#アルダワ魔法学園
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●Lost Number.
失敗作なのだと、生まれたときに告げられた。
何が至らなかったのだろうか、己の命に何の不足があったのだろうか。
「おお、ォ、オオオ」
獣は、吼える。悲しみと憎しみに溺れながら、恐怖する。
焼け焦げそうな己の心をどうにか逃すまいと異形の腕で頭をかきむしると、それを嗤うように歯車が回りだす。
かみ合わせの悪いそれらが軋むような音を立てて彼を迷宮の主として迎え入れる。
それを聞いた彼の表情には安心と絶望が入り混じる。
俺だって、好きで失敗作で生まれたわけじゃないのに。
――もう、正気には戻れない。
●Lost one, Only one.
「生みの親に、失敗作だと罵られたことはある?」
どういうことをいきなり不躾に聞いたものか。
だが、この黒の悪徳教授にはそのようなこと、些細な事である。
デリカシーなど持ち合わせているのなら、ヘンリエッタ・モリアーティ(犯罪王・f07026)はもう少しまともな人生だったかもしれない。
彼女の中で随一に反社会的な教授――マダムは、未来を護るための仕事を求めてやってきた仲間たちに尋ねてみた。
「いいよ、応えなくても君たちの反応でだいたいわかる。言われた者もいればそうでない者もいるだろう。私は言われたことが無いけれど、「他の私」は言われたことがあるよ」
傷つくのだってね。と人の心を理解できていない感想を述べながら、今日の任務の話を始めた。
「さて、君たちに今回お願いするのはアルダワ魔法学園だ」
蒸気と魔法が輝く世界。
そこに無数に存在する地下迷宮のなかの一つでどうやら災魔は目覚めたらしい。
はじめは熱心な学生たちが挑戦したという。
我こそはと勉学に励み優秀な彼らが息巻いて集団で何度か向かったものの、帰ってこない。
「若い命が奪われたかもしれないというのは、心が痛いね。ああ、もっと学ぶべきことがあったろうに」
悲しそうに――本当に悲しんでいるのかは、彼女のみぞ知るだろうがやや大げさに嘆いてみせる。
悪徳教授、曰く。
今回の迷宮には最初にまず巨大歯車が所狭しと空間を支配しているらしい。
もちろん、運よくかみ合わないときもあるが、歯車ということは『かみ合うように』作られているものだ。
タイミングを見誤ればその隙間に押しつぶされることは想像できるだろう。
きりきりと音をたてて回り続ける歯車が止まることはない。
これこそ、迷宮の主となった彼を護る装置である。
「だが、君たちならどうとでもできるだろう。パワーに物を言わせてもいいし、皆と一緒に作戦を立てて攻略すればいいと思う」
それもまた、頭を使うし脳トレにはよさそうじゃないかなんて宣う。
ただ、足場が回転したりするから戦いにくかったりはするかもね――とは言うものの、彼女が危惧するのはもっと別のことのようだ。
「ここのダンジョンに住むのは蜘蛛でね。擬態し、君たちを襲うだろう。油断はしないように、もしかしたら宝箱の中に誰かの頭蓋を持っているかもしれないから、怖いのが苦手だという子はどうか気をしっかりもってくれ」
己の蜘蛛の巣の形をしたグリモアをくるくると手のひらで回しながら語る様は、心配しているようであまり心配していなさそうでもある。
「最後に待ち構えるのは、失敗作の彼だ」
マダムが予知をした姿は、大きい体をした彼が嘆き、苦しみ、どうにかして正常に戻りたいと哭くけもの。
「あの姿になっては正常も何もないだろうけれどね。骸の海に君たちが還してやると良い。――宿命に穿たれるまで、苦しむだろう」
その嘆きがこの迷宮を揺るがせて、いずれ世界を滅ぼす一端になってしまうというのなら、止めてやるべきだろう。
それでも、元は人だという。
手ひどく抗い、君たちに力を容赦なく振るいながらも、きっと彼は人間とかけ離れていく己が恐ろしいと嘆くようだ。
「中々どうして、つらい事件のようだ。解決する側もされる側もね」
隠せない獣性は、彼を蝕んで心を蝕んで――猟兵たちに足掻き続けるだろう。
「でも、もっと冒険を愉しんでもいいのではないかな?君たちのアイデアと気持ち次第で、旅と言うものはよりよくなるものだよ。人生も旅だからね」
にこりとひとつ微笑んで、赤黒い蜘蛛の巣を起動する。
転送先をきちんと編めているかどうか確認してから、悪徳教授は猟兵たちの方へ向いた。
「それでは、いってらっしゃい猟兵(Jaeger)。嘆きの連鎖をどうか止めておくれ」
赤黒の巣が、冒険へと出る猟兵たちを包むように広がって――明かりを強めていた。
さもえど
●
三度目まして。さもえどと申します。
今回は、アルダワ魔法学園の迷宮が舞台となります。
●構成
第一章:迷宮攻略(冒険)
歯車がかみ合ったりかみ合っていなかったりの迷宮を探索願います。
攻略方法はPC様それぞれお好きに!かっこよく攻略しちゃってください!
第二章:戦闘(集団戦)
オブリビオンたちが猟兵たちを襲います。少し怖い描写があるかも。
第三章:戦闘(ボス戦)
哀しくも失敗作となった獣が皆様を待ち構えています。嘆きごと葬ってあげてください。
皆様のプレイングで物語がいかようにも展開すればよいと考えておりますので、ぜひご活躍のほど宜しくお願い致します!
第1章 冒険
『駆け抜けろ巨大歯車』
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POW : 気合で歯車の回転を乗り越える。
SPD : 素早く走り抜ける。
WIZ : 上手く進む方法を考える。
👑11
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔴🔴
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種別『冒険』のルール
「POW・SPD・WIZ」の能力値別に書かれた「この章でできる行動の例」を参考にしつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。
| 大成功 | 🔵🔵🔵 |
| 成功 | 🔵🔵🔴 |
| 苦戦 | 🔵🔴🔴 |
| 失敗 | 🔴🔴🔴 |
| 大失敗 | [評価なし] |
👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。
●Hell Gears.
きりきりと、歯車が軋む。
猟兵たちも待ち構えるのは、無数の歯車が所狭しと並ぶ大迷宮だ。
歯車の床は君たちを乗せたままぐるぐると回る。頭上にも歯車が回る。
ときおり、歯車どうしが噛みあおうと近づいたり、遠のいたりする場所もあった。
この歯車の迷宮をどうにかして通過しようとして失敗したのだろう、先の学生たちのものとみられる黒赤がこびりつく箇所もある。
ところどころに鉄が腐ってはがれなかった衣服が付着したまま廻っている。
死の匂いが、この迷宮には広がっていた。
アルダワ魔法学園の優秀な「生徒」たちは、学びを得てここにやってきた。
その技術を生かして攻略しようと意気込んでいたのにこれほど並ぶ歯車を相手には、何人と命を落としたようだった。
死んでは英雄にもなれまい。そして、彼らでは攻略はできそうにない。
もし進んだとしても、傷だらけの体で「災魔(オブリビオン)」を相手に何ができただろうか。
だが、猟兵たちならばきっと攻略が出来る。
君たちの得意とするものでこの迷宮に挑戦し、攻略し――二度と、犠牲を出せないようにしてしまえ。
宇冠・龍
(生まれて来なくて良い命などありはしない。……そう思いたいのも、親としての我儘なんでしょうか)
お腹を摩って古傷を確かめた後、学生さん達の命に祈りを捧げます
この迷宮の主とお話したいことができました
一連の動きには何かしらの法則性がないのかしら?
歯車は連動して動くものですから、強引に止めて全体の動きに齟齬がでてもまずいですし……
そうです。進む道がないなら、作ってしまえばよいのです
【蛟竜雲雨】で呼び出した複数の霊に乗って移動します
とはいえここは一介の迷宮、何かしらの罠の類も警戒しなければなりません
呼び出した霊の何体かを先行させ無事に通れるか検証
タイミングを見計らいながら進みましょう
矢来・夕立
◎★SPD
失敗作呼ばわりがイヤならそう呼んでくるヤツを全員ブッ殺すのが一番早い。
件の彼は停滞と隔絶を選んだわけですから、ホントに失敗作ですね。
とっとと駆け抜けてしまうのが一番早いんですけど、あくまでチーム単位の仕事ですから…後続の方がやりやすいようにしておきましょう。
【紙技・彩宝】。作るのは同程度の分厚さ・硬度の歯車。…といって手裏剣で代用してますけど、とにかく文字通り「歯止めになってくれるもの」であれば良いんです。
コレで一時的にでも歯車が止まれば進みやすくなります。
え?他人のためですよ。恩は売っておいて損しません。
あとアルダワってあまり来ないんで、ちょっと見ときたいな……とか。
ウソですけど。
●Mother & Liar
たどり着いた機械仕掛けの大迷宮を見上げてから、麗しの未亡人は哀しみのにじむ顔に影を落とした。
彼女は 宇冠・龍(過去に生きる未亡人・f00173)。
若い命が多く死んだこの迷宮は、彼女の腹部に痛みを想起させる。
慰めるように何度か腹部を撫でる。彼女の古傷は、死んだ赤子をとりあげたときの証だ。
つがいと愛し合い、子供に恵まれた最中で彼女は運命に何もかもを奪われた。
力が至らないばかりに、それか運がなかったばかりに、祝福されるべき命を二度も喪ったことがある。
先の悪徳教授曰く、「失敗作」と称されたかの命は――祝福すら許されなかったのだと思うと胸がずきりと痛んだ。
生まれてこれなかった命と、それでは扱いが変わらないではないか。
若くして学生たちを喪った親は、どんな気持ちだったろうか。
龍よりも長く腹を痛めて生んだであろう子供を育てて同じ生徒としてやってきた親たちは、いったいどんな気持ちで帰りを待っていただろうか。
いいや、むしろ肉体だけでも帰れただろうか。
(ならば、せめて祈りを)
祈らねばならぬ。
彼女の親としての期間は短くても、親の元へ還れない子供も、還ってきてもらえない親の孤独も痛いほどわかってしまう。
潰えた未熟な命たちを祈りに乗せて、どうか魂だけでも還れるようにこの迷宮の主とは話をせねばなるまい。
哀憫に浸る龍の隣で、面倒くさそうにそのさまを見る黒の影は 矢来・夕立(影・f14904)だ。
センチメンタルな空気が嫌いなのではなく、――うっとうしいなと思っただけにすぎない。
「失敗作呼ばわりがイヤならそう呼んでくるヤツを全員ブッ殺すのが一番早い――情けない話です」
龍の横を悠々と黒をたなびかせたまま歩く。
いたって、龍の動きが腹正しいものであったわけではない。
彼は己が効率よくやりたいだけだ。
彼は、彼の赴くままに話すし動く。
仕事をする上でも共感するこころなど持ち合わせてはいない。
だから龍にとってその行いが「効率のいい」ものであるのなら、龍には好きにやらせてよいが、己までそれに引っ張られるのは時間の無駄だから困るだけだ。
「件の彼は停滞と隔絶を選んだわけですから、ホントに失敗作ですね」
わざわざ声に出して聞こえるように言う。
龍は、目を何度か瞬かせてまた困った顔をした。
「――そうでしょうか、……そうかもしれません」
「気に障りました?」
「いいえ、正しいと思いますわ」
微笑みすら弱気な彼女の回答には、丸い眼鏡の向こうの赤は納得したようだ。
事実、世界から敵であるとみなされたかの命は失敗作ではなくても確実に殲滅対象である。
だけれど。
(その責任が――もし、誰かにあるのなら)
その誰かこそが、猟兵たちに狩られるべきではなかったのかと思ってしまう。
親と言う経験は、どうにもこの件には重苦しいがきっと活かせるはずなのだ。
龍は、それを信じて夕立の後ろを歩いてついてゆく。
さて、彼らが二人そろってまず考えるのは歯車が織りなす足場への攻略である。
「チーム単位の仕事ですから……後続の方がやりやすいようにしておきましょうか」
「 ええ、賛成です。一連の動きには何かしらの法則性がないのかしら?」
確かに龍の思う通り歯車は規則正しく動くところばかりではあるが、こうも入り組まれてはいったいどこの歯車がどう動くのかもさっぱりわからない。
おそらく、お互いがお互いを動かしている彼らにどうやって対処をしたものか――。
「まぁいいや、得意なことでやりしましょう」
悩んだところで、わからぬものは分からない。
でも、ここに設計図でもない限り回り続ける彼らの足場も、頭の上をかすめる歯車も止めようがないはわかるのだ。
ついと夕立が紙を――式紙であるが――放てば、【 紙技・彩宝(カミワザ・サイホウ)】で紛れもなく本物に近い「歯車」を生み出した。
まるで手品のような彼の動きに、感嘆を上げる龍がいる。
少し得意げに鼻を鳴らす彼の様は年相応ではあるが、組み込んだ式はまさに神業だ。
がぎんと鈍い音がして、歯車が停止すればまずは彼らの足場が止まった。
「ああよかった、このまま回り続けてたらそろそろ酔うとこでした。ウソですけど」
「ウソ!?……お見事です。ああ、そうだわ、では是非お力をお貸しいただきたく」
「え?」
夕立が歯車を止めていくのを見れば、きらきらと何か思いついた顔で竜は提案した。
「『 災いは万理の外に、邪は更に外へ』――【 蛟竜雲雨(コウリュウウンウ)】!」
高らかに龍が宣言すると、夕立の華奢な足の間を何かが通る。
「うわ、っ……龍ですか」
細身の体を浮遊させられ、黒の手袋でその正体に捕まれば顕現されたのが彼女の扱う「龍型の霊」であるのを視認できた。
「ええ、乗り心地はどうでしょうか」
「悪くはないです」
嘘である。透けながらも間食のある龍には正直驚いているのだから。――己も忍術を扱うが、死霊術とは少し勝手が違う。
騙されていることなど全くわかっていないながらも、たおやかに微笑む龍が安堵をするのもまた彼にとっては効率の為であった。
「よかった!では、この子たちに乗って、今からその技で歯車を止めてしまいましょう」
「ええ、――他人のためですしね。恩は売っときましょうか」
「きっといい果報となって帰ってきます。因果応報と申しますから」
それはそれは、随分と夕立にとっては恐ろしい言葉でもある。
龍は彼の様子を気にすることもなく、自分もまた死霊の龍に乗った。
複数の龍を引き連れて先行する白髪の彼女の後姿は、艶めかしくもあるが頼りになる。
「それでは、出来る限り全てを」
「えっ、ちょっと待ってもらえます?――全て?」
「ええ。皆様が潰されでもしたら、動けなくなってしまいます。迷宮ですもの、何かしらの罠が備えられているかも」
少なくとも、犠牲を出すリスクは極限まで抑えておきたい龍は最悪の可能性を考えて夕立に振り替える。
さて、ここで意見すべきか、黙るべきか。――夕立は後者を選んだ。
彼女の想定する最悪の可能性というのは、確かに深刻な痛手である。
ましてこの歯車の量を目の当たりにした。他の利のために動くと宣言した手前、引き下がれまい。
「……わかりましたよ、ええ。大きい果報で帰ってきますように」
少なくとも、今小さな果報はかえってきたのだから。
道がなければ作ってしまえばよい。道なき道を後続の猟兵のために造りながら、彼らは迷宮の中を往く。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵
ヌル・プラニスフィア
出来損ない。ねぇ。そいつはお可哀想に。
狂ってしまった歯車なら、直してやるのが優しさか。
あいにく、俺には分解しか 出来ないが。
■SPD
どうにも血生臭い歯車だなァ。気に入らない。機械(プログラム)はスマートに、シンプルで。これに備わるのは 悪意のみだ。
歯車の動き。いかに不規則(ランダム)に見えようとも…これが機械であるのならば。それは不規則ではなく、乱数(ランダム)。
機械の乱数に、完全な不規則は表せない。……ジ、お前ならわかるだろう?
『あぁ、もちろんばっちりと。動きを分析すりゃ一発よ。任せな、ヌル。俺様にかかれば朝飯前さ。』
あぁ、タイミングさえわかればそれでいい。後は俺の仕事だ。
アドリブ絡みOK
狭筵・桜人
◼️WIZ
失敗作だと理解っていたなら生まれた時に捨ててしまえば良かったのに。
ま、どうでもいいです。
それにしても想像してたアルダワと違いますねえ。
血腥いっていうか。ぶっちゃけここ通るの嫌ですね。
でも仕事終わりに彼のヘンリエッタ教授にサイン貰いたいし……。
計画的に行きましょう。
なるほどなるほど?こういうのは動きにパターンがあるはずです。
で、私の身体能力ではどうしても通り抜けられそうにない
ポイントを【見切り】ます。
見極めたポイント――歯車に『名もなき異形の』UDCを詰まらせて。
その隙にさっさと逃げきりますねえ。
おおこわい、整備不良整備不良。
シミが増えましたが必要経費ってやつですね!
●NULL and Cherry.
歯車を見上げる美しくも堂々とした男性が二人。
片や美しい色を体に施されて彩度が高いが、もう片方はモノトーン調である。
「どうにも血生臭い歯車だなァ。気に入らない。機械(プログラム)はスマートに、シンプルで。これに備わるのは悪意のみだ」
「あっは、専門家のご意見はとっても参考になります。私も気に入らないです」
たばこの煙をくゆらせながら口に咥え、いたって冷静にその場を解析しようとする彼は ヌル・プラニスフィア(das Ich・f08020)。
その隣で柔和な微笑みを愛くるしい顔いっぱいに浮かべているのは、狭筵・桜人(不実の標・f15055)だ。
「とういうか、思ったんですけど。失敗作だと理解っていたなら生まれた時に捨ててしまえば良かったのに」
「お可哀想ではあるが、ここまで 狂ってしまった歯車なら、直してやるのが優しさかと思うがなァ。あいにく、俺には分解しか出来ないが」
「あらー、可哀想な彼。まあ、どうでもいいです」
救われないだろう彼のことなど他人事である。
最後のゴールは他人ではあるが、彼らが注目するのは目の前の罠たちだ。
歯車はきりきりとあざ笑うように回って、桜人とヌルを翻弄する。
見上げた天井すら埋め尽くすような夥しい歯車の数に桜人は思わず顔を歪ませた。
「それにしても想像してたアルダワと違いますねえ。血腥いっていうか。ぶっちゃけここ通るの嫌です」
うええと舌を出して蜂蜜のような琥珀の瞳を向ける先にはどろりと肉片と赤が付着した歯車がある。
一体何人が此処で死んだのやら、冒険には危険もつきものではあるがまさか死にに来たわけでもあるまいに。
赤が付着した歯車を凝視し続けて居れば、ガシャン!と次は歯車同士がぶつかりあう。
そしてしばらく、きりきりと鳴いてどこかを回したかと思えばまたどこかへと引っ込んでいった。
「こういうの、ヌルさんのほうが得意ですよね?専門家ですもんね」
愛想のいい笑みを浮かべてこそこそと桜人がヌルの後ろに引っ込んでいくが、ヌルはまだ歯車の動きを眺めている。
「いかに不規則(ランダム)に見えようとも……これが機械であるのならば――それは不規則ではなく、乱数(ランダム)」
ぶつぶつとつぶやきながらヌルが口に咥えた煙草を上下に動かしている。
普段は分解屋に勤める彼だからこそ、機械の内部パーツには強い。
灰褐色の指先に染みついているオイルや煤がそれを語るのだから、桜人も安心して任せられる。
ヌルは気にならないが、やはり桜人には――UDCエージェントというのもあって、この狂気性のほうが惹かれてしまう。
ヌルにとって血液や肉片は模様でしかないがたまに歯車に乗ってやってくる白骨化の進んだ腕の一部などは、桜人にとっては「腕」なのだ。
思わず己の口許が半開きになって笑ってしまいそうになるのが、桜人にもよくわかっていた。
「機械の乱数に、完全な不規則は表せない。……ジ、お前ならわかるだろう?」
虚空に向かって、「まるでそこにいるかのように」語り掛ける姿には桜人もどこかで覚えがある。
ああ、――この人も『教授』と同じか。
この件が終わればサインを貰おうと思っているらしい桜人が思い浮かべる黒の女と、目の前にいるヌルは「多重人格者」だ。
生まれつき人よりも脳が優れ、環境に応じて最適解を生み出す彼らは、――【オルタナティブ・ダブル】でもう一人の彼らを呼びだした。
0と1の魔術式から踊るように現れる「ジ」と呼ばれた彼はヌルに比べれば顔に覇気があり、自信たっぷりに微笑んで眉が吊り上がっている。
『あぁ、もちろんばっちりと。動きを分析すりゃ一発よ。任せな、ヌル。俺様にかかれば朝飯前さ』
にやりと笑ってジがヌルに応えると、ヌルは頷いてあとは任せることにした。
その場に座ってジが走っていく背中を見送る。――タイミングさえわかれば、あとはヌルが分解してしまうだけだ。
魔術を使って動きをはかるジを手伝えそうな気がして、桜人は手を後ろにやりながらやや大股でもう一人の褐色に近寄る。
「あのー、私、思ったんですけど。あそこに肉がつまったらどうでしょう」
『肉?』
乱数の果て――入り組みすぎた方程式の解は、ひとつひとつの歯車にあるのだ。
まるで数学者になった気分で、桜人は機嫌よく歯車同士を指さす。
「あそこが止まると、こっちも止まるじゃないですか。多分縦ラインは止まるんじゃないですかねえ。まあ、素人目ですが」
『止めれるだけの質量があるものが代入できりゃあ可能だろうが、持ってるのか?』
「ええ!もちろんです。――『起きろ化物。餌の時間だ』」
【名もなき異形(ディスポーザブル・クリーチャー)】が発動される。
歯車の方向に指を鳴らせば、そこに現れたのは触手の塊。餌があると応じたが、そこにあるのは機械の圧縮機のみである!
どろどろと動くそれが、歯車に圧迫されつんざくような悲鳴が上がった。
「うっっるさ……あ、でも止まりました!」
『おおお……こりゃいいな。おーいヌル!思ったより簡単にいきそうだぞ』
ぼんやりとそのさまを耳に両手を当てながら見ていたヌルが、眉を持ち上げた。
「わかった、じゃあ後は解体する」
二度と、この歯車に誰かが犠牲にならぬよう。
悪意の歯車にはスマートな技と言うのを見せてやらねばならない。
一度煙草を己の靴の裏で消してから、ヌルは白い上着を正しながら「二人」をみやった。
「血まみれだな」
「必要経費ですよ、必要経費!」
『お前じゃなくてよかったなァ、ヌル!白コートが台無しだったろ!』
大迷宮に似つかわしくない異形の悲鳴と鮮血が増えてゆく。
猟兵たちが編む強力な魔術式でさまざまな歯車が止まり始めたころだった。
成功
🔵🔵🔵🔵🔴🔴
無明・緤
失敗作。おれみたいな猫がそんな事気にするかよ
迷宮の奥にいるのはきっと「犬」みたいに真面目なヤツさ
【SPD】
UC【猫の毛づくろい】を使い
自身の摩擦抵抗を減らして巻き込み事故対策
歯車同士が遠のくタイミングを狙って
隙間を素早く駆け抜け奥を目指そう
髭から尻尾までビリビリくるスリルが堪らねえ!ひゃっほー!
行手の確認は【第六感】も働かせ常に怠らない
簡単に抜けられそうでも残骸の付着があるなら
そこは慎重にパターンを読んで挑む
犠牲を無駄にしたら先行者が報われない
難所は近くに猟兵が居れば協力を持ちかけ
居なければ己を【鼓舞】して一か八か挑む
道中、誰かに助けられたら【恩返し】で助け返そう
ケットシーの美徳は心得ているさ
ヨシュカ・グナイゼナウ
◎★【SPD】
罵られたかは不明ですが廃棄されていたらしいので、そういう事でしょう
製造者が何処の何某かわたしは知らないので、まあ、どうでも良いことです
わたしは運が良かった。あなたは運が悪かった。ただそれだけ
回転の力は偉大ですから、巻き込まれたらひとたまりもないでしょう。
既にそうなってしまった彼らには、少し祈りを
きりきり回る歯車に何か法則性がないか観察。演算機能をフル稼働させ法則により生まれる『道』を【見切り】ます。法則なく動く機構は美しくない
何度も繰り返される回転が全て噛み合い、『道』が生まれたら後は一気に駆けて行くだけ
別に床を正直に行く必要はない【地形の利用】し、足がつけばそこが地面ですから
●Doll&Cat
白の髪はこの褪せた迷宮の色にはよく映える。
さらりと絹のような髪が風に乗って、空気に漂っていた。その顔には美しい隻眼の琥珀がやどる。
「罵られたかは不明ですが廃棄されていたらしいので、そういう事でしょう」
ミレナリィ・ドール。 ヨシュカ・グナイゼナウ(渡鳥・f10678) は、この魔法と蒸気が発達したアルダワ魔法学園でも製造が極めて困難で稀少な存在になる型番である。
だが、どうやらその優秀な技工士は彼を生まれたと同時に捨ててしまったらしい。
自我が生まれる前で彼にそうしてやったのは、せめてもの情けだったろうか。
「製造者が何処の何某かわたしは知らないので、まあ、どうでも良いことです」
顔も見たことのない生みの親に馳せる想いなど、今腕に抱える猫よりも軽い。
灰の雄猫はたっぷりとした脂肪を蓄えてはいるが、その重さが彼にとっては地に足付けるものでもあった。
「わたしは運が良かった。あなたは運が悪かった。ただそれだけ」
柔らかな猫の頭を撫でながら、琥珀色を細める。――まだ見ぬ大迷宮の主には、届くだろうか。
先行した猟兵たちのおかげか、随分と歯車の動きは緩やかになってきた。
しかし、この歯車の大迷宮が数々の冒険者を屠った事には変わりない。安全に、無傷で渡らねば犠牲者たちには申し訳ないと思っていた。
少しだけ、瞼を閉じて祈りを捧げる。軋む回転は何人もの勇猛な学生たちを葬った。
ところどころに付着している腐った鉄と、腐敗が進みながらなお歯車の上にのせられて晒される死骸がある。
完全に腐敗して骨すらかけ始めた亡骸は、下あごのみとなってヨシュカのすぐ足元で寝ている。
地獄を物語るこの空間に、心を持つ人形である彼は――憂いを帯びた視線を送る。
まるで、その姿は闇に浮かぶささやかな星のようでもあった。
「ひゃっほぉおおおおう!!」
静かな沈黙と魂の眠りを妨げてしまうかのような、大きな声で小さな体を走らせる!
彼は、 無明・緤(猫は猫でしかないのだから・f15942)――ケット・シーだ。
「失敗作。おれみたいな猫がそんな事気にするかよ!迷宮の奥にいるのはきっと「犬」みたいに真面目なヤツさ」
だから彼には関係ないのだ。この冒険を楽しむには勇気と恩返しさえあればよい!黒の美しい毛並みが、ヨシュカを追い抜いて歯車同士を視界に入れる。
改造されたひげが、広がったり閉じたりをしてその幅を計測するのだ。
今日も彼のボディは調子がよい。ひげから感知した危機が尾まで貫いていくまでのラグはさほどない。
このスリルこそ冒険家である彼にはたまらないのだ!
するんとまるで体が溶けたかのように細くなったり、くるんと体を丸めて高低差のある歯車なんてなんのそのと言いたげに潜り抜けていく。
なごなごと声を上げて前を進んでいった黒猫の尻を視線で追いながら、ヨシュカも歩き始めた。
「ねこ」
――どちらかというと、歯車も気になるがケットシーの彼も気になる。
灰色の猫、ヴィルヘルムが歯車の犠牲にならぬよう抱き上げたままヨシュカは己に搭載されたプログラムで歩みだす。
演算機能の正確性は高い。法則なくでたらめに動く機構には、彼の新しい法則で踏破すべきだった。
床ばかりを歩く必要もないのだ、使用する足場は増やしていく。
ぴょんと飛び乗って平行に回る歯車の上にいる彼は、さながらオルゴールの人形のようにも見えるだろうか。
さて、次の足場に行こうとヨシュカが足を空に落としたときである。
がごん!と頭上の歯車が哭いた。
おそらく、どこかで別の猟兵が止めた歯車が作用したのだろう。
それに気を取られて隻眼を前から離してしまう。
「――あ」
わずかな空間、わずかな隙間。
そこに褐色の義体が挟まってしまう結末が見えて思わず声が出た。
「あっぶねぇ!」
細い体をやわらかな肉球と共に押し出して、次の足場に乗せたのは緤だ!
「だ、大丈夫か?」
「ええ。ありがとう、ございます」
無機質な返事をしてしまうヨシュカの関節が球体であるのを見て、緤もそれを咎めたりはしない。
何にせよ仲間が無事であってよかったし、彼の抱く灰色の猫も無事のようだった。
彼らがたどり着いた先からは、死の匂いがどんどんきつくなってきていた。
死の残骸がそこらにころがり、溶けだした肉と内部が床に散らばったりしているのを緤は耳を寝かせて思わず顔を顰める。
「これは目印だ、慎重にパターンを読んで挑む。犠牲を無駄にしたら先行者が報われない」
ここから先はより難関であるぞ、とその死体たちが語るのだから間違いはない。
そしてその忠告を無視するわけにもいくまい。
ケットシーの美徳は大いに心得ている。「冒険」はこの迷宮の攻略とボスの破壊、「恩返し」とはこの場合、――猟兵たちに道を教える死んだ学生たちに報いることだ。
「行こう、立てるか?」
前を見続けて居るヴィルヘルムとヨシュカに緤は狭めた瞳孔を向けて尋ねてみる。
ヨシュカが頷くと同時に灰色の彼もにゃうと一つ鳴いて、応じた。
猫と、猫と、人形一機。
血まみれで肉も腐る歯車の難所へと駆け出した。
――この地獄を破壊するために機械仕掛けの彼らは走る!
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵
アレクシア・アークライト
迷宮の奥底に引き籠っている怪物なんか無理に攻略しようとせずに放っときなさい、って言いたいところだけど、オブリビオンならそうはいかないわね。
正常に戻りたいと哭くオブリビオン――。
それはつまり、「正常に戻れなかった」過去があったってことよね。
そいつにできるのは、慟哭を繰り返すことだけ。
ひょっとすると、この世界の何処かに「正常に戻る」方法があるのかもしれないけど、結局はオブリビオン。
正常に戻れようが戻れまいが、私達はそいつを骸の海に還さなきゃいけないわ。
・[念動力]を用いて空中に浮揚。
・力場を展開し、周囲の歯車の動きを[情報収集]。
・近くに存在する安全な地点を見つけ、UCを用いて転移しながら進む。
死之宮・謡
アドリブ&絡み歓迎
生まれて、こなければ、良かった…ねぇ…何度、言われた、か…もう、私にも、解らない、よ…まぁ、当然と、言えば、当然だよ、ね…私は、一族最悪の汚点、さ…でも、悔いは無い、よ…
結局、自分を、貫ける、か、否、か…それだけ、だよ…貫いて、貫いて、貫いて、嗤いながら、死ぬ…私たち、に、出来るのは、それだけ、だよ…
さぁ征こう…折れた、獣に、終焉、を…せめて、安らか、に、逝け…
・方針
基本的には様子を見、タイミングを計りながら駆け抜ける。後は、歯車を斬り壊せないか試してみる。以上。行き当たりばったり
●
「生まれて、こなければ、良かった…ねぇ…」
ゆらり、亡霊のように言葉と共に揺れ動く赤の瞳には憧憬とにじむような憂いがあった。
死之宮・謡(存在悪・f13193)――今日の彼女は、かつて麒麟児ともてはやされた 天羽・月夜だ。
誰もが、彼女と対等にはなり得なかった。
誰もが彼女の剣技に抗うことなく正面から向き合わず、下から彼女を褒めたたえてきた。
だから――己のことを知ってほしくなったのは罪だったのだろうか。
剣を、生きる人に向け続けたことから後姿に投げかけられるようになった言葉が、この迷宮の主と全く同じだった。
「一族最悪の汚点、さ…でも、悔いは無い、よ…」
だけれど、それに後悔はない。
反省もない。彼女は腰に構えた刀のような生き物だ。
触れるものを傷つけ、その冷たい体を赤く染めることで存在を主張することしかできなかった。
彼女とて、望んでそうなったわけではない。
あらかじめ、生まれたときから「恵まれすぎていて失敗作」だったのだ。
無責任に褒めたたえた周囲に理不尽はあれど、罪はあるまい。「一度死んだ」今だからこそ、それも十二分に理解していた。
それでも、彼女の人生にまだ終わりはない。
剣を振るい、戦い、戦ってそれから――死ぬだけだ。それしか出来ない。
よく、己の在り方などわかっていた。地面を確かめるようにして前へと歩む。
邪魔する歯車など、斬り伏せてしまえばいい。
――この運命に呪われた鋼の麒麟児に、斬れぬものなどあってはならぬ。
「わっ!?すんごい火花」
鉄と鉄のぶつかり合う点を眺めながら、ふわりと宙を浮いたのは アレクシア・アークライト(UDCエージェント・f11308)。
機械仕掛けの彼女が己の念動力を用いて歯車の動きを確認していた時の事だった。
彼女がこの迷宮に挑むにおいては、――放っておきなさいとは思ったものの――やはり、オブリビオンが中に潜んでいるとなるのならこれも彼女の仕事である。
燻り狂えるなんとやらにに近寄るべからずという言葉もあったろうに、探求心と英雄を夢見た若い命は冒険をやめられなかったのだろう。
歯車の様子を見ながら、データとして痕跡を収集するアレクシアの顔は不快に歪んだ。
「……「正常に戻れなかった」過去があるっていうなら、見てみたいわよ」
こんな迷宮に住んでおいて、歯車に命を挟ませておいて、なおどうやらここの主はその暴虐の力を振るったらしい。
アレクシアが見つけたのは、機械同士のかみ合わせが悪く軋むばかりで動けないふたつのギアだ。
何が挟まっているのやら、と覗き込んでみればそこに詰まっているのは少女の下半身。
慟哭を繰り返す獣に、果たして流す涙など会ったのだろうか。
少女のあるべく上半身は大きな何かで「えぐりとられて」しまっていたというのに?
「うぇ」
思わず、組み込まれたシステムからストレス値の異常をたたき出すエラーを感じて苦い顔をする。
集中して、人口神経から聴覚センサーを起動してみるが、今この場には集合に応じた猟兵の声しか聞こえない。
「よくもまぁ、これで人間に戻りたいなんて思えるわね。確実に、もう、イっちゃってるじゃない」
所詮、オブリビオンはオブリビオンにしかなり得ない何かがある。
未来を恨み、あるはずだった過去にしか己の肯定を見出せないこの迷宮の主を骸の海へと返さねばならぬ。
それこそ、猟兵であるアレクシアたちにしかできない使命だ。
やはり、一刻も早く――攻略しないと。そう思った瞬間、また鉄の鋭い衝突音と破砕が響く。
何事かと思いながら、もしかすれば仲間の誰かが苦戦しているのかもしれない。
【瞬間移動(テレポーテーション)】を起動する。
座標軸は、音の方向。ブレなし、演算エラーなし。オールグリーン。
「『貴方だけが私のことを未確認……ってね』」
「ははははっ!!壊しても、壊してもッ!湧いて、くるッ!!」
一閃、破壊。また一閃。
短い詠唱の直後、次にアレクシアが見たのは黒髪の彼女が一心不乱に居合で歯車を切り裂いては移動する姿だった。
「ちょ、ちょっとちょっと!危ないって」
「危な、い?」
彼女の身を案じてかけられた言葉に、謡の体をした月夜はこてんと首を肩にくっつける。
「……心配、して、くれる、の?」
「そりゃそうよ!むやみに行くのはダメだって――強いのは分かるけど!」
破壊されてがらがらと崩れ落ちていった歯車は、別の歯車の地面にぶつかって轟音を立てたり、その隙間にかけらを落としてつまらせたりしてゆく。
迷宮内のギミックを破壊できるほどの居合術に少し恐怖を感じつつもアレクシアは謡の手を握った。
「……!」
握られた手に、目を丸くした謡――否、月夜が言う。
「ともだち、みたい、だね」
「ええ、仕事のお友達よ」
振るわれる力のわりに、情緒はなかなかどうして幼い。
彼女が求めている「ともだち」になったかどうかはわからないが、仕事仲間と言う点ではさほど差異はあるまい。
アレクシアが再び、黒の彼女と共に浮遊し他の猟兵たちの連携を取りながら座標軸を移動してゆく。
目まぐるしく切り替わる蒸気と魔法と電子の世界に、「月夜」の赤は――愉悦とは別の楽しさで彩られていた。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵
グリツィーニエ・オプファー
WIZ
失敗作、出来損ない――成程
私も同じく捨てられた身
ならば私も、その一角に数えられるのでしょう
あまり気にした事は御座いませんが
ふむ…これは確かに、挟まれれば痛う御座いましょう
十分に慎重を期して進まねばなりますまい
――さあハンス、頼みましたよ
空を飛ぶ叡智の精霊に声を掛け
歯車が止まった、又は回転速度の遅い、歯車同士の間隔の少ない等…
ルートを選び、先行して頂きます
無機物にも効果があるならば鳥籠より青い蝶を解放
【母たる神の擒】にて一時的でも歯車の動きを封じて御覧に入れましょう
とはいえ楽に行くとは思っておりませぬ
ならばせめてもの悪足掻きと黒剣をフックの様に変形
落ちぬよう障害物に絡め、移動を試みましょう
遊星・覧
◎★
「失敗作」はないねー。
「金食い虫」とか「整備不良」とかはあるある。
けど失敗成功って作った側の責任じゃん?
作られた側的には知るかって話。
◆
いっぺん試しに巻き込まれてみっか。
ヨゴレと血が少ないトコ選んで― 上着脱いでー
左腕をこう、ガッと。 あっやべコレ痛いワ。
無理矢理通り抜けるのダメ、死んじゃう。
左腕抜いて、歯車に自前のウォーターガンから塗料発射ー
中に詰めた塗料乾くのケッコー早いから、これで歯車止まってくれね?
ムリだったら他の猟兵さんたちが止めてくれたトコ探しにいこ。
◆
ランはそこらへんの生徒くんちゃんみたいにー、無謀な真似はしないので!
●Riding Hag.
どんどんと猟兵たちの活躍により、歯車は軋むのをゆっくりとしたものにしてゆく。
まるで、時間を遡ろうとでもしているかのように逆回転していることを グリツィーニエ・オプファー(ヴァルプルギス・f13858)は察していた。
彼が悪魔の如く禍々しい角を宿した美しい顔の向こうで考えていることは、他にもある。
「失敗作、出来損ない――成程。私も同じく捨てられた身。ならば私も、その一角に数えられるのでしょう」
だが、彼がおそらく獣性に蝕まれることが無かったのは、「最初からそうであった」から。
彼の美しくも動きもしない、人形のような顔は心の麻痺を語る。
痛まないようにしているのかもしれない、涙を必要としないよう、笑うこともやめたのかもしれない。
かつて、贄だった。
安い金で面白半分で売られて、古き神の贄となった。
呪われた己の姿を、経歴を、「美しい」とわらったのは――『母』のみだった。
悲劇の主人公たる彼のどこが生き物としては失敗作だったのだろうか。
それでも、漆黒の向こうに潜む色違いの瞳にはぼんやりとした意識が宿っているようにもうかがえる。
特にその過去を振り返ることも必要あるまいとしたのか、グリツィーニエは歩みだした。
手元の鳥籠にはためく蝶が彼の漆黒と蹄を淡く蒼に照らす。
母の手をつかんで離せないように『彼女の残骸』を握ったままだった。
ごつりごつりと指先で歩くグリツィーニエが物静かであるのと対照的に、紫の髪をした彼は面白おかしくその場を観察していた。
「 「失敗作」はないねー。「金食い虫」とか「整備不良」とかはあるある。けど失敗成功って作った側の責任じゃん?」
くるり、くるりとまるでメリーゴーランドのように右足を軸に回る姿を、グリツィーニエが見つめる。
極彩色をまぶされた彼は、山羊の角を持つ男とは真逆の表情ばかりを見せるのだ。
「作られた側的には知るかって話。ネ?」
ウィンクひとつ、山羊角の彼に披露するのは 遊星・覧(夢・f18785)。
彼こそ、人を幸福にし思い出を作り、夢を描いてきたヤドリガミーーもとい今はUDC組織に管理された閉鎖されし遊園地だ。
グリツィーニエが無表情の顔をしながらも、瞳を少し丸くしたのを確認して満足そうに覧は頷く。
反応がある、というのは――生きている証拠であるからだ。
「それにしてもさーァ、よくねェなーこーいうの。シケてるっていうかサー」
人口的な色でたっぷりと塗られた、いかにも体に悪そうなものを口に含んだまま覧は頭上を見上げる。
それに合わせて、グリツィーニエも見上げた。
ぎちりぎちりと軋むギアのはざまには、おそらく下がダメなら上から攻略しようとした学生たちだろうか。
腐敗が進んでよくわからないが――が、上半身と下半身が「ちぎれなかった」まま、ぶら下がっている。
「ふむ――これは確かに、挟まれれば痛う御座いましょう。十分に慎重を期して進まねばなりますまい」
丁寧な物腰で、それを観察するグリツィーニエには痛ましく思う心もまだ醒めていないのだろうか。
覧の顔は正直だ。
機械というものは、たとえどんなものであっても「人を楽しませる」ことができるというのを彼はこの中で一番よく知っている。
眉根を寄せたまま、口元に笑みを浮かべた覧がよしと声を上げてずんずんと目の前にある回り続ける歯車たちに近寄って行った。
「ちょっと試しに巻き込まれてみっか!」
どんな威力かも検証してみたいからと――素っ頓狂なことをする極彩の彼にいよいよ山羊角の彼は蹄を寄せて動きを見せた。
上着を脱いで、比較的綺麗なところを選んだのは衛生的な面からだろうがもっと気にすることがあるはずだ。
「ああ、どうか。どうか」
思いとどまってほしい。そんな気持ちは湧くものの、表情の変化を見せず、グリツィーニエが手をゆったりと伸ばせど――。
がりがりがりがりごりと鈍い音に思わず彼の山羊耳がふるりとしなった。
「――あっやべコレ痛いワ。無理矢理通り抜けるのダメ、死んじゃう」
被虐趣味がある覧といえど、愛のない仕打ちなど無慈悲なものでしかない。
たすけてと呻けばグリツィーニエが伸ばした手で彼を引き戻した。
損傷したところで、ヤドリガミである覧の本体が傷つかない限りはみるみるうちに傷は塞がってゆく。
「――ハンス、頼みましたよ」
見るに見かねたのか、表情の読めない山羊が語り掛けるのは黒い鴉だ。
叡智の精霊である彼があたりを飛び回るのを、覧も一緒に眺めていた。
「歯車が止まった、又は回転速度の遅い、歯車同士の間隔の少ない等……ルートを選び、先行して頂きます」
「へー!すっげェ!ランもお手伝いしまース!」
きゃっきゃと子供の用に笑った彼が次に取り出したるは、自前のウォーターガン。
【グラフィティスプラッシュ】で勢いよく塗料を放てば彼によく似た色が歯車に貼りつく。
「コレね、中の塗料ケッコー乾くの早いからサ。歯車止めてくれるんじゃね?って――あ、ダイジョーブ。蹄よごれねェし」
「ああ、それは。安心いたしました。名案でございます」
「ランはそこらへんの生徒くんちゃんみたいにー、無謀な真似はしないので!」
では、先ほどの真似は何だったの言うのかといえば、覧なりの策であったのは事実だ。
彼の言葉を否定せず、こくりと頷いて安堵を伝える黒山羊には得意げな顔で覧も返す。
がりりと鈍い音を立てて足場の数は増えた。
叡智の鴉が戻ってくるころには、彼らの歩めるルートがいくつもある。出来れば、最短で渡りたいものだ。
「こんな楽しくねーところにいたって、しょうがないしネー」
「『――お往きなさい』」
先行して切り抜けようとする覧がまた目の前で挟まれては、気分の良いものではない。
発動されたのは、【母たる神の擒(ズィーゲル)】。
青い光を放ちながら細やかに飛び回る彼らは、導くように覧の前を通っていっては邪魔をする可能性のある因子を根こそぎ止めていく。
「おー、おー!!すげェ!魔術師(マジシャン)みてェ!」
きらきらと瞳を紫の眼鏡の向こうで輝かせる姿はまるで――グリツィーニエには訪れなかった「少年」のよう。
謙遜を含めて恭しく頭を下げる山羊と、人々の笑顔のために顕現した神は前へと進んでいく。
時折、塗料が飛んでそれから蝶が飛ぶ。
――彼らが他の猟兵と同じくたどり着いた先に、また迷宮(ラビリンス)が待ち受けていた。
大成功
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第2章 集団戦
『ミミックスパイダー』
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POW : 擬態
全身を【周囲の壁や床に擬態した姿】に変える。あらゆる攻撃に対しほぼ無敵になるが、自身は全く動けない。
SPD : 飛び掛り
【岩のように硬質な牙と脚】による素早い一撃を放つ。また、【擬態を解き、宝箱や岩石化した肌を剥がす】等で身軽になれば、更に加速する。
WIZ : 第二の口
【宝箱に擬態した第二の口】から【粘着性の高い糸】を放ち、【周囲の地形ごと体を縛り付けること】により対象の動きを一時的に封じる。
イラスト:墨柴
👑11
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔴
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種別『集団戦』のルール
記載された敵が「沢山」出現します(厳密に何体いるかは、書く場合も書かない場合もあります)。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
| 大成功 | 🔵🔵🔵 |
| 成功 | 🔵🔵🔴 |
| 苦戦 | 🔵🔴🔴 |
| 失敗 | 🔴🔴🔴 |
| 大失敗 | [評価なし] |
👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。
●Snatch
猟兵たちが次に挑戦する大迷宮は、歯車が敷き詰められた足場だ。
ゆっくり、しかし確実に回る其れを止めても構わないだろう。
だが、脅威はそのギミックではなく――君たちを影から狙う徘徊種どもだ。
うまく擬態をして、君たちから隠れている。
あげる声すらない彼らは、呼吸の音すら聞かせないだろうか。
岩と歯車の隙間に隠れた宝石箱は、中を開ければきっと『生徒』の骸を見せる事だろう。
きっとそれは、この迷宮の先にいる【主】のためのエサなのだ。
床に放置されたがために、廻る食べかけのパーツ。
散らばった衣服であろう薄い切れ端に染みついた赤黒さすら、生徒たちがこと切れるまでの凄惨さを物語る。
きっと、彼らは逃げ惑ったに違いない。
よくあたりを見てみれば、壁にはひっかいたものや殴打の痕。
魔術をぶつけたのであろう煤も見受けられるが、どうやら足元に散らばる腐敗した肉片が――きっと、彼らだ。
恐るべき大蜘蛛『ミミックスパイダー』どもが君たちをこの大迷宮の中、どこからでも狙っている!
君たちを【主】の餌にすべく、召使どもは潜んでいる。
――だが、猟兵たる君たちが斃せぬ相手のはずがない。血の匂いでも、音の反響でもなんでも頼りにしていい。
持てる力をすべてふるい、このハンターどもを打ちのめせ!
エレニア・ファンタージェン
なるほど、足場が悪いのね
エリィが歩くのは難しそう
UCで悪夢の馬を召喚、騎乗して行きましょう
目立つ歯車に適当な拷問具を投げ込み、噛み合わせを阻害して時間稼ぎを
歯車の動きは第六感で見切って馬を駆り、比較的安定した歯車の上へ
そこで敵を迎え撃ちましょう
襲いかかるその動きも…ええ、見切りましょうか
あぁ…あの箱の中にあるのはきっと…
幸い、エリィにはよく見えないわ
高く上げてから振り下ろす馬の蹄に生命力吸収の力を与え、撒き散らす昏い炎に呪詛を纏わせて
「見ない、という慈悲もあるわ…蹴散らしなさい」
粘る糸は、炎属性攻撃を纏わせたギロチンの刃を馬上から振り抜いて焼き切る
「彼らの呪詛もエリィが晴らしてあげる」
●White Serenade.
くるくると、しかし大きく回り続ける足場を見ながらも麗しの白い彼女は恐れている様子もない。
「なるほど、足場が悪いのね」
再確認もかねて、何度か白いまつげを震わせる。 エレニア・ファンタージェン(幻想パヴァーヌ・f11289) は微笑みながら現状をまず受け入れた。
しかし、この彩度の低い空間には美しく煙のような彼女であれど獣たちの目につきやすい。
地面を這い回る宝箱をこじ開けて、「中身」を知れば、きっとエレニアの心も蝕まれたかもしれないが。
(ああ、……あの箱の中にあるのは)
きっと、其処にあるのは希望ではなく幼き夢見る彼らの骸。
それは豊かな想像力から想定されたものだ。だが、この場においては大正解である。幸い、エレニアの位置からはどの箱の中身も見えていないし、見ないようにもしている。
昔に間近で見た、いつかの骨も残らぬほど甘ったるい灰に蝕まれた主人の事を思い出したのもあって胸の中に酸っぱさと息苦しさが少し満ちた。
死とは、とても虚しく――さみしいものだ。
遠くの思い出を頭の片隅に少し眩しそうにして、赤い瞳で金色の装飾を持つ宝箱を見つめてみる。
擬態しているとはいえ、宝箱と彼らは一体なのだ。彼らが動くたびに浮き彫りになる地面の歪みを察知したエレニアは、今度は悪戯っ子のように笑ってみせた。
「これじゃあ、エリィが歩くのは難しそう」
敷き詰められた歯車と、その間の真っ黒な虚空と、姿の見えそうで見えない徘徊種ども。
線も細くまるでガラス細工のような華奢な身体で歩みだせば、割れるのが先かも知れない。
いくら煙管のヤドリガミであるとはいえ、痛みがないというわけではないのだ。先ほど滲むように広がった痛みに己の服が彩られたような気がして、一度胸元に視線を落とす。
白だけが胸元に広がっているのを確認した。彼女は「真っ白」で、「エリィ」のままだ。
「見ない、という慈悲もあるわ。――『蹴散らしなさい』」
この迷宮は、どうやら一筋縄ではいかないらしいと理解できれば、彼女は蛇の頭をつけた金の杖で頼もしき「悪夢」を呼びだした。
【蹄音の小夜曲(ナイトメア・セレナーデ)】が彼女を中心として渦巻く白の中で巻き起これば――そこに顕現するのは、悪夢の具現化たる昏い炎を纏った黒馬だ。
「いいこ、いいこね」
優しくあやす様に声をかけながらも、その瞳に油断はない。ひらりと騎乗してみれば案の定馬は多少揺れる。
馬に乗った獲物が逃げるといち早く察知した蜘蛛どもは、彼女と黒馬に襲い掛かろうと牙を見せた!
擬態を解いて彼女たちに飛び掛かるのは大蜘蛛!その咢で噛まれれば、馬も容易くちぎられてしまうだろう。だから、エレニアは彼の腹を蹴る!
「お願いよ」
命令ではなく、懇願。そうすれば、悪夢の化身たる燃え滾る黒馬は王子が乗る名馬が如く駆け出す!
耳障りの良い鉄を蹴る音とともに、歯車から飛翔する。
徘徊種の蜘蛛どもは図体が大きいから、飛ぼうとするとお互いがぶつかってしまうのだ。
譲り合う心などもたぬけものどもを赤の瞳が見下ろして、それから手ごろにある歯車へと着地する。
「さっきよりもゆっくりなのね、嬉しい」
先の歯車よりもずっと穏やかに、時を刻むよりも遅く動く足場へと悪夢は導いた。
馬の首をわかりやすく何度か叩いてやり、感謝を告げながらも――彼女が細い腕から投げるのは拷問具たちだ。
チープな罠ではない、もう少し巧妙なものである。奇しくも、ある探偵の助手をつとめる彼女にはこの事件を解決する方法を考えるだけの視野があった。
蜘蛛どもが歩もうとした歯車が急に鈍い音をたてて止まる!
何匹かは急に止まったそれらが生み出す黒に吸い込まれて、徘徊種ならではの短くも脆い糸では上に届かず消えていった。
しかし、数匹はやはりそれを乗り越えてくる!大きな八つの脚で飛び跳ねながらも、細いエレニアの首へと狙うのを悪夢の焔が払うのだ!
蹄は蜘蛛の目どもを潰し、その脳を呪詛で焼き――一気にすべてを灰に変えさせる。
嘶きと共に、エレニアを落とすことなく駆け回る悪夢は歯車の上。
まるでそこはダンスステージかのように、自由自在に美しく戦ってみせる!
宝箱から粘り気のある糸が出れば、それはエレニアが炎の纏った断頭台の刃で斬り落とす。ダンスの邪魔など、させまい。
「彼らの呪詛も、エリィが晴らしてあげる」
煌々と燃える呪詛の悪夢が真っ白な彼女を赤く照らす。希望(みらい)を奪う下世話な観客は、すべからく灰にしてしまおうと嗤う。
ぎらりと鈍く光るギロチンの刃すら、彼女を美しくうつして満足げなのだった。
――災魔の悪夢は終わらない。
大成功
🔵🔵🔵
宇冠・龍
(嫌な血の匂い。それと、それ以上に濃い「呪詛」が満ちてますね……)
先の歯車通路もでしたが、奥に進むにつれて、こびりついた怨嗟や無念がより露わになってます
せめて目に付く範囲で、衣類の欠片や肉片だったものを拾い集めます
無意味なこととして、ミミックスパイダーには映るのかもしれません
けれど目的も意味もあるのです
生徒さん達を弔うことがまず一つ
そしてもう一つ、衣類や肉片に残った呪詛を辿り、喰らったものを余すことなく見つけ出すこと
【画竜点睛】で付近一体の床や壁から怨霊の腕を召喚
190の腕、それぞれ19に分けて拘束、完全に動きを封じます
人を呪わば穴二つ
攻撃はしません。拘束したまま、歯車の隙間に放り込みます
●Mother,mother.
黒の悪夢に跨る彼女が災いを焼き払うころと同時。
宇冠・龍( 過去に生きる未亡人・f00173)は思わずその場の匂いに美貌を歪ませる。
血の匂いが、先ほどに比べてより多い。
もしや、あの歯車の拷問迷宮の中にあった、一部しか見つからない生徒たちの肉体が――ここに運ばれて貪られたのではないだろうか。
龍は己の想像にますます気分を悪くするが、受け止めざるをえまい。
複数人で挑んで先に挑んだとして、歯車に挟まれたのは何人いた?先に進めたのは、何人ぽっちだった?
(それと、それ以上に濃い「呪詛」が満ちてますね……)
犠牲になった生徒たちだけのものではない。明らかに、別の意志も混ざっている。
なぜ生徒たちをここまで痛めつけて、貪ったのか――少し考えてみればその場の凄惨な形跡が「主」の声を代弁した気がする。
これは、力の証明だ。
散らばった肉片を拾い上げながら、手ごろに広がる衣類の切れ端へ乗せていく。
食い散らかした後であるのは、その断面図を見れば明らかだった。ただ、きっとおそらく人の歯型ではない。
この蜘蛛のものにしては数が多く鋭すぎる。
「……竜」
そう、竜(ドラゴン)。アルダワ魔法学園に住まう主な種族のうちひとつに、ドラゴニアンと呼ばれる彼らがいる。
そして、それは龍も同じだ。人派ドラゴニアンの部族で育ってきたのだ。
同じ――同じ、竜である。この無残な惨劇を、まるで己の存在証明が正しいとでもいいたげに命を貪った愚か者は「竜」であった!
それはほぼ直感である、だがしかし同時に、嫌悪も湧き出した。
なんと、愚かなことをしてくれたのだと叫んでしまいそうな心の内を律しながら、奥歯を噛みしめる。龍は肉を拾う手を休めなかった。
蜘蛛どもが、その様子を見ている。壁や床に擬態し、動けないままの彼らは龍の顔を赤い複眼いっぱいに映す。
目の前の嫋やかな女が憂いを帯びた顔で、己らの食い残しに触れているなどは――獣の彼らからすれば「弱者」の証でしかない。
一人で狩りが出来ないから、誰かの死肉を食わねばならない存在だと勘違いした蜘蛛どもは本能的に龍を捕食対象と見なす!
大きな体を露わにして、龍の背後から飛び掛かり自然の摂理を叩きこもうとしたとき――。
「『咲けよ徒花、一つ二つと首垂らせ』」
【画竜点睛】はここに成就された!
まるで、空間に線を引くように虚空へと水平を指で龍が描けば、それを合図と言わんばかりに一九〇の腕が床から、壁から呼び出される。
襲い掛かろうとした蜘蛛などは、そのまま腕で絡めとられてしまうではないか!
ぎちぎちと顎についた牙を鳴らして抵抗してみたところで、龍の扱う怨霊どもはけして離すことはない。
ひとつ、またひとつと蜘蛛どもは拘束されていく!だが、それ以上に余計な力を振るわない。
「人を呪わば、穴二つですから」
その言葉の意味がこのけだものどもに伝わるかどうかなど、わからない。だけれど、己に言い聞かせるための声でもあった。
蜘蛛には目もくれず、生徒たちの遺骸を集めてゆく。
そこに宿るのは無念の呪詛だ。皮肉にも、龍はこうして呪詛を扱う部類であるから――この場にいる彼らをすべて見つけることが出来る。
一部しかなくとも、持ち帰れればきっと彼らの親も弔えるだろう。
それは、現実と言うものの押しつけかもしれないが――よく、わかるのだ。体だけでも還ってきてほしいものだというのを、その身の内で子供が死んだ龍だからこそ理解できる。
たとえ人の形をしていなくとも、本当と言うのは分かるのだ。それが、己の子であることを。
思い出された赤い海の光景が、くらりと前頭を焼いたが気にしていられない。視界が追想で眩んだところで、立ち止まるわけにはいかないのだ。
蜘蛛を拘束した腕どもは、次に歯車の隙間に蜘蛛を放りこんだ。
ゆっくりと動く歯車はどんどん抵抗する蜘蛛たちに迫っていく。ぎいぎいと威嚇する蜘蛛に、龍は短く突きつけるように言葉を吐いた。
「――報いですよ」
そうあるべきだと言いたげな淡い色をした頭が、振りむくことはなかった。
ぎぢゅ、と嫌な音を立てて蜘蛛どもが歯車に挟まれてゆく。完全に足場が止まったことが、龍の持ち場の平穏を証明していた。
「生徒たち」を集めた布をきつく縛って、手に抱く。
まるで、その姿は彼らの死を悼む「母」のようだった。
大成功
🔵🔵🔵
死之宮・謡
アドリブ&絡み歓迎
ん?ナニか、居る、ね…殺意を、感じる、よ?でも、悪意は、無い、ね…虫、かな?まともな、思考は、出来なさそう、だね…
…それにしても、はぁ…また、非人型、か…仕方ない、かな?人型が、出る、まで待つか…
・戦闘
回避重視。ある程度のダメージは無視(見切り・激痛耐性)殺意で相手の攻撃を感じとってカウンター気味に【一閃】して真っ二つ…
●Assasin vs SAMURAI.
黒の髪が空間に漂う。
ゆらりとおぼつかない足取りではあれど、周囲を見回す赤は警戒心が高く、彼女に備わった本能と危機管理能力があらかじめ秀でていることをこの場の誰もに感じさせるだろう。
死之宮・謡(統合されし悪意→存在悪・f13193)――基い、彼女のうちに潜む各世界の悪意のうち一人、剣鬼こと天羽・月夜は瞳に幼い色を宿しながらも刀を抜く。
一度周囲にある岩をかるく小突いてみれば、彼女の想定したものどもは身じろいだ。
今、月夜の目の前にあるのは宝箱の多い穏やかな歯車の迷宮であるが、空気の振動を与えてやればその虚構は簡単に崩れ去る。
音に反応して、身じろぐ何かが宝箱と共に其処にある。
「ナニか、居る、ね……殺意を、感じる、よ?でも、悪意は、無い、ね……虫、かな?」
悪意のある殺意ではなく、それは自然の摂理と同じ本能からのものであると悟るまでもさほど時間はいらない。
数々の悪意と体を共にする月夜もまた、世界の悪意から捻出された存在である。
悪意の醜さも美しさも、そしてしたたかさと言うのもよくよくわかっているのだ。
――よって、この悪意どもは己の足元にも及ばぬ。
そう判断すれば、ため息をひとつついた。
「また、非人型、か……仕方ない、かな?人型が、出る、まで待つか……」
人斬りとして顕現したものだから、無機物や獣を斬っては昂りも冷めてしまう。
幽鬼のように場の空気に漂いながらも、彼女の本質は血を浴び、そして誰かの断末魔を聞くことで他人と共存をはかることを求め続けてきた。
破綻している理論かもしれないが、誰かの命を奪うまで痛めつけねば、人のぬくもりが理解も認知もできないのだ。
立ち尽くすばかりで蜘蛛どもの存在は理解せど、彼らに刃を振るうことが無いのを好都合として八つの脚どもは宝箱を背負ったままで彼女に近寄る。岩のような硬さを誇る牙と足がごろりと殻を落とせば、その速さが格段に強まる!
ある蜘蛛が殻を落とせば、他の蜘蛛も落としだし、次々と月夜に駆けだしていった。
――襲い掛かるとわかっているものを、わざわざ探す道理もあるまい。
「『終の一閃――』」
振るわれる爪を、優れた第六感で身体を反らせ躱す。
まるで、その様は視ようによってはダンスのようだったやもしれない。
開けた着物から除く柔肌には、一つ薄く赤い線が走るものの大したダメージでもなかった。
だが、それは月夜にとっての緊張感がためであり――興奮材料だ!
「あッは」
まるで喘ぐかの如く、歓喜に震えた声でぎょろりと蜘蛛どもよりも赤い瞳が興奮によって見開く。
そのまま、のけぞった体が右足を前へ!
そこを起点として繰り出すのは、先ほどの無礼な蜘蛛と宝箱ごとを貫く――突き。
彼女の剣術をすべて総称するコード、【 斬殺技巧:一閃(ザンサツヒケン)】はここに完成された。
一瞬、その蜘蛛の世界は全てが遅くなっただろう。
舞う己の体に乗った鉄と、金。そしていつか捕食した「よく鳴く」獲物の中身が、ひっくり返ったのを無様にも眺めるだけしかできなかったのだから。
貫かれて絶命した宝箱の中身から、人の死が舞うのを月夜は興味もなさそうに見る。
ごろりと転がる半分白骨化した溶けた顔が二つ彼女の前に挨拶をしていた。
「……よかった、ね?ともだちと、一緒で。寂しく、ない、だろ」
死とは孤独で不幸の代名詞ではあるが――皆で死んだというのなら、月夜にとっては同情もない。
むしろ、恵まれてるではないかと皮肉めいて微笑んだ。
血相を変えて襲い掛かる蜘蛛どもをまるで、文字通り虫を払うかのように片腕で斬りはらう!
時折、刀が錆びないかどうかだけを気にした様子で切り刻む月夜は――別の悪意についてを考えていた。
「……ここの主は、どう、かなぁ」
孤独に嘆く彼は、少なくともこの蜘蛛どもよりは知能がある。だが、知能があるとはいえその姿が人かといえば保証はない。
そろそろ我慢を強いられるのも、ある種彼女にとっては危険であった。
「人なら、いいな」
己の心を――理解して、死んでくれる手合いであればよいのだが。
うっとりとした笑みは過去を追想するもの。
斬捨てて続けねばならない蜘蛛の命と過去の命を重ねて、もう何度目かわからぬ「思い出し笑い」を続けねばならない。
そうでなければ、――狂ってしまいそうだった。
成功
🔵🔵🔴
ニコ・ベルクシュタイン
◎★
ふむ、懐中時計の身としては歯車の迷宮にも興味は有ったのだが
踏破された後とあっては仕方が無い、遅ればせながら助力しよう
…いや、訂正しよう
『興味が有る』等と軽々しく言ってはならぬ光景に暫し目を閉じ
再度瞳を開けて見据えるは大蜘蛛共の姿だ
二振りの双剣を持つ手の構えを解き、だらりと腕を下ろした状態で
四方八方から敵が迫るのを敢えて待とう
そう、少しでも多くの敵を巻き込めるように
ギリギリまで引き付けた所で双剣を虹色の花弁に変えて
「範囲攻撃」を乗せた【花冠の幻】を発動、一網打尽を試みる
一撃で足りなければもう一撃だ、今度は精霊銃を取り出して
其れを花弁に変えての「2回攻撃」だ
花よ、花よ、せめてもの手向けとなれ。
●Flower,flower.
歯車というのは、機械仕掛けであるから彼にも通ずるところがある。
遅れて到着したのは ニコ・ベルクシュタイン(虹の未来視・f00324)。
踏破されたあとだと転移中に聞いて、少し己の興味が満たされないことにそのお堅い顔を少しだけ残念そうにしたものだったが――これまでの惨状を今この場で体感して、思わず指先で眉間を押さえた。
「『興味がある』等、軽々しい発言だったな――訂正しよう」
弄ばれたかのように中途半端な位置でごりごりと未だに腐乱した体を削られる制服を着た上半身。
どろりと溶けた顔面からは下がない幼い顔。
頭上ではまるで杭のように歯車の中央に差し込まれ、その体から肉片を落とし続ける夢を抱いていた生き物のかけらも時折落ちてくる。
惨劇だ。むしろ、最初から居れば生真面目な彼がありもしない『獣性』に駆られていたかもしれないような、現場だった。
ニコが居たという地下迷宮――のち、兎のような彼に見つけられて金と引き換えに未来を奪われるところだったのだが――は、少なくともこのようなところではなかった。
ここには夢も希望の冒険もあったものでない。あるのは、ただただ凄惨ななまぐささと死肉だ。
己が浅はかだったとニコは目を瞑って、一度ため息を大きめに吐き出した。そのあと、紅玉のような瞳を再び瞼から覗かせる。
その目に映すのは、次は大蜘蛛たちのことだ。今は憂うよりも先にやるべきことがある。
一度時を刻む双剣を構えたのち、だらりと脱力をした。
これは、ニコにとっての「待ち」の姿勢だ。かちこちと彼の体内の近くで鳴る本体が、ニコに的確なリズムを与える。
時の数は、時に心拍数を計る際に用いられる。今この場には、ニコの音しかないが――それは己の魔術を発動させる時間と合図、魔術の巡りを連想させるにはちょうどいい。
ここの「主」の仕業であろう、あたりに散らばった死体ごと大蜘蛛を視界に入れようとする。
落ち着いた鼓動の中でゆっくりと周りの景色を見ていれば、時たま空間がゆがんだように揺れ動くのがわかった。
(おそらく、完全に静止していれば擬態は完璧だが歩き出せばそうもいかないらしいな)
ならば、「餌」であるニコのことを放置しないということだけ確認出来ればいい。
出来る限り引き付ける、出来る限り多くの数をニコに注視させることを計画する。
緊張をしてはならない、獲物であるニコは無防備でいなければならないのだ。
少しでもそれを露わにしてしまえば、仲間をすでに何匹も葬られた蜘蛛どもは「蜘蛛の子を散らす」ように逃げて行ってしまう。
逸る気持ちを抑えるために、己の音に集中する。
かち、こち。
四方八方から、大蜘蛛どもがぞろぞろとニコを見つけてやってくる。
かち、こち。
時折、反射のように剣先をゆるく動かしてみると、そそられるのか不信感を抱いた蜘蛛すら釣れる。
かち、こち、かち。
ニコの秒針が刻む音に合わせてゆるりと武器に虹色が漂う。煙よりも曖昧なそれは、ニコの魔力の息がかかった証だった。
そして蜘蛛共がいよいよ、警戒心のない褐色の白を喰らおうと――その咢を眼前に寄せてきたとき。
こち。
ニコの目は、見開かれる!
ぶわわと彼の双剣が虹色の花弁に変わってゆく。蜘蛛共が動揺して、僅かニコから離れたがもう遅い!
「『夢は虹色、現は鈍色、奇跡の花を此処に紡がん』!!」
力強い詠唱と共に、彼の【花冠の幻】は成就された!あたり一斉に虹色の花吹雪が巻き起こり、蜘蛛どもを貫いて、切り裂いて、砕き続ける――それでも一つも花弁が地面に落ちることはない!
どんどん仲間が巻き上げられて花で骸の海へ帰されるのを察知した個体などが逃げ出すが、ニコは容赦なく次の武器を構える!
「逃げるな!」
叱るような一喝と共に、彼の腰から抜かれた赤の銃がぶわりと虹色を纏う。
手品のように花へと姿に変えたそれはやはり蜘蛛を巻き上げて、花の渦の中で血肉も零さないまま塵へと変えた。
ニコがそれを姿勢正しく見上げたあと、虚空へ右手を差し出す。
そして、ぱちんと一つ音を立てれば花の渦は解かれて戦場へと舞った。
「花よ、花よ、――せめてもの手向けとなれ」
目を細めて眉尻を下げる、少し悲愴を隠せなかったニコが祈るように虹色の花弁に願う。
どうか、還れる場所に魂だけでも還れればよい。
どうか、家族の元へ導かれるようにと祈る。
醜い肉片となった名も知らぬ彼らに、どうか救いがあらんことを。
虹色の花弁たちが、その死体に降り注いで――まるで、別れ花のように優しい香りを放っていた。
大成功
🔵🔵🔵
ヨシュカ・グナイゼナウ
◎★
「苦手なんですよね、蜘蛛」
何が嫌かって脚が沢山あるし目も沢山だ。6脚4対ぐらいに抑えて欲しい
先の猟兵さんたちが須らく倒してはいないかなと。そういう訳にもいかないか
くるくる回転する足場に座りながら考える
集音器をオンにして、エコロケーションだったかな、反響音を頼りに蜘蛛達を【見切り】
あとは、【野生の勘】でフォローして。矢張り『餌』の近くにいるんじゃないかと、食べられた彼らには申し訳ないけど。攻撃が来るなら、残念ながらそれは【残像】
視認できるくらいに位置が把握できたら【針霜】で。【破壊工作】【地形の利用】を併用して
蜘蛛達が上手い具合に鋼糸諸共巻き込まれるように。うん、嫌な音だ
●Echolocation-Emotion
はちみつ色の隻眼は、ゆるりと見下ろした。
足場の高いところなら徘徊種の蜘蛛もわざわざ来ることもあるまいと思って、この歯車に座りこむがそれでもやはり蜘蛛はそこに潜んでいる。
「苦手なんですよね、蜘蛛」
ヨシュカ・グナイゼナウ(渡鳥・f10678)は灰色の猫とともに不機嫌そうにした。猫のほうがいささか表情を作るのはうまかった。
できれば、他の猟兵が蜘蛛を全滅させるかそれか脚の数をを減らしてくれる能力でもあってもよかったのだが、よくよく周りを見てみると猟兵よりも蜘蛛の数のほうが圧倒的に多い。
ヨシュカは人形でありながら、蜘蛛が苦手だ。
脚の数もだが無数についた前面の目すら好きになれない。
回る視界であたりを見回しながら、ドールである彼の何を貪ろうというのかはわからないが彼の歯車の上に寝転がったり鎮座する宝箱から確かな殺意を感じる。
きり、とヨシュカの内部が呻いた。
耳の内部に埋め込まれた集音器は彼の聴覚を助けるものだ。最も、人間用ではないから別の働きがある。
それから放たれる音がどんどん高音へと変わって――その場にいた蜘蛛どもがびくりと揺れるが、いずれ聞こえなくなった。
ただでさえ蜘蛛たちも群れの仲間が襲われている。慎重にならざるを得ない。
お互いに緊張感を抱きながら、様子を見合う。その場に揺れるのは耐え切れない灰猫の尻尾だけ。
ヨシュカが一度目を伏せて集中する。
こん。
かん、ざり。
じりり、きちきち、じ、きぃ。
いろいろな音が彼の世界では反響していた。高周波の超音波で、目の前の障害を察知する――反響定位(エコロケーション)を使って不可視の輪郭を露わにしていった。
360度範囲で繰り返されるそれで、大体の数を知る。蜘蛛の数は五体程度。
顎が鳴る音は緊張からか無意識の威嚇ですぐそばだ。そして足の位置を変える音は少し遠くで。きぃと鳴いた蜘蛛どもは最期の晩餐に忙しいらしい。
直後、ばっとその場からは飛びのいてヨシュカは転がる!
不意打ちにも似た行為に彼のそばにいた蜘蛛は慄いた。顎を開ききって声にならぬ威嚇とともに鎧の脚を捨て、ヨシュカを追いかける!
くるんと丸まって転がったヨシュカが、まるで猫のように腰を丸めて四つ足をつく。
目の前に漂う土埃のことなど、置き去りにして――。
「『――穿て』」
鋼が、走った!
鉄臭さすら切り裂いてしまうかのごとく張りつめた鋼糸はヨシュカの【針霜】によって的確に蜘蛛たちを貫いていく。
歩けないよう、多すぎる足を破壊してから――二度と起き上がれないよう頭も腹も貫通させてしまう。
「趣味の悪い標本みたいですね」
思わず、出来に自分でも微笑んでしまうが彼らには無様でお似合いである。
餌を貪る蜘蛛どもにも放とうとすれば、向こうも黙ってはいなかったようだ。
擬態を解いて飛ばしてくるのは粘着質な糸!
だが、ヨシュカにはすでに「聞こえている」。その腹で糸を作る音すらもすべて聞こえていたのだ!
残像を生む速さで、ヨシュカはあえて前へと転がった!
そしてまた、両手をしっかりと地面にあてて糸を繰る。
まばたきすら必要としない、星を宿す琥珀が蜘蛛をまた見つめれば――高い音を立てて蜘蛛たちは宙に浮いた。
光の加減で見えない糸に、蜘蛛たちが貫かれ藻掻いている様を見上げる。
それでも、やはり好きになれないなと灰色の猫を抱きなおしてヨシュカは困った顔をした。
何度か掌を閉じたり開いたりする。少しの間の思案で、彼らの処分方法は決まった。
次こそは臀部をつけて座り込む。太ももでにゃおうと鳴く灰猫が温かい。
灰猫に左手を、そして地面に右手をあてがえば――蜘蛛たちはそれぞれ飛び交っていった。
蜘蛛どもが解放されることはない!
鋼糸ごと豪速で飛ばされていくのを、お互いの視界に入れればすぐさま暗転しただろう。
ごりごり、ばきゅばきゅ、めきゅ。みぢ。
ひどい音を立てて、歯車が蜘蛛ども噛んでいくのをやはり眉根を寄せてヨシュカは嫌うのだった。
「嫌な音」
せめて死ぬときくらい、綺麗な音で好きにさせてくれればよかったのに。
大成功
🔵🔵🔵
アレクシア・アークライト
これだけ痕跡を残していたら、近くに敵がいることを教えているようなものじゃない。あまり頭は良くないのかしらね。それともこれも罠で、痕跡に注意を向けてさせておいて、死角から襲おうとしているのかしら?
・薄く広く力場を展開し、また、床、壁、天井など周囲全てに念動力を放って敵を捜索。
・敵を認識した場合は、接近される前に念動力で攻撃し、関節部分を引きちぎる。
・引きちぎった部位を構成していた力をUCで分解・吸収し、念動力に転換してさらに攻撃する。
今までは捕食する側だったんでしょうけど、今回は捕食される側に回ってもらうわよ。
一匹残らず、塵一つ残さず消してあげるから覚悟なさい。
●Reproduce.
ゆらりと炎のように赤の髪が揺れて、やわりと地面に手が触れた。血の痕は感想しきっており拭おうとした形跡もない。
ここから考えられる可能性――「主」の評価を導きだすのは、アレクシア・アークライト (UDCエージェント・f11308)だ。
薄く広く、己の力場を魔術を用いて展開しながらこの場の探索(サーチ)を続ける。
この探索こそ、彼女にとっては魔術に必要な時間であり回路の組み立てでもあった。彼女が見据えるのは目の前の蜘蛛もだが、この「主」のことも気になる。
「あまり頭は良くないのかしらね」
侮った一言ではない。
アレクシアが思うに、ここの「主」は知能指数が低いのだ。
おそらく、数値で言うなら100にも満たないほどのIQが観測されるだろう。理由は彼女の探索結果にあった。
まず、蜘蛛は擬態する。擬態するということは少なくとも、今アレクシアを複数匹で狙うあたり社交性もあるが、リスクを考えられる生き物なのだ。
数こそ多いものの、どれ一匹として動かず姿を現せないのは動いてしまえば擬態がとけてしまうからなのだろうとその時点でも察してはいたが、彼らは生物の本能からも作戦を考えることが出来る。
それに比べて――とアレクシアは次は壁を凝視した。
己の力を使わずとも理解できる、壁に走る三本線が語るのは、壁にもたれかかったまま動かない「上ナシ」の死体を生み出した「主」のこと。
随分、ここの主は力が強い。しかし、単騎特攻のタイプでもあるようだ。死体の周りに散らばる蜘蛛の脚が、蜘蛛ごとこの命を貪ったことを裏付ける。
社交性は極めて低く、かつ独善的であり、豪快な手つきからいって己の強さをよくわかっているタイプでありながらも孤独に泣くのは――まるで。
「赤ちゃんみたい」
幼児にそのまま、大きな体を与えてしまったような存在であるという結論が頭の中で出来上がった。
罠のように置いているのではなく、「そのまま」にしているだけなのだ。
一瞬頭をよぎった「だまし討ち」の可能性は情緒の発達が未熟であることから消える。
いつかそういった亡骸も親が片付けてくれるとむやみに信じている子供の、そのままの気持ちであるから――むしろ、おそらくこれから猟兵たちが挑んでいく相手は「かんしゃく」を起こしてしまうだろう。
「……暴れそうね」
きっとどうしてこうなってしまったのか、この迷宮に入り込んだのか本人もよくわかっていないのだろうと推理する。
彼が己を返してくれと嘆くように、察するに己が何をしているのかもわかっていない。世界を恨む悪意はあれど、猟兵たちに討たれる理由を知らないだろう。
だが、だからなんだというのだ。
「それが仕事よ」
わからねばわかるまで、運命に穿たれるまで骸の海に帰すだけである。
生きるために喰ったのなら、どの生徒もこんなことにはなっていない。
きっと、別の理由がそこにあったのだろう。まだ、それを知るための情報は足らない。
呟きながら、改めてこの「主」が悪意あって生徒たちを殺したことを確認する。ただ殺すだけなら、ただ食べるだけなら――歯車に挟んだりすまい。
アレクシアが目を閉じた。
沈黙した彼女の赤い上着が空気に漂うのを止めて、制止する。
今こそ食い時である!といわんばかりに、蜘蛛たちは襲い掛かった!
その数にして数体。だがどの個体も大きい、アレクシアのことを足一本でも串刺しにできそうな個体すらあった。
一目散にアレクシアに走り寄ったその姿はすっかり擬態も溶けている。
刹那。
「『最後の切り札よ、受けてみなさい』」
アレクシアが目を次に開けば、彼女を中心に一度赤い波動が広がる!
脈打つような灯がまだ空気に漂っているのを蜘蛛たちが認識すれば、アレクシアが手を掲げる。
彼女が掌に力を入れて、指を折りたたみ始めれば――不意に、一匹の蜘蛛はきぃきぃと鳴いて締め上げられた!
どこからの糸もない。手品なのではない、これは彼女の魔術だ!
締め上げられた蜘蛛が尻と口から赤を零せば、アレクシアが虚空に腕を振る。そうすれば、蜘蛛も同じく投げ飛ばされて別の蜘蛛に衝突する!
空気、風の流れ、時間すら――今は彼女の魔術が届く範囲であれば彼女のものだ。
「今までは捕食する側だったんでしょうけど、今回は捕食される側に回ってもらうわよ」
その赤の瞳には、侮蔑とそれから、怒りが灯る。
ぐしゃりぐしゃりと空中の蜘蛛が丸められて、赤の光に吸収されれば、アレクシアの肌から放たれているような鈍い赤の光が輝きを増した。
物質の構成を把握するために、分解。そして理解できれば吸収し――力として開放する!
これこそ、彼女の【能力吸収(アプソーション)】そのものだった。
「一匹残らず、塵一つ残さず消してあげるから――覚悟なさいッ!!」
覇気と共に放たれた赤の光が蜘蛛どもを「分解」するまでわずか数秒!
ぼとりぼとりとこぼれた肉片すら、彼女の力へとすぐさま変換される。アレクシアが「主」に挑むには十分な力を手に入れたのだった。
成功
🔵🔵🔴
無明・緤
◎★
狩るか狩られるか、いいじゃん
蜘蛛なんて猫のオモチャだ
歯車の足場を先刻同様楽しく駆けながら
髭と嗅覚で敵位置に見当をつけ、あえて近づき飛び掛りを誘発
【フェイント】【逃げ足】活かして逃げ回ることで相手を焦らし
擬態や防御が疎かになるよう仕向ける
さあ出てこい――うわデケェ!
追い詰められたら「諦めたように完全脱力し」宝石箱を見て
…おれの棺桶には豪華すぎるな
UC【オペラツィオン・マカブル】使用
無効化が成功しても失敗しても
からくり人形を使って強引に二撃目以降の回避を図る
人形を【操縦】しワイヤーで敵を拘束、岩肌の剥げが狙い目だ
鋼の腕でブチ抜いてやれ、法性!
大蜘蛛を仕留めたら勝鬨をあげよう
学友の魂への手向けだ
●Cats vs Spiders!!
緊張感の走る小さな体にはいっぱいの夢と希望と未来を背負う。
しびびと広がる少々かためのヒゲには、彼の緊張がまとわりついていた。
「狩るか、狩られるか。いいじゃん」
挑戦的に笑ってみせるのは、 無明・緤(猫は猫でしかないのだから・f15942)。無意識にむき出しになる爪には周囲への敵意が隠せない。
うにゃあおと鳴いてから彼が小さな体を跳ねさせて電波の反応がある方向へ走る!まちがいなく、目に見えぬ何かがそこにあると踏んだ。
そうすれば、静止していた宝箱たちが一斉に動き出し巨体を露わにする!
「うわッ!?デケェ!」
思わず、その大きさにおののくがそれで怯んでいる場合ではないのだ!まっしぐらに走り抜けるために、態勢を低くし四つ足で駆ける。
時折、別の歯車の足場まで撒いては壁を蹴り、そのまま急降下して柔らかな体を活かし歯車の隙間に入り込んで、裏へと回った。
また地上にはい出せば、彼を見失っていた蜘蛛たちがその鎧を捨ててスピードを上げて走ってくる!
「ひゃっほう!いいねェいいねェ!ノリがよくて助かるぜ!」
これは、冷や汗をかきながらも彼の作戦の内だ。
時折自分の衣服を蜘蛛の脚がかすめていくほど近寄って見せたり、その頭を足場に翻弄したりしてみる。
焦らすのだ。ハンターとしての彼らは焦らされればどんどん狩りに夢中になってしまうのを、よくよくわかっている。
なぜならば、猫(ケットシー)である彼もまた、狩猟に対する気持ちは本能に刷り込まれているからだった。
どんどんと彼が挑発するハンターの数は増えていく!
忙しなく多脚を動かしている集団が、ようやく目標の数に集まったところで―― 緤は壁に背を預けた。
「はあ、はあっ、は」
思わず、急に立ち止まったことで体も驚いて彼の息を上げさせてしまう。
ふさふさの体を揺らしながら何度か咳き込んで、目の前にぞろぞろとやってくる赤どもを見やる。
その背に乗せられた宝箱の中身が――ちらりと見えた気がした。
「――ッてめ」
思わず、激情に駆られそうになる。箱の中身が、まだ人の形をしていたのがいけなかった。
ここですべてを捨てて挑んではならない!己を律するために尻尾をぴんと立ち上げた。
ここでクールにやらねばならぬ。人形遣いであり電脳魔術士――すなわち、メカニックである己がメカより熱くなってどうするのだ!
舌打ちをひとつして、両腕をまるで「降参」するかのように上げた。
この場での完全脱力は、マシンで言うところのクールダウンのためのパワーオフだと己に言い聞かせて、へたりと座り込む。
さんざん彼に追わされた蜘蛛どもはあざ笑うかのようにじりじりと詰め寄ってくるのだ。
(中途半端に、感情なんて持ちやがって)
そのさまを、彼は心の内で舌打ちする。
じゃあ己がこれから、この蜘蛛どもになにをするかも考え付いてよいものだが――その頭はないのだなとあきれ混じりに緤は目を細めた。
「それさァ、……おれの棺桶には豪華すぎるな」
だから、皮肉めいていちど嗤ってやるのだ。嗤う猫を黙らせようと射出される粘っこい糸は緤を捉えようと広がった!
――再起動(Reboot)。
「 鋼の腕でブチ抜いてやれ、法性!」
叫ぶ。強く、猫は叫ぶ!
広がりきった彼のひげは、ただの猫ひげではないのだ。
鋭い緑の瞳を見開いて、瞳孔を狭めてやれば戦闘絡繰――『法性』は躍り出る!
持ち主に応じるように、絡繰は機械音を立てながら糸ごと狙い通りに蜘蛛を腕で撃ちぬいた!
「いよっしゃァ!」
【オペラツィオン・マカブル】。それは、彼の絡繰人形で敵の攻撃を無効化し人形を呼び出せるユーベルコード!
まずは一体撃ちぬいた!
口角を上げて大きく叫ぶ緤が二本の脚で一度跳ねれば、そのまま人形と共にファイティングポーズをとる。
「かかってこいよ」
ちょいちょいとむき出しの爪で蜘蛛を煽れば単純なものだ。
勢いよく鎧を脱いで遅いかかる蜘蛛に、緤が一度拳を引けば法性も拳を引く。やわらかな肉球のある掌を広げて前へ突き出せば、同じように法性が動き――掌底となる!
ま゛ぎゅ、と醜い音を立てて吹っ飛んでいく蜘蛛が、対角線上にある壁に叩きつけられて黒霧となって海に還るのはあまりにも蜘蛛たちにとっては脅威であった!
緤は、己らケットシーの信条(モットー)において学友へのこの仕打ちを許しはしない。
「蜘蛛なんて、猫のオモチャだ」
だからこそ、勝利を手向けとしたい。ここですべて彼が集めた分は、――屠る!
ふたたび、ひげが音を立てて人形に指令を送るのを聞きながらぎらりと緤の碧と法性の鉄の腕が輝いたのだった。
大成功
🔵🔵🔵
遊星・覧
◎★
すげェやアルダワ、遊園地も顔負けの迷宮(ラビリンス)!
でもやっぱココもシケてんだよなァー
◆
あー隠れてんのかー
探すのニガテ。アッチから来てくれるようなコトしよ。
ってコトで
無謀な生徒くんちゃんを探しに来るかもしれない、これまた無謀な未来の生徒くんちゃんのためにー
ランが床に宝の地図を描いてあげましょーネ。
【グラフィティスプラッシュ】で歯車の床をバンバン塗って、生徒くんちゃんたちの居場所を描いてこ。
アートに熱中して隙だらけ。存在感バツグンじゃない?
狙ってきた所をクイックドロウ&咄嗟の一撃!
外れてもオーケー、塗料の上にいるランは強いよォ。
◆
歯車の間も箱の中も、みーんな見つけてもらえるといーネ。
●Hospitality.
血なまぐさい空間であっても、それが壮大で夢動かされる事には変わりない。
「すげェやアルダワ!遊園地も顔負けの迷宮(ラビリンス)!」
きゃいきゃいとはしゃいであたりを見回す、長い手足を自由に伸ばして宝箱すらひょいと乗り上げるのは 遊星・覧(夢・f18785)。
彼もまた、人を楽しませる機械の集合体であるからやはりこの迷宮には夢と希望が詰まっていたのだろうということは見て取れた。
だが、だからこそ、惜しい。
「でもやっぱ、ココもシケてんだよナァー」
今ここに漂うのは血と、悲鳴と、それから猟兵たちが放つ魔術と蜘蛛の亡骸ばかり。
壁にペイントされていそうな可愛らしい絵の代わりに、どす黒く変色した赤ばかりといたずらに振るわれた爪や拳の痕が刻まれている。
殺されまいと抵抗した学生たちの魔術の痕跡が弱弱しく残されていることすら、痛ましい。
鋭くとがった、噛み合わせの良い歯を見せながら困ったように覧は笑う。
――この迷宮(ラビリンス)は公平性に欠ける。
元来、機械仕掛けの遊び道具の集合体である彼は、人を楽しませることが言わば成り立ちであった。
人々の笑顔をビジネスで回すために生まれてきたから、生粋のエンターテイナー気質である。
お客様には公平に楽しんでもらわないといけないのだ。
たった一人のためにサービスの過剰もできない規則(ルール)がある。
「困っちまいますよネ、クレーマーっつーのは」
彼が語りかけたいのは、死体でなく、蜘蛛でもない。
この迷宮に、話しかける。
きっと頭上にも足元にもゆるりと回る歯車たちだって、何も人を殺したくて廻っているわけでもないのだ。
――誰もが楽しめなくなった場所が、どうなってしまうのかはよくわかっている。
だから、覧はにんまりと笑って大容量のウォーターガンを手にするのだ。
一度髪ゴムで髪の毛を結いなおして、よぉしと声を上げればどんどん思い出の土産品を撃ちだす。
悲しいものでいっぱいならば、楽しい気持ちで、楽しい色で塗りつぶしてしまえばよい。
ここにまた訪れるであろう、死体となって転がる生徒たちを探しに来た誰かのために――せめて、ここが見つけやすいように。亡骸を探しやすいように。
少しでも、覧たちが今後来る「お客様」のために出来ることをしておこうという意志表示である。
死体を汚す真似などしない。寝ているお客様は起こすものではないからだ。
機嫌よく歩きながら、彩度の高い色を放つ覧の横を歯車に挟まる死体があったところで今は気にしない。
猫が走っていっても、鋼糸が繰り広げられていても、炎が舞ってもなんのその。
「はァい、ちょっと通りまぁす」
遊園地の平穏はこうした地道なキャストがいるからこそ成り立つのだから。
そして、この塗料こそ無駄ではない。
【グラフィティスプラッシュ】は、ゴッドペインターである彼の技術である。
彼が彼の色を戦場に増やしていくほど、彼はどんどん強くなっていく。地面ばかりを気にする覧ならば斃しやすいのではないかと踏んだ多脚どもがそれを知る由もない。
擬態を解いて猛スピードで突っ込んでくる多脚には勝利を確信した勢いがあった。
――しかし!
「お客様ァ、どうぞこの場にそぐいませンので、おかえりくだサーイ」
ほぼ振り向かず、気配だけで塗料が蜘蛛めがけて放たれる。
蜘蛛もユーベルコードを使ったのだ、だから早いはずだったが――ず っ と 覧 の ほ う が 早 い !
べしゃりと嫌な音をたてて蜘蛛が床に落とされる。塗料は蜘蛛のありとあらゆる穴から染み渡って、その命を固めてしまった。
「ゴミはゴミ箱、マナー違反は豚箱ってね。ランの邪魔しないでヨ」
そして長い脚で色のついた蜘蛛を蹴れば、合図のように黒霧となって消えていく。
次々と群れてやってきた蜘蛛どもを、床に何かを描きながら覧は撃ち落としていった。
此処こそ夢の国にすべき場所だ、夢に現実的な暴力を持ち込む輩など存在してはならない。
機械的に、かつ今の作業に夢中となってわくわくした顔で覧は戦局を変えてゆく。
「よぉし!できたっ」
ぱっと一度己の衣服の埃を払って、高いところにある歯車の足場から出来栄えを確認する。
彼の居た場所に蜘蛛(ごみ)の山が出来上がっている以外は、おおむね完成図通りの――宝の地図が出来た。
先ほどの攻略された迷宮からすすんだ誰かのために、見つけやすいようにルートを入り口からずっと描いていたのだ。
ここで皆が戦っていたのだと、まるで歴史をたどるかのように。覧はずっと。
「歯車の間も、箱の中も、みーんな見つけてもらえるといーネ」
しゃがみこんで、膝に肘をついて頬杖で右ほほを支えながら満足げに笑う彼は、――今日も、人(お客様)の笑顔を大事にしている。
大成功
🔵🔵🔵
グリツィーニエ・オプファー
ハンス?
…ふむ、沢山の視線を感じると
擬態を得手とする敵ならば、不意討ちされぬよう気を配らねばなりますまい
何処より襲い来るか分らぬならば
鴉を一撫で――すると共に【黒き豊穣】を使用
花弁と化したハンスを展開し、影より出でる暗殺蜘蛛を迎撃致します
同時に呪詛を刻み、恐怖を与える事で隙を作れば、猟兵の皆様も仕留め易くなる筈
…そして無数の花は私の剣であり、私の盾
糸を放たれたならば、自身の傍に展開していた花で切り刻み、阻止
たとえこの身に至ろうと、攻撃の手を止められぬならば些事に他なりませぬ
多少の痛みであれば激痛耐性で凌げましょう
不埒者には罰を与えねばならぬと『母』は申しておりました
――さあハンス、頼みましたよ
●Black Flowers.
極彩色の彼が地面を塗り固めていくのを、美しい麗しの黒を纏う黒山羊の彼は不思議そうに見ていた。
宝の地図を描くのだと意気込む背中を見送ったあとで、肩にとまる叡智の鴉はグリツィーニエ・オプファー(ヴァルプルギス・f13858)の頼もしき精霊だ。
「――ハンス?」
その彼が鳴くものだから、おそらくこの空間はそう簡単に切り抜けれるものではないのだろう。
「……ふむ、たくさんの視線を感じると」
鴉が警戒と興奮を露わに煌めく瞳で語るのを、グリツィーニエは穏やかに山羊の耳で聞いていた。
この敵はどうやら、擬態というものが得意らしい。
グリツィーニエが色違いのガラス玉のような眼を細めたところで、彼らの正体は完全には暴けそうになかった。
しかし、擬態をするというのはまた、不埒である。
彼を昔、美しいと笑いかけてくれた神である『母』がよく己に教えてくれた言葉がある。
「『不埒者には、罰を与えねばならぬ』と『母』は申しておりました」
漆黒の髪が鴉と溶け合いながら巻き起こる戦火に靡いている。
彼と共に今此処に訪れた仲間たちの行動と神たる『母』の教えは一致しているのだから、グリツィーニエにも力を振るう義務がある。
長いまつ毛を振るわせて、一度目を閉じてみた。
「――さあハンス、頼みましたよ」
祈るように、己が力を振るうのを赦して貰いたいのか――一度、こうべを垂れてから、また向き直ってみせる。
「『母の慈悲に御座います』」
丁寧に語るは殺戮の合図である。叡智の鴉をひと撫でしてやれば、鴉は黒藤の花弁へと姿を変えた。
時計の彼が扱う虹色ではなく、漆黒の花弁が彼の空間に舞う。
黒は何よりも強い色。どんな色も塗りつぶしてしまう、尤も強かで――彼の色だ。
だから、その花弁がこの空間で強く主張される。
地面に落ちるまでを色違いの瞳で見ておくのだ。
一枚は『正常に』地面へと落ちたが、もう一枚は『空間に浮いている』のをグリツィーニエは見逃さない。
これが他の猟兵のためになればよいと考えて、力の発動を強めれば――花弁を落とさなかった空間に黒が集る。
きいいと高い声で悲鳴が聞こえた。擬態がとけ、中から大蜘蛛が露わになる!
ハンスとグリツィーニエが織りなす【黒き豊穣(トーテンタンツ)】には蜘蛛共も不意を突かれた。
もうすでにだいぶ黒に体を斬られ抉られ削られている。抵抗もできたものではないのか、まるで鴉に啄まれる死肉のようになすすべなく黒霧となって消えていった。
グリツィーニエはそれを、冷ややかに見下ろしていた。
紛れもなく、生命として彼には勝てないという――畏怖をこの空間にもたらす!
ぎゃあぎゃあと喚いて他の蜘蛛たちがまとまって襲い掛かったが、グリツィーニエは攻撃の手を止めない。
そちらの方向をねめつけてやれば、黒の花弁が彼を黒蜘蛛から壁のようにして遮るのだ!
そしてそのまま、黒蜘蛛たちをまるでこね回すかのように丸めてしまう。
骨の砕ける音、関節があらぬ方向に曲がる音を耳障りに思ったのか、無意識にグリツィーニエの耳は跳ねた。
そして、後続の猟兵たちが少しでも楽であればよいと穏やかに黒を空間にはなっていく。
懸命に戦う仲間たちのほうが、自分よりも痛みに弱いかもしれない。
「痛みに嘆くような躰では御座いませんので」
自分に襲い掛かるならまだしも、仲間に襲い掛かるのはいただけないのだ。
だから、幅広い空間で恐怖の黒をまき散らす。
ある黒は脚を一本折ってゆき、ある黒は歯車の隙間から蜘蛛を撃ち落としていった。
「お逝きなさい、還るべく場所へ――」
それは、過去へ放った言葉なのか、それともこの空間に漂う呪詛の念を導く言葉だったのか――。
大成功
🔵🔵🔵
狭筵・桜人
食い散らかしてますねえ。
ていうか回りすぎてそろそろ酔いそうなんですけど。
さてさて、敵が隠れてるなら釣るまでです。
『エレクトロレギオン』を展開。流石に機械は喰わないでしょう。
散開後、照準を“私”に合わせて待機させます。
あとは堂々と歩くだけ。
まあいつもの釣り餌役です。
ほらほら美味しい学生ですよー。
蜘蛛が姿を現したらレギオンの砲撃を【一斉発射】して片付けます。
私自身は【見切り】で攻撃の回避に努めますね。
致命傷は避けたいところですがー……何匹釣れるかな。
ま、噛まれようと捕縛されようと仕事は出来ますし。
私を無力化したければ眼球を抉るか頭ごと吹き飛ばすことですね。
……いや頭吹き飛ばされたら誰でも死ぬか。
●Red Answer.
あまりにも迷宮の範囲は広いから、と彼に預けられた一角にて、桃色の頭は柔らかな髪をくしゃくしゃにさせていた。
「食い散らかしてますねぇ。ていうか、そろそろ酔いそうなんですけど」
ゆったり回るとはいえ、それはそれで周囲もすべてゆっくり規則正しく反時計回りで回るものだから余計に気分が悪い。
狭筵・桜人(不実の標・f15055)はげんなりした顔を隠しもせず、――実際隠す余裕もないから――瞼を細めて、ため息を吐いた。
とりあえず、今は歯車よりも桜人がすべきはほかの猟兵が対処するのを後続で眺めて知った敵どもとの戦闘である。
正体のわかっている相手ではあるが、その正体を見つけるまでがこれまた面倒なのだ。
くるくると回っている歯車と同化していたりするのだからなおの事桜人とは相性が悪い。
「はぁーあ、もうやだやだ」
そう、桜人とはよろしくないが――彼が扱うものとはそうでもない。
アルダワ魔法学園という世界においては蒸気機関と魔法が進んでいるとはいえ、ローテクハイファンタジーな、スチームパンクの世界観と言うのをよくUDCアースで作品として目にして、時に触れ合い生きてきた。
そういうところのセオリーと言えば、確かに蒸気機関や魔法の力はもたないがSFは相性がいいかもしれないと踏んで桜人はコードを紡ぐ。
【エレクトロレギオン】。展開された『近代的』な魔術は今この空間において非常に異質である。
「とんでもファンタジーにはついていけないんですけど、そっちもこの手には弱そうじゃないですか?」
見えもしないが蜘蛛には鳴き声として届けばそれでいい。悪態をつきながらも、機械の群れを散らす。
ただ――その機械たちが狙うのは、桜人だ。
彼らの照準を己に合わせながら何をしようかといえば、桜人お得意の「ヘイトコントロール」である。
「蜘蛛さんこちら、手の鳴るほうへー。ほらほら、美味しい学生ですよーっ」
確かに学生服ではあるが。
目立つようにモーションは大きく、特に警戒心も持たないで元気な学生として歩いてみる。
食べごろですよ、食べたいでしょう?と繰り返しながらアピールを続ける桜人は、蜘蛛のけものでしかない本能において「馬鹿な獲物」でしかない。
じりじりと近寄る蜘蛛たちが動くごとに、歯車の空間がゆがむのを桜人は見逃さない。
だが、だからと言って力を振るうのは早すぎる。
ほかの猟兵のようにトンデモな種族であればよいが、あいにく桜人は人間で――元、UDCエージェントかつ電脳魔術士なのだから、無理はしない。
プログラムを作動させるのは頭の中で織り込み済みであるが、プログラムと言うのは元来計算に基づいて組まれるものである。
アドリブうんぬんよりも確実な計算を組んだうえで、実践し証明せねばならない。
ここが電子の海の中――バーチャルであればよかったが、リアルであるからこそ失敗も許されまい。
(まぁ、失敗したところで噛まれようと捕縛されようと仕事は出来ますし)
緊張が走るのは、生き物だものしょうがない。
半ば己を納得させようと心の中で念じる言葉は投げやりだ。
それでも、それが桜人がまだ人間らしい感情を抱いているという証でもある。
(私を無力化したければ眼球を抉るか頭ごと吹き飛ばすとか、ありますし)
眼球を抉られる痛みもわからない、経験がないのだから。だから、簡単に頭の中で言葉にできることもわかっている。
だが――命のやり取りの果て、死という絶対的な生物の恐怖(ストレス)はどのようにロジカルに考えたところで払拭は出来ない。
ここで散って死んでいった命のことを哀れだと、もしかしたら今思っているのかもしれない。が、それを桜人の顔からはきっと誰もがうかがえない。――彼すらも、きっと。
笑顔の仮面を張り付けて、余裕であらねばならない。
おいしそうな桜人でいなければ警戒心の高まる狩られる蜘蛛どもが食いつかない。
釣り餌の桜人に蜘蛛がひっかかったのは、その考えの直後だった。
覆いかぶさろうとしたのだろう、足を広げていた蜘蛛が頭を喪って反射的に足を丸め、ごろりと仰向けになる。
それから、黒の霧へとなって消えていった。
「いやあ……頭吹き飛ばされたら誰でも死ぬか」
彼がファンだという黒も、この場にいる優れた魔術士も、お得意様も、皆がそうだ。命ある限り、「頭がなければ」死ぬしかない!
思案の果てと、機械たちが呼応するのにタイムラグは存在しない。
きぃいと機械的に鳴いた小さき機械の群れどもは砲撃を始めた!
光を放ちながら、爪を振って襲い来る蜘蛛のみを撃ちぬいて、桜人を誤射しないよう――主の死を恐れる心を感知したのか――蜘蛛のみを撃ちぬいてゆく。
「あいッ、て」
鋭い爪が桜人の右太ももをかすめて血が舞えば、機械どもは出力をあげる!
主の生命力とストレス値をデータ化しているかのように、桜人の魔術がかかった彼らがどんどん苛烈になっていくのを、傷を押さえながら眉間に皺をよせ――桜人は嗤うのだ。
「ほんと、ポンコツ。さっさと――撃ち殺せよ」
苛立ち混じりの「命令」であった。輝くマシンたちがその感情に呼応して桜人の周りに集まった蜘蛛どもを制圧していく。
痛みからの脂汗を掌で拭いながら、もう片方、傷を押さえる右手を見てみた。
「なぁんだ、ちゃんと赤い」
安堵と、少しばかりの落胆の混じった声で――桃色の彼が美しい顔に様々な色を露わにして、笑うのだった。
成功
🔵🔵🔴
矢来・夕立
◎★
迷宮に糸はつきものですが、だからって蜘蛛は呼んでないんですよね。
《忍び足》で歯車の間を進みます。
…。擬態と隠密でキャラ被ってるんで、殺します。
《だまし討ち》【紙技・冬幸守】。
紙ですけど神ですからまあまあ物理的に食べちゃえるわけです。
ついでにあちらの“食べ残し”とか、…あー…宝箱の中身ですよね。そのへんも掃除しときましょうか。
元々足場が悪いのにご遺た、…もう暈さないでイイですかね。死体が歯車に引っかかったりしてヘンに止まっても嫌です。
負のドミノ倒し、簡単に想像できますね。
しかしなんの歯車なんでしょうか、コレ。
…ひょっとしてさっき止めたの、マズかったりしました? いやマズくても止めましたけど。
●NINJA Blues.
歯車の間を音も立てないでゆったりと歩く彼がいる。
先ほどまでの空間に比べれば、今の迷宮にある歯車随分とおとなしいものだ。赤い瞳とレンズ越しに景色を映しながら 矢来・夕立(影・f14904)は前だけを見ていた。
後ろを振り返らずとも、集まった猟兵の数も多いし実力者揃いであることもよくわかっている。
だから、忍の彼がやることと言えば――忍んで、殺すことだ。
とはいえ、それは相手も同じ手段を使ってくる。それに対するコメントはいたって淡々としたものだ。
「キャラ被ってるんで、殺します」
過去を殺害する理由にしてはとってつけたようなものであるが、前を進み現在を歩む彼にはどちらにせよ殺害対象であることはかわりないのだ。
ただ、己の中の理念をある程度脚色するようなものはあらねばならない。
誰にも本心を知られる事などあってはならぬ。
影に生きて影であり、影で死ぬような今までとこれからを歩んでいるから、それだけはモットーとしてきっと胸にあったのだろうか。
少なくとも、今のこれは「忍」である彼の戦いだ。――未来から、世界から己に課せられた任務である。
さて、先の彼らのように夕立も同じく相手の動きをうかがうが、夕立が止まれば相手も止まってしまうようだ。
爪の音すら聞こえない、鈍色の世界と沈黙が彼らの周りにある。
「だるまさんがころんだじゃないんですよ」
舌打ちひとつくれてやって、己の手札を頭の中で巡らせる。
こちらが向かわねば、恐らく向こうも動くつもりはない。そして夕立がこの場に留まれば、恐らくどんどんと数を増やして――いずれ、どの方向からでも襲い掛かってくるようになるだろう。
襲い掛かってくるならすべて殺すのみであるが、そうなる前に手を打っておくというのが真の隠密というものだ。
ひゅ、と空気をさいて夕立が真正面に式紙を放つ!
この緊張の走った空間で先手を取ったのは――思惑があった。
突拍子のない行動は猫騙しに通ずるものがある。
今にも襲い掛かろうとする殺気の隠せていない手合いをあぶりだすのなど、殺しを生業とする夕立には簡単だ。
「ウソですよ。オレの狙いはそっちじゃあないんです」
「死ぬ気のない」夕立に対し、動物的な本能で「死ぬことを恐れる」蜘蛛どもは、突然の放たれた紙に畏れを抱く。
びくりと擬態した空間ごと震えたのを――三秒間、『視認』した。
「 『 鏖 だ 』 」
冷たい顔をしたまま、無表情に唱えるのは【 紙技・冬幸守(カミワザ・フユコウモリ)】!
紙であるが神である蝙蝠の式が、まるで翼でも生やしたかのように夕立の背後から湧いて――歪んだ空間を音もなく襲う!
きぃきぃと鳴く蜘蛛に余計な音は出させまい、その体を紙が、神が喰らうのだ。
逃げ出そうとして擬態を解いた蜘蛛どもが、鎧を捨てて逃げだしていっても神のほうがずっと早い。
群がる神が、その白が灰色を喰らいつくす。時にはその背負った宝箱に詰まる肉ごと音を立てて喰らってゆく!
あとの顛末など見る必要もあるまいと夕立が足を進める。
ほかの猟兵たちの魔術の軌跡も薄れていくのがわかる。
皆、派手にやってくれたのだ――夕立は音も立てないで確実に殺していたが、仲間たちは派手にやりあっていたものだから多くがそちらに行っていて面倒も手間も省けた。
「さて、では他にやることもないし」
戦火の収まった迷宮の先で、掌を一度軽く合わせて短い間目を閉じてから学生だったのであろう腐乱死体を片付ける。
といっても、夕立の「神」にその死肉を喰らわせるのだ。
神の一部となって亡骸を葬られるのであれば、せめて魂も肉体も楽になれるだろうとその光景を眺めていた。
「少なくとも、歯車に挟まれてるよりはずっとましでしょう」
夕立でしか入り込めないような複雑な空間で腐るこの体を、誰かが見つけられるとも到底思えない。――だから、時間のある今は行ったにすぎない。
そして、もともと足場もそれほどよろしくない。
挟まり続ける遺体たちがここまで導いたというのに、「主」と相対する際に邪魔になってしまっては困るのだ。
歯車、歯車か――。
夕立は、天井でもゆったり回る歯車を見る。逆時計回りだ。
「これ、……ひょっとしてさっき止めたの、マズかったりしました?」
歯車は、もともとは機械の内部にあるものだ。それがこれだけ敷き詰められているというのはきっと無意味ではない。何か嫌な予感がする。意味のない歯車など、あるのか?と今一度思案してみる。
不味くても、止めたのだけれど――なんて弁明を一人と遺体だらけの空間で言おうとした。
その時!
ごうん、と迷宮の内部にまるで地震の如く揺れが起こる。
危機察知能力に長けた忍のカンか、夕立が歯車の空間から抜け出して他の猟兵たちと合流しようと極彩色が塗られた床へ着地すれば、あたりの歯車はきりきりと早く回りだす!
「はは、――ウソだったんですけどって言ったら、駄目ですかね」
否定しようもない彼の勘は、恐ろしいほどこの時は正しかったのだ。
猟兵たちを乗せた足場以外の歯車が「時計回り」で火花を立てて回り始めて、目の前――ずっと奥から、けだものを放つまでそう時間はかからなかった。
大成功
🔵🔵🔵
第3章 ボス戦
『『失敗作』ゼラノス』
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POW : 消え行く理性
【悲痛な叫び】を放ち、自身からレベルm半径内の全員を高威力で無差別攻撃する。
SPD : 叶わぬ願い
【人だった頃の自分の幻影(年齢は毎回違う)】が現れ、協力してくれる。それは、自身からレベルの二乗m半径の範囲を移動できる。
WIZ : 増大する本能
全身を【憤怒のオーラ】で覆い、自身が敵から受けた【負傷】に比例した戦闘力増強と、生命力吸収能力を得る。
イラスト:ヤマトイヌル
👑11
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔴🔴
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種別『ボス戦』のルール
記載された敵が「1体」出現します。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。
| 大成功 | 🔵🔵🔵 |
| 成功 | 🔵🔵🔴 |
| 苦戦 | 🔵🔴🔴 |
| 失敗 | 🔴🔴🔴 |
| 大失敗 | [評価なし] |
👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。
※このボスの宿敵主は
「サフィリア・ラズワルド」です。ボスは殺してもシナリオ終了後に蘇る可能性がありますが、宿敵主がボス戦に参加したかつシナリオが成功すると、とどめを刺す事ができます。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。
●LOST HOPE
猟兵たちを襲おうと、それは歯車が導いた道の通りに動き出していた。
誰かがやってきたのだと歯車が沈黙で教えるたびに、怯えて怯えてしょうがなかった。
「ああ、あ、ァ、あああ、あ」
ああ、やはり綺麗なからだをしたいきものがまたここにやってくる。
自分の腕を見下ろしても、あのような肌は戻ってこない。
自分の脚を見下ろしても、彼らのような整ったものなどない。
何もかもが歪で、何もかもが可笑しいままでここにたどり着いた彼に――『『失敗作』ゼラノス』に、希望などないことを突きつけにやってくる。
猟兵たちの頭上をかすめ、ずぅんと大きな巨体をゼラノスが歯車に乗せれば――その重さで、歯車は静止する。
だが他の歯車はずっと回り続けて猟兵たちの足場は不安定だ。再び歯車を止めてもいいし、破壊してもいいだろう。
それをこの獣がよしとするかどうかは、別問題ではある。
ゼラノスは恐れた。ようやく体を連れて己が眠れる場所が見つかったのだ。
なのに、ここを脅かそうという。討伐しようとやってくる。だから、彼らを喰らったのだ。
正常である彼らを喰えば、元に戻れると思った。
人の仕組みを理解すれば治ると思った、治らなかった、だから壊した。
妬ましかった、人間の体が。
己のように誰かに勝手にいじくられ、元のドラゴニアンとしての身体すら返してもらえないような境遇にない彼らの体が、妬ましかった。
力の証明として甚振って殺してやれば、気分が晴れた。
でも――そんな自分も恐ろしくてたまらなかった。
この歯車は己の心と共に動くのがわかっていた。誰もここに近寄れないように複雑なままであってくれと願えば、歯車たちが日に日にひき肉をつくってゆき、知らぬ間に蜘蛛共も巣にしていた。
それで安心する、己に嫌悪した。
「ちがう、ちがうっ、おれ、おればっかり、おれはッ」
未来があるから、夢と希望をいっぱいにこのダンジョンにやってきては己を斃すと息巻く生き物共が恐ろしかった。
どうして殺されねばならないのかもわからない、殺されたいと思っているはずがないのに!
わからない、何もわからない、只、――生きてはいけないというのなら、この未来と猟兵たちを恨むしかない!
「かえせよ」
幼い情緒のまま放り出された醜く進化した体が、――君たちに獣性を露わに叫ぶ!
「 か え し て く れ よ ッ ! ! 」
彼こそ、哀れな失敗作である。
誰かに勝手に命を弄ばれ、世界を恨んで未来を恨んだ生前のまま囚われ続ける過去だ。
彼が正常に戻る手段など、どこにもない。
さあ、彼をあるべき場所に還せ――猟兵(Jaeger)!
エレニア・ファンタージェン
かえして……還して?
そう、おっしゃったのかしら?
ええ、ご期待には応えましょう
エリィ、こうみえて慈悲深いの
UCで亡者の手を召喚、生命力吸収の効果を纏わせたなら、
敵を足止めして時間稼ぎくらいはできるかしら?
そうして振り下ろす拷問具は引き続きギロチンの刃…道中で拾い集めた亡き学生たちの呪詛をこめて
何故かしら、エリィ少しだけ悲しいの
何故傷や悲しみを怒りに変えてまで貴方は生きようとするのかしら?
…求めたものが手に入らなかったのね
…もう、手に入らないのね
それなら、エリィが見せてあげましょう
UC「我が懐かしの阿片窟」で幸せな幻を
その幻の終わる前におやすみなさい、憂き世のことは全て忘れて……
矢来・夕立
◎★
静かにしろ
…いえ、どうぞ続けてください。《忍び足》でなくたって近づくのは容易い。
歯車が回ってるなら余計に。
止まっていたって、簡単に。
生きていたって惨めなだけでしょう。
悼まれても無様なのは変わらないし。
何より、存在するだけで迷惑なので――
――【神業・否無】。潔く死ね。
…よく分かりませんけど、「ココに逃げ込んだ」ってコトですか?
随分情緒豊かですね。放っといても自己嫌悪で歯車に飛び込んで自殺しそう。
コレが「諦められないからしぶとく足掻いてる」って話なら、好感が持てたかもしれない。
ウソです。
好きにはなりませんけど、無意味なりに同情は…
…あ、やっぱこれもウソです。無意味なら最初からしません。
●Sweet Dream himself.
「還して?――そう、おっしゃったのかしら?」
泣き叫ぶ蒼のけだものから放たれた叫び声は、 エレニア・ファンタージェン(幻想パヴァーヌ・f11289)にとっては意外なものであった。
エレニアにとっての敵と言うものは、もっと己の支配欲のために生きているものだったからだ。
わがまま勝手に誰かを壊し、誰かを貪って金を吸い上げては命も果てにとりあげてしまうような――戦争だって引き起こす魔の果汁のようなものだと思っていたのに、目の前の彼は何だ?
自分から、この命を終わらせてくれと哭くではないか。
矛盾している。
『過去』であることを嘆く彼にはなぜか胸がじくじくと痛む。広がる鈍い痛みが、思わず彼に尋ねてしまうのだ。
「何故かしら、エリィ少しだけ悲しいの」
何故、そんな姿になってまで生きようとするの?と尋ねるエレニアに、蒼の獣は吼えてみせる。
「おれはっ、いきたい、かえしてほしいっ!もう、かえせない!だからッ」
――手に入らないかつての体を求めて憤怒に染まる竜がぐしゃぐしゃと己の頭を強靭な爪でかきまぜる。
エレニアには、それがいつかの『薬漬け』に見えてしょうがない。
何が現実で何が虚構でどれが妄想なのかもわかっていない、脳まで冒された彼らが元に戻れる手段などどこにもなかったように、きっとこの獣もそうなのだと悟る。
「静かにしろ」
うざったそうに吐き捨ててしまうのは、矢来・夕立( 影・f14904)だ。
エレニアがちらりと彼を赤の瞳で見つめる。細身で華奢な黒が何にいら立ったのかは――わからない。
「……いえ、どうぞ続けてください」
エレニアが視認できた夕立の顔は、彼の眼鏡で目の奥が良く見えなかった。
夕立はかの蒼の獣に何も同情など抱けない。
生を諦められなくてかつての生を求めて足掻くのであれば、せめて同情を『演じて』いられたかもしれない。
なんともまぁ、効率の悪い生き物だなと内心で評価する。所詮、獣などその程度でしかない。
死にたくないから殺してくれと、無駄に命を奪ってまで猟兵たちを本能的に呼んでいたとしたのならば、一人で自己嫌悪で歯車にでも挟まってしまえばよかったのだ。
(まあ、そんな頭もないんでしょうが――)
センチメンタル
明らかに、目の前の獣には感傷的になる情緒があったとしても、それが『自死』に至らないのを夕立は理解していた。
(それでこそ、獣ですよ)
冷ややかに、ひとつまばたきをしてから夕立がその場の空気に溶ける。
存在感を消す、己と世界に一線を引く。
目立たぬ黒衣は鈍色の歯車が速度を上げて回り続け、火花と土埃を立てる今こそ夕立を空気の一つにしてしまえる。
その場から忍ぶ黒を、白であるエレニアが追うこともない。
また、目の前でどるどると唸る蒼の竜を赤で子守歌でも謳うように語りかけてやるのだ。
「ええ、ご期待には応えましょう」
エリィ
――彼女こそ、慈悲深い神である。
「『この手を離さず居てくれますか?』」
ささやかな詠唱と共に、獣を招くように両腕を広げる。それを合図に獣は遠吠えて疾る!
「お゛ォオオおおおおおぁあああァアアアああ゛あ゛ッッッ!!!!」
びりびりと空気を振るわせて、どうと地面を蹴ってゆく。消えゆく理性を代償に無差別に何もかもを傷つける力を得た野獣が、白の美女に襲い掛かった!
「嬉しいわ、応えてくださって」
エレニアが笑って見せれば【千年怨嗟(アイノオワリニノコルモノ)】が発動され、その爪が彼女に届くことが無く空間に無数の腕で縫い付けられる!
「――っ、ぎぁ!!!?」
醜い悲鳴と共に地面に両腕が縫い付けられ、ゼラノスは赤髪を振り乱して抵抗する!ぶちぶちと呪詛の腕をちぎりながら、ぎゃあぎゃあと喚いてまだ前へと進もうとする。
それを、赦すエレニアでない。空間から呼び出すのは拷問具たちだ。
ギラリと光った斬首の道具は、抵抗する彼に放たれる!
だが、志半ばで彼に葬られた学生たちの呪いが黒い炎として宿った刃を、ゼラノスがうろこで覆う尻尾で叩き落としては割っていった!
「ころしてやるっ、お゛前も、うばわれ゛ろ゛ッ!!」
「『否応無く、死ね』」
神であるエレニアに無礼に叫ぶゼラノスの頭上から、黒と朱の混じった一線が――落ちる!
舞う鮮血、僅かにゼラノスが頭を反らし、角を折っただけにとどまったのを確かに視認して短く舌打ちをしたのは夕立だ。その手には斬魔の刀『雷花』が握られていた!
回る歯車の音は喧しい。だから忍である彼が、巨体のゼラノスの死角に回り込むのは容易かったのだ!
そのまま次の機会を狙い、かかとで着地の衝撃を和らげてからもう一度旋回する歯車の群れに潜む。【神業・否無(カミワザ・イナナキ)】を使用する夕立は今や――暗殺の権化だ。
「っぃいいいいいいああああああッッッ!!どこだッ!!どこ行ったァ!!」
怒りに狂う獣性は、見失ったに関わらず夕立を追おうと回る歯車を打ち砕く!
今のゼラノスは動くもの全てが攻撃対象であるから、夕立が足場として使った歯車すら容赦なくその強靭な爪と尾で壊しつくす。
「顔面血まみれですね。見えにくくないですか、それ」
揶揄うような言葉を影から夕立が放ったところで、破砕したがために発生する砂煙と轟音で居場所の特定などできまい。
折られた角からぼたぼたと口に染みるまで血を垂らして、ゼラノスが夕立を必死に探していた。
彼には耳だけではなく、鼻もある。すんすんと体を前かがみにして黒の匂いを流れる空気から探している。
「見つけたァアアアアアアあああ゛あ゛あ゛ッ!」
ゼラノスもその体を己の呪われた因果で強化している!回る歯車を今度は太い脚で打ち砕いて――夕立を視界に入れた!
「殺すッ!!」
「へえ」
腐っても、ここの「主」か。などと思いながら夕立も殺意を隠せない。
「お前が、――死ねよ」
突き出された爪を雷花で逸らして、その腕を斬り落としてやろうと己の遠心力を用い刀を振るう!
――が!
歯車の隙間から飛び出すように出てきた夕立は一つ二つ噎せて、エレニアのそばに着地した。
「どうされたの?何か、あったのかしら」
「何かあったも何も、面倒なことばかりですよ」
ずれた眼鏡の位置を整えながら好機を探る。
まだ勝てる手段は大いに在るのだ、己だけで勝とうなども思ってはいない。
だが、――急に風向きが変わったのを夕立は先ほど実感した。
ごごんと音を立て、歯車を押し退けて現れる巨躯の腕には浅い切り傷のみが付けられている。
今度は、動きがゆっくりになったのはエレニアも察知できた。
この待っている時間の間、何もしないほど彼女も日和ってはいない。彼女が『ためていた』のは、手にした本体から燻らす甘い香りだ。
「『憂き世のことは全て忘れて』」
それが【我が懐かしの阿片窟(オピウム・ファンタージエン)】の発動であった。ゆらりと紫が蒼の獣に向かってゆく。
鼻腔からその香りに訝しむものの肺を冒され、脳を曇らされたけだものの巨体が脱力から揺れた!
「潔く、死ね」
そして間髪入れず、慈悲なく黒の一閃が走る!
夕立が飛び出して無防備な胸板に雷が走るごとく斜めを刻めば、真っ赤な中身が黒を濡らした。
手ごたえはあった、肋骨も切った、筋肉も割いたが内臓はどうか――目を細めて眼前にある黄色の瞳が虚ろであるのを確認した。
が、それが次の瞬間にはぎょろりと夕立を見た!
素早く軸足のかかとを浮かせ、別の脚を大きく後ろにやって、飛びのく。
【 増 大 す る 本 能 】
まだ、獣 の 目 は 死 ん で い な い !
どす黒く赤い光に包まれた怒れる蒼竜が、ぼたぼたと上体から血を垂らしながらも火照った体からまるで蒸気のように白い息を吐きだすのを――猟兵たちもまた、戦意の消えぬ瞳で確認した。
傷つけられればその分だけ、強くなる。
にたりと笑う血まみれた竜の顔は、赤い涙を垂らしていた。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵
死之宮・謡
アドリブ&絡み歓迎
嗚呼、漸く、か…此奴は、人型に入るのか、な?微妙だ、ね…まぁ、半分人型、ということ、で、満足しておこうか、な…
後天的に、身体を壊されたモノ、か…先天的に、心が壊れていた、私とは、真逆か、な…?
理解者は、現れない、よ…永遠に一人、だ…だから、せめて、私が、終わらせて、あげよう…
・戦闘
咆哮を斬り裂く、邪魔な歯車も斬り裂く、敵も斬り裂く、只管に斬り裂く…(呪詛・怪力・鎧砕き・見切り)
悪い、けど…私じゃあ、何も返せない、よ…だから、もう、お休み…
ニコ・ベルクシュタイン
…骸の海へと還すより他、彼奴を救う術は無い
生半可な希望や同情は最早毒でしか無いのだろう
ならば、俺達の手で此の惨劇に幕引きを
既に他の猟兵から受けた傷により戦闘力が増している事を考慮し
接近戦は避け【葬送八点鐘】で喚び出した霊に攻撃を託そう
出来れば一撃で其の首を鎌で撥ねさせ、疾く楽にしてやりたいが
恐らくはそう簡単には行くまい
「地形の利用」で歯車の中央…つまり回転していない箇所に立ち
徐々に俺の方へと後退するようにそっと霊に指示を出す
ゼラノスが誘導されてきたら其の横っ面なり横っ腹なりに
思い切り一撃くれてやれと命じる、狙いは体勢を崩させる事だ
足を踏み外して歯車の間に脚を挟ませれば
少しは後に繋がるだろうか
●Cinderella Time.
顔面から赤を咲かせながらも、なおのこと前に進もうと――眼前の猟兵たちに抗おうとするけだものを、ニコ・ベルクシュタイン(虹の未来視・f00324)は冷静に、しかし冷や汗を垂らして見やった。
血を流した量だけぶくぶくと竜の体が細胞分裂から肉を湧かせて異形になってゆくのがわかる。
彼が強くなってしまったのは、異形となってしまった所以はおそらく「この彼」にとってはこれだったのだと悟った。
傷が刻まれるたびに回復しようと強化される彼の肉体はやはり人間の形をとどめてなどはいない。
「…骸の海へと還すより他、彼奴を救う術は無い。生半可な希望や同情は最早毒でしか無いか」
可哀想だと思う心はこの懐中時計にはあったのだ。
できれば――分の針が動ききる手前に確実な一手で楽にしてやりたい。だけれど、それもどうやら難しそうな手合いだ。
傷を負えば負うほど強くなるが、逆に望んだ人間の姿からは遠のいていく。
それでもあの獣が爛々とした顔で笑うのは、戦っているのが楽しいからだ。
存在証明?力を見せつけたい?いいや、ちがう――生きているのを、実感しているのだろう。
いっそ、かの竜こそ惨劇の主人公ではないかとニコの瞳に憂いが宿る。
仕組まれたこの歯車の中で、彼こそ永遠に迷子のままだ。
本当の己の姿にたどり着くこともなくここで屠られて消えていく。
ならば、ならばそこまでを悟るニコに出来ることは後続の猟兵に彼を託すということ。
己よりも攻撃に特化した猟兵は多い、特に視界の端に移る黒の彼女等まさに「そう」だ。
「嗚呼、漸く、か…此奴は、人型に入るのか、な?微妙だ、ね…まぁ、半分人型、ということ、で、満足しておこうか、な」
ぽつぽつとニコにいうわけでもなく、空で歌でも口ずさむかのようにつぶやく彼女は死之宮・謡(統合されし悪意→存在悪・f13193)。
が、彼女の数多ある悪意のうち一人――天羽・月夜の魂でつぶやくのだ。
人型であると認識できれば月夜の攻撃対象として認識もしやすい。振るわれる一撃にすら力がより篭もるというものだ。
「行くか」
「……、うん。手伝って、くれるの、かい?」
「微力ながら、な。援護させてもらう」
一撃で大打撃になりそうな手段を持つ、月夜と赤が交錯する。
ならばそれ以上の言葉はいるまいとニコが双剣をくるりと円を描くよう、手首だけで空中を裂く。
「――『鳴り響け八点鏡、彼の者を呼びたもう』」
現れた魔術式は時計の紋、ちょうど夢と現の境目で重なり合う長針と短針が虹色の魔術によって――重なる!
八つの鐘の音が歯車の空間に鳴り響いた。【葬送八点鐘】がここに顕現される!
時空をあいまいにしたニコの周囲から、寝物語の死神のようなものどもが召喚された。
霊共が死神の鎌と地獄の炎をたずさえてケタケタと気味悪く笑うのを一瞥してから、ニコは彼らに頭の中で作戦を指示していく。
「さあ、行け!」
ぶん、としなるように時計の針が空を薙げば――魂に飢えたもの共は嬉々としてゼラノスに襲い掛かった!
「ッがぁ、ア、アアアアアアアアッ!!」
怒りに満ちた狂気を纏うゼラノスは、先ほどとは比べ物にならぬ力で一直線にニコへ駆け出す!
(――足場の歯車すら砕くか)
対してニコは術式を発動した場所からさらに後退していく、彼が立つのは仲間たちから少し離れた歯車の中心だ。
引き締まり芸術品のような彼の長身は、そのうえでも全く平衡感覚を崩すことはない。
「回るものには慣れていてな――来てみろッ!!」
彼こそ懐中時計の化身である!回り続ける時など、歯車のことなど彼にとっては『いつも』のことであるから地形への抵抗が全くないどころか――うまく利用できる確信があった!
挑発するように叫ぶニコを黒の長髪を泳がせながら見ていた月夜も彼の意図を汲み取る。
「中々、いい、小細工じゃ、ないか。うん、……楽しい、な」
走る身体を襲う炎を容赦なく腕でかき消して、焼け焦げたところからどんどん力を増してゆくのを感じ取る。
どんどん己が人間の体からかけ離れていくのをゼラノスはわかっていた。
ここで、もし猟兵たちを――褐色の肌をしたニコを斃したところで、どうせもとには戻れない。
頭の中では理解が出来ているのに、心が追い付かない!
「ぐぅ、ううう、う゛ぅううううーーーーッッ!!」
ぐずる赤子のようなくぐもった声に、ニコが思わず顔を顰める。
日和るわけではない、哀れだと思うだけなのだ。
もし運命が違えば、彼が失敗作だったとしても世界の利になる世界もあったやもしれない。
戦うという点において優れた改造を施された彼が、生命を肯定されたこともあったかもしれない。
だけれどもう、全ては――あり得ないことだ。
「夢から、醒める時間だ」
眉間により深く皺を残したニコがゼラノスに告げる。
刹那、死神が振るう鎌がゼラノスのわき腹に直撃した!
「――ア、っが」
傷には至らない。骨も折れておらず、この攻撃事態はただの打撲で終わってしまうだろうが――直ぐに別の鎌で顎を打たれる!
角からの血液と砕かれた牙が一本吹き飛んで、血の煙が上がった!
しかしそれすらも、ゼラノスには闘志になり――獣性を呼び起こすだけに過ぎない。
その程度のことは、ニコもすでに計算の内に入れていた。彼が狙うのは!
「ぎぃ、イッ!?」
「足元が留守だった。悪いな」
体勢を崩したゼラノスが――その太い左脚を歯車の間に挟ませてしまっている!
最初から、ニコにとってはそれが狙いだった。虹の未来視を背負う彼が視た、勝利の可能性にはこれが一番相応しい。
「今だ、――頼むぞ」
白く短い眉が少し下がったのは、どうしてだろうか?
ニコの背後から踊るように飛び出たのは――黒髪を振り乱した月夜だ!
居合の体勢から繰り出される剣を避ける手段はどこにもあるまい。ゼラノスが慄いて体を強張らせ、辛うじて受け身を取ったのを数フレームの間に月夜は視た。
月夜とゼラノスは、対照的だ。
生まれ持った体と心を後天的に壊されたゼラノスと、生まれ持って心は壊れていたが才能に恵まれた月夜。
片や失敗作として捨てられて、もう片方は麒麟児として恐れられたのち――一族の汚点と称された。
足りない。彼らには、別のものがお互いに足らないのだ、足らないものどうしであるからこそ月夜は分かる。
彼の結末が、彼がもしこれからも生きていたとしても辿り未来を嫌と言うほど、味わったのだ。
理解者は、現れない。永遠の孤独だけがこれからもつきまとう。
おそらくここで屠った「彼」は救われても、別の「彼」は永遠に孤独の迷宮でさまよわねばならないだろう。
「もう、お休み」
長き破滅の旅路を歩む「今の彼」は、ここでもう眠ってしまえばよい。
現実(ゆめ)から醒めて、夢(うみ)に還れ――。
「『終の一閃』」
宣言のあと、繰り出された鋼の斬撃は――ゼラノスの己をかばう右腕を斬り落とす。
「ぃ、あ」
どちゃりと地面に転がった己の右腕を視認したとき、ゼラノスの本能がひしめいて暴れ狂った!
「あ、あああ、あああああ゛あ゛ッ!!うで!!おれのッ、おれのうでッ!!!!」
喪った右腕を叫びながら――挟まった足場を脱出するために翼を広げはばたく!
ごう、と突風が巻き起こって月夜が吹き飛ばされるのを、ニコがその体を受け止めた。
「大丈夫か」
「うん、飛ばされた、だけ」
返り血を浴びた月夜が己の顔についた赤を舐めるのを見やってから、ニコは絶叫と共に空を舞う彼を見る。
黒いフレームの眼鏡にはたはたと舞った血痕が落ちる。確実に、終わりの刻はもう近い。
だからこそ、その痛ましい姿からは目が離せなかった。
劈くような竜の咆哮が発せられ、あたりには――竜の怒りが満ちていた。
成功
🔵🔵🔵🔵🔴🔴
ヨシュカ・グナイゼナウ
◎★
「滅茶苦茶に格好良い」
ついうっかり口から溢れた。大きな翼に、硬質の鱗に覆われた龍の下半身、ギラリと光る爪は鋭くて。おまけに角まで完備である。男の子はいつだって格好良いものが好きなのだ
まあ、それはそれ。そんなに大きな翼があるならば、こんな処にいないで何処までも飛んで行けば良かったのに
革の手袋を外す。掌の十字からつう、と金色が。掌から柄へ、柄から刃へ
攻撃はなるべく【見切り】【地形の利用】で一気に接近
多少の損傷は問題ない
あなたの身体は硬いでしょうから、先達が付けたであろう【傷口をえぐる】
刃先を伝って直に【惑雨】を。直は素早いって誰かが言っていました
きっともう痛みも、なにも。
おやすみ、どうか
狭筵・桜人
おおこわいこわい。
敵も味方もこわい人ばかりじゃないですか。
エレクトロレギオンを再展開。よしよし全機万全ですね。
無理はしません。支援に回ります。
レギオンの過半数を防衛用に配置。
自身と味方を【かばう】物理障壁として消費。
残機で敵の人間らしい部分を狙撃。竜のうろこは固そうなので。
ヒットアンドアウェイで小賢しく隙を作ります。
まあまあ、私は優しいので同情してあげますね。
同時に成れの果てを眼前にしてカタルシスを得るわけです。
“ああ、自分じゃなくて良かった!”――なあんて。
絶望するだけの希望があって、怒りをぶつけるくらいには期待しちゃってるんですねえ。
あなた、もう終わってますよ。死んだ方がマシってくらいに。
●HONEYS.
びりびりと空気が振動で震える。多くの猟兵が耳を塞ぐ中、――ミレナリィドールである彼は、その必要がなかった。
耳に着いた絡繰りはオフにしてしまえばいいし、必要最低限の稼働だけでいい。
ただ、彼の腕にいた灰色の猫だけはこの空気にひげを広げて毛を逆立てていたが。
抱きしめた灰猫が目の前の敵に警戒するのを、頭を撫でてやりながらも同じ方向を見てやる。
「滅茶苦茶に格好良い」
きらきらと琥珀が太陽のようにらんらんと光って、竜を見ていた。
ついうっかり口からこぼれてしまって灰猫で口に蓋をするのだが、ヨシュカ・グナイゼナウ(渡鳥・f10678)は「男子」型のドールである。
愛らしい幼い顔と、華奢なボディはしなやかでいて、いくら鍛えても動き回っても永遠の少年人形として在る。
だがしかし、心は年相応にあるものだから。
大きな翼に、屈強で硬質な鱗に覆われた下半身。光る片腕の爪と欠けた角すら、傷つくたびにどんどん竜が『かっこよく』なっていく。
――『少年』であるから、かっこいいものにあこがれるのだ。
「おおこわいこわい。敵も味方もこわい人ばかりじゃないですか」
続いてヨシュカと共に竜を相手するのは狭筵・桜人(不実の標・f15055)。
同じはちみつ色の瞳がお互いを見てから、桜人がにこりと微笑んでヨシュカがきょとんとした。
こちらも美しい顔つきと大人と少年のはざまにいるらしい――未成熟な愛らしい輪郭をもっている。
しかし、彼とヨシュカの明確に違う点が一つ。
桜人は、目の前の竜をカッコイイなどは思わなかったのだった。
大人びてきた成長する桜人には、別の見方をすることができる。
「まあまあ、私は優しいので同情してあげますね」
怒り狂う竜が口から真っ赤なオーラを漂わせながら二人を見下ろす。
その竜を見上げて、桜人は微笑むのだ。
いちいち、演技っぽく。いちいち、まるで舞台の上にかの竜がいるかのように。
「絶望するだけの希望があって、怒りをぶつけるくらいには期待しちゃってるんですねえ」
だから彼が不幸になるわけです、とわかったようにわざとらしく悲しそうに笑う。
ああ、愚かであるとここまで運命に弄ばれて――終わるのか。その無様な様に、自分もいつかなるやもしれない。
だが、なるはずがないのを桜人は確証している。
桜人が話しかけることで右腕からぼたぼたと血をこぼすゼラノスを、ヨシュカも言葉が届かないかどうか考えて、ふと疑問に思ったことを告げてみる。
「そんなに大きな翼があるならば、こんな処にいないで何処までも飛んで行けば良かったのに」
きしりと首のパーツが軋んで、ヨシュカが不思議そうに頭を動かしたのがわかる。
どうして、あの立派な翼でこんなところを選んでしまったんだろう。と竜の可能性を探ろうとするが、それを桜人がかわりに笑い飛ばしてやった。
「はは!何を言ってるんですか。――何処にも行くはずがないでしょう?」
純粋なヨシュカには、汚らしい人の心というものを教えてやらねばならないと桜人が微笑みかける。
「同情されたいからですよ。誰もに己を正当化してほしいんです、可哀想な己というものにすがりついているんですよ!」
同時に、彼の頭の中では別の『作戦』も始まっていたのだ。
きぃきぃとささやかな音を立てたところで、彼らの雑音は激しく回る歯車のごうんごうんという脈動にかき消されていく。
【エレクトロレギオン】を起動しながら先ほど足に負った傷も考えて、小回りの利きそうなヨシュカの支援に立とうと思ったのだ。
全機、万全。
桜人を見下ろす片腕の竜が、桃と白に夢中になっているのをいいことに機械は無数に動き出す。
「ああ、でも、――すごく私、今、気持ちいいんです」
50%に指令、防衛プログラムの起動。承認。問題なし。
狙撃班、チャージ。――『エネルギー稼働率、100%。攻撃対象を捕捉しました。』
「ああ、『自分じゃなくて良かった』!ッてね!」
明確な、侮蔑を察知した!
「ぐううううぅううううォ、オオオおおおあああああッッ!!」
上空から桜人を襲わんとする竜に放たれるのは無数の銃撃!
たまらずぐるんと丸くなって、強靭な翼で己の体を覆って防御するゼラノスを見て舌打ちをしてから桜人は叫んだ。
跳弾を防ぐために防御プログラムを編んだ機械たちが二人を護るように展開される!
「行って!!」
その一声に弾かれたように、桜人に灰猫を押し付けるようにして預けたならば――ヨシュカは皮手袋を己の口で引っ張って脱ぐ。
掌の十字が確かに金を確認して、腰に携える『空切』に触れた!
小さな体からは信じられない力で、跳ぶ。
その足場にと桜人の機械たちがやってきて、ヨシュカはまさに鳥が如く――空へ昇る!
「壊してやる、こわしてや゛る゛ッッ!おまえたちも、――失敗作になれッ!!」
強化された竜の翼は桜人の銃弾をはじいてゼラノスを護り続けているが、目の前に迫ったヨシュカのことは予想外だった。
黄金の光を宿した造られた瞳が、こちらを見ている。
その時間はわずか数秒だったかもしれない。
それでもゼラノスとヨシュカにとっては――長い時に感じられた。
廃棄された二人は同じ道を歩んだはずだったのに、かたや死んで、かたや未来に生きている。
嫉妬がゼラノスの中で渦巻いて美しい体に尻尾で打ちのめしてやろうと思った矢先のことだった。
シンメトリー
翼と翼がくっつきあう隙間はゼラノスが生物であるかぎり左右対称でない。
わずかな隙間が生じていたのを、琥珀色の片目は見逃さない!
尻尾を繰り出そうとしたその隙間に空を切るがごとく、刃が一拍早めに差し込まれた。
狙うは、先人である黒の彼が傷つけた斜めの刀傷。
「『よい夢を』」
掌から晴天の刃に伝う黄金はこの竜を堕とす毒となる!
ヨシュカの【惑い雨】が発動され、竜は意識を喪って――真っ逆さまに地面に落ちた。
ずぅううん、と迷宮と歯車が揺れ足場となった歯車には亀裂がはしった。
土埃が立ち込める。
これで動くたびに彼の体に毒は廻りやすくなるだろう。たとえ眠りにまだ至らなくとも、先ほどのように俊敏には動けまい。
よい一手となればいいけれど、とヨシュカは刃を仕舞う。
そのまま、桜人の機械に護衛されたまま階段を下りるように着地したのだった。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵
グリツィーニエ・オプファー
ええ、ええ、殺されたくはないでしょう
それは極めて正常で御座います
…然し、オブリビオンたる貴方を生かす訳には参りますまい
荒ぶる獣へ鳥籠を解放
【母たる神の擒】にて、彼の動きを阻害致しましょう
何より自己強化が厄介に御座います故
彼の負傷が甚大になる程、彼の怒りが強まる程
牽制は重要で御座います
また後方より支援も欠かしますまい
私とハンスで死角を補い、不意打ちを阻止
声掛けが間に合わぬならば黒剣を投擲する事も厭いませぬ
注意を此方へ引けたならば良いのです
武器受けや見切りで致命傷を避けましょう
多少の痛みならば耐えられます故
それに…只では倒れませぬ
苦しまぬよう、我が渾身の呪詛を注ぎ込みましょう
――さあ、お休みなさい
アレクシア・アークライト
楽しみや喜びを見出すことがあったにせよ、人を殺したのはあくまで自分の身を守るため――。
オブリビオンとしての自覚がないオブリビオンってわけね。
そういえばこの世界には、オブリビオンになってなお世界を守ろうとする巫女もいたわね。
同情はするけど、手加減はしないわ。
「貴方がどんな存在になったのか、教えてあげる」
――。
「だから、貴方がそんな姿をしているから倒しに来たんじゃないわ。
正常に戻ろうが戻るまいが、何をしようが何もしまいが、私達は貴方を殺す。
それが貴方と私達の関係よ」
悩み苦しむ貴方に私ができるのは、悩み苦しむ貴方という存在を消し去ることだけ。
・吸収した力と力場を拳に集中し、叩きつける。
無明・緤
かみ合わない歯車。それが、お前か
悲痛な叫びも攻撃も、からくり人形の盾で防ぎ肉薄
突っ込むと見せかけて…そっちは【フェイント】だ
人形を囮に死角から飛びかかり、至近まで顔を近づけて
UC【鐵は血に血は鐵に】使用
教えてくれ、お前の名と孤独の味を
頬を伝う血の涙を拭い取るように舐め
その力と記憶の一片から戦闘用プログラムを生成
嘗てゼラノスが人だった頃の幻影を電脳魔術で具現、己に纏う
そうだ、怪物のお前は人のお前に殺される
彼の過去や人格を血から解析し、それに沿って
彼の願った冒険譚を演じ怪物を斃そう
おれは人形遣い、幻を【操縦】するのはお手の物
過去がどうにもならないのは分かってるけど
それでもさ、救いが欲しかっただろ?
●Sweets,your Dream.
地響きを立てて堕ちた竜を強化するコードは解けている。
血だまりを作って床に寝る彼は、未だ潰えてはいない。
だから、彼の【叶わぬ願い】が発動される――!
様々な彼の姿が、ゆらりと猟兵たちの前に現れた。
一人は、少し今の彼より若いだろうか。両腕のみが異形に変わり果てていた。
ほかの彼を見れば、まるで生命の進化論を見るように彼の変化がわかっていく。
蒼の灯火めいた母の名残を揺らめかせるグリツィーニエ・オプファー(ヴァルプルギス・f13858)は、彼を憐れむように見てやった。
人間らしい顔を奪われた時が、きっと最期だったのだろうかと悟って長いまつ毛を伏せる。
「――然し、オブリビオンたる貴方を生かす訳には参りますまい」
未来(せかい)からの使途である彼は、己の私情を踏まえたとしてもこの哀れな生き物を眠らせてやることを願った。
まるで、この光景は彼の亡霊が歩いてるように見える。
どの亡霊もグリツィーニェには、哀れで仕方がない。
眠れない、おさまりのきかない呪詛が立ち込めている。
(ならば、眠りに導いてやりませんと)
救えない過去をせめて安らかにしてやろうと想う彼を、『母』はやはり『美しい』と称すだろうか。
迷える魂を導かんとする彼が――間違いなく今は、神の使途であった。
手にした鳥籠を抱くようにして、かちりとその錠を外せば、蒼の蝶たちはたちまち外に出る。
「『――お往きなさい』」
【母たる神の擒(ズィーゲル)】が放たれる。
蝶の群れが様々なゼラノスに纏わりつくよう、飛び出した!
振り払おうと威嚇する彼も居れば、まるで眠りにつくことを受け止めようとする彼もいるの穏やかにグリツィーニェは見ていた。
ぴくりともしない、毒に内部を冒された『今の彼』を瞳に映したところで、穏やかに目を閉じる。
蒼の蝶を振り払った若き『開発途中』のゼラノスが雄たけびを上げる!
床に伏せている今のゼラノスよりも威力は鈍るが――『彼もゼラノス』なのだ。
ならば、相手をしようと赤の力を纏うのはアレクシア・アークライト(UDCエージェント・f11308)!
見ていればわかる、彼にはオブリビオンとなった自覚がない。
ただ、必要であれば骸の海に還してほしい彼と、人間の体に帰してほしい彼が獣性と言う壁で分けられてしまっているのだ。
言動がちぐはぐだったり、急に戦闘中に関わらず泣き出して激昂することもあれば、殺すと怒鳴り果敢に猟兵に挑む。
こころすら、もう人の形をとどめるのが難しいことを暗示していた。
メッセージ
アレクシアは数々の竜が刻んだ痕跡を見てきたからこそ、理解している。
だから飛び出した『昔』の彼をここで屠らねばならない。彼が、彼である限りは屠ってやらねばならぬ。
「貴方がどんな存在になったのか、教えてあげる」
山羊角の彼から呪詛の援護が迸る。彼からの呪詛を掌で受け止めて力場を展開した!
いまやここはアレクシアの魔術生成工場となる。
そこに飛び込んだ一匹のゼラノスが彼女をねめつけた。
「わかってる、おれのいまの、すがたなら」
「わかってないわ。貴方がそんな姿をしているから倒しに来たんじゃない」
襲い掛かる若い彼の腕を力場を用いた腕で叩き落とし、その遠心力を使って空を舞う。
着地し、再び襲うはまだ幼いながらにうろこのある尻尾だ。
まだ鎧のようになっていないそれを足でいなして、打撃痕をお互いにつけあった。
そして、――魔術はアレクシアの内部で膨れ上がる!
「『私の全てを込めた一撃、貴方なんかに防げる代物じゃないわ』。そして、正常に戻ろうが戻るまいが、何をしようが何もしまいが、私 達 は 貴 方 を 殺 す ! ! 」
其れこそが彼らとゼラノスの宿命なのだから。
前へ一歩踏み込めば、まだ幼い未成熟の腹筋がそこにある。躊躇いはない、だからさっき口にした。
・・・・・・・・・
――ためらわないように。
未来と過去である限り、アレクシアはこれからもずっと、ゼラノスのようなものどもを打ち砕かねばならない。
光よりも、音よりも早いスピードでソニックブームを起こしながら放たれるその拳が切り開くのはこの世界の未来である!
「――これが貴方と私達の関係よ」
黒山羊の彼からの呪詛とゼラノスの力を吸った【全力の一撃】が空気を裂くようにして放たれ、――若き頃の『彼』を貫いたのだった。
そしてまた、今度は幼い彼がいる。
情緒の発達は今と変わらないのだろうが、牙を剥きだしにして四つん這いになって目の前で同じく四つん這いになる猫と目が合っていた。
「かみ合わない歯車。それが、お前か」
もし、これが彼の――彼の、全てだというのなら、なんとちぐはぐであろうか。
初めから狂っていたのだろう。
はじめから、欠陥があったのだと無明・緤(猫は猫でしかないのだから・f15942)は彼を見て判断した。
メンテナンスもろくになされず、いたずらに体をいじくりまわされた痛みなど緤には故郷の“天使”を思い出させる。
「クソくらえ」
その唾棄は緤にとっては誰に向けたものだったのかは彼にしかわからないが、目の前の死から逃げ続ける失敗作には攻撃をしかける!
「ううヴる、ぅあああ!」
まだ声が若い彼を解析する必要がある。決定打を求めているわけではないから――絡繰を操っていびつな腕からの攻撃を防ぐ!
「悪いな、フェイントだ」
そしてその人形の背を駆け上がって、彼が求めるのは幼い彼が流す血の涙だった。
真っ赤な涙は、何を物語るのか。
彼の惨劇と人生を物語るのだろうか――それとも、「こうありたかった」ものを求めるのだろうか。
ざらざらの舌で彼の頬を戯れるように舐めると、たまらずゼラノスは緤の小さな体を掴んで投げ飛ばした!
『(――渇く)』
だが、ケットシーである彼には落下など無縁。くるりと黒の体毛を艶やかに光らせながら着地すれば、ゼラノスの『解析』が始まる。
DNAに直で刻み込まれた記憶の開示は、彼が事前に用意してあるプログラムがすべてを実行できる。
機械に0と1だけで語り掛ければ、同じく人であった――人であれば『こうだった』ろう『彼』を緤が生み出すのはまさに一瞬だった。
【鐵は血に血は鐵に(サイバネティクス・ヴァンパイア)】は始動する!
「おれ、だ」
歪になり始めたころのゼラノスが、ドラゴニアンの人型をたもったままの俺を見上げる。
「ああ、おれ、おれだ」
こうなりたかった、こうありたかった。
腕を伸ばして幻影である彼に、顔を真っ赤に濡らした幼い彼がしがみつく。
黒猫は、その様を――どこかあきらめたような、それでも何かを信じているような翡翠の目で見ていた。
怪物のゼラノスは、人のゼラノスに殺される。
でもきっと、それを受け入れてしまうのだろうと――彼の理性を垣間見たから、緤も躊躇いはない。
過去である限りは、救えない。過去である限りは、未来が変わらない。たとえ泣きじゃくって駄々をこねて、その翼で飛び立ったとしても、目の前の『幻影』に過去であるゼラノスはなり得ない。
人のゼラノスが、抱きしめるようにして幼い失敗作を抱いた。そして、そのうなじに手を這わす。
「それでもさ、救いが欲しかっただろ?」
ごきん、と幼い芽が摘まれた音がした。
叡智の鴉が山羊角の彼の肩で啼く。
すべての生霊が――死んでもなお、彼の中に内包された幼い傷たちが導かれていくのを知らせた。
「ああ、ハンス。せめて彼がこのまま、穏やかに眠らんことを祈りましょう」
蒼の蝶は舞う。
この場に彷徨うゼラノスの傷すら、世界に魅せて導いていく。
せめて、苛烈な思いをなくさねば眠れまい。眠れても、またじきに醒めてしまうだろう。
だから、全てに等しく眠りをもたらす。
大魔術の基盤となった彼に注意を向けたはしから、赤のエージェントと黒猫の彼が導いていく。
眠るのは過去、目覚めるのは猟兵。まるで月と太陽のような関係をどうか、眠らされていく竜が次の世界では恨まないようになればいいと祈った。
「――さあ、お休みなさい」
ひときわ強く蒼の光が己の鳥籠に灯ったのを、グリーツィニエは視界の端に見たのだった。
大成功
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遊星・覧
◎★
マジかー 人語話すし、ほんの子供(ガキ)じゃん。
いいぜ坊ちゃん、かえしてやるヨ
とりあえず骸の海までパレードしよっか、ネ。
◆
真っ赤なお化粧した坊ちゃんに他の色もあげる
逃げ足使いながらウォーターガンで狙撃狙撃ィー
シケた面してないで、楽しく遊びまショ。
幻影サンが出てきたらモチロンその子も一緒に!
存在感をアピールして ランの方に目を向けさせるノ
ほらほら坊ちゃんランを見て、視界に入ってて。
カウントダウン さん、にィ、いちで【泡沫遊星】
◆
きらきら光るいっぱいのシャボン玉
坊ちゃんのためのパレードだヨ。
宇冠・龍
悲痛な過去、秘めた苦痛や苦悩は事実。しかし蜘蛛を使役し人を襲ったのもまた事実
求めることは悪ではありません、安寧も決して悪ではないです。それこそ歯車が狂ったのでしょう。一つ違えば、何かが噛み合わなければこうでなかったかもしれない
届かないかもしれません、消え行く理性に言葉を理解してもらえないかもしれません
呪詛と想いは同質です。その溢れる憤怒と殺意、どこからどう攻撃が来るか予想と感知をし、
痛み分け覚悟のうえで相手の攻撃を全力でかばい受け止め、その巨躯を抱き留め拘束します
「あなたは失敗作ではありませんよ……」
この一言だけは届け、“次こそ”は、もっと幸せな未来を、と想いを乗せて【竜躍雲津】で攻撃
●Parade.
びゅうと極彩を含んだ絵の具が舞う。
「マジかー。人語話すし、ほんの子供(ガキ)じゃん」
ため息と苦笑いの混じった声で、蒼の蝶が舞う葬送の世界を見上げたのは遊星・覧(夢・f18785)だ。
幻想的な光景に、思わず感嘆する。
「すっげ……、いいね。シケてねェで、こういうことしてねーと。ね、坊ちゃん」
そして足元に寝る『本体』であるゼラノスを見下ろした。
立ったまま見るのも間違えているかと思って、頭をがりがりと手根で掻いてからしゃがみこんでやる。
ひゅう、ひゅうと喉を鳴らす彼が虫の息であることはよくわかっていた。
黄金の毒も血の足りぬ体に回るのは早いのだろう。
そして、覧の隣で同じく膝をついてしゃがみこむ女が――宇冠・龍(過去に生きる未亡人・f00173)だ。
憐れむように、その血まみれの顔を撫でてやる。
細い柔肌と白に包まれた己の手が、どろりと粘っこい汗と血で汚されても不快そうではない。
「悲痛な過去、秘めた苦痛や苦悩は事実。しかし蜘蛛を使役し人を襲ったのもまた事実」
いくら慈愛を持ち合わせていたとしてもその罪を、赦すことはない。
悲痛な過去を背負っても、背負わせた誰かを恨むなら道理は通るが世界を恨むのは大きな大罪だ。
それでも、もし運命の歯車がうまく彼を回していればこうはなっていなかったかもしれない。それをどうか、伝えてやりたい。
まるで本当の母かのように、涙を双眸に溜めさせて美しい白の麗人は覧を見た。
「あなたを、人を楽しませる神様だとお見受けします。どうか――どうか、楽しく逝かせてはくれませんか」
穏やかな眠りにつくのであれば、せめて最後の現実は楽しいもので終わればなおの事いい。
ごぷりと口の端から赤を吐くゼラノスと、瞳を潤ませた龍に「実は閑古鳥の遊園地」とはいうにも言い出せずにいたが覧の『楽しませる神様』という力の見せ所は、きっと今なのだ。
「もち!任せてチョーダイ、おねーさん!」
に!と明るく太陽のように笑って見せれば魔術式を展開する。
夢の終わり、ショーがすべて終わってマシンの起動もすべて終わった後のお客様へのもてなしと言えばなんだろうか。
大人も子供も最後に夢を見て、現実に帰っていけるものを思い描いていた。
今この場で、世界(みらい)に愛される彼ならではの、世界を恨む竜を救うものを作る。
極彩の光が覧を中心に、まるでシンボルである観覧車のように廻り始めてその掌に奇跡をもたらした。
「さん、にィ、いち――『Bomb!』」
三つのカウントのあと、ぱちん、と指を鳴らせば現れるのは幾つものシャボン玉。
【泡沫遊星(スケアリーバブル)】。
それは、本来爆発するものであるから火花を中に抱いたままふわりと宙に浮いていく。
光の屈折を身に宿して遺跡のすべてを明るい彩色で照らしていった。
虹のように、それでも目には悪くない色で――「主」の死を予知してか、穏やかに止まりゆく歯車に色を宿させる。
「見えますか」
彼の怨嗟も憤怒もどうか救われてほしいと上半身を抱き起す龍は、己の黒衣が血でまみれてもいとわない。
血にまみれた顔で、薄く目を開けるゼラノスがいる。
「――ぅ?」
嗚呼、まるで本当に、赤ん坊のような反応をする。ずきりと龍の胸に哀がにじんだ。
生まれてきた命に、失敗などあるものか。
生まれてはいけない命など、あってはなるものか。
誰かを愛し、どうか次は――愛される命になってまた、生まれておいでと祈って。
「あなたは失敗作ではありませんよ」
それは、呪詛を孕むほど愛に満ちた彼女だからこそのささやきであった。
獣性にまみれた竜に、その声はきっと届いただろう。――その一言は、紛れもない救いだった。
ひときわ多きなシャボン玉を連れてきて、覧が二人の前に立つ。
「さァさァ、ランのアトラクションなんだからシリアスはダメダメ!ってネ」
にししと鮫のような歯を見せて笑うが、今の彼は鮫ではなく夢の案内人である。
こくりと頷いた龍の頬に涙が伝う。
抱きしめたゼラノスの、もう風前の灯である命ごと巨躯をそのシャボン玉の中へ入れた。
「つっても、ちょっとデカいからなァ。重量オーバーで浮かないかも」
「大丈夫ですよ。『これは、死霊術士になる前の技――』」
シャボン玉がまるで胎児のように丸まって、夢と現のはざまに浮かぶゼラノスを完全に孕んだところで、竜が詠唱をした。
本来は、蹴り技なのだ。
だが、死霊術師として極める前に修得したなじみ深い技であるから、調整をうまくきかせられる。
覧の魔術が組まれたシャボン玉を【竜躍雲津(リュウヤクウンシン)】で、蹴り上げた。
シャボン玉は、割れない。
確かな質量を孕んだまま、空へと浮いていく。
「――坊ちゃん、見えてるゥ?」
その下で送り出しながら、手を振る覧。まるで、インストラクターのように、最後の別れを告げた。
「きらきら光るいっぱいのシャボン玉!坊ちゃんのためのパレードだヨ」
薄く開かれたゼラノスの瞳には、確かに猟兵たちの姿が映っていた。
光の屈折をして、いろんな色が最期の視界に映ったことだろう。
幼い情緒では、これから自分が死ぬことはわかっても不思議と恐怖はなかった。
――かつて、友達と遊んだ時のように眠れる気がして、ゆったりと目を閉じる。
歯車の迷宮にて、いくつもの花火があがる。
まるで、それは特別な日の終わりのように、美しいものだった。
獣性に支配されし獣は、眠りについた。
君たちによって止められた忌まわしき歯車は、――今、この時のままで止まり続けるだろう。
大成功
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