【RP】正気の心電図
戦犯・ぷれみ 2019年6月2日
塗装の剥がれたルームランナー、ちょっと奮発した圧力鍋
十年来話し相手のぬいぐるみ、半分に割ってポリ袋でまとめた睡眠薬
ヘッドホンからこぼれる電子音楽
今日も正気で順調、幻覚は許容範囲、……しがないUDCエージェントのささやかな日常のはなし
【個人RPスレ】
・メタNG
・予定は未定、てきとうに
・いろいろ兼用スレなので1:1は短め、停滞時打ち切る場合あり
ソローる
1:1相手招待済み
1:1先着誰でも
〆
2
臥待・夏報 2020年1月17日
(いい音がする)
臥待・夏報 2020年1月17日
(鈍いけどいい音だ――体中がかっと熱くなって、手のひらはじっとり汗ばんで、続く一息が白く染まった。けれどなんでか、脳みそはどんどん冷えていく。冬目前の冷たい風を、首の後ろに深く突き刺されたみたいに。痛くて、寒い)
臥待・夏報 2020年1月17日
(小学校にはとても貴重な、沈黙、というやつが流れた。本当に見渡す限り、まばらな背高泡立草の空き地だなあと改めて思った。――最初に殴りつけた男子が、その場に崩れてうずくまる。僕の小さな身体には、こいつを吹き飛ばしたり捻り潰したりする力はないから――おおまかに円筒に見立てて蹴り転がせば、冬の川に、ぼちゃん、と落とせた)
臥待・夏報 2020年1月17日
(ここまで来て、やっと『状況』を観測し始めた男子連中が、それでも僕を見るんじゃなくて互いの顔を見合わせた)
臥待・夏報 2020年1月17日
『な、……何マジになってんの、臥待』
臥待・夏報 2020年1月17日
お前、野球好きだったよなあ。
臥待・夏報 2020年1月17日
(言ってる意味がわかるだろうか、つまるところ――次に僕が壊すのはお前の右肩だ! ずかずか歩み寄って、目一杯に刃のない刃物を振り上げて、)
臥待・夏報 2020年1月17日
(――空振った。川下は小さな悲鳴をあげて、転げるようにして右肩を庇ってみせた。その瞬間、僕の視界は生まれてこのかた見たこともないくらい鮮やかに輝いた。世界が美しく思えた。川下――お前――ちゃんと人間だったんだなあ! これから僕、ちょっとはお前の気持ちって奴を考えてやってもいい。だから、いつも、そのくらい、理解可能な行動と反応を心がけてくれ! なあ、頼むから!)
臥待・夏報 2020年1月17日
(そんな切なる祈りと共に、川下を蹴り転がして川底へ落とした。控えめな飛沫。静かな余韻)
臥待・夏報 2020年1月17日
(あんまり世界が美しかったので、もがく川下に脚立を放り投げて、叩きつけた)
臥待・夏報 2020年1月18日
(――糸が切れたように、わっと、ひとが動いた。僕が『武器』を手放したと見るや、地上に残された男子連中が、競うように僕を取り押さえにかかる。……ああ、駄目か。まあ主犯格は叩いたんだし、いっ、か――ああもう、だからって髪の毛を掴むんじゃあない)
臥待・夏報 2020年1月18日
(ぶちぶちと髪が抜ける痛みで頭が冴える――こいつらみんな、目の前の非常事態に動転して、でたらめで必死だ――あーあ、どう動けばこいつらを殴ることができるかはわかるのに、押さえつけられた身体がその通りに動かない。神様なんて奴が居るのなら、僕にもっと身長をくれ)
臥待・夏報 2020年1月18日
(――二発、三発、下腹を蹴られた。くそ、やったな、いたい――ねえ、でもさ、最初からこうすればよかったんじゃないの。どうして僕が、先に殴らなきゃいけなかったの? だって、お前らが僕のことを嫌いなんだから、お前らが僕を殺してくれたらそれでよかった。お袋の書斎で読んだ小説じゃ、アメリカの若者はみんなそうしてた。気に喰わないなら殺してくれよ。わかんないよ。僕、いったい何してるんだろ)
臥待・夏報 2020年1月18日
(内臓が底からひっくり返って、――足が浮く)
臥待・夏報 2020年1月18日
(あ、川に落ちるな)
臥待・夏報 2020年1月18日
(そう思って空を仰ぐと――橋の上の泣き虫野郎と、ほんの一瞬目が合った。そいつは真っ赤に腫れた目をまんまるく見開いて、じっと、そしておそらくずっと、僕の事を見ていた)
臥待・夏報 2020年1月18日
(なあお前、なんで、そんな顔で突っ立ってるんだよ)
臥待・夏報 2020年1月18日
(一番の被害者はお前だろうが。――暴れるべきだったのは、お前なんじゃあ、ないのか)
臥待・夏報 2020年1月18日
(冷たい水が、五感を塞ぐ)
臥待・夏報 2020年1月21日
(数日経って熱が下がって――ここでいう熱というのはあの暴力の熱ではなくて、38℃の病熱のことだ。やはり秋と呼ぶには無理がある、ほとんど冬の冷たい小川の水にたっぷり浸かったのだ。さもありなん――ともあれ。僕はお袋とふたり並んで、校長室で説教らしきものを聞かされていた)
臥待・夏報 2020年1月21日
(説教、『らしきもの』だ。それほど厳しいものではなかった。大人っていうのはいけ好かないけどバカではないので、喧嘩両成敗とはいっても、最初に下らんからかいを仕掛けた川下たちに非があることは承知のようだ。――しかしそれでも、一応、僕の側も保護者呼び出しを喰らっている)
臥待・夏報 2020年1月21日
『しかしですね、私どもが言いたいのは、あまりにも、ですね』
臥待・夏報 2020年1月21日
(あまりにも、って何さ。そりゃ、鉄塊で殴りかかったことを言ってるんだろうけど。男子が女子をいじめたら、女子がめそめそ泣いて先生に言いつける。大人たちはそれ以外のストーリーを期待していない。――だったら、お前らの思考回路は川下たちとおんなじだ)
臥待・夏報 2020年1月21日
(……校長なんだか教頭なんだか忘れたけど、とにかく教師の偉いやつが、そうやって歯切れの悪い言葉遣いで、僕ではなくてお袋に向かって話し掛け続けていた)
臥待・夏報 2020年1月21日
(――数週間ぶりに姿を見た。呼び出しの電話を受けた使用人たちに書斎から無理やり引き摺りだされてきたのだ。いつもの事ではあるけれど、どうみても長らく風呂に入っていない。そんな、ぼんやりとした女である)
臥待・夏報 2020年1月21日
(いや……正直説教もどきの内容なんてどうでもいいぞ。このひとがうちの書斎から外に出ていることのほうが一大事なんじゃあないか? 大丈夫か? 校長室に臭いが移るぞ……。そうか、僕が保護者呼び出しを受けると、このひとが保護者扱いになるんだな……)
臥待・夏報 2020年1月21日
(くっきりと隈の沈んだ目をどうでも良さそうに擦る。横髪から白いフケがぱらぱら落ちる。そうしてお袋は、こちらの顔をちらと伺って――眠そうな声で、ぽつりと言った)
臥待・夏報 2020年1月21日
『話、それだけですか? 私まだ原稿あるんで、帰っていいですか』
臥待・夏報 2020年1月21日
(いわく。幼いころに両親の乗った飛行機が海に堕ちて。莫大な金と広大な土地を継ぐ親族も他にはなくて。以降、四半世紀を超える『余生』をずうっと本だけ読んで生きてきたのだと言う――僕の知っているお袋は、臥待読子である前に秋雨耕読であったし、母親なんてものじゃあなくて、あの深い書斎のヌシ以外の何者でもなかった)
臥待・夏報 2020年1月21日
(そのお袋が、校長室で僕と並んで説教を聞いて、今は手を繋いで商店街を歩いている。結局今日も僕は病欠扱いで、授業もなしの帰り道だ。こんな、まるで、……母娘みたいな一日なんて、物心ついてからというもの初めてで、正直頭がどうにかなりそうだった。罰ゲームも暴力も、その時はなんだかどうでもよかった)
臥待・夏報 2020年1月21日
(屋敷の敷地内にすらほとんどいない親父のほうが、まだ世間の『はたらくお父さん』像に合致する――そんなことを悶々と考えていると、電子音の鳥の声がした。車ひとつない交差点で、歩行者信号が点滅して存在を訴える。僕も、お袋も、律儀に足を止めた)
臥待・夏報 2020年1月21日
『学校て、くだらんな。夏報、何も間違ったことしとらんがやろ』
臥待・夏報 2020年1月21日
(放り投げるように寄越された言葉に――僕は咄嗟に答えられなかった。どう答えるのが正解なのか分からなかった。いや、ひとをもので殴ったことは、やっぱり間違ったことなんじゃないか? 骨とか折れたらしいし。……数日も経てばあの時の高揚はすっかり冷めていて、ちゃんと正常な判断ができる。そんな僕の困惑をよそに、お袋は楽しそうに笑った)
臥待・夏報 2020年1月21日
『殺しちゃえば良かったがに。ここ、どうせ日本やぜ』
臥待・夏報 2020年1月21日
いや、人を殺したら捕まるよ……。
臥待・夏報 2020年1月21日
(――堪えきれない、というように、お袋は身体を大袈裟に折って笑いだした。おままごとに飽きた瞬間の子供みたいな笑顔だった。風呂嫌いのボサボサの髪が、早めの日没、青っぽい夕陽を透かしていた。美しい要素なんてひとつもないはずの光景に、僕はなんでか、呼吸をとめた)
臥待・夏報 2020年1月21日
『あっはは、あー、夏報ってほんと面白い子な』
臥待・夏報 2020年1月21日
(慌てて、声を張り上げる)
臥待・夏報 2020年1月21日
笑ってんじゃねーよバカ、お前のイクジの失敗だろうが!!
臥待・夏報 2020年1月21日
(呑気に笑うのをやめないお袋を置いて、僕はずんずんと先を歩いた。……赤信号でもどうせ滅多に車は来ないし、一人でだって家まで帰れる。向こうもどうせ、引き留める気も追う気もないらしい。明るい声はだんだん後ろに遠ざかって、さっきまで繋いでいた手のぬくもりが妙に肌に残っていて、)
臥待・夏報 2020年1月21日
(――だけど、思い返してみれば。家族に関する記憶のなかで、この日の夕焼けが一番、あたたかかったような気がするんだ)