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[怪異譚❶]硝子と宝石

燔・子萌 2019年12月1日

夕闇坂を上ってしばらく歩くと、大きな市立図書館の向かい側に
『宝石館』と呼ばれる、歴史ある小さな私立美術館が見えてくる。
正確にはもう少し堅い名前だが、市内の誰もがその俗称で呼んでいた。
その名の通り、展示されている殆どが宝飾品の類であるからだ。

入場料は大人で千円を超すいい値段だが、訪れる客は少なくない。
ダイヤモンド、ブルートパーズ。エメラルド、ガーネット。水晶、黒曜石。
綺羅を飾った珠玉の数々が姸を競う光景は、決して君を退屈させないだろう。

ところで、一時期『宝石館の展示物は全て偽物だ』という噂が流れた事がある。
どうしてそんな噂が流れたのか。
高名な鑑定士が現れて見破ったとか――
高価な宝飾品を扱うにしては防犯対策が薄すぎるとか――
以前館長が酒の席で口を滑らせたとか――

様々な噂が錯綜すれど何れも否定されて、最後に市内で膾炙した話は
『宝石館の宝石は全て不幸を呼ぶ曰く付きの代物で
 本物は決して目の触れられぬところへ隠してある』
――という荒唐無稽な噂話だった。

数日程前に長い歴史に幕を引き、宝石館は閉館した。
最終日には大賑わいだったホール前も、今は閑散としている。
もうすぐに太陽が山際に呑まれそうな遅い時間――
蒼い髪の女が、館の中に入っていった。
一人で。或いは――

⚌⚍⚌⚎⚌⚍⚌⚎⚌⚍⚌⚎⚌⚍⚌⚎⚌⚍⚌⚎⚌⚍⚌⚎⚌⚍⚌⚎⚌⚍⚌⚎⚌⚍⚌⚎⚌⚍⚌⚎⚌

 1:1RP。
 渦雷・ユキテル(f16385)様、及び語り部のみ。
 参加の際には【立看板】をご一読お願いします。

 聴き手の皆様は先ずは①を選んで参加して下さい。

 そしてRPの進行に合わせて②→③→④→⑤までの選択肢を
 聴き手の皆様のお好きなタイミングで進めて下さい。
 1シーン辺りの発言は、最長で一人あたり6レス程度でお願いします。

 最初の内はシーン名の意味が分からない部分もあると思いますが
 進める内に明らかになっていく物と思われます。
 その辺りの予想も含めてお楽しみ下さい。

 RPを終了したい時は⑥を選んで退室して下さい。
 こちらのタイミングはご自由にどうぞ。




①宝石館に入る
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②探す
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③❶覗く
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③❷手に取る
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④❶信じる
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④❷信じない
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⑤❶返す
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⑤❷持ち帰る
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⑥宝石館を出る
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渦雷・ユキテル 2019年12月1日
あら。確かここ、閉館したって。(調子よく進めていた歩みを止めて小首を傾げる。さっきの人フツーに入ってっちゃいましたけど。来た道を戻ろうかと一度振り向いて、またくるりと宝石館へ向き直り)いっか。着いてく言い訳できましたし。(このまま帰るなんてつまらないと笑い、後を追って館に入った) (無効票)
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燔・子萌 2019年12月4日
(やはり鍵は掛かっていなかった。
 強引に開けられた痕跡も無い。
 入ってみると館内は、まだ廃居染みていなかった。
 埃は薄く積もれども、蜘蛛の巣はまだ張っていない。
 ただ、電気はスイッチを入れても付かなかった。)
 
(無人の受付を通り過ぎ、一つ目の狭い展示室に入る。
 かつて、絢爛豪華な宝石が一列に並んでいた
 防犯仕様のガラスケースの中は、見事にもぬけの殻だ。
 当然といえば当然だが、物寂しい景色に思えた。)

(フロアマップを見れば奥にはまだ展示室が続いている。)
 
(宝石と同様に、青い髪の女もその展示室には見えなかった。)
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渦雷・ユキテル 2019年12月5日
……だーれも居ませんねえ。(一度くらい来てみればよかったと零し、ガラスケースの端を指先でなぞりながら進む。そこに宝石が収まっていた光景を思って視線を落としても薄暗い中で不明瞭な鏡像が見つめ返すだけで面白そうなものは見つからない。あたしが瞬けば、硝子に映る彼も瞬く。よく見えはしないが、そうだ。当たり前のこと。――僅かに眉を顰めて指を離し、奥の展示室へ向かった) (無効票)
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燔・子萌 2019年12月7日
(次のフロアに立ち入れば、
 縦に長い窓から夕方の赤が落ちていた。
 
 景色はあまり変わらない。空箱の展示室。
 硝子の天井がある以上、中には埃も積もらない。
 塵一つ無い平面の中で唯ひとつ――異常。
 
 美しい宝石が、独り逃げ遅れた様に輝いていた。

 彼女の為に用意された30㎝四方の硝子の個室の中。

 その中央に、厳かなカッティングが施された、
 無色に光を跳ね返すオーバル・ブリリアントが鎮座する。

 近くに寄れば、万華鏡の様に何十と君の姿をその身に映す。
 護る硝子箱は溶ける氷のように薄く頼りなく見えた。)
 
『手に取ってみてはどうだい?』

(唐突に女の声がした。その直後)

『呪われるかもしれないけれど――』

(硝子の防壁は砕けて消えた。僅かな音もしなかった)
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渦雷・ユキテル 2019年12月9日
わ、見つかっちゃいました? お邪魔してまーす。(女性の声に視線を巡らせたが何処から聞こえてくるのか上手く掴めない。結局、宝石の方へ向けてにこりと笑ってみせた)
綺麗だなぁって思ってたのにそう聞くと途端に危なげに見えてきちゃいますねー。曰くが付いてると惹かれるものでもありますけど。三回見ると死ぬ絵とか座ると死ぬ椅子の親戚ですか。それとも少し違った何か?(手を伸ばしたくなる衝動を抑え、疑い深げな表情を見せて覗き込むに留めた。触れてみるにしても今はいい。危険に向かって走ることもないでしょうと言い聞かせ) (無効票)
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燔・子萌 2019年12月15日
『よく知っているじゃないか。』

(褒めるような口ぶり。)

『そんな話を知っていながら、勇気があるね。
 それとも、信じていないのかな?』

(それは君の瞳を写して紅玉の様に。
 それは君の髪を写して琥珀の様に。
 自分の色を持たないからと、ころころと表情を変えてゆく。)

『けれど、君は触れなかった――覗いただけ』

(覗く君と“目が合った”
 ――目なんて、器官も何も無い器物から、そんな印象をぶつけられた瞬間に。
 その宝石から一切の色彩は立ち消え、透徹した無色彩が輝きを染め上げる。

『よく言われる言葉があるね。深淵を覗く時――って、決まり文句。』

『あれは、違うと僕は常々思うんだ。
 健常な人間は、そもそも深淵を覗き込もうなんて思考が過らない。』
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燔・子萌 2019年12月15日
(瞬間。床が、自分の足元を中心に罅割れる。硝子の様に。)

『“覗き込もう”なんて思った時点で――既に、
 深淵ってやつに勾引かされた後の祭り。手遅れ。』
 
(先程、見た光景。触れもせずに砕け散ったショーケース。
 直観する――同じ事が起こる、と。
 今度は、“自分が入っている大きな箱が砕け散る″番だと。)
 
『――君がそうであるように。』

(展示室という空間が瓦解する。砕ける音は無音だった。
 落ちる感覚、浮遊感。
 ――その段になって気づくこともある。
 所在の無い声の音源は、“下”にあったのだと。)
 
『好奇心は猫を殺すという。だからといって、
 遠ざかることが、近づくことよりも安全なんて保障は無いよね。』
 
(それは実に、楽しそうな声だった。)


『君は宝石に触れなかった。』
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燔・子萌 2019年12月15日
(それは先程と似た部屋だった。
 薄暗く、硝子のケースに満たされた部屋。
 違うことは――ショーケースに詰め込まれた絢爛豪華な宝石の群。
 ――“あるべき姿”、そのものだった。そして――)

ようこそ、“本物の部屋”に。

(椅子の上で、蒼い髪をした女がより一層透き通るような声で、君に向かって語り掛けて来る姿だった)

“不幸を呼ぶ宝石”の話――君は、信じる?

(四方で輝く綺麗な筈の宝石は、
 さながら此方を向いて包囲する銃口のようだった)
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渦雷・ユキテル 2019年12月18日
――え、(崩れる、落ちる。スローモーションで知覚するこの事態から逃れたくて咄嗟に目を閉じ身を抱える。こんなの予想してない。だけど、ねえ、期待してた?)
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渦雷・ユキテル 2019年12月18日
おっ……と。(そのまま無様に転がるほど自棄に生きてもいなかった。瞼は開き、足は自然と床を捉え、傾いた姿勢を勝手に立て直す。静かに息を吐いてから何度も身体に触れて傷がないのを確かめた)
(不安か将又高揚か。響く心音を感じながら辺りの輝きを見遣り、やがて声の主に視線を留める。口角を上げ先程と変わらぬ調子で語りかけ)ようやく会えましたねー。これなら落っこちるのも悪くなかったかもしれません。さっきの宝石、もし触ったとしたら――ああ、やっぱいいです、もしもの話は無粋ですもん。その代わり、その“不幸”がどんなだか詳しく聞かせてもらえませんか?
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燔・子萌 2019年12月22日
黄色の君。聴き手としてのマナーがしっかりとしているね。
とはいえ、僕の語りにルールなんて無いけれど――
いいとも、とても全ては語れはしないけれど、語ろうじゃないか。
例えば――

(そう始めると、隣のショーケースの中の宝石のひとつに目を付けた。)

君が左手を置く下にある、0.5カラットのダイヤモンド――
これは、とある“蒸気魔法の世界”より産出された物。
必然的に石炭業が盛んで、枯れては次枯れては次と、
まるで消耗品のようにあちこちで鉱山が開発されていた。

これはその内の一つ。名も付かない新設の坑道で、
炭鉱夫が偶然に発見した品物だ。

ピッケルを打ち付けて原石を手に取ったその瞬間――
坑道の前線では、天然ガスを掘り当てていた。
――ああ、今も其処では火は消えていないとか。
これは炭化した手の中に握られていたのを加工した物だ。
話によれば、流れ流れて三つは鉱山を葬っているらしいね。
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燔・子萌 2019年12月22日
その隣の輝くペリドットは、隕石の欠片だ。
とある“宇宙世界”に漂う産物で、
かつては数十キロメートルもの長大な岩石だった。
――ハビタブルゾーンに存在する居住可能惑星に衝突して
双方共に粉々の、宇宙の塵埃と帰したがね。
人類の希望を打ち砕いた、最後の一片という訳だ。

――色々な石に、色々な曰くがある。
けれど、どれも君にとっては対岸のこと。
聞いた処で君が不幸と感じることは無いだろう。
だから聞こうか。
君にとっての一番の不幸って――何かな?
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渦雷・ユキテル 2019年12月24日
ふふ、いい子でしょー。どっちのお話も面白かったけど、確かに自分には遠いかもですね。知らない誰かがどこかで死んで、知らない誰かが絶望しただけ。(からから笑って二つの石を見つめた。ああやはり曰くを知れば惹かれるものだ。おはなしがこの子たちをもっと綺麗にする)
あたしにとっての不幸。んん……何でしょう。(考えるうち視線が落ちる。爪に乗った彩と、その赤には少々不釣り合いな指が目についた)ああ、そうです、童話でよくある変身譚。カエルに獣、鳥。大抵最後は人間に戻れるけど、都合よくいかなきゃバッドエンド。もう少しリアルな話だと事故や病気で元の姿がわかんないくらいに変わっちゃうことってありますよね。それです。
――変わることが、違う姿になることが、あたしにとっての一番の不幸。
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燔・子萌 2020年1月4日
成程――「変身」かな。
カフカは害虫への変身で不条理を表した。
あれは死ぬまで人に戻れはしなかったかな。

変化の拒絶――不老。永遠の美。
人間が古代から探求してきた欲望だ。
けれど――ね。

(立ち上がる。歩く。
 一つ宝石を、拾い上げるように抓んで持ち上げる。
 それは柱状にカッティングされた、透明な宝石だった。)

これは“ベリル”だ。
エメラルドもモルガナイトもベリルだけれど
このように透明な物はゴシェナイトとも呼ばれる。
そして、ベリルの石言葉の一つは『永遠の美』――

(摘まみ上げて、光を通すように宝石を見透かして)

実は、あるんだ。そういうのも。
“持ち主の見た目が変わらない”という曰くのね。
けれど――此処にあるということは、やっぱりそれも“不幸”なんだ。
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渦雷・ユキテル 2020年1月7日
なにか代償でも払わされるんです? 歳をとる間もなく死んじゃうとか。それとも、変わらないことそのものが不幸の原因なんですかね。不老を望むなら一所に長くはいられないかもなんて想像はできますけど、んー……。
(こてりと首を傾げても色のない石は答えない。透けて見える色があれば強引にでも意味を見出したのだろうけどそれは叶わなくて、促すように瞬いた)どんな――どうして、不幸なんですか?
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燔・子萌 2020年1月10日
僕は持ち主では無いから、その質問に正答することは出来ない。

僕自身、もう死神の足音を聞く身。そう長い命では無いからね。
変化することを怖く思うこともあるし、
死との距離を保つことが出来るなら持っておきたい気持ちもある。
ただ、この場にあるならきっと不幸になるんだろうってだけさ。
この宝石の以前の持ち主は、事故的に“手放してしまった”ことで
それまでの負債を払わされる形で、容姿が急変して頓死した――
なんて伝えられているけれど、それが本質とも思わない。

(言葉を止めて、目を閉じて、考える。
 その宝石の恩恵と、その不幸を思い描く。
 それを持てば待つ未来。自分は。僕は――)

正答ではない。けれど、僕が答えを出すならば。
それが――孤独へ繋がる道だから。
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渦雷・ユキテル 2020年1月13日
(長い命では無いとの言に僅かに瞠目してから、その変化を誤魔化そうと意識的に瞬いた)――死ぬことよりも、孤独のほうが嫌なんですか?
あたしだったら喜んで持ち主になっちゃいますけど。永遠じゃなくても。ツケを払うことになっても、ちょっとの間このままでいてくれればいいかなって。(勝手に自身と重ね合わせてしまうのを、先を考えるのを止そうとして微笑みで塞き止める。そのつもりだった。上手く笑えなかったのはリップが乾いたからに違いない)……宝石から何かを感じ取れた訳じゃありません。だけど。不幸に見合うだけのものがあってほしいとは思うんです。 (無効票)
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燔・子萌 2020年1月22日
意識なき孤立こそ死であり、意識ある孤立こそ孤独だよ。
どちらを恐れるかなんて、人それぞれさ。
ま、それも僕が死んだことがないから言えるだけかもね。
所詮、少し近づいた程度で、知ったか気分になってるだけなのさ。

(片手に薄いピンクのハンカチを乗せる。無地だった。
 熱い鍋を掴むかのように動く指の上に覆わせると、
 ひとつの宝石を布越しにつかみ取る。)

そうかい。君の欲望は揺るがないね。
リスクとリターンを考えれるなら冷静だ。
そのプロセスを経てなお砕けない決意なら、それは宝石の様に価値がある。

だから、あげよう。誰でも無い、僕が許すよ。
君の望みを叶え得る――このベリルを君にあげよう。

……ああ、勿論効果は保証しない。
これは価値も効果も何もない只の硝子の塊かもしれない。
或いは、話以上に冠絶した災禍を齎す宝石かもしれない。

だから、君にあげるけれど。持ち帰る必要も無いよ。
要らなかったら置いて行ってくれ――それは自由だ。
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渦雷・ユキテル 2020年1月25日
……いいんですか?
本当に貰えちゃうとは思ってませんでした。
それじゃ、お言葉に甘えて頂戴します。

(彩られた指を無色の宝石へと伸ばす。触れる直前、手を止めて)

ふふ。変わるのも、痛い目に合うのも嫌なのに、
結局は確かめないと気が済まないんだと思います。
宝石館に入ったときも、上にあった宝石を覗いたときも。
それから今もこうやって。
だけど自分で選んだなら、どんな結果だって満足ですよ。

(今度こそ石に触れる。小さな生き物でも扱うように持ち上げた) (無効票)
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燔・子萌 2020年2月1日
そうかい。
君は気持ちが若いんだね。
その思いが変わらない限り、願いが変わらない限り
きっと君は望むままに若いだろうさ。

――無くさないように、ね。

(ふ、と部屋の照明が落ちる。
 そもそも、最初からその部屋に照明など無かったかもしれない。
 “闇”を“薄闇”に抑えていたものは一体何だったのか?
 消えてしまった今となっては、分からなかった。)

(気が付くと、そこは閑散としたショールーム。
 見覚えはあった。
 つい先ほど、現実離れした崩壊に引き裂かれた部屋だった。
 経年劣化による罅の他に、まるでそのような破壊が行われた痕跡は無い。
 ただし――硝子に囲まれた箱の中に、宝石はもう無くなっていた)

(代わりに、手の中に一つの宝石があった。
 調べれば分かる。或いは多少なりとも知識があれば分かる事だろう。
 それに宝石としての価値が無いに等しいことが。)
 
(日はもう落ちて、暗かった。)
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渦雷・ユキテル 2020年2月4日
(非日常からの帰還。掌の中にベリルがあるのを確かめる。
 僅かに己の体温に馴染みだした感触を味わいながら
 硝子の箱に向いていた視線を緩慢に左右、足元へと動かし)

あら、落っこちてなかったんですね。
それとも綺麗に元通り? この仕掛けも十分、不思議。

(呟いた唇が弧を描く。日も落ちたことだし来た道を戻ろう。
 楽しいおはなしが終わったのなら、
 此処に留まったって中身のないショーケースを眺めるようなものだと
 金糸を揺らして部屋を後にする。――ああ、その前に)

……また今度、お話聞かせてくださいね!

(囁くような声。送る先に迷い、結局"落ちる前"と同じように
 硝子筐に向けることにした。
 ひらひらと手を振って笑んだ後は振り返らずに歩く。
 訪れた時より尚、足取りは軽かった。) (⑥宝石館を出る)
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燔・子萌 2020年2月7日
(数か月後には解体工事の運命にある、一つの古い美術館跡があった。
 四十年に亘る長い長い営業の果てに、その長命を静かに終えている。
 あと十年、二十年はそのまま使えそうな内観には
 凡そ“不幸”などと縁遠い、大往生の姿があった。)
 
(つまりは――噂は噂だったのだろう。)

(蒼い女は最奥の管理室で一人、硝子のレプリカを弄ぶ。)

本物か? 偽物か? 幸運か? 不幸か?
それは僕には定められないことだ。
価値という物は、時代と共に変動する。
その時代を生きる人々によって、変動する。

……けれど、君が変わらない人間になるというのなら――
君はその硝子の価値を、定められる人間なのかもしれないね。
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燔・子萌 2020年2月7日
――機会があれば、またね。
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燔・子萌 2020年2月7日
(施錠された出入口は、その後に開くことはもう無かった)
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燔・子萌 2020年2月7日
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▼ THE END
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