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タ―ジューン海戦、第3段階

嗣條・マリア 2021年1月29日

――――ネバーランド、沿岸陣地。臨時作戦司令部。


「本島左舷。航空小隊、数は2です」
「美化に対処させろ」
「本島後方、2個……いえ、3個小隊来ています!」
「風紀を出せ。落としきらずともいい」

淡々と、ユウ・キリヤマは本島に迫る敵への対処を進める。
ネバーランド本島の強行突破は、今まさに完了した。あとは島に喰いついてくる敵への個別迎撃でいい。
――の、だが。

「――妙だな」

……?という顔でオペレーターがユウ・キリヤマの顔を見る。
シンクに詰まった生ごみでも見るような、不機嫌そうな鋭い瞳。気圧されて、オペレーターが計器のほうに向きなおる。

「追撃の手が緩い。近衛はどうした。トライ・アロウに今更近衛を向けたところで、過剰戦力以外の何物でもないはずだが」



「まあ、いい。追撃の手が緩いのなら、好都合だ。機関に通達、本艦はこれより最大船速で戦線を――――」
「ふ、副会長―――――!!!!」



―― ―― ―― ―― ―― ―― ――


―― ―― ―― ―― ――


―― ―― ―― 


――




――――数十分前、トライ・アロウ。地下1200m“聖櫃”

「……少佐、本当に使うのですか?」
「ん? あー……まあ、その気がなけりゃこんなとこまで降りてこないだろ」


少佐と呼ばれた熊のような大男が、問いかけた自分の部下にバツの悪そうな顔で答えた。
答えてから、目の前の巨大な影――カタパルトにワイヤーで縛り付けられたキャバリアを見上げる。


「――――サタナエル」
「“シャッテン”から『友好の印』として寄贈されたキャバリア。解析不能な技術が多すぎて、使われることなく封印された機体……です」


そのキャバリアの名を口にした瞬間、部下が息を呑んだのが聞こえた。


「やめましょう、少佐! これは使ってはいけない物です!」
「なあ、お前、国の飯は好きか?」
「――――は?」
「生まれは? 友達はいるか? 家族は?」


少佐は煙草を取り出して、咥える。ゆったりしとした動きで火を点ける。
深く、深く肺に煙を溜めて大きく吐き出し。


「何もできねえで見てるだけじゃ、それが全部奪われる。だったら、やってみるしかねえだろ」


その一呼吸分だけで満足とばかりに、足元に落とした煙草を踵で潰す。


「んじゃ、行ってくるわ。ヤバかったら機体の爆破装置、直ぐに起動してくれよな」



/ * / * / * / * / * / * / * / * /



――――――トライ・アロウ首都上空にオブリビオンマシン“サタナエル”が出現しました。

サタナエルは出現直後、アリューシル王国側の戦力を徹底的に攻撃。
王国陸軍第8機械化歩兵大隊と王国海軍第4機械化歩兵大隊に瞬間的に多大な損害を与え、同時に戦線に混乱を呼ぶことに成功しました。

“サタナエル”はこの好機を逃すまいとさらに攻勢にでようとしましたが、一変。
キャバリアは暴走を開始し、手近なトライ・アロウ所属のキャバリアや街にまで攻撃を開始。

現在は“サタナエル”の無差別攻撃によって両軍ともに甚大な被害を被り、戦線が崩壊しています。
特にトライ・アロウ戦線に参加していた機械化歩兵大隊2つは7割以上の戦力を消失。
アリューシル王国はトライ・アロウの攻略を放棄し、撤退を開始しました。


※要約※
トライ・アロウが切り札を出したよ!

めっちゃ強くて戦線を押し返せそうな雰囲気にまでなったよ!

オブリビオンマシンだったから暴走しちゃったよ!!

王国はネバーランドを雑に追撃する以外は撤退し始めたよ!!!


※だいじ※

【【 王 国 近 衛 は 全 員 帰 り ま し た 】】

【【 今 後 戦 場 に 近 衛 は 来 ま せ ん 】】




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