【日常】共に歩むべきもの
ロズ・アンライプ 2022年6月23日
その日。お嬢様が高熱を出して倒れたのは天気の良い昼過ぎの事だった。
魔力が高い──というのは身体に掛かる負荷も常人より遥かに大きいということ。高過ぎる魔力はお嬢様の身体をこうして蝕み、頭痛と咳という形で症状として現れるのだ。
とはいえ、それも30年という年月を共に過ごせば、ある種の風物詩めいた物で。俺は今日も薬草粥をトレイに乗せ、深夜の静まった廊下を歩くのだ。
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ロズ・アンライプ
2022年6月23日
当時は紅の名残があっただろうボロボロの絨毯の上を足音を極力消して歩く。手に持つのは蓋を閉じた薬草粥。卵粥に比べて少し苦い。その変わり、滋養供給、体力回復、疲労回復、睡眠促進とその効果は推して知るべし、である。
……と言うのは良い訳だった。
「卵を切らしていたのは俺のせいじゃない」
誰にともなく言葉が零れた。元々、買い物に向かうつもりではあった。
だが、折悪く、お嬢様の魔力による体調不良が重なったのだ。お嬢様は倒れ、昼過ぎから目覚めたのは深夜の二時。
流石に食事も無いのでは腹も減るだろうと。そんなワケでシルバーのトレイに乗せた食事を部屋まで運んでいる最中なのだ。
「カフィルお嬢様。いらっしゃいますか?私です。食事をお持ちしました。入っても宜しいでしょうか?」
部屋の扉をノックする。薬草粥と聞いて顔を顰めないだろうか?
時々、子供のような素振りを見せる方だからな、と思案する。
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カフィル・エデラウト
2022年6月23日
頭痛、目眩、そして昏倒。
幼い頃から、当時は原因不明の高熱と咳に悩まされていたのだが……もう100年以上生きていたら自ずと分かる。自分の魔力によるものだと。
突発的に起こるこれも、190年程の付き合いになる。
なるのだが……治しようのないこの病気は、何時になっても辛いものは辛い。
「うぅぅぅ……目が回る……天井が回って見えるわ……こほっ」
また更に厄介なのは、ただでさえ放出する魔力があると言うのに、更に放出度合いが強くなるという。
……街中であったなら、大惨事だが、この幽霊屋敷なら問題はない。
『お嬢様、今ロズさんが食事をお持ちしますからね』
「分かったわ……ありがと、ベティ」
輪郭が鮮明になっている女子幽霊が一礼をし、部屋から下へと通り抜けていく。
そこからさほど時間が経たず、ノック音。
「どうぞ、入って……けほっ」
扉を開くと、濃い魔力が部屋の中に満ちているのを感じるかもしれない。
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ロズ・アンライプ
2022年6月23日
ゆっくりと扉を開ける。軋んだ扉が嫌な音を立てた。
幽霊屋敷の名の通り、正直、アチコチが古い。今も扉が開く音はまるで、ホラー映画さながらのような音だ。
一歩、踏み込んだ部屋の中。鼻孔をくすぐるお嬢様の匂いと、かすれるように小さな声と咳。
普段なら気にも留めないような仕草にまで、気持ちが昂るのが分かる。
魔力だ。
「…お加減は如何ですか?」
努めて平静を装いながら、声を掛ける。
一歩、また一歩。お嬢様に近付く毎に凶悪なまでに大気を流離う魔力の奔流を受ける。今日は今までになく酷い。
「食事をお持ちしました。…どうぞ」
トレーを置いた。蓋を開け、ホワホワとした湯気が溢れる。
粥の中に刻んだ薬草、塩気を利かせた汁気、柔らかく煮込んだ米のシンプルな三点セットだ。
「……熱くなっております。お気を付けてお召し上がりを」
れんげを置いた。ピカピカに磨かれたそれは染み一つない真白い物だった。
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カフィル・エデラウト
2022年6月23日
「いつもより、とても目が回るわ……」
ベッドから顔を半分覗かせて、あなたの方を見る。
薬草みたいな匂いがする。薬草粥かしら。
「ありがと……、……ロズ、あのね、ちょっとお願いがあるんだけど……」
少し、間を置いて曰く。
「ふーふーってして、食べさせて欲しいの。」
普段なら絶対にしない(と自分は思っている)上目遣いを使う。甘えたがりの声を出して、訴えかけるのだ。
カフィル・エデラウト
2022年6月23日
というのは……実は数日前、照れるロズを見てみたくなったのが事の発端。
早数十年。共に歩み続けることから、執事として、常に冷静に物事に取り組んでいる、そんな自分専属の自慢の執事。
そんな執事なのだが、ほぼ常に、全く、無表情(だとカフィル自身は感じている)。
立派に責務を果たしていると言えばそうなのだが、たまには表情変わるところも見たい……と思う乙女心だったり。
ということで。幽霊の一人であるベティに聞いてみたのだ。
『男の人って甘えられると弱いーとか、聞いた事はありますけど……』
そう。今日は魔力で倒れている絶好のチャンス日和。
甘えて、せめてロズの照れ顔でもみたい──そんな、小さな乙女心の挑戦の時間なのだ。
「ね、お願い……ロズ」
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ロズ・アンライプ
2022年6月23日
「…………は…………?」
一瞬、何を言われたのか分からなかった。恐らく無表情は崩れなかっただろうが…間抜けな声を晒してしまったかも知れない。
いや。それよりも。彼女は今、何と言った?
『食べさせてくれ』、そう言ったのか?俺に?
「………いや、ですが………」
言葉の切れは何時になく悪いだろう。
全く予想外の展開。しかも、お嬢様は何処で覚えたのか上目遣いで見上げて来る。
……人間の子供だった頃、こういう女子が居たような覚えがある。
名前も良く覚えていなかったが、性悪で有名だった女子だ。
何でも男が言う事を聞いてしまうのだそうだ。何故、断らないのか、疑問でしかなかったのを今更、俺は思い出していた。
「…………」
長い沈黙を挟み──。
「…………分かりました」
正直な所、この気持ちが昂った状態で彼女に近付くのは危険なのだが。
熱で頬を上気させた表情が俺に首を頷かせていた。
「失礼します」
粥を少量救い、息を吹き当てて冷ます。
ロズ・アンライプ
2022年6月23日
何度かそれを繰り返し、多少は冷めたであろうそれを無言でお嬢様の口元に持って行った。
「その……もし熱かったら仰って下さい。初めてですので、加減が良く分かりません」
熱いのか、冷まし過ぎなのか、多いのか、少ないのか、ペースの配分の問題、具材をれんげに救う量。
思えば人に食べさせるなど、人生で初めての経験だった。
まして、それが我が主だとは…。
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カフィル・エデラウト
2022年6月24日
戸惑った、けど惜しい……無表情は崩れることなかった。
しかし、まだ挑戦は終わっていない。寧ろここからなのだ。
とはいえ、純粋に甘えさせてくれるのは嬉しい。幼い頃に両親が魔力の暴走事故で亡くなってから、1度たりとも誰かに甘える事など出来なかったのだから。
零すと勿体ないので、身体をゆっくり起こしてから、満面の笑顔で、差し出されたお粥を食べる。
少し冷めて、程よい熱さになっている。薬草を使っているのでほろ苦いが、塩気とお米の味で緩和されている。優しい味だ。
「おいひいわ♪ とっても丁度いいのよ。」
強いて言えば、ここに卵があれば良かったが、買い物に行く予定と聞いていたので、そもそもなかったのだろう。
「ね、ロズ、もっと食べたいわ。食べさせて?」
子供が甘えるように、鳥のヒナが餌を待つように、口を大きく開けて次を待ってみる。
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ロズ・アンライプ
2022年6月24日
「…承知しました」
れんげに少量を救って、息を当てて冷ます。
丁度良いと仰っていたので、少し多めに息を当てるぐらいが冷めて良いのだろう。
それをお嬢様の口元に運び、お嬢様が食べる。艶のある唇を凝視し過ぎないよう、食べる直前僅かに目を背ける。
それを何回繰り返したか。救う、冷ます、運ぶ、食べるの行程を繰り返しながら。ふと声を掛けた。
「今日は……随分と機嫌が良さそうですね」
昼過ぎの体調の悪さからゆっくり寝られたからだろうか。
少量とはいえ、粥を食べ進めて行く。顔色の血色も随分良くなっているように見られた。
「良い夢でも見られたのですか?」
息を吹き当てて冷まし、何度目かの粥を口元に差し出した。
お嬢様が機嫌良さそうにしているのが少しだけ不思議で。少しだけ俺も嬉しくて。他愛ない話を振ってみた。
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カフィル・エデラウト
2022年6月24日
運ばれてくるお粥を食べ、運ばれては食べて……暫くしてから問われた言葉に微笑む。
最後に運ばれてきた、お粥を口にし、飲み込んでから……
「ふふっ、知りたい?」
少しだけ、あえて焦らすように間を置いて。
「それはね……なんだと思う?夢より、もっと素敵なことよ」
悪戯っぽく笑って、あなたが答えるのを待ってみる。
そう、特に私にとっては、とても素敵で、嬉しいことが起こっているのだから。この時間が、もっと続いたら良いのに、と思うほど。
「当てられたら、ご褒美をあげようかしら。なんてね♪」
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ロズ・アンライプ
2022年6月24日
夢より素敵な事だと、お嬢様は仰った。
悪戯っぽく笑うように。長い年数を経て、益々女性らしさに磨きが掛かったと思う。初めて出会ったあの夜から、既に両の指で数えるには足りない程の年月が流れていた。
「夢より素敵な事……?」
褒美をあげると聞いて。少し──いや、内側で昂った感情を悟らせてはならない。俺がお嬢様に尽くすのは命の恩義を返す為。お嬢様の身をお守りする為。魔力とお嬢様の匂いに充てられたとはいえ。
褒美欲しさに釣られるワケには行かない。
「………薬草粥が美味かったこと…ですか?」
もう一度口元に運んだ薬草粥をお嬢様が食べるのを見て。
その金色の瞳を真っ直ぐに見つめる。惑ろわぬ金色の瞳は夜に浮かび辺りを照らす満月を思わせる。
お嬢様の喉がコクンと含んだ粥を飲み込んで──
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カフィル・エデラウト
2022年6月24日
今はまだ、無表情のままだろう……けれど、答えを知ったら、表情が変わるだろうか?
それとも、まだ変わらないだろうか?
「うふふ、薬草粥は美味しかったけれど……違うわ? 寧ろ……美味しくなった理由、にもなるのかしら?」
あなたの澄んだ青色の瞳がこちらを見ている。サファイアブルーと言うのだろうか? 見つめられると、目を離したく無くなる。
ずっと、ずっと見ていたい……なんていうのは、わがままだろうか。
「ね、答え、聞きたい? それとも、大ヒントだけにする?」
小さく首を傾げる。
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ロズ・アンライプ
2022年6月25日
薬草粥が美味くなった理由?
美しい金色の瞳から視線を切って。薬草粥を見つめる。
……何の変哲もない薬草粥だ。塩や米の汁気など気を配ってはいるが、それはどの料理でも同じこと。この粥だけが特別なワケではないハズだ。
「………………ヒントを」
時間を掛けて。絞り出すような小さな声で一言だけ。
優しい微笑みを見せたまま、小さく首を傾げ、今にも唄い出しそうな上機嫌で。一体…お嬢様は何に対して機嫌が良いのだろう?
ベティとまた何か話をしたのかと思ったが。どうやらソレも違うらしい。
「お嬢様。粥には汁気があるとはいえ、今は病人の身です。水分はしっかり補給してください」
持って来ていた水の入ったコップを置いた。
ご機嫌の理由を考える傍らでも、主の体調管理を疎かにする理由にはならない。
「……それで。大ヒントは頂けるのですか?」
少しだけ憮然とした顔になったかも知れない。
お嬢様の事が分からないというのはどうにも悔しい。
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カフィル・エデラウト
2022年6月25日
こんな他愛のない話の傍らでも、自身の体調を気にかけてくれるのは、彼からすれば当然の事なのかもしれないけれども……それでも、その心遣いが嬉しい。
ありがとうと、コップの水を飲む。冷たい水が飲みやすい。半分ほど飲み干した。
それから、ヒントを求める彼の声が、悔しそうな印象に思えて、ちょっとだけ……悪戯心でにやけてしまいそうになるのを堪える。
「ふふっ、そうね……今、あなたがしてくれていたことよ、ロズ」
きっと、これで分かるだろう。
薬草粥が美味しかったことも、
わたしが上機嫌だったことも、
それも、これも……あなたが、わたしを甘やかしてくれた事が嬉しくて、わたしにご飯を食べさせてくれたことが嬉しかったからなのだから。
「どう? 答え、出るかしら?」
……ついでに照れ顔が見られたら良いなっていう、ちょっとした思いも、無きにしも非ずだけど!
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ロズ・アンライプ
2022年6月25日
………俺は怪訝な顔をしていただろうか。
俺がしてくれた事?視線を彷徨わせ、手に持ったれんげが眼前に飛び込んだ。再度、少量を救い、冷まし、それをお嬢様の前に差し出す。
笑顔でそれを召し上がって下さる。上機嫌で。
「もしかして、上機嫌な理由は……コレ、ですか?」
れんげを軽く持ち上げた。食べさせている事。
病人に接するように、息を当てて冷まし、口元に運ぶという単純行為。
これがお嬢様にとっては夢より素敵で薬草粥を美味しくする理由にもなるのだという。
「私はただ、食事を運んでいるだけなのですが…そんなにも変わる物ですか?」
疑問符を付けて返す。…考えた事も無かった。
幼い頃、母にされた事はあったが、食事が美味く感じたり、嬉しくなったりという特別な想いは無い。だから…俺は余計に疑問なのだ。
「………当てられたら、褒美を頂けるというお話でしたね?」
たっぷり考えてから。何度目かのれんげをお嬢様の前に差し出す
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カフィル・エデラウト
2022年6月25日
「……えぇ。そうよ♪」
差し出されたお粥を、また笑顔で食べる。美味しい。
そう、食べさせてくれたこと。
正解なのだけれど、もう少し。
「ロズが、わたしにご飯を食べさせてくれた事。甘やかしてくれた事が、嬉しかったの。」
だけど、それだけでは無い。
「ロズ、あなただからなのよ。他の人では……嬉しいけれど、もっと嬉しくなるの。ご飯もね、とっても美味しくなるわ」
分かる、だろうか。
分からないかもしれないけれど……
「ふふっ、そうよ。ご褒美をあげるわ」
ちょっとお皿を下げてくれるかしら? と伝えて、近寄ってくるようにと手招きする。
もっと近く。内緒話をするとでも言うように、近くへと招くだろう。
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ロズ・アンライプ
2022年6月25日
「…勿体無いお言葉です」
共に居られるだけで。それは俺の台詞だ。
それを告げようかとして──きっと上手く告げられないから押し黙った。
「私は貴女に選ばれて。今もこうして側に居られて。それだけで…」
言葉を切る。それが精一杯の言葉だ。
お嬢様は今の私を見て──それでも笑ってくれるだろうか?
「失礼します」
お嬢様の近くへと歩む。
お嬢様との距離が近くなればなるほど、魔力に充てられる気がする。
内心に響く心臓の音が聴こえて居ないだろうかと。妙な表情になっていないだろうかと考えながら。
この方は時々、女性っぽく。大人っぽくなられて。不覚にもドキリとさせられる。
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カフィル・エデラウト
2022年6月25日
言葉に惑っている、そんな様子がとても……微笑ましいし、胸が温かくなるのを感じる。
共に寄り添い、数十年……それでも、未だにわたしは、あなたといる日々が輝いて思える。
例え、今こうして病に伏していようとも。
「……あのね、」
ナイショ話をするように、あなたの耳に、そっと話しかけて。
「ご褒美は──これよ♪」
悪戯っぽい声は、《高貴たる者》として、本来在るべき仕草ではないだろう。
ましてや──近付いたあなたの頬に、口づけをするなど。
ただの乙女心と、悪戯心から織り成す"ご褒美"。
「ふふっ♪」
あなたの照れた顔が見たくて、とそれが発端だったけれど。
もし、照れなくても……そうしたい程に、大切であることを知っていて欲しい……とも思っていた。
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ロズ・アンライプ
2022年6月25日
心を落ち着かせる。心臓の鼓動を浅い息を吐く事で誤魔化した。
この距離ではお嬢様の香りまで鼻孔をくすぐる物だから、余計に冷静さを掻きそうになる。
お嬢様のお言葉に耳を傾け集中を────っ!?
「……………ッ!!!」
頬に触れた柔らかな感覚。
一瞬ではあったが、恐らくアレはお嬢様の──。
「あ…いえ…あ…う……、……その……」
思考回路がショートしたバグ不良のロボット。
滑稽を通り越して、いっそ憐みさえ覚える程に。言葉が出てこない。
お嬢様の褒美の正体に気付いてしまったから。
あの柔らかい物の正体に気付いてしまったから。
慌てて、お嬢様の顔を見たのが良かったのか、或いは悪かったのか。
悪戯っぽく笑むお嬢様を膝を落とした体勢故に見上げる形となって。
自然と触れたソレにも視線が行くワケで…。
「…………」
顔を背けた。喜びなのか、照れなのかは自分でも分からなかった。
だが、多分、普段からは想像できないような顔だったのは間違いない
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カフィル・エデラウト
2022年6月25日
……照れた……! ……照れた? 照れたでいいのよね?
なんて思考の傍らで、悪戯心から来る成功の嬉しさと、普段滅多に見られない人の動揺と照れを必死に隠そうとしている様子が新鮮で。ついついまじまじと見てしまう。
普段なら絶対に、何事も無かったように振る舞うだろうロズ。
そんなロズの見せる一面が、まだあったことに、嬉しさを隠せない。
「どうしたの? ロズ?」
やった♪ などと言葉にするのは、流石に言えない。言いかけたのは言いかけだけれども。
でも、表情をもっと良く見たい。だから、こっちを向いて欲しいな……と声をかけてみることに。
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ロズ・アンライプ
2022年6月25日
「いえ…その……」
どうしたの?などと。言えるハズが無い。
貴女の唇に触れて、喜んでます、とでも言えというのか?或いは照れてます、とでも?言えるハズがない。
カフィルお嬢様の執事であると誓った日から年月が流れたとしても。
下賤な感情や低俗な想いで彼女の側に居るなら、UDCの街や故郷で如何わしい視線を向ける連中と何が違うというのか。
「もう少しだけ…お待ちください…」
それだけを告げるのが一杯で。
口元に手の甲を当てて、無意識に口元のダサいにやけを隠そうとしてるのに気付いた。
「その……向いて欲しいとは……お嬢様の命令ですか?情けない顔をお嬢様の前で晒すのは……その……」
駄目だ。お嬢様の特別であるというのは自覚していた。
だからこそ、己を律さねばならぬとも。それがただ触れるだけで。
己の情けなさが恨めしい。
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カフィル・エデラウト
2022年6月26日
「命令……そうね……」
主従関係の権限を行使するのか、否か。
主の命令は絶対背いてはならない……そんな、従属種ヴァンパイアたるロズに課すもの。
──ではあるのだが、お願いはしても、滅多に命令したことはない。それは、ひとえにロズという命を、己の血によるもので縛りつけたくないという気持ちがあったから。
「……ううん、お願いにするわ」
だから、この時も"命令"はしなかった。照れ顔が見られるのを逃す可能性はあったけれども、動揺して顔を逸らす仕草が見られただけでも満足なのだから。
「……ね、顔を見せて? 今のあなたの顔が、見たいの」
命令でない分、断ることも容易だろう。
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ロズ・アンライプ
2022年6月26日
……いつもそうだ。
お嬢様は自身の喜び以上に配下の事を気に掛けて下さる。私の事は勿論、屋敷の幽霊たち、全員の事を考えて下さる。
一言、命令すれば今の俺の表情を見るのは容易いだろうに。それを為さらない。
──そして。柔らかな口調でそうやって頼まれると。私は──いや、俺は。断り切る事は出来ないのだ。
「承知しました…」
強制しない、とお嬢様の心が伝わるからこそ。それに応えたい、返したいと思う。
ゆっくりと顔を向けた。視線は合わせられない。赤くなってるだろう。恥ずかしさで顔から火が出そうだ。口元は抑えてる。せめて間抜け面だけは晒すまい、と。
「口元はお許しを。その…こういった感情に慣れていないモノで」
結果。視線を逸らしつつ、口元を手の甲で隠し、顔だけ赤くなった執事という図が出来上がっている…と思う。
「その…他の幽霊には…ベティにもご内密にお願いします…」
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カフィル・エデラウト
2022年6月26日
……見せてくれた。
まるで、今日の高熱に魘された自分だろうかと言うほどの、真っ赤な照れ顔のロズ。
口元は流石に見られたくなかったのか、手元で隠すにしても。
余程嬉しかったのか、はたまた恥ずかしかったのか……いずれにせよ、執事としてのロズ、というより、本来のロズがありありと表れていると思う。
「ふふっ、ロズはそういう表情もするのね♪ 勿論、他の皆には、絶対内緒にするわ。ベティにも、ね」
最も、この部屋を幽霊の誰かが覗き見していなければだが。
「……嬉しいわ。そういう表情、見せてくれて」
つい、あなたの頬に触れようと、手を伸ばすかもしれない。
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ロズ・アンライプ
2022年6月26日
「……俺も意外だ。自分がこんな表情をするとは…」
軽く咳払いをして。ようやく口元のにやけが収まったので手の甲を外した。顔は未だ恐らく赤いままだが少なくともさっきのにやけ面よりはマシなハズだ。
「ですが、原因は他にもあります」
素に戻ったのは一瞬だけ。直ぐにアドバンテージを取ろうと執事の表情に戻る。
「お嬢様。今日は魔力の放出量が普段より多いです。私ですから、未だ冷静さを保って居られますが、並みの猟兵でもこの濃度の魔力では──」
そこまで喋った所でお嬢様の手が頬に触れる。
慈愛に満ちた眼差し、美しく整った顔立ち、ほんの僅かに冷たい白い手、理性を決壊させるかのような魅了の力。
「……………」
誰も見てないから、と。それは悪魔の誘惑にも似て。
油断があったのは間違いなく。
俺は──触れてくれた手に軽く猫のような頬擦りをした。
気付いたのは一瞬後。
「し、失礼しましたっ!」
クソッ、今日は本当に…何て失態だ。
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カフィル・エデラウト
2022年6月26日
放出される魔力の量の多さに関しては、実の所、自分で調整出来るものでは無い……その上、放出量と比例して、熱と咳の症状も重い気はしていた。
なので、その指摘は間違いないし、魔力にあてられたというのも言い分としては認めていい。
「えぇ、そう……」
そうね、と……そう言わんとした矢先、ロズの手に触れた頬が、今頬ずりしていなかっただろうか?
慌てた様子からすると、それは確信に変わる。
あまりにも自然過ぎて、その仕草をしたという認識すら曖昧になりかけていたけれども。
「……」
一瞬の間の後。
「まぁ♪ ロズ、可愛いわ♪ ふふっ、ふふふっ♪」
男性に言うと嫌がるのは分かっているけれども、そう言わずにはいられない。だって本当に思ったのだもの。
更にと、頬ずりしてくれた手で、つん、とあなたの頬をつついてみるなどする。
もうすっかり、高熱で辛かった身体のことも忘れるほど……この時間を楽しんでいた。
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ロズ・アンライプ
2022年6月26日
「…御冗談を…」
頬をつつかれる。俺が可愛い、などと。
在り得ない失態だ。魔が差したとでも言うべきだろうか。
撫でられた手の冷たさと心地良さに己を見失っていた。
「"高貴なる者"に仕える身として恥ずべき行いと自覚しております。今後はこのような甘えが出ぬよう一層励んで──」
…それで良いのだろうか、とも思う。
恐らく人間年齢として換算すれば、相応の態度と姿勢を見せるお嬢様の明るい笑顔。
流れ着いて経る年月は数十年。その間、お嬢様はとても良く笑顔を見せてくれるようになった。それに俺が関わっているのだという。
執事としての務めを忘れる事などない。この方に相応しい者でなければ、とも思う。同時に──
「──だが、たまには。こうして二人だけでのんびりするのも悪くない」
尽くすばかりが全てではないのだろう。少なくともこの方にとっては。
そう考えるとほんの少しだけ。笑える気がした。
(発言終了)
カフィル・エデラウト
2022年6月26日
「あなたはいつもよくやってくれているもの。
二人だけの時くらい……甘やかして、甘やかされて、皆の知らないロズを見せて欲しいわ」
今日見せてくれた、あなたの表情も、仕草も、温かな青の色で微笑む想いも、わたしの宝物。
「だから……今はもう少しだけ、執事としてのロズじゃなくて、一緒に生きるロズとして、ここにいて」
せめて、薄明かりが空を満たすその時まで。
あの日々の地獄から抜け出して、共に歩むと決めたあなたとの時間を……もっと、大切にしたいから。