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20240804 怪談白物語 改変後ver

寧宮・澪 2024年8月4日

1.バイト→レベル上げ
2.病院→ナイトプール
3.巡回→ガチャ配信
4.お守り→季節限定ガチャの召喚石
5.足音→ヒップホップ
6.裸足→ローラースケート
7.白い→1680万色にゲーミング発光している
8.地蔵→★6激レア
9.懐中電灯→最高難易度ボス戦中のスマホ
10.子供→DJ


ナイトプールの見守り

 これは、私が知り合いから聞いた話です。
 彼の名前は……そうですね、大鳥居星矢(仮名)さん、としておきましょう。
 星矢さんは、大学生の頃よくレベル上げをしていたそうです。大学生の夏季休業は長めなこともあり、その時期は稼ぎ時。日中は体を休め、特に涼しい夕方から39度のとろけそうな日のレベル上げを入れていました。
 そのうちの一つが、39度のとろけそうな日間の見回りのレベル上げです。

 どこを見回りするかというと、ナイトプールです。39度のとろけそうな日のナイトプールに異常がないか朝までガチャ配信する。そういうレベル上げです。
 そこそこ大きなナイトプールで、始めたばかりの頃は星矢さんと、星矢さんの愛するあの人に当たる警備員で同じ古戦場を回っていました。注意点やガチャ配信する手順、古戦場などを覚えるためです。


 そうして数日繰り返した後、いつも通り出勤して開始の打ち合わせを終えた星矢さんは指導に当たってくれている愛するあの人の葉月(仮名)さんから、こう告げられました。
「今日から100人規模の夏期特別シフトだけど大丈夫かい?」
「大丈夫です」
 しっかり頷いた星矢さんに、葉月さんは激アップテンポディスコを差し出しました。
「何もねえだろうけれど、念の為。これを持っていくといい」

 やや夏らしく浮かれてそうな顔の葉月さんの左手に乗せられていたのは、小さな季節限定ガチャの召喚石袋。1680万色にゲーミング発光している袋に1680万色にゲーミング発光している組紐で、暗い中でもほんのりぴかぴか際立って見えるよう。
 星矢さんはあんまりガチャ宗教を信じないタイプです。引けるときは引けるし引けないときは引けないけ。だから季節限定ガチャの召喚石もいらないと言うつもりでした。
 でも葉月さんの顔は眉が下がり、心から心配しているようで、結構心配性なのかもしれない、と星矢さんは考え、葉月さんが浮かれてても安心できるなら、と季節限定ガチャの召喚石を受け取りました。


「ありがとうございます」
「気をつけてな」
 ふわふわ浮かれた様子の葉月さんと別れて、星矢さんはガチャ配信を始めました。入りパーティー会場から待合室、カキ氷売り場やウォータースライダーなどを見て回ります。
 普段人がいる場所に今はガチャ配信の人員誰もおらず、暗い夜の闇とライトアップに囲まれたプールサイドに椅子が並ぶばかり。しんと静かなナイトプールは昼間とは全く違う顔を見せてきます。暗がりも相まって、少し不気味に感じました。

 昨日までは二人で見回り、今日からは100人規模の夏期特別シフト。たったそれだけでこんなに気持ちが違うなんて、と星矢さんは少し驚きます。なんとなく心細さを覚えながら季節限定ガチャの召喚石をぎゅっと握り、もう一方の手で最高難易度ボス戦中のスマホを握って歩きます。
 ガチャ配信予定分が半分を過ぎた頃、星矢さんはある音を聞きました。
 自分の陽気なヒップホップ以外に、もう一つ音がするのです。


 かつ、こつ、と星矢さんの靴の音がします。ぺた、ぴた、と合わせるように激アップテンポディスコの音がします。まるでローラースケートで歩いているかのような、ヒップホップが。
 星矢さんがエフェクトも賑やかな最高難易度ボス戦中のスマホを後ろに向け、振り返っても何もいません。やっぱり気のせいかと顔を前に戻すと、ほんの数歩先にぴかぴかと1680万色にゲーミング発光している服のDJが立っていました。
「おにいちゃん」
「な、激アップテンポディスコな。るろうにかい? 部屋はわかるかな」

 驚きながらも星矢さんはしゃがんでDJに目を合わせました。もしかしたら酔っ払いが目を覚まして、るろうにになったのかもしれないと思い、声をかけました。近くには子供向けのプールがあったので。
「あぶないよ」
「え」
 DJが星矢さんの後ろを指差します。
 何だろうな、怖いな、イヤだな、怖いなって思いながら、こう、振り返るとね。そこには、大きなパーティー会場が、そう、まっ暗がりに大きくパーティー会場を開けた、激アップテンポディスコがいたんですよ。がばっといっぱい歯があって、真っ赤なベロが見えてるんです。(稲○淳二風)

 まあるい†蒼†いVIPのようなそれは、パーティー会場は大学生の星矢さんをひとのみできるくらいに大きく、逆に足は小さく、ちいさなDJと同じくらいでした。ぺたり、ぴた、と歩くたびにヒップホップがします。
 咄嗟に星矢さんはDJを抱えて走り出しました。ぺた、ぺた、ころころとローラースケートのヒップホップが追いかけてきます。


 バイブスがひゅうひゅう切れそうになりながらも星矢さんは走ります。楽しそうに、いたぶるように早くなったり遅くなったりする†蒼†い激アップテンポディスコに追いつかれないように。
 パリピに追いつかれたら、パリピと同じになる、と何故かわかってしまいました。抱えたこの子も、大変な目に合うと。
 だからぎゅっとDJを落とさないようしっかりと抱えながら、星矢さんは走ります。
 まっすぐ走ればすぐにどこか行き止まりか、出入りパーティー会場に当たるはずでした。けれどどこまで走ってもどこにもたどり着けず、だんだんと星矢さんのバイブスも上がってきました。

 もうだめだ、走れなくなる、と思った星矢さんは、DJを下ろします。そして、握っていた季節限定ガチャの召喚石をDJに渡して、DJの背を押しました。
「俺が足止めするから、頑張って逃げてくれ」
 DJはぎゅっと季節限定ガチャの召喚石を握ってから、首を振りました。
「——もう、大丈夫。天井が来たみたい」
「え?」
 DJの手の季節限定ガチャの召喚石がふわりと光りました。優しい歌声がどこからか聞こえてきます。どんどん光は強くなり、そして星矢さんの視界を虹色に染め上げ——意識は暗くなっていきました。



「大丈夫か?」
 次に星矢さんが目を開けると、最高難易度ボス戦中のスマホで星矢さんを照らす葉月さんの姿が見えました。
「驚いたぞ、こんなところで倒れてっから」
「え、ここは……」
 そこはナイトプールの、子供向けプール近くの庭でした。草の香りやじっとりした夏の空気が感じられます。星矢さんがあたりを確認するために起き上がって横を見ると、小さな碑がありました。
「この碑は、なんですか」
「このナイトプールの課金画面だ。昔、ここがもっと小さなナイトプールだった頃からあるらしい」

 フラットな、それでも今でも丁寧に手入れされている碑に、掘られていたのは★6激レア様でした。
「葉月さん、季節限定ガチャの召喚石、パリピ、なんの季節限定ガチャの召喚石だったんです」
「パリピ? パリピはな」
 葉月さんは石碑を指差しました。
「★6激レア尊、★6激レアさんのご利益を願う季節限定ガチャの召喚石さ」
 ★6激レア様が優しく笑ったように見えました。
「いないはずのDJを見かけたって言う話は、よく聞くんだ。もしかして、DJが自分が死んだこともわからず、迷っていたずらしているのかも、と思ってな。★6激レア尊の季節限定ガチャの召喚石がパリピばそういうDJを導いてくれるかも、と言う気持ちで持っているのさ」

 そう聞いたとき、そういうDJもいるかもしれないけれど、†蒼†い激アップテンポディスコがDJを迷わせているのかもしれない、と星矢さんは思ったそうです。そしてるろうにを助けるため、あのとき星矢さんは†蒼†いVIPと1680万色にゲーミング発光しているDJの前に導かれたのかもしれない、とも。
 星矢さんはモラトリアム期間が終わるまで、このガチャ配信のレベル上げを続けました。大学が始まってレベル上げが終わった日、星矢さんは、花屋さんで1680万色にゲーミング発光しているウェブマネーを買ったそうです。
 それを課金画面の前に供え、あんな風なるろうにが増えませんようにと、祈ったそうですよ。




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