…0… さよならと旅立ちの時
プリムララ・ネムレイス 2021年7月5日
――私がネムレイスの森を発ったその日。
大きな旅行鞄にたくさんの道具達を詰め込んで。
まだ見知らぬ人たちとの出会いに胸を高鳴らせながら、別れを惜しむお母様の墓前に花を添えてしばしの別れを告げて、それから――
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プリムララ・ネムレイス 2021年7月5日
(小柄な身体とは対照的なとても大きな旅行鞄を開けて、その中に様々な道具を入れては取り出して)
ラジオは絶対必要よね?だってラジオが無ければ音楽が聞けなくなってしまうのよ?寂しい時はどうしたらいいの?でもこれって意外とスペースを取るわね。
魔導書は……そんなに持っていけないわ。だって嵩張るじゃない。それに重いのよ。旅はきっと長くなるわ。それなのに鉛みたいに重たくなった鞄なんて持ちたくないわ。でも、そうね。一応という事もあるし、この本を一冊だけなら持っていってもいいかもしれないわ。
プリムララ・ネムレイス 2021年7月5日
お母様の使ってたお化粧、借りて行くわ。だって、もしかしたら旅の途中で素敵な殿方にお会いするかもしれないですし。いつか私のお化粧を買った時には返しに――来ないかもしれないですけど、でもお母様はもうお眠りにつかれたのですからしばらく必要ないですよね?大事に使うから許してくださいませ。
タロットカードも入れましたし、このお人形は……可愛くないので貴方はここでお留守番。ちゃんとお掃除よろしくね。
天球儀は可愛いから連れていってあげる。またお部屋に飾ってあげるわ。
プリムララ・ネムレイス 2021年7月5日
服もこれだけ入れたらしばらくは大丈夫かしら。外の娘たちはみんなおしゃれって聞きますもの。笑われないといいけれど……。
あとはお母様の残した金を詰めて――あら?重いわ?せっかく沢山の魔導書を省いたのに。でも黄金が無くてはお買い物も出来ないの。仕方ないわ。
準備はこれくらいかしら。
(荷物を詰め込んですっかり満腹になった鞄をおこし、くるりと辺りを見渡せばひとつだけ気になる物。父が残していったという紙巻き煙草が一箱)
お父様……
プリムララ・ネムレイス 2021年7月5日
そうだわ!お父様を捕まえて連れて来ればきっとお母様もお喜びになられるはず!旅のついでにお父様も捜してみるのも面白いわね。
でもあんまりすぐに見つけてしまっては興醒めもいい所だわ。手が空いた時にゆっくりと捜してみる事にしましょう。
(パチンと手を叩けば、糸で繋がれていたかのように鞄の口も閉じられて。満足したように取っ手を掴むと引きずりながら外にある墓へと歩みを向けた。それは母が眠る、名前も刻まれていない小さな墓)
プリムララ・ネムレイス 2021年7月5日
(小さなお墓の前に立つと、そっと名も知らない白い花をそなえて)偉大なお母様。私の大好きなお母様。どうか安心してください。ネムレイスの森の魔女は、プリムララがちゃんと受け継ぎました。お母様が私に教えてくださいました56の魔法と22の大魔法。それに偉大なる錬金術と愛おしい禁忌たち。今やプリムララの中にしっかりと刻まれていますの。
だから安心してお眠りください。どうか途中で目覚めることなく、永遠に。
お母様がいなくて私寂しいわ。だって私はお母様のように強くありませんもの。ううん、もしかしたら本当は私の方がほんの僅かばかり強いかもしれないですけど、そんなの些細な問題だわ。
だからね、少しだけ旅に出ます。旅に出て、もっと色んな世界を見てきたいわ。だからお願い、お母様は安心してここで休んでいてね。またいつか戻ってくるから。
プリムララ・ネムレイス 2021年7月5日
(お墓の前にしゃがみ込み、別れを惜しむ娘の様な顔をして語り掛けて)それとねお母様。私、お父様を捜してこようって思ってるの。お母様はあまりお父様のお話をされなかったけれど、お母様はずっとお父様に逢いたかったんじゃないかしらって。お母様は人間でしたけど、お父様はきっと妖怪のはず。だから私が産まれたんでしょ?
お母様はこうして死んじゃったのだけれども、お父様はきっと生きておられるわ。だからね、お父様と一緒に帰ってくるから、それまでここで待っててね。
(そこまで静かに語りかけてからゆっくりと立ち上がり、大きな旅行鞄に手を掛けて)
それでは、さよならお母様。大好きだったわ。(踵を返すと、振り返ることはありませんでした)