杏子の語らひ
小結・飛花 2021年4月3日
杏子の御方
ここは水面坂
水鬼の住処
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小結・飛花 2021年4月3日
(此処は水面坂。水鬼の住処。庭に数多の花が咲き誇り、空を覆う水が雨となり花々に降り注ぐ。片付いた室内。窓際の一角に、杏子の花が飾られていた)どうぞ。何も無い場所ではありますがごゆっくり。(杏子の花咲くそちらさんへ、花咲く彼女の傍へと座ることを促す。茶を注ぐ合間に、貴方と彼女の咲き添ふ姿がみたかったのだと紅い唇が音を零した)
クロード・クレマン 2021年4月8日
(誘われるまま、君の背を追い一室へと足を踏み入れる。)お邪魔します。いやはや、年頃の娘さんの居城に踏み入るのは、何とも背筋が伸びる思いだね。(周囲を見渡すのも気が引けて。気恥ずかしさを紛らわす様に頬を掻き、促された先にある花に、緊張が僅かに綻ぶ。)――嗚呼、此処にも。君が呼んでくれたのかい? ……ふふ、どうもありがとう。(自然と零れる笑みを甘やかな香りを零す其へ。次いで、家主の君へと向ける。)
小結・飛花 2021年4月10日
先日の杏子の花を。あたくしがお二方の姿をみてみたいとおもいましたので。(甘い香りが菓子の代わりと言ふ訳でもなく、咲き染む微笑みが侘しき家屋を彩った。四季折々の花咲く住処に春来る。並ぶ笑みのあたたかな風景)改めまして。あたくしは小結飛花と申します。(そちらさんへと茶を勧め、着物の袖を折り畳む。水鬼の三つ指をそろへ、背筋を伸ばした)此処。水面坂に住まう、水鬼で御座います。見ての通り此方には、あたくしと四季折々の花しかおりません。
クロード・クレマン 2021年4月11日
(直接床に座し、三つ指揃え宣う姿。その美しき所作に惚けるも、立ったまま見下ろすも失礼かと慌てて真似て膝を折り、君の正面に腰を下ろす。)ご丁寧にありがとう。僕はクロード・クレマン。今は……、しがない旅人、と云った所かな。改めてよしなに。(右手を差し出そうとして、少しばかり君との距離が遠い事に気付く。膝を擦って移動するのも憚られて、手は膝の上でゆるく握りこぶしを作った。)すいき、――おに、とは。(文献では見聞きした事があれど、実物を見るのは初めてだ。)想像の中のいきものでは無かったんだね。(年頃に見える娘に零すには不躾な感想だろうか。思うも、時既に遅く。)
小結・飛花 2021年4月13日
(異界の響きをもつ名を舌上で転がした。クロード。杏子の花のおそばにいらっしゃる殿方。花唇を袖で隠し乍ら水鬼は咲き笑ふ)足を崩してもよいですよ。あたくしはこの方が楽ですから。クロード様は慣れぬのではないでしょうか。(彼の人が口走った感想も気に留めることなく笑つた侭)珍しひでしょうか。あたくしの他にも数多の水鬼が、この世界にはおります。あたくしはその端くれでございます。
クロード・クレマン 2021年4月14日
(目元と声音で君が微笑んだのが解ったから。少しの気恥ずかしさを覚えつつも、)ありがとう。それじゃあ、君の御厚意に甘えて。(膝を崩し、地べたに座るには楽な体制を取った。)――嗚呼、この世界では寧ろ僕の様な異邦人の方が物珍しいかな。少なくとも僕は、水鬼――おに、という存在を初めて目にするし、こうして膝を突き合わせるのも君が初めてだ。
小結・飛花 2021年4月16日
(水鬼以外の妖が見当たらぬ。花々も妖の術を受けず、神の加護も水鬼の力もやどってはいない。時折訪れる幽世蝶がひかる翅を羽撃かせ、花の蜜を吸ふかの如く飛び交ふ。此処は幽世)あたくしは、クロード様のやうな御方には、此方で逢った事がございません。水鬼を初めて見るクロード様と、此方で人を初め見るあたくしと。(水滴したたる水鬼のゆびを、そつと陶器に添わし茶を啜った)似ておりますね。
クロード・クレマン 2021年4月18日
そうだね。……けれど、どちらかと云うと僕の方が“異質”だろう。(滲み出る所作と慣わしと。纏う服飾の雰囲気からしても、場違いなのがどちらかは一目瞭然だ。)此の世界には数多の鬼が住まうと云ったけれど、此処には君しか居ないと云ったね? ――その理由を、問うても?
小結・飛花 2021年4月21日
そう仰らず。貴方の髪には奥方様とおなじ、杏子の花が咲いているではありませんか。此方、水面坂は四季折々の花咲く場です。髪に花をさかせる貴方が異質など。(かぶりを振り否とする。数多の妖怪がこの世界にはいるやうに、水面坂にも数多の花が咲ふ。羽持つ種族の貴方が異質な物か。水鬼は流るる水が如く、清涼な眼差しを向けていた)……あたくしが、拒んでおりますので。此処では数多の花が咲き、笑い、嘆き哀しんでおります。ですから鬼を招き、花々を苦しめるわけにはいきません。あたくし自身も鬼ですが、水を遣るくらいはゆるされるでしょう?
クロード・クレマン 2021年5月2日
――ふふ、優しいお気遣いをどうもありがとう。では素直に受け取らせて貰うよ。(眦に喜色を染め、やんわりと諭された理由へと眼差しを向ける。先程出迎えてくれた其は、変わらず柔らかに咲き誇っていた。)へぇ、君が? それはそれは……、(先は、口の中で留める。何とも予想外な理由なだけに易々と続きを乞うのは憚られて。静かに続けられる話に耳を傾けながら、投げかけられた問いには頷き返そう。)嗚呼、勿論。世話を焼いてくれる相手を花々が拒む事など無いだろうよ。――水鬼以外は、花たちには余り歓迎されないのかな?
小結・飛花 2021年5月8日
花がすきだと仰るのであれば、歓迎をされるでしょう。けれども花を疎む気持ちがあるのならば、花々もそちらさんを拒みます。愛情には愛情を、返してくれるのです。(花であれ好意には好意を返してくれるのです。動けなひからこそかもしれませぬ。そちらさんの隣で靡くあわいあなたも、眦をゆるめているよふ)花は、すきですか?
クロード・クレマン 2021年5月15日
――成程。彼女らも確固たる個があるのだね。(実に興味深い。噂では花々が言葉を交わす地やヒトの形を採る世界もあるのだとか。沸き上がる興味の情を抑えつつ、)花は、すきだよ。華憐で、気高くて。――それなのに、優しく此方に寄り添ってくれる。(同意を求めるのも可笑しな話。けれどその意を込めて隣を眺め、目を細めて。)……といっても、すきに“なった”というのが正しいかたちなのだけれど、ね。(言葉尻を付け加え、視線を君へと戻した。)
小結・飛花 2021年5月22日
……あゝ。(優しひ貴方の口が好きになったと申す。先に訊いた杏子の奥方の注いだゆたかな感情が、そちらさんをそうさせたのか。水鬼のしつとりと濡れた唇が薄ら開かれる)そちらの。以前仰られた杏子の奥方様でしょうか。貴方の髪の花を褒めてくれたのでしょう?
クロード・クレマン 2021年5月23日
ふふ、御明察。――少し、難易度が低かったかな?(小さく笑みを零し視線は己が手元へ。君からの問いかけにはゆるり、首を振り。)――僕の祝福を褒めてくれたのは正しいけれど、実は、彼女と出逢った時には僕の此れは未だこの身に宿っていなくてね。彼女が花を好きだったのは元からだよ。
小結・飛花 2021年5月30日
(あなたが宿る。仄かな彩を添えたあなた。杏子の御方と出逢ふ以前は、そちらにいなかった。ほたり落つ水滴と瞬きがかさなった)左様でございますか。それでしたらお髪の杏子は、正しく奥方様なのでしょうか?(あわい貴女が香った)二人でお一つ。
クロード・クレマン 2021年5月31日
(核心を真っ直ぐ射貫く君の問いは正しく頷かざるを得ない一問。黙して返すは大きく沈んだ首肯ひとつ。視線は変わらず己が手元を見つめたまま、君の鼻を擽る芳香が此方にも一等強く漂い、それに背を押される様な心地で、唇から言葉が零れる。)――そうかも、しれないね。……今振り返って思えば、この祝福が僕に宿ったとき既に、彼女の最期へのカウントダウンは始まっていたのかもしれない。(そう思える様になったのは、ほんの数年前だけれど。)
小結・飛花 2021年6月4日
(咲ふあなた。あなたのかほりに合わせてそちらさんが言葉をおとして、想ひを告げる。視線が重ならない中で、やはりあなたは強くかほる。そちらさんに勇気を与えていらっしゃるよう)……左様で御座ひましたか。(水鬼は流るるまま。俯く目の前の御方へ)奥方様の最期は、聞いてもよろしいのでしょうか。
クロード・クレマン 2021年6月6日
嗚呼、何て事の無い。僕らみたいな者たちには良くある話さ。――彼らオブリビオンに、襲われてね。……未だこの手に何も持っていなかった僕は何の抵抗も出来ないまま、というヤツさ。(ざわつく心根が安寧を求め、彼女へと向く。変わらず咲うその薄紅に、ふ、と柔らかな笑みを浮かべて。)
小結・飛花 2021年6月13日
(力無きが故の出来事でありましょう。あたくしは水鬼で両手に刃を握った身。何も持たぬ白ひ掌を嘆いたことでしょう。添ふ花の如く、春の心地を浴びたそちらさんの、眦のやわらかさ)……無力さに嘆き哀しみ、闇雲に刃をふるう事は――なかったのでしょうか。あたくしは生まれながらに両手に刃をもっております。何も持たぬ掌を想像したならば。何も持たなかったばかりに、大切な方が居なくなってしまったならば。(蛇口の水が一滴ほどおちた)狂ってしまいそう。
クロード・クレマン 2021年6月13日
(苦悩が混じる声音に此方も苦い笑みが零れる。声音に袖引かれ其方を見遣れば、己が以上に色濃くそれがかんばせを覆うものだから。)――嗚呼、己が無力を嘆いた事は、幾度と。……けれど、僕の身に宿ったものは他者を傷つけるよりも傷つけられたものを癒す方が向いているようでね? 生憎とどれ程怨憎に染まろうとも彼らを一網打尽に出来る程の理力は手に出来なかった。(顕現してすぐの力だ。上手く扱えなかったのも理由のひとつだね、と苦笑交じりに。)
小結・飛花 2021年6月17日
あゝ。誰かを傷付けることは出来ないのですね。(水鬼にとっては難解な力であった。たれかを癒やす力なぞ、この身に宿しては居らぬ。あやかしの地にこそ必要な力であろうと、真っ赤に染まった唇で語り合ふ)無力では御座ひません。あたくしからしたらそちらさんのお力は、あたくしよりも何倍も強ひと思います。いやすことの難しさは、重々と承知しておりますから。然し乍ら、その力を手に入れたのが――。(奥方様を亡くした後とは口が裂けても言えなかった。代わりに瞼を落とし、茶を啜った)
クロード・クレマン 2021年6月27日
そうかい? ――ありがとう。認められると、嬉しいものだね。(真っ直ぐな褒め言葉は、これまで幾度となく浴びて来た賛辞の句をどれほど蔑ろにして来たのかを痛感させられる。無くした先の言葉を手繰るのは容易い。それを音にしない君の気遣いに感謝して、ゆるり、頭を振る。)違うよ。此れは彼女がくれた祝福だ。だから、当時無くて当然のもの。そして、それを今手に出来ている事の意味は――、……そういう事。実に優しい、彼女らしい心遣いだと僕は感じている。――君は、どうかな?(同意してはくれないかい? 眉を下げながら問うて。)
小結・飛花 2021年6月30日
(長ひ睫毛が揺れた。そちらさんが祝福と云ふのならば、そのお力は紛うことなき祝福であるのだから。器から滴が二粒こぼれおつ。水面の瞬き。鬼の涙。否。肯定。やさしいあなたの眉が下がってしまった。懇願とも取れる呼び声を聞く)一つになったのでしよう?そうであるならば、幸福ではありませんか。あなたのお力が奥方様の物であるならば、これ以上にない、幸せの形だと思います。祝福と呼ぶに相応しいおちからでしよう。なによりもそちらさんが、煩わしい力と思っていないことも素敵では御座いませんか。
クロード・クレマン 2021年7月4日
――ああ、ありがとう。心優しい水鬼に、僕ら夫婦から感謝を。物言えぬ彼女の代わりにもう一度伝えさせておくれ。……ありがとう、ヒカ。
(同意のみならず、君がつつやく言葉はどれも優しいものばかりだ。胸に広がるあたたかなぬくもりを逃さぬよう手を当て、腰を折る。現状表し得る最大限の敬意を示し、ゆっくりと腰を持ち上げた。)
小結・飛花 2021年7月14日
(僕ら夫婦と仰ひました。勿体ないお言葉で御座いましょう。水鬼の手で与へられるものこそ数少なく奥方へと恵みの雨を降らすのみ)あゝ。あたくしにそのような態度をなさらず。あたくしはそのように礼を言われるような事はしておりません。あゝ、あゝ。(たれかに礼を言われるなど何時ぶりだろふ。水の鬼とし幽世で生を受け礼など言われた事は記憶になひ。慌てふためく鬼の顔はなんと情けなひ)
クロード・クレマン 2021年7月18日
(花唇が斯様に震え、豊かな言葉選びは単調な声のみを紡ぐ。こうも明確に表されてしまうと、)……迷惑、だったかな?(眉が下がるのも、致し方ないというもの。とはいえ撤回する気も毛頭ない。)君を困らせてしまうのは本意では無いのだけれど……、僕は如何したら良い?(こんな時処世術に長けている者であれば直ぐに最善の一手を見つけられるのだろう。――が、生憎と己が身に宿っていないものは手繰り様も無い。ただ君のかんばせを覗き込むに留まる。)
小結・飛花 2021年7月29日
迷惑では御座いません。あたくしには勿体ないお言葉なのです。胸の裡を秘めるより、言の葉としてお二方へ告げることがあたくしにとっては、幸といふものですから。そちらさんが後悔をしたやうに。あたくしも後悔をしたことがあるのです。(記憶なぞ無いにも等しく。されど朧に浮かぶ影を夢見て揺蕩ふ日々の長きことよ)ですから礼をいわれるやふなことは(困り果てた眉を垂れ下げた)
クロード・クレマン 2021年8月13日
そうかい? ……けれど、(一旦言葉を区切り、如何したら君が受け取ってくれるだろうかと暫し口籠る。)うん、此方としても此の身に受けた謝意は受け取って貰えればそう、――僕らも“幸せ”なのだけれど。どうかな?(君の言葉を借りて紡ぐ。目の前にする下がった眉は鏡移しのように此方の眉をも垂れ下げて。浮かびかけた言葉はぐっと喉元で飲み込んだ。)
小結・飛花 2021年9月13日
そちらさん方がそう云ふのならば、あたくしは受け止めましょう。(そう言われてしまっては、素直に受け取る他なく。下がり眉が元に戻ると同時、水角から水滴り落つ)随分と話し込んでしまいましたか。そちらさんは楽しんでいらっしゃいますか?
クロード・クレマン 2021年10月4日
ふふ、少し意地の悪い言い方をしてしまったかな。受け取ってもらえて嬉しいよ。どうもありがとう。(思惑通りにことが運んだ安堵感から、表情を柔らかなものへと移ろえ。)ああ、とても。僕には勿体無い程の持て成しを受けていると思っているよ。――そちらは?