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お前が散れ!

#サムライエンパイア

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#サムライエンパイア


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 真っ先に切り込んできたのは、死を纏う剣士だったのを覚えている。
 雷電を翳して踏み込む。剣筋は荒い、独特の流儀に基づいた剣法だろう。
 素人の流派と侮るなかれ。雷を纏う斬撃はあまりにおどろおどろしい。

 次に押し寄せてきたのは、数えきれないほどの雇われだ。
 個々の力量は然したるものではない。平時においては、苦戦こそ強いられど負けることはなかったと推察できる。
 だが、死電の剣豪を前に崩された陣形では成す術もなかった。兵士の首から朱き花が幾つも咲いている。

 最後通牒。我々の負けを決定づけたのは、満を持して登場した、深紫の着流しが特徴的な男だ。
 朱色に染まった鞘から刀を抜き――告げる。

「この砦はおしまいだ。俺たちが新時代を告げに来たぜ」



「今回の依頼の舞台は、サムライエンパイア。あたしの予知によると事件までもう時間がない。みんなにはすぐにでも駆けつけてもらいたいな」

 だから手短に話すよ、と。
 予知を見たグリモア猟兵、黄柑・王花(夢見る乙女と幸せな・f04083)は今回の依頼について報告を始める。

「さて、オブリビオン・フォーミュラと目される【織田信長】、その配下と思しき軍が最近活発なのは知ってる?」

 キマイラフューチャーで巻き起こった戦争を境に、各世界に僅かな情勢の変化が見られた。
 迷宮外の乱闘、猟兵を付け狙う常闇の徒、群竜大陸への手がかり――織田信長軍の兵戈。
 王花は猟兵たちの反応を窺いながら話を進める。

「今回、みんなに頼みたいのは織田信長軍からとある砦を守ってほしい」

 周辺の立地を図案化したものを王花は広げ、砦の箇所に丸印を付けた。
 一帯は良くも悪くも取り立てて何があるわけでもない。前も後ろも、平たい道が続くのみ。
 軍略的な意味合いでの砦というよりも、藩と藩とを結ぶ関所のような施設なのだろう――その情報には取り立てて意味もないと付け加える。
 実質的な役割はどうであれ、今回の戦場の要となる砦はあくまでれっきとした砦であり、勤める兵たちの練度も相当なものだ。
 ただ、信長軍にはまるで歯が立たなかっただけで。

「今回の任務の難しいところは、何より敵が強いこと」

 銀河皇帝やドン・フリーダムのような問答無用の馬力を有しているわけではない。
 個々のスペックで見れば、これまで行きあった多くの任務と大差ないのかもしれないけれど。

「いわゆるボスクラスが二人いるんだ。幸いなことに、同時に攻め入られるわけじゃないみたいだけど」

 王花の見た予知の中で、ひとりは切り込み隊長として場を掻き乱し、もうひとりは軍の長を務めていた。
 一挙に嗾けられるわけではない分、戦いようはあるだろうものの、辛い戦いになるのは必至である。
 王花自身はじめに断っていたけれど、今回の戦いでは事前準備も疎かなまま戦場に繰り出されるであろう。
 信頼できるのは、各々の力――。あるいは信じられる誰かの力。

「ひとりは――雷を操る剣士なのは確かだけど……もうひとりはよく見えなかった。おなじ剣豪とは言え、趣はずいぶん違ったようだけれど……」

 ばつの悪そうな顔をするものの、今は悔やむ時間も惜しい。
 王花は考えを切り替えて、集った猟兵たちを戦場に送り込むべく、漆黒のグリモアを輝かせる。

「いずれにせよ、みんなの仕事は、すぐにでも迫りくる脅威を退けること。
 砦の人たちへの説明はあたしがやっておくから、みんなはとにかく敵を退けることだけに注力してね」

 それじゃあ、今回もよろしく頼んだよ!
 王花は猟兵たちに励ましのエールを捧げる。
 戦はもう、始まろうとしていた。


叶世たん

 はじめまして。叶世たんというものです。
 このたびはオープニングを読んでいただきありがとうございます。
 皆様のキャラクターを彩る一助となればと思います。よろしくお願いいたします。


 今回は、サムライエンパイアで織田信長軍から砦を守る依頼となります。
 純戦闘でございます。これまでの傾向とは異なり、心情よりも戦闘を優先します。
 皆さまのプレイングにおかれましても、「どのような戦闘をされるか」を優先して書いてください。
 良くも悪くも特殊なギミックなど用意していませんので、プレイングがすべてと言っても過言じゃありません。


 二章。
 砦の兵隊との共闘になります。特に指示がなければ勝手に戦ってますが、
 指示など出していただけたのならば、多分その通りに動いてくれると思います。
 策略などございましたら、こちらでご提案ください。

 三章。
 二章の情勢によって細部に違いが出るようですが、特に考慮しなくても結構です。
 そういうこともあるんだなあ程度の理解で大丈夫です。


 とても筆が遅いです。
 皆さまにはご不便をおかけいたしますが、再送をお願いすることもあるかと思います。
 お付き合いいただける方は、申し訳ありませんが、どうかお付き合いくださいませ。
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第1章 ボス戦 『雷切丸』

POW   :    《白霧の侵略》分断戦術、対複数戦で有効でござる
【準備動作】で妖術を詠唱。その後、【両掌】から【広範囲放射】。視界を妨げ直感が鈍る【濃霧】を放ち、【一時撤退】する。人を大量虐殺した【幻覚】により対象の動きを一時的に封じる。
SPD   :    《雷切》これが拙者の我流抜刀術奥義。受けてみよ!
自身に【危機】が迫った瞬間。【死神のオーラ】をまとい、高速移動と【雷属性の斬撃】による高範囲の【衝撃波】の放射を可能とする。ただし、戦闘終了まで毎秒寿命を削る。
WIZ   :    《我流戦闘術》我が名は雷切丸、いざ、尋常に勝負!
【敵の攻撃】を刀で防ぎ、反撃する。【刀】が命中した対象に対し、高威力高命中の【電撃】と見切り難い無数の【剣戟】を放つ。初撃を外すと次も当たらない。

イラスト:nori

👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

種別『ボス戦』のルール
 記載された敵が「1体」出現します。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※このボスの宿敵主はイヴ・クロノサージュです。ボスは殺してもシナリオ終了後に蘇る可能性がありますが、宿敵主がボス戦に参加したかつシナリオが成功すると、とどめを刺す事ができます。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。

御剣・刀也
ははは。我流の侍か。面白い。相手になろう
天武古砕流、その神髄を見せてやる

白霧の侵略で此方の視界を塞ごうとしたら、幻覚なんぞ気にせず、気配と第六感を頼りに突っ込んでいって相手を斬り捨てる
雷切で高速移動と広範囲への衝撃波を打てるようになったら、距離を開けられないようにしつつ、衝撃波は日本刀を縦にして受け止めて突っ込んで斬り捨てる
我流戦闘術できたらその防御事斬り捨てようと全力の捨て身の一撃を見舞う。反撃しようとしてきたら第六感と見切りで踏み込んで押し飛ばすか、距離を取って避ける
「戦場では俺は死人。死人は死を恐れない。お前に俺の闘志と刀を砕くことができるか、見せてもらおうか」


須藤・莉亜
「そういえば、侍の血って吸った事なかったねぇ。」
どんな味かな?名前的にビリってする味とか?

敵さんの動きを【見切り】つつ、大鎌で攻撃。
んでもって、僕の攻撃に合わせて、奇剣を持たせた悪魔の見えざる手にも攻撃させる。

まあ、本番は敵さんに攻撃をもらってからかな。
攻撃をくらった瞬間に、暴食蝙蝠のUCを発動。体を無数の蝙蝠に変えてダメージを回復しつつ、霧で敵さんを覆って撹乱。
何匹か囮にしつつ、敵さんの血を狙ってこう。
嚙みつけたら全力【吸血】からの【生命力吸収】。
「何もかも吸い取ってミイラにしてあげる。」


四宮・かごめ
転送されたら【目立たない】ようにして袂に拾った【物を隠す】。石でも何でも良いでござる。

(しゅたっと降り立ち)四宮忍軍参上。
此度の戦、遂に天魔の軍勢が動きを見せ始めたとの事。
お味方致す。にんにん。

雷使い。相手にとって不足なし。
参るぞとも言わずに、踏み込みざまの【クイックドロウ】。高速の一投目で【目潰し】を仕掛けるでござる。
その後も【投擲】と【早業】技能を活かした印字打ちで攻撃を続け、味方を支援する。相手が距離を詰めて来たら【逃げ足】を活かすなり、煙玉を放るなどして距離を取る。
一番厄介なのは《白霧の侵略》。準備動作が狙い目。されど一旦術が成れば大人しく濃霧の範囲外へ逃れ去る。





 背後には守るべき砦がある。
 さしたる特徴もない、ありふれた構えだ。
 いずれにせよ成すべきものは変わらない。
 天気は快晴。視界は良好。御剣・刀也(真紅の荒獅子・f00225)が周囲を見渡せば、凄まじき速度で迫る人影がある。
 馬も駆らずにしてあの速度。尋常ならざる存在であることはおのずと理解できた。
 あれなるが今回の敵か。認めるやいなや刀也は刀を抜き、身体を前に傾け――踏み込む。
 いわく、敵は雷を操るという。雷の化身を前にしては愛用の靴【アラストル】も猛るというものだ。頬を撫でる風がどこか心地よい。
 距離が詰まったころ、黒狐の面を備えた男は迫る殺気に視線を向ける。

『我が道を阻むな! 貴様も命が惜しかろうに!』

 狐面の男――【雷切丸】は刀を抜くまでもなく、刀也に標準を合わせ、雷を射る。
 さながら一本の矢のように鋭く練り上げられた雷は轟々と雷鳴を立て、刀也の腹を射抜かんとしていた。
 雷の本質とは光と音。本来であれば人間に見切れる道理はない。しかし、刀也は迫りくる雷の矢をひらりと躱す。
 戦に生きる男の本能が冴えわたる。そも、火縄銃、すなわち驚異的な遠距離攻撃に対抗すべく作り上げた剣術を修める刀也に、捻りのない射出など。

「戦場では俺は死人。死人は死を恐れない。お前に俺の闘志と刀を砕くことができるか、見せてもらおうか」

 刀也が獅子のごとく吼えたてる。
 雷切丸も一蹴することは出来ないと認めたのだろう。
 苦々しく顔を歪めれば、刀也を切り伏せんと進路を変える。
 意識が刀也に向いた。
 直後のことである。

 しゅん。

 風を切る音がする。
 背筋が凍えるほどに冷酷な音だ。
 音の出先、薄汚い小石は刀也のいる側とは反対側から、雷切丸へと向かう。
 不意を的確に、命の灯火を正確に狙う、処刑人も舌を巻く技能。
 さもありなん。気配を闇へ帰し、意識の間隙を付け狙うものの正体は――。

『――――ッ! しのびのものか!!』

 間一髪のところで忍び寄る脅威に反応した雷切丸は、刀を鞘に納めたまま、振り向きざまに石を弾き飛ばす。
 もとより投石で敵を出し抜こうなどとは考えてはいない。
 真なる狙いは目潰し――とまではいかないにしろ、目を欺くこと。
 少しでも敵を翻弄することに主眼を置いた飛礫だ。敵の気を逸らすことが出来たのであれば本望である。
 四宮・かごめ(たけのこ忍者・f12455)は敵の胸元を狙いすまして、続けざまに石を放つ。

「四宮忍軍参上、にんにん」

 出所が知れた以上、一か所に留まることは無益。
 姿を隠していた物見櫓からしゅたっと降り立ち、敵を翻弄すべく走り抜ける。
 走りながら、無造作に石を拾い投げては投げつけていく。
 時に袂に石ころを隠し蓄えながら、一挙に連続して放つ。
 西部劇の狙撃手も唸るほどの精確さ、誉れ高き名銃にも負けない貫通力。
 投擲に欲する双方を兼ね備えたかごめの早業は、地道に、されど着実に追い込んでいく。

『猪口才な』

 刻一刻と距離の縮まる刀也を見据えた雷切丸に、かごめの動きを捉えきることは不可能。
 辛うじて飛来する飛礫には対応してみせるものの、反撃にまで手を伸ばしきれない。 
 いや。
 それは良い。
 飛礫ぐらいならば対応してみせよう。
 雷を射る男だ。確かに印字ならば幾らでも捉えることだってできるだろう。
 問題は、かごめの術中にすでに嵌りつつあることだった。
 一連の攻防の最中に、確かに先ほどまで様々に散見していた猟兵の存在を見失っている。
 まずい。
 あくまで我流の一派とはいえ、雷切丸とて剣に誓いを捧げるもの。
 戦に対する直感は人並み以上にある。
 幸か不幸かそれにゆえに、息をする間もなく間合いに上がり込む死の予感を掴み取った。

『拙者の背後をとるなど、百年早いっ!』
「おおっと。オブリビオンにそういわれると僕も立つ瀬がないなぁ……」

 雷切丸は振り返り、刀のように右腕を払う。
 背後を取っていた猟兵――須藤・莉亜(メランコリッパー・f00277)は、触れ合えるほど近くにいる。
 一歩間違えば、確実に自分の首はなかっただろう。自分の背後にあるべきは、憎き死神だけで良い。
 意識を断たんと薙ぎ払われた手刀であったが、されど莉亜には及ばない。手刀をいなし、どんっ、と力強く雷切丸の肩を推し出す。
 たたらを踏む雷切丸に、迷わず莉亜は純白の大鎌を振るう。それこそ、死神のように。

「そういえば、侍の血って吸った事なかったねぇ」
 
 所作の節々からどこかだらっとした印象を受ける莉亜ではあるものの、鎌の鋭さは言うまでもない。
 莉亜と味覚を共有する大鎌【血飲み子】の切っ先は、どことなく飢えを叫んでいるようだった。
 隙だらけの敵は、本来であれば鎌に飲み込まれている。
 だが、雷切丸も伊達に戦場を経験しているわけではない。並外れた【早業】で立て直せば、刀を抜き凌ぎきる。

「お、刀を抜いた。ここからが本番って感じかな?」
『抜かせっ! 吼えていられるのも今の内だ。我が名は雷切丸、いざ、尋常に勝負!』

 雷切丸は微かに目を細め、浅く息を吐く。
 きっかけがあったとするならば、今の措置だった。
 時間して一秒にも満たない間に、雷切丸の発する気配の質が変わる。
 荒々しく、輝かしい――それこそ雷にも似た威圧が、禍々しく、恐ろしい、日差しすらも閉ざしてしまうような雷雲のような殺気へと。
 死を纏う。言い得て妙だ。
 莉亜を支援するであろうかごめ、加えて殺気を隠さずに襲い来る刀也を警戒してか。
 周囲に絶え間なく衝撃波を送り込む。衝撃波の性質はどことなく、死神の鎌を想起した。
 当然、莉亜にも衝撃波は嗾けられる。軽く息をつきながら、殺意を【見切り】、躱していく。
 続けて当然、莉亜に迫るは衝撃波だけにとどまらなかった。雷電を帯びた刀を翳した雷切丸は斬りかかる。

『我が一撃、受けてみるかっ!』

 ご遠慮したいなぁ、なんて内心零しながら、白き鎌で雷刀を弾く。
 ぴりっとした味がする。侍の味もこんななのだろうか。名前的にも、ビリってしそうだし。
 益体もない考えが不意に浮かぶも、逼迫した状況であるのは確かだ。
 我流とは聞いていたものの、卓抜とした剣技に一切の矛盾はない。
 澱みのない太刀筋は不思議なぐらい的確に莉亜の命を付け狙う。

「うーん、さすがってところなのかな」

 莉亜と契約を交わす【悪魔の見えざる手】が【奇剣】を払い、断続的に押し寄せる衝撃波を打消す。
 性質は違えど悪魔の手も、奇剣も、衝撃波も、透明ではあるものの常軌に逸した攻防を繰り広げている。
 そちらは敢えて言うなら互角の戦いを繰り広げることは出来たものの、全体を俯瞰して押されているのは莉亜の方だった。
 雷切丸の剣術が見事である。
 敗勢の原因を辿ればこれに尽きた。

『貴様の命、しかと拙者が頂いた!』

 莉亜の一瞬の隙を突いた一振りが莉亜の身体を切り裂いた。



 切り裂いた身体から噴き出るのは血が相場と決まっている。
 あるいは摂理といってもいいだろう。
 それなのに、莉亜の傷口から溢れ出るのは――。

『蝙蝠……!?』

 得体のしれない蝙蝠だった。
 一匹二匹どころではない――三、四、次第に数え切れなくなるほど蝙蝠が飛び回り、比例するように莉亜の身体が宙へ溶けていく。
 異変はそれだけにとどまらない。もともと莉亜の立っていた場所から【霧】が辺りを覆い尽くさんと立ち上る。

『奇怪な真似をしおってからに!』

 霧の恐ろしさは誰よりも雷切丸が痛感している。
 敵の織りなす攻撃の手口は一向に掴めないが、放置していいはずがない。
 衝撃波、雷の矢、斬撃、あらゆる手口で蝙蝠を攻めたて、実際に何匹か蝙蝠を捉えることは出来たものの、無に帰す。
 まるで手応えを感じない。それもそのはず。
 先に莉亜は敵が刀を抜いたその時を本番と称したが、あんなのその場で思いついた言葉を発しただけだ。
 莉亜にとっての本番、真なる目的は奇々怪々なるこの妙技にある。――【暴食蝙蝠(グラトニーファングズ)】。

「何もかも吸い取ってミイラにしてあげる」

 蝙蝠が喋った!
 雷切丸は思わず目を剥くが、すぐさま構えを正す。
 近寄ってきたならば、我が剣と雷をもって薙ぎ払うのみ。
 研ぎ澄まされる気概に反応したのは、莉亜ではなかった。

「いやはや。ようやっと駆けつけてみれば不思議な状況だ。まあいい。改めてお前の相手となろう」

 御剣・刀也だ。
 衝撃波の影響か、ところどころに切り傷を受けているものの、至って健康無事。
 衝撃波は刀を盾にして受け止める。実直な彼の行軍は、衝撃波が迫りくる分遅れをとってしまったものの、着実に前進していた。
 迸る熱気に一切の衰えはない。意識を逸らしたつもりもなかったが、いよいよここまで駆けつけたか。

「ははは。遠目から見ていたが我流の侍か。面白い。我が天武古砕流、その神髄を見せてやる」

 刀也の決意を尻目に、先ほどまで投擲を繰り返していた少女の姿を探すも、見当たらない。
 ただ、当然逃げているはずがない。莉亜との交錯の中で姿を消したのだろう。まったくもって気配の消失に気付けなかった。
 刹那の逡巡の末、不利を悟った雷切丸は方針を変える。
 一人一人相手を相手にしては埒が明かない。このような時のために、我が悲哀の技があるのだ。

『――姫様、我が行く末に力を!』

 刀を天に衝きさし、妖術を唱える。
 僅かな時間ではあるものの、これ以上ない無条件の隙。
 それを逃す莉亜――それにかごめではなかった。

「それっ」

 無数の蝙蝠が押し寄せ、雷切丸へ噛みつく。
 血を吸い上げ、自らの生命力へと換算する手腕は、恐怖の大王、吸血鬼そのもののようだ。
 そして、蝙蝠の隙間を縫うように放たれた幾つもの印字は雷切丸の身体を確かに襲う。
 雷使い。相手にとって不足なし。
 ゆえにこそ、手ぬかりなく自ら成すべきことをしかと成し遂げる。
 一撃、二撃、三撃、と。
 それぞれに人体の急所を狙った飛礫の数々は雷切丸の体力を着実に削り取る。

『それでも拙者はやり抜くまで! 【白霧の侵略】っ!』

 妖術を唱え終えた雷切丸は、あろうことか刀を空へ放り投げた。
 自らの得物を捨てるなどと刀也は怪訝な顔をするものの、すぐさま考えを改める。
 白霧の侵略を発動するには、両掌を開ける必要があったからだ。

「……霧、ねぇ」

 莉亜もまた、複雑そうな顔を(蝙蝠ながらに)浮かべる。
 そう、霧。雷切丸の両の掌から吹き出す霧は、ただちに周囲を囲い込む。
 それも莉亜の放つそれとはまた別種の、なんとも不気味な霧だ。
 逃げとけばよかったかなぁと霧を検分する内に、霧が濃さを増していく。
 雷切丸が空中で刀を拾いなおしたところで、霧に紛れて姿を見失う。――いや、気配までを見失ったわけではない。
 追撃をするのは幾らでも可能であるものの、不思議と身体が動かない。
 莉亜の、同時に刀也の脳を、奇妙な情景が支配する。

「ふん、なるほどな」

 頭に浮かぶのは常人ならば吐き気を催すほどに悪趣味な光景だった。
 悪趣味も極まれば悪辣になるというもの。事実、刀也も気を抜けば足が竦みそうになる。
 俺が大量殺人する幻覚、か。
 剣とは突き詰めれば凶器だ。振るうものの心次第で善にも悪にも、正にも邪にも簡単に偏る。
 刀也が握る日本刀【獅子吼】とて、いかようにも転がることを示唆でもしているのかもしれない。

「ただ俺は言ったぞ。戦場で俺は死人だ。死人が死を恐れる道理などない」

 むろん、それは、相手の命をもだ。
 目の前に立ちはだかるというならば。
 俺はそれを切り伏せよう。
 覚悟をもって、心身を鍛え、剣を学び、戦場に臨んでいる。

「お前の剣技と付き合いたい気持ちもあったが、お前が逃走を図るのならば俺は止めない」

 だが、俺の一撃は味わうといい。
 【一時撤退】を試みんとしていた雷切丸に獅子吼は唸りを挙げる。
 まさに不屈の獅子が吼えるかの如く煌めき、
 刀也の持てる力を振り絞った一閃が、雷切丸を補足する。

『――っっ』

 ガギンッ!
 甲高い音とともに、雷切丸が弾き飛ばされる手応えを感じた。
 視界も晴れない、十全とは言えない環境で刀也の【第六感】――剣士の意地が成果をあげる。
 ……、いや。

「討てなかったか」 

 咄嗟に反応を見せた雷切丸を褒めるべきか。
 自分の鍛錬が足りなかったと顧みるべきか。
 いずれにせよ、気配は遠ざかっていく。
 まあ、いい。
 確か逃げ道には違う猟兵が待ち構えていたはずだ。
 必要だと思えば追えばいいし、万が一に備えて砦の守護、あるいは兵士たちと連携を取り始めるのもいいだろう。

「あれが天魔の軍勢でござるか……」

 霧の外へ脱し、撤退を図る雷切丸の姿をひとまず見送ったかごめは姿を現す。
 いやはや、いやはや、である。
 今回は他の猟兵と連携を取れたから良いものの、実力は確かに申し分ない。
 脅威的だ。
 続けて襲来するという着流しの男に備えて、かごめもまた行動を再開するのであった。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

蘭・七結
和の心溢るる世界
ナユの愛する、和国
この世界を、乱世にはさせないわ

雷の衝撃波は、舞うように見切り躱して
黒鍵の斬首刀を喚んで、2回攻撃を重ねていくわ
接近戦へと繋がったのなら、早業でふたつの残華を引き抜いて
毒を纏った切っ先で、あなたを狙いましょう
戦ごとだなんて、久しぶりだわ
嗚呼。なんだか、心が踊ってしまうの

たのしい時間は、そうも長く続かないみたい
皆さんを巻き込んでしまうのは、心苦しいの
強いお方。ナユに誘われてちょうだいね
彼岸と此岸。両世を結ぶように、おびき寄せて
あなたの最期を彩る、あかい花化粧
どうか美しく咲いて、散り果ててちょうだいね
〝紅恋華〟

✼アレンジ等歓迎です


クララ・リンドヴァル
行住坐臥二六時中。そうは言っても、太平の世です。
古の武将からすれば、路傍に転がる、蹴られる為の石。
そう、なのかも知れません。

……。力を貸しましょう。
協力して策を巡らせれば、きっと撃退できる筈です。

後衛の【スナイパー】として、味方の【援護射撃】を行います。
生来の存在感の無さを利用して
なるべく【目立たない】ように立ち回ります。
使うのは酸化の【呪詛】レッドロット。
【高速詠唱】と【2回攻撃】で手数を稼ぎ、
対象の得物を狙って攻撃力を下げていき、
あわよくば敵の攻撃を完全に封じてしまいます。


比良坂・逢瀬
我流剣ですか
先達の教えも歴史も無く単身で良くぞ其処まで練り上げたものですね
素直に敬意を表しましょう

新陰流剣士、比良坂逢瀬
雷の剣士と一手所望致します

相手の攻撃の挙動、その起こりを<見切り>、更に<残像>で翻弄いたします

我流で鍛えた剣の荒々しさは一面では脅威ですが、しかし先達の教えと積み重ねられた歴史に磨かれ鍛え上げられた正道の剣は極めれば必ずや邪道の剣を凌駕するもの

正道と邪道、其の差は武術の基本となる唯一歩の踏み込みにも表れます

《地ヲ疾走ル》

一瞬の裡に間合いを奪う神速の歩法からの一太刀を持って雷の剣士を斬り捨てましょう





 静寂は好きだ。
 晴耕雨読なんて言葉があるけれど、いやいや、こんな晴れた日に読む本のなんと素晴らしきことか。
 日差しは電灯とは違う温かみを持っている。……いや、本が傷みやすいのは難点だけれど。

「行住坐臥二六時中。そうは言っても、太平の世です」

 クララ・リンドヴァル(本の魔女・f17817)は敵を待ち伏せる形で、配置につく。
 平穏に包まれた世界。本を読むに似つかわしい洋々としたまほろば。
 それでも、そんな世界においてさえ、静寂を蝕む紙魚はいる。
 古の武将からすれば、この世界は、人々は路傍に転がる、蹴られる為の石なのだろうか。
 あるいは……そうなのかもしれない。少なくとも、取るに足らない存在であったことは、残念ながらそうだったようだ。

「…………」

 沈黙。
 黙考の末に、クララは決断する。力を貸そう、と。
 他の人々と協力し、策を巡らせれば如何に難敵であろうと、きっと撃退できるはずだ。
 決意を胸に刻んだところで、ざっ、ざっ、ざっ、と荒い歩調の足音がする。
 黒狐面の青年。昏くも眩き剣客。
 敵だ。名を、雷切丸という。

『――待ち伏せか』

 見やれば敵はすでにそれなりの負傷をしている。
 微かに息も荒い。待ち伏せしていた猟兵の面々を瞬時に把握し、苦虫を噛み潰したような面を浮かべた。
 ただ一方で、抜いた刀は真っすぐに構えられる。凛とした佇まい。まるで戦意を失った様子には見えない。
 剣客ゆえの気位か。はたまた心のない人斬りがゆえの無頓着か。

「新陰流剣士、比良坂逢瀬。雷の剣士と一手所望致します」

 相手の思惑を剣で図るのも、また剣士の定め。
 楚々とした佇まいで、比良坂・逢瀬(濡羽色の令嬢・f18129)は一歩前へ踏み出す。
 ちゃき、と。鯉口を切り、如何なる攻撃をも捌けるように体勢を整える。
 先手を打ったのは、雷切丸だ。

『我が名は雷切丸! 無謬が一筋を前に倒れるがいい!』

 傷を負えど、戦うには支障なし。
 ――いや、それは違う。先の傷とて決して無視できるものではない。
 己が課した一つの使命が、雷切丸を奮い立たせる。
 雷切丸は雷の矢を振り絞り、逢瀬へ向けて射る。右、左、正面、数にして三射。
 雷が迫る光景から遅れて、轟と鳴った。
 
「――――」

 名が表すとおりに光速の射撃。
 防ぐのは容易でなかろう。それでも守らねば致命傷を負うのは必至だ。
 しかし逢瀬は、雷の矢そのものには目もくれない。彼女が見据えるのは雷切丸その人のみ。

「雷の矢はあくまで牽制」

 雷の矢を放つやいなや、雷切丸が前へ駆けだすのが見える。
 掃射の対応に追われていては、本命であるところの雷切丸が一閃を防ぐことは出来なかろう。
 ゆえにこそ、逢瀬が見据えるはただ一点。
 幸いなことに、雷の対応をしてくれる猟兵が、この場には他にもいた。

「雷の対処は私がしましょう」

 前方より襲い来る雷が、――後方から放たれた雷と相殺される。
 クララによる援護だ。的確に振るわれた雷属性の矢が、逢瀬を守るように射抜かれる。
 意識の外から振るわれた射撃に雷切丸は刹那ばかり瞠目するも、しかし足を止めたりはしない。
 逢瀬、それにクララへ向けて新たに精製した雷の矢を嗾ければ、同時に逢瀬の間合いに入り込み、敵の頭蓋を断ち切らんと刃が振りぬく。

「甘いですよ」

 雷の矢はやはりクララが霧消してくれる。
 逢瀬は冷静に、敵方の挙措を見切り、雷切丸が振るう軌跡を刀を鞘に納めたままに弾く。
 しかし、雷切丸の攻撃は終わらない。

『まだだ!』

 続けざまの一閃。これも弾く。
 振るわれる一閃。これも弾く。
 きん! きん! 涼やかな音が鳴り続ける。
 一手逢瀬には届かないものの、どれをとっても惚れ惚れするほど見事な太刀筋ではあった。
 時に理外から放たれる一振りは、逢瀬の肝を冷やさせる。

「我流剣ですか。先達の教えも歴史も無く単身で良くぞ其処まで練り上げたものですね」

 事実、逢瀬も強襲を防ぎはするものの、如何に攻めればよいかここまで判ぜずにいた。
 何せ、敵には型がない。理屈がない。それでいてなお、刃は恐るべきほどに鋭い。
 雷切丸の太刀は、雷のようだ。荒々しくも研ぎ澄まされて、先が読めないほどに無謬である。
 素直に敬意を表しましょう。逢瀬は敵の実力を認めた。――だからこそ。

「これ以上、その太刀を汚す必要はありません」

 魑魅魍魎と化し、世界を脅かす一派に成り下がってまで、太刀を振るうこともなかろうて。
 しいていうなら、これは温情だ。
 これより振るわれるは、敵を認めたがゆえの、慈悲の一撃だ。
 我流で鍛えた剣の荒々しさは一面では脅威だが、しかし先達の教えと積み重ねられた歴史に磨かれ鍛え上げられた正道の剣は極めれば必ずや邪道の剣を凌駕するもの
 逢瀬は、妖しく微笑む。

『ほざけっ! 我が宿願が叶うまで果てるつもりは断じてない!』

 雷切丸はすぱっと刀を払い、逢瀬の首を刈る。
 眼は確かに逢瀬の首を刎ねたのを捉えた。反して、手応えがまるでない。
 ――違う!
 今斬ったのは逢瀬じゃない。これはただの――。

「ええ、残像です」

 妖艶な雰囲気を纏った逢瀬が、雷切丸の背後を取る。
 雷切丸が捉えたのは、逢瀬の残像だ。
 雷切丸の払う太刀筋を掻い潜った逢瀬は、強い踏み込みとともに敵の背後へ回り込む。

『……!』

 雷切丸は振り向くが、その時には既に、二尺三寸を誇る【三池典太】が雷切丸の首を刎ねんとしていた。
 だから。
 死神は嗤った。



「危ないですっ!」

 クララが叫ぶと同時に、逢瀬の目前と迫っていた雷撃が掻き消える。
 きっとクララの放った魔法で守ってくれたのだろう。
 無意識の内に状況を把握しながら、続く太刀を、抜き身の三池典太で受け止めた。

「(……重いっ!)」

 それに速い。
 帯電する太刀は受け止めるだけでこちらに痺れをもたらす。
 先の斬撃とは段違いに強力だった。

『拙者の秘奥、とくと味わえ女よ!』

 気配が変わる。
 今、逢瀬の目の前に立つのは、死神だ。
 太刀、雷矢、加え衝撃波、雷速が猛攻を辛うじて太刀や鞘で防ぐもこのままでは手に余る。
 一度体勢を持ち直すのも兼ねて、雷切丸から距離を離す。
 剣士であれど、逢瀬にとって彼我の距離はあまり重要ではない。
 しかしそれにしたって、ある程度は敵の虚を突く必要があるけれど――。
 そんな折、新たに猟兵が舞い降りる。

「和の心溢るる世界。ナユの愛する、和国。この世界を、乱世にはさせないわ」

 蘭・七結(恋一華・f00421)が、大きな鍵の斬馬刀を喚び寄せながら、ふわりと相対する。
 無言の内に、雷切丸は全方位――当然それはクララ、逢瀬、七結を包み込むかのように――衝撃波による絨毯爆撃を執行した。
 死神の鎌を想起する衝撃波の数々を、七結は舞うようにして躱しきる。
 花が舞うように。
 並みの剣士じゃ散り注ぐ花びらを断ち切れないように。
 飾りのない衝撃波程度じゃ、七結の身体を切り裂くことは叶わない。

「戦ごとだなんて、久しぶりだわ」

 猟兵である身分、戦いは日常茶飯事だ。
 忘却を恐れた少女と結びを契ったことも、百獣の王の背を借りて大切なおともだちと黒皇竜と凌ぎ合ったことも。
 鈴の音を鳴らした少女とも、心奥を照らす鏡の女神とも、問い掛けを好む賢竜とも。
 どれも戦いと言えば、戦いであり、七結にとっては忘れるはずもない記憶の数々である。
 しかし、戦。
 互いに後ろめたいことなど一切ない、純然とした前のめりな削り合い。
 なんだか随分と、久しい気がした。

「(……嗚呼。なんだか、心が踊ってしまうの)」

 騒いでいるのは、果たして鬼の血か人の血か。
 クララの助けもありながら、雷を纏う斬波や雷射を躱し、避けられないものは黒鍵をもって制す。
 手に馴染んだ得物は、大振りながらに卓抜とした軌道を描く。
 流れるような歩調。雷切丸は雷刀を構え、噴き出した闘気に従うかのごとく、七結目がけて駆け抜ける。

『――姫が拙者を待っている! ここで倒れては雷切丸の名折れというものだ!』

 その次元を異にする動きは、強襲する雷。
 今の雷切丸は、死にして雷そのもの。
 目で捉えることさえも、常人にはし難いほどだ。
 尋常ならば、これで詰みだ。
 ――ただしそれは、一対一の話であればの話であって。

「行きますっ!」

 敵の虚を突くように、クララが呪詛を唱える。
 目立たないように立ち振る舞い、虎視眈々と機会を窺っていたのだ。
 雷切丸からして、クララは雷を扱う魔女に過ぎない。
 実際のところは他にも魔術ぐらいはあるだろうとは睨んでいたものの、しかしこちらに踏み込んでこないのであれば構う必要も感じなかった。
 だが、ここにきて牙を剥くか……!

『邪魔をするなっ!』

 雷切丸を追うは、得体のしれない呪いだ。
 視覚も出来ないほどに曖昧で、同時に無視しがたいほどの存在圧を感じとる。
 ……三つ。
 呪詛の塊としか表現しがたきそれは三つあるようだ。
 だが、関係ない。雷切丸はその内一つを一切の澱みを滲ませない太刀筋で切り払う。

『捉えた――――……っっ!?』

 刀は間違いなく、呪恨を裂いた。
 襲い来る邪魔を除ける。しかし、その判断そのものが間違いだった。

『刀が……錆びるだと!?』

 呪詛を切り裂くや、刀が赤錆に蝕まれる。
 刀としての機能を失うまでは到達しなかったにせよ、しかし剣士にとっては致命的な一打だ。
 あの呪詛には、酸化の効果でもあったというのか!
 たまらず、残る二つの呪詛は鞘で払うも大きな一打を受けてしまったことに違いはない。

「もう一度、どうですか」

 同様の気配が再来する。
 前轍を踏むわけにはいくまい。
 雷をもって呪詛を掃射するも、息をつく間もなく殺気を前方より感じ取った。

「ナユのことも、お忘れなく」

 七結は黒鍵を手放せば、二つの残華を引き抜く。
 彼岸と此岸と。世上の二極を銘打った二振りを雷切丸に向けて振り払う。
 一撃、刀が弾く。二撃、鞘が防ぐ。重ねて三撃、体勢を変えて躱し、四撃、七結の手ごと払うことで場を収める。
 合間を縫ってクララの援護射撃が入るも、雷切丸は身体を逸らすことでいなす。
 驚嘆すべきは、これらを可能にする雷切丸の膂力や敏捷性だろう。
 雷切の異名に恥じない健闘である。

「それでも、たのしい時間は、そうも長く続かないみたい」

 いくら雷切丸が速さや手数を誇ろうと、限りがあった。
 いや、本来であれば、それを加味しても雷切丸の方に軍配が上がっていたかもしれない。
 しかし、合間に飛来するクララの援護に加え、今しがた雷切丸が相対するのは、蘭・七結。――毒と魅了の担い手。

『……これは!』
「ええ、ナユの毒はどうかしら」

 いかに雷切丸が卓越した実力をもち攻撃を捌こうと、刃を掠めることぐらいある。
 否、雷切丸には余裕がなかったのだ。七結やクララの間断のない連撃はそれほどまでに猛烈だった。
 他の敵であれば、掠めるぐらい良かったのかもしれない。
 切っ先を纏う毒が、雷切丸の身体を、心を喰らう。

『…………』

 不意に、雷切丸の動きが止まる。
 流れた毒の量は僅か。きっと麻酔のように、すぐに溶けてしまう夢をなぞっているだけ。
 終わりにするなら、今しかない。 

「そう、……姫様だったかしら。もう一度、逢えるといいわね」

 七結の言葉に反応して、一歩、二歩と、雷切丸が歩み寄る。
 夢想するように。
 ゆったりと。
 触れ合えるほどに近づいてきた雷切丸の手を取って。
 一緒に歩く。
 目指す先は、此岸の先に待つ彼岸。両世を結ぶように招いて。

「強いお方。ナユに誘われてちょうだいね」

 クララや逢瀬を巻き込むのは心苦しい。だからこそ、二人との距離を離して。
 世界を彩るように、念じる。
 〝あか〟い花化粧を。

「どうか美しく咲いて、散り果ててちょうだいね」

 牡丹一華の花時雨が雷切丸を照らし出す。
 愛するように、祈るように。
 七結の言葉にきっと嘘はなくて。
 ただ。
 それでも。
 雷切丸が願うは。目指すは。

『そうだ……拙者は姫様を救わなければ!』

 刀を握りなおす。
 花時雨は慈悲のごとく降り注ぐも、雷切丸は立ち上がり、七結の首を獲らんとねめつけて。
 そして。

「いいえ、終わりです」

 逢瀬の三池典太が、雷切丸の首を捕らえた。
 一瞬の裡に間合いを奪う神速の歩法からの一太刀――【地ヲ疾走ル】。
 逢瀬の修めた必滅の剣技。
 花の雨が止む。七結は雷の剣士を一瞥してから、前を向く。
 どうしたって、決着はついた。

「心まで邪に堕ちては、勝てるものも勝てません」

 正道と邪道、其の差は武術の基本となる唯一歩の踏み込みにも表れる。
 正邪を分ける最大にして最初の核は精神性。
 最後に見せた雷切丸の顔。
 あれを美しいかと表現するかどうか。

「小説だったら、どんな風に描写するんでしょうか」

 クララはぽつりと言葉を落とすも、切り替える。
 次は砦を守るべく、雇われ部隊と戦わなければ。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​




第2章 集団戦 『浪人』

POW   :    侍の意地
【攻撃をわざと受け、返り血と共に反撃の一撃】による超高速かつ大威力の一撃を放つ。ただし、自身から30cm以内の対象にしか使えない。
SPD   :    怨念の返り血
【自身の返り血や血飛沫また意図的に放った血】が命中した対象を燃やす。放たれた【返り血や血飛沫、燃える血による】炎は、延焼分も含め自身が任意に消去可能。
WIZ   :    斬られ慣れ
対象のユーベルコードに対し【被弾したら回転し仰け反り倒れるアクション】を放ち、相殺する。事前にそれを見ていれば成功率が上がる。

イラスト:箱ノ山かすむ

👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​

種別『集団戦』のルール
 記載された敵が「沢山」出現します(厳密に何体いるかは、書く場合も書かない場合もあります)。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


 雷切丸を撃退して半刻程。
 猟兵たちは砦の兵士たちとの交流を図ったり、散策などをしたりしていた。
 各々やっていたことに違いはあれど、織田信長軍を退けるという目的は一緒である。
 それゆえに敵襲の鐘が鳴れば、身体を起こさずにはいられない。
 やってきたのは数えきれないほどの浪人だ。
 敵の力量は然したるものではないが、数が数。
 砦の兵士の力をうまく使うのも、時には必要だろう。
 戦の続きが始まろうとしていた。
御剣・刀也
さて、次は浪人か
さっきの大将に比べれば物足りないが、お前らを蹴散らせば大将が出てくるだろう
その前の露払いにさせてもらうぜ

侍の意地でわざと攻撃を受けて反撃を打ち込もうとしたら、捨て身の一撃で反撃さえ許さず一撃のもと斬って捨てる
怨念の返り血で此方を燃やそうとしてきたら斬り口から返り血の方向を第六感で予測して返ってこない方向から斬り捨てる
斬られ慣れで大げさなアクションで回転し、仰け反り倒れたら動けないように踏みつけて日本刀で串刺しにする
「お前らごときじゃ食い足りねぇよ。もっと強い奴を連れてきな!」





 腹が減っては戦はできぬ。
 この言葉は真実の一側面をついている。
 しかし同様に、腹が満ち足りても戦はできない。
 そんなのは当たり前の話で、だから鮭のにぎりを頬張るのも程ほどに。
 ある程度腹を空かせていた方が、身体は存外によく動く。だからこそ、飢えた獣は恐ろしいのだろう。
 御剣・刀也(真紅の荒獅子・f00225)は警鐘を聞き届ければ、砦の正面に構え敵を待つ。
 見やれば遠方から刀をぶら下げたもののふどもが挙兵してくる。

「さて、次は浪人か」

 さっきの大将に比べれば物足りないが、お前らを蹴散らせば大将が出てくるだろう。
 意気込みを新たに、刀也も刀を抜く。
 煌めく刀身はただそこにあるだけで、獰猛な獅子が挙げる雄叫びのごとく敵を威圧する。
 もっとも、威圧するだけにとどめておくつもりもない。

「露払いにさせてもらうぜ」
 
 たんっ!
 快晴が続いていたのだろう。土の状態も申し分ない。
 軽快に駆け抜ける刀也は瞬く間に兵どもと接敵する。

「まずは一人」

 手近な浪人を切り伏せる。
 一閃。
 肉を断つ感触が刀越しに伝わった。
 ぬるい。所詮は出来合いの部隊か。
 こんなんじゃ身体が冷えちまう。
 まあ、数が数だ。退屈だけはしなくて済む。

『曲者めーっ! 出合え、出合え!』

 浪人が一人、声を荒げる。
 彼奴らに仲間意識などないと思われるが、それでも同士としての連携ぐらいは図れるようだ。
 荒げた一声に同調するように、散漫としていた浪人たちの視線が一挙に集まる。
 視線――殺意。数えるのも馬鹿らしいほど幾多の明確な敵意。

「くくく、そうでなくてはな!」

 押し寄せる刃を弾き、一息に懐まで入り込めば鳩尾に打擲を放つ。
 誰の目にも追いきれない超高速の一打に浪人は倒れるも、猛攻が収まるはずもない!
 一打を与えている間にも、背後、それに右方からも刀が迫る!

「おら! これでも味わいなっ!」

 ならば、と。
 頽れた浪人の顔を片手で掴み上げ――右回りに薙ぎ払う。
 手応えは二回。十分だ。
 目で追わずとも理解する。
 次は前から!

『たぁ――――!』

 薪を割るように、振り下ろされる一撃を見切る。
 身体の軸をずらし躱せば、刀也はお返しとばかりに袈裟懸けを振るう。
 軽く血を掃い、わずかに前進すれば刀を上段に構えた浪人が待ち構えていた。
 隙だらけだ。
 だからこそ、敵の狙いはおのずと絞られる。

「はは、捨て身というわけか」

 自ら身を厭わず、確実にこちらを殺すという強い意志。
 その心意気自体は嫌いじゃない。
 ただ、ただ一つ。彼奴は誤解している。
 ――死ぬ覚悟をもつぐらいで、得意げになられても困るというもの。

「俺とて決死の覚悟ぐらいある。反撃できるものならしてみろっ!」

 弓を引き絞るように限界まで足腰に溜めた力を一気に解き放つ。
 鍛え上げられた脚力から成る踏み込みは、さながら神風のような初速を叩きだす。

『うおおおおっっ!!』

 浪人は目を剥きながらも、それでも必死に食らいつこうと刀を振り下げる。
 上等。
 しかし、遅い!

「天武古砕流が一太刀、受けてみるがいい」

 頬を撫でる風の冷たさを感じ取りながら、獅子吼を水平に斬りつけた。
 真っ二つに切り裂かれた浪人を一瞥し、次なる敵を見定める。
 相も変わらず敵の数はまだ多い。
 だが、それにしたってなお。

「お前らごときじゃ食い足りねぇよ。もっと強い奴を連れてきな!」

 御剣・刀也を討つことだけは、どうやら難しかろう。
 刀也は修羅がごとく猛威を振るい続ける。

成功 🔵​🔵​🔴​

須藤・莉亜
「いっぱい来たなぁ。…めんどい。」
腐蝕竜さん、全部食べちゃって。

UCの世界喰らいを発動。巨大化させた腐蝕竜さんに全部食べてもらおう。

他の人の邪魔になるといけないし、周囲を確認してから腐蝕竜さんに攻撃してもらう。

僕は血を捧げて強化したLadyでちまちま狙撃しとこうかな。僕の近くまで来た敵さんは、悪魔の見えざる手でぶん殴っとこう。
【見切り】や【第六感】、悪魔の見えざる手での【武器受け】を駆使して攻撃を回避するのも忘れずに。

「メインディッシュはこの後かな?楽しみだねぇ。」
おっと、油断は禁物かな?





 すぅ、はぁ。
 須藤・莉亜(メランコリッパー・f00277)の口元から一筋の煙が昇る。
 戦いの場で吸う必要もあまりないのだが、つい手癖で興じてしまう。
 衝動を抑えるための枷――であるはずなのだが、最近は休肝日に悪い夢を見てしまうのだから始末が悪い。
 あるいは、こういうのを寝覚めが悪いだなんていうんだろうか。まあ、しようもない話か。

「いっぱい来たなぁ。……めんどい」

 煙草を落とし、靴でにじる。
 溜息を零して来たる外敵を見渡す。
 数を数えるのも馬鹿らしい。なんだってかまわない。
 突き詰めれば、雑魚の数がどうであろうと、別にどうだっていいのだ。

「腐蝕竜さん、全部食べちゃって」

 莉亜の周囲の空気――違う、なにかもっと概念的かつ致命的なもの、そう、例えるなら【世界】そのもの。
 その世界が歪む。人が肉を食べるように、莉亜は世界を喰らう。
 世界を蝕むことで、腐蝕竜と呼ばれた存在は次第に大きな形となって現れる。
 腐蝕竜。
 生ける屍。竜の成れの果て。
 ただしそうはいっても、莉亜の呼び出した存在が竜であることには違いなく。

「おぉ、張り切ってるねぇ」

 腐蝕竜は押し寄せる浪人どもを蹴散らしていく。
 竜なりに他の猟兵を配慮しているのか、どこか窮屈そうにはしているものの、強大さに変わりはない。
 世界を代償にするだけの力を、腐蝕竜は宿している。
 喰らう、喰らう、喰らう。
 腹を空かせた子供のようだ。

『…………! ……! ものども! ひ、怯むな! 斬れ! 斬れっ!』

 生ける屍のいう性質を持つ腐蝕竜というだけで手を焼くというのに、それが巨大化していると来た。
 数がどうであれ、所詮は浪人。成す術もない――かと思われたが、ある時から攻めの方針が変わっている。

「へぇ……返り血が燃えるんだ」

 引きちぎられた箇所から、あるいは自傷することで流れ出た、浪人から溢れる血が、竜に付着することで燃え上がる。
 めらめら。そんな音が鳴っていた。屍を相手に、荼毘に付す戦法は一見して正しいようにも思える。
 お利口さんなことだ。
 でもそれはやっぱり、腐蝕竜がある程度小さければの話で。
 意に介した様子もなく、腐蝕竜は傍若無人の限りを尽くす。

「僕も頑張らないとなぁ」

 莉亜は契約を交わす精霊(?)に血を捧げ、愛銃――白亜を誇る対物ライフル【Lady】を取り出した。
 砦から出て左手側の岩陰に隠れるようにして、伏射の姿勢をとる。
 どぅん、どぅん! 白き貴婦人は低く唸り、着実に一人ずつ屠っていく。
 精霊の加護により底上げされた威力を前に、浪人が原形を留められるはずもない。
 一撃必殺。
 動きに制限を課すだけの力を秘めている。
 ただ、動けない弱点を突いてくる芸達者も当然いた。

『屍を弄する悪鬼め! 死ねぇぇ!!』

 浪人が一人、莉亜を目がけ切り込んでくる。
 腐蝕竜を掻い潜り、莉亜の射線からも逃れたのであれば相当なものだ。
 それでも、ここでこちらも斬られるわけにもいくまい。
 莉亜は、契約するもう片方の悪魔に願いを託し――。

『ふべばっ!?』

 殴ってもらう。
 もう一回殴ってもらい、最後に【奇剣】にてとどめを刺してもらった。
 【悪魔の見えざる手】――透明な半存在。意識の外から迫りくる脅威に、浪人は対応できずに成すがままに沈んでいく。
 まあ、こんなものか。
 ここはあくまで前菜。話を聞けば、どうやら本命はこの先にいるそうだし。

「メインディッシュはこの後かな? 楽しみだねぇ」

 おっと、油断は禁物かな?
 ほどほどに自戒をしつつ、周囲に警戒しつつ、莉亜はちまちまと攻撃を続けていく。
 腐蝕竜が台風さながらの猛威を振るったのは、もはや言うまでもない。

大成功 🔵​🔵​🔵​

四宮・かごめ
(どかーん)
砦斜め前方。視界を邪魔せず飛び道具が届く距離に、
広大な竹林が出現していた。
(どかーん)
また拡がった。どうやら時間いっぱいまで竹林を拡げていたらしい。

「……。にんにん」
そう呟いて、かさりと入っていく。
どうやら自分の得意な地形の中を逃げ回りながら
敵を迎撃するつもりらしい。

「【投擲】で砦に近づく敵の頭部を打ち据え応戦。
竹林内を絶えず動き回り居場所を変える。
痺れを切らして踏み込んだ敵は【ダッシュ】と【逃げ足】で大きく引いて誘い込み、【地形を利用】して分断
孤立した敵に【目立たない】と【迷彩】で近寄り【暗殺】を仕掛ける。
一飛び千里の醜女も筍の前には膝を折る。
四宮湯津津間陣、とくとご賞味あれ。」





 四宮・かごめ(たけのこ忍者・f12455)は忍者である。
 ――なんてことを改めて語る必要もないかもしれないが、やはり忍者が白昼堂々姿を晒すのも無体というものだ。
 剣士には剣士の生き様があるように、忍者には忍者に相応しい生き方がある。
 闇に溶けこみ隙を突く。これこそまさに忍びの代表格。お手本――ともいう。
 ただ、この開けた土地でなんとする。砦の兵士どもも後ろから眺めては首を傾げたものだが、答えは案外率直で、かつ直接的だった。

 どかーん。

 砦の斜め前方。物見櫓からの視界を邪魔しない範囲で創製されるは、見事な竹林である。
 青々としたした、それはそれは立派な竹林。
 微風が撫でれば笹が鳴る。途端に溢れるは竹のさっぱりとした香り。
 竹に囲まれたこの光景は、身体によく馴染む。
 続けざまにかごめはおなじ印を結べば、またしても地面から新たな筍が息吹き――。

 どかーん。

 竹林はまた拡がった。
 満足げに頷けばもう一回、もう一回、と。
 かごめはどうやら時間いっぱいまで竹林を拡げていたらしい。
 土地を制する者が、戦いを制する。
 名高い戦士や軍師たちの功績を辿れば、自明の理として浮かび上がろう。
 戦いの下準備に目途が立ったあたりで、ちょうど敵襲を知らせる鐘が響く。

「……。にんにん」

 かごめはそう呟いて、かさりと竹林へと入っていく。
 勝手知ったる様子で、敵を要撃するに適した陣取りを一旦済ます。
 経路の確保も、退路の準備も、万事支障なし。戦の始まりだ。

「――!」

 拾い上げていた石を握った。変哲もない無骨な石だ。ただそれだけに、当たれば相応に致命だとなろう。
 かごめと敵軍との距離は二〇間以上あろうか。常人では敵方の表情も窺えないほどの距離に向け、狙いを絞る。
 見切りをつけること半秒足らず。
 静かに振りかぶって投擲する。
 しゅん、と風を切る音とともに飛来する印字はものの見事に敵が一人の頭蓋を砕く。

『何奴! 皆の者警戒しろーっ! 敵だぁー!』

 一見して信頼関係などなさそうに見える浪人どもであれど、背中を託す相手に違いない。
 それなりの連携ぐらいは取れるのだろう。浪人の一人が警戒を促すように声を大にする。
 さて、浪人はあれほどの数がいるのだ。
 いかに不意を打って見せても、飛礫の射点を目撃したものもいると推測できる。
 雷切丸にそうしたように、今回も敵を錯乱すべく動き回るとしよう。

「にん、にん」

 華奢なかごめの肉体から放たれたとは到底思えないほど、ぐんと速度の乗った印字は、兵のことごとくを打ち砕く。
 見やれば、射点を見極めきれない浪人たちでは投石に対処しきれないようだ。
 闇に溶ける甲斐もあるというもの――。
 とはいえ、高をくくるわけにもいかない。
 正確なかごめの居所が掴めなくても、目の前にいかにも怪しい竹林が植え拡がっているのだ。
 まもなく、敵はこちらへ襲来してくるだろう。事実、かごめの懸念は現実となる。

『曲者め、大人しく出て参れ!』

 浪人は十数人と押し寄せる。
 これを一網打尽にする方法がないかと問われれば、ある。
 ただ、確実を取るのであれば、一人ずつ順に始末をしていくのが利口か。
 痺れを切らして思考の鈍った敵を弄するのは、そこまで難しくもない。
 ゆえに――。

「やや、我が名は四宮・かごめ! 帯刀するもののふどもよ、それがしがお相手致そう!」

 わざとらしく見栄を張りながら、集団の前へと躍り出る。
 果然、突き刺さる幾つもの殺気に背を向けて――かごめは走り出す!

『逃げるでないわーっ!』

 敵の数々は声を荒げながらこちらを追跡する。
 時に振り返り、袂に仕込んだ小石を投げることで敵を欺いたり、深い竹藪の中に敢えて潜り込んだりして、敵をどんどん撒いていく。
 そも、真相不明の権化である竹藪を舞台にして、闇に溶け込むかごめを捉えることなど、どのように浪人が成しえようか。

『どこへいった、小童!』

 辛うじてかごめについて回った、最後の一人も、とうとうかごめの姿を見失う。
 右と、左と。様々に視線を向けるも、的外れ。今浪人から見てかごめは、背後から忍び寄っていた。
 さながら空気のように。
 そこにいるのが当然であるように。
 気配を消し、姿を迷彩のように背景へと移しこみ、腰に下げた黒打の鉈【腰鉈】を握れば。

「終わりでござる」

 音もなく、刃を振り下ろす。
 浪人は断末魔もなく息絶える。
 それでよい。残りの浪人どもも、この調子で順々に片付けていこう。

「――次は、あちらでござるか」

 感じ取った気配をもとに、かごめは足音もなく姿を消す。
 げに恐ろしきは、かごめの秘中の技、【忍法四宮流・筍退き】にある。
 かの一飛び千里の醜女も筍の前には膝を折るというものだ。

「さあ、四宮湯津津間陣、とくとご賞味あれ」

 かごめの手管は藪の中。
 竹藪の外に漏洩すること一切叶わず。
 始末の始終は、闇に終わる。

成功 🔵​🔵​🔴​

比良坂・逢瀬
どうやら先の雷の剣士ほどの手練れは居ないようです
しかし数に物を云わせた進行は単純で在るが故に脅威ですね
数で劣る私達が此の浪人達を退けるには、畢竟、一騎当千の働きが必要になる訳ですから

其れでは、ひとつ英雄豪傑の如き無双の戦働きをして見せましょうか
生憎と砦に籠っての籠城戦は趣味では御座いませんしね

一足先に敵陣に斬り込み、強襲を仕掛けて、その進軍の足並みを崩せるだけ崩して御覧にいれましょう

風を踏み、自在に宙を翔ける《空ヲ疾駆ル》
更には<ダッシュ>と<ジャンプ>で敵陣の直中を脚を止めずに風の如くに駆け抜けて、目に付く者を片端から電光石火の<早業>の太刀を持って斬り捨てます





 おそらく、という話にもなるが、一般に剣の道とは、言葉に反して剣を振るえばそれで済むわけではない。
 彼我を見極める。相手と自分とを識る。これこそまさに武道の極致だ。
 いかに剣を速く振るか、だけではなく、自分は如何ほどに速さを出力するれば、敵を斬れるのか。
 この判断できずして、道を修めたとは言い難い。――はずだ。
 新陰流の本願が何であろうと、やはり何事にも土台となる価値観が敷かれていよう。

「(どうやら先の雷の剣士ほどの手練れは居ないようです)」

 比良坂・逢瀬(濡羽色の令嬢・f18129)は群れを成す浪人どもの様相を観照する。
 結果導き出した答えを吟味し、万が一にも見誤りがないよう再度値踏みを始めた。
 ひとつ、ふたつ、みっつ、と。
 そつなく、かつ迅速に。順々に浪人が佇まいを観察すれど、目測は変わらない。
 個々の能力は、大したものでもなさそうだ。
 ただ、一方で懸念すべき事項もあった。

「(しかし数に物を云わせた進行は単純で在るが故に脅威ですね)」

 敵の数。
 行軍してくる浪人の数は、億劫になるほど。
 数とは力だ。そして当然、より高い力が戦場を支配する。
 敵が当然の理法に則るというのならば、こちら側も極々普遍な理に乗じるまで。

「数で劣る私達が此の浪人達を退けるには、畢竟、一騎当千の働きが必要になる訳ですから」
 
 戦力壱のものが百いるんだとしても、戦力千の埒外を牽引すればいいだけのこと。
 なんてことはない。おそらくは――少なくとも今存在が知られている世界であればどこであれ通用する、全うな真理だ。
 難点を挙げるとするならば、千の実力を発揮できるほどの猛者がどれほど存在できるかという点であろうが。
 されど、その点に関していえばまるで心配していない。
 ここに集った猟兵はみな、一騎当千を名乗るに足る実力を備えている。むろんのこと、逢瀬とて。

「其れでは、ひとつ英雄豪傑の如き無双の戦働きをして見せましょうか」

 生憎と砦に籠っての籠城戦は趣味では御座いませんしね。
 心の内でくすりと微笑めば、鯉口を鳴らす。
 ちゃきん――。
 涼やかな音と同時に、逢瀬の形が消える。

『……。……。――――っっっ!?』

 刹那。
 逢瀬の姿は、敵軍の只中にあった。
 死電の剣士を討った時にも披露した、瞬時に距離を零に帰す神速の歩法――【地ヲ疾走ル】。
 剣の腕は時に、足さばきの腕と同義となることもある。剣の基礎にして支柱。
 ここまで歩法を極めた逢瀬の前に、所詮は不埒者の刀など恐るるに足らず。
 一抜きに払った太刀筋は、複数の浪人を捉えた。

「まだ!」

 強襲は続く。
 血を掃う暇も惜しい、そんな気概を感じさせるほどの連撃。
 その猛攻はさながら三面六臂が阿修羅のごとく。
 流麗なる太刀筋の元切り伏せられる浪人どもは、どれを見ても一撃で命を絶たれている。

『小娘風情が嘗めるでないわっ!』

 とはいえ。
 敵とていつまでも呆然と立ち尽くしているわけでもない。
 殺気は背後から――!
 瞬時に気配を捉えれば、目を配らせることもなく、逢瀬は前方目掛け、大きく跳んだ。
 飛びかかるようにして地面を蹴り上げる。
 同じ要領で、もう一度、【風】を踏み台に大きく踏み込む!

『馬鹿なっ! 空を飛ぶなど!』

 実体など存在しないはずの風を踏めば、逢瀬の身体は速度を伴い舞い上がった。
 まるで宙さえも足場であると言わんばかりに、逢瀬は縦横無尽に駆け巡る!
 これこそ、逢瀬の第二の歩法。【空ヲ疾駆ル】。
 もはやここまで達すれば、足さばきも神業に近しい。
 足を止めることなく、動き回っては敵方を翻弄する。

「手が疎かですよ」

 動きの鈍った敵の後背を刃が通る。
 居合は頭上からの攻撃に対処できないと指摘されることもままあるが、本来あれは居合に限った話ではない。
 滞空する敵を仕留めるための武芸など、限られている。
 無理を押し通して刀をおもちゃのように振り回そうと、そんな児戯はむしろ格好の的だ。

『ぬぅ――――!』

 大振りなのはわかっている。見るに堪えない構えなのもわかっている。
 それでも浪人どもは刀を振るわずにはいられない。成す術もなく消え去るわけにはいかない。
 ただ、反抗のことごとくは、逢瀬が太刀を前に断ち切られていった。

「はぁぁ!」

 今の逢瀬は風だ。人をも切り裂く、かまいたちだ。
 疾風と化した逢瀬は返り血すらも浴びることなく、敵陣の只中で暴れまわる。
 目に付く者を片端から電光石火の<早業>の太刀を持って斬り捨てていく。
 疾風は音もなく、敵の急所を次々と撫でていく。

成功 🔵​🔵​🔴​

クララ・リンドヴァル
あ、あの……怪我をしたら、無理をせずに後ろに下がって下さいね。
なるべく沢山の人に、生きて帰って欲しいですから。

方針:弓兵を10名程率いた小隊を指揮。味方の支援に特化します。
眼鏡をかけ、予め【視力】を確保しておきます。
自分は敵の密集した場所に【全力魔法】を撃ち込み、弓兵には好きに射てもらいます。
【戦闘知識】で戦いの流れを読み、味方が押されていると判断したら、重点的な【援護射撃】を行います。【高速詠唱】で速さを重視した攻撃を撃ち込み、続いて弓兵隊にも斉射して貰います。

【拠点防衛】の手段として、アストラル・ダブルを発動。同じく弓兵隊を率いて貰い、二人で自軍の右端と左端に展開。両翼から味方を支えます。





 静寂は好きだ。
 引っ込み思案で、平時に至っては声も小さい閉鎖的な魔女。
 それがクララ・リンドヴァル(本の魔女・f17817)を象る一面である。
 ただ、一方で。
 相談事の窓口は開いている。
 保守的を自認する彼女を頼みの綱とし、依頼ごとは殺到していた。
 秘めたる能力もさることながら、クララであれば何とかする、そんな気概を買われているのかもしれない。
 少なからず今、請け負った依頼を成し遂げようと奮闘する。

「はい、ではそのような形で。はい、はい。改めてよろしくお願いいたします」

 砦の元締めの許可を得て、クララは弓兵を二十ほど拝借し、今後の立ち回りについて話し合う。
 弓兵たちはいずれも柔軟に対応してくれる。優秀だ。
 これといった面倒事が起こることもなく、順調に会議は終わり、所定の配置についた。
 クララは砦の屋上――その左翼に構える。
 引き連れた兵士の数は十。規模でいえば控えめな小隊だが、いずれも腕に問題はない。
 味方の支援をするのには、十分すぎるぐらいだ。
 とはいえ、油断は禁物。

「あ、あの……怪我をしたら、無理をせずに後ろに下がって下さいね。なるべく沢山の人に、生きて帰って欲しいですから」

 おずおずと小隊の皆に語り掛ければ、任せてくださいと力強い返事が返ってくる。
 頼もしい限りだ。クララと小隊の面々とは、顔を見合わせ一度頷きあう。
 意思の疎通は完璧。あとは来たる敵を退けるのみ。
 眼鏡を掛け、いつもよりもくっきり映るクララの視界の先に敵軍が現れる。

「来ましたね……!」

 次々と出現する浪人どもが影。
 猟兵の面々は迫る脅威に対応すべく力を奮っていく。
 俯瞰的に戦況を把握するクララからしてみても、圧巻と言わざるを得ない猟兵の猛撃。
 瞬く間に、邀撃を味わい困窮する浪人どもではあるものの、猟兵たちも全てを敵を漏れなく討てるわけではない。
 ――そんなこと、想定済みだ。だだっ広い開けた場所を戦場に据えている時点で、どうしても生じる問題なのだから。
 まずはあそこ。戦場で戦う猟兵を追い詰めんと進軍する浪人の塊に狙いをつけた。

「……いきます!」

 魔力を練り上げ、掌に込める。
 熱い、熱い。内なる熱が掌に集中していく。
 直に熱は炎と化し、手の中で灼熱を生む。準備は整った!
 指揮者のように腕を大きく振るえば、軌道上に幾多の矢――炎の矢が錬成され、敵に向かい射出する。

『な、何奴っ!?』
 
 矢の猛威から免れた浪人が一人、突如降りかかる火の粉に慌てた様子で周囲を探る。
 矢の軌道からして出処は上方向、前方、――砦の上か!
 急ぎ標的を定めんと見上げた先にそれがあった。
 矢だ。矢の波だ。数え上げればたった十本の矢に過ぎない。
 しかしそれでも、浪人は押し寄せる大波を想起する。嗚呼、この一矢で死ぬ、直感めいて死を感じ取ってしまったから。
 最後に映すは、鉄製の矢じり。直後、額に冷たい衝動が突き抜けた。

「……さて、どちらかといえば、右方の守りが薄いようですね」

 身に着けた戦闘知識で、戦況を観る。
 今、クララがいる左方とは反対側の守りが薄いように感じられた。
 念には念を入れ、援護すべくクララは魔法を右方に向けて解き放つ。
 とはいえ。
 戦場の趨勢がどうなっているか、右翼の守りを担当する猟兵も分かっているはずだ。
 何せ右翼の担当は他ならぬクララ・リンドヴァル――その分身なのだから。

「予想通り、こちらの守りが弱いと踏んだようですね」

 ところ変わって、砦の右翼、その屋上。
 クララと瓜二つな分身と、左翼と同様に弓兵十人が守りを務めていた。
 比較的攻勢が緩い右方に流れてくる浪人どもの流れを感知すれば、敵を一掃すべく魔法を解き放つ。
 雷の矢が、転がり込んできた浪人たちを貫く。雷の怖さは、きっと浪人たちも理解しているに違いない。
 悲鳴を挙げて逃げ出すも、逃すわけにはいかない。

「一斉発射、お願いします!」

 指示を出せば、右翼を守る兵士たちは同時に弓を引き絞り――今しがたクララが魔法を放ったあたりに狙いをつけて斉射する。
 矢の多くは深々と浪人の数々に突き刺さり、死を招く。
 順調だ。この調子でどんどん数を減らしていこう。
 クララは全力で魔法を唱えつつ、両翼から支援と掃討を進める。
 平穏な時間を取り戻すために。

大成功 🔵​🔵​🔵​

メンカル・プルモーサ
……折角砦があるのだから強化はしないとね……
半刻の間に何処まで出来るかだけど……砦の人達と話して…攻め込まれそうな場所に
・【愚者の黄金】によるバリケードの作成
・【支え能わぬ絆の手】により地面の土同士の摩擦を減らす事で作った落とし穴
・遅発連動術式【クロノス】による、爆破術式を連動させた地雷
この辺りを中心とした罠を多数配置……
……これらによる足止めの間に砦の兵士達には砦から弓などによる射撃をして貰って援護して貰うよ…
…その間に私は【起動:応用術式『拡大』】を用いて攻撃範囲を視界内に拡大……
……【尽きる事なき暴食の大火】により●怨念の返り血の炎諸共浪人達を燃やしていこう……





 今回の戦では乱戦が予想されている。
 幾ら兵士が有能とはいえ、主たる戦力はどうしても猟兵たちだ。
 猟兵の数は限られている。各猟兵たちがどれだけ猛攻を重ねようと、どこかしらに穴は出る。
 戦力の偏りはどこかしらで生じるものだと考慮しておくべきだ。
 果然、猟兵たちの目を掻い潜り、砦の付近にまで辿りついてしまう敵も出てくるだろう。
 そうなった時の対策も、やはり必要である。

「……折角砦があるのだから強化はしないとね……」

 メンカル・プルモーサ(トリニティ・ウィッチ・f08301)は敵が襲撃してくるまでの間に何を出来るか考える。
 余計な決めつけはしない。研究にしろ戦略にしろ、思考はあらゆる方角から執刀するべきだ。
 砦の指揮官とも話を交わしながら、正確に状況を掴んでいく。
 情報を得た結果、砦の後面――雷切丸がやってきたのとは反対側からの攻めは薄いと思われる。
 立地の関係上、敵は不遜にも堂々と前面から攻め込むだろうというのは、指揮官の言だ。
 メンカルも周辺地図を、見させてもらったが、妥当なところだ。
 ひとまず火急の対策は、砦の前面の守りを固めることか。

「ふむ……じゃあひとまずは」

 入り口付近にメンカルは立つ。
 味方の邪魔をしない範囲で、敵を妨害する方策。
 様々に候補はある。メンカルは思考の末に呪文を唱えた。

「世に漂う魔素よ、変われ、転じよ。汝は財貨、汝は宝物、魔女が望むは王が呪いし愚かなる黄金」

 唱えて現出するは黄金――黄金の障壁だ。
 正面の大きな門扉から続く歩道、その少し離れた場所に構える。
 単純にして明快な護り。明朗であるからこその強みが、黄金の壁にはある。
 兵士たちは砦の右翼と左翼、両の末端にある非常扉から出てくれればいいだろう。

「繋ぎ止める絆よ、弱れ、停まれ。汝は摺動、汝は潤滑。魔女が望むは寄る辺剥ぎ取る悪魔の手」

 次いでメンカルが行使し、創造するは落とし穴だ。
 猟兵が誤って踏まないように、障壁の周囲に留めてはいるものの、幾つもの落とし穴が瞬時に作り上げられる。
 これもまた、防衛術、罠としては基礎中の基礎。――当然、敵だって罠の警戒ぐらいはしていることだろう。
 ただし、落とし穴と侮るなかれ。メンカル印の落とし穴の構成は普通のそれとは異なる。
 地表から地中深くまでの、土と土との摩擦係数を極限まで減らし、僅かな衝撃で奈落の底まで滑落する造りとなっていた。
 それも、一見して何の細工も施されていないように見えるのだから、その出来の良さには唸らざるを得ない。

「まああとは……こういうのとかも……」

 今の技術を転用しつつ、遅発連動術式【クロノス】による、爆破術式を連動させた地雷を拵えたり、と。
 罠という罠が砦の正面に展開される。至れり尽くせりだ。
 踵を返し、猟兵の面々や指揮官、兵士たちに罠の説明をしていたところに、いよいよ敵襲を知らせる鐘が鳴る。

「さてさて……」

 メンカルは指揮官から預かった弓兵を引き連れ、砦の屋上、その真ん中あたりに陣を取る。
 ここからならば、戦場を俯瞰的に一望できた。丁度いい。
 すでに戦闘は展開している。腐蝕竜が暴れている姿や、謎の竹林、剣戟を振るう剣士たちの姿も捉えた。
 そして当然、敵の行軍を見逃すはずもない。

「……むー、やっぱりくぐり抜ける奴は出ちゃったか」

 幸か不幸か。
 暴れる猟兵たちの凶刃を逃れ、砦の近くまで辿りつく浪人は何人か現れた。
 とはいえ、だ。
 メンカルの施した細工の影響で正面門の近くはこの戦場の中でも指折りの危険度を誇っている。
 これを掻い潜るのは相当な豪運を発揮するか、死をも覚悟する無理をしなければならない。
 ……いや、いずれにしたところで。

「この砦を落とされるわけにもいかないからね……」

 それ以上の進軍を許していいわけがない。
 罠で仕留めきれないというのであれば、自分の手で下すまで。
 引き連れてきた数人の弓兵に、罠を掻い潜ろうと前進する浪人の足止めを頼む。
 流石に訓練しているだけのことはある。
 卓抜とした精度で放たれる一射を前に、浪人の足は止まった。
 撃退するなら、今。

「魔女が望むは膨れ逃さぬ天の網――続けて、貪欲なる炎よ、灯れ、喰らえ。汝は焦熱、汝は劫火。魔女が望むは灼熱をも焼く終なる焔」

 【アルゴスの眼】の奥――青玉のごとく眼と【拡大】を司る魔法陣が対照する。
 普段の出力であれば、いささか不安を覚える距離間ではあるけれど、今なら大丈夫そうだ。
 魔法陣による加護をその身に受けながら、メンカルは産み出した白き炎を浪人どもに送り出す。
 白――その色から想起する印象とは異なり、炎はすべてを塗りつぶすかのように接触した敵を燃やし尽くす。
 血も、血が変化して生まれる炎も一緒くたに、すべてを薪にして炎上する。

「……あそこら辺の敵も邪魔になりそうかな?」
 
 ひとまず、正面扉の付近に屯していた浪人がすべてを燃やし尽くしたメンカルは、拡大の恩寵を受けたまま、周囲を見渡す。
 徐々に減っては来ているものの、やはり猟兵の数に対して浪人の数は多すぎる。
 可能な限り減らして行けるように、メンカルは再び魔力を焚き付けるのであった。

大成功 🔵​🔵​🔵​

蘭・七結
あたらしい勢力のおでまし、ね
ナユの愛しの和国
この世界が乱れ狂ってしまうのは、イヤよ
もう一度、色鮮やかに染まってちょうだいな

黒鍵の斬首刀を手に、兵士の方々と連携を
毒を纏った切っ先で、対する彼らに狙いを定める
立ち塞がる敵の動きを、じいと見切って
倒されたふり、というものかしら
なんて、愛らしい動きなのでしょう
ナユの目を誤魔化すことは、できないわ

狙いはとりどりの敵の群れ
呪詛の花びら、退魔のひかり
あなたの流した涙の色
透明な色の、ひとひら
ねえ、みて。こんなにも美しいわ
どうか美しく、咲いて魅せて
〝ほうき星の涙〟

戦場に、色を添えて
透きとおる〝青〟を咲かせて
ナユから、あなた達への贈りもの
美しく散ってちょうだいね





 印象的なあかい羽織の通り、蘭・七結(恋一華・f00421)にとってこの和国は思い入れのある世界のひとつだ。
 風情と陽気とが織りなす世界に、爛漫と咲く牡丹一華は自然に溶け込んでいる。
 この世界はナユの愛しの和国――かあさまの故郷。だからなのか。はたまた違う理由があるというのか。

「この世界が乱れ狂ってしまうのは、イヤよ。もう一度、色鮮やかに染まってちょうだいな」

 あたらしい勢力のおでまし、ね。
 七結は嫣然と微笑いながらも、断とした口振りで迫る浪人どもを退けんと立ち向かう。
 敵をじいと見つめれば、黒鍵の斬馬刀を握る。

「兵士の方々も、協力のほどよろしくお願いね」

 七結の言葉に、それぞれ刀や槍を帯びた兵士たちは力強く頷いて返す。
 猟兵たちの事情も様々にあろうけれど、自分が住まう世界――もっと狭く土地と言ってもいいかもしれないが――を守りたいという決意もまた、本物だ。
 そのため、兵士たちも惜しみなく七結に力を貸してくれることだろう。
 ……。一時の夢も見せずに猟兵以外の者と協力するのも、なんだか久しい気がして、少し可笑しい気持ちが込み上げる。
 いや、笑ってばかりもいられまい。

「それじゃあナユと一緒に舞いましょう」

 斬馬刀を翳せば、浪人の方から切り込んでくる。
 驕りのない実直な太刀筋。剣術の基本に則った、芯の通った足さばきをもって織りなされる剣舞はひとつの舞台のようだ。
 しかし嘘の少ない剣筋は、翻せば見切るのも容易いというもの。
 ましてや、迅雷を体現する剣士のあとだ。
 実際にはそれなりの速度で振るわれていうる太刀も、遅くさえ感じる。
 じいと剣さばきを見つめながら、ひらりひらりと身体を逸らしたり、大鍵の柄で受け流したりしながら躱しきった。

「今度はこちらの番ね」

 一度力を込めて黒鍵を薙ぐ。
 肉体を断たんとする一閃、浪人は刀を盾に防ごうと試みるも、七結の放つ横合いからの一撃が勢いの分力は上回る。
 弾かれた刀はくるりと一回転してから地面に転がった。
 刀は武士の魂――いや、そんな言葉を持ち出す必要すらないほどに、浪人が一人の命は尽きようとしていた。
 七結は手首を返し、即座に黒鍵の軌道を変幻自在に修正し、撫で斬りする。
 目を瞠るほどの連撃に、刀をもたない浪人が防げるはずもない。まずは一人、討ち取ったか?
 浪人の腹から胸にかけてあかい花が咲き誇る。低いうめき声をあげながら、大袈裟にも回転し仰け反り倒れた。

『…………』

 倒れた浪人はぴくりとも動かない。
 ただ、それでも、七結が感じ取った手応えの薄さ。
 これを思えば浪人は未だ息をしているはずだ。
 倒されたふり、というものかしら。なんて、愛らしい動きなのでしょう。
 見下ろしながら、奪罪の黒鍵を突きつけて。

「でもナユの目を誤魔化すことは、できないわ」

 ぴたり。
 黒鍵の切っ先が、仰向けに倒れる浪人が喉に触れる。
 凝視してみれば、確かに胸が上下しているのが見て取れよう。
 しかし状況が瀕してなお、浪人が起き上がる様子はない。――違う、起き上がることができないのだ。

「ナユの毒……どうだったかしら」

 問い掛けて、わずかに力を籠める。
 斬られた際、毒に蝕まれた浪人に成す術はない。
 ささやかな肉の感触を触れたところで、七結は毒を纏った黒鍵を払う。
 そこで七結の視線は前に向く。
 七結から離れたところで、兵士と浪人とか鎬を削っている。
 一進一退の攻防。手助けをしたいところではあるが、どうやら七結の獲物は他にいるようだ。

「……次の相手ということね」

 新たに現れた浪人の集団。
 兵士の人数に余裕はない。必然、あの集団は七結が引き受ける必要がある。
 敵もこちらに気付き、意気揚々と悪鬼の形相を浮かべ駆けてきた。

「随分と生き急ぐこと」

 狙いはとりどりの敵の群れ。
 黒鍵を手放せば、次第と青白の花化粧と化す。
 呪詛の花びら、退魔のひかり。
 思い出の青き君――勿忘草、そして純潔の白き君――霞草が舞い踊る。

『――……なんだ一体!』
「これはあなたの流した涙の色、透明な色の、ひとひら」

 ねえ、みて。こんなにも美しいわ
 七結は語り掛けるも、いずれの浪人も解せない面持ちを崩せない。
 涙――。
 修羅に堕ちてこの方涙など落とした記憶もない。
 こんな壮麗な涙なんてものは、畜生風情に堕ちた我々にも似つかわしくない。
 わからない。何を言っているんだ。
 だけど、どうしてだろうか。
 目が、離せない。青が――白が――侵食する。

「どうか美しく、咲いて魅せて」

 言葉を最後に、花々が浪人どもを傷つけ始める。
 戦場に、色を添えて。
 透きとおる〝青〟を咲かせて。

「ナユから、あなた達への贈りもの」

 美しく散ってちょうだいね
 花々が咲き誇る裏で、浪人どもの命は散っていく。
 青色が、浪人たちの頬を伝った。

成功 🔵​🔵​🔴​




第3章 ボス戦 『零輪・破旺丸』

POW   :    次元撃
単純で重い【一撃必殺を重んじた流派による奥義 】の一撃を叩きつける。直撃地点の周辺地形は破壊される。
SPD   :    奥州旋風剣
【六本の刀を使った斬撃エネルギー 】を放ち、自身からレベルm半径内の全員を高威力で無差別攻撃する。
WIZ   :    過去からの模倣
【過去に死亡した剣客の技を真似た技 】で対象を攻撃する。攻撃力、命中率、攻撃回数のどれを重視するか選べる。

イラスト:影都カズヤ

👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​

種別『ボス戦』のルール
 記載された敵が「1体」出現します。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※このボスの宿敵主は💠ステラ・クロセです。ボスは殺してもシナリオ終了後に蘇る可能性がありますが、宿敵主がボス戦に参加したかつシナリオが成功すると、とどめを刺す事ができます。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。




 浪人たちの数は見る見るうちに減っていき、もはや脅威とも言えないほどの数となった。
 だが、戦いはまだ終われない。真打は遅れてやってくる。

『あーん? こりゃあひでぇ』

 深紫の着流し、紅色の髪。
 これが事前に聞かされていた、正体不明の剣豪か。
 浪人どもと戦っていた戦場に、のらりくらりとやってくる。
 転がっている浪人どもから刀を巻き上げながら、この場に集った猟兵たちへそれぞれ視線を向けていく。

『ああ、そういう』

 けらけらと笑う。
 口ぶりは軽い。
 物事を重く受け止めていないのだろうか。
 着流しの男が何を思っているのか定かでないにしろ、注意せねばなるまい。

『まあいっか。俺は俺のやり方でやるまでさ』

 見るものが見れば、男の立ち振る舞いは非常に不可解に思ったことだろう。
 軽薄な態度――そのことではない。
 男の構えだ。男の構えがなにやら奇妙なのだ。
 ある一瞬は、名高い剣士の型を想起する。しかし次の瞬間には、今度は悪名高い剣士の型になぞらえられているような。
 そしてある時には、先の雷切丸を思わせるような太刀の煌めきを放っている。

『そんじゃま、ちょっくら身体を動かしますか』

 そして何より。
 何を差し置いても。
 敵は強い。――ただ、強い。
 並みの小細工など通用しないような、そんな気配すら感じて。

『俺らにこそ新時代の風が吹く。――だからお前ら、散ってくれや』
御剣・刀也
は。ようやく大将のお出ましか
待ちくたびれたぜ
てめぇと下らねぇ問答をする気はねぇ。剣士が出会ったんなら、剣で語ろうじゃねぇか。お前もそっちの方が好きだろ?

次元撃は見切り、第六感、残像を駆使して受け流し、その隙にカウンターで斬り捨てる
奥州旋風剣は斬撃のエネルギーが飛んで来たら見切り、第六感、残像で被害を最小限にしながら突っ込んで、自分の間合いにしてから斬り捨てる
過去からの模倣で過去の剣客の技を真似たら、普通に見切りで受け流し、カウンターで斬り捨てる
「戦場では俺は死人。死人は死を恐れない。おい、模倣なんてつまらない真似してんじゃねぇよ。お前の剣を、お前の魂を、もっと俺に見せろ!」





 周囲で飛び跳ねる浪人が最後を切り伏せる。
 造作もない。とはいえ多少は身体も温まったか。
 さてと意識を切り替えて、御剣・刀也(真紅の荒獅子・f00225)は来訪する新たな敵に視線を送る。

「は。ようやく大将のお出ましか」

 待ちくたびれたぜ。
 ぽつり、ぽつりと刀から血の滴る音が鳴る。鬱陶しい。
 刀に纏った血を軽く払う。血は拭いきれないが……まあ、いい。

「てめぇと下らねぇ問答をする気はねぇ。剣士が出会ったんなら、剣で語ろうじゃねぇか。お前もそっちの方が好きだろ?」

 目下のところ、敵の思想などに憚る必要もない。
 言葉を交わす必要だって、ない。剣士にとって発すべき己とは一筋の閃きのみ。
 軽快に疾走する。身体は十分に温まった。意識も冴えわたっている。今なら千里外からの射撃にすら応えてみせよう。

『はぁん? 俺の好きとか勝手に決めてんじゃねえよ』

 確かに語らう気もねえけどさ。
 拾い上げた浪人の刀は腰に差し、接近する刀也に応戦すべく、自前の刀を抜いた着流しの男は構えのない構え――無体の構えを取る。
 当然ながら慢心ゆえの遊びではない。幾千の太刀を識る男、破旺丸からして構えなど必要ないのだ。

「はぁぁあ――――!」
『ぬるい』

 電光石火の踏み込みで躍りかかる刀也の袈裟を、しかし破旺丸は流るる水がごとくさらりといなす。
 ならば、と刀也が刀を返し、逆袈裟に斬り上げる。
 脈動する鼓動に任せた、迷いのない剛剣。昂る気持ちが相乗する一撃はまさに一撃必殺。
 一条の軌跡が破旺丸の腹を捉えんとしていた。
 ただ。

『無形にして有形。誉れ高き舞踏の型。お前程度に敗れる道理も無い』

 斬り上げられる剣筋を見切り、紙一重にくぐり抜ける。
 矢継ぎ早に破旺丸は、ゆらりと刀也の懐まで潜り込んで、刀を振るう刀也の右腕を取った。
 意識はすれど、身体の反応は僅差で届かず。腕が後方へ引っ張られ、重心が傾く。
 まずいか、認識と同時に刀也の足が刈られ、視界が反転する。

『柔よく剛を制す。まあ、こればかりは新時代にも語り継がなきゃあいけねぇか?』 

 重心の行き場をなくした刀也の身体は、おのずと尻もちをつくように後ろに倒れた。
 この立ち振る舞いは柔道の刈り技でも転用したのか。いや、考察する時間すらも惜しい!
 いつ死んだって構うものか。六文銭だって懐に収めてある。だからといって、易々と死ぬわけにもいかないのだ。
 破旺丸は好機を逃さず、確実に仕留めんと刀を上段に翳す。纏う剣圧は一転、益荒男そのもの。
 まさに破壊の権化――!

『一撃必殺ってのはな、こうやるんだよ』

 破旺丸が刀が振り下ろされる。
 轟っ! 猛風を切り裂く音が、耳障りだ。
 刀也は身体に発条を仕込み、瞬時に身体を起き上がらせる。

「ははっ! お前の剣も随分手緩いな」

 肺腑から漏れだす息が、自分のものではないような錯覚を覚えながらも、敢然とした心をもって。
 わずかに身体をひねりながら、飛び上がり勇進する。
 一刹那の判断――判断というには、あまりにも反射的な挙動。
 これは剣士の勘だ。これは鍛錬の賜物だ。積み上げてきた自分を信じていればこそ成せる、無我の境地。
 迫る刃が肩から一寸と離れない箇所を通り抜け、背後で地形が爆発するかの如く破砕音が轟いた。
 知るものか。
 背後の事情など刀也は意に介さず、転ばされてなお手放さなかった、不屈の獅子を煌めかせ。

「この切っ先に一擲をなして乾坤を賭せん!!」

 その煌めきは雲を突き抜ける、稲妻のごとし。
 錯覚か、いいや違う。刀身に宿る雷獅子が咆哮する。 
 破旺丸も尋常ならざる威圧を感じ取れば、咄嗟に刀を眼前に並ばせた。
 直後、刀也の持ちうる力を振り絞って放たれた上段切りが降り注ぐ。

『――――っと!』

 妙な悪寒が破旺丸の背筋に走る。
 原因は即座に理解した。
 刀をもって刀を受けた感触はある、しかし刀を弾いた気配がない。鍔迫り合いをしているわけでもない。
 なぜか? 刀が斬り落とされそうとしているからに他ならない!

『わーぉ……』

 感嘆の息か、呆然の息か。
 わざとらしく溜息を零しつつ、破旺丸は簡単に刀を捨てる。
 されど反応が僅かに遅れた。
 剛なる太刀が阻む刀を退け、破旺丸の胸元を掠めとる。

「あと一歩か」

 刀は剣豪にとって命そのもの――そんなことをのたまう酔狂もいるらしいが、破旺丸には当てはまらない。
 次いで、後退だって必要ならばする。一歩二歩と飛び退さり、刀也から距離を持つ。
 刀也は鋭く睨みを利かせる。
 距離を放つこと、それもさることながら、破旺が太刀を依然として見せないことが、何よりも気にくわない。

「おい、模倣なんてつまらない真似してんじゃねぇよ。お前の剣を、お前の魂を、もっと俺に見せろ!」

 刀也は叫ぶも、破旺丸は浪人どもの姿に紛れて気配を消す。
 邪魔だと切り払うも、足止めが使命と言わんばかりに立ちはだかる浪人の数々を前にして、刀也は足を止める。
 戦場では俺は死人。死人は死を恐れない。――新時代を名乗るお前は、死が怖いのか?
 疑問は決して氷解せず。
 されど囲う浪人の数は増える一方。
 刀也は破旺丸の姿を探しながらも、浪人の排除を続行する。

成功 🔵​🔵​🔴​

須藤・莉亜
「来たね、メインディッシュが。」
新時代の風だかなんだか知らないけど、僕が興味あるのはあんたの血だけなんだよねぇ。

地獄顕現【悪魔大王】を使い、魔人化して戦う。
んでもって、万物破壊の権能を使って刀をぶっ壊しまくって邪魔でもしようか。
敵さんの邪魔をしつつ、強化された悪魔の見えざる手に攻撃をお願いして、それに合わせて僕は大鎌で斬り刻みにかかろうかな。
攻撃しつつ、隙があれば敵さんの死角に転移して、深紅で拘束。そんでもって、どこでも良いから噛み付いて【吸血】。

敵さんの攻撃は【第六感】で殺気を読み取って、動きを【見切り】回避。若しくは悪魔の見えざる手や血飲み子で【武器受け】。


メンカル・プルモーサ
…過去が新時代と言うのは中々に皮肉が効いてるね…
……ふーむ……色んな流派の技を真似てくるか……
…ただ真似るならともかく、自分のものにしてるなら質が悪い…

…【闇夜見通す梟の目】でガジェットを召喚、仲間への援護及び解析をしつつ…
……【空より降りたる静謐の魔剣】を軸に多種のUCで攻撃して…相手の流派のひきだしを見るのは正直結構興味があるけど…今回はほどほどで切り上げ…
……同じ性質の技を使う癖等の動きの方を見切る……
……相手もそれを隠すだけのことはやると思うからそこは勝負……

…癖を見きったら●過去からの模倣に対し【崩壊せし邪悪なる符号】で相殺…その隙に静謐の魔剣を叩き込むよ……





 虚を突く魔剣。
 死角の芯を射抜いた穿刺だった。
 空気に溶け込んだ気配に須藤・莉亜(メランコリッパー・f00277)の反応は遅れる。
 物音ひとつ立てないとは暗殺剣かなにかだろうか――意識の外でぼんやりと感じ取れば、【悪魔の見えない手】が反射的に魔剣を弾く。
 視覚叶わぬ援護に破旺丸は微かに顔をしかめるも、気を取り直し空いた手で、拾いなおした浪人が太刀をもう一振り、水平に居抜く。
 二刀流――二連撃! 片手で、片手間で居合を発するとは正気の沙汰ではない。およそ常人には到達しえない境地。
 莉亜には流派がどうとか理解しがたいし、正直なところ興味もないけれど、並大抵のことではないことは理解できる。

「来たね、メインディッシュが」

 音速の一閃。片手で放たれたとは思えないほど卓抜とした居合ではあったものの、莉亜は難なく白大鎌【血飲み子】の柄で防ぐ。
 間髪入れず三撃目が襲い来るも、悪魔の手助けで凌ぎきる。
 破旺丸が振るう剣は、いろはに精通するわけでもない莉亜からしてみても、雷切丸の太刀とは癖が違った。
 されど興味がない以上、やっぱりそんなことはどうでもよくて。

「新時代の風だかなんだか知らないけど、僕が興味あるのはあんたの血だけなんだよねぇ」

 絶え間ない破旺丸の猛攻の中、莉亜の気配が移ろい、変質する。
 否――変質したのは気配ばかりではないようだ。
 呑み込まれるように、侵食されるかのように、紫金入り混じる莉亜の髪が漆黒に染まる。
 そして、正邪を一緒くたに収める瞳もまた、射干玉さながらに染め上げられ――。

『……はは、なんだ悪魔に魂でも売ったのか?』

 おどろおどろしい威風にさしもの破旺丸も目を瞠る。
 莉亜の背から伸びる三対六枚の羽。まさに伝説が語る悪魔そのものではないか。――これが魔人。窮極たる地獄の徒。
 然らば破旺丸は背転し間合いから逃れる。
 応戦するにせよ、転生した莉亜の実力が如何ほどのものか分からない以上、無暗な接近戦は危険だと判じた。
 本来であればその判断は無難であり、最適手だったことだろう。
 ただ、この場において下す判断としては、悪手に他ならない。

『――――っ!』

 神妙なる足運びをもって、確かに破旺丸は距離を離した。
 十間は離し莉亜の姿が小振りに見えたのも、目撃した。直後のことである。
 莉亜の姿が消えた! 影も形もなく。羽搏き一度も巻き起こさず。
 どこにいった。
 刹那の逡巡。答えは明白だ。
 振り返りがたいほどの殺気が、背後に突如として現出する――!

「流石に侍さんは凄いねぇ……」

 破旺丸の背後に【転移】した莉亜は白亜の鎌を右方より、無色が奇剣を左方より、同時に振るう。
 万全たる不意打ちのつもりだったが、辛くも破旺丸は両の刀で攻撃を弾く。
 雷切丸といい、純然たる近接にもしかすると活路はないのかもしれない。
 それで食っている天魔どもだ。構うまい。
 それならそれで、やりようはあるというまでだ。

『おいおい、刀が壊れるってほんまもんの悪魔だったか、お前』

 数度の攻防、息もつかせぬ交錯の果て。
 使い古しているとはいえ、刃毀れもなかった浪人の刀が突然音を立てて破砕される。
 それも一本だけではなく、二本とも。
 原理は良く分からないが、偶然であるはずがない。
 眼前の敵、莉亜の技能であることは明らかだ。事実、これこそ魔人が権能のひとつ、【万物破壊】の賜物である。
 破旺丸は即座に柄を捨て――いや、捨てるも何も柄すらも粉砕されてしまったが――徒手空拳でこの場を凌ぐために相打つ。

「刀もないのによく耐えるなぁ……」
『はっ、知らないのか。傍流のうちには手刀や足刀を極めやがった流派があるんだぜ。羨ましいこった』

 いや。
 そこまで言ったらなんでもありじゃないか?
 溜息交じりに返すも、実際として徒手空拳で凌ぎきっているのだから、破旺丸の言葉もあながち嘘ではないのだろう。
 剣を振り回すばかりが剣術でもないではないのも確かだ。武芸試合でなく、実戦を重きに置いた流派であれば殊更に。
 さしもの莉亜とて拳ばかりは破壊しきれない。厳密に言うなら、時間が足りなすぎる。
 だから、そろそろか。

『――ちっ、新手か』

 破旺丸は舌打ちとともに飛び退く。
 一跳びにして五歩の間合いを離す足捌きは相変わらずでたらめだ。
 瞬間まで破旺丸のいた地点に、幾多の氷剣が押し寄せる。

「……むー。まあやっぱり躱すよね……」

 砦から降り立ち破旺丸の前に姿を現したのは、メンカル・プルモーサ(トリニティ・ウィッチ・f08301)である。
 魔女の多くに違わず身体を動かすことを得意としない彼女ではあるものの、戦場に降り立たないことには如何ともしがたい。
 肉体戦は魔人の憑りついた莉亜に任せるとして、こちらはこちらで、本分を成し遂げさせてもらおう。

「……過去が新時代と言うのは中々に皮肉が効いてるね……」

 それも、過去の積み重ねの象徴たる武術を携えて。
 色んな流派の技を真似てくるか。言葉にすればただそれだけだが、これが思いのほか厄介だ。
 ただ真似るならともかく、自分のものにしてるなら質が悪い。
 遠目でしか窺えなかったものの、莉亜に差し向けた技の時点でそれなりの芸をもっていることは分かった。
 どの技も、謗りを受けるような出来にも見えなかったし、なかなかどうして難しい。

「まずは……」

 破旺丸の攻撃を受けてもらうのは莉亜に一任し、メンカルは箒で空を翔けぬけながら様々な方策を試してみる。
 まず手始めに――準備段階として、メンカルは人ならざる叡智を借りるべく詠唱し、多数の絡繰りを召喚した。
 小鳥のような姿をしたそれは、多角的に囲うように、立体的に観察するように破旺丸を包囲する。
 幾つもの機械仕掛けの眼差しが、破旺丸を射抜く。
 破旺丸は居心地の悪さこそ感じれど、相手にするだけ無駄だと判じ、目の前に接敵する莉亜の対処にひとまず専念した。
 実際、小鳥たちに武力はない。絡繰りに宿すは観察眼。敵を見抜く――その一点に長けた、メンカルが誇る術技がひとつ。

「あとは試行錯誤だけど……」

 学問の徒、メンカルにとってそれ自体は苦痛ではない。
 それどころか、相手の流派の引き出しを洗いざらい曝け出すのも正直なところ興味があるけれど。
 今求められているのは、手堅い勝利だ。興味はほどほどに抑え、相手にこちらの思惑が察せられない程度には手早く解析しなければならない。

「手堅く……んー」

 持ちうる手数を吟味し、ひとつひとつ試してみる。
 夢見に誘う調べ、小型の戦闘用絡繰り、正邪司る一対の白黒。小振りの暴食の焔……。
 莉亜と連携を組み、それぞれ与えてみるものの、思うような成果が出ない。
 実力の多寡というよりも、単に相手の場数が段違いという話、なのだろう。
 戦の修羅。
 刹那の判断で最適解を導くもののふの血。
 夭折したのか、若い見目でこの実力ならば、老成したときどれほどの達人になっていたことか。
 そこまで考えて、メンカルはひとつ、打開の策を浮かばせる。

「……ふむ、最適解、か」

 相手が最適解を出すというならば、それを逆手に取れないか。
 小鳥の絡繰りたちの分析などを踏まえ、ならばとメンカルは再び氷剣を呼び出し、破旺丸に嗾ける。
 蠢く氷剣の群体が破旺丸に迫った。莉亜の相手をしながらも、たちどころに状況を掴んだ破旺丸は愉快そうに嗤う。

『そう、これが欲しかったぜ!』

 身をひねり、紙一重で氷剣の群かいを避け切る――だが、破旺丸の行動はそこに留まらなかった。
 あろうことか押し寄せる氷剣の群に手を伸ばし、二つの氷剣の柄を握り、抜き取る。
 引き抜きざまに莉亜に対する連撃へと踏み込む。莉亜は辛うじて動きを見切きった。
 無刀取り、剣取りの技術の転用というには無茶が過ぎる。ただ、その妙技を敢行するのだから侮れまい。
 破旺丸の判断力は本物だ。
 だからこそ。
 メンカルの読みは的中した。

『邪なる力よ、解れ、壊れよ。汝は雲散、汝は霧消。魔女が望むは乱れ散じて潰えし理』

 間隙を縫うように、メンカルが唱える。
 対象の術技の情報を分解することで、無効化する、窮極たる神域――【崩壊せし邪悪なる符号(ユーベルコード・ディスインテグレイト)】。
 氷剣を嗾ければ、己が剣として盗用するであろうことは推測出来た。
 可能にするだけの力を持っているはずだと、ここまでの戦いの中で理解できる。
 ならば剣の盗んだ後の行動だって、当然算段が付く。
 そしてそこまで考えが至れば、行動を封じる手法も描けるというものだ。 

「もう一回……」

 先ほど呼び寄せた氷剣の群れが、軌道を修正してもう一度、破旺丸に突撃する。
 苦々しい相を浮かべる破旺丸は、冷や汗を流しながらもなんとか氷剣の軌道を読み切った。
 しかしその動きはどこか硬い。
 ましてや氷製とはいえ剣を握っているというのに、振るおうともしない。

『……あれ、……あぁ?』

 当惑する。
 先ほどまで出来ていたことが、からっきしになったのだから、さもありなん。
 メンカルの放った術の影響で、剣の振るい方を封じられてしまった破旺丸は、ただただ困惑の極みに立たされる。
 とはいえ、それも一瞬のこと。だからこそ好機を見計らう必要があったのだが――剣の振るい方を思い出す。
 思い出し、敵を斬らんと前を向いたところで、莉亜の姿が消えていることに気付いた。
 これはさっきと同じ……背後か!
 咄嗟の判断で振り返るも、影はない。じゃあどこだ。
 逡巡の間を挟むことなく、答えは――声が、振り返った背後の、その背後。耳元から返ってくる。

「なるほどね、最適解ってそういう……」

 莉亜の言葉の意図を理解する前に、破旺丸は手首に違和感を覚えた。
 冷たい――。最初の印象を吟味する間もなく、どんどんときつく縛り上げられる。
 一瞥すれば手首に巻かれているのは、紅い鎖だ。【深紅】と呼ばれる鎖はひとりでに蠢く。

「じゃあ、頂きます」

 隙を突いて手を封じたところで、莉亜は背面から破旺丸の首筋に噛みついた。
 その姿はまごうことなき吸血鬼。
 衝動のままに喰らいつき、吸い上げる。
 血が口から身体へと、巡っていく。

『……変なことするんじゃねぇ!』

 破旺丸の身体がぶわりと揺らぎ、強引に後ろ蹴りを放つ。
 莉亜は大人しく距離をとる。
 吸血した時間は三秒にも満たないが、先までの破旺丸の反応と比すると遅かった方だ。
 上出来か。
 息を荒げる破旺丸の周囲に、浪人どもが集う。
 織田信長軍の目的が何であれ、大将を失うわけにもいかないのだろう。
 つい先ほどまでに比べれば大分数は減ったが、全滅したわけではない。
 莉亜とメンカルは襲い来る浪人を返り討ちにするも、破旺丸の姿は既に遠くの方へ消えていた。

「……追う?」
「……いや、どの道こいつらほっとくわけにもいかないしねぇ」

 破旺丸が向かった先には確か、違う猟兵がいたはずだ。
 いったんそちらに預けるとして、こちらはこちらで浪人の駆逐を進めよう。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

比良坂・逢瀬
流石は織田信長の軍勢ですね
今日だけで二人も凄腕の剣士に出逢えるとは

強敵である筈ですのに不思議と心地良くも感じる此の高揚感は私も剣士であるが故でしょうか

新陰流剣士、比良坂逢瀬
全霊を賭して参りますね

敵は数多の流派の太刀筋を己のものとしている様子ですが其れ等の流派が同じ得物、同じ太刀と言う武具の扱いを極めんとして成立したものである以上、その根底に流れるものは同じである筈です

ならば其の剣の業、私に<見切り>が出来ない道理はありません

数多の流派の太刀筋を掻い潜り、現在の私の振るえる窮極の一刀たる<剣ヲ窮極メル>を見舞います

最善の好機に最高の速度、最大の威力の一刀を
此の絶技を以て男の剣を凌駕します


クララ・リンドヴァル
何を考えているのかわからなくて不気味ですけど……
わかってはいけないような気もしますね……
――『不変』のリンドヴァル、参ります

まず眼鏡の【視力】強化機能ON。敵を観察します

続いて観察内容を【世界知識】【戦闘知識】と照合します
剣術に昏い身にも関わらず、あの技は何処かで
そんな気がするのは、既に知っているから
流派の思想や体捌きの特徴、技の断片でも閃かないでしょうか
相手の太刀行を読む手掛かりになれば良いのですけど
直接目にした雷切丸の剣は【学習力】です

……最後に【援護射撃】を
神経を研ぎ澄まし【スナイパー】で刀の移動先を読みます
大技を相手が振り抜き、刀を止めた場所に――
【高速詠唱】で【呪詛】を「置き」ます





 きぃん! きん! きん!
 刀と刀、意志と意志とが甲高い金属音を奏でる。
 敵方の切っ先に込められるは殺意。立ち位置を変えながら幾度と火花を散らす。
 凡庸な得物から織りなされる流麗な閃きは、敵であれど称賛するに値するほどのものであった。

「流石は織田信長の軍勢ですね」

 世界を脅かす勢力の一派なだけはある。
 雷切丸とあわせ、今日だけで二人も凄腕の剣士に出逢えるとは。
 考えようによっては、それだけ世界が危機にさらされているということだ。
 討てど討てども悲嘆の種は消え去らないのだから、困った話だ。
 しかし他方で、比良坂・逢瀬(濡羽色の令嬢・f18129)の心を占めるのは、暗澹たるものばかりではない。

「(強敵である筈ですのに不思議と心地良くも感じる此の高揚感は私も剣士であるが故でしょうか)」

 胸が高鳴る。身体が昂る。
 楚々とした笑みの裏には、隠しようのない熱が迸った。
 時に水流がごとき一筋が奔る。時に烈火がごとき一閃が唸る。
 既にどこかで猟兵と接触したのか、疲弊した様子を見せる敵ではあるものの、剣に陰りは一切ない。
 殿を務めるだけのことはある。
 むろん気鋭に満ちていようとも、此方が手を抜くなどありえないわけだが。
 
「新陰流剣士、比良坂逢瀬。全霊を賭して参りますね」

 改めて名乗りを挙げれば、愛刀【三池典太】を叩きこむ。
 その後方、逢瀬を魔術で支援すべく立ち回る人影がある。
 クララ・リンドヴァル(本の魔女・f17817)は氷雷の矢を空間に番い、適宜射出していく。
 逢瀬が放つ斬撃の隙を縫うようにして、異なる属性を持つ二種は放たれる。
 それでも敵――名を破旺丸と名乗っていたか――の動きは軽快だ。
 太刀筋を捌く一方で、身体を揺すり矢の射線上から外れる。
 状況は膠着していた。あと一手、決定打が欲しい。
 逢瀬とクララと、両者ともに同様の結論に辿りつく。

「(敵は数多の流派の太刀筋を己のものとしている様子ですが……)」

 であれば、其れ等の流派が同じ得物、同じ太刀と言う武具の扱いを極めんとして成立したものである以上、その根底に流れるものは同じである筈。
 冷静な観察眼――あるいはこの場合、審美眼と言ってもいいかもしれない。
 逢瀬は経験に基づいた慧眼で、打開策に肉薄しようと試みる。

『あー……どいつもこいつも鬱陶しい!』
「褒め言葉として受け取っておきましょう」

 どれをとっても一刀両断を謳う必殺の一撃。
 男が放つ太刀は、断ちにして絶ちをまさしく表現しうる絶技。
 そう。
 ――そうだ。
 あくまで破旺丸が披露する剣技の数々は、どれをとっても驚異的ではあるものの――しかし剣の域を超えるわけではない。
 当然と言えば当然だ。
 確かに交戦する最中、噂に名高い飛ぶ斬撃を見せつけていたものの、それも剣に依拠する妙技の域。
 注視すれば多彩な足捌きもそれぞれ差こそあれ、新陰流にも通ずる原則と似通う部分も多くある。

「(必定といえば、そうなのでしょうね……)」

 剣の道は一朝一夕で為るものにあらず。
 先人たちが有益であると考え抜いたものが、今こうして形として伝わっているのだ。 
 優位を求む姿勢を崩さない限り、根底が流れる型が似るのはある種必然である。
 ならば――ならばだ。

「(其の剣の業、私に見切れぬ道理はありません)」

 事実、クララの支援を込みに考慮しても、逢瀬は破旺丸の苛烈なる猛攻に食らいついている。
 幾ばくの余裕すらないにしろ、勝機は十分にあろう。
 一方のクララも支援を行いながら、敵の隙を作らんと考えを巡らせる。

「(何を考えているのかわからなくて不気味ですけど……わかってはいけないような気もしますね……)」

 敵の相貌や言葉などから何かを掴み取れないか探ってみたが、外れだ。
 飄々とした振る舞いを見せることもあれば、深刻な顔つきで抉り取るような剣を見せることもある。
 理解しがたき様は、獣のようだ。
 もとより多種多様な剣技を誇る敵に、心を探るのも無益なのかもしれない。
 方針を変える必要があるか。
 クララは特製の眼鏡越しに、改めて敵をねめつける。

「(連続的に見るから変幻自在の剣に見えるだけ……。部分を切り取ってみれば、対策も講じやすくなるはずです……)」

 クララの眼鏡は、邪神の潜む世界の技術が多く詰め込まれた逸品だ。
 強化機能を起動させて、破旺丸を観察する。
 丁度その時、逢瀬に向けて邪に染まる剣が垂直に下ろされた。

「(剣術に昏い身にも関わらず、あの技は何処かで)」

 逢瀬が問題なく身を反らしたのを確認しつつ、剣筋を目で追う。
 薪を割るように描かれた一条の軌跡。それをどこかでクララは見てはいないか?
 そんな気がするのは、既に知っているからに他ならない。

『――はぁぁ!』

 続けざまに放たれる、神速の刺突。
 技と技との接合の仕方は、常識的に考えたらあまりにもでたらめではあるものの、現実として実現している以上、男の膂力を褒めるべきか。
 ……いや、違う。確かに男ほどの膂力があってこそ叶った連撃であろうけれど、その技の接合自体は、――初耳ではなかった。
 どこかの教本で、そんな技の連撃を教授していたものがあったような気がする。
 流派の名前はなんといっただろう。それが司書の心得だと言わんばかりの(実際には司書じゃないにしろ)情報収集能力を発揮するクララであったが、名前にまでは至らない。
 しかし、その内容自体はおぼろげではあったものの、覚えていた!

「比良坂さん、次は鞘による横薙ぎが来ます!」
『――――あぁんっ!?』
「どうやらそのようで」

 刺突はあくまで目眩ませ。
 真の狙いは鞘による打撃ということか。
 殺傷力でいえば当然刃物に勝るべくもないが、鞘とてものによっては鈍器として扱うことも出来る。
 ましてや、破旺丸ほどの担い手であるならば、このぐらいなんてこともなく成し遂げよう。
 クララの言葉を受けて、破旺丸は攻撃を中断しようと考えるも、すでに身体は動いている。
 中途半端が一番恐ろしい――ええいままよと決意を込めた一撃は、しかし当然逢瀬に躱され。

「はぁ――!」
「行きます!」

 逢瀬の放った斬撃、追撃するクララの魔法による嚆矢。
 そのどちらも破旺丸に命中する。
 ただ、既に防御の算段は立っていたのか、どちらの傷も浅い。
 気にしてはいられない。
 先までの膠着を返すかのごとく、逢瀬は剣の冴えを見せつける。

『――調子に、乗るんじゃねえ!』

 破旺丸は猛りながら、形勢を取り返さんと三面六臂の剣戟を叩きこむ。
 さしもの逢瀬とて無傷ではいられないものの、しかし逢瀬自身の審美眼に加え、クララの支援もある。
 猛省を掻い潜れば、剣を返す。
 逢瀬の知恵に、クララの智慧。
 流派の思想や体捌きの特徴、技の断片を手掛かりに太刀行を測る。
 この両者の力を合わせ、破旺丸に立ち向かう。
 剣舞が交わること十数合。
 事態はようやく、動いた。

『負けられねえ、負けられないなあ!』

 破旺丸の型の質がまたしても変わった。
 考えるまでもなく、理解する。
 敵の傾くその型を知っていた。

「(……雷切丸の剣!)」

 直接目にした雷切丸の剣筋。
 記憶に新しいの剣の型を行方を見定めるのは、剣に昏いクララであれど難しくなかった。
 単に焦っていたのか、実のところ雷切丸の剣に信頼を置いていたのか。既知を凌駕する秘策があったのか。
 やはりクララには破旺丸の心理を悟ることは出来なかったが、またとない好機であるに違いない。

「――『不変』のリンドヴァル、参ります」

 唱えるは呪詛。
 叶えるは変質。
 雷切丸との戦でも見せた、酸化の魔法が再誕する。
 あの時は、半ば失敗に終わったかもしれない。
 それでも今回はうまくいくはずだ。何故ならその太刀は既に、学んでいるから。

『死に晒せ』

 神経を研ぎ澄まし狙撃手さながらの目測で刀の移動先を読む。
 雷切丸を想起する剣威。太刀筋に一切の澱みはない。ゆえにこそ、予測の通りの軌跡をなぞる。
 クララは刀の軌道上に場所に、酸化誘う呪詛を置く。

『……おい、おい、おい!』

 赤、青、黒。
 三色の錆の力を秘めた呪詛を、破旺丸は斬りぬいてしまった。
 直後、ぼろり、ぼろりと刀が錆び、朽ちていく。
 対金属として最高峰の魔法の面目躍如といったところか。
 破旺丸は瞠目するも、武器を破壊されたのは初めてではない。
 思いのほか焦りはなかった。――ただそれにしたって、次なる手はどうするべきか。
 徒手空拳、だめだ。行動の幅が極端に狭まる。しからば!
 闘志の失せない破旺丸は、最速の決断であたりに転がっている浪人の死体から刀を掠め取ろうとするものの、僅かに遅かった。

「刀を失った剣客に放つものではないかもしれませんが――」

 賛美として受け取りなさい。現在の私の振るえる窮極の一刀を見舞います。
 破旺丸が屈んで刀の柄を握ると同時に、逢瀬の三池典太が煌めいた。
 最善の好機に最高の速度、最大の威力の一刀を。
 最上を追窮した此の絶技を以て男の剣を凌駕する。

『――――ちぃ!!』

 それでも食らいつく破旺丸は流石といったところか。
 鞘に納めたまま、庇うように差し出す。
 逢瀬の剣は僅かに弾かれる。だが、確実に男の身体には届く!

「もらいました!」

 肉を断つ感触。
 破旺丸の左腕が飛ぶ。
 連撃を繰りだせば破旺丸を討てる――!

「比良坂さん、後ろから来ます!」

 物静かな気質のクララにしては大きな声。
 だからこそか、反応せざるを得なかった。
 破旺丸に対する意識を絶やさず、後ろをちらりと窺うと、何処からともなく現れた浪人どもがこちらに斬りかかってきていた!
 クララもまた、別の浪人の対応に追われている。

「軍隊を名乗る統率力はある、ということでしょうか」

 あと一歩だったのに。
 口惜しさも残るが、強襲に対応しなければ死ぬのみだ。
 仕方がなしに浪人に刃を向ければ、その隙に破旺丸は姿をくらませる。
 こちらを襲ってこないのも幸と捉えるべきか不幸と捉えるべきか。
 逢瀬とクララは、浪人どもを殲滅すべく奮い始めた。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

四宮・かごめ
真に恐るべきは常人とはかけ離れたその感性。
奴は戦況に己を左右される事が無いのでござろう。
緊張とは無縁。虚を突かれる周囲を尻目に
持ち前の剣才を存分に振るう事が出来る。
生まれついての修羅にござる。

鉈を抜き、前に。
【見切り】【野生の勘】【ジャンプ】を使い
主に回避と防御を行い、敵に貼り付き動きを制限。
攻撃はカウンター中心。敵に好き勝手されなければ良い、というスタンス。

タイミングを見計らい、
【早着替え】【恥ずかしさ耐性】【早業】で服を払い、加速
払った服を敵の頭に投げて被せる。
同時に【ダッシュ】ですれ違いざまの【なぎ払い】を仕掛け、
一気に流れをこちらに引き寄せる。

戦が終われば影は去るのみ。では、これにて!





 手負いの獣ほど恐ろしいものもない。
 獅子であれ猪であれ、最後の灯火は激しいと、相場は決まっている。
 四宮・かごめ(たけのこ忍者・f12455)も十分理解しているつもりだ。
 それゆえに、ぬかるつもりは断じてない。
 ただどうにも、手負いの獣というには目の前の敵は、不思議と気楽さが勝っているようにも見えるのだ。

『犬も歩けば棒に当たるとはいうけどなあ……さすがにお前ら数が多すぎるんじゃあねえか?』

 千を越えていたであろう浪人を引き連れておいて何を言うか。
 内心でしたためつつも、言葉には出さない。
 この類の手合いに、言葉など意味を持たないことは重々承知している。

「(真に恐るべきは常人とはかけ離れたその感性)」

 どこかで猟兵がもぎ取ったのだろう、破旺丸の左腕は消失していた。
 滴る血から察するに、つい先ほどの出来事であろうが。
 激昂で我を失っても可笑しくない。消沈で我を見失っても可笑しくない。
 それでも敵はからからと笑っていた。
 軽薄な態度で。ある意味では、非常に不誠実な態度ともいえる。

「(奴は戦況に己を左右される事が無いのでござろう)」

 その気質を利点と捉えるべきか、欠点と捉えるべきか。
 少なからずかごめには判断と下すだけの資質があるとも思えないが――本人はどう思っていることやら。
 こちらに手を出すこともなく、かごめと破旺丸との周囲を遠巻きに囲んでいる浪人たちのほうが、よほど慌てふためいているようだ。
 攻め入らないのは、大方、邪魔だからだろう。
 仲間を邪魔とは、殿としての資質に欠いているのだろうか――いや、あるいは、巻き込まないだけ大事に考えているのか。
 逡巡も瞬時に切り上げ、首を横に振る。
 やはり意味がない。

「(奴の本質は、修羅にござる)」

 緊張とは無縁。虚を突かれる周囲を尻目に、持ち前の剣才を存分に振るう。
 生まれついての修羅にござる。
 情け容赦、一切不要。
 忍びとして、成すべきことを成すまでだ。
 腰より鉈を抜く。
 片刃七寸九分黒打。程良い重厚さと単純さが、自分にはとてもよく馴染む。
 意を決して前へ出る。

『はっ、嬢ちゃん見たところしのびの一族らしいが……俺とやり合おうってか?』

 やはり口ぶりは軽い。
 反して、途端に纏う剣士としての威圧は段違いに跳ね上がる。
 隻腕にして、これだけの闘気を発するのだ。万全の状態であれば如何ほどのものだったか。
 構うまい。戦力が落ちていることは喜ばしいことだ。

「にんにん」

 かごめは風を切りながら前へ出る。
 牽制を交えつつ前進する足さばきは惚れ惚れするほどだが、破旺丸の目を欺けたとも思えない。
 拾った小石で印字を打つも、然したる脅威とは映らなかったようだ。
 かごめが破旺丸の間合いに入った直後、いち早く刀を振り下ろす。
 片手を失い平衡感覚もずれているだろうに、割った竹のように真っすぐな銀閃。
 しかしまんまと受けてやるのは戦の理にもとるというもの。

「(これしきならば)」

 剣筋を見切り、反撃として鉈を横薙ぎに振るう。
 流石にこの程度で仕留められるほど甘くもないか。
 敵は軽快な足さばきで難なくいなす。

「(必ず、どこかで隙は生まれるにござる)」

 敵は距離を離さんと立ち振る舞うも、あえてかごめはぬるりと前進し、詰め寄る。
 煩わしく感じた敵は蚊を払うかのように乱雑な一撃を見舞う。
 粗雑な一撃を冷静に対処すればまたしても鉈で迎撃する。
 かごめはこれを繰り返す。

「(彼奴は剣客。本来であればそれがしが敵う道理もないでござろうが)」

 敵は剣客。こちらはしのび。
 こと接近戦、付け加えるならば剣での対決には、破旺丸に一日の長がある。
 ……いや、もしかすると圧倒的な優位に立っているのかもしれない。
 かごめもそこは認めよう。
 事実、雷切丸や浪人には、安易な接近戦は持ち込まなかった。
 ただ、それでも。

「(回避や防御に徹すれば、光明は必ずや)」

 回避や防御に徹すれば、攻撃を受け流すことぐらいは出来よう。
 攻撃はあくまで邀撃にのみ留め、いずれ来るであろう好機に向けて整える。
 見切りや、野生の勘。時に守護霊っぽい何か……いやこいつなんだ? まあいいか……の力を借り、飛び跳ねることで敵の攻撃を掻い潜っていく。
 敵に貼りつくのも、動きを縛るための一考の内。
 重ねること数合。好機は存外に早く訪れた。

「(――今!)」

 血を流しすぎたのか、敵がよろめく。
 それでも単純に攻撃を振るっても弾かれるのが関の山。
 であれば――!

「(にんにん!)」

 自らを奮い立たせ、早業で纏った忍装束を脱いでいく。
 竹林を思わせる緑色のそれを――破旺丸の視界を覆うべく、頭を目がけて投げる!

『なんだよ、いきなり脱いだりして――ああ、そういう!』

 視界を奪っていた装束を直ちに払うも、かごめの姿は消えていた。
 否、動いただけだ。尋常ならざる速度で。
 服を脱ぐことで加速するとはこれまた奇怪な!
 破旺丸は冷静さを欠くことなく、加速するかごめの姿を捕捉せんと刀を振るうも。

「頂戴する!」

 かごめの奔りはそれよりも速い。
 例えるならば韋駄天か、神風か。
 敵の刀とこちらの鉈が交錯する――勝ったのは、かごめの一撃。
 すれ違いざまに薙ぎ払いを仕掛け、その勢いのままにその場を去る。

「では、これにて!」

 本来であれば、とどめを刺しきってから離れるのが筋であろうが、しかし残念ながら、そうとはいかないようだ。
 遠巻きに眺めていた浪人たちが慌てた様子でこちらに流れ込んでくる。
 流石に多勢に無勢。ましてやその内の一人が手負いとはいえ相当な使い手とあらば。
 仕切り直しか。だが、この一撃で流れは一気にこちらに傾いたはず。
 かごめは宙の中に溶け込むように気配を消し、一度その場から離れるのであった。

大成功 🔵​🔵​🔵​

蘭・七結
あなたを止めたのなら、戦も止まる
そう。愛しの和国は護られる、だけれど
少し名残惜しいのは、何故かしら
ねえ、お強いひと。ナユからのおねだりよ
このひと時を、ナユと踊ってくださるかしら

ああ、あなたの憂いがきこえる
嗚呼、あなたの嘆きがきこえる
憂いも、嘆きも、全部
ナユが、払って魅せましょう
そうでしょう、『かみさま』
〝かみさまの言うとおり〟

あなたの一撃を見切り躱したのなら
毒を潜めたふたつの残華を咲かせて
フェイントと二回攻撃を重ね、戦場に舞いましょう
正の道も、邪の道も、まとめて愛おしい
お強いひと。あなたの名を、お聞きしてもいいかしら
――そう。よい名前ね

花の盛りも、散る様も、美しいの
あなたの散る姿は、どうかしら





 ひとひらの花びらが掌に。
 ふうと吐息を吹き掛ければ、宙を泳ぐように舞い立ち――顕現する黒鍵の斬首刀。
 幻想的なまでに華やかなたたずまいは、夢幻のごとし。
 しかし、目を奪われることはすなわち死に等しい。
 群れる浪人どもを切り払えば、その奥に敵は居た。

「あなたを止めたのなら、戦も止まるのでしょうね」

 深紫の着流し。紅色の髪。
 あちらこちらに深手を負っているようだが、間違いない。
 彼こそが今回の大将――。
 男は『邪魔だ邪魔だ』と号を下せば、蜘蛛の子を散らすように浪人たちは散らばっていく。

『まったく怪我に倒れるたぁ、無様なところを見せちまったか』
「いいえ、いいえ。……気にすることはないの。あなたを誅せば、そう、愛しの和国は護られる」

 気にすることはない。
 彼を討てば、今回の依頼の大部分は片がつくのだ。
 無様がどうだとか、そんなことは関係がない。気にする必要はない。――だけれど。
 少し名残惜しいのは、なぜだろう。

「ねえ、お強いひと。ナユからのおねだりよ。」

 いいや。いいや。
 なぜだなんて、今更問うべくもない。
 わだかまる心の声に耳を傾ければ、自然、七結の行動は次なる手へと移っていた。
 黒鍵を花に散らせば、しろい指さきは舞衣の下……腿を這う。
 魂を導く対の煌めきが駆ける。

「このひと時を、ナユと踊ってくださるかしら」

 現世と幽世と番いの二振りを翳せば、軽やかに七結は跳ねる。
 僅かな前傾姿勢で駆け抜ければ、一息で間合いにまで這入りこむ。
 身体の傷に反して、静かな眼差しで七結の強襲を目で追いきれば。

『鬼が牙を剥くか。いいぜ、かかってきな』
 
 最初に迫ったのは現世の影。
 儚き銀閃を無銘が刀で弾き返せば、間髪入れずに襲来するは幽世の躯。
 こういう時ばかりは片腕を失ったのが惜しい――かすかに身体を揺らし紙一重に軌道上から外れる。
 邀撃に足蹴を見舞えば、七結もまたゆらりと身体を浮かせ躱しきった。
 まあ、妥当か。蹴りはあくまで牽制。本命は確実を期して放つもの。
 攻撃を躱した直後の、ほんの微かな隙を穿つ。
 男は刀を上段に構え、刀鳴を奏でる。

『一刀を窮めし、覇道が一。次元を断つ秘奥の原始。とくと喰らいな』

 嘗て剣聖と謳われた剣客の残滓をその身に宿す。
 今の男は過去の現身だ。身体がずしりと軋むような錯覚を感じながらも、万物を破砕する一撃を解き放つ。
 轟と風を切る。
 狙いは七結の脳天。
 いける! 確信めいた直感に違わず、激流は重く、しかし軽やかに脳天へと打ち下ろされて。
 
「――ねえ、『かみさま』」

 瞬間、それが幻惑と知る。今しがた男が斬った影は、まやかしか――!
 幻想の隣、実体を持つ七結はせせらぎのように微笑む。
 瞳を猩々緋に燃やして。
 嘗て清廉を体現した御身をその心に宿し。
 対なる双剣を自在に操り、神速の絶技を敵に見舞う。

「ああ、あなたの憂いがきこえる。嗚呼、あなたの嘆きがきこえる」

 毒を潜めたふたつの残華が咲き乱れる。
 三面六臂の追撃を重ね、御身を降ろした七結は戦場に舞う。

「でもね。憂いも、嘆きも、全部、ナユが、払って魅せましょう」

 猛追を防ぐ敵の技量はさすがに達者だ。
 しかし、慣れぬ隻腕、加えて疲弊しきった調子での立ち振る舞いには綻びが生じうる。
 かすり傷が身体を点々と彩っていく。

『俺が何を憂い、嘆くだって』

 男の口ぶりは変わらずに軽い。
 軽薄。軽くて薄い――いや、その言葉では言い表しきれない。
 例えて表すならば、空虚。
 そうだ、男の立ち振る舞いは、空しい虚ろ、空虚と呼ぶにふさわしい。
 からっぽのおもちゃ箱。

「ふふ、教えてあげないわ。けれどちゃあんと、ナユはあなたを視てあげる」

 二刀に対して一刀、ましてや七結は御身を宿した状態で、それでもなお引き下がらない。
 幾ら過去の剣帝を降ろしているとはいえ、それを可能にするのはあくまで男の肉体だ。
 その境地に至るまでに、どれほどの鍛錬を重ねたことか。
 踊り狂う剣技の数々。正の道も、邪の道も、まとめて愛おしい。

『…………』

 交えるどこかで、男の口は閉ざされていった。
 切り傷から侵食し始めた毒も回った。
 じきに戦いは終わる。
 嘆きは憂いも、少しは晴れたのだろうか
 だから、最後こそ、――あなたの剣を見てみたい。

「お強いひと。あなたの名を、お聞きしてもいいかしら」

 最後通牒。
 次の一閃をもって、戦いが終わる。
 男とて腐っても剣士。そのぐらいのことは分かった。
 あーあ、逃げとけばよかったか。
 愚痴のように漏らすも、しかしかんばせには先と変わらない空虚な笑みが浮かんでいる。

『……、破旺丸。……零輪・破旺丸だ。よーく覚えておきな』
「【零輪・破旺丸】――そう、よい名前ね」

 七結が名前を呼んだ途端。
 破旺丸の構えが不意に崩れる。
 さもありなん、破旺丸の身体には、もはや過去の剣客などいないのだから。
 質実剛健を体現するような、飾りのない中段の構え。
 ――そう、そういえば、俺の剣はこんなのだった。
 毒が巡る。血が失せて久しい。
 最後の立ち合いだ。

「花の盛りも、散る様も、美しいの。あなたの散る姿は、どうかしら 」

 二極の双刀をもって流れるような連撃を放つ。
 左の脇腹から右肩を裂かんする毒の蔓だ。
 対する破旺丸は朦朧とする視界でありながら剣筋を見極め、いざ必殺の――今生の一撃!

『違うな。散るのは俺じゃあない。――お前が散れ!』

 互いの銀閃が交わる。
 瞳と瞳とが交錯する。
 ――軍配は、瞳を朱緋に灯した七結の方に挙がった。
 現世、続けて幽世を銘打つ二振りが、破旺丸の最期を見届ける。

「……。あなたの名前、あなたの剣。大丈夫、ナユはよおく覚えていくわ」

 絶命し、青年の姿が霧となり消える。
 周囲を見渡せば、すでに斃されていた浪人の姿も同様に消えていく。
 もう生き残った浪人も両手の指で数えられるほど。
 じゃああともう少し、頑張らないと。
 七結の背中を押すように、爽やかな風が突き抜けた。
 牡丹一華に彩られたあかい衣が揺れ動く。花は依然として華麗に咲き誇る。

大成功 🔵​🔵​🔵​



最終結果:成功

完成日:2019年07月08日


挿絵イラスト