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ティターニア

#アックス&ウィザーズ

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#アックス&ウィザーズ


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「出して! 出してよ!!」
「おかあさぁああん!」
 小さく、そして悲痛な叫びが湖の畔にこだまする。
 月のない夜。闇に紛れて悪党に襲われたのは、妖精たちの住処。悪党どもは、捕らえたフェアリーをその場で“選別”しながら、ひとりずつ透明な容器に押し込めていった。
「こいつはまあまあだな。高く売れる」
「おい、誰だ、翅を傷つけたのは。これじゃ売りもんにならねェだろうが!」
「まァいいって。キズモノはキズモノで別ルートに捌きゃいい」
「チッ。実験用なんて、二束三文もいいとこだぜ」
 フェアリーの『密猟』――と表現するには、あまりにもあけっぴろげなやり方だった。ドスの効いたがなり声で交わされる下卑た会話。その隙間から漏れ出る妖精たちの嘆き。身形の汚れた男たちがカンテラを持ち寄って小さな身体を舐めるように品定めをする光景は、湖の対岸からもはっきりと見えるほどだ。
「――おっ。こいつ、珍しい翅を持ってやがる」
「ちょうど欲しがってた金持ちがいただろう。吹っ掛けようぜ」
「やめて! 放してよッ!!」
「うるせえ! 大人しく瓶詰になってろ、羽虫野r――!!」
 抵抗するフェアリーの身体を乱暴に掴んだ悪党の横っ面を、黒い影が弾き飛ばした。
「うるさいのはそちらじゃ、たわけ。フェアリーを捕らえるくらいで大騒ぎするでない」
 悪党どもの背後から現れたのは、赤いドレスに身を包んだ幼い少女。カンテラの灯に金の髪が照らされている。細い身体をこれでもかとふんぞり返らせて、少女は続けた。
「このベルちゃん様がせっかく妖精狩りの穴場を教えてやったのじゃ。わざわざ騒いで目立つような真似をするな」
 にゃあん、と少女の足元で黒い影が鳴いた。張り倒された悪党が、自分の頬をさする。三本の蚯蚓腫れから血が滲んでいた。
「むっ!?」
 少女はカンテラに照らされたフェアリーを覗き込んで、目を輝かせた。
「おお……! この真珠色に輝く翅! 素晴らしい!! ベルちゃん様がもーらった♪」
 河原で綺麗な小石を見つけた無邪気な子供の表情で、怯えるフェアリーに手を延ばす。
「困るぜ、嬢ちゃん。そいつは今日の一番の獲物だ」
 一人が少女の前に割り込んでその手を止めようとすると、愛らしい無邪気な顔がすぐさま鬼の形相に変わった。
「痴れ者がッ!!」
 悪党の間に動揺が走る。少女を止めようとした男が無言で草叢に倒れ伏す。その首からは細い煙が上がり、頭は跡形もなく消し飛んでいた。
「気安く呼ぶなと、何度言うたらわかるのかの。……薄汚い畜生どもが」
 ――にゃあん。暗闇で猫の声がした。


「妖精狩りを阻止してほしい」
 集まった猟兵たちを前に、アレクサンドラ・ルイス(サイボーグの戦場傭兵・f05041)が端的に要件を述べる。そして大きな湖の画像をスクリーンに投影した。
「アックス&ウィザーズの、山中にある湖だ。ほとんど知られてはいないんだが、この周辺にはフェアリーの集落が点在している」
 かつてこの湖の畔に外部との接触を嫌った一族が住み着いて、少しずつ数を増やしているのだという。生活様式も、家を建てて街を開くような暮らし方ではなく、草陰や木の上にひっそりとした住まいを構え、自然と共に生きることを尊重したスタイルだ。だからこそ、その集落の存在を知る者はほとんどいなかったはずなのだが――。
「この一帯が『妖精の穴場』だと気づいた奴がいてな。フェアリーたちをとっ捕まえて売り捌こうって密猟団に狙われちまった。もう既に二、三箇所はやられてる」
 小さく美しい種族の悲しい運命なのだろうか。彼らは抵抗する術もなく、宝石や美術品をコレクションするのと同じように扱われ、アックス&ウィザーズの世界中に散り散りになってしまう。
「フェアリーって連中は、確かに綺麗だと俺も思うがな」
 アレクサンドラは小さく溜息をつく。この五十絡みのいかつい男から「綺麗」という言葉が出てきたことに、何人かの猟兵は驚いたかもしれない。
「――だが、奴らにだって俺たちと同じように家族や友人がいて、生まれ育った土地と日々の暮らしがある。綺麗だからって何もかもを取り上げられていい訳がない。そうだろう?」
 その問いかけに、猟兵たちが頷いた。
「密猟者の取り締まりってだけなら俺たちの出番じゃあないが、どうもオブリビオンが後ろで糸を引いてるらしくってな。お前らに出動してもらおうってわけだ」
 アレクサンドラが視たものは、二つ。フェアリーを密猟する集団と、それを牛耳っているオブリビオン。
 密猟団は、ありふれた盗賊崩れの悪党だ。金になるような後ろ暗い仕事であればだいたいのことはやっている。だが戦闘になったところで猟兵に敵う者はいないだろう。
 オブリビオンは黒猫を連れた幼い少女の姿をしている。フェアリーが潜んでいそうな場所を見つけるのが得意で、捕獲方法なども細かく指示を出しているらしい。ただしかなり傲慢な性格で、基本的には密猟団に仕事のほとんどを任せきりにしているようだ。そうして捕らえたフェアリーの中から気に入った者を見つけては自分のコレクションに加えている。市場価値のある個体を真っ先に選んでしまうため密猟団も困ってはいるようだが、逆らえば簡単に殺されてしまうので目を瞑っている状況だ。
「最初は『便利な情報屋が現れた』程度に考えていたんだろう。――だが、気付いた時にはズブズブだ。今じゃ逆らうことも逃げることもできずに、オブリビオンの言いなりになるしかなくなっている」
 簀巻きにして当局に突き出してやるのも、ある意味では救いかもな。と、アレクサンドラは、彼にしては『慈悲の笑み』とも言うべき表情を浮かべた。
「まずはこいつらを追い払うかとっ捕まえるかして、フェアリーたちの安全を確保しよう」
 猟兵に敵う力量ではないが、連中にも裏家業の経験値がある。リスクを察知したら逃げられる可能性は高いだろう。そうならないように、まずは一計を案じなければならない。
「そうしたら騒ぎを聞きつけた悪ガキが駄々を捏ねにやってくる。その悪ガキのケツを思いっきりひっぱたいてお仕置きしたら、ミッション・コンプリートだ」
 右腕に輝くグリモアを掲げ、アレクサンドラは言う。
「準備はいいな? ……よーし。野郎共、行ってこい!」


本多志信
 本多志信(ほんだ しのぶ)です。
 よろしくお願いいたします。

 ■第1章:冒険『妖精密漁業者』
 ■第2章:集団戦『???』
 ■第3章:ボス戦『我侭王女ベルベット』

 第1章では、フェアリーを密猟する悪いオジサンたちをやっつけましょう。
 基本的にはフェアリーたちの無事が確保できればOK、というような基準で判定させていただきます。どんな方法を採るかは、PSW別の選択肢関係なく自由に考えて楽しんでいただければと思います。(※密猟の現場のみでシナリオが進みます。売買取引の現場を押さえる等は今回はできません)
 プレイングの内容は最大限好意的に解釈しますが、判定はしっかりめ(ダイスがんばります)、という感じで進める予定です。ご了承ください。
 【技能】はプレイング送信時のステータスを総合的に参照しますので、全部書かなくても大丈夫です。プレイングには「これを使って活躍したい!」という1つ2つ程度を盛り込んでください。
 第1章をクリアすると、ボスである“ベルちゃん様”が登場します。語尾のじゃ強気少女、かわいいですね。――が、ベルちゃん様は自分では戦わずに、まず手駒に戦闘を任せようとします。第2章ではこの手駒を撃破してください。
 各章に入るタイミングで必要な情報を追加していきますので、どうぞよろしくお願いいたします。

 それでは、皆様のご参加をお待ちしております。
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第1章 冒険 『妖精密漁業者』

POW   :    フェアリーを捕獲するところを待ち構えてやっつける

SPD   :    拠点を見つけて囚われたフェアリーを開放する

WIZ   :    売買する場所を押さえてやっつける

👑11
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種別『冒険』のルール
「POW・SPD・WIZ」の能力値別に書かれた「この章でできる行動の例」を参考にしつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。

ニトロ・トリニィ
確かに、フェアリーって綺麗だよね。
でも… フェアリー達だって生きているし、感情だって持っているんだよね。
それを物扱いするなんて… 許せないよね!

さぁ、密猟者のオジサン達… 狩られる準備は出来たかな?

【行動】
相棒のプリースト・サーベルタイガーと一緒に密猟者達を死なない程度に懲らしめるよ!
相棒には、持ち前の俊敏な動きと〈野生の勘〉で密猟者達を翻弄しつつ、刃を取ったチェーンソーや爪で攻撃してもらおう!
僕はその間に、《念動力》を使いフェアリー達の安全を確保しつつ、怪我をしている様であれば〈礼儀作法〉で安心させて、〈医術〉を使って治療してみるよ!

アドリブ歓迎です!


無明・緤
【WIZ】
「キラキラ輝いて蠢く何か」を封じた
不透明な袋を沢山下げて同業者を装い、敵の油断を誘った上で
密漁現場に灯るカンテラの光を目印に悪党と接触しよう
よう、お前らも妖精狩り?

質の良い妖精がいたら一匹売って欲しいと
金をちらつかせて相手の欲を【鼓舞】し
売る前の妖精がいる拠点へ連れていって貰えるよう交渉
我儘な主に取られる前に買い手のつく方が有難い筈だ

拠点に潜入成功、又は
身包み剥ごうと襲ってきたら袋を開いて戦闘
中身はUC【エレクトロレギオン】の機械兵器さ
【操縦】技術で妖精を傷つけないよう容器のみ壊して解放する傍ら
悪党を攻撃、死なない程度に懲らしめてやる

お前たちにもあるんだろ。家族とか、暮らしってヤツが


アーデルハイド・ルナアーラ
 フェアリーを捕まえて売りさばくなんて許せない!
 ぶっ飛ばして官憲に突き出してやるわ!
 フェアリーの集落に滞在して密猟者が来るのを待ち伏せしましょう。見つけたら「怪力」で殴る蹴るの暴行を加えてやっつけるわ。(死なない程度に)。
逃げようとする奴がいたら「ライトニング・エンチャント」でスピードアップして雷の如き速度で追いかける。
 怪我したくなかったら神妙にお縄に着きなさい!


ルトルファス・ルーテルガイト
(※アドリブ、連携歓迎)
…卑しい連中め、同じ様に生きる妖精を愛玩と勘違いしているのか?
…その盗賊共も、頭領の悪餓鬼も…まとめて仕置きせんとならんな。
(一層険しい目をする精霊剣士の姿がそこにある)

(行動方針)
…密漁現場は湖の近くだったな、なら都合よい媒体があるな。
…現場の近くの湖の水を媒介に、【エレメンタル・ファンタジア】を展開。
…発動するのは勿論【水の津波】、これを盗賊共にぶつける。
…妖精に気を取られて足元が留守な盗賊共なら、津波に足を取られて被害を受ける、だが津波を警戒すれば…その隙に妖精は逃げていくだろうな。
…盗賊共に加減はしない、【全力魔法】と【高速詠唱】で一気に行かせてもらう。


パティ・チャン
【POW】
私単独なら、確実に捕獲対象になって、返り討ち確定なので、ここは仲間との行動を心がける
なお、捕まえるのは難しそうなので、なおのこと協力をお願いします

自分自身を囮、とし、密漁団をおびき寄せる
(【誘惑】発動。装備品は【物を隠す】で一旦隠す)
※密漁団の数がまとまる(5~6人程度)
※フェアリー族への危害が及ぶ恐れがある
までは、猟兵とバレぬよう、ただのフェアリー族として逃げ
(ここに住まっているフェアリー族からの注意を逸らす)
輝ける刀刃を、【2回攻撃、なぎ払い、鎧砕き】のせで展開

猟兵と、近衛騎士団・チャン一族の名において、抗います!
この剣や私は、人を守る為に存在するのですよ。

※アドリブ歓迎


逢坂・宵
ザッフィーロ君(f06826)と

……これは、なんとも見過ごせない事件ですね
コレクションのつもりの人身売買とは、人間の負の側面を見ているようです
おいたをする人間たちはひとり残らずお灸を据えて差し上げましょう

『地形の利用』で賊を隠れて待ちつつ
賊が来たなら『おびき寄せ』て
賊の対処はザッフィーロ君にお任せしましょう
僕は大丈夫ですよ、きみこそ怪我はしていませんか?
洗脳した賊から情報を吐かせれば仲間に共有
賊はアジトへ帰らせてそれを『追跡』しましょう
アジトを発見して攻略したなら妖精たちの救助にあたり
『医術』で負傷者の対応をしていきたいところです
僕たちが来ましたからもう大丈夫ですよ ご安心ください


ザッフィーロ・アドラツィオーネ
宵f02925と

宝石や美術品をコレクションするのと同じように…か
本当に人間の収集癖は留まる所を知らんのだな

宵と共に湖付近の地形を事前に把握
見つかりにくい場所にて賊が来るのを待ち伏せよう
賊の姿を捉えれば宵がおびき寄せてくれた賊に『忍び足』で近づきメイスにて『気絶攻撃』を行おうと思う
…宵、怪我はせんかったか?
俺は平気だが…作戦とはいえすぐ庇いに行けぬ距離迄離れると落ち着かんな

その後は【赦しの秘跡】にて洗脳 敵の人数や情報、アジトの場所を吐かせよう
その情報は他に依頼に来ている仲間と共有し、伝えた後は洗脳した賊にアジトへ帰る様言いつけ宵と『追跡』
捉われて居る妖精が居るならば『救助活動』していくつもりだ





 いかに美しいからといって、――いや、たとえ美しくなかったとしてもだ。平和に暮らしているはずのフェアリーたちを無理矢理捕らえて売り飛ばす、その非道さに猟兵たちは義憤を燃やしていた。彼らの多くは密猟者に先んじて、次のターゲットになると予知された集落の周辺に身を潜ませた。
「……それにしても、フェアリーたちの姿が見当たりませんね。この辺りを住処にしていると聞いたはずなのですが」
 猟兵の一人が低くした声で疑問を口にする。
「連中も杜撰な狩りをしていたようだからな。警戒はしているのだろう」
 予知に拠れば、密猟団は人目にはつかぬはずと油断してか、かなりおおっぴらに悪事を働いていたようだった。フェアリーたちの集落はそれぞれ距離を保って形成されていたが、『湖の周りが騒がしい、何かが起こっている』ということぐらいは他のフェアリーたちにも伝わり始めていたのかもしれない。そこに加えて、見知らぬ人間たち――猟兵の登場だ。彼らにとっては救いの神ではあるのだが、それを判断する術は彼らにない。きっと、じっと息を潜めてこちらの様子を伺っているのだろう。
「――ま、それでいいさ。下手に余所者に心を開きすぎても危ないってモンだ」
「そう……、かもしれないね。もともと静かに暮らしたくてここに住み着いた人たちなんだし」
 繁みの中に身を伏せた白い猛獣の額を撫でて年若い猟兵が言ったその時、湖とは反対の方から荒っぽい足音が聞こえてきた。猟兵たちが咄嗟に気配を消して様子を見守っていると、草を乱雑に切り払う音に続く、舌打ち。
「チッ。ハズレかよ」
「一匹も見当たらねェな。あのガキ、嘘を教えやがった」
「その辺に隠れているのかもしれない」
「何にせよ羽虫一匹持ち帰れなけりゃ、俺たちは嬲り殺しだぜ……」
 苛立つ声で密猟者たちが話す声が聞こえた。オブリビオンの情報に従ってこの場所を訪れたものの、目当ての獲物が見当たらない。騙されたのか、そろそろ潮時だ、とオブリビオンへの不満を露わにする者、いや、成果を持って帰らねば命はないと怯える者。悪党どもの足並みが乱れ始めている。
「……焼き払うか」
「翅が焦げたら売りもんにならねェぞ」
「知るかよ。炙り出せばさすがに一匹くらいは捕まえられるだろ」
 ――そうすれば少なくとも殺されずに済む。言葉には出さずとも、悪党たちはその場しのぎの最適解にしがみつくことを決めた。
 彼らにもう少しの知性があったならば、それが最悪の方法であることは容易に想像ができただろう。湖を囲むように広がる森、その一か所に火を放つだけでどれほどのものが失われるか。その失われるものの中に彼ら自身の命さえ含まれることすら、オブリビオンによる恐怖に支配された彼らには理解できていない。目先の命惜しさに、その最悪の方法が選ばれようとしていた。
「……まずいな。ここで仕掛けるか」
「待って。ここで戦えばフェアリーたちが巻き添えになるわ。まずはこの場から引き離しましょう」
「では、私が囮に。援護をお願いします!」
 目配せと最小限の言葉で猟兵たちは素早く作戦を構築する。さあ、ミッション・スタートだ。



「いたぞ、妖精だ!」
「捕まえろ!」
 湖畔の一角で歓喜を帯びた嗄れ声が上がる。
 密猟者の視線の先、カンテラの灯が届くか届かないかの距離現れたのは、空色の妖精。異国情緒の漂う衣装がこの一帯に住まう一族とは別種のフェアリーであることを伺わせたが、そんな些細なことは彼らにはどうでもよかった。こいつを捕まえさえすれば、首の皮一枚のところで助かる。いや、首の皮一枚ごときでは実際のところ全く助かってはいないのだが。
(――そうそう、そのままこっちに来てくださいね)
 悪者に追いかけられ必死に逃げ惑っているフリを装って右へ左へと誘うように飛ぶ。あと少しで届きそう、というギリギリを摺り抜けることによって、パティ・チャン(月下の妖精騎士・f12424)は密猟者たちをこの場から引き離そうとした。事実、連中のうち何人かは目を血走らせて今にも突進してきそうな勢いだ。
「ばかやろう、全員でかかってどうする。一匹いたんだ、探せばもう何匹か出てくるだろう」
 髭を短く刈り込んだ男が声を張り上げた。その顔には皺と傷が刻まれ、髪と髭には白いものが混じっている。
(……彼がこの密猟団の頭目かしら)
 ならず者たちを翻弄するパティを見守りながら、アーデルハイド・ルナアーラ(獣の魔女・f12623)は思考を巡らせる。しかし、この一団はオブリビオンに乗っ取られたも同然のはずだ。であるならば、本来の頭目は既に殺されている可能性が高い。
(やくざ者の末路なんて、どこの世界でもきっと同じでしょうね)
 暴力に頼る者は、いずれ暴力に葬られるのだ。彼らの置かれた境遇に一抹の憐れみを感じつつも、結局は自業自得であると結論づける。だが猟兵の一人として、またグリモアを抱く者として、それをオブリビオンの毒牙にかかってもいいという理由にはしておけなかった。
(――だったらせめて、私がぶっ飛ばして、当局に突き出してあげるわ)
 パティに誘われて湖岸から離れていく賊を、アーデルハイドも密かに追った。

 ――三人、いや四人。悪党どもが誘き出されてくれただろうか。小さくなっていく影をパティたちとは別の場所から見送りつつ、逢坂・宵(天廻アストロラーベ・f02925)は場に残った男の数を数える。密猟団をまとめる初老の男を含めて、八人。残った猟兵で相手取れない数ではないが、争いの規模を徒に大きくしたくはない。もう一手、押しが必要だ。
「僕の出番ですね」
 藪に身を潜めたまま、手に携えた宵帝の杖をちらちらと揺らしてみる。男たちのカンテラの灯が微かに届いて、杖の飾りがわずかに煌めいた。
「うん。これで行けそうだ」
 そうして一瞬だけ、更に離れた場所に立つ木の影へ目線を遣る。
「……ふふ」
 そこで機を待っているはずの相棒が、傍らを離れていくときに見せた表情を思い出して笑みが零れた。

「おい、見ろ。あそこにも出たぞ」
「よし、お前らであれを確保しに行け。俺たちはもう少しこの辺りを探す」
 暗闇の中、きらりと光る何かが浮遊するのに気付いて、数名の男たちがそれを追った。か弱く明滅しながら漂う光は、確かに妖精のようにも見えた。
(――うまいぞ、宵)
 自らが潜む木陰へ近づいてくる光と男たちを待ち構えながら、ザッフィーロ・アドラツィオーネ(赦しの指輪・f06826)は明星の名を冠したメイスを構える。
 ……別に、俺は平気なのだ。
 不意に、そんな言い訳が頭を過ってメイスを握る手に力が籠る。
 きっとあの星の陰陽師は、自分が情けない顔をしてしまったのをしっかり見ていただろう。この宵闇の中でさえ。
(俺が、離れて不安なわけではない)
 ただ、彼に何かあってもこの距離では守れないから。それだけなのだ。

 囮役を買って出た仲間たちの作戦によって密猟者たちが二方向に分かれて離れていく。留まって妖精を探し続けているのは僅かな人数になった。
 湖畔近くの草陰には、ルトルファス・ルーテルガイト(ブレード・オブ・スピリティア・f03888)とニトロ・トリニィ(楽観的な自称旅人・f07375)、そしてニトロのバディペットが身を隠していた。ニトロは自分のサーベルタイガーに自分の身体を伸ばして覆いかぶせるようにしている。真っ白なサーベルタイガーの毛皮が闇の中で浮き上がってしまうのを防ぐためだ。
「……便利な身体だ」
 ほんの少し薄っぺらくなって表面積を増やしているニトロの黒い身体を見て、ルトルファスが呟く。ニトロは、自分の身体を任意の形状に変化させることができるブラックタール種族だった。彼が身に纏っている衣服も、実は彼の身体を変形させて記憶に残る誰かの持ち物を模しているに過ぎない。それが微かな記憶であったとしても、ニトロには自分を知るための得難い手がかりのひとつなのだった。
「あは、こういう任務だと特にそうかもね」
 人懐こい表情でニトロが答える。過去のほとんどを失くした少年は、しかしその楽観的な性格故に前に進むことを選んだ。
 本当はルトファルスの方がわずかに年下なのだが、彼の落ち着いた口調や大人びた佇まいとニトロの親しみを感じさせる話し方が、その関係を逆転させて見せていた。
 大人しく伏せたままのサーベルタイガーを見て、ルトルファスは「まるで大きな猫だ」と思う。が、それは言葉にせず、外套の襟に口許を埋めた。故郷の――父と母の匂いがする。世界を蝕む過去に喰われてしまった、大切なものたち。赤褐色の外套だけが、ルトルファスに残された絆だった。
 己の辿るべき路を失くしたという点では、二人の間に違いは何もなかった。
 その時、湖を背にして右手の奥から怒鳴り声が聞こえた。それに呼応するように、左手の木立の中でも鈍い呻き声がする。
「……始まったようだ」
「うん、僕たちも行こう」
 ニトロが合図をすると、白い獣は牙を剥き出して低く唸った。

 後方で繰り広げられる戦いの気配に、黒猫の少年が耳を向けた。
「頼んだぞ、皆」
 自分の背丈よりも少しだけ小さい麻袋をいくつも背負って、無明・緤(猫は猫でしかないのだから・f15942)は立ち止まることなく森の中を走る。その麻袋の内側からはちらちらと光が漏れていて、絶えず中で何かが蠢いていた。――まるで妖精が中に捕らえられているかのように。



 左に軽く身を振った反動で右へ大きく飛ぶ。翅のわずか先を掠めた虫取り網が生んだ一陣の風に煽られて、パティは体勢を大きく崩した。
「う……わっ」
 そこへ下から別の網が襲い掛かる。些か知性に欠けるとはいえ、敵も荒事には慣れたもの。仲間が作った隙を的確に突いてきた。白い網に動きを封じられ、パティは囚われの身となってしまった。
「よっしゃあ、一匹捕まえた!」
 中で暴れる妖精が逃げぬようにと網の口を閉じ、密猟者が鼻息を荒くする。
「手古摺らせやがったな、この羽虫は」
「へっへ、これだけ活きが良ければ買い手もつくだろうさ」
 妖精を狩れなければ命がない、と焦りの色を浮かべていたのもどこへやら、悪党どもは早速狸の皮算用を始めた。生きるか死ぬかの綱渡りを強要されて尚、手に入れられる金が現実味を帯びれば死への恐怖も吹き飛んでしまう。フェアリーには、それほどの価値があるのだろう。
 ――だが。
(どれだけのお金を積んだって、誰かの命や人生に対価を払うことなんかできない……!)
 唇を噛みしめて、パティは隠し持っていた細剣の柄に手をかける。距離は十分に稼いだ。反撃は今だ。すらり、と光る刀身が鞘から顔を覗かせたその瞬間、
「せぇぇええい!!」
 闘気を籠めた雄叫びを上げて、アーデルハイドが藪の中から躍り出た。人並外れた速度でそのまま力任せに悪党へ殴りかかり、義憤と共に拳を叩きつける。
「罪もないフェアリーたちを捕まえて売り捌くなんて、許せない!」
「ぐえっ!」
 不意を突かれた男は苦悶の声を上げながら吹き飛んだ。雷を纏ったアーデルハイドの拳が見事に顔面を捉えている。ユーベルコードで加速させた一撃だった。おそらく鼻の骨が折れただろう。
 呆気にとられていた仲間たちも、すぐに態勢を整えて凄味を利かせた。
「おう、なんだネエちゃん。妙なことしてくれるじゃねェか」
 不意を突かれはしたが相手は女一人、そう侮ってアーデルハイドを取り囲む。しかし猟兵たるアーデルハイドがそれしきで怯むはずもなかった。斜め後ろから下卑た笑いを滲ませて掴みかかろうとする男に、一瞥もせず右脚で後ろ蹴りを食らわせる。蹴り出した脚を腹に引き付け、それを地面に下ろすと共に身体を捻ると、回転する勢いと共に今度は左の脚を天高く振り上げた。
「う、……げぇっ」
 鳩尾を痛打された男は胃袋の中身を草叢にぶちまけて呻いていた。アーデルハイドの瞳は今度こそ相手の姿を視界に入れる。そしてその延髄目掛けて踵を振り下ろした。
「死にたくなかったら、おとなしくすることね」
 白目を剥いて倒れた男の身体を片脚で踏みつけて身柄を拘束する。
 突如現れた訳の分からない女に、あっという間に仲間二人を伸された。その屈辱に男たちは怒りを爆発させた。
「てっ、てめえ……っ」
「ブッ殺してやる!」
 腰に下げた剣を抜き、距離を詰める。
「……男って本当にバカね」
 呆れた顔でアーデルハイドは溜息を吐いた。自分が今置かれている状況よりプライドの方が大事だなんて。オブリビオンの言いなりになるよりも牢屋にブチ込まれた方が長生きできると思うけど?
「うるせえッ! そんなに喋りたきゃ、その口ィ切り裂いて広げてやるぜ!!」
「どーぞ」
 アーデルハイドは悠然と笑みを浮かべて男たちの向こうを見ている。彼女のしなやかな髪のように細い光が鞘から解き放たれるのを。
「できるものならね」
「……っ!!」
 不敵に笑うアーデルハイドに、彼らは何も言い返すことができなかった。気が付いた時には、目の前に先刻捕らえたはずのフェアリーの背が見える。掌ほどの小さい、空色の翅。しかしそれが放つ圧は、自分よりも遥かに大きい。
「ク、ソ……っ、おま……ら、……ったい……」
 男は、己が満足に息を吐くことすらできないことを知った。得体の知れない光の刃。小さく無力であるはずのフェアリーの、その手に握られた細い剣。どういうわけかは知らないが、その剣に自分は斬られたのだと、誰に言われるでもなく悟る。
 そのフェアリーは振り向きながら静かに名乗った。
「私はパティ・チャン。猟兵と、近衛騎士団チャン一族の名において抗います!」
 ――知らねェ、そんな名前は。
 崩れ落ちながら、男は思う。なんだ、それは。だが――、
 パティと名乗るフェアリーは、ゆっくりと振り向く。いや、ゆっくりと振り向いているように見えるだけだ。そして再び光の刃を振りかぶった。
 ――知らねェが、確かにその剣捌きと剣圧は並みじゃない。
 二振り目の光の波に呑まれながら、男はそう思った。



 ぬぅ、と闇の壁から生えるようにして現れた猛獣に、密猟者たちはたまらず腰を抜かしていた。いかに腕っぷしに覚えがあろうとも、至近距離で虎に睨まれて平気な人間はいない。ましてこの虎は、普通の虎に比べてやたらと犬歯が長い。口から剣でも生やしているのかと思うほど、アンバランスだった。その虎が、重たそうな牙のついた首をもたげて今にも飛び掛かろうと構えているのだ。
「ひ……ッ」
「……オジサンたちも、狩られる準備はできたかな?」
 獣の傍らで、ニトロが密猟者たちに問う。その青い瞳に湛えた哀れみは、彼らに向けたものではない。物扱いをされ、狩られてきたフェアリーたちへの感情だった。
「確かに綺麗な種族だ。でも……フェアリーたちだって生きているし、感情を持っているんだ。オジサンたちが、この子を怖がっているみたいにね」
 一歩、また一歩と距離を縮める。このままなら手荒な真似をせずに密猟者を捕らえることができるかもしれない。そう思った矢先に、年嵩の男が動いた。
「ナメるんじゃねェぞ、ガキが!」
 剣を抜き斬りかかってきたその男を、ニトロとサーベルタイガーは左右に分かれて躱す。
男は小さく舌打ちをして、他の連中に発破をかけた。
「おい、てめえら! そこでチビるのは構わねェが、どのみち生きちゃおれないぞ」
 言われて、男たちはハッとした顔で剣を抜き立ち上がった。ここで大人しくお縄になったところで、あの気紛れな小娘が自分たちに報復しないとは限らないのだった。使えないと思われればこの首など容易く吹き飛ばされるだろう。――他の仲間たちと同じように。
 死にたくなければこの場を切り抜けるしかない、と悟った悪党どもは腹を据えて猟兵たちと対峙した。
「ついでの土産だ。そいつも狩って、毛皮を高く売り捌いてやるよ」
 白い虎を顎で指し、間合いをはかる。サーベルタイガーも啖呵に応えるように唸り声をあげた。
「……卑しい盗賊どもめ」
 一際険しい眼差しで、ルトルファスは吐き捨てた。美しいものを、ただ「もの」としてしか見ることのできない者たちへの嫌悪がそこにあった。
「狩って手に入れたところで、それが持つ美しさのひとかけらでしかない。虎もフェアリーも、愛玩物ではないのだぞ」
「知るか、クソガキが!」
 苛立ちの滲む太刀筋で男が突進してくる。ルトルファスは自分の剣を抜き、それをいなした。残る男たちも武器を振りかぶって獣じみた叫びをあげ、草むらごとルトルファスを切り払おうとする。一歩下がって一重のところで躱し、ルトルファスは黒い刀身を左下から斜めに切り上げた。力いっぱい剣を振りぬいた男の、脇腹が空いている。
 だが、別の男が飛び込んできてその逆袈裟を脛当で防いだ。
(……大した度胸だ。さすがは盗賊、伊達に場数は踏んでいないか)
 無謀にも見える力技に、ルトルファスは感心した。形式ばった剣術とは違う、実戦的な戦い方だ。味方同士の呼吸も合っている。こいつらを剣の技だけで打ち負かすのには骨が折れるだろう。――ならば。
「ガオオォォオオ!!」
 本物の獣の咆哮が空気を震わせた。サーベルタイガーが敵に突進し、その牙を振り回した。猛獣相手には悪党どももさすがに怯む。
「……まだ見つからないか」
「がんばってはいるんだけど」
 草の根元、木の俣、草むらの中。敵の刃を躱しながらニトロは必死に探していた。ここには本当にいないのかもしれない。そう思いかけたとき、岩陰から覗く小さな人影を発見する。
 フェアリーだ。この土地に住んでいる一族に違いない。静かに隠れていたのだろうが、乱闘の騒ぎと獣の咆哮で何人かが様子を見に来たらしい。ニトロの思惑通りだった。幸い、悪党どもは騒ぎに夢中でフェアリーたちが姿を現したことに気が付いていない。
「驚かせてごめんね」
 転がる振りをしてフェアリーたちに近寄り、ニトロは声をかけた。
「助けに来たんだ。でもここは危ないから、皆で避難してほしい。できれば今すぐ」
 怯えた様子で、フェアリーたちはすぐに姿を消してしまった。余所者を拒む暮らし方をしてきた彼らが、ニトロの言葉を信じてくれるかどうかは賭けだ。ダメならダメで、奥の手がある。ニトロはルトルファスに目配せした。
「観念したかよ、クソガキ」
 手にしていた剣を鞘に納めたルトルファスに、悪党がにじり寄る。背後に湖の気配を感じながら、ルトルファスは素早く魔法を編み上げた。
 ざぶり。ざぶ――。
「……悪いが、盗賊どもに加減できるほど熟達してはいない」
「あァ?」
 湖面がざわつき始めたことに、男たちは気づかなかった。
「一気に行かせてもらう――!!」
「皆、逃げて!」
 ニトロが叫ぶのとほぼ同時に、ルトルファスの背後で湖が山のように盛り上がった。
「津波……っ、まさか」
 暗い闇のような水の塊が、男たちの頭上まで迫った。



 水浸しになった領域を避けて、猟兵たちは負傷者の手当てをしていた。居合わせた密猟者たちは、全て捕らえることができた。医術の心得があるメンバーで応急処置を施して、逃走できないように縛り上げてある。
「フェアリーたちは、無事でしたか?」
 宵がニトロに声をかけた。ニトロの肩やサーベルタイガーの背に、何人ものフェアリーが集まっていた。
「はい、大丈夫みたいです」
 ルトルファスのエレメンタル・ファンタジアが局地的な津波を引き起こした瞬間、ニトロの呼びかけに応じたフェアリーたちが一斉に住処から飛び立った。逃げ遅れた者もいたが、ニトロの柔軟な身体と念動力によって全員が助かったようだった。
「僕たちを信じてくれて、ありがとう」
 肩にちょこんと座ったフェアリーに、ニトロは柔らかく話しかけた。フェアリーたちはサーベルタイガーに興味津々で、ふかふかの耳や尻尾にじゃれつく者もいる。
「怖がらないんですねえ」
「いいなぁー、私もモフってしたい」
 感心した表情でその様子を眺める宵の隣で、アーデルハイドが羨ましそうに呟いた。羨望の視線を遮るようにしてパティがアーデルハイドの視界に飛んで入る。
「あーとーで! まだ全部終わったわけじゃないもの」
「わかってるってば」
 皆の様子に緩めた口許を、宵は再び引き締めた。そして気を失った密猟者の傍らに身を屈めるザッフィーロの方へ足を向けた。
 近くへ寄ると、ザッフィーロが祈りの言葉を呟き続けているのが聞こえてきた。その祈りは、密猟者のために神に赦しを乞うが故ではない。意識を失った罪人に染み込ませ、妄信を誘い、意のままに操るためのものだった。
 昏い瞳で、呪いとも呼ぶべき祈りを唱え続ける仮初の聖職者を、宵は痛む胸で見下ろした。
「……さあ、瞳を開けよ。汝の罪は赦された」
 感情の籠らぬ声で、ザッフィーロが告げる。すると、男が瞼を開いた。他の男たちを取りまとめていた、年嵩の男だ。刻まれた皺は弛み、ルトファルスたちに見せつけた覇気も今はない。虚ろな目でザッフィーロを見上げるだけだった。
 男を戒めていた縄を解き、宵はザッフィーロの表情を伺う。その視線に気づいたザッフィーロは、「大丈夫だ」と短く答えた。
 かつて、価値のある品として永い時間を過ごしてきた彼らにとって。自らの意思などそもそも認知されることもなかった彼らにとって。「美しいから」という理由だけで自由を奪われるフェアリーたちには、憐れみ以上の感情があった。
 物であった頃は、むしろそれが当たり前だとすら思っていたこともあったかもしれない。欲しがる人間の許へ、持つべき力のある人間の許へ、何年も何年も転々とするのが、それが自分の運命なのだと。そう納得していたかもしれない。
 だが今は。
 心を得て、自らの在るべき場所を得た今は。
 サファイアの瞳と、星を宿す瞳が互いを映し合う。
 ――とても耐えられない。
 友と、家族と、愛しい日々と。それから愛する人と。生きる喜びを奪われることが、どんなに恐ろしいか。物として扱われるということはそういうことなのだと、ザッフィーロと宵はこの場にいる誰よりも深く心に刻んでいた。
「ゥウア……」
 魂の抜けた声で、男が呻く。
「行けそうですか?」
 意識を切り替えて、宵が確認した。「ああ」と、ザッフィーロもそれに続く。朦朧としたままの男の脇を支え立ち上がらせると、
「そのままアジトへ戻れ。この一帯を荒らすために作った拠点があるだろう」
「……ァア、ハイ……」
「何食わぬ顔でそこへ戻るのだ。寄り道をしてはならぬ」
「ナニモ、持タナイデ戻ッタラ……殺サレル」
 洗脳下にあって尚、男はオブリビオンを恐れる心を棄てられずにいる。予知に現れたという少女がどれほどの恐怖で集団を支配したかが伺い知れた。
「――大丈夫だ。神はお前を見捨てない」
 ザッフィーロは言った。それが気休めだと知りながら。『神』という言葉が、概念が、人を本当に救ったことがあっただろうかと、心の裏で考えながら。それに縋ることでいくらかの救いが得られることも、知ってはいたけれど。
 ようやく、男は拠点への道を歩き始めた。はじめは覚束ない足取りだったが、次第に元の男と変わらぬ歩調になっていった。
「よし、追跡しよう」
 ザッフィーロは皆に合図を出した。
「緤が時間を稼いでくれているはずだ」



 森の中を彷徨いながら、緤は僅かばかりの後悔をした。仲間たちが態勢を整えるのを待ってからでもよかったかもしれない。悪党どもが現れた方角を目指して人間が通れそうな道を辿ってはいるが、森は広かった。
(ちょっと休憩しようかなぁ……)
 そう思って足を止めた鼻の先に、短い風切り音がした。見るとすぐ脇の木の幹に矢が突き立っている。
「うわわわわ!」
「誰だ、てめえ!」
 慌てふためく緤に何者かが怒鳴った。
(――なーんて、ニャ)
 向こうから現れてくれるとは、好都合。フェアリー以外にこの森にいる者なんて、三種類しかいない。猟兵と、密猟者と、オブリビオンだ。仲間の声でもなければ少女の声でもない。ならば答えはひとつ。
「おいおいおいおい、脅かすなって。お前こそ誰だよ」
 緤は計画通りに芝居を打った。はすっぱな口調でジャブを入れる。
 藪をかき分ける音がして、カンテラの灯が近づいてくるのが見えた。暗い繁みから現れたのは、見るからに「盗賊でござい」という風貌の男が二人。男たちは緤の姿を見ても驚いた様子は見せなかった。自分の腰よりも低い背丈の二本足で歩く猫を、「言葉を向ける相手である」と認識してくれたようだった。
 そんなことよりも、男たちの関心は緤が背負ったいくつもの袋にあるのは明らかだった。内側から光を放ち、もぞもぞと動くそれは――。
「……おい、それは何だ」
「これかい? ――ははぁん。お前ら、もしかして同業者だな?」
「同業者……だと?」
 相手も緤が言わんとすることを察してはいるだろう。だが易々と「妖精狩り」などという言葉を口にすることもできない。互いに腹を探るようなやりとりが続いた。
「こんな場所まではるばる観光になんか来るもんかよ。周りにゃなーんもねえんだもん。あるのは――」
 緤はわざとらしく声を潜めて男たちに顔を寄せた。
「――妖精だけさ」
 ギョロついた目を更に大きくして驚く二人からサッと身を離し、緤は「へへっ」と笑う。男たちは互いに目配せし合って、突然現れた『同業者』にどう応じるべきかを考えたようだった。

「静かにしてろよ。ボスにバレたらブッ殺されるからな、お前も」
 忍び声で男が緤に念を押す。
 あれから、緤は『穴場を熟知した同業者』を演じきった。更に、男たちに金の入った袋をチラつかせて「もっと質の良い妖精を捕まえているなら、相場の三倍で買い取ってもいい」と持ちかけたのだった。我侭な主に金蔓を横取りされていた密猟者にとっては、多少のリスクを冒してでも手を伸ばしたい話に聞こえただろう。二人は緤を密猟団の拠点に招き入れることを承諾したのだった。
「もうすぐ、今夜の狩りに出た奴らが戻ってくるはずだ。ボスが来る前だったら一匹くらい減ってもバレやしねえ」
「へへっ。ありがてえ……、――!!」
 うすら笑いを貼りつかせて、緤は天幕の中に入る。そして拠点の中の光景を見るなり、瞳孔を針のように細くした。
「どうかしたか?」
「――いや、なんでもない」
 再びへらへらとした笑い顔を作る。
 壁一面に色とりどりのボトルが飾られていた。色ごとに仕分けられて虹色を織りなすそれは、盗賊団の拠点には不釣り合いな華やかさだった。
(……許さねえ)
 指先から飛び出しそうな爪を必死で抑えた。
 ボトルに詰められていたのは、捕らえられたフェアリーたちだった。拠点の中は、瓶の中でぐったりとした妖精たちのすすり泣きで満ちていた。
「……いやぁ、壮観だねぇ。だけど、ちょいとばかり活きが悪くないか? こんな状態じゃ取引はできねぇよ」
「こいつらは並ランクだからこれでいいんだよ。捕まえた羽虫全部に十分な環境を用意してたら元が取れねえ」
「売った後に何日も生きられないようじゃ、商売にならねぇだろ」
「そんなの、知ったことかよ」
 男は鼻で嗤った。高値で売れないフェアリーは、実験に使われるから“長持ち”しなくても構わないのだと言う。どうせすぐに死ぬのだから、と。
 緤は全身の毛が逆立ったのを自覚した。爪を隠すのをやめ、自分の腿に突き立てる。
「……悪ィ、皆」
「あ? どうした兄弟」
「兄弟じゃねえ! このド畜生!!」
 本来ならばここで時間を稼いで仲間が追い付いてくるのを待つ予定だったが、我慢の限界だった。
「お前らにも、あるんだろうがよ! 家族とか、故郷とか! 惜しむ命が!!」
 緤は吠えた。全身を震わせて吠えた。言ったところでどうにかなるものでもない、だが言わずにはおれない言葉を。
 背負った荷を床に放り出し、乱暴に袋の口を解放する。内側から漏れ出していた光が、強くなった。それは捕らえたフェアリーに見せかけた、緤の機械兵器だった。
「エレクトロレギオン!!!」
 百を超える小型の戦闘用機械兵器が天幕の中を暴れまわった。凶暴な蜂の群れが飛び込んできたかのごとく、悪党二人は慌てふためく。だが、機械兵器のほとんどは男たちを襲うことなく、壁に飾られたボトルを粉々に破壊していった。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​




第2章 集団戦 『崩壊妖精』

POW   :    妖精の叫び
【意味をなさない叫び】を放ち、自身からレベルm半径内の指定した全ての対象を攻撃する。
SPD   :    妖精の嘆き
【なぜ痛い思いをさせるのかへの嘆き】【私が悪かったのかへの嘆き】【助けてくれないのかへの嘆き】を対象に放ち、命中した対象の攻撃力を減らす。全て命中するとユーベルコードを封じる。
WIZ   :    妖精の痛み
【哀れみ】の感情を与える事に成功した対象に、召喚した【崩壊妖精】から、高命中力の【体が崩壊するような痛みを感じさせる思念】を飛ばす。

イラスト:芋園缶

👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

種別『集団戦』のルール
 記載された敵が「沢山」出現します(厳密に何体いるかは、書く場合も書かない場合もあります)。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。




 天幕の中は、まるで嵐が過ぎ去った後だった。いや、“天幕”などとうにない。狩りの間の拠点として建てられたテントの棟や合掌から、ボロボロの生地が垂れさがっているだけだ。頭上には星が瞬いていた。
 地面に散乱したガラスの破片はカンテラの炎を受けて煌めき、妖精たちの翅の色を映している。草叢に広がる星空のようにも見える。……が、そんな詩的な想いはこの場にいる誰一人として胸に抱いてはいなかった。
 ガラス瓶から解放されたフェアリーたちは、残る力を振り絞って身体を起こそうとしている。中にはぐったりと倒れたまま動かない者もいる。また、家族であったのだろう二人が泣きながら抱き合う姿もあった。
 騒ぎに一歩遅れて駆け付けた仲間の猟兵たちがフェアリーの救助を急いだ。密猟者たちは意識を失っている。今のうちに囚われの妖精たちを解放しなければ。
 ミシ、ミシ、ジャリ。と、奔走する猟兵たちに、小さく不快な音が近づいてくる。
「やかましいのう。何を騒いでおるのじゃ」
 実に可愛らしい声で、そして実に高圧的な口調で、それは猟兵たちの前に姿を現した。てらてらと嫌味に光る赤い靴の下で、ガラスの欠片が踏み砕かれる音がした。
 手入れの行き届いた滑らかな金髪の上には靴と同じ赤いリボン。赤い膝丈ドレスを着て、胸の前で腕を組み、予知と同じように身体を目一杯反り返らせている。
 彼女がかつて『我侭ベルベット』と呼ばれた亡国の王女だったことは、誰も知らない。
「にゃあん」
 足元で鳴く猫に耳を貸すような仕草を見せてから、ベルベットは顎をこれでもかと上げて猟兵たちを見下ろす。
「――猟兵め。ベルちゃん様に抗いに来たか」
 あどけない顔を不敵な笑みで歪ませて、ベルベットは続けた。腕組みを解いて、右手を星空へと掲げる。禍々しい魔力の匂いが濃くなった。
「じゃが、そちらの相手など“これ”でじゅうぶん。せいぜい愉しむがよい」
「!」
 キィィイイ、ア――――ァァア――。
 ――ヒィィイアアアア……!!
 猟兵たちの足元から、背後から、ガラスに剣を突き立てたような高音が鼓膜を刺す。
 音の発生源は倒れたまま動かなくなっていたフェアリーたち。彼らはゆっくりと動き始めていた。見開かれた目は焦点が合わず、光を失っている。ぽかんと開けた口から、あの声――いや、『音』と言う方が相応しいだろう――が聞こえていた。壊れた人形の不自然さで宙に浮かぶフェアリーたち、その後ろでベルベットが目を細めて笑っている。
「なんだ……、なんだ、これは……!!」
「ほほほほほ!! 面白いじゃろ? 死んだフェアリーにベルちゃん様がもういちど命をくれてやったというわけじゃ。すぐに壊れてしまう脆さが難点じゃがの」
「――まずい。無事なフェアリーたちを避難させないと……!」
 この場に留まっていては再び被害が及ぶ。――それに。
 今から猟兵たちが戦わなければならないのは、彼らの友人で、家族で、愛する人なのだから。
「価値のない羽虫とて、使いようじゃ。上に立つ者は、やはり“人材”の扱いが上手くなければ、のう……?」
「……くそっ、くそ……っ!!」
 勝ち誇って笑うベルベットを睨みつけて、猟兵たちは覚悟を決めた。
ルトルファス・ルーテルガイト
(※アドリブ、他PC連携・絡み歓迎)
(痛々しい姿の妖精の姿に、無表情の心に怒りと哀れみが走る)
…「羽虫」だと、「人材」…だと?
…「人」だと思っているなら、なぜこのような扱いをする?
…子供の児戯で「人」の命を弄ぶなぞ、到底許される行為じゃない。

(行動:WIZ)
…俺は、【妖精の痛み】を自ら引き請け…他の猟兵の援護とする。
…理不尽に遊ばれ…そして殺された痛みの声を聞き、救えなかった無念を好みに受ける為に。(激痛耐性)
…ある程度の後、『ブレッシング・サンライト』を展開、妖精達を痛みから解放させて、静かに眠らせる様にしたい。

「…お前達の痛みと哀しみは…確かに引き受けた、だから…もう眠るんだ。」


パティ・チャン
【POW】
妖精を殺めるに留まらず、その遺体を利用しようだなんて……許せない!
(それこそ、口の内を血の味が占める勢いで、歯を食いしばる)

【サイコキネシス】発動!
先ずは、これで動けない、もしくは逃げ遅れた妖精をベルベットの方から、念力で引き剥がし、こちら(猟兵側)へ保護します。

それが成功したら、ベルベットの手下と化した、妖精の骸と闘います

なおもサイコキネシスを使用しますが、2回攻撃・なぎ払い・鎧砕きを乗せます

「……せめて、その御霊の安からん事を…」
(流石に似た姿を持つ相手を倒すのは、辛い)

※アドリブ及び連携は歓迎します。


ニトロ・トリニィ
くっ…!
… 死んだ者を生き返らせる事は出来ない…
戦うしか無いのか…

【行動】
オブリビオンとなってしまったフェアリー達は、《暗き世界を照らす光》で召喚したお狐様と、僕のペットであるプリースト・サーベルタイガーに任せよう。
お狐様の聖なる電撃と、ペットの〈破魔〉を含んだ火炎放射で攻撃してもらおう。

僕は無事なフェアリー達を〈盾受け/オーラ防御〉を使い守るよ!
多分、戦いをやめさせようとする子もいるかも知れないし、その対応もしないとね…

僕達を恨まないでおくれ…
倒すしか無いんだ… 君達の為なんだよ。

アドリブ・協力歓迎です!


無明・緤
【SPD】
バディペットに命じて
救った妖精を安全な所へ避難させる
絡繰人形も遠隔操縦で付けよう、小さき者の盾になってやれ

残ったおれは【時間稼ぎ】
放たれる嘆きは避けない、全て受ける
猟兵仲間に向かう嘆きも庇いながら
ベルベットの遣わす妖精へと近づこう

そして牙の【封印を解く】事で
噛みついた傷からナノマシンを注入し【ハッキング】を仕掛ける
妖精の嘆きが沁みた今のおれならきっと、
痛みの少ない甘噛みで済ませられる筈だ

おれの【操縦】が巧くいけば、マシンはウイルスのように作用し
妖精を敵の影響から解放するだろう
それはコイツをもう一度殺すって事でもあるんだけどな

三色菫の雫みたいに
甘い恋の夢は見せてやれそうにないが
おやすみ


ザッフィーロ・アドラツィオーネ
宵f02925と
ああ、本当に酷な事をする物だ
だが…人だからこそ残酷な事が出来るのかもしれんがな

助けた妖精達に仲間の痛々しい姿は見せたくない故【罪告げの黒霧】にてせめて肉の損傷を抑える様倒していこう
…黒霧で包まれている故姿もきっと見えづらいだろう
生前のお前達に罪はないかもしれんがお前の肉で犯す罪を悲しむ者が居るやもしれん故…すまんな

哀れみの感情は持ってしまう為痛みは生じるだろう
だが…俺はヤドリガミ故に痛みは死に直結しないからな
…痛みで良ければ受けよう
だが…宵も同じ痛みを受けているかもしれぬと思うと心が痛いな
…宵、お前は大丈夫か?
戦後は自然と宵の手を取りあの者達に安らぎが与えられる事を祈ろうと思う


逢坂・宵
ザッフィーロ君(f06826)と

物であった僕らにすら、今は人の心があるというのに
このような非道な行いを、天は許容するというのでしょうか
……いえ、それをただす為に、僕らが遣わされたのでしょう
貴き彼らの同胞に、僕たちの手で救いを与えましょう
同胞の手によって命が散るその前に

『暗視』で状況判断の後
『衝撃波』で『目潰し』による目くらましを行い
『2回攻撃』『範囲攻撃』を併せ【ハイ・グラビティ】で攻撃します
できれば傷はつけたくありませんが……

最後はザッフィーロ君と『手をつな』いで『祈り』を捧げましょう
僕は大丈夫ですよ
この痛みは僕の痛みではありませんから
……彼らの愛おしき同胞に、安らかな眠りがありますように





 母を呼ぶ声がする。名前を呼ぶのは、親だろうか。友人、恋人であるかもしれない。小さなフェアリーたちが絞り出すように愛する者を呼ぶ声は、すぐに悲痛な叫びに変わっていった。
 パティ・チャン(月下の妖精騎士・f12424)は同胞の嗚咽をその小さい背に受けたまま、空色の瞳を瞬きもせずに大きく見開いていた。悲憤のあまりベルベットを睨みつけるしかなかったのもあるが、一度でも瞼を閉じれば目の縁に溜まった涙が止めどなく零れてしまうことが容易に想像できたからだ。
(今は泣いてはだめ。今は)
 パティは己にきつく言い聞かせた。涙は彼らのものだ。少なくとも、今この場では。猟兵たる自分が泣いていては何も救えない。
 震える唇を押さえつけるように噛んだ。噛み合わせた奥歯が軋んでいるのが聞こえる。頬の内側の粘膜をも巻き込んでいたが、痛みはむしろパティの味方だった。裂けた粘膜から滲む血の味がパティに僅かな冷静さをもたらし、今にも震えそうな脚に立ち上がる力を注いでいる。
 ニトロ・トリニィ(楽観的な自称旅人・f07375)と無明・緤(猫は猫でしかないのだから・f15942)がそれぞれのバティペットに妖精たちを運ぶ指示を出していた。ニトロは更に、白い狐を召喚して輸送効率を補助する。
 フェアリーたちはほとんどが弱っていたり、中には傷ついた者もいたが、それは全て密猟団たちの手荒い扱いのせいだった。緤が放った機械兵器は、彼らを閉じ込めていたガラス瓶だけを正確に砕いていた。救助に集中する傍らでフェアリーたちの身体に真新しい傷がないことを確認し、緤は安堵の息を吐く。
「ベルちゃん様のコレクションを、横取りするつもりか? させぬ!」
 フェアリーたちを避難させようと動いた猟兵に、ベルベットは腹を立てた。
「……『コレクション』だと? ならばせめて大切に扱え。ままごとで『人』の命を弄ぶなぞ、到底許される行為じゃない」
 少年らしく線の細い身体を静かな怒気で満たし、ルトルファス・ルーテルガイト(ブレード・オブ・スピリティア・f03888)は剣を構えた。その言葉にパティが続く。
「そうよ! ……こんな風にっ、利用しようだなんて! 許せない!!」
 ――『遺体』と口にしそうになって、わずかに言い淀む。視界の端に不安そうな表情でフェアリーたちがこちらを伺っているのが見えたからだ。パティたちの眼前に漂う“ついさっきまで妖精だったもの”を救うことは、おそらくできない。この心優しく使命感に満ちたフェアリーの騎士に、それを言葉にすることは憚られた。
「減らず口は嫌いじゃ!」
 二人の言葉を叩き斬るようにベルベットが吐き捨てると、それを号令にして操られたフェアリーたち――だったもの、そしてこれから崩壊していく運命のもの――が、一斉に動いた。
「……来ます!」
「急げ!」
 皆を守るように位置取っていたザッフィーロ・アドラツィオーネ(赦しの指輪・f06826)と逢坂・宵(天廻アストロラーベ・f02925)が警告を発する。
 硬直した身体を軋ませて、血の色を失った妖精が一点を指差す。そこへ、ルトファルスが飛び込んだ。
「……くっ」
 妖精の虚ろな眼差しに湛えられているのは、哀しみか、無念か、苦痛か。目が合った瞬間、ルトファルスは吸い込まれそうな感覚を覚えた。しかしそれも一瞬。すぐに身体が崩壊するかのような激痛がルトルファスを襲う。身に纏う防具が幾許か痛みを和らげてくれはするが、感情を滲ませないその顔の下で、ルトファルスは深く強く、怒り、悲しんでいた。それ故に、痛みは防具の加護を容易く凌駕する。想いが強ければ強いほど与えられた苦痛が増していく――、そういう仕掛けだった。
 手足が引きちぎれるかと思えるほどの痛みに、ルトファルスは膝を折りそうになった。
「……行け、早く!!」
 絞り出す声と共に構えた剣の切っ先を地に刺して、ルトファルスは妖精たちを見据えた。彼らの底のない哀しみの沼のような瞳から目を逸らさずに、仲間に避難を促す。
 しかし、それを嘲笑うようにもう一体、更にもう一体と、妖精たちがめいめいにどこかを指差す。そこにはニトロ、そしてザッフィーロと宵が立ち塞がった。
(戦うしか……ないのか……!)
 言いようのない無念さを胸に抱き、ブラックタールの少年はフェアリーたちを守るために足を踏ん張る。死者を生き返らせることは、いかに猟兵といえどもできない。であるならば。自分に残された選択肢は、今生きている者を一人残らず守り抜くことだけだ。
「おねえちゃん! おねえちゃんっ!!」
 サーベルタイガーの背にしがみついた幼いフェアリーが、ニトロを指差す妖精に向かって叫ぶ。優し気に垂れ下がった目許がよく似ていた。それに気づいた途端に、ニトロを苛む痛みが激しくなった。
「ぁああっっ!!」
 ――胸が、千切れそうだ。
「ごめん……、ごめんね。君たちを、……助けたいんだ」
 ニトロは泣いて姉を呼ぶフェアリーに、身体と心を引き裂く痛みに耐えながら努めて優しく語り掛けた。
「お前たちに罪はないのだ。――だが、遺された肉で犯す罪が、お前たちを傷つける」
「……貴き同胞を貴きままに。それが僕たちの使命です」
 同じように痛みに耐え、ザッフィーロと宵が微笑んだ。
「キィイ――ァァアア……」
「ァァアアア」
 涙を零して縋るフェアリーたちの心に揺さぶられたのだろうか。操られた妖精たちの嘆き声が共鳴し始める。細い糸を縒って縄を糾うように、漣が折り重なって高波になるように、嘆きの声は叫び声に変わり空気を震わせていく。
「これは……っ」
 パティはハッとした顔で周りを見回す。このままではフェアリーたちに被害が及びかねない。それだけは。それだけは避けなければならない。まだ獣たちの背に乗りきらないフェアリーたちがいる。顔を上げた一瞬でそれを把握して、パティは叫んだ。
「逃げてッ!!」
 叫ぶと同時に、サイコキネシスを発動させる。避難の態勢が整っていなかったフェアリーたちをその場から引き剥がし、ニトロと緤のバディペットが待機する方へ飛ばした。
「おっと、危ねえ!」
 咄嗟に緤が絡繰人形を起動し、飛ばされたフェアリーたちを受け止めさせる。妖精の叫び声は最高潮に達しようとしている。これが弾ける時には、身を守る術を持たない者は波飛沫のように砕けて消えてしまうだろう。
「お前は、そのまま盾役で一緒に行け」
「さあ、走れっ!」
 緤が遠隔操作に切り替える準備をする横でニトロがサーベルタイガーの尻を叩く。それを合図に、フェアリーを乗せたバディペットとそれを護る使命を与えられた者たちは全速力で駆けだした。
「間一髪……、っ!!」
「ァ……ァアアア――――アァァァ――ア!!!!」
 獣たちの行く先を見送る暇もなく、衝撃波が猟兵を襲った。それを後方へと漏らさぬように、ニトロとルトルファスが身に纏うオーラを極限まで広げる。それにザッフィーロと宵が続いた。



「あ、ぐ……ッ!!」
 身体の小さなパティと緤が音の波をもろに受け、テントの柱に全身を打ち付ける。
「パティさん!」
「緤っ!」
「ほほほ! 無様じゃの。羽虫なぞ見捨てて逃げればよいものを」
 猟兵たちを睥睨してベルベットが嘲笑う。
「羽虫、だと」
 鼻背にくしゃりと皺を寄せて、ルトルファスが低く唸った。今にもベルベットに飛び掛かりそうな野犬の顔をしている。それをやんわりと制するように宵がルトファルスの前に進み出る。
「“物”であった僕らにすら、今は人の心があるというのに。かつて人であった貴女からはそれが喪われてしまったというのですか」
 手は触れずとも。瞳は交わさずとも。『僕“ら”』の言葉にサファイアの煌めきを宿して、宵は言い募る。そんな言葉で、妖精たちの奥でふんぞり返っている我侭な娘を今更悔い改めさせられるなどという浅い希望は持たない。そもそもあの娘はオブリビオンであり、過去の残渣に過ぎない。自分にできることはあれを屠ることだけなのだ。だが、言わずにはおれないという衝動が宵を突き動かした。
「このような非道な行いを、天が許容するとお思いですか!」
「――は! まるで“人の命は平等である”とでも言いたげじゃの。賢しらに」
 くい、とベルベットが指先を動かすだけで、妖精たちは再び宵を狙って動いた。
「っ、あ……!」
「宵!」
 駆け寄ろうとするザッフィーロを、宵は手振りで引き留めた。白い肌を更に青白くして、痛みに耐える。
(我らの性質上、痛みは生命の損失には直結せんが――)
 本体を傷つけられぬ限りは幾度たりとも再生できるヤドリガミの身ではあっても、心を預けた人が苦しむ姿を見て平静でいられるわけでもない。そしてそれはおそらく――、
(フェアリーたちとて、同じこと)
 愛する人の傷ついた姿を見たくないのは、どの世界に在っても、誰であっても変わらないはずなのだ。ザッフィーロは、すう、と息を吸った。
「この身に鬱積した罪と穢れ、今宵は罪なき者のための祈りとしよう」
 誰かが手を汚さなければならぬのならば、それは自分の役目。せめて亡骸に傷の残らぬように。その覚悟を瞳に映して、サファイアのヤドリガミは毒の息を吐いた。
「……ィィイア――――!」
「ア……ア……」
 黒霧に包まれた数体の妖精がもがき始め、数秒後にぽとりと地に落ちた。それはさながら火に炙られて息絶える夏の虫のようで、ザッフィーロは妖精に与えられた苦痛とは別の痛みに顔を歪めた。
 己を封じていた妖精が斃れたことで自由を取り戻した宵も、ザッフィーロに続いて星が持つ重力を引き出す詠唱を開始する。
「……動かないでくださいね。できれば、――傷つけたくはありませんから」
 いつも唱える言葉よりずっと密やかに、腕に抱いた嬰児に子守唄を歌って聞かせるように、宵は星に喚びかける。重力波が彼らの身体を圧し潰さぬよう、指先のほんのわずかな力加減さえも違わぬように。
 目に見えない力に引かれて、妖精たちはかくんと落下する。その横を、ルトルファスが駆けた。
「……光霊よ、我が剣を依り代に……その指先で道を指し示せ!」
 光を宿した剣を横一文字に振ると、薄闇の中に剣の軌道が残った。そこから放たれる光は、本来敵を斬るためのものではない。精霊のあるべき姿とも言える『慈愛』を顕すための、癒しの光だ。ルトルファスは、師から授けられたその技を妖精たちのために振るった。
「……眠れ。静かに」
 剣を鞘に納め、瞑目する。
(――お前たちの痛みと哀しみは、確かにこの身に引き受けた)
 赤い外套が夜風に揺れた。

「……フン! 使えぬ羽虫じゃったの」
 不機嫌な顔を取り繕いもせずに、ベルベットが悪態を吐いた。ベルベットと猟兵の間には何体もの妖精が倒れ伏している。ベルベットは、その華奢な脚を一歩、二歩と苛立ち気味に踏み出した。その次の三歩目を踏み下ろす場所には、倒れた妖精の身体がそのままになっている。彼女がここへ姿を現したときにガラス瓶の破片を踏み砕いたのと同じことをするであろうことは明白だった。
「させないわ!」
 パティが再びサイコキネシスを発動させ、ベルベットの靴のすぐ下にある妖精の骸を救い出す。赤い靴を履いた少女の脚は、何もない地面で地団駄を踏んだだけで終わった。
「余計なことをするでないッ!」
 腹いせさえも邪魔をされて、ついにベルベットが癇癪を起した。何度も何度も足を踏み鳴らし、拳に握った腕を振り回した。子供の金切り声が夜の森に響く。
「この世のものは、全部ベルちゃん様のものなのにッ! そちらは、ベルちゃん様の命令をおとなしく聞いておればよいのじゃ!!」
 大きな目と細い眉を吊り上げて、我侭王女は喚き続ける。そして有らん限りの声で叫んだ。
「羽虫よ、猟兵どもをやっつけろッ!」
 ベルベットの号令に操られて、残る妖精たちが再び動き出した。
「子供かよ……っ」
 頭上を飛び交う妖精の群れを見上げて、呆れ声で緤が呟く。ベルベットの感情の爆発に伴って、妖精たちの動きも激しく乱れ始めている。
「子供だよ。オブリビオンだけどね。……誰も、あの子のために叱ってくれなかったのかな」
「どうだかね!」
 言葉を交わすニトロと緤の前に妖精が降りてくる。何体もの妖精が二人の周りを飛び回った。彼らの小さな唇が、水槽の金魚のようにはくはくと動く。
「……どう、して――ァアァ、ワタシ、だけ」
「キィイ……イい痛いィ、助けて、タスケ、タ――」
 無感動な声音の中に、微かに聞き取れる嘆きの声。
 ――なぜ、こんな目に遭わなければならないの?
 どうして助けてくれなかったの?
 私が悪い子だったから、罰が当たったの?
「ドウシテ――」
 妖精の一体がニトロに腕を伸ばす。助けを求めるように。あるいは、責めるように。その昏い瞳から、ニトロは目を逸らした。
「恨まないでくれ……、僕たちだって――」
 こんな痛ましい光景がいつまで続くのだろうか。早く終わらせるためにも彼らを倒さなくてはならない。それはわかっているのだが、嘆きの声を聞く度にフェアリーたちのためにと決めた覚悟が鈍っていく。武器を握る腕にも力が入らない。
(これは――)
 緤はハッと目を見開いた。
 妖精たちの嘆きは、ただの嘆きではなかった。嘆きを聞いた者に植え付けた罪悪感や自責の念を媒介にして、相手の攻撃力を削ぎ落とすユーベルコードだった。
(これを逆手に取れば、……イケる)
 そう気づいた緤は、犬歯に偽装した機械を起動させた。身体を屈め、膝を矯めつつ狙いを定める。後ろ脚を右左と踏み、尻尾を大きく振って距離を測る。真剣になるあまり両の耳が後ろへ倒れたが、髭はピンと前向きだ。そして狙った獲物が狙った場所に来た瞬間、矯めに矯めた脚で妖精に飛び掛かった。
 緤の牙は、妖精の頸を正確に捕らえた。猫が小鳥を狩る姿そのままに、もがく妖精を咥えて地面に押さえつける。
「おい、緤……っ」
 仲間の制止に、緤は目線だけで「いいから任せろ」と返す。
 妖精の頸に突き立てられた犬歯からは、緤が操るナノマシンが注入されていくところだった。緤の牙は生来の歯ではなく、犬歯に偽装したからくりだったのだ。
 びくん、びくんと身体を痙攣させる妖精と、毛を逆立てて妖精に食らいつく黒猫。異様な光景に、何が起こっているのかわからない猟兵たちは固唾を飲んで見守った。そうしてやがて妖精の身体から力が抜けて、硬直から解放されていく。
「すごい……! どうやったの?」
 大きな傷も残さずにベルベットの支配から解かれた妖精の身体と緤を、パティは交互に見比べた。死せる者が操られている以上、ただ『噛み殺す』ことはできないはずだ。パティはその仕掛けを知りたがった。
 緤は得意げに自分の牙を示して、
「ここから、悪い魔法を解くワクチンを注入したみたいなものさ」
 妖精の嘆きを聞いた影響で牙の威力が抑えられていたことも良い方に働いた。力加減を間違えば、妖精たちの身体を傷めてしまうかもしれなかったからだ。
「まあ……、それでも結局は『もう一度殺す』のと変わらないんだけどな」
 ――夏の夜の過ちのように、何もかもを夢だったことにはできない。
 得意げな表情から一転して緤の緑色の目が再び翳った、その時だった。

「ガウゥ!」
 フェアリーの避難を済ませたバディペットたちが、猟兵たちの許へ戻ってきた。
「お狐様!」
 サーベルタイガーの背に乗った狐の霊をニトロが呼んだ。緤も、三毛猫と絡繰人形を呼び寄せよくやったと褒めてやる。短時間でも、獣の脚で走る距離だ。フェアリーたちはもう安全だと思って間違いないだろう。
 安堵する猟兵とは正反対に、ベルベットは更に激昂した。
「こ、の……っ! どこまで邪魔をするのじゃ! このたわけども!!」
「どこまででもだよ、王女さま」
 地団駄を踏み続けて地ならしでもしてしまいそうなベルベットに、ニトロがぴしゃりと言い放った。
「君みたいな人を、放っておくわけにはいかないんだ。かわいそうなフェアリーたちのためにもね」
「……ぅう、うるさい、うるさい、うるさぁぁああ――い!!!」
 瞬間。ベルベットの周囲に、光の弾が生じた。高濃度に凝縮された魔力の塊である。いくつも錬成されたそれは、ベルベットの絶叫に弾かれるようにして残った妖精の身体を貫いた。
「ッ!!」
 元より強い個体ではなかった“かつてフェアリーだったもの”は、膨大な魔法エネルギーをぶつけられてホロホロと崩れ、跡形もなく蒸発していった。
「……お前、なんということを!」
「黙れッ! 痴れ者め!」
 食ってかかろうとするルトルファスを、ベルベットは鬼気迫る形相で一喝する。
「皆、みんな、みんな! どうしてベルちゃん様の言うことを聞いてくれないのじゃッッ! ベルちゃん様がいちばん強くて可愛くて偉いのに!!」
「そんな態度じゃ、友達がいなくなるのは当たり前でしょ」
 呆れと怒りが混じった声でパティが呟いた。
「……思っていたよりも、相当に心が幼いようですね」
「うむ。小さき者への酷い仕打ちも、幼さの現れではあったのだろう。……だからといって許せるはずもないが」
 幾分かの憐れみを含んだ声で、宵とザッフィーロが頷き合う。
 二人の足元で、ピンとした髭を指で扱きながら緤がニヤリと笑った。
「我侭王女サマには、ロバ頭のお人形がお似合いと昔から決まってるのさ」

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​




第3章 ボス戦 『我侭王女『ベルベット』』

POW   :    ベルちゃん様コレクション
いま戦っている対象に有効な【非常に珍しいマジックアイテム】(形状は毎回変わる)が召喚される。使い方を理解できれば強い。
SPD   :    ベルちゃん様は魔法も凄い!
【無詠唱で何もない空間】から【膨大な魔力の込められた魔弾】を放ち、【与えたダメージ】により対象の動きを一時的に封じる。
WIZ   :    みんなの魔力はベルちゃん様のもの♪
戦闘力のない【ベルベットに囚われた祖国の亡霊達】を召喚する。自身が活躍や苦戦をする度、【消耗した魔力を亡霊達から吸い上げること】によって武器や防具がパワーアップする。

イラスト:リタ

👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

種別『ボス戦』のルール
 記載された敵が「1体」出現します。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※このボスの宿敵主はティエル・ティエリエルです。ボスは殺してもシナリオ終了後に蘇る可能性がありますが、宿敵主がボス戦に参加したかつシナリオが成功すると、とどめを刺す事ができます。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。

逢坂・宵
ザッフィーロ君(f06826)と

外見の幼さは人間性に直結しませんが
彼女の場合は残酷性には直結しているようですね

ザッフィーロくんの援護を受けながら詠唱しつつ
彼とのタイミングを合わせて行動しましょう
ここぞと言う時に「マヒ攻撃」「衝撃波」「属性攻撃」「全力魔法」「一斉発射」を使用して
『天航アストロゲーション』にて攻撃しましょう

貴女がままならぬことに憤怒を感じるように、貴女が命を奪った妖精たちにもその心があり、生きる権利があったのです
そう、愛おしい人とともに在り、笑い、幸せになる義務もあったのです
オブリビオンたる貴女にはとうに置いてきたものかもしれませんが
あなたの憤怒はそれを無下にした代償でしょう


ザッフィーロ・アドラツィオーネ
宵f02925と

…幼子に見えるがこの悲劇を生みだした責任は確りと取らさねばならんからな
先の者達の無念は今此処で晴らせてみせよう

戦闘と当時に『先制攻撃』にて【穢れの影】を敵へ
宵の詠唱が完成する迄足止めを試みよう
…宵、止めて居る内に仕留めてしまえ
宵の呼んだ流星が敵へと命中した後は間合いを詰めメイスにて『2回攻撃』を繰り出して行こう
敵の攻撃が俺や宵の元に来た場合は『盾受け』や『かば』うを使いながら行動を
未だ幼い内に召されたならば善悪が未だ判らぬのかもしれん
だが…弄んだ者には家族も仲間等大事な者が有ったのだ
お前の呼び出すその亡霊がお前にとって大事な者か弄ぶ者かは解らぬが…命を弄んで良い者など居らぬ故に


ルトルファス・ルーテルガイト
(※アドリブ、他PC連携歓迎)
(蒸発したフェアリーの残滓を掴む様にその手を握り)
……そうやって、今まで何人のフェアリーを殺した?
…お前には、フェアリーの痛みがわかって無い様だな。
…戦えぬ妖精達に代わり、俺と…怒れる精霊達が、その身に刻んでやる。

(WIZ)
…己の寿命を引き換えに、【精霊同調】を発動、【覚悟】を持って守護者の剣の【封印を解く】
(※精霊同調時:髪が白くなり両目が赤色と変わる、六精霊の霊気が自らを覆う)

…亡霊を呼んで回復を図る前に炎霊の力で焼き、更に光霊の力で浄化、召喚を困難化させる。
…そして風霊の刃でオブリビオンを切り裂き、仕留める。

…死んだフェアリー達の痛みを知れ!


ニトロ・トリニィ
… 楽しかったかい?
生者を苦しめ、亡者を愚弄するのは?
残念だけど、そんな時間はもう終わりだ。
自分で犯した罪は、自分で償わないとね!

【行動】
《指定UC》で召喚した黄金で出来た骨の王様と一緒に、敵が召喚した亡霊の対処をしようかな。
王様の大剣に〈破魔〉の力を与え、亡霊達を浄化してあげよう!
敵の攻撃は、〈野性の勘〉で避けるか、〈盾受け/激痛耐性〉で防ごう!

出来れば、精神を病む魔導防壁を使って彼女に精神攻撃を仕掛けたい所だね!

黄金とは言え、骨だし強度が心配だな…
僕が王様の筋肉となれば、多少強度が上がるかもね。
つまり… 合体だぁ!

フェアリー達が受けた悲しみを… 思い知れ!

アドリブ・協力歓迎です!


パティ・チャン
遂に来ましたね。
(それこそ、ベルちゃんを睨み付ける勢いで)
「倒すのは私だけじゃありません!貴方の我が儘で、巻き添えにされた方々です!」
(泣きそうになるのを、なんとかこらえる)

輝ける刀刃に
【2回攻撃、なぎ払い、鎧砕き、衝撃波、属性攻撃】載せで戦います

反撃は
【情報収集、カウンター、地形利用】でなるべく減衰させます

「私達は誰かのコレクションになるために、生きているのではありません!種族こそ違えど尊厳を持っています!」

無事成功後
「ここまで、倒すのに憐れみ持てない敵はそうそういません!」

※アドリブ及び連携は歓迎します。むしろ、連携無いと体躯からいって、苦戦必至なので、より積極的にお願いします。


無明・緤
おれのお仕置きは痛いぜ。泣いちゃうかもな!

凄い魔法なんて本当は使えないんだろ?と煽り
馬鹿にするよう「完全に脱力」してみせて
挑発に乗ってきたらUC【オペラツィオン・マカブル】!
巧く行けば勢いに乗って、おでこに肉球キックを一つお見舞いだ

向こうの黒猫にふと目を留めて
…いい事考えた
法性、あいつを撃て

おれの【操縦】する人形は【スナイパー】のごとく精確に、
左腕のワイヤーで黒猫の尻尾スレスレを射抜くだろう
自分ではなく連れを狙った攻撃に、ベルベットはどう出るか見たい

おれも猫だからわかる
猫は、酷く当たる相手には寄り添わない
お前にも誰かを大切に思う気持ちはあるんじゃないか?
側を離れない猫がその証左だと、おれは思う





「にゃあん」
 ベルベットの足元で黒猫が鳴いた。
「にゃあん」
 猟犬たちの足元で、もう一匹の黒猫が応える。
「真似をするでないッ!」
 癇声と共に撃ち込まれた魔弾をひらりと避けて、無明・緤(猫は猫でしかないのだから・f15942)は道化師が舞台で披露するように手をひらひらとさせてお辞儀を一つした。
「姫君、どうか広いお心で」
 ペロっと舌を出しておどけてみせた緤に再び魔弾が撃ち込まれた。しなやかな尻尾をなびかせて、またも緤は躱しきる。
「ははっ。止まって見えるぜ! すごい魔法なんて、本当は使えないんだろ?」
「何じゃと!?」
 緤の挑発に乗せられて、ベルベットは激昂した。先刻フェアリーたちの身体を打ち砕いたときと同じように、周囲にいくつもの魔弾を錬成しはじめる。
(もう一押し……!)
 それを見た緤は、いきなり地面に寝転がり、体をくねらせはじめた。
「んなぁーお」
 右へ左へとのたうち、気持ちよさそうにゴロゴロ転がりながら、当てられるものなら当ててみろ、という目線をベルベットへ向ける。
「馬鹿にしおって!!」
 もしもベルベットが猫であったら、きっと見事な毛並みを逆立てて尻尾を丸々とさせていたことだろう。そのくらい怒りに満ちた目で緤を睨みつけて、無数の魔弾をひといきに緤へ放った。
「緤っ!」
 さしもの緤も避けられまい、と仲間たちが声を上げたが、当の緤は内心で「しめしめ」とほくそ笑んでいる。高エネルギーの魔弾がいくつも緤に襲い掛かり、重い爆発音が夜の森に響いた。
「オペラツィオン・マカブル!」
 もうもうと立ち込める煙の中から緤の威勢のいい声が聞こえてきたかと思うと、更にその後方から先程撃ち込まれたものと同じ大きさ、同じ数のエネルギー弾が、今度はベルベット目掛けて飛び出してきた。
 からくり人形を媒介にして受けた攻撃をそっくりそのまま跳ね返すという、緤のユーベルコードだ。
「っ、うそ、痛い! いたぁーい!!」
 完全に不意を突かれたベルベットは、情けない声を出して逃げ回った。足元の猫はサッと安全な場所に避難している。
「おれのお仕置きは痛いぜ。泣いちゃうかもな!」
 慌てふためくベルベットに突進しながら緤が余裕の顔で笑う。その姿を認めたベルベットが咄嗟に緤を蹴り飛ばそうと右脚を振り上げるも、スピードでは緤が勝った。振り上げられた右足を踏み台にして、軽々とベルベットの身体によじ登る。
「あらよっと!」
 ぺちんっ。
 間の抜けた音と共に、二人は別方向に弾け飛んだ。ベルベットは尻餅をつき、緤は華麗に着地する。痛い、痛い、と尻をさすりながら起き上がるベルベットの額には、ピンク色の梅の花が咲いていた。
「おのれ……このベルちゃん様への狼藉、絶対に許さないのじゃ……!」
 怒りに震えた声を絞り出し、ベルベットは猟兵たちをキッと睨みつけた。



「さすが……見事な身のこなしだな」
 ザッフィーロ・アドラツィオーネ(赦しの指輪・f06826)は感心したように呟いた。ベルベットの性格を逆手に取った作戦と、それを堂々とやってのける胆力に舌を巻いたのだが、その眼差しには猫という愛らしい生き物への好意も含まれているようだった。
 それを心なしか冷ややかな目で見てくる逢坂・宵(天廻アストロラーベ・f02925)の真意には気づかず、ザッフィーロはベルベットへと静かに告げた。
「たとえ幼子であろうとも、この悲劇の責任は確りと取ってもらう。命を弄んで良い者など、この世のどこにも居らぬのだぞ」
 小さな子供に優しく言い聞かせるような声音。長い年月の間にどこかで聞いた、聖職者が迷える人々を諭す口振りを、ザッフィーロは無意識に真似している。
「黙れッ! 黙れ黙れ黙れ!! 下民のくせに!」
 両の耳を抑え込んで足を踏み鳴らし、ベルベットが喚く。猟兵たちよりも大きい金切り声を張り上げることで、「絶対に聞かぬ」という態度を露わにした。かつてこの世界に生きていた在りし日も、この娘は同じようにして忠告から目を逸らし続けていたのだろう。
 この幼さが、フェアリーたちから自由を奪い、家族を奪い、そして命を奪っても、それが当然であるかのように振る舞う残酷さに繋がっているのだと、宵は痛々しい表情でベルベットを見た。何に対して喜び悲しむのかは百人いれば百通りの答えがある。だが、喜ぶこと、悲しむこと、それそのものは誰しも持っている感情なのだと、幸せになる権利は誰にでもあるのだと、生あるうちに気付くことができていれば――。一切手遅れであることは百も承知で、宵はそう思わずにはいられなかった。
 そして、その喚き声を触媒にしてベルベットの周囲にいくつもの人影が現れ始めた。
「――亡霊、か」
 ザッフィーロが苦い顔で呟く。亡霊の群れに、小鳥ほどの小さな人影が含まれているのに気付いたからだった。その小さな人影は、彼の後ろで青い翅を羽搏かせているパティ・チャン(月下の妖精騎士・f12424)との姿かたちとよく似ていた。
「……それは、まさか――」
 ルトルファス・ルーテルガイト(ブレード・オブ・スピリティア・f03888)が声を震わせる。ベルベットの魔弾に撃ち抜かれ砕け散った妖精たちの、消えゆく残渣に手を伸ばして握り締めた。せめてこの手に、彼らの生きた証をと。心に刻んだばかりだった。
「……くふっ、……ほほほ、ほほほほほ!」
 猟兵たちを嘲笑い、拒絶し、己の欲求を肯定するために、ベルベットは高らかに笑う。
「どーうじゃ! この世の全てはベルちゃん様のもの! 下民であろうが羽虫であろうが、そして猟兵であろうが! その身が朽ちた後はぜんぶ、ぜぇーんぶ! この魔力の源となるのじゃ!」
 そう宣言して、ベルベットは自分を取り巻く亡霊から魔力を吸い上げた。少女のか細い身体が魔力に満ち満ちていくのが、猟兵たちにもわかった。そして、搾取される亡霊たちが浮かべる苦痛の表情も。
「……お前はそうやって、今まで何人のフェアリーを殺した?」
 ルトルファスは握った手を更に強く握り込む。助けられなかったフェアリーたちは、今この手の中にいると信じたかった。目の前で、死してなお縛り付けられているとは、思いたくなかった。だが、フェアリーたちの嘆きがルトルファスの耳を打つ。
 ベルベットは嘲りの表情で答えた。
「そちは、これまで叩き潰した蝿や蚊の数を数えたことがあるのか?」
「……っ」
 パティが息を呑む。ニトロ・トリニィ(楽観的な自称旅人・f07375)は「救いがたい」と言いたげに目を伏せて首を左右に振った。



「――許さんッッ!!」
 長い黒髪が逆立つかと思えるほどの激昂で、ルトルファスは叫んだ。
「フェアリーの痛み、俺と怒れる精霊たちがその身に刻んでやる!」
 守護者の大剣を抜き放って夜空に振りかざし、精霊の力を憑依させる。それを合図に猟兵たちは皆、それぞれに武器を構えた。
「……楽しかったかい? 生者を苦しめ、亡者を愚弄するのは」
 魔導書を開き、ニトロが言う。屈託のない声は、却って彼の内側に澱積もる嫌悪感を浮き彫りにした。“怨念”の名を冠した本からは禍々しい気配が漂い、開かれたページから黄金の骨の腕が姿を現した。
「そんな時間はもう終わりだよ。残念だけどね。自分で犯した罪は、自分で償うんだ」
 上腕まで見えていた黄金の骨は穴から這い出るようにしてその全身を見せ始める。
「さあ、王様。復讐のチャンスだよ」
 ――がしゃり。
 “王様”と呼ばれた黄金の骸骨が、骨の軋むつめたい音を立ててベルベットに向き直り、空の眼窩をじっとりと向けた。
「ふ。喚くだけ喚きおったくせに、そちらもやっているのはベルちゃん様と変わらぬではないか」
 精霊との同調に伴って白い髪に赤い瞳へと姿を変えたルトルファスと、ニトロが召喚した黄金の髑髏王を眺め、ベルベットが嗤った。自分たちとて何者かを捕らえ、自由を奪い、使役しているではないか、と。同じ穴の狢のくせに、よくも棚上げできるものだと。
「変わらなくありません! 全然違います!」
 ベルベットをきっと睨みつけて、パティが叫んだ。
「私たちは、誰かの自由を犠牲にして戦っているんじゃない。力を出し合って、信頼し合って、そうやって戦っているんです!」
 そう訴える声は涙の色が滲んでいる。フェアリーであるパティは他の種族よりも圧倒的に身体が小さい。騎士としての矜持がある一方で、一人で為せることの限界を誰よりも知っているのだった。
「だから、だから私は……っ、あなたの我儘で巻き添えにされた方々のために、戦う!」
 散っていったフェアリーたちの悲しみが、わずかにパティの唇を震えさせる。しかし彼女は気丈に言い放ち、光の刃をベルベット目掛けて斬り付けた。
「羽虫が、何か言うておる」
 冷笑を浮かべて、ベルベットはパティの斬撃を防いだ。――というよりも、「防がせた」と言った方が正しい。侍らせた亡霊の一人に命じてパティの刃を受けさせたのだ。斬りつけられた亡霊は呻き声を上げて煙のように消えた。
「そちも、ベルちゃん様の親衛隊にしてやろうか」
 配下が倒されたことに眉一つ動かさず、ベルベットは再び魔術を展開しようとする。が、それはパティとベルベットの間に割り込んできた黄金の髑髏によって中断された。
 髑髏の王は大振りの剣をベルベット目掛けて振り下ろす。その縦糸に横糸を通すようにしてルトルファスが炎の精霊を宿した守護の大剣を振るう。一撃、二撃と連続して放たれる攻撃を、ベルベットはパティが斬りかかったときと同じように亡霊を次々と盾にして大剣を防いだ。
「何度やっても同じことじゃ。間抜けめっ!」
「そうかな?」
「何……っ」
 次の盾を呼び寄せようとしたとき、ベルベットは、もうこの場に自分を守り支える者が誰もいなくなっていることにようやく気付いた。
「僕たちの狙いが、君を倒すことだけだと思った?」
「……お前の欲と魔力に囚われた人々を解き放つことも、我が使命」
 ニヤリと笑うルトルファスとニトロ。二人は浄化の力を武器に籠め、ベルベットに盾にされる亡霊を救おうと奮闘したのだった。
 そして悔しげに顔を歪めるベルベットの背後から、パティが二度目の斬撃を浴びせた。
「ぎゃっ!」
 完全に意識の外からの奇襲を食らい、ベルベットは身体を仰け反らせて悲鳴を上げた。
そのまま地面に崩れ落ち、痛みにのたうち回る。魔力を吸い上げて回復を、と考えたところで搾り取れる相手が消えてしまっている。



「く、うぐぅ……またしても……っ」
 緤に続いて二度目の不意打ち。身体の小ささを逆手に取り、パティは仲間が派手に攻撃を畳みかけている間にベルベットの死角に回り込んだのだった。連携を重視した立ち回りが功を奏した。
「ブンブン飛び回りおって、うるさいのじゃ。捕まえて虫籠に放り込んでくれる!」
 悪態をつきながらベルベットが召喚したのは、巨大なハエ叩きだった。
「ちょ……っ、その形はいくらなんでも失礼じゃない!?」
 パティが慌てて飛び退ると、ぶん、と風を呻らせてハエ叩きが脇をかすめた。端から端までの長さが大人の男ほどもありそうな大きさのそれは、くい、とベルベットが指を動かすだけで右へ左へと軽々と飛び回る。執拗に追い回され、パティは息を切らして逃げ続けた。戯れに指揮棒を振り回すかのようなベルベットと常に全力で回避し続けるパティでは、どうあってもパティの分が悪い。徐々に飛ぶ速度が落ち、ついに叩き落される――と思われたところへ、ザッフィーロがメイスでハエ叩きを止めた。
「悪趣味が過ぎるぞ。命を弄ぶなと、言っただろう」
 ザッフィーロの声を聞いただけで、ベルベットは苦虫を噛み潰したような顔になった。その表情は口うるさい教師の小言に辟易した子供そのものだ。小さい唇がみるみる尖っていく。
「……幼いが故に善悪が未だ判らぬのかもしれん。誰か、それを教えてくれる者はいなかったのか? 人を思いやり、敬う心を」
「貴女がままならぬことに憤怒を感じるように、あなたが命を奪った妖精たちにもその心があり、生きる権利があったのです」
 哀しみを湛えた眼差しで、宵がザッフィーロの傍らに立つ。
「そう。愛おしい人とともにあり、笑い、幸せになる義務もあったのですよ」
 彼らには、師の代わりに悠久の時間があった。人々の手を渡り、善き心にも悪しき心にも触れてきた。そうして、長い時間をかけて心を得たのだった。
 では、この少女は?
 ベルベットはどうなのだろうか。ザッフィーロと宵のようにゆっくりと心を育む時間すら与えられなかったのかもしれない。それでも人の子であれば、まして裕福な環境に恵まれていたのであれば、誰かが道を示してくれたのではなかったのだろうか。
「……ふっ。それは、こやつらのような者共のことじゃな?」
 二人の声を忌々しそうに聞いていたベルベットが口許を歪め、再び亡霊を召喚した。彼女の言葉の意味を示すように、今度は少し様子が違う。先程呼び出した亡霊には鎧や剣で武装した兵士が多かったのだが、いま召喚された亡霊の多くはゆったりとした服を着ている。立派な本を手にした者もいれば、羽根飾りのついたペンを持った者もいた。
「こやつはな、小難しい説教ばかりでつまらぬ男じゃ。こやつは食事の度にやれ肘をつくな音を立てるなとうるさかった」
 亡霊の一人一人を指して、ベルベットが説明という名の文句をつけて行く。ベルベットは、誰のことも褒めはしなかった。敬うことも、感謝の言葉を添えることも、しなかった。彼女にとって、大切なことを教えてくれる大人たちはただただ煩わしい存在でしかなかったのだ。
「……なるほど。お話をしても、やはり無駄なようですね」
 宵は溜息とともに星を呼ぶ魔術を編み上げる。どのみち、未来を蝕む過去の残渣は討滅せねばならない。今ここでベルベットと話し合って相互理解を得られたとしても、それはひたすら自分の満足のためでしかないのだが。それでも。
「やるせない」
 胸中に渦巻く想いを吐き出すようにして、宵は宵帝の杖を夜空に高く掲げた。
「せめて、星降る夜を。――貴女に」
 空で瞬いていた星が全部落ちてきたのかと思うほど、たくさんの隕石がベルベットめがけて墜ちてきた。火を噴きながら地表を砕くそれは、すぐに森を焼いてしまうのではないかとすら思えたが、宵の制御は完璧だった。周囲への被害は最小限に抑え、ベルベットが立つ地点へ隕石を集中させることに成功している。
「今だ、畳みかけよう!」
「……ああ!」
 ニトロとルトルファスも、それに合わせて再び動いた。大剣で亡霊を斬り祓い、浄化させていく。
「何度も同じ手は、使わせないよ」
「……強化も、回復も、させぬ。お前はここで朽ちろ」
 ニトロが操る髑髏の王が振りかぶる、その剣の刃の上をパティが走った。
「倒す! 私たちの尊厳のために!!」
 凄まじい剣圧と共に振り下ろされる瞬間、フェアリーの騎士は跳んだ。ベルベットの前方で亡霊が吹き飛ぶのが見える。そしてベルベットの目ががパティの描く軌道を追っているのも。だがベルベットにはそれを防ぐ余裕が今はない。宵の呼び寄せた隕石と、息つく間もなく剣を繰り出し続けるルトルファスと、ニトロの髑髏王からわが身を護るので手一杯だった。
「もらった!!」
 悔しさと恨めしさの混じった瞳から目を逸らすことなく、パティは渾身の一撃を放った。



「う、うう……」
 おそらく自慢だったであろう金の髪を土埃と木っ端に塗れさせて、少女――の姿をしたオブリビオンは呻いた。その腕に、足に、黒猫が必死に身体を擦りつけている。にゃあにゃあとか細い声で鳴いて、ベルベットの手の甲をざりざりと舐めた。
「……――」
 ベルベットが猫に何かを語り掛けようとしたその時、鉤付きのワイヤーが撃ち込まれた。ピンと立てた尻尾のスレスレを射抜かれて、猫は飛び上がって逃げた。黒い身体は宵闇に溶け、金色の二つの目だけがワイヤーを撃ち込んだ犯人を見据えている。
「猫は、酷く当たる相手には寄り添わない」
 その犯人は、「おれも猫だからわかる」と付け足して地面に転がったままのベルベットを見た。
「お前にも、誰かを大切に思う気持ちはあるんじゃないか?」
 言葉や態度にしなかったからといって、自覚できなかったからといって、心のどこかにはそういう感情が眠っているはず。緤はそう信じたい気持ちでいた。こんな状況下であっても傍を離れない猫はきっとその証左であるはずと、敢えてベルベット本人ではなく、猫の、しかも猫を傷つけないようなスレスレを狙って機械人形を操縦したのだった。
「だ……誰が」
 傷だらけの小さな手で、指に触れた草をちぎる。
「猫なぞ、いくらでも代わりはいる。そちをひっ捕まえて飼ってやってもよいのじゃぞ!」
 黒猫が身を伏せているであろう方へは決して目を遣らずに、ベルベットは吠えた。そして三度、亡霊を召喚しようとする――が、思うように力を使えないらしい。短時間で続けざまに呼び出したせいだった。本来なら亡霊たちから魔力を吸い上げることでほぼ尽きることなく自分の力を増大させていくことが可能なはずだったが、猟兵たちが二度もそれを阻止したために全くアテが外れているのだ。
「うっ、……うう」
 ベルベットの口がわなわなと震えた。この場を切り抜けるために彼女に残された手段は、――たったひとつ。
「いくらでも、代わりはいるのじゃ」
 自分に言い聞かせるように繰り返して、猫を見た。恐る恐る。“それ”を選んではならないと、無意識に思っていた自分を叱咤しながら。
 にゃあん、と甘える声で鳴いて、猫はまたベルベットに駆け寄る。すり寄る猫の頭から背中を撫でて、ベルベットは猫の名を呼んだ。
 黒猫は、ごろごろと喉を鳴らしながら初夏の夜に霧散していった。
 最期の力を得て、我侭姫は立ち上がる。

「どこまでも……自分勝手なんですね」
 納得できないという顔で、パティはベルベットを睨みつけた。最後の最後で情と呼べるものを垣間見たとはいえ、結局は我が身を守るための選択をしたのだ。自分の行いを省みるでもなく、宵やザッフィーロの言葉の意味を理解しようとするでもない。
「結局は、オブリビオンだからね……それに」
 諦めたようにニトロが言った。
「ここに来て絆されるようなことになっても、僕らがつらいだけだ」
 これでいいのさ、と呟いて、ブラックタールの少年は自分の身体を伸ばし始めた。黄金に輝く骨の王にしゅるしゅるとまとわりつき形を変え、かつてオブリビオンに家族を奪われた心優しき王の肉となった。
「……そうとも。これまで数多くのフェアリーを犠牲にした罪が消えるわけでもない」
 ルトルファスが風の精霊の力を守護者の剣に纏わせて一歩進み出る。精霊と同調する技は、強力である一方で術者の命を削る。これ以上長引かせるわけにもいかないのだ。
「行くぞ」
 妖精たちの無念を一身に背負って、ルトルファスは地を蹴った。
「はい!」
「ええ」
 猟兵たちはそれぞれに覚悟を決め、剣を振るい、機械を操り、魔術を編む。
「赦しを求めぬ者には何も出来ぬ。……生きる限り纏わり積もる人の子の穢れを、今――返そう」
 ザッフィーロが誰よりも先んじて穢れの影を放った。その足元から伸び行くのは、ザッフィーロの身体に積もり続ける人々の罪と穢れ。夜の森の中であっても、それは全てを吸い尽くすかと思えるほど黒い影となって現れた。
「法性、撃て!」
 緤がからくり人形を操ってワイヤーでベルベットの細腕を絡め取る。
「く……、効かぬ!」
 影と鋼糸に縛られてなお、ベルベットは残る力を振り絞って魔力を結晶させていく。ひとつ、ふたつ、みっつ――。数は多くはないが、その塊の大きさはこれまでにないほどだった。
「死ね、猟兵ども!!」
 ベルベットが叫び、限界まで肥大した魔弾が猟兵目掛けて殺到した。それを肉を得た黄金の王が魔導防壁を展開して守る。ニトロの防壁とベルベットの魔弾がぶつかり合い、光の破片が飛び散った。
「……っ、負け、ない……!」
 骨の王だけであったら、この衝突で砕けてしまっていたかもしれない。ニトロが自らの形を変えて肉となり補強することで、王の身体はより強靭になっていた。
 そして、防壁の内側でルトルファスは祈った。せめてフェアリーたちの魂が安らかに眠りにつけることを。
 森の中を一陣の風が駆け巡った。木を揺らし、木の葉を舞い上げる。風は勢いを増して嵐となってルトルファスの剣に力を与えた。
「荒ぶる精霊よ! 今ここに刹那の力を示せ!!」
「あ、……ああぁァァアアア!!!」
 剣が一閃してベルベットを叩き斬る。
 凄絶な悲鳴を残して我侭姫は息絶え、その身体は瞬く間に風に溶けていった。



 平穏を取り戻した森で、猟兵たちは夜空を見上げた。
 夜明けまではまだ時間がある。やらなければならないことは山積みだ。
 だが今は、しばしの祈りを捧げよう。この世に生きる者が皆、幸せであるように。


 ――それでは皆さま、おやすみを。
 お手を拝借いたします。

「にゃあん」と、猫の鳴く声がした。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​



最終結果:成功

完成日:2019年06月15日


挿絵イラスト