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荒野

イリア・ナイン 2021年7月22日


プラント群から多少離れただけでも、そこは危険な無法地帯と化す。
年季の入った量産キャバリアを駆る与太者の群れや、哀れな獲物を虎視眈々と狙い続ける歴戦の傭兵。
そういった連中で、溢れかえった世界なのだ。
あのプラント群は、もはや廃墟。
狩るか、狩られるか。
攻めるか、守るか。
─安全地帯など、どこにも無い。




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イリア・ナイン 2021年7月22日
(砂丘の上を、白い機体が飛翔する。
その様は、まるで流星の様で)
制限高度は、まだオーバーしてない。
速度も、安全圏内…。
(高度計と速度計、それぞれに赤く示された限界値─殲禍炎剣に捉えられる、デッドゾーン。
それらに留意しつつ、他のモニターを視界に収める)
……3時の方向に、機影6つ。
この感じは…
(レーダーに映る光点は、陣形を保ったままこちらに向かって来る。
どうやら、盗賊団の様な連中に補足されているらしい)
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イリア・ナイン 2021年7月22日
(砂丘の向こうから姿を見せたのは、継ぎ接ぎの量産型キャバリア達。
それらが向ける銃口が、一気に火を噴き)
…警告も無し、だなんて。
でも…
(爪先の僅かな動きで、各部のスラスターを微調整。
何か思うよりも早く、脳が最適な行動パターンを弾き出し、瞬時に身体が反応する)
無駄とは思う、けど…
(外部スピーカーを入れる。
息を吸い込むと)
『攻撃を、やめて下さい…!
無駄な戦闘は、したくないんです!』
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イリア・ナイン 2021年7月22日
(それに返って来るのは、下卑た野次。
高そうな機体に女もついてくるたぁ最高じゃねぇか、と、飢えた野獣の様に迫って来る。
ならば…)
『…急所は、外します』
(やるしか、ない)
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イリア・ナイン 2021年7月22日
(棍棒の様な金属塊を振り下ろす量産型の腕を、銀閃が跳ね飛ばす。
それがまだ空を舞っている間に)
これで、大人しく…!
(片側のスラスターを吹かし、機体をその場で回転させる。
舞い上がる猛烈な砂塵ごと、もう一振りの長剣が量産型の両脚部を膝から斬り飛ばした)
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イリア・ナイン 2021年7月22日
(崩れ落ちる敵機を尻目に、次なる目標へと向けて加速する。
砂塵程度で目標を見失う辺り、やはり弱者を食い物にし続けて来たごろつきなのだろう。
目標が定まらずフラフラとしているライフルを、長剣がバターの様に斬り裂く)
2機目…!
(誘爆。
安普請の量産型の頭部が、爆風で半壊する。
あれならば、カメラは死んだだろう。
大人しく機体を捨てて逃げてくれるといいのだが)
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イリア・ナイン 2021年7月22日
…くっ!!
(ガクンと、機体に大きな揺れが走る。
衝撃は大きいものの、損傷は軽微…装甲表面に傷が入った程度か)
あれは、…散弾銃?
(大型の散弾銃を構えた機体が、後方へと退避している最中だった。
こちらは軽量機体。
装甲でダメージを抑えられても、多数の散弾の直撃はコクピットまで響くものだった)
やっぱり、実戦で学ぶ事は多いね…!
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イリア・ナイン 2021年7月22日
(長剣を保持したまま、片方の拳の関節部分を猛烈に回転させる。
即席の盾で散弾を弾き飛ばしながら、猛然と距離を詰め)
えいっ…!
(袈裟懸けに斬り捨てられ、火花を上げてズレ落ちていく量産型の半身。
パイロットが大慌てで脱出するのを見届けると)
今ので、3機目…あと、半分!
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イリア・ナイン 2021年7月22日
『もう、やめて!
抵抗、しないで下さいっ!』
(当然、聞き入れる訳も無い。
無謀にも、縦に並んで2機が突っ込んで来る。
ならば…!)
纏めて、手早くっ!
(スラスターペダルを踏み込めば、青炎を噴き出して機体が浮上する。
長剣を地面と水平に構え)
『なっ、なんなんだよテメェはあぁぁぁ!?!』
(一瞬の後、仲良く頭部を刺し貫かれた2機が擱座していた。
貫いた剣はそのままに、残る1機へと向き直る。
どうやら、野盗の頭らしい)
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イリア・ナイン 2021年7月22日
『けっ…機体の性能に助けられたガキが、調子乗ってんじゃねぇぞ!』
…っ
(忌々しげに吐き捨てられる言葉が、胸を抉る。
言われてみれば、その通りなのかもしれない。
上手く操縦できたと思っていたが…実際のところは機体性能に助けられていただけであり、自分は座っているだけなのでは?
いや、自分でなくとも操縦出来るのでは?
生来の後ろ向きな性格による考え過ぎだと、理性は警告するが)
『ちがう、…違いますっ!』
(雨霰と降り注ぐミサイルを、巧みな軌道で全て回避する。
アラートなど必要無い。
奮起により、極限まで加速した情報処理能力。
それが、ミサイルの軌道を脳内に描き出す。
あと数発も撃てば弾切れだろう。
ならば…!)
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イリア・ナイン 2021年7月22日
(逃げられぬと悟ったのか、敵機が得物を向けてくる。
先端でチロチロと揺れる赤。
あれは、火炎放射器か)
『中身だけ蒸し焼きにしてやるぜええ!』
(紅蓮が噴き出す前に、機体を急速に転進させつつ浮上。
バックモニターが一瞬、真っ白に染まる。
そう、後ろにあるのは─)
『!?クソッ、太陽を背に…!?』
(1秒も無い、ほんの一瞬の隙。
だが)
私には、一瞬で…十分だからっ!
(投擲された長剣が、敵機の胸部を刺し貫く。
砂漠に縫い留められて停止する姿は、百舌鳥の早贄の様で)
『…
操縦席からは、外しています。
撤退して下さい…!』
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イリア・ナイン 2021年7月22日
(遭遇戦から、暫くの後。
這う這うの体で逃げ出した野盗の群れを見送ると、降着姿勢へと機体を移行させ)
よい、しょ…っと。
(砂の上に飛び降りたが、勢い余ってつんのめり。
頭から砂に突っ込んでしまう)
あばっ、砂が口に…!
(砂を吐き出し、口元を何回か擦り。
ふと、周囲を見渡せば…先程までの戦闘が嘘の様に、砂漠は静まり返っている)
……。
昔は、ここにも…木や花が、生い茂っていたのかな?
(生体認証が必要である以上、他人には動かせない。
立ち上がって砂を払うと、機体を背に、ゆっくりと歩き出す)
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イリア・ナイン 2021年7月24日
(一面の砂、砂、砂…それ以外、何も見えない。
いや、たまに元キャバリアらしき鉄屑が砂から顔を出しているくらいか。
地図上では、近辺に湖もあったらしいが…)
プラントが建造される前は、自給自足で生活していた時代もあったのかな…?
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イリア・ナイン 2021年7月24日
あれ、これって…
(砂の間から、何かが覗いていた。
しゃがんで観察してみると)
何かの、植物かな…葉っぱは完全に枯れてるけど。
んっしょ…っと。
(引っ張ってみると、僅かに抵抗があった…驚いた事に、根は辛うじて生きているらしい。
だが、このままでは何れ枯れる。
ならば、プラント群へ持ち帰って育ててみよう。
そう考え、根を切らない様に注意して引き抜いた)
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イリア・ナイン 2021年7月25日
他にも、無いかな?
(砂を掘ってみたが、もう何も見つからなかった。
奇跡的に残っていた1本だった、という事か)
……暑い。
(額にじわりと汗が滲む。
人間じゃないのに、こんな機能まで真似てるなんて…と苦笑し)
流石に、コートは脱いできた方が良かったかな…?
(もう少し行ってみよう、と砂を踏みしめて歩き出し)
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イリア・ナイン 2021年7月25日
(5分程歩いただろうか。
茶色い塊の様な物が、砂に埋もれている。
額の汗を拭って、その塊に近寄ると)
…これ、コクピットだ。
(ひしゃげているが、キャバリアのコクピットで間違いは無かった。
こんな状態で打ち捨てられているし、血液反応もある。
あまり確認したくは無いが…どうやら遺体や遺骨は残っていないらしい。
一安心するも)
…でも、これに乗ってた人が、悪人だった可能性もあるよね。
難しいなぁ…。
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イリア・ナイン 2021年7月25日
………。
(争いばかりの世界に、何故なってしまったのだろう。
誰が原因で、こんな事に?
いつになったら、武器もキャバリアも必要無い世界になるのだろうか?)
でも、そうなれば…
(自身も、この世界に必要では無くなる。
寂しいのは事実だ、だが)
ううん…それで、良いんだよね。
(残骸に背を預け、砂に腰を下ろし)
太陽は見えるのに、それよりも近い炎の剣が見えないなんて。
…変なの。
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イリア・ナイン 2021年7月26日
(残骸のお陰で日陰が出来ており、案外心地良い。
何もせず、ただ風に吹かれるままでいると、段々と眠くなってきた。
こんな場所で眠るのは危険だが…)
……探知出来る範囲内に、反応も無いし。
さっきの人達の機体の残骸もあるし、戦闘の可能性を考えたら、近寄らないはず…。
(だから、少しくらいうたた寝をしても問題無いだろう)

……
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イリア・ナイン 2021年7月27日
………
……
…ふぁっ!?
あ、あれっ…!?
(目を開けてみれば、空には満天の星。
完全に夜になっていた。
空の明るさからして、日が落ちてそう時間は経っていないと思われるが)
…でも、空が綺麗だし。
まぁ、いっか…♪
(手を伸ばせば、星に届きそうだ)
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イリア・ナイン 2021年7月28日
星座…他の世界でも、同じ様に見えるのかな?
(この世界と変わらない環境の世界が多いと、データ上では知っている。
中には、SSWの様な宇宙に進出している世界もあるらしいが…)
上から見たら、地上はどんな風に見えるんだろう。
(昼間はあんなに暑かったのに、今は夜風が心地良い。
このまま、時間が止まれば良いのに─そんな事を思いながら、星を眺めつづけて)
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イリア・ナイン 2021年7月28日
…ふぅ、良い休憩になったかな。
(少なくともこの時間だけは、血生臭い日常を忘れて穏やかに過ごす事が出来た。
だが、そろそろ戻る時間だ)
よいしょ、っと。
(立ち上がり、背伸びをする。
遠方を見れば、砂煙が舞っている。
先程、脳波コントロールで起動させた自機が迎えに来たらしい)
さて…また、頑張らなきゃ。
(訪れた時よりも軽やかな足取りで、機体に乗り込む。
お土産もある事だ─早く戻って、植えてあげるとしよう)
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イリア・ナイン 2021年8月6日
うぅ、暑いなぁ…よいしょ、っと。
(額に滲む汗を拭いながら、砂漠を歩み続ける。
手に抱えた武器は重いし、靴が砂にめり込み、歩きにくい事この上ない)
まだ向こうは気付いてない、のかな。
或いは…。
(管制棟から見えた敵は、非行型の小型機械らしい。
もう既にあちらの索敵網に引っ掛かっていそうだが、敵の排除よりも優先すべき事でもあるのだろうか)
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イリア・ナイン 2021年8月6日
(物資探索も兼ねているのかもしれないが、些細な事だ。
まだ狙われていないならば、好都合でしかない)
…よし!
(その声に反応するかの様に、脳波コントロールされた浮遊端末群が敵へと飛翔していく。
そこまで火力は無いが、攪乱程度にはなる筈だ)
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イリア・ナイン 2021年8月6日
(やはり、小口径の火器では傷を付ける位しか叶わないらしく。
両者で撃ち合いをしているが、どんどんとこちらが押されていく。
そんな戦場へと、抱えた重火器の砲口を向けて)
うん…2機か3機くらいには当たる…はず!
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イリア・ナイン 2021年8月6日
(1発、2発、3発。
発射されたグレネード弾が、放物線を描いて飛んで行く。
僅かな間をおいて、大爆発。
押し寄せる爆風に髪を靡かせながら)
反応消失…2、かな。
でも、まだまだ沢山いる!
(今の攻撃で、間違い無く反撃が来るだろう。
その前に、数を減らさねば)
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イリア・ナイン 2021年8月7日
(続けて、更に3発。
3機ほどが爆散し、破片となって砂漠に散っていく)
弾倉には、あと3発…!
(予備は当然持って来ているが、武器が武器なので装填に時間が掛かる。
であれば…!)
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イリア・ナイン 2021年8月7日
ーWelcome to Nine giants Networkー
  ーSerialNo.9 IRIA−Acceptー
(周囲へと戻って来ていた浮遊端末が光り輝く。
その光は肌を伝い、右手へと収束していき)
  ーCODE:Veðrfölnir Unlockー
(直上へと放たれた光条が高高度で爆ぜ、光の波が敵機を瞬時に飲み込んでいく。
飲み込まれるや否や、敵機のコアが爆散し、あっという間に砂漠へと墜落していった)
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イリア・ナイン 2021年8月8日
(やはり、機械相手には電子回路を焼き切るのが最適だ。
形を留めている敵機も、砂の上で激しく火花を散らしている。
もう動く事は無いだろう)

(だが、嫌な予感がする。
こんな小型機だけで群れていても、戦力としてはたかが知れている。
恐らくは…)
あれは偵察部隊で、本隊が別にいる…!
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イリア・ナイン 2021年8月8日
(耳を澄まさずとも、空気を震わせるエンジン音が聴こえてくる。
正面の小高い砂山の向こうから、何かが浮かび上がって来る…)
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イリア・ナイン 2021年8月9日
(砂塵を巻き上げ姿を現したのは、巨大な戦闘ヘリだった。
操縦席部分は装甲に覆われ、パイロットが居るのかは一見定かでは無いが…)
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イリア・ナイン 2021年8月14日
(機体下部に備えられた大型ガトリング砲が作動し、銃口がこちらを捉える。
そして、砲身が回転を始め)
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イリア・ナイン 2021年8月14日
ぁ、わわわわ…っ!?
(重低音と共に弾丸が吐き出され、砂柱を次々と上げながら一瞬でこちらに迫って来る。
咄嗟に反応…というより、つんのめって射線からズレたのが良かったのか。
レプリカントと言えど直撃すれば肉と機械の混合物になりかねない威力の弾丸が、僅かに逸れた場所に突き刺さった)
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イリア・ナイン 2021年8月14日
~~ッ!!!!
(声にならない悲鳴を上げながら、転がる様にして起き上がり。
怯えて竦む心とは対照的に、電脳は冷静に敵の射線を計算し尽くしてしまう。
巨体故に、あの機体は機動力も低い。
であれば)
うううぅぅ、なんで私がこんな目にいぃ…!!
(涙を零しながら、敵機の直下へ向けて駆けだした)
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イリア・ナイン 2021年8月23日
(敵も馬鹿ではない。
こちらの行動を予測済みらしく、旋回を行おうと機体を傾け始めた)
ここまで、近付けば…!
少なくとも、ミサイルは撃てない…はず!!
(グレネードランチャーを、大型ガトリング砲目掛けて構え)
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イリア・ナイン 2021年8月25日
(ガトリングが火を噴くより早く、グレネードが着弾する。
弾薬に引火し、巨大な機体がふらつく程の大爆発が起こった。
当然、爆風は真下にも到達し)
わ、きゃぁ!?
(退避が間に合う筈も無く、軽々と吹き飛ばされてしまった)
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イリア・ナイン 2021年8月27日
(爆風に煽られ、頭から砂に突っ込む。
口の中がジャリジャリするが、そんな事を言っている暇は無い。
身を起こし、四つん這いのまま上空を見上げれば)
ひぃっ、あぶ…!?
(上空から、戦闘ヘリの破片がバラバラと降って来ている。
その中の1つが、目の前に杭の様に突き刺さり)
こ、これは想像以上に危ないかも…っ!
(跳ね起きると、全力で機体後方へと駆け抜ける。
そのついでに撃ち込んだグレネードが、テイルローター付近に命中。
爆炎が空を彩った)
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イリア・ナイン 2021年8月29日
(思いの他、あっけなく墜落していく。
まあ、当たりどころが良かったのだろうが、攻撃範囲が広い火器というのも考え物だ。
今後の参考にしよう。
そんな事を思っていると)
あ、エンジンに誘爆したんだ…
(今まで以上の大爆発と共に、機体が爆ぜた。
そして)
…あれ、は…!?
(ヒュンヒュンと風切り音を立てて、細長い何かが飛んで来る。
そうだ、あれは先程まで回転していた…)
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イリア・ナイン 2021年9月7日
(メインローターだ…!
あんなものが直撃すれば、いとも容易く細切れになってしまう。
今日は、厄日なのだろうか…)
やっ、やだよぉ…っ!
こんな場所で、バラバラになって死んじゃうなんて!
(つまずきながらも、とにかく全力で走り続ける。
その、一瞬の後。
ローターの先端が長い金髪を僅かに切り飛ばし、砂に突き刺さった)
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イリア・ナイン 2021年9月7日
(何度か響く爆発音を背に、ドサリと砂漠に膝をつく。
敵の撃破自体はそう難しくなかったが、その後が大変すぎた)
や、やっぱり…生身の戦闘って、…危険…。
(自身はキャバリアを操縦する前提で生み出されたが、そういった物に頼らない猟兵の凄さが改めて身に染みる)
どこでもキャバリアで乗り入れられる訳じゃないし、もうちょっと、白兵戦の練習もしなきゃ…。
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イリア・ナイン 2021年9月11日
(兎に角、驚異の排除には成功した。
暫くは敵も現れないだろうし、むしろ今現れると困った事になる。
早々に撤退しようと、息を切らしながらプラントへ向けて歩き出した)
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