1
【FNK】きみと、シャルムーンデイ

トスカ・ベリル 2023年3月5日

●君と、シャルムーンデイ
 その日、とある都市国家では雪が降った。
 それはもちろん、ドロークラウダ──星霊建築の賜物なのだけれど。
 この日ばかりは可愛らしい『チョコレート』菓子が、通りの小さなお店にたくさん並ぶ。
 ショコラティエが腕を奮うのはもちろんのこと、お菓子屋さんはチョコチップクッキーにチョコレートマフィン、パン屋さんならチョコレートを練り込んだ特別のふわふわマーブルパン。
 街角のジューススタンドだって今日はホットチョコレートを売り出して、白い都市国家は甘い香りで満たされる。
「甘さ強めも苦味強めも思いのままよ! うちになくてもお隣に行けばいいの! 食べ比べだって歓迎よ!」
 お店の少女が大きく手を振る。
 街道にはたくさんベンチが並んでいるし、ケーキ屋さんはこぞってテーブルを用意している。
「チョコレートが苦手? ならフルーツタルトを用意するから!」
 お店のパティシエが快活に笑う。
「……お菓子より、遊んでる方がいいや」
 お買い物に付き合わされた男の子がぽつりと道の橋で雪だるまを作る姿も、見られたりするけれど。
 夜のために、誰かを想ってお買い物する?
 それとも誰かと、一緒に歩く?
 その日を、この場所では誰もが歓迎している。

●2月14日
「ばれん、たいん」
 左右色違いの双眸を瞬くリコ・ノーシェ(幸福終焉至上・f39030)に、トスカ・ベリル(自鳴琴の子守唄・f20443)は両手に「そっか、」こっくりと肯いた。
「そっちは別の名前で呼ぶんだっけ、2月14日」
 |師《せんせい》に聞いたことある。そう告げる彼女に、リコも首肯を返す。
「シャルムーンデイ」
 エンドブレイカー!世界のお姫さま、シャルムーンの名を冠した日。王族の掟で声を出してはいけなかった彼女が、自らの甘くて苦い想いを準えた『チョコレート』というお菓子を作って、慕う相手に贈ったとされる日だ。
「……おれは甘過ぎるの苦手だ、し。恋してるひとも居ない、から。あんまり関係ない、けど」
「恋は、別に恋愛感情じゃなくたっていいんだよ」
 オレンジジュースを口へ運ぶリコに、訳知り顔のトスカは言う。
「じゃあトスカは誰かに、チョコレート、あげる、の?」
「バレンタインは、チョコレートじゃなくたっていいんだよ」
「……それじゃ、シャルムーンデイじゃない、よ」
 ふかふかの耳を揺らして殊更得意気なトスカに、リコは更に困った。
「いいんだよ。いつもありがとう、だいすき、って伝えたらいいんだから」
「明け透けですねぇ」
 頬杖をついてミルクティとクッキーを楽しんでいたセロ・アルコイリス(花盗人・f06061)が思わず左頬のハートのペイントを歪めて小さく笑う。
 トスカはじろとそれを一瞥した。
「シスコンは黙ってて」
「シスコンじゃねェから!」
 聞き流せないとテーブルを叩き立ち上がるセロの蔭で、憩・イリヤ(キミガタメ・f12339)がくすくすとリコに耳打ちする。
 きらと銀星の髪飾りが輝いた。
「イリはシャルムーン姫みたいな奥ゆかしいのも好きだし、トスカちゃんみたいにめいっぱい伝えるのも大っ好きなの! だからみんな好きにしたらいいの!」
「ん、……まあ、」
 そうだ、ね。リコは喧騒を眺めながら口許を和らげたのだった。

◆◆◆

 今更ながらもバレンタインお買い物あるいは食べ歩きシナリオです。

 【不定期ノベル企画】です。
 こちら( https://tw6.jp/club/thread?thread_id=122386&mode=last50 )をご確認ください。

 『OPのタイトル』は『きみと、シャルムーンデイ』。
 「①(OP概要あり)」を選ばれた場合はもちろん前半部分(「●君と、シャルムーンデイ」)だけを纏めます。
 ひとりでも複数人でも大丈夫。
 【バレンタインノベル】の選択でなくても大丈夫。
 〆は3/31まで。
 ……ただ、1件(1グループ)ずつしか執筆できず、かつ朱凪は筆が早くないので……。
 想定以上の方が3/31までにリクエストくださり、流れてしまった場合には、〆後の再リクエストも応じます。
 世界は【エンドブレイカー!】でお願いします。




1





トスカ・ベリル  2023年4月3日
ん。おしまい。やっぱり遅過ぎたかな。
次はまた、いつか、不定期にね。
0