ピリッとした空気を纏わせてアナンシが訊き返す。
誰が何を好んでいようと、それが他人に迷惑をかけない限りその人の自由である。こしあんが誰にどんな迷惑をかけたと言うのか。
「喉越し滑らかって言うわりにはザラザラしてんよなァ、こしあんさんよォ!」
言うが早いか、アンパン邪神はアナンシ目掛けて渾身の右ストレートを打ち込んだ。
「アナンシ!」
上等なインバネスコートの端を焼き切るほどの一撃を紙一重で躱し、アナンシは仕込み杖から刃を引き抜いて身構える。ウォルナットの床を砕いてめり込んだ右腕に諒一朗が飛び掛かった。邪神の腕の下へ膝から滑り込んだかと思うと一瞬で両足を蹴り出した。
「ぐ……っ」
邪神が怯んだ隙を突いて、身体を捻る勢いを乗せて更にそれを蹴り上げる。滑らかに、そしてリズミカルに繰り出される攻撃にアナンシが手を叩いた。
「高鷲君は本当に身が軽いねえ」
そう言うアナンシ自身も素早い動きで邪神の腕を切り刻む。
「おい、おまえ! おれ怒ったぞ! 自分の好き嫌いだけで食い物を無駄にするんじゃねぇ!!」
ビシっとアンパン邪神を指差して諒一朗は叫んだ。その瞳にはメラメラと怒りの炎が宿っている。そして召喚した金狼に再び命じた。
「あのうまそうなあんぱんをもきゅもきゅしちまえ!」
「ワォ――――ンン」
諒一朗と同じ毛色の巨大な狼は、嬉々として遠吠えをあげ、アンパン邪神の頭に食らいついた。
「アナンシ! 奴をめっためたのもっちゃもちゃに喰い散らかすぞ!!」
「……喰い散らかすのかね?」
口調は呆れてはいたが、その口許には笑みが浮かんでいる。諒一朗の単純さ、そして真直ぐさはアナンシにとっては好もしいもののひとつだった。
諒一朗の鮮やかなダンスステップと金狼の猛攻に翻弄され、邪神はその本領を発揮できずにいる。その隙を突いてアナンシはその手から真っ白な蜘蛛の糸を放った。アンパンの頭部を見事に捕らえた糸はその一部を砕き、アナンシと邪神を繋ぎ留める。
「……さて、捕らえてしまった訳だが――本当に喰い散らかすのかね? こしあんよりもなめらかに肉を溶かして体液を啜る位ならばできそうだけれども」
邪神の売り言葉に皮肉を返すアナンシの腕を、諒一朗は至極真面目な顔で掴んだ。
「アナンシは、食べたらだめだぞ。あれは喰いもんじゃない」
もっちゃもっちゃと邪神の頭に齧りつく金狼も、「わふ」とアナンシを窘める目で見た。
「……嘘ゆえ、その様な目で見ないでくれ給え」
「わふ」
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵
月待・楪
いやぶっちゃけ、あんこなんざなんでもいい
美味いか不味いかくらいしか興味ねーわ…
てか、あの潰れてんのとか腐ったの混ざってねェよな…?
ふつーにあんこの内容程度で食い物粗末にしてる方が引くんだが…
【先制攻撃】で畳み掛けて食う暇なんざ与えずにぶっ倒す!
【念動力】で食おうとしたあんぱんを壁にふっ飛ばして【破壊工作】
ついでにカルタとガランサスで【クイックドロウ、2回攻撃】乱射しまくって【フェイント】に
その内いくつかを使って【魔弾・疼木】で本体を狙う
攻撃は基本【見切り】回避すっけど…接近して来るなら【零距離射撃】からの雷花で【傷口をえぐる】
うぇ…あんこの匂いとトウモロコシの匂いが混じってすげー気持ちわりぃ…
●
「く、くそ……っ」
頭部(アンパン)を半分ほど喰い尽くされたあたりでようやく猟兵たちを振り払って、邪神は距離を取った。足元がふらついているのは、おそらく頭が欠けてしまったせいだろう。ここで焼き立ての新しいアンパンが飛んでくれば――いや、よそう。
「……いやぶっちゃけ、あんこなんざなんでもいい」
心底うんざりした様子で月待・楪(Villan・Twilight・f16731)が呟いた。美味いか不味いかでいいだろ、と青年はそう思っている。世界の真理である。その日の気分でつぶあんかこしあんか、はたまた栗あんかと選ぶものが変わることはあるかもしれない。だがそれは邪神を呼び出してまで白黒つけるようなことでは決してないのだ。勇気を出して新しい世界に飛び込んでみれば、新しい喜びに出会えることもあるかもしれないのだ。――そう、あんことバターのマリアージュのように。
邪神がテーブルに近づいたのを見て、楪はハッとした。
「させねぇよ!」
伸ばされた手の先にあったアンパンの袋を念動力で吹き飛ばし、壁に叩きつける。
「アンパン食って強化しようって寸法だろうが――」
手に持っていたダガーを納め、左右の手でホルスターから二丁の拳銃を抜き取る。そして恨めしそうに睨みつけてくる邪神に狙いをつけた。
「そんな暇、誰がくれてやるか!」
カルタ、ガランサスと名付けられた拳銃が一斉に火を噴き、アンパンの袋が散らかったテーブルと邪神の間に鉛弾の雨を降らせた。弾のひとつがアンパンを貫いて袋ごと爆ぜさせる。辛うじて手が届きそうだったパンは、またしても楪の念動力で弾き飛ばされた。更には制圧射撃に紛れ込ませた『魔弾・疼木』が、弾を避けようとする邪神を執拗に追尾して頭部のアンパンに風穴を開けた。
「うおぉぉおおお!!」
楪の巧妙な作戦でアンパンに接近することが難しいと悟った邪神は、未だ無傷の左腕を振り上げて楪に飛び掛かってきた。
(アレを食らったらマズい――)
つい先刻、その威力を目の当たりにしたばかりだ。利き腕が右だとして、左腕ならば多少威力が減じているかもしれないが、元があの馬鹿力である。まともに受ければタダでは済むまい。拳を正面から見据えたまま、楪は拳銃をしまう。空気の圧だけで吹き飛ばされそうだ――と感じるか感じないかのところで身体を右に開いて邪神のパンチを見事に躱した。その勢いで身体を回転させながら邪神の懐に入り込む。この時点で楪の右手は既に雷花――グリップに赤い稲妻が刻印されたダガーを握っていた。
「これでも食らっとけ!」
刃を鋭く突き上げると、“ふかっ”という感触と共に雷花が邪神の顎に沈んで行った。深々と刺さる直前にみっちりとした何かに刺さった手応えがあったので、おそらく中のつぶあんにも達しただろう。鍔まで刺さったダガーを捻ってパン生地を内側から切り裂くと、脳漿や体液の代わりに小豆の粒が飛び散った。
「てか、あちこちの匂いが混じってすげー気持ちわりぃんだけど……」
ダガーを引き抜く動作の流れで邪神から距離を取りながら、自分の鼻を摘まんだ。
「あの潰れてんのとか、腐ったの混ざってねェよな……?」
部屋中の壁という壁、床という床、そして天井までをも汚した小豆の粒ととうもろこしの粒に、楪は顔を顰めた。
大成功
🔵🔵🔵
ザッフィーロ・アドラツィオーネ
宵f02925と
粒餡派か
俺と同じ派閥ならばこいつは良き奴なのでは…と
否、漉し餡とはいえ食い物…あまつさえ甘味を無駄にする奴は悪か…
後潰れた物達のSAN値…産地はチェックして居らんが…宵、大丈夫だ。仇は取る故に
戦闘が始まったならば敵へ間合いを詰め怒りを乗せたメイスにて『2回攻撃』
…食い物に…甘味に貴賤等ないだろう…!
そして【穢れの影】を無残に潰れた漉し餡や鶯餡へと向かわせ掴みつつ
これが漉し餡の恨み…これが鶯餡の恨みだ…!
と悲痛な声と共に敵を殴って行こうと試みる
…ああ、本当に心が痛むな…
後宵に叩かれれば正気に戻り、この惨状は…と呆然と辺りを見回そう
…無残なこの餡麺麭を蝗に食わせてやりたかった…
逢坂・宵
ザッフィーロ君(f06826)と
食べ物を粗末にするのは大変よろしくありませんねぇ
でも僕は白あん派なのでこしあん粒あんはどちらでもいいんですが
ちなみにあんぱんより今川焼き派です
ところでザッフィーロ君SAN値チェック大丈夫ですか?
とうもろこしの時点で半分正気を失っていたのでやや心配ですが
まぁ大丈夫と思って見守りましょう
僕はまっとうに「高速詠唱」「2回攻撃」「属性攻撃」「全力魔法」を乗せた
【ハイ・グラビティ】で攻撃していきましょうか
ボスを倒してからもザッフィーロ君がまだ発狂していたなら
「破魔」でぺちりと頬を軽く叩きましょう
はい、正気に戻りましたか?
お待ちどうさまのタピオカが待っていますよ
●
部屋中にまぶされた黄色と紫がかった茶色のつぶつぶに目を遣りながらザッフィーロ・アドラツィオーネ(赦しの指輪・f06826)は思う。自分と同じ派閥なのであれば、こいつは良い奴なのではなかろうか、と。だがしかし、その非論理的な考えも逢坂・宵(天廻アストロラーベ・f02925)の真っ当な言葉で嵐の中の蝋燭の灯のごとく容易く吹き飛んだ。
「食べ物を粗末にするのは大変よろしくありませんねぇ」
ちょっとだけドキッと跳ねた心臓を祭服の裡に秘め、ザッフィーロは頷く。
「あ、ああ……。食い物、あまつさえ甘味を無駄にする奴は、悪だな」
メイスを握り直して襟を正し、頭部がほとんど崩壊している邪神に向き直る。ところがそのタイミングで宵が徐に口を開いた。
「でも、僕は白あん派なのでこしあんつぶあんはどちらでもいいんですよね」
「なん……だt」
「な……ッ!?」
邪神がアンチつぶあん発言(――ではないのだが、邪神はつぶあんを支持しなければ全てアンチであると認定する過激派なのは言うまでもない)に反応するよりもザッフィーロが驚愕する方が早かった。
「そ、それは本当か、宵」
「……? はい」
だって、おいしいでしょう?とキョトンとする宵の隣で、ザッフィーロは思わず取り落としてしまったメイスを拾っている。ちなみに邪神は「俺の台詞は?」という顔(?)でぽつねんとしていた。
(粒餡の、あのつぶつぶシャキシャキとした歯応え、他の餡よりも咀嚼を強要されるが故にしっかりと満たされる満腹感……皮ごと食べることに由来する豊富な栄養とカロリー、まさに餡子の最高峰と言うべきあれを、知らぬのか……!?)
知らないってことはないだろうが、まあそういうこともある。くどいようだが、好みは人それぞれなのだ。
「ちなみに僕はあんぱんより今川焼派です」
「!?」
カラーン、と、再びメイスが床に転がる音がした。
「い、今川焼……?」
「はい」
「……なんだ、それは」
「ええと……、大判焼き、とも呼ぶらしいですね」
「おおばんやき!?」
「回転焼きと呼ぶ地域もあるそうです」
「そんなに呼び名がたくさんあるのか!?」
「面白いですよね」
違う名称を挙げればピンと来るだろうかと列挙してみたものの、却って混乱を招いたようだ。途中からザッフィーロの反応が面白くなってきてしまった宵は、他の呼び名をつらつらと挙げてザッフィーロの反応を楽しんでいる。
“今川焼”という名称はかつての駿河を支配していた今川氏の家紋に由来しているという説もあるが、そのお膝元である静岡県では大判焼きとかあづま焼きの他、やけに多種多様な名前で呼ばれています。(もちろん今川焼と呼ぶ人もいる)
「そろそろいいかな」
「あっはい」
ぐっちゃぐちゃに崩れたアンパン頭を傾げて邪神が会話を遮った。そして咳払いをして場を仕切り直すと、高らかに宣言した。
「つぶあん以外のアンパンもパン生地を使わない回転焼きも許さない!」
あっ、こいつ“回転焼き”派だ。
邪神は両掌を向かい合わせ、「ふんッ」と気合を発する。高エネルギーの弾ける音がして、掌と掌の間に高圧電流を纏った糸が生成されていった。
「食い物に、甘味に貴賤はないだろう!」
語気を強めて言い放ったザッフィーロが今しがた慌ててメイスを拾ったのはここだけの話だ。たとえ魂の伴侶とおやつの好みが違っていたとしても、それは些細なことなのだ。違うものを食べたとしても、「おいしいね」とにっこり笑い合って同じ時間を共に過ごすことの方が、常に同じものを食べて一体感に安心するより何万倍も尊い。それを知らぬとは、哀れな奴め――。
ザッフィーロは怒りと哀れみをメイスに乗せて、邪神に殴りつけた。
「効かん!」
邪神は電流の糸でメイスを絡め取り、圧倒的な筋力でザッフィーロを振り回した。
「ザッフィーロ君!」
パートナーの危機に宵は素早く重力を操る魔術を編む。
「そんなに振り回さないでいただけますか。――僕の、大切な人ですので」
「ぬぅッッ」
星が生み出す本来の重力に圧され、アンパン邪神は床にべしゃりと叩きつけられる。解放されたザッフィーロは小さく咳き込みつつも、『穢れの影』を無惨に潰されたアンパンたちへと向かわせた。
(邪神を戒めるのではないのですか)
ザッフィーロが放ったそれは、本来は敵の行動を一時的に封じるためのユーベルコードである。宵はザッフィーロがやろうとしていることを訝し気に見守った。
影のように黒く蠢く罪と穢れの化生はいくつにも枝分かれし、潰れて中身のはみ出たアンパンを掴んで倒れ伏す邪神へ叩きつけ始めた。
「これが、漉し餡の恨み……!」
べちん。
「これが、鶯餡の恨み……っ」
べちん。
「ちょ、ザッフィーロ君……?」
「そしてこれが、南瓜餡の恨みだ!!」
べちん。
ザッフィーロが壊れた――。
そんな予感をうっすらと感じながら、宵は努めて自然な声音で言葉をかける。
「ところでザッフィーロ君、SAN値チェックは大丈夫ですか?」
……まあ、先程のとうもろこしでもなんとかなったし大丈夫だろう、とは思っているのだ。その証拠に、案の定ザッフィーロは「無論だ」と答える。――ああ、よかった。さすがはキメるときはキメる男――、
「小豆の産地は北海道」
「……はい?」
「南瓜の産地も北海道」
「あの」
「白餡の原料たるインゲン豆も、パン生地の原料たる小麦も北海道だ」
それSAN値違い。っていうか試される大地すごいな、アンパン帝国じゃないか。
「さつまいもは鹿児島県でエンドウ豆は和歌山だ」
「よかった、他の土地で作られているものもあるのですね」
栗は茨城県だそうです。(※全て当社調べ)
「よくねーよ! 誰か止めろ!!」
五百年分の穢れを染み込ませた無数のアンパンで殴られ続ける邪神がついに悲鳴を上げた。宵の『ハイ・グラビティ』で床に縫い留められ、身動きができないのだ。おまけに金色の巨大な狼が頭に齧りつくのをやめないので、どんどん体積が減っている。
「――そうか。では、これで終いだ」
ゾッとするような冷たい声と共に、ザッフィーロが全てのアンパンを頭上高く掲げた。
――ぺちん。
頬を軽く叩かれた衝撃でザッフィーロはハッと我に返る。部屋を見渡すととうもろこしと小豆のつぶつぶの他に、潰れたアンパンが部屋のあちこちに散らかっていた。
「こ、この惨状は……」
茫然とするザッフィーロの顔を見て、宵がホッと安堵の息を漏らした。
「正気に戻りましたか?」
「……あ、ああ。宵、俺は……」
何が起こったのかと茫然としているザッフィーロに、宵は何も説明しない。
「ほら、もう皆さんは行っちゃいましたよ」
「……え?」
「タピオカ。お待ちかねでしょう?」
「ああ……、そうだったな」
何か、悲しいことがあった気がする。思い出そうとしても、記憶はぼんやりとしてしまって掴めない。ただ、邪神の気配は既に跡形もなく消えていた。
「さ、僕たちも行きましょう」
踵を返して玄関へ向かう宵にザッフィーロも続く。数歩歩いて廊下で立ち止まると、振り返ってリビングを見た。
「――餡麺麭を、蝗に食わせてやりたかった」
何言ってるんですか、と、宵が玄関の外で呆れているのが聞こえた。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵
第3章 日常
『原宿で遊ぼう!』
|
POW : スイーツを買い食いして街を楽しむ
SPD : ファッションを選んでセンスを磨く
WIZ : イルミネーションを楽しんで街を満喫する
|
種別『日常』のルール
「POW・SPD・WIZ」の能力値別に書かれた「この章でできる行動の例」を参考にしつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。
| 大成功 | 🔵🔵🔵 |
| 成功 | 🔵🔵🔴 |
| 苦戦 | 🔵🔴🔴 |
| 失敗 | 🔴🔴🔴 |
| 大失敗 | [評価なし] |
👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。
月待・楪
氷月(f16824)と
こないだの依頼お疲れっつーか
その…たまには血腥くねェデートとかも、したいんだよ、お前と
選ぶのがめんどくせーから氷月に任せる
甘さは控えめで黒糖タピオカってのが入ってんのがいい
タピオカドリンクだけだとなんか小腹減ってっし足りねェな
ドリンクを氷月に任せてる間にクレープでも買う
…メニュー多くね?
なんでこんな種類あんだよ
んー…ツナマヨサラダとチーズフランクで
氷月、俺のドリンクどっちだ
ん、抹茶な
クレープ買って来たから
お前のはチーズフランクの方
あとで一口寄越せよ
あー…タピオカむちむちで甘くて美味いけど、腹にたまりそ
おーこれ食ったら行くか
別に時間あるし両方でいいだろ
…目一杯楽しもうぜ、望
氷月・望
楪(f16731)と
アドリブ等歓迎
楪、お疲れさーん!
急にどうし……え、えっ?
改めて言ってもらえると、すっげー嬉しい
うん、偶にはフツーのデートしよっか
んじゃ、楪のは抹茶ミルク&黒糖タピオカのやつで
俺は苺ミルク&苺タピオカかな、どっちも氷少なめで
氷が少ないと、タピオカも一緒に飲みやすいらしいんだよね
最後にタピオカだけ残るのもアレだし……SNS情報バンザーイ!
クレープもメニュー多いだろうケド、大丈夫……かな?
はい、抹茶のが楪のね?チーズフランク、美味そう!
……楪が楽しそうな様子が、内心嬉しくて堪らないのは内緒
食べ終わったら、二人で買い物しよっか
あ、お揃いのアクセとか見ちゃう?楪の服を見るのもいいな
●
「あっつ……」
氷月・望(夢幻への反抗・f16824)は、表参道の大きな交差点の脇に佇んでスマホを覗いていた。滲む汗をTシャツの袖で拭う。目の前にはガラス張りのメトロの出入り口。背後のウインドウには有名ブランドのディスプレイが飾られている。トレンドを押さえたスタイルの望がそこに立っていると、まるで完成されたポスターのようだ。
「わり、待たせた?」
黒をベースにまとめた服装で現れたのは、月待・楪(Villan・Twilight・f16731)。涼しい顔をしてはいるが、普段よりも息が上がっているのがわかった。蒸し暑い中、速足でここまでやってきたのだろう。
「楪、お疲れさーん!」
スマホをポケットにしまって、望が楪に応える。
「おう。こないだの依頼もお疲れ」
「はは、血腥デートなー。綺麗だったよね、ストロベリームーン」
冗談めかして笑う望の、苺色をした瞳を見て楪が口を開く。
「……っつーかさ、その……」
「ん? なに?」
柄にもなく歯切れの悪い様子に望が首を傾げると、楪は僅かに目を逸らして鼻を擦った。
「……たまには血腥くねェデートとかも、したいんだよ。お前と」
「――……」
思いがけず真直ぐな言葉を向けられて、望も口をぱくぱくさせる。なんで。急に。どうしたの。紡ぐ言葉が見つかるようで見つからない。でも、――そう。これだけは伝えなければ。
「改めて言ってもらえると、すっげー嬉しい」
いつもより柔らかく見える灰色の瞳を覗き込み、望ははにかんだ笑みを浮かべた。
「たまにはフツーのデート、しよっか」
SNSのレビューを辿ってやってきたタピオカドリンク専門店は、さすがの盛況っぷりだった。テイクアウトスタイルの小さな店で、ショーケースにはずらりとサンプルが並べられている。定番のミルクティーから、フルーツベースのカラフルなスムージーまで、バリエーション豊かなメニューは若い客層の心をがっちりと鷲摑みにしているようだった。
さすが、と言うべき長蛇の列である。お目当てのドリンクにありつくまでにはそこそこの時間がかかった。望は両手にタピオカドリンクの入ったカップを持ち、楪が戻ってくるのを待った。ドリンクだけでは腹がもたないと、楪が列を抜けて近くのクレープ屋へ行ったのだった。ようやく戻ってくると、楪は自分の右手に持っていた一つを差し出して、
「お前はチーズフランクの方な」
くるりと筒状に巻かれたクレープの端からは青々としたレタスが顔を覗かせていて、さながら花束のようだ。「美味そう!」と目を輝かせながら受け取って、望もドリンクカップを楪に手渡した。
「抹茶が楪のね」
タピオカの粒が揺れるカップと生地のほんのり甘い香りが漂うクレープを手に、二人は街中を歩く。
「クレープ、メニューが多くて選ぶの大変じゃなかった?」
「おー、めっちゃ迷ったわ」
腹減ってたからしょっぱい方にした、と言いながらツナマヨサラダを巻いたクレープを齧る楪に、望が笑う。
「タピオカが甘いからちょうどいいな!」
「ん。でもこれ、抹茶もタピオカも甘すぎなくてちょうどいい。ナイスチョイス、氷月」
「へへ。氷も少なめにしてもらったんだ。その方がタピオカも一緒に飲みやすいって」
楪が一仕事済ませている間、望は“デート”の時間が待ち遠しくてリサーチに勤しんでいたのだった。どうせだったら一分一秒、タピオカ一粒、隅々まで満喫したい。話題の店のチェック、オーダーのコツ、SNSのページを手繰ればなんでも出てくる。ピンク色のドリンクを彩る真っ赤なタピオカを太いストローで吸い上げて、望が自慢げに種明かしをする。
「へー。なるほどね。……あー。タピオカ、むちむちで美味いけど、案外腹にたまりそ」
楪の抹茶ドリンクに沈んでいるのは黒糖タピオカ。黒い真珠のような粒を吸い上げてもっちもちと噛みしめると、黒糖のコクと風味が抹茶の香りと混ざり合う。もっちりとした歯応えが思っていた以上に空腹感を満たしてくれる。
「……氷少なめ、確かにアリだな。食感の邪魔にならないし」
ドリンクの入ったカップを掲げてタピオカの粒が見える様を観察する楪は、一見いつもと変わらないように見える。だが、望にはちゃんとわかっていた。彼が今、自分と過ごす時間を心から楽しんでくれていることを。
ぽこぽこぽこ、と口の中に飛び込んでくるルビーのようなタピオカを噛みしめると、甘酸っぱい苺の味がした。
「って、あー! 俺のチーズフランク!」
「一口寄越せって、さっき言ったろ」
「言ったけどさー!」
油断した隙にクレープをつまみ食いされて、望は抗議の声を上げる。別に、いいのだ。一口くらい。それくらいいくらでも。ただ――、
(近い……!)
触れそうな距離で楪の唇と歯がクレープを噛みちぎっていく一瞬、心臓の音を聞かれてしまうのではないかと思うほどドキリとしたのだ。思わず声を上げてしまったのを、望はありふれたリアクションに紛れさせて隠した。
もっと近い距離で。息遣い一つ逃さない距離で、睫毛の数を数えられそうな距離で、彼を見つめたことなど何度もあるのに、今更。
(楪が悪いんだ)
あんなことを言うから。“普通のデートもしたい”だなんて。嬉しくて、ガキみたいに舞い上がってしまう。
言葉を探す代わりに、望はカップの底に残ったタピオカをひとつずつ啜った。
「食べ終わったら、二人で買い物しよっか」
「おー、いいぜ。行くか」
「お揃いのアクセとか見ちゃう? 楪の服を見るのもいいな」
どうしよう、やりたいことが次から次へと思いつく。欲張りすぎるのもどうかと思いながら、それでも望は逸る気持ちを止められなかった。
「別に時間あるし、両方でいいだろ」
クレープの最後の一口を放り込み、楪が言う。たっぷりと余裕を含んだ笑みを望に向けて、
「目一杯楽しもうぜ、望」
「……うん!」
望もプラカップの蓋を開けて残ったストロベリータピオカを口に流し込んだ。
そして、二人は原宿の人の波の中へ泳ぎ出していく。
血煙の立つ戦場でも、艶めく夜も。いつでも一緒にいたいけれど。何気ない一日を共に過ごしたいと求められることに、思いがけず心が満たされる。
君と過ごす今日は、まだ始まったばかりだ。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵
無供華・リア
アレックスさまのためにも是非一番美味しいタピオカを……
おや、あれはアレックスさまではないでしょうか
折角いらしていたのなら一緒に行きましょう
――ご自身の見た目を気にされているのですか?
とても素敵な殿方ですのに
でしたら『原宿にふさわしい出で立ち』になれば良いのでは
原宿らしい個性豊かなアパレルショップが沢山御座いますよ
きっとお似合いで……駄目ですか
でもタピオカは是非一緒に
『流行に敏感な若者』の列に並ぶのはわたくしも気後れしてしまいますゆえ
助けると思って
ね?
定番のミルクティにクリームを乗せて頂きましょうか
もちもちで美味しいですしビジュアルがとても素敵ですわね
ジョシコウセイになった気分が味わえます
ジャスパー・ジャンブルジョルト
●パン屋で昼食を買った帰り道、タピ活中のアレックスたちを見かけたので、なーんにもしてないくせにしれっと加わる
ふぅー。戦いの後に味わうタピティーは格別だぜ。(戦ってない)
それにしても強敵だったよな。(どんな敵なのか知らない)
だが、奴に受けた傷はもう痛まねえ。(そもそも無傷)
なぜかって?(誰も訊いてない)
「世界の平和を守ることができた喜び」という鎮痛剤が効いてるからさ!(ドヤ顔)
あ、そうだ。うまいお茶請けがあるから、分けてやんよ。タピティーに合うかどうか判らねえけど。
じゃーん、あんぱんだ!
コーン増し増しのマヨコーンパンもあるぞ!
……あれ? どったの、みんな?
※煮るな焼くなとご自由に扱ってください。
●
流行の最先端、原宿。その時の『旬』を求めて若者たちが集う街。柔らかなペールトーン、涼しげなシアー、可愛らしい花柄。思い思いの服で『自分らしさ』を装う人々の波を縫って、黒いドレスの女が軽やかな足取りで歩く。黒いウェディングドレスか、――はたまた喪服か。ともすれば風景から浮き上がりそうなその装いを気にかける者は誰もいない。
「……こちらの道で合っていたかしら?」
無供華・リア(夢のヤドリギ・f00380)は腕に抱いた白い人形へ、ごく当たり前のように問いかけた。
事前に地図を確認してはきたものの、建物も人も予想以上にたくさんあって、自分が今歩いている場所が正しい道筋なのか否か自信が持てなくなる。鮮やかな青のオーニングが目印だったはず、と、店の正面を捉えた写真を思い出しながらキョロキョロと見回す。すると、見覚えのある別の何かが視界に移った。
「アレックスさま!」
行き交う人混みの中でも、にょっきりと飛び出したアレクサンドラ・ルイス(サイボーグの戦場傭兵・f05041)の頭は目立つ。褐色のスキンヘッドは、まるでタピオカだ。――とは口には出さず、リアは声を張った。リアの声に気付いたアレクサンドラは、気まずそうにしながらも頷いて応える。
「アレックスさまもいらしていたのですね。折角ですから、一緒に行きましょう」
一番おいしいタピオカをお土産にしようと思っていたのですよ、とニッコリ語りかけるリアだが、アレクサンドラは相変わらずきまりが悪そうにしている。
「ああ。だが、その――」
「ご自身の見た目を気にされているのですか?」
「仕方がないだろう。若い連中をビビらせるのは本意じゃない」
「ご心配なさらなくても、わたくしたちは猟兵ですから。皆さまの興を削ぐようなことにはなりませんよ。わたくしだって、ほら」
黒いドレスの裾を摘まんで、リアがころころと笑う。
「わかってはいるんだがな」
「でしたら、『原宿にふさわしい出で立ち』になれば良いのでは? ほら、個性豊かなアパレルショップが沢山御座いますよ」
そう言って、リアは色とりどりの看板を掲げた店舗を次々と指で示す。どれも流行りの店のようだが、アレクサンドラは片方の眉を上げたきり黙ってしまった。
「……駄目ですか」
駄目、ということはないのだが、この中年傭兵、人生のほとんどを殺伐とした環境で過ごしてしまったせいで、ファッションセンスというものをかけらも持ち合わせていないのだった。『トレンド』と題して服を見せられても、何がどう違うのかがさっぱり理解できないらしい。
「でも、タピオカは是非一緒に。『流行に敏感な若者』の列に並ぶのはわたくしも気後れしてしまいますゆえ。助けると思って」
戸惑うスキンヘッドの中年へ、リアは滑らかに誘いの言葉を紡ぐ。
「ね?」
風にそよぐカンパニュラのようにドレスをふわりと揺らして、リアは歩き出した。
「もちもちで美味しいです」
「この歯応え、たまらんな」
ゆったりとしたカフェスペースのある店内で、リアとアレクサンドラはそれぞれが注文したタピオカドリンクを心ゆくまで堪能していた。香り高い紅茶に濃厚なミルクを使った定番のミルクティにクリームを乗せたものはリア、二種類のドリンクを層状に注いだセパレートドリンクに色鮮やかなタピオカを浮かべたものはアレクサンドラだ。
「ふぅー。戦いの後に味わうタピティーは格別だぜ」
そしてもう一人、アレクサンドラの隣でおいしそうにタピオカミルクティーを啜る人物がいた。ジャスパー・ジャンブルジョルト(JJ・f08532)、たっぷりとした灰色の毛並みが自慢のケット・シーである。曰く、話題のパン屋に昼食を買いに来た帰り道だったのだという。リアとアレクサンドラという原宿に似つかわしくない二人連れを発見してピンときたジャスパーは、焼きたてパンの温もりが残る紙袋片手にちゃっかりと合流したのだった。
「お茶の香りも華やかですし、ミルクの味わいも濃厚……」
もっちもっちとタピオカを噛みしめながら、リアがうっとりと呟く。
「アレックスさまのドリンクも、ビジュアルがとても素敵ですわね」
「ああ。こんな風にもできるんだな」
「『SNS映え』という言葉がありますから、見た目の華やかさもきっと重要なポイントなのでしょうね」
互いにスマホでタピオカドリンクを撮影し合う姿は、なんだか微笑ましい。ジョシコウセイになった気分が味わえます、と、ほっこりした笑顔をリアが見せた。
「それにしても強敵だったよな」
ぽぽぽぽぽ、とタピオカの粒を一気に頬張って、やれやれという顔でジャスパーが呟く。どんなに渋くキメてもほっぺたがハムスターなのであるが、本人は全く気にしていないようだ。
「まあ、ジャスパーさまも邪神教団との戦いに行ってらしたのですね」
ご苦労様で御座いました、と労うリアに、ジャスパーは「ち・ち・ち」と指を横に振る。
「JJでいいぜ」
「では、JJさま」
ジャスパーは一生懸命咀嚼したタピオカを飲み込むと、得意げに胸を張る。
「そりゃもう激戦だったぜ。だが、奴に受けた傷はもう痛まねえ」
大袈裟に抑揚をつけた台詞回しに芝居がかった身振り手振り。おそらくステージの上でスポットライトを浴びた気分にでもなっているのだろう。
「――なぜかって?」
アレクサンドラが無言でタピオカを吸いながらジト目で見てくるのもお構いなく、そして誰も問うていないこともお構いなく、ジャスパーの一人芝居は続く。
「『世界の平和を守ることができた喜び』という鎮痛剤が効いてるからさ!」
渾身のキメ台詞を放ったその時、彼の立派な長いヒゲは今まで見たことがないほどに前向きに広がっていた。自慢の尻尾も、ふっさり、ふっさりと気持ちよさそうに揺れている。
「いやおまえ何もしてないだろ」
「にゃーっ! 吊るさないで!」
アレクサンドラに首根っこを掴まれて、ジャスパーは手足をじたばたさせてもがく。
肉球をさんざんプニプニされてようやく下ろしてもらったジャスパーは、お詫びのしるしとでも言いたげに、パン屋の紙袋をゴソゴソまさぐった。
「うまいお茶請けがあるから、分けてやんよ。タピティーに合うかどうか判らねえけど」
「お茶請け、ですか?」
店内で食べるのは少々よろしくないだろうが、お土産に分けてもらうくらいなら大丈夫だろう。リアが覗き込もうとすると、ジャスパーは「じゃーん!」と両手にパンを取り出した。
「あんぱんだ! コーン増し増しのマヨコーンパンもあるぞ!」
つやっつやつぶっつぶのコーンパンからは、とうもろこしの甘く香ばしい匂いが漂ってくる。右手に掲げたあんぱんは、おそらくつぶあんぱんだ。きっとそうに違いない。
再び、アレクサンドラが無言でタピオカを啜っていた。今度は視線をジャスパーから外しているが、外しているというよりは「アカン……」という様子で目元を手で覆っていると言った方が正しい。
「……あれ? どったの?」
「JJさま……」
リアの腕に抱かれた人形も「やれやれ」と言いたげな仕草をした。
――数秒後。またしても首根っこを掴まれ、肉球をさんざん揉み倒されたジャスパーであった。
大成功
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ザッフィーロ・アドラツィオーネ
宵f02925と
少々精神的に疲れた気がするが…
甘いタピオカを飲めるのならばきっとこの疲れも取れるだろう
本当に学生という者が多いのだなこの町は
様々な色と活気に溢れた町は少々落ち着かんが…その分平和だと言う事なのだろう
ん?では俺は苺ヨーグルトにしてみようか
持ち帰りにはミルクティと抹茶、ミルクのみの物も良いな
勿論甘さは全てマックスで頼む…と
ん?持ち帰って飲む物と旅団の皆用、そして先程餡麺麭を食わせてやれんかった蝗達への労わり用だが…とその顔はなんだ、その顔は
ストローを差し出されれば当たり前の様に口を付けた後、俺の美味いぞと己のストローを相手へと向けよう
可愛い…か…?宵の方が愛らしいと思うのだがな…?
逢坂・宵
ザッフィーロ君(f06826)と
お待ちかねのタピオカですね
ふぅ、なんだかとてもいろいろありましたが……終わって何よりです
このような男二人では、若者の街は少々浮いてしまうかもですが
歩いているだけでもとても楽しいですね
あっ、あそこです。雑誌で人気のタピオカ屋さん
ザッフィーロ君は何味を飲みますか?
僕はタピオカのロイヤルミルクティにしましょう
うん、美味しい……
……ザッフィーロ君、何をそんなに買い込んで……あっはい(察した)
これ、とても美味しいですよ
一口いかがですか、と相手の方にストローを向けて
ふふ、いつものきみも格好いいですが、
こうして甘味を堪能しているきみはとてもかわいいですね
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中華風の装飾が施されたアジアンスタイルの店内で、ザッフィーロ・アドラツィオーネ(赦しの指輪・f06826)と逢坂・宵(天廻アストロラーベ・f02925)はどことなくぐったりした様子で向かい合って座っている。
ダークカラーのラタンソファ、壁際に置かれた観葉植物が醸し出す南国風のリゾート感に、宵は「なるほど」と納得した。今のタピオカドリンクブームは日本の南西にある台湾からやってきたと聞く。中国の文化を色濃く受け継ぎ、かつ熱帯の雰囲気も漂う土地。このカフェでは、そういった「元祖のショップ」風テイストを押し出しているようだった。
洗練された内装が他の店よりも幾分かターゲットの年齢層が高めであるように感じさせるが、それでも店の中はハイティーンらしき女性客も少なくない。窓の外を見れば、更に若い少女たちがクレープやタピオカドリンクを片手に笑顔で通り過ぎて行った。
「本当に『学生』という者が多いのだな、この街は」
ソファにゆったりと腰掛け、ザッフィーロは言った。彼の前に置かれたカップには半分ほど残った薄紅色のドリンクが入っている。苺ヨーグルトのフレーバーだ。注文したときにスタッフが冷蔵庫から生の苺を何粒も出してきたから、おそらくあれをそのままミキサーにかけて作っているのだろう。なんという贅沢さ。ザッフィーロの後ろに並んでいた女性客も、惜しみなく使われる苺の量に感嘆の声を上げていた。そしてその底には、おまちかねのタピオカである。ストローで吸い上げると、充分に冷やされた苺の粒とわずかに凍ったヨーグルトのシャリシャリとした感触が喉を潤し、少し遅れてタピオカがすぽんと口の中に飛び込んでくる。それを丁寧に噛みしめるときの食感も、とても楽しい。
「そうですね。男二人では少々浮いてしまう気もしますが、歩いているだけでもとても楽しいです」
店に来るまでの風景を思い浮かべつつ大粒のタピオカをもっちりと味わい、頷く宵。可愛らしくおしゃれして花が綻ぶような表情ですれ違う少女たちの顔。誰もが皆、この街にある心躍る何かに惹かれているようだった。ベージュ色のドリンクは、ロイヤルミルクティーだ。たっぷりとした甘さの中に花開く紅茶の香りが芳しい。ついついもう一口、と進んでしまう。
「……うん、美味しい」
ほ…、という小さな溜息がほどける。
今日はいろいろ――本当にいろいろあったが、こうして過ごす時間のためであったと言われたならば納得もしよう、と思えてくる。行き届いたサービスにゆとりのある空間、非日常を演出する美しい店の内装は、雑誌で『人気のタピオカショップ』と紹介されるのも頷けた。
「ザッフィーロ君。これ、とても美味しいですよ」
もちもちとタピオカの食感を楽しんでいるらしいザッフィーロに、宵は自分のカップのストローを向けた。
「一口どうぞ」
「ん? ああ、ありがとう」
口の中のタピオカを飲み込んで、ザッフィーロは当たり前のように向けられたストローに口を付ける。宵は、ストローの中を黒い粒がゆっくりと上がっていくのを、――ザッフィーロの呼吸が可視化されたそれを、じっと見ていた。
「ふふ」
甘く笑う恋人の声に、ザッフィーロは目線を上げる。
「どうした?」
「いえ。……いつものきみも格好いいですが、こうして甘味を堪能しているきみはとてもかわいいですね」
「可愛い……か……?」
困惑した声で、ザッフィーロは答える。そして「俺のも美味いぞ」と苺ヨーグルトに挿したストローを宵へと向けた。
「……宵の方が、愛らしいと思うのだがな」
ぽつりと呟く声も、視線も、ストローを咥える唇に吸い込まれていく。艶やかな夜色の髪をかき上げる仕草も愛おしい。「そうですか?」と上目遣いに視線を返す紫色の瞳がやけに艶めかしくて、ザッフィーロは再び窓の外を見た。
最後の一粒まできれいに平らげて、二人は名残を惜しみながらも席を立つ。
「美味かったな。宵と飲みに来られて、よかった」
「ええ、僕も。きみと一緒に味わえて嬉しいです」
またいつか来ましょう、と約束をして、店の出口へ足を向ける。――と思いきや、ザッフィーロは出口とは違う方向の、注文カウンターへと向かって行った。
「……えっ、どうしたのですか?」
「ミルクティーも美味かったから、持ち帰りで買っていこうかと」
「まだ飲むのですか」
それはさすがにカロリーオーバーと言うべきでは。最初に説明しましたよね?と詰め寄ろうとするも、重要なことを思い出す。だめだ、この人カロリー信者だ。
頭を抱える宵の数歩先を歩くザッフィーロは指折り数えながら注文内容を構築していく。
「抹茶も捨てがたかった。ミルクティーのミルク感がよかったから、ミルクのみの物もきっと美味いだろう。甘さは全てマックスで……」
注文カウンターの奥に掲示されたメニュー表へ目を凝らすザッフィーロに、宵は驚きを隠せなかった。そんなところで甘さマックスにしなくていい。マックスにするべきは二人の間に流れる空気の甘さである。
「……あの、待ってください。そんなに買い込んでどうするんです……?」
自分が最初に「そこまで高カロリーな飲み物ではない」と主張したのは、あくまで常識的な量を摂取した場合についての話である。二杯、三杯と続けて飲めば容赦なくカロリーオーバーのルートまっしぐらだ。この人、そこんところはわかっているのだろうか。
「持ち帰って飲む用と旅団の皆用、して先程餡麺麭を食わせてやれなんだ蝗達への労わり用だ」
…………蝗? この人いま蝗って言った? しれっと?
「タピオカのこの歯応え、素晴らしい。とうもろこしや米、パスタに劣らぬ主食と見た。カロリーが高いというのも頷ける。従って食いっぱぐれた蝗へ与えるにふさわしいだろう?」
真顔で堪えるザッフィーロに、宵は早々に降参した。
「……わかりました。でも、やるなら絶対に人目につかない場所でお願いしますね」
ただでさえ、飲み残したドリンクの遺棄が問題になり始めている時勢である。そんな時に蝗の群れを呼び出して餌として与えているところを誰かに見咎められたら誤解は避けられまい。愛しい人がそんな謗りを受けることだけは、全力で阻止せねばならない。宵はにっこりと浮かべた笑顔の裏で強く誓った。
ちなみに、作ってから時間の経ったタピオカは魅惑のもちもち感を失ってすっかり硬くなってしまう――ということをザッフィーロが知るのは、もうしばらく後のことである。
大成功
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