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【流星少女のひとりごと】

ロニーニャ・メテオライト 2021年12月13日

私の過去、現在、そして未来。




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ロニーニャ・メテオライト  2021年12月27日
それはまた、長い間続きました。彼らの子供たちも、そのまた子供たちも、彼女を残して死んでしまいます。そのうち涙も枯れはて、やがて彼女は悲しいという感情すらも、失っていってしまうのでした。
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ロニーニャ・メテオライト  2022年1月14日
第二章~星になるということ~

 このころ、世界は急激な進化現象の真っ只中でした。人口は1000年の時をかけてだんだんと増加し、居住の地を求めた人々が魔法のように森林を一瞬にして消し去り、湖を枯渇させ、山を焼いていきました。そして、少女が隠れ住んだ巨大な森も、鬼の形相をした神様たちの手によって、あっけなくこの世からなくなってしまいました。
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ロニーニャ・メテオライト  2022年1月14日
彼女にはどうすることもできませんでした。大好きだった森、お城、動物たち、何一つ守ることができない。それなのに自分はいつまでたってもなにも変わらずに、ただ存在し続けている。少女の心からは明るい色の感情がどんどんと流れ出していって、とうとう真っ黒な心臓を持った、抜け殻のような塊まりに変わり果ててしまったのでした。
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ロニーニャ・メテオライト  2022年1月14日
少女はまた“引越し”を余儀なくされました。しかし、彼女がせめて望むような美しい森や澄んだ湖などもうどこにもなくなっていたのです。仕方なく少女は街へ下りました。そこはなにもかも彼女の知っているものとは別世界で、顔も名前も知らない誰かの囁く声に溢れ、得体のしれない匂いに塗れ、目に捉えきれないほど様々な色に満たされていました。そんな街の風景も、少女には白と黒の二色で彩られた、褪せた絵画のようにしか見えませんでしたが。
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ロニーニャ・メテオライト  2022年1月14日
声から逃げ、匂いから逃げた彼女は、大きな大きな図書館に辿り着きました。そこはその国で一番立派で、一番の蔵書量を誇る、とても広い場所でしたが、この国の人々は文字に興味がないのか、自分の保身で精一杯なのか、ほとんど誰もおらず、しんと冷え切った空気が漂っていました。
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ロニーニャ・メテオライト  2022年1月14日
少女はそこで、世界中すべての星々の神話が載っている分厚い本を見つけました。その本には、いつか長老フクロウが聞かせてくれたお話が、すべて書かれてありました。“星は何よりも自由で何よりも気高く、そして何よりも美しい”長老フクロウのそんな言葉を、少女は思い出しました。その本に夢中になるうちに、彼女は自分が星になって宙に浮いている姿を想像し、星になりたいと本気で願うようになったのです。
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ロニーニャ・メテオライト  2022年1月14日
一冊を読み終わると、また一冊、一冊。少女はその図書館の本たちを取り憑かれたように読み続けました。これほど長い年月を過ごしてきた彼女にも、知らないことはまだまだたくさんありました。星になるにはどうしたらいいか、少女は知りませんでしたから、必死にそのための方法を探し求めました。
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ロニーニャ・メテオライト  2022年1月14日
長い長い文字の羅列が彼女の周りを回って、幾重にも重なり上へと伸びていきます。朝から夜へと移り変わり、図書館の天窓にはまったステンドグラスの合間から、柔らかい星々の光が降ってくると、気が抜けたように本に囲まれて眠り、また朝になると枕にしていた本から順に読み始める。そんな毎日を送って4年、彼女はようやく図書館中すべての本を読み終わりました。しかし、そのどれにも、星になるための方法は書かれていなかったのでした。
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ロニーニャ・メテオライト  2022年1月14日
それでも少女は諦めません。次に、彼女は国で一番物知りな学者を訪ねました。どうすれば星になれるのか。その答えがただ欲しかったから。しかし、学者の答えは“分からない”ただ一言だけでした。彼女はまた、ひどく絶望しました。なにせその学者の持ちうる全ての知識など、少女が今まで過ごした時間の中のほんの一部に過ぎなかったからです。
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ロニーニャ・メテオライト  2022年1月14日
学者は少女に訪ねました。“どうして星になりたいのか?”と。彼女は寂しそうな顔で、“だってお星さまはとっても自由でしょう?きらきら光って、私たちを見下ろして。誰もお星さまのことをキライな人っていないのよ。それって素敵なことじゃない?”と答えました。“星は何よりも自由で何よりも気高く、そして何よりも美しいの。私は空の高い高いところから、この色のない世界を見下ろしたいの。”と。そして呆然とする学者には目もくれず、彼女は静かに去っていきました。
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ロニーニャ・メテオライト  2022年1月14日
奪い合いを続ける世界。彼女にとって世界とは、白黒で縁どられた汚くて狭い箱庭と同じでした。彼女が大好きだったものはどれも、世界と同じく真っ暗闇に溶けてなくなってしまいました。星になることだけが、彼女の唯一の望みであり、存在理由でありました。こんな薄汚れた街の上にも、お星さまは輝いている。淡い光を放つ星々だけが、彼女の心を癒してくれるのでした。
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ロニーニャ・メテオライト  2022年1月14日
第三章~ひとりぼっちの世界~

 そのころ、街には高い高い建造物が立ち並び、影になった暗い場所を人々は縫うように通り過ぎていきます。果てしなく天まで伸びていきそうな高い高い場所。そのてっぺんから手を伸ばしても星に触れることも叶いません。やがて彼女は手を伸ばすことすら止めて、ただただこの灰色の世界で息を潜めて暮らしていました。
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ロニーニャ・メテオライト  2022年1月14日
長い長い殺し合いの時代も過ぎ去って、それぞれの国が自分勝手に色を選ぶようになり、しかし彼女にはどの色も白と黒。自分だけをひたすら置き去りにして、世界は進化と退化を繰り返していきました。その度、延命治療を図る誰かのせいで、この惑星は終わることなく。
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ロニーニャ・メテオライト  2022年1月14日
いつか、動物たちと離れてから、彼女はずっとひとりぼっちでした。友達と呼べるのはたくさんの本、神様は星々たち。いつからか寂しいという感情すら消え去っていって、何千年もの歴史を目の当たりにしてきた自分を、神に近い存在と信じることで、どうにかその身を保っていたのです。
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ロニーニャ・メテオライト  2022年1月14日
「神は人々の願いなど叶えない。だって私の望みはまだ叶っていないもの。」少女は空に向かってそう呟きます。「だから私も誰の望みも叶えない。この世界の人たちは傲慢でよく分からないわ。」とも。
 彼女には1つだけ、分かっていることがありました。“この時代ももうすぐ終わる”。惑星は滅びることなくとも、人類はそのうちに消えてなくなると。彼女はそれを絶望とも希望とも思いません。どうせひとり取り残される身。誰との関わりも、何との関わりも持たない。もう世界に干渉しない。それが彼女の決めたことでした。
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ロニーニャ・メテオライト  2022年1月14日
それは突然起こりました。ゆっくりゆっくりと全てを蝕む伝染病のように、何もかもを巻き込んで、少しずつ人間が作り上げた“箱庭”を崩壊させていきました。街の色はとうとう灰色から真っ黒に変わり、それは彼女以外の目から見ても明らかでした。流行病程度で済むはずもない“それ”は、人間を汚していって、絞め殺していって、滅ぼしていきます。
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ロニーニャ・メテオライト  2022年1月14日
彼女は全てを理解していました。彼女以外の誰も理解していないことを。長い年月をかけて何度となく繰り返されてきたことですから、彼女は古い写真を1枚ずつ見せられている気分になりました。干渉を止めた世界がゆっくりと失われていく姿を、彼女は外から眺めていました。それしかできませんでした。
 そして西暦…何年かは彼女にも分かりませんでしたが、ついに“箱庭”は破滅の時を迎え、彼女を残し人っ子ひとりいなくなってしまいました。
 少女はついに、世界にひとりぼっちとなりましたが、もはやそれでも構いませんでした。今までと何も変わらない、ただ崩壊した白黒世界がどこまでも永遠に広がっているだけでしたから。
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ロニーニャ・メテオライト  2022年1月20日
流星少女のお話 第四章
~流星少女とロボット~

 どこもかしこも荒廃しきった世界。その真ん中で宙に浮いたようにふわふわと、少女は過ごしていました。本当のひとりぼっち。今までと何が違うわけでもない状況なのに、無音で無色な世界を望みすらもしていたのに、それでもずっとそんな中で過ごしていると、段々薄気味悪さに背が震えるようになってきたのです。
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ロニーニャ・メテオライト  2022年1月20日
星だけは、それでも彼女の心を癒してくれました。星の巡りに合わせて1日を送り、朝昼晩、星に願いを込めて祈る。それがたった1つの少女の習慣でした。もう家族の顔も、暮らしてきた森の匂いも思い出せない。それほどに長い時を生きて、姿形何一つ変わらず、存在し続けるのみの自分を嫌い、祈る時以外はずっと泣いている少女。
 せめて少しでも高い場所へと、彼女は少しずつ旅をしました。いつか本で読んだ、星に1番近い場所へと。その場所は彼女のちょうど反対側にあって、少女にとっても未知の領域でした。長い長い(といってもこれは私の尺度であって、彼女にとっては今まで過ごした時間のほんの一部にすぎませんが)旅をして、彼女はその場所に辿り着きました。
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ロニーニャ・メテオライト  2022年1月20日
其処はとてもとても不思議なところでした。生き物の気配は全くなく、無機質なビルや建物が雑に立ち並んでいるほか、鉄塔や謎の塔、そしてやけに大きくて長い筒のようなものが、堂々と鎮座していました。少女はそれを知っていました。本に挿し絵つきで紹介されていた、“天体望遠鏡”というやつです。なんでも、星を細かく、正確に見ることができ、宇宙全体の様子をも見通すことができる代物らしく、彼女はずっと憧れていたのでした。
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ロニーニャ・メテオライト  2022年1月20日
それを覗いてみたくていてもたってもいられなくなった少女は、支えている土台の元まで駆けていき、彼女より何十倍も大きなその物の、一番小さな部分である、接眼レンズを覗きこみました。
 そこには少女の生きた時間の中で、1番の衝撃が待っていました。本当に手に届きそうな程近くに、目も眩むような光を放つ星々を感じることができる。あの星がデネブ、あっちはベガ、あれがアルタイルで、これがラムダ。こんなに近くに神様たちがいる。少女は我を忘れ、時を忘れ、ただ夢中になりました。宇宙に咲くバラや、ブラックホール、銀河、天の川や五芒星。そういったものを見つけては、勝手に名前をつけて、少女の中だけの神話世界を作り出していきます。
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ロニーニャ・メテオライト  2022年1月20日
そうやって長いこと、ふと気がつくと辺りはすっかり明るくなっていました。彼女は一旦レンズから目を離し、白む空を見上げました。そうしていると、どこからともなく高く鳴り響く金管の音が聞こえてきました。彼女は驚いて、もしやここにはまだ人が残っていたのかと思い、周りを見渡しますと、少女のいる土台の対面のビルの屋上で、何者かがトランペットを吹き鳴らしているのでした。
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ロニーニャ・メテオライト  2022年1月20日
彼女は恐る恐る、そのビルに向かいました。壁からそっと覗いてみると、それは1体の古びたロボットでした。そのロボットは少女に気がついたかのようにゆっくりと振り向き、2人は目が合いました。それからしばらく、ロボットはこちらへ歩いてきて、2人の距離はほぼ0になりました。少女は固まって動けません。ただ目だけは離さずに、彼を見つめました。やがてロボットは何か思いついたように彼女から離れ、どこかへ消えていきました。少女は安堵してその場に座りこみ、いつの間にか眠りについてしまいました。
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ロニーニャ・メテオライト  2022年1月20日
彼女が目を覚ますと、ロボットの彼は再びそこにいました。一瞬慌てた少女でしたが、落ち着いて考えれば相手は人ではなくただのロボット。私に干渉してくることはないだろうと思い直しました。ところが少女が目を覚ましたことに気づいたロボットは、再び彼女に近づいてくるのです。またもや固まって動けない彼女に、やがて彼は一輪の花を差し出しました。その花は眩い光を放ち、とても美しい花弁と芳しい香りを放つ、まるで星のような花でした。
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ロニーニャ・メテオライト  2022年1月20日
流星少女のお話 第五章
~星の花の丘~

 少女はロボットが持ってきたその花に、ただただ魅了されました。まるで手のひらの中に星が浮いているように、キラキラと淡く瞬いているそれは、しかししばらくするとみるみるその光を失い、やがては萎れてしまったのです。
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ロニーニャ・メテオライト  2022年1月20日
少女はその萎れた花を、思わず強く握りしめました。自分の手の中で命が一つ散ってしまう、それが彼女には空しくてたまりませんでした。今までなんのことはない、ちっぽけで、自分には無縁だとばかり思っていた“死”というものを、少女は初めて強くその身に感じたのでした。
 そんな彼女の様子を、ロボットはしばし眺めていましたが、やがて思いついたように彼女の肩をゆっくりと叩きました。少女が恐る恐る顔を上げると、ロボットはそっと手を差し出します。どうやらどこかへと連れて行こうとしているようだ。そう察した彼女は彼の手を取りました。
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ロニーニャ・メテオライト  2022年1月20日
ロボットに連れられて歩く道すがら、さらに彼女はいろいろなものを目にしました。瓦礫の山に埋もれた朽ちた樹木、そこだけが取り残されたように神聖な気を放つ泉、幾何学的に積まれた石の隊列など、そのどれも彼女にとっては新鮮なものでした。やがてたどり着いたのは小高い丘の上。先ほどロボットが持ってきた花が、そこら中一面に咲きほこっていました。
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ロニーニャ・メテオライト  2022年1月20日
少女はその美しさに絶句しました。一輪だけでも自分の心を奪ったあの花が、こんなにもたくさんここに生きている。目の前に当たり前のように広がる光景も、彼女にとっては夢のようなものでした。その花畑に足を踏み入れると、反射した光が彼女のワンピースに映ります。1つ1つの花が意志を持つかのようにうごめいては、彼女の鼻腔をくすぐりました。少女は少し空いているスペースにそっと腰かけて、光る丘から空を見上げました。“ああ、本当に、本当に星のようだ。この光とともに、私も天まで昇っていきたい。”そんなことを考えていると、ロボットが彼女の横に腰かけ、そっと彼女に寄り添ってきました。少女には分かりました。“きっと彼も私と同じなんだ。同じように寂しくて、同じように一人ぼっちなんだ。”「ここに連れてきてくれてありがとう。」彼女がそうお礼を言うと、彼はなんだか嬉しそうに、首を上下に振ってみせました。
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ロニーニャ・メテオライト  2022年1月20日
それから彼女は、ロボットとよく一緒に過ごすようになりました。今まで長い間ずっと一人だった少女にとっては、恥ずかしくも心地よい時間でした。ロボットの彼も発明者と別れてから、長いことずっと一人でした。言葉を話すことのできない彼に、少女はたくさんのことを聞かせてあげました。
 ロボットの彼の日課は、毎朝同じ時間にトランペットを吹き鳴らすことです。少女が苦労の末把握した情報では、どうやら彼が作られた時からの習慣のようでした。少女はそのトランペットの音色が大好きになりました。とても暖かくて優しい音。聴いていると安心して、悲しみや絶望も忘れられる気がするのでした。彼は言語を持ちませんがどうやら感情は多少持ち合わせているようで、嬉しそうにしたり、落ち込んだ素振りを見せたり。彼とコミュニケーションを取ることが、彼女の日課になりました。
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ロニーニャ・メテオライト  2022年1月20日
流星少女のお話 最終章
『流星少女』

少女とロボットが共に過ごすようになってから、しばらくの時が流れました。それは今までに彼女が生きた時間からすれば、遥かに短いものでしたが、少女はロボットの彼と出会ってからの時間の流れを、とてもゆったりとしたものに感じていました。
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ロニーニャ・メテオライト  2022年1月20日
とうに感情など失ってしまったと思っていた彼女の心が、再び色々な音を奏で始めるまでに、そう時間はかかりませんでした。初めこそ油を差し忘れたブリキのオモチャの様に浮かべていた笑みも、そのうち自然に溢れるようになり、ロボットに向かって微笑むことが出来るようになりました。

ロボットの彼も、彼女の色々な表情を見る度に、とても嬉しそうにします。だって彼にも心はあるのですから、言葉の代わりに仕草でもって、少女に感情を伝えました。
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ロニーニャ・メテオライト  2022年1月20日
彼女はよく、あの大きな天体望遠鏡のところにロボットを連れていきます。ロボットは最初、首を横に傾けて不思議そうにしていましたが、少女が自分で作った星々の神話を話すと、うっとりした様子で聴き入ります。彼女にはそれがとてもとても嬉しいのでした。

それから星の花の丘。少女とロボットは疲れたら丘に登って、柔らかく光を放つ花に囲まれて眠りにつきます。そうすると少女は夢の中で、星の花と共に天高い空の果てまで登っていけるのでした。
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ロニーニャ・メテオライト  2022年1月20日
少女は今も毎日祈っています。“星になりたい” 。星の花に囲まれて眠って、次の朝が来る度に星の丘のてっぺんで膝をつき、両手を組み、空を仰いで祈りを捧げる。願いの儀式と呼ぶには稚拙なものかもしれませんが、彼女にとっては本当に大切な時間でした。
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ロニーニャ・メテオライト  2022年1月20日
ただ1つ、少女には心配なことがありました。ロボットの彼は、星になるということをどう思っているのだろうか。さり気なく尋ねてみても、口の端を何となく半月型に持ち上げるだけ。それは恐らく彼の笑みなのでしょうが、彼女にはその微笑みの意味が判別出来ませんでした。悲しそうにも、嬉しそうにも見えるのです。少女は何だか、すごく寂しい気持ちになりました。
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ロニーニャ・メテオライト  2022年1月20日
その日、少女とロボットは何時ものように、荒廃した街の神秘的な空間を駆け回り、天体望遠鏡で星々を観察し、遊び疲れて星の花の丘で眠りにつきました。明け方、彼女がふと目を覚ますと、目の前には何もかも普段と違う光景が広がっておりました。

“空や光や星々が、歌を歌っているみたい” 少女は目の前の光景を見てそう思いました。それは天高く遥か上空から地上に向かって垂れ下がるカーテンの様でした。ゆったりと揺れながら、赤や緑、青と様々に色を変えていく光のカーテン。彼女にはそれがまるで生きているみたいに感じられました。
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ロニーニャ・メテオライト  2022年1月20日
気付くとロボットの彼も少女の横で、その光のカーテンを見上げていました。やがて、何か思いついたのか、彼はその光の袂へと歩き出しました。彼女もよく分からないまま、ロボットに着いていきます。その光のカーテンは、近付けば近付くほどに、大きさや美しさを増していきました。

やがて光のカーテンの袂に着くと、ロボットの彼は少女の方へ振り返りました。少女は唖然としました。カーテンとカーテンが折り重なっている隙間に、上へ上へと続く階段が顔を覗かせていたのです。
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ロニーニャ・メテオライト  2022年1月20日
「貴方はこれを知っているの?」 少女はロボットに尋ねます。彼はしばらくの沈黙のあと、そっと首を縦に振りました。口元にはあの半月を湛えておりました。彼女は自分の感情がぐちゃぐちゃになっていくのを感じます。“彼はどうして、私にこんなにも優しいのだろう” “この階段を登っていったら、私は星になれるのかな” “とてもとても嬉しいのに、とても哀しいのはどうして” 。
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ロニーニャ・メテオライト  2022年1月20日
少女が思考を巡らせる間に、ロボットの彼は落ちていた棒で、地面に何やら書いておりました。少女はしばらくしてそれに気付きました。
『AURORA』。ロボットはそんな文字を地面に紡いでいました。
「これはオーロラ、っていうの?」 少女が再び尋ねますと、ロボットの彼も再度、首を縦に振ります。彼女は心の中で何度も、その言葉を繰り返しました。
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ロニーニャ・メテオライト  2022年1月20日
『はやく!いそいでのぼらないと、きえてしまう』 ロボットはそんな文章を地面に書き足しました。
「貴方も一緒に行きましょう」少女は彼にそう伝えます。
しかし、ロボットの彼はさらにこんな文章を付け足しました。
『ぼくはいっしょにいってあげられない。ぼくにはきみとわかれたあとに、やらなければいけないことがあるんだ』 と。

少女の瞳から大粒の涙が溢れ出しました。その涙は幾重にもなって、地面に恵みの雨のように降り注ぎます。ロボットの彼の目にはその涙が、今まで見たどんな星たちよりも美しく映りました。
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ロニーニャ・メテオライト  2022年1月20日
少女は音もなく泣いていましたが、やがて全ての想いを振り切るように勢いよく後ろを向き、オーロラの中の階段へと足を掛けました。ロボットはその様子を、ただ見つめています。彼女は1段1段と、踏みしめるように階段を登っていきました。そうして姿が見えなくなっても、彼はずっとオーロラを眺めておりました。
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ロニーニャ・メテオライト  2022年1月20日
さて、星になりたいと願った少女と、優しいロボットのお話も、これでようやく終幕です。皆さま、こんな気まぐれな名もない神のひとり言に今まで付き合って下さって、大変ありがとうございました。またこの様な機会があった時には、またお付き合い下さいませ。

そうそう、星の廻りの管理を担当している神から聞いたのですが、あのあと “小さいけれど淡く美しく輝く星”、が1つ新たに生まれたそうですよ。
何処ぞの廃墟の街のロボットが、その星に名前を付けたんだそうです。
『メテオロニーニャ』ってね。
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ロニーニャ・メテオライト  2022年1月26日
--------キリトリ線--------過去と現在のキリトリ
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ロニーニャ・メテオライト  2022年1月26日
流星少女と有り得た世界

ロニーニャが星に憧れたのは一体何故か。
勿論、星の神話を長老フクロウに語ってもらってからずっと、彼女は星々が大好きだった。
だが、それ以上に。
あの強く美しく光り輝き宙を彩る星に心を奪われたのは、彼女になんの力も無かったからだ。
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ロニーニャ・メテオライト  2022年1月26日
死ぬことも無く、老いることも無い。そんな力だけ持っていても、嫌われ恐れられるだけだった。
世界が崩壊し、再生し、それを何度繰り返しても、彼女にはどうにもできなかった。見ていることしかできなかった。
だからこそ、どんな世界の上でも平等に輝く星に憧れた。
その力強さと慈悲深さに恋をした。
世界をどうにかする力などない彼女はただ星を眺めていた。ずっとずっと祈っていた。
彼女は星になりたかった。誰かの心を照らせる光に、なりたかったのかもしれない。
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ロニーニャ・メテオライト  2022年1月26日
__星はいつだって平等で、何より気高く、何より美しい。

猟兵となった今、ロニーニャは戦うための力を手に入れた。
何千年と生きてきて、今まで持っていなかったもの。
今の彼女には、世界はどう映るのか。

ロニーニャは星座盤を見つめていた。そこには混沌として、然し同時に理路整然とした星々が数多描かれていた。その様子はまるで宙をそのまま写した様だった。
無数の星の中のひとつが強く光り、明滅する。それは彼女が必要としている存在を知らせているのだ。
彼女は歩き出した。ゆっくりと、しかし確実に。
未だ見ぬ土地へと、彼女の祈りを必要としているもののために。
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ロニーニャ・メテオライト  2022年3月5日
私的なご報告。
恋人が出来たわ……。
とても恥ずかしいけれど、書き残しておきたいと思ったの。

まだ、私の感情が恋愛感情なのか、正直はっきりとは分からないけれど。
でも、とても大切だと想える人で、内面にとても惹かれた人。
(もちろん綺麗な瞳や柔らかな髪、優しい笑顔にも)
愛情であることは確か。

これから、ゆっくり一緒に歩いていきたいわ。
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ロニーニャ・メテオライト  2022年3月31日
心の宿る


かつて何千年も前、森の動物たちと支え合い暮らしていた頃、彼女には確かに愛情というものがあった。
親愛・友愛・恋愛・師弟愛。どんな愛情も元はひとつ。「大切に想う」というシンプルな、しかし奥深く神秘的で不思議な感情から来ている。

だが、彼女はそれを失った。奪われたのだ。しかしれを奪われたのは彼女だけではない。ある時は残酷な闇が、ある時は流行病が、ある時は人間の欲望が、人々からそれを奪った。
愛した動物たち。愛した世界。かつて愛していた家族たち。そういったものを亡くし、或いは裏切られ、そうやって人は何も愛せなくなっていく。
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ロニーニャ・メテオライト  2022年3月31日
潜在的な恐怖、嫌悪感、無意識の畏れ。期待するのを止め、思考を止め、諦めでもって関係を絶つ。
そうして彼女もまた、世界との繋がりを絶った。

ロボットの彼と出会うまで、彼女の心に再び愛の灯が点ることはなかった。
ロボットの彼との触れ合いで、その時彼女は感情と一緒に愛を思い出した。
「相手を大切に想い、慈しむこと。優しくすること」
もはや心などない黒い塊と成り果てていた彼女に、ロボットは再び水を与えたのだ。
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ロニーニャ・メテオライト  2022年3月31日
___そうして、そうして私は星になったのよ。彼に付けてもらった名前、“メテオロニーニャ”。とてもとても温かな響き。優しい彼のトランペットの音を思い出すわ。

そうして、今はこの世界にいる。私は初めから愛を知っていた。何度忘れかけたとしても、失ったとしても、それを思い出させてくれる人がいる。
私にも誰かを愛することが出来る。とても素敵ね。
そうして今、私には愛する人がいる。
この世界を守るための力もある。
もう見ているだけじゃない。諦めて俯いているだけじゃない。
大切なことはもう二度と忘れない。
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ロニーニャ・メテオライト  2022年3月31日
愛する貴方の名前も。
美しい星空も。
様々な世界で見た風景も。
全部全部とても愛おしくて、優しい。

生まれてきたことをね、初めて心の底から喜べたのよ。何千年と生きて初めて。

今はもう見ているだけの星じゃないわ。私は流星。祈りと輝きで、救えるものを救うために。どこまでも流れていく。
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