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弱肉強食の理

#アックス&ウィザーズ

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#アックス&ウィザーズ


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 アックス&ウィザーズに数多在る、小さな街の一つ。
 そこで冒険者ギルドを兼ねる酒場の中は、怒号と悲鳴、血の匂いに満たされていた。
 応急手当程度でもいいからと、治癒魔法の使い手を求める声がする。
 腕が動かなくなっちまったと、大柄な男戦士が身体を震わせている。
 こんなはずではなかったと、屈強なドワーフが立ち尽くしている。
 ……そう、彼らは負けたのだ。
 モンスターの群れとの戦に敗れ、無惨にも逃げ帰ってきた。
 それを、街の人々は責めなかった。
 そして依頼した以上は出来る限りのことをしようと、総出で救助に当たった。
 しかしモンスター退治を外部の冒険者に頼るような街では、手酷い傷を負った者達を治す人材も、彼らを満足に休ませる為の物資も、何もかもが足りていない。
 このままでは、多くの冒険者が命を落としてしまうことだろう。

●命の灯に救いの手を
「――彼らを助けることもまた、世界を滅亡から守り抜く為に必要な事だと思います」
 グリモア猟兵の一人“テュティエティス・イルニスティア”は、一同を見回して言った。
「人がいなくなれば、彼の地にモンスターという形で顕現したオブリビオンは、何者にも阻まれる事なく世界を闊歩します。それは新たな犠牲を呼び、滅びを誘うでしょう」
 未来を歩み続ける為には、今を生きる者達の存在が欠かせない。
「医療の知識や治癒術に心得のある方は勿論、そうでない方でも出来る事、して頂きたい事は沢山あります。過去からの侵略さえ退ける猟兵の力を、今一時、命救う為に使って貰えないでしょうか」
 テュティエティスは呼び掛け、さらに説明を続ける。

 猟兵達のテレポート先は、件の酒場だ。
 アックス&ウィザーズにおいて猟兵は猟兵と認識されておらず、他の冒険者と同じように見られている。故に、現場に赴いた猟兵は“五体満足の冒険者”として協力を要請されることだろう。
「とにかく、あらゆる面で人手が足りていません。ですから、皆さんは自らのもっとも得意とする分野で力を奮って下さい。効果的だと思われるなら、ユーベルコードも存分に活用すべきでしょう」
 何をおいても、まずは全力での救命活動だ。
 傷ついた冒険者達の多くは打撲や裂傷を負っている。
 中には骨折している者、出血の酷い者もいるが、毒物や呪術の類に苦しむ者は見受けられない。恐らく彼らを敗走させた敵は、単純な力と数で捻じ伏せにかかったのだろう。
 また、怪我人は全て酒場に収容されている。速度最優先で運び込んだが故に無秩序な大混雑が引き起こされてもいるが、新たに担ぎ込まれる者を心配しなくていいのは、不幸中の幸いと言うところか。
 さらに、物資の不足。此方は住人の生活用品から使えそうな物を抽出する事で何とか間に合わせようとしているようだが、質と量は勿論、回収と運搬の手も不十分だ。
「重ねてお願いします。どうか、無辜の冒険者達を救う力を」
 テュティエティスは深く頭を下げ、猟兵達の答えを待った。


天枷由良
 兎にも角にも人命救助です。他は後回しです。
 要治療者は人間の冒険者が多数を占めていますが、アックス&ウィザーズの種族であるドワーフ、エルフの姿も確認されています。フェアリーはいないようです。

 プレイングの取り扱いについて、
 特に記述がないものに関しては、複数名を組み合わせるかもしれません。
 お一人の描写をご希望の場合は、プレイング冒頭に【1】と。
 ご友人などで協力なさる場合は、共通したチーム名などをご記入下さい。

 それでは、ご参加お待ちしております。
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第1章 冒険 『命の最前線』

POW   :    大量の物資や負傷者の輸送、長時間の看護など

SPD   :    緊急性の高い患者への対応、医療技術の活用など

WIZ   :    回復魔法や薬物の知識活用、より良い救助計画の立案など

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種別『冒険』のルール
「POW・SPD・WIZ」の能力値別に書かれた「この章でできる行動の例」を参考にしつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。

栗花落・澪
大丈夫、皆の力があればきっとなんとかなる
なんとかしてみせる

怪我人達の中に敵の力に混乱していたり極度に疲弊している人がいれば
その人の側に腰掛け【優しく】【手を繋ぎ】
酒場全体に響くように【破魔】の力を持った【祈り】の【歌声】を奏でる
【全力魔法】で強化すれば
少しは速い治癒に繋がるかな

万一どうしても痛みの引かない
この場での完治が難しい程の重傷者がいる場合は
手の空いてる人に【医術】の指示出しをし【救助活動】
患部冷却、包帯固定等簡単な応急処置を手伝ってもらう
草花の知識はあるから
今後のためにも、この辺に自生する植物の情報も貰えると嬉しいかな

勿論僕以上に詳しい人がいればそっちに従ってね

他猟兵さんとの絡みお任せ


レイチェル・ケイトリン
わたしの得意な念動力技能でサイコキネシスをつかっておてつだいします。

街のひとたちにきいて負傷者さんたちやものをいっぱいはこんであげる。
精密に操作する事も可能だからていねいにね。

看護もします。
さわらないでうごかせるサイコキネシスは消毒いらないから手術のおてつだいまでできるんだもの。

しっかりと血管をおさえて出血を止めたり、おいしゃさんのよこに器具をいくつもうかせてとりやすくしたりしてあげられる。

心臓だって直接うごかしてみせるよ!


ほかの猟兵さんがいたら、救助計画とかはできるだけてつだうし、あぶなそうな患者さんがいたらすぐしらせてあげるよ。

みんなたすけてあげたいんだもの。


唐木・蒼
壮絶な戦いだったみたいね…私も混ざりたかったわ。というのは置いといて、人命救助ね、OKOKわかりやすく世の為人の為じゃない!
まぁ医療の知識も技術もなくってこの身ひとつな私なんだけど…単純作業や力仕事の人足ってのも必要でしょう、気張るわ!
【POW】
まず村の物資や人じゃ全然足りないって事だから…近くの村や街に協力を仰ぐのがいいんじゃないかしらね?
荷車でも借りて物資や人、特に治療なんかの知識のある人を募って件の村との往復マラソン敢行しましょうか。
募るついでに更に別の村や街に連絡お願いすれば応急処置的に凌いでる間に救援も期待できるかも。狐の羽衣の「誘惑」が有利に働かないかな、なーんて。


トリテレイア・ゼロナイン
街の人々の為に戦った冒険者達、立派に戦い傷ついた彼らを見捨てるなど騎士道に有るまじき行為。紛い物の騎士なれど私もご助力しましょう

しかし医療技術も魔法も使えぬ私が提供できるのは疲れ知らずのこの鋼の身だけ
「怪力」を活かした重量のある医療物資の運搬や負傷者の搬送くらいでしか役立てそうにありませんね…

この世界に麻酔に類するものはあるのでしょうか?無ければ激痛を伴う治療の際に(例・刺さった鏃を引っこ抜く)負傷者が暴れぬよう押さえつけて
治療者の負担を和らげましょう

治療が終わっても容体が急変するかもしれません。「暗視」で負傷者の様子を監視しながらの寝ずの番もしておきましょう。


アララギ・イチイ
いいわねぇ、この野戦病院の様な雰囲気ぃ
動けない無抵抗な負傷兵を蹂躙するのは楽しかったわぁ……と、場の雰囲気に合わない冗談(かな?)はこの程度にして救命活動よぉ

人手が足りないのよねぇ
召喚・機械人形ズ(合計20体)を呼び出して手伝いをさせるわぁ
私自身は(怪力)を活かして物資・負傷者の輸送、人形部隊も4人1組で3チームを組ませて輸送の手伝いをさせるわぁ
残り2チームは、酒場の衛生状況の維持(トイレの清掃や衣服の洗濯など)よぉ、もちろん必要なら応援が必要な場所に一部を回す事も可能だわぁ
突然、人形達が行動し始めると混乱する人も居るかもしれないから私特製のお手伝い人形とでも関係者には説明しておくわぁ


アンドレア・コンスタンス
これは酷い・・・ですが何はともあれ、生きて帰ってこれたのは幸いです。必ずや治して差し上げます。

まずはトレアージを行いましょう。負った怪我の程度で段階別に患者をカテゴライズして、最も緊急性の高い怪我人に生まれながらの光を照射して治療します。疲労の限界近くまで治癒を施し、回復後は直ちに治療を再開します。

人手に関してですがこの緊急時です。最も程度の低い怪我人の方々にも治療後に何か手伝ってもらいましょう。怪我の種類等を見て役割を割り振ります。

あと治療したからいい、とはいきません。定期的な薬剤投与や包帯を替えたり、食事や着替えの世話等を行う看護人の確保もお願いしなければいけないでしょう。


アギ・ブランウェン
処刑人の私でも誰かを助けられるって…命を奪うだけじゃないって…やってみせたい。

物資も人手も足りないのですね。
こう見えて力も体力もあります。
運搬を手伝いましょう。
POWです。

私は指示に従いましょう。
こんな時こそ指揮系統が大事です。
この場は誰が取り仕切っていますか?
機能していなければ現場判断で行動しますが。

長時間の看護も任せてください。
看護する相手の様子を注意深く観察して、事前に指示を受けた通りに適切に対処します。
救助活動の技能も活用していきましょう。
…私は医療の専門家ではありませんが…処刑人として知っている「どうすれば人は死ぬか?」とか人体の知識を逆に応用すれば、少しは役に立つかもしれません。


アクアヴィーテ・ワイズメル
とりあえず、怪我の程度が軽い方を優先し集まって貰い、シンフォニック・キュアで治療します

傷が治って動いても支障がない方には、治ったばかりで申し訳ありませんが、残る負傷者の方のお世話や、物資の運び込み等をする仲間のお手伝いをお願いします

人手が増えたら、できることも多くなりますし

その後は、なるべく多くの人に歌が届いて、作業の邪魔にならない天井の梁とかに陣取って、シンフォニック・キュアで治療のお手伝い

「こんなときに歌なんか唄って、フェアリーはお気楽なもんだ」
とか言われても気にせずに

フェアリーはお気楽なものですから

食事が喉を通らない方には、妖精の干し果実を少しお裾分け
私も疲れたら、ちょっとずつつまんで


アガーテ・エルツ
【WIZ】

現場の整頓ト
お医者サマが適切に治療に専念出来ル仕組み作りノご提案デス

マズは酒場ヲ区分けしテ、
エリア毎ニ緊急性の大小デ患者サンを分けます
トリアージ、というモノですネ

医療ノ心得がアル人ハ、

・重傷患者の治療
・患者サンの緊急性の振り分け
・手伝いに来タ人へ軽度の応急処置法のレクチャー

ヲして下サイ

ワタシも【救助活動】お手伝いシマス
一人デモ多くを助けマショウ


パリエステル・クマクマ
「クマクマは慌ててこの事態に対処します。」
自身の使える回復魔法、そして森で培った薬草知識を最大限に生かす為に現場に居合わせた猟兵と打ち合わせをします
重篤患者、緊急性の高い患者へは回復魔法の使用を勧め、緊急性の低い患者には薬草などを与えるのが良いと提案します
特に出血の酷い者、内臓器官に関わる打撲や骨折、頭部への打撲がある者を優先に『生まれながらの光』で回復を施します
骨折や軽い裂傷の者へは体力が続く限り広範囲へ回復を行い、あとは薬草などを使用して回復してもらう
「死なせはしません。クマクマは森で一番の戦士である前に、一人前の回復手でもあるのです。」
回復が終わった者から順に運搬をしてもらいます



●救援
「これは酷い……」
 酒場の隅に転送された猟兵の一人、ミレナリィドールの“アンドレア・コンスタンス”が惨状を目の当たりにして呟く。
 阿鼻叫喚の渦中と知らされてはいたが、それでも聞くのと見るのでは大いに違う。筋骨隆々の男が痛みを堪えきれずに泣き喚き、聖職者と思しき女がうわ言のように神への祈りを捧げ続けて、全てを諦めた表情のエルフが壊れた弓を手にしたまま座り込んでいるこの光景の真なる悍ましさは、居合わせた者にしか分からない。
 そして彼ら全てを包み込むかの如く、酒場全体に漂っているのは血の匂い。
 或いは死の香りと言い換えてもいいだろうか。深く吸い込めば猟兵達からも生きる気力を奪っていきそうな悪臭は、陰惨な光景を脳裏に焼き付けようと頻りに嗅覚を刺激してくる。
「壮絶な戦いだったみたいね……」
 叶うならばこうなる以前。モンスターとの戦そのものに馳せ参じて己の力を存分に振るいたかったと、妖狐の戦士“唐木・蒼”は悔しがる。
 その傍らでは戦狂いのドラゴニアン“アララギ・イチイ”が野戦病院の如き室内をぐるりと見回して口元を歪め、横たわる彼らのような――ろくに抗うことも出来ない負傷兵共を踏み躙るのは享楽の極みだったと言葉に出しかけた。
 未遂で終わったのは、アララギの中にも多少の良識というものが存在していたからだろう。それに彼女とて、この場に赴いたのは救命活動に加わる意思あっての事。
「早速、始めましょうかぁ」
「ええ。必ずや治して差し上げましょう」
「みんな、たすけてあげようね」
 アララギの言にアンドレアが、そして少女人形のヤドリガミ“レイチェル・ケイトリン”が返す。
 そこにオラトリオの少年――と呼ぶには些か女々しい容姿の“栗花落・澪”が「皆の力を合わせれば、きっとなんとかなるよね」と付け加え、さらに如雨露を抱えたフェアリー“パリエステル・クマクマ”が「クマクマも慌ててこの事態に対処します」などと言い放った時。包帯として使うのであろう白布を両手いっぱいに抱えた町の住人らしき女性が猟兵達を目に留め、動けるなら手伝って欲しいと呼び掛けた。
「まっかせなさい!」
 蒼が片腕を力強く叩く。
 とはいえ、何をするにしても現状を把握しなければならない。ある程度の状況は事前に説明を受けているが、実際に誰が、どのくらいの負傷をしているのか。またどの程度の物資が必要で、人手はどう分配するべきなのか。それを確かめなければ、折角駆けつけた猟兵達も宝の持ち腐れになってしまう。
「この場を取り仕切っているのは誰ですか?」
 ダンピールにして処刑人の“アギ・ブランウェン”が尋ねれば、声掛けしてきた女性は勘定台の方を指し示した。
 本来なら冒険者への依頼を処理すべき机に乗って、大声を出しているのは髭面の人間。
 恐らくギルド長か何かだろう。事態が能力の上限を超えているであろうことは表情から察せられるが、それでも何とかしようとする姿勢は、小さな街の小さな組織とはいえど責任者の面目というところか。
 猟兵達は、一先ず話を聞こうと彼に歩み寄っていく。

「――なんだ、あんたらは随分元気だな!? それとも街の外から来たばかりか!? ああいや、そんなことはどうでもいい! 怪我人じゃないなら手を貸してくれ!」
「勿論ですとも。人々の為にと立派に戦い、傷ついた彼らを見過ごすなど騎士道に有るまじき行い。私共も尽力致しましょう」
 私自身は紛い物の騎士でありますが。
 ウォーマシン“トリテレイア・ゼロナイン”の言葉尻に添えられた自嘲は、飛び交う怒号に掻き消される。
 負傷者を収容しきったばかりの酒場には独言を収める余裕すらないのだ。怪我の程度が重い者も軽い者も区別なく座らされ、床に転がされ、呻く彼らの合間を駆けつけた人々が右往左往している。
 一応、民間薬を用いた止血や消炎鎮痛などの処置が始められてはいるようだが、子供が転んで膝を擦りむいたのとは訳が違う。こんな事態にどう対応すればいいのか、と一人が抱いた焦りがたちまち伝播して、住人達の方もまた集団パニックを引き起こしているような有様だった。
 これでは救えるものも救えない。
「まずはトリアージを行いましょう」
「トリア……なんだって?」
 耳慣れぬ単語に首を捻るギルド長へと、アンドレアは言葉を継ぐ。
「治療の優先度で患者を分類するのです。そうすれば、重篤な方に優先して人手を割くことも出来ます」
「酒場ヲ区分けしテ、エリア毎ニ緊急性の大小デ分けまショウ」
 デンドリティッククォーツのクリスタニアン“アガーテ・エルツ”も同調して述べる。
「お前ら、随分簡単に言ってくれるが――」
「怪我人の状態なら僕が見るよ」
 頭を掻くギルド長が言い切る前に、澪がすっと手を上げた。
 どう見ても少女としか映らない彼が医者代わりなど務められるものかと、訝しむような視線が向けられる。が、それも一瞬の事だ。協力を要請しておきながら、身形に説得力がないからと提案を突っぱねられるはずもない。
 なにより、猟兵達がそんな言葉を吐く暇さえ与えない。
「人手なら心配しなくていいわよぉ」
 アララギが言った途端、勘定台を取り囲むようにして現れたのは胸に金属製の銘板を据えた二十機の多目的機械人形。
「うおっ!?」
「特製のお手伝い人形よぉ。これだけいれば、十分とは言わずとも少しはマシになるんじゃないかしらぁ?」
「クマクマは治癒の魔法が使えます。他にも二、三人ほど」
「残りも力と体力には自信のある奴ばっかりよ。まごついていたら状況は悪くなる一方だし、どう? その、トリなんとかからとりあえずやってみない?」
 パリエステルに続いて、蒼が自信たっぷりの表情で迫る。
 ギルド長が返すべき言葉は、一つしかなかった。

 ――かくして。
 猟兵主導の元、まずは負傷者の分類整理が行われた。
 居合わせた猟兵の中で唯一人、僅かながらに医術の心得がある澪が、救助活動を技能として身につけているアギとアガーテの力を借りながら手早く状態を見定める。
 自力で歩けるか? 呼吸は? 脈は? 意識は?
 その一つ一つを確かめていくうちに、アギは思う。
(「人を殺す為に学んだ知識を、人を生かす為に役立てるなんて……」)
 思いもよらぬ出来事だ。猟兵にならなければ、そんな機会もなかったのかもしれない。
 だが、やるからには成し遂げたい。奪うばかりでなく、助けてみせたい。
 そんな想いが無表情からでも滲み出ていたのか、アガーテはふとアギを見やって。
「一人デモ多くを助けマショウ」
 此方も淡々としたものであったが、そう呼び掛けた。

 やがて、対応を急がなくてもよい軽傷の者、命に関わるほどではないが早期の治療が求められる重傷の者、そして一刻も早く処置をすべき重篤な状態の者と、三種の区分が出来上がっていく。そこに四つめ――明らかに手の施しようがない者が存在しなかった事は、猟兵だけでなく街の人々をも安堵させた。
 一方で、負傷段階による移動を行う前に治療方針の打ち合わせも行われる。
 重篤患者には魔法――猟兵のユーベルコードでの治療を行い、緊急性の低い患者には一般人でも扱える薬草などでの対応を行う、とのパリエステルの提案が最も簡潔かつ具体的であり、異論を挟む余地もない。
 早速、猟兵の半数程度とアララギの人形十二機、街の人々でまだ半端だった包帯やら薬やらのピストン輸送が始められる。集める最中では量的に足りるかという不安も付き纏ったが、アックス&ウィザーズに点在する街や村は行き来に数日程度掛かる程の距離であることが多く、外からの支援というのは受け難い。最悪の場合は近場の森まで薬草採取に出張るしかないか……というのが、行動を始めたばかりでの見立てだった。

 そして、まず自力で歩ける程に軽傷の者達は飲食用のテーブルがある辺りへと纏められた。
 椅子に腰掛け、街の人々から応急処置を施される彼らの視線が捉えたのは、宙空に揺蕩う青い輝き。
「……あの世に連れてこうってんじゃねぇだろうなぁ」
 如何にも卑屈そうな男が呟くが、旅の導き手たるフェアリー“アクアヴィーテ・ワイズメル”はサラリと聞き流して胸に手を当てると、ゆっくり開いた口から共感するもの全てを癒す歌を紡ぐ。
 こんな時に歌なんて――と、ぼやいた中年は手当てに加わっていた女性に窘められた。
 その光景もアクアヴィーテ自身としては気になるものでなかったが、しかし結果としては助けられた形。共感しなければ治癒の効果を得られない以上、ただ聞かせるだけでは駄目だ。それを聞いた者が旋律に心委ねるくらいにはならなければ意味がない。
 とはいえ、一曲歌い終える頃には余計な言葉を交えてくる者もなく。アクアヴィーテは革袋から取り出した一粒のぶどうで喉を潤すと、何とも生真面目な口調で言う。
「治ったばかりで申し訳ありませんが……お手伝いを、お願いします」

 それはアクアヴィーテの独断による要望でなく、先の打ち合わせで提案されていた事だ。
 借りられるならば猫の手どころか、フェアリーでもケットシーでもテレビウムでも何でも借りたい程度の緊急事態。負傷者が救助する側へと回るのには大きな意義がある。
 まして彼らは冒険者。程々のモンスターならば倒せる程の能力を持つ者達。彼らを加えたお陰で諸々の運搬が捗るばかりか、働きっぱなしだった街の人々にも小休止が与えられ、当初混迷を極めていた救命活動にもかなりの秩序が生まれてくる。
 そんな中、次に立ちはだかる困難の一つが、命に関わる程ではないが重傷である者達。
「少々、我慢して下さい――!」
 トリテレイアが巨躯を活かして押さえつける戦士は、まだ肩口に矢が突き刺さったまま。
 麻酔でもあれば随分楽になるのだろうが、この街で用意できたのは鎮静作用がある薬草がやっと。勿論、それだけでは現世地球などのような処置が施せるはずもなく、激痛に悶える負傷者達はトリテレイアが行っているような手法で対応していくしかない。
「――――!!!」
「大丈夫、大丈夫だから……!」
 鏃までを引っこ抜かれる際の痛みでのたうち回ろうとする戦士の手を優しく握り、澪が赤子を眠らせるかのように歌う。
 先のアクアヴィーテと同じく、共感という反応が重要な治癒の歌が真価を発揮するまでには時間を要したが、それでも全力を賭した祈りが通じたのだろう。少しずつ傷が塞がり始めたのを見て、携わる全員が胸を撫で下ろす。
 しかし、それも束の間の事だ。同じような矢傷やら、骨折やら、治療を待つ者はまだまだ尽きない。

 さらに、生きるか死ぬかの瀬戸際である者達もいる。
 レイチェルが向き合っている、自身よりも二回り以上は大きいかという剣士などは、逞しい肉体に反してか細い呼吸ばかりを繰り返し、今にも果ててしまいそうな気配さえある。
 その光景を見た人々は「何故彼女に対応させているのか」「もっと適当な――それこそ鋼の巨躯を持つトリテレイアにでも頼むべきではないのか?」と疑問を抱いた。
 が、レイチェルが剣士を“触れることなく”運び始めた時、その原理は解せなくとも意図は概ね通じたようだった。
 念動力。言葉通り、念じるだけで何かを動かす力。猟兵の中にも習得している者は多々いるだろうが、レイチェルのそれば現状で比肩する者もいないのではないかと言うほどに優れている。
 直接触れないのだから消毒などに気を使う必要もなく、また負傷者をしっかりと固定していれば不要な苦しみを与える心配もない。それどころか、移動させながらにして止血も、止まりかけた心臓を動かすことすら出来る。重篤な患者は、ほぼ彼女が専任する形で酒場の奥へと運び込んでいった。
 そこで待ち構えているのは、パリエステルとアンドレアだ。
「クマクマは森で一番の戦士である前に、一人前の回復手でもあるのです」
 人間の六分の一ほどしかない身体をぐっと反らしてパリエステルは言う。
 そして――彼女の言葉のうち、少なくとも一人前の回復手という部分は居合わせた誰もが認めざるを得ないものであった。
 刺傷が内臓深くまで達し、もはや生きている事そのものが奇跡に近いような人間でさえ、パリエステルの、そしてアンドレアの放つ聖なる光を十分に浴びれば、たちまち穏やかな寝息を立てるにまで至る。
 その代償に全力飛行か疾走かを繰り返したような疲労が襲い来る訳だが、二人がかりでなら倒れる程の無理はせずとも済んだ。
「……私の前で死なせはしませんよ」
「もちろん死なせはしません。クマクマも全力を尽くします」
 時に息を整え、時に翅を休め、互いを補いながらアンドレアとパリエステルが治癒術を施していく度に、勇敢な冒険者達は一人また一人と彼岸から連れ戻されていった。

 そうして方々で力戦奮闘する猟兵達のお陰で、酒場に充ちていた死の気配も段々と失せていく。
 苦しげな声は途絶え、緊迫感も薄れてくれば、ありふれた談笑さえ聞こえるようになった。
 それでも猟兵達は気を緩めず、定期的な包帯の交換やら薬の塗布やら、さらには酒場内の清掃やら汚れた衣服の洗濯やらまでを引き受け、ひたすらに働き続けた。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​




第2章 集団戦 『ゴブリン』

POW   :    ゴブリンアタック
【粗雑な武器】で対象を攻撃する。攻撃力、命中率、攻撃回数のどれを重視するか選べる。
SPD   :    粗雑な武器
【ダッシュ】による素早い一撃を放つ。また、【盾を捨てる】等で身軽になれば、更に加速する。
WIZ   :    足払い
【低い位置】から【不意打ちの蹴り】を放ち、【体勢を崩すこと】により対象の動きを一時的に封じる。
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種別『集団戦』のルール
 記載された敵が「沢山」出現します(厳密に何体いるかは、書く場合も書かない場合もあります)。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


●急報
 危機を脱した酒場には穏やかな空気が流れている。
 梁の辺りから聞こえる妖精の歌声などにも耳を傾けながら、猟兵達は改めて街の人々に応急処置の手順を教示したり、消費した分の薬草を採取しに向かおうかと計画を立てたり、はたまた疲労困憊で倒れ伏していたりしていた。
 そんな中――。

「た、大変だぁ!!」

 転がり込んできた青年が、何事かと目を向ける人々の前で彼方を指差して叫んだ。

「ゴ、ゴブリンが! 北の方からゴブリンの大群が! すぐそこにまで!」

 瞬間、幾人もの冒険者達の顔から血の気が引いていく。
 敏い猟兵は、その表情から先刻までの惨状が何によって起こされたのかを察する。
 異種交配を行い、爆発的に増殖する可能性を秘めた亜人種・ゴブリン。
 冒険者達は彼らと戦い、数の暴力で蹂躙されたのだ。
 そして今また、ゴブリンは街すらも飲み込もうと迫っている。
 肉体的な負傷から立ち直る最中の冒険者達が剣を振るうのは難しいだろう。
 危機に立ち向かえるのは猟兵しかいない。
 水際での防衛戦となるが、侵入を阻まなければ――。
レイチェル・ケイトリン
念動力と吹き飛ばしの技能でサイコキネシスをつかってたたかいます。

ゴブリンを攻撃してふっとばすし、ゴブリンからの攻撃もふっとばしてふせぐよ。

もちろんほかの猟兵さんへの攻撃もかばう技能もつかってふせぐよ。

しにかけやきぜつしたゴブリンがいたら、それをふりまわしてほかのゴブリンにたたきつけるね。

威力はふえないけど、「しにかけとかきぜつしたはずのゴブリン」があばれてたら、ゴブリンはそっちも攻撃するし、「しにかけたりきぜつしたゴブリン」を「ゴブリンたちが自分でとどめをさすようにできる」と思う。

そしてごちゃごちゃしたたたかいのなかでたまたまぶつかっただけの仲間のゴブリンともなぐりあいさせられるとおもうしね。


アララギ・イチイ
あは、やっぱり来たわねぇ
数の暴力で蹂躙ならこっちも相応の技があるわぁ

群狼戦術を使用するわぁ
呼び出した(他人には見えないが)ワンちゃん達を5匹1組で行動させてゴブリンに一撃離脱の奇襲を仕掛けさせるわぁ
時間的に可能ならゴブリンの軍勢の進行ルート上に事前に配置よぉ

私は近接戦闘の距離まで射撃戦だわぁ
装備は単装速射砲×2、榴弾(範囲攻撃)を装填して左右で交互撃ち(2回攻撃)するわぁ

近接戦闘の距離になったら巨大剣×2を引っ張り出して(怪力)に任せてぶん回すわぁ
その周りを護衛のワンちゃん達で援護させつつ、敵の攻撃は巨大剣の側面で(武器受け)かしらぁ
防衛線が破らせそうなら護衛のワンちゃんを分離させて援護よぉ


唐木・蒼
んー数が多いわ…厳しい戦いになりそう。ある程度引き付けは何とかなると思うけど、相手の動き方次第で何体かは抜けちゃうかも?いざという時の為に動ける冒険者にお願いして防衛体制をできるだけ調えといて貰いましょう。壁作ったり数的有利の状況作って一方的にボコるパーティ組みとか、そういうの。
【POW】
私が戦場でやる事は単純明快、壁&囮の前衛。…それしかできないとも言うけど。
まず敵先頭に向けて大斧+UCで一撃、あわよくば混乱誘って全体の進行速度を下げたい。突出や群れへの深入りはしないよう注意…転ばされたり捕まるのは勘弁。
殲滅にしろ撃退にしろ遠慮はいらないだろうから、隙あらばUCでド派手に圧力かけていくわ!


アクアヴィーテ・ワイズメル
まずはゴブリンの群れの規模が分からないと、対応の仕方や重点的に守るべきところも絞れません
私は先ずは、街で一番高い建物の屋上に飛んでいき、ゴブリンの群れの規模やどの方面から向かってくるか
別働隊らしきものの有無等を確認

把握できたものや、仲間から頼まれた確認事項等の情報を仲間に伝え、迎撃の人員配置を考えましょう

もし人間にしては小柄で不潔すぎる一団がみえたら、旅人に偽装したゴブリンの別働隊かも
ひとっ飛びで様子を窺いに向かい、もし敵なら仲間に応援要請

そういった別働隊等の気配がなければ、建物の屋上等高所から敵の様子を把握しながら、シンフォニック・キュアで傷付いた仲間を癒します

飛道具で狙われたら武器で受払い


トリテレイア・ゼロナイン
ゴブリンの軍勢…市街地に侵入されれば冒険者達が受けた比ではない被害が出るでしょうね
なるべく町の外で迎え打ちたいところです

私は足が遅いので先に迎撃に出た猟兵達を物量任せに突破したゴブリンを押しとどめる壁のポジションとなりましょう

単騎か少数で軍勢に立ち塞がりながら大音声で叫び、ゴブリンの注意を引いて攻撃を私に集中させます。
「武器受け」「盾受け」で攻撃に対処しつつ、「怪力」による大楯殴打と「踏みつけ」で数を減らしましょう

主目的はゴブリンを引きつけることで後衛型や準備が必要な猟兵達の攻撃の態勢を整えることです
必要とあらば私ごとゴブリンを攻撃してもらいましょう、UCで対処できますしね


アギ・ブランウェン
敵を倒すのは私達の役目です。
負傷していた冒険者の皆様は、出来るだけ非戦闘員を護衛しつつ避難していただけますか。

敵の侵入経路を意識して防衛します。
敵が分散している時は抑えられても、戦力を集中されたらこちらも応援が必要かもしれませんね…。

ユーベルコードは咎力封じを使います。

技能で傷口をえぐるように戦うのはいつも通りですが、今回は更に容赦のない戦い振りを見せつけて敵を怯ませます。
とはいえ、必要以上に死体を弄ぶのは無駄なのでしませんし、少々派手に殺すくらいです。
恐らく敵にとっては追撃・掃討戦、一方的な虐殺や略奪のつもりだったのでしょう。
自分も無事では済まないのだと思わせて、敵の勢いを殺したいですね。


パリエステル・クマクマ
「クマクマ達猟兵の皆で迎え撃つ為の作戦を考えましょう。」
敵は大群、対してこちらは少人数ですから連携が大切なはずです
作戦の提案
『釣り野伏。動きの素早い者が一撃離脱、追ってきた敵の出鼻を足払い、耐性を崩した所で力の強い者が攻撃。じわじわと下がりつつ囲まれないようにしながら敵の数を減らしていく。』
「クマクマは隠れやすいので敵の脚を狙って転ばせてみます。」
相手の脚を払えるほどの肉体的強度がないので、茂みから蔦や縄を引っ張り上げて相手の脚を払います
敵の数が減ったらMímisbrunnrで攻撃
村人、負傷から回復した冒険者にはゴブリンが向かってくる村の入り口に簡易なバリケードの布設をお願いしておきます



●物見
 ゴブリンの襲撃に慌てふためく青年の報告だけでは、情報の量も精度も足りない。
 梁から癒やしの歌声を響かせていたアクアヴィーテはすぐさま酒場を飛び出し、直近で一番高さのある建物に縋ると全方位をぐるりと見回す。
 視線が捉えた先は――青年の言にあった北側のみ。他に怪しむべき点はない。
 擬装や挟撃などを思考から外しておけるのは実に喜ばしい事だ。……しかし多い。とにかく多い。緑肌の亜人達は、それ自体が一つの生き物であるような巨大な塊となって押し寄せている。あれに飲み込まれれば、この小さな街から明日は失われるだろう。
 あまり悠長に備えている暇もなさそうだ。透き通る翅を力の限りに羽ばたかせて、アクアヴィーテは青く流麗な軌跡を残しながら酒場へと取って返す。
 その姿を目に留めた小さな子供の、危機への無理解から来る純真な声が何故だか耳に残った。

●準備
「――厳しい戦いになりそうね」
 下りてきた雪片のようなフェアリーから報告を聞き、真っ先に出たそれは蒼の台詞。
 数ばかりあっても仕方ないが、しかし戦いにおいて数は間違いなく重大な要素の一つだ。
 そして蝗害の如きゴブリンに対して、迎撃の用意を整えられた猟兵は七人ばかり。
 それ以上の数で挑みながら返り討ちにあった冒険者達が言外に無謀だと訴えてくる。だが猟兵を同業者と認識するが故の思いやりは、誰に受け入れられるでもなく何処かへと流れていく。
「皆様は、戦えない人達を護衛しつつ避難していただけますか」
 アギが淡々と述べた。
 身体の傷こそ癒えたとは言えど、緑肌の亜人種に踏み躙られた心が未だ刃の重みに耐えられそうもない冒険者達にとって、その申し出は渡りに船だっただろう。只々襲撃に背を向ければ面目も立たないが、最後の防衛線に等しい役割を引き受けたのなら、それは街の人々を庇い立てしたような格好にも映る。
 とはいえ、結局のところ全てを猟兵の双肩が担っている事に変わりはない。
「街に入られては、彼らの比でない被害が生じるでしょう」
 万が一を防ぐ為にも外で――つまりは今すぐ打って出るべきだと、トリテレイアが言う。
 そこに乗り合わせる形で言葉を継いだのはパリエステル。クマクマに一つ提案があります――と、語られたのは寡兵よく大軍を破るの代名詞とも言うべき戦法に僅かながら似たもの。
 要の部分をざっくり掻い摘めば、囮で敵を釣って漸減させていくという策だ。
 それがパリエステルの言う通りに行えるかはともかく。七人で同じ目的を成し遂げようとする上で、基本の方針を一つ立てておくのは悪くない。
 猟兵達は蝶の如き翅を持つ妖精に短く同意を示してから、次々に酒場を飛び出していく。

●先駆け
 元より、己の役割は戦場の最前にしかない。
 或いはそこでしか役に立てないと言うべきなのか。
 まあ、批評は誰かに任せるとして。敵が迫っているというなら、やることは一つ。

「いざ!」
 担ぐ大斧の重さも感じさせない足取りで、蒼はあっという間に街と外の境を越える。
 そのまま向かうは、勿論ゴブリンの群れ。
「ひーふーみーよー……うん、沢山ね!」
 こんなものは真面目に数える方が馬鹿らしい。
 それに、どうせ最後は居なくなる。一匹残らず。
 何故なら――あれが無辜の人々を蹂躙しようとする悪だからだ。
 悪は懲らしめねばならない。
「せーのっ!」
 小柄ながらも筋肉質な亜人種の、双眸の輝きがハッキリと見て取れる距離まで近づいた瞬間。
 蒼い焔が溢れ出る身体全てを用いて、勢いよく振り下ろされた斧が先頭のゴブリンを叩き潰す。
 斬るのでなく、潰す。刃を削がれた得物は、形こそ大斧だが只の鈍器。それを扱う蒼も、形こそ妖狐だが内実の一旦は肉体と腕力こそが全ての荒々しい蛮族戦士。
 言わば“破壊”そのものだ。そして、その力が最初の一匹を屠ったばかりで留まるはずもなく。肌が触れ合うくらいの距離で進んで来た何匹かの仲間と、それから大地そのものまでもを圧し潰す。
 忽然と現れた巨竜の足跡のような窪みと、そこに居たはずが影も形もなくなった血族。双方の事実を一度に収められるほど、ゴブリンの頭は大きくない。
 暫しの静寂。
 その後、群れを激高が支配する頃には、蒼は仲間の元へと駆け戻っていた。
 骨片のようなナイフやら粗雑な作りの矢が飛んでくるが、子供の癇癪じみた攻撃など当たりはしない。
 そんなものよりも、一人突出してアレに捕らえられる方が恐ろしい。

●遠隔攻撃
「あは、来たわねぇ来たわねぇ」
 妖狐に釣られて来るゴブリンを金瞳で見据えて、アララギは堪えきれずに声を出す。
 やはり傷病者の世話などより、此方の方が自らのあるべき姿だろう。
 蹂躙だ。蹂躙するのだ。食い尽くすつもりで迫る有象無象を、逆に圧倒的なまでの暴力で捻り潰してやるのだ。
 その快感を想像すれば、もう耐える事など出来ない。
 敵はまだ、己が腕の届く遥か先。
 けれど、其処は舌舐めずりする狼の縄張り。
「――あははは!」
 思わず高笑いを響かせれば、ゴブリン達の方からは悲鳴が上がった。
 一体、何が起きているのか。
 同じ猟兵ですらまだ理解が及ばない。ただアララギだけが、敵群を縦横無尽に斬り裂いていく“見えない狼”の働きに一段と感情を高ぶらせていく。
 そして、ついには自らも喚び出した砲台から惜しげもなく弾を撃ち放つ。
 一発落ちる度に赤い爆炎が敵を薙ぎ払い、その光景を見やるアララギの興奮も増していく。
 異なる世界の武装を用いた戦いとは、かくも恐ろしいものであった。

●接近戦
 しかし、その砲撃すらも潜り抜けてくるゴブリンが居る。
 それは何か優れている個体という事でなく。実に単純な、数の暴力によるもの。
 下手な鉄砲も数撃てば当たるを種族そのもので行っているのだ。そして幾ら同胞が死のうともまるで顧みないゴブリンに対して、猟兵達は街を背に戦う身。包囲されないようにと緩やかな後退を続けながら戦うにも限度がある。
 必然、主戦場は街の入口に。得物は砲から刃へと変わった。
「あはは! 本っ当に数だけは多いわねぇ!」
 二振りの大剣を力任せに振り回しつつ、アララギが尚も笑いを響かせる。
 その傍らでは、蒼が大斧で押し寄せる敵を次から次へと叩き潰していく。
 彼女らの働きは申し分なく、冒険者達が戦いぶりを見たならば揃って英雄と褒めそやすだろう。
 だが、とかく量のみで此処まで攻め入ったゴブリンは、未だ尽きず。
 とうとう彼女らの横を幾つかの緑肌が横切って――。
「これ以上は行かせませんよ!」
 もう少しで人家に辿り着こうかという辺りまで来て、トリテレイアの巨躯に行く手を阻まれた。
 この世界の者でない事が明らかなウォーマシンの姿に、オブリビオンであるゴブリンはにわかに怯む。
 そして、その瞬間に身の丈と同じほどもある縦長の大盾で、或いは鋼の身体を活かした踏みつけ攻撃で、羽虫でも潰すかのように叩き潰されていく。
「私が居る限り、この先には一匹たりとも通しません!」
 少しでも注意を引こうとする雄叫びが奏功したか、それとも大きな身体が嫌でも目につくのか。
 第一関門を突破したゴブリン達は、挙ってトリテレイアに攻めかかる。
 しかし粗末な武器では多少の傷こそ付けれど、倒すまでには至らない。

●恐怖
 そこでもたついているゴブリン達を、また新たな脅威が襲う。
 トリテレイアに斬りかかろうとした一匹が、刃こぼれして鋸のようになった剣を振り上げたままで地面にごろりと転がった。
 その手には枷がはめられ、口には猿轡。おまけに脚から肩までぐるぐると縄で縛り付けられている。
 いきなり仲間が虜囚じみた姿となって、また攻めの勢いが緩んだ。
 そんな反応を示さず、愚直に機人を殴り続けていた方がまだ良かったに違いない。
 ちらりと視線を向けてしまったが為に、ゴブリン達は拘束された同族が刀で斬りつけられ、開いた傷口に拷問具を押し込まれて絶叫する瞬間を見てしまった。緑色の肌が雑に突き破られて、溢れた血と臓物に目を落としたばかりの頭が曲がるはずのない方向へと捻れる瞬間を見てしまった。
「……」
 口を噤んだまま、アギは残るゴブリン達を睨めつける。
 だいぶ頭が悪い種族のようだが、怯みながらも何か逡巡するような素振りを見るからに、自分達が常日頃与えているのであろう恐怖や残酷という感情は多少理解できるのかもしれない。
 だとすれば、この残忍な殺し方にも意味があっただろう。
 そして十分な効果を得られたのなら、如何に魔物であっても死体をこれ以上弄ぶ必要はない。アギの行為は戦意の喪失を狙った処刑であって、快楽を得ようとする殺しではない。
 どさりと音を立てて地面に倒れたそれにはもう指一本も触れず、アギの狙いは未だ侵略を止めようとしない敵に定められた。

●契機、決着
 そうして侵略の勢いに衰えが滲んだところで、レイチェルが動く。
 今しがたアギに仕留められたものを始め、数多の死体をサイキックエナジーで操っては次々に生き残りのゴブリン達へとぶつけにかかる。
 もはや動くはずのない同胞が――それも夥しいほど大量に――襲い来るという理解しがたい状況は、ついぞ彼らに侵略を諦めさせる決定打となった。
 先程まで猟兵達に向いていた刃は死体を避ける為ばかりに振るわれて、それも無意味な程の圧倒的な量から逃れるべく群れは一匹また一匹と街の外を目指して駆ける。
 だが、そこで立ちはだかるのは第一から最終関門へと変わった蒼とアララギ。
 猛々しい二人の攻撃に、ただがむしゃらに逃げてきたゴブリン達は尽く屠られる。
 かといって、足を止めるわけにはいかない。後背からは、アクアヴィーテの歌声で傷を癒やされながら迫るウォーマシンと、恐るべき処刑人。そして念動力の権化。
 おまけに空からは雨まで降り注ぐ。
 無論、それは只の水でなく。賢き巨人が有する泉と同じ名を持つ、パリエステルの術。敵と定めて如雨露を向けた相手を蝕む雨。
 前門の虎、後門の狼に天からも穏やかな災いが降って、気づけばゴブリン達は名も知らぬ街で残らず朽ち果てたのだった。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​




第3章 ボス戦 『ワイバーン』

POW   :    ワイバーンダイブ
【急降下からの爪の一撃】が命中した対象に対し、高威力高命中の【毒を帯びた尾による突き刺し】を放つ。初撃を外すと次も当たらない。
SPD   :    飛竜の知恵
【自分の眼下にいる】対象の攻撃を予想し、回避する。
WIZ   :    ワイバーンブラスト
【急降下】から【咆哮と共に衝撃波】を放ち、【爆風】により対象の動きを一時的に封じる。
👑17
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

種別『ボス戦』のルール
 記載された敵が「1体」出現します。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※このボスの宿敵主は💠山田・二十五郎です。ボスは殺してもシナリオ終了後に蘇る可能性がありますが、宿敵主がボス戦に参加したかつシナリオが成功すると、とどめを刺す事ができます。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


●一難去って
 争う音が聞こえなくなり、様子を伺いに来た一人の戦士が見たものは、絨毯のように広がる亜人種の亡骸。
 あんぐりと口を開いた彼の心を埋め尽くすのは、猟兵達への驚嘆か、それとも“後始末”への想像か。
 ともかく、危機は去った。
 まずは街の人々に、勇敢な冒険者達が挙げた喜ぶべき戦果を告げて――と。
 そう考え始めた矢先。
 戦士もまた冒険者であるが故に、その微かな咆哮を聞いた。

「……は、はははは……」

 乾いた笑い声が溢れる。
 そして見上げる先には――飛来する竜。
 このまま平野を進んでくれば街を横切るのは間違いなし。
 通りがけに児戯くらいの軽さで何もかも薙ぎ払われるであろう事は明らかだ。
 幸いにもまだ距離はあるが……街を捨てたところで逃れきれる厄災ではないだろう。
 なら打って出るか?
 無茶だ。ゴブリンの群れに敗れた戦士達が竜種など相手にできるはずもない。

 ――となれば、戦士の視線が猟兵に向けられるのも至極当然の事だった。
レイチェル・ケイトリン
まず、ゴブリンの肉かほかの猟兵さんからの攻撃でワイバーンが
ひきつけられるのをちょっとはなれたとこでまってるね。

ワイバーンがおりてきたら念動力の技能とスカイステッパーをつかって
いれかわりでしずかに空にとびあがるよ。

スカイステッパーだけだと連続で空中ジャンプできる回数は
かぎられてるけど、念動力でつくった足場にたてばリセットできる。

ワイバーンの予想も急降下も、わたしがワイバーンより上にいたらつかえない。

そして、念動力とスカイステッパーに吹き飛ばしの技能も使って
ワイバーンに上からけりつけて、地面にふっとばすよ。

わたしは空にいつづける。ワイバーンにとぶことなんてさせないよ。

予想も急降下もさせないからね。


ラムダ・ツァオ
幸いにも距離があるのなら、
まずは初手で距離を確保するために千刃を舞わせて、街への接近を阻止したいわね。
こちらに注意を向けてくれればそれでいいわ。
敵は頭上だから、こちらもある程度距離を取って視界を広く保ちたいところね。
敵は巨体故に攻撃の後の隙が大きいわ。
慎重に攻撃を見切りつつ、攻撃の隙を伺いましょう。
敵が急降下してきたらチャンス、
脱ぎ捨てた外套を囮代わりに側面へ回り込み、再び千刃で翼を狙うわ。
機動力が少しでも削げれば幸いね。
翼が難しければ尻尾を狙うのも一つの方法かしら。
尻尾はバランサーの役割をしていることも多いし。
足には自信があるけど過信は禁物、焦らず削っていくわよ。


アララギ・イチイ
あら、今度は食べ応えありそうな大物ねぇ
撃墜したら、肉の1片でも喰らってみたいわねぇ♪

速射砲×2を使用するわぁ
弾頭に対空用の榴弾(範囲攻撃)や誘導式噴進弾(誘導弾)を装填して、左右の砲で交互撃ち(2回攻撃)よぉ
(ダッシュ)と(フェイント・迷彩)を織り交ぜて、相手を撹乱する様に移動よぉ
攻撃より回避、相手への嫌がらせ重視ねぇ

適当な所で攻撃を止めて(物陰に隠れて)主砲のチャージを始めるわぁ
目一杯チャージしたら、外に飛び出して移動せず再度射撃開始よぉ
相手が私を狙って急降下して来たら(見切り、捨て身の一撃)で主砲を正面からぶっ放すわぁ
念の為、上記の行為中はシールドビットを浮遊させて(盾受け)用意よぉ


トリテレイア・ゼロナイン
翼持つワイバーン…鋼の身の私では不利な相手ですね

ここは仲間の支援に回りましょう。格納スラスターで地面を「スライディング」して急行、「盾受け」「武器受け」「怪力」で地上を攻撃するワイバーンから仲間を「かばい」ます。

聞くところによるとワイバーンは眼下の敵の攻撃を予想し回避するほどの知能があるとか
ならばそれを逆に利用しましょう

上空への攻撃手段がないようにしばらく振る舞い、奴が油断した際に頭部と腕部の格納銃器の「だまし討ち」で「スナイパー」技能を使い翼にダメージを与えます
一度しか使えない手のうえ、騎士道に反した行いですが背後の街を襲わせるわけにはいきません、有効と判断したら躊躇わず行います


アクアヴィーテ・ワイズメル
ワイバーン……厄介なのが来ました
このままでは街が壊滅しかねない

街に向かわせないよう、街の手前で迎え撃ちましょう

とにかく、飛び回らせては厄介です
敵がこちらをなぎ払おうと急降下してきたところを狙い、散開してやり過ごすとともに、最も地面に接近したタイミングを狙い近くの物陰から背後や側面を空中戦で急襲

チャンスを逃さず、氷結剣の2回攻撃で敵の動きを止め、うまく止まったら一気に仲間と一斉攻撃
爪等を振り回し抵抗するなら、エレメントセイバーの武器受けで受け流し

攻撃の際は翼や脛、喉等の飛行に必要な部位や急所、肉が薄そうな部位をピンポイント狙い
直線的な攻撃は上下や左右、なぎ払いは上下や前後に避け大振りの隙を衝いて


アギ・ブランウェン
…なるほど。
聞いた事があります。
翼を広げて飛ぶシルエットがYの字に似ているから、Yバーンと名付けられたのだとか。
…違うのですか…?

血統覚醒を使います。
敵の眼下にいる対象の攻撃は予想されてしまうようなので、極力背後や側面からの攻撃を心掛けていきましょう。
片側だけでも翼を傷つければ、機動力を落とせるでしょうか?
傷口をえぐる技能も活用して試してみます。

急降下からの爪の一撃は、残像や見切りの技能を活用しつつ出来るだけ回避します。
避け損ねてしまった場合、続く高威力高命中の尾は無理せず防御しましょう。

竜退治は処刑人ではなくドラゴンスレイヤーに依頼すべきだと思っていました。
…でも、ここまできたらやります。


アガーテ・エルツ
【WIZ】

飛ブ姿ハ雄大デスネ
申し訳アリマセンが、空に居られてハ厄介デス
翼を奪ウ事にしまショウ

【エレメンタル・ファンタジア】を使用シマス
「風」の「下降気流」を
高気圧地域で起きる現象デス

一回で駄目ナラ【2回攻撃】でモウ一度
【先制攻撃】デ、ワイバーンが何かをしてクル前二
大地へ、ご招待しまショウ



●飛竜襲来
「あら、今度は食べ応えありそうな大物ねぇ」
 アララギが来る新たな災厄に期待の眼差しを向けて言う。
 竜。飛竜。或いは亜竜と呼ぶべきか。まだ彼方に在りながら、角やら爪やら長い尾やら、そんな身体の端々からでさえ天空を占める覇者の気を滲ませるそれも、戦闘狂のドラゴニアンにとっては恐れるものでないらしい。
「撃墜したら、肉の一片でも喰らってみたいわねぇ♪」
 尚も楽しげに語るアララギ。
 だが、此処でそのような反応を示す者は彼女くらい。
「厄介なのが来ましたね」
「……ワイバーン、ですか」
 己より遥かに巨大な敵を見やるアクアヴィーテの傍らで、トリテレイアが災厄の名を口にした。
 ぎりりと歯噛みにも似た音が聞こえたのは、屈強なれど鈍重な鋼の巨躯で如何に空の王者を相手取るべきか苦慮しているからだろう。油の一滴でも注して力を抜いてもらいたいところだが、しかし背後の街と人を守るに頭を悩ませる様は彼が自嘲混じりで紡ぐ騎士の道そのものであるから、そのままにしておきたいような気もする。
「ワイバーン……そういえば、聞いた事があります」
 悩める機械騎士の陰から、ふと口を開いたのはアギだ。
 あの竜種の警戒すべき点でも知っているのだろうか。だとすれば、これからやり合う前に少しでも知識を増やしておきたいものだと、そんな仲間達の耳目を集めたアギは無表情のまま淡々と言葉を継ぐ。
「翼を広げて飛ぶシルエットがYの字に似ているから、Yバーンと名付けられたのだとか」
「……」
 へ、へえ。そうなんだー。……そうか? 本当にそうなのか?
 冷たい雰囲気を纏うダンピールから発せられた出所不明の情報。その真偽を質すべく、一同の視線は元よりこの世界に住まう種族――つまりフェアリーのアクアヴィーテ、それからエルフのラムダ・ツァオに向けられるが、二人は揃って目を逸らした。
 まあ、そうですよね。いきなり振られても困りますよね。ええ。
「……違うのですか?」
「ええと。ともかく、街に近づかれるのだけは避けないとね」
 じっと見つめてくるアギはひとまず脇に置いて、ラムダが場の空気を元に戻す。
 そして彼女の言う通り、亜人種の侵略から守り抜いたばかりの街を戦いに巻き込むわけにはいかない。
 猟兵達は銘々に頷き合うと、街から飛び出していった。

●迎撃開始
 ワイバーンは此方の何倍もの速さで近づいてくる。
 恐らく猟兵の存在にも気付いているだろう。とはいえ、万が一にも竜の凶爪が街に降りかからないよう、此方が無視できぬ脅威だとは知らしめておきたい。
「それじゃあいくわよぉ」
 アララギがゴブリンにも用いた二門の砲台を再び喚び出す。
 撃ち放たれた榴弾は空に次々と爆炎の華を咲かせて、誘導弾は縦横無尽に軌道を絡み合わせながら小蜂のようにワイバーンへと殺到した。
 それらは大翼の羽ばたき一つで吹き飛ばされるが、アララギも元より当てるのでなく撹乱が目的。時折、足取りにさえもからかうような変化を加えながら間合いを詰める彼女に、そして猟兵全員に、竜は間違いなく敵意を抱いたはず。
 その感情を揺るぎないものとすべく、ラムダが間断なく三十超もの白鋼の脇差と黒い短剣を飛ばす。
 異能の力によって複製、操作された刃は一つとして同じ道を辿らない。先の誘導弾のお株を奪う複雑さで迫るそれなら、飛竜といえど避けきれるはずはないように思えた。
 ――が、ワイバーンは上昇降下に加速急停止を巧みに織り交ぜ、まるで重力など存在しないかのような動きで全てを躱すと雄叫びをあげる。
 我を捉えるに能わず。そう言いたげに吼える巨体は、さらに猟兵達を狙って接近。
 敢えて他の生物に例えるなら、それは猛禽の狩りと似た動きだろうか。鋭い爪は想像以上の速度で大地にまで届き、この時こそ好機だと狙っていたラムダも真横に身を投げ出して避けるだけで精一杯。外套に手を添えながら立ち上がる頃には、再び空へと舞い戻った敵の姿を、攻めかかる瞬間を見出だせなかったレイチェルやアガーテと一緒に忌々しく見つめるしかない。
「自由に飛び回らせておくのは不味いですね」
 どうにかして、あの飛竜から空を取り上げなければ。
 光の剣を握ったまま、アクアヴィーテは頭を捻る。
 とはいえ、思案するにしても選択肢はそう多くない。
「翼を奪ウ事にしまショウ」
「そうですね。片側だけでも傷つければ機動力を落とせるかもしれません」
「バランサーの役割をしていそうな尻尾を狙うのもいいんじゃないかしら?」
 アガーテが言ったのを皮切りに、アギとラムダもそれぞれ考えを口に出す。
 戦場の真っ只中であれば悠長に吟味している暇もなし。
 他に奇抜な策を閃く者もなし。
 やはり物理的な手段で飛行能力を弱らせるしかないのだろう。
 それは十分に予想し得る結論だったが――。
『――――!!』
 再びの咆哮。そして襲い来る爪。
 猟兵達は四方に散開して何とかやり過ごすが、反撃は一切許されない。
 下りてきた瞬間を狙って、と言うは易く行うは難し。高みから一撃離脱を繰り返す敵を捉えるには、側方や背面から奇襲をかけるにしても何か、何かもう一手。攻勢の契機、全力を注ぐべき一瞬を作る為の要素が欲しい。
 しかし竜の攻撃を避ける最中では思考も十分に働かず。
 だからといって足を止めるわけにもいかず。
 平野部を戦場としているにも関わらず、猟兵達は出口のない迷路に入り込んでしまったようだった。

 しかし。
 こうした局面においては、しばしば偶然が突破口を開くものだ。
「思った以上に厄介ですね。眼下からの攻撃を予想されてしまうというのは」
 ぽつりと、アギが呟く。
 その一言が偶々トリテレイアのセンサーに届き、回路を刺激して――全体図を完成させる最後の一欠片は、意外と呆気なく生み出された。
「予想。それです」
「……?」
「此方の攻撃を予想してしまうワイバーンの知能。それを逆に利用しましょう」
 まだ判然としない様子のダンピールに対して、ウォーマシンは至極簡潔に自らの考えを述べる。
 それが猟兵全員に巡り回るまでの間、生じた被害は幾つかの大地の窪みだけであった。

●反転攻勢
 眼下から迫る攻撃の殆どを予想、回避してしまう能力は確かに恐ろしい。
 だが、予測予想とは何も竜の専売特許ではないのだ。
 躱してから仕掛けてくるのなら、此方もそれを予想して攻め方に織り込むだけ。

 ……空への攻撃方法に乏しい猟兵の中から、ラムダが再び刃の複製を飛ばす。
 ワイバーンはまたも全てを避けきってから、鋭く爪を伸ばして急降下する。
 ――その瞬間。
「やらせませんよ!」
 展開したスラスターを全力で噴き、大地を文字通り滑るようにして来たトリテレイアが攻撃を受け止めた。
 そこに攻めてくると予想すれば、庇うのも難しくはない。それまでの鈍さとは打って変わった俊敏な動きに、ワイバーンは少々嘆声じみたものを漏らす。
 とはいえ、相手がエルフからウォーマシンに変わったところでやることは変わらない。予想と回避から転じる攻撃でついに猟兵の一人を捉えたワイバーンは、爪を突き立てたままのトリテレイアに毒を帯びた尾を差し向ける。
 肉の代わりに白い外装が砕け散って、然しもの戦闘ロボットも呻いた。
 しかしその一手。猟兵を捕まえきれなかったからこそ繰り出されずにいた第二撃が、この戦いの趨勢を大きく左右する事になるとまでは、ワイバーンも想像出来なかったのだろう。
「空にハ帰しまセン」
 アガーテが囁き、羽ばたく敵の機先を制して風を起こす。
 忽然と吹き下ろしたそれは見えない障壁となって、竜の体躯を圧し潰しながら天への帰還を阻む。
 それだけなら――そう、それだけなら、ワイバーンはまだ幾分か表情を険しくするだけで済み、見苦しくも藻掻く事で縛めを解いたはずだ。
 現に、間髪をいれずにもう一度吹いた下降気流の中でさえ、竜は力強く上下する翼の力で徐々に身体を浮かせ始めていた。
 だが、自然現象すらも凌駕しかけたその努力は少女人形のヤドリガミによって――これまた文字通り、踏み躙られる。
 突風を意にも介さず大地を蹴り上げたレイチェルが何度となく宙で跳ね、竜がもたげる頭の高さを越えていく。
 そうなった時点で、竜の脳裏にも近い未来の光景が過ったかもしれない。
 しかし眼下から繰り出されるものではない以上。ましてや、突風で身体を押さえつけられている現状では。
 想像こそ出来ても、予想して避ける事は出来ない。
「もう、とばせないよ」
 小さく言って、レイチェルは水たまりにでも踏み込むような軽さで竜の頭を踏む。
 途端、空の王者は完全に大地へと叩き落とされた。強風にも重力にも抗っていた身体は翼から爪の先まで全てが地面に沈み込み、あまりの衝撃で弾んだのにも関わらず開かない口の中から、くぐもった鳴き声が微かに漏れ響く。
 念動力とは此処までやってしまうものなのか――と、感心している暇はない。
 今が攻め時と号令を出すアクアヴィーテに合わせて、ヴァンパイアの力に覚醒めさせたアギ、そして刃の複製を作り上げたラムダが一斉に斬りかかる。
 狙うは左右の翼、それから尻尾。
「竜退治はドラゴンスレイヤーの仕事だとばかり思っていましたが」
 此処まで来たなら、処刑人の自分も最後まで力を尽くそう。
 まずは真紅の瞳で右の翼を見据えたアギが、両手に握る刀とナイフでいとも容易く骨を断つ。
 ラムダの刃は、尻尾を目掛けて飛んだ。竜の巨体からすれば一本一本は小さなものだろうが、それも一纏めになって付け根を穿てば、威圧的な咆哮ばかり繰り返していた敵の喉から哀れな悲鳴を引きずり出す。
 そしてアクアヴィーテは僅かに浮き上がっていた左翼の下に潜り込むと、膜と呼ぶべき薄い部分を光の剣でひたすら斬り刻んだ。
 さらには竜の腹下辺りに埋まっていたトリテレイアまでもが、格納していた頭部の機銃と腕部の速射砲から惜しげもなく銃弾を浴びせかけ、腸を突き破る形で脱出してくる。敵を誘って罠にかけ、その後で銃撃するなど騎士の道からは大きく逸脱した行為だろうが――それが出来るからこそ、彼は己を紛い物と呼ぶのだろう。
 ともかく、一転して竜は窮地に陥った。
 これだけ傷つけられれば一切身動ぎしない方が不自然であるが、しかし無限に宙を跳ねては頭を蹴りつけるレイチェルと、強風を起こすアガーテの存在が竜を余すところなく押さえ続けている。
「……ふふ、狙い目だわぁ」
 飛べない竜など的にもならない。
 一人、乱戦の外で力を溜めていたアララギが主砲の照準を合わせた。
 最早どこから襲われる心配もない以上、防御を捨てた構えでも何ら問題はない。
 ニヤリと笑って引き金を引く。
 瞬間、解き放たれた凄まじい火力は竜の全てを飲み込み、焼き尽くしていった。

●終幕
 それから暫くの後。
 平和が戻った街に、一人の冒険者がやって来た。
 真っ先に足を運ぶのは、当然ながらギルドを兼ねる酒場。
 依頼を品定めしながら腹拵えでもするつもりなのだろう。カウンター席に腰を落ち着けた彼は――すぐさま同業者と思しき戦士に声を掛けられる。
 まあ、珍しくもない事だ。
 パーティを組もうというのか。はたまた武勇伝でも聞かせようというのか。
 とりあえず応えてみる冒険者に、戦士は意気揚々と語りだす。

「この間、街をゴブリンの大軍とワイバーンが襲ったんだがな。
 その時にふらりと現れた冒険者の集団が、こりゃもうとんでもねえ奴らで――」

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​



最終結果:成功

完成日:2019年01月08日


挿絵イラスト