4
灘に渦巻く悪意~後編

#サムライエンパイア

タグの編集

 現在は作者のみ編集可能です。
 🔒公式タグは編集できません。

🔒
#サムライエンパイア


0




●燧に残る強欲の策謀
 燧島、中央――。
『ええい、急げ急げ! 城門を閉じて、内から板を打ち、封印の術符を貼れ!』
 燧の城内では、悪代官が苛立った様子で、指示を飛ばしている。
 その指示を受けているのは、城内に仕えていた者達――ではなかった。
 人相の悪い連中が、不服そうに動いている。
 彼らは、山賊――海賊になる筈だった者達である。
『鵜足め……逃げたかやられたか。だが、儂はまだ諦めん! 諦めんぞ! まずは守りを固めた後、島民どもを全員捕らえて、儂の兵力としてくれる。この島は儂のものだ!』
 悪代官の瞳には、未だ野望の炎は燃えている。

●前回までの粗筋
 燧島(ひうちじま)と言う島が、オブリビオンのものになりつつある。
 その予知を聞いた猟兵達は、まずはオブリビオンの悪徳商人を、二人の悪徳商人から突き止める調査を行い――見事突き止めた。
 その過程で、毒殺を企まれていた朔八姫も救出。
 そして見事、鵜足屋を騙っていた悪徳商人を、骸の海へ帰すことに成功した。
「燧の城を取り戻すのも、どうか手伝って頂きたいの」
 そして戦いの後、朔八姫は猟兵達にそう願ったのだった。

●開かれた活路
「皆、お疲れ様。ここまでは順調も順調だ」
 そしてグリモアベース。
 集まった猟兵達にルシル・フューラー(ノーザンエルフ・f03676)は、笑顔を向けて話を切り出した。
 後は城を奪還するだけだった筈だが、何故またグリモアベースに?
「うん。それなんだけど。悪代官、オブリビオンの山賊を集めて篭城の構えだ」
 己に従う兵力を集め、軍勢を整える。
 孤立しかかっている今の状況では、正しい選択の一つだろう。城と言う拠点を得ていれば、そこで更に兵力を集めるなり、再起も出来るだろう。
「守りを固めた後は、島民を襲って無理矢理兵力にするつもりみたいだよ」
 そうなると、より攻略を急ぐべきである。
「だけど、正面突破はちょいと厳しい状況だ」
 まず、城門を簡単に破れないように手を施している。
 絶対に壊せないというほど強固ではないけれど、ちと骨が折れる。
「城内残っていた一部の人達は、一箇所に集められて軟禁状態でね。守りを固めた後、島民やお姫様に対する人質に使われる可能性があると予知出来た」
 そしてそうなった場合、あのお姫様は折れてしまうとも。
 ならば、どうするのか?
「簡単だよ。城内に転移すればいいんだ」
 事も無げに、ルシルは猟兵達に言ってのけた。
「悪徳商人の調査の時点で、城に入った猟兵がいたお陰でね。薬師の庵。あそこなら、私の予知が及ぶし、転移先にも出来るようになったよ」
 その侵入経路は、完全に、敵の予想外だ。
「まずは配下の山賊たち。城門の強化を終えた後は、めいめい、城内に散らばっているからそれを各個撃破。後に、悪代官を一気に叩いてきて欲しい」
 ここまでやれば敵も入ってこれまい――と思っている所を、急襲できる。これ以上有利な形も、そうは無い。
「だからって、油断はしないでね。それと、無事に事が済んだら、宴の一つも考えているみたいだよ?」
 お姫様が?
「お姫様と、土わらしが」
 あんなものが島にいるなんて思ってなかったよ――と、ルシルは笑って猟兵達を送り出すのだった。


泰月
 泰月(たいげつ)です。
 目を通して頂き、ありがとうございます。

 今回もサムライエンパイア。
 燧島を巡る戦い、後編です。
 悪代官を倒して、城を奪還しましょう。

●舞台
 1・2章は、燧島中央の城。日内家のお城。
 前編1章で登場した、薬師の庵に転移するところから開始です。

 1章は集団戦。
 ですが、ぶっちゃけ前編のあれこれのお陰で、ボーナスステージみたいなもんです。
 城内でやりたい事があったら、ここでプレイングかけてください。
 また今回も、でっちあげ歓迎です。
 朔八姫から○○を頼まれてた、とか。
 風早屋から○○の情報を得ていた、とか。
 城にある○○を調べたい、とか。
 世界観に反しない範囲で可能な限り、頑張って拾います。
 なお軟禁状態の人たちは人質の価値があるので、命の心配はありません。放っておいても3章には助かってます。(助けても勿論OKです)

 2章はボス戦。悪代官です。

 3章は日常パートとなります。
 詳細は開始時に記載しますが、食べる系イベントです。

 前編参加していないけど、と言う方もウェルカムです。
 後編からでも、どうぞどうぞ。

 ではでは、よろしければご参加下さい。
155




第1章 集団戦 『山賊』

POW   :    山賊斬り
【近接斬撃武器】が命中した対象を切断する。
SPD   :    つぶて投げ
レベル分の1秒で【石つぶて】を発射できる。
WIZ   :    下賤の笑い
【下卑た笑い声】を聞いて共感した対象全てを治療する。

イラスト:たがみ千

👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​

種別『集団戦』のルール
 記載された敵が「沢山」出現します(厳密に何体いるかは、書く場合も書かない場合もあります)。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。

テラ・ウィンディア
よし!色々するぞ

朔八姫から料理人さん達の救出を頼まれたので軟禁状態の料理人達を助けにいくぞ!
尚お姫様が好きな食べ物とか面白エピソードを聞きまくるぞ!(ぇ

っと…こいつらをまず倒さないといけないよな!

対山賊
此の世に悪の栄えた試し無しだ!
お前らの野望を切り捨てるぞ!

【戦闘知識】で敵の陣形の把握
更に【見切り・残像・第六感】で回避して
【属性攻撃】で太刀と剣に炎を付与

その上で襲い掛かる

【早業】も踏まえた猛攻で切りまくり
その上で空間にも斬撃を刻みまくる

まさに殺陣の如く

囲まれたら…敵と己とその他猟兵の斬撃全てをユベコ発動により再発動!

お前らは花火とか好きだったよな
存分に斬撃の華を楽しめ!

斬斬斬斬斬斬斬斬斬!!



●腹が減っては戦は出来ぬと言うけれど
(「炊事場は……あそこ、だよな」)
 声には出さず胸中で呟いて、テラ・ウィンディア(炎玉の竜騎士・f04499)は足音を立てぬよう、閉められた引き戸の前へと歩いていく。
 その扉の先は、朔八姫から聞いた炊事場の筈だった。
 
 ――白米じゃねえかぁ! さすがいいもん食ってやがる!
 ――酒だぁ! 酒持って来い!
 ――刺身も食わせろぉ!
 
 扉に耳を当ててそばだてれば、そんな品の無い声が聞こえてきた。
 山賊で間違いないだろう。
 そして命令形で言っていると言う事は『山賊以外の誰か』もいると言う事だ。
(「最低三人か……こいつらをまず倒さないといけないよな!」)
 音も無く扉から離れたテラは、錆鞘之太刀に手をかける。
 スラリと抜き放たれた白刃に炎属性の力を纏わせると、テラは赤熱した太刀を手に勢い良く床を蹴って飛び出し、扉を蹴破って突っ込んだ。
『ぐはっ!?』
 倒れた扉の下から、くぐもった声。
(「やっぱ見張りがいたか!」)
 山賊ごと土間まで跳んだ戸板の上に着地すると、『ぐぇっ』とか潰れた蛙みたいな声は軽く聞き流して、テラは戸板を蹴ってもう一度、跳び上がる。
「此の世に悪の栄えた試し無しだ! お前らの野望を切り捨てるぞ!」
 跳んだ先にいるのは、人質を取っていた山賊。
「他の人達と集まってろ!」
 テラはそれを一刀の元に斬り伏せると、人質にされていた人の手を引いて、竈の前の他の料理人達に合流させる。
『なんだ!?』
『て、敵だー!?』
 ようやく事態を把握した山賊達が、それぞれの得物を手にテラに切りかかってきた。
「四人か――その程度なら!」
 一人の刃を弾くと同時に地を蹴って、別の山賊の刃に炎の太刀をぶつける。
「お前らは花火とか好きだったよな? 存分に斬撃の華を楽しめ!」
 テラの言葉通り、鋼と鋼がぶつかる鈍い音が炊事場のそこかしこで響き、刃と刃がぶつかり火花を散らす。
 第六感の読みと動きを見切る目、残像を残すほどの早業で、テラは1人で数人の山賊と渡り合っていた。敢えて大振りで範囲を広く切りつけ一人以上を牽制する事で、数の不利を消している。
『ちっ……こいつ』
『だが、その動き、いつまで体力が持つかな?』
 攻めあぐねる山賊が、ニヤリと笑ったその時だった。
「ああ。もう充分だ」
 足を止めたテラが、構えていた太刀の切先を下ろし――。
「斬斬斬斬斬斬斬斬斬!!」
 叫んだ次の瞬間、空間が斬れた。
『『『『!?!?!?』』』』
 虚空からの斬撃が、山賊達に容赦なく襲い掛かる。
 その斬撃は全て、テラが今の斬り合いの中で斬っていた軌跡。
 空間に刻まれた斬撃を呼び起こす魔技――悔恨「消えざる過去の痛み」。
「さーて、終わったな」
 キンッと太刀を鞘に納めると、テラは料理人達を振り返った。

 最初はテラを不審に思っていた料理人達だったが、朔八姫から頼まれた事を伝えて署名入りの地図を見せると、すぐに警戒を解いてくれた。
「そうでしたか、姫様が……なんとお礼を申せば良いのか」
「礼なんかいいって。あ、でも、代わりにお姫様が好きな食べ物とか、面白い話とか聞かせてくれないか?」
 頭を下げる料理頭にテラがそう返すと、料理人達はしばし記憶を探るように黙考し、やがてそれぞれに口を開いた。
「姫様は、好き嫌いは少ないですよ」
「でも魚よりも山菜の方が好みでしてな」
「魚自体が嫌いではないようで、つみれやかまぼこはお好きですよ?」
「お父上の殿様によりますと、骨がお嫌らしい。かと言って小骨を取り切れば、身が崩れてしまいますからなぁ」
 ふむと頷きながら、テラは彼らの話を書き留めるのだった。

成功 🔵​🔵​🔴​

御剣・刀也
何処にでもいる小悪党の典型だな
だからって、見過ごしていいもんでもないし、まぁ、悪党の矜持もなさそうだが、しっかり還ってもらおうか

後ろから斬ったりするのは好きじゃないんだが、気付かれて仲間を呼ばれても面倒だし、人質に危害を加えられるのもあれだ。気付かれる前に近づいて斬り捨てようか。
もしもの音に反応するかして後ろを向きそうになったら一気に接近して気付かれる前に斬り捨てる
石などが落ちていたのなら、それを投げて気を引いて、その隙に近づいて背後から首を圧し折る
「ま、付いた相手が悪かったと思って諦めるんだな」



●荒獅子、狩る
 薄暗い廊下を歩くその男は、既に血の臭いを纏いつつあった。
 ――キュィッ。
 鳥の囀りのような小さな音が、板張りの廊下に鳴る。
(「おっと」)
 角を曲がろうとした所で足元で鳴った音に、御剣・刀也(真紅の荒獅子・f00225)は思わず片足を浮かせた。
 この先の板張りの廊下は、上を人が歩くと軋んで音が鳴る作りになっているようだ。
(「鴬張り、か」)
 声には出さず胸中で呟いて、刀也は僅かに顔を覗かせ廊下の先を見た。
 刀也が曲がって進もうとしていた先、突き当りには一人の山賊がいる。
 先の音に気付いた様子はなく、刀も抜かずにだらけた様子で佇んでいる。
(「悪党の矜持すらなさそうだな――こいつも、どこにでもいる小悪党か」)
 そう評する標的との距離は、10mもないだろう。
「よし」
 頷いた次の瞬間、刀也の姿が掻き消えた。
 タンッ、トタタッ、トンッ。
 木を叩く軽い音が幾つか立て続けに響いたかと思うと、ほんの数秒で、『獅子吼』を抜いた刀也の姿が廊下の先――だらけた山賊の背後に現れていた。
『へ――がっ!?』
 山賊が気付いた時には、既に遅い。
 閃いた白刃は、獅子の牙が噛み千切るが如き剛の太刀。袈裟懸けに斬り裂かれた山賊の身体から、鮮血が迸る。

 鴬張りは、人工の技術。軋みにくい場所はあり得る。
 高いレベルまで高めた第六感で軋みにくい場所を見切った刀也は、跳び出した後、軋みにくいと見切った場所だけに足を着いて、一気に廊下を渡りきっていた。
 どうしても跳躍距離が足りない時は、梁を掴んで距離を稼ぐ。
 天武古砕流――刀也が振るう剣の流派である。火縄銃に対抗する為に作られた、戦国時代に端を発する剣とされている。
 なればこそ、銃の長い射程に対抗して距離を制する術も、刀也は体得していた。

「悪いな。後ろから斬ったりするのは好きじゃないんだが」
 そうは言いながら、刀也はとどめと突き刺した刃を捻って、確実に息の根を止める。
 卑怯な振る舞いは好む所ではないが、必要であるならば躊躇いはしない。
『何の音だ!?』
「さすがに気付かれるか」
 遠くから聞こえてくる声と、ドタドタと気配を消してもいない足音。
 刀也は倒した山賊の懐から礫石を頂戴すると、ひょいっと屋根の上に跳びあがった。
 そこで息を殺して待っていると、キュィキィッと板が鳴る音が聞こえてくる。
『ゲゲッ!?』
 ほぼ真下から聞こえた声、刺された山賊に気付いた声か。
 ――カコンッ。
 刀也が無言で放った石が、乾いた音を立てる。
『なんだぁ? 誰かいやがるのかぁ?』
 音に気を取られた山賊が、音のした方に歩き出す。
 その頭上に刀也が跳び下りた。
『は――?』
 突如、体に加わった重みに間の抜けた声を上げる山賊の頭を、刀也の両手が掴む。そのまま山賊の肩を蹴って、刀也は身体を捻りながら跳び下りた。
 ゴキッ――キュィッ。
 骨の砕ける鈍い音の直後、鴬張りの廊下の音が小さく鳴った。
 もう、その音を気にする者も周囲にはいない。
「ま、付いた相手が悪かったと思って諦めるんだな」
 白目を剥いて動かなくなった山賊に言い捨てると、刀也は次の敵を探し城内へと静かに進んで行った。

成功 🔵​🔵​🔴​

ベルベナ・ラウンドディー
門は全て封鎖の袋のネズミ状態ですが…姫君の使った抜け道が気がかりです
そこだけは抑える必要がありますね
階段のあった方角を考えると敷地内のこの位置で『トンネル掘り』…っと


…割合簡単に見つかったな
姫のことを考えて広く掘ったんでしょうが…少しやり過ぎですよこれは
下手な【破壊工作】だと城の地盤ごと崩れるし、ここで待機してましょう
どうせ士気も低いでしょう。猟兵相手なら逃げ場を探す羽目になるのは目に見えてます
まして金目のものが城中にあれば…代官に従わず盗み出してトンズラなんて想像に容易いのです


…三下奴の相手など造作もありません
その品々は私が預かり、始末してくれましょう!【串刺し・見切り・ユーベルコード】 



●城の下にある道
 燧城、中庭。
 整地された土の上を歩く、ベルベナ・ラウンドディー(ドラゴニアンのバイク乗り・f07708)には、一つ気がかりがあった。
「階段のあった方角を考えると……」
 貰った地図、実際に見つけた城外の出口、そして今いる位置。
 それらを頭の中でまとめて、組み立てる。
「この辺りですかね――『トンネル掘り』っと」
 膝を付いたベルベナは、竜の爪を地に突き立てる。
 竜の力を地に通し、土に干渉してみせれば、程なく『ぼこんっ』とベルベナの足元の地面が陥没して、そこに空隙が現れた。
 足元がなくなったベルベナの体が、重力に従って落下する。
 その先にあった、土を掘った別の道に。
「一発ですか……割合、簡単に見つかったな」
 土埃を払いながらベルベナが膝と腰を伸ばして立ち上がろうとすると、その頭にある竜の角が土の壁をがりっと削った。
 だが、その程度だ。
 ベルベナの背丈がもう少し小さければ、ギリギリで立てただろう。
「姫のことを考えて広く掘ったんでしょうが……少しやり過ぎですよこれは」
 軽く腰を屈めたまま地中を進みながら、ベルベナが嘆息混じりに呟く。
 そう。ベルベナが掘った縦穴が繋がったのは、朔八姫が城外に抜け出すのに使った地下の抜け道だったのだ。

「城門は敵が自ら封鎖。袋の鼠の筈ですが……」
 朔八姫が使った抜け道の存在に、敵が気付いていないとは思えない。他の猟兵が撃破したとは言え、あの森の中でも追っ手が付いていたくらいだ。
「そしてこの道の事を知っていれば――」
 ベルベナの耳に、土を蹴る僅かな足音が聞こえて来た。
 今頃、城内では他の猟兵達が暴れているだろう。
(「思ったとおり、士気も低いようですね。猟兵相手で敵わないと踏んで、逃げ場を探す羽目になる者がいるのは目に見えていましたよ」)
 胸中でひとりごちたベルベナが視線を向けたのは、縦穴を繋げたのとは別の道。
 すぐに、そこから山賊が現れた。
『ちくしょう! ここにも嫌がったか!』
「ま、そうなりますよね。代官に従わず、城中から金目のものを盗み出してトンズラ」
 山賊が脇に抱えた高価そうな壺を見やり、ベルベナがしたり顔で告げる。
 三下のやりそうなことなど、想像に難くない。
「降伏しろ等とは言いません。その品は私が預かり、始末してくれましょう」
『クソッタレがぁ!』
 ベルベナの言葉に込められた殺気に窮した山賊は、あろう事か手にした壺をベルベナに向かって投げ飛ばした。
「っと!」
『壺を持ってちゃ、刀も抜けねえだろ! ぶった切ってやらぁ!』
 咄嗟に壺を受け止めたベルベナに、山賊が刀を抜くなり振り下ろす。
「必要ありませんよ。見えませんか?」
 静かな怒気と殺意を込めたベルベナの声が、地下通路に響き渡った。
 放たれた強烈な殺気に、山賊の背筋にゾクリと悪寒が走る。
 ――壱――弐――。
「もう斬りました」
『な――がっ――』
 山賊を貫いたのは、実体のない刃の一撃。
 壺を受け止める前に刺していたのか、それとも壺を抱えたまま片手で抜き手も見せずに刺したのか。
 どちらでも詮無き事だ。
 一撃で息の根を止められた山賊には、何が起きたのかすら判っていなかっただろう。
「さっさと埋めたいところですが……下手な破壊工作だと、この辺りの地盤ごと崩れるでしょう。ここで待機してますか」
 三下程度なら、何でもなります。
 そう呟いて地下に留まったベルベナは、やがて回収した壺やら花瓶やら、かさばる品々ばかりが溜まる事態になって、その処遇に少々困ることになるのだった。
「どいつもこいつも、何で、素直に小判とか盗まないんですか……」

成功 🔵​🔵​🔴​

真守・有栖
残すは悪代官のみ!
えぇ、この刃狼たる私が一刀両断ずばっと成敗!してあげるわっ

とーこーろーでー?
封印の術符なんて、どっから持ってきたのかしら???
そーれーにー?
燧島にそこまで執着する理由が気になるわ。すっっっごい気になるわ……!

元は存在しなかった島。
呪術法術に長けた何者か。
大昔の領主の思惑。

おはながくんくん。
おみみがぴくぴく。
しっぽがもふもふ。

狼の勘が告げているわ。
何かがある、と。たぶんっ
城内にも言い伝えにまつわるものがあるんじゃないかしら???
朔八姫や山わらしから言い伝えについて確認したことも参考にあちこち探ってみるわ!

事件の裏に渦巻くものに想いを巡らせながら、ばっさばっさと山賊退治よ!成敗っ


黒夜・天
よし、真正面から真面目にちゃんと戦うぜ
災禍の腕で範囲攻撃、敵を盾にしながら念動力で敵を吹き飛ばして攻撃だ

さて、じゃあ戦ってる間に禍殃の幻影で大量に出したネズミとUCで出した小人で、オブリビオンが蓄えた財産をねらいに行くぜ
見つけたらそのまま城下に出て散財だ。使い先は何でもいいや。買いまくるでも、その辺で適当にばらまくでもいいのさ
そんで金を使った分パワーアップ! さらに山賊どもを殴るぜ



●城門突破
 堅く閉ざされた、燧城の城門。
 その内側にも、数名の山賊達が屯していた。
『なあ、なんか城の方が騒がしくないか?』
『……そうか? 気にしなくていいだろ』
『そうそう。俺達の役目は、城門を破ってきた連中を返り討ちにする事だからな!』
『ま、ここまでした城門を破れる奴なんかいる筈ねえがな!』
 彼ら自身の言葉からするに役目を預かってそこにいる筈だが、どうにも油断しきっている。そんな山賊達の背後に、迫る影二つ。
「あとは悪代官のみ! まずは取り巻きから成敗してあげるわ!」
「ま、とりあえずは真面目に、真正面から戦うか」
 銀の狼尾と漆黒の髪を靡かせ、真守・有栖(月喰の巫女・f15177)と黒夜・天(有害無益の神・f18279)が城内から飛び出した。
『敵だと!?』
『こ、こいつらどこか――ぐぎゃっ』
 後背を突かれ慌てて振り向く山賊達の一人を、有栖が光を放つ『月喰』の抜き打ちで一刀の元に斬り倒した。
『な、なんだあの刀!』
『ただの刀じゃねえ!』
 有栖の刃が放つ光に山賊達は慄きつつも、逸らすように隣に視線を送り――。
『こっちは丸腰だぞ!』
『おいおい、武器はどうした』
『どっかに落としてきたかぁ?』
 天が丸腰と見るや、ニマニマと下卑た笑みを浮かべてそちらに群がる。
「ハッ。言っとくけどよ……オレはもっと性質が悪いぜ!」
 天の背中から立ち昇った黒い光のオーラが、黒い巨腕を形作る。
「なにせ疫病神で貧乏神だ。薄幸そうだが――喰ってやる。財持ってたら出しやがれ! 宵越しの銭を持つんじゃねェ!」
 触れたものの幸を奪う災禍の腕を操り、天は山賊の一人を掴み上げると、振り回してから別の山賊へとぶん投げた。
『うぉぉぁ!?』
『く、来るな――ぐぇ』
 もんどり打って倒れる二人の山賊達。
「成敗っ」
 そこに、少し離れた所に立っていた有栖が、刀身から伸びた光刃を振り下ろした。
 白銀と漆黒。
 陰陽にも似た二人の色は、くるくるとその立ち位置を変えながら、山賊達に主導権を渡さないように立ち回る。
 白銀の光刃が閃き、漆黒の災腕が暴れる度に、山賊が一人また一人と斬り伏せられ、あるいは不幸に叩き堕とされていく。
 二人の周りに立っている山賊がいなくなるのに、長い時間はかからなかった。
「わふん! この刃狼たる私の敵じゃなかったわね!」
「あんまり美味くねえ奴らだったな……」
 有栖は満足げに刀を鞘に収め、天は喰い足りなさそうに山賊を一瞥する。
 この二人がこの場所にいた山賊達を襲撃したのは、勿論、理由がある。
 だがその理由は異なり――そして、ここからの目的も異なっていた。
 一時交わった黒と白は、それぞれの目的へ、再び別れて動き出す。

●神の散財
「お、来た来た」
 城内へ戻る有栖の背中を見送る天の元に、蠢く黒い影が近づいて来ていた。
 黒い影の正体は【貧乏神の真骨頂】で喚び出した散財する小人達。
「そんじゃ、散財するか、散財」
 小さな体で持てるだけの貨幣や小判を抱えた小人達を群がらせ、天は踵を返す。自身も倒した山賊達から奪った小銭を、掌中で弄びながら。
 そこにある城門は、すでに封ずるものは何もなくなり開いていた。
「つっても――こんな状況じゃ、誰もいねえか」
 悠々と城門を出た天だが、すぐその先にある城下町に向かうと、そこには人っ子一人いなくなっていた。
 流石にこれだけの事態となれば、町人達も異変に気づいて避難しているのだろう。
「ま、それならそれで、ばらまきゃいいさ。そらそら!」
 天が広げた掌から、小銭が舞い散る。空いた掌に小人達から財貨を受け取り、またすぐさまにそれを放り投げる。
「ハッハー! ばらまけばらまけ! 使い切れ!」
 財貨を抱えた多くの小人達が、天の元から散っていく。どこかへばらまきに。
「よし。山賊どもを、もう一殴りしてくるか」
 くるりと踵を返して城へと戻る天が、別の山賊と遭遇する頃には、その資産で買った信仰心は、天の力となっているだろう。
 なお小人達に散財対象と天が命じたのは、オブリビオンの財産。
 故に、こうしてばらまいたところで、城の財には影響がない筈である。

 但し――地下通路のとある場所に、壺やら花瓶やらが溜まる一因には、なっていたりしたかもしれない。

●探狼の勘
「こんな封印の術符なんて、どっから持ってきたのかしら???」
 キィキュィと鳴る足音を気にした風もなく、城内を進む有栖の手には、城門に貼られていた符があった。
 有栖が白い指を伸ばして爪を立てると、あっさりと剥がれ落ちたのだ。
 見たところ、それなりに古いものであるようだ。
「ふむふむ、成程ね!」
 符に書かれた紋様に視線を走らせ、有栖が頷く。
「ふぅん。面白いじゃない」
 如何にも何かに気づいた風の有栖だが、実は全く判ってない。所謂、見栄。
「そーれーにー? 悪代官が、この燧島にここまで執着する理由が、気になるわ。すっっっごい気になるわ……!」
 そんな素振りはおくびにも出さず、有栖は突き進む。
「才色兼狼たる私のおはなが、おみみが、しっぽが! 狼の勘が告げているわ。何かがある、と。たぶんっ」
 くんくん、ぴくぴく、もふもふ。
 鼻も耳も尻尾も総動員し、有栖は謎と言い伝えにまつわる何か、渦巻くものに想いを巡らせ、城内をあちらこちらへ歩き回る。
 一見、当てもなく探している様子だったが、有栖の足は、朔八姫から聞いた言い伝えにまつわりそうなもののある場所を目指していた。
『てめえ、どっから入って来やが――』
「成敗っ!」
 途中で遭遇した山賊を、ばっさりと斬り倒し。
 やがて有栖が辿り着いたのは、一つの居室。そこの襖には、小さな城のある島に向かってもっと小さな島が集まっていく様子が描かれていた。
 言い伝えにある、燧島の成り立ちの絵であろうか。
 元は存在しなかったという島。
 呪術法術に長けた何者か。
 大昔の領主の思惑。
 この島にまだ明かされていない謎があるのも事実である。
 そして、城内で秘密を探している猟兵は、一人でもなかった。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​

木元・杏
【かんさつにっき】
お城の中から出発ってお得感

籠城と見せかけても、逃走経路確保してるかも
先に見つけて潰す(こくん

逃げるなら秘蔵品持っていく
隠し場所は……、悪の証拠は大体書庫にある
早くしないと山吹色のお菓子(秘蔵品)、湿っちゃう(そわ)

途中で山賊に会えば【絶望の福音】で攻撃を予知、皆に知らせて回避

わたしはそのまま予知継続し、後方からうさみみメイドさんを操って攻撃してく

書庫には書物たくさん
ん、いろんなことわかりそ……(本開けて)(ぱたん)

小太刀、暗号が書いてる
(真顔で本を差し出し)
(暗号(=漢字)読めない)

書物を入れ直したら、からくり仕掛けが動いて地下牢に続く通路
ここに山吹色のお菓子……(ごくり)


木元・祭莉
【かんさつにっき】だよ!

姫様に頼まれちゃ、協力せざるを得ないよね!(えっへん)

代官って、じょうのうきんちゃくふく?とか、やるもんだよね?
逃げ出す前に、お宝の横取りしてやろー!

枯れ井戸から抜け道に侵入できそう?
あれ。キミ、土わらしじゃない?
え、長老が隠れてる? ドコに?

とと、山賊に見つかったー!?
うん、出番だ。
出でよ、メカたまこ!!
(コケコケコケコケ 35羽)
石つぶてなんか跳ね返せー!

ここ、土蔵っていうんだっけ?
あ、もしかして、山吹色のお菓子が!?
違った。巻物がいっぱいだ。
この絵、キミたち?
こっちは……姫様に似てる!
燧島の歴史、長老は詳しい?

そだ、代官のお宝の在処。
知ってたら教えてー♪(にぱー)


鈍・小太刀
【かんさつにっき】

海鮮…もとい、海戦の次は城攻めね
悪代官がどんな顔してるか見に行ってやろうじゃないの

逃走経路を確保してるならやっぱり地下かな
姫様のとは別物だよね
こういう掛け軸の後ろとかにも隠し通路が有ったりして?

土わらし、なんか可愛い
長老ってやっぱお髭生えてるのかな

山賊の攻撃は見切って避けて
カウンターの剣刃一閃で斬り伏せる

それにしてもメカたまこ、増えたね(なでなで

暗号?あ、漢字ね
任せなさい、こんなのちょちょいのちょ…
全文漢文でチンプンカンプンな本は一旦閉じ
別の本を出して読む

何々、山吹色のお菓子の美味しい焼き方について?
しまったお腹空いてきたじゃない、何て卑劣な罠なの(ぐう

※絡みアドリブ大歓迎!



●かんさつにっき――山吹のお菓子は何処
「海鮮……もとい、海戦の次は城攻めね」
「お城の中から出発って、お得感」
 転移で城内に入るなり鈍・小太刀(ある雨の日の猟兵・f12224)が軽く飛ばした駄洒落を、木元・杏(微睡み兎・f16565)がさらりと置き去り進んでいく。
「姫様に頼まれちゃ、協力せざるを得ないよね!」
 木元・祭莉(紫の石楠花の人(自称)・f16554)も、得意げに追い越して行った。
「べ、別にツッコんで欲しかったんじゃないんだから」
 ちょっと残念そうにツインテールを揺らし、小太刀は二人を追いかける。
「真面目な話、悪代官がどんな顔してるか見に行ってやろうじゃないの」
「賛成。でも籠城と見せかけても、逃走経路確保してるかも」
 きりっと表情を引き締めた小太刀の言葉に、杏がこくりと頷き同意を示す。
「先に見つけて潰そう」
 割と過激な言葉が、杏の口から続いた。
「姫様のとは別物がありそうだよね。確保してるなら、やっぱり地下かな」
 小太刀もその気満々だった。
「あ、あれとか怪しいかも!」
 色んな意味でやる気な女子二人の前で、祭莉が庭の片隅にある茂みを指差したのは。
「あれが枯れ井戸だったら、抜け道に侵入できそうじゃない? おいら見てくる!」
 てててっと駆け出す祭莉の後を、杏と小太刀がてくてくと着いていく。
「あれ? キミ、土わらしじゃない?」
 枯れ井戸を覗き込んだ祭莉の眼前にいたのは、見覚えのある土頭。
『チョーローいない?』
『チョーローみえない? みえない』
「ちょーろー? あ、長老? え? 隠れてる? ドコに?」
 相変わらずな土わらしの言語力だが、祭莉は耳を傾けその言葉をじっくり聞き取り、更に聞き出そうと質問を返した、その時だった。
「まつりん!」
 杏がやや緊張した色の声を上げたのは。
 それと同時にメイド服のスカートを翻して飛び出した杏の操る『うさみみメイドさん』の両掌の中に、投じられた石がすぽっと飛び込んだ。
 まるで、そこに石が来るのが判っていたかのような受け止め方である。
『……』
「させないよ!」
 ギィンッ!
 無言で斬りかかって来る山賊の刃を、小太刀が片時雨で受け止める。
「山賊に見つかったー!? 話は後でね!」
 井戸の中の土わらしにそう言い残し、祭莉も山賊たちに向き直る。
「うん、出番だ。出でよ、メカたまこ!!」
 コケコケコケコケコケッ! コケコケコケコケコケッ!
 コケコケコケコケコケッ! コケコケコケコケコケッ!
 ほとんど狂いなく重なる鳴音。
 どこからともなく足音揃えて現れるは、鈍色に輝く鶏の群れ。
 メカたまこ、35体。
「……メカたまこ、増えたね」
 切り結んでいた小太刀と山賊は、共にその動きを止めていた。小太刀は思わずその群れに手を伸ばして一羽を撫でて。山賊は驚きに目を丸くして。
「まだ驚くのは早いよ、コダちゃん。メカたまこ、合体だ!!」
 山賊の数は多くない。
 ならばと、祭莉はメカたまこの群れに新たな指示を出した。
『コケッコケッ! コケーッ!』
 ガシャンガシャンッと音を響かせ、金属の翼を広げたメカたまこが次々と重なり合い、その額の数字と体が大きくなっていく。
『て、鉄の鳥の化物!?』
『な、何だありゃあ!?』
 その偉容は、山賊たちも驚かせるのに十分。
「いけ、合体メカたまこ! 石つぶてなんか跳ね返せー!」
『だ、だめだ、こんな石じゃ……う、うわぁぁぁ!?』
 合体したメカたまこは、山賊の投げる石つぶてをカンカンと弾き飛ばし、山賊達を文字通りぷちっと踏み潰していく。
「メイドさんも、やっちゃえ」
 杏が両手を広げれば、その指から伸びる操糸も動く。ふわりと舞ったうさみみメイドさんは、受け止めたままの石を握り締め、山賊ごちんと殴り倒した。
「これは、二人に負けてられないわね!」
 気を取り直した山賊が振り下ろす刃を、小太刀は片時雨の鎬で止めて、受け流す。体勢を崩した山賊を、翻った刃が一閃、切り倒した。
 三人を襲撃した山賊達は、程なく蹴散らされるのだった。

 山賊達が全て倒れると、古井戸から土わらし達が、ひょこりと顔を出した。
『探ス、探ス』
 そして、三人をどこかへ連れて行こうとする。
『コッチコッチ、確カコッチ』
「土わらし、なんか可愛い」
 三人の先に立って進む土わらし。その丸みを帯びた背中を追いかけながら、小太刀が目を細めて呟く。
 ズンズン進む土わらし達は、城内と呼べる敷地を出るギリギリで歩みを止めた。
『ここ』
「これって、土蔵っていうんだっけ?」
 首を傾げる祭莉の前に聳えるのは、土壁を漆喰で固めた建物――所謂、土蔵である。単に蔵とも呼ばれているが、港で見たそれよりも大きく、そして古そうだった。
『開ケルト良イー』
 土わらしに言われるまま重たい扉を開くと、中から古い紙の香りが広がってくる。
 どうやら、書庫のように使われているようだ。
「書物たくさん……いろんなことわかりそ」
 うさみみメイドさんを先行させて罠がない事を確かめながら、杏が中に踏み込む。きょろきょろと視線を巡らせると、古そうな書物が積み重なっていた。
「巻物もあるねー」
 その後ろから顔を出した祭莉が、すぐそこにあった巻物に手を伸ばす。シュルリと開いてみたが、どうやらただの料理の指南書のようだった。
 それで、思い出した。
「もしかして、山吹色のお菓子があるかも!?」
「あり得る。悪の証拠は大体書庫にあるし」
 良い事思いついたと言わんばかりの祭莉に、杏がこくんと頷く。
「早くしないと山吹色のお菓子、湿っちゃう」
「まだ、お菓子諦めてなかったのね」
 目の色変えて探し始めた二人に、小太刀がぽつりとつっこんだ。

 シュルリ、パラリ。
 薄暗く埃っぽい蔵の中に、巻物を紐解き、書物を開く音だけがしている。
 三人は、書庫の中を無言で調べていた。
「……」
 何冊目かの書物を開いた杏が、それを見るなりぱたんと閉じる。
「小太刀」
 杏の手が、小太刀の袖をくいっと引いて。
「暗号が書いてある」
 真顔で差し出すその意味は、漢字読めないから読んで。
「暗号? あ、漢字ね」
 杏の意図を普段との僅かな表情の違いで読み取って、小太刀はその書物を受け取る。
「任せなさい、こんなのちょちょいのちょ――」
 自信満々で開いた小太刀の手が止まり、その表情も凍りついた。

 ――卵的蜂蜜宛混、牛之乳、小麦之粉――。

 なぜなら漢字しかなかったからである。全文漢文の書物だった。
 一部の読める漢字から、何か食べ物の事について書いてありそうな事は小太刀も判ったが、それ以上はチンプンカンプン。
「た、大したこと書いてなかったわよ!」
 内心の冷や汗を隠して(本人は隠したつもりで)、小太刀は漢文の書物を閉じると本棚に戻して、その隣の書を手にとった。
「何々? 卵にはちみつを混ぜて……? え、山吹色のお菓子の美味しい焼き方?」
「山吹色のお菓子! ……やっぱりあったんだ!」
 小太刀が開いたその書に、杏が目を輝かせる。
 なお、実はさっきの書物の和訳版だったりするのだが。
「しまった……お腹空いてきたじゃない。何て卑劣な罠なの」
 くぅと小さくお腹を鳴らす小太刀は、そこに気づいた様子はなかった。

 妹と幼馴染が、山吹色のお菓子の秘密に近づいている頃。
 祭莉は真面目な顔で、巻物を広げていた。
「この絵、キミたち?」
 巻物に描かれた土偶のようなものを、土わらし達に見せてみる。良く似ているが、当の土わらし達は果たして、自分の姿をどう認識しているのだろうか。
「この島は、燧島かなぁ? こっちは……姫様に似てる!」
 祭莉が更に巻物を広げると、燧島に見える形の島と、朔八姫に良く似た女性の絵姿が目に入ってきた。
 巻物の古さからして、どちらも過去の事だろう。
 だが、保存状態が良いとは言えず、書かれている文字が掠れてしまっており、これ以上は読めそうになかった。
 別の猟兵が城内の襖に見つけた絵と、巻物の絵は似て非なるものであったのだが、それに気付くのは少し後のことである。
「土わらしの長老は、島の歴史に詳しいのかな?」
 祭莉が首を傾げた、その時だった。杏が書物をしまい直した事で、仕込まれていたからくり仕掛けが作動したのは。
 ガコン、ガコンッ、ゴゴゴゴゴッ!
 蔵の床が開いて、隠し階段が姿を表す。三人は頷きあうと、迷わず降りていった。

 薄暗い地下には、、鉄格子が並んでいた。
 そこには三人以外には誰も――いや、小さな丸い影が一つ、牢の中で蠢いた。
『チョーロー?』
『チョーローダ!』
 ついてきていた土わらし達が、小さな影を見つけてはしゃいだ声を上げる。
 長老? あの小さいのが?
「あ、おヒゲはないのね……」
「長老さん? なんでここに捕まってたのー?」
 その姿にちょっと残念そうな小太刀の隣で、祭莉がにぱっと笑顔で問いかける。
『我ら土わらしは、土より生まれるもの。やがて体は土へと還り、こうして小さくなり動きにくくなるのです……まあつまり、寝てただけですぞ』
 他の土わらしより流暢な声で、長老はなんとも間の抜けた答えを返して来る。
 土わらしもおじーちゃんになると、こうなのか。
「ずっとここに居たなら、代官のお宝の在処知ってる? 知ってたら教えてー♪」
『お宝……隣に何かを隠しに来た男がいましたぞ』
 めげずに祭莉が問うと、長老土わらしは隣の牢を手で指した。
 そちらを良く見ると、奥に千両箱が一つ。
「あれって代官が、じょうのうきんちゃくふく、とかしたやつかな? 逃げ出す前に、おいら達で横取りしてやろー!」
 いそいそと、メカたまこで牢をこじ開け祭莉は千両箱を運び出す。
「中身は何かなー?」
「ここに山吹色のお菓子が……」
 うきうきと蓋を開く祭莉の後ろから、杏がごくりと息を呑んで覗き込む。
 ゆっくりと開いたその中には、ざっくざくな大判小判に隠れて、上で見たものよりも更に古そうな書物が入っていた。
「お菓子じゃない……」
 残念そうな杏の肩を、祭莉がぽんと叩く。
「あー……二人共、これ見て」
 一方、小太刀はあるものを見つけていた。
 何故か地下牢にある掛け軸。怪しい。ぺらっと捲れば、裏に秘密の通路が。
「代官が逃げるための、秘密の通路、かな?」
「そうだと思う。逃げるなら秘蔵品持っていく筈」
 首を傾げた小太刀に、杏が頷く。顔を入れて覗いてみれば、通路が城の方向に伸びているのも確認できた。まず間違いないだろう。
『おお、思い出した! あれを隠しに来た男は、確かその辺りから出てきたぞ!』
 それを見た長老が、遅れて声を上げた。
 あ、これ確定だ。
「「「潰そう」」」
 頷きあった三人の声が重なりあう。
 古井戸を見ていたところで山賊達に見つかったのは、代官が土蔵に近づけないよう、その近辺を山賊達に見張らせていたからかもしれない。
 その可能性に三人が気づくのは、通路を埋めて地上に戻ってからだった。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​




第2章 ボス戦 『悪代官』

POW   :    ええい、出会え出会えー!
レベル×1体の、【額】に1と刻印された戦闘用【部下の侍オブリビオン】を召喚する。合体させると数字が合計され強くなる。
SPD   :    斬り捨ててくれる!
【乱心状態】に変化し、超攻撃力と超耐久力を得る。ただし理性を失い、速く動く物を無差別攻撃し続ける。
WIZ   :    どちらが本物かわかるまい!
【悪代官そっくりの影武者】が現れ、協力してくれる。それは、自身からレベルの二乗m半径の範囲を移動できる。

イラスト:毒沼ハマル

👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

種別『ボス戦』のルール
 記載された敵が「1体」出現します。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※このボスの宿敵主は💠犬憑・転助です。ボスは殺してもシナリオ終了後に蘇る可能性がありますが、宿敵主がボス戦に参加したかつシナリオが成功すると、とどめを刺す事ができます。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


(6/9中に導入を記載しますので、少々お待ち下さい)
●その頃、悪代官は
 ――燧城、御殿の大広間。
 平時であれば城主と家臣が政務で忙しくしているであろうその場所に、今は独りの男が苛立たしげに臍を噛んでいるだけであった。
『……ここから、どうしたものか』
 眉間に皺を寄せているその男こそ、燧島を支配せんとした悪代官である。
『篭城し、山賊どもを配してみたが……島民を捕らえて手駒とするには、山賊どもを使うよりあるまい。しかしそうすると、城の守りが……ううむ』
 攻めるにも守るにも、半端な状況。
 正直に言って詰みに近いのだが、悪代官はそれを認める気など毛頭なかった。
『……山賊どもを、町に放つか。万が一、城門が破られるような事があれば、山賊だけでは恐らく不足。儂の侍オブリビオンを使う羽目になろう』
 既に城門は開かれ、山賊の大半は倒れているなどとは露知らず。
『山賊どもは、地下通路から向かわせるか。クク……自分が脱出に使った通路が町に危機をもたらすと朔八が知った時の顔が見物よのう』
 その通路、既に猟兵が抑えてるけどね。
『山賊どもが失敗しても、あやつらが町に出れば混乱は起きよう。最悪、その混乱に乗じて、秘密の道から蔵の下の地下牢へ抜ける事は出来るか。まさか、あの秘密の通路が見つかる事などありはすまい』
 それ、もう埋まってるけどね。
『後は船の手配が必要だが……まあ、風早を脅せばどうにでもなろう』
 そんなどうにもならなそうな事を口走ると同時に、小太りした腹がぐぅと鳴った。
『むう……遅い。料理番どもに飯を作らせろと言った筈だが』
 炊事場も解放されてるんだ。
『仕方あるまい。これでも食いながら考えるとするか。腹が減っては戦も出来ぬ』
 ごそごそと戸棚から出してきたのは、山吹色の丸い饅頭のような菓子。
『大判小判を山吹色の菓子と偽り、その偽りを隠す為に作らせたものだが……中々どうして、いける味になったではないか』
 違う世界であれば『マーラーカオ』と呼ばれるものに近いそれを、悪代官はむしゃむしゃと頬張るのだった。
『さて、これを食ったら、山賊どもを町に向かわせるとするかのう』
 出来もしない計画の算段を立てながら。

=============================================
2章、悪代官戦です。
御殿と呼ばれる別棟の大広間での、屋内戦闘となります。
スパーンッと襖を開いて名乗りを上げるも、
天井からこっそり忍び込むも、
実は悪代官も知らなかった通路があったんだと乗り込むも、
やりたいようにやって頂いて構いません。

今回はプレイング一括採用の予定です。
=============================================
御剣・刀也
はいはい。捕らぬ狸の皮算用ご苦労さん
山賊どもはもう潰したから、残るのはお前だけだよ
じゃ。さっさと倒されてくれ

サムライオブリビオンを呼び出されたら合体などされれる前に手早く片付ける
斬り捨ててくれる。と乱心状態になったら、緩急の動きを利用して、相手が射程に入るまでゆったりとした動きで近づき、入ったら一気に動いて斬り捨てる
影武者を読んだらどっちが本物か考えるのもめんどくさいので取り合えず、手近にいるのがどっちでもいいので斬り捨てる。本物なら儲けもの
「悪代官らしい悪代官だが、お前みたいな奴についてくる奴はいねぇよ。人質は返してもらうから、とっとと山賊と同じ所に逝きな」


テラ・ウィンディア
料理人達に作って貰ったお握り(種類はMSにお任せ)をもぐもぐしながら

お前が悪の親玉だな!

此の世の悪の栄えた試し無しって奴だ!

神妙にお縄につく気はないのだろう?

ならば…もうやる事は殴り合いだよな

何方が正しいか…勝負だ!

【戦闘知識】で侍オブビリオンとかの陣形も分析し合体前に【早業・串刺し】を駆使して殲滅

【属性攻撃】で炎を剣槍太刀脚に付与

影武者が出てきた時は…

纏めて斬り捨てれば問題ないな!

本物偽物関係なく容赦なく猛攻

敵の攻撃は【見切り・第六感】で【残像】を残しながら回避
剣・太刀と槍を【早業】で切り替えながらも変幻自在の猛攻で幻惑

【空中戦】で飛び回りながら代官を捕捉すれば

メテオブラストーーーーーーー!


黒夜・天
UCで出した分身を悪代官の背後に憑りつかせて、オレは天井裏から高見の見物だよ
惨禍の口でひたすら悪代官の健康とか幸運とかその辺をつまみ食いでもするかね
なんかもう、こいつの持ってる財産がそんなに美味くないことは分かったからなあ。ゲテモノも嫌いじゃないけどよオ
悪代官をやっつけるっていうのも、ガラじゃねえし、猟兵の戦いを高みの見物だなあ


ベルベナ・ラウンドディー
【変装・目立たない・だまし討ち】
侍オブリビオンに(紛れて?)変装しながら参上



ひとつ燧の港を乗っ取り
ふたつ不埒な贋金で
みっつ蜜貿に手を染め害意を振りまく悪代官

…そのうえ城中の財宝を盗みだし既に島外に持ち去っていたとは!

(ということにしてアレはあとで私がこっそり頂いちゃおう作戦 ※伝統芸能好き)



猟兵裁きで打ち首確定!
さあ全ての罪を被って骸の海に還りなさい!




【戦闘知識】で敵の退路を塞ぐように
ユーベルコードと【スナイパー・串刺し】による撃剣を主体に展開



【範囲攻撃・気絶攻撃・衝撃波】
被包囲の際は侍も影武者まとめて爆弾ポイ
…あ、城の修理費…。
……悪いのはすべて悪代官です!おのれ!どこまでも卑劣な!


木元・杏
【かんさつにっき】
これで最後
まつりん、小太刀、がんばろうね(円陣で片腕を真ん中に差し出して)

(すぱーんと登場)
観念なさい!
お菓子のレシピはもうわたし達の手の中…………
!!(山吹色のお菓子見た)

くっ……、人(?)質を取るなんてひきょう

うさみみメイドさん、囮ね
メイドさんを悪代官の周りでウザくフェイント&ジャンプで駆け回り、
ぴょんぴょん攻撃をかわして乱心状態誘発
部屋の壁や天井を蹴り跳び
小回り効く小ささを利点に素早く動き回らせる

高速攻撃も第六感働かせて見切りるけど限度ある
鵜が魚を捕らえるように速さにメイドさんが捕まれば、
隙を見定め【鎌鼬】

世の中には因果応報って言葉があるの
お菓子、独り占めした罰


木元・祭莉
【かんさつにっき】だぞーっと。

山吹色のお菓子と、土わらしの謎も解明した(まだ)!
あとは、お城奪還作戦だー!
(アンちゃんの拳に、自分の拳をこつん)

わー、コダちゃんスゴいー、噛まなかったー。
(ぱちぱち拍手)
おいらも、以下同文!(キリっ)

やっぱ、オブビリオンは往生際が悪くないとね!

あ、抜け道はおいらたちが潰しといたー。
山吹色のお菓子のレシピは、これからも改良続けるから、安心してね♪

跳ねるように前進、接近戦を挑むよー。
……へっ。
おいらが、エセたまこ(たち)に、負けるワケないじゃん!?
(怒濤の攻撃を左右の拳で受け止め受け流し)
(侍さんの額の数字に)(灰燼デコピン☆)

……爆裂!
言ってみたかったんだー♪


鈍・小太刀
【かんさつにっき】

山吹色のお菓子本当にあったんだね
そうそう解明…解明?まあいっか
杏と祭莉んの拳に拳合わせ、いざ出陣!

正面からスパーンと
お約束に則って名乗り上げ

代官という立場を利用して
船廻し問屋と結託し私腹を肥やす悪徳三昧
あまつさえ姫様の命を狙い
こうして城まで乗っ取るなんて
お天道様が許しても私達猟兵が許さない
ここが年貢の納め時よ、覚悟なさい悪代官!(びしぃっ!

なんて一度はやってみたくって♪
じゃあ遠慮なく行くよっ!

であえであえの侍達の攻撃を
見切って避けて或は武器で受け流しつつ
時代劇の殺陣が如くバッタバッタと斬り倒す

粗方倒したら悪代官へ剣刃一閃
あなたの悪事はここでお仕舞い
骸の海に還って反省しなさい!


真守・有栖
すっっっぱーん!と襖を開いて、正々狼々と突入よっ

悪行狼藉も此処まで。観念なさいっ

この探狼たる私にはわふっとお見通しよ!
島への執着。古びた術符。あと、なんか色々。
此処から導き出した代官の――

んん?(じぃっ)

何よその美味しそうなお菓子は……!
大判小判に飽きたらず、お菓子までも独り占めしようなんて許せないわっ

お城もお菓子も返してもらうわよ!いざ、参る!

一気に成敗……って、思ってたよりやるじゃないの!?
そっちがご乱心ならこっちはご乱狼よ!
豪撃を避けて、わふっと跳躍。
上下左右。四方八方。
死角に乱れ跳ぶ迅狼たる動きで翻弄するわ!

乱れた心を、一心にて。
刃に込めるは“断”の一念。
これにて一件落着よ。成敗……!



●いざ勝負
「これで最後」
「うん。山吹色のお菓子と土わらしの謎も、解明したし!」
 木元・杏が片腕を出したその拳の先に、木元・祭莉も拳を握って腕を出す。
「そうそう解明……解明?」
 鈍・小太刀は首を傾げながらも、二人の拳の前に己の拳を出した。
「解明した! あとは、お城奪還作戦だー!」
「まつりん、小太刀、がんばろうね」
「まあいっか。うん、いざ出陣!」
 円陣を組んだ【かんさつにっき】の三人が、こつんと拳を付き合わせる。
「おにぎり貰って来たぜ」
 そこにテラ・ウィンディアが、おにぎりの乗った大皿を持って現れた。
 助けた料理番の人達に頼んで、腹拵えにと作って貰ったのだ。
「腹が減っては戦は出来ぬ、だったか?」
 少し自信なさそうに言いながら、テラの手はしおおにぎりに伸びる。
「では、ひとつ頂きましょう」
 ベルベナ・ラウンドディーは適当におにぎりをひとつ取ると、半開きのままだった襖を足で開けて外へと出て行く。
「それでは後ほど」
 短く告げたベルベナの姿は、何処かへと消えていった。
 ベルベナの行動が彼の策の為のものであり、それがどういうものであるかは他の猟兵達も伝え聞いている。
 そしてもう一人。
「あー……オレはいいや」
 黒夜・天の背中から伸びた災禍の腕が、天井板を押し上げる。
 そのまま天は災禍の腕で自分の身体を持ち上げて、天井裏へと登って行った。
「あら? 来ないの?」
「アア。なんかもう、悪代官に残ってる財産じゃそんなに美味くないことは分かっちまったからなあ」
 真守・有栖の問いに、天は天井裏から顔だけ出して返す。
 長い黒髪が重力に従ってばさりと逆さまに流れたその様子は、ちょっとアレだ。
「ゲテモノも嫌いじゃないけどよオ……悪代官をやっつけるっていうのも、オレのガラじゃねえしな」
 援護はするから任せるぜ。
 そう言い残して、天は完全に天井裏に顔を引っ込めた。
 疫病神にして貧乏神である天にとって、窮していると判ってしまった悪代官は、もう美味しいと思える獲物でなくなったと言う事だろう。
「ま、寝返ったりするんじゃなきゃ構わんさ」
 柱に背を預けていた御剣・刀也が、殆ど音を立てずに背中を伸ばす。
「さて。戦場と言うには狭そうだが――真紅に染めてやろう」
「ええ! 正々狼々と突入よっ」
 刀也の言葉に、有栖を始め他の四人の猟兵も頷く。
 そして、猟兵達の手で奥の間への襖がスパーンッと開かれた。

●悪知恵は働く
「お前が悪の親玉だな!」
「悪行狼藉も此処まで。観念なさいっ」
『ふぉっ!?』
 突然開いた襖とテラと有栖の声に驚き、悪代官が目を丸くする。
『な、なんだお前たちは……! ええい、山賊共は何をしている!』
「色々捕らぬ狸の皮算用してたんだろ? ご苦労さんな事だが、山賊どもはもう潰したから残るのはお前だけだよ」
 口角泡を飛ばす勢いで声を上げる悪代官に、刀也が刀を抜きながら静かに告げる。
『くっ……あの城門がこんな短時間で破られるとは!』
「代官の立場を利用し、廻船問屋と結託し私腹を肥やす悪徳三昧。既にお見通しよ!」
 悪代官の勘違いを軽くスルーして、小太刀が言い放つ。
「あまつさえ姫様の命を狙い城まで乗っ取るなんて、お天道様が許しても、私達猟兵が許さない。ここが年貢の納め時よ! 覚悟なさい悪代官!」
『な、なにが年貢の納め時だ。儂は年貢を集める方だ!』
 小太刀にびしっと指差し告げられた悪代官は、言い返すもその顔は正に苦虫を噛み潰したような渋面になっていた。
 逆に小太刀は笑みすら浮かべて、それ以上言い返さない。
 さきの口上を全て一息で一気に言い放ったので、小太刀は結構満足していた。
 小太刀が突入直前に、数回繰り返していた深呼吸は、口上を一息で言い切る為のものだったのは内緒である。
「わー、コダちゃんスゴいー、噛まなかったー」
「べ、別にやってみたかったんじゃないんだから」
 にぱっと笑って拍手して小太刀を照れさせている祭莉あたりは、案外気づいているかもしれないが。
「おいらも以下同文!」
 次の瞬間には表情をキリッと引き締め、祭莉も悪代官を指さす。
「そう。観念なさい! お菓子のレシピはもうわたし達の手の中…………!!」
 杏も続けて悪代官に指を突きつけ――そのまま、何故か固まった。
「アンちゃん?」
「杏? どうしたの?」
 祭莉と小太刀が声をかけるが、杏は指を突きつけたまま固まっている。
『レシピ……ま、まさかお前ら! あの千両箱を?』
「この探狼たる私には、わふっとお見通しよ!」
 苦虫を噛み潰す様な顔の悪代官に、何故か有栖が畳み掛ける様に告げる。
 千両箱の話はかんさつにっきの三人から聞いていたかもしれないが、だとしても見ていないのにまるで見てきたような見栄っぷりだ。
「島への執着。古びた術符。あとなんか色々。此処から導き出した代官の――んん?」
 そんな有栖も、何かに気づいて眉を潜めた。
 杏と有栖の視線を奪ったもの。
 それは代官の手にあった、山吹色の塊である。
「何よその美味しそうなお菓子は……!」
「くっ……人質を取るなんてひきょう」
 一転、悔しそうな顔を見せる有栖と杏。
「ああ……成程。山吹色のお菓子、本当にあったんだね」
 二人が固まった理由を察して、小太刀が半眼になって呻く。
『ほう。この菓子が欲しいのか。儂の配下となるなら好きなだけ――』
 一方悪代官は、二人の反応を見てニタリと笑みを浮かべていた。
 賄賂の基本は、他人の欲を突く事。欲をくすぐる言葉は、お手の物か。
 しかし、だ。
「大判小判に飽きたらず、お菓子までも独り占めしようなんて許せないわっ」
『いや待て。配下になるならくれてやると――』
「お城もお菓子も返してもらうわよ!」
『話を聞んか!』
 そんな権謀術策も、有栖のようにそそっかしい相手には空回るばかり。
「知らないひとからものを貰うの、ダメ。欲しいものは自分の力で勝ち取るの」
 杏もふるふると首を振り、キッと悪代官を見据える。獅子は我が子を谷へ突き落とす、をにこやかにやらかす両親の教育の賜物だろうか。
『ふんっ! 所詮、子供か』
「どっちが子供だか」
 ギリッと歯ぎしりする悪代官に、刀也がはき捨てるように告げる。
「悪代官らしい悪代官だが、お前みたいな奴についてくる奴はいねぇよ。人質は返してもらったから、とっとと山賊と同じ所に逝きな」
 続けて言い放った次の瞬間、刀也の姿は悪代官の目の前に立っていた。悪代官が気づいた時には、もう獅子吼が振り下ろされようとしている。
『ぬぉぉっ!?』
 ガギンッ。
 鈍い音を立てて、獅子吼の刃は悪代官が抜きかけた刀に止められていた。
「ほう。悪くない刀だな。剣術も、一応使えるようだ」
『ふんっ! 儂を権力だけと思うなよ……!』
 値踏みするような刀也の視線を見返して、悪代官はその体を押し返す。
 両者の体が離れた瞬間、悪代官はすぅっと息を吸い込んで大声を上げた。
『ええい、出会え出会えー!』

●悪の侍軍団
 あちこちからぞろぞろ現れた【侍オブリビオン】――数十体。さすがに三桁はいないだろうがちょっと数え切れない。
 その中にただ一人だけ、猟兵達だけが見覚えのある淡い緑の髪がいた。
「あ、またこのパターンか」
「やっぱ、オブビリオンは往生際が悪くないとね!」
 偉そうな事を言っておきながら配下召喚に頼る悪代官に、悪徳商人の戦法との類似を感じながらテラと祭莉が顔を見合わせ――その群れに突っ込んでいく。
「神妙に縄につく気があるか聞いてやろうと思ってたが、そっちがそう来るなら!」
 【侍オブリビオン】が振り下ろす刃を、テラは両手に持った槍と刀で迎え撃つ。炎の力で赤熱した刃と、敵の刃がぶつかり火花を散らす。
「殴り合い、斬り合いで容赦はしないぜ!」
 受け止めた槍を軸に、テラの体がぐるんと回る。【侍オブリビオン】が頭上を取られたと気づいて見上げるよりも早く、赤熱した刀がその体を貫いていた。

 ヒュッ。空を切った刃が、畳に突き刺さる。
「遅い遅い!」
『くっ、このガキ』
 祭莉は畳に刺さった刃を足場に、跳び上がると琥珀の拳鍔で【侍オブリビオン】の顎をかち上げる。
 グラリと倒れた体の向こうに、刃を構えた【侍オブリビオン】数体。
「……へっ! たまこより数が多いけど、それだけじゃん!」
 一斉に放たれる斬撃に、祭莉が左右の拳を固める。
 次の瞬間、幾つもの金属音が重なって響いた。
 ぶつかる刃金と琥珀。琥珀色をまとった祭莉の左右の拳撃が、向けられた刃の全てを弾いて叩き落とした音だ。
『なぁっ!』
「おいらがエセたまこみたいな連中に、負けるワケないじゃん!?」
 驚く【侍オブリビオン】に向かって跳び上がった祭莉が、指を開いた拳を向ける。閉じているのは二本の指だけ。
「……爆裂!」
 弾かれる祭莉の中指。灰燼拳の力を一点に集約したデコピンの一撃は、【侍オブリビオン】の頭を突き抜け、その頭蓋を砕いていた。
「言ってみたかったんだー♪ って、お?」
「ゆだんたいてき」
 にぱっと笑った祭莉の襟首を、杏のうさみみメイドさんが掴んでいた。
 うさみみメイドさんに引っ張られて退がる祭莉を追って、【侍オブリビオン】達は刃を突きこんで来る。
「まつりん、前に出過ぎだよ」
 その全てと、入れ替わりに前に出た小太刀が片時雨で切り結ぶ。
 見切って止めて、受け流し。或いは打ち払い。
「遠慮なく行くよっ!」
 敵の隊列を崩したところで、小太刀がぐるんと回る。頭の左右で銀の髪を揺らし、返す刃の一撃で【侍オブリビオン】を斬り倒した。

「この程度の相手じゃ、この刃狼たる私の敵ではないわね!」
 迸る光刃で【侍オブリビオン】を斬り捨てた有栖が、ドヤっと悪代官を見やる。
『くっ! 何をしている! 合体して戦わんか!』
「言ってやるな。こっちが、そうさせない様にやってんだから――よ!」
 【侍オブリビオン】に合体を指示する悪代官の目の前で、刀也も別の一体を一刀の元にに斬り倒した。
 最も多【侍オブリビオン】を倒していたのは、刀也であろう。どれだけ倒したかは、刀也の後に続く血溜まりが物語っている。
 その手にある獅子吼が閃く度に【侍オブリビオン】はその数を減らしていた。
 ――真紅に染めてやろう。
 踏み込む前に言っていたその言葉を、刀也は見事に体現していた。
『ちぃ! もっとだ。もっと出会――ん?』
 そんな刀也から距離を取る様に後退り、更に【侍オブリビオン】を呼ぼうとした悪代官の背中が、何かにぶつかる。
 そこには緑の髪の侍オブリビオンに良く似た姿が立っていた。
『何をしている! お前もさっさと戦わんか!』
「ええ。ですが私はあなたを逃さない為にこうしてここにいまして――ねっ!」
 瞬間、ベルベナの手が動いて閃く直刀。
 悪代官の肩から、鮮血が上がる。
「あれ。首を狙ったんですが。意外と粘りますね」
 咄嗟に身を捩った悪代官に、正体を表したベルベナが嘲笑混じりの称賛を告げる。ベルベナが他の猟兵から離れた理由の一つがこれだ。
 【侍オブリビオン】に混じって、悪代官の退路を断つこと。
『貴様……』
「そんな目で見ても、猟兵裁きで打ち首確定ですから」
 呻く悪代官に切っ先を突きつけて、ベルベナは話を続ける。
「ひとつ燧の港を乗っ取り。
 ふたつ不埒な贋金で。
 みっつ蜜貿に手を染め害意を振りまく悪代官」
 罪状を読み上げる裁判官のように、淡々と――。
「その上、配下に命じて城中の財宝を密かに盗み、既に島外に持ち去っていたとは!」
 ベルベナは淡々と、罪状をでっち上げた。
『は? な、なんの事だ!?』
「知らばっくれても無駄ですよ。盗み出したものの一部を、抑えてあります」
 目を丸くした悪代官の罪状を、ベルベナがいけしゃあしゃあと増やす。
 この際、全ての罪を悪代官に被せてしまおうという腹積もりである。
(「そういう言う事にしておけば、地下に溜まったアレをあとで私がこっそり頂いちゃえるでしょうしね」)
 ベルベナの言うアレとは、地下通路で待ち伏せた山賊達が運んでいた壺やら花瓶やらである。伝統芸能好きなベルベナ、実は欲しかった。
「さあ――全ての罪を被って骸の海に還りなさい!」
 直刀突きつけ、ベルベナはダメ押しに言い放つ。
 だが、悪代官はそれでも悪あがきを見せた。
『ぐぬぬぬ……こうなったら! 侍共、時間を稼ぐのじゃ!』
 ベルベナの直刀を悪代官の刀が打ち払うと、空いた空間に【侍オブリビオン】が割り込んでくる。他の残る【侍オブリビオン】も、悪代官を囲む様にその周りに集まった。
 今更集めて何をしようと言うのか。
「あ、抜け道使う気なら、おいらたちが潰しといたー」
『何だとぉ!?』
 【侍オブリビオン】の影から、祭莉の一言に反応した悪代官の怒りの声が上がる。
『だが――今はそんな事はどうでも良いわ。こい、影武者よ!』
 【侍オブリビオン】の影から、悪代官が叫ぶ声が響いた。

●影武者の対処方
「邪魔だぁ!」
 テラの槍が【侍オブリビオン】2体をまとめて薙ぎ払う。
『『ふはははは!』』
 だが――猟兵達が【侍オブリビオン】を蹴散らした時には既に、悪代官の姿は二人に増えていた。
『どちらが本物か』『わかるまい!』
 猟兵達の視線の先で、悪代官二人は全く同じ声を発した。
 どちらかが影武者である。だが背丈も同じ。声も同じ。無論、顔も同じ。
「そっち? いえ、こっち? ……す、少しは、や、やるじゃない!」
 すっかり見分けがつかなくなった有栖は、紫の瞳をぐるぐるさせながら何とか平静を取り繕っていた。
(「…………」)
 そんな悪代官の悪あがきも、天井裏にいる天だけは見破っていた。
 見破る以前の問題だ。疫病神の真骨頂で作り出した極めて見つけにくい分身が、影武者を呼ぶ遥か前――猟兵達の突入直後から、ずっと悪代官に憑いているからだ。ついてない方は、必然、影武者となる。
(「ま、オレが言わなくても大丈夫だろ。その気みたいだしな」)
 だが、天は隙間から覗いた様子をみて、それを言うのをやめた。
 必要ない――天がそう判断した理由は、悪代官達に躙り寄る二人の猟兵の動きに気づいていたから。
「どっちやる?」
「どちらでも構わんが……右で」
「じゃ、おれが左だな」
 何やら相談している、テラと刀也である。
『『む? お前たち何を言って――』』
「くらえ!」
「ふんっ!」
 テラが左の、刀也が右の。悪代官二体を二人が同時に斬りつけた。
『『うぎゃぁっ!?』』
 悲鳴まで同じ声を上げて、倒れる悪代官達。
「どっちかが本物なんだから、斬り捨てれば問題ないな!」
「どっちが本物かなんて、考えるのも面倒だ。影武者を見逃す理由もない」
 そう。影武者がいようがまとめて攻撃すれば本物にも当たる。
「成程! ならおいらも――!」
 二人の動きでその意図に気付いた祭莉は、もっとシンプルに行った。
「山吹色のお菓子のレシピは、これからも改良続けるから、安心してね♪」
 どこに悪代官が安心出来る要素があるのか判らないことを言いながら、祭莉は起き上がろうとする悪代官二人それぞれに、左右の拳をひとつずつ振り下ろしたのだ。
『何という……』『野蛮な奴ら……だ……ぐぅ』
 同じ声で呻く悪代官達だったが、突如、その片方に異変が起こった。
 何故か片方だけが、腹を抑えている。
『ぐ、ぐぅぅぅ……な、何故こんな時に腹が』
 ぎゅるるるる。本物の悪代官は、今、猛烈な腹痛に襲われていた。
「世の中には因果応報って言葉があるの。お菓子、独り占めした罰」
 腹を抑えて蹲る悪代官に、杏が淡々と告げる。
『そ、そんな事ある筈が……』
(「お。やっと効果が出たか」)
 本当のところは、天の仕業である。ずっと憑かせている分身の能力は『対象の健康を奪い病に感染させる』なのだから。
『こ、この……わ、儂が本物だ』
「影武者だって、モロバレだっての!」
 どうにか誤魔化そうとする影武者の前で、テラが跳び上がる。天井ギリギリまで跳んだところで、片足を振り上げて。
「我が身、一筋の流星とならん……メテオブラストーーーーーーー!」
 高さが足りない分は両手で天井を押して勢いを付けて。
 超重力を纏ったテラの踵が、影武者を頭から蹴り倒す。衝撃で陥没した畳の上で、倒れた影武者はそれきり動かなくなった。
『く……うぐぐぐ……で、であ、であえ! 出会え―!』
 それを見ていた悪代官は、蹲って腹を抑えたまま、それでも再び侍たちを呼ぼうと声を張り上げる。
 だが――。
「あーあ。呼んじゃいましたか。私が侍達にただ扮していただけだと?」
 侍オブリビオンに扮して紛れていたベルベナは、どこにどう現れるか、その全てではないにせよ見ていた。
 だから、その場所に仕込んでおいたのだ。
 爆弾セットの中にある、地雷を全て。
 ズドンッ! ズッドドドドンッ!
 すぐ近くで幾つかの爆発音が響いた。
 やがて流れてきたもくもくとした黒煙が、音が錯覚でないのを物語っている。
「……これ、お城大丈夫かなぁ?」
 頬をかく祭莉の言葉で、ベルベナの頭の中に『修繕費用』の四文字が浮かぶ。
 言えない。失念してたとか言えるわけがない。
「……悪いのはすべて悪代官です! おのれ! どこまでも卑劣な!」
 だからベルベナは、その罪すらも悪代官になすりつける事にした。
 一部の猟兵達は物言いたげな視線を向けてはいるが、敢えて止める事もしない。
『貴様ぁ……』
「あなたの悪事はここでお仕舞い」
 腹を抑えたまま刀を抜いてベルベナを睨む悪代官に、背後から小太刀が近づく。
「骸の海に還って反省しなさい!」
 小太刀は片時雨の古びた柄をしっかりと握って、真っ直ぐ振り下ろす。
 ヒュッと風を斬る音が鳴る。
 だが――小太刀に返ってきたのは、予想以上に硬い手応えだった。
『ふ……ふははははあ!』
「っ……な、なによ、この力!」
 やおら哄笑をあげ出した悪代官の体が、小太刀の刀を押し戻している。
『こんな……こんな……儂の策が悉く! こんな、こんなやり方で……ぬうああぁ!』
 悪代官は何やらブツブツ呻いたかと思うと、やおら力強く立ち上がって、腰の脇差も抜いて刀と一緒に振り回す。
「くぅっ!」
「コダちゃん!」
 異常に増した膂力に吹っ飛ばされた小太刀を、祭莉が受け止める。
『小童共がァ……』
 二人を睨む悪代官の目は、血走っていた。

●そして、狂乱す
『ふはははははははは!』
 狂った嗤い声を上げて、悪代官が刀を無茶苦茶に振り回す。
「往生際が悪いわよ! 一気に成敗して――っ!?」
 斬りかかった有栖の月喰を、悪代官の刀が迎え撃つ。そしてそのまま、悪代官は刀を振り切って月喰ごと有栖をふっ飛ばした。
「思ったよりやるじゃないの!?」
 空中を蹴って身を翻し、有栖は驚いた顔で着地する。
「そんなになってまで……いいぜ、何方が正しいか……勝負だ!」
 入れ替わりに、テラが悪代官に飛び掛った。
「二刀なら、おれは四刀だ!」
 剣と槍と太刀のみならず、足にも炎の力を纏わせて。
 それらを早業で使い分けることで、テラは悪代官を翻弄しようと言うのだ。
『はははははッ!』
 だが、こうなった悪代官には、翻弄される理性すらなかった。テラが持ち替え振るう武器の速さに、ただ反応するばかりだ。
「なら――これでどうだ!」
 テラが担ぐように構えた槍を投じると同時に、それを追って駆け出した。
『ぬははははァ!』
 ガキンッと鈍い音を立てて、悪代官の刀に槍が弾かれる。
 ずぶりと突き刺さる刃。
 テラは太刀の長さを活かし、槍を囮に悪代官の間合いの外から突いたのだ。
『儂以外は打ち首だははははははは!』
 だが、狂った様に哄笑を上げる悪代官は、止まらない。テラの太刀を弾き飛ばし、誰もいなくなっても刀を振り回し続ける。
「ああなっては、もはや剣と呼べないな」
 その様子を見やり、刀也はゆっくりと近づいていった。
 狂乱で振るわれる刃は、見切ろうにも見切る剣筋などない。
 だが、速く動くものに反応するのなら、ぎりぎりまでゆったりと。ゆらりゆらりと、間合いを詰めて――。
(「一気に動いて斬り捨てる」)
 火縄銃に対抗し、その間合いを制して剛剣を振るうが、刀也の振るう天武古砕流。
 だが――。
『がっ……ぐがははははぁッ!」
 袈裟懸けに斬られても、悪代官は身体を赤く染めながらまだ動いていた。
 追い詰められ心を乱し、理性を代償に得た狂気の力が齎す超耐久力。こうなっては、敵が全ていなくなるか己が死ぬまで止まるまい。
「うさみみメイドさん、囮ね」
 杏が繰糸を付けた両手を広げると、忙しなく動かし始める。その糸に操られたうさみみメイドさんが、まるで兎のようにぴょんぴょんと動き出した。
『邪魔ダァッ!』
 悪代官の刀が空を切る。
 杏は床のみならず、天井や壁も足場もうさみみメイドさんの足場とし、なるべくウザったく思わせるよう小回りも効かせて、悪代官の周りを跳び回らせる。
『ぬぁぁぁ! ちょこまかとぉぉぉぉ!』
「…………っ」
 理性のない狂乱の剣なぞ、いくら杏が第六感を効かせても読み切るのは難しい。次第に悪代官の振るう刀が、うさみみメイドさんを捉え出す。
 だが――それも杏の作戦の内。
 ガシャッと軽い音を立ててうさみみメイドさんが倒された瞬間、杏の両手からは糸が離れて、その片方が刀の柄に伸びていた。
 うさみみメイドさんを捕まえたその隙を突いて、杏が飛び出す。
「メイドさんにおさわり、ダメ」
 風を斬った音を置き去りに、杏のうさ印の護身刀が閃いた。
『ぬぅぅ!?』
 だが、杏の斬撃は速すぎた。その速さに悪代官が反応してしまう程に。
「っ!?」
「そっちがご乱心なら、こっちはご乱狼よ!」
 仕留め損ねて下がる杏を逆に追い越すは、銀の影。
 獣の如く駆けた有栖は、悪代官の目の前で、跳んだ。
 ――トンッ。
 その足が、なにもない空中を蹴った。止足“空駆”。
『またちょこまかとぉぉぉぉ!』
 上下左右。四方八方。縦横無尽に空を足場に駆け回る有栖の動きに、悪代官が反応しない筈がない。
 だが、その立体機動の速度こそ杏がメイドさんでやった以上が出ていたが、逆に有栖には杏ほどの第六感はない。このままでは、捉えられるのも時間の問題。
 ――1人だけだったならば。
『ぬぁぁぁぁぁ!』
「動くな」
 悪代官の狂乱の声を、冷たい声が遮った。
 静かな気合の込められたベルベナの声と存在感は悪代官の警戒心を刺激し、注意をそちらに向けさせる。
 同時に放たれた殺気が、悪代官の注意を完全にベルベナに向けさせた。
『貴様ぁぁぁっ!』
 だが。そこまで反応したことで、逆に悪代官の狂乱は和らいでいた。
 その背後で、有栖の月喰から光が迸る。
「成敗……!」
 “断”の一念を込めた光の刃を、有栖は空中で突き出した。
『が……は……』
 血走っていた悪代官の目がぐるんと白目を向いて、その体がドサリと倒れ伏す。
 それきり、二度と立ち上がる事はなかった。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​




第3章 日常 『山菜祭り』

POW   :    ヒャッホー!! キノコだ! キノコ! キノコ鍋だァー!!

SPD   :    タケノコは無敵なり。我がタケノコにかなうものなし。我がタケノコ汁は無敵なり。

WIZ   :    ゼンマイ料理とワラビ料理がある。どっちから味わいたい?

👑5
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

種別『日常』のルール
「POW・SPD・WIZ」の能力値別に書かれた「この章でできる行動の例」を参考にしつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


●一夜の宴
 猟兵達が悪代官を倒し、燧城を悪代官から取り戻した――その夜。
「城を取り戻して頂き、かたじけないなのじゃ」
 朔八姫が、ぺこりと猟兵達に頭を下げていた。
 いくら城を取り戻して貰ったとはいえ、果たして一城の姫として、そう頭を下げても良いものかとは思うが、悪い気はしない。
「城はだいぶ荒れてしまったがの。何、問題はない」
 若干遠い目になりながら、朔八姫は気丈だった。
 というのも、だ。
 ――姫様、大変だったんですねぇ。
 ――これ少ないけど使ってくだせえ。
 ――避難してる間に、何故か家にあった金でさぁ。
 城下の町人達の多くが、少額ながら貨幣を献上してきたからである。誰もが皆、身に覚えのない銭だからと、口を揃えていっていた。
 それが誰かの散財した者であることは、本人ならば気づくであろう。
 金は天下の周り者とは、良く言ったものである。

 閑話休題。

「さて、集まってもらったのは他でもない。せめてもの礼に、今晩は城で宴をしようと思っての。土わらし達からの差し入れもあるぞ」
 さっきから姫の横には、右にはキノコ、左にはたけのこがこんもりと積まれていた。
「土わらし達が、にょきにょきどーん!と生やしてくれたのじゃ!」
 え、なにそれ。
 土わらし、そんな事出来たの。
「風早のに、魚も持って来させる様に言ってあるのじゃ」
 夜からではあまり数はないかもしれないが、島の海の幸も少なからず並ぶだろう。
 燧島を支配しようとしていた野望は、猟兵達の手で潰えた。
 とはいえ、その混乱全てが何事もなかった様に消えるわけではない。
 何も知らなかった島民達もいれば、気づいていて何も出来なかった者もいるだろう。その全てで、これからまた頑張って行かなければならない。
 だからこその、一夜の宴。一夜の祭り。
「助けて貰った城の料理番達も、張り切ってるの! 私も明日からのことは明日から考える事にしたから。今宵は楽しんで欲しいの!」

=====================================
一件落着した、その夜の宴となります。
山菜メインのフラグメントですが、一応、望めばお魚もOKとします。
その他諸々、好きに一夜を過ごして下さい。
朔八姫、土わらし、風早屋、その他島民。
御用がありましたら、交流可能です。
=====================================
御剣・刀也
POW行動

茸か。鍋にしてよし、焼いてよし
どうせなら猪の肉も居れて盛大にやりたいな
イノシシはその辺で狩って来よう。これだけ山菜があるんだ。いるだろ。でかいのが

猪を狩ってきて味噌と少量の唐辛子でピリ辛にして猪肉の臭みを消した猪鍋を作る
「あ?恩人に作らせるわけにはいかない?良いだろ。俺が作りたいんだ。さ、出来たから全員で食おうぜ」
戦いの時の苛烈さは影を潜め、親しみやすそうな兄貴分として料理を作り、みんなで一緒に突っつきながら白米を食べる



●猪と茸
 それは、鬱蒼と茂った森の中のどこか。
 ――ブモッ! ブモッ!
 御剣・刀也の目の前には、鼻息を荒くした猪がいた。
「いるじゃないか。猪。デカイのが」
 刀也のその言葉を合図に――まるで自分が食われる事が判ったかのように――猪は猛然と飛び出した。

 ズンッ!

 向かってきた猪を、刀也は左腕一本で止めていた。
「悪いな。お前に恨みはないが――食わせてもらう」
 そして、頭を抑えられた猪に、刀也の獅子吠の刃が真っ直ぐ振り下ろされた。

 そんなやり取りから数刻の後。
 森で血抜きまで済ませた猪を担いで、刀也が戻ってきたのは」
「この猪肉をぶつ切りにして、と」
「あのー。お客人。料理は我々がしますので……」
「この城の恩人に、そんな事をさせるわけには……」
 そのまま厨房に入ってなぜか調理を始めている刀也に、燧城の料理番たちが慌てた様子で背中から声をかけている。
「良いだろ。俺が作りたいんだから。白米は作って貰ってんだし」
 刀也が顎で示したのは、隣の竈に置かれた大釜。中には真っ白に焚かれたご飯が、最後の蒸らしの段階である。
「それにもうすぐ出来る」
 味噌と少量の唐辛子で、ピリ辛の味をつけつつ臭味も消した猪肉。
 それを軽く炙った茸とともに、鍋に入れて中~弱火でぐつぐつ煮込めば完成。
「さ、出来たぞ。全員で食おうぜ」
 ニッと笑ったその姿は、良き兄貴分と言ったところ。
 その笑みと雰囲気、そしてイイ匂いを立てる大鍋に吸い寄せられるように、数人の子供達が刀也の元へと集まっていった。
「おお、茸の鍋ぞな!」
 その先頭には、朔八姫がちゃっかり混ざっている。
「ごろごろと大きな肉が……これ、何の肉ぞ?」
「猪。悪いが勝手に一頭、狩らせて貰ったぜ」
 尋ねる姫の器に猪の肉が入るように、刀也は鍋の中身を選んでよそって入れる。
「それは構わんぞ。でもこの島に、猪おったのじゃのう」
 感心した様子で頷くと、朔八姫はまずふぅふぅと冷ましてスープを一口。
「これは……全く臭味がなく、肉も柔らかなのだ!」
 ぱぁっと朔八姫が笑顔になる。
 それに釣られて、周りの子供達が刀也の前に並び出す。
「好きなようによそって食べて良いぜ。鍋は皆で突くもんだろ?」
 子供達にそう声をかける刀也の姿は、城に巣食っていた山賊達を最も多く斬って血に塗れた刀也の姿を知る者にとっては、似ても似つかないと思ったかもしれない。
 だが苛烈さはなりを潜めた今の姿もまた刀也なのだと、白米をたっぷり盛った茶碗片手に子供に笑顔を向ける姿が物語っていた。

大成功 🔵​🔵​🔵​

真守・有栖
きのこ。たけのこ。
どっちから先に食べるかで悩むわね(わぐわぐ)

悪代官から奪還した山吹色のお菓子をもぐもぐ。
じぃーっと料理人たちが腕を振るう様子を眺めて、そわそわわふわふと尻尾を揺らし。
料理が出来上がるのを今か今かと……んん?何か忘れてたような気が???


あ。


きのことたけのこは仲良く一緒に頂くことにして。
土わらしと朔八姫に古びた呪符を見てもらうわ。
これって結局何だったのかしら???
悪代官が使うにしてはんんん?って感じだったし。何か分かる?
分からないならそれはそれで。
謎は謎のままだから謎なのよ!わふんっ

さて、そろそろ宴が始まるわね!
がぶりと食べて、わおーん!と歌って騒ぐわよ!!!

せぇーの。わった(略



●一つの謎――秘すれば花なり
 真守・有栖は悩んでいた。
 期待に尾をわふわふと膨らませ、今か今かとそわそわ揺らしながら、悩んでいた。
「こっちはきのこ」
 鰹節で出汁をとった鍋の中に泳ぐ茸を見ては、銀の尾がぱたり。
「こっちはたけのこ」
 その隣の鍋の中に沈んだ皮を剥いた筍を見ては、ぱたり。
 こちらは、竈に火が入っていないところからして、アク抜き中のようだ。
「どっちから先に食べるかで、悩むわね」
 どちらも食べるのは、有栖の中では既定路線のようだ。
「まあまあ。宴の席には、両方ともだしますから」
 じぃーっと熱い視線を注ぐ有栖の元に、料理番の一人が何かの乗ったお盆を持って近づいてくる。
「それまで、これでも食べて待っててくだせえ」
「これって……あの悪代官が食べてたお菓子じゃない!」
 差し出された山吹色の物体に、有栖は目を瞬かせた。
「へい。他の方が作り方を置いてって、作ってくれと頼まれまして」
 頷いた料理人が、炊事場に幾つもある竈の一つを視線で示す。有栖がそちらを見てみると、蒸籠が甘い香りを漂わせていた。
「沢山作ってますんで、お一つどうぞ」
「そういうことなら頂くわっ」
 尻尾ぶんぶん揺らし、有栖は山吹色のお菓子にわふっと噛み付く。
「ん? んん?」
 その瞬間、有栖は脳裏に浮かんだ悪代官の顔に何か引っかかるものを感じた。
「何か忘れてたような気が???」
 内心で首を傾げつつ、有栖はお菓子をわぐわぐと食べ進め、あっという間に最後の一欠片になったのをパクリと口に放り込む。
 そして有栖の手に残る、一枚の薄い敷き紙。
「あっ!!!!!」
 その紙を見て、有栖は忘れていた何かを思い出す。
「そうよ、紙よ!!!!!」
 その大きな声に驚いた料理番達が思わず振り返ると――有栖の姿は、既に調理場からいなくなっていた。

「これを見て欲しいのよ。悪代官が城門に使ってたんだけど」
「ふむふむ?」
 城をばびゅんと駆け回った有栖は、中庭で朔八姫と土わらしに、忘れていた何か――閉ざされた城門を内から開放した際に剥がした符を見せていた。
「はて……土わらし、知っとるかの?」
『……ワカラヌー?』
 首を傾げる朔八姫の隣で、その仕草を真似た土わらしがコロンと横に一回転。
「悪代官が使うには、んんん?って感じだし、元々このお城にあったものじゃないかと思ったのだけれど、そうじゃないの?」
「んんん……妾もまだ、父上に教えてもらっていないものはあってのう」
 首を傾げた有栖の問いに、朔八姫が眉根を寄せる。
「時間を貰えれば、調べておくが――」
「あ、いいわ。判らないならそれはそれで」
 朔八姫のその申し出を、有栖はあっさりと断った。
「謎は謎のままだから謎なのよ! わふんっ」
「……謎は謎のままだから……」
 有栖が続けた言葉が意外だったのか、朔八姫はぽかんと目を丸くする。
「それより、そろそろ宴が始まるわね!」
 すくっと立った有栖に浮かぶ、きのことたけのこ。どんな料理になっただろう。再び生まれた期待に、銀の尾がふりふり揺れる。
「がぶりと食べて、わおーん! と歌って騒ぐわよ!!!」
 その言葉通り。
「わったっしはおおかみっ♪ とっっってもおおかみっ♪」
 宴席が始まりしばらく経った頃には、楽しげに歌い踊る有栖の姿があった。

大成功 🔵​🔵​🔵​

木元・祭莉
【かんさつにっき】だぜい!

わーい、宴会ー♪(未成年)
おいらたちも、頑張ったよねー。(5話分;メタ)
ね、姫様ー、撫でて撫でてー♪(じゃれつくわんこ)

この島にも、きのこ派とタケノコ派がいるんだー。
風早屋さんはどっち派?(突然)
鵜足屋さんはどっちだったのかなあ?(恨みを残さず)

アンちゃんお疲れ!
ハト麦茶どーぞ。くるっぽー♪(謎の鳴き声でお酌)
コダちゃんもお疲れー♪
ハイ、ドクダミ茶どーぞー。お肌にいいってさ!(へへー♪)

長老も来てたんだー?(山菜鍋勧め)
姫様の父ちゃんにもヨロシク伝えてねー♪

他の猟兵さんたちにも挨拶!
このたびはお世話になりましたー。楽しかった!

今度は山吹色のお菓子、作ってくる!
またね♪


木元・杏
【かんさつにっき】
姫様おつかれさま
皆もおつかれさま
風早屋さんも、ね?

あ、長老さん(手を振って)
姫様のこと、島のこと、不思議な土わらし、
もっと色んなこと知りたい
……と言いつつ、キノコ鍋にタケノコ汁はしっかり確保。
ゼンマイとワラビは一緒に食べる構え

書庫から持ってきた書物を広げて
小太刀。暗号、一緒に解読しよ?
土わらしさん達もご先祖様のこと探す?

呪術で島を作った呪術者
どんな人だったのか、書いてないかな

呪いで生まれた不思議な島
土わらしは、呪術者の人が意図的に作った
島の守り神なのかも

ん、何?まつりん
ぽっぽー(お茶もらいながら真似して)
ん、美味し

あとはデザー……
ま、まつりん
山吹色のお菓子(そわそわ)


鈍・小太刀
【かんさつにっき】

うん頑張った
祭莉んも杏も他の皆もお疲れ様、だね

このキノコ炒め美味しい
こっちのタケノコご飯も捨てがたいし
かくなる上は、どっちも派で!

暗号解読…ふふふ、任せなさい
私達には文明の利器という強い味方が付いてるんだから!
杏に辞書機能のあるスマホを見せてえっへん♪
あ、土わらし
興味あるの?仕方ないなぁ、おいでおいで♪
そっちのこは絵が上手だね
料理好きなこもいたりして?
姫様や長老達も交えて
わいわい楽しく謎解きタイム

祭莉ん、お茶ありがと…う、苦!
何でまたドクダミ…え?お肌にいいの?
(頑張ってぐいっと飲んで)お、お代わりっ!

いい感じに謎が解けたら
これにて一件落着ってね、皆お疲れ様!

※アドリブ大歓迎



●山の幸三分の計
 美味しそうな匂いが漂う楽しい楽しい宴会の席は、楽しいながら二つに割れていた。
「ささ。こちらをどうぞ。キノコ鍋が食べ頃ですぞ」
 しいたけにシメジになめこにえのき。様々な種類のキノコと鶏肉を島特産の魚醤で味付けした鍋が、ぐつぐつと湯気を立てている。
「旬の鰆入りのたけのこ汁も頃合いで――」
 その真向かいでは、薄めにスライスしたタケノコと、軽く炙ってから入れた鰆の切り身をこちらは塩のみで味付けたシンプルな鍋も、ぐつぐつ。
「炭火焼きキノコ、どんどん食べてってくだせえ!」
 パチパチ爆ぜる炭の上では、ゴロゴロと大きなキノコが焼き網の上に並べられ、遠火でじっくり焼かれる香ばしい香りを立てている。
「タケノコご飯も炊き上がりです!」
 こちらもその真向かいで、タケノコと油揚げを混ぜてたかれた釜の蓋が開かれ、ほわりとほのかに甘い匂いの漂う湯気が昇る。
『キノコお勧メー』
『タケノコお勧メー』
 とまあ、城の料理番と土わらし達がそれぞれに自慢のキノコ料理とタケノコ料理に腕を振るい、グイグイと勧めていたからである。
「宴会ー♪ って、この島にも、キノコ派とタケノコ派がいるんだねー」
 そんな様子をぐるりと見回し、木元・祭莉は楽しそうに笑みを浮かべる。
「山菜そばもありますよ!」
『ゼンマイ、ワラビ、山菜鍋ですぞ』
「あ。長老も来てたんだー? 長老は山菜派?」
 どうにも少数派な山菜派の中に一際小さな土わらしを見つけた祭莉の両脇から、スッと二人が無言で進み出た。
「キノコ鍋とタケノコ汁、どっちもください」
 木元・杏は幾つものお椀を載せたお盆を両手で抱えて、キノコ鍋とタケノコ汁の間でぴたっと足を止める。
「杏。焼きキノコも美味しいよ。ああ、でもタケノコご飯も香りで既に捨てがたい!」
 鈍・小太刀も炭火で焼かれたキノコと、ほかりと炊きあがったタケノコご飯の間で視線を左右に彷徨わせ――。
「かくなる上は、両方。どっちも派で!」
 小太刀も杏と同じ結論に至ったようだ。
(「サムライエンパイアなら、ピーマンは出ない筈!」)
 苦手な野菜がないのは、こっそり確認済みである。
「ま、おいら達はそうなるよね♪ あ、山菜そばもちょーだい?」
(「アンちゃんもコダちゃんも、山菜も一緒にって言いそうだしね」)
 ほとんど確信と言える予想をして、祭莉は山菜の確保に動く。
「えっと、空いてる席は――あれ?」
 空席を探した祭莉は、そんな宴席の中に一人、難しい顔の男が居心地悪そうに座しているのに気づいた。

「風早屋さんはキノコとタケノコ、どっち派?」
 男――風早屋の隣に座るなり、祭莉は声を掛ける。
「な……何を考えているのです、あなた達は」
「ん? 何が?」
 仏頂面を崩さない風早屋に、祭莉が首を傾げる。
「私が何をしたか忘れたわけじゃないでしょう。罪人扱いするでもなく、こうして宴席に混ぜるなどと――」
「おいらは、恨みを残す気はないよ?」
 遮ってあっけらかんと言った祭莉に、風早屋の方が目を見開いた。
 そこに近づいてくる、キノコとタケノコの香り。
「姫様も、皆もおつかれさま。風早屋さんも、ね?」
 キノコ鍋とタケノコ汁の入ったお椀を置いて祭莉の隣に座りながら、杏が風早屋に穏やかに告げる。
「そうそう。おいらたち、頑張ったよねー」
「うん頑張った」
 にぱっと笑顔を見せる祭莉に頷きながら、小太刀が炭火焼きキノコとタケノコご飯の器を三人の前に置いて。
「祭莉んも杏も他の皆もお疲れ様。それでいいじゃない?」
 困惑を隠しきれない風早屋に、小太刀も笑顔を向ける。
「甘いと思う? でも、わたし達はこうなの」
 杏が風早屋に向けた視線が、何を言っても無駄だと告げていた。
 猟兵としての総意というわけでも、島としての沙汰でもない。だが、少なくとも【かんさつにっき】の三人は風早屋をこれ以上どうこうする気もなかった。
「鵜足屋さんはどっちだったのかなあ?」
「……さあ。そんな話をする間柄でもありませんでしたので」
 祭莉の問いに風早屋が目を逸らしたそこに。
「それで良いんじゃないかのう?」
 朔八姫が話に加わるなり、三人に賛同の意を示した。
「風早のがおらぬようになっては、折角拓けてた販路を使える者が、誰もおらなくなってしまうからのう。それでは島の財政が悪化するのは、目に見えとる」
 その理由は、情よりも打算が大きかったけれど。
「……数字に強いと言うか、妙に商魂たくましいわね姫様」
 これで十歳か、と小太刀が内心舌を巻く。
「……」
 杏は判っているのかいないのか、読めない表情でキノコをもぐもぐしている。
「ね、姫様ー、撫でて撫でてー♪」
 祭莉も気にした風もなく、ワンコがじゃれつく様に朔八姫にすり寄ろうとする。
「まつりん」
「ん、良いのじゃ」
 止めようとした杏をやんわり制して、朔八姫の手が祭莉の頭に触れる。
「祭莉殿も、頑張ったと聞いておるぞ」
「うん♪」
 わしゃわしゃと朔八姫の小さな手に撫でられながら、祭莉はにぱっと笑うのだった。

●解き明かされる、ひとつの可能性
「小太刀。暗号、一緒に解読しよ?」
 キノコもタケノコも山菜もフルコース制覇した後。
 杏は、書庫から持ち出して来た書物を広げる。
「姫様のこと、島のこと、不思議な土わらし。私、もっと色んなこと知りたい」
「ふふふ、任せなさい」
 どうにも好奇心が抑えられないらしい杏に、小太刀が自信たっぷりに頷く。
「私達には、文明の利器という強い味方が付いてるんだから!」
 えっへんと小太刀が取り出したのはスマートフォン。
「しかもこれ、こんな便利機能あるのよ」
 昼間の探索では読めなかった漢字ばかりの頁を開くと、小太刀はそこにレンズを向けてパシャリ。
「これで読み取れた筈!」
 なんとOCR機能付きである。それに辞書機能も合わせれば、漢文も恐るるに足らず。
「小太刀、すごい。これなら解読出来る」
 卵に牛乳を混ぜて小麦粉と――スマホの画面に表示された変換後の文章に、杏が目を輝かせる。
「呪術で島を作った呪術者。どんな人だったのか、書いてないかな」
「ん? なんじゃなんじゃ?」
『ナニナニ?』
『面白イ事カ?』
 二人の声とシャッター音で、朔八姫と土わらし達も集まってきた。
「土わらしも興味あるの? 仕方ないなぁ、おいでおいで♪」
「姫様も土わらしさん達も、ご先祖様のこと探そ?」
 仕方ないと口では言いながらも、小太刀は楽しそうに手招きし、杏もうきうきと書物を開いていく。
 こうして、姫と土わらしも加わった謎解きタイムが始まった。

 とは言え、OCRも万能ではない。字体や薄れていて読み取れない事もあるし、欠損していてはどうにもならない。
 それでも――断片的に解読出来た部分は少なくなかった。
「んん……島が作られたのは、争いに敗北した……水軍の為?」
 小太刀が撮影し解読した文字を書き留めて、杏はそれらを繋げていく。
「朔八姫、水軍の子孫とか?」
「え、妾、海の女?」
 杏の呟きからの思いつきを口にした小太刀に、朔八姫が食いつく。
「ああ。鵜足達もそう睨んで、海賊計画を持ち上げてたみたいですよ」
 唐突に、ぽつりと口を挟んだのは風早屋。
「でも、呪術師のことが……」
「アンちゃんお疲れ!」
「ん、何? まつりん」
 背中からかかった祭莉の声に杏が振り向くと、お盆を抱えた祭莉が立っていた。
「ハト麦茶どーぞ。くるっぽー♪」
「ぽっぽー」
 ハト麦だからと鳩の鳴き真似をする祭莉に、杏は迷わず鳴き真似で返す。
『ッポー』
 すると土わらしからも、真似した声が上がった。
「コダちゃんもお疲れー♪」
「ん。ありがと」
 小太刀には、普通に湯呑を渡す祭莉。
 そして杏と小太刀は二人同時に湯呑を傾け――。
「ん、美味し」
「う、苦!」
 そして全く違う反応を示した。
「コダちゃんは、ドクダミ茶でしたー♪」
「何でまたドクダミ……」
 にへっと笑う祭莉に小太刀が思わずじとっと視線を向ける。
「お肌にいいってさ!」
「え? お肌にいいの?」
 だが続く祭莉の言葉を聞くや否や、小太刀はぐいっと一気に湯呑を煽る。
「お、お代わりっ!」
「わー、コダちゃん、チャレンジャー」
『解読は進んでおりますかな?』
 そこに聞こえる、小さな土の声。
「あ、そうそう。お茶を淹れに行ったら、着いてきたんだ」
 祭莉の足元から、土わらしの長老がひょこり。
「ちょっとわかった気がする。でも島を作った呪術者がどんな人なのかとか、土わらしがどういう存在なのか、まだわからない」
 杏は空の湯呑を置いて、屈んで長老に向けて口を開く。
「土わらしは、呪術者の人が意図的に作った島の守り神のような存在なのかもって、わたしは思うんだけど……」
『我らは記憶を持たず生まれ、得た記憶ごと島に還る存在ですじゃ』
 杏の推測を長老は否定も肯定もせず、己の知る在り様を杏に伝えた。
「記憶を還す? ……意図的に情報を少なくしてた?」
「ん……そうかも」
 眉根を寄せる小太刀の隣で、杏も首を傾げている。
「気になるなら、またいつでも島に来て調べて貰って構わぬぞ」
 そんな二人の様子に微笑みながら、朔八姫はそう告げて――そうではないの、と小さく呟いて頭を振る。
 そして、顔を上げてこう言い直した。
「また来てほしい。友として歓迎するのじゃ」
「うん! 今度は山吹色のお菓子、作ってくる!」
 言い直した姫の言葉に、祭莉がにぱっと笑って返す。
「あ」
 その一言で、杏は思い出した。
「ま、まつりん。デザー……山吹色のお菓子」
「うん。作って貰ってたから、そろそろ――来ると思うよ」
 急にそわそわし出した杏に、祭莉が苦笑する。
(「山吹色のお菓子とドクダミ茶って、合うのかな?」)
 二人の隣で、小太刀はそんな心配をしていた。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

テラ・ウィンディア
山菜!此処の名物をたっぷりと堪能したいんだぞ!

朔八姫や土わらしとご飯食べるぞ!

この姫様なら美味しいご飯しってそうだしな!

流石に貰ってばかりは申し訳ないからおれもおにぎりシリーズ用意するぞ!


おかか
たらこ
けんさん焼き(解説宜しく!
弁慶焼き(同上!

そしてしおおにぎりだ!

おにぎりは良いぞ!

持ち運びも便利だして片手で食べられる!

ああ、そんな利便性なんぞどうでもいいな!

美味しい!!(ばばん

お姫様のお仕事とかどういうことしているのか色々聞くぞ
後は料理の歴史とかな!

土わらしたちはどんな生活してるんだ?
いつもお姫様と一緒に色々な仕事とかしているのか?
未知との遭遇なので好奇心旺盛に色々聞いちゃうぞ!(子供っぽい



●山菜とおにぎり
「お姫様は、今日の宴会の中で、どの料理が好きなんだ?」
 テラ・ウィンディアの唐突な問いに、朔八姫が首を傾げる。
「キノコにタケノコに山菜に、色々あるけどさ。折角だから、ここの名物をたっぷり堪能したいと思ってな。姫様なら、美味しいご飯も知ってそうだし」
 この宴会の場で一番身分が高いのは、朔八姫で間違いあるまい。
 なら良いものも食べているのでは――テラはそう考えていた。
「そういう事なら、妾の好きな山菜料理をお勧めするのじゃ」
 こっちじゃ、と朔八姫がテラを案内したのは、大きな鉄鍋を持った料理番の前。
「おや、姫。またですかい?」
「うむ。こちらのテラ殿にの。いたどりをと」
「――イタドリ?」
 二人のやり取りに登場した聞き慣れない言葉に、テラが首を傾げる。
「こういうものですよ」
 と、料理番が見せてくれたのは、竹を小さくしたような何か。
 漢字で書けば、虎杖――タデ科の植物である。
 皮を剥いてアク抜きの下処理をしたイタドリを一口サイズに切り分け、ワラビと一緒に醤油と砂糖で炒めた料理がテラの前に出された。
 適当な大きさに切ったちくわと揚げかまぼこも混ざっているのは、朔八姫の好みに合わせてだろうか。
(「そう言えば、かまぼことかも好きなんだっけ」)
 そんな事を思いながら、テラはまずそのイタドリを一口。
「お?」
 硬すぎず、シャキシャキとした歯応え。
 ちくわや揚げかまと一緒に食べても、歯応えの違いがむしろアクセント。
 甘辛い和風の味付けも良く合っている。
「なるほど……これはおにぎりが欲しくなるな!」
 言うなり、テラはしおおにぎりを取り出すと、虎杖の炒め物を載せて頬張った。
 おにぎりの塩気が炒めものを引き立て、炒めものの味が米の味を引き立てる。
「うん。美味い!」
「白飯ではないのかの?」
「白米のおかずにする方が多いですねぇ」
 テラの口を突いて出た言葉に、朔八姫も料理番も首を傾げる。
「ああ。白飯も合うと思うぞ。だけど、おれは断然おにぎりだ。おにぎりは良いぞ!」
 そんな二人に、テラが拳を握って語りだす。
「まず持ち運びが便利だ! それに片手で食べられる! いや。そんな利便性なんぞどうでもいいな! 美味しい!! これに尽きる!」
 炎の技を振るうテラであるが、何やらおにぎり好きの魂にも、火が付いたようで。
「貰ってばかりじゃ悪いと思ってたんだ! 是非食べてくれ」
 テラが取り出したのは二つの細長い入れ物。
 蓋を開けばそれぞれに、様々なおにぎりが詰まっている。
「こっちの入れ物は順番に、梅、おかか、たらこ、のおにぎりだ」
 具材を白米で包み込んで海苔を巻いた、よくあるタイプのおにぎりだ。
「おかかはこの辺りでも良く食べるのじゃ」
「鰹節はよく使いますね」
「でも、こっちの二つのおにぎりは見たことないんじゃないか?」
 おにぎりを見て頷く朔八姫と料理番に、テラはもう一つの容器を指す。
 そこにあったのは、何やら色の違うおにぎりが二つ。
「まずはけんさん焼き。戦場で、剣の先におにぎりを指して炙って作ったって言われてるから剣の先――けんさんだ」
 付けてあるのは、生姜と味噌を和えた生姜味噌。
「こっちの弁慶焼きは、甘辛い味にした味噌をたっぷり付けて、青菜で包んで炭火でじっくりと焼いたおにぎりだぜ」
 青菜の代わりに、大葉を使う地方もあるとか。
「あ、妾こっちのけんさん、好きじゃ」
 けんさん焼きをモグモグ食べる朔八姫。
「な? おにぎりもいいだろ。おれはしおおにぎりが一番だけどな!」
 その顔を見ながら、テラは改めてしおおにぎりを頬張るのだった。

大成功 🔵​🔵​🔵​

ベルベナ・ラウンドディー
いやあ代官は強敵でしたね
城はだいぶ荒れてしまいました
でも今は、そんなことはどうでもいいんだ
(爆弾使ったやつが誰とか)重要なことじゃない


…薬師殿
なぜ私は盗人の疑いにかけられ縛られてるのでしょう…?(じたじた
そもそも目撃者いないのに御用とか不躾すぎません?略してそげぶそげぶ



というわけでシラを切りつつ嫌味を垂れ流し、宴会を眺めています
意地でも持って帰ろうとします
あーあ!隠し通路見つけたの私なのにな!功労者なのにな!
あーあ!庵に潜入したの私なのに!あーあ!あーあ!(じたばた
知りませんよ
私知らないもん
備前の古壺とか丹波の花瓶とか私知らんもん
ちゃんと穴の中に隠しておいたし!




……ッは!?(以下言い訳



●宴もたけなわではありますが
「いやあ代官は強敵でしたよ」
 しみじみと。そう、しみじみとベルベナ・ラウンドディーが呟く。
「でも今は、そんなことはどうでもいいんだ」
「左様ですな。何やら爆発物が使われた跡がありますが、それで城が吹き飛んだわけでもないですし」
 ベルベナの言葉に頷いたのは、隣に佇む老爺――あの庵で出会った薬師である。
「そうそう。爆発物を誰が使ったかなんて、重要なことじゃないですよ」
 自分が使った事を棚にあげ、ベルベナは薬師に語りかける。
 実際、そんな事より重要な問題が、ベルベナの両手にかかっていた。

「……薬師殿。なぜ私は盗人の疑いにかけられ縛られてるのでしょう……?」

 そう。宴の席の片隅で。
 ベルベナは何故か、縄に縛られているのである。
 疑いは、たった今本人が口にした通りの罪状であった。
(「何とか疑いを晴らせないものですかね」)
 じたじたともがきながら、ベルベナは頭の中で思考を巡らせる。
 この程度の縄、ベルベナほどの多彩な技能を持つ猟兵ならば、抜け出して逃げ出すのも難しくない。
 だが、そうしないのは――。
(「あの回収した骨董品は、意地でも持って帰りますよ!」)
 わあ、物欲。
「そもそも目撃者いないのに御用とか不躾すぎません?」
「証拠ならあるのですよ」
 じぃっと横目で訴えるベルベナに、薬師はさらりと言い返す。
「地下で見つかった足跡に、貴方の足跡と酷似したものがありましてな」
「そりゃ、地下は通りまし――」
「角」
 シラを切ろうとするベルベナを遮って、薬師が短く告げる。
「壺が埋まっていた上に、角の跡もありましたぞ?」
 薬師の一言に、ベルベナは思わず押し黙ってしまった。
 そう言えば今回関わった猟兵に、角を持ってるの他にいなかったような。
「そげぶそげぶ」
「なんですかな、その言葉は」
「……私の故郷に伝わる呪文のようなものです」
 今度はベルベナの方が、訝しむ薬師の横目から視線を外す。
(「角もシラを切り通せるとは思いますが……路線を変えてみますか」)
 そう腹を決めたベルベナは、すぅっと息を吸い込んで。
「あーあ! 隠し通路見つけたの私なのにな! 功労者なのにな!」
 愚痴と嫌味を垂れ流すことにした。
「あーあ! 庵に潜入したの私なのに! あーあ! あーあ!」
 じたじたもがきながら、外聞もなく大声を上げる。
「大体! あの風早屋すら宴に混ざってるのに! 何故私が!」
「風早は、盗みは働いとりゃせんのでのう?」
 不満を漏らし続けるベルベナに、薬師は湯呑片手に涼しい顔で答える。
「私だって盗みなんか知りませんよ。知らないもん」
 流石に窮してきたのか、ベルベナの口調が段々投げやりになっていく。
「備前の古壺とか、丹波の花瓶とか、私知らんもん! どっちもちゃんと穴の中に隠しておいたし!」
 投げやりになった挙げ句、ベルベナは口走ってしまった。
「……はッ!?」
 自分が何を口走ったか気づいたが、時既に遅し。
「くっ……涼しい態度で私に自白させるとは。初めてお会いした時から、只者ではないと思っていましたよ!」
 取り繕ろおうとするベルベナだが、色々遅い。
「語るに落ちるとはこの事ですのう。ささ、姫」
「うむ」
 薬師に促され、朔八姫が手にした懐刀を――ぽいっと捨てた。
「備前の壺と、丹波の花瓶で良いのかの?」
「――はい?」
 問われた意味が一瞬判らず、ベルベナの緑の瞳が丸くなる。
「壺や花瓶の一つや二つ、素直に頼んで頂ければ差し上げるのじゃ」
 何やら朔八姫の視線が残念そうになっている気もするが、ベルベナはそこは余り気にせずに、そして迷わず口を開いた。
「じゃあ全部ください」
「壺と一緒に埋めますぞ?」
 調子乗った一言を、薬師に容赦なく窘められたのは言うまでもない。

大成功 🔵​🔵​🔵​

黒夜・天
(ハッピーエンドっぽく幸福が満ちてきたけど、ここでオレの本分を全うしたら普通に他の猟兵に退治されそうだな。生きるためとはいえ、世知辛いなア。まあ、つまみ食い程度にするから、見逃せ)
 しんみりとした雰囲気でタケノコ汁を啜りながら練り歩き、突如適当な空きスペースに屋台を出す。
「さあさあ! 悪代官をかっこよく成敗する英雄たちの絵はいらないか?」
 悪代官に憑りついて取った大活劇の写真を精巧な絵だと言いながら売り始める。
「こっちはクジだな。紐を選んで引っ張って吊り上がった景品をプレゼントだ」
 人を呼び、盛り上げ、ちょっとずつ溢れる幸福を貰っていく。
(金が天下を回るなら、貧乏神だって回らねえとな)



●廻るもの、回すもの
(「ハッピーエンド、ってやつかア。幸福が満ちてやがんなア」)
 宴席に満ちる空気を吸い込み、黒夜・天はしんみりとした表情を浮かべていた。
 一夜の宴の空気は、ベルベナ好みの空気と言える。
 ここで思う存分に幸福を食らったら――きっと美味いだろう。
(「けど、ここでオレの本分を全うするのは――やめといた方がいいよなア」)
 猟兵と言えど、悪事が見つかれば容赦されないのは、緑髪の猟兵が今まさに身をもって実演で示している最中だ。
(「いやまあ……何やってああなってんのか知らんけどな?」)
 それは判らないが、ここで天が貧乏神としての本領を発揮すれば、彼の二の舞になりかねないのは間違いない。
 幸福を喰らい、健康を吸い取り、財を散らす。
 天が喰いたいように喰らえば、代わりに撒き散らされるのは、不幸貧困災い。
(「そこまでやったら、捕まるどころか他の猟兵に退治されかねねえからな」)
 それを許しそうにない猟兵が多いと、天は確信していた。
(「けど、オレも飢えて渇きも覚える。生きるためとはいえ、世知辛いなア。まあ、つまみ食い程度にするから、見逃せ」)
 誰に言うでもなく胸中で呟いて、天は通りすがりに貰ったタケノコ汁を啜りながら城門の外へ出ていった。
 外の城下町でも、やや規模と質を落とした宴が行われていた。
(「さアて……あの辺にするか」)
 天は辺りに転がっていた空き箱を適当に積み重ねて即席の台とすると、バンッとその上を掌で叩いて派手な音を立てた。
「ん?」
「なんだ、なんだ?」
 町人達の注目を浴びて、天の口が少しニヤリと笑みの形に上がる。
「さあさあ! 悪代官をかっこよく成敗する英雄たちの絵はいらないか?」
 即席の台の上にベルベナがズラッと並べたのは、写真である。
 それも、あの、悪代官との戦いの場の写真だ。
 天井裏に隠れている間に、撮影していたらしい。
 しかも、分身が撮ったとしか思えない、悪代官の背後目線もあるんだけど。
「コレが絵なのか? おい、皆見てみろよ!」
「何だこれ! こんな絵、見たことねえぞ!」
「精巧な絵だろ? こいつア特別な術で描いた絵よ。今夜限りしか売れない、特別な代物ンだア! さあ、買った買った!」
 写真を精巧な絵と騙る天の語り。写真ならではの臨場感。
 そして何より、城と島、姫を救った英雄の絵とくれば。町人達のタガが宴で半ば外れていたのもあって、写真は飛ぶように売れていく。
「ねーねー。こっちの紐は?」
「お? クジだが引くか? 紐を選んで引っ張って、吊り上がったものが貰えるぞ。一回は、そうだな――こんなもんでいい」
「それでいいの? やる!」
 写真の隣に並んだ紐に興味を示した子供に、天は巧妙な値を告げクジを引かせる。
 どうせ景品は、山賊からかっぱらったものだ。
 値段なぞ、大した問題ではない。
 天の言葉が人を呼び、盛り上がる場の声がまた人を呼ぶ。
 そうして集まった人々の、宴に酔いて溢れる幸福を、ほんの少しずつだけ頂くのが天の狙いなのだから。
(「金が天下を回るなら、貧乏神だって回らねえとな。まあ、満腹には遠いが、この程度で我慢しとくぜ」)
 金は天下の回りもの。
 財は回る。人々と、貧乏神の間を。

 回るということは、変わる事。
 財が回りなくなれば貧困になるように。

 夜空の星も、人の縁も、運命も。
 全てが回る。変わっていく。
 この一夜の記憶も、やがては今宵を知る土わらしと共に、島に還るだろう。
 島の謎とて、いつまでも謎のままであるとは限らない。
 島の人々と猟兵達の縁も、変わる事もあるかもしれない。
 全ては回り、巡っていく。
 まずは――夜が開けて、朝が来る。
「世話になったのじゃ。島と城のことは父上が戻るまで、皆で何とかしてみせる!」
 笑顔で手を振る朔八姫の後ろには、食えない笑顔の薬師とまだ憮然とした風早屋が並んで、猟兵達を見送っていた。

大成功 🔵​🔵​🔵​



最終結果:成功

完成日:2019年06月20日


挿絵イラスト