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【RP】消えない過去、消えていく未来

緋翠・華乃音 2020年6月29日

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これは淘汰されてしまった数多の星の一つ。
あり得たかも知れない可能性の物語。

輝かしい正義の英雄と、その孤独に寄り添う影。
未来を見つめる少女と、過去に想い馳せる少年。

――或いは、そう。
世界を滅びから救おうとする者と、世界の滅びに手を貸す者。

優しくも残酷な運命が紡ぐ、終わりを迎える二人の物語。


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◆終章

何かを得ようとすれば、別の何かが対価として必要となる。
得たいものの価値が高ければ高いほど、払わなければならない対価も必然的に高くなるのは常識であり、誰もが理解できる単純な話だ。

ならば滅びの確定した世界をどうしても救いたいと望むのならば、一体どれほどの対価を払わなければならないのだろう。
――はっきり言おう、それは不可能だと。

世界が天秤に掛けられているのだ。
それに匹敵する対価など、どこをどう探してもありはしない。

だったらどうだろう、いっそ神の慈悲でも乞うてみるか?
魅力的な提案だがそれも不可能だ。

前提として、実のところ神の存在の有無を議論する必要は無い。
この世界には確かに神が存在するのだから。
しかし残念なことに、この世界を創造した神と呼ばわる存在はつい数日前に消えてしまった。
正しく言うのなら、消えたのではなく人類が討滅したのだ。

故に不可能であり、そして全て自業自得。
神を滅ぼしてしまったのだから、世界も共に滅びるのは当然のこと。

本来の計画であれば討滅ではなく封印する予定であったとか、そもそも向こうが最初に人類を滅ぼそうとしたとか、言い訳には事欠かないが、仮定や過程に意味はないのだ。
もしもこうだったらとか、途中までは上手くいったとか。
どれだけ上手い理由を並べようと、結果の前では全てが霞む。

しかし人類の往生際というのは中々どうして侮れない。
それはそうだ。『今日で世界は終わります』と告げられ、それをあっさりと受け入れられるような種族ならばとうの昔に滅んでいる。
故に事情を理解している人間は、何としても明日を迎える方法を模索した。

さて、人類には不可能を可能にする唯一の手段がある。
『実は不可能じゃなかった』という新説の証明こそ、人類が最も得意としてきた可能性を得る方法だ。

そして様々な条件付きではあるが、またしても人類は不可能の壁を乗り越えてみせた。
得たいものの価値と払うべき対価のバランスという不変の条理を覆したのだ。

つまり、得られた結論こそが『たった一人の命で世界が滅びから救われる』というものだ。
例えその必要となる命が、今まで人類を護り続けた優しき英雄のものであったとしても。

可哀想だが世界の為に犠牲になってくれと、結論を知った誰もが望んだ。優しき英雄も、誰かの明日を護れるならと、犠牲になることを心から喜んで受け入れた。


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#Situation
滅びを迎える世界。無人の大聖堂にて。




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緋翠・華乃音 2020年6月29日
……君が犠牲になる必要は無いよ、ルーチェ・ムート。
君の戦いは、もう終わったんだ。
(美しく荘厳なステンドグラスから差し込む茜色の光が彼女を包んでいる。その姿はどんな神話にも劣ることはないだろう)
(背後で大扉の閉まる音がした。一瞬だけ伏せた視線を彼女へと向ける。深い湖水のように満ちた、瑠璃色の決意)
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ルーチェ・ムート 2020年6月30日
だめだよ。まだ終わってない。キミも知ってるでしょ?
(未だに脳裏に深く刻まれている民衆の声。明日を願い、この命を乞う望み。振り返り揺れるヴェールはさながら花嫁のよう)ふふ。最期だからって、こんな格好。世界の、わからない神様にお嫁に行く気持ちだよ。
(悪戯めいて笑ってみせる。真っ直ぐな瑠璃色の眼差しは雄弁だ)
カノン、せっかく格好いい姿をしてるのに。そんな顔してたら台無しだよ。ボクを追いかけて来るなんて、悪い子。
(ステンドグラスの光を受けた静謐な衣。透ける髪に白い顔立ち。終焉の場へ足を運ぶには勿体ない)(閉ざされた扉を開けて、早く逃げてしまえばいいのに。彼は気付いてしまったのだろうか――ボクの抱える、恐怖と寂しさに)
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緋翠・華乃音 2020年7月1日
……君が討ったんだから、この世界にもう神様はいない。
(優しい日常と何も変わらない穏やかな声。しんと降る月光に照らされた、古刀のように静謐な雰囲気もそのままに)
残念だけどそれは違う。君を追い掛けたんじゃなくて、今は君の前に立ち塞がってるんだよ。
(“ここ”は本来であるなら決して立たない場所だ。それでも、いつかそんな日が来るのだろうと予感はしていた。彼女が英雄となった、その瞬間から)
君は良い子だから、バランス的には丁度良いだろう?
(つくづく自分達は対照的だと思う。良い子と悪い子。未来と過去。日向と日影。それから、他にも)
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ルーチェ・ムート 2020年7月1日
…そんなこと、ないよ。だって…(ボクの命を求める声は続いている。それが皆の願い。明日を巡らせ続ける為の)神様が居なくても世界はこうして存在してる。一筋の光があるなら、縋り付きたい。カノンは違うの?
(無意味な質問だとわかっている。刃を反射する光のような声は決して甘くない)
ボクからしたら同じだよ。…どうしてキミなのかな。他の人だったらまだ…ここまで躊躇わなくて済んだのに(彼の力量も理解している。そしてまた彼もボクの力量と――心を理解している。だから先回りされた)
まさか。ボクも悪い子だよ。悪い子と悪い子じゃ相容れない(笑みに苦いものが滲む。手にしている細い剣が今は重たい)…カノン、考え直してよ。キミにだって大切な人は居るでしょ?世界が終わったら、本当にそこで全てがなくなっちゃうんだよ。
(彼と同じ志で、同じ道を歩めたらどんなに良かったか。けれど、わかたれたからには最早交わる事は出来ないだろう)
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緋翠・華乃音 2020年7月4日
……違うな。闇だろうと光だろうと、何か縋り付きたいとは思わない。ましてや誰かを犠牲にしなければ得られない光になんて、手を伸ばす価値も無い(光になること、それ自体が英雄の役割? いいや、それは違う)
君の――英雄の役割はもう終わってる。英雄は人を守護する者だけど、人の為に犠牲になる存在じゃない。(最初に彼女へと掛けた言葉。「君が犠牲になる必要はない」とはそういう意味だ。だから彼女を名前で呼んだ)
……悪い子なら尚のこと、君をよく知らない連中の言いつけなんて守らなくて良い。(英雄譚の幕を引こう。言葉のみで阻止できるとは思っていないけれど)
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緋翠・華乃音 2020年7月4日
俺が大切だと思っている人たちは、誰か一人の犠牲で救われる世界を良しとはしないよ。そんな世界は滅んでしまえば良いとは思ってないだろうけど、その人たちにも矜持や信念がある。もう、一方的に護られるのは嫌なんだ。その考えが滅亡の後押しとなったとしても。(それはお伽噺の英雄譚ではなく現実だ。ハッピーエンドを誰もが求めている訳でもない。それより大切なものがあるのだから)
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ルーチェ・ムート 2020年7月6日
キミはそう言うけど…みんながみんな、そうじゃない。ボクが犠牲になる事で救われる人が居るなら…そう思うよ(微かに震える手を握り締める。戦って、戦って、行き着く先はあまりに残酷だった)
違うよ。まだ戦わないといけないって事でしょ?滅亡っていう敵と。英雄だからこそ。
そんな事言わないで。ボクは選ばれた時点でそういう運命だった(最初は復讐が理由。それでもずっとよく知らない人々の為にも剣をふるってきた。それを否定されたら、今までの全てを否定される事と同じ)(ずっと傍に居てくれたキミにだけは、ボクがしてきた事を間違いとして欲しくない)
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ルーチェ・ムート 2020年7月6日
(剣を握り締める。数多の血を吸って尚、煌めく切っ先は何のためにあるのか。決まっている。護るためだ)犠牲を良しとしない人たちの矜恃や信念を踏みにじったとしても。憎まれたとしても。ボクは英雄としての役目を果たすよ。だって、世界を滅ぶことを良しとはしないでしょ?(犠牲を否とするから滅亡を是とする訳ではない。その違いが分からないほど愚かではないつもりだ)一方的になんて、言わないでよ。キミが生きていてくれる。それがどれほどボクの心を支えてくれたか――ううん、心だけじゃない。実際に支えてくれてたでしょう(英雄はひとりきりではなかった。たくさんの後押しを受け取ってきたのだから)カノンは優し過ぎるよ。ボクの事なんて忘れればいいのに。英雄っていう役割を演じた捨て駒だって、切り捨ててくれれば良かったのに。
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緋翠・華乃音 2020年7月9日
――尊いもの、なんだろうな。その考え方は正しくて美しいよ。(等価交換の法則を無視した破格の取引。清らかな正論に満ちた自己犠牲。一つの命と世界を天秤に掛けた献身。彼女は本当に、最初から最後までいつだって本気だ)運命を言い訳に使うのは俺の専売特許だった気がするんだけどな。……知っているか? 運命は所詮、舞台を整えることしかできないんだよ。(役割が決められていようとも、与えられるのは白紙の台本。演目すらも定かではないのだ)……そうだろうな。言葉で思い留まってくれるようなら、君は最初から英雄に選ばれていない。
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緋翠・華乃音 2020年7月9日
それが俺の役割だからだよ。眩しすぎる光は必ずどこかに影を生む。君が正義の味方なら、俺は悪の敵。……でも、俺にはもう世界が美しいとは思えない。犠牲を人類の誰か一人に押し付ける英雄というシステム自体も、自分たちが何を犠牲にして世界に生きているかを理解してない民衆も――君が守る価値なんてもう無いんだ。(だから最後の最後で自由になって欲しかった。奪われるばかりの彼女が見ていられなかったから、こうして世界に背を向けてこの場所へ来た)……もう一度言う、君が犠牲になる必要は無い。だから――帰ろう。終末を迎えるほんの少しの間だけでも、君には自由になって欲しい。(握った剣に力が籠る。悲痛ごと、握り潰してしまうかのように)
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ルーチェ・ムート 2020年7月11日
(素直に頷けはしなかった。もう何を尊いと言えば良いのかわからない。課せられているのは最早ただ一つなのだから)ふふ。ボクが取っちゃった。…それならボクは自らその舞台で踊ってたんだね。復讐の演目を作って…世界の人々を観客にして(独りよがりとまではいかない。選ばれた事実は揺るがないから)英雄なんて、所詮はちっぽけだよ。物語が終われば主人公はいらない。新しい物語が必要とされる。…犠牲はきっとそんな理由。幕引きでしかないんだ。
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ルーチェ・ムート 2020年7月11日
復讐を光とするのは間違ってるよ。ボクが闇の味方なら、キミは光の敵。…どうして?(純粋な疑問だった。彼もシステムを支える重要な役割にある。そのシステムを今になって何故否定するのだろう)それこそ影だよ。影だって光がなければ存在出来ないんだ。みんな光を愛し、影を見ようともしない。ボクはもう世界の影なんだよ。みんな犠牲とすら思ってないんだろうね(世界と命ひとつ。天秤が傾くのは当然)…どこに帰るの?ボクにはもう帰る場所がない。世界の終わりを止められるかもしれないって…それだけがボクに残された“自由”なんだよ(守ってきた者たちに託された唯一。最期まで成し遂げなければ。責任こそが自由。生かされている意味だった)…カノンこそ自由になって。キミは機関の人間なんだから、帰る場所があるでしょう?世界に戻って、カノン(震えそうな手で剣を持ち上げる。白く煌めく切っ先を―――大切な人へ向ける)
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緋翠・華乃音 2020年7月13日
……俺だって、君の立場と境遇なら迷わず復讐を演じるよ。(何の慰めにもならない言葉を今更のように吐き出した。完璧である筈の理性の枷が徐々に外れ、心に占める感情の割合が微かな苛立ちと共に高まっていくのを自覚している)(舞台を用意するだけとは言うものの、易々と逃げ道を選べないから運命と呼ばれるのだ。その名の怪物は用意周到な正攻法で演者を舞台に送り込む。ライトに照らされればもう演じるしかないだろう。その段階でなお舞台から降りられる人物は、そもそも最初から運命に射止められはしない)
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緋翠・華乃音 2020年7月13日
押し付けた犠牲によって成り立つ世界なんて滅んでしまえば良い。(抱く感情は当然ながら言葉ほど単純ではない。この結論に至るまでにどれだけの苦悩や悲嘆、自己嫌悪に苛まれてきたのか、英雄であるならば絶対に理解できない。故にその結論を端的に述べた)……それは違う。君は今も運命に押し付けられた舞台を演じているだけだ。復讐という理由、英雄という役割。犠牲なんていう方法で幕を引く意味なんてない。帰る場所が無いのなら俺が君を待つ。だから――(言葉は余りにも無力だ。互いの信念は平行線を辿る一方で、鍔迫り合いにすら成り立たなかった)――断る。その意志が揺らがないというのなら、俺が君を世界から奪う。邪魔をしてやるよ、英雄。君に世界は救わせない。(同じ光で煌めく切っ先を英雄に向けた。優しい彼女が間違っても躊躇わないよう、世界の敵に相応しい言葉を並べて)
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ルーチェ・ムート 2020年7月20日
…ずるいよ。キミも同じことをするって言うその口で、ボクにやめろって言うんだから(己のとて逆の立場だったら同じ事をしただろう。それでも詰るような言葉がほろりと落ちた)残酷なひと。なんでキミだったの。なんでキミが来たの。それを―――何故キミが言うの?(舞台に立っていられたのは照らしてくれる人々が居たから。その中でも一番ボクを照らしてくれたひと。傍に居てくれたひと。キミの存在があったからこそ復讐の鬼にならず、終に至る今もなお“英雄”としていられるのに。酷い。思いの向く先はきっとキミじゃない)
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ルーチェ・ムート 2020年7月20日
押し付けられたなんて思ってない。言うならここまで守ってきた世界だよ。滅ばない可能性があるなら最期まで争う。今までそうして来たように(復讐。英雄。役割。舞台。それらの為に色々な物を捨てた。そして残るのはこれらだけ。選ばれたときから貫き続けているものを守らねば、自分すらわからなくなってしまう)犠牲じゃないよ。カノンには帰る場所があるでしょ?そんな簡単に言わないで。ボクの帰る場所はもうない。どこにも(1度瞳を伏せる。次いだ真紅の視線は直向きに彼を捉えた)――ボクはずっと世界のものだよ。いくらキミでも今更変えられない。カノン、戻って。キミを斬りたくないんだ(理解者だと、半身のように好いていた存在に刃を向ける。わかってもらえない苦しみは苛立ちへと転じ、一歩踏み込んだ)
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ルーチェ・ムート 2020年7月20日
ごめんね、カノン。キミに奪われるわけにいかない(動けなくなれば何も出来まい。一番邪魔なのは足だ。命を奪わないよう慎重に狙わねば――飛び上がり宙でくるりと回転する。ふうわりヴェールを揺らし、そのまま彼の背後へ着地出来たなら、切っ先を脹脛へ向けるだろう)
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緋翠・華乃音 2020年7月26日
なぜ俺か? それは愚問だよ。君が本当に分からないとは思えない。(あるいは理解することを拒んでいるのだろうか。納得ができていないのだろうか。一番近くで彼女を見てきた。誰よりも傍に居た。だからこそ。――だからこそ、こういう結末に到るのだ)
……君が思っていなくても事実だよ。(人類は英雄に犠牲を押し付けている。今までもずっと。最期の一瞬まで。英雄はルーチェ・ムートという個人の殆ど全てを擲って成り立っている。けれど生まれた瞬間から英雄だった訳じゃない。意志さえあれば個人に戻ることができるのにも拘わらず、彼女の選択は全体を最優先とした尊いものだった)
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緋翠・華乃音 2020年7月26日
謝る必要は無いよ。君(えいゆう)は何も間違っていないから。(彼女が本気になれば一閃でこの身体は跡形も無く滅ぶだろう。それ程までに英雄とそれに準じる者とでは力量――説得力が隔絶している。人類の守護者は伊達でも誇張でもない。最大多数の最大幸福を“絶対に”得られるだけの能力を英雄は保持しているのだ)……何度も言わせるな。俺が君を世界から奪う、帰る場所が無いのなら俺が君を待つ。俺にとってそれ以外はもはや些事だ。(攻撃を認めた瞬間、身体を翻し背後へ跳躍。しきれずに、脛が浅く斬り裂かれる。この程度は傷にもならないとばかりに、彼女の前後左右の4箇所に“全く同時”に踏み込んだ。その踏み込みに本物や偽物という概念は無い。4箇所同時に対応できなければ、未対応の箇所から剣戟が及ぶだけだ)
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ルーチェ・ムート 2020年7月28日
(意地悪だ―――考えないようにしていたのに。そこに思考が行き着いてしまったら、ボクは)(唇を噛み締める。決して辛いだけの世界ではなかった。不条理でも、憎悪に覆われても、幸福と呼べる瞬間はいくつもあった。それはいつだってキミが隣にいてくれる時で)
ボクはボク(えいゆう)だよ。ボクは、もうそれ以外の自分を知らないから。ボクすら知らないボクを待つって言うの?そんなの―――
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ルーチェ・ムート 2020年7月28日
無理だよ。
(何気ない彼との日常。淡く過ぎ去ってゆく記憶を掻き消すように冷ややかな一言を放つ。掌に伝わってくるのは慣れ親しんだ“斬る”感触だ。これだけでは動きを止められはしないと経験が識っている)世界からボクを奪ったって、カノンに徳なんてないよ。みんなに恨まれるだけ。なんでそんなに拘るの?(自身と同一。鏡映しに似た煌めきをひとつ跳ね返した“瞬間”に軌道から外れた地を転がって距離を取る)(その勢いのまま立ち上がると彼へ向けて微かな赤が滴る剣を一閃。風がざわりと揺らいだ)…わかってよ。キミを傷付けたくない…ころしたく、ないよ。
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緋翠・華乃音 2020年7月30日
……君が知らない君は、俺が知っている。(彼女が英雄だから隣に居た訳じゃない。たとえ英雄というシステムに組み込まれなかったとしても、いつか歩むであろう復讐の道が少しでも優しくなるように自分は手を貸しただろう。“もしも”の話に過ぎないが、断言できる程に彼女をよく見てきたのだ)
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緋翠・華乃音 2020年7月30日
理由なら既に言ったよ。(重ねて何故かと問われても、そうしたいからとしか答えようがない。エゴイスティックな感情だが、それが今の自分を構成する最大要素。この感情を失えば、きっと自分は死人と同義の存在まで堕ちる)損得勘定なんてどうでも良い。恨むのなら好きに恨めば良い。(他でもない彼女にどんな言葉を掛けられようと決意が揺らぐことはない。自分の言葉もまた、彼女の決意を揺らがせる為のものではない。互いに譲れないという結論は既に出ているのだ。故に言葉は相手に向ける鋒(きっさき)と同じく、ただ傷付けるものにしかならないと理解している)……ふざけるなよ。最期の最期まで英雄で在りたいんだろう? 今そう宣言したくせに今度は世界の敵を“殺したくない”と言ったか。……甘えるのも大概にしろ、決めたのなら貫き通せよ。(静謐を業火で灼き尽くすように、正論という名の清らかな暴力を振るった)
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ルーチェ・ムート 2020年8月1日
…そんなの、わからないよ。ボクはボクを知らないから。キミの見てるボクだって、ただの英雄かもしれない(一瞬震えた指先が本音でない事を露わにする。彼と過ごした時間の中には、確かに復讐というものを忘れた穏やかな時の流れがあったのだ。けれど今それを認める訳にはいかない。最期まで役目を、ボク自身を“生かす”為に)
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ルーチェ・ムート 2020年8月1日
(唇を痛い程に噛み締める。何故わかってくれないのか――互いの感情がぶつかる根底はきっと同じなのだ。同一の独りよがりが平行線を辿っている。振り絞って発した震える声は、怒りとも哀しみともつかない何かに滲んだ)…恨めたら、どれだけ…!(心臓を射抜かれた心地だった。揺らいだ瞳は瞬きの間に彩を変える。見えないくれなゐの糸を断ち切るように、剣を軽く一振り)そう、だね。キミは“敵”だ。ボクの邪魔をするものは何であれ敵だった、ね(キミが居る世界にこそ守る価値があるのに。それを斬り捨てろと宣う彼はやはり敵でしかない)(言い切ると同時に地を蹴った。彼へ向けて地面すれすれを飛ぶように。真横に構えた剣は足を狙う。斬り落とす――先程よりも強い覚悟を秘めて)
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緋翠・華乃音 2020年8月3日
……それで良い。その姿は英雄に相応しい。(恨めなくても、望まなくても、人類という全体幸福に個を捧げる英雄――即ち、正義の殉教者)(心の何処かで理解していた。英雄の歩みは止められない。それは光のごとく真っ直ぐで未来にしか進めない、そう定義されているものだから。そして何より、その征路を鮮血で舗装してきたのは、誰でもない自分なのだ。故にこうなってしまった責任は果たさなければならない)――けど、まだ覚悟が足りない。(狙いが的確で集中されていれば、それと比例するように死角の計算がしやすい。狙いが手足であれば尚のこと)(隙とも言えない隙に剣を滑り込ませた。悲鳴のように高く澄んだ音が聖堂内に木霊する。剣を握る手が痺れるものの、離しはしない。こんな児戯では心どころか、手足の一本すら折ることはできないことを証明するために)
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ルーチェ・ムート 2020年8月9日
(覚悟なんてとうに出来ている筈、だった。彼を目の前にしなければ。彼でなければ。どうしても思い出が邪魔をする。楽しい日々を否定などしたくないのに、今はただひたすらに悲しくて、愛しくて、煩わしい)…キミが敵なんて、本当に世界は意地悪だね(重なった剣先に顔を歪める。文字通り“本気”であったなら――)カノンがこんなに物分かりが悪くて分からずやだったなんて知らなかった…!(弾かれた要領で彼の剣に重心を置き、踏み付けるようにして飛び上がる。手首の向きを変え、即座に肩へ向けて斬り付けようと試みた)
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緋翠・華乃音 2020年8月11日
世界が優しくないのは、何も今に始まったことじゃないよ。君が誰よりもそれをよく知っている筈だ。(――本気であったなら? その仮定にこそ何の意味があると? “もしも”を許してくれるほど、優しい世界に生きてなどいない)……だろうな、ここに至るまで俺も知らなかったよ。でも英雄、それの一体何が悪い? 俺は誰かの意のままに操られる人形に、成り果てた覚えはないんだよ……!(月に嘆くように静かな慟哭。僅かな攻撃の兆候も読み取り、斬撃を斬り払う。のみならず瞬転、後ろ回し蹴りが狙うのは彼女の横腹)
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ルーチェ・ムート 2020年8月15日
(痛みを堪えるような声音は胸に突き刺さるようだった。それでも体は蹲ってなどくれず、身を沈めて反射的に彼の足を潜り抜ける。そのまま彼の懐へ真っ直ぐ飛び込んだ)そうだね。キミは操り人形なんかじゃない。優しい敵だよ(理解している。平行線を辿るだけ。どちらかが命を落とすまで終わりはしないのだ。だから、すべてを)一緒におしまいにしよう。英雄として為すべきことを放る訳にいかないから…その後、キミのそばに逝くよ(優しくない世界でも救いたかった。理不尽の中の確かな幸福を信じていた。信じる理由だったキミの居ない世界に意味はなくて、けれどキミを先にゆかせてでも救わねばならない皮肉―――ごめんね。ぽつりと落ちたのは涙か言葉か。手加減も躊躇も一切なく、切っ先は彼の胸へ向かう)
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緋翠・華乃音 2020年8月15日
(――胸に突き立てられる細剣がやけにゆっくりと見えた。抵抗無く沈む切っ先は心臓を過たずに貫く。紛れもなく致命、故にこれで終幕)(実のところ、躱そうと思えば躱せた。防ごうと思えば防げた。少なくとも致命傷は避けられた筈なのだ。隔絶した力量差が横たわっていようと、その程度は抵抗の余地があった。なのに、)どうして、だろうな……(――君が泣いたように見えた)(この世界で誰よりも守りたいと願い、その涙こそ流させない為に今まで――)ごめんよ……こんな役割を、押し付けてしまって……(頽れるように片膝を付いた。握力の失せた手で、しかし何かの拠り所とするかのように掴んだままの剣を床に突き立てて、何とか身体を支えた)(あと数分の命だ。彼女に伝えたい言葉と謝りたい言葉が、貫かれた胸の奥から次から次へと鮮血と共に溢れ出す。それなのに何一つとして言葉として形作られない)
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ルーチェ・ムート 2020年8月16日
(自らが決めた結果。当然の帰結。目の当たりにして動揺するのは筋違いだとわかっているのに、自身の胸を抉られたような痛みが走る。彼のこんな姿を見た事がないから。違う、ボクが)…カノン……(自然と抜けた剣にくれなゐが纏わり付いている。彼の命の源が滴って、)(力が抜けた。崩れ落ちた体の横に剣が突き立てられる。唇が震えてどうしようもない。世界が滲み、床に落ちる滴が彼の生命と混ざっていく)
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ルーチェ・ムート 2020年8月16日
―――カノン、カノン(嫌だ。彼の死を目の当たりにしたくない。だってキミの居ない世界になんて意味がないから。英雄の言葉は餞に捧ぐ)…ボクは……世界の…キミのものだよ。…もう、これで終わりにしよう。避けられない運命の幕引きは、ボクを追いかけてくれたキミにして欲しい…ごめん、ごめんね。…お願い(剣を握る彼の手に自身の手を重ね、もう片手を自身の胸元に添えた。我儘だとわかっている。最後の最期で突き放したキミに甘えようとしているのだと――それでも、どうか)(どうか、キミの手で終わらせて)
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緋翠・華乃音 2020年8月18日
(縋るように何度も、自ら終わりを告げた者の名を呼ぶ彼女の声は、美しくも半壊したオルゴールが最期に奏でる音色のように聴こえていた。託された願いは福音にも等しく、裁きと赦しを同時に与えられた罪人にも似た心地)
……いいよ。(優しく微笑んで見せた、精一杯の強がりで。……堪えきれない無力さへの嘆きがある。残酷な運命に対する怒りがある。けれど迷いだけは無い。重なった彼女の手から伝わる温かさを唯一の拠り所として、その願いを叶えよう)
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緋翠・華乃音 2020年8月18日
(――最後の運命が、剣と共に彼女の胸に突き立てられた)
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ルーチェ・ムート 2020年8月23日
(その一言を、その微笑みを、狂おしいほどに待っていた。ひとつの許しが降ったよう。静かに視界を閉ざす。貫かれた衝撃。痛みは最早感じなかった)―――ありがとう(重たい瞼を持ち上げて、濡れる景色に彼を映す。互いがくれなゐに染まって、指と指の間に張る糸を幻視するほど。彼と何かが繋がるような感覚。 ピースが半分欠けて、代わりに他のピースが埋まったような)あれ……?(英雄としての力が急速に消えていく。命の終わりと理論付けるには違和感があった。涙で滲む彼の輪郭がぼんやりと光る。それはまるで自分が英雄として戦う時に纏う其れによく似ていて)…カノン……?
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ルーチェ・ムート 2020年8月23日
(理不尽はわかれたふたりをひとつと認識したらしい――同時に大きな亀裂が世界をわかつ。この世が終わるまで、残り)
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緋翠・華乃音 2020年8月25日
(閉ざされた瞳は、もう二度と彼女の姿を光のように映すことが出来ない筈だった。突き立てた運命は何一つ違えることなく駆動し、分不相応な裁きと許しを得た身体はその瞬間に、命の灯火が消えてしまった筈だった。身命を捧げて英雄の願いを叶えたのだから、そこに後悔などあろう筈もない)……ああ。(光が射す。声が聴こえる。自分と彼女に繋がる何かを感じ取れる。それは今際の際に与えられた幸福な幻などでもなくて)――比翼だな。これでもう、片翼だけでは飛べなくなった。(これは決して奇跡ではない。美しくも残酷な運命が導いた順当な帰結)……ルーチェ、泣かないでよ。(言葉はいつかのように柔らかく。彼女の瞼に滲む涙を指先でそっと拭う。誰よりも運命を知悉し、拒絶し、理解していたが故に、この身に起きたことを全て正しく把握していた)
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ルーチェ・ムート 2020年8月29日
(それはまさしく両翼が片翼になったかのような感覚だった。ひたすらに熱い胸から命の欠片がひたりと落ちていく。床で彼の命と混ざり合うのを見つめた)……キミも、キミまで…(最後の最期で彼に同じものを背負わせてしまった罪悪感と――終に至って漸く孤独から解放された幸福感が複雑に捻れる)…カノン……ごめんね。ごめんなさい。…ありがとう(優しい指先を何度も濡らしてしまう。嗚呼、彼が名前を呼んでくれる事の何と幸せな事。英雄ではない少女の名。そうと手を伸ばして彼の頰に触れられたなら、今までで一番の笑顔を浮かべられる)…もっと呼んで、カノン…ボクの、片翼(何もかもが崩れていく。願うなら、世界が終わってもキミと―――)
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緋翠・華乃音 2020年8月31日
(――たった一度きりの、優しい鐘の音が聴こえた。それは福音の完遂を告げる旋律。運命を分かち合う、最初で最後の門出を祝福するもの。終末を迎えつつあった世界からの聖なる寿ぎの声。遠い過去、かつて世界を救ったとされる聖女のステンドグラスから透く、美しい光に包まれてゆく)……ルーチェ、もう君を絶対に独りにはしない。(君が求めるのなら、望むなら、俺は何度でも何度でもその名を呼ぼう。ご都合主義の奇跡なんて舞い降りたりはしなかったけれど、悲劇を歩み続けた果てに辿り着いた結末としては十分過ぎる程に幸福だ。――そう、幸せなんだ)
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緋翠・華乃音 2020年8月31日
(透明な雫を掬う手はいつしか君の頬に優しく添えて。そうして俺も微笑んだ。世界で最も可憐な大輪の笑顔を咲かせる君には負けてしまうだろうけど、それに劣らない心からの笑顔で)俺は、君を――(続けた言葉は音としての機能がもう無くなっていて届かなかった。ただ口唇の動きだけが、きっと君には全てを伝えていただろう)(別れの言葉は必要無い。一つに昇華された存在は、比翼の鳥のように――)
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緋翠・華乃音 2020年8月31日
(――羽搏くのだから)
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緋翠・華乃音 2020年8月31日
《fin》
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