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俺の部屋

比野・佑月 2020年12月25日

落ち着いた色合いで整えられた部屋。
自炊をしていることが見て取れる調理器具、その割には物の入っていない冷蔵庫。
申し訳程度に毛布がかけられたソファ。




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比野・佑月 2020年12月26日
受け止めた、見た目よりもずっと軽い身体。
苦しげな呼吸。生きている。けれど目を覚まさない。

……脅威が去った後だ。
被害が出ているとはいえ旅館なんだ、託すことだって出来たはずなのに。
一人残していくなんて考えは浮かばなかった。
きっと、それを出来るラインなんかとっくに越えていた。
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比野・佑月 2020年12月26日
(だからって……)

何もここに連れ込むことは無かったよな。
本当、何をやっているんだか。

(気を失った彼女を抱え、気が付いたら家に辿り着いていた。
ソファに横たえた彼女を見守るように床に座り込み呟いて。)
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花色衣・香鈴 2020年12月26日
………。…、……(テレビやラジオを切った瞬間音が止む時の、ふつっ、という感覚に似ていたかもしれない。広大な無意識の海にドット1つ落ちてきたような意識の目覚め。次いで、)……っ、(次第にそこから疼く様に、染みが広がるように、脈打つ何か。もうすぐ思い出せる。それが『痛み』であることに。少女の後ろ、押し潰された“背中の花”の悲鳴)ぃ、……ぅ、?(瞼が震えて、唇が微かにわなないて。少女は小さく、しかし確かに目を覚ました。まだ重たい瞼は少女に狭い視界しか与えず、貴方の存在を正しく認識できていない…)
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比野・佑月 2020年12月27日
……っ!
(ぴくり。拾った微かな音に耳を震わせる。彼女の名前、目覚めの確認、具合の心配、それから……掛けるべき言葉、聞きたい事はいくらだって思い浮かぶのに。)

…………。(思わず息を詰め、震える瞼を見つめてしまう。)
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花色衣・香鈴 2020年12月28日
(脈打つように背中から体中に響いていく感覚に眉を、表情を僅かに歪める。その感覚―痛み―が更なる覚醒を促した)…ここ、は…?(声、というには掠れた、囁き未満のそれが貴方に届いたかはわからない。その実、放った少女も誰にともなくただ口にしただけなのだ)
…………、(まだ少しおぼろげな意識を窺わせる瞳は、しかしゆっくりと貴方の輪郭を見止め、記憶の中のものと照合する。何か口にしようとして上手く出来なかったようだがそれはきっと貴方の名前だった、かもしれない)
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比野・佑月 2020年12月29日
(ふっと短く一息。次の瞬間には強張っていた顔に笑顔を浮かばせて。)

……おはよう、香鈴ちゃん。 気分はどう?痛むところはない?
ごめんね、寝心地の悪い場所に。
勝手に家まで連れてきておいて碌な看病も出来なくてさ。

(なるべく柔らかいトーン、重苦しくならない程度の気遣い。今の今まで倒れていた、きっと自分を責めてしまうであろう心優しい少女に掛けるべき声としての最適解。そう、ただ当たり前の正解を選び取っただけだと誰に責められるわけでもなく言い訳をした。――どうかお願いだから、まだもう少しだけズルイ俺に気が付かないでいて欲しかった。)
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花色衣・香鈴 2020年12月30日
(言葉の咀嚼に時間がかかる。が、無意識に背もたれがない側の手を伸ばそうとして、)っぃ、ぁ…(僅かな身じろぎが背の花を潰したらしく痛みに呻く。そこで視界はクリアになった)佑月、くん、…っごめんなさい、わたし、意識を飛ばして…ご迷惑を…!(潰れゆく花と痛みには構わず、何なら与えられた言葉にも構わず、まるで相手の酷い怪我を見た時と同じ顔で言い募り)…わたし、佑月くんがわたしを置いて行けない人なのを知っていて、それなのに…。(戦いに、のめり込んでしまった。それも、地力の劣る自分と知っていて、『自分が』抗わねばならない敵だと思ってしまった。地力で敵わぬなら、火事場の馬鹿力を引き摺り出す必要がある。結果がこれだ。少女の声は、表情は、萎れた)
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比野・佑月 2021年1月3日
違うよ。それは違う。(あの時。理由は分からなかったけれど彼女を泣かせてしまった時と同じような強い否定。彼女の、自分を責めるような言い分に傷付いたような、苛立ったような、そんな気持ちのまま言葉を連ねる。)

香鈴ちゃんはさ、俺のことを買い被りすぎなんだ。本当にキミのことを気遣うのなら、あのまま宿の人にでも頼んで寝かせて貰うべきだった。

……ねぇ、俺のことどんな風に思ってる?
勝手に男の家に連れ込んで、こんな布団ですらない場所に転がして。
挙句の果てには明らかに本調子じゃない女の子を問い詰めるようなことをしてる俺を、さ。
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花色衣・香鈴 2021年1月4日
(嗜虐的な色すら帯びた声音。何か、圧を感じる様な。ただ、少女が見せたのは怯えではなく戸惑いだけで)え…?(思案に視線を彷徨わせることも出来ない。逸らせない視線の中、口が動くに任せるだけ)出会った時から、変わりませんよ。優しい、ひとです。何度も色んな敵と戦って…わたしなんていない方が楽に勝てた時でも、わたしは囮にも盾にもされなかった。(ほんの少しだけ目線を伏せたが再び視線を戻して)わたしが普通の人間じゃないと知っても化け物と言わなかったし、置き去りにだって、しなかった。
(ゆっくり、言い聞かせるように)ここには、屋根がありますね。壁も。そして今いるのは貴方だけ…(吐き出される言葉には段々疲れのようなものが滲み)…わたしに、帰る場所はもうありません。路地裏を、後ろ指から逃れ、野良猫に追われ、雨に打たれ、転々として…(やや自虐的な笑みを浮かべ)…この状況、わたしの運命にしては、十二分だと思います。
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比野・佑月 2021年1月8日
十二分?そんなわけがあるもんか。(苛立ちをそのまま乗せたような、低く唸り声に似た音。彼女の自虐的な発言を耳にする度に、どうしたって心はささくれ立つ)どんな経緯があったのかなんて知らないし知ったところで変わるものでもない。害されることに憤りもせず抗いもせず。受け止めて、傷付いて……そんなもの、弱くて脆い人間そのものだ。

(俯き、懇願にも似た声色で)……だからさ、やめてくれよ。キミが手を離す必要なんかない。帰る場所がないなら誰かから奪い取ってでも作ればいい、刺される指などへし折ってしまえ。キミが出来ないなら俺がやるよ。それが俺の優しさだ、キミが感じたものは結果的にそう見えただけに過ぎない出来損ないに違いない。
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比野・佑月 2021年1月8日
……だってどうしようもなく、そういう生き物なんだ。キミが言うそれよりもずっと、俺の方が化け物だ。
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花色衣・香鈴 2021年1月9日
(自分の言葉が、相手の苛立ちを呼んでいる。わかっているのに、)…そうですよ。今でこそ人でなしと言われる身になりましたが、元は人間…脆くて弱い。化け物になって、猟兵になって…それでも尚、わたしは逃げてきただけで誰にも何にも抗わなかった。
ひとつは、逃げた当初今よりずっと幼くて猟兵の力もなく、抗う術がなかったから。病の仕組みもわからず…花を吐いては憑かれる経験を重ねて推測しながら理解するので手一杯だった…。
(ふと眼差しに真摯な色が灯り)…もうひとつ。憤るには、抗うには、力が必要でした。猟兵の、ではありません。エネルギー…燃料、というのでしょうか。
発作に体力をとられがちなのもありますが…わたしがこうなった原因、元凶への怒りや恨み、憎しみみたいなものが必要だと思いました。でもわたしにはそれがなかった。
…いえ、“持ちたくなかった”。そこに火が付いてしまったが最後、御せないとわかっていましたから。
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花色衣・香鈴 2021年1月9日
失くしたものが大切だったから、失った今が辛い…でも、『大切にする方法を失くした』だけで、大切に想う気持ちを持ち続けることは出来ます。何かへの恨みや憎しみ…その延焼で塗り潰してしまわなければ。
(気を失う前、自らが口にした言葉が蘇る。きっと彼にも聞こえていた)……いつわたしに死が訪れたとしても、何一つ恨みたくないのです。愛してくれた人の顔を、言葉を、二度と思い出せなくなってしまう気がするから。
だから今を、痛みも苦しみも悲しみもあるわたしの運命を、終わるその日まで受け入れて生きようと思うのです。この身に宿った花と共に。(最後の言葉を口にした時、何を思ったかほんのりとだけ笑みを浮かべ)

(そっと首を横に振り)わたしは、貴方の主人ではありませんよ。(少し躊躇いながら)佑月くんは、今のわたしに苛立っているように見えます。それなのにに何故それを、わたしの為と思ったことを、してくれようとするんですか…?
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比野・佑月 2021年1月12日
(苛立ち任せに放った言葉。いっそ傷付いて、言葉を飲んで。俺のことなんて見放してくれればいいとすら心の端で思っていたのに。)……はは、そこまでお見通しか。やっぱりキミはすごいや。(ひとつひとつ染みわたるように落ちてくる言の葉を受け止め、投げてしまった鋭い言葉を悔いるように瞳を伏せ)

………最初はさ、好奇心だったんだ。それこそ昔の知り合いに雰囲気が似てたから記憶に残った。そんなこと微塵も関係もないキミにしてみれば失礼で迷惑で、そんな出会いだ。
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比野・佑月 2021年1月12日
(そっと伏せていた顔を上げる。様子を窺うようにそっと、けれど確かに彼女の瞳を見つめて)……だけどさ、いつの間にかキミのことを知りたくて仕方がなくなった。あの名前も知らない白い花を檻の内に見た日も、星の花に囲まれ過ごした一時も、キミは俺に知らなかったものを教えてくれた。キミとは逆に、恨みや憎しみ……そんなものを是として何かを壊すことしか知らなかった俺の、何もないと思っていた、自分でだって見えていやしなかった胸の内をそっと照らしてくれた。

それなのに俺はキミのことを何も知らなくて。苦しんでいるのはわかるのに何も出来やしなくて。……おかしいだろ?それを尋ねる勇気すら無かったクセに、温かいものをくれたキミが傷付く姿を、何かを諦めて手を伸ばそうとすらしない様子を見るのが嫌だったんだ。
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花色衣・香鈴 2021年1月19日
(後悔が伝わってくる。自分よりも更に自罰的な乾いた笑いが、柔肌にヤスリを当てられるようで胸が痛んだ)…わたしに、傷ついてほしくなかったんですね。でも、それを止める方法がわからなかった。(確かめるように、眼前の彼の言葉をかみ砕いて布を折り重ねるように返す。もう自分を見つめる眼差しに不愉快な色はない。言葉は、届いているはず)貴方は多分、ご自分をよく知らないだけです。或いは、どこかで自分と、自分の気持ちを知ろうとすることをやめてしまっただけ…そう思います。

…でも、わたしはひとつ謝らなくてはいけませんね。
ずっと、戦うことにおいて自分が足手纏いだと思っていました。佑月くんの方が慣れていて、強くて…そんな風に。
恨みや憎しみで何かを壊すことしか知らなくて、それ故自分には何もないと思っていたのなら…やっぱりわたしはそこに頼って甘えてはいけなかったんです。
少なくとも、手放しには。貴方の虚を広げただけになる。
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花色衣・香鈴 2021年1月19日
――ごめんなさい。わたしも、知らなかった。わからなかった。貴方のことが。(今尚違う2人がここにいる。ただ、ふたりぼっちで。だけど、だから)……佑月くん。わたしは、貴方に触れてもいいですか。(先程痛みに負けて伸ばすことの出来なかった手をそろりと伸ばす。彼の、自分よりは丸みのないその頬を、指先が求める)
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比野・佑月 2021年1月25日
そっか。俺ら全然違うのに、一緒だったんだ。(何度も、掴もうとして躊躇った手。俺とは違うものに見えたから、傷付けてしまいそうで怖かった。けれど、違うからこそ。)……香鈴ちゃん。俺は、キミのことがもっと知りたいよ。(今キミが、そんな風に手を伸ばしてくれるなら。触れても、いいのなら。その先に、俺が与えてあげられる何かも見つかるだろうか。そうあって欲しいと、願うように。指先にそっと頬を寄せ)
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花色衣・香鈴 2021年1月30日
(指に、自分とは僅か違う温度が触れる。そのまま頬の輪郭を包むように手を滑らせた)知っても、長く傍にはいられないかもしれません。それでも、(そこまで言いかけてやめる。この先はきっと愚問でしかない。なら、彼の言葉通りにしよう)…わたしは、怪奇人間です。罹ったのは、花咲き病と、花吐き病。とり憑かれるように、すれ違っただけの植物の種を体に貰ってしまって寄生され、それをいつかのタイミングで発作として嘔吐してしまう病気。
幼い頃ちょっとしたトラブルに巻き込まれた後発症し、治療法がなく先も長くないと告げられたので、両親が私の亡骸を前に泣く姿を見たくなくて…愛されていると知りながら、その全てを置いて家を出ました。(貴方と目を合わせたまま。ゆっくり、自分のまだ浅い歴史を語ってゆく)そこからはずっと1人…猟兵になって稼げるようになるまでのことは、星の花を摘んでいた時にお話した通りです。
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比野・佑月 2021年2月2日
……うん。そう、そうだったんだ。(頬から伝わる温かさ。自分のよりも細く小さな手、語られた境遇に同情するのは簡単だろうけど。)

話してくれて、ありがとう。(真っ直ぐに見つめ合ったまま、ただ受け止めるように、頬に沿わされた彼女の手を自身の手で包み)……俺は、俺はさ。自分の事ばっかり考えて生きてきたから。誰かの悲しみを考えられる、キミのことがやっぱりちょっとだけ眩しい。……でも。そしてそれとおんなじ分だけキミ自身にも傷付いて欲しくないし、俺はそんなキミの傍にいたいって……そうも思うんだ。(たどたどしく。けれど精一杯に自分の言葉を伝えたい。覆い重ねた手には微かに力がこもる。)
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花色衣・香鈴 2021年2月5日
(ずっと腕の力だけで支えるには厳しくて、微かに震えそうだった手が包まれる。大切にされていることは、言われなくても明白だった)大切にしたら、大切にした分だけ失くした時に痛いです。わたしも、よく知っています。わたしはとうに覚悟した身ですが…佑月くんは違うでしょう。……怖く、ないですか。(気遣わしげに向けた視線を少し伏せ)…今更、出会わなかったことになんて出来ません。忘れるなんてお互い無理です。でも、これ以上貴方の傷にならない選択ならまだ出来る。離れれば、わたしが傷ついてもそうでなくても知らなくて済みます。わたしの両親と、同じように。
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花色衣・香鈴 2021年2月5日
主人と従者じゃないんです。貴方が今まで知らなかったもの、見えなかったものに気づくヒントはもう手に入れたはず。佑月くんは、1人でも新しいものを探しに行けます。(最終確認のつもりだった。答え自体は何となく見えていると思う。自分の気持ちは此処に来て自分に問うことをやめてしまった。此処を踏み越えたら自分達は一体何になってしまうのかはわからない。主従でもないのに、明日の命も楽観視できない人間を大切にしようとした理由を今尋ねることは不思議と出来ない気がする。「何故、」「それでも、」どちらの言葉も続けることは出来なくて、道を指し示しただけで言葉は止まった)
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比野・佑月 2021年2月8日
……いいよ。それはきっと、キミがいた証だ。このあたたかさも知らない俺ならきっと、感じられなかったもの。それなら、俺は。(伏せられた瞳を気遣うように、冗談めかして言葉を繋ぐ)……それにさ、俺はかしこいわんちゃんだから。どこまでだってキミを探しに行くよ。それこそキミが嫌がってもだ。
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比野・佑月 2021年2月8日
――だから、さ。俺と一緒に居てよ、香鈴ちゃん。
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花色衣・香鈴 2021年2月11日
(触れられない筈の視線を、そっと手で掬い上げられたように改めて彼の瞳を見つめ直す。揺れる。彼ではない。自分が。自分の心が。こんな気持ちは知らない。だけど彼が頷いた今はもう、)……賢いのに、困ったひとです。(何も見えない。目元がじわりと熱くなる)

――わたしで、いいのなら。
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比野・佑月 2021年2月15日
……うん、キミだから。香鈴ちゃんとが、いいんだ。
(躊躇うことなく自分から手を伸ばす。キミの優しい色をぼやかしてしまう温かいものを拭い去るように、そっと指先を滑らせる。)

――ずっと、傍に居る。キミの隣にいるだけで俺は嬉しいよ。だから……調子が戻るまで。もう少しだけ、このままで。おやすみ、香鈴ちゃん。(これは俺のワガママだからと有無を言わさぬように、彼女の瞳を手の平で覆い隠してしまう)
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比野・佑月 2021年2月15日
(そんなズルさしかない手の平越しに落としたキスは、バレてしまっただろうか。)
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花色衣・香鈴 2021年2月15日
(目元を拭う指の優しさと温もりは、ずっと忘れていた…否、自分が捨てたからと忘れることを望んできたもの。拭ってくれた傍からもう一粒だけ零れていく。与えた人は両親のどちらでもなく、そしてもう少女はそれを嘆くことも間違えることもしなかった)…はい。…おやすみなさい、佑月くん。(そう、と霧にでも溶けてしまいそうな吐息交じりの一言を最後に、青年の“わがまま”を知ることもなく。少女の意識は優しく沈む。穏やかな微睡みへと)

(終幕)〆
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